(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-20
(54)【発明の名称】金属若しくは合金の製造プラント及び関連プラントにおける製錬炉からの漏水を検出するためのプロセス
(51)【国際特許分類】
F27D 21/00 20060101AFI20230113BHJP
F27B 3/28 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
F27D21/00 A
F27B3/28
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022525757
(86)(22)【出願日】2020-11-05
(85)【翻訳文提出日】2022-07-01
(86)【国際出願番号】 IB2020060402
(87)【国際公開番号】W WO2021090222
(87)【国際公開日】2021-05-14
(31)【優先権主張番号】102019000020470
(32)【優先日】2019-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510152666
【氏名又は名称】ダニエリ アンド シー.オフィス メカニケ エスピーエー
【氏名又は名称原語表記】DANIELI&C.OFFICINE MECCANICHE SPA
【住所又は居所原語表記】Via Nazionale,41-33042 Buttrio(UD),Italy
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】プリマヴェーラ,アレッサンドラ
(72)【発明者】
【氏名】テルリッシャー,ステファノ
(72)【発明者】
【氏名】ミロッコ,アレッシオ
【テーマコード(参考)】
4K045
4K056
【Fターム(参考)】
4K045AA04
4K045AA05
4K045BA02
4K045BA03
4K045DA10
4K045RA09
4K045RB02
4K056AA02
4K056AA05
4K056CA02
4K056CA04
4K056FA11
4K056FA15
4K056FA27
(57)【要約】
本発明は、製錬炉(2、4)又は金属若しくは合金処理プラントにおける漏水を検出するためのプロセスに関するものであり、
(i)水冷却システム(5)を備え、プロセス煙霧排気システムに接続されている少なくとも1つの製錬炉(2、4)、又は少なくとも1つの金属若しくは合金処理プラントを提供するステップ、
(ii)漏水の場合に、排気ガスとともに揮発し、前記排気ガスの分析システムによって検出されるのに適したトレーサー化学物質を、冷却水に混合するステップ、
(iii)前記トレーサー化学物質が重水素化水である、前記プロセス煙霧排気プラントに含まれる前記分析システムによって、前記排気ガス中に含まれる前記トレーサー化学物質を検出するステップ、
を含み、本発明は、さらに金属若しくは合金を製造するためのプラントに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
製錬炉(2、4)、又は金属若しくは合金処理プラントにおける漏水を検出するためのプロセスあって、
(i)水冷システム(5)を備え、プロセス煙霧排気システムに接続された、少なくとも1つの製錬炉(2、4)、特に電気アーク炉(2)、又は少なくとも1つの金属若しくは合金処理プラント、を提供するステップ、
(ii)漏水の場合に、前記少なくとも1つの製錬炉又は金属若しくは合金処理プラントからの排気ガスと共に揮発し、前記少なくとも1つの製錬炉(2、4)又は前記少なくとも1つの金属若しくは合金処理プラントにおいて発生され、前記排気ガスの分析システムによって検出するのに適したトレーサー化学物質を、冷却水中に混合するステップ、及び、
(iii)前記プロセス煙霧排気プラント内に含まれる前記分析システムによって、前記排気ガス中に含まれる前記トレーサー化学物質を検出するステップであって、前記トレーサー化学物質が重水素化水であるステップ、
を含むプロセス。
【請求項2】
前記分析システムは、質量分析計であることを特徴とする請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記冷却システム(5)は、閉回路システムであることを特徴とする請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記閉回路の冷却用水(H
2O)は、少なくとも0.1質量%のD
2Oを含むことを特徴とする請求項3に記載のプロセス。
【請求項5】
前記冷却システムは、水管を備えた冷却パネルを含むことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記プロセス煙霧排気プラントは、少なくとも1つの除塵装置(8、10、20)、及び好ましくは排気ガス冷却装置(6、12)、を含み、前記分析システムは、この/これらの装置の下流に配置されることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
金属若しくは合金の生産のためのプラントであって、
前記金属若しくは合金の生産のためのプラントが、
(a)水冷システム(5)を備える、少なくとも1つの製錬炉(2、4)、特に電気アーク炉(2)、又は少なくとも1つの金属若しくは合金処理プラント、及び、
(b)前記少なくとも1つの製錬炉(2、4)又は前記金属若しくは合金処理プラントによって生成される排気ガスを抽出及び除去するように適合されたプロセス煙霧排気プラント、
を含み、
(c)前記冷却水は、重水素化水であるトレーサー化学物質と混合され、このトレーサー化学物質は、前記製錬炉又は金属若しくは合金処理プラントからの排気ガスと共に揮発し、分析システムにより前記少なくとも1つの製錬炉又は前記金属若しくは合金処理プラント内で発生された排気ガス中に検出されるように適合され、及び
(d)前記分析システムは、前記プロセス煙霧排気プラント内に配置されている、
プラント。
【請求項8】
前記分析システムは、質量分析計であることを特徴とする請求項7に記載のプラント。
【請求項9】
前記冷却システムは、水管を備えた冷却パネルを含み、前記冷却システム(5)は、好ましくは閉回路システムである、ことを特徴とする請求項7又は8に記載のプラント。
【請求項10】
前記プロセス煙霧排気プラントは、少なくとも1つの除塵装置(8、10、20)、及び好ましくは排気ガス冷却装置(6、12)、を含み、前記分析システムは、この/これらの装置の下流に配置されることを特徴とする請求項7~9のいずれか一項に記載のプラント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼、鋳鉄、銅などの金属若しくは合金を製造するための製錬炉における漏水を検出するためのプロセス(方法)に関し、特に、水冷システムを備えて、煙霧の抽出及び排気をするシステムに接続されている電気アーク炉での使用に適している。より具体的には、このプロセスは、関連する冷却パネルを含む冷却回路内を水が流れる間接冷却の場合に適している。記述されるプロセス及び関連するプラントは、冷却回路を提供する他の用途、例えば、VD(Vacuum Degassing:真空脱ガス)又はVDO(Vacuum Oxygen Degassing:真空酸素脱ガス)プラントのような鉄鋼の真空処理(degassing:脱ガス)のための機械においても使用できる。
【背景技術】
【0002】
近年の当該技術分野では、電気炉は、その部品の一部を冷却するために大量の水を必要とすることが知られており、これらの冷却流量は、容易に毎分数百リットルに達する可能性がある。この場合、漏水は、流体供給ラインに設置された流量計によって直ちに検出することができるが、この流量計は、高い通過量を読み取る必要があることから、感度は高くない。逆に、電気炉内にH2Oを供給する冷却パネルを設置した当初から、わずかな漏水が検出される問題が課題となっていた。現在までのところ、実際に、毎分約数十リットル程度の微小な漏水を追跡できる安全で信頼性の高い方法はまだ市場に存在していない。冷却パネルの漏水によって引き起こされる影響と損傷はさまざまであり、バット(vat)に穴が開く危険性のある耐火物の損傷から、炉のエネルギー消費の増加、水の激しい蒸発による爆発の危険性、及び場合によってはH2O分子の切断によるH2の生成と、H2/O2酸素水素混合物の爆発限界内に入る組成及び温度条件が生じた場合のその爆発に至るまで、様々である。
【0003】
文書NL1002377C2は、冷却水にトレーサー(tracer)、特に希ガスを添加することにより、製錬炉の冷却システムからの漏水を検出する方法を提案している。
【発明の概要】
【0004】
本発明の目的は、上記した欠点を克服し、電気炉からの漏水を検出するためのプロセス及び関連するプラントを提案し、軽微な漏水の存在さえも検出し、炉を迅速に停止して修理することができ、これにより、プラントの損傷及び人への被害を回避することができるようにすることである。
【0005】
この目的は、製錬炉、精製炉、又は脱ガスプラントのような金属若しくは合金処理プラントにおける漏水を検出するためのプロセスであって、以下のステップを含むプロセスによって達成される。
【0006】
(i)少なくとも1つの製錬炉、特に電気アーク炉、又は水冷システム、を備え、プロセス煙霧排気システムに接続された、少なくとも1つの金属若しくは合金処理プラントを提供するステップ。
【0007】
(ii)上記冷却水に、上記製錬炉又は上記金属若しくは合金処理プラント、からの排気ガスと共に、漏水時に揮発して、上記少なくとも1つの製錬炉又は上記少なくとも1つの金属若しくは合金処理プラント、で発生して、排気ガスの分析システムによって検出するのに適したトレーサーの化学物質、を混合するステップ。
【0008】
(iii)上記プロセス煙霧排気プラント内に含まれる上記分析システムによって、上記排気ガスに含まれる上記トレーサーの化学物質を検出するステップ。
【0009】
したがって、本発明の概念には、炉又は金属若しくは合金処理プラントから出力される排気ガスをサンプリングすることができ、炉又は金属若しくは合金処理プラントの出口の下流に配置される、分析システムによって、冷却回路からの漏水の場合に、容易に検出可能であるトレーサーの化学物質を、冷却水中に混合することを含む。「失われる」冷却水と共に蒸発するトレーサーは、炉のバット内に水自体が存在することを確実に示す指標である。明らかに元素又は化合物であり得るこの化学物質は、冷却水中に適切な濃度で入れられるが、有利には、通常の冷却水中には存在しないか、又はほとんど濃縮されないか、又は製錬炉又は金属若しくは合金処理プラント、に見出される。有利なことに、トレーサーは、揮発性であり、容易に検出可能であることに加えて、時間の経過とともに分散したり又は劣化したりすることはない。好ましくは、トレーサーは、冷却水に完全に混和する液体である。
【0010】
さまざまなタイプのトレーサーが使用可能であり、例えば、ヘリウム(He)などの気体状トレーサーを使用する可能性が検討されているが、この気体の冷却水への溶解度が低く、熱交換を悪化させるリスクを伴うため、このオプションは容易には実行できない。クリプトン(Kr)やキセノン(Xe)などの他のガスも考えられるが、ヘリウム(He)について上記説明したように問題がある。
【0011】
金属、特に鉄鋼、の生産においては、潜在的な水損失の影響を受ける冷却システムを備えた種々のタイプの、取鍋(とりべ)炉(LF:ladle furnaces)又は電気アーク炉(EAF:electric arc furnaces)などの電気炉、又はVD(Vacuum Degassing:真空脱ガス)又はVOD(Vacuum Oxygen Degassing:真空酸素脱ガス)システムのような鉄鋼脱ガス装置を有する金属処理プラント、が使用される。本発明の変形例では、冷却システムは、水管を備えた冷却パネルを含む。特に、電気アーク炉は、その側壁及びボールト(vault:アーチ形天井)を構成する多数の冷却パネルによって水分の損失を受けやすい。
【0012】
本発明の特に好ましい変形において、使用されるトレーサーの化学物質は重水素化水である。重水素化水はD2O又はHDOの形態で存在することができる。HDOは、交換反応によりH2O及びD2Oと平衡状態を形成する。
【0013】
ここで提案される解決案は、その単純さから驚くべきものであり、水パネルの熱交換特性に何の変化も生じさない。
【0014】
ここでトレーサーとして選択される流体は、水素の代わりに重水素(質量2の水素同位体)を含むD2O(重水)である。重水は、本発明の実施に必要と考えられる濃度では無毒であり、任意の濃度でH2O中に完全に混和される。本明細書中に開示される本発明に従う技術により、トレーサーの高コストを回避して、微量にしか存在しないトレーサーを検出することができる。
【0015】
本発明の好ましい実施形態では、冷却システムが閉回路システムであることを提供している。閉回路は、(漏水が発生した場合に規定量{quota}が蒸発する場合を除いて、)トレーサーが上記の回路内にのみ配置されるため、トレーサーの大量消費を回避できる。しかし、開放型の冷却回路、すなわち、水が一旦その機能を果たすと、他の使用者からの水を受け取るために使用されることが多い開放型の収集タンクに送られる回路でトレーサーを使用することもできる。しかし、この場合には、トレーサーが回集タンク内で分散/希釈されるため、漏水を検知したい使用者の近くで継続的にトレーサーを補充することが必要になる。この場合のトレーサー液は、不定期の検査のためにのみ供給することもできる。
【0016】
ここで提案される解決案では、好ましい形で、パネル及び電気炉のボールトに冷却水を供給する回路として適用される。
【0017】
水中に含まれる微量(traces)のD2O、したがって排気ガス/煙霧、の検出には、質量分析法が特に適している。漏水の場合の排気ガス又は煙霧中のD2Oの濃度の増加は、質量分析計を使用して検出することができる。この点に関する分光計は、例えば、抽出プローブによって、製錬炉、あるいは金属若しくは合金処理プラントからの吸引の下流の排気ガスの道筋(vein)に接続することができる。核磁気共鳴(NMR:Nuclear Magnetic Resonance)のような他の分析技術は、強力な磁場を必要とし、産業用途には適していない。
【0018】
漏水中のD2Oを検出するために質量分析を使用する場合、水回路内で考慮すべきD2Oの最適濃度は、以下の情報を考慮する必要がある。通常使用される原水(mains water)には、その同位体濃度に等しいわずかな天然濃度、すなわち約150ppmのD2Oが含まれている。低濃度の場合、水の自然な同位体バランスは、D2Oよりも高濃度のHDOを与える分子の再結合を含むので、分光分析では、20amuのピーク、好ましくは19amuのピーク、の両方で作業することが可能である。あるいは、質量分析計によって強調表示される質量ピーク4(D2)の利用も考えられるが、これは空気中に約5ppmの濃度で存在するヘリウム元素のピークと一致する。排気ガス及び煙霧中で到達すべきD2Oの濃度は、分析システムから疑いの余地のない応答を得るために、有利には25ppmより大きくなければならない。
【0019】
当業者は、種々の量の漏水をシミュレートし、プロセス煙霧排気システムに含まれる煙霧の流量及び冷却水の量を一般的な知識で知っており、日常的なテストを実行することで、本発明によるプロセス及びプラントでの漏水を検出するために冷却水に添加すべき重水素化水の必要量を簡単に計算することができる。
【0020】
排気ガス中の約25ppmのD2Oの濃度を示すために(一方、D2Oを使用しない場合、煙霧中のその濃度は数ppmであり、信頼できる測定値を得るには不十分である)、通常の大きさで、約250ml/s程度の水分損失を伴うプラントにおいては、例示的な形態として、水の全質量の0.15重量%の重量で、D2Oを冷却水回路に添加することが好ましい。
【0021】
有利には、プロセス煙霧ガス排気プラントは、炉から排出される煙霧の少なくとも1つの除塵装置(deduster device)、好ましくは排気ガス冷却装置を備える。この場合、分析システムは、この/これらの装置の下流に配置される。有利なことに、冷却装置は、H2Oの凝縮を起こさず、トレーサーの損失を避けるために、スクラバー(scrubber)又は同様のシステムによって冷却が行われることはない。粒子フリー(particle-free)で冷却されたガスは、プローブの毛細管を塞ぐことなく、プローブでサンプリングされる準備ができている。
【0022】
本発明のさらなる態様は、金属若しくは合金を製造するためのプラントに関する。プラントは、
(a)水冷システムを備えた少なくとも1つの製錬炉、特に電気アーク炉、又は少なくとも1つの金属若しくは合金処理プラント、及び、
(b)上記少なくとも1つの製錬炉又は上記金属若しくは合金処理プラントによって生成された排気ガスを抽出及び除去するように適合されたプロセス煙霧排気システム
を含み、以下のことを特徴とする、
【0023】
(c)上記冷却水は、製錬炉あるいは金属若しくは合金処理プラント、からの排気ガスと共に揮発し、上記少なくとも1つの製錬炉又は分析システムにおける上記金属若しくは合金処理プラント、で生成される排気ガス中に検出されるように適合されたトレーサー化学物質、と混合されること。
【0024】
(d)上記分析システムは、上記プロセス煙霧排気システム内に配置されること。
【0025】
本発明の一態様について記載された特徴は、必要な変更を加えて、本発明の他の態様に準用することができる。これは特に、D2Oの形態のトレーサー、質量分析計によるその検出、冷却水のための閉回路の使用、及び除塵装置の下流、好ましくは排気ガスの冷却後、のプロセス煙霧排気システムにおける分析システムの配置に適用される。
【0026】
一般的に、通常の規模のプラントの場合、本発明を実施するために、H
2Oを冷却する閉回路には、少なくとも0.1質量%のD
2Oを含むことが推奨される。上記の
図1の例に戻ると、添加されるD
2Oの濃度は、前述の煙霧の一次分岐上にある分析ポイント、又は分岐の両方からの排気ガスを受け取るスタック(stack)上に直接にある分析ポイントにも依存する。
【0027】
D2Oが設定された最大濃度を超えた場合、つまり間接的に漏水が検知された場合に、使用者に警告を発したり、及び/又は炉のスイッチを切ったりする警報システムを提供することができる。
【0028】
提案される方法は、冶金学以外の分野であっても、漏水の影響を受ける可能性がある本発明の意味での水冷システムを備えた任意のシステム、及びプロセスの煙霧/ガスを排気するためのプラントを備えた任意のシステムに適用可能である。
【0029】
記載される本発明の変形例は、本発明の目的に達するものである。特に、それらは、製錬炉、特に電気炉、に存在する冷却回路からの水の微小漏洩(microleak:マイクロリーク)の測定を可能にするものである。
【0030】
実際には、使用される材料、ならびに寸法、数、及び形状は、それらが特定の用途に適合し、他の特定される用途に適合しない限り、要件に応じて異なるものであってよい。さらに、すべての細部は、技術的に同等な他の要素で置き換えることができる。
【0031】
上記の目的及び利点は、限定ではなく例示として与えられる本発明の好ましい実施形態の例の説明の中にさらに強調される。
【0032】
本発明の変形実施形態は、従属請求項の目的である。本発明によるプロセス及びプラントの好ましい例示的な実施形態の説明は、添付の図面を参照しながら、例示として与えられるものであり、限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明による鉄鋼生産プラント及び相対する煙霧抽出システムを示す図である。
【
図2】本発明の概念が適用可能である従来技術の電気アーク炉を概略的に示す図である。
【
図3】H
2O/D
2OとHDOの間の交換平衡を、(同位体分率D/(D+H)の関数としてH
2O、D
2O、及びHDOのモル分率)のグラフで示す図である。
【
図4】漏水のシミュレーションのための原子量の比率18:19での微量のD
2Oの検出を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1は、本発明による鉄鋼生産プラントを示す図である。図示されたプラントは、電気アーク製錬炉2と精錬処理用の取鍋炉4の2つの炉で構成されている。アーク炉2内で生成される排気ガスは、煙霧抽出システムから抽出され、煙霧抽出システムは、煙霧又は排気ガスの冷却が異なる形態から、例えば、フード、フィルター、サイクロン、燃焼装置、沈降チャンバーなどのように、煙霧から固体及び液体成分を分離する異なるタイプのセパレータに至るまで、最も多様な処理要素の構成要素を、種々の組み合わせ及びサイズで含むことができる。そのようなプラントの他の典型的な要素は、流れを方向付けるためのバルブ及びファンである。
【0035】
例示的な形態では、煙霧システムラインは、煙霧を冷却しながら重い粒子を除去する沈降チャンバー8を含む冷却導管6から構成される。このチャンバーの下流には、排気ガスからさらにダストを抽出するためのサイクロン10があり、排気ガスは、その後、熱交換器12を通過する。電気アーク炉2の内部から直接導出されるこの排気ガスラインは、プラントの一次分岐14であり、電気炉の故障した冷却パネルの漏水から導出される水を含んでいる。取鍋炉4から出る排気ガス及び電気アーク炉2の上方のフード16によって抽出されるガスは、アーク炉2の外側と、取鍋炉4の冷却されたパネルで仕切られたボールトから生じ、製鉄プラントの排気ガスプラントの二次分岐18を形成する、あらゆる漏水を含む。一次分岐14と二次分岐18とは合流し、全排気ガスがスリーブフィルタ20を通って搬送され、ガスはさらに精製され、次いでスタック22を通ってプラントから排出される。煙霧を抽出するタスクを有するスタックの基部に一般的に配置されるファンによって、抽出ライン全体が真空状態になっている。上述したように、図示されたプラントは、電気炉を含み、漏水の場合に、分析システムを様々なポイントで統合した排気ガス中から、冷却水に追加されたトレーサーの存在を決定することができる、本発明に適用することができるプラントの一例にすぎない。分析システムは、スタック22の煙道(variant:バリアント{変形例}11c)に配置することが好ましいが、代替的には、例えば、電気炉の直後(variant:バリアント11a)、又はフィルター20の前(variant:バリアント11b)など、電気アーク炉2の明らかに下流の一次分岐14にも配置することができる。追加のD2Oがアーク炉2の冷却水のみに提供され、取鍋炉4の冷却水は提供されない場合、トレーサーの検出は、アーク炉2内における漏水の確実な指標となる。
【0036】
鉄鋼生産プラントは、1つ以上の炉、又は異なるタイプの炉を様々な組み合わせで含むことができる。それぞれの冷却回路の漏水を特定する必要がある場合は、対象となる各炉の下流にある煙霧抽出システムのセクションに1つ以上(すなわち、重水素化水が供給される各炉について1つ)の分析装置を配置すれば十分である。取鍋炉4からの漏水を検出するためには、取鍋炉4に由来しない漏水に由来するトレーサーを含む可能性のある他のラインと合流する前のライン18中に分析システム(図示せず)を設置することが望ましい。通常は、アーク炉2からの漏水の検出が最も重要であり、この炉の冷却水のみがトレーサーを混合する。この場合、トレーサーはアーク炉2からのみ得られるので、分析システムは、2つの分岐18及び14の合流後のスタック22(バリアント11c)に配置することができる。アーク炉2と取鍋炉4の両方の漏水を監視する場合は、関連する排気ガス/ガスラインが合流する前に、それぞれの炉の下流に2つの別個の分析システムを設ける必要がある。
【0037】
本発明は、上記のプロセス煙霧排気システム及び炉の組み合わせのすべての変形例に適用可能であり、唯一の変形例としては、トレーサーの添加量を、プラントのサイズ及び分析システムの位置に適応させる必要があり、適切なポイントに分析器を配置させることを含む必要があることである。
【0038】
図2は、本発明の概念が適用可能である従来技術の電気アーク炉2を概略的に示す図である。図示のような炉は、スラグ17で覆われた溶融金属15を収集するための底部及びバットを備えた下部1と、冷却パネル5を覆い、パネル化されたボールト9で覆われた上部3に分割されており、これらはそれぞれ、しばしば冷却パネルからの漏水を受ける。上部バット3の壁には、酸素(燃焼用)、石炭、石灰、及び補助的な溶融材料を提供し、生成される金属に特定の化学的、機械的、又は物理的な特徴を与えるために、インジェクター7を挿入することができる開口部を有する。電極11により電気アークが発生し、金属が溶融される。排気ガス又は煙霧は、抽出口13を介して炉から抽出され、次いで、導管6により抽出されることができる。代替え的に、溶融金属は、炉2の底部の穴19から排出することができる。炉では、湾曲したラック(図示せず)上で、右に傾斜させると、穴19を通って排出され、左に傾斜させると、スラグドア21から過剰なスラグを排出させることができる。一般的なスクラップの投入(バスケットフィーディング)の場合、ボールト9は、ピンの周りを横に移動して開く。また、いわゆる連続投入コンベヤーベルトによるスクラップ投入のために、ドア21と穴19との間の中間部には、別の側部ドア(図示せず)が配置される。
【0039】
炉内には、通常、装入された材料の湿度、空気の湿度、及び電極を冷却する水噴霧に由来する微量の水が存在する可能性があるが、本発明によれば、冷却パネルからの漏水のみに自然濃度よりも高い重水素濃度が与えられ、D2Oは、冷却パネルに供給される水にのみ添加される。
【0040】
図3は、H
2O/D
2OとHDOの間の交換平衡状態をグラフ(同位体分率D/(D+H)の関数としてのH
2O、D
2O、及びHDOのモル分率)で、示したものである。この平衡により、当該濃度範囲におけるHDOの濃度は、D
2Oの濃度よりも高いため、したがって、D
2O(20)の代わりにHDO(19)のピークを測定することが好ましい。
【0041】
質量分析計は、原子又は分子の質量を測定する装置である。この点に関し、分析されるガス状物質は、空の電離箱の中に挿入される。加速された電子ビームは、導入されたものを陽イオンに変換し、陽イオンは、強電界によってチャンバーから押し出される。イオンが到達する速度は、質量に依存し、軽いイオンは、重いイオンよりも正確に高速に到達する。磁場を通過する際、各イオンは、その速度、すなわちその質量のために、本来の軌道から外れる。磁場の強さを少しずつ変化させ、磁場強度がイオンビームを検出器に偏向させるのに十分な強さになると、信号が得られる。形成された各イオン種の質量は、信号を得るために印加される加速電圧と磁場の強さに基づいて計算される。マス(質量)スペクトルは、磁場の関数として検出された信号の図である。ピークの位置は、加速されたイオンの質量を計算するために使用され、それらピークの相対的な高さは、種々のタイプのイオンの割合が示される。質量分析計は、当技術分野で公知であることから、より詳細に説明する必要はない。市場は、この目的に有用である様々な機器を提供している。好適な分光計は、例えば、SEM(二次電子増倍管)及びファラデーの二重検出システムを有する四重極質量分析器を備えた質量分析計に基づく、煙及び蒸気の連続分析のためのシステムである。質量範囲は、0~50amu(原子質量単位)であり、感度は、100ppbで100%である。この測定速度は、有利には、毎秒500回以上の測定であり、及び応答時間は300ミリ秒未満である。真空システムとして、サンプル(試料)のフォアライン及びバイパス型のポンピングのための統合メンブレンポンプを備えた、流量601/sの超高真空(UHV)ターボ分子ポンプを提供することができる。キャピラリーガスサンプリングのための入口は、100mbar~2barの間のサンプル圧力での連続サンプリングに適している。コンポーネント(構成要素)は、分子漏水マニホールドバイパス、長さ2メートルの加熱された石英キャピラリー(毛細管)サンプリングライン、室温から200°Cまでの温度範囲の入口加熱システム、及びサンプルバイパス制御弁(コントロールバルブ)を備えたバイパスポンプライン、とすることができる。
【0042】
測定システムは、システムの振動を低減させ、コールドスポットを最小限に抑え、キャピラリー(毛細管)の直径を最適化し、煙霧又は排気ガスを希釈することによって、改善することができる。
【0043】
本発明の原理の機能性を実証するために、
図1に示されるようなシステムにおいて、炉及び沈降チャンバー内で、重水素化水の注入が、限られた時間内に、様々な濃度、及び様々な頻度で、実施された。
【0044】
図4は、1分以内に2回の注入を行う場合の漏水のシミュレーションにおいて、18amu:19amuの比率で、微量のD
2Oを検出する例示的な形態を示す図である。この図では、実施された2回の注入に対応して、時間的に離れた2つのピークが明確に区別されており、高濃度のD
2Oの存在によって引き起こされるH
2O/D
2O比の変動を表している。このグラフは、一時的な漏水のシミュレーションを示しており、継続的な漏水の場合、検出される傾向は明らかに異なる。
【0045】
本発明の目的とするプロセス及びプラントの実施形態においては、動作中に、さらなる変更又は変形を実施することができる。そのような変更又はそのような変形が、以下の特許請求の範囲内に含まれる場合、それらはすべて本特許によって保護されると見なされるべきである。
【国際調査報告】