(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-18
(54)【発明の名称】抗PCSK9抗体及びその使用
(51)【国際特許分類】
C07K 16/40 20060101AFI20230111BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20230111BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
C07K16/40 ZNA
A61P3/06
A61K39/395 N
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022528582
(86)(22)【出願日】2020-11-18
(85)【翻訳文提出日】2022-07-19
(86)【国際出願番号】 CN2020129763
(87)【国際公開番号】W WO2021098720
(87)【国際公開日】2021-05-27
(31)【優先権主張番号】201911132974.4
(32)【優先日】2019-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201911133187.1
(32)【優先日】2019-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522192207
【氏名又は名称】エーディー ファーマシューティカルズ カンパニー,リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【氏名又は名称】村上 智史
(72)【発明者】
【氏名】リー パイヨン
(72)【発明者】
【氏名】シア ユイ
(72)【発明者】
【氏名】ワン チョンミン
(72)【発明者】
【氏名】チン シアオピン
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA14
4C085CC23
4C085EE01
4C085GG04
4H045AA11
4H045AA30
4H045DA76
4H045EA27
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】
抗PCSK9抗体及びその使用、好ましくは高コレステロール血症の治療のための使用を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高コレステロール血症を治療するための、抗PCSK9抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項2】
前記抗PCSK9抗体が以下を含む、請求項1に記載の抗PCSK9抗体又はその抗原結合フラグメント:
HCDR1: GFTFSSYS (SEQ ID NO: 5);
HCDR2: ISSSSSYI (SEQ ID NO: 6);
HCDR3: EYDFWSAYYDAFDV (SEQ ID NO: 7);
LCDR1: SRNIGGGND (SEQ ID NO: 8);
LCDR2: GVI (SEQ ID NO: 9);及び
LCDR3: QSFDGSLSGSV (SEQ ID NO: 10).
【請求項3】
前記抗PCSK9抗体が以下を含む、請求項1に記載の抗PCSK9抗体又はその抗原結合フラグメント:
配列番号2に示されるアミノ酸配列、又は、それと少なくとも80%の相同性、好ましくは少なくとも85%の相同性、より好ましくは少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%若しくは99%の相同性を有するアミノ酸配列を含む、重鎖可変領域、及び
配列番号4に示されるアミノ酸配列、又は、それと少なくとも80%の相同性、好ましくは少なくとも85%の相同性、より好ましくは少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%若しくは99%の相同性を有するアミノ酸配列を含む、軽鎖可変領域。
【請求項4】
前記抗体が、モノクローナル抗体、好ましくはヒト化抗体である、請求項1に記載の抗PCSK9抗体又はその抗原結合フラグメント。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の抗PCSK9抗体又はその抗原結合フラグメント、及び薬学的に許容可能な担体を含む、医薬組成物、好ましくは高コレステロール血症を治療するための医薬組成物。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載の抗PCSK9抗体又はその抗原結合フラグメントを含む、キット、好ましくは高コレステロール血症を治療するためのキットであって、
好ましくは、前記キットが、スタチン(好ましくは3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル補酵素A(HMG-CoA)レダクターゼ阻害剤、より好ましくは、ロバスタチン、プラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ロスバスタチンおよびピタバスタチンから選択される)、並びに/又はエゼチミブを更に含む、
キット。
【請求項7】
前記抗PCSK9抗体が、腸管外又は非腸管外の投与経路に適した形態である、請求項6に記載のキット。
【請求項8】
治療上有効量の請求項1~4のいずれか一項に記載の抗PCSK9抗体又はその抗原結合フラグメントを、必要とする対象に投与すること(例えば、腸管外的に又は非腸管外的に)を含む、高コレステロール血症を治療するための方法であって、
好ましくは、スタチンが前記対象に同時に投与され、より好ましくは、スタチン及びエゼチミブが前記対象に同時投与される、
方法。
【請求項9】
前記抗PCSK9抗体若しくはその抗原結合フラグメント、前記スタチン及び/又はエゼチミブが、同時に又は別々に投与される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記治療上有効量が、患者の体重に基づいて、0.1mg/kg以上、好ましくは0.1~60mg/kgである、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記高コレステロール血症が、以下からなる群より選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の抗PCSK9抗体又はその抗原結合フラグメント、請求項5に記載の医薬組成物、請求項6若しくは7に記載のキット、請求項8若しくは9に記載の方法:
(i)ホモ接合型家族性高コレステロール血症、ここで、より好ましくは、前記高コレステロール血症が、LDLR、アポリポタンパク質B(ApoB)、PCSK9若しくは低密度リポタンパク質受容体アダプタータンパク質1(LDLRAP1)の遺伝子における1(対)又はそれ以上(対)の、対立遺伝子又は非対立遺伝子の遺伝子変異によって引き起こされており、好ましくは前記対立遺伝子の遺伝子変異が、LDLR機能不全変異、LDLRへのLDLの結合に影響を与えるApoB遺伝子変異、LDLRに対するPCSK9の親和性の増加をもたらす機能変異、及びLDL内在化活性の低下をもたらすLDLRAP1機能不全変異を含み、並びに/又は好ましくは前記高コレステロール血症(より好ましくはHoFH)が、10歳未満の皮膚若しくは腱黄色腫又はLDLR、ApoB、PCSK9若しくはLDLRAP1遺伝子における1対以上の対立遺伝子変異を持っている両親と組み合わせて、以前に未治療の場合はLDL-C>13mmol/L(500mg/dL)を示し、以前に(エゼチミブと組み合わせたスタチンの高用量/最大耐量で)治療した場合はLDL-C≧8mmol/L(300mg/dL)を示し;
(ii)ヘテロ接合型家族性高コレステロール血症、ここで、好ましくは前記ヘテロ接合型家族性高コレステロール血症が、LDLR、アポリポタンパク質B(ApoB)、PCSK9若しくは低密度リポタンパク質受容体アダプタータンパク質1(LDLRAP1)の遺伝子における1つ以上の対になっていない対立遺伝子の遺伝子変異によって引き起こされており、より好ましくは前記対立遺伝子の遺伝子変異が、LDLR機能不全変異、LDLRへのLDLの結合に影響を与えるApoB遺伝子変異、LDLRに対するPCSK9の親和性の増加をもたらす機能変異、及びLDL内在化活性の低下をもたらすLDLRAP1機能不全変異を含み;並びに
(iii)心血管疾患のリスクが非常に高い若しくは高い患者の高コレステロール血症、ここで、心血管疾患のリスクが非常に高い若しくは高い前記患者の前記高コレステロール血症が、以下の条件1及び条件2を同時に満たすことを指し、ここで、前記条件1が、a)からh)のいずれかを満たし:a)冠状動脈疾患の病歴(例えば、急性冠症候群、安定冠状動脈性心臓病、血行再建術後、虚血性心筋症)、b)虚血性脳卒中の病歴(ラクナ梗塞を除く)、c)一過性脳虚血発作、d)末梢アテローム性動脈硬化症(例えば:頸動脈アテローム性動脈硬化症、頸動脈内膜剥離術後、頸動脈ステント留置後、血行再建術後、下肢アテローム性動脈硬化症、下肢動脈血管再生術後)、e)LDL-C≧4.9mmol/L(190mg/dL)又はTC≧7.2mmol/L、f)1.8mmol/L(70mg/dL)≦LDL-C<4.9mmol/L(190mg/dL)の40歳以上の2型糖尿病患者、g)ステージ3の慢性腎疾患(すなわち、測定及び計算された糸球体濾過率30mL/min/1.73m
2≦eGFR<60mL/min/1.73m
2)、h)以下のリスクファクターのうちの少なくとも3つ:45歳以上の男性および55歳以上の女性;高血圧;喫煙;CVDの家族歴(一親等の親族の場合:55歳未満の男性および65歳未満の女性);HDLコレステロール<40mg/dL;肥満(BMI≧28kg/m
2);そして、前記条件2が、a)又はb)のいずれかを満たす:安定した基礎脂質低下剤治療の4週間後に:a)リスクが非常に高い患者のLDL-Cレベル>1.8mmol/L(70mg/dL)、又はb)リスクが高い患者のLDL-Cレベル>2.6mmol/L(100mg/dL)。
【請求項12】
以下を含む、高コレステロール血症の患者を治療するための方法:
(i)前記患者をジェノタイピングすること、
(ii)前記患者からのサンプル(好ましくは血清、血漿、又は全血)のLDL-Cレベルを測定すること、並びに
(iii)前記患者がホモ接合型又はヘテロ接合型の家族性高コレステロール血症と特定された場合、前記患者に、治療上有効量の抗PCSK9抗体又はその抗原結合フラグメントを、好ましくはスタチンと組み合わせて、より好ましくはスタチンおよびエゼチミブと組み合わせて、投与すること、ここで、好ましくは前記治療上有効量が、前記患者の体重に基づいて、0.1mg/kg以上、好ましくは0.1~60mg/kgである。
【請求項13】
前記ホモ接合型又はヘテロ接合型の家族性高コレステロール血症が、請求項11に定義されているとおりである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記患者がヘテロ接合型家族性高コレステロール血症と特定された場合、前記患者が、以前に脂質調節薬で治療されていなかったとき、血清LDL-Cレベル≧4.7mmol/L(180mg/dL)であり、あるいは
前記患者がヘテロ接合型家族性高コレステロール血症と特定された場合、前記患者が、以下のa)及びb)の少なくとも1つを同時に満たす:a)皮膚若しくは腱黄色腫を患っている患者、又はリポイド角膜環を有する45歳未満の患者、及びb)FHまたは早期成人アテローム性心血管疾患(ASCVD)、特に冠状動脈性心臓病と一親等の血縁者がいること、
請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
前記抗PCSK9抗体又はその抗原結合フラグメントが、2週間(14日)又は4週間(28日)のサイクルで投与され、好ましくは、各サイクルの初日(D1)に皮下投与される、請求項8~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
心血管疾患のリスクが非常に高い若しくは高い高コレステロール血症の患者の、心血管疾患の発作及び死亡のリスクを低減するための医薬製剤(又は医薬組成物)の調製における、請求項1~4のいずれか一項に記載の抗PCSK9抗体又はその抗原結合フラグメントの、使用。
【請求項17】
以下を含む、高脂血症性心血管疾患患者(より好ましくは、心血管疾患のリスクが非常に高い/高い患者)の血中コレステロールを低下させるため、又は高脂血症性心血管疾患患者における心血管疾患発作のリスクを低減するための方法であって:
前記患者に、治療上有効量の請求項1~4のいずれか一項に記載の抗PCSK9抗体又はその抗原結合フラグメントを(腸管外的に又は非腸管外的に)、好ましくはスタチンと組み合わせて、より好ましくはスタチン及びエゼチミブと組み合わせて、投与すること、
ここで、より好ましくは、前記スタチンが、ロバスタチン、プラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ロスバスタチン及びピタバスタチン、又はこれらの任意の組み合わせから選択される、
方法。
【請求項18】
前記抗PCSK9抗体が、2週間(14日)又は4週間(28日)のサイクルで投与され、好ましくは、各サイクルの初日(D1)に皮下投与される、請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、医療技術の分野、特に高コレステロール血症の治療に関する。より具体的には、本出願は、高コレステロール血症の治療における抗PCSK9抗体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
PCSK9は、分泌型セリンプロテアーゼであり、細胞表面の低密度リポタンパク質受容体(LDLR)に結合して分解し、その結果細胞膜の表面のLDLRレベルを低下させる。PCSK9は、肝臓によって顕著に合成され、血液中に分泌される。LDLRは、肝細胞膜及びHepG2やHep3B等の肝細胞株の表面に広く分布している。PCSK9のLDLRへの結合を阻害すると、細胞膜の表面でLDLRのレベルを 維持することができ、それによって、血漿コレステロールLDLの細胞への侵入を仲介し、血漿コレステロールレベルを維持する。
【0003】
高コレステロール血症は脂質代謝の欠陥を特徴とする疾患であり、一部の患者は家族性高コレステロール血症(FH)と呼ばれる常染色体優性遺伝子変異を持ち、主に血漿低密度リポタンパク質コレステロール(LDL-C)レベルの有意な増加によって現れる。FHは、ヘテロ接合型(heterozygosity)、ホモ接合型(homozygosity)、複合ヘテロ接合型(compound heterozygosity)、ダブルヘテロ接合型(double heterozygosity)の4種類に分類でき、そのうち最初の2つが大部分を占める。ホモ接合型家族性高コレステロール血症(HoFH)は比較的まれであり、有病率は1/100万~3/100万である。HoFH疾患は、LDL-Cレベルの上昇、及び初期のアテローム性動脈硬化症(atherosclerotic cardiovascular disease)のリスクの増加を特徴としている。欧州アテローム性動脈硬化症協会(EAS)は、HoFH患者は通常、20歳前後でアテローム性動脈硬化症を発症し、介入なしで30歳前後で死亡すると述べている。HoFHの主な治療法は、治療的なライフスタイルの変更、投薬、および血漿リポタンパク質交換などの他の治療を含む。スタチンは、今でも主な治療薬である。しかしながら、HoFH患者の場合、血中脂質レベルが高い場合は、スタチンとエゼチミブとの併用療法の併用が必要になることがよくある。
【0004】
ヘテロ接合型家族性高コレステロール血症(HeFH)の有病率は約1:500から1:200であり、これは世界中で約1,400万から3,400万人のHeFH患者を意味する。HeFHの主な治療法は、治療的なライフスタイルの変更、投薬、および血漿リポタンパク質交換などの他の治療を含む。スタチンは、今でも主な治療薬である。しかしながら、HeFH患者の場合、血中脂質レベルが高い場合は、スタチンとエゼチミブとの併用療法の併用が必要になることがよくある。
【0005】
PCSK9阻害剤は、循環PCSK9がLDLRに結合するのを直接防ぎ、PCSK9を介したLDLRの分解を減らし、LDL-Cへの除去能力を高め、基本的な脂質低下剤(lipid-lowering agents)に基づいて患者の血中脂質レベルをさらに下げることができる。市場にはPCSK9を標的とする2つのモノクローナル抗体がある:アリロクマブ(alirocumab)及びエボロクマブ(evolocumab)。米国のRegeneron Pharmaceuticalsによって開発された完全ヒト抗PCSK9モノクローナル抗体であるアリロクマブ(旧REGN727/SAR236553)は、LDL-Cを低減するための二次治療として、2015年に米国食品医薬品局(FDA)によって承認されて、遺伝性高コレステロール血症の成人患者および食事療法の介入及びスタチンによる治療に失敗し、LDL-Cの低下を必要とするアテローム性動脈硬化症の成人患者に適応される。2015年8月27日に、米国FDAは、HoFH患者および臨床的アテローム性動脈硬化性心血管疾患の成人患者において、食事管理およびスタチンの最大耐量と組み合わせたエボロクマブ注射の使用を承認した。2018年7月31日、中国国家医療製品管理局(NMPA)は、12歳以上の成人または若年者におけるHoFH(すなわち、ホモ接合型家族性高コレステロール血症)の治療のためのエボロクマブ注射を承認した。
【0006】
心血管疾患(rdiovascular diseases)は、高脂血症患者の主な死亡リスク要因の1つであり、現在の研究結果は、スタチンなどの強力な低脂血症治療が高脂血症患者の心血管疾患発作及び死亡リスクを大幅に低減できることを示唆している。抗PCSK9抗体は強力な脂質低下剤であり、心血管疾患の発作を予防し、高脂血症患者の死亡リスクを軽減する効果も実証されている。抗PCSK9抗体エボロクマブの臨床研究結果は、エボロクマブ治療を受けることで、高脂血症患者の心血管疾患発作のリスクを大幅に減らすことができ、プラセボ対照群と比較して、エボロクマブ治療を受けている患者では、心筋梗塞、脳卒中、および冠状動脈血行再建術を必要とする状態の発生率が大幅に減少していることを示した。別の市販の抗PCSK9抗体であるアリロクマブの大規模な臨床研究でも、心血管系に対する保護効果が実証された。プラセボ対照と比較して、抗PCSK9抗体は、急性心筋梗塞、虚血性脳卒中、冠状動脈性心臓病(CHD)の死亡、または入院を必要とする不安定狭心症を含む主要な心血管有害事象を発症する全体的なリスクを15%減らすことができる。これらの臨床研究の結果に基づいて、この2つの抗PCSK9抗体は、心血管疾患の成人患者の心臓病と脳卒中を予防するために、それぞれ2017年と2019年にFDAによって承認された。
【発明の概要】
【0007】
本出願の一態様は、高コレステロール血症(より好ましくは、ホモ接合型家族性高コレステロール血症若しくは「HoFH」、またはヘテロ接合型家族性高コレステロール血症若しくは「HeFH」、または心血管疾患のリスクが非常に高い若しくは高い患者における高コレステロール血症)を治療するために、PCSK9とLDLRとの間の相互作用の阻害剤、好ましくは抗PCSK9抗体又はその抗原結合フラグメントを提供する。
【0008】
いくつかの特定の実施形態では、前記抗体またはその抗原結合フラグメントは、モノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントであり、それは、ヒトPCSK9に特異的に結合し、ヒトPCSK9のLDLRへの結合を遮断する。
【0009】
いくつかの実施形態において、抗PCSK9抗体は、ヒト化抗体である。
【0010】
いくつかの実施形態において、抗PCSK9抗体は、以下を含む:
配列番号2に示されるアミノ酸配列、又は、それと少なくとも80%の相同性(homology)、好ましくは少なくとも85%の相同性、より好ましくは少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%若しくは99%の相同性を有するアミノ酸配列を含む、重鎖可変領域、及び
配列番号4に示されるアミノ酸配列、又は、それと少なくとも80%の相同性、好ましくは少なくとも85%の相同性、より好ましくは少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%若しくは99%の相同性を有するアミノ酸配列を含む、軽鎖可変領域。
【0011】
いくつかの実施形態において、抗体のCDR配列は以下のとおりである:
HCDR1: GFTFSSYS (SEQ ID NO: 5);
HCDR2: ISSSSSYI (SEQ ID NO: 6);
HCDR3: EYDFWSAYYDAFDV (SEQ ID NO: 7);
LCDR1: SRNIGGGND (SEQ ID NO: 8);
LCDR2: GVI (SEQ ID NO: 9); 及び
LCDR3: QSFDGSLSGSV (SEQ ID NO: 10)。
【0012】
本出願の別の態様は、好ましくは高コレステロール血症(より好ましくは、心血管疾患のリスクが非常に高い若しくは高い患者における、HoFH、HeFH又は高コレステロール血症)を治療するための医薬組成物を提供し、それは以下を含む:PCSK9とLDLRとの間の相互作用の阻害剤(およびスタチン)、および薬学的に許容可能な担体。
【0013】
いくつかの実施形態において、PCSK9とLDLRとの間の相互作用の阻害剤は、腸管外(parenteral)又は非腸管外(non-parenteral)の投与経路に適した形態である。
【0014】
本出願の他の態様は、本明細書に記載の抗PCSK9抗体又はその抗原結合フラグメントを含む、キット、好ましくは高コレステロール血症(より好ましくは、心血管疾患のリスクが非常に高い若しくは高い患者における、HoFH、HeFH又は高コレステロール血症)を治療するためのキットを提供する。いくつかの実施形態において、キットは、スタチン及び/又はエゼチミブを更に含む。
【0015】
本出願は、少なくとも、高コレステロール血症(より好ましくは、心血管疾患のリスクが非常に高いまたは高い患者におけるHoFH、HeFHまたは高コレステロール血症)を治療するための、次を含む方法を提供することを更に意図している:本明細書に記載のPCSK9とLDLRとの間の相互作用の治療上有効量の阻害剤(好ましくはPCSK9抗体又はその抗原結合フラグメント)を必要とする対象に(例えば、腸管外的に又は非腸管外的に)投与すること。好ましくは、スタチンは、組み合わせて対象に投与される。より好ましくは、スタチン及びエゼチミブは、組み合わせて対象に投与される。いくつかの実施形態において、阻害剤、スタチンおよび/またはエゼチミブは、同時にまたは別々に投与される。
【0016】
いくつかの実施形態において、スタチンは、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル補酵素A(HMG-CoA)レダクターゼ阻害剤である。
【0017】
いくつかの実施形態において、スタチン、すなわち、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル補酵素A(HMG-CoA)レダクターゼ阻害剤は、ロバスタチン、プラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ロスバスタチンおよびピタバスタチンまたはそれらの任意の組み合わせなどを含む。
【0018】
特定の実施形態において、高コレステロール血症(より好ましくは、心血管疾患のリスクが非常に高いまたは高い患者におけるHoFH、HeFHまたは高コレステロール血症)は、LDLR、アポリポタンパク質B(ApoB)、PCSK9若しくは低密度リポタンパク質受容体アダプタータンパク質1(low-density lipoprotein receptor adaptor protein 1)(LDLRAP1)等の遺伝子における1(対)又はそれ以上(対)の、対立遺伝子(allelic)又は非対立遺伝子(non-allelic gene)の遺伝子変異によって引き起こされる。ここで、対立遺伝子の遺伝子変異は、LDLR機能不全変異、LDLRへのLDLの結合に影響を与えるApoB遺伝子変異、LDLRに対するPCSK9の親和性の増加をもたらす機能変異、及びLDL内在化活性の低下をもたらすLDLRAP1機能不全変異を含む。LDLR、APOB、またはPCSK9遺伝子でFHを引き起こすことが知られている変異体は、例えば、Canadian Journal of Cardiology、34、(2018)、1553-1563、Canadian Cardiovascular Society Position Statement on Familial Hypercholesterolemia:Update2018に記載されている。
【0019】
特定の実施形態において、コレステロール血症(より好ましくは、心血管疾患のリスクが非常に高いまたは高い患者におけるHoFH、HeFHまたは高コレステロール血症)は、10歳未満の皮膚若しくは腱黄色腫又はLDLR、ApoB、PCSK9若しくはLDLRAP1遺伝子等における1対以上の対立遺伝子変異を持っている両親と組み合わせて、以前に未治療の場合はLDL-C>13mmol/L(500mg/dL)を示し、又は、以前に(エゼチミブと組み合わせたスタチンの高用量/最大耐量で)治療した場合はLDL-C≧8mmol/L(300mg/dL)を示す。
【0020】
特定の実施形態では、高コレステロール血症(より好ましくはHeFH)は、以下のa)及びb)を満たす:a)高コレステロール血症は、上述したように、LDLR、アポリポタンパク質B(ApoB)、PCSK9又は低密度リポタンパク質受容体アダプタータンパク質1(LDLRAP1)の遺伝子等における1(対)又はそれ以上(対)の、非対立遺伝子の遺伝子変異によって引き起こされる、b)以前に脂質調節薬(lipid regulating drug)で治療されていなかったとき、血清LDL-Cレベル≧4.7mmol/L(180mg/dL)である;あるいは、高コレステロール血症(より好ましくはHeFH)は、次のc)及びd)の少なくとも1つを同時に満たす:c)皮膚若しくは腱黄色腫を患っている患者、又はリポイド角膜環(arcus lipoides corneae)を患っている45歳未満の患者、及びd)FHまたは早期成人アテローム性心血管疾患(ASCVD)、特に冠状動脈性心臓病と一親等の血縁者がいること。
【0021】
本出願はさらに、高コレステロール血症(より好ましくは、心血管疾患のリスクが非常に高いまたは高い患者におけるHoFH、HeFHまたは高コレステロール血症)を治療するための薬剤を調製する際に、本明細書に開示されるPCSK9とLDLRとの間の相互作用の阻害剤(好ましくはPCSK9抗体又はその抗原結合フラグメント)の使用を少なくとも提供することを意図している。
【0022】
本出願はさらに、高コレステロール血症(より好ましくは、心血管疾患のリスクが非常に高いまたは高い患者におけるHoFH、HeFHまたは高コレステロール血症)を有する患者を治療するための方法を提供し、以下を含む:(i)患者をジェノタイピングすること、(ii)患者からのサンプルのLDL-Cレベルを測定すること、並びに(iii)患者がホモ接合型(又はヘテロ接合型)の家族性高コレステロール血症と特定された場合、患者に、治療上有効量の本明細書に記載の抗PCSK9抗体又はその抗原結合フラグメントを、好ましくはスタチンと組み合わせて、より好ましくはスタチンおよびエゼチミブと組み合わせて、投与すること。
【0023】
いくつかの実施形態では、サンプルは、血清、血漿、または全血である。
【0024】
本発明の特定の実施形態において、心血管疾患のリスクが非常に高いまたは高い患者における高コレステロール血症は、以下の条件1および条件2を同時に満たすことを指す。ここで、条件1は、a)からh)のいずれかを満たしている(中国の成人における脂質異常症の予防と治療のためのガイドライン(2016年版)を参照):冠状動脈疾患の病歴(例えば、急性冠症候群(acute coronary syndrome)、安定冠状動脈性心臓病(stable coronary heart disease)、血行再建術後(post-revascularization)、虚血性心筋症(ischemic cardiomyopathy))、b)虚血性脳卒中の病歴(ラクナ梗塞を除く)、c)一過性脳虚血発作、d)末梢アテローム性動脈硬化症(例えば:頸動脈アテローム性動脈硬化症、頸動脈内膜剥離術後、頸動脈ステント留置後、血行再建術後、下肢アテローム性動脈硬化症、下肢動脈血管再生術後)、e)LDL-C≧4.9mmol/L(190mg/dL)又はTC≧7.2mmol/L、f)1.8mmol/L(70mg/dL)≦LDL-C<4.9mmol/L(190mg/dL)の40歳以上の2型糖尿病患者、g)ステージ3の慢性腎疾患(すなわち、測定及び計算された糸球体濾過率30mL/min/1.73m2≦eGFR<60mL/min/1.73m2)、h)以下のリスクファクターのうちの少なくとも3つ:45歳以上の男性および55歳以上の女性;高血圧;喫煙;CVDの家族歴(一親等の親族の場合:55歳未満の男性および65歳未満の女性);HDLコレステロール<40mg/dL;肥満(BMI≧28kg/m2);そして、条件2は、a)又はb)のいずれかを満たす:安定した基礎脂質低下剤治療の4週間後に:a)リスクが非常に高い患者のLDL-Cレベル>1.8mmol/L(70mg/dL)、又はb)リスクが高い患者のLDL-Cレベル>2.6mmol/L(100mg/dL)。
【0025】
本出願は更に、少なくとも、高コレステロール血症(好ましくは、心血管疾患のリスクが非常に高いまたは高い患者におけるHoFH、HeFHまたは高コレステロール血症)を治療するためのPCSK9とLDLRとの間の相互作用の阻害剤(好ましくはPCSK9抗体又はその抗原結合フラグメント)の製剤(医薬組成物)を調製するための方法を提供することを意図している。
【0026】
いくつかの実施形態において、抗PCSK9抗体は、2週間(14日)または4週間(28日)のサイクルで投与され、好ましくは、各サイクルの初日(D1)に皮下投与される。つまり、抗PCSK9抗体は、2週間毎に1回(q2w)または4週間毎に1回(q4w)投与される。
【0027】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のPCSK9抗体又はその抗原結合フラグメントの0.1~60mgを含む単回用量ユニット(single dose unit)、好ましくは家族性高コレステロール血症(より好ましくは、心血管疾患のリスクが非常に高いまたは高い患者におけるHoFH、HeFHまたは高コレステロール血症)を治療するための単回用量ユニットが関連される。
【0028】
本発明の他の態様は、家族性高コレステロール血症(より好ましくは、心血管疾患のリスクが非常に高いまたは高い患者におけるHoFH、HeFHまたは高コレステロール血症)を治療するための単回用量ユニットを調製する際の、0.1~60mgの本明細書に開示される抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントの使用に関する。
【0029】
MAB1
本明細書で使用されているように、MAB1は抗PCSK9モノクローナル抗体であり、その配列および構造は、特許番号WO2016/127912A1を参照することができる。モノクローナル抗体MAB1において、HCDR1は、配列GFTFSSYS(SEQ ID NO: 5)を含み、HCDR2は、配列ISSSSSYI(SEQ ID NO: 6)を含み、HCDR3は、配列EYDFWSAYYDAFDV(SEQ ID NO: 7)を含み、LCDR1は、配列SRNIGGGND(SEQ ID NO: 8)を含み、LCDR2は、配列GVI(SEQ ID NO: 9)を含み、そしてLCDR3は、配列QSFDGSLSGSV (SEQ ID NO: 10)を含む。
【0030】
定義及び説明
本明細書で使用される以下の用語は、特に明記しない限り、以下の意味を有する。特定の用語は、特に明確に定義されていない限り、不確実または不明確であると見なされるべきではなく、当分野での一般的な意味に従って解釈されるべきである。商品名を引用するときは、対応する市販の製品、組成物、またはその有効成分を指すことを意図している。
【0031】
本明細書で使用されているように、「抗体」という用語は、少なくとも1つの抗原結合ドメインを有する抗原結合タンパク質を指す。本明細書に開示される抗体およびそのフラグメントは、抗体全体またはその任意のフラグメントであり得る。したがって、本明細書に開示される抗体およびそのフラグメントは、モノクローナル抗体またはそのフラグメント、及び抗体変異体またはそのフラグメント、及び免疫複合体を含む。抗体およびそのフラグメントはまた、組換えポリペプチド、融合タンパク質、および二重特異性抗体を含み得る。本明細書に開示される抗PCSK9抗体およびそのフラグメントは、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4アイソタイプのものであり得る。
【0032】
「アイソタイプ」という用語は、重鎖定常領域遺伝子によってコードされる抗体のクラスを指す。一実施形態では、本明細書に開示される抗PCSK9抗体およびそのフラグメントは、IgG1またはIgG4アイソタイプのものである。本明細書に開示される抗PCSK9抗体およびそのフラグメントは、マウス、ラット、ウサギ、霊長目、ラマ、およびヒトを含むがこれらに限定されない任意の種に由来することができる。抗PCSK9抗体およびそのフラグメントは、キメラ抗体、ヒト化抗体または無傷のヒト抗体であり得る。
【0033】
「ヒト化抗体」という用語は、抗原結合部位が非ヒト種に由来し、可変領域フレームワークがヒト免疫グロブリン配列に由来する抗体を指す。ヒト化抗体は、フレームワークが発現されたヒト免疫グロブリンまたは生殖系列遺伝子配列の正確なコピーではない可能性があるように、フレームワーク領域に置換を含み得る。
【0034】
「遺伝子突然変異」という用語は、ゲノムDNA分子で発生する突然の遺伝的変異を指す。分子レベルでは、遺伝子変異は、遺伝子の塩基対組成または配置の構造変化である。これには、塩基置換変異、フレームシフト変異、欠失変異、挿入変異が含まれる。
【0035】
「単離された抗体」という用語は、異なる抗原特異性を有する他の抗体を実質的に含まない抗体を指す(例えば、PCSK9に特異的に結合する単離された抗体は、PCSK9以外の抗原に特異的に結合する抗体を実質的に含まない)。ただし、PCSK9に特異的に結合する単離された抗体は、他の抗原(異なる種のPCSK9分子など)と交差反応性を持つ可能性がある。さらに、単離された抗体は、他の細胞材料および/または化学物質を実質的に含まなくてもよい。
【0036】
「モノクローナル抗体」(「mAb」)という用語は、単一分子組成の抗体分子を指す。モノクローナル抗体組成物は、特定のエピトープに対して単一の結合特異性および親和性を示し、二重特異性モノクローナル抗体の場合、2つの異なるエピトープに対して二重の結合特異性を示す。mAbは単離された抗体の一例である。mAbは、ハイブリドーマ技術、組換え技術、トランスジェニック技術、または当技術分野で知られている他の技術によって生成することができる。
【0037】
抗体の「抗原結合部分」(「抗原結合フラグメント」とも呼ばれる)は、無傷の抗体が結合する抗原に特異的に結合する能力を保持する抗体の1つまたは複数のフラグメントを指す。抗原結合フラグメントの例には、Fabフラグメント、Fab’フラグメント、F(ab)’フラグメント、Fvフラグメント、単離されたCDR領域、単鎖Fv分子(scFv)、F(ab’)2、Fd、dAb、Fab/c、二価抗体およびドメイン抗体が含まれる。
【0038】
本明細書で使用されているように、「由来する(derived)」という用語は、参照抗体または他の結合タンパク質に関連する分子またはポリペプチドを指すために使用される場合、参照抗体または他の結合タンパク質と同じエピトープに特異的に結合することができる分子またはポリペプチドを意味する。
【0039】
本明細書で使用されているように、「EC50」という用語は、抗体の最大応答の50%を引き起こす有効濃度を指す。本明細書で使用されているように、「IC50」という用語は、抗体の最大応答の50%を引き起こす阻害濃度を指す。EC50およびIC50の両方は、ELISAまたはFACSアッセイまたは当技術分野で知られている他の任意の方法によって測定することができる。
【0040】
「治療」または「治療すること」という用語は、通常、必要な薬理学的効果および/または生理学的効果を獲得するための操作を指す。その効果は、病気またはその症状を完全にまたは部分的に予防するという観点から、予防的であってよく;かつ/又はその効果は、疾患および/または疾患の副作用を部分的または完全に安定化または治癒するという観点から、治療的であってよい。本明細書で使用されているように、「治療」または「治療すること」は、患者の病気に対するあらゆる治療をカバーし、以下を含む:(a)まだ診断されていない病気または症状にかかりやすい患者の病気または症状を予防すること;(b)病気の症状を抑制すること、すなわち、その発症を阻止すること;又は(c)病気の症状を和らげること、すなわち、病気または症状の退行を引き起こすこと。
【0041】
本明細書で使用されているように、「一般的な治療」という用語は、原薬が血流を介して輸送され、全身の細胞に到達して影響を与える治療を指す。
【0042】
本明細書で使用されているように、「対象」という用語は、齧歯動物、猫、犬、霊長類などの哺乳動物を指す。好ましくは、本出願による対象はヒトである。
【0043】
「投与する」、「投与」または「投与すること」は、当技術分野で知られている様々な方法および送達システムのいずれかを使用して、治療薬を含む組成物を対象に物理的に導入することを意味する。免疫チェックポイント阻害剤(例えば、抗PCSK9抗体)の投与経路には、静脈内、筋肉内、皮下、腹腔内、脊髄、または他の腸管外(parenteral)投与経路、例えば、注射若しくは注入が含まれる。本明細書で使用されているように、「腸管外投入」という句は、通常は注射による経腸及び局所投与を除く投与様式を指し、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、リンパ管内、病変内、被膜内、眼窩内、心臓内、皮膚内、腹腔内、経気管、皮下、表面皮下、関節内、被膜下、くも膜下、脊髄内、硬膜外および胸骨内の注射および注入、並びにインビボエレクトロポレーション(in vivo electroporation)を含むが、これらに限定されない。特定の実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤(例えば、抗PCSK9抗体)は、非腸管外(non-parenteral)経路によって投与され、特定の実施形態では、それは経口投与される。他の非腸管外経路は、局所、表皮、または粘膜の投与経路、例えば、鼻腔内、膣、直腸、舌下または局所投与を含む。投与はまた、例えば、1回、複数回、および/または1つ以上の長期間にわたって実施され得る。
【0044】
本明細書で使用されているように、「有害事象」(AE)は、医学的治療の使用に関連する有害で、しばしば意図しない、または望ましくない兆候(異常な検査所見を含む)、症状、または疾患である。例えば、有害事象は、治療に反応してPCSK9を分泌する肝臓に関連している可能性がある。医学的治療には、1つまたは複数の関連するAEがあり、各AEの重症度レベルは同じまたは異なる場合がある。「有害事象を変える」ことができる方法への言及は、異なるレジメンの使用に関連する1つまたは複数のAEの発生率および/または重症度を低減するレジメンを指す。
【0045】
本明細書で使用されているように、「投与間隔」は、対象に投与される本明細書に開示される製剤の複数回の投与の間で経過する時間の量を指す。したがって、投与間隔は範囲として示され得る。
【0046】
本明細書で使用されているように、「投与頻度」という用語は、本明細書に開示される製剤の用量が所与の時間にわたって投与される頻度を指す。投与頻度は、例えば、毎週1回または2週間に1回など、所与の時間あたりの投与回数として示され得る。
【0047】
「一律用量(flat dose)」という用語は、患者の体重または体表面積(BSA)を考慮せずに患者に投与される用量を指す。したがって、一律用量は、mg / kg用量ではなく、薬剤(例えば、抗PCSK9抗体)の絶対量として指定される。例えば、60kgのヒトと100kgのヒトは、同じ用量の抗体(例えば、240mgの抗PCSK9抗体)を受け取る。
【0048】
本明細書に開示される組成物に関する「固定用量」という用語は、単一の組成物中の2つ以上の異なる抗体が、互いに特定の(固定された)比率で組成物中に存在することを意味する。特定の実施形態において、固定用量は、抗体の重量(例えば、mg)に基づく。特定の実施形態において、固定用量は、抗体の濃度(例えば、mg/mL)に基づく。特定の実施形態において、一次抗体(mg)と二次抗体(mg)との比(一次抗体:二次抗体)は、少なくとも約1:1、約1:2、約1:3、約1:4、約1:5、約1:6、約1:7、約1:8、約1:9、約1:10、約1:15、約1:20、約1:30、約1:40、約1:50、約1:60、約1:70、約1:80、約1:90、約1:100、約1:120、約1:140、約1:160、約1:180、約1:200、約200:1、約180:1、約160:1、約140:1、約120:1、約100:1、約90:1、約80:1、約70:1、約60:1、約50:1、約40:1、約30:1、約20:1、約15:1、約10:1、約9:1、約8:1、約7:1、約6:1、約5:1、約4:1、約3:1又は約2:1である。例えば、一次抗体と二次抗体の3:1の比率は、バイアルが約240mgの一次抗体および80mgの二次抗体を含み得ること、又はバイアルが約3mg/mLの一次抗体および1mg/mLの二次抗体を含み得ることを指し得る。
【0049】
「患者」(「対象」と呼ばれることもある)には、任意のヒトまたは非ヒト動物が含まれる。「非ヒト動物」という用語には、非ヒト霊長類などの脊椎動物、ヒツジ、イヌ、およびマウス、ラット、モルモットなどの齧歯動物が含まれるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、患者はヒトである。 「対象」および「患者」という用語は、本明細書の特定の文脈において交換可能に使用される。
【0050】
薬物または治療薬の「治療上有効量」又は「治療有効量」は、単独で又は別の治療薬と組み合わせて使用された場合に、患者を疾患の発症から保護するか、または疾患の退行を促進する任意の量の薬物であり、疾患の退行は、病気の症状の重症度の軽減、病気の症状のない期間の頻度と期間の増加、または病気の苦痛によって引き起こされる損傷または障害の予防によって証明される。疾患の退行を促進する治療薬の能力は、熟練した開業医に知られているさまざまな方法、例えば、臨床試験中のヒト患者において、ヒトへの有効性を予測する動物モデルシステムにおいて、またはinvitroアッセイで、薬物の活性の測定、を使用して評価することがでる。
【0051】
「約」、「ほぼ」または「実質的に含む」という用語は、当業者によって決定される特定の値または組成から許容可能な誤差範囲内の値または組成を指し、それは、値または組成がどのように測定または決定されるか、すなわち、測定システムの制限に部分的に依存する。例えば、「約」、「ほぼ」または「実質的に含む」は、当技術分野で実施されているように、1または1を超える標準偏差内にあることを指す場合がある。あるいは、「約」または「実質的に含む」は、それによって修正されたパラメータまたは値から最大10%または20%(すなわち、±10%または±20%)異なる範囲を指し得る。例えば、約3mgは、2.7mgから3.3mg(10%の場合)または2.4mgから3.6mg(20%の場合)の間の任意の数を含み得る。さらに、特に生物学的システムまたはプロセスに関して、この用語は、最大で1桁まで、または最大で数値の5倍までを指すことができる。特定の値または組成が本出願および特許請求の範囲で提供される場合、特に明記しない限り、「約」または「実質的に含む」の意味は、特定の値または組成から許容可能な誤差範囲内にあると想定されるべきである。
【0052】
本明細書で使用されているように、「約週に1回」、「約2週間毎に1回」または他の同様の投与間隔の用語は、概算を指す。「約1週間に1回」には、7±1日に1回、つまり6日から8日に1回が含まれ得る。「約2週間毎に1回」には、14±3日に1回、つまり11日から17日に1回が含まれ得る。同様の近似は、例えば、約3週間毎に1回、約4週間毎に1回、約5週間毎に1回、約6週間毎に1回、および約12週間毎に1回に適用される。特定の実施形態において、約6週間毎に1回または約12週間毎に1回の投与間隔は、最初の用量は第1週の任意の日に投与することができ、次に第2の用量はそれぞれ第6週または第12週の任意の日に投与できることを意味する。他の実施形態では、約6週間に1回または約12週間に1回の投与間隔は、第1の用量は、第1週の特定の日(例えば、月曜日)に投与され、次いで、第2の用量は、それぞれ、第6または第12週の同じ日(例えば、月曜日)に投与されることを意味する。同様の原則は、「約2週間毎に1回」、「約1か月毎に1回」などを含むがこれらに限定されないフレーズにも適用される。
【0053】
本明細書で使用されているように、特に明記されていない限り、濃度範囲、パーセンテージ範囲、比率範囲、または整数範囲は、リストされた範囲内の整数の値を含み、適切な場合はその分数(整数の10分の1および100分の1など)を含むと理解されるものとする。
【0054】
特に明記しない限り、本出願における「約」または「ほぼ」は、与えられた指定された数値範囲の±5%以内、好ましくは±2%以内、より好ましくは±1%以内であることを意味する。例えば、約5.5のpHは、5.5±5%のpH、好ましくは5.5±2%のpH、より好ましくは5.5±1%のpHを意味する。
【0055】
「薬学的に許容可能な」という用語は、健全な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー反応、またはその他の問題や合併症なしに、かつ合理的な利益/リスク比に見合って、ヒトおよび動物の組織と接触して使用するのに適している、化合物、材料、組成物、および/または剤形について本明細書で使用される。「製剤」または「医薬組成物」という用語は、本明細書に開示される有効成分(例えば、抗PCSK9抗体)と薬学的に許容可能な賦形剤とからなる混合物を指す。医薬組成物は、本明細書に開示される有効成分の対象への投与を容易にすることを目的としている。
【0056】
「単回投与ユニット」という用語は、レジメンの時点で、対象に投与される、好ましくは対象の体重1kgあたりで、本明細書に開示される抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントを含む、アンプルなどの単一の医薬剤形を意味する。
【0057】
実施形態
以下の内容は、本明細書に開示される薬剤の投与様式を制限することを意図するものではない。
【0058】
一実施形態では、本明細書に開示される薬剤は、単回投与または複数回投与に適した医薬組成物に処方することができる。本明細書に開示される薬剤は、経口投与または腸管外投与(静脈内、筋肉内、局所または皮下経路による)を含むがこれらに限定されない様々な適切な経路で投与される。いくつかの実施形態において、本明細書に開示される薬剤は、経口投与または注射、例えば、静脈内注射または腹腔内注射によって投与される。
【0059】
本明細書に開示される薬剤の適切な剤形には、錠剤、ロゼンジ、ピル、カプセル(例えば、ハードカプセル、ソフトカプセル、腸溶カプセルおよびマイクロカプセル)、エリキシル、顆粒、シロップ、注射(筋肉内、静脈内および腹腔内)、顆粒、エマルジョン、懸濁液、溶液、散剤、および経口または非経口投与用の徐放性製剤が含まれるが、これらに限定されない。
【0060】
本明細書に開示される医薬組成物は、薬学的に許容される担体および/または賦形剤を含む。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【
図1】
図1は、マウス血清LDL-Cに対するMAB1の影響を示している。
【
図2】
図2は、カニクイザル血清LDL-Cに対するMAB1の影響を示している(s.c.:皮下注射;i.v.:静脈内注射)。
【
図3】
図3は、HepG2細胞によるLDLのエンドサイトーシス(endocytosis)に対するMAB1の影響を示している
【
図4】
図4は、MAB1が野生型PCSK9によるLDLエンドサイトーシスの阻害を軽減することを示している。
【
図5】
図5は、MAB1が機能的に増強された変異体PCSK9(PCSK9-D374Y)によるLDLエンドサイトーシスの阻害を軽減することを示している。
【発明を実施するための形態】
【0062】
本出願は、特定の例を参照して以下でさらに説明されるが、これらは例示のためにのみであり、本出願の範囲を限定するものではない。同様に、本出願は、本明細書に記載の特定の好ましい実施形態に限定されない。本出願の技術的特徴の同等の置換および対応する修正は、依然として本出願の保護範囲内にあることを当業者は理解すべきである。特に明記しない限り、以下の実施例で使用される試薬は市販の製品であり、溶液は当技術分野の従来の技術によって調製することができる。
【0063】
本発明の以下の実施例において、アイソタイプ対照抗体は、ヒト抗鶏卵リゾチームIgG(抗HEL;すなわち、ヒトIgG、略してhIgG)であり、その配列は、Affinity Maturation Increases the Stability and Plasticity of the Fv Domain of Anti-Protein Antibodies(Acierno et al., J Mol Biol., 2007, 374(1):130-46,ここで、重鎖のアミノ酸配列は配列番号11に示され、軽鎖のアミノ酸配列は配列番号12に示されている)からのものである。アイソタイプコントロール抗体は、Akeso Biopharma、Inc.の研究室で調製された。
【0064】
本発明の以下の実施例において、C57BL / 6マウスは、広東省医療研究所動物センターから購入された。
【実施例】
【0065】
実施例1.ヒト化抗PCSK9抗体の調製
1.抗体の設計
モノクローナル抗体MAB1を調製するために、本発明者らは、既知のPCSK9タンパク質配列(NP_777596.2)およびその三次元結晶構造に基づいて一連の抗体配列を設計した。広範なスクリーニングと分析を通じて、PCSK9に特異的に結合する抗体MAB1が最終的に得られた。モノクローナル抗体の重鎖および軽鎖可変領域のアミノ酸配列ならびにそれらのコード配列は、以下の配列番号(SEQ ID NO)1~4に示されている。
【0066】
設計されたMAB1の重鎖VHのDNA配列は次のとおりである(369bp):
GAGGTGCAGCTGGTGGAGTCTGGAGGAGGCCTGGTGCAGCCCGGAAGATCTCTGAGACTGAGTTGCGCCGCTTCAGGATTCACCTTTAGCTCCTACAGCATGAACTGGGTGCGGCAGGCTCCTGGCAAGGGGCTGGAGTGGGTCTCCGGAATCTCTAGTTCAAGCTCCTACATTAGCTATGCAGACTCCGTCCAGGGAAGGTTCACCATCTCTCGCGATAACGGCAAGAACAGCCTGTATCTGCAGATGAACAGCCTGCGAGCAGAGGACACAGCCCTGTACTTCTGTGCCAGAGAATATGACTTCTGGTCCGCCTATTACGACGCCTTCGATGTCTGGGGACAGGGGACTATGGTCACTGTCTCAAGC (SEQ ID NO: 1)
【0067】
コード化されたVHのタンパク質配列は次のとおりである(123aa):
EVQLVESGGGLVQPGRSLRLSCAASGFTFSSYSMNWVRQAPGKGLEWVSGISSSSSYISYADSVQGRFTISRDNGKNSLYLQMNSLRAEDTALYFCAREYDFWSAYYDAFDVWGQGTMVTVSS (SEQ ID NO: 2)
【0068】
MAB1の軽鎖VLのDNA配列は次のとおりである(333 bp):
CAGAGCGAACTGACTCAGCCAAGAAGCGTCAGTGGATCACCTGGCCAGAGCGTGACAATCTCCTGCACCGGCACAAGCAGGAACATTGGCGGGGGAAATGACGTCCACTGGTACCAGCAGCATCCAGGGAAGGCCCCCAAACTGCTGATCTCCGGAGTGATTGAGCGGAGCTCCGGCGTCCCCGATAGATTCAGCGGGTCCAAGTCTGGAAACACAGCTTCTCTGACTATCAGTGGCCTGCAGGCAGAGGACGAAGCCGATTACTATTGCCAGTCTTTCGACGGCAGTCTGTCAGGGAGCGTGTTTGGCACTGGGACCGATGTGACCGTCCTG (SEQ ID NO: 3)
【0069】
コード化されたVLのタンパク質配列は次のとおりである(111aa):
QSELTQPRSVSGSPGQSVTISCTGTSRNIGGGNDVHWYQQHPGKAPKLLISGVIERSSGVPDRFSGSKSGNTASLTISGLQAEDEADYYCQSFDGSLSGSVFGTGTDVTVL (SEQ ID NO: 4)
【0070】
抗体のCDR配列は次のとおりである:
HCDR1: GFTFSSYS (SEQ ID NO: 5);
HCDR2: ISSSSSYI (SEQ ID NO: 6);
HCDR3: EYDFWSAYYDAFDV (SEQ ID NO: 7);
LCDR1: SRNIGGGND (SEQ ID NO: 8);
LCDR2: GVI (SEQ ID NO: 9); 及び
LCDR3: QSFDGSLSGSV (SEQ ID NO: 10).
【0071】
2.抗体の発現及び精製
MAB1の重鎖cDNA配列(配列番号1に記載のコード配列;定常領域はIg gamma-1鎖C領域であった、アクセッション(ACCESSION):P01857)および軽鎖cDNA配列(配列番号3に示されるコード配列;定常領域はIg lambda-2鎖C領域であった;アクセッション:P0CG05.1)を別々にpUC57simpleベクター(GenScriptによって供給される)にクローン化し、pUC57simple-MAB1HおよびpUC57simple-MAB1Lプラスミドをそれぞれ得た。pUC57simple-MAB1HおよびpUC57simple-MAB1Lプラスミドを消化し(HindIII&EcoRI)、電気泳動で分離した重鎖と軽鎖を別々にpcDNA3.1ベクターにサブクローニングし、組換えプラスミドを抽出して293F細胞をコトランスフェクトした。細胞培養の7日後、培地を高速遠心分離によって分離し、上清を濃縮してHiTrap MabSelect SuReカラムにロードした。タンパク質は溶出バッファーで1ステップで溶出された。標的サンプルを分離し、バッファーをPBSに交換した。
【0072】
実施例2.動物血清低密度リポタンパク質コレステロールLDL-Cに対するMAB1の影響
(1)マウス血清低密度リポタンパク質コレステロールLDL-Cに対するMAB1の影響
血清は、投与前に32匹のC57BL/6マウスから収集された眼窩血液サンプルから分離された。マウスの低密度リポタンパク質コレステロール(LDL-C)は、完全に自動化された生化学分析装置(Mindray、モデルBS-180)によって検出された。表1に示すように、マウスを8匹のマウスからなる4つのグループ、すなわち、正常群、モデル群、MAB1低用量群およびMAB1高用量群に分け、表1の投薬計画に従って処置した。投与前(D0)、およびD3、D7、D10、D14、D18に投与した後、採取した血液サンプルから血清を分離し、低密度リポタンパク質コレステロール含有量を検出した。
【0073】
結果は
図1に示す。実験結果は、モデル群と比較して、マウス血清LDL-C濃度がMAB1低用量60mg/kg群およびMAB1高用量120mg/kg群で有意に減少したことを示した(P<0.05またはP<0.01)。
【0074】
【0075】
(2)カニクイザル血清低密度リポタンパク質コレステロールLDL-Cに対するMAB1の影響
実験は、Nanning Deheng Biotechnology Ltdから購入した12匹の雄と12匹の雌のカニクイザル(一般グレード)を使用して実施された(動物生産ライセンス番号SCXK(GUI)2011-0007;実験動物証明書番号0005869)。動物の使用と福祉に関連するすべての手順と活動は、試験の前に施設内動物管理使用委員会(IACUC)によって承認された。IACUC承認番号:ACU16-467。
【0076】
表2に示すように、投与前に測定された動物の体重に基づいたコンピュータープログラムを使用して、動物は、性別ごとにMAB1低用量群、MAB1中用量群、MAB1高用量群、およびMAB1静脈内投与群にランダム化し、そして表2の投与レジメンに従って治療された。投与前のD0、並びに投与後4時間、D2、D4、D6、D8、D11、D15、D18およびD22の空腹時に約0.5mLの血液を採取した。血液サンプルを遠心分離管に移し、2~8℃、3000gで10分間遠心分離した。低密度リポタンパク質コレステロール(LDL-C)が検出された。
【0077】
結果は
図2に示される。結論:MAB1は、カニクイザルに3、10、30mg/kgの用量で単回皮下注射、及び10mg/kgの用量で単回静脈内注射で投与された。カニクイザルの低密度リポタンパク質コレステロールは、投与後に有意に減少した。3mg/kg投与群の血中脂質レベルは、基本的に投与後約15日でベースラインレベルに戻った;103mg/kgの皮下注射群(s.c.group)及び静脈内注射(i.v.)投与群の血中脂質レベルも基本的に投与後約22日でベースラインに戻り、そして30mg/kg投与群の血中脂質レベルは、依然としてベースラインよりも有意に低かった。
【0078】
【0079】
実施例3.HepG2細胞によるLDLのエンドサイトーシスに対するMAB1の影響
PCSK9は、エンドサイトーシスとLDLRの分解(degradation)を媒介することにより、HepG2細胞表面でのLDLRの発現を阻害することができる。LDLはLDLRに結合でき、細胞によってエンドサイトーシスを受けることができる。BODIPY標識LDL(BODIPY-LDL、Life、カタログ番号:L3483)は、LDLRに結合するための標識として使用でき、細胞によってエンドサイトーシスを受けることができる。細胞内BODIPY-LDLの蛍光値は、LDLRを介したLDLのエンドサイトーシスを反映するように検出できる。PCSK9が存在し、LDLRに結合する場合、細胞表面のLDLRの量が減少するため、BODIPY-LDLのLDLRへの結合が減少し、LDLのエンドサイトーシスが阻害される;反対的に、PCSK9への阻害は、HepG2細胞によるLDLのエンドサイトーシスを増強する。したがって、テストシステムは、BODIPY-LDL上のHepG2細胞のエンドサイトーシス活性を検出することにより、抗PCSK9抗体の薬理学的活性を測定できる。
【0080】
手順:50μLのポリリジン(Poly-L-lysine)溶液を、コーティングのために96ウェルの黒色底細胞培養プレートの各ウェルに加えた。プレートを37℃、5%CO2インキュベーターで2時間インキュベートし、コーティング溶液を廃棄した。プレートを100μLのPBSで1回洗浄し、後で使用するために乾燥させた。HepG2細胞は通常消化され、アッセイ培地(1%NEAAを含むDMEM)に再懸濁されて、カウントし、80μL/ウェルの容量で96ウェル黒底細胞培養プレートに2×104細胞/ウェルで播種した。細胞を37℃、5%CO2インキュベーターで18時間インキュベートした。PCSK9をアッセイ培地(1%NEAAを含むDMEM)で6000nMに前希釈し、10μL/ウェルでプレートに添加した。抗体を10倍に希釈し、10μL/ウェルで添加した。混合物を37℃の5%CO2インキュベーターで6時間インキュベートした。その後、10μLの0.1mg/mL BODIPY-LDL溶液を各ウェルに添加し、混合物を37℃、5%CO2インキュベーターで22時間インキュベートした。培地を廃棄し、200μLのPBSを各ウェルに加えて洗浄した。ホルムアルデヒド溶液を加えて細胞を固定し、細胞を室温で20分間放置した。ホルムアルデヒド溶液を廃棄し、洗浄のためにPBSを加えた。最後に、PBSを廃棄し、100μLのPBSを各ウェルに加えた。BODIPYの相対蛍光ユニットは、マルチラベルマイクロプレートテスターによって、励起波長490nm、発光波長520nm、カットオフ515nmで検出された。
【0081】
結果は表3及び
図3に示される。PCSK9によるHepG2細胞のLDLエンドサイトーシスの阻害を軽減するMAB1のEC
50値は、12.99μg/mLであった。
【0082】
結論:MAB1はPCSK9の活性を阻害することができ、それによってHepG2細胞のLDLエンドサイトーシスを上昇させ;MAB1のEC50値は、12.99μg/mLであった。
【0083】
【0084】
実施例4.野生型および機能的に強化された変異体PCSK9によるLDLエンドサイトーシスの阻害を軽減するMAB1
PCSK9には複数の変異体があり、PCSK9によるLDL-Cレベルの調節に対する変異の影響に応じて、機能獲得と機能喪失の2つのタイプに分けられる。機能獲得型変異は、PCSK9がLDL-Cをアップレギュレーションする能力を高め、高コレステロール血症を引き起こし、主に、S127R、D129G、F216L、R218S、D374Y、N425S、R496W、H553R、E670G等を含む。
【0085】
これらの中で、D374Y(Asp374Tyr)変異は、LDLRに対するPCSK9の親和性を5~30倍増加させる(Lagace TA et al., J. Clin. Invest., 2006, 116(11):2995-3005; Cunningham D et al., Nat. Struct. Mol. Biol., 2007, 14(5):413-419; Fisher TS et al., J. Biol. Chem., 2007, 282(28): 20502-20512)。
【0086】
D374Y(Asp374Tyr)変異タンパク質を例として、この実験では、機能的に強化されたPCSK9変異タンパク質によって媒介されるLDLRエンドサイトーシスの阻害に対するMAB1の活性を調べた。結果は、MAB1が機能獲得PCSK9タンパク質によるLDLエンドサイトーシスの阻害を効果的に軽減(relieve)できることを示唆する。
【0087】
材料:HepG2(中国科学院から購入、P14);DMEM(Gibco、カタログ番号11995040);FBS(Excell Bio、カタログ番号FSP500);MEM NEAA (100×)(Gibco、カタログ番号11140-050);POLY-L-LYSINE (SIGMA、カタログ番号P4832);BODIPY-LDL(Life、カタログ番号L3483);PCSK9-his(Akeso Biopharmaによって調製);PCSK9(D374Y)-his(Acrobio、カタログ番号PCY-H5225);evolocumab(AMGENから購入)。
【0088】
手順:96ウェルの黒色底細胞培養プレートを50μLの0.01%ポリ-L-リジンでコーティングした。プレートを37℃、5%CO2インキュベーターで2時間インキュベートし、コーティング溶液を廃棄した。プレートを100μLのPBSで1回洗浄し、後で使用するために乾燥させた。対数期のHepG2細胞の場合、増殖培地(12%FBS、1%NEAAを含むDMEM)を廃棄した。トリプシン処理後、細胞をアッセイ培地(1%NEAAを含むDMEM)に再懸濁し、カウントした。細胞を96ウェル黒色細胞培養プレートに20,000細胞/ウェルで80μL/ウェルの量で播種し、37℃/5%CO2で一晩インキュベートした。翌日、PCSK9と抗体(最終濃度は図に示されています)をアッセイ培地で希釈し、最終容量100μLの96ウェルプレートに添加した。細胞培養プレートを37℃/5%CO2で21時間インキュベートした。培養プレートを取り出し、0.1mg/mLのBODIPY標識LDL溶液10μLを加えた。混合物を37℃/5%CO2で9時間培養した。培地を廃棄し、200μLのPBSを各ウェルに加えて洗浄した。100μLのPBSを各ウェルに加えた。プレートの相対蛍光ユニット(RFU)は、マルチラベルマイクロプレートテスターによって、励起波長485nmおよび発光波長535nmで検出された。
【0089】
結果:表4、
図4及び
図5に示されているように、MAB1は、野生型PCSK9および機能的に強化された変異体PCSK9(PCSK9-D374Y)に効果的に結合し、PCSK9がLDLエンドサイトーシスを阻害するのを効果的にブロックし、これは、同じ標的を持つ市販薬エボロクマブの活性に相当する。
【0090】
【0091】
実施例4.野生型PCSK9による変異型LDLRを介したLDLエンドサイトーシスの阻害を軽減するMAB1
PCSK9タンパク質のLDLRへの結合は、LDL-C代謝を調節する。LDLR遺伝子の変異は非常に多く、LDLRタンパク質の合成と機能に応じて次のように分類できる:1)LDLR対立遺伝子の非発現を含むLDLR非発現変異(すなわち、LDLRは細胞によって発現されない)、例えば、プロモーター配列変異、ナンセンス変異、フレームシフト変異、およびスプライシング変異、かつDLR輸送の欠陥、すなわち欠陥のあるLDLRは、合成された後、小胞体からゴルジ装置に輸送できず、細胞内に蓄積および分解される;2)結合欠損遺伝子変異、すなわち、変異遺伝子によってコードされる異常なLDLRは、細胞表面で輸送および発現され得るが、LDL-Cに結合するための活性が低下または消去される;3)内在化欠損遺伝子変異、すなわち、LDLに結合するがエンドサイトーシスできない受容体は、NPVY配列をコードするコドンの変異により蓄積してカベオラを覆う;4)リサイクル欠損遺伝子変異、すなわち、受容体はLDL-Cに結合してエンドサイトーシスを仲介することができますが、リソソーム内でLDL-Cと同時に消化され、LDLRが細胞表面にリサイクルできなくなる。野生型LDLR(以下の変異体LDLR(D227E)に対応する227位のアミノ酸D)及び変異型LDLR(D227E; https://www.ncbi.nlm.nih.gov/clinvar/variation/3690/)をコントロールとして使用することにより、この実験では、様々な変異型LDLRのLDLエンドサイトーシス活性、PCSK9によるLDLエンドサイトーシスに対する様々な変異型LDLRの阻害、およびPCSK9によるLDLエンドサイトーシスの阻害がMAB1によって効果的に軽減されるかどうかを評価した。
【0092】
手順:293T細胞を従来の消化によりプレーティングし、6ウェルプレートに5×105細胞/ウェルで播種した。2mLのDMEM+10%FBS+1%二重特異性抗体(Penicillin Streptomyces、Gibco、カタログ番号15140-122)を添加し、細胞をインキュベーター内で一晩インキュベートした。1mLのOpti-MEM無血清培地にトランスフェクションする2時間前に培地を交換した。標的プラスミドDNA(Akeso Biopharma,Inc.によって構築、表5参照、野生型LDLRに基づいて、開始コドンによってコードされるアミノ酸を1位として使用し、そして表5に従って対応する位置の部位特異的変異誘発を行った後、YouBioから購入したレンチウイルスプラスミドpCDH-CMV-MCS-EF1-puroにDNAを挿入し、表5のプラスミドを得た)及びPEI(Polyscience,カタログ番号:23966)をOpti-MEMで別々に希釈し、標的プラスミド及びコントロールプラスミドをそれぞれ2μgとPEIを10μg(5μgのPEIセパレートトランスフェクション)にした。希釈したDNAとPEIをよく混合し、15分間インキュベートし、6ウェルプレートにゆっくりと滴下して加え、穏やかに混合し、インキュベーターで一晩インキュベートした。6ウェルプレートの培地を2mLDMEM+10%FBSに交換し、細胞をインキュベーター内でさらにインキュベートした。トランスフェクションの48時間後、0.05%パンクレリパーゼ-EDTAで消化し、遠心分離して細胞を回収し、カウントした。細胞の一部をレポーターアッセイプレートに加えて、2 × 105 細胞/ウェルで、100μLのDMEM+10%FBS、PBS、IL-6(Akeso Biopharma、ロット番号:20150421)(50ng/mL)を添加した。細胞を一晩インキュベートし、50μLの基質(Bright-GloTM luciferase assay system、Promega、ロット:E2620)を添加してRLUを読み取った。細胞の別の部分は、200μLのOpti-MEM+1%NEAAを使用したLDLエンドサイトーシス(FACS)アッセイに使用された。細胞を2×105細胞/ウェルで添加し、PCSK-9、hIgG1(Akeso Biopharma、ロット番号:20170424)およびMAB1と、それぞれ最終濃度600nM、50μg/mL、および50μg/mLで共培養し、化合物を添加してさらに一晩インキュベートした前に、細胞をPCSK-9および抗体とプレインキュベートした。
【0093】
対応するLDL(BODIPY-LDL、Life、カタログ番号:L3483;最終濃度:0.001mg/mL)を実験計画に従って添加し、混合物を十分に混合して4時間インキュベートした。
【0094】
細胞を回収し、底が尖った96ウェルプレートに移し、350×gで5分間遠心分離した。上清を廃棄した。細胞沈殿物を200μLの1%PBSAに再懸濁し、350×gで5分間遠心分離した後、上清を廃棄した。洗浄を1回繰り返した。細胞沈殿物を200μLの1%PBSAに再懸濁し、アッセイのためにフローサイトメトリーチューブに移した。
【0095】
結果は表5に示す。野生型LDLRを例として、LDLエンドサイトーシス率は11.50%であった;PCSK9を加えた後、エンドサイトーシス率は7.23%であり、PCSK9がLDLRによるLDLエンドサイトーシスをブロックしたことを示唆している。LDLとPCSK9に基づいてMAB1を追加した場合、エンドサイトーシス率は8.53%であり、これはMAB1がPCSK9を介したLDLエンドサイトーシスの阻害を効果的に軽減できることを示唆している。表の変異配列情報は、文献および関連するオンラインデータベースから取得された(Liang L et al., Scientific Reports, 2015; 5(1):17272.; https://www.ncbi.nlm.nih.gov/clinvar/)。
【0096】
【0097】
結果は、変異型LDLRがLDLエンドサイトーシス活性を持ち、PCSK9がLDLエンドサイトーシスを阻害できる場合、MAB1の添加によりLDLエンドサイトーシスを大幅に増加させることができることを示した。つまり、MAB1はPCSK9を介したLDLエンドサイトーシスの阻害を効果的に軽減することができる。
【配列表】
【国際調査報告】