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特表2023-501524細菌パスツレラ・ニューモトロピカ(Рasteurella pneumotropica)由来Cas9タンパク質の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-18
(54)【発明の名称】細菌パスツレラ・ニューモトロピカ(Рasteurella pneumotropica)由来Cas9タンパク質の使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20230111BHJP
   C12N 9/10 20060101ALN20230111BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N9/10 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022527121
(86)(22)【出願日】2020-07-02
(85)【翻訳文提出日】2022-07-07
(86)【国際出願番号】 RU2020050145
(87)【国際公開番号】W WO2021096391
(87)【国際公開日】2021-05-20
(31)【優先権主張番号】2019136164
(32)【優先日】2019-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】RU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516261966
【氏名又は名称】ジョイント・ストック・カンパニー “バイオキャド”
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100107386
【弁理士】
【氏名又は名称】泉谷 玲子
(72)【発明者】
【氏名】セベリノフ,コンスタンチン・ビクトロビッチ
(72)【発明者】
【氏名】シュマコフ,セルゲイ・アナトリエビッチ
(72)【発明者】
【氏名】アルタモノーバ,ダリア・ニコラエフナ
(72)【発明者】
【氏名】ゴリャニン,イグナティ・イゴーレビッチ
(72)【発明者】
【氏名】ムシャローバ,オルガ・セルゲーフナ
(72)【発明者】
【氏名】アンドリーバ,ユリア・バレレフナ
(72)【発明者】
【氏名】ジュブコ,タティアナ・イゴレフナ
(72)【発明者】
【氏名】フェドロバ,イアナ・ビタリエフナ
(72)【発明者】
【氏名】ホドルコフスキー,ミクハイル・アレクセービッチ
(72)【発明者】
【氏名】ポベガロフ,ゲオルゲ・エフゲネビッチ
(72)【発明者】
【氏名】アルセニエフ,アナトリー・ニコラエビッチ
(72)【発明者】
【氏名】セルコワ,ポリーナ・アナトレフナ
(72)【発明者】
【氏名】バシリエバ,アレクサンドラ・アンドレエフナ
(72)【発明者】
【氏名】アルタモノーバ,タチアナ・オレゴフナ
(72)【発明者】
【氏名】アブラモバ,マリーナ・ビクトロフナ
【テーマコード(参考)】
4B050
【Fターム(参考)】
4B050CC01
4B050DD02
4B050LL10
(57)【要約】
本発明は、細菌P.ニューモトロピカ由来CRISPR-Cas9系の新規の細菌ヌクレアーゼ、およびDNA分子に厳密に特異的な二本鎖切断を形成するためのその使用について記載する。このヌクレアーゼは独自の特性を有し、単細胞生物または多細胞生物の細胞においてゲノムDNA配列を修飾するためのツールとして使用されうる。したがって、利用可能なCRISPR-Cas9系の汎用性は増大し、その事実は、様々な生物のゲノムまたはプラスミドDNAをさらに多くの特異的部位および/もしくは様々な条件で切断するためのCas9ヌクレアーゼの様々なバリアントの使用を可能にする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
DNA分子内でヌクレオチド配列5’-NNNN(A/G)TT-3’の直前に位置する二本鎖切断を前記DNA分子内に形成するための、配列番号1のアミノ酸配列を含む、または配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも95%同一であり、保存されていないアミノ酸残基においてのみ配列番号1と異なるアミノ酸配列を含むタンパク質の使用。
【請求項2】
請求項1に記載のタンパク質の使用であって、前記DNA分子の前記二本鎖切断が、温度35℃~45℃で形成されることを特徴とする、前記タンパク質の使用。
【請求項3】
請求項1に記載のタンパク質の使用であって、前記タンパク質が、配列番号1のアミノ酸配列を含む、前記タンパク質の使用。
【請求項4】
請求項1に記載のタンパク質の使用であって、前記DNA分子内の前記二本鎖切断が、哺乳動物細胞のゲノムDNA内に形成されることを特徴とする、前記タンパク質の使用。
【請求項5】
請求項4に記載のタンパク質の使用であって、前記DNA分子内の前記二本鎖切断が、前記哺乳動物細胞のゲノムDNAの修飾をもたらすことを特徴とする、前記タンパク質の使用。
【請求項6】
ゲノムDNAを含む単細胞または多細胞生物の細胞のゲノムDNA配列を修飾する方法であって、有効量の:a)配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質または配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする核酸、およびb)ヌクレオチド配列5’-NNNN(A/G)TT-3’の直接隣にある生物のゲノムDNA領域のヌクレオチド配列と二重鎖を形成し、二重鎖形成後に前記タンパク質と相互作用する配列を含むガイドRNA、または前記ガイドRNAをコードするDNA配列を生物の前記細胞へ導入する工程を含み、
ガイドRNAおよびヌクレオチド配列5’-NNNN(A/G)TT-3’と前記タンパク質の相互作用が、配列5’-NNNN(A/G)TT-3’のすぐ隣のゲノムDNA配列に二本鎖切断の形成をもたらす、方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法であって、前記ガイドRNAと同時に外来性DNA配列を導入する工程をさらに含む、前記方法。
【請求項8】
請求項6に記載の方法であって、前記細胞が、哺乳動物細胞であることを特徴とする、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物工学、特に、様々な生物のDNAを切断し、ゲノムを編集するために使用される新規の酵素、CRISPR-Cas系のCasヌクレアーゼに関する。本技術は、遺伝性ヒト疾患の遺伝子治療ならびに他の生物のゲノム編集に将来使用されうる。
【背景技術】
【0002】
DNA配列修飾は、今日の生物工学分野における話題の問題の1つである。真核生物および原核生物のゲノムを編集および修飾し、in vitroでDNAを操作するには、DNA配列に二本鎖切断を標的として導入する必要がある。
【0003】
この問題を解決するために、以下の技術:ジンクフィンガー型ドメインを含有する人工ヌクレアーゼ系、TALEN系および細菌CRISPR-Cas系がこれまでに使用されている。最初の2つの技術は、特定のDNA配列を認識するためにヌクレアーゼアミノ酸配列の面倒な最適化を必要とする。それに対し、CRISPR-Cas系の場合、DNA標的を認識する構造は、タンパク質ではなく短いガイドRNAである。特定のDNA標的の切断は、ヌクレアーゼまたはその遺伝子のde novo合成を必要としないが、標的配列に相補的なガイドRNAを使用することによって行われる。それは、CRISPR Cas系を様々なDNA配列を切断するための簡便かつ効果的な手段にする。本技術は、異なる配列のガイドRNAを使用していくつかの領域におけるDNAの同時切断を可能にする。この手法は、真核生物においていくつかの遺伝子を同時に修飾するためにも使用される。
【0004】
その性質により、CRISPR-Cas系は、ウイルス遺伝物質内に切断を非常に特異的に導入できる原核生物の免疫系である(Mojica F.J.M.らIntervening sequences of regularly spaced prokaryotic repeats derive from foreign genetic elements//Journal of molecular evolution、2005年、第60巻、第2号、174~182頁)。略語CRISPR-Casは、「クラスター化された規則的な間隔のパリンドローム様短反復およびCRISPR関連遺伝子」を表す(Jansen R.ら、Identification of genes that are associated with DNA repeats in prokaryotes//Molecular microbiology、2002年、第43巻、第6号、1565~1575頁)。全てのCRISPR-Cas系は、CRISPRカセットおよび様々なCasタンパク質をコードする遺伝子からなる(Jansen R.ら、Molecular microbiology、2002年、第43巻、第6号、1565~1575頁)。CRISPRカセットは、それぞれ固有のヌクレオチド配列を有するスペーサー、および反復しているパリンドローム反復からなる(Jansen R.ら、Molecular microbiology、2002年、第43巻、第6号、1565~1575頁)。CRISPRカセットの転写、それに続くプロセッシングにより、Casタンパク質と共にエフェクター複合体を形成するガイドcrRNAの形成を得られる(Brouns S.J.J.ら、Small CRISPR RNAs guide antiviral defense in prokaryotes//Science、2008年、第321巻、第5891号、960~964頁)。crRNAとプロトスペーサーと呼ばれる標的DNA部位の間の相補的な対合により、CasヌクレアーゼはDNA標的を認識し、その中に極めて特異的に切断を導入する。
【0005】
単一のエフェクタータンパク質を含むCRISPR-Cas系は、系に含まれるCasタンパク質に応じて6つの異なる型(I~VI型)に分類される。2013年に、ヒト細胞のゲノムDNAを編集するためにII型CRISPR-Cas9系を使用することが初めて提案された(Cong L、ら、Multiplex genome engineering using CRISPR/Cas systems、Science、2013年2月15日;339(6121):819~23頁)。II型CRISPR-Cas9系は、その単純な構成および活性の機序を特徴とし、すなわちその機能は、1つのCas9タンパク質と2つの短いRNA:crRNAおよびトレーサーRNA(tracrRNA)のみからなるエフェクター複合体の形成を必要とする。トレーサーRNAは、CRISPR反復に由来するcrRNA領域と相補的に対になって、CasエフェクターへのガイドRNAの結合に必要な二次構造を形成する。ガイドRNAの配列の決定は、これまでに研究されていないCas相同分子種の特徴付けにおいて重要な工程である。Cas9エフェクタータンパク質は、標的DNAの相補鎖に切断を導入し、したがって二本鎖DNAの切断を生じる2つのヌクレアーゼドメイン(HNHおよびRuvC)を持つRNA依存性DNAエンドヌクレアーゼである(Deltcheva E.らCRISPR RNA maturation by trans-encoded small RNA and host factor RNase III//Nature、2011年、第471巻、第7340号、602頁)。
【0006】
これまでに、DNAに二本鎖切断を標的とし、特異的に導入できるいくつかのCRISPR-Casヌクレアーゼが公知である。CRISPR-Cas9技術は、菌株からヒト細胞まで様々な生物のDNAに切断を導入するための最も新しい、急速に発展している技術の1つであり、in vitroでの適用も提供する(Song M.The CRISPR/Cas9 system:Their deliverly、in vivo and ex vivo applications and clinical development by startups.、Biotechnol Prog.2017年7月;33(4):1035~1045頁)。
【0007】
Cas9およびcrRNA/tracrRNA二重鎖からなるエフェクターリボ核酸複合体は、crRNAスペーサー-プロトスペーサーの相補性に加えて、DNAの認識およびその後の加水分解のためにDNA標的上にPAM(プロトスペーサー調整モチーフ)の存在を必要とする(Mojica F.J.M.ら2009年)。II型系においてPAMは、オフターゲット鎖上のプロトスペーサーの3’末端の隣にまたは数ヌクレオチド離れて位置する数ヌクレオチドの厳密に定義された配列である。PAMの非存在下では、DNA結合の加水分解とそれに続く二本鎖切断の形成は起こらない。標的上のPAM配列の存在の必要性は、認識特異性を増大させるが、切断を導入するための標的DNA領域の選択を同時に拘束する。したがって、3’末端側からDNA標的に隣接する所望のPAM配列の存在は、あらゆるDNA部位でCRISPR-Cas系の使用を限定する特徴である。
【0008】
異なるCRISPR-Casタンパク質は、その活性のために異なる固有のPAM配列を使用する。CRISPR-Casタンパク質を新規の様々なPAM配列と共に使用することが、in vitroと生物のゲノム内の両方において任意のDNA領域を修飾することを可能にするのに必要である。真核生物ゲノムの修飾は、細胞へのCRISPR-Cas系のAAV媒介性送達を実現するために、小さなサイズのヌクレアーゼの使用も必要とする。
【0009】
DNAを切断し、ゲノムDNA配列を修飾するための技術は多数公知であるが、様々な生物においてDNA配列の厳密に特異的な部位でDNAを修飾する新規の有効な手段が今なお必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、CRISPR-Cas9系を使用して単細胞または多細胞生物のゲノムDNA配列を修飾するための新規の手段を提供することである。修飾しようとするDNA領域の3’末端に存在しなければならない特定のPAM配列のため、現存の系は使用が限られている。他のPAM配列を持つ新規のCas9酵素の探索は、様々な生物のDNA分子において所望の、厳密に特異的な部位で二本鎖切断を形成するのに利用可能な手段の範囲を拡大することになる。この問題を解決するために、著者は、パスツレラ・ニューモトロピカ(P.ニューモトロピカ(Р.pneumotropica))に対してこれまでに予測されていたII型CRISPRヌクレアーゼPpCas9を特徴付け、上記と他の生物の両方のゲノムへ指向性のある修飾を導入するためにそれは使用されうる。本発明は、必須の特徴:(a)他の公知のPAM配列と異なる短いPAM配列;(b)1055アミノ酸残基(a.a.r.)である比較的小さいサイズの特徴付けられたPpCas9タンパク質、を有することを特徴とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記問題は、DNA分子内でヌクレオチド配列5’-NNNN(A/G)TT-3’の直前に位置する二本鎖切断を前記DNA分子内に形成するための、配列番号1のアミノ酸配列を含む、または配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも95%同一であり、保存されていないアミノ酸残基においてのみ配列番号1と異なるアミノ酸配列を含むタンパク質の使用により解決される。本発明の一部の態様において、この使用は、DNA分子の二本鎖切断が、温度35℃~45℃で形成されることを特徴とする。本発明の一部の態様において、この使用は、二本鎖切断が、哺乳動物細胞のゲノムDNA内に形成されることを特徴とする。本発明の一部の態様において、この使用は、DNA分子内の二本鎖切断の形成が、前記哺乳動物細胞のゲノムDNAの修飾をもたらすことを特徴とする。
【0012】
前記問題は、単細胞または多細胞生物の細胞のゲノムDNA配列を修飾する方法であって、有効量の:a)配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質または配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする核酸、およびb)ヌクレオチド配列5’-NNNN(A/G)TT-3’の直接隣にある生物のゲノムDNA領域のヌクレオチド配列と二重鎖を形成し、二重鎖形成後に前記タンパク質と相互作用する配列を含むガイドRNA、または前記ガイドRNAをコードするDNA配列を生物の前記細胞へ導入する工程を含み、ガイドRNAおよびヌクレオチド配列5’-NNNN(A/G)TT-3’と前記タンパク質の相互作用が、配列5’-NNNN(A/G)TT-3’のすぐ隣のゲノムDNA配列に二本鎖切断の形成をもたらす、方法を提供することによってさらに解決される。
【0013】
本発明の一部の態様において、本方法は、ガイドRNAと同時に外来性DNA配列を導入する工程をさらに含むことを特徴とする。本発明の一部の態様において、本方法は、前記細胞が、哺乳動物細胞であることを特徴とする。
【0014】
標的DNA領域ならびにPpCas9タンパク質と複合体を形成できるcrRNAおよびトレーサーRNA(tracrRNA)の混合物が、ガイドRNAとして使用されてもよい。本発明の好ましい態様において、crRNAおよびトレーサーRNAに基づいて構築されるハイブリッドRNAが、ガイドRNAとして使用されてもよい。ハイブリッドガイドRNAを構築する方法は、当業者に公知である(Hsu PD、ら、DNA targeting specificity of RNA-guided Cas9 nucleases.Nat Biotechnol.2013年9月;31(9):827~32頁)。ハイブリッドRNAを構築する手法の1つは、下記の実施例に開示される。
【0015】
本発明は、標的DNAのin vitro切断といくつかの生物のゲノムの修飾の両方に使用されうる。ゲノムDNAは、直接的な方法、すなわち対応する部位でゲノムDNAを切断する工程と、相同修復を用いて外来性DNA配列を挿入する工程とによって修飾されうる。
【0016】
投与に使用される以外の生物のゲノムに由来する二本鎖または一本鎖DNAの任意の領域(またはそれら領域の中のおよび他のDNA断片との組成物)が、外来性DNA配列として使用されてもよく、前記領域(または領域の組成物)が、PpCas9ヌクレアーゼによって誘導される標的DNA内の二本鎖切断の場所に組み込まれることを意図する。本発明の一部の態様において、PpCas9タンパク質の導入に使用される生物のゲノムDNAの二本鎖DNAの領域は、突然変異(ヌクレオチドの置換)、および1つもしくは複数のヌクレオチドの挿入または欠失によってさらに修飾され、外来性DNA配列として使用されてもよい。
【0017】
本発明の技術的結果は、利用可能なCRISPR-Cas9系の汎用性を増大させて、さらに多くの特定の部位および特定の条件でゲノムまたはプラスミドDNAを切断するためにCas9ヌクレアーゼを使用できるようにすることである。新規のヌクレアーゼは、細菌、哺乳動物または他の生物の細胞に使用されうる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】CRISPR PpCas9系の座位の概要を示す図である。DR(直列反復)は、CRISPRカセットの部分である規則的に反復される領域である。
図2】in vitro PAMスクリーニングを示す図である。実験の概要。
図3】異なる反応温度における7Nライブラリー断片のPpCas9ヌクレアーゼ切断を示す図である。
図4図4Aは、各PAM(FC)位置における各特定のヌクレオチドの割合の対数変化の算出を使用したPpCas9ヌクレアーゼのin vitroスクリーニングの結果の分析を示す図である。図4Bは、PpCas9ヌクレアーゼのPAMロゴを示す図である。アデニン、シトシン、チミンおよびグアニンの出現率が、各位置について示される。文字の高さは、PAM配列の所与の位置におけるヌクレオチドの出現率に対応する。
図5】PpCas9ヌクレアーゼによってDNA標的を切断する効率に対するPAM 1位における単一ヌクレオチド置換の効果の検証を示す図である。
図6】PpCas9 PAM配列におけるヌクレオチド位置の有意性の検証を示す図である。
図7】PpCas9ヌクレアーゼによってDNA標的を切断する効率に対するPAM 5位におけるAからGへの置換の効果の検証を示す図である。
図8】PpCas9ヌクレアーゼによってDNA標的を切断する効率に対するPAM 7位における単一ヌクレオチド置換の効果の検証を示す図である。
図9】PpCas9タンパク質を使用する様々なDNA部位の切断を示す図である。レーン1および2は陽性対照である。
図10】PpCas9ヌクレアーゼによるPAM配列CAGCATTの認識の検証を示す図である。レーン1および2は陽性対照である。
図11】DNA切断ツールPpCas9の線図である。
図12】DNA標的の切断に対する実験を示す図である。異なる長さのハイブリッドガイドRNAを使用した。
図13】NCBI BLASTpソフトウェア(初期設定パラメータ)を使用した黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)由来PpCas9とCas9タンパク質のアミノ酸配列の整列化を示す図である。
図14】PpCas9を使用するヒト細胞のゲノムDNAの修飾を示す図である。図14Aは、PpCas9を産生するプラスミドを使用してヒト細胞のゲノムDNAを修飾する効率を決定するための実験の概要である。図14Bは、ヒト細胞のゲノムDNAの標的部位配列へのヌクレオチドの挿入および欠失の分析結果である(上段-T7エンドヌクレアーゼIによる反応産物をアガロースゲル電気泳動へアプライした、下段-高スループット配列決定によって決定したPpCas9によってEMX1遺伝子内に形成された挿入および欠失の例)。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の説明に使用される用語「含む(includes)」および「含む(including)」は、「とりわけ、含む」ことを意味すると解釈されるものとする。前記用語は、「からのみなる」と解釈されることを意図しない。別途定義されない限り、本出願内の技術および科学的用語は、科学および技術的文献において一般に受け入れられる典型的な意味を有する。
【0020】
本明細書では、用語「2つの配列のパーセント相同性」は、用語「2つの配列のパーセント同一性」と等しい。配列同一性は、参照配列に基づいて決定される。配列分析用のアルゴリズムは、Altschulら、J.Mol.Biol.215、403~10頁(1990年)に記載されるBLASTなど、当業者に公知である。ヌクレオチド配列同士ならびにアミノ酸配列同士の間の同一性および類似性レベルを決定する本発明の目的のために、ヌクレオチドおよびアミノ酸配列の比較が使用されてもよく、比較は、米国バイオテクノロジー情報センターによって提供されるBLASTソフトウェアパッケージ(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast)によって標準パラメータでギャップ整列化を使用して実行される。2つの配列のパーセント同一性は、これら2つの配列中の同一アミノ酸の位置の数によって決定され、整列化によって2つの配列の最適な比較のために入れられるギャップの数および各ギャップの長さを考慮する。パーセント同一性は、配列整列化を考慮し、所与の位置の同一アミノ酸の数を位置の総数で除算し、100で乗算したものと同じである。
【0021】
用語「特異的にハイブリダイズする」とは、当業者に一般に使用される既定の条件下でそのようなハイブリダイゼーションを可能にする2つの一本鎖核酸分子間または十分に相補的な配列間の会合のことを指す。
【0022】
熟語「ヌクレオチドPAM配列の直前に位置する二本鎖切断」は、標的DNA配列内の二本鎖切断が、ヌクレオチドPAM配列の前の0~25ヌクレオチド離れたところに作られることになることを意味する。
【0023】
ガイドRNAと同時に導入される外来性DNA配列とは、ガイドRNAの特異性によって決定される切断部位で二本鎖標的DNAを特異的に修飾するために特異的に調製されるDNA配列を指すものとする。そのような修飾は、例えば、標的DNA内の切断部位における特定のヌクレオチドの挿入または欠失でもよい。外来性DNAは、異なる生物由来のDNA領域または標的DNAと同じ生物由来のDNA領域のいずれでもよい。
【0024】
特定のアミノ酸配列を含むタンパク質とは、前記アミノ酸配列で構成されるアミノ酸配列および場合によりペプチド結合によって前記アミノ酸配列に連結された他の配列を有するタンパク質を指すものとする。他の配列の例は、核局在化シグナル(NLS)または前記アミノ酸配列の機能の増大をもたらす他の配列でもよい。
【0025】
ガイドRNAと同時に導入される外来性DNA配列とは、ガイドRNAの特異性によって決定される切断部位で二本鎖標的DNAを特異的に修飾するために特異的に調製されるDNA配列を指すものとする。そのような修飾は、例えば、標的DNA内の切断部位における特定のヌクレオチドの挿入または欠失でもよい。外来性DNAは、異なる生物由来のDNA領域または標的DNAと同じ生物由来のDNA領域のいずれでもよい。
【0026】
細胞に導入されるタンパク質およびRNAの有効量とは、前記細胞に導入された場合に、機能的複合体、すなわち標的DNAに特異的に結合し、ガイドRNAおよびDNA上のPAM配列によって決定される部位に二本鎖切断を生ずることになる複合体を形成できることになるタンパク質ならびにRNAの量を指すものとする。この過程の効率は、当業者に公知の従来通りの技術を使用して前記細胞から単離される標的DNAを分析することによって評価されうる。
【0027】
タンパク質およびRNAは、様々な技術によって細胞に送達されうる。例えば、タンパク質は、このタンパク質の遺伝子をコードするDNAプラスミド、細胞質においてこのタンパク質へ翻訳されるmRNA、またはこのタンパク質およびガイドRNAを含むリボ核タンパク質複合体として送達されてもよい。送達は、当業者に公知の様々な技術によって実行されうる。
【0028】
系の成分をコードする核酸は:当業者に公知の方法による細胞のトランスフェクションもしくは形質転換、組換えウイルスの使用、DNAマイクロインジェクションなどの細胞に対する操作、等によって直接または間接的に細胞に導入されうる。
【0029】
ヌクレアーゼおよびガイドRNAならびに外来性DNA(必要に応じて)からなるリボ核酸の複合体は、細胞に複合体をトランスフェクトするまたは細胞内に複合体を機械的に導入する、例えば、マイクロインジェクション、により送達されてもよい。
【0030】
細胞に導入されるタンパク質をコードする核酸分子は、染色体に組み込まれてもよく、または染色体外で複製するDNAでもよい。一部の態様において、細胞に導入されたDNAによるタンパク質遺伝子の有効な発現を確実にするには、細胞型に応じて前記DNAの配列を修飾して発現のためのコドンを最適化することが必要であり、それは、様々な生物のゲノムのコード領域における同義コドンの出現頻度が不均等であるためである。コドンの最適化は、動物、植物、真菌または微生物細胞における発現を増大させるために必要である。
【0031】
配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも95%同一の配列を有するタンパク質の場合、真核生物細胞において機能させるには、このタンパク質が、最終的にこの細胞の核内に行くことが必要である。したがって、本発明の一部の態様において、標的DNAに二本鎖切断を形成するために、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも95%同一であり、1つもしくは複数の核局在化シグナルの付加によって一方または両方の末端でさらに修飾された配列を有するタンパク質が使用される。例えば、SV40ウイルス由来核局在化シグナルが、使用されてもよい。核への効果的な送達を提供するために、核局在化シグナルは、例えば、Shen B、ら「Generation of gene-modified mice via Cas9/RNA-midiated gene targeting」、Cell Res.2013年5月;23(5):720~3頁に記載されているスペーサー配列によって主要なタンパク質配列から分離されてもよい。さらに、他の態様において、異なる核局在化シグナルまたは細胞核へ前記タンパク質を送達するための代替方法が使用されてもよい。
【0032】
本発明は、これまでに特徴付けられているCas9タンパク質に相同なP.pneumotropica生物由来のタンパク質を使用して、厳密に指定された位置でDNA分子に二本鎖切断を導入することを包含する。ゲノムに標的とした修飾を導入するためにCRISPRヌクレアーゼを使用することは、多くの利点を有する。第1に、系の活性の特異性は、crRNA配列によって決定され、全ての標的座位に対して1つの型のヌクレアーゼを使用することが可能になる。第2に、本技術により、細胞内へ異なる遺伝子標的に相補的ないくつかのガイドRNAを一度に送達することができ、それによりいくつかの遺伝子を一度に同時に修飾することが可能になる。
【0033】
PpCas9は、パスツレラ・ニューモトロピカATCC35149に見られるCasヌクレアーゼであり、動物の肺に住んでいる齧歯目の病原菌である。パスツレラ・ニューモトロピカ(P.ニューモトロピカ)CRISPR Cas9系(以下CRISPR PpCas9と称する)は、II-C型CRISPR Cas系に属しており、配列5’ATTATAGCACTGCGAAATGAAAAAGGGAGCTACAAC3’を持つ4つの直列反復(DR)を固有のスペーサーの配列によって間をあけて保有するCRISPRカセットからなる。系のスペーサーのいずれも、現在公知のバクテリオファージまたはプラスミドと配列が一致せず、その事実が、バイオインフォマティクス分析によって対象のPpCas9 PAMを決定することを不可能にしている。CRISPRカセットには、エフェクターCas9タンパク質であるPpCas9の遺伝子、ならびに新たなスペーサーの適合および組み込みに関係するCas1およびCas2タンパク質の遺伝子が隣接して存在する。Cas遺伝子の近傍で、直列反復に部分的に相補的であり、特徴的な二次構造に折りたたまれる配列がみつかり、その配列が、トレーサーRNA(tracrRNA)であると考えられる(図1)。
【0034】
II-C型系のRNA-Casタンパク質複合体の特徴的な構成の知見により、CRISPRカセットの転写の方向を予測することを可能にした:前crRNAは、Cas遺伝子と反対方向に転写される(図1)。
【0035】
したがって、PpCas9座位の配列の分析は、トレーサーおよびガイドRNAの配列を予測することを可能にした(表1)。
【0036】
【表1】
【0037】
PpCas9ヌクレアーゼの活性を検証し、対象のPpCas9 PAMを決定するために、in vitroでDNA切断反応を再現する実験を行った。PpCas9タンパク質のPAM配列を決定するために、二本鎖PAMライブラリーのin vitro切断が利用された。この目的のためには、PpCas9エフェクター複合体の全ての成分:ガイドRNAおよびヌクレアーゼを組換え形態で得ることが必要であった。ガイドRNA配列の決定により、in vitroでcrRNAおよびtracrRNA分子を合成することが可能になった。合成は、NEB HiScribe T7 RNA合成キットを使用して実施された。二本鎖DNAライブラリーは、3’末端側から無作為な7ヌクレオチド(5’-NNNNNNN-3’)に隣接されるプロトスペーサー配列を含む374塩基対(bp)の断片:
【0038】
【化1】
【0039】
であった。
この標的を切断するために、以下の配列のガイドRNA:
tracrRNA:
【0040】
【化2】
【0041】
およびcrRNA:
【0042】
【化3】
【0043】
が使用された。
太字体は、プロトスペーサー(標的DNA配列)に相補的なcrRNA配列を示す。
組換えPpCas9タンパク質を作製するために、その遺伝子がプラスミドpET21aにクローニングされた。Integrated DNA Technologies(IDT)によって合成されたDNAが、遺伝子をコードするDNAとして使用された。配列は、P.ニューモトロピカゲノムに見られるレアコドンを除外するためにコドン最適化された。大腸菌(E.coli)ロゼッタ細胞が、得られたプラスミドpET21a-6×His-PpCas9で形質転換された。
【0044】
終夜培養液500μLが、LB培地500mLに希釈され、光学密度Ru 0.6が得られるまで細胞は37℃で増殖された。標的タンパク質の合成は、濃度1mMにIPTGを添加することによって誘導され、次いで細胞は20℃で6時間インキュベートされた。次いで、細胞は5000gで30分間遠心分離され、得られた細胞沈殿物は-20℃で凍結された。
【0045】
沈殿物は、氷上で30分間解凍され、15mgリゾチームを補充した溶解緩衝液(Tris-HCI 50mM、pH8、500mM NaCl、β-メルカプトエタノール 1mM、イミダゾール 10mM)15mLに再懸濁され、氷上で30分間再インキュベートされた。細胞は、超音波処理によって次いで30分間破壊され、16000gで40分間遠心分離された。得られた上清は、0.2μmフィルターに通され、HisTrap HP 1mLカラム(GE Healthcare)に1mL/分間でアプライされた。
【0046】
クロマトグラフィーは、AKTA FPLCクロマトグラフ(GE Healthcare)を使用して1mL/分で実行された。アプライされたタンパク質を含むカラムは、30mMイミダゾールを補充した溶解緩衝液20mLで洗浄され、その後タンパク質は、300mMイミダゾールを補充した溶解緩衝液で洗い落とされた。
【0047】
次いで、親和性クロマトグラフィーの過程で得られたタンパク質画分は、緩衝液:トリス-HCl 50mM pH8、500mM NaCl、1mM DTTで平衡化したSuperdex 200 10/300 GLゲル濾過カラム(24mL)に通された。Amicon濃縮器(30kDaフィルターを含む)を使用して、PpCas9タンパク質の単量体形態に相当する画分が3mg/mLまで濃縮され、その後、精製されたタンパク質は、10%グリセロールを含有する緩衝液中で、-80℃で貯蔵された。
【0048】
直鎖状のPAMライブラリーを切断するin vitro反応は、以下の条件で、容量20μLで実施された。反応混合物は、1×CutSmart緩衝液(NEB)、5mM DTT、100nM PAMライブラリー、2μM trRNA/crRNA、400nM PpCas9タンパク質からなった。対照として、RNAを含有しない試料が類似の方法で調製された。試料は、異なる温度でインキュベートされ、2%アガロースゲル中のゲル電気泳動によって分析された。PpCas9タンパク質によりDNAが正しく認識され、特異的に切断された場合、約326および48塩基対の2つのDNA断片が生成されるべきである(図2を参照のこと)。
【0049】
実験結果は、PpCas9がヌクレアーゼ活性を有し、PAMライブラリー断片の一部を切断することを示した。温度勾配は、タンパク質が、35~45℃の温度範囲で活性があることを示した(図3)。本研究は、作業温度として42℃の温度を次いで使用した。
【0050】
ライブラリー切断反応が、選択された条件下で繰り返された。反応産物は、1.5%アガロースゲルにアプライされ、電気泳動に供された。長さ374bpの切断されていないDNA断片がゲルから抽出され、NEB NextUltra IIキットを使用して高スループット配列決定用として調製された。試料は、Illuminaプラットフォームで配列決定され、次いで、配列の分析がバイオフォマティカル(bioformatical)方法を使用して実施され:(Maxwell CS、ら、A detailed cell-free transcription-translation-based assay to decipher CRISPR protospacer-adjacent motif.Methods.2018年7月1日;143:48~57頁)に記載の手法を使用して対照試料と比較してPAM(NNNNNNN)の個々の位置におけるヌクレオチドの出現率の差異を決定した。さらに、PAMロゴが、結果を分析するために作られた(図4)。
【0051】
データ分析の両方の手法は、PAM5、6および7位の有意性を示す(図4)。したがって、in vitro分析により、PpCas9に対する推定PAM配列を、NNNNATTと確立することができた。しかしながら、この配列は、PAMを決定するためのスクリーニング手法によって得られた不正確な結果を考慮すると推定でしかない。
【0052】
この点に関して、個々のPAM配列の位置の有意性が、配列をより正確に決定するために検証された。この目的のために、PAM配列
【0053】
【化4-1】
【0054】
(またはその誘導体)に隣接されるDNA標的5’-atctcctttcattgagcac-3’を含有するDNA断片:
【0055】
【化4-2】
【0056】
の切断のin vitro反応を実行した。
全てのDNA切断反応は、以下の条件で実行された:
1×CutSmart緩衝液
400nM PpCas9
20nM DNA
2μM crRNA
2μM tracrRNA
インキュベーション時間30分間、反応温度42℃。
【0057】
考えうる4つ全てのヌクレオチドバリアントによるPAM 1位の置換は、タンパク質活性の効率に影響を及ぼさなかった(図5)。
5および6位の予測された有意性が、PAM位置のそれぞれにおける単一ヌクレオチド置換(ピリミジンによるプリンおよびその逆)によって実験的に確認された。置換が5および6位で起こった場合、タンパク質は、その活性を実質的に停止した。置換が7位で起こった場合、PpCas9活性の効率は、2分の1に減少し、その事実は、この位置のヌクレオチドに対する要求の減少を反映している(図6)。したがって、PpCas9ヌクレアーゼのin vitro PAMスクリーニングの結果によると、PAM 5位において最も可能性のあるヌクレオチドは、アデニンまたはグアニンであり、その事実が、実験的に確認された(図7)。AからGへの置換は、断片を切断する効率を減少させなかった。
【0058】
in vitroスクリーニングの結果によると、7位に「T」または「S」がある断片は、より効率的に認識されるべきである。さらなる実験を行って、この位置におけるヌクレオチドの有意性を最終的に検証した。in vitro試験の結果は、7位におけるヌクレオチド「T」の、AまたはGによる置換が、切断効率を40~50%減少させることを示した(図8)。したがって、PAM 7位は、5および6位と比較してあまり保存されておらず:7位のプリンは、認識効率を減少させるが、PpCas9タンパク質がDNAに二本鎖切断を導入することを妨げない。
【0059】
研究の結果は、以下の通りであった:PpCas9ヌクレアーゼによって認識されるPAMは、式5’-NNNN(A/G)TT-3’に対応する。7位は、あまり保存されていない。
【0060】
本方法の以下の例示的態様は、本発明の特徴を開示する目的で提供されるものであり、本発明の範囲を限定するものとして決して解釈されるべきでない。
実施例1
様々なDNA標的の切断におけるPpCas9タンパク質の活性の試験。
【0061】
配列5’-NNNN(A/G)TT-3’に隣接される様々なDNA配列を認識するPpCas9の能力を調査するために、実験を、ヒトgrin2b遺伝子配列由来のDNA標的のin vitro切断について行った(表2を参照のこと)。
【0062】
【表2】
【0063】
PAM共通配列5’-NNNN(A/G)TT-3’によりPpCas9によっておそらく認識可能な認識部位(表2)を保有するgrin2b遺伝子のPCR断片を、切断反応における標的として使用した。PpCas9をこれら部位に仕向けるCrRNAを合成して、これら配列を認識させた。
【0064】
切断反応を、PpCas9のために選択した条件で実行した;結果を図9に示す。図9は、PpCas9酵素が、適切なPAMにより4つの標的のうちの3つを成功裏に切断したことを示す。
【0065】
レーン6の標的は、PAM配列CAGCATTを有し、除去分析の結果に基づく予測によると、その配列は、タンパク質によって効率的に認識されるべきである。しかしながら、この断片の認識はこの実験において起こらなかった。
【0066】
したがって、PAM CAGCATTを、同じPAMに制限される別のプロトスペーサー標的に対してさらに検証した(図10)。この場合、PAMは効果的に認識され、DNAの切断をもたらした。したがって、タンパク質は、DNA標的配列に対してなんらかのさらなる優先傾向を有する。優先傾向は、DNAの二次構造とおそらく関係がある。
【0067】
したがって、本研究は、PpCas9においてヌクレアーゼ活性の存在を示し、さらに、そのPAM配列を決定し、ガイドRNAの配列を検証することを可能にした。
PpCas9リボ核タンパク質複合体は、プロトスペーサーの5’末端からPAM 5’-NNNNTT(A/G)-3’に制限された標的に切断を特異的に導入する。PpCas9/RNA複合体の概要を、図11に示す。
【0068】
実施例2
DNA標的を切断するためのハイブリッドガイドRNAの使用。
sgRNAは、tracrRNA(トレーサーRNA)とcrRNAを融合させたガイドRNAの一形態である。最適なsgRNAを選択するためにこの配列の3つのバリアントを構築し、それらは、tracrRNA-crRNA二重鎖の長さが異なった。RNAをin vitroで合成し、それを含む実験をDNA標的の切断について行った(図12)。
【0069】
以下のRNA配列:
1-sgRNA1 25DR:
【0070】
【化5】
【0071】
2-sgRNA2 36DR
【0072】
【化6】
【0073】
を、ハイブリッドRNAとして使用した。
太字体は、DNA標的との対合を提供する20ヌクレオチド配列(sgRNAの可変部分)を示す。さらに、実験は、RNAを含まない対照試料およびcrRNA+trRNAを使用して標的を切断する陽性対照を使用した。
【0074】
認識部位5’tatctcctttcattgagcac3’を対応する共通配列PAM CAACATTと共に含有する配列:
【0075】
【化7】
【0076】
をDNA標的として使用した。
太字体は、認識部位を示し、大文字は、PAMを表す。
反応を、以下の条件で実行した:PAM(CAACATT)を含有するDNA配列の濃度は20nMであり、タンパク質濃度は400nMであり、RNA濃度は2μMであり;インキュベーション時間は30分間であり、インキュベーション温度は37℃であった。
【0077】
選択したsgRNA1およびsgRNA2は、天然のtracrRNAおよびcrRNA配列と同程度に効果的であることが判明し:切断は、DNA標的の80%より多くで起こった(図12)。
【0078】
これらハイブリッドRNAバリアントを使用して、DNA標的と直接対合する配列を修飾した後に他の任意の標的DNAを切断してもよい。
実施例3
P.ニューモトロピカに属する近縁生物由来のCas9タンパク質。
【0079】
現在まで、P.ニューモトロピカにおいてCRISPR-Cas9酵素は特徴付けられてこなかった。サイズが同程度である黄色ブドウ球菌由来のCas9タンパク質は、PpCas9と28%同一である(図13、同一性の程度は、BLASTpソフトウェア、初期設定のパラメータで算出した)。同程度の同一性が、他の公知のCas9タンパク質に存在する(図示せず)。
【0080】
したがって、PpCas9タンパク質は、そのアミノ酸配列において現在までに研究された他のCas9タンパク質と有意に異なっている。
遺伝子工学の当業者は、本説明において申請者によって得られ、特徴付けられたPpCas9タンパク質配列バリアントが、タンパク質自体の機能を変化させることなく修飾されうると認識することになる[例えば、機能的活性に直接影響を及ぼさないアミノ酸残基の定方向突然変異誘発(Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、(1989年)、CSH Press、15.3~15.108頁)による]。特に、当業者は、保存されていないアミノ酸残基が、タンパク質機能に関与する(タンパク質機能または構造を決定する)残基に影響を及ぼすことなく修飾されうることを認識することになる。そのような修飾の例には、保存されていないアミノ酸残基の、相同なアミノ酸による置換がある。保存されていないアミノ酸残基を含有する領域の一部を、図12に示す。本発明の一部の態様において、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも95%同一であり、保存されていないアミノ酸残基においてのみ配列番号1と異なるアミノ酸配列を含むタンパク質を使用して、DNA分子内でヌクレオチド配列5’-NNNN(A/G)TT-3’の直前に位置する二本鎖切断を前記DNA分子内に形成することが可能である。相同タンパク質は、対応する核酸分子の突然変異誘発(例えば、部位特異的またはPCR媒介性突然変異誘発)によって得られ、その後、本明細書に記載される機能的分析に従って、コードされている修飾Cas9タンパク質をその機能の保持について試験してもよい。
【0081】
実施例4
PpCas9を使用するヒト細胞のゲノムDNAの修飾。
ヒト細胞のゲノムDNAを修飾するために、PpCas9ヌクレアーゼ遺伝子を、真核生物プラスミドベクター内にCMVプロモーターの制御下でクローニングした。細胞核へのヌクレアーゼ送達を確実にする核局在化シグナルをコードする配列を、PpCas9遺伝子の5’および3’末端に付加した。sgRNA配列を、U6プロモーターの制御下でベクターにクローニングした。系の活性を試験するために、長さ20および24ヌクレオチドの標的DNAと相補的な配列を持つsgRNAを使用した。最新技術から公知のSpCas9に基づくゲノムDNA修飾系を保有する類似のプラスミドを、陽性対照として使用した。トランスフェクションの有効性を評価するために、プラスミドはGFP(緑色蛍光タンパク質)遺伝子をさらに保有した。ヒトゲノムDNAの以下の領域を、DNA標的として使用した(表3)。
【0082】
【表3】
【0083】
真核生物細胞におけるPpCas9ヌクレアーゼの有効な活性のためには、真核生物細胞の核内にタンパク質を取り込む必要がある。これは、Shen B、ら「Generation of gene-modified mice via Cas9/RNA-mediated gene targeting」、Cell Res.2013年5月;23(5):720~3頁に記載されるスペーサー配列を介してまたはスペーサー配列なしでPpCas9配列に連結されたSV40 T抗原由来核局在化シグナル(Lanfordら、Cell、1986年、46:575~582頁)を使用することにより行われてもよい。
【0084】
所与の例において、ヒト細胞の核内に輸送されるヌクレアーゼの完全なアミノ酸配列は、以下の配列:
【0085】
【化8】
【0086】
であった。
この実験に使用されるプラスミドは、配列:
【0087】
【化9-1】
【0088】
【化9-2】
【0089】
を有した。
以下の部分:U6プロモーター(第1の領域、大文字)、プロトスペーサーに相補的な配列(「XXX-XXX」)、sgRNAの保存されている部分(第3の領域、大文字)、PpCas9遺伝子(太字体で強調)、GFP遺伝子(最後の領域、大文字)を、プラスミド配列内で区別した。
【0090】
PpCas9またはSpCas9を持つプラスミドを、リポフェクタミン2000試薬を使用してヒトHEK293T細胞培養にトランスフェクトした。トランスフェクションの72時間後に細胞を溶解し、得られた溶解物をPCRに供して、ゲノムDNAの標的修飾部位を含む領域を生成した。得られたPCR断片を、T7エンドヌクレアーゼIによるin vitro反応に供して、ゲノムDNAの標的部位における挿入および欠失の頻度を決定した。反応産物をアガロースゲルへアプライし、電気泳動に供した。図14Aは、先行技術に記載されるSpCas9ヌクレアーゼと類似の効率で、PpCas9が、EMX1およびGRIN2b遺伝子に修飾を能動的に導入することを示す。
【0091】
本実験は、ゲノムDNAを効果的に修飾するには、PpCas9がSpCas9と比較して伸長したsgRNAを必要とすることを示した:所与の例において、長さ24ヌクレオチドを有するDNA標的に相補的な配列を含むsgRNAを使用した場合、遺伝的修飾の効率はより大きい(長さ20ヌクレオチドと比較して)。
【0092】
高スループット配列決定により、標的DNA部位に導入された修飾を確認した。図14Bは、EMX1遺伝子のヌクレオチド配列の検出可能な修飾の例を示す。
リボ核酸複合体の形態での送達を利用して、ヒト細胞にNLS_PpCas9_NLSを送達してもよい。送達は、CutSmart緩衝液(NEB)中でPpCas9 NLSの組換え形態をガイドRNAとインキュベートすることによって実施される。組換えタンパク質を、親和性クロマトグラフィー(NiNTA、Qiagen)およびサイズ排除クロマトグラフィー(Superdex 200)によって精製することによって細菌産生細胞から作製する。
【0093】
タンパク質を、1:2(PpCas9 NLS:sgRNA)の比でRNAと混合し、混合物を室温で10分間インキュベートし、次いで細胞にトランスフェクトする。
次に、そこから抽出されるDNAを、標的DNA部位における挿入/欠失について分析する(上記の通り)。
【0094】
本発明において特徴付けられた細菌パスツレラ・ニューモトロピカ由来PpCas9ヌクレアーゼは、DNAを修飾するために標準的な手法および当業者に公知の方法を使用して様々な起源の細胞へ送達されうる。PpCas9は、これまでに特徴付けられたCas9タンパク質に比べて多くの利点を有する。
【0095】
他の公知のCasヌクレアーゼと異なり、PpCas9は、系が機能するために必要とされる短い2文字のPAMを有する。本発明は、プロトスペーサーから4ヌクレオチド離れて位置する短いPAM(RTT)の存在が、PpCas9がin vivoで成功裏に機能するために充分であることを示した。
【0096】
DNAに二本鎖切断を導入する能力があるこれまでに公知の多くの小さなサイズのCasヌクレアーゼは、複雑な多くの文字のPAM配列を有し、切断に適した配列の選択肢を限定する。短いPAMを認識する現在までに研究されているCasヌクレアーゼの中で、PpCas9だけがRTTモチーフに隣接される配列を認識することができる。
【0097】
PpCas9の第2の優位性は、小さいタンパク質サイズ(1055aar)である。現在まで、それは、3文字のRTT PАМ配列を有する唯一の研究されている小さなサイズのタンパク質である。
【0098】
PpCas9は、現在公知の他のヌクレアーゼのPAM配列と異なる、短く、使いやすいPAMを持つ新規の、小さなサイズのCasヌクレアーゼである。PpCas9タンパク質は、ヒト細胞のゲノムDNAを含めた様々なDNA標的を37℃で、高効率で切断し、新たなゲノム編集ツールの基礎になりうる。
【0099】
本発明は、開示された態様を参照して記載されてきたが、当業者は、詳細に記載されている特定の態様が、本発明を例示する目的で提供されたものであり、本発明の範囲を限定するものと決して解釈されないことを認識することになる。様々な修飾が、本発明の趣旨を逸脱することなく作られうることは理解されよう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【配列表】
2023501524000001.app
【国際調査報告】