(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-18
(54)【発明の名称】線維性疾患の予防及び処置のための抗クローディン-1モノクローナル抗体。
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20230111BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20230111BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20230111BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20230111BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230111BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20230111BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20230111BHJP
【FI】
A61K39/395 N ZNA
A61P11/00
A61P13/12
A61P17/00
A61P29/00
C07K16/28
C12N15/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022528140
(86)(22)【出願日】2020-11-12
(85)【翻訳文提出日】2022-05-12
(86)【国際出願番号】 EP2020081941
(87)【国際公開番号】W WO2021094469
(87)【国際公開日】2021-05-20
(32)【優先日】2019-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】509228260
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・ストラスブール
(71)【出願人】
【識別番号】591049848
【氏名又は名称】アンセルム
【氏名又は名称原語表記】INSERM
(71)【出願人】
【識別番号】522188820
【氏名又は名称】アレンティス・セラピューティクス・アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】ALENTIS THERAPEUTICS AG
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(74)【代理人】
【識別番号】100221545
【氏名又は名称】白江 雄介
(72)【発明者】
【氏名】ボーメール,トマ
(72)【発明者】
【氏名】クルシェ,エミリー
(72)【発明者】
【氏名】ローレン,ナターシャ
(72)【発明者】
【氏名】サヴィアーノ,アントニオ
(72)【発明者】
【氏名】シュスター,カテリーネ
(72)【発明者】
【氏名】マイヤー,マルクス
(72)【発明者】
【氏名】イアコーネ,ロベルト
(72)【発明者】
【氏名】シュヴァイクホーファー,タマス
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4C085CC02
4C085DD62
4C085EE01
4C085GG01
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、患者における線維性疾患、特に肺線維症、腎臓線維症、又は皮膚線維症の予防及び/又は処置のための、抗クローディン-1モノクローナル抗体、及びその医薬組成物の使用に関する。そのようなモノクローナル抗体、又はその医薬組成物の投与による肺線維症、腎臓線維症、又は皮膚線維症を予防及び/又は処置する方法も記載されている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における腎線維症、肺線維症、及び皮膚線維症から選択される線維性疾患の予防又は処置における使用のための抗クローディン-1抗体、又はその生物学的に活性なフラグメント。
【請求項2】
前記肺線維症が、特発性肺線維症(IPF)、特発性非特異性間質性肺炎(NSIP)、特発性器質化肺炎(COP)、ハマンリッチ症候群、リンパ球性間質性肺炎(LIP)、呼吸性気管支炎間質性肺疾患、剥離性間質性肺炎又は特発性リンパ性間質性肺炎、及び特発性胸膜実質性線維弾性症からなる群から選択される、請求項1に記載の使用のための抗クローディン-1抗体、又はその生物学的に活性なフラグメント。
【請求項3】
前記肺線維症が慢性閉塞性肺疾患に関連付けられる、又は肺線維症がCOVID19関連線維症である、請求項1に記載の使用のための抗クローディン-1抗体、又はその生物学的に活性なフラグメント。
【請求項4】
前記線維性疾患が肺線維症であり、前記抗クローディン-1抗体、又は前記のその生物学的に活性なフラグメントが、コルチコステロイド、抗線維化剤、ピルフェニドン、ニンテダニブ、及び抗酸性薬物からなる群より選択される少なくとも1つの治療薬剤との、ならびに/あるいは肺移植、高圧酸素治療、及び肺リハビリテーションからなる群より選択される治療手順との組合せにおいて投与される、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のための抗クローディン-1抗体、又はその生物学的に活性なフラグメント。
【請求項5】
前記腎線維症が腎間質性線維症又は糸球体硬化症である、請求項1に記載の使用のための抗クローディン-1抗体、又はその生物学的に活性なフラグメント。
【請求項6】
前記腎線維症が慢性腎臓疾患に関連付けられる、請求項1又は請求項5に記載の使用のための抗クローディン-1抗体、又はその生物学的に活性なフラグメント。
【請求項7】
前記線維性疾患が腎線維症であり、前記抗クローディン-1抗体、又は前記のその生物学的に活性なフラグメントが、降圧薬、1,25-ジヒドロキシビタミンD3、エリスロポイエチン、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、アンジオテンシンII受容体拮抗薬AST-120、及びポリスチレンスルホン酸カルシウムからなる群より選択される少なくとも1つの治療薬との、ならびに/あるいは透析及び腎臓移植からなる群より選択される1つの治療手順との組合せにおいて投与される、請求項1、5、及び6のいずれか一項に記載の使用のための抗クローディン-1抗体、又はその生物学的に活性なフラグメント。
【請求項8】
前記皮膚線維症が、限局性強皮症、全身性強皮症、移植片対宿主病(GVHD)、腎性線維性皮膚症、混合性結合組織疾患、強皮症、硬化性粘液水腫、好酸球性筋炎、色素芽球性真菌症、肥大性瘢痕、及びケロイドからなる群より選択される医学的状態に関連付けられる、請求項1に記載の使用のための抗クローディン-1抗体、又はその生物学的に活性なフラグメント。
【請求項9】
前記抗クローディン-1抗体、又は前記のその生物学的に活性なフラグメントが、メトトレキサート、ミコフェノール酸、モフェチル、シクロホスファミド、シクロスポリン、トシリズマブ、リツキシマブ、及びフレソリムマブからなる群より選択される少なくとも1つの治療薬剤との、ならびに/あるいは少なくとも1つの治療手順との組合せにおいて投与される、請求項1又は請求項8に記載の使用のための抗クローディン-1抗体、又はその生物学的に活性なフラグメント。
【請求項10】
前記抗クローディン-1抗体がモノクローナル抗体である、請求項1~9のいずれか一項に記載の使用のための抗クローディン-1抗体、又はその生物学的に活性なフラグメント。
【請求項11】
前記抗クローディン-1抗体が、DSM ACC2931、DSM ACC2932、DSM ACC2933、DSM ACC2934、DSM ACC2935、DSM ACC2936、DSM ACC2937、及びDSM ACC2938からなる群より選択されるアクセッション番号の下で、2008年7月29日にDSMZに寄託されたハイブリドーマ細胞株により分泌される抗クローディン-1モノクローナル抗体と同じエピトープを有するモノクローナル抗体である、請求項1~10のいずれか一項に記載の使用のための抗クローディン-1抗体、又はその生物学的に活性なフラグメント。
【請求項12】
前記エピトープが、クローディン-1の第1の細胞外ループ中の保存されたモチーフW(30)-GLW(51)-C(54)-C(64)の保存に強く依存的である、請求項11に記載の使用のための抗クローディン-1抗体、又はその生物学的に活性なフラグメント。
【請求項13】
前記抗クローディン-1抗体が、DSM ACC2931、DSM ACC2932、DSM ACC2933、DSM ACC2934、DSM ACC2935、DSM ACC2936、DSM ACC2937、及びDSM ACC2938からなる群より選択されるアクセッション番号の下で、2008年7月29日にDSMZに寄託されたハイブリドーマ細胞株により分泌されるモノクローナル抗体である、請求項1~10のいずれか一項に記載の使用のための抗クローディン-1抗体、又はその生物学的に活性なフラグメント。
【請求項14】
前記抗クローディン-1抗体が、DSM ACC2931、DSM ACC2932、DSM ACC2933、DSM ACC2934、DSM ACC2935、DSM ACC2936、DSM ACC2937、及びDSM ACC2938からなる群より選択されるアクセッション番号の下で、2008年7月29日にDSMZに寄託されたハイブリドーマ細胞株により分泌される抗クローディン-1モノクローナル抗体の6つの相補性決定領域(CDR)を含むモノクローナル抗体である、請求項1~12のいずれか一項に記載の使用のための抗クローディン-1抗体、又はその生物学的に活性なフラグメント。
【請求項15】
前記抗クローディン-1抗体がヒト化されている、請求項1~12及び14のいずれか一項に記載の使用のための抗クローディン-1抗体、又はその生物学的に活性なフラグメント。
【請求項16】
前記抗クローディン-1抗体が、アクセッション番号DSM ACC2938の下で寄託されたハイブリドーマ細胞株により分泌されるモノクローナル抗体OM-7D3-B3の6つのCDRの全てを含むヒト化モノクローナル抗体であり、OM-7D3-B3の可変重鎖が、配列番号1のアミノ酸配列からなり、OM-7D3-B3の可変軽鎖が、配列番号2のアミノ酸配列からなり、前記ヒト化モノクローナル抗体が、
a)配列番号3又は配列番号4又は配列番号5の前記アミノ酸配列からなる少なくとも1つの抗体可変重鎖(VH)、又は
b)配列番号6又は配列番号7又は配列番号8の前記アミノ酸配列からなる少なくとも1つの抗体可変軽鎖(VL)をさらに含む、請求項15に記載の使用のための抗クローディン-1抗体、又はその生物学的に活性なフラグメント。
【請求項17】
前記抗クローディン-1ヒト化モノクローナル抗体が、
a)両方の可変重鎖が配列番号3又は配列番号4又は配列番号5の前記アミノ酸配列からなる、2つの抗体可変重鎖(VH)、あるいは、
b)両方の可変軽鎖が配列番号6又は配列番号7又は配列番号8の前記アミノ酸配列からなる、2つの抗体可変軽鎖(VL)を含む、請求項16に記載の使用のための抗クローディン-1抗体、又はその生物学的に活性なフラグメント。
【請求項18】
前記抗クローディン-1ヒト化モノクローナル抗体が、
1)配列番号3のアミノ酸配列からなる2つの抗体可変重鎖(VH)、及び配列番号6のアミノ酸配列からなる2つの抗体可変軽鎖(VL)[H3L3];又は
2)配列番号3のアミノ酸配列からなる2つの抗体可変重鎖(VH)、及び配列番号7のアミノ酸配列からなる2つの抗体可変軽鎖(VL)[H3L1];又は
3)配列番号3のアミノ酸配列からなる2つの抗体可変重鎖(VH)、及び配列番号8のアミノ酸配列からなる2つの抗体可変軽鎖(VL)[H3L2];又は
4)配列番号4のアミノ酸配列からなる2つの抗体可変重鎖(VH)、及び配列番号6のアミノ酸配列からなる2つの抗体可変軽鎖(VL)[H1L3];又は
5)配列番号4のアミノ酸配列からなる2つの抗体可変重鎖(VH)、及び配列番号7のアミノ酸配列からなる2つの抗体可変軽鎖(VL)[H1L1];又は
6)配列番号4のアミノ酸配列からなる2つの抗体可変重鎖(VH)、及び配列番号8のアミノ酸配列からなる2つの抗体可変軽鎖(VL)[H1L2];又は
7)配列番号5のアミノ酸配列からなる2つの抗体可変重鎖(VH)、及び配列番号6のアミノ酸配列からなる2つの抗体可変軽鎖(VL)[H2L3];又は
8)配列番号5のアミノ酸配列からなる2つの抗体可変重鎖(VH)、及び配列番号7のアミノ酸配列からなる2つの抗体可変軽鎖(VL)[H2L1];又は
9)配列番号5のアミノ酸配列からなる2つの抗体可変重鎖(VH)、及び配列番号8のアミノ酸配列からなる2つの抗体可変軽鎖(VL)[H2L2]を含む、請求項17に記載の使用のための抗クローディン-1抗体、又はその生物学的に活性なフラグメント。
【請求項19】
前記ヒト化抗体が、IgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4からなる群より選択されるアイソタイプを有する完全抗体である、請求項15から18のいずれか一項に記載の使用のための抗クローディン-1抗体、又はその生物学的に活性なフラグメント。
【請求項20】
対象における肺線維症、腎線維症、及び皮膚線維症より選択される線維性疾患の予防又は処置における使用のための、有効量の抗クローディン-1抗体、又はその生物学的に活性なフラグメント、及び少なくとも1つの医薬的に許容可能な担体又は賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項21】
前記線維性疾患が、請求項2~9のいずれか一項において定義されているものであり、ならびに/あるいは前記抗クローディン-1抗体、又は前記のその生物学的に活性なフラグメントが、請求項10~19のいずれか一項において定義されているものである、請求項20に記載の使用のための医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連特許出願
本出願は、2019年11月12日に出願された欧州特許出願番号EP19208560.3に対して優先権を主張する。欧州特許出願は、その全体において参照により本明細書中に組み入れられる。
【0002】
線維性疾患は、線維性結合組織の過剰な沈着(線維症と呼ばれる過程)により特徴付けられ、身体の臓器及び組織の正常な構造及び機能における進行性の悪化に導きうる。線維症は、組織又は臓器の異常増殖、硬化、及び/又は瘢痕化により定義される。それは、炎症性の又は損傷した組織中及びその周辺での細胞外マトリックス(ECM)の成分、例えばコラーゲン及びフィブロネクチンなどの過剰な蓄積に起因し(Wynn et al.,Nature Medicine,2012,18:1028-1040)、永久的な瘢痕、臓器機能不全、及び最終的には死に導きうる。線維症は、多様な刺激(持続性感染症、遺伝性障害、自己免疫反応、アレルギー応答、化学的傷害、放射線、及び組織傷害を含む)により誘導される多くの慢性炎症反応の最終的な一般的な病理学的転帰である。線維症は、身体のほぼ全ての臓器又は組織において、よりしばしば、心臓、肺、腎臓、肝臓、及び皮膚において(Rockey et al.,N.Engl.J.Med.,2015,372:1138-1149)、ならびに、より低い頻度で、他の組織又は臓器、例えば膵臓、腸、眼(Wynn,J.Pathol.,2008,214:199-210)、神経系(Kawano et al.,Cell Tissue Res.,2012,349:169-180)、縦隔(Parish and Rosenow,Semin.Respir.Crit.Care Med.,2002,23:135-143)、後腹膜(Caiafa et al.,Radiographics,2013,33:535-552)、関節及び腱において生じうる。
【0003】
ヒトの線維性疾患は、末期癌と同等の不良な予後を有する。それらは、世界中での罹患率及び死亡率の増加する原因を表す。線維症は、複数の臓器系にわたる広範囲の疾患の病理の主な特色であるため、線維性障害は、米国における全原因死亡率の約45%に寄与すると推定されている(Wynn,Nature Rev.Immunol.,2004,4:583-594)。線維性疾患に関連付けられる主要な健康問題はまた、根底にある病態形成の本発明者らの不完全な理解、線維性障害の病因及び臨床症状における顕著な不均一性、適切な十分に検証されたバイオマーカーの非存在、及び、最も重要なことに、効果的な疾患修飾治療薬の現在の欠如に起因する。実際に、現在、線維性疾患の処置のために特に適応となる、2つの最近承認された薬物だけがある。
【0004】
世界中での線維性疾患を伴う患者の経済的負担に照らして、及び限定された治療兵器の観点において、線維症を予防及び/又は処置するための新たな戦略が緊急に必要とされている。
【0005】
【非特許文献1】Wynn et al.,Nature Medicine,2012,18:1028-1040
【非特許文献2】Rockey et al.,N.Engl.J.Med.,2015,372:1138-1149
【非特許文献3】Wynn,J.Pathol.,2008,214:199-210
【非特許文献4】Kawano et al.,Cell Tissue Res.,2012,349:169-180
【非特許文献5】Parish and Rosenow,Semin.Respir.Crit.Care Med.,2002,23:135-143
【非特許文献6】Caiafa et al.,Radiographics,2013,33:535-552
【非特許文献7】Wynn,Nature Rev.Immunol.,2004,4:583-594
【発明の概要】
【0006】
本発明は、線維性疾患、特に腎線維症、肺線維症、及び皮膚線維症の予防及び/又は処置のためのシステム及び戦略に関する。特に、本発明は、腎線維症、肺線維症、又は皮膚線維症を予防及び/又は処置するための抗クローディン-1抗体の使用に関する。実際に、本発明者らは、インビボで、抗クローディン-1モノクローナル抗体が、任意の検出可能な毒性を伴わずに、肺、腎臓、及び皮膚においてその標的に特異的に結合することを示している。さらに、肺線維症の最も重要な前臨床モデルとして考えられている最先端のマウスモデルを使用し、彼らは、抗クローディン-1モノクローナル抗体が、全生存期間又は体重に影響することなく、肺線維症の形成を予防し、検出可能な悪影響を伴うことなく、肺における線維症レベルを低下させることを実証した。彼らはまた、抗クローディン-1モノクローナル抗体が、腎臓及び肺癌細胞で発現されるクローディン-1に結合し、肺細胞における臨床遺伝子シグネチャーの線維症関連の不良な予後を逆転させることを示している。また、本発明者らは、肺及び腎臓線維症におけるクローディン-1発現が、疾患に関連付けられることを示している。このように、クローディン-1遺伝子発現は、腎線維症、肺線維症、及び炎症性腸疾患を伴う患者の異なるコホートにおいて増加する。抗クローディン-1モノクローナル抗体は、片側尿管閉塞(UUO)マウスモデルにおける腎臓線維症に対して、顕著で高度に有意な抗線維化効果を有することが見出された。抗クローディン-1mAbはまた、腎線維症のアドリアマイシン誘導性マウスモデルにおいて血清クレアチニン及びBUNを改善することが見出された。さらに、本発明者らは、肝臓と比較し、腎臓及び肺における抗クローディン-1モノクローナル抗体の抗線維化効果に関与している異なる機構を示す、蓄積する証拠を見出した。
【0007】
結果的に、一態様において、本発明は、肺線維症、腎線維症、及び皮膚線維症からなる群より選択される線維性疾患の予防又は処置における使用のための、抗クローディン-1抗体、又はその生物学的に活性なフラグメントを提供する。
【0008】
特定の実施形態において、肺線維症は、特発性肺線維症(IPF)、特発性非特異性間質性肺炎(NSIP)、特発性器質化肺炎(COP)、ハマンリッチ症候群、リンパ球性間質性肺炎(LIP)、呼吸性気管支炎間質性肺疾患、剥離性間質性肺炎又は特発性リンパ性間質性肺炎、及び特発性胸膜実質性線維弾性症からなる群より選択される慢性肺疾患の末期を表す。
【0009】
特定の実施形態において、肺線維症は、感染症、例えばCOVID19関連感染症などに起因する。
【0010】
特定の実施形態において、肺線維症は、慢性閉塞性肺疾患に関連付けられる。
【0011】
特定の実施形態において、線維性疾患は肺線維症であり、抗クローディン-1抗体、又はその生物学的に活性なフラグメントは、コルチコステロイド、抗線維化剤、ピルフェニドン、ニンテダニブ、及び抗酸性薬物からなる群より選択される少なくとも1つの治療薬剤との、ならびに/あるいは肺移植、高圧酸素治療、及び肺リハビリテーションからなる群より選択される治療手順との組合せにおいて投与される。
【0012】
他の実施形態において、腎線維症は、腎間質性線維症又は糸球体硬化症である。
【0013】
特定の実施形態において、腎線維症は、慢性腎臓疾患に関連付けられる。
【0014】
特定の実施形態において、線維性疾患は腎線維症であり、抗クローディン-1抗体、又はその生物学的に活性なフラグメントは、降圧薬、1,25-ジヒドロキシビタミンD3、エリスロポイエチン、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、アンジオテンシンII受容体拮抗薬AST-120、及びポリスチレンスルホン酸カルシウムからなる群より選択される少なくとも1つの治療薬との、ならびに/あるいは透析及び腎臓移植からなる群より選択される1つの治療手順との組合せにおいて投与される。
【0015】
特定の実施形態において、皮膚線維症は、限局性(モルフェア、線状強皮症)及び全身性の両方の形態における強皮症、移植片対宿主病(GVHD)、腎性線維性皮膚症、混合性結合組織疾患、強皮症、硬化性粘液水腫、好酸球性筋炎、色素芽球性真菌症、肥大性瘢痕、及びケロイドからなる群より選択される医学的状態に関連付けられる。特定の実施形態において、皮膚線維症は、医学的介入(例、放射線治療)により、化学物質への環境的又は職業的な曝露(例、L-トリプトファンにより誘導される好酸球増多症-筋肉痛症候群において);及び特定の物理的作用(身体的外傷、外科的傷害、熱又は氷の皮膚火傷)への曝露により誘導される。
【0016】
特定の実施形態において、線維性疾患は皮膚線維症であり、抗クローディン-1抗体、又はその生物学的に活性なフラグメントは、メトトレキサート、ミコフェノール酸、モフェチル、シクロホスファミド、シクロスポリン、トシリズマブ、リツキシマブ、及びフレソリムマブからなる群より選択される少なくとも1つの治療薬剤との、ならびに/あるいは1つの治療手順(例、紫外線照射)との組合せにおいて投与される。
【0017】
特定の実施形態において、肺線維症、腎線維症、又は皮膚線維症の予防又は処置において使用される抗クローディン-1抗体は、モノクローナル抗体である。
【0018】
特定の実施形態において、抗クローディン-1モノクローナル抗体は、DSM ACC2931、DSM ACC2932、DSM ACC2933、DSM ACC2934、DSM ACC2935、DSM ACC29316、DSM ACC2937、及びDSM ACC2938からなる群より選択されるアクセッション番号の下で、2008年7月29日にDSMZに寄託されたハイブリドーマ細胞株により分泌されるモノクローナル抗体と同じエピトープを有する。
【0019】
特定の実施形態において、エピトープは、クローディン-1の第1細胞外ループ中の保存されたモチーフW(30)-GLW(51)-C(54)-C(64)の保存に強く依存している。
【0020】
他の実施形態において、抗クローディン-1抗体は、DSM ACC2931、DSM ACC2932、DSM ACC2933、DSM ACC2934、DSM ACC2935、DSM ACC2936、DSM ACC2937、及びDSM ACC2938からなる群より選択されるアクセッション番号の下で、2008年7月29日にDSMZに寄託されたハイブリドーマ細胞株により分泌されるモノクローナル抗体である。
【0021】
他の実施形態において、抗クローディン-1抗体は、DSM ACC2931、DSM ACC2932、DSM ACC2933、DSM ACC2934、DSM ACC2935、DSM ACC2936、DSM ACC2937、及びDSM ACC2938からなる群より選択されるアクセッション番号の下で、2008年7月29日にDSMZに寄託されたハイブリドーマ細胞株により分泌されるモノクローナル抗体の6つの相補性決定領域(CDR)を含むモノクローナル抗体である。
【0022】
特定の実施形態において、肺線維症、腎線維症、又は皮膚線維症の予防又は処置において使用される抗クローディン-1抗体は、ヒト化されている。
【0023】
ヒト化抗クローディン-1抗体は、アクセッション番号DSM ACC2938の下で寄託されたハイブリドーマ細胞株により分泌されるモノクローナル抗体OM-7D3-B3の6つのCDRの全てを含むモノクローナル抗体でありうるが、OM-7D3-B3の可変重鎖は、配列番号1のアミノ酸配列からなり、OM-7D3-B3の可変軽鎖は、配列番号2のアミノ酸配列からなり、前記ヒト化抗クローディン-1モノクローナル抗体は、以下をさらに含む:
a)配列番号3又は配列番号4又は配列番号5のアミノ酸配列からなる少なくとも1つの抗体可変重鎖(VH)、又は
b)配列番号6又は配列番号7又は配列番号8のアミノ酸配列からなる少なくとも1つの抗体可変軽鎖(VL)。
【0024】
例えば、ヒト化抗クローディン-1モノクローナル抗体は、以下を含みうる:
a)2つの抗体可変重鎖(VH)(両方の可変重鎖が配列番号3又は配列番号4又は配列番号5のアミノ酸配列からなる)、あるいは
b)2つの抗体可変軽鎖(VL)(両方の可変軽鎖が配列番号6又は配列番号7又は配列番号8のアミノ酸配列からなる)。
【0025】
例えば、ヒト化抗クローディン-1モノクローナル抗体は、以下を含みうる:
1)配列番号3のアミノ酸配列からなる2つの抗体可変重鎖(VH)、及び配列番号6のアミノ酸配列からなる2つの抗体可変軽鎖(VL)[H3L3];又は
2)配列番号3のアミノ酸配列からなる2つの抗体可変重鎖(VH)、及び配列番号7のアミノ酸配列からなる2つの抗体可変軽鎖(VL)[H3L1];又は
3)配列番号3のアミノ酸配列からなる2つの抗体可変重鎖(VH)、及び配列番号8のアミノ酸配列からなる2つの抗体可変軽鎖(VL)[H3L2];又は
4)配列番号4のアミノ酸配列からなる2つの抗体可変重鎖(VH)、及び配列番号6のアミノ酸配列からなる2つの抗体可変軽鎖(VL)[H1L3];又は
5)配列番号4のアミノ酸配列からなる2つの抗体可変重鎖(VH)、及び配列番号7のアミノ酸配列からなる2つの抗体可変軽鎖(VL)[H1L1];又は
6)配列番号4のアミノ酸配列からなる2つの抗体可変重鎖(VH)、及び配列番号8のアミノ酸配列からなる2つの抗体可変軽鎖(VL)[H1L2];又は
7)配列番号5のアミノ酸配列からなる2つの抗体可変重鎖(VH)、及び配列番号6のアミノ酸配列からなる2つの抗体可変軽鎖(VL)[H2L3];又は
8)配列番号5のアミノ酸配列からなる2つの抗体可変重鎖(VH)、及び配列番号7のアミノ酸配列からなる2つの抗体可変軽鎖(VL)[H2L1];又は
9)配列番号5のアミノ酸配列からなる2つの抗体可変重鎖(VH)、及び配列番号8のアミノ酸配列からなる2つの抗体可変軽鎖(VL)[H2L2]。
【0026】
特定の実施形態において、ヒト化抗クローディン-1モノクローナル抗体は、IgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4からなる群より選択されるアイソタイプを有する完全な抗体である。特定の実施形態において、これらのアイソタイプは、例えば、Fc受容体媒介性の相互作用を減弱又は増強するために、あるいは抗体の半減期及び分布特性を減弱又は増強するために、追加の特性を与えるように操作されうる。
【0027】
本発明はまた、対象における肺線維症、腎線維症、及び皮膚線維症より選択される線維性疾患の予防又は処置における使用のための、有効量の抗クローディン-1抗体、又はその生物学的に活性なフラグメント、及び少なくとも1つの医薬的に許容可能な担体又は賦形剤を含む医薬組成物を提供する。
【0028】
医薬組成物のそのような使用において、肺線維症、腎線維症、及び皮膚線維症は、上で定義する通りでありうる;ならびに、抗クローディン-1抗体、又はその生物学的に活性なフラグメントは、上で定義する通りでありうる。
【0029】
本発明はさらに、対象における肺線維症又は腎線維症又は皮膚線維症を予防又は処置するための方法を提供し、この方法は、治療効率の高い量の抗クローディン-1抗体、又はその生物学的に活性なフラグメントを対象に投与することを含む。予防及び/又は処置のそのような使用において、肺線維症、腎線維症、及び皮膚線維症は、上で定義する通りでありうる;ならびに、抗クローディン-1抗体、又はその生物学的に活性なフラグメントは、上で定義する通りでありうる。
【0030】
本発明のこれらの及び他の目的、利点、及び特色は、好ましい実施形態の以下の詳細な説明を読んだ当業者には明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】
図1.マウスにおける抗CLDN1 mAbの生体内分布。マウス(群/時間点当たりn=6)に500μgのAlexafluor 750コントロールmAb(灰色のバー)又はCLDN1特異的mAb(青色のバー)を注射し、注射後(A)24時間又は(B)48時間で屠殺した。特定の蛍光を、特定のフィルターセットを伴うIVIS Lumina 50デバイスを使用して、各々の示した臓器において検出し、平均効率として表現した。横線は平均値を示す。結果は、6匹のマウスからの平均値±s.e.mを示す。
*p<0.05、
**p<0.01(マンホイットニー検定)。
【
図2A-B】
図2.抗CLDN1 mAbは、肺線維症の予防及び早期処置についての最先端のマウスモデルにおいて肺線維症を有意に低下させる。(A)予防及び早期処置試験デザイン。6週齢の雌C57BL/6Jマウスは、肺線維症を誘導するために気管内ブレオマイシン噴霧(3mg/kg)を受けて、溶媒、CLDN1特異的mAb、及びデキサメタゾン(陽性コントロール)を21日間にわたり受けるように無作為化された。各々の群は18匹のマウスを含んだ。(B)Ashcroft線維症スコアが、溶媒群と比較し、CLDN1 mAb群において有意に低下した。データを、平均値(三角)、中央値(線)、第1及び第3四分位数(ボックスの下部及び上部)として表す。
【
図2C】(C)処置群当たりの1つの代表的なマウス肺のマッソントリクローム染色。
【
図2D-E】(D)デキサメタゾン処置マウスが、溶媒群と比較し、有意により低い生存率を有したことを示すカプランマイヤー曲線。(E)デキサメタゾン群では、マウスの体重の有意な低下が、実験の間に観察された。
*p<0.05、
**p<0.01、
***p<0.001、N.S.=有意ではない。
【
図3A-B】
図3.抗CLDN1 mAbは、肺線維症の後期処置についての最先端のマウスモデルにおいて肺線維症を低下させる。(A)後期処置試験デザイン。6週齢の雌C57BL/6Jマウスは、肺線維症を誘導するために気管内ブレオマイシン噴霧(3mg/kg)を受けて、溶媒、抗ヒトCLDN1特異的mAb又はニンテダニブ(陽性コントロール)を7日から21日まで受けるように無作為化された。各々の群は18匹のマウスを含んだ。(B)肺ヒドロキシプロリンレベルは、CLDN1 mAb群において有意に低下した。体重は2つの処置群間で異ならなかった。データを、平均値(三角)、中央値(線)、第1及び第3四分位数(ボックスの下部及び上部)として表す。
【
図3C】(C)処置群当たりの1つの代表的なマウス肺のマッソントリクローム染色。
【
図3D-E】(D)群間で差がないことを示すカプランマイヤー曲線。(E)マウスの体重の有意な低下は、全ての群において実験の間に観察されなかった。
*p<0.05、N.S.=有意ではない。
【
図4】
図4.腎臓RPTEC/TERT1及び肺A549細胞株で発現されたCLDN1を標的化するヒト化CLDN1特異的MAbの結合特性。細胞を、示すように、増加濃度のヒト化H3L3CLDN1特異的mAbとインキュベートした。代表的なヒストグラムは、各々の特定の細胞株についての飽和点でのヒト化H3L3 CLDN1特異的mAbの結合を示す:(A)RPTEC/TERT1(50μg/mL)及び(B)A549(20μg/mL)。結合を、PE標識抗ヒトとのインキュベーション後にフローサイトメトリーにより測定し、Cytoflex及びFlowJoV10で分析した。ヒト化H3L3 CLDN1特異的mAbと(C)RPTEC/TERT1(50μg/mL)細胞及び(D)A549(20μg/mL)細胞により発現されるCLDN1の間での相互作用の結合定数Kdを、それぞれPE蛍光強度の中央値(MFI)を使用したR3.5.1におけるミカエリス・メンテン数学モデルを適用することによって決定した。グラフは、各々の特定の細胞株についての飽和点までのヒト化H3L3CLDN1特異的mAbの結合を示す。
【
図5】
図5.CLDN1特異的MAbは、A549細胞におけるPLSを逆転させ、TGFβシグナル伝達を低下させる。(A)A549細胞を、24時間のTGFβ(5ng/mL)及びCLDN1 mAb(20μg/mL)処理を伴って、又は伴わずに24時間にわたり培養した。RNAを抽出し、PLS遺伝子発現を、nCounter Nanostring技術を使用して測定し、Gene Set Enrichment Analysis(GSEA)により定量的に評価した。ヒートマップは以下を示す:不良(オレンジ)又は良好(緑)な予後としてのPLS状態;(下)PLSの不良又は良好な予後遺伝子の誘導(赤)又は抑制(青)の有意性。(B)CLDN1特異的mAb処理により調節された2つの不良な予後の差次的発現遺伝子(SERPINB2及びFMO1)の平均値及び平均値の標準誤差を示す相対的な遺伝子発現値(n=3、倍率変化-1.7、
****p値<0.0001)。NT:処理なし。(C)4549細胞をTGFβシグナル伝達レポータープラスミドpGL4.48[luc2P/SBE/Hygro](Promega)でトランスフェクトし、コントロール又はCLDN1特異的mAb(50μg/mL)で、37℃で3時間にわたり処理した。細胞を、TGFβ(10ng/mL)を含む培地で、37℃で3時間にわたり刺激した。平均値及び平均値の標準誤差を示す倍率変化を、偽サンプルに対して標準化された発光強度から算出した(n=6、CLND1 mAb n=5、
****p値<0.0001、
**p値<0.01)。
【
図6】
図6.ブレオマイシン誘導性皮膚線維症モデル。マウス皮膚の1.5×1.5cmの領域を剃毛し、ブレオマイシン(BLM)1.0mg/kgを四隅に、4週間にわたり隔日で投与した。マウスを屠殺し、皮膚領域を、コラーゲンアッセイ、組織学的及び生化学的分析のためにサンプリングした。
【
図7】
図7.皮膚線維症についての新たな処置を検査するための試験デザイン。この試験は、正常なマウス、ブレオマイシン(BLM)+溶媒(腹腔内)、BLM+イマチニブ(腹腔内)(50mg/kg)(陽性コントロール群として)及びBLM+抗CLDN1特異的mAbを含む。臨床データ、生化学及び組織病理学的アッセイを実施し、収集する。
【
図8】
図8.皮膚の厚さ及び皮膚線維症の定量化。ヘマトキシリン及びエオシン(HE)ならびにマッソントリクローム(MT)を使用し、それぞれ皮膚の厚さ及び皮膚線維症を定量化する。イマチニブは、皮膚の厚さを低下させる際での有意な効果、及び皮膚線維症の低下における傾向を示した。
【
図9A-B】
図9.CLDN1は線維化腎臓及び肺疾患において過剰発現している。(A)健常な腎臓と比較した、膜性糸球体腎炎(MG)(左パネル、GSE11585)及び線維化腎臓組織(右パネル、GSE60685)を伴う患者の腎組織中でのCLDN1遺伝子発現を、シグナル強度値として示す。(B)CLDN1発現は線維化慢性腎臓疾患に関連付けられる。患者コホート(GSE115857 n=6健常組織及びn=11膜性糸球体腎炎(MG))、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)(GSE129973非罹患切片n=20及びFSGS切片n=20)の腎組織中でのCLDN1発現。CLDN1 mRNA発現を、実施例8の材料及び方法において記載されているように分析し、シグナル強度値として示す。
【
図9C】(C)左パネル:健常な肺組織(それぞれGSE2052及びGSE24988)と比較した異なる病因のIPF及び肺線維症を伴う患者の肺組織中でのCLDN1遺伝子発現を、シグナル強度値として示す。スケールにおける差は、異なる種類のアレイ及び標準化方法に起因し、絶対的な発現レベルを反映しない。スチューデントのt検定、
**p<0.01、
***p<0.001、
****p<0.0001。
【
図10A-D】
図10.抗CLDN1 mAbは、TNFα-NFκB制御CLDN1発現を標的化し、EMTプログラミングに干渉することにより肺線維芽細胞の活性化を抑制する。(A-B)α-SMAを発現する肺線維芽細胞(A)及び腎臓線維芽細胞(B)でのCLDN1発現及びヒト化抗CLDN1 mAbの結合の代表的な画像を示す。染色の特異性は、コントロールmAbの結合の非存在により確認された。(C)腎臓線維芽細胞(左パネル)及び肺線維芽細胞(右パネル)をTNFα(20ng/ml)、IKK-16(1μM)、TNFα+IKK16、又は溶媒コントロール(偽)でそれぞれ処理し、抗CLDN1 mAb H3L3の結合のフルオロサイトメトリー分析に供した。コントロールmAbと比較した肺又は腎臓の線維芽細胞に結合する抗CLDN1 mAbのΔMFIを、各々の条件について示す(実施例6の材料及び方法のセクションにおいて記載されているように、各々の条件について3通りに実施された3つの実験のプール分析)。(D)コントロールmAbと比較した抗CLDN1 mAbによる、IPF患者から由来する肺線維芽細胞中での肺線維芽細胞活性化(左パネル)及びEMTプログラミング(HALLMARK_EPITHELIAL_MESENCHYMAL_TRANSITION)(右パネル)に関連する遺伝子の調節を示す。ヒートマップは逆転の有意性(FDR)を示す。
【
図10E】(E)抗CLDN1 mAb又はコントロールmAbで処理された肺線維芽細胞中でのEMTマーカーFN1(左パネル)、N-カドヘリン(中央パネル)、及びSNAI2(右パネル)のRNA-Seq遺伝子発現データを、読み取りカウントとして示す。箱ひげ図は、中央値(-)、第1及び第3四分位数(ボックスの下部及び上部)、及び単一のデータポイント(●)を表す。スチューデントのt検定。
*p値<0.05、
***p値<0.001、
****p値<0.0001。
【
図11】
図11.ボーマン嚢中でのPECの位置。ボーマン嚢は、頭頂上皮細胞(PEC)(緑色)により裏打ちされている。血管極では、PECは青色の足細胞(内臓足細胞)と直接的に連続している。異なる表現型又はマーカー発現プロファイル、及び異なる疾患状態において増加した移動又は増殖を示すPECは、aPEC(赤色)である。近位尿細管上皮細胞を黄色で示す。略語:PEC、壁側上皮細胞;aPEC、活性化PEC。Shankland et al.,Curr.Opin.Nephrol.Hypertens.,2013,22:302-309)から採用された図。
【
図12】
図12.炎症性ストレス時のCLDN1発現の増加は、PEC分化に関連付けられる。(A-B)炎症性ストレスは、PEC分化及びCLDN1過剰発現を誘導する。ヒト腎上皮細胞(HREpic)をTNFαで合計6日間にわたり処理した。遺伝子発現をqRT-PCRにより分析した。グラフは、3通りに実施された2つの独立した実験からの平均値+sdを示す(
*p<0.05;
**p<0.01;
***p<0.001、T検定)。(C)TNFα処理後のCLDN1タンパク質発現のウエスタンブロット分析。2つのうちの1つの代表的な実験を示す。(D)HREPic上のヒト化H3L3 CLDN1特異的mAbの結合を示す代表的なヒストグラム。結合を、TNFα処理後の24時間にフローサイトメトリーにより評価した。(E)CLDN1ノックダウンは、TNFα及びコラーゲン4A(COL4A)発現を減少させる。CLDN1ノックダウン。HREpic細胞を、CLDN1発現を標的化する特定のsiRNA(siCLDN1)又は非標的siRNA(siCTRL)により逆形質導入し、トランスフェクション後の48時間にTNFαで処理した。遺伝子発現をqRT-PCRにより分析した。グラフは、3系で実施された1つの実験からの平均値+sdを示す(
*p<0.05;
**p<0.01;
***p<0.001、T検定)。
【
図13】
図13.CLDN1特異的mAbでの処理によって、PECの活性化及び増殖が減少する。(A)実験手順(実施例7を参照のこと)。ヒト腎上皮細胞(HREpic)を3Dにおいて増殖させ、TNFα及びモタビズマブ(CTRL)又はH3L3(抗CL DN1 mAb)で合計6日間にわたり処理した。(B)細胞増殖/生存率をATP定量化により評価した。実験を4系で実施した。1つの実験を示す。(C)CLDN1特異的mAbは、TNFα発現及びPEC活性化を減少させる。HREpic細胞をCLDN1特異的mAb(H3L3)又はコントロール抗体(モタビズマブ)で合計6日間にわたり処理した。遺伝子発現をqRT-PCRにより分析した。グラフは、3系で実施された1つの実験からの平均値+sdを示す(
*p<0.05;
**p<0.01;
***p<0.001、T検定)。
【
図14】
図14:(A)CLDN1発現は肺線維症に関連付けられる。患者コホート(GSE2052 n=11健常組織及びn=13 IPF組織)、肺線維症(GSE24988健常組織n=11及び線維性組織n=129)の肺組織中でのCLDN1発現。CLDN1 mRNA発現を、実施例8の材料及び方法において記載されているように分析し、シグナル強度値として示す。(B)CLDN1発現はCOVID-19肺疾患に関連付けられる。コントロールの健常な患者(GSE2052健常組織n=11)及びCOVID-19患者コホート(GSE150316 n=15)の肺組織中でのCLDN1発現。CLDN1 mRNA発現を、実施例8の材料及び方法において記載されているように分析し、シグナル強度値として示す。
【
図15】
図15:CLDN1発現は潰瘍性大腸炎に関連付けられる。患者コホートのIBD組織中でのCLDN1発現。GSE9452(非炎症粘膜n=18、炎症粘膜n=8);GSE38713(コントロールn=13、寛解UC n=8、非粘膜UC n=7、粘膜n=15)及びGSE38713(コントロールn=8、CD n=11、UC n=5)。CLDN1 mRNA発現を、実施例8の材料及び方法において記載されているように分析し、シグナル強度値として示す。UC:潰瘍性大腸炎、CD:クローン病。
【
図16】
図16:CLDN1発現は、片側性尿管閉塞(UUO)モデルにおける線維化慢性腎臓疾患と関連付けられる。腎線維症マウスモデル(UUO)におけるCLDN1発現(GSE60685健常組織n=12及び線維化組織n=13)。CLDN1 mRNA発現を、実施例8の材料及び方法において記載されているように分析し、シグナル強度値として示す。
【
図17】
図17:腎臓線維症のUUOマウスモデルにおける線維形成に対する抗CLDN1 mAbの効果。試験プロトコール:7週齢の雌C57BL/6Jマウスを、0日目に麻酔下でUUO手術に供した。ヒト化抗CLDN1 mAb(500μg/マウス腹腔内週2回、n=8)、テルミサルタン(30mg/kg経口1日1回、n=8)、又は溶媒コントロール(n=8)を0日目から13日目まで投与した。
【
図18】
図18:溶媒、抗CLDN1 mAb、又はテミサルタン(コントロールとして使用)での13日間の処置に供された片側尿管閉塞(UUO)マウス(片側尿管閉塞誘導性の腎間質性線維症のモデル)の体重変化。実施例9を参照のこと。
【
図19】
図19:溶媒、抗CLDN1 mAb、又はテミサルタン(コントロールとして使用)を受けたUUOマウスの(A)屠殺の時間での体重、(B)右腎臓重量、及び(C)左腎臓重量。実施例9を参照のこと。
【
図20】
図20:生化学。溶媒、抗CLDN1 mAb、又はテミサルタン(コントロールとして使用)を受けたUUOマウスの(A)血漿尿素窒素及び(B)腎臓ヒドロキシプロリン。実施例9を参照のこと。
【
図21】
図21:組織学的分析。溶媒、抗CLDN1 mAb、又はテミサルタン(コントロールとして使用)を受けたUUOマウスからのPAS染色された腎臓切片の代表的な顕微鏡写真。実施例9を参照のこと。
【
図22】
図22:シリウスレッド染色された腎臓。シリウスレッド染色された腎臓切片の代表的な顕微鏡写真及び溶媒、抗CLDN1 mAb、又はテミサルタン(コントロールとして使用)を受けたUUOマウスからの腎臓切片についての線維症領域を示すグラフ。実施例9を参照のこと。
【
図23】
図23:F4/80-免疫染色された腎臓。溶媒、抗CLDN1 mAb、又はテミサルタン(コントロールとして使用)を受けたUUOマウスからのF4/80免疫染色された腎臓切片の代表的な顕微鏡写真。実施例9を参照のこと。
【
図24】
図24:ヒト組織染色によって、ヒト腎臓における標的の関与が明らかになる:健常なヒト腎臓の凍結切片を(A)抗CLDN1 mAb又は(B)アイソタイプコントロールで染色し、標的の関与を実証した。異なる染色が、ボーマン膜及び足細胞で観察された(矢印)。
【
図25】
図25:異なる形態のヒト腎臓線維症病理の組織学的評価。ホルマリン固定組織切片を抗CLDN1ポリ抗体で染色し、正常で健常な腎臓と比較した。略語:ANCA(抗好中球細胞質抗体関連血管炎)、FSGS(巣状分節性糸球体硬化症)、CS(コルチコステロイド)、及びCyA(シクロスポリンA)。
【
図26】
図26:アドリアマイシン誘導性の腎臓線維症モデルからの血清クレアチニン及びBUNデータ(単位mg/dl)(SMCラボで実施)。群当たり8匹のアドリアマイシン誘導性腎症雄BALB/cマウスに、溶媒[生理食塩水]、抗CLDNA 1 mAb(250μg/マウス、週2回)、又はコントロールとしてVPA(=バルプロ酸、飲料水中0.4%)を27日間にわたり腹腔内投与した。
【0032】
定義
明細書全体において、以下の段落において定義されているいくつかの用語を使用する。
【0033】
本明細書中で使用するように、用語「対象」は、線維性疾患を発症しうるヒト又は別の哺乳動物(例、霊長類、犬、猫、山羊、馬、ブタ、マウス、ラット、ウサギなど)を指すが、対象は、疾患に苦しんでいてもよく、あるいは苦しんでいなくてもよい。非ヒト対象は、トランスジェニック動物又は他の方法で改変された動物でありうる。本発明の多くの実施形態において、対象はヒトである。そのような実施形態において、対象はしばしば「個人」又は「患者」として言及される。用語「個人」は特定の年齢を意味せず、このように、新生児、小児、ティーンエイジャー、及び成人を包含する。用語「患者」は、より具体的には、疾患に苦しむ個人を指す。本発明の実施において、患者は一般的に線維性疾患と診断されるであろう。
【0034】
用語「処置」は、本明細書中では、(1)疾患又は状態(ここでは線維性疾患)の発症を遅延又は予防する;(2)疾患又は状態の症状の進行、増悪、又は悪化を遅らせる又は停止させる;(3)疾患又は状態の症状の寛解をもたらす;あるいは(4)疾患又は状態を治癒させることを目的とする方法又は過程を特徴付けるために使用される。処置は、予防的又は防止的作用のために、疾患又は状態の発症前に施してもよい。あるいは、又は加えて、処置は、治療作用のために、疾患又は状態の開始後に施してもよい。
【0035】
用語「線維性疾患」及び「線維性障害」は、本明細書中では互換的に使用され、それらの当技術分野で理解される意味を有する。それらは、調節不全の組織増殖及び健常組織を破壊する瘢痕により特徴付けられる臨床状態を指し、実質的に身体の任意の臓器(心臓、肺、腎臓、肝臓、及び皮膚を含む)の正常機能の破壊に導きうる。
【0036】
「医薬組成物」は、有効量の少なくとも1つの抗クローディン-1抗体(又はその生物学的に活性なフラグメント)、及び少なくとも1つの医薬学的に許容可能な担体又は賦形剤を含むとして本明細書中で定義する。
【0037】
本明細書中で使用するように、用語「有効量」は、その意図された目的、例えば、細胞、組織、システム、及び対象における所望の生物学的又は医薬品応答を満たすのに十分である化合物、薬剤、抗体、又は組成物の任意の量を指す。例えば、本発明の特定の実施形態において、目的は、線維性疾患の発症を予防すること、線維性疾患の症状の進行、憎悪、又は悪化を遅らせる、軽減又は停止させること;疾患の症状の寛解をもたらすこと、あるいは疾患を治癒させることであってもよい。
【0038】
用語「医薬的に許容可能な担体又は賦形剤」は、活性成分の生物学的活性の有効性に干渉せず、それが投与される濃度で宿主に対して過度に毒性ではない担体媒質を指す。
この用語は、溶剤、分散媒質、コーティング、抗菌剤及び抗真菌剤、等張剤、吸着遅延剤などを含む。医薬的に活性な物質のためのそのような媒質及び薬剤の使用は、当技術分野において周知である(例えば、“Remington’s Pharmaceutical Sciences”,E.W.Martin,18th Ed.,1990,Mack Publishing Co.:Easton,PA、参照によりその全体において本明細書中に組み入れられる)。
【0039】
用語「ヒトクローディン-1(又はCLDN1)」は、NCBIアクセッション番号NP_066924において示されている配列を有するタンパク質、又はHCV許容ヒト集団において一般的に見出される任意の天然変異体を指す。クローディン-1の用語「細胞外ドメイン」又は「エクトドメイン」は、細胞外空間(即ち、細胞の外側の空間)中に伸展するクローディン-1配列の領域を指す。
【0040】
用語「抗体」は、本明細書中で使用するように、抗原に免疫特異的に結合する抗原結合部位を含む任意の免疫グロブリンを指す。そのようなものとして、用語「抗体」は、全抗体分子だけでなく、誘導体及びフラグメントが特異的結合能力を維持する限り、抗体フラグメントならびに抗体の及び抗体フラグメントの変異体(誘導体を含む)も包含する。この用語は、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体を包含する。この用語はまた、結合ドメインを有する任意のタンパク質を対象とし、それは、免疫グロブリン結合ドメインと相同である又は大部分が相同である。これらのタンパク質は、天然供給源から由来してもよく、あるいは部分的又は全体的に合成的に産生されてもよい。
【0041】
用語「特異的結合」は、抗体への参照において使用される場合、所定の抗原に結合する抗体を指す。典型的には、抗体は少なくとも1x107M-1の親和性で結合し、非特異的抗原(例、BSA、カゼイン)への結合についての親和性よりも少なくとも2倍大きな親和性で所定の抗原に結合する。
【0042】
本明細書中で使用するように、用語「ヒト化抗体」は、非ヒト超可変領域からのアミノ酸残基及びヒトフレームワーク領域(FR)からのアミノ酸残基を含むキメラ抗体を指す。特に、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの全て又は実質的に全てを含み、それにおいて、相補性決定領域(CDR)の全て又は実質的に全てがヒト抗体のものである。ヒト化抗体は、場合により、ヒト抗体から由来する抗体定常領域の少なくとも一部を含んでもよい。抗体の「ヒト化形態」、例えば、非ヒト抗体は、ヒト化を受けた抗体を指す。
【0043】
用語「単離された」は、タンパク質又はポリペプチドへの参照において本明細書中で使用するように、その起源又は操作により、それが自然に関連付けられる又はそれが最初に得られた際に関連付けられる成分の少なくとも一部から分離されるタンパク質又はポリペプチドを意味する。「単離された」により、代わりに又は加えて、目的のタンパク質又はポリペプチドが人の手により産生又は合成されることが意味される。
【0044】
用語「タンパク質」、「ポリペプチド」、及び「ペプチド」は、本明細書中では互換的に使用され、それらの中性(非荷電)形態において又は塩として、非修飾である、あるいはグリコシル化、側鎖酸化、又はリン酸化により修飾された、多様な長さのアミノ酸配列を指す。特定の実施形態において、アミノ酸配列は、完全長の天然タンパク質である。他の実施形態において、アミノ酸配列は、全長タンパク質のより小さなフラグメントである。さらに他の実施形態において、アミノ酸配列は、アミノ酸側鎖に付着された追加の置換基、例えばグリコシル単位、脂質など、又は無機イオン、例えばリン酸など、ならびに鎖の化学的変換に関連する修飾、例えばスルフヒドリル基の酸化などにより修飾される。このように、用語「タンパク質」(又はその同等の用語)は、その特定の特性を有意に変化させない修飾に供される、完全長の天然タンパク質、又はそのフラグメントのアミノ酸配列を含むことを意図する。特に、用語「タンパク質」は、タンパク質アイソフォーム、即ち、同じ遺伝子によりコードされるが、しかし、それらのpI又はMW、あるいはその両方において異なる変異体を包含する。そのようなアイソフォームは、それらのアミノ酸配列において異なりうる(例、対立遺伝子変異、選択的スプライシング、又は限定されたタンパク質分解の結果として)、又は代替法において、差次的な翻訳後修飾(例、グリコシル化、アシル化、リン酸化)から生じるものであってもよい。
【0045】
用語「類似体」は、本明細書中でタンパク質への参照において使用するように、タンパク質と類似の又は同一の機能を持つが、しかし、タンパク質のアミノ酸配列と類似又は同一であるアミノ酸配列あるいはタンパク質の構造と類似又は同一の構造を必ずしも含む必要はないポリペプチドを指す。好ましくは、本発明の文脈において、タンパク質類似体は、タンパク質のアミノ酸配列と少なくとも30%、より好ましくは、少なくとも35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は99%同一であるアミノ酸配列を有する。
【0046】
用語「フラグメント」及び用語「部分」は、タンパク質への参照において本明細書中で使用するように、タンパク質のアミノ酸配列の少なくとも5つの連続アミノ酸残基(好ましくは、少なくとも約10、15、20、25、30、35、40、50、60、70、80、90、100、125、150、175、200、250又はそれ以上の連続アミノ酸残基)のアミノ酸配列を含むポリペプチドを指す。タンパク質のフラグメントは、タンパク質の機能的活性を持っていてもよく、又は持っていなくてもよい。
【0047】
用語「生物学的に活性な」は、タンパク質変異体、類似体、又はフラグメントを特徴付けるために本明細書中で使用するように、タンパク質と類似の又は同一の特性を示すために、タンパク質との十分なアミノ酸配列同一性又は相同性を共有する分子を指す。例えば、本発明の多くの実施形態において、抗クローディン-1抗体の生物学的に活性なフラグメントは、抗原に結合する抗体全体の能力を保持するフラグメントである。
【0048】
用語「相同」(又は「相同性」)は、本明細書中で使用するように、用語「同一性」と同義であり、2つのポリペプチド分子間又は2つの核酸分子間の配列類似性を指す。両方の比較配列中の位置が、同じ塩基又は同じアミノ酸残基により占められている場合、それぞれの分子は次に、その位置で相同である。2つの配列間の相同性のパーセンテージは、2つの配列により共有される一致する又は相同な位置の数を、比較される位置の数により割り、100を掛けたものに対応する。一般的に、比較は、2つの配列が最大の相同性を与えるように整列されている場合に行われる。相同アミノ酸配列は、同一の又は類似のアミノ酸配列を共有する。類似の残基は、参照配列中の対応するアミノ酸残基についての保存的置換、又はその「許容点変異」である。参照配列中の残基の「保存的置換」は、対応する参照残基と物理的又は機能的に類似している、例えば、同様のサイズ、形状、電荷、化学的特性(共有結合又は水素結合を形成する能力などを含む)を有する置換である。特に好ましい保存的置換は、Dayhoffら(“Atlas of Protein Sequence and Structure”,1978,Nat.Biomed.Res.Foundation,Washington,DC,Suppl.3,22:354-352)により記載されたように、「受け入れられた点変異」について定義された基準を満たすものである。
【0049】
用語「標識された」、「検出可能な薬剤で標識された」、及び「検出可能な部分で標識された」は、本明細書中で互換的に使用される。これらの用語は、例えば、別の実体(例、抗原)への結合に続いて、実体(例、抗体)を視覚化することができることを明記するために使用される。好ましくは、検出可能な薬剤又は部分は、測定することができ、その強度が結合された実体の量に関連している(例、比例している)シグナルを生成するように選択される。タンパク質及びポリペプチド(抗体を含む)を標識するための方法は、当技術分野において周知である。標識されたポリペプチドは、分光学的、光化学的、生化学的、免疫化学的、電気的、光学的、又は化学的な手段、あるいは任意の他の適した手段により直接的又は間接的に検出可能である標識の組込み、又はその結合により調製することができる。適した検出可能な薬剤は、種々のリガンド、放射性核種、蛍光色素、化学発光剤、微粒子、酵素、比色標識、磁気標識、及びハプテンを含むが、これらに限定しない。
【0050】
数への参照において本明細書中で使用される用語「およそ」及び「約」は、一般的に、他に記述しない、又は文脈から他に明白でない限り(そのような数が可能な値の100%を超えうる場合を除く)、数のいずれかの方向(その数より大きい又は小さい)において10%の範囲内にある数を含む。
【発明を実施するための形態】
【0051】
上に記述するように、本発明は、線維性疾患の予防及び/又は処置のための抗クローディン-1抗体の使用に関する。特に、本発明は、肺線維症、腎臓線維症、及び皮膚線維症の予防及び/又は処置のための抗クローディン-1抗体の使用に関する。
【0052】
I-抗クローディン-1抗体
本発明者らは、ヒトクローディン-1に対するモノクローナル抗体を以前に開発し、これらのモノクローナル抗体によって、検出可能な有害効果を伴うことなく、インビボでHCV感染が治癒されることを実証した(EP08305597及びWO2010/034812を参照のこと)。彼らは次に、抗クローディン-1モノクローナル抗体が肝細胞シグナル伝達に干渉し、肝細胞ベースのモデルシステムにおける患者由来の肝細胞癌(HCC)リスクシグネチャーを逆転させ、病因に無関係に肝細胞癌(HCC)の予防及び/又は処置において有用になることを示した(EP15159872及びWO2016/146809を参照のこと)。彼らは現在、抗クローディン-1抗体が、線維性疾患、特に肺線維症、例えば特発性肺線維症(IPF)などの予防又は処置において使用することができることを実証している。
【0053】
本発明の実施において使用することができる抗クローディン-1抗体には、クローディン1に対して産生された任意の抗体を含む。本発明の実施において使用することができる抗クローディン-1抗体の例は、特に、本発明者らにより開発されたポリクローナル及びモノクローナル抗CLDN1抗体を含む(EP08305597及びWO2010/034812、Fofana et al.,Gastroenterology,2010,139(3):953-64,964.e1-4を参照のこと)。これらの文書において記載されているように、8つのモノクローナル抗体が遺伝的免疫により産生され、クローディン1の細胞外ドメインを標的化することによりHCV感染を効率的に阻害することが示された。モノクローナル抗クローディン-1抗体は、OM-4A4-D4、OM-7C8-A8、OM-6D9-A6、OM-7D4-C1、OM-6E1-B5、OM-3E5-B6、OM-8A9-A3、及びOM-7D3-B3と呼ぶ。このように、本発明の実施における使用のために適した抗クローディン-1抗体は、DSMZ(Deutsche Sammlung von Mikro-organismen und Zelkuturen GmbH,Inhoffenstrabe 7 B,38124 Braunschweig,Germany)にINSERM(本出願人の1人)及びGENOVACにより2008年7月29日にアクセッション番号DSM ACC2931、DSM ACC2932、DSM ACC2933、DSM ACC2934、DSM ACC2935、DSM ACC2936、DSM ACC2937、及びDSM ACC2938の下で寄託されたハイブリドーマ細胞株の任意の1つにより分泌されたモノクローナル抗体を含む(EP08305597及びWO2010/034812に記載)。
【0054】
本発明の実施における使用のために適した他の抗クローディン-1抗体は、上に列挙するハイブリドーマ細胞株の任意の1つにより分泌される抗クローディン-1モノクローナル抗体と同じエピトープを有するモノクローナル抗体を含む。特定の実施形態において、エピトープは、クローディン-1の第1細胞外ループ中の保存されたモチーフW(30)-GLW(51)-C(54)-C(64)の保存に強く依存している(EP08305597及びWO2010/034812を参照のこと)。
【0055】
適切な抗クローディン-1抗体の他の例は、欧州特許EP1167389号において、米国特許第6,627,439号において、WO2014/132307号の下で公開された国際特許出願において、WO2015/014659号及びWO2015/014357号の下で公開された国際特許出願において、及びYamashita et al.,J.Pharmacol.Exp.Ther.,2015,353(1):112-118において開示されたものを含む。
【0056】
本発明における使用のために適した抗クローディン-1抗体は、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体であってもよい。
【0057】
抗体の供給源として上に記載するハイブリドーマを使用する代わりに、抗クローディン-1抗体は、当技術分野において公知の任意の他の適した方法を使用して調製してもよい。例えば、抗クローディン-1モノクローナル抗体は、組換えDNA方法により調製してもよい。これらの方法は、一般的に、所望の抗体をコードする遺伝子の単離、適したベクター中への遺伝子の移入、及び細胞培養システム中でのバルク発現を含む。所望のモノクローナル抗体をコードする遺伝子又はDNAは、従来の手順を使用して(例、マウス抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することが可能であるオリゴヌクレオチドプローブを使用して)容易に単離及び配列決定されてもよい。ハイブリドーマ細胞株は、そのようなDNAの好ましい供給源として役立ちうる。抗体の組換え産生のための適した宿主細胞は、適切な哺乳動物宿主細胞、例えばCHO、HeLa、又はCV1などを含むが、これらに限定しない。適した発現プラスミドは、pcDNA3.1 Zeo、pIND(SP1)、pREP8(全てInvitrogen、Carlsbad(米国カリフォルニア州)から商業的に入手可能)などを含むが、これらに限定しない。抗体遺伝子は、ウイルス又はレトロウイルスベクター(MLVベースのベクター、ワクシニアウイルスベースのベクターなどを含む)を介して発現されてもよい。細胞は、標準的な方法を使用し、適した培養培地、例えば、DMEM及びRPMI-1640培地などにおいて増殖させてもよい。抗クローディン-1抗体は、単鎖抗体として発現させてもよい。組換え的に産生された抗体の単離及び精製は、標準的な方法により実施されてもよい。例えば、抗クローディン-1モノクローナル抗体は、プロテインA精製、硫酸アンモニウム又はエタノール沈殿、酸抽出、陰イオン又は陽イオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィー、例えばプロテインAカラム、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、レクチンクロマトグラフィーなど、あるいはこれらの方法の任意の適した組合せにより細胞培養物から回収及び精製してもよい。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)も精製のために用いることができる。
【0058】
あるいは、本発明に従った使用のための抗クローディン-1抗体は、商業的供給源から入手してもよい。
【0059】
特定の実施形態において、抗クローディン-1抗体は、その天然形態において使用される。他の実施形態において、それは、免疫グロブリンフラグメント又は部分、特に、生物学的に活性であるフラグメント又は部分を提供するために(例、酵素的切断又は他の適した方法を介して)切断される。抗クローディン-1抗体の生物学的に活性なフラグメント又は部分は、抗体全体の抗原、特にクローディン-1の細胞外ドメインに結合する抗体の能力を保持するフラグメント又は部分を含む。
【0060】
抗クローディン-1抗体の生物学的に活性なフラグメント又は部分は、抗体(例えば、抗クローディン-1モノクローナル抗体の全ての6つのCDRを含む抗体)のFabフラグメント又は部分、F(ab’)2フラグメント又は部分、可変ドメイン、あるいは1つ又は複数のCDR(相補性決定領域)であってもよい。あるいは、抗クローディン-1抗体の生物学的に活性なフラグメント又は部分は、抗体タンパク質のカルボキシル部分又は末端から由来しうる、及びFcフラグメント、Fdフラグメント、又はFvフラグメントを含んでもよい。
【0061】
本発明に従った使用のための抗クローディン-1抗体フラグメントは、当技術分野において公知の任意の適した方法(酵素的切断(例、インタクトな抗体のタンパク質分解消化)又は合成もしくは組換え技術を含むが、これらに限定しない)を使用して産生してもよい。例えば、F(ab’)2、Fab、Fv、及びScFv(単鎖Fv)抗体フラグメントを、哺乳類の宿主細胞において又は大腸菌において発現させ、それらから分泌させることができる。抗体はまた、1つ又は複数の終止コドンが、天然の終止部位の上流に導入されている抗体遺伝子を使用し、多様な切断形態において産生することができる。抗体の種々の部分は、従来の技術により化学的に連結することができ、又は遺伝子操作技術を使用して連続タンパク質として調製することができる。
【0062】
本発明に従った使用のために適した抗クローディン-1抗体(又はその生物学的に活性なフラグメント)は、修飾形態、例えば融合タンパク質(即ち、免疫グロブリン分子又はポリペプチド実体に連結されたその部分)などにおいて産生されてもよい。好ましくは、融合タンパク質は、抗体の生物学的活性を保持する。抗クローディン-1抗体、又はその生物学的に活性なフラグメントに融合されるポリペプチド実体は、結果として得られる融合タンパク質に多数の有利な特性のいずれかを付与するように選択されてもよい。例えば、ポリペプチド実体は、組換え融合タンパク質の増加発現を提供するように選択されてもよい。あるいは又は加えて、ポリペプチド実体は、例えば、親和性精製においてリガンドとして作用することにより、融合タンパク質の精製を促進するものであってもよい。タンパク質分解切断部位を組換えタンパク質に加えてもよく、その結果、所望の配列を、精製後にポリペプチド実体から最終的に分離することができるようになる。ポリペプチド実体はまた、安定性が目標である場合、融合タンパク質に改善された安定性を付与するように選択してもよい。適したポリペプチド実体の例は、例えば、ニッケルキレートカラム上で結果として得られた融合タンパク質の簡単な精製を可能にするポリヒスチジンタグを含む。グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、マルトースB結合タンパク質、又はプロテインAは、適したポリペプチドの他の例である。
【0063】
本発明に従った使用のための抗クローディン-1抗体は、安定性、溶解性、インビボ半減期、又は追加の標的に結合する能力を最適化するように再設計してもよい。特性におけるこれらの変化のいずれか又は全てを達成するための遺伝子操作アプローチならびに化学修飾は、当技術分野において周知である。例えば、抗体の定常領域の付加、除去、及び/又は修飾は、治療的に投与された抗体の生物学的利用能、分布、及び半減期において特に重要な役割を果たすことが公知である。抗体クラス及びサブクラスは、抗体のFc又は定常領域(エフェクター機能を媒介する)により決定され、存在する場合、重要な追加の特性を付与する。
【0064】
本発明の追加の融合タンパク質を、当技術分野において周知のDNAシャッフリングの技術により得てもよい(例えば、米国特許第5,605,793号;第5,811,238号;第5,830,721号;第5,834,252号;及び第5,837,458号を参照のこと)。
【0065】
本発明に従った使用のために適した抗クローディン-1抗体はまた、「ヒト化」されていてもよい:齧歯類抗体とヒト配列の間での配列の違いは、個々の残基の部位特異的変異誘発により、又は領域全体の移植により、又は化学合成により、ヒト配列中の残基とは異なる残基を置換することにより最小化することができる。ヒト化抗体はまた、組換え方法を使用して産生することができる。ヒト化形態の抗体において、CDR領域外のアミノ酸の一部、大部分、又は全てを、ヒト免疫グロブリン分子からのアミノ酸で置換する一方で、1つ又は複数のCDR領域内の一部、大部分、又は全てのアミノ酸は不変である。アミノ酸の小さな付加、欠失、挿入、置換、又は改変は、それらが、結果として生じる抗体の生物学的活性を有意に改変しない限り、許容できる。適したヒト「置換」免疫グロブリン分子には、IgG1、IgG2、IgG2a、IgG2b、IgG3、IgG4、IgA、IgM、IgD、又はIgE分子、及びそれらのフラグメントを含む。あるいは、齧歯類抗体中に存在するT細胞エピトープを、変異(脱免疫化)により修飾し、ヒトにおける治療目的のために適用することができる非免疫原性齧歯類抗体を生成することができる(ウェブページ:accurobio.comを参照のこと)。
【0066】
一部の実施形態において、本発明に従った使用のためのヒト化抗クローディン-1抗体は、本発明者らにより、EP16305317及びWO2017/162678において以前に記載されたものである。そのようなヒト化抗クローディン-1モノクローナル抗体は、ラットモノクローナル抗体OM-7D3-B3(アクセッション番号DSM ACC2938の下で寄託されたハイブリドーマ細胞株により分泌される-上記を参照のこと)のCDRの全てを含み、OM-7D3-B3の可変重鎖は配列番号1のアミノ酸配列からなり、OM-7D3-B3の可変軽鎖は配列番号2のアミノ酸配列からなり、前記ヒト化抗体はさらに以下を含み:
a)配列番号3又は配列番号4又は配列番号5のアミノ酸配列からなる少なくとも1つの抗体可変重鎖(VH)、又は
b)配列番号6又は配列番号7又は配列番号8のアミノ酸配列からなる少なくとも1つの抗体可変軽鎖(VL)
ここで、配列番号1、OM-7D3-B3の可変重鎖は以下のアミノ酸配列であって、CDRを太字で示し、下線が引かれており:
【化1】
配列番号2、OM-7D3-B3の可変軽鎖は以下のアミノ酸配列であって、それにおいて、CDRを太字で示し、下線が引かれており:
【化2】
配列番号3は、ヒト化可変重鎖H3の配列であり:
【化3】
配列番号4は、ヒト化可変重鎖H2の配列であり:
【化4】
配列番号5は、ヒト化可変重鎖H1の配列であり:
【化5】
配列番号6は、ヒト化可変軽鎖L3の配列であり:
【化6】
配列番号7は、ヒト化可変軽鎖L2の配列であり:
【化7】
配列番号8は、ヒト化可変軽鎖L1の配列である:
【化8】
【0067】
例えば、そのようなヒト化抗クローディン-1モノクローナル抗体は、以下を含んでもよい:
a)2つの抗体可変重鎖(VH)(両方の可変重鎖が配列番号3又は配列番号4又は配列番号5のアミノ酸配列からなる)、あるいは
b)2つの抗体可変軽鎖(VL)(両方の可変軽鎖が配列番号6又は配列番号7又は配列番号8のアミノ酸配列からなる)。
【0068】
例えば、そのようなヒト化抗クローディン-1モノクローナル抗体は、以下を含んでもよい;
1)配列番号3のアミノ酸配列からなる2つの抗体可変重鎖(VH)、及び配列番号6のアミノ酸配列からなる2つの抗体可変軽鎖(VL)[H3L3];又は
2)配列番号3のアミノ酸配列からなる2つの抗体可変重鎖(VH)、及び配列番号7のアミノ酸配列からなる2つの抗体可変軽鎖(VL)[H3L1];又は
3)配列番号3のアミノ酸配列からなる2つの抗体可変重鎖(VH)、及び配列番号8のアミノ酸配列からなる2つの抗体可変軽鎖(VL)[H3L2];又は
4)配列番号4のアミノ酸配列からなる2つの抗体可変重鎖(VH)、及び配列番号6のアミノ酸配列からなる2つの抗体可変軽鎖(VL)[H1L3];又は
5)配列番号4のアミノ酸配列からなる2つの抗体可変重鎖(VH)、及び配列番号7のアミノ酸配列からなる2つの抗体可変軽鎖(VL)[H1L1];又は
6)配列番号4のアミノ酸配列からなる2つの抗体可変重鎖(VH)、及び配列番号8のアミノ酸配列からなる2つの抗体可変軽鎖(VL)[H1L2];又は
7)配列番号5のアミノ酸配列からなる2つの抗体可変重鎖(VH)、及び配列番号6のアミノ酸配列からなる2つの抗体可変軽鎖(VL)[H2L3];又は
8)配列番号5のアミノ酸配列からなる2つの抗体可変重鎖(VH)、及び配列番号7のアミノ酸配列からなる2つの抗体可変軽鎖(VL)[H2L1];又は
9)配列番号5のアミノ酸配列からなる2つの抗体可変重鎖(VH)、及び配列番号8のアミノ酸配列からなる2つの抗体可変軽鎖(VL)[H2L2]。
【0069】
ヒト化抗クローディン-1抗体は、IgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4からなる群より選択されるアイソトープを有する完全モノクローナル抗体であってもよい。あるいは、ヒト化抗クローディン-1抗体は、Fv、Fab、F(ab’)2、Fab’、dsFv、scFv、sc(Fv)2、及びダイアボディからなる群より選択されるモノクローナル抗体のフラグメントであってもよい。
【0070】
本発明に従った使用のために適した抗クローディン-1抗体(又はその生物学的に活性な変異体もしくはフラグメント)は、(例、化学的共役、遺伝子融合、非共有結合、又は他の方法により)1つ又は複数の他の分子実体に機能的に連結されてもよい。そのような修飾抗体(又はコンジュゲート抗体)の調製のための方法は、当技術分野において公知である(例えば、“Affinity Techniques.Enzyme Purification:Part B”,Methods in Enzymol.,1974,Vol.34,Jakoby and Wilneck (Eds.),Academic Press:New York,NY; and Wilchek and Bayer,Anal.Biochem.,1988,171:1-32を参照のこと)。好ましくは、分子実体は、結果として得られるコンジュゲートの結合特性に干渉しない抗体分子上の位置、例えば、その標的への抗体の特異的結合に関与しない位置に付着する。
【0071】
抗体分子及び分子実体は共有結合的に、互いに直接的に連結させてもよい。あるいは、抗体分子及び分子実体は、リンカー基を通じて互いに共有結合的に連結されてもよい。これは、ホモ機能的及びヘテロ機能的リンカーを含む、当技術分野において周知の多種多様な安定な二機能的薬剤のいずれかを使用することにより達成することができる。
【0072】
特定の実施形態において、本発明に従って使用するための抗クローディン-1抗体(又はその生物学的に活性なフラグメント)は、検出可能な薬剤にコンジュゲートされる。多様な検出可能な薬剤のいずれかを使用することができ、限定しないが、種々のリガンド、放射性核種(例、3H、125I、131Iなど)、蛍光色素(例、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、フィコエリテリン、フィコシアニン、アロフィコシアニン、o-フタルアルデヒド、及びフルオレスカミン)、化学発光剤(例、ルシフェリン、ルシフェラーゼ)、微粒子(例えば、量子ドット、ナノ結晶、蛍光体など)、酵素(例えば、ELISAにおいて使用されるもの、即ち、西洋ワサビペルオキシダーゼ、ベーターガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼなど)、比色標識、磁気標識、及びビオチン、ジオキシゲニン、又は抗血清もしくはモノクローナル抗体が利用可能な他のハプテン及びタンパク質を含む。
【0073】
本発明の抗クローディン-1抗体(又はその生物学的に活性なフラグメント)にコンジュゲートすることができる他の分子実体は、線状もしくは分枝状の親水性ポリマー基、脂肪酸基、又は脂肪酸エステル基を含むが、これらに限定しない。
【0074】
このように、本発明の実施において、抗クローディン-1抗体は、全長抗体、生物学的に活性な変異体又はそのフラグメント、キメラ抗体、ヒト化抗体、及び抗クローディン-1抗体の重鎖又は軽鎖可変領域のいずれかからの少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含む抗体由来分子(分子、例えばFabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、Fdフラグメント、Fabcフラグメント、Sc抗体(単鎖抗体)、ダイアボディ、個々の抗体軽鎖、個々の抗体重鎖、抗体鎖と他の分子の間のキメラ融合体など、及び抗体コンジュゲート、例えば治療薬剤又は検出可能な薬剤にコンジュゲートされた抗体などを含む)の形態の下で使用することができる。好ましくは、本発明に従った抗クローディン-1抗体関連分子は、その抗原、特にクローディン-1の細胞外ドメインに結合する抗体の能力を保持している。
【0075】
当業者は、クローディン-1を標的化する他の化合物を本発明の実施において使用することができることを理解するであろう(小分子及びsiRNAを含むが、これらに限定しない)。
【0076】
II-線維性疾患の処置及び/又は予防。
A.適応症
本発明者らは、抗クローディン-1抗体が、肺、腎臓、及び皮膚を特異的に標的化し、任意の重大な有害効果を伴うことなく、特発性肺線維症(IPF)の最先端モデルにおいて肺線維症を予防及び処置することができることを示している。したがって、抗クローディン-1抗体、又はその生物学的に活性なフラグメントは、上で定義するように、肺線維症、腎臓線維症、及び皮膚線維症を予防及び/又は処置するための方法において使用されてもよい。
【0077】
本発明の処置の方法は、抗クローディン-1抗体、又はその生物学的に活性なフラグメント、又はそのような抗体もしくはフラグメントを含む医薬組成物を使用して達成されてもよい(以下を参照のこと)。これらの方法は、一般的に、有効量の抗クローディン-1抗体、又はその生物学的に活性なフラグメントの、又はその医薬組成物の、それを必要とする対象(即ち、肺線維症と又は腎臓線維症と又は皮膚線維症と診断された患者)への投与を含む。投与は、当業者に公知の投与方法のいずれかを使用して実施されてもよい(以下を参照のこと)。
【0078】
肺線維症
用語「肺線維症」及び「肺線維症」は、本明細書中で互換的に使用される。それらは、間質性肺損傷、それに続く線維症、及び最終的には肺の弾力性の喪失を起こす、公知の又は未知の病因の多数の状態を指す。これらの状態は、症状、例えば持続性の咳、胸痛、呼吸困難、及び倦怠感などに導く。
【0079】
本発明の方法に従って処置することができる肺線維症は、多様な要因(特定の毒素(例、シリカ粉塵、アスベスト繊維、硬質金属粉塵、炭塵、穀物粉塵、鳥及び動物の糞)への長期曝露;特定の医学的状態(例、皮膚筋炎、多発性筋炎、混合性結合組織病、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、サルコイドーシス、強皮症、及び肺炎);放射線治療(例、肺癌又は乳癌について);及び一部の医薬(例、化学療法薬物、例えばメトトレキサート及びシクロホスファミドなど、心臓医薬、例えばアミオダロンなど;一部の抗生物質、例えばニトロフラントイン及びエタンブトールなど;ならびに抗炎症薬物、例えばリツキシマブ及びスルファサラジンなど)を含む要因(これらに限定しない)のいずれかにより起こされるものであってもよい。
【0080】
一部の実施形態において、本発明の方法に従って処置することができる肺線維症は、明らかな根本的な原因を有さないことがある。用語「特発性肺線維症」を次に使用する。
【0081】
一部の実施形態において、本発明の処置の方法を使用して処置される肺線維症は、特発性肺線維症(IPF)、特発性非特異性間質性肺炎(NSIP)、特発性器質化肺炎(COP)、ハマンリッチ症候群(急性間質性肺炎としても公知である)、リンパ球性間質性肺炎(LIP)、呼吸性気管支炎間質性肺疾患、剥離性間質性肺炎又は特発性リンパ性間質性肺炎、及び特発性胸膜実質性線維弾性症からなる群より選択される。
【0082】
特定の好ましい実施形態において、肺線維症は特発性肺線維症である。
【0083】
一部の実施形態において、肺線維症は、慢性閉塞性肺疾患に関連付けられる。慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、気道閉塞、長期の呼吸障害、及び不十分な気流により特徴付けられる進行性呼吸器疾患の一種である。
【0084】
特定の実施形態において、肺線維症は、感染症、例えばCOVID19関連線維症などに起因する。
【0085】
肺線維症に苦しむ患者への抗クローディン-1抗体の、又はその医薬組成物の投与は、疾患の進行、特に合併症、例えば肺高血圧症、右心不全、呼吸不全、肺癌など、又は他の肺の合併症、例えば肺における血栓、肺虚脱、もしくは肺感染症などの発症を遅延させる、低下させる、停止させる、又は軽減させるものであってもよい。
【0086】
あるいは又は加えて、肺線維症に苦しむ患者への抗クローディン-1抗体の、又はその医薬組成物の投与は、個人により経験される症状(乾性咳、息切れ、倦怠感、筋肉痛、関節痛、及び体重減少を含むが、これらに限定しない)の少なくとも1つの寛解をもたらすものであってもよい。
【0087】
あるいは又は加えて、肺線維症に苦しむ患者への抗クローディン-1抗体の、又はその医薬組成物の投与は、肺移植を回避する、又は少なくとも遅らせるのに役立つものであってもよい。
【0088】
一部の実施形態において、本発明の方法は、肺線維症を発生するリスクを伴う対象、例えば、肺線維症に関連付けられることが公知である特定の毒素に曝露された人又は放射線治療を受けた人、あるいはさらに特定の医薬で処置された人に投与される。抗クローディン-1抗体の、又はその医薬組成物の投与は、疾患の発生の予防、又は非常に初期の段階を超えた疾患の進行の予防をもたらすものであってもよい。
【0089】
本発明に従った処置の効果は、患者に影響する肺線維症の診断のための当技術分野において公知のアッセイ及び検査のいずれかを使用してモニターされてもよい。そのようなアッセイ及び検査は、画像検査(例えば胸部X線、コンピューター断層撮影(CT)スキャン、及び心エコー検査など);肺機能検査(例えば肺機能検査(例、スパイロメトリー)、パルスオキシメトリー、運動ストレス検査、及び動脈血ガス検査など);又は気管支鏡検査による生検もしくは外科的生検を含むが、これらに限定しない。
【0090】
本発明に従った肺線維症の予防又は処置の方法の特定の実施形態において、抗クローディン-1抗体(又はその生物学的に活性なフラグメント)、又はその医薬組成物が単独で投与される。他の実施形態において、抗クローディン-1抗体(又はその生物学的に活性なフラグメント)、又はその医薬組成物が、少なくとも1つの追加の治療薬剤及び/又は治療手順との組合せにおいて投与される。抗クローディン-1抗体(又はその生物学的に活性なフラグメント)、又はその医薬組成物は、治療薬剤もしくは治療手順の投与前に、治療薬剤もしくは治療手順と同時に、及び/又は治療薬剤もしくは治療手順の投与後に投与されてもよい。
【0091】
抗クローディン-1抗体(又はその生物学的に活性なフラグメント)、又はその医薬組成物との組合せにおいて投与されてもよい治療薬剤は、肺線維症の処置又は管理において有益な効果を有することが当技術分野において公知である多種多様な生物学的に活性な化合物の中より選択されてもよい。そのような治療薬剤の例は、免疫抑制剤、例えばコルチコステロイドなど、抗線維化剤、例えばシクロスポリン又はコルヒチンなど、食品医品薬局(FDA)により認可されている新医薬、例えばピルフェニドン(ESBRIET(登録商標))及びニンテダニブ(OFEV(登録商標))など;ならびに胃食道逆流症(GERD)(特発性肺線維症を伴う人々において一般に生じる消化器疾患)を処置するための制酸剤を含むが、これらに限定しない。治療手順の例は、酸素治療(呼吸及び運動を容易にし、低い血中酸素レベルからの合併症を予防又は軽減し、心臓の右側における血圧を低下させ、ならびに睡眠及び幸福感を改善する);肺リハビリテーション(症状を管理し、身体的耐久性及び肺の効率を改善することにより日常の機能を改善するのに役立つ);及び肺移植(生活の質を改善させ、患者がより長い人生を生きることを可能にする)を含むが、これらに限定しない。
【0092】
このように、特定の実施形態において、本発明に従った肺線維症の処置の方法は、胃食道逆流症(GERD)を処置するために、コルチコステロイド、シクロスポリン、コルヒチン、ピルフェニドン、ニンテダニブ、及び抗酸性薬物からなる群より選択される治療薬剤との組合せにおいて投与される。あるいは又は加えて、本発明に従った肺線維症の処置の方法は、肺移植、高圧酸素治療、及び肺リハビリテーションからなる群より選択される治療手順との組合せにおいて投与される。
【0093】
抗クローディン-1抗体、又はその生物学的に活性なフラグメントが、上で定義するように、縦隔線維症を予防及び/又は処置するための方法において使用されることも企図される。(線維化する縦隔の)縦隔線維症は、心臓、大血管、気管、食道、及びリンパ節を含む肺(縦隔)の間の領域に影響する石灰化線維症により特徴付けられる状態である。
【0094】
腎臓線維症
用語「腎臓線維症」及び「腎線維症」は、本明細書中では互換的に使用される。腎線維症は、根底にある病因に無関係に、慢性腎臓疾患の特徴である。腎線維症の病理学的所見は、糸球体硬化症、尿細管間質性線維症、及び腎実質の喪失(尿細管萎縮、毛細血管及び足細胞の喪失を含む)を含む進行性の組織瘢痕により特徴付けられる。全ての腎疾患は腎臓線維症により伴われ、それは、究極的には末期腎不全(ESRD)(透析又は腎臓移植を要求する壊滅的な障害)に導く進行性の過程である。腎機能の慢性的な悪化は、腎臓の線維症の程度に重度に依存するため、線維症の進行を阻害することによって、慢性腎不全の発生の抑制をもたらすことができると考えられている。用語「慢性腎不全」は、腎機能が徐々に不可逆的に悪化し、生体の恒常性を維持することができない状態を指す。
【0095】
本発明の方法に従って処置することができる腎線維症は、多様な要因(特定の医学的状態(腎症、例えば糸球体疾患(例、糸球体硬化症、糸球体腎炎)、慢性腎不全、急性腎臓傷害、高血圧、多嚢胞性腎臓疾患、膀胱尿管逆流症、腎盂腎炎(再発性腎臓感染症)、及び自己免疫疾患、例えば糖尿病など);特定の医学的介入(例えば腎摘出術又は腎臓摘出術、腎臓癌を伴う患者で時々行われ、残りの腎臓の腎臓機能に悪影響を及ぼしうる手技;腎臓不全後の透析;及びカテーテル留置など);ならびに一部の薬物療法(化学療法及び免疫抑制療法、これらは腎臓に対する有害な効果の源であり、症例の大半において腎線維症をもたらす;リチウムの及び非ステロイド性抗炎症薬物の長期使用)を含むが、これらに限定しない)のいずれかにより起こされてもよい。
【0096】
一部の実施形態において、本発明の処置の方法を使用して処置される腎線維症は、腎間質性線維症及び糸球体硬化症からなる群より選択される。
【0097】
腎臓線維症に苦しむ患者への抗クローディン-1抗体の、又はその医薬組成物の投与は、疾患の進行、特に合併症、例えば体液貯留(肺水腫を含む);高カリウム血症(血液中のカリウムレベルの突然の上昇);循環器疾患;減少した免疫応答;心膜炎;及び末期の腎臓疾患などの発生を遅延させ、低下させる、停止させる、又は軽減させるものであってもよい。
【0098】
あるいは又は加えて、腎線維症に苦しむ患者への抗クローディン-1抗体の、又はその医薬組成物の投与は、個人により経験される症状(嘔気、嘔吐、食欲の喪失、倦怠感及び脱力感、筋痙攣、体液貯留(腫れ又は腫脹)、胸痛、息切れ、ならびに高血圧を含むが、これらに限定しない)の少なくとも1つの寛解をもたらすものであってもよい。
【0099】
あるいは又は加えて、腎線維症に苦しむ患者への抗クローディン-1抗体の、又はその医薬組成物の投与は、透析又は腎臓移植を回避する、又は少なくとも遅らせるのに役立つものであってもよい。
【0100】
本発明に従った処置の効果は、患者に影響する腎線維症の診断のための当技術分野において公知のアッセイ及び検査のいずれかを使用してモニターしてもよい。そのようなアッセイ及び検査は、画像検査(例えば超音波など);血液検査(クレアチニンレベル及び尿素レベルの測定);尿検査、及び生検を含むが、これらに限定しない。
【0101】
特定の実施形態において、抗クローディン-1抗体(又はその生物学的に活性なフラグメント)、又はその医薬組成物が単独で投与される。他の実施形態において、抗クローディン-1抗体(又はその生物学的に活性なフラグメント)、又はその医薬組成物が、少なくとも1つの追加の治療薬剤及び/又は治療手順との組合せにおいて投与される。抗クローディン-1抗体(又はその生物学的に活性なフラグメント)、又はその医薬組成物は、治療薬剤もしくは治療手順の投与前に、治療薬剤もしくは治療手順と同時に、及び/又は治療薬剤もしくは治療手順の投与後に投与されてもよい。
【0102】
抗クローディン-1抗体(又はその生物学的に活性なフラグメント)、又はその医薬組成物との組合せにおいて投与されうる治療薬剤は、腎線維症の処置又は管理において有益な効果を有することが当技術分野において公知である多種多様な生物学的に活性な化合物の中より選択されてもよい。そのような治療薬剤の例は、降圧薬(糸球体への負担を軽減するため);1,25-ジヒドロキシビタミンD3又はエリスロポエチン(腎臓により分泌される)における補給;アンジオテンシン変換酵素阻害薬(例えばカプトリル、エナラプリル、デラプリル、イミダプリル、キナプリル、テモカプリル、ペリンドプリルエルブミン、及びリシノプリルなど)及びアンジオテンシンII受容体拮抗薬(例えばロサルタン、バルサルタン、カンデサルタンシレキセチル、テルミサルタン、オルメサルタンメドキソミル、及びイルベサルタンなど)(糸球体血圧を減少させることにより腎不全の進行を抑制することに加えて、それ自体が腎保護効果を有することが公知である);利尿薬(腫脹を軽減する);AST-120(KREMEZIN(登録商標))、腸における有害物質を吸着する吸着性カーボン;及びポリスチレンスルホン酸カルシウム(腸におけるカリウムを吸収するイオン交換樹脂)を含むが、これらに限定しない。治療手順の例は、透析及び腎臓移植を含む。透析は、血液透析又は腹膜透析であってもよい。血液透析では、機械によって、血液から老廃物及び余分な水分が濾過される。腹膜透析では、腹部中に挿入されたカテーテルによって、老廃物及び余分な水分を吸収する透析液で腹腔が満たされる。一定期間後、透析液は身体から排出され、それとともに老廃物を運ぶ。
【0103】
このように、特定の実施形態において、本発明に従った腎臓線維症の処置の方法は、降圧薬1,25-ジヒドロキシビタミンD3、エリスロポイエチン、アンジオテンシン変換酵素阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬AST-120(KREMEZIN(登録商標))、及びポリスチレンスルホン酸カルシウムからなる群より選択される治療薬剤との組合せにおいて投与される。あるいは又は加えて、本発明に従った腎臓線維症の処置の方法は、透析及び腎臓移植からなる群より選択される治療手順との組合せにおいて投与される。
【0104】
抗クローディン-1抗体、又はその生物学的に活性なフラグメントが、上で定義するように、後腹膜線維症を予防及び/又は処置するための方法において使用されることも企図される。後腹膜線維症は稀な炎症性障害であり、後腹膜(腎臓、大動脈、腎管、及び種々の他の構造を含む身体の区画)における線維組織の異常な形成がみられる。
【0105】
皮膚線維症
用語「皮膚線維症(skin fibrosis)」、「皮膚線維症(dermal fibrosis)」、及び「皮膚線維症(cutaneous fibrosis)」は、本明細書中で互換的に使用される。それらは、病的な創傷治癒応答に起因する皮膚の過度の瘢痕を指す。皮膚線維症は、線維芽細胞の増殖及び過度の合成、ならびに細胞外マトリックス(ECM)タンパク質、例えばコラーゲン、エラスチン、及びフィブリリンなどの沈着により特徴付けられる。臨床的には、皮膚線維症は、肥厚し、引きつれ、硬化した皮膚の領域として現れる。最終的に、皮膚線維症は、関節を曲げる及び伸ばす能力に影響する皮膚拘縮に導きうる。皮膚線維症に関連付けられる罹患率及び社会経済的負担にもかかわらず、有効な治療選択肢は限定されている。現在の治療は、重大な副作用と関連付けられ、併用療法でさえ、進行及び再発がしばしば起こる。
【0106】
本発明の方法に従って処置することができる皮膚線維症は、多様な要因(特定の医学的状態(限局性(モルフェア、線状強皮症)及び全身性の両方の形態における強皮症、移植片対宿主病(GVHD)、腎性線維化皮膚症、混合性結合組織疾患、強皮症、硬化性粘液水腫、好酸球性筋炎、色素芽球性真菌症、肥大性瘢痕、及びケロイド);特定の医学的介入(例、放射線治療誘導性の皮膚線維症);種々の化学物質への環境的又は職業的な曝露(例、L-トリプトファンにより誘導される好酸球増多症-筋肉痛症候群において);及び特定の物理的作用(身体的外傷、外科的傷害、熱又は氷の皮膚火傷)への曝露を含むが、これらに限定しない)のいずれかにより起こされるものであってもよい。
【0107】
皮膚線維症に苦しむ患者への抗クローディン-1抗体の、又はその医薬組成物の投与は、皮膚疾患の進行、例えば、非罹患皮膚領域への線維症の伝播を遅延させる、低下させる、停止させる、又は軽減させるものであってもよく、ならびに/あるいは合併症、例えば変形、皮膚拘縮、罹患した手足の機能低下、及び内臓への伝播などの発症を遅延させる、低下させる、停止させる、又は軽減させるものであってもよい。
【0108】
あるいは又は加えて、皮膚線維症に苦しむ患者への抗クローディン-1抗体の、又はその医薬組成物の投与は、個人により経験される症状(肥厚した、引きつれた、及び硬化した皮膚の領域)の少なくとも1つの寛解をもたらすものであってもよい。
【0109】
本発明に従った処置の効果は、患者に影響する皮膚線維症の診断のための当技術分野において公知のアッセイ及び検査のいずれかを使用してモニターされてもよい。そのようなアッセイ及び検査は、例えば、皮膚の硬度及び/又は硬直を測定するためのデュロメータ、皮膚の弾性を定量化するためのカットメータ、局所的な皮膚及び皮下の血流を評価するための超音波検査装置、及び皮膚のデジタル赤外線熱画像を利用する。皮膚線維症診断の他の非侵襲的方法は、超音波スキャン、エラストグラフィ、共焦点顕微鏡法、及び光コヒーレンストモグラフィーを含む。
【0110】
本発明に従った皮膚線維症の予防又は処置の方法の特定の実施形態において、抗クローディン-1抗体(又はその生物学的に活性なフラグメント)、又はその医薬組成物が単独で投与される。他の実施形態において、抗クローディン-1抗体(又はその生物学的に活性なフラグメント)、又はその医薬組成物が、少なくとも1つの追加の治療薬剤及び/又は治療手順との組合せにおいて投与される。抗クローディン-1抗体(又はその生物学的に活性なフラグメント)、又はその医薬組成物は、治療薬剤及び/又は治療手順の投与前に、治療薬剤及び/又は治療手順と同時に、ならびに/あるいは治療薬剤及び/又は治療手順の投与後に投与されてもよい。
【0111】
抗クローディン-1抗体(又はその生物学的に活性なフラグメント)、又はその医薬組成物との組合せにおいて投与されてもよい治療薬剤は、免疫抑制薬物(例えばメトトレキサート、ミコフェノリエート、モフェチル、シクロホスファミド、及びシクロスポリンなど)、トシリズマブ(抗IL-6受容体抗体)、リツキシマブ(抗CD20抗体)、及びフレソリムマブ(抗TGFβ抗体、有望な臨床転帰を示す)の中より選択されてもよい。
【0112】
あるいは又は加えて、抗クローディン-1抗体(又はその生物学的に活性なフラグメント)、又はその医薬組成物は、皮膚線維症の処置、例えば紫外線光線療法などにおいて使用される治療手順との組合せにおいて投与されてもよい。
【0113】
B.投与
抗クローディン-1抗体、又はその生物学的に活性なフラグメント(場合により、1つ又は複数の適切な医薬的に許容可能な担体又は賦形剤との製剤化後)を、所望の投与量で、任意の適した経路により、それを必要とする対象に投与することができる。種々の送達システムが公知であり、抗体を投与するために使用することができる(錠剤、カプセル、注射可能な溶液、リポソーム、微粒子、マイクロカプセルなどの中へのカプセル化を含む)。投与の方法は、皮膚、皮内、筋肉内、腹腔内、病巣内、静脈内、皮下、鼻腔内、肺、硬膜外、及び経口の経路を含むが、これらに限定しない。抗クローディン-1抗体、又はその生物学的に活性なフラグメント、又はその医薬組成物は、任意の便利な又は他の適切な経路、例えば、注入又はボーラス注射により、上皮又は粘膜の内層(例、口腔粘膜、気管支粘膜、直腸及び腸粘膜など)を通じた吸収により投与されてもよい。投与は、全身的又は局所的でありうる。当業者により理解されうるように、本発明の抗体が、追加の治療薬剤との組合せにおいて投与される実施形態において、抗体及び治療薬剤は、同じ経路により(例、静脈内に)又は異なる経路により(例、静脈内に及び経口的に)投与されてもよい。
【0114】
C.投与量
抗クローディン-1抗体、又はその生物学的に活性なフラグメント(場合により、1つ又は複数の適切な医薬的に許容可能な担体又は賦形剤との製剤化後)が、送達される量が、意図される目的のために有効であるような投与量で投与されてもよい。投与の経路、製剤化及び投与される投与量は、所望の治療効果、処置される状態(既に存在する場合)の重症度、任意の感染の存在、年齢、性別、体重、及び患者の一般的な健康状態ならびに使用される抗体又は組成物の効力、バイオアベイラビリティ、及びインビボ半減期、併用治療の使用(又は無使用)、及び他の臨床的要因に依存するであろう。これらの要因は、治療の経過において主治医により容易に決定可能である。あるいは又は加えて、投与される投与量は、動物モデル(例、チンパンジー又はマウス)を使用した試験から決定することができる。これら又は他の方法に基づいて最大の効力を達成するために用量を調整することは、当技術分野において周知であり、訓練された医師の能力内である。試験は、抗クローディン1抗体を使用して行われるため、さらなる情報が、適切な投与量レベル及び処置の期間に関して明らかになるであろう。
【0115】
本発明に従った処置は、単一用量又は複数用量からなっていてもよい。このように、抗クローディン-1抗体、又はその生物学的に活性なフラグメント(又はその医薬組成物)の投与は、特定の期間にわたり又は定期的及び特定の間隔で、例えば、毎時、毎日、毎週(又は特定の他の複数日間隔で)、毎月、毎年(例、時間放出形態で)一定であってもよい。あるいは、送達は、所与の期間の間に複数回で、例えば、週2回又はそれ以上;月2回又はそれ以上など行われてもよい。送達は、一定期間にわたる連続送達、例えば、静脈内送達であってもよい。
【0116】
一般的に、投与される抗クローディン-1抗体、又はその生物学的に活性なフラグメント(又はその医薬組成物)の量は、好ましくは、対象の約1ng/kg~約100mg/kg体重の範囲中、例えば、対象の約100ng/kgと約50mg/kg体重の間;又は対象の約1μg/kgと約10mg/kg体重の間、又は対象の約100μg/kgと約1mg/kg体重の間でありうる。
【0117】
III-医薬組成物
上で言及するように、抗クローディン-1抗体(及び関連分子)は、それ自体で、又は医薬組成物として投与してもよい。したがって、本発明は、線維性疾患、特に肺線維症、腎臓線維症、及び皮膚線維症の予防及び/又は処置における使用のための、有効量の抗クローディン-1抗体、又は本明細書中に記載するその生物学的に活性なフラグメント、及び少なくとも1つの医薬的に許容可能な担体又は賦形剤を含む医薬組成物を提供する。一部の実施形態において、組成物は、1つ又は複数の追加の生物学的に活性な薬剤をさらに含む。
【0118】
抗体又は医薬組成物は、所望の予防的及び/又は治療的効果を達成するために有効な任意の量で及び任意の投与経路を使用して投与してもよい。最適な医薬製剤は、投与経路及び所望の投与量に依存して変動させることができる。そのような製剤は、投与された活性成分の物理的状態、安定性、インビボ放出の速度、及びインビボクリアランスの速度に影響するものであってもよい。
【0119】
本発明の医薬組成物は、投与の容易さ及び投与量の均一性のため、投与単位形態において製剤化されてもよい。表現「単位剤形」は、本明細書中で使用するように、処置される患者のための、抗クローディン-1抗体、又はその生物学的に活性なフラグメントの物理的に別々の単位を指す。しかし、組成物の1日全投与量は、健全な医学的判断の範囲内で主治医により決定されることが理解されるであろう。
【0120】
A.製剤化
注射可能な調製物、例えば、無菌の注射可能な水性又は油性懸濁液は、適した分散剤又は湿潤剤、及び懸濁剤を使用して、公知の技術に従って製剤化されてもよい。無菌の注射可能な調製物はまた、例えば、2,3-ブタンジオール中の溶液としての、非毒性の非経口的に許容可能な希釈剤又は溶剤中の無菌の注射可能な溶液、懸濁液、又はエマルジョンであってもよい。用いてもよい許容可能な溶媒及び溶剤の中には、水、リンゲル液、U.S.P、及び等張塩化ナトリウム溶液がある。また、無菌固定油は、従来、溶液又は懸濁媒質として用いられている。この目的のために、任意の無菌性固定油を用いることができる(合成モノグリセリド又はジグリセリドを含む)。脂肪酸、例えばオレイン酸などをまた、注射可能な製剤の調製において使用してもよい。無菌液体担体は、非経口投与のための無菌液体形態の組成物において有用である。
【0121】
注射可能な製剤は、例えば、細菌保持フィルターを通した濾過により、又は使用前に無菌水又は他の無菌注射媒質中に溶解又は分散することができる無菌固体組成物の形態において滅菌剤を組み込むことにより滅菌することができる。無菌溶液又は懸濁液である液体医薬組成物は、例えば、静脈内、筋肉内、腹腔内、又は皮下注射により投与することができる。注射は、シングルプッシュを介しうる又は段階的な注入によるものであってもよい。必要である又は望ましい場合、組成物は、注射部位の痛みを和らげるために局所麻酔薬を含んでもよい。
【0122】
活性成分(ここでは抗クローディン-1抗体、又はその生物学的に活性なフラグメント)の効果を延長するために、皮下又は筋肉内注射からの成分の吸収を遅くすることがしばしば望ましい。非経口的に投与された活性成分の吸収を遅延させることは、成分を油性溶媒中に溶解又は懸濁することにより達成されてもよい。注射可能なデポ形態は、生分解性ポリマー、例えばポリラクチド-ポリグリコリドなどの中に活性成分のマイクロカプセル化マトリックスを形成することにより作製される。ポリマーに対する活性成分の比率及び用いられる特定のポリマーの性質に依存して、成分放出の速度を制御することができる。他の生分解性ポリマーの例は、ポリ(オルトエステル)及びポリ(無水物)を含む。デポ注射可能な製剤はまた、身体組織と適合性のあるリポソーム又はマイクロエマルジョン中に活性成分を封入することにより調製することができる。
【0123】
経口投与用の液体剤形は、医薬的に許容可能なエマルジョン、マイクロエマルジョン、溶液、懸濁液、シロップ、エリキシル、及び加圧組成物を含むが、これらに限定しない。抗クローディン-1抗体、又はその生物学的に活性なフラグメントに加えて、液体投薬形態は、当技術分野において一般に使用される不活性希釈剤、例えば、水又は他の溶剤、可溶化剤及び乳化剤、例えばエチルアルコール、イソプロピルアルコール、エチルカーボネート、エチルアセテート、ベンジルアルコール、ベンジルベンゾエート、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジメチルホルムアミド、油(特に、綿実、砕いたナッツ、トウモロコシ、胚芽、オリーブ、ヒマシ油、及びゴマ油)、グリセロール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ポリエチレングリコール、ならびにソルビタンの脂肪酸エステル及びそれらの混合物を含んでもよい。不活性希釈剤の他、経口組成物はまた、アジュバント、例えば湿潤剤、懸濁剤、保存剤、甘味料、香味料、及び芳香剤、増粘剤、着色剤、粘度調節剤、安定剤、又は浸透圧調節剤などを含んでもよい。経口投与のための適した液体担体の例は、水(上記のような添加剤、例えば、セルロース誘導体、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム溶液などを潜在的に含む)、アルコール(一価アルコール及び多価アルコール、例えばグリコールなどを含む)及びそれらの誘導体、ならびに油(例、分別ココナッツ油及び落花生油)を含む。加圧組成物については、液体担体は、ハロゲン化炭化水素又は他の医薬的に許容可能な噴射剤でありうる。
【0124】
経口投与のための固形投薬形態は、例えば、カプセル、錠剤、丸薬、粉末、及び顆粒を含む。そのような固形投薬形態において、抗クローディン-1抗体、又はその生物学的に活性なフラグメントは、少なくとも1つの不活性で生理学的に許容可能な賦形剤又は担体、例えばクエン酸ナトリウム又はリン酸二カルシウムなど、及び以下の1つ又は複数:(a)充填剤又は増量剤、例えばでんぷん、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニタル、及びケイ酸など;(b)結合剤、例えば、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、スクロース、及びアカシアなど;(c)保湿剤、例えばグリセロールなど;(d)崩壊剤、例えば寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモ又はタピオカ澱粉、アルギン酸、特定のケイ酸塩、及び炭酸ナトリウムなど;(e)溶液遅延剤、例えばパラフィンなど;吸収促進剤、例えば第四級アンモニウム化合物など;(g)湿潤剤、例えば、セチルアルコール及びモノステアリン酸グリセロールなど;(h)吸収剤、例えばカオリン及びベントナイト粘土など;ならびに(i)潤滑剤、例えばタルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、及びそれらの混合物などと混合されてもよい。固体製剤のために適した他の賦形剤は、表面修飾剤、例えば非イオン性及び陰イオン性表面修飾剤などを含む。表面修飾剤の代表的な例は、ポロキサマー188、塩化ベンザルコニウム、ステアリン酸カルシウム、セトステアリルアルコール、セトマクロゴール乳化ワックス、ソルビタンエステル、コロイド状二酸化ケイ素、リン酸塩、ドデシル硫酸ナトリウム、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、及びトリエタノールアミンを含むが、これらに限定しない。カプセル、錠剤、及びピルの場合において、投薬形態はまた、緩衝剤を含んでもよい。
【0125】
同様の型の固体組成物はまた、ラクトース又は乳糖ならびに高分子量ポリエチレングリコールなどのような賦形剤を使用し、軟質及び硬質充填ゼラチンカプセル中の充填剤として使用されてもよい。錠剤、糖衣錠、カプセル、ピル、及び顆粒の固形投与形態は、コーティング及びシェル、例えば腸溶コーティング、放出制御コーティング、及び医薬製剤分野において周知の他のコーティングなどを用いて調製することができる。それらは、場合により、乳白剤を含んでもよく、それらは、活性成分だけを、又は、好ましくは、腸管の特定の部分において、場合により、遅延様式において放出するような組成物でありうる。使用することができる包埋組成物の例は、高分子物質及びワックスを含む。
【0126】
特定の実施形態において、処置を必要とする領域(例、肺、腎臓、又は皮膚)に本発明の組成物を局所的に投与することが望ましいであろう。これは、例えば、限定しないが、手術の間の局所注入(例、移植)、局所適用により、注射により、カテーテルを用いて、ステント又は他のインプラントを用いて、あるいはさらに吸入器を用いて達成されてもよい。
【0127】
局所投与については、組成物は、好ましくは、担体、例えば水、グリセロール、アルコール、プロピレングリコール、脂肪アルコール、トリグリセリド、脂肪酸エステル、もしくはミネラルオイルなどを含むことができるゲル、軟膏、ローション、又はクリームとして製剤化されてもよい。他の局所担体は、液体石油、パルミチン酸イソプロピル、ポリエチレングリコール、エタノール(95%)、水中のポリオキシエチレンモノラウレート(5%)、又は水中のラウリル硫酸ナトリウム(5%)を含む。他の材料、例えば酸化防止剤、保湿剤、粘度安定剤、及び同様の薬剤などを必要に応じて加えてもよい。
【0128】
また、特定の例において、医薬組成物は、皮膚の上、中、又は下に置かれた経皮デバイス内に配置されてもよいことが期待される。そのようなデバイスは、受動的又は能動的のいずれかの放出機構により活性成分を放出するパッチ、インプラント、及び注射を含む。経皮投与は、上皮組織及び粘膜組織を含む、身体の表面及び身体の通路の内層にわたる全ての投与を含む。そのような投与は、ローション、クリーム、フォーム、パッチ、懸濁液、溶液、及び坐剤(直腸及び膣)中の本組成物を使用して行ってもよい。
【0129】
経皮投与は、活性成分(即ち、抗クローディン-1抗体、又はその生物学的に活性なフラグメント)及び、皮膚に無毒であり、皮膚を介した血流中への全身吸収のための成分の送達を可能にする担体を含む経皮パッチの使用により達成されうる。担体は、任意の数の形態、例えばクリーム及び軟膏、ペースト、ゲル、及び閉塞デバイスなどの形態であってもよい。クリーム及び軟膏は、水中油型又は油中水型のいずれかの粘稠な液体又は半固体のエマルジョンであってもよい。活性成分を含む石油又は親水性石油中に分散された吸収性粉末で構成されるペーストが適しうる。多様な閉塞デバイスを使用し、活性成分を血流中に放出させてもよい(例えば担体を伴う又は伴わない活性成分を含むリザーバーを覆う半透膜、あるいは活性成分を含むマトリックスなど)。
【0130】
坐剤製剤は、従来の材料(カカオバター(坐剤の融点を変えるためのワックスの添加を伴う又は伴わない)、及びグリセリンを含む)から作製されうる。水溶性坐剤の基剤、例えば種々の分子量のポリエチレングリコールなども使用してもよい。
【0131】
種々の製剤を産生するための材料及び方法が、当技術分野において公知であり、本発明を実施するために適用されてもよい。抗体の送達のための適した製剤は、例えば、「Remington’s Pharmaceutical Sciences”,E.W.Martin,18th Ed.,1990,Mack Publishing Co.:Easton,PA」において見出すことができる。
【0132】
B.さらなる生物学的に活性な薬剤。
特定の実施形態において、抗クローディン-1抗体、又はその生物学的に活性なフラグメントは、本発明の医薬組成物中の唯一の活性成分である。他の実施形態において、医薬組成物は、1つ又は複数の生物学的に活性な薬剤をさらに含む。適した生物学的に活性な薬剤の例は、治療用薬剤、例えば抗ウイルス剤、抗炎症剤、免疫調節剤、鎮痛剤、抗微生物剤、キナーゼ阻害剤、シグナル伝達阻害剤、抗菌剤、抗生物質、抗酸化剤、消毒剤、及びそれらの組合せなどを含むが、これらに限定しない。他の適した生物学的に活性な薬剤の例は、肺線維症の処置のために、及び腎臓線維症、肺線維症、又は皮膚線維症の処置のために適した治療用薬剤、例えば上に列挙するものなどを含む。
【0133】
そのような医薬組成物において、抗クローディン-1抗体及び追加の治療用薬剤は、抗クローディン-1抗体及び治療用薬剤の同時、別々、又は連続投与のための1つ又は複数の調製物中で組み合わされてもよい。より具体的には、本発明の組成物は、抗体及び治療用薬剤を一緒に又は互いに独立して投与することができるように製剤化されてもよい。例えば、抗クローディン-1抗体及び治療用薬剤は、単一の組成物中で一緒に製剤化されてもよい。あるいは、それらは、(例、異なる組成物及び/又は容器中で)維持され、別々に投与されてもよい。
【0134】
C.キットの医薬パック
別の態様において、本発明は、本発明の医薬組成物の1つ又は複数の成分を含む1つ又は複数の容器(例、バイアル、アンプル、試験管、フラスコ、又はボトル)を含む医薬パック又はキットを提供し、抗クローディン-1抗体、又はその生物学的に活性なフラグメントの投与を可能にする。
【0135】
医薬パック又はキットの異なる成分は、固体(例、凍結乾燥)又は液体の形態で供給されてもよい。各々の成分は、一般的に、そのそれぞれの容器中に分注される、又は濃縮形態において提供されるのに適している。医薬品パック又はキットは、凍結乾燥成分の再構成のための媒質を含んでもよい。キットの個々の容器は、好ましくは、商業販売のために密封して維持される。
【0136】
特定の実施形態において、医薬品パック又はキットは、上に記載するように、1つ又は複数の追加の治療用薬剤を含む。場合により、容器に関連付けられるのは、医薬的又は生物学的産物の製造、使用、又は販売を規制する政府機関により規定された形式の通知又は添付文書でありうるが、この通知は、ヒト投与のための製造、使用、又は販売の機関による承認を反映する。添付文書の通知は、本明細書中に開示する処置の方法に従った医薬組成物の使用のための指示を含んでもよい。
【0137】
識別子(例、バーコード、無線周波数、IDタグなど)が、キット中又は上に存在してもよい。識別子は、例えば、品質管理、在庫管理、ワークステーション間の移動の追跡などの目的のためにキットを一意に識別するために使用することができる。
【実施例】
【0138】
以下の実施例は、本発明を作製及び実施する好ましい様式の一部を記載する。しかし、実施例は例証目的だけのためであり、本発明の範囲を限定することを意味しないことを理解すべきである。さらに、実施例における記載が過去形で提示されていない限り、本文は、明細書の残り部分と同様に、実験が実際に実施された、又はデータが実際に得られたことを示唆することを意図しない。
【0139】
実施例1:インビボでの抗クローディン-1モノクローナル抗体の生体内分布。
材料及び方法
試薬及び抗体。抗クローディン-1モノクローナル抗体(抗CLDN1 mAb-OM-7D3-B3)を、以前に記載されたようにして得た(Fofana et al.,Gastroenterology,2010,139:953-964,e1-4)。コントロールmAb(ラットIgG2bクローンLTF-25、Bio X Cell)も使用した。
【0140】
生きている脊椎動物での研究実験。インビボ実験を、倫理委員会の承認(CREMEAS、プロジェクト番号AL/02/19/08/12及びAL/01/18/08/12)後、現地の法律に従って、INSERMユニット1110動物施設において実施した。
【0141】
抗体の生体内分布。抗体をAlexa-fluor 750(RD-Biotech、フランス、ブザンソン)で標識した。8週齢のBalb/cマウスに、500μgのAlexa-fluor 750標識CLDN1特異的又はコントロールmAbを腹腔内注射した。臓器を、以前に記載されたように(Krieger et al.,Hepatology,2010,51:1144-1157)24時間及び48時間で回収し、エクスビボ特異的蛍光をIVIS Lumina 50(Xenogen-Caliper-Perkin-Elmer)で検出し、平均有効性として表した。
【0142】
統計分析。マンホイットニー検定を使用した。p値≦0.05を有意であると考えた。統計分析をGraphPad Prism 6ソフトウェアで実施した。
【0143】
結果
抗クローディン-1抗体の生体内分布。本発明者らは、Balb/cマウスにおける抗CLDN1モノクローナル抗体のインビボ生体内分布を測定し、それをコントロールモノクローナル抗体と比較した。
図1中に提示した結果は、抗CLDN1モノクローナル抗体における濃縮が、皮膚、腎臓、肺、腸、及び肝臓において観察されたことを示す(24時間で測定された
図1(A)及び48時間で測定された
図1(B)を参照のこと)(Mailly et al.,Nature Biotechnol.2015,33(5):549-554)。
【0144】
実施例2:ブレオマイシン誘導性肺線維症モデルにおける線維症の予防における抗クローディン-1モノクローナル抗体のインビボ有効性
材料及び方法
ブレオマイシン誘導性肺線維症モデルにおける線維症の予防における抗ヒトCLDN1モノクローナル抗体の効果を調べるためのプロトコール。病原体のない6週齢の雌C57BL/6Jマウスを、Japan SLC,Inc.(日本)から入手した。0日目に、54匹のマウスに、Microsprayer(登録商標)(Penn-Century、米国)を使用し、生理食塩水中のブレオマイシン塩酸塩(BLM、日本化薬、日本)の、動物1匹当たり50μLの容量中の3.0mg/kgの用量での単回気管内投与により肺線維症を発症させた。各々のスロット中で、マウスを、0日目の処置の開始前日でのそれらの体重に基づき、18匹のマウスの3群中に無作為化した。個々の体重を、実験期間の間に毎日測定した。マウスの生存、臨床徴候、及び行動を毎日モニターした。
【0145】
マウス群。群1(溶媒):18匹のブレオマイシン誘導性肺線維症モデルマウスに、5mg/kgの容量中で溶媒[生理食塩水]を0日目から20日目まで週1回、腹腔内投与した。群2(抗CLDN1 Ab):18匹のブレオマイシン誘導性肺線維症モデルマウスに、抗CLDN1Abを500μg/マウスの用量で添加した溶媒を0日目から20日目まで週1回、腹腔内投与した。群3(デキサメタゾン):18匹のブレオマイシン誘導性肺線維症モデルマウスに、0.25mg/kgの用量(10mL/kgの容量中)でデキサメタゾンを添加した純水を0日目から20日目まで1日1回、経口投与した。全ての群中のマウスを21日目に屠殺した。
【0146】
生存、生化学的及び組織学的分析。全ての群中のマウスを、生存及び組織学的エッセイのために21日目に屠殺した。生存曲線を、カプランマイヤー生存方法を使用して作成し、ログランク検定を使用して比較した。肺切片についての組織学的分析を、通常の方法:マッソントリクローム染色及びアシュクロフトスコアの推定に従って実施した。
【0147】
統計的検定。統計的検定を、クラスカル・ウォリス検定を使用して実施した。P値<0.05を統計的に有意であると考えた。
【0148】
【0149】
結果
抗CLDN1 mAb群は、溶媒群と比較し、アシュクロフトスコアにおける有意な減少を示した(それぞれの平均値±SDは3.9±1.5及び2.8±0.9(p<0.05)であった)。デキサメタゾン群におけるアシュクロフトスコアは、溶媒群と比較し、減少する傾向があった(
図2(B))。マッソントリクローム染色された肺切片の代表的な顕微鏡写真を
図2(C)中に示す。
【0150】
処置期間の間に、21日目に達する前に死亡していることが見出されたマウスは、以下の通りであった;18匹のマウスのうち4匹が、溶媒群において死亡していることが見出された。18匹のマウスのうち5匹が、抗CLDN1 mAb群において死亡していることが見出された。18匹のマウスのうち10匹が、デキサメタゾン群において死亡していることが見出された。デキサメタゾン群は、溶媒群と比較し、生存率における有意な減少を示した。溶媒群と抗CLDN1Ab群の間で生存率における有意差はなかった(
図2(D))。
【0151】
体重を、ベースライン(0日目)からの体重変化のパーセンテージとして表した。デキサメタゾン群の平均体重変化は、4~16、18、19、及び21日目に溶媒群のそれよりも有意に低かった。溶媒群と抗CLDN1Ab群の間で、試験期間の間の任意の日に平均体重変化における有意差はなかった(
図2(E))。
【0152】
実施例3:ブレオマイシン誘導性肺線維症モデルにおける線維症の処置における抗クローディン-1モノクローナル抗体のインビボ有効性
材料及び方法
ブレオマイシン誘導性肺線維症モデルにおける線維症の処置における抗ヒトCLDN1モノクローナル抗体の効果を調べるためのプロトコール。病原体のない6週齢の雌C57BL/6JマウスをJapan SLC、Inc.(日本)から入手する。0日目に、54匹のマウスをペントバルビタールナトリウム(共立製薬、日本)で麻酔し、Microsprayer(登録商標)(Penn-Century、米国)を使用し、生理食塩水中のブレオマイシン(ロット番号771840、日本化薬、日本)を3mg/kgの用量で、動物当たり50μLの容量で気管内投与した。マウスを清潔なケージ(休息ケージ)に移し、麻酔からの回復まで飼育した。ブレオマイシン投与を別々の2日に行い、等しい数のマウスを各々の日に割り当てた。各々のスロット中で、ブレオマイシン誘導性肺線維症モデルマウスを、7日目の処置の開始前日でのそれらの体重変化に基づき、18匹のマウスの3群中に無作為化した。マウスの生存、臨床徴候、及び行動を毎日モニターした。
【0153】
マウス群。群1(溶媒):18匹のブレオマイシン誘導性肺線維症モデルマウスに、5mg/kgの容量中で溶媒[生理食塩水]を7日目から20日目まで週1回、腹腔内投与した。群2(抗CLDN1 Ab):18匹のブレオマイシン誘導性肺線維症モデルマウスに、抗CLDN1Abを500μg/マウスの用量で添加した溶媒を7日目から20日目まで週1回、腹腔内投与した。群3(ニンテダニブ):18匹のブレオマイシン誘導性肺線維症モデルマウスに、100mg/kgの用量(10mL/kgの容量中)でニンテダニブを添加した純水を7日目から20日目まで1日1回、経口投与した。全ての群中のマウスを、以下のアッセイのために21日目に屠殺した。
【0154】
生存、生化学的及び組織学的分析。全ての群中のマウスを、生存及び組織学的アッセイのために21日目に屠殺した。生存曲線を、カプランマイヤー生存方法を使用して作成し、ログランク検定を使用して比較した。肺ヒドロキシプロリン含量を、通常の方法に従って評価した。
【0155】
統計的検定。統計的検定を、クラスカル・ウォリス検定を使用して実施した。P値<0.05を統計的に有意であると考える。
【0156】
【0157】
結果
抗CLDN1 mAb群は、溶媒群と比較し、肺ヒドロキシプロリンレベルにおける有意な減少を示した(それぞれの平均値±SDは52±8.3及び45.3±8.4(p<0.05)であった)。ニンテダニブ群における肺ヒドロキシプロリンレベルは、溶媒群と比較し、減少する傾向があった(平均値±SD51.3±9.0、
図3(B)を参照のこと)。
【0158】
マッソントリクローム染色された肺切片の代表的な顕微鏡写真を
図3(C)中に示す。
【0159】
溶媒群と処置群の間で生存率及び体重における有意差はなかった(
図3(D-E)を参照のこと)。
【0160】
実施例4:肺及び腎臓線維症における治療適用のための抗クローディン-1モノクローナル抗体の評価
肺及び腎臓線維症についてのCLDN1特異的mAbの治療的な潜在的適用を試験するために、本発明者らは、腎臓細胞株(RPTEC/TERT1)及び肺細胞株(A549)からの細胞へのCLDN1特異的mAbの結合を評価してきた。さらに、彼らは、A549肺細胞における進行性肝シグネチャー及びTGFβシグナル伝達の誘導及び逆転を評価してきた。
【0161】
材料及び方法
細胞株。腎臓癌細胞株RPTEC/TERT1及び肺癌細胞株A549は、両方とも本来はATCCからであり、それぞれIrwin Davidson博士及びIzabella Sumara博士との共同研究においてIGBMCから入手した。両方の細胞株を、提供者の指示に従って培養した:RPTEC/TERT1腎臓癌細胞を、hTERT RPTEC Growth Kit及び0.1mg/mL G418を添加したATCC製剤化DMEM:F12培地中で増殖させた。A549肺癌細胞を、10%ウシ胎児血清を添加したATCC製剤化F-12K培地中で増殖させた。
【0162】
結合試験。細胞を、EDTA(4mM)の溶液を使用して剥離させ、4℃で、1%FBSを含むPBS中に再懸濁した。次に、150,000個の細胞を、増加濃度のヒト化H3L3 CLDN1特異的mAbとインキュベートし(WO/2017/162678を参照のこと)、結合シグナルを、1:100の希釈率を使用したPE標識抗ヒトとのインキュベーション後にフローサイトメトリーにより読み取り、Cytoflex及びFlowJo V10で分析した。1%FBSを含むPBSでの2回の洗浄を、抗体インキュベーション後毎に実施した。各々の細胞株についての結合曲線を、PE蛍光強度の中央値(MFI)を使用して構築し、相互作用のKdを、R3.5.1においてミカエリス・メンテン数学モデルを適用することにより算出した。
【0163】
PLS試験。A549細胞を12ウェルプレートに播種し(30,000個細胞/ウェル)、TGFβ(5ng/mL)(Peprotech)及びCLDN1特異的mAb(20μg/mL)を伴い又は伴わずに24時間にわたりインキュベートした。その後、RNAを、Promega Reliaprepキットを使用して抽出し、125nmを使用し、nCounter Nanostringを使用したPLSの誘導を決定した。
【0164】
TGFβシグナル伝達レポーターアッセイ。A549細胞を、製造元の指示に従ってFugeneを使用し、TGFβシグナル伝達レポータープラスミドpGLA4.48[luc2P/SBE/Hygro](Promega)でトランスフェクトした。トランスフェクション後、細胞に、コントロール又はCLDN1特異的mAb(50μg/mL)を含む新鮮培地を37℃で3時間にわたり添加した。新鮮培地を、TGFβ(10ng/mL)(Sigma)を含む細胞に37℃で3時間にわたり添加した。プレートを室温で15分間にわたりインキュベートし、その後、室温で3分間にわたりONE-Glo基質(Promega)を添加した。上清の発光を、Bertholdマイクロプレートリーダーを使用して読み取った。
【0165】
結果
CLDN1 mAbは、RPTEC/TERT1腎臓細胞株及びA549肺細胞株で発現するCLDNAに結合する。CLDN1 mAbは、両方の細胞株のエピトープを飽和させることが見出された:腎臓癌細胞株RPTEC/TERT1については50μg/mL(
図4(A))及び肺癌細胞株A549については20mg/mL(
図4(B))、それ故に、それぞれ53(
図4(C))及び16.3nM(
図4(D))のK
dをもたらした。これらの結果によって、CLDN1特異的mAbが、腎臓細胞及び肺細胞により発現されるCLDN1に結合することができることが確認される。
【0166】
CLDN1 mAbは、A549肺細胞株におけるPLSの線維症関連の不良な予後状態を逆転させる。線維症及び発癌についてのドライバーとしてのCLDN1の機能的役割をさらに研究するために、本発明者らは、CLDN1 mAbが臨床的PLS(患者における線維症及び肝臓疾患の進行、癌リスク及び死亡率の予測的な32遺伝子シグネチャー)の発現を調節するか否かを評価した(Hoshida et al.,N.Engl.J.Med.,2008,359:1995-2004;Hoshida et al.,Gastroenterology,2013,144:1024-1030;King et al.,Gut,2015,64:1296-1302;Nakagawa et al.,Cancer Cell,2016,30:879-890;Goossens et al.,Clin.Gastroenterol.Hepatol.,2016,14:1619-1628)。A549細胞株は、ストレス誘導物質の存在を伴うことなく臨床PLSを誘導することが公知である(不良な予後の遺伝子についてはFDR=0.018、良好な予後の遺伝子については0.012)。CLDN1 mAbを用いた24時間にわたる処置によって、臨床PLSの逆転がもたらされた(不良な予後の遺伝子についてはFDR=0.094、良好な予後の遺伝子については0.095)(
図5(A))。2つのPLS不良な予後の遺伝子(SERPINB2及びFMO1)は、CLDN1特異的mAbに続いて有意に下方調節され、1.5未満の倍率変化を伴った(
図5(B))。これらのデータは、CLDN1が肺線維症細胞株モデルにおける臨床PLSの不良な予後のドライバーとして作用し、候補治療標的としてのCLDN1 mAbの潜在的な役割を支持することを示唆する。
【0167】
CLDN1 mAbは、A549肺細胞におけるTGF-bシグナル伝達を低下させる。TGFβは、組織線維症の発生における重要な段階である、筋線維芽細胞中への肺線維芽細胞の分化のために必須である。さらに、TGFβの増加発現が線維性肺において報告されている。TGFβは、コラーゲン、ラミニン、及びフィブロネクチンを含むECM産生に寄与する(Saito et al.,Int.J.Mol.Sci.,2018,19(8):2460)。肺細胞におけるTGFβシグナル伝達に対するCLDN1特異的mAbの効果をさらに研究するために、トランスフェクトされたSBE(TGFβシグナル伝達レポータープラスミド)A549細胞をTGFβ(10ng/mL)で処理し、CLDN1特異的mAbはTGFβレポーター活性における有意な低下をもたらした(
図5(B))。
【0168】
結論
CLDN1特異的mAbは、腎臓(RPTEC/TERT1)及び肺(A549)細胞株からのCLDN1発現細胞に結合する。さらに、それは、A549細胞における、線維症を予測するPLSの逆転を調節する。これは、線維症進行を軽減する際でのCLDN1特異的mAbの役割を示唆する。最後に、CLDN1 mAbは、肺線維症についての決定的な経路であるTGFβシグナル伝達を低下させることが示された。まとめると、これらのデータは、肺及び腎臓線維症についてのCLDN1特異的mAbの潜在的な治療効果を示唆する。
【0169】
実施例5:皮膚線維症における治療適用のための抗クローディン-1モノクローナル抗体の評価-BLM誘導性皮膚線維症モデル
全身性強皮症(SSc)は、原因不明の慢性結合組織疾患である。それは、皮膚及び内臓の線維症により特徴付けられる。大半の患者は、SScの後期段階において組織線維症及び臓器機能障害を発症し、それは、増加した死亡率をもたらす。SScの対症処置は現在限定されており、原因治療が長く待たれてきた。
【0170】
ブレオマイシン(BLM)誘導性皮膚線維症モデルは、皮膚線維症についての十分に特徴付けられた疾患モデルであり、SScの生物学的経路を試験するために一般的に使用される。BLMモデルは、SScの重要な病態生理学的特色:表皮肥大及び皮膚線維症を包含し、それによって、このモデルは、SScについての単純な概念実証試験、又は抗線維症分子についてのインビボスクリーニングのために魅力的になる(Yamamoto et al.,J.Invest.Dermatol,1999,112:456)。
【0171】
材料及び方法
BLMモデル及びサンプリング。
図6に提示されているスキームに示すように、BLMを、4週間にわたり、事前に剪毛されたマウスの背中に隔日で皮下注射する。注射部位を1.5cm
2の正方形の剪毛領域の角に位置付け、回転させて使用する(角1、角2、角3、角4、角1など)。5mmの円を、皮膚パンチを使用して切り取り、コラーゲン定量化のために使用する。残りの無傷の領域を合計3つの長方形に切り取る(組織学用に1つ及び生化学的分析用に2つ)。BLM誘導性皮膚線維症モデルからの皮膚サンプルのHE染色は、BLM注射後28日に増加した厚さを示す。並行して、皮下脂肪層は萎縮及び収縮を示す。
【0172】
皮膚線維症に対するイマチニブの効果。メシル酸イマチニブは、c-Abl、PDGFR、及びいくつかの他のチロシンキナーゼに対するチロシンキナーゼ阻害剤である(Alfiya et al.,Arthritis Rheum.,2009,60:219)。c-Ablは、TGFβ経路を通じたECMタンパク質の誘導のために重要である。その阻害によって、EMC成分の合成が低下しうる。イマチニブは、PDGFRのチロシンキナーゼ活性を遮断することによりPDGFシグナル伝達に干渉する(Alfiya et al.,Arthritis Rheum.,2009,60:219)。試験デザインを
図7に提示する。
【0173】
結果
得られた結果を
図8に提示する。イマチニブは、真皮の厚さにおける及び皮膚線維症領域における有意な減少を誘導することが見出された。
【0174】
同様の実験を、イマチニブの代わりにCLDN1特異的mAbを使用して行う。
【0175】
実施例6:肝臓と比較した腎臓及び肺における抗CLDN1 mAb媒介性の抗線維化効果において含まれる多様な機構
上皮間葉転換(EMT)におけるCLDN1の十分の確立された役割(Stebbing et al.,Oncogene,2013,32:4671-4872;Shiozaki et al.,PLoS One,2012,7:e38049;Suh et al.,Oncogene,2013,32:4873-4882;Zhang et al.,Oncotarget,2016,7:87449-87461)ならびに肝臓における線維性疾患とのその関連を考慮し、本発明者らは、慢性腎臓及び肺疾患を伴う患者の臨床コホートにおけるCLDN1発現分析、動物モデルにおける抗CLDN1 mAbの効果の評価により、ならびに患者由来の線維芽細胞に関する摂動試験により、腎臓及び肺線維症のドライバー及び治療標的としてのCLDN1の役割を研究することを目的とした。
【0176】
材料及び方法
免疫蛍光。肺及び腎臓線維芽細胞の免疫蛍光の特徴付けのために、細胞を8チャンバーカバーグラス(Lab-Tek II#1.5、Sigma-Aldrich)上に播種した。翌日、細胞をPBSで2回洗浄し、室温で15分間にわたり4%PFAで固定し、0.1×Triton-Xでの10分間にわたる透過処理が続いた。2回の洗浄工程後、細胞を10%FBSで30分間にわたりブロックした。抗α-SMA Ab(1:100、ab5694、Abcam、フランス)及び抗CLDN1 mAb H3L3又はコントロールmAbモタビズマブ(それぞれ10μg/mL)での一次抗体染色を4℃で一晩実施した。細胞をPBSで洗浄し、ヤギ抗ヒトAlexa Fluor 488及びヤギ抗ウサギAlexa Fluor 647二次抗体(Jackson、英国)と1:200の希釈でインキュベートした。核染色を、DAPI(1μg/mL)を使用して行い、細胞を落射蛍光顕微鏡を使用して視覚化した。
【0177】
肺及び腎臓線維芽細胞での摂動試験。初代ヒト疾患肺実質線維芽細胞(IPF患者から由来する(#HPCPFIPF-05、BioIVT))及び腎臓線維芽細胞(#P10666、Innoprot)を12ウェルプレート中に5×104個細胞/cm2で播種し、TNFα(10ng/ml)、TNFα(10ng/ml)+IKK16(1μM)又は溶媒コントロールのいずれかで24時間にわたり処理し、次いで、抗CLDN1 mAb結合のフローサイトメトリー分析を行い、あるいはその後のゲノムワイドRNAseq分析のために3日間にわたり抗CLDN1 mAb又はアイソタイプコントロール(それぞれ50μg/mL)とインキュベートした。
【0178】
フローサイトメトリー。肺及び腎臓線維芽細胞におけるヒトCLDN1の膜発現を、フローサイトメトリーにより分析した。簡単には、条件当たり100,000個の細胞を、ヒト化CLDN1特異的抗体H3L3(10μg/mL)を使用して3通りに染色した。コントロールアイソタイプmAbをネガティブコントロールとして使用した。一次抗体を、PEコンジュゲートヒト特異的二次抗体を使用して検出した。データを、Cytoflex B2R2V0(Beckman Coulter)を使用して取得し、CytExpert 2.1及びFlowJo v10(Beckman Coulter)を使用して分析した。CLDN1発現を、CLDN1特異的抗体で染色された細胞及びコントロールIgGで染色された細胞の平均蛍光強度の差として算出した。
【0179】
ゲノムワイドRNA-Seq分析。RNA-Seqライブラリーを、TruSeq Stranded mRNAサンプル調製キット(Illumina、部品番号RS-122-2101)を使用して300ngの全RNAから生成した。簡単には、ポリTオリゴが付着した磁気ビーズでの精製後、mRNAを、94℃で2分間にわたり2価陽イオンを使用してフラグメント化した。切断されたRNAフラグメントを、逆転写酵素及びランダムプライマーを使用して第1鎖cDNAにコピーした。鎖特異性を、DNAポリメラーゼI及びRNase Hを使用した第2鎖cDNA合成の間にdTTPをdUTPで置換することにより達成した。単一の「A」塩基の付加及び二本鎖cDNAフラグメントでのアダプターのその後のライゲーション後、産物を精製し、PCR(98℃で30秒;[98℃で10秒、60℃で30秒、72℃で30秒]×12サイクル;72℃で5分)で濃縮してcDNAライブラリーを作製した。余剰のPCRプライマーを、AMPure XPビーズ(Beckman Coulter)を使用した精製によりさらに除去し、最終的なcDNAライブラリーを品質についてチェックし、2100 Bioanalyzer(Agilent)を使用して定量化した。ライブラリーを、Illuminaの説明書に従ってSingle-Read 50塩基リードとしてIllumina HiSeq 4000で配列決定した。画像解析及びベースコールを、RTAv2.7.3及びbcl2fastq v2.17.1.14を使用して実施した。読み取りを、HISAT2(Kim et al.,Nature Methods,2015,12:357-360)を使用してヒトゲノムhg19にマッピングした。
【0180】
バイオインフォマティック及び統計分析。肺及び腎臓疾患(腎臓疾患:GSE115857及びGSE129973;肺線維症:GSE2052(Pardo et al.,PLoS Med,2005,2; e251)のコホートにおけるCLDN1遺伝子発現を、スチューデントのt検定を使用して比較した。抗CLDN1 mAb又はコントロールmAbで処理された肺線維芽細胞におけるEMTマーカーの発現は、RNA-seqデータから由来したが、読み取りカウントを、スチューデントのt検定を使用して比較した。p値<0.05を伴う結果を統計的に有意であると考えた。RNA-seq経路分析の統計分析のために、肺筋線維芽細胞の活性化(Peyser et al.,Am.J.Respir.Cell.Mol.Biol.,2019,61:74-85)及びEMT(HALLMARK_EPITHELIAL_MESENCHYMAL_TRANSITION及びBUDHU_LIVER_CANCER_METASTASIS_UP(Budhu et al.,Cancer Cell,2006,10:99-111)を、Gene Set Enrichment Analysis(GSEA)又はGSEA-Preranked(FDR<0.25)(Subramanian et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,2005,102:15545-15550により評価した。
【0181】
結果
腎臓及び肺線維症患者における治療標的としてのCLDN1の関連性を研究するために、本発明者らは、慢性腎臓疾患を伴う患者ならびに線維症に関連付けられる慢性肺疾患を伴う患者におけるその発現を分析した。
【0182】
CLDN1遺伝子発現は慢性腎臓疾患に関連付けられる。CLDN1は、糖尿病性腎症(末期腎不全及び腎臓線維症の主要な原因)に起因する巣状分節性糸球体硬化症において過剰発現される(Calle et al.,Int.J.Mol.Sci.,2020,21:2806;Hasegawa et al.,Nature Med.,2013:19:1496-1504)。CLDN1は、糸球体腎炎を伴う患者において上方調節されていることが見出され、そのことは、慢性腎臓疾患の病態形成におけるCLDN1の関与を示唆している(
図9(A))。
【0183】
CLDN1遺伝子発現は肺線維症に関連付けられる。臓器にわたる線維形成におけるCLDN1の影響を裏付けて、CLDN1は、特発性肺線維症(IPF)を伴う患者においてさらに過剰発現していた(
図9(B))。まとめると、これらのデータは、臓器にわたる慢性線維形成性疾患におけるCLDN1の影響を示す。
【0184】
作用機構に取り組むために、本発明者らは、CLDN1発現に関して腎臓及び肺の筋線維芽細胞を特徴付けている。
図10(A)及び(B)中に示すように、抗CLDN1 mAbは、肺線維芽細胞上でならびに腎臓線維芽細胞上で発現されるCLDN1に特異的に結合する。さらに、抗CLDN1 mAbにアクセス可能な膜性CLDN1発現は、肝臓と同様に、腎臓維芽細胞(
図10(C)、左パネル)及び肺線維芽細胞(
図10(D)、右パネル)の両方において、TNFα-NFκBを介して調節されることが見出された。
【0185】
RNAseq及びGSEAによる抗CLDN1 mAb又はコントロールmAb処理肺線維芽細胞において最近特徴付けられた肺線維芽細胞活性化マーカーの遺伝子セットの機能的評価(Peyser et al.,Am.J.Respir.Cell Mol.Biol.,2019,61:74-85)によって、抗CLDN1 mAbの顕著な抗線維化効果が明らかになった(
図10(D))。さらに、抗CLDN1 mAbは、肺線維芽細胞におけるEMTプログラミングを有意に阻害することが見出されたが、肝臓と比較し、腎臓及び肺における抗CLDN1 mAb媒介性の抗線維化効果において含まれる潜在的な多様な機構を示唆している(
図10(D)、右パネル)。実際に、EMTマーカー、例えばフィブロネクチン及びN-カドヘリンなど、ならびに転写調節因子SNAI2(SLUG)は、抗CLDN1 mAbで処理された肺線維芽細胞において著しく、有意に下方調節されることが見出された(
図10(E))。
【0186】
実施例7:慢性腎臓及び腎線維症についての新規治療標的としての糸球体壁側上皮細胞、ならびに慢性腎臓疾患の処置のための糸球体壁側上皮細胞表現型に対するCLDN1特異的モノクローナル抗体(H3L3)の効果
慢性腎臓疾患(CKD)は、数ヶ月又は数年にわたる腎臓の構造及び機能における不可逆的な変化により特徴付けられる障害の不均一な群を表す(Webster et al.,The Lancet,2017,389:1238-1252)。糖尿病及び高血圧は、全ての高所得国及び中所得国、ならびに多くの低所得国におけるCKDの主な原因である。その根底にある病因に無関係に、慢性腎臓疾患は、進行性で不可逆的なネフロン喪失、慢性炎症、及び線維症により特徴付けられ、腎臓の低下した再生能力を伴い、末期腎疾患及び/又は死亡に導く(Babickova et al.,Kidney Int.,2017,91:70-85)。CKDを伴う人々は、低下した生活の質、及び、疾患が進行するにつれてより不良な社会経済的状況を有する。現在の治療は限定された有効性を有し、疾患進行を遅らせるだけであり、徴候及び症状を制御するのに役立つだけである。さらに、著しい進歩にもかかわらず、腎線維症を予防するための有効な処置はない(Ruiz-Ortega et al.,Nature Rev.Nephrol.,2020,16:269-288)。新たな標的及び治療が、したがって、緊急に必要とされる。
【0187】
糸球体疾患は、末期腎臓疾患の主な原因である。糸球体は、ネフロンの起始部に位置付けられる特殊化された毛細血管のネットワークである。糸球体の尿路空間は、ボーマン嚢として公知である基底膜により囲まれており、その上に糸球体壁側上皮細胞(PEC)の単層が付着している(
図11)。基底膜、PEC、及び足細胞と名付けられた別の特殊化された細胞型は、糸球体濾過バリアを構成し、それによって血液から水及び溶質が濾過される(Kitching et al.,Clin.J.Am.Soc.Nephrol.,2016,11:1664-1674)。糸球体細胞は正常な生理学に重要であるが、しかし、広範な傷害性の過程の標的である。過去10年の間に、糸球体疾患の進行におけるPECの役割がますます注目を得ている(Shankland et al.,Curr.Opin.Nephrol.Hypertens.,2013,22:302-309)。いくつかの試験によって、PECの活性化、移動、及び増殖が、過剰な細胞外マトリックスタンパク質を産生することにより、又は蓄積して半月体形成に導くことにより糸球体硬化症において含まれることが実証された(Smeets et al.,J.Am.Soc.Nephrol.,2011,22:1262-1274;Kuppe et al.,Kidney Int.,2019,96:80-93;Le Hir et al.,Kidney Int.,2003,63:591-599)。また、活性化されたPECは、糸球体硬化症の進行において関与する炎症性細胞(即ち、マクロファージのサブセット)の浸潤に導く炎症誘発性分子を産生する(Kanemoto et al.,Lab.Invest.,2003,83:1615-1625;Djudjaj et al.,J.Am.Soc.Nephrol.,2016,27:1650-1664;Garcia et al.,Am.J.Pathol.,2003,162:1061-1073)。したがって、PECは、魅力的な治療標的であるように見える。しかし、PECの活性化及び増殖を媒介するシグナル伝達経路は、依然として部分的にだけ理解されている。
【0188】
PECの特徴付けによって、PECを他の糸球体細胞型から区別する異なるマーカーが特定されている。これらのマーカーは、CD44(固有の活性化PECマーカー)、及びクローディン1(CLDN1)(血液濾過において重要な役割を有するタイトジャンクションタンパク質)を含む(Ohse et al.,Am.J.Physiol.-Ren.Physiol.,2009,297:F1566-F1574;Yu,J.Am.Soc.Nephrol.,2015,26:11-19)。CD44及びCLDN1を発現する糸球体細胞が、糸球体硬化症において関与することが示された(Smeets et al.,J.Am.Soc.Nephrol.,2011,22:1262-1274)。さらに、Hasegawaらは、糸球体におけるCLDN1過剰発現が、糖尿病性腎症の重症度及び増加したアルブミン尿(腎障害の初期マーカー)に関連付けられることを実証した(Hasegawa et al.,Nature Med.,2013,19:1496-1504)。CLDN1過剰発現は、したがって、CKD発生において病原性の役割を有しうる。最近、本発明者らの研究室は、C型肝炎感染の臨床的予防及び治癒ならびに肝硬変処置のための、CLDN1を標的化する高度に特異的なヒト化モノクローナル抗体を開発した(Mailly et al.,Nature Biotechnol.,2015,33:549-554;Fofana et al.,Gastroenterology,2010,139:953-964,064.e1-4;Colpitts et al.,Gut,2017,67(4):736-745)。CKDにおけるCLDN1発現PECの潜在的な病原性の役割を活用し、本試験の目的は、CKDの処置のためのPEC表現型に対するCLDN1特異的モノクローナル抗体(H3L3)の効果を評価することであった。
【0189】
材料及び方法
試薬及び抗体。ヒト化抗CLDN1 mAb(H3L3)及びモタビズマブ(Mota)が記載されており(Colpitts et al.,Gut,2017,67(4):736-745)、Evitria、Schlierenにより作製された。TNFαはSigmaから購入した。
【0190】
細胞。ヒト腎上皮細胞(HREpic)をScienCell Research Laboratoriesから購入し、製造元の指示に従って上皮細胞培地中で増殖させた。
【0191】
H3L3処置。2D培養のために、細胞をポリ-L-リジンでコーティングされた24ウェルプレート中に5.104個細胞/ウェルの細胞密度で播種した。24時間後、細胞をTNFα10ng/mL及びMota(10μg/mL)又はH3L3(10μg/mL)で処理した。3日後、細胞を再び、TNFα及び抗体でさらに3日間にわたり処理した。合計6日間の処理後、細胞を溶解し、qRT-PCRにより遺伝子発現を測定した。3D培養のために、細胞を96ウェル超低付着プレート(Corning、Sigma Aldrich、フランス)中に5×103個細胞/ウェルの細胞密度で播種した。上に記載したのと同じ処理を、6日間にわたり適用した。細胞生存率を、製造元の指示に従ってCellTitreGlo(Promega)を使用したATP定量化により評価した。
【0192】
フローサイトメトリー。HREpicにおけるH3L3結合及びヒトCLDN1の発現を、TNFα処理(10ng/mL)後の24時間にフローサイトメトリーにより分析した。簡単には、条件当たり200,000個の細胞を、H3L3(10μg/mL)又はネガティブコントロールとして使用したMota(10μg/mL)を使用して染色した。一次抗体を、Alexa fluor 647コンジュゲートヒト特異的二次抗体を使用して検出した。データを、Cytoflex B2R2V0(Beckman Coulter)を使用して取得し、CytExpert 2.1及びFlowJo v10を使用して分析した。CLDN1発現を、H3L3で染色された細胞及びMotaで染色された細胞の平均蛍光強度の差として示す。
【0193】
細胞培養実験における遺伝子発現分析。2D細胞培養からの全RNA抽出を、RNAeasy Mini Kit(Quiagen、フランス)を製造元の指示に従って使用して実施した。その後、250ngの全RNAをThermocycler(Bio-Rad T100、Bio-Rad、米国カリフォルニア州ハーキュリーズ)で逆転写した(H Minus First Strand cDNA合成Mix、ThermoScientific、フランス)。定量的PCRを、CFX96 Touch Real-Time PCR検出システムTaqMan遺伝子発現アッセイ(ThermoFisher)で、製造元の指示に従って実施した。
【0194】
統計学。データを平均値±s.dとして提示し、シャピロ・ウィルク正規性検定による分布の決定後に示されるように、対応のないスチューデントのt検定又は両側マンホイットニー検定により分析した。全ての実験を、2D培養については少なくとも3通りに、及び3D培養については4通りに実施した。データは、p<0.05で有意であると考える。インビトロ実験についての統計分析を、GraphPad Prism 6ソフトウェアで実施した。
【0195】
結果
壁側上皮細胞(PEC)についてのインビトロモデルとして、本発明者らはヒト腎上皮細胞(HREpic)を使用したが、それはヒト腎臓から単離された初代細胞である。それらは分極した形態を呈し、細胞培養におけるPEC機能、例えばグルコース吸収及びサイトカイン産生などを再現する(ScienCell Research Laboratories)。糸球体疾患及び慢性腎臓疾患(CKD)についてのPECにおける治療標的としてのCLDN1の役割を研究するために、本発明者らは最初に、腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)を使用して細胞を炎症性ストレスに晒した。実際に、TNFαは、腎疾患、例えば糸球体腎炎などにおいて重要な炎症性の役割を果たす多面的なサイトカインである(Ernandez et al.,Kidney Int.,2009,76:262-276)。
図12(A)中に示すように、TNFαは、CLDN1発現の著しい増加をもたらし、それは、CD44発現(活性化PECのマーカー)における増加と相関する(Shankland et al.,Curr.Opin.Nephrol.Hypertens.,2013,22:302-309)。さらに、PEC活性化は、炎症誘発性遺伝子発現(IL6、TNFα、及びCCL2)における増加により示される(
図12(B))。炎症性ストレス時でのCLDN1発現における増加はまた、タンパク質レベルで確認された(
図12(C))。PEC活性化及び炎症誘発性/線維性遺伝子発現におけるCLDN1の役割を、CLDN1ノックダウン後の低下したTNFα及びコラーゲン4A発現によりさらに実証した(
図12(D))。興味深いことに、抗CLDN1 mAb H3L3は、フローサイトメトリー分析により実証されるように、PEC CLDN1に結合する(
図12(E))。炎症性ストレス時でのCLDN1発現における増加はまた、タンパク質レベルで確認された(
図12(C))。本発明者らが、抗CLDN1 mAbが非接合CLDN1に排他的に結合することを以前に実証したように((Mailly et al.,Nature Biotechnol.,2015,33:549-554;Fofana et al.,Gastroenterology,2010,139:953-964,064.e1-4;Colpitts et al.,Gut,2017,67(4):736-745)、H3L3は、PEC膜で遊離CLDN1の細胞外ループに結合する可能性が最も高い。
【0196】
CLDN1は活性化PECにおいて過剰発現されているため、発明者らは、3Dシステムにおいて細胞間接合を再現する3D培養モデル中でのPEC増殖/生存率に対するH3L3の効果を評価した。予想通り、彼らは、TNFα処理時での細胞増殖/生存率における増加を観察した。さらに、予備データは、H3L3処理後の細胞増殖/生存率におけるわずかな減少を示し、抗CLDN1 mAbがPEC表現型に作用しうることを示している(
図13(A)を参照のこと)。この知見は、抗CLDN1 mAbでの処置後のTNFα及びCD44発現における減少によりさらに裏付けられた(
図13(B))。
【0197】
まとめると、これらのデータは、PECにおけるCLDN1過剰発現が炎症性ストレス、細胞増殖に関連しており、CKDの病態形成において役割を果たしうることを実証する。PECに存在するCLDN1は、治療目的のために抗CLDN1 mAbにより標的化することができる。さらに、得られたデータから、腎臓線維症において、PECが抗CLDN1 mAbの標的であると結論付けることができ、肝線維症において起こることとは異なる状況である。
【0198】
実施例8:線維症コホートにおけるCLDN1の発現
異なる線維性疾患における治療標的としてのCLDN1の役割を研究するために、本発明者らは、腎線維症、肺線維症、及び炎症性腸疾患(IBD)を伴う患者においてその発現を分析した。線維性疾患におけるCLDN1遺伝子発現レベルの分析を、Gene Expression Omnibusデータベースから検索した。
【0199】
材料及び方法
遺伝子発現データを、Gene Expression Omnibus GEO(ウェブサイト:www.ncbi.nlm.nih.gov/geo/)からダウンロードした。片側尿管閉塞(UUO)モデルのデータセットはGSE60685(Lovisa et al.,Nature Med,2105,21:998-1009)であった;肺線維症のデータセットはGSE2052(Pardo et al.,PLoS Med.,2005,2:e251)であり、及びCOVID219のデータセットはGSE15316であった。本試験において使用された炎症性腸疾患のデータセットはGSE9452(Olsen et al.,Inflamm.Bowel Dis.,2009,15:1032-1038)、GSE38713(Planell et al.,Gut,2013,62:967-976)、及びGSE38713(Carey et al.,Inflamm.Bowel Dis.,2008,14:446-457)であった。これらのコホートは、本発明者らがマイクロアレイデータの一部としてCLDN1遺伝子を特定した包括的なデータベース分析に従って選択された。
【0200】
結果
CLDN1遺伝子発現は肺線維症に関連付けられる。CLDN1は、線維症及びEMT変化に関連付けられる病理学的な肺の状態において過剰発現することが示された(Kaarteenaho-Wilk et al.,J.Histochem.Cytochem.,2009,57:187-195)。肺線維症患者における治療標的としてのCLDN1の役割を研究するために、本発明者らは、肺線維症を伴う患者においてその発現を分析した。CLDN1は、病因に無関係に、肺線維症を伴う患者において過剰発現していることが見出され(
図14(A))、そのことは、臓器にわたる線維形成におけるCLDN1の影響を示している。注目すべきことに、CLDN1はまた、COVID19疾患(肺合併症、特に線維症に起因する高い罹患率及び死亡率に関連付けられる現在の世界的大流行)を伴う患者の肺において上方調節された(
図14(B))。(George et al.,Lancet Respir.Med.,2020,8:807-815。
【0201】
CLDN1遺伝子発現は潰瘍性大腸炎に関連付けられる。CLDN1は、細胞増殖及び炎症を調節することを通じて、腸のシグナル伝達において重要な役割を果たす(Garcia-Hernandez et al.,Ann.N.Y.Acad.Sci.,2017,1397:66-79)。さらに、CLDN1は、大腸炎を悪化させ、回復を損ない、異形成及び炎症を増加させることが示されている(Gowrikumar et al.,Oncogene,2019,38:6566;Pope et al.,Gut,2014,63:622-634)。炎症性腸疾患(IBD)患者において、CLDN1タンパク質発現が炎症依存的に増加する(Weber et al.Lab Invest.,2008,88:1110-1120)。IBD患者における治療標的としてのCLDN1の役割を研究するために、本発明者らは、患者のコホートにおけるCLDN1発現を分析した(
図15)。CLDN1は、潰瘍性大腸炎を伴う患者において上方調節されていることが見出された。
【0202】
CLDN1遺伝子発現は、片側尿管閉塞(UUO)モデルにおける誘導性腎線維症において上方調節されている。片側尿管閉塞(UUO)モデルを、腎線維症を起こすために使用し、そこでは、UUOの主な特色は、尿流閉塞の結果としての尿細管損傷であり、酸化ストレス、炎症、及び腎線維症を起こす(Martinez-Klimova et al.,Biomolecules,2019,9(4):141)。UUOにおけるCLDN1の役割を研究するために、本発明者らは、マウス腎組織におけるその発現を分析した。CLDN1は、UUOサンプル中で過剰発現していることが見出され、腎線維症におけるCLDN1の役割を調べるためのその妥当性が示される(
図16)。
【0203】
実施例9:片側尿管閉塞(UUO)誘導性の腎間質性線維症における抗CLDN1 mAbのインビボ効力試験
本試験の目標は、片側尿管閉塞誘導性の腎間質性線維症における腎間質性線維症に対する抗CLDN1 mAbの効果を検証することであった。
【0204】
材料及び方法
被験物質。抗CLDN1 mAbのマウス化バージョンを、本発明者らの研究室で合成し、本試験において使用した。293T細胞中で発現されたマウス及びヒトCLDN1を使用した親和性試験では、マウス化mAbがマウスCLDN1に結合することが示されているが、著しく低い効力を伴う。投薬溶液を調製するために、抗CLDN1 mAbを、溶媒として使用された生理食塩水で希釈した。テルミサルタン(Micardis(登録商標))をBoehringer Ingelheim GmbH(ドイツ)から購入し、純水中に溶解した。
【0205】
片側尿管閉塞(UUO)手術。0日目に、UUO手術を、3種類の混合麻酔薬(メデトミジン、ミダゾラム、ブトルファノール)の下で実施した。剪毛後、腹部を切り開き、左尿管を露出させた。尿管を、4-0絹縫合糸により2点で結紮した。腹膜及び皮膚を縫合糸で閉じて、マウスを清潔なケージに移し、麻酔からの回復まで飼育した。
【0206】
薬物投与の経路。抗CLDN1 mAbを100μL/マウスの容量で腹腔内投与した。テルミサルタンを10μL/マウスの容量で経口投与した。
【0207】
処置用量。抗CLDN1 mAbを500μg/100μL/マウスの用量で投与した。テルミサルタンを1日1回30mg/kgの用量で投与した。
【0208】
動物。7週齢の雌C57BL/6JマウスをJapan SLC、Inc.(日本)から入手した。動物を収容し、管理された条件下で通常の食餌(CE-2;CLEA Japan、日本)を与えた。試験において使用された全ての動物を、日本薬理学会の動物使用ガイドラインに従って収容し、世話した。動物を、温度(23±3℃)、湿度(50±20%)、照明(12時間の人工的な明暗サイクル;8:00から20:00まで明)、及び空気交換の制御された条件下で、SPF施設において維持した。高圧を実験室中で維持して施設の汚染を防止した。動物をTPXケージ(CLEA Japan)中に収容し、ケージ当たり最大4匹のマウスを伴った。滅菌されたPaper-Clean(日本SLC)を床用に使用し、週1回交換した。
【0209】
滅菌済みの通常の食餌を自由に提供し、ケージの上部の金属製蓋中に置いた。蒸留水をまた、ゴム栓及びシッパーチューブを備えたウォーターボトルから自由に提供した。ウォーターボトルを週1回交換し、洗浄し、オートクレーブ中で滅菌し、再利用した。
【0210】
マウスをイヤーパンチにより識別した。各々のケージを特定の識別コードで標識した。
【0211】
血漿生化学の測定。血漿生化学のために、非絶食血液を、抗凝固剤(Novo-Heparin、持田製薬株式会社、日本)を伴うポリプロピレンチューブ中に収集し、1,000xgで15分間にわたり4℃で遠心分離した。上精を収集し、使用まで-80℃で保存した。血漿中尿素窒素を、FUJI DRI-CHEM 7000(富士フイルム、日本)により測定した。
【0212】
腎臓生化学の測定。腎臓ヒドロキシプロリン含量を定量化するために、凍結した左腎臓サンプルを以下の通りにアルカリ酸加水分解方法により処理した。腎臓サンプルを65℃で2N NaOH中に溶解し、121℃で20分間にわたりオートクレーブした。溶解サンプル(150μL)を150μLの6N HClで、121℃で20分間にわたり酸加水分解し、10mg/mLの活性炭を含む150μLの4N NaOHで中和した。AC緩衝液(2.2M酢酸/0.48Mクエン酸、150μL)をサンプルに加え、次いで、上清を収集するための遠心分離を行った。ヒドロキシプロリンの標準曲線を、16μg/mLで開始するトランス-4-ヒドロキシ-L-プロリン(Sigma-Aldrich、米国)の系列希釈で作成した。調製サンプル及び標準(各々400μL)を400μLのクロラミンT溶液(Nacalai Tesque Inc.、日本)と混合し、室温で25分間にわたりインキュベートした。サンプルを次に、エーリッヒ溶液(400μL)と混合し、発色のために65℃で20分間にわたり加熱した。サンプルを氷上で冷却し、遠心分離して沈殿物を除去した後、各々の上清の光学密度を560nmで測定した。ヒドロキシプロリンの濃度をヒドロキシプロリン標準曲線から算出した。腎臓サンプルのタンパク質濃度を、BCAタンパク質アッセイキット(Thermo Fisher Scientific、USA)を使用して決定し、算出されたヒドロキシプロリン値を標準化するために使用した。腎臓ヒドロキシプロリン含量を、タンパク質1mg当たりのμgとして表した。
【0213】
組織病理学的分析。PAS染色のために、切片をパラフィンブロックから切除し、製造元の指示に従ってシフ試薬(和光純薬工業)で染色した。管状の損傷を観察するために、皮質髄質領域中の明視野画像を、デジタルカメラ(DFC295;Leica Microsystems、ドイツ)を使用して100倍及び400倍の倍率でキャプチャした。
【0214】
コラーゲン沈着を視覚化するために、腎臓切片を、ピクロシリウスレッド溶液(Waldeck、ドイツ)を使用して染色した。間質性線維症領域の定量化のために、皮質髄質領域中の明視野画像を、デジタルカメラ(DFC295)を使用して200倍の倍率でキャプチャし、5つの領域/切片中の陽性領域を、ImageJソフトウェア(国立衛生研究所、米国)を使用して測定した。
【0215】
免疫組織化学のために、切片をパラフィンブロックから切除し、脱パラフィン及び再水和した。内因性ペルオキシダーゼ活性を、0.3%H2O2を使用して5分間にわたりブロックし、Block Ace(大日本住友ファーマ株式会社、日本)と10分間にわたりインキュベートした。切片を、100倍希釈の抗F4/80抗体(BMA Biomedicals、スイス)と室温で1時間にわたりインキュベートした。二次抗体(HRP-ヤギ抗ラット抗体、Invitrogen、米国)とのインキュベーション後、酵素基質反応を、3,3’-ジアミノベンジジン/H2O2溶液(株式会社ニチレイバイオサイエンス、日本)を使用して実施した。炎症領域の定量分析のために、F4/80免疫染色切片の明視野画像を、デジタルカメラ(DFC295)を使用して200倍及び400倍の倍率でキャプチャした。
【0216】
サンプル収集。血漿サンプルについては、非空腹時の血液を、抗凝固剤(Novo-Heparin)を伴うポリプロピレンチューブ中に収集し、1,000xgで15分間にわたり4℃で遠心分離した。20μLの上清を収集し、生化学のために-80℃で保存した。残りの血漿を輸送のために-80℃で保存した。
【0217】
凍結腎臓サンプルについては、左腎臓を収集し、水平に2つに切断した。左腎臓の上部分を10%中性緩衝ホルマリン中で固定し、次にパラフィン中に包埋した。パラフィンブロックを、組織学的分析のために室温で保存した。左腎臓の下部分を冠状に2つの断片に切断した。左腎臓の前部分を液体窒素中で急速凍結し、輸送のために-80℃で保存した。左腎臓の後部分を液体窒素中で急速凍結し、腎臓生化学のために-80℃で保存した。
【0218】
統計的検定。統計分析を、GraphPad Prism 6(GraphPad Software Inc.、米国)でのボンフェローニ多重比較検定を使用して実施した。P値<0.05を統計的に有意であると考えた。トレンド又は傾向を、片側t検定がP値<0.1を戻した場合に想定した。結果を平均値±SDとして表した。
【0219】
実験デザイン及び処置
試験群
群1:溶媒。8匹のUUOマウスに、100mL/マウスの容量中で溶媒[生理食塩水]を0日目から13日目まで週2回、腹腔内投与した。
群2:抗CLDN1 mAb。8匹のUUOマウスに、抗CLDN1 mAbを添加した溶媒を500μg/100μL/マウスの用量で0日目から13日目まで週2回、腹腔内投与した。
群3:テルミサルタン。8匹のUUOマウスに、テルミサルタンを添加した純水を10mL/kgの容量中で30mg/kgの用量で0日目から13日目まで1日1回、経口投与した。
【0220】
動物のモニタリング及び屠殺。生存率、臨床徴候、及び行動を毎日モニターした。個々の体重を処置前に毎日測定した。マウスを、各々の投与後、毒性、瀕死、及び死亡の有意な臨床徴候について観察した。動物を、14日目にイソフルラン麻酔(Pfizer Inc.)下での直接心臓穿刺による放血により屠殺した。
【0221】
結果
慢性腎臓疾患、例えば糖尿病性腎症などについての現在の治療アプローチは、テルミサルタン(EMTに影響することにより腎臓線維形成において保護効果を発揮するレニン-アンジオテンシン受容体拮抗薬)を含む(Balakumar et al.,Pharmacol.Res.,2019,146:104314)。しかし、限定された効力に起因して、慢性腎臓疾患及び線維症の処置におけるテルミサルタンの現在の役割は、支持的だけである(Ruiz-Ortego et al.,Nature Rev.Nephrol.,2020,16,269-288;Balakumar et al.,Pharmacol.Res.,2019,146:104314)。腎線維形成における潜在的な標的としてCLDN1を研究するために、ヒト化抗CLDN1 mAb H3L3の効果を、腎臓線維症の片側尿管閉塞(UUO)マウスモデルにおけるテルミサルタンとの比較において調べた(Chevalier et al.,Kidney Int.,2009,75:1145-1152)(
図17(A)中に提示されている試験プロトコールを参照のこと)。
【0222】
体重変化及び全身状態。
図18により示すように、有意差は、溶媒群と治療群の間で、処置期間の間の任意の日に平均体重において見出されなかった。死亡は、処置期間の間に、全ての3つの試験群において起こらなかった;及び、動物のいずれも全身状態における悪化を示さなかった。
【0223】
屠殺の日の体重及び腎臓重量。
図19(A)及び表1により示すように、平均体重における有意差は、溶媒群と治療群の間に、屠殺の日に観察されなかった。
図19(B)中に示すように、抗CLDN1 mAb群における平均右腎臓重量は、溶媒群と比較して増加する傾向があることが見出された。溶媒群とテルミサルタン群の間で平均右腎臓重量における有意差はなかった。
図19(C)中に示すように、抗CLDN1 mAb群における平均左右腎臓重量は、溶媒群と比較して増加することが見出された。溶媒群とテルミサルタン群の間で平均左腎臓重量における有意差はなかった。
【0224】
【0225】
生化学。血漿尿素窒素。
図20(A)中及び表2中に示すように、テルミサルタン群における血漿尿素窒素レベルは、溶媒群と比較して増加する傾向があることが見出された。溶媒群及び抗CLDN1 mAb群と比較し、血漿尿素窒素レベルにおける有意差はなかった。
【0226】
腎臓ヒドロキシプロリン。
図20(B)中及び表2中に示すように、テルミサルタン群における腎臓ヒドロキシプロリン含量は、溶媒群と比較して減少する傾向があった。溶媒群及び抗CLDN1Ab群と比較し、腎臓ヒドロキシプロリン含量において有意差はなかった。
【0227】
【0228】
組織学的分析。PAS染色。PAS染色された腎臓切片の代表的な顕微鏡写真を
図21中に示す。溶媒群からの腎臓切片は、皮質領域における炎症性細胞浸潤、重度の尿細管拡張、萎縮、及びPAS陽性キャスト形成を示した。PAS染色によって、抗CLDN1 Ab群及びテルミサルタン群における炎症性細胞浸潤が、溶媒群よりも低いことが実証された。
【0229】
シリウスレッド染色及び線維症領域。シリウスレッド染色された腎臓切片の代表的な顕微鏡写真を
図22中に示す。抗CLDN1 mAb群及びテルミサルタン群は、溶媒群と比較し、コラーゲン比率(シリウスレッド陽性領域)において有意な減少を示した(表3を参照のこと)。
【0230】
【0231】
F4/80免疫染色。F4/80免疫染色された腎臓切片の代表的な顕微鏡写真を
図23中に示す。溶媒群からの腎臓切片は、皮質領域及び糸球体領域の両方において炎症性細胞浸潤を示した。F4/80免疫染色によって、抗CLDN1 mAb群及びテルミサルタン群における炎症性細胞浸潤が、溶媒群におけるそれよりも低いことが実証された。
【0232】
シリウスレッド染色及び腎臓ヒドロキシプロリン含量により示されるように、腎線維症が溶媒群において確立された。抗CLDN1 mAbでの処置は、溶媒群と比較し、毒性の徴候又は血漿尿素窒素検査における増加を伴うことなく、溶媒群と比較し、線維症領域における著しく、高度に有意な減少を示した。このように、UUOマウス腎臓組織の組織学的分析によって、抗CLDN1 mAb腎臓切片中での線維症領域(シリウスレッド陽性領域)における減少が示され、中央値7.49%(Q1-Q3 5.6-9.36%)を伴うコントロール群と比較し、2.89%(Q1-Q3 1.52-4.25%)の中央値を伴った。インビボでも有意な抗線維化効果を示す一方で、テルミサルタンでの処置は、血漿尿素窒素(慢性腎臓疾患における不良な転帰のマーカー)における増加と関連付けられた(Seki et al.,BMC Nephrol.,2019,20:115)。対照的に、抗CLDN1 mAbは、血漿尿素窒素に対する任意の効果を示さなかった。最後に、F4/80染色によるマウス腎臓の組織学的評価によって、抗CLDN1 mAbによるマクロファージ浸潤の抑制が明らかになった。
【0233】
結論
結論として、本試験において得られた結果は、マウス化された抗ヒト抗CLDN1 mAbが、使用されたUUOモデルにおける腎臓線維症に対して著しく、高度に有意な抗線維化効果を有することを示す。
【0234】
実施例10:ヒトの健常な腎組織におけるCLDN1の発現。
材料及び方法
被験物質。抗CLDN1 mAbのヒト化バージョン及びアイソタイプコントロールをビオチン化し(Squarix、ドイツ)、本試験において使用した。健常なヒト組織(新鮮に凍結されている)はCharles River Laboratories(フランス、エヴルー)で入手可能であり、特定の手順を使用し、ビオチン化されたヒト化抗CLDN1 mAbで染色した。組織をホルモル亜鉛で2分間にわたり固定し、PBS Tween(Sigma P3563)で洗浄し、内因性ペルオキシダーゼ活性を、0.3%H2O2を含むPBSで20分間にわたりクエンチした。組織スライドを、1%Tween 20及び10%ヒト血清を伴う緩衝液中の10μgの抗体と1時間にわたりインキュベートし、PBSで30分間にわたり2回洗浄し、検出を、製造元の使用に従って、ストレプトアビジンHRPキット(VectorからのKir Elite)で行った。
【0235】
結果
図24は、明確なクローディン1特異的染色が、糸球体のボーマン膜及び足細胞で観察されたことを示す(矢印)。尿細管の弱い染色は、非特異的であると考えた。なぜなら、それはまた、アイソタイプコントロール抗体で観察されたためである(Charles River Laboratories(フランス、エヴルー)で実施された試験)。
【0236】
実施例11:ヒト線維化腎組織におけるCLDN1の発現。
材料及び方法
被験物質
ウサギポリクローナル抗CLDN1抗体Ab(Elabscience、E-AB-30939)を使用し、標準的な方法論を使用して一連のホルマリン固定組織切片を染色した。組織は、Prof Solange Moll(ジュネーブ大学、スイス)により提供された。
【0237】
結果
図25は、腎線維化組織におい観察されたより強いシグナルを伴う、健常組織と疾患組織の間での異なる染色を示す:染色は、(1)ANCA(抗好中球細胞質抗体関連血管炎)糸球体腎炎の半月体において、ならびに(2)コルチコステロイド(CS)及び/又はシクロスポリンA(CyA)のいずれかで処置されたFSGS(巣状分節性糸球体硬化症)I型及びII型において実証された。これは、標的としてのクローディン-1が、ヒト腎臓線維症の異なる形態において過剰発現していることを示す。さらに、クローディン1のこの過剰発現は、最先端の治療、例えばコルチコステロイド及びシクロスポリンAなどを用いた患者の処置状態に非依存的である。
【0238】
実施例12:抗クローディン-1モノクローナル抗体を使用した腎臓機能の改善及び腎線維症の予防。
この試験は、アドリアマイシン誘導性腎症モデルを使用して行われた。
【0239】
材料及び方法
アドリアマイシン誘導性腎症(ADR)モデルは、慢性腎臓疾患についての十分に特徴付けられた疾患モデルであり、原発性巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)により起こされるヒト腎臓疾患を反映する。アドリアマイシン誘導性腎症は、ヒトFSGS(巣状分節性糸球体硬化症)を模倣するマウスモデルである。有効性試験は、SMCラボ(日本、東京)で、現地の倫理及び動物管理の基準に従って実施された。アドリアマイシン誘導性腎症モデルの誘導を0日目に開始し、マウスに、0.9%生理食塩水中のアドリアマイシン(ドキソルビシン塩酸塩、和光純薬工業株式会社、日本)を10mL/kgの容量において13mg/kgの用量で静脈内投与した。
【0240】
8匹のアドリアマイシン誘導性腎症の雄BALB/cマウスの群に、溶媒[生理食塩水]、抗CLDNA 1 mAb H3L3(250μg/マウス、週2回)、又はポジティブコントロールとしてVPA(=バルプロ酸、飲料水中の0.4%で提供)のいずれかを27日間にわたり腹腔内投与した。血清クレアチニン及びBUN(血中尿素窒素)は、FUJI DRI-CHEM 7000(富士フイルム株式会社、日本)により測定した。
【0241】
結果
図26は、コントロール群及びバルプロ酸処置群と比較した、抗クローディン1 mAb処置群における血清クレアチニン及び血清BUNの、非有意であるが顕著な低下を示す。これは、抗クローディン1抗体での処置が、これらのマーカーの低下により証明されるように、腎臓機能及び健康状態を改善させ、達成された治療利益が、十分に確立された標準処置よりも優れていることを示す。
【0242】
他の実施形態
本発明の他の実施形態が、本明細書中に開示される本発明の明細書又は実施の考察から当業者に明らかであろう。本明細書及び実施例は例示としてだけ考慮されることが意図されており、本発明の真の範囲は以下の特許請求の範囲により示されている。
【表4-1】
【表4-2】
【表4-3】
【表4-4】
【配列表】
【国際調査報告】