IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ピルキントン グループ リミテッドの特許一覧

<>
  • 特表-コーティングされたガラス基板 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-24
(54)【発明の名称】コーティングされたガラス基板
(51)【国際特許分類】
   C03C 17/36 20060101AFI20230117BHJP
   C23C 14/08 20060101ALI20230117BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20230117BHJP
【FI】
C03C17/36
C23C14/08 A
C23C14/08 C
C23C14/08 E
C23C14/08 D
C23C14/06 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022527876
(86)(22)【出願日】2020-11-13
(85)【翻訳文提出日】2022-05-24
(86)【国際出願番号】 GB2020052889
(87)【国際公開番号】W WO2021094765
(87)【国際公開日】2021-05-20
(31)【優先権主張番号】1916515.8
(32)【優先日】2019-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591229107
【氏名又は名称】ピルキントン グループ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100195556
【弁理士】
【氏名又は名称】柿沼 公二
(72)【発明者】
【氏名】チャーリー ジェームス パトリクソン
(72)【発明者】
【氏名】レイチェル イェーツ
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ サベージ
【テーマコード(参考)】
4G059
4K029
【Fターム(参考)】
4G059AA01
4G059AB11
4G059AC04
4G059AC06
4G059DA01
4G059DB02
4G059EA02
4G059EA04
4G059EA05
4G059EA07
4G059EA12
4G059EB04
4K029AA09
4K029BA44
4K029BA46
4K029BA47
4K029BA48
4K029BA49
4K029BA58
4K029CA05
4K029CA06
4K029DC05
(57)【要約】
本発明は、コーティングされたガラス基板、それを調製する方法および複数のグレージングユニットにおけるその使用に関し、コーティングされたものは、ガラス基板から順番に、下部反射防止層、銀ベースの機能層、バリア層、上部反射防止層の層を少なくとも備え、ここで、上部反射防止層は、少なくとも5原子パーセントのアルミニウム(Al)を有するアルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸窒化物の誘電体層を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーティングされたガラス基板であって、前記ガラス基板から順番に、
下部反射防止層と、
銀ベースの機能層と、
バリア層と、
上部反射防止層と、
の層を少なくとも備え、
ここで、前記上部反射防止層は、
少なくとも5原子パーセントのアルミニウム(Al)を有する、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸窒化物の誘電体層を備える、
コーティングされたガラス基板。
【請求項2】
アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸窒化物の前記誘電体層は、最大45原子パーセントのアルミニウムを備える、請求項1に記載のコーティングされたガラス基板。
【請求項3】
アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸窒化物の前記誘電体層は、10~50nmの厚さを備える、請求項1または2に記載のコーティングされたガラス基板。
【請求項4】
アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸窒化物の前記誘電体層は、最大30%の原子パーセントの亜鉛および最大15%の原子パーセントのスズを備える、請求項1~3のいずれか一項に記載のコーティングされたガラス基板。
【請求項5】
前記バリア層は、前記銀ベースの機能層と直接接触する、請求項1~4のいずれか一項に記載のコーティングされたガラス基板。
【請求項6】
前記バリア層は、1~10nmの厚さを有し、NiCrOまたは亜鉛(Zn)の酸化物に基づく層を備える、請求項1~5のいずれか一項に記載のコーティングされたガラス基板。
【請求項7】
前記下部反射防止層は、前記ガラス基板から順番に、
亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸化物またはスズ(Sn)の酸化物に基づく層と、
亜鉛(Zn)の酸化物に基づく層と、
を備える、請求項1~6のいずれか一項に記載のコーティングされたガラス基板。
【請求項8】
亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸化物またはスズ(Sn)の酸化物に基づく前記層は、0.5~15nmまたは12~20nmの厚さを有する、請求項7に記載のコーティングされたガラス基板。
【請求項9】
前記下部反射防止層は、亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸化物またはスズ(Sn)の酸化物に基づく前記層と、亜鉛(Zn)の酸化物に基づく前記層と、の間に位置する分離層をさらに備える、請求項8または9に記載のコーティングされたガラス基板。
【請求項10】
前記分離層は、0.5~6nmの厚さを有する、請求項9に記載のコーティングされたガラス基板。
【請求項11】
前記分離層は、
金属酸化物および/または、
シリコンおよび/またはアルミニウムの(酸)窒化物および/または、
シリコンおよび/またはアルミニウムの合金、
を備える、請求項9または10に記載のコーティングされたガラス基板。
【請求項12】
前記分離層が金属酸化物に基づくとき、前記金属酸化物は、亜鉛(Zn)の酸化物および/またはチタン(Ti)の酸化物を備える、請求項11に記載のコーティングされたガラス基板。
【請求項13】
前記分離層は、Ti、V、Mn、Co、Cu、Zn、Zr、Hf、Al、Nb、Ni、Cr、Mo、Ta、Siの元素の少なくとも1つからまたはこれらの材料の少なくとも1つに基づく合金から選択される1つ以上の他の化学元素をさらに含む、請求項11または12に記載のコーティングされたガラス基板。
【請求項14】
前記下部反射防止層は、前記ガラス基板と、亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸化物またはスズ(Sn)の酸化物に基づく層と、の間に位置するベース層をさらに備え、ここで、ベース層は、
シリコンおよび/またはアルミニウムの(酸)窒化物および/または
シリコンおよび/またはアルミニウムの合金を備え、
ここで、前記ベース層は、20~40nmの厚さを備える、
請求項7から13のいずれか一項に記載のコーティングされたガラス基板。
【請求項15】
前記ベース層は、亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸化物またはスズ(Sn)の酸化物に基づく前記層と直接接触する、請求項7から14のいずれか一項に記載のコーティングされたガラス基板。
【請求項16】
前記下部反射防止層中の亜鉛酸化物(Zn)に基づく層は、2~15nmの厚さを備える、請求項7から15のいずれか一項に記載のコーティングされたガラス基板。
【請求項17】
前記下部反射防止層中の亜鉛酸化物(Zn)に基づく層は、銀ベースの機能層と直接接触する、請求項7から16のいずれか一項に記載のコーティングされたガラス基板。
【請求項18】
前記銀ベースの機能層は、5~20nmの厚さを有する、請求項1~17のいずれか一項に記載のコーティングされたガラス基板。
【請求項19】
前記上部反射防止層は、
(i)亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸化物またはスズ(Sn)の酸化物に基づく層と、
(ii)亜鉛(Zn)の酸化物に基づく層と、
を備える、請求項1~18のいずれか一項に記載のコーティングされたガラス基板。
【請求項20】
上部誘電体層中の亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸化物またはスズ(Sn)の酸化物に基づく層の厚さは、1~10nmの範囲である、請求項19に記載のコーティングされたガラス基板。
【請求項21】
前記上部誘電体層中の亜鉛(Zn)の酸化物に基づく層の厚さは、1~10nmの範囲である、請求項19または20に記載のコーティングされたガラス基板。
【請求項22】
前記基板は、2つ以上の銀ベースの機能層を備え、ここで、各銀ベースの機能層は、介在する中央反射防止層によって、隣接する銀ベースの機能層から離間される、請求項1~21のいずれか一項に記載のコーティングされたガラス基板。
【請求項23】
前記上部反射防止層中に少なくとも1つの追加の層をさらに備え、ここで、少なくとも1つの前記追加の層は、少なくとも5原子パーセントのアルミニウム(Al)を有するアルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸窒化物の誘電体層の上方または下方に配置され、ここで、少なくとも1つの前記追加の層は、亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸化物またはスズ(Sn)の酸化物に基づく層および/またはジルコニウム(Zr)の酸化物に基づく層を備える、請求項1~22のいずれか一項に記載のコーティングされたガラス基板。
【請求項24】
(i)ガラス基板を準備することと、
(ii)下部反射防止層を準備することと、
(iii)銀ベースの機能層を準備することと、
(iv)バリア層を準備することと、
(v)上部反射防止層を準備することと、
(vi)アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸窒化物を備える誘電体層を準備することと、を含み、ここで、前記誘電体層は、少なくとも5原子パーセントのアルミニウムを備え、ここで、前記銀ベースの機能層と直接接触するバリア層の任意の部分は、5体積パーセント未満の酸素を含む雰囲気中でのスパッタリングによって堆積される、請求項1から23のいずれか一項に記載のコーティングされたガラス基板を製造する方法。
【請求項25】
請求項1から23のいずれか一項に記載のおよび/または請求項24に記載の方法によって準備された、コーティングされたガラス基板を組み込んだ複数のグレージングユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティングされたガラス基板およびその製造方法に関する。より具体的には、本発明は、コーティング中の層の数が減少し、低放射率および/または太陽光制御コーティングをさらに備える、熱処理可能なコーティングされたガラス基板に関する。
【背景技術】
【0002】
低放射率(low-e)および/または太陽光制御を提供するガラスコーティングは、例えば、スパッタリングなどの物理蒸着プロセスによって堆積され得る。スパッタリングによって堆積されたガラスコーティングは、通常、イオンまたは原子によって衝撃を受けたターゲットを有する1つ以上のチャンバーにガラス基板を通過させることによって生成される。衝撃を受けたターゲットは、材料を放出し、それがガラス基板をコーティングする。スパッタされた低放射率および太陽光制御コーティングスタックは、通常、例えば、
「基板/ベース反射防止層シーケンス/[銀(Ag)/反射防止層シーケンス]」(「n」個の反射防止層の各々は、必ずしも同じ厚さまたは組成を有するとは限らない)、
の繰り返しシーケンスで構成される。反射防止層は、通常、1つ以上の誘電体層を含む。
【0003】
自動車および建築用グレージングの厳しい性能要件を満たすことが可能であるコーティングされたガラス基板に対するガラス製造業界からの継続的な需要があり、その結果、さまざまな誘電体材料に基づいてガラス基板をコーティングするために、これまで以上に複雑な層シーケンス(またはスタック)が使用される。その結果、ガラス製造業界では、上記のシーケンスの「n」が2、またはさらに、3または4に等しいことがより一般的になっている。
【0004】
以前は、ガラス基板上への複数のコーティング層の堆積は、ガラス製造プラント内のコーティングラインに高価な拡張部を設置して、必要な様々なコーティング材料を十分な数、厚さおよび順序で堆積するのに十分な数のチャンバーを実現することによって対処されていた。
【0005】
これによって、拡張部に追加のポンプセクションが設置され、複数の反応性堆積プロセスを順番に実行することが可能となった。しかしながら、必要なエンジニアリング設備を完了するためには、通常、コーティングラインを長期間停止する必要があるため、これは多大な費用をかけることによってのみ達成され、多くの場合、大きな混乱を伴う。追加の各チャンバーおよびポンプセクションには、付属の電源、真空ポンプ、コンベヤセクション、サービス、計装および制御システムへの組み込みも必要である。このような変更は、多くの場合、下流の物流の再構築につながり、場合によっては新しい土木工事または建物の拡張にさえつながる。複数の金属層および/またはより複雑なスタックの要件がますます一般的になるにつれて、これらの問題は増加するように定められている。
【0006】
加えて、誘電体層は、しばしば、スパッタリングによる堆積によって、銀などの金属層よりも厚くかつ遅くなる。これによって、単一の誘電体層を効率的に堆積するために複数のチャンバーが必要になり得るため、必要なチャンバーの数がさらに増加する。
【0007】
また、熱処理可能であり得、したがって安全特性を与えるために強化され得るおよび/または必要な形状に曲げられ得る、コーティングされたガラス基板を準備することも、建築用または自動車用グレージングの要件である。
【0008】
ガラス基板の熱強化および/または曲げ(ガラス産業では焼戻しとしても知られている)のために、ガラス基板をガラスの軟化点の近くまたはそれを超える温度に熱処理し、次に急速に冷却および/または適切な曲げ手段を用いてガラス基板を曲げる必要があることが知られている。ソーダ石灰シリカタイプの標準的なフロートガラスの強化または曲げは、通常、ガラスを580~690℃の温度に加熱し、ガラス基板をこの温度範囲に数分間維持した後、実際の強化および/または曲げプロセスを開始することによって達成される。
【0009】
以下の説明および特許請求の範囲における「熱処理」、「熱処理された」および「熱処理可能」は、熱曲げおよび/または強化プロセス(焼戻しとしても知られる)およびコーティングされたガラス基板が数分間、例えば最大約10分間で、例えば580~690℃の範囲の温度に達する他の熱プロセスを指す。コーティングされたガラス基板は、重大な損傷なしに熱処理に耐える場合、熱処理可能であると見なされる。熱処理によって引き起こされるガラス基板への重大な損傷の例は、例えば、ヘイズ(または曇り)の増加、ピンホールまたはスポットを含む。
【0010】
ドープされた金属酸化物層を備えるコーティング層を有するコーティングされたガラス基板の使用が知られている。例えば、米国特許出願公開第2009/0197077号明細書には、銀の機能層が2つのコーティングの間に配置されるように、銀または銀を含有する金属合金に基づく機能層と複数の誘電体層から構成される2つのコーティングとを備える薄膜多層を設けた透明ガラス基板が記載されている。機能層は、下にあるコーティング上にそれ自体が直接堆積されている湿潤層上に堆積される。下にあるコーティングは、窒化物に基づく少なくとも1つの誘電体層と、当該直上湿潤層と接触するアンチモンドープスズ酸亜鉛の形態の混合酸化物から作られた少なくとも1つの非結晶平滑化層とを備える。
【0011】
米国特許第6541133号明細書には、反応性カソードスパッタリングによって生成された少なくとも1つの金属酸化物複合層を有し、酸化亜鉛(Zn)および酸化スズ(Sn)を含有する、透明基板の表面コーティング用の層スタックが開示される。金属の総量に対して、この金属酸化物複合層はまた、0.5~6.5重量%の1つ以上の元素Al、Ga、In、B、Y、La、Ge、Si、P、As、Sb、Bi、Ce、Ti、Zr、NbおよびTaをも含有し得る。
【0012】
米国特許第9315414号明細書には、透明基板に基づいて低放射率(low-e)パネルを形成するための方法が開示されている。金属酸化物層は、透明基板上に形成される。金属酸化物層は、酸素、第1の元素、第2の元素および第3の元素を含む。第1の元素はスズまたは亜鉛である。第2の元素は、ストロンチウムであり、第3の元素は、ハフニウムである。
【0013】
しかしながら、上記の先行技術文書のいずれも、ガラス産業の所望の光学特性、ならびに耐摩耗性および耐スクラッチ性の要件を提供することが可能である、本発明による層順序を有する熱処理可能なコーティングされたガラス基板を提供しない。
【発明の概要】
【0014】
したがって、本発明の目的は、改善された熱処理可能なコーティングされたガラス基板を提供することであり、その光学特性は、熱処理されたときに著しく変化しないかまたは少ない量だけ変化する。例えば、熱処理によって引き起こされるコーティングされたガラス基板の色の変化は、必要に応じて、熱処理されたコーティングされたガラス板と熱処理されていないコーティングされたガラス基板とが、使用中に目立った色の違いなしに互いに隣接して艶出しされ得るようなものであることが好ましい。
【0015】
本発明の目的はまた、例えば、貯蔵、輸送および使用中、熱処理前後の両方において、通常の環境の影響に耐えることが可能である、熱処理可能な低放射率(low-e)および/または太陽光制御コーティングガラス基板を提供することである。さらに、本発明の目的は、一連のテストに関連して以下に詳述するように、重大な損傷のない通常の取り扱いおよび処理中に、コーティングガラス基板に作用する機械的および化学的条件に耐えることが可能である、熱処理可能な低放射率(low-e)および/または太陽光制御コーティングガラス基板を提供することである。
【0016】
本発明はさらに、高い光透過率、低い放射率(低いシート抵抗に対応する)および/または良好な太陽光制御特性を有する熱処理可能なコーティングされたガラス基板を提供することを目的とする。すなわち、ガラス基板は、十分に高い光透過率と組み合わされた低い太陽光エネルギー透過率を有する。本発明のさらなる目的は、そのような熱処理可能なコーティングされたガラス基板に、既存の基板と比較して少ない数のコーティング層を提供し、その結果、そのようなコーティングされた基板を製造するために必要な設備投資を減少させることである。
【0017】
要約すると、本発明は、上記で詳述した従来技術のプロセスおよび製品に関連する問題に対処することを目的とし、例えば、ヘイズ、光透過率、色などのガラス産業の必要な光学特性を満たしおよび熱強化に耐えるのに十分な堅牢性をも備える、経済的に効率的で商業的に望ましいコーティングされたガラス基板を提供しようとする。
【0018】
本発明の第1の態様によれば、コーティングされたガラス基板であって、前記ガラス基板から順番に、
下部反射防止層と、
銀ベースの機能層と、
バリア層と、
上部反射防止層と、
の層を少なくとも備え、
ここで、前記上部反射防止層は、
少なくとも5原子パーセントのアルミニウム(Al)を有する、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸窒化物の誘電体層を備える、コーティングされたガラス基板が提供される。
【0019】
本発明の第1の態様によるコーティングされたガラス基板において、誘電体層は、少なくとも10原子パーセントのアルミニウムを有するアルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸窒化物を備え得る。あるいは、誘電体層は、少なくとも15原子パーセントのアルミニウムを有するアルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸窒化物を備え得るか、または誘電体層は、少なくとも22原子パーセントのアルミニウムを有するアルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸窒化物を備え得る。
【0020】
また、本発明の第1の態様に関連して、誘電体層は、好ましくは、最大45原子パーセントのアルミニウムを有するアルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸窒化物を備える。より好ましくは、誘電体層は、最大40原子パーセントのアルミニウムを有するアルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸窒化物を備える。あるいは、誘電体層は、最大35原子パーセントのアルミニウムを有するアルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸窒化物を備え得る。
【0021】
したがって、本発明の好ましい実施形態では、誘電体層は、好ましくは、5原子パーセントのアルミニウムから45原子パーセントのアルミニウムの範囲のアルミニウムを有するアルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸窒化物を備える。あるいは、誘電体層は、アルミニウムが5原子パーセントから40原子パーセントの範囲のアルミニウムを有する、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸窒化物を備え得る。誘電体層は、アルミニウムが5原子パーセントから35原子パーセントの範囲のアルミニウムを有する、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸窒化物を備え得る。本発明の一実施形態では、誘電体層は、10原子パーセントのアルミニウムから35原子パーセントのアルミニウムの範囲のアルミニウムを有するアルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸窒化物を備え得る。本発明の代替の実施形態では、誘電体層は、20原子パーセントのアルミニウムから35原子パーセントのアルミニウムの範囲のアルミニウムを有するアルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸窒化物を備え得る。本発明のさらなる実施形態では、誘電体層は、20原子パーセントのアルミニウムから30原子パーセントのアルミニウムの範囲のアルミニウムを有するアルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸窒化物を備え得る。本発明の好ましい実施形態では、誘電体層は、22原子パーセントのアルミニウムから28原子パーセントのアルミニウムの範囲のアルミニウムを有するアルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸窒化物を備え得る。
【0022】
好ましくは、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸窒化物に基づく誘電体層は、最大30%の原子パーセントの亜鉛および最大15%の原子パーセントのスズを備える。
【0023】
アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸窒化物に基づく誘電体層は、好ましくは、少なくとも5nmの厚さを備え得る。あるいは、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸窒化物に基づく誘電体層は、好ましくは、10~50nmの厚さを備え得る。より好ましくは、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸窒化物に基づく誘電体層は、好ましくは、20~40nmの厚さを備え得る。さらにより好ましくは、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸窒化物に基づく誘電体層は、好ましくは、30~40nmの厚さを備え得る。最も好ましくは、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸窒化物に基づく誘電体層は、好ましくは、32~36nmの厚さを備え得る。このような厚さは、コーティングされた基板の機械的堅牢性の点で改善をもたらす。アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸窒化物に基づく当該誘電体層は、好ましくは、上部誘電体層の亜鉛(Zn)の酸化物に基づく層と直接接触し得る。
【0024】
アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸窒化物に基づく誘電体層は、好ましくは、コーティングされたガラス基板の安定性を改善し、すなわち、熱処理中の保護を改善し、好ましくは拡散バリアとして機能し得る。加えて、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸窒化物に基づく誘電体層は、好ましくは、例えば耐スクラッチ性などの機械的および/または化学的堅牢性の向上をもたらす保護層として機能し得る。
【0025】
また、本発明に関連して、下部反射防止層は、好ましくは、ガラス基板から順番に、
亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸化物またはスズ(Sn)の酸化物に基づく層と、
亜鉛(Zn)の酸化物に基づく層と、
を備え得る。
【0026】
亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸化物またはスズ(Sn)の酸化物に基づく層は、好ましくは、0.5~10nmの厚さを有する。
【0027】
下部反射防止層はまた、好ましくは、シリコンおよび/またはアルミニウムの(酸)窒化物および/またはシリコンおよび/またはアルミニウムの合金に基づく1つ以上のベース層を備え得る。シリコンおよび/またはアルミニウムの(酸)窒化物、および/またはシリコンおよび/またはアルミニウムの合金に基づく1つ以上のベース層は、好ましくは、ガラス基板と、下部反射防止層中にある亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸化物に基づく層と、の間に配置される。好ましくは、ベース層は、20~40nmの厚さを備える。
【0028】
加えて、ベース層は、好ましくは、亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸化物またはスズ(Sn)の酸化物に基づく層と直接接触し得る。
【0029】
したがって、本発明に関連して、下部反射防止層は、好ましくは、ガラス基板から直接の順番で、
シリコンおよび/またはアルミニウムの(酸)窒化物および/またはシリコンおよび/またはアルミニウムの合金に基づくベース層と、
亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸化物またはスズ(Sn)の酸化物に基づく層と、
金属酸化物および/またはシリコンおよび/またはアルミニウムの(酸)窒化物および/またはシリコンおよび/またはアルミニウムの合金に基づく分離層と、
亜鉛(Zn)の酸化物に基づく層と、
を備える。
【0030】
あるいは、下部反射防止層は、好ましくは、ガラス基板から直接の順番で、
シリコンおよび/またはアルミニウムの(酸)窒化物および/またはシリコンおよび/またはアルミニウムの合金に基づくベース層と、
亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸化物またはスズ(Sn)の酸化物に基づく層と、
亜鉛(Zn)の酸化物に基づく層と、
を備え得る。
【0031】
すなわち、下部反射防止層は、好ましくは、上記のように連続した3つまたは4つの層を含み得る。下部反射防止層が上記のように3層または4層のどちらを含むことが好ましいかは、コーティングシーケンスに存在する銀ベースの機能層の数に依存する。
【0032】
コーティングシーケンスが単一の銀ベースのコーティング層のみを備える場合、下部反射防止層は、好ましくは、上記のように連続して4つの層からなり、分離層を含むことが好ましい。あるいは、コーティングシーケンスが2つ以上の銀ベースのコーティング層を備えるとき、下部反射防止層は、上記のように連続して3つの層からなり、すなわち、分離層は、存在しないことが好ましい。
【0033】
下部反射防止層のシリコンおよび/またはアルミニウムの(酸)窒化物、および/またはシリコンおよび/またはアルミニウムの合金に基づくベース層は、好ましくは、少なくとも5nmの厚さを備え得る。より好ましくは、ベース層は、5~60nmの厚さを備える。さらにより好ましくは、ベース層は、例えば、10~50nm、15~45nmまたは20~40nmの厚さを備える。最も好ましくは、下部反射防止層のベース層は、25~35nmの厚さを備える。本発明のコーティングされたガラス基板におけるベース層の用途の1つは、ガラス側拡散バリアとして機能することであり、すなわち、バリア層は、例えばナトリウムイオンのコーティング層への移動を防止しようとする。
【0034】
「シリコン(酸)窒化物」という用語は、シリコン(Si)窒化物(SiN)およびシリコン(Si)酸窒化物(SiO)の両方を包括し、「アルミニウム(酸)窒化物」という用語は、アルミニウム(Al)窒化物(AlN)およびアルミニウム(Al)酸窒化物(AlO)の両方を包括する。窒化シリコン(Si)、酸窒化シリコン(Si)、窒化アルミニウム(Al)および酸窒化アルミニウム(Al)層は、実質的に化学量論的(例えば、窒化シリコン=Si、SiNにおけるxの値=1.33)であることが好ましいが、コーティングの熱処理性がそれによって悪影響を受けない限り、準化学量論的または超化学量論的でさえあり得る。下部反射防止層のシリコンの(酸)窒化物および/またはアルミニウムの(酸)窒化物に基づくベース層の1つの好ましい組成は、実質的に化学量論的な混合窒化物Si90Al10である。
【0035】
シリコン(酸)窒化物および/またはアルミニウム(酸)窒化物の層は、窒素およびアルゴンを含有するスパッタリング雰囲気中で、それぞれシリコン(Si)および/またはアルミニウム(Al)ベースのターゲットから反応的にスパッタされ得る。シリコン(酸)窒化物および/またはアルミニウム(酸)窒化物に基づくベース層の酸素含有量は、スパッタリング雰囲気中の残留酸素から、または当該雰囲気中の添加酸素の制御された含有量から生じ得る。概して、シリコン(酸)窒化物および/またはアルミニウム(酸)窒化物の酸素含有量がその窒素含有量よりも著しく低い場合、すなわち、層中の原子比O/Nが著しく1未満に保たれる場合が好ましい。下部反射防止層のベース層には、酸素含有量が無視できる窒化シリコンおよび/または窒化アルミニウムを使用することが最も好ましい。この特徴は、層の屈折率が無酸素の窒化Siおよび/または窒化アルミニウム層の屈折率と著しく異ならないことを保証することによって制御され得る。
【0036】
混合シリコン(Si)および/またはアルミニウム(Al)ターゲットを使用すること、またはさもなくばこの層のシリコン(Si)および/またはアルミニウム(Al)成分に金属または半導体を追加することは、下部反射防止層のベース層の実質的なバリアおよび保護特性が損なわれない限り、本発明の範囲内である。例えば、アルミニウム(Al)とシリコン(Si)とのターゲットは混合され得、他の混合ターゲットは除外されない。追加の成分は、通常、10~15重量%の量で存在し得る。アルミニウムは通常、混合シリコンターゲットに10重量%の量で存在する。
【0037】
下部反射防止層の亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸化物に基づくまたはスズ(Sn)の酸化物に基づく層は、好ましくは、緻密で熱的に安定な層を提供することによって、熱処理中の安定性を改善し、熱処理後のヘイズ低減にも貢献する。下部反射防止層の亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸化物に基づくまたはスズ(Sn)の酸化物に基づく層は、好ましくは、少なくとも0.5nmの厚さを有し得る。好ましくは、下部反射防止層の亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸化物に基づくまたはスズ(Sn)の酸化物に基づく層は、0.5~15nmまたは0.5~13nmまたは0.5~10nmまたは1~12nmの厚さを有し得る。加えて、下部反射防止層の亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸化物に基づくまたはスズ(Sn)の酸化物に基づく層は、1~7nmまたは2~6nmまたは3~6nmの厚さを有し得る。最も好ましくは、下部反射防止層の亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸化物に基づくまたはスズ(Sn)の酸化物に基づく層は、単一の銀ベースの機能層を備える層シーケンスと共に、コーティングされたガラス基板に対して3~5nmの厚さを有し得る。光学干渉条件のためおよび反射防止機能層の光学干渉境界条件を維持するために必要とされるベース層の厚さの結果的減少による熱処理性の減少によって、厚さの上限は、8nmの領域が好ましい。
【0038】
本発明の第1の態様に関連する代替の実施形態では、コーティングされたガラス基板が2つ以上の銀ベースの機能層を備えるとき、下部反射防止層の亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸化物に基づくまたはスズ酸化物(Sn)に基づく層は、好ましくは、少なくとも12nmの厚さを有する。より好ましくは、下部反射防止層の亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸化物に基づくまたはスズ(Sn)の酸化物に基づく層は、12nm~20nmの厚さを有する。さらにより好ましくは、下部反射防止層の亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸化物に基づくまたはスズ(Sn)の酸化物に基づく層は、12nm~16nmの厚さを有する。しかしながら、最も好ましくは、下部反射防止層の亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸化物に基づくまたはスズ(Sn)の酸化物に基づく層は、12nm~14nmの厚さを有する。
【0039】
下部反射防止層の亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸化物に基づくまたはスズ(Sn)の酸化物に基づく層は、好ましくは、シリコンの(酸)窒化物、および/またはアルミニウムの(酸化)窒化物、および/またはシリコンおよび/またはアルミニウムの合金基に基づくベース層上に直接配置される。
【0040】
下部反射防止層の亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸化物に基づくまたはスズ(Sn)の酸化物に基づく層が、亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸化物(略語:ZnSnO)に基づくとき、層は、層の全金属含有量の重量%で、好ましくは、10~90重量%の亜鉛(Zn)および90~10重量%のスズ(Sn)、より好ましくは、約40~60重量%の亜鉛(Zn)および約40~60重量%のスズ(Sn)、さらにより好ましくは、各々約50重量%の亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)を備え得る。いくつかの好ましい実施形態では、下部反射防止層の亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸化物に基づく層は、最大18重量%のスズ(Sn)、より好ましくは最大15重量%のスズ(Sn)、さらにより好ましくは最大10重量%のスズ(Sn)を備え得る。ZnおよびSnの酸化物に基づく層は、好ましくは、Oの存在下での混合ZnSnターゲットの反応性スパッタリングによっても堆積され得る。
【0041】
好ましくは、下部反射防止層は、亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸化物に基づく層またはスズ(Sn)の酸化物に基づく層と、亜鉛(Zn)の酸化物に基づく層と、の間の分離をさらに備える。
【0042】
分離層は、好ましくは、金属酸化物および/またはシリコンの(酸)窒化物および/またはアルミニウムの(酸)窒化物および/またはシリコンおよび/またはアルミニウムの合金を備える。
【0043】
加えて、分離層は、好ましくは、少なくとも0.5nmの厚さを有し得、または好ましくは0.5~6nm、より好ましくは0.5~5nm、さらにより好ましくは0.5~4nm、最も好ましくは0.5~3nmの厚さを有し得る。これらの好ましい厚さは、熱処理時のヘイズのさらなる改善を可能にする。分離層は、好ましくは、堆積プロセス中およびその後の熱処理中に、保護を提供する。分離層は、堆積直後に実質的に完全に酸化されるか、または後続の酸化物層の堆積中に実質的に完全に酸化された層へと酸化されるかのいずれかが好ましい。
【0044】
分離層は、好ましくは、金属酸化物および/またはシリコンおよび/またはアルミニウムの(酸)窒化物および/またはシリコンおよび/またはアルミニウムの合金を備え得る。分離層が金属酸化物に基づくとき、前記分離層は、好ましくは、Ti、Zn、NiCr、InSn、Zr、Alおよび/またはSiの酸化物に基づく層を備え得る。
分離層が好ましくは金属酸化物に基づくとき、それは、例えばわずかに準化学量論的の酸化チタン、例えばTiO1.98ターゲットに基づくセラミックターゲットからの非反応性スパッタリングを使用して、実質的化学量論的またはわずかに準化学量論的酸化物として、Oの存在下でTiに基づくターゲットの反応性スパッタリングによって、または次に酸化されるTiに基づく薄層を堆積することによって、堆積され得る。本発明の文脈において、「実質的化学量論的酸化物」は、少なくとも95%であるが最大100%の化学量論的酸化物を意味し、一方、「わずかに準化学量論的酸化物」は、少なくとも95%であるが100%未満が化学量論的である酸化物を意味する。
【0045】
それが基づくシリコンおよび/またはアルミニウムの金属酸化物および/または(酸)窒化物、および/またはシリコンおよび/またはアルミニウムの合金に加えて、分離層は、Ti、V、Mn、Co、Cu、Zn、Zr、Hf、Al、Nb、Ni、Cr、Mo、Ta、Siの元素の少なくとも1つからまたは例えば、ドーパントまたは合金剤として使用されるこれらの材料の少なくとも1つに基づく合金から選択された1つ以上の他の化学元素をさらに含み得る。しかしながら、好ましくは、シリコンおよび/またはアルミニウムの金属酸化物および/または(酸)窒化物に基づく分離層は、1つ以上の他の化学元素を含まない。
【0046】
本発明の好ましい実施形態では、分離層は、好ましくは、亜鉛(Zn)の酸化物および/またはチタン(Ti)の酸化物を含む金属酸化物に基づく。
【0047】
コーティングされたガラスの層シーケンスが1つの銀ベースの機能層を備えるとき、分離層は、チタンの酸化物に基づくことが特に好ましい。
【0048】
層シーケンスが2つ以上の銀ベースの機能層を備えるとき、分離層は、チタンの酸化物に基づき得るが、層シーケンスまたはスタックが2つ以上の銀ベースの機能層を備えるとき、層シーケンスが下部反射防止層中に分離層を備えないこともまた、好ましい場合がある。
【0049】
さらに、酸化チタンに基づくとき、分離層は、0.5~3nmの厚さを有することが好ましい。
【0050】
下部反射防止層の亜鉛酸化物(Zn)に基づく層は、主に、その後に堆積される銀ベースの機能層の成長促進層として機能する。亜鉛(Zn)の酸化物に基づく層は、必要に応じて、アルミニウム(Al)またはスズ(Sn)などの金属と、最大約10重量%(目標金属含有量を基準とする重量%)の量で混合される。アルミニウム(Al)またはスズ(Sn)などの当該金属の通常含有量は、約2重量%であり、アルミニウム(Al)が実際に好ましい。酸化亜鉛(ZnO)および混合酸化亜鉛(Zn)は、成長促進層として非常に効果的であることが証明されており、それによって、その後に堆積される銀ベースの機能層の所定の厚さで低いシート抵抗を達成するのに役立つ。下部反射防止層の亜鉛(Zn)の酸化物に基づく層は、酸素(O)の存在下で亜鉛(Zn)ターゲットから反応的にスパッタされることが好ましい。あるいは、下部反射防止層の亜鉛酸化物(Zn)に基づく層は、例えばZnO:Alに基づくセラミックターゲットを、ゼロまたは少量のつまり、概して、約5体積%以下の、酸素のみを含む雰囲気中でスパッタリングすることによって堆積され得る。亜鉛(Zn)の酸化物に基づく下部反射防止層の層は、好ましくは、少なくとも2nmの厚さを有し得る。より好ましくは、亜鉛(Zn)の酸化物に基づく下部反射防止層の層は、好ましくは2~15nmまたは3~12nmの厚さを有し得る。さらにより好ましくは、亜鉛(Zn)の酸化物に基づく下部反射防止層の層は、好ましくは4~10nmの厚さを有し得る。最も好ましくは、亜鉛(Zn)の酸化物に基づく下部反射防止層の層は、5~8nmの厚さを有する。
【0051】
加えて、本発明に関連して、下部反射防止層の亜鉛酸化物(Zn)に基づく層は、銀ベースの機能層と直接接触することが好ましい。結果として、本発明の好ましい実施形態では、ガラス基板と銀ベースの機能層との間の層のシーケンスは、上記の下部反射防止層の3つの層または4つの層からなり得る。
【0052】
銀ベースの機能層は、好ましくは、低放射率および/または太陽光制御コーティングの分野で通常そうであるように、添加物を含まない実質的に銀からなる。しかしながら、高光透過率および低光吸収率のIR反射層として機能するために必要な銀ベースの機能層の特性が、それによって実質的に損なわれることがないかぎり、本発明の範囲内で、ドーピング剤、合金添加剤などを添加することによって、あるいは非常に薄い金属または金属化合物層を添加することによって、銀ベースの機能層の特性を変更し得る。
【0053】
各銀ベースの機能層の厚さは、その技術目的によって支配される。典型的な低放射率および/または太陽光制御の目的のために、単一の銀ベースの層のための好ましい層の厚さは、好ましくは、5~20nm、より好ましくは5~15nm、さらにより好ましくは5~13nmまたは8~12nm、最も好ましくは9~11nmであり得る。そのような層の厚さで、熱処理後の86%を超える光透過率値および0.05未満の通常の放射率は、単一の銀コーティングについての本発明に従って容易に達成され得る。より優れた太陽光制御特性が必要な場合は、銀ベースの機能層の厚さは、適切に増大され得るか、以下でさらに説明するように、いくつかの離間した機能層が提供され得る。
【0054】
本発明は、1つの銀ベースの機能層のみを有するコーティングされた基板を対象とするが、本発明の概念を適用して、2つ以上の銀ベースの機能層を備える低放射率および/または太陽光制御コーティングを調製することは、本発明の範囲内である。2つ以上の銀ベースの機能層を提供するとき、全ての銀ベースの機能層は、好ましくは、本明細書ではまとめて「中央反射防止層」と呼ばれる介在する誘電体層によって離間され、ファブリペロー干渉フィルターを形成する。これによって、低放射率および/または太陽光制御コーティングの光学特性は、それぞれの用途に合わせてさらに最適化され得る。
【0055】
好ましくは、各銀ベースの機能層は、介在する中央反射防止層によって、隣接する銀ベースの機能層から離間される。介在する中央反射防止層は、シリコンの(酸)窒化物および/またはアルミニウムの(酸)窒化物に基づく層、ZnおよびSnの酸化物および/またはSnの酸化物に基づく層、およびZnの酸化物などの金属酸化物に基づく層、の層のうちの1つ以上の組み合わせを備え得る。
【0056】
いくつかの好ましい実施形態では、各銀ベースの機能層は、介在する中央反射防止層によって隣接する銀ベースの機能層から離間されており、各中央反射防止層は、ガラス基板に最も近い位置にある銀ベースの機能層から、
シリコンの(酸)窒化物および/またはアルミニウムの(酸)窒化物に基づく層と、ZnおよびSnの酸化物および/またはSnの酸化物に基づく層と、Znの酸化物などの金属酸化物に基づく層と、を少なくとも順番に備える。
【0057】
本発明の第1の態様によるコーティングされたガラス基板は、好ましくは、バリア層をも備える。バリア層は、好ましくは、銀ベースの機能層と直接接触して配置される。
【0058】
バリア層は、好ましくは、NiCrOまたは亜鉛酸化物(Zn)に基づく層を備える。亜鉛(Zn)またはNiCrOの酸化物に基づくバリア層は、好ましくは、少なくとも0.5nmの厚さを有する。より好ましくは、ZnまたはNiCrOの酸化物に基づくバリア層は、0.5~10nmの厚さを有する。最も好ましくは、ZnまたはNiCrOの酸化物に基づくバリア層は、1~10nmの厚さを有する。
【0059】
しかしながら、バリア層がNiCrOに基づく層であるとき、0.5~5nmまたは1.0~5nmの厚さを有することが好ましい。
【0060】
バリア層が混合金属酸化物ターゲットからスパッタされた混合金属酸化物の層を備える場合、堆積プロセス中の銀ベースの機能層の優れた保護および熱処理中の高い光学的安定性が達成され得ることが見出された。バリア層が亜鉛(Zn)の酸化物に基づくとき、当該酸化物は、ZnO:Alなどの混合金属酸化物であり得る。ZnO:Alに基づく層が導電性ZnO:Alターゲットからスパッタされた場合、特に良好な結果が得られる。ZnO:Alは、完全に酸化されるか、またはわずかに亜酸化的であるように堆積され得る。
【0061】
加えて、バリア層が亜鉛(Zn)の酸化物に基づく層を備えるとき、バリアは、ZnO:Alなどの混合金属酸化物上にだけでなく、亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸化物上にもまた、いくつかの酸化亜鉛層を実際に備えることが可能である。したがって、適切なバリア層は、ZnO:Al、ZnSnO、ZnO:Alの形態であり得る。このような三重バリア配置は、好ましくは、3~12nmの合計厚さを有し得る。
【0062】
さらなる三重バリア配置は、好ましくは、銀ベースの機能層から順番に、ZnO:Al/TiO/ZnO:Al、ZnO:Al/ZnSnO/ZnO:Al、TiO/ZnSnO/ZnO:Al、TiO/ZnO:Al/TiO、TiOx/ZnSnO/TiOおよびZnO:Al/ZnSnO/TiOの層の組み合わせからなる群から選択され得る。
【0063】
銀ベースの機能層と直接接触するバリア層の少なくとも一部は、銀の損傷を回避するために、酸化ターゲットの非反応性スパッタリングを使用して堆積されることが好ましい。
【0064】
加えて、亜鉛(Zn)の酸化物に基づくバリア層の代替として、バリア層が、準化学量論的NiCrOxの層など、ニッケル(Ni)とクロム(Cr)に基づく混合金属酸化物をも備える場合、堆積プロセス中の銀ベースの機能層の適切な保護および熱処理中の高い光学的安定性が達成され得ることがさらに見出された。これは、コーティングされたガラス基板が2つ以上の銀ベースの機能層を備える場合に特に当てはまるが、コーティングされたガラス基板が単一の銀ベースの機能層を備える場合、準化学量論的NiCrOの層も使用され得る。
【0065】
したがって、2つ以上の銀ベースの機能層を備えるコーティングされたガラス基板について、各銀ベースの機能層が、介在する中央反射防止層によって隣接する銀ベースの機能層から離間される場合、ここで、各中央反射防止層は、少なくとも、ガラス基板に最も近い位置にある銀ベースの機能層から順番に、
ニッケル(Ni)およびクロムを備える混合金属酸化物に基づく層と、
亜鉛およびアルミニウムに基づく混合金属酸化物に基づく層と、
シリコンの(酸)窒化物および/またはアルミニウムの(酸)窒化物に基づく層と、
ZnおよびSnの酸化物に基づく層またはSnの酸化物に基づく層と、
Znの酸化物などの金属酸化物に基づく層と、
を備えることが好ましい。
【0066】
また、本発明の第1の態様に関連して、コーティングされたガラスは、好ましくは、上部反射防止層を備える。
上部反射防止層は、好ましくは、
(i)亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸化物に基づくまたはスズ(Sn)の酸化物に基づく層と、
(ii)亜鉛(Zn)の酸化物に基づく層と、
を備える。
【0067】
上部反射防止層中のZnおよびSnの酸化物またはSnの酸化物に基づく層は、好ましくは、少なくとも0.5nmの厚さを有し得、より好ましくは、少なくとも0.5nmまたは1nm、あるいは少なくとも1.5nmであり得、しかし好ましくは5nm未満、より好ましくは最大4nm、さらにより好ましくは4nm未満、最も好ましくは最大で3nm、特に2nmであり得る。これらの好ましい厚さは、機械的耐久性を維持しながら、堆積をさらに容易にし、ヘイズなどの光学特性を改善することを可能にする。
【0068】
上部反射防止層中のZnの酸化物に基づく層は、好ましくは少なくとも0.5nm、より好ましくは少なくとも0.5nmまたは1nm、またはさらに少なくとも1.5nmの厚さを有し得、しかし、好ましくは5nm未満、より好ましくは4nmであり得る。これらの好ましい厚さもまた、機械的耐久性を維持しながら、堆積をさらに容易にし、ヘイズなどの光学特性を改善することを可能にする。
【0069】
好ましくは、上部反射防止層中の層は、実質的に化学量論的金属酸化物に基づく。金属層または95%未満の化学量論的層よりもむしろ、上部反射防止層中の実質的に化学量論的金属酸化物に基づく層を使用することは、熱処理中のコーティングの非常に高い光学的安定性をもたらし、熱処理中の光学的修飾を小さく保つのを効率的に補助する。加えて、実質的に化学量論的な金属酸化物に基づく層の使用は、機械的堅牢性の点で利点をもたらす。
【0070】
本発明の文脈において、「非反応性スパッタリング」という用語は、実質的に化学量論的な酸化物を提供するために、低酸素雰囲気(すなわち、ゼロまたは最大5%体積の酸素)で酸化ターゲットをスパッタリングすることを含む。
【0071】
また、層が特定の1つ以上の材料に「基づく」と言われる本発明の文脈において、これは、特に明記しない限り、層が主に少なくとも50原子%の量の1つ以上の当該材料を備えることを意味する。
【0072】
層がZnSnOに基づく場合、「ZnSnO」は、記述の他の場所で説明および定義されるように、ZnおよびSnの混合酸化物を意味する。
【0073】
コーティングにおける光の吸収を最小限に抑え、熱処理中の光透過率の増加を低減するために、上部および下部の反射防止層の全ての個々の層は、実質的に化学量論的な組成で堆積されることが好ましい。
【0074】
コーティングされた基板の光学特性をさらに最適化するために、上部反射防止層は、低放射率および/または太陽光制御コーティングの誘電体層について一般的に知られる適切な材料、特にSn、Ti、Zn、Nb、Ce、Hf、Ta、Zr、Alおよび/またはSiの酸化物、および/またはSiおよび/またはAlの(酸)窒化物またはそれらの組み合わせのうちの、特に1つ以上から選択されるもの、からなる、さらなる部分層を備え得る。しかしながら、そのようなさらなる部分層を追加するとき、本明細書で目的とする熱処理性がそれによって損なわれないことを確認する必要がある。
【0075】
任意のさらなる層は、その特性を変更しおよび/またはその製造を容易にする添加剤、例えばドープ剤、または反応性スパッタリングガスの反応生成物を含有し得ることを理解されたい。酸化物ベースの層の場合、窒素は、スパッタリング雰囲気に添加され得、酸化物よりもむしろ酸窒化物の形成につながり、窒化物ベースの層の場合、酸素は、スパッタリング雰囲気に添加され得、窒化物よりむしろ酸窒化物の形成につながる。
【0076】
アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸窒化物を備える誘電体層は、コーティングされたガラス基板上の最外層であり得る。あるいは、コーティングされたガラス基板は、少なくとも1つの追加の層をさらに備え得、結果として、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸窒化物の誘電体層が少なくとも1つの追加の層とガラス基板との間にある。好ましくは、少なくとも1つの追加の層は、亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸化物に基づく層またはスズ(Sn)の酸化物に基づく層のいずれか、および/またはジルコニウム(Zr)の酸化物に基づく層を備える。このような追加の層は、コーティングされた基板の耐久性を高め得る。
【0077】
シーケンススタック中の任意の層の材料、構造および厚さの選択は、重要であり、それらへの変更は、コーティング性能に悪影響を与え得ることは明らかである。したがって、本発明に関連して上記の既存の層シーケンスにさらに層を追加するとき、高い熱安定性などのコーティングスタックの特性が著しく損なわれないことは明らかである。
【0078】
本発明の第2の態様によれば、
(i)ガラス基板を準備することと、
(ii)下部反射防止層を準備することと、
(iii)銀ベースの機能層を準備することと、
(iv)バリア層を準備することと、
(v)上部反射防止層を準備することと、
(vi)アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸窒化物を備える誘電体層を準備することと、を備え、ここで、誘電体層は、少なくとも5原子パーセントのアルミニウムを備え、銀ベースの機能層と直接接触するバリア層の任意の部分は、5体積パーセント未満の酸素を有する雰囲気中でのスパッタリングによって堆積される、本発明の第1の態様によるコーティングされたガラス基板を製造する方法が提供される。
【0079】
本発明は、コーティングの特定の製造プロセスに限定されない。しかしながら、層の少なくとも1つ、最も好ましくは全ての層が、DCモード、パルスモード、中波モードまたは他の任意の適切なモードのいずれかで、金属ターゲットまたは半導体ターゲットが適切なスパッタリング雰囲気で反応的または非反応的にスパッタリングされるマグネトロンカソードスパッタリングによって適用されることが特に好ましい。スパッタされる材料に応じて、平面または回転管状ターゲットを使用し得る。
【0080】
Zn、Ti、ZnSn、InSn、Zr、Al、Sn、および/またはSiの酸化物および/またはSiおよび/またはAlの(酸)窒化物に基づく層は、非反応性スパッタリングから堆積され得る。当該層は、セラミックターゲットからスパッタされ得る。
【0081】
Zn、Ti、ZnSn、InSn、Zr、Al、Sn、および/またはSiの酸化物、および/またはSiおよび/またはAlの(酸)窒化物に基づく層は、反応性スパッタリングによってもまた堆積され得る。当該層は、1つ以上の金属ターゲットからスパッタされ得る。
【0082】
コーティングプロセスは、コーティングの反射防止層の任意の酸化物(または窒化物)層の任意の酸素(または窒素)の欠乏が低く保たれるように、適切なコーティング条件を設定することによって実行され、熱処理中のコーティングされたガラス基板の光透過率および色の高い安定性を達成する。
【0083】
本明細書で言及される光透過率の値は、概して、コーティングなしで90%の領域の光透過率Tを有する厚さ4mmの標準フロートガラス基板を備える、コーティングされたガラス基板を参照して指定される。
【0084】
本発明によるコーティングされたガラス基板の色は、無彩色反射およびコーティングされたガラス基板の透過色が通常目標とされるが、製品の意図された視覚的外観に従い、個々の層の厚さを適切に適合させることによって大きく変更され得る。
【0085】
本発明によるコーティングされたガラス基板の熱安定性は、熱処理されたコーティングされたガラス基板が、許容できないレベルのヘイズを示さないという事実によって反映される。熱処理中にヘイズ値(ヘイズスキャン)の大幅な増加が検出された場合は、コーティングが損傷し始めていることを示す。本発明によるコーティングされたガラス基板の機械的耐久性は、油摩擦試験における性能によって例示される。
【0086】
本発明の第3の態様によれば、本発明の第1の態様によるコーティングされたガラス基板を組み込んだ、または本発明の第2の態様による方法によって調製された、複数のグレージングユニットが提供される。加えて、本発明の第3の態様による複数のグレージングユニットは、積層グレージングユニットまたは断熱グレージングユニットであり得る。
【0087】
加えて、例えば、下部反射防止層、上部反射防止層、銀ベースの機能層、バリア層および誘電体層の詳細を含むがこれらに限定されない、本発明の第1の態様のコーティングされたガラス基板および層シーケンスに関連する全ての特徴および優先順位はまた、本発明の第2および第3の態様に関して好ましい。
【実験例】
【0088】
次に、以下の非限定的な例を参照することによって、本発明をより詳細に説明する。
【0089】
例に関連して、図1は、実験例2~7のAlZnSnO中のAlの原子%に対するヘイズスキャンおよびスクラッチ荷重値のグラフ表示である。
【図面の簡単な説明】
【0090】
図1図1は、実験例2~7のAlZnSnO中のAlの原子%に対するヘイズスキャンおよびスクラッチ荷重値のグラフ表示である。
【0091】
一連の実験を実施して、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸窒化物を備える誘電体層を使用し、フロートガラス基板上に層スタックシーケンスで少なくとも5原子パーセントのアルミニウムを堆積させた場合の影響を評価した。一連の実験を実施して、少なくとも5原子パーセントのアルミニウムを有するアルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の酸窒化物を備える誘電体層を使用し、層スタックシーケンス中でフロートガラス基板上に堆積させた場合の影響を評価した。
【0092】
一連のコーティング層(スタックと呼ばれる)をフロートガラス基板上に堆積させた。コーティング層は、少なくとも1つの銀ベースのコーティング層を含んだ。一連の層は、表1、2、および3に示される。
【0093】
全ての例で、コーティング層を、MF-ACおよび/またはDCマグネトロン(またはパルスDC)電源を備えたシングルまたはデュアルマグネトロンを使用して、90%の領域の光透過率で厚さ4mmの標準フロートガラス基板上に堆積させた。
【0094】
亜鉛およびスズの酸化物(ZnSnO)の誘電体層を、アルゴン/酸素(Ar/O)スパッタ雰囲気において、亜鉛-スズターゲット(重量比Zn:Sn約50:50)から反応的にスパッタした。
【0095】
酸化チタン(TiO)層を、アルゴン/酸素(Ar/O)スパッタ雰囲気中で金属チタン(Ti)ターゲットから堆積した。
【0096】
下部反射防止層のZnO:Al成長促進最上層を、5体積%未満の酸素を有するAr/Oスパッタ雰囲気中でAlドープZnターゲット(アルミニウム(Al)含有量約2重量%)からスパッタした。
【0097】
全ての実験例において、実質的に純粋な銀(Ag)からなる機能層を、任意の酸素を添加せず、残留酸素の分圧が10-5mbar未満のArスパッタ雰囲気中で、銀ターゲットからスパッタした。銀ベースの機能層の上にあるAlドープ酸化亜鉛(ZnO:Al)のバリア層を、5体積%未満の酸素を有するAr/Oスパッタ雰囲気中において導電性ZnO:Alターゲットからスパッタした。
【0098】
混合シリコン窒化アルミニウム(Si90Al10)の層を、残留酸素のみを含有するアルゴン/窒素(Ar/N)スパッタ雰囲気中で、混合Si90Al10ターゲットから反応的にスパッタした。
【0099】
AlNの層を、残留酸素のみを含有するアルゴン/窒素(Ar/N)スパッタ雰囲気中でAlターゲットから反応的にスパッタした。
【0100】
混合アルミニウム、亜鉛、スズ、酸窒化物の層を、Ar/O/N雰囲気中で2つのアルミニウムターゲットおよび導電性セラミック混合亜鉛スズ酸化物(ZnSnO))ターゲットを使用して同時スパッタした。
【0101】
表1、2および3は、コーティング層のシーケンスの詳細を、括弧内にナノメートル(nm)で示される各層の幾何学的な厚さと共に示す。比較コーティングされたガラス基板の実験例および本発明によるコーティングされたガラス基板の実験例について、各実験例を、
最外層の金属含有量、ヘイズスキャン、油摩擦試験値、すべり角試験値、スクラッチ荷重試験値、T%-熱処理前のガラス基板の光透過率(%)値、ΔT-熱処理時の光透過率(%)の変化、Rs AD-熱処理前のシート抵抗、Rs HT-熱処理後のシート抵抗、ΔRs(Ω/平方)-耐熱性の変化、TΔE*-熱処理時の透過色の変化の尺度、を決定するために試験した。
【0102】
各実験例について、層は、各列の上部の層から始まり、示されている順序でガラス板上に堆積された。
【0103】
【表1】
【0104】
【表2-1】

【表2-2】
【0105】
【表3】
【0106】
表1、2および3のデータを収集するために使用された方法論を以下に示す。
【0107】
油摩擦試験-油摩擦試験は、ガラス基板の切断に使用される切削油がコーティングの機械的堅牢性に及ぼす影響をシミュレートするのに役立つ。油摩擦試験に耐えられないコーティングされたガラス基板は、処理が難しく、ほとんどの実用には適さない。表1、2および3に定義されるコーティングされたサンプルを、屈折率1.52(1.515~1.517)の顕微鏡オイルに浸された面積1.2x1.2cmのフェルトパッドを使用して摩擦した。サンプルは、1,000gの荷重、毎分37サイクルの速度で500サイクルに供される。次に、油摩擦されたサンプルを、内部評価システムを使用して、0(完全、損傷なし)から9(コーティングスタックの一部が完全に除去された)の完全性スケールで評価した。スコアは、6以下であることが好ましい。
【0108】
熱処理性試験-各実験例の全てのコーティングの堆積直後に、コーティングスタックパラメータ(ヘイズスキャン、シート抵抗(Rs)、光透過率(TL)など)およびコーティングされたガラス基板の色座標を測定した。次に、サンプルを650℃の領域で5分間熱処理した。その後、ヘイズスキャン値、シート抵抗(Rs)、光透過率(T)、色座標を再度測定し、そこから光透過率の変化(ΔT)および熱処理時の透過色の変化(TΔE*)を計算した。測定結果は、上記の表1、2、および3にも示される。
【0109】
コーティングされたガラス基板の熱処理時の光透過率(ΔT)の変化についてパーセンテージ(%)で述べられた値は、各実験例についてEN 140による測定から導き出され、その詳細は参照により本明細書に援用される。
【0110】
シート抵抗/シート抵抗の変化-シート抵抗の測定は、比較例1および8ならびに実験例2~7および9~12に対してNAGYSRM-12を使用して行った。このデバイスは、インダクタを利用して、100mm×100mmのコーティングされたサンプルに渦電流を生成する。これにより、測定可能な磁場が生成され、その規模は、サンプルの抵抗率に関する。この方法を用いて、シート抵抗を計算し得る。この装置を使用して、650℃で5分間の熱処理の前後のサンプルのシート抵抗を測定した。
【0111】
色特性-表1、2および3に記載の各実験例の色特性は、確立されたCIE LAB L,a,b座標を使用して(例えば、参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2004/063111号の段落[0030]および[0031]に記載されているように)測定および報告された。熱処理時の透過色の変化、TΔE=((Δa+(Δb+(ΔL1/2、ここで、ΔL、Δa、およびΔbは、熱処理前後の各コーティングされたガラス基板の色値L、a、bの差である。3未満(例えば2または2.5)のΔE値は、熱処理によって引き起こされる色の変化が低く、目立った変化をほぼ表さず、1つの銀ベースの機能層を有する層シーケンスについて好ましい。2つ以上の銀ベースの機能層を備える層シーケンスの場合、より低いTΔE値は、シーケンスの安定性の指標を提供し、TΔE値が低いほど、コーティングされたガラス基板の結果および外観が優れている。
【0112】
ヘイズスキャン-表1、2および3に記載の各実験例に、ヘイズスコアシステムを適用した。下記で説明する品質評価査定システムは、明るい光条件下でのコーティングの視覚的品質、ASTM D1003-61に従って測定された標準ヘイズ値に完全には反映されていない特性を、より明確に区別するためにも使用された。
【0113】
評価システムは、コーティングが損傷した場合または不完全な場合に局所的な色の変化を引き起こす、コーティングの目に見える欠陥のより巨視的な影響を考慮する(表1、2および3のヘイズスキャン)。この評価では、固定された照明条件および形状を使用して採取された熱処理サンプルの画像の光レベルを分析する。
【0114】
ヘイズスキャン値の計算に使用される画像を生成するために、サンプルをカメラレンズから30cm離れたブラックボックス内部に配置する。サンプルは、サンプル位置で測定した場合、2400~2800ルクスの明るさを有する標準1200ルーメンライトを使用して照らされる。次に、一定の絞りサイズおよび露光長を使用してサンプルを撮影する。次に、結果の画像の各ピクセルのグレースケールを記録する。値0は、黒を表し、255は白を表す。これらの値の統計分析は、サンプルのヘイズの全体的な評価を行うために行われ、ここではヘイズスキャン値と呼ばれる。記録されたヘイズスキャン値が低いほど、結果は優れている。
【0115】
すべり角試験-すべり角測定は、コーティングの最外層の摩擦係数の指標を提供する。テストを完了するために、サンプルをスチール製のフラットベッドの上に配置し、底に2つのフェルトパッドが取り付けられたブロックをサンプルの上に配置し、フェルトパッドがサンプルに接触するようにする。ブロックがサンプルを滑り落ちるまでフラットベッドの角度を傾斜させ、すべり角を生成する。
【0116】
スクラッチ荷重試験-スクラッチ荷重試験は、コーティングがスクラッチに耐える能力の測定である。タングステンカーバイドチップを有するスクレロメーターを使用してテストを実行する。先端は、いくつかの隣接する位置で表面を横切って引きずられる。このプロセスを、3つの著しいスクラッチが観察されるまで、スクレロメーターに加えられる荷重を増やしながら繰り返す。著しいスクラッチは、連続的なスクラッチまたはコーティングからの大量の材料の除去として定義される。荷重が高いほど、スクラッチに対する耐性が高いことを示す。
【0117】
(結果の概要)
比較例1は、第1の銀ベースの機能層の周りに配置された上部反射防止層にAlNおよびZnSnOの誘電体層を有するスタックを備える。比較例1は、ヘイズスキャン値および機械的堅牢性テストに良好な結果をもたらす。しかしながら、比較例1は、上部の反射防止層中にAlN層とZnSnO層との両方を有する。したがって、比較例1は、本発明の目的、すなわち、スタックシーケンス内のコーティング層の数を減らしそれによってそのようなコーティングシーケンスを製造するのに必要な設備投資を減らすこと、を扱っていない。
【0118】
同様に、比較例8は、スタックシーケンスの最上部にZnSnOの誘電体層を有するがAlNの層を欠くスタックを備える。比較例8は、ヘイズスキャン値に関して不十分な性能を示し、これは、ZnSnOの単層が、比較例1のAlNおよびZnSnOの二重層の適切な単層置換ではないことを示す。
【0119】
本発明による実験例2~7および9~12は、比較例1のAlNおよびZnSnOの誘電体層を置換するAlZnSnOの層を備える。アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)およびスズ(Sn)の量は、実験例2~7および9~12の各々で異なる。
【0120】
本発明による全ての実験例は、79%を超える透過値、熱処理後の3.5未満の透過値の変化、および熱処理後の3.5未満の色値の変化を伴う、許容可能な光学特性を示した。加えて、全ての実験例で、7Ω/sq未満のシート抵抗値および熱処理後の2.5未満のシート抵抗値の変化を有する、許容可能な電気的特性が示された。
【0121】
ヘイズスキャンの結果に関して、本発明による実験例2~7および9~12の全ては、約200またはそれ以下の許容値をもたらした。ただし、図1に示すように、実験例3および4では(表1の比較例1で得られた値と比較して)ヘイズスキャンの特定の改善が観察され、実験例2でも許容可能なヘイズスキャン値が得られた。表3の実験例9もまた、許容可能なヘイズスキャン値を提供した。
【0122】
図1は、スクラッチ荷重試験の場合、実験例2が1.0の値で特に優れた機械的耐久性を示したことをも示す。したがって、実験例2は、ヘイズの低減よりも耐久性が求められる場合に適切な妥協点を提供する。
【0123】
したがって、上記の結果から、本発明のコーティングされたガラス基板は、上部の反射防止層において、AlZnSnOの単層誘電体層(層中のアルミニウムの量は少なくとも5原子パーセントを含む)で、良好な熱処理性および機械的耐久性を提供することが分かる。
【0124】
本発明のコーティングされたガラス基板はまた、使用、処理および取り扱い条件をシミュレートする試験によれば、低レベルの目に見える損傷を示す。さらに、コーティングされたガラス基板は、高い光透過率および低い放射率および/または良好な太陽光制御特性を示し、熱処理後でも光学特性は安定したままである。
【0125】
本発明によるコーティングされたガラス基板は、断熱グレージングユニットおよびファサードを含む、建物などの建築用グレージングでの使用に適し得る。あるいは、本発明によるコーティングされたガラス基板は、乗用車、大量輸送車両およびバス、貨物車両ならびにウインドスクリーン、バックライト、ルーフライト、サイドライトおよびクォーターライトを含む船舶または航空機などの車両グレージングでの使用に適し得る。
図1
【国際調査報告】