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特表2023-501805視野マッピングのための方法、システムおよびコンピュータプログラム製品
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-19
(54)【発明の名称】視野マッピングのための方法、システムおよびコンピュータプログラム製品
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/024 20060101AFI20230112BHJP
【FI】
A61B3/024
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022528339
(86)(22)【出願日】2020-11-13
(85)【翻訳文提出日】2022-06-24
(86)【国際出願番号】 NL2020050717
(87)【国際公開番号】W WO2021096361
(87)【国際公開日】2021-05-20
(31)【優先権主張番号】19209204.7
(32)【優先日】2019-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511269624
【氏名又は名称】ライクスユニヴェルシタイト・フローニンゲン
(71)【出願人】
【識別番号】522190465
【氏名又は名称】アカデミシュ・ジークンホイス・フローニンゲン
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アレッサンドロ・グリッリーニ
(72)【発明者】
【氏名】アレハンドロ・エルナンデス・ガルシア
(72)【発明者】
【氏名】レムコ・ヤン・レンケン
【テーマコード(参考)】
4C316
【Fターム(参考)】
4C316AA18
4C316AA21
4C316FA02
4C316FA19
4C316FB12
4C316FZ03
(57)【要約】
眼球の視野における視界の質を測定するために、測定期間中に、注視位置と、注視位置を検出したときに追従すべき刺激が表示されていた関連刺激位置との間の偏差および登録された偏差の大きさが決定される。視界の視野マップにおけるそれぞれのフィールド部分について、視界の質は、関連する刺激位置がそのフィールド部分にあるように注視位置に対して位置する登録された偏差に関連するものの視界の質の推定値に応じて決定される。視野マップの各フィールド部分について、関連する刺激位置がそのフィールド部分にあるように視線位置に対して位置する登録された偏差のうち関連するものの視野品質推定値に応じて、視界の質が決定される。登録された偏差のうち関連するものそれぞれについて、その登録された偏差のうち関連するものの大きさと、登録された偏差のうち少なくともその前後にあるものの大きさに応じて、視界の質が推定される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼球の視野における視界の質を測定する方法であって、前記方法は、
眼球に対する視線の方向の刺激位置に、追従すべき刺激を表示することと、
前記眼球の視野の中で、前記追従すべき刺激を様々な方向に移動させ、刺激位置を経時的に登録することと、
前記追従すべき刺激に追従する眼球の視線の方向の注視位置を経時的に検出し、登録することと、
前記注視位置と、前記注視位置が検出されたときに前記追従すべき刺激が表示されていた刺激位置のうち、関連するものとの間の偏差および登録された偏差の大きさを決定し、登録することと、
フィールド部分における視野マップを決定することであって、前記フィールド部分のそれぞれについて、前記関連する刺激位置がそのフィールド部分にあるように、前記注視位置に対して前記関連する刺激位置がある、前記登録された偏差のうち関連するものの視界の質の推定値に応じて視界の質が決定され、かつ、前記登録された偏差のうち前記関連するものそれぞれについて、前記登録された偏差のうち関連するものの大きさと、前記登録された偏差のうち少なくともその前後にあるものの大きさとに応じて視界の質が推定される、視野マップを決定することと、
を測定期間中に含む、方法。
【請求項2】
前記追従すべき刺激が様々な速度で動かされる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
注視位置が閾値を超える速度で移動し、停止し、再び前記閾値を超える速度で移動する間に測定された注視位置が、補間された注視位置で置き換えられる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
注視位置が前記閾値を超える速度で移動し、停止し、再び前記閾値を超える速度で移動する間に測定された注視位置の前後の、予め決められた範囲の時間またはサンプル数における位置が、補間された注視位置に置き換えられる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記追従すべき刺激が、表示されている唯一の移動する刺激である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
再帰型ニューラルネットワーク、特に、表示された追従すべき刺激に追従する健常な眼の注視位置の測定によって得られた注視位置を用いて学習させた再帰型ニューラルネットワークを使用することを含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
視野全体の視覚機能障害の種類の指標が、登録された注視位置と刺激位置から、前記ニューラルネットワークを用いて決定される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
予め決められたフィールド部分において、前記追従すべき刺激の表示を抑制することによって、視力障害がシミュレートされる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
学習中に、および学習済みの前記再帰型ニューラルネットワークの使用中に、前記再帰型ニューラルネットワークに入力されるデータが、以下の、
―注視位置速度と刺激位置速度との間の相関の最大値、
―注視位置と刺激位置との間の時間的オフセット(遅れ)、
―刺激位置に関する注視位置の時間的精度、
―注視位置速度と刺激位置速度との、時間的遅れに対する相関図にフィットされたガウシアンモデルによって説明される分散、
―前記注視位置が前記刺激位置から最もずれている可能性が高いものの発生回数、
―前記注視位置と前記刺激位置との間の空間的オフセット(バイアス)の平均、
―前記刺激位置からの前記注視位置の平均偏差、
―複数の範囲における偏差の発生のグラフにフィットされたガウシアンモデルによって説明された前記刺激位置からの、前記注視位置の偏差の分散、
のカテゴリのデータのうち少なくとも1つを含む、請求項6から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記測定期間中に、前記刺激位置が連続的に動かされる、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
登録された偏差のうち関連するもののそれぞれに対する前記視界の質の決定が、前記登録された偏差の系列にわたって積分することによって行われ、前記系列が、
最小閾値h以下の大きさを有する、登録された偏差の前記系列の始点のものから始まり、
前記登録された偏差のうち前記関連するもののうち、前記関連する偏差の大きさhまで増加する大きさを有する、第1の連続した前記登録された偏差を含み、
前記登録された偏差のうち、前記関連するものを含み、および、
前記登録された偏差のうち前記関連するものの前記大きさhから、前記登録された偏差のうち前記最小閾値の大きさh以下の大きさを有する前記系列の偏差の最後のものまで減少する大きさを有する、第2の連続した前記登録された偏差を含み、および、
前記登録された偏差の前記系列の最初のものと、前記登録された偏差の前記系列の前記最後のものを除いて、前記大きさが前記最小閾値の大きさhより大きい、途切れることなく連続した前記登録された偏差を形成する、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記登録された偏差の前記系列に対する積分の前に、前記登録された偏差の前記系列の大きさのうちhより大きいものが、前記大きさhに応じた上限値まで減少され、前記上限値は、好ましくはhに等しい、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
それぞれのフィールド部分についての前記視界の質の決定が、
前記追従すべき刺激の位置である刺激位置と、前記追従すべき刺激に追従する健常な眼の注視位置とをそれぞれ含む一連の学習タイムポイントおよび、それぞれの学習タイムポイントにおいて、前記注視位置に対する前記刺激位置が、前記追従すべき刺激の表示が抑制されたフィールド部分にあるかどうかの指標を含む学習入力と、
前記学習入力を得るための測定セッション中に、前記追従すべき刺激の表示が抑制されたフィールド部分のマップを含む学習出力と、
を有する再帰型ニューラルモデルを得るために学習させた再帰型ニューラルネットワークを用いて実行される、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記追従すべき刺激の位置である刺激位置と、前記追従すべき刺激に追従する、検査される眼球の注視位置とをそれぞれ含む一連のタイムポイントを入力することと、
前記一連のタイムポイントにおける前記視界の質を、視覚が機能していると分類される視野内の位置における暗点タイムポイントと、視覚が機能不全であると分類される視野内の位置における非暗点タイムポイントとに、前記学習済み再帰型ニューラルネットワークが好ましくは分類することと、
前記注視位置に対する前記刺激位置がそのフィールド部分にあるような偏差を有するタイムポイントを、フィールド部分のそれぞれについて決定することと、
前記フィールド部分のそれぞれについて、そのフィールド部分にあると決定された刺激位置を有するタイムポイントで推定された視覚の質に応じて、集計された視界の質の値を示す視野マップを生成することと、
を動作中に含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記再帰型ニューラルネットワークが、すべての出力ユニットがすべての入力ユニットに接続され、その逆もまた同様である完全接続層と、時間依存性を捉えるための長期短期記憶機能を有し、再帰的方法でシーケンシャル情報を処理する少なくとも1つのゲート付き回帰型ユニットを含む、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
前記測定期間中の輝度および追跡データを取得および入力することと、
前記輝度および追跡データを暗点の種類を示すカテゴリデータに処理する、少なくとも2つの完全接続層と、
前記ゲート付き回帰型ユニットからのタイムポイントと前記カテゴリデータとの組み合わせを、前記回帰型ニューラルネットワークのソフトマックス分類器に入力することと、
前記ソフトマックス分類器が、ある前記タイムポイントにおける前記刺激位置が前記視野内で暗点上である位置にあるかどうかを、それぞれのタイムポイントについて予測することと、
をさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
眼球の視野における視界の質を測定するためのシステムであって、前記システムは、
ディスプレイと、
前記ディスプレイ上の眼球の視線の方向の注視位置を追跡するアイトラッカーと、
前記ディスプレイ上を移動する刺激位置に、追従すべき視覚刺激を表示するように前記ディスプレイを制御するために、前記ディスプレイに接続され、および、前記アイトラッカーから前記注視位置を表すデータを受信するために、前記アイトラッカーに接続された、ビデオディスプレイコントローラを含むデータ処理システムであって、
前記データ処理システムは、
前記ディスプレイに、表示される前記追従すべき刺激を前記刺激位置に表示させることと、
前記アイトラッカーから前記注視位置を表すデータを受信することと、
前記ディスプレイに、ディスプレイ上で前記追従すべき刺激を様々な方向に移動させ、前記刺激位置を経時的に登録することと、
受信した前記注視位置を時系列で登録することと、
前記注視位置と、前記注視位置が検出されたときに前記追従すべき刺激が表示されていた刺激位置のうち、関連するものとの間の偏差と、前記偏差の大きさとを決定し、登録することと、
フィールド部分における視野マップを決定することであって、前記フィールド部分のそれぞれについて、関連する刺激位置がそのフィールド部分にあるように、前記注視位置に対して前記関連する刺激位置がある、前記登録された偏差のうち関連するものの視界の質の推定値に応じて視界の質が決定され、かつ、前記登録された偏差のうち前記関連するものそれぞれについて、前記登録された偏差のうち関連するものの大きさと、前記登録された偏差のうち少なくともその前後にあるものの大きさとに応じて視界の質が推定される、視野マップを決定することと、
を測定期間中に実行するようにプログラムされている、データ処理システム。
【請求項18】
コンピュータ可読形式で格納されたコンピュータプログラム製品であって、コンピュータ上で実行されたときに、コンピュータプログラムが、
刺激位置で追従すべき刺激を表示するためにディスプレイを制御することと、
前記ディスプレイ上の注視位置を表すデータを受信することと、
前記ディスプレイ上で前記追従すべき刺激を様々な方向に移動させ、刺激の位置を経時的に登録するために、前記ディスプレイを制御することと、
受信した前記注視位置を時系列で登録することと、
前記注視位置と、前記注視位置が検出されたときに前記追従すべき刺激が表示されていた刺激位置のうち、関連するものとの間の偏差と、前記偏差の大きさとを決定し、登録することと、
フィールド部分における視野マップを決定することであって、前記フィールド部分のそれぞれについて、関連する刺激位置がそのフィールド部分にあるように、前記注視位置に対して前記関連する刺激位置がある、前記登録された偏差のうち関連するものの視界の質に応じて視界の質が決定され、かつ、前記登録された偏差のうち前記関連するものそれぞれについて、前記登録された偏差のうち関連するものの大きさと、前記登録された偏差のうち少なくともその前後にあるものの大きさとに応じて視界の質が推定されることと、
をコンピュータに実行させる、コンピュータプログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人間の視野マッピングのための方法、システムおよびコンピュータプログラム製品に関係する。視野マッピングは、片眼の光軸の周辺、もしくは両眼の光軸の周辺の人間の視野における視界の質を示すマップを決定できるようにする。獲得された視野における視界の質のマップは、視野の一部分での視野欠損の存在と、もしそれがある場合は、視野欠損によって影響を受ける視野の一部分の視野内の場所を示す。従来、視野マッピングは、片眼の(潜在的な)視野内のいくつかの場所における刺激の提示と、その刺激が視認されるかどうかを登録することを含む。刺激が確実に視認されなかった場所は、視野マップにおいて低い視覚スコアを獲得する。
【背景技術】
【0002】
従来の視野マッピング方法での問題点は、時間がかかること(標準自動視力測定、Standard Automated Perimetry-SAP)か、小さな欠損に敏感でないこと(周波数倍増技術、Frequency Doubling Technique-FDT)および、集中し、試験の間固定された注視位置を維持し、視認した刺激に対してどのように反応するかという指示に従うことができない人に対して、確実に実行することができないことである。
【0003】
米国特許出願公開第2006/0114414号明細書は、現在の視線の方向に関連した異なる位置で刺激を提示することによって、眼球の視界を計測すること、および現在の視線の方向からわずかに外れた方向に提示された刺激に反応するときの衝動性眼球運動の反応時間を計測すること、および刺激が提示された方向における視覚的な感度を、実測応答時間の関数として計算することを開示している。
【0004】
国際公開第2012/141576号は、片眼の視界の中に連続した視覚的刺激を提示することによって、視野欠損を決定し、刺激に反応するときの眼球の動きをキャプチャし、新しい刺激に対する衝動的な反応時間を決定することを開示している。注視点の変化が提示された刺激の場所に対応しているならば、その刺激は視認されていると登録される。サッカード反応時間を評価することによって、正確な視野欠損の決定が可能になる。
【0005】
米国特許出願公開第2012/0022395号明細書は、刺激を提示し、刺激に反応するときの眼球の動きをキャプチャし、衝動的な眼球運動の少なくとも1つのパラメータの値を決定し、決定された値と人工知能モジュールを利用して予め決定されたパラメータの値に基づいて異常性を決定することによって、ヒトまたは動物の被験者の異常な眼球運動の解析を開示している。
【0006】
米国特許第9 730 582号明細書は、眼球運動の反応のふるまいについての評価および、特に視覚の感度および解像度に影響する病気(網膜疾患や緑内障など)の影響下での視覚的処理の悪化についての評価を、追従の開始や追従の精度および速度を含む追従行動の特徴、および追従反応の方向性獲得の異方性の、クローバーリーフ型の特徴を測定することによって開示している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、片眼および両眼での視野における視界の質をマッピングできるようにする、単純で正確な解決方法を提供することである。
【0008】
本発明によると、この目的は請求項1に記載の方法を提供することにより達成される。また、本発明は、請求項14に記載のシステムと、請求項15に記載のコンピュータプログラム製品で具現化されることができる。
【0009】
眼球を測定される人にとっては、追従すべき刺激の移動に追従すれば十分であり、なぜなら、フィールド部分のそれぞれについて、関連する刺激位置がそのフィールド部分にあるように、注視位置に対して関連する刺激位置がある、登録された偏差のうち関連するものの視界の質の推定値に応じて視界の質が決定され、かつ、登録された偏差のうち関連するものそれぞれについて、登録された偏差のうち関連するものの大きさと、登録された偏差のうち少なくともその前後にあるものの大きさとに応じて視界の質が推定されることにより、測定を迅速に行うことができ、視力を決定したい視野の位置に別の刺激を表示する前に、刺激を正確に注視する必要がないためである。本方法は特に、注視する方向の不正確さ、および眼球を測定される人の集中度や反応時間による外乱の影響を受けにくい。
【0010】
眼球は、刺激位置が注視位置から離れるほど、注視位置を刺激の方へ移動させるように強く誘導されることから、ある継続時間内に大きな偏差が発生した場合、同じ継続時間内に小さな偏差が発生した場合よりも、視覚的欠陥の強い徴候となるため、視野内のある場所の視界の質は、刺激が視野のその場所にあるときの偏差の大きさと、その前及び/又は後の偏差に応じて決定される。
【0011】
ある場所の偏差がその一部であるような偏差の集まりの継続時間は、刺激の現在位置に対する注視位置の集中の緩慢さを示すため、その偏差を含み、最小閾値の大きさ以下の大きさの偏差で始まり終了する一連の偏差の継続時間に応じて、視野内のある位置の視界の質がさらに決定される。ある場所への集中が緩慢であることは、視野のその場所に視野欠損があることを示している。
【0012】
様々な偏差や視覚機能障害の種類の有用な指標を獲得するためには、追跡すべき刺激を様々な速度で移動させることが好ましい。速度変動は、様々な大きさの偏差を均等に発生させるために、速度の緩やかな上昇と下降(連続的な加速および減速のカーブ)を含むことが好ましい。また、速度変動には、比較的大きな偏差を発生させるような速度の飛躍が含まれていてもよい。さらに、測定期間中に刺激位置を連続的に移動させると、追従すべき刺激に対する不正確な視線の凝視によるアーティファクトを特に効果的に回避する。
【0013】
瞬きや測定値の欠落による測定結果の乱れを避けるために、注視位置が閾値(例えば、300度/秒を超える)を超える速度で移動し、停止し、その後再び閾値を超える速度で移動する間に測定された注視位置を、補間された注視位置に置き換える。このような乱れを効果的に除去するために、注視位置が閾値を超える速度で移動し、停止し、再び閾値を超える速度で移動する間に測定した注視位置の前後の予め決められた範囲の時間(例えば、1/60~1/15秒)またはサンプル数(例えば、2~10個のサンプル)の位置を、補間した注視位置で置き換える。
【0014】
本発明による測定を特に正確に行うためには、追従すべき移動刺激が1つだけであることが好ましく、より詳細には、移動する刺激が1つだけであるか、または表示される刺激が完全に1つだけであることが好ましい。
【0015】
好ましい実施形態によれば、この方法は、再帰型ニューラルネットワーク、例えば、表示された追従すべき刺激に追従する健常な眼の注視位置の測定によって獲得された注視位置を用いて学習させた再帰型ニューラルネットワークの使用を含む。
【0016】
本実施形態によれば、登録された注視位置と刺激位置から、ニューラルネットワークを用いて、視野全体の視覚機能障害の種類の指標を決定することができる。例えば、予め決められたフィールド部分における追従すべき刺激の表示を抑制することで、視力障害をシミュレートすることができる。
【0017】
診断に役立つ可能性のあるチェックポイントを提供する、眼球運動遅延、眼振、測定過小または測定過大衝動性眼球運動などの視野全体の視覚機能障害の種類を示す指標は、表示された追従すべき刺激に追従する健常な眼の注視位置の測定により得られた注視位置を用いて学習させた再帰的ニューラルネットワークを用いることで、登録された注視位置と刺激位置から特に正確な方法で決定することができ、視力障害は、フィールド部分において追従すべき刺激の表示を抑制することによりシミュレートすることができる。
【0018】
本発明の実施例において、診断に役立つ可能性のあるチェックポイントを提供する視覚機能障害の種類を示す指標は、学習中に、および学習済みの再帰型ニューラルネットワークの使用中に、再帰型ニューラルネットワークに入力されるデータが、以下のカテゴリのデータのうちの少なくとも1つを含む場合に、特に確実に判定されることができる。
―注視位置速度と刺激位置速度との間の相関の最大値。
―注視位置と刺激位置との間の時間的オフセット(遅れ)。
―刺激位置に関する注視位置の時間的精度。
―注視位置速度と刺激位置速度との、時間的遅れに対する相関図にフィットされたガウシアンモデルによって説明される分散。
―注視位置が刺激位置から最もずれている可能性が高いものの発生回数。
―注視位置と刺激位置との間の空間的オフセット(バイアス)の平均。
―刺激位置からの注視位置の平均偏差。
―複数の範囲における偏差の発生のグラフにフィットされたガウシアンモデルによって説明された刺激位置からの、注視位置の偏差の分散。
【0019】
特に正確な実施形態では、登録された偏差のうち関連するもののそれぞれに対する視界の質の決定が、登録された偏差の系列にわたって積分することによって行われ、系列が、
最小閾値h以下の大きさを有する、登録された偏差の系列の始点のものから始まり、
登録された偏差のうち関連するもののうち、関連する偏差の大きさhまで増加する大きさを有する、第1の連続した登録された偏差を含み、
登録された偏差のうち、関連するものを含み、および、
登録された偏差のうち関連するものの大きさhから、登録された偏差のうち最小閾値の大きさh以下の大きさを有する系列の偏差の最後のものまで減少する大きさを有する、第2の連続した登録された偏差を含み、および、
登録された偏差の系列の最初のものと、登録された偏差の系列の最後のものを除いて、大きさが最小閾値の大きさhより大きい、途切れることなく連続した登録された偏差を形成する。
【0020】
積分を計算する一連の偏差の大きさを適切に重み付けするため、登録された偏差の系列に対する積分の前に、登録された偏差の系列の大きさのうちhより大きいものが、好ましくは大きさhに応じた上限値まで減少され、上限値は、好ましくはhに等しくなる。
【0021】
閾値の大きさがhからhで偏差が開始し、偏差が閾値の大きさhに戻り、大きさhで上限を迎えるまでのそれぞれのタイムポイントでの積分は、例えば、閾値なしクラスタ強化(threshold-free cluster enhancement)アルゴリズムを用いた計算などのクラスタ分析により行うことができる。
【0022】
別の実施形態では、それぞれのフィールド部分についての視界の質の、特に正確な決定が、
追従すべき刺激の位置である刺激位置と、追従すべき刺激に追従する健常な眼の注視位置とをそれぞれ含む一連の学習タイムポイントおよび、それぞれの学習タイムポイントにおいて、注視位置に対する刺激位置が、追従すべき刺激の表示が抑制されたフィールド部分にあるかどうかの指標を含む学習入力と、
学習入力を得るための測定セッション中に、追従すべき刺激の表示が抑制されたフィールド部分のマップを含む学習出力と、
を有する再帰型ニューラルモデルを得るために学習させた再帰型ニューラルネットワークを用いて実行される。
【0023】
本実施例による方法は、好ましくは、
追従すべき刺激の位置である刺激位置と、追従すべき刺激に追従する、検査される眼球の注視位置とをそれぞれ含む一連のタイムポイントを入力することと、
一連のタイムポイントにおける視界の質を、視覚が機能していると分類される視野内の位置における暗点タイムポイントと、視覚が機能不全であると分類される視野内の位置における非暗点タイムポイントとに、学習済み再帰型ニューラルネットワークが好ましくは分類することと、
注視位置に対する刺激位置がそのフィールド部分にあるような偏差を有するタイムポイントを、フィールド部分のそれぞれについて決定することと、
フィールド部分のそれぞれについて、そのフィールド部分にあると決定された刺激位置を有するタイムポイントで推定された視覚の質に応じて、集計された視界の質の値を示す視野マップを生成することと、
を動作中に含む。
【0024】
再帰型ニューラルネットワークが、すべての出力ユニットがすべての入力ユニットに接続され、その逆もまた同様である完全接続層と、時間依存性を捉えるための長期短期記憶機能を有し、再帰的方法でシーケンシャル情報を処理する少なくとも1つのゲート付き回帰型ユニットを含む場合、再帰型ニューラルネットワークは、登録された刺激位置および関連する注視位置が生じたそれぞれの偏差の継続時間を特に有効に考慮することができる。
【0025】
特に正確な視野マップを推定するために、本方法は、
測定期間中の刺激の輝度および追跡タイプのデータを取得および入力することと、
輝度および追跡データを、暗点の種類(例:両鼻側半盲、両耳側半盲、盲点、皮質拡延抑制、閃輝暗点)を示すカテゴリデータに処理する、少なくとも2つの完全接続層と、
ゲート付き回帰型ユニットからのタイムポイントとカテゴリデータとの組み合わせを、回帰型ニューラルネットワークのソフトマックス分類器に入力することと、
ソフトマックス分類器が、あるタイムポイントにおける刺激位置が視野内で暗点上である位置にあるかどうかを、それぞれのタイムポイントについて予測することと、
をさらに含むと有利である。
【0026】
本発明のさらなる特徴、効果および詳細は、詳細な説明および図面により明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】テスト中の眼球運動に関するデータを取得するためのステップのフローチャートである。
図2】視覚的追跡刺激が表示されている例の、本発明によるシステムの概略図である。
図3】時間sh(t)にわたる刺激の水平方向の位置を示すグラフである。
図4】時空間特徴を抽出し、それに基づいて視野欠損のカテゴリ分類を行うためのステップのフローチャートである。
図5A】欠損データおよび瞬きに伴う変位を想定したフィルタリングの前後で、観測された視線方向の経時グラフである。
図5B】欠損データおよび瞬きに伴う変位を想定したフィルタリングの前後で、観測された視線方向の経時グラフである。
図6A】登録された視線方向の変化速度の経時グラフである。
図6B】刺激速度と遅延後の眼球速度との間にある相互相関に対する遅延時間のグラフ(相互相関曲線)である。
図7A】登録された刺激と注視位置との、x方向における経時グラフである。
図7B】注視位置と刺激位置との位置ずれの確率密度分布のグラフである。
図8】カテゴリ(視野欠損タイプ)の分類子およびタイムポイント分類子を決定するための、深層再帰型ニューラルネットワークのアーキテクチャのスタジア測量のフローチャートである。
図9】テスト中の眼球運動に関するデータから、片眼の視野マップを決定するためのステップのフローチャートである。
図10A】視野欠損を伴わない視野マップの例である。
図10B】閾値なしクラスタ強化(threshold-free cluster enhancement:TFCE)処理によって、予め決められた位置の刺激表示を抑制することなく、健常な眼のテストから得られた測定データから獲得した視野マップ(すなわち、図10Aで示されたマップが適用される)である。
図10C】再帰型ニューラルネットワーク(recursive neural network:RNN)処理によって、予め決められた位置の刺激表示を抑制することなく、健常な眼のパフォーマンステストから得られた測定データから獲得した視野欠損マップ(すなわち、図10Aで示されたマップが適用される)である。
図10D】健常な眼のパフォーマンスをテストするときに、刺激の表示を抑制した位置によって形成される、(周辺喪失視野欠損パターンタイプの)疑似暗点の位置のマップである。
図10E図10Dに示すような予め決められた位置での刺激表示を抑制した健常な眼のパフォーマンステストから得られた測定データから、TCFE処理により獲得した視野マップである。
図10F図10Dに示すような予め決められた位置での刺激表示を抑制した健常な眼のパフォーマンステストから取得した測定データから、RNN処理により獲得した視野欠損マップである。
図10G】健常な眼のパフォーマンスをテストするときに、刺激の表示を抑制した位置によって形成される、(半側喪失視野欠損パターンタイプの)疑似暗点の位置のマップである。
図10H図10Gに示すような予め決められた位置での刺激表示を抑制した健常な眼のパフォーマンステストから得られた測定データから、TFCE処理により獲得した視野マップである。
図10I図10Gに示すように、予め決められた位置での刺激表示を抑制した健常な眼のパフォーマンステストから取得した測定データから、RNN処理により獲得した視野欠損マップである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、さらに、本発明による方法の例および、本発明による方法の妥当性を確認するためのテストの例を参照して説明される。
【0029】
本発明による方法および本発明による方法の妥当性を確認するためのテストのために、以下のハードウェアを利用することができる。
・ディスプレイスクリーン52(図2を参照)、例えばLCDモニタなど。
・ディスプレイ上の眼球の視線の方向の注視位置を追跡するためのアイトラッカー53、例えばモニタ一体型アイトラッカーのEyelink 1000(SR-Research、オタワ、カナダ)。
・ディスプレイスクリーン52上を移動する刺激位置(この例では刺激のブロブの中心)に視覚的刺激1を表示するためにディスプレイスクリーン52を制御するためにディスプレイスクリーン52に接続され、注視位置を表すデータをアイトラッカーから受信するためにアイトラッカー53に接続されたデータ処理システム54。
データ処理システム54は、以下に記載される例による方法を実行するためにプログラムされている。この例では、アイトラッカー53からのデータは、1000Hzのサンプリングレートで取得され、ディスプレイスクリーン52の240Hzのリフレッシュレートと時間的に一致するようにダウンサンプリングされる。
【0030】
本実施例では、追従すべき視覚的刺激は、均一なグレーの背景2(~140cd/m)(図2を参照)上を移動する輝度のガウシアンブロブ1の形である。その動作は、上下Y方向と、水平X方向の成分を含む。ガウシアンブロブ1は、次のコントラストレベルの範囲内で提示されることができる:最大コントラスト(50%)のときに最大輝度が~385cd/mとなり、一方、最小コントラスト(5%)で提示されるとき、最大輝度が~160cd/mとなる。ガウシアンブロブ1のサイズ(半値全幅)は、視野角0.83度であり、一般的に使用される視野測定装置である、ゴールドマン視野計の刺激におけるサイズIIIに相当する。視界をテストされる人は、テストされる眼の視線で刺激1を追うように指示される。追従すべき刺激1に加えて、他の視覚的刺激も表示することができ、それらは移動および/または静止していてもよい。本実施例では、他の刺激は提示されない。
【0031】
ステップ3(図1)では、以下の制約を持つランダムパスから構成される、刺激軌道が作成される。
・刺激軌跡4は画面の境界内に存在しなければならない。
・刺激軌道は周期的な自己相関を含むことはできない。
本実施例の刺激軌道4は、次の速度ベクトルの生成によって構成される。
【0032】
【数1】
【0033】
各タイムポイントにおいて、水平方向(vx)と垂直方向(vy)の成分の速度の値は、平均を0とし、水平方向(σh)と垂直方向(σv)に別々の標準偏差を持つガウシアン分布によって描かれる。例えば、標準的な画面解像度1920×1080ピクセルの場合、水平方向のスタンド偏差はσh=64.45deg/sとすることができ、垂直方向のスタンド偏差はσv=32.33deg/sとすることができる。好ましくは、これらのσ値は、画面の寸法および/または特定のアプリケーション、例えば、特定の条件下での視野マップの表現を獲得すること(例えば、既知の病気や既知の症状を持つ人から測定を行うこと)に基づいて調整されてもよい。
【0034】
速度ベクトルは、好ましくは10Hz程度であるカットオフ周波数を得られるように、ガウシアンカーネルとのコンボリューションによってローパスフィルタリングすることができる。その後、時間積分を経て、速度が刺激1の位置に変換される。
【0035】
【数2】
【0036】
視力検査対象者にサッカード運動を行わせるために、追従すべき表示刺激が画面の境界の外に出ない範囲で、ランダムな方向への素早い変位を移動の軌跡に含めることができる。これは、例えば一定量の秒数、好ましくは2秒の間隔の後に毎回、あるいはランダムな時間間隔の後に、このような変位を加えることによって達成される。図3において、刺激軌跡の時間経過に伴う位置の水平成分sxのグラフ4’の一例を示す。図1において示されるように、この作成された軌跡4は、ストレージ5に格納される。本実施例では、全てのデータは同一のストレージ5に格納されているが、複数のデータストレージに日付のセットが格納されることもある。
【0037】
データ取得のために視界をテストされる人は、スクリーンの正面に、例えば60cmの視距離で位置する。スクリーンの代わりに、ホログラフィのような他の表示技術を使用することも可能であることに留意されたい。ステップ6(図1)において、刺激1はスクリーン52上に表示され、移動し、x方向の移動はストレージ5から読み出した刺激軌道4に従い、y方向の移動は別の刺激軌道に従い、好ましくはx方向の素早い変位と同時にy方向の素早い変位が行われる。頭の動きは、例えば頭をあご乗せ台に置くことで最小化するか、フィルタリングで除去することが好ましい。各データ取得セッションの前に、アイトラッカー53は、9ポイントキャリブレーションなどの標準的な手順を用いて較正されることが好ましい。アイトラッキングステップ13は、多数の試行を含むことが好ましい。本実施例においては、各試験は20秒間持続し、6回繰り返される。取得結果は、各タイムポイントでの水平および垂直方向の視線座標(ピクセルで表現される)になる。画素値を視野角に変換し、注視位置7の時系列データ
【数3】
を得ることができる(図5A参照)。また、これらのデータは、ストレージ5にも格納される。本実施例において、測定は片眼によって行われる。しかし、例えば特定の作業に対する視覚的適性の指標を得る場合などには、両眼から同時に測定することも可能である。
【0038】
前処理として、ストレージ5から注視位置7の時系列が読み出される。本実施例の前処理のステップ15で、各時系列の最初のタイムピリオド(例えば、最初の250ミリ秒)は、視力検査対象者が落ち着くまでの間のアーティファクトを避けるために破棄される。
【0039】
その他に避けることが望ましいアーティファクトは、瞬きやデータの欠落によるアーティファクトである。瞬き期間は、例えば、注視位置7(
【数4】
の一次導関数の絶対値が予め定められた閾値以上である2つの短い期間と、0である短い期間)のグラフ7の間にスパイク8~12を形成する前後に素早く変位することによって識別することができる。見つかった各瞬き期間の時間窓と、各瞬き期間の両側のサンプル数(例えば5個)は、置き換えられるサンプル値の前の(例えば10個の)サンプルと後の(例えば)10個のサンプルの値を用いた自己回帰モデルを使用して決定されたデータで置き換えられることが好ましい。データが獲得されていない期間は、瞬き期間と同様の方法で拡張して置き換えることができる。ある試験における(瞬きや他の原因による)総データ損失が非常に大きい(例えば、25%を超える)場合は、試験全体がさらなる分析から除外されることが好ましい。
【0040】
このように本実施例では、フィルタリングされたデータ14(図1参照)のグラフ7’(図5B参照)が獲得され、このグラフもストレージ5に格納される。
【0041】
位置誤差の時系列は、
【数5】

【数6】
との間の距離(この例ではユークリッド距離)を、水平成分と垂直成分で別々に計算することで得られる。図7Aは、フィルタリングされた刺激位置グラフ54からの瞬きフィルタリングされた眼球位置グラフ57の水平方向の位置ずれ58のグラフの一例を示している。続いて、全体の位置誤差の時系列について確率密度分布36(図4、ステージ36および図7B)が、例えば-20度から+20度にわたる視野1度のビンを用いてヒストグラムを計算することにより計算される。
【0042】
ステップ17において、フィルタリングされたデータ14の注視位置7’
【数7】
と刺激位置
【数8】
の時系列は、1次時間微分をとることにより、それぞれの速度
【数9】
および
【数10】
に変換される。この結果、速度の時系列が得られる。このような眼球の注視位置のx方向の速度
【数11】
の時系列のグラフ18の一例を図6Aで示す。このような刺激位置の、x方向の速度
【数12】
の関連する時系列をグラフ59として示す。
【0043】
フィルタリングされた刺激位置の速度
【数13】
の時系列と、注視位置の速度
【数14】
の時系列との間の、正規化されたタイムシフト相互相関29(図4のステージ29および図6B)は、水平成分と垂直成分について別々に決定される。タイムシフトは、例えば-1秒から+1秒の範囲で、ステップサイズは1IFI(inter-frame interval:フレーム間インターバル)であってもよい。本実施例では、20秒間のデータ取得ごとに、相互相関のセットを導く。本実施例では、ステップ31で6組の相互相関が平均化される。達成された速度の相互相関図(CCG)29の一例を図6Bで示す。刺激位置の速度
【数15】
と注視位置の速度
【数16】
のフィルタリングされた時系列から、水平成分と垂直成分別々に、ヒストグラム36(図4および図7B)としての位置ずれの密度分布(PDD)が決定され、その一例が図7Bに示されている。ステップ32において、相関図29とヒストグラム36の両方が、それぞれの水平成分と垂直成分について、別々にガウシアンモデルでフィットされ、ガウシアンフィット29’、36’を得ることができる。ステップ33において各ガウシアンフィット29’、36’から、振幅、μ、σ、およびR2というパラメータが抽出される。
【0044】
CCG
・振幅:
【数17】

【数18】
との間の相関の最大値。
・μ:眼球と刺激との間の時間的オフセット(遅れ)。
・σ:トラッキング性能の時間精度(すなわち、観測者がターゲットの位置を推定するためにどれだけの時間が必要か)。
・R2:時間ガウシアンモデルで説明される分散。
【0045】
PDD
・振幅:位置ずれの可能性が最も高いもの。
・μ:眼球と刺激との間の空間的なオフセット(バイアス)。
・σ:トラッキング性能の空間精度。
・R2:空間ガウシアンモデルの分散を説明したもの。
【0046】
1回の測定における刺激位置とそれに関連する注視位置の関係の時空間特徴量として列挙した8個を水平方向と垂直方向に求めるので、合計16個の時空間特徴量が求められ、ストレージ5に格納されることになる。ステップ45(図4)において、これらの時空間的特徴はカテゴリ分類器45に入力され、それによって処理され、全体としての視野の分類35の推定値を決定する。
【0047】
眼球運動が測定された眼の視野の品質マップを決定するために、刺激位置と注視位置との間の位置ずれの時空間積分が利用可能である。眼球運動機能が低下した人、例えば片眼の視野の一部で視力が低下した人の眼の注視位置は、眼球運動機能が健常な人の注視位置が追従すべき目標刺激の位置から外れるのに比べて、より多く、より長い時間、追従すべき目標刺激の位置から外れることになる。時間関数としての位置ずれ46(図9)の大きさh(t)は、次のように定義することができる。
【0048】
【数19】
【0049】
時空間積分47は、閾値フリークラスタ拡張(Threshold-Free Cluster Enhancement:TFCE)アルゴリズムを用いて行われる。このようなアルゴリズムは、Smith, S. M. & Nichols, T. E, 2009, Threshold-free cluster enhancement: addressing problems of smoothing, threshold dependence and localisation in cluster inference,Neuroimage, 44, 83-98で説明されている。このアルゴリズムの本実施例において、刺激位置と注視位置の登録された組み合わせごとに、TFCEスコアは、その下の偏差曲線で形成されるクラスタのすべての「支持部」の大きさの合計で与えられる。始めに大きさhをhから徐々に上げていき、あるタイムポイントtの大きさhまで上げると、時間経過はhで閾値となり、大きさがhに戻るとtを含む連続した一つのクラスタは終了する。偏差曲線の下の表面積は、その大きさhの時空間積分スコアを定義する。このスコアは、大きさh(のH乗)に時間e(のE乗)を掛けたものであり、次の式で表される。
【0050】
【数20】
【0051】
この積分は有限のステップサイズdh(例えば、dh=hの最大値の1/2500とする)を用いた離散和として実装される。hは、典型的にはhの最小値であり、EとHは事前に(シミュレートされた視野効果によって最適化された)設定をすることが可能である。その結果、時空間的に積分された特性:DSTIに対してそれぞれ重み付けされた位置ずれ48の時系列が得られる。このように、各位置ずれに対して、値DSTIは、偏差の大きさと、その偏差の一部である偏差曲線が大きさhに戻るまでの時間によって決まる。また、位置ずれ48に割り当てられる値DSTIも、偏差の始まりから大きさhまで、偏差が大きさhに戻り、大きさhを上限とするまでの各タイムポイントの積分を形成するものとして定義することができる。
【0052】
測定が行われた眼の視野マップ51の視界の質を決定するために、入力時系列DSTIの各発生は、その水平および垂直成分が、それぞれD’x=px(t)-sx(t)およびD’y=py(t)-sy(t)に関連付けられ、これは、視野の中心に対する刺激の位置のxおよびy成分を形成し、各タイムポイントについて視野の中心に関するその位置での視野の品質の推定を含んでいる。
【0053】
ステップ50において、これらの成分は、眼球の視線の中心を原点とする直交座標平面上にマップされる。このように、直交座標平面は視野を表し、その中心は中心窩を表す。
【0054】
ステップ50において、空間ビニングを適用してもよい(例えば、ビンの大きさが視野の1度に相当する場合)。その結果、各ビンの値は、そのビン内のDSTI値の平均値となる。
【0055】
最後に、算出されたマップ51がストレージ5に格納され、例えば50×40のグリッドで、±25度の視野をカバーするように表示可能である。このマップには、視野欠損の重症度が表示されており(例えば、色分けやグレースケールなど)、そのマップは、眼科医が容易に解釈することができるようになっている。
【0056】
図10B図10E、および図10Hに、TFCE法を用いて説明される時空間積分を実験的に実装した結果の視野マップの例を示す。
【0057】
時空間積分法の代わりに、学習済みの再帰型ニューラルネットワークを用いて、測定結果から眼の視野の視界の質マップが推定可能である。再帰型ニューラルネットワークを学習させることで、人工知能分類器34と45(図8)を得ることができる。学習入力xとして、注視位置
【数21】
と刺激位置
【数22】
の時系列、および刺激の輝度や追跡タイプが用いられる。学習出力yとして、テストデータ取得時にシミュレートされた既知の視野欠損マップが用いられ、各タイムポイントで、暗点がシミュレートされた位置に刺激があるかどうかが判断される。疑似暗点の位置は、予め決められた視野の表面部分であり、この視野の予め決められた表面部分において、追従すべき刺激の表示を抑制することにより、暗点がシミュレートされる。追従すべき刺激の表示が抑制される視野の表面部分のパターンは仮想マスクを形成し、追従すべき視覚刺激1がこれらの表面部分の位置にあるときに、追従すべき視覚刺激1の表示を抑制することによって、暗点をシミュレートする視野の表面部分をマスキングする。この仮想マスクは、注視位置の移動に伴い、表示領域に対して相対的に移動する。
【0058】
深層再帰型ニューラルネットワークは、最初に注視位置
【数23】
と刺激位置
【数24】
のx座標とy座標、刺激の輝度、及び追跡タイプ40をそれぞれ含む一連のタイムポイント39を別々に処理する2つのストリーム37、38(図8参照)から構成される。特に、時系列データを処理するタイムポイント分類ストリーム37は、2つの完全接続(FC)層40、すなわち、すべての出力ユニットがすべての入力ユニットに接続され、その逆も同様であり、それぞれ16ノードで構成されている層からなる。FC層40の後、シーケンシャルストリームには、32、64、64個のノードでそれぞれ形成された3つのゲート付き回帰型ユニット(GRU)41、すなわち時間依存性を捉えるための長期短期記憶能力によってシーケンシャル情報を回帰的に処理する層が続く。カテゴリ分類ストリーム38は、輝度情報と追跡情報を処理する、それぞれ2ユニットと4ユニットの2つの完全接続層42から構成される。2つの層41、42の出力は便宜的に連結され、両方とも2つの別々のFC層43、44によって処理される。
【0059】
(GRU層41による)シーケンシャルデータのすべてのタイムポイントは、(FC層42からの輝度レベルと追跡タイプ情報を用いて獲得された)カテゴリデータとマージされ、それぞれ32ノードと2ノードを持つ2つのFC層43で処理される。これらのFC層43の出力は、各タイムポイントにおいて、刺激位置が視野内の位置、すなわち注視位置に対して、暗点の上にあるかどうかを予測するソフトマックス分類器34の入力となる。
【0060】
また、もう一方のストリームは、(GRU層41からの)シーケンシャルデータの最後のタイムポイントを、(FC層42からの)カテゴリデータにマージし、これらのデータをそれぞれ32ノードと4ノードの2つのFC層44によって処理する。これらのFC層44の出力は、視野の状態(カテゴリ分類器45)を予測する別のソフトマックス分類器45の入力となる。
【0061】
モデルのコスト関数を定義するために、クロスエントロピーロス(Cross-entropy loss)が使用される。
【0062】
【数25】
【0063】
ここで、Mはクラス数、yは(シミュレーションされた視野マップから獲得された)基底真理値ラベル、pは予測された確率分布、すなわち各ソフトマックス分類器の出力である。添え字sはポイントワイズ暗点分類器34を指し、添え字dは視野欠損分類器45を指す。視野内における視界の品質マップの最適化を優先するため、αとβには、例えば次の値を設定してもよい:α=0.75、β=0.25。モデルのパラメータθは、例えばRMSpropなどを用いたミニバッチ勾配降下法によって、バッチサイズB=128で15,000回反復して学習させることができる。
【0064】
トレーニングバッチは、当初は240Hzでサンプリングされた、例えば20秒間の試行のセットから、最初にB個の異なるシーケンスを選択することによって形成されることができる。そして、各シーケンスからランダムに4.17秒の1つのサブシーケンス(1000タイムステップ)をサンプリングし、最終的に60Hz(250タイムステップ)にダウンサンプリングすることができる。また、対応するシーケンスの輝度レベルや追跡タイプも学習バッチに追加される。
【0065】
(視野全体の)視野欠損分類35を決定するために、決定木(decision tree:DT)アルゴリズムを、特徴空間の次元の分類および削減のために学習させることができる。DTの各ノードは、特徴空間を部分空間に分割し、最終的に視野欠損の可能性のある一群のうちの1つを導き出す。各分割において、判定は、以下で与えられる判定基準であるジニの多様性指数(Gini’s Diversity Index:GDI)に基づいて行われる。
【0066】
【数26】
【0067】
ここで、f(i)はクラスiのトレーニングセット中のサンプル数のうち、特定のノードに到達するサンプル数の割合である。ノードが一意的なクラスのサンプルのみを含む場合、GDIの値は0となり、ノードがそのクラスに割り当てられ、決定が完了する。分類器の性能は、データセット全体を同じ大きさの10のサブセットにランダムに区分する10倍クロスバリデーション方式を用いて評価される。その後、9つのサブセットで学習セットを構成し、残りのセットをテストセットとして使用する。このプロセスは、すべてのサブセットがテストセットとして1回使用されるまで繰り返される。推定総合精度は、各反復後に測定された精度の平均値である。カテゴリ分類器45を用いたこの分析は、観察者視野欠損のカテゴリ分類35(例:欠損なし、中心欠損、周辺欠損、半側欠損)を導き、それはストレージ5に格納され、診断を下すためにどのような更なるステップが最も必要とされうるかを決定する予備スクリーニングツールとして、眼科医によって使用されることができる。
【0068】
モデル34、45は、y=f(x;θ)のマッピングとみなすことができ、
【数27】
において、pはポイントワイズ暗点予測であり、pはサブシークエンスxの視野欠損予測35である。
【0069】
片眼でのデータ取得は、例えば、各輝度/追跡の組み合わせについて20秒間の試行を6回行い、複数のサブシーケンスの予測出力確率分布を平均化することが可能である。6×2×2=24個のダウンサンプリングシーケンスの予測を平均化することが可能である。眼球運動を測定された眼球sの予測視野欠損35は、次のようになる。
【0070】
【数28】
【0071】
ここで、Mは眼球運動が測定された眼球sの試行セットSの中のサブシーケンスの数である。
【0072】
特に、輝度及び追跡とともに時系列px(t)、sx(t)、py(t)及びsy(t)が与えられると、分類器モデル34(図4)は、各ダウンサンプリングしたサブシーケンスに対する暗点重複pの予測を提供する。そして、連続したサブシーケンス予測が連結され、分類された位置ずれの時系列49、Dlabeledを形成する。
【0073】
視野マッピングステップ50において、偏差Dlabeledのセットは、ラベリングに応じて、2つのサブセットに分割される。ラベルの値が1の場合、特定のデータポイントが暗点によって遮られていると分類され、一方、ラベルの値が0の場合、特定のデータポイントが暗点によって遮られていないと分類される。
【0074】
測定が行われた片眼の視界の質マップ51を決定するために、入力時系列Dlabeledの各発生は、学習させた再帰的ニューラルネットワークを使用して、その水平および垂直成分に対しそれぞれD’x=px(t)-sx(t)およびD’y=py(t)-sy(t)と関連付けられ、これらは各タイムポイントについて、視野の中心に対するその位置での視野の品質の推定値を含む、視野の中心に対する刺激の位置のx-およびy-成分を形成している。
【0075】
ステップ50において、これらの成分は、眼球の視線の中心を原点とする直交座標平面上にマップされる。このように、直交座標平面は視野を表し、その中心は中心窩を表す。
【0076】
ステップ50において、空間ビニングを適用してもよい(例えば、ビンの大きさが視野の1度に相当するように)。その結果、各ビンの値は、そのビン内のDlabeled値の平均値となる。
【0077】
最後に、算出されたマップ51がストレージ5に格納されてもよく、例えば50×40のグリッドで、±25度の視野をカバーするように表示可能である。このマップには、視野欠損の重症度が表示されており(例えば、色分けやグレースケールなど)、そのマップは、眼科医が容易に解釈することができるようになっている。
【0078】
図10C図10Fおよび図10Iに、前述した回帰型ニューラルネットワーク法を実験的に実装した結果の視野マップの例を示す。
【0079】
図10A図10Dおよび図10Gは、追従すべき視覚刺激の表示が抑制された暗点の位置を示すマップ(黒は抑制あり、白は抑制なし、グレーは暗くなるにつれて部分的に抑制が増大することを示す)である。より具体的には、図10Aは視野欠損のない眼をシミュレートするためのマスク無しテストデータマップの例を示し、図10Dは周辺欠損を患っている眼をシミュレートするためのテストデータマスクの例を示し、図10Gは半側欠損を患っている眼をシミュレートするためのテストデータマスクの例を示す。
【0080】
図10B図10E、および図10Hは、それぞれ、健常な眼で、追従すべき刺激をマスクしない場合(図10B)、図10Dのようにマスクした場合(図10E)、図10Gのようにマスクした場合(図10H)に得られる測定結果から、上述のTFCEアルゴリズムによって与えられた値を用いて再構成されたマップを示している。上述のTFCEアルゴリズムによって与えられた値を用いて再構成されたマップは、テストデータによる暗点を(仮想)マスキングによってシミュレートした眼の測定に基づいて、先験的に知られていた暗点の視野マップが再構成される精度を示している。
【0081】
図10C図10F、および図10Iは、それぞれ、健常な眼において、追従すべき刺激をマスクしない場合(図10C)、図10Dのようにマスクした場合(図10F)、図10Gのようにマスクした場合(図10I)に得られる測定結果から、上述のRNNモデルによって与えられた予測を用いて得られるマップを示す。ここから分かるように、これらの両方の眼について、上述のRNNモデルによって与えられた予測を用いて再構成されたマップは、シミュレートされた暗点の位置のマップとほぼ同一である。
【0082】
いくつかの特徴は、同じまたは別々の実施形態の一部として説明される。しかしながら、本発明の範囲には、実施例で具体化された特徴の特定の組み合わせ以外の、これらの特徴の全てまたは一部の組み合わせを有する実施形態も含まれることが理解されるであろう。
【符号の説明】
【0083】
3 軌道の作成
4 刺激軌道
5 ストレージ
6 刺激の表示
7 注視位置
13 アイトラッキング
14 フィルタリングされたデータ
15 前処理データ
17 抽出した速度
19 計算した偏差
29 相互相関
31 平均化
32 ガウシアンフィット
33 特徴
34 タイムポイント分類器
35 分類された視野
36 ヒストグラム
39 注視位置・刺激位置
40 2xFC層・輝度および追跡タイプ
41 3x双方向性GRU層
42 2xFC層
43 2xFC層
44 2xFC層
45 カテゴリ分類器
46 ユークリッド距離
47 時空間積分
48 閾値なしクラスタ強化
49 分類されたデータ
50 視野マッピング
51 視野マップ
52 ディスプレイスクリーン
53 アイトラッカー
54 データ処理システム
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9
図10A
図10B
図10C
図10D
図10E
図10F
図10G
図10H
図10I
【国際調査報告】