(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-20
(54)【発明の名称】サークルcDNA増幅によって遺伝子融合を同定するための方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6876 20180101AFI20230113BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20230113BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALI20230113BHJP
C12Q 1/6844 20180101ALI20230113BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20230113BHJP
C12Q 1/6853 20180101ALI20230113BHJP
C12N 9/22 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
C12Q1/6876 Z
C12Q1/02 ZNA
C12Q1/6869 Z
C12Q1/6844 Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/6853 Z
C12N9/22
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022529558
(86)(22)【出願日】2020-11-16
(85)【翻訳文提出日】2022-07-11
(86)【国際出願番号】 US2020060712
(87)【国際公開番号】W WO2021101835
(87)【国際公開日】2021-05-27
(32)【優先日】2019-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507166520
【氏名又は名称】ワン,シャオ・ビン
(71)【出願人】
【識別番号】522198586
【氏名又は名称】リー シャオ フェイ
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100212509
【氏名又は名称】太田 知子
(72)【発明者】
【氏名】ワン シャオ ビン
(72)【発明者】
【氏名】リー シャオ フェイ
【テーマコード(参考)】
4B050
4B063
【Fターム(参考)】
4B050CC07
4B050LL03
4B063QA17
4B063QQ42
4B063QQ58
4B063QR08
4B063QR14
4B063QR62
4B063QS25
4B063QX02
(57)【要約】
1つの実施形態は、cDNAサークルを創出し、サークルcDNAを増幅またはシーケンシングによって分析することによって、公知のおよび未知の遺伝子融合を同定する方法を提供する。サークルcDNAは、2種の手法で創出される:1)標的RNAをcDNAに逆転写し、cDNAの3’末端をその5’末端にライゲートしてサークルcDNAを形成する、または2)標的RNAの3’末端をその5’末端にライゲートしてサークルRNAを形成し、RNAをcDNAに逆転写し、cDNAをライゲートしてサークルcDNAを形成する。サークルcDNAは、ローリングサークル増幅またはPCR法によって、野生型標的遺伝子の公知の配列から設計されるプライマーを使用して増幅される。サークルcDNAにおける公知のまたは未知の融合遺伝子配列は、シーケンシング分析によって増幅および同定される。
【
図1A】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
公知のおよび未知の遺伝子融合を検出する方法であって、
a.標的とする核酸の3’末端またはポリAテールにおける配列に相補的なRTプライマーを提供する工程;
b.RTプライマーを、標的とする核酸にハイブリダイズさせて、DNA-RNA二重鎖を形成する工程であって、RTプライマーは、標的とする核酸の3’末端またはポリAテールにおける配列に相補的である、工程;
c.RTによってcDNAを酵素的に合成する工程;
d.cDNAの3’末端をその5’末端にライゲートして、環状cDNAを形成する工程;
e.RTプライマーの下流にある標的とするcDNAの非融合配列に相補的な配列を有するサークル切断プライマーを提供する工程であって、前記プライマーは、エンドヌクレアーゼによって認識および切断され得る配列を含有する、工程;
f.サークル切断プライマーを、環状cDNAにおける遺伝子融合を有する疑いがある領域にハイブリダイズさせて、エンドヌクレアーゼ切断部位を形成する工程;
g.エンドヌクレアーゼを用いて非融合サークルcDNAを切断する工程;
h.ローリングサークル増幅またはPCR法を使用して、切断されていないサークルcDNAを増幅する工程;
i.増幅または増幅産物のシーケンシング分析によって遺伝子融合を検出する工程
を含む、方法。
【請求項2】
公知のおよび未知の遺伝子融合を検出する方法であって、
a.mRNAの3’末端をその5’末端にライゲートして、環状mRNAを形成する工程;
b.RTプライマーを環状mRNAにハイブリダイズさせて、DNA-RNA二重鎖を形成する工程;
c.逆転写によってRTプライマーを伸長させて、cDNAを合成する工程;
d.cDNAの3’末端をその5’末端にライゲートして、環状cDNAを形成する工程;
e.サークル切断プライマーを、環状cDNAにおける遺伝子融合を有する疑いがある領域にハイブリダイズさせて、エンドヌクレアーゼ切断部位を形成する工程であって、サークル切断プライマーは、RTプライマーの下流にある標的とするcDNAの非融合配列に相補的な配列を有し、前記プライマーは、エンドヌクレアーゼによって認識される配列を含有する、工程;
f.エンドヌクレアーゼを用いて非融合サークルcDNAを酵素的に切断する工程;
g.ローリングサークル増幅またはPCR法を使用して、切断されていないサークルcDNAを増幅する工程;および
h.増幅または増幅産物のシーケンシング分析によって遺伝子融合を検出する工程
を含む、方法。
【請求項3】
標的核酸がRNAまたはDNAを含む、請求項1および2に記載の方法。
【請求項4】
前記プライマーが、DNAまたはDNA-RNAキメラを含み、少なくとも6個またはそれよりも多いヌクレオチドを有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
プライマーが1種または1群のプライマーであり得る、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
プライマーが、単離、ライゲーション、増幅、シーケンシング、および検出の目的のために、部分を用いて修飾される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
部分が、ビオチン、ジゴキシゲニン、タンパク質タグ、酵素、核酸のフラグメントからなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
サークル切断プライマーが、RTプライマーの下流における野生型のcDNAに相補的な配列を有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項9】
サークル切断プライマーが、エンドヌクレアーゼによって認識され得、サークルcDNAとハイブリダイズした場合にエンドヌクレアーゼ切断部位を形成する配列を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項10】
エンドヌクレアーゼが、制限エンドヌクレアーゼ、ニッキング酵素またはニック活性を有する酵素、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、およびcrisper-cas9系からなる群から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項11】
サークル切断プライマーが、標的cDNAとミスマッチであり、サークルcDNAとミスマッチDNA-DNA二重鎖を形成する配列を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項12】
ミスマッチDNA-DNA二重鎖が、T4エンドヌクレアーゼ、T7エンドヌクレアーゼI、CELヌクレアーゼを含むがそれらに限定されない、すべてのタイプのミスマッチ配列を認識および切断する酵素によって切断され得る、請求項12に記載の方法。
【請求項13】
サークル切断プライマーが、RNAサークルにハイブリダイズしてDNA-RNA二重鎖を形成し、RNAサークルが、RNase HのようなDNA依存的RNaseによる消化によって切断される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項14】
cDNA合成に使用される酵素が、M-MuLV逆転写酵素およびAMV逆転写酵素を含むがそれらに限定されない、RNA鋳型を使用してDNAを合成し得る逆転写酵素またはDNAポリメラーゼである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項15】
ライゲーションが、CircLigase、T4 DNAリガーゼ、T4 RNAリガーゼ、耐熱性5’App DNA/RNAリガーゼ、およびRtcBリガーゼのような、一本鎖核酸の3’末端をその5’末端にライゲートして環状核酸を形成し得る酵素によって実施される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項16】
増幅が、cDNAの非融合配列に相補的なプライマーを用いたローリングサークル増幅によって実施される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項17】
増幅が、Phi29ポリメラーゼ、Bstラージフラグメント、およびT7 RNAポリメラーゼのような、鎖置換活性を有するポリメラーゼによって実施される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
増幅が、標的とするcDNAまたはmRNAに相補的なプライマーを使用するPCR法によって実施される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項19】
シーケンシング分析が、核酸の配列を同定することを可能にする任意のタイプのシーケンシング法であり得る、請求項1または2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照によりその全体として本明細書に組み入れられる、2019年11月19日に出願された米国仮特許出願第62/974,193号に対する利益および優先権を主張する。
【0002】
本発明の態様は、核酸アッセイの分野、特に生物学的サンプルに存在する特異的標的核酸の増幅および検出に関する。
【背景技術】
【0003】
遺伝子融合または転座は、様々な遺伝性障害を引き起こす染色体異常の1種である。他のタイプの変異とは異なり、遺伝子融合は「ホットスポット」特徴を示さず、それぞれの場合は、異なるエクソンにおいて異なる断裂点を有する異なる融合遺伝子パートナーまたは同じ融合パートナーを有する。融合遺伝子を検出するための一般的方法には、蛍光インサイチューハイブリダイゼーション(FISH)およびポリメラーゼ連鎖反応(PCR)が含まれる。これらの方法は、公知の融合遺伝子から設計されるプライマーまたはプローブを要する。しかしながら、多くの場合、遺伝子は多様な融合パートナーを有し得、例えば白血病におけるMLL遺伝子は、150種を上回る同定された融合パートナーおよび潜在的に多くの未知の融合パートナーを有することが公知である。加えて、各融合パートナーは、異なる断裂点を有する。これらのパートナーのすべてを同定するためのプローブまたはプライマーを設計することは困難であろう。長距離インバースPCR(LDI-PCR)法は、公知の遺伝子由来のプライマーを使用して、未知の融合を同定することを可能にする代替法である。この方法は二本鎖DNAに限定され、それは、標的遺伝子および融合遺伝子における制限酵素切断部位に依存する。方法は、分析のために大量の非融合サークルを生み出し、長距離PCRは、増幅およびシーケンシングの失敗を引き起こすであろう。これらの制約は、臨床適用のための方法を制限する。
近年、次世代シーケンシング(NGS)が遺伝子融合の分析に使用されている;しかしながら、NGS法は多くの工程を伴い、それが分析の複雑性を増加させ、人為的結果も生み出し得る。NGS法は、融合分析に対して、時間がかかり、費用がかかり、かつ効率が悪い。
融合パートナーの同定は、疾患診断、治療モニタリング、および薬物開発に対する有用なマーカーであろう。しかしながら、短期間に簡単な試験を用いてこれらの融合パートナーを分析し得る方法はない。
それゆえ、簡単な試験で任意の公知のまたは未知の融合パートナーを分析し得る効率的な方法を提供することが本発明の目的である。
【発明の概要】
【0004】
1つの実施形態は、cDNAサークルを創出し、サークルcDNAを増幅またはシーケンシングによって分析することによって、公知のおよび未知の遺伝子融合を同定する方法を提供する。サークルcDNAは、2種の手法で創出される:1)標的RNAをcDNAに逆転写し、cDNAの3’末端をその5’末端にライゲートしてサークルcDNAを形成する、または2)標的RNAの3’末端をその5’末端にライゲートしてサークルRNAを形成し、環状RNAをcDNAに逆転写し、cDNAをライゲートしてサークルcDNAを形成する。サークルcDNAは、野生型標的遺伝子の公知の配列から設計されるプライマーを使用して増幅される。サークルcDNAにおける公知のまたは未知の融合遺伝子配列は、シーケンシング分析によって増幅および同定される。
別の実施形態は、遺伝子を含有するサークルcDNAを濃縮する方法を提供する。方法は、環状cDNAの野生型配列に相補的なプライマーを設計する工程を含む。プライマーは、エンドヌクレアーゼ認識配列を含有し、プライマーは、野生型サークルcDNA内にエンドヌクレアーゼ切断部位を形成する。エンドヌクレアーゼは、野生型サークルcDNAを切断するが、融合含有サークルDNAを切断しない。切断されていないサークルcDNAの増幅およびシーケンシング分析は、公知のまたは未知の遺伝子融合の存在を示すであろう。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1A-1C】融合mRNAの逆転写および環状cDNAの形成を示した略図である。
図1Aは、遺伝子融合を有しない環状cDNAを示している。
図1Bは、3’末端遺伝子融合を有する環状cDNAを示している。
図1Cは、5’末端遺伝子融合を有する環状cDNAを示している。
図1Dは、RNAサークルからのサークルcDNA形成を示している。
【
図2A-2D】サークル切断プライマーを使用することによる環状cDNAの切断を示した略図である。
図2Aは、融合遺伝子を有しないサークルcDNAの切断を示している。
図2Bは、3’末端融合を有するサークルcDNAの切断なしを示している。
図2Cは、融合遺伝子を有しないサークルcDNAの切断を示している。
図2Dは、5’末端融合を有するサークルcDNAの切断なしを示している。
【
図3A-3D】環状cDNAの増幅を示した略図である。
図3Aは、ローリングサークル増幅による3’末端融合の増幅を示している。
図3Bは、ローリングサークル増幅による5’末端融合の増幅を示している。
図3Cは、インバースPCRによる3’末端融合の増幅を示している。
図3Dは、インバースPCRによる5’末端融合の増幅を示している。
【
図4】実施例において使用された核酸配列のリストである。
【
図5A】ABL1Rプライマー(△)、Bcr Rプライマー(*)、および対照を使用したローリングサークル増幅の結果を示した、蛍光対時間(分)の線グラフである。
【
図5B】インバースPCRによる増幅を示したゲルの写真である。
【
図6】融合を含有するcDNAの濃縮を示したゲルの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
発明の詳細な説明
I.定義
「核酸」という用語は、RNA、DNA、および/またはRNA-DNAキメラを指す。
【0007】
「RT」という用語は、逆転写を指す。
「RT酵素」という用語は、M-MuLV逆転写酵素およびAMV逆転写酵素を含むがそれらに限定されない、RNAを鋳型として使用してcDNAを合成し得る酵素を指す。
「プライマー」という用語は、標的遺伝子に相補的な配列を含有し、逆転写または増幅に使用される、DNAまたはDNA-RNAキメラのフラグメントを指す。
「RTプライマー」という用語は、逆転写に使用されるプライマーを指す。
【0008】
「野生型遺伝子または配列」という用語は、変異または遺伝子融合配列を含有しない遺伝子または配列を指す。
「5’末端融合」という用語は、標的遺伝子の5’末端に位置する遺伝子融合パートナーを指す。
「3’末端融合」という用語は、標的遺伝子の3’末端に位置する遺伝子融合パートナーを指す。
【0009】
「部分」という用語は、RNA、DNA、またはdNTPを標識するまたは修飾するために使用される分子を指し、ビオチン、ジゴキシゲニン、タンパク質タグ、酵素、核酸のフラグメントを含むが、それらに限定されない。
【0010】
II.遺伝子融合を検出する
1つの実施形態は、標的とする遺伝子における公知のおよび未知の遺伝子融合パートナーを検出する方法を開示する。標的とする遺伝子はRNAまたはDNAであり得、好ましくは標的とする遺伝子はmRNAである。RTプライマーは、cDNAを合成するように、標的とするmRNAの逆転写用に設計される。プライマーは、標的とするmRNAの3’末端またはmRNAのポリAテールに相補的である配列を有する。一部の実施形態において、プライマーは、DNAまたはRNAまたはDNA-RNAキメラである。1つの実施形態において、プライマーは、少なくとも6個またはそれよりも多いヌクレオチドを有する。一部の実施形態において、プライマーは1種または1群のプライマーである。複数のプライマーが使用される場合、プライマーは、標的とする遺伝子の異なる領域または異なるエクソンに相補的である。一部の実施形態において、プライマーは、同定、単離、ライゲーション、増幅、およびシーケンシングに使用され得る1種または複数の部分を用いて修飾される。一部の実施形態において、プライマーは、配列特異的領域(sequence specific portion)およびアダプター領域(adapter portion)という少なくとも2種の領域を含有する。配列特異的領域は標的とする遺伝子に相補的であり、アダプター領域は、同定、単離、増幅、およびシーケンシングに使用される1種または複数の配列を含有する。一部の実施形態において、方法は、1種または複数のRTプライマーを標的とする遺伝子にハイブリダイズさせて、DNA-RNA二重鎖を形成する工程であって、ハイブリダイゼーションの箇所は、標的とするmRNAの3’末端またはポリAテールにおけるエクソンに位置する、工程を含む。一部の実施形態において、方法は、RTプライマーを酵素的に伸長させて、cDNA鎖を合成する工程を含む。この反応に使用される酵素は、逆転写酵素、またはRNA鋳型を使用してDNAプライマーを伸長させ得る他の酵素であり、M-MuLV逆転写酵素およびAMV逆転写酵素を含むが、それらに限定されない。cDNAが合成された後、方法は、RNase Hまたはアルカリ性試薬を用いた処理等の酵素的または化学的方法を使用することによって、標的mRNA鋳型を除去する工程を含む。次いで、リガーゼを使用してcDNAの3’末端をその5’末端にライゲートすることによって、cDNAを使用して環状cDNAを形成する。一部の実施形態において、環状cDNAは、mRNAの3’末端をその5’末端に直接ライゲートしてサークルRNAを形成する代替法によって形成される。方法は、RTプライマーを環状RNAにハイブリダイズし、次いで逆転写によってcDNAを合成する工程を含む。RNA依存的リガーゼを使用して、cDNAをライゲートして環状cDNAを形成する。
【0011】
サークルcDNA形成に使用されるリガーゼは、鋳型の有無にかかわらず、核酸の3’末端を5’末端にライゲートし得る任意の酵素である。例示的な酵素には、CircLigase、CircLigase II、T4 DNAリガーゼ、T4 RNAリガーゼ、耐熱性5’App DNA/RNAリガーゼ、およびRtcBリガーゼが含まれるが、それらに限定されない。
【0012】
サークル切断プライマーは、融合配列を有するサークルcDNAを濃縮するように設計される。プライマーは、RTプライマーの3’下流におけるcDNAの非融合領域に相補的である。一部の実施形態において、プライマーはエンドヌクレアーゼ認識配列を含有する。5’末端融合を有するサークルcDNAを濃縮するために、サークル切断プライマーは、標的とするcDNAの非融合配列の5’末端にハイブリダイズするように設計される。3’末端融合を有するサークルcDNAを濃縮するために、サークル切断プライマーは、標的とするcDNAの非融合配列の3’末端にハイブリダイズするように設計される。サークル切断プライマーは、サークルcDNAにハイブリダイズして、野生型サークルcDNAとともに二本鎖エンドヌクレアーゼ切断部位を形成し、次いで野生型サークルcDNAはエンドヌクレアーゼによって切断される。
環状cDNAにおけるサークル切断プライマーの結合配列が、融合遺伝子によって置換された場合、サークル切断プライマーは、もはやサークルcDNAにハイブリダイズすることはなく、サークルcDNAは、エンドヌクレアーゼによって切断されることはない。切断に使用される酵素は、二重鎖を認識および切断するエンドヌクレアーゼである。一部の実施形態において、酵素は、特異的制限エンドヌクレアーゼおよびニッキング酵素を含むがそれらに限定されない、任意のエンドヌクレアーゼである。
【0013】
サークル切断プライマーは、標的とする配列の野生型配列とミスマッチである1個または複数のヌクレオチドを含有するミスマッチプライマーでもあり得る。一部の実施形態において、プライマーは、野生型サークルcDNAとミスマッチ二重鎖を形成し、次いで二重鎖は、ミスマッチ配列を切断する酵素によって認識および切断される。この工程における使用のための例示的な酵素には、Surveyorヌクレアーゼ、CELヌクレアーゼ、T4エンドヌクレアーゼVII、T7エンドヌクレアーゼI、およびエンドヌクレアーゼVが含まれるが、それらに限定されない。
【0014】
一部の実施形態において、融合濃縮工程は、非融合領域でサークル切断プライマーを標的とするRNAまたはサークルRNAにハイブリダイズさせることによって、RNAまたはRNAサークルに対しても実施され得る。一部の実施形態において、非融合サークルRNA配列は、次いで、RNase Hを含むがそれに限定されないDNA依存的RNaseを用いた消化によって切断される。
一部の実施形態において、サークル切断プライマーは、1種または複数のプライマーであり、標的とするcDNAまたはRNAに相補的な配列の少なくとも一部を有する。一部の実施形態において、サークル切断プライマーは、部分を用いて修飾され、プライマー伸長を遮断し、または単離および/もしくは検出を支援する。一部の実施形態において、環状cDNAは、次いで、ローリングサークル増幅またはPCR法によって増幅される。一部の実施形態において、増幅用のプライマーは、標的とするcDNAの非融合領域(non-fusion portion)またはRTプライマーにハイブリダイズするように設計される。5’末端融合遺伝子を有するcDNAを検出するために、増幅プライマーはcDNAの3’末端非融合領域に位置する。3’末端融合遺伝子を有するcDNAを検出するために、増幅プライマーはcDNAの5’末端非融合領域に位置する。
【0015】
ローリングサークル増幅法に関して、プライマーは、RTプライマー、または標的とするサークルcDNAの任意の非融合領域に相補的であるように設計される。PCR法に関して、インバースプライマーのセットは非融合領域において設計され、順方向プライマーは、非融合cDNAの配列に相補的であり、逆方向プライマーは、順方向プライマーに隣接し、非融合cDNAと同一の配列を有し、ポリメラーゼは、サークルcDNAを鋳型として使用して順方向プライマーを伸長させ、伸長は、ライゲーション地点を交差し、順方向プライマーの5’末端で終わり、逆方向プライマーは、伸長した鎖の3’末端にハイブリダイズし、鎖を複製する。
【0016】
一部の実施形態において、増幅産物は、任意のシーケンシング法によって分析され、配列結果は、公知のまたは未知の遺伝子融合パートナーの存在を示す。シーケンシング分析を実施するために、RTプライマーまたは増幅プライマーは、シーケンシングのためのアダプター配列を含有する領域を有するように設計される。ローリングサークル増幅産物は、RTプライマーまたはローリングサークル増幅プライマー上のアダプター配列により、Nanopore(登録商標)シーケンシング技法等の第3世代シーケンシング分析に直接適用され得る。PCR産物は、RTプライマーまたはローリングサークル増幅プライマーのアダプター配列により、次世代シーケンシングによって分析され得る。
別の実施形態は、本明細書に開示される方法を使用して遺伝子融合を検出するために必要とされるすべての試薬、例えば実施例において使用されるおよび本明細書に記載される試薬を含有するキットを提供する。1つの実施形態において、キットは、容器内に、プライマー、逆転写酵素、蛍光標識等の検出標識、エンドヌクレアーゼ、およびバッファーを含む。1つの実施形態において、キットは、本明細書に開示される方法を使用して遺伝子融合を検出するための書面の使用説明書を含む。
【実施例】
【0017】
(実施例1)
cDNAサークルライゲーションおよび増幅による融合の同定
材料および方法
転座t(9;22)(q34;q11.2)によって特徴付けられるCML患者由来の細胞株サンプルをこの実験に使用し、細胞株は、Bcr(エクソン6)-ABL1(エクソン2)融合と過去に判定されている。RNAを市販のRNA抽出キット(Qiagen(登録商標))を使用して抽出し、最終溶出容量は50μlであった。10μlの最終溶出液を逆転写(RT)に使用した。RTプライマーを、ABL1遺伝子のエクソン2に相補的であるように設計した(
図4)。2種の伸長遮断プライマー(ebプライマー)を、BcrおよびABL1遺伝子上でのRTプライマーのさらなる伸長を遮断するように設計した。eb-Bcrプライマーは、Bcr遺伝子のエクソン4に相補的であり、eb-ABL1プライマーは、ABL1遺伝子のエクソン1に相補的である(
図4)。RTミックスにおけるプライマーの最終濃度は、RTプライマーに関して300nM、およびebプライマーに関して600nMであった。RT反応を、市販のFirst strand cDNA synthesis kit(New England Biolab)を使用して37℃で1時間実施した。
【0018】
逆転写後、1μlのRNase H(New England Biolab)を反応ミックスに添加し、37℃で30分間インキュベートした。次いで、反応ミックスを95℃で5分間加熱することによって、酵素を不活性化した。サークルcDNA形成をCircligase(商標)を使用して実施し、総反応容量は、15μlのRT反応ミックス、1×ライゲーションバッファー、2.5mM MnCl、10U Circligase II(Lucigen(商標))を含んで20μlであった。次いで、混合液を60℃で2時間インキュベートした。
【0019】
ライゲーション後、サークルcDNAを、ローリングサークル増幅およびPCR法によって増幅した。ローリングサークル増幅に関しては、単一プライマー(ローリングプライマー)を、ABL1遺伝子に対してまたはBcr遺伝子に対して設計した。ABL1ローリングプライマーは、ABL1 cDNAのエクソン2に相補的であり、Bcrローリングプライマーは、Bcr cDNAのエクソン6に相補的である。増幅を、ローリングプライマー、QuantiFluor(登録商標)色素、dNTP、反応バッファー、phi29 DNAポリメラーゼ、および10μlの最終ライゲーション産物を含む50μlの反応ミックスにおいて実施した。反応を、リアルタイムサーモサイクラーにおいて30℃で45分間実施した。
【0020】
サークルcDNAをPCR法によっても増幅した。インバースプライマーセットを、サークルcDNAを特異的に増幅するように設計した。ABL1プライマーセットの箇所は、ABL1 cDNAのエクソン2に位置し、順方向プライマーは、RTプライマーの配列に相補的であった。逆方向プライマーは、RTプライマーの隣接配列の下流にあるcDNAと同一の配列を有する。
【0021】
結果
両ローリングプライマーは増幅を示す。増幅産物は、一本鎖DNA/RNA結合色素の蛍光強度によって表される。サークルcDNAの増幅を表すABL1ローリングプライマーによる増幅は、ABL1遺伝子のみを含有し、サークルは、ABL-Bcr融合遺伝子を含有する。Bcrローリングプライマーによって増幅されたシグナルは、Bcr-ABL1遺伝子融合の増幅を表す(
図5A)。ライゲートしていないcDNAを増幅対照として使用し、両プライマーからの増幅はなかった(
図5A)。結果は、方法が、標的遺伝子の公知の配列由来の単一プライマーを使用することによって融合遺伝子を増幅できることを示した。
【0022】
サークルcDNAのPCR増幅は、2種の異なる増幅産物を示す。190bpの産物は、エクソン2およびエクソン1の部分的配列を含む、野生型のABL1遺伝子の増幅である。この増幅は、野生型サンプルおよびBcr-ABL1融合サンプルによって確認される。285bpの産物は、ABL1遺伝子のエクソン2、ならびにBcr遺伝子のエクソン6、エクソン5、およびエクソン4の部分的配列を含む、Bcr-ABL1融合遺伝子の増幅である(
図5B)。ABL1 PCRによるBcr融合遺伝子の増幅は、Bcr遺伝子のエクソン5に対して設計されたBcr特異的インバースPCRプライマーを使用することによっても確認される。ライゲートしていないサンプルにおいて増幅は観察されない。ABL1インバースプライマーセットの増幅は、cDNAサークルがBcr-ABL1融合遺伝子を含有することを示した。
【0023】
(実施例2)
融合cDNAサークルの濃縮
材料および方法
サークルcDNAを、実施例1に開示される手順を使用して作出した。サークルライゲーションは、融合サンプルから2種の異なるタイプのサークルcDNAを作出した。一方のタイプは野生型配列(野生型サークル)のみを含有し、もう一方は融合遺伝子を含有する。融合遺伝子を有するサークルcDNAを濃縮するために、サークル切断プライマーを、野生型サークルを切断するように設計した。プライマーは、ABL1遺伝子のエクソン1に相補的である。サークル形成後、1μlのサークル切断プライマーを、15μlのサークルcDNAに添加し(最終濃度300nM)、混合した。混合液を95℃で3分間加熱した。プライマーを50℃で10分間アニールし、野生型サークルとの二重鎖を形成し、Hind III認識部位を創出した。次いで、二重鎖を、Hind IIIおよびエキソヌクレアーゼ(New England Bio Labs)を含む反応ミックスにおいて37℃で1時間消化して、野生型サークルを切断した。酵素消化を停止させるために、サンプルを95℃で5分間加熱して、酵素を不活性化した。次いで、サークルcDNAミックスをインバースPCR増幅に供した。増幅に使用されたPCRプライマーセットは、実施例1において使用された同じプライマーセットであった。
【0024】
結果
結果は、野生型ABL1遺伝子の増幅が、酵素消化の後に消えたことを示している。しかしながら、Bcr-ABL1融合遺伝子の増幅は、影響を受けなかったまたは増強された。結果は、野生型サークルcDNAが、酵素処理によってcDNAミックスから除去されることを示す。サークルcDNAは、cDNAミックスにおいて濃縮され、より効率的に増幅されたBcr-ABL1融合遺伝子を含有する。
前述の明細書において、本発明は、そのある特定の実施形態との関連で記載されており、多くの詳細が例示の目的のために提示されているものの、本発明が、付加的な実施形態の影響を受けやすいこと、および本明細書に記載されるある特定の詳細は、本発明の基本的原理から逸脱することなく相当に変動し得ることは、当業者に明白であろう。
【0025】
本明細書において引用されるすべての参考文献は、参照によりそれらの全体として組み入れられる。本発明は、その精神または本質的属性から逸脱することなく、他の特定の形態において具体化され得、したがって、本発明の範囲を示すものとして、前述の明細書よりもむしろ添付の特許請求の範囲への参照がなされるべきである。
【配列表】
【国際調査報告】