(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-20
(54)【発明の名称】BCMA標的化抗体及びキメラ抗原受容体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20230113BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20230113BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20230113BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20230113BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20230113BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20230113BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230113BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20230113BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20230113BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20230113BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20230113BHJP
C12Q 1/00 20060101ALI20230113BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230113BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230113BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20230113BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230113BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20230113BHJP
A61P 7/04 20060101ALI20230113BHJP
A61P 21/04 20060101ALI20230113BHJP
A61P 7/06 20060101ALI20230113BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20230113BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20230113BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20230113BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20230113BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230113BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20230113BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230113BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20230113BHJP
A61K 35/15 20150101ALI20230113BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20230113BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12P21/08
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N5/0783
C12N15/12
C12N15/62 Z
C07K16/28
C12Q1/00
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K39/395 Y
A61P35/00
A61P37/02
A61P29/00 101
A61P19/02
A61P7/04
A61P21/04
A61P7/06
A61P13/12
A61P17/00
A61P27/02
A61K31/7088
A61K48/00
A61K35/76
A61K45/00
A61K47/68
A61K35/15 Z
G01N33/50 K
G01N33/53 D
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022518203
(86)(22)【出願日】2019-09-20
(85)【翻訳文提出日】2022-05-17
(86)【国際出願番号】 CN2019107004
(87)【国際公開番号】W WO2021051390
(87)【国際公開日】2021-03-25
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】518220671
【氏名又は名称】上海吉倍生物技術有限公司
【氏名又は名称原語表記】Shanghai GenBase Biotechnology Co., Ltd.
【住所又は居所原語表記】101-7 Room,No.332,Aidisheng Road,China(Shanghai)Pilot Free Trade Zone Shanghai 201203,China
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】杜 ▲リアン▼
(72)【発明者】
【氏名】牟 男
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼ ▲紅▼▲艷▼
(72)【発明者】
【氏名】金 理娜
(72)【発明者】
【氏名】于 ▲躍▼
(72)【発明者】
【氏名】袁 ▲紀▼▲軍▼
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4B064
4B065
4C076
4C084
4C085
4C086
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CA19
2G045CA25
2G045CA26
2G045CB01
2G045CB02
2G045CB03
2G045CB07
2G045DA36
2G045FA37
2G045FB01
2G045FB03
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2G045FB13
4B063QA19
4B063QQ02
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4B063QR48
4B063QR72
4B063QR77
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4C076AA95
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4C086AA01
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4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA42
4H045DA76
4H045EA28
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
BCMAに特異的に結合する抗体及びその抗原結合性断片、抗原結合性断片を含有するキメラ抗原受容体(CAR)、CARをコードする核酸分子、CARを発現する免疫エフェクター細胞、免疫エフェクター細胞を調製するための方法、B細胞関連疾患(例えば、B細胞悪性腫瘍及び自己免疫疾患)を予防及び/又は治療するためのCAR及び免疫エフェクター細胞の使用、並びにB細胞関連疾患を予防及び/又は治療するための方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
BCMAに特異的に結合することができる抗体又はその抗原結合性断片であって、
(a)(i)配列番号1若しくは3に記載の配列;
(ii)配列番号1若しくは3に記載の配列と比較して1つ若しくはいくつかのアミノ酸の置換、欠失、若しくは付加(例えば、1、2、3、4、又は5個のアミノ酸の置換、欠失、又は付加)を有する配列;又は
(iii)配列番号1若しくは3に記載の配列と比較して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、若しくは100%の配列同一性を有する配列
からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(VH);
及び/又は、
(b)(iv)配列番号2若しくは4に記載の配列;
(v)配列番号2若しくは4に記載の配列と比較して1つ若しくはいくつかのアミノ酸の置換、欠失、若しくは付加(例えば、1、2、3、4、又は5個のアミノ酸の置換、欠失、又は付加)を有する配列;又は
(vi)配列番号2若しくは4に記載の配列と比較して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、若しくは100%の配列同一性を有する配列
からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(VL)
を含み;
好ましくは、(ii)又は(v)に記載の前記置換が、保存的置換である、
抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項2】
(a)(i)配列番号1に記載の配列;
(ii)配列番号1に記載の配列と比較して1つ若しくはいくつかのアミノ酸の置換、欠失、若しくは付加(例えば、1、2、3、4、又は5個のアミノ酸の置換、欠失、又は付加)を有する配列;又は
(iii)配列番号1に記載の配列と比較して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、若しくは100%の配列同一性を有する配列
からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(VH);
及び、
(b)(iv)配列番号2に記載の配列;
(v)配列番号2に記載の配列と比較して1つ若しくはいくつかのアミノ酸の置換、欠失、若しくは付加(例えば、1、2、3、4、又は5個のアミノ酸の置換、欠失、又は付加)を有する配列;又は
(vi)配列番号2に記載の配列と比較して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、若しくは100%の配列同一性を有する配列
からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(VL)
を含み;
好ましくは、(ii)又は(v)に記載の前記置換が、保存的置換であり;
好ましくは、前記抗体又はその抗原結合性断片が、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、前記VHが、配列番号1に記載の配列、又はそれと比較して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、若しくは100%の配列同一性を有する配列を含み、前記VLが、配列番号2に記載の配列、又はそれと比較して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、若しくは100%の配列同一性を有する配列を含む、
請求項1に記載の抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項3】
(a)(i)配列番号3に記載の配列;
(ii)配列番号3に記載の配列と比較して1つ若しくはいくつかのアミノ酸の置換、欠失、若しくは付加(例えば、1、2、3、4、又は5個のアミノ酸の置換、欠失、又は付加)を有する配列;又は
(iii)配列番号3に記載の配列と比較して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、若しくは100%の配列同一性を有する配列
からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(VH);
及び、
(b)(iv)配列番号4に記載の配列;
(v)配列番号4に記載の配列と比較して1つ若しくはいくつかのアミノ酸の置換、欠失、若しくは付加(例えば、1、2、3、4、又は5個のアミノ酸の置換、欠失、又は付加)を有する配列;又は
(vi)配列番号4に記載の配列と比較して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、若しくは100%の配列同一性を有する配列
からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(VL)
を含み;
好ましくは、(ii)又は(v)に記載の前記置換が、保存的置換であり;
好ましくは、前記抗体又はその抗原結合性断片が、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、前記VHが、配列番号3に記載の配列、又はそれと比較して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、若しくは100%の配列同一性を有する配列を含み、前記VLが、配列番号4に記載の配列、又はそれと比較して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、若しくは100%の配列同一性を有する配列を含む、
請求項1に記載の抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項4】
重鎖定常領域(CH)及び軽鎖定常領域(CL)を更に含み;
好ましくは、前記重鎖定常領域が、IgG、IgM、IgE、IgD、又はIgAからなる群から選択され;
好ましくは、前記重鎖定常領域が、IgG重鎖定常領域、例えば、IgGl、IgG2、IgG3、又はIgG4重鎖定常領域であり;
好ましくは、前記軽鎖定常領域が、κ又はλから選択され;
好ましくは、前記軽鎖定常領域が、κ軽鎖定常領域である、
請求項1から3のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項5】
scFv、ジ-scFv、(scFv)
2、Fab、Fab'、(Fab')
2、Fv、ジスルフィド結合Fvからなる群から選択される、請求項1から4のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項6】
細胞外抗原結合性ドメイン、スペーサードメイン、膜貫通ドメイン、及び細胞内シグナル伝達ドメインを含むキメラ抗原受容体(CAR)であって、前記細胞外抗原結合性ドメインが、請求項1から5のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合性断片を含み;
好ましくは、前記抗体又はその抗原結合性断片が、Fab断片、Fab'断片、F(ab)'
2断片、Fv、ジスルフィド安定化Fvタンパク質(「dsFv」)、scFv、ジ-scFv、(scFv)
2からなる群から選択され;
好ましくは、前記抗体又はその抗原結合性断片が、scFv、ジ-scFv、(scFv)
2からなる群から選択される、
キメラ抗原受容体。
【請求項7】
前記細胞外抗原結合性ドメインが、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、前記VHが、配列番号1に記載の配列、又はそれと比較して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、若しくは100%の配列同一性を有する配列を含み、前記VLが、配列番号2に記載の配列、又はそれと比較して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、若しくは100%の配列同一性を有する配列を含み;
好ましくは、前記VH及びVLが、リンカーにより接続され;好ましくは、前記リンカーが、配列番号5に記載の配列を有する、
請求項6に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項8】
前記細胞外抗原結合性ドメインが、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、前記VHが、配列番号3に記載の配列、又はそれと比較して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、若しくは100%の配列同一性を有する配列を含み、前記VLが、配列番号4に記載の配列、又はそれと比較して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、若しくは100%の配列同一性を有する配列を含み;
好ましくは、前記VH及びVLが、リンカーにより接続され;好ましくは、前記リンカーが、配列番号5に記載の配列を有する、
請求項6に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項9】
前記スペーサードメインが、免疫グロブリン(例えば、IgG1又はIgG4)のヒンジドメイン並びに/又はCH2及びCH3領域からなる群から選択され;
好ましくは、前記スペーサードメインが、CD8αのヒンジ領域を含み;
好ましくは、前記スペーサードメインが、配列番号6に記載の配列を含む、
請求項6から8のいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項10】
前記膜貫通ドメインが、T細胞受容体のα、β、又はζ鎖からなる群から選択されるタンパク質、CD8α、CD28、CD3ε、CD3ζ、CD45、CD4、CD5、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD154、DAP10の膜貫通領域であり;
好ましくは、前記膜貫通ドメインが、CD8αの膜貫通領域を含み;
好ましくは、前記膜貫通ドメインが、配列番号7に記載の配列を含む、
請求項6から9のいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項11】
前記細胞内シグナル伝達ドメインが、一次シグナル伝達ドメイン及び必要に応じて共刺激性シグナル伝達ドメインを含み;
好ましくは、前記細胞内シグナル伝達ドメインが、N末端からC末端の順序で共刺激性シグナル伝達ドメイン及び一次シグナル伝達ドメインを含み;
好ましくは、前記細胞内シグナル伝達ドメインが、一次シグナル伝達ドメイン及び少なくとも1つの共刺激性シグナル伝達ドメインを含み;
好ましくは、前記一次シグナル伝達ドメインが、免疫受容体チロシン活性化モチーフ(ITAM)を含み;
好ましくは、前記一次シグナル伝達ドメインが、CD3ζ、FcRγ、FcRβ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD22、CD79a、DAP10、CD79b、又はCD66dからなる群から選択されるタンパク質の細胞内シグナル伝達ドメインを含み;好ましくは、前記一次シグナル伝達ドメインが、CD3ζの細胞内シグナル伝達ドメインを含み;好ましくは、前記一次シグナル伝達ドメインが、配列番号9に記載の配列を含み;
好ましくは、前記共刺激性シグナル伝達ドメインが、CARD11、CD2、CD7、CD27、CD28、CD30、CD134(OX40)、CD137(4-1BB)、CD150(SLAMF1)、CD270(HVEM)、CD278(ICOS)、又はDAP10からなる群から選択されるタンパク質の細胞内シグナル伝達ドメインを含み;好ましくは、前記共刺激性シグナル伝達ドメインが、CD28の細胞内シグナル伝達ドメイン、若しくはCD137(4-1BB)の細胞内シグナル伝達ドメイン、又はこれらの組合せから選択され;好ましくは、前記共刺激性シグナル伝達ドメインが、配列番号8に記載の配列を含む、
請求項6から10のいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項12】
N末端からC末端の順序で細胞外抗原結合性ドメイン、スペーサードメイン、膜貫通ドメイン、細胞内シグナル伝達ドメインを含み;
好ましくは、前記スペーサードメインが、CD8αのヒンジ領域(例えば、配列番号6に記載の配列)を含み;
好ましくは、前記膜貫通ドメインが、CD8αの膜貫通領域(例えば、配列番号7に記載の配列)を含み;
好ましくは、前記細胞内シグナル伝達ドメインが、一次シグナル伝達ドメイン及び共刺激性シグナル伝達ドメインを含み、前記一次シグナル伝達ドメインが、CD3ζの細胞内シグナル伝達ドメイン(例えば、配列番号9に記載の配列)を含み、前記共刺激性シグナル伝達ドメインが、CD137の細胞内シグナル伝達ドメイン(例えば、配列番号8に記載の配列)を含み;
好ましくは、前記キメラ抗原受容体が:(1)配列番号10又は12に記載のアミノ酸配列;(2)配列番号10又は12に記載のアミノ酸配列と比較して少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有する配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する、
請求項6から11のいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項13】
請求項1から5のいずれか一項に記載の抗体若しくはその抗原結合性断片をコードするヌクレオチド配列、又は請求項6から12のいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体をコードするヌクレオチド配列を含む単離された核酸分子であって;
好ましくは、請求項6から12のいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体をコードするヌクレオチド配列を含み、(1)配列番号11又は13に記載のヌクレオチド配列;(2)配列番号11又は13に記載のヌクレオチド配列と比較して少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有する配列からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含む、
単離された核酸分子。
【請求項14】
請求項13に記載の単離された核酸分子を含むベクターであって;
好ましくは、請求項1から5のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合性断片をコードするヌクレオチド配列を含み;
好ましくは、請求項6から12のいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体をコードするヌクレオチド配列を含み;好ましくは、DNAベクター、RNAベクター、プラスミド、トランスポゾンベクター、CRISPR/Cas9ベクター、又はウイルスベクターからなる群から選択され;好ましくは、発現ベクターであり;好ましくは、エピソームベクターであり;好ましくは、ウイルスベクター、例えば、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、又はレトロウイルスベクターである、
ベクター。
【請求項15】
請求項13に記載の単離された核酸分子、又は請求項14に記載のベクターを含む宿主細胞であって;
好ましくは、請求項1から5のいずれか一項に記載の抗体若しくはその抗原結合性断片をコードするヌクレオチド配列、又は前記ヌクレオチド配列を含むベクターを含み;好ましくは、大腸菌、酵母、昆虫細胞、又は哺乳動物細胞を含み;
好ましくは、請求項6から12のいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体をコードするヌクレオチド配列、又は前記ヌクレオチド配列を含むベクターを含み;好ましくは、免疫細胞(例えば、ヒト免疫細胞)を含み;より好ましくは、前記免疫細胞が、Tリンパ球、NK細胞、単球、マクロファージ、又は樹状細胞、及びこれらの任意の組合せから選択される、
宿主細胞。
【請求項16】
請求項1から5のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合性断片を調製するための方法であって、請求項15に記載の宿主細胞を、前記抗体又はその抗原結合性断片の発現を可能にする条件下で培養する工程と、培養された前記宿主細胞の培養物から前記抗体又はその抗原結合性断片を回復する工程とを含み;前記宿主細胞が、請求項1から5のいずれか一項に記載の抗体若しくはその抗原結合性断片をコードするヌクレオチド配列、又は前記ヌクレオチド配列を含むベクターを含む、方法。
【請求項17】
請求項6から12のいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体を発現する免疫エフェクター細胞であって;
好ましくは、請求項6から12のいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体をコードするヌクレオチド配列、又は前記ヌクレオチド配列を含むベクターを含み;
好ましくは、Tリンパ球、NK細胞、単球、マクロファージ、又は樹状細胞、及びこれらの任意の組合せからなる群から選択され;
好ましくは、Tリンパ球及び/又はNK細胞から選択される、
免疫エフェクター細胞。
【請求項18】
請求項17に記載の免疫エフェクター細胞を調製するための方法であって、(1)免疫エフェクター細胞を提供する工程と;(2)請求項13に記載の単離された核酸分子、又は請求項14に記載のベクターを、前記免疫エフェクター細胞に導入する工程とを含み;単離された前記核酸分子又はベクターが、請求項6から12のいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体をコードするヌクレオチド配列を含み;
好ましくは、前記免疫エフェクター細胞が、Tリンパ球、NK細胞、単球、樹状細胞、マクロファージ、及びこれらの任意の組合せからなる群から選択され;好ましくは、前記免疫エフェクター細胞が、Tリンパ球及び/又はNK細胞から選択され;
好ましくは、工程(1)において、前記免疫エフェクター細胞が、事前処理に供され、前記事前処理が、前記免疫エフェクター細胞のソーティング、活性化、及び/又は増殖を含み;好ましくは、前記事前処理が、前記免疫エフェクター細胞を、抗CD3抗体及び抗CD28抗体と接触させることを含み;
好ましくは、工程(2)において、前記核酸分子又はベクターが、ウイルス感染により前記免疫エフェクター細胞に導入され;
好ましくは、工程(2)において、前記核酸分子又はベクターが、非ウイルスベクタートランスフェクション、例えば、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE-デキストラン媒介トランスフェクション、マイクロインジェクション、トランスポゾンベクター系、CRISPR/Cas9ベクター、TALEN法、ZFN法、又はエレクトロポレーション法により前記免疫エフェクター細胞に導入され;
好ましくは、ステップ(2)において得られる免疫エフェクター細胞を増殖させる工程が、工程(2)の後に更に含まれる、
方法。
【請求項19】
請求項13に記載の単離された核酸分子、又は請求項14に記載のベクターを含む試験キットであって;
好ましくは、単離された前記核酸分子又はベクターが、請求項6から12のいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体をコードするヌクレオチド配列を含む、
試験キット。
【請求項20】
BCMAに特異的に結合するキメラ抗原受容体、又は前記キメラ抗原受容体を発現する細胞の製造における、請求項19に記載のキットの使用であって;
好ましくは、前記細胞が、免疫エフェクター細胞、例えば、Tリンパ球及び/又はNK細胞である、
使用。
【請求項21】
請求項1から5のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合性断片と、前記抗体又はその抗原結合性断片に結合した修飾部分とを含むコンジュゲートであって;
好ましくは、前記修飾部分が、検出可能な標識、例えば、酵素、放射性核種、蛍光色素、発光物質(例えば、化学発光物質)、又はビオチンから選択され;
好ましくは、前記修飾部分が、治療剤、例えば、抗腫瘍活性薬又は細胞毒性剤から選択される、
コンジュゲート。
【請求項22】
請求項1から5のいずれか一項に記載の抗体若しくはその抗原結合性断片、又は請求項6から12のいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体、又は請求項13に記載の単離された核酸分子、又は請求項14に記載のベクター、又は請求項15に記載の宿主細胞、又は請求項17に記載の免疫エフェクター細胞、又は請求項21に記載のコンジュゲートと、薬学的に許容される担体及び/又は賦形剤とを含む医薬組成物であって;
好ましくは、追加の薬学的に活性な剤を更に含み;好ましくは、追加の薬学的に活性な前記剤が、抗腫瘍活性を有する薬物、例えば、アルキル化剤、有糸分裂阻害剤、抗腫瘍抗生物質、代謝拮抗薬、トポイソメラーゼ阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、放射性核種剤、放射線増感剤、抗血管新生剤、サイトカイン、腫瘍細胞を特異的に標的化する抗体、又は免疫チェックポイント阻害剤である、
医薬組成物。
【請求項23】
対象(例えば、ヒト)におけるB細胞関連疾患の予防及び/又は治療のための医薬の製造における、請求項1から5のいずれか一項に記載の抗体若しくはその抗原結合性断片、又は請求項6から12のいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体、又は請求項13に記載の単離された核酸分子、又は請求項14に記載のベクター、又は請求項15に記載の宿主細胞、又は請求項17に記載の免疫エフェクター細胞、又は請求項21に記載のコンジュゲート、又は請求項22に記載の医薬の組合せの使用であって;
好ましくは、前記B細胞関連疾患が、B細胞悪性腫瘍、例えば、多発性骨髄腫(MM)又は非ホジキンリンパ腫(NHL)であり;
好ましくは、前記B細胞関連疾患が、自己免疫疾患、例えば、全身性エリテマトーデス、リウマチ性関節炎、特発性血小板減少性紫斑病、若しくは重症筋無力症、又は自己免疫性溶血性貧血であり;
好ましくは、前記B細胞関連疾患が、多発性骨髄腫、非ホジキンリンパ腫、悪性度不明のB細胞増殖、リンパ腫様肉芽腫症、移植後リンパ増殖性疾患、免疫調節性障害、リウマチ性関節炎、重症筋無力症、特発性血小板減少性紫斑病、抗リン脂質抗体症候群、シャーガス病、グレーブス病、ウェゲナー肉芽腫症、結節性多発動脈炎、シェーグレン症候群、尋常性天疱瘡、強皮症、多発性硬化症、抗リン脂質抗体症候群、ANCA関連小型血管炎、グッドパスチャー病、川崎病、自己免疫性溶血性貧血、及び急速進行性糸球体腎炎、重鎖病、原発性若しくは免疫細胞関連性アミロイドーシス、又は良性単クローン性γグロブリン血症からなる群から選択される、
使用。
【請求項24】
対象(例えば、ヒト)においてB細胞関連疾患を予防及び/又は治療するための方法であって、それを必要とする対象に、有効量の請求項1から5のいずれか一項に記載の抗体若しくはその抗原結合性断片、又は請求項17に記載の免疫エフェクター細胞、又は請求項21に記載のコンジュゲート、又は請求項22に記載の医薬の組合せを投与する工程を含み、
好ましくは、B細胞関連状態が、B細胞悪性腫瘍、例えば、多発性骨髄腫(MM)又は非ホジキンリンパ腫(NHL)であり;
好ましくは、前記B細胞関連疾患が、自己免疫疾患、例えば、全身性エリテマトーデス、リウマチ性関節炎、特発性血小板減少性紫斑病、若しくは重症筋無力症、又は自己免疫性溶血性貧血であり;
好ましくは、前記B細胞関連疾患が、多発性骨髄腫、非ホジキンリンパ腫、悪性度不明のB細胞増殖、リンパ腫様肉芽腫症、移植後リンパ増殖性疾患、免疫調節性障害、リウマチ性関節炎、重症筋無力症、特発性血小板減少性紫斑病、抗リン脂質抗体症候群、シャーガス病、グレーブス病、ウェゲナー肉芽腫症、結節性多発動脈炎、シェーグレン症候群、尋常性天疱瘡、強皮症、多発性硬化症、抗リン脂質抗体症候群、ANCA関連小型血管炎、グッドパスチャー病、川崎病、自己免疫性溶血性貧血、及び急速進行性糸球体腎炎、重鎖病、原発性若しくは免疫細胞関連性アミロイドーシス、又は良性単クローン性γグロブリン血症からなる群から選択される、
方法。
【請求項25】
対象(例えば、ヒト)においてB細胞関連疾患を予防及び/又は治療するための方法であって、
(1)免疫エフェクター細胞を提供する工程と;
(2)請求項6から12のいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体をコードするヌクレオチド配列を含む、単離された核酸分子又はベクターを、工程(1)に記載の免疫エフェクター細胞に導入して、前記キメラ抗原受容体を発現する免疫エフェクター細胞を得る工程と;
(3)工程(2)において得られた免疫エフェクター細胞を、治療のために前記対象に投与する工程と
を含み、
好ましくは、前記免疫エフェクター細胞が、Tリンパ球、NK細胞、単球、マクロファージ、樹状細胞、又はこれらの細胞の任意の組合せからなる群から選択され;
好ましくは、前記方法が、工程(1)の前に、前記対象から前記免疫エフェクター細胞を得る工程を更に含む、
方法。
【請求項26】
対象(例えば、ヒト)が、BCMA発現腫瘍に罹患しているかどうかを診断するための方法であって、請求項1から5のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合性断片を使用することにより、前記対象からの試料中のBCMAの量を検出する工程を含み;
好ましくは、前記対象からの前記試料中のBCMAの前記量を、基準値と比較する工程を更に含み;
好ましくは、前記対象からの前記試料中のBCMAの前記量が:
(1)前記対象からの前記試料を、請求項1から5のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合性断片と接触させる工程;
(2)前記抗体又はその抗原結合性断片とBCMAとにより形成された複合体の量を検出する工程
により検出され;
好ましくは、前記抗体又はその抗原結合性断片が、工程(1)において、検出可能な標識を更に保有し;
好ましくは、前記試料が、尿、血液、血清、血漿、唾液、腹水、循環細胞、循環腫瘍細胞、非組織関連細胞、組織(例えば、外科的に切除された腫瘍組織、生検、又は穿刺吸引組織)、組織学的調製物からなる群から選択され;
好ましくは、前記BCMA発現腫瘍が、B細胞悪性腫瘍、例えば、多発性骨髄腫(MM)又は非ホジキンリンパ腫(NHL)から選択され;
好ましくは、前記方法が、BCMA標的化免疫療法を、BCMA発現腫瘍と診断された対象に投与する工程を更に含み;好ましくは、前記BCMA標的化免疫療法が、請求項24又は25に記載の方法である、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疾患治療及び免疫学の分野に関する;特に、本発明は、BCMAに特異的に結合する抗体又はその抗原結合性断片、及びそれを含むキメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor:CAR)に関する。また、本発明は、CARをコードする核酸分子、CARを発現する免疫エフェクター細胞、及び免疫エフェクター細胞を調製するための方法に関する。また、本発明は、B細胞関連疾患(例えば、B細胞悪性腫瘍、自己免疫疾患)を予防及び/又は治療するためのCAR及び免疫エフェクター細胞の使用、並びにB細胞関連疾患を予防及び/又は治療するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
B細胞は、抗体の産生;体液性免疫応答の媒介;可溶性抗原の提示;多数のサイトカインの産生;免疫調節、炎症応答、及び造血への参加において重要な役割を果たす、骨髄の多能性幹細胞に由来するリンパ球の一種である[1]。一部の主な疾患は、B細胞に関与する。B細胞の悪性転換は、ホジキンリンパ腫及び多発性骨髄腫のような一部のリンパ腫を含むがんをもたらす。異常なB細胞生理機能は、全身性エリテマトーデスを含む自己免疫疾患の発症に寄与し得る。B細胞に関与する疾患の上記カテゴリーの両方は、過成長及び/又は身体の部分を不適切に攻撃するB細胞の結果と考えることができ、可能な制御策は、病的B細胞を標的化する抗体若しくはその抗原結合性断片、又はこれらの抗体若しくはその抗原結合性断片に基づく他の医薬形態の使用である。
【0003】
B細胞成熟抗原(B-cell maturation antigen:BCMA)は、TNFRSF17又はCD269としても公知であり、184個のアミノ酸からなり、シグナルペプチドを欠くI型膜貫通タンパク質に属する。BCMAは、腫瘍壊死因子受容体(tumor necrosis factor receptor:TNFR)ファミリーのメンバーであり、TNFファミリーリガンドであるBAFF(B細胞活性化因子)及びAPRIL(増殖誘導性リガンド)に結合する[2]。様々なB細胞系の分析は、BCMAが成熟B細胞及び血漿細胞の表面上に発現することを示し[3]、正常ヒト組織における遺伝子レベル/タンパク質レベルについての研究は、BCMAが成熟B細胞及び血漿細胞を除く他の正常ヒト組織においては発現せず、CD34+造血細胞において発現しないことを示す[4]。BCMAノックアウトマウスは、正常なリンパ系器官及び免疫系を有し[5]、Bリンパ球の正常な発達を有するが、血漿細胞の数が有意に低減しており、このことは、BCMAが血漿細胞の生存を維持することにおいて重要な役割を果たすことを証明し、機構は主に、BCMAのBAFFタンパク質への結合、NF-κB経路を活性化するシグナルの伝達、並びに細胞増殖を維持するための抗アポトーシス遺伝子Bcl-2、Mcl-1及びBclw等のアップレギュレーションを含む[6]。研究により、BCMAは、B細胞悪性腫瘍、例えば、多発性骨髄腫(multiple myeloma:MM)及び非ホジキンリンパ腫(non-Hodgkin's lymphoma:NHL)において遍在性に発現し、腫瘍細胞の悪性増殖を促進することにおいて重要な役割を果たすことが示されている[7]。要するに、BCMAは、多発性骨髄腫及び非ホジキンリンパ腫の治療のためのB細胞悪性腫瘍の標的のうちの1つとして使用することができる。
【0004】
BCMA標的化療法の効果は、最初に多発性骨髄腫の進行において実証される。多発性骨髄腫は、骨髄内での悪性血漿細胞のクローン増殖により特徴付けられる悪性血漿細胞疾患であり、悪性血漿細胞は、単クローン性免疫グロブリン又はその断片(Mタンパク質)を分泌し、骨、腎臓、及び他の関連する標的器官又は組織の損傷をもたらし、これは、骨痛、貧血、腎不全、感染等として顕在化する[8]。最近、多発性骨髄腫は、血液系において第2番目に一般的な悪性腫瘍であり、血液系の悪性腫瘍の13%を占め、年齢と共にその発生率は増加し、近年では若年者において発生する傾向を有する[9]。最近、研究者らは、キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T細胞)、二重特異性抗体、及び抗体薬物コンジュゲート(antibody drug conjugates:ADC)である、BCMAを標的化する3種の主要な型の免疫療法を開発することに活発に取り組んでおり、前臨床及び臨床研究の結果は、BCMAを標的化するこれらのクラスの療法の安全性及び有効性を実証している。
【0005】
これらのBCMA標的化薬物の最新のものは、Blue Bird社のbb2121である。bb2121の医薬形態において使用される細胞外ドメインは、ヒトBCMAに結合するマウス抗体の抗原結合性断片(CN201580073309.6)を含み、これは、Biogen Idec社により開発されたクローン番号C11D5.3の抗BCMA抗体(CN201510142069.2)に由来する。C11D5.3は、BCMA-CAR T細胞療法において広く使用されている。bb2121に加えて、bb21217、NCI社のBCMA-CAR T、及びHengrun Dasheng Biotechnology Co., Ltd社のBCMA-CAR T(CN201610932365.7)のすべては、このクローンの抗原結合性断片を通してBCMA標的への結合を達成し、これらのすべては、このクローンのマウス由来形態を使用している。
【0006】
ヒト化抗体は、ヒトの身体への、異種抗体により引き起こされる免疫副作用を大いに低減することができる。マウス抗体のヒト化のための古典的方法は、CDRグラフト化である。抗体可変領域のCDRは、抗体が抗原を認識及び結合する領域であり、これは、抗体の特異性を直接的に決定する。マウスモノクローナル抗体のCDRを、ヒト抗体の可変領域へグラフト化してヒト抗体のCDRを置換することにより、ヒト抗体は、マウスモノクローナル抗体の抗原結合特異性を得ることができ、一方で、その異種性は低減される。しかしながら、抗原は、抗体のCDRに主に接触するが、FR領域もまた多くの場合、作用に参加し、CDRの空間配置に影響を及ぼす。それゆえ、ヒトFR領域による置換後、マウスCDR及びヒトFRが埋め込まれたV領域は、単一抗原のCDR配置を変化させることがあり、抗原に結合する能力は減少するか、又は更には有意に減少する;加えて、これは、明白に不要な活性をもたらすことがある。例えば、Blue Bird社の特許出願(CN201580050638.9)において、ヒト化C11D5.3を抗原結合部分として構築したCAR Tは、有意な抗原非依存性サイトカイン放出を引き起こし得ることが見出され、このヒト化CARの導入は、T細胞の連続的活性化及び消耗を誘導し得ることが観察された。CARのBCMA結合部分以外の部分の構造的改変は、上記問題を解決せず、そのため、このヒト化抗C11D5.3に基づく抗BCMA CARはT細胞療法に不適当なものとなった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】CN201580073309.6
【特許文献2】CN201510142069.2
【特許文献3】CN201610932365.7
【特許文献4】CN201580050638.9
【特許文献5】米国特許第3,817,837号
【特許文献6】米国特許第3,850,752号
【特許文献7】米国特許第3,939,350号
【特許文献8】米国特許第3,996,345号
【特許文献9】米国特許第4,277,437号
【特許文献10】米国特許第4,275,149号
【特許文献11】米国特許第4,366,241号
【特許文献12】PCT特許公開WO2012/079000号
【特許文献13】PCT特許公開WO2013/126726号
【特許文献14】米国特許出願公開第2012/0213783号
【特許文献15】PCT特許公開WO2013/059593
【特許文献16】WO2006/0101834
【特許文献17】米国特許第5,225,539号
【特許文献18】米国特許第5,530,101号
【特許文献19】米国特許第5,585,089号
【特許文献20】米国特許第5,693,762号
【特許文献21】米国特許第6,180,370号
【非特許文献】
【0008】
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【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の内容
本発明の発明者らは、BCMAを特異的に認識するマウス抗体C11D5.3について徹底的な研究及び修飾を行い、マウス抗体と比較してBCMA発現腫瘍細胞に結合する同等の活性を維持し、且つ正常組織細胞への非特異的結合の有意な低減を示す、マウス抗体のヒト化抗体を開発した。これを基にして、本発明者らは、BCMAに特異的に結合し得るキメラ抗原受容体(CAR)を更に構築し、得るための多くの創造的作業を行った。本発明のCARは、抗原非依存性サイトカイン放出を引き起こすことなく、且つT細胞の活性化の維持及び消耗を誘導することなく、免疫エフェクター細胞の特異性及び反応性を、MHC非拘束性様式においてBCMA発現細胞に方向付け、それを除去することができる。それゆえ、本発明のヒト化抗体及びCARは、B細胞関連疾患(例えば、B細胞悪性腫瘍、自己免疫疾患等)を予防及び/又は治療するための潜在性を有し、したがって、大きな臨床的価値を有する。
【0010】
本発明の抗体
したがって、第1の態様において、本発明は、BCMAに特異的に結合することができる抗体又はその抗原結合性断片であって、
(a)(i)配列番号1若しくは3に記載の配列;
(ii)配列番号1若しくは3に記載の配列と比較して1つ若しくはいくつかのアミノ酸の置換、欠失、若しくは付加(例えば、1、2、3、4、又は5個のアミノ酸の置換、欠失、又は付加)を有する配列;又は
(iii)配列番号1若しくは3に記載の配列と比較して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、若しくは100%の配列同一性を有する配列
からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(VH);
及び/又は、
(b)(iv)配列番号2若しくは4に記載の配列;
(v)配列番号2若しくは4に記載の配列と比較して1つ若しくはいくつかのアミノ酸の置換、欠失、若しくは付加(例えば、1、2、3、4、又は5個のアミノ酸の置換、欠失、又は付加)を有する配列;又は
(vi)配列番号2若しくは4に記載の配列と比較して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、若しくは100%の配列同一性を有する配列
からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(VL)
を含む抗体又はその抗原結合性断片を提供する。
【0011】
ある特定の実施形態において、(ii)又は(v)に記載の置換は、保存的置換である。
【0012】
ある特定の実施形態において、抗体又はその抗原結合性断片は:
(a)(i)配列番号1に記載の配列;
(ii)配列番号1に記載の配列と比較して1つ若しくはいくつかのアミノ酸の置換、欠失、若しくは付加(例えば、1、2、3、4、又は5個のアミノ酸の置換、欠失、又は付加)を有する配列;又は
(iii)配列番号1に記載の配列と比較して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、若しくは100%の配列同一性を有する配列
からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(VH);
及び/又は、
(b)(iv)配列番号2に記載の配列;
(v)配列番号2に記載の配列と比較して1つ若しくはいくつかのアミノ酸の置換、欠失、若しくは付加(例えば、1、2、3、4、又は5個のアミノ酸の置換、欠失、又は付加)を有する配列;又は
(vi)配列番号2に記載の配列と比較して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、若しくは100%の配列同一性を有する配列
からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(VL)
を含む。
【0013】
ある特定の実施形態において、(ii)又は(v)に記載の置換は、保存的置換である。
【0014】
ある特定の実施形態において、抗体又はその抗原結合性断片は、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、VHは、配列番号1に記載の配列、又はそれと比較して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、若しくは100%の配列同一性を有する配列を含み、VLは、配列番号2に記載の配列、又はそれと比較して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、若しくは100%の配列同一性を有する配列を含む。
【0015】
ある特定の実施形態において、抗体又はその抗原結合性断片は:
(a)(i)配列番号3に記載の配列;
(ii)配列番号3に記載の配列と比較して1つ若しくはいくつかのアミノ酸の置換、欠失、若しくは付加(例えば、1、2、3、4、又は5個のアミノ酸の置換、欠失、又は付加)を有する配列;又は
(iii)配列番号3に記載の配列と比較して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、若しくは100%の配列同一性を有する配列
からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(VH);
及び/又は、
(b)(iv)配列番号4に記載の配列;
(v)配列番号4に記載の配列と比較して1つ若しくはいくつかのアミノ酸の置換、欠失、若しくは付加(例えば、1、2、3、4、又は5個のアミノ酸の置換、欠失、又は付加)を有する配列;又は
(vi)配列番号4に記載の配列と比較して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、若しくは100%の配列同一性を有する配列
からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(VL)
を含む。
【0016】
ある特定の実施形態において、(ii)又は(v)に記載の置換は、保存的置換である。
【0017】
ある特定の実施形態において、抗体又はその抗原結合性断片は、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、VHは、配列番号3に記載の配列、又はそれと比較して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、若しくは100%の配列同一性を有する配列を含み、VLは、配列番号4に記載の配列、又はそれと比較して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、若しくは100%の配列同一性を有する配列を含む。
【0018】
ある特定の実施形態において、抗体又はその抗原結合性断片は、以下の生物学的機能:
(a)単離されたヒトBCMAタンパク質に、マウス抗体C11D5.3の親和性以上の親和性で結合することであって;「単離された」という表現が、タンパク質が、細胞内又は細胞表面上に含有されていないことを意味し;親和性が、例えば、ka(抗体/抗原複合体からの抗体の会合速度定数)、kD(解離定数)、及び/又はKD(kD/ka)の項により決定することができる、結合すること;
(b)単離されたヒトBCMAタンパク質に、0.05μg/ml又はそれ未満(例えば、0.04μg/ml、0.03μg/ml、0.02μg/ml又はそれ未満)のEC50で結合することであって;例えば、EC50が、ELISA技法により決定される、結合すること;
(c)ヒトBCMA発現細胞に、マウス抗体C11D5.3の親和性以上の親和性で結合することであって;親和性が、例えば、ka(抗体/抗原複合体からの抗体の会合速度定数)、kD(解離定数)、及び/又はKD(kD/ka)の項により決定することができる、結合すること;
(d)ヒトBCMA発現細胞に、8μg/ml又はそれ未満(例えば、5μg/ml、4μg/ml、3μg/ml、2μg/ml、1μg/ml又はそれ未満)のEC50で結合することであって;例えば、EC50が、フローサイトメトリーにより測定される、結合すること;
(e)正常組織(例えば、非腫瘍組織)細胞に、マウス抗体C11D5.3の親和性未満の親和性で結合すること;
(f)抗体又はその抗原結合性断片を含むCARを発現するT細胞が、抗原非依存性サイトカイン放出を実質的に引き起こさないこと
のうちの1つ又は複数を有する。
【0019】
ある特定の実施形態において、本発明の抗体又はその抗原結合性断片は、哺乳動物(例えば、マウス又はヒト)免疫グロブリンに由来する定常領域配列又はそのバリアントを更に含んでもよく、バリアントは、それが由来する配列と比較して、1つ又は複数のアミノ酸の置換、欠失、又は付加を有する。ある特定の実施形態において、バリアントは、それが由来する配列と比較して、1つ又は複数のアミノ酸の保存的置換を有する。
【0020】
ある特定の実施形態において、本発明の抗体又はその抗原結合性断片は、ヒト免疫グロブリンの重鎖定常領域(CH)又はそのバリアントを含む重鎖を有し、バリアントは、それが由来する配列と比較して、1つ又は複数のアミノ酸の置換、欠失、又は付加(例えば、最高で20個、最高で15個、最高で10個、又は最高で5個のアミノ酸の置換、欠失、又は付加;例えば、1、2、3、4、又は5個のアミノ酸の置換、欠失、又は付加)を有する;且つ/又は。
【0021】
本発明の抗体又はその抗原結合性断片は、ヒト免疫グロブリンの軽鎖定常領域(CL)又はそのバリアントを含む軽鎖を有し、バリアントは、それが由来する配列と比較して、最高で20個のアミノ酸の置換、欠失、又は付加(例えば、最高で15個、最高で10個、又は最高で5個のアミノ酸の置換、欠失、又は付加;例えば、1、2、3、4、又は5個のアミノ酸の置換、欠失、又は付加)を有する。
【0022】
ある特定の実施形態において、重鎖定常領域は、IgG、IgM、IgE、IgD、又はIgAから選択される。
【0023】
ある特定の実施形態において、重鎖定常領域は、IgG重鎖定常領域、例えば、IgGl、IgG2、IgG3、又はIgG4重鎖定常領域である。ある特定の実施形態において、重鎖定常領域は、マウスIgGl、IgG2、IgG3、又はIgG4重鎖定常領域である。ある特定の実施形態において、重鎖定常領域は、ヒトIgGl、IgG2、IgG3、又はIgG4重鎖定常領域である。ある特定の実施形態において、重鎖定常領域は、好ましくは、ヒトIgGl又はIgG4重鎖定常領域である。
【0024】
ある特定の実施形態において、軽鎖定常領域は、κ又はλから選択される。
【0025】
ある特定の実施形態において、軽鎖定常領域は、κ軽鎖定常領域である。ある特定の実施形態において、軽鎖定常領域は、マウスκ軽鎖定常領域である。ある特定の実施形態において、軽鎖定常領域は、ヒトκ軽鎖定常領域である。
【0026】
ある特定の実施形態において、本発明の抗体は、ヒト化抗体である。ある特定の実施形態において、本発明の抗原結合性断片は、Fab、Fab'、(Fab')2、Fv、ジスルフィド結合Fv、scFv、ジ-scFv、(scFv)2からなる群から選択される。
【0027】
本発明において、本発明の抗体又はその抗原結合性断片は、バリアントを含んでもよく、バリアントは、1つ若しくは複数のアミノ酸残基の保存的置換(例えば、最高で20個、最高で15個、最高で10個、又は最高で5個のアミノ酸の保存的置換)においてのみ、それが由来する抗体若しくは抗原結合性断片とは異なるか、又はそれが由来する抗体若しくはその抗原結合性断片と比較して少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、若しくは100%の配列同一性を有し、それが由来する抗体又はその抗原結合性断片の上記に挙げられる生物学的機能を実質的に保持する。
【0028】
抗体の調製
本発明の抗体は、当該技術分野で公知の様々な方法により、例えば、遺伝子操作組換え技法により調製することができる。例えば、本発明の抗体の重鎖及び軽鎖をコードするDNA分子は、化学合成又はPCR増幅により得られる。得られるDNA分子を、発現ベクターに挿入し、その後、宿主細胞にトランスフェクトする。その後、トランスフェクトした宿主細胞を特定の条件下で培養して、本発明の抗体を発現させる。
【0029】
本発明の抗原結合性断片は、インタクトな抗体分子の加水分解により得ることができる(Morimotoら、J. Biochem. Biophys. Methods 24:107~117 (1992);及びBrennanら、Science 229:81 (1985)を参照)。或いは、また、これらの抗原結合性断片は、組換え宿主細胞により直接的に産生してもよい(Hudson、Curr. Opin. Immunol. 11:548~557 (1999);Littleら、Immunol. Today, 21:364~370 (2000)において概説される)。例えば、Fab'断片は、宿主細胞から直接的に得ることができる;Fab'断片を化学的にカップリングさせて、F(ab')2断片を形成してもよい(Carterら、Bio/Technology, 10:163~167 (1992))。加えて、また、Fv、Fab、又はF(ab')2断片は、組換え宿主細胞の培養培地から直接的に単離してもよい。これらの抗原結合性断片を調製するための他の技法は、当業者に周知である。
【0030】
したがって、第2の態様において、本発明は、本発明の抗体若しくはその抗原結合性断片、又はその重鎖可変領域及び/若しくは軽鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列を含む単離された核酸分子を提供する。ある特定の好ましい実施形態において、単離された核酸分子は、本発明の抗体若しくはその抗原結合性断片、又はその重鎖可変領域及び/若しくは軽鎖可変領域をコードする。
【0031】
第3の態様において、本発明は、本発明の単離された核酸分子を含むベクター(例えば、クローニングベクター又は発現ベクター)を提供する。ある特定の好ましい実施形態において、本発明のベクターは、例えば、プラスミド、コスミド、ファージ等である。ある特定の好ましい実施形態において、ベクターは、対象(例えば、哺乳動物、例えば、ヒト)において本発明の抗体又はその抗原結合性断片を発現することができる。
【0032】
第4の態様において、本発明は、本発明の単離された核酸分子、又は本発明のベクターを含む宿主細胞を提供する。宿主細胞は、原核細胞、例えば、大腸菌(E. coli)細胞、並びに真核細胞、例えば、酵母細胞、昆虫細胞、植物細胞、及び動物細胞(例えば、哺乳動物細胞、例えば、マウス細胞、ヒト細胞等)を含むが、これらに限定されない。ある特定の好ましい実施形態において、本発明の宿主細胞は、哺乳動物細胞、例えば、CHO(例えば、CHO-K1、CHO-S、CHO DG44)である。
【0033】
別の態様において、また、本発明の抗体又はその抗原結合性断片を調製するための方法であって、第4の態様の宿主細胞を、抗体又はその抗原結合性断片の発現を可能にする条件下で培養する工程と、培養された宿主細胞の培養物から抗体又はその抗原結合性断片を回復する工程とを含む方法が提供される。
【0034】
コンジュゲート
本発明の抗体又はその抗原結合性断片は、誘導体化、例えば、別の分子(例えば、別のポリペプチド又はタンパク質)に連結してもよい。一般的に、抗体又はその抗原結合性断片の誘導体化(例えば、標識化)は、その、BCMA、特にヒトBCMAへの結合に悪い影響を及ぼさない。したがって、また、本発明の抗体又はその抗原結合性断片は、そのような誘導体化形態を含むことが意図される。例えば、本発明の抗体又はその抗原結合性断片は、1つ又は複数の他の分子部分、例えば、別の抗体(例えば、二重特異性抗体を形成するために)、検出試薬、薬学的試薬、及び/又は抗体若しくはその抗原結合性断片の別の分子への結合を媒介することができるタンパク質若しくはポリペプチド(例えば、アビジン又はポリヒスチジンタグ)に機能的に連結してもよい(化学カップリング、遺伝子融合、非共有結合、又は別の方法により)。
【0035】
したがって、第5の態様において、本発明は、本発明の抗体又はその抗原結合性断片、及び抗体又はその抗原結合性断片に連結された修飾部分を含むコンジュゲートを提供する。
【0036】
ある特定の実施形態において、修飾部分は、検出可能な標識、例えば、酵素、放射性核種、蛍光色素、発光物質(例えば、化学発光物質)、又はビオチンである。ある特定の実施形態において、コンジュゲートは、本発明の抗体又はその抗原結合性断片、及び抗体又はその抗原結合性断片に結合された検出可能な標識を含む。本発明の検出可能な標識は、蛍光性、分光学的、光化学的、生化学的、免疫学的、電気的、光学的、又は化学的手段により検出可能な任意の物質であり得る。そのような標識は、当該技術分野において周知であり、その例は、酵素(例えば、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、ウレアーゼ、グルコースオキシダーゼ等)、放射性核種(例えば、3H、125I、35S、14C、又は32P)、蛍光色素(例えば、フルオレセインイソチオシアネート(fluorescein isothiocyanate:FITC)、フルオレセイン、テトラメチルローダミンイソチオシアネート(tetramethylrhodamine isothiocyanate:TRITC)、フィコエリスリン(phycoerythrin:PE)、テキサスレッド、ローダミン、量子ドット、又はシアニン誘導体(例えば、Cy7、Alexa 750))、発光物質(例えば、化学発光物質、例えば、アクリジンエステル)、磁気ビーズ(例えば、Dynabeads(登録商標))、熱量測定標識、例えば、金コロイド又は色ガラス若しくはプラスチックビーズ(例えば、ポリスチレン、ポリプロピレン、ラテックス等)、及び上記標識により修飾されたアビジン(例えば、ストレプトアビジン)に結合するビオチンを含むが、これらに限定されない。これらのマーカーの使用を教示する特許は、米国特許第3,817,837号;同第3,850,752号;同第3,939,350号;同第3,996,345号;同第4,277,437号;同第4,275,149号;及び同第4,366,241号(すべて参照により本明細書に組み込まれる)を含むが、これらに限定されない。上記に説明される検出可能な標識は、当該技術分野で公知の方法により検出することができる。例えば、放射性標識は、写真フィルム又はシンチレーション計算器を使用して検出することができ、蛍光標識は、放射光を検出するための受光器を使用して検出することができる。酵素標識は、一般的に、基質を酵素に提供し、酵素の、基質に対する作用により産生された反応生成物を検出することにより検出され、熱量測定標識は、単に着色標識を可視化することにより検出される。ある特定の実施形態において、そのような標識は、免疫学的検出(例えば、酵素結合イムノアッセイ、ラジオイムノアッセイ、蛍光イムノアッセイ、化学発光イムノアッセイ等)における使用に好適であり得る。ある特定の実施形態において、上記に説明される検出可能な標識は、潜在的立体障害を低減するための様々な長さのリンカーを介して、本発明の抗体又はその抗原結合性断片に結合してもよい。
【0037】
ある特定の実施形態において、本発明の抗体又はその抗原結合性断片は、治療部分に連結してもよい。そのような実施形態において、コンジュゲートは、1つ又は複数の治療剤を標的組織(例えば、BCMAを発現する細胞)に選択的に送達する能力を有するので、コンジュゲートは、疾患(例えば、B細胞関連疾患)の治療における本発明の抗体又はその抗原結合性断片の治療的有効性を向上させ得る。
【0038】
したがって、ある特定の実施形態において、修飾部分は、治療剤である。ある特定の実施形態において、コンジュゲートは、本発明の抗体又はその抗原結合性断片、及び抗体又はその抗原結合性断片に連結された治療剤を含む。
【0039】
ある特定の実施形態において、コンジュゲートは、抗体-薬物コンジュゲート(ADC)である。
【0040】
ある特定の実施形態において、治療剤は、細胞毒性剤である。本発明において、細胞毒性剤は、細胞に有害である(例えば、細胞を死滅させる)任意の剤を含む。
【0041】
ある特定の実施形態において、治療剤は、アルキル化剤、有糸分裂阻害剤、抗腫瘍抗生物質、代謝拮抗薬、トポイソメラーゼ阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、放射性核種剤、及びこれらの任意の組合せからなる群から選択される。
【0042】
本発明のコンジュゲートにおいて使用することができるアルキル化剤の例は、ナイトロジェンマスタード類(例えば、ジクロロエチルメチルアミン、フェニル酪酸マスタード(phenylbutyric acid mustard)、メルファラン、シクロホスファミド等)、エチレンイミン(例えば、チオテパ等)、スルホネート及びポリオール(例えば、ブスルファン、ジブロモマンニトール)、ニトロソウレア(例えば、カルムスチン、ロムスチン等)、プラチナベースの抗腫瘍剤(例えば、rdsシスプラチン(rdscisplatin)、オキサリプラチン、カルボプラチン等)を含むが、これらに限定されない。
【0043】
本発明のコンジュゲートにおいて使用することができる有糸分裂阻害剤の例は、マイタンシノイド(例えば、マイタンシン、マイタンシノール、マイタンシノールのC-3エステル等)、タキサン(例えば、ドセタキセル、パクリタキセル、又はナノ粒子パクリタキセル等)、ツルニチニチソウ(vinca rosea)アルカロイド(例えば、硫酸ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、又はビノレルビン等)を含むが、これらに限定されない。
【0044】
本発明のコンジュゲートにおいて使用することができる抗腫瘍抗生物質の例は、アクチノマイシン、アントラサイクリン系抗生物質(例えば、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン等)、カリケアマイシン、デュオカルマイシン等を含むが、これらに限定されない。
【0045】
本発明のコンジュゲートにおいて使用することができる代謝拮抗薬の例は、葉酸拮抗薬(例えば、メトトレキセート等)、ピリミジン拮抗薬(例えば、5-フルオロウラシル、フルオロウリジン、シタラビン、カペシタビン、ゲムシタビン等)、プリン拮抗薬(例えば、6-メルカプトプリン、6-チオグアニン等)、アデノシンデアミナーゼ阻害剤(例えば、クラドリビン、フルダラビン、ネララビン、ペントスタチン等)を含むが、これらに限定されない。
【0046】
本発明のコンジュゲートにおいて使用することができるトポイソメラーゼ阻害剤の例は、カンプトテシン及びその誘導体(例えば、イリノテカン、トポテカン等)、アムサクリン、ダウノマイシン、アドリアマイシン、エピポドフィロトキシン、エリプチシン、エピルビシン、エトポシド、ラゾキサン、テニポシド等を含むが、これらに限定されない。
【0047】
本発明のコンジュゲートにおいて使用することができるチロシンキナーゼ阻害剤の例は、アキシチニブ、ボスチニブ、シルデニブ(sildenib)、ダサチニブ、エルロチニブ、ゲフィチニブ、イマチニブ、ラパチニブ、レスタウルチニブ、ニロチニブ、セマクサニブ、スニチニブ、バンデタニブ等を含むが、これらに限定されない。
【0048】
本発明のコンジュゲートにおいて使用することができる放射性核種剤の例は、I131、In111、Y90、Lu177等を含むが、これらに限定されない。
【0049】
ある特定の例示的な実施形態において、治療剤は、プラチナベースの抗新生物剤、アントラサイクリン、タキサン、ヌクレオシドアナログ、カンプトテシン化合物、及びこれらのアナログ又はホモログ、並びにこれらの任意の組合せからなる群から選択される。
【0050】
ある特定の実施形態において、本発明の抗体又はその抗原結合性断片は、必要に応じて、修飾部分(例えば、検出可能な標識又は治療剤)にリンカーを介してコンジュゲートされる。
【0051】
本発明において、細胞毒性剤を、当該技術分野において使用可能なリンカー技術を使用して、本発明の抗体又はその抗原結合性断片にコンジュゲートしてもよい。細胞毒性剤を抗体にコンジュゲートするために使用されているリンカーのタイプの例は、ヒドラゾン、チオエーテル、エステル、ジスルフィド、及びペプチド含有リンカーを含むが、これらに限定されない。例えば、リソソーム区画内の低pHにより切断されやすいリンカー、又はプロテアーゼ(例えば、腫瘍組織において優先的に発現するプロテアーゼ、例えば、カテプシン類、例えば、カテプシンB、C、D)により切断されやすいリンカーを選択してもよい。
【0052】
細胞毒性のタイプ、リンカー、及び治療剤を抗体にカップリングするための方法の更なる説明は、Saito, G.ら(2003) Adv. Drug Deliv. Rev. 55:199~215;Trail, PAら(2003) Cancer Immunol. Immunol. 52:328~337;Payne, G. (2003) Cancer Cell 3:207~212;Allen, TM (2002) Nat. Rev. Cancer 2:750~763;Pastan, I.及びKreitman, RJ (2002) Curr. Opin Investig. Drugs 3:1089~1091;Senter, PD及びSpringer, CJ (2001) Adv. Drug Deliv. Rev. 53:247~264において見出すことができる。
【0053】
キメラ抗原受容体
本発明の抗体又はその抗原結合性断片は、キメラ抗原受容体(CAR)を構築するために使用することができる。本発明のCARの特色は、MHC非拘束性BCMA認識能力を含み、これは、CARを発現する免疫エフェクター細胞(例えば、T細胞、T細胞、NK細胞、単球、マクロファージ、又は樹状細胞)に、抗原プロセッシング及び提示に依存することなく、BCMA発現細胞を認識する能力を与える。
【0054】
したがって、第6の態様において、本発明は、細胞外抗原結合性ドメイン、スペーサードメイン、膜貫通ドメイン、及び細胞内シグナル伝達ドメインを含むキメラ抗原受容体(CAR)であって、細胞外抗原結合性ドメインが、本発明の抗体又はその抗原結合性断片を含む、キメラ抗原受容体(CAR)を提供する。ある特定の実施形態において、CARは、N末端からC末端へ、細胞外抗原結合性ドメイン、スペーサードメイン、膜貫通ドメイン、及び細胞内シグナル伝達ドメインを含む。
【0055】
1.細胞外抗原結合性ドメイン
本発明のCARに含有される細胞外抗原結合性ドメインは、CARにBCMAを認識する能力を与える。
【0056】
ある特定の実施形態において、細胞外抗原結合性ドメインは、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、VHは、配列番号1に記載の配列、又はそれと比較して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、若しくは100%の配列同一性を有する配列を含み、VLは、配列番号2に記載の配列、又はそれと比較して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、若しくは100%の配列同一性を有する配列を含む。
【0057】
ある特定の実施形態において、細胞外抗原結合性ドメインは、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、VHは、配列番号3に記載の配列、又はそれと比較して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、若しくは100%の配列同一性を有する配列を含み、VLは、配列番号4に記載の配列、又はそれと比較して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、若しくは100%の配列同一性を有する配列を含む。
【0058】
ある特定の実施形態において、細胞外抗原結合性ドメインは、Fab断片、Fab'断片、F(ab)'2断片、Fv、ジスルフィド安定化Fvタンパク質(「dsFv」)、scFv、ジ-scFv、(scFv)2を含むが、これらに限定されない。
【0059】
ある特定の実施形態において、抗体又はその抗原結合性断片は、scFv、ジ-scFv、又は(scFv)2である。
【0060】
ある特定の実施形態において、細胞外抗原結合性ドメインは、リンカーを更に含む。ある特定の実施形態において、細胞外抗原結合性ドメインに含有されるVH及びVLは、リンカーにより連結される。ある特定の例示的な実施形態において、リンカーは、配列番号5に記載の配列を有する。
【0061】
2.膜貫通ドメイン
本発明のCARに含有される膜貫通ドメインは、任意のタンパク質構造が細胞膜(とりわけ、真核細胞膜)において熱力学的に安定であり得る限り、当該技術分野において公知の任意のタンパク質構造であり得る。本発明のCARにおける使用に好適な膜貫通ドメインは、天然源に由来し得る。そのような実施形態において、膜貫通ドメインは、任意の膜結合又は膜貫通タンパク質に由来し得る。或いは、膜貫通ドメインは、合成非天然タンパク質セグメント、例えば、疎水性残基、例えば、ロイシン及びバリンを優勢に含むタンパク質セグメントであり得る。
【0062】
ある特定の実施形態において、膜貫通ドメインは、T細胞受容体のα、β、又はζ鎖からなる群から選択されるタンパク質、CD8α、CD28、CD3ε、CD3ζ、CD45、CD4、CD5、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD154、DAP10の膜貫通領域、及びこれらの任意の組合せである。ある特定の例示的な実施形態において、膜貫通ドメインは、CD8αの膜貫通領域を含む。ある特定の例示的な実施形態において、膜貫通ドメインは、T細胞共刺激性分子(例えば、CD137又はCD28)の膜貫通ドメインを含む。
【0063】
ある特定の例示的な実施形態において、膜貫通ドメインは、配列番号7に記載のアミノ酸配列を含む。
【0064】
3.スペーサードメイン
本発明のキメラ抗原受容体は、細胞外抗原結合性ドメインと膜貫通ドメインとの間にスペーサードメインを含み得る。
【0065】
ある特定の実施形態において、スペーサードメインは、免疫グロブリン(例えば、IgG1又はIgG4)のCH2及びCH3領域を含む。そのような実施形態において、特定の理論に束縛されるものではないが、CH2及びCH3は、CAR発現細胞の細胞膜からCARの抗原結合性ドメインを延長し、ネイティブTCRのサイズ及びドメイン構造をより正確に模倣し得る。
【0066】
ある特定の実施形態において、スペーサードメインは、ヒンジドメインを含む。ヒンジドメインは、タンパク質の2つのドメイン間に一般に見出されるアミノ酸セグメントであることがあり、これは、タンパク質のフレキシビリティ、及びドメインのうちの1つ又は両方の互いに対する運動を可能にし得る。したがって、そのようなフレキシビリティ、及び細胞外リガンド結合ドメインの、膜貫通ドメインに対する運動を提供する任意のアミノ酸配列を、ヒンジドメインに使用することができる。
【0067】
ある特定の実施形態において、ヒンジドメインは、天然タンパク質のヒンジ領域、又はその一部である。ある特定の実施形態において、ヒンジドメインは、CD8αのヒンジ領域、又はその一部、例えば、CD8αのヒンジ領域の少なくとも15個(例えば、20、25、30、35、又は40個)の連続アミノ酸を含む断片を含む。ある特定の例示的な実施形態において、スペーサードメインは、配列番号6に記載のアミノ酸配列を含む。
【0068】
4.細胞内シグナル伝達ドメイン
本発明のCARに含まれる細胞内シグナル伝達ドメインは、有効な抗原受容体結合(本発明のCARの、BCMAへの結合)のシグナルの、免疫エフェクター細胞への伝達に参加し、CAR発現免疫エフェクター細胞の少なくとも1つの正常なエフェクター機能を活性化するか、又はCAR発現免疫エフェクター細胞による少なくとも1つのサイトカイン(例えば、IL-2、IFN-γ)の分泌を向上させる。
【0069】
ある特定の実施形態において、細胞内シグナル伝達ドメインは、一次シグナル伝達ドメイン及び/又は共刺激性シグナル伝達ドメインを含む。
【0070】
本発明において、一次シグナル伝達ドメインは、免疫受容体チロシン活性化モチーフ(immunoreceptor tyrosine activation motif:ITAM)を含む任意の細胞内シグナル伝達ドメインであり得る。ある特定の実施形態において、一次シグナル伝達ドメインは、免疫受容体チロシン活性化モチーフ(ITAM)を含む。ある特定の実施形態において、一次シグナル伝達ドメインは、CD3ζ、FcRγ、FcRβ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD22、CD79a、DAP10、CD79b、又はCD66dから選択されるタンパク質の細胞内シグナル伝達ドメインを含む。ある特定の実施形態において、一次シグナル伝達ドメインは、CD3ζの細胞内シグナル伝達ドメインを含む。
【0071】
本発明において、共刺激性シグナル伝達ドメインは、共刺激性分子からの細胞内シグナル伝達ドメインであり得る。ある特定の実施形態において、共刺激性シグナル伝達ドメインは、CARD11、CD2、CD7、CD27、CD28、CD30、CD134(OX40)、CD137(4-1BB)、CD150(SLAMF1)、CD270(HVEM)、又はDAP10からなる群から選択されるタンパク質の細胞内シグナル伝達ドメインを含む。
【0072】
ある特定の実施形態において、共刺激性シグナル伝達ドメインは、CD28の細胞内シグナル伝達ドメイン、若しくはCD137(4-1BB)の細胞内シグナル伝達ドメイン、又は2つの断片の組合せから選択される。
【0073】
ある特定の実施形態において、細胞内シグナル伝達ドメインは、1つの共刺激性シグナル伝達ドメインを含む。ある特定の実施形態において、細胞内シグナル伝達ドメインは、2つ以上の共刺激性シグナル伝達ドメインを含む。そのような実施形態において、2つ以上の共刺激性シグナル伝達ドメインは、同じであっても、異なっていてもよい。
【0074】
ある特定の実施形態において、細胞内シグナル伝達ドメインは、一次シグナル伝達ドメイン及び少なくとも1つの共刺激性シグナル伝達ドメインを含む。一次シグナル伝達ドメイン及び少なくとも1つの共刺激性シグナル伝達ドメインは、直列で膜貫通ドメインのカルボキシル末端に任意の順序にて連結され得る。
【0075】
ある特定の実施形態において、細胞内シグナル伝達ドメインは、CD3ζの細胞内シグナル伝達ドメイン、及びCD137の細胞内シグナル伝達ドメインを含み得る。ある特定の例示的な実施形態において、CD3ζの細胞内シグナル伝達ドメインは、配列番号9に記載のアミノ酸配列を含む。ある特定の例示的な実施形態において、CD137の細胞内シグナル伝達ドメインは、配列番号8に記載のアミノ酸配列を含む。
【0076】
ある特定の実施形態において、本発明のCARは、そのN末端にシグナルペプチドを更に含み得る。典型的に、シグナルペプチドは、それが連結している配列を、細胞内の所望の部位へ標的化するポリペプチド配列である。ある特定の実施形態において、シグナルペプチドは、それが結合しているCARを、細胞の分泌経路へ標的化し、CARが脂質二重層に更に組み込まれ、固定されることを可能にし得る。CARの有用なシグナルペプチドは、当業者に公知である。ある特定の実施形態において、シグナルペプチドは、重鎖シグナルペプチド(例えば、IgG1の重鎖シグナルペプチド)、顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子受容体2(granulocyte-macrophage colony stimulating factor receptor 2:GM-CSFR2)シグナルペプチド、又はCD8αシグナルペプチドを含む。
【0077】
5.全長CAR
本発明は、BCMAに特異的に結合することができるキメラ抗原受容体を提供し、キメラ抗原受容体は、N末端からC末端へ細胞外抗原結合性ドメイン、スペーサードメイン、膜貫通ドメイン、細胞内シグナル伝達ドメインを含む。ある特定の好ましい実施形態において、細胞内シグナル伝達ドメインは、N末端からC末端へ共刺激性シグナル伝達ドメイン及び一次シグナル伝達ドメインを含む。
【0078】
ある特定の実施形態において、スペーサードメインは、配列番号6に記載の配列を有する、CD8(例えば、CD8α)のヒンジ領域を含む。ある特定の実施形態において、膜貫通ドメインは、配列番号7に記載の配列を有する、CD8(例えば、CD8α)の膜貫通領域を含む。
【0079】
ある特定の実施形態において、細胞内シグナル伝達ドメインは、一次シグナル伝達ドメイン及び共刺激性シグナル伝達ドメインを含み、一次シグナル伝達ドメインは、配列番号9に記載の配列を有する、CD3ζの細胞内シグナル伝達ドメインを含む。共刺激性シグナル伝達ドメインは、配列番号8に記載の配列を有する、CD137の細胞内シグナル伝達ドメインを含む。
【0080】
ある特定の例示的な実施形態において、CARは、(1)配列番号10又は12に記載のアミノ酸配列、(2)配列番号10又は12に記載のアミノ酸配列と比較して少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有する配列から選択されるアミノ酸配列を有し、配列は、それが由来するアミノ酸配列の少なくとも1つの生物学的活性(例えば、免疫エフェクター細胞の特異性及び反応性を、MHC非拘束性様式においてBCMA発現細胞に方向付ける活性)を実質的に保持する。
【0081】
キメラ抗原受容体の調製
キメラ抗原受容体、及びキメラ抗原受容体を含む免疫エフェクター細胞(例えば、T細胞)を生成する方法は、当該技術分野において公知であり、例えば、Brentjensら、2010、Molecular Therapy, 18 :4、666~668;Morganら、2010、Molecular Therapy、2010年2月23日オンライン公開、1~9頁;Tillら、2008、Blood, 112:2261~2271;Parkら、Trends Biotechnol., 29:550~557、2011;Gruppら、NEnglJMed., 368:1509~1518、2013;Hanら、J.Hematol Oncol., 6:47、2013;PCT特許公開WO2012/079000号、同WO2013/126726号;及び米国特許出願公開第2012/0213783号において詳細に説明されており、当該文献のすべては、それらを全体として参照により本明細書に組み込まれる。例えば、それは、CARをコードする少なくとも1つの核酸分子を細胞に導入すること、及び核酸分子を細胞において発現することを含み得る。例えば、本発明のCARをコードする核酸分子は、発現ベクター(例えば、レンチウイルスベクター)に含有されてもよく、発現ベクターは、宿主細胞、例えばT細胞において発現して、CARを製造することができる。
【0082】
したがって、第7の態様において、本発明は、本発明のキメラ抗原受容体をコードするヌクレオチド配列を含む単離された核酸分子を提供する。ある特定の実施形態において、単離された核酸分子は、本発明のキメラ抗原受容体をコードする。
【0083】
ある特定の実施形態において、単離された核酸分子によりコードされるCARは、重鎖可変領域(VH)及び/又は軽鎖可変領域(VL)を有する細胞外抗原結合性ドメインを含み、VHは、配列番号1に記載の配列、又はそれと比較して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、若しくは100%の配列同一性を有する配列を含み、VLは、配列番号2に記載の配列、又はそれと比較して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、若しくは100%の配列同一性を有する配列を含む。
【0084】
ある特定の実施形態において、単離された核酸分子によりコードされるCARは、重鎖可変領域(VH)及び/又は軽鎖可変領域(VL)を有する細胞外抗原結合性ドメインを含み、VHは、配列番号3に記載の配列、又はそれと比較して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、若しくは100%の配列同一性を有する配列を含み、VLは、配列番号4に記載の配列、又はそれと比較して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、若しくは100%の配列同一性を有する配列を含む。
【0085】
ある特定の例示的な実施形態において、単離された核酸分子によりコードされるCARは、(1)配列番号10又は12に記載のアミノ酸配列、(2)配列番号10又は12に記載のアミノ酸配列と比較して少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有する配列から選択されるアミノ酸配列を有し、配列は、それが由来するアミノ酸配列の少なくとも1つの生物学的活性(例えば、免疫エフェクター細胞の特異性及び反応性を、MHC非拘束性様式においてBCMA発現細胞に方向付ける能力)を実質的に保持する。
【0086】
当業者は、遺伝コードの縮重のために、本発明のキメラ抗原受容体をコードするヌクレオチド配列は、様々な異なる配列を有し得ることを理解する。したがって、別に示されない限り、「アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列」は、互いの縮重形であり、同じアミノ酸配列をコードするすべてのヌクレオチド配列を含む。
【0087】
ある特定の例示的な実施形態において、本発明のキメラ抗原受容体をコードするヌクレオチド配列は、(1)配列番号11又は13に記載のヌクレオチド配列;(2)配列番号11又は13に記載のヌクレオチド配列と比較して少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有する配列から選択され、配列は、それが由来するヌクレオチド配列の少なくとも1つの生物学的活性(例えば、免疫エフェクター細胞の特異性及び反応性を、MHC非拘束性様式においてBCMA発現細胞に方向付ける能力を有するCARをコードすることができる)を実質的に保持する。
【0088】
第8の態様において、本発明は、上記に説明される単離された核酸分子を含むベクター(例えば、クローニングベクター又は発現ベクター)を提供する。
【0089】
ある特定の実施形態において、ベクターは、本発明のキメラ抗原受容体をコードするヌクレオチド配列を含む。
【0090】
ある特定の例示的な実施形態において、CARは、(1)配列番号10又は12に記載のアミノ酸配列、(2)配列番号10又は12に記載のアミノ酸配列と比較して少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有する配列から選択されるアミノ酸配列を有し、配列は、それが由来するアミノ酸配列の少なくとも1つの生物学的活性(例えば、免疫エフェクター細胞の特異性及び反応性を、MHC非拘束性様式においてBCMA発現細胞に方向付ける能力)を実質的に保持する。
【0091】
ある特定の例示的な実施形態において、本発明のキメラ抗原受容体をコードするヌクレオチド配列は、(1)配列番号11又は13に記載のヌクレオチド配列;(2)配列番号11又は13に記載のヌクレオチド配列と比較して少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有する配列から選択され、配列は、それが由来するヌクレオチド配列の少なくとも1つの生物学的活性(例えば、免疫エフェクター細胞の特異性及び反応性を、MHC非拘束性様式においてBCMA発現細胞に方向付ける能力を有するCARをコードすることができる)を実質的に保持する。
【0092】
ある特定の実施形態において、ベクターは、DNAベクター、RNAベクター、プラスミド、トランスポゾンベクター、CRISPR/Cas9ベクター、ウイルスベクターからなる群から選択される。
【0093】
ある特定の実施形態において、ベクターは、発現ベクターである。
【0094】
ある特定の実施形態において、ベクターは、エピソームベクターである。
【0095】
ある特定の実施形態において、ベクターは、ウイルスベクターである。
【0096】
ある特定の例示的な実施形態において、ウイルスベクターは、レンチウイルス、アデノウイルス、又はレトロウイルスベクターである。
【0097】
ある特定の実施形態において、ベクターは、エピソームベクター又は非組込み型ウイルスベクター、例えば、組込み欠損レトロウイルス又はレンチウイルスである。
【0098】
改変された免疫エフェクター細胞及びその調製法
第9の態様では、本発明は、本発明のキメラ抗原受容体を発現する免疫エフェクター細胞を提供する。CARは、CARをコードするポリヌクレオチドが種々の方法で細胞内に導入された後で、細胞内、in situで合成することができる。或いは、CARを細胞外で産生し、次いで細胞内に導入することができる。
【0099】
ある特定の実施形態では、免疫エフェクター細胞は、第7の態様の単離された核酸分子又は第8の態様のベクターを含む。
【0100】
上記の単離された核酸分子又はベクターは、種々の好適な手段、例えばリン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE-デキストラン媒介トランスフェクション、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、TALEN法、ZFN法、非ウイルスベクター媒介トランスフェクション(例えばリポソーム)、又はウイルスベクター媒介トランスフェクション(例えばレンチウイルス感染、レトロウイルス感染、アデノウイルス感染)、及び核酸分子又はベクターを宿主細胞内に移送するその他の物理的、化学的、若しくは生物学的な手段、例えばトランスポゾン技術、CRISPR-Cas9及びその他の技術によって、免疫エフェクター細胞内に導入することができる。
【0101】
ある特定の実施形態では、免疫エフェクター細胞は患者又は健康なドナーから誘導される。ある特定の実施形態では、免疫エフェクター細胞はTリンパ球、ナチュラルキラー(NK)細胞、単球、マクロファージ、又は樹状細胞、及びそれらの任意の組合せから選択される。ある特定の実施形態では、免疫エフェクター細胞はTリンパ球及び/又はナチュラルキラー(NK)細胞から選択される。
【0102】
別の態様では、本発明は、(1)免疫エフェクター細胞を提供する工程、(2)第6の態様の単離された核酸分子又は第7の態様のベクターを免疫エフェクター細胞に導入する工程を含む、本発明のキメラ抗原受容体を発現する免疫エフェクター細胞を調製するための方法も提供する。単離された核酸分子又はベクターは、本発明のキメラ抗原受容体をコードするヌクレオチド配列を含む。
【0103】
ある特定の実施形態では、免疫エフェクター細胞はTリンパ球、NK細胞、単球、樹状細胞、マクロファージ、及びそれらの任意の組合せからなる群から選択される。
【0104】
ある特定の実施形態では、工程(1)において、免疫エフェクター細胞は事前処理に供され、事前処理は免疫エフェクター細胞のソーティング、活性化、及び/又は増殖を含む。ある特定の実施形態では、事前処理は免疫エフェクター細胞を抗CD3抗体及び抗CD28抗体と接触させ、それにより免疫エフェクター細胞を刺激してその増殖を誘起し、それにより事前処理された免疫エフェクター細胞を生成させる工程を含む。
【0105】
一部の実施形態では、工程(2)において、核酸分子又はベクターはウイルス感染により免疫エフェクター細胞内に導入される。他の実施形態では、工程(2)において、核酸分子又はベクターは、非ウイルスベクタートランスフェクションの手段、例えばトランスポゾンベクター系、CRISPR/Cas9ベクター、TALEN法、ZFN法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE-デキストラン媒介トランスフェクション、又はマイクロインジェクション法によって、免疫エフェクター細胞内に導入される。
【0106】
ある特定の実施形態では、工程(2)の後で、本方法は工程(2)で得られた免疫エフェクター細胞を増殖させる工程をさらに含む。
【0107】
別の態様では、本発明は、BCMAに特異的に結合することができるキメラ抗原受容体又はキメラ抗原受容体を発現する細胞を調製するためのキットも提供し、前記キットは、第7の態様の単離された核酸分子又は第8の態様のベクター、及び必要な溶媒(例えば無菌の水若しくは生理食塩水、又は細胞培養培地)を含む。キットは必要に応じて使用説明書を含む。
【0108】
別の態様では、本発明は、BCMAに特異的に結合することができるキメラ抗原受容体又はキメラ抗原受容体を発現する細胞の製造における上記のキットの使用を提供する。
【0109】
医薬組成物
第10の態様では、本発明は医薬組成物を提供し、前記医薬組成物は、本発明の第1の態様の抗体又はその抗原結合性断片、第5の態様のコンジュゲート、第6の態様のキメラ抗原受容体、第2の態様又は第7の態様の単離された核酸分子、第3の態様又は第8の態様のベクター、第4の態様の宿主細胞、又は第9の態様の免疫エフェクター細胞、並びに薬学的に許容される担体及び/又は賦形剤を含む。
【0110】
一部の実施形態では、本発明の医薬組成物は、本発明の抗体又はその抗原結合性断片を含む。
【0111】
一部の実施形態では、本発明の医薬組成物は、本発明のコンジュゲートを含む。そのような実施形態では、コンジュゲートは、本発明の抗体又はその抗原結合性断片及び抗体又はその抗原結合性断片に連結された治療剤を含む。
【0112】
一部の実施形態では、本発明の医薬組成物は、第7の態様の単離された核酸分子、第8の態様のベクター、又は第9の態様の免疫エフェクター細胞を含む。核酸分子及びベクターは本発明のキメラ抗原受容体をコードするヌクレオチド配列を含み、免疫エフェクター細胞はキメラ抗原受容体を発現する。
【0113】
ある特定の実施形態では、医薬組成物は、追加の薬学的に活性な剤をさらに含んでもよい。
【0114】
ある特定の実施形態では、追加の薬学的に活性な剤は、抗腫瘍活性を有する薬物、例えばアルキル化剤、有糸分裂阻害剤、抗腫瘍抗生物質、代謝拮抗薬、トポイソメラーゼ阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、放射性核種剤、放射線増感剤(例えばゲムシタビン、5-フルオロウラシル、タキサン、シスプラチン、その他)、抗血管新生剤、サイトカイン(例えばGM-CSF、IL-7、IL-12、IL-15、IL-18、IL-21、その他)、腫瘍細胞を特異的に標的とする抗体(例えばリツキシマブ等のCD20抗体、トラスツズマブ等のHer2抗体、ベバシズマブ等のVEGF抗体、セツキシマブ等のEGFR抗体、その他)、免疫チェックポイント阻害剤(例えばPD-1抗体、PD-L1抗体、CTLA-4抗体、LAG-3抗体、その他)等である。
【0115】
ある特定の実施形態では、医薬組成物中において、本発明の抗体若しくはその抗原結合性断片、コンジュゲート、単離された核酸分子、ベクター、又は免疫エフェクター細胞、並びに本発明のさらなる薬学的に活性な剤は、分離された成分又は混合された成分として提供してよい。即ち、本発明の抗体若しくはその抗原結合性断片、コンジュゲート、単離された核酸分子、ベクター、又は免疫エフェクター細胞、並びに追加の薬学的に活性な剤は、同時に、個別に、又は逐次的に、投与することができる。
【0116】
本発明の抗体若しくはその抗原結合性断片、コンジュゲート、免疫エフェクター細胞、又は医薬組成物は、医療技術で既知の任意の投薬形態、例えば錠剤、ピル、懸濁液、エマルジョン、溶液、ゲル、カプセル、粉末、顆粒、エリキシル、ロゼンジ、坐剤、注射(注射液、注射用の無菌粉末、及び注射用の濃縮溶液を含む)、吸入薬、スプレイ、その他に製剤化することができる。好ましい投薬形態は、意図した投与様式及び治療用途による。本発明の医薬組成物は、製造及び保存の条件下において無菌かつ安定であるべきである。好ましい投薬形態は注射である。そのような注射は注射可能な無菌の溶液であってよい。例えば、注射可能な無菌の溶液は以下の方法によって調製することができる。必要な用量の本発明の抗体若しくはその抗原結合性断片、コンジュゲート、免疫エフェクター細胞、又は医薬組成物を適切な溶媒の中に組み込み、必要に応じて他の所望の成分(pH調節剤、界面活性剤、アジュバント、イオン強度増強剤、等張剤、保存剤、希釈剤、又はそれらの任意の組合せを含むがそれらに限定されない)を組み込み、次いで濾過及び滅菌を行なう。さらに、注射可能な無菌の溶液は、保存及び使用を容易にするために、(例えば真空乾燥又は凍結乾燥によって)凍結乾燥された無菌の粉末として調製することができる。そのような凍結乾燥された無菌の粉末は、注射用水(WFI)、静菌注射用水(BWFI)、塩化ナトリウム溶液(例えば0.9%(w/v)NaCl)、グルコース溶液(例えば5%グルコース)、界面活性剤含有溶液(例えば0.01%ポリソルベート20)、pH緩衝溶液(例えばリン酸塩緩衝溶液)、リンゲル液、及びそれらの任意の組合せ等の好適なビヒクルの中に分散させることができる。
【0117】
したがって、ある特定の例示的な実施形態では、本発明の医薬組成物は、注射可能な無菌の液体(例えば、水性又は非水性の懸濁液又は溶液)を含む。ある特定の例示的な実施形態では、そのような注射可能な無菌の液体は、注射用水(WFI)、静菌注射用水(BWFI)、塩化ナトリウム溶液(例えば0.9%(w/v)NaCl)、グルコース溶液(例えば5%グルコース)、界面活性剤含有溶液(例えば0.01%ポリソルベート20)、pH緩衝溶液(例えばリン酸塩緩衝溶液)、リンゲル液、及びそれらの任意の組合せからなる群から選択される。
【0118】
本発明の抗体若しくはその抗原結合性断片、コンジュゲート、免疫エフェクター細胞、又は医薬組成物は、経口、経頬、舌下、経眼、局所(local)、非経口、経直腸、髄腔内、細胞質内、経細網、経鼠径、嚢内、局所(topical)(例えば粉末、軟膏、又はドロップ)、又は経鼻の経路を含むがそれらに限定されない当技術で既知の任意の好適な方法によって投与することができる。しかし多くの治療用途には、好ましい投与の経路/様式は非経口(例えば静脈内又はボーラス注射、皮下注射、腹腔内注射、筋肉内注射)である。当業者であれば、投与の経路及び/又は様式は意図した目的に応じて変化することを認識することになる。ある特定の実施形態では、本発明の抗体若しくはその抗原結合性断片、コンジュゲート、免疫エフェクター細胞、又は医薬組成物は、静脈内注射又はボーラス注射によって投与される。
【0119】
本発明の医薬組成物は、「治療有効量」又は「予防有効量」の、本発明の第1の態様に記載した抗体若しくはその抗原結合性断片、第5の態様に記載したコンジュゲート、又は第8の態様に記載した免疫エフェクター細胞を含み得る。「予防有効量」は、疾患の発症を治癒し、防止し、又は遅延させるために十分な量を指す。「治療有効量」は、既に疾患に罹患している患者において疾患及びその合併症を治癒するか、又は少なくとも部分的に防止するために十分な量を指す。本発明の抗体若しくはその抗原結合性断片、第5の態様のコンジュゲート、又は第8の態様の免疫エフェクター細胞の治療有効量は、以下の因子、即ち処置すべき疾患の重症度、患者自身の免疫系の一般的状態、年齢、体重、及び性別等の患者の一般的状態、投与の様式、及び同時に投与されるその他の療法等に従って変動し得る。
【0120】
治療方法及び使用
別の態様では、本発明は対象(例えばヒト)におけるB細胞関連疾患を防止及び/又は処置する方法を提供し、本方法は有効量の本発明の第1の態様の抗体若しくはその抗原結合性断片、第5の態様のコンジュゲート、第8の態様の免疫エフェクター細胞、又は医薬組成物を、それを必要とする対象に投与する工程を含む。そのような実施形態では、コンジュゲートは本発明の抗体又はその抗原結合性断片及び抗体又はその抗原結合性断片に連結された治療剤を含む。
【0121】
ある特定の実施形態では、本方法は、有効量の本発明の抗体若しくはその抗原結合性断片又はコンジュゲートを対象に投与する工程を含む。
【0122】
ある特定の実施形態では、本方法は有効量の第8の態様の免疫エフェクター細胞又は免疫エフェクター細胞を含む医薬組成物を対象に投与する工程を含む。
【0123】
ある特定の実施形態では、本方法は以下の工程、即ち(1)免疫エフェクター細胞(例えばTリンパ球、NK細胞、単球、マクロファージ、樹状細胞、又はこれらの細胞の任意の組合せ)を提供する工程、(2)本発明の第6の態様に記載したキメラ抗原受容体をコードする核酸分子を工程(1)に記載した免疫エフェクター細胞内に導入して、キメラ抗原受容体を発現する免疫エフェクター細胞を得る工程、(3)工程(2)で得られた免疫エフェクター細胞を処置のために対象に投与する工程を含む。
【0124】
ある特定の実施形態では、工程(1)に先立って、本方法は対象から免疫エフェクター細胞を得る工程を含む。ある特定の実施形態では、免疫エフェクター細胞はTリンパ球及び/又はNK細胞から選択される。
【0125】
ある特定の例示的な実施形態では、末梢血単核細胞(PBMC)が対象から得られ、PBMCはCARを発現するように直接、遺伝子改変される。
【0126】
ある特定の例示的な実施形態では、T細胞は対象から得られる。T細胞は、末梢血単核細胞、骨髄、リンパ節組織、臍帯血、胸腺組織、感染部位からの組織、腹水、胸水、脾臓組織、及び腫瘍を含むがそれらに限定されない種々の源から得ることができる。ある特定の実施形態では、T細胞は当業者には既知の種々の手法(例えば堆積、例えばFICOLL(商標)単離)を使用して対象から収集した血液単位から得ることができる。一実施形態では、細胞は個体の循環血液からアフェレーシスによって得られる。アフェレーシスの産生物は通常、T細胞、単球、顆粒細胞、B細胞、その他の有核白血球を含むリンパ球、赤血球、及び血小板を含む。一実施形態では、アフェレーシスによって収集した細胞を洗浄して血漿分画を除去し、引き続く処理のために好適な緩衝液又は媒体の中に入れることができる。細胞は、PBS又はカルシウム、マグネシウム、及び二価カチオンの大部分(他の全ての二価カチオンでないとしても)を含まない他の好適な溶液で洗浄することができる。洗浄工程は当業者には既知の方法、例えば当業者には理解される半自動フロースルー遠心分離等を使用して達成することができる。その例には、Cobe 2991 Cell Processor、Baxter CytoMate等が含まれる。洗浄の後、細胞は種々の生体親和性緩衝液又は緩衝剤を含み若しくは含まないその他の食塩溶液の中に再懸濁することができる。ある特定の実施形態では、アフェレーシス試料の中の望ましくない成分を、細胞が直接再懸濁される媒体から除去することができる。
【0127】
ある特定の実施形態では、T細胞は、赤血球を溶解し、単球を(例えばPERCOLL(商標)勾配による遠心分離によって)枯渇させることによって、末梢血単核細胞(PBMC)から単離される。以下のマーカー、即ちCD3、CD28、CD4、CD8、CD45RA、及びCD45ROのうち1つ又は複数を発現するT細胞の特定のサブ集団を、ポジティブ又はネガティブな選択手法によってさらに単離することができる。一実施形態では、CD3、CD28、CD4、CD8、CD45RA、及びCD45ROを発現するT細胞の特定のサブ集団が、ポジティブ又はネガティブな選択手法によってさらに単離される。例えば、ネガティブ選択によるT細胞集団の富化は、ネガティブ選択される細胞に特有の表面マーカーを指向する抗体の組合せによって達成され得る。例示的な方法は細胞選別及び/又はネガティブ磁気免疫付着若しくはフローサイトメトリーによる選択であり、ここではネガティブ磁気免疫付着若しくはフローサイトメトリーはネガティブ選択される細胞の上に存在する細胞表面マーカーを指向するモノクローナル抗体の混合物を利用する。例えば、ネガティブ選択によってCD4+細胞を富化するため、モノクローナル抗体の混合物は典型的にはCD14、CD20、CD11b、CD16、HLA-DR、及びCD8に対する抗体を含む。フローサイトメトリー及び細胞選別を使用して、本発明における使用のための目的の細胞集団を単離することもできる。
【0128】
単離の後、免疫エフェクター細胞(例えばT細胞)は遺伝子改変され、又は免疫エフェクター細胞は遺伝子改変に先立ってin vitroで活性化されて増殖(又は先駆細胞の場合には分化)することができる。ある特定の例示的な実施形態では、免疫エフェクター細胞(例えばT細胞)は、本発明のキメラ抗原受容体によって遺伝子改変され(例えばCARをコードする核酸を含むウイルスベクターによって形質導入され)、次いでin vitroの活性化及び増殖に供される。
【0129】
ある特定の実施形態では、B細胞関連疾患は、多発性骨髄腫(MM)又は非ホジキンリンパ腫(NHL)等のB細胞悪性疾患である。ある特定の実施形態では、多発性骨髄腫(MM)は、顕在性多発性骨髄腫、くすぶり型多発性骨髄腫、形質細胞性白血病、非分泌性骨髄腫、IgD骨髄腫、骨硬化性骨髄腫、孤立性骨形質細胞腫、及び髄外性形質細胞腫からなる群から選択される。ある特定の実施形態では、非ホジキンリンパ腫(NHL)は、バーキットリンパ腫、慢性リンパ球性白血病/小リンパ球性リンパ腫(CLL/SLL)、瀰漫性大B細胞リンパ腫腫瘍、濾胞性リンパ腫、免疫芽球性大細胞リンパ腫、前駆体Bリンパ芽球性リンパ腫、及びマントル細胞リンパ腫から選択される。
【0130】
ある特定の実施形態では、B細胞関連疾患は形質細胞悪性疾患である。
【0131】
ある特定の実施形態では、B細胞関連疾患は自己免疫疾患である。ある特定の実施形態では、自己免疫疾患は全身性エリテマトーデス、リウマチ性関節炎、特発性血小板減少性紫斑病、若しくは重症筋無力症、又は自己免疫性溶血性貧血からなる群から選択される。
【0132】
ある特定の実施形態では、B細胞関連疾患は、多発性骨髄腫、非ホジキンリンパ腫、悪性度不明のB細胞増殖、リンパ腫様肉芽腫症、移植後リンパ球増殖性疾患、免疫調節障害、リウマチ性関節炎、重症筋無力症、特発性血小板減少性紫斑病、抗リン脂質症候群、シャーガス病、グレーブス病、ウェゲナー肉芽腫症、結節性多発性動脈炎、シェーグレン症候群、尋常性天疱瘡、強皮症、多発性硬化症、抗リン脂質症候群、ANCA関連小型血管炎、グッドパスチャー病、川崎病、自己免疫性溶血性貧血及び急速進行型糸球体腎炎、重鎖病、原発性若しくは免疫細胞関連性アミロイドーシス、又は良性単クローン性γグロブリン血症からなる群から選択される。
【0133】
ある特定の実施形態では、本発明の抗体若しくはその抗原結合性断片、コンジュゲート、免疫エフェクター細胞、又は医薬組成物は、さらなる療法と組み合わせて投与される。さらなる療法は、腫瘍の処置のための既知の任意の療法、例えば手術、化学療法、放射線療法、標的療法、免疫療法、ホルモン療法、遺伝子療法、又は苦痛緩和ケアであってよい。そのようなさらなる療法は、本発明の抗体若しくはその抗原結合性断片、コンジュゲート、免疫エフェクター細胞、又は医薬組成物の投与に先立って、それと同時に、又はそれに続いて、施行してよい。
【0134】
ある特定の実施形態では、対象は哺乳動物、例えばヒトであってよい。
【0135】
別の態様では、医薬の製造における本発明の第1の態様の抗体若しくはその抗原結合性断片、第5の態様のコンジュゲート、第6の態様のキメラ抗原受容体、第2の態様若しくは第7の態様の単離された核酸分子、第3の態様若しくは第8の態様のベクター、第4の態様の宿主細胞、第9の態様の免疫エフェクター細胞、又は医薬組成物の使用が提供され、前記医薬は対象(例えばヒト)におけるB細胞関連疾患の防止及び/又は処置のために使用される。そのような実施形態では、コンジュゲートは、本発明の抗体若しくはその抗原結合性断片及び抗体若しくはその抗原結合性断片に連結された治療剤を含む。
【0136】
検出方法及びキット
本発明の抗体又はその抗原結合性断片はBCMAに特異的に結合することができ、したがって試料中のBCMAの存在又はレベルを検出するために使用することができる。
【0137】
したがって、別の態様では、本発明は、本発明の抗体又はその抗原結合性断片を含むキットを提供する。
【0138】
ある特定の実施形態では、キットは対象がBCMAを発現する腫瘍(BCMA発現腫瘍)に罹患しているかどうかを診断するために使用される。ある特定の実施形態では、BCMA発現腫瘍は多発性骨髄腫(MM)又は非ホジキンリンパ腫(NHL)等のB細胞悪性疾患から選択される。ある特定の実施形態では、BCMA発現腫瘍は形質細胞悪性疾患である。
【0139】
ある特定の好ましい実施形態では、本発明の抗体又はその抗原結合性断片は、検出可能な標識を有している。
【0140】
ある特定の好ましい実施形態では、キットは、本発明の抗体又はその抗原結合性断片を特異的に認識する第2の抗体をさらに含む。好ましくは、第2の抗体は検出可能な標識をさらに含む。
【0141】
本発明では、検出可能な標識は、蛍光、分光、光化学、生化学、免疫学、電気、光学、又は化学的な手段で検出可能な任意の物質であってよい。そのような標識は免疫学的検出(例えば酵素連結免疫アッセイ、放射免疫アッセイ、蛍光免疫アッセイ、化学発光免疫アッセイ、その他)における使用のために好適であることが特に好ましい。
【0142】
別の態様では、本発明は、
(1)試料を本発明の抗体又はその抗原結合性断片と接触させる工程、
(2)抗体若しくはその抗原結合性断片とBCMAとの複合体の形成を検出する工程又は複合体の量を検出する工程
を含む、試料中のBCMAの存在又は量を検出するための方法を提供する。
【0143】
複合体の形成は、BCMA又はBCMAを発現する細胞の存在を示す。
【0144】
ある特定の実施形態では、試料は細胞試料、即ち細胞(例えば腫瘍細胞)を含む試料である。そのような実施形態では、複合体は好ましくは抗体若しくはその抗原結合性断片又はコンジュゲートと、試料中の細胞によって発現したBCMAとの間で形成される。
【0145】
ある特定の実施形態では、本発明の抗体又はその抗原結合性断片は、検出可能な標識をさらに有する。ある特定の実施形態では、工程(2)において、本発明の抗体又はその抗原結合性断片は、検出可能な標識を有する試薬によって検出される。
【0146】
本方法は、診断目的のため、又は非診断目的のために使用してよい(例えば、試料は患者からの試料であるよりもむしろ細胞試料である)。ある特定の実施形態では、BCMAはヒトBCMAである。
【0147】
別の態様では、キットの製造における本発明の抗体又はその抗原結合性断片の使用が提供され、ここでキットは試料中のBCMAの存在又は量を検出するために使用される。ある特定の実施形態では、BCMAはヒトBCMAである。
【0148】
別の態様では、本発明は、本発明の第1の態様の抗体又はその抗原結合性断片を使用することによって対象からの試料中のBCMAの量を検出する工程を含む、対象がBCMA発現腫瘍に罹患しているどうかを診断するための方法を提供する。
【0149】
ある特定の実施形態では、BCMA発現腫瘍は、多発性骨髄腫(MM)又は非ホジキンリンパ腫(NHL)等のB細胞悪性疾患から選択される。ある特定の実施形態では、BCMA発現腫瘍は形質細胞悪性疾患である。
【0150】
ある特定の実施形態では、本方法は対象からの試料中のBCMAの量を参照値と比較する工程をさらに含む。
【0151】
参照値は、BCMA発現腫瘍を有していないことが知られている対象からの試料中のBCMAのレベル(「陰性参照値」とも称する)、又はBCMA発現腫瘍を有していることが知られている対象からの試料中のBCMAのレベル(「陽性参照値」とも称する)を指す。例えば、対象からの試料中のBCMAの量が陰性参照値と同様(又は有意に相違しない)であれば、その対象はBCMA発現腫瘍を有していないことを示し、対象からの試料中のBCMAの量が陰性参照値に対して増大していれば、その対象はBCMA発現腫瘍を有していることを示す。さらに、対象からの試料中のBCMAの量が陽性参照値と同様(又は有意に相違しない)であれば、その対象はBCMA発現腫瘍を有していることを示す。
【0152】
ある特定の実施形態では、対象からの試料中のBCMAの量は、
(1)対象からの試料を本発明の抗体又はその抗原結合性断片と接触させる工程、
(2)抗体又はその抗原結合性断片とBCMAとで形成された複合体の量を検出する工程
によって検出される。
【0153】
ある特定の実施形態では、工程(1)において、本発明の抗体又はその抗原結合性断片は、検出可能な標識をさらに有する。ある特定の実施形態では、工程(2)において、本発明の抗体又はその抗原結合性断片は、検出可能な標識を有する試薬によって検出される。
【0154】
ある特定の実施形態では、試料は、尿、血液、血清、血漿、唾液、腹水、循環細胞、循環腫瘍細胞、組織に関連しない細胞(即ち遊離細胞)、組織(例えば手術で切除した腫瘍組織、生検、又は細い針で吸入した組織)、組織学的調製物、その他)からなる群から選択してよい。
【0155】
ある特定の実施形態では、本方法はBCMA発現腫瘍に罹患していると診断された対象にBCMA標的免疫療法を施行する工程をさらに含む。
【0156】
ある特定の実施形態では、BCMA標的免疫療法は、本発明の抗体若しくはその抗原結合性断片又はコンジュゲートを投与する工程を含む。
【0157】
ある特定の実施形態では、BCMA標的免疫療法は、本発明の免疫エフェクター細胞を投与する工程を含む。
【0158】
ある特定の実施形態では、BCMA標的免疫療法は、本発明の第6の態様のキメラ抗原受容体を発現する免疫エフェクター細胞を投与する工程を含む。本方法は以下の工程、即ち(1)免疫エフェクター細胞を提供する工程、(2)本発明のキメラ抗原受容体をコードするヌクレオチド配列を工程(1)に記載した免疫エフェクター細胞内に導入して、キメラ抗原受容体を発現する免疫エフェクター細胞を得る工程、(3)工程(2)で得られた免疫エフェクター細胞及び必要に応じて操作されなかった及び/又は操作に成功しなかった免疫エフェクター細胞を対象に投与する工程を含む。ある特定の実施形態では、工程(1)に先立って、本方法は免疫エフェクター細胞を対象から得る工程をさらに含む。
【0159】
別の態様では、キットの製造における本発明の抗体又はその抗原結合性断片の使用が提供され、ここでキットは対象がBCMA発現腫瘍に罹患しているかどうかを診断するため、又は腫瘍がBCMA標的抗腫瘍療法によって処置できるかどうかを検出するために使用される。
【0160】
用語の定義
本発明では、他に定義しない限り、本明細書で使用される科学用語及び技術用語は、当業者によって一般に理解される意味を有する。さらに、本明細書で使用される細胞培養、分子生物学、生化学、核酸化学、免疫学、その他の操作工程は全て、対応する分野で広く使用される日常的な工程である。一方、本発明をより良く理解するために、関連する用語の定義及び説明を以下に提供する。
【0161】
本明細書で使用される場合、用語「BCMA」は、TNFRSF17又はCD269としても知られているB細胞成熟抗原を指す。BCMAは腫瘍壊死因子受容体ファミリー(TNFR)の一員であり、TNFファミリーリガンドBAFF(B細胞活性化因子)及びAPRIL(増殖誘起リガンド)に結合し、メモリーB細胞及び形質細胞等の最終分化したB細胞において主として発現する。BCMAの遺伝子は染色体16の上にコードされており、184アミノ酸のタンパク質(NP_001183.2)をコードする994ヌクレオチド長さの一次mRNA転写物(NCBI受託番号NM_001192.2)を産生する。
【0162】
本明細書で使用される場合、用語「抗体」は、典型的にはそれぞれの対が軽鎖(LC)及び重鎖(HC)を有する2対のポリペプチド鎖からなる免疫グロブリン分子を指す。抗体の軽鎖はκ(カッパ)及びλ(ラムダ)軽鎖と分類することができる。重鎖はμ、δ、γ、α、又はεと分類することができ、抗体のアイソタイプはそれぞれIgM、IgD、IgG、IgA、及びIgEと定義される。軽鎖及び重鎖の中で、可変領域と定常領域は約12以上のアミノ酸の「J」領域によって連結されており、重鎖は約3以上のアミノ酸の「D」領域をさらに含む。それぞれの重鎖は、重鎖可変領域(VH)及び重鎖定常領域(CH)からなっている。重鎖定常領域は3つのドメイン(CH1、CH2、及びCH3)からなっている。それぞれの軽鎖は、軽鎖可変領域(VL)及び軽鎖定常領域(CL)からなっている。軽鎖定常領域はドメインCLからなっている。定常ドメインは抗体の抗原への結合に直接には寄与しないが、例えば免疫系の種々の細胞(例えばエフェクター細胞)及び古典的補体系の第1成分(C1q)を含む免疫グロブリンの宿主組織又は因子への結合を媒介するなどの種々のエフェクター機能を呈する。VH及びVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる空間を満たす保存領域とともに分散された高度に変性された領域(相補性決定領域(CDR)と称される)に再分割することもできる。VH及びVLのそれぞれは、アミノ末端からカルボキシ末端へ以下の順序、即ちFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、及びFR4に配置された3つのCDRと4つのFRとからなっている。それぞれの重鎖/軽鎖対の可変領域(VH及びVL)は、それぞれ抗原結合部位を形成している。種々の領域又はドメインにおけるアミノ酸の割り付けは、Kabat,「Sequences of Proteins of Immunological Interest」(National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1987及び1991))、又はChothia及びLesk (1987) J. Mol. Biol. 196 : 901~917頁; Chothiaら、(1989) Nature 342: 878~883頁の定義に従ってよい。
【0163】
本明細書で使用される場合、用語「相補性決定領域」又は「CDR」は、抗原結合に関与する抗体の可変領域におけるアミノ酸残基を指す。重鎖及び軽鎖の可変領域はそれぞれCDR1、CDR2、及びCDR3と命名される3つのCDRを含んでいる。これらのCDRの正確な境界は、当技術で既知の種々の番号付けシステムに従って、例えばKabat番号付けシステム(Kabatら、「Sequences of Proteins of Immunological Interest」、第5版、Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md., 1991)、Chothia番号付けシステム(Chothia及びLesk (1987) J. Mol. Biol. 196: 901~917頁; Chothiaら、(1989) Nature 342: 878~883頁)、又はIMGT番号付けシステム(Lefrancら、Dev. Comparat. Immunol. 27: 55~77頁, 2003)に従って定義することができる。所与の抗体について、当業者はそれぞれの番号付けシステムによって定義されるCDRを容易に特定することになる。また、異なる番号付けシステムの間の対応は、当業者には公知である(例えばLefrancら、Dev. Comparat. Immunol. 27: 55~77頁, 2003を参照)。
【0164】
本発明では、本発明の抗体又はその抗原結合性断片に含まれるCDRは、当技術で既知の種々の番号付けシステムに従って決定することができる。ある特定の実施形態では、本発明の抗体又はその抗原結合性断片に含まれるCDRは、好ましくはKabat、Chothia、又はIMGTの番号付けシステムによって決定される。ある特定の実施形態では、本発明の抗体又はその抗原結合性断片に含まれるCDRは、好ましくはKabatの番号付けシステムによって決定される。
【0165】
本明細書で使用される場合、用語「フレームワーク領域」又は「FR」残基は、抗体の可変領域において上で定義したCDR残基以外のアミノ酸残基を指す。
【0166】
用語「抗体」は、抗体を産生するためのいずれの特定の方法にも限定されない。例えば、抗体は組み換え抗体、モノクローナル抗体、及びポリクローナル抗体を含む。抗体は異なるアイソタイプの抗体、例えばIgG(例えばIgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4サブタイプ)、IgA1、IgA2、IgD、IgE、又はIgM抗体であってよい。
【0167】
本明細書で使用される場合、用語、抗体の「抗原結合性断片」は、完全長の抗体が結合する同じ抗原に特異的に結合する能力及び/又は完全長の抗体と競合して抗原に特異的に結合する能力を保持している完全長の抗体の断片を含むポリペプチドを指し、これは「抗原結合性部分」とも称される。一般的には、あらゆる目的のため参照により全体として本明細書に組み込まれるFundamental Immunology、第7章(Paul, W.編、第2版、 Raven Press, NY (1989))を参照されたい。抗体の抗原結合性断片は、組み換えDNA手法によって、又は無傷の抗体の酵素的若しくは化学的な切断によって、産生することができる。抗原結合性断片の非限定的な例には、Fab、Fab'、(Fab')2,、Fv、ジスルフィド連結されたFv、scFv、ジ-scFv、(scFv)2、及びポリペプチドに特異的抗原結合能力を付与するために十分な抗体の少なくとも一部を含むポリペプチドが含まれる。操作された抗体バリアントについては、Holligerら、2005; Nat Biotechnol, 23: 1126~1136頁による総説がある。
【0168】
本明細書で使用される場合、用語「完全長の抗体」は、2つの「完全長の重鎖」及び2つの「完全長の軽鎖」からなる抗体を指す。「完全長の重鎖」は、N末端からC末端への方向に、重鎖可変領域(VH)、重鎖定常領域CH1ドメイン、ヒンジ領域(HR)、重鎖定常領域CH2ドメイン、及び重鎖定常領域CH3ドメインからなるポリペプチド鎖を指し、完全長の抗体がIgEアイソタイプである場合には、重鎖定常領域CH4ドメインが必要に応じてさらに含まれる。好ましくは、「完全長の重鎖」は、N末端からC末端の方向に、VH、CH1、HR、CH2、及びCH3からなるポリペプチド鎖である。「完全長の軽鎖」は、N末端からC末端の方向に、軽鎖可変領域(VL)及び軽鎖定常領域(CL)からなるポリペプチド鎖である。完全長の抗体鎖の2対は、CLとCH1との間のジスルフィド結合及び2つの完全長の重鎖のHRの間のジスルフィド結合によって互いに連結されている。本発明の完全長の抗体はヒト等の単一の種由来でもよく、又はキメラ若しくはヒト化抗体であってもよい。本発明の完全長の抗体は、それぞれVH及びVLの対によって形成された2つの抗原結合部位を含み、これら2つの抗原結合部位は、同じ抗原を特異的に認識/結合する。
【0169】
本明細書で使用される場合、用語「Fd」は、VH及びCH1ドメインからなる抗体断片を指す。用語「dAb断片」は、VHドメインからなる抗体断片を指す(Wardら、Nature 341: 544~546頁(1989))。用語「Fab断片」は、VL、VH、CL、及びCH1ドメインからなる抗体断片を指す。用語「F(ab')2断片」は、ヒンジ領域のジスルフィド結合によって連結された2つのFab断片を含む抗体断片を指す。用語「Fab'断片」は、F(ab')2断片中の2つの重鎖断片を連結するジスルフィド結合を還元することによって得られる断片を指し、これは1つの完全な軽鎖と重鎖のFd断片(VH及びCH1ドメインからなる)とからなっている。
【0170】
本明細書で使用される場合、用語「Fv」は、抗体の1つの腕のVL及びVHドメインからなる抗体断片を指す。Fv断片は一般に、完全な抗原結合部位を形成することができる最小の抗体断片であると考えられている。6個のCDRが抗体に抗原結合特異性を付与していると一般に信じられている。しかし、可変領域(例えば3つの抗原特異的CDRのみを含むFd断片)でさえも、その親和性は完全な結合部位の親和性より低いかも知れないが、抗原を認識して結合することができる。
【0171】
本明細書で使用される場合、用語「Fc」は、抗体の第1の重鎖の第2及び第3の定常領域を、第2の重鎖の第2及び第3の定常領域と、ジスルフィド結合を介して連結することによって形成される抗体断片を指す。抗体のFc断片は多くの異なる機能を有するが、抗原結合には寄与しない。
【0172】
本明細書で使用される場合、用語「scFv」はVL及びVHドメインを含む単一のポリペプチド鎖を指し、VL及びVHはリンカーによって接続されている(例えばBirdら、Science 242:423~426頁(1988); Hustonら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5879~5883頁(1988);及びPluckthun、「The Pharmacology of Monoclonal Antibodies」、113巻、Roseburg及びMoore編、Springer-Verlag, New York, 269~315頁(1994)参照)。そのようなscFv分子は、一般構造:NH2-VL-リンカー-VH-COOH又はNH2-VH-リンカー-VL-COOHを有し得る。好適な先行技術のリンカーは、GGGGSの繰り返しアミノ酸配列又はそのバリアントからなる。例えば、使用したリンカーはアミノ酸配列(GGGGS)4であってよいが、そのバリアントであってもよい(Holligerら、(1993), Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 6444~6448頁)。本発明において有用なその他のリンカーは、Alfthanら(1995), Protein Eng. 8:725~731頁、Choiら(2001), Eur. J. Immunol. 31:94~106頁、Huら(1996), Cancer Res. 56:3055~3061頁、Kipriyanovら(1999), J. Mol. Biol. 293:41~56頁、及びRooversら(2001), Cancer Immunolによって記載されている。一部の例では、scFvのVHとVLとの間にジスルフィド結合が存在してもよい。本発明のある特定の実施形態では、scFvは、直列に連結された2つ以上の単一のscFvで形成された抗体を指すジ-scFvを形成してもよい。本発明のある特定の実施形態では、scFvは、並列に連結された2つ以上の単一のscFvで形成された抗体を指す(scFv)2を形成してもよい。
【0173】
上述の抗体断片のそれぞれは、完全長の抗体が結合する同じ抗原に特異的に結合する能力、及び/又は完全長の抗体と競合して、抗原に特異的に結合する能力を保持している。
【0174】
抗体の抗原結合性断片(例えば上記の抗体断片)は、当業者には既知の従来の手法(例えば組み換えDNA手法又は酵素的若しくは化学的な断片化法)を使用して、所与の抗体(例えば本発明で提供される抗体)から得ることができ、また抗体の抗原結合性断片は、無傷の抗体について使用した同じ様式で特異性についてスクリーニングすることができる。
【0175】
本明細書において、明確に特定しない限り、用語「抗体」に言及する場合には、これは無傷の抗体のみでなく、抗体の抗原結合性断片をも含む。
【0176】
本明細書で使用される場合、用語「ヒト化抗体」は、そのアミノ酸配列が、ヒト抗体の配列との相同性が増大するように改変された、遺伝子操作された非ヒト抗体を指す。一般に、ヒト化抗体のCDR領域の全部又は一部は非ヒト抗体(ドナー抗体)から誘導され、非CDR領域の全部又は一部(例えば可変領域FR及び/又は定常領域)はヒト免疫グロブリン(レセプター抗体)から誘導される。ヒト化抗体は一般に、抗原特異性、親和性、反応性、その他を含むがそれらに限定されないドナー抗体の予想される特性を保持している。ドナー抗体は、予想される特性(例えば抗原特異性、親和性、反応性、その他)を有するマウス、ラット、ウサギ、又は非ヒト霊長類(例えばカニクイザル)の抗体であってよい。
【0177】
ヒト化抗体は、非ヒトドナー抗体(例えばマウス抗体)の予想される特性を保持し得るだけでなく、ヒト対象における非ヒトドナー抗体(例えばマウス抗体)の免疫原性を効果的に低減することができ、したがってこれは特に有利である。しかし、ドナー抗体のCDRとレシピエント抗体のFRとの間のマッチングの問題により、ヒト化抗体の予想される特性(例えば抗原特異性、親和性、反応性、免疫細胞の活性を増大させる能力、及び/又は免疫応答を増強させる能力)は一般に、非ヒトドナー抗体(例えばマウス抗体)の特性よりも低い。
【0178】
したがって、当分野の研究者らが抗体のヒト化について詳細な研究を行ない、ある程度の進歩があったものの、どのようにしてあるドナー抗体を完全にヒト化し、それにより生成したヒト化抗体が可能な限り最も高いヒト化の程度を有し、ドナー抗体の予想される特性をできるだけ多く保持することができるようにするかについて、当技術における詳細なガイダンスはまだ欠けている。高いヒト化の程度を有し、特定のドナー抗体の予想される特性を保持したヒト化抗体を得るために、専門家は多くの創造的な仕事によって特定のドナー抗体を探索し、研究し、改変しなければならない。
【0179】
本明細書で使用される場合、用語「生殖細胞系列抗体遺伝子」又は「生殖細胞系列抗体遺伝子断片」は、免疫グロブリンをコードする生命体のゲノムの中に存在し、遺伝子の再配置及び特定の免疫グロブリンの発現のための変異をもたらし得る成熟プロセスを受けていない配列を指す。本発明では、用語「重鎖生殖細胞系列遺伝子」は、免疫グロブリン重鎖をコードする生殖細胞系列抗体遺伝子又は遺伝子断片を指し、これはV遺伝子(可変)、D遺伝子(多様性)、J遺伝子(接合)、及びC遺伝子(定常)を含む。同様に、用語「軽鎖生殖細胞系列遺伝子」は、免疫グロブリン軽鎖をコードする生殖細胞系列抗体遺伝子又は遺伝子断片を指し、これはV遺伝子(可変)、J遺伝子(結合)、及びC遺伝子(定常)を含む。本発明では、生殖細胞系列抗体遺伝子又は生殖細胞系列抗体遺伝子断片によってコードされるアミノ酸配列は、「生殖細胞系列配列」とも称される。生殖細胞系列抗体遺伝子又は生殖細胞系列抗体遺伝子断片、並びにその対応する生殖細胞系列配列は、当業者には公知であり、専門的データベース(例えばIMGT、UNSWIg、NCBI、又はVBASE2)から得られ、又は問い合わせることができる。
【0180】
本明細書で使用される場合、用語「特異的に結合する」又は「特異的結合」は、2つの分子の間のランダムでない結合反応、例えば抗体とそれが指向する抗原との間の反応を指す。特異的結合相互作用の強さ又は親和性は、相互作用の平衡解離定数(KD)の用語で表すことができる。本発明では、用語「KD」は特定の抗体-抗原相互作用の解離平衡定数を指し、これは抗体と抗原との間の結合親和性を記述するために使用される。平衡解離定数が低くなれば抗体-抗原結合が高くなり、抗体と抗原との間の親和性が高くなる。
【0181】
2つの分子の間の特異的結合特性は、当技術で既知の方法を使用して決定することができる。1つの方法には、抗原結合部位/抗原の複合体の形成及び解離の速度を測定することが含まれる。「会合速度定数」(ka又はkon)と「解離速度定数」(kdis又はkoff)のいずれも、濃度及び実際の会合と解離の速度から計算することができる(Malmqvist M, Nature, 1993, 361: 186~187頁を参照)。kdis/konの比は、解離定数KDに等しい(Daviesら、Annual Rev Biochem, 1990; 59: 439~473頁を参照)。任意の有効な方法を使用して、KD、kon、及びkdisの値を測定することができる。ある特定の実施形態では、表面プラズモン共鳴(SPR)を使用して、Biacoreにおける解離定数を測定することができる。さらに、生物発光インターフェロメトリー又はKinexaを使用して、解離定数を測定することもできる。
【0182】
本明細書で使用される場合、用語「キメラ抗原受容体(CAR)」は、少なくとも1つの細胞外抗原結合ドメイン、スペーサードメイン、膜貫通ドメイン、及び細胞内シグナル伝達ドメインを含み、目的の抗原(例えばBCMA)に対する抗体に基づく特異性と、細胞内ドメインを活性化して目的の抗原(例えばBCMA)を発現する細胞に対する特異的免疫活性を呈する免疫エフェクター細胞とを組み合わせる組み換えポリペプチド構築物を指す。本発明では、「CAR発現免疫エフェクター細胞」という表現は、CARを発現し、CARの標的ドメインによって決定される抗原特異性を有する免疫エフェクター細胞を指す。(例えばがんの治療のために)CARを作成する方法は当技術で既知であり、例えばParkら、Trends Biotechnol., 29:550~557頁, 2011; Gruppら、NEnglJMed., 368:1509~1518頁, 2013; Hanら、J. Hematol Oncol., 6:47頁, 2013; PCT特許公開WO2012/079000, WO2013/059593;及び米国特許公開2012/0213783を参照されたい。これら全ては参照により全体として本明細書に組み込まれる。この論文では、「抗BCMA CAR」という表現は、BCMAに特異的に結合することができる細胞外抗原結合ドメインを含むCARを指し、「抗BCMA CAR-T」という表現は、CARを発現する免疫エフェクター細胞(例えばPBMC、例えばT細胞)を指す。本明細書で使用される場合、「ヒト化CAR」という表現は、ヒト化抗体から誘導される細胞外抗原結合ドメインを含むCARを指す。同様に、「マウスCAR」という表現は、マウス抗体から誘導される細胞外抗原結合ドメインを含むCARを指す。
【0183】
本明細書で使用される場合、用語「細胞外抗原結合ドメイン」は、目的の抗原又は受容体に特異的に結合することができるポリペプチドを指す。このドメインは、細胞表面分子と相互作用することができる。例えば、細胞外抗原結合ドメインは、特定の疾患状態に付随する標的細胞の細胞表面マーカーである抗原を認識するように選択することができる。典型的には、細胞外抗原結合ドメインは、抗体から誘導された標的ドメインである。
【0184】
本明細書で使用される場合、用語「細胞内シグナル伝達ドメイン」は、エフェクター機能シグナルを変換して、細胞に特別の機能を遂行するように指令するタンパク質の部分を指す。即ち、細胞内シグナル伝達ドメインは、CARを発現する免疫エフェクター細胞の少なくとも1つの正常なエフェクター機能を活性化する能力を有している。例えば、T細胞のエフェクター機能は細胞溶解活性又はヘルパー活性であってよく、サイトカインの分泌を含む。
【0185】
本明細書で使用される場合、用語「一次シグナル伝達ドメイン」は、TCR複合体の一次活性化を刺激的様式又は阻害的様式で調節することができるタンパク質の部分を指す。刺激的様式で作用する一次シグナル伝達ドメインは、典型的には免疫受容体チロシン系活性化モチーフ(ITAM)として知られるシグナル伝達モチーフを含む。本発明において特に有用なITAM含有一次シグナル伝達ドメインの非限定的な例には、TCRζ、FcRγ、FcRβ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD3ζ、CD22、DAP10、CD79a、CD79b、及びCD66dから誘導されるドメインが含まれる。
【0186】
本明細書で使用される場合、用語「共刺激性シグナル伝達ドメイン」は、共刺激分子の細胞内シグナル伝達ドメインを指す。共刺激分子は抗原受容体又はFc受容体以外の細胞表面分子であり、抗原に結合した後でTリンパ球の高度に効率的な活性化及び機能のために必要な第2のシグナルを提供する。そのような共刺激分子の非限定的な例には、CARD11、CD2、CD7、CD27、CD28、CD30、CD40、CD54 (ICAM)、CD83、CD134 (OX40)、CD137 (4-1BB)、CD150 (SLAMF1)、CD270 (HVEM)、CD278 (ICOS)、DAP10が含まれる。
【0187】
本明細書で使用される場合、用語「免疫エフェクター細胞」は、1つ又は複数のエフェクター機能(例えば細胞傷害性殺細胞活性、サイトカインの分泌、ADCC及び/又はCDCの誘起)を有する免疫系の任意の細胞を指す。典型的には、免疫エフェクター細胞は造血系起源の細胞であり、免疫応答で役割を果たしている。用語「エフェクター機能」は、免疫エフェクター細胞の特別の機能、例えば標的細胞に対する免疫攻撃を増強し又は容易にする機能又は応答(例えば標的細胞の殺滅、又はその成長若しくは増殖の阻害)を指す。T細胞のエフェクター機能は、例えば細胞溶解活性又はヘルパー活性又はサイトカインの分泌を含む活性であってよい。免疫エフェクター細胞の例には、T細胞(例えばα/β T細胞及びγ/δ T細胞)、B細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、ナチュラルキラーT(NKT)細胞、肥満細胞、及び骨髄誘導マクロファージが含まれる。
【0188】
本発明の免疫エフェクター細胞は、自己/自家(「自己」)又は非自己(「非自家」、例えば同種、同系、又は異種)であってよい。本明細書で使用される場合、「自己」は同じ対象に由来する細胞を指し、「同種」は比較のための細胞とは遺伝的に異なる同じ種の細胞を指す。「同系」は比較のための細胞と遺伝的に同一の異なる対象に由来する細胞を指し、「異種」は比較のための細胞とは異なる種に由来する細胞を指す。好ましい実施形態では、本発明の細胞は同種である。
【0189】
本明細書に記載したCARに有用な例示的な免疫エフェクター細胞には、Tリンパ球が含まれる。用語「T細胞」又は「Tリンパ球」は当技術で公知であり、胸腺細胞、未成熟Tリンパ球、成熟Tリンパ球、休眠Tリンパ球、又は活性化Tリンパ球を含むことが意図されている。T細胞はTヘルパー(Th)細胞、例えばTヘルパー1(Th1)又はTヘルパー2(Th2)細胞であってよい。T細胞はヘルパーT細胞(HTL; CD4 T細胞)、CD4 T細胞、細胞傷害性T細胞(CTL; CD8 T細胞)、CD4CD8 T細胞、CD4CD8 T細胞、又はその他の任意のT細胞のサブセットであってよい。ある特定の実施形態では、T細胞にはナイーブT細胞及びメモリーT細胞が含まれる。
【0190】
当業者であれば、NK細胞等の他の細胞も本明細書に記載したようにCARとともに免疫エフェクター細胞として使用することができることが認識される。具体的には、免疫エフェクター細胞にはNK細胞、単球、マクロファージ又は樹状細胞、NKT細胞、好中球、及びマクロファージも含まれる。免疫エフェクター細胞には免疫エフェクター細胞の先駆細胞も含まれ、先駆細胞はin vivo又はin vitroで誘起されて免疫エフェクター細胞に分化する。即ち、ある特定の実施形態では、免疫エフェクター細胞には、免疫エフェクター細胞の先駆細胞、例えば臍帯血、骨髄、又は末梢血から誘導されるCD34+細胞の集団に含まれ、投与後に成熟免疫エフェクター細胞に分化するか、又はin vitroで誘起されて成熟免疫エフェクター細胞に分化することができる造血系幹細胞(HSC)が含まれる。
【0191】
本明細書で使用される場合、用語「細胞傷害性薬剤」は、細胞に対して有害な(例えば死滅させる)任意の薬剤、例えば化学療法薬、細菌毒素、植物毒素、又は放射性同位元素、その他を含む。
【0192】
本明細書で使用される場合、用語「ベクター」は、その中にポリヌクレオチドを挿入することができる核酸ビヒクルを指す。挿入されたポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質の発現をベクターが可能にする場合には、そのベクターは発現ベクターと称される。ベクターは形質転換、形質導入、又はトランスフェクションによって宿主細胞に導入することができ、それによりベクターに運搬される遺伝材料エレメントが宿主細胞中で発現することができる。ベクターは当業者には公知であり、プラスミド、ファージミド、コスミド、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC)、又はP1誘導人工染色体(PAC)等の人工染色体、λファージ又はM13ファージ等のファージ、及び動物ウイルスを含むがこれらに限定されない。ベクターとして使用することができる動物ウイルスには、レトロウイルス(レンチウイルスを含む)、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス(例えばヘルペスシンプレックスウイルス)、ポックスウイルス、バキュロウイルス、パピローマウイルス、パポバウイルス(例えばSV40)が含まれるがこれらに限定されない。ベクターは、プロモーター配列、転写開始配列、エンハンサー配列、選択エレメント、及びレポーター遺伝子を含むがこれらに限定されない、発現を制御する種々のエレメントを含み得る。さらに、ベクターは複製開始部位を含んでもよい。
【0193】
本明細書で使用される場合、用語「エピソーマルベクター」において、「エピソーマル」は、ベクターが宿主細胞の染色体DNAの中に一体化せずに複製することができ、分裂する宿主細胞の中で徐々に失われないことを指し、またベクターが染色体外であるか、若しくは独立に複製することを指す。
【0194】
本明細書で使用される場合、用語「ウイルスベクター」は幅広く使用され、典型的には細胞のゲノム中への核酸分子の移送若しくは一体化を容易にするウイルス誘導核酸エレメント又は核酸の移送を媒介するウイルス粒子を含む核酸分子(例えば移送プラスミド)を指す。核酸に加えて、ウイルス粒子には、典型的には種々のウイルス成分、及び時には宿主細胞の成分が含まれる。用語「ウイルスベクター」は、細胞内に核酸を移送することができるウイルス若しくはウイルス粒子、又は移送された核酸それ自体を指し得る。ウイルスベクター及び移送プラスミドは、一次的にはウイルスから誘導された構造的及び/又は機能的な遺伝エレメントを含む。
【0195】
本明細書で使用される場合、用語「レトロウイルスベクター」は、一次的にレトロウイルスから誘導された構造的及び機能的な遺伝エレメント又はその分画を含むウイルスベクター又はプラスミドを指す。
【0196】
本明細書で使用される場合、用語「レンチウイルスベクター」は、一次的にレンチウイルスから誘導された構造的及び機能的な遺伝エレメント又はその分画(LTRを含む)を含むウイルスベクター又はプラスミドを指す。ある特定の実施形態では、用語「レンチウイルスベクター」、「レンチウイルス発現ベクター」は、レンチウイルス移送プラスミド及び/又は感染性レンチウイルス粒子を指すために使用し得る。本明細書においてエレメント(例えばクローニング部位、プロモーター、制御エレメント、異種核酸、その他)に言及する場合には、これらのエレメントの配列が本発明のレンチウイルス粒子の中にRNAの形態で、また本発明のDNAプラスミドの中にDNAの形態で、存在していることを理解されたい。
【0197】
本明細書で使用される場合、「インテグレーション欠損型」レトロウイルス又はレンチウイルスは、ウイルスゲノムを宿主細胞のゲノムの中に統合することができないインテグラーゼを有するレトロウイルス又はレンチウイルスを指す。ある特定の実施形態では、インテグラーゼタンパク質は、そのインテグラーゼ活性が特異的に低下するように変異している。インテグレーション欠損型レンチウイルスベクターは、インテグラーゼタンパク質をコードするpol遺伝子を改変して、インテグレーション欠損型インテグラーゼをコードするミュータントpol遺伝子を生成させることによって得ることができる。そのようなインテグレーション欠損型ウイルスベクターは、参照により全体として本明細書に組み込まれる特許出願WO2006/010834に記載されている。
【0198】
本明細書で使用される場合、用語「宿主細胞」は、その中にベクターを導入することができる細胞を指し、これには、それだけに限らないが、大腸菌(E.coli)若しくは枯草菌(Bacillus subtilis)等の原核細胞、酵母細胞若しくはアスペルギルス(Aspergillus)等の真菌細胞、S2ドロソフィラ(Drosophila)細胞若しくはSf9等の昆虫細胞、又は線維芽細胞、CHO細胞、COS細胞、NSO細胞、HeLa細胞、BHK細胞、HEK293細胞、若しくはヒト細胞、免疫細胞、(例えばTリンパ球、NK細胞、単球、マクロファージ、又は樹状細胞、その他)等の動物細胞が含まれる。宿主細胞は単一の細胞又は細胞の集団を含み得る。
【0199】
本明細書で使用される場合、用語「同一性」は、2つのポリペプチドの間、又は2つの核酸の間の一致の程度を指す。比較する2つの配列がある部位において塩基又はアミノ酸の同じモノマーサブユニットを有する(例えば2つのDNA分子のそれぞれがある部位においてアデニンを有するか、又は2つのポリペプチドのそれぞれがある部位においてリシンを有する)場合、その2つの分子はその部位において同一である。2つの配列の間の同一性パーセントは、比較する部位の全数にわたって2つの配列によって共有される同一の部位の数の100倍の関数である。例えば、2つの配列の10部位のうち6部位が一致すれば、これら2つの配列は60%の同一性を有する。例えば、DNA配列CTGACTとCAGGTTは50%の同一性を共有する(6部位のうち3部位が一致する)。一般に、2つの配列の比較は、最大の同一性が生成するような様式で行なわれる。そのようなアラインメントは、Needlemanら(J. Mol. Biol. 48:443~453頁, 1970)の方法に基づくAlignプログラム(DNAstar, Inc.社)等のコンピュータープログラムを使用して行なうことができる。2つのアミノ酸配列の間の同一性パーセントも、ALIGNプログラム(バージョン2.0)に組み込まれたE. Meyers及びW. Miller (Comput. Appl. Biosci., 4:11~17頁(1988))のアルゴリズムを使用し、PAM120重み残基表、ギャップ長さペナルティ12、及びギャップペナルティ4を使用して決定することができる。さらに、2つのアミノ酸配列の間の同一性パーセントは、GCGソフトウェアパッケージ(http://www.gcg.comで利用可能)の中のGAPプログラムに組み込まれたNeedleman及びWunsch (J. Mol. Biol. 48:444~453頁(1970))のアルゴリズムにより、Blossum 62マトリックス又はPAM250マトリックス、並びにギャップ重み16、14、12、10、8、6、若しくは4、及び長さ重み1、2、3、4、5、若しくは6を使用して決定することができる。
【0200】
本明細書で使用される場合、用語「保存的置換」及び「保存的アミノ酸置換」は、そのアミノ酸配列を含むタンパク質/ポリペプチドの予想される特性に不利益に影響せず又は変化させないアミノ酸置換を指す。例えば、保存的置換は、当技術で既知の標準的な手法、例えば部位指向性突然変異生成及びPCR媒介突然変異生成によって導入することができる。保存的アミノ酸置換には、アミノ酸残基が同様の側鎖を有する別のアミノ酸残基、例えば対応するアミノ酸残基と物理的又は機能的に同様の(例えば同様の大きさ、形状、電荷、共有結合又は水素結合を形成する能力を含む化学的特性、その他を有する)残基によって置換される置換が含まれる。同様の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当技術で定義されている。これらのファミリーには、塩基性側鎖を有するアミノ酸(例えばリシン、アルギニン、及びヒスチジン)、酸性側鎖を有するアミノ酸(例えばアスパラギン酸及びグルタミン酸)、非荷電極性側鎖を有するアミノ酸(例えばグリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン、トリプトファン)、非極性側鎖を有するアミノ酸(例えばアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン)、β分枝側鎖を有するアミノ酸(スレオニン、バリン、イソロイシン等)、及び芳香族側鎖を有するアミノ酸(例えばチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)が含まれる。したがって、対応するアミノ酸残基は、好ましくは同じ側鎖ファミリー由来の別のアミノ酸残基で置換される。アミノ酸の保存的置換を特定するための方法は当技術で公知である(例えば、参照により本明細書に組み込まれるBrummellら、Biochem. 32: 1180~1187頁(1993); Kobayashiら、Protein Eng. 12(10): 879~884頁(1999);及びBurksら、Proc. Natl Acad. Set USA 94: 412~417頁(1997)を参照されたい)。
【0201】
本明細書に関与する20個の従来のアミノ酸は、日常的な方法に従って表現される。例えば、参照により本明細書に組み込まれる「Immunology-A Synthesis」(第2版、E. S. Golub 及び D. R. Gren編、Sinauer Associates, Sunderland, Mass. (1991))を参照されたい。本発明では、用語「ポリペプチド」と「タンパク質」は同じ意味を有し、相互交換可能に使用することができる。さらに本発明では、アミノ酸は一般に一文字コード及び三文字コードで表現される。例えば、アラニンはA又はAlaと表現される。
【0202】
本明細書で使用される場合、用語「薬学的に許容される担体及び/又は賦形剤」は、対象及び活性成分と薬理学的及び/又は生理学的に適合する担体及び/又は賦形剤を指し、これは当技術で公知であり(例えばRemington's Pharmaceutical Sciences. Gennaro AR編, 19版、 Pennsylvania: Mack Publishing Company, 1995)を参照)、それだけに限らないがpH調整剤、界面活性剤、アジュバント、イオン強度増強剤、希釈剤、浸透圧保持剤、吸収遅延剤、保存剤が含まれる。例えば、pH調整剤には、それだけに限らないがリン酸塩緩衝食塩水が含まれる。界面活性剤には、それだけに限らないがカチオン性、アニオン性、Tween-80等の非イオン性界面活性剤が含まれる。イオン強度増強剤には、それだけに限らないが塩化ナトリウムが含まれる。保存剤には、それだけに限らないが種々の抗菌剤及び抗真菌剤、例えばパラベン、トリクロロ-t-ブタノール、フェノール、ソルビン酸、その他が含まれる。浸透圧保持剤には、それだけに限らないがショ糖、NaCl、その他が含まれる。吸収遅延剤には、それだけに限らないがモノステアレート及びゼラチンが含まれる。希釈剤には、それだけに限らないが水、水性緩衝液(例えば緩衝食塩水)、アルコール類及びポリオール類(例えばグリセロール)、その他が含まれる。保存剤には、それだけに限らないが種々の抗菌剤及び抗真菌剤、例えばチメロサール、2-フェノキシエタノール、パラベン、トリクロロ-t-ブタノール、フェノール、ソルビン酸、その他が含まれる。安定剤は当業者によって共通に理解される意味を有し、薬物中の活性成分の所望の活性を安定化させることができ、それだけに限らないがグルタミン酸ナトリウム、ゼラチン、SPGA、糖類(例えばソルビトール、マンニトール、デンプン、スクロース、ラクトース、デキストラン、又はグルコース)、アミノ酸(例えばグルタミン酸、グリシン)、タンパク質(例えば乾燥ホエイ、アルブミン、又はカゼイン)、又はそれらの分解産物(例えばラクトアルブミン加水分解物)等を含む。ある特定の例示的な実施形態では、薬学的に許容される担体又は賦形剤には、無菌の注射可能な液体(例えば水性又は非水性の懸濁液又は溶液)が含まれる。ある特定の例示的な実施形態では、そのような無菌の注射可能な液体は、注射用水(WFI)、静菌性注射用水(BWFI)、塩化ナトリウム溶液(例えば0.9%(w/v) NaCl)、グルコース溶液(例えば5%グルコース)、界面活性剤含有溶液(例えば0.01%ポリソルベート20)、pH緩衝溶液(例えばリン酸塩緩衝溶液)、リンゲル溶液、及びそれらの任意の組合せからなる群から選択される。
【0203】
本明細書で使用される場合、用語「防止/防止する」は、対象における疾患又は障害又は症状(例えば腫瘍)の発生を防止し又は遅延させるために実施される方法を指す。本明細書で使用される場合、用語「処置/処置する」は、有益な又は所望の臨床的結果を得るために実施される方法を指す。本発明の目的のため、有益な又は所望の臨床的結果には、それだけに限らないが、検知可能であっても検知可能でなくても、症状の緩和、疾患の範囲の低減、疾患の状態の安定化(即ちもはや悪化しないこと)、疾患の進行の遅延又は減速、疾患の状態の改善又は軽減、及び症状の軽減(部分的又は全面的)が含まれる。さらに、用語「処置/処置する」は、(処置を受けなかった場合に)予想される生存期間と比較して延長された生存期間を指すこともある。
【0204】
本明細書で使用される場合、用語「対象」は、哺乳動物、例えば霊長類、例えばヒトを指す。ある特定の実施形態では、用語「対象」は、その中で免疫応答を誘発することができる生命体を含むことを意味する。ある特定の実施形態では、対象(例えばヒト)は、B細胞関連疾患(例えばB細胞悪性疾患)を有しているか、そのリスクにある。
【0205】
本明細書で使用される場合、用語「有効量」は、所望の効果を得るため、又は少なくとも部分的に得るために十分な量を指す。例えば、疾患(例えばB細胞関連疾患)の予防有効量は、疾患(例えばB細胞関連疾患)の発症を防止するか停止するか又は遅延させるために十分な量を指す。疾患の治療有効量は、既に疾患を有している患者における疾患及びその合併症を治癒するか又は少なくとも部分的に防止するために十分な量を指す。そのような有効量の決定は、十分に当業者の能力の中にある。例えば、治療有効量は、処置すべき疾患の重症度、患者自身の免疫系の一般的状態、年齢、体重、及び性別等の患者の一般的状態、薬物の投与経路、及びその他の同時に施行される療法等に依存することになる。
【0206】
本明細書で使用される場合、用語「B細胞関連疾患」は、それだけに限らないがB細胞悪性疾患又はB細胞関連自己免疫疾患を含む、不適切なB細胞活性及びB細胞悪性疾患が関与する疾患状態を指す。本明細書で使用される場合、用語「B細胞悪性疾患」には、B細胞(一種の免疫系細胞)中で進行するがんの型、例えば多発性骨髄腫(MM)及び非ホジキンリンパ腫(NHL)が含まれる。
本発明の有益な効果
【0207】
本発明は、マウス抗体の活性と等価なBCMA発現腫瘍細胞への結合活性を維持しながら、正常組織細胞への非特異結合を顕著に低減することができるBCMA標的ヒト化抗体を提供し、これは非特異的毒性の低減及び薬物安全性の改善に有益である。本発明はさらに、ヒト化抗体を含むBCMA標的キメラ抗原受容体を提供する。本発明のキメラ抗原受容体を発現する免疫エフェクター細胞は、抗原非依存性サイトカイン放出を基本的に惹起せず、T細胞の連続的な活性化及び消尽を誘起せず、かつ顕著に改善された安全性を有している。したがって、本発明のヒト化抗体及びCARは、B細胞関連疾患(例えばB細胞悪性疾患、自己免疫疾患、その他)の防止及び/又は処置への可能性を有し、大きな臨床的価値を有している。
【0208】
本発明の実施形態を図面及び実施例を参照して以下に詳細に記載するが、当業者であれば、以下の図面及び実施例は本発明の範囲を限定するよりむしろ、本発明を説明するためにのみ使用されることが理解されよう。本発明の種々の目的及び有利な態様は、添付した図面及び以下の好ましい実施形態の詳細な説明から、当業者には明白になる。
【図面の簡単な説明】
【0209】
【
図1】ヒト化抗体C11D5.3-03、C11D5.3-04、及び親マウス抗体C11D5.3の、組み換えヒトBCMAタンパク質に対する結合曲線を示す図である。
【
図2】ヒト化抗体C11D5.3-03、C11D5.3-04、及び親マウス抗体C11D5.3の、ヒト多発性骨髄腫細胞株U266に対する用量依存性結合曲線を示す図である。
【
図3】ヒト化抗体C11D5.3-03、C11D5.3-04、及び親マウス抗体C11D5.3の、ヒト多発性骨髄腫細胞株MM.1Sに対する用量依存性結合曲線を示す図である。
【
図4】ヒト化抗体C11D5.3-03、C11D5.3-04、及び親マウス抗体C11D5.3の、ヒト多発性骨髄腫細胞株RPMI8226に対する用量依存性結合曲線を示す図である。
【
図5】ヒト化抗体C11D5.3-03、C11D5.3-04、及び親マウス抗体C11D5.3の、BCMAを発現しないヒトバーキットリンパ腫細胞Daudiに対する用量依存性結合曲線を示す図である。
【
図6】ヒト化抗体C11D5.3-03、C11D5.3-04、及び親マウス抗体C11D5.3の、ヒト不死化角化細胞株Hacatに対する結合曲線を示す図である。
【
図7】ヒト化抗体C11D5.3-03、C11D5.3-04、及び親マウス抗体C11D5.3の、ヒト胃粘膜上皮細胞株GESに対する結合曲線を示す図である。
【
図8】C11D5.3-CAR又はヒト化したC11D5.3-03-CAR及びC11D5.3-04-CARによって形質導入したT細胞におけるBCMA-CARの発現を示す図である。
【
図9】C11D5.3 CAR-T又はヒト化したC11D5.3-03 CAR-T、C11D5.3-04 CAR-TのIFNγ放出アッセイの結果を示す図である。
【
図10】C11D5.3 CAR-T又はヒト化したC11D5.3-03 CAR-T、C11D5.3-04 CAR-TのIL2放出アッセイの結果を示す図である。
【
図11】C11D5.3 CAR-T又はヒト化したC11D5.3-03 CAR-T及びC11D5.3-04 CAR-Tによって惹起されるU266殺滅のLDH放出アッセイの結果を示す図である。
【
図12】C11D5.3 CAR-T又はヒト化したC11D5.3-03 CAR-T及びC11D5.3-04 CAR-Tによって惹起されるDaudi殺滅のLDH放出アッセイの結果を示す図である。
【
図13】抗原刺激の非存在下の無血清培養系におけるC11D5.3 CAR-T又はヒト化C11D5.3-03 CAR-T、C11D5.3-04 CAR-T、及びトランスフェクトしていないPBMC細胞のIL4の放出レベルの検出結果を示す図である。
【
図14】抗原刺激の非存在下の無血清培養系におけるC11D5.3 CAR-T又はヒト化C11D5.3-03 CAR-T、C11D5.3-04 CAR-T、及びトランスフェクトしていないPBMC細胞のIL6の放出レベルの検出結果を示す図である。
【
図15】抗原刺激の非存在下の無血清培養系におけるC11D5.3 CAR-T又はヒト化C11D5.3-03 CAR-T、C11D5.3-04 CAR-T、及びトランスフェクトしていないPBMC細胞のIL10の放出レベルの検出結果を示す図である。
【
図16】抗原刺激の非存在下の無血清培養系におけるC11D5.3 CAR-T又はヒト化C11D5.3-03 CAR-T、C11D5.3-04 CAR-T、及びトランスフェクトしていないPBMC細胞のTNFαの放出レベルの検出結果を示す図である。
【
図17】抗原刺激の非存在下の無血清培養系におけるC11D5.3 CAR-T又はヒト化C11D5.3-03 CAR-T、C11D5.3-04 CAR-T、及びトランスフェクトしていないPBMC細胞のIFNγの放出レベルの検出結果を示す図である。
【
図18】抗原刺激の非存在下の5%ヒト血清を含む培養系におけるC11D5.3 CAR-T又はヒト化C11D5.3-03 CAR-T、C11D5.3-04 CAR-T、及びトランスフェクトしていないPBMC細胞のIL4、IL6、IL10、TNFα、及びIFNγの放出レベルの検出結果を示す図である。
【
図19】CAR-T細胞の表面におけるHLA-DRの発現レベルの検出結果を示す図である。
【
図20】CAR-T細胞の表面におけるCD25の発現レベルの検出結果を示す図である。
【
図21】C11D5.3-03 CAR-T、C11D5.3-04 CAR-T、C11D5.3 CAR-T、及び対照PBMCにおける活性化カスパーゼ-3の発現レベルの検出結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0210】
配列情報
本発明に関与する部分配列の情報を、下のTable 1(表1)に提供する。
【0211】
【実施例】
【0212】
ここで以下の実施例を参照して本発明を説明する。実施例は本発明を説明することを意図しているが、限定することを意図していない。
【0213】
他に特定しない限り、本発明で使用した分子生物学の実験法及び免疫アッセイは、基本的にJ. Sambrookら、「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989、及びFM Ausubelら、「Refined Laboratory Guide for Molecular Biology」、第3版、John Wiley & Sons, Inc., 1995を参照している。制限酵素は、製品メーカーが推奨する条件に従って使用した。当業者であれば、実施例は例のために本発明を記載しており、特許請求する本発明の範囲を限定することを意図していないことを認識する。
【0214】
(実施例1)
抗BCMAマウス抗体のヒト化及びヒト化抗体の調製
抗体とヒト抗体との間の配列相同性を改善し、ヒトに対する抗体の免疫原性を低減させるために、マウス抗体C11D5.3(その重鎖可変領域配列及び軽鎖可変領域配列がCN201510142069.2においてそれぞれ配列番号3及び配列番号2と称される)を、マウスのCDR領域をヒトのフレームワーク配列に挿入する当技術で既知の方法を使用して、ヒト化のための設計に供した(Winterの米国特許第5,225,539号、Queenらの米国特許第5,530,101号、第5,585,089号、第5,693,762号、及び第6,180,370号、並びにLo, Benny, KC,編、「Antibody Engineering: Methods and Protocols」、248巻, Humana Press, New Jersey, 2004を参照)。一般に、ヒト化抗体のCDR領域の全部又は一部は非ヒト抗体(ドナー抗体)から誘導され、非CDR領域の全部又は一部(例えば可変領域FR及び/又は定常領域)は、ヒト免疫グロブリン(レセプター抗体)から誘導される。上記の方法に従い、また広範囲のスクリーニングの後で、マウス抗体C11D5.3のCDRに基づいて2つのヒト化抗体(scFv)を構築し、それぞれC11D5.3-03及びC11D5.3-04と命名した。C11D5.3-03のVH及びVLはそれぞれ配列番号1及び配列番号2で説明され、C11D5.3-04のVH及びVLはそれぞれ配列番号3及び配列番号4で説明される。さらに、参照抗体としてマウス抗体C11D5.3(scFv)を調製した。
【0215】
上記の抗体をコードする発現プラスミドで過渡的にトランスフェクトしたHEK293-F細胞(Invitrogen社、R7909)を、Freestyle 293発現培地(Invitrogen社、12338018)中で培養し、CO2インキュベーター中、37℃で5~7日インキュベートした。遠心分離によって細胞及び細胞デブリを除去して培養上清を収集し、0.22μmの膜を通して濾過した。精製はメーカーの説明書に従ってプロテインAカラム(GE Life Science社、17127901)を使用して実施し、PBSで洗浄した後、20mMのクエン酸塩及び150mMのNaClを含む酸性緩衝液(pH3.5)を使用して抗体を溶出させ、溶出液を1MのTris(pH8.0)で中和し、PBSに対して透析した。抗体の濃度は280nmにおける吸光度を測定して決定し、分注した抗体を-80℃の冷凍庫で保存した。
【0216】
(実施例2)
組み換えヒトBCMAタンパク質に対する抗BCMAヒト化抗体の親和性の評価
ヒトBCMAタンパク質に対する抗体の結合活性を、ELISA法を使用して評価し、ELISAにおける用量依存性結合曲線を使用して、抗体の効力を比較した。
【0217】
BCMAタンパク質(Sino Biological社、10620-H08H)をPBS中で1μg/mLに希釈し、100μLのタンパク質溶液をELISAプレートの各ウェルに加え、4℃で一夜インキュベートした。プレートを洗浄緩衝液(PBS、0.05% Tween20)で3回洗浄し、200μl/wのPBS及び2% BSAのブロッキング溶液を加えることによって非特異部位をブロックした。C11D5.3-03、C11D5.3-04、又はマウス抗体C11D5.3を加え、37℃で2時間インキュベートした。プレートを洗浄緩衝液で3回洗浄し、HRPコンジュゲートヤギ抗ヒト二次抗体を加えて、室温で1時間インキュベートした。プレートを洗浄緩衝液で3回洗浄し、TMB(HRPの基質)を加えてプレートを暗所、室温で5~10分インキュベートすることによって、結合した二次抗体を検出した。1Mの硫酸溶液を加えることによって酵素反応を停止し、450nmにおける吸光度を測定した。
【0218】
結果を
図1に示す。ヒト化抗体C11D5.3-03及びC11D5.3-04はそれぞれ0.011μg/mL及び0.011μg/mLのEC50値(50%活性における有効濃度)を有し、これらがマウス抗体C11D5.3(EC50=0.011μg/mL)と比較して等価の結合活性を有していることが示された。
【0219】
(実施例3)
BCMA発現腫瘍細胞に対する抗BCMAヒト化抗体の親和性の評価
FACS法を使用して、実施例1で得られたヒト化抗体のBCMA発現細胞に対する結合活性を評価し、FACSにおける用量依存性結合曲線を使用して抗体の効力を比較した。
【0220】
細胞(BCMAを発現するヒト骨髄腫細胞又はBCMAを発現しない組織細胞)を消化し、2%のFBSを含む50μLのPBS(FACS緩衝液)中の500,000個の細胞をU底96ウェルプレートに播種した。300μg/mLの濃度(最終濃度)から出発して200μLのFACS緩衝液中に1/3体積(100μL)を希釈することによって、試験試料を3倍の段階希釈に供した。50μLの希釈した抗体を細胞プレートの各ウェルに加え、4℃で1時間インキュベートした。FACS緩衝液で2回洗浄した後、100μLの二次抗体(Abcam社、ab97003、5μg/mL、FACS緩衝液で希釈)を各ウェルに加え、4℃で0.5時間インキュベートした。染色してFACS緩衝液で2回洗浄した後、200μLのFACS緩衝液を各ウェルに加え、機械(BD社、C6plus)で読み取りを実施した。
【0221】
図2、3、4、及び5に、それぞれヒト多発性骨髄腫細胞U266、MM.1S、RPMI8226、及びBCMAを発現しないヒトバーキットリンパ腫細胞Daudiに対する抗体の用量依存性結合曲線を示す。EC50値をTable 2(表2)に示す。結果は、3種のBCMA発現腫瘍細胞については、ヒト化抗体C11D5.3-03及びC11D5.3-04はマウス抗体の親和性と同程度の高い親和性を有していたことを示した。一方、BCMAを発現しない腫瘍細胞については、ヒト化抗体C11D5.3-03及びC11D5.3-04も、マウス抗体の親和性と同程度の低い親和性を呈した。
【0222】
【0223】
(実施例4)
非腫瘍組織細胞に対する抗BCMAヒト化抗体の非特異結合の評価
実施例1で得られた精製されたヒト化抗体と非腫瘍組織細胞との間の非特異結合を、FACS法を使用し、BCMAを発現しない組織細胞を使用して、評価した。具体的な方法は上に記載した。
図6~
図7はそれぞれ、ヒト不死化角化細胞Hacat及びヒト胃粘膜上皮細胞GESに対する抗体の結合曲線を示す。図に示すように、マウス抗体C11D5.3は高い濃度(100μg/mL)でHacatとGESの両方の細胞に結合した。対照的に、2つのヒト化抗体、C11D5.3-03及びC11D5.3-04は、試験した濃度(0.003~100μg/mL)で2つの非腫瘍組織細胞のいずれにも結合しなかった。上記の結果は、本発明のヒト化抗体が、マウス抗体C11D5.3と比較して低減した非特異結合を有していることを示し、このような技術的効果は顕著で、予期されないものであった。
【0224】
(実施例5)
キメラ抗原受容体(CAR)レンチウイルス発現ベクターの構築及び調製
上記の実施例で得られたヒト化抗体に基づいて、CARレンチウイルス発現ベクターをさらに構築した。構築したキメラ抗原受容体レンチウイルス発現ベクターにおいて、N末端からC末端へのエレメントのアミノ酸配列を下のTable 3(表3)に示す。CARは、上記のヒト化抗体のscFv(VH+VL)、CD8αヒンジ領域、CD8α膜貫通領域、CD137細胞内ドメイン、及びCD3ζ ITAM領域を含んでいた。上記のCARをコードする核酸配列を、P2A-tEGFRをコードする配列(配列番号16)と連結し、EF1aプロモーター-BCMA CAR-P2A-tEGFR-WPREのフレームとともにGV401ベクター(Genechem社)に挿入して、tEGFRの発現を検出することによってBCMA CARの発現をモニターした。
【0225】
【0226】
(実施例6)
CAR-T細胞の調製
PBMC細胞は健康な人々から収集した(Xuanfeng Bio社、SLB-HP010)。1μg/mlのCD3抗体(Miltenyi社、170-076-124)及び1μg/mlのCD28抗体(Miltenyi社、170-076-117)を、6ウェルのプレートにコートした。コートした6ウェルのプレートにPBMCを加え、一夜インキュベートした。実施例5に記載したCARレンチウイルスベクターをMOI=3でPBMCに加え、形質導入のために2000rpmで60分、遠心分離し、それにより、マウスC11D5.3-CARを形質導入したT細胞(C11D5.3 CAR-T)、ヒト化C11D5.3-03-CARを形質導入したT細胞(C11D5.3-03 CAR-T)、及びヒト化C11D5.3-04-CARを形質導入したT細胞(C11D5.3-04 CAR-T)を得た。48時間の培養の後、PE蛍光で標識したセツキシマブによって、tEGFRの発現を検出した。
【0227】
図8に、トランスフェクトしていない対照PBMC及び上記3種のCAR-T細胞におけるBCMA-CARの発現を示す。結果は、上記3種のCAR-T細胞の全てが対応する抗BCMA CARを発現できることを示し、抗BCMA CAR-Tの構築が成功したことが示された。
【0228】
(実施例7)
抗BCMA CAR-Tのin vitro抗腫瘍能力の評価
サイトカイン放出アッセイ:実施例6で調製した抗BCMA CAR-T細胞を収集し、DPBS溶液で2回洗浄し、2%のFBSを含むRPMI1640培地中に再懸濁した。腫瘍細胞を収集し、次いで2%のFBSを含むRPMI1640培地で洗浄し再懸濁した。腫瘍細胞は、BCMAを発現しない腫瘍細胞(293T、K562)及びBCMAを発現する腫瘍細胞(M1ss、U266、RPMI8226、Daudi)を含んでいた。
【0229】
抗BCMA CAR-T細胞と上記の腫瘍細胞株を混合し、E:T(エフェクター細胞/標的細胞)=1:1で16時間、培養した。上清を収集し、BD CBAアッセイによってサイトカインの放出を決定した。対照のPBMC、C11D5.3 CAR-T、C11D5.3-03 CAR-T、及びC11D5.3-04 CAR-TからのIFNγ及びIL2の放出の結果を、それぞれ
図9及び
図10に示す。
【0230】
上記の結果は、ヒト化したC11D5.3-03 CAR-T及びC11D5.3-04 CAR-TがマウスC11D5.3 CAR-Tと同様であり、これらはBCMA+細胞株を特異的に認識してIFNγ及びIL2を放出できることを示した。
【0231】
腫瘍細胞溶解実験:BCMA発現細胞株(U266、Daudi)と抗BCMA CAR-T細胞を混合し、それぞれE:T=30:1、10:1、及び3:1として4時間、培養した。上清を収集してLDHの放出を検出した(CytoTox96 Non-Radioactive Cytotoxicity Assay)。対照のPBMC、C11D5.3 CAR-T、C11D5.3-03 CAR-T、C11D5.3-04 CAR-Tによって殺滅されたU266及びDaudiのLDH放出の結果を、それぞれ
図11及び
図12に示した。
【0232】
上記の結果は、ヒト化したC11D5.3-03 CAR-T及びC11D5.3-04 CAR-TがマウスC11D5.3 CAR-Tと同様であり、BCMA+腫瘍細胞を認識して殺滅できることを示した。
【0233】
(実施例8)
ヒト化抗BCMA CAR-T細胞のサイトカイン放出
抗BCMA CAR-T細胞がBCMA抗原の非存在下でサイトカインを放出することができ、この放出のレベルが抗BCMA CAR分子の構造の相違とともに変化することが報告された。サイトカイン放出の増強によって惹起される毒性は、抗BCMA CAR-T細胞による臨床療法の既知の毒性の問題の1つであった。マウス抗体C11D5.3に基づくCAR-T細胞療法では、現在の臨床実践において増強されたサイトカイン放出の顕著な課題が見出されなかったことが知られていた。しかし、いくつかのヒト化抗BCMA CARは抗原非依存性サイトカイン放出を惹起することが研究によってさらに見出され、これはヒト化抗BCMA CARをT細胞療法に適しないものにする可能性がある。この目的のため、本実施例ではヒト化抗BCMA CAR-T細胞の抗原非依存性サイトカイン放出を評価した。
【0234】
実施例6で得られたCAR-T又はPBMC対照を、5%のCO
2を含むインキュベーター中、37℃で、60IU/mlのIL2(Miltenyi社、130-097-748)を含むAIM-V培養培地(Gibco社、A3021002)中で静置培養し、種々のインキュベーション時点で刺激の非存在下におけるサイトカインの放出を決定した。対照のPBMC、C11D5.3 CAR-T、C11D5.3-03 CAR-T、又はC11D5.3-04 CAR-Tを培養し、1日目(最初の培地交換の前)、2日目、3日目、5日目(2回目の培地交換の前)、7日目、及び9日目に上清を収集し、マルチプレックス磁気ビーズ法(TH1/TH2 サイトカインCBAキット、BD社、#550749)を使用して、IL4、IL6、IL10、TNFα、及びIFNγを含む5種のサイトカインの上清への放出レベルを決定した。
図13~
図17にそれぞれ、抗原刺激のない無血清培地系における上記3種のCAR-T細胞及びトランスフェクトしていないPBMC細胞についての、様々な培養時点におけるIL4、IL6、IL10、TNFα、及びIFNγの放出レベルの比較を示した。刺激の非存在下において、ヒト化したC11D5.3-03 CAR-T及びC11D5.3-04 CAR-Tからの1型炎症因子の放出は、トランスフェクトしていないPBMC細胞と比較して顕著には変化しないことが分かった。
【0235】
上記の結果より、本発明のヒト化抗BCMA CAR-T細胞が顕著な抗原非依存性サイトカイン放出を誘起しないことが示された。
【0236】
ヒト血清(Corning社、MT35060CI)を含むがBCMA抗原を含まないAIM-V培地(Gibco社、A3021002)中で、1×10
5個の対照PBMC、C11D5.3 CAR-T、C11D5.3-03 CAR-T、又はC11D5.3-04 CAR-Tを48時間培養し、マルチプレックス磁気ビーズ法を使用して、上清中に放出されたIL4、IL6、IL10、TNFα、及びIFNγを含む5種のサイトカインのレベルを決定した。上記3種のCAR-T細胞のサイトカインの放出を比較して、ヒト化によって惹起されるC11D5.3の配列の変化がマウス抗BCMA CAR-T細胞では見られなかった新たな反応性をヒト血清中のタンパク質に導入するか否かを評価した。
図18に、5%のヒト血清を含む培養系中の抗原刺激の非存在下における上記3種のCAR-T細胞及びトランスフェクトしていないPBMC細胞についてのIL4、IL6、IL10、TNFα、及びIFNγの放出レベルの比較を示した。2種のヒト化抗BCMA CAR-T細胞からの1型炎症因子の放出がマウスCAR-T細胞と比較して顕著には変化せず、トランスフェクトしていないPBMC細胞と比較しても1型炎症因子の放出に関して顕著には変化しないことが分かった。
【0237】
上記の結果より、C11D5.3-03及びC11D5.3-04のヒト化によって惹起されるC11D5.3の配列の変化はマウス抗BCMA CAR-T細胞では見られなかった新たな反応性をヒト血清中のタンパク質に導入しないことが示された。
【0238】
まとめると、本発明のヒト化抗体C11D5.3-03及びC11D5.3-04に基づいて得られたCARは、マウス配列の免疫応答によって惹起される免疫原性の可能性を低減する一方、明らかな抗原非依存性サイトカイン放出及びヒト血清中のタンパク質への新たな反応性を示さず、そのため顕著に改善された安全性を有している。そのような技術的効果は注目すべきもので、予期されないものであった。
【0239】
(実施例9)
ヒト化抗BCMA CAR-T細胞の活性化状態の評価
実施例6で調製したCAR-T又はPBMC対照を、実施例8に記載した培養系中で培養し、3種のCAR-T細胞の表面上のT細胞活性化表現型マーカーの発現を培養の5日目及び9日目(終点)に検出して、ヒト化によって惹起されるC11D5.3の配列の変化がマウス抗BCMA CAR-T細胞では見られなかったCAR-T細胞の超活性化を導入するか否かを評価した。CAR-T細胞の表面上におけるHLA-DR(APC抗ヒトHLA-DR抗体、Biolegend社)及びCD25(FITC抗ヒトCD25抗体、Biolegend社)の発現レベルをFACS法によって検出した。
【0240】
結果をそれぞれ
図19及び
図20に示した。結果より、ヒト化したC11D5.3-03 CAR-T及びC11D5.3-04 CAR-Tは、マウスC11D5.3 CAR-Tと比較してCAR-T細胞の超活性化を示さないことが示された。
【0241】
(実施例10)
ヒト化抗BCMA CAR-T細胞のアポトーシスの評価
T細胞の消尽は、アポトーシスによる活性化誘起細胞死を伴うことが多い。活性化されたカスパーゼ3のレベル(CaspGLOW(商標) Fluorescein Active Caspase-3 Staining Kit、Invitrogen社)を測定して、抗BCMA CARの導入が高いレベルのT細胞のアポトーシスをもたらすか否かを検討した。C11D5.3-03 CAR-T、C11D5.3-04 CAR-T、C11D5.3 CAR-T、及び対照PBMCにおける活性化されたカスパーゼ3の発現レベルをFACS法によって検出し、結果を
図21に示した。結果より、ヒト化されたC11D5.3-03 CAR及びC11D5.3-04 CARの導入はT細胞における活性化されたカスパーゼ3の発現レベルに影響せず、T細胞のアポトーシスによって惹起される細胞死をもたらさないことが示された。
【0242】
本発明の特定の実施形態を詳細に記載したが、当業者であれば、公開された全ての教示に照らした詳細に対して種々の改変及び変更が可能なこと、並びにこれらの変更は全て本発明の範囲内であることを認識するであろう。本発明の完全な範囲は、添付した特許請求の範囲及びその任意の等価物によって与えられる。
[参考文献]
【配列表】
【国際調査報告】