(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-18
(54)【発明の名称】CAR-T細胞を製造する方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20230111BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20230111BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20230111BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20230111BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20230111BHJP
C12N 5/0783 20100101ALN20230111BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20230111BHJP
C07K 16/30 20060101ALN20230111BHJP
C07K 16/32 20060101ALN20230111BHJP
C07K 19/00 20060101ALN20230111BHJP
C07K 14/725 20060101ALN20230111BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
C12N15/62 Z
C12N15/12
C12N15/13
C12N15/864 100Z
C12N5/0783
C12N15/09 110
C07K16/30
C07K16/32
C07K19/00
C07K14/725
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022527817
(86)(22)【出願日】2020-11-13
(85)【翻訳文提出日】2022-07-06
(86)【国際出願番号】 IB2020060722
(87)【国際公開番号】W WO2021095012
(87)【国際公開日】2021-05-20
(32)【優先日】2019-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518370079
【氏名又は名称】クリスパー セラピューティクス アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100134784
【氏名又は名称】中村 和美
(72)【発明者】
【氏名】ジュリー カーソン
(72)【発明者】
【氏名】デメトリオス カライツィディス
(72)【発明者】
【氏名】タン スーユアン
(72)【発明者】
【氏名】ユイ ホイ
【テーマコード(参考)】
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA94X
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA02
4B065BA03
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4B065CA46
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
本開示の態様は、従来の製造方法を上回るいくつかの改善を提供し、それにより臨床的に有用なCAR T細胞療法の強力な供給の生成を可能にする、キメラ抗原受容体(CAR)を発現する遺伝子操作されたT細胞を製造するための方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子操作されたT細胞を製造する方法であって、
(i)T細胞の第1の集団を提供する工程と;
(ii)前記T細胞の第1の集団に、第1のCas9酵素及びCD70遺伝子を標的化する第1のガイドRNA(gRNA)を含む第1のリボ核タンパク質(RNP)複合体を導入して、T細胞の第2の集団を生成する工程であって、前記T細胞の第2の集団は、破壊された前記CD70遺伝子を有するT細胞を含む、工程と;
(iii)前記T細胞の第2の集団に、第2のCas9酵素及びT細胞受容体α鎖定常領域(TRAC)遺伝子を標的化する第2のgRNAを含む第2のRNP複合体並びに第3のCas9酵素及びβ2マイクログロブリン(β2M)遺伝子を標的化する第3のgRNAを含む第3のRNP複合体を導入して、T細胞の第3の集団を生成する工程であって、前記T細胞の第3の集団は、破壊された前記CD70遺伝子、破壊された前記TRAC遺伝子及び破壊された前記β2M遺伝子を有するT細胞を含む、工程と;
(iv)前記T細胞の第3の集団をアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターとインキュベートして、T細胞の第4の集団を生成する工程であって、前記AAVベクターは、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸配列を含み、前記核酸配列は、前記TRAC遺伝子と相同な配列に隣接しており、前記T細胞の第4の集団は、前記CARを発現し、且つ破壊された前記CD70遺伝子、破壊された前記TRAC遺伝子及び破壊された前記β2M遺伝子を有する活性化T細胞を含む、工程と;
(v)前記T細胞の第4の集団を増殖させ、それにより増殖されたT細胞集団を生成する工程と;
(vi)前記増殖されたT細胞集団からTCRαβ
+T細胞を除去して、遺伝子操作されたT細胞集団を生成する工程であって、前記遺伝子操作されたT細胞集団は、前記CARを発現し、且つ破壊された前記CD70遺伝子、破壊された前記TRAC遺伝子及び破壊された前記β2M遺伝子を有するT細胞を含む、工程と;
(vii)前記遺伝子操作されたT細胞集団を採取する工程と
を含む方法。
【請求項2】
前記T細胞の第1の集団は、ヒト血液細胞から濃縮された凍結保存T細胞から誘導される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記T細胞の第1の集団は、(a)ヒトドナーから血液細胞を得る工程と;(b)前記血液細胞からCD4
+T細胞及び/又はCD8
+T細胞を濃縮する工程とを含むプロセスによって調製される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程(b)は、抗CD4及び/又は抗CD8抗体と結合された磁気ビーズを使用して実施される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記T細胞の第1の集団は、少なくとも約80%の細胞生存率並びに/又は少なくとも約80%のCD4
+及びCD8
+T細胞の純度を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
(c)工程(b)で生成された前記濃縮されたCD4
+T細胞及びCD8
+T細胞を凍結保存する工程を更に含む、請求項3~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程(ii)は、エレクトロポレーションによって実施される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記第1のCas9酵素の濃度は、約0.15mg/mLであり、及び前記CD70遺伝子を標的化する前記第1のgRNAの濃度は、約0.16mg/mLである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
工程(ii)の細胞濃度は、約100×10
6細胞/mL~約350×10
6細胞/mLである、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
工程(ii)の前記細胞濃度は、約300×10
6細胞/mLである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記増殖工程は、細胞容器において、約150,000細胞/cm
2~約600,000細胞/cm
2、任意選択的に約300,000細胞/cm
2~約500,000細胞/cm
2の密度で前記T細胞を播種する工程を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
工程(ii)後且つ工程(iii)前に、細胞培養容器内において、T細胞活性化剤の存在下で前記T細胞の第2の集団をインキュベートして、活性化T細胞集団を生成する工程を更に含み、前記活性化T細胞集団は、破壊された前記CD70遺伝子を有する活性化T細胞を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記T細胞活性化剤は、CD3アゴニスト及びCD28アゴニストを含み、前記CD3アゴニスト及びCD28アゴニストは、ナノマトリックス粒子に結合されている、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
細胞培養容器内において、T細胞活性化剤の存在下で前記T細胞の第2の集団をインキュベートする工程は、約2×10
6/cm
2の細胞播種密度及び約2×10
6細胞/mLの細胞濃度で約72時間にわたるものである、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
混合物中の前記T細胞活性化剤対培地の比は、約1:12.5(v/v)である、請求項12~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
活性化を減少させ、且つ工程(iii)前に細胞を回復させるために、T細胞活性化剤の存在下において、前記T細胞の第2の集団をインキュベートする工程後に前記活性化T細胞集団中で前記T細胞活性化剤を希釈する工程を更に含む、請求項12~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
工程(iii)は、エレクトロポレーションによって実施される、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
工程(iii)は、1つのエレクトロポレーションイベントを伴う、請求項1~17のいずれか一項記載の方法。
【請求項19】
前記第2のRNP複合体及び前記第3のRNP複合体は、1つのエレクトロポレーションイベントで前記活性化T細胞に導入される、請求項12~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記第2のRNP複合体中の前記第2のCas9酵素の量は、第3のRNA複合体中の前記第3のCas9酵素の量と同じである、請求項17~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記第2のCas9酵素の濃度は、約0.15mg/mLであり、前記第3のCas9酵素の濃度は、約0.15mg/mLであり、前記TRAC遺伝子を標的化する前記第2のgRNAの濃度は、約0.08mg/mLであり、及び前記β2M遺伝子を標的化する前記第3のgRNAの濃度は、約0.2mg/mLである、請求項17~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
工程(v)の前記増殖されたT細胞集団の細胞濃度は、約100×10
6細胞/mL~約400×10
6細胞/mLである、請求項17~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
工程(iv)の細胞数は、約3×10
8細胞である、請求項17~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記AAVベクターは、約10,000~約80,000の感染多重度(MOI)値を有する、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記AAVベクターの前記MOIは、約20,000である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記AAVベクターは、AAV血清型6(AAV6)ベクターである、請求項24又は25に記載の方法。
【請求項27】
工程(v)は、約2×10
5細胞/cm
2~約7×10
5細胞/cm
2の播種密度において、約6日~約12日にわたって細胞培養容器で前記T細胞の第4の集団を培養することによって実施される、請求項1~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
工程(v)は、約2×10
5細胞/cm
2~約5×10
5細胞/cm
2の播種密度において、約7日~約9日にわたって細胞培養容器で前記T細胞の第4の集団を培養することによって実施される、請求項1~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記T細胞の第4の集団は、約3×10
5細胞/cm
2~約5×10
5細胞/cm
2の播種密度で培養される、請求項27又は28に記載の方法。
【請求項30】
前記細胞培養容器は、培地交換なしで約10日~約12日にわたる細胞増殖を可能にする静置細胞培養容器である、請求項27又は29に記載の方法。
【請求項31】
前記細胞培養容器は、培地交換なしで約7日~約9日にわたる細胞増殖を可能にする静置細胞培養容器である、請求項27~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
工程(vi)は、前記増殖された細胞を、抗TCRαβ抗体が固定化されているビーズに接触させ、且つ結合されていない細胞を収集することによって実施される、請求項1~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記第1のCas9酵素、前記第2のCas9酵素及び/又は前記第3のCas9酵素は、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)Cas9ヌクレアーゼ(spCas9)である、請求項1~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記第1のCas9酵素、前記第2のCas9酵素及び前記第3のCas9酵素は、同じである、請求項1~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記第1のCas9酵素、前記第2のCas9酵素及び前記第3のCas9酵素は、配列番号1のアミノ酸配列を含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記CD70遺伝子を標的化する前記第1のgRNAは、配列番号4のスペーサー配列を含む、請求項1~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記CD70遺伝子を標的化する前記第1のgRNAは、配列番号2のヌクレオチド配列を含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記TRAC遺伝子を標的化する前記第2のgRNAは、配列番号8のスペーサー配列を含む、請求項1~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記TRAC遺伝子を標的化する前記第2のgRNAは、配列番号6のヌクレオチド配列を含む、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記β2M遺伝子を標的化する前記第3のgRNAは、配列番号12のスペーサー配列を含む、請求項1~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記β2M遺伝子を標的化する前記第3のgRNAは、配列番号10のヌクレオチド配列を含む、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記第1のgRNA、前記第2のgRNA、前記第3のgRNA及び/又はその組み合わせは、1つ以上の2’-O-メチルホスホロチオエート修飾を含む、請求項36~41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記CARは、癌抗原を標的化する細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、共刺激ドメイン及びCD3ζ細胞質シグナル伝達ドメインを含む、請求項1~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記細胞外ドメインは、単鎖可変断片(scFv)を含み、前記膜貫通ドメインは、CD8aから誘導され、及び/又は前記共刺激ドメインは、4-1BBから誘導される、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記scFv断片は、CD70に結合する、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記CARは、配列番号46のアミノ酸配列を含む、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
請求項1~46のいずれか一項に記載の方法によって生成される、遺伝子操作されたT細胞集団。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年11月13日に出願された米国仮特許出願第62/934,999号明細書に対する優先権の利益を主張するものであり、これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
キメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法は、血液癌の治療において有望な治療効果を示している。典型的には、CAR-T細胞は、患者の免疫細胞(自己)又は無関係のヒトドナーからの免疫細胞(同種異系)のいずれかの遺伝子操作によって生成される。高品質の臨床用CAR-T細胞の生成は、この技術を幅広く適用するための必要条件である。従って、CAR-T細胞の大規模生産のための効率的な製造プロセスを開発することは、非常に興味深いことである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本開示は、少なくとも部分的に、従来の製造方法を上回るいくつかの改善を提供する、キメラ抗原受容体(CAR)を発現する遺伝子操作されたT細胞を製造するための方法の開発に基づく。このような改善としては、本明細書に記載の遺伝子改変の一貫性及び効率の改善(例えば、トリプルゲノム編集の一貫性及び効率の改善)が挙げられるが、これらに限定されず、これにより臨床的に有用なCAR-T細胞療法の強力な供給の生成が可能になる。
【0004】
従って、本開示の一態様は、遺伝子操作されたT細胞を製造るための方法であって、(i)T細胞の第1の集団を提供する工程と;(ii)T細胞の第1の集団に、第1のCas9酵素及びCD70遺伝子を標的化する第1のガイドRNA(gRNA)を含む第1のリボ核タンパク質(RNP)複合体を導入して、T細胞の第2の集団を生成する工程であって、T細胞の第2の集団は、破壊されたCD70遺伝子を有するT細胞を含む、工程と;(iii)T細胞の第2の集団に、第2のCas9酵素及びT細胞受容体α鎖定常領域(TRAC)遺伝子を標的化する第2のgRNAを含む第2のRNP複合体並びに第3のCas9酵素及びβ2マイクログロブリン(β2M)遺伝子を標的化する第3のgRNAを含む第3のRNP複合体を導入して、T細胞の第3の集団を生成する工程であって、T細胞の第3の集団は、破壊されたCD70遺伝子、破壊されたTRAC遺伝子及び破壊されたβ2M遺伝子を有する活性化T細胞を含む、工程と;(iv)T細胞の第3の集団をアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターとインキュベートして、T細胞の第4の集団を生成する工程であって、AAVベクターは、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸配列を含み、核酸配列は、TRAC遺伝子と相同な配列に隣接しており、T細胞の第4の集団は、CARを発現し、且つ破壊されたCD70遺伝子、破壊されたTRAC遺伝子及び破壊されたβ2M遺伝子を有する活性化T細胞を含む、工程と;(v)T細胞の第4の集団を増殖させ、それにより増殖されたT細胞集団を生成する工程と;(vi)増殖されたT細胞集団からTCRαβ+T細胞を除去して、遺伝子操作されたT細胞集団を生成する工程であって、遺伝子操作されたT細胞集団は、CARを発現し、且つ破壊されたCD70遺伝子、破壊されたTRAC遺伝子及びβ2M遺伝子を有する活性化T細胞を含む、工程と;(vii)遺伝子操作されたT細胞集団を採取する工程とを含む方法を提供する。
【0005】
いくつかの実施形態では、T細胞の第1の集団は、ヒト血液細胞から濃縮された凍結保存T細胞から誘導される。いくつかの実施形態では、T細胞の第1の集団は、(a)ヒトドナーから血液細胞を得る工程と;(b)血液細胞からCD4+T細胞及び/又はCD8+T細胞を濃縮する工程とを含むプロセスによって調製される。いくつかの実施形態では、工程(b)は、抗CD4及び/又は抗CD8抗体と結合された磁気ビーズを使用して実施される。いくつかの実施形態では、T細胞の第1の集団は、少なくとも約80%の細胞生存率並びに/又は少なくとも約80%のCD4+及びCD8+T細胞の純度を有する。いくつかの実施形態では、方法は、(c)工程(b)で生成された濃縮されたCD4+T細胞及びCD8+T細胞を凍結保存する工程を更に含む。
【0006】
いくつかの実施形態では、工程(ii)は、エレクトロポレーションによって実施される。いくつかの実施形態では、第1のCas9酵素の濃度は、約0.15mg/mLであり、及びCD70遺伝子を標的化する第1のgRNAの濃度は、約0.16mg/mLである。いくつかの実施形態では、工程(ii)の細胞濃度は、約100×106細胞/mL~約400×106細胞/mLである。いくつかの実施形態では、工程(ii)の細胞濃度は、約100×106細胞/mL~約350×106細胞/mLである。いくつかの実施形態では、工程(ii)の細胞濃度は、約300×106細胞/mLである。
【0007】
いくつかの実施形態では、方法は、工程(ii)後且つ工程(iii)前に、細胞培養容器内において、T細胞活性化剤の存在下でT細胞の第2の集団をインキュベートして、活性化T細胞集団を生成する工程を更に含み、活性化T細胞集団は、破壊されたCD70遺伝子を有する活性化T細胞を含む。T細胞活性化剤は、CD3アゴニスト及びCD28アゴニストを含み得、CD3アゴニスト及びCD28アゴニストは、ナノマトリックス粒子に結合されている。細胞培養容器内において、T細胞活性化剤の存在下でT細胞の第2の集団をインキュベートする工程は、約2×106/cmの細胞播種密度及び約2×106細胞/mLの細胞濃度で約72時間にわたるものであり得る。いくつかの実施形態では、混合物中のT細胞活性化剤対培地の比は、約1:12.5(v/v)である。更に他の実施形態では、本明細書で開示される方法は、活性化を減少させ、且つ工程(iii)前に細胞を回復させるために、T細胞活性化剤の存在下において、T細胞の第2の集団をインキュベートする工程後に活性化T細胞集団中でT細胞活性化剤を希釈する工程を更に含み得る。
【0008】
いくつかの実施形態では、工程(iii)は、エレクトロポレーションによって実施される。いくつかの実施形態では、工程(iii)は、1つのエレクトロポレーションイベントを伴う。いくつかの実施形態では、第2のRNP複合体及び第3のRNP複合体は、1つのエレクトロポレーションイベントで活性化T細胞に導入される。いくつかの実施形態では、第2のRNP複合体中の第2のCas9酵素の量は、第3のRNA複合体中の第3のCas9酵素の量と同じである。いくつかの実施形態では、第2のCas9酵素の濃度は、約0.3mg/mLであり、第3のCas9酵素の濃度は、約0.3mg/mLであり、TRAC遺伝子を標的化する第2のgRNAの濃度は、約0.08mg/mLであり、及びβ2M遺伝子を標的化する第3のgRNAの濃度は、約0.2mg/mLである。いくつかの実施形態では、工程(iii)の細胞濃度は、約100×106細胞/mL~約400×106細胞/mLである。いくつかの実施形態では、工程(iii)の細胞濃度は、約300×106細胞/mLである。他の実施形態では、工程(iii)(例えば、エレクトロポレーション)で使用される各容器の総細胞数は、約5×108~約2.5×109細胞、例えば、約7×108細胞であり得る。いくつかの例では、複数の容器、例えば約5~10個の容器が工程(iii)(例えば、エレクトロポレーション)で使用され得る。具体例では、7個もの容器が工程(iii)で使用され得、これは、例えばエレクトロポレーションのために約1.5×109~約3×109細胞(例えば、約2.1×109細胞又は約2.7×109細胞)を含み得る。
【0009】
いくつかの実施形態では、AAVベクターは、約10,000~約80,000の感染多重度(MOI)値を有する。いくつかの実施形態では、AAVベクターのMOIは、約20,000である。いくつかの実施形態では、AAVベクターは、AAV血清型6(AAV6)ベクターである。
【0010】
いくつかの実施形態では、工程(v)は、約2×105細胞/cm2~約5×105細胞/cm2の播種密度において、約7日~約12日にわたって細胞培養容器でT細胞の第4の集団を培養することによって実施される。いくつかの実施形態では、T細胞の第4の集団は、約150,000細胞/cm2~約600,000細胞/cm2の播種密度で細胞培養容器に播種され得る。いくつかの実施形態では、T細胞の第4の集団は、約3×105細胞/cm2~約5×105細胞/cm2の播種密度で培養される。いくつかの実施形態では、細胞培養容器は、培地交換なしで約10日~約12日にわたる間細胞増殖を可能にする静置細胞培養容器(本明細書では静置培養容器とも交換可能に呼ばれる)である。
【0011】
いくつかの実施形態では、工程(vi)は、増殖された細胞を、抗TCRαβ抗体が固定化されているビーズに接触させ、且つ結合されていない細胞を収集することによって実施される。
【0012】
いくつかの実施形態では、第1のCas9酵素、第2のCas9酵素及び/又は第3のCas9酵素は、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)からのCas9由来のCas9酵素(spCas9)である。いくつかの実施形態では、第1のCas9酵素、第2のCas9酵素及び第3のCas9酵素は、同じである。いくつかの実施形態では、第1のCas9酵素、第2のCas9酵素及び第3のCas9酵素は、配列番号1のアミノ酸配列を含む。
【0013】
いくつかの実施形態では、CD70遺伝子を標的化する第1のgRNAは、配列番号4のスペーサー配列を含む。いくつかの実施形態では、CD70遺伝子を標的化する第1のgRNAは、配列番号2のヌクレオチド配列を含む。
【0014】
いくつかの実施形態では、TRAC遺伝子を標的化する第2のgRNAは、配列番号8のスペーサー配列を含む。いくつかの実施形態では、TRAC遺伝子を標的化する第2のgRNAは、配列番号6のヌクレオチド配列を含む。
【0015】
いくつかの実施形態では、β2M遺伝子を標的化する第3のgRNAは、配列番号12のスペーサー配列を含む。いくつかの実施形態では、β2M遺伝子を標的化する第3のgRNAは、配列番号10のヌクレオチド配列を含む。
【0016】
いくつかの実施形態では、第1のgRNA、第2のgRNA、第3のgRNA及び/又はその組み合わせは、1つ以上の2’-O-メチルホスホロチオエート修飾を含む。
【0017】
いくつかの実施形態では、CARは、癌抗原を標的化する細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、共刺激ドメイン及びCD3ζ細胞質シグナル伝達ドメインを含む。いくつかの実施形態では、細胞外ドメインは、単鎖可変断片(scFv)を含み、膜貫通ドメインは、CD8aから誘導され、及び/又は共刺激ドメインは、4-1BBから誘導される。いくつかの実施形態では、scFv断片は、CD70に結合する。いくつかの実施形態では、CARは、配列番号46のアミノ酸配列を含む。
【0018】
従って、本開示の一態様は、遺伝子操作されたT細胞を製造するための方法であって、(i)T細胞の第1の集団を提供する工程と;(ii)T細胞の第1の集団に、第1のCas9酵素及びCD70遺伝子を標的化する第1のガイドRNA(gRNA)を含む第1のリボ核タンパク質(RNP)複合体を導入して、T細胞の第2の集団を生成する工程であって、T細胞の第2の集団は、破壊されたCD70遺伝子を有するT細胞を含む、工程と;(iii)細胞培養容器内において、T細胞活性化剤の存在下でT細胞の第2の集団をインキュベートして、T細胞の第3の集団を生成する工程であって、T細胞の第3の集団は、破壊されたCD70遺伝子を有する活性化T細胞を含む、工程と;(iv)T細胞の第3の集団に、第2のCas9酵素及びT細胞受容体α鎖定常領域(TRAC)遺伝子を標的化する第2のgRNAを含む第2のRNP複合体並びに第3のCas9酵素及びβ2マイクログロブリン(β2M)遺伝子を標的化する第3のgRNAを含む第3のRNP複合体を導入して、T細胞の第4の集団を生成する工程であって、T細胞の第4の集団は、破壊されたCD70遺伝子、破壊されたTRAC遺伝子及び破壊されたβ2M遺伝子を有する活性化T細胞を含む、工程と;(v)T細胞の第4の集団をアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターとインキュベートして、T細胞の第5の集団を生成する工程であって、AAVベクターは、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸配列を含み、核酸配列は、TRAC遺伝子と相同な配列に隣接しており、T細胞の第5の集団は、CARを発現し、且つ破壊されたCD70遺伝子、破壊されたTRAC遺伝子及び破壊されたβ2M遺伝子を有する活性化T細胞を含む、工程と;(vi)T細胞の第5の集団を増殖させ、それにより増殖されたT細胞集団を生成する工程と;(vii)増殖されたT細胞集団からTCRαβ+T細胞を除去して、遺伝子操作されたT細胞集団を生成する工程であって、遺伝子操作されたT細胞集団は、CARを発現し、且つ破壊されたCD70遺伝子、破壊されたTRAC遺伝子及びβ2M遺伝子を有する活性化T細胞を含む、工程と;(viii)遺伝子操作されたT細胞集団を採取する工程とを含む方法を提供する。
【0019】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法により生成される遺伝子操作されたT細胞集団である。
【0020】
本発明の1つ以上の実施形態の詳細が下記の説明に記載される。本発明の他の特徴又は利点は、以下の図面及びいくつかの実施形態の詳細な説明並びに添付の特許請求の範囲からも明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】小規模製造プロセスで調製されたT細胞の編集後のT細胞発現を示すグラフである。RNP複合体は、括弧内に示される。2d:2日間(48時間)活性化されたT細胞;3d:3日間(72時間)活性化されたT細胞;1xEP:単一のエレクトロポレーション;2xEP:2段階のエレクトロポレーシ。
【
図2A】転座率に対する単一エレクトロポレーション又は2段階エレクトロポレーションの効果を示すグラフを含む。
図2A:11個の示された転座の転座パーセントを示すグラフ。
図2B:8個の示された転座の転座パーセントを示すグラフ。
【
図2B】転座率に対する単一エレクトロポレーション又は2段階エレクトロポレーションの効果を示すグラフを含む。
図2A:11個の示された転座の転座パーセントを示すグラフ。
図2B:8個の示された転座の転座パーセントを示すグラフ。
【
図3A】抗CD70 CARを発現し、CD70、β2M及びTRAC遺伝子を遺伝子破壊したCTX130T細胞の作製方法のフローチャートを含む。
図3Aは、本明細書に記載の技術のいくつかの実施形態による、抗CD70 CARを発現するT細胞を作製するための例示的な製造プロセスのフローチャートを含む。CAR:キメラ抗原受容体;EDTA:エチレンジアミンテトラ酢酸;HSA:ヒト血清アルブミン;IL:インターロイキン;PBS:リン酸緩衝生理食塩水;rAAV:組換えアデノ随伴ウイルス;sgRNA:単一ガイドリボ核酸;TCRαβ:T細胞受容体アルファ鎖及びT細胞受容体ベータ鎖;補充されたX-VIVO(商標)15:5%男性ヒト血清AB、100IU/mLのrhIL2及び100IU/mLのrhIL7を含むX-VIVO(商標)15。
図3Bは、本明細書に記載の技術のいくつかの実施形態による、抗CD70 CARを発現するT細胞を含む製剤を作製するための例示的な製造プロセスのフローチャートを含む。
【
図3B】抗CD70 CARを発現し、CD70、β2M及びTRAC遺伝子を遺伝子破壊したCTX130T細胞の作製方法のフローチャートを含む。
図3Aは、本明細書に記載の技術のいくつかの実施形態による、抗CD70 CARを発現するT細胞を作製するための例示的な製造プロセスのフローチャートを含む。CAR:キメラ抗原受容体;EDTA:エチレンジアミンテトラ酢酸;HSA:ヒト血清アルブミン;IL:インターロイキン;PBS:リン酸緩衝生理食塩水;rAAV:組換えアデノ随伴ウイルス;sgRNA:単一ガイドリボ核酸;TCRαβ:T細胞受容体アルファ鎖及びT細胞受容体ベータ鎖;補充されたX-VIVO(商標)15:5%男性ヒト血清AB、100IU/mLのrhIL2及び100IU/mLのrhIL7を含むX-VIVO(商標)15。
図3Bは、本明細書に記載の技術のいくつかの実施形態による、抗CD70 CARを発現するT細胞を含む製剤を作製するための例示的な製造プロセスのフローチャートを含む。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本開示は、少なくとも部分的に、CAR-T細胞、特に同種異系CAR-T細胞を生成するための、製造プロセスの1つ以上の工程について改善された条件を含む改善された製造プロセスの開発に基づく。本明細書では、少なくとも以下の有利な結果につながる改善された製造プロセスが開示される:
(a)本明細書で提供されるT細胞活性化条件の改善から生じるエレクトロポレーション後の%CAR+発現の増加及び細胞喪失の減弱。
(b)本明細書で提供される活性化T細胞条件のCRISPR-Cas9媒介遺伝子編集条件の改善から生じるT細胞におけるβ2M遺伝子破壊の一貫性の改善及び効率の改善。
(c)本明細書で提供されるT細胞エレクトロポレーション条件の改善から生じるより低い転座率。
(d)本明細書に記載の改善された製造プロセスによって提供される生産時間の短縮及び生産コストの減少から生じるCAR T細胞療法の供給の増加。
(e)本明細書に記載の改善された製造プロセスを使用した均一で高品質のCAR T療法の生成から生じる製造された製剤の変動性の低減。
(f)T細胞で高いCAR発現レベルを維持しながらのAAV形質導入条件の単純化。
【0023】
従って、本明細書では、癌抗原、例えば、CD70を標的化し、ノックアウトされたCD70、TRAC及びβ2M遺伝子を有するCARコンストラクトなどのCARコンストラクトを発現する遺伝子操作されたT細胞を製造するための方法が提供される。本明細書に記載される方法により生成される遺伝子操作されたT細胞集団及びその治療的使用も本開示の範囲内である。
【0024】
I.遺伝子操作されたT細胞の製造
本開示の態様は、破壊された表面抗原分類70(CD70)遺伝子のクラスター、破壊されたβ2-マイクログロブリン(β2M)遺伝子及び破壊されたT細胞受容体α鎖定常領域(TRAC)遺伝子並びにキメラ抗原受容体(CAR)をコードする挿入された核酸を含む遺伝子操作されたT細胞を製造するための方法が提供される。
【0025】
CD70遺伝子の破壊は、遺伝子操作されたT細胞の製造中に細胞間フラトリサイドを防ぐ。代わりに又は加えて、CD70遺伝子の破壊は、遺伝子操作されたT細胞の健康及び機能の向上(例えば、増殖の延長、疲弊の減少)を可能にする。β2M遺伝子及びTRAC遺伝子の破壊は、遺伝子操作されたT細胞を非同種異系反応性にし、同種異系間移植に適したものにする。CARをコードする核酸の挿入は、遺伝子操作されたT細胞がその表面にCARを発現することを可能にし、そこで遺伝子操作されたT細胞を癌細胞に標的化する。
【0026】
従って、本明細書で開示される遺伝子操作されたT細胞を製造するための方法は、いくつかの実施形態では、CRISPR-Cas9遺伝子編集を使用してCD70、TRAC及びβ2M遺伝子の発現を妨害し、アデノ随伴ウイルス(AAV)形質導入を使用してCARをコードする核酸を挿入することを伴う。
【0027】
一般に、本明細書で開示されるCAR-T細胞を製造するための方法は、(i)好適なヒト免疫細胞源からCD4+/CD8+T細胞を濃縮する工程と、(ii)濃縮されたCD4+/CD8+T細胞を活性化する工程と、(iii)活性化T細胞を遺伝子操作して破壊されたCD70、TRAC及びβ2M遺伝子を有するCAR-T細胞を生成する工程と、治療的使用のために遺伝子操作されたT細胞を採取する工程とを含み得る。必要に応じて、濃縮されたCD4+/CD8+T細胞は、将来の使用のために凍結保存を介して保存され得る。代わりに又は加えて、遺伝子操作されたT細胞は、採取前にin vitroで増殖させ得る。TCRαβ+T細胞は、このようにして生成されたCAR-T細胞集団から枯渇させ得る。
【0028】
(i)T細胞の濃縮
本明細書に開示される製造方法のいずれも出発物質としてヒト血液細胞を使用し得る。例えば、T細胞を、遠心沈降(例えば、FICOLL(商標)分離)などの当業者に公知の技術を使用して、対象から回収される血液の単位から得ることができる。代わりに、遺伝子操作されたT細胞の作製に使用するためのT細胞は、in vitroでの分化を介して幹細胞(例えば、HSC又はiPSC)から誘導され得る。いくつかの実施形態では、血液細胞は個々のヒトドナーから得ることができる。他の実施形態では、血液細胞は、複数のヒトドナー(例えば、2、3、4又は5人のヒトドナー)から得ることができる。
【0029】
いくつかの例では、好適なヒトドナーからのロイコパック(leukopak)サンプルを使用し得る。当技術分野において公知のとおり、ロイコパックサンプルは、末梢血から収集される濃縮された白血球アフェレーシス(leukapheresis)製品である。ロイコパックサンプルには、典型的には、単球、リンパ球、血小板、血漿及び赤血球などの様々な血液細胞が含まれている。ヒトドナーは、好ましくは、健康なヒトドナーである。例えば、ヒトドナー候補は、HBV、HCV、HIV、HTLV、WNV、クルーズトリパノソーマ及び/又はCMVのスクリーニングの対象となり得る。スクリーニングで陰性の結果を示したヒト対象は、血液細胞のドナーとして使用され得る。
【0030】
本方法での使用が見出されるT細胞の供給源は特に限定されない。いくつかの実施形態では、T細胞バンクからのT細胞は、本明細書に開示される製造方法のいずれかにおける出発物質として使用することができる。T細胞バンクは、細胞培養におけるT細胞の持続性を改善するために、特定の遺伝子(例えば、細胞の自己再生、アポトーシス及び/又はT細胞の疲弊又は複製老化に関与する遺伝子)の遺伝子編集を伴うT細胞を含み得る。T細胞バンクは、真正T細胞、例えば、非形質転換T細胞、最終分化T細胞、安定したゲノムを有するT細胞並びに/又は増殖(proliferation)及び増殖(expansion)のためにサイトカイン及び成長因子に依存するT細胞から生成し得る。代わりに、このようなT細胞バンクは、造血幹細胞(例えば、iPSC)などの前駆細胞、例えばin vitroでの培養物から生成され得る。いくつかの例では、T細胞バンク内のT細胞は、細胞の自己複製に関与する1つ以上の遺伝子、アポトーシスに関与する1つ以上の遺伝子及び/又はT細胞の疲弊に関与する1つ以上の遺伝子の遺伝子編集を含み得、そのような遺伝子の発現を破壊又は低減し、培養の持続性の改善をもたらす。T細胞バンクで編集された遺伝子の例としては、Tet2、Fas、CD70、Regnase-1又はこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。編集されていないT細胞と比較して、T細胞バンクのT細胞は、培養における増殖能力(expansion capacity)の増強、増殖能力(proliferation capacity)の増強、T細胞の活性化の増大及び/又はアポトーシスレベルの低下を有し得る。
【0031】
好適なT細胞は、従来の方法又は本明細書に開示される方法を使用して、ヒト血液細胞から濃縮することができる。遺伝子操作されたT細胞の作製に使用するためのT細胞は、CD4+、CD8+又はこれらの組み合わせが挙げられるがこれらに限定されない1つ以上のT細胞マーカーを発現し得る。いくつかの実施形態では、CD4+T細胞は、ヒト血液細胞から濃縮することができる。他の実施形態では、CD8+T細胞を濃縮することができる。具体例では、CD4+とCD8+T細胞のいずれもヒト血液細胞から精製される。
【0032】
CD4+T細胞及び/又はCD8+T細胞は、当技術分野で公知の任意の方法又は本明細書に開示されている方法を使用して、例えば、標的T細胞の特定の細胞表面バイオマーカーに結合することができる抗体、例えば、CD4に特異的な抗体及び/又はCD8に特異的な抗体を使用して、本明細書に記載されているものなどの好適な血液細胞源から単離することができる。いくつかの実施形態では、CD4+T細胞及びCD8+T細胞の濃縮は、磁気ビーズに結合した抗CD4及び抗CD8抗体を使用して実施することができる。CD4+及びCD8+T細胞を含む細胞集団は、好適な条件下で好適な期間、そのような磁気ビーズと共にインキュベートすることができ、ビーズに結合した抗体を介して標的T細胞を磁気ビーズに結合させることができる。非結合細胞は洗浄でき、ビーズに結合したCD4+及びCD8+T細胞は通常の方法で収集できる。
【0033】
濃縮されたT細胞(例えば、CD4+T細胞及びCD8+T細胞)は、日常的な慣行に従って、細胞生存率及び/又は標的T細胞の純度などの特徴について評価され得る。いくつかの実施形態では、本明細書で開示される濃縮工程からのT細胞集団は、少なくとも約80%(例えば、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%又はそれを超える)の細胞生存率を有し得る。代わりに又は加えて、濃縮されたT細胞集団は、少なくとも約80%、例えば、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約97%、約98%又はそれを超える標的T細胞(例えば、CD4+及び/又はCD8+T細胞)の純度を有し得る。代わりに又は加えて、濃縮されたT細胞集団は、少なくとも約70%、例えば、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約97%、約98%又はそれを超える標的T細胞(例えば、CD4+及び/又はCD8+T細胞)の純度を有し得る。
【0034】
「約」又は「およそ」という用語は、当技術分野の通常の技能の1つによって決定される特定の値の許容可能な誤差範囲内を意味し、これは、値がどのように測定又は決定されるか、すなわち測定システムの制限に部分的に依存する。例えば、「約」は、当技術分野の慣行に従って、許容可能な標準偏差の範囲内を意味し得る。代わりに、「約」とは、所定の値の最大±20%、好ましくは最大±10%、より好ましくは最大±5%、更に好ましくは最大±1%の範囲を意味し得る。代わりに、特に生物学的システム又はプロセスに関して、この用語は、値の1桁以内、好ましくは2倍以内を意味し得る。特定の値が出願及び特許請求の範囲に記載されている場合、特に明記しない限り、「約」という用語は暗黙的であり、この文脈において、特定の値の許容可能な誤差範囲内を意味する。
【0035】
濃縮されたT細胞集団(これも本開示の範囲内である)は、本明細書に開示されるように、更なる処理のために直ちに使用され得る。代わりに、濃縮されたT細胞集団は、例えば凍結保存を介して、将来の使用に好適な条件下で保存され得る。更なる処理前に凍結保存T細胞を通常の手順に従って解凍することができる。解凍した細胞の細胞生存率を評価して、解凍した細胞が更なる処理に好適であるかどうかを判断することができる。
【0036】
(ii)濃縮されたT細胞のCRISPR-CAS9媒介遺伝子編集
本明細書で開示される手順のいずれかによって調製される濃縮されたT細胞は、例えば、CRISPR-Cas9遺伝子編集技術を介して、CD70をノックアウトするための遺伝子編集を受け得る。第1のエレクトロポレーション工程でのCD70遺伝子のノックアウトとそれに続く第2のエレクトロポレーション工程でのTRAC及びβ2M遺伝子のノックアウトは、編集効率を大幅に向上させ、遺伝子編集中に生成される転座の数を減少させた。以下の例を参照されたい。
【0037】
CD70遺伝子は、腫瘍壊死因子スーパーファミリーのメンバーをコードし、且つその発現は、活性化Tリンパ球及びBリンパ球並びに成熟樹状細胞に限定される。CD70は、そのリガンドであるCD27との相互作用を通して、腫瘍細胞及び制御性T細胞の生存に関与している。CD70遺伝子の破壊は、遺伝子操作されたT細胞の製造中の細胞間フラトリサイドのリスクを最小限に抑え、製造された遺伝子操作されたT細胞の健康及び機能の向上を可能にする。
【0038】
CRISPR-Cas9を媒介遺伝子編集システム
CRISPR-Cas9システムは、遺伝子編集のために使用されるRNA誘導型DNA標的化プラットフォームとして転用されている、原核生物に天然に存在する防御機構である。CRISPR-Cas9システムは、DNAヌクレアーゼであるCas9と、2つの非コードRNAであるcrisprRNA(crRNA)及びトランス活性化型RNA(tracrRNA)とに依拠するものであり、DNAを切断することを目的としている。CRISPRは、クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピートの頭字語であり、例えば原核生物を感染又は攻撃したウイルスによって細胞に以前暴露された外来DNAと類似性を有するDNAの断片(スペーサーDNA)を含有する細菌及び古細菌のゲノムに見られるDNA配列のファミリーである。例えば、同様のウイルスがその後の攻撃時に再導入すると、類似した外来DNAを検出及び破壊するために、これらのDNAの断片が原核生物によって使用される。CRISPR座位の転写によってスペーサー配列を含むRNA分子の形成がもたらされるが、このRNA分子は、外来の外来性DNAを認識して切断することができるCas(CRISPR関連)タンパク質と結合し、標的となる。CRISPR/Casシステムのいくつかの種類及びクラスが記載されている(例えば、Koonin et al.,(2017)Curr Opin Microbiol 37:67-78を参照されたい)。
【0039】
crRNAは、典型的には、標的DNA内の20個のヌクレオチド(nt)の配列とのワトソン-クリック塩基対形成を介して、CRISPR-Cas9複合体の配列認識及び特異性を促進する。crRNA中の5’20ntの配列の変化は、特定の座位へのCRISPR-Cas9複合体の標的化を可能にする。CRISPR-Cas9複合体は、標的配列がプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)と呼ばれる特定の短いDNAモチーフ(配列NGGを有する)の後にある場合、crRNAの最初の20ntと一致する配列を含むDNA配列のみに結合する。
【0040】
TracrRNAは、crRNAの3’末端とハイブリダイズしてRNA二重鎖構造を形成し、このRNA二重鎖構造にCas9エンドヌクレアーゼが結合して、触媒活性のあるCRISPR-Cas9複合体が形成され、次いでこのCRISPR-Cas9複合体によって標的DNAを切断することができる。
【0041】
CRISPR-Cas9複合体が標的部位でDNAに結合すると、Cas9酵素内の2つの独立したヌクレアーゼドメインがそれぞれPAM部位の上流でDNA鎖の一方を切断し、DNAの両鎖が塩基対で終端する(平滑末端)二本鎖切断(DSB)を残す。
【0042】
CRISPR-Cas9複合体が特定の標的部位でDNAに結合し、部位特異的なDSBが形成された後、以下の重要な工程は、DSBの修復である。細胞は、DSBを修復するために、2つの主要なDNA修復経路、非相同末端連結(NHEJ)及び相同組換え修復(HDR)を使用する。
【0043】
NHEJは、非分裂細胞を含む大部分の細胞型において高度に活性であるように見える堅固な修復機構である。NHEJは、誤りがちであり、多くの場合、DSBの部位において1~数百のヌクレオチド間で除去又は付加をもたらす可能性があるが、そのような改変は、典型的には<20ntである。得られた挿入及び欠失(インデル)は、遺伝子のコード領域又は非コード領域を破壊する可能性がある。代わりに、HDRは、内因的又は外因的に提供される長い一続きの相同性ドナーDNAを使用して、高い忠実度でDSBを修復する。HDRは、分裂細胞においてのみ活性であり、大部分の細胞型において相対的に低い頻度で生じる。本開示の多くの実施形態では、修復オペラントとしてNHEJを利用する。
【0044】
(a)Cas9
いくつかの実施形態では、Cas9(CRISPR関連タンパク質9)エンドヌクレアーゼは、本明細書で開示されるような遺伝子操作されたT細胞を作製するためのCRISPR法において使用される。Cas9酵素は、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)に由来するものであり得るが、他のCas9相同体も使用することができる。本明細書で提供されるように、野生型Cas9を使用し得るか、又はCas9の改変されたバージョン(例えば、Cas9の発展させたバージョン又はCas9オルソログ若しくは変異体)を使用し得ることが理解されるであろう。いくつかの実施形態では、Cas9は、C末端及びN末端にSV40 large T抗原の核局在配列(NLS)を含むように改変されているストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)由来のCas9ヌクレアーゼタンパク質を含む。得られたCas9ヌクレアーゼ(sNLS-spCas9-sNLS)は、組換え大腸菌(E.coli)発酵によって生成され、クロマトグラフィーによって精製された162kDaのタンパク質である。spCas9のアミノ酸配列は、UniProt受入番号Q99ZW2として見出すことができ、本明細書では配列番号1として示される。
【0045】
(b)ガイドRNA(gRNA)
本明細書で記載されるようなCRISPR-Cas9媒介遺伝子編集は、ガイドRNA、即ちgRNAを使用することを含む。本明細書で使用する場合、「gRNA」とは、特定の標的配列で遺伝子を編集するために、Cas9をCD70遺伝子又はTRAC遺伝子又はβ2M遺伝子内の特定の標的配列に誘導することができるゲノム標的化核酸を意味する。ガイドRNAは、編集のための標的遺伝子内の標的核酸配列とCRISPR反復配列とにハイブリダイズする、少なくとも1つのスペーサー配列を含む。
【0046】
CD70遺伝子を標的化する代表的なgRNAは、配列番号2に示される。国際公開第2019/215500号パンフレットとして公開された2019年5月10日に出願された国際出願番号PCT/IB2019/000500号も参照され、その関連する開示は、本明細書で参照される主題及び目的のために参照により本明細書に組み込まれる。他のgRNA配列は、19番染色体上に位置するCD70遺伝子配列を使用して設計され得る(GRCh38:19番染色体:6,583,183~6,604,103;Ensembl;ENSG00000125726)。
【0047】
いくつかの実施形態では、CD70ゲノム領域を標的化するgRNA及びCas9は、CD70ゲノム領域に切断を生じさせてCD70遺伝子にインデルをもたらし、mRNA又はタンパク質の発現を阻害する。いくつかの実施形態では、CD70ゲノム領域を標的化するgRNAにより、表11の配列から選択される少なくとも1つのヌクレオチド配列を含む、CD70遺伝子におけるインデルが生じる。いくつかの実施形態では、CD70ゲノム領域を標的化するgRNA(配列番号2)により、表11の配列から選択される少なくとも1つのヌクレオチド配列を含む、CD70遺伝子におけるインデルが生じる。
【0048】
TRAC遺伝子を標的化する代表的なgRNAは、配列番号6に示される。国際公開第2019/097305A2号パンフレットとして公開された2018年5月11日に出願された国際出願番号PCT/IB2018/001619号も参照され、その関連する開示は、本明細書で参照される主題及び目的のために参照により本明細書に組み込まれる。他のgRNA配列は、14番染色体上に位置するTRAC遺伝子配列を使用して設計され得る(GRCh38:14番染色体:22,547,506-22,552,154;.Ensembl;ENSG00000277734)。
【0049】
いくつかの実施形態では、TRACゲノム領域を標的化するgRNA及びCas9は、TRACゲノム領域に切断を生じさせてTRAC遺伝子にインデルをもたらし、mRNA又はタンパク質の発現を阻害する。いくつかの実施形態では、TRACゲノム領域を標的とするgRNAにより、表9の配列から選択される少なくとも1つのヌクレオチド配列を含む、TRAC遺伝子におけるインデルが生じる。いくつかの実施形態では、TRACゲノム領域を標的とするgRNA(配列番号6)により、表9の配列から選択される少なくとも1つのヌクレオチド配列を含む、TRAC遺伝子におけるインデルが生じる。
【0050】
β2M遺伝子を標的化する例示的なgRNAは、配列番号10に示される。国際公開第2019/097305A2号パンフレットとして公開された2018年5月11日に出願された国際出願番号PCT/IB2018/001619号も参照され、その関連する開示は、本明細書で参照される目的及び主題のために参照により本明細書に組み込まれる。他のgRNA配列は、15番染色体上に位置するβ2M遺伝子配列を使用して設計することができる(GRCh38の座標:15番染色体:44,711,477-44,718,877;Ensembl:ENSG00000166710)。
【0051】
いくつかの実施形態では、β2Mゲノム領域を標的化するgRNA及びRNA誘導型ヌクレアーゼは、β2Mゲノム領域に切断を生じさせてβ2M遺伝子にインデルをもたらし、mRNA又はタンパク質の発現を阻害する。いくつかの実施形態では、β2Mゲノム領域を標的化するgRNAにより、表10の配列から選択される少なくとも1つのヌクレオチド配列を含む、β2M遺伝子におけるインデルが生じる。いくつかの実施形態では、β2Mゲノム領域を標的化するgRNA(配列番号10)により、表10の配列から選択される少なくとも1つのヌクレオチド配列を含む、β2M遺伝子におけるインデルが生じる。
【0052】
II型システムでは、gRNAは、tracrRNA配列と呼ばれる第2のRNAも含む。II型のgRNAでは、CRISPR反復配列及びtracrRNA配列が、互いにハイブリダイズして二重鎖を形成する。V型のgRNAでは、crRNAが二重鎖を形成する。両方のシステムにおいて、二重鎖は部位特異的ポリペプチドに結合し、その結果、ガイドRNAと部位特異的ポリペプチドとで複合体を形成する。いくつかの実施形態では、ゲノム標的化核酸は、この部位特異的ポリペプチドとの会合による複合体に標的特異性をもたらす。そのため、ゲノム標的化核酸は、部位特異的ポリペプチドの活性を誘導する。
【0053】
当業者に理解されているように、各ガイドRNAは、そのゲノム標的配列に相補的なスペーサー配列を含むように設計されている。Jinek et al.,Science,337,816-821(2012)及びDeltcheva et al.,Nature,471,602-607(2011)を参照されたい。
【0054】
いくつかの実施形態では、ゲノム標的化核酸(例えば、gRNA)は、二重分子ガイドRNAである。いくつかの実施形態では、ゲノム標的化核酸(例えば、gRNA)は、単一分子ガイドRNAである。
【0055】
二重分子ガイドRNAは、2つの鎖のRNA分子を含む。第1の鎖は、5’から3’の方向に、任意選択的なスペーサー延長配列、スペーサー配列及び最小CRISPR反復配列を含む。第2の鎖は、最小tracrRNA配列(最小CRISPR反復配列に相補的)、3’tracrRNA配列及び任意選択的なtracrRNA延長配列を含む。
【0056】
II型システムにおける単一分子ガイドRNA(「sgRNA」と呼ばれる)は、5’から3’方向において、任意選択的なスペーサー延長配列、スペーサー配列、最小CRISPR反復配列、単一分子ガイドリンカー、最小tracrRNA配列、3’tracrRNA配列及び任意選択的なtracrRNA延長配列を含む。任意選択的なtracrRNA延長は、ガイドRNAに追加の機能性(例えば、安定性)を付与する要素を含み得る。単一分子ガイドリンカーは、最小CRISPR反復と最小tracrRNA配列とを連結して、ヘアピン構造を形成する。任意選択的なtracrRNA延長は、1つ以上のヘアピンを含む。V型システムにおける単一分子ガイドRNAは、5’から3’方向において、最小CRISPR反復配列及びスペーサー配列を含む。
【0057】
「標的配列」とは、PAM配列に隣接している標的遺伝子のことであり、Cas9によって改変される配列のことである。「標的配列」は、「標的核酸」内のいわゆるPAM鎖上にあり、PAM鎖及び相補的な非PAM鎖を含む二本鎖分子である。当業者は、gRNAスペーサー配列が、目的の標的核酸の非PAM鎖に位置する相補的配列にハイブリダイズすることを認識している。そのため、gRNAスペーサー配列は、標的配列のRNA均等物である。
【0058】
例えば、CD70標的配列が5’-GCTTTGGTCCCATTGGTCGC-3’(配列番号15)である場合、gRNAスペーサー配列は、5’-GCUUUGGUCCCAUUGGUCGC-3’(配列番号5)である。別の例では、TRAC標的配列が5’-AGAGCAACAGTGCTGTGGCC-3’(配列番号17)である場合、gRNAスペーサー配列は、5’-AGAGCAACAGUGCUGUGGCC-3’(配列番号9)である。更に別の例では、β2M標的配列が5’-GCTACTCTCTCTTTCTGGCC3’(配列番号:19)である場合、gRNAスペーサー配列は、5’-GCUACUCUCUCUUUCUGGCC3’である(配列番号:13)。gRNAのスペーサーは、ハイブリダイゼーション(即ち塩基対形成)を介して配列特異的な様式で目的の標的核酸と相互作用する。そのため、スペーサーのヌクレオチド配列は、目的の標的核酸の標的配列に応じて変化する。
【0059】
本明細書のCRISPR/Casシステムでは、スペーサー配列は、このシステムで使用されるCas9酵素によって認識可能なPAMの5’に位置する標的核酸の領域にハイブリダイズするように設計されている。スペーサーは、標的配列と完全に一致し得るか、又はミスマッチを有し得る。各Cas9酵素は、標的DNAにおいて認識する特定のPAM配列を有する。例えば、S.ピオゲネス(S.pyogenes)は、標的核酸において、配列5’-NRG-3’(ここで、Rは、A又はGのいずれかを含み、Nは、任意のヌクレオチドであり、Nは、スペーサー配列により標的化される標的核酸配列の3’の直近にある)を含むPAMを認識する。
【0060】
いくつかの実施形態では、標的核酸配列は、20個の長さのヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、標的核酸は、20個未満の長さのヌクレオチドを有する。いくつかの実施形態では、標的核酸は、20個超の長さのヌクレオチドを有する。いくつかの実施形態では、標的核酸は、少なくとも5、10、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、30個又はそれを超える長さのヌクレオチドを有する。いくつかの実施形態では、標的核酸は、最大で5、10、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、30個又はそれを超える長さのヌクレオチドを有する。いくつかの実施形態では、標的核酸配列は、PAMの最初のヌクレオチドの5’の直近に20個の塩基を有する。例えば、5’-NNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNRG-3’を含む配列では、標的核酸は、N(ここで、Nは、任意のヌクレオチドであり得、下線が引かれたNRG配列は、S.ピオゲネス(S.pyogenes)のPAMである)に対応する配列であり得る。
【0061】
gRNAのスペーサー配列は、目的の標的遺伝子の標的配列(例えば、ゲノム標的配列などのDNA標的配列)を定義する配列(例えば、20個のヌクレオチド配列)である。CD70遺伝子を標的化するgRNAの例示的なスペーサー配列は、配列番号4に示される。TRAC遺伝子を標的化するgRNAの例示的なスペーサー配列は、配列番号8に示される。β2M遺伝子を標的化するgRNAの例示的なスペーサー配列は、配列番号12に示される。
【0062】
本明細書で開示されるガイドRNAは、crRNA内のスペーサー配列によって目的の任意の配列を標的化することができる。いくつかの実施形態では、ガイドRNAのスペーサー配列と標的遺伝子内の標的配列との間の相補性の程度は、約60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、99%又は100%であり得る。いくつかの実施形態では、ガイドRNAのスペーサー配列及び標的配列内の標的配列は、100%相補的である。他の実施形態では、ガイドRNAのスペーサー配列と標的配列内の標的配列は、最大で10個のミスマッチ、例えば最大で9個、最大で8個、最大で7個、最大で6個、最大で5個、最大で4個、最大で3個、最大で2個又は最大で1個のミスマッチを含有し得る。
【0063】
本明細書で提供される使用し得るgRNAの非限定的な例は、国際公開第2019/097305A2号パンフレットとして公開される、2018年5月11日に出願のPCT/IB2018/001619号及び国際公開第2019/215500号パンフレットとして公開される、2019年5月10日に出願のPCT/IB2019/000500号に提供されており、先の出願の各々の関連する開示は、本明細書で参照される目的及び主題のために参照により本明細書に組み込まれる。本明細書に提供されるgRNA配列のいずれに対しても、明示的に修飾を示さないものは、非修飾配列及び任意の好適な修飾を有する配列の両方を包含することが意図される。
【0064】
本明細書で開示されるgRNAのいずれかにおけるスペーサー配列の長さは、CRISPR/Cas9システム及び更に本明細書で開示される標的遺伝子のいずれかを編集するために使用される構成要素に依存し得る。例えば、異なる細菌種に由来する異なるCas9タンパク質は、様々な最適なスペーサー配列長を有する。従って、スペーサー配列は、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、35、40、45、50又は50個超の長さのヌクレオチドを有し得る。いくつかの実施形態では、スペーサー配列は、18~24個の長さのヌクレオチドを有し得る。いくつかの実施形態では、標的化配列は、19~21個の長さのヌクレオチドを有し得る。いくつかの実施形態では、スペーサー配列は、20個の長さのヌクレオチドを含み得る。
【0065】
いくつかの実施形態では、gRNAは、sgRNAであり得、sgRNA配列の5’末端に20個のヌクレオチドのスペーサー配列を含み得る。いくつかの実施形態では、sgRNAは、sgRNA配列の5’末端に20個未満のヌクレオチドのスペーサー配列を含み得る。いくつかの実施形態では、sgRNAは、sgRNA配列の5’末端に20超のヌクレオチドのスペーサー配列を含み得る。いくつかの実施形態では、sgRNAは、sgRNA配列の5’末端に17~30個のヌクレオチドを有する可変長のスペーサー配列を含む。例を実施例5の表8に示す。
【0066】
いくつかの実施形態では、sgRNAは、sgRNA配列の3’末端にウラシルを含まない。他の実施形態では、sgRNAは、sgRNA配列の3’末端に1つ以上のウラシルを含み得る。例えば、sgRNAは、sgRNA配列の3’末端に1~8個のウラシル残基、例えば、sgRNA配列の3’末端に1、2、3、4、5、6、7又は8個のウラシル残基を含むことができる。
【0067】
sgRNAのいずれかを含む、本明細書で開示されるgRNAのいずれも未改変であり得る。代わりに、1つ以上の修飾ヌクレオチド及び/又は修飾主鎖を含み得る。例えば、sgRNAなどの改変gRNAは、5’末端、3’末端のいずれか又は両方に位置し得る1つ以上の2’-O-メチルホスホロチオエートヌクレオチドを含むことができる。
【0068】
特定の実施形態では、2つ以上のガイドRNAをCRISPR/Casヌクレアーゼシステムと共に使用することができる。各ガイドRNAは、CRISPR/Casシステムが2つ以上の標的核酸を切断するように、異なる標的化配列を含有し得る。いくつかの実施形態では、1つ以上のガイドRNAは、Cas9 RNP複合体内での活性又は安定性などの同じ又は異なる特性を有し得る。2つ以上のガイドRNAが使用される場合、各ガイドRNAは、同じ又は異なるベクター上にコードされ得る。2つ以上のガイドRNAの発現を駆動するために使用されるプロモーターは、同じであるか又は異なる。
【0069】
2つ以上の好適なCas9及び2つ以上の好適なgRNAを本明細書に記載される方法、例えば当技術分野において公知の又は本明細書で開示される方法に使用することができることが理解されるであろう。いくつかの実施形態では、方法は、当技術分野において公知のCas9酵素及び/又はgRNAを含む。例は、例えば、国際公開第2019/097305A2号パンフレットとして公開された、2018年5月11日出願のPCT/IB2018/001619号及び国際公開第2019/215500号パンフレットとして公開された、2019年5月10日出願のPCT/IB2019/000500号に見出すことができ、各先行出願の関連する開示は、本明細書で言及される目的及び主題に対して本明細書に参照として組み込まれる。
【0070】
CD70、TRAC及びβ2M遺伝子の遺伝子編集
いくつかの実施形態では、本明細書で開示される濃縮されたT細胞は、本明細書に開示される条件下で、CRISPR-Cas9媒介性遺伝子編集を介して、CD70遺伝子、TRAC遺伝子及びβ2M遺伝子の遺伝子編集を受け得、これにより従来の条件によって提供されるものと比較してより高く、より一貫した遺伝子編集効率及びより低い転座率がもたらされる。
【0071】
具体例では、CD70遺伝子を標的化するRNP複合体は、約0.15mg/mLのCas9(例えば、配列番号1のCas9)及び約0.16mg/mLのCD70遺伝子を標的化するgRNA(例えば、CD70-7のgRNA)を含み得る。RNPは、少なくともそれらが、核酸が豊富な細胞環境中での乱雑な相互作用のリスクを最小化し、且つRNAを分解から保護するため、遺伝子編集に有用である。RNPを形成するための方法は、当技術分野において知られている。
【0072】
本明細書に開示されるCD70を標的化するRNPは、RNPを好適な量の濃縮されたT細胞と混合することによって濃縮されたT細胞に導入することができ、こうして形成された混合物は、RNPの細胞への送達を可能にする好適な条件下でエレクトロポレーションに供される。場合により、濃縮されたT細胞の好適な量は、約100×106細胞/mL~約400×106細胞/mLの範囲であり得る。例えば、第1のエレクトロポレーション工程用のT細胞の好適な量は、約200×106細胞/mL~約350×106細胞/mLの範囲であり得る。いくつかの実施形態では、濃縮されたT細胞の濃度は、約100×106細胞/mLであり得る。いくつかの実施形態では、濃縮されたT細胞の濃度は、約200×106細胞/mLであり得る。いくつかの実施形態では、濃縮されたT細胞の濃度は、約300×106細胞/mL又は約350×106細胞/mLであり得る。
【0073】
エレクトロポレーション後、破壊されたCD70遺伝子を有するT細胞は、回復に好適な期間、新鮮な培地で培養され得る。遺伝子編集効率は、日常的な慣行に従って実行し得る。このように生成される遺伝子編集されたT細胞は、下流での遺伝子編集効率及びT細胞増殖工程を改善するためのT細胞活性化工程を受け得る。
【0074】
TRAC遺伝子は、TCR複合体の構成要素をコードする。TRAC遺伝子の破壊は、TCRの機能喪失をもたらし、この操作されたT細胞を非同種異系反応性にし、且つ同種異系間移植に好適なものにし、移植片対宿主疾患のリスクを最小化する。β2M遺伝子は、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)I複合体の共通(不変)構成要素をコードする。β2M遺伝子を破壊すると、宿主対治療的同種T細胞応答を防ぐことができる。TRAC遺伝子とβ2M遺伝子の両方をノックアウトすると、細胞治療に使用する同種異系T細胞の産生がもたらされる。
【0075】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示される製造方法は、T細胞中の標的遺伝子(CD70、TRAC及びβ2M)を連続的に編集し、発現のためにCARをコードする核酸をT細胞に導入するための複数の遺伝子編集工程を含み得る。各遺伝子編集工程は、T細胞ガイドRNA、Cas9酵素(複数可)並びに/又は標的遺伝子(CD70、TRAC及びβ2M)の遺伝子編集及びT細胞におけるCAR発現のためのCARをコードする核酸を導入するためのエレクトロポレーション工程を伴い得る。
【0076】
いくつかの実施形態では、CD70は第1のエレクトロポレーションイベントで編集され、β2M/TRACは第2のエレクトロポレーションイベントで編集される。例えば、
図3Aを参照されたい。しかしながら、本明細書に記載の方法がその一連の工程に限定されることを意図するものではない。
図2A及び2Bは、第1のエレクトロポレーションで送達されたCD70及びβ2Mの両方のガイドが、より低い転座率を有益にもたらしたことを示唆している。従って、他の実施形態では、CD70とβ2Mの両方を第1のエレクトロポレーションイベントで標的にすることができる。
【0077】
場合により、CD70遺伝子を標的化する1つ以上のガイドRNA及びCas9酵素をT細胞に導入して、第1のエレクトロポレーション工程でCD70遺伝子を破壊し得、第1のエレクトロポレーション工程に続いて、TRAC及びβ2M遺伝子を標的化する1つ以上のガイドRNA、Cas9酵素並びにCARをコードする核酸を、第2のエレクトロポレーション工程でT細胞に導入して、TRAC及びβ2M遺伝子を破壊し、CARをコードする核酸をT細胞に導入し得る。いくつかの実施例では、T細胞は、1つ以上のT細胞活性化剤、例えば、本明細書に記載されるものを使用して、第1のエレクトロポレーション工程後且つ第2のエレクトロポレーション工程前に活性化を受け得る。以下の実施例3で示すように、この設計により、第1のエレクトロポレーション工程から生じる破壊されたCD70遺伝子を有するT細胞を高レベルに維持しながら、第2のエレクトロポレーション工程で少なくともβ2M遺伝子の効果的な遺伝子編集が可能になる。
【0078】
第1の遺伝子編集工程では、第1のCas9酵素及びCD70遺伝子を標的化する第1のgRNAを含む第1のRNP複合体を濃縮されたT細胞に導入して、破壊されたCD70遺伝子を有するT細胞を生成する。そのようなT細胞は、第2の遺伝子編集工程を実施する前に活性化されて、第1の遺伝子編集工程から生じる細胞喪失を弱め得る。
【0079】
第2の遺伝子編集工程では、第2のCas9酵素及びTRAC遺伝子を標的化する第2gRNAを含む第2のRNP複合体並びに第3のCas9酵素及びβ2M遺伝子を標的化する第3のgRNAを含む第3のRNP複合体をT細胞に導入して、破壊されたCD70、TRAC、β2M遺伝子を有するT細胞を生成する。Cas9酵素並びにTRAC遺伝子及びβ2M遺伝子を標的化するgRNAは、1つ以上のリボ核タンパク質(RNP)複合体を形成することができ、これは、本明細書に開示されるように、破壊されたCD70遺伝子を有する活性化T細胞に送達され得る。
【0080】
いくつかの実施形態では、任意選択的に活性化され得る破壊されたCD70遺伝子を有するT細胞に導入された第2のRNP複合体及び第3のRNP複合体は、同じ量のCas9酵素を含有し得る。例えば、第2のRNP複合体及び第3のRNP複合体のいずれも、約0.1~0.3mg/mL(例えば、約0.1~0.2mg/mL)のCas9酵素(例えば、配列番号1のCas9酵素)を含み得る。いくつかの例では、第2のRNP複合体及び第3のRNP複合体の各々は、約0.15mg/mLのCas9酵素(これは、配列番号1のCas9酵素であり得る)を含み得る。
【0081】
他の実施形態では、第2のRNP複合体及び第3のRNP複合体は、異なる量のCas9酵素を含有し得る。いくつかの例では、TRAC遺伝子を標的化する第2のRNP複合体は、β2M遺伝子を標的化する第3のRNP複合体と比較してより多量のCas9酵素を含み得る。代わりに、β2M遺伝子を標的化する第2のRNP複合体は、TRAC遺伝子を標的化する第3のRNP複合体と比較してより多量のCas9酵素を含み得る。
【0082】
第2のRNP複合体及び第3のRNP複合体は、同じ量のgRNA(一方はTRACを標的化し、他方はβ2Mを標的化する)を含み得る。代わりに、第2のRNP複合体及び第3のRNP複合体は、異なる量のgRNAを含み得る。例えば、TRAC遺伝子を標的化するgRNAの量は、約0.035mg/mL~約0.8mg/mL、例えば、約50μg/mL~約80μg/mLの範囲であり得る。具体例では、TRAC遺伝子を標的化するgRNAの量は、約0.08mg/mLである。代わりに又は加えて、β2M遺伝子を標的化するgRNAの量は、約0.075mg/mL~約0.3mg/mL、例えば、約0.1mg/mL~約0.3mg/mLの範囲であり得る。具体例では、β2M遺伝子を標的化するgRNAの量は、約0.2mg/mLである。
【0083】
具体例では、TRAC遺伝子を標的化するRNP複合体は、約0.15mg/mLのCas9(例えば、配列番号1のCas9)及び約0.08mg/mLのTRAC遺伝子を標的化するgRNA(例えば、TA-1のgRNA)を含み得る。代わりに又は加えて、β2M遺伝子を標的化するRNP複合体は、約0.15mg/mLのCas9(例えば、配列番号1のCas9)及び約0.2mg/mLのβ2M遺伝子を標的化するgRNA(例えば、β2M-1のgRNA)を含み得る。
【0084】
いくつかの実施形態では、第2のRNP複合体及び第3のRNP複合体は、連続的なエレクトロポレーシ、すなわち2つのエレクトロポレーションイベントにより活性化T細胞に導入され得る。代わりに、第2のRNP複合体及び第3のRNP複合体は、同時、すなわち1つのエレクトロポレーションイベントにより活性化T細胞に導入され得る。この場合、第2のRNP複合体及び第3のRNP複合体は、エレクトロポレーションイベント前に組み合わせて混合物を形成し得る。
【0085】
本明細書に開示されるRNPのいずれかは、RNPを好適な量の活性化T細胞と混合することによって活性化T細胞に導入することができ、こうして形成された混合物は、RNPの細胞への送達を可能にする好適な条件下でエレクトロポレーションに供される。場合により、活性化T細胞の好適な量は、約100×106細胞/mL~約300×106細胞/mLの範囲であり得る。例えば、エレクトロポレーション工程用のT細胞の好適な量は、約200×106細胞/mL~約300×106細胞/mLの範囲であり得る。いくつかの例では、活性化T細胞の濃度は、約100×106細胞/mLであり得る。いくつかの実施形態では、活性化T細胞の濃度は、約200×106細胞/mLであり得る。いくつかの実施形態では、活性化T細胞の濃度は、約300×106細胞/mLであり得る。
【0086】
いくつかの実施形態では、活性化T細胞の好適な量は、約1×108~約1×1010細胞、例えば、約5×108~約8×109細胞、約1×109~約5×109細胞又は約1×109~約3×109細胞の範囲であり得る。
【0087】
エレクトロポレーションにおいて使用するためのT細胞は、使用するエレクトロポレーション機器によっては、複数のセルカセットに入れ得る。好適なエレクトロポレーション機器は、当業者に公知であり、静的及び流動エレクトロポレーターを挙げることができ、Lonza Nucleofector、Maxcyte GT及びMaxCyte GTxが含まれる。場合により、複数のセルカセットを、エレクトロポレーションプロセスで使用し得る。更なる詳細は、以下の実施例6で提供される。
【0088】
具体例では、合計で約0.3mg/mLのCas9酵素(例えば、配列番号1のCas9酵素)、約0.08mg/mLのTA-1のgRNA及び約0.2mg/mLのβ2M-1のgRNAを含む上記で開示される第2のRNP複合体及び第3のRNP複合体は、約100×106細胞/mL~約400×106細胞/mL(例えば、約300×106細胞/mL)の量の活性化T細胞と混合し得る。次に、混合物をエレクトロポレーションに供して、RNPをT細胞に送達する。
【0089】
いくつかの例では、第1のCas9酵素、第2のCas9酵素及び第3のCas9酵素は、同じであり、例えば、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)からのCas9(spCas9)又は配列番号1のアミノ酸配列を含むCas9酵素である。
【0090】
エレクトロポレーション後、細胞は、回復に好適な期間、新鮮な培地で培養し得る。遺伝子編集効率は、日常的な慣行に従って決定し得る。このように生成される遺伝子編集されたT細胞は、CAR発現用に構成された核酸の送達のためにウイルスベクター形質導入を受け得る。
【0091】
(iii)T細胞活性化
本明細書に開示されるT細胞のいずれか、例えば、第1のエレクトロポレーション工程から生じる破壊されたCD70遺伝子を有するT細胞は、T細胞増殖(proliferation)及びT細胞増殖(expansion)を可能にするために活性化工程に供され得る。本明細書に開示されるT細胞活性化条件は、高いT細胞活性化効率、高い%CAR+発現を提供し、CD70遺伝子の編集から生じる細胞喪失を減弱させる。更に、本明細書に開示されるT細胞活性化条件は、従来の条件と比較して、より高い遺伝子編集効率及び編集後のより高い速度のT細胞増殖を提供した。以下の例を参照されたい。
【0092】
いくつかの実施形態では、T細胞活性は、T細胞活性化剤、例えばCD3/TCR媒介性シグナル伝達経路及び/又は共刺激分子(例えば、CD28)媒介性シグナル伝達経路を刺激する薬剤を使用して達成することができる。例えば、T細胞活性化剤は、CD3アゴニスト(例えば、アゴニスト抗CD3抗体)であり得、CD3/TCR-媒介性細胞シグナル伝達経路を活性化する。代わりに又は加えて、T細胞活性化剤は、CD28アゴニスト(例えば、抗CD28抗体)であり得、CD28によって媒介される共刺激シグナル伝達経路を活性化する。本明細書に開示される方法で使用するためのT細胞活性化剤のいずれもナノマトリックス粒子などの支持部材に結合し得る。そのような状況では、T細胞活性化剤を同じ支持体に結合させ得る。代わりに、各T細胞活性化剤を異なる支持体に結合させ得る。具体例では、本明細書に開示される方法で使用するためのT細胞活性化剤は、抗CD3抗体及び抗CD28抗体を含み得、これらは、ナノマトリックス粒子に結合し得る。いくつかの実施形態では、T細胞活性化剤は、ナノマトリックス粒子に結合したCD3アゴニスト及びCD28アゴニストを含む。いくつかの実施形態では、CD3アゴニスト及びCD28アゴニストは、同じナノマトリックス粒子に結合している。いくつかの実施形態では、CD3アゴニスト及びCD28アゴニストは、異なるナノマトリックス粒子に結合している。
【0093】
T細胞活性化を達成するために、本明細書で開示される破壊されたCD70遺伝子を有するT細胞は、好適な細胞播種密度及び好適な細胞濃度で細胞培養容器に入れ、本明細書に開示されるT細胞活性化剤のいずれかの存在下で好適な期間インキュベートして、T細胞活性化を誘導し得る。
【0094】
場合により、細胞培養容器中のT細胞活性化剤対細胞培養培地の比は、約1:10(v/v)~約1:15(v/v)の範囲であり得る。いくつかの例では、細胞培養容器中のT細胞活性化剤対細胞培養培地の比は、約1:10(v/v)、約1:10.5(v/v)、約1:11(v/v)、約1:11.5(v/v)、約1:12(v/v)、約1:12.5(v/v)、約1:13(v/v)、約1:13.5(v/v)、約1:14(v/v)、約1:14.5(v/v)又は約1:15(v/v)であり得る。具体例では、細胞培養容器中のT細胞活性化剤対培養培地の比は、約1:12.5(v/v)である。
【0095】
代わりに又は加えて、好適な細胞播種密度は、約1.0×106~2.5×106(例えば、2×106/cm2)であり得、好適な細胞濃度は、約1.0×106~2.5×106(例えば、2×106/mL)であり得る。破壊されたCD70遺伝子を有するT細胞は、T細胞活性化剤と約60~80時間、例えば約66時間又は約72時間インキュベートされ得る。
【0096】
代わりに又は加えて、好適な細胞播種密度は、約1.5×106~2.5×106(例えば、2×106/cm2)であり得、好適な細胞濃度は、約1.5×106~2.5×106(例えば、2×106/mL)であり得る。破壊されたCD70遺伝子を有するT細胞は、T細胞活性化剤と約66~80時間、例えば約72時間インキュベートされ得る。
【0097】
いくつかの実施形態では、細胞培養容器は、静置培養容器であり得、これは、本明細書に開示されるように、遺伝子操作されたT細胞の比較的大規模な生産を可能にするであろう。従来の細胞培養フラスコと比較して、静置細胞培養容器は、混合又は振盪することなくT細胞に酸素と栄養素を供給する培地の下に沈められた高ガス透過性膜上にT細胞が存在することを可能にする。静置培養容器は、培地を交換することなくT細胞の製造を可能にする。従って、いくつかの実施形態では、本明細書で開示される方法のいずれかにおけるT細胞活性化プロセスは、培地交換を伴わなくてもよい。
【0098】
必要に応じて、活性化剤を細胞培養容器から除去するか、又は下流の遺伝子編集イベント前に希釈し、活性化剤が遺伝子編集中に与える可能性のある任意の潜在的な影響を最小限に抑え得る。いくつかの実施形態では、活性化剤は、通常の方法、例えば遠心分離などを使用して細胞培養容器から除去することができる。代わりに、活性化剤は、遺伝子編集前に細胞培養容器で希釈、例えば、細胞培養容器に培地を添加することによって希釈し得る。
【0099】
いくつかの実施形態では、本明細書で開示されるT細胞活性化プロセスのいずれかから誘導される破壊されたCD70遺伝子を有する活性化T細胞は、遺伝子編集前にT細胞を回復させるために一晩(例えば、約16時間)培養し得る。場合により、破壊されたCD70遺伝子を有する活性化T細胞の培養は、T細胞活性化剤がまだ含まれている可能性がある。他の場合、破壊されたCD70遺伝子を有する活性化T細胞の培養は、T細胞活性化剤がほとんど又は全く存在しない場合がある。
【0100】
(iv)T細胞の形質導入
ノックアウトされたCD70、TRAC及び/又はβ2M遺伝子を有する遺伝子編集されたT細胞は、CARを発現するT細胞の集団を生成するためにキメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸配列を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターなどのウイルスベクターによる形質導入を受け得る。
【0101】
キメラ抗原受容体(CAR)
キメラ抗原受容体(CAR)とは、望ましくない細胞、例えば癌細胞などの疾患細胞で発現した抗原を認識して結合するように改変されている人工の免疫細胞受容体を意味する。CARポリペプチドを発現するT細胞は、CAR T細胞と呼ばれる。CARは、MHCに制限されない様式において、選択された標的に対するT細胞の特異性及び反応性を再誘導する能力を有する。MHCに制限されない抗原認識は、抗原プロセシングに非依存的な抗原を認識する能力をCAR-T細胞に与え、それにより腫瘍エスケープの主要な機構をバイパスする。更に、CARは、T細胞に発現する場合、有利には、内在性のT細胞受容体(TCR)のアルファ鎖及びベータ鎖と二量体化しない。
【0102】
様々な世代のCARが存在し、その各々は、異なる構成要素を含む。第一世代のCARは、ヒンジ及び膜貫通ドメインを介して抗体に由来するscFvをT細胞受容体のCD3ゼータ(ζ又はz)細胞内シグナル伝達ドメインに連結する。第二世代のCARは、共刺激シグナルを供給するための追加の共刺激ドメイン、例えばCD28、4-1BB(41BB)又はICOSを組み込んでいる。第三世代のCARは、TCRのCD3ζ鎖と融合した2つの共刺激ドメイン(例えば、CD27、CD28、4-1BB、ICOS又はOX40の組み合わせ)を含む。Maude et al.,Blood.2015;125(26):4017-4023;Kakarla and Gottschalk,Cancer J.2014;20(2):151-155)。様々な世代のCARコンストラクトは、いずれも本開示の範囲内である。
【0103】
一般に、CARは、標的抗原(例えば、抗体の単鎖可変断片(scFv)又は別の抗体断片)を認識する細胞外ドメインを含む融合ポリペプチドであり、細胞内ドメインは、T細胞受容体(TCR)複合体(例えば、CD3ζ)のシグナル伝達ドメインを含み、そのほとんどの場合に共刺激ドメインである。(Enblad et al.,Human Gene Therapy.2015;26(8):498-505)。CARコンストラクトは、細胞外ドメインと細胞内ドメインとの間にヒンジ及び膜貫通ドメインを更に含み得、且つ表面に発現するためにN末端にシグナルペプチドを含み得る。シグナルペプチドの例としては、MLLLVTSLLLCELPHPAFLLIP(配列番号52)及びMALPVTALLLPLALLLHAARP(配列番号53)が挙げられる。他のシグナルペプチドを使用し得る。
【0104】
(a)抗原結合細胞外ドメイン
抗原結合細胞外ドメインとは、CARが細胞表面に発現すると、細胞外液にさらされるCARポリペプチドの領域のことである。場合により、細胞表面発現を促進するために、シグナルペプチドがN末端に位置し得る。いくつかの実施形態では、抗原結合ドメインは、単鎖可変断片(scFvであり、抗体重鎖可変領域(VH)と抗体軽鎖可変領域(VL)とを(いずれかの方向に)含み得る)であり得る。場合により、VH断片及びVL断片は、ペプチドリンカーを介して連結され得る。リンカーは、いくつかの実施形態では、可動性のために一続きのグリシン及びセリン並びに可溶性を付与するために一続きのグルタミン酸塩及びリシンを含んだ親水性残基を含む。scFv断片は、親抗体の抗原結合特異性を保持しており、そこからscFv断片が誘導される。いくつかの実施形態では、scFvは、ヒト化VHドメイン及び/又はVLドメインを含み得る。他の実施形態では、scFvのVHドメイン及び/又はVLドメインは、完全ヒト型である。
【0105】
抗原結合細胞外ドメインは、目的の標的抗原、例えば、腫瘍抗原などの病態抗原に特異的であり得る。いくつかの実施形態では、腫瘍抗原は、通常、全く発現されない場合があるか、又は低レベルでのみ発現される場合がある非腫瘍細胞より腫瘍細胞においてより高レベルで発現されるタンパク質などの免疫原性分子を参照する「腫瘍関連抗原」である。いくつかの実施形態では、腫瘍を内部に持つ宿主の免疫系によって認識される腫瘍関連構造は、腫瘍関連抗原と呼ばれる。いくつかの実施形態では、腫瘍関連抗原は、大部分のタイプの腫瘍によって広範に発現される場合、普遍的な腫瘍抗原である。いくつかの実施形態では、腫瘍関連抗原は、分化抗原、変異性抗原、過剰発現された細胞抗原又はウイルス抗原である。いくつかの実施形態では、腫瘍抗原は、腫瘍細胞に固有のタンパク質などの免疫原性分子を指す「腫瘍特異抗原」又は「TSA」である。腫瘍特異抗原は、腫瘍細胞、例えば、特定のタイプの腫瘍細胞でのみ発現する。
【0106】
いくつかの例では、本明細書で開示されるCARコンストラクトは、CD70に結合可能なscFv細胞外ドメインを含む。いくつかの例では、本明細書で開示されるCARコンストラクトは、CD19に結合可能なscFv細胞外ドメインを含む。いくつかの例では、本明細書で開示されるCARコンストラクトは、BCMAに結合可能なscFv細胞外ドメインを含む。抗CD70 CARの例は、以下の実施例で提供される。
【0107】
(b)膜貫通ドメイン
本明細書で開示されるCARポリペプチドは、膜をまたがる疎水性のαヘリックスであり得る膜貫通ドメインを含み得る。本明細書で使用する場合、「膜貫通ドメイン」とは、好ましくは、真核細胞の細胞膜である細胞膜内で熱力学的に安定な任意のタンパク質構造体を意味する。膜貫通ドメインは、それ自体を含有するCARの安定性をもたらす。
【0108】
いくつかの実施形態では、本明細書で提供されるように、CARの膜貫通ドメインは、CD8膜貫通ドメインであり得る。他の実施形態では、膜貫通ドメインは、CD28膜貫通ドメインであり得る。更に他の実施形態では、膜貫通ドメインは、CD8膜貫通ドメイン及びCD28膜貫通ドメインのキメラである。本明細書に記載されているような他の膜貫通ドメインを使用し得る。いくつかの実施形態では、膜貫通ドメインは、FVPVFLPAKPTTTPAPRPPTPAPTIASQPLSLRPEACRPAAGG AVHTRGLDFACDIYIWAPLAGTCGVLLLSLVITLYCNHRNR(配列番号54)又はIYIWAPLAGTCGVLLLSLVITLY(配列番号55)の配列を含有するCD8a膜貫通ドメインである。他の膜貫通ドメインが使用され得る。
【0109】
(c)ヒンジドメイン
いくつかの実施形態では、ヒンジドメインは、CARの細胞外ドメイン(抗原結合ドメインを含む)と膜貫通ドメインとの間に位置し得るか、又はCARの細胞質ドメインと膜貫通ドメインとの間に位置し得る。ヒンジドメインは、ポリペプチド鎖において膜貫通ドメインを細胞外ドメイン及び/又は細胞質ドメインに連結するように機能する任意のオリゴペプチド又はポリペプチドであり得る。ヒンジドメインは、CAR若しくはそのドメインに可動性をもたらすか、又はCAR若しくはそのドメインの立体障害を防ぐように機能し得る。
【0110】
いくつかの実施形態では、ヒンジドメインは、最大で300個のアミノ酸(例えば、10~100個のアミノ酸又は5~20個のアミノ酸)を含み得る。いくつかの実施形態では、CARの他の領域に1つ以上のヒンジドメインが含まれ得る。いくつかの実施形態では、ヒンジドメインは、CD8ヒンジドメインであり得る。他のヒンジドメインを使用し得る。
【0111】
(d)細胞内シグナル伝達ドメイン
CARコンストラクトのいずれかは、受容体の機能的末端である1つ以上の細胞内シグナル伝達ドメイン(例えばCD3ζ及び任意選択的に1つ以上の共刺激ドメイン)を含む。抗原認識後、受容体クラスター及びシグナルは、細胞に伝達される。
【0112】
CD3ζは、T細胞受容体複合体の細胞質シグナル伝達ドメインである。CD3ζは、T細胞が同種抗原と会合した後にT細胞に活性化シグナルを伝達する3つの免疫受容活性化チロシンモチーフ(ITAM)を含む。多くの場合、CD3ζは、一次T細胞の活性化シグナルを提供するが、十分に適格な活性化シグナルではなく、共刺激シグナル伝達を必要とする。
【0113】
いくつかの実施形態では、本明細書で開示されるCARポリペプチドは、1つ以上の共刺激シグナル伝達ドメインを更に含み得る。例えば、CD3ζによって媒介される一次シグナル伝達と共に、CD28及び/又は4-1BBの共刺激ドメインを使用して、十分な増殖シグナル/生存シグナルを伝達し得る。いくつかの例では、本明細書で開示されるCARは、CD28共刺激分子を含む。他の例では、本明細書で開示されるCARは、4-1BB共刺激分子を含む。いくつかの実施形態では、CARは、CD3ζシグナル伝達ドメイン及びCD28共刺激ドメインを含む。他の実施形態では、CARは、CD3ζシグナル伝達ドメイン及び4-1BB共刺激ドメインを含む。更に他の実施形態では、CARは、CD3ζシグナル伝達ドメイン、CD28共刺激ドメイン及び4-1BB共刺激ドメインを含む。
【0114】
本明細書に記載される方法は、CARを発現する遺伝子操作されたT細胞、例えば当技術分野において公知の又は本明細書で開示される遺伝子操作されたT細胞を生成するために使用することができる2つ以上の好適なCARを包含することが理解されるであろう。例は、例えば、国際公開第2019/097305A2号パンフレットとして公開された、2018年5月11日出願のPCT/IB2018/001619号及び2019年5月10日出願のPCT/IB2019/000500号に見出すことができ、各先行出願の関連する開示は、本明細書で言及される目的及び主題に対して本明細書に参照として組み込まれる。
【0115】
例えば、CARはCD70に結合する(「CD70 CAR」又は「抗CD70 CAR」としても知られている)。CD70に結合する例示的なCARのアミノ酸配列は、配列番号46に提供されている(以下の実施例5の表12を参照されたい)。
【0116】
CARコンストラクトをT細胞に送達するためのAAVベクター
CARコンストラクトをコードする核酸は、アデノ随伴ウイルス(AAV)を使用して細胞に送達され得る。AAVは、宿主ゲノムに部位特異的に組み込まれ、これによってCARなどの導入遺伝子を送達することができる小型のウイルスである。逆位末端配列(ITR)は、AAVゲノム及び/又は目的の導入遺伝子に隣接して存在し、複製開始点として機能する。また、AAVゲノムには、転写されるとAAVゲノムをカプセル化して標的細胞に送達するためのカプシドを形成するrepタンパク質及びcapタンパク質も存在する。これらのカプシド上の表面受容体によってAAVの血清型が付与され、カプシドがどの標的臓器に最初に結合するのか、従っていずれの細胞にAAVが最も効率的に感染するのかが決定される。現在知られているヒトAAVの血清型は、12種類である。いくつかの実施形態では、CARをコードする核酸を送達するのに使用されるAAVは、AAV血清型6(AAV6)である。
【0117】
アデノ随伴ウイルスは、いくつかの理由のために遺伝子療法に最も頻繁に使用されるウイルスの1つである。第一に、AAVは、ヒトを含む哺乳動物に投与する際、免疫応答を誘発しない。第二に、AAVは、特に適切なAAV血清型の選択を考慮に入れる場合、標的細胞に効率的に送達される。最後に、AAVは、ゲノムが組み込みを伴わずに宿主細胞において存続し得ることから、分裂細胞及び非分裂細胞の両方に感染する能力を有する。この特質により、AAVは、遺伝子療法の理想的な候補となる。
【0118】
CARをコードする核酸は、宿主T細胞内の目的のゲノム部位に挿入するように設計することができる。いくつかの実施形態では、標的ゲノム部位は、セーフハーバー座位内に存在し得る。
【0119】
いくつかの実施形態では、CARをコードする核酸は、(例えば、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターなどのウイルスベクターによって運ぶことが可能なドナー鋳型を介して)遺伝子操作されたT細胞内のTRAC遺伝子を破壊してCARポリペプチドを発現させるために、TRAC遺伝子内の位置に挿入することができるように設計することができる。TRACの破壊により、内在性TCRの機能の喪失がもたらされる。例えば、本明細書に記載されるようなエンドヌクレアーゼ及び1つ以上のTRACゲノム領域を標的化する1つ以上のgRNAにより、TRAC遺伝子の破壊を生じさせることができる。この目的のために、TRAC遺伝子及び標的部位に特異的なgRNAのいずれか、例えば本明細書で開示されるものを使用することができる。
【0120】
いくつかの実施例では、相同組換え修復、即ちHDR(例えば、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターなどのウイルスベクターの一部であり得るドナー鋳型を使用した)により、TRAC遺伝子内のゲノム欠失と、CARをコードするセグメントによる置換とを生じさせることができる。いくつかの例では、gRNA標的配列又はその一部が削除される(例えば、配列番号17)。いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるようなエンドヌクレアーゼ及び1つ以上のTRACゲノム領域を標的化する1つ以上のgRNAにより、且つCARをコードするセグメントをTRAC遺伝子に挿入することにより、TRAC遺伝子の破壊を生じさせることができる。
【0121】
本明細書で開示されるようなドナー鋳型は、CARのコード配列を含有し得る。いくつかの実施例では、CARをコードする配列は、CRISPR-Cas9遺伝子編集技術を使用して、目的の遺伝子位置、例えばTRAC遺伝子で効率的なHDRを行うことができるように、2つの相同性領域に隣接し得る。この場合、標的座位に特異的なgRNAによって誘導されたCRISPR Cas9酵素により、DNAの両方の鎖を標的座位で切断することができる。次いで、HDRが発生して二重鎖切断(DSB)を修復し、CARをコードするドナーDNAを挿入する。これを正しく発生させるために、ドナー配列は、TRAC遺伝子などの標的遺伝子のDSB部位を取り囲む配列に相補的な隣接残基(以下では「相同性アーム」)を有するように設計されている。これらの相同性アームは、DSB修復のための鋳型として機能し、HDRを本質的に誤りのない機構とすることを可能にする。相同組換え修復(HDR)の割合は、変異部位と切断部位との間の距離の関数であり、そのため、重複しているか又は近傍の標的部位を選択することが重要である。鋳型は、相同領域に隣接した余分な配列を含むことができるか、又はゲノム配列と異なる配列を含むことができ、これによって配列編集が可能になる。
【0122】
代わりに、ドナー鋳型は、DNAの標的化された位置と相同性のある領域がなくてもよく、標的部位で切断された後にNHEJ依存的末端連結により組み込まれ得る。
【0123】
ドナー鋳型は、一本鎖及び/又は二重鎖のDNA又はRNAであり得、直鎖状又は環状の形態で細胞に導入することができる。直鎖状形態で導入される場合、ドナー配列の末端は、当業者に既知の方法により(例えば、エキソヌクレアーゼによる分解から)保護することができる。例えば、1つ以上のジデオキシヌクレオチド残基を直鎖状分子の3’末端に付加し、且つ/又は自己相補的オリゴヌクレオチドを一方又は両方の末端に連結する。例えば、Chang et al.,(1987)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:4959-4963;Nehls et al.,(1996)Science 272:886-889を参照されたい。外因性ポリヌクレオチドを分解から保護するための追加の方法として、末端アミノ基の付加並びに例えばホスホロチオエート、ホスホロアミデート及びO-メチルリボース又はデオキシリボース残基などの修飾されたヌクレオチド間結合の使用が挙げられるが、これらに限定されない。
【0124】
ドナー鋳型は、例えば、複製開始点、プロモーター及び抗生物質耐性をコードする遺伝子などの追加の配列を有するベクター分子の一部として細胞に導入され得る。更に、ドナー鋳型は、裸の核酸として、リポソーム若しくはポロキサマーなどの薬剤と複合体を形成した核酸として細胞に導入することができるか、又はウイルス(例えば、アデノウイルス、AAV、ヘルペスウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス及びインテグラーゼ欠損レンチウイルス(IDLV))により送達することができる。
【0125】
いくつかの実施形態では、ドナー鋳型は、その発現が内在性プロモーターによって駆動することができるように、内在性プロモーターの近傍の部位(例えば、下流又は上流)に挿入することができる。他の実施形態では、ドナー鋳型は、CAR遺伝子の発現を制御するために、外来性プロモーター及び/又はエンハンサー、例えば、構成的プロモーター、誘導性プロモーター又は組織特異的プロモーターを含み得る。いくつかの実施形態では、外来性プロモーターは、EF1αプロモーターである。他のプロモーターを使用し得る。
【0126】
更に、外来性配列は、転写又は翻訳調節配列、例えばプロモーター、エンハンサー、インスレーター、配列内リボソーム進入部位、2Aペプチドをコードする配列及び/又はポリアデニル化シグナルも含み得る。
【0127】
T細胞の形質導入
本明細書に開示されるCARコンストラクト(例えば、抗CD70 CAR)をコードするAAVベクターなどの任意の好適な量のウイルスベクターは、好適な量のT細胞、例えば、本明細書に開示される遺伝子編集されたT細胞と、ウイルスベクターのT細胞への侵入を可能にするために好適な期間インキュベートし得る。例えば、形質導入プロセスは、CAR+T細胞の割合を増加させる一連の最適化された感染多重度(MOI)の使用を伴い得る。場合により、形質導入プロセスにおけるAAVベクターのMOIは、約1,000~約150,000、例えば約10,000~約80,000などの範囲であり得る。いくつかの例では、形質導入プロセスで使用されるAAVベクターのMOIは、約1,000~約150,000、約5,000~約100,000、約10,000~約100,000、約10,000~約90,000、約10,000~約80,000、約10,000~約70,000、約10,000~約60,000、約10,000~約50,000、約10,000~約40,000、約10,000~約30,000、約10,000~約20,000、約20,000~約80,000、約30,000~約80,000、約40,000~約80,000、約50,000~約80,000、約60,000~約80,000又は約70,000~約80,000であり得る。いくつかの例では、形質導入プロセスで使用されるAAVベクターのMOIは、約1,000、約2,500、約5,000、約10,000、約15,000、約20,000、約25,000、約30,000、約31,000、約32,000、約33,000、約34000、約35,000、約40,000、約50,000、約60,000、約70,000、約80,000、約90,000、約100,000、約110,000、約120,000、約130,000、約140,000又は約150,000であり得る。
【0128】
いくつかの実施形態では、AAVベクターは抗CD70 CAR(例えば、以下の実施例5の表12で開示される)をコードし、形質導入プロセスで使用するためのこのようなAAVベクターのMOIは、約20,000である。他の実施形態では、AAVベクターは抗CD19 CARをコードし、形質導入プロセスで使用するためのこのようなAAVベクターのMOIは、約20,000である。他の実施形態では、AAVベクターは抗BCMA CARをコードし、形質導入プロセスで使用するためのこのようなAAVベクターのMOIは、約20,000である。
【0129】
形質導入後、T細胞は、回復のために好適な期間、好適な細胞培養培地で培養し得る。ノックアウトされたCD70、TRAC及びβ2M遺伝子を有し、CARを発現する遺伝子操作されたT細胞は、以下に開示されるとおり、in vitroで増殖させ得る。
【0130】
(v)T細胞の増殖
本明細書で開示される遺伝子操作されたT細胞は、好適な条件下でin vitroで増殖させて、遺伝子操作されたT細胞の集団を臨床的に適切な規模で生成し得る。この増殖工程で使用される細胞培養条件は、少なくとも部分的には、より短いインキュベーション期間でより高い最終細胞密度を達成し(それにより製造コストを削減し)、細胞治療で使用するためのより強力なT細胞を達成することを意図している。効力は、様々なT細胞機能、例えば、増殖、標的細胞殺傷、サイトカイン産生、活性化、遊走及びそれらの組み合わせによって示され得る。
【0131】
いくつかの実施形態では、T細胞増殖工程は、細胞容器中約150,000細胞/cm2~約600,000細胞/cm2の播種密度で、T細胞集団(例えば、本明細書で開示される遺伝子操作されたT細胞)を、細胞培養容器に播種することによって実施され得る。例えば、T細胞は、細胞容器中約300,000細胞/cm2~約500,000細胞/cm2で播種され得る。いくつかの態様では、T細胞増殖は、少なくとも約60,000細胞/cm2、少なくとも約62,500細胞/cm2又は少なくとも約83,000細胞/cm2の播種密度で、T細胞集団を細胞培養容器に播種することによって実施される。いくつかの態様では、T細胞増殖は、少なくとも約150,000細胞/cm2、又は少なくとも約250,000細胞/cm2、又は少なくとも約300,000細胞/cm2、又は少なくとも約400,000細胞/cm2、又は少なくとも約500,000細胞/cm2、又は少なくとも約600,000細胞/cm2の播種密度で、T細胞集団を細胞培養容器に播種することによって実施される。いくつかの態様では、播種密度は、約250,000細胞/cm2である。他の態様では、播種密度は、約500,000細胞/cm2である。他の態様では、播種密度は、約600,000細胞/cm2である。
【0132】
いくつかの実施形態では、T細胞増殖工程は、約2×105細胞/cm2~約7×105細胞/cm2の播種密度で、T細胞集団(例えば、本明細書で開示される遺伝子操作されたT細胞)を、細胞培養容器に播種し、約6日~約12日にわたって細胞を培養することによって実施され得る。いくつかの例では、T細胞増殖は、約2×105細胞/cm2~約7×105細胞/cm2、約2×105細胞/cm2~約5×105細胞/cm2、約2×105細胞/cm2~約4×105細胞/cm2、2×105細胞/cm2~約3×105細胞/cm2、3×105細胞/cm2~約5×105細胞/cm2又は4×105細胞/cm2~約5×105細胞/cm2の播種密度で、T細胞集団を細胞培養容器に播種し、約6日~約12日、約6日~約11日、約6日~約10日、約6日~約9日、約6日~約8日、約6日~約7日、約7日~約12日、約7日~約11日、約7日~約10日、約7日~約9日、約7日~約8日、約8日~約12日、約8日~約9日、約9日~約12日、約10日~約12日又は約11日~約12日にわたって細胞を培養することによって実施される。いくつかの実施形態では、T細胞増殖は、約3×105細胞/cm2~約5×105細胞/cm2の播種密度において、細胞培養容器でT細胞集団を播種し、約7日~約9日にわたって細胞を培養することによって実施される。
【0133】
いくつかの実施形態では、T細胞増殖工程は、細胞培養物を再プレーティングすること(すなわち細胞培養物を新しい培養容器に分割すること)を含み得る。いくつかの実施形態では、細胞培養物は、編集後3、4、5、6又は7日目に1:4の比率(1つの容器を4つの新しい容器に分割)で再プレーティングして、更に増殖させることができる。
【0134】
T細胞増殖は静置培養容器で行うことができ、これは、培地を交換することなくT細胞を増殖させることができる。例えば、T細胞は、静置培養容器内で、培地を交換せずに、約7日~約12日又は約7日~約9日にわたって増殖させることができる。
【0135】
(vi)TCRαβ+T細胞の枯渇
いくつかの実施形態では、TCRαβ+T細胞は、本明細書に開示される増殖したT細胞集団から枯渇して、細胞治療で使用するための同種異系T細胞の集団を生成し得る。本明細書で使用する場合、「TCRαβ+T細胞の枯渇」は、そのようなものを含む細胞の集団からTCRαβ+T細胞を枯渇させることを指す。TCRαβ+T細胞の枯渇に続いて、得られたT細胞集団は、実質的に低レベルのTCRαβ+T細胞を有し得る(例えば、全細胞集団の3%未満又は2%未満、1%未満又は全細胞集団の0.5%未満)。いくつかの例では、得られたT細胞集団はTCRαβ+T細胞を含まなくてもよく、すなわち、TCRαβ+T細胞の存在は、従来の方法(例えば、TCRαβ+に結合する抗体を使用するイムノアッセイ又はフローサイトメトリー)では日付が与えられない。
【0136】
TCRαβ+T細胞の枯渇は、TCRαβ+T細胞を認識してTCRαβ+T細胞を捕捉する薬剤を使用して実施し、それにより、例えば、磁気細胞分離を実施することにより、TCRαβ+を欠くものからそれらを分離し得る。このような方法は、上記で開示された増殖したT細胞を、抗TCRαβ抗体が固定化されているビーズに接触させることと、未結合細胞を収集することとによって実施され得る。このように収集された非結合細胞(TCRαβ+を欠くもの)は、事前に細胞を回復させるために培養することができ、例えば、未結合細胞を一晩培養して細胞を回復させ得る。
【0137】
(vii)遺伝子操作されたT細胞の採取
次いで、本明細書で開示される方法のいずれかにより生成される遺伝子操作されたT細胞は、当技術分野で公知の従来の方法を使用して治療的使用のために採取することができる。例えば、遺伝子操作されたT細胞の採取は、TCRαβ+が枯渇した細胞の収集を含み得る。採取した遺伝子操作されたT細胞の集団は、原薬として使用し得る。本明細書で使用する場合、「原薬」は、患者に投与され得る遺伝子操作されたT細胞の集団を指す。原薬は、治療的使用のために製剤化、例えば、保存培地(例えば、CryoStor CS5)中で製剤化され、将来の使用のために凍結保存され得る。
【0138】
原薬は、1つ以上の汚染物質、例えばマイコプラズマ、ヒトウイルス(例えば、HIV、HBV、HCV、CMV)及び細菌内毒素について試験される場合がある。代わりに又は加えて、原薬は、滅菌について試験される場合がある。汚染のない原薬は、個々の患者の用量に分取され得る。代わりに又は加えて、汚染のない原薬は、治療的使用のために保存され得る。
【0139】
従って、本開示の態様は、遺伝子操作されたT細胞の集団(原薬)を提供する。遺伝子操作されたT細胞の集団は、破壊されたCD70遺伝子、破壊されたTRAC遺伝子、破壊されたβ2M遺伝子及びCARをコードする核酸、例えば、本明細書に記載されるものを有する。いくつかの実施形態では、CARは、病的な細胞上で発現される抗原に結合する。いくつかの実施形態では、CARは、CD70に結合する。いくつかの実施形態では、CARは、CD19に結合する。いくつかの実施形態では、CARは、BCMAに結合する。
【0140】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載された方法により生成される遺伝子操作されたT細胞の集団の少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%又は少なくとも95%は、CARを発現する。他の態様では、CARを発現するこれらの細胞は、検出可能なレベルの表面CD70及び/又は検出可能なレベルの表面TCR及び/又は検出可能なレベルの表面β2Mを更に発現しない。
【0141】
他の実施形態では、本明細書に記載された方法により生成される遺伝子操作されたT細胞の集団の少なくとも30%がCARを発現する場合、細胞の集団は、約5%以下、約2%以下又は約1%以下の表面CD70を発現するT細胞を含む。
【0142】
他の実施形態では、本明細書に記載された方法により生成される遺伝子操作されたT細胞の集団の少なくとも30%がCARを発現する場合、細胞の集団は、約1.0%以下、約0.5%以下、約0.4%以下又は約0.15%以下の表面TCRを発現するT細胞(例えば、TCRα/β+細胞)を含む。
【0143】
他の実施形態では、本明細書に記載された方法により生成される遺伝子操作されたT細胞の集団の少なくとも30%がCARを発現する場合、細胞の集団は、約50%以下、約40%以下又は約30%以下の表面β2Mを発現するT細胞を含む。
【0144】
Cas9酵素、CD70遺伝子を標的化するgRNA、TRAC遺伝子を標的化するgRNA、β2M遺伝子を標的化するgRNA及びCARをコードする核酸配列を含むAAVベクター(例えば、CD70 CAR又はCD19 CAR又はBCMA CAR)を含む、本明細書に記載された方法により生成される遺伝子操作されたT細胞の集団も本開示の範囲内である。
【0145】
II.治療用途
本明細書に記載された方法により生成される遺伝子操作されたT細胞の集団は、治療目的、例えば、遺伝子操作されたT細胞の集団によって発現されるCARコンストラクトによって標的化される癌の治療のために対象に投与され得る。
【0146】
対象は、診断、処置又は治療が望まれている任意の対象であり得る。いくつかの実施形態では、この対象は、哺乳動物である。いくつかの実施形態では、この対象は、ヒトである。
【0147】
本明細書に記載された方法により生成される遺伝子操作されたT細胞の集団を使用して治療され得る癌の非限定的な例としては、多発性骨髄腫、白血病(例えば、T細胞白血病、B細胞急性リンパ性白血病(B-ALL)及び/又は慢性リンパ性白血病(C-CLL))、リンパ腫(例えば、B細胞非ホジキンリンパ腫(B-NHL)、ホジキンリンパ腫及び/又はT細胞リンパ腫)及び/又は明細胞腎細胞癌(ccRCC)、膵臓癌、胃癌、卵巣癌、子宮頸癌、乳癌、腎臓癌、甲状腺癌、上咽頭癌、非小細胞肺(NSCLC)、神経膠芽腫及び/又は黒色腫が挙げられるがこれらに限定されない。
【0148】
投与は、望ましい効果(複数可)を生じさせることができるように、腫瘍部位などの所望の部位に遺伝子操作されたT細胞集団の少なくとも部分的な局在化をもたらす方法又は経路により、遺伝子操作されたT細胞集団を、対象に配置する(例えば、移植する)ことを含み得る。対象の所望の位置に送達をもたらす任意の適切な経路によって遺伝子操作されたT細胞集団を投与することができるが、この場合、移植された細胞又はこの細胞の構成要素の少なくとも一部は、生存したままである。対象への投与後の細胞の生存期間は、数時間(例えば、24時間)の短い期間から数日、数年又は更に対象の寿命(すなわち長期の生着)までであり得る。例えば、本明細書に記載されるいくつかの態様では、有効量の遺伝子操作されたT細胞集団を、腹腔内又は静脈内経路などの全身性の投与経路を介して投与することができる。
【0149】
いくつかの実施形態では、遺伝子操作されたT細胞集団を全身に投与し、これは、細胞の集団を標的部位、組織又は臓器に直接投与するのではなく、代わりに対象の循環系に入り、それにより代謝及び他の同様のプロセスを受けるように投与することを意味する。好適な投与の様式としては、注射、注入、点滴又は経口摂取が挙げられる。注射としては、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、脳室内、関節内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節腔内、被膜下、くも膜下、脊髄内、脳脊髄内及び胸骨内注射並びに注入が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、経路は、静脈内である。
【0150】
有効量とは、医学的状態(例えば、癌)の少なくとも1つ以上の徴候又は症状を予防又は軽減するのに必要な遺伝子操作されたT細胞集団の量を意味し、所望の効果をもたらす、例えば医学的状態を有する対象を治療するのに十分な量の遺伝子操作されたT細胞集団を意味する。有効量としては、疾患の症状の発症を予防するか若しくは遅らせるか、疾患の症状の経過を変える(例えば、限定されないが、疾患の症状の進行を遅らせる)か、又は疾患の症状を逆転させるのに十分な量も挙げられる。任意の所与の場合に関して、適切な有効量は、通常の実験により当業者によって決定することができることが理解される。
【0151】
有効量の遺伝子操作されたT細胞の集団は、少なくとも102細胞、少なくとも5×102細胞、少なくとも103細胞、少なくとも5×103細胞、少なくとも104細胞、少なくとも5×104細胞、少なくとも105細胞、少なくとも2×105細胞、少なくとも3×105細胞、少なくとも4×105細胞、少なくとも5×105細胞、少なくとも6×105細胞、少なくとも7×105細胞、少なくとも8×105細胞、少なくとも9×105細胞、少なくとも1×106細胞、少なくとも2×106細胞、少なくとも3×106細胞、少なくとも4×106細胞、少なくとも5×106細胞、少なくとも6×106細胞、少なくとも7×106細胞、少なくとも8×106細胞、少なくとも9×106細胞又はその複合を含み得る。
【0152】
本明細書に記載されるように製造される遺伝子操作されたT細胞集団を用いた治療の有効性は、当業者によって決定することができる。治療は、一例ではあるが、任意の1つ又は全ての徴候又は症状の機能的標的のレベルが有利な様式で変えられる(例えば、少なくとも10%増加する)か、又は疾患(例えば、癌)の他の臨床的に認められている症状又はマーカーが改善されるか又は緩和される場合、「有効」と見なされる。有効性は、入院又は医学的介入の必要性により評価された場合、対象が悪化しないことによっても測定され得る(例えば、疾患の進行が止まるか又は少なくとも遅くなる)。これらの指標を測定する方法は、当業者に既知であり、且つ/又は本明細書で説明されている。治療は、対象における疾患の任意の治療を含み、且つ(1)疾患を阻害すること、例えば症状の進行を止めるか若しくは遅くすること、又は(2)疾患を軽減すること、例えば症状の退行をもたらすこと、及び(3)症状の発症の可能性を予防するか若しくは減少させることを含む。
【0153】
本明細書に記載されるように製造される遺伝子操作されたT細胞集団は、組み合わせ療法でも使用され得る。例えば、本明細書に記載されるように製造される遺伝子操作されたT細胞集団は、同じ適応症を治療するか若しくは遺伝子操作されたT細胞集団の有効性を高め、且つ/又は遺伝子操作されたT細胞集団の副作用を低減させるために他の治療薬と併用され得る。
【0154】
一般的技術
本開示の実施では、別段の指摘がない限り、当技術分野の範囲内にある分子生物学(組換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学及び免疫学の従来技術が用いられる。こうした技術は、例えば下記の文献で詳細に説明されている:Molecular Cloning:A Laboratory Manual,second edition(Sambrook,et al.,1989)Cold Spring Harbor Press;Oligonucleotide Synthesis(M.J.Gait,ed.1984);Methods in Molecular Biology,Humana Press;Cell Biology:A Laboratory Notebook(J.E.Cellis,ed.,1989)Academic Press;Animal Cell Culture(R.I.Freshney,ed.1987);Introduction to Cell and Tissue Culture(J.P.Mather and P.E.Roberts,1998)Plenum Press;Cell and Tissue Culture:Laboratory Procedures(A.Doyle,J.B.Griffiths,and D.G.Newell,eds.1993-8)J.Wiley and Sons;Methods in Enzymology(Academic Press,Inc.);Handbook of Experimental Immunology(D.M.Weir and C.C.Blackwell,eds.):Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells(J.M.Miller and M.P.Calos,eds.,1987);Current Protocols in Molecular Biology(F.M.Ausubel,et al.eds.1987);PCR:The Polymerase Chain Reaction,(Mullis,et al.,eds.1994);Current Protocols in Immunology(J.E.Coligan et al.,eds.,1991);Short Protocols in Molecular Biology(Wiley and Sons,1999);Immunobiology(C.A.Janeway and P.Travers,1997);Antibodies(P.Finch,1997);Antibodies:a practice approach(D.Catty.,ed.,IRL Press,1988-1989);Monoclonal antibodies:a practical approach(P.Shepherd and C.Dean,eds.,Oxford University Press,2000);Using antibodies:a laboratory manual(E.Harlow and D.Lane(Cold Spring Harbor Laboratory Press,1999);The Antibodies(M.Zanetti and J.D.Capra,eds.Harwood Academic Publishers,1995);DNA Cloning:A practical Approach,Volumes I and II(D.N.Glover ed.1985);Nucleic Acid Hybridization(B.D.Hames&S.J.Higgins eds.(1985;Transcription and Translation(B.D.Hames&S.J.Higgins,eds.(1984;Animal Cell Culture(R.I.Freshney,ed.(1986;Immobilized Cells and Enzymes(lRL Press,(1986;and B.Perbal,A practical Guide To Molecular Cloning(1984);F.M.Ausubel et al.(eds.)。
【0155】
当業者であれば、更に詳細に述べることなく上記説明に基づいて本発明を最大限利用することができると考えられる。従って、以下の特定の実施形態は、単なる例示として解釈すべきであり、決して以下の本開示を限定するものではない。本明細書で引用される全ての刊行物は、参照により本明細書で参照される目的又は主題に関して組み込まれる。
【実施例】
【0156】
記載されている本発明をより詳細に理解できるように、以下の実施例が説明される。本出願で記載される実施例は、本明細書で提供される方法及び組成物を説明するために提供されており、それらの範囲を限定するものとしていかなる方法でも解釈されるべきではない。
【0157】
実施例1:T細胞濃縮のための最適化条件の特定
本実施例では、自動細胞処理システムを使用してロイコパックからCD4+及びCD8+T細胞を濃縮するための、T細胞濃縮のための最適化条件の特定について報告する。
【0158】
方法
ロイコパック及びバッファー調製
ヒトロイコパックはHemaCare又はStemExpressから収集され、T細胞濃縮のために処理された。PBS/EDTAバッファー(リン酸緩衝生理食塩水、pH7.2、1mM EDTAを添加)に0.5%ヒト血清アルブミン(HSA)を添加し、T細胞選択中の処理、プライム化、洗浄及び溶出に使用した。
【0159】
ロイコパックドナーは、以下についてスクリーニングされた:
・B型肝炎表面抗原(HBsAg EIA)
・C型肝炎ウイルス抗体(抗HCV EIA)
・ヒト免疫不全ウイルス抗体(HIV 1/2 plus O)
・ヒトT-リンパ球向性ウイルス抗体(HTLV-I/II)
・HIV-1/HCV/HBV核酸試験
・WNV核酸試験
・クルーズトリパノソーマ(Trypanosoma Cruzi)抗体(選択的シャーガス病検査、ドナーごとに1回の生涯検査)
・HIV/HBV/HCV
・CMV
・IDS。
【0160】
上記のテストのいずれかで陽性の結果を示したドナーは除外された。本明細書に開示される実施例で使用されるドナーの個体群統計情報を表1に示す。
【0161】
【0162】
Sysmexによるロイコパック血液学分析
入ってくるロイコパックからのサンプルは、製造元の指示に従って、Sysmex XP300(Sysmex、シリアル番号B0628)を使用して血液学的分析のために処理された。白血球(WBC)カウントを使用して、自動化細胞処理システムにロードされた総細胞量を計算した。
【0163】
T細胞の濃縮
処理バッファー、ロイコパック、CD4マイクロビーズ及びCD8マイクロビーズを、実行を開始する前に自動化細胞処理システムにロードした。細胞を洗浄し、分離のためにチャンバ内でマグネットカラムに向けて標識した。CD4+及びCD8+T細胞を捕捉し、処理バッファー中のターゲットバッグに更に溶出した。
【0164】
細胞数及び生存率
細胞数及び生存率の評価は、デフォルトのプロファイルを使用してCOUNTESS(登録商標)II(Life Technologies、カタログ:AMQAX1000)で実施した。細胞(20μL)を、気泡を導入せずに数回上下にピペッティングすることにより、トリパンブルー(20μL)と混合した。細胞/トリパンブルー混合物(10μL)をCOUNTESS(登録商標)II細胞計数チャンバースライドにロードした。
【0165】
フローサイトメトリー
約1×106の全核細胞を、95μLの染色バッファー(0.5%ウシ血清アルブミン(BSA)/DPBS)中の5μLのヒトTruStain FcX(商標)で室温(RT)において10分間ブロックした。細胞を、Pacific blue結合抗ヒトCD45抗体(1:50)、BV510結合抗ヒトCD3抗体(1:50)、APC-Cy7結合抗ヒトCD4抗体(1:50)、PE-Cy7結合抗ヒトCD8抗体(1:50)、APC結合抗ヒトCD19抗体(1:50)、FITC結合抗ヒトCD56抗体(1:50)及びPE結合抗ヒトCD33抗体(1:50)で、4℃において30分間更にインキュベートした。次いで、5μLの7-アミノ-アクチノマイシンD(7-AAD)生存率染色液を含む1mLの塩化アンモニウム-カリウム(ACK)溶解バッファーを各サンプルに適用した。ACK溶解バッファーをRTで10分間インキュベートした後、NovoCyte-3000フローサイトメーターで細胞を取得した。
【0166】
結果
ロイコパックサンプル中の白血球(WBC)
試験したロイコパックのWBCは、8.14×109~21.36×109細胞の範囲であり、5.77×109~17.32×109の範囲のリンパ球数を有した。
【0167】
CD4及びCD8の濃縮-純度、生存率、細胞回復率及び収率
試験された9つのバッチのうち、4つは、プログラムAで評価され、5つはプログラムBで評価された。全てのバッチで、純度が>90%、生存率が>90%のT細胞が得られた(表2)。プログラムAからの細胞回復率は31%であったが、プログラムBからの細胞回復率は55.69%であった。
【0168】
【0169】
まとめると、これらの結果は、健康なドナー(HD)ロイコパックからのT細胞が、CD4+及びCD8+T細胞に対して高純度(>90%)及び高生存率(>90%)で濃縮されたことを示している。
【0170】
実施例2:T細胞活性化のための最適化条件の特定
本実施例では、組換えヒト化CD3及びCD28アゴニストに結合したコロイド状ポリマーナノマトリックスを使用して、T細胞活性化のための最適化条件の特定について報告する。遺伝子編集及び/又はCAR発現レベルを異なる条件で活性化されたT細胞で調べて、優れた遺伝子編集及び/又はCAR発現レベルを達成する最適化されたT細胞活性化条件を特定した。要約すると、濃縮されたT細胞を解凍し、その後、活性化前に1回のエレクトロポレーション又は2回のエレクトロポレーションで48時間又は72時間活性化し、形質導入の7日後にフローサイトメトリーによって%CAR+発現を測定する小規模プロセスで、遺伝子操作されたT細胞を製造した。
【0171】
小規模製造プロセスを開始するために、クライオバイアルを液体窒素保存から回収し、少量の凍結物質が残るまで水浴で解凍した。次いで、細胞を10倍量の完全増殖培地(X-VIVO(商標)15、5%のヒトAB血清、50ng/mLのIL7及び10ng/mLのIL2)に滴下し、300gで室温において10分間遠心分離してペレット化した。細胞を1×106細胞/mLの濃度に再懸濁し、組換えヒト化CD3及びCD28アゴニストを介した活性化に結合したコロイド状ポリマーナノマトリックスに供し、下流の修飾を改善又はエレクトロポレーションしてCRISPR-Cas9依存性遺伝子編集のための構成要素を導入した。
【0172】
単離されたT細胞は、コロイド状ポリマーナノマトリックスに共有結合した組換えCD3及びCD28で活性化された。組換えヒト化CD3及びCD28アゴニストに結合したコロイド状ポリマーナノマトリックスを、未処理のフラスコ内の1:12.5の比率又は1×106細胞当たり40μLで細胞に適用した。細胞は、組換えヒト化CD3及びCD28アゴニストに結合したコロイド状ポリマーナノマトリックスで、37℃、5%CO2のインキュベーターで48時間又は72時間維持した。インキュベーション後、細胞を300gで10分間室温において遠心分離する。次いで、細胞ペレットを完全増殖培地に再懸濁し、遺伝子改変前に1×106細胞/mLの濃度で一晩培養した。
【0173】
エレクトロポレーションのために、トリパンブルーを添加し、COUNTESS(登録商標)サイトメーターでカウントすることにより、総細胞数及び細胞生存率を定量した。次いで、細胞を300gで10分間室温において遠心分離した。細胞ペレットを10mLのエレクトロポレーションバッファーで洗浄し、再度遠心分離した。細胞を遠心分離する間に、リボ核タンパク質(RNP)複合体を調製した。RNP複合体は別々に形成され、次いで複数の編集を実施する場合には一緒に合わせられる。示された濃度のgRNA及びCas9を使用して、4つの別々のRNP複合体を形成した(表3)。各RNP複合体を、配列番号1を含むCas9で形成した。Cas9及びgRNA配列については、実施例5も参照されたい。
【0174】
【0175】
フローエレクトロポレーションに基づくトランスフェクションシステムを使用して、細胞をエレクトロポレーションした。各個々のキュベットをエレクトロポレーションしたら、細胞及びRNP溶液を未処理の12ウェルプレートに分注し、各ウェルに500μLのX-VIVO(商標)15培地(ヒトAB血清、IL2又はIL7を含まない)を入れた。細胞をインキュベーター内で20分間休止させた。トリパンブルーを添加し、COUNTESS(登録商標)サイトメーターでカウントすることにより、総細胞数及び細胞生存率を定量した。
【0176】
休止後の総細胞数に基づいて、細胞を、X-VIVO(商標)15(ヒトAB血清、IL2又はIL7を含まない)で更に希釈し、所望の濃度に到達させる必要がある場合がある。形質導入を行うために必要なAAVの量を計算するには、総細胞数が必要である。
必要なAAVのμL=(総細胞数)(所望のMOI(すなわち20K))/(ウイルスvgc/mL(すなわち1.5×1013))
【0177】
AAV及び細胞懸濁液を混合し、未処理のフラスコ内で37℃、5%CO2で1時間インキュベートした。AAVを含む全量を、100mLの完全培地を含む静置培養容器に添加した。静置培養容器を3日間インキュベートして細胞増殖させた。
【0178】
エレクトロポレーション後、静置培養容器の各ウェルに100mLの完全増殖培地を充填した。遺伝子改変細胞は、100mLの完全増殖培地に5×105細胞/mL~1×106細胞/mLの濃度で播種された。静置培養容器を3~4日間インキュベートして細胞増殖させた。IL2及びIL7は、3~4日ごとに100U/mLの最終作業濃度まで又は10ng/mLのIL2及び50ng/mLのIL7まで補充された。総細胞数は、トリパンブルーを添加し、COUNTESS(登録商標)サイトメーターでカウントすることにより、3~4日ごとに定量された。エレクトロポレーション後、細胞を培養で9~12日間維持し、最大の総細胞数を達成した。
【0179】
(i)T細胞活性化のための最適化条件は%CAR+発現を増加させた
エレクトロポレーションを使用して、gRNA及びCas9をT細胞に導入し、CD70、PD1、β2M及びTRAC遺伝子を含む4つの標的遺伝子のCRISPR-Cas9依存性遺伝子編集を行った。単一のエレクトロポレーションを実施して、一度に4つの遺伝子全てを標的化した。2回のエレクトロポレーションを実施する場合、CD70及びPD1遺伝子を標的化するRNP複合体が第1のエレクトロポレーションでT細胞に導入され、β2M及びTRAC遺伝子を標的化するRNP複合体が第2のエレクトロポレーションでそれらのT細胞に導入された。
【0180】
表4で示されるように、1回のエレクトロポレーション又は2回のエレクトロポレーション前に48時間活性化されたT細胞は、それぞれ54.7%及び57.5%の%CAR+発現を示した。72時間活性化されたT細胞は、T細胞が1回又は2回エレクトロポレーションされたかどうかに関係なく、48時間活性化されたT細胞よりも約10%多い総%CAR+発現を示した(表4)。
【0181】
【0182】
これらの結果は、72時間のT細胞活性化が48時間のT細胞活性化によって提供されるものと比較して%CAR+発現を増加させることを示した。PD1を標的化するRNP複合体がエレクトロポレーションに含まれていなかった場合にも、同様の結果が観察された。
【0183】
(ii)T細胞活性化のための最適化条件は、エレクトロポレーションからの細胞喪失を減弱させた
CD70遺伝子及びPD1遺伝子のCRISPR-Cas9依存編集用の構成要素を導入するために、第1のエレクトロポレーション工程をT細胞で実施した。細胞数は、48時間又は72時間のT細胞活性化の前後に測定した。
【0184】
表5で示されるように、T細胞を48時間活性化した場合、第2のエレクトロポレーション前に得られた細胞数は、活性化のために最初に播種された細胞数よりも少なかった。対照的に、T細胞を72時間活性化した場合、第2のエレクトロポレーション前に得られた細胞数は、活性化のために最初に播種された細胞数よりも多かった(表5)。
【0185】
【0186】
これらの結果は、72時間のT細胞活性化が、T細胞が48時間活性化されたときのみに観察された第1のエレクトロポレーション後の細胞喪失を減弱させることを示した。PD1を標的化するRNP複合体がエレクトロポレーションに含まれていなかった場合にも、同様の結果が観察された。
【0187】
実施例3:β2Mのノックアウトのための最適化条件の特定。
本実施例では、CRISPR-Cas9依存性遺伝子編集を使用したβ2Mのノックアウトのための最適化条件の特定を報告する。β2Mのノックアウトは、第1のエレクトロポレーション又は第2のエレクトロポレーションのいずれかで行うことができる。TCRのノックアウトは、一般に、第2のエレクトロポレーション中又は形質導入前に実施され、HDRが媒介したCD70 CARの挿入を確実にする。CD70のノックアウトは、一般に、CD70 CARを挿入する前に、細胞間のフラトリサイドの可能性を防ぐために、最初のエレクトロポレーション中に実施される。
【0188】
要約すると、β2Mを標的化するRNP複合体が形成され、単一のエレクトロポレーション又は2段階のエレクトロポレーションプロセスを介してT細胞に導入される小規模なプロセスで、遺伝子操作されたT細胞を製造した。詳細については上記実施例2を参照されたい。
【0189】
第1のエレクトロポレーション中にβ2Mをノックアウトする場合、CD70及びβ2M遺伝子を標的化するRNP複合体が第1のエレクトロポレーションでT細胞に導入され、PD1及びTRAC遺伝子を標的化するRNP複合体が第2のエレクトロポレーションでT細胞に導入された。第2のエレクトロポレーション中にβ2Mをノックアウトする場合、CD70及びPD1遺伝子を標的化するRNP複合体が第1のエレクトロポレーションでT細胞に導入され、β2M及びTRAC遺伝子を標的化するRNP複合体が第2のエレクトロポレーションでT細胞に導入された。T細胞は、CD70、PD1、β2M及びTRAC遺伝子を標的化するRNP複合体を用いた単一のエレクトロポレーションイベントでもエレクトロポレーションされた。
【0190】
表6で示されるとおり、β2Mを標的化するRNP複合体が第1のエレクトロポレーションに含まれる場合、T細胞が48時間又は72時間活性化されたかどうかに関係なく、形質導入後7日で残存β2M
+発現は約60%であった。β2Mを標的化するRNP複合体が単一のエレクトロポレーション又は第2のエレクトロポレーションに含まれる場合、残存β2M
+発現は約20%であった(表6)。残存CD70
+発現は、形質導入後7日では検出できなかった(表7)。残存CD70
+発現細胞は、CD70を標的化するRNP複合体によるノックアウトによって排除されたか、又はCD70 CAR
+細胞によって排除された可能性がある。試験したβ2Mノックアウト条件の各々について、同様のT細胞増殖及びT細胞生存率が観察された(
図1)。
【0191】
【0192】
【0193】
これらの結果は、第2のエレクトロポレーション工程でβ2Mを標的化するRNP複合体を導入すると、CD70の効率的なノックアウト又は細胞増殖及び細胞生存率を維持しながら、β2Mの優れたノックアウトを提供することを示した。PD1を標的化するRNP複合体がエレクトロポレーションに含まれていなかった場合にも、同様の結果が観察された。
【0194】
実施例4:T細胞のエレクトロポレーションのための最適化条件の特定
本実施例では、エレクトロポレーションを介してCRISPR-Cas9依存性遺伝子編集用の複数のRNP複合体をT細胞に導入するための最適化条件の特定を報告する。
【0195】
要約すると、RNP複合体が単一のエレクトロポレーション又は2段階のエレクトロポレーションプロセスを介してT細胞に導入される小規模なプロセスで、遺伝子操作されたT細胞を製造した。詳細については上記実施例2を参照されたい。転座率はddPCRによって決定された。
【0196】
1回のエレクトロポレーションで遺伝子操作されたT細胞は、PD1及びCD70を標的化するRNP複合体が第1のエレクトロポレーションで一緒に組み合わされた場合を除いて、2段階エレクトロポレーションされたものよりも有意に高い転座率を示した(
図2A)。CD70を標的化するgRNAが第1のエレクトロポレーションで(RNP複合体を介して)送達された場合、転座率は2%未満であった。
図2A及び2Bを参照されたい。4つのRNP複合体を一緒にエレクトロポレーションしたT細胞の細胞遺伝学的分析により、PD1(染色体2)、β2M(染色体15)、TCR(染色体14)及びCD70(染色体19)を収容する染色体で転座が発生した可能性が高いことが明らかになった(データは示さず)。
【0197】
まとめると、これらの結果は、2つの工程で実施されるエレクトロポレーションを介してRNP複合体を導入することにより、より低い転座率が達成される可能性があることを示している。PD1を標的化するRNP複合体がエレクトロポレーションに含まれていなかった場合にも、同様の結果が観察された。
【0198】
実施例5:抗CD70 CARを発現し、遺伝子破壊されたCD70、TRAC及びβ2M遺伝子を有する遺伝子操作されたT細胞を作製するための製造プロセス開発(CTX130)。
概略
CTX130は、CRISPR/Cas9(クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート/CRISPR関連タンパク質9)遺伝子編集構成要素(sgRNA及びCas9ヌクレアーゼ)を使用する、ex vivoで遺伝子改変された同種T細胞で構成されるCD70指向性T細胞免疫療法である。
【0199】
改変には、T細胞受容体アルファ定数(TRAC)、β2M及びCD70の標的化破壊が含まれる。TRAC座位を破壊することで、T細胞受容体(TCR)の発現の減少がもたらされ、移植片対宿主病(GvHD)の可能性を低減させることが意図される一方、β2M座位を破壊することで、主要組織適合複合体タイプI(MHC I)タンパク質の発現の減少がもたらされ、宿主拒絶反応の可能性を低減させることによって持続性を向上させることが意図される。CD70が破壊されると、CD70の発現が失われ、CD70 CARを挿入する前に細胞間フラトリサイドが発生する可能性を防ぐ。抗CD70 CARを加えることにより、改変T細胞がCD70発現腫瘍細胞に誘導される。
【0200】
抗CD70 CARは、CD70に特異的な抗CD70単鎖可変断片(scFv)と、それに続くCD8ヒンジ並びに4-1BBとCD3ζシグナル伝達ドメインの細胞内共シグナル伝達ドメインに融合される膜貫通ドメインで構成されている。
【0201】
CTX130の例示的な製造プロセスが
図3Aに示されている。
【0202】
製造プロセスの発展
実施例1~4に記載の最適化プロセスによって決定された条件に基づいて、CTX130製造プロセスは、研究規模、開発規模及び臨床規模を含む3つの生産規模で実施された。研究規模プロセスは小規模で実施し、研究規模プロセスを規模拡大して、開発規模プロセス及び臨床規模プロセスに移行した。初期キャンペーン(4ロット)は、実現可能性及び操作パラメーターの調整のために、原薬の実験室グレードの出発物質を使用して実施した。その後、GMP由来の出発物質(sgRNA、Cas9及びrAAV-145b)の使用及び定量的許容基準を、開発規模プロセスと運用上同一である臨床規模プロセスに実装した。
【0203】
出発物質の選択
CTX130の生成用出発物質は、以下のとおりである:
- 健康なドナーから収集されたロイコパック、
- 細菌由来のCas9ヌクレアーゼ、
- 3つの単一ガイドRNA(sgRNA)、CD70遺伝子座を標的化するCD70-7sgRNA、TRAC遺伝子座を標的化するTA-1及びβ2M遺伝子座を標的化するβ2M-1、及び
- 抗CD70 CAR遺伝子をコードする組換えAAV-6ベクター(rAAV-145b)。
【0204】
CTX110の遺伝子改変並びに編集されたTRAC及びβ2M遺伝子座の作製に使用される構成要素についての構造情報を以下に示す。
Cas9ヌクレアーゼのアミノ酸配列(配列番号1):
【化1】
【0205】
【0206】
【0207】
【0208】
【0209】
【0210】
【0211】
【0212】
【0213】
【0214】
【0215】
CTX130の製造プロセスの説明
(i)T細胞の濃縮
T細胞は、自動化細胞処理システムを使用して、抗CD8及び抗CD4抗体でコーティングされた磁気ビーズの混合物を使用した磁気分離により、白血病アフェレーシス材料(ロイコパック)から濃縮した。濃縮前にロイコパックを細胞数及び生存率(≧80%)についてサンプリングした。
【0216】
濃縮した細胞を、HSAを含むPBS/EDTAバッファーで単離し、次いで、細胞数、生存率(≧80%)、T細胞純度(≧70%CD3)及び無菌性についてサンプリングした。次いで、細胞を4±1℃で遠心分離し、CryoStor CS5に50×106生細胞/mLの目標濃度で再懸濁させた。
【0217】
(ii)T細胞の凍結保存
細胞数、生存率(≧80%)について細胞をサンプリングし、次いで2,500×106細胞/バッグ(細胞懸濁液30~70mL)の標的細胞数でエチレン酢酸ビニルクライオバッグに分注した。1~2バッグのT細胞を生成するには1つのロイコパックで十分である場合がある。各バッグをヒートシールし、ラベルを付け、制御速度の冷凍庫に移すまで2~8℃で保管し、その後、保管のために気相液体窒素に移す。
【0218】
(iii)T細胞の解凍、第1のエレクトロポレーション及び活性化
濃縮されたT細胞の凍結バッグ1つを解凍し、3Lのバッグに移し、補充されたX-VIVO(商標)15培地(X-VIVO(商標)15、5%ヒト血清、100IU/mLのrhIL2、100IU/mLのrhIL7)で希釈した。細胞を、細胞数及び生存率(≧70%)についてサンプリングした。
【0219】
細胞を540g、20±1℃で15分間遠心分離した。細胞ペレットをエレクトロポレーションバッファーに再懸濁させ、同一条件下で再度遠心分離した。細胞を、300×106細胞/mLの目標濃度になるまで、エレクトロポレーションバッファーに2回再懸濁させた。
【0220】
Cas9ヌクレアーゼをマイクロ遠心チューブ内でCD70-7 sgRNAと混合し、室温で10分以上インキュベートして、リボ核タンパク質(RNP)複合体を形成した。次いで、Cas9/sgRNAを細胞と混合し、Cas9及びCD70-7 sgRNAの最終濃度をそれぞれ0.15mg/mL及び0.16mg/mLにした。
【0221】
混合物を取り出し、ピペッティングによりエレクトロポレーションカセットにロードした。カセットに蓋をし、フローエレクトロポレーションに基づくトランスフェクションシステムを使用して順次エレクトロポレーションした。
【0222】
エレクトロポレーション後、細胞を各カセットから125mL三角フラスコにプールし、37℃で20分以上インキュベートした。細胞を、生存率(≧50%)及び数についてサンプリングした。次いで、組換えヒト化CD3及びCD28アゴニストに結合した可溶性コロイド状ポリマーナノマトリックス溶液を、1:12.5(v/v)の比率で添加して、細胞を活性化した。
【0223】
約500mLの補充されたX-VIVO(商標)15培地/組換えヒト化CD3及びCD28アゴニストに結合したコロイド状ポリマーナノマトリックスの総量で各々、細胞を2×106生細胞/mLの目標密度まで静置細胞培養容器に播種した。
【0224】
静置細胞培養容器を37±1℃及び5±1%CO2で72±4時間インキュベートした。プロセス全体を通して、静置細胞培養容器を取り扱うときはいつでも、裂け目及び漏れ並びに透明な黄色の培地の存在について検査した。
【0225】
(iv)希釈
3日後、補充されたX-VIVO(商標)15培地を各静置細胞培養容器に5Lの最終容量まで添加した。細胞を更に37±1℃及び5±1%CO2で一晩インキュベートした。
【0226】
(v)第2のエレクトロポレーション及び形質導入
補充されたX-VIVO(商標)15培地の体積は、静置細胞培養容器のディップチューブに接続されたポンプを使用して、約500mLの最終容量まで減少させた。
【0227】
静置細胞培養容器を穏やかに回転させて、細胞を培地に再懸濁させた。細胞を、細胞数、生存率(≧70%)についてサンプリングした。
【0228】
細胞を500mLの遠心分離管に移し、540g、20±1℃で15分間遠心分離した。細胞ペレットをエレクトロポレーションバッファーに再懸濁させ、同一条件下で再度遠心分離した。細胞を、300×106細胞/mLの目標濃度になるまで、エレクトロポレーションバッファーに2回再懸濁させた。
【0229】
Cas9ヌクレアーゼは、別々のマイクロ遠心チューブでTA-1 sgRNA及びβ2M-1 sgRNAと混合した。各溶液を室温で10分以上インキュベートして、各リボ核タンパク質(RNP)複合体を形成した。2つのCas9/sgRNA混合物を組み合わせ、細胞と混合して、Cas9、TA-1及びβ2M-1を、それぞれ最終濃度0.3mg/mL、0.08mg/mL及び0.2mg/mLにした。
【0230】
混合物を取り出し、ピペッティングによりエレクトロポレーションカセットにロードした。カセットに蓋をし、フローエレクトロポレーションに基づくトランスフェクションシステムを使用して順次エレクトロポレーションした。
【0231】
エレクトロポレーション後、細胞を各カセットから125mL三角フラスコにプールし、37℃で20分以上インキュベートした。細胞を、生存率(≧70%)についてサンプリングした。細胞をX-VIVO(商標)15培地で1×107細胞/mLの目標まで希釈し、解凍したばかりのrAAV-145bを20,000~50,000vg/細胞のMOIで添加した。細胞を37℃、5%CO2で60分以上の間、インキュベートした。
【0232】
(vi)細胞増殖
細胞を、補充されたX-VIVO(商標)15培地で希釈し、細胞生存率(≧70%)及び細胞数についてサンプリングし、0.2×106生細胞/cm2~0.5×106生細胞/cm2の密度まで2つの静置細胞培養容器及び1つのより小さい静置細胞培養容器(細胞監視のためのサテライト培養として機能する)に播種した。静置細胞培養容器を37±1℃及び5±1%CO2でインキュベートした。
【0233】
細胞培養物を最大9日間インキュベートした。この間、培養物は3~4日ごとに1mLの培養液用量当たり100IUのrhIL2及びrhIL7で補充した。
【0234】
サテライト細胞培養は、増殖全体の細胞数、生存率及びT細胞純度について試験した。サテライト培養内の細胞密度が約30×106/cm2に達するとき、TCRαβの枯渇を実施した。サテライトの細胞密度が30×106/cm2に達しない場合、9日目にメイン培養でTCRαβの枯渇を実施した。
【0235】
(vii)TCRαβの枯渇
各静置細胞培養容器の培地は、静置細胞培養容器のディップチューブに接続されたポンプを使用して、約500mLの最終容量まで減少させた。培地の大部分を除去した後、静置細胞培養容器を穏やかに回転させて、細胞を培地に再懸濁させた。
【0236】
細胞を、静置細胞培養容器に接続するディップチューブを備えた500mLの遠心分離チューブに移した。細胞を、生存率(≧70%)、数及び%CARについてサンプリングした。次いで、細胞を540g、20±1℃で15分間遠心分離した。細胞ペレットを再懸濁させ、0.5%HSAを含む650mL未満のPBS/EDTAにプールした。細胞懸濁液を、自動化細胞処理システムに接続されている滅菌バッグに移した。自動化細胞処理システムは、ビオチン結合抗TCRαβ抗体と共に細胞をインキュベートする。自動化細胞処理システムを使用してTCRαβ+細胞を枯渇させるために、細胞を洗浄し、抗ビオチン磁気ビーズと共にインキュベートした。
【0237】
細胞数、生存率(≧70%)及び%CAR細胞について細胞を試験した。
【0238】
(viii)細胞の回復
枯渇した細胞を補充されたX-VIVO(商標)15培地に再懸濁させ、3Lバッグ(複数可)に移し、静置細胞培養容器(複数可)に播種し、37±1℃及び5±1%CO2で一晩インキュベートした。
【0239】
(ix)細胞採取(原薬)
細胞を採取するために、静置細胞培養容器をインキュベーターから取り外し、細胞沈降のために休ませた。成長培地は、ポンプを使用して各静置細胞培養容器から約500mLの最終容量まで除去した。除去した培地を、無菌のためにサンプリングした。
【0240】
静置細胞培養容器を穏やかに回転させて、細胞を培地に再懸濁させた。各静置細胞培養容器の内容物は、ポンプを使用して3Lの移送バッグに移送され、濃度、生存率及び原薬のロット放出テストのためにサンプリングした。次いで、細胞を重力によって40μm輸血フィルターを通して別個の滅菌3Lバッグに濾過した。
【0241】
CTX130の特性評価
CTX130は、抗CD70 CARを発現し、且つ遺伝的に破壊されたCD70、TRAC及びβ2M遺伝子を有する同種異系T細胞で構成されるCD70指向性T細胞免疫療法である。非臨床薬理学及び毒物学研究は、CTX130の非GMP開発ロットの潜在的な有効性及び毒性を特性評価するために実施した。
【0242】
CTX130の非GMP開発ロットの生成及び特性評価
本研究の目的は、非GMP CD70 CAR T細胞の再現性のある生成が本明細書に記載の方法を使用して達成されたかどうかを判断することであった。
【0243】
3人の個々のヒトT細胞ドナーを編集して、最初の工程でCas9及びCD70に対するgRNAを含むRNP、続いてCas9並びにTRAC及びβ2Mに対するgRNAを含むRNPでCTX130の非GMP開発ロットを作製し、続いて、第2の工程でCARをコードするドナー鋳型を含むAAV6による形質導入を行った。続いて、カラム精製を使用して、残存する残りのTCR+細胞について細胞を枯渇させた。
【0244】
要約すると、3人の個々のドナーからのT細胞を解凍し、Cas9及びCD70遺伝子座を標的化するgRNAを含むRNPでエレクトロポレーションし、次いで組換えヒト化CD3及びCD28アゴニストに結合したコロイド状ポリマーナノマトリックスを使用して3日間活性化した。4日目にビーズを希釈し、T細胞を更に1日間増殖させた。5日目に、細胞は、Cas9並びにTRAC及びβ2M遺伝子座を標的化するgRNAを含むRNPでエレクトロポレーションに供され、続いてCD70 CARを含むHDR鋳型を含むAAV6とインキュベーションした。第2の遺伝子編集工程の10日後、フローサイトメーターを使用して細胞を分析し、TRAC、β2M及びCD70のノックアウト効率並びにCARを発現している細胞の割合を評価した。染色はTRAC、β2M及びCD70タンパク質に対する抗体を使用して実施し、ビオチンで標識した抗マウスFab2抗体で染色した後、蛍光ストレプトアビジンとインキュベートすることでCARの発現を検出した。
【0245】
編集された細胞の分析は、99.7±0.1%のTRAC陰性細胞、79.4±1.1%のβ2M陰性細胞及び98.9±0.3%のCD70-細胞を示した(表13)。CAR発現は、3人の試験されたドナーの細胞の80.8±8.4%で検出された(表13)。CTX130の追加の研究ロットは、同じプロセスを使用して4番目のドナー(ドナー4)を使用して生成されたが、残存する残りのTCR+細胞のために研究ロットが枯渇することはなかった。
【0246】
【0247】
(i)エフェクターサイトカインの放出
本研究の目的は、CD70+又はCD70-細胞と共培養した場合、CTX130細胞がインターフェロンガンマ(IFNγ)及びインターロイキン2(IL-2)を分泌する能力を評価することであった。
【0248】
ヒト標的細胞(CD70+細胞株A498及びACHN並びにCD70-株MCF7)は、96ウェルプレートで24時間、1ウェル当たり50,000個の標的細胞で様々な比率(0.125:1~4:1のT細胞対標的細胞)でT細胞と共培養された。標的細胞は、CTX130細胞又は対照細胞(未編集のT細胞)のいずれかとインキュベートされた。培養培地上清中のIFNγ及びIL-2のレベルを測定し、CD70+と共培養した場合、CTX130がIFNγ及びIL-2を分泌する能力を有しているが、CD70-細胞と共培養した場合、分泌する能力を有さないことが示された。
【0249】
(ii)腫瘍細胞の細胞傷害性
本研究の目的は、CTX130細胞がCD70+細胞を死滅させる能力を評価することであった。要約すると、ヒト標的CD70+細胞(A498及びACHN)を96ウェルプレートに1ウェル当たり50,000個の標的細胞で一晩プレーティングし、次いでCTX130又は未編集のT細胞のいずれかと様々な比率(0.125:1~4:1のT細胞対標的細胞)で24時間共培養した。標的細胞の死滅が測定され、CTX130細胞がin vitroでCD70+細胞株を死滅させたことが実証された。
【0250】
(iii)他の研究
他の研究は、腎細胞癌及びセザリー症候群の皮下モデルにおける腫瘍細胞増殖を制限するCTX130細胞の能力を示し、CTX130治療が、生存、GvHDの臨床的徴候及び体重を含む測定されたエンドポイントの各々に関して、マウスによって十分に許容されたことを示した。
【0251】
(iv)ヒト組織の交差反応性
本研究の目的は、免疫組織化学に基づく組織交差反応性研究において、CTX130に含まれる抗CD70 CARの選択性を評価することであった。本研究で使用された試験物品は、CTX130のscFv部分が由来する抗体であった。32のヒト組織の標準パネルを2つの抗体濃度で評価した:ヒト組織への任意の潜在的な結合を捕捉するための、最適濃度(2.5μg/mL)及び高濃度(10.0μg/mL)。試験した各組織について、3人のドナーからの切片を評価した。一部のリンパ組織(リンパ節及び扁桃腺)では、正常なCD70発現パターンと一致して、最小から中程度の陽性染色が観察された。パネルの残りの組織では染色は観察されなかった。陽性対照(ヒト腎細胞癌腫瘍細胞)では強い染色が観察された。
【0252】
(v)サイトカイン非依存性増殖
本研究の目的は、血清並びにサイトカインIL-2及びIL-7の非存在下で増殖するCTX130の能力を評価することである。要約すると、研究ロット及び非GMP開発ロットからのCTX130細胞は、完全T細胞培地、血清を含むがIL2若しくはIL7サイトカインを含まない培地(血清のみ)又は血清若しくはサイトカインを含まない培地(基本培地)のいずれかで増殖させた。0日目はゲノム編集の14日後に発生する。研究ロットと非GMP開発ロットの両方で、サイトカインの非存在下での増殖は観察されなかった。これらの結果は、ゲノム編集後の血清及びサイトカインを含まない培地での成長及び増殖の欠如を示している。
【0253】
実施例6:細胞増殖の改善
CTX130細胞増殖アウトプットを増加させるために最適化されたエレクトロポレーション
本開示に記載される方法は、エレクトロポレーションを利用して、例えば、Cas9及びガイドRNA複合体を含む様々なリボ核タンパク質(RNP)複合体を含む様々な核酸及びポリペプチドを、レシピエントT細胞に送達する。様々な製造業者からの任意の好適なエレクトロポレーション機器が、本明細書に記載の方法での使用を見つけることができるため、エレクトロポレーションプロセスで使用される機器は、特に限定されない。エレクトロポレーションで使用される細胞播種密度は、特に限定されない。
【0254】
本実施例では、効率的な編集を維持しながら、より多くの容量を保持できるカセット内の細胞の数を増やしてエレクトロポレーションできるエレクトロポレーション機器を使用する。より大きいエレクトロポレーション容量は、形質導入及び増殖のためにより多くの編集された細胞を提供することにより、例えば、任意の所与の操作されたT細胞、例えば、CTX130の操作されたT細胞製品のアウトプットを2倍にするのと同じくらい増加する。この容量の増加は、プロセス期間及び又は細胞の倍増を延長する必要がないため、これは製造における利点である。
【0255】
例えば、2つ以上の更なる培養容器などの更なるT細胞培養容器(5000mLの培地容量で500cm2のガス透過膜表面積)に播種するために更なる細胞を利用できる。例えば、細胞数の増加に伴い、最大4xの培養容器に播種することができ、ここで300e6≦x≦600e6の細胞を2xの培養容器に播種でき、600e6≦x≦800e6の細胞を3xの培養容器に播種できるか、又は≦800e6の細胞を4x培養容器に播種することができる。
【0256】
いくつかの態様では、培養容器1つ当たり約400,000細胞/cm2~500,000細胞/cm2が播種される。代わりに、培養容器1つ当たり約250,000細胞/cm2~500,000細胞/cm2が播種されるか、又は約300,000細胞/cm2~500,000細胞/cm2が播種されるか、又は培養容器1つ当たり約150,000細胞/cm2~250,000細胞/cm2が播種されるか、又は培養容器1つ当たり約150,000細胞/cm2~500,000細胞/cm2が播種されるか、又は培養容器1つ当たり約150,000細胞/cm2~600,000細胞/cm2が播種される。
【0257】
いくつかの態様では、標的播種密度は、少なくとも約150,000細胞/cm2、又は少なくとも約250,000細胞/cm2、又は少なくとも約300,000細胞/cm2、又は少なくとも約400,000細胞/cm2、又は少なくとも約500,000細胞/cm2である。
【0258】
いくつかの態様では、標的播種密度は、約250,000細胞/cm2である。他の態様では、標的播種密度は、約500,000細胞/cm2である。
【0259】
最大1mLの容量を保持できるエレクトロポレーションカセットを使用できる。このシステムを使用すると、2.7×109細胞を最大7個のG1000カセットにエレクトロポレーションできる。3mLシリンジに取り付けられた使い捨ての鈍い先端の針を備えたカセットから細胞を回収することで、マイクロピペットの先端が三角フラスコに放出されるリスクも排除される。
【0260】
より大きい容量を有するシステムを使用すると、細胞の形質導入工程も容易になる。形質導入のための現在の最大7e8細胞を1.4e9細胞に倍増すると、増殖のために最大4つの細胞培養容器に播種するのに十分な材料が生成される。従って、固定された9日目の枯渇を維持でき、同じ処理時間で1回の実行当たりのアウトプットを実質的に2倍にすることができる。
【0261】
CTX130生成プロセスの他の工程は、上記の実施例で説明したとおりである。
【0262】
均等物
本明細書でいくつかの本発明の実施形態を説明及び図示してきたが、当業者であれば、本明細書で説明される機能を実施し、且つ/又は結果及び/若しくは1つ以上の利点を得るための様々な他の手段及び/又は構造を容易に想定するものであり、こうした変形及び/又は修正のそれぞれは、本明細書で説明される本発明の実施形態の範囲内にあるものと見なされる。より一般的には、当業者であれば、本明細書で説明される全てのパラメーター、寸法、材料及び構成は例示的であることを意図し、実際のパラメーター、寸法、材料及び/又は構成は、本発明の教示が適用される特定の用途に依存することを容易に理解するものである。当業者は、本明細書に記載された特定の本発明の実施形態に対する多くの均等物を、日常の実験のみを用いて認識するか又は確認可能である。従って、上述の実施形態は単に例として提示されており、また、添付の特許請求の範囲及びその均等物の範囲内において、本発明の実施形態が、具体的に説明及び特許請求される以外の別の方法で実践され得ることを理解されたい。本開示の本発明の実施形態は、本明細書で説明される各個別の特徴、システム、物品、材料、キット及び/又は方法を対象とする。加えて、2つ以上のこうした特徴、システム、物品、材料、キット及び/又は方法の任意の組み合わせは、こうした特徴、システム、物品、材料、キット及び/又は方法が相互に矛盾しない場合、本開示の本発明の範囲内に含まれる。
【0263】
本明細書中で定義され用いられる全ての定義は、辞書の定義、参照により組み込まれる文献中の定義及び/又は定義される用語の普通の意味を超えて優先されるものと理解されたい。
【0264】
本明細書に開示されている全ての参考文献、特許及び特許出願は、それぞれ引用されている主題に関して参照により組み込まれており、場合により文献の全体を包含する場合がある。
【0265】
不定冠詞「1つの(a)」及び「1つの(an)」は、本明細書及び特許請求の範囲において使用される場合、反対に明確に示されない限り、「少なくとも1つ」を意味するものと理解されるべきである。
【0266】
本明細書及び特許請求の範囲で使用するとき、「及び/又は」という表現は、等位結合される要素、すなわち一部の場合に接続的に提示され、他の場合に離接的に提示される要素の「いずれか又は両方」を意味するものとして理解されたい。「及び/又は」と共に列挙される複数の要素は、同じように、すなわちそのように結合された要素の「1つ以上」と解釈されるべきである。「及び/又は」の節によって具体的に特定される要素以外に、具体的に特定された要素に関連する又は関連しないにかかわらず、他の要素が任意選択的に提示され得る。従って、非限定的な例として、「A及び/又はB」に対する参照は、「~を備える」などのオープンエンド用語と共に使用される場合、一実施形態ではAのみ(任意選択的にB以外の要素を含む)、別の実施形態ではBのみ(任意選択的にA以外の要素を含む)、更に別の実施形態ではA及びBの両方(任意選択的に他の要素を含む)などを指し得る。
【0267】
本明細書及び特許請求の範囲で使用するとき、「又は」は、上記で定義される「及び/又は」と同じ意味を有するものと理解されるべきである。例えば、リスト中の項目を分離する際、「又は」又は「及び/又は」は、包括的であり、すなわち要素のリストの少なくとも1つを含むが、2つ以上の数及び任意選択的に追加的な列挙されていない項目も含むものと解釈されるべきである。「~の1つのみ」若しくは「~の厳密に1つ」又は特許請求の範囲で使用されるときの「~からなる」など、反対を明らかに示す用語のみが、多数の要素又は要素のリストの厳密に1つの要素の包含を指す。一般に、本明細書で使用する場合、「又は」という用語は、「いずれか」、「~の1つ」、「~の1つのみ」又は「~の正確に1つ」などの排他的な用語の前に置かれた場合、排他的代替物を示すに過ぎない(即ち「一方又は他方、ただし両方ではない」)ものと解釈するべきである。特許請求の範囲で使用する場合、「~から本質的になる」とは、特許法の分野で使用されるような通常の意味を有するものとする。
【0268】
本明細書で使用する場合、本明細書及び特許請求の範囲における、1つ以上の要素の列挙に関する「少なくとも1つ」という語句は、要素の列挙内の要素の任意の1つ以上から選択される少なくとも1つの要素であるが、要素の列挙内に具体的に列挙されたあらゆる要素の少なくとも1つを必ずしも含まず、且つ要素の列挙内の要素の任意の組み合わせを必ずしも除外しないことを意味するものと理解すべきである。この定義により、具体的に特定されるそれらの要素に関係するか否かにかかわらず、「少なくとも1つ」という語句が意味する要素の列挙内に具体的に特定される要素以外の要素が任意選択的に存在し得ることも可能になる。従って、非限定的な例として、「A及びBの少なくとも1つ」(換言すると「A又はBの少なくとも1つ」、換言すると「A及び/又はBの少なくとも1つ」は、一実施形態では、任意選択的に2つ以上のAを含み、Bが存在しない(及び任意選択的にB以外の要素を含む)少なくとも1つを指すことができ、別の実施形態では、任意選択的に2つ以上のBを含み、Aが存在しない(及び任意選択的にA以外の要素を含む)少なくとも1つを指すことができ、更に別の実施形態では、任意選択的に2つ以上のAを含む少なくとも1つ、且つ任意選択的に2つ以上のBを含む少なくとも1つ(及び任意選択的に他の要素を含む)を指すなどであり得る。
【0269】
同様に、反対に明確に示されない限り、2つ以上の工程又は行為を含む、本明細書で特許請求される任意の方法において、この方法の工程又は行為の順序は、必ずしもこの方法の工程又は行為が列挙される順序に限定されないことも理解されるべきである。
【配列表】
【国際調査報告】