(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-24
(54)【発明の名称】腫瘍におけるヒトL1-MET転写産物をサイレンシングするためのアンチセンスオリゴヌクレオチド配列
(51)【国際特許分類】
C12N 15/113 20100101AFI20230117BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230117BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230117BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20230117BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20230117BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20230117BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20230117BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230117BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230117BHJP
【FI】
C12N15/113 Z ZNA
A61P43/00 111
A61P35/00
A61P15/00
A61P11/00
A61P1/00
A61K31/7088
A61K48/00
A61K45/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022525621
(86)(22)【出願日】2020-11-13
(85)【翻訳文提出日】2022-06-17
(86)【国際出願番号】 IT2020050282
(87)【国際公開番号】W WO2021095080
(87)【国際公開日】2021-05-20
(31)【優先権主張番号】102019000021327
(32)【優先日】2019-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522172999
【氏名又は名称】フォンダツィオーネ デル ピエモンテ ペル ロンコロジア
【氏名又は名称原語表記】FONDAZIONE DEL PIEMONTE PER L’ONCOLOGIA
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】ヴェネシオ, ティツィアーナ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084AA19
4C084MA02
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA591
4C084ZA592
4C084ZA661
4C084ZA662
4C084ZA811
4C084ZA812
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4C084ZC751
4C084ZC752
4C086AA01
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4C086EA16
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA59
4C086ZA66
4C086ZA81
4C086ZB21
4C086ZB26
4C086ZC41
(57)【要約】
本発明は、腫瘍細胞において特異的に転写される非コード転写産物であるヒトL1-METをサイレンシングすることによって、いくつかの種類のヒト癌細胞の死を誘導するためのアンチセンスオリゴヌクレオチドの使用に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1によってコードされるL1-MET転写産物の領域を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項2】
配列番号2又は配列番号3によってコードされるL1-MET転写産物の領域を標的とする、請求項1に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項3】
7~50ヌクレオチド、好ましくは12~30ヌクレオチド、より好ましくは15~23ヌクレオチドの配列を含む、請求項1又は2に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項4】
配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13又は配列番号14、好ましくは配列番号4又は配列番号5、より好ましくは配列番号5を含むか、又はこれらからなる、請求項1~3のいずれか一項に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項5】
前記アンチセンスオリゴヌクレオチドのそれぞれが、リボヌクレオチド、リボヌクレオチドとデオキシリボヌクレオチドとの組合せ、並びに/又は修飾リボース及び/若しくはデオキシリボースを有するヌクレオチドを含み、リン酸基が任意選択で修飾されている、請求項1~5のいずれか一項に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項6】
1つ又は複数の賦形剤及び/又はアジュバントと共に、有効成分として請求項1~6のいずれか一項に記載のアンチセンスヌクレオチドのうちの1つ又は複数を含む、医薬組成物。
【請求項7】
1つ又は複数の抗癌剤をさらに含む、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項8】
L1-MET発現腫瘍、例えばトリプルネガティブ乳癌、肺腺癌又は結腸直腸癌の治療に使用するための、請求項1~6のいずれか一項に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド又は請求項7若しくは8に記載の医薬組成物。
【請求項9】
L1-MET発現腫瘍、例えばトリプルネガティブ乳癌の治療における別個の又は逐次的な使用のための、請求項1~6のいずれか一項に記載の1つ又は複数のアンチセンスオリゴヌクレオチドと、1つ又は複数の抗癌剤との組合せ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍におけるヒトL1-MET転写産物をサイレンシングするためのアンチセンスオリゴヌクレオチド配列に関する。
【0002】
特に、本発明は、腫瘍細胞において特異的に転写される非コード転写産物であるヒトL1-METをサイレンシングすることによって、いくつかの種類のヒト癌細胞の死を誘導するためのアンチセンスオリゴヌクレオチドの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
現在、癌治療のための新しい療法、特に癌細胞に対して選択的である新しい療法を見つけることが研究の焦点となっている。
【0004】
実際に、化学療法等の抗癌療法は、癌細胞と正常細胞の両方の死を引き起こすことはよく知られている。正常細胞の死は、いくつかの不快な副作用を引き起こし得る。
【0005】
この問題を解決するために、過去20年間、癌細胞でより多く発現している特定の分子を標的とする新しい治療戦略が開発されてきた。患者個々の分子背景は、特定の薬物に対する物理学に対応し、オフターゲットを低減させる。しかし、この薬物が標的とする分子は、癌細胞膜上だけでなく、いくつかの正常細胞にも存在する。さらに、他の遺伝子の変異の存在は有効性の損失をもたらし得る、すなわち、結腸直腸癌では、KRAS遺伝子に変異が存在すると、EGFRに結合して経路をブロックする薬物の使用が有効ではなくなる。肺癌では、EGFRに変異が存在するとEGFR阻害剤に対する応答はよくなり得るが、耐性変異が生じると薬物は有効ではなくなる。
【0006】
したがって、上記に鑑みれば、公知の抗癌療法の欠点を克服することができる新しい抗癌療法を提供する必要性があることが明らかである。
【0007】
長散在型反復配列(LINE-1)は、ヒトゲノムの約20%を占めるレトロ転移因子であることが知られている。Line-1は、プロモーター領域に位置するCpGアイランドの低メチル化によって活性化されると、新しい染色体領域部位へ自己を転移する能力を維持している[1]。通常非コード領域に位置するこれらの配列のうち、ごくわずかのみが、レトロ転移が可能であるが、一般的には一生のほとんどの間、不活性なままである[2]。LINE-1プロモーターは、脱メチル化されると、2つのオープンリーディングフレーム(ORF-1及びORF-2)の転写を導くセンスプロモーターとして、又はアンチセンスプロモーターとして作用することができる[3]。アンチセンスプロモーターの活性は、LINE-1方向に対して反対側の鎖の転写を駆動し、近傍配列を含む転写の開始を引き起こすことができる[4]。この点に関して、近年、LINE-1配列の5’UTR内に発見された新しい霊長類特異的オープンリーディングフレーム(ORF-0)が、2つのスプライシングドナー部位を用いて、近接エクソン融合転写産物の起源であることが示された[5]。L1-METとして知られる、ヒトMET遺伝子のイントロン2に位置するLINE-1配列(
図1)は、霊長類亜科に属し、レトロ転移をすることができない。しかしながら、プロモーター領域は完全に維持されているため、低メチル化によるアンセンスプロモーターの活性化が可能であり、ORF-0領域に由来し、近傍のMET配列を含む代替転写産物の生成を伴う。L1-MET転写産物は2002年に初めて記述されたが[6]、その全長の特徴付けは、Miglioら、2018(
図1)[7]によって記述されるように、2018年に達成されたのみである。後者の研究では、転写はORF-0から始まり、MET 3’UTRで終わり、6つの異なるスプライシングバリアントが含まれ、それらは2つのスプライシングドナー部位と3つの異なるアクセプター部位との組合せに由来し、これらの2つはMET遺伝子のイントロン2に位置することが示されている。L1-MET転写産物の長さ及び、コーディングオープンリーディングフレームの欠如は、長鎖非コードRNAとしての機能を示唆している。また、L1-METは機能的なタンパク質をコードしていないが、3’UTR及びポリA領域が存在することにより、転写産物は核から細胞質へ輸送されることが可能になっていることも示された。この性質は、その長さと共に、長鎖非コードRNAとしての役割の可能性を示している。現在までに、L1-METの生物学的機能を調査しようとした研究は2件しかない。1件では、Weberらは、DNAメチル基転移酵素タンパク質をノックダウンすることによってL1-METの発現を誘導し、低メチル化によって転写を促進した後、METタンパク質レベルの低下を観察した[8]。もう1件では、Wolffらは、L1-METを細胞株にトランスフェクトした後、切断型METアイソフォームが存在することを報告した[9]。しかし、Miglioら、2018[7]では、ウェスタンブロット及びインフォマティクス予測ツールの両方によって、切断型METタンパク質の根拠がないことが示された。
【0008】
L1-METアンチセンスプロモーターの活性化は腫瘍に特異的な機構であることが示されているが、この理由は、正常組織におけるL1-METの発現の根拠がないことが実験的な検討及びインシリコ解析の両方で明らかに示されているためである[7]。
【発明の概要】
【0009】
本発明によれば、今般、L1-MET転写産物のサイレンシングにより、腫瘍細胞は顕著に死滅するが、正常細胞は死滅しないことが示され、このことは、L1-METが癌治療の有望な標的であることを示している。
【0010】
この配列を標的とする利用可能な治療戦略の中で、主に癌以外の疾患に使用されるアンチセンスオリゴヌクレオチドがより適切であると考えられる[10]。
【0011】
特に、本発明によれば、L1-METの特定の制御配列を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチドによって行われるL1-MET転写産物のサイレンシングが、非形質転換細胞が影響を受けない一方で、異なる種類の癌細胞の選択的死を誘発することが示された。これらの結果は、腫瘍細胞死を誘導するためにこれらのオリゴヌクレオチド配列を使用することを支持する。
【0012】
特に、本発明によれば、METイントロン2の76bpをカバーし、L1-MET転写産物の一部となる特定の配列が同定された。この配列は、ヒトL1-MET転写産物の早期分解を引き起こすために、都合の良いように標的化することができる。
【0013】
特に、本発明によれば、インシリコ解析により、L1-MET転写産物を選択的にサイレンシングすることができる11のアンチセンスオリゴヌクレオチドが同定されている。さらに、それらの3つはインビトロの実験で試験されている。
【0014】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、単独及び組合せの両方で薬理化合物として使用し得る。
【0015】
したがって、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、L1-MET転写産物の発現について陽性のヒト腫瘍細胞の大規模な選択的死を誘導するために好都合に使用することができる。腫瘍細胞に対する本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドの高い選択性は、正常組織におけるL1-METの発現の欠如、及び低メチル化による特異的な腫瘍転写活性化に起因するものである。
【0016】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、ベクターなしで患者に投与するために化学的に修飾されていても、腫瘍細胞のトランスフェクション効率を上昇させるためにベクターとコンジュゲートされていてもよい。ASOを投与するために使用し得るベクターの例は、より急速な内在化を可能にするが、網膜内皮系による分解等、いくつかの制限を示し得るリポソーム又はナノ粒子である。
【0017】
過去には、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、主に血中時間が短く、クリアランスが急速であることによる、いくつかの制限を示したが、近年では、化学的修飾(すなわち、ロック核酸-LNA、ホスホロチオエート骨格、2’-リボース修飾)の導入により、化合物の直接投与が可能になる、有望な結果が得られている[11]。これらの化学的変化により、血清タンパク質との結合が増加し、肝臓におけるクリアランスが減少し、標的細胞への取り込みに利用可能な時間が増加する。ここ数年、いくつかのアンチセンスオリゴヌクレオチドが、異なる疾患(すなわち、脊髄性筋萎縮症、ホモ接合型家族性高コレステロール血症)の治療についてFDAに承認されている。
【0018】
したがって、本発明の具体的な目的は、GCAGAAAATGTGCTAGATTGGAGGTGAAGACCCTGGAGCCAGAGAGCCTAGGCTTAGTCCTAGCCCTGCACTGAAG(配列番号1)によってコードされるL1-MET転写産物の領域を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチドである。
【0019】
本発明によれば、前記アンチセンスオリゴヌクレオチドは、GCAGAAAATGTGCTAGATTGGAGGTGAAGAC(配列番号2)又はTTAGTCCTAGCCCTGCACTGAAG(配列番号3)によってコードされるL1-MET転写産物の領域を標的とすることができる。
【0020】
さらに、本発明によれば、前記アンチセンスオリゴヌクレオチドは、7~50ヌクレオチド、好ましくは12~30ヌクレオチド、より好ましくは15~23ヌクレオチドの配列を含むことができる。例えば、前記アンチセンスオリゴヌクレオチドが、デオスシリボヌクレオチドとリボヌクレオチドの両方を含む場合、前記アンチセンスオリゴヌクレオチドは16ヌクレオチドを含むことができる。
【0021】
本発明によれば、前記アンチセンスオリゴヌクレオチドは、L1-MET転写産物の標的領域に相補的であり、GUCUUCACCUCCAAUC(配列番号4)、GCAGGGCUAGGACUAA(配列番号5)、GCCUAGGCUCUCUGGC(配列番号6)、CUAGCACAUUUUCUGC(配列番号7)、CUCCAAUCUAGCACAU(配列番号8)、ACCUCCAAUCUAGCAC(配列番号9)、CUAGGCUCUCUGGCUC(配列番号10)、CUAAGCCUAAGGCUCUC(配列番号11)、GUGCAGGGCUAGGACU(配列番号12)、AGUGCAGGGCUAGGAC(配列番号13)又はCUUCAGUGCAGGGCUA(配列番号14)、好ましくは配列番号4又は配列番号5、より好ましくは配列番号5を含むか、又はこれらからなる。
【0022】
本発明によれば、上述のアンチセンスオリゴヌクレオチドのうちの1つ、複数又は全てのヌクレオチドは修飾されていてもよいが、但し、アンチセンスオリゴヌクレオチドはデオキシリボヌクレオチドのみを含むことはないか、又は修飾デオキシリボースを有するヌクレオチドのみを含むことはない。特に、ヌクレオチドは、リボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチド、修飾リボース又はデオキシリボースを有するヌクレオチドであり得る。さらに、前記リボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチド、又は修飾リボース及び/若しくはデオキシリボースを有するヌクレオチドは、任意選択で、修飾リン酸基を有することができる。したがって、前記アンチセンスオリゴヌクレオチドのそれぞれは、リボヌクレオチド、リボヌクレオチドとデオキシリボヌクレオチドとの組合せ、並びに/又は修飾リボース及び/若しくはデオキシリボースを有するヌクレオチドを含むことができ、リン酸基が任意選択で修飾されている。
【0023】
特に、修飾オリゴヌクレオチドは、2’-O-MOE、2’-O-Me、LNA、(S)-cEt、2’-F RNA、モルホリノ(PMO)等の糖修飾を有するヌクレオチド、及び/又は、ホスホジエステル(PO)、ホスホロチオエート(PS)、ホスホロジチオエート、チオホスホラミデート等の、リン酸基に修飾を有するヌクレオチドを含み得る。リン酸基上の修飾は、DNA、RNA、又は糖上の修飾を有するヌクレオチド等、任意のヌクレオチドに適用可能である。
【0024】
本発明の実施形態によれば、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、LNA修飾及びホスホロチオエート(PS)修飾の両方を有する修飾ヌクレオチドを含み得る。
【0025】
特定の実施形態によれば、本発明によるオリゴヌクレオチドは、分子の2つの末端にLNA及びPSの両方の修飾並びに分子の中央部のDNAヌクレオチドを有する、フランキング修飾ヌクレオチドを含み得る。この種類の構造は、RNaseによるASO関連標的分解を有利に増幅する。
【0026】
LNA修飾は、RNA標的への結合特異性を有利に上昇させ、ヌクレアーゼに対する耐性を付与する。
【0027】
PS修飾は、血清タンパク質(アルブミン)との結合を有利に増大させ、これは血流中での維持に好都合である。また、PS修飾は、腎クリアランスを低減させ、ASOが血流にある場合、腎臓による除去速度を低下させる。
【0028】
さらに、上記の修飾(LNA及びPS)の組合せは、改善されたトランスフェクション効率を提供し、ベクター(リポフェクタミン、リポソーム又はナノ粒子等)なしでもトランスフェクションが可能になる。
【0029】
本発明のさらなる目的は、1つ又は複数の賦形剤及び/又はアジュバントと共に、有効成分として、上記に定義されるアンチセンスヌクレオチドのうちの1つ又は複数を含む、医薬組成物である。
【0030】
本発明によれば、前記医薬組成物は、1つ又は複数の抗癌剤をさらに含むことができる。
【0031】
本発明はまた、L1-MET発現腫瘍、例えばトリプルネガティブ乳癌、肺腺癌又は結腸直腸癌の治療に使用するための、上記に定義されたアンチセンスオリゴヌクレオチド又は上記に定義された医薬組成物に関する。
【0032】
本発明のさらなる目的は、L1-MET発現腫瘍、例えばトリプルネガティブ乳癌の治療における別個の又は逐次的な使用のための、上記に定義された1つ又は複数のアンチセンスオリゴヌクレオチドと、1つ又は複数の抗癌剤との組合せである。
【0033】
本発明によれば、「別個の使用」は、本発明による組合せの2つの化合物を、別個の医薬形態で同時に投与することを意味すると理解される。
【0034】
「逐次的な使用」は、本発明による組合せの2つの化合物を、それぞれ別個の医薬形態で連続的に投与することを意味すると理解される。
【0035】
本発明において有用なアンチセンス化合物の具体例としては、修飾骨格又は非天然のヌクレオシド間結合を含むオリゴヌクレオチドが挙げられる。修飾骨格を有するオリゴヌクレオチドには、骨格にリン原子を維持するもの、及び骨格にリン原子を有さないものが含まれる。また、ヌクレオシド間骨格にリン原子を有さない修飾オリゴヌクレオチドもオリゴヌクレオシドと考えることができる。
【0036】
他のオリゴヌクレオチド模倣物では、ヌクレオチド単位の糖及びヌクレオシド間結合の両方、すなわち骨格が新規の基で置換されている。塩基単位は、適切な核酸標的化合物とのハイブリダイゼーションのために維持されている。このようなオリゴマー化合物の1つであり、優れたハイブリダイゼーション性質を有することが示されているオリゴヌクレオチド模倣物は、ペプチド核酸(PNA)と呼ばれる。PNA化合物において、オリゴヌクレオチドの糖-骨格はアミド含有骨格、特にアミノエチルグリシン骨格に置換されている。核酸塩基は維持され、骨格のアミド部分のアザ窒素原子に直接的又は間接的に結合する。
【0037】
さらなる修飾としては、ロック核酸(LNA)が挙げられ、ここで、2’-ヒドロキシル基は、糖環の3’又は4’炭素原子に結合し、それによって二環糖部分を形成している。この結合は、2’酸素原子と4’炭素原子を架橋するメチレン(-CH2-)n基であってもよく、式中、nは1又は2である。
【0038】
他の修飾としては、2’-メトキシ(2’-O-CH3)、2’-アミノプロポキシ(2’-OCH2CH2CH2NH2)、2’-アリル(2’-CH2-CH-CH2)、2’-O-アリル(2’-O-CH2-CH-CH2)及び2’-フルオロ(2’-F)が挙げられる。
【0039】
修飾核酸塩基にはまた、プリン又はピリミジン塩基が他の複素環、例えば7-デアザアデニン、7-デアザグアノシン、2-アミノピリジン及び2-ピリドンで置換されているのも含まれ得る。いくつかの修飾核酸塩基は、本発明のオリゴヌクレオチドの結合親和性を上昇させるのに特に有用である。これらには、5-置換ピリミジン、6-アザピリミジン、並びにN-2、N-6及びO-6置換プリン、例えば2-アミノプロピル-アデニン、5-プロピニルウラシル及び5-プロピニルシトシンが挙げられる。
【0040】
本発明のオリゴヌクレオチドは、2つ以上のオリゴヌクレオチド、修飾オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオシド及び/又はオリゴヌクレオチド模倣物の複合構造として形成し得る。このようなオリゴヌクレオチドは、当技術分野では、ハイブリッド又はギャップマーとも呼ばれている。
【0041】
ここで、本発明を、その好ましい実施形態に従って、特に添付の図面を参照しながら、例示的に記載するが、これは限定的ではない:
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】METのイントロン2内に位置するL1エレメントから生じるL1-MET転写産物を示すグラフである[7]。
【
図2】L1-METの76bp標的断片に沿ったアンチセンスオリゴヌクレオチドのマッピング部位を示す図である。例示の目的で、図は、配列番号15の76bp標的断片の位置を示すために、配列番号15のヌクレオチド1~420を示す。
【
図3】インシリコ解析によって予測された、3つの設計アンチセンスオリゴヌクレオチドの二次構造を示す図である。
【
図4】L1-MET配列の予測される二次構造を示す図である。アンチセンスオリゴヌクレオチドの相補的な領域は、ボルト線(bolt line)で強調されている。
【
図5】解析した細胞株におけるL1-MET遺伝子発現のレベルを示す図である。
【
図6】L1-MET_AS1、L1-MET_AS2及びL1-MET_AS3でサイレンシングした後の解析した細胞株におけるL1-MET遺伝子発現解析を示す図である。
【
図7】細胞生存率に対するL1-METサイレンシングの効果を示す図である。
【
図8】癌細胞株におけるL1-MET_AS1、L1-MET_AS2及びL1-MET_AS3を用いたL1-METサイレンシング後のアポトーシス細胞のパーセント比率を示す図である。
【
図9】L1-METをサイレンシングした癌細胞に対するウェスタンブロット解析の結果を示す図である。
【実施例】
【0043】
実施例1:本発明によるL1-METを標的とするオリゴヌクレオチドのインシリコ特定及び特徴付け、並びにL1-METのインビトロサイレンシング。
【0044】
材料及び方法
本研究で使用したヒト生体試料は、研究室の内部協力者であり、血液試料の採取及び実験への使用について同意を与えた健常ドナーのものであった。
【0045】
本明細書に記載の実験では、遺伝子組換え生物(GMO)は使用しなかった。
癌細胞株
MDA-MB231及びMCF-7細胞株はNCI-60パネルから入手し、EBC1(カタログJCRB0820)はHealth Science Research Resources Bank(HSRRB)から、そしてA549(カタログCCL-185)及びMRC5(カタログCCL-171)はAmerican Type Culture Collection(ATCC)から入手した。EBC1及びA549は10%FBS添加RPMIで増殖させ、MDA-MB231には10%FBS添加高グルコースDMEMを使用し、MCF7には10%FBSと10μg/mLインスリン添加高グルコースDMEMを使用し、一方、MRC5は10%FBS添加MEMで増殖させた。それらの遺伝的同一性は、ショートタンデムリピートプロファイリング(パワープレックス(PowerPlex)(登録商標)16 HS System、Promega、Madison、WI)により確認し、最後に2019年6月に繰り返した。細胞はヴェノア(Venor)GMキット(Minerva Biolabs、Berlin、Germany)を用いてマイコプラズマ汚染について定期的に試験した。健常ドナーからの正常リンパ球は、リンパ球細胞分離培地(Cedarlane)を用いて遠心分離により末梢血から得た後、10%FBS添加RPMIで増殖させた。
【0046】
アンチセンスオリゴヌクレオチドの選択
最適なアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)を特定するために、以前に報告された選択基準に従って、インシリコ解析によってL1-MET転写産物の特定の76bp配列を選択及び検討した[12]。5つの異なるASO設計ツールを使用して、ASOに最もアクセス可能な配列を特定した。
【0047】
ここで以下に、L1-MET転写産物の完全なDNA配列(配列番号15)を示し、ここで、アンチセンスオリゴヌクレオチドの特定の76bp断片標的を強調する(ボルト及び下線)。
【0048】
【0049】
5つのアンチセンスオリゴヌクレオチド設計ツールに問い合わせて、特定のL1-MET領域を標的とすることができる11のASOを、下記に報告する表1に示すように特定した。
【0050】
【表1】
ASOの質的性質(例えば、構造、化学、及び配列組成)のほとんどは、標的mRNAのアクセス可能性に強く依存している[13、14]。最適なパラメーターを有するオリゴを検討するために、sFOLDウェブツールを用いて、ASO候補の二次構造を次いで特徴付けた。さらに、標的領域のフォールディング性質を視覚的に確認するために、L1-METのmRNA全体の二次構造も特徴付けた。Exiqon(Qiagen)により合成されたLNA-ギャップマー(Gapmer)(L1MET_AS1、L1MET_AS2、L1MET_AS3)は、各塩基対に付加されたロック核酸修飾及びホスホロチオエート骨格を含む、2つのフランキングRNA配列を有するDNAコア領域により特徴付けられる。
図2には、76bpの配列上のASOのマッピング部位が示されている。
【0051】
一過性トランスフェクション
全ての細胞を完全培地で培養した後、製造業者のプロトコルに従って、リポフェクタミン(Lipofectamine)RNAiMAX(Thermofisher Scientific)を用いてASOにより一過性トランスフェクトした。対照として、スクランブルLNAギャップマーをトランスフェクトした。トランスフェクションの当日、細胞を回収して数えた後、リポフェクタミン及び最終濃度25nMのアンチセンスオリゴヌクレオチドで構成されるトランスフェクション混合物の存在下で、適切な培養培地を用いて10cmの組織培養ディッシュに600.000細胞/ディッシュで播種した。トランスフェクションから24時間後に、細胞からRNA及びタンパク質を抽出した。
【0052】
RNA抽出及びqRT-PCR解析
RNAは、マックスウェル(Maxwell)RSC miRNA組織キット(Promega)を用いて、製造業者の指示に従い、細胞株から抽出した。RNAの定量化は、デノビックス(DeNovix)分光光度計を使用して行った。逆転写システム(Promega)を用いて逆転写した後、以前に報告されているプライマー及びPCR条件を用いた定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)を用いて、L1-METの遺伝子発現を検討した[7]。反応混合物は、簡潔には、L1-METの76bp領域に位置するフォワードプライマー及びMETのエクソン3に位置するリバースプライマーの存在下で、1X緩衝剤、2.5mM MgCl2、0.2mM dNTP、0.2μM各プライマー、2×エバグリーン(EvaGreen)色素、0.04U/μLタックポリメラーゼ(Taq Polymerase)(Promega)及びH2Oで、最終容量25μLになるように構成されていた。相対発現定量化(RQ)は、GAPDHを内因性対照として、以下の式に従って算出した:RQ=2-(ΔCt)、式中、ΔCt=(Ct L1-MET-Ct GAPDH)。
【0053】
RNAseq解析
A549、EBC1、MDAMB-231、及びMCF7癌細胞株について、遺伝子発現プロファイルのためのRNA-seq解析を行った。詳細には、L1-MET_AS1又はスクランブルギャップマーで処理した細胞から精製したRNAを、独立した3回の繰り返し実験において、合計24サンプルについて解析した。全てのライブラリー調製は、トゥルーセックストランド(TruSeq stranded)mRNAキット(Illumina)を用いて、RIN>8の1μgの総RNAから開始して行った。簡潔には、低サンプルワークフローに従って、ポリTオリゴ付着磁気ビーズを用いてポリA RNA(例えばmRNA)を精製した後、cDNAを合成し、その後、インデックス付きアダプターのライゲーションを可能にするために3’末端を末端修復及びアデニル化した。次いで、プールされたライブラリーは、シングルエンド75bpシーケンシングのためにイルミナネクストセック(Illumina NextSeq)500/550機器に最終濃度1.1pMでロードされた。標準的なイルミナネクストセック500の手順に従って、フィルターを通過しないリードは廃棄した。フィルターを通過したリードは、ジーンコード(GENCODE)(バージョン29)[15]からダウンロードしたGRCh38プライマリーアセンブリゲノム(primary assembly genome)にスター(STAR)(バージョン2.5.4a、カスタムパラメーター--outFilterMultimapNmax10--outFilterMultimapScoreRange1--outFilterMismatchNmax999--outFilterMismatchNoverLmax0.08を使用)[16]を使用してアライメントした。遺伝子発現の定量化には、サブリードフィーチャーカウンツ(subread featureCounts)v1.6.3を用いてリードをエクソンに割り当て、マルチマッピングリード及びあいまいなリードを廃棄し、遺伝子名でまとめた[17]。参照転写産物アノテーションとしてジーンコードの基本アノテーション(バージョン29)を使用し、Miglioら、2018[7]に記載されたL1-MET転写産物のカスタムトラックで補完した。同一の補完された転写産物アノテーションは、スターインデックスを構築するために使用した。
【0054】
タンパク質抽出及びウェスタンブロット解析
トランスフェクションから24時間後の細胞株から、ホットリシスプロトコルを用いてタンパク質を抽出した。細胞はPBSで3回洗浄した後、1M Tris-HCl pH6.8、10%SDS、及びH2Oで構成される溶解溶液を最終容量に達するように添加した。溶解物を1.5mLチューブに回収し、95℃で15分間インキュベートした。超音波処理及び16,000gの5分間の遠心分離により細胞残渣を除去した後、ピアース(Pierce)BCAタンパク質アッセイ(Protein Assay)キット(Thermofisher scientific)を用いて分光光度計でタンパク質を定量化した。50ngのタンパク質をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(ボルト(Bolt)4-12%ビス-トリスプラスゲル(Bis-Tris Plus gel))(Thermofisher scientific)で分離し、トランス-ブロットターボ(Trans-Blot Turbo)ニトロセルロース膜(Bio-Rad)にブロットした。膜は、使用した抗体に応じて、10%BSA又は5%無脂肪乾燥乳を含むTBS-Tで45分間ブロッキングした。その後、膜を以下の抗体と共に4℃で一晩中インキュベートした。抗AKT(2972)、抗p44/42 MAPK(9102)抗リン酸化AKT Ser473(9271)、抗リン酸化p44/42 MAPK Thr202/Tyr204(9101)、抗リン酸化EGFR(3777)、抗リン酸化MET(3077)(Cell Signaling Technology)、抗MET(DL21)自家製抗体及び抗EGFR(1005 sc-03)(Santa Cruz)。全ての一次抗体は、1:1000に希釈した。適切なHRPコンジュゲート二次抗体(1:10000-Jackson ImmunoResearch Laboratories,INC.)を、クラリティウェスタン(Clarity Western)ECL基質(Bio-Rad)を用いた化学発光による検出のために使用した。
【0055】
細胞生存率及びアポトーシスアッセイ
細胞生存率はセルタイターグロー(Cell Titer Glow)キット(Promega)を用いて評価した。トランスフェクションは、3000細胞/ウェルを播種した96ウェルプレートにおいて、各ギャップマーを25nMで6回の実験で行った。発光は、テカンスパーク(Tecan Spark)10M機器(TECAN)を用いて、トランスフェクションから24時間後に取得した。
【0056】
アポトーシスアッセイは、ヨウ化プロピジウム及びアネキシン(Annexin)V APC-コンジュゲート(Thermofisher Scientific)を用いてサイトフルオリメーターによって行った。細胞は、上記のように10cmプレートでトランスフェクトした。トランスフェクションから24時間後に細胞をトリプシンにより剥離し、PBSで3回洗浄し、アネキシンVアポトーシス検出キットAPC(Thermofisher Scientific)を用いて結合緩衝剤溶液(0.5M Hepes、0.15M NaCl、0.005M CaCl2)中でアネキシンV APC-コンジュゲート及びヨウ化プロピジウムと共にインキュベートした。取得はCyAnサイトフルオロメーター(Beckman Coulter)で行い、データ解析にはサミット(Summit)v4.3ソフトウェア(Dako Colorado,INC.)を使用した。アポトーシス指数はアポトーシス細胞のパーセント比率で表し、式:(初期アポトーシス細胞数+後期アポトーシス細胞数)/総検出細胞数を用いて算出した。
【0057】
L1-METのサイレンシング
L1-METを標的とするASOのインシリコ特徴付け
上述のように、配列GCAGAAAATGTGCTAGATTGGAGGTGAAGACCCTGGAGCCAGAGAGCCTAGGCTTAGTCCTAGCCCTGCACTGAAG(配列番号1)によってコードされるL1-MET転写産物の特定の76bp領域を特定した後、それよりもアクセス可能性がより高いその一部を検出した。トレーニングしたアルゴリズムを全て考慮すると、2つの「ASOホットターゲット」領域が明らかになり、これらはL1-METの特定の領域の端部に位置していた。配列番号15について報告された番号付けの後、予測されたアンチセンスオリゴヌクレオチドの37%がヌクレオチド+236~+266の間に検出され、これは特定領域の最初の31塩基を表し、同一配列の末端の予測されたASOの36%(ヌクレオチド+289~+311の間)を表す。したがって、検出された「ASOホットターゲット」領域はGCAGAAAATGTGCTAGATTGGAGGTGAAGAC(配列番号2)及びTTAGTCCTAGCCCTGCACTGAAG(配列番号3)である。
【0058】
予測されたASOのうち、+267~+288の間に構成されるヌクレオチド位置をカバーするものは3つだけであった。ASOの評価を完了するために、ウェブソフトウェアsFOLDのsRNAツールを適用して、設計したアンチセンスオリゴの二次構造を予測し、その熱安定性のレベルを決定した。文献によると、自己フォールディングASOの割合が高いことは、二次構造を形成する確率の低下と関連する標的結合が増加し、効率が低下すると考えることができることが知られている。そのため、ASOの有効性を決定するために、ギブス(Gibbs)自由エネルギー(ΔG)を算出した。ΔGは、完全にアンフォールドした分子をフォールディングことによって放出されるエネルギーを表していた。低レベルのΔGは、高率に自己フォールディングする分子の特性であるが、一方、単一のASOのヌクレオチドによる水素結合の生成が少ないほど、ASOは二次構造を形成しにくくなった。この文脈では、より安定なアンチセンスオリゴヌクレオチド(例えば、ΔGが正の値のもの)が最も効率的であると考えることができる。文献では、ΔG≦-1.1というカットオフが定義されていた。さらに、ASO及び標的mRNAによって形成されるヘテロ二重鎖は、転写産物の二次フォールディングにも依存した。長いサイズのRNA分子は常にスーパーフォールディングされており、小さなASOとは反対に、二次構造を有する領域は、特に配列の末端に位置する場合、ハイブリダイゼーションへのアクセスがより容易であることが報告されている。L1-METの全配列のフォールディングを検討するために、sFOLDウェブページのsRNAアルゴリズムに問い合わせた。表2には、L1-METを標的とする11の予測されたASOが、関連するΔG値と共に報告されている。
【0059】
【0060】
L1-METサイレンシングの効果を評価するために、Exiqonは、2つのホット領域と、アクセス可能性が低いと予測される76bp領域の中央のヌクレオチドもカバーする3つの異なるASOの設計を委託された。詳細には、L1-MET_AS1(配列番号4)はヌクレオチド+251~ヌクレオチド+266の間の領域に相補的であり、L1-MET_AS2(配列番号5)は+289~+304の間の配列をカバーする。第3のASO(L1-MET_AS3(配列番号6))は、配列のより中央部(+273~+288の間)に重複していた。
図3は、本発明のASOの二次構造を表しており、2つの低フォールディング分子(L1-MET_AS1/2)の横で、明確なヘアピン構造を有するL1-MET_AS3は、非結合塩基37.5%のみを示していた。ΔGについては、L1-MET_AS3が最も負の値(ΔG=-2.7)であることが確認されており、L1-MET_AS2のΔGは0.6であった。この性質に関しては、L1-MET_AS1がより優れた設計のASOであると評価された(ΔG=2.5)。
図4に、L1-METの二次構造の検討結果をまとめる。最初のパネルAは、二次構造についての円グラフを示しており、L1-METは5000bp超で構成されているため、このグラフは二次構造を図式化している。具体的な標的配列は、表の下側の半円部分に含まれており、これを
図4Bにおいて拡大している。より詳細には、パネルCに76bpの具体的な配列の二次構造を拡大したものを報告する。3つの設計されたASOと相補的な部分は丸で囲んだ。全ての標的領域は内部ループ(L1-MET_AS1及びAS2)又はヘアピン(L1-MET_AS3)を示し、予測結果が確認された。しかし、L1-MET_AS1及びAS2は、自由端を有する二次構造によって特徴付けられる、最も好ましい領域を標的としていた。結論として、これまでの全てのデータを総合すると、L1-MET_AS3は、ΔGとは独立して含まれているが、潜在的な活性は低かった。
【0061】
表2に報告されているように、他の全ての予測されたASOについてΔGが算出され、より優れたΔGを有する他のASOが存在したにもかかわらず、Exiqonが設計した3つを、本明細書に記載する実験に使用したが、この理由は、独自の設計ツールを使用して生成されているためである。しかしながら、本発明で報告された他のASOの効率は除外されない。
【0062】
遺伝子発現解析
L1-METのサイレンシングは、L1-MET及びMET mRNAの発現が変動する細胞株をトランスフェクトして行った。実験は、肺癌(EBC1、A549:L1-MET+/MET+)、及び乳癌細胞(MDA-MB231:L1-MET±/MET+、MCF7:L1-MET+/MET-)において行った。また、正常対照として、非形質転換繊維芽細胞、すなわちMRC5と、健常ドナーから得た末梢血由来の正常リンパ球も使用した。L1-METの発現は、EBC1、A549、及びMCF7で通常高く、MDA-MB231で弱いことが見出されたが、MRC5及び正常リンパ球では転写が検出されなかった(
図5)。トランスフェクションから24時間後のqRT-PCRによって、全ての癌細胞株でL1-METの遺伝子発現が減少していたが、正常細胞(MRC5及びリンパ球)では減少していないことが示され、サイレンシングの有効性が確認された。
図6に示すように、3つのギャップマーについての低下サイレンシング効果が観察され、L1-MET_AS2が最も有効であり、L1-MET_AS1がそれに続いた。上記の予測通り、L1-MET_AS3は、L1-MET転写産物のサイレンシングについては、効果がより低かった。
【0063】
細胞生存率及びアポトーシスアッセイ
L1-METサイレンシングの生物学的効果を調べるために、細胞生存率アッセイを行った。L1-MET_AS2(p<0.0001)及びL1-MET_AS1(EBC1 p<0.0001及びA549 p=0.0001)で処理した場合、EBC1及びA549細胞株で強い生存率の低下が観察されたが、一方、L1-MET_AS3で処理したEBC1のみが対照と比較して低い生存率を示した(p=0.002)(
図8)。L1-MET_AS2は、MDA-MB231(p<0.0001)及びMCF7(p=0.028)に対して有意に影響した。予想通り、対照細胞の生存率は、3つのギャップマーによるサイレンシングによって影響を受けなかった(
図7)。
【0064】
最後に、フローサイトメトリーを用いて行った、癌細胞について行ったアポトーシス評価により、L1-MET_AS1又はL1-MET_AS2オリゴヌクレオチドを用いたL1-METサイレンシング後にEBC1及びA549細胞が顕著に細胞死を起こすことが明らかになった。L1-MET_AS2のサイレンシングはL1-MET_AS1_で得られたものより強く、MCF7及びMDA-MB231細胞でも検出可能であった。L1-MET_AS3によるサイレンシングは、アポトーシスへの影響を示さなかった(
図8)。
【0065】
RNAseq解析
NGS解析は、L1-MET_AS1で処理した癌細胞について行い、他の2つのASOは、遺伝子型及び表現型への影響が正反対且つ極端であるため考慮しないこととした。RNA-seq mRNA イルミナ(Illumina)キットを適用し、これは、L1-METもポリAを維持するという論文、di Miglioら、Int J Cancer、2018で明らかになった根拠に基づき、L1-MET_AS1で処理した上記細胞のポリA-テールRNAを選択することを意味した。a)処理後のL1-METの低下を明確に確認するため、b)処理後の遺伝子発現調節を評価し、処理後に影響を受けたより興味深い遺伝子を特定するため、c)RNA-seqデータについてオフターゲット解析を行うために、3000万リード深度に達することを決定した。qRT-PCRでは、全ての細胞でL1-METの発現が検出されることが確認された。ASOで処理した細胞では、同じようにL1-METの減少が検出され、サイレンシングの有効性が確認された。差次的な遺伝子発現については、処理後24時間時点で、明らかな遺伝子セットが特異的な調節を起こした。その中で、EGFR及びMETの癌遺伝子は、MCF7を除く全ての処理細胞で減少した。本文脈において、オフターゲット配列となり得る配列を評価することが必須となった。BLASTNツールを用いたインシリコアライメントでは、オフターゲットとなり得る完全一致配列はごくわずかしか特定されなかったが、L1-MET_AS1と全サンプルで得られたリードとの間の経験的完全一致-4塩基不一致アライメントを設定した。このアライメント手順により、オフターゲットと考えられる遺伝子が明らかになり、遺伝子調節を確認した。興味深いことに、予測されたオフターゲットはいずれもリード数が減少しておらず、望ましくない遺伝子発現の変化がないことが確認された。間接的には、EGFR及びMET遺伝子の調節は、サイレンシングの副作用ではないと考え得ることが確認された。
【0066】
ウェスタンブロット解析
RNAseqから得られたデータを検証するために、MET及びEGFRタンパク質の発現並びにシグナル伝達経路の下流エフェクタ:AKT及びERKを評価した。ウェスタンブロット解析結果を
図9に示す。要約すると、EBC1細胞におけるL1-METサイレンシング後、MET及びEGFRの両方並びに対応するリン酸化タンパク質のタンパク質発現の減少が、上記で観察された同じ有効性を有する3つのASO全てについて観察され、L1-MET_AS2が最も有効であり、L1-MET_AS1及びL1-MET_AS3がそれに続いた。EBC1細胞株はMETのリン酸化に依存しているため、AKT及びERKの活性化の減少も検出された。同様の結果は、ERKリン酸化の変化が観察されない限り、A549でも見出された。MDA-MB231では、L1-MET_AS1及びL1-MET_AS2の両方で、しかしL1-MET_AS3は使用しない、L1-METサイレンシングによってEGFRタンパク質の減少が誘導される。細胞をL1-MET_AS2で処理した場合のみ、METの発現が低下していることが確認された。MCF7は文献に報告されているように、METもEGFRも発現しておらず、サイレンシングによる変化は誘導されなかった。正常細胞では、タンパク質の発現に違いは見られなかった。
【0067】
全体として、これらの結果は、L1-METをMET及び/又はEGFRと共に発現している細胞における、L1-METサイレンシングが有効であることを明らかに示している。さらに、3つのアンチセンスオリゴヌクレオチドが、それぞれ異なって細胞死を誘導することができることが見出された。詳細には、L1-MET_AS2によって得られる結果が最も有効であり、L1-MET_AS1及びL1-MET_AS3がそれに続いた。これらの根拠は、ヒトの癌に対する選択的な治療を開発するためにL1-METサイレンシングをインビボモデルに移行する可能性を示している。
【0068】
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