IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ヴィータ セラピューティクス インク.の特許一覧

特表2023-502269低免疫原性の筋肉前駆体細胞の遺伝子改変的調製方法
<>
  • 特表-低免疫原性の筋肉前駆体細胞の遺伝子改変的調製方法 図1
  • 特表-低免疫原性の筋肉前駆体細胞の遺伝子改変的調製方法 図2
  • 特表-低免疫原性の筋肉前駆体細胞の遺伝子改変的調製方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-23
(54)【発明の名称】低免疫原性の筋肉前駆体細胞の遺伝子改変的調製方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20230116BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALI20230116BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20230116BHJP
   A61K 35/34 20150101ALI20230116BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20230116BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20230116BHJP
【FI】
C12N5/10
C12N5/0775
C12N15/12
A61K35/34
A61P21/00
C12N15/09 110
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022529578
(86)(22)【出願日】2020-11-20
(85)【翻訳文提出日】2022-07-04
(86)【国際出願番号】 US2020061602
(87)【国際公開番号】W WO2021102324
(87)【国際公開日】2021-05-27
(31)【優先権主張番号】62/938,053
(32)【優先日】2019-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522199262
【氏名又は名称】ヴィータ セラピューティクス インク.
【氏名又は名称原語表記】VITA THERAPEUTICS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ダグラス フォーク
(72)【発明者】
【氏名】ピーター アンダーソン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AB01
4B065BA01
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB47
4C087NA14
4C087ZA94
(57)【要約】
本発明の複数の実施形態は、条件付き免疫回避能を有する幹細胞、細胞の調製方法及びこれら幹細胞を筋組織の修復に使用する方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
HLA-A遺伝子、HLA-B遺伝子、HLA-C遺伝子、β-ミクログロブリン(B2M)遺伝子、CIITA遺伝子、CD74遺伝子、TAP1遺伝子、MIC-1遺伝子、MIC-2遺伝子、CD24遺伝子、HLA-G遺伝子及びHLA-E遺伝子の野生型幹細胞に対して調節された発現を有する筋原性幹細胞。
【請求項2】
前記HLA-A遺伝子、前記HLA-B遺伝子、前記HLA-C遺伝子、前記β-ミクログロブリン(B2M)遺伝子、前記CIITA遺伝子、前記CD74遺伝子、前記TAP1遺伝子、前記MIC-1遺伝子及び前記MIC-2遺伝子の少なくとも1種の調節された発現は野生型幹細胞に対して低減されている、請求項1に記載の筋原性幹細胞。
【請求項3】
前記HLA-A遺伝子、前記HLA-B遺伝子、前記HLA-C遺伝子、前記β-ミクログロブリン(B2M)遺伝子、前記CIITA遺伝子、前記CD74遺伝子、前記TAP1遺伝子及び前記MIC-1遺伝子の発現は阻害されている、請求項1に記載の筋原性幹細胞。
【請求項4】
前記HLA-A遺伝子、前記HLA-B遺伝子、前記HLA-C遺伝子、前記β-ミクログロブリン(B2M)遺伝子、前記CIITA遺伝子、前記CD74遺伝子、前記TAP1遺伝子、前記MIC-1遺伝子及び前記MIC-2遺伝子は欠失している、請求項1に記載の筋原性幹細胞。
【請求項5】
CD24遺伝子、HLA-G遺伝子及びHLA-E遺伝子の少なくとも1種は野生型幹細胞に対して条件付きに過剰発現されている、請求項1に記載の筋原性幹細胞。
【請求項6】
CD24遺伝子、HLA-G遺伝子及びHLA-E遺伝子の少なくとも1種は第1の細胞分化ステージ中に過剰発現され、且つCD24遺伝子、HLA-G遺伝子及びHLA-E遺伝子の少なくとも1種は第2の細胞分化ステージ中、第1の細胞分化ステージに対して低減された発現レベルを有する、請求項5に記載の筋原性幹細胞。
【請求項7】
CD24遺伝子、HLA-G遺伝子及びHLA-E遺伝子の少なくとも1種の発現は、pax7プロモーター、pax3プロモーター、myh4プロモーター、Ankrd1プロモーター、myod1プロモーター及びmyf5プロモーター又はmyogプロモーターにより制御される、請求項5に記載の筋原性幹細胞。
【請求項8】
CD24遺伝子、HLA-G遺伝子及びHLA-E遺伝子は野生型幹細胞に対して条件付きに過剰発現されている、請求項1に記載の筋原性幹細胞。
【請求項9】
CD24遺伝子、HLA-G遺伝子及びHLA-E遺伝子は第1の細胞分化ステージ中に過剰発現され、且つCD24遺伝子、HLA-G遺伝子及びHLA-E遺伝子は第2の細胞分化ステージ中、第1の細胞分化ステージに対して低減された発現レベルを有する、請求項8に記載の筋原性幹細胞。
【請求項10】
CD24遺伝子、HLA-G遺伝子及びHLA-E遺伝子の発現は、pax7プロモーター、pax3プロモーター、myh4プロモーター、Ankrd1プロモーター、myod1プロモーター及びmyf5プロモーター又はmyogプロモーターにより制御される、請求項8に記載の筋原性幹細胞。
【請求項11】
CD46遺伝子、CD59遺伝子及びCD55遺伝子の少なくとも1種の野生型幹細胞に対して増加された発現を含む、請求項1に記載の筋原性幹細胞。
【請求項12】
CD46遺伝子、CD59遺伝子及びCD55遺伝子の各々の野生型幹細胞に対して増加された発現を更に含む、請求項11に記載の筋原性幹細胞。
【請求項13】
CD24遺伝子、HLA-G遺伝子及びHLA-E遺伝子の少なくとも1種は、前記幹細胞の少なくとも1種のアレルのセーフハーバー部位に挿入されている、請求項1~12のいずれか1項に記載の筋原性幹細胞。
【請求項14】
前記セーフハーバー部位はAAVSI部位を含む、請求項13に記載の筋原性幹細胞。
【請求項15】
前記筋原性幹細胞は衛星細胞である、請求項1~12のいずれか1項に記載の筋原性幹細胞。
【請求項16】
前記幹細胞は低免疫原性である、請求項1~12のいずれか1項に記載の筋原性幹細胞。
【請求項17】
HLA-DMA遺伝子、HLA-DMB遺伝子、HLA-DOA遺伝子、HLA-DOB遺伝子、HLA-DPA1遺伝子、HLA-DPB1遺伝子、HLA-DQA1遺伝子、HLA-DQA2遺伝子、HLA-DQB1遺伝子、HLA-DQB2遺伝子、HLA-DRA遺伝子、HLA-DRB1遺伝子、HLA-DRB3遺伝子、HLA-DRB4遺伝子及びHLA-DRB5遺伝子の少なくとも1種の野生型幹細胞に対して低減された発現を更に含む、請求項1に記載の筋原性幹細胞。
【請求項18】
HLA-DMA遺伝子、HLA-DMB遺伝子、HLA-DOA遺伝子、HLA-DOB遺伝子、HLA-DPA1遺伝子、HLA-DPB1遺伝子、HLA-DQA1遺伝子、HLA-DQA2遺伝子、HLA-DQB1遺伝子、HLA-DQB2遺伝子、HLA-DRA遺伝子、HLA-DRB1遺伝子、HLA-DRB3遺伝子、HLA-DRB4遺伝子及びHLA-DRB5遺伝子の少なくとも1種は欠損している、請求項17に記載の筋原性幹細胞。
【請求項19】
低免疫原性幹細胞の調製方法であって、
HLA-A遺伝子、HLA-B遺伝子、HLA-C遺伝子、β-ミクログロブリン(B2M)遺伝子、CIITA遺伝子、CD74遺伝子、TAP1遺伝子、MIC-1遺伝子及びMIC-2遺伝子の少なくとも1種の幹細胞における発現を低減させることと、
CD24遺伝子、HLA-G遺伝子及びHLA-E遺伝子の少なくとも1種を前記幹細胞において条件付き発現させることを含み、
HLA-A遺伝子、HLA-B遺伝子、HLA-C遺伝子、β-ミクログロブリン(B2M)遺伝子、CIITA遺伝子、CD74遺伝子、TAP1遺伝子、MIC-1遺伝子及びMIC-2遺伝子の少なくとも1種の発現の低減と、CD24遺伝子、HLA-G遺伝子及びHLA-E遺伝子の少なくとも1種の条件付き発現とによって低免疫原性幹細胞を得る調製方法。
【請求項20】
CD46遺伝子、CD59遺伝子及びCD55遺伝子の少なくとも1種の前記幹細胞における発現を増加させることを更に含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
HLA-A遺伝子、HLA-B遺伝子、HLA-C遺伝子、β-ミクログロブリン(B2M)遺伝子、CIITA遺伝子、CD74遺伝子、TAP1遺伝子、MIC-1遺伝子及びMIC-2遺伝子の少なくとも1種の発現の低減は、HLA-A遺伝子、HLA-B遺伝子、HLA-C遺伝子、β-ミクログロブリン(B2M)遺伝子、CIITA遺伝子、CD74遺伝子、TAP1遺伝子、MIC-1遺伝子及びMIC-2遺伝子の少なくとも1種を前記幹細胞のゲノムDNAにおいて低減する、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
HLA-A遺伝子、HLA-B遺伝子、HLA-C遺伝子、β-ミクログロブリン(B2M)遺伝子、CIITA遺伝子、CD74遺伝子、TAP1遺伝子、MIC-1遺伝子及びMIC-2遺伝子の少なくとも1種の前記幹細胞のゲノムDNAからの欠失は、エンドヌクレアーゼの使用を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記幹細胞におけるHLA-A遺伝子、HLA-B遺伝子、HLA-C遺伝子、β-ミクログロブリン(B2M)遺伝子、CIITA遺伝子、CD74遺伝子、TAP1遺伝子、MIC-1遺伝子及びMIC-2遺伝子の発現低減を更に含む、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
前記幹細胞におけるCD24遺伝子、HLA-G遺伝子及びHLA-E遺伝子の少なくとも1種の条件付き発現は、前記幹細胞の少なくとも1種のアレルのセーフハーバー部位へのCD24遺伝子、HLA-G遺伝子及びHLA-E遺伝子の少なくとも1種の挿入を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項25】
前記セーフハーバー部位はAAVSI部位を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
CD24遺伝子、HLA-G遺伝子及びHLA-E遺伝子の少なくとも1種の前記幹細胞における条件付き発現は、第1の細胞分化ステージ中のCD24遺伝子、HLA-G遺伝子及びHLA-E遺伝子の少なくとも1種の過剰発現と、第2の細胞分化ステージ中のCD24遺伝子、HLA-G遺伝子及びHLA-E遺伝子の少なくとも1種の発現の第1の細胞分化ステージに対する低減とを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
CD24遺伝子、HLA-G遺伝子及びHLA-E遺伝子の少なくとも1種の前記幹細胞における条件付き発現は、pax7プロモーター、pax3プロモーター、myh4プロモーター、Ankrd1プロモーター、myod1プロモーター及びmyf5プロモーター又はmyogプロモーターの使用を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項28】
CD24遺伝子、HLA-G遺伝子及びHLA-E遺伝子の前記幹細胞における条件付き発現を更に含む、請求項19に記載の方法。
【請求項29】
HLA-DMA遺伝子、HLA-DMB遺伝子、HLA-DOA遺伝子、HLA-DOB遺伝子、HLA-DPA1遺伝子、HLA-DPB1遺伝子、HLA-DQA1遺伝子、HLA-DQA2遺伝子、HLA-DQB1遺伝子、HLA-DQB2遺伝子、HLA-DRA遺伝子、HLA-DRB1遺伝子、HLA-DRB3遺伝子、HLA-DRB4遺伝子及びHLA-DRB5遺伝子の少なくとも1種の前記幹細胞における発現を低減することを更に含む、請求項19に記載の方法。
【請求項30】
治療を必要とする対象を治療する方法であって、請求項1~18の何れかに記載の筋原性幹細胞を前記対象に投与することを含む方法。
【請求項31】
前記対象は筋障害を患っている、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
請求項1~18の何れかに記載の筋原性幹細胞を含む組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2019年11月20日出願の米国仮出願第62/938,053号の優先権を主張するものであり、この全内容を本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。
【0002】
ここに請求する本発明の複数の実施形態は、条件付き(コンディショナルな)免疫回避能を有する幹細胞、細胞の調製方法及びこれら幹細胞を筋組織の修復に使用する方法の各分野に関する。
【背景技術】
【0003】
多能性幹細胞(胚幹細胞や人工多能性幹細胞)等の幹細胞に基づく骨格筋細胞置換療法においては、傷害部位に移植された骨格筋細胞の一体化に限界があることが大きな障害の一つである。細胞移植の多くのケースでは、患者の生存中に継続的に新しい細胞が必要となるため、多数回の細胞注入が必須となる。次なる障壁は、被移植者の免疫系による拒絶のリスク及び/又は腫瘍発生のリスクである。従って、筋肉疾患及びその症候群を標的とする療法を創出するための新規な方法が求められている。
【0004】
文献の援用
本明細書で明らかにする全ての公開文書及び特許出願は、それらの各々があたかも具体的に且つ個々に援用されていると同程度に、それらの全内容を本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。
【発明の概要】
【0005】
本発明の一実施形態は、HLA-A遺伝子、HLA-B遺伝子、HLA-C遺伝子、β-ミクログロブリン(B2M)遺伝子、CIITA遺伝子、CD74遺伝子、TAP1遺伝子、MIC-1遺伝子、MIC-2遺伝子、CD24遺伝子、HLA-G遺伝子及びHLA-E遺伝子の野生型幹細胞に対して調節された発現を有する筋原性幹細胞に関する。
【0006】
本発明の一実施形態は、低免疫原性幹細胞の調製方法に関し、該方法は、幹細胞におけるHLA-A遺伝子、HLA-B遺伝子、HLA-C遺伝子、β-ミクログロブリン(B2M)遺伝子、CIITA遺伝子、CD74遺伝子、TAP1遺伝子、MIC-1遺伝子及びMIC-2遺伝子の少なくとも1種の発現を低減することと、前記幹細胞中でCD24遺伝子、HLA-G遺伝子及びHLA-E遺伝子の少なくとも1種を条件付きに発現させることにおいて、HLA-A遺伝子、HLA-B遺伝子、HLA-C遺伝子、β-ミクログロブリン(B2M)遺伝子、CIITA遺伝子、CD74遺伝子、TAP1遺伝子、MIC-1遺伝子及びMIC-2遺伝子の発現を少なくとも一種を低減すること及びCD24遺伝子、HLA-G遺伝子及びHLA-E遺伝子の少なくとも1種を条件付きに発現させることとよって低免疫原性幹細胞を得ることとを含む方法に関する。
【0007】
本発明の一実施形態は、前記筋原性幹細胞を必要とする対象に投与することを含む、対象の治療方法に関する。
【0008】
本発明の一実施形態は、前記筋原性幹細胞を含む組成物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1のA~Dは、本発明の一実施形態に従って免疫回避がどのように達成されるかを概略的に示す。
【0010】
図2図2は、本発明の一実施形態に従う、免疫における遺伝子改変ストラテジーと役割を概略的に示す。
【0011】
図3図3のA~Cは、本発明の一実施形態に従う、免疫制御因子の筋肉特異的な条件付き発現を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の幾つかの実施形態を詳述する。各実施形態の説明においては、明瞭さを目的として具体的な用語を使用する。しかしながら、本発明はこれらの具体的用語に限定されることを意図しない。当業者であれば、本発明の広範な概念から逸脱することなく、他の等価な成分や方法を利用できることを理解するであろう。「従来技術」及び「発明の詳細な説明」の各項を含む本明細書のあらゆる箇所において引用される全ての参考文献は、夫々が個々に援用されるがごとくに援用される。
【0013】
本発明の主題と添付の請求の範囲を理解する目的で、次の各定義が本明細書に包含される。本明細書において使用される略語は、化学及び生化学の各分野における通常の意味を有する。
【0014】
本明細書においては種々の実施形態と様相を示すが、このような実施形態と様相が単に例示として提供されることは当業者には明白であろう。当業者であれば、本発明を逸脱することなく種々の改変、変更及び置換が可能であろう。本明細書に記載する本発明の実施形態の各種改変例は、本発明の実施において利用できることと理解されたい。
【0015】
特に定義しない限り、本明細書で用いる技術科学用語は、当業者に通常理解されると同様の意味を有する。例えば、Singleton et al., DICTIONARY OF MICROBIOLOGY AND MOLECULAR BIOLOGY 2nd ed., J. Wiley & Sons (New York, NY 1994); Sambrook et al., MOLECULAR CLONING, A LABORATORY MANUAL, Cold Springs Harbor Press (Cold Springs Harbor, NY 1989)を参照されたい。本明細書の記載内容と同様又は等価である方法、装置及び材料は全て、本発明の実施において利用することができる。本明細書で頻出する用語の理解を容易とするために次の各定義を提供するが、これらは本開示の範囲を制限するものではない。
【0016】
本明細書を通じて用いる、「条件付で(コンディショナルに)発現された」又は「条件付き(コンディショナルな)発現」とは、幹細胞において調節される遺伝子発現であって、この遺伝子が幹細胞の分化のある種のステージにおいてのみ、及び/又はある種の組織内のみに発現されるような遺伝子発現を意味する。このような場合、遺伝子の発現は、幹細胞分化の他のステージにおいて、及び/又は他の組織においては低減又は阻害される。幾つかの実施形態において、幹細胞の野生型又は非改変の遺伝子の発現レベルと比較して、幹細胞分化のある種のステージにおいて、及び/又はある種の組織内に高レベルで遺伝子発現されるか「過剰発現」するように幹細胞が改変される。
【0017】
幾つかの実施形態では、ある遺伝子を、ある幹細胞において、ネイティブ系の野生型幹細胞中での野生型又はネイティブレベルの遺伝子発現に対し、その遺伝子を条件付き過剰発現させる。幾つかの実施形態において、この条件付き過剰発現される遺伝子は、筋肉前駆体及び/又は筋肉特異的プロモーターによって調節される。このような実施形態において、このプロモーターは幹細胞の特定の分化ステージにおいて活性であり、幹細胞の他の分化ステージにおいて不活性である。非限定的な例として、このようなプロモーターは筋原性幹細胞/衛星細胞、筋芽細胞及び筋繊維を含む筋細胞において活性であり、線維芽細胞、脂肪細胞等を含む非筋肉系統において不活性である。このようなプロモーターを次の表1に示すがこれらに限定されない。
【0018】
【表1】
【0019】
本明細書を通じて使用する「調節された発現」という用語は、発現の増加(即ち、遺伝子が過剰に発現される)又は発現の減少(即ち、遺伝子が過少発現される)を含む「発現の変化」を意味する。遺伝子発現は遺伝子の欠損によっても減少し、これは調節された遺伝子発現と考えられる。
【0020】
本明細書を通じて使用する「低免疫原性」又は「免疫回避」という用語は、低下した免疫原性を有するように、又は免疫応答の誘発を避けるように改変された幹細胞を意味する。幾つかの実施形態において、改変された幹細胞の低免疫原性又は免疫回避の性質は条件付きであり、この幹細胞はある種の非筋肉分化ステージにおいてのみ低い免疫原性を有する。幾つかの実施形態において、幹細胞の条件付き免疫回避性は、当該幹細胞の適切な分化と成熟を伴って所望のタイプの細胞や組織にすることを助長する。このような実施形態においては、仮に幹細胞が分化又は成熟して所望のタイプの細胞や組織にならない場合、幹細胞はその免疫回避性を不活化するように更に改変され、免疫応答を幹細胞に与えることができる。この結果、意図しない幹細胞の分化及び異常な増殖が防止される。
【0021】
複数の実施形態において、「筋障害」、「筋疾患」、「筋症候群」、「筋症状」又は「ミオパチー」とは、経時的な骨格筋の弱化及び崩壊をもたらす障害である。例えば、筋ジストロフィー(MD)は、通常9種の主なカテゴリーやタイプに分類される少なくとも30種の異なる遺伝的障害を含む。MDは経時的な進行的筋肉弱化、筋タンパクの欠乏、筋繊維及び組織の破壊に特徴づけられる遺伝性、進行性、退化的障害の一群を意味する。多くの場合、組織学像には繊維径の変化、筋細胞の壊死と退化、結合組織と脂肪組織の頻繁な増殖が見られる。この疾患は主に骨格筋や随意筋に現れる。しかし、ある種の筋ジストロフィーでは、心筋と他の不随意筋も侵される。
【0022】
本発明は、退化的筋消耗障害及び筋体積損失の治療に利用することができる。退化的筋消耗障害の例としては筋ジストロフィー、ミオパチー、ミトコンドリア病、軟部肉腫、イオンチャンネル病、カヘキシア及びサルコペニアが挙げられる。筋体積の損失には外傷や手術による筋損失が含まれる。手術とは、例えば筋組織が除去されるいずれかの手順であり、例えば横紋筋肉腫等の癌の手術である。
【0023】
筋ジストロフィーは、進行性の弱化と筋量損失を起こす遺伝的疾患の一群である。筋ジストロフィーにおいては、健全な筋肉形成に必要なタンパク質の産生を異常遺伝子(変異)が妨害する。大抵、筋ジストロフィー患者の衛星細胞には筋肉生産に必要なタンパク質が欠乏している。本発明による衛星細胞又は筋原性幹細胞は完全に機能的であり健全である。これら細胞は非対称な細胞分裂をして筋芽細胞を生じる。これがホスト筋芽細胞と融合して損傷した筋肉を回復させ、新しい筋肉を創り出す。本発明の細胞は連続的な筋肉再生に対して長期間の治療効果を有する。筋ジストロフィーの例としては、肢ガードル型 筋ジストロフィー(LGMD)、ベッカー筋ジストロフィー(BMD)、先天性筋ジストロフィー(CMD)(例えば、ベスレムCMD、福山型CMD、筋眼脳病(MEBs)、強直性脊椎症候群、ウルリッヒCMD、ウォーカー-ワルブルグ症候群(WWS))、デュシェンヌ筋ジストロフィー(DMD)、エメリー-ドレフュス筋ジストロフィー(EDMD)、肩甲骨上腕骨性筋ジストロフィー(FSHD)、筋緊張性ジストロフィー(DM)及び眼咽頭型筋ジストロフィー(OPMD)が挙げられる。
【0024】
ミオパチーは、筋肉の機能と強度の損失を伴う遺伝的筋疾患の一群である。炎症性ミオパチーの原因は知られていないが、免疫系において何らかが悪くなり、筋細胞への攻撃につながると考えられている。原因には、感染症、薬剤による筋傷害、筋肉機能に影響を与える遺伝性疾患、電解質レベル障害、甲状腺疾患も含まれる。本発明の衛星細胞又は筋原性幹細胞は免疫系を回避する筋肉を産生する。従って、これらの細胞は免疫系の標的とはならず、患者の筋肉の機能と強度を修復することができる。本発明により治療可能なミオパチーには、先天性ミオパチー(例えば、Capミオパチー、心核ミオパチー、繊維型不均衡を伴う先天性ミオパチー、コアミオパチー、セントラルコア病、マルチコアミオパチー、ミオシンストレージミオパチー、ミオチューブラーミオパチー及びネマリンミオパチー)、遠位型ミオパチー(例えば、GNEミオパチー/ノナカミオパチー/遺伝性封入体ミオパチー(HIBM)、ライングミオパチー、マークスベルグ-グリッグス遅発性遠位型ミオパチー、ミヨシミオパチー、ウッドミオパチー/脛骨筋ジストロフィー、VCPミオパチー/IBMPFD、声帯・咽頭遠位型ミオパチー及びヴェランダー遠位型 ミオパチー)、内分泌性ミオパチー(甲状腺機能亢進ミオパチー、甲状腺機能低下ミオパチー等)、炎症性ミオパチー(皮膚筋炎、封入体筋炎及び多発性筋炎を含む)、代謝性ミオパチー(例えば、アシッドマルターゼ欠損症(AMD、ポンペ病)、カルニチン欠損症、 カルニチンパルミチルトランスフェラーゼ欠損症、デブランシェ酵素欠損症(コリ病、フォーブス病)、ラクテートデヒドロゲナーゼ欠損症、ミオアデニレートデアミナーゼ欠損症、ホスホフルクトキナーゼ欠損症(タルイ病)、ホスホグリセラートキナーゼ欠損症、ホスホグリセラートムターゼ欠損症及びホスホリラーゼ欠損症(マッカードル病))、筋原繊維性ミオパチー(MFM)及び肩甲腓骨ミオパチーが含まれる。
【0025】
ミトコンドリア病は、身体が正常に機能するために十分なエネルギーをミトコンドリアが産生できない場合に疾患が発生するような遺伝性疾患の一群である。ミトコンドリア病は筋肉の弱化、筋肉痛及び筋肉緊張低下を招く。本発明の衛星細胞又は筋原性幹細胞は筋肉の機能と強度を回復することにより筋肉の弱化の低減を助長するため、ミトコンドリア病に罹患している患者のQOLを有意に改善できる。ミトコンドリア病の例としては、フリードライヒ運動失調症(FA)、及びカーンズ-サイレ症候群(KSS)、レー症候群 (亜急性壊死性脳ミオパチー)、ミトコンドリアDNA欠損症候群、ミトコンドリア脳ミオパチー、乳酸アシドーシス脳卒中様発作(MELAS)、ミトコンドリア神経消化管脳ミオパチー(MNGIE)、ラッグド赤色線維を有するミオクローヌスてんかん(MERRF)、ニューロパチー・運動失調症・網膜色素変性(NARP)、ピアソン症候群及び進行性外眼筋麻痺(PEO)等ミトコンドリアミオパチーが挙げられる。
【0026】
軟部肉腫は、局在化した軟部組織の癌の一群である。例えば、横紋筋肉腫(RMS)は、急速に進行し悪性度の高い癌の形態であり、完全分化しそこなった骨格(横紋筋)筋細胞から進展する。通常、外科手術か化学療法で治療され、高い生存率が得られる傾向にある。しかしその後、外科的切除又は局在放射線療法によるダメージがあるため、患者の影響を受けた部位において著しい筋肉低下が残る。本発明の衛星細胞又は筋原性幹細胞を注入すれば、これら病気に対して生存している患者の筋肉部位における筋肉再生の回復を促進すると思われる。筋肉の損失や除去を招き得る他の軟部肉腫には、血管肉腫、皮膚線維肉腫結節、類上皮肉腫,消化管間質腫瘍(GIST)、カポジ肉腫、平滑筋肉腫、脂肪肉腫、悪性末梢神経鞘腫瘍、粘液線維肉腫、多形性肉腫、横紋筋肉腫、孤在性繊維性腫瘍、滑膜肉腫及び未分化多形性肉腫が含まれる。
【0027】
イオンチャンネル病は、通常、筋肉弱化、筋緊張の無さ又は一時的な筋肉麻痺を特徴とするイオンチャンネルの欠陥を伴う疾患の一群である。本発明の衛星細胞又は筋原性幹細胞はこれら患者の機能性筋の回復を促進することができる。イオンチャンネル病の例としては、アンダーセン-トーヴィル症候群、高カリウム性周期性四肢麻痺、低カリウム性周期性四肢麻痺、先天性ミオトニア(例えば、ベッカーミオトニアやトムセンミオトニア)、先天性パラミオトニア及びカリウム増悪ミオトニアが挙げられる。
【0028】
カヘキシアは、体組成(筋肉喪失による)、QOL、パフォーマンス状態、病的状態及び死亡率を変化させる病理学・生理学的変化を特徴とする複雑且つ多因子的な障害であり、癌患者の最大50%までがカヘキシアを伴って死亡し、そのうち最大20%がカヘキシアを死因とする。カヘキシアの増加を鑑み、カヘキシアは癌の併存症であると言われてきた。本発明の衛星細胞又は筋原性幹細胞は筋肉再生の回復を助長するため、カヘキシア患者のQOLを有意に改善することができる。
【0029】
サルコペニアは骨格筋の量と機能を失うことを特徴とする病態である。この病気は基本的には老人の病気であるが、サルコペニアの進行には老人だけには見られない状態を伴うことがある。サルコペニアは、進行性で全身に亘る骨格筋の量と強度の喪失を特徴とする症候群であり、身体障害、QOL低下及び死亡と強い相関がある。衛星細胞の経時的な損失はサルコペニアを起こす主たる原因の一つと考えられている。本発明の衛星細胞又は筋原性幹細胞を注入すると、サルコペニアの進行を有意に遅らせることができる。
【0030】
特に致死性型であるMDは、デュシェンヌ筋ジストロフィー(DMD)であり、通常4才位からの男性が罹患する。他のタイプとしては、ベッカー筋ジストロフィーや肩甲骨上腕骨性筋ジストロフィー、筋緊張性ジストロフィーが挙げられる。これらは筋タンパク質生成に関与する遺伝子の変異に起因する。また、親由来の障害の遺伝又は初期発達段階で起こる変異によっても発生する。疾患はX-リンク劣性、常染色体劣性又は常染色体優性であり得る。筋ジストロフィーの更なる例としては、肢ガードル型筋ジストロフィー、眼咽頭型筋ジストロフィー、エメリー-ドレフュス筋ジストロフィー、福山型先天性筋ジストロフィー、ミヨシミオパチー、ウルリッヒ先天性筋ジストロフィー及びシュタイナート筋ジストロフィーが挙げられる。
【0031】
デュシェンヌ筋ジストロフィー(DMD)は、最も一般的な遺伝性致死性の小児筋ジストロフィーであり、男性約3,000人に1人が罹患する。DMDの子供は通常11才から12才になると車椅子生活となり、罹患者は通常20年か30年の人生で死亡する。DMDはX染色体(Xp21)にあるジストロフィン遺伝子の変異から始まり、ジストロフィンタンパク質を失い、筋線維の崩壊を招く。ジストロフィンタンパク質の骨格筋線維の統合の維持における役割は良く認知されているが、筋線維破壊とジストロフィー筋の損失に至る正確な機構は完全には理解されていない。ジストロフィン遺伝子の発見と、それに続くタンパク産物の特性化によって、統合サルコレンマタンパク質としてのジストロフィンであることが確立された。このタンパク質は筋肉サルコメア及び細胞骨格を周囲の細胞外マトリックスに結合させる。ジストロフィンの局在化は筋統合の維持と同義であり、ジストロフィンが存在しなければ(DMDで証明されるように)、膜の脆化、収縮による筋線維損傷及び死に至る。
【0032】
現在のDMD治療:DMDに対する治療は知られておらず、継続的な医療の必要性は規制当局に認識されている。通常、治療の目的は症状の発症を制御してQOLを最大化することにある。QOLは特定のアンケートを利用して評価することができる。治療には以下が含まれる。
【0033】
プレドニゾロンやデフラザコート等のコルチコステロイドは、最長で2年間、筋肉の強度と機能を短時間で改善する。コルチコステロイドが歩行を長続きさせることも報告されている。
【0034】
筋肉強度を増加させるが、疾患の進行を変化させないβ2アゴニスト(例えば、β2アゴニストであるサルブタモル(例えば、アルブテロール)を使用できる。)
【0035】
水泳等の穏やかで気持ち良い運動が推奨される。活動しないこと(ベッドレスト等)は筋疾患を悪化させ得る。
【0036】
理学療法は筋肉の強度、柔軟性及び機能の維持に役立つ。
【0037】
矯正装具(添木や車いす等)は運動性を改善し、セルフケア能力を向上させ得る。就寝中に足首を位置固定する形状フィットの取り外し可能な足用添木は、拘縮の始まりを遅くすることができる。
【0038】
疾患の進行に伴い適切な呼吸補助が重要である。
【0039】
心臓の問題にはペースメーカーを必要とする。
【0040】
アタルーレン等の投薬も可能である。
【0041】
「筋肉幹細胞」又は「筋原性幹細胞」又は「筋前駆細胞」とは、細胞間融合を経て多核筋線維を形成することになる子孫単核筋芽細胞を産生する自己再生単核細胞を意味する。筋原性幹細胞は衛星細胞を含む。この衛星細胞は、自己再生可能且つ筋芽細胞を生じる組織特異的筋原性幹細胞であり、筋芽細胞は骨格筋の「ビルディングブロック」として働く。本明細書では、骨格筋、平滑筋又は心筋を産生する幹細胞が包含される。「筋肉幹細胞」、「筋原性幹細胞」、「筋前駆細胞」及び「衛星細胞」の各用語は本明細書において交換可能に使用される。
【0042】
本明細書において用語「筋細胞」とは、筋組織を構成するいずれの細胞をも意味する。筋芽細胞、衛星細胞、筋管及び筋線維組織は全て筋組織を形成し、用語「筋細胞」に包含され得る。筋細胞の効果は骨格筋、心筋、平滑筋内に誘導される。脊椎動物成体の筋組織は衛星細胞から再生される。衛星細胞は筋組織に亘って分布し、傷害や疾患が無い状態では有糸分裂が休止状態にある。筋傷害の後、又は疾患からの回復期において、衛星細胞は再度細胞周期に入って増殖し、更に1)存在する筋線維に入るか、或いは2)分化することにより、新たな筋線維の束を形成する多核筋管となる。筋芽細胞は最終的には交替筋線維を生じるか、存在する筋線維に融合し、収縮器官成分が合成され、これにより線維周囲寸法を増加させる。このプロセスは、例えば、筋線維の退化後に哺乳類で起こるほぼ完全な再生によって説明される。即ち、筋線維の前駆細胞が増殖し、互いに融合して筋線維を再生する。
【0043】
本明細書において、「筋成長」とは線維サイズの増加及び/又は線維数の増加によって起こり得る筋肉の成長を意味する。本明細書における筋成長はA)湿潤重量の増加、B)タンパク含有量の増加、C)筋線維数の増加又はD)筋線維径の増加によって計測される。筋線維の成長の増加は、繊維径の増加として定義される。ここで、繊維径は繊維断面の楕円の短軸と定義する。
【0044】
本明細書において、「筋原性」細胞とは筋細胞又は筋線維の起源に関係がある細胞である。筋原性分化の中間又は最終ステージに対する種々の分子マーカーが知られている。例えば、C2C12細胞において、ミオシンとMRF4は筋形成の最終ステージをマークし、主に筋管に限定されるが、ミオジェニンとネスチンは筋形成の中間ステージをマークし、全ての筋管と関与する多くの筋芽細胞において見いだされる。
【0045】
本明細書において、筋肉の「萎縮」又は「消耗」とは、筋線維の周囲寸法の有意な減少を意味する。有意な萎縮とは、健全、無傷害又は正常に利用される組織に対して、不健全、有傷害又は使用されない筋組織において少なくとも10%の筋線維径の減少を意味する。
【0046】
用語「疾患(病気)」は哺乳類の正常な健全さからの各種逸脱を意味し、病状が存在する状態だけでなく、逸脱(筋肉の機能不全や筋障害等)は起きているが、症状は未だ見られない状態も「疾患」に含まれる。
【0047】
「患者」又は「それを必要とする対象」とは、動物界に生存するメンバーであって、上に示した障害に罹っているか、罹る可能性があるメンバーを意味する。複数の実施形態において、この対象は自然にこの疾患に罹っている個体を含む種のメンバーである。複数の実施形態において、この対象は哺乳類である。哺乳類の非限定的な例としては、げっ歯類(マウス、ラット等)、霊長目(キツネザル、ガラゴ、サル、類人猿、ヒト等)、ウサギ、イヌ(コンパニオン犬、サービス犬、警察犬、軍用犬、競争犬、ショー用犬等の使役犬等)、ウマ(競争馬、使役馬等)、ネコ(飼い猫等)、家畜(ブタ、ウシ、ロバ、ラバ、バイソン、ヤギ、ラクダ、羊等)及びシカが挙げられる。複数の実施形態において、対象はヒトである。
【0048】
用語「対象」、「患者」、「個体」等は、特に限定されることを意図しておらず、一般に交換可能である。即ち、「患者」と記載された個体は必ずしも疾患を有しておらず、医学的アドバイスを求めるだけでも良い。
【0049】
本明細書と添付の請求項において、「少なくとも一の」又は「1以上の」等の表現は、それに続く要素や特性のリストを伴って現れる。用語「及び/又は」も、2以上の要素又は特性のリストにおいて発生する。それらが用いられるコンテキストによって暗黙的に或いは明確に否定されない限り、この種のフレーズは個々にリストされた要素又は特性、或いは引用された要素又は特性と他に引用された要素又は特性との組み合わせのいずれかを意味すること意図している。例えば、「A及びBの少なくとも一」、「A及びBの1以上」及び「A及び/又はB」は各々「A単独」、「B単独」又は「A及びBの両者」を意味することを意図している。同様な解釈は、3以上のアイテムを含むリストに対しても意図される。例えば、「A、B及びCの少なくとも一」、「A、B及びCの1以上」及び「A、B及び/又はC」という表現はそれぞれ、「A単独、B単独、C単独、AとBと共に、AとCと共に、BとCと共に、AとBとCと共に」を意味することを意図している。更に、本明細書及び請求の範囲における「~基く」という表現は、記載されていない特性又は要素も許容されるように「少なくとも部分的に基づく」を意味することを意図している。
【0050】
本発明の複数の実施形態は、条件付き免疫回避能を有する幹細胞と、筋組織を修復するために該幹細胞を使用する方法とに関する。
【0051】
本発明の一実施形態は、HLA-A遺伝子、HLA-B遺伝子、HLA-C遺伝子、β-ミクログロブリン(B2M)遺伝子、CIITA遺伝子、CD74遺伝子、TAP1遺伝子、MIC-1遺伝子、MIC-2遺伝子、CD24遺伝子、HLA-G遺伝子及びHLA-E遺伝子の野生型幹細胞に対して調節された発現を有する筋原性幹細胞に関する。
【0052】
本発明の一実施形態は、前記筋原性幹細胞において、HLA-A遺伝子、HLA-B遺伝子、HLA-C遺伝子、β-ミクログロブリン(B2M)遺伝子、CIITA遺伝子、CD74遺伝子、TAP1遺伝子、MIC-1遺伝子及びMIC-2遺伝子の少なくとも1種の調節された発現が、野生型幹細胞に対して減じられている筋原性幹細胞に関する。
【0053】
本発明の一実施形態は、前記筋原性幹細胞において、HLA-A遺伝子、HLA-B遺伝子、HLA-C遺伝子、β-ミクログロブリン(B2M)遺伝子、CIITA遺伝子、CD74遺伝子、TAP1遺伝子及びMIC-1遺伝子の発現が阻害されている筋原性幹細胞に関する。
【0054】
本発明の一実施形態は、前記筋原性幹細胞において、HLA-A遺伝子、HLA-B遺伝子、HLA-C遺伝子、β-ミクログロブリン(B2M)遺伝子、CIITA遺伝子、CD74遺伝子、TAP1遺伝子、MIC-1遺伝子及びMIC-2遺伝子が欠損している筋原性幹細胞に関する。
【0055】
本発明の一実施形態は、前記筋原性幹細胞において、CD24遺伝子、HLA-G遺伝子及びHLA-E遺伝子の少なくとも1種が、野生型幹細胞に対して条件付き過剰発現されている筋原性幹細胞に関する。
【0056】
本発明の一実施形態は、前記筋原性幹細胞において、CD24遺伝子、HLA-G遺伝子及びHLA-E遺伝子の少なくとも1種が第1の細胞分化ステージ中に過剰発現され、且つCD24遺伝子、HLA-G遺伝子及びHLA-E遺伝子の少なくとも1種が第2の細胞分化ステージ中、第1の細胞分化ステージに対して低減された発現レベルを有する筋原性幹細胞に関する。
【0057】
本発明の一実施形態は、前記筋原性幹細胞において、CD24遺伝子、HLA-G遺伝子及びHLA-E遺伝子の少なくとも1種が、pax7プロモーター、pax3プロモーター、myh4プロモーター、Ankrd1プロモーター、myod1プロモーター及びmyf5プロモーター又はmyogプロモーターにより制御される筋原性幹細胞に関する。
【0058】
本発明の一実施形態は、前記筋原性幹細胞において、CD24遺伝子、HLA-G遺伝子及びHLA-E遺伝子が、野生型幹細胞に対して条件付き過剰発現している筋原性幹細胞に関する。
【0059】
本発明の一実施形態は、前記筋原性幹細胞において、CD24遺伝子、HLA-G遺伝子及びHLA-E遺伝子が第1の細胞分化ステージ中に過剰発現され、且つCD24遺伝子、HLA-G遺伝子及びHLA-E遺伝子が第2の細胞分化ステージ中、第1の細胞分化ステージに対して低減された発現レベルを有する筋原性幹細胞に関する。
【0060】
本発明の一実施形態は、前記筋原性幹細胞において、CD24遺伝子、HLA-G遺伝子及びHLA-E遺伝子の発現が、pax7プロモーター、pax3プロモーター、myh4プロモーター、Ankrd1プロモーター、myod1プロモーター及びmyf5プロモーター又はmyogプロモーターにより制御される筋原性幹細胞に関する。
【0061】
本発明の一実施形態は、CD46遺伝子、CD59遺伝子及びCD55遺伝子の少なくとも1種の野生型幹細胞に対して増加された発現を更に含む、前記筋原性幹細胞に関する。
【0062】
本発明の一実施形態は、CD46遺伝子、CD59遺伝子及びCD55遺伝子の各々の、野生型幹細胞に対して増加された発現を更に含む、前記筋原性幹細胞に関する。
【0063】
本発明の一実施形態は、前記筋原性幹細胞において、CD24遺伝子、HLA-G遺伝子及びHLA-E遺伝子の少なくとも1種が、前記幹細胞の少なくとも1種のアレル(対立遺伝子)のセーフハーバー(安全領域)部位に挿入されている筋原性幹細胞に関する。
【0064】
本発明の一実施形態は、前記セーフハーバー部位はAAVSI部位を含む、前記筋原性幹細胞に関する。
【0065】
本発明の一実施形態は、前記幹細胞は低免疫原性である、前記筋原性幹細胞に関する。
【0066】
本発明の一実施形態は、前記筋原性幹細胞において、HLA-DMA遺伝子、HLA-DMB遺伝子、HLA-DOA遺伝子、HLA-DOB遺伝子、HLA-DPA1遺伝子、HLA-DPB1遺伝子、HLA-DQA1遺伝子、HLA-DQA2遺伝子、HLA-DQB1遺伝子、HLA-DQB2遺伝子、HLA-DRA遺伝子、HLA-DRB1遺伝子、HLA-DRB3遺伝子、HLA-DRB4遺伝子及びHLA-DRB5遺伝子の少なくとも1種の野生型幹細胞に対して低減された発現を更に含む筋原性幹細胞に関する。
【0067】
本発明の一実施形態は、前記筋原性幹細胞において、HLA-DMA遺伝子、HLA-DMB遺伝子、HLA-DOA遺伝子、HLA-DOB遺伝子、HLA-DPA1遺伝子、HLA-DPB1遺伝子、HLA-DQA1遺伝子、HLA-DQA2遺伝子、HLA-DQB1遺伝子、HLA-DQB2遺伝子、HLA-DRA遺伝子、HLA-DRB1遺伝子、HLA-DRB3遺伝子、HLA-DRB4遺伝子及びHLA-DRB5遺伝子の少なくとも1種が欠損している筋原性幹細胞に関する。
【0068】
本発明の一実施形態は、低免疫原性幹細胞の調製方法であって、HLA-A遺伝子、HLA-B遺伝子、HLA-C遺伝子、β-ミクログロブリン(B2M)遺伝子、CIITA遺伝子、CD74遺伝子、TAP1遺伝子、MIC-1遺伝子及びMIC-2遺伝子の少なくとも1種の幹細胞における発現を低減させることと、CD24遺伝子、HLA-G遺伝子及びHLA-E遺伝子の少なくとも1種を前記幹細胞において条件付き発現させることとを含み、HLA-A遺伝子、HLA-B遺伝子、HLA-C遺伝子、β-ミクログロブリン(B2M)遺伝子、CIITA遺伝子、CD74遺伝子、TAP1遺伝子、MIC-1遺伝子及びMIC-2遺伝子の少なくとも1種の発現の低減と、CD24遺伝子、HLA-G遺伝子及びHLA-E遺伝子の少なくとも1種の条件付き発現とによって低免疫原性幹細胞を得る調製方法に関する。
【0069】
本発明の一実施形態は、前記方法において、CD46遺伝子、CD59遺伝子及びCD55遺伝子の少なくとも1種の前記幹細胞における発現を増加させることを更に含む方法に関する。
【0070】
本発明の一実施形態は、前記方法において、HLA-A遺伝子、HLA-B遺伝子、HLA-C遺伝子、β-ミクログロブリン(B2M)遺伝子、CIITA遺伝子、CD74遺伝子、TAP1遺伝子、MIC-1遺伝子及びMIC-2遺伝子の少なくとも1種の発現の低減が、HLA-A遺伝子、HLA-B遺伝子、HLA-C遺伝子、β-ミクログロブリン(B2M)遺伝子、CIITA遺伝子、CD74遺伝子、TAP1遺伝子、MIC-1遺伝子及びMIC-2遺伝子の少なくとも1種を前記幹細胞のゲノムDNAにおいて低減する方法に関する。
【0071】
本発明の一実施形態は、前記方法において、HLA-A遺伝子、HLA-B遺伝子、HLA-C遺伝子、β-ミクログロブリン(B2M)遺伝子、CIITA遺伝子、CD74遺伝子、TAP1遺伝子、MIC-1遺伝子及びMIC-2遺伝子の少なくとも1種の前記幹細胞のゲノムDNAからの欠失はエンドヌクレアーゼの使用を含む方法に関する。
【0072】
本発明の一実施形態は、前記方法において、前記幹細胞におけるHLA-A遺伝子、HLA-B遺伝子、HLA-C遺伝子、β-ミクログロブリン(B2M)遺伝子、CIITA遺伝子、CD74遺伝子、TAP1遺伝子、MIC-1遺伝子及びMIC-2遺伝子の発現の低減を更に含む方法に関する。
【0073】
本発明の一実施形態は、前記方法において、前記幹細胞におけるCD24遺伝子、HLA-G遺伝子及びHLA-E遺伝子の少なくとも1種の条件付き発現が、前記幹細胞の少なくとも1種のアレルのセーフハーバー部位へのCD24遺伝子、HLA-G遺伝子及びHLA-E遺伝子の少なくとも1種の挿入を含む方法に関する。
【0074】
本発明の一実施形態は、前記セーフハーバー部位はAAVSI部位を含む前記方法に関する。
【0075】
本発明の一実施形態は、前記方法において、CD24遺伝子、HLA-G遺伝子及びHLA-E遺伝子の少なくとも1種の前記幹細胞における条件付き発現が、第1の細胞分化ステージ中のCD24遺伝子、HLA-G遺伝子及びHLA-E遺伝子の少なくとも1種の過剰発現と、第2の細胞分化ステージ中のCD24遺伝子、HLA-G遺伝子及びHLA-E遺伝子の少なくとも1種の発現の第1の細胞分化ステージに対する低減とを含む方法に関する。
【0076】
本発明の一実施形態は、前記方法において、CD24遺伝子、HLA-G遺伝子及びHLA-E遺伝子の少なくとも1種の前記幹細胞における条件付き発現が、pax7プロモーター、pax3プロモーター、myh4プロモーター、Ankrd1プロモーター、myod1プロモーター及びmyf5プロモーター又はmyogプロモーターの使用を含む方法に関する。
【0077】
本発明の一実施形態は、前記方法において、CD24遺伝子、HLA-G遺伝子及びHLA-E遺伝子の前記幹細胞における条件付き発現を更に含む方法に関する。
【0078】
本発明の一実施形態は、前記方法において、HLA-DMA遺伝子、HLA-DMB遺伝子、HLA-DOA遺伝子、HLA-DOB遺伝子、HLA-DPA1遺伝子、HLA-DPB1遺伝子、HLA-DQA1遺伝子、HLA-DQA2遺伝子、HLA-DQB1遺伝子、HLA-DQB2遺伝子、HLA-DRA遺伝子、HLA-DRB1遺伝子、HLA-DRB3遺伝子、HLA-DRB4遺伝子及びHLA-DRB5遺伝子の少なくとも1種の前記幹細胞における発現を低減することを更に含む方法に関する。
【0079】
本発明の一実施形態は、対象を治療する方法であって、前記筋原性幹細胞のいずれかを必要とする対象に投与することを含む方法に関する。
【0080】
本発明の一実施形態は、前記方法において、前記対象が筋障害を患っている方法に関する。
【0081】
本発明の一実施形態は、前記筋原性幹細胞のいずれかを含む組成物に関する。
【0082】
ある実施形態において、幹細胞は筋原性幹細胞であり、他の実施形態において幹細胞は人工多能性幹細胞(iPSC)である。幾つかの実施形態においては、この幹細胞は、a)破壊されたヒト白血球抗原-A(HLA-A)、HLA-B、HLA-C、β-ミクログロブリン(B2M)、クラスII主要組織適合複合体トランス活性化因子(CIITA)、分化クラスター74(CD74)、HLA-DMA、HLA-DMB、HLA-DOA、HLA-DOB、HLA-DPA1、HLA-DPB1、HLA-DQA1、HLA-DQA2、HLA-DQB1、HLA-DQB2、HLA-DRA、HLA-DRB1、HLA-DRB3、HLA-DRB4、HLA-DRB5、抗原プロセシング1(TAP1)に関連するトランスポーター、マクロファージ阻害サイトカイン-1(MIC-1)及び/又はMIC-2、b)過剰発現されたCD46、CD59、CD55及び/又はCD200、及びc)条件付きプロモーターの制御下におけるPD-L1、HLA-G、HLA-E及び/又はCD24の各遺伝子を有する。このような幾つかの実施形態において、条件付きプロモーターはPax-7プロモーターであるが、細胞分化ステージ中のあるステージのみで活性であるいずれかのプロモーターで有り得る。より具体的には、このプロモーターは衛星細胞ステージ及び筋芽細胞ステージでは活性であるが、一旦融合した筋芽細胞が筋線維へ分化することを止める。
【0083】
本発明の一実施形態は、ヒト白血球抗原-A(HLA-A)、HLA-B、HLA-C、β-ミクログロブリン(B2M)、クラスII主要組織適合性複合体トランスアクチベーター(CIITA)、分化74クラスター(CD74)、HLA-DMA、HLA-DMB、HLA-DOA、HLA-DOB、HLA-DPA1、HLA-DPB1、HLA-DQA1、HLA-DQA2、HLA-DQB1、HLA-DQB2、HLA-DRA、HLA-DRB1、HLA-DRB3、HLA-DRB4、HLA-DRB5、抗原プロセッシングを伴うトランスポーター1(TAP1)、マクロファージ阻害性サイトカイン-1(MIC-1)、MIC-2、CD46、CD59、CD55、CD24、HLA-G、HLA-E、プログラム細胞死リガンド1(PD-L1)及び/又はCD200の各遺伝子の野生型幹細胞に対して調節された発現を有する幹細胞に関する。
【0084】
本発明の一実施形態は、前記幹細胞において、B2M遺伝子は欠失するか、さもなければ阻害され、且つCD24、HLA-G、HLA-E及び/又はPD-L1の各遺伝子は、ある細胞分化ステージ又は所定の細胞分化ステージ中に条件付き過剰発現される幹細胞に関する。
【0085】
本発明の一実施形態は、筋肉前駆体細胞である前記幹細胞に関する。
【0086】
本発明の一実施形態は、前記幹細胞において、HLA-A、HLA-B、HLA-C、B2M、CIITA、CD74、HLA-DMA、HLA-DMB、HLA-DOA、HLA-DOB、HLA-DPA1、HLA-DPB1、HLA-DQA1、HLA-DQA2、HLA-DQB1、HLA-DQB2、HLA-DRA、HLA-DRB1、HLA-DRB3、HLA-DRB4、HLA-DRB5、TAP1、MIC-1及び/又はMIC-2の各遺伝子の発現は野生型幹細胞に対して低減されている幹細胞に関する。
【0087】
本発明の一実施形態は、前記幹細胞において、HLA-A、HLA-B、HLA-C、B2M、CIITA、CD74、HLA-DMA、HLA-DMB、HLA-DOA、HLA-DOB、HLA-DPA1、HLA-DPB1、HLA-DQA1、HLA-DQA2、HLA-DQB1、HLA-DQB2、HLA-DRA、HLA-DRB1、HLA-DRB3、HLA-DRB4、HLA-DRB5、TAP1、MIC-1及び/又はMIC-2の各遺伝子の発現が阻害されている幹細胞に関する。
【0088】
本発明の一実施形態は、前記幹細胞において、HLA-A、HLA-B、HLA-C、B2M、CIITA、CD74、HLA-DMA、HLA-DMB、HLA-DOA、HLA-DOB、HLA-DPA1、HLA-DPB1、HLA-DQA1、HLA-DQA2、HLA-DQB1、HLA-DQB2、HLA-DRA、HLA-DRB1、HLA-DRB3、HLA-DRB4、HLA-DRB5、TAP1、MIC-1及び/又はMIC-2の各遺伝子の少なくとも1種が欠失している幹細胞に関する。
【0089】
本発明の一実施形態は、前記幹細胞において、PD-L1遺伝子が野生型幹細胞に対して条件付き過剰発現されている幹細胞に関する。
【0090】
本発明の一実施形態は、前記幹細胞において、PD-L1遺伝子が第1の細胞分化ステージ中に過剰発現され、且つPD-L1遺伝子は第2の細胞分化ステージ中、第1の細胞分化ステージに対して低減された発現レベルを有する幹細胞に関する。
【0091】
本発明の一実施形態は、前記幹細胞において、PD-L1遺伝子の発現が、筋肉特異的プロモーター(例えば、pax7プロモーター、pax3プロモーター、myh4プロモーター、Ankrd1プロモーター、myod1プロモーター、myf5プロモーター又はmyogプロモーター)によって調節される幹細胞に関する。
【0092】
本発明の一実施形態は、前記幹細胞において、CD24遺伝子が野生型幹細胞に対して条件付き過剰発現されている幹細胞に関する。
【0093】
本発明の一実施形態は、前記幹細胞において、CD24遺伝子が第1の細胞分化ステージ中に過剰発現され、且つPD-L1、HLA-G及び/又はHLA-Eの各遺伝子は第2の細胞分化ステージ中、第1の細胞分化ステージに対して低減された発現レベルを有する幹細胞に関する。
【0094】
本発明の一実施形態は、前記幹細胞において、CD24遺伝子の発現が、pax7プロモーター、pax3プロモーター、myh4プロモーター、Ankrd1プロモーター、myod1プロモーター及びmyf5プロモーター又はmyogプロモーターによって調節される幹細胞に関する。
【0095】
本発明の一実施形態は、前記幹細胞において、PD-L1遺伝子及びCD24遺伝子の両者が野生型幹細胞に対して過剰発現されている幹細胞に関する。
【0096】
本発明の一実施形態は、前記幹細胞において、PD-L1遺伝子及びCD24遺伝子の両者が、pax7プロモーター、pax3プロモーター、myh4プロモーター、Ankrd1プロモーター、myod1プロモーター及びmyf5プロモーター又はmyogプロモーターに関する。
【0097】
本発明の一実施形態は、前記幹細胞において、PD-L1遺伝子及びCD24遺伝子が、前記幹細胞の少なくとも1種のアレルのセーフハーバー部位へ挿入されている幹細胞に関する。
【0098】
本発明の一実施形態は、前記幹細胞において、前記セーフハーバー部位がAAVSI部位を含む幹細胞に関する。他のセーフハーバー部位はROSA26部位とCCR5部位を含む。他のセーフハーバー部位は当業者に知られているであろう。
【0099】
本発明の一実施形態は、幹細胞が多能性幹細胞又は筋原性幹細胞の一である前記幹細胞に関する。
【0100】
本発明の一実施形態は、幹細胞が低免疫原性である前記幹細胞に関する。
【0101】
本発明の一実施形態は、低免疫原性幹細胞の調製方法であって、幹細胞におけるB2M遺伝子の発現を低減する段階と、PD-L1遺伝子及びCD24遺伝子の少なくとも1種を前記幹細胞において条件付き発現させる段階とを含み、B2M遺伝子の発現低減とPD-L1遺伝子及びCD24遺伝子の少なくとも1種の条件付き発現によって低免疫原性幹細胞を得る方法に関する。
【0102】
本発明の一実施形態は、前記方法において、B2M遺伝子の発現低減が、前記幹細胞のゲノムDNAからのB2M遺伝子の欠失を含む方法に関する。
【0103】
本発明の一実施形態は、前記方法において、B2M遺伝子の前記幹細胞のゲノムDNAからの欠失がエンドヌクレアーゼの使用を含む方法に関する。
【0104】
本発明の一実施形態は、前記方法において、前記幹細胞におけるPD-L1遺伝子及びCD24遺伝子の少なくとも1種の条件付き発現が、前記幹細胞の少なくとも1種のアレルのセーフハーバー部位へのPD-L1遺伝子及びCD24遺伝子の少なくとも1種の挿入を含む方法に関する。
【0105】
本発明の一実施形態は、前記セーフハーバー部位がAAVSI部位を含む前記方法に関する。
【0106】
本発明の一実施形態は、前記方法において、前記幹細胞におけるPD-L1遺伝子及びCD24遺伝子の少なくとも1種の条件付き発現が、第1の細胞分化ステージ中のPD-L1遺伝子及びCD24遺伝子の少なくとも1種の過剰発現と、第2の細胞分化ステージ中のPD-L1遺伝子及びCD24遺伝子の少なくとも1種の発現の第1の細胞分化ステージに対する低減とを含む方法に関する。
【0107】
本発明の一実施形態は、前記方法において、PD-L1遺伝子及びCD24遺伝子の少なくとも1種の前記幹細胞における条件付き発現が、pax7プロモーター、pax3プロモーター、myh4プロモーター、Ankrd1プロモーター、myod1プロモーター及びmyf5プロモーター又はmyogプロモーターの使用を含む方法に関する。
【0108】
本発明の一実施形態は、前記方法において、PD-L1遺伝子及びCD24遺伝子の両者が野生型幹細胞に対して条件付き過剰発現されている幹細胞に関する。
【0109】
本発明の一実施形態は、筋芽細胞融合体を発生させる方法であって、破壊されたHLA及び/又はBLA遺伝子、及びPD-L1及び/又はCD24遺伝子を有するiPSCを条件付きプロモーターの制御下で改変又は単離する段階a)と;iPSCを免疫系回避能を有する衛星細胞に分化させる段階b)において衛星細胞はHLA及び/又はBLAの低減された発現を有し且つPD-L1及び/又はCD24の増加された発現を有することと;衛星細胞を筋芽細胞に分化させることと;この筋芽細胞を筋芽細胞融合体が形成されるように他の筋芽細胞と融合させ、筋芽細胞融合体における筋芽細胞は衛星細胞と比較して低減されたPD-L1及び/又はCD24発現を有することとを含む方法に関する。
【0110】
ある実施形態において、幹細胞は、HLA-A、HLA-B、HLA-C、B2M、CIITA、CD74、HLA-DMA、HLA-DMB、HLA-DOA、HLA-DOB、HLA-DPA1、HLA-DPB1、HLA-DQA1、HLA-DQA2、HLA-DQB1、HLA-DQB2、HLA-DRA、HLA-DRB1、HLA-DRB3、HLA-DRB4、HLA-DRB5、TAP1、MIC-1及び/又はMIC-2;b)過剰発現CD46、CD59、CD55及びc)PD-L1、HLA-G、HLA-E及び/又はCD24遺伝子の野生型筋原性幹細胞に対して調節された発現を有する筋原性幹細胞である。
【0111】
一実施形態は前記筋原性幹細胞であって、HLA-A、HLA-B、HLA-C、B2M、CIITA、CD74、HLA-DMA、HLA-DMB、HLA-DOA、HLA-DOB、HLA-DPA1、HLA-DPB1、HLA-DQA1、HLA-DQA2、HLA-DQB1、HLA-DQB2、HLA-DRA、HLA-DRB1、HLA-DRB3、HLA-DRB4、HLA-DRB5、TAP1、MIC-1及び/又はMIC-2;b)過剰発現CD46、CD59、CD55及びc)PD-L1、HLA-G、HLA-E及び/又はCD24遺伝子の野生型筋原性幹細胞に対して調節された発現を有する筋原性幹細胞に関する。
【0112】
一実施形態は、前記筋原性幹細胞において、HLA-A、HLA-B、HLA-C、B2M、CIITA、CD74、HLA-DMA、HLA-DMB、HLA-DOA、HLA-DOB、HLA-DPA1、HLA-DPB1、HLA-DQA1、HLA-DQA2、HLA-DQB1、HLA-DQB2、HLA-DRA、HLA-DRB1、HLA-DRB3、HLA-DRB4、HLA-DRB5、TAP1、MIC-1及び/又はMIC-2の各遺伝子の発現が野生型幹細胞に対して低減されている筋原性幹細胞に関する。
【0113】
一実施形態は、前記筋原性幹細胞において、HLA-A、HLA-B、HLA-C、B2M、CIITA、CD74、HLA-DMA、HLA-DMB、HLA-DOA、HLA-DOB、HLA-DPA1、HLA-DPB1、HLA-DQA1、HLA-DQA2、HLA-DQB1、HLA-DQB2、HLA-DRA、HLA-DRB1、HLA-DRB3、HLA-DRB4、HLA-DRB5、TAP1、MIC-1及び/又はMIC-2の各遺伝子の発現が阻害されている筋原性幹細胞に関する。
【0114】
一実施形態は、前記筋原性幹細胞において、HLA-A、HLA-B、HLA-C、B2M、CIITA、CD74、HLA-DMA、HLA-DMB、HLA-DOA、HLA-DOB、HLA-DPA1、HLA-DPB1、HLA-DQA1、HLA-DQA2、HLA-DQB1、HLA-DQB2、HLA-DRA、HLA-DRB1、HLA-DRB3、HLA-DRB4、HLA-DRB5、TAP1、MIC-1及び/又はMIC-2の各遺伝子の少なくとも1種が欠失している筋原性幹細胞に関する。
【0115】
一実施形態は、前記筋原性幹細胞において、PD-L1、HLA-G、HLA-E及び/又はCD24の各遺伝子が野生型幹細胞に対して条件付き過剰発現されている筋原性幹細胞に関する。
【0116】
一実施形態は、前記筋原性幹細胞において、PD-L1、HLA-G、HLA-E及び/又はCD24の各遺伝子は第1の細胞分化ステージ中に過剰発現され、且つPD-L1遺伝子が第2の細胞分化ステージ中、第1の細胞分化ステージに対して低減された発現レベルを有する筋原性幹細胞に関する。
【0117】
一実施形態は、前記筋原性幹細胞において、PD-L1、HLA-G、HLA-E及び/又はCD24の各遺伝子の発現が、pax7プロモーター、pax3プロモーター、myh4プロモーター、Ankrd1プロモーター、myod1プロモーター及びmyf5プロモーター又はmyogプロモーターによって調節される筋原性幹細胞に関する。
【0118】
一実施形態は、前記筋原性幹細胞において、CD24遺伝子が野生型幹細胞に対して条件付き過剰発現されている筋原性幹細胞に関する。
【0119】
一実施形態は、前記筋原性幹細胞において、CD24遺伝子が第1の細胞分化ステージ中に過剰発現され、且つPD-L1遺伝子は第2の細胞分化ステージ中、第1の細胞分化ステージに対して低減された発現レベルを有する筋原性幹細胞に関する。
【0120】
一実施形態は、前記筋原性幹細胞において、CD24遺伝子の発現がpax7プロモーター、pax3プロモーター、myh4プロモーター、Ankrd1プロモーター、myod1プロモーター及びmyf5プロモーター又はmyogプロモーターによって調節される筋原性幹細胞に関する。
【0121】
一実施形態は、前記筋原性幹細胞において、PD-L1遺伝子及びCD24遺伝子の両者が野生型幹細胞に対して過剰発現されている筋原性幹細胞に関する。
【0122】
一実施形態は、前記筋原性幹細胞において、PD-L1遺伝子及びCD24遺伝子の両者が、pax7プロモーター、pax3プロモーター、myh4プロモーター、Ankrd1プロモーター、myod1プロモーター及びmyf5プロモーター又はmyogプロモーターによって調節される筋原性幹細胞に関する。
【0123】
一実施形態は、前記筋原性幹細胞において、PD-L1遺伝子及びCD24遺伝子が、前記幹細胞の少なくとも1種のアレルのセーフハーバー部位に挿入されている筋原性幹細胞に関する。
【0124】
一実施形態は、前記セーフハーバー部位はAAVSI部位を含む、前記筋原性幹細胞に関する。
【0125】
一実施形態は、筋原性幹細胞が衛星細胞である、前記筋原性幹細胞に関する。
【0126】
一実施形態は、筋原性幹細胞が低免疫原性である、前記筋原性幹細胞に関する。
【0127】
本発明の一実施形態は、低免疫原性幹細胞の調製方法であって、B2M遺伝子の幹細胞における発現を低減させる段階と、PD-L1遺伝子及びCD24遺伝子の少なくとも1種を前記幹細胞において条件付き発現させる段階とを含み、B2M遺伝子の発現の低減と、PD-L1遺伝子及びCD24遺伝子の少なくとも1種の条件付き発現とによって低免疫原性幹細胞を得る調製方法に関する。
【0128】
一実施形態は、前記方法において、B2M遺伝子の発現の低減が、前記幹細胞のゲノムDNAからのB2M遺伝子の欠失を含む方法に関する。
【0129】
一実施形態は、前記方法において、前記幹細胞のゲノムDNAからのB2M遺伝子欠失がエンドヌクレアーゼの使用を含む方法に関する。
【0130】
一実施形態は、前記方法において、前記幹細胞におけるPD-L1遺伝子及びCD24遺伝子の少なくとも1種の条件付き発現が、前記幹細胞の少なくとも1種のアレルのセーフハーバー部位へのPD-L1遺伝子及びCD24遺伝子の少なくとも1種の挿入を含む方法に関する。
【0131】
一実施形態は、前記セーフハーバー部位がAAVSI部位を含む、前記方法に関する。
【0132】
一実施形態は、前記方法において、前記幹細胞におけるPD-L1遺伝子及びCD24遺伝子の少なくとも1種の条件付き発現が、第1の細胞分化ステージ中のPD-L1遺伝子及びCD24遺伝子の少なくとも1種の過剰発現と、第2の細胞分化ステージ中のPD-L1遺伝子及びCD24遺伝子の少なくとも1種の発現の第1の細胞分化ステージに対する低減とを含む方法に関する。
【0133】
一実施形態は、前記方法において、前記幹細胞におけるPD-L1遺伝子及びCD24遺伝子の少なくとも1種の条件付き発現が、pax7プロモーター、pax3プロモーター、myh4プロモーター、Ankrd1プロモーター、myod1プロモーター及びmyf5プロモーター又はmyogプロモーターの使用を含む方法に関する。
【0134】
一実施形態は、前記方法において、PD-L1遺伝子及びCD24遺伝子の両者が条件付きに発現されている方法に関する。
【0135】
ある実施形態において、幹細胞は人工多能性幹細胞(iPSC)である。幾つかの実施形態において、この幹細胞は筋原性幹細胞である。幾つかの実施形態においては、この幹細胞は、a)破壊されたHLA及び/又はBLA遺伝子及びb)条件付きプロモーターの制御下におけるPD-L1及び/又はCD47遺伝子を有する。このような幾つかの実施形態において、条件付きプロモーターはPax-7プロモーターであるが、細胞分化ステージのあるステージのみで活性であるプロモーターのいずれかでも可能である。より具体的には、このプロモーターは衛星細胞ステージ及び筋芽細胞ステージでは活性であるが、一旦融合した筋芽細胞が筋線維へ分化することを止める。
【0136】
本発明の一実施形態は、β-ミクログロブリン(B2M)遺伝子、PD-L1遺伝子及びCD47遺伝子の野生型幹細胞に対して調節された発現を有する幹細胞に関する。
【0137】
本発明の一実施形態は、前記幹細胞において、B2M遺伝子が欠失するか、さもなければ阻害され、且つPD-L1遺伝子及びCD47遺伝子は、ある細胞分化ステージ又は所定の細胞分化ステージ中に条件付き過剰発現される幹細胞に関する。
【0138】
本発明の一実施形態は、筋肉前駆体細胞である前記幹細胞に関する。
【0139】
本発明の一実施形態は、前記幹細胞において、B2M遺伝子の発現が野生型幹細胞に対して低減されている幹細胞に関する。
【0140】
本発明の一実施形態は、前記幹細胞において、B2M遺伝子の発現が阻害されている幹細胞に関する。
【0141】
本発明の一実施形態は、前記幹細胞において、少なくとも一のB2M遺伝子が欠失している幹細胞に関する。
【0142】
本発明の一実施形態は、前記幹細胞において、PD-L1遺伝子が野生型幹細胞に対して条件付き過剰発現している幹細胞に関する。
【0143】
本発明の一実施形態は、前記幹細胞において、PD-L1遺伝子が第1の細胞分化ステージ中に過剰発現され、且つPD-L1遺伝子は第2の細胞分化ステージ中、第1の細胞分化ステージに対して低減された発現レベルを有する幹細胞に関する。
【0144】
本発明の一実施形態は、前記幹細胞において、PD-L1遺伝子の発現が、pax7プロモーター、pax3プロモーター、myh4プロモーター、Ankrd1プロモーター、myod1プロモーター及びmyf5プロモーター又はmyogプロモーターによって制御される幹細胞に関する。
【0145】
本発明の一実施形態は、前記幹細胞において、CD47遺伝子が野生型幹細胞に対して条件付き過剰発現している幹細胞に関する。
【0146】
本発明の一実施形態は、前記幹細胞において、CD47遺伝子が第1の細胞分化ステージ中に過剰発現され、且つPD-L1遺伝子は第2の細胞分化ステージ中、第1の細胞分化ステージに対して低減された発現レベルを有する幹細胞に関する。
【0147】
本発明の一実施形態は、前記幹細胞において、CD47遺伝子の発現がpax7プロモーター、pax3プロモーター、myh4プロモーター、Ankrd1プロモーター、myod1プロモーター及びmyf5プロモーター又はmyogプロモーターによって制御される幹細胞に関する。
【0148】
本発明の一実施形態は、前記幹細胞において、PD-L1遺伝子及びCD47遺伝子の両者が野生型幹細胞に対して過剰発現されている幹細胞に関する。
【0149】
本発明の一実施形態は、前記幹細胞において、PD-L1遺伝子及びCD47遺伝子の両者が、pax7プロモーター、pax3プロモーター、myh4プロモーター、Ankrd1プロモーター、myod1プロモーター及びmyf5プロモーター又はmyogプロモーターによって制御される幹細胞に関する。
【0150】
本発明の一実施形態は、前記幹細胞において、PD-L1遺伝子及びCD47遺伝子が、前記幹細胞の少なくとも1種のアレルのセーフハーバー部位に挿入されている幹細胞に関する。
【0151】
本発明の一実施形態は、前記セーフハーバー部位はAAVSI部位を含む、前記幹細胞に関する。
【0152】
本発明の一実施形態は、幹細胞が多能性幹細胞である、前記幹細胞に関する。
【0153】
本発明の一実施形態は、幹細胞が低免疫原性である、前記幹細胞に関する。
【0154】
本発明の一実施形態は低免疫原性幹細胞の調製方法であって、幹細胞におけるB2M遺伝子の発現を低減する段階と、PD-L1遺伝子及びCD47遺伝子の少なくとも1種を前記幹細胞において条件付き発現させる段階とを含み、B2M遺伝子の発現低減とPD-L1遺伝子及びCD47遺伝子の少なくとも1種の条件付き発現によって低免疫原性幹細胞を得る方法に関する。
【0155】
本発明の一実施形態は、前記方法において、B2M遺伝子の発現低減が、前記幹細胞のゲノムDNAからのB2M遺伝子の欠失を含む方法に関する。
【0156】
本発明の一実施形態は、前記方法において、B2M遺伝子の前記幹細胞のゲノムDNAからの欠失がエンドヌクレアーゼの使用を含む方法に関する。
【0157】
本発明の一実施形態は、前記方法において、前記幹細胞におけるPD-L1遺伝子及びCD47遺伝子の少なくとも1種の条件付き発現が、前記幹細胞の少なくとも1種のアレルのセーフハーバー部位へのPD-L1遺伝子及びCD47遺伝子の少なくとも1種の挿入を含む方法に関する。
【0158】
本発明の一実施形態は、前記セーフハーバー部位はAAVSI部位を含む前記方法に関する。他のセーフハーバー部位はROSA26部位とCCR5部位を含む。他のセーフハーバー部位は当業者に知られているであろう。
【0159】
本発明の一実施形態は、前記方法において、前記幹細胞におけるPD-L1遺伝子及びCD47遺伝子の少なくとも1種の条件付き発現が、第1の細胞分化ステージ中のPD-L1遺伝子及びCD47遺伝子の少なくとも1種の過剰発現と、第2の細胞分化ステージ中のPD-L1遺伝子及びCD47遺伝子の少なくとも1種の発現の第1の細胞分化ステージに対する低減とを含む方法に関する。
【0160】
本発明の一実施形態は、前記方法において、前記幹細胞におけるPD-L1遺伝子及びCD47遺伝子の少なくとも1種の条件付き発現が、pax7プロモーター、pax3プロモーター、myh4プロモーター、Ankrd1プロモーター、myod1プロモーター及びmyf5プロモーター又はmyogプロモーターの使用を含む方法に関する。
【0161】
本発明の一実施形態は、前記方法において、PD-L1遺伝子及びCD47遺伝子の両者が条件付き発現している方法に関する。
【0162】
本発明の一実施形態は、筋芽細胞融合体を発生させる方法であって、破壊されたHLA及び/又はBLA遺伝子、及びPD-L1及び/又はCD47遺伝子を有するiPSCを条件付きプロモーターの制御下で改変又は単離する段階a)と;iPSCを免疫系回避能を有する衛星細胞に分化させる段階b)において衛星細胞はHLA及び/又はBLAの低減された発現を有し且つPD-L1及び/又はCD47の増加された発現を有することと;衛星細胞を筋芽細胞に分化させることと;この筋芽細胞を筋芽細胞融合体が形成されるように他の筋芽細胞と融合させ、筋芽細胞融合体における筋芽細胞は衛星細胞と比較して低減されたPD-L1及び/又はCD47発現を有することとを含む方法に関する。
【0163】
本発明の幾つかの実施形態は筋原性前駆細胞集団生産のための方法、組成物及びキットを含む。更に、対象の筋肉疾患又は障害(例えば、デュシェンヌ筋ジストロフィー(DMD))の治療又は予防のための方法及び組成物も含まれる。
【0164】
本発明は、インビボ環境のニッチエリアにおいて、静止状態及び機能している局所骨格筋幹細胞として生存可能なヒトPAX7::GFP+細胞の発生への新しいアプローチを提供する。
【0165】
また、これら細胞をエクスビボで維持・増殖することも提供される。これら細胞をインビボ移植すると、筋線維への融合のみならず基底層下に存在する細胞を発現する単核PAX7になることにより筋再生に関与する可能性がある。
【0166】
筋形成は、例えば、特に胚発生中の筋組織の形成である。通常、筋線維は筋管と呼ばれる筋芽細胞の多核線維への融合体を形成する。胚の初期発生においては、筋芽細胞は増殖又は筋管への分化のいずれかが可能である。インビボで何がこの選択を制御しているかは、全体としては不明である。細胞培養中であるとすれば、細胞を取り巻く媒体に十分量の線維芽細胞成長因子(FGF)又は他の成長因子が存在するならば、多くの筋芽細胞が増殖することになる。この成長因子が尽きれば、筋芽細胞は分割を止めて、筋管へ最終的に分化する。筋芽細胞の分化は段階的に進む。第1ステージは細胞周期の終了と、ある遺伝子の発現開始を伴う。分化の第2ステージは筋芽細胞相互のアラインメントを伴う。ラットとヒヨコの筋芽細胞でさえ互いを認識し整列し得ることが研究で示され、これは関与する機構の進化的な保存を示唆している。第3のステージは実際の細胞融合そのものである。このステージではカルシウムイオンの存在が重要である。マウスにおいては、細胞融合はメルトリンと呼ばれるメタロプロテイナーゼのセットと他のタンパク質各種とに助長されるが、今だ検討中である。細胞融合は原形質膜へのアクチンの動員と、それに続く近接配置と、後に素早く膨張する空孔形成を伴う。
【0167】
胚発生において、体節における皮筋板及び/又は筋板は、骨格筋に進化する予定の筋原性前駆細胞を含む。皮筋板及び筋板の決定は、T-boxファミリー、tbx6、ripply1及びmesp-baのメンバーを含む遺伝子制御ネットワークにより制御される。骨格筋形成は、筋形成前駆細胞を筋線維へ分化させるために各種遺伝子サブセットの厳格な制御に依存する。筋形成前駆細胞は転写因子pax3及びpax7を発現する。塩基性ヘリックスループヘリックス(bHLH)転写因子、MyoD、Myf5、ミオゲニン及びMRF4はこの生成に重要である。MyoDとMyf5は筋形成前駆細胞を筋芽細胞へ分化させることができ、続いてミオゲニンが筋芽細胞を筋管へ分化させる。MRF4は筋特異的プロモーターの転写をブロックするために重要であり、これによって分化以前に骨格筋前駆細胞が成長・増殖できる。
【0168】
筋原性前駆細胞
【0169】
哺乳類成体の骨格筋は成長、訓練及び怪我等の生理学的要求に対する適応能力を示す。これら適応が起こるプロセスは成体の骨格筋に存在する少量の単核細胞に基づき、衛星細胞と称される。衛星細胞は組織選択的な筋原性幹細胞であり、自己再生可能で、筋芽細胞として知られる筋肉前駆体を生じる。筋芽細胞は骨格筋の「ビルディングブロック」となる。骨格筋線維は最後に分化し、これら多核細胞の核にDNA合成と有糸分裂の能力はない。筋線維数又は筋線維核数の増加は、筋芽細胞の増殖及び後続の分化によるものである。成体骨格筋において、衛星細胞は有糸分裂休止期に留まり、筋肉の傷害に際しては、細胞周期に再度入り、非対称細胞分割して衛星嬢細胞と一過性増幅筋芽細胞を生じる。これらは数回の分割をすることができる。分化に際しては、筋芽細胞は互いに又は既存の筋線維と融合し、更に筋肉特異的筋線維タンパク質及び収縮性タンパク質のセットの発現を開始する。休止期の筋原性衛星細胞はサルコレンマと基底層の間の陥凹に存在するため、成体の筋線維とは物理的に区別される。筋肉の傷害の際、筋原性衛星細胞の一部は前駆細胞として残る一方で、他の細胞は新たな筋線維に分化する。筋肉外傷等の刺激に応答して、筋原性前駆細胞は活性化され、増殖し、筋原性マーカーを発現する。最後に、損傷した骨格筋の再生中、これら細胞は既存の筋線維に融合、或いは互いに融合して新たな筋線維を形成する。
【0170】
本発明の幾つかの実施形態は、筋原性前駆細胞(MPC)の集団の生産方法を含む。幾つかの実施形態において、この方法は対象(例えば、骨格細胞集団)から細胞集団を得ることと、この細胞集団から多能性幹細胞(PSC)集団を生産することにおいてPSC集団は胚性幹細胞(ESC)集団であることと、このPSC集団からMPC集団を生産することとを含む。
【0171】
複数の様相において、多能性細胞は胚性幹(ES)細胞(即ちESC)である。一実施形態において、多能性細胞は非ヒトES細胞である。一実施形態において、多能性細胞は人工多能性幹(iPS)細胞(即ちiPSC)である。一実施形態において、iPS細胞は線維芽細胞から誘導される。一実施形態において、iPSCはヒト血液細胞から誘導される。一実施形態において、多能性細胞は造血幹細胞(HSC)である。一実施形態において、多能性細胞は神経幹細胞(NSC)である。一実施形態において、多能性細胞はエピブラスト幹細胞である。一実施形態において、多能性細胞は組織特異的幹細胞又は発生的に制限された前駆細胞である。一実施形態において、多能性細胞はげっ歯類多能性細胞である。一実施形態において、げっ歯類多能性細胞はラット多能性細胞である。一実施形態において、ラット多能性細胞はラットES細胞である。一実施形態において、げっ歯類多能性細胞はマウス多能性細胞である。一実施形態において、多能性細胞はマウス胚性幹(ES)細胞である。
【0172】
複数の様相において、PSC集団は塩基性線維芽細胞成長因子(FGF2)及び/又は線維芽細胞成長因子8を含む細胞培地で培養される。
【0173】
更なる様相において、MPCは筋原性マーカーを発現し、この筋原性マーカーはペアードボックスプロテイン(PAX7)又はMyoDを含むことができる。更に、MPCは緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現する。
【0174】
本MPC集団の生産方法は、MPC集団の細胞におけるPAX7発現の増加に有効である。例えば、対照と比べ発現を少なくとも0、20、30、40、50、60、70、80、90、100、125、150、175又は200%増加させることができる。複数の実施形態において、筋原性前駆細胞集団におけるPAX7発現は少なくとも100%増加する。複数の実施形態において、筋原性前駆細胞集団におけるPAX7発現レベルは少なくとも125%増加する。複数の実施形態において、筋原性前駆細胞集団におけるPAX7発現レベルは少なくとも150%増加する。複数の実施形態において、筋原性前駆細胞集団におけるPAX7発現レベルは少なくとも50%、100%、200%、300%、400%、500%、600%、700%、800%、900%、1000%、1100%、又は1200%増加する。複数の実施形態において、筋原性前駆細胞集団におけるPAX7発現レベルは約50%~約1200%増加する。
【0175】
ヒトPAX7のアミノ酸配列はNCBIのGenBankデータベースにて登録番号NP_002575.1として公的に入手可能である。
【0176】
ヒトPAX7をコードする塩基配列はGenBankデータベースにて登録番号NM_002584.2として公的に入手可能である。
【0177】
マウスPAX7のアミノ酸配列はNCBIのGenBankデータベースにて登録番号NP_035169.1として公的に入手可能である。
【0178】
マウスPAX7をコードする塩基配列はGenBankデータベースにて登録番号NM_011039.2として公的に入手可能である。
【0179】
本MPC集団の生産方法は、MPC集団の細胞におけるMyoD発現の増加に有効である。例えば、対照と比べ発現を少なくとも0、20、30、40、50、60、70、80、90、100、125、150、175又は200%増加させることができる。複数の実施形態において、筋原性前駆細胞集団におけるMyoD発現は少なくとも100%増加する。複数の実施形態において、筋原性前駆細胞集団におけるMyoD発現レベルは少なくとも125%増加する。複数の実施形態において、筋原性前駆細胞集団におけるMyoD発現レベルは少なくとも150%増加する。複数の実施形態において、筋原性前駆細胞集団におけるMyoD発現レベルは少なくとも50%、100%、200%、300%、400%、500%、600%、700%、800%、900%、1000%、1100%、又は1200%増加する。複数の実施形態において、筋原性前駆細胞集団におけるMyoD発現レベルは約50%~約1200%増加する。
【0180】
ヒトMyoDのアミノ酸配列はNCBIのGenBankデータベースにて登録番号NP_002469.2として公的に入手可能である。
【0181】
ヒトMyoDをコードする塩基配列はGenBankデータベースにて登録番号NM_002478.5として公的に入手可能である。
【0182】
マウスMyoDのアミノ酸配列はNCBIのGenBankデータベースにて登録番号NP_034996.2として公的に入手可能である。
【0183】
マウスMyoDをコードする塩基配列はGenBankデータベースにて登録番号NM_010866.2として公的に入手可能である。
【0184】
他の様相において、本MPC集団の生産方法は、細胞集団をエクスビボで少なくとも30日間培養及び増殖することを含む。他の様相において、細胞集団はエクスビボで少なくとも5日間、少なくとも10日間、少なくとも20日間、少なくとも30日間、少なくとも40日間、少なくとも50日間培養及び増殖される。
【0185】
複数の様相において、細胞集団は培養することにより、その細胞数が増大する。例えば、その数は少なくとも0、20、30、40、50、60、70、80、90、100、125、150、175又は200%増加することができる。複数の実施形態において、その数は少なくとも50%、100%、200%、300%、400%、500%、600%、700%、800%、900%、1000%、1100%又は1200%増加することができる。複数の実施形態において、細胞集団は培養され、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%増殖される。
【0186】
追加的な例において、MPC集団は対象(例えば、骨格細胞)より得られる細胞の集団から生産される。他の例において、PSC集団はiPS細胞集団である。
【0187】
本発明はまた、本明細書記載の方法に従って生産される筋原性前駆細胞の集団を提供する。
【0188】
本発明の幾つかの実施形態は、必要とする対象における筋疾患又は障害の予防又は治療の方法を含む。更なる実施形態において、本方法は本明細書記載の方法に従って生産される筋原性前駆細胞集団の有効量を対象に投与することを含む。例えば、筋疾患又は障害の予防又は治療の方法は、生産された筋原性前駆細胞(MPC)の集団を投与することにおいて、細胞集団を対象(例えば、骨格細胞集団)から得ることと;この細胞集団から多能性幹細胞(PSC)集団を生産することにおいて、PSC集団は胚性幹細胞(ESC)集団であることと;PSC集団からMPC集団を生産することとを含む。
【0189】
複数の実施形態において、筋疾患又は障害は退化的筋消耗障害又は筋体積損失を含む。幾つかの実施形態において、筋疾患は筋ジストロフィー又は筋消耗疾患である。筋ジストロフィーの例としては、デュシェンヌ筋ジストロフィーやベッカー筋ジストロフィー、肢ガードル型筋ジストロフィー、肩甲骨上腕骨性筋ジストロフィー、眼咽頭型筋ジストロフィー、エメリー-ドレフュス筋ジストロフィー、福山型先天性筋ジストロフィー、ミヨシミオパチー、ウルリッヒ先天性筋ジストロフィー、シュタイナート筋ジストロフィーが挙げられる。
【0190】
複数の実施形態において、筋ジストロフィーはデュシェンヌ筋ジストロフィー(DMD)を含む。
【0191】
複数の様相において、細胞は対象における筋疾患(例えば、デュシェンヌ筋ジストロフィー)の開始前に単離される。他の様相において、細胞は対象における筋疾患(例えば、デュシェンヌ筋ジストロフィー)の開始後に単離される。
【0192】
複数の様相において、対象に投与する以前に細胞を培養して、細胞数を増大させる。複数の様相において、細胞集団は培養されることにより、その細胞数を増大する。例えば、その数は少なくとも0、20、30、40、50、60、70、80、90、100、125、150、175又は200%増加することができる。複数の実施形態において、その数は少なくとも50%、100%、200%、300%、400%、500%、600%、700%、800%、900%、1000%、1100%又は1200%増加することができる。複数の実施形態において、細胞集団は培養され、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%増殖される。
【0193】
複数の実施形態おいて、必要とする対象における初期筋原性マーカーのレベルを増加する方法が提供される。複数の実施形態において、本方法は本明細書記載の方法に従って生産される筋原性前駆細胞集団の有効量を対象に投与することを含む。
【0194】
他の実施形態において、筋疾患又は障害(例えば、デュシェンヌ筋ジストロフィー)のための本治療法は、本明細書記載の方法に従って生産される筋原性前駆細胞集団を対象に投与することと、症状の発症を制御する方法を組み合わせて含む。特に、この組み合わせ治療はコルチコステロイド(例えば、プレドニゾロンやデフラザコート)、β2アゴニスト(例えば、サルブタノール(例えば、アルブテノール)の投与を含むことができる。更に、組み合わせ療法は、穏やかで気持ち良い運動(例えば水泳)、理学療法、矯正装具(添木や車いす等)、適切な呼吸補助手段を含むことができる。
【0195】
本発明の幾つかの実施形態は、筋原性前駆細胞を生産するためのキットを含む。複数の実施形態において、このキットは細胞培地、即ち多能性幹細胞(PSC)集団又は筋原性幹細胞集団の培養に適した細胞培地を含む。
【0196】
これら実施形態において、各種の代替試薬(例えば、コーティング剤や細胞分散試薬、刺激剤、分化剤、培地等の培養試薬)を用いることができる。PSC、ES細胞及びiPSC等の培養のために特定の試薬セットは必要でない。しかし、非限定的な例を以下に示す。
【0197】
複数の実施形態において、本キットはヒトiPS細胞及びhES細胞の成長と増殖のための培地を含む。
【0198】
複数の実施形態において、本キットはES及び/又はiPS細胞の選択及び/又はパスのための試薬を含む。複数の実施形態において、この試薬はReLeSR(登録商標)パッシング試薬(ステムセルテクノロジーズ、カナダ・バンクーバー、カタログ番号:05872又は05873)である。複数の実施形態において、この試薬はmTeSR(登録商標)1(ステムセルテクノロジーズ、カナダ・バンクーバー、カタログ番号:85850又は85857)である。複数の実施形態において、この試薬はVitronectin XF(登録商標)(ステムセルテクノロジーズ、カナダ・バンクーバー、カタログ番号;07180又は07190)である。複数の実施形態において、この試薬はGentle Cell Dissociation Reagent(登録商標)(ステムセルテクノロジーズ、カナダ・バンクーバー、カタログ番号;07174)である。多くのプレートコーティング試薬及びES/iPSC媒体は商業的に入手可能で、当業者に知られているであろう。複数の実施形態において、いかなるプレートコーティング試薬も使用できる。複数の実施形態において、このコーティング試薬はコーニング社(ニューヨーク、NY、米国)のMatrigelである。
【0199】
複数の実施形態において、本キットは1種以上の細胞分散酵素を含む試薬を含む。複数の実施形態において、この試薬はTrypLE(登録商標)細胞分散試薬(サーモフィシャー、カタログ番号:A1285901)である。複数の実施形態において、この試薬はTrypLE(登録商標)Express(サーモフィシャーSKU、No:12604-013)である。複数の実施形態において、この試薬はStemPro(登録商標)Accutase(登録商標)細胞分散試薬(サーモフィシャー、カタログ番号:A1110501)である。種々の分散試薬が当業界で知られており使用できる。複数の実施形態において、培養表面(例えばプレート)から細胞を物理的に削り落とすことができる。
【0200】
複数の実施形態において、本キットは塩基性線維芽細胞成長因子(FGF2)及び/又は線維芽細胞成長因子8を含む。
【0201】
複数の実施形態において、本キットの細胞培地はPSC集団の培養に適している。
【0202】
複数の実施形態において、本キットの細胞培地は、それぞれ約5%、4.5%、4%、3.5%、3%、2.5%、2%、1.5%、1%又は0.5%の血清を含む。複数の実施形態において、本キットはそれぞれ約5%、4.5%、4%、3.5%、3%、2.5%、2%、1.5%、1%又は0.5%の血清或いはそれ以下の血清の使用のための構成されている。
【0203】
複数の実施形態において、本キットの細胞培地は、血清を含まない細胞培地である。
【0204】
複数の実施形態において、本キットは血清を含まない。
【0205】
前述のように、幹細胞に基づく細胞療法のための2種の主たるバリアーは、受容者の免疫系による拒絶のリスク及び/又は腫瘍形成のリスクとなる。
【0206】
これを克服するために、本発明は低免疫原性衛星細胞発生に対する免疫回避の方法を提供する。低免疫原性衛星細胞発生方法の一例は、親幹細胞ドナー株においてCrispR/cas9系を使用して、HLA-A、HLA-B、HLA-C、B2M、CIITA、CD74、HLA-DMA、HLA-DMB、HLA-DOA、HLA-DOB、HLA-DPA1、HLA-DPB1、HLA-DQA1、HLA-DQA2、HLA-DQB1、HLA-DQB2、HLA-DRA、HLA-DRB1、HLA-DRB3、HLA-DRB4、HLA-DRB5、TAP1、MIC-1及び/又はMIC-2の発現を不活性化することを含む。これら発現物は、主な組織適合性複合体(MHC)クラスI及びIIの重要成分である。MHCクラスIを欠乏する細胞はナチュラルキラー(NK)細胞に認識され標的とされる。NK細胞は先天的リンパ球であり、細胞毒性分子を放出することによって自己性喪失(missing-self)認識を介してMHCクラスI(MHC-I)をダウンレギュレートする細胞を死滅させる。しかし、NK細胞はレセプターNKG2D及びキラー細胞イムノグロブリン様レセプター(KIR)を発現する。これらレセプターは、活性化された場合には、それぞれNK細胞活性を活性化又は阻害し、細胞毒性分子を放出する。MIR-1及びMIR-2はNKG2Dと相互作用してNK細胞の細胞毒性放出を活性化する一方、HLA-G、HLA-E及びPD-L1は細胞毒性分子放出をブロックするKIRと相互作用する。従って、MIC-1及びMIC-2を欠き、表面にHLA-G、HLA-E及び/又はPD-L1を発現している親ドナー細胞株から誘導される衛星細胞に基づく方法を採用した。この方法は、MIC-1及びMIC-2を欠乏し、HLA-G、HLA-E及び/又はPD-L1を発現している低免疫原性細胞間の相互作用に際して、NK細胞からの細胞毒性放出を防止する。
【0207】
外来細胞の生着にネガティブな影響を与えうる他のプロセスは、マクロファージに媒介されるファゴサイトーシス(貪食)である。マクロファージは表面にSIRPαを発現しており、SIRPαはマクロファージファゴサイトーシスの阻害的レセプターとなる。SIRPαは、don't eat me シグナル表面のCD24分子との相互作用で活性化される
。そこで、親ドナー株から誘導される衛星細胞が表面にCD24を発現しているという追加的な方法を設計した。ランダムな統合とトランスジーン発現への位置効果を避けるため、PD-L1及びCD24をAAVS1セーフハーバー部位に打ち込む。pax7:myod1融合プロモーターをPD-L1及びCD24の前面に挿入して、衛星細胞にこれら因子のみを発現させた。このように、仮に衛星細胞が骨格筋以外の非筋肉系統に分化すると、これら細胞はpax7:myod1不活性化によってCD24及びPD-L1の発現をダウンレギュレートし、NK細胞やマクロファージによってより認識されやすくなる。
【0208】
T細胞による適合性免疫認識を回避するために、B2Mを欠失させる。細胞をNK細胞から守るため、pax7:myod1融合プロモーターでCD24を過剰発現させる。更に、マクロファージの貪食を阻害するため、pax7:myod1融合プロモーターでCD24を過剰発現させる。
【0209】
ヒトHLA-Gのアミノ酸配列はNCBIのGenBankデータベースにて登録番号NP_001350496として公的に入手可能である。
【0210】
ヒトHLA-Gをコードする塩基配列はGenBankデータベースにて登録番号NM_001363567として公的に入手可能である。
【0211】
ヒトCD24のアミノ酸配列はNCBIのGenBankデータベースにて登録番号NP_037362として公的に入手可能である。
【0212】
ヒトCD24をコードする塩基配列はGenBankデータベースにて登録番号NM_013230として公的に入手可能である。
【0213】
ヒトHLA-Eのアミノ酸配列はNCBIのGenBankデータベースにて登録番号NP_005507として公的に入手可能である。
【0214】
ヒトHLA-Eをコードする塩基配列はGenBankデータベースにて登録番号NM_005516として公的に入手可能である。
【0215】
ヒトPD-L1のアミノ酸配列はNCBIのGenBankデータベースにて登録番号NP_001156884として公的に入手可能である。
【0216】
ヒトPD-L1をコードする塩基配列はGenBankデータベースにて登録番号NM_001163412として公的に入手可能である。
【0217】
ヒトCD200のアミノ酸配列はNCBIのGenBankデータベースにて登録番号NP_005935.4として公的に入手可能である。
【0218】
ヒトCD200をコードする塩基配列はGenBankデータベースにて登録番号NM_005944.7として公的に入手可能である。
【0219】
ヒトCD46のアミノ酸配列はNCBIのGenBankデータベースにて登録番号 NP_002380.3として公的に入手可能である。
【0220】
ヒトCD46をコードする塩基配列はGenBankデータベースにて登録番号NM_002389.4として公的に入手可能である。
【0221】
ヒトCD55のアミノ酸配列はNCBIのGenBankデータベースにて登録番号 NP_000565.1として公的に入手可能である。
【0222】
ヒトCD55をコードする塩基配列はGenBankデータベースにて登録番号NM_000574.5として公的に入手可能である。
【0223】
ヒトCD59のアミノ酸配列はNCBIのGenBankデータベースにて登録番号 NP_976075.1として公的に入手可能である。
【0224】
ヒトをコードする塩基配列はGenBankデータベースにて登録番号NM_203330.2として公的に入手可能である。
【0225】
実施例
【0226】
以下、図1のA~D、図2及び図3のA~Cのスキームを参照しつつ、実施例を説明する。
【0227】
図1のA~Dは、本発明の一実施形態に従ってどのように免疫回避が達成されるかを概略的に示す。図1Aは、正常で無変化の細胞がMHC1と潜在的にMHC2を発現することを示している。MHC1とMHC2は共に適合性免疫応答の一部としてT細胞に認識されて、T細胞が介在する細胞破壊が起こる。図1Bは、MHC1及びMHC2が欠失している場合、T細胞が細胞を認識できないことを示している。図1Cは、MHC1及びMHC2の不在がナチュラルキラー(NK)細胞による自己性喪失認識と共に、先天的免疫応答の一部としてのマクロファージに基づくファゴサイトーシスを招くことを示している。図1Dは免疫調節因子CD200、CD24、PD-L1及びHLA-G/Eの発現で、NK細胞とマクロファージが阻害されることで先天的免疫の活性化が低減され、その結果免疫耐性となることを示している。
【0228】
図2は、本発明の一実施形態に従った遺伝子変化による方法と免疫性における役割を概略的に示す。図2は、CD74、CIITA、HLA-DM、HLA-DO、HLA-DP、HLA-DQ、HLA-DR、HLA-A、HLA-B、HLA-CB2M、TAP1、MIC-1及びMIC-2の1種以上の遺伝子が欠失/阻害されていること;CD46、CD55、CD59の1種以上の遺伝子が過剰発現されていること;及びPD-L1、HLA-G、HLA-E、CD24及びCD200の1種以上の遺伝子が、組織特異的プロモ-ターを介して条件付き過剰発現されていることを示している。アスタリスク付きの遺伝子は、幾つかの実施形態においてクローキング(即ち、免疫回避)に必要な遺伝子を表す。
【0229】
図3のA~Cは、本発明の一実施形態に従う免疫調節因子の筋肉特異的な過剰発現を示す。図3Aにおいて、筋肉特異的融合プロモーター(PAX7:MYOG)は特異的免疫調節遺伝子HLA-G/E、CD24及びPD-L1の発現を助長する。図3Bにおいて、筋原性幹細胞から分化した筋原性細胞はCD24、HLA-G/E及びPD-L1を発現し、CD24、HLA-G/E及び/又はPD-L1の条件付き発現を経由して精製される。図3Cにおいて、筋芽細胞は融合して新たな(de novo)筋線維を生じるか、或いはホストに存在する筋線維と融合する。非筋細胞は筋肉特異的プロモーターを発現しないため、免疫調節因子HLA-G/E、CD24及びPD-L1は、ホスト生来の免疫系(NK細胞及びマクロファージ)に細胞を認識させ、破壊標的とさせる。
【0230】
本明細書で詳述した各実施形態は、発明をどのように実施するかを当業者に教示することのみを目的とする。発明の実施形態の説明において、わかりやすさのために具体的な用語を使用している。しかしながら、本発明はこのように選択された具体的用語に限定することを意図していない。上述の本発明の実施形態は、本発明の範囲を逸脱することなく上の教示に照らし当業者に認識されるように、改変や変形が可能である。更に、上では詳細に述べていないものの、本発明の一実施形態と関連して記載された特徴は他の実施形態と合わせて使用することができる。従って、本発明の請求項及び均等の範囲において、本発明は具体的に記載された以外の別な方式で実施可能であると理解されたい。追加的なヒト幹細胞発生方法は米国特許出願第2018/0360887号に開示されており、この特許出願全体を、本発明を構成するものとしてここに援用する。
図1
図2
図3
【国際調査報告】