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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-24
(54)【発明の名称】能動的に偏向可能な尿路カテーテル
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/00 20060101AFI20230117BHJP
   A61M 25/092 20060101ALI20230117BHJP
   A61M 25/00 20060101ALI20230117BHJP
【FI】
A61M1/00 160
A61M25/092 500
A61M25/00 550
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022525082
(86)(22)【出願日】2020-11-16
(85)【翻訳文提出日】2022-04-27
(86)【国際出願番号】 AU2020051240
(87)【国際公開番号】W WO2021097519
(87)【国際公開日】2021-05-27
(31)【優先権主張番号】2019904394
(32)【優先日】2019-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522106053
【氏名又は名称】ミドルトン メディカル イノベーション ピーティーワイ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】MIDDLETON MEDICAL INNOVATIONS PTY LTD
【住所又は居所原語表記】Level 1,683 Bourke Road,Camberwell,Victoria 3124 AUSTRALIA
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】ミドルトン,イアン エス
(72)【発明者】
【氏名】ミドルトン,ローリー エル
(72)【発明者】
【氏名】ミドルトン,ドゥーガル エル
【テーマコード(参考)】
4C077
4C267
【Fターム(参考)】
4C077AA19
4C077DD21
4C077EE04
4C077JJ05
4C267AA03
4C267AA32
4C267AA39
4C267BB02
4C267BB07
4C267BB11
4C267BB12
4C267BB26
4C267BB40
4C267BB52
4C267CC26
4C267EE03
4C267HH17
(57)【要約】
能動的に偏向可能な先端を有する尿路カテーテルにおいて、先端部は、ユーザによって尿道に挿入されるとき、尿道内でカテーテルを操向する目的で偏向可能でカテーテルが尿道の自然な湾曲に追従することを可能にする。ここで述べるカテーテルは、PCT/AU2020/050972号に記載のカテーテルの特徴を含むが、多数の変形例および変更例を含み、先に述べたカテーテルの利点にさらなる利点を加えることを可能にするであろう。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
尿路カテーテルであって、
患者の尿道内に挿入されるよう構成され、細長部と、先端部と、ユーザが前記カテーテルを把持可能な、遠位端から離間した係合部とを有する中空のカテーテル本体であって、前記先端部は前記カテーテルを前記尿道内で操向する目的で偏向可能で前記カテーテルが前記尿道の自然な湾曲に追従することを可能にし、前記先端部は略直線状の状態から、前記細長部が略直線状である時に前記先端部が偏向する偏向状態に移動可能である、中空のカテーテル本体を備え、
前記カテーテル本体は、膀胱から尿を排出するために内部に形成された主経路と、前記主経路から離れて形成され、可撓性を有する操向部材を収容することができる少なくとも2つの追加経路とを備え、前記各追加経路のルーメンは前記遠位端から前記係合部の近傍の位置まで延び、前記操向部材は、前記先端部において前記追加経路内で固着され、前記カテーテルの外でユーザによって係合されて前記先端部を偏向させるよう構成される、尿路カテーテル。
【請求項2】
係合部材が背側操向部材に取り付けられて、前記カテーテルの前記先端部の能動的な上方への偏向を容易にする、請求項1に記載の尿路カテーテル。
【請求項3】
前記係合部材は、腹部側操向部材を組み込むことができる腹部側延長部を有する、請求項1または2に記載の尿路カテーテル。
【請求項4】
前記腹部側操向部材は、前記カテーテルの前記先端部の能動的な下方への偏向を容易にする、請求項1から3のいずれか一項に記載の尿路カテーテル。
【請求項5】
前記先端部は、長円または扁平な長円の断面形状を有してもよい、請求項1から4のいずれか一項に記載の尿路カテーテル。
【請求項6】
前記先端部は、先鋭な角度で形成された側方の縁端を有してもよい、請求項1から5のいずれか一項に記載の尿路カテーテル。
【請求項7】
前記先端部は前記カテーテルの前記細長部とは異なる材料からなり、前記カテーテルのこれらの2つの部分が異なる偏向性をもつことを容易にしてもよい、請求項1から6のいずれか一項に記載の尿路カテーテル。
【請求項8】
前記先端部は、前記カテーテルの側方の壁の厚さに比べて、背側および腹部側に薄い厚さの壁を有してもよい、請求項1から7のいずれか一項に記載の尿路カテーテル。
【請求項9】
前記カテーテルの前記先端部の前記背側の壁厚は、前記カテーテルの前記先端部の前記腹部側および前記側方の壁の壁厚より薄くてもよい、請求項1から8のいずれか一項に記載の尿路カテーテル。
【請求項10】
前記カテーテルは、先に述べた尿路カテーテルに上述の変形のいずれかを組み込んでいてもよい、請求項1から9のいずれか一項に記載の尿路カテーテル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尿路カテーテルおよび男性患者の膀胱にカテーテルを挿入する方法に関する。本出願は、PCT/AU2020/050972号の拡張部分であり、この出願に記載されたカテーテルの変更例および変形例を含む。
【背景技術】
【0002】
男性患者の尿道への膀胱カテーテルの挿入が、多くの医療の状況において、必要とされるであろう。これは、病院の医療看護スタッフにとって一般的な仕事であり、前立腺を経て上方に通すとき、特に過去に前立腺の手術を受けていれば、男性の尿道の湾曲はこれを困難な処置とする可能性がある。困難にあえば、泌尿器科の外科医が援助に呼ばれることが多い。
【0003】
現在、男性の尿道のカテーテル挿入に用いられる3つの一般的な選択肢として、簡易な直線状の可撓性を有する尿道カテーテル、一定の湾曲を持つクーデ式の先端のカテーテル、および硬質なカテーテル導入器が挿入される簡易な直線状のカテーテルがある。
【0004】
簡易な直線状の可撓性を有する尿道カテーテルは潤滑にされ尿道で押し上げられるだけであり、ほとんどの場合、尿道の自然な湾曲に追従し、尿道に重大な外傷を与えることなく膀胱に入るであろう。カテーテルは尿道で押し上げられるのに十分な硬さを有する必要があるために、略直線状の尿路カテーテルの可撓性は限られる。尿道がカテーテルによって真っすぐにされない場合、カテーテルが尿道の湾曲に追従可能となるにはこの限られた可撓性は十分ではなく、その結果、尿道の損傷、または尿道の壁におけるいわゆる「擬似通路」を生じさせるであろう。
【0005】
さらに、尿道の被蓋がわずかに不規則ならば、または、尿道の管に瘢痕またはより大きな異常があればカテーテルは簡単には通らず、非常に多くの場合カテーテル先端が尿道に少なくともいくぶんかの損傷を引き起こす。研究では、最大20%のケースでカテーテル挿入が困難になる可能性があることが示された。現在入手可能な略直線状のカテーテルではカテーテル挿入工程中に操向ができない。
【0006】
この問題を解決しようと、固定された曲線状の先端(クーデ式の先端)を有するカテーテルが考案、生産されて、湾曲した尿道の周辺でカテーテルの通過を容易にした。しかしながら、これらのカテーテルは実際に操向可能ではなく、特定の尿道の湾曲が偶然カテーテル先端の湾曲と同じならば容易に通過するだけであろう。カテーテル先端の一定の湾曲も、カテーテルが、直線状である尿道の遠位部を通過することを困難にすることが多い。実際、クーデ式の先端のカテーテルの設計の過程で選ばれる湾曲は、湾曲した尿道の全角度と尿道の直線部のゼロ角度との間での折り合いとなる。
【0007】
カテーテル導入器を使用する場合は、カテーテルを尿道で上方に通す前に、この湾曲した硬質の金属製のロッドを、簡易で直線状の可撓性を有するカテーテルに挿入する。このロッドは湾曲して男性の尿道の湾曲全体に適合するので、尿道の直線状部を上がって通過することは困難で潜在的に危険であるが、尿道の湾曲全体に適合するのに十分な湾曲の角度を有するように形作られる。カテーテル導入器は硬質で、完璧に挿入されなければ尿道に大きな外傷を生じさせることになる。そのため、カテーテル導入器は、通常、実際の泌尿器科医ではない医療の専門家は誰も使用しない。
【0008】
上述の問題の結果、クーデ式の先端のカテーテルおよび導入器の両方の長所のすべてまたはその大部分を有する一方、短所をほとんど持たないまたは好ましくは全く持たないであろう新規なカテーテルの設計が必要である。必要とされるのは、真っすぐな遠位尿道を通過中は真っすぐであり、湾曲した近位尿道を通過中は湾曲する実際に操向可能な尿道カテーテルである。
【0009】
望遠鏡およびカテーテルを含む操向可能な装置は、腸および血管(例えば、英国特許出願公告第1116317号明細書、中国特許第1088536689号明細書、および中国実用新案第203183482号明細書)を含む多数の身体の器官内を、さらに、膀胱および腎臓を含む泌尿器の部位内を進んでいくよう開発されてきた。これらの装置は、操向用のワイヤおよび操向制御機構を含むであろう様々な種類の操向機構を利用している。望遠鏡(例えば、国際公開第2014/043586号)またはカメラを通して直接視覚化することで、または蛍光透視(例えば、国際公開第2019/152727号)を含む種々の態様を利用する放射線学的誘導をすることで、誘導がなされうる。各装置は、その特定の身体の位置およびその装置が意図するまさにその目的に適するように個々の特徴を有しているであろうが、尿道それ自体の中で操向可能な尿路カテーテルとして使用するには全く不向きであろう。
【0010】
一例として、国際公開第2014/043586号に記載された膀胱鏡検査用カテーテルは、膀胱内の膀胱鏡または治療器具用の可撓性を有し潜在的に操向可能なシーズ、および留置用膀胱カテーテルの両方として機能するよう設計されているが、尿道内で偏向させるまたは尿道でカテーテルを容易に上方へ通過させるように設計されていない。
【0011】
別の例として、国際公開第2019/152727におけるカテーテルは、腎臓内でのみ偏向可能に設計されている。このカテーテルは、尿道内で偏向させる、尿道でカテーテルを容易に上方へ通過させる、または膀胱から排液させるようには設計されていない。
【0012】
上述のように、湾曲した不規則な男性の尿道の形状のために、尿路カテーテルを必要とする男性患者への対応にとっての大きな課題は、カテーテルを尿道で実際に上方へ通過させて膀胱内へ通すことである。これまでのカテーテルの設計では、尿道内でカテーテルを適切に操作してカテーテルを挿入する対象の尿道の個々の解剖学的構造に対応させることはできなかった。必要なのは、この目的に適するようにされる特定の設計の特色を持った操向可能なカテーテルである。これらの特徴は、泌尿器の他の部位で操向可能に設計されたであろう装置に対して多くの点で異なる。
【0013】
尿道経由で膀胱にカテーテルを挿入することは、地域社会の中、患者の住居内、医者の診察室内、緊急部門内、および病室で行われる必要がある。そのため、非常に高価で非実用的であるために一般的には軽い処置であるものに日常的に用いることはできない、伸縮自在のまたは放射線学的誘導装置を必要とせずに、多くのケースでカテーテル挿入を行うことが可能である必要がある。そのため、さらに後述するように、カテーテルは、触感または「感触」によって挿入できる必要がある。
【0014】
この手順はまた、地域社会、および病院の看護師、他の保健医療従事者、経験の少ない医者、そしてある状況ではまさに患者自身(セルフカテーテル挿入)によって行われるのにも適している必要があり、複雑な操向機構はこのような目的のためにはまったく不適切である。
【0015】
適切なカテーテルは、特に、尿道内での操向が可能に設計されるべきであり、膀胱または腎臓内では必要な大きな偏向または回転は必要とされない。これは、泌尿器の他の部位と比較した場合の尿道の特定の解剖学的特徴のためである。この設計はまた、さらに詳細に後述するように、カテーテルを妨害するであろう解剖学的理由を考慮する必要がある。
【0016】
男性の尿道で操向されるよう設計されたカテーテルの湾曲の角度は、膀胱または腎臓内で最適に機能するよう設計されたカテーテルまたは望遠鏡に必要とされる角度とは全く異なる。特に、尿道の湾曲は、通常、上向きに45°より大きく、90°を超えない。一方、腎臓でのカテーテルの湾曲の角度は先鋭な角度である必要があり、理想的には反対方向に90°より大きく、腎集合管系の密な領域内で適合させると、はるかに小さい半径の円弧を有する。必要な偏向の円弧を得るためには、先端の偏向部分は5~6cmの次元で著しく長い必要がある。膀胱内の偏向可能な装置も、膀胱頸部を含む膀胱の全面に到達可能とするならば、90°より大きく偏向可能である必要があり、偏向の円弧は、尿道に最適である漸次の偏向に比べて通常かなり小さいであろう。尿道内のカテーテルのこのような先鋭な角度での偏向は、カテーテルの先端が尿道の前壁に衝突するという結果になるだけであろう。
【0017】
近位尿道は横方向にそれることはないが、湾曲した経路にわたって同じ矢状断面内を通るので、カテーテルは水平から上方に偏向できる必要があればよく、横方向に偏向可能または回転可能である必要はない。そのためその長さおよび上方湾曲の実際の角度内には正常な尿道の変動があるだけなので、理想的で能動的に偏向可能なカテーテルは、同じ矢状断面において水平に対して0°から90°の間で偏向可能である必要があればよいだけである。牽引力が低下または除去されると、カテーテルの自然な弾性反動の結果カテーテル先端が真っすぐになる。
【0018】
そのため、完全操向可能な装置は必要とされず、膀胱または腎臓で必要とされるであろう、より大きく、重く、複雑な操向機構を必要としない。このような複雑な機構は、製造に費用がかかる可能性があり、また、尿道カテーテルにとって実質必要条件である使い捨てに適する可能性は低い。
【0019】
男性の尿道の解剖学的構造が、PCT/AU2020/050972号に詳細に示されており、同時に現在利用可能な尿道カテーテルの使用に関する課題も示されている。
【0020】
示された課題は、尿道を通して膀胱に挿入するのに適している新しい種類のカテーテルの必要性があることを示していた。カテーテルの偏向可能な先端は、男性の尿道の特定の解剖学的構造と、使い捨て装置の要件のために設計される操向機構に合わせて構成される必要がある。
【0021】
偏向機構は、好ましくは、簡易で、コスト効果が良く、非常に軽量で、製造が容易で安価であり、流体との接触に影響されず、カテーテルの減菌を容易にでき、好ましくは金属成分がなく(その結果、MRIスキャンが必要な患者から取り外す必要がない)、障害を持った人も1本の指で容易に操作でき、および/または、少なくとも現在入手可能なものの有用な代替品となる必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本出願は、能動的に偏向可能な可撓性を有するカテーテル先端を有し、合成の操向部材を利用する尿路カテーテルについて述べている。本明細書では、カテーテルを導入する人が先端を上方に偏向させることを可能にし、カテーテルが男性の尿道の自然な湾曲に追従することを支援できる、カテーテルに内蔵されうるいくつかの機構について説明する。
【0023】
説明する偏向機構は、カテーテル先端を能動的に上方に偏向可能にするが、操向部材の手動での伸張が解除されると、カテーテルの管が本来持っている弾性および復元力に依存してカテーテルの湾曲した先端を非偏向状態に受動的に戻す。少なくとも、偏向後にカテーテル先端がある程度真っすぐになると、カテーテルの挿入を助け、カテーテル先端をさらに制御可能にして、男性の尿道での高精度な先導を可能にする。
【0024】
カテーテル先端を上方または下方に能動的に偏向可能にする偏向機構の変更例を以下に説明する。カテーテル先端のより高度な制御を可能にするだけでなく、カテーテルの弾性に依存する必要がないということは、カテーテルをより柔らかいものに製造でき、尿道の被蓋組織によってより容易に偏向でき、そのため、カテーテル先端が尿道に外傷を引き起こす可能性は低くなるであろう。
【0025】
PCT/AU2020/050972号に記載のカテーテル先端は、薄い壁の遠位部に向かって先細となり、先端の壁がカテーテルの残りの箇所より薄いため、操向素子を牽引すると容易に偏向される一方で、より厚く硬い壁の近位のカテーテルは実質的に偏向しないままであろう。
【0026】
カテーテルの他の実施形態では、遠位先端部がカテーテルの細長部の材料よりも可撓性のある材料から構成されるように、先端部が製造される。このような構成は、長さに沿ってカテーテルの壁厚を変える必要なく遠位先端部が異なる偏向性をもつことを可能にするであろう(図4参照)。
【0027】
PCT/AU2020/050972号に記載のカテーテル先端は、略円筒形状をしているため、先端が上方に偏向するときに横向きの捻じれが起きる傾向があるであろう。そのため、本願で説明する発明の一実施形態では、横向きの捻じれを最小限に抑え横方向ではなく直接上方に偏向するのを容易にするように設計された2つの平行な操向素子を背側で利用する。
【0028】
カテーテル先端部の形状における多数の変更例が説明される。そのため、先端は多数の構造で製造されうる。例として、カテーテルの一実施形態において、先端は、円形の断面を有する円筒形ではなく扁平な長円形状である。扁平な円筒は横面に対して上面から下面においての直径が小さい。他の変更例では、カテーテルの横の縁端に適度に鋭く角度がつけられてもよい。カテーテル先端におけるこれらの変更例および同様の変更例では、先端部が横方向ではなく直接上方または下方に偏向するのを容易にするであろうことが予想される。
【0029】
偏平な円筒の横の壁厚を、カテーテル先端の上部および下部の壁の壁厚より大きくすることでも容易に横方向の偏向を防止できる。
【0030】
カテーテル先端形状におけるこれらの変更例は、偏向素子を持たないその他の従来のフォーリーカテーテルの挿入を支援するのにも利用できる可能性があるであろう。図10aおよび図10bに例をいくつか示す。
【0031】
他の実施形態では、カテーテル先端がわずかに上方に角度をつけて製造されて、カテーテルが上方に湾曲した尿道を容易に通過することを助けるようにしてもよい。すぐ上の段落で述べた扁平な長円形状のカテーテル先端のように、この角度をつけたカテーテル先端は、任意のカテーテル、偏向機構を持たない従来のカテーテルにおいてさえも有利である可能性がある。しかしながら、クーデ式の先端のカテーテルとは異なり、この新規なカテーテルの先端の上向き角度は最小限にされており、そのため、先端は近位のカテーテルの管の軸線の外に張り出すことはなく、カテーテルの経路で尿道の被蓋組織を傷つける可能性は低い。
【0032】
全体として、PCT/AU2020/050972号に記載のカテーテルの明細書原文で述べられた変更例は、この発明の利点をさらに高める可能性を有している。
【課題を解決するための手段】
【0033】
本発明の一態様によれば、尿路カテーテルが提供される。前記尿路カテーテルは、患者の尿道内に挿入されるよう構成され、細長部と、前記細長部の遠位端近傍の先端部と、ユーザが前記カテーテルを把持可能な、前記遠位端から離間した係合部とを有する中空のカテーテル本体であって、前記先端部は前記カテーテルを前記尿道内で操向するために偏向可能で前記カテーテルが前記尿道の自然な湾曲に追従することを可能にし、前記先端部は略直線状の状態から、前記細長部が略直線状である時に前記先端部が偏向する偏向状態に移動可能である、中空のカテーテル本体を備える。前記カテーテル本体は、膀胱から尿を排出するために内部に形成された主経路と、前記主経路から離れて形成され、可撓性を有する操向部材を配置できる少なくとも2つの追加経路とを備え、前記各追加経路は前記遠位端から前記係合部の近傍の位置まで延び、前記操向部材は、前記先端部において前記追加経路内で固着され、前記カテーテルの外でユーザによって係合されて前記先端部を偏向させるよう構成される。
【0034】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記中空のカテーテル本体は前記先端部で狭くなってもよい。
【0035】
好ましくは、前記中空のカテーテル本体の壁厚は前記先端部で減少する。好ましくは、前記先端部は、前記細長部と前記先端部の交わり部で始まる円弧の周辺で偏向し、前記先端部はその遠位端で略直線状であるように構成される。
【0036】
好ましくは、前記細長部は、前記先端部より硬く、使用中は略直線状態にあるよう構成される。好ましくは、前記先端部の長さは、約2cmから4cmであるが、2cm未満でも4cmより大きくてもよい。好ましくは、前記先端部は、前記細長部の長手方向の軸に合致する平面において偏向するよう構成される。好ましくは、前記先端部は最大90°の角度まで偏向可能である。
【0037】
好ましくは、前記カテーテルは、前記カテーテルの壁内で背側および腹部側に位置する追加経路を備え、各経路はその中に操向部材を収容し、これにより前記カテーテルの前記先端部を上方向または下方向に偏向させることができる。
【0038】
前記カテーテルは、可撓性を有する前記先端から離間された可膨張性のバルーンと、膨張のために流体を前記バルーンに連通するために前記カテーテルの近位端にあるコネクタと前記バルーンとの間に延在するバルーン膨張経路と、をさらに備えてもよい。
【0039】
好ましくは、前記操向部材はナイロンの紐または同様の合成ポリマーの紐である。好ましくは、前記カテーテルは前記先端部を偏向させるために、ユーザによる係合のために前記操向部材の端に連結された係合部材をさらに備える。
【0040】
好ましくは、前記係合部材は直立位置に付勢され、前記ユーザの指による動作を容易にする。さらに好ましくは、前記係合部材は、そのまわりを枢動可能な点で前記カテーテル本体の外部に連結されたレバーである。
【0041】
本発明の他の態様によれば、男性患者の膀胱にカテーテルを挿入する方法が提供され、前記方法は、
上述の種類のカテーテルを提供するステップと、
前記カテーテルを患者の尿道に挿入するステップと、
前記カテーテルが前記尿道に挿入されると、前記先端部を偏向させて、前記尿道を通して前記カテーテルを操向するステップとを備える。
【0042】
前記方法は、挿入中に抵抗にあえば前記カテーテルをわずかに後退させ、それから前記カテーテルを尿道内で再度前進させるとき前記先端部を偏向させるステップをさらに備えてもよい。
【0043】
本発明をより容易に理解できるように、添付の図面を参照して、実施例のみによって、実施形態を以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】本発明の一実施形態の、非偏向状態における尿路カテーテルの係合部を近くで見た図である。
図2】本発明の一実施形態の、偏向状態における係合部材リミッタを含む尿路カテーテルの係合部を近くで見た図である。
図3】偏向状態において、係合部材が直立の配向を超えて後方に後退可能である、本発明の一実施形態の尿路カテーテルの係合部を近くで見た図である。
図4図1のA-A線に沿った断面を示す、図1のカテーテルの断面図である。
図5図2のD-D線に沿った断面を示す、図2のカテーテルの断面図である。
図6図7のC-C線に沿った断面を示す、図7のカテーテルの断面図である。
図7】本発明の一実施形態の尿路カテーテルの先端部を近くで見た図である。
図8図7のB-B線に沿った断面を示す、図7のカテーテルの断面図である。
図9a】本発明の一実施形態の、非偏向状態における尿路カテーテルの側面図である。
図9b】偏向状態の使用における、図9aの尿路カテーテルの側面図である。
図10a】操向部材のない、本発明の一実施形態の尿路カテーテルの先端部の断面図である。
図10b】操向部材がなく、カテーテルの先端部の壁厚が非対称である本発明の他の実施形態の尿路カテーテルの先端部の断面図である。
図11】本発明の一実施形態の、非偏向状態において先端部がわずかに上方に湾曲する尿路カテーテルの先端部を近くで見た図である。
図12a図11のE-E線に沿った断面を示す、図11の尿路カテーテルの先端部の断面図である。
図12b図11のF-F線に沿った断面を示す、図11の尿路カテーテルの断面図である。
図13】本発明の一実施形態の、遠位先端部の壁厚がカテーテルの細長部の壁厚より小さい尿路カテーテルの先端部を近くで見た図である。
図14】本発明の一実施形態の、遠位先端部におけるカテーテルの壁の組成がカテーテルの細長部の壁の組成と異なる尿路カテーテルの先端部を近くで見た図である。
図15】本発明の一実施形態の、係合部材とその移動範囲に対応させるようにカテーテルの壁が成型される尿路カテーテルの係合部の3次元図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
図9aおよび図9bは、本発明の好ましい実施形態による尿路カテーテル10を示す。
【0046】
尿路カテーテル10は、中空のカテーテル本体12を含む。中空のカテーテル本体12は、患者の尿道に挿入されるように構成される。カテーテル本体12は細長く、その遠位端13の近傍の先端部16と、遠位端13から離間した係合部18とを有し、そこでユーザはカテーテルを把持することができる。先端部16は、尿道内でカテーテル10を操向するために偏向可能である。
【0047】
中空のカテーテル本体12は、カテーテル本体12の遠位端13に排液開口14を有し、この開口14を通して尿を膀胱から排出できる。
【0048】
カテーテル本体の係合部18は、カテーテル本体12上に形成されたハンドルまたはグリップを含んでいてもよい(不図示)。他の実施形態では、カテーテル本体12が指を受け入れることができる、例えば、窪みを有する輪郭を持つことで、係合部18がカテーテル本体12に形成されてもよい。他の実施形態では、カテーテル本体は、係合部材とその移動範囲に対応させるよう成型されてもよい。この成型品は、操向部材が通過できる孔、経路、スリット、または溝を包含していてもよい。成型品は、また、係合部材の移動範囲を制御または制限するような形状であってもよい。図15はこのような成型品の一実施形態の例を示す。
【0049】
このカテーテル本体は、好ましくは、従来の材料、すなわち、シリコーン系プラスチックから従来の成型/成形技術を用いて単一の部材として形成される。当業者なら、例えば、ラテックスゴムなどの他の材料を用いてもよいことを理解するであろう。
【0050】
図6図8を参照すると、カテーテル本体12は、膀胱から尿を排出するための主経路20と、主経路20から離れて形成された2つの追加経路22および31を有し、可撓性を有する操向部材24および27が追加経路22および31内に収容されうることがわかるであろう。
【0051】
経路22および31は遠位端13から係合部18の近傍の位置まで延び、操向部材24および27はプラグ15によって遠位端13で経路22および31内に固着され、反対側の端部ではカテーテル10の外部でのユーザによる係合で先端部16を偏向させるよう構成される。これにより、カテーテル10は、患者の尿道に挿入された後、操向されうる。遠位端13から離れた端部での操向部材24および31の係合は係合部材32を介して行われ、これについてはさらに詳しく後述する。
【0052】
中空のカテーテル本体12は先端部16で偏向可能に構成される。これにより、カテーテル10は尿道の湾曲の角度を再現でき、上述の問題を起こすことなく容易に挿入できる。先端部16は、すなわち、慎重な動作のもとユーザによって能動的に偏向可能であり、カテーテル10の尿道への挿入を容易にする。
【0053】
これを達成するため、いくつかの実施形態では、先端部16はカテーテル本体よりも可撓性を有するが、ある程度の復元力は残すように製造される。例として、図14に示すように、カテーテルの偏向可能な先端部の一部またはすべてが、カテーテルの細長部を形成するのに用いられる材料とは異なる材料から形成されてもよい。先端部を形成するのに用いられる材料が、カテーテルの細長部を形成するのに用いられる材料よりも偏向し易ければ、細長部は偏向しないままで、操向素子を牽引することで先端部が優先的に偏向されることになるであろう。このような構成のため、偏向を異ならせるために、先端部がカテーテルの細長部よりも薄い壁を有する必要はないであろう。ユーザが、先端部16を偏向させるために付加した係合部材32からの力を除いた後先端部16は直線状になるが、患者の尿道のもともとの湾曲によって完全に直線状の状態には戻ることはないであろう。
【0054】
カテーテル全体が均一な材料からなる場合、図7に示すように、先端部16でカテーテル本体12の壁を狭くすることによっても先端の偏向を異ならせることができるであろう。実際、必要とされるカテーテルの偏向可能箇所の壁厚がカテーテル軸の残部より小さくなければ、操向部材に牽引力を印加すると、カテーテル全体が湾曲して単一の円弧になるであろう。カテーテル軸の全長の湾曲は、実際、カテーテルの挿入をさらに困難にするであろう。壁厚の減少度およびカテーテルの先端の薄くされた部分の長さは、カスタム設計される必要があり、その結果、カテーテル先端は最適な形状を持ち、牽引力が操向部材に印加されると尿道の湾曲した部位の形状に適合する。カテーテル本体12の壁厚を薄くすることで、先端部16がより柔らかくなり、壁の貫通によって尿道を損傷するリスクを低減させうることも有利である。
【0055】
カテーテルのさらなる実施形態において、カテーテルの先端部の全部または一部の壁厚は、図13に示すように、カテーテルの細長部より薄くできるが、先端部におけるカテーテル主経路20の直径が、カテーテルの細長部における直径より大きいならば、カテーテル全体の外径合計を一定にできる。
【0056】
他の実施形態では、カテーテル本体12は、例えば、直線状、湾曲した、放射状、またはその組み合わせである変形線で形成されて、先端部16およびカテーテル本体12の連結部でのカテーテル本体の湾曲を容易にしてもよい。当業者なら、カテーテル本体12の湾曲、座屈、捻れ、または他の歪を引き起こす他の手段も可能であることを理解するであろう。
【0057】
さらに詳細に後述するように、先端部16は、細長部の長手方向の軸に合致する平面において偏向するよう構成される。横方向すなわち側方への動きを伴わないこの単一の平面での偏向は、カテーテル10が尿道の形状をとることを可能にして挿入を容易にするためになされる。
【0058】
先端部16の偏向は、0°~90°の角度範囲で可能であり、カテーテル本体12が患者の尿道の自然な輪郭に追従することを可能にする。
【0059】
カテーテル10はまたバルーン経路25(図4図5図8、および図12b)をカテーテル本体12内に有する。バルーン経路25では、カテーテル本体12の近位端40の近傍に配置されるコネクタ28から可膨張性のバルーン26まで例えば水などの流体を連通することができ、バルーン26は、膨張するとカテーテル10を適切な位置で保持することを助け、継続的に、典型的には何日にもわたって患者の膀胱からの排出を可能にする。可膨張性のバルーン26は先端部16から離間しており、好ましくは、カテーテル10の偏向部近傍または偏向部内に位置する。所望する期間バルーン26を膨張した状態に維持するために、バルブ30が設けられる。上述の構成要素は、一般に使用されるフォーリー尿道カテーテルの典型である。一つのバルーン26を例示しているが、多数のバルーンも使用可能であることは理解されるであろう。
【0060】
図8に示すように、カテーテル本体12は第1および第2の追加経路22および31を有し、追加経路はそれぞれ操向部材24および27を内部に収容する。第1および第2の追加経路22および31は、それぞれ背側中央および腹部側中央に位置するため、背側操向部材24への牽引はカテーテル先端部の上方への偏向を、腹部側操向部材27への牽引はカテーテル先端部の下方への偏向を起こす結果になるであろう。
【0061】
好ましい実施形態において、操向部材は可撓性を有するナイロンの紐であるが、操向部材が他の材料、特には他のポリマーから形成されてもよく、他の構成を取ってもよいことが理解されるであろう。さらには、操向部材は金属の部材からなってもよい。
【0062】
ユーザが操向部材24および27を係合してカテーテル10の先端部16を偏向させるのを可能にするために、カテーテル10はさらにユーザによって操作されうる係合部材32を含む。図1図5に示すようなある実施形態では、係合部材32はレバーである。
【0063】
係合部材32は、直立位置へと付勢され、ユーザによる操作を容易にする。この点において、係合部材32を直立位置へと付勢することによって、ユーザは1本の指で部材32を容易に係合し操作でき、同時に残りの手を使って導入時にカテーテル10を保持する。図1図3は、係合部材32が係合され動かされて先端部16が操作されることを示している。使用中、ユーザは片手を使って係合部18でカテーテル本体12を支持し、他方の手を遠位端13の方にさらに向けてカテーテル10の操作を試みて、患者の陰茎を保持する。このように、手際は限られるので、係合部材32をできるだけ使いやすくすることが重要である。
【0064】
いくつかの実施形態では、係合部材32は操向部材24の伸張によって直立位置へと付勢されてもよい。図1にこのような構造を示す。非偏向状態で係合部材32が載置される所定の角度は、図1でのように係合部材が丸形状のカテーテル本体に接触することによって決定されてもよいし、図15でのように係合部材がカテーテルの壁の成型品に接触することによって決定されてもよいし、または図2でのように係合部材リミッタつまみとの接触によって決定されてもよい。
【0065】
一つの実施形態では、係合部材の回転の最大円弧は、小つまみ19によって決定および制限される。この小つまみ19はカテーテル本体10の外壁に成型され、カテーテル外壁周囲の任意の適切な点に位置決めされうる。図2において、このような係合部材リミッタ19は背側に置かれ、係合部材を水平方向に対して最大90度だけ円弧状に回転させることができるであろう。つまみの高さは係合部材がある程度の抵抗でつまみを超えるように引っ張られることを可能にするが、その後係合部材への牽引を解放でき、そして係合部材が偏向状態で「係止」されるように、このような係合部材リミッタつまみが製造されうる。そして、カテーテルを直線状にするには、係合部材を前方に推進して、係合リミッタつまみによる抵抗に打ち勝つことが必要になるであろう。
【0066】
別の実施形態では、係合部材の円弧の回転は、図3に示すように90度を超えるように構成されてもよい。上述のように、回転の制限は、係合部材のカテーテル本体への接触、カテーテル本体の係合部材リミッタまたは成型品の存在によりなされうる。偏向中のカテーテル先端の復元力が回転の制限に寄与できる可能性もある。
【0067】
カテーテル本体12に印を付して、ユーザが先端部16の偏向の角度を推定できるようにしてもよい。
【0068】
PCT/AU2020/050972号に記載のカテーテルにおいて、係合部材32は逆「U」字形状のレバーからなり、カテーテルの上に載置されて、両側部の受け口連結部でカテーテル本体と接触し、レバーとして係合部材の回転の支点として機能する。このカテーテルの変更例である、本明細書で述べるカテーテルは、単に「半リング」ではなく、カテーテル本体周囲の全リングである係合部材を包含する。図4および図5を参照。
【0069】
この変更例において、係合部材を形成するリングの背側半分は、PCT/AU2020/050972号における先に述べたカテーテルの背側部材と同様または同一であってもよい。一方、腹部側部材39は、手動で操作される必要はないのでカテーテル本体から離れるよう突出している必要はないため、背側部材と異なっていてもよい。腹部側リング部材39を包含すると、カテーテル内に腹部側操向部材27を含めることができ、背側操向部材24によって与えられる能動的な上方への偏向に加えて、カテーテル先端を能動的に下方に偏向させることができる。
【0070】
男性の尿道の先に述べた上方への湾曲のため、カテーテルの挿入中にカテーテルの形状を尿道の形状に容易に適合させるために、水平より下にカテーテルを下方偏向させる必要は通常ない。(本明細書において、水平とは、男性の尿道の直線状の遠位の陰茎部の線の続きとして近位で張り出た線を意味する)。しかしながら、カテーテルが挿入過程で水平より上方に部分的に偏向されてしまったら、特に尿道の被蓋が不規則に凸凹で滑らかでなければ、水平に向けて下部後方にカテーテル先端を能動的に偏向させることができるという潜在的な利点があるであろう。能動的な下方への偏向は、カテーテルの本来の復元力によって起こるであろう受動的な下方向の偏向に加えて有利であろう。
【0071】
他の実施形態では、係合部材32は直立位置でカテーテル本体12上に載置されるような形状を持つ。図4および図5の実施形態において、係合部材32は、湾曲したまたは凹状の基部を有し、この基部は旋回円弧の一点でカテーテル本体12の外面に接しうる。
【0072】
図4および図5に見られるように、係合部材32の背側部材は丸い形状の基部35を有し、基部35は中空のカテーテル12の外面に相補的な形状を有し、その結果係合部材32が中空のカテーテル12上に載置されるであろう。図4および図5に見られるように、丸い形状の基部35は横側方間で丸い形状になされるが、使用時ユーザが容易に係合できるように概して安定した態様でカテーテル12上に載置できるように(図1に見られるように)深さ寸法において略平坦でもよい。
【0073】
図1に示す実施形態において、丸い形状の基部35と操向部材24の伸張とで十分に係合部材32は略直立状態に保持されうる。図4および図5に示す実施形態において、係合部材32はカテーテル本体12の全周に延在し、係合部材はそのまわりを枢動可能なリングの横方向の中点で各側部に受け口を包含する。係合部材32の腹部側部材39は経路21を包含し、この経路21を腹部側操向部材27が通過でき、その後固着点29で係合部材に固着されうる。
【0074】
係合部材32が、図1でのように垂直に対して前方にまたは図3でのように後方に角度を持つと、丸い形状のカテーテル本体12と面一に載置され、リングの形状は、実際は円というより長円である必要があることが理解されるであろう。このように、係合部材がこれら2つの極値の間の回転の円弧において任意の他の点に位置するとき、係合部材35の基部とカテーテル12の本体との間の距離は、これら2つの極値での距離よりも大きくなり、この距離は、図5におけるように係合部材が垂直な直立位置に並ぶと最大になる。なお、カテーテルの形状は図4の断面A-Aでは長円に見えるが、カテーテルは実際には丸形状である。しかし、カテーテルの断面A-Aが図1に示すように傾斜した角度にあるために長円に見えるだけである。
【0075】
図1図2、および図3の実施形態において、係合部材32は、点34でカテーテル本体12の外部に連結するレバーとして機能する。これが機構上の利点となり、先端部16の偏向を支援する。図1図2、および図3に見られるように、つまみ36がカテーテル本体12の側部に形成され、対応する受け口38が係合部材32に形成され、係合部材の動作を可能にするようにつまみ36および受け口38は協働して係合部材32を枢動可能に支持する。他の実施形態では、つまみ36が係合部材32に形成され、受け口38がカテーテル本体12に形成されてもよいことが理解されるであろう。ここでも、ユーザが容易に利用できるように、係合部材32を適切な位置に維持し上方に付勢するのは、係合部材32の基部35、または操向部材24の伸張(または両方)でありうる。
【0076】
背側の操向部材24および腹部側の操向部材27はカテーテル本体に対して対称関係になるように構成され、その結果一方の操向部材への牽引は、他方の操向部材への牽引の対称で等価の弛緩となるであろう。そのため2方向だが単一面で係合部材を制御できるであろう。係合部材の前方および後方への動きをこのように制御する結果、ユーザはカテーテル先端部の上方向および下方向の両方向への能動的な偏向を制御することになるであろう。
【0077】
係合部材32の製造時に、操向部材24および27をそれぞれ通すために2つの孔が係合部材32に包含されてもよい。その後、組み立て時、係合部材32は、カテーテルの先端部と係合部とを通すことができ、カテーテル本体12に「クリップ止め」され、2つの操向部材24および27が係合部材32の孔23および21をそれぞれ通して引っ張られ従来の固着手段を用いて固着されうる。
【0078】
開口33は、係合部材32の作動のためにユーザがこの開口に指を挿入できるように構成される。係合部材32および開口33は楕円形、または逆「引き金」形状などの複雑な形状等他の形態または形状を取ってもよく、開口33の無い簡易なレバーでもよい。
【0079】
上述の係合部材32は、操向部材24および27に張力を付加してまたは張力をゆるめて先端部16を能動的に偏向させる簡易で、信頼性を有する、軽量な手段である。挿入後一時に何日も尿道カテーテルを尿道に保持することが多いときにこれは重要である。患者は、潜在的に、カテーテルを留置して歩行し日々の日常作業を行う必要があるため、重いまたは嵩高い偏向機構は目的にはまったく不適切であろう。このように、他の医療分野において湾曲した解剖学的構造の問題に対処するために用いられるカテーテルの操向システムは比較的大きく、重く、複雑であり、尿道カテーテルで用いるのには不適切なだけである。
【0080】
上述のカテーテル10は男性患者の膀胱にカテーテルを挿入するのに用いられるように構成される。使用時、このカテーテル10は患者の尿道に挿入され、その後先端部16が操作されて、膀胱への挿入を容易にする。これは、カテーテルが尿道に挿入されると先端部を偏向させることによって尿道の湾曲部の周辺のカテーテルを操向することでなされる。先端部16は、単に、取り除かなければ衝撃を受ける位置または押し込まれる位置からカテーテルを取り除き挿入を続行させるためにも、操作されてよい。
【0081】
カテーテル10を用いたカテーテル挿入工程を、より詳細に以下に説明する。尿道の解剖学的構造とカテーテル挿入工程はPCT/AU2020/050972号の図面に詳細に示される。
【0082】
カテーテルの先端を尿道に挿入する直前に、ユーザは陰茎を手動で牽引し陰茎を安定させ陰茎の尿道を真っすぐにすることが重要であり、これにより、カテーテル先端13が抵抗なく尿道のこの部分をより通りやすくなる。
【0083】
カテーテル10は、潤滑剤を使って陰茎の(遠位の)尿道に導入され、真っすぐにされた遠位の尿道に沿って通される。これは通常、カテーテル10が真っすぐであり尿道の管が解剖学的に正常であれば、カテーテルの挿入の最も簡単な部分である。
【0084】
カテーテルが遠位尿道に導入されるとき、カテーテルは略直線状の非偏向形態にあるため、通常は、略直線状の陰茎の尿道を容易に通る。しかしながら、特に過去の外傷、感染症、器具使用、または手術があれば、尿道の被蓋(粘膜)は実際には非常に不規則に凸凹でありうる。尿道の不規則な凸凹は、過去の前立腺の手術、特にTURP処置後は特に一般的である。
【0085】
カテーテルは緩やかに前方に押されるので、先端が不規則な凸凹または尿道の粘膜の欠陥によって何らかの障害物に当たれば、ユーザはカテーテルの先端を上方にわずかに偏向させ、それからさらに前方に緩やかに押すことができる。カテーテル先端の上方へのこの偏向で、尿道の後壁から離れるようにカテーテル先端が引き上げられる。先端がこれ以上先へ進むことができないなら、カテーテルをその後おそらくはほんの数ミリだけ緩やかに引っ込め、カテーテル先端をさらに少しだけ偏向させる。カテーテルがその後、前へ進むなら、さらなる偏向は行わず、主カテーテルルーメンから尿が流れ出るまでカテーテルを押し通す。
【0086】
「上方」という用語を参照すると、当業者なら、カテーテル挿入は背中を下にして横たわる患者に一般的には行われ、上方向は天井に向かう方向であろうと理解するであろう。しかし、カテーテル挿入は横向きまたは腹臥で横たわる患者に行われてもよく、この場合は、体の略前方方向に偏向するであろう。
【0087】
カテーテルは障害物を迂回したあとさらに前方に押されるので、操向部材の牽引が保たれうる結果、カテーテル先端は持続的に偏向される。または、牽引が解除されて、カテーテル先端がさらに前に進む前に受動的に少なくとも部分的に真っすぐにされうる。障害物を通過後に操向素子の牽引を弛緩すると、偏向したカテーテル先端がより近位尿道側の前壁に衝突するリスクが低下するであろう。カテーテル先端を上方へ能動的に偏向するまたは受動的に直線化することでカテーテル先端が自由に膀胱内へと上方に通過できなければ、必要に応じて、既に係合部材と接触している一本の指によって係合部材を能動的に前方へ推進させることができる。この動作は、カテーテル先端を能動的に下方へ偏向させて、水平に向けて後方へ向かわせるであろう。
【0088】
全挿入工程は、手動による抵抗感覚のみを用いて行い、他の能動的な操向可能な装置とは異なり、視覚的または放射線による誘導に依存しない。カテーテルが全く何の抵抗もなく容易に通過するならば、カテーテル先端を能動的に偏向させる必要はまったくないであろう。
【0089】
カテーテル先端が球部尿道と膜様部尿道の湾曲した連結部に到達すると、略直線状のカテーテルが通路内の湾曲に接触して困難が生じるおそれがある。ユーザが、先端がこの位置にあることによる抵抗によって触感のフィードバックを受けると、カテーテル10をわずかに(おそらくは、ほんの数ミリ)後退させるとよく、カテーテル10を引き続いて前進させると係合部材32が先端を偏向させるように係合されるので、カテーテル10は衝突することなく球部尿道および膜様部尿道の湾曲した連結部を通過することができる。これによって、特には擬似通路の形態でここで起こる可能性のある重大な尿道の外傷が回避される。
【0090】
カテーテル導入の別の方法は、一旦能動的な偏向が始まると、所望の偏向角で係合部材への連続的で一定の牽引を維持することによって、または係合部材リミッタを超えて引っ張り係合部材を「係止」させてから、係合部材がリミッタに当たってその背後で静止するまで係合部材への牽引を弛緩することによって、カテーテル先端を連続的で能動的に偏向させることを特徴とする。
【0091】
説明された挿入処理は、能動的に操向可能な尿道カテーテルによる特別な制御なく、現在一般的に利用されているものよりもずっと簡易で、局所的な外傷を生じにくいことを、当業者なら理解するであろう。これは、特に、患者がTURP処置などの過去の前立腺の手術によって過去に前立腺を摘除した場合になるであろう。
【0092】
カテーテルの上述の構成により、カテーテル挿入はカテーテルからの触感のフィードバックのみを用いて行われうる。
【0093】
男性の尿道の解剖学的知識を利用することで、尿道カテーテルを物理的に通すことができる患者自身を含む任意の人による男性の尿道のカテーテル挿入に、特に適するようになされた新規な操向可能な尿道カテーテルの設計を可能にした。好ましい実施形態における操向制御機構は、1本の指の短い動作を必要とする簡易で、単一の部材である、引き金状のレバーである。この単一の部材はプラスチックで非常に安価に製造でき、簡易なモノフィラメントのナイロンの紐に取り付けることができる。
【0094】
過去に設計された操向可能な装置の多くは金属ワイヤの操向素子の力を必要とし、その中には可撓性を発揮するマルチフィラメントもあった。この新規な設計はナイロンの紐を操向部材として用いることを可能にする。なぜなら、その比較的大きなサイズは鋼の力を必要とせず、操向素子が持つある程度の弾性によってでも十分な偏向を達成できるからである。
【0095】
膀胱内で数カ月保持する必要があるであろう使い捨てカテーテルのナイロン製の操向素子の長所は、安価で簡易に製造される、熱融合、プラスチックプラグ、または接着剤によってカテーテル先端に容易に取り付けられる、シリコーン経路内で滑走特性を高めることが可能である、長期にわたる流体との接触で腐食しない、金属成分に対するアレルギーの可能性がない、減菌技術を改良することなしにカテーテルの減菌が容易である、特にマルチフィラメントワイヤと比べて、バイオフィルムおよび潜在的な感染に対する耐性がある、超音波、CTスキャン、またはMRIでの画像に干渉する放射線反射がない、MRIスキャンにおいて金属部品が使えないことでMRIの前に可能ならカテーテルを取り除く必要が生じることである。
【0096】
上述の実施形態の多くの変形例が、本発明の範囲から逸脱することなく、当業者に明らかであろう。カテーテル12は、丸い形状以外でもよく、例えば、楕円形でもよく、その長さに沿って均一な断面形状を有していなくてもよい。例えば、先端部は図12aでのように扁平な長円形状の断面を有する一方、同じカテーテルの細長部は図12bでのように円形の断面を有してもよい。これらの2図は、図11の断面E-EおよびF-Fをそれぞれ表す。この例において、カテーテルの壁の厚さは、一つの断面内ではカテーテルの周囲で均一であるが、先端部の断面より細長部の断面で大きい。
【0097】
別の実施形態では、カテーテルの先端部は円形のルーメン20を有してもよいが、カテーテルの横方向の壁厚は、図6に示すように、図7の断面C-Cを表すカテーテルの上下の壁厚よりも大きくてもよい。このカテーテルの壁の形状は、能動的な偏向の間カテーテル先端の横方向への回転を抑制するように構成される。図8に示すように、図7に示すカテーテルの断面B-Bを表すカテーテルの細長部は、円形でも良い。カテーテルの細長部は、また、図6に示す先端部と同様の形状で、前後軸において偏平にされてもよい。
【0098】
横方向への回転が同様に好ましくない能動的に偏向されないカテーテルを含むカテーテルの細長部の長手方向の軸に合致する面でのみ偏向を促進する、非円形のカテーテル断面のこの基本的な概念を持つ多くの変更例が可能である。
【0099】
図10aに非能動的に偏向可能なカテーテルの例の断面を示す。前壁および後壁に対してカテーテルの側壁の厚さがより大きいので、通常のフォーリーカテーテルの挿入中の横方向への回転を抑制する。いかなる横方向への回転もカテーテルの受動的な偏向と干渉して、通常の尿道の形状に適合されるであろう。
【0100】
図10bに非能動的に偏向可能なカテーテル先端部の他の例の断面を示す。カテーテル先端部の側壁の厚さを大きくすることでも、横方向への偏向が抑制される。この例において、カテーテルの前壁の厚さを後壁の厚さよりも薄くして、下方向に対して上方向への受動的なカテーテルの偏向を促すのがよい。
【0101】
さらなる変更の一例として、先端部は、図11においてのように、上方向にわずかに一定の角度を付けて製造されてもよい。しかしながら、20~40度までの従来のクーデ式の先端のカテーテルに固有の上方への角度形成とは異なり、ここで説明するカテーテルの角度形成はおそらく10~20度の次元である。このような小さな角度の形成のため、カテーテルの先端は、カテーテルの細長部の背側壁の外の張り出し線内に収まりうる。そのため、遠位尿道の直線状の部分を上へと通過する間にカテーテル先端が尿道の粘膜に衝突するリスクは多少あるが、それでも、カテーテル先端が球部尿道の湾曲部に衝突するとカテーテル先端の上方向への偏向を促すように角度形成される点においてある程度の潜在的な利点がある。
【0102】
PCT/AU2020/050972号において、このカテーテルのある実施形態では、背側に2つの操向素子がある。この国際出願のこの拡張部分において、単一または多数の操向素子の組み合わせを有することが可能であり、例えば、背側に2つの操向素子および腹部側に単一の操向素子のみが可能であろうことが理解されるであろう。
【0103】
本明細書および以下の特許請求の範囲にわたって、文脈上不適切でなければ、用語「備える」および「1つのものが備える」および「備えている」などの変形は、説明された構成要素またはステップ、または、構成要素群またはステップ群を含むことを意味すると理解されるが、任意の他の構成要素またはステップ、または、構成要素群またはステップ群の排除ではないと理解される。
【0104】
本明細書内でのいかなる先行刊行物(またはそれから導き出される情報)またはいかなる既知の事柄の参照も、先行刊行物(またはそれから導き出される情報)または既知の事柄が、この明細書が関係する研究の分野における共通の一般的な知識の一部を形成するという認識または承認またはいかなる形態の示唆としても取られるのでなくおよび取られるべきでない。
【符号の説明】
【0105】
10 尿路カテーテル
11 組成の異なるカテーテル部材間の連結部
12 中空のカテーテル本体
13 遠位端
14 排液開口
15 プラグ
16 先端部
18 係合部
19 係合部材リミッタ
20 主経路
21 腹部側係合部材の経路
22 追加経路
23 背側係合部材の経路
24 操向部材
25 バルーン経路
26 可膨張性のバルーン
27 操向部材(腹部側部材)
28 コネクタ
29 操向部材のための固着点
30 バルブ
31 追加経路(腹部側)
32 係合部材
33 開口
34 旋回軸点
35 係合部材の丸い形状の基部
36 つまみ
37 係合部材の脚部
38 受け口
39 係合部材の腹部側部材
40 カテーテル本体の近位端
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9a
図9b
図10a
図10b
図11
図12a
図12b
図13
図14
図15
【国際調査報告】