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特表2023-502015マルチターゲット型プロテインキナーゼ阻害剤の用途
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  • 特表-マルチターゲット型プロテインキナーゼ阻害剤の用途 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-20
(54)【発明の名称】マルチターゲット型プロテインキナーゼ阻害剤の用途
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/52 20060101AFI20230113BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20230113BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230113BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
A61K31/52
A61P35/02
A61P43/00 111
A61P35/00
A61P43/00 121
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022526495
(86)(22)【出願日】2020-11-09
(85)【翻訳文提出日】2022-07-11
(86)【国際出願番号】 CN2020127449
(87)【国際公開番号】W WO2021089038
(87)【国際公開日】2021-05-14
(31)【優先権主張番号】201911090822.2
(32)【優先日】2019-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506417359
【氏名又は名称】石薬集団中奇制薬技術(石家庄)有限公司
【氏名又は名称原語表記】CSPC ZHONGQI PHARMACEUTICAL TECHNOLOGY(SHIJIAZHUANG)CO.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】No.896,Zhongshan East Road,High-Tech Zone,Shijiazhuang,Hebei,050035,CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】100112656
【弁理士】
【氏名又は名称】宮田 英毅
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】彭悦穎
(72)【発明者】
【氏名】▲ジャン▼国寧
(72)【発明者】
【氏名】李曉晶
(72)【発明者】
【氏名】▲ハオ▼春顏
(72)【発明者】
【氏名】趙学敏
(72)【発明者】
【氏名】胡▲ウェイ▼
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB07
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA52
4C086MA63
4C086MA66
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZB27
4C086ZC20
4C086ZC42
4C086ZC75
(57)【要約】
本発明は、マルチターゲット型プロテインキナーゼ阻害剤化合物Aの白血病の治療用の医薬品調製への用途を提供し、さらに、化合物Aによる急性骨髄性白血病、特にFLT3変異を有する急性骨髄性白血病の治療方法を提供するものである。臨床試験において、化合物Aは、FLT3-ITD変異及び/又はTKD変異を有する急性骨髄性白血病、並びにDEK-CAN陽性とFLT3-ITD変異が併存する急性骨髄性白血病に対して有効性を示している。化合物Aは、IIタイプFLT3阻害剤(ソラフェニブ)による治療に失敗した再発性及び/又は難治性の急性骨髄性白血病の患者に対して、臨床的有用性を与えることができる。
【化1】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式の化合物A又はその薬学的に許容される塩の、ヒト白血病(好ましくは急性骨髄性白血病)の治療用の医薬品の調製への用途。
【化1】
【請求項2】
前記急性骨髄性白血病が、再発性及び/又は難治性の急性骨髄性白血病から選ばれ、又は、前記急性骨髄性白血病が、FLT3-ITD変異及び/又はTKD変異を有する急性骨髄性白血病、IIタイプFLT3阻害剤による治療が失敗した再発性及び/又は難治性の急性骨髄性白血病、又は、FLT3-ITD変異とDEK-CAN陽性が併存する急性骨髄性白血病から選ばれることを特徴とする、請求項1に記載の用途。
【請求項3】
前記IIタイプFLT3阻害剤がソラフェニブであることを特徴とする、請求項2に記載の用途。
【請求項4】
前記急性骨髄性白血病がFLT3-ITDhigh変異を有する急性骨髄性白血病であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の用途。
【請求項5】
前記急性骨髄性白血病の予後不良因子が0~2種であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の用途。
【請求項6】
前記急性骨髄性白血病のFAB分類がM2、M4、M5、好ましくはM5であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の用途。
【請求項7】
化合物A又はその薬学的に許容される塩を他の標的医薬品又は化学療法剤の1つ以上と併用して、前記医薬品の調製に使用され、前記他の標的医薬品又は化学療法剤は腫瘍関連疾患の治療に臨床的に使用される標的医薬品又は化学療法剤であることを特徴とする請求項1~6の何れかに記載の用途。
【請求項8】
前記医薬品は、例えば経口製剤、注射製剤、局所投与製剤、外用製剤の臨床的に許容される製剤として調製されることを特徴とする、請求項1~7の何れかに記載の用途。
【請求項9】
前記医薬品が単回投与剤形又は分割投与剤形で、前記剤形が治療有効量の化合物A又はその薬学的に許容される塩を含有し、好ましくは前記治療有効量が約0.001mg~約1000mg、更に好ましくは約1mg~約500mg、又は約20mg~約400mg、又は約100mg~約350mg、最も好ましくは約150mg~約330mg、又は約160mg~約310mg、又は約160mg~約300mgであり、又は、
前記剤形が、化合物A又はその薬学的に許容される塩を約20mg~約500mg、好ましくは約150mg~約400mg、例えば約150mg、約160mg、約200mg、約250mg、約300mg、約310mg、約350mg、約400mgで1日1回投与する剤形であり、又は、
前記剤形が、化合物A又はその薬学的に許容される塩を1回当たり約100mg~約300mg、好ましくは約100mg~約200mg、例えば約100mg、約125mg、約150mg、約175mg、約200mgで1日2回投与する剤形であることを特徴とする、請求項1~8の何れかに記載の用途。
【請求項10】
ヒト急性骨髄性白血病の治療方法であって、
治療有効量の下記式の化合物A又はその薬学的に許容される塩を被験者又は患者に投与し、前記投与が経口投与、注射剤投与、局所投与又は体外投与から選ばれ、前記治療有効量で前記被験者又は患者における急性骨髄性白血病を治療又は緩和することを含む、治療方法。
【化2】
【請求項11】
前記急性骨髄性白血病が、再発性及び/又は難治性の急性骨髄性白血病から選ばれ、又は、前記急性骨髄性白血病が、FLT3-ITD変異及び/又はTKD変異を有する急性骨髄性白血病、IIタイプFLT3阻害剤による治療が失敗した再発性及び/又は難治性の急性骨髄性白血病、又は、FLT3-ITD変異とDEK-CAN陽性が併存する急性骨髄性白血病から選ばれ、前記IIタイプFLT3阻害剤が好ましくソラフェニブであり、又は、
前記急性骨髄性白血病がFLT3-ITDhigh変異を有する急性骨髄性白血病であり、又は、
前記急性骨髄性白血病の予後不良因子が0~2種であり、又は、
前記急性骨髄性白血病のFAB分類は、M2、M4、M5、さらに好ましくはM5であることを特徴する請求項10に記載の治療方法。
【請求項12】
化合物A又はその薬学的に許容される塩を他の標的医薬品又は化学療法剤の1つ以上と併用して、前記他の標的医薬品又は化学療法剤が腫瘍関連疾患の治療に臨床的に使用される標的医薬品又は化学療法剤であることを特徴する請求項10又は11に記載の治療方法。
【請求項13】
前記治療有効量が1日当たり約0.001mg/kg~約1000mg/kg、好ましくは、約0.01mg/kg~約100mg/kgでり、好ましくは、化合物A又はその薬学的に許容される塩が1日当たりの用量が約0.001mg~約1000mg、好ましくは約1mg~約500mg、又は約20mg~約400mg、又は約100mg~約350mg、最も好ましくは約150mg~約330mg、又は約160mg~約310mg、又は約160mg~約300mgであり、単回又は分割して投与することを特徴する請求項10~12の何れかに記載の治療方法。
【請求項14】
前記治療方法では、化合物A又はその薬学的に許容される塩を1日1回、1回あたり約20mg~約500mg、好ましくは約150mg~約400mg、例えば、約150mg、約160mg、約200mg、約250mg、約300mg、約310mg、約350mg、約400mgで投与し、又は、
化合物A又はその薬学的に許容される塩を1日2回、1回あたり約100mg~約300mg、好ましくは約100mg~約200mg、例えば約100mg、約125mg、約150mg、約175mg、約200mgで投与することを特徴する請求項10~13の何れかに記載の治療方法。
【請求項15】
ヒト急性骨髄性白血病の治療のための下記式の化合物A又はその薬学的に許容される塩。
【化3】
【請求項16】
前記ヒト急性骨髄性白血病が、再発性及び/又は難治性の急性骨髄性白血病から選ばれ、又は、前記急性骨髄性白血病が、FLT3-ITD変異及び/又はTKD変異を有する急性骨髄性白血病、IIタイプFLT3阻害剤による治療が失敗した再発性及び/又は難治性の急性骨髄性白血病、又は、FLT3-ITD変異とDEK-CAN陽性が併存する急性骨髄性白血病から選ばれ、前記IIタイプFLT3阻害剤が好ましくソラフェニブであり、又は、
前記急性骨髄性白血病がFLT3-ITDhigh変異を有する急性骨髄性白血病であり、又は、
前記急性骨髄性白血病の予後不良因子が0~2種であり、又は、
前記急性骨髄性白血病のFAB分類は、M2、M4、M5、さらに好ましくはM5であることを特徴する請求項15に記載の化合物A又はその薬学的に許容される塩。
【請求項17】
化合物A又はその薬学的に許容される塩を他の標的医薬品又は化学療法剤の1つ以上と併用して、前記他の標的医薬品又は化学療法剤が腫瘍関連疾患の治療に臨床的に使用される標的医薬品又は化学療法剤であることを特徴する請求項15又は16に記載の化合物A又はその薬学的に許容される塩。
【請求項18】
前記治療は、治療有効量の化合物A又はその薬学的に許容される塩を投与することを含み、前記治療有効量が1日当たり約0.001mg/kg~約1000mg/kg、好ましくは、約0.01mg/kg~約100mg/kgでり、好ましくは、化合物A又はその薬学的に許容される塩が1日当たりの用量で約0.001mg~約1000mg、好ましくは約1mg~約500mg、又は約20mg~約400mg、又は約100mg~約350mg、更に好ましくは約150mg~約330mg、又は約160mg~約310mg、又は約160mg~約300mgであり、単回又は分割して投与することを特徴する請求項15~17の何れかに記載の化合物A又はその薬学的に許容される塩。
【請求項19】
化合物A又はその薬学的に許容される塩を1日1回、1回あたり約20mg~約500mg、好ましくは約150mg~約400mg、例えば、約150mg、約160mg、約200mg、約250mg、約300mg、約310mg、約350mg、約400mgで投与し、又は、
化合物A又はその薬学的に許容される塩を1日2回、1回あたり約100mg~約300mg、好ましくは約100mg~約200mg、例えば約100mg、約125mg、約150mg、約175mg、約200mgで投与することを特徴する請求項15~18の何れかに記載の化合物A又はその薬学的に許容される塩。
【請求項20】
下記式の化合物A又はその薬学的に許容される塩と、任意的な薬学的に許容される賦形剤を含む、ヒト急性骨髄性白血病の治療のための医薬組成物。
【化4】
【請求項21】
前記ヒト急性骨髄性白血病が、再発性及び/又は難治性の急性骨髄性白血病から選ばれ、又は、前記急性骨髄性白血病が、FLT3-ITD変異及び/又はTKD変異を有する急性骨髄性白血病、IIタイプFLT3阻害剤による治療が失敗した再発性及び/又は難治性の急性骨髄性白血病、又は、FLT3-ITD変異とDEK-CAN陽性が併存する急性骨髄性白血病から選ばれ、前記IIタイプFLT3阻害剤が好ましくソラフェニブであり、又は、
前記急性骨髄性白血病がFLT3-ITDhigh変異を有する急性骨髄性白血病であり、又は、
前記急性骨髄性白血病の予後不良因子が0~2種であり、又は、
前記急性骨髄性白血病のFAB分類は、M2、M4、M5、さらに好ましくはM5であることを特徴する請求項20に記載の医薬組成物。
【請求項22】
前記医薬組成物を他の標的医薬品又は化学療法剤の1つ以上と併用し、前記他の標的医薬品又は化学療法剤が腫瘍関連疾患の治療に臨床的に使用される標的医薬品又は化学療法剤であることを特徴する請求項20又は21に記載の医薬組成物。
【請求項23】
前記治療は治療有効量の化合物A又はその薬学的に許容される塩を含有する医薬組成物を投与することを含み、前記治療有効量が化合物A又はその薬学的に許容される塩として、1日当たり約0.001mg/kg~約1000mg/kg、好ましくは、約0.01mg/kg~約100mg/kgでり、好ましくは、医薬組成物を化合物A又はその薬学的に許容される塩として、1日当たりの用量が約0.001mg~約1000mg、好ましくは約1mg~約500mg、又は約20mg~約400mg、又は約100mg~約350mg、更に好ましくは約150mg~約330mg、又は約160mg~約310mg、又は約160mg~約300mgであり、単回又は分割して投与することを特徴する請求項20~22の何れかに記載の医薬組成物。
【請求項24】
前記医薬組成物が含有する化合物A又はその薬学的に許容される塩を1日1回、1回当たり約20mg~約500mg、好ましくは約150mg~約400mg、例えば、約150mg、約160mg、約200mg、約250mg、約300mg、約310mg、約350mg、約400mgで投与し、又は、
前記医薬組成物が含有する化合物A又はその薬学的に許容される塩を1日2回、1回あたり約100mg~約300mg、好ましくは約100mg~約200mg、例えば約100mg、約125mg、約150mg、約175mg、約200mgで投与することを特徴する請求項20~23の何れかに記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品の分野に属し、特に、マルチターゲット型プロテインキナーゼ阻害剤の白血病の治療用の医薬品調製への用途及び前記疾患の治療方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
急性骨髄性白血病(AML)は、骨髄、末梢血及び/又はその他の組織における骨髄系芽球の増殖を特徴とする異質な血液悪性腫瘍である。主な臨床症状は、感染症、出血、貧血、髄外組織及び臓器浸潤であり、疾患は急速に進行し、自然経過はわずか数週間から数ヶ月である。AMLは成人急性白血病の中で最も多く、成人急性白血病の約80%がAMLであるという統計があった。AML全体の発生率は、先進国が途上国よりも高く、欧米諸国が東方諸国よりも高いという結果が出ている。年間発生率は世界中で2.25/100000人であり、発生率は年齢とともに増加していく。30歳未満では約1/100000、75歳以上では>15/100000と高くなる。統計によると、中国におけるAMLの総発生率は1.62/100000人で、年齢とともに増加し、50歳で大幅に増加し始め、60-69歳でピークに達している。また、女性よりも男性の方が著しく多くなる。また、欧米では、AMLの総発生率は3-5/100000人で、死亡率は2.8/100000人である。成人では、発症年齢の中央値は65~70歳であり、65歳以上の患者の発生率は15.3/100000人~18.1/100000人である。男性の発生率も女性よりも有意に高く、比率は約5:3である。
【0003】
AMLの治療方針は過去30年間ほど大きな変化がない。AMLの従来の標準レジメンは依然として「7+3」、つまり7日間のシタラビン(Cytarabine、Ara-C)+3日間のダウノルビシンなどのアントラサイクリン化学薬品にて、寛解を誘導し、1~2コースの治療が続いた後、完全寛解(CR)に達することが出来る。その後、寛解後の治療としてAra-Cの高用量投与を繰り返し、又は同種異系幹細胞移植(allogeneic hematopoietic stem cell transplantation, allo-HSCT)を行う。AMLは、高度の異質な悪性腫瘍であるため、従来のレジメンにもかかわらず、患者の40%はCRを達成できず、全生存期間(OS)が低くなっている。造血幹細胞移植はAMLの治療を最大化することができるが、同種異系幹細胞移植(allo-HSCT)ドナーの不足やマッチングの低さ、経済状況などの要因によって制限され、治療法は制限される。さらに、大多数の患者は最終的に再発し、5年生存率は約40-50%程度と言われる。そのため、創薬業界はAMLの新しいターゲットや医薬品の発見・開発に意欲的に取り組んでいる。
【0004】
遺伝子シーケンシング技術の継続的な開発により、研究者は多くの遺伝子変異がAMLの病因に重要な役割を果たすことを発見した。研究によると、すべての急性骨髄性白血病患者において、約3分の1がFLT3変異を有しており、主な変異タイプはFLT3-ITD(internal tandem duplication、内部タンデム重複)変異である。さらに、AML患者の芽球(Blasts)の70%以上もFLT3の高発現を示した。臨床研究では、FLT3変異又は高発現の患者の予後も不良であることが示されている。FLT3変異AML患者は一般に、標準的な化学療法後の再発、低OS、及び全体的な予後不良に苦しんでおり、化学療法薬の治療効果が制限される。FLT3の変異はAMLの病因の1つであるため、FLT3はAML治療のための標的小分子薬物の開発の重要なターゲットとなっている。
【0005】
2017年4月28日、米国ノバルティス社のFLT3阻害剤であるミドスタウリン(Midostaurin)(商品名:Rydapt)は、FDAの販売承認を受け、化学療法と併用して、FLT3陽性の急性骨髄性白血病のナイーブな患者に適用する。臨床試験では、化学療法と併用したRydaptを受けた群は、化学療法のみを受けた対照群と比較して、全生存期間が有意に改善し、死亡リスクが23%低くなった。さらに、化学療法を受けた患者の無イベント生存期間の中央値はわずか3.0ヶ月であり、併用療法を受けた患者の場合、8.2ヶ月となり、統計的に有意な改善を示した。その後、アステラス製薬のギルテリチニブ(gilteritinib)(商品名:XOSPATA:登録商標)、第一三共が開発した経口FLT3阻害剤キザルチニブ(quizartinib)(商品名:Vanflyta:登録商標)は、FLT3+再発性・難治性の急性骨髄性白血病、FLT3-ITD変異の再発性・難治性(R/R)の急性骨髄性白血病を対象に相次いで発売されている。さらに、FLT3変異を標的とする他のいくつかのAML治療薬が臨床試験中である。
【0006】
当業界では、一般的に、標的薬物の副作用は従来の化学療法薬よりも大幅に減少すると考えている。ただし、FLT3阻害剤の臨床試験では、異なった程度の毒性・副作用が依然として観察された。報告によると、AMLの治療において、Rydaptの一般的な副作用には、白血球減少症、悪心及び嘔吐、粘膜炎、頭痛、皮膚ペテキア、筋骨格痛、鼻血、高血糖、上気道感染症などが含まれる。Gilteritinibの臨床試験で報告された最も一般的な非血液学的な重篤な副作用には、肺炎、敗血症、発熱、呼吸困難、腎障害などが含まれる。一部の患者は、これらの重篤な副作用のためにgilteritinibによる治療を永久に中止した。また、再発性、二次治療が無効であった、又は造血幹細胞移植後に再発したAMLを対象とした経口剤Quizartinibの第II相臨床試験の過程で、悪心(38%)、貧血(29%)、QT延長(26%)、嘔吐(26%)、発熱性好中球減少症(25%)、下痢(20%)、倦怠感(20%)及びその他の一般的な副作用は現れ、更に、レベル3のQT延長という用量制限毒性反応は現れ、この薬が重大な心毒性を持っていることを示唆した。研究中、患者の10%が有害事象のために治療を中止した。したがって、FLT3変異を標的とする安全で効果的なAML治療薬の開発は、依然として研究の方向となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
化合物Aは、以下の構造を有する新規マルチターゲット型プロテインキナーゼ阻害剤である。
【化1】
【0008】
In vitro試験により、化合物Aの主な作用標的はFLT3、EGFR、Abl、Fyn、Hck、Lck、Lyn、Ret及びYesなどであり、上記のキナーゼ関連腫瘍の治療に使用できることを示した。しかし、ヒトのAMLなどの様々な腫瘍、特にFLT3-ITD(internal tandem duplication、内部タンデム重複)変異を有する急性骨髄性白血病(AML)に対する有効性と安全性を検証した研究はない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明の内容
前述の先行技術の欠点に対応して、本発明の目的の1つは、マルチターゲット型タンパク質キナーゼ阻害化合物A又はその薬学的に許容される塩の、腫瘍の治療、特に白血病の治療、特にヒト白血病の治療のための医薬品調製への用途を提供する。
【0010】
いくつかの実施形態において、前記白血病は、急性骨髄性白血病である。
【0011】
いくつかの実施形態において、前記急性骨髄性白血病は、再発性及び/又は難治性の急性骨髄性白血病である。前記再発性急性骨髄性白血病は、完全寛解(CR)後、末梢血中の白血病細胞又は骨髄中の芽球が再び出現したこと(>0.050)(地固め化学療法後の骨髄再生など他の理由を除く)又は白血病細胞の骨髄外浸潤のことと定義される。前記難治性急性骨髄性白血病は、標準レジメンによる2コースの治療で無効となった原発症例、CR後の強化治療後12ヶ月以内に再発した症例、12ヶ月後に再発したが通常の化学療法で無効となった症例、2回以上再発した症例、持続性髄外白血病を有する症例を含む。
【0012】
いくつかの実施形態において、前記再発性及び/又は難治性の急性骨髄性白血病は、ダウノルビシン、イダルビシン、シタラビン、アザシチジン、フルダラビン、デシタビン、顆粒球コロニー刺激因子、ホモハリントニン、ミトキサントロン、エトポシド、IIタイプFLT3阻害剤など1つ又は複数による治療に失敗した再発性及び/又は難治性の急性骨髄性白血病を意味する。
【0013】
いくつかの実施形態において、前記急性骨髄性白血病は、FLT3-ITD変異及び/又はTKD(チロシンキナーゼドメイン)変異を有する急性骨髄性白血病、IIタイプFLT3阻害剤による治療が失敗した再発性及び/又は難治性の急性骨髄性白血病、又は、FLT3-ITD変異とDEK-CAN陽性が併存する急性骨髄性白血病を含む。好ましくは、前記IIタイプFLT3阻害剤は、ソラフェニブである。
【0014】
いくつかの実施形態において、前記急性骨髄性白血病は、FLT3-ITDhigh変異を有する急性骨髄性白血病である。
【0015】
いくつかの実施形態において、前記急性骨髄性白血病のFAB分類は、M2、M4、M5、さらに好ましくはM5である。
【0016】
いくつかの実施形態において、前記急性骨髄性白血病の予後不良因子は、0~2種である。
【0017】
いくつかの実施形態において、化合物A又はその薬学的に許容される塩は、他の標的医薬品又は化学療法剤の1つ以上と併用して、前記医薬品の調製に使用されてもよい。他の標的医薬品又は化学療法剤とは、腫瘍関連疾患の治療に臨床的に使用される標的医薬品又は化学療法剤を意味する。
【0018】
いくつかの実施形態において、前記医薬品は、経口製剤、注射製剤、局所投与製剤、外用製剤などの臨床的に許容される製剤として調製される。
【0019】
いくつかの実施形態において、前記医薬品は、単回投与剤形又は分割投与剤形である。前記剤形は、治療有効量の化合物A又はその薬学的に許容される塩を含有する。前記治療有効量は、好ましくは約0.001mg~約1000mg、更に好ましくは約1mg~約500mg、又は約20mg~約400mg、又は約100mg~約350mg、最も好ましくは約150mg~約330mg、又は約160mg~約310mg、又は約160mg~約300mgとされる。
【0020】
いくつかの実施形態において、前記剤形は、化合物A又はその薬学的に許容される塩を約20mg~約500mg、好ましくは約150mg~約400mg、例えば約150mg、約160mg、約200mg、約250mg、約300mg、約310mg、約350mg、約400mgで1日1回投与する剤形である。
【0021】
いくつかの実施形態において、前記剤形は化合物A又はその薬学的に許容される塩を1回当たり約100mg~約300mg、好ましくは約100mg~約200mg、例えば約100mg、約125mg、約150mg、約175mg、約200mgで1日2回投与する剤形である。
【0022】
本発明のさらなる目的は、マルチターゲット型プロテインキナーゼ阻害剤化合物A又はその薬学的に許容される塩の急性骨髄性白血病、特にヒト急性骨髄性白血病の治療のための、安全かつ有効用量を提供すること、急性骨髄性白血病、特にヒト急性骨髄性白血病の治療方法を提供することである。前記方法は、治療有効量の化合物A又はその薬学的に許容される塩を被験者又は患者に投与することが含まれる。前記投与は、経口投与、注射剤投与、局所投与又は体外投与のいずれであってもよい。前記治療有効量で前記被験者又は患者における急性骨髄性白血病を治療又は緩和し得る。
【0023】
いくつかの実施形態において、前記急性骨髄性白血病は、再発性及び/又は難治性の急性骨髄性白血病である。前記再発性急性骨髄性白血病は、完全寛解(CR)後、末梢血中の白血病細胞又は骨髄中の芽球が再び出現したこと(>0.050)(地固め化学療法後の骨髄再生など他の理由を除く)又は白血病細胞の骨髄外浸潤のことと定義される。前記難治性急性骨髄性白血病は、標準レジメンによる2コースの治療で無効となった原発症例、CR後の強化治療後12ヶ月以内に再発した症例、12ヶ月後に再発したが通常の化学療法で無効となった症例、2回以上再発した症例、持続性髄外白血病を有する症例を含む。
【0024】
いくつかの実施形態において、前記再発性及び/又は難治性の急性骨髄性白血病は、ダウノルビシン、イダルビシン、シタラビン、アザシチジン、フルダラビン、デシタビン、顆粒球コロニー刺激因子、ホモハリントニン、ミトキサントロン、エトポシド、IIタイプFLT3阻害剤など1つ又は複数による治療に失敗した再発性及び/又は難治性の急性骨髄性白血病を意味する。
【0025】
いくつかの実施形態において、前記急性骨髄性白血病は、FLT3-ITD変異及び/又はTKD変異を有する急性骨髄性白血病、IIタイプFLT3阻害剤による治療が失敗した再発性及び/又は難治性の急性骨髄性白血病、又は、FLT3-ITD変異とDEK-CAN陽性が併存する急性骨髄性白血病を含む。好ましくは、前記IIタイプFLT3阻害剤は、ソラフェニブである。
【0026】
いくつかの実施形態において、前記急性骨髄性白血病は、FLT3-ITDhigh変異を有する急性骨髄性白血病である。
【0027】
いくつかの実施形態において、前記急性骨髄性白血病のFAB分類は、M2、M4、M5、さらに好ましくはM5である。
【0028】
いくつかの実施形態において、前記急性骨髄性白血病の予後不良因子は、0~2種である。
【0029】
いくつかの実施形態において、前記治療有効量は、1日当たり約0.001mg/kg~約1000mg/kg、好ましくは、約0.01mg/kg~約100mg/kgであってよい。好ましくは、化合物A又はその薬学的に許容される塩は、1日当たりの用量が約0.001mg~約1000mg、好ましくは約1mg~約500mg、又は約20mg~約400mg、又は約100mg~約350mg、更に好ましくは約150mg~約330mg、又は約160mg~約310mg、又は約160mg~約300mgである。単回又は分割して投与する。
【0030】
いくつかの実施形態において、前記治療方法では、化合物A又はその薬学的に許容される塩を1日1回、1回当たり約20mg~約500mg、好ましくは1回当たり約150mg~約400mg、例えば、1回当たり約150mg、約160mg、約200mg、約250mg、約300mg、約310mg、約350mg、約400mgで投与する。
【0031】
いくつかの実施形態において、前記治療法では、化合物A又はその薬学的に許容される塩を1日2回、1回あたり約100mg~約300mg、好ましくは1回当たり約100mg~約200mg、例えば約1回当たり100mg、125mg、150mg、175mg、200mgで投与する。
【0032】
いくつかの実施形態において、化合物A又はその薬学的に許容される塩は、臨床的に許容される製剤として調製した後に投与され、前記製剤は、経口製剤、注射製剤、局所投与製剤、外用剤などを含む。
【0033】
いくつかの実施形態において、化合物A又はその薬学的に許容される塩は、他の標的医薬品又は化学療法剤の1つ以上と併用して、前記疾患の治療に適用する。他の標的医薬品又は化学療法剤とは、腫瘍関連疾患の治療に臨床的に使用される標的医薬品又は化学療法剤を意味する。
【0034】
また、本発明は、急性骨髄性白血病、特にヒト急性骨髄性白血病の治療のための化合物A又はその薬学的に許容される塩を提供するものである。
【0035】
いくつかの実施形態において、前記急性骨髄性白血病は、再発性及び/又は難治性の急性骨髄性白血病である。前記再発性急性骨髄性白血病は、完全寛解(CR)後、末梢血中の白血病細胞又は骨髄中の芽球が再び出現したこと(>0.050)(地固め化学療法後の骨髄再生など他の理由を除く)又は白血病細胞の骨髄外浸潤のことと定義される。前記難治性急性骨髄性白血病は、標準レジメンによる2コースの治療で無効となった原発症例、CR後の強化治療後12ヶ月以内に再発した症例、12ヶ月後に再発したが通常の化学療法で無効となった症例、2回以上再発した症例、持続性髄外白血病を有する症例を含む。
【0036】
いくつかの実施形態において、前記再発性及び/又は難治性の急性骨髄性白血病は、ダウノルビシン、イダルビシン、シタラビン、アザシチジン、フルダラビン、デシタビン、顆粒球コロニー刺激因子、ホモハリントニン、ミトキサントロン、エトポシド、IIタイプFLT3阻害剤など1つ又は複数による治療に失敗した再発性及び/又は難治性の急性骨髄性白血病を意味する。
【0037】
いくつかの実施形態において、前記急性骨髄性白血病は、FLT3-ITD変異及び/又はTKD変異を有する急性骨髄性白血病、IIタイプFLT3阻害剤による治療が失敗した再発性及び/又は難治性の急性骨髄性白血病、又は、FLT3-ITD変異とDEK-CAN陽性が併存する急性骨髄性白血病を含む。好ましくは、前記IIタイプFLT3阻害剤は、ソラフェニブである。
【0038】
いくつかの実施形態において、前記急性骨髄性白血病は、FLT3-ITDhigh変異を有する急性骨髄性白血病である。
【0039】
いくつかの実施形態において、前記急性骨髄性白血病のFAB分類は、M2、M4、M5、さらに好ましくはM5である。
【0040】
いくつかの実施形態において、前記急性骨髄性白血病の予後不良因子は、0~2種である。
【0041】
いくつかの実施形態において、化合物A又はその薬学的に許容される塩は、他の標的医薬品又は化学療法剤の1つ以上と併用してもよい。他の標的医薬品又は化学療法剤とは、腫瘍関連疾患の治療に臨床的に使用される標的医薬品又は化学療法剤を意味する。
【0042】
いくつかの実施形態において、前記治療は、治療有効量の化合物A又はその薬学的に許容される塩を投与することを含む。前記治療有効量は、1日当たり約0.001mg/kg~約1000mg/kg、好ましくは、約0.01mg/kg~約100mg/kgであってよい。好ましくは、化合物A又はその薬学的に許容される塩は、1日当たりの用量が約0.001mg~約1000mg、好ましくは約1mg~約500mg、又は約20mg~約400mg、又は約100mg~約350mg、更に好ましくは約150mg~約330mg、又は約160mg~約310mg、又は約160mg~約300mgである。単回又は分割して投与する。
【0043】
いくつかの実施形態において、化合物A又はその薬学的に許容される塩を1日1回、1回あたり約20mg~約500mg、好ましくは1回あたり約150mg~約400mg、例えば、1回あたり約150mg、約160mg、約200mg、約250mg、約300mg、約310mg、約350mg、約400mgで投与する。又は、化合物A又はその薬学的に許容される塩を1日2回、1回あたり約100mg~約300mg、好ましくは1回あたり約100mg~約200mg、例えば1回あたり約100mg、約125mg、約150mg、約175mg、約200mgで投与する。
【0044】
また、本発明は下記式の化合物A又はその薬学的に許容される塩と、任意的な薬学的に許容される賦形剤を含む、ヒト急性骨髄性白血病の治療のための医薬組成物を提供するものである。
【化2】
【0045】
いくつかの実施形態において、前記急性骨髄性白血病は、再発性及び/又は難治性の急性骨髄性白血病である。前記再発性急性骨髄性白血病は、完全寛解(CR)後、末梢血中の白血病細胞又は骨髄中の芽球が再び出現したこと(>0.050)(地固め化学療法後の骨髄再生など他の理由を除く)又は白血病細胞の骨髄外浸潤のことと定義される。前記難治性急性骨髄性白血病は、標準レジメンによる2コースの治療で無効となった原発症例、CR後の強化治療後12ヶ月以内に再発した症例、12ヶ月後に再発したが通常の化学療法で無効となった症例、2回以上再発した症例、持続性髄外白血病を有する症例を含む。
【0046】
いくつかの実施形態において、前記再発性及び/又は難治性の急性骨髄性白血病は、ダウノルビシン、イダルビシン、シタラビン、アザシチジン、フルダラビン、デシタビン、顆粒球コロニー刺激因子、ホモハリントニン、ミトキサントロン、エトポシド、IIタイプFLT3阻害剤など1つ又は複数による治療に失敗した再発性及び/又は難治性の急性骨髄性白血病を意味する。
【0047】
いくつかの実施形態において、前記急性骨髄性白血病は、FLT3-ITD変異及び/又はTKD変異を有する急性骨髄性白血病、IIタイプFLT3阻害剤による治療が失敗した再発性及び/又は難治性の急性骨髄性白血病、又は、FLT3-ITD変異とDEK-CAN陽性が併存する急性骨髄性白血病を含む。好ましくは、前記IIタイプFLT3阻害剤は、ソラフェニブである。
【0048】
いくつかの実施形態において、前記急性骨髄性白血病は、FLT3-ITDhigh変異を有する急性骨髄性白血病である。
【0049】
いくつかの実施形態において、前記急性骨髄性白血病のFAB分類は、M2、M4、M5、さらに好ましくはM5である。
【0050】
いくつかの実施形態において、前記急性骨髄性白血病の予後不良因子は、0~2種である。
【0051】
いくつかの実施形態において、前記医薬組成物は、他の標的医薬品又は化学療法剤の1つ以上と併用してもよい。他の標的医薬品又は化学療法剤とは、腫瘍関連疾患の治療に臨床的に使用される標的医薬品又は化学療法剤を意味する。
【0052】
いくつかの実施形態において、前記治療は、治療有効量の化合物A又はその薬学的に許容される塩を含有する医薬組成物を投与することを含む。前記治療有効量は、化合物A又はその薬学的に許容される塩として、1日当たり約0.001mg/kg~約1000mg/kg、好ましくは、約0.01mg/kg~約100mg/kgである。好ましくは、医薬組成物を化合物A又はその薬学的に許容される塩として、1日当たりの用量が約0.001mg~約1000mg、好ましくは約1mg~約500mg、又は約20mg~約400mg、又は約100mg~約350mg、更に好ましくは約150mg~約330mg、又は約160mg~約310mg、又は約160mg~約300mgである。単回又は分割して投与する。
【0053】
いくつかの実施形態において、前記医薬組成物が含有する化合物A又はその薬学的に許容される塩を1日1回、1回当たり約20mg~約500mg、好ましくは約150mg~約400mg、例えば、約150mg、約160mg、約200mg、約250mg、約300mg、約310mg、約350mg、約400mgで投与する。又は、前記医薬組成物が含有する化合物A又はその薬学的に許容される塩を1日2回、1回あたり約100mg~約300mg、好ましくは約100mg~約200mg、例えば約100mg、約125mg、約150mg、約175mg、約200mgで投与する。
【0054】
本発明に記載の化合物A又はその薬学的に許容される塩の用量は、化合物Aに換算したものである。
【0055】
本願発明の形態において、数値の前の「約」は、数値の±10%、好ましくは±5%、例えば数値の±10%、±9%、±8%、±7%、±6%、±5%、±4%、±3%、±2%又は±1%、を意味する。
【0056】
本願発明者らは、ヒト急性骨髄性白血病、特にFLT3変異を有する急性骨髄性白血病に対する化合物A又はその薬学的に許容される塩の有効性及び安全性を評価するために、臨床第I相試験及び第II相試験を行った。初期的な結果によると、化合物Aは、FLT3-ITD変異及び/又はTKD変異を有する急性骨髄性白血病、ならびにDEK-CAN陽性及びFLT3-ITD変異を有する急性骨髄性白血病に対して有効であることが示された。II型FLT3阻害剤(例、ソラフェニブ)による治療に失敗した再発性及び/又は難治性の急性骨髄性白血病の患者に対して、化合物Aによる治療は一定の効果を示した。化合物Aは、レベル3以上のADRの発生率が低く、重篤な心毒性、肝毒性、血液毒性がなく、良好な臨床安全性を有した。
【0057】
臨床第II相試験の初期結果によると、FLT3変異を有する再発性及び/又は難治性の急性骨髄性白血病の治療において、化合物Aは150mg BID及び300mg QDでは安全性及び忍容性があり、150mg BID及び300mg QD群はいずれも、200mg BIDより有効性及び安全性が高く、一定の臨床的有用性を示した。初期結果によると、化合物Aの有効性は、類似製品のQuizatinib、Gilteritinibと同等であり、重篤な心臓、肝臓及び血液の有害事象の発生率は有意に減少した。このことから、化合物Aは急性骨髄性白血病の治療において安全かつ有効であることを示した。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1図1は、第II相臨床試験法の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0059】
以下の実施例は、本発明の内容をよりよく説明することを目的としているが、本発明の内容は、実施例に限定されない。本発明の上述の内容に従って当業者によってなされた実施形態に対する本質的でない改良及び適応は、本発明の保護範囲内に留まるものである。
【0060】
1.第I相臨床試験
1.1調査目的
FLT3変異を有する急性骨髄性白血病患者を被験者として、化合物Aの単回投与及び複数投与における安全性/忍容性、薬物動態プロファイル、初期的効果を検討し、化合物Aの第II相臨床試験設計の基礎を提供すること。
【0061】
1.2 調査方法
1.2.1 症例組み入れ基準
本研究で使用した症例の選択基準は以下の通りである。
【0062】
(1) 選択基準
1) 被験が自発し、インフォームド・コンセントに署名したこと。
2) 18歳以上の中国人の男性又は女性。
3) 世界保健機関(WHO)の分類に準拠した原発性又は二次性AMLと診断され、白血病細胞遺伝学的検査によりFLT3変異が陽性で、以下の基準のいずれかに該当する患者。
a)導入療法を少なくとも1サイクル行った後の難治性AML。
b)導入療法を少なくとも1サイクル行った後に再発したAML。
c)年齢、疾病、その他の理由により、治験責任医師が導入療法に適さないと判断した者。
4) ECOGスコア0~3。
5) 被験者の疾患が急速に進行する前に、試験薬と以前の細胞毒性化学療法剤(ヒドロキシウレアを除く)との間に最低2週間の間隔、又は試験薬と以前の非細胞毒性化学療法剤との間に最低5半減期の間隔があること。
6) 血清クレアチニンが正常値の上限の1.5倍以下。
7) 総ビリルビン値が正常上限の1.5倍以下(Gilbert症候群及び臓器に関わる白血病を除く)。
8) 血清AST、ALTが正常上限の3.0倍以下(但し、臓器に関わる白血病の場合は除く)。
9) 妊娠可能な被験者は、治療中及び治療終了後6ヶ月間、効果的な避妊を行うことに同意したこと。
【0063】
(2) 除外基準
1) 急性前骨髄球性白血病と確認。
2) 最近、中枢神経系白血病の症候を示すこと。
3) 以前の化学療法によるレベル2以上の非血液毒性が存在すること。
4) 試験参加前100日以内に骨髄移植を受けた者。
5) コントロールできない活動的な感染症。
6) 試験参加前4週間以内に主要な臓器の外科的治療を受けたもの。
7) 試験参加前4週間以内の放射線治療。
8) 心駆出率が50%以下又は正常下限値以下、臨床的に有意なQTc延長(男性450ms以上、女性470ms以上)の既往のある患者、重症心疾患の既往がある患者。
9) HIV陽性。
10) 活動性のB型肝炎ウイルス感染症、C型肝炎ウイルス感染症、その他の肝疾患。
11) 妊娠中又は授乳中の女性
12) 重篤な病状や合併症を有する者、又は治験担当医師の判断により、患者の安全を脅かす可能性がある、或いは試験に支障をきたす可能性がある者。
13) 治験責任医師が治験を実施できないと判断した患者。
【0064】
1.2.2 効果評価基準
血液学の診断及び効果基準(第3版)を参考に設定し、詳細は以下の通りである。
【0065】
1.寛解基準
(1) 完全寛解(CR)
1) 白血病細胞の浸潤による臨床症状や徴候はなく、通常又はそれに近い生活ができる。
2) 血液像:Hb≧100g/L(男性)又は90g/L(女性・小児)、好中球絶対値≧1.5×109/L、血小板≧100×109/L。末梢血白血球分類で白血病細胞を認めないこと。
3) 骨髄像:骨髄芽球I型+II型(原始単球+未成熟単球又は原始リンパ球+未成熟リンパ球)≦5%、赤血球及び巨核球は正常。
M2b:骨髄芽球タイプI+タイプII≦5%、好中球の割合は正常範囲内。
M3:骨髄芽球+前骨髄球≦5%。
M4:骨髄芽球I、II+原始単球及び未成熟単球≦5%。
M5:原始単球タイプI+タイプII及び未成熟単球≦5%。
M6:骨髄芽球タイプI+タイプII≦5%、原始赤血球と未成熟赤血球の割合は基本的に正常。
M7:顆粒球と赤血球の比率は正常で、原始巨核球と未成熟巨核球は基本的に消失。
急性リンパ芽球性白血病:芽球リンパ球+未成熟リンパ球≦5%。
【0066】
(2) 部分寛解(PR):骨髄芽球I型+II型(原始単球+未成熟単球又は原始リンパ球+未成熟リンパ球)が5%以上20%以下、又は臨床像又は血液像のいずれかが完全寛解の基準に達しないもの。
【0067】
2. 白血病の再発:治療によりCRを取得した後、以下の3つのいずれかが発生した場合を再発と定義する。
(1)骨髄芽球I型+II型(原始単球+未成熟単球又は原始リンパ球+未成熟リンパ球)>5%かつ<20%で、有効な抗白血病療法を1コース行っても骨髄像が完全に寛解しない者。
(2)骨髄芽球I型+II型(原始単球+未成熟単球又は原始リンパ球+未成熟リンパ球)>20%。
(3)髄外白血病細胞の浸潤。
【0068】
3. 継続的完全寛解(CCR):治療後、完全寛解した日から3~5年以上、白血病の再発がないもの。
【0069】
4. 長期生存:急性白血病の診断日から5年以上生存しているもの(無病生存、有病生存を含む)。
【0070】
5. 臨床的治癒:化学療法中止後5年、又は無病生存期間(DFS)10年のもの。
注)生存率の統計には、導入療法のコースが1コース未満の症例を含める必要がある。導入療法のコースが1コース以上の症例は、効果統計の範囲に含める必要がある。
【0071】
1.2.3 治療方法
本試験では、18歳以上の原発性又は二次性AMLで、白血病細胞遺伝学的検査によりFLT3変異が陽性であった被験者を対象とした。試験は8群に分け、用量は20mg、40mg、80mg、120mg、160mg、200mg、250mg、310mg(化合物Aとして)とした。
【0072】
各被験者に対して、単回投与による忍容性及び薬物動態試験(すなわち、1日目、d1)に続いて、4日目(d4)に複数投与による忍容性及び薬物動態試験が行われた。28日間の複数回投与は一つ投与サイクルであった。各被験者は、忍容性及び薬物動態試験の第1サイクルを完了し、用量制限毒性又は疾患の進行はなく、治験責任医師の判断により、疾患進行又は許容できない毒性が生じるまで治療を継続した。用量制限毒性(DLT)は以下のように定義され:NCI-CTCAE v4.0標準により、複数投与期の1サイクル(28日間)内に、化合物Aに関連すると考えられる(確実に関連する、関連する可能性が高く、関連する可能性があることを含む)レベル3以上の非血液学的毒性は、用量制限毒性と定義される。
【0073】
本試験では、用量群の最初のサイクルでDLTが発生しなければ、用量漸増を継続する「3+3」設計を採用した。ある用量群の最初のサイクルで1例のDLTが発現した場合、その用量群に3例の被験者を追加した。この3例の被験者のうち1例以上に再びDLTが発現した場合、試験は終了となった。ある用量群の最初のサイクルで2つ以上のDLTが発生した場合、試験は終了した。その用量の前の用量をMTDとみなす。MTD決定後、MTD用量群にさらに3人の被験者を組み入れ、観察した。
【0074】
1.3 調査結果
合計33例の被験者が試験でスクリーニングされ、5例がスクリーニングに失敗し、28例が投与を受け、2例が脱落した。28例の被験者が少なくとも1回の投与を受け、1例は4日間、1例は7日間、残りの被験者全員は少なくとも28日間投与された。
【0075】
1.3.1 被験者のベースライン特性
合計28例の被験者がスクリーニングされ、そのうち14.29%が再発性AML患者、57.14%が難治性AML患者、28.57%が再発性/難治性AML患者であった。被験者の96.43%がFLT3-ITD変異を有し、年齢の中央値は50歳(19-70歳)であった(詳細は表1参照)。
【表1】
【0076】
1.3.2 安全性
試験中、160mg用量群の1例にALT及びASTの上昇という用量制限毒性が認めらた。その後、3例の被験者を追加し、追加された3例の被験者にはDLTは再発しなかった。用量漸増を続け、310 mg QDまでMTDが検出されなかった。
【0077】
(1)主な副作用
試験中に発現した主な副作用は、下痢(7例、13回)、発疹(4例、9回)、総蛋白増加(2例、5回)、WBC減少(1例、5回)で、レベル3以上の副作用(6例)は主にWBC減少、顆粒球減少、骨髄不全、肝機能異常及び下痢などであった。対症療法後にすべてが改善した。レベル3/4の有害事象の発生率は、第1サイクルとそれ以降の治療で有意な差はなかった(表参照2)。
【0078】
【表2】
【0079】
(2)薬物と無関係と思われるSAE
本試験では、AMLの進行4例、感染症関連6例、出血関連3例、不完全腸閉塞1例、疾患関連死1例、発熱1例、合計13例の被験者の用量制限毒性が医薬品とは無関係と思われるSAEを認めた。
【0080】
(3) 医薬品に関連すると思われるSAE
試験中の1人の患者だけは潜在的に薬物関連のSAEを発症した。すなわち、サイクル14で、ネフローゼ症候群、全体的な心不全、及び肺高血圧症であった。
【0081】
1.3.3 初期有効期限
28例全員が少なくとも1回投与され、1例はわずか4日で自己中断、1例はDLTを発症(7日間の複数投与後に中止)し、残りの被験者全員が少なくとも28日間投与された。寛解率ORRは21.4%(6/28例)であった。この試験は用量漸増試験であり、160mgでは効果を示し、160mg、200mg、250mg、310mgの計16例の被験者において、完全寛解1例、部分寛解5例の初期効果が認めらた。そのため、実効線量以上の有効率は37.5%(6/16)であった。このうち、250mgでCRと評価された被験者が1例、310mg群で骨髄CRと評価された被験者が1例であった。
【0082】
また、20mg以降に血液学的な進行が認められた症例があり、具体的には、血小板の進行(HI-P)が13例、好中球の進行(HI-N)が12例であった。
【0083】
本試験の14例の被験者は、過去にソラフェニブによる治療を受け、寛解を達成しなかった又は疾患再発した。このうち、化合物A(250mg QD)投与後に完全寛解となった被験者が1例、部分寛解となった被験者が1例であった。ソラフェニブ治療に失敗した再発性及び/又は難治性AML患者において、化合物Aによる治療は依然として有益である可能性を示した。
【0084】
DEK-CAN陽性とFLT3-ITD変異の共存は、AMLにおける寛解率の低下と生存期間の短縮と関連する研究が示されている。本試験では、FLT3-ITD変異とDEK-CAN陽性を併せ持つ被験者が2例存在した。1人の被験者は2サイクルの化合物A(250mg QD)治療後にCRを取得し、まだ治療を受けている。1人の被験者は2サイクルの治療後にPRを取得した。DEK-CAN陽性かつFLT3-ITD変異を併せ持つAML患者において、化合物Aは良好な効果を示した。
【0085】
【表3】
【0086】
1.4 類似製品との比較
先行技術に開示された第1世代及び第2世代のFLT-3阻害剤の臨床試験の結果を参照して、本明細書に記載の化合物Aと既存のFLT-3阻害剤との有効性と安全性を比較すると、第1相臨床試験で示された化合物Aの初期効力は、既存の第2世代のFLT-3阻害剤(キザルチニブ(Quizartinib)、ギルレチニブ(Gilteritinib))と同じレーベルで、第一世代のFLT-3阻害剤(ソラフェニブ(Sorafenib)、ミドスタウリン(Midostaurin))よりも有意に優れている。化合物Aの主な毒性は下痢と発疹を中心とした軽度のものであった。臨床的な応用価値も高い。
【0087】
【表4】
【0088】
1.4.1 レベル3以上のADRの比較
Gilteritinibの第II相臨床試験では、被験者のほぼ半数はレベル3以上の発熱性好中球減少症及び貧血が発生した。一方、化合物Aの前述の第I相臨床試験では、そのような副作用は少なかった。
【0089】
【表5】
【0090】
【表6】
【0091】
1.4.2 心毒性の比較
GilteritinibとQuizartinibは、いずれも臨床試験の過程でさまざまな程度の心毒性反応が観察された。第I相臨床試験の結果では、本発明の化合物Aは心毒性の発現率が低く、程度も軽度であり、レベル3以上の心毒性は認められなかった。
【0092】
【表7】
【0093】
【表8】
【0094】
【表9】
【0095】
2. 第II相臨床試験
2.1 調査の目的
再発性及び/又は難治性のFLT3変異AMLを有する中国人成人患者を被験者として、化合物Aの有効性と安全性を評価し、最適な投与方法を検討することである。
【0096】
2.2 調査方法
2.2.1 全体的な試験デザイン及び計画
本試験は、2段階、多剤併用漸増、コホート拡大ダイナミックデザイン(dynamic design)で、前回用量群のデータ解析により、用量の調整又は試験の拡大を行うかどうかを決定する。拡大には、用量群の増減、被験者ケースの拡張、治療サイクルの拡張が含まれる。
【0097】
第1相は安全性忍容性試験期間とし、150mg BID群、200mg BID群、300mg QD群に分け、各群3例、28日間連続で1サイクルの治療を行い、1サイクル目の忍容性及び薬物動態試験の後、用量制限毒性(DLT)や疾患の進行が認められない場合は、治験責任医師の判断により、疾患進行又は許容できない毒性が生じるまで治療を継続した。ある用量群の最初のサイクルで1例のDLTが発現した場合、その用量群に3例の被験者を追加した。この3例の被験者のうち1例以上に再びDLTが発現した場合、該用量群及びそれ以上の用量群の試験は終了となった。ある用量群の最初のサイクルで2つ以上のDLTが発生した場合、該用量群及びそれ以上の用量群の試験は終了した。
【0098】
試験は150mg BID群から開始し、この群の3例の被験者による最初の忍容性試験が終了した後、200mg BID群の忍容性試験を実施した。なお、忍容性試験期間を満たす3 例の被験者を優先的に組み入れ、300mg QD 群は単回忍容性試験で良好な忍容性が確認されたため、忍容性試験期間中スクリーニングされた他の被験者は直接に300mg QD 群に組み入れた。
【0099】
150 mg BID 及び 200mg BID 群の忍容性試験終了後、治験責任医師、スポンサー、定量的薬理学の専門家、臨床薬理学の専門家、及び統計学の専門家はより高い有効量を継続するかどうかを検討した。
【0100】
第2段階は用量拡張期間であり、ある用量群は第1サイクルを終了した後、治験責任医師が評価した結果、被験者に有意な改善が認められた場合、当該の用量群に対して少なくとも10例の被験者増加のコホート拡張を施し、可能な有効量をさらに調査した。この期間中、治験責任医師、スポンサー、定量的薬理学の専門家、臨床薬理学の専門家、及び統計学の専門家は、用量群の効果に応じてコホートの拡大を継続するかどうかについて検討した(具体的な試験方法は図1参照)。
【0101】
2.2.2 調査の被験者の選択
第II相臨床試験で使用した症例の組み入れ基準及び除外基準は、第I相臨床試験で使用したものと同じである。
【0102】
2.2.3 効果及び安全性の変数
2.2.3.1 効果変数
全CR(CR、CRh、CRi)率:本試験に組み入れたすべての被験者のうち、化合物A投与中にCR、CRh、CRiを達成した被験者の割合と定義される。寛解率を計算する際に、寛解評価を受けなかった被験者は分母にカウントされる。ここで、CRとは、好中球数≧1×109/L、血小板数≧100×109/Lで、輸血を行わず、ヘモグロビン濃度や赤血球量が寛解状態に影響しないという形態的白血病フリー状態の達成と定義する。CRiは、好中球減少(<1×109/L)や血小板減少(<100×109/L)を除いてCR基準を全て満たしている状態とし、CRhは、好中球減少(>0.5×109/L、<1×109/L)又は血小板減少(>50×109/L、<100×109/L)を除いてCR基準を全て満たしている状態とする。
【0103】
(1)3年全生存期間(OS):初回投与から3年以内に何らかの原因で死亡するまでの期間をOS期間とする。
【0104】
(2)3年無イベント生存期間(EFS):ランダム組み入れの開始時点から3年以内に以下のいずれかが発生するまでの期間:(i)治療開始後6ヶ月以内にCR(CR、CRh、CRi)なし、(ii)所定のCR(CR、CRh、CRi)に達した後の再発、(iii)疾患の進行、(iv)試験中の任意の時点での全死因死亡、いずれか最初に発生したもので決定した。試験におけるEFSの打ち切り規則は次のとおり、ベースラインの骨髄像及びルーチンな血液評価がなく、ベースライン後の効果評価がない被験者は、組み入れ日で打ち切り、被験者の組み出すこと、試験中疾患の進行又は死亡が発生しなく、再発、治療失敗又は死亡を知ることができない被験者は、最終効果評価日で打ち切ること、疾患進行前に新規抗白血病治療を受けた被験者は、最終効果評価日で打ち切ることである。
【0105】
(3) CR寛解期間(DoR-CR):DoR-CR 時間は、最初に CR を達成してから、血液学的再発、髄外疾患、又は何らかの原因による死亡が記録されたまでの時間(いずれか最初に発生したもので決定した)である。
【0106】
2.2.3.2 安全性の変数
安全性の変数には、身体検査、バイタルサイン、ECOGスコア、臨床検査評価、有害事象などが含まれる。
【0107】
2.3 調査結果
2.3.1 データセットの分析、人口統計学及びその他のベースライン特性
2020年7月15日現在、合計31例の被験者が組み入れた。すべての被験者がFASセットとSSセットに含まれた。150mg BID群で14例の被験者、200mg BID群で4例の被験者、300mg QD群で13例の被験者が組み入れた。被験者の人口統計学的データとベースライン特性を表10に示した。
【0108】
組み入れた被験者のうち、1例だけがallo-HSCTの前治療を受けていた(C2がCRi、C3がCRh、C4がCRと評価)。すべての被験者が、平均5.6サイクル、中央値で5サイクルの前治療を受けていた。このうち、24例(77.4%)の被験者の過去の最良治療成績はCRであった。
【0109】
本試験では、服薬コンプライアンスは良好で、大多数の被験者が時間通りに用量を守って服薬し(29例、93.5%)、時間通りに服薬しなかった被験者2例は80%から120%の範囲であった。
【0110】
【表10】
【0111】
2.3.2 薬物動態試験
被験者への化合物Aの28日間連続経口投与による曝露量は150 mg BID群と300 mg QD群で同等であり、150 mg BID群は300 mg QD群と同等のAUCを示し、300 mg QD群より50%低いCmaxを示し、より優れた安全性プロファイルを有すると考えられた。200mg BID群での曝露量は150 mg BID群の2倍であった。副作用により、初期の減量のことが多く、効果は低かった。最初の用量拡張は200mg BID用量群に止めた。投与回数の増加に伴い、蓄積の程度は増加し、代謝物の蓄積の程度は原薬よりやや高かった。性別、年齢、体重などの共変量は、化合物AのPKに有意な影響を与えなかった。
【0112】
2.3.3 効果評価
2.3.3.1 全体最良効果解析
2020年8月14日現在、FASセットの被験者は31例で、治療継続中が7例、12サイクル以上が1例、9~12サイクルが1例、6~9サイクルが2例、3~6サイクルが5例、1~3サイクルが14例、1サイクル未満が8例であった。全被験者のうち、2例(6.5%)がCR、2例(6.5%)がCRh、4例(12.9%)がCRi、2例(6.5%)がPRを達成した。31例の被験者のEFS中央値は3.0ヶ月(95% CI 2.6~5.4)、OS中央値は4.4ヶ月(95% CI 2.9~NC)となった。
【0113】
150 mg BID 群のFASセット14例の被験者のうち、C2でCRを取得した被験者は1例(7.1%)、C3でCRhを取得した被験者は1例(7.1%)、C2とC3でそれぞれCRi、CR/CRhを取得した被験者は2例(14.3%)で、合計4例のCR(28.6%、95%CI8.39~58.1)が確認された。初回CRまでの期間の中央値は2.5ヶ月(範囲2~3ヶ月)であった。EFSの中央値は4.9ヶ月(95%CI1.3~5.9)であった。OS中央値は4.2カ月(95%CI2.3~NC)であった。3ヶ月、6ヶ月、9ヶ月、11ヶ月生存率はそれぞれ64.3%、38.6%、25.7%、25.7%であった。
【0114】
300mgQD群のFASセット13例の被験者のうち、1例がCR(7.7%)(C2:CRi、C3:CRh、C4:CR)、1例がCRh(7.7%)(C3:CRi、C4:CRh)、2例がCRi(15.4%)を取得した。初回CRまでの期間の中央値は1.5ヶ月(範囲1~3ヶ月)であった。EFSの中央値は2.9ヶ月(95%CI1.7~6.2)であった。OS中央値は4.4ヶ月(95%CI2.7~NC)であった。3ヶ月、6ヶ月生存率はそれぞれ75.2%、50.1%であった。
【0115】
200mgBID群のFASセット4例の被験者のうち、3例がSD、1例がNEを取得した。EFSの中央値は2.3ヶ月(95%CI0.7~3.0)であった。OS中央値は2.9ヶ月(95%CI0.7~NC)、3ヶ月生存率は25%であった。
【表11】
【0116】
再発性・難治性のAMLの場合、CR、CR期間、CRhはいずれも臨床的有用性を予測しうるエンドポイントであった。さらに、輸血からの継続的な離脱は、認められた臨床的改善であり、CRとCRhの維持のサポートとなった。本試験では、150mg BID群のFASセット14例の被験者のうち、1例がCR、1例がCRhを取得し、全員が56日以上の輸血停止が可能であり、300mg QD群のFASセット13例の被験者のうち、1例がCR、1例がCRhを取得し、56日以上の輸血停止が可能であった。
【0117】
以上の結果、150 mg BID群及び300mgQD群のFASセット27例の被験者のうち、2例がCR(7.4%)、2例がCRh(7.4%)を取得し、合計4例がCR/CRhを取得した(14.8%)。この効果の結果は、同様の集団を対象としたGilteritinibの第1/2相試験における120mgQD群の効果と同様であった(表)。
【0118】
【表12】
【0119】
2.3.3.2 予後不良因子の効果への影響
ある研究では、CR の予後因子について多変量解析を行い、以下6つの独立した不良因子を同定した: (1) 最初のCR 持続期間<6ヶ月未満、 (2) 2 回目の CR 持続期間<6 ヶ月未満、 (3) サルベージ化学療法を受けた(同種異系造血幹細胞移植を除く)、 (4) 16番染色体の逆位を認めない、(5) 血小板<50×109/L未満、(6)白血球>50×109/Lであった。
【0120】
この試験では、被験者の16番染色体の逆位に関する情報を得ることができなかったため、残りの5つの独立した不良因子のみを分析したところ、以下の結果が得た。
【0121】
不良因子を3つ判明した被験者3例のうち、1例は2サイクル目に死亡し、他の2例はいずれも2サイクル目に試験から離脱したため、全員SDの最良効果となった。
【0122】
不良因子を2つ判明した15例のうち、2例がCR(不良因子:1回目と2回目の化学療法の両方でCR期間が6ヶ月未満であった者、再発した後の2回目の化学療法でCR期間が6ヶ月未満で、サルベージ化学療法を受けた者)、1例がCRi(不良因子:CR達成なし、サルベージ化学療法を受け、ベースライン血小板6×109/L)、1例がPR(不良因子:導入後CR6ヶ月未満、ベースライン白血球114.83×109/L)を取得し、残りはSD(1例は寛解が見込まれ、サルベージ化学療法を受け、ベースライン白血球55.74×109/L)となった。全体のCR率は20%であった。
【0123】
不良因子を1つ判明した9例のうち、2例がCRi(不良因子:1例はベースラインの血小板が49×109/L、1例はサルベージ化学療法を受けた)、1例がPR、1例がNEを取得し、残りがSDとなった。全CR率は20%であった。
【0124】
不良因子0と判明した4例のうち、2例がCRh、1例がCri、1例がSDを取得し、全CR率は75%であった。
【0125】
【表13】
【0126】
要約すると、本発明に記載の化合物は、予後不良因子3つの患者には効果が低いものの、予後不良因子1-2の被験者には有効であり、全CR率は20%であった。不良因子のない被験者では、全CR率は75%と高かった。
【0127】
2.3.3.3変異型の違いの効果に対する影響
本試験では、31例の被験者のうち、22例(71.0%)がITD変異を有し、そのうち2例がCR、2例がCRh、2例がCRiを取得し、9例がTKD変異(29.0%)を有し、そのうち2例がCRiと最良効果評価となった。したがって、ITD変異及びTKD変異FLT3に対する化合物Aの阻害作用が確認できた。FLT3-ITD変異及び/又はTKD変異を有するAMLの治療に使用されることが期待されている。
【0128】
本試験では、6例の被験者についてITD変異のグレーディングデータが得られ、さらに効果を解析した結果、3例がFLT3-ITDhigh変異(ITD変異≧0.5)に属し、その内、2例がCRh、1例がSD(C2においてベースラインから70%の芽球減少、末梢血が回復しないため試験から脱退)を取得し、3例がFLT3-ITDlow変異(ITD変異<0.5)に属し、1例はPRと最良効果評価となり、2例はSDと最良効果評価となった。上記のデータから、化合物AはFLT3-ITDhighを伴うAMLに対してより優れた効果を有する可能性があった。
【0129】
2.3.3.4 既存のFLT3阻害剤の使用の効果への影響
ソラフェニブは第2世代のFLT3阻害剤であり、FLT3変異を有する再発性/難治性AMLの治療薬として適応症を承認されておらず、現在は適応外使用となっている。国内の2017年中国版再発難治性AML治療ガイドラインや2019年NCCNガイドラインでは、FLT3変異を有する再発性/難治性AML患者の治療にソラフェニブと脱メチル化剤を併用することを教示している。
【0130】
II型FLT3阻害剤は、非活性化FLT3受容体に結合し、受容体の活性化を阻害する。AML患者では通常、特に化学療法後の初期段階でFLT3リガンドが過剰発現しており、FLT3リガンドの結合がFLT3受容体の活性化を刺激するため、IIタイプFLT3阻害剤の結合が阻害されて、医薬品耐性を招く。また、FLT3変異の中でもTKD変異は点変異として多く、特にD835が多い。TKD変異は点変異(KD)部位の構造を変化させる、すなわちFLT3受容体が非活性化状態から活性化状態に移行しやすく、II型FLT3阻害剤の結合を困難にする。
【0131】
本試験では、ソラフェニブによる治療歴のある被験者10例のうち、1例がCR、1例がCRh、1例がCRiを取得し、残りはSDとなった。この結果は、IIタイプFLT3阻害剤(例:ソラフェニブ)が無効又は再発した患者に対しても、化合物Aによる治療が有益であることを示した。
【0132】
2.3.3.5 異なるFAB分類の効果の解析と考察
この試験には、M2が6例(19.4%)、M4が9例(29%)、M5が14例(45.2%)組み入れられた(表10「FAB分類」参照)。CRを取得した被験者のうち、M2が1例、M5が1例であり、CRhを取得した被験者のうち、M4が1例、M5が1例であり、CRiを取得した被験者のうち、M5が3例、M4が1例であった。まとめると、CR/CRh/CRiを取得した被験者8人のうち、M2が1例、M4が2例、M5が5例であった。CR/CRh/CRiを取得した被験者のうち、M5が最も多かった(62.5%)。FAB分類毎に組み入れた患者数に基づいて、CR/CRh/CRi比を解析したところ、M2型が1/6(16.7%)、M4型が2/9(22.2%)、M5型が5/14(35.7%)となった。M5について、CR/CRh/CRiを取得した割合が最も高いことがわかった。
【0133】
以上のように、これまでに収集した臨床試験データから、化合物A150mgBID及び300mg QDは、FLT3変異を有する再発性及び/又は難治性AMLの治療において一定の臨床的有用性を示した。化合物Aの効果に関する初期的な観察結果は、類似製品のQuizatinib、Gilteritinibと同等であり、化合物Aは、IIタイプFLT3阻害剤治療に失敗したAML患者及びFLT3-ITD変異やTKD変異を有するAML患者において優れた効果を示した。本試験は現在進行中であり、投与期間の延長や対象症例数の増加により、より多くの臨床効果データが得られると思われる。
【0134】
2.3.4 安全性 評価
2.3.4.1 有害事象と有害反応
2020年7月24日現在、組み入れた31例の被験者のうち、合計15例(48.4%)が投与前に有害事象を経験し、そのうち1例が重篤な有害事象を経験した。
【0135】
31例の被験者全員が治療後に有害事象を経験した。投与後、28例(90.3%)に副作用が発現し、主なレベル3以上の副作用は、順に白血球数減少(16例、51.6%)、好中球数減少(11例、35.5%)、血小板数減少(8例、25.8%)、貧血(6例、19.4%)、リンパ球数減少(6例、19.4%)、下痢(5例、16.1%)、感染性肺炎(4例、12.9%)でまった。試験期間中、レベル3以上の肝臓、腎臓、心臓に関連する有害事象は発生しなかった。
【0136】
【表14】
【0137】
2.3.4.2 各用量群における安全性の解析と考察
本試験において、副作用は150mg BID群で12例(85.7%)、200mg BID群で4例(100%)、300 mg QD群で12例(92.3%)に発現した。150mg BID群の副作用、重篤な副作用、重要な副作用、レベル3以上の副作用、及びレベル3以上の非血液学的副作用の発生率は、他の2つ群より低かった。150mgのBID群と300mgのQD群はそれぞれで、死亡に繋がる1つの副作用が発生した。レベル4以上の血液学的副作用の発現率は、150mg BID群(7例、50%)と200mg BID群(2例、50%)で同等であり、300mg QD群(9例、69.2%)より低かった。
【0138】
150mg BID群は他の2群に比べ、大部分の副作用の発現率が低いことが確認された。また、150mg BID群は他の2群に比べ、白血球数低下、好中球数低下、リンパ球数低下、感染性肺炎、貧血など、レベル3以上の副作用の発現率が低いことがわかった。
【0139】
150mg BID群の副作用の全体的な発生率は、他の2つの群よりも低く、安全性の面で比較的優れていることがわかった。
【0140】
2.3.4.3 類似製品の安全性との比較
(1) 心臓に関連する副作用
同製品であるQuizatinibの第3相臨床試験における重篤な副作用の発現率は26.3%で、Gilteritinibの第3相臨床試験におけるQT間隔延長の発現率は、すべてのレベルで8.8%、レベル3以上のQT間隔延長で2.5%であった。
【0141】
化合物Aの前臨床動物試験において、心筋細胞の壊死及び線維化、心拍数の増加、瀕死の動物におけるQT間隔の延長などの心臓関連の副作用が観察された。そのため、化合物Aの臨床試験では、被験者のベースラインの心臓の状態を厳密に管理し、試験中の心臓に関連する毒性に細心の注意を払った。
【0142】
本試験で発現した副作用のうち、SOCが心臓の臓器障害であった被験者は3例でり、150mg BID群2例(14.3%)、200mg BID群0例、300mg QD群1例(7.7%)であった、3例において血中乳酸脱水素酵素上昇(150mgBID群1例)など心臓に関するSOCの検査異常が認めらた。心電図高値(200mg BID群及び300mg QD群各1例)等が認めらた。本試験では、QT間隔延長の副作用は認められなかった。本試験で発生した心臓関連の副作用は、いずれもレベル1~2で、血中乳酸脱水素酵素上昇、心肥大、右脚ブロック、末梢浮腫、洞性徐脈、心電図過多などであった。
【0143】
(2) 肝臓に関する副作用
同製品であるGilteritinibの第3相臨床試験では、ALT上昇の発現率は全レベルで82.1%で、レベル3以上で12.9%であり、AST上昇の発現率は全レベルで80.6%、レベル3以上で10.3%であった。
【0144】
化合物Aの前臨床動物試験では、肝細胞の変性や壊死、トランスアミナーゼの上昇の副作用が確認された。化合物Aの第I相臨床試験において、ALT/ASTの上昇(エストロゲンの併用に関連)が1例DLTで発生した。
【0145】
本試験で発現した副作用のうち、肝胆道系障害の副作用は計4例(12.9%)であり、そのうち150mg BID群及び300mg QD群に各2例(発現率はそれぞれ14.3%と15.4%)であった。肝胆道系の検査異常に関する副作用としては、(1)血中ビリルビン上昇(150 mgBID群2例[14.3%]、200mg BID群1例[25%]、300mg QD群3例[23.1%]、合計6例[19.4%])、(2)血中アルカリホスファターゼ上昇(300mg QD群3例[23.1%]、合計3例[9.7%])、(3)γ-グルタミルトランスフェラーゼ上昇(300mg QD群2例[15.4%]、合計2例[6.5%])、(4) アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼの上昇(150mg BID 群 1 例 [7.1%]、全体で1 例 [3.2%])が認められた。本試験で観察された肝毒性はすべてレベル1~2であった。
【0146】
(3) 重篤な血液学的副作用
同製品であるQuizatinibの第3相臨床試験において、重篤な血液学的副作用は、血小板減少(34.2%)、好中球減少(25.9%)、貧血(25.9%)、白血球減少(18.0%)、発熱性好中球減少(15.8%)、リンパ球減少(4.0%)、血小板減少(2.5%)であった。
【0147】
本試験における化合物Aによる重篤な血液学的副作用は、血小板数減少(3例、9.7%)、好中球数減少(2例、6.5%)、白血球数減少(1例、3.2%)、骨髄不全(1例、3.2%)、貧血(1例、3.2%)及び溶血性貧血(1例、3.2%)であった。
【0148】
以上の結果から、本発明に記載の医薬品は、心臓、肝臓、血液系における安全性は、類似製品のQuizatinib、Gilteritinibより優れていると結論づけることができた。
【0149】
2.4 全体的な結論
FLT3変異を有する再発性及び/又は難治性の急性骨髄性白血病の治療において、化合物 Aは、150mg BID及び300mgQDで安全性が許容範囲内であり、150mgBID及び300mgQDともに一定の臨床効果が確認された。化合物Aの初期の効果観察結果は、類似製品のQuizatinib、Gilteritinibと同等であり、それに、重篤な心・肝・血液系副作用の発生率が有意に低いことが確認された。化合物Aは、IIタイプFLT3阻害剤治療が無効なAML患者、FLT3-ITD変異及び/又はTKD変異を有するAML患者、DEK-CAN陽性とFLT3-ITD変異を併発したAML患者において、良好な効果を示した。化合物Aは、FLT3変異を有する再発性及び/又は難治性の急性骨髄性白血病の治療において、安全性と有効性が期待されている。
【0150】
3. 代表的な例
ケース1
患者(女性、21歳)は、2018年7月14日に「急性骨髄性白血病M2型5+月の診断」で四川大学華西病院血液学科に入院した。FLT3遺伝子検査の結果は、FLT3-ITD変異、DEK-CAN陽性t(6;9)(p23;q34)であった。過去のDAレジメン、シタラビン、FLAG、ソラフェニブ+D-HAG、ソラフェニブ+デシタビン+HA化学療法剤で寛解が得られなかった。スクリーニング段階の骨髄芽球:78%、血液ルーチン:ヘモグロビン:69g/L、血小板数:116*109/L、好中球数:NAであった。
【0151】
被験者は、2018年07月15日に250mgQDの用量で試験の単回投与フェーズを開始した。2018年07月8日に複数投与の第1サイクルは開始した。治療第1サイクル終了時の被験者の骨髄検査では、芽球:2.5%、血液ルーチン:ヘモグロビン:99g/L、血小板数:135*109/L、好中球数:NAの結果を示した。効果判定はPRであった。治験責任医師は、治療を継続できると判断した。2サイクル目の投与終了時、骨髄検査では、芽球:0.5%、血液ルーチン:ヘモグロビン:134g/L、血小板数:204*109/L、好中球数:3.09*109/Lの結果を示した。効果判定はCRであった。2019年10月12日まで被験者は合計16サイクルで投与終了した。各サイクル終了時の骨髄検査では、芽球数≦2.5%となり、CR効果判定となった(第1サイクルを除く)。最後の骨髄検査(2019年10月12日)では、芽球数が0であった。
【0152】
ケース2
被験者(300mgQD群)は女性、37歳で、2020年2月15日にFLT3-ITD変異を有するAML-M5と診断され、過去にHAD療法1サイクル(2020年2月15日~2020年2月21日)、D-CAG療法1サイクル(2020年2月29日~2020年3月26日)、1サイクルのソラフェニブ治療(2020年03月06日~2020年04月02日)を受けた。最良の治療効果はSDで、難治性AMLの患者であった。2020年4月14日に化合物Aの初回投与が行われた。化合物Aの投与開始後、この被験者は芽球が減少し続け、C3でCRiの評価基準を満たし、C4で前のサイクルと比較して末梢血の寛解が見られ、CRhの評価基準を満たした。第4サイクルの投与は2020/08/14に終了し、減量は行わず、現在投与は継続中であった。
【0153】
ケース3
被験者(300 mgQD群)は女性、23歳で、FLT3-ITD変異を有するAML-M5と診断され、5年間の疾患経過で、再発性AMLの被験者であった。この被験者には、2015年4月9日~2015年5月11日にIDAの2サイクルを付し、最良効果がCRで得られ、2015年06月19日~2015年06月23日にHD-Arc-cの1サイクルを付し、最良効果がCRで得られ、2019年12月16日~2019年12月20日にMECの1サイクルを付し、最良効果がCRで得られ、2020年02月21日~2020年02月27日にアザシチジンの1サイクルを付し、疾患の進行が発生した。
【0154】
被験者は2020年4月16日にICFに署名し、2020年4月22日に治験薬300mg QDで初回投与を受けた。被験者のベースラインの血小板は137×109/Lで、白血球は9.88×109/Lであった。
【0155】
投与期間中、被験者の芽球は減少し続け、2サイクル目には芽球は33.5%から3%に減少し、血中好中球、血小板はCR基準を満たさず、効果評価基準ではCRiと判定され、3サイクル目(2020年7月14日)には芽球が2%に減少、末梢血細胞が一部回復し、効果評価ではCRhと判定され、現在投与は継続中であった。
【0156】
ケース4
被験者(150mg BID 群)は、男性、72歳で、FLT3-ITDhigh変異(予後不良)を有するAML-M4と診断され、NPM1遺伝子検出(予後中等度)で、2ヶ月超えの疾患経過であった。過去、DAレジメンの1サイクル(2020年2月14日-2020年2月18日)とIDAレジメンの1サイクル(2020年3月8日-2020年3月14日)を受け、最良効果はいずれもSDで、難治性AMLであった。
【0157】
初回投与は2020年4月23日に行った。治療中の効果は有意であり、C2でCRi、C3でCRhを達成した(CRhの定義は、血小板≧50×109/Lで、好中球≧0.5×109/LであるCRiとする)。この被験者は、2020年07月17日に第3サイクルの投与を終了し、現在は継続投与中であった。現在、減量は発生しなかった。
【0158】
この被験者は、試験1サイクル目に病気自体によって引き起こされた貧血のために赤血球を注入され、その後のサイクルでは輸血を中止した。
【0159】
ケース5
被験者(150mgBID 群)は、女性、32 歳で、FLT3-ITD 変異を有するAML-M2と診断され、1年半の疾患経過であった。過去、IDA化学療法レジメンを受け、最良効果はCRで、再発性AMLであった。IDA化学療法は8サイクルでCR達成、終了日2019年3月、2019年6月に再発、最初のCR期間は6ヶ月未満、高用量でシタラビン化学療法で再び寛解となった。ベースライン血小板は58×109/L、白血球は1.12×109/Lであった。
【0160】
2019年7月31日に化合物Aを初回投与し、1サイクル投与後に芽球数が3%となり、プロトコールに基づくCRiの基準を満たしたが、治験責任医師は骨髄抑制により芽球が少ないと考え、PRと厳しく判定した。2サイクルが終了した後、CRと評価し、CR効果は5サイクル続いた。C6D28(2020年1月17日)で、治験責任医師は完全造血不全(赤血球2.35×1012/L、血小板163×109/L、好中球1.05×109/L)と考え、用量を100mg BIDに調整した。その日の夕方に実際の用量は100mgであった。その後のC7-C9の用量は100mg BIDとした。7サイクル目終了時に貧血のため骨髄検査は行わなかった。8サイクル目、9サイクル目はSDとして効果評価した。効果が不十分であったため、C10D9ではさらに150mg BIDに調整して治療を継続し、C10でSDとして効果評価し、C11でCRiとして効果評価した。12サイクル目は2020年7月3日に終了し、CRiとして効果評価した。
【0161】
この被験者には、2019年8月22日に(C1D23)1袋の赤血球(2Uの赤血球)、2019年8月23日に赤血球懸濁液2U、2019年8月25日に1袋の赤血球で輸血した。上記のすべては、病気自体による輸血であった。2019年8月26日~2020年7月6日、各サイクルでは輸血を中止した。
本発明の明細書で使用している略語の正式名称及び和訳名は次のとおりである。
【表15】

【表16】
図1
【国際調査報告】