(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-20
(54)【発明の名称】風力タービン用のダンパ
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20230113BHJP
F03D 13/20 20160101ALI20230113BHJP
【FI】
F16F15/02 C
F03D13/20
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022528006
(86)(22)【出願日】2020-11-12
(85)【翻訳文提出日】2022-07-11
(86)【国際出願番号】 EP2020081967
(87)【国際公開番号】W WO2021094489
(87)【国際公開日】2021-05-20
(32)【優先日】2019-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】ES
(32)【優先日】2020-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】ES
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519081710
【氏名又は名称】シーメンス ガメサ リニューアブル エナジー エー/エス
【氏名又は名称原語表記】Siemens Gamesa Renewable Energy A/S
【住所又は居所原語表記】Borupvej 16, 7330 Brande, Denmark
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】オデイ アイスプルア アルダソロ
(72)【発明者】
【氏名】マーク ザイデル
(72)【発明者】
【氏名】アントニオ イバニェス デ アルバ
【テーマコード(参考)】
3H178
3J048
【Fターム(参考)】
3H178AA03
3H178AA22
3H178AA43
3H178BB35
3H178BB42
3H178BB45
3H178CC23
3H178DD70X
3J048AA06
3J048AD06
3J048EA38
(57)【要約】
風力タービン用のダンパ
本発明は、風力タービンの運動を減衰させるための、特に風力タービンのタワーの振動運動を減衰させるためのダンパに関する。運動の減衰は、ダンパの容器内に収容された水性液体により達成される。好適には、水性液体には水が含まれており、水性液体中に含まれている成分は、完全に溶解している。組成物には、クエン酸塩、例えばクエン酸カリウムおよび/またはクエン酸ナトリウムが含まれている。さらに本発明は、前記ダンパを有する風力タービンに関する。最後に、本発明は特定の組成物に関する。組成物は、例えば水中に溶解されることになっており、その結果、前記水性液体が得られる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
風力タービンの運動を減衰させるための、特に風力タービンのタワーの振動運動を減衰させるためのダンパであって、
前記運動の減衰は、当該ダンパの容器内に収容された水性液体により達成され、該水性液体には、少なくとも1つのクエン酸塩が含まれている、ダンパ。
【請求項2】
前記クエン酸塩は、クエン酸カリウムおよび/またはクエン酸ナトリウムから選択されており、好適には、前記クエン酸塩は、クエン酸カリウムから選択されている、請求項1記載のダンパ。
【請求項3】
前記水性液体中の前記クエン酸塩の量は、少なくとも30重量%でありかつ/または70重量%未満である、請求項1または2記載のダンパ。
【請求項4】
前記水性液体中の前記クエン酸塩の量は、少なくとも50重量%でありかつ/または65重量%未満である、請求項1から3までのいずれか1項記載のダンパ。
【請求項5】
前記水性液体には、水、好適には脱イオン水が含まれている、請求項1から4までのいずれか1項記載のダンパ。
【請求項6】
前記水性液体にはさらに、不凍剤が含まれている、請求項1から5までのいずれか1項記載のダンパ。
【請求項7】
前記不凍剤には、モノエチレングリコールおよび/またはモノプロピレングリコールが含まれており、好適には、前記不凍剤にはモノプロピレングリコールが含まれている、請求項6記載のダンパ。
【請求項8】
前記水性液体にはさらに、当該ダンパの部分の腐食を低減するかまたは防止さえする腐食防止剤が含まれている、請求項1から7までのいずれか1項記載のダンパ。
【請求項9】
前記腐食防止剤は、炭酸塩、ホウ酸塩、モリブデン酸塩、硝酸塩、ケイ酸塩、アミン、スルホン酸塩および/またはアゾールのうちの少なくとも1つから選択されている、請求項8記載のダンパ。
【請求項10】
前記水性液体にはさらに、抗菌剤または農薬などの殺生物剤が含まれている、請求項1から9までのいずれか1項記載のダンパ。
【請求項11】
前記水性液体には:
-少なくとも25重量%および/または最大45重量%の量の水、好適には脱イオン水、
-少なくとも50重量%および/または最大63重量%の総量の、少なくとも1つのクエン酸塩、好適にはクエン酸カリウム、
-少なくとも5重量%および/または最大15重量%の量のモノプロピレングリコール、および
-少なくとも2重量%および/または最大5重量%の総量の少なくとも1つの腐食防止剤が含まれている、
請求項1から10までのいずれか1項記載のダンパ。
【請求項12】
請求項1から11までのいずれか1項記載のダンパを有する風力タービン。
【請求項13】
前記ダンパは、当該風力タービンのタワーの上側3分の1のところに配置されている、請求項12記載の風力タービン。
【請求項14】
組成物であって、
(a)少なくとも40重量%および/または最大65重量%、好適には50重量%の量のクエン酸カリウム、
(b)任意には、0.1重量%および/または最大20重量%、好適には10重量%の量のクエン酸ナトリウム、
(c)20重量%および/または最大40重量%、好適には30重量%の量のモノプロピレングリコール、
(d)任意には、最大30重量%の量のモノエチレングリコール、および
(e)少なくとも1重量%および/または最大5重量%の総量の、少なくとも1つの腐食防止剤
を含んでおり、
前記成分(a)~(e)は、液体、好適には水性液体、より好適には水、特に好適には脱イオン水中に分散されている、組成物。
【請求項15】
ダンパにおいて、好適には風力タービンのダンパにおいて使用するための、請求項14記載の組成物。
【請求項16】
水性液体であって、
-少なくとも10重量%および/または最大50重量%の量の水、好適には脱イオン水、
-少なくとも1重量%および/または最大60重量%の量の、好適には少なくとも25重量%および/または最大60重量%の量のクエン酸カリウム、および
-任意には、少なくとも1重量%および/または最大60重量%の量のクエン酸ナトリウム、
-少なくとも1重量%および/または最大30重量%の量のモノエチレングリコールおよび/または少なくとも1重量%および/または最大30重量%の量のモノプロピレングリコール、および
-任意には、少なくとも1重量%および/または最大5重量%の総量の、少なくとも1つの腐食防止剤
を含んでいる、水性液体。
【請求項17】
ダンパにおいて、好適には風力タービンのダンパにおいて使用するための、請求項16記載の水性液体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風力タービンの運動を減衰させるための、特に風力タービンのタワーの振動運動を減衰させるためのダンパに関する。この運動の減衰は、ダンパの容器内に収容された水性液体により達成される。このような形式のダンパは、一般に揺動ダンパと呼ばれる。本発明はさらに、ダンパの減衰効率を大幅に改善する、ダンパにおいて使用するための水性液体に関する。
【0002】
本発明はさらに、前記ダンパを有する風力タービンおよび風力タービンのダンパにおいて使用される水性液体を生ぜしめるように液体中に溶解される組成物に関する。
【0003】
発明の背景技術
風力タービンの望ましくない運動、例えば望ましくない振動を減じるためには、風力タービンにダンパを設けることが周知である。このようなダンパは、タワーの上部および/またはナセルの内部に配置され得る。択一的に、ダンパはナセルの外部またはタワーの外部に配置されてもよい。
【0004】
周知の形式のダンパには、揺動ダンパまたは振り子状ダンパが含まれる。揺動ダンパ(液体ダンパとも呼ばれる)は、内部に液体が含まれた容器を有している。この液体は、風力タービンのタワーおよび/またはナセルの運動をパッシブに減衰させる。
【0005】
従来技術では、容器内の液体には通常、水道水と、例えばモノエチレングリコールなどの、ある種の不凍剤とが含まれる。水の凍結温度以下の温度への低下が極めて起こりにくい設置場所については、不凍剤の添加を控えてもよい。不凍剤の使用に対して択一的に、必要に応じて容器内の水を加熱するための加熱装置が提供される。
【0006】
欧州特許出願公開第1203155号明細書には、液体ダンパの水に塩化ナトリウムを添加し得る、ということが記載されている。塩化ナトリウムは、環境的に無害であり、安価であり、かつ水の凍結温度を低下させるだけでなく、密度を高める、という利点を有している。しかしながら塩化ナトリウムは、ダンパの金属部分にとって、特にダンパの容器部分にとって有害であり得る腐食を助長する、という欠点を有する。
【0007】
したがって欧州特許出願公開第1203155号明細書は、塩化亜鉛および硫酸第一鉄も提案している。これらの化合物は、塩化ナトリウムよりも金属に対して攻撃的ではなく、依然として液体の密度を高めることができ、ひいてはダンパの減衰効率を高めることができる、ということが説明されている。しかしながら、これらの物質は、少なくともある程度は環境に有害である、という欠点を有している。
【0008】
したがって、説明した、従来技術によるダンパの欠点を克服する、風力タービン用のダンパを提供する、という要望が存在する。特に、減衰効率が高く、特に腐食に対して長期安定性の高いダンパが提供されることが望ましい。さらに本発明の課題は、改良された風力タービンを提供すること、ならびに水と、水中に溶解された組成物とを含む、風力タービンの揺動ダンパに適した液体の密度を高めるための、水中溶解用の組成物を提供することにある。
【0009】
発明の説明
これらの課題は、各独立請求項に記載の主題により達成される。有利な変更および実施形態は、各従属請求項および説明に開示されている。
【0010】
本発明の第1の態様は、風力タービンの運動を減衰させるための、特に風力タービンのタワーの振動運動を減衰させるためのダンパに関する。運動の減衰は、ダンパの容器に収容された水性液体により達成される。
【0011】
本明細書で使用されるような「水性液体」という用語は、水のような液体、または水を含む液体、および/または水で作られた液体を意味する。好適には、水性液体には水が含まれる。本発明によれば、水性組成物には1つの成分が含まれ、水性液体中に分散される成分は、少なくとも1つのクエン酸塩から選択される。本明細書で使用されるような「分散する」または「分散物」という用語は、少なくとも2つの成分の混合物を意味する。これにより、2つ以上の成分が、連続成分中、すなわち分散媒中に分散している、すなわち微細に分布している。分散物中に含まれる粒子の粒径に応じて、このような分散物は、分子分散した粒子(真溶液;粒径1nm未満)、コロイド分散した粒子(コロイド溶液;粒径1nm~1μm)または粗大分散した粒子(1μmを上回る粒径を有する懸濁剤)を含んでいてよい。しかしながら、本発明によれば、分散物が、分子分散した、コロイド分散した、かつ/または粗大分散した異なる粒子を含むことは除外されない。したがって、本発明による分散物は、1nm未満から最大1μmを超える範囲の粒径を有していてよい。発明者らは、液体ダンパにおいて使用するための塩化ナトリウムと比較して、少なくとも1つのクエン酸塩が魅力的な代替物であり得る、ということを認識した。
【0012】
本明細書で使用するように、クエン酸塩という用語は、クエン酸の誘導体を意味し、クエン酸は、一般的な化学式C6H8O7を有する弱有機酸である。クエン酸は柑橘類に天然に存在する。工業的に製造されたクエン酸は、酸味料として、着香剤として、ならびに洗浄剤およびキレート試薬として、広く使用されている。
【0013】
クエン酸塩は、環境に優しい、すなわち非毒性である、という利点を有している。さらに、クエン酸塩は腐食性でも酸化性でもない。
【0014】
本発明によれば、少なくとも1つのクエン酸塩は、水性液体の密度を大幅に高めることができる。
【0015】
液体の密度の測定は、当業者には周知である。例えば、本発明による液体の密度の測定は、20℃の基準温度において例えば比重が1.400~1.500(s.g.)または例えば1.500~1.600s.g.のスケールを有するプロトン密度計(GAB分析システム)を使用することにより実現され得る。本明細書に示す密度値は、試験に基づく密度である。好適には、有利な水性液体の密度は、少なくとも1.2kg/Lおよび/または最高1.8kg/L、より好適には1.3kg/Lおよび/または最高1.7kg/L、さらにより好適には1.35kg/Lおよび/または最高1.6kg/L、特に好適には1.4~1.55kg/Lである。第1の好ましい例として、クエン酸ナトリウムの使用を提案する。「クエン酸ナトリウム」は、クエン酸のナトリウム塩、すなわち、クエン酸一ナトリウム、クエン酸二ナトリウムおよびクエン酸三ナトリウムのいずれかを意味する。欧州連合では、これら3つの形態の塩は、まとめてE番号E331により周知である(E番号は、欧州連合および欧州自由貿易連合内で使用するための食品添加物として使用される物質または成分のコードである)。クエン酸ナトリウムは一般に、食品および飲料における酸性度調整剤として、油の乳化剤として、かつ供与された血液の保管時の凝固を防ぐために使用される。発明者らは、クエン酸ナトリウムが風力タービンの揺動ダンパにおいて有利に使用され得る、ということを認識した。
【0016】
別の好適な例として、クエン酸カリウムの使用を提案する。「クエン酸カリウム」とは、クエン酸のカリウム塩、すなわち、クエン酸一カリウムおよびクエン酸三カリウムのいずれかを意味する。三カリウム塩は例えば、分子式K3C6H5O7のクエン酸のカリウム塩である。これは、白色で吸湿性の結晶性粉末である。無臭で塩味がある。食品添加物として、クエン酸カリウムは酸性度を調節するために使用され、E番号E332により周知である。医薬的には、尿酸またはシスチンに由来する腎結石のコントロールに用いられることがある。発明者らは、クエン酸ナトリウムが、有利には風力タービンの揺動ダンパにも使用され得る、ということを認識した。
【0017】
原則として、上述のもの以外の他のクエン酸塩も、液体中に分散させるために使用することができ、その結果、風力タービンの揺動ダンパにおいて使用した場合に有利な特性を有する水性液体が得られる、ということに留意されたい。
【0018】
しかしながら、好適には、クエン酸塩は、クエン酸ナトリウムおよび/またはクエン酸カリウムから選択される。特に好適には、クエン酸は、クエン酸カリウムから選択される。
【0019】
説明したダンパは、風力タービンの運動を減衰させるために適している。換言すると、風力タービンは、風力タービンの望ましくない運動を減衰させるように配置され、準備されている。風力タービンの「望ましくない運動」という用語は、ダンパにより抑制または理想的には完全に排除されるべき、風力タービンのあらゆる運動を意味する。多くの場合、これらの望ましくない運動は、回転するロータに起因しかつ/または-洋上風力タービンの場合には-風力タービンの基礎に当たる波に起因する振動運動である。
【0020】
ダンパの容器は、ダンパの水性液体を収容するために適したあらゆる入れ物であってよい。実際には、容器は多くの場合、金属、例えば鋼から製造されており、矩形または円形の底面を有している。多くの場合、風力タービンごとに複数の容器が設けられている。
【0021】
本発明の1つの有利な実施形態では、水性液体中に含まれるクエン酸塩の量は、70重量%未満である。本発明の別の有利な実施形態では、水性液体中のクエン酸塩の量は、少なくとも30重量%である。
【0022】
水性液体中、好適には水中に含まれるこのような多量のクエン酸塩は、水性液体の密度を大幅に高める、という効果を有している。このことは、風力タービンのナセルおよび/またはタワーの振動といった、風力タービンの望ましくない運動を減衰させる水性液体の能力および効率の点で有利である。大まかに言えば、水性液体中に含まれるクエン酸塩が多いほど、水性液体の密度が高まり、その結果、風力タービンのあらゆる運動が、より効率的に減衰されることになる。
【0023】
しかしながら、水性液体中のクエン酸塩の溶解限度(その正確な値は、とりわけ、クエン酸塩の固有の種類および水性液体の温度および/または水性液体中に含まれる任意の別の成分に依存する)が存在し得る。したがって、発明者らによって実施された試験により、水性液体中に含まれるクエン酸塩の量は、好適には70重量%未満である、ということが示された。
【0024】
特に、水性液体中に含まれるクエン酸塩の好適な量は、少なくとも50重量%でありかつ/または65重量%以下である。具体的な例を挙げると、40mlの水に60gのクエン酸塩を加えると、風力タービンのダンパにとって好適な水性液体が得られる。
【0025】
従来技術では、ダンパの容器を満たすために水道水が使用される。水道水を使用する主な利点は、安価で入手しやすいことである。
【0026】
本発明は、1つの好適な実施形態において、脱イオン水を使用することを提案する。脱塩水とも呼ばれる脱イオン水は、実質的にその全ての無機イオンが除去されている水道水である。これは、当然のことながら水道水より大幅に高価ではあるが、清浄でありかつ管理される、という利点を有している。ダンパの全体的なコストを考慮すると、ダンパの水性液体用に脱イオン水を選ぶことには価値があり得る。
【0027】
1つの好適な実施形態によれば、有利な水性液体は、約8および/または最高約12、好適には約9および/または最高約11、最も好適には約9.4および/または最高約10のpHを有している。
【0028】
本発明の1つの有利な実施形態では、水性液体にはさらに、水性液体の凝固点を低下させる不凍剤が含まれている。
【0029】
適切な不凍剤の例は、モノエチレングリコールおよび/またはモノプロピレングリコールである。ただし、凝固点を低下させることができる他の任意の不凍剤も同様に使用され得る。好適には、不凍剤は、モノプロピレングリコールから選択される。
【0030】
本発明の別の有利な実施形態では、水性液体にはさらに、ダンパの部分の腐食を低減するかまたは防止さえする腐食防止剤が含まれている。
【0031】
クエン酸塩自体は既に耐食特性および耐酸化特性を有しているが、ダンパの部分の如何なる腐食をもさらに低減または抑制するためには、特定の腐食防止剤を添加することが望ましい場合がある。したがって、水性液体への特別な腐食防止剤の添加が選択され得る。この目的のための例示的な腐食防止剤は、有機化合物および/または無機化合物から選択され得る。好適には、腐食防止剤は、炭酸塩、ホウ酸塩、モリブデン酸塩、硝酸塩、ケイ酸塩、アミン、スルホン酸塩および/またはアゾールのうちの少なくとも1つから選択されている。
【0032】
本発明のさらに別の有利な実施形態では、水性液体にはさらに、抗菌剤または農薬などの殺生物剤が含まれている。これは、ダンパの水性液体を清浄に維持する、すなわち、何らかの細菌または藻類の成長を数ヶ月にわたりまたはそれどころか数年にわたり抑制する目的に役立つ。殺生物剤は、指令98/8/ECに従って適用され、例えば、メチレンビスチオシアネート(MBT)(Aquapharm社)のような非金属有機硫黄殺生物剤から選択され得る。
【0033】
そのような殺生物剤は、最終的な水性液体中、少なくとも0.001重量%および/または最大0.5重量%、好適には少なくとも0.05重量%および/または最大0.2重量%の量で使用され得る。
【0034】
1つの別の実施形態によれば、水性液体は、染料を含んでいてよい。このような染料は、例えば水性液体を染色するために使用され得、典型的には水溶性成分として使用される。最終的な水性液体中のこのような染料の含有量は、染色要件に応じて、約0.0002重量%~0.001重量%まで可変であり得る。
【0035】
上記説明から明らかになったように、ダンパの水性液体が具体的に実現される方法には様々な変化形および選択肢がある。
【0036】
1つの特に好適な実施形態によれば、水性液体には:
-少なくとも1重量%および/または最大60重量%の量の水、好適には脱イオン水、
-少なくとも1重量%および/または最大65重量%の総量の、少なくとも1つのクエン酸塩、
-少なくとも0.1重量%および/または最大30重量%の総量の、少なくとも1つのグリコール、および
-任意には、少なくとも0.1重量%および/または最大6重量%の総量の腐食防止剤
が含まれている。
【0037】
上記成分の重量%は、水性液体全体に対するものであることに留意されたい。また、好適には、少なくとも1つのクエン酸塩、少なくとも1つのグリコールおよび腐食防止剤は、風力タービンで使用されるダンパの準備が整った状態では、水性液体中に分子分散されていることにも留意されたい。
【0038】
本発明の第2の態様は、上述した実施形態のうちの1つによるダンパを有する風力タービンに関する。
【0039】
有利には、風力タービンは洋上に配置されている。洋上では、海洋波浪が通常、タービンの基礎に連続的に当たり、したがって、風力タービンの望ましくない運動、特に振動運動を生ぜしめる、または少なくともその一因となる。
【0040】
典型的には、ダンパは風力タービンのタワーの上側3分の1のところに配置されている。「タワーの3分の1」という用語は、タワー自体のみに関するものであり、すなわち、風力タービンの基礎またはジャケット/モノパイル構造体は含まれない。
【0041】
簡単のために、以下で風力タービンのダンパの特定の実施形態は繰り返さない。その代わり、ダンパ自体の文脈において説明した全ての特徴および利点は、前記ダンパを備える風力タービンにも適用される。
【0042】
本発明の第3の態様は、特定の組成物、およびこのような組成物から得られる水性液体に関する。
【0043】
1つの好適な実施形態によれば、組成物は、風力タービンのダンパに使用される。
【0044】
組成物自体は、固相または液相であってよい。組成物が固相である場合(例えば粉末として提供された)、組成物は、液体中に有利には実質的にまたは完全に分散されて、すなわち分子分散されて、水性液体を形成している。好適には、組成物は水中に分散される。
【0045】
本発明による組成物には、
-少なくとも1つのクエン酸塩および
-少なくとも1つのグリコール
が含まれており、クエン酸塩は、クエン酸カリウムおよび/またはクエン酸ナトリウムから、好適にはクエン酸カリウムから選択されており、少なくとも1つのグリコールは、モノエチレングリコールおよび/またはモノプロピレングリコールから、好適にはモノプロピレングリコールから選択されている。
【0046】
水性液体は、有利には組成物の添加後に、成分をそれぞれ実質的に溶解または分散させるために混合されてよく、これにより、上述のような本発明による水性液体の分散物が形成される。
【0047】
本発明によれば、液体中、好適には水中での組成物の成分の分散は、有利には、液体、特に水の密度を高める。
【0048】
1つの好適な実施形態によれば、有利な組成物には、クエン酸カリウムおよび/またはクエン酸ナトリウム、特に好適にはクエン酸カリウムが含まれている。
【0049】
詳細には、1つの有利な組成物の1つの好適な実施形態には、
-少なくとも1.2重量%および/または最大65重量%の量のクエン酸カリウムおよび/または少なくとも1.5重量%および/または最大65重量%の量のクエン酸ナトリウム、
-少なくとも2.2重量%および/または最大97重量%の量のモノエチレングリコールおよび/または少なくとも5.1重量%および/または最大94重量%の量のモノプロピレングリコール、および
-任意には、少なくとも1.03重量%および/または最大22重量%の量の少なくとも1つの腐食防止剤
が含まれている。
【0050】
1つの別の有利な組成物には、
-少なくとも40重量%および/または最大65重量%、好適には50重量%の量のクエン酸カリウム、
-任意には、0.1重量%および/または最大20重量%、好適には10重量%の量のクエン酸ナトリウム、
-20重量%および/または最大40重量%、好適には30重量%の量のモノプロピレングリコール、
-任意には、最大30重量%の量のモノエチレングリコール、および
-少なくとも1重量%および/または最大5重量%の総量の少なくとも1つの腐食防止剤が含まれている。
【0051】
有利には、上記成分は、水性液体中、好適には水中、特に好適には脱イオン水中に均一に分散されている。
【0052】
したがって本発明は、液体中、好適には水中、特に好適には脱イオン水中に本発明による組成物を分散させることにより調製された水性液体にも関する。
【0053】
1つの好適な実施形態によれば、水性液体は、
-少なくとも10重量%および/または最大50重量%の量の水、好適には脱イオン水、
-少なくとも1重量%および/または最大60重量%の量の、好適には少なくとも25重量%および/または最大60重量%の量のクエン酸カリウム、および
-任意には、少なくとも1重量%および/または最大60重量%の量のクエン酸ナトリウム、
-少なくとも1重量%および/または最大30重量%の量のモノエチレングリコールおよび/または少なくとも1重量%および/または最大30重量%の量のモノプロピレングリコール、
-任意には、少なくとも1重量%および/または最大5重量%の総量の、少なくとも1つの腐食防止剤
を含んでいるか、またはこれらから成っている。
【0054】
1つの別の好適な水性液体は、
-少なくとも25重量%および/または最大45重量%の量の水、好適には脱イオン水、
-少なくとも50重量%および/または最大63重量%の量の、少なくとも1つのクエン酸塩、好適にはクエン酸カリウム、
-少なくとも5重量%および/または最大15重量%の量のモノプロピレングリコール、および
-少なくとも2重量%および/または最大5重量%の総量の、少なくとも1つの腐食防止剤
を含んでいるか、またはこれらから成っている。
【0055】
1つの特に好適な実施形態によれば、1つの好適な水性液体は、
-30重量%の量の水、好適には脱イオン水、
-62重量%の量のクエン酸カリウム、
-5重量%の量のモノプロピレングリコール、および
-3重量%の総量の、少なくとも1つの腐食防止剤、好適には少なくとも1つのアゾールを含んでいるか、またはこれらから成っている。
【0056】
有利には、上に示唆した組成物、すなわち、上記の特定の水性液体は、ダンパにおいて、好適には風力タービンのダンパにおいて使用される。
【0057】
組成物、すなわち水性液体の全ての成分は、それらが環境に優しいという利点を有している。したがって、それらは少量では全く毒性を示さない成分であり、腐食性または酸化性でもない。
【0058】
本発明による水性液体は、多種多様な工業用途における使用に適している、という利点を有している。このことは、従来技術の他の代替的な配合物を超える重大な利点をもたらす。
【0059】
上述のように、液体、好適には水の密度を高めることが知られている他の組成物とは異なり、本組成物、特に本水性液体は、人間の健康に有害な影響を全く及ぼさない。
【0060】
さらに、特定の組成物中に塩が存在する結果として、その中に微生物または別の汚染物質または成分が発生することを回避することができる。これにより、多くの場合、使用される水の汚染の問題を伴う化学汚染除去剤の使用が回避されるので、追加的な利点がもたらされる。特定の組成物、特に水性液体に含まれる成分に基づき、特定の組成物、特に水性液体は、凍結することなしに低温(例えば-10℃~-28℃の温度)に耐えるために、特に良好に適している。
【0061】
例:本発明による水性液体の調製
本発明の利点を説明するために、6つの例の水性液体を調製した。
【0062】
【0063】
所定量の脱イオン水に複数の成分を添加して、本発明による水性液体を得た。この水性液体を、室温(25℃)で、均一な混合物が得られるまで撹拌することにより混合した。
【0064】
水性液体の密度を、20℃の温度でプロトン密度計(1.500~1.600s.g.)を使用して測定した結果、1.512kg/Lの試験密度を得た。
【0065】
【0066】
水性液体を、例1に詳述したように調製した。
【0067】
水性液体の密度を、20℃の温度でプロトン密度計(1.500~1.600s.g.)を使用して測定した結果、1.536kg/Lの試験密度を得た。
【0068】
【0069】
水性液体を、例1に詳述したように調製した。
【0070】
水性液体の密度を、20℃の温度でプロトン密度計(1.400~1.500s.g.)を使用して測定した結果、1.437kg/Lの試験密度を得た。
【0071】
【0072】
水性液体を、例1に詳述したように調製した。
【0073】
水性液体の密度を、20℃の温度でプロトン密度計(1.400~1.500s.g.)を使用して測定した結果、1.420kg/Lの試験密度を得た。
【0074】
【0075】
水性液体を、例1に詳述したように調製した。
【0076】
水性液体の密度を、20℃の温度でプロトン密度計(1.400~1.500s.g.)を使用して測定した結果、1.462kg/Lの試験密度を得た。
【0077】
【0078】
水性液体を、例1に詳述したように調製した。
【0079】
水性液体の密度を、20℃の温度でプロトン密度計(1.400~1.500s.g.)を使用して測定した結果、1.495kg/Lの試験密度を得た。
【0080】
-10℃~-28℃の低温において、例1~6に基づき調製された水性液体の凍結は観察されなかった。
【0081】
上記例1、3、4および5について、腐食防止剤は、炭酸塩、ホウ酸塩、モリブデン酸塩、硝酸塩、ケイ酸塩、アミン、スルホン酸塩および/またはアゾールの群から選択された。
【0082】
例1~6による水性液体は、陸上または洋上のいずれかに配置された風力タービンにおける風力変動を緩和するために風力タービン内に成功裏に装備され、海洋波浪を緩和することすら示した。
【0083】
以下に、風力タービンにおけるダンパの一般的な構成を、例示的で極めて概略的な図面を用いて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【
図1】タワーダンパを備えた風力タービンを示す図である。
【0085】
図面の詳細な説明
図1は、基部113および上部114を備えるタワー11を有する風力タービン10を示している。タワー11の上部114には、ナセル12が配置されている。ナセル12には、風力タービン10の発電機(図示せず)とロータ(図示せず)とが収容されている。ナセル12の一方の側に、ハブ14が取り付けられている。ハブ14は、ナセル12に対して回転可能に取り付けられている。ハブ14には3つのロータブレード15が設けられており、そのうちの2つが
図1に示されている。風力タービン10は、ギヤボックスを備えていない直接駆動式の風力タービンであるか、またはギヤボックスを備えたギヤ式の風力タービンであってよい。
【0086】
タワー11の高さは、典型的には70メートル超である。したがって、タワー10の基部113とタワー10の上部114とをつなぐエレベータ13を設けることが便利である。エレベータ13は基本的に、ナセル12、ハブ14またはロータブレード15にアクセスする必要がある保守人員のために使用される。択一的に、階段またははしごがタワー11の内部に設置されてもよい。エレベータ13が必要とし占有するスペースは、エレベータ13用のスペース16と呼ばれる。タワー11の上部114付近に、環状体の形状を有するダンパ20が配置されている。ダンパのその他の様々な形状、例えば直方体形状または円筒形状も可能である。ダンパ20は、本発明による水性液体30で満たされた容器40を有している。ダンパ20は、エレベータ13用のスペース16付近に配置されている。
【0087】
ダンパ20の課題は、タワー11の運動を減衰させる、すなわち低減させることにある。これらの運動は、タワー11に対して垂直な平面内での線形運動あるいは円形または楕円形運動であり得る。運動は、振動運動でもあり得る。水性液体30の質量に基づき、タワー11の運動に抗して作用する力が、この運動を減衰する。ダンパ20は、前記発明の説明において説明したように、水性液体30を含んでいる。
【国際調査報告】