(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-24
(54)【発明の名称】血液成分を調製するプロセスおよびバイオメディカルデバイス
(51)【国際特許分類】
A61M 1/02 20060101AFI20230117BHJP
A61K 35/18 20150101ALI20230117BHJP
A61K 35/19 20150101ALI20230117BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20230117BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230117BHJP
【FI】
A61M1/02 121
A61M1/02 100
A61M1/02 180
A61K35/18 A
A61K35/19 A
A61P7/00
A61P43/00 105
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022529529
(86)(22)【出願日】2020-11-18
(85)【翻訳文提出日】2022-06-29
(86)【国際出願番号】 IB2020060853
(87)【国際公開番号】W WO2021099953
(87)【国際公開日】2021-05-27
(31)【優先権主張番号】102019000021426
(32)【優先日】2019-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522196973
【氏名又は名称】メディタリア・インドゥストリアーレ・ソチエタ・ア・レスポンサビリタ・リミタータ
【氏名又は名称原語表記】Meditalia Industriale S.R.L.
(71)【出願人】
【識別番号】522196984
【氏名又は名称】フォンダツィオーネ・ポリクリニコ・ウニヴェルシターリオ・アゴスティーノ・ジェメッリ・イエッレチチエッセ
【氏名又は名称原語表記】Fondazione Policlinico Universitario Agostino Gemelli IRCCS
(71)【出願人】
【識別番号】522196995
【氏名又は名称】ウニヴェルシタ・カットーリカ・デル・サクロ・クオーレ
【氏名又は名称原語表記】Universita Cattolica del Sacro Cuore
(71)【出願人】
【識別番号】508306026
【氏名又は名称】フォンダツィオーネ イエッレチチェッセ カ’グランダ-オスペダーレ マッジョーレ ポリクリニコ
【氏名又は名称原語表記】Fondazione IRCCS Ca Granda-Ospedale Maggiore Policlinico
【住所又は居所原語表記】Via Francesco Sforza,28,I-20122 Milano(IT)
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100189555
【氏名又は名称】徳山 英浩
(74)【代理人】
【識別番号】100125922
【氏名又は名称】三宅 章子
(72)【発明者】
【氏名】レブッラ,パオロ
(72)【発明者】
【氏名】マッツァーロ,ジョヴァンニ
(72)【発明者】
【氏名】ビアンキ,マリア
(72)【発明者】
【氏名】テオフィリ,ルチャーナ
【テーマコード(参考)】
4C077
4C087
【Fターム(参考)】
4C077AA12
4C077BB02
4C077BB04
4C077CC04
4C077DD13
4C077DD22
4C077NN02
4C077NN03
4C087AA04
4C087BB36
4C087BB38
4C087DA17
4C087DA21
4C087NA20
4C087ZA51
4C087ZB21
(57)【要約】
血液から血液成分を調製するプロセスは、バイオメディカルデバイス(16)を用い、分離した血液サンプル(1)に、250rpmの速度で10分間の第1の遠心分離を行うステップと、2000rpmの速度で15分間の第2の遠心分離を行うステップとを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液から血液成分を調製するプロセスであって、第2バッグ(11)および第3バッグ(13)に接続された第1バッグ(2)を備えるバイオメディカルデバイス(16)を用い、
前記プロセスは、
a)前記第1バッグ(2)内に収容された、分離された(isolated)血液サンプル(1)に、250rpmの速度で10分間の第1の遠心分離を行い、赤血球(3)からなる沈殿物と多血小板血漿(4)からなる上清とを得るステップ、
b)前記ステップa)から得られた前記多血小板血漿(4)を、前記第1バッグ(2)から前記第2バッグ(11)に移送するステップ、
c)前記第2バッグ(11)および前記第3バッグ(13)に接続された前記第1バッグ(2)に、2000rpmの速度で15分間の第2の遠心分離を行い、前記第1バッグ(2)の上部にある少血小板血漿(5)からなる上清および前記第1バッグ(2)の下部にある赤血球濃縮物(6)と、前記第2バッグ(11)の上部にある少血小板血漿(5)からなる上清および前記第2バッグ(11)の下部にある血小板パッド(12)とを得るステップ、
d)前記第1バッグ(2)から前記少血小板血漿(5)を前記第2バッグ(11)または前記第3バッグ(13)へ移送するステップ、
e)前記第1バッグ(2)を、前記第2バッグ(11)および前記第3バッグ(13)から分離し、前記第1バッグ(2)を保存バッグ(7)に流体接続するステップ、
f)前記血小板パッド(12)を希釈するような量の少血小板血漿(5)を差し引いて、前記第2バッグ(11)から前記少血小板血漿(5)を前記第3バッグ(13)に移送し、これにより、マイクロリットル当たりの血小板が80万個から120万個の間である血小板濃度を有する再懸濁血小板濃縮物(15)を形成するステップ、
g)前記赤血球濃縮物(6)を、ある量の添加溶液(8)を加えて希釈し、60%超のヘマトクリット値を有する濃縮赤血球懸濁液を得るステップ、および
h)前記濃縮赤血球懸濁液に含まれる白血球を、白血球除去フィルタ(14)で濾過することにより除去し、これにより、濾過された濃縮赤血球懸濁液(9)を得て、前記濾過された濃縮赤血球懸濁液(9)を前記保存バッグ(7)に収集して保存するステップ
を含む、プロセス。
【請求項2】
前記赤血球を保存するための前記添加溶液(8)が、ナトリウム―アデニン―グルコース―マンニトール(SAGM)、または生理溶液(physiological solution)からなる、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記ステップg)の前には、前記添加溶液(8)は、前記第1バッグ(2)に取り外し可能に流体接続可能な溶液バッグ(10)に収容されている、請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記ステップg)は、前記溶液バッグ(10)の支流カニューレ(18)を副カニューレ(19)に流体接続することによって実施され、前記副カニューレ(19)は、無菌接続によって前記第1バッグ(2)を前記保存バッグ(7)に流体接続する主カニューレ(17)から分岐している、請求項3に記載のプロセス。
【請求項5】
前記ステップa)の前に、選択ステップa1)が含まれ、前記選択ステップa1)では、以下のパラメータ
TNC(総核球数)<1.5×10
9、
抗凝固剤を含まない体積>50ml、
抗凝固剤を使用したユニットの血小板数>150,000/マイクロリットル、
血液ユニット採取から48時間以内に前記プロセスを開始すること、
オプションとして、現地の法規制を遵守していること、
に従って血液ユニットが選択される、請求項1から4のいずれか1つに記載のプロセス。
【請求項6】
前記選択ステップa1)に続いて、前記ステップa)の前に、記録ステップa)が含まれ、前記記録ステップa2)では、前記ステップa)に供される前記血液ユニットの搬入日時、および前記ステップa)の開始日時の記録が実施される、請求項5に記載のプロセス。
【請求項7】
前記記録ステップa2)に続いて、前記ステップa)の前に、分析ステップa3)が含まれ、前記分析ステップa3)では、前記血液ユニットの正味重量が決定され、前記血液ユニットの血球計算が実施され、
前記ステップa3)に続いて、移送ステップa4)が含まれ、前記移送ステップa4)では、前記血液ユニットの血液が無菌接続によって前記第1バッグ(2)内に移送される、請求項6に記載のプロセス。
【請求項8】
前記ステップb)において、前記多血小板血漿(4)は、手動血漿抽出器によって、前記第1バッグ(2)から抽出されて前記第2バッグ(11)に移送される、請求項1から7のいずれか1つに記載のプロセス。
【請求項9】
前記少血小板血漿(5)は、手動血漿抽出器によって、前記第2バッグ(11)から抽出されて前記第3バッグ(13)に移送され、引き続いて、サイフォンラッキングによって、前記第2バッグ(11)から前記第3バッグ(13)に移送される、請求項1から8のいずれか1つに記載のプロセス。
【請求項10】
前記少血小板血漿(5)の前記第2バッグ(11)から前記第3バッグ(13)への移送の後、前記第2バッグ(11)に収容されている前記血小板パッド(12)の正味重量が算出される、請求項1から9のいずれか1つに記載のプロセス。
【請求項11】
前記ステップd)に続いて、前記赤血球濃縮物(6)を収容している前記第1バッグ(2)が密封され、前記赤血球濃縮物(6)を収容している前記第1バッグ(2)の正味重量が決定され、前記第1バッグ(2)に収容された前記赤血球濃縮物(6)の血球計算が実施され、前記赤血球濃縮物(6)を収容している前記第1バッグ(2)が冷却されて2℃から6℃の間の温度で保存される、請求項1から10のいずれか1つに記載のプロセス。
【請求項12】
マイクロリットル当たりの血小板が所定の濃度である前記再懸濁血小板濃縮物(15)を形成するように適合された前記少血小板血漿(5)の前記量は、出発血液ユニット中の血小板の総数に、前記ステップb)で分離した前記多血小板血漿(4)中に回収した血小板の平均割合(average percentage)を乗じることによって計算される、請求項1から11のいずれか1つに記載のプロセス。
【請求項13】
前記再懸濁血小板濃縮物(15)の形成に続いて、前記第2バッグ(11)に収容された前記再懸濁血小板濃縮物(15)に対する血球計算と、前記第3バッグ(13)に収容された前記少血小板血漿(5)に対する血球計算とが実施され、
その後、前記再懸濁血小板濃縮物(15)を収容している前記第2バッグ(11)および前記少血小板血漿(5)を収容している前記第3バッグ(13)が冷却されて-25℃未満の温度で保存される、請求項1から12のいずれか1つに記載のプロセス。
【請求項14】
前記添加溶液(8)は、前記保存バッグ(7)に向かって導かれる前記赤血球濃縮物(6)の流れと反対方向に前記添加溶液(8)の流れを導くことにより、前記赤血球濃縮物(6)に添加される、請求項1から13のいずれか1つに記載のプロセス。
【請求項15】
血液成分を調製するためのバイオメディカルデバイス(16)であって、
第1バッグ(2)であって、前記第1バッグ(2)は、第2バッグ(11)および第3バッグ(13)に接続されており、前記第2バッグ(11)は、血漿(4)および血小板パッド(12)および再懸濁血小板濃縮物(15)を収容するように適合され、前記第3バッグ(13)は、少血小板血漿(5)を収容するように適合されている、第1バッグ(2)と、
主カニューレ(17)によって前記第1バッグ(2)に流体接続された保存バッグ(7)と、
支流カニューレ(18)を有する溶液バッグ(10)であって、前記溶液バッグ(10)は、前記主カニューレ(17)から分離され、前記溶液バッグ(10)は、前記主カニューレ(17)から分岐した副カニューレ(19)に、前記支流カニューレ(18)の前記副カニューレ(19)への無菌接続によって、流体接続可能である、溶液バッグ(10)と、を備え、
前記第1バッグ(2)が、血液サンプル(1)および赤血球濃縮物(6)を収容するように適合されており、
前記溶液バッグ(10)が、赤血球を保存するための添加溶液(8)を収容するように適合されており、
前記保存バッグ(7)が、濾過された濃縮赤血球懸濁液(9)を収容するように適合されている、バイオメディカルデバイス(16)。
【請求項16】
前記第2バッグ(11)と前記第3バッグ(13)とを流体接続するサイフォンを備える、請求項15に記載のバイオメディカルデバイス(16)。
【請求項17】
前記第2バッグ(11)は、前記第2バッグ(11)の上部領域で前記第2バッグ(11)に接続される接続チューブ(20)を有する、請求項15または16に記載のバイオメディカルデバイス(16)。
【請求項18】
前記第2バッグ(11)は、前記第2バッグ(11)の前記上部領域に設けられたブラインドチューブ(21)を有し、前記接続チューブ(20)は、前記ブラインドチューブ(21)上に「Y」継手を用いて挿入されている、請求項17に記載のバイオメディカルデバイス(16)。
【請求項19】
前記支流カニューレ(18)は、前記添加溶液(8)の流れを、前記第1バッグ(2)から前記保存バッグ(7)に向かって導かれる前記赤血球濃縮物(6)の流れと反対方向に導くことによって、前記添加溶液(8)を前記主カニューレ(17)に注入するように構成されている、請求項15から18のいずれか1つに記載のバイオメディカルデバイス(16)。
【請求項20】
前記主カニューレ(17)内に配置された白血球除去フィルタ(14)を備え、前記白血球除去フィルタ(14)は、前記保存バッグ(7)に向かって導かれる前記濃縮赤血球懸濁液を濾過するように適合されている、請求項15から19のいずれか1つに記載のバイオメディカルデバイス(16)。
【請求項21】
前記白血球除去フィルタ(14)は、前記第1バッグ(2)から前記保存バッグ(7)への前記濃縮赤血球懸濁液の流れを基準にして、前記主カニューレ(17)と前記副カニューレ(19)との交差部の上流に設けられている、請求項20に記載のバイオメディカルデバイス(16)。
【請求項22】
前記白血球除去フィルタ(14)は、前記第1バッグ(2)から前記保存バッグ(7)への前記赤血球濃縮物(6)の流れを基準にして、前記副カニューレ(19)と前記支流カニューレ(18)との交差部の下流に設けられている、請求項20に記載のバイオメディカルデバイス(16)。
【請求項23】
前記主カニューレ(17)から第1の副カニューレ(19’)および第2の副カニューレ(19’’)が分岐し、前記白血球除去フィルタ(14)は、前記主カニューレ(17)と前記第1の副カニューレ(19’)との交差部と、前記主カニューレ(17)および前記第2の副カニューレ(19’’)の交差部との間にある請求項20に記載のバイオメディカルデバイス(16)。
【請求項24】
前記第1バッグ(2)、前記第2バッグ(11)および前記第3バッグ(13)は、持続時間15分間の2000rpmの遠心分離に耐えられる柔軟な材料で作られている、請求項15から23までのいずれか1つに記載のバイオメディカルデバイス(16)。
【請求項25】
前記第1バッグ(2)は、150mlの内容積を有し、
前記第2バッグ(11)は、60mlの内容積を有し、
前記第3バッグ(13)は、60mlの内容積を有し、
前記溶液バッグ(10)は、50mlの内容積を有し、
前記保存バッグ(7)は、150mlの内容積を有する、請求項15から24のいずれか1つに記載のバイオメディカルデバイス(16)。
【請求項26】
請求項15から25のいずれか1つに記載のバイオメディカルデバイス(16)と、
少なくとも1つの遠心分離機と、
少なくとも1つの血漿抽出器と、を備える、血液成分を調製するシステム。
【請求項27】
前記少なくとも1つの遠心分離機は、保護用の管状フレキシブルケーシングと固形プラスチック製の複数の円筒形アダプタとを備える、請求項26に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液成分を調製するプロセス、ならびに、生物学的生産物、特に血液成分の製造、保存およびトレーサビリティのためのバイオメディカルデバイスに関する。
【0002】
近年の輸血療法技術は、成人ドナーから採取した血液の使用に基づいている。成人ドナーから採取した血液を、マルチプラスチックバッグ(multiple plastic bags)のシステムに採取し、遠心分離にかけることによって、主要な血液成分、すなわち以下の成分を分離する。
―急性および慢性貧血の治療に使用される赤血球濃縮物(red blood cell concentrates)。
―出血の予防と治療に使用される血小板濃縮物(platelet concentrates)。
―凝固因子欠乏症の患者に使用される少血小板血漿(platelet-poor plasma)。
【0003】
先行技術では、赤血球濃縮物および血小板濃縮物は、輸血された患者に反応や重い副作用を引き起こす可能性のある白血球を除去するために濾過される。
【0004】
血液成分を濃縮した形態で調製することにより、患者に不足している血液成分のみを比較的少量ずつ投与することができる。血液成分を濃縮して調製することは、ドナーから採取した血液の使用を最適化するとともに、患者の心血管系に過度の負担をかけるリスクを回避する。
【0005】
成人ドナーの血液を用いた治療法の確立と並行して、健康な新生児から出生時に採取され、地域社会に提供(寄付)された胎盤血を、重症血液疾患の患者への造血幹細胞移植の目的で使用する治療法も開発されている。
【0006】
胎盤献血の90%超は、安全に移植を行うために十分な数の造血幹細胞が含まれておらず、手順に沿って病院の廃棄物として処理される。
【0007】
献血された胎盤血の治療的使用のための研究プロジェクト、血液成分の調製方法およびプロトコルは、造血細胞移植に代わる治療法として、造血細胞移植に適さないユニットの使用に基づいて開発されてきた。
【0008】
特に、胎盤血の赤血球、血小板ゲル、血漿点眼液の調製と、皮膚病変を治療するための血小板ゲルの治療投与を容易にするシステムが開発されてきた。
【0009】
このタイプのシステムは、例えば、特許出願IT102015000020430およびIT102015000020415に開示されている。
【0010】
US2016354280A1は、血液成分を調製するためのマルチバッグシステムおよび方法を開示している。
【0011】
US4596657Aは、濾過手段が一体化されたマルチバッグシステムを開示している。
【0012】
US2009317305A1は、血液を個別容量に分離するためのバッグシステムを開示している。
【0013】
US2015328392は、血液サンプルから白血球を除去するためのシステム及び方法を開示している。
【0014】
胎盤血から血液成分を調製するための先行技術の方法には、いくつかの重要な限界がある。
【0015】
まず、赤血球から多血小板血漿(platelet-rich plasma)を分離するために用いられる低速遠心分離方法では、輸血用の赤血球の保存に必要な十分な量の適切な添加溶液に再懸濁させた後の赤血球は、高いヘマトクリット値(>60%)を有することができない。60%超のヘマトクリット値を維持することは、輸血用の赤血球の標準的な要件である。
【0016】
しかしながら、胎盤血の遠心分離は、バッグの上部区画に形成される血漿画分に血小板を浮遊(懸濁)させるために、低速で行われる必要がある。
【0017】
実際、胎盤血を高速遠心分離すると、血漿中に含まれる血小板の崩壊が生じ得る。これにより、その後の多血小板血漿からの血小板濃縮物の調製ができなくなり得る。
【0018】
先行技術のさらなる問題は、胎盤血からの赤血球を輸血目的で使用するには、白血球を除去するように適合されたメディカルデバイスが必要であるということである。成人ドナーの血液から白血球除去赤血球(白血球を減少させた赤血球)を調製するために通常使用される現在の濾過システムは、胎盤血からの赤血球の白血球除去に適合していない。胎盤血中の赤血球の量(体積)がはるかに少なく(約1/5)、成人ドナーの血液からの赤血球の白血球除去に使用されるフィルタに大きなデッドスペースが生じて、濾過終了時にフィルタ内に閉じ込められた新生児赤血球が大きな損失となり得るからである。
【0019】
従って、本発明の目的は、先行技術で明確になった問題の少なくともいくつかを回避するような、血液成分(赤血球、血小板濃縮物および少血小板血漿)を調製するプロセス、ならびに、生物学的生産物、特に血液成分の製造、保存、およびトレーサビリティのためのバイオメディカルデバイスを提供することである。
【0020】
本発明のある特定の目的は、高いヘマトクリット値(>60%)を有し、したがって輸血用途、特に早産新生児(premature newborns)に対する輸血用途に適した濃縮赤血球懸濁液(すなわち、赤血球を保存するために必要な適切な添加溶液中に懸濁(浮遊)させた赤血球濃縮物)を調製するプロセスを提供することである。
【0021】
本発明のさらなる特定の目的は、血液成分を調製するための、より効率的かつ迅速なプロセスを提供することである。
【0022】
本発明のさらなる目的は、血液成分の製造、保存、およびトレーサビリティのための改良されたバイオメディカルデバイスを提供することである。
【0023】
これらおよび他の目的は、添付の特許請求の範囲に記載されたプロセスおよびデバイスによって達成される。
【0024】
本発明のさらなる特徴および利点は、添付図面を参照して非限定的な例として以下に与えられる、いくつかの好ましい実施形態の説明からより明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、本発明のある実施形態に係る、血液成分を調製するためのバイオメディカルデバイスを示す。
【
図2】
図2は、本発明のある実施形態に係る、赤血球を濾過するためのバイオメディカルデバイスの詳細を示す。
【
図3】
図3は、本発明のさらなる実施形態に係る、赤血球を濾過するためのバイオメディカルデバイスを示す。
【
図4】
図4は、本発明のさらなる実施形態に係る、赤血球を濾過するためのバイオメディカルデバイスを示す。
【
図5】
図5は、本発明のさらなる実施形態に係る、血液成分を調製するためのバイオメディカルデバイスを示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
血液成分を調製するプロセス
本発明の一態様によれば、血液、特に臍帯血または胎盤血から血液成分を調製するプロセスは、第2バッグ11および第3バッグ13に接続された第1バッグ2を備えるバイオメディカルデバイス16を用い、以下のステップを含む。
【0027】
上記プロセスは、第1バッグ2内に収容された、分離された(isolated)血液サンプル(1)に、250rpmの速度で10分間の第1の遠心分離を行い、赤血球3からなる沈殿物と多血小板血漿(血小板を多く含む血漿)4からなる上清とを得るステップa)を含む。
【0028】
上記プロセスは、その後、ステップa)から得られた多血小板血漿4が、第1バッグ2から第2バッグ11に移送されるステップb)を含む。
【0029】
上記プロセスは、その後、第2バッグ11および第3バッグ13に接続された第1バッグ2に、2000rpmの速度で15分間の第2の遠心分離を行い、第1バッグ2の上部にある少血小板血漿5からなる上清および第1バッグ2の下部にある赤血球濃縮物6と、第2バッグ11の上部にある少血小板血漿(血小板の少ない血漿)5からなる上清および第2バッグ11の下部にある血小板パッド12とを得るステップc)を含む。
【0030】
有利には、ステップc)から得られる赤血球濃縮物6のヘマトクリット値は、80%超である。
【0031】
さらなる利点として、第1バッグ2の遠心分離と第2バッグ11の遠心分離とが、同じ遠心分離機の内部で同時に行われるので、本プロセスの効率が向上する。
【0032】
上記プロセスは、その後、少血小板血漿5が第1バッグ2から第2バッグ11または第3バッグ13へ移送されるステップd)を含む。
【0033】
上記プロセスは、その後、第1バッグ2が、第2バッグ11および第3バッグ13から分離され、第1バッグ2が保存バッグ7(
図2、
図3、
図4)に流体接続されるステップe)を含む。
【0034】
上記プロセスは、その後、血小板パッド12を希釈するような量の少血小板血漿5を差し引いて、少血小板血漿5が第2バッグ11から第3バッグ13に移送され、これにより、1マイクロリットル当たりの血小板が好ましくは80万個から120万個の間である血小板濃度を有する再懸濁(re-suspended)血小板濃縮物15を形成するステップf)を含む。
【0035】
有利には、元の血液サンプル1から製造することができる少血小板血漿5の量が増加するので、本プロセスの効率が増加する。特に、第1バッグ2が150mlの内容積を有し、第2バッグ11が60mlの内容積を有し、第3バッグ13が60mlの内容積を有する場合、このプロセスによって、約10ccの少血小板血漿5を追加的に得ることができる
【0036】
上記プロセスは、その後、赤血球濃縮物6が、ある量の添加溶液8の添加によって希釈され、60%超のヘマトクリット値を有する濃縮赤血球懸濁液を得るステップg)を含む。
【0037】
上記プロセスは、その後、濃縮赤血球懸濁液に含まれる白血球が、白血球除去フィルタ14(
図2、
図3、
図4)を用いた濾過によって除去され、濾過された濃縮赤血球懸濁液9を得る、および、濾過された濃縮赤血球懸濁液9が保存バッグ7に収集され、保存されるステップh)を含む。
【0038】
有利には、このように構成された血液成分を調製するためのプロセスは、高いヘマトクリット値(>60%)を有する、したがって輸血用途、特に早産新生児に対する輸血用途に適した、濾過された濃縮赤血球懸濁液を調製することができる。
【0039】
さらなる利点として、上記に記載の血液成分を調製するプロセスは、効率的かつ迅速である。
【0040】
さらなる利点として、本発明の方法(手順)は、システムのバッグにかけられる遠心加速度の大きさ(「rpm」で表される)を特定する。先行技術から知られている方法は、バッグにかけられる加速度(US2016354280、US4596657、US2009317305)又は遠心分離時間(US4596657、US2009317305)について何も表示していない。
【0041】
一実施形態によれば、赤血球を保存するための添加溶液8は、ナトリウム―アデニン―グルコース―マンニトール(SAGM)からなる。
【0042】
有利には、SAGMによって、赤血球濃縮物6の適切な再懸濁と、輸血用途のための濾過された濃縮赤血球懸濁液9の高い保存性とが確保される。
【0043】
あるいは、添加溶液8は、生理溶液からなる。
【0044】
一実施形態によれば、赤血球を保存するための添加溶液8は、予め、第1バッグ2に取り外し可能に流体接続可能な溶液バッグ10に収容されている。
【0045】
一実施形態によれば、ステップg)は、溶液バッグ10の支流カニューレ18を副カニューレ19に流体接続することによって行われる。副カニューレ19は、無菌接続によって第1バッグ2を保存バッグ7に流体接続する主カニューレ17から分岐している。
【0046】
一実施形態によれば、上述したステップa)が行われる前に、上記プロセスは、選択ステップa1)を含む。選択ステップa1)では、以下のパラメータに従って血液ユニット、特に胎盤血(臍帯血とも呼ばれる)が選択される。
―TNC(総核球数)<1.5×109
―抗凝固剤を含まない体積(Volume without anticoagulant)>50ml
―抗凝固剤を含むユニットの血小板数>150000/マイクロリットル
―血液ユニットの採取(collection)から48時間以内にプロセスを開始すること。
―オプションとして、現地の法規制を遵守していること。
【0047】
一実施形態によれば、選択ステップa1)に続いて、ステップa)が行われる前に、上記プロセスは、記録ステップa)を含む。記録ステップa2)では、ステップa)に供される血液ユニットの搬入日時、およびステップa)の開始日時の記録が行われる。
【0048】
一実施形態によれば、記録ステップa2)の後、ステップa)の前に、上記プロセスは、分析ステップa3)を含む。分析ステップa3)では、血液ユニットの正味重量が決定され、血液ユニットに含まれる血液のパラメータを完全に調べる血液ユニットの全血球計算が実施される。
【0049】
ステップa3)に続いて、ステップa)の前に、上記プロセスは、移送ステップa4)を含む。移送ステップa4)では、血液ユニットの血液が無菌接続によって第1バッグ2内に移送される。
【0050】
一実施形態によれば、ステップb)において、多血小板血漿4は、血漿抽出器によって、第1バッグ2から抽出され、第2バッグ11に移送される。本発明の一態様では、この抽出器は手動式であってもよく、代わりに、自動抽出器が使用されてもよい。
【0051】
一実施形態によれば、少血小板血漿5は、手動血漿抽出器によって、第2バッグ11から抽出され、第3バッグ13に移送され、引き続いて、サイフォンラッキングによって、第2バッグ11から第3バッグ13に移送される。「サイフォンラッキング」は、サイフォンの動作原理を利用して実施される流体の移送を意味する。
【0052】
有利には、サイフォンラッキングによって引き続いて行われる移送は、第2バッグ11から全ての少血小板血漿を実質的に除去し、これにより、第2バッグ11には血小板パッド12のみが残るようになる。
【0053】
少血小板血漿をサイフォンで吸い上げる方法は、本発明の方法で導入された主な革新点の1つである。実際、先行技術から知られている他の方法は、少血小板血漿をサイフォンで吸い上げることを記載又は示唆していない。
【0054】
実際、少血小板血漿5の抽出を手動の血漿抽出器によってのみ行うと、第2バッグ11の厚さのために、少血小板血漿5の完全な抽出は得られない。
【0055】
少血小板血漿5の第2バッグ11から第3バッグ13への移送の後、第2バッグ11に収容されている血小板パッド12の正味重量が算出される。
【0056】
ステップd)の後、赤血球濃縮物6を収容している第1バッグ2が密封され、その正味重量(したがって、赤血球濃縮物6のみの重量)が決定される。第1バッグ2に収容された赤血球濃縮物6の血球計算が実施される。このバッグ2は冷却されて2℃から6℃の間の温度で保存される。
【0057】
一実施形態によれば、マイクロリットル当たりの血小板が所定の濃度である再懸濁血小板濃縮物15を形成するように適合された少血小板血漿5の量は、出発血液ユニット中の血小板の総数(10億単位)に、ステップb)で分離された多血小板血漿4中に回収された血小板の平均割合(本方法の検証プロトコル(the procedure validation protocol)中に決定される)を乗じることによって計算される。
【0058】
例えば、出発血液ユニット中の血小板の総数が150億であり、回収された血小板の平均割合が50%である場合、マイクロリットル当たり約100万の血小板濃度を有する再懸濁血小板濃縮物15の最終量(最終的な体積)は、7.5mlに等しい。
【0059】
従って、例えば、再懸濁血小板濃縮物の最終量が7.5ml(従って約7.5gの重量を有する)であり、第2バッグ11に収容された血小板パッド12の先に計算された正味重量が3gであるとすれば、第2バッグ11に移送すべき少血小板血漿5の重量は、4.5gである。
【0060】
有利には、この計算方法は迅速であり、高い精度を有している。
【0061】
好ましくは、再懸濁血小板濃縮物15の形成後、第2バッグ11に収容された再懸濁血小板濃縮物15に対する全血球計算と、第3バッグ13に収容された少血小板血漿5に対する血球計算とが行われる。
【0062】
その後、再懸濁血小板濃縮物15を収容している第2バッグ11および少血小板血漿5を収容している第3バッグ13は冷却されて、-25℃未満の温度で保存される。
【0063】
好ましい一実施形態によれば、添加溶液8は、保存バッグ7に向かって導かれる赤血球濃縮物6の流れと反対方向に添加溶液8の流れを導くことにより、赤血球濃縮物6に添加される。
【0064】
一実施形態によれば、赤血球濃縮物6の第1バッグ2から保存バッグ7への移送中に、赤血球濃縮物6は、白血球除去フィルタ14によって濾過される。
【0065】
有利には、白血球除去フィルタ14による赤血球濃縮物6の濾過は、添加溶液8の添加後に実施されるので、非常に高いヘマトクリットを有する赤血球の濾過中に生じ得る溶血のリスクを回避することができる。
【0066】
血液成分を調整するためのバイオメディカルデバイス
本発明のさらなる態様によると、バイオメディカルデバイス16は、第2バッグ11および第3バッグ13に接続された第1バッグ2を備える。
【0067】
バイオメディカルデバイス16は、さらに、主カニューレ17によって第1バッグ2に流体接続された保存バッグ7を備える。
【0068】
バイオメディカルデバイス16は、さらに、支流カニューレ18を有する溶液バッグ10を備える。溶液バッグ10は、主カニューレ17から分離されている。溶液バッグ10は、主カニューレ17から分岐した副カニューレ19に、支流カニューレ18の副カニューレ19への無菌接続によって、流体接続可能である。
【0069】
第1バッグ2は、血液サンプル1および赤血球濃縮物6を収容するように適合されている。
【0070】
溶液バッグ10は、赤血球を保存するための添加溶液8を収容するように適合されている。
【0071】
保存バッグ7は、濾過された濃縮赤血球懸濁液9を収容するように適合されている。
【0072】
有利には、このように構成されたメディカルデバイス16によって、高いヘマトクリット値(>60%)を有し、したがって輸血用途、特に早産新生児への輸血用途に適した、濾過された濃縮赤血球懸濁液9を確実に調製することができる。
【0073】
さらに、第2バッグ11は、多血小板血漿4、少血小板血漿5および血小板パッド12、および再懸濁血小板濃縮物15を収容するように適合されている。
【0074】
さらに、第3バッグ13は、少血小板血漿5を収容するように適合されている。
【0075】
一実施形態によると、バイオメディカルデバイス16は、第2バッグ11と第3バッグ13とを流体接続するサイフォンをさらに備える。
【0076】
一実施形態によると、第2バッグ11は、第2バッグ11の上部領域で第2バッグ11に接続された接続チューブ20を有する。
【0077】
好ましい一実施形態によると、第2バッグ11は、第2バッグ11の上部領域に設けられたブラインドチューブ21を有し、接続チューブ20は、ブラインドチューブ21上に「Y」継手を用いて挿入されている(
図5)。
【0078】
一実施形態によると、支流カニューレ18は、添加溶液8の流れを、第1バッグ2から保存バッグ7に向かって導かれる(directed)赤血球濃縮物6の流れと反対方向に導くことによって、添加溶液8を主カニューレ17に注入するように構成されている。
【0079】
一実施形態によると、バイオメディカルデバイス16は、主カニューレ17内に配置された白血球除去フィルタ14を備える。
【0080】
白血球除去フィルタ14は、保存バッグ7に向かって導かれる濃縮赤血球懸濁液を濾過するように適合されている。
【0081】
ある有利な実施形態によると、白血球除去フィルタ14は、第1バッグ2から保存バッグ7への赤血球濃縮物6の流れを基準にして、主カニューレ17と副カニューレ19との交差部の上流に設けられている。
【0082】
代替的な一実施形態によると、白血球除去フィルタ14は、第1バッグ2から保存バッグ7への赤血球濃縮物6の流れを基準にして、副カニューレ19と支流カニューレ18との交差部の下流に設けられている(
図3)。この実施形態によると、白血球除去フィルタ14のデッドスペースに残存する赤血球を回収するために、濾過方法(濾過工程)の最後に白血球除去フィルタ14の灌流を行うことができる。
【0083】
さらなる代替的な一実施形態によると、主カニューレ17から第1の副カニューレ19’および第2の副カニューレ19’’が分岐し、白血球除去フィルタ14は、主カニューレ17と第1の副カニューレ19’との交差部と、主カニューレ17および第2の副カニューレ19’’の交差部との間にある(
図4)。この実施形態によると、濾過する前に、白血球除去フィルタ14の上方の位置に設けられた第1の副カニューレ19’を用いてフィルタの洗浄処理を実施し、白血球除去フィルタ14と当該デバイスに含まれない収集バッグとの無菌接続後に白血球除去フィルタ14の下方の位置に設けられた第2の副カニューレ19’’から洗浄液を回収することが可能である。
【0084】
図2、
図3及び
図4で説明した実施形態によると、オペレータは、例えば溶出によって白血球除去フィルタ14に捕捉された白血球画分を回収するなど、異なるニーズ、オプション及び動作仕様に対応した、異なる濾過方法を行うことができる。
【0085】
有利には、これらの異なる添加溶液の接続方式によって、本発明の上記システムは、非常に汎用性が高く、より多くの赤血球を回収するために、白血球除去フィルタ14を下からも上からも濡らす(wetted)ことができ、所望により最終的に洗い流す(rinsing)ことができる。
【0086】
一実施形態によると、第1バッグ2、第2バッグ11および第3バッグ13は、持続時間15分間の2000rpmの遠心分離に耐えられる柔軟な材料で作られている。
【0087】
一実施形態によると、第1バッグ2は、150mlの内容積を有し、第2バッグ11は、60mlの内容積を有し、第3バッグ13は、60mlの内容積を有し、溶液バッグ10は、50mlの内容積を有し、保存バッグ7は、150mlの内容積を有する。
【0088】
本発明のさらなる一態様によると、血液成分を調製するシステムは、上記に記載したバイオメディカルデバイス16と、少なくとも1つの遠心分離機と、少なくとも1つの手動血漿抽出器と、を備える。
【0089】
一実施形態によると、遠心分離は、各遠心分離の前に、その内部にバッグ2、11および13のシステムが挿入される、保護用の管状フレキシブルケーシングおよび固形プラスチック製の複数の円筒形アダプタを使用して行われる。
【0090】
当然のことながら、当業者は、以下に述べる請求の範囲から逸脱することなく、本発明に修正または適合を加えることができるであろう。
【国際調査報告】