(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-24
(54)【発明の名称】ジカウイルスを中和するヒト抗体およびその使用方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/569 20060101AFI20230117BHJP
C07K 16/10 20060101ALI20230117BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20230117BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20230117BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20230117BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20230117BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230117BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20230117BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20230117BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230117BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20230117BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230117BHJP
G01N 33/531 20060101ALI20230117BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20230117BHJP
C07K 19/00 20060101ALN20230117BHJP
C12N 15/06 20060101ALN20230117BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20230117BHJP
A61K 31/7088 20060101ALN20230117BHJP
【FI】
G01N33/569 L
C07K16/10 ZNA
C07K16/46
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61P31/14
A61P37/04
A61K39/395 S
A61K35/76
A61K48/00
G01N33/531 A
G01N33/543 545A
G01N33/543 541B
G01N33/543 521
C07K19/00
C12N15/06 100
C12N15/13
A61K31/7088
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022528970
(86)(22)【出願日】2020-11-09
(85)【翻訳文提出日】2022-07-14
(86)【国際出願番号】 US2020059604
(87)【国際公開番号】W WO2021101739
(87)【国際公開日】2021-05-27
(32)【優先日】2019-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】515178513
【氏名又は名称】ヴァンダービルト ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】クロウ ジェームズ イー. ジュニア
(72)【発明者】
【氏名】カルナハン ロバート エイチ.
(72)【発明者】
【氏名】ギルチュク パブロ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C085
4C086
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA57X
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4C085EE01
4C085GG01
4C086AA01
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4C086MA66
4C086NA13
4C086NA14
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4C087AA01
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4C087BC83
4C087CA12
4C087MA66
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4C087NA14
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4C087ZB33
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045DA76
4H045EA31
4H045EA53
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、ジカウイルスに結合しかつ中和する抗体、およびその使用方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象のジカウイルス感染を検出する方法であって、以下の工程を含む方法:
(a)前記対象から得られた試料と、それぞれ表3および表4の、クローンと組の重鎖CDR配列および軽鎖CDR配列を有する抗体または抗体断片とを接触させる工程;ならびに
(b)前記抗体または抗体断片を前記試料中のジカウイルス抗原に結合させることによって、前記試料中のジカウイルスを検出する工程。
【請求項2】
前記試料が体液である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記試料が、血液、痰、涙液、唾液、粘膜もしくは血清、精液、子宮頸部分泌物もしくは膣分泌物、羊水、胎盤組織、尿、滲出液、濾出液、組織擦過物または糞便である、請求項1~2のいずれか一項記載の方法。
【請求項4】
検出がELISA、RIA、ラテラルフローアッセイまたはウエスタンブロットを含む、請求項1~3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
工程(a)および(b)を再度行い、第1のアッセイと比較してジカウイルス抗原レベルの変化を決定する工程をさらに含む、請求項1~4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
前記抗体または抗体断片が、表1に記載の、クローンと組の可変配列によってコードされる、請求項1~5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
前記抗体または抗体断片が、表1に記載の、クローンと組の可変配列に対して、70%、80%または90%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列によってコードされる、請求項1~5のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
前記抗体または抗体断片が、表1に記載の、クローンと組の配列に対して95%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列によってコードされる、請求項1~5のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
前記抗体または抗体断片が、表2の、クローンと組の配列の通りの軽鎖可変配列および重鎖可変配列を含む、請求項1~5のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
前記抗体または抗体断片が、表2の、クローンと組の配列に対して、70%、80%または90%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列を含む、請求項1~5のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
前記抗体または抗体断片が、表2の、クローンと組の配列に対して95%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列を含む、請求項1~5のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
前記抗体断片が、組換えscFv(一本鎖断片可変)抗体、Fab断片、F(ab')
2断片またはFv断片である、請求項1~11のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
ジカウイルスに感染した対象を治療するか、またはジカウイルスに罹患するリスクがある対象の感染の可能性を低減する方法であって、それぞれ表3および表4の、クローンと組の重鎖CDR配列および軽鎖CDR配列を有する抗体または抗体断片を前記対象に送達する工程を含む、前記方法。
【請求項14】
前記抗体または抗体断片が、表1に記載の、クローンと組の軽鎖可変配列および重鎖可変配列によってコードされる、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記抗体または抗体断片が、表1に記載のものに対して95%の同一性を有する、クローンと組の軽鎖可変配列および重鎖可変配列によってコードされる、請求項13~14のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
前記抗体または抗体断片が、表1の、クローンと組の配列に対して、70%、80%または90%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列によってコードされる、請求項13~14のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
前記抗体または抗体断片が、表2の、クローンと組の配列の通りの軽鎖可変配列および重鎖可変配列を含む、請求項13記載の方法。
【請求項18】
前記抗体または抗体断片が、表2の、クローンと組の配列に対して、70%、80%または90%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列を含む、請求項13記載の方法。
【請求項19】
前記抗体または抗体断片が、表2の、クローンと組の配列に対して95%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列を含む、請求項13記載の方法。
【請求項20】
前記抗体断片が、組換えscFv(一本鎖断片可変)抗体、Fab断片、F(ab')
2断片またはFv断片である、請求項13~19のいずれか一項記載の方法。
【請求項21】
前記抗体が、
IgGであるか、または、
LALA、N297、GASD/ALIE、YTEもしくはLS変異など、半減期を増加させるためにおよび/もしくは治療効果を増加させるためにFcR相互作用を変化させる(排除もしくは増強する)ように変異したFc部分、または、グリカンの酵素的もしくは化学的な付加もしくは除去など、FcR相互作用を変化させる(排除もしくは増強する)ように、もしくは定義されたグリコシル化パターンを用いて操作された細胞株における発現を変化させるように改変されたグリカンを含む、組換えIgG抗体または抗体断片である、
請求項13~20のいずれか一項記載の方法。
【請求項22】
前記抗体が、キメラ抗体または二重特異性抗体である、請求項13~19のいずれか一項記載の方法。
【請求項23】
前記抗体または抗体断片が、感染前または感染後に投与される、請求項13~22のいずれか一項記載の方法。
【請求項24】
前記対象が、妊娠中の女性、性的に活発な女性、または不妊治療を受けている女性である、請求項13~23のいずれか一項記載の方法。
【請求項25】
送達する工程が、抗体もしくは抗体断片の投与、または抗体もしくは抗体断片をコードするRNA配列もしくはDNA配列もしくはベクターによる遺伝的送達を含む、請求項13~24のいずれか一項記載の方法。
【請求項26】
モノクローナル抗体であって、前記抗体または抗体断片が、それぞれ表3および表4の、クローンと組の重鎖CDR配列および軽鎖CDR配列を特徴とする、前記モノクローナル抗体。
【請求項27】
前記抗体または抗体断片が、表1の、クローンと組の配列の通りの軽鎖可変配列および重鎖可変配列によってコードされる、請求項26記載のモノクローナル抗体。
【請求項28】
前記抗体または抗体断片が、表1の、クローンと組の配列に対して、少なくとも70%、80%または90%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列によってコードされる、請求項26記載のモノクローナル抗体。
【請求項29】
前記抗体または抗体断片が、表1の、クローンと組の配列に対して少なくとも95%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列によってコードされる、請求項26記載のモノクローナル抗体。
【請求項30】
前記抗体または抗体断片が、表2の、クローンと組の配列の通りの軽鎖可変配列および重鎖可変配列を含む、請求項26記載のモノクローナル抗体。
【請求項31】
前記抗体または抗体断片が、表2の、クローンと組の配列に対して95%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列を含む、請求項26記載のモノクローナル抗体。
【請求項32】
前記抗体断片が、組換えscFv(一本鎖断片可変)抗体、Fab断片、F(ab')
2断片またはFv断片である、請求項26~31のいずれか一項記載のモノクローナル抗体。
【請求項33】
前記抗体が、キメラ抗体であるか、または二重特異性抗体である、請求項26~31のいずれか一項記載のモノクローナル抗体。
【請求項34】
前記抗体が、
IgGであるか、または、
LALA、N297、GASD/ALIE、YTEもしくはLS変異など、半減期を増加させるためにおよび/もしくは治療効果を増加させるためにFcR相互作用を変化させる(排除もしくは増強する)ように変異したFc部分、または、グリカンの酵素的もしくは化学的な付加もしくは除去など、FcR相互作用を変化させる(排除もしくは増強する)ように、もしくは定義されたグリコシル化パターンを用いて操作された細胞株における発現を変化させるように改変されたグリカンを含む、組換えIgG抗体または抗体断片である、
請求項26~33のいずれか一項記載のモノクローナル抗体。
【請求項35】
前記抗体または抗体断片が、細胞透過性ペプチドをさらに含む、および/またはイントラボディである、請求項26~34のいずれか一項記載のモノクローナル抗体。
【請求項36】
抗体または抗体断片をコードするハイブリドーマまたは操作された細胞であって、抗体または抗体断片が、それぞれ表3および表4の、クローンと組の重鎖CDR配列および軽鎖CDR配列を特徴とする、前記ハイブリドーマまたは操作された細胞。
【請求項37】
前記抗体または抗体断片が、表1の、クローンと組の配列の通りの軽鎖可変配列および重鎖可変配列によってコードされる、請求項36記載のハイブリドーマまたは操作された細胞。
【請求項38】
前記抗体または抗体断片が、表1の、クローンと組の可変配列に対して、少なくとも70%、80%または90%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列によってコードされる、請求項36記載のハイブリドーマまたは操作された細胞。
【請求項39】
前記抗体または抗体断片が、表1の、クローンと組の可変配列に対して95%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列によってコードされる、請求項36記載のハイブリドーマまたは操作された細胞。
【請求項40】
前記抗体または抗体断片が、表2の、クローンと組の配列の通りの軽鎖可変配列および重鎖可変配列を含む、請求項36記載のハイブリドーマまたは操作された細胞。
【請求項41】
前記抗体または抗体断片が、表2の、クローンと組の可変配列に対して、少なくとも70%、80%または90%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列によってコードされる、請求項36記載のハイブリドーマまたは操作された細胞。
【請求項42】
前記抗体または抗体断片が、表2の、クローンと組の配列に対して95%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列を含む、請求項36記載のハイブリドーマまたは操作された細胞。
【請求項43】
前記抗体断片が、組換えscFv(一本鎖断片可変)抗体、Fab断片、F(ab')
2断片またはFv断片である、請求項36~42のいずれか一項記載のハイブリドーマまたは操作された細胞。
【請求項44】
前記抗体が、キメラ抗体または二重特異性抗体である、請求項36~43のいずれか一項記載のハイブリドーマまたは操作された細胞。
【請求項45】
前記抗体が、
IgGであるか、または、
LALA、N297、GASD/ALIE、YTEもしくはLS変異など、半減期を増加させるためにおよび/もしくは治療効果を増加させるためにFcR相互作用を変化させる(排除もしくは増強する)ように変異したFc部分、または、グリカンの酵素的もしくは化学的な付加もしくは除去など、FcR相互作用を変化させる(排除もしくは増強する)ように、もしくは定義されたグリコシル化パターンを用いて操作された細胞株における発現を変化させるように改変されたグリカンを含む、組換えIgG抗体または抗体断片である、
請求項36~43のいずれか一項記載のハイブリドーマまたは操作された細胞。
【請求項46】
前記抗体または抗体断片が、細胞透過性ペプチドをさらに含む、および/またはイントラボディである、請求項36~45のいずれか一項記載のハイブリドーマまたは操作された細胞。
【請求項47】
それぞれ表3および表4の、クローンと組の重鎖CDR配列および軽鎖CDR配列を特徴とする1つまたは複数の抗体または抗体断片を含む、ワクチン製剤。
【請求項48】
前記抗体または抗体断片のうちの少なくとも1つが、表1の、クローンと組の配列の通りの軽鎖可変配列および重鎖可変配列によってコードされる、請求項47記載のワクチン製剤。
【請求項49】
前記抗体または抗体断片のうちの少なくとも1つが、表1の、クローンと組の配列に対して少なくとも70%、80%または90%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列によってコードされる、請求項47記載のワクチン製剤。
【請求項50】
前記抗体または抗体断片のうちの少なくとも1つが、表1の、クローンと組の配列に対して少なくとも95%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列によってコードされる、請求項47記載のワクチン製剤。
【請求項51】
前記抗体または抗体断片のうちの少なくとも1つが、表2の、クローンと組の配列の通りの軽鎖可変配列および重鎖可変配列を含む、請求項47記載のワクチン製剤。
【請求項52】
前記抗体または抗体断片のうちの少なくとも1つが、表2の、クローンと組の配列に対して95%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列を含む、請求項47記載のワクチン製剤。
【請求項53】
前記抗体断片のうちの少なくとも1つが、組換えscFv(一本鎖断片可変)抗体、Fab断片、F(ab')
2断片またはFv断片である、請求項47~52のいずれか一項記載のワクチン製剤。
【請求項54】
前記抗体のうちの少なくとも1つが、キメラ抗体であるか、または二重特異性抗体である、請求項47~52のいずれか一項記載のワクチン製剤。
【請求項55】
前記抗体が、
IgGであるか、または、
LALA、N297、GASD/ALIE、YTEもしくはLS変異など、半減期を増加させるためにおよび/もしくは治療効果を増加させるためにFcR相互作用を変化させる(排除もしくは増強する)ように変異したFc部分、または、グリカンの酵素的もしくは化学的な付加もしくは除去など、FcR相互作用を変化させる(排除もしくは増強する)ように、もしくは定義されたグリコシル化パターンを用いて操作された細胞株における発現を変化させるように改変されたグリカンを含む、組換えIgG抗体または抗体断片である、
請求項47~54のいずれか一項記載のワクチン製剤。
【請求項56】
前記抗体または抗体断片のうちの少なくとも1つが、細胞透過性ペプチドをさらに含む、および/またはイントラボディである、請求項47~55のいずれか一項記載のワクチン製剤。
【請求項57】
請求項26~34のいずれか一項記載の第1の抗体または抗体断片をコードする1つまたは複数の発現ベクターを含む、ワクチン製剤。
【請求項58】
前記発現ベクターが、シンドビスウイルスベクターまたはVEEベクターである、請求項57記載のワクチン製剤。
【請求項59】
針注射、ジェット注射またはエレクトロポレーションによる送達のために製剤化された、請求項57~58のいずれか一項記載のワクチン製剤。
【請求項60】
第2の抗体または抗体断片、例えば、請求項26~34のいずれか一項記載の別個の抗体または抗体断片をコードする1つまたは複数の発現ベクターをさらに含む、請求項57記載のワクチン製剤。
【請求項61】
ジカウイルスに感染したか、ジカウイルスに感染するリスクがある妊娠中の対象の胎盤および/または胎児の健康を保護する方法であって、それぞれ表3および表4の、クローンと組の重鎖CDR配列および軽鎖CDR配列を有する抗体または抗体断片を前記対象に送達する工程を含む、前記方法。
【請求項62】
前記抗体または抗体断片が、表1に記載の、クローンと組の軽鎖可変配列および重鎖可変配列によってコードされる、請求項61記載の方法。
【請求項63】
前記抗体または抗体断片が、表1に記載のものに対して95%の同一性を有する、クローンと組の軽鎖可変配列および重鎖可変配列によってコードされる、請求項61~62のいずれか一項記載の方法。
【請求項64】
前記抗体または抗体断片が、表1の、クローンと組の配列に対して、70%、80%または90%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列によってコードされる、請求項61~62のいずれか一項記載の方法。
【請求項65】
前記抗体または抗体断片が、表2の、クローンと組の配列の通りの軽鎖可変配列および重鎖可変配列を含む、請求項61記載の方法。
【請求項66】
前記抗体または抗体断片が、表2の、クローンと組の配列に対して、70%、80%または90%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列を含む、請求項61記載の方法。
【請求項67】
前記抗体または抗体断片が、表2の、クローンと組の配列に対して95%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列を含む、請求項61記載の方法。
【請求項68】
前記抗体断片が、組換えscFv(一本鎖断片可変)抗体、Fab断片、F(ab')
2断片またはFv断片である、請求項61~67のいずれか一項記載の方法。
【請求項69】
前記抗体が、
IgGであるか、または、
LALA、N297、GASD/ALIE、YTEもしくはLS変異など、半減期を増加させるためにおよび/もしくは治療効果を増加させるためにFcR相互作用を変化させる(排除もしくは増強する)ように変異したFc部分、または、グリカンの酵素的もしくは化学的な付加もしくは除去など、FcR相互作用を変化させる(排除もしくは増強する)ように、もしくは定義されたグリコシル化パターンを用いて操作された細胞株における発現を変化させるように改変されたグリカンを含む、組換えIgG抗体または抗体断片である、
請求項61~68のいずれか一項記載の方法。
【請求項70】
前記抗体が、キメラ抗体または二重特異性抗体である、請求項61~67のいずれか一項記載の方法。
【請求項71】
前記抗体または抗体断片が、感染前または感染後に投与される、請求項61~70のいずれか一項記載の方法。
【請求項72】
前記対象が、妊娠中の女性、性的に活発な女性、または不妊治療を受けている女性である、請求項61~71のいずれか一項記載の方法。
【請求項73】
送達が、抗体もしくは抗体断片の投与、または抗体もしくは抗体断片をコードするRNA配列もしくはDNA配列もしくはベクターによる遺伝的送達を含む、請求項61~72のいずれか一項記載の方法。
【請求項74】
前記抗体または抗体断片が、未治療対照と比較して、胎盤のサイズを増加させる、請求項61記載の方法。
【請求項75】
前記抗体または抗体断片が、未治療対照と比較して、胎児のウイルス量および/または病態を減少させる、請求項61記載の方法。
【請求項76】
ジカウイルス抗原の抗原完全性、正確な立体配座および/または正確な配列を決定する方法であって、以下の工程を含む方法:
(a)前記抗原を含む試料と、それぞれ表3および表4の、クローンと組の重鎖CDR配列および軽鎖CDR配列を有する第1の抗体または抗体断片とを接触させる工程;ならびに
(b)前記抗原に対する前記第1の抗体または抗体断片の検出可能な結合によって、前記抗原の抗原完全性、正確な立体配座および/または正確な配列を決定する工程。
【請求項77】
前記試料が、組換え生成された抗原を含む、請求項76記載の方法。
【請求項78】
前記試料が、ワクチン製剤またはワクチン生産バッチを含む、請求項76記載の方法。
【請求項79】
検出が、ELISA、RIA、ウエスタンブロット、表面プラズモン共鳴もしくはバイオレイヤー干渉法を使用するバイオセンサー、またはフローサイトメトリー染色を含む、請求項76~78のいずれか一項記載の方法。
【請求項80】
前記第1の抗体または抗体断片が、表1に記載の、クローンと組の可変配列によってコードされる、請求項76~79のいずれか一項記載の方法。
【請求項81】
前記第1の抗体または抗体断片が、表1に記載の、クローンと組の可変配列に対して、70%、80%または90%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列によってコードされる、請求項76~79のいずれか一項記載の方法。
【請求項82】
前記第1の抗体または抗体断片が、表1に記載の、クローンと組の配列に対して95%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列によってコードされる、請求項76~79のいずれか一項記載の方法。
【請求項83】
前記第1の抗体または抗体断片が、表2の、クローンと組の配列の通りの軽鎖可変配列および重鎖可変配列を含む、請求項76~79のいずれか一項記載の方法。
【請求項84】
前記第1の抗体または抗体断片が、表2の、クローンと組の配列に対して、70%、80%または90%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列を含む、請求項76~79のいずれか一項記載の方法。
【請求項85】
前記第1の抗体または抗体断片が、表2の、クローンと組の配列に対して95%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列を含む、請求項76~79のいずれか一項記載の方法。
【請求項86】
前記第1の抗体断片が、組換えscFv(一本鎖断片可変)抗体、Fab断片、F(ab')
2断片またはFv断片である、請求項76~85のいずれか一項記載の方法。
【請求項87】
工程(a)および(b)を再度行って、前記抗原の抗原安定性を経時的に決定する工程をさらに含む、請求項76~86のいずれか一項記載の方法。
【請求項88】
以下の工程をさらに含む、請求項76~87のいずれか一項記載の方法:
(c)前記抗原を含む試料と、それぞれ表3および表4の、クローンと組の重鎖CDR配列および軽鎖CDR配列を有する第2の抗体または抗体断片とを接触させる工程;ならびに
(d)前記抗原に対する前記第2の抗体または抗体断片の検出可能な結合によって、前記抗原の抗原完全性を決定する工程。
【請求項89】
前記第2の抗体または抗体断片が、表1に記載の、クローンと組の可変配列によってコードされる、請求項88記載の方法。
【請求項90】
前記第2の抗体または抗体断片が、表1に記載の、クローンと組の可変配列に対して、70%、80%または90%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列によってコードされる、請求項89記載の方法。
【請求項91】
前記第2の抗体または抗体断片が、表1に記載の、クローンと組の配列に対して95%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列によってコードされる、請求項89記載の方法。
【請求項92】
前記第2の抗体または抗体断片が、表2の、クローンと組の配列の通りの軽鎖可変配列および重鎖可変配列を含む、請求項89記載の方法。
【請求項93】
前記第2の抗体または抗体断片が、表2の、クローンと組の配列に対して、70%、80%または90%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列を含む、請求項89記載の方法。
【請求項94】
前記第2の抗体または抗体断片が、表2の、クローンと組の配列に対して95%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列を含む、請求項89記載の方法。
【請求項95】
前記第2の抗体断片が、組換えscFv(一本鎖断片可変)抗体、Fab断片、F(ab')
2断片またはFv断片である、請求項89記載の方法。
【請求項96】
工程(c)および(d)を再度行って、前記抗原の抗原安定性を経時的に決定する工程をさらに含む、請求項89記載の方法。
【請求項97】
ヒトモノクローナル抗体もしくは抗体断片、またはそれを産生するハイブリドーマもしくは操作された細胞であって、該抗体が、ジカウイルスE2抗原に結合し、高度な四次エピトープを認識し、かつD83、P222、F218およびK123から選択される1つまたは複数の残基を認識する、前記ヒトモノクローナル抗体もしくは抗体断片、またはそれを産生するハイブリドーマもしくは操作された細胞。
【請求項98】
前記エピトープがドメインIIエピトープである、請求項97記載のヒトモノクローナル抗体または抗体断片。
【請求項99】
前記抗体または抗体断片が、残基D83、P222、F218およびK123の各々を認識する、請求項97または98のヒトモノクローナル抗体または抗体断片。
【請求項100】
前記抗体または抗体断片が、少なくとも1つのアフリカ系統のジカウイルスおよび少なくとも1つのアジア系統のジカウイルスを中和する、請求項97~99のいずれか一項記載のヒトモノクローナル抗体または抗体断片。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権主張
本出願は、2019年11月19日に出願された米国特許仮出願第62/937,603号の優先権の恩典を主張し、その内容全体は、参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
連邦政府の資金の陳述
本発明は、国防総省によって授与された助成金番号HR0011-18-2-0001の下、政府の支援で行われた。政府は、本発明においてある一定の権利を有する。
【0003】
1. 本開示の分野
本開示は、一般に、医学、感染症および免疫学の分野に関する。さらに具体的には、本開示は、ジカウイルスに結合するヒト抗体およびその使用に関する。
【背景技術】
【0004】
2. 背景
ZIKVは、新たに出現した蚊が伝播するフラビウイルスであり、世界的な公衆衛生上の脅威になってきている。ミクロネシア、ブラジル、中南米の他の地域、およびメキシコにおける最近のZIKV流行(Duffy et al., 2009)は、成人におけるギラン-バレー症候群、および妊娠中の感染の状況での新生児における小頭蓋症(Oehler et al., 2014;Musso et al., 2014)に結び付けられている(Araugo et al., 2016;Gatherer & Kohl, 2016)。ZIKVは、分布が世界的であるヤブカ属(Aedes)の種の蚊によって伝播されるため、これらの媒介動物が存在する国は、将来流行の場になり得る。数百万人において疾患を引き起こす可能性にもかかわらず、ZIKVのための特定の処置またはワクチンは利用可能ではなく、この分野における考慮すべきまだ満たされていない必要性を残している。
【発明の概要】
【0005】
概要
したがって、本開示によれば、対象のジカウイルス感染を検出する方法であって、(a)前記対象から得られた試料と、それぞれ表3および表4の、クローンと組の重鎖CDR配列および軽鎖CDR配列を有する抗体または抗体断片とを接触させる工程、ならびに(b)前記抗体または抗体断片を前記試料中のジカウイルス抗原に結合させることによって、前記試料中のジカウイルスを検出する工程を含む方法が提供される。試料は、体液、例えば、血液、痰、涙液、唾液、粘膜もしくは血清、精液、子宮頸部分泌物もしくは膣分泌物、羊水、胎盤組織、尿、滲出液、濾出液、組織擦過物または糞便などであり得る。検出は、ELISA、RIA、ラテラルフローアッセイまたはウエスタンブロットを含み得る。方法は、工程(a)および(b)を再度行い、第1のアッセイと比較してジカウイルス抗原レベルの変化を決定する工程をさらに含み得る。抗体または抗体断片は、表1に記載の、クローンと組の可変配列によって、表1に記載の、クローンと組の可変配列に対して、70%、80%もしくは90%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列によって、または表1に記載の、クローンと組の配列に対して95%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列によって、コードされ得る。抗体または抗体断片は、表2の、クローンと組の配列の通りの軽鎖可変配列および重鎖可変配列を含み得るか、表2の、クローンと組の配列に対して、70%、80%もしくは90%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列を含み得るか、または表2の、クローンと組の配列に対して95%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列を含み得る。抗体断片は、組換えscFv(一本鎖断片可変)抗体、Fab断片、F(ab')2断片またはFv断片であり得る。
【0006】
別の態様では、ジカウイルスに感染した対象を治療するか、またはジカウイルスに罹患するリスクがある対象の感染の可能性を低減する方法であって、それぞれ表3および表4の、クローンと組の重鎖CDR配列および軽鎖CDR配列を有する抗体または抗体断片を前記対象に送達する工程を含む方法が提供される。抗体または抗体断片は、表1に記載の、クローンと組の可変配列によって、表1に記載の、クローンと組の可変配列に対して、70%、80%もしくは90%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列によって、または表1に記載の、クローンと組の配列に対して95%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列によって、コードされ得る。抗体または抗体断片は、表2の、クローンと組の配列の通りの軽鎖可変配列および重鎖可変配列を含み得るか、表2の、クローンと組の配列に対して、70%、80%もしくは90%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列を含み得るか、または表2の、クローンと組の配列に対して95%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列を含み得る。抗体断片は、組換えscFv(一本鎖断片可変)抗体、Fab断片、F(ab')2断片またはFv断片であり得る。抗体は、IgGであり得るか、または、LALA、N297、GASD/ALIE、YTEもしくはLS変異など、半減期を増加させるためにおよび/もしくは治療効果を増加させるためにFcR相互作用を変化させる(排除もしくは増強する)ように変異したFc部分、または、グリカンの酵素的もしくは化学的な付加もしくは除去など、FcR相互作用を変化させる(排除もしくは増強する)ように、もしくは定義されたグリコシル化パターンを用いて操作された細胞株における発現を変化させるように改変されたグリカンを含む、組換えIgG抗体または抗体断片であり得る。抗体は、キメラ抗体または二重特異性抗体であり得る。
【0007】
抗体または抗体断片は、感染前または感染後に投与され得る。対象は、妊娠中の女性、性的に活発な女性、または不妊治療を受けている女性であり得る。送達する工程は、抗体もしくは抗体断片の投与、または抗体もしくは抗体断片をコードするRNA配列もしくはDNA配列もしくはベクターによる遺伝的送達を含み得る。
【0008】
さらに別の態様では、モノクローナル抗体が提供され、抗体または抗体断片は、それぞれ表3および表4の、クローンと組の重鎖CDR配列および軽鎖CDR配列を特徴とする。抗体または抗体断片は、表1に記載の、クローンと組の可変配列によって、表1に記載の、クローンと組の可変配列に対して、70%、80%もしくは90%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列によって、または表1に記載の、クローンと組の配列に対して95%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列によって、コードされ得る。抗体または抗体断片は、表2の、クローンと組の配列の通りの軽鎖可変配列および重鎖可変配列を含み得るか、表2の、クローンと組の配列に対して、70%、80%もしくは90%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列を含み得るか、または表2の、クローンと組の配列に対して95%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列を含み得る。抗体断片は、組換えscFv(一本鎖断片可変)抗体、Fab断片、F(ab')2断片またはFv断片であり得る。抗体は、IgGであり得るか、または、LALA、N297、GASD/ALIE、YTEもしくはLS変異など、半減期を増加させるためにおよび/もしくは治療効果を増加させるためにFcR相互作用を変化させる(排除もしくは増強する)ように変異したFc部分、または、グリカンの酵素的もしくは化学的な付加もしくは除去など、FcR相互作用を変化させる(排除もしくは増強する)ように、もしくは定義されたグリコシル化パターンを用いて操作された細胞株における発現を変化させるように改変されたグリカンを含む、組換えIgG抗体または抗体断片であり得る。抗体は、キメラ抗体または二重特異性抗体であり得る。抗体または抗体断片は、細胞透過性ペプチドをさらに含み得、および/またはイントラボディである。
【0009】
またさらに別の態様では、抗体または抗体断片をコードするハイブリドーマまたは操作された細胞が提供され、抗体または抗体断片は、それぞれ表3および表4の、クローンと組の重鎖CDR配列および軽鎖CDR配列を特徴とする。ハイブリドーマまたは操作された細胞は、表1に記載の、クローンと組の可変配列によって、表1に記載の、クローンと組の可変配列に対して、70%、80%もしくは90%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列によって、または表1に記載の、クローンと組の配列に対して95%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列によって、コードされ得る抗体または抗体断片をコードし得る。ハイブリドーマまたは操作された細胞は、表2の、クローンと組の配列の通りの軽鎖可変配列および重鎖可変配列を含む抗体または抗体断片をコードし得、表2の、クローンと組の配列に対して、70%、80%もしくは90%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列を含み得、または表2の、クローンと組の配列に対して95%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列を含み得る。ハイブリドーマまたは操作された細胞は、組換えscFv(一本鎖断片可変)抗体、Fab断片、F(ab')2断片またはFv断片であり得る、抗体断片をコードし得る。ハイブリドーマまたは操作された細胞は、IgGであるか、または、LALA、N297、GASD/ALIE、YTEもしくはLS変異など、半減期を増加させるためにおよび/もしくは治療効果を増加させるためにFcR相互作用を変化させる(排除もしくは増強する)ように変異したFc部分、または、グリカンの酵素的もしくは化学的な付加もしくは除去など、FcR相互作用を変化させる(排除もしくは増強する)ように、もしくは定義されたグリコシル化パターンを用いて操作された細胞株における発現を変化させるように改変されたグリカンを含む組換えIgG抗体または抗体断片である抗体をコードし得る。ハイブリドーマまたは操作された細胞は、キメラ抗体または二重特異性抗体をコードし得る。ハイブリドーマまたは操作された細胞は、細胞透過性ペプチドをさらに含む、および/またはイントラボディである、抗体または抗体断片をコードし得る。
【0010】
さらなる態様では、それぞれ表3および表4の、クローンと組の重鎖CDR配列および軽鎖CDR配列を特徴とする1つまたは複数の抗体または抗体断片を含むワクチン製剤が提供される。抗体または抗体断片は、表1に記載の、クローンと組の可変配列によって、表1に記載の、クローンと組の可変配列に対して、70%、80%もしくは90%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列によって、または表1に記載の、クローンと組の配列に対して95%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列によって、コードされ得る。抗体または抗体断片は、表2の、クローンと組の配列の通りの軽鎖可変配列および重鎖可変配列を含み得るか、表2の、クローンと組の配列に対して、70%、80%もしくは90%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列を含み得るか、または表2の、クローンと組の配列に対して95%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列を含み得る。抗体断片は、組換えscFv(一本鎖断片可変)抗体、Fab断片、F(ab')2断片またはFv断片であり得る。抗体は、IgGであり得るか、または、LALA、N297、GASD/ALIE、YTEもしくはLS変異など、半減期を増加させるためにおよび/もしくは治療効果を増加させるためにFcR相互作用を変化させる(排除もしくは増強する)ように変異したFc部分、または、グリカンの酵素的もしくは化学的な付加もしくは除去など、FcR相互作用を変化させる(排除もしくは増強する)ように、もしくは定義されたグリコシル化パターンを用いて操作された細胞株における発現を変化させるように改変されたグリカンを含む、組換えIgG抗体または抗体断片であり得る。抗体は、キメラ抗体または二重特異性抗体であり得る。抗体または抗体断片は、細胞透過性ペプチドをさらに含み得、および/またはイントラボディである。
【0011】
また、本明細書において記載されるような第1の抗体または抗体断片をコードする1つまたは複数の発現ベクターを含むワクチン製剤も提供される。発現ベクターは、シンドビスウイルスベクターまたはVEEベクターであり得る。ワクチン製剤は、針注射、ジェット注射またはエレクトロポレーションによる送達のために製剤化され得る。ワクチン製剤は、第2の抗体または抗体断片、例えば、本明細書に記載されるような別個の抗体または抗体断片をコードする1つまたは複数の発現ベクターをさらに含み得る。
【0012】
追加の態様では、ジカウイルスに感染したか、またはジカウイルスに感染するリスクがある妊娠中の対象の胎盤および/または胎児の健康を保護する方法であって、それぞれ表3および表4の、クローンと組の重鎖CDR配列および軽鎖CDR配列を有する抗体または抗体断片を前記対象に送達する工程を含む方法が提供される。抗体または抗体断片は、表1に記載の、クローンと組の可変配列によって、表1に記載の、クローンと組の可変配列に対して、70%、80%もしくは90%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列によって、または表1に記載の、クローンと組の配列に対して95%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列によって、コードされ得る。抗体または抗体断片は、表2の、クローンと組の配列の通りの軽鎖可変配列および重鎖可変配列を含み得るか、表2の、クローンと組の配列に対して、70%、80%もしくは90%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列を含み得るか、または表2の、クローンと組の配列に対して95%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列を含み得る。抗体断片は、組換えscFv(一本鎖断片可変)抗体、Fab断片、F(ab')2断片またはFv断片であり得る。抗体は、IgGであり得るか、または、LALA、N297、GASD/ALIE、YTEもしくはLS変異など、半減期を増加させるためにおよび/もしくは治療効果を増加させるためにFcR相互作用を変化させる(排除もしくは増強する)ように変異したFc部分、または、グリカンの酵素的もしくは化学的な付加もしくは除去など、FcR相互作用を変化させる(排除もしくは増強する)ように、もしくは定義されたグリコシル化パターンを用いて操作された細胞株における発現を変化させるように改変されたグリカンを含む、組換えIgG抗体または抗体断片であり得る。抗体は、キメラ抗体または二重特異性抗体であり得る。抗体または抗体断片は、細胞透過性ペプチドをさらに含み得、および/またはイントラボディである。
【0013】
抗体または抗体断片は、感染前または感染後に投与され得る。対象は、妊娠中の女性、性的に活発な女性、または不妊治療を受けている女性であり得る。送達する工程は、抗体もしくは抗体断片の投与、または抗体もしくは抗体断片をコードするRNA配列もしくはDNA配列もしくはベクターによる遺伝的送達を含み得る。抗体または抗体断片は、未治療対照と比較して、胎盤のサイズを増加させ得る。抗体または抗体断片は、未治療対照と比較して、胎児のウイルス量および/または病態を減少させ得る。
【0014】
追加の態様では、ジカウイルス抗原の抗原完全性、正確な立体配座および/または正確な配列を決定する方法であって、(a)前記抗原を含む試料と、それぞれ表3および表4の、クローンと組の重鎖CDR配列および軽鎖CDR配列を有する第1の抗体または抗体断片とを接触させる工程、ならびに(b)前記抗原に対する前記第1の抗体または抗体断片の検出可能な結合によって、前記抗原の抗原完全性、正確な立体配座および/または正確な配列を決定する工程を含む方法が提供される。試料は、組換え生成された抗原、またはワクチン製剤もしくはワクチン生産バッチを含み得る。検出は、ELISA、RIA、ウエスタンブロット、表面プラズモン共鳴もしくはバイオレイヤー干渉法を使用するバイオセンサー、またはフローサイトメトリー染色を含み得る。
【0015】
第1の抗体または抗体断片は、表1に記載の、クローンと組の可変配列によって、表1に記載の、クローンと組の可変配列に対して、70%、80%もしくは90%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列によって、または表1に記載の、クローンと組の配列に対して95%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列によってコードされ得る。第1の抗体または抗体断片は、表2の、クローンと組の配列の通りの軽鎖可変配列および重鎖可変配列を含み得るか、表2の、クローンと組の配列に対して、70%、80%もしくは90%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列を含み得るか、または表2の、クローンと組の配列に対して95%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列を含み得る。第1の抗体断片は、組換えscFv(一本鎖断片可変)抗体、Fab断片、F(ab')2断片またはFv断片であり得る。第1の抗体は、IgGであり得るか、または、LALA、N297、GASD/ALIE、YTEもしくはLS変異など、半減期を増加させるためにおよび/もしくは治療効果を増加させるためにFcR相互作用を変化させる(排除もしくは増強する)ように変異したFc部分、または、グリカンの酵素的もしくは化学的な付加もしくは除去など、FcR相互作用を変化させる(排除もしくは増強する)ように、もしくは定義されたグリコシル化パターンを用いて操作された細胞株における発現を変化させるように改変されたグリカンを含む、組換えIgG抗体または抗体断片であり得る。第1の抗体は、キメラ抗体または二重特異性抗体であり得る。第1の抗体または抗体断片は、細胞透過性ペプチドをさらに含み得、および/またはイントラボディである。方法は、工程(a)および(b)を再度行って、抗原の抗原安定性を経時的に決定する工程をさらに含み得る。
【0016】
方法は、(c)前記抗原を含む試料と、それぞれ表3および表4の、クローンと組の重鎖CDR配列および軽鎖CDR配列を有する第2の抗体または抗体断片とを接触させる工程、ならびに(d)前記抗原に対する前記第2の抗体または抗体断片の検出可能な結合によって、前記抗原の抗原完全性を決定する工程をさらに含み得る。第2の抗体または抗体断片は、表1に記載の、クローンと組の可変配列によって、表1に記載の、クローンと組の可変配列に対して、70%、80%もしくは90%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列によって、または表1に記載の、クローンと組の配列に対して95%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列によって、コードされ得る。第2の抗体または抗体断片は、表2の、クローンと組の配列の通りの軽鎖可変配列および重鎖可変配列を含み得るか、表2の、クローンと組の配列に対して、70%、80%もしくは90%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列を含み得るか、または表2の、クローンと組の配列に対して95%の同一性を有する軽鎖可変配列および重鎖可変配列を含み得る。第2の抗体断片は、組換えscFv(一本鎖断片可変)抗体、Fab断片、F(ab')2断片またはFv断片であり得る。第2の抗体は、IgGであり得るか、または、LALA、N297、GASD/ALIE、YTEもしくはLS変異など、半減期を増加させるためにおよび/もしくは治療効果を増加させるためにFcR相互作用を変化させる(排除もしくは増強する)ように変異したFc部分、または、グリカンの酵素的もしくは化学的な付加もしくは除去など、FcR相互作用を変化させる(排除もしくは増強する)ように、もしくは定義されたグリコシル化パターンを用いて操作された細胞株における発現を変化させるように改変されたグリカンを含む、組換えIgG抗体または抗体断片であり得る。第2の抗体は、キメラ抗体または二重特異性抗体であり得る。第2の抗体または抗体断片は、細胞透過性ペプチドをさらに含み得、および/またはイントラボディである。方法は、工程(c)および(d)を再度行って、抗原の抗原安定性を経時的に決定する工程をさらに含み得る。
【0017】
またさらなる態様において、ヒトモノクローナル抗体もしくは抗体断片、またはそれを産生するハイブリドーマもしくは操作された細胞が提供され、該抗体は、ジカウイルスE2抗原に結合し、高度な四次エピトープを認識し、かつD83、P222、F218およびK123から選択される1つまたは複数の残基を認識する。エピトープは、ドメインIIエピトープであり得る。抗体または抗体断片は、残基D83、P222、F218およびK123の各々を認識し得る。抗体または抗体断片は、少なくとも1つのアフリカ系統のジカウイルスおよび少なくとも1つのアジア系統のジカウイルスを中和し得る。
【0018】
特許請求の範囲および/または明細書において用語「含む(comprising)」と組み合わせて使用される場合の単語「a」または「an」の使用は、「1つ」を意味し得るが、「1つまたは複数」、「少なくとも1つ」および「1つまたは1つを超える」の意味とも一致する。単語「約」は、記載された数の±5%を意味する。
【0019】
本明細書において記載される任意の方法または組成物は、本明細書において記載される任意の他の方法または組成物に関して実施することができることが企図される。本開示の他の目的、特徴および利点は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。ただし、本開示の趣旨および範囲内の様々な変更および修正は、この詳細な説明から当業者には明らかになると考えられるため、詳細な説明および具体的な例は、本開示の具体的な態様を示しているが、例示としてのみ与えられていることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
以下の図面は、本明細書の一部を形成し、本開示の特定の局面をさらに実証するために含まれている。本開示は、本明細書において提示される具体的な態様の詳細な説明と組み合わせて、これらの図面のうちの1つまたは複数を参照することによってさらによく理解され得る。
【0021】
【
図1】
図1A~D:ZIKV E2抗原特異的ヒトB細胞からの抗体遺伝子のレスキューおよび配列分析。(
図1A)利用可能な対象のPBMCからのZIKV E2抗原特異的B細胞の頻度の評価。プロットは、生存B細胞にゲーティングしている。(
図1B)ZIKV E2抗原特異的B細胞の標識および選別のための2つのアプローチ。赤い矢印は、選別された細胞を示す。(
図1C)ヒトCD40L、IL-21およびBAFFを発現するように操作された放射線照射3T3細胞株を用いた、選別されたB細胞のインビトロ拡大増殖。(
図1D)合成用のmAb配列を選択するためのバイオインフォマティクスフィルタリング工程。
【
図2-1】
図2A~E:インビボ防御研究用のリード候補を特定するためのハイスループットmAb産生およびスクリーニング。(
図2A)微小規模で精製されたmAbの定量。1,000種類未満の mAbを同時に精製する能力を示す例となるプレート(左、未公開のデータ)およびZIKV mAb発見研究のための推定mAb濃度(右)を示す。左のパネルの各ドットは、個々のmAbの濃度を示す。LOD - 検出限界(5μg/mL)。濃度がLODよりも下であったmAb(123種類のmAb)の値は、5μg/mL(LOD)に設定した。mAb濃度の中央値(286μg/mL)を、紫色の線で示す。(
図2B)xCelligence(Acea Biosciences)アナライザーでのリアルタイム細胞分析(RTCA)細胞インピーダンスアッセイを用いたmAbの中和活性のハイスループットスクリーニング。96ウェルEプレートの単一ウェルからのシャドウ電極および接着Vero細胞(細胞変性効果[CPE]を視覚化するためのウイルスありおよびウイルスなし)の拡大明視野画像を、上のパネルに示す。中央のパネルは、中和mAbの存在下または非存在下でZIKVを接種したVero細胞についての代表的なリアルタイムインピーダンス測定曲線を示す。二連のアッセイの平均+/-SEMを示す。最高の中和活性を有するmAbの迅速な特定を示す、96ウェルEプレート測定値由来の例となるRTCA反応速度曲線を、下のパネルに示す。
【
図2-2】
図2A~E:インビボ防御研究用のリード候補を特定するためのハイスループットmAb産生およびスクリーニング。(
図2C)OD
450 nm ELISA値のヒートマップとして示される、ZIKVパネルの598種類の微小規模で精製されたmAbの組換えE2抗原結合(列当たり98~100 mAbの6列)。0.4のOD
450 nm(陰性対照の5倍上)を、mAb反応性の閾値として設定した。各精製mAbを、(固定された100μlの体積で)微小規模で精製された試料から単一希釈(40倍または100倍)で試験し、mAbの濃度は正規化しなかった。(
図2D)パネルの個々のmAbの結合と中和活性との間の関係を示すヒートマップ(列当たり98~100 mAbの6列)。結合は、
図2Cにおけるように決定した。中和活性は、微小規模で精製されたmAbから単一の25倍希釈で、またはCHO細胞培養上清から直接測定した。mAbは、ブラジル(またはいくつかの実験においてはダカール)ウイルス株のいずれかに対してVero細胞培養物におけるCPEを部分的にまたは完全に阻害した場合には、中和するとみなした。試験したmAb濃度の推定範囲は、<50 ng/ml~>50マイクログラム/mlであった。(
図2E)精製mAbのIC
50値を評価することによる中和効力のランク付け。上位20種類の中和mAbを示し、ブラジル株ウイルスおよびダカール株ウイルスについてのそのIC
50値を、数字でおよびヒートマップとして示す。
【
図3A】
図3Aa~Cc:迅速に発見されたZIKVに対するヒトmAbのリード治療候補によって認識されるエピトープ。(
図3Aa~c)中和mAbを代表する各々の最も強力なクラスの組換えE2抗原ELISA結合用量反応曲線。無関係の呼吸器合胞体ウイルス(RSV)融合タンパク質(F)抗原に特異的であるMAb rRSV-90が、陰性対照として機能した。
【
図3B】
図3Aa~Cc:迅速に発見されたZIKVに対するヒトmAbのリード治療候補によって認識されるエピトープ。(
図3Ba~c)ウイルス中和。RTCA細胞インピーダンスアッセイによって決定された、ブラジル株ウイルスおよびダカール株ウイルスに対する用量反応中和曲線。示されるデータは、三連のアッセイの平均+/1 SDである。IC
50値は、可変勾配分析による非線形フィットを用いて、8つの3倍mAb希釈液の経時的な細胞指数変化として推定した。
【
図3C】
図3Aa~Cc:迅速に発見されたZIKVに対するヒトmAbのリード治療候補によって認識されるエピトープ。(
図3Ca~c)重要なエピトープ接触残基を、細胞表面に提示されたprM/Eタンパク質のライブラリーにおいてアラニン走査変異誘発を用いて決定した。
【
図4】
図4A~D:マウスにおけるRNA送達または抗体タンパク質処置によって媒介されるZIKVでの致死的攻撃に対する防御。4週齢C57Bl6/J(B6)マウスの群(群当たりn=5~14)を、-1日目に抗IFN-α受容体抗体でi.p.処置した。予防のためには、マウスを、同じ日(-1日目)にi.p.経路によって、示された量のmAbで処置した。治療的防御研究のためには、マウスを、ウイルス攻撃の1日後(1 dpi)にmAbで処置した。0日目に、マウスを、1,000 FFUのマウス適応ZIKVダカール株ウイルス(ZIKV-MA)でs.q.攻撃し、生存を21日間モニタリングした。血漿中のウイルス量を、2 dpiにRT-PCRによって評価した。以前に報告されたZIKV-117 mAbが、陽性対照として機能した。陰性対照には、インフルエンザA H1N1血球凝集素タンパク質に特異的である、IgG1 mAb 5J8での処置が含まれた。(
図4A)70マイクログラム/マウスmAb用量での予防(d-1処置)について推定されたKaplan-Meier生存曲線。RT-qPCRによって決定されたZIKV血漿力価(2 dpi)(
図4B)、および9 g/マウスmAb用量での予防(d-1処置)について推定されたKaplan-Meier生存曲線(
図4C)。(
図4D)9マイクログラム/マウスmAb用量での治療的(1 dpi)処置について推定されたKaplan-Meier生存曲線。
図4Bにおいて、ドットは、個々のマウスからの測定値を示し、アッセイの検出限界(2.9 log
10(GEQ/mL))よりも下の値は、LODに設定した。各処置群由来のウイルス力価を、Dunnettの多重比較検定とともに一元配置分散分析を用いて、対照群と比較し、約95% CIの中央値を
図4Bに示す。
図4A、4Cおよび4Dにおける生存曲線を、両側log-rank 検定(Mantel-Cox)を用いて比較し、対象は、研究の終わりまで生存していた場合には右側打ち切りとした。各群を対照群と比較した。p<0.05を、有意とみなし、多重検定の補正のために調整しなかった。
*p<0.05;
**p<0.01;
***p<0.001;ns-有意ではない。
【
図5】
図5:ZIKVに対する強力なヒト抗体の迅速な発見のためのワークフロー。
【
図6】
図6:RNA送達でのインビボ防御。予防的処置、40μgのRNA用量。
【
図7】
図7:RNA送達でのインビボ防御。予防的処置、40μgのRNA用量。
【発明を実施するための形態】
【0022】
例示的な態様の説明
上記で議論されたように、ジカウイルス(ZIKV)感染は、全身および中枢神経系の病状または疾患を引き起こし、先天性の出生時欠損症は妊娠中の感染に結び付けられている(Coyne et al., 2016)。ZIKVに対する候補治療剤を開発するために、本発明者らは、以前にZIKVに感染した健康な対象からヒトモノクローナル抗体(mAb)のパネルを単離した。本発明者らは、次いで、様々なモデルにおいて治療効果を評価した。本開示のこれらのおよび他の局面を、以下に詳細に説明する。
【0023】
I. ジカウイルス
ジカウイルス(ZIKV)は、フラビウイルス(Flaviviridae)科のウイルスのメンバーである。これは、ネッタイシマカ(A. aegypti)およびヒトスジシマカ(A. albopictus)などの日中に活動的なヤブカ属の蚊によって広がる。その名称は、ウイルスが1947年に最初に単離されたウガンダのジカ森に由来している。ジカウイルスは、デング熱、黄熱病、日本脳炎、および西ナイルウイルスに関連している。1950年代から、アフリカからアジアまでの狭い赤道地帯内で発生することが知られている。2007年から2016年に、ウイルスは、東方へ、太平洋を渡ってアメリカまで広がり、2015~16年のジカウイルス流行をもたらした。
【0024】
ジカ熱またはジカウイルス病として知られる感染症は、多くの場合、非常に軽度のデング熱と同様に、いかなる症状も引き起こさないか、または軽度の症状のみを引き起こす。特定の処置はないが、パラセタモール(アセトアミノフェン)および休息が、症状を改善し得る。2016年の時点で、病気を投薬またはワクチンによって予防することはできない。ジカはまた、妊婦からその胎児に広がる場合もある。これは、小頭蓋症、重度の脳奇形、および他の出生時欠損症をもたらす場合がある。成人におけるジカ感染は、まれにギラン-バレー症候群をもたらし得る。
【0025】
2016年1月に、米国疾病管理予防センター(CDC)は、強化された予防措置の使用を含む、影響を受けている国についての旅行ガイダンス、および旅行の延期を考えることを含む、妊婦のためのガイドラインを発した。他の政府または保健機関もまた、同様の旅行警告を発し、コロンビア、ドミニカ共和国、プエルトリコ、エクアドル、エルサルバドル、およびジャマイカは、リスクについてより多くが知られるまで妊娠を延期するように女性に助言した。
【0026】
ジカウイルスは、フラビウイルス科およびフラビウイルス(Flavivirus)属に属し、したがって、デング熱、黄熱病、日本脳炎、および西ナイルウイルスに関連している。他のフラビウイルスと同様に、ジカウイルスは、エンベロープを有し、正二十面体であり、セグメント化されていない一本鎖10 kbポジティブセンスRNAゲノムを有する。これは、スポンドウェニ(Spondweni)ウイルスに最も密接に関連しており、スポンドウェニウイルスクレードにおける2つの既知ウイルスのうちの1つである。
【0027】
ポジティブセンスRNAゲノムは、ウイルスタンパク質に直接翻訳され得る。同様のサイズの西ナイルウイルスなどの他のフラビウイルスにおけるように、RNAゲノムは、7つの非構造タンパク質および3つの構造タンパク質をコードする。構造タンパク質のうちの1つは、ウイルスをカプセル化する。RNAゲノムは、12 kDaのキャプシドタンパク質のコピーとともにヌクレオキャプシドを形成する。ヌクレオキャプシドは、次に、2つのウイルス糖タンパク質で修飾された宿主由来の膜内に包まれる。ウイルスゲノムの複製は、一本鎖ポジティブセンスRNA(ssRNA(+))ゲノムからの両側RNAの合成、ならびにそれに続くウイルスmRNAおよび新しいssRNA(+)ゲノムを提供するための転写および複製に依存する。
【0028】
2つのジカ系統:アフリカ系統およびアジア系統がある。系統発生的研究により、アメリカにおいて広がっているウイルスは、アフリカ遺伝子型に対して89%同一であるが、2013年~2014年のアウトブレイク中にフランス領ポリネシアにおいて流行したアジア株に最も密接に関連していることが示されている。
【0029】
ウイルスの脊椎動物宿主は、主に、いわゆる地方病性の蚊-サル-蚊サイクルにおけるサルであり、時折ヒトへの伝播を伴うだけであった。現在のパンデミックが2007年に始まる前は、ジカは、「非常に地方病性の地域においてさえ、ヒトにおいて認識される「スピルオーバー」感染症をめったに引き起こさなかった」。しかし、たまに、他のアルボウイルスが、黄熱病ウイルスおよびデング熱ウイルス(両方ともフラビウイルス)、ならびにチクングンヤウイルス(トガウイルス)のように、ヒト疾患として確立され始め、蚊-ヒト-蚊サイクルで広がっている。パンデミックの理由は不明であるが、同じ種の蚊である媒介動物に感染する関連アルボウイルスのデングは、特に、都市化およびグローバル化によって増倍したことが知られている。ジカは、主にネッタイシマカである蚊によって広まり、性的接触または輸血を通して伝播される場合もある。ジカウイルスの基本再生産数(R0、伝播性の尺度)は、1.4から6.6の間であると推定されている。
【0030】
2015年に、ニュース報道は、ラテンアメリカおよびカリブ海におけるジカの急速な広がりに注目した。当時、汎米保健機構は、バルバドス、ボリビア、ブラジル、コロンビア、ドミニカ共和国、エクアドル、エルサルバドル、フランス領ギアナ、グアドループ、グアテマラ、ガイアナ、ハイチ、ホンジュラス、マルティニーク、メキシコ、パナマ、パラグアイ、プエルトリコ、サンマルタン、スリナム、およびベネズエラを含む、「局所的ジカウイルス伝播」を経験した国および領土のリストを公開した。2016年8月までに、50か国よりも多くが、ジカウイルスの活発な(局所的な)伝播を経験した。
【0031】
ジカは、主に、たいてい日中に活動的である雌のネッタイシマカである蚊によって広まるが、研究者は、一般的なイエカ属(Culex)の家蚊において同様にウイルスを見出している。蚊は、卵を産むために血液を摂食しなければならない。ウイルスはまた、A.アフリカヌス(A. africanus)、A.アピコアルゼンテウス(A. apicoargenteus)、A.フルシファー(A. furcifer)、A.ヘンシリ(A. hensilli)、A.ルテオセファルス(A. luteocephalus)、およびA.ビタツス(A. vittatus)などの、多数のヤブカ属の樹上性蚊種からも単離されており、約10日の蚊における外因性インキュベーション期間を有する。
【0032】
媒介動物の真の範囲は、依然として不明である。ジカは、アノフェレス・コウスタニ(Anopheles coustani)、アシマダラヌマカ(Mansonia uniformis)、およびキュレックス・パーフスクス(Culex perfuscus)とともに、ヤブカ属のさらに多くの種において検出されているが、これだけではそれらに媒介動物として罪を負わせない。
【0033】
タイガーモスキートであるヒトスジシマカによる伝播は、2007年のガボンにおける都市アウトブレイクから報告され、ガボンにおいて、それは新たに国に侵入し、チクングンヤウイルスおよびデングウイルスの同時アウトブレイクの主要な媒介動物になった。イタリアに輸入された実験室で確認されたジカ感染症の最初の2症例は、フランス領ポリネシアから戻ったウイルス血症の旅行者から報告されたため、ヒトスジシマカが蔓延しているヨーロッパ諸国の都市部においては自所性感染の懸念がある。
【0034】
ジカの潜在的な社会的リスクは、それを伝播する蚊種の分布によって区切ることができる。ジカの最も挙げられる保有者であるネッタイシマカの世界的な分布は、世界的な貿易および旅行のために拡大している。ネッタイシマカの分布は今、北米およびさらにはヨーロッパの周辺地域(マデイラ、オランダ、および北東の黒海沿岸)を含むすべての大陸にわたり、これまでに記録された中で最も広範囲である。ジカを保有する能力をもつ蚊の集団が、ワシントンD.C.のキャピトルヒル近隣において見出されており、遺伝的証拠により、それらがその領域において少なくとも4回連続して冬を生き延びたことが示唆されている。研究の著者は、蚊が北部の気候における存続に適応していると結論付ける。ジカウイルスは、感染後約1週間、蚊を介して接触伝染性のようである。ウイルスは、精液を介して伝播される場合、より長い感染後の期間(少なくとも2週間)感染性であると考えられている。
【0035】
その生態学的ニッチの研究により、ジカは、デングよりも大きい程度、降水量および気温の変化によって影響を受ける可能性があり、熱帯地域に限定される可能性がより高いことが示唆されている。しかし、世界的な気温の上昇は、疾患の媒介動物がその範囲をさらに北に拡大することを可能にし、ジカが続くことを可能にするであろう。
【0036】
ジカは、男性および女性からその性的パートナーに伝播される場合がある。2016年4月の時点で、ジカの性的感染は、2015年のアウトブレイク中に、アルゼンチン、チリ、フランス、イタリア、ニュージーランド、および米国の6か国において記録されている。
【0037】
2014年に、実験室の培養において増殖する能力を有するジカが、男性の精液において、彼がジカ熱に罹患した少なくとも2週間(恐らく最大で10週間)後に見出された。2011年に、研究により、セネガルにおいて蚊を研究している間に何度も刺されていた米国の生物学者が、2008年から米国の外に行ったことがなかった彼の妻と無防護性交する前ではない、2008年8月に帰宅した6日後に、症状を発症したことが見出された。夫婦は両方とも、ジカ抗体を有することが確認され、性的感染の可能性の認識が高まった。2016年2月初旬に、ダラス郡保健福祉省(Dallas County Health and Human Services department)は、海外を旅行したことがなかったテキサス州の男性が、彼の男性の単婚性的パートナーが症状の発症の1日前および1日後に彼と肛門挿入性交した後に感染していたことを報告した。2016年2月の時点で、可能性のある性的感染の14の追加症例が調査中であったが、女性がその性的パートナーにジカを伝播させ得るかどうかは不明のままであった。当時、「男性の尿生殖管における排出の発生率および持続期間は、1症例の報告に限定されていた」という理解があった。したがって、CDC暫定ガイドラインは、性的感染のリスクを評価する目的で男性を試験することを推奨しなかった。
【0038】
2016年3月に、CDCは、カップルの予防措置の長さについてのその推奨を更新し、ジカ熱またはジカの症状を確認した男性との異性のカップルは、症状が始まった後少なくとも6ヶ月間、コンドームを用いることまたは挿入性交(すなわち、膣性交、肛門性交、もしくはフェラチオ)をしないことを考えるべきであると助言した。これには、ジカを有する地域に住む男性、およびその地域に旅行した男性が含まれる。ジカを有する地域に旅行したが、ジカの症状を発症しなかった男性とのカップルは、リスクを最小限に抑えるために、その帰国後少なくとも8週間、コンドームを用いることまたは性交しないことを考えるべきである。ジカを有する地域に住むが、症状を発症していない男性とのカップルは、その地域において活発なジカの伝播がある間、コンドームを用いることまたは性交しないことを考える可能性がある。ジカウイルスは、妊娠中または分娩時に、感染した母親からその胎児に広がる場合がある。
【0039】
2016年4月の時点で、2症例の輸血を通したジカ伝播が、両方ともブラジルから、世界的に報告されており、その後、米国食品医薬品局(FDA)は、血液ドナーをスクリーニングすることおよび高リスクドナーを4週間遅らせることを推奨した。潜在的リスクが、フランス領ポリネシアのジカアウトブレイク中の血液ドナースクリーニング研究に基づいて疑われており、その研究では、2013年11月から2014年2月のドナーの2.8%(42人)が、ジカRNAが試験で陽性であり、献血の時にはすべて無症候性であった。陽性ドナーのうち11人は、寄付後にジカ熱の症状を報告したが、34試料のうち3つだけが、培養において増殖した。
【0040】
ジカウイルスは、蚊の中腸上皮細胞、および次いでその唾液腺細胞において複製する。5~10日後に、ウイルスを、蚊の唾液中に見出すことができる。蚊の唾液が、ヒトの皮膚中に接種された場合には、ウイルスは、表皮ケラチノサイト、皮膚における皮膚線維芽細胞、およびランゲルハンス細胞に感染することができる。ウイルスの病因は、リンパ節および血流への広がりを伴って継続すると仮定されている。フラビウイルスは一般に、細胞質において複製するが、ジカ抗原は、感染した細胞核において見出されている。
【0041】
ジカ熱(ジカウイルス病としても知られる)は、ジカウイルスによって引き起こされる病気である。ほとんどの症例は、いかなる症状も有さないが、存在する場合、それらは通常軽度であり、デング熱に似ている場合がある。症状は、発熱、目の充血、関節痛、頭痛、および斑点状丘疹を含み得る。症状は一般に、7日未満続く。それは、初期感染中にいかなる報告された死も引き起こしたことがない。妊娠中の感染は、何人かの赤ちゃんにおいて小頭蓋症および他の脳奇形を引き起こす。成人における感染は、ギラン-バレー症候群(GBS)に結び付けられている。診断は、人が病気である時に、ジカウイルスRNAの存在について血液、尿、または唾液を試験することによる。
【0042】
予防は、疾患が発生している地域において蚊による刺傷を減少させること、およびコンドームの妥当な使用を含む。刺傷を予防する努力は、昆虫忌避剤の使用、体の多くを衣服で覆うこと、蚊帳、および蚊が繁殖するよどんだ水を除くことを含む。いかなる有効なワクチンもない。保健当局は、2015~16年のジカアウトブレイクによって影響を受けた地域における女性は、妊娠を先延ばしするように考えること、および妊娠中の女性はこれらの地域に旅行しないことを推奨した。特定の処置はないが、パラセタモール(アセトアミノフェン)および休息が、症状を改善し得る。入院は、めったに必要とされない。
【0043】
フラビウイルス科のいくつかのウイルスに対する有効なワクチンが存在しており、すなわち、黄熱病ワクチン、日本脳炎ワクチン、およびダニ媒介脳炎ワクチンは1930年代から、デング熱ワクチンは2010年代半ばから存在している。世界保健機関(WHO)の専門家は、妊娠中の女性および妊娠可能年齢の女性において使用するのに安全である、不活化ワクチンおよび他の非生ワクチンの開発が優先されるべきであることを示唆している。
【0044】
2016年3月の時点で、18の企業および機関が国際的に、ジカに対するワクチンを開発していたが、ワクチンは約10年間、広く利用可能である可能性が低かった。2016年6月に、FDAは、ジカワクチンについてヒト臨床試験の最初の承認を与えた。
【0045】
ウイルスは、1947年4月に、黄熱病研究所(Yellow Fever Research Istitute)の科学者によって、ビクトリア湖近くのウガンダのジカ森において檻中に置かれていたアカゲザルから最初に単離された。A.アフリカヌスの蚊からの2回目の単離が、1948年1月に同じ場所で続いた。サルが発熱を発症した時に、研究者はその血清から「濾過可能な伝播性物質」を単離し、それが1948年にジカと名付けられた。
【0046】
ジカは、1952年に発表されたウガンダおよびナイジェリアにおける血清学的調査の結果から、ヒトに感染することが知られていた。全年齢の84人のうち、50人の個体はジカに対する抗体を有しており、40歳よりも上の年齢はすべて免疫があった。インドにおいて実施された1952年の調査研究により、ジカについて試験されたインド人の「有意な数」が、ウイルスに対する免疫応答を呈していたことが示され、それがヒト集団内で長い間広まっていたことが示唆された。
【0047】
ヒトからのジカの単離が発表されたのは、1954年になってからであった。これは、黄熱病であると疑われた黄疸の1952年のアウトブレイク調査の一部として行われた。それは、低度の発熱、頭痛、およびマラリアの証拠を有するが、黄疸は有さず、3日以内に回復した、10歳のナイジェリアの女性の血液において見出された。血液を、実験用マウスの脳中に注入し、その後最大で15回のマウス継代を行った。次いで、マウスの脳由来のウイルスを、ジカに対して特異的に免疫があるアカゲザル血清を用いた中和試験において試験した。対照的に、発熱、黄疸、咳、1人におけるびまん性関節痛、ならびに発熱、頭痛、目の後ろおよび関節における疼痛を有する2人の感染した成人の血液からは、いかなるウイルスも単離されなかった。感染は、ジカ特異的血清抗体の上昇によって証明された。
【0048】
1951年から1983年までに、ジカのヒト感染の証拠は、中央アフリカ共和国、エジプト、ガボン、シエラレオネ、タンザニア、およびウガンダなどの他のアフリカ諸国から、ならびにインド、インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナム、およびパキスタンを含むアジアの一部において報告された。その発見から2007年まで、アフリカおよび東南アジアからのジカ感染の確認されたヒト症例は14のみであった。
【0049】
2007年4月に、アフリカおよびアジア以外での最初のアウトブレイクが、ミクロネシア連邦のヤップ島において起こり、これは、発疹、結膜炎、および関節痛を特徴とし、最初はデング熱、チクングンヤ熱、またはロスリバー病と考えられた。病気の急性期にある患者由来の血清試料は、ジカのRNAを含有していた。確認された症例は49、未確認の症例は59であり、入院はなく、かつ死亡もなかった。2013年から2014年の間に、さらなる流行が、フランス領ポリネシア、イースター島、クック諸島、およびニューカレドニアにおいて起こった。2016年3月22日に、ロイターは、遡及的研究の一部として、バングラデシュのチッタゴンにおける初老男性の2014年の血液試料からジカが分離されたことを報告した。
【0050】
2016年初めの時点で、ジカの広範なアウトブレイクは、主にアメリカにおいて進行中であった。アウトブレイクは、2015年4月にブラジルにおいて始まり、南アメリカ、中央アメリカ、北アメリカ、およびカリブ海の他の国に広がった。ジカウイルスは、2016年8月にシンガポールおよびマレーシアに到達した。2016年1月に、WHOは、ウイルスが年末までにアメリカのほとんど全体に広がる可能性があると言い、2016年2月に、WHOは、ジカアウトブレイクに関連していると強く疑われる、ブラジルにおいて報告された小頭蓋症およびギラン-バレー症候群の症例のクラスターを、国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態と宣言した。ブラジルにおいて150万人がジカに感染していると推定されており、3,500症例を超える小頭蓋症が、2015年10月から2016年1月の間に報告された。
【0051】
多数の国が、旅行の警告を発しており、アウトブレイクは、観光産業に有意に影響を及ぼすと予想される。いくつかの国は、ウイルスおよび胎児の発生に対するその影響についてより多くが知られるまで、妊娠を遅らせるように市民に助言するという異例の措置を取っている。リオデジャネイロにおいて開催された2016年夏季オリンピック大会で、世界中の保健当局は、ブラジルにおける、ならびに無意識のうちに感染した可能性のある国際的なアスリートおよび観光客が、帰宅して場合によりウイルスを広めた時の両方の、潜在的な危機について懸念を表明した。何人かの研究者は、3週間の期間中に1人もしくは2人の観光客のみが感染し得ること、または10万人の観光客当たりおよそ3.2回の感染を推測している。
【0052】
II. モノクローナル抗体およびその生成
「単離された抗体」は、その天然環境の成分から分離および/または回収されたものである。その天然環境の汚染成分は、抗体の診断的使用または治療的使用を妨げる材料であり、酵素、ホルモン、および他のタンパク質性溶質または非タンパク質性溶質を含み得る。特定の態様では、抗体は、(1)ローリー法によって決定した場合、抗体の95重量%超、最も具体的には99重量%超まで、(2)スピニングカップシークエネーターを使用してN末端もしくは内部アミノ酸配列の少なくとも15残基を得るのに十分な程度まで、または(3)クーマシーブルーもしくは銀染色を使用した還元条件もしくは非還元条件下でのSDS-PAGEによって均一になるまで精製される。単離された抗体は、抗体の天然環境の少なくとも1つの成分が存在しないため、組換え細胞内にインサイチューで抗体を含む。ただし、通常、単離された抗体は、少なくとも1つの精製工程によって調製される。
【0053】
塩基性4本鎖抗体単位は、2つの同一の軽(L)鎖および2つの同一の重(H)鎖から構成されるヘテロ四量体糖タンパク質である。IgM抗体は、J鎖と呼ばれる追加のポリペプチドとともに5つの塩基性ヘテロ四量体単位からなり、したがって10個の抗原結合部位を含むが、分泌されたIgA抗体は重合して、J鎖とともに2~5つの塩基性4鎖単位を含む多価集合体を形成することができる。IgGの場合、4鎖単位は一般に約150,000ダルトンである。各L鎖は、1つの共有ジスルフィド結合によってH鎖に連結され、2つのH鎖は、H鎖アイソタイプに応じて1つまたは複数のジスルフィド結合によって互いに連結される。各H鎖およびL鎖はまた、規則的に間隔を置いて配置された鎖内ジスルフィド架橋を有する。各H鎖は、N末端に可変領域(VH)を有し、その後にα鎖およびγ鎖の各々について3つの定常ドメイン(CH)が続き、μおよびアイソタイプについて4つのCHドメインが続く。各L鎖は、N末端に可変領域(VL)を有し、その後にその他端に定常ドメイン(CL)が続く。VLはVHと整列し、CLは重鎖の第1の定常ドメイン(CH1)と整列する。特定のアミノ酸残基は、軽鎖可変領域と重鎖可変領域との間に界面を形成すると考えられている。VHとVLとの対合は、単一の抗原結合部位を一緒になって形成する。様々なクラスの抗体の構造および特性については、例えば、Basic and Clinical Immunology,8th edition,Daniel P.Stites,Abba I.Terr and Tristram G.Parslow(eds.),Appleton&Lange,Norwalk,Conn.,1994,page 71,and Chapter 6を参照されたい。
【0054】
任意の脊椎動物種由来のL鎖は、それらの定常ドメイン(CL)のアミノ酸配列に基づいて、κおよびλと呼ばれる2つの明確に異なるタイプのうちの1つに割り当てられ得る。免疫グロブリンは、それらの重鎖(CH)の定常ドメインのアミノ酸配列に応じて、異なるクラスまたはアイソタイプに割り当てられ得る。免疫グロブリンには、5つのクラス、すなわち、それぞれα、δ、ε、γおよびμと呼ばれる重鎖を有するIgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMがある。それらのγクラスおよびαクラスは、CHの配列および機能の比較的わずかな差に基づいてサブクラスにさらに分割され、ヒトは以下のサブクラス、すなわち、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2を発現する。
【0055】
用語「可変」は、Vドメインの特定のセグメントの配列が抗体間で大幅に異なるという事実を指す。Vドメインは、抗原結合を媒介し、その特定の抗原に対する特定の抗体の特異性を規定する。ただし、可変性は、可変領域の110アミノ酸スパンにわたって均一に分布しているわけではない。代わりに、V領域は、それぞれ9~12アミノ酸長である「超可変領域」と呼ばれる極端な可変性の比較的短い領域によって分離された15~30アミノ酸のフレームワーク領域(FR)と呼ばれる比較的不変の伸長部からなる。天然の重鎖および軽鎖の可変領域はそれぞれ、3つの超可変領域によって接続された、βシート構造を主に採用する4つのFRを含み、3つの超可変領域は、βシート構造を接続し、場合によってはβシート構造の一部を形成するループを形成する。各鎖内の超可変領域は、FRによって近接して一緒に保持され、他方の鎖の超可変領域とともに、抗体の抗原結合部位の形成に寄与する(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1991)を参照)。定常ドメインは、抗原への抗体の結合に直接関与しないが、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、抗体依存性細胞食作用(ADCP)、抗体依存性好中球食作用(ADNP)および抗体依存性補体沈着(ADCD)における抗体の関与などの様々なエフェクター機能を示す。
【0056】
本明細書において使用される場合、用語「超可変領域」は、抗原結合に関与する、抗体のアミノ酸残基を指す。超可変領域は、一般に、「相補性決定領域」または「CDR」からのアミノ酸残基(例えば、Kabatナンバリングシステム;Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1991)に従ってナンバリングした場合、VL内の約残基24~34(L1)、50~56(L2)および89~97(L3)、ならびにVH内の約残基31~35(H1)、50~65(H2)および95~102(H3));および/または「超可変ループ」からの残基(例えば、Chothiaナンバリングシステム;Chothia and Lesk,J.Mol.Biol.196:901-917(1987)に従ってナンバリングした場合、VL内の残基24~34(L1)、50~56(L2)および89~97(L3)、ならびにVH内の残基26~32(H1)、52~56(H2)および95~101(H3));および/または「超可変ループ」/CDRからの残基(例えば、IMGTナンバリングシステム;Lefranc,M.P.et al.Nucl.Acids Res.27:209-212(1999),Ruiz,M.et al.Nucl.Acids Res.28:219-221(2000)に従ってナンバリングした場合、VL内の残基27~38(L1)、56~65(L2)および105~120(L3)、ならびにVH内の残基27~38(H1)、56~65(H2)および105~120(H3))を含む。任意で、抗体は、AHo;Honneger,A.and Plunkthun,A.J.Mol.Biol.309:657-670(2001))に従ってナンバリングした場合、以下の点、すなわち、VL内の28、36(L1)、63、74~75(L2)および123(L3)、ならびにVsubH内の28、36(H1)、63、74~75(H2)および123(H3)のうちの1つまたは複数に対称的な挿入を有する。
【0057】
「生殖細胞系核酸残基」とは、定常領域または可変領域をコードする生殖細胞系遺伝子に天然に存在する核酸残基を意味する。「生殖細胞系遺伝子」は、生殖細胞(すなわち、卵または精子になるように定められた細胞)に見出されるDNAである。「生殖細胞系変異」は、単一細胞段階で生殖細胞または接合子に生じた特定のDNAの遺伝的変化を指し、子孫に伝達されると、そのような変異は体の全細胞に組み込まれる。生殖細胞系変異は、単一の体細胞で獲得される体細胞変異とは対照的である。場合によっては、可変領域をコードする生殖細胞系DNA配列内のヌクレオチドが変異し(すなわち、体細胞変異)、異なるヌクレオチドによって置換される。
【0058】
本明細書において使用される用語「モノクローナル抗体」は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を指し、すなわち、集団を構成する個々の抗体は、少量存在し得る天然に存在する可能性のある変異を除いて同一である。モノクローナル抗体は、非常に特異的であり、単一の抗原部位を対象とする。さらに、異なる決定基(エピトープ)を対象とする異なる抗体を含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基を対象とする。モノクローナル抗体は、それらの特異性に加えて、他の抗体によって汚染されずに合成され得るという点で有利である。修飾語「モノクローナル」は、任意の特定の方法による抗体の生成を必要とすると解釈されるべきではない。例えば、本開示において有用なモノクローナル抗体は、Kohler et al.,Nature,256:495(1975)によって最初に記載されたハイブリドーマ法によって調製され得るか、細菌細胞、真核生物細胞または植物細胞(例えば、米国特許第4,816,567号を参照)を対象とした組換えDNA法を使用して、抗原特異的B細胞、感染もしくは免疫化に応答する抗原特異的形質芽球、またはバルク選別された抗原特異的コレクション内の単一細胞からの連結された重鎖および軽鎖の捕捉の単一細胞選別の後に作製され得る。「モノクローナル抗体」はまた、例えば、Clackson et al.,Nature,352:624-628(1991)およびMarks et al.,J.Mol.Biol.,222:581-597(1991)に記載されている技術を使用して、ファージ抗体ライブラリーから単離され得る。
【0059】
A. 一般的な方法
ジカウイルスに結合するモノクローナル抗体は、いくつかの用途を有することが理解される。これらには、ジカウイルス感染の検出および診断、ならびにジカウイルス感染の治療に使用するための診断キットの製造が含まれる。これらの状況では、そのような抗体を診断剤もしくは治療剤に連結するか、それらを競合アッセイにおいて捕捉剤もしくは競合剤として使用するか、またはそれらに追加の薬剤を付着させることなくそれらを個別に使用してもよい。抗体は、以下にさらに説明されるように、変異または修飾され得る。抗体を調製し、特性評価するための方法は、当技術分野において周知である(例えば、Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,1988;米国特許第4,196,265号を参照)。
【0060】
モノクローナル抗体(MAb)を生成するための方法は、一般に、ポリクローナル抗体を調製するための方法と同じ道筋に沿って開始する。これらの方法ではともに、第1の工程は、適切な宿主の免疫化、または以前の自然感染、もしくは認可ワクチンもしくは実験ワクチンによるワクチン接種のために免疫性である対象の特定である。当技術分野において周知のように、免疫化のための所与の組成物は、その免疫原性が異なり得る。したがって、ペプチド免疫原またはポリペプチド免疫原を担体にカップリングすることによって達成され得るように、宿主免疫系を増強することが多くの場合必要である。例示的かつ好ましい担体は、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)およびウシ血清アルブミン(BSA)である。オボアルブミン、マウス血清アルブミンまたはウサギ血清アルブミンなどの他のアルブミンも担体として使用することができる。ポリペプチドを担体タンパク質にコンジュゲートするための手段は当技術分野において周知であり、グルタルアルデヒド、m-マレイミドベンコイル(maleimidobencoyl)-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、カルボジイミドおよびビス-ビアゾ化ベンジジンを含む。また、当技術分野において周知のように、特定の免疫原組成物の免疫原性は、アジュバントとして知られる、免疫応答の非特異的刺激物質の使用によって増強され得る。動物では、例示的かつ好ましいアジュバントには、完全フロイントアジュバント(死滅した結核菌(Mycobacterium tuberculosis)を含有する、免疫応答の非特異的刺激物質)、不完全フロイントアジュバントおよび水酸化アルミニウムアジュバントが含まれ、ヒトでは、ミョウバン、CpG、MFP59、および免疫刺激分子の組合せ(AS01またはAS03などの「アジュバント系」)が含まれる。ジカ特異的B細胞を誘導するための追加の実験的接種形態が可能であり、これには、ナノ粒子ワクチン、または物理的送達系(脂質ナノ粒子、または金微粒子銃ビーズ上など)においてDNA遺伝子もしくはRNA遺伝子として送達され、針、遺伝子銃、経皮的エレクトロポレーション装置を用いて送達される遺伝子コード抗原が含まれる。抗原遺伝子はまた、複製能のあるまたは欠陥のあるウイルスベクター、例えば、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ポックスウイルス、ヘルペスウイルスもしくはアルファウイルスレプリコン、またはウイルス様粒子によってコードされるように担持され得る。
【0061】
天然病原体に対するヒト抗体の場合、好適な手法は、病原体に曝露された対象、例えば、疾患に罹患したと診断された対象、または病原体に対する防御免疫を生じさせるため、もしくは実験ワクチンの安全性もしくは有効性を試験するためにワクチン接種された対象を特定することである。循環する抗病原体抗体を検出することができ、次いで、抗体陽性対象由来のB細胞をコードまたは産生する抗体を得てもよい。
【0062】
ポリクローナル抗体の生成に使用される免疫原組成物の量は、免疫原、および免疫化に使用される動物の性質によって異なる。様々な経路を使用して免疫原を投与することができる(皮下、筋肉内、皮内、静脈内および腹腔内)。ポリクローナル抗体の生成は、免疫化後の様々な時点で免疫化された動物の血液をサンプリングすることによってモニタリングしてもよい。第2のブースター注入が投与されてもよい。ブーストおよび滴定のプロセスは、好適な力価が達成されるまで繰り返される。所望のレベルの免疫原性が得られる場合、免疫化された動物を採血し、血清を単離し、保存することができ、および/またはその動物を使用してMAbを生成することができる。
【0063】
免疫化後、MAb生成プロトコルに使用するために、抗体を産生する可能性のある体細胞、具体的にはBリンパ球(B細胞)を選択する。これらの細胞は、生検された脾臓、リンパ節、扁桃もしくはアデノイド、骨髄吸引物もしくは骨髄生検、肺もしくは消化管などの粘膜器官から得られた組織生検、または循環血液から得てもよい。次いで、免疫化された動物または免疫ヒト由来の抗体産生Bリンパ球を、免疫化された動物、またはヒト細胞もしくはヒト/マウスキメラ細胞と一般に同じ種の1つである不死性ミエローマ細胞の細胞と融合させる。ハイブリドーマ生成融合手順に使用するのに適したミエローマ細胞株は、好ましくは、非抗体産生性であり、高い融合効率を有し、所望の融合細胞(ハイブリドーマ)のみの増殖を補助する特定の選択培地中で増殖することを不可能にする酵素欠損を有する。当業者に公知であるように、多数のミエローマ細胞のいずれか1つを使用してもよい(Goding,pp.65-66,1986;Campbell,pp.75-83,1984)。HMMA2.5細胞またはMFP-2細胞は、そのような細胞の特に有用な例である。
【0064】
抗体産生脾臓細胞または抗体産生リンパ節細胞とミエローマ細胞とのハイブリッドを生成する方法は、通常、体細胞とミエローマ細胞とを2:1の比率で混合することを含むが、この比率は、細胞膜の融合を促進する単数または複数の作用物質(化学的または電気的)の存在下で、それぞれ約20:1~約1:1まで変動し得る。場合によっては、最初の工程としてのエプスタイン・バー(Epstein Barr)ウイルス(EBV)によるヒトB細胞の形質転換は、B細胞のサイズを増加させ、比較的大きなサイズのミエローマ細胞との融合を増強する。EBVによる形質転換効率は、形質転換培地中でCpGおよびChk2阻害薬を使用することによって増強される。あるいは、ヒトB細胞は、追加の可溶性因子、例えば、IL-21、およびTNFスーパーファミリーのII型メンバーであるヒトB細胞活性化因子(BAFF)を含有する培地中で、CD40リガンド(CD154)を発現するトランスフェクト細胞株と共培養することによって活性化され得る。センダイウイルス(Sendai virus)を使用する融合法は、KohlerおよびMilstein(1975;1976)によって記載されており、ポリエチレングリコール(PEG)、例えば37%(v/v)PEGを使用する融合法は、Gefter et al.(1977)によって記載されている。電気誘導融合法の使用も適切であり(Goding,pp.71-74,1986)、効率を向上させるプロセスが存在する(Yu et al.,2008)。融合手順は、通常、約1×10-6~1×10-8の低頻度で生存可能なハイブリッドを生成するが、最適化された手順では、200に1に近い融合効率を達成することができる(Yu et al.,2008)。ただし、生存可能な融合したハイブリッドは、選択培地中で培養することによって、親の注入された細胞(特に、通常は無期限に分裂し続ける注入されたミエローマ細胞)から分化するため、融合の比較的低い効率は問題を引き起こさない。選択培地は、一般に、組織培養培地中のヌクレオチドのデノボ合成を遮断する作用物質を含有するものである。例示的かつ好ましい作用物質は、アミノプテリン、メトトレキセートおよびアザセリンである。アミノプテリンおよびメトトレキセートは、プリンおよびピリミジンの両方のデノボ合成を遮断するが、アザセリンはプリン合成のみを遮断する。アミノプテリンまたはメトトレキセートが使用される場合、培地(HAT培地)には、ヌクレオチドの供給源としてヒポキサンチンおよびチミジンが補充される。アザセリンが使用される場合、培地にはヒポキサンチンが補充される。B細胞源がEBV形質転換ヒトB細胞株である場合、ミエローマに融合していないEBV形質転換株を排除するために、ウアバインが加えられる。
【0065】
好ましい選択培地は、HAT、またはウアバインを含むHATである。ヌクレオチドサルベージ経路を操作することができる細胞のみが、HAT培地中で生存することができる。ミエローマ細胞は、サルベージ経路の重要な酵素、例えばヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)を欠損しており、生存することができない。B細胞はこの経路を操作することができるが、培養中の寿命は限られており、一般に約2週間以内に死亡する。したがって、選択培地中で生存することができる唯一の細胞は、ミエローマ細胞およびB細胞から形成されたハイブリッドである。融合に使用されるB細胞の供給源がEBV形質転換B細胞の株である場合、本明細書中のように、ウアバインはまた、EBV形質転換B細胞が薬物殺傷に感受性であるが、使用されるミエローマパートナーがウアバイン耐性であるように選択されるため、ハイブリッドの薬物選択にも使用され得る。
【0066】
培養は、特異的ハイブリドーマが選択されるハイブリドーマの集団を提供する。典型的には、ハイブリドーマの選択は、マイクロタイタープレート内の単一クローン希釈によって細胞を培養し、続いて(約2~3週間後に)個々のクローン上清を所望の反応性について試験することによって行われる。アッセイは、ラジオイムノアッセイ、酵素イムノアッセイ、細胞傷害性アッセイ、プラークアッセイ ドット免疫結合アッセイなどのように、高感度で、単純かつ迅速でなければならない。次いで、選択されたハイブリドーマを段階希釈するか、またはフローサイトメトリーソーティングによって単一細胞選別し、個々の抗体産生細胞株にクローニングし、次いで、そのクローンを無限に増殖させてmAbを提供することができる。この細胞株は、2つの基本的な方法でMAb生成のために利用され得る。ハイブリドーマの試料を動物(例えばマウス)に注射することができる(多くの場合、腹膜腔に)。任意で、動物は、注射前に炭化水素、特にプリスタン(テトラメチルペンタデカン)などの油によってプライミングされる。ヒトハイブリドーマをこのように使用する場合、腫瘍拒絶を防ぐために、SCIDマウスなどの免疫無防備状態のマウスに注射することが最適である。注射された動物は、融合細胞ハイブリッドによって産生される特異的モノクローナル抗体を分泌する腫瘍を発症する。次いで、動物の体液、例えば、血清または腹水を穿刺して、高濃度のMAbを提供することができる。個々の細胞株をインビトロで培養することもでき、この場合、MAbは、それらが高濃度で容易に得られ得る培養培地に自然に分泌される。あるいは、ヒトハイブリドーマ細胞株をインビトロで使用して、細胞上清中で免疫グロブリンを生成することができる。細胞株は、高純度のヒトモノクローナル免疫グロブリンを回収する能力を最適化するために、無血清培地中での増殖に適合させることができる。
【0067】
いずれの手段によって生成されたMAbも、所望であれば、濾過、遠心分離および様々なクロマトグラフィー法、例えば、FPLCまたはアフィニティークロマトグラフィーを使用して、さらに精製されてもよい。本開示のモノクローナル抗体の断片は、ペプシンまたはパパインなどの酵素による消化を含む方法によって、および/または化学的還元によるジスルフィド結合の切断によって、精製モノクローナル抗体から得ることができる。あるいは、本開示に包含されるモノクローナル抗体断片は、自動ペプチド合成装置を使用して合成することができる。
【0068】
モノクローナル抗体を生成するために分子クローニング手法が使用され得ることも企図される。関心対象の抗原によって標識された単一B細胞は、常磁性ビーズ選択またはフローサイトメトリーソーティングを使用して物理的に選別され得、次いで、RNAが、単一細胞、およびRT-PCRによって増幅された抗体遺伝子から単離され得る。あるいは、抗原特異的バルク選別された細胞集団を微小胞内に分離し、重鎖アンプリコンと軽鎖アンプリコンとの物理的連結、または小胞からの重鎖遺伝子と軽鎖遺伝子との共通バーコード化を使用して、一致した重鎖可変遺伝子と軽鎖可変遺伝子とを単一細胞から回収することができる。単一細胞由来の一致した重鎖遺伝子および軽鎖遺伝子は、細胞1つ当たり1つのバーコードを用いて転写物をマーキングするためのRT-PCRプライマーおよびバーコードを担持する細胞透過性ナノ粒子によって細胞を処理することによって、抗原特異的B細胞の集団から得ることもできる。抗体可変遺伝子はまた、ハイブリドーマ株のRNA抽出によって単離され得、抗体遺伝子はRT-PCRによって得られ、免疫グロブリン発現ベクターにクローニングされ得る。あるいは、コンビナトリアル免疫グロブリンファージミドライブラリーが、細胞株から単離されたRNAから調製され、適切な抗体を発現するファージミドが、ウイルス抗原を使用したパニングによって選択される。従来のハイブリドーマ技術に対するこの手法の利点は、約104倍もの数の抗体を一回で生成およびスクリーニングすることができること、ならびにH鎖とL鎖との組合せによって新しい特異性が生成され、これにより、適切な抗体を見出す可能性がさらに高まることである。
【0069】
本開示において有用な抗体の生成を教示する、各々参照により本明細書に組み入れられる他の米国特許には、コンビナトリアル手法を使用したキメラ抗体の生成を記載する米国特許第5,565,332号、組換え免疫グロブリン調製物を記載する米国特許第4,816,567号、および抗体-治療剤コンジュゲートを記載する米国特許第4,867,973号が含まれる。
【0070】
B. 本開示の抗体
本開示による抗体は、第1の例では、それらの結合特異性によって定義され得る。当業者に周知の技術を使用して所与の抗体の結合特異性/親和性を評価することによって、当業者であれば、そのような抗体が本特許請求の範囲内に入るかどうかを決定することができる。例えば、所与の抗体が結合するエピトープは、抗原分子内に位置する3個以上(例えば、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20)のアミノ酸の単一の連続配列からなり得る(例えば、ドメイン内の線状エピトープ)。あるいは、エピトープは、抗原分子内に位置する複数の非連続アミノ酸(またはアミノ酸配列)からなり得る(例えば、立体構造エピトープ)。
【0071】
当業者に公知の様々な技術を使用して、抗体がポリペプチドまたはタンパク質内の「1つまたは複数のアミノ酸と相互作用する」かどうかを決定することができる。例示的な技術には、例えば、Antibodies,Harlow and Lane(Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,N.Y.)に記載されているものなどの常用的な交差遮断アッセイが含まれる。交差遮断は、ELISA、バイオレイヤー干渉法または表面プラズモン共鳴などの様々な結合アッセイで測定することができる。他の方法には、アラニン走査変異分析、ペプチドブロット分析(Reineke(2004)Methods Mol.Biol.248:443-63)、ペプチド切断分析、単一粒子再構成を使用する高分解能電子顕微鏡法技術、クライオEM、またはトモグラフィ、結晶学的試験およびNMR分析が含まれる。さらに、エピトープ切除、エピトープ抽出、および抗原の化学修飾などの方法を使用することができる(Tomer(2000)Prot.Sci.9:487-496)。抗体が相互作用するポリペプチド内のアミノ酸を同定するために使用することができる別の方法は、質量分析によって検出される水素/重水素交換である。一般的に言えば、水素/重水素交換法は、関心対象のタンパク質を重水素標識し、続いて、抗体を重水素標識タンパク質に結合させることを含む。次に、タンパク質/抗体複合体を水に移し、抗体複合体によって保護されているアミノ酸内の交換可能なプロトンが、界面の一部ではないアミノ酸内の交換可能なプロトンよりも遅い速度で重水素から水素への逆交換を受ける。その結果、タンパク質/抗体界面の一部を形成するアミノ酸は、重水素を保持するため、界面に含まれないアミノ酸と比較して比較的高い質量を示し得る。抗体の解離後、標的タンパク質をプロテアーゼ切断および質量分析に供し、それによって、抗体が相互作用する特定のアミノ酸に対応する重水素標識残基を明らかにする。例えば、Ehring(1999)Analytical Biochemistry 267:252-259;Engen and Smith(2001)Anal.Chem.73:256A-265Aを参照されたい。抗体がジカを中和する場合、高濃度の抗体の存在下でインビトロまたは動物モデルにおいてジカを増殖させることによって、抗体エスケープ変異体バリアント生物を単離することができる。抗体が標的とする抗原をコードするジカ遺伝子の配列分析は、抗体エスケープを付与する変異を明らかにし、エピトープ内の残基、またはエピトープの構造にアロステリックに影響を及ぼす残基を示す。
【0072】
用語「エピトープ」は、B細胞および/またはT細胞が応答する抗原上の部位を指す。B細胞エピトープは、タンパク質の三次フォールディングによって並置された連続アミノ酸または非連続アミノ酸の両方から形成され得る。連続アミノ酸から形成されたエピトープは、典型的には、変性溶媒への曝露時に保持されるが、三次フォールディングによって形成されたエピトープは、典型的には、変性溶媒による処理時に失われる。エピトープは、典型的には、固有の空間的立体配座で少なくとも3個、さらに一般的には少なくとも5個または少なくとも8~10個のアミノ酸を含む。
【0073】
修飾支援プロファイリング(MAP)は、抗原構造に基づく抗体プロファイリング(ASAP)としても知られており、化学的または酵素的に修飾された抗原表面に対する各抗体の結合プロファイルの類似性に従って、同じ抗原を対象とする多数のモノクローナル抗体(mAb)をカテゴリー化する方法である(参照によりその全体が本明細書に具体的に組み入れられる米国特許第2004/0101920号を参照)。各カテゴリーは、別のカテゴリーによって表されるエピトープとは明確に異なるか、そのようなエピトープと部分的に重複する固有のエピトープを反映し得る。この技術は、特性評価が、遺伝的に異なる抗体に焦点を当てることができるように、遺伝的に同一の抗体の迅速なフィルタリングを可能にする。ハイブリドーマスクリーニングに適用される場合、MAPは、所望の特性を有するmAbを産生する希少なハイブリドーマクローンの同定を容易にし得る。MAPを使用して、本開示の抗体を異なるエピトープに結合する抗体の群に選別してもよい。
【0074】
本開示は、同じエピトープ、またはエピトープの一部に結合し得る抗体を含む。同様に、本開示はまた、標的またはその断片への結合について、本明細書において記載される具体的な例示的な抗体のいずれかと競合する抗体を含む。抗体が参照抗体と同じエピトープに結合するか、参照抗体と結合について競合するかどうかは、当技術分野において公知の常用的な方法を使用することによって容易に決定することができる。例えば、試験抗体が参照と同じエピトープに結合するかどうかを決定するために、参照抗体を飽和条件下で標的に結合させる。次に、標的分子に結合する試験抗体の能力を評価する。試験抗体が参照抗体との飽和結合後に標的分子に結合することができる場合、試験抗体は参照抗体とは異なるエピトープに結合するとの結論を下すことができる。一方、試験抗体が参照抗体との飽和結合後に標的分子に結合することができない場合、試験抗体は、参照抗体によって結合されたエピトープと同じエピトープに結合し得る。
【0075】
抗体が参照抗ジカウイルス抗体と結合について競合するかどうかを決定するために、上記の結合方法を2つの方向で行う:第1の方向では、参照抗体を飽和条件下でジカウイルス抗原に結合させ、続いて、ジカウイルス分子への試験抗体の結合を評価する。第2の方向では、試験抗体を飽和条件下でジカウイルス抗原分子に結合させ、続いて、ジカウイルス分子への参照抗体の結合を評価する。両方向で、第1の(飽和)抗体のみがジカウイルスに結合することができる場合、試験抗体および参照抗体はジカウイルスへの結合について競合するとの結論が下される。当業者には理解されるように、参照抗体と結合について競合する抗体は、必ずしも参照抗体と同一のエピトープに結合するわけではないが、重複または隣接するエピトープに結合することによって参照抗体の結合を立体的に遮断し得る。
【0076】
2つの抗体は、各々が抗原への他方の結合を競合的に阻害(遮断)する場合、同じまたは重複するエピトープに結合する。すなわち、1倍、5倍、10倍、20倍または100倍過剰の一方の抗体は、競合結合アッセイで測定した場合に、他方の結合を少なくとも50%、好ましくは75%、90%またはさらには99%阻害する(例えば、Junghans et al.,Cancer Res.1990 50:1495-1502を参照)。あるいは、一方の抗体の結合を低減または排除する、抗原内の本質的にあらゆるアミノ酸変異が他方の結合を低減または排除する場合、2つの抗体は同じエピトープを有する。一方の抗体の結合を低減または排除する一部のアミノ酸変異が他方の結合を低減または排除する場合、2つの抗体は重複するエピトープを有する。
【0077】
次いで、試験抗体の結合の観察された欠如が実際に参照抗体と同じエピトープへの結合によるものであるかどうか、または立体遮断(または別の現象)が、観察された結合の欠如の原因であるかどうかを確認するために、追加の常用的な実験(例えば、ペプチドの変異分析および結合分析)を行うことができる。この種の実験は、ELISA、RIA、表面プラズモン共鳴、フローサイトメトリー、または当技術分野において利用可能な任意の他の定量的もしくは定性的抗体結合アッセイを使用して行うことができる。また、EMまたは結晶解析法による構造試験では、結合について競合する2つの抗体が同じエピトープを認識するかどうかが実証され得る。
【0078】
別の局面では、それぞれ表3および表4に示す重鎖および軽鎖由来のクローンと組のCDRを有するモノクローナル抗体が提供される。そのような抗体は、本明細書において記載される方法を使用して、実施例の節において以下に説明されるクローンによって生成され得る。
【0079】
別の局面では、抗体は、追加の「フレームワーク」領域を含むそれらの可変配列によって定義され得る。これらは、完全な可変領域をコードするかまたは表す表1および表2に提供されている。さらに、以下にさらに詳細に説明される方法を任意で使用して、これらの配列から抗体配列を変化させてもよい。例えば、核酸配列は、(a)可変領域が、軽鎖および重鎖の定常ドメインから分離され得ること、(b)核酸が、それによってコードされる残基に影響を及ぼさずに上記のものから変化し得ること、(c)核酸が、所与の割合、例えば、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の相同性によって上記のものから変化し得ること、(d)核酸が、約50℃~約70℃の温度で約0.02M~約0.15MのNaClによって提供されるような、低塩および/または高温条件によって例示されるような高ストリンジェンシー条件下でハイブリダイズする能力によって上記のものから変化し得ること、(e)アミノ酸が、所与の割合、例えば、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の相同性によって上記のものから変化し得ること、または(f)アミノ酸が、保存的置換(以下に説明)を可能にすることによって上記のものから変化し得ることという点で上記のものから変化し得る。上記の各々は、表1に記載の核酸配列および表2のアミノ酸配列に適用される。
【0080】
ポリヌクレオチド配列とポリペプチド配列とを比較する場合、以下に記載されるように、2つの配列内のヌクレオチドまたはアミノ酸の配列が、最大の対応についてアライメントされた際に同じである場合、2つの配列は「同一」であると言われる。2つの配列間の比較は、典型的には、配列類似性の局所領域を同定および比較するために比較ウィンドウにわたって配列を比較することによって行われる。本明細書において使用される「比較ウィンドウ」は、2つの配列が最適にアライメントされた後、配列が、同じ数の連続する位置の参照配列と比較され得る、少なくとも約20個の連続する位置、通常は30~約75、40~約50の連続する位置のセグメントを指す。
【0081】
比較のための配列の最適なアライメントは、デフォルトパラメータを使用して、Lasergene suite of bioinformaticsソフトウェア(DNASTAR,Inc.、Madison,Wis.)内のMegalignプログラムを使用して行われ得る。このプログラムは、以下の参考文献に記載されているいくつかのアライメントスキームを具体化する:Dayhoff,M.O.(1978)A model of evolutionary change in proteins--Matrices for detecting distant relationships.In Dayhoff,M.O.(ed.)Atlas of Protein Sequence and Structure,National Biomedical Research Foundation,Washington D.C.Vol.5,Suppl.3,pp.345-358;Hein J.(1990)Unified Approach to Alignment and Phylogeny pp.626-645 Methods in Enzymology vol.183,Academic Press,Inc.,San Diego,Calif.;Higgins,D.G.and Sharp,P.M.(1989)CABIOS 5:151-153;Myers,E.W.and Muller W.(1988)CABIOS 4:11-17;Robinson,E.D.(1971)Comb.Theor 11:105;Santou,N.Nes,M.(1987)Mol.Biol.Evol.4:406-425;Sneath,P.H.A.and Sokal,R.R.(1973)Numerical Taxonomy--the Principles and Practice of Numerical Taxonomy,Freeman Press,San Francisco,Calif.;Wilbur,W.J.and Lipman,D.J.(1983)Proc.Natl.Acad.,Sci.USA 80:726-730.
【0082】
あるいは、比較のための配列の最適なアライメントは、Smith and Waterman(1981)Add.APL.Math 2:482の局所同一性アルゴリズムによって、Needleman and Wunsch(1970)J.Mol.Biol.48:443の同一性アライメントアルゴリズムによって、Pearson and Lipman(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:2444の類似性法の探索によって、これらのアルゴリズムのコンピュータ化された実装によって(Wisconsin Genetics Software Package,Genetics Computer Group(GCG),575 Science Dr.,Madison,Wis.のGAP、BESTFIT、BLAST、FASTAおよびTFASTA)、または調査によって行われ得る。
【0083】
パーセント配列同一性および配列類似性を決定するのに適したアルゴリズムの特定の一例は、BLASTおよびBLAST 2.0アルゴリズムであり、これらはそれぞれ、Altschul et al.(1977)Nucl.Acids Res.25:3389-3402およびAltschul et al.(1990)J.Mol.Biol.215:403-410に記載されている。BLASTおよびBLAST 2.0は、例えば、本明細書において記載されるパラメータとともに使用して、本開示のポリヌクレオチドおよびポリペプチドのパーセント配列同一性を決定することができる。BLAST分析を行うためのソフトウェアは、国立バイオテクノロジー情報センターを通じて公的に入手可能である。抗体配列の再編成された性質、および各遺伝子の可変長は、単一の抗体配列について複数回のBLAST探索を必要とする。また、異なる遺伝子の手作業によるアセンブリは困難であり、間違いが起こりやすい。配列分析ツールIgBLAST(ワールドワイドウェブ、ncbi.nlm.nih.gov/igblast/)は、生殖細胞系V遺伝子、生殖細胞系D遺伝子および生殖細胞系J遺伝子に対する一致、再編成接合部における詳細、Ig Vドメインフレームワーク領域および相補性決定領域の描写を特定する。IgBLASTは、ヌクレオチド配列またはタンパク質配列を分析することができ、配列をバッチで処理することができ、生殖細胞系遺伝子データベースおよび他の配列データベースに対する検索を同時に可能にして、最良に一致する生殖細胞系V遺伝子を場合により欠失する可能性を最小限に抑える。
【0084】
例示としての一例では、ヌクレオチド配列の場合、パラメータM(一対の一致残基の報酬スコア値;常に>0)およびN(不一致残基のペナルティスコア;常に<0)を使用して、累積スコアが計算され得る。累積アライメントスコアが、その最大達成値から量Xだけ減少した場合、1つもしくは複数の負のスコアの残基アライメントの蓄積のために累積スコアがゼロもしくはそれ以下になった場合、またはいずれかの配列の末端に到達した場合、各方向における文字列ヒットの延長が停止される。BLASTアルゴリズムパラメータW、TおよびXは、アライメントの感度および速度を決定する。BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列用)は、11の文字列長さ(W)、および10の期待値(E)、およびBLOSUM62スコアリングマトリックス(Henikoff and Henikoff(1989)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:10915を参照)アライメント、50の(B)、10の期待値(E)、M=5、N=-4、および両方の鎖の比較をデフォルトとして使用する。
【0085】
アミノ酸配列の場合、スコアリングマトリックスを使用して累積スコアを計算することができる。累積アライメントスコアが、その最大達成値から量Xだけ減少した場合、1つもしくは複数の負のスコアの残基アライメントの蓄積のために累積スコアがゼロもしくはそれ以下になった場合、またはいずれかの配列の末端に到達した場合、各方向における文字列ヒットの延長が停止される。BLASTアルゴリズムパラメータW、TおよびXは、アライメントの感度および速度を決定する。
【0086】
1つの手法では、「配列同一性のパーセンテージ」は、少なくとも20の位置の比較ウィンドウにわたって最適にアライメントさせた2つの配列を比較することによって決定され、比較ウィンドウ内のポリヌクレオチド配列またはポリペプチド配列の部分は、2つの配列の最適なアライメントのために、(付加または欠失を含まない)参照配列と比較して、20パーセント以下、通常5~15パーセント、または10~12パーセントの付加または欠失(すなわち、ギャップ)を含み得る。パーセンテージは、同一の核酸塩基またはアミノ酸残基が両方の配列に存在する位置の数を決定して、一致した位置の数を得て、一致した位置の数を参照配列内の位置の総数(すなわち、ウィンドウサイズ)で割り、その結果に100を掛けて配列同一性のパーセンテージを得ることによって計算される。
【0087】
抗体を定義するさらに別の方法は、以下に記載される抗体およびそれらの抗原結合断片のいずれかの「誘導体」としてである。用語「誘導体」は、抗原に免疫特異的に結合するが、「親」(または野生型)分子と比較して1、2、3、4、5またはそれ以上のアミノ酸の置換、付加、欠失または修飾を含む抗体またはその抗原結合断片を指す。そのようなアミノ酸の置換または付加は、天然に存在するアミノ酸残基(すなわち、DNAによってコードされた)または天然に存在しないアミノ酸残基を導入し得る。用語「誘導体」は、例えば、増強されたまたは損なわれたエフェクター特性または結合特性を示すヴァリアントFc領域を有する例えば抗体などを形成するように変化したCH1領域、ヒンジ領域、CH2領域、CH3領域またはCH4領域を有するバリアントを包含する。用語「誘導体」は、非アミノ酸修飾、例えば、グリコシル化され得る(例えば、マンノース、2-N-アセチルグルコサミン、ガラクトース、フコース、グルコース、シアル酸、5-N-アセチルノイラミン酸、5-グリコールノイラミン酸などの含有量が変化している)、アセチル化され得る、ペグ化され得る、リン酸化され得る、アミド化され得る、公知の保護/ブロッキング基、タンパク質分解切断によって誘導体化され得る、細胞リガンドまたは他のタンパク質に連結され得るアミノ酸などをさらに包含する。いくつかの態様では、炭水化物修飾の変化は、抗体の可溶化、抗体の細胞内輸送および分泌の促進、抗体集合の促進、立体配座の完全性、ならびに抗体媒介エフェクター機能のうちの1つまたは複数を調節する。特定の態様では、炭水化物修飾の変化は、炭水化物修飾を欠く抗体と比較して抗体媒介エフェクター機能を増強する。抗体媒介エフェクター機能の変化をもたらす炭水化物修飾は、当技術分野において周知である(例えば、Shields,R.L.et al.(2002), J.Biol.Chem.277(30):26733-26740;Davies J.et al.(2001), Biotechnology&Bioengineering 74(4):288-294を参照)。炭水化物含有量を変化させる方法は当業者に公知であり、例えば、Wallick,S.C.et al.(1988), J.Exp.Med.168(3):1099-1109;Tao,M.H.et al.(1989), J.Immunol.143(8):2595-2601;Routledge,E.G.et al.(1995), Transplantation 60(8):847-53;Elliott,S.et al.(2003), Nature Biotechnol.21:414-21;Shields,R.L.et al.(2002), J.Biol.Chem.277(30):26733-26740)を参照されたい。
【0088】
誘導体抗体または誘導体抗体断片は、ビーズベースもしくは細胞ベースのアッセイ、または動物モデルを対象としたインビボ試験によって測定した場合、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、抗体依存性細胞食作用(ADCP)、抗体依存性好中球食作用(ADNP)または抗体依存性補体沈着(ADCD)の機能に好ましいレベルの活性を付与するために、操作された配列またはグリコシル化状態を用いて生成され得る。
【0089】
誘導体抗体または誘導体抗体断片は、限定されることなく、特異的な化学的切断、アセチル化、製剤化、ツニカマイシンの代謝合成などを含む、当業者に公知の技術を使用した化学修飾によって修飾され得る。一態様では、抗体誘導体は、親抗体と同様または同一の機能を有する。別の態様では、抗体誘導体は、親抗体と比較して変化した活性を示す。例えば、誘導体抗体(またはその断片)は、親抗体よりも強くそのエピトープに結合するか、またはタンパク質分解に対して親抗体よりも耐性であり得る。
【0090】
C. 抗体配列の操作
様々な態様では、発現の改善、交差反応性の改善またはオフターゲット結合の減少などの様々な理由のために、同定された抗体の配列を操作することを選択することができる。修飾された抗体は、標準的な分子生物学的技術による発現、またはポリペプチドの化学合成を含む、当業者に公知の任意の技術によって作製され得る。組換え発現のための方法は、この文献中の他の箇所で扱われる。以下は、抗体操作のための関連する目標技術の一般的な説明である。
【0091】
ハイブリドーマを培養し、次いで、細胞を溶解し、全RNAを抽出してもよい。RTとともにランダムヘキサマーを使用してRNAのcDNAコピーを生成してもよく、次いで、あらゆるヒト可変遺伝子配列を増幅すると予測されるPCRプライマーのマルチプレックス混合物を使用してPCRを行ってもよい。PCR産物をpGEM-T Easyベクターにクローニングし、次いで、標準的なベクタープライマーを使用した自動DNA配列決定によって配列決定することができる。結合および中和のアッセイは、ハイブリドーマ上清から回収され、Protein Gカラムを使用してFPLCによって精製された抗体を使用して行ってもよい。
【0092】
組換え完全長IgG抗体は、クローニングベクターからの重鎖Fv DNAおよび軽鎖Fv DNAをIgGプラスミドベクターにサブクローニングし、293(例えばFreestyle)細胞またはCHO細胞にトランスフェクトすることによって生成することができ、293細胞またはCHO細胞の上清から抗体を回収および精製することができる。他の適切な宿主細胞系には、細菌、例えば大腸菌(E.coli)、昆虫細胞(S2、Sf9、Sf29、High Five)、植物細胞(例えば、ヒト様グリカンの操作の有無にかかわらず、タバコ)、藻類、または様々な非ヒトトランスジェニックの状況では、例えば、マウス、ラット、ヤギもしくはウシが含まれる。
【0093】
抗体をコードする核酸の発現も、その後の抗体精製の目的、および宿主の免疫化の両方のために企図される。抗体コード配列は、天然RNAまたは修飾RNAなどのRNAであり得る。修飾RNAは、mRNAに高い安定性および低い免疫原性を付与し、それによって、治療上重要なタンパク質の発現を促進する特定の化学修飾を企図する。例えば、N1-メチル-プソイドウリジン(N1mΨ)は、翻訳能力に関していくつかの他のヌクレオシド修飾およびそれらの組合せよりも優れている。組み込まれたN1mΨヌクレオチドは、免疫/eIF2αリン酸化依存的な翻訳阻害をオフにすることに加えて、mRNA上のリボソームの休止および密度を増加させることによって翻訳プロセスの動態を劇的に変化させる。修飾mRNAのリボソーム負荷の増加は、同じmRNA上でのリボソームリサイクル、またはデノボリボソーム動員のいずれかを促進することによって、それらを開始に対してさらに許容性にする。そのような修飾は、RNAの接種後にインビボで抗体発現を増強するために使用され得る。RNAは、天然であろうと修飾されていようと、裸のRNAとして、または脂質ナノ粒子などの送達ビヒクル内で送達され得る。
【0094】
あるいは、抗体をコードするDNAを同じ目的のために使用してもよい。DNAは、宿主細胞内で活性なプロモーターを含む発現カセットに含まれ、プロモーターは宿主細胞のために設計されている。発現カセットは、有利には、従来のプラスミドまたはミニベクターなどの複製可能なベクターに含まれる。ベクターにはウイルスベクターが含まれ、例えば、ポックスウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、アデノ随伴ウイルスおよびレンチウイルスが企図される。抗体遺伝子をコードするレプリコン、例えば、VEEウイルスまたはシンドビスウイルスに基づくアルファウイルスレプリコンも企図される。そのようなベクターの送達は、筋肉内経路、皮下経路もしくは皮内経路を介した針によって、またはインビボ発現が所望される場合、経皮的エレクトロポレーションによって行われ得る。
【0095】
最終的なcGMP製造プロセスと同じ宿主細胞および細胞培養プロセスで生成された抗体の迅速な利用可能性は、プロセス開発プログラムの期間を短縮する可能性を有する。Lonzaは、CHO細胞内で少量(最大50g)の抗体を迅速に産生するために、CDACF培地中で増殖させたプールされたトランスフェクタントを使用する一般的な方法を開発した。真の一過性の系よりもわずかに遅いが、利点には、比較的高い生成物濃度、ならびに産生細胞株と同じ宿主およびプロセスの使用が含まれる。使い捨てバイオリアクター、すなわち、フェドバッチモードで操作した使い捨てバッグバイオリアクター培養物(5L作業容量)中でのモデル抗体を発現するGS-CHOプールの増殖および生産性の例では、トランスフェクションの9週間以内に2g/Lの回収抗体濃度が達成された。
【0096】
抗体分子は、例えば、mAbのタンパク質分解切断によって生成される断片(例えば、F(ab')、F(ab')2)、または例えば組換え手段によって生成され得る一本鎖免疫グロブリンを含む。F(ab')抗体誘導体は一価であるが、F(ab')2抗体誘導体は二価である。一態様では、そのような断片を互いに、または他の抗体断片もしくは受容体リガンドと組み合わせて、「キメラ」結合分子を形成することができる。重要なことに、そのようなキメラ分子は、同じ分子の異なるエピトープに結合することができる置換基を含み得る。
【0097】
関連する態様では、抗体は、開示される抗体の誘導体、例えば、開示される抗体と同一のCDR配列を含む抗体(例えば、キメラ抗体またはCDR移植抗体)である。あるいは、抗体分子に保存的変化を導入するなどの修飾を行いたい場合がある。そのような変化をもたらす際に、アミノ酸のヒドロパシー指標が考慮され得る。タンパク質に相互作用的な生物学的機能を付与する際のヒドロパシーアミノ酸指標の重要性は、当技術分野において一般的に理解されている(Kyte and Doolittle,1982)。アミノ酸の相対的なヒドロパシー特性が、結果として生じるタンパク質の二次構造に寄与し、それにより、タンパク質と他の分子、例えば、酵素、基質、受容体、DNA、抗体、抗原などとの相互作用が規定されることが認められている。
【0098】
同様のアミノ酸の置換が、親水性に基づいて効果的に行われ得ることも当技術分野において理解されている。参照により本明細書に組み入れられる米国特許第4,554,101号では、隣接するアミノ酸の親水性によって制御される、タンパク質の最大局所平均親水性が、タンパク質の生物学的特性と相関することが記載されている。米国特許第4,554,101号に詳述されているように、以下の親水性値がアミノ酸残基に割り当てられている:塩基性アミノ酸:アルギニン(+3.0)、リジン(+3.0)およびヒスチジン(-0.5);酸性アミノ酸:アスパルテート(+3.0±1)、グルタメート(+3.0±1)、アスパラギン(+0.2)およびグルタミン(+0.2);親水性非イオン性アミノ酸:セリン(+0.3)、アスパラギン(+0.2)、グルタミン(+0.2)およびトレオニン(-0.4)、硫黄含有アミノ酸:システイン(-1.0)およびメチオニン(-1.3);疎水性非芳香族アミノ酸:バリン(-1.5)、ロイシン(-1.8)、イソロイシン(-1.8)、プロリン(-0.5±1)、アラニン(-0.5)およびグリシン(0);疎水性芳香族アミノ酸:トリプトファン(-3.4)、フェニルアラニン(-2.5)およびチロシン(-2.3)。
【0099】
アミノ酸は、同様の親水性を有する別のものに置換され、生物学的または免疫学的に修飾されたタンパク質を産生することができると理解される。そのような変化では、親水性値が±2以内であるアミノ酸の置換が好ましく、±1以内であるアミノ酸の置換が特に好ましく、±0.5以内であるアミノ酸の置換がさらに特に好ましい。
【0100】
上記で概説したように、アミノ酸置換は、一般に、アミノ酸側鎖置換基の相対的な類似性、例えば、それらの疎水性、親水性、電荷、サイズなどに基づく。様々な前述の特性を考慮に入れた例示的な置換は当業者に周知であり、アルギニンおよびリジン;グルタメートおよびアスパルテート;セリンおよびトレオニン;グルタミンおよびアスパラギン;ならびにバリン、ロイシンおよびイソロイシンを含む。
【0101】
本開示は、アイソタイプ修飾も企図する。Fc領域を異なるアイソタイプを有するように修飾することにより、異なる機能性を実現することができる。例えば、IgG1への変化は抗体依存性細胞傷害を増加させることができ、クラスAへの切替えは組織分布を改善することができ、クラスMへの切替えは結合価を改善することができる。
【0102】
代替的または追加的に、アミノ酸修飾を、IL-23p19結合分子のFc領域のC1q結合および/または補体依存性細胞傷害(CDC)機能を変化させる1つまたは複数の追加のアミノ酸修飾と組み合わせることが有用である場合がある。特定の関心対象の結合ポリペプチドは、C1qに結合し、補体依存性細胞傷害を示すものであり得る。既存のC1q結合活性を有し、任意でCDCを媒介する能力をさらに有するポリペプチドは、これらの活性の一方または両方が増強されるように修飾され得る。C1qを変化させる、および/またはその補体依存性細胞傷害機能を修飾するアミノ酸修飾は、例えば、参照により本明細書に組み入れられる国際公開公報第0042072号に記載されている。
【0103】
例えば、C1q結合および/またはFcγR結合を修飾し、それによって、CDC活性および/またはADCC活性を変化させることによって、エフェクター機能が変化した、抗体のFc領域を設計することができる。「エフェクター機能」は、(例えば、対象の)生物学的活性を活性化または低下させる役割を果たす。エフェクター機能の例には、限定されることなく、C1q結合;補体依存性細胞傷害(CDC);Fc受容体結合;抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC);食作用;細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体;BCR)のダウンレギュレーションなどが挙げられる。そのようなエフェクター機能は、Fc領域が結合ドメイン(例えば、抗体可変ドメイン)と組み合わされることを必要とする場合があり、様々なアッセイ(例えば、Fc結合アッセイ、ADCCアッセイ、CDCアッセイなど)を使用して評価され得る。
【0104】
例えば、改善されたC1q結合および改善されたFcγRIII結合を有する、抗体のバリアントFc領域を生成することができる(例えば、改善されたADCC活性および改善されたCDC活性の両方を有する)。あるいは、エフェクター機能を低下または消失させることが望まれる場合、バリアントFc領域を、CDC活性の低下および/またはADCC活性の低下を伴って操作することができる。他の態様では、これらの活性の一方のみを増加させてもよく、任意で、他方の活性も低下させてもよい(例えば、改善されたADCC活性を有するが、低下したCDC活性を有するFc領域バリアントを生成すること、およびその逆)。
【0105】
FcRn結合。Fc変異はまた、新生児型Fc受容体(FcRn)との相互作用を変化させ、それらの薬物動態特性を改善するために導入および操作され得る。FcRnへの結合が改善されたヒトFcバリアントの集合が記載されている(Shields et al.,(2001).High resolution mapping of the binding site on human IgG1 for FcγRI,FcγRII,FcγRIII,and FcRn and design of IgG1 variants with improved binding to the FcγR,(J.Biol.Chem.276:6591-6604)。アラニン走査変異誘発、ランダム変異誘発、および新生児型Fc受容体(FcRn)への結合および/またはインビボ挙動を評価するためのスクリーニングを含む技術によって、アミノ酸修飾を含む半減期の延長をもたらし得るいくつかの方法が知られている(Kuo and Aveson,(2011))。変異を起こすアミノ酸変異のうちの1つを選択するために、変異誘発に続く計算戦略も使用され得る。
【0106】
したがって、本開示は、FcRnへの結合が最適化された抗原結合タンパク質のバリアントを提供する。特定の態様では、抗原結合タンパク質の該バリアントは、該抗原結合タンパク質のFc領域に少なくとも1つのアミノ酸修飾を含み、該修飾は、該親ポリペプチドと比較して226、227、228、230、231、233、234、239、241、243、246、250、252、256、259、264、265、267、269、270、276、284、285、288、289、290、291、292、294、297、298、299、301、302、303、305、307、308、309、311、315、317、320、322、325、327、330、332、334、335、338、340、342、343、345、347、350、352、354、355、356、359、360、361、362、369、370、371、375、378、380、382、384、385、386、387、389、390、392、393、394、395、396、397、398、399、400、401 403、404、408、411、412、414、415、416、418、419、420、421、422、424、426、428、433、434、438、439、440、443、444、445、446および447のFc領域からなる群より選択され、Fc領域のアミノ酸のナンバリングはKabatのEUインデックスのナンバリングである。本開示のさらなる局面では、修飾はM252Y/S254T/T256Eである。
【0107】
さらに、様々な刊行物は、FcRn結合ポリペプチドを分子に導入することによって、または分子を、FcRn結合親和性が保存されているが他のFc受容体に対する親和性が大幅に低下している抗体と融合することによって、もしくは抗体のFcRn結合ドメインと融合することによって、半減期が改変された生理学的に活性な分子を得るための方法を記載しており、例えば、Kontermann(2009)を参照されたい。
【0108】
誘導体化抗体を使用して、哺乳動物、特にヒトにおける親抗体の半減期(例えば、血清半減期)を変化させてもよい。そのような変化は、15日を超える、好ましくは20日を超える、25日を超える、30日を超える、35日を超える、40日を超える、45日を超える、2ヶ月を超える、3ヶ月を超える、4ヶ月を超える、または5ヶ月を超える半減期をもたらし得る。哺乳動物、好ましくはヒトでは、本開示の抗体またはその断片の半減期が延長すると、哺乳動物における該抗体または抗体断片の血清力価が高くなり、ひいては、該抗体または抗体断片の投与頻度を低下させ、および/または投与される該抗体または抗体断片の濃度を低下させる。インビボ半減期が延長した抗体またはその断片は、当業者に公知の技術によって生成され得る。例えば、インビボ半減期が延長した抗体またはその断片は、FcドメインとFcRn受容体との間の相互作用に関与すると同定されたアミノ酸残基を修飾する(例えば、置換するか、欠失させるか、または付加する)ことによって生成され得る。
【0109】
Beltramello et al.(2010)は、以前に、そのデングウイルス感染を増強する傾向に起因して、中和mAbの、CH2ドメインの1.3位および1.2位のロイシン残基(Cドメインに関するIMGT固有のナンバリングによる)がアラニン残基によって置換されたものを生成することによる修飾を報告した。「LALA」変異としても知られているこの修飾は、Hessell et al.(2007)によって記載されているように、FcγRI、FcγRIIおよびFcγRIIIaへの抗体結合を消失させる。4つのデングウイルス血清型による感染を中和および増強する能力について、バリアントおよび未修飾組換えmAbが比較された。LALAバリアントは、未修飾mAbと同じ中和活性を保持したが、増強活性を完全に欠いていた。したがって、この性質のLALA変異は、本開示の抗体と関連して企図される。
【0110】
グリコシル化の変化。本開示の特定の態様は、シアル酸、ガラクトースまたはフコースを含まない実質的に均一なグリカンを含有する単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合断片である。モノクローナル抗体は、重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含み、これらはいずれも、それぞれ重鎖定常領域または軽鎖定常領域に結合していてもよい。上述の実質的に均一なグリカンは、重鎖定常領域に共有結合していてもよい。
【0111】
本開示の別の態様は、新規Fcグリコシル化パターンを有するmAbを含む。単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、GNGNグリコフォームまたはG1/G2グリコフォームによって表される実質的に均一な組成で存在する。Fcグリコシル化は、治療用mAbの抗ウイルス特性および抗癌特性に重要な役割を果たす。本開示は、フコースを含まない抗HIV mAbの抗レンチウイルス細胞媒介性ウイルス阻害の増加をインビトロで示す近年の試験と一致している。コアフコースを欠く均一なグリカンを有する本開示のこの態様は、2倍を超える、特定のウイルスに対する保護の増加を示した。コアフコースの除去は、ナチュラルキラー(NK)細胞によって媒介されるmAbのADCC活性を劇的に改善するが、多形核細胞(PMN)のADCC活性に対しては反対の効果を有するようである。
【0112】
GNGNグリコフォームまたはG1/G2グリコフォームによって表される実質的に均一な組成を含む単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、実質的に均一なGNGNグリコフォームを有さず、G0、G1F、G2F、GNF、GNGNFまたはGNGNFXを含有するグリコフォームを有する同じ抗体と比較して、FcγRIおよびFcγRIIIに対して増加した結合親和性を示す。本開示の一態様では、抗体は、1×10-8M以下のKdを有するFcγRIから、および1×10-7M以下のKdを有するFcγRIIIから解離する。
【0113】
Fc領域のグリコシル化は、典型的には、N結合型またはO結合型のいずれかである。N結合型とは、アスパラギン残基の側鎖への炭水化物部分の付着を指す。O結合型グリコシル化とは、ヒドロキシアミノ酸、最も一般的にはセリンまたはトレオニンへの糖N-アセチルガラクトサミン、ガラクトースまたはキシロースのうちの1つの付着を指すが、5-ヒドロキシプロリンまたは5-ヒドロキシリジンも使用され得る。アスパラギン側鎖ペプチド配列への炭水化物部分の酵素的付着のための認識配列は、アスパラギン-X-セリンおよびアスパラギン-X-トレオニンであり、ここで、Xはプロリンを除く任意のアミノ酸である。したがって、ポリペプチド内のこれらのペプチド配列のいずれかの存在は、潜在的なグリコシル化部位を作り出す。
【0114】
グリコシル化パターンは、例えば、ポリペプチド内に見られる1つまたは複数のグリコシル化部位を欠失させること、および/またはポリペプチド内に存在しない1つまたは複数のグリコシル化部位を付加することによって変化させてもよい。抗体のFc領域へのグリコシル化部位の付加は、(N結合型グリコシル化部位では)上記のトリペプチド配列のうちの1つまたは複数を含むようにアミノ酸配列を変化させることによって都合よく達成される。例示的なグリコシル化バリアントは、重鎖の残基Asn297のアミノ酸置換を有する。変化はまた、(O結合型グリコシル化部位では)元のポリペプチドの配列への、1つもしくは複数のセリン残基もしくはトレオニン残基の付加または1つもしくは複数のセリン残基もしくはトレオニン残基による置換によって行われ得る。さらに、AlaへのAsn297の変化は、グリコシル化部位のうちの1つを除去することができる。
【0115】
一定の態様では、抗体は、GnT IIIがGlcNAcをIL-23p19抗体に付加するように、β(1,4)-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII(GnT III)を発現する細胞内で発現される。そのような様式で抗体を産生するための方法は、国際公開公報第9954342号、国際公開公報第03011878号、特許公報第20030003097号、およびUmana et al.,Nature Biotechnology,17:176-180,February 1999に提供されている。細胞株は、Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats(CRISPR)などのゲノム編集技術を使用して、グリコシル化などの特定の翻訳後修飾を増強または低減または排除するように変化させることができる。例えば、CRISPR技術を使用して、組換えモノクローナル抗体を発現するために使用される293細胞またはCHO細胞内のグリコシル化酵素をコードする遺伝子を排除することができる。
【0116】
モノクローナル抗体タンパク質配列易障害性(protein sequence liabilities)の排除。ヒトB細胞から得られた抗体可変遺伝子配列を操作して、それらの製造可能性および安全性を高めることが可能である。潜在的なタンパク質配列易障害性は、以下を含む部位に関連する配列モチーフを探索することによって特定することができる:
1)不対合Cys残基、
2)N結合型グリコシル化、
3)Asn脱アミド化、
4)Asp異性化、
5)SYE切断、
6)Met酸化、
7)Trp酸化、
8)N末端グルタメート、
9)インテグリン結合、
10)CD11c/CD18結合、または
11)断片化
【0117】
そのようなモチーフは、組換え抗体をコードするcDNAの合成遺伝子を変化させることによって排除することができる。
【0118】
治療用抗体の開発の分野におけるタンパク質操作の取り組みは、特定の配列または残基が溶解度の差に関連することを明確に明らかにしている(Fernandez-Escamilla et al.,Nature Biotech.,22(10),1302-1306,2004;Chennamsetty et al.,PNAS,106(29),11937-11942,2009;Voynov et al.,Biocon.Chem.,21(2),385-392,2010)文献中の溶解度を変化させる変異からの証拠は、アスパラギン酸、グルタミン酸およびセリンなどの一部の親水性残基が、アスパラギン、グルタミン、トレオニン、リジンおよびアルギニンなどの他の親水性残基よりもタンパク質溶解度に顕著に有利に寄与することを示している。
【0119】
安定性。抗体は、生物物理学的特性を増強するために操作され得る。平均見かけ融解温度を使用して、抗体をアンフォールディングして相対的安定性を決定するために、高温を使用することができる。示差走査熱量測定(DSC)は、温度の関数として分子の熱容量Cp(それを温めるのに必要な熱、1度当たり)を測定する。抗体の熱安定性を試験するためにDSCを使用することができる。mAbのDSCデータは、mAb構造内の個々のドメインのアンフォールディングを分解し、サーモグラムに最大3つのピークを生成することがあるため、特に興味深い(Fabドメイン、CH2ドメインおよびCH3ドメインのアンフォールディングから)。典型的には、Fabドメインのアンフォールディングが最も強いピークを生成する。DSCプロファイルと、Fc部分の相対的安定性とは、ヒトのIgG1、IgG2、IgG3およびIgG4サブクラスでは特徴的な差を示す(Garber and Demarest,Biochem.Biophys.Res.Commun.355,751-757,2007)。CD分光計を用いて行われる円二色性(CD)を使用して、平均見かけ融解温度を決定することもできる。抗体について、200~260nmの範囲で0.5nm刻みでFar-UV CDスペクトルを測定する。最終スペクトルは、20回の累積の平均として決定することができる。残基楕円率値は、バックグラウンド減算後に計算することができる。抗体(0.1mg/mL)の熱アンフォールディングは、25~95℃、および1℃/分の加熱速度から235nmでモニタリングすることができる。凝集の傾向を評価するために動的光散乱(DLS)を使用することができる。DLSは、タンパク質を含む様々な粒子のサイズを特性評価するために使用される。系のサイズが分散していない場合、粒子の平均有効径を決定することができる。この測定は、粒子コアのサイズ、表面構造のサイズ、および粒子濃度に依存する。DLSは、粒子による散乱光強度の変動を本質的に測定するため、粒子の拡散係数を決定することができる。市販のDLA機器のDLSソフトウェアは、様々な直径の粒子集団を示す。安定性試験は、DLSを使用して簡便に行うことができる。試料のDLS測定は、粒子の流体力学的半径が増加するかどうかを決定することによって、粒子が経時的に凝集するかどうか、温度変動とともに凝集するかどうかを示すことができる。粒子が凝集すると、比較的大きな半径を有する粒子の比較的大きな集団を見ることができる。温度に依存する安定性は、インサイチューで温度を制御することによって分析することができる。キャピラリー電気泳動(CE)技術には、抗体安定性の特徴を決定するための実証された方法が含まれる。脱アミド化、C末端リジン、シアリル化、酸化、グリコシル化、およびタンパク質のpIの変化をもたらし得る、タンパク質に対するいずれかの他の変化に起因する抗体タンパク質電荷バリアントを分解するために、iCE手法を使用することができる。発現された抗体タンパク質の各々は、Protein Simple Maurice機器を使用して、キャピラリーカラム(cIEF)におけるハイスループット自由溶液等電点電気泳動(IEF)によって評価することができる。等電点(pI)に集束する分子のリアルタイムモニタリングのために、カラム全体のUV吸収検出を30秒ごとに行うことができる。この手法は、従来のゲルIEFの高分解能と、カラムベースの分離に見られる定量および自動化の利点とを組み合わせながら、動員工程の必要性を排除する。この技術は、発現された抗体の同一性、純度および不均一性プロファイルの再現性のある定量的分析をもたらす。結果により、吸光度および天然蛍光検出モードの両方、ならびに最低0.7μg/mLの検出感度で、抗体の電荷不均一性および分子サイズが特定される。
【0120】
溶解度。抗体配列の固有の溶解度スコアを決定することができる。固有の溶解度スコアは、CamSol Intrinsic(Sormanni et al.,J Mol Biol 427,478-490,2015)を使用して計算することができる。オンラインプログラムを介して、scFvなどの各抗体断片のHCDR3内の残基95~102(Kabatナンバリング)のアミノ酸配列を評価して、溶解度スコアを計算することができる。実験室技術を使用して溶解度を決定することもできる。溶液が飽和し、溶解限度に達するまで凍結乾燥タンパク質を溶液に加えること、または好適な分子量カットオフを有するマイクロコンセントレーターでの限外濾過による濃縮を含む様々な技術が存在する。最も簡単な方法は非晶質沈殿の誘導であり、これは、硫酸アンモニウムを使用するタンパク質沈殿を含む方法を使用してタンパク質溶解度を測定する(Trevino et al.,J Mol Biol,366:449-460,2007)。硫酸アンモニウム沈殿は、相対的溶解度値に関する迅速かつ正確な情報をもたらす。硫酸アンモニウム沈殿は、明確に定義された水相および固相を有する沈殿溶液を生成し、比較的少量のタンパク質を必要とする。硫酸アンモニウムによる非晶質沈殿の誘導を使用して行われる溶解度測定も、様々なpH値で容易に行うことができる。タンパク質溶解度は高度にpH依存性であり、pHは、溶解度に影響を及ぼす最も重要な外因性因子と考えられている。
【0121】
自己反応性。一般に、自己反応性クローンは、個体発生中に陰性選択によって排除されるべきであると考えられているが、成体成熟レパートリーには自己反応性特性を有する多くのヒト天然抗体が存続し、自己反応性が病原体に対する多くの抗体の抗ウイルス機能を増強し得ることが明らかになっている。早期B細胞発達中の抗体内のHCDR3ループは、多くの場合、正電荷に富み、自己反応性パターンを示すことが注目されている(Wardemann et al.,Science 301,1374-1377,2003)。顕微鏡法(接着性のHeLa上皮細胞またはHEp-2上皮細胞を使用)およびフローサイトメトリー細胞表面染色(懸濁Jurkat T細胞および293Sヒト胚腎細胞を使用)でヒト起源細胞への結合レベルを評価することによって、自己反応性について所与の抗体を試験することができる。組織アレイにおける組織への結合の評価を使用して、自己反応性を調査することもできる。
【0122】
好ましい残基(「ヒト類似性」)。多くの近年の試験では、血液ドナー由来のヒトB細胞のB細胞レパートリーのディープシーケンシングが広範囲に行われている。ヒト抗体レパートリーの重要な部分に関する配列情報は、健康なヒトに一般的な抗体配列特徴の統計的評価を容易にする。ヒト組換え抗体可変遺伝子参照データベース内の抗体配列特徴に関する知識を用いて、抗体配列の「ヒト類似性」(HL)の位置特異的度合いを推定することができる。HLは、治療用抗体、またはワクチンとしての抗体のように、臨床用途では抗体の開発に有用であることが示されている。目標は、抗体のヒト類似性を高めて、抗体薬物の効果の顕著な低下をもたらすか、深刻な健康上の影響を誘発し得る潜在的な有害作用および抗抗体免疫応答を減少させることである。合計約4億の配列の健康なヒト血液ドナー3例の組み合わされた抗体レパートリーの抗体特性を評価することができ、抗体の超可変領域に焦点を合わせた新規な「相対的ヒト類似性」(rHL)スコアを作り出した。rHLスコアは、ヒト配列(陽性スコア)と非ヒト配列(陰性スコア)とを容易に区別することを可能にする。抗体は、ヒトレパートリーでは一般的ではない残基を排除するように操作され得る。
【0123】
D. 一本鎖抗体
一本鎖可変断片(scFv)は、短い(通常、セリン、グリシン)リンカーと一緒に連結された、免疫グロブリンの重鎖および軽鎖の可変領域の融合物である。このキメラ分子は、定常領域の除去、およびリンカーペプチドの導入にもかかわらず、元の免疫グロブリンの特異性を保持する。この修飾は、通常、特異性を変化させないままにする。これらの分子は、抗原結合ドメインを単一ペプチドとして発現することが非常に簡便であるファージディスプレイを促進するためにかつて作製された。あるいは、scFvは、ハイブリドーマまたはB細胞に由来するサブクローニングされた重鎖および軽鎖から直接作製することができる。一本鎖可変断片は、完全な抗体分子に見られる定常Fc領域、したがって、抗体を精製するために使用される共通の結合部位(例えば、プロテインA/G)を欠く。これらの断片は、多くの場合、プロテインLがκ軽鎖の可変領域と相互作用するため、プロテインLを使用して精製/固定化され得る。
【0124】
可撓性リンカーは、一般に、ヘリックス促進アミノ酸残基およびターン促進アミノ酸残基、例えば、アラニン、セリンおよびグリシンから構成される。ただし、他の残基も同様に機能することができる。Tang et al.(1996)は、タンパク質リンカーライブラリーから一本鎖抗体(scFv)用に調整されたリンカーを迅速に選択する手段としてファージディスプレイを使用した。重鎖可変ドメインおよび軽鎖可変ドメインの遺伝子が、可変組成の18アミノ酸ポリペプチドをコードするセグメントによって連結されているランダムリンカーライブラリーが構築された。scFvレパートリー(約5×106の異なるメンバー)が繊維状ファージ上に提示され、ハプテンによる親和性選択に供された。選択されたバリアントの集団は、結合活性の顕著な増加を示したが、かなりの配列多様性を保持した。1054の個々のバリアントをスクリーニングしたところ、続いて、可溶性形態で効率的に生成された触媒活性scFvが得られた。配列分析により、選択されたテザーの唯一の共通の特徴として、VHC末端の2残基後のリンカー内の保存されたプロリンと、他の位置の豊富なアルギニンおよびプロリンとが明らかにされた。
【0125】
本開示の組換え抗体はまた、受容体の二量体化または多量体化を可能にする配列または部分を含み得る。そのような配列には、J鎖と併せて多量体の形成を可能にする、IgAに由来するものが含まれる。別の多量体化ドメインは、Gal4二量体化ドメインである。他の態様では、鎖は、2つの抗体の組合せを可能にするビオチン/アビジンなどの作用物質によって修飾されてもよい。
【0126】
別の態様では、一本鎖抗体は、非ペプチドリンカーまたは化学単位を使用して受容体の軽鎖および重鎖を連結することによって作製され得る。一般に、軽鎖および重鎖は、別個の細胞内で産生され、精製され、続いて適切な様式で一緒に連結される(すなわち、重鎖のN末端は、適切な化学架橋を介して軽鎖のC末端に付着している)。
【0127】
架橋試薬、例えば、安定化剤および凝固剤は、2つの異なる分子の官能基を結合する分子架橋を形成するために使用される。ただし、同じ類似体の二量体もしくは多量体、または異なる類似体から構成されるヘテロマー複合体を作製することができると考えられる。2つの異なる化合物を段階的に連結するために、望ましくないホモポリマー形成を排除するヘテロ二官能性クロスリンカーを使用することができる。
【0128】
例示的なヘテロ二官能性クロスリンカーは、一方は第一級アミン基(例えば、N-ヒドロキシスクシンイミド)と反応し、他方はチオール基(例えば、ピリジルジスルフィド、マレイミド、ハロゲンなど)と反応する2つの反応性基を含む。クロスリンカーは、第一級アミン反応性基を介して、1つのタンパク質(例えば、選択された抗体または断片)のリジン残基と反応してもよく、すでに第1のタンパク質に結合されているクロスリンカーは、チオール反応性基を介して、他のタンパク質(例えば、選択剤)のシステイン残基(遊離スルフヒドリル基)と反応する。
【0129】
血液中で合理的な安定性を有するクロスリンカーが使用されることが好ましい。標的化剤および治療/予防剤をコンジュゲートするために首尾よく使用され得る多くの種類のジスルフィド結合含有リンカーが知られている。立体障害されたジスルフィド結合を含むリンカーは、インビボでさらに大きな安定性をもたらし、作用部位に到達する前に標的化ペプチドの放出を妨げることを示し得る。したがって、これらのリンカーは、連結剤の1つの群である。
【0130】
別の架橋試薬はSMPTであり、SMPTは、隣接するベンゼン環およびメチル基によって「立体障害された」ジスルフィド結合を含む二官能性クロスリンカーである。ジスルフィド結合の立体障害は、組織および血液中に存在し得るグルタチオンなどのチオレートアニオンによる攻撃から結合を保護する機能を果たし、それによって、付着した薬剤を標的部位に送達する前にコンジュゲートが分離するのを防止するのに役立つと考えられる。
【0131】
SMPT架橋試薬は、他の多くの公知の架橋試薬と同様に、システインまたは第一級アミンのSH(例えば、リジンのεアミノ基)などの官能基を架橋する能力を付与する。別の可能なタイプのクロスリンカーには、切断可能なジスルフィド結合を含むヘテロ二官能性光反応性フェニルアジド、例えばスルホスクシンイミジル-2-(p-アジドサリチルアミド)エチル-1,3'-ジチオプロピオネートが含まれる。N-ヒドロキシ-スクシンイミジル基は第一級アミノ基と反応し、フェニルアジド(光分解時)は任意のアミノ酸残基と非選択的に反応する。
【0132】
障害されたクロスリンカーに加えて、非障害リンカーも本明細書に従って使用することができる。保護されたジスルフィドを含むか生成するとは考えられない他の有用なクロスリンカーには、SATA、SPDPおよび2-イミノチオランが含まれる(Wawrzynczak&Thorpe,1987)。そのようなクロスリンカーの使用は、当技術分野においてよく理解されている。別の態様は、可撓性リンカーの使用を含む。
【0133】
米国特許第4,680,338号は、リガンドとアミン含有ポリマーおよび/またはタンパク質とのコンジュゲートを生成するために、特に、キレーター、薬物、酵素、検出可能な標識などとの抗体コンジュゲートを形成するために有用な二官能性リンカーを記載している。米国特許第5,141,648号および米国特許第5,563,250号は、様々な穏やかな条件下で切断可能な不安定な結合を含む切断可能なコンジュゲートを開示している。このリンカーは、関心対象の作用物質がリンカーに直接結合し、切断により活性作用物質が放出され得るという点で特に有用である。特定の用途には、遊離アミノ基または遊離スルフヒドリル基をタンパク質、例えば、抗体または薬物に付加することが含まれる。
【0134】
米国特許第5,856,456号は、ポリペプチド成分を接続して、融合タンパク質、例えば一本鎖抗体を作製する際に使用するためのペプチドリンカーを提供している。リンカーは、最大約50アミノ酸長であり、荷電アミノ酸(好ましくはアルギニンまたはリジン)とそれに続くプロリンの少なくとも1つの存在を含み、比較的高い安定性と、凝集の減少とを特徴とする。米国特許第5,880,270号は、様々な免疫診断技術および分離技術に有用なアミノオキシ含有リンカーを開示している。
【0135】
E. 多重特異性抗体
一定の態様では、本開示の抗体は、二重特異性または多重特異性である。二重特異性抗体とは、少なくとも2つの異なるエピトープに対する結合特異性を有する抗体である。例示的な二重特異性抗体は、単一抗原の2つの異なるエピトープに結合し得る。他のそのような抗体は、第1の抗原結合部位を第2の抗原に対する結合部位と組み合わせ得る。あるいは、抗病原体アームが、感染細胞に細胞防御機構を集中させ、局在化させるために、白血球上のトリガー分子、例えばT細胞受容体分子(例えばCD3)、またはIgGのFc受容体(FcγR)、例えば、FcγRI(CD64)、FcγRII(CD32)およびFcγRIII(CD16)に結合するアームと組み合わされ得る。二重特異性抗体はまた、感染細胞に細胞傷害剤を局在化させるために使用され得る。これらの抗体は、病原体結合アームと、細胞傷害剤(例えば、サポリン、抗インターフェロン-α、ビンカアルカロイド、リシンA鎖、メトトレキセートまたは放射性同位体ハプテン)に結合するアームとを有する。二重特異性抗体は、完全長抗体または抗体断片(例えば、F(ab')2二重特異性抗体)として調製することができる。国際公開公報第96/16673号は、二重特異性抗ErbB2/抗FcγRIII抗体を記載しており、米国特許第5,837,234号は、二重特異性抗ErbB2/抗FcγRI抗体を開示している。国際公開公報第98/02463号には、二重特異性抗ErbB2/Fcα抗体が示されている。米国特許第5,821,337号は、二重特異性抗ErbB2/抗CD3抗体を教示している。
【0136】
二重特異性抗体を作製するための方法は、当技術分野において公知である。完全長二重特異性抗体の従来の生成は、2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対の共発現に基づいており、2つの鎖は異なる特異性を有する(Millstein et al.,Nature,305:537-539(1983))。免疫グロブリン重鎖および免疫グロブリン軽鎖のランダムな組合せのために、これらのハイブリドーマ(クアドローマ)は、10個の異なる抗体分子の潜在的な混合物を生成し、10個の異なる抗体分子のうちの1つのみが正確な二重特異性構造を有する。正確な分子の精製は、通常、アフィニティークロマトグラフィー工程によって行われるが、かなり面倒であり、生成物の収率は低い。同様の手順は、国際公開公報第93/08829号およびTraunecker et al.,EMBO J.,10:3655-3659(1991)に開示されている。
【0137】
異なる手法によれば、所望の結合特異性(抗体-抗原結合部位)を有する抗体可変領域を免疫グロブリン定常ドメイン配列に融合する。好ましくは、融合は、ヒンジ領域、CH2領域およびCH3領域の少なくとも一部を含むIg重鎖定常ドメインとの融合である。融合物の少なくとも1つに存在する軽鎖結合に必要な部位を含む第1の重鎖定常領域(CH1)を有することが好ましい。免疫グロブリン重鎖融合物および所望であれば免疫グロブリン軽鎖をコードするDNAを別個の発現ベクターに挿入し、好適な宿主細胞に同時トランスフェクトする。構築に使用される3つのポリペプチド鎖の比が等しくない場合に所望の二重特異性抗体の最適な収率が得られる態様では、これにより、3つのポリペプチド断片の相互比率を調整する際にさらに大きな柔軟性がもたらされる。ただし、等しい比での少なくとも2つのポリペプチド鎖の発現が高い収率をもたらす場合、または比が所望の鎖の組合せの収率に顕著な影響を及ぼさない場合、2つまたは3つ全部のポリペプチド鎖のコード配列を単一の発現ベクターに挿入することが可能である。
【0138】
この手法の特定の態様では、二重特異性抗体は、一方のアームに第1の結合特異性を有するハイブリッド免疫グロブリン重鎖と、他方のアームにハイブリッド免疫グロブリン重鎖-軽鎖対(第2の結合特異性を提供する)とから構成される。二重特異性分子の半分のみに免疫グロブリン軽鎖が存在すると容易な分離方法がもたらされるため、この非対称構造は、望ましくない免疫グロブリン鎖の組合せからの所望の二重特異性化合物の分離を容易にすることが見出された。この手法は、国際公開公報第94/04690号に開示されている。二重特異性抗体の生成の追加の詳細については、例えば、Suresh et al.,Methods in Enzymology,121:210(1986)を参照されたい。
【0139】
米国特許第5,731,168号に記載されている別の手法によれば、抗体分子対の間の界面は、組換え細胞培養物から回収されるヘテロ二量体の割合を最大化するように操作することができる。好ましい界面は、CH3ドメインの少なくとも一部を含む。この方法では、第1の抗体分子の界面からの1つまたは複数の小さなアミノ酸側鎖が、さらに大きな側鎖(例えば、チロシンまたはトリプトファン)によって置換される。大きなアミノ酸側鎖をさらに小さなもの(例えば、アラニンまたはトレオニン)によって置換することによって、大きな側鎖と同一または類似のサイズの代償的「キャビティ」が、第2の抗体分子の界面上に作り出される。これは、ホモ二量体などの他の望ましくない最終生成物よりもヘテロ二量体の収率を増加させる機構を提供する。
【0140】
二重特異性抗体には、架橋抗体または「ヘテロコンジュゲート」抗体が含まれる。例えば、ヘテロコンジュゲート内の抗体の一方をアビジンに、他方をビオチンにカップリングさせることができる。そのような抗体は、例えば、免疫系細胞を望ましくない細胞に対して標的化し(米国特許第4,676,980号)、HIV感染を治療するために提案されている(国際公開公報第91/00360号、国際公開公報第92/200373号およびEP03089)。ヘテロコンジュゲート抗体は、任意の簡便な架橋方法を使用して作製され得る。好適な架橋剤は当技術分野において周知であり、いくつかの架橋技術とともに米国特許第4,676,980号に開示されている。
【0141】
抗体断片から二重特異性抗体を生成するための技術も文献に記載されている。例えば、化学結合を使用して二重特異性抗体を調製することができる。Brennan et al.,Science,229:81(1985)には、インタクトな抗体をタンパク質分解的に切断してF(ab')2断片を生成する手順が記載されている。これらの断片は、ジチオール錯化剤である亜ヒ酸ナトリウムの存在下で還元されて、隣接ジチオールを安定化し、分子間ジスルフィド形成を防ぐ。次いで、生成されたFab'断片をチオニトロベンゾエート(TNB)誘導体に変換する。次いで、Fab'-TNB誘導体の一方をメルカプトエチルアミンによる還元によってFab'-チオールに再変換し、等モル量の他方のFab'-TNB誘導体と混合して二重特異性抗体を形成する。生成された二重特異性抗体は、酵素の選択的固定化のための作用物質として使用され得る。
【0142】
二重特異性抗体を形成するために化学的にカップリングされ得る、大腸菌由来のFab'-SH断片の直接回収を容易にする技術が存在する。Shalaby et al.,J.Exp.Med.,175:217-225(1992)には、ヒト化二重特異性抗体F(ab')2分子の生成が記載されている。二重特異性抗体を形成するために、各Fab'断片が大腸菌から別個に分泌され、インビトロで指向性化学カップリングに供された。このように形成された二重特異性抗体は、ErbB2受容体を過剰発現する細胞および正常ヒトT細胞に結合することができるとともに、ヒト乳房腫瘍標的に対するヒト細胞傷害性リンパ球の溶解活性を誘導することができた。
【0143】
二重特異性抗体断片を組換え細胞培養物から直接作製および単離するための様々な技術も記載されている(Merchant et al.,Nat.Biotechnol.16,677-681, 1998)。例えば、二重特異性抗体は、ロイシンジッパーを使用して生成されている(Kostelny et al.,J.Immunol.,148(5):1547-1553,1992)。Fosタンパク質およびJunタンパク質由来のロイシンジッパーペプチドが、遺伝子融合によって2つの異なる抗体のFab'部分に連結された。抗体ヘテロ二量体を形成するために、抗体ホモ二量体が、ヒンジ領域で還元されてモノマーを形成し、次いで、再酸化された。この方法は、抗体ホモ二量体の生成にも利用することができる。Hollinger et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:6444-6448(1993)によって記載された「ダイアボディ」技術は、二重特異性抗体断片を作製するための代替機構を提供している。断片は、同一鎖上の2つのドメイン間の対合を可能にするには短すぎるリンカーによってVLに接続されたVHを含む。したがって、1つの断片のVHドメインおよびVLドメインは、別の断片の相補的なVLドメインおよびVHドメインと対合され、それによって、2つの抗原結合部位が形成される。一本鎖Fv(sFv)二量体の使用によって二重特異性抗体断片を作製するための別の戦略も報告されている。Gruber et al.,J.Immunol.,152:5368(1994)を参照されたい。
【0144】
特定の態様では、二重特異性抗体または多重特異性抗体は、DOCK-AND-LOCK(商標)(DNL(商標))複合体として形成され得る(例えば、各々の実施例のセクションが参照により本明細書に組み入れられる米国特許第7,521,056号、米国特許第7,527,787号、米国特許第7,534,866号、米国特許第7,550,143号および米国特許第7,666,400号を参照)。一般に、この技術は、cAMP依存性タンパク質キナーゼ(PKA)の調節(R)サブユニットの二量体化およびドッキングドメイン(DDD)配列と、様々なAKAPタンパク質のいずれかに由来するアンカードメイン(AD)配列との間で生じる特異的かつ高親和性の結合相互作用を利用する(Baillie et al.,FEBS Letters.2005;579:3264;Wong and Scott,Nat.Rev.Mol.Cell Biol.2004;5:959)。DDDペプチドおよびADペプチドは、任意のタンパク質、ペプチドまたは他の分子に付着してもよい。DDD配列は自発的に二量体化し、AD配列に結合するため、この技術は、DDD配列またはAD配列に付着し得る任意の選択された分子間の複合体の形成を可能にする。
【0145】
2つを超える結合価を有する抗体が企図される。例えば、三重特異性抗体を調製することができる(Tutt et al.,J.Immunol.147:60,1991;Xu et al.,Science,358(6359):85-90,2017)。多価抗体は、抗体が結合する抗原を発現する細胞によって、二価抗体よりも速く内在化(および/または異化)され得る。本開示の抗体は、抗体のポリペプチド鎖をコードする核酸の組換え発現によって容易に生成され得る、3つ以上の抗原結合部位を有する多価抗体(例えば、四価抗体)であり得る。多価抗体は、二量体化ドメインおよび3つ以上の抗原結合部位を含むことができる。好ましい二量体化ドメインは、Fc領域またはヒンジ領域を含む(またはそれからなる)。この状況では、抗体は、Fc領域と、Fc領域に対してアミノ末端にある3つ以上の抗原結合部位とを含む。本明細書における好ましい多価抗体は、3~約8つ、好ましくは4つの抗原結合部位を含む(またはそれからなる)。多価抗体は少なくとも1つのポリペプチド鎖(および好ましくは2つのポリペプチド鎖)を含み、ポリペプチド鎖は2つ以上の可変領域を含む。例えば、ポリペプチド鎖は、VD1-(X1)n-VD2-(X2)n-Fcを含み得、ここで、VD1は第1の可変領域であり、VD2は第2の可変領域であり、FcはFc領域の1つのポリペプチド鎖であり、X1およびX2はアミノ酸またはポリペプチドを表し、nは0または1である。例えば、ポリペプチド鎖は、VH-CH1-可撓性リンカー-VH-CH1-Fc領域鎖またはVH-CH1-VH-CH1-Fc領域鎖を含み得る。本明細書における多価抗体は、好ましくは、少なくとも2つ(好ましくは4つ)の軽鎖可変領域ポリペプチドをさらに含む。本明細書における多価抗体は、例えば、約2~約8つの軽鎖可変領域ポリペプチドを含み得る。本明細書において企図される軽鎖可変領域ポリペプチドは、軽鎖可変領域を含み、任意でCLドメインをさらに含む。
【0146】
多重特異性抗体の状況では、電荷修飾が特に有用であり、Fab分子におけるアミノ酸置換は、Fabベースの二重特異性/多重特異性抗原結合分子の結合アームの1つ(または、2つを超える抗原結合Fab分子を含む分子の場合、それ以上)におけるVH/VL交換を用いたFabベースの二重特異性/多重特異性抗原結合分子の生成時に起こり得る、軽鎖と非適合重鎖との誤対合を減少させる(Bence-Jones型副産物)(参照によりその全体が本明細書に組み入れられるPCT公開番号WO2015/150447、特にその中の実施例も参照)。
【0147】
したがって、特定の態様では、治療剤に含まれる抗体は、
(a)第1の抗原に特異的に結合する第1のFab分子
(b)第2の抗原に特異的に結合する第2のFab分子を含み、Fab軽鎖およびFab重鎖の可変ドメインVLおよびVHは、互いに置換され、
第1の抗原は活性化T細胞抗原であり、第2の抗原は標的細胞抗原であり、または第1の抗原は標的細胞抗原であり、第2の抗原は活性化T細胞抗原であり、
ここで、
i)a)の下の第1のFab分子の定常ドメインCLでは、124位のアミノ酸は、正に荷電したアミノ酸によって置換されており(Kabatによるナンバリング)、a)の下の第1のFab分子の定常ドメインCH1では、147位のアミノ酸もしくは213位のアミノ酸は、負に荷電したアミノ酸によって置換されており(Kabat EUインデックスによるナンバリング)、または
ii)b)の下の第2のFab分子の定常ドメインCLでは、124位のアミノ酸は、正に荷電したアミノ酸によって置換されており(Kabatによるナンバリング)、b)の下の第2のFab分子の定常ドメインCH1では、147位のアミノ酸もしくは213位のアミノ酸は、負に荷電したアミノ酸によって置換されている(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。
【0148】
抗体は、i)およびii)の下で述べた両修飾を含まなくてもよい。第2のFab分子の定常ドメインCLおよびCH1は、互いによって置換されていない(すなわち、交換されないままである)。
【0149】
抗体の別の態様では、a)の下の第1のFab分子の定常ドメインCLでは、124位のアミノ酸は、リジン(K)、アルギニン(R)またはヒスチジン(H)によって独立して置換されており(Kabatによるナンバリング)(好ましい一態様では、リジン(K)またはアルギニン(R)によって独立して)、a)の下の第1のFab分子の定常ドメインCH1では、147位のアミノ酸または213位のアミノ酸は、グルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)によって独立して置換されている(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。
【0150】
さらなる態様では、a)の下の第1のFab分子の定常ドメインCLでは、124位のアミノ酸は、リジン(K)、アルギニン(R)またはヒスチジン(H)によって独立して置換されており(Kabatによるナンバリング)、a)の下の第1のFab分子の定常ドメインCH1では、147位のアミノ酸は、グルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)によって独立して置換されている(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。
【0151】
特定の態様では、a)の下の第1のFab分子の定常ドメインCLでは、124位のアミノ酸は、リジン(K)、アルギニン(R)またはヒスチジン(H)によって置換されており(Kabatによるナンバリング)(好ましい一態様では、リジン(K)またはアルギニン(R)によって独立して)、123位のアミノ酸は、リジン(K)、アルギニン(R)またはヒスチジン(H)によって置換されており(Kabatによるナンバリング)(好ましい一態様では、リジン(K)またはアルギニン(R)によって独立して)、a)の下の第1のFab分子の定常ドメインCH1では、147位のアミノ酸は、グルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)によって独立して置換されており(Kabat EUインデックスによるナンバリング)、213位のアミノ酸は、グルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)によって独立して置換されている(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。
【0152】
さらに特定の態様では、a)の下の第1のFab分子の定常ドメインCLでは、124位のアミノ酸は、リジン(K)によって置換されており(Kabatによるナンバリング)、123位のアミノ酸は、リジン(K)またはアルギニン(R)によって置換されており(Kabatによるナンバリング)、a)の下の第1のFab分子の定常ドメインCH1では、147位のアミノ酸は、グルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによるナンバリング)、213位のアミノ酸は、グルタミン酸(E)によって置換されている(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。
【0153】
さらになお特定の態様では、a)の下の第1のFab分子の定常ドメインCLでは、124位のアミノ酸は、リジン(K)によって置換されており(Kabatによるナンバリング)、123位のアミノ酸は、アルギニン(R)によって置換されており(Kabatによるナンバリング)、a)の下の第1のFab分子の定常ドメインCH1では、147位のアミノ酸は、グルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによるナンバリング)、213位のアミノ酸は、グルタミン酸(E)によって置換されている(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。
【0154】
F. キメラ抗原受容体
人工T細胞受容体(キメラT細胞受容体、キメラ免疫受容体、キメラ抗原受容体(CAR)としても知られている)は、免疫エフェクター細胞に任意の特異性を移植する操作された受容体である。典型的には、これらの受容体は、レトロウイルスベクターによって促進されるそれらのコード配列の移入によって、モノクローナル抗体の特異性をT細胞に移植するために使用される。このように、養子細胞移入のために多数の標的特異的T細胞を生成することができる。この手法の第I相臨床試験は効果を示している。
【0155】
これらの分子の最も一般的な形態は、CD3-ζ膜貫通ドメインおよびエンドドメインに融合された、モノクローナル抗体に由来する一本鎖可変断片(scFv)の融合物である。そのような分子は、その標的のscFvによる認識に応答してζシグナルの伝達をもたらす。そのような構築物の例は、ハイブリドーマ14g2a(ジシアロガングリオシドGD2を認識する)に由来するscFvの融合物である14g2a-ζである。T細胞は、この分子を発現すると(通常、オンコレトロウイルスベクター形質導入によって達成される)、GD2を発現する標的細胞(例えば、神経芽細胞腫細胞)を認識し、死滅させる。悪性B細胞を標的とするために、研究者らは、B系統分子、CD19に特異的なキメラ免疫受容体を使用して、T細胞の特異性を方向転換させた。
【0156】
免疫グロブリン重鎖および免疫グロブリン軽鎖の可変部分は、可撓性リンカーによって融合されてscFvを形成する。このscFvの前には、新生タンパク質を小胞体およびその後の表面発現(これは切断される)に導くシグナルペプチドが存在する。可撓性スペーサーは、scFvを異なる方向に向けることを可能にして、抗原結合を可能にする。膜貫通ドメインは、細胞内に突出し、所望のシグナルを伝達するシグナル伝達エンドドメインの元の分子に通常由来する典型的な疎水性αヘリックスである。
【0157】
I型タンパク質は、実際には、間にある膜貫通αヘリックスによって連結された2つのタンパク質ドメインである。膜貫通ドメインが通過する細胞膜脂質二重層は、内側部分(エンドドメイン)を外側部分(エクトドメイン)から単離するように作用する。あるタンパク質からのエクトドメインを別のタンパク質のエンドドメインに付着させることにより、前者の認識と後者のシグナルとを組み合わせる分子が得られることは、それほど驚くべきことではない。
【0158】
エクトドメイン。シグナルペプチドは、新生タンパク質を小胞体内に導く。これは、受容体がグリコシル化され、細胞膜に固定される場合に必須である。いずれかの真核生物シグナルペプチド配列が、通常、良好に機能する。一般に、アミノ末端の最も多くの成分に天然に付着したシグナルペプチドが使用される(例えば、軽鎖-リンカー-重鎖の配向を有するscFvでは、軽鎖の天然シグナルが使用される。
【0159】
抗原認識ドメインは、通常、scFvである。ただし、多くの代替案がある。天然T細胞受容体(TCR)のα一本鎖およびβ一本鎖由来の抗原認識ドメインは、単純なエクトドメイン(例えば、HIV感染細胞を認識するためのCD4エクトドメイン)と、比較的外来の認識成分、例えば連結されたサイトカイン(これはサイトカイン受容体を有する細胞の認識をもたらす)とを有するものとして記載されている。実際、所与の標的に高い親和性で結合するほとんどのものを抗原認識領域として使用することができる。
【0160】
スペーサー領域は、抗原結合ドメインを膜貫通ドメインに連結する。スペーサー領域は、抗原結合ドメインが抗原認識を容易にするために様々な方向に配向することを可能にするのに十分に柔軟でなければならない。最も単純な形態は、IgG1由来のヒンジ領域である。代替案には、免疫グロブリンのCH2CH3領域、およびCD3の一部が挙げられる。scFvベースの構築物のほとんどでは、IgG1ヒンジで十分である。ただし、最良のスペーサーは、経験的に決定されなければならないことが多い。
【0161】
膜貫通ドメイン。膜貫通ドメインは、膜にまたがる疎水性αヘリックスである。一般に、エンドドメインの最も膜近位の構成要素からの膜貫通ドメインが使用される。興味深いことに、CD3-ζ膜貫通ドメインを使用すると、天然のCD3-ζ膜貫通荷電アスパラギン酸残基の存在に依存する因子である天然のTCRへの人工TCRの組み込みがもたらされ得る。異なる膜貫通ドメインは、異なる受容体安定性をもたらす。CD28膜貫通ドメインは、鮮やかに発現される安定な受容体をもたらす。
【0162】
エンドドメイン。これは、受容体の「業務終了」である。抗原認識後、受容体はクラスターを形成し、シグナルが細胞に伝達される。最も一般的に使用されるエンドドメイン成分は、3つのITAMを含むCD3-ζである。これは、抗原が結合した後に活性化シグナルをT細胞に伝達する。CD3-ζは、完全に適格な活性化シグナルを提供しない場合があり、追加の共刺激シグナル伝達が必要である。
【0163】
「第1世代」CARは、典型的には、内因性TCRからのシグナルの主要な伝達物質であるCD3ξ-鎖由来の細胞内ドメインを有した。「第2世代」CARは、様々な共刺激タンパク質受容体(例えば、CD28、41BB、ICOS)からの細胞内シグナル伝達ドメインをCARの細胞質尾部に付加して、T細胞に追加のシグナルを提供する。前臨床試験では、第2世代のCAR設計が、T細胞の抗腫瘍活性を改善することが示されている。さらに最近では、「第3世代」CARは、効力をさらに増強するために、CD3z-CD28-41BBまたはCD3z-CD28-OX40などの複数のシグナル伝達ドメインを組み合わせる。
【0164】
G. ADC
抗体薬物コンジュゲート、すなわちADCは、感染症を有する人々を治療するための標的療法として設計された新しいクラスの非常に強力な生物医薬品である。ADCは、不安定な結合を有する安定な化学リンカーを介して、生物学的に活性な細胞傷害性/抗ウイルス性のペイロードまたは薬物に連結された抗体(全mAbまたは抗体断片、例えば、一本鎖可変断片、すなわちscFv)から構成される複合分子である。抗体薬物コンジュゲートは、バイオコンジュゲートおよびイムノコンジュゲートの例である。
【0165】
モノクローナル抗体の独特の標的化能力を細胞傷害性薬物の癌殺傷能力と組み合わせることによって、抗体-薬物コンジュゲートは、健康な組織と疾患組織との間の高感度の識別を可能にする。これは、従来の全身的手法とは対照的に、抗体-薬物コンジュゲートが感染細胞を標的とし攻撃し、その結果、健康な細胞はあまり深刻な影響を受けないことを意味する。
【0166】
ADCベースの抗腫瘍療法の開発では、特定の細胞マーカー(例えば、理想的には、感染細胞内または感染細胞上にのみ見出されるタンパク質)を特異的に標的とする抗体に、抗癌薬(例えば、細胞毒素または細胞毒)をカップリングさせる。抗体は、これらのタンパク質を体内で追跡し、癌細胞の表面に付着する。抗体と標的タンパク質(抗原)との間の生化学的反応は、腫瘍細胞内でシグナルを誘発し、これにより、腫瘍細胞は、細胞毒とともに抗体を吸収または内在化する。ADCが内在化された後、細胞傷害性薬物は放出され、細胞を死滅させるか、ウイルス複製を損なう。この標的化に起因して、理想的には、この薬物は他の薬剤よりも副作用が低く、治療域が広い。
【0167】
抗体と細胞傷害性/抗ウイルス剤との間の安定な連結は、ADCの重要な側面である。リンカーは、ジスルフィド、ヒドラゾンもしくはペプチド(切断可能)またはチオエーテル(切断不可能)を含む化学モチーフに基づき、標的細胞への細胞傷害剤の分布および送達を制御する。前臨床試験および臨床試験では、切断可能型および切断不可能型のリンカーが安全であることが証明されている。ブレンツキシマブベドチンは、強力で非常に毒性の高い抗微小管剤であり、合成抗新生物剤であるモノメチルオーリスタチンE、すなわちMMAEをヒト特異的CD30陽性悪性細胞に送達する酵素感受性切断可能リンカーを含む。チューブリンの重合を遮断することによって細胞分裂を阻害するその高い毒性MMAEのために、単剤化学療法薬として使用することはできない。ただし、抗CD30モノクローナル抗体(cAC10、腫瘍壊死因子、すなわちTNF受容体の細胞膜タンパク質)に連結されたMMAEの組合せは、細胞外液中で安定であり、カテプシンによって切断可能であり、治療にとって安全であることが証明された。他の承認済みADCであるトラスツズマブエムタンシンは、メイタンシンの誘導体である微小管形成阻害剤メルタンシン(DM-1)と、安定な切断不可能なリンカーによって接着された抗体トラスツズマブ(Herceptin(登録商標)/Genentech/Roche)との組合せである。
【0168】
さらに良好かつさらに安定なリンカーの利用可能性は、化学結合の機能を変化させた。切断可能または切断不可能なリンカーのタイプは、細胞傷害性(抗癌)薬物に特異的特性を付与する。例えば、切断不可能なリンカーは、薬物を細胞内に保持する。その結果、抗体、リンカーおよび細胞傷害剤全体が標的とされた癌細胞に入り、そこで抗体がアミノ酸のレベルまで分解される。得られた複合体(アミノ酸、リンカーおよび細胞傷害剤)は、ここで活性薬物になる。対照的に、切断可能なリンカーは、細胞傷害剤を放出する宿主細胞内の酵素によって触媒される。
【0169】
現在開発中の別のタイプの切断可能なリンカーは、細胞傷害性/抗ウイルス薬と切断部位との間に余分な分子を付加する。このリンカー技術は、研究者が、切断速度の変化を心配することなく、柔軟性の高いADCを作製することを可能にする。研究者はまた、ペプチド内のアミノ酸を配列決定する方法である、エドマン分解に基づくペプチド切断の新しい方法を開発している。ADCの開発における将来の方向には、安定性および治療指数、ならびにα放出イムノコンジュゲートおよび抗体-コンジュゲートナノ粒子をさらに改善するための部位特異的コンジュゲーション(TDC)の開発も含まれる。
【0170】
H. BiTE
二重特異性T細胞エンゲージャー(BiTE)は、抗癌薬として使用するために研究されている人工二重特異性モノクローナル抗体のクラスである。それらは、感染細胞に対する宿主の免疫系、さらに具体的にはT細胞の細胞傷害活性を導く。BiTEは、Micromet AGの登録商標である。
【0171】
BiTEは、異なる抗体の2つの一本鎖可変断片(scFv)、または約55キロダルトンの単一ペプチド鎖上の4つの異なる遺伝子からのアミノ酸配列からなる融合タンパク質である。scFvの一方はCD3受容体を介してT細胞に結合し、他方は特定の分子を介して感染細胞に結合する。
【0172】
他の二重特異性抗体と同様に、また、通常のモノクローナル抗体とは異なり、BiTEは、T細胞と標的細胞との間の連結を形成する。これにより、T細胞は、MHC Iまたは共刺激分子の存在とは無関係に、パーフォリンおよびグランザイムのようなタンパク質を産生することによって、感染細胞に対して細胞傷害性/抗ウイルス活性を発揮する。これらのタンパク質は、感染細胞に入り、細胞のアポトーシスを開始する。この作用は、感染細胞に対するT細胞攻撃中に観察される生理学的過程を模倣する。
【0173】
I. イントラボディ
特定の態様では、抗体は、細胞内での作用に適した組換え抗体であり、そのような抗体は「イントラボディ」として知られている。これらの抗体は、様々な機構によって、例えば、細胞内タンパク質輸送を変化させること、酵素機能を妨害すること、およびタンパク質-タンパク質相互作用またはタンパク質-DNA相互作用を遮断することによって標的機能を妨害し得る。それらの構造は、多くの点で、上述の一本鎖抗体および単一ドメイン抗体の構造を模倣するか、またはそれらと並行する。実際、単一転写物/一本鎖は、標的細胞内の細胞内発現を可能にし、細胞膜を通過するタンパク質をさらに実現可能にする重要な特徴である。ただし、追加の特徴が必要とされる。
【0174】
イントラボディ治療の実施に影響を与える2つの主要な問題は、細胞/組織標的化を含む送達、および安定性である。送達に関して、組織指向性送達、細胞型特異的プロモーターの使用、ウイルスベースの送達、および細胞透過性/膜透過性ペプチドの使用などの様々な手法が使用されている。この手法は、安定性に関して、一般に、ファージディスプレイを含み、コンセンサス配列の配列成熟もしくは発達、または挿入安定化配列(例えば、Fc領域、シャペロンタンパク質配列、ロイシンジッパー)およびジスルフィド置換/修飾などの指向性の高い修飾を含み得る方法を含め、総当たりでスクリーニングすることである。
【0175】
イントラボディが必要とし得る追加の特徴には、細胞内標的化のためのシグナルがある。イントラボディ(または他のタンパク質)を細胞内領域、例えば、細胞質、核、ミトコンドリアおよびERに標的化することができるベクターが設計されており、市販されている(Invitrogen Corp.;Persic et al.,1997)。
【0176】
イントラボディは、細胞に入るそれらの能力のために、他のタイプの抗体が達成し得ない追加の用途を有する。本抗体の場合、生細胞内のMUC1細胞質ドメインと相互作用する能力は、MUC1 CDに関連する機能、例えば、シグナル伝達機能(他の分子への結合)またはオリゴマー形成を妨害し得る。特に、そのような抗体を使用して、MUC1二量体形成を阻害することができると考えられる。
【0177】
J. 精製
一定の態様では、本開示の抗体は精製され得る。本明細書において使用される用語「精製された」は、他の成分から単離可能な組成物を指すことを意図し、タンパク質は、その天然に得られる状態と比較して任意の程度まで精製される。したがって、精製されたタンパク質はまた、それが天然に存在し得る環境を含まないタンパク質を指す。用語「実質的に精製された」が使用される場合、この指定は、タンパク質またはペプチドが組成物の主成分を形成し、例えば、組成物内のタンパク質の約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%またはそれ以上を構成する組成物を指す。
【0178】
タンパク質精製技術は、当業者に周知である。これらの技術は、あるレベルでは、ポリペプチド画分および非ポリペプチド画分への細胞環境の粗分画を含む。ポリペプチドを他のタンパク質から分離した後、関心対象のポリペプチドをクロマトグラフィー技術および電気泳動技術を使用してさらに精製して、部分的または完全な精製(または均一性までの精製)を達成してもよい。純粋なペプチドの調製に特に適した分析方法は、イオン交換クロマトグラフィー、排除クロマトグラフィー;ポリアクリルアミドゲル電気泳動;等電点電気泳動である。タンパク質精製のための他の方法には、硫酸アンモニウム、PEG、抗体などによる、または熱変性による沈殿、その後の遠心分離;ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィーおよびアフィニティークロマトグラフィー;ならびにそのような技術と他の技術との組合せが含まれる。
【0179】
本開示の抗体の精製では、ポリペプチドを原核生物または真核生物の発現系内で発現させ、変性条件を使用してタンパク質を抽出することが望ましい場合がある。ポリペプチドは、ポリペプチドのタグ化部分に結合するアフィニティーカラムを使用して、他の細胞成分から精製され得る。当技術分野において一般的に知られているように、様々な精製工程を行う順序を変更してもよいか、特定の工程を省略してもよく、それでも実質的に精製されたタンパク質またはペプチドの調製に適した方法が得られると考えられる。
【0180】
一般に、完全抗体は、抗体のFc部分に結合する作用物質(すなわちプロテインA)を利用して分画される。あるいは、抗原を使用して、適切な抗体を同時に精製および選択してもよい。そのような方法は、多くの場合、カラム、フィルターまたはビーズなどの支持体に結合した選択剤を利用する。抗体を支持体に結合させ、汚染成分を除去し(例えば、洗い流し)、条件(塩、熱など)を適用することによって抗体を放出させる。
【0181】
タンパク質またはペプチドの精製度を定量するための様々な方法は、本開示に照らして当業者に公知であろう。これらには、例えば、活性画分の比活性を決定すること、またはSDS/PAGE分析によって画分内のポリペプチドの量を評価することが含まれる。画分の純度を評価する別の方法は、画分の比活性を計算して、それを初期抽出物の比活性と比較し、ひいては純度の程度を計算することである。活性の量を表すために使用される実際の単位は、言うまでもなく、精製に続くように選択された特定のアッセイ技術、および発現されたタンパク質またはペプチドが検出可能な活性を示すかどうかに依存する。
【0182】
ポリペプチドの移動は、異なる条件のSDS/PAGEを用いると、時には著しく変動し得ることが知られている(Capaldi et al.,1977)。したがって、異なる電気泳動条件下では、精製された、または部分的に精製された発現産物の見かけの分子量は変動し得ることが理解される。
【0183】
III. ジカウイルス感染の能動的/受動的免疫化および治療/予防
A. 製剤および投与
本開示は、抗ジカウイルス抗体およびそれを生成するための抗原を含む薬学的組成物を提供する。そのような組成物は、予防的または治療的に有効な量の抗体もしくはその断片、またはペプチド免疫原と、薬学的に許容される担体とを含む。特定の態様では、用語「薬学的に許容される」は、連邦政府もしくは州政府の規制機関によって承認されていること、または動物、さらに具体的にはヒトに使用するために米国薬局方もしくは他の一般に認識されている薬局方に記載されていることを意味する。用語「担体」は、治療薬とともに投与される希釈剤、賦形剤またはビヒクルを指す。そのような薬学的担体は、滅菌液体、例えば、水および油、例えば、石油、動物起源のもの、植物起源のもの、または合成起源のもの、例えば、落花生油、大豆油、鉱油、ゴマ油などであり得る。水は、薬学的組成物が静脈内投与される場合、特定の担体である。生理食塩水ならびにデキストロース水溶液およびグリセロール水溶液も、特に注射液用の液体担体として使用することができる。他の好適な薬学的賦形剤には、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノールなどが含まれる。
【0184】
組成物は、所望であれば、少量の湿潤剤もしくは乳化剤、またはpH緩衝剤も含有することができる。これらの組成物は、溶液、懸濁液、エマルジョン、錠剤、丸剤、カプセル、粉末、持続放出製剤などの形態をとることができる。経口製剤は、標準的な担体、例えば、医薬グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムを含むことができる。好適な医薬品の例は、「Remington's Pharmaceutical Sciences」に記載されている。そのような組成物は、患者への適切な投与のための形態を提供するように、好適な量の担体とともに、好ましくは精製された形態の予防的または治療的に有効な量の抗体またはその断片を含有する。製剤は、経口、静脈内、動脈内、頬内、鼻腔内、噴霧、気管支吸入、直腸内、膣内、局所であり得るか、機械的換気によって送達され得る投与様式に適合すべきである。
【0185】
ジカウイルス感染のリスクがある対象では、開示されたものと同様の抗体がインビボで産生される活性ワクチンも想定される。そのようなワクチンは、非経口投与用に製剤化することができ、例えば、皮内経路、静脈内経路、筋肉内経路、皮下経路、またはさらには腹腔内経路を介した注射用に製剤化することができる。皮内経路および筋肉内経路による投与が企図される。あるいは、ワクチンは、粘膜に対する直接局所経路によって、例えば、点鼻薬、吸入によって、ネブライザーによって、または直腸内送達もしくは膣送達によって投与され得る。薬学的に許容される塩には、酸塩、および無機酸、例えば、塩酸もしくはリン酸、または有機酸、例えば、酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸などを用いて形成されるものが含まれる。遊離カルボキシル基を用いて形成される塩はまた、無機塩基、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウムまたは水酸化第二鉄など、および有機塩基、例えば、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどから誘導され得る。
【0186】
抗体の受動的移入は、人工的に獲得された受動免疫として知られており、一般に、静脈内注射または筋肉内注射の使用を含む。抗体の形態は、静脈内(IVIG)使用または筋肉内(IG)使用のためのプールされたヒト免疫グロブリンとして、免疫化されたまたは疾患から回復しているドナー由来の高力価のヒトIVIGまたはIGとして、およびモノクローナル抗体(MAb)として、ヒトまたは動物の血漿または血清であり得る。そのような免疫は一般に短期間しか持続せず、過敏反応、および血清病、特に、非ヒト起源のγグロブリンに起因する血清病の潜在的リスクもある。ただし、受動免疫は即時防御をもたらす。抗体は、注射に適した担体、すなわち、滅菌され、注射可能な担体中で製剤化される。
【0187】
一般に、本開示の組成物の成分は、例えば、活性作用物質の量を示すアンプルまたはサシェ(sachette)などの密閉容器内の乾燥凍結乾燥粉末または無水濃縮物として、単位剤形で別個に供給されるか一緒に混合される。組成物が注入によって投与される場合、組成物は、無菌医薬グレードの水または生理食塩水を含む注入ボトルを用いて分注することができる。組成物が注射によって投与される場合、成分が投与前に混合され得るように、注射用滅菌水または生理食塩水のアンプルを提供することができる。
【0188】
本開示の組成物は、中性形態または塩形態として製剤化することができる。薬学的に許容される塩には、アニオンを用いて形成されたもの、例えば、塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸などに由来するもの、およびカチオンを用いて形成されたもの、例えば、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、水酸化第二鉄、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどに由来するものが含まれる。
【0189】
2. ADCC
抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)は、免疫エフェクター細胞による抗体被覆標的細胞の溶解をもたらす免疫機構である。標的細胞は、Fc領域を含む抗体またはその断片が、一般にFc領域のN末端であるタンパク質部分を介して特異的に結合する細胞である。「抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)が増加/減少した抗体」とは、当業者に公知の任意の好適な方法によって決定した場合、ADCCが増加/減少した抗体を意味する。
【0190】
本明細書において使用される場合、用語「増加/減少したADCC」は、上記で定義されたADCCの機構による、標的細胞を取り囲む培地中の抗体の所与の濃度で、所与の時間内に溶解される標的細胞の数の増加/減少、および/またはADCCの機構による、所与の時間内に所与の数の標的細胞の溶解を達成するために必要な、標的細胞を取り囲む培地中の抗体の濃度の減少/増加のいずれかとして定義される。ADCCの増加/減少は、同じ標準的な産生方法、精製方法、製剤化方法および保存方法(当業者に公知の)を使用して、同じタイプの宿主細胞によって産生される同じ抗体によって媒介されるが、操作されていないADCCと比較したものである。例えば、本明細書において記載される方法によってグリコシル化の変化したパターン(例えば、グリコシルトランスフェラーゼ、GnTIII、または他のグリコシルトランスフェラーゼを発現するように)を有するように操作された宿主細胞によって産生された抗体によって媒介されるADCCの増加は、同じタイプの操作されていない宿主細胞によって産生された同じ抗体によって媒介されるADCCと比較したものである。
【0191】
3. CDC
補体依存性細胞傷害(CDC)は、補体系の機能である。CDCは、免疫系の抗体または細胞が関与することなく病原体の膜を損傷することによって病原体を死滅させる、免疫系におけるプロセスである。3つの主要なプロセスがある。3つはいずれも、致死的なコロイド浸透圧膨潤、すなわちCDCを引き起こす1つまたは複数の膜攻撃複合体(MAC)を病原体に挿入する。これは、それによって抗体または抗体断片が抗ウイルス効果を有する機構の1つである。
【0192】
IV. 抗体コンジュゲート
本開示の抗体は、抗体コンジュゲートを形成するために少なくとも1つの作用物質に連結され得る。診断剤または治療剤としての抗体分子の効果を高めるために、少なくとも1つの所望の分子または部分を連結または共有結合または複合化することが従来から行われている。そのような分子または部分は、限定されることなく、少なくとも1つのエフェクター分子またはレポーター分子であり得る。エフェクター分子は、所望の活性、例えば細胞傷害活性を有する分子を含む。抗体に付着したエフェクター分子の非限定的な例には、毒素、抗腫瘍剤、治療用酵素、放射性核種、抗ウイルス剤、キレート剤、サイトカイン、成長因子、およびオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドが挙げられる。対照的に、レポーター分子は、アッセイを使用して検出され得る任意の部分として定義される。抗体にコンジュゲートされたレポーター分子の非限定的な例には、酵素、放射性標識、ハプテン、蛍光標識、リン光分子、化学発光分子、発色団、光親和性分子、着色粒子または着色リガンド、例えばビオチンが挙げられる。
【0193】
抗体コンジュゲートは、一般に、診断剤として使用するのに好ましい。抗体診断は、一般に、様々なイムノアッセイなどのインビトロ診断に使用するためのものと、一般に「抗体指向性イメージング」として知られるインビボ診断プロトコルに使用するためのものとの2つのクラスに分類される。多くの適切なイメージング剤は、抗体へのそれらの付着のための方法と同様に、当技術分野において公知である(例えば、米国特許第5,021,236号、米国特許第4,938,948号および米国特許第4,472,509号を参照)。使用されるイメージング部分は、常磁性イオン、放射性同位体、蛍光色素、NMR検出可能物質およびX線イメージング剤であり得る。
【0194】
常磁性イオンの場合、例として、クロム(III)、マンガン(II)、鉄(III)、鉄(II)、コバルト(II)、ニッケル(II)、銅(II)、ネオジム(III)、サマリウム(III)、イッテルビウム(III)、ガドリニウム(III)、バナジウム(II)、テルビウム(III)、ジスプロシウム(III)、ホルミウム(III)および/またはエルビウム(III)などのイオンを挙げることができ、ガドリニウムが特に好ましい。X線イメージングなどの他の状況で有用なイオンには、限定されることなく、ランタン(III)、金(III)、鉛(II)、特にビスマス(III)が含まれる。
【0195】
治療用途および/または診断用途のための放射性同位体の場合、アスタチン211、14炭素、51クロム、36塩素、57コバルト、58コバルト、銅67、152Eu、ガリウム67、3水素、ヨウ素123、ヨウ素125、ヨウ素131、インジウム111、59鉄、32リン、レニウム186、レニウム188、75セレン、35硫黄、テクニシウム(technicium)99mおよび/またはイットリウム90を挙げることができ、一定の態様では、125Iが使用するのに好ましいことが多く、テクニシウム99mおよび/またはインジウム111も、それらのエネルギーが低く、長距離検出に適しているために好ましいことが多い。本開示の放射性標識モノクローナル抗体は、当技術分野において周知の方法に従って生成され得る。例えば、モノクローナル抗体は、ヨウ化ナトリウムおよび/またはヨウ化カリウム、および次亜塩素酸ナトリウムなどの化学酸化剤、またはラクトペルオキシダーゼなどの酵素酸化剤との接触によってヨウ素化され得る。本開示によるモノクローナル抗体は、例えば、第一スズ溶液を用いてペルテクネート(pertechnate)を還元し、Sephadexカラム上で還元テクニチウムをキレート化し、このカラムに抗体を適用することによるリガンド交換プロセスによってテクニチウム99mによって標識され得る。あるいは、例えば、ペルテクネート、SNCl2などの還元剤、フタル酸ナトリウム-カリウム溶液などの緩衝液、および抗体をインキュベートすることによって、直接標識技術を使用してもよい。金属イオンとして存在する放射性同位体を抗体に結合するために多くの場合使用される中継官能基(Intermediary functional group)は、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)またはエチレンジアミン四酢酸(EDTA)である。
【0196】
コンジュゲートとしての使用が企図される蛍光標識には、アレクサ350、アレクサ430、AMCA、BODIPY 630/650、BODIPY 650/665、BODIPY-FL、BODIPY-R6G、BODIPY-TMR、BODIPY-TRX、カスケードブルー、Cy3、Cy5,6-FAM、フルオレセインイソチオシアネート、HEX、6-JOE、オレゴングリーン488、オレゴングリーン500、オレゴングリーン514、パシフィックブルー、REG、ローダミングリーン、ローダミンレッド、レノグラフィン、ROX、TAMRA、TET、テトラメチルローダミンおよび/またはテキサスレッドが含まれる。
【0197】
本開示において企図される追加のタイプの抗体は、発色基質と接触すると着色生成物を生成する二次結合リガンドおよび/または酵素(酵素タグ)に連結されている、主にインビトロでの使用を意図した抗体である。好適な酵素の例には、ウレアーゼ、アルカリホスファターゼ、(西洋ワサビ)水素ペルオキシダーゼまたはグルコースオキシダーゼが挙げられる。好ましい二次結合リガンドは、ビオチン化合物およびアビジン化合物およびストレプトアビジン化合物である。そのような標識の使用は当業者に周知であり、例えば、米国特許第3,817,837号、米国特許第3,850,752号、米国特許第3,939,350号、米国特許第3,996,345号、米国特許第4,277,437号、米国特許第4,275,149号および米国特許第4,366,241号に記載されている。
【0198】
抗体への分子の部位特異的付着のさらに別の公知の方法は、抗体とハプテンベースの親和性標識との反応を含む。本質的に、ハプテンベースの親和性標識は、抗原結合部位のアミノ酸と反応し、それによって、この部位を破壊し、特異的抗原反応を遮断する。ただし、これは、抗体コンジュゲートによる抗原結合を喪失させるため、有利でない場合がある。
【0199】
また、低強度紫外光によって生成される反応性ニトレン中間体を介してタンパク質に対する共有結合を形成するために、アジド基を含む分子が使用され得る(Potter and Haley,1983)。特に、プリンヌクレオチドの2-および8-アジド類似体は、粗細胞抽出物中のヌクレオチド結合タンパク質を同定するための部位特異的光プローブとして使用されている(Owens&Haley,1987;Atherton et al.,1985)。2-および8-アジドヌクレオチドはまた、精製タンパク質のヌクレオチド結合ドメインをマッピングするために使用されており(Khatoon et al.,1989;King et al.,1989;Dholakia et al.,1989)、抗体結合剤として使用され得る。
【0200】
抗体をそのコンジュゲート部分に付着またはコンジュゲーションするためのいくつかの方法が当技術分野において公知である。いくつかの付着方法は、例えば、抗体に付着したジエチレントリアミン五酢酸無水物(DTPA)などの有機キレート剤;エチレントリアミン四酢酸;N-クロロ-p-トルエンスルホンアミド;および/またはテトラクロロ-3α-6α-ジフェニルグリコウリル-3を使用する金属キレート錯体の使用を含む(米国特許第4,472,509号および米国特許第4,938,948号)。モノクローナル抗体は、グルタルアルデヒドまたは過ヨウ素酸塩などのカップリング剤の存在下で酵素と反応させてもよい。フルオレセインマーカーとのコンジュゲートは、これらのカップリング剤の存在下で、またはイソチオシアネートとの反応によって調製される。米国特許第4,938,948号では、乳房腫瘍のイメージングがモノクローナル抗体を使用して達成され、検出可能なイメージング部分が、メチル-p-ヒドロキシベンズイミデートまたはN-スクシンイミジル-3-(4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートなどのリンカーを使用して抗体に結合される。
【0201】
他の態様では、抗体結合部位を変化させない反応条件を使用して、免疫グロブリンのFc領域にスルフヒドリル基を選択的に導入することによる免疫グロブリンの誘導体化が企図される。この方法に従って生成された抗体コンジュゲートは、改善された長寿命性、特異性および感度を示すことが開示されている(参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,196,066号)。レポーター分子またはエフェクター分子がFc領域内の炭水化物残基にコンジュゲートされている、エフェクター分子またはレポーター分子の部位特異的付着も文献に開示されている(O'Shannessy et al.,1987)。この手法は、現在臨床評価中の診断的および治療的に有望な抗体を生成することが報告されている。
【0202】
V. 免疫検出方法
なおさらなる態様では、本開示は、ジカウイルスおよびその関連抗原の結合、精製、除去、定量および他の一般的な検出のための免疫検出方法に関する。そのような方法は従来の意味で適用され得るが、別の用途は、本開示による抗体を使用してウイルス内の抗原の量または完全性(すなわち、長期安定性)を評価することができる、ワクチンおよび他のウイルスストックの品質管理およびモニタリングである。あるいは、方法は、適切な/所望の反応性プロファイルについて様々な抗体をスクリーニングするために使用され得る。
【0203】
他の免疫検出方法は、対象におけるジカウイルスの存在を決定するための特異的アッセイを含む。多種多様なアッセイ形式が企図されるが、具体的には、対象から得られた流体、例えば、唾液、血液、血漿、痰、精液、または尿中のジカウイルスを検出するために使用されるものである。特に、精液は、ジカウイルスを検出するための実行可能な試料として示されている(Purpura et al.,2016;Mansuy et al.,2016;Barzon et al.,2016;Gornet et al.,2016;Duffy et al.,2009;CDC,2016;Halfon et al.,2010;Elder et al.2005)。これらのアッセイは、好都合なことに、家庭用妊娠検査に類似するラテラルフローアッセイ(下記を参照)を含め、非保健医療(家庭)用途のために形式を合わせられ得る。これらのアッセイは、家族の一員の対象による使用を可能にするための適切な試薬および説明書とともにキットの形態で包装され得る。
【0204】
いくつかを挙げると、いくつかの免疫検出方法には、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、イムノラジオメトリックアッセイ、フルオロイムノアッセイ、化学発光アッセイ、生物発光アッセイおよびウエスタンブロットが含まれる。特に、試料中の特異的寄生生物エピトープを対象とするジカウイルス抗体の検出および定量のための競合アッセイも提供される。様々な有用な免疫検出方法の工程は、例えば、Doolittle and Ben-Zeev(1999)、Gulbis and Galand(1993)、De Jager et al.(1993)およびNakamura et al.(1987)などの科学文献に記載されている。一般に、免疫結合方法は、ジカウイルスを含有すると疑われる試料を得ること、および場合によっては、免疫複合体の形成を可能にするのに有効な条件下で、試料と本開示による第1の抗体とを接触させることを含む。
【0205】
これらの方法は、ジカウイルスまたは関連抗原を試料から精製する方法を含む。抗体は、好ましくは、固体支持体、例えば、カラムマトリックスの形態に連結され、ジカウイルスまたは抗原性成分を含有すると疑われる試料が固定化抗体に適用される。望ましくない成分をカラムから洗浄し、ジカウイルス抗原を固定化抗体に対して免疫複合体化したままにし、次いで、これを生物または抗原をカラムから除去することによって回収する。
【0206】
免疫結合方法はまた、試料中のジカウイルスまたは関連成分の量を検出および定量する方法、ならびに結合プロセス中に形成された任意の免疫複合体の検出および定量を含む。ここで、ジカウイルスまたはその抗原を含有すると疑われる試料を得て、試料とジカウイルスまたはその成分に結合する抗体とを接触させ、続いて、特定の条件下で形成された免疫複合体の量を検出および定量する。抗原検出に関して、分析される生物学的試料は、ジカウイルスまたはジカウイルス抗原を含有すると疑われる任意の試料、例えば、組織切片もしくは検体、ホモジナイズされた組織抽出物、血液および血清を含む生物学的流体、または糞便もしくは尿などの分泌物であり得る。
【0207】
選択された生物学的試料と、免疫複合体(一次免疫複合体)の形成を可能にするのに十分な有効条件下および期間にわたり抗体とを接触させることは、一般に、抗体組成物を試料に単純に加え、抗体がジカウイルスまたは存在する抗原と免疫複合体を形成する、すなわちジカウイルスまたは存在する抗原に結合するのに十分な期間にわたって混合物をインキュベートすることである。この時間の後、組織切片、ELISAプレート、ドットブロットまたはウエスタンブロットなどの試料-抗体組成物を一般に洗浄して、非特異的に結合した抗体種を除去し、一次免疫複合体内で特異的に結合した抗体のみを検出することを可能にする。
【0208】
一般に、免疫複合体形成の検出は当技術分野において周知であり、多数の手法の適用によって達成され得る。これらの方法は、一般に、標識またはマーカー、例えば、それらの放射性タグ、蛍光タグ、生物学的タグおよび酵素的タグのいずれかの検出に基づく。そのような標識の使用に関する特許には、米国特許第3,817,837号、米国特許第3,850,752号、米国特許第3,939,350号、米国特許第3,996,345号、米国特許第4,277,437号、米国特許第4,275,149号および米国特許第4,366,241号が含まれる。言うまでもなく、当技術分野において知られているように、二次結合リガンド、例えば、第2の抗体および/またはビオチン/アビジンリガンド結合配列の使用を通して追加の利点を見出すことができる。
【0209】
検出に使用される抗体は、それ自体が検出可能な標識に連結されてもよく、その場合、この標識を単に検出することによって、組成物中の一次免疫複合体の量を決定することができる。あるいは、一次免疫複合体内で結合するようになる第1の抗体は、抗体に対して結合親和性を有する第2の結合リガンドによって検出され得る。これらの場合、第2の結合リガンドは、検出可能な標識に連結され得る。第2の結合リガンドは、それ自体が抗体であることが多く、したがって「二次」抗体と呼ばれ得る。二次免疫複合体の形成を可能にするのに十分な有効条件下および期間にわたって、一次免疫複合体と、標識された二次結合リガンドまたは抗体とを接触させる。次いで、二次免疫複合体を一般に洗浄して、非特異的に結合した標識された二次抗体または二次リガンドを除去し、二次免疫複合体内の残りの標識を検出する。
【0210】
さらなる方法は、二段階手法による一次免疫複合体の検出を含む。上記のように、二次免疫複合体を形成するために、抗体に対して結合親和性を有する抗体などの第2の結合リガンドが使用される。洗浄後、再度、免疫複合体(三次免疫複合体)の形成を可能にするのに十分な有効条件下および期間にわたって、二次免疫複合体と、第2の抗体に対して結合親和性を有する第3の結合リガンドまたは抗体とを接触させる。第3のリガンドまたは抗体は、検出可能な標識に連結され、このように形成された三次免疫複合体の検出を可能にする。この系は、所望であれば、シグナル増幅をもたらし得る。
【0211】
免疫検出の1つの方法は、2つの異なる抗体を使用する。第1のビオチン化抗体を使用して標的抗原を検出し、次いで、第2の抗体を使用して複合体化ビオチンに付着したビオチンを検出する。この方法では、試験される試料は、第1の工程の抗体を含有する溶液中で最初にインキュベートされる。標的抗原が存在する場合、抗体の一部が抗原に結合して、ビオチン化抗体/抗原複合体を形成する。次いで、ストレプトアビジン(またはアビジン)、ビオチン化DNA、および/または相補的ビオチン化DNAの連続溶液中でのインキュベーションによって抗体/抗原複合体を増幅し、各工程で抗体/抗原複合体に追加のビオチン部位を付加する。増幅工程は、好適なレベルの増幅が達成されるまで繰り返され、その時点で、試料は、ビオチンに対する第2の工程の抗体を含有する溶液中でインキュベートされる。この第2の工程の抗体は、例えば、色素原基質を使用する組織酵素的方法(histoenzymology)によって抗体/抗原複合体の存在を検出するために使用され得る酵素によって標識される。好適な増幅により、巨視的に視認可能なコンジュゲートを生成することができる。
【0212】
免疫検出の別の公知の方法は、イムノPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法を利用する。PCR法は、ビオチン化DNAとのインキュベーションまではCantor法と同様であるが、複数回のストレプトアビジンおよびビオチン化DNAのインキュベーションを使用する代わりに、抗体を放出させる低pHまたは高塩緩衝液を用いてDNA/ビオチン/ストレプトアビジン/抗体複合体を洗い流す。次いで、得られた洗浄溶液を使用して、適切な対照を有する好適なプライマーを用いてPCR反応を行う。少なくとも理論的には、PCRの膨大な増幅能力および特異性を利用して、単一の抗原分子を検出することができる。
【0213】
A. ELISA
イムノアッセイは、その最も単純かつ直接的な意味で、結合アッセイである。特定の好ましいイムノアッセイは、当技術分野において公知の様々なタイプの酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)およびラジオイムノアッセイ(RIA)である。組織切片を使用した免疫組織化学的検出も特に有用である。ただし、検出はそのような技術に限定されず、ウエスタンブロッティング、ドットブロッティング、FACS分析なども使用され得ることは容易に理解されるであろう。
【0214】
1つの例示的なELISAでは、本開示の抗体は、タンパク質親和性を示す選択された表面、例えば、ポリスチレンマイクロタイタープレート内のウェルに固定化される。次いで、ジカウイルスまたはジカウイルス抗原を含有すると疑われる試験組成物をウェルに加える。結合させ、洗浄して非特異的に結合した免疫複合体を除去した後、結合した抗原が検出され得る。検出は、検出可能な標識に連結された別の抗ジカウイルス抗体を加えることによって達成され得る。このタイプのELISAは、単純な「サンドイッチELISA」である。検出はまた、第2の抗ジカウイルス抗体を加え、続いて、第2の抗体に対して結合親和性を有する第3の抗体を加えることによって達成され得、第3の抗体は検出可能な標識に連結されている。
【0215】
別の例示的ELISAでは、ジカウイルスまたはジカウイルス抗原を含有すると疑われる試料をウェル表面上に固定化し、次いで、本開示の抗ジカウイルス抗体と接触させる。結合させ、洗浄して非特異的に結合した免疫複合体を除去した後、結合した抗ジカウイルス抗体が検出される。最初の抗ジカウイルス抗体が検出可能な標識に連結されている場合、免疫複合体は直接検出され得る。ここでも、免疫複合体は、第1の抗ジカウイルス抗体に対して結合親和性を有する第2の抗体を使用して検出され得、第2の抗体は検出可能な標識に連結されている。
【0216】
使用される形式にかかわらず、ELISAは、特定の特徴、例えば、コーティング、インキュベーションおよび結合、非特異的に結合した種を除去するための洗浄、ならびに結合した免疫複合体の検出を共通して有する。これらについて以下に説明する。
【0217】
プレートを抗原または抗体によってコーティングする際には、一般に、プレートのウェルを抗原または抗体の溶液と一晩または指定された期間にわたってインキュベートする。次いで、プレートのウェルを洗浄して、不完全に吸着した材料を除去する。次いで、試験抗血清に関して抗原的に中性である非特異的タンパク質によって、ウェルの残りの利用可能な表面を「コーティング」する。これらには、ウシ血清アルブミン(BSA)、カゼイン、または粉乳の溶液が含まれる。コーティングは、固定化表面上の非特異的吸着部位のブロッキングを可能にし、ひいては、表面上への抗血清の非特異的結合によって引き起こされるバックグラウンドを低減する。
【0218】
ELISAでは、直接的な手順ではなく、二次または三次検出手段を使用することの方が慣例的である可能性がある。したがって、タンパク質または抗体をウェルに結合させ、非反応性材料によってコーティングしてバックグラウンドを低減させ、洗浄して未結合材料を除去した後、免疫複合体(抗原/抗体)形成を可能にするのに有効な条件下で、固定化表面と試験される生物学的試料とを接触させる。次いで、免疫複合体の検出は、標識された二次結合リガンドまたは二次抗体、および標識された三次抗体または第3の結合リガンドと組み合わせた二次結合リガンドまたは二次抗体を必要とする。
【0219】
「免疫複合体(抗原/抗体)形成を可能にするのに有効な条件下」とは、条件が、好ましくは、溶液、例えば、BSA、ウシγグロブリン(BGG)またはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)/Tweenを用いて抗原および/または抗体を希釈することを含むことを意味する。これらの加えられた作用物質はまた、非特異的バックグラウンドの低減を助ける傾向がある。
【0220】
「好適な」条件はまた、インキュベーションが、効果的な結合を可能にするのに十分な温度または期間であることを意味する。インキュベーション工程は、典型的には、好ましくは25℃~27℃程度の温度で約1~2~4時間程度であるか、または約4℃程度で一晩であってよい。
【0221】
ELISAでは、全インキュベーション工程の後、接触した表面を洗浄して、非複合体化材料を除去する。好ましい洗浄手順は、PBS/Tweenまたはボレート緩衝液などの溶液を用いた洗浄を含む。試験試料と最初に結合した材料との間の特異的免疫複合体の形成、およびその後の洗浄の後、微量であっても免疫複合体の発生を決定することができる。
【0222】
検出手段を提供するために、第2または第3の抗体は、検出を可能にする関連する標識を有する。好ましくは、これは、適切な発色基質とインキュベートすると発色を生じる酵素である。したがって、例えば、追加の免疫複合体形成の発達を促進する期間にわたって、および追加の免疫複合体形成の発達を促進する条件下で、第1の免疫複合体および第2の免疫複合体を、ウレアーゼコンジュゲート抗体、グルコースオキシダーゼコンジュゲート抗体、アルカリホスファターゼコンジュゲート抗体または水素ペルオキシダーゼコンジュゲート抗体と接触させるかインキュベートすることが望まれる(例えば、PBS-TweenなどのPBS含有溶液中で室温で2時間インキュベートする)。
【0223】
標識された抗体とのインキュベーション、およびその後の未結合材料を除去するための洗浄の後、標識の量は、例えば、尿素もしくはブロモクレゾールパープルなどの発色基質、または酵素標識としてのペルオキシダーゼの場合には2,2'-アジノ-ジ-(3-エチル-ベンズチアゾリン-6-スルホン酸(ABTS)もしくはH2O2とのインキュベーションによって定量される。次いで、例えば、可視スペクトル分光光度計を使用して、生成された色の程度を測定することによって定量が達成される。
【0224】
別の態様では、本開示は、競合フォーマットの使用を企図する。これは、試料中のジカウイルス抗体の検出に特に有用である。競合ベースのアッセイでは、未知量の分析物または抗体は、既知量の標識された抗体または分析物を置換する能力によって決定される。したがって、シグナルの定量可能な損失は、試料中の未知の抗体または分析物の量の指標である。
【0225】
ここで、本発明者は、試料中のジカウイルス抗体の量を決定するための標識されたジカウイルスモノクローナル抗体の使用を提案する。基本フォーマットは、既知量のジカウイルスモノクローナル抗体(検出可能な標識に連結されている)とジカウイルス抗原または粒子とを接触させることを含む。ジカウイルス抗原または生物は、好ましくは支持体に付着している。標識されたモノクローナル抗体が支持体に結合した後、試料を加え、試料中の任意の標識されていない抗体が標識されたモノクローナル抗体と競合し、したがって標識されたモノクローナル抗体を置換することを可能にする条件下でインキュベートする。失われた標識または残っている標識のいずれかを測定する(および結合した標識の元の量からそれを差し引く)ことによって、どの程度の標識されていない抗体が支持体に結合しているか、したがってどの程度の抗体が試料中に存在していたかを決定することができる。
【0226】
B. ウエスタンブロット
ウエスタンブロット(あるいは、タンパク質イムノブロット)は、組織ホモジネートまたは組織抽出物の所与の試料中の特定のタンパク質を検出するために使用される分析技術である。それは、ポリペプチドの長さ(変性条件)によって、またはタンパク質の3-D構造(天然/非変性条件)によって、天然または変性タンパク質を分離するためにゲル電気泳動を使用する。次いで、タンパク質はメンブレン(典型的にはニトロセルロースまたはPVDF)に転写され、そこで標的タンパク質に特異的な抗体を使用してプローブ(検出)される。
【0227】
試料は、組織全体または細胞培養物から採取され得る。ほとんどの場合、固体組織は、ブレンダーを使用して(試料体積が大きい場合)、ホモジナイザーを使用して(体積が小さい場合)、または超音波処理によって最初に機械的に破壊される。細胞はまた、上記の機械的方法のうちの1つによって破壊されてもよい。ただし、細菌試料、ウイルス試料または環境試料がタンパク質の供給源である場合があるため、ウエスタンブロッティングは細胞試験のみに限定されないことに留意されたい。細胞の溶解を促進し、タンパク質を可溶化するために、様々な界面活性剤、塩および緩衝液を使用してもよい。プロテアーゼ阻害剤およびホスファターゼ阻害剤は、それ自体の酵素による試料の消化を防ぐために加えられることが多い。組織の調製は、タンパク質の変性を避けるために低温で行われることが多い。
【0228】
試料のタンパク質は、ゲル電気泳動を使用して分離される。タンパク質の分離は、等電点(pI)、分子量、電荷、またはこれらの要因の組合せによるものであり得る。分離の性質は、試料の処理、およびゲルの性質に依存する。これは、タンパク質を決定するための非常に有用な方法である。単一の試料からタンパク質を二次元に広げる二次元(2-D)ゲルを使用することも可能である。タンパク質は、第1の次元では等電点(中性の正味電荷を有するpH)に従って、第2の次元では分子量に従って分離される。
【0229】
抗体検出のためにタンパク質を接近可能にするために、それらをゲル内からニトロセルロースまたはポリビニリデンジフルオリド(PVDF)から作製されたメンブレン上に移動させる。ゲルの上にメンブレンを置き、その上に濾紙のスタックを置く。スタック全体を緩衝液に入れ、緩衝液は毛細管作用によって紙を上昇し、タンパク質を一緒に運ぶ。タンパク質を転写する別の方法は、エレクトロブロッティングと呼ばれ、電流を使用してタンパク質をゲルからPVDFメンブレンまたはニトロセルロースメンブレンに引き込む。タンパク質は、ゲル内で有した構成を維持しながら、ゲル内からメンブレン上に移動する。このブロッティングプロセスの結果として、タンパク質は、検出のために薄い表面層上に露出される(下記を参照)。両方の種類のメンブレンは、それらの非特異的タンパク質結合特性(すなわち、あらゆるタンパク質に等しく良好に結合する)のために選択される。タンパク質結合は、疎水性相互作用、およびメンブレンとタンパク質との間の荷電相互作用に基づく。ニトロセルロースメンブレンはPVDFよりも安価であるが、はるかに脆弱であり、反復プロービングに十分に耐えられない。ゲルからメンブレンへのタンパク質の転写の均一性および全体的な効果は、クーマシーブリリアントブルー色素またはポンソーS色素を用いてメンブレンを染色することによって確認することができる。転写後、タンパク質は、標識された一次抗体または標識されていない一次抗体を使用して検出され、その後、一次抗体のFc領域に結合する標識されたプロテインAまたは二次標識された抗体を使用して間接的に検出される。
【0230】
C. ラテラルフローアッセイ
ラテラルフローイムノクロマトグラフィーアッセイとしても知られているラテラルフローアッセイは、専用の高価な装置を必要とせずに試料(マトリックス)中の標的分析物の存在(または非存在)を検出することを意図した単純な装置であるが、読み取り装置によって補助される多くの実験室ベースの用途が存在する。典型的には、これらの検査は、家庭用検査、ポイントオブケア検査、または実験室での使用のいずれかのための低資源医療診断として使用される。広く普及している周知の用途は、家庭用妊娠検査である。
【0231】
この技術は、多孔質紙片または焼結ポリマー片などの一連の毛細管床に基づく。これらの要素の各々は、流体(例えば、尿)を自発的に輸送する能力を有する。第1の要素(試料パッド)はスポンジとして作用し、過剰な試料流体を保持する。浸漬されると、流体は、第2の要素(コンジュゲートパッド)に移動し、この第2の要素には、製造業者により、標的分子(例えば、抗原)と、粒子の表面に固定化されたその化学的パートナー(例えば、抗体)との間の最適化された化学反応を保証するためのすべてを含有する塩-糖マトリックス内に、いわゆるコンジュゲート、生物活性粒子の乾燥フォーマット(下記を参照)が保存されている。試料流体は、塩-糖マトリックスを溶解するが、粒子も溶解し、1つの複合輸送作用では、試料とコンジュゲートとが多孔質構造を通って流れる間に混合する。このように、分析物は、第3の毛細管床をさらに通って移動しながら粒子に結合する。この材料は、第3の分子が製造業者によって固定化されている1つまたは複数の領域(多くの場合ストライプと呼ばれる)を有する。試料-コンジュゲート混合物がこれらのストリップに到達するまでに、分析物が粒子上に結合し、第3の「捕捉」分子が複合体に結合する。しばらくして、ますます多くの流体がストライプを通過すると、粒子が蓄積し、ストライプ領域が色を変える。典型的には、少なくとも2つのストライプが存在し、1つ(対照)は、任意の粒子を捕捉し、それによって、反応条件および技術がうまく機能したことを示し、第2のストライプは、特定の捕捉分子を含有し、分析物分子が固定化された粒子のみを捕捉する。流体は、これらの反応ゾーンを通過した後、単に廃棄物容器として作用する最終的な多孔質材料(ウィック)に入る。ラテラルフロー試験は、競合アッセイまたはサンドイッチアッセイのいずれかとして機能することができる。ラテラルフローアッセイは、米国特許第6,485,982号に開示されている。
【0232】
D. 免疫組織化学
本開示の抗体はまた、免疫組織化学(IHC)による試験のために調製された新鮮凍結組織ブロックおよび/またはホルマリン固定パラフィン包埋組織ブロックの両方と併せて使用され得る。これらの微粒子標本から組織ブロックを調製する方法は、様々な予後因子の以前のIHC試験で首尾よく使用されており、当業者に周知である(Brown et al.,1990;Abbondanzo et al.,1990;Allred et al.,1990)。
【0233】
要約すると、小さなプラスチックカプセル内のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中、室温で50ngの凍結「粉砕」組織を再水和させ、遠心分離によって粒子をペレット化し、それらを粘性包埋媒体(OCT)に再懸濁し、遠心分離によってカプセルおよび/またはペレット化を反転させ、-70℃のイソペンタン中でスナップ凍結し、プラスチックカプセルを切断し、および/または凍結された円筒状の組織を取り出し、クライオスタットミクロトームチャック上に円筒状の組織を固定し、および/またはカプセルから25~50個の連続切片を切り出すことによって、凍結切片が調製され得る。あるいは、凍結組織試料全体を連続切片切断に使用してもよい。
【0234】
プラスチック製微量遠心チューブ内で50mgの試料を再水和し、ペレット化し、10%ホルマリンに再懸濁して4時間固定し、洗浄/ペレット化し、温かい2.5%寒天に再懸濁し、ペレット化し、氷水中で冷却して寒天を硬化させ、チューブから組織/寒天ブロックを取り出し、ブロックをパラフィンに浸透および/または包埋し、および/または最大50個の連続する永久切片を切り出すことを含む同様の方法によって、永久切片が調製され得る。ここでも、組織試料全体を置換してもよい。
【0235】
E. 免疫検出キット
なおさらなる態様では、本開示は、上記の免疫検出方法とともに使用するための免疫検出キットに関する。抗体はジカウイルスまたはジカウイルス抗原を検出するために使用され得るため、抗体はキットに含まれ得る。したがって、免疫検出キットは、好適な容器手段では、ジカウイルスまたはジカウイルス抗原に結合する第1の抗体と、任意で免疫検出試薬とを含む。
【0236】
一定の態様では、ジカウイルス抗体は、マイクロタイタープレートのカラムマトリックスおよび/またはウェルなどの固体支持体に予め結合されていてもよい。キットの免疫検出試薬は、所与の抗体に会合または連結された検出可能な標識を含む様々な形態のいずれか1つをとり得る。二次結合リガンドと会合するかまたは二次結合リガンドに結合する検出可能な標識も企図される。例示的な二次リガンドは、第1の抗体に対して結合親和性を有する二次抗体である。
【0237】
本キットに使用するのにさらに適した免疫検出試薬には、第2の抗体に対して結合親和性を有する第3の抗体とともに、第1の抗体に対して結合親和性を有する二次抗体を含む二成分試薬が含まれ、第3の抗体は検出可能な標識に連結されている。上述のように、多数の例示的な標識が当技術分野において公知であり、そのような標識はいずれも、本開示に関連して使用され得る。
【0238】
キットは、検出アッセイのための標準曲線を作成するために使用され得るように、標識されているか標識されていないかにかかわらず、ジカウイルスまたはジカウイルス抗原の好適に分注された組成物をさらに含み得る。キットは、完全にコンジュゲートされた形態で、中間体の形態で、またはキットの使用者によってコンジュゲートされる別個の部分としてのいずれかで抗体標識コンジュゲートを含み得る。キットの構成要素は、水性媒体形態または凍結乾燥形態のいずれかで包装され得る。
【0239】
キットの容器手段は、一般に、少なくとも1つのバイアル、試験管、フラスコ、ボトル、シリンジまたは他の容器手段を含み、その中に抗体が配置され得るか、好ましくは好適に分注され得る。本開示のキットはまた、典型的には、抗体、抗原、および任意の他の試薬容器を市販用に厳重に密閉して収容するための手段を含む。そのような容器には、所望のバイアルが保持される射出成形またはブロー成形されたプラスチック容器が含まれ得る。
【0240】
F. ワクチンおよび抗原の品質管理アッセイ
本開示はまた、試料中のウイルス抗原の抗原完全性を評価する際に使用するための本明細書において記載される抗体および抗体断片の使用を企図する。ワクチンのような生物学的医薬品は、通常は分子的に特性評価することができないという点で、化学薬品とは異なる。抗体は、かなり複雑な大きな分子であり、調製物ごとに大きく異なる能力を有する。それらはまた、生涯の開始時の小児を含む健康な個体に投与されるため、それら自体が害を引き起こすことなく、生命を脅かす疾患を予防または治療するのに有効であることを可能な限り保証するために、それらの品質に強く重点が置かれなければならない。
【0241】
ワクチンの生成および流通におけるグローバル化の増加は、公衆衛生上の懸念をさらに良好に管理するための新たな可能性を開いているが、様々な供給源にわたって調達されるワクチンの同等性および互換性に関して疑問も提起している。したがって、出発材料の国際標準化、生成および品質管理の試験、ならびにこれらの生成物の製造および使用方法に関する規制上の監視に対する高い予測の設定は、継続的な成功のための基盤となっている。ただし、これは絶えず変化している分野であり、この分野における継続的な技術的進歩は、最も古い公衆衛生上の脅威、ならびに新しい脅威、すなわち、いくつか例を挙げると、マラリア、パンデミックインフルエンザおよびHIVに対して強力な新しい武器を開発するという有望性を提供するが、生成物が達成可能な最高品質基準を満たし続けることを保証するために、製造業者、規制当局およびさらに広範囲の医療団体に大きな圧力をかける。
【0242】
そのため、任意の供給源から、または製造プロセス中の任意の時点で抗原またはワクチンを得てもよい。したがって、品質管理プロセスは、ウイルス抗原に対する本明細書において開示される抗体または断片の結合を同定するイムノアッセイのための試料を調製することから開始し得る。そのようなイムノアッセイは、本明細書中の他の箇所に開示されており、これらのいずれかを使用して、抗原の構造的完全性/抗原完全性を評価してもよい。許容可能な量の抗原的に正確でインタクトな抗原を含有する試料を見出すための基準は、規制当局によって確立され得る。
【0243】
抗原の完全性を評価する別の重要な態様は、貯蔵寿命および貯蔵安定性を決定することである。ワクチンを含むほとんどの医薬品は、経時的に劣化する可能性がある。したがって、例えばワクチン中の抗原が、対象に投与された際にもはや抗原性でなく、および/または免疫応答を生じさせることができないように分解または不安定化する程度を経時的に決定することが重要である。ここでも、許容可能な量の抗原的にインタクトな抗原を含有する試料を見出すための基準は、規制当局によって確立され得る。
【0244】
一定の態様では、ウイルス抗原は、複数の保護エピトープを含み得る。これらの場合、複数の抗体、例えば、2、3、4、5またはそれ以上の抗体の結合を調べるアッセイを使用することが有用であることが判明し得る。これらの抗体は、密接に関連するエピトープに結合し、その結果、それらは互いに隣接するか、または重なり合う。他方、それらは、抗原の異質な部分とは異なるエピトープを表し得る。複数のエピトープの完全性を検討することによって、抗原の全体的な完全性、ひいては防御免疫応答を生じさせる能力のさらに完全な像を決定することができる。
【0245】
本開示に記載される抗体およびその断片はまた、防御ジカウイルス抗体の存在を検出することによってワクチン接種手順の効果をモニタリングするためのキットに使用され得る。本開示に記載される抗体、抗体断片、またはそのバリアントおよび誘導体はまた、所望の免疫原性を有するワクチン製造をモニタリングするためのキットに使用され得る。
【実施例】
【0246】
VI. 実施例
以下の実施例は、好ましい態様を実証するために含まれている。以下の実施例に開示される技術は、態様を実施する際に良好に機能するために本発明者によって発見された技術を表し、したがって、その実施のための好ましい様式を構成すると考えることができることを当業者は理解すべきである。ただし、当業者は、本開示の趣旨および範囲から逸脱することなく、開示される具体的な態様では多くの変更を行うことができ、依然として同様または類似の結果を得ることができることを本開示に照らして理解すべきである。
【0247】
実施例1-メモリーB細胞の選別および抗体遺伝子の配列決定
ヒト免疫ドナーにおけるジカE2特異的メモリーB細胞の頻度は、低いと推定される。したがって、本発明者らは最初に、ZIKVアジア系統に対して以前に曝露された11人のドナーのコホート由来のPBMCにおいて、ZIKVに対するB細胞応答を評価して、最も高い応答を有するドナーを特定した。本発明者らは、強力なZIKV mAbを特定するために以前に使用された抗原である、アフリカZIKV系統可溶性組換えE2タンパク質を用いて、11人のドナーのPBMCからZIKV特異的B細胞の頻度を数えた。簡潔に述べると、B細胞を、磁気的に精製し、表現型抗体、生存率色素、およびビオチン化E2で染色した。抗原標識クラススイッチメモリーB細胞-E2複合体(CD19+IgM-IgD-IgA-E2+DAPI-)を、蛍光標識ストレプタビジンで検出し、4色フローサイトメトリーアプローチを用いて定量した(
図1A)。この研究により、E2特異的B細胞は、11人のZIKV免疫ドナーのうち7人においてPBMC中で容易に検出されたことが明らかになり、頻度は、IgGクラススイッチメモリーB細胞の0.4~2.5%の範囲であり(データは示していない)、ZIKV非免疫PBMCのバックグラウンド染色は0.2%であった。本発明者らは、ZIKVに対して最も高いB細胞応答を有する7人のドナーの特定後に、FACSを用いて、これらのドナーのプールされたPBMCからE2特異的メモリーB細胞を単離した。ビオチン化E2抗原での選別を用いて、ヒト中和ZIKV mAbの単離に成功した;しかし、それらの抗原部位がタンパク質に対するビオチンカップリングの化学的性質によって変更される場合には、このアプローチはいくつかの特異性を有するmAbの特定を逃す可能性があると、本発明者らは考えた。エピトープ特異性について本発明者らのmAbパネルの多様性を増大させるために、本発明者らは、2つの標識アプローチを使用し(
図1B)、異なるE2特異的B細胞ゲーティング戦略も適用し、これにより、3つの独立したmAbのサブパネルの生成が結果としてもたらされた。第1の標識アプローチは、ビオチン化E2での選別を含んでいた(サブパネル1)。第2の標識アプローチは、ZIKVに対する応答において優位を占めるが、典型的にはウイルスを中和するのが不十分である、融合ループ(FL)特異的mAbであったB細胞のサブセットを特定した。本発明者らは、以前に特定されたFL特異的mAbであるZIKV-88の競合結合を用いて、そのようなクローンを特定する。本発明者らは、インタクトE2で標識し、次いで、新しいZIKV、続いてZIKV-88を適用した。新しいmAbがZIKV-88結合を遮断した場合には、これらのFL特異的B細胞を、パネルから排除した。パネルをさらに多様化するために、すべての標識B細胞(サブパネル2におけるような)および高親和性B細胞の特定のサブセット(高E2標識クローン、サブパネル3)を別々に選別した。全体的に、5×10
8個よりも多いPBMCから、5,000個よりも多いE2特異的B細胞を選別し、さらなる分析に供した。
【0248】
本発明者らは、対の重鎖抗体配列および軽鎖抗体配列をレスキューするために、市販の単一細胞遺伝子発現自動システム(10x Genomics Chromium配列決定技術)を用いた。この配列決定アプローチは、鎖の対形成に加えて、重鎖のサブクラス/アイソタイプの特定、ならびにフレームワーク1および4領域の正確な配列決定も可能にするため、他の既存のmAb遺伝子レスキュー法を上回る利点を有する。このプラットフォームの別の望ましい特徴は、単一の実験当たり最大で100,000個の個々の細胞/mAb配列の、前例のない規模の対の抗体分析である。さらに、各mAb配列は、固有の分子識別名を有するため、ライブラリーを生成する必要なく、個別に発現させて試験することができる。この特徴はまた、所望のmAbを特定するために反復される選択配列決定を行う必要も排除する。他のウイルス標的での本発明者らの以前の研究(未公開のデータ)は、抗体可変遺伝子配列の比較的低い回収率(約10%)を示しており、これは、メモリーB細胞における低レベルのIgG mRNAおよび単一細胞増幅の挑戦的な性質に起因する可能性がある。この研究において、本発明者らは、配列決定のために選別されたB細胞の調製について、2つの方法を評価した。およそ800個の選別された細胞を、フローサイトメトリー選別の直後に、直接配列決定に供した(サブパネル3)。残りの細胞は、ヒトCD40L、IL-21、およびBAFFを発現するように操作された放射線照射3T3フィーダー細胞の存在下で8日間、培養においてバルク拡大増殖させた(
図1C)。拡大増殖したリンパ芽球腫細胞株(LCL)は、培養上清からELISAによって確認されたように、高レベルのE2特異的mAbを分泌し、インプット細胞と比較して少なくとも10倍多い数の細胞を有していた(データは示していない)。次いで、拡大増殖したLCLを、10x Genomicsの技術を用いて配列決定した。
【0249】
本発明者らは、バイオインフォマティクスふるい分けを用いて、可能な配列の全プールをダウンセレクトし、さらなる研究のためにちょうど598種類の対の配列を選んだ(
図1D)。ダウンセレクションは、2段階で実施した。第1段階において、単一の重鎖配列および軽鎖配列を含有する、得られたすべての対の重鎖ヌクレオチド配列および軽鎖ヌクレオチド配列を、本発明者らのPyIRツール(github.com/crowelab/PyIR)を用いて処理した。終止コドンを含有せず、インタクトなCDR3を有し、かつ生産的な接合領域を含有していたすべての重鎖および軽鎖の対を、生産的と考えて、追加の下流処理のために保持した。
【0250】
処理の第2段階は、すべての重鎖ヌクレオチド配列をそのV3Jクロノタイプ[PMID:30760926](共通の推定VH遺伝子およびJH遺伝子ならびにCDR3における同一のアミノ酸を共有するクローン)に低減した。この工程は、試料A、B、およびCの間で共有されるすべての重鎖V3Jクロノタイプを最初に決定することによって達成した。次いで、各重鎖V3Jクロノタイプに関連した体細胞バリアントをランク付けし、最も変異した重鎖配列のみを、下流の発現および特性評価のために保った。(Chromium Cell Ranger分析パイプラインによる配列および割り当てに基づいて)IgGアイソタイプではなかった任意の体細胞バリアントを、考慮から除いた。すべての重鎖-軽鎖ヌクレオチド配列を翻訳し、同一のmAbの発現を回避するために重複するエントリを除いた。
【0251】
以前のZIKV特異的mAbの発見の努力により、ドメインIII特異的抗体のパブリッククロノタイプ、例えば、mAb ZIKV-116のVH3-23*04/D3-10*01/JH4*02(重鎖)+VK1-5*03/J1*01(軽鎖)クロノタイプが特定され(Nature, 2016 Dec 15; 540(7633): 443-447)、抗体がその後、独立したドナーから報告された(Cell, 2017 May 4; 169(4): 597-609.e11.)。得られた新しい抗体可変遺伝子配列と、ヒトZIKV mAbについて以前に報告されたものとの比較では、パブリッククロノタイプのいかなるメンバーも特定されなかった。これらの結果は、ZIKV mAbの新しいパネルが、クロノタイプの固有のコレクションを特定したことを示唆した。598種類の選択されたZIKV mAb候補すべての配列を、ハイスループットcDNA合成プラットフォーム(Twist Bioscience)を用いて合成し、哺乳動物細胞培養mAb分泌用のIgG1発現ベクター中にクローニングした。
【0252】
要約すると、本発明者らは、前例のない速さ、規模、および効率で組換え発現および機能検証の準備ができている、ZIKV免疫ドナーのB細胞由来の数百のヒトmAb配列を取得した。データは、ウイルス抗原が利用可能である場合の、カスタマイズされた標的特異的B細胞の選択および大規模なヒト抗体の発見について、本発明者らの能力を実証した。
【0253】
実施例2-ハイスループットmAb発現ならびに結合および中和活性についてのスクリーニング
mAbパネルを特性評価し、インビボ防御研究用のリード候補を特定するために、本発明者らは、598種類のZIKV mAb候補すべてを組換え発現させた。本発明者らは、いくつかのハイスループット技術を採用して最適化し、これは、96ウェルプレートフォーマットにおける少量の試料(0.1~1 mL)からのmAbの迅速な産生および分析を可能にした(「微小規模」として定義)。例として、1,000種類よりも多い個々の組換えmAbを、個々のmAbの活性を完全に特性評価し、インビボ研究用のリード候補を特定するのに十分な精製タンパク質として、5日未満でプラスミドDNAから開始して産生し、精製し、かつ定量することができる(
図2A、左のパネル)。個々のmAbをハイスループット様式で産生するために、本発明者らは、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞培養物の微小規模一過性トランスフェクションを行った。iQue Screener Plus(Intellicyt Corp)フローサイトメーターによるハイスループットおよび半自動IgG定量分析により、培養上清をトランスフェクションの3日後という早期に評価した時に、パネルにおけるほとんどのmAbについて検出可能な産生レベル(>5マイクログラムmAb/mL CHO培養物)が示された(データは示していない)。598種類のmAbのうち475種類が、微小規模フォーマットで成功裡に発現され、アフィニティー精製された。微小規模でトランスフェクトされたCHO培養物(トランスフェクション当たり1 mL)からのmAb収量は、0.5マイクログラム(IgG定量アッセイの検出限界)から300 gの範囲であり、精製抗体当たり29 gの中央値であった(
図2A、右のパネル)。この結果は、精製mAbの迅速な単離のための微小規模法の高い有用性を示す。
【0254】
本発明者らは、大きなパネル内の中和mAbの迅速な特定のために、リアルタイム細胞分析(RTCA)細胞インピーダンスアッセイおよびxCelligence(Acea Biosciences)アナライザーを用いた。RTCAは、ウイルス誘導性細胞変性効果(CPE)を含む細胞生理学の反応速度変化をモニタリングする、マイクロエレクトロニクスバイオセンサー技術に基づく(
図2B、上および中央のパネル)。1つのxCelligenceユニットは、ミッドスループットCPE反応速度分析の能力を有し、最大で576種類の個々のmAbを、中和活性についてリアルタイムパーウェルベースで(in a real-time perwell basis)同時に評価し、モニタリングすることができ、複数のユニットを使用することができる(ユニット当たり6×96ウェルEプレート)(
図3Ba~c)。比較並行研究から、本発明者らは、インピーダンスベースのCPE反応速度アッセイが、ZIKVについての従来のフォーカス低減中和試験(FRNT)と同様に機能したことを見出した。要約すると、両方のアッセイは、パネルから同じ中和mAbを特定し、中和mAbは、各アッセイにおける半数阻害濃度(IC
50)測定値由来のその効力によって同様にランク付けされた(データは示していない)。しかし、xCelligenceプラットフォームは、中和活性の最初の定性的特定のために24~36時間(従来のFRNTアッセイの5~6日に対して)、ならびにZIKV mAbの完全なCPE反応速度およびIC50値の決定のために約60時間というその速さにより、大きなmAbパネル分析に明らかな利点を提供した。例として、本発明者らは、7日で、ZIKVに対して3つの後続ラウンドのmAb試験を行った。これらは、(1)未精製のCHO培養上清からの中和mAb活性の特定のための初期分析、(2)2つのウイルス((1)において特定されたものの活性を確認するためおよび中和幅をチェックするための、ZIKVブラジルおよびダカール)に対する各精製mAbの単一濃度での反復分析、ならびに(3)用量反応曲線分析を用いた、両方のウイルスに対するその効力(推定IC50値)による、特定された中和mAbのランク付けを含んでいた。H3N2インフルエンザウイルス、および同様の10x Genomicsの配列決定アプローチによって形質芽細胞から単離された1,100種類のmAbのより大きなパネルを用いた本発明者らの以前の研究は、より速く複製するウイルスについて、RTCAアッセイを用いて3日未満で、強力に中和する抗体を特定し、完全に特性評価し、かつその効力によってランク付けできることを示した(未公開であり、データは示していない)。
【0255】
598種類の微小規模で精製されたヒトmAbのパネルを特性評価するために、本発明者らは、ELISAを介した組換えE2抗原に対するそれらの結合を、RTCAを介したそれらの中和活性とともに評価した。精製試料からの単一希釈で試験した場合に、mAbのおよそ15%(92/598)がE2に強く結合し、mAbの8%(48/598)が、少なくとも1つのZIKV株に対して中和活性を有していた(
図2C~D)。興味深いことに、14種類の強く中和するmAbは、ELISAによって組換えE2抗原に対する検出可能な結合を示さず(2マイクログラム/mLのmAbでOD
450nm<0.4)、合計で106種類のZIKV特異的mAbがパネルから得られた(92種類のE2反応性+14種類のE2非反応性中和)。この所見は、プレートに結合したE2抗原の立体配座が、選別のためのB細胞標識手順中に提示された状態である、溶液中のE2抗原の立体配座のものとは異なることを示唆した。この所見はまた、エボラウイルス糖タンパク質抗原を用いた同様の選別戦略についての本発明者らの以前のデータと比較した場合に相対的に低い、ZIKVパネル間でのE2反応性mAbの観察される頻度(約15%)を説明し得る(未公開であり、データは示していない)。
【0256】
本発明者らの対象は、南アメリカにおける最近のアウトブレイク中にアジア株ZIKVに感染していた。パネルのうち29種類のmAbが、抗原的に相同な(ブラジル株;アジア系統)ウイルスおよび異種の(ダカール株;アフリカ系統)ウイルスの両方を中和した(データは示していない)。(単一試料希釈パネルスクリーニングから決定された)2つの試験されたウイルスの少なくとも1つを完全に中和した20種類のmAbを、インビボ防御研究用のリード候補と考え、さらに特性評価した。用量反応中和曲線により、ダカールウイルスまたはブラジルウイルスまたは両方のウイルスの強力な中和が示され、RTCAにより推定されたIC
50値は、約7~1,100 ng/mLの範囲であった(
図2E)。3種類の最も強力なmAb(ZIKV-491、ZIKV-350、およびZIKV-538)は、100 ng/mLよりも下のIC
50値でブラジルおよびダカールを交差中和したが、組換えE2に対して差次的な結合を示した。ZIKV-350は強く結合し、ZIKV-538は弱く結合し、ZIKV-491の結合は、試験された最高mAb濃度(10マイクログラム/mL)では検出されなかった(
図3Aa~Bc)。本発明者らの以前の研究由来の、参照ZIKV E2特異的ヒトmAbであるZIKV-117(二量体-二量体界面を認識する)、ZIKV-116(ドメインIII)、およびZIKV-88(FL)での競合結合分析により、3種類の新たに特定された中和するZIKV-491、ZIKV-350、およびZIKV-538は、別個の重複しないエピトープを認識したことが示された。この結論は、ZIKV-491、ZIKV-350、およびZIKV-538について3つの別個のエピトープを明らかにした、細胞表面に提示されたE2抗原のアラニン変異体ライブラリーに対する結合分析からのエピトープマッピングデータによって支持された(
図3Ca~c)。際立ったことに、これらのmAbは、異なるE2抗原選別戦略から特定され、ZIKV-491は、サブパネル2由来であり、ZIKV-350およびZIKV-538は、それぞれサブパネル1または3由来であった。この所見は、多様なエピトープ特異性の強力なmAbを特定するための、B細胞単離用のいくつかの独立した戦略に依存する可能性があり、かつまた、補完的な特異性および活性を有する治療用カクテルのためのmAbの発見に高い関連性を有する、抗体発見ワークフローにおける研究デザインの重要性を強調した。
【0257】
本発明者らは現在、4つの別個の群の抗体を特定している。群1の抗体は、おそらくドメインIIIに結合し、ZIKV-116と競合し、ELISAによって組換えE2に強く結合する。ZIKV-350は、群1の抗体である。群2の抗体は、おそらくドメインIIであり、ZIKV-117と競合し、ELISAによって組換えE2に強く結合する。ZIKV-207およびZIKV-604は、群2の抗体である。群3の抗体は、ZIKV-88(FL)、ZIKV-116(DIII)、およびZIKV-117(DII)を含むいかなる参照mAbとも競合せず、ELISAによって組換えE2に強く結合する。ZIKV-538およびZIKV-578は、群3の抗体である。群4の抗体は、ELISAによって組換えE2に弱く結合し、prM/E-フリンを共発現する非固定細胞に結合し、四次エピトープである。ZIKV-491およびZIKV-233抗体は、群4の抗体である。
【0258】
要約すると、これらのデータは、統合されたワークフローにおける新たに開発されたアッセイの高い有用性を実証し、インビボ研究用のリード候補を特定するための組換えヒト抗体の大きなパネルの加速された産生および分析について、本発明者らの能力を実証した。
【0259】
実施例3-致死的ZIKV攻撃マウスモデルにおける特定されたmAbの防御効果
本発明者らは次に、ZIKVについての致死的マウス攻撃モデルを用いて、リード候補として選択された中和mAbの防御能力を決定した。予防処置のために、4週齢C57Bl6/J(B6)マウスの群(群当たりn=5~14マウス)を、-1日目に抗IFN-α受容体抗体および個々のZIKV mAbで腹腔内(i.p.)処置した。無関係のIgG1アイソタイプmAb(インフルエンザAウイルス血球凝集素に特異的であるFLU-5J8)が、対照として機能した。0日目に、マウスを、1,000フォーカス形成単位(FFU)のマウス適応ZIKVダカールウイルス(ZIKV-MA)で皮下(s.q.)攻撃し、生存を21日間モニタリングした。高用量予防(14 gの4週齢マウスに対して約5 mg/kg mAb用量に相当した、マウス当たり約70マイクログラムのmAb)は、対照群と比較した場合に、5種類の試験されたmAbのうち3種類により、死亡からの完全な防御を提供した(ZIKV-233、ZIKV-350、およびZIKV-491についてp=0.049;log-rank検定によってp≦0.05を有意とみなした)。mAb ZIKV-266は、有意ではないが部分的な防御を提供し、mAb ZIKV-32は、防御しなかった(
図4A)。高用量mAb予防での完全な防御を考慮して、本発明者らは次に、低用量予防アプローチ(14 gの4週齢マウスに対して約0.65 mg/kg mAb用量に相当した、マウス当たり約9マイクログラムのmAbを用いる)で、10種類の中和mAbのより大きなパネルを試験した(
図4A~D)。mAb媒介性防御の早期時点相関物として、本発明者らは、リアルタイム定量PCR(RT-qPCR)分析によって、各処置群の個々のマウスから血漿ウイルス力価を決定した。際立ったことに、ZIKV mAbで処置された群はすべて、1 mLの血漿当たり6.4 log10ゲノム当量(GEq)のウイルス量中央値を有し、すべての動物において高ウイルス血症を発症した対照mAbのFLU-5J8で処置された群と比較した場合に、2 dpiまでに有意に低減した血漿力価を示した(mL当たり3~3.7 log10ゲノム当量(GEq)の範囲のウイルス量中央値)(
図4B)。注目すべきことに、ウイルスは、ZIKV mAb処置群における多くの動物の血漿中で検出不可能であり(検出限界=2.9 log
10(GEQ/mL))、これは、予防設定における低用量の抗体によるウイルス血症の効率的な抑制を示唆した。血漿中の低減したウイルス量と一致して、すべての試験されたmAbは、すべてのマウスが10 dpiまでに疾患に屈服したmAb FLU-5J8処置群と比較した場合に低減しかつ/または遅延した死亡率によって判断されるように、疾患に対する有意な防御を与えた(log-rank検定によってp≦0.05を有意とみなした)(
図4C)。10種類の試験された交差中和mAbのうち3種類(ZIKV-233、ZIKV-266、およびZIKV-491)は、完全な防御(100%のマウスが生存)を与え、他の2種類の交差中和mAbであるZIKV-350およびZIKV-538による防御は、各群当たり5~13匹の動物の研究で推定されるように、部分的であったが、非常に有意であった(log-rank検定によりp<0.001)(
図4C)。上記の結果は、いくつかの新たに特定されたZIKVに対するmAbについて、高レベルの予防効果を実証する。
【0260】
これらのクローンについての低用量予防処置での高レベルの防御を考慮して、本発明者らは次に、1 dpiにマウスに提供された低用量のmAb(14 gの4週齢マウスに対して約0.65 mg/kg mAb用量に相当した、マウス当たり約9マイクログラムのmAb)を用いることによって治療効果を試験した。本発明者らは、ZIKVの広いかつ強力な中和(ブラジルおよびダカール;
図2E、
図3Ba~c)、E2の別個の重複しないエピトープの認識(
図3Ca~c)、ならびに予防処置での高レベルの防御(
図4C)を含むそれらの特徴のために、ZIKV-350、ZIKV-491、およびZIKV-538の3種類のmAbを選んで試験した。際立ったことに、ZIKV-491および-538は、治療的処置設定において、比較的低いmAb用量で完全な防御を与えた(
図4D)。合わせると、これらの結果は、新たに特定されたZIKVに対する中和mAbについて高レベルの治療効果を実証し、アカゲザル(非ヒト霊長類-NHP)ZIKV攻撃モデルにおける試験のための新しい有望な候補を示唆している。
【0261】
要約すると、本発明者らは、前例のない速さ、規模、および効率で、ZIKVに対する多くの強力な中和ヒトmAbおよび防御ヒトmAbを特定した(表A;
図5)。本発明者らのデータは、既知のウイルス抗原に対する強力な抗ウイルスヒトモノクローナル抗体治療薬の大規模な発見のためのロードマップを提供した。
【0262】
(表A)迅速に発見されたZIKVに対するヒトmAbのパネルについての結合、中和、および防御特性の概要
・
図4A~Dに示されるように、マウスにおいて予防により死亡からの完全な防御が提供された。
【0263】
【0264】
【0265】
【0266】
【0267】
【0268】
本明細書において開示および請求されるすべての組成物および方法は、本開示に照らして過度の実験をすることなく作製および実行され得る。本開示の組成物および方法は、好ましい態様に関して説明されてきたが、当業者には、本発明の概念、趣旨および範囲から逸脱することなく、本明細書において説明された組成物および方法、ならびに方法の工程または一連の工程に変形例が適用され得ることが明らかであろう。さらに具体的には、化学的および生理学的に関連する特定の作用物質が、同じまたは同様の結果が達成されながら、本明細書において記載される作用物質の代わりになり得ることが明らかであろう。当業者に明らかなそのような類似の代替物および改変はすべて、添付の特許請求の範囲によって定義される本開示の趣旨、範囲および概念の範囲内にあるとみなされる。
【0269】
VII. 参考文献
以下の参考文献は、本明細書において記載されるものを補足する例示的な手順または他の詳細を提供する範囲まで、参照により本明細書に具体的に組み入れられる。
【配列表】
【国際調査報告】