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特表2023-501931光学表面上の欠陥を軽減する方法およびその方法によって形成されたミラー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-20
(54)【発明の名称】光学表面上の欠陥を軽減する方法およびその方法によって形成されたミラー
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/08 20060101AFI20230113BHJP
【FI】
G02B5/08 C
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022525106
(86)(22)【出願日】2020-10-20
(85)【翻訳文提出日】2022-05-13
(86)【国際出願番号】 US2020056495
(87)【国際公開番号】W WO2021086686
(87)【国際公開日】2021-05-06
(31)【優先権主張番号】62/927,429
(32)【優先日】2019-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】598176743
【氏名又は名称】ザイゴ コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】ZYGO CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】キンケード、ジョン マシュー
【テーマコード(参考)】
2H042
【Fターム(参考)】
2H042DC04
(57)【要約】
極端紫外線(EUV)放射またはX線放射で使用するためのミラーを製造する方法が開示されている。方法は、a)湾曲したミラー表面を有する光学要素を準備するステップと、ここで、湾曲したミラー表面は、湾曲したミラー表面の性能を低下させる局所的な欠陥を含んでおり、b)少なくともいくつかの欠陥を覆うために、湾曲したミラー表面を材料でスピンコーティングするステップと、c)欠陥の数を低減して、湾曲したミラー表面の性能を向上させるために、湾曲したミラー表面上にスピンコーティングされた材料を硬化させるステップとを含む。方法により製造されたミラーも開示されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
極端紫外線(EUV)またはX線放射とともに使用するためのミラーを製造する方法であって、
a.湾曲したミラー表面を有する光学要素を準備するステップと、前記湾曲したミラー表面は、前記湾曲したミラー表面の性能を低下させる局所的な欠陥を含んでおり、
b.少なくともいくつかの欠陥を覆うために、前記湾曲したミラー表面を材料でスピンコーティングするステップと、
c.欠陥の数を低減して、前記湾曲したミラー表面の性能を向上させるために、前記湾曲したミラー表面上にスピンコーティングされた前記材料を硬化させるステップと、を含む方法。
【請求項2】
前記ミラー表面が、スピンコーティング前に1nm未満の高空間周波数の表面粗さHSFRを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ミラー表面が、スピンコーティング前に0.45nm未満の高空間周波数の表面粗さHSFRを有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
スピンコーティング前の前記ミラー表面上の欠陥の数を特徴付けるステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
スピンコーティング後の前記ミラー表面上の欠陥の数を特徴付けるステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
スピンコーティングの前後の前記ミラー表面上の欠陥の数を特徴付けるステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記特徴付けるステップが、1mmを超える領域にわたって光学顕微鏡を使用して前記ミラー表面を検査することを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記光学顕微鏡が共焦点顕微鏡である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
欠陥が、500nm未満の少なくとも1つの横方向寸法を有する傷、凹み、および掘り込みのいずれかを含む、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記光学要素が、シリコン、溶融シリカ、石英シリコン、チタンドープシリカ、ガラスセラミック、および研磨可能なセラミックのいずれかで製造された基板を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
EUV放射またはX線放射のための反射ミラー表面を提供するために、硬化したスピンコーティングされた前記ミラー表面を複数の光学層でコーティングするステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
複数の層がモリブデンおよびシリコンの層を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ミラーは、1nmと20nmとの間の波長範囲で使用するためのものである、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記湾曲したミラー表面は非球面ミラー表面である、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記スピンコーティングするステップは、
a.前記湾曲した表面に対するスピンコーティング回転軸の近傍で前記湾曲したミラー表面上に材料を堆積させること、
b.前記光学要素の前記湾曲した表面を回転軸を中心に回転させて、ガラス状材料が半径方向外側に流れて前記湾曲したミラー表面を覆って薄膜を形成するようにすること、を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
回転させることは、前記光学要素を毎分1000回転と5000回転との間で回転させることを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記薄膜は、厚さが50nmと500nmとの間である、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記薄膜は、厚さが100nmと400nmとの間である、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記スピンコーティングするステップは、材料の堆積後に湾曲した表面を回転させて、前記薄膜が形成される際の余分な材料を振り落としかつ蒸発させることをさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記スピンコーティングするステップは、前記湾曲したミラー表面を加熱して、前記材料の溶媒を蒸発させることをさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記硬化させるステップが、オゾン放射およびUV放射のうちの少なくとも1つの存在下で、炉内でスピンコーティングされた基板を加熱することを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項22】
前記炉が摂氏100度と摂氏600度との間の温度に加熱される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記材料がガラス状材料である、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
ガラス状材料が水素シルセスキオキサンまたはメチルシロキサンからなる、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
欠陥の数は、前記湾曲したミラー表面の使用可能領域にわたって、1平方ミリメートル当たり欠陥が1個未満に減少する、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
極端紫外線放射またはX線放射で使用するためのミラーであって、
a.湾曲したミラー表面を有する光学要素と、当該湾曲したミラー表面は、当該湾曲したミラー表面の性能を低下させる局所的な欠陥を含んでおり、
b.前記湾曲したミラー表面上に形成された薄膜であって、
i.少なくともいくつかの欠陥を覆うために、前記湾曲したミラー表面を材料でスピンコーティングすること、および
ii.欠陥の数を低減して、前記湾曲したミラー表面の性能を向上させるために、前記湾曲したミラー表面上にスピンコーティングされた前記材料を硬化させることによって形成された前記薄膜と、を備えるミラー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、極端紫外線(EUV)放射およびX線放射用のミラー要素を含む光学表面上の欠陥を軽減する方法、およびそのような方法によって形成されたミラー要素に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体チップを製造するためのマイクロリソグラフィーシステムなどの最先端の光学系は、極端紫外線(「EUV」)およびX線領域の電磁放射を使用する。このような領域は、1~20nmの範囲の小さな波長を有しているため、極めて微細な解像度でパターンを再現することができる光学系の設計が可能になる。このような光学系の光学部品は、ほとんどの材料におけるEUVおよびX線放射の強い吸収に起因して、反射要素を含む。従って、そのような反射要素は、正確に最適化された曲率および形状に適合し、かつ極めて滑らかな表面を含む、極めて高品質の反射表面を有する必要がある。
【0003】
例えば、イオンビーム光学仕上げ(「IBF」)、磁気粘弾性流体研磨(「MRF」)、化学機械研磨(「CMP」)、コンピュータ制御光学表面加工(「CCOS」を含む、面出し、研磨、またはその他の仕上げ加工のための技術が存在する。しかしながら、このような技術は、EUVおよびX線光学系に要求される公差に対して、一般的に費用および時間がかかる。さらに、このような技術に対する制約は、非球面要素だけでなく、自由形状微小角(grazing)入射ミラーなどの非回転対称要素を含む、最先端のEUVリソグラフィシステムのために現在提案されている反射光学要素の設計に必要とされる非平面表面を処理する必要性によって増大している。
【0004】
光学表面がどの程度十分に「滑らか」であるかを特徴付けるために一般的に使用される尺度は、表面粗さである。表面粗さは、表面の三次元トポロジを形成する、公称表面からの反復的および/またはランダムな偏差である。EUVおよびX線光学系に特に関連するのは、マイクロメートルからナノメートルサイズのスケールの偏差(例えば、約10ミクロンから10ナノメートルの空間周期)に対応する高空間周波数粗さ(「HSFR:high-spatial frequency roughness」)であり、その理由は、このような粗さは散乱損失を生じさせ、そのような光学系を実装するEUVおよびX線光学系の透過スループットを低下させるからである。うねりなどのより低い空間周波数の偏差は、一般に、(少なくとも、例えば、約1~2mmより大きい空間周期に関して)光学仕上げ処理中に修正することができる。うねりは、ワークピースのたわみ、振動、ビビリ、熱処理、または反り歪みによって発生する可能性がある。一方、HSFRは、典型的には、研磨処理(例えば、研磨砥粒のランダム化効果)の本質的な結果である。HSFRには、分子の大きさと比較して大きい、様々な振幅および間隔の丘(非球面)(局所極大)と谷(局所極小)が含まれる。
【0005】
粗さRは、通常、米国規格協会(ANSI)および国際標準化機構(ISO)によって提唱されている2つの統計的高さ記述子のうちの1つによって特徴付けられる(Anonymous、1975、1985)(例えば、ISO 10110-8を参照)。これらは、(1)Ra、CLA(中心線平均)、またはAA(算術平均)、および(2)標準偏差または分散(σ)、Rq、または二乗平均平方根(RMS)である。本発明にとって重要ではないが、本出願では、HSFRは、高空間周波数(例えば、10ミクロン未満の空間周期)に関して、光学部品の設計表面に対応する公称三次元表面トポグラフィからの三次元表面トポグラフィの垂直偏差の二乗平均平方根に従って定義される。例えば、10ミクロンまでのスケール長Lの公称表面トポグラフィz’(x)に対して実際の表面トポグラフィz(x)を有する表面のx軸に沿って延びる長さLの線に沿って延びるサンプリング領域に関して、高空間周波数粗さRは以下のとおりである。
【0006】
【数1】
HSFRは、原子間力顕微鏡(「AFM」)または光干渉計を用いて測定することができる。ナノメートルスケールの横方向分解能でHSFRを好都合な時に測定するため、およびHSFRは研磨の固有特性に起因すると理解されているため、HSFR測定は、通常、50ミクロン×50ミクロン以下、より典型的には、10ミクロン×10ミクロン程度の領域で行われる。
【0007】
垂直入射EUVミラーの場合、HSFRに関して要求される公差は、散乱損失を回避するために、数オングストローム未満(例えば、R<0.2nm)とすることができる。それでも非常に厳しいが、入射角が大きくなると散乱が減少するため、微小角入射ミラーについては公差を多少大きくすることができる(例えば、R<0.5nm)。例えば、非特許文献1では、EUV光学系の微小角入射の円筒形フライアイとして使用するために形成された基板上にガラスの薄層をスピンコーティングすることによって、HSFRが、6.6nm rmsから0.45nmに低減された。HSFRを測定するために、基板の50ミクロン×50ミクロンの領域にわたってAFMが使用された。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】サルマシ(Salmassi)他著「極端紫外領域で使用するためのダイヤモンド回転光学系のスピンオングラス平坦化(Spin-on-glass smoothing of diamond turned optics for use in the extreme ultraviolet regime)」、SPIE 予稿集6683、66830 F1(2008年2月)
【発明の概要】
【0009】
発明者は、反射EUV光学系の公差は、HSFRが非常に小さいのみならず、表面欠陥が非常に少ないことが必要であり、スピンコーティング技術を使用して欠陥の数を低減することができることを認識した。表面の自然な材質感または表面の粗さに追従しない不連続で目立たない材料の表面上の領域は、欠陥(または同等に「欠陥」)として分類される。例えば、欠陥は、傷、凹み、および掘り込みを含む。最短横方向寸法に沿った欠陥の大きさは、典型的には1000nm未満、またはより典型的には500nm未満であるが、拡散散乱を引き起こすHSFRのサイズスケールよりは大きい。残念ながら、EUV光学用の超精密研磨基板を準備する際、このような欠陥は簡単に見落とされ易い。第一に、そのような光学部品は、一般的にHSFRに関して特徴付けられており、HSFR測定のための検査領域(例えば、10ミクロン×10ミクロン)は、光学部品の使用可能領域(例えば、少なくとも数平方ミリメートルの程度の領域)よりもはるかに小さいため、HSFR測定では検査領域外の欠陥は観察されないことになる。第二に、HSFR検査領域で欠陥が観察されたとしても、それは通常は異常として無視され、無視しないとHSFRの結果を歪めるため、HSFRの計算から除外される。第三に、EUV光学系に必要な欠陥公差を把握していない。例えば、特定の光学部品は、光学部品の通常の領域全体(例えば、1~100,000平方ミリメートルの領域またはそれ以上の領域)にわたって、1平方ミリメートルの領域当たり欠陥が1個未満であることが要求される。
【0010】
概して、一態様では、極端紫外線(EUV)放射またはX線放射で使用するためのミラーを製造する方法が開示されている。方法は、a)湾曲したミラー表面を有する光学要素を準備するステップと、ここで、湾曲したミラー表面は、湾曲したミラー表面の性能を低下させる局所的な欠陥を含んでおり、b)少なくともいくつかの欠陥を覆うために、湾曲したミラー表面を材料でスピンコーティングするステップと、c)欠陥の数を低減して、湾曲したミラー表面の性能を向上させるために、湾曲したミラー表面上にスピンコーティングされた材料を硬化させるステップと、を含む。
【0011】
方法の実施形態は、以下の特徴のいずれかを含み得る。
ミラー表面が、スピンコーティング前に、1nm未満、または0.45nm未満の高空間周波数の表面粗さHSFRを有し得る。
【0012】
方法は、スピンコーティング前のミラー表面の欠陥の数を特徴付けるステップと、スピンコーティング後のミラー表面の欠陥の数を特徴付けるステップと、またはスピンコーティングの前後のミラー表面の欠陥の数を特徴付けるステップとをさらに含み得る。例えば、特徴付けるステップが、1mmを超える領域にわたって共焦点顕微鏡などの光学顕微鏡を使用してミラー表面を検査することを含み得る。
【0013】
光学要素が、シリコン、溶融シリカ、石英シリコン、チタンドープシリカ、ガラスセラミック、および研磨可能なセラミックのいずれかで製造された基板を含み得る。ミラーは、1nmと20nmとの間の波長範囲で使用され得る。湾曲したミラー表面は、非球面ミラー表面であり得る。
【0014】
欠陥が、500nm未満の少なくとも1つの横方向寸法を有する傷、凹み、および掘り込みのいずれかを含み得る。
スピンコーティングするステップは、a)湾曲した表面に対するスピンコーティング回転軸の近傍で湾曲したミラー表面上に材料を堆積させること、b)光学要素の湾曲した表面を回転軸を中心に回転させて、ガラス状材料が半径方向外側に流れて湾曲したミラー表面を覆って薄膜を形成すること、を含み得る。例えば、回転させることは、光学要素を毎分1000回転と5000回転との間で回転させることを含み得る。例えば、薄膜は、厚さが50nmと500nmとの間、またはより狭くは100nmと400nmとの間であり得る。スピンコーティングするステップは、材料の堆積後に湾曲した表面を回転させて、薄膜が形成される際の余分な材料を振り落としかつ蒸発させることをさらに含み得る。スピンコーティングするステップは、湾曲したミラー表面を加熱して、材料の溶媒を蒸発させることをさらに含み得る。
【0015】
硬化させるステップが、オゾン放射およびUV放射のうちの少なくとも1つの存在下で、炉内でスピンコーティングされた基板を加熱することを含み得る。例えば、炉は摂氏100度と摂氏600度との間の温度に加熱され得る。
【0016】
スピンコーティング材料は、水素シルセスキオキサンまたはメチルシロキサンなどのガラス状材料であり得る。
硬化後、欠陥の数は、湾曲したミラー表面の使用可能領域にわたって、1平方ミリメートル当たり1個未満に低減され得る。
【0017】
方法は、EUV放射またはX線放射のための反射ミラー表面を提供するために、硬化したスピンコーティングされたミラー表面を複数の光学層でコーティングするステップをさらに含み得る。例えば、複数の層は、モリブデンおよびシリコンの層を含み得る。
【0018】
概して、別の態様では、極端紫外線(EUV)放射またはX線放射で使用するためのミラーが開示されている。ミラーは、a)湾曲したミラー表面を有する光学要素と、湾曲したミラー表面は、湾曲したミラー表面の性能を低下させる局所的な欠陥を含んでおり、b)湾曲したミラー表面上に形成された薄膜であって、i)少なくともいくつかの欠陥を覆うために、湾曲したミラー表面を材料でスピンコーティングすること、およびii)欠陥の数を低減して、湾曲したミラー表面の性能を向上させるために、湾曲したミラー表面上にスピンコーティングされた材料を硬化させることによって形成された薄膜と、を備える。
【0019】
ミラーの実施形態は、以下の特徴のいずれかを含み得る。
ミラー表面が、スピンコーティング前に、1nm未満、または0.45nm未満の高空間周波数の表面粗さHSFRを有し得る。
【0020】
光学要素が、シリコン、溶融シリカ、石英シリコン、チタンドープシリカ、ガラスセラミック、および研磨可能なセラミックのいずれかで製造された基板を含み得る。ミラーは、1nmと20nmとの間の波長範囲で使用され得る。湾曲したミラー表面は、非球面ミラー表面であり得る。
【0021】
欠陥が、500nm未満の少なくとも1つの横方向寸法を有する傷、凹み、および掘り込みのいずれかを含み得る。
スピンコーティングすることは、a)湾曲した表面に対するスピンコーティング回転軸の近傍で湾曲したミラー表面上に材料を堆積させること、b)光学要素の湾曲した表面を回転軸を中心に回転させて、ガラス状材料が半径方向外側に流れて湾曲したミラー表面を覆って薄膜を形成すること、を含み得る。例えば、回転させることは、光学要素を毎分1000回転と5000回転との間で回転させることを含み得る。例えば、薄膜は、厚さが50nmと500nmとの間、またはより狭くは100nmと400nmとの間であり得る。スピンコーティングすることは、材料の堆積後に湾曲した表面を回転させて、薄膜が形成される際の余分な材料を振り落としかつ蒸発させることをさらに含み得る。スピンコーティングすることは、湾曲したミラー表面を加熱して、材料の溶媒を蒸発させることをさらに含み得る。
【0022】
硬化させることが、オゾン放射およびUV放射のうちの少なくとも1つの存在下で、炉内でスピンコーティングされた基板を加熱することを含み得る。例えば、炉は摂氏100度と摂氏600度との間の温度に加熱され得る。
【0023】
スピンコーティング材料は、水素シルセスキオキサンまたはメチルシロキサンなどのガラス状材料であり得る。
硬化後、欠陥の数は、湾曲したミラー表面の使用可能領域にわたって、1平方ミリメートル当たり1個未満に低減され得る。
【0024】
ミラーは、EUV放射またはX線放射のための反射ミラー表面を提供するために、硬化したスピンコーティングされたミラー表面上にコーティングされた複数の光学層をさらに備え得る。例えば、複数の層は、モリブデンおよびシリコンの層を含み得る。
【0025】
本明細書で参照されるすべての文献は、参照によりその全体が組み込まれる。本開示と参照により組み込まれる文献とが矛盾する場合は、本開示が優先される。
本発明の1つまたは複数の実施形態の詳細は、添付の図面および以下の詳細な説明に記載されている。本発明の他の特徴、目的、および利点は、詳細な説明および図面、ならびに特許請求の範囲から明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】極端紫外線(EUV)放射またはX線放射で使用するための湾曲したミラー表面を作製するための実施形態を説明するフローチャートである。
図2】基板表面上の低空間周波数粗さおよび高空間周波数粗さを含む粗さRを示す概略図である。
図3】基板上に薄膜を形成するためのスピンコーティング処理の概略図である。
図4】スピンコーティング機におけるターンテーブルの回転速度に対する薄膜の厚さの代表的な変化を示すグラフである。
図5】基板表面上の欠陥にブリッジを形成するスピンコーティングされた薄膜の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
様々な図面の同様の参照記号は、同様の構成要素を示す。
図1は、極端紫外線(EUV)放射またはX線放射に使用するための湾曲した反射要素(即ち、湾曲したミラー)を製造するための実施形態を説明するフローチャートである。
【0028】
ステップ105において、基板が準備される。基板は、EUVおよびX線光学系で一般的に使用される材料から作製することができる。好ましくは、この材料は、最終的なミラーにブラッグ反射率を提供するために、モリブデンとシリコンなどの交互の複数の薄層をその後に堆積することに適合していることである。例えば、基板材料は、シリコン、溶融シリカ、酸化チタンをドープしたシリカ、およびコーニング社製のULE(登録商標)ガラスであり得る。さらに、基板材料は、ガラスセラミックまたは別の研磨可能なセラミックであり得る。基板は、最終的なミラーに求められる曲率に対応する表面トポロジを有する。例えば、曲率は、球面または非球面にすることができるが、回転対称である。さらに、曲率は、回転対称ではない自由形状曲率とすることができる。従来のダイヤモンド旋盤を使用することにより、所望の回転対称の曲率を実現することができる。回転対称性からの局所的偏差および/または自由形状の偏差を含むさらなる精緻化は、イオンビーム光学仕上げ(「IBF」)によって実現することができる。例えば、名目上の平面であることが意図された基板と区別するために、基板の曲率は、少なくとも10ミクロンを超えるか、または100ミクロンを超える絶対的な矢状方向の寸法を有することができる。
【0029】
ステップ110では、基板の高空間周波数粗さ(「HSFR」)が測定され、HSFRが高すぎる場合は、MRFおよびCMPなどの研磨技術を使用して基板が平坦化される。理想的には、HSFRは2nm未満、または1nm未満、または0.45nm未満、さらには0.3nm未満に低減される。例えば、基板の50ミクロン×50ミクロンの領域にわたってAFMを使用して、HSFRを決定することができる。代替的に、トポロジを測定するための光干渉顕微鏡を使用して、HSFRを測定することができる。上述したように、HSFRはISO 10110-8に従って測定することができる。図2は、ビー・ブーシャン(B.Bhushan)による「現代のトライボロジ・ハンドブック(Modern Tribology Handbook)」の第2章2.2節からの概略図であり、基板表面上の低空間周波数粗さおよび高空間周波数粗さを含む粗さRを示している。
【0030】
ステップ115において、欠陥を識別して定量化するために基板が検査される。上述したように、表面の自然な材質感または表面の粗さに追従しない不連続で目立たない材料の表面上の領域は、欠陥(defect)(または同等に「キズ(flaw)」)として分類される。例えば、欠陥は、傷、凹み、および掘り込みを含む。このステップでは、欠陥の見落としを防止するために、粗さの測定に使用される領域よりも広い領域にわたって基板が検査される。例えば、基板は、光学部品の使用可能な領域(例えば、少なくとも数平方ミリメートルの程度の領域)にわたって検査することができる。基板の欠陥の検査は、共焦点顕微鏡などの光学顕微鏡を使用して行うことができる。欠陥は、軍用規格MIL-0-13830または国際標準化機構ISO 10110-7などの標準に従って特徴付けることができる。少なくともいくつかの欠陥が観察されたと仮定して、図1の方法は次のステップに続く。ここで特に関心のあるEUVおよびX線光学系の場合、欠陥は、例えば、1000nmより小さい、または500nmよりもさらに小さい少なくとも1つの横方向寸法を有する傷、凹み、および掘り込みのいずれかを含み得る。ミラーの要求される公差に応じて、観察された欠陥の数が、光学部品の通常の領域全体にわたって1平方ミリメートル当たり欠陥が10個未満、または、いくつかの実施形態では、光学部品の通常の領域全体にわたって1平方ミリメートルの領域当たり欠陥が5個未満であっても、または、いくつかのさらなる実施形態では、光学部品の通常の領域全体にわたって1平方ミリメートル当たり欠陥が2個未満でも、後続のステップが続行される。
【0031】
ステップ120において、ステップ115において観察された欠陥の数を低減するために、基板がスピンコーティングのために準備される。準備は、例えば、i)基板表面を洗剤で洗浄すること、ii)基板表面を脱イオン水で洗い流すこと、iii)基板表面を溶剤でさらに洗浄すること、iv)窒素ガンを用いて窒素などの不活性ガスで基板表面を乾燥させることのうちの1つまたは複数を含み得る。
【0032】
ステップ125において、準備された基板がスピンコーティング機に装着され、スピンコーティングされる。例えば、基板がターンテーブル上に真空吸着されて、自動ディスペンス装置が、ターンテーブルの回転軸の近傍で基板表面上に既知量のスピンコート材料を堆積させる。次に、ターンテーブルを最終回転速度まで回転加速して、スピンコート材料を基板の端部まで流し、基板表面をスピンコート材料の薄膜で均一にコーティングする。
【0033】
処理の一実施形態が図3に模式的に示されており、図3は、1)基板上へのスピンコート材料の堆積、2)薄膜を形成するための角周波数での基板の回転、3)薄膜の均一性を確保するための連続した回転、および4)その後の硬化に備えた、スピンコート材料中の溶媒の蒸発を示す。スピンコート材料に適した材料には、水素シルセスキオキサン(HSQ:hydrogen silsesquioxane)およびメチルシロキサン(methylsiloxane)などのガラス状材料、ならびにポリイミドなどのスピンコートポリマーが含まれる。
【0034】
スピンコート処理中に基板上に形成される薄膜の厚さは、回転の角周波数とスピンコート材料の粘度とに依存する。例えば、最終回転速度は、毎分1000回転~5000回転(「rpm」)の範囲であり得、所望の膜厚は、50nmと500nmとの間、例えば、100nmと300nmとの間であり得る。図4は、回転速度vと薄膜厚さtとの間の例示的な関係を示すグラフである。基板表面に形成された薄膜は、膜の厚さおよびスピンコート材料に依存する限界寸法まで、欠陥を覆って滑らかにブリッジを形成することができる。限界寸法は、通常、少なくとも500nm、さらには少なくとも1000nmとなる。それ以外の場合、薄膜は、基板の低い粗さを含んで、下にある基板の調整された曲率に適合し、かつ調整された曲率を保持する。欠陥を覆うこの「ブリッジ形成(bridging)」は、図5に模式的に示されている。図5に模式的に示されているブリッジ形成は、その下にある欠陥の充填は行っていないことを示しているが、これは1つの実施形態にすぎない。他の実施形態では、膜は、欠陥を覆ってブリッジを形成する滑らかな表面を提供するが、下にある欠陥を部分的または完全に埋めることもできる。
【0035】
ステップ130において、スピンコーティングされた基板が、スピンコーティング機から取り出され、硬化されて、基板上に形成された薄膜を硬化する。例えば、スピンコーティングされた基板は、硬化炉内に配置され、例えば、100℃~600℃の温度で、任意選択的に、オゾンの存在下で、および/または紫外線への曝露を伴って、加熱され得る。スピンコート材料としてのHSQの場合、このような硬化ステップは溶媒を移動させ、HSQ分子を架橋して硬質酸化ケイ素層を形成する。
【0036】
ステップ135において、硬化したスピンコーティングされた基板が、ステップ115と同様に欠陥について再度検査され、スピンコーティングにより欠陥の数が許容可能なレベルまで減少したかどうかを判定する。減少していない場合、スピンコーティングおよび硬化ステップが任意選択的に繰り返される。
【0037】
ステップ140において、硬化したスピンコーティングされた基板は、光干渉計を使用してトポロジについて検査され、スピンコーティング後の表面形状誤差が仕様内にあることを確認する。仕様内にない場合、ステップ140の検査で決定された表面形状誤差マップは、次に、ステップ145において、例えば、IBFを使用した表面形状修正のガイドとして使用される。
【0038】
ステップ150では、硬化およびスピンコーティングされた薄膜を含む形状修正された基板が、欠陥について再度検査され、表面形状修正中に追加の欠陥が導入されていないことを確認する。導入されている場合、スピンコーティングとその後のステップが任意選択的に繰り返される。
【0039】
ステップ155において、硬化およびスピンコーティングされた薄膜を含む形状修正された基板が、表面形状誤差、粗さ、および欠陥の数に関して所望の許容範囲内にあることが確認された後、基板に対してブラッグ反射率を提供し、EUVおよび/またはX線光学系用の最終ミラーを形成するために、モリブデンおよびシリコンなどの薄膜を交互に重ねるなどを行った複数の光学層で、基板表面が任意選択的にコーティングされる。そのような多層スタックを形成するための技術は、当技術分野で既知である。
【0040】
本発明のさらなる実施形態は、例えば、図1のフローチャートの方法によって形成されたミラーを含む。
範囲
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用されているように、単数形「a」、「an」および「the」は、「単一」という用語が使用されている場合等、文脈が明確に指示しない限り、複数の指示対象を含むことに留意されたい。
【0041】
本明細書において使用される「適合された」および「構成された」という用語は、要素、構成要素、または他の主題が、所与の機能を実行するように構成および/または意図されることを意味する。したがって、用語「適合された」および「構成された」の使用は、所与の要素、成分、または他の主題が、単に所与の機能を実行する「~できる」ことを意味すると解釈されるべきではない。
【0042】
本明細書において使用される場合、「少なくとも1つの」および「1つまたは複数の」という語句は、2つ以上のエンティティのリストに関して、エンティティのリスト内の任意の1つまたは複数のエンティティを意味し、エンティティのリスト内に具体的にリストされた各エンティティの少なくとも1つに限定されない。例えば、「AおよびBの少なくとも一方」(または、等価的には、「AまたはBの少なくとも一方」、または、等価的には、「Aおよび/またはBの少なくとも一方」)は、A単独、B単独、または、AとBとの組み合わせを指す。
【0043】
本明細書において、第1のエンティティと第2のエンティティとの間に配置される「および/または」という用語は、(1)第1のエンティティ、(2)第2のエンティティ、および(3)第1のエンティティおよび第2のエンティティのうちの1つを意味する。「及び/又は」を付して列記された複数のエンティティは、同様に解釈されるべきであり、つまり、そのように結合されたエンティティのうちの「一つ以上」であると解釈されるべきである。他のエンティティは、任意選択的には、「及び/又は」節によって具体的に識別されたエンティティ以外に、それらの具体的に識別されたエンティティに関連しているかどうかにかかわらず、存在してもよい。
【0044】
本明細書には多くの具体的な実装の詳細が含まれているが、これらは何れの発明又は特許請求されているものの範囲も限定するものとは解釈されるべきではく、特定の発明の特定の実施形態に特有の特徴を説明するものと解釈されるべきである。
【0045】
本明細書において別々の実施形態に関して記載されている特定の特徴はまた、1つの実施形態に関連しても実装できる。反対に、1つの実施形態に関して記載されている各種の特徴はまた、複数の実施形態において別々にも、又は何れの適当な副結合においても実装できる。
【0046】
さらに、特徴は特定の組合せで機能すると上述され、さらには当初はそのように特許請求されている可能性があるが、特許請求されている組合せからの1つ又は複数の特徴は、場合によってはその組合せから削除でき、特許請求された組合せは副結合又は副結合の変形型に向けられてもよい。
【0047】
同様に、動作は図中で特定の順序で描かれているが、これは、そのような動作が図に示された特定の順序、又は逐次的な順序で実行されること、及び所望の結果を達成するには図示されたすべての動作が実行されることを要求していると理解すべきではない。特定の状況では、マルチタスキング及び平行処理が有利である可能性がある。さらに、前述の実施形態の中の各種のシステム構成要素の分離は、すべての実施形態においてそのような分離を要求していると理解されるべきではなく、記載されているプログラム構成要素及びシステムは一般に、1つのソフトウェア製品に一緒に統合し、又は複数のソフトウェア製品にパッケージできると理解されるべきである。
【0048】
それゆえ、主旨の特定の実施形態が説明されている。他の実施形態は、以下の特許請求の範囲の範囲内に含まれる。幾つかのケースでは、特許請求の範囲に記載された動作は異なる順序で実行でき、それでも所望の結果は得られる。さらに、添付の図面に描かれているプロセッサは、所望の結果を達成するために、図示された特定の順序、又は逐次的順序を必ずしも要求していない。特定の実装においては、マルチタスキング及び平行処理が有利である可能性がある。
【0049】
本発明の複数の実施形態について説明した。しかしながら、本発明の主旨と範囲から逸脱することなく、様々な変更が加えられてもよいことがわかるであろう。したがって、他の実施形態も以下の特許請求の範囲の範囲内に含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】