(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-23
(54)【発明の名称】化学的殺生物剤を使用しない無菌細胞処理および産生
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20230116BHJP
【FI】
C12M1/00 C
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022523273
(86)(22)【出願日】2020-10-22
(85)【翻訳文提出日】2022-04-18
(86)【国際出願番号】 US2020056836
(87)【国際公開番号】W WO2021081188
(87)【国際公開日】2021-04-29
(32)【優先日】2019-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】522156287
【氏名又は名称】バイオスフェリクス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヤーデン、ランディー
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA01
4B029AA17
4B029AA19
4B029BB11
4B029CC02
4B029DB19
4B029DG04
(57)【要約】
エンクロージャ全体の湿度を25%相対湿度(RH)以下、好ましくは20%または15%RH以下に制御することによって、化学的殺生物剤を使用しない非滅菌エンクロージャ装置での無菌処理および細胞の産生の方法および装置が開示される。さらに、温度は37°Cに制御され、一貫したガス流がエンクロージャ内で維持される。エンクロージャ内の環境モニタリングによって検出された微生物汚染からのコロニー形成単位は、この方法により著しく減少する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
殺生物剤を使用しないほぼ無菌のエンクロージャ装置における無菌処理および細胞の産生の方法であって、
a.エンクロージャ装置内の少なくとも1つのチャンバが、原核細胞または真核細胞の最適なエクスビボ培養、増殖、処理または輸送に適合したほぼ無菌の環境を提供する複数のチャンバを有し、大気ガス、相対湿度(RH)、温度、およびガス循環を正確に制御することができ、
前記方法は、
b.前記少なくとも1つのチャンバの前記RHを20%以下に調整するステップと、
c.前記少なくとも1つのチャンバの前記温度を37°Cまたは細胞にとって準最適ではない他の高温に調整するステップと、
を含み、
d.細胞にとって準最適ではないほぼ連続的に流れる雰囲気が、前記少なくとも1つのチャンバ全体にわたってRHを混合および均質化し、
e.前記少なくとも1つのチャンバ内の前記RH、温度および流れる雰囲気は、前記少なくとも1つのチャンバ内の任意の微生物の急速な乾燥によって物理的抗菌効果を誘発し、前記少なくとも1つのチャンバ内の任意の表面へのすべての微生物の付着による死滅または固定化をもたらし、それによって微生物の再生が防止され、浮遊する生存可能な望ましくない微生物を検出することができず、
f.前記細胞の培養、成長、処理または輸送に必要な前記少なくとも1つのチャンバ内の任意のより高いRHは、必要な最短期間に必要以下の前記RHレベルに制御され、次いで、直ちに前記RHを20%以下に戻し、
g.前記細胞の培養、増殖、処理、または輸送に必要な前記少なくとも1つのチャンバ内の任意のより低い温度が、必要な最短時間の間に必要以上の温度に制御され、次いで、細胞にとって準最適ではない約37°Cの高温に直ちに戻り、
h.(a)最初の閉鎖時、ならびに前記エンクロージャ装置の各周期的な開放および再閉鎖後、前記エンクロージャ内のすべての領域、大気、および表面は急速に乾燥されるか、または(b)任意の材料または装置は、前記外部環境から前記エンクロージャ内に移動すると、急速に乾燥される、
方法。
【請求項2】
前記相対湿度が15%以下または10%以下に制御される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記エンクロージャ装置が、モノリシックもしくはモジュール式に恒久的に接続された、または一時的に接続されたチャンバ間の内部ドアによって区画化された、2つ以上の相互接続されたチャンバ、コチャンバ、およびサブチャンバを備える、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記RH、温度、および流れる雰囲気が、前記エンクロージャ装置内の任意の他のチャンバとは独立して各チャンバに対して制御される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記エンクロージャ装置が、固定式または可動式である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記エンクロージャ装置が、剛性もしくは可撓性の壁、金属もしくはプラスチックの壁、またはそれらの任意の組み合わせで作製される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記内面が疎水性または親水性である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
ポリエチレン、ポリプロピレン、ステンレス鋼、およびガラスから選択される材料から作製された前記収容環境内の内面をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記エンクロージャ装置が、エンクロージャ内部の制御を損なわない通路内に密封または半密封された恒久的または一時的な壁を介した機能的または物理的入力/出力を装備する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
正確に制御され得る前記エンクロージャ装置内の前記大気ガスが、酸素、窒素、二酸化炭素、一酸化窒素、一酸化炭素から構成され、VOC、微粒子、および圧力を正確に制御することができる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
酸素レベルが0.1%~35%v/vであり、二酸化炭素が0.1%~20%v/vである、前記収容された環境の雰囲気をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
細胞が、密閉されたポートを介してグローブもしくは遠隔操作器によって手動で、または統合されたプロセスおよび分析機械によって、または完全もしくは部分的な自動化によって処理され、前記エンクロージャ内で産生される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記細胞が真核細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記真核細胞が哺乳動物細胞である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記哺乳動物細胞がヒト細胞である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記エンクロージャ内の沈降プレートまたは活性空気サンプリングプレートを用いた環境モニタリングによって測定される場合、乾燥耐性微生物の測定可能なCFU(コロニー形成単位)が検出されない、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
沈降プレート、活性空気サンプリングプレート、またはコントラクトプレートを用いた環境モニタリングによって測定される場合、乾燥しやすい微生物の測定可能なCFU(コロニー形成単位)が検出されない、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
殺生物剤を使用しない非滅菌エンクロージャ装置での無菌処理および細胞の産生のための環境であって、前記環境では、
a.エンクロージャ装置内の少なくとも1つのチャンバが、原核細胞または真核細胞の最適なエクスビボ培養、増殖、処理または輸送に適合したほぼ無菌の環境を提供する複数のチャンバを有し、大気ガス、相対湿度(RH)、温度、およびガス循環を正確に制御することができ、
b.前記少なくとも1つのチャンバの前記RHが20%以下に調整され、
c.前記少なくとも1つのチャンバの前記温度が37°Cまたは細胞にとって準最適ではない他の高温に調整され、
d.細胞にとって準最適ではないほぼ連続的に流れる雰囲気が、前記少なくとも1つのチャンバ全体にわたってRHを混合および均質化し、
e.前記少なくとも1つのチャンバ内の前記RH、温度および流れる雰囲気は、すべての微生物の急速な乾燥によって物理的抗菌効果を誘発し、その結果、ほとんどの微生物が死滅し、表面上のすべての微生物がその表面に付着することによって固定化され、すべての微生物の再生が防止され、浮遊する生存可能な望ましくない微生物を検出することができず、
f.前記細胞の培養、成長、処理または輸送に必要な前記少なくとも1つのチャンバ内の任意のより高いRHは、必要な最短期間に必要以下の前記RHレベルに制御され、次いで、直ちに前記RHを20%以下に戻し、
g.前記細胞の培養、増殖、処理、または輸送に必要な前記少なくとも1つのチャンバ内の任意のより低い温度が、必要な最短時間の間に必要以上の温度に制御され、次いで、細胞にとって準最適ではない約37°Cの高温に直ちに戻り、
h.(a)最初の閉鎖時、ならびに前記エンクロージャ装置の各周期的な開放および再閉鎖後、前記エンクロージャ内のすべての領域、大気、および表面は急速に乾燥されるか、または(b)任意の材料または装置は、前記外部環境から前記エンクロージャ内に移動すると、急速に乾燥される、
環境。
【請求項19】
前記エンクロージャ内の沈降プレートまたは活性空気サンプリングプレートを用いた環境モニタリングによって測定される場合、乾燥耐性微生物の測定可能なCFU(コロニー形成単位)が検出されない、請求項18に記載の環境。
【請求項20】
沈降プレート、活性空気サンプリングプレート、またはコントラクトプレートを用いた環境モニタリングによって測定される場合、乾燥しやすい微生物の測定可能なCFU(コロニー形成単位)が検出されない、請求項18に記載の環境。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年10月22日に出願された米国特許出願第62/924,322号の優先権を主張し、その全内容は参照により組み込まれる。
【0002】
本開示は、化学的殺生物剤を使用せずに、かつ細胞を準最適条件にさらすことなく、湿度、温度および空気流を調整することによって、非滅菌装置で無菌的に細胞を処理および産生する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
細胞培養は、典型的には哺乳動物細胞であるがこれに限定されない細胞を、体内の自然環境外の制御された条件下で増殖させ、取り扱うプロセスである。目的の細胞が生体組織から単離された後、それらはその後、慎重に制御された条件下で維持され得る。これらの条件は、細胞タイプごとに異なるが、一般に、必須栄養素(アミノ酸、炭水化物、ビタミン、ミネラル)、成長因子、ホルモン、およびガス(CO2、O2)を供給する基質または培地、ならびにそれらの細胞に最適なレベルでの生理化学的環境(pH緩衝液、浸透圧、温度)の調節を有する適切な容器からなる。
【0004】
細胞は、研究における多くの用途のうちのいくつかを挙げると、創薬、癌生物学、再生医療開発、および基礎生命科学研究において使用される。工業的な細胞は、ワクチンおよび生物製剤の製造、細胞療法、および細胞ベースの遺伝子療法にも使用される。
【0005】
エクスビボでの細胞の増殖は技術的に困難である。生細胞の健康および品質を維持するために、細胞の必要性は可能な限り十分に支持されなければならない。例えば、エクスビボで増殖させた細胞には、微生物から細胞を保護する免疫系がないため、微生物汚染に対する保護が必要である。体外の細胞は、もはや状態を最適に保つための身体を有しない。温度、pH、オスモル濃度、酸素、二酸化炭素などは、体外で最適なレベルに制御されなければならず、または細胞は変性して死滅する。従来の機器は、インキュベータまたはバイオリアクタ内でのみ、部分時間の最適化を提供するにすぎない。例えば、酸素濃度は、細胞の処理および産生にとって重要なパラメータである。体内の細胞は、空気中の酸素ほど高い酸素レベルを見ることはない。生理学的酸素レベルははるかに低く、体内で変動しない。空気酸素レベルは生理学的ではなく、細胞を損傷する可能性がある。したがって、エクスビボでの細胞の成長および処理は、厳密に制御されなければならない特別な環境条件を必要とする。
【0006】
いくつかの実施態様では、細胞は、細胞処理、操作、および産生用途に特に適合した特殊な単離チャンバ内で増殖される。例えば、そのような単離チャンバは、モジュール式の相互接続されたチャンバ、コチャンバ、およびサブチャンバのセットを含むことができ、これらは、細胞製造プロセスまたは一連の細胞プロセスステップのすべてのステップを含み、特定の個々のステップを隣接するステップから単離するために区画化するように構成される。そのような機器の例は、ニューヨーク州ParishのBioSpherix Ltdによって製造されたXVIVO SYSTEM(登録商標)である。XVIVO SYSTEM(登録商標)は、モジュール式チャンバ、ボックス、グローブボックス、キャビネット、センサ、環境調節装置、および特に細胞培養、処理、および産生用途のための他の機器のセットを提供する。細胞を最終的に滅菌することができないので、無菌処理によって産生しなければならない。
【0007】
アイソレータ、グローブボックス、または他の同様のタイプのエンクロージャなどの物理的バリアを使用して、細胞をエクスビボで室内空気から分離し、それらを取り扱う人は、培養中の細胞に微生物汚染物質が到達する可能性を劇的に減少させる。しかしながら、微生物を、エンクロージャの最初の閉鎖時に内部に閉じ込めることができ、日常的にエンクロージャに持ち込まれた材料および物資の表面上の制御されたエンクロージャに入ることができる。そのようなエンクロージャの内面の拭き取り、そのようなエンクロージャ内に移動した物品の拭き取り、またはそのようなエンクロージャ内の気体燻蒸剤として適用される液体消毒剤として適用される化学的殺生物剤(「マイクロバイオサイド」とも呼ばれる)の使用は、細胞を無菌的に処理および産生できるように、内部に無菌またはほぼ無菌の環境を作り出すための典型的な微生物リスク軽減技術である。問題は、化学的殺生物剤が有毒であり、したがって人々にとって危険であり得、微生物汚染からの保護を必要とする培養中の所望の細胞を含むすべての細胞に対して有毒であり得ることである。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、化学的殺生物剤を使用することなく、また細胞を準最適条件にさらすことなく、無菌細胞の処理および産生のために制御された環境エンクロージャ内で無菌またはほぼ無菌の環境を維持する方法に関する。化学的殺生物剤を使用しないこの方法は、化学的殺生物剤と同様に無菌処理および細胞の産生を可能にするのに有効であるが、処理されている細胞にとって非毒性であり、細胞処理機器を操作する人員にとって安全である。
【0009】
微生物は、温度(T)および相対湿度(RH)に対する感受性を有する。本発明者は、対象となる細胞の最適条件を損なうことなく、化学消毒剤を使用せずに無菌処理および細胞の産生を可能にするレベルまで、エンクロージャ内の微生物バイオバーデンを低減および維持するT条件およびRH条件を見出した。
【0010】
一実施形態では、本発明は、殺生物剤を使用しない非滅菌エンクロージャ装置における無菌処理および細胞の産生のための方法および環境を提供する。この方法は、原核細胞または真核細胞のエクスビボ培養、増殖、処理または輸送に最適な制御された環境を提供するエンクロージャ装置を使用することができ、ここで、大気ガス、相対湿度(RH)、温度、およびガス循環を正確に制御することができる。この方法では、細胞の培養、成長、処理または輸送の工程に必要なより高いRHが、必要な最低のRHレベルおよび必要な区画内でのみ必要な最短期間に一時的に制御され、次いで、RHを直ちに25%以下に戻す間隔を除いて、エンクロージャのRHは、24時間で25%以下に維持される。実施形態において、RHは、20%以下、15%以下、10%以下、または5%以下に維持され得る。一実施形態では、エンクロージャの温度は、微生物制御を向上させるために約37°Cに加温してもよいが、細胞にとって準最適ではない。一実施形態では、細胞にとって最適でない連続的に流れる雰囲気は、乾燥を促進し、エンクロージャ全体にわたってRHを混合および均質化する。
【0011】
この方法は、例えば、単離装置の最初の閉鎖後、および定期的な開放および再閉鎖後に有用であり、エンクロージャ内のすべての領域および表面は迅速に乾燥されて、細胞の処理および産生動作の微生物汚染リスクを効果的に軽減する。この方法は、任意の材料、物品、または装置が外部環境からエンクロージャ内に移動される場合にも有用である。そのようなエントリは、エンクロージャチャンバの動作において日常的である。この方法では、エンクロージャ内に移動した材料を急速に乾燥される。
【0012】
エンクロージャ装置は、モノリシックもしくはモジュール式に恒久的に接続された、または一時的に接続されたチャンバ間の内部ドアによって区画化された、相互接続されたチャンバ、コチャンバ、およびサブチャンバのセットであってもよい。エンクロージャ装置は、固定式または可動式であってもよい。エンクロージャ装置は、剛性もしくは可撓性の壁、金属もしくはプラスチックの壁、またはそれらの任意の組み合わせで作製され得る。一実施形態では、収容環境内の内面は、ポリマー、金属、およびガラスから選択される材料から作製されてもよい。内面は、疎水性または親水性であってもよい。エンクロージャ装置は、恒久的または一時的のいずれかで、壁を通してシールされた機能的または物理的な入力/出力を装備することができる。機能的な入力/出力は、例えば、エンクロージャ装置内のチャンバ間のワイヤもしくはチューブ、またはエンクロージャ装置の外部を指す。これらは、電力導管、通信ワイヤ、ガス処理管などであり得る。
【0013】
一実施形態では、エンクロージャ装置内の大気ガスは正確に制御されることができ、酸素、窒素、二酸化炭素、一酸化窒素、一酸化炭素から構成されてもよく、VOC、微粒子、および圧力を正確に制御することができる。収容された環境の雰囲気は、細胞にとって最適なものに応じて、0.1%~35%v/vの酸素レベルおよび0.1%~20%v/vの二酸化炭素を有し得る。
【0014】
一実施形態では、細胞は、グローブもしくは遠隔操作器によって、または統合されたプロセスおよび分析機械または完全もしくは部分的な自動化によって、密封ポートを介してエンクロージャ内で、手動で処理および産生される。
【0015】
一実施形態では、密閉環境で増殖および処理される細胞は、真核細胞または原核細胞である。真核細胞は、哺乳動物もしくは昆虫細胞または他の細胞であり得る。細胞は、ヒトもしくはマウス細胞または他の細胞であり得る。細胞は、新鮮な初代培養物、初期継代培養物、または細胞株であり得る。
【0016】
一実施形態では、急速乾燥後、沈降プレートまたは活性空気サンプリングプレートを含む環境モニタリングによって測定されるように、測定可能なCFU(コロニー形成単位)の浮遊は検出されない。移動する大気中で浮遊することは、細胞の汚染の主な経路である。検出可能な唯一のCFUは、接触プレートによって測定されるように表面に強く付着しており、そこでは細胞から隔離されており、統計的に細胞を汚染する可能性は低い。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】緑膿菌を接種したポリプロピレンまたはステンレス鋼のクーポン(すなわち、試験表面)の実施例からの対数減少を示し、制御された環境エンクロージャ(XVIVO SYSTEMチャンバ)内で15%相対湿度(RH)および37°Cの本発明の条件または40%RHおよび21°Cの従来の生物学的安全キャビネット(BSC)に曝露した後の様々な時間間隔で示す図である。アスタリスク(*)は、群内の有意な差(時間0と比較)を示し、ポンド(#)は、二元配置ANOVA、引き続いてボンフェローニの多重比較試験(*または#、p<0.05;**または##、p<0.01;***または###、p<0.001;****、p<0.0001)によって決定された群間の有意な差(異なる条件)を示す。
【
図2】
図1について論じたのと同じ条件下で、病原性酵母であるカンジダ菌(Candida albicans)を接種したクーポンの対数減少を示す図である。
【
図3】
図1について論じたのと同じ条件下で、身体の微生物叢の通常のメンバーであるがいくつかの病原性疾患に関与するグラム陽性円形細菌である黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)を接種したクーポンの対数減少を示す図である。
【
図4】
図1について論じたのと同じ条件下で、一般的な食品汚染物質である土壌中に遍在する真菌であるクロコウジカビ(Aspergillus brasiliensis)を接種したクーポンの対数減少を示す図である。
【
図5】
図1について論じたのと同じ条件下で、土壌および反芻動物およびヒトの消化管に見られるグラム陽性のカタラーゼ陽性細菌である枯草菌(Bacillus subtilis)を接種したクーポンの対数減少を示す図である。この細菌は、強靭で保護的な内生胞子を形成し、極端な環境条件に耐えることを可能にする。
【
図6】ポリプロピレンおよびステンレス鋼の試験表面での実施例で試験した生物のCFUの対数減少をまとめたものである。
【
図7】制御された環境エンクロージャ内で様々な相対湿度(RH)レベルおよび37°Cでポリプロピレンまたはステンレス鋼に接種した黄色ブドウ球菌クーポンの対数減少を示す図である。アスタリスク(*)は、二元配置ANOVA、引き続いてSidak多重比較試験によって決定された、37°C/5%RH群と21°C/40%RH群との間の群間の有意な差を示す(*、p<0.05)。
【
図8】制御された環境エンクロージャ内で、様々な温度レベルおよび15%RHでポリプロピレンまたはステンレス鋼に接種した黄色ブドウ球菌クーポンの対数減少を示す図である。アスタリスク(*)は、二元配置ANOVA、引き続いてSidakの多重比較試験によって決定された群内の有意な差を示す(*、p<0.05;**、p<0.01;***、p<0.001;****、p<0.0001)。
【
図9】実施例2に詳述されている実験の写真であり、乾燥キャップからの浮遊枯草菌について試験するための汚染キャップを備えた遠心管に隣接するPBI Air Samplerを示す。
【
図10】
図9に示すのと同じ実験の代替図である。この図は、Air Samplerデバイス上のフェースプレート/吸気口を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、特に多区画隔離チャンバおよびエンクロージャにおいて、体外の細胞の存在(凍結を除く)に最適化された細胞を無菌処理および産生するための環境を提供する。「細胞の存在(cellular existence)」という用語は、体外の細胞が存在する4つの状態のすべてを指す。
1.インキュベーションの状態で増殖するまたは増殖しない細胞;
2.取り扱いまたは操作されている細胞;
3.ある種の機械で処理または分析されている細胞;
4.上記3つの状態のいずれかの間の細胞の輸送。
【0019】
そのような細胞操作に使用される環境は、モノリシックまたはモジュール式に、恒久的に接続されたまたは一時的に接続されたチャンバ間の内部ドアによって区画化された相互接続されたチャンバ、コチャンバ、およびサブチャンバのセットを含むことができるエンクロージャ装置内にあってもよい。エンクロージャ装置は、固定式であっても可動式であってもよい。
【0020】
本発明の方法では、急速な極端な乾燥は、細胞にとって望ましい無菌またはほぼ無菌の環境を作り出し維持するために使用される主要な物理的機構である。極端な乾燥は、ほとんどの微生物を死滅させ、他のすべての微生物の増殖を防ぐことができる。少数の微生物が乾燥に耐性であり得る。これらのいずれも最終的にエンクロージャ内に入らない場合、この方法は無菌状態を維持する。一部の乾燥耐性微生物が内部に到達した場合、この方法は、ほぼ無菌状態を維持するが、表面上の生存微生物の固定化により無菌的な細胞処理を依然として可能にし、それによってそれらを細胞から隔離する。それは、システム全体の湿度を極めて低いレベル、25%未満の相対湿度(RH)、好ましくは20%または15%以下のRHに制御することによって達成される。さらに、37°Cでの全体にわたる連続的な広範な温度制御は、これらの低いRHレベルでの乾燥湿度レベルの殺菌効果を高める。さらに、移動する内部雰囲気は、乾燥を促進し、エンクロージャ全体の抗菌条件を均質化する。場合により、細胞の条件を最適化するために必要な可変制御酸素および可変制御二酸化炭素は、この消毒プロトコルに干渉しない。本明細書で使用される場合、「微生物」という用語は、任意の望ましくない汚染生物、例えば細胞培養物を汚染する可能性がある望ましくない細菌または真菌を指す。
【0021】
細胞の存在に関連するプロセスのステップに高い湿度レベルが必要とされるときはいつでも、RHは、必要な最小限の時間だけ必要な区画内でのみ必要最小限のレベルで厳密に制御され、その後すぐに乾燥レベルに戻される。より低い温度が必要とされるときはいつでも、それらは必要な時間だけ必要な区画内でのみ必要以上に厳密に制御され、次いで直ちに37°Cに戻される。37°Cを超える温度は微生物の死滅を促進するが、必要ではない。データは、この方法が、危険な化学的殺生物剤の使用の根本的な減少と同時に汚染リスクの根本的な減少に対してバランスをうまく導く一方で、細胞を最適以下の条件に曝露しないことを示している。
【0022】
一実施形態では、RH、温度、および流れる雰囲気は、エンクロージャ装置内の任意の他のチャンバとは独立して各チャンバに対して制御されてもよい。例えば、より低い温度またはより高い湿度を必要とするセル最適化プロトコルは、マルチチャンバ装置内の1つの特定のチャンバで実行され得、一方、他のチャンバは、低いRHおよび高い温度の本発明の条件を維持する。一実施形態では、マルチチャンバエンクロージャ装置内の各チャンバの環境は、任意の他のチャンバとは独立して制御され得る。
【0023】
重要なことに、本発明の方法では化学的殺生物剤(液体または気体)は使用されない。液体の化学的殺生物剤の例としては、イソプロピルアルコール、第4級アンモニウム塩、漂白剤などが挙げられる。気体の化学的殺生物剤の例としては、気化した過酸化水素、二酸化塩素、ホルムアルデヒドなどが挙げられる。いずれも必要ではない。本発明者は、低湿度、高温、および乱流または層状ガス流が、細胞に最適化されたエンクロージャおよびチャンバ内の雰囲気および表面を含む内部環境を十分に消毒することができることを発見した。
【0024】
おそらく、本発明の低湿度条件は、乾燥に感受性であるためほとんどの微生物を死滅させ、低湿度および高温に耐えることができる生物、例えば胞子形成細菌および真菌については、そのような生物を含むすべての微生物が、そのような表面への強力な接着によって内部表面に固定化されることが発見された。さらに、本発明の方法で使用されるガス流は、微生物の乾燥を促進し、乾燥および加温条件がエンクロージャ装置の内部のすべての角および凹部に浸透することを確実にする。乾燥条件下での急速乾燥によって表面に固定化された胞子または他の潜在的に感染性の粒子は、本発明で使用されるエンクロージャ内で処理および産生された細胞の測定可能な汚染リスクではない。
【0025】
本発明の方法は、事前にチャンバまたはエンクロージャの化学的滅菌を必要とせず、システムの任意の部分の内面の消毒剤拭き取りを必要とせず、エンクロージャ内に移動された任意の材料または機器の消毒剤拭き取りを必要とせず、細胞を確実に処理し無菌的に産生するための内部洗浄を必要としない。本発明の方法は、沈降プレートおよび活性空気サンプリングプレートによる集中的な環境モニタリングによって証明されるように、内部に浮遊しているコロニー形成単位(CFU)を検出することができないように、エンクロージャ装置の内部を十分に消毒および洗浄する。本発明によれば、経時的に、エンクロージャは次第に無菌になる。しかしながら、本発明の方法は、化学的殺生物剤の使用に適合し、細胞を危険にさらさない慎重な殺生物剤処理と相乗的であり得る。
【0026】
接触プレート(「タッチプレート」とも呼ばれる)は、表面の微生物汚染をモニタリングするために使用される。これらのプレートは、ペトリ皿に注がれた寒天培地を有し、寒天をチャンバ内の表面と接触させることができる。試験表面上のいかなる微生物汚染も寒天に付着する。次いで、寒天をインキュベートし、微生物汚染が増殖し、これは、「コロニー形成単位」(CFU)と呼ばれ、試験表面上の汚染の程度を定量化するためにカウントされ得る。沈降プレートは同様であり、受動的空気モニタリングに使用される。ペトリ内の寒天プレートを、測定された時間長にわたって環境に曝露する。浮遊微生物粒子は寒天上に着地する。次いで、プレートをインキュベートし、CFUをカウントすることができる。活性空気サンプリングプレートは、空気サンプラーを使用して所定量の空気を物理的に引き込み、それを寒天上に通過させる。次いで、プレートを空気サンプラーから取り出し、直接インキュベートする。これらを使用して方法を開発した。
【0027】
本発明では、乾燥耐性微生物が偶然内部に存在しない場合、CFUはこれらの3つの方法のいずれによっても検出されず、本発明の方法は実際にエンクロージャを滅菌し、エンクロージャを無菌にする。しかしながら、乾燥耐性微生物が偶然内部に存在する場合、CFUは沈降プレートおよび活性サンプルプレートのみでは検出されないが、これは、固定化により、本発明の物理的条件を受けるチャンバ内に存在する可能性がある乾燥耐性微生物がわずかであっても確実になり、表面への接着によって浮遊することが防止されるためである。このような乾燥耐性微生物は生存可能であり得、接触プレートによって検出され得る。この場合、本発明の方法は、内部が滅菌されていないか、ほぼ滅菌されているか、またはほぼ無菌であるため、無菌環境、またはエンクロージャ内部の無菌状態、または滅菌エンクロージャを生成しない。しかしながら、本発明では、生存可能で細胞を汚染する可能性のある微生物のみが表面に隔離されているので、無菌処理を可能にする。それらは、接触によって他の表面に移動することができるが、これらの他の表面からは分離しない。したがって、無菌技術の実施は、これらの少数の微生物が細胞または細胞の基質に接触する任意の表面に連続的な接触点をもたないことを保証するので、細胞を汚染する経路はない。
【0028】
本発明の方法は、例えば、エンクロージャ装置の初期設置および閉鎖の後、ならびに定期的な開放および再閉鎖の後に使用され得る。そのような装置は、モノリシックもしくはモジュール式に恒久的に接続された、または一時的に接続されたチャンバ間の内部ドアによって区画化された、相互接続されたチャンバ、コチャンバ、およびサブチャンバのセットで備えてもよい。エンクロージャ装置は、固定式であっても可動式であってもよい。エンクロージャ装置は、剛性もしくは可撓性の壁、金属もしくはプラスチックの壁、またはそれらの任意の組み合わせで作製され得る。
【0029】
本発明の方法はまた、材料、物品、および機器がエンクロージャ装置内に日常的に移動される頻繁な動作にも使用され得る。そのような日常的な動作は、典型的には、新たな微生物汚染リスクの単一の原因である。しかし、本明細書で提供される急速乾燥条件では、これらの材料および機器上の微生物は数分以内に固定化され、ほとんどは数時間以内に死滅する。
【0030】
無菌処理および生産を達成するための強力な液体および気体の化学的殺生物剤の頻繁な適用および過剰使用への伝統的な依存は、所望の細胞にとって非常に危険である。さらに、殺生物剤の使用は本質的に断続的である。殺生物剤(液体または気体)を適用し、次いで停止させる。その間には、抗菌活性がなく、望ましくない微生物が増殖し、エンクロージャ内の機器および細胞培養物を汚染する余地がある。対照的に、この物理的アプローチは一定であり、連続的な抗菌活性が24/7に維持されている。
【0031】
さらに、表面被覆率によって制限される液体殺生物剤の有効性とは異なり、この物理的アプローチは気体のように作用する。これは、特にチャンバ内のガス流パターンによって駆動されると、システム全体の内部のあらゆる隅部および谷部に達する。すべての亀裂、継ぎ目、隙間、および空洞の内部を含むチャンバ内のすべての内面は、到達可能であるか到達不可能であるかにかかわらず、この抗菌作用で絶えず浸透される。最後に、各化学的殺生物剤適用後に残る表面残留物ならびにオフガスおよび有毒な蒸気に関する懸念の代わりに、この代替アプローチは物理的アプローチ、すなわち移動する雰囲気によって加速される室内空気条件より高い温度での乾燥であるため、残留物またはいかなる有毒なオフガスまたは蒸気も残さない。
【0032】
一実施形態では、エンクロージャ装置内のガス流は、本発明の重要な特徴であり得る。ガス流は、乱流または層状であり得る。ガス流は、各隔離されたチャンバ内の制御された雰囲気を再循環させてチャンバ内にある程度の乱流を生成するファンに依存する。一実施形態では、再循環されるガスはまた、HEPAフィルタを通過してもよい。あるいは、ガス流は層状であってもよく、単一方向の安定した流れを意味する。
【0033】
本発明におけるRHレベル、温度、およびガス流は、隔離されたチャンバ装置内の他の環境パラメータが制御されるときに制御されてもよい。例えば、RHは、水分のない高度に精製された状態で供給されるガスタンクからの乾燥ガスを使用して制御され得る。RHはまた、再生可能な化学的乾燥剤(例えば、シリカゲルまたは硫酸カルシウム)上のエンクロージャ内のガスを通過させてエンクロージャ内に戻す再循環ファンを使用して、確立された雰囲気で制御され得る。RHはまた、電子またはコンプレッサ除湿器によって制御され得る。さらに、そのような再循環システムでは、HEPAフィルタを使用することができる。
【0034】
一実施形態では、本明細書に記載の乾燥効果は迅速であり得、これは、物体が外部環境からチャンバ内に移動すると、物体上の湿度および任意の表面水分が、汚染微生物が数分以内に固定化され、数時間以内に死滅して、本明細書に開示の微生物汚染物質の死滅または付着を達成する点まで乾燥されることを意味する。この急速乾燥は、汚染物質がチャンバ内で浮遊する能力を最小限に抑え、主要経路を排除し、それによって微生物が細胞を汚染する可能性がある。
【0035】
微生物を、組み立ておよび設置中にエンクロージャ装置の内部に閉じ込めることができ、システムの一部またはシステム全体の定期的な開放および再閉鎖後に閉じ込めることができる。この方法では、いずれも再生することができず、ほとんどが乾燥によって死滅するため、それらが引き起こす汚染リスクは経時的に連続的に低下する。しかしながら、捕捉された微生物のわずかな割合が乾燥耐性であり得る。それらの発生率は、異なる場所で異なる可能性があり、季節にわたって場所ごとに異なる可能性がある。分離されてすぐに浮遊するものは、処理領域から除去され、リモートフィルタに恒久的に隔離され、それによってそれらを細胞に対するリスクとして排除する。内面に付着したままであり得るわずかなものは、その表面に隔離されるため、同じ理由で測定可能なリスクではない。通常の動作条件下では、これらの残存する隔離された生存微生物の発生率は非常に小さいので、沈降プレートおよび活性空気サンプリングプレートだけでなく接触プレートを用いても、集中的な環境モニタリングによって数日以内にCFUを内部で検出することはできない。
【0036】
その後、唯一の新たなバイオバーデンのリスクは、システムに持ち込まれた材料の表面から生じる。ここでのバイオバーデンは、入ってくる物品の表面に生存している細菌の数として定義される。リスクは入口点付近で最も高いが、材料が移動するにつれて、それらの材料との最初の数回の連続的な接触点に沿って検出不能なレベルまで急激に低下する。急速乾燥は、乾燥耐性微生物を含むすべての検出可能な浮遊CFUリスクを十分に軽減する。細胞を無菌的に日常的に産生するために、気体または液体の化学的殺生物剤は必要とされない。
【0037】
一実施形態では、収容された環境の雰囲気は、酸素レベルが0.1%~35%v/vであり、二酸化炭素が0.1%~20%v/vであり、残りが窒素である。本発明に記載された収容環境における細胞処理および製造プロトコルで使用され得る他のガスは、一酸化窒素および一酸化炭素を含み得る。制御することができる他の大気の特徴は、殺生物剤材料、チャンバの雰囲気中の微粒子、および大気圧から導入され得る揮発性有機化合物(VOC)である。
【0038】
一実施形態では、制御された環境を有するチャンバ内の内面は、疎水性または親水性である。一実施形態では、収容環境内の内面は、ポリプロピレンまたはステンレス鋼から作製されてもよい。ポリエチレンまたは他の硬質プラスチック、ガラス、アルミニウム、および他の研磨または塗装された金属材料を含む追加の材料も本発明の範囲内である。
【0039】
一実施形態では、制御された環境内で処理および産生される細胞は真核細胞であり、これには哺乳動物細胞、例えば新たに生検された初代培養物、または様々な組織からの初期継代培養物、またはGH3(ラット下垂体腫瘍)およびPC12(ラット褐色細胞腫)などの細胞株が含まれる。一実施形態では、制御された環境を有するチャンバ内の真核細胞は、ヒト細胞、例えば新たに生検された初代培養物、初期継代培養物、または細胞株MCF-7(乳癌)、MDA-MB-468(乳癌)、PC3(前立腺癌)、およびSaOS-2(骨癌)(代表例のみ)である。一実施形態では、細胞は、植物細胞、または昆虫細胞、または原核細胞であり得る。
【0040】
[実施例1]
生物および培地。以下の生物を本発明の方法で試験した:BIOBALL(登録商標)(BIOMERIEUX社、ミズーリ州ヘーゼルウッド)による緑膿菌、黄色ブドウ球菌、枯草菌、クロコウジカビ、およびカンジダ菌。CFUを、Sigma(ミズーリ州セントルイス)によるTryptic Soy Agarを含有する培養プレートでアッセイした。クロコウジカビプレートを25°Cで36~48時間培養し、一方、他の生物を35°Cで20~24時間培養した後、コロニー評価を行った。環境モニタリングのために、接触プレートをBD(メリーランド州スパーク)によるBBL(商標)Trypticase(商標)Soy Agarで作製した。接触プレートを35°Cで少なくとも20~24時間インキュベートした。
【0041】
クーポンの接種。クーポン(直径10mm)は、ポリプロピレン、またはステンレス鋼(Amazon.comのBeadthoven Jewelry)で作製された。クーポンは、TexQ(Texwipe,www.texwipe.com)、次にSporKlenz(Steris,Inc.www.steris.com)、次に70%エタノールでトリプル洗浄/消毒され、各浸漬は30~60分間であり、各消毒剤間にddH2Oで3回すすいだ。それらを層流フード内で風乾させた。乾燥したクーポンを、RTの滅菌50mlコニカルチューブ(CELLTREAT科学製品;マサチューセッツ州ペッパーエル)に保存した。
【0042】
微生物減少アッセイ。これらの研究の少なくとも1日前に、チャンバ内の可能性のあるリスク表面をSporKlenz(Steris,Inc.www.steris.com)で消毒し、大気ガスを新鮮なトリプルフィルタ処理された乾燥タンクガス(20%O2、0.1%CO2、残部N2)と交換して消毒剤の煙を除去した。1滴の細菌培養物が作業面を汚染したかのように、トリプル洗浄/消毒したクーポンをPC床の所定の位置に接種した。接種したクーポンを実験条件に曝露し、時間間隔をおいて収集した。採取したクーポンをDPBS中0.05% Tween-80 1mlに入れ、5×10秒ボルテックスした。微生物懸濁液を寒天プレート上に広げる前にさらに希釈した。各プレート上のコロニーは、実験条件に対して盲検化された2人によってカウントされた。10%以上の不一致で、第三者がコロニーを再カウントした。2つのより近い数の平均をデータ分析に使用した。対数減少は、式:Ri=log(Y0)-log(Yi)を使用して計算された。Riは各時点についての対数減少であり、ここで、Y0は時間0における残存微生物であり、Yiは時間iにおける残存微生物である。すべての統計分析は、図の説明文に記載されているようにGraphPad Prism(バージョン8.4.2,GraphPad Software,Inc.)を用いて行われた。データを平均+SEMとして表す。有意性をp<0.05で評価した。
【0043】
本発明の条件は、微生物依存的な室内空気BSC条件よりも大きな微生物減少をもたらす。実験仮説は、制御されたエンクロージャ条件と従来の室内空気生物学的安全キャビネット(BSC)条件とで微生物感染力に差があるというものであった。上記のクーポン(ポリプロピレンまたはステンレス鋼)に、各チャンバ内で既知の数の微生物を接種し、本発明の条件下(37°C/15%RH)のXVIVO System処理チャンバ、または従来の室内空気BSC条件(21°C/40%RH)に設定された処理チャンバのいずれかでインキュベートした。間隔をおいてクーポンを収集し、残存生存コロニー形成単位(CFU)についてアッセイした。3つ以上の独立した実験からのデータを比較のために組み合わせた。CFUの統計学的に有意な対数減少が、2つの異なる条件における5つの微生物のうち4つで見られた。これらの減少は、いかなる抗菌化学物質も使用しない物理的大気条件への曝露のみによるものであった。
【0044】
各条件で経時的に回収されたCFUの差、ならびに様々な時点での条件間の差を示すデータが、ポリプロピレン試験表面およびステンレス鋼試験表面の両方について
図1~
図5に示されている。両方の材料の緑膿菌(
図1)、カンジダ菌(
図2)、および黄色ブドウ球菌(
図3)はすべて、本発明および室内空気BSC条件下で試験した時間枠内でCFUの劇的かつ有意な対数減少を示した。クロコウジカビの結果(
図4)はそれほど劇的ではなかったが、依然として有意であった。環境条件に対するその既知の耐性と一致して、試験したいずれの条件でも枯草菌胞子ではCFU減少はほとんど見られなかった(
図5)。各条件に対する微生物応答を別々に比較すると(
図6)、データは、環境条件に対するそれらの既知の感受性と一致する細胞処理チャンバ条件に対する微生物感受性のスペクトルを明確に実証した。これらの傾向は、試験した2つの表面材料間で同様であった。
図1~
図4のアスタリスク(*)は、群内の有意な差(時間0と比較)を示すが、ポンド(#)は、二元配置ANOVA、引き続いてボンフェローニの多重比較検定によって決定された群間の有意な差(異なる条件)を示す(*または#、p<0.05;**または##、p<0.01;***または###、p<0.001;****、p<0.0001)。
【0045】
制御された環境チャンバ内の様々な湿度レベルも、40%RH~5%RHの間で調査した(
図7)。湿度が低下するにつれて、ポリプロピレンとステンレス鋼の両方でCFUの対数減少の著しい増加が明らかに見られる。
【0046】
黄色ブドウ球菌について
図6に示すように、様々な温度レベルも調査した。このデータは、温度を21°Cから37°Cに上昇させると、検出されるCFUが有意に減少したことを示している。
【0047】
[実施例2]
浮遊枯草菌は、本発明の方法で急速乾燥した後に、XVIVO SYSTEMエンクロージャ内の活性空気サンプリングおよび受動的空気サンプリング(沈降プレート)で定量化した。
【0048】
図9~
図10に示すように設定された実験では、フェースプレート/吸気口3aを有する空気サンプリングマシン3(「PBI Air Sampler SAS Super 100」)が、エンクロージャフロア2を有するエンクロージャチャンバ1内に設置される。遠心分離機チューブキャップ5を有する遠心分離機チューブ4を、サンプル入口のすぐ上流のフェースプレート3aの数cm以内に配置した。さらに、寒天6のいくつかの受動的空気サンプリング沈降プレートも床に配置した。エンクロージャチャンバ内の大気処理装置は、チャンバ内にガス流の乱流を生じさせた。
【0049】
キャップ5は、食塩水中で107CFUの枯草菌で汚染され、温度37°C、15%RHのチャンバ内に乱流雰囲気で移動した。約11分を要した目に見える乾燥の直後に、寒天プレートを備えた活性空気サンプラーを使用して、キャップ5から吹き飛ばされた可能性のある枯草菌を定量化した。枯草菌のさらなる検出は、空気サンプラー3の周囲の寒天沈降プレート6のアレイを使用した。CFUは、いずれのプレートにおいても4時間にわたって検出されなかった。活性空気サンプリングを90L/分に設定し、20分ごとに新しいプレートで4時間維持した。
【0050】
この実験は、表面上の急速に乾燥した微生物が適所に固定化され、大気の移動にもかかわらず容易には分離せず、浮遊しないが、これらの表面の接触時に表面から表面に移動することを確認する数十の他の実験結果の典型である。
【図】
【図】
【手続補正書】
【提出日】2022-12-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】全図
【補正方法】変更
【補正の内容】
【国際調査報告】