(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-24
(54)【発明の名称】原発性胆汁性胆管炎を処置するためのSGLT2阻害剤の使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7056 20060101AFI20230117BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20230117BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20230117BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20230117BHJP
【FI】
A61K31/7056
A61K9/20
A61K9/48
A61P1/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022529045
(86)(22)【出願日】2020-11-20
(85)【翻訳文提出日】2022-05-18
(86)【国際出願番号】 US2020061487
(87)【国際公開番号】W WO2021102251
(87)【国際公開日】2021-05-27
(32)【優先日】2019-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521065757
【氏名又は名称】アヴォリント
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウィルキソン、ウィリアム、オーウェン
(72)【発明者】
【氏名】グリーン、ジェイムズ、トリンカ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA36
4C076AA44
4C076AA53
4C076BB01
4C076CC16
4C076DD41C
4C076EE16
4C076EE31
4C076EE32B
4C076FF04
4C076FF05
4C076FF06
4C076FF09
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA11
4C086MA01
4C086MA03
4C086MA04
4C086MA05
4C086MA35
4C086MA37
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA75
4C086ZC41
(57)【要約】
本明細書では、原発性胆汁性胆管炎(PBC)を処置するためのSGLT2阻害剤の組成物及びその使用について記載する。経口剤形を含むSGLT2阻害剤組成物は、肝性脳症、静脈瘤の発生、黄疸、静脈瘤出血胆管癌、肝細胞癌、肝硬変の証拠、及び結腸直腸癌を含む、PBCの症状を予防、部分的に寛解、または完全に寛解するための治療有効用量のSGLT2阻害剤を含有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SGLT2阻害剤またはその塩を投与することを含む、原発性胆汁性胆管炎(PBC)を処置するための方法。
【請求項2】
前記SGLT2阻害剤またはその塩が経口投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記SGLT2阻害剤またはその塩が経口剤形として製剤化される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記経口剤形が、
a)SGLT2阻害剤、またはその塩と、
b)少なくとも1つの親水性もしくは疎水性材料、またはそれらの両方と、
c)少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤と、を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つの親水性または疎水性材料がポリマーである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記経口剤形が錠剤またはカプセルである、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記SGLT2阻害剤またはその塩が1mg~2000mgの量で存在する、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも1つの親水性または疎水性ポリマーが、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、アルギン酸アンモニウム、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸プロピレングリコール、アルギン酸、ポリビニルアルコール、ポビドン、カルボマー、カリウムペクテート、及びカリウムペクチネートからなる群から選択される親水性ポリマーである、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つの親水性または疎水性ポリマーが、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アミノメタクリレートコポリマー、メタクリル酸コポリマー、メタクリル酸アクリル酸エチルエステルコポリマー、メタクリル酸エステル中性コポリマー、ジメチルアミノエチルメチルメタクリレート-メタクリル酸エステルコポリマー、ビニルメチルエーテル/無水マレイン酸コポリマー、ならびにそれらの塩及びエステルからなる群から選択される疎水性ポリマーである、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つの親水性または疎水性ポリマーが、ワックス、脂肪アルコール、及び脂肪酸エステルからなる群から選択される疎水性ポリマーである、請求項4に記載の方法。
【請求項11】
A.前記ワックスが、ビーズワックス、カルナウバワックス、微結晶性ワックス、またはオゾケライトであり、
B.前記脂肪アルコールが、セトステアリルアルコール、ステアリルアルコール、セチルアルコール、またはミリスチルアルコールであり、
C.前記脂肪酸エステルが、モノステアリン酸グリセリル、モノオレイン酸グリセロール、アセチル化モノグリセリド、トリステアリン、トリパルミチン、セチルエステルワックス、パルミトステアリン酸グリセリル、ベヘン酸グリセリル、または水添ヒマシ油である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤が、結合剤、充填剤、滑沢剤、防腐剤、安定剤、抗付着剤、流動剤、またはそれらの組み合わせである、請求項4に記載の方法。
【請求項13】
ポビドン、微結晶性セルロース、クロスカルメロースセルロース、及びステアリン酸マグネシウムである前記賦形剤を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項14】
前記経口剤形が腸溶性コーティングされた錠剤である、請求項3に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年11月22日に出願された米国特許出願第62/939,155号の優先権を主張するものであり、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、原発性胆汁性胆管炎(「PBC」)を処置するためのナトリウム/グルコーストランスポーター2(「SGLT2」)の阻害剤の使用に関連する組成物及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
胆汁うっ滞症は、肝臓から十二指腸への胆汁の流れが遅くなるか、阻害される状態である。胆汁うっ滞症は、利便的に2つのタイプに分けることができる:肝内胆汁うっ滞症は、肝臓内部において、胆汁の形成が様々な疾患などの症状、長期間の静脈内栄養によって、または一定の薬物(例えば、なんらかの抗生物質)の副作用として妨げられるものであり;肝外胆汁うっ滞症は、肝臓外部で生じ、典型的には、胆汁の流れが、胆管腫瘍、嚢胞、胆管結石、狭窄、または胆管への圧迫など、胆管の機械的な部分的または完全閉塞によって妨げられるものである;しかし、原発性胆汁性胆管炎(PBC)は肝内でも肝外でもあり得る。胆汁うっ滞症の一般的な症状には、倦怠感、そう痒(かゆみ)、黄疸、及び黄色腫(皮下においてコレステロールを豊富に含む物質の蓄積)が挙げられる。胆汁うっ滞症の影響は深刻かつ広範囲に及んでおり、全身疾患を伴う肝臓疾患を悪化させ、肝不全を生じ、肝臓移植が必要となる。
【0004】
肝内胆汁うっ滞性疾患には、頻度の高い順に、原発性胆汁性胆管炎(PBC、以前は原発性胆汁性肝硬変として知られていたもの)、原発性硬化性胆管炎(PSC)、進行性家族性肝内胆汁うっ滞症(PFIC)、及びアラジール症候群(AS)が挙げられる。
【0005】
PBCは肝臓の自己免疫疾患であり、肝臓の細胆管のゆっくりした進行性破壊によって特徴付けられ、小葉内管が疾患の初期に影響を受ける。これらの管が損傷すると、胆汁が肝臓に蓄積し(胆汁うっ滞)、時間の経過とともに組織が損傷し、瘢痕化、線維化、及び肝硬変を引き起こすおそれがある。最近の研究では、少なくとも9:1の女性対男性の男女比で3,000~4,000人に1人以下の割合で発症しうることが示されている。PBCは治療法がなく、肝移植が必要となることが多いが;胆汁うっ滞を抑え、肝機能を改善するためのウルソデオキシコール酸(UDCA、ウルソジオール)及びOcaliva(オベチコール酸、OCA)、胆汁酸を吸収するためのコレスチラミン、倦怠感に対するモダフィニル、及び脂溶性ビタミン(ビタミンA、D、E、及びK。胆汁の流れが減少するとこれらのビタミンが吸収されにくくなるため)などの医薬品が進行を遅らせ、通常の寿命及びクオリティ・オブ・ライフを可能とし得る。
【0006】
UDCA及びOcalivaは、PBCを処置するために米国で承認された唯一の薬である。日本の研究者らは、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体α(PPARα)及びプレグナンX受容体作動薬であるベザフィブラートをUDCAに加えることが、UDCA単一療法に耐性を有する患者に有用であり、血清胆汁酸酵素、コレステロール(C)、及びトリグリセリド(TG)を改善すると報告している。
【0007】
PSCは、肝内または肝外胆管炎症及び線維症を特徴とする慢性胆汁うっ滞性肝疾患であり、最終的に肝硬変を引き起こす。炎症の根本的な原因は自己免疫であると考えられており;PSC患者の約4分の3は炎症性腸疾患、通常は潰瘍性大腸炎(ulcerative cholitis)を有しているが、有病率(一般に約1万人に1人と報告されている)及び男女比(一般に男性優位と報告されている)に見られるように、国ごとによって異なることが報告されている。標準的な治療としては、PSC患者において上昇した肝酵素数を低下させることが示されているUDCAが含まれるが、肝生存率または全生存率は改善されていない;さらに、鎮痒薬、コレスチラミン、脂溶性ビタミン、及び感染症(細菌性胆管炎)の治療のための抗生物質も含まれる。2009年に報告された研究では、長期間の高用量UDCA治療は、PSCの血清肝検査の改善を伴うが、生存率は改善されず、重篤な有害事象を高頻度で伴う。肝移植のみが立証された長期処置である。
【0008】
PFICとは、肝内胆汁うっ滞を伴う小児期の3種類の常染色体劣性疾患の群を指す:家族性肝内胆汁うっ滞1の欠失(PFIC-1)、胆汁酸塩排出ポンプの欠失(PFIC-2)、及び多剤耐性タンパク質3の欠失(PFIC-3)。これらの合計発生率は5万~10万人に1人である。疾患の発症は通常2歳より前であり、PFIC-3は通常、最も最も早期に現れるが、患者は青年期になってPFICと診断されてきた。患者は、通常、胆汁うっ滞、黄疸、及び発育不良を示し、激しいそう痒を特徴とする。脂肪吸収不良及び脂溶性ビタミン欠乏症が現れる場合がある。生化学的マーカーとしては以下が含まれる:PFIC-1及びPFIC-2では、正常なγ-グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)であるが、PFIC-3ではGGTが著しく上昇し;血清中胆汁酸レベルが大きく上昇し;血清コレステロールレベルは、典型的には、胆汁うっ滞で通常見られるようには上昇しない(その理由は、この疾患が胆管細胞の解剖学的問題ではなくトランスポーターに起因するためである)。この疾患は、典型的には、肝移植を行わないと進行し、小児期で肝不全及び死を招き;PFIC-2では非常に早期に肝細胞癌を発症することがある。UDCAの投薬が一般的であり;PFIC-1では、脂溶性ビタミン、コレスチラミン、及び膵臓酵素が補完される。
【0009】
ASは、アラジール-ワトソン症候群、症候性胆管減少症、及び動脈肝異形成症しても知られ、肝臓、心臓、眼、及び骨格の異常と特徴的な顔貌を伴う常染色体優性障害であり、発生率は約10万人に1人である。肝臓の異常は、肝臓内の狭窄した奇形の胆管であり;これらは胆汁の流れを妨げ、肝硬変(瘢痕化)を引き起こす。ASは、主に、20番染色体に位置するJagged1遺伝子の変化によって引き起こされる。症例の3~5%では、全体の遺伝子が20番染色体の1つのコピーから欠失(喪失)しており;それ以外の症例では、Jagged1DNA配列における変化または変異が存在する。1%未満のごく少数の症例では、別の遺伝子であるNotch2の変化がASを引き起こす。約3分の1の場合、突然変異は遺伝的であり、約3分の2では、その突然変異はその症例において新規なものである。ASの治療法はないが、肝疾患の重症度は、典型的には3~5歳までにピークに達し、7~8歳までに消失することが多い。一部の人々では、肝疾患は末期肝疾患に進行し、肝移植が必要になる場合があり;AS患者の約15%が肝移植を必要としている。胆汁の流れを改善し、かゆみを軽減するために、UDCAなどの様々な医薬品が使用されており、多くの患者に高用量の脂溶性ビタミンが投与されている。
【0010】
アルカリホスファターゼ(ALP)及びGGTは胆汁うっ滞の重要なマーカーである。どちらか一方のみが上昇しただけでは胆汁うっ滞を示すことはなく、確認のために他のパラメータが必要となるが、ALP及びGGTの両方の上昇は胆汁うっ滞の指標であり、両方の低下は胆汁うっ滞が改善されたことを示す。したがって、ALP及びGGTレベルは肝内胆汁うっ滞性疾患に存在する胆管病態生理の存在の生化学的マーカーとして機能し、ALPレベルはPBCなどの肝内疾患の臨床研究(オベチコール酸のFDA承認につながる研究を含む)の主要転帰マーカーとして使用されてきた。この目標を念頭に置いて、PBCを処置するための新規なアプローチについて以下に説明する。これらの開発は、SGLT2阻害剤であるレモグリフロジンエタボネートがPBC病態の進行を防ぐという予期せぬ観察に基づくものである。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、原発性胆汁性胆管炎(PBC)を少なくとも1つのSGLT2阻害剤で処置することに関する。本発明に関連する方法及び組成物は、腹水の蓄積、肝性脳症、静脈瘤の発生、黄疸、静脈瘤出血、胆管癌、肝細胞癌、肝硬変の証拠、及び結腸直腸癌などの臨床症状を含む、SGLT2阻害剤の投与後のPBC罹患個体の臨床転帰を改善または維持する。
【0012】
異常肝機能検査を使用して、SGLT2阻害剤治療から利益を得ることができるPBC患者を特定することができる。例えば、アルカリホスファターゼ、アラニンアミノトランスアミナーゼ、γ-グルタミルトランスペプチダーゼ、アスパラギン酸アミノトランスアミナーゼ、及び総ビリルビンのうちの1つ以上について血漿レベルが正常上限(ULN)を超えるPBC患者は、本発明の組成物及び方法で処置することができ、肝線維症、炎症性腸疾患、及び異常な肝硬度のうちの1つ以上を有するPBC患者も同様である。
【0013】
SGLT2阻害剤は、即時放出(「IR」)もしくは遅延放出(「DR」)剤形のいずれかで、またはIR及びDR相を含む二相性剤形で経口投与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1A】野生型マウスから採取したH&E染色肝切片における肝及び胆病理を示す。正常な肝臓の組織化学が観察される。PV=門脈の分岐;HA=肝動脈の分岐。BD=胆管。バー=100μm。
【
図1B】11週目の非処置TIAマウスから採取したH&E染色肝切片における複数の門脈の存在を示す。炎症は胆管を中心とし、胆管増殖を伴う(門脈あたり複数の胆管プロファイル;矢印)。PV=門脈の分岐。バー=100μm。
【
図1C】18週目の非処置TIAマウスから採取したH&E染色肝切片における炎症による門脈の消滅(oBD;矢印頭)を示す。HA=肝動脈の分岐。BD=胆管。PV=門脈の分岐。バー=100μm。
【
図1D】18週目の非処置TIAマウスから採取したH&E染色肝切片における、胆管上皮細胞(黒い矢印頭)を取り囲んで攻撃し、損傷した活性化免疫細胞を示す。バー=100μm。
【
図1E】18週齢のTIAマウスにおける胆管のタマネギ状線維症の発症を示す。バー=100μm。
【
図2A】11週目の非処置TIAマウスから採取したH&E染色肝切片における肝実質の炎症を示す。PVは門脈を示す。バー=500μm。
【
図2B】11週目の非処置TIAマウスから採取したH&E染色肝切片における胆管周辺の胆炎症を示す。PVは門脈を示す。アスタリスク(*)は胆管を示す。バー=50μm。
【
図2C】11週目の非処置TIAマウスから採取したH&E染色肝切片における肝実質と門脈との間の界面における炎症を示す。PVは門脈を示す。バー=50μm。
【
図2D】4週齢から開始して、食餌において0.03% Remoを与えた、11週目のTIAマウスから採取したH&E染色肝切片における門脈周囲及び胆炎症の減少を示す。PVは門脈を示す。バー=500μm。
【
図2E】4週齢から開始して、食餌において0.03% Remoを与えた11週目の非処置TIAマウスから採取したH&E染色肝切片における胆管の増殖の減少を示す。アスタリスク(*)は胆管を示す。PVは門脈を示す。バー=50μm。
【
図3】標準食餌、または0.03% レモグリフロジン配合標準食餌のいずれかを7週間給餌した11週目のTIAマウスから採取したH&E染色肝切片の組織学的検査に基づく炎症スコアのプロットを示す。スコアは、表1に記載されるように、線維症、胆管増殖もしくは管減少症、門脈炎、小葉炎症、界面肝炎、胆管炎の存在、または管周囲線維症/タマネギ状化の程度に基づいた。
【発明を実施するための形態】
【0015】
原発性胆汁性胆管炎(PBC)に罹患している個体を処置するためにSGLT2阻害剤を使用するための組成物及び方法が本明細書に記載される。したがって、本発明は、個体、典型的にはヒト対象、または言い換えれば患者に、PBCを処置するのに有効な量でSGLT2阻害剤を投与する方法に関する。本発明による方法において使用されるSGLT2阻害剤は、一般に、必ずしもそうとは限らないが、SGLT2阻害剤のグリフロジンクラスに属する。本発明の方法において使用することができるSGLT2阻害剤のより具体的な例としては、以下のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない:カナグリフロジン(商品名Invokana(登録商標)及びSulisent(登録商標)で販売);ダパグリフロジン(商品名Farxiga(登録商標)で販売);エンパグリフロジン(商品名Jardiance(登録商標)で販売);エルツグリフロジン(商品名Steglatro(登録商標)で販売);イプラグリフロジン(商品名Suglat(登録商標)で販売);トホグリフロジン(現在、中外製薬がKowa及びSanofiと共同で開発中);ルセオグリフロジン(現在、大正製薬がLusefi(登録商標)の商品名で開発中);レモグリフロジン(現在Avolynt,Inc.が開発中であり、Remo(登録商標)及びRemozen(登録商標)の商品名で販売);ソトグロフロジン(LX4211とも呼ばれ、現在Lexicon Pharmaceuticalsが開発中);リコグリフロジン(LIK-066とも呼ばれ、現在Novartisが開発中)、TFC-039(現在、Sirona Biochemが開発中);セルグリフロジン;ならびに前述のSGLT2阻害剤の塩。
【0016】
SGLT2は、腎臓の近位尿細管のS1セグメントに主に位置する、低親和性、高容量のナトリウムグルコースコトランスポーターである。SGLT2阻害は、尿中グルコース排泄を増加させることによって、血流からのグルコースクリアランスを改善する。しかしながら、SGLT2タンパク質は、肝の中心静脈及び胆管においても発現される。したがって、PBC患者へのSGLT2阻害剤の投与は、PBC患者の肝臓におけるSGLT2活性の阻害を引き起こすことができ、これにより、PBCの進行が停止する。
【0017】
典型的なPBC関連臨床転帰としては、例えば、肝硬変への進行、肝不全、死亡、及び肝移植が挙げられる。PBC関連の臨床合併症としては、例えば、腹水、肝性脳症、静脈瘤の発生、黄疸、静脈瘤出血、胆管癌、肝細胞癌、肝硬変の証拠、及び結腸直腸癌が挙げられる。対象におけるSGLT2阻害剤によるPBCの処置方法は、PBCの臨床転帰または臨床合併症を改善することができる。
【0018】
SGLT2阻害剤療法から恩恵を受けることができるPBCに罹患している患者は、異常肝機能検査を受けることができる。例えば、患者は、異常ALP検査を受けることができる。PBC患者の血清ALPレベルは、正常上限(ULN)、例えば、ULNの1.5倍、ULNの1.6倍、ULNの2倍、ULNの2.5倍、ULNの3倍、ULNの4倍、またはULNの1.5~10倍の範囲、またはULNの3~12倍の範囲を超えることができる。PBCに罹患している患者が示す可能性のある他の異常肝機能検査には、ALT、GGT、AST、及び総ビリルビンの血液レベルまたは機能に関する検査が含まれる。
【0019】
SGLT2阻害剤療法から恩恵を受けることができるPBC患者はまた、肝線維症もしくはIBD、またはそれらの両方を呈し得る。あるいは、SGLT2阻害剤療法を受けるPBC患者は、肝線維症もしくはIBD、またはそれらの両方を呈し得るが、肝機能検査に基づいて正常な肝機能を実証し得る。IBDは、潰瘍性大腸炎(「UC」)、クローン病、または非定型、鑑別不能型、もしくは分類不能型IBD(「IBDU」)であり得る。SGLT2阻害剤療法から恩恵を受けることができるPBCに罹患している患者はまた、異常な肝硬度を有し得る。したがって、本発明による方法は、肝硬度一過性エラストグラフィ(「TE」)スコアが≦20kPa、≦18kPa、≦16kPa、≦15kPa、≦14kPa、≦13kPaのPBC患者を処置するために使用することができる。
【0020】
本発明の方法によるSGLT2阻害剤の治療有効量は、1つ以上のPBC関連の臨床的合併症、肝不全、または死亡の進行を低減、遅延、または防止するのに十分な量であり得る。治療有効量のSGLT2阻害剤は、それを必要とする対象に、SGLT2阻害剤の複数回投与を含む処置レジメンの一部として投与される単回投与量を含む、単回投与量で投与することができる。本発明の方法による治療有効用量のSGLT2阻害剤はまた、それを必要とする対象に、1日1回、1日2回、1日3回、または1日3回以上投与され得る。
【0021】
本発明によるPBCを処置するための治療有効量のSGLT2阻害剤は、例えば、様々なPBC疾患測定基準に基づいて決定され得る。したがって、SGLT2阻害剤の治療有効量は、臨床疾患評価スコアを維持、改善、もしくは正規化するか、または、対象における肝機能もしくは病理学のマーカーのレベルを維持、低減、もしくは正規化するのに十分な投与量であり得る。あるいは、対象に投与されるSGLT2阻害剤の治療有効量はまた、Ishak線維症ステージ化スコアを維持もしくは改善する、血清ALPを維持、低減、もしくは正規化する、Ishak壊死炎症グレード化スコアを維持もしくは改善する、Amsterdam Cholestatic Complaints Score(「ACCS」)を維持、改善、もしくは正規化する、5-Dかゆみスコアを維持、改善、もしくは正規化する、TEスコアによって評価されるように、肝硬変への進行への時間を維持、改善、もしくは正規化する、PBC関連臨床転帰もしくは臨床合併症への時間を維持、改善、もしくは正規化する、対象のコラーゲン比例領域(「CPA」)を維持、改善、もしくは正規化する、プロコラーゲン-IIIアミノターミナルプロペプチド、マトリックスメタロプロテイナーゼ-1の組織阻害剤及びヒアルロン酸の血清濃度についての試験を使用するアルゴリズムによって評価されるようにEnhanced Liver Fibrosis(「ELF」)スコアを維持、改善、もしくは正規化する、TEもしくは磁気共鳴エラストグラフィ(「MRE」)によって評価されるように、肝硬度スコアを維持、改善もしくは正規化する、またはMayo PBCリスクスコアを維持、改善、もしくは正規化する、または任意のそれらの組み合わせに十分な投与量であり得る。
【0022】
一般に、投与量としても知られるSGLT2阻害剤の治療有効量は、これに限定されないが、毎日投与されるSGLT2阻害剤の量であり、約5mg~約2000mgの範囲である。本発明による治療有効投与量のレモグリフロジンエタボネートは、例えば、50mg、100mg、200mg、250mg、400mg、800mg、1000mg、または2000mgであり得、1日1回または2回投与され得る。対照的に、本発明による治療有効投与量のエンパグリフロジンは、例えば、5mg、10mg、15mg、20mg、25mg、30mg、35mg、40mg、45mg、50mg、55mg、60mg、65mg、70mg、75mg、80mg、85mg、90mg、または95mgであり得、1日1回または2回投与され得る。同様に、本発明による治療有効投与量のダパグリフロジンは、例えば、5mg、10mg、15mg、20mg、25mg、30mg、35mg、40mg、45mg、50mg、55mg、60mg、65mg、70mg、75mg、80mg、85mg、90mg、または95mgであり得、1日1回または2回投与され得る一方で、本発明によるカナグリフロジンの治療有効投与量は、例えば、100mg、300mg、または600mgであり得、1日1回または2回投与され得る。
【0023】
上記に示されるように、治療有効投与量のSGLT2阻害剤は、単位用量または複数回用量で投与することができる。投与量は、当該技術分野で既知の方法によって決定することができ、例えば、個体の年齢、感受性、忍容性、及び全体的な健康状態に依存することができる。当業者の臨床医または薬剤師は、本明細書に提供されるガイダンス及び従来の方法を使用して、適切な投与量を決定することができる。例えば、処置される個体における、例えばALPなどのマーカーのレベルを、治療有効用量のSGLT2阻害剤への調整を導くための指標として使用して、マーカーのレベルの所望の低減または正規化を達成することができる。
【0024】
SGLT2阻害剤の投与様式の例としては、経腸経路(例えば、給餌チューブまたは座薬を介して)及び非経腸経路(例えば、静脈内、筋肉内、皮下、動脈内、腹腔内、硝子体内、または経口)が挙げられる。例えば、SGLT2阻害剤であるレモグリフロジンエタボネートの好ましい投与様式は、レモグリフロジンエタボネートの経口剤形を投与するための経口経路である。
【0025】
本発明の医薬組成物は、医薬製剤の技術分野において公知の方法によって調製することができ、例えば、参照により本明細書に組み込まれるRemington’s Pharmaceutical Sciences,22nd Ed.(Pharmaceutical Press,2012)を参照されたい。固体剤形において、活は、少なくとも1つの他の薬学的に許容される賦形剤、例えば、(a)クエン酸ナトリウム;(b)リン酸二カルシウム;(c)充填剤もしくは増量剤、例えば、デンプン、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトール、及びケイ酸など;(d)結合剤、例えば、セルロース誘導体、デンプン、アルギネート、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、スクロース、及びアカシアゴムなど;(e)保湿剤、例えば、グリセロールなど;(f)崩壊剤、例えば、寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモもしくはタピオカデンプン、アルギン酸、クロスカルメロースナトリウム、複合ケイ酸塩、及び炭酸ナトリウムなど;(g)溶液遅延剤、例えば、パラフィンなど;(h)吸収促進剤、例えば、第四級アンモニウム化合物など;(i)湿潤剤、例えば、セチルアルコール、及びモノステアリン酸グリセロール、ステアリン酸マグネシウムなど;(j)吸着剤、例えば、カオリン及びベントナイトなど、ならびに(k)滑沢剤、例えば、タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固形ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、またはそれらの混合物と混合され得る。カプセル、錠剤、及び丸剤の場合、剤形はまた、緩衝剤を含んでもよい。
【0026】
医薬製剤の技術分野において公知である薬学的に許容されるアジュバントもまた、本発明の医薬組成物において使用され得る。アジュバントには、防腐剤、湿潤剤、懸濁化剤、甘味剤、香味剤、芳香剤、乳化剤、及び分散剤が含まれるが、これらに限定されない。微生物の作用の防止は、様々な抗菌及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸など、を含めることによって確保することができる。また、等張剤、例えば、糖、塩化ナトリウムなどを含むことも望ましい場合がある。所望の場合、本発明の医薬組成物はまた、湿潤剤または乳化剤、pH緩衝剤、抗酸化剤など、例えば、クエン酸、モノラウリン酸ソルビタン、オレイン酸トリエタノールアミン、ブチル化ヒドロキシトルエンなどの、微量の補助物質を含有してもよい。
【0027】
経口剤形を含む固体剤形は、コーティング及びシェル、例えば、腸溶コーティング、及び当該技術分野で公知の他のものなどを用いて調製することができる。これらは、鎮静剤を含有してもよく、また、腸管の特定の部分において、活性化合物(単数または複数)を遅延様式で放出するような組成物であってもよい。使用され得る包埋組成物の非限定的な例としては、ポリマー物質及びワックスである。活性化合物はまた、適切な場合、上述の賦形剤のうちの1つ以上とともにマイクロカプセル化された形態であってもよい。
【0028】
懸濁剤は、活性化合物に加えて、懸濁化剤、例えば、エトキシル化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトール及びソルビタンエステル、微結晶性セルロース、アルミニウムメタヒドロキシド、ベントナイト、寒天及びトラガント、またはこれらの物質の混合物などを含有してもよい。液体剤形は水性であり得、薬学的に許容される溶媒、ならびに緩衝剤、香味料、甘味剤、防腐剤、及び安定剤を含むがこれらに限定されない、当技術分野で公知の従来の液体剤形の賦形剤を含み得る。
【0029】
本発明による経口剤形は、典型的には錠剤またはカプセルである。錠剤は、治療有効量のSGLT2阻害剤と、セルロース誘導体、メタクリレート、キトサン、カルボキシメチルデンプン、またはそれらの混合物などの選択された賦形剤とを含む、剤形の混合成分の直接圧縮によって得ることができる。例えば、本発明による圧縮錠剤は、SGLT2阻害剤を、微結晶性セルロース及びクロスカルメロースナトリウムと、水及びポビドン溶液で造粒することによって調製することができる。得られた顆粒を乾燥させ、粉砕し、次いでマンニトール、微結晶性セルロース、及びクロスカルメロースとブレンドする。ブレンドをステアリン酸マグネシウムで滑沢し、圧縮する。例えば、350mgの用量のレモグリフロジンエタボネートを含有する、本発明による圧縮IR錠剤を対象に経口投与すると、摂取後1時間で最大レモグリフロジン血漿濃度(Cmax)が160ng/mLに達し、3時間後に血漿クリアランスが40ng/mLに達することができる。実際、本発明によるIRレモグリフロジンエタボネート経口剤形のTmaxは、対象による剤形の摂取後1時間以内で生じる。
【0030】
あるいは、本発明による経口剤形は、軟質または硬質カプセルであることができる。例えば、本発明によるカプセル剤形は、微粒子化SGLT2阻害剤、ポビドン、及び精製水を含有する水性懸濁液で微結晶性セルロース球をコーティングすることによって調製されるSGLT2阻害剤層状ペレットを含み得る。カプセルは、典型的には、動物由来ゼラチンまたは植物由来ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)から製造される。本発明の経口剤形のためのカプセルのサイズは、治療有効用量のSGLT2阻害剤及び賦形剤成分を含有するのに十分な任意のサイズであることができる。例えば、カプセルは、サイズ5、4、3、2、1、0、0E、00、000、13、12、12el、11、10、7、またはSu07であることができる。カプセルは、任意の好適な技法を使用して充填される。
【0031】
本発明による様々な方法において、本発明によるSGLT2阻害剤の経口剤形は、即時放出(「IR」)製剤、または一般に遅延放出(「DR」)、徐放、もしくは放出調節製剤として知られる、一定期間の遅延後にSGLT2阻害剤を放出するよう設計された剤形であり得る。あるいは、SGLT2阻害剤は、単一の剤形内でIR成分とDR成分に分割されることが適切な場合がある。
【0032】
IR製剤または製剤成分は、1つ以上の親水性材料、または1つ以上の疎水性材料、または親水性及び疎水性材料の組み合わせを含むことができる。親水性及び疎水性材料はポリマーであり得る。親水性ポリマーの例には、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、アルギン酸アンモニウム、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸プロピレングリコール、アルギン酸、ポリビニルアルコール、ポビドン、カルボマー、カリウムペクテート(potassium pectate)、及びカリウムペクチネート(potassium pectinate)が含まれるが、これらに限定されない。本発明による経口剤形に含まれるために利用可能な疎水性ポリマーの例には、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アミノメタクリレートコポリマー、メタクリル酸コポリマー、メタクリル酸アクリル酸エチルエステルコポリマー、メタクリル酸エステル中性コポリマー、ジメチル-アミノ-エチル-メチル-メタクリレート-メタクリル酸エステルコポリマー、ビニルメチルエーテルまたは無水マレイン酸コポリマー、ならびにそれらの塩及びエステルが含まれるが、これらに限定されない。疎水性ポリマーはまた、ビーズワックス、カルヌバワックス、微結晶性ワックス、及びオゾケライトを含むワックス;セトステアリルアルコール、ステアリルアルコール、セチルアルコール、またはミリスチルアルコールを含む脂肪アルコール;ならびにモノステアリン酸グリセリル、モノオレイン酸グリセロール、アセチル化モノグリセリド、トリステアリン、トリパルミチン、セチルエステルワックス、パルミトステアリン酸グリセリル、ベヘン酸グリセリル、及び硬化ヒマシ油を含む脂肪酸エステルから選択され得る。
【0033】
DR剤形は、錠剤、充填カプセル、またはSGLT2阻害剤で層状にされた層状ペレットであり得、これらは、腸溶性コーティングとしても知られるDRコーティングでコーティングされている。DRコーティングは、本発明による経口剤形を胃の厳しい酸性環境から保護し、その結果、剤形が小腸に到達するまで治療有効用量のSGLT2阻害剤の放出が遅延する。本発明の経口剤形の任意のDRコーティングは、コーティング全体が約5未満のpHで胃腸液中に溶解しないように、十分な厚さに適用される。DRコーティングは、典型的には、Eudragit(登録商標)L30D-55(Evonik Industries)として販売される製品のような、官能基としてメタクリル酸を有するアニオン性ポリマーの水性分散体などのポリマーを含む。DRコーティングはまた、任意選択で、クエン酸トリエチルなどの可塑剤、タルクなどの抗粘着剤、及び水などの希釈剤を含むことができる。例えば、コーティングするために使用されるコーティング組成物及び本発明の経口剤形は、官能基としてメタクリル酸を有するアニオン性ポリマーの約42重量%の水性分散体、約1.25重量%の可塑剤、約6.25重量%の抗粘着剤、及び約51重量%の希釈剤を含有することができる。本発明の経口剤形のためのコーティング組成物の別の例は、特に大規模調製が好ましい場合、Eudragit(登録商標)L30D-55の代わりに、メタクリル酸及びエチルアクリレートに基づく適切な量のアニオン性コポリマー、例えばEudragit(登録商標)L100-55を使用する。スプレーまたはパンコーティングなどの従来のコーティング技法を使用して、コーティングを適用する。例えば、コーティング組成物は、Procept(登録商標)コーティングマシン及びCaleva(登録商標)ミニコーターエアサスペンションコーティングマシンを使用して、カプセルが10%~18%の重量増加を経験するまでコーティングすることによって、本発明のカプセルに適用することができる。
【実施例】
【0034】
以下の実施例は、レモグリフロジンエタボネートの経口投与に基づく処置レジメンの有効性を評価するための肝損傷のマウスモデルの利用について記載する。マウスモデルは、腫瘍壊死因子α(「TNFα」)、インターロイキン10(「IL-10」)、及び活性化誘導シチジンデアミナーゼ(「AICDA」)の発現が欠損しているマウスに基づく。このマウスはTNF、IL-10、及びAICDAが欠損しているため、本明細書において、それらを「TIA」マウスと称する。これらの動物における肝臓の転帰もまた、PBCのものと非常に似ている。
【0035】
TIAマウスは、潰瘍性大腸炎(「UC」)様の症状及び病理を呈するだけでなく、組織学的に、ヒトにおけるPBC及びPSCに類似する肝及び胆管の炎症を発症することができる。さらに、AICDAは免疫グロブリン(「Ig」)クラススイッチに必要であるため、TIAマウスは、IgG及びIgAを欠き、高IgM症候群を有するヒトに類似する表現型となっている。したがって、AICDA欠損とTNFα及びIL-10欠損に随伴する危険因子の組み合わせにより、TIAマウスはまた、ヒトにおけるPSC及びPBC症状を連想させる肝及び胆炎症を発症する。したがって、TIAモデルは、PBC発症の早期に作用する機構、ならびにPBC及びPSCへの進行を予防することができる処置を調査するのに有用である。
【0036】
実施例1.経口投与されるレモグリフロジンエタボネートは、TIAマウスにおける炎症性細胞浸潤、胆管増殖、及び界面肝炎を低減する。TIAマウスを、まずTNFαノックアウト(「KO」)C57BL/6マウス(系統B6.129S-Tnftm1Gkl/J、ストック#005540、Jackson Laboratories,Bar Harbor,ME)をIL-10KOマウス(系統B10.129P2(B6)-IL10tm1Cgn/J、ストック番号002251、Jackson Laboratories)と育種することによって作成し、TNFα及びIL-10を欠損したマウスの集団を産生した。TNFα-/-及びIL10-/-遺伝子型を有するマウスは、炎症性腸疾患(「IBD」)を自発的に発症し(Hale 2012)、これは繁殖成功率の低さに関連する状態であり(Nagy 2016)、AICDA集団を生成するためにさらなる繁殖を必要としたマウスを、TNFα-/-及びIL10+/-遺伝子型を有する子孫をAICDA-/-マウスと育種することによって生成し、これらはTasuku Honjo博士(Muramatsu 2000))から得られ、TNFα-/-、IL10-/-、及びAICDA+/-(「TI-hetA」)オス及びメスの集団を産生した。次いで、TI-hetA対を育種して、25% TIAマウスであった集団、及び対照集団として使用することができた50% 非大腸炎感受性TI-hetA同腹仔を生成した。全ての集団を、出生時から同じ環境に曝露した。マウスを、Helicobacter pylori及びNorovirusを含む全ての既知の病原体を除外したバリア条件下で、ポリカーボネートマイクロアイソレータケージ内、個別換気ラック内に収容した。マウスは、水、及び標準的な食餌(PicoLab Mouse Diet 20/5058,LabDiet,St.Louis,MO,USA)を自由に摂取した。
【0037】
4週齢で、TIA(40)及びTI-hetA(22)マウスを、標準的な食餌(20TIA及び12het)、または0.03%レモグリフロジンエタボネートを配合した標準的な食餌(20TIA及び10het)のいずれかを与えた実験群に無作為化した(Avolynt Inc.,USA)。マウスをこの食餌で7週間維持した。マウスの一般的な健康状態を評価し、炎症性腸疾患(IBD)の発症を追跡するために、体重を週に3回取得した。実験群の尿糖を、排出されたばかりの尿をAccutest(登録商標)URS-10尿試薬試験片(Jant Pharmaceutical Corp.,Encino,CA,USA)上のグルコース試験パッチに直接適用することによって評価した。15%超の体重が減少した場合、または直腸脱を発症した場合、11週齢の実験エンドポイントに到達する前に、マウスを人道的に安楽死させた。
【0038】
7週間の処置期間の終了時のTIAマウスにおける胆病変を特徴付けるために、肝組織を、レモグリフロジン処置群及び非処置群から組織学的検査のために得た。切除した肝組織をCarnoyの固定溶液に固定し、パラフィンブロック内に処理した。パラフィンブロックを切断し、病理解析のためにヘマトキシリン及びエオシン(H&E)で染色した。H&E染色切片を、American Board of Pathologyが認証した病理学者によってスコア化した。病理学者は、マウスのアイデンティティについて盲検化され、以前に記載されたスコアリングシステムの改変に基づいた炎症スコアリングシステムを使用した。炎症スコアは、線維症、胆管増殖もしくは管減少症、門脈炎、小葉炎症、界面肝炎、胆管炎の存在、または管周囲線維症/タマネギ状化の程度に基づいた。表1は、この研究における組織を評価するために使用するスコアリングシステムを要約する。
【表1】
【0039】
11週目に、非処置TIAマウスの肝は全般に、肝及び胆病変、胆管増殖、ならびに界面肝炎を含むPBC/PSCで観察されたものと同様の組織学的病変を呈した。
図1A~Bを参照されたい。しかしながら、比較的少数のマウスは、11週目までに胆管のタマネギ状線維症または管減少症などの主要な線維化病変を形成したが、一部のTIAマウスにおいてそのような病変は18週目で観察され(
図1C~E)、早くも6週目には観察することができた(データ示さず)。肝硬変を発症したマウスも比較的少なかったが、体重減少のために安楽死を必要とする前に、28週目で1匹のTIAマウスにおいて大結節性の肝硬変が肉眼で観察された(データ示さず)。
【0040】
レモグリフロジンエタボネート配合食餌を7週間摂取したTIAマウスは、標準的な食餌のままであったTIAマウスと比較して、肝及び胆疾患の発症及び進行が著しく少なかった。より具体的には、レモグリフロジン給餌TIAマウスは、肝実質と門脈との間の界面(
図2C)、門脈周囲領域及び胆領域(
図2D)でより少ない炎症を発症した。レモグリフロジン給餌TIAマウスはまた、非処置のTIAマウスと比較して胆管の増殖も少なかった。
図2Eを参照されたい。
【0041】
この研究では、Remo群と対照群における早期安楽死を必要とするTIAマウスの数に統計学的な差異はなかったが、非処置のTIAマウスの生存曲線は、5~20週で線形の死亡率(n=90)を示唆する。したがって、統計学的に有意ではないが、Remo群における早期死亡の減少傾向は、より大きな群サイズが、この小さな研究では検出できなかった生存率の差を明らかにする可能性を示唆している。
【0042】
実施例2.TIAマウスは、TIAマウスにおける肝及び/または胆損傷の血清学的証拠を実証する。11週目のTIAマウスの血清生化学的プロファイルを行った。安楽死動物からリチウムヘパリンチューブに採血し、総タンパク質、アルブミン、血清アルカリホスファターゼ(AP)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、及び総ビリルビンを含む分析物のパネルを、Heska Dry Chem 7000分析器を使用して測定した。血清アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)を別個の試験において測定した。マウスの50%において、AP、ALT、及びASTのレベルの上昇を検出し、これは胆汁うっ滞/肝損傷を示すと考えられる正常上限レベルの少なくとも1.5倍であった。実施例1に記載したように、11週目の組織学的分析では、かなりの胆及び肝炎症が存在するが、線維症は比較的少ないことが明らかになった。これらの血清生化学データはまた、自己免疫性肝炎を示唆する。
【国際調査報告】