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特表2023-502220電極活物質のアルカリ化または再アルカリ化の方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-23
(54)【発明の名称】電極活物質のアルカリ化または再アルカリ化の方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20230116BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20230116BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20230116BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230116BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/48
H01M4/58
H01M4/62 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022527115
(86)(22)【出願日】2020-11-13
(85)【翻訳文提出日】2022-06-27
(86)【国際出願番号】 CA2020051547
(87)【国際公開番号】W WO2021092692
(87)【国際公開日】2021-05-20
(31)【優先権主張番号】62/934,782
(32)【優先日】2019-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513138072
【氏名又は名称】ハイドロ-ケベック
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】アムゼガル, カムヤブ
(72)【発明者】
【氏名】ラルーシュ, フランソワ
(72)【発明者】
【氏名】シャンパーニュ, パスカル
(72)【発明者】
【氏名】ウラシ, ジョルジュ
(72)【発明者】
【氏名】ブシャール, パトリック
(72)【発明者】
【氏名】ザジブ, カリム
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA02
5H050CA07
5H050CB12
5H050DA10
5H050DA11
5H050EA08
5H050EA23
5H050EA24
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA12
5H050GA18
5H050GA22
5H050GA27
5H050HA02
5H050HA10
5H050HA14
5H050HA17
(57)【要約】
アルカリ金属欠乏電気化学的活物質の直接または間接電気化学的アルカリ化のための方法を記載する。この方法は、電極集電体上のアルカリ金属欠乏電気化学的活物質のアルカリ化の間(直接)、または電気化学的活物質のアルカリ化に使用される還元剤の再生中(間接)のいずれかの電解ステップを含む。別の実施形態では、電気化学セルまたは本明細書中で定義する電池は、携帯電話、カメラ、タブレットもしくはラップトップなどの携帯機器、電気自動車もしくはハイブリッド車、または再生可能エネルギー貯蔵における使用のためのものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学的活物質の電気化学的アルカリ化の方法であって、
a)集電体上に作用電極材料を含む作用電極を得るステップであって、前記作用電極材料が、前記電気化学的活物質、必要に応じてバインダおよび/または電子伝導性材料を含む、ステップと、
b)前記作用電極を、不活性対電極、および溶媒中にアルカリ金属塩を含む溶液と共に、連続および/またはバッチモードで電気化学的反応器に導入するステップと、
c)前記作用電極と前記対電極との間に直流を印加して、アルカリ化された電気化学的活物質を含むアルカリ化電極を得るステップと、
d)ステップ(c)で得た前記アルカリ化電極を前記電気化学的反応器から取り出すステップと、
を含み、
前記電気化学的活物質が、金属酸化物(複合酸化物を含む)、金属リン酸塩、金属ケイ酸塩、金属硫酸塩、または部分的にアルカリ化された金属酸化物(複合酸化物を含む)、金属リン酸塩、金属ケイ酸塩、もしくは金属硫酸塩を含む、方法。
【請求項2】
前記電気化学的活物質がアルカリ金属欠乏である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
式Iの前記電気化学的活物質:
w-pn+p (I)
を、式IIのアルカリ化された電気化学的活物質:
(II)
(式中、
Aは、アルカリ金属であり、
Mは、遷移金属、ポスト遷移金属またはこれらの組合せであり、
Xは、P、SiおよびSから選択され、
Oは、酸素原子であり、
wは、1~4の数から選択され、前記アルカリ化された電気化学的活物質中のA原子の数に相当し、
xは、1~5の数から選択され、M原子の数に相当し、
yは、0~2の数から選択され、yがゼロの場合、Xは存在せず、
zは、1~12の数から選択され、前記式中の酸素原子の数に相当し、
nは、Mの酸化状態を示し、
式I中のpは、欠損しているA原子の平均数とMの酸化状態の平均増加との両方を示し、ここでp≦w(好ましくは0<p≦1)であり、
w、y、z、nおよびpは、安定な電気的中性化合物になるように選択される)
に変換することを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
p=wであり、式I中のAは存在せず、式Iの前記電気化学的活物質が、式I(a):Mn+p である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
Xがリンであり、yが1であり、zが4である、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
Mが、Fe、Ni、Mn、Coまたはこれらの少なくとも2つの組合せである、請求項3から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
Mが、V、Mn、Ni、Co、Fe、Cr、Ti、Zr、Snまたはこれらの少なくとも2つの組合せである、請求項3または4に記載の方法。
【請求項8】
yが0であり、Xが存在しない、請求項3、4および7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
Aが、Li、NaもしくはKであるか、またはAがLiである、請求項3から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記電気化学的活物質またはアルカリ化された電気化学的活物質が、Mを遷移金属(例えば、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Mo、WもしくはY)および/または非遷移金属(例えば、Mg、Ca、Sr、Al、SbもしくはSn)で部分的に置換することによってさらにドープされている、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記溶媒が、水性溶媒、有機溶媒またはこれらの混合物から選択される、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記溶媒が水である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記アルカリ金属塩が、少なくとも1つのアルカリ金属硫酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、水酸化物、硝酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、またはリン酸塩を含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記アルカリ金属塩がアルカリ金属硫酸塩である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記アルカリ金属塩がアルカリ金属重炭酸塩である、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
ステップ(b)および/または(c)が、ガス状二酸化炭素の存在下で実施される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記溶液のpHを、ステップ(a)の前記電気化学的活物質に適合したpHに調整する(例えば、FePOの場合、pHは5~9、好ましくは6~7.5に調整される)ステップをさらに含む、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記アルカリ金属塩のアルカリ金属がリチウムである、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
ステップ(c)が、連続モードまたはバッチモードで実施される、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
ステップ(c)が連続モードで実施され、前記作用電極が、前記電気化学的反応器の片側に導入され、前記作用電極が、比較的均一な電流および電位分布を維持するように前記電気化学的反応器の電気化学的活性領域に沿って移動しながら、前記対電極から一定の距離にとどまるように所定の経路に沿って移動する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記作用電極が前記電気化学的反応器を通って移動する速度が、印加される電流密度で所定のレベルのアルカリ化に要する滞留時間に基づいて調整される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
ステップ(c)が、前記作用電極と前記対電極との間の電流密度が制御されたモードで実施される、請求項1から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
ステップ(c)が、前記作用電極と前記対電極との間の電圧が制御されたモードで実施される、請求項1から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記電気化学的活物質が、FePOまたは部分的に脱リチウム化されたLiFePOであり、前記作用電極における電流密度が、0.001A/g~100A/g活性LiFePOの範囲、好ましくは1~15A/g活性LiFePOの範囲である、請求項1から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
ステップ(c)が、5℃~90℃、好ましくは25℃~50℃の範囲の温度で実施される、請求項1から24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
ステップ(b)が、参照電極をさらに含む、請求項1から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記アルカリ化電極のアルカリ化された電気化学的活性電極材料を洗浄するステップ(e)をさらに含む、請求項1から26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記アルカリ化電極の前記アルカリ化された電気化学的活物質を乾燥するステップをさらに含む、請求項1から27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記作用電極材料がバインダを含み、前記バインダが、フッ素含有ポリマーバインダおよび他の溶媒和ポリマーバインダから選択される、請求項1から28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記バインダが、フッ素含有ポリマーバインダ(PVDF、HFP、PVDF-co-HFPまたはPTFEなど)である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記バインダが、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(プロピレンオキシド)、ポリ(ジメチルシロキサン)、ポリ(アルキレンカーボネート)、ポリ(アルキレンスルホン)、ポリ(アルキレンスルファミド)、ポリウレタン、ポリ(ビニルアルコール)、および上記ポリマーまたはそのモノマーのうちの少なくとも1つを含むコポリマー(ブロック、ランダム、交互、統計など)ならびにこれらの少なくとも2つの組合せから選択される溶媒和ポリマーバインダであり、前記ポリマーが、必要に応じて分岐および/または架橋されている、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
前記作用電極材料が、前記電子伝導性材料を含み、前記電子伝導性材料が、カーボンブラック(Ketjen(商標)ブラックおよびSuper P(商標)など)、アセチレンブラック(ShawiniganブラックおよびDenka(商標)ブラックなど)、黒鉛、グラフェン、炭素繊維またはナノ繊維(気相成長炭素繊維(VGCF)など)、カーボンナノチューブ(例えば、単層または多層)、およびこれらの少なくとも2つの組合せからなる群から選択される、請求項1から31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記作用電極材料が、使用済み電池の電極材料(例えば、正極材料)であり、ステップ(a)が、前記電極材料を前記使用済み電池の他の要素から分離し、前記材料を集電体に適用する少なくとも1つのステップを含む、請求項1から32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
ステップ(a)が、前記電気化学的活物質、前記バインダおよび必要に応じて前記電子伝導性材料を溶媒中で混合することと、前記集電体に適用することと、乾燥することと、を含む、請求項1から32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
請求項1から34のいずれか一項に記載の方法によって得られる電極。
【請求項36】
電気化学的活物質の電気化学的アルカリ化の方法であって、
(i)前記電気化学的活物質を、還元剤およびアルカリ金属塩を溶媒中に含有する溶液に添加して、アルカリ化された電気化学的活物質を生成するステップと、
(ii)前記アルカリ化された電気化学的活物質と前記溶液とを分離するステップと、
(iii)ステップ(ii)で分離した前記溶液を電気化学的に処理して、前記溶液中の前記還元剤を再生するステップと、
を含む、方法。
【請求項37】
前記電気化学的活物質および前記アルカリ化された電気化学的活物質が、請求項1から10のいずれか一項に記載の通りである、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記還元剤が、還元される前記電気化学的活物質(アルカリ金属欠乏)より低いレドックス電位を有するレドックス対の還元メンバーである、請求項36または37に記載の方法。
【請求項39】
前記レドックス対がFe(II)/Fe(III)ベースである、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記レドックス対が、[Fe(CN)3-/[Fe(CN)4-、[Fe(nta)]/[Fe(nta)]、[Fe(tdap)]2-/[Fe(tdap)]3-、[Fe(edta)]/[Fe(edta)]2-、[Fe(シトレート)]/[Fe(シトレート)]、[Fe(TEOA)OH]/[Fe(TEOA)OH]、および[Fe(オキサレート)]/[Fe(オキサレート)]から選択される、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
ステップ(i)が、前記溶液を脱酸素化するステップをさらに含む、請求項36から40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
ステップ(i)および/または(iii)が、酸素の存在を排除するガスの存在下で実施される、請求項36から41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記アルカリ金属塩が、アルカリ金属硫酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、水酸化物、硝酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、リン酸塩、およびこれらの組合せから選択される、請求項36から42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記アルカリ金属塩がアルカリ金属硫酸塩である、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記アルカリ金属塩がアルカリ金属重炭酸塩である、請求項43に記載の方法。
【請求項46】
ステップ(i)が、ガス状二酸化炭素の存在下で実施される、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記アルカリ金属塩のアルカリ金属がリチウムである、請求項36から46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
前記溶液のpHを、ステップ(i)の前記電気化学的活物質に適合したpHに調整する(例えば、FePOの場合、pHは5~9、好ましくは6~7.5に調整される)ステップをさらに含む、請求項36から47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
前記溶媒が水性溶媒である、請求項36から48のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
前記電気化学的処理のステップ(iii)が、電解セル中で、少なくとも1つのカソードと少なくとも1つのアノードとの間に電流を通すことによって実施される、請求項36から49のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
前記電解セルが、再生した前記還元剤を保護するために、アノードとカソードとの間に設置された少なくとも1つのイオン性または非イオン性セパレータを含む、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記電解セルが、前記溶液を脱酸素化されたまま保持するシステムをさらに含む、請求項50または51に記載の方法。
【請求項53】
前記システムが、二酸化炭素、窒素またはアルゴンなどの酸素非含有ガスを含む、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記電気化学的活物質が、ステップ(i)の前記溶液中の懸濁液の形態であり、ステップ(ii)が、濾過、遠心分離またはデカンテーションによって実施され、その後、必要に応じて洗浄ステップが実施される、請求項36から53のいずれか一項に記載の方法。
【請求項55】
前記電気化学的活物質が、集電体上の電極材料中に含まれ、ステップ(ii)が、前記溶液から前記電極を取り出すことと、その後、必要に応じて洗浄ステップとを含む、請求項36から53のいずれか一項に記載の方法。
【請求項56】
前記電極材料がバインダをさらに含む、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
前記バインダが、フッ素含有ポリマーバインダおよび溶媒和ポリマーバインダから選択される、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
前記バインダが、フッ素含有ポリマーバインダ(PVDF、HFP、PVDF-co-HFPまたはPTFEなど)である、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
前記バインダが、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(プロピレンオキシド)、ポリ(ジメチルシロキサン)、ポリ(アルキレンカーボネート)、ポリ(アルキレンスルホン)、ポリ(アルキレンスルファミド)、ポリウレタン、ポリ(ビニルアルコール)、および上記ポリマーまたはそれらのモノマーのうちの少なくとも1つを含むコポリマー(ブロック、ランダム、交互、統計など)ならびにこれらの少なくとも2つの組合せから選択される溶媒和ポリマーバインダであり、前記ポリマーが、必要に応じて分岐および/または架橋されている、請求項57に記載の方法。
【請求項60】
前記電極材料が、例えば、カーボンブラック(Ketjen(商標)ブラックおよびSuper P(商標)など)、アセチレンブラック(ShawiniganブラックおよびDenka(商標)ブラックなど)、黒鉛、グラフェン、炭素繊維またはナノ繊維(気相成長炭素繊維(VGCF)など)、カーボンナノチューブ(例えば、単層または多層)、およびこれらの少なくとも2つの組合せからなる群から選択される電子伝導性材料をさらに含む、請求項55から59のいずれか一項に記載の方法。
【請求項61】
前記アルカリ化された電気化学的活物質を乾燥するステップをさらに含む、請求項36から60のいずれか一項に記載の方法。
【請求項62】
請求項36から61のいずれか一項に記載の方法によって得られる前記アルカリ化された電気化学的活物質、バインダおよび必要に応じて電子伝導性材料を含む、電極。
【請求項63】
負極、正極および電解質を含む電気化学セルであって、前記正極が、請求項35または62に記載の電極である、電気化学セル。
【請求項64】
請求項63に記載の少なくとも1つの電気化学セルを含む、電池。
【請求項65】
前記電池が、リチウム電池またはリチウムイオン電池である、請求項64に記載の電池。
【請求項66】
携帯電話、カメラ、タブレットもしくはラップトップなどの携帯機器、電気自動車もしくはハイブリッド車、または再生可能エネルギー貯蔵における使用のための、請求項63に記載の電気化学セルまたは請求項64もしくは65に記載の電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2019年11月13日に出願された米国仮特許出願第62/934,782号に対して適用法令に基づく優先権を主張し、その全内容は参照によりあらゆる目的で本明細書に組み込まれる。
【0002】
技術分野
本技術は、一般的に、例えば、アルカリ金属を含む金属酸化物および金属リン酸塩の製造のために、アルカリ金属イオンを電気化学的活物質に挿入または再挿入する方法の分野に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
リチウム電池の製造において、正極は一般的に、集電体(通常はアルミホイル)に活物質、導電材料、およびバインダの懸濁液をコーティングし、その後で乾燥することによって製造される。活物質は一般的に、リチウム化金属酸化物またはリチウム化金属リン酸塩であり、ここで、金属は遷移金属であっても2つまたはそれよりも多い遷移金属の組合せであってもよい。電気化学セルは通常、放電状態にて負極およびセパレータで組み立てられ、すなわち、正極は完全にリチウム化されている。例外は、非リチウム化の形態で集電体に適用される活物質Vである。このような場合には、電池は完全に充電された状態で組み立てられ、これは深刻な安全性および火災の危険を表す。Walkらのグループは、負極として金属リチウムを使用する電気化学的条件下のV電極のプレリチウム化プロセスを記載した(米国特許第5,496,663号を参照)。そのようなリチウム化プロセスは、ガルバーニ電気のものであり、必要なリチウム源としての金属リチウムの存在およびさまざまな溶媒(特に水溶液)との不相溶性のために、非プロトン性および非水電解質の使用を要する。この手法の別の欠点は、金属リチウムが、経済的観点および大規模プロセスで使用する場合に必要とされる予防策の面の両方から最も有利なリチウム源ではないという現実に関連する。
【0004】
有機溶媒中で再リチウム化するための金属リチウムまたは金属リチウム合金の使用もまた、Liuらによる他の電極材料に提案されてきた(PCT特許公開第WO2019/070896A1号を参照)。しかしながら、この手法も、パウチセルの成形、長時間の待機(通常20時間超)、次いで過剰の金属リチウムの剥離などのステップを要する複雑な多段階プロセスにおける電極材料に直接適用される金属リチウム(またはその合金の1つ)および有機電解溶媒の使用をベースとする。
【0005】
リチウム化プロセスにおいて前述の金属リチウムをリチウム源として使用する欠点を回避するために、他にも、有機溶媒中での塩化リチウムなどの安価な材料の使用が提案された(Grantら著、米国特許出願第2018/0040914号を参照)。このプロセスでは、リチウムが挿入される電極材料は、リチウムイオン電池、黒鉛のアノード材料、酸化ケイ素、および酸化スズタイプである。プロセスにおいて使用されるハロゲン化リチウムは、対電極で毒性および腐食性ハロゲンガスを発生する。ハロゲンガスは、セットアップにおける任意の残留水とも反応し得、より腐食性の酸(HClまたはHFなど)を生成し、これにはプロセス中に追加の対策をとることを要する。
【0006】
別のグループは、リチウムが枯渇した電池の電極材料の再現を提示した(Sloop著の米国特許第9,287,552号を参照)。高温固相反応、密閉型圧力容器中で実施される熱水プロセス、および還元性溶液を使用済み電池に直接導入することによって潜在的にインサイチュで実施されうる還元状態の使用を含めたさまざまな手法がここに記載されている。後者の手法は、リチウム枯渇のみが使用済み電池の欠点ではないことを考慮に入れていない。実際、電極は、活物質およびバインダの破砕、リチウムアンチサイト、パッシベーション層、集電体の剥離、カソード表面への銅の付着の減少、集電体の腐食なども示しうる。その上、Sloopは、正極が電池から完全な状態のままで分離されることを提案し、これは、例えば、使用済み電池からの回転導子(「ジェリーロール」)の抽出、後続するステップのために電極ストリップ全体を持ちながらの電極の展開および分類を含めた大規模での実行が非常に難しい。そのような分類された電極も上述の追加の欠点を有する。Sloopは、使用済み正極を分類された状態で帯電したトレイまたはグリッド中に付着させた、使用済み正極の再リチウム化にも言及しているが、実証はしていない。電極部分とトレイまたはグリッドとの間の不満足な電気接点は、他の電気化学的反応(水素発生など)に好都合な不均一な電流および電位分布につながり、電極全体にわたって低い電流効率および不均一な再リチウム化をもたらす。
これに応じて、新規電極材料の調製において使用できるプロセスを含めた活性電極材料のアルカリ化または再アルカリ化の新規プロセスまたはその再利用プロセスが必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5,496,663号明細書
【特許文献2】国際公開第2019/070896号
【特許文献3】米国特許出願公開第2018/0040914号明細書
【特許文献4】米国特許第9,287,552号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
概要
第1の態様によれば、本明細書は、電気化学的活物質の電気化学的アルカリ化の方法であって、
a)集電体上に作用電極材料を含む作用電極を得るステップであり、前記作用電極材料が、電気化学的活物質、必要に応じてバインダおよび/または電子伝導性材料を含む、ステップと、
b)作用電極を、不活性対電極、および溶媒中にアルカリ金属塩を含む溶液と共に、連続および/またはバッチモードで電気化学的反応器に導入するステップと、
c)作用電極と対電極との間に直流を印加して、アルカリ化された電気化学的活物質を含むアルカリ化電極を得るステップと、
d)ステップ(c)で得たアルカリ化電極を電気化学的反応器から取り出すステップと、
を含み、
電気化学的活物質が、金属酸化物(複合酸化物を含む)、金属リン酸塩、金属ケイ酸塩、金属硫酸塩、または部分的にアルカリ化された金属酸化物(複合酸化物を含む)、金属リン酸塩、金属ケイ酸塩、もしくは金属硫酸塩を含む、
方法に関する。
【0009】
ある実施形態によれば、電気化学的活物質は、アルカリ金属欠乏である。別の実施形態では、この方法は、式Iの電気化学的活物質:
w-pn+p (I)
を、式IIのアルカリ化された電気化学的活物質:
(II)
(式中、
Aは、アルカリ金属であり、
Mは、遷移金属、ポスト遷移金属またはこれらの組合せであり、
Xは、P、SiおよびSから選択され、
Oは、酸素原子であり、
wは、1~4の数から選択され、アルカリ化された電気化学的活物質中のA原子の数に相当し、
xは、1~5の数から選択され、M原子の数に相当し、
yは、0~2の数から選択され、yがゼロの場合、Xは存在せず、
zは、1~12の数から選択され、式中の酸素原子の数に相当し、
nは、Mの酸化状態を示し、
式I中のpは、欠損しているA原子の平均数とMの酸化状態の平均増加との両方を示し、ここでp≦w(好ましくは0<p≦1)であり、
w、y、z、nおよびpは、安定な電気的中性化合物になるように選択される)
に変換することを含む。
【0010】
別の実施形態では、p=wであり、式I中のAは存在せず、式Iの電気化学的活物質は式I(a):Mn+p である。別の実施形態では、Xはリンであり、yは1であり、zは4である。別の実施形態では、Mは、Fe、Ni、Mn、Coまたはこれらの少なくとも2つの組合せである。代替の実施形態では、Mは、V、Mn、Ni、Co、Fe、Cr、Ti、Zr、Snまたはこれらの少なくとも2つの組合せである。さらに別の実施形態では、yは0であり、Xは存在しない。一部の好ましい実施形態によれば、AはLi、NaもしくはKである、またはAはLiである。
【0011】
別の実施形態では、電気化学的活物質またはアルカリ化された電気化学的活物質は、Mを遷移金属(例えば、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Mo、WもしくはY)および/または遷移金属以外の金属(例えば、Mg、Ca、Sr、Al、SbもしくはSn)で部分的に置換することによってさらにドープされている。
【0012】
追加の実施形態では、溶媒は、水性溶媒、有機溶媒またはこれらの混合物から選択され、例えば、溶媒は水である。
【0013】
他の実施形態では、アルカリ金属塩は、アルカリ金属硫酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、水酸化物、硝酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、またはリン酸塩のうちの少なくとも1つを含む。一実施形態では、アルカリ金属塩は、アルカリ金属硫酸塩である。別の実施形態では、アルカリ金属塩は、アルカリ金属重炭酸塩であり、例えば、ステップ(b)および/または(c)は、ガス状二酸化炭素の存在下で実施する。別の実施形態では、この方法は、溶液のpHを、ステップ(a)の電気化学的活物質に適合したpHに調整する(例えば、FePOの場合、pHは5~9、好ましくは6~7.5に調整される)ステップをさらに含む。一実施形態では、アルカリ金属塩のアルカリ金属はリチウムである。
【0014】
他の実施形態では、ステップ(c)は、連続またはバッチモードで実施される。別の実施形態では、ステップ(c)は連続モードで実施され、作用電極は電気化学的反応器の片側に導入され、作用電極が、比較的均一な電流および電位分布を維持するように電気化学的反応器の電気化学的活性領域に沿って移動しながら、対電極から一定の距離にとどまるように所定の経路に沿って移動する。他の実施形態では、作用電極が電気化学的反応器を通って移動する速度は、印加される電流密度で所定のレベルのアルカリ化に要する滞留時間に基づいて調整される。
【0015】
さらに別の実施形態では、ステップ(c)は、作用電極と対電極との間の電流密度が制御されたモードで実施される。あるいは、ステップ(c)は、作用電極と対電極との間の電圧が制御されたモードで実施される。
【0016】
他の実施形態では、電気化学的活物質は、FePOまたは部分的に脱リチウム化されたLiFePOであり、作用電極における電流密度は0.001A/g~100A/g活性LiFePOの範囲、好ましくは1~15A/g活性LiFePOの範囲である。
【0017】
別の実施形態では、ステップ(c)は、5℃~90℃、好ましくは25℃~50℃の範囲の温度で実施される。一部の実施形態では、ステップ(b)は、参照電極をさらに含むことができる。
【0018】
他の実施形態では、上記の方法は、アルカリ化電極のアルカリ化された電気化学的活性電極材料を洗浄するステップ(e)および/またはアルカリ化電極のアルカリ化された電気化学的活性電極材料を乾燥するステップをさらに含む。
【0019】
さらに他の実施形態では、作用電極材料はバインダを含み、バインダは、フッ素含有ポリマーバインダおよび他の溶媒和ポリマーバインダから選択される。一実施形態によれば、バインダは、PVDF、HFP、PVDF-co-HFPまたはPTFEなどのフッ素含有ポリマーバインダである。別の実施形態によれば、バインダは、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(プロピレンオキシド)、ポリ(ジメチルシロキサン)、ポリ(アルキレンカーボネート)、ポリ(アルキレンスルホン)、ポリ(アルキレンスルファミド)、ポリウレタン、ポリ(ビニルアルコール)、および上記ポリマーまたはそれらのモノマーのうちの少なくとも1つを含むコポリマー(ブロック、ランダム、交互、統計など)ならびにこれらの少なくとも2つの組合せから選択される溶媒和ポリマーバインダであり、前記ポリマーは、必要に応じて分岐および/または架橋されている。
【0020】
別の実施形態では、作用電極材料は、電子伝導性材料を含み、これは、カーボンブラック(Ketjen(商標)ブラックおよびSuper P(商標)など)、アセチレンブラック(ShawiniganブラックおよびDenka(商標)ブラックなど)、黒鉛、グラフェン、炭素繊維またはナノ繊維(気相成長炭素繊維(VGCF)など)、カーボンナノチューブ(例えば、単層または多層)、およびこれらの少なくとも2つの組合せからなる群から選択される。
【0021】
一部の実施形態では、作用電極材料は、使用済み電池の電極材料(例えば、正極材料)であり、ステップ(a)は、電極材料を使用済み電池の他の要素から分離し、前記材料を集電体に適用する少なくとも1つのステップを含む。
【0022】
他の実施形態では、ステップ(a)は、電気化学的活物質、バインダおよび必要に応じて電子伝導性材料を溶媒中で混合することと、混合物を集電体に適用することと、乾燥することと、を含む。
【0023】
第2の態様によれば、本明細書は、上記の方法によって得られる電極に関する。
【0024】
第3の態様によれば、本明細書は、電気化学的活物質の電気化学的アルカリ化の方法であって、
(i)電気化学的活物質を、還元剤およびアルカリ金属塩を溶媒中に含有する溶液に添加して、アルカリ化された電気化学的活物質を生成するステップと、
(ii)アルカリ化された電気化学的活物質を溶液から分離するステップと、
(iii)ステップ(ii)で分離した溶液を電気化学的に処理して、溶液中の還元剤を再生するステップと、
を含む、方法に関する。
【0025】
一実施形態では、電気化学的活物質およびアルカリ化された電気化学的活物質は、本明細書中で定義する通りである。別の実施形態によれば、電気化学的活物質は、アルカリ金属欠乏である。別の実施形態では、還元剤は、還元される電気化学的活物質(アルカリ金属欠乏)のそれより低いレドックス電位を有するレドックス対の還元メンバーである。一実施形態によれば、レドックス対は、例えば、[Fe(CN)3-/[Fe(CN)4-、[Fe(nta)]/[Fe(nta)]、[Fe(tdap)]2-/[Fe(tdap)]3-、[Fe(edta)]/[Fe(edta)]2-、[Fe(シトレート)]/[Fe(シトレート)]、[Fe(TEOA)OH]/[Fe(TEOA)OH]、および[Fe(オキサレート)]/[Fe(オキサレート)]から選択されるFe(II)/Fe(III)錯体を含む。
【0026】
一実施形態によれば、ステップ(i)は、溶液を脱酸素化するステップをさらに含む。別の実施形態によれば、ステップ(i)および/または(iii)は、酸素の存在を排除するガスの存在下で実施される。
【0027】
別の実施形態では、アルカリ金属塩は、アルカリ金属硫酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、水酸化物、硝酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、リン酸塩、およびこれらの組合せから選択される。一実施形態では、アルカリ金属塩は、アルカリ金属硫酸塩である。別の実施形態では、アルカリ金属塩は、アルカリ金属重炭酸塩であり、例えば、ステップ(i)は、ガス状二酸化炭素の存在下で実施される。別の実施形態では、この方法は、溶液のpHを、ステップ(i)の電気化学的活物質に適合したpHに調整する(例えば、FePOの場合、pHは5~9、好ましくは6~7.5に調整される)ステップをさらに含む。一実施形態では、塩のアルカリ金属はリチウムである。別の実施形態では、溶媒は水性溶媒である。
【0028】
一実施形態によれば、電気化学的処理のステップ(iii)は、電解セル中で、少なくとも1つのカソードと少なくとも1つのアノードとの間に電流を通すことによって実施される。一実施形態では、電解セルは、再生した還元剤を保護するために、アノードとカソードとの間に設置された少なくとも1つのイオン性または非イオン性セパレータを含む。別の実施形態では、電解セルは、溶液を脱酸素化されたまま保持するシステムをさらに含み、例えば、このシステムは電解セル中に酸素非含有ガス(二酸化炭素、窒素またはアルゴンなど)を維持することを含む。
【0029】
さらに別の実施形態では、電気化学的活物質は、ステップ(i)の溶液中の懸濁液の形態であり、ステップ(ii)は、濾過、遠心分離、またはデカンテーションによって実施され、その後、必要に応じて洗浄ステップが実施される。
【0030】
あるいは、電気化学的活物質は、集電体上の電極材料中に含まれ(電極を形成する)、ステップ(ii)は、溶液から電極を取り出すことと、その後、必要に応じて洗浄ステップとを含む。
【0031】
この代替の一実施形態では、電極材料は、例えば、フッ素含有ポリマーバインダおよび他の溶媒和ポリマーバインダから選択されるバインダをさらに含む。一実施形態によれば、バインダは、フッ素含有ポリマーバインダ(PVDF、HFP、PVDF-co-HFPまたはPTFEなど)である。あるいは、バインダは、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(プロピレンオキシド)、ポリ(ジメチルシロキサン)、ポリ(アルキレンカーボネート)、ポリ(アルキレンスルホン)、ポリ(アルキレンスルファミド)、ポリウレタン、ポリ(ビニルアルコール)、および上記ポリマーまたはそれらのモノマーのうちの少なくとも1つを含むコポリマー(ブロック、ランダム、交互、統計など)、ならびにこれらの少なくとも2つの組合せから選択される溶媒和ポリマーバインダであり、これらのポリマーは、必要に応じて分岐および/または架橋されている。別の実施形態によれば、電極材料は、例えば、カーボンブラック(Ketjen(商標)ブラックおよびSuper P(商標)など)、アセチレンブラック(ShawiniganブラックおよびDenka(商標)ブラックなど)、黒鉛、グラフェン、炭素繊維またはナノ繊維(気相成長炭素繊維(VGCF)など)、カーボンナノチューブ(例えば、単層または多層)、およびこれらの少なくとも2つの組合せからなる群から選択される電子伝導性材料をさらに含む。
【0032】
別の実施形態では、この方法は、アルカリ化された電気化学的活物質を乾燥するステップをさらに含む。
【0033】
第4の態様によれば、本明細書は、本明細書中で定義される方法によって得られるアルカリ化された電気化学的活物質、バインダおよび必要に応じて電子伝導性材料を含む、電極に関する。
【0034】
第5の態様によれば、本明細書は、負極、正極および電解質を含む電気化学セルであって、正極が本明細書中で定義される電極である、電気化学セル、または少なくとも1つのそのような電気化学セルを含む電池に関する。例えば、電池は、リチウム電池またはリチウムイオン電池である。
【0035】
別の実施形態では、電気化学セルまたは本明細書中で定義する電池は、携帯電話、カメラ、タブレットもしくはラップトップなどの携帯機器、電気自動車もしくはハイブリッド車、または再生可能エネルギー貯蔵における使用のためのものである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1図1は、実施例1(a)による時間の関数としての脱リチウム化の間のリチウム浸出率のグラフを表す。
【0037】
図2図2は、実施例1(a)による充放電前のLiFePOのX線回折パターン(上線)およびその脱リチウム化FePO(下線)を示す。
【0038】
図3図3は、実施例1(c)に記載されるように、1mV/sの速度で0V vs. OCP(開路電位)から-1V vs. SCE(飽和カロメル電極)まで実施されたFePO電極の線形走査ボルタンメトリーを表す。
【0039】
図4図4は、実施例1による充放電前のLiFePO(上線)、脱リチウム化FePO(中央線)および再リチウム化LiFePO(下線)のX線回折パターンを示す。
【0040】
図5図5は、実施例2による10mAで実施されるFePO電極の定電流再リチウム化のボルタモグラムを示す。
【0041】
図6図6は、実施例2による充放電前のLiFePO(上線)、脱リチウム化FePO(中央線)および再リチウム化LiFePO(下線)のX線回折パターンを表す。
【0042】
図7図7は、実施例3による-0.2V vs. 25℃(破線)および50℃(実線)のSCEで定電位再リチウム化を受けた2本のFePO電極のガルバーニ電気反応を表す。
【0043】
図8図8は、実施例3による充放電前のLiFePO(上線)、25℃で再リチウム化したLiFePO(中央線)および50℃で再リチウム化したLiFePO(下線)のX線回折パターンを表す。
【0044】
図9図9は、実施例4による0.5MのLiHCO水溶液中、1mV/sの流量で、0V vs. OCPと-1.1V vs. SCEとの間で実施されたFePO電極のカソード線形走査ボルタンメトリーを表す。
【0045】
図10図10は、実施例4による-0.2V vs. 25℃の0.25M LiSO(破線)および0.5M LiHCO(実線)中のSCEで定電位再リチウム化を受けた2本のFePO電極のガルバーニ電気反応を表す。
【0046】
図11図11は、実施例4による充放電前のLiFePO(上線)、脱リチウム化FePO(中央線)および再リチウム化LiFePO(下線)のX線回折パターンを表す。
【0047】
図12図12は、実施例5のプロセスによるアルミニウム集電体上に適用された電極材料の時間の関数としての電流の変化を示す。
【0048】
図13図13は、実施例5による充放電前のLiFePO(上線)、脱リチウム化FePO(中央線)および再リチウム化LiFePO(下線)電極材料のX線回折パターンを表す。
【0049】
図14図14は、実施例5による基準LiFePO(三角)と比較した再リチウム化LiFePO(丸)の放電容量を示す。
【0050】
図15図15は、実施例6(b)により、走査速度200mV/秒で、2.05Vと4.25V vs. Li/Liとの間で実施されたFe(III)-EDTA溶液のボルタモグラムを示す。
【0051】
図16図16は、実施例6(b)によるEDTA-LiOHの溶液(破線)およびLiOH中のFe(III)-EDTAの溶液(実線)の場合における分極曲線を表す。
【0052】
図17図17は、実施例7(a)によるFe(II)-EDTAによるFePOの還元中の懸濁液のレドックス電位の変化を示す。
【0053】
図18図18は、実施例7(a)による充放電前のLiFePO(上線)、脱リチウム化LiFePO(中央線)および再リチウム化LiFePO(下線)のX線回折パターンを表す。
【0054】
図19図19は、実施例7(b)によるFe(II)-シトレートによるFePOの還元中の懸濁液のレドックス電位の変化を示す。
【0055】
図20図20は、実施例7(b)による充放電前のLiFePO(上線)、脱リチウム化LiFePO(中央線)および再リチウム化LiFePO(下線)のX線回折パターンを表す。
【0056】
図21図21は、実施例8(a)で提示する電解中のFe(II)-EDTA濃度の変化および溶液のレドックス電位の変化を表す。
【0057】
図22図22は、実施例8(b)によるFe(II)-EDTAの電解により発生するFe(II)-EDTAによるFePOの還元中の懸濁液のレドックス電位の変化を示す。
【0058】
図23図23は、実施例8(b)による充放電前のLiFePO(上線)、脱リチウム化LiFePO(中央線)および再リチウム化LiFePO(下線)のX線回折パターンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0059】
詳細な説明
以下の詳細な説明および実施例は、例示を目的とするものであり、本発明の範囲をさらに限定するものと解釈すべきではない。
【0060】
本明細書で使用される全ての専門用語および科学用語ならびに表現は、本技術に関連するときに当業者が一般的に理解するものと同じ定義を有する。それでもなお、明確性の目的で、本明細書で使用される一部の用語および表現の定義を以下に記載する。
【0061】
用語「約」を本明細書中で使用する場合、おおよそ、その辺り、および周囲を意味する。用語「約」を数値に関連して使用する場合、例えば、その数値の前後10%変動で修正することができる。この用語は、実験測定値の確率的誤差の確率または丸め値も考慮に入れることができる。
【0062】
本明細書中で使用される用語「アルカリ化する」および「アルカリ化」は、活物質へのアルカリ金属イオンの挿入を伴う、金属を含む活物質の還元を指す。用語「リチウム化する」および「リチウム化」は、アルカリ金属イオンがリチウムイオンである場合に使用される。同様に、用語「アルカリ化された」および「リチウム化された」は、一般的に、アルカリ化またはリチウム化それぞれの結果として生じる物質を指す。同様に、用語「再アルカリ化する」、「再アルカリ化」、「再リチウム化する」および「再リチウム化」は、アルカリ金属イオンまたはリチウムイオンそれぞれが損失または結合した活物質のアルカリ化またはリチウム化を指す。
【0063】
したがって、本明細書は、非ゼロ酸化状態の少なくとも1つの金属を含有する電気化学的活物質のアルカリ化に関する。この方法における第1のステップは、集電体上に電極材料を含む作用電極を得ることである。電極材料は、アルカリ化される電気化学的活物質を含み、他の成分を含んでもよい。例えば、電気化学的活物質は、バインダおよび必要に応じて導電材料中に均一に分散される。
【0064】
電気化学的活物質は、一般的に、金属酸化物(複合酸化物を含む)、金属リン酸塩、金属ケイ酸塩、金属硫酸塩、またはこれらの部分的にアルカリ化された酸化物、リン酸塩、ケイ酸塩もしくは硫酸塩を含むと定義されうる。例としては、電気化学的活物質は、式I:
w-pn+p (I)
(式中、
Aは、アルカリ金属(例えば、Li、NaおよびK、好ましくはリチウム)であり、
Mは、遷移金属、ポスト遷移金属またはこれらの組合せであり、
Xは、P、SiおよびSから選択され、
Oは、酸素を表し、
wは、1~4の数から選択され、アルカリ化された電気化学的活物質中のA原子の数に相当し、
xは、1~5の数から選択され、M原子の数に相当し、
yは、0~2の数から選択され、yがゼロの場合、Xは存在せず、
zは、1~12の数から選択され、式中の酸素原子の数に相当し、
nは、Mの酸化状態を示し、
pは、欠損しているA原子の平均数とMの酸化状態の平均増加との両方を示し、ここでp≦w(好ましくは0<p≦1)であり、
w、y、z、nおよびpは、安定な電気的中性化合物になるように選択される)
である。
【0065】
また、この方法によって得られたアルカリ化された電気化学的活物質は、式II:
(II)
(式中、A、M、X、O、n、w、x、yおよびzは、本明細書中で規定する通りである)
である。
【0066】
電気化学的活物質の例は、式Iの化合物を含み、式中、p=wであり、Aは存在せず、式Iの電気化学的活物質は式I(a):Mn+p である。一部の例では、Xはリンであり、yは1であり、zは4である。
【0067】
遷移金属Mの例としては、Fe、Ni、Mn、Coまたはこれらの組合せが挙げられ、好ましくはXがリンの場合、yは1であり、zは4である。別の例によれば、電気化学的活物質は、FePOまたは部分的に脱リチウム化されたLiFePOである。Mの例として、V、Mn、Ni、Co、Fe、Cr、Ti、Zr、Snまたはこれらの少なくとも2つの組合せから選択される金属も含むことができる。一部の例では、yは0であり、Xは存在せず、式Iは酸化物または複合酸化物を表す。
【0068】
電気化学的活物質および/またはアルカリ化された電気化学的活物質はまた、Mを、例としては遷移金属(例えば、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Mo、WもしくはY)および/または遷移金属以外の金属(例えば、Mg、Ca、Sr、Al、SbもしくはSn)で部分的に(10mol%もしくはそれ未満、または5mol%もしくはそれ未満)置換することによってドープされていてもよい。
【0069】
第1の方法ステップにおいて、式IまたはI(a)などのアルカリ金属欠乏材料を、エネルギー貯蔵装置のための電極の作製に必要であり、集電体に適用される全成分と混合することができる。アルカリ化される材料は、市販のもので、電気化学セル中の電極として使用する前にアルカリ化を実現するために本方法の作用電極材料に含まれてもよい。あるいは、アルカリ化される電気化学的活物質は、電池の再利用プロセスの結果得られるものであってもよい。
【0070】
電気化学的活物質は、微粒子またはナノ粒子の形態であってもよく、および/または炭素被覆物をさらに含んでもよい。
【0071】
電極材料用の成分は、少なくとも1つのバインダ、例えばポリマーバインダ、好ましくは極性および溶媒和ポリマーバインダをさらに含むことができる。
【0072】
正極バインダとしての使用に好適でありうる溶媒和ポリマーの非限定例としては、PVDF、HFP、PVDF-co-HFPおよびPTFEなどのフッ素原子含有ポリマーバインダが挙げられる。溶媒和ポリマーバインダの他の例としては、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(プロピレンオキシド)、ポリ(ジメチルシロキサン)、ポリ(アルキレンカーボネート)、ポリ(アルキレンスルホン)、ポリ(アルキレンスルファミド)、ポリウレタン、ポリ(ビニルアルコール)、および上記ポリマーまたはそれらのモノマーのうちの少なくとも1つを含むコポリマー(ブロック、ランダム、交互、統計など)、ならびにこれらの少なくとも2つの組合せが挙げられる。これらの溶媒和ポリマーはまた、分岐および/または架橋されていてもよい。バインダの他の例としては、SBR(スチレンブタジエンゴム)、NBR(アクリロニトリルブタジエンゴム)、HNBR(水素化NBR)、CHR(エピクロロヒドリンゴム)、ACM(アクリレートゴム)などの水溶性バインダ、およびセルロース系バインダ(例えば、カルボキシアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、およびこれらの組合せ)、またはこれらの少なくとも2つの任意の組合せが挙げられる。水溶性バインダは、本方法の溶媒が水性溶媒である場合、本アルカリ化方法において使用できないことを理解されたい。
【0073】
電子伝導性材料の例としては、非限定的には、カーボンブラック(Ketjen(商標)ブラックおよびSuper P(商標)など)、アセチレンブラック(ShawiniganブラックおよびDenka(商標)ブラックなど)、黒鉛、グラフェン、炭素繊維またはナノ繊維(気相成長炭素繊維(VGCF))、カーボンナノチューブ(例えば、単層または多層)およびこれらの少なくとも2つの組合せが挙げられる。
【0074】
方法の第2のステップは、作用電極を、不活性対電極、および溶媒中にアルカリ金属塩を含む溶液と共に、電気化学的反応器に導入することを含む。電気化学的反応器は、参照電極(飽和カロメル電極(SCE)など)をさらに含むことができる。別の例では、電気化学的反応器は、電解のためのポテンシオスタットまたは整流器も備えていてもよい。電気化学的反応器は、連続またはバッチモードの電解のために構成され、作用電極への物質移動を増加するための攪拌モードおよび/または温度制御装置などの追加の要素を含むことができる。
【0075】
電気化学的反応器に含まれる溶液は、電解質として作用し、活物質中に挿入させる少なくとも1つのアルカリ金属塩(例としては、リチウム、ナトリウム、またはカリウム塩、好ましくはリチウム塩、好ましくはハロゲン化物塩を除く)を含む。好適な塩の例としては、アルカリ金属の硫酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、水酸化物、硝酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、またはリン酸塩、例えばASOまたはAHCO(式中、Aは上記の通りである)が挙げられる。溶液の溶媒は、有機溶媒、水性溶媒またはこれらの組合せ、好ましくは水性溶媒である。例えば、溶媒は水(例えば、蒸留水または高純度水)である。pH調整ステップも方法に含むことができる。溶液のpHは、例えば、安定性を維持し、溶解を回避するために、電気化学的活物質(およびそれをアルカリ化したもの)に適合しなければならない。例えば、電気化学的活物質またはそれを部分的にアルカリ化したものを処理する場合、pHを5~9、好ましくは6~7.5に調整する。例えば、溶液が過度に酸性の場合、pHをアルカリ金属水酸化物によって調整することができる。支持電解質をさらに添加して、電解質の抵抗を低減してもよい。
【0076】
対電極は、電解条件下で不活性の材料、例えば、白金、貴金属酸化物、酸化鉛で作製され、必要に応じて触媒化合物の層を含ませて電極過電圧を低減することができる。例えば、水溶液の場合、対電極の反応は、酸素の放出をもたらし、寸法安定性のアノードを対電極材料として使用することができる。
【0077】
第3のステップは、アルカリ金属欠乏電気化学的活物質を含有する作用電極と対電極との間に直流を印加して、アルカリ化された電気化学的活物質(例えば、式IIに規定したもの)を含むアルカリ化電極を得ることを含む。このステップは、5℃~90℃、好ましくは25℃~50℃の範囲の温度で実施することができる。
【0078】
上述するように、電気化学的反応器は、連続またはバッチモードのいずれかで操作することができる。連続モードでは、作用電極は、片側から電気化学的反応器に入り、所定の経路を辿り、したがって作用電極は、比較的均一な電流および電位分布を維持するように電気化学的反応器の電気化学的活性領域を通って移動しながら、対電極から一定の距離にとどまる。作用電極が電気化学的反応器を通って移動する速度は、所定のレベルのアルカリ化に要する滞留時間および印加される電流密度によって決まる。電気化学的反応器は、作用電極と対電極との間の電流密度が制御されたモードまたは電圧が制御されたモードのいずれかで操作できる。
【0079】
特定の例によれば、電気化学的活物質は、FePOまたは部分的に脱リチウム化されたLiFePOであり、作用電極における電流密度は、0.001A/g~100A/g活性LiFePOの範囲、好ましくは1~15A/g活性LiFePOの範囲である。
【0080】
標的とするアルキル化レベルに達したら、作用電極を電気化学的反応器から取り外す。次いで、こうしてアルキル化された電極を、好ましくは洗浄ステップに供し、過剰の電解質をアルカリ化電極材料から除去し、後続して乾燥ステップに進み、過剰の洗浄液を除去する。
【0081】
存在する場合、参照電極を反応器中に配置して、作用電極の電位をモニタリングすることができる。その存在は、作用電極の寄生反応を最小限に抑え、アルカリ化電流の効率を最大限にする。
【0082】
代替では、化学的還元プロセスを、本明細書中に規定の電気化学的活物質のアルカリ化に使用することもできる。この代替のアルカリ化方法は、還元剤を含み、電気化学的に還元剤を再生するステップをさらに含む。例としては、電気化学的活物質を、溶媒中の還元剤およびアルカリ金属塩の溶液で処理することができる。酸素の存在下で容易に酸化しやすいとき、還元剤および/または電気化学的活物質を添加する前に、溶液を脱酸素化することができる。同様に、このステップは、ガス(CO、NまたはArなど)の存在下で実施して酸素の存在を排除することもできる。結果として得られる電気化学的活物質およびアルカリ化された電気化学的活物質は上記の通りである。好ましくは、電気化学的活物質は、アルカリ金属欠乏である。
【0083】
化学的還元ステップで使用されるアルカリ金属塩の非限定例としては、アルカリ金属硫酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、水酸化物、硝酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、およびリン酸塩またはこれらの任意の組合せが挙げられる。使用される溶媒は、好ましくは水性溶媒である。
【0084】
この方法では、アルカリ化される材料は、反応器中の懸濁液として処理し、使用済み還元剤溶液から分離し、すすぎ、乾燥し、次いで電極の製造における活性電極として使用することができる。使用済み還元剤からのアルカリ化材料の分離は、典型的な物理的分離法、例えば、濾過法、遠心分離法、またはデカンテーションによって達成することができる。次いで、分離して乾燥したアルカリ化材料を、必要とされる成分と混合して電極を作製し、集電体上に適用することができる。例えば、これらの成分には、バインダおよび必要に応じて上記の電子伝導性材料を含むことができる。
【0085】
一方、この方法を用いてアルカリ化される材料を、先ず、上記の電極材料の成分と混合し、次いで好適な集電体上に適用して、前の方法に記載される作用電極などの電極を得ることができる。次いで、作製した電極を還元剤溶液で処理するが、例えば、還元剤溶液に浸漬し、洗浄し、乾燥して処理する。
【0086】
どちらの場合も、使用済み還元剤を回収し、次いで後続のステップで再生する。例としては、使用済み還元剤を含有する溶液を高効率の高電流密度電気化学(または電解)セルに移して、使用済み還元剤を還元し(それにより再生する)、これを次いで、アルカリ金属欠乏材料を処理するために再使用することができる。例としては、還元剤の再生ステップは、少なくとも1つのカソードと少なくとも1つのアノードとの間に電流を通すことによって電解セル中で電気化学的処理を施すことによって実施する。電解セルは、再生した還元剤を保護するために、アノードとカソードとの間に設置された少なくとも1つのイオン性または非イオン性セパレータをさらに含むことができる。
【0087】
再生した剤が、酸素の存在下で酸化しやすいとき、電解セルは、溶液を脱酸素化されたまま維持するためのシステムも含むことができ、例えば、電解セル中に酸素非含有ガス(二酸化炭素、窒素またはアルゴンなど)を維持することを含む。
【0088】
電解セルの電流密度は、周知の方法(乱流プロモータの使用、温度の増加など)により、ならびに(例えば、フェルト、グリッドなどの形態の材料の使用による)カソードの有効表面積を増加することにより、電解セル中の物質移動に作用することによって増加させることができる。電解液の溶媒が水性である場合では、カソード材料は、好ましくは、黒鉛、鉛などの高水素過電圧のものから選択される。
【0089】
還元剤はほぼ無限に再使用できるため、電子のみが電極材料の還元剤として使用されると考えることができ、これは間接電気化学的還元として考えることができる。そのため、この方法は、還元剤を再生せずに使用することに比べていくつかの利点(経済面、環境面など)がある。
【0090】
さまざまなレドックス対を再生可能な還元剤として使用することができる。選択されるレドックス対は、還元する電気化学的活性(アルカリ金属欠乏)物質より低いレドックス電位を有する。例えば、FePOの再リチウム化の場合、レドックス対は、3.45V vs. Li/Li未満のレドックス電位を有する(A. K. Padhi et al., J. Electrochem. Soc., 1997, 144, 1188-1194参照)。
【0091】
レドックス対の別の所望の特性は、特にその酸化状態で、処理された電極材料の存在下で沈降の形成を回避する、比較的高い溶解性であると考えられる。使用されうるレドックス対の例としては、この間接電気化学的手法において使用するのに興味深い特性を示すFe(II)/Fe(III)錯体が挙げられる。これらの錯体は、例としては、[Fe(CN)3-/[Fe(CN)4-、[Fe(nta)]/[Fe(nta)]、[Fe(tdpa)]2-/[Fe(tdpa)]3-、[Fe(edta)]/[Fe(edta)]2-、[Fe(シトレート)]/[Fe(シトレート)]、[Fe(TEOA)OH]/[Fe(TEOA)OH]、および[Fe(オキサレート)]/[Fe(オキサレート)]を含む。これらのレドックス対は、FePOなどの鉄含有電気化学的活性(アルカリ金属欠乏)物質のアルカリ化にとって特に興味深い。
【0092】
この間接電気化学的手法の利点は、電極材料の直接電気化学的還元と比較して、非常に高い電流密度を使用する可能性があり、そのため、電気化学的反応器の生産性が向上する。
【0093】
次いで、上記の方法によって作製される電極を、例として、電極を活性対電極と積み重ね、2本の電極を電解質(セパレータを含浸する液体もしくはゲル電解質、または固体ポリマー電解質)によって分離させることによって、電気化学セルの作製のために直接使用することができる。これらの電気化学セルは、電気化学的エネルギー貯蔵装置の作製においてさらに使用することができる。
【0094】
前述の通り、本方法によってアルカリ化される材料は、電池再利用プロセスで得られる使用済み電極材料または電気化学セル中で組み立てる前に放電済み電極材料に変換される充放電前の電極材料(またはその前駆体)のいずれかであってもよい。
【0095】
本明細書はまた、本明細書中に定義する少なくとも1つの電気化学セルを含む、電池も企図する。例えば、電池は、リチウムまたはリチウムイオン電池である。本電池および電気化学セルは、携帯電話、カメラ、タブレットもしくはラップトップなどの携帯機器、電気自動車もしくはハイブリッド車、または再生可能エネルギー貯蔵において使用することができる。
【実施例
【0096】
以下の非限定的な実施例は、例示的な実施形態であり、本発明の範囲をさらに限定するものと解釈すべきではない。これらの実施例は、付随する図面を参照することによってより良く理解されるであろう。
(実施例1)
(a)脱リチウム化FePOの調製
【0097】
主要のLiFePOを少量のPVDFおよび黒鉛と共に含有する未使用のカソード材料を使用して、特許米国出願第2019/0207275号(Amouzegarら)に記載のプロセスを使用してLiFePO試料から脱リチウム化材料を生成した。この材料10部を、30psiの圧力下、室温でCOガスを発泡させた攪拌反応器中でH(Hの量は、2:1.33のFe:Hモル比になるように調整した)を含有する水溶液100部の中に分散させた。種々の間隔で取った懸濁液の濾過試料をICPによって分析し、Li、FeおよびPの濃度を測定した。次いで、浸出液由来の固体残留物を遠心分離法によって分離し、脱イオン水で洗浄し、120℃のオーブン中で48時間乾燥した。
【0098】
この様式で7つのバッチを調製し、次いで互いに合わせた。図1は、各バッチで得られたLi、FeおよびPの浸出率を示す。次いでこれらの結果を使用して、各元素の浸出効率を算出した。30分後、ほぼ80%のLiが溶液中に見つけることができ、75分後に、このパラメータが約90%の値に達することが観察された。FeおよびPの浸出率は、それぞれ0.5%および3%を超えず、非常に高い選択性およびリチウム抽出の効率を示す。
【0099】
固体複合試料および充放電前のLiFePO試料のX線回折スペクトルを、コバルト源を備えたMiniFlex 600(商標)機器を使用して得、これを図2に提示する。図示の通り、試料は、主にFePOと一部の残留LiFePOとから構成される。実際、X線回折の結果は、ICP分析結果から算出されたものより高い脱リチウム化率を確認する(回折結果の95%と比較してICP分析では90%)。
(b)FePO電極の作製
【0100】
再リチウム化の間、1(a)の脱リチウム化材料の電気化学的挙動を特性評価するために、FePO粉末を導電性カーボン(Denka(商標)ブラックおよびVGCF(商標)-H、重量目方により1:1)およびバインダ(PVDF)と、87.5:7.5:5の重量比率で混合し、次いでN-メチル-2-ピロリドン(NMP)中に分散させて懸濁液を形成した。この懸濁液を、最終的に、ドクターブレードを使用して4.16cmのステンレス鋼の集電体上にコーティングし、乾燥する(FePOに関する電極の最終塗布量は、約4.3mg/cmだった)。
(c)FePO電極材料の再リチウム化
【0101】
(b)で作製された電極を、三電極電気化学的設定の作用電極として試験した。白金メッシュを対電極として使用し、一方で飽和カロメル電極(SCE)は参照として機能した。電解質は、LiOHを添加してpHを7に調整したLiSO水溶液(0.25M)からなっていた。温度は、二重壁ガラス製電気化学セル(恒温槽)を使用して25℃に設定した。図3は、電位走査速度1mV/sの電流対電位ボルタンメトリー曲線を示す。
【0102】
先ず、作用電極を、Versastat(商標)4機器(Princeton Applied Research)により、その開路電位(この場合、165mV vs. SCE)と-1.0V vs. SCEとの間で走査した。この電位域内で、FePOからLiFePOへのリチウム化に相当する還元ピーク以外に他の反応は生じなかった。これは、この電位窓の中で電池を動作させることは、再リチウム化プロセスにとって良好なクーロン電流効率をもたらすことを可能にすると考えられることを意味する。再リチウム化試料のX線回折パターンを、図4に示すように、充放電前のLiFePO材料のパターンおよび脱リチウム化複合試料のパターンと比較する。再リチウム化の後、脱リチウム化試料の構造が、充放電前の材料の構造に戻されることが明確に実証される。
(実施例2)
【0103】
大規模生産工程により好適な条件下で電気化学的な再リチウム化を実施するために、実施例1(b)で作製したものと同じタイプの電極を、カソード(FePO電極)とアノード(不活性電極、この場合はPtメッシュ)との間に10mAの一定の電流を印加することによって、定電流条件下で再リチウム化した。ほぼ全ての脱リチウム化FePOを再リチウム化するために必要な時間を決定するために、SCE参照電極に対してカソード電位を測定した。電界を、実施例1(c)のものと同じタイプの溶液中で、同じ温度(25℃)にて実施した。
【0104】
電解時間の関数としてのカソード電位の変化を図5に提示する。初期カソード電位は、約0V vs. SCEであり、カソード材料のリチウム化度が増加するに従い、時間の関数として、よりカソード電位に徐々にシフトした。約1200秒後、電極電位は安定化し、-1.4V vs. SCEで一定を保ち、水素放出を含む新規の電気化学的反応の開始を示す。
【0105】
図6に提示する電極のX線回折分析は、リチウムイオンにおけるFePOの非常に高い再構成度を確定し、100%近くまでのLiFePO相への変換率につながる。実際、FePOピークは、明確にLiFePOピークへ変化する。ディフラクトグラム中で表される他の相は、ステンレス鋼支持体(2θ:51、54および90)ならびに導電性黒鉛(2θ:30)を含む。
【0106】
再リチウム化のクーロン効率は80%超であると算出され、そのため、実施例1に提示した、すなわち、カソードにおける電流密度の特定の条件下で推定される電気化学的挙動を確定し、高い電流効率を達成するために副反応(水素放出など)を最小限に抑えることが可能である。
(実施例3)
【0107】
リチウム化プロセスに及ぼす温度の効果を評価するために、実施例1(b)で作製した2本の電極を、LiOHを添加してpHを7に調整したLiSO(0.5M)水溶液中で、25℃および50℃それぞれの温度で再リチウム化した。再リチウム化は、-0.2V vs.SCEの定電位で実施した。
【0108】
時間の関数としてのカソードとアノードとの間の電流変化を図7に提示する。より高温(50℃)での電気化学的再リチウム化のより高い率は、結果として、25℃で実施される再リチウム化と比較して、プロセスの開始時の顕著な電流の低減がより少なくなり、カソードとアノードとの間の事実上ゼロの電流(再リチウム化がほぼ完了する時点)に達するまでより短時間になる。
【0109】
図8のX線ディフラクトグラムは、両方の電極が、25℃および50℃それぞれにおける試験で、高度に再リチウム化されながら、残留FePOは8%未満および検出不可であることを確定する。
(実施例4)
【0110】
公開された米国特許出願第2019/0207275号(Amouzegarら)に記載されているように、使用済み電池の電極材料を処理する間に生成されるLiHCO溶液を直接使用する実現可能性を実証するために、実施例1(b)に記載のものと同様の電極を、0.5M LiHCO水溶液(30psiおよび室温でCOを水中のLiCO懸濁液に発泡させることによって生成される)を使用して電気化学セル中で再リチウム化した。COガスを穏やかに発泡させてpH7および25℃の電解質にすることによって、セルをCO下で維持した。
【0111】
速度1mV/sで、0V vs. OCP(開路電位)と-1.1V vs. SCEとの間で実施される電極のカソード線形走査ボルタンメトリーを図9に示す。LiSO溶液を使用する実施例1で観察されたものと同じタイプの再リチウム化還元ピークが観察され、それによって再リチウム化プロセス中のLiイオン源としてLiHCO溶液を使用する可能性が示される。実際、重炭酸塩ベースの電解質中の再リチウム化は、図10に示すように、同様の条件下の硫酸塩ベースの電解質に比べて、より良好な反応速度論を示すように見える。X線回折による組成分析も、電極の完全な再リチウム化を示す(図11参照)。
(実施例5)
(a)FePO電極の作製
【0112】
同じ手法が、市販の電池に使用される工業用集電体を使用して容易に適用可能であることを示すために、実施例1(b)で作製した同じタイプの電極を、炭素薄層でコーティングされた15μm厚のアルミニウム製集電帯を使用して作製した。乾燥リン酸鉄粉末を導電性カーボン(Denka(商標)ブラックおよびVGCF(商標)-H、1:1重量比)およびPVDFバインダと89:6:5の重量比で混合し、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)中に分散させた。こうして得られた懸濁液をアルミニウム製集電体上にコーティングし、オーブン中で乾燥した。電極の塗布量は、約7.12mgのFePO/cmであると決定した。
(b)FePO電極材料の再リチウム化
【0113】
バッチモードで操作する電気化学的設定をシミュレートするために、表面積37.5cmの(a)で作製された一片の電極を、(対電極から一定の距離を維持するためのSS支持体を使用して)、90cmの白金メッシュおよびSCE電極がそれぞれ対電極および参照電極として設置された電気化学セルに設置した。電極はLiSO(0.5M)で作製されており、希釈LiOHを使用してpHを9に調整した。カソード電位は、Princeton Applied Research製のポテンシオスタットによりSCEに対して-200mVで制御した。電解は、攪拌下、25℃の温度で実施した。図12は、時間の関数としての電流の変化を示す。電流が95%低減したら(この場合、2860秒後)、電解を停止し、作用電極を脱イオン水で洗浄し、乾燥した。
【0114】
充放電前のLiFePO、脱リチウム化FePOおよび再リチウム化LiFePOから得られたX線ディフラクトグラム(図13)の比較は、再リチウム化プロセスが作用したことを確定した。実際、再リチウム化電極は、93%のLiFePOと7%のFePOとで構成されていた。再リチウム化LiFePOは、充放電前のLiFePOと同様の斜方晶系構造を示す。
(c)コイン電池中の再リチウム化LiFePO電極の使用
【0115】
(b)で再リチウム化した電極およびアルミニウム製集電体上に同じ様式で適用した市販のLiFePO材料の電気化学的特性を、コイン電池中の金属リチウムに対して試験した。単位面積当たりのLiFePOのmgで算出した活物質の塗布量は、再リチウム化試料および充放電前LiFePO試料で、それぞれ7.32mgのLiFePO/cmおよび5.88mgのLiFePO/cmだった。両方の電池を、放電率1Cおよび充電率C/4で、2Vおよび3.8V間で重複して循環させた。循環手順に先立って、C/24での事前充電/放電サイクルを各コインに適用した。加えて、循環手順は、C/12における初期放電を要し、電池の健康状態を監視するために毎20サイクル繰り返した。
【0116】
図14は、これらの電極材料の放電容量曲線を示す。両方の電極材料は、容量面で非常に良好な安定性を表すように見える(100サイクル後に2%未満のロス)。100サイクル後、電気化学的に再リチウム化したLiFePO材料および対照のLiFePO材料は、1Cの放電率で、良好および非常に類似した放電容量を、それぞれ138および143mAh/gで提示した。非常に小さな容量差は、活物質の塗布量における若干の差に関連し得、すなわち、若干高い塗布量の電気化学的に再リチウム化された材料は、結果として若干低い容量をもたらしうる。
(実施例6)
(a)Fe(II)/Fe(III)レドックス対溶液の調製
i.Fe(II)およびFe(III)シトレート溶液の調製
【0117】
3.18部の酸を200部の水中に溶解することによってクエン酸溶液を調製した。次いで溶液を、4M LiOH溶液を使用してpH6までアルカリ化した。リチウム濃度を最低0.5Mに調整した後、必要量のLiSOを添加することによって体積を250部に調整した。
【0118】
次いで、第一鉄溶液を調製するために、0.56部の水和硫酸第一鉄塩(FeSO・7HO)を100部の事前に調製したクエン酸溶液中に溶解した。
【0119】
同様に、第二鉄溶液の場合、0.21部の水和硫酸第二鉄塩(Fe(SO・xHO)を100部の上記で調製したクエン酸溶液中に溶解した。
【0120】
各溶液を0.22μmで濾過し、次いで、後続して使用する前にアルゴン注入によって脱酸素化した。必要に応じて、LiOHまたはHSOを使用して各溶液のpHを4.5~8の値に調整した。
ii.Fe(II)およびFe(III)EDTA溶液の調製
【0121】
14.6部の塩を、その酸の形態で、100部の1M LiOH溶液中に溶解することによって、EDTA溶液を調製した。次いで溶液を、4M LiOH溶液を使用してpH6までアルカリ化した。リチウム濃度を最低0.5Mまで調整した後、必要量のLiSOを添加することによって250部の体積に調整した。
【0122】
次いで、第一鉄溶液を調製するために、2.78部の水和硫酸第一鉄塩(FeSO・7HO)を、100部の事前に調製したEDTA溶液中に溶解した。
【0123】
同様に、第二鉄溶液の場合、1部の水和硫酸第二鉄塩(Fe(SO・xHO)を、100部の事前に調製したEDTA溶液中に溶解した。
【0124】
各溶液を0.22μmで濾過し、次いで、後続して使用する前にアルゴン注入によって脱酸素化した。必要に応じて、LiOHまたはHSOを使用して各溶液のpHを4.5~8の値に調整した。
(b)Fe(II)/Fe(III)レドックス対の電気化学的特性の試験
【0125】
この実施例の項(a)で調製した各レドックス対によってFePOをLiFePOに還元する実現可能性を確定するために、各鉄錯体のFe(III)溶液の電気化学的挙動を、三電極電気化学的設定で試験した。
【0126】
各Fe(III)溶液を、(アルゴン被覆の下)ガラス状カーボンディスク(直径3mm)を作用電極として設置した電池のカソード室に入れた。Ptメッシュを、焼結ガラスディスクにより分割された電解質で充填されたアノード室内に入れた。Ag/AgCl電極を参照電極として使用した。
【0127】
Versastat(商標)4ポテンシオスタット(Princeton Applied Research)を使用してボルタモグラムを得た。図15は、走査速度200mV/秒で、2.05Vと4.25V vs. Li/Liとの間にて、pH4.5で実施したFe(III)-EDTA溶液のボルタモグラムを示す。大きな分離の値(ほぼ650mV程度)が、Fe(II)-EDTAの酸化ピークおよびFe(III)-EDTAの還元で観察することができ、比較的ゆっくりの反応速度論を示す。しかしながら、Fe(II)-EDTAの酸化は、約3.16V vs. Li/Liの電位で開始し、これは、FePOからLiFePOへの還元の場合に必要される最低電位3.45V vs. Li/Liに比べて顕著に負である。
【0128】
表1は、酸化電流が、調製した各Fe(II)ベースの還元剤について観察される電位の値を示す。
【表1】
【0129】
図16は、EDTA-LiOH溶液およびLiOH中のFe(III)-EDTAの場合の分極曲線を示す。Fe(III)-EDTAの還元ピークは、この媒体中の水素放出反応より低い負電位で出現することが観察でき、水素形成に関連する電流を最小限に抑えながら、適当なクーロン効率でFe(III)-EDTAからFe(II)-EDTAの電気化学的再生を実施する可能性を実証する。
(実施例7)
(a)Fe(II)-EDTAによるFePOの再リチウム化
【0130】
FePOの再リチウム化のためのFe(II)-EDTAの使用を実証するために、実施例6に記載のものと同様のプロトコルに従って調製した溶液50mLを、アルゴン雰囲気下、40℃で実施例1(a)において調製した0.65gのFePOと接触させた。このアッセイでは、EDTA濃度を高めてEDTA/Fe(II)モル比4を満たし、1M LiOH溶液によってpHを8に調整してレドックス対の溶解性を最大限にした。FePO粉末を、電磁式攪拌子を使用して懸濁液中で維持し、Fe(II)-EDTAの濃度を低下させ、懸濁液中に入れたORPセンサを使用してFe(III)-EDTAの外見を監視した。
【0131】
図17は、再リチウム化の間の懸濁液の電位の変化を示す。(FePOをLiFePOに還元することによる)Fe(II)-EDTAからFe(III)-EDTAへの酸化に応じた電位の増加を観察することができる。
【0132】
アッセイの終わりに、固体を真空濾過により分離し、洗浄し、乾燥し、X線回折(Rigaku MiniFlex(商標)600)により分析した。充放電前のLiFePO、脱リチウム化FePOおよびリチウム塩の存在下でFe(II)-EDTA溶液と接触した後に得られた固体の図の比較(図18)は、Fe(II)-EDTA溶液で処理した固体が完全に再リチウム化されてLiFePOを形成したことを示す。
(b)Fe(II)-シトレートによるFePOの再リチウム化
【0133】
再リチウム化アッセイを、項7(a)におけるFe(II)-EDTAのために提示された手順と同様のFe(II)-シトレート溶液を使用して実施した。本実施例では、硫酸第一鉄塩を添加することによってシトレート/Fe(II)比を2に調整し、1M LiOHを添加することによってpHを6に調整した。溶液50mLは、アルゴン雰囲気下、40℃で、実施例1(a)において調製した0.19gのFePOと接触させた。FePO粉末を、電磁式攪拌子を使用して懸濁液中に維持し、Fe(II)-シトレートの濃度を低下させ、懸濁液中に入れたORPセンサを使用してFe(III)-シトレートの外見を監視した(図19)。
【0134】
アッセイの終わりに、固体を真空濾過によって分離し、洗浄し、乾燥し、X線回折によって分析した。実施例7(a)の固体の場合のように、充放電前のLiFePO、脱リチウム化FePO、およびリチウム塩の存在下でFe(II)-シトレート溶液と接触した後に得られた固体のディフラクトグラムの比較(図20)は、FePOが完全に再リチウム化されてLiFePOを形成したことを示す。
(実施例8)
(a)Fe(II)-EDTA中でのFe(III)-EDTAの電気化学的再生
【0135】
初期Fe(III)、LiSO、ならびに濃度がそれぞれ0.08M、1Mおよび0.2MのEDTAを有する、LiOHによってそのpHが6.3に調整された、体積800mLのFe(III)-EDTA溶液を、ICI-FM01フィルタープレス電解セルアセンブリの、不活性ガス(Ar)の保護下にあるカソード液槽に入れた。FM01セルを、黒鉛カソード、酸化インジウム層でコーティングされたチタンアノードおよびNafion(商標)324型カチオン膜と共に組み立てた。全部品(カソード、アノードおよび膜)の幾何学的活性表面は64cmだった。
【0136】
カソード液およびアノード液の流量は、2リットル/分であり、カソード液の線形速度は約16cm/sだった。電解温度は、アノード液およびカソード液タンクに設置された熱交換器を通して恒温槽(PolyScience #PD07R-20-A11B)により加熱した熱伝導流体を再循環させることによって約50℃に制御した。電解は、アノードとカソードとの間の電圧を1.65Vに設定することによって実施した(Instek #SPS-1230)。ORPセンサをカソード液槽に入れて、溶液の電位の発生を監視した。
【0137】
電解中の各試料中のFe(III)-EDTAの濃度を、LiOH溶液(pH7.70)中の10mLの0.2M EDTA中に1mLの試料を希釈し、470nmで溶液の吸光度を測定することによって決定した。水中の1000倍希釈液を作製し、Hach社製のFerroVer(商標)鉄試薬を添加し、510nmで吸光度を測定することによって全鉄濃度を決定した。全鉄およびFe(III)-EDTA間の差は、電解中に形成されたFe(II)-EDTAの濃度の評価を可能にした。図21は、Fe(II)-EDTAの濃度の変化および240分の電解のための溶液のレドックス電位を示す。
【0138】
Fe(II)-EDTA(カソード上でFe(III)-EDTAの還元によって形成された)の濃度がカソード液中で増加するに従い、溶液のレドックス電位が低下することを観察することができる。電解中、全セル電流は、600mAから300mAに低下した。
【0139】
周知の方法(乱流プロモータの使用、温度上昇など)によりセル中の物質移動を改善し、および(例えば、フェルト、グリッドなどの形態の材料の使用により)カソードの有効表面積を増加することによってセルの電流密度を高めることが可能であることに留意すべきである。カソード材料の選択は黒鉛に限定されず、他のカソード材料(好ましくは、高い水素過電圧を有するもの)を使用することができることは明らかである。
(b)電気化学的に生成されたFe(II)-EDTAによるFePOの再リチウム化
【0140】
次いで、(a)のFM01セルを用いた電解中に得られたFe(II)-EDTA溶液を使用してFePO再リチウム化を実施した。溶液50mLを、アルゴン雰囲気下、40℃で、実施例1(a)において調製した0.32gのFePOと接触させた。FePO粉末を、電磁式攪拌子を使用して懸濁液中に維持し、Fe(II)-EDTAの濃度を低下させ、懸濁液中に入れたORPセンサを使用してFe(III)-EDTAの外見を監視した。図22は、再リチウム化の間の懸濁液の電位の変化を示す。電位の増加は、(FePOをLiFePOに還元することによる)Fe(II)-EDTAからFe(III)-EDTAへの酸化に応じて観察することができる。
【0141】
アッセイの終わりに、固体を真空濾過によって分離し、洗浄し、乾燥し、X線回折によって分析した。充放電前のLiFePO、脱リチウム化FePO、およびリチウム塩の存在下で電解によって発生したFe(II)-EDTA溶液と接触した後に得られた固体の比較(図23)は、固体が完全に再リチウム化されてLiFePOを形成したことを示す。
【0142】
企図される本発明の範囲から逸脱することなく、上述の実施形態のいずれにも多数の修正を加えることが可能である。本出願で参照される科学文献中のいずれのリファレンス、特許または文書も、すべての目的のために参照によりその全内容が本明細書に組み込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
【国際調査報告】