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特表2023-501801ピエゾ媒介型の卵細胞質内精子注入法のためのペルフルオロ-n-オクタンの使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-19
(54)【発明の名称】ピエゾ媒介型の卵細胞質内精子注入法のためのペルフルオロ-n-オクタンの使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/075 20100101AFI20230112BHJP
【FI】
C12N5/075
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022528325
(86)(22)【出願日】2020-11-13
(85)【翻訳文提出日】2022-07-08
(86)【国際出願番号】 EP2020082142
(87)【国際公開番号】W WO2021094588
(87)【国際公開日】2021-05-20
(31)【優先権主張番号】1916691.7
(32)【優先日】2019-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】1917205.5
(32)【優先日】2019-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522190096
【氏名又は名称】ヴィトロライフ スウェーデン アクティボラグ
(71)【出願人】
【識別番号】500362442
【氏名又は名称】プライムテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100007983
【弁理士】
【氏名又は名称】笹川 拓
(72)【発明者】
【氏名】プリベンスキー チャバ
(72)【発明者】
【氏名】岩元 正樹
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA91X
4B065AA93X
4B065BA04
4B065BB40
4B065CA60
(57)【要約】
本発明は、ピエゾ媒介型のマイクロインジェクション法用の操作液に関する。特に、本発明は、ピエゾ媒介型の卵細胞質内精子注入法(ピエゾ-ICSI)用の操作液としての、精製されたペルフルオロ-n-オクタン又は精製されたペルフルオロ-n-オクタンを含む組成物の使用に関する。本発明は更に、精製されたペルフルオロ-n-オクタン又は精製されたペルフルオロ-n-オクタンを含む組成物を操作液として使用するピエゾ-ICSIによって卵母細胞を体外受精させる方法、及び本発明の方法を使用する生殖補助医療の方法に関する。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピエゾ媒介型の卵細胞質内精子注入法(ピエゾ-ICSI)用の操作液としての、精製されたペルフルオロ-n-オクタン又は精製されたペルフルオロ-n-オクタンを含む組成物の使用。
【請求項2】
ピエゾ-ICSIは、哺乳動物の卵母細胞内への哺乳動物の精子の注入を含む、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記精子及び前記卵母細胞は、ヒトのものである、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記精子及び前記卵母細胞は、マウスのものである、請求項2に記載の使用。
【請求項5】
卵母細胞を体外受精させる方法であって、前記卵母細胞内にピエゾ-ICSIにより精子を注入することを含み、ここで、精製されたペルフルオロ-n-オクタン又は精製されたペルフルオロ-n-オクタンを含む組成物を、前記ピエゾ-ICSI用の操作液として使用する、方法。
【請求項6】
ピエゾ-ICSIは、
(a)前記精子及び前記操作液を含む注入マイクロピペットを準備することと、
(b)ピエゾパルスを使用して、前記注入マイクロピペットを用いて前記卵母細胞を穿刺することと、
(c)前記卵母細胞内に前記精子を注入することと、
を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
(b)は、
(i)ピエゾパルスを使用して、前記卵母細胞の透明帯を穿刺することと、
(ii)前記透明帯を通じて前記注入マイクロピペットを動かして、前記卵母細胞の卵細胞膜に押し当てることと、
(iii)ピエゾパルスを使用して前記卵細胞膜を穿刺し、それにより前記注入マイクロピペットを前記卵母細胞の細胞質内に動かすことと、
を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記精子及び前記卵母細胞は、哺乳動物のものである、請求項5~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記精子及び前記卵母細胞は、ヒトのものである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記精子及び前記卵母細胞は、マウスのものである、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
生殖補助医療の方法であって、
(a)請求項5~10のいずれか一項に記載の方法を使用して卵母細胞を体外受精させて、胚を形成することと、
(b)前記胚を培養することと、
(c)前記胚を被験体へと着床させることと、
を含む、方法。
【請求項12】
前記被験体は、ヒトである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
操作液としての精製されたペルフルオロ-n-オクタン又は精製されたペルフルオロ-n-オクタンを含む組成物を含む注入マイクロピペットを備える、ピエゾ-ICSI用の装置。
【請求項14】
前記装置は、倒立顕微鏡と、マイクロマニピュレーターと、インジェクターと、注入マイクロピペットと、ピエゾマイクロマニピュレーターとを備える、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
操作液としての精製されたペルフルオロ-n-オクタン又は精製されたペルフルオロ-n-オクタンを含む組成物と、1つ以上の注入マイクロピペット、1つ以上の保持ピペット、及び前記1つ以上の注入マイクロピペット内に操作液を充填するデバイスから選択される1つ以上の構成要素とを含む、ピエゾ-ICSI用のキット。
【請求項16】
前記精製されたペルフルオロ-n-オクタンは、1000百万分率(ppm)以下のH値を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用、請求項5~12のいずれか一項に記載の方法、請求項13若しくは14に記載の装置、又は請求項15に記載のキット。
【請求項17】
前記精製されたペルフルオロ-n-オクタンは、10ppm以下のH値を有する、請求項16に記載の使用、方法、装置、又はキット。
【請求項18】
前記操作液は、約90%以上の精製されたペルフルオロ-n-オクタンを含む、請求項1~4、16若しくは17のいずれか一項に記載の使用、請求項5~12、16若しくは17のいずれか一項に記載の方法、請求項13、14、16若しくは17のいずれか一項に記載の装置、又は請求項15~17のいずれか一項に記載のキット。
【請求項19】
前記操作液は、約95%以上の精製されたペルフルオロ-n-オクタンを含む、請求項18に記載の使用、方法、装置、又はキット。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピエゾ媒介型のマイクロインジェクション法ための操作液に関する。特に、本発明は、ピエゾ媒介型の卵細胞質内精子注入法(ピエゾ-ICSI)用の操作液としての、精製されたペルフルオロ-n-オクタン又は精製されたペルフルオロ-n-オクタンを含む組成物の使用に関する。本発明は更に、精製されたペルフルオロ-n-オクタン又は精製されたペルフルオロ-n-オクタンを含む組成物を操作液として使用するピエゾ-ICSIによって卵母細胞を体外受精させる方法、及び本発明の方法を使用する生殖補助医療の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
男性不妊症は、カップルのおよそ50%の不妊の原因である。雄性配偶子の機能不全による受精障害に対処するために、1980年代に、卵母細胞の透明帯下に単一の精子細胞(精子)を注入することを含む多くの手法が開発されたが、成功率は非常に限られている。しかしながら、それは、卵細胞膜が偶発的に破られ、精子が卵細胞質に送達される卵母細胞の透明帯下注入が行われていた間のことであり、その後に、今日でもヒトにおいて行われている卵細胞質内精子注入の開発が行われている。
【0003】
卵細胞質内精子注入法(ICSI)は、精子細胞を卵母細胞の細胞質内に直接注入する体外受精法である。ICSIによって作製された胚に起因する最初のヒトの妊娠は1992年に報告された。ICSIは、マイクロマニピュレーター及びマイクロピペットを使用して卵母細胞及び精子を扱う人間の操作者によって顕微鏡下で培養皿において行われる。微細なガラスマイクロピペット(保持ピペット)が、マイクロインジェクターにより加えられた緩やかな吸引力で成熟卵母細胞を安定化させる一方で、反対側から、細い先の尖ったガラスマイクロピペット(注入マイクロピペット)を使用して、マイクロピペットの先端で精子の尻尾を切って不動化させた単一の精子を収集する。操作者によりマイクロマニピュレーターを通じて加えられた機械力を使用して、卵母細胞の透明帯及び形質膜(卵細胞膜)を注入マイクロピペットで穿刺する。次に、精子を卵母細胞の細胞質内に注入する。
【0004】
現在まで、ICSIは世界中で200万人以上の出生を担ってきた。しかしながら、ICSIは、高度に熟練した操作者を必要とする労働集約型の技術であり、技術の標準化及び成功率に関してはまだ改善の余地がある。従来のICSIはマウスの体外受精における受精に関連する問題を解決していなかったため、「ピエゾ媒介型」ICSI(ピエゾ-ICSI)と呼ばれる代替的な卵母細胞マイクロインジェクション法が1995年にマウス卵母細胞用に開発された。
【0005】
ピエゾ-ICSIは、単一の精子を含むマイクロピペットが卵母細胞を穿刺して精子を卵母細胞の細胞質に送達するという点で、従来のICSI(c-ICSI)に似ている。しかしながら、c-ICSIにおいては、操作者によりマイクロマニピュレーターを通じてマイクロピペットに加えられた機械力によって透明帯及び卵細胞膜が穿刺されるが、ピエゾ-ICSIにおいては、圧電効果を使用して卵母細胞が穿刺される。圧電効果は、或る特定の材料が機械的応力に応答して電荷を蓄積し、その逆に、電気の印加によって機械的応力が誘発され得る現象である。圧電効果には多くの技術的用途がある。ピエゾ-ICSIの場合には、精子を含むマイクロピペットに短い「ピエゾパルス」を印加して、マイクロピペットの超高速のサブミクロンの前方運動量を引き起こす。この正確で迅速な動きを使用して、c-ICSIにおいて使用される機械力よりも卵母細胞にかかるストレスが少なく透明帯及び卵母細胞が穿刺される。
【0006】
ピエゾ-ICSIの成功率は当初c-ICSIよりも低かった。しかしながら、注入マイクロピペット内に少量の水銀を含めることによって、成功率をc-ICSIよりも高く改善することが可能であることが判明した。
【0007】
こうして、ピエゾ-ICSIには、注入マイクロピペット内に「操作液」が存在する必要がある。現在、ピエゾ-ICSIの穿刺プロセスの物理に関する完全な科学的説明は存在しない。圧電性によって誘発されるマイクロピペットの軸方向運動が透明帯を穿刺することが示唆されている。操作液の急激な前方運動によって引き起こされる圧力バーストによって穿刺が生ずるとも仮定されている。また、ピエゾパルスを印加するとマイクロピペットが前方に動くが、慣性の法則及び液体の高い比重のため操作液は動かないとも仮定されている。急速に移動するマイクロピペット及び静止した操作液により、マイクロピペットの先端に負圧が発生し、それにより透明帯が引き開けられると考えられている。より最近の研究では、圧電パルス列が導入されると、注入ピペットにかなりの横方向の先端振動が発生することが指摘されている。これらの研究では、穿刺において横方向の動態が重要な役割を果たし、このプロセスも操作液によって媒介されることが主張されている。列挙された機構の全てはある程度はピエゾ媒介型のICSIの効果的な操作に貢献する可能性が非常に高い。
【0008】
水銀は毒性であり、その使用は非常に制限されているが、現在動物における体外受精にピエゾ-ICSIが使用されている。より最近では、フッ素化された化合物が操作液として使用されている。
【0009】
ピエゾ-ICSIは、1995年に初めてマウスにおいて使用に成功し、その後、ブタ及びウシのマイクロインジェクション法に適用された。ピエゾ-ICSIは、従来のICSI(c-ICSI)よりも高い受精率及び生存率を達成したため、動物の卵母細胞内に精子をマイクロインジェクションする当該技術分野における標準的な方法となっている。
【0010】
ピエゾ-ICSI技術を使用してもたらされたヒトの妊娠の成功は1996年に最初に報告され、受精率及び生存率の改善は1999年に報告された。しかしながら、ピエゾ-ICSIはヒトでの臨床使用については承認されていない。
【0011】
臨床使用の承認を可能にするピエゾ-ICSIの更なる開発は、ヒトにおける生殖補助医療の成功率を改善する可能性を秘めている。
【発明の概要】
【0012】
本発明は、ピエゾ媒介型のマイクロインジェクション法用の操作液に関する。
【0013】
本発明は、ピエゾ媒介型の卵細胞質内精子注入法(ピエゾ-ICSI)用の操作液としての、精製されたペルフルオロ-n-オクタン又は精製されたペルフルオロ-n-オクタンを含む組成物の使用を提供する。
【0014】
本発明は更に、卵母細胞を体外受精させる方法であって、卵母細胞内にピエゾ-ICSIにより精子を注入することを含み、ここで、精製されたペルフルオロ-n-オクタン又は精製されたペルフルオロ-n-オクタンを含む組成物を、ピエゾ-ICSI用の操作液として使用する、方法を提供する。
【0015】
本発明はまた、生殖補助医療の方法であって、
(a)本発明による方法を使用して卵母細胞を体外受精させて、胚を形成することと、
(b)胚を培養することと、
(c)胚を被験体へと着床させることと、
を含む、方法を提供する。
【0016】
適切には、本発明による操作液としての精製されたペルフルオロ-n-オクタンの使用により、生殖補助医療の方法に利点がもたらされ得る。このような利点としては、受精成功率の向上、胚発生率の向上(例えば、胚盤胞期に至る胚の割合の向上)、及び着床成功率の向上が挙げられ得る。ピエゾ-ICSI用の操作液としてのペルフルオロ-n-オクタンの使用がヒトにおける臨床使用について承認されると、ICSI手法を標準化する可能性がもたらされ得る。ピエゾ-ICSIの使用は、生殖補助医療の完全自動化に向けた第一歩となり得る。ピエゾ-ICSIはまた、高度に熟練した操作者を必要とするc-ICSIよりも習得が簡単な技術でもある。したがって、ピエゾ-ICSI用の操作液としてのペルフルオロ-n-オクタンの使用はヒトにおける生殖補助医療を簡素化し、より効率的な方法にする可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】注入マイクロピペット内の操作液の位置を示す図である。図1は、操作液2が充填された注入マイクロピペット1を示している。操作液は、マイクロピペットの中央におよそ10mm~15mmの長さの液柱を形成する。
図2】マイクロピペットのインジェクターへの取り付けを示す図である。図2Aは、注入マイクロピペット1のマイクロピペットホルダー3への挿入を示している。図2Bは、マイクロピペットホルダー3のインジェクター4への挿入を示している。
図3】ピエゾマイクロマニピュレーター(PMM)/ピエゾドライバーを示す図である。図3Aは、マイクロピペットホルダー3に取り付けられたピエゾドライバー5を示している。図3Bは、ピエゾドライバー5の写真である。
図4】注入マイクロピペット及び培養液を示す図である。図4Aは、PVP等を含む培養液が注入マイクロピペットによって吸い込まれることを示している。図4Bは、注入マイクロピペットを使用してPVP培養液を吸い込む写真である。
図5】ピエゾ-ICSIの概略図である。図5は、ピエゾ-ICSIを使用して精子を卵母細胞内に注入する工程を示している。卵母細胞を変形させずに、注入マイクロピペットの先端を透明帯に優しく添える(a)。マイクロピペットにピエゾパルスを印加し(b)、透明帯を通じて前進させて穿孔する(c)。注入マイクロピペットを透明帯から引き抜き、透明帯のくり抜かれた部分を注入マイクロピペットの排液操作により追い出す。この排液操作を使用して、精子を注入マイクロピペットの先端に移動させる(d)。透明帯を通じて(e)卵母細胞の直径全体のおよそ80%~90%まで注入マイクロピペットを前進させ、卵細胞膜に押し当てて卵細胞膜を引き伸ばす(f)。ピエゾパルスを1回印加して卵細胞膜を破断することで、注入マイクロピペットは細胞質に取り囲まれる(g)。精子を注入する(h)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、ピエゾ媒介型の卵細胞質内精子注入法(ピエゾ-ICSI)用の操作液としての、精製されたペルフルオロ-n-オクタン又は精製されたペルフルオロ-n-オクタンを含む組成物の使用を提供する。
【0019】
本発明はまた、卵母細胞を体外受精させる方法であって、卵母細胞内にピエゾ-ICSIにより精子を注入することを含み、ここで、精製されたペルフルオロ-n-オクタン又は精製されたペルフルオロ-n-オクタンを含む組成物を、ピエゾ-ICSI用の操作液として使用する、方法を提供する。
【0020】
[ペルフルオロ-n-オクタン]
ペルフルオロ-n-オクタンは、8個の炭素原子の非分岐の鎖からなり、各炭素原子は最大数のフッ素原子に結合している(つまり、末端炭素には3個のフッ素原子が結合し、他の各炭素には2個のフッ素原子が結合している)。ペルフルオロ-n-オクタンのIUPAC名は、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-オクタデカフルオロオクタンである。ペルフルオロ-n-オクタンのCAS登録番号は307-34-6である。ペルフルオロ-n-オクタンは、化学式C18を有する。ペルフルオロ-n-オクタンの構造式は、以下の通りである。
【0021】
【化1】
【0022】
室温では、ペルフルオロ-n-オクタンは無臭で無色の液体である。ペルフルオロ-n-オクタンの物理的特性を以下の表1に示す(温度に依存する特性は25℃で見積もられている)。
【0023】
【表1】
【0024】
ペルフルオロ-n-オクタンは化学的に不活性である。言い換えると、ペルフルオロ-n-オクタンは安定しており、他の化合物と容易に反応しない。この安定性は、その構造において多数を占める高強度の炭素-フッ素結合によるものである。
【0025】
ペルフルオロ-n-オクタンは、炭素原子及びフッ素原子のみからなる化合物であるペルフルオロカーボンと呼ばれることがある。ペルフルオロ-n-オクタンは、ペルフルオロカーボン液(PFCL)と呼ばれることがある。ペルフルオロ-n-オクタンは、単結合によって連結された炭素原子及びフッ素原子のみからなる化合物であるペルフルオロアルカンと呼ばれることがある。
【0026】
ペルフルオロ-n-オクタンを合成する方法は当該技術分野において知られている。
【0027】
例えば、ペルフルオロ-n-オクタンは、電気分解を使用して有機化合物の水素原子をドナー化合物からのフッ素原子に置き換える電解フッ素化によって合成され得る。使用され得る電解フッ素化の2つの例示的な形式は、シモンズ法及びフィリップス・ペトロリアム法である。シモンズ法(Simons and Harland 1949 Journal of the Electrochemical Society 95: 47-66)においては、フッ化水素の溶液中で有機化合物が電気分解される。フィリップス・ペトロリアム法は、シモンズ法に類似しているが、フッ素源としてフッ化水素中のフッ化カリウムを使用する(Banksら(編集)のOrganofluorine Chemistry(マサチューセッツ州ボストン):Springerの第121頁~第143頁におけるAlsmeyer et al. 1994 Organofluorine Chemistry: Principles and Commercial Applications)。
【0028】
ペルフルオロ-n-オクタンは、フッ化コバルト(III)を使用して炭化水素を気相中でフッ素化させるファウラー法(Fowler et al. 1947 Ind. Eng. Chem. 39: 292-298)によっても合成され得る。特に、第1工程において、フッ化コバルト(II)を、高温でフッ素ガスに曝すことによりフッ化コバルト(III)にフッ素化させる。第2工程において、フッ化コバルト(III)を、高温でフッ素化させる炭化水素(例えば、ペルフルオロ-n-オクタンの場合はオクタン)に曝す。炭化水素の水素原子は、フッ化コバルト(III)からのフッ素原子によって置き換えられ、フッ化コバルト(III)はフッ化コバルト(II)に変換される。
【0029】
ペルフルオロ-n-オクタンは、商業的な供給源から容易に入手可能である。
【0030】
精製されたペルフルオロ-n-オクタン
「精製されたペルフルオロ-n-オクタン」という用語は、低いレベルの低フッ素化不純物を含むペルフルオロ-n-オクタンを指す。
【0031】
低フッ素化不純物は、ペルフルオロカーボン化合物の合成の副生成物である。低フッ素化不純物は、それらの分子構造内に目的とするペルフルオロカーボン合成生成物よりも少ないフッ素原子を含む。
【0032】
特に、ペルフルオロ-n-オクタンは、その分子構造内の各炭素原子が最大数のフッ素原子に結合しているため、完全にフッ素化されている。しかしながら、ペルフルオロ-n-オクタンの合成の間に、フッ素化が不完全な、つまり分子内に依然として水素及び/又は炭素の多数の結合を含むためペルフルオロ-n-オクタンよりも少ないフッ素原子を含む他の分子が追加的に生成され得る。これらの分子が低フッ素化不純物である。
【0033】
ペルフルオロ-n-オクタンの低フッ素化不純物は、炭素-炭素二重結合を含む場合がある。ペルフルオロ-n-オクタンの低フッ素化不純物は、追加的に又は代替的に、炭素-炭素三重結合を含む場合がある。ペルフルオロ-n-オクタンの低フッ素化不純物は、追加的に又は代替的に、ペルフルオロ-n-オクタン中に見られるフッ素原子の代わりに1つ以上の水素原子を含む場合がある。
【0034】
低フッ素化不純物は、低フッ素化化合物、低フッ素化副生成物、フッ素化が不完全な不純物、フッ素化が不完全な化合物、又はフッ素化が不完全な副生成物と呼ばれることがある。
【0035】
化学的に不活性なペルフルオロ-n-オクタンとは対照的に、低フッ素化不純物は反応性である。言い換えると、低フッ素化不純物は、ペルフルオロ-n-オクタンが反応しない化合物と反応する場合がある。
【0036】
精製によって、合成されたペルフルオロ-n-オクタンから低フッ素化不純物を除去することができる。本発明の幾つかの実施形態において、精製されたペルフルオロ-n-オクタンは、精製に供されたペルフルオロ-n-オクタンを含む。
【0037】
ペルフルオロ-n-オクタンに適用され得るペルフルオロカーボン化合物の精製方法は、当該技術分野において知られている(例えば、米国特許第3,696,156号、米国特許第3,887,629号、及び米国特許第5,563,306号を参照、これら全ては引用することにより本明細書の一部をなす)。このような方法は、典型的には、低フッ素化不純物の反応性を利用して、低フッ素化不純物を不活性なペルフルオロ-n-オクタンと分ける。ペルフルオロ-n-オクタンの精製の例示的な方法においては、低フッ素化不純物を、Ca2+イオン又はBa2+イオンの存在下で、アミン又は水酸化カリウム等の強塩基と反応させる。
【0038】
ペルフルオロ-n-オクタンの調製物中の低フッ素化不純物の量は、これらの不純物中のC-H結合の数に相当するものとして表現され得る。この値はH値と呼ばれ、百万分率(ppm)の単位を有する。ペルフルオロ-n-オクタンの調製物中の低フッ素化不純物の量は、例えば、フッ化物イオン選択性イオン測定法(fluoride selective ionometry)を使用して測定され得る。
【0039】
フッ化物イオン選択性イオン測定法を使用して低フッ素化不純物を定量化することは、当該技術分野において知られている。この方法の原理は、ペルフルオロ-n-オクタンを強塩基と反応させることにより調製物中の分子からフッ素原子を切断し、フッ化物イオンを生成することである。次に、フッ化物イオンを定量化し、そこから低フッ素化不純物の量を計算することができる。フッ化物イオン選択性イオン測定法の例示的な方法論を以下に示す。
【0040】
工程1:低フッ素化不純物の化学転換
10mLのペルフルオロカーボン液(PFCL)を3.4gの1,6-ジアミノヘキサン及び15mLのノナンと混合する。この混合物を、還流冷却器を備えた100mLのガラスフラスコ中で撹拌しながら120℃の温度に8時間加熱する。室温まで冷却した後に、溶液を30mLの塩酸(1.3モル濃度)と激しく混合し、水相を分離する。
【0041】
続いて、指示薬としてフェノールフタレインを使用して、15mLの水相を1.3モル濃度の水性塩酸で中和し、脱イオン水で25mLに希釈する。この中和された希釈溶液10mLを25mLのガラスビーカーに移し、撹拌しながら1mLのTISAB-IIIを加える。
【0042】
工程2:フッ化物イオン選択性電位差測定法
イオン選択性電位差測定法を使用して、試料溶液中のフッ化物イオンを定量化する。試料測定の前に、0.005mmol/Lから0.05mmol/Lの間のフッ化物イオン濃度を有するフッ化ナトリウム溶液を参照標準として使用して較正を行わなければならない。さらに、ブランク値を記録する。次に、試料溶液を分析する。反応性の低フッ素化不純物の量は、これらの不純物中のC-H結合の数に相当するもの、つまりH値として表現される。H値(CF-C-H)は、以下の式を使用して計算される。
【数1】
【0043】
式中、
F-C-Hは、試料中のフッ素化が不完全な夾雑物の濃度(つまり、H値)であり、
F-は、試料中のフッ化物イオンの測定濃度であり、
M ̄PFCLは、測定されたPFCLの分子量であり、
ρPFCLは、測定されたPFCLの密度であり、
bνは、記録されたブランク値(試薬及び沸騰フラスコのブランク)であり、
5は、希釈工程を補償する係数であり、かつ、
1/3は、化学量論的係数(CH結合の数の計算)である。
【0044】
適切には、精製されたペルフルオロ-n-オクタンは、約1000百万分率(ppm)以下のH値を有し得る。精製されたペルフルオロ-n-オクタンは、約500ppm以下のH値を有し得る。精製されたペルフルオロ-n-オクタンは、約100ppm以下のH値を有し得る。精製されたペルフルオロ-n-オクタンは、約50ppm以下のH値を有し得る。精製されたペルフルオロ-n-オクタンは、約40ppm以下のH値を有し得る。精製されたペルフルオロ-n-オクタンは、約30ppm以下のH値を有し得る。精製されたペルフルオロ-n-オクタンは、約20ppm以下のH値を有し得る。精製されたペルフルオロ-n-オクタンは、約10ppm以下のH値を有し得る。精製されたペルフルオロ-n-オクタンは、約5ppm以下のH値を有し得る。精製されたペルフルオロ-n-オクタンは、約1ppm以下のH値を有し得る。好ましい実施形態においては、精製されたペルフルオロ-n-オクタンは、約10ppm以下のH値を有する。
【0045】
適切には、操作液は、約1000百万分率(ppm)以下のH値を有し得る。操作液は、約500ppm以下のH値を有し得る。操作液は、約100ppm以下のH値を有し得る。操作液は、約50ppm以下のH値を有し得る。操作液は、約40ppm以下のH値を有し得る。操作液は、約30ppm以下のH値を有し得る。操作液は、約20ppm以下のH値を有し得る。操作液は、約10ppm以下のH値を有し得る。操作液は、約5ppm以下のH値を有し得る。操作液は、約1ppm以下のH値を有し得る。好ましい実施形態においては、操作液は、約10ppm以下のH値を有する。
【0046】
精製されたペルフルオロ-n-オクタンは、商業的な供給源から入手可能である。特に、精製されたペルフルオロ-n-オクタンは硝子体網膜手術において使用するために販売されている。市販の精製されたペルフルオロ-n-オクタンの例としては、Alconにより販売されるPERFLUORON(商標)液、Biotechによって販売されるBIO OCTANE(商標)PFS、及びMoss Vision Inc.によって販売されるOPTISOLが挙げられる。
【0047】
ピエゾ-ICSI
ピエゾ媒介型の卵細胞質内精子注入法(ピエゾ-ICSI)は、卵母細胞の細胞質内に精子をin vitroで注入する当該技術分野において知られている技術である。ピエゾ-ICSIは、生殖補助医療における体外受精法に有用である。ピエゾ媒介型のICSIは、当該技術分野において「ピエゾ駆動型」ICSI又は「ピエゾ作動型」ICSIと呼ばれることもある。ピエゾ-ICSIの使用例は、Kimura and Yanagimachi 1995 Biol. Reprod. 52(4): 709-720、及びNagyら(編集)のIn Vitro Fertilization(Springer, Cham)におけるチャプター39,第481頁~第489頁のHiraoka et al. 2019 Piezo-ICSIによって示されている。これらの各文献は、引用することにより本明細書の一部をなす。
【0048】
ピエゾ-ICSIは、顕微鏡下で培養皿において卵母細胞及び精子に対して行われる。人間の操作者は、マイクロマニピュレーター及びマイクロピペットを使用して卵母細胞及び精子を扱う。単一の卵母細胞を緩やかな吸引力を介して保持マイクロピペットによって所定の位置に保持する一方で、卵母細胞を所定の位置に保持するマイクロピペットと区別するために「注入マイクロピペット」と呼ばれる反対側のマイクロピペットにおいて、単一の精子を捕獲する。注入マイクロピペットを使用して、最初に卵母細胞の透明帯を穿刺し、次に卵細胞膜を穿刺する。透明帯及び卵細胞膜の穿刺には、圧電効果が使用される。圧電効果は、或る特定の材料が機械的応力に応答して電荷を蓄積し、その逆に、電気の印加によって機械的応力が誘発され得る現象である。ピエゾ-ICSIにおいては、精子を含む注入マイクロピペットに電気的に短い「ピエゾパルス」を印加して、注入マイクロピペットの超高速のサブミクロンの前方運動量を引き起こす。この正確で迅速な動きを使用して、透明帯及び卵細胞膜が穿刺される。次に、精子を卵母細胞の細胞質内に注入し、卵母細胞から注入マイクロピペットを引き抜く。
【0049】
注入マイクロピペットには、圧電効果を使用して卵母細胞の安全に穿通するために必要な操作液が含まれている。
【0050】
したがって、本発明の幾つかの実施形態において、ピエゾ-ICSIは、以下の工程:
(a)精子及び操作液を含む注入マイクロピペットを準備する工程と、
(b)ピエゾパルスを使用して、注入マイクロピペットを用いて卵母細胞を穿刺する工程と、
(c)卵母細胞内に精子を注入する工程と、
を含む。
【0051】
本発明の幾つかの実施形態において、工程(b)は、
(i)ピエゾパルスを使用して、卵母細胞の透明帯を穿刺することと、
(ii)透明帯を通じて注入マイクロピペットを動かして、卵母細胞の卵細胞膜に押し当てることと、
(iii)ピエゾパルスを使用して卵細胞膜を穿刺し、それにより注入マイクロピペットを卵母細胞の細胞質内に動かすことと、
を含む。
【0052】
したがって、本発明の幾つかの実施形態において、ピエゾ-ICSIは、以下の工程:
(a)精子及び操作液を含む注入マイクロピペットを準備する工程と、
(b)
(i)ピエゾパルスを使用して、卵母細胞の透明帯を穿刺することと、
(ii)透明帯を通じて注入マイクロピペットを動かして、卵母細胞の卵細胞膜に押し当てることと、
(iii)ピエゾパルスを使用して卵細胞膜を穿刺し、それにより注入マイクロピペットを卵母細胞の細胞質内に動かすことと、
により、ピエゾパルスを使用して、注入マイクロピペットを用いて卵母細胞を穿刺する工程と、
(c)卵母細胞内に精子を注入する工程と、
を含む。
【0053】
「ピエゾパルス」は、マイクロピペットの超高速のサブミクロンの前方運動量を引き起こすのに注入マイクロピペットに印加される電気である。この運動量は、外部から印加された電圧に応じた結晶の変形に起因する。注入マイクロピペットを前方に推進(軸方向運動量)することに加えて、横方向運動量も生ずる。軸方向及び横方向の両方の動態が卵母細胞の穿刺に重要な役割を担うと考えられている。
【0054】
ピエゾ-ICSIを行う機器は、卵母細胞、精子、及びマイクロピペットを視認する倒立顕微鏡(例えば、IX73)と、卵母細胞、精子、及びマイクロピペットを扱う3軸マイクロマニピュレーター(例えば、XenoWorksPT)と、注入マイクロピペットを介して注入を制御するインジェクター(例えば、PNJ-T2等の空気圧マイクロインジェクター)と、注入マイクロピペットにピエゾパルスを印加する「ピエゾドライバー」とも呼ばれるピエゾマイクロマニピュレーター(PMM)(例えば、Piezo PMM4GD)とを備え得る。ピエゾ-ICSIに必要とされる消耗品には、精子を注入するマイクロピペット(例えば、超細型PINU06-20FT)、卵母細胞を保持するマイクロピペット、操作液、及び操作液をマイクロピペット内に充填するデバイスが含まれる。
【0055】
本発明は、操作液として精製されたペルフルオロ-n-オクタンを含む注入マイクロピペットを備えたピエゾ-ICSI用の装置を提供する。
【0056】
幾つかの実施形態においては、本発明によるピエゾ-ICSI用の装置は、倒立顕微鏡と、マイクロマニピュレーターと、インジェクターと、注入マイクロピペットと、ピエゾマイクロマニピュレーターとを備える。
【0057】
本発明はまた、操作液としての精製されたペルフルオロ-n-オクタンと、1つ以上の注入マイクロピペット、1つ以上の保持ピペット、及び1つ以上の注入マイクロピペット内に操作液を充填するデバイスから選択される1つ以上の構成要素とを含むピエゾ-ICSI用の消耗品キットを提供する。
【0058】
適切には、本発明による消耗品キットは、1つ以上の注入マイクロピペット、1つ以上の保持ピペット、及び1つ以上の注入マイクロピペット内に操作液を充填するデバイスから選択される2つ以上の構成要素を含む。
【0059】
適切には、本発明による消耗品キットは、操作液としての精製されたペルフルオロ-n-オクタンと、1つ以上の注入マイクロピペットと、1つ以上の保持ピペットと、1つ以上の注入マイクロピペット内に操作液を充填するデバイスとを含む。
【0060】
ピエゾ-ICSIは、以下に示される工程に従って実施され得る。
【0061】
(a)充填デバイスを使用して、注入マイクロピペットに操作液を、該マイクロピペット内の約2mm~25mm、例えば約10mm~15mmの長さまで充填する(図1を参照)。
【0062】
(b)注入マイクロピペットをマイクロピペットホルダーに挿入し(図2Aを参照)、これをピエゾマイクロマニピュレーター(PMM)に接続されたインジェクター(図2Bを参照)に取り付ける(図3を参照)。
【0063】
(c)注入マイクロピペットを顕微鏡下に置く。
【0064】
(d)インジェクターを使用して、操作液を注入マイクロピペットの先まで空気が残らないように押し込む。
【0065】
(e)精子を含む培養液の液滴内にマイクロピペットの先端を動かす。培養液は、栄養培養液又はポリビニルピロリドン(PVP)等を含む培養液であり得る。
【0066】
(f)操作液が完全に吸引されず又は追い出されないように少量の培養液を液滴から注入マイクロピペット内に吸引後排液する。注入マイクロピペット内部の培養液と操作液との間の界面境界が滑らかに動くまで、これを繰り返す(図4を参照)。
【0067】
(g)精子細胞を不動化し、これを注入マイクロピペット内に吸引する。例えば、マイクロピペットの先端で尻尾を押し潰すことによって、精子を不動化することができる。精子は、注入マイクロピペットの先端からおよそ1卵母細胞の直径分だけ後方で注入マイクロピペット内に配置され得る。
【0068】
(h)保持マイクロピペットを使用して卵母細胞を配置する。卵母細胞は、紡錘体を避けて囲卵腔の広い領域に穿刺することができるように配置されるべきである。
【0069】
(i)注入マイクロピペットの先端を、卵母細胞を変形させずに透明帯に優しく添え(図5aを参照)、PMMのスイッチを入れてマイクロピペットにピエゾパルスを印加する(図5bを参照)。注入マイクロピペットの超高速のサブミクロンの動きによって、透明帯を通じて注入マイクロピペットを前進させて穿孔する(図5cを参照)。
【0070】
(j)注入マイクロピペットを透明帯から引き抜き、注入マイクロピペット内部に残っている透明帯のくり抜かれた部分を注入マイクロピペットの排液により追い出す。この注入マイクロピペットの排液操作を使用して、精子を注入マイクロピペットの先端に動かす(図5dを参照)。
【0071】
(k)PMMをシングルパルス設定に設定する。卵細胞膜を破断するのに、単一のピエゾパルスしか必要とされない。
【0072】
(l)透明帯を通じて(図5eを参照)卵母細胞の直径全体のおよそ80%~90%まで注入マイクロピペットを前進させ、卵細胞膜に押し当てて卵細胞膜を引き伸ばす(図5fを参照)。
【0073】
(m)PMMを作動させて、1回のピエゾパルスで卵細胞膜を破断する。注入マイクロピペットは細胞質に取り囲まれる(図5gを参照)。
【0074】
(n)細胞質内に液体を多く排液しすぎないよう注意して、精子を注入する(図5hを参照)。
【0075】
(o)卵母細胞から注入マイクロピペットを引き抜く。
【0076】
c-ICSIにおいては、先の尖った又は面取りされた注入マイクロピペットを使用して、卵母細胞を機械力で穿刺する。ピエゾ-ICSIにおいては、機械力は使用されないので、先端が平らな注入マイクロピペットを使用して卵母細胞を穿刺することができる(Nagyら(編集)のIn Vitro Fertilization(Springer, Cham.)におけるチャプター39,第481頁~第489頁のHiraoka et al. 2019 Piezo-ICSIを参照)。したがって、一実施形態においては、注入マイクロピペットは先端が平らである。
【0077】
ピエゾ-ICSIにおいては、様々な肉厚の注入マイクロピペットが使用されている(Hiraoka and Kitamura 2015 J. Assist. Reprod. Genet. 32: 1827-1833)。本発明の方法においては、あらゆる適切な肉厚の注入マイクロピペットを使用することができる。適切には、注入マイクロピペットは、0.5μmから1μmの間の肉厚を有し得る。注入マイクロピペットは、0.925μmの肉厚を有し得る。注入マイクロピペットは、0.625μmの肉厚を有し得る。
【0078】
ピエゾ-ICSI用の精子を保持する注入マイクロピペットは、キャピラリー又はマイクロキャピラリーと呼ばれることもある。
【0079】
本発明の幾つかの実施形態においては、ピエゾ-ICSIは、哺乳動物の卵母細胞内への哺乳動物の精子の注入を含む。したがって、本発明は、操作液が精製されたペルフルオロオクタンである、哺乳動物に対して実施されるあらゆるピエゾ-ICSI用途を包含する。幾つかの実施形態においては、精子及び卵母細胞はヒトのものである。幾つかの実施形態においては、精子及び卵母細胞はマウスのものである。幾つかの実施形態においては、精子及び卵母細胞はウシのものである。幾つかの実施形態においては、精子及び卵母細胞はブタのものである。幾つかの実施形態においては、精子及び卵母細胞はウマのものである。
【0080】
好ましくは、精子及び卵母細胞はヒトのものであり得る。
【0081】
操作液
「操作液」という用語は、ピエゾ-ICSIにおける卵母細胞の穿刺を支援する注入マイクロピペット内の液体を指す。マイクロピペットに操作液が含まれておらず、培養液又はオイルしか含まれていない場合に、ピエゾ媒介型の卵母細胞の穿刺は効果がより低く、より高い卵母細胞の変性率をもたらす。したがって、卵母細胞の効果的かつ安全な穿刺をもたらすには、注入マイクロピペット内で操作液を使用することが推奨される。
【0082】
現在、ピエゾ-ICSIの結果を改善する操作液の正確な物理的効果に関する科学的合意形成は存在しない。操作液は、比較的高い比重を有する。この高い比重により、注入マイクロピペットが動くときに慣性のため操作液が所定の位置に留まるという結果がもたらされると考えられている。静止した操作液は、望ましくない横方向の振動を安定化し、抑制する一方で、マイクロピペット先端の軸方向(すなわち、穿刺)の動きを強めることができる。静止した操作液は、マイクロピペットが軸方向に動くときに僅かな真空を発生することで、透明帯又は卵細胞膜の開口を支援する僅かな吸引力を生み出すこともできる。
【0083】
最初に使用された操作液は水銀であった。しかしながら、水銀の毒性のため実験室において慎重に取り扱うことが必要となり、ヒト用のピエゾ-ICSIにおいては水銀を使用することができない。
【0084】
操作液として使用されるより毒性の少ない水銀の代替物は、フルオロカーボン及びフルオロエーテルである。
【0085】
特に、ペルフルオロ-n-アルキルモルホリン等のフルオロカーボン液(Nagyら(編集)のIn Vitro Fertilization(Springer, Cham.)におけるチャプター39,第481頁~第489頁のHiraoka et al. 2019 Piezo-ICSIを参照)及びペルフルオロ炭化水素混合物が、ピエゾ-ICSIにおける操作液として使用されている。フルオロカーボン液は、高い比重を有するが、水と同様の粘度を有する、澄明、無色、無臭、不燃性の流体である。
【0086】
市販のハイドロフルオロエーテルもピエゾ-ICSIにおいて操作液として使用されている。
【0087】
動物用のピエゾ-ICSIにはフルオロカーボン液及びハイドロフルオロエーテルが使用されているが、これらの化合物は、ヒトのピエゾ-ICSIにおける使用については承認されていない。さらに、これらの液体は、ピエゾ-ICSIにとっては水銀ほど効果的ではない。
【0088】
本発明は、ピエゾ-ICSIにおける操作液としての、精製されたペルフルオロ-n-オクタン又は精製されたペルフルオロ-n-オクタンを含む組成物の使用に関する。
【0089】
本明細書に記載されるように、「精製されたペルフルオロ-n-オクタン」という用語は、ペルフルオロ-n-オクタンが低いレベルの反応性の低フッ素化不純物を含むことを意味する。したがって、操作液は、他の化合物が実質的に低フッ素化不純物(すなわち、低フッ素化化合物)ではない限り、これらの他の化合物を含み得る。言い換えると、操作液は、ペルフルオロ-n-オクタンに加えて、他の完全にフッ素化された化合物を含み得る。
【0090】
したがって、本発明において使用される操作液は、「精製されたペルフルオロ-n-オクタン」である一方で、ペルフルオロ-n-オクタン以外の化合物を含む場合がある。それというのも、「精製された」とは、操作液中の低フッ素化化合物の割合について述べているからである。低フッ素化不純物の割合は、本明細書に記載されるようにH値(ppm)によって表現される。
【0091】
操作液中の精製されたペルフルオロ-n-オクタンの割合は、パーセンテージとして表現され得る。同様に、操作液中の任意の他の化合物の割合も、パーセンテージとして表現され得る。このパーセンテージは、精製されたペルフルオロ-n-オクタン若しくは他の化合物が占める操作液の重量のパーセンテージ(重量%)、又は精製されたペルフルオロ-n-オクタン若しくは他の化合物が占める操作液の容量のパーセンテージ(容量%)を指し得る。
【0092】
適切には、ピエゾ-ICSI用の操作液としての精製されたペルフルオロ-n-オクタンの本発明の使用は、約90%以上の精製されたペルフルオロ-n-オクタン、例えば約95%以上の精製されたペルフルオロ-n-オクタン、例えば約96%以上の精製されたペルフルオロ-n-オクタン、例えば約97%以上の精製されたペルフルオロ-n-オクタン、例えば約98%以上の精製されたペルフルオロ-n-オクタン、例えば約99%以上の精製されたペルフルオロ-n-オクタン、例えば100%の精製されたペルフルオロ-n-オクタンを含む操作液を指す。幾つかの実施形態においては、操作液は、約95%~約100%の精製されたペルフルオロ-n-オクタンを含む。
【0093】
好ましくは、操作液は、約95%~約100%の精製されたペルフルオロ-n-オクタンを含む。
【0094】
幾つかの実施形態においては、操作液は、約95%以上のペルフルオロ-n-オクタンを含み、かつ約100ppm以下のH値を有する。幾つかの実施形態においては、操作液は、約95%以上のペルフルオロ-n-オクタンを含み、かつ約10ppm以下のH値を有する。
【0095】
本発明はまた、ピエゾ-ICSI用の操作液としての、精製されたペルフルオロ-n-オクタンを含む組成物の使用を包含する。
【0096】
適切には、操作液としての精製されたペルフルオロ-n-オクタンを含む組成物の使用は、精製されたペルフルオロ-n-オクタンが操作液の主成分(すなわち、操作液の大部分を形成する化合物)であるべきであることを意味する。操作液として使用される組成物は、精製されたペルフルオロ-n-オクタンに加えて、他の化合物を含み得る。
【0097】
例えば、幾つかの実施形態においては、組成物は、主な精製された完全にフッ素化された化合物として精製されたペルフルオロ-n-オクタンを含む。言い換えると、他の精製された完全にフッ素化された化合物は、精製されたペルフルオロ-n-オクタン以上の量で組成物中に存在しない。
【0098】
適切には、操作液は、約50%以上の精製されたペルフルオロ-n-オクタン、例えば約60%以上の精製されたペルフルオロ-n-オクタン、例えば約70%以上の精製されたペルフルオロ-n-オクタン、例えば約80%以上の精製されたペルフルオロ-n-オクタン、例えば約90%以上の精製されたペルフルオロ-n-オクタンを含む組成物であり得る。
【0099】
幾つかの実施形態においては、操作液は、ペルフルオロ-n-オクタンに加えて、他の化合物を含む。他の化合物は、実質的に低フッ素化された化合物ではない。他の化合物は、実質的に完全にフッ素化された化合物である。
【0100】
「他の完全にフッ素化された化合物」という用語は、ペルフルオロ-n-オクタン以外の完全にフッ素化された化合物を意味する。
【0101】
幾つかの実施形態においては、操作液は、約50%以下の他の完全にフッ素化された化合物、約40%以下の他の完全にフッ素化された化合物、例えば約30%以下の他の完全にフッ素化された化合物、例えば約20%以下の他の完全にフッ素化された化合物、例えば約10%以下の他の完全にフッ素化された化合物、例えば約5%以下の他の完全にフッ素化された化合物、例えば約4%以下の他の完全にフッ素化された化合物、例えば約3%以下の他の完全にフッ素化された化合物、例えば約2%以下の他の完全にフッ素化された化合物、例えば約1%以下の他の完全にフッ素化された化合物を含み、例えば他の完全にフッ素化された化合物を含まない。
【0102】
ペルフルオロ-n-ヘプタン及びペルフルオロ-n-ノナンは、操作液中に含まれ得る他の完全にフッ素化された化合物の例である。幾つかの実施形態においては、操作液は、ペルフルオロ-n-ヘプタンを含む。幾つかの実施形態においては、操作液は、ペルフルオロ-n-ノナンを含む。幾つかの実施形態においては、操作液は、ペルフルオロ-n-ヘプタン及びペルフルオロ-n-ノナンを含む。幾つかの実施形態においては、操作液は、ペルフルオロ-n-ヘプタン、ペルフルオロ-n-ノナン、及び他の化合物を含む。
【0103】
ペルフルオロ-n-ヘプタン及びペルフルオロ-n-ノナンはそれぞれ、8個の炭素原子の代わりにそれぞれ7個の炭素原子及び9個の炭素原子を含むことを除いて、ペルフルオロ-n-オクタンと同じ構造を有する。言い換えると、ペルフルオロ-n-ヘプタンは、各炭素が最大数のフッ素原子に結合している7個の炭素原子の鎖からなり、ペルフルオロ-n-ヘプタンは、各炭素が最大数のフッ素原子に結合している9個の炭素原子の鎖からなる。
【0104】
ペルフルオロ-n-ヘプタンの構造式は、以下の通りである。
【0105】
【化2】
【0106】
ペルフルオロ-n-ノナンの構造式は、以下の通りである。
【0107】
【化3】
【0108】
幾つかの実施形態においては、操作液は、約5%以下のペルフルオロ-n-ヘプタン、例えば約4%以下のペルフルオロ-n-ヘプタン、例えば約3%以下のペルフルオロ-n-ヘプタン、例えば約2%以下のペルフルオロ-n-ヘプタン、例えば約1%以下のペルフルオロ-n-ヘプタンを含み、例えばペルフルオロ-n-ヘプタンを含まない。
【0109】
幾つかの実施形態においては、操作液は、約10%以下のペルフルオロ-n-ノナン、例えば約6%以下のペルフルオロ-n-ノナン、例えば約5%以下のペルフルオロ-n-ノナン、例えば約4%以下のペルフルオロ-n-ノナン、例えば約3%以下のペルフルオロ-n-ノナン、例えば約2%以下のペルフルオロ-n-ノナン、例えば約1%以下のペルフルオロ-n-ノナンを含み、例えばペルフルオロ-n-ノナンを含まない。
【0110】
幾つかの実施形態においては、操作液は、約5%以下のペルフルオロ-n-ヘプタン及び約5%以下のペルフルオロ-n-ノナンを含む。幾つかの実施形態においては、操作液は、約2%以下のペルフルオロ-n-ヘプタン及び約5%以下のペルフルオロ-n-ノナンを含む。
【0111】
幾つかの実施形態においては、操作液は、約95%~約100%のペルフルオロ-n-オクタン、約2%以下のペルフルオロ-n-ヘプタン、及び約5%以下のペルフルオロ-n-ノナンを含む。
【0112】
幾つかの実施形態においては、操作液は、約95%~約100%のペルフルオロ-n-オクタン、約2%以下のペルフルオロ-n-ヘプタン、及び約5%以下のペルフルオロ-n-ノナンを含み、かつ約10ppm以下のH値を有する。
【0113】
生殖補助医療
本発明は、生殖補助医療の方法であって、
(a)本発明による方法を使用して卵母細胞を体外受精させて、胚を形成することと、
(b)胚を培養することと、
(c)胚を被験体へと着床させることと、
を含む、方法を提供する。
【0114】
本発明の生殖補助医療の方法の幾つかの実施形態においては、被験体はヒトである。
【0115】
幾つかの実施形態においては、本発明による生殖補助医療の方法は、被験体から卵母細胞を採取することを含む。
【0116】
生殖補助医療用の技術は当該技術分野において知られている。特に、in vitroで胚を培養した後にそれらを被験体に着床させる製品及び技術は、当該技術分野において知られている。例えば、Vitrolifeは、採卵用の針(例えば、Sense採卵針)、最適な精子調製用の勾配液(gradients)(例えば、SpermGrad(商標))、受精卵母細胞を培養する培地、及び生存可能で遺伝的に健全な胚を被験体に移植する培養液(例えば、EmbryoGlue)を生産している。
【0117】
本開示は、本明細書に開示される例示的な方法及び材料によって限定されず、本明細書に記載されるものと類似又は同等のあらゆる方法及び材料を、本開示の実施形態の実施又は試験において使用することができる。数値範囲には、範囲を画定する数値が含まれる。
【0118】
値の範囲が示される場合に、指定された範囲内の任意の指定された値又は介在値と、その指定された範囲内の任意の他の指定された値又は介在値との間のそれぞれのより小さな範囲は本開示内に含まれる。これらのより小さな範囲の上限及び下限は、独立して、その範囲内に含まれる場合があり又は除外される場合があり、そのより小さな範囲内にいずれかの境界が含まれる、いずれの境界も含まれない、又は両方の境界が含まれる各範囲もまた、指定された範囲内の任意の具体的に除外された境界に従って、本開示内に含まれる。指定された範囲が境界の一方又は両方を含む場合に、それらの含まれる境界のいずれか又は両方を除外する範囲もまた本開示内に含まれる。
【0119】
本明細書及び添付の特許請求の範囲において使用される場合に、単数形(singular forms "a", "an", and "the")は、文脈上特に明記されていない限り、複数の指示対象を含むことに留意されたい。
【0120】
本明細書において使用される「含む(comprising)」、「含む(comprises)」、及び「から構成される(comprised of)」という用語は、「含む(including)」、「含む(includes)」又は「含む(containing)」、「含む(contains)」と同義であり、非排他的又はオープンエンド形式であり、追加の列挙されていない成員、要素、又は方法工程を除外するものではない。「含む(comprising)」、「含む(comprises)」、及び「から構成される(comprised of)」という用語には、「からなる(consisting of)」という用語も含まれる。
【0121】
本明細書において論じられる出版物は、本出願の出願日前のそれらの開示についてのみ示される。本明細書おいては、そのような出版物が本明細書に添付の特許請求の範囲に対する従来技術をなすことを認めるものと解釈されるべきものは何もない。
【0122】
次に、本発明を実施例によって更に説明するが、実施例は、本発明の実施において当業者を支援するのに用いられるという意図があり、決して本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例
【0123】
実施例1-操作液としてのフッ素化された化合物の適性
ピエゾ-ICSI用の操作液として使用される3つのフッ素化された試験化合物の適性を試験した。3つの試験化合物は、ペルフルオロデカリン、ペルフルオロ-n-オクタン、及びペルフルオロペルヒドロフェナントレンであった。試験化合物を、対照区としての操作液として以前に使用された市販のハイドロフルオロエーテルと比較した。この比較の所見を以下の表2に示す。
【0124】
【表2】
【0125】
要するに、ペルフルオロ-n-オクタンは、標準的なハイドロフルオロエーテル操作液と同様にピエゾ-ICSI用の操作液として使用するのに適していることが分かった。他のフッ素化された化合物は、より適性が低いか、又は全く不適であった。
【0126】
実施例2-胚発生に対するフッ素化された化合物の効果
胚発生に対する様々なフッ素化された化合物中でのインキュベーションの効果を試験した。
【0127】
223個の2PN(2個の前核)マウス胚を無作為に4つの群に分けた。A)そのままのペルフルオロ-n-オクタン、B)ピエゾ-ICSI用の操作液として以前に使用されていた市販のペルフルオロ炭化水素混合物、C)精製されたペルフルオロ-n-オクタン、及びD)未処理の対照区。
【0128】
群A、群B、及び群Cにおける胚を、それぞれの化合物中で3分間インキュベートした後に、培養培地に移した。次に、全ての群における胚をインキュベーター内で5日間培養した(37.5℃、相対湿度100%、空気中5%のCO)。
【0129】
変性の兆候を示している各群における胚の数を計数した。
【0130】
5日間のインキュベーション内で2細胞、3細胞、拡張胚盤胞、及び孵化中胚盤胞/孵化後胚盤胞の発生期に達した各群における胚の数を計数した。
【0131】
それらの胚が2細胞期(T2)に達するのに要した平均時間、及びそれらの胚が2細胞期から3細胞期(T3)に発達するのに要した平均時間を測定した。
【0132】
結果を以下の表3に示す。
【0133】
【表3】
【0134】
市販のペルフルオロ炭化水素混合物の操作液中でインキュベートされた胚のごく一部は変性の兆候を示したが、ペルフルオロ-n-オクタン中でインキュベートされた胚はいずれも変性の兆候を示さなかった。
【0135】
市販のペルフルオロ炭化水素混合物の操作液(群B)又はそのままのペルフルオロ-n-オクタン(群C)中でインキュベートされた胚は、対照区の胚(群A)よりもゆっくりと発達した。この減速は、拡張胚盤胞期及び孵化中胚盤胞期/孵化後胚盤胞期に到達する胚のより低い割合と、2細胞期から3細胞期への発達に要する時間の増加(T2からT3への平均)とによって示される。
【0136】
対照的に、精製されたペルフルオロ-n-オクタン(群D)中でインキュベートされた胚は、未処理の対照区の胚に匹敵するペースで発達した。
【0137】
これらのデータは、市販のペルフルオロ炭化水素混合物の操作液とは対照的に、精製されたペルフルオロ-n-オクタンが胚発生に悪影響を及ぼさないことを示している。
【0138】
実施例3-ペルフルオロ-n-オクタン操作液を用いてピエゾ-ICSIを使用した生殖補助医療
c-ICSIを使用した生殖補助医療の有効性をピエゾ-ICSIを使用した場合と比較した。ピエゾ-ICSI用の操作液として、精製されたペルフルオロ-n-オクタンを使用した。
【0139】
特に、少なくとも6つの成熟卵母細胞を有する69人の患者を無作為に2つの群に分けた。1つ目の群は、c-ICSIを使用して精子を卵母細胞内に導入する生殖補助医療を受けた。2つ目の群は、ピエゾ-ICSIを使用して精子を卵母細胞内に導入する生殖補助医療を受けた。
【0140】
c-ICSIは、Eppendorf 2KコントロールとともにICSIマイクロピペット(TPC、Cooper Surgical)を使用して行われた。ピエゾ-ICSIは、PMM及びPiezoマイクロピペット(Primetech)を使用して行われた。ピエゾ-ICSIにおける操作液として、精製されたペルフルオロ-n-オクタンを使用した。
【0141】
ピエゾ-ICSIを使用した生殖補助医療を受けた患者は、c-ICSIを使用した生殖補助医療を受けた患者と比較して受精率が有意に増加した(c-ICSIを使用して受精に成功した卵母細胞65.9%に対して、ピエゾ-ICSIを使用して受精に成功した卵母細胞80.6%、p<0.05)。ピエゾ-ICSIを使用すると、c-ICSIと比較して卵母細胞の変性率も減少した(c-ICSIを使用した場合の10.2%に対して、ピエゾ-ICSIを使用した場合の3.8%)。c-ICSI及びピエゾ-ICSIについて利用率は類似していた(ピエゾ-ICSIの場合の47.3%に対して、c-ICSIの場合の45.6%)。臨床妊娠率もc-ICSI及びピエゾ-ICSIの場合に同等であった(ピエゾ-ICSIの場合の55%に対して、c-ICSIの場合の50%)。
【0142】
ピエゾ-ICSIの使用により、c-ICSIと比較してガラス化用の平均1個の追加の胚が生成された(c-ICSIからのガラス化用の平均2.7個の胚に対して、ピエゾ-ICSIからのガラス化用の平均3.8個の胚)。
【0143】
これらのデータは、精製されたペルフルオロ-n-オクタンを操作液として用いるピエゾ-ICSIを生殖補助医療において使用すると、生殖補助医療用の胚の生成においてc-ICSIよりも効果的であることを示している。
【0144】
上記の明細書において挙げられる全ての出版物は、引用することにより本明細書の一部をなす。本発明の範囲及び趣旨から逸脱することなく、本発明の記載された方法及びシステムに様々な変更及び変動を加えられることは、当業者には明らかであろう。本発明を、特定の好ましい実施形態に関連して記載してきたが、特許請求の範囲に記載される本発明は、そのような特定の実施形態に過度に限定されるべきではないことを理解されたい。実際、産科学及び生殖技術又は生殖補助医療技術又は分子生物学又は関連分野における当業者に明らかである本発明の実施について記載された様式の様々な変更は、以下の特許請求の範囲内にあることが意図される。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5
【国際調査報告】