(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-20
(54)【発明の名称】音響ハニカム内にある音響バリア・キャップ
(51)【国際特許分類】
G10K 11/172 20060101AFI20230113BHJP
G10K 11/162 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
G10K11/172
G10K11/162
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022527140
(86)(22)【出願日】2020-11-09
(85)【翻訳文提出日】2022-05-24
(86)【国際出願番号】 US2020059630
(87)【国際公開番号】W WO2021096792
(87)【国際公開日】2021-05-20
(32)【優先日】2019-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503308494
【氏名又は名称】ヘクセル コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハイレ、メリッド ミナッセ
(72)【発明者】
【氏名】ボーウェン、リサ ダイアン
(72)【発明者】
【氏名】スミス、クラーク ラッセル
【テーマコード(参考)】
5D061
【Fターム(参考)】
5D061AA07
5D061AA11
5D061AA16
5D061AA22
5D061AA23
5D061BB13
5D061CC04
(57)【要約】
多様な音響共鳴装置深さを有する多自由度MDOF音響ライナを提供するためにハニカム・セル内に音響バリアを配置するのに摩擦によるロックの挿入プロセスが使用されるような、セルを有する音響ハニカム構造。中実高分子フィルムが音響バリア・キャップとなるように形成される。音響バリア・キャップが、音響共鳴装置のための効果的な底部端部を形成する音響反射性を有する剛壁を形成するために摩擦によりロックされて1つ又は複数のセル深さのところでセル壁に接着される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
音響剛壁を形成するためにハニカムのセルの中に音響バリア・キャップが接着剤により接着されたときに発生源から発生するノイズを減衰させる音響空洞を形成するために前記ハニカムのセルの中で前記音響バリア・キャップが摩擦によりロックされるような音響構造の先行構造であって、
A)前記発生源の最も近くに位置することになる第1の縁部、及び第2の縁部を有するハニカムであって、前記ハニカムが左側及び右側を有するセルを有し、前記セルが、前記第1の縁部と前記第2の縁部との間を延在する下側壁、及び前記第1の縁部と前記第2の縁部との間をやはり延在する上側壁によって画定され、前記下側壁が、左下の端部分、右下の端部分、及び前記左下の端部分と前記右下の端部分との間に位置する中央の下側部分を有し、前記上側壁が、左上の端部分、右上の端部分、及び前記左上の端部分と前記右上の端部分との間に位置する中央の上側部分を有し、前記セルの前記左側に沿う左側接合部が形成され、前記左側接合部において前記左下の端部分及び前記左上の端部分が接合され、前記セルの前記右側に沿う右側接合部が形成され、前記右側接合部において前記右下の端部分及び前記右上の端部分が接合され、前記セルが、前記第1の縁部と前記第2の縁部との間の距離によって画定される深さを有し、前記セルが、前記第1の縁部のところで測定される、前記上側壁及び前記下側壁によって囲まれる面積によって画定されたセル面積を有し、前記セル面積が0.645cm
2(0.1平方インチ)から6.45cm
2(1.0平方インチ)である、ハニカムと;
B)平坦な音響バリア部分と前記平坦な音響バリア部分を囲むタブ部分とを形成するために折り畳まれた中実高分子フィルムを有する音響バリア・キャップであって、前記中実フィルムが0.00762cm(0.003インチ)から0.0889cm(0.035インチ)の厚さを有し、前記音響バリア・キャップが、前記セルの深さより小さい深さを有する音響空洞を提供するために前記第1の縁部と前記第2の縁部との間で前記セル内に位置し:
a)前記平坦な音響バリア部分が前記上側壁及び前記下側壁に対して横方向に延在し、前記平坦な音響バリア部分が、前記第1の縁部の最も近くに位置する頂側及び前記第2の縁部の最も近くに位置する底側を有し、前記平坦な音響バリア部分が、右上の境界部分、中央の上側境界部分、左上の境界部分、右下の境界部分、中央の下側境界部分、及び左下の境界部分を有する境界を有し;
b)前記タブ部分が、前記右上の境界部分から突出している右上のタブ、前記中央の上側境界部分から突出している中央の上側タブ、前記左上の境界部分から突出している左上のタブ、前記右下の境界部分から突出している右下のタブ、前記中央の下側境界部分から突出している中央の下側タブ、及び前記左下の境界部分から突出している左下のタブを有し、前記タブ部分が、前記セルの中での前記音響バリア・キャップの摩擦によるロックを実現し、前記右上のタブが前記右上の端部分において前記上側壁に対して摩擦によりロックされ、前記中央の上側タブが前記中央の上側部分において前記上側壁に対して摩擦によりロックされ、前記左上のタブが前記左上の端部分において前記上側壁に対して摩擦によりロックされ、前記右下のタブが前記右下の端部分において前記下側壁に対して摩擦によりロックされ、前記中央の下側タブが前記中央の下側部分において前記下側壁に対して摩擦によりロックされ、前記左下のタブが前記左下の端部分において前記下側壁に対して摩擦によりロックされる、
音響バリア・キャップと
を備える、音響構造の先行構造。
【請求項2】
前記上側壁及び前記下側壁が六角形セルを形成する、請求項1に記載の音響構造の先行構造。
【請求項3】
前記中実フィルムの厚さが0.0254cm(0.01インチ)から0.0889cm(0.035インチ)であり、前記右上のタブ、前記中央の上側タブ、前記左上のタブ、前記右下のタブ、前記中央の下側タブ、及び前記左下のタブの各々が、第1のサブ・タブ部分及び第2のサブ・タブ部分に分けられる、請求項2に記載の音響構造。
【請求項4】
前記セルが、前記上側壁及び前記下側壁によって画定された前記セル・ペリメータを有し、前記右上の端部分及び前記左上の端部分の各々が、前記中央の上側部分より大きい前記セル・ペリメータの部分を形成し、前記右下の端部分及び前記左下の端部分が、前記中央の下側部分より大きい前記セル・ペリメータの部分を形成し、前記右上のタブ及び前記左上のタブの各々が前記中央の上側タブより大きく、前記右下のタブ及び前記左下のタブの各々が前記中央の下側タブより大きい、請求項2に記載の音響構造の先行構造。
【請求項5】
前記セルが前記上側壁及び前記下側壁によって画定されたセル・ペリメータを有し、前記右上の端部分及び前記左上の端部分の各々が、前記中央の上側部分より大きい前記セル・ペリメータの部分を形成し、前記右下の端部分及び前記左下の端部分が、前記中央の下側部分より大きい前記セル・ペリメータの部分を形成し、前記右上のタブ及び前記左上のタブの各々が前記中央の上側タブより大きく、前記右下のタブ及び前記左下のタブの各々が前記中央の下側タブより大きい、請求項3に記載の音響構造の先行構造。
【請求項6】
前記左上のタブ及び前記左下のタブがV形のノッチにより互いから分離されており、前記右上のタブ及び前記右下のタブがV形のノッチにより互いから分離されている、請求項1に記載の音響構造の先行構造。
【請求項7】
前記高分子フィルムが、ポリエーテルエーテルケトン・フィルム、ポリイミド・フィルム、ポリエーテルケトン・フィルム、及びポリフェニレンスルファイド・フィルムからなる群から選択される、請求項1に記載の音響構造の先行構造。
【請求項8】
請求項1に記載の音響構造の先行構造と、前記音響剛壁を形成するために前記タブ部分を前記上側壁及び前記下側壁に接着する接着剤とを備える音響構造。
【請求項9】
ハニカムの第1の縁部に取り付けられた音透過性のシート、及び前記ハニカムの第2の縁部に取り付けられた中実の音透過性のシートを有する、請求項8に記載の音響構造。
【請求項10】
音響剛壁を形成するためにハニカムのセルの中に音響バリア・キャップが接着剤により接着されたときに発生源から発生するノイズを減衰させる音響空洞を形成するために前記ハニカムのセルの中で前記音響バリア・キャップが摩擦によりロックされるような音響構造の先行構造を作る方法であって、
A)前記発生源の最も近くに位置することになる第1の縁部、及び第2の縁部を有するハニカムを提供するステップであって、前記ハニカムが左側及び右側を有するセルを有し、前記セルが前記第1の縁部と前記第2の縁部との間を延在する下側壁、及び前記第1の縁部と前記第2の縁部との間をやはり延在する上側壁によって画定され、前記下側壁が、左下の端部分、右下の端部分、及び前記左下の端部分と前記右下の端部分との間に位置する中央の下側部分を有し、前記上側壁が、左上の端部分、右上の端部分、及び前記左上の端部分と前記右上の端部分との間に位置する中央の上側部分を有し、前記セルの前記左側に沿う左側接合部が形成され、前記左側接合部において前記左下の端部分及び前記左上の端部分が接合され、前記セルの前記右側に沿う右側接合部が形成され、前記右側接合部において前記右下の端部分及び前記右上の端部分が接合され、前記セルが、前記第1の縁部と前記第2の縁部との間の距離によって画定される深さを有し、前記セルが、前記第1の縁部のところで測定される、前記上側壁及び前記下側壁によって囲まれる面積によって画定されたセル面積を有し、前記セル面積が0.645cm
2(0.1平方インチ)から6.45cm
2(1平方インチ)である、ハニカムを提供するステップと;
B)平坦な音響バリア部分と前記平坦な音響バリア部分を囲むタブ部分とを有する音響バリア・キャップを形成するために折り畳まれ得る中実フィルムを提供するステップであって、前記中実フィルムが0.00762cm(0.003インチ)から0.0889cm(0.035インチ)の厚さを有し、
a)前記平坦な音響バリア部分が、右上の境界部分、中央の上側境界部分、左上の境界部分、右下の境界部分、中央の下側境界部分、及び左下の境界部分を有する境界を有し;
b)前記タブ部分が、前記右上の境界部分から突出している右上のタブ、前記中央の上側境界部分から突出している中央の上側タブ、前記左上の境界部分から突出している左上のタブ、前記右下の境界部分から突出している右下のタブ、前記中央の下側境界部分から突出している中央の下側タブ、及び前記左下の境界部分から突出している左下のタブを有する
中実フィルムを提供するステップと;
C)前記音響バリア・キャップを形成するために前記中実フィルムを前記セルの中に配置するステップであって、前記平坦な音響バリア部分が前記上側壁及び前記下側壁に対して横方向に延在し、前記平坦な音響バリア部分が、前記第1の縁部の最も近くに位置する頂側及び前記第2の縁部の最も近くに位置する底側を有し、前記音響バリア・キャップが、前記セルの深さより小さい深さを有する音響空洞を提供するために前記第1の縁部と前記第2の縁部との間で位置し、前記タブ部分が前記セルの中での前記音響バリア・キャップの摩擦によるロックを実現し、前記右上のタブが前記右上の端部分において前記上側壁に対して摩擦によりロックされ、前記中央の上側タブが前記中央の上側において前記上側壁に対して摩擦によりロックされ、前記左上のタブが前記左上の端部分において前記上側壁に対して摩擦によりロックされ、前記右下のタブが前記右下の端部分において前記下側壁に対して摩擦によりロックされ、前記中央の下側タブが前記中央の下側部分において前記下側壁に対して摩擦によりロックされ、前記左下のタブが前記左下の端部分において前記下側壁に対して摩擦によりロックされる、配置するステップと
を含む、方法。
【請求項11】
前記上側壁及び前記下側壁が六角形セルを形成する、請求項10に記載の音響構造の先行構造を作るための方法。
【請求項12】
前記中実フィルムの厚さが0.0254cm(0.01インチ)から0.0889cm(0.035インチ)であり、前記右上のタブ、前記中央の上側タブ、前記左上のタブ、前記右下のタブ、前記中央の下側タブ、及び前記左下のタブの各々が、第1のサブ・タブ部分及び第2のサブ・タブ部分に分けられる、請求項11に記載の音響構造を作るための方法。
【請求項13】
前記セルが、前記上側壁及び前記下側壁によって画定されたセル・ペリメータを有し、前記右上の端部分及び前記左上の端部分の各々が、前記中央の上側部分より大きい前記セル・ペリメータの部分を形成し、前記右下の端部分及び前記左下の端部分が、前記中央の下側部分より大きい前記セル・ペリメータの部分を形成し、前記右上のタブ及び前記左上のタブの各々が前記中央の上側タブより大きく、前記右下のタブ及び前記左下のタブの各々が前記中央の下側タブより大きい、請求項11に記載の音響構造の先行構造を作るための方法。
【請求項14】
前記セルが前記上側壁及び前記下側壁によって画定されたセル・ペリメータを有し、前記右上の端部分及び前記左上の端部分の各々が、前記中央の上側部分より大きい前記セル・ペリメータの部分を形成し、前記右下の端部分及び前記左下の端部分が、前記中央の下側部分より大きい前記セル・ペリメータの部分を形成し、前記右上のタブ及び前記左上のタブの各々が前記中央の上側タブより大きく、前記右下のタブ及び前記左下のタブの各々が前記中央の下側タブより大きい、請求項12に記載の音響構造の先行構造を作るための方法。
【請求項15】
前記高分子フィルムが、ポリエーテルエーテルケトン・フィルム、ポリイミド・フィルム、ポリエーテルケトン・フィルム、及びポリフェニレンスルファイド・フィルムからなる群から選択される、請求項10に記載の音響構造の先行構造を作るための方法。
【請求項16】
前記タブ部分を前記セルの前記上側壁及び前記下側壁に接着剤により接着する追加のステップを含む、請求項10に記載の音響構造の先行構造を作るための方法。
【請求項17】
請求項1に記載の前記音響構造の先行構造を提供するステップと、前記タブ部分を前記セルの前記上側壁及び前記下側壁に接着剤により接着するステップとを含む、音響構造を作るための方法。
【請求項18】
前記上側壁及び前記下側壁が六角形セルを形成する、請求項17に記載の音響構造を作るための方法。
【請求項19】
前記中実フィルムの厚さが0.0254cm(0.01インチ)から0.0889cm(0.035インチ)であり、前記右上のタブ、前記中央の上側タブ、前記左上のタブ、前記右下のタブ、前記中央の下側タブ、及び前記左下のタブの各々が、第1のサブ・タブ部分及び第2のサブ・タブ部分に分けられる、請求項18に記載の音響構造を作るための方法。
【請求項20】
前記高分子フィルムが、ポリエーテルエーテルケトン・フィルム、ポリイミド・フィルム、ポリエーテルケトン・フィルム、及びポリフェニレンスルファイド・フィルムからなる群から選択される、請求項17に記載の音響構造を作るための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、ノイズを減衰させるのに使用される音響システムに関する。本発明は、航空機エンジン又は他のノイズ源によって発生するノイズを低減するのに有用であるナセル及び他の構造を作るためにハニカムを使用することを伴う。より詳細には、本発明は、音響セルの音響深さ(acoustic depth)を決定する音響セルの内部終端部分(internal termination)を提供するためにハニカム・セルのうちの1つ又は複数のハニカム・セルの中に音響反射性を有する中実バリアが挿入されるような音響構造を対象とする。
【背景技術】
【0002】
特定の発生源によって発生する過剰ノイズに対処する最良の手法は発生源のところでノイズを処理することであることは広く認識されている。これが、通常、ノイズ源の構造に音響ダンピング(damping)構造(音響処理装置)を追加することによって達成される。1つの具体的な問題のあるノイズ源は、多くの旅客機で使用されるジェット・エンジンである。音響処理装置は、通常、入口ダクト、バイパス・ダクト、及び排出構造を含めた、エンジン・ナセルに組み込まれる。これらの音響処理装置は、エンジンによって発生する音エネルギーに対しての音響インピーダンスを作り出す数百万の孔を有する比較的薄い音響材料又はグリッドを含む音響ライナを有する。
【0003】
ハニカムは、比較的に高丈夫で軽量であることを理由として、航空機及び航空宇宙飛行体内で使用されるための一般的な材料である。エンジン・ナセルなどの音響用途の場合、音響材料がハニカム構造に追加され、その結果、ハニカム・セルが、エンジンから離れて位置する端部のところで音響的に閉じられ、エンジンの最も近くに位置する端部のところで音響的に透過性のあるカバーで被覆される。閉じたハニカム・セルは、ノイズの減衰、ダンピング、及び/又は抑制を実現する音響共鳴装置を作り出す。所与のハニカム・セル又は共鳴装置によって減衰されるノイズの特定の周波数は、セルの深さに直接に関連する。一般に、ノイズの周波数が減少すると、十分なダンピング又は抑制を実現するためにはセルの深さが増大されなければならない。
【0004】
一般的な音響ライナは、中実のフェイス・シート又はスキンと、有孔性の又は他の音透過性のフェイス・シート又はスキンとの間に挟まされるハニカム・コアを有する。有孔性のフェイス・シートがノイズ源の最も近くに位置し、中実のフェイス・シートが音響共鳴装置の底部を形成する。この種類の音響ライナでは、すべてのハニカム・セルが等しい深さを有する。すべての音響共鳴装置の深さが等しいようなこのような音響ライナは、一自由度(SDOF:single degree of freedom)音響ライナと呼ばれる。SDOFライナは、特定の音周波数付近でのみ音ダンピングを実現する。
【0005】
ジェット・エンジンのための音響ライナを設計する音響技術者の直面する基本的な問題は、ジェット・エンジンによって発生するノイズの全範囲にわたって音波周波数の十分な抑制又はダンピングを実現する音響構造を作ることである。多様な共鳴装置深さを有する複数のSDOF音響ライナが、広範囲の周波数にわたってノイズを減衰させるために組み合わされ得る。しかし、単一のライナ内の有効共鳴装置深さを変化させるような音響ライナも開発されている。このような複数の共鳴装置深さの音響ライナは多自由度(MDOF:multiple degree of freedom)音響ライナと呼ばれる。MDOF音響ライナは、SDOF音響ライナを使用する場合に可能となるよりも大幅に広範囲の周波数範囲にわたってジェット・エンジン・ノイズをダンピングするのに効果的であることが分かっている。
【0006】
MDOF音響ライナを作るための1つの手法は、ハニカム・セル内に個別の中実挿入物を配置することである。中実挿入物が、音響共鳴装置の底部を形成する音響バリアを提供するためにハニカム縁部の間の多様な距離のところに位置する。例えば、比較的広範囲の音周波数をダンピングするのに良好に適する複数の共鳴装置空洞深さを有するMDOF音響ライナを提供するためにハニカム・セル内の多様なロケーションのところに忠実挿入物が配置されるような米国特許第8,651,233号を参照されたい。
【0007】
音響共鳴装置の底部を形成するのに使用される中実挿入物は、減衰又はダンピングされている周波数範囲にわたって実質的にすべての音波を反射する音響バリア又は剛壁として機能するのに十分な強度を有さなければならない。中実挿入物はさらに、ジェット・エンジン音響ライナが露出されることになる高い温度に耐えることができなければならない。中実挿入物は、所望の音波反射を実現しながら可能な限り軽量でなければならない。
【0008】
共鳴装置に追加のノイズ減衰特性を提供するためにハニカム・セルの内部に音響隔壁が配置されるようになっている。各音響隔壁が、通常、薄い高分子織物又は有孔性の高分子フィルムから構成される。音響隔壁が音響バリア又は剛壁として機能しない。代わりに、音響隔壁が、隔壁を通過する音波の減衰又はダンピングを実現する。ハニカム・セル内に音響隔壁を配置するための1つのアプローチは、ハニカム壁に糊着されたアンカー・フランジを有する隔壁キャップを形成するためにハニカム・セルの中に軽量隔壁織物(light-weight septum fabric)の個別の部片を挿入することを伴う。隔壁キャップの使用が、米国特許第7,434,659号、米国特許第7,510,052号、米国特許第7,854,298号、米国特許第8,066,098号、米国特許第8,607,924号、米国特許第8,651,233号、米国特許第8,857,566号、米国特許第9,016,430号、及び米国特許第9,469,985号に説明されている。
【0009】
ハニカム・セルの中に音響隔壁を配置するための別のアプローチが、ハニカム壁に糊着されたアンカー・フランジをやはり有する隔壁キャップを形成するためにハニカム・セルの中に中実高分子フィルムの個別の部片を挿入することを伴う。ハニカム・セルの中に高分子フィルムを挿入する前に又はその後で音響隔壁を形成するために、この中実高分子フィルムが有孔性である。例えば、米国特許第8,413,761号を参照されたい。
【0010】
ハニカム・セルの中に隔壁キャップを配置するプロセスは、ハニカム壁に対しての永久的な接着の前に隔壁キャップを定位置で保持するためにセル内で隔壁キャップを摩擦によりロックすることを必要とする。隔壁キャップの摩擦によるロックは、この種類の隔壁挿入手順の重要な側面である。摩擦によるロックが十分ではない場合、取り扱い中に隔壁キャップがずれるか又は他のかたちで移動する可能性がある。隔壁キャップがわずかにでもずれたら、接着中に隔壁キャップに接着剤を一様に適用することが困難となる。さらに、隔壁キャップがずれることにより、音響特性が制御されずに変化することになる。最悪のシナリオでは、摩擦によるロックが十分ではない場合、隔壁キャップがハニカム・セルから完全に落下する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第8,651,233号
【特許文献2】米国特許第7,434,659号
【特許文献3】米国特許第7,510,052号
【特許文献4】米国特許第7,854,298号
【特許文献5】米国特許第8,066,098号
【特許文献6】米国特許第8,607,924号
【特許文献7】米国特許第8,857,566号
【特許文献8】米国特許第9,016,430号
【特許文献9】米国特許第9,469,985号
【特許文献10】米国特許第8,413,761号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によると、ハニカム・セル内に音響隔壁を配置するのに利用される摩擦によるロックの挿入プロセスが、多様な音響共鳴装置深さを有するMDOF音響ライナを提供するためにハニカム・セル内に音響バリアを配置するのにも使用され得る、ことが発見された。本発明は、特定の厚さ及び形状を有する特定の中実高分子フィルムが音響バリア・キャップとなるように形成され得るという発見に基づく。音響バリア・キャップが、音響共鳴装置のための効果的な底部端部を形成する音響反射性を有する剛壁を形成するために摩擦によりロックされてセル壁に接着され得る。
【0013】
本発明は、ジェット・エンジン又は他の動力装置などのノイズの発生源の近くに位置するように設計された音響構造を対象とする。この構造が、ノイズ源の最も近くに位置するための第1の縁部、及び第2の縁部を有するハニカムを有する。ハニカムが、左側及び右側を各々有する複数のセルを有する。各セルが、ハニカムの第1の縁部と第2の縁部との間を延在する下側壁と、ハニカムの第1の縁部と第2の縁部との間をやはり延在する上側壁とによって形成される。下側壁が、左下の端部分、右下の端部分、及び中央の下側部分を有する。上側壁が、左上の端部分、右上の端部分、及び中央の上側部分を有する。セルの左側に沿う左側接合部分が形成され、ここで、下側壁及び上側壁が接合される。セルの右側に沿う右側接合部分が形成され、ここで、下側壁及び上側壁が接合される。セルの深さが、ハニカムの第1の縁部と第2の縁部との間の距離に等しい。
【0014】
本発明の特徴として、セルの音響底部を形成する音響反射性を有する剛壁を提供するために、音響バリア・キャップがセルのうちの少なくとも1つのセルの中に挿入される。音響バリア・キャップが、平坦な音響バリア部分と、音響バリア部分を囲むタブ部分とを形成するために折り畳まれる中実高分子フィルムである。平坦な音響バリア部分がハニカムの上側壁及び下側壁に対して横方向に延在する。平坦な音響バリア部分が、ハニカムの第1の縁部の最も近くに位置する頂側と、ハニカムの第2の縁部の最も近く位置する底側とを有する。平坦な音響バリア部分が、右上の境界部分、中央の上側境界部分、左上の境界部分、右下の境界部分、中央の下側境界部分、及び左下の境界部分から構成される境界によって囲まれる。
【0015】
別の特徴又は本発明として、音響バリア・キャップのタブ部分が、平坦な音響バリア部分の上側境界からすべて突出している右上のタブ、中央の上側タブ、及び左上のタブを有する。タブ部分が、平坦な音響バリア部分の下側境界からすべて突出している右下のタブ、中央の下側タブ、及び左下のタブをさらに有する。
【0016】
音響バリア・キャップがセルの中に挿入され、その結果、右上のタブが右上の端部部分のところで上側壁に対して摩擦よりロックされ、中央の上側タブが中央の上側部分のところで上側壁に対して摩擦よりロックされ、左上のタブが左上の端部分のところで上側壁に対して摩擦によりロックされる。右下のタブが右下の端部分のところで下側壁に対して摩擦によりロックされ、中央の下側タブが中央の下側部分のところで下側壁に対して摩擦によりロックされ、左下のタブが左下の端部分のところで下側壁に対して摩擦によりロックされる。
【0017】
本発明は、ハニカム・セルの中で音響バリア・キャップが摩擦によりロックされるときに形成される先行の構造物(precursor structure)を対象とする。本発明はさらに、ハニカムの中に音響バリア・キャップが永久的に接着されるときに形成される音響構造、さらには、先行の及び最終的な音響構造を作るための方法を対象とする。
【0018】
上記で考察した及び他の多くの、本発明の特徴的な付随の利点は、添付図面と併せて以下の詳細な説明を参照することによりより良く理解される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明による例示の音響構造を示す斜視図である。
【
図2】
図1に示される例示の音響構造の一部分を示す拡大図である。
【
図3】セルの中で隔壁が摩擦によりロックされた状態である、先行の構造物を形成することを目的としたハニカムのセルの中への音響バリア・キャップの挿入を示す簡略化された図である。
【
図4】音響バリア・キャップのタブ部分に対して接着剤を適用するための例示の方法を示す簡略化された図である。
【
図5】六角形ハニカム・セルの中へ挿入されるための第1の例示の音響バリア・キャップを示す図である。
【
図6】六角形ハニカム・セルの中へ挿入されるための第2の例示の音響バリア・キャップを示す図である。
【
図8】ノイズ源の近くに位置する例示の音響ライナを示す図である。
【
図9】同じハニカム内の多様な高さのところに音響バリア・キャップが位置している状態である、本発明の実施例のハニカム内の幾何学的配置を示す簡略化された図である。
【
図10】音響ライナが位置しているところである例示の位置を示している、ターボファン・ジェット・エンジンを示す簡略化された断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明による例示の音響構造が、
図1、2、及び7の10のところに概して示される。音響構造10が、ノイズ源の最も近くに位置することになる第1の縁部14と、第2の縁部16とを有するハニカム12を有する。ハニカム10がセル18を有する。各セル18が左側20及び右側22を有する。下側壁24及び上側壁26が、各々、各セル18を画定するために第1の縁部14と第2の縁部16との間を延在する。下側壁24及び上側壁26が、好適には、第1の縁部14と第2の縁部16との間を互いに平行に延在する。下側壁24が、左下の端部分28、右下の端部分30、及び中央の下側部分32を有する。上側壁26が、左上の端部分34、右上の端部分36、及び中央の上側部分38を有する。左側接合部分40が各セルの左側のところに形成され、ここで、左下の端部分28及び左上の端部分34が接合される。右側接合部分40が各セルの右側のところに形成され、ここで、右下の端部分30及び右上の端部分36が接合される。
【0021】
各々のセル18が、第1の縁部14と第2の縁部16との間の距離に等しく、この距離によって画定された深さを有する(コア厚さとも称される)。各セル18が、セルの第1の縁部14のところで測定され、セル壁に対して垂直に測定される、下側壁24及び上側壁26によって囲まれる面積に等しいセル・サイズを有する。
【0022】
音響構造10が音響バリア・キャップ44を有する。各音響バリア・キャップ44が、平坦な音響バリア部分46及び平坦な音響バリア部分46を囲むタブ部分48を形成するために折り畳まれた中実高分子フィルムの一部片である。音響バリア・キャップ44が、セル18の深さより小さい深さを有する音響空洞を提供するために第1の縁部14と第2の縁部16との間でセル18内に位置する。音響空洞深さが、平坦な音響バリア部分46と第1の縁部14との間の距離である。平坦な音響バリア部分46がセル壁に対して横方向に方向付けられる。平坦な音響バリア部分46がセル壁に対して実質的に垂直に方向付けられることが好適である。実質的に垂直とは90°±10°の角度を意味する。
【0023】
音響バリア・キャップ44を形成するために挿入物が折り畳まれてセル18の中に挿入される前の、例示の高分子フィルム挿入物が
図3の50のところに示される。挿入物50が、平坦な音響バリア部分52、及び平坦な音響バリア部分52を囲むタブ部分53を有する。平坦な音響バリア部分が境界54(想像線で示される)を有する。境界54が、右上の境界部分60、中央の上側境界部分62、左上の境界部分64、右下の境界部分66、中央の下側境界部分68、及び左下の境界部分70を有する。平坦な音響バリア部分52が、ハニカム・セルの中に挿入物50が配置されているときにハニカムの第1の縁部の最も近くに位置する頂側56を有する。挿入物の底側58が、ハニカム・セルの中に挿入物50が配置されているときにハニカムの第2の縁部の最も近くに位置する(
図2を参照)。ハニカム・セル18の中への挿入中、タブ部分53が平坦な音響バリア部分54の頂側56の方に折り畳まれる。
【0024】
挿入物50のタブ分53が:右上の境界部分60から突出している右上のタブ72;中央の上側境界部分62から突出している中央の上側タブ74;左上の境界部分64から突出している左上のタブ76;右下の境界部分66から突出している右下のタブ78;中央の下側境界部分68から突出している中央の下側タブ80;及び、左下の境界部分70から突出している左下のタブ82を有する。
【0025】
音響バリア・キャップ44を形成するために挿入物50がハニカム・セル18の中に配置されているとき、タブが以下のようにセル壁に対して摩擦によりロックされている:右上のタブ72が右上の端部分36のところで上側壁26に対して摩擦によりロックされており;中央の上側タブ74が上記中央の上側部分38のところで上側壁26に対して摩擦によりロックされており;左上のタブ76が左上の端部分34のところで上側壁26に対して摩擦によりロックされており;右下のタブ78が上記右下の端部分30のところで下側壁24に対して摩擦によりロックされており;中央の下側タブ82が中央の下側部分32のところで下側壁24に対して摩擦によりロックされており;左下のタブ82が左下の端部分28のところで下側壁24に対して摩擦によりロックされている。
【0026】
ハニカム12は、金属、セラミック、及び複合材料を含めた、ハニカム・パネルを作るのに使用される従来の材料のうちの任意の材料から作られ得る。例示の複合材料には、繊維ガラス、Nomex(登録商標)などの樹脂含侵アラミド紙、適切なマトリックス樹脂とのグラファイト繊維の種々の組み合わせが含まれる。比較的高い温度(177°C(350°F)から260°C(500°F))に耐えることができるマトリックス樹脂が、ジェット・エンジンのための音響パネルで使用されるのに好適である。金属材料又はセラミック材料から作られたハニカムは、複合材料から作られたハニカムより高い温度で機能することができる。しかし、複合材のハニカムは、比較的軽量であることを理由として、ジェット・エンジンの音響パネルに好適である。177°C(350°F)から260°C(500°F)の温度で長時間仕事をすることができ、短時間では最高371°C(700°F)まで仕事をすることができる複合材のハニカムが市販されている。このような高温度のハニカムは、プリプレグ樹脂マトリックス、node接着剤、及び塗料樹脂のために使用される、ポリアミドイミド樹脂又はポリイミド樹脂などの高温度の樹脂との組み合わせでガラス繊維の繊維支持体を利用する。好適な例示の種類の繊維ガラス強化の六角形のポリイミド・ハニカムは、HexWeb(登録商標)HRH-327の商品名で、Hexcel Corporation(アリゾナ州、カサグランデ)から入手可能である。
【0027】
ハニカム・セル18が、
図1の84のところに想像線で示されるセル・ペリメータを有する。セル・ペリメータ84が上側壁26及び上記下側壁24によって画定される。右上の端部分36及び左上の端部分34の各々が、中央の上側部分38より大きいセル・ペリメータ84の部分を形成する。右下の端部分30及び左下の端部分28が、中央の下側部分32より大きいセル・ペリメータ84の部分を形成する。このような種類の不規則な六角形形状が好適である。
【0028】
挿入物50が、具体的には、不規則な六角形形状のハニカム・セル18の中に挿入されるように設計される。右上のタブ72及び左上のタブ76が、各々、中央の上側タブ74より大きい。右下のタブ78及び左下のタブ82が、各々、中央の下側タブ80より大きい。このタブ構成は、セル18の中に挿入物50を挿入するときにタブを摩擦によりロックするところであるそれぞれの壁に適合する。
【0029】
本発明による音響バリア・キャップは、多様なセル幾何形状を受け入れるために挿入物形状が変更される場合に、セル18によって形成された不規則な六角形形状以外の形状の有するセルの中にも挿入され得る。セル形状は、音響パネルを作るのに使用されるのに適する正六角形又は他のセル形状であってよい。例えば、音響ハニカムは柔軟性のあるハニカムであってよく、この場合、セル壁が、ハニカムを非平坦な音響パネルへとより容易に形成するのを可能にする凸形及び凹形の湾曲部分の組み合わせを形成する。好適な柔軟性のあるハニカムは、Hexcel Corporation(カリフォルニア州、ダブリン)から入手可能であるFlex-Core(登録商標)の柔軟性のあるハニカムである。Flex-Core(登録商標)の柔軟性のあるハニカムは、5052又は5056のアルミニウム、アラミド/フェノール複合材、及び繊維ガラス/フェノール複合材を含めた、多様な適切な材料から作られる。
【0030】
本発明は、0.645cm2(0.1平方インチ)から6.45cm2(1.0平方インチ)の範囲のセル・サイズに適用可能である。0.645cm2(0.1平方インチ)未満のセル・サイズは音響バリア・キャップを挿入するのを可能にするには小さすぎる。6.45cm2(1.0平方インチ)を超えるセル・サイズは、折り畳んでセルの中に挿入するには厚すぎるフィルムを必要とする。セル・サイズは、第1の縁部14で測定される、上側壁26及び下側壁24によって囲まれる面積である。好適にはセル・サイズは1.94cm2(0.3平方インチ)から3.87cm2(0.6平方インチ)の範囲である。六角形セルの対向する壁の間の距離(DC)が0.965±0.127cm(0.38±0.05インチ)であるようなハニカム・セルが特に好適である。
【0031】
適する音響バリア・キャップを提供するために、挿入物50が、折り畳まれてセルの中に挿入され得るのに十分なサイズ、形状、及び柔軟性を有さなければならない。さらに、折り畳まれた挿入物は、音響バリア・キャップをセル内に永久的に接着するために接着剤を適用することを含めたその後の取り扱いを可能にすることを目的として、ハニカム・セルの中で音響バリア・キャップを十分に摩擦によりロックするのを実現するために十分な反発性を有さなければならない。さらに、挿入物50は、ジェット・エンジン音響ライナが通常露出される高い温度に耐えることができる高分子から作られなければならない。
【0032】
挿入物50の平坦な音響バリア部分52は、得られた音響バリア・キャップ44を音響空洞の底部として機能させてセル18に入る音の有意な部分を反射させるのに十分な強度を有さなければならない。平坦な音響バリア部分52は、形成されて音響バリア・キャップの平坦な音響バリア部分46になったとき、500Hzから4000Hzの範囲の音波周波数のための少なくとも0.75の音響反射係数を提供するのに十分な強度を有さなければならない。より好適には、音響バリア・キャップの反射係数が、500Hzから4000Hzの範囲の音波周波数のために少なくとも0.8となる。反射係数は方程式R=(Z-1)/(Z+1)によって決定され、ここでは、Rが反射係数であり、Zが平坦な音響バリア部分Aの周波数依存の正規化インピーダンスである。1である場合の反射係数が、所与の周波数における音波の100%の反射に等しい。
【0033】
サイズ、形状、反発性(摩擦によるロック性)、挿入の柔軟性、音響強度(acoustic stiffness)に関する上記の基準が適合する場合、有孔性の音響隔壁キャップを作るのに従来使用されるポリエーテルエーテルケトン(PEEK)のフィルム(米国特許第8,413,761号を参照)が、適切な音響バリア・キャップを作るのにも使用され得ることを発見した。
【0034】
PEEKは、非晶相又は結晶相のいずれかであるフィルムを形成するように加工され得る結晶性熱可塑性高分子である。結晶性PEEKフィルムと比較して、非晶質PEEKフィルムはより高い透明性を有し、熱成形を行うことがより容易である。結晶性PEEKフィルムは、30%から35%のオーダーの結晶度を達成するのに十分な時間にわたって、非晶質PEEKのガラス遷移温度(Tg)を超える温度まで非晶質PEEKフィルムを加熱することによって形成される。結晶性PEEKフィルムは、非晶質フィルムより良好な耐化学性及び摩耗特性を有する。さらに、結晶性PEEKフィルムは非晶質フィルムより低い柔軟性を有し、非晶質フィルムより高い反発性を有する。反発性は、折り畳まれたフィルムをその元の折り畳み前の(平坦な)形状に戻るように振る舞わせる力又は付勢力である。結晶性PEEKフィルムは、音響バリア・キャップを作るのに使用されるのに好適である。PEEKのフィルムは、SEFAR PETEX、SEFAR NITEX、及びSEFAR PEEKTEXの商品名でSEFAR America Inc.(ニューヨーク州、デピュー)から入手され得る。また、PEEKのシート又はフィルムは、VICTREX(登録商標)PEEK(商標)polymerの商品名でPEEKのフィルムを生産しているVictrex USA(サウスカロライナ州、グリーンビル)からも市販されている。
【0035】
反発性(摩擦によるロック性)、挿入の柔軟性、音響強度、及び熱的安定性に関して同等の特性を呈する場合、PEEKフィルム以外の高分子フィルムが使用されてもよい。例えば、音響バリア・キャップを作るのに使用される場合、ポリイミド・フィルムがPEEKフィルムの代替となる。多様な適切なポリイミド・フィルムが、KAPTON(登録商標)のポリイミド・フィルムの商品名でDuPont Chemical Company(ミシガン州、ミッドランド) から入手可能である。ポリエーテルケトン又はポリフェニレンスルファイドから作られたフィルムも適する。
【0036】
挿入物を作るのに使用される高分子フィルムの厚さは0.00762cm(0.003インチ)から0.0889cm(0.035インチ)でなければならず、セル・サイズが0.645cm2(0.1平方インチ)から6.45cm2(1.0平方インチ)まで増大するときに高分子フィルムの厚さが増大する。セル・サイズが1.02cm(0.4インチ)から1.27cm(0.5インチ)であるようなセル18の場合、好適な高分子フィルム厚さが0.0254cm(0.010インチ)から0.0635cm(0.025インチ)である。この好適なフィルム厚さが、音響バリア・キャップの挿入時の折り畳み性、摩擦によるロック性、及び高い音響反射係数の特に有用な組み合わせを実現する、ことが判明した。挿入物50が、好適には、0.00762cm(0.003インチ)から0.0229cm(0.009インチ)の高分子フィルム厚さを有する。このような挿入物は、好適には、0.645cm2(0.1平方インチ)から3.87cm2(0.6平方インチ)のセル・サイズを有する六角形ハニカムの中に挿入される音響バリア・キャップを作るのに使用される。
【0037】
1.02cm(0.4インチ)から2.54cm(1.0インチ)の六角形ハニカム・セル・サイズの場合、挿入物の厚さが0.0254cm(0.010インチ)から0.0889cm(0.035インチ)であることが好適である。このようなより厚い挿入物が
図4の50Tのところに示される。挿入物50Tが、より厚い挿入の柔軟性を向上させるサブ・タブを形成するためにタブに細い穴が入れられることを除いて、挿入物50(
図3)と同じ基本形状を有する。このサブ・タブ部分は、セルの中に挿入されてセルの中で摩擦によりロックされるのに必要とされる柔軟性及び反発性をより厚い挿入物50Tに有させるのを保証する。
【0038】
挿入物50Tの種々の要素を示すのに使用される参照符号は、挿入物50の要素を示すのに使用される符号に一致する。挿入物50Tがより厚いことを除いて、挿入物50のために説明したものと同じ要素であることを反映するために、
図4の対応する符号に「T」が付されている。したがって、挿入物50に関連する種々の参照符号を付された要素の上記の説明は、
図4に記載される対応する符号(T)の要素にも適用される。挿入物50Tのタブ部分53Tが、各々のタブ72T、74T、76T、78T、80T、及び82Tを第1のサブ・タブ部分及び第2のサブ・タブ部分に分割する追加のスロットを有する。サブ・タブ部分は、
図4では、個別のサブ・タブ部分を示すために「a」又は「b」を後ろに付されるタブ番号を使用して示される。
【0039】
平坦な音響バリア部分52(52T)のサイズ及び形状はセルのサイズ及び形状と同じとなるか又はわずかに小さくなる。好適には、対向する上側境界部分62(62T)と中央の下側境界部分68(68T)との間の距離D(DT)が、対向する中央の上側壁部分38と中央の下側壁部分32との間の対応する距離の85%から95%となる。タブを互いから分離する挿入物S(ST)内のスロットは、平坦な音響部分54(54T)の境界ところで又はその近くで終端しなければならない。スロットは、タブ幅W(WT)の0%から50%に等しい境界54(54T)からの距離のところで終端すべきである。好適には、スロットは、タブ幅の2%から20%に等しい境界54(54T)からの距離のところで終端すべきである。
【0040】
タブ部分53(53T)の幅W(WT)は、セル・サイズ、高分子フィルムの柔軟性(厚さ)、タブ部分内のタブの数、及び音響バリア・キャップをセル壁に永久的に接着するのに使用される接着剤を含めた、多数のファクタに応じて変化してよい。0.254cm(0.1インチ)から1.27cm(0.5インチ)のオーダーのタブ部分の幅が適する。好適には、タブ部分の幅W(WT)が、対向する中央の上側境界部分と中央の下側境界部分との間の距離D(DT)の5%から35%となる。
【0041】
タブを互いから分離するスロットS(ST)が、90及び90Tで示されるようにU形であってよいか、又は92及び92Tで示されるようにV形であってよい。左上のタブ76(76T)及び左下のタブ82(82T)がV形のスロットにより互いから分離されること、並びに右上のタブ72(72T)及び右下のタブ78(78T)がやはりV形のスロットにより互いから分離されることが好適である。これらのロケーションにあるV形のスロットは、フィルム挿入物を適切に折り畳んでハニカム・セルの中で適切に摩擦によりロックするのを促進するのに効果的であることが分かった。
【0042】
図3に示されるU形及びV形のスロットの組み合わせを有する挿入物は、0.0152cm(0.006インチ)の厚さを有する結晶性PEEKフィルムから作られたものである。この挿入物は、0.965cm(0.38インチ)のDCを有するセルを用いるHexWeb(登録商標)HRH-327のハニカムの中に音響バリア・キャップを形成するのに使用されたものである。この音響バリア・キャップが、500Hzから2000Hz及び3500Hzから4000Hzの範囲の音波周波数のための約0.8である反射係数を呈した。
図4に示されるU形及びV形のスロットの組み合わせを有する挿入物は、0.0254cm(0.010インチ)の厚さを有する結晶性PEEKフィルムから作られたものである。この挿入物は、0.965cm(0.38インチ)のDCを有するセルを用いるHexWeb(登録商標)HRH-327ハニカムの中に音響バリア・キャップを形成するのに使用されたものである。この音響バリア・キャップが、500Hzでの0.8から500Hzから4000Hzの全範囲にわたっての0.9まで増大する反射係数を呈した。より厚い挿入物(0.0254cm(0.010インチ))が特に好適である。その理由は、より厚い挿入物(0.0254cm(0.010インチ))が、より薄い挿入物(0.0152cm(0.006インチ))と比較してより広範囲の周波数範囲にわたって比較的高い反射係数を提供するからである。PEEKフィルムの厚さの比較的小さい増加(0.0102cm(0.004インチ))では、このような反射係数特性の増大は見込まれない。
【0043】
挿入物のタブ部分は、セル壁に対しての接着剤による接着を強化するためにタブ部分の表面積を増大させるために有孔性であってよい。これらの穿孔は、表面積を増大させ、さらには、接着剤を入れることができる開口部を増やし、それにより、セル壁に対してのタブ部分の接着を向上させる。これらの穿孔又は穴は、機械的に又は化学物質を使用して穿孔され得る。好適には、比較的薄い高分子フィルムを通る穴をレーザ穿孔することにより穿孔が作られる。好適には、挿入物を音響バリア・キャップにするように形成する前に所望の数の穿孔を提供するように、高分子フィルムにレーザ穿孔が施される。この手順の利点は、平坦な挿入面により、穿孔作業中にレーザ・ビームの焦点を高分子フィルムに合わせることがより容易になることである。
【0044】
ハニカム・セルの中で音響バリア・キャップが摩擦によりロックされるような先行の構造物を形成することを目的として、ハニカム・セルの中に音響バリア・キャップを挿入するための例示の方法が
図5に示される。
図5でハニカム構造を示すのに使用される参照符号は、構造物が、セル壁に対して音響バリア・キャップがまだ永久的に接着されてない先行の構造物であること示すために「P」を有することを除いて、
図1の参照符号と同じである。
【0045】
図5に示されるように、高分子フィルム81が、
図3に示される挿入物50などの適切なサイズお挿入物を形成するために切断されている。適切なサイズのプランジャ83が、プランジャ83を使用して挿入物50をハニカム・セルの中に押し込むのに使用される。挿入プロセスを支援するためにキャップ折り畳み用のダイス(図示せず)が使用され得る。キャップ折り畳み用のダイスが、ハニカム・セルの中に入れる前に音響バリア・キャップを予め折り畳んで形成するようにサイズ決定及び成形されているダイス開口部を有する。キャップ折り畳み用のダイスを使用することが好適であるが、これは必要というわけではない。ハニカムをダイスとして使用して、プランジャ83を使用して挿入物50をセルの中に単純に押し込むことにより音響バリア・キャップを形成することも可能である。多くのハニカム・パネルの縁部が傾向として比較的粗いものとなる。その理由は、製造プロセス中、パネルが通常はより大きいハニカム・ブロックから切断されるからである。このように粗いハニカム縁部は、傾向として、平坦な挿入物フィルムをセルの中に直接に強制的に挿入するときに音響バリア・キャップを、捕捉したり、裂いたり、汚したりする。したがって、音響バリア・キャップを折り畳んで形成するためにハニカムがダイスとして使用される場合、ハニカム縁部は可能な限り滑らかでなければならない。
【0046】
重要なこととして、高分子フィルムのサイズ、形状、及び柔軟性、並びにプランジャ及びダイス(又は、ダイスが使用されない場合はプランジャのみ)のサイズ/形状は、先行の構造物のその後の取り扱い中に音響バリア・キャップを定位置で保持するためにタブ部分とセル壁との間での十分な摩擦接触を実現しながら高分子フィルムにダメージを与えることなくセルの中に音響バリア・キャップを挿入するのを可能にするように、選択され得る。摩擦によるロック又は保持の強さは、取り扱い中に先行の構造物が誤って落とされる場合でもハニカムから落下させないように音響バリア・キャップを維持するのに十分なものであるべきである。
【0047】
セル壁に対しての音響バリア・キャップの摩擦によるロックは、十分なレベルの摩擦によるロックを達成するようになるまで、タブ部分のサイズ、タブの数、高分子フィルムの厚さ、高分子フィルムの強度/反発性、スロットのサイズ、及びスロットの形状を変えることにより、達成される。例えば、摩擦によるロックは傾向として、タブの数及び/又はスロットのサイズが増すにつれて、弱まる。摩擦によるロックは傾向として、高分子フィルムの厚さ、高分子フィルムの強度/反発性、及びタブのサイズが増すにつれて、強まる。挿入物50及び50Tのために上述したような、これらのパラメータの特定の組み合わせが、先行のハニカム構造の中で音響バリア・キャップを十分に摩擦によりロックするのを実現することが分かった。
【0048】
ハニカム・セル壁に対しての音響バリア・キャップの摩擦によるロックの程度は、音響バリア・キャップの上に検査分銅を配置してその結果としてキャップがいくらかでも動いたかどうかを判断することにより、測定される。例えば、以下の試験を合格する場合、十分な摩擦力によるロックで音響バリア・キャップがハニカム・セル壁に対して摩擦によりロックされているとみなされる。検査分銅(27グラム)が乾燥した音響バリア・キャップの上に挿入側から配置される。乾燥したキャップがハニカム・セルに沿って下方に摺動することなく27グラムを支持する場合に、摩擦によるロックが十分となる。例示の試験では、27グラムの検査分銅が、0.935cm(0.368インチ)の直径及び5.08cm(2.00インチ)の長さを有する鋼鉄棒である。
【0049】
摩擦によるロックにより、音響バリア・キャップ44pのみが
図5の先行の構造物10P内の定位置で保持される。上で言及したように、摩擦によるロックは、適切な接着剤を使用して永久的に接着され得るようになるまで隔壁キャップを確実に定位置で保持するのに十分な大きさでなければならない。使用される接着剤は、ハニカム・パネルの製造に使用される従来の接着剤のうちの任意の接着剤であってよい。好適な接着剤には、高い温度(177°C(350°F)から260°C(500°F))で安定する接着剤が含まれる。例示の接着剤には、エポキシ、アクリル、フェノール樹脂、シアノアクリレート、ビスマレイミド、ポリアミドイミド、及びポリイミドが含まれる。
【0050】
多様な既知の接着剤適用手順を利用して、接着剤がタブ部分/セル壁の接触面に適用され得る。重要な考慮事項は、接着剤が制御下で適用されるべきであるということである。接着剤は、最小限として、セル壁との接触面のところでタブ部分に適用されるべきである。例示の接着剤適用手順が
図6に示される。この例示の手順では、ハニカム12Pが単純に液体接着剤のプール91の中に浸され、その結果、タブ部分48Pのみが接着剤の中に浸漬される。浸す前と同じレベルで音響バリア・キャップが正確に摩擦によりロックされる場合、この浸す手順を利用して、接着剤がタブ部分/セル壁の接触面に正確に適用され得る。多様な高さに位置する音響バリア・キャップの場合、複数回の浸すステップが必要となる。別法として、ブラシ、又は他の特定の部位への適用テクニックを利用して、接着剤が適用され得る。これらのテクニックのうちのいくつかのテクニックが、音響バリア・キャップを挿入する前にコア壁に接着剤を塗布するのに使用され得る。別法として、コアの中への挿入前に、接着剤がタブ部分の上にスクリーン印刷されてもよい。
【0051】
図6に描かれる接着剤を適用するためのこのような浸す手順が好適である。その理由は、タブ部分とセル壁との間の接触面の中への毛管作用により接着剤が傾向として上方に動くからである。このように接着剤が上方に動くことにより、タブ部分とセル壁との間にわずかでも空隙が入り込むことになり、それにより、音響バリア・キャップが最大限の音波反射を実現することが保証される。接着剤が定位置にくると、接着剤が固まるか又は既知の手順に従って他のかたちで硬化し、それによりハニカム・セル壁に対して音響バリア・キャップを永久的に接着する。
【0052】
本発明による音響構造は、ノイズの減衰を必要とする多種多様な状況において使用され得る。この音響構造は、ノイズの減衰が通常で問題となるような動力装置システムとの関連で使用されるのに良好に適する。ハニカムが比較的軽量な材料であることを理由として、本発明の音響構造は航空機システム内で使用されるのに特に良好に適する。例示の使用には、ジェット・エンジンのためのナセル、大型のタービン・エンジン又はレシプロ・エンジンのためのカウリング、又は関連の音響構造が含まれる。例示のターボファン・ジェット・エンジンが
図10の100のところに示される。ジェット・エンジン100がナセル102を有する。本発明による音響パネル又はライナが、例えば、ロケーション104、106、及び108のところに配置され得、ジェット・エンジンによって発生するノイズのダンピング又は減衰を実現する。
【0053】
本発明の基本的な音響構造は、通常、エンジン・ナセルの最終的な形状となるように熱により形成され、次いで、外側材料のスキン又はシートが、形成された音響構造の外側縁部に対して接着層を用いて接着される。この完成したサンドイッチ型のパネルは、接着中にナセルの複雑な形状を維持する保持ツールの中で固まる。例えば、
図7に示されるように、音響構造10が、第2の縁部16上で中実の音不透過性のシート又はスキン80に接着され、音透過性の有孔性のスキン又はシート82が第1の縁部14上に接着され、それにより、音響パネル又は音響ライナを形成する。中実のスキン80及び有孔性のスキン82の接着は、通常、高い温度及び圧力において接着ツール上で達成される。接着ツールは、一般に、パネル形成プロセス中に音響構造の所望の形状を維持するのに必要である。
【0054】
図8では、例示の音響パネル112の一部分が、ジェット・エンジン又は他のノイズ源を囲むナセルの一部分として定置で示されている。ジェット・エンジン又は他のノイズ源が110のところに概略的に示されている。音響パネル112が、音響構造114、音透過性のスキン116、及び中実の音不透過性のスキン118を有する。音響バリア・キャップ120が、音透過性のスキン116から音響バリア・キャップ120の平坦な音響部分までの距離に等しい深さを有する音響共鳴装置を形成するためにハニカム・セル122のうちのいくつかのハニカム・セルの中に存在する。他のハニカム・セル124が音響バリア・キャップを有さず、その結果、有効共鳴装置深さが音透過性のスキン116から中実のスキン118までの距離に等しくなる。音響パネル112は、ハニカム・セルのうちのいくつかのハニカム・セルの深さを低減するために音響バリア・キャップを使用することにより本発明に従って作られ得るMDOF音響ライナの種類の実例である。
【0055】
別の例示の音響パネルが
図9の130のところに示される。音響パネル130が、音響構造132、音透過性のスキン134、及び中実の音不透過性のスキン136を有する。音響バリア・キャップ138及び140が、それぞれ、異なる深さを有する共鳴装置空洞を提供するために、セル142及び146内に位置する。セル148が音響バリア・キャップを有さない。複数の共鳴装置深さが実現されるようなこの種類のMDOFの設計は、音響構造のノイズ減衰特性を細かく調整するのを可能にする。
図9に示される複数の共鳴装置深さの構成は単に、本発明に従って可能である多種多様な考えられるマルチレベルの音響バリア・キャップの配置構成の一実例であることを意図される。当業者には認識されるであろうが、可能である多様な音響バリア・キャップの配置レベルの数及び変形形態は膨大であり、特定のノイズ減衰要求に適合するように調整され得る。
【0056】
このように本発明の例示の実施例を説明してきたが、本開示には例示的なもののみが含まれること、並びに、本発明の範囲内で様々な他の代替、適合、及び修正を行うことができることを当業者には留意されたい。したがって、本発明は、上記の好適な実施例及び実例のみに限定されず、以下の特許請求の範囲のみによって限定される。
【国際調査報告】