IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ コーニング インコーポレイテッドの特許一覧

特表2023-501955大きい粒径を有する透明な六方晶スタッフドβ-石英ガラスセラミック物品
<>
  • 特表-大きい粒径を有する透明な六方晶スタッフドβ-石英ガラスセラミック物品 図1
  • 特表-大きい粒径を有する透明な六方晶スタッフドβ-石英ガラスセラミック物品 図2
  • 特表-大きい粒径を有する透明な六方晶スタッフドβ-石英ガラスセラミック物品 図3
  • 特表-大きい粒径を有する透明な六方晶スタッフドβ-石英ガラスセラミック物品 図4
  • 特表-大きい粒径を有する透明な六方晶スタッフドβ-石英ガラスセラミック物品 図5
  • 特表-大きい粒径を有する透明な六方晶スタッフドβ-石英ガラスセラミック物品 図6
  • 特表-大きい粒径を有する透明な六方晶スタッフドβ-石英ガラスセラミック物品 図7
  • 特表-大きい粒径を有する透明な六方晶スタッフドβ-石英ガラスセラミック物品 図8
  • 特表-大きい粒径を有する透明な六方晶スタッフドβ-石英ガラスセラミック物品 図9
  • 特表-大きい粒径を有する透明な六方晶スタッフドβ-石英ガラスセラミック物品 図10
  • 特表-大きい粒径を有する透明な六方晶スタッフドβ-石英ガラスセラミック物品 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-20
(54)【発明の名称】大きい粒径を有する透明な六方晶スタッフドβ-石英ガラスセラミック物品
(51)【国際特許分類】
   C03C 10/14 20060101AFI20230113BHJP
   C03C 10/02 20060101ALI20230113BHJP
   C03C 10/12 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
C03C10/14
C03C10/02
C03C10/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022525340
(86)(22)【出願日】2020-10-26
(85)【翻訳文提出日】2022-06-27
(86)【国際出願番号】 US2020057275
(87)【国際公開番号】W WO2021086764
(87)【国際公開日】2021-05-06
(31)【優先権主張番号】62/928,699
(32)【優先日】2019-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】ビール,ジョージ ホールジー
(72)【発明者】
【氏名】フィンケルデー,ジョン フィリップ
【テーマコード(参考)】
4G062
【Fターム(参考)】
4G062AA01
4G062AA11
4G062BB01
4G062BB06
4G062CC09
4G062CC10
4G062DA06
4G062DA07
4G062DB04
4G062DC01
4G062DD01
4G062DE01
4G062DF01
4G062EA01
4G062EA02
4G062EA03
4G062EB01
4G062EC01
4G062ED03
4G062ED04
4G062EE01
4G062EF01
4G062EG01
4G062FA01
4G062FA10
4G062FB01
4G062FB02
4G062FB03
4G062FC01
4G062FC02
4G062FC03
4G062FD01
4G062FE01
4G062FE02
4G062FE03
4G062FF01
4G062FG01
4G062FG02
4G062FG03
4G062FH01
4G062FH02
4G062FH03
4G062FJ01
4G062FJ02
4G062FJ03
4G062FK01
4G062FL01
4G062GA01
4G062GA10
4G062GB01
4G062GC01
4G062GD01
4G062GE01
4G062HH01
4G062HH03
4G062HH05
4G062HH07
4G062HH09
4G062HH11
4G062HH13
4G062HH15
4G062HH18
4G062JJ01
4G062JJ03
4G062JJ05
4G062JJ07
4G062JJ10
4G062KK01
4G062KK03
4G062KK05
4G062KK07
4G062KK10
4G062MM01
4G062MM12
4G062NN29
4G062NN33
4G062QQ02
4G062QQ09
4G062QQ20
(57)【要約】
ガラスセラミック物品は、50モル%から80モル%のSiO、10モル%から25モル%のAl、5モル%から20モル%のMgO、0モル%から10モル%のLiO、および1モル%から3モル%の核形成剤を含む。核形成剤は、ZrO、TiO、SnO、HfO、Ta、Nb、Y、およびその組合せからなる群より選択される。核形成剤は、50%以上のZrOと、50%未満の、TiO、SnO、HfO、Ta、Nb、Y、およびその組合せからなる群より選択される少なくとも1つの化合物とを含むことがある。このガラスセラミック物品は、1以上:1のMgO対LiOのモル比を有することがある。このガラスセラミック物品は、関係0.85≦(MgO(モル%)+LiO(モル%))/Al(モル%)≦1.2を満たすことがある。このガラスセラミック物品は、六方晶スタッフドβ-石英を含む結晶相およびガラスから作られることがある。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスセラミック物品において、
50モル%から80モル%のSiO
10モル%から25モル%のAl
5モル%から20モル%のMgO、
0モル%から10モル%のLiO、および
1モル%から3モル%の核形成剤であって、ZrO、TiO、SnO、HfO、Ta、Nb、Y、およびその組合せからなる群より選択される核形成剤、
を含み、
前記核形成剤は、50%以上のZrOと、50%未満の、TiO、SnO、HfO、Ta、Nb、Y、およびその組合せからなる群より選択される少なくとも1つの化合物とを含み、
MgO対LiOのモル比は、1以上:1であり、
0.85≦(MgO(モル%)+LiO(モル%))/Al(モル%)≦1.2であり、
前記ガラスセラミック物品は、六方晶スタッフドβ-石英を含む結晶相およびガラスから作られる、ガラスセラミック物品。
【請求項2】
前記結晶相が、[MgO+LiO+ZnO]:0.8~1.25のAl:2.0~8.0のSiOの化学量論を有する、請求項1記載のガラスセラミック物品。
【請求項3】
前記結晶相が、正方晶ジルコニアをさらに含む、請求項1または2記載のガラスセラミック物品。
【請求項4】
ZnOをさらに含み、ZnO(モル%)/(MgO(モル%)+LiO(モル%)+ZnO(モル%))が0.5以下である、請求項1から3いずれか1項記載のガラスセラミック物品。
【請求項5】
前記ガラスセラミック物品が、0.85mmの物品厚さで測定して、400nmから800nmの波長範囲に亘る光の75%から95%の範囲の範囲の平均透過率を有する、請求項1から4いずれか1項記載のガラスセラミック物品。
【請求項6】
前記結晶相の結晶粒が、5μm超から75μm以下の範囲の粒径を有する、請求項1から5いずれか1項記載のガラスセラミック物品。
【請求項7】
前記ガラスセラミック物品が、前記ガラス中に微小亀裂を含み、1.8MPa・m1/2以上の破壊靱性を有する、請求項1から6いずれか1項記載のガラスセラミック物品。
【請求項8】
前記微小亀裂中に配置された高分子充填剤をさらに含み、前記高分子充填剤が充填された該微小亀裂を含む前記ガラスセラミック物品が、2.0MPa・m1/2以上の破壊靱性を有する、請求項7記載のガラスセラミック物品。
【請求項9】
ガラスセラミック物品を形成する方法において、
ガラスセラミック組成物を1℃/分から10℃/分の範囲の速度でガラス予備核形成温度に加熱する工程であって、該ガラスセラミック組成物は、
50モル%から80モル%のSiO
10モル%から25モル%のAl
5モル%から20モル%のMgO、
0モル%から10モル%のLiO、および
1モル%から3モル%の核形成剤であって、ZrO、TiO、SnO、HfO、Ta、Nb、Y、およびその組合せからなる群より選択される核形成剤、
を含み、
前記核形成剤は、50%以上のZrOと、50%未満の、TiO、SnO、HfO、Ta、Nb、Y、およびその組合せからなる群より選択される少なくとも1つの化合物とを含み、
MgO対LiOのモル比は、1以上:1であり、
0.85≦(MgO(モル%)+LiO(モル%))/Al(モル%)≦1.2である、工程、
前記ガラスセラミック組成物を0.25時間から4時間の範囲の時間に亘り前記予備核形成温度に維持して、予備核形成された結晶化可能なガラスを生成する工程、
前記予備核形成された結晶化可能なガラスを1℃/分から10℃/分の範囲の速度で核形成温度(Tn)に加熱する工程、
前記予備核形成された結晶化可能なガラスを0.25時間から4時間の範囲の時間に亘り前記核形成温度に維持して、核形成された結晶化可能なガラスを生成する工程、
前記核形成された結晶化可能なガラスを1℃/分から10℃/の範囲の速度で結晶化温度(Tc)に加熱する工程、
前記核形成された結晶化可能なガラスを0.25時間から4時間の範囲の時間に亘り前記結晶化温度に維持して、前記ガラスセラミック物品を生成する工程、および
前記ガラスセラミック物品を室温に冷却する工程、
を有してなる方法。
【請求項10】
前記結晶化温度(Tc)が、850℃から1000℃の範囲にある、請求項9記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【優先権】
【0001】
本出願は、その内容が依拠され、ここに全て引用される、2019年10月31日に出願された米国仮特許出願第62/928699号の米国法典第35編第119条の下での優先権の恩恵を主張するものである。
【技術分野】
【0002】
本明細書は、ガラス前駆体およびガラスセラミック組成物並びにそれから製造されたガラスセラミック物品に関する。
【背景技術】
【0003】
カバーガラス、ガラスバックプレーンなどのガラス物品が、LCDおよびLEDディスプレイ、コンピュータ用モニタ、現金自動預払機(ATM)などの消費者向けおよび商業用両方の電子機器に利用されている。これらのガラス物品の内のいくつかは「タッチ」機能を備え、そのために、そのガラス物品は、使用者の指および/またはスタイラス器具を含む様々な物体により触れられることがあり、それゆえ、ガラスは、引っ掻き傷などの損傷なく、頻繁な接触に耐えるほど十分に頑丈であるべきである。実際に、ガラス物品の表面にもたらされる引っ掻き傷は、ガラスの壊滅的な破壊をもたらす亀裂の開始地点として働くことがあるので、その引っ掻き傷は、ガラスの強度を低下させることがある。
【0004】
さらに、そのようなガラス物品は、携帯電話、パーソナルメディアプレーヤー、ラップトップ型コンピュータ、およびタブレット型コンピュータなどの携帯型電子機器に組み込まれることもある。それゆえ、ガラス物品の透過率など、ガラス物品の光学特性を検討することが望ましいであろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、ガラスと比べて改善された機械的性質を有しつつ、ガラスと類似の光学特性も有する、ガラスに代わる代替材料が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様A1によれば、ガラスセラミック物品は、50モル%から80モル%のSiO、10モル%から25モル%のAl、5モル%から20モル%のMgO、0モル%から10モル%のLiO、および1モル%から3モル%の核形成剤を含むことがあり、その核形成剤は、ZrO、TiO、SnO、HfO、Ta、Nb、Y、およびその組合せからなる群より選択され、この核形成剤は、50%以上のZrOと、50%未満の、TiO、SnO、HfO、Ta、Nb、Y、およびその組合せからなる群より選択される少なくとも1つの化合物とを含み、MgO対LiOのモル比は、1以上:1であり、0.85≦(MgO(モル%)+LiO(モル%))/Al(モル%)≦1.2であり、このガラスセラミック物品は、六方晶スタッフド(hexagonal stuffed)β-石英を含む結晶相およびガラスから作られる。
【0007】
第2の態様A2は、前記ガラスセラミック物品が、55モル%から65モル%のSiO、18モル%から22モル%のAl、13モル%から16モル%のMgO、2モル%から8モル%のLiO、および1.5モル%から2.7モル%の核形成剤を含む、第1の態様A1によるガラスセラミック物品を含む。
【0008】
第3の態様A3は、前記ガラスセラミック物品が、60モル%から65モル%のSiO、16モル%から20モル%のAl、12モル%から15モル%のMgO、4.0モル%から5.0モル%のLiO、および1.5モル%から2.5モル%の核形成剤を含む、第1の態様A1または第2の態様A2によるガラスセラミック物品を含む。
【0009】
第4の態様A4は、MgO対LiOの前記モル比が、2以上:1である、第1から第3の態様A1~A3のいずれかによるガラスセラミック物品を含む。
【0010】
第5の態様A5は、前記結晶相が、[MgO+LiO+ZnO]:0.8~1.25のAl:2.0~8.0のSiOの化学量論を有する、第1から第4の態様A1~A4のいずれかによるガラスセラミック物品を含む。
【0011】
第6の態様A6は、前記結晶相が、正方晶ジルコニアをさらに含む、第1から第5の態様A1~A5のいずれかによるガラスセラミック物品を含む。
【0012】
第7の態様A7は、ZnOをさらに含む、第1から第6の態様A1~A6のいずれかによるガラスセラミック物品を含む。
【0013】
第8の態様A8は、MgO(モル%)+LiO(モル%)+ZnO(モル%)が10モル%から28モル%である、第7の態様A7によるガラスセラミック物品を含む。
【0014】
第9の態様A9は、ZnO(モル%)/(MgO(モル%)+LiO(モル%)+ZnO(モル%))が0.5以下である、第7の態様A7または第8の態様A8によるガラスセラミック物品を含む。
【0015】
第10の態様A10は、前記ガラスセラミック物品がリチウムを実質的に含まない、第1から第9の態様A1~A9のいずれかによるガラスセラミック物品を含む。
【0016】
第11の態様A11は、前記ガラスセラミック物品が、1.0MPa・m1/2以上の破壊靱性を有する、第1から第10の態様A1~A10のいずれかによるガラスセラミック物品を含む。
【0017】
第12の態様A12は、破壊靱性が、1.0MPa・m1/2から1.8MPa・m1/2の範囲にある、第11の態様A11によるガラスセラミック物品を含む。
【0018】
第13の態様A13は、前記ガラスセラミック物品が、0.85mmの物品厚さで測定して、400nmから800nmの波長範囲に亘る光の75%から95%の範囲の平均透過率を有する、第1から第12の態様A1~A12のいずれかによるガラスセラミック物品を含む。
【0019】
第14の態様A14は、前記ガラスセラミック物品が、0.85mmの物品厚さで測定して、400nmから800nmの波長範囲に亘る光の75%以上の範囲の平均透過率を有する、第1から第13の態様A1~A13のいずれかによるガラスセラミック物品を含む。
【0020】
第15の態様A15は、前記結晶相の結晶粒が、5μm超から75μm以下の範囲の粒径を有する、第1から第14の態様A1~A14のいずれかによるガラスセラミック物品を含む。
【0021】
第16の態様A16は、前記粒径が20μm以上から30μm以下である、第15の態様A15によるガラスセラミック物品を含む。
【0022】
第17の態様A17は、前記ガラスセラミック物品が、50質量%以上の前記結晶相および50質量%以下の前記ガラスから作られる、第1から第16の態様A1~A16のいずれかによるガラスセラミック物品を含む。
【0023】
第18の態様A18は、前記ガラスセラミック物品が、1キロポアズ(kP)超の液相粘度を有する、第1から第17の態様A1~A17のいずれかによるガラスセラミック物品を含む。
【0024】
第19の態様A19は、前記ガラスセラミック物品が、前記ガラス中に微小亀裂を含む、第1から第18の態様A1~A18のいずれかによるガラスセラミック物品を含む。
【0025】
第20の態様A20は、前記ガラスセラミック物品が、1.8MPa・m1/2以上の破壊靱性を有する、第19の態様A19によるガラスセラミック物品を含む。
【0026】
第21の態様A21は、前記微小亀裂中に配置された高分子充填剤をさらに含む、第19の態様A19または第20の態様A20によるガラスセラミック物品を含む。
【0027】
第22の態様A22は、前記高分子充填剤が、1.51以上かつ1.58以下の屈折率を有する、第21の態様A21によるガラスセラミック物品を含む。
【0028】
第23の態様A23は、前記高分子充填剤が充填された微小亀裂を含むガラスセラミック物品が、2.0MPa・m1/2以上の破壊靱性を有する、第21の態様A21または第22の態様A22によるガラスセラミック物品を含む。
【0029】
第24の態様A24によれば、ガラスセラミック物品を形成する方法は、ガラスセラミック組成物を1℃/分から10℃/分の範囲の速度でガラス予備核形成温度に加熱する工程であって、このガラスセラミック組成物は、50モル%から80モル%のSiO、10モル%から25モル%のAl、5モル%から20モル%のMgO、0モル%から10モル%のLiO、および1モル%から3モル%の核形成剤を含み、その核形成剤は、ZrO、TiO、SnO、HfO、Ta、Nb、Y、およびその組合せからなる群より選択され、この核形成剤は、50%以上のZrOと、50%未満の、TiO、SnO、HfO、Ta、Nb、Y、およびその組合せからなる群より選択される少なくとも1つの化合物とを含み、MgO対LiOのモル比は、1以上:1であり、0.85≦(MgO(モル%)+LiO(モル%))/Al(モル%)≦1.2である工程;そのガラスセラミック組成物を0.25時間から4時間の範囲の時間に亘り予備核形成温度に維持して、予備核形成された結晶化可能なガラスを生成する工程;その予備核形成された結晶化可能なガラスを1℃/分から10℃/分の範囲の速度で核形成温度(Tn)に加熱する工程;その予備核形成された結晶化可能なガラスを0.25時間から4時間の範囲の時間に亘り核形成温度に維持して、核形成された結晶化可能なガラスを生成する工程;その核形成された結晶化可能なガラスを1℃/分から10℃/の範囲の速度で結晶化温度(Tc)に加熱する工程;その核形成された結晶化可能なガラスを0.25時間から4時間の範囲の時間に亘り結晶化温度に維持して、ガラスセラミック物品を生成する工程;およびそのガラスセラミック物品を室温に冷却する工程を有してなる。
【0030】
第25の態様A25は、前記結晶化温度(Tc)が、850℃から1000℃の範囲にある、第24の態様A24による方法を含む。
【0031】
第26の態様A26は、前記ガラスセラミック物品をイオン交換浴中で強化する工程をさらに含む、第24の態様A24または第25の態様A25による方法を含む。
【0032】
第27の態様A27は、前記イオン交換浴が溶融LiSO塩を含む、第26の態様A26による方法を含む。
【0033】
第28の態様A28は、前記イオン交換浴が、溶融KSO塩をさらに含む、第27の態様A27による方法を含む。
【0034】
第29の態様A29は、消費者向け電子機器であって、前面、背面、および側面を有する筐体;その筐体内に少なくとも部分的に設けられた電気部品であって、少なくとも、制御装置、メモリ、およびその筐体の前面に、またはそれに隣接して設けられたディスプレイを含む電気部品;およびそのディスプレイの上に配置された第1から第23の態様A1~A23のいずれかによるガラスセラミック物品を備えた消費者向け電子機器を含む。
【0035】
ここに記載されたガラスセラミックの追加の特徴および利点は、以下の詳細な説明に述べられており、一部は、その説明から当業者に容易に明白となるか、または以下の詳細な説明、特許請求の範囲、並びに添付図面を含む、ここに記載された実施の形態を実施することによって、認識されるであろう。
【0036】
先の一般的な説明および以下の詳細な説明の両方とも、様々な実施の形態を記載しており、請求項の主題の性質および特徴を理解するための概要または骨子を提供する意図があることを理解すべきである。添付図面は、様々な実施の形態のさらなる理解を与えるために含まれ、本明細書に包含され、その一部を構成する。図面は、ここに記載された様々な実施の形態を示しており、説明と共に、請求項の主題の原理および作動を説明する働きをする。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】ここに開示されたガラスセラミック物品のいずれかを組み込んだ例示の電子機器の平面図
図2図1の例示の電子機器の斜視図
図3】ここに開示された1つ以上の実施の形態による例示のガラスセラミックの破面の走査型電子顕微鏡画像
図4図3の例示のガラスセラミックの研磨面の走査型電子顕微鏡画像
図5】ここに記載された1つ以上の実施の形態によるガラスセラミックのX線回折(XRD)スペクトル
図6】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、0.81mmの試料厚に関する波長の関数としての例示のガラスセラミックの透過率のプロット
図7】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、0.9mmの試料厚に関する波長の関数としての例示のガラスセラミックの透過率のプロット
図8】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、波長の関数としての例示のガラスセラミックの散乱のプロット
図9】ここに記載された1つ以上の実施の形態による例示のガラスセラミックの写真
図10】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、微小亀裂が生じた後の例示のガラスセラミックの写真
図11】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、高分子充填剤を含む例示のガラスセラミックの写真
【発明を実施するための形態】
【0038】
ここで、大きい粒径を有するガラスセラミック物品の様々な実施の形態を詳しく参照する。実施の形態によれば、ガラスセラミック物品は、50モル%から80モル%のSiO、10モル%から25モル%のAl、5モル%から20モル%のMgO、0モル%から10モル%のLiO、および1モル%から3モル%の核形成剤を含み、その核形成剤は、ZrO、TiO、SnO、HfO、Ta、Nb、Y、およびその組合せからなる群より選択される。この核形成剤は、50%以上のZrOと、50%未満の、TiO、SnO、HfO、Ta、Nb、Y、およびその組合せからなる群より選択される少なくとも1つの化合物とを含む。このガラスセラミック物品は、1以上:1のMgO対LiOのモル比を有する。このガラスセラミック物品は、関係0.85≦(MgO(モル%)+LiO(モル%))/Al(モル%)≦1.2を満たす。このガラスセラミック物品は、六方晶スタッフドβ-石英を含む結晶相およびガラスから作られる。ガラスセラミック物品およびガラスセラミック物品を製造する方法の様々な実施の形態が、添付図面を具体的に参照して、ここに言及される。
【0039】
範囲は、本明細書では、「約」1つの特定の値から、および/または「約」別の特定の値までとして表現されることがある。このような範囲が表現される場合、別の実施の形態では、1つの特定の値から、および/または、他の特定の値までが含まれる。 同様に、値が、先行詞「約」の使用により、近似値として表現される場合、特定の値が別の実施の形態を形成することが理解されるであろう。さらに、各範囲の端点は、他の端点との関係においても、他の端点から独立していても有意であることが理解されよう。
【0040】
本明細書で使用される方向を示す用語-例えば、上、下、右、左、前、後、上、下-は、描かれた図を参照してのみ使用され、絶対的な向きを暗示する意図はない。
【0041】
特に明示しない限り、本明細書に記載されたどの方法も、その工程が特定の順序で実行されることを要求すると解釈されることも、どの装置についても、特定の向きを要求することも、決して意図されない。したがって、方法の請求項がその工程が従うべき順序を実際に記載していない場合、または装置の請求項が個々の構成要素に対する順序または向きを実際に記載していない場合、または工程が特定の順序に限定されるべきであることが請求項または説明において他に明確に記載されていない場合、または装置の構成要素に対する特定の順序または向きが記載されていない場合には、いかなる点においても、順序または向きが推測されることを意図していない。これは、工程の配置、操作の流れ、構成要素の順序、または構成要素の向きに関する論理の問題;文法的構成または句読法に由来する平易な意味、および;本明細書に記載される実施の形態の数またはタイプを含む、解釈に関するあらゆる可能な非表現的根拠に適用される。
【0042】
本明細書で使用される場合、名詞は、文脈上明白に他の意味に解釈すべき場合を除いて、複数の対象を含む。したがって、例えば、ある構成要素への言及は、文脈上明白に他の意味に解釈すべき場合を除いて、そのような構成要素を2つ以上有する態様を含む。
【0043】
「0モル%」、「含まない」および「実質的に含まない」という用語は、ガラス前駆体またはガラスセラミック組成物中の特定の構成成分の濃度および/または不在を記載するために使用される場合、その構成成分がそのガラス前駆体またはガラスセラミック組成物に意図的に添加されていないことを意味する。しかしながら、ガラス前駆体またはガラスセラミック組成物には、0.05モル%未満の量の汚染物質または混入物としてその構成成分が微量に含まれている場合がある。
【0044】
ここに記載されたガラス前駆体またはガラスセラミック組成物の実施の形態において、構成成分(例えば、SiO、Alなど)の濃度は、特に明記のない限り、酸化物基準のモルパーセント(モル%)で指定される。
【0045】
破壊靱性は、その内容がここに全て引用される、「Double Torsion Technique as a Universal Fracture Toughness Test Method」と題する、ASTM STP 559に記載されたダブルトーション技術を使用して測定される。
【0046】
ここに記載されたようなX線回折(XRD)スペクトルは、Bruker Corporation(マサチューセッツ州、ビルリカ)により製造されたLYNXEYE XE-T検出器を備えたD8 ENDEAVOR X線回折システムで測定される。
【0047】
透過率データ(全透過率および拡散透過率)は、PerkinElmer Inc.(米国、マサチューセッツ州、ウォルサム)により製造されているLambda 950 UV/Vis分光光度計で測定される。このLambda 950装置には、150mmの積分球が取り付けられていた。オープンビーム基線およびSpectralon(登録商標)標準反射率ディスクを使用して、データを収集した。全光線反射率(全Tx)について、試料を積分球の入口に固定する。拡散透過率(拡散Tx)について、積分球の出口の上にある「Spectralon」標準反射率ディスクを取り除いて、軸上光を積分球から出し、ライトトラップに入らせる。ライトトラップの効率を決定するために、試料を用いずに、拡散部分の原点オフセット測定を行う。拡散透過率測定値を補正するために、原点オフセット寄与を、式:拡散Tx=拡散測定値-(原点オフセット×(全Tx/100))を使用して、試料の測定値から差し引く。散乱の割合(すなわち、散乱%)は、(散乱Tx%/全Tx%)×100として測定される。
【0048】
ここに用いられる「平均透過率」という用語は、所定の波長範囲内の様々な波長での透過率測定値の平均を称する。特に明記のない限り、ある範囲にわたる「平均透過率」は、端点を含む範囲内の全ての整数波長の透過率を測定し、その測定値を平均することによって計算される。ここに記載された実施の形態では、「平均透過率」は、400nmから800nmの波長範囲(端点を含む)に亘り報告される。
【0049】
「透明」という用語は、本明細書の物品を説明するために使用される場合、0.85mmの物品厚さにおいて400nmから800nmの波長範囲(端点を含む)の光に関する少なくとも75%の平均透過率を有する物品を称する。
【0050】
「半透明」という用語は、本明細書の物品を説明するために使用される場合、物品厚さ0.85mmで400nmから800nmの波長範囲(端点を含む)の光に対して20%から75%未満の範囲の透過率を有する物品を称する。
【0051】
ここに記載されたガラスセラミックの結晶相の結晶粒の粒径は、走査型電子顕微鏡法を用いて測定される。
【0052】
ここに用いられる「融点」という用語は、ガラス前駆体またはガラスセラミック組成物の粘度が200ポアズとなる温度を称する。
【0053】
ここに用いられる「軟化点」という用語は、ガラス前駆体またはガラスセラミック組成物の粘度が1×107.6ポアズとなる温度を意味する。軟化点は、ASTM C1351Mと同様に、温度の関数として10から10ポアズの無機ガラスの粘度を測定する平行板粘度法にしたがって測定される。
【0054】
ここに用いられる「液相粘度」という用語は、失透の開始時(すなわち、ASTM C829-81による勾配炉法で決定した液相温度で)のガラスセラミックの粘度を称する。
【0055】
特に明記のない限り、圧縮応力(表面圧縮応力を含む)は、有限会社折原製作所製のFSM-6000等の市販の測定器などの表面応力計(FSM)を用いて測定される。表面応力の測定は、ガラスセラミックの複屈折に関連する応力光学係数(SOC)の測定に依存する。SOCは、次に、その内容がここに全て引用される、「Standard Test Method for Measurement of Glass Stress-Optical Coefficient」と題する、ASTM基準C770-16に記載の手順C(ガラスディスク法)にしたがって測定される。圧縮深さ(DOC)もFSMで測定される。 最大中央張力(CT)値は、当該技術分野で公知の散乱光偏光器(SCALP)技術を使用して測定される。
【0056】
「圧縮深さ」および「DOC」という句は、圧縮応力が引張応力に移行するガラスセラミック内の位置を称する。
【0057】
ここに使用される「ガラス前駆体」という句は、熱処理の際に、ガラス中の結晶相の核形成を引き起こす1種類以上の核形成剤を含有するガラスまたはガラス物品を称する。
【0058】
ここに使用される「ガラスセラミック」という句は、ガラス前駆体中の結晶相の核形成後にガラス前駆体材料から形成される材料または物品を称する。
【0059】
ガラスセラミックから形成された物品は、一般に、亀裂の成長を妨げる結晶粒の存在により、ガラスから形成された物品と比較して破壊靱性が改善されている。破壊靭性は、ガラスセラミックの単位体積当たりの結晶粒の数を減少させることによって、すなわち、ガラスセラミックの粒径を大きくすることによって改善され得る。理論で束縛する意図はないが、破壊靭性の改善は、粒径が大きくなると結晶粒を引き抜くのに要するエネルギー量が大きくなることに起因すると考えられる。しかしながら、粒径が大きくなると、透明度あるいは光透過率が低下する。特に、ガラスセラミックの透明度は、粒径が5μmを超えると、著しく低下することが分かった。それゆえ、従来のガラスセラミックは、機械的性質(破壊靭性など)が比較的良好で、光学特性(光透過性または光透過率など)が比較的劣ることがある、または機械的性質が比較的劣り、光学特性が比較的良好なことがあるが、機械的性質が比較的良好で、光学特性が比較的良好なことはない。
【0060】
前述の問題を軽減するガラス前駆体およびそれから形成されるガラスセラミックが、本明細書で開示されている。具体的には、本明細書に開示されたガラス前駆体およびそれから形成されるガラスセラミックは、比較的低い濃度の核形成剤を含み、その結果、比較的大きな粒径およびしたがって、比較的大きな値の破壊靱性を有する一方で、比較的良好な光学特性も有する透明ガラスセラミックが得られる。
【0061】
ここに記載されたガラス前駆体およびガラスセラミックは、一般にマグネシウム含有アルミノケイ酸塩ガラス前駆体またはガラスセラミックと記載されることがあり、SiO、Al、MgOおよび核形成剤、例えば、ZrOを含むことがある。SiO、Al、MgO、および核形成剤に加えて、ここに記載されたガラス前駆体およびガラスセラミックは、ガラスセラミックのイオン交換性を可能にするために、LiOなどのアルカリ酸化物をさらに含有することがある。ここに記載されたガラスセラミックは、六方晶スタッフドβ-石英を含む結晶相およびガラスを含むことがある。実施の形態において、その結晶相は、正方晶ジルコニアをさらに含むことがある。実施の形態において、そのガラスセラミックは、XRDスペクトルのリートベルト解析にしたがって決定して、ガラス物品の質量で(すなわち、質量%で)50質量%以上の結晶相と50質量%以下のガラス、60質量%以上の結晶相と40質量%以下のガラス、70質量%以上の結晶相と30質量%以下のガラス、80質量%以上の結晶相と20質量%以下のガラス、90質量%以上の結晶相と10質量%以下のガラス、95質量%以上の結晶相と5質量%以下のガラス、96質量%以上の結晶相と4質量%以下のガラス、97質量%以上の結晶相と3質量%以下のガラス、98質量%以上の結晶相と2質量%以下のガラス、または99質量%以上の結晶相と1質量%以下のガラスを含む。結晶相の含有量またはガラスの含有量は、上述した端点のいずれかと全てから形成された部分的範囲内にあることがあるのを理解すべきである。実施の形態において、ここに記載されたガラスセラミックは、核形成相をさらに含むことがある。その核形成相は、ZrO、チタン酸ジルコニウム、イットリウムタンタライト、ニオブ酸塩、およびその組合せを含有することがある。
【0062】
SiOは、ここに記載されたガラス前駆体およびガラスセラミック組成物における主要なガラス形成材であり、ガラスセラミックの網状構造を安定化させる働きをすることがある。そのガラス前駆体およびガラスセラミック組成物中のSiOの濃度は、ガラス前駆体が熱処理されて、ガラス前駆体をガラスセラミックに転化させるときに、結晶相を形成するために、十分に高い(例えば、50モル%以上である)べきである。SiOの量は、純粋なSiOまたは高SiOガラスの溶融温度が望ましくなく高いので、ガラス前駆体またはガラスセラミック組成物の融点を制御するために、制限される(例えば、80モル%以下に)ことがある。それゆえ、SiOの濃度を制限することは、ガラス前駆体またはガラスセラミック組成物の溶けやすさおよび成形性を改善するのに役立つことがある。
【0063】
したがって、実施の形態において、前記ガラス前駆体またはガラスセラミック組成物は、50から80モル%のSiOを含むことがある。実施の形態において、そのガラス前駆体またはガラスセラミック組成物は、55から65モル%のSiOを含むことがある。実施の形態において、そのガラス前駆体またはガラスセラミック組成物は、60から65モル%のSiOを含むことがある。実施の形態において、そのガラス前駆体またはガラスセラミック組成物中のSiOの濃度は、50から80モル%、50から77モル%、50から75モル%、50から73モル%、50から70モル%、50から67モル%、50から65モル%、50から63モル%、50から60モル%、50から59モル%、53から80モル%、53から77モル%、53から75モル%、53から73モル%、53から70モル%、53から67モル%、53から65モル%、53から63モル%、53から60モル%、53から59モル%、55から80モル%、55から77モル%、55から75モル%、55から73モル%、55から70モル%、55から67モル%、55から65モル%、55から63モル%、55から60モル%、55から59モル%、57から80モル%、57から77モル%、57から75モル%、57から73モル%、57から70モル%、57から67モル%、57から65モル%、57から63モル%、57から60モル%、または57から59モル%、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にあることがある。実施の形態において、そのガラス前駆体またはガラスセラミック組成物中のSiOの濃度は、50モル%以上、53モル%以上、55モル%以上、または57モル%以上であることがある。実施の形態において、そのガラス前駆体またはガラスセラミック組成物中のSiOの濃度は、80モル%以下、75モル%以下、70モル%以下、65モル%以下、63モル%以下、または60モル%以下であることがある。
【0064】
Alも、SiOのように、ガラスの網状構造を安定化させることがあり、加えて、ガラスセラミックに改善された機械的性質および化学的耐久性を与えることがある。Alの量は、ガラス前駆体またはガラスセラミック組成物の粘度を制御するために調整されることもある。しかしながら、Alの量が多すぎると、溶融物の粘度が増すであろう。実施の形態において、そのガラス前駆体またはガラスセラミック組成物は、10から25モル%のAlを含むことがある。実施の形態において、そのガラス前駆体またはガラスセラミック組成物は、18から22モル%のAlを含むことがある。実施の形態において、そのガラス前駆体またはガラスセラミック組成物は、16から20モル%のAlを含むことがある。実施の形態において、そのガラス前駆体またはガラスセラミック組成物中のAlの濃度は、10から25モル%、10から23モル%、10から20モル%、15から25モル%、15から23モル%、15から20モル%、18から25モル%、18から23モル%、18から22モル%、18から21モル%、18から20モル%、20から25モル%、20から24モル%、20から23モル%、20から22モル%、または20から21モル%、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にあることがある。実施の形態において、そのガラス前駆体またはガラスセラミック組成物中のAlの濃度は、10モル%以上、15モル%以上、18モル%以上、または20モル%以上であることがある。実施の形態において、そのガラス前駆体またはガラスセラミック組成物中のAlの濃度は、25モル%以下、23モル%以下、または20モル%以下であることがある。
【0065】
前記ガラス前駆体またはガラスセラミック組成物中のMgOは、それ自体またはLiOとの併用のいずれかで、ガラス前駆体中のAlと電荷平衡をとる上で役立つことがある。Alと電荷平衡をとることは、ここにさらに詳しく記載されるように、ガラスセラミック中の所望の結晶相(および結晶相の量)を達成するのに役立つ。MgOは、部分固溶体におけるガラスセラミックの結晶相の六方晶通路に入って詰めることがある(それゆえ、ガラスセラミックの「六方晶スタッフドβ-石英」結晶相)。実施の形態において、そのガラス前駆体またはガラスセラミック組成物は、10から20モル%のMgOを含むことがある。実施の形態において、そのガラス前駆体またはガラスセラミック組成物は、13から16モル%のMgOを含むことがある。実施の形態において、そのガラス前駆体またはガラスセラミック組成物は、12から15モル%のMgOを含むことがある。実施の形態において、そのガラス前駆体またはガラスセラミック組成物中のMgOの濃度は、5から20モル%、5から15モル%、5から10モル%、10から20モル%、10から17モル%、10から15モル%、10から13モル%、12から20モル%、12から17モル%、12から15モル%、12から14モル%、12から13モル%、13から20モル%、13から17モル%、13から16モル%、13から15モル%、または13から14モル%、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にあることがある。実施の形態において、そのガラス前駆体またはガラスセラミック組成物中のMgOの濃度は、5モル%以上、10モル%以上、または12モル%以上であることがある。実施の形態において、そのガラス前駆体またはガラスセラミック組成物中のMgOの濃度は、20モル%以下、17モル%以下、または15モル%以下であることがある。
【0066】
LiOは、結晶相の形成に役立つ。LiOは、MgOとの併用で、前記ガラス前駆体またはガラスセラミック組成物中のAlと電荷平衡をとる上で役立つことがある。ここに述べられたように、Alと電荷平衡をとることは、ガラスセラミック中の所望の結晶相(および結晶相の量)を達成するのに役立つ。それに加え、LiOには、そのガラス前駆体またはガラスセラミック組成物の融点、軟化点、および成形温度を低下させる上で著しい効果があり、それゆえ、LiOは、例えば、制限なく、より高濃度のSiOを含有することによる、ガラス前駆体またはガラスセラミック組成物の成形性の低下を相殺するのに効果的であることが分かった。さらに、LiOは、それ自体またはMgOとの併用のいずれかで、部分固溶体におけるガラスセラミックの結晶相の六方晶通路に入り、詰めることがある(それゆえ、ガラスセラミックの「六方晶スタッフドβ-石英」結晶相)。実施の形態において、そのガラス前駆体またはガラスセラミック組成物は、0から10モル%のLiOを含むことがある。実施の形態において、そのガラス前駆体またはガラスセラミック組成物は、2から8モル%のLiOを含むことがある。実施の形態において、そのガラス前駆体またはガラスセラミック組成物は、4.0から5.0モル%のLiOを含むことがある。実施の形態において、そのガラス前駆体またはガラスセラミック組成物中のLiOの濃度は、0から10モル%、0から9モル%、0から8モル%、0から7モル%、0から6モル%、0から5モル%、2から10モル%、2から9モル%、2から8モル%、2から7モル%、2から6モル%、2から5モル%、3から10モル%、3から9モル%、3から8モル%、3から7モル%、3から6モル%、3から5モル%、4.0から10.0モル%、4.0から9.0モル%、4.0から8.0モル%、4.0から7.0モル%、4.0から6.0モル%、4.0から5.5モル%、4.0から5.0モル%、4.5から10.0モル%、4.5から9.0モル%、4.5から8.0モル%、4.5から7.0モル%、4.5から6.0モル%、4.5から5.5モル%、または4.5から5.0モル%、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にあることがある。実施の形態において、そのガラス前駆体またはガラスセラミック組成物中のLiOの濃度は、0モル%以上または2モル%以上であることがある。実施の形態において、そのガラス前駆体またはガラスセラミック組成物中のLiOの濃度は、10モル%以下または5モル%以下であることがある。
【0067】
LiOの濃度が、10モル%超のように多すぎると、前記ガラス前駆体またはガラスセラミック組成物は、非常に流動性になり、送達粘度が、特定の成形技術でシートを形成できないほど低くなってしまう。それゆえ、実施の形態において、そのガラス前駆体またはガラスセラミック組成物は、リチウムを実質的に含まない。実施の形態において、LiOの濃度が0モル%に近づくにつれて、粗粒のガラスセラミックを製造するために、ZrOの濃度が増やされることがある。
【0068】
ここに記載されたガラス前駆体またはガラスセラミック組成物の実施の形態において、そのガラス前駆体またはガラスセラミック組成物中のLiOの量に対するそのガラス前駆体またはガラスセラミック組成物中のMgOの量のモル比(すなわち、MgO(モル%):LiO(モル%))は、亀裂を生じずに粗粒を生成するために、1以上:1であることがある。実施の形態において、そのガラス前駆体またはガラスセラミック組成物中の比MgO(モル%):LiO(モル%)は、1.5:1から3:1であることがある。実施の形態において、そのガラス前駆体またはガラスセラミック組成物中の比MgO(モル%):LiO(モル%)は、1以上:1、1.5以上:1、2以上:1、2.5以上:1、または3以上:1であることがある。
【0069】
実施の形態において、ここに記載されたガラス前駆体またはガラスセラミック組成物は、関係0.85≦(MgO(モル%)+LiO(モル%))/Al(モル%)≦1.2を満たすことがある。先に述べたように、MgOおよびLiOは、ガラス前駆体またはガラスセラミック組成物中のAlと電荷平衡をとり、それによって、ガラスセラミック中の所望の結晶相(および結晶相の量)を達成するために、使用されることがある。詳しくは、ガラス前駆体またはガラスセラミック組成物中の(MgO(モル%)+LiO(モル%))/Al(モル%)の比が1.2より大きい場合、結晶相は、六方晶スタッフドβ-石英に加え、ムライトであることがある。結晶相がムライトを含む場合、そのガラスセラミックは、それにより、透過率などのガラスセラミックの光学的性質が低下するヘイズを生じやすいことがある。ガラス前駆体またはガラスセラミック組成物中の(MgO(モル%)+LiO(モル%))/Al(モル%)の比が0.85より小さい場合、ガラスセラミック中のガラスの量が増し、結晶相の量が減少し、このことは望ましくない。実施の形態において、ガラス前駆体またはガラスセラミック組成物は、関係0.85≦(MgO(モル%)+LiO(モル%))/Al(モル%)≦1.2;0.90≦(MgO(モル%)+LiO(モル%))/Al(モル%)≦1.2;0.95≦(MgO(モル%)+LiO(モル%))/Al(モル%)≦1.2;0.85≦(MgO(モル%)+LiO(モル%))/Al(モル%)≦1.0;0.90≦(MgO(モル%)+LiO(モル%))/Al(モル%)≦1.0;または0.95≦(MgO(モル%)+LiO(モル%))/Al(モル%)≦1.0を満たすことがある。
【0070】
実施の形態において、ここに記載されたガラス前駆体またはガラスセラミック組成物の結晶相は、そのガラス前駆体またはガラスセラミック組成物の液相温度および結晶化を制御することによって、安定性を維持するために、[MgO+LiO]:Al:2.0~7.0のSiOの化学量論を有することがある。実施の形態において、ここに記載されたガラス前駆体またはガラスセラミック組成物は、[MgO+LiO]:Al:2.0~6.0のSiOの化学量論を有することがある。実施の形態において、ここに記載されたガラス前駆体またはガラスセラミック組成物は、[MgO+LiO]:Al:2.0~5.0のSiOの化学量論を有することがある。実施の形態において、ここに記載されたガラス前駆体またはガラスセラミック組成物は、[MgO+LiO]:Al:2.5~5.0のSiOの化学量論を有することがある。実施の形態において、ここに記載されたガラス前駆体またはガラスセラミック組成物は、[MgO+LiO]:Al:2.5~4.5のSiOの化学量論を有することがある。
【0071】
実施の形態において、ここに記載されたガラス前駆体またはガラスセラミック組成物の結晶相は、ガラス前駆体またはガラスセラミック組成物の液相温度および結晶化を制御することによって、安定性を維持するために、[MgO+LiO+ZnO]:0.8~1.25のAl:2.0~8.0のSiOの化学量論を有することがある。実施の形態において、ここに記載されたガラス前駆体またはガラスセラミック組成物は、[MgO+LiO+ZnO]:0.9~1.1のAl:2.5~6.0のSiOの化学量論を有することがある。
【0072】
ここに述べられたように、前記ガラス前駆体またはガラスセラミック組成物は、核形成剤をさらに含む。その核形成剤は、ガラス中の結晶相のバルク核形成を生じ、それによって、ガラスをガラスセラミックに転換させる働きをする。核形成剤の濃度が、1モル%より低いなど、低すぎる場合、核形成は生じないであろう。しかしながら、核形成剤の濃度が、3モル%超のように多すぎると、得られたガラスセラミック中の結晶粒の結果としての粒径は、破壊靱性などの所望の機械的性質を得るためには、微細すぎる(例えば、小さすぎる)ことがある。したがって、所望の粒径(下記にさらに記載されるような)は、少なくとも一部には、ガラス前駆体またはガラスセラミック組成物中にある程度の濃度の核形成剤を含ませるが、より少ない、そしてより大きい結晶粒の核形成を促進するために、核形成剤の濃度を最小にすることによって、得られる。実施の形態において、そのガラス前駆体またはガラスセラミック組成物は、1から3モル%の核形成剤を含むことがある。実施の形態において、そのガラス前駆体またはガラスセラミック組成物は、1.5から2.7モル%の核形成剤を含むことがある。実施の形態において、そのガラス前駆体またはガラスセラミック組成物は、1.5から2.5モル%の核形成剤を含むことがある。実施の形態において、そのガラス前駆体またはガラスセラミック組成物中の核形成剤の濃度は、1から3モル%、1から2.7モル%、1から2.5モル%、1から2.3モル%、1から2モル%、1.5から3モル%、1.5から2.7モル%、1.5から2.5モル%、1.5から2.3モル%、1.5から2モル%、1.7から3モル%、1.7から2.7モル%、1.7から2.5モル%、1.7から2.3モル%、1.7から2モル%、1.8から3モル%、1.8から2.7モル%、1.8から2.5モル%、1.8から2.3モル%、1.8から2.2モル%、1.8から2.1モル%、1.8から2モル%、2から3モル%、2から2.7モル%、2から2.6モル%、または2から2.5モル%、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にあることがある。実施の形態において、そのガラス前駆体またはガラスセラミック組成物中の核形成剤の濃度は、1モル%以上または1.5モル%以上であることがある。実施の形態において、そのガラス前駆体またはガラスセラミック組成物中の核形成剤の濃度は、3モル%以下、2.7モル%以下、または2.5モル%以下であることがある。
【0073】
実施の形態において、前記核形成剤は、ZrO、TiO、SnO、HfO、Ta、Nb、Y、およびその組合せからなる群より選択される。実施の形態において、その核形成剤は、50%以上のZrOと、50%未満の、TiO、SnO、HfO、Ta、Nb、Y、およびその組合せからなる群より選択される少なくとも1つの化合物とを含むことがある。実施の形態において、その核形成剤は、55%以上のZrOと、45%未満の、TiO、SnO、HfO、Ta、Nb、Y、およびその組合せからなる群より選択される少なくとも1つの化合物とを含むことがある。実施の形態において、その核形成剤は、60%以上のZrOと、40%未満の、TiO、SnO、HfO、Ta、Nb、Y、およびその組合せからなる群より選択される少なくとも1つの化合物とを含むことがある。実施の形態において、その核形成剤は、65%以上のZrOと、35%未満の、TiO、SnO、HfO、Ta、Nb、Y、およびその組合せからなる群より選択される少なくとも1つの化合物とを含むことがある。実施の形態において、その核形成剤は、70%以上のZrOと、30%未満の、TiO、SnO、HfO、Ta、Nb、Y、およびその組合せからなる群より選択される少なくとも1つの化合物とを含むことがある。実施の形態において、その核形成剤は、75%以上のZrOと、25%未満の、TiO、SnO、HfO、Ta、Nb、Y、およびその組合せからなる群より選択される少なくとも1つの化合物とを含むことがある。実施の形態において、その核形成剤は、80%以上のZrOと、20%未満の、TiO、SnO、HfO、Ta、Nb、Y、およびその組合せからなる群より選択される少なくとも1つの化合物とを含むことがある。実施の形態において、その核形成剤は、85%以上のZrOと、15%未満の、TiO、SnO、HfO、Ta、Nb、Y、およびその組合せからなる群より選択される少なくとも1つの化合物とを含むことがある。実施の形態において、その核形成剤は、90%以上のZrOと、10%未満の、TiO、SnO、HfO、Ta、Nb、Y、およびその組合せからなる群より選択される少なくとも1つの化合物とを含むことがある。実施の形態において、その核形成剤は、95%以上のZrOと、5%未満の、TiO、SnO、HfO、Ta、Nb、Y、およびその組合せからなる群より選択される少なくとも1つの化合物とを含むことがある。実施の形態において、その核形成剤は、100%のZrOからなることがある。
【0074】
実施の形態において、ここに記載されたガラス前駆体またはガラスセラミック組成物は、ZnOを含むことがある。ZnOは、MgOのように、部分固溶体におけるガラスセラミックの結晶相の六方晶通路に入り、詰めることがある。さらに、ZnOは、組成物中のAlと電荷平衡をとり、それによって、ガラスセラミック中の所望の結晶相(および結晶相の量)を達成する上で、MgOおよびLiOを支援することがある。それゆえ、MgO含有量の少なくとも一部は、ZnOにより置換されることがある。実施の形態において、そのガラス前駆体またはガラスセラミック組成物は、0から15モル%のZnOを含むことがある。実施の形態において、そのガラス前駆体またはガラスセラミック組成物中のZnOの濃度は、0から15モル%、0から10モル%、0から9モル%、0から8モル%、0から7モル%、0から6モル%、0から5モル%、0から4モル%、0から3モル%、0から2モル%、0から1モル%、1から15モル%、1から10モル%、1から9モル%、1から8モル%、1から7モル%、1から6モル%、1から5モル%、1から4モル%、1から3モル%、1から2モル%、2から15モル%、2から10モル%、2から9モル%、2から8モル%、2から7モル%、2から6モル%、2から5モル%、2から4モル%、2から3モル%、10から15モル%、10から12モル%、または12から15モル%、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にあることがある。実施の形態において、そのガラス前駆体またはガラスセラミック組成物中のZnOの濃度は、0モル%以上、1モル%以上、2モル%以上、または10モル%以上であることがある。実施の形態において、そのガラス前駆体またはガラスセラミック組成物中のZnOの濃度は、15モル%以下、12モル%以下、10モル%以下、または5モル%以下であることがある。
【0075】
実施の形態において、ここに記載されたガラス前駆体またはガラスセラミック組成物中のMgO(モル%)+LiO(モル%)+ZnO(モル%)の総量は、10モル%から28モル%であることがある。
【0076】
実施の形態において、ここに記載されたガラス前駆体またはガラスセラミック組成物中のZnO(モル%)/(MgO(モル%)+LiO(モル%)+ZnO(モル%))は、0.5以下であることがある。この関係は、ガラス前駆体またはガラスセラミック組成物の透明度および屈折率に寄与する。MgOは、屈折率に関する限り、より良好な等方性を有する。ZnOは、透明度に関してLiOのように働く。実施の形態において、ここに記載されたガラス前駆体またはガラスセラミック組成物中のZnO(モル%)/(MgO(モル%)+LiO(モル%)+ZnO(モル%))は、0.2以下であることがある。
【0077】
実施の形態において、ここに記載されたガラス前駆体またはガラスセラミック組成物は、TiO、MnO、MoO、WO、Y、La、CdO、As、Sb、硫酸塩などの硫黄系化合物、ハロゲン、またはその組合せなどの混入物をさらに含むことがある。実施の形態において、そのガラス前駆体またはガラスセラミック組成物中に、抗菌成分、化学的清澄剤、または他の追加の成分が含まれることがある。
【0078】
ここに記載されたガラス前駆体またはガラスセラミックから形成された物品は、どの適切な厚さのものであってもよく、その厚さは、ガラスセラミックを使用する特定の用途に応じて様々であってよい。ガラスセラミックシートの実施の形態は、0.4mmから10mmの厚さを有することがある。実施の形態において、そのガラスセラミックシートの実施の形態は、6mm以下、5mm以下、4mm以下、3mm以下、2mm以下、1.0mm以下、750μm以下、500μm以下、または250μm以下の厚さを有することがある。実施の形態において、そのガラスセラミックシートの実施の形態は、100μmから2mm、100μmから4mm、100μmから5mm、200μmから5mm、500μmから5mm、200μmから4mm、200μmから2mm、400μmから5mm、または400μmから2mmの厚さを有することがある。実施の形態において、そのガラスセラミックシートの実施の形態は、3mmから6mm、または0.8mmから3mmの厚さを有することがある。その物品の厚さは、先の端点のいずれかおよび全てから形成される部分的範囲にあることがある。
【0079】
実施の形態において、ここに記載されたガラスセラミックは、ガラスセラミックの比較的大きい粒径のために、高い破壊靱性(KIC)および向上した損傷抵抗を示す。実施の形態において、ここに記載されたガラスセラミックの結晶相の結晶粒は、5μm超から75μm以下の範囲の粒径を有することがある。実施の形態において、ここに記載されたガラスセラミックの粒径は、20μm以上から30μm以下の範囲にあることがある。実施の形態において、ここに記載されたガラスセラミックの粒径は、5μm超から75μm以下、10μm以上から75μm以下、20μm以上から75μm以下、30μm以上から75μm以下、40μm以上から75μm以下、5μm超から50μm以下、10μm以上から50μm以下、20μm以上から50μm以下、30μm以上から50μm以下、40μm以上から50μm以下、5μm超から40μm以下、10μm以上から40μm以下、20μm以上から40μm以下、30μm以上から40μm以下、5μm超から30μm以下、10μm以上から30μm以下、または20μm以上から30μm以下の範囲、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にあることがある。
【0080】
実施の形態において、前記ガラスセラミックは、1.0MPa・m1/2以上の破壊靱性(KIC)を有することがある。実施の形態において、そのガラスセラミックは、1.0MPa・m1/2以上、1.2MPa・m1/2以上、1.3MPa・m1/2以上、1.4MPa・m1/2以上、1.5MPa・m1/2以上、1.6MPa・m1/2以上、1.7MPa・m1/2以上、または1.8MPa・m1/2以上の破壊靱性を有することがある。実施の形態において、そのガラスセラミックは、1.0から1.8MPa・m1/2または1.0から1.5MPa・m1/2の範囲の破壊靱性を有することがある。このガラスセラミックの破壊靱性は、上述した端点のいずれかおよび全てから形成された部分的範囲内にあることがあるのを理解すべきである。
【0081】
実施の形態において、ガラスセラミックは、0.85mmの物品厚さを有するガラスセラミック物品について、400nmから800nmの波長範囲に亘る光の75%から95%の範囲の平均透過率を有することがある。実施の形態において、そのガラスセラミックは、0.85mmの物品厚さを有するガラスセラミック物品について、400nmから800nmの波長範囲に亘る光の75%から95%、80%から95%、85%から95%、87%から95%、90%から95%、87%から93%、または90%から93%の範囲の平均透過率を有することがある。実施の形態において、そのガラスセラミックは、0.85mmの物品厚さを有するガラスセラミック物品について、400nmから800nmの波長範囲に亘る光の75%以上、80%以上、85%以上、または90%以上の平均透過率を有することがある。その平均透過率は、上述した端点のいずれかおよび全てから形成された部分的範囲内にあることがあるのを理解すべきである。
【0082】
実施の形態において、ガラスセラミックは、0.85mmの物品厚さを有するガラスセラミック物品について、400nmから800nmの波長範囲に亘る光の25%から50%の範囲の平均散乱透過率を有することがある。実施の形態において、このガラスセラミックは、0.85mmの物品厚さを有するガラスセラミック物品について、400nmから800nmの波長範囲に亘り、25%から50%、25%から45%、25%から40%、30%から50%、30%から45%、30%から40%、35%から50%、35%から45%、35%から40%、37%から50%、37%から45%、または37%から40%の範囲の平均散乱透過率を有することがある。実施の形態において、そのガラスセラミックは、0.85mmの物品厚さを有するガラスセラミック物品について、400nmから800nmの波長範囲に亘る光の25%以上、30%以上、または35%以上の平均散乱透過率を有することがある。この平均散乱透過率は、上述した端点のいずれかおよび全てから形成された部分的範囲内にあることがあるのを理解すべきである。
【0083】
実施の形態において、前記ガラスセラミックは、1キロポアズ(kP)超または10kP超の液相粘度を有することがある。実施の形態において、そのガラスセラミックは、1kP超、2kP超、3kP超、4kP超、5kP超、6kP超、7kP超、8kP超、9kP超、10kP超、15kP超、20kP超、25kP超、または30kP超の液相粘度を有することがある。実施の形態において、そのガラスセラミックは、1kP以上から30kP以下、5kP以上から25kP以下、10kP以上から20kP以下、1kP以上から20kP以下、1kP以上から10kP以下、およびこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲の液相粘度を有することがある。この範囲の粘度により、そのガラスセラミックを、制限なく、フュージョン成形法、スロットドロー法、フロート法、圧延法、および当該技術分野に公知の他のシート成形過程を含む、様々な異なる技術によって、シートに成形することができる。しかしながら、他の物品(すなわち、シート以外)を成形するために、他の過程が使用されてもよいことを理解すべきである。
【0084】
実施の形態において、ここに記載されたガラス前駆体またはガラスセラミック組成物は、ガラスセラミックの強化を促進するために、イオン交換可能である。典型的なイオン交換過程において、ガラスセラミック中のより小さい金属イオンが、ガラスセラミックの外面に近い層内で、同じ価数のより大きい金属イオンと置換、すなわち、「交換」される。より大きいイオンによる、より小さいイオンの置換により、ガラスセラミックの層内に圧縮応力が生じる。実施の形態において、金属イオンは、一価の金属イオン(例えば、Li、Na、Kなど)であり、イオン交換は、ガラスセラミック中のより小さい金属イオンを置換すべきより大きい金属イオンの少なくとも1種類の溶融塩を含む浴中にガラスセラミックを浸漬することによって、行われる。あるいは、一価イオンを、Ag、Tl、Cuなどの他の一価イオンで置換することがある。ガラスセラミックを強化するために使用されるイオン交換過程としては、以下に限られないが、1つの浴、もしくは浸漬の間に洗浄および/または徐冷高低が行われる、同様のまたは異なる組成の多数の浴中の浸漬が挙げられるであろう。実施の形態において、ガラスセラミックは、500℃の温度で溶融LiSO塩への曝露によって、イオン交換されることがある。そのような実施の形態において、Liイオンは、表面圧縮層を生じ、高い亀裂抵抗を示すために、ガラスセラミック中のMgイオンのいくらかを置換する。結果として生じた圧縮応力層は、2時間で、ガラスセラミックの表面から少なくとも100μmの深さ(「圧縮深さ」または「DOC」とも称される)を有することがある。実施の形態において、その浴は、溶融KSO塩をさらに含む。実施の形態において、そのガラスセラミックはイオン交換されて、10μm以上、20μm以上、30μm以上、40μm以上、50μm以上、60μm以上、70μm以上、80μm以上、90μm以上、または100μm以上の圧縮深さを達成することがある。実施の形態において、そのガラスセラミックはイオン交換されて、少なくとも10MPaの中央張力を達成することがある。この表面圧縮層の発生は、イオン交換されていない材料と比べて、よりよい亀裂抵抗およびより高い曲げ強度を達成するのに有益である。この表面圧縮層は、ガラスセラミック物品の本体(すなわち、表面圧縮を含まない区域)のガラスセラミック物品中に交換されるイオンの濃度と比べて、より高い濃度の、ガラスセラミック物品中に交換されたイオンを有する。
【0085】
実施の形態において、前記ガラスセラミックは、100MPaから500MPa、100MPaから450MPa、100MPaから400MPa、100MPaから350MPa、100MPaから300MPa、100MPaから250MPa、100MPaから200MPa、100MPaから150MPa、150MPaから500MPa、150MPaから450MPa、150MPaから400MPa、150MPaから350MPa、150MPaから300MPa、150MPaから250MPa、150MPaから200MPa、200MPaから500MPa、200MPaから450MPa、200MPaから400MPa、200MPaから350MPa、200MPaから300MPa、200MPaから250MPa、250MPaから500MPa、250MPaから450MPa、250MPaから400MPa、250MPaから350MPa、250MPaから300MPa、300MPaから500MPa、300MPaから450MPa、300MPaから400MPa、300MPaから350MPa、350MPaから500MPa、350MPaから450MPa、350MPaから400MPa、400MPaから500MPa、400MPaから450MPa、または450MPaから500MPaの範囲、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にある、イオン交換強化後の表面圧縮応力を有することがある。実施の形態において、そのガラスセラミックは、100MPa以上、150MPa以上、200MPa以上、250MPa以上、300MPa以上、350MPa以上、400MPa以上、450MPa以上、または500MPa以上の表面圧縮応力を有することがある。
【0086】
実施の形態において、ガラスセラミックを製造するための過程は、ガラスの均質化および1つ以上の結晶相(例えば、1つ以上の組成、量、形態、サイズまたはサイズ分布等を有する)の結晶化(すなわち、核形成と成長)を誘発するために、1つ以上の予め選択された温度で、1つ以上の予め選択された時間に亘り、前駆ガラスを熱処理する工程を含む。実施の形態において、その熱処理は、(i)ガラスセラミック組成物を1~10℃/分の速度でガラス予備核形成温度に加熱する工程;(ii)そのガラスセラミック組成物を0.25から4時間の範囲の時間に亘り予備核形成温度に維持して、予備核形成された結晶化可能ガラスを生成する工程;(iii)予備核形成された結晶化可能ガラスを1~10℃/分の速度で核形成温度(Tn)に加熱する工程;(iv)予備核形成された結晶化可能ガラスを0.25時間から4時間の範囲の時間に亘り核形成温度に維持して、核形成された結晶化可能ガラスを生成する工程;(v)核形成された結晶化可能ガラスを1℃/分~10℃/分の範囲の速度で結晶化温度(Tc)に加熱する工程;(vi)核形成された結晶化可能ガラスを0.25時間から4時間の範囲の時間に亘り結晶化温度に維持して、ここに記載されたガラスセラミックを生成する工程;および(vii)形成されたガラスセラミックを室温に冷却する工程を有してなる。
【0087】
ここに用いられているように、「結晶化温度」という用語は、「セラミック化温度("ceram temperature"または"ceramming temperature")」と交換可能に使用されることがある。それに加え、これらの実施の形態における「セラミック化("ceram"または"ceramming")」という用語は、まとめて、工程(v)、(vi)および必要に応じて、(vii)を称するために使用されることがある。実施の形態において、ガラス予備核形成温度は、750℃から850℃の範囲にあることがあり、核形成温度(Tn)は800℃から900℃の範囲にあることがあり、結晶化温度(Tc)は、850℃から1000℃の範囲にあることがある。実施の形態において、予備核形成温度は800℃であることがあり、核形成温度(Tn)は850℃であり、結晶化温度(Tc)は900℃である。実施の形態において、予備核形成温度は800℃であることがあり、核形成温度(Tn)は850℃であり、結晶化温度(Tc)は925℃である。
【0088】
他の実施の形態において、前記熱処理は、結晶化可能ガラスをガラス予備核形成温度に維持する工程を含まない。それゆえ、その熱処理は、(i)予備核形成された結晶化可能ガラスを1~10℃/分の速度で核形成温度(Tn)に加熱する工程;(ii)その結晶化可能ガラスを0.25時間から4時間の範囲の時間に亘り核形成温度に維持して、核形成された結晶化可能ガラスを生成する工程;(iii)核形成された結晶化可能ガラスを1℃/分~10℃/分の範囲の速度で結晶化温度(Tc)に加熱する工程;(iv)核形成された結晶化可能ガラスを0.25時間から4時間の範囲の時間に亘り結晶化温度に維持して、ここに記載されたガラスセラミックを生成する工程;および(v)形成されたガラスセラミックを室温に冷却する工程を有してなる。「セラミック化("ceram"または"ceramming")」という用語は、まとめて、工程(iii)、(iv)および必要に応じて、(v)を称するために使用されることがある。いくつかの実施の形態において、核形成温度は800℃であることがあり、結晶化温度は900℃であることがある。
【0089】
前駆体ガラス組成物に加え、結晶化温度に加熱し、温度を結晶化温度に維持する熱処理工程の温度時間的プロファイルは、以下の所望の属性の内の1つ以上を生じように思慮して規定される:ガラスセラミックの結晶相、1つ以上の主結晶相および/または1つ以上の副次結晶相およびガラスの比率、1つ以上の主結晶相および/または1つ以上の副次結晶相およびガラスの結晶相の組合せ、並びに1つ以上の主結晶相および/または1つ以上の副次結晶相の中での粒径または粒径分布(これらは、転じて、結果として得られるガラスセラミックの最終的な完全性、品質、色、および/または不透明度に影響を与えるであろう)。
【0090】
実施の形態において、前記ガラスセラミックを製造する過程は、ガラスに微小亀裂を発生させる工程をさらに含む。「微小亀裂」とは、結晶化した材料の結晶粒の間および粒界に沿って位置するガラスセラミック中に形成される亀裂を称する。微小亀裂は、冷却の際に、c軸に平行に配向した結晶粒とa軸に平行に配向した結晶粒との間の熱膨張係数の差により、粒界に沿って応力が生じるほど大きな石英結晶粒を生成することによって発生することがある。すなわち、石英結晶粒は、結晶構造のc軸に沿った熱膨張係数が、結晶構造のa軸に沿った熱膨張係数と異なるような異方性熱膨張係数を有する。このように、ある結晶粒のc軸が第2の結晶粒のc軸と非平行になるように、隣接する結晶粒が配置されている場合、a軸とc軸に沿った熱膨張係数の差によって、粒界に沿った微小亀裂や結晶粒間の微小亀裂がもたらされる。一般に、この微小亀裂は、個々の結晶粒の粒径が約50μm以上である場合に発生する。実施の形態において、微小亀裂の長さは、粒界に沿って延在し、他の粒界に沿って延在するように分岐することがある。 実施の形態において、微小亀裂の幅は、1μm以下または0.5μm以下であることがある。ガラスセラミック中の微小亀裂は、少なくとも一部には、結晶化温度(Tc)および時間を制御することによって、意図的に発生されられる。微小亀裂は、ガラスセラミックが高温(例えば、925℃から1000℃)から冷却される際に、軸方向の熱膨張の違いにより形成されることがある。
【0091】
予期せぬことに、ガラスセラミックのガラス部分に微小亀裂(粒界に沿ったものを含む)を含むガラスセラミック物品は、強力なままであり、破壊靱性は、微小亀裂を含まないガラスセラミック物品と比べて、実際に増加することが分かった。実施の形態において、微小亀裂が生じたガラスセラミックは、1.8MPa・m1/2以上、1.9MPa・m1/2以上、2.0MPa・m1/2以上、2.1MPa・m1/2以上、2.2MPa・m1/2以上、2.3MPa・m1/2以上、2.4MPa・m1/2以上、2.5MPa・m1/2以上、2.6MPa・m1/2以上、2.7MPa・m1/2以上、または2.8MPa・m1/2以上の破壊靱性を示すことがある。実施の形態において、そのガラスセラミックは、1.8から2.8MPa・m1/2、1.8から2.5MPa・m1/2、2.0から2.8MPa・m1/2、または2.0から2.5MPa・m1/2の範囲の破壊靱性を示すことがある。
【0092】
実施の形態において、ガラスセラミックを製造する過程は、微小亀裂中に高分子充填剤を配置する工程をさらに含むことがある。微小亀裂の形成により、ガラスセラミックが不透明になることがある。具体的には、微小亀裂が生じたガラスセラミック中を進む光は、微小亀裂の亀裂面で反射し、それによって微小亀裂が形成されたガラスセラミックの透過率が低下し、微小亀裂が形成されたガラスセラミックが不透明に見えるようになる。しかしながら、微小亀裂に高分子充填剤を充填することにより、微小亀裂が形成されたガラスセラミックの透過率が改善されるか、またさらには回復することがある。高分子充填剤は、その高分子充填剤の屈折率がガラスセラミックの屈折率と同程度になるように選択される。微小亀裂に高分子充填剤を充填することにより、ガラスセラミックの透過率が増加したり、回復したりすることがある。実施の形態において、高分子充填剤は、1.51以上かつ1.58以下の屈折率を有する。実施の形態において、高分子充填剤は、1.55の屈折率を有する。実施の形態において、高分子充填剤としては、アクリレートモノマー、メタクリレートモノマー、ウレタンアクリレートオリゴマー、エポキシアクリレートオリゴマー、ポリエステルアクリレートオリゴマー、またはそれらの組合せが挙げられるであろう。
【0093】
さらに、高分子充填剤が充填された微小亀裂を含むガラスセラミック物品は、ガラスセラミックの破壊靱性のさらなる改善も示すことがある。実施の形態において、高分子充填剤が充填されたガラスセラミックは、2.0MPa・m1/2以上、2.1MPa・m1/2以上、2.2MPa・m1/2以上、2.3MPa・m1/2以上、2.4MPa・m1/2以上、2.5MPa・m1/2以上、2.6MPa・m1/2以上、2.7MPa・m1/2以上、2.8MPa・m1/2以上、2.9MPa・m1/2以上、または3.0MPa・m1/2以上の破壊靱性を示すことがある。実施の形態において、そのガラスセラミックは、2から3MPa・m1/2、2から2.7MPa・m1/2、または2から2.5MPa・m1/2の範囲の破壊靱性を示すことがある。
【0094】
結果として得られたガラスセラミックは、シートとして提供されることがあり、これは、次に、加圧成形、ブロー成形、曲げ、垂下、真空成形、または他の手段によって、均一な厚さの湾曲または曲げ片に再成形されることがある。再成形は熱処理の前に行われても、または成形工程は、成形と熱処理が実質的に同時に行われる熱処理工程を兼ねてもよい。
【0095】
ここに記載されたガラスセラミックおよびガラスセラミック物品は、例えば、LCDおよびLEDディスプレイ、コンピュータ用モニタ、および現金自動預払機(ATM)を含む消費者向けまたは商業用電子機器におけるカバーガラスまたはガラスバックプレーン用途;例えば、携帯電話、パーソナルメディアプレーヤー、およびタブレット型コンピュータを含む携帯型電子機器のための、タッチスクリーンまたはタッチセンサ用途;例えば、半導体ウエハを含む集積回路用途;太陽光発電用途;建築用ガラス用途;自動車または車両用ガラス用途;もしくは商業用または家庭用電化製品用途を含む様々な用途に使用されることがある。実施の形態において、消費者向け電子機器(例えば、スマートフォン、タブレット型コンピュータ、パーソナルコンピュータ、ウルトラブック、テレビ、およびカメラ)、建築用ガラス、および/または自動車用ガラスは、ここに記載されたようなガラス物品を含むことがある。ここに開示されたガラスセラミック物品のいずれかを組み込んだ例示の物品が、図1および図2に示されている。詳しくは、図1および2は、前面104、背面106、および側面108を有する筐体102;筐体の少なくとも部分的に内部または完全に内部にあり、少なくとも、制御装置、メモリ、および筐体の前面にあるまたはそれに隣接するディスプレイ110を含む電気部品(図示せず);およびディスプレイを覆うように筐体の前面にあるまたはそれを覆うカバー基板112を備えた消費者向け電子機器100を示す。実施の形態において、カバー基板112または筐体102の一部の少なくとも一方は、ここに開示されたガラスセラミック物品のいずれかを含むことがある。
【実施例
【0096】
様々な実施の形態がより容易に理解されるように、ここに記載されたガラスセラミックの様々な実施の形態を説明することを意図した以下の実施例を参照する。
【0097】
実施例1
表1は、例示のガラス前駆体およびガラスセラミック組成物(モル%の単位)、ガラスセラミック物品を得るためのセラミック化スケジュール、並びにガラス前駆体およびガラスセラミック組成物のそれぞれの性質を示している。表1に列挙された組成1~8を有する前駆体ガラスを形成した。「粗粒」という用語は、10~75μmの粒径を持つ結晶粒を有するガラスセラミックを称する。「細粒」という用語は、10μm未満の粒径を持つ結晶粒を有するガラスセラミックを称する。「中粒」とは、5~15μmの粒径であって、「細粒」と「粗粒」の範囲の間に入り、それらの範囲と重複する粒径を持つ結晶粒を有するガラスセラミックを称する。
【0098】
【表1-1】
【0099】
【表1-2】
【0100】
表1に示されるように、核形成剤の量が比較的少ない、ここに開示されたガラスセラミック組成物は、比較的大きい粒径を有する透明ガラスセラミックとなり、これにより破壊靱性が比較的高い値となる。
【0101】
ガラスセラミック組成物3から製造したガラスセラミックの破面の走査型電子顕微鏡像および研磨面の走査型電子顕微鏡像を撮影した。図3に示されるように、得られたガラスセラミックGC3Aは、大きい(30μm)引き伸ばしによる粗い山谷構造を有している。図4に示されるように、得られたガラスセラミックGC3Bは、結晶化度が高く(約95%超の結晶化度)、粗粒である。特に、図4の得られたガラスセラミックGC3Bの研磨面の走査型電子顕微鏡像では、ZrOの小結晶のみを含む粒界を有するスタッフドβ-石英の結晶が確認できる。
【0102】
ここで図5を参照すると、ガラスセラミック組成物5から製造されたガラスセラミックのXRDスペクトルは、スタッフドβ-石英およびガラスの存在を証明するピークを含んでいる。表1に示されるように、ガラスセラミック組成物1~8から製造されたガラスセラミックは、スタッフドβ-石英を含んでいる。
【0103】
0.81mmの厚さを有する実施例のガラスセラミック組成物2および0.9mmの厚さを有する実施例のガラスセラミック組成物5から製造されたガラスセラミックの透過率および散乱を、250nmから1000nmの波長を有する光について測定した。図6および7に示されるように、2つの異なる組成物は、特に400nmから800nmの波長範囲に亘り、同様の全透過率を有していた。0.81mmの厚さを有する実施例のガラスセラミック組成物2から製造されたガラスセラミックは、400nmから800nmの波長範囲に亘り90.19%の平均全透過率を有した。0.9mmの厚さを有するガラスセラミック組成物5から製造されたガラスセラミックは、400nmから800nmの波長範囲に亘り88.07%の平均全透過率を有した。しかしながら、図8に示されるように、実施例のガラスセラミック組成物2から製造された細粒のガラスセラミックにおける散乱の割合は、1000nmでの約30%から450nmでの40%超に及び、一方で、実施例のガラスセラミック組成物5から製造された粗粒のガラスセラミックでは、散乱は0%である。
【0104】
上述したように、図6および7に示されたような実施例のガラスセラミック組成物2および実施例のガラスセラミック組成物5から製造されたガラスセラミックの透過率測定は、それぞれ0.81mm厚および0.9mm厚を有する物品に対して行った。同じ組成を有するが厚さが異なる物品では、透過率が変動する。実施例のガラスセラミック組成物2から製造されたガラスセラミックおよび実施例のガラスセラミック組成物5から製造されたガラスセラミックは、0.85mmの物品厚さで測定すると、400nmから800nmの波長範囲に亘る光の75%から95%の範囲の平均透過率を有するであろうと予想されるはずである。
【0105】
図6に戻ると、0.81mmの厚さを有する実施例のガラスセラミック組成物2から製造されたガラスセラミックは、400nmから800nmの波長範囲に亘る38.8%の平均拡散透過率、および600nmから700nmの波長範囲に亘る37.17%の平均拡散透過率を有した。
【0106】
実施例のガラスセラミック組成物3、微小亀裂が形成された後の実施例のガラスセラミック組成物3、およびソーダ石灰ガラスに屈折率が一致し、したがって、約1.51の屈折率を有する市販のポリウレタンアクリレートオリゴマー混合物である高分子充填剤のUltra Bond(登録商標)20を含む実施例のガラスセラミック組成物3の写真を撮影した。図9に示されるように、実施例のガラスセラミック組成物3から製造されたガラスセラミックGC3Cは透明である。図10に示されるように、微小亀裂が形成された後の実施例のガラスセラミック組成物3から製造されたガラスセラミックGC3Dは不透明である。図11に示されるように、高分子充填剤を含む実施例のガラスセラミック組成物3から製造されたガラスセラミックGC3Eは、半透明である。高分子の含浸により、ガラスセラミックの透光性が回復した。理論に束縛される意図はないが、高分子と結晶との間の屈折率の一致が良くなれば、材料が透明度を取り戻すと考えられる。
【0107】
請求項の主題の精神および範囲から逸脱せずに、ここに記載された実施の形態に様々な改変および変更が行えることが、当業者にとって明らかであろう。したがって、本明細書は、ここに記載された様々な実施の形態の改変および変更を、そのような改変および変更が付随に特許請求の範囲およびその均等物の範囲内に入ることを条件として、包含することが意図されている。
【0108】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0109】
実施形態1
ガラスセラミック物品において、
50モル%から80モル%のSiO
10モル%から25モル%のAl
5モル%から20モル%のMgO、
0モル%から10モル%のLiO、および
1モル%から3モル%の核形成剤であって、ZrO、TiO、SnO、HfO、Ta、Nb、Y、およびその組合せからなる群より選択される核形成剤、
を含み、
前記核形成剤は、50%以上のZrOと、50%未満の、TiO、SnO、HfO、Ta、Nb、Y、およびその組合せからなる群より選択される少なくとも1つの化合物とを含み、
MgO対LiOのモル比は、1以上:1であり、
0.85≦(MgO(モル%)+LiO(モル%))/Al(モル%)≦1.2であり、
前記ガラスセラミック物品は、六方晶スタッフドβ-石英を含む結晶相およびガラスから作られる、ガラスセラミック物品。
【0110】
実施形態2
前記ガラスセラミック物品が、
55モル%から65モル%のSiO
18モル%から22モル%のAl
13モル%から16モル%のMgO、
2モル%から8モル%のLiO、および
1.5モル%から2.7モル%の前記核形成剤、
を含む、実施形態1に記載のガラスセラミック物品。
【0111】
実施形態3
前記ガラスセラミック物品が、
60モル%から65モル%のSiO
16モル%から20モル%のAl
12モル%から15モル%のMgO、
4.0モル%から5.0モル%のLiO、および
1.5モル%から2.5モル%の前記核形成剤、
を含む、実施形態1に記載のガラスセラミック物品。
【0112】
実施形態4
MgO対LiOの前記モル比が、2以上:1である、実施形態1から3のいずれか1つに記載のガラスセラミック物品。
【0113】
実施形態5
前記結晶相が、[MgO+LiO+ZnO]:0.8~1.25のAl:2.0~8.0のSiOの化学量論を有する、実施形態1から4のいずれか1つに記載のガラスセラミック物品。
【0114】
実施形態6
前記結晶相が、正方晶ジルコニアをさらに含む、実施形態1から5のいずれか1つに記載のガラスセラミック物品。
【0115】
実施形態7
ZnOをさらに含む、実施形態1から6のいずれか1つに記載のガラスセラミック物品。
【0116】
実施形態8
MgO(モル%)+LiO(モル%)+ZnO(モル%)が10モル%から28モル%である、実施形態7に記載のガラスセラミック物品。
【0117】
実施形態9
ZnO(モル%)/(MgO(モル%)+LiO(モル%)+ZnO(モル%))が0.5以下である、実施形態7に記載のガラスセラミック物品。
【0118】
実施形態10
前記ガラスセラミック物品がリチウムを実質的に含まない、実施形態7に記載のガラスセラミック物品。
【0119】
実施形態11
前記ガラスセラミック物品が、1.0MPa・m1/2以上の破壊靱性を有する、実施形態1から10のいずれか1つに記載のガラスセラミック物品。
【0120】
実施形態12
前記ガラスセラミック物品が、1.0MPa・m1/2以上から1.8MPa・m1/2の破壊靱性を有する、実施形態1から11のいずれか1つに記載のガラスセラミック物品。
【0121】
実施形態13
前記ガラスセラミック物品が、0.85mmの物品厚さで測定して、400nmから800nmの波長範囲に亘る光の75%以上の平均透過率を有する、実施形態1から12のいずれか1つに記載のガラスセラミック物品。
【0122】
実施形態14
前記ガラスセラミック物品が、0.85mmの物品厚さで測定して、400nmから800nmの波長範囲に亘る光の75%から95%の範囲の範囲の平均透過率を有する、実施形態1から13のいずれか1つに記載のガラスセラミック物品。
【0123】
実施形態15
前記結晶相の結晶粒が、5μm超から75μm以下の範囲の粒径を有する、実施形態1から14のいずれか1つに記載のガラスセラミック物品。
【0124】
実施形態16
前記結晶相の結晶粒が、20μm超から30μm以下の範囲の粒径を有する、実施形態1から15のいずれか1つに記載のガラスセラミック物品。
【0125】
実施形態17
前記ガラスセラミック物品が、50質量%以上の前記結晶相および50質量%以下の前記ガラスから作られる、実施形態1から16のいずれか1つに記載のガラスセラミック物品。
【0126】
実施形態18
前記ガラスセラミック物品が、1キロポアズ(kP)超の液相粘度を有する、実施形態1から17のいずれか1つに記載のガラスセラミック物品。
【0127】
実施形態19
前記ガラスセラミック物品が、前記ガラス中に微小亀裂を含む、実施形態1から18のいずれか1つに記載のガラスセラミック物品。
【0128】
実施形態20
前記ガラスセラミック物品が、1.8MPa・m1/2以上の破壊靱性を有する、実施形態19に記載のガラスセラミック物品。
【0129】
実施形態21
前記微小亀裂中に配置された高分子充填剤をさらに含む、実施形態19または20に記載のガラスセラミック物品。
【0130】
実施形態22
前記高分子充填剤が、1.51以上かつ1.58以下の屈折率を有する、実施形態21に記載のガラスセラミック物品。
【0131】
実施形態23
前記高分子充填剤が充填された前記微小亀裂を含む前記ガラスセラミック物品が、2.0MPa・m1/2以上の破壊靱性を有する、実施形態21または22に記載のガラスセラミック物品。
【0132】
実施形態24
ガラスセラミック物品を形成する方法において、
ガラスセラミック組成物を1℃/分から10℃/分の範囲の速度でガラス予備核形成温度に加熱する工程であって、該ガラスセラミック組成物は、
50モル%から80モル%のSiO
10モル%から25モル%のAl
5モル%から20モル%のMgO、
0モル%から10モル%のLiO、および
1モル%から3モル%の核形成剤であって、ZrO、TiO、SnO、HfO、Ta、Nb、Y、およびその組合せからなる群より選択される核形成剤、
を含み、
前記核形成剤は、50%以上のZrOと、50%未満の、TiO、SnO、HfO、Ta、Nb、Y、およびその組合せからなる群より選択される少なくとも1つの化合物とを含み、
MgO対LiOのモル比は、1以上:1であり、
0.85≦(MgO(モル%)+LiO(モル%))/Al(モル%)≦1.2である、工程、
前記ガラスセラミック組成物を0.25時間から4時間の範囲の時間に亘り前記予備核形成温度に維持して、予備核形成された結晶化可能なガラスを生成する工程、
前記予備核形成された結晶化可能なガラスを1℃/分から10℃/分の範囲の速度で核形成温度(Tn)に加熱する工程、
前記予備核形成された結晶化可能なガラスを0.25時間から4時間の範囲の時間に亘り前記核形成温度に維持して、核形成された結晶化可能なガラスを生成する工程、
前記核形成された結晶化可能なガラスを1℃/分から10℃/の範囲の速度で結晶化温度(Tc)に加熱する工程、
前記核形成された結晶化可能なガラスを0.25時間から4時間の範囲の時間に亘り前記結晶化温度に維持して、前記ガラスセラミック物品を生成する工程、および
前記ガラスセラミック物品を室温に冷却する工程、
を有してなる方法。
【0133】
実施形態25
前記結晶化温度(Tc)が、850℃から1000℃の範囲にある、実施形態24に記載の方法。
【0134】
実施形態26
前記ガラスセラミック物品をイオン交換浴中で強化する工程をさらに含む、実施形態24または25に記載の方法。
【0135】
実施形態27
前記イオン交換浴が溶融LiSO塩を含む、実施形態24から26のいずれか1つに記載の方法。
【0136】
実施形態28
前記イオン交換浴が、溶融KSO塩を含む、実施形態24から27のいずれか1つに記載の方法。
【0137】
実施形態29
消費者向け電子機器であって、
前面、背面、および側面を有する筐体、
前記筐体内に少なくとも部分的にある電気部品であって、少なくとも、制御装置、メモリ、および該筐体の前面に、またはそれに隣接して設けられたディスプレイを含む電気部品、および
前記ディスプレイの上に配置された実施形態1に記載のガラスセラミック物品、
を備えた消費者向け電子機器。
【符号の説明】
【0138】
100 消費者向け電子機器
102 筐体
104 前面
106 背面
108 側面
110 ディスプレイ
112 カバー基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【国際調査報告】