(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-24
(54)【発明の名称】生体触媒技術
(51)【国際特許分類】
C12N 15/53 20060101AFI20230117BHJP
C12N 9/04 20060101ALI20230117BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20230117BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20230117BHJP
C12P 7/02 20060101ALI20230117BHJP
C12P 7/40 20060101ALI20230117BHJP
【FI】
C12N15/53
C12N9/04 Z ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/21
C12P7/02
C12P7/40
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022529649
(86)(22)【出願日】2020-11-23
(85)【翻訳文提出日】2022-07-19
(86)【国際出願番号】 GB2020052982
(87)【国際公開番号】W WO2021099807
(87)【国際公開日】2021-05-27
(32)【優先日】2019-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519174012
【氏名又は名称】ハイファ ディスカバリー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】スチール、ジョナサン チャールズ ポール
(72)【発明者】
【氏名】デ リソ、アントニオ
(72)【発明者】
【氏名】ファルシオーニ、フランチェスコ
(72)【発明者】
【氏名】リグリー、スティーブン キース
(72)【発明者】
【氏名】ホプキンス、エミリー ジェイド
(72)【発明者】
【氏名】カーン、アクサナ リム
(72)【発明者】
【氏名】ニャチコ、キンガ リンダ
(72)【発明者】
【氏名】プーン、ビンセント
(72)【発明者】
【氏名】ワード、ジョン マキシム
(72)【発明者】
【氏名】シュルツ、セバスチャン
【テーマコード(参考)】
4B050
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B050CC07
4B050DD02
4B050FF01
4B050KK03
4B050LL05
4B064AC01
4B064AD61
4B064CA21
4B064CC24
4B064CE08
4B064DA16
4B065AA26X
4B065AA50Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BD01
4B065BD11
(57)【要約】
本発明は、配列番号3に示すアミノ酸配列を含むシトクロムP450酵素、または配列番号3と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を有し且つCYP450活性を有するその変異型に関する。本明細書で提供されるシトクロムP450酵素は、ストレプトマイセス・ユリサーマス(Streptomyces eurythermus)NRRL2539から単離されたものであり、広い基質範囲と高い活性とを有しており、有機化合物を酸化するために使用され得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号3に示すアミノ酸配列を含むシトクロムP450酵素、または配列番号3と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を有し且つCYP450活性を有するその変異型酵素。
【請求項2】
配列番号3に示すアミノ酸配列と少なくとも96%の同一性を有する配列を含み、より好ましくは97%の同一性を有する配列を含み、さらにより好ましくは98%の同一性を有する配列を含み、さらにより好ましくは99%の同一性を有する配列を含み、最も好ましくは配列番号3に示すアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の酵素。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の酵素をコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子。
【請求項4】
異種発現制御配列に作動的に連結された請求項3に記載の核酸分子を含む組換え構築物。
【請求項5】
請求項3に記載の核酸分子または請求項4に記載の組換え構築物を含むベクター。
【請求項6】
請求項3に記載の核酸分子、請求項4に記載の組換え構築物、または請求項5に記載のベクターを含む微生物であって、請求項1または請求項2に記載の酵素をコードする前記ヌクレオチド配列が当該微生物に対して異種であるか、または当該微生物の溶解物であって、
好ましくは、当該微生物は、ストレプトマイセス・ユリサーマス(Streptomyces eurythermus)ではない、微生物。
【請求項7】
大腸菌(Escherichia coli)である、請求項6に記載の微生物。
【請求項8】
有機化合物を酸化するための、請求項1または請求項2に記載のシトクロムP450酵素の使用。
【請求項9】
前記酸化が、ヒドロキシ化、エポキシ化、カルボキシル化、または脱アルキル化である、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
前記酸化される有機化合物が、アルキル基、アリール基、もしくはオレフィン基および/またはアルキル置換基もしくはアリール置換基を含む、請求項8または請求項9に記載の使用。
【請求項11】
前記酸化される化合物が、式(I)の化合物であり、
【化1】
式中、Rは化合物の残りの部分を表し、R
1、R
2およびR
3は独立してHまたはC
1-12アルキルまたはC
6-10アリールから選択され、あるいは、R
1、R
2およびR
3のうちいずれか2つが互いに結合して、置換されていてもよいシクロアルキルまたはヘテロシクロアルキルを形成していてもよく、あるいは、R
1、R
2およびR
3が互いの架橋炭素と結合してオレフィン、アリールまたはヘテロアリールを形成していてもよい、請求項8から請求項10のうちのいずれか一項に記載の使用。
【請求項12】
前記酸化される化合物が、カルバマゼピン、ボセンタン、ジクロフェナク、メロキシカム、チバンチニブ、またはアンブロキシドである、請求項8から請求項11のうちのいずれか一項に記載の使用。
【請求項13】
前記シトクロムP450酵素が、還元酵素成分または他の還元剤と組み合わせて使用され、好ましくはフェレドキシンおよびフェレドキシン還元酵素成分と組み合わせて使用される、請求項8から請求項12のうちのいずれか一項に記載の使用。
【請求項14】
前記シトクロムP450酵素が、精製された形態、部分精製された形態、粗酵素抽出物、組換え宿主細胞の形態、または天然宿主細胞の形態である、請求項8から請求項13のうちのいずれか一項に記載の使用。
【請求項15】
前記シトクロムP450酵素またはその変異型が、ストレプトマイセス・ユリサーマスNRRL2539細胞に存在する、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
前記シトクロムP450酵素またはその変異型が、前記酵素をコードする異種核酸を含む少なくとも1種の組換え微生物、好ましくは請求項6または請求項7に記載の微生物によって発現される、請求項8から請求項15のうちのいずれか一項に記載の使用。
【請求項17】
酸化された有機化合物の製造方法であって、前記有機化合物を請求項1または請求項2に記載のシトクロムP450酵素と反応させることを含む、方法。
【請求項18】
前記有機化合物が、ヒドロキシ化、エポキシ化、カルボキシル化、または脱アルキル化によって酸化される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記酸化される有機化合物が、請求項10から請求項12のうちのいずれか一項に記載の有機化合物である、請求項17または請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記シトクロムP450酵素が、還元酵素成分と組み合わせて使用され、好ましくは、フェレドキシンおよびフェレドキシン還元酵素成分と組み合わせて使用される、請求項17から請求項19のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記シトクロムP450酵素が、精製された形態、部分精製された形態、粗酵素抽出物、組換え宿主細胞の形態、または天然宿主細胞の形態である、請求項17から請求項20のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記シトクロムP450酵素またはその変異型が、ストレプトマイセス・ユリサーマスNRRL2539細胞に存在し、且つ、前記細胞が酸化される有機化合物を投与され、その後所望により前記細胞が回収され、前記酸化された化合物が単離される、請求項17から請求項21のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記シトクロムP450酵素またはその変異型が、前記酵素をコードする異種核酸を含む少なくとも1種の組換え微生物、好ましくは請求項6または請求項7に記載の微生物によって発現され、前記少なくとも1種の組換え微生物が酸化される有機化合物を投与され、その後所望により精製工程にかけられることで、前記酸化された化合物が得られる、請求項17から請求項22のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
i)請求項1もしくは請求項2に記載のシトクロムP450酵素、
ii)請求項1もしくは請求項2に記載のシトクロムP450酵素を発現する微生物、好ましくは、請求項6もしくは請求項7に記載の微生物、またはその溶解物、および/あるいは、
iii)請求項3に記載の核酸分子、請求項4に記載の組換え構築物、または請求項5に記載のベクターを含むキット。
【請求項25】
還元剤をさらに含み、好ましくはフェレドキシン還元酵素およびフェレドキシンをさらに含み、所望により緩衝液をさらに含む、請求項24に記載のキット。
【請求項26】
1つまたは複数の他のシトクロムP450酵素、および/または、有機化合物を酸化するために前記キットを使用するための説明書をさらに含む、請求項24または請求項25に記載のキット。
【請求項27】
前記シトクロムP450酵素、微生物もしくは溶解物、または、核酸分子、組換え構築物、もしくはベクターが、凍結乾燥および/または真空密封された、請求項24から請求項26のうちのいずれか一項に記載のキット。
【請求項28】
請求項1または請求項2に記載のシトクロムP450酵素の製造方法であって、請求項3に記載の核酸分子、請求項4に記載の組換え構築物、または請求項5に記載のベクターを微生物に導入することと、前記微生物において前記シトクロムP450酵素を発現させることと、所望により前記シトクロムP450酵素を精製することとを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、ストレプトマイセス・ユリサーマス(Streptomyces eurythermus)NRRL2539由来のシトクロムP450酵素、本酵素をコードする核酸、本酵素を含むキット、および有機基質の酸化を触媒するための本酵素の使用に関する。
【0002】
背景技術
シトクロムP450(CYP)はヘム-チオレートタンパク質のスーパーファミリーであり、それらに一酸化炭素が結合した化学種が450nmに吸光度スペクトルのピークを有することから命名がなされた。シトクロムP450は動物、植物、真菌、原生生物、細菌、古細菌等の全ての生物界に存在しており、さらに、巨大ウイルスである多食アメーバ(Acanthamoeba polyphaga)由来の、P450と推定されるものが報告されている(Lamb, DC; Lei, L; Warrilow, AG; Lepesheva, GI; Mullins, JG; Waterman, MR; Kelly, SL (2009). "The first virally encoded cytochrome P450". Journal of Virology. 83 (16): pp8266-9)。シトクロムP450酵素は大腸菌(E. coli)では確認されていない(Roland Sigel; Sigel, Astrid; Sigel, Helmut (2007). The Ubiquitous Roles of Cytochrome P450 Proteins: Metal Ions in Life Sciences. New York: Wiley. ISBN 0-470-01672-8; Danielson PB (December 2002). "The cytochrome P450 superfamily: biochemistry, evolution and drug metabolism in humans". Curr. Drug Metab. 3 (6): pp561-97)。
【0003】
シトクロムP450はその反応化学特性において驚くほどの多様性を示し、多様な内在性基質および生体異物基質の酸化的代謝、過酸化的代謝および還元的代謝を支えている。
ヒトにおいては、シトクロムP450は第I相の薬物代謝におけるその中心的役割で最もよく知られており、そこでは、シトクロムP450が、臨床薬理学において最も重大な問題のうちの2つ、すなわち薬物相互作用および薬物代謝における個体間変動、において決定的な重要性をもつ。
シトクロムP450によって触媒される最も一般的な反応はモノオキシゲナーゼ反応である。シトクロムP450モノオキシゲナーゼはヘム基を利用して分子を酸化し、しばしば、極性基の付加または露出によって分子をより水溶性にする。一般的に、これらの酵素によって触媒される反応は以下のようにまとめることができる。
【化1】
1行目の例において、R-Hは基質であり、R-OHは酸素が付加された基質である。前記酸素はCYP酵素の中心にあるヘム基に結合し、水素イオン(H
+)は通常、独立した、またはCYPに融合した、酸化還元パートナータンパク質により、CYP酵素の特定のアミノ酸を介して、還元型補因子NADHまたはNADPHから間接的に供給される。CYP酵素は、シトクロムb5、フェレドキシン還元酵素およびフェレドキシン、ならびにアドレノドキシン還元酵素およびアドレノドキシン等の、一連の酸化還元パートナータンパク質から電子を受け取ることができる。
【0004】
シトクロムP450の分類および命名法はかなり複雑であるが、I. Hanukoglu (1996). "Electron Transfer Proteins of Cytochrome P450 Systems". Advances in Molecular and Cell Biology. Advances in Molecular and Cell Biology. 14: 29-56によって提唱されている、それらの酸化還元パートナー輸送タンパク質系によって分類することができる。要約すると、シトクロムP450酵素は以下の群に分類できる。
電子を補因子からシトクロムP450に移動させるためにシトクロムP450還元酵素またはシトクロムb5を利用するミクロソーム型P450系;
電子を還元型補因子からシトクロムP450に移動させるためにアドレノドキシン還元酵素とアドレノドキシンを利用するミトコンドリア型P450系;
電子を還元型補因子からシトクロムP450に移動させるためにフェレドキシン還元酵素とフェレドキシンタンパク質を利用する細菌型P450系;
補因子からシトクロムP450への電子移動のためにシトクロムb5を利用するCYB5R-cytb5-P450系;
電子パートナー還元酵素が縮合FMNドメインであるFMN-Fd-P450系;
酸化還元パートナータンパク質を必要としないP450のみの系、例えば、P450BM-3。
【0005】
単離された細菌性のシトクロムP450酵素は公知であり、プチダ菌(Pseudomonas putida)由来のP450cam(J Biol Chem (1974) 249, 94);共に巨大菌(Bacillus megaterium)ATCC14581由来のP450BM-1およびP450BM-3(Biochim Biophys Acta (1985) 838, 302、およびJ Biol Chem (1986) 261, 1986, 7160);ダイズ根粒菌(Rhizobium japonicum)由来のP450a、P450b、およびP450c(Biochim Biophys Acta (1967) 147, 399);並びに、ノカルジアNHI(Nocardia NHI)由来のP450npd(Microbios (1974) 9, 119)が挙げられる。
しかし相対的に、放線菌微生物から精製されたシトクロムP450酵素は報告がないままである。Biochem and Biophys Res Comm (1986) 141, 405には、大豆粉によるストレプトマイセス・グリセウス(Streptomyces griseus)におけるシトクロムP450の誘導(P450soy)が記述されている。他の報告された例としては、Biochemistry (1987) 26, 6204に記載される、サッカロポリスポラ・エリスラエア(Saccharopolyspora erythraea)(元々はストレプトマイセス・エリスラエウス(Streptomyces erythraeus)に分類)からの、農薬不活性化の効果を及ぼすP450の2つの形態(P450SU1およびP450SU2)並びに6-デオキシエリトロノリドBヒドロキシラーゼの2つの形態の単離および特性が挙げられる。米国特許第6884608号には、アミコラトプシス・オリエンタリス(Amycolatopsis orientalis)(元々はストレプトマイセス・オリエンタリス(Streptomyces orientalis)に分類)の菌株によって産生されるヒドロキシ化酵素によって果たされる、エポチロンBのエポチロンFへの酵素的ヒドロキシ化が記述されている。より最近の例としては、Biotechnology and Bioengineering (2018) 115; 2156-2166においてヒトの一部の薬物代謝P450酵素に類似した活性を示すことが報告された、ストレプトマイセス・プラテンシス(Streptomyces platensis)DSM40041由来のCYP107Lが挙げられる。
【0006】
医薬品化学の分野では、化学物質の特性を変更するために、化学物質の修飾が用いられている。例えば、薬らしい分子の合成において、医薬品化学者は疎水性の導入のためにターシャリーブチル基をしばしば使用する。しかし、そのさらなる修飾により、係る化合物の力価プロファイル、選択性プロファイルおよび溶解性プロファイルを向上させてもよく、例えばヒドロキシ化を用いることができる。ヒドロキシ化はまた、薬理学および医薬品化学の別の重要な側面である代謝分解の主要な経路でもある。これらのヒドロキシ化された代謝産物は、純粋な化学的手段による合成が困難である場合が多いため、動物組織による生体内変換を用いた生産法が求められている。
【0007】
発明の概要
驚くべきことに、ストレプトマイセス・ユリサーマスNRRL2539に存在する特定のシトクロムP450酵素を、様々な有機基質に対して異なるタイプの酸化反応を提供するために使用することができることが分かった。尚、酸化という用語およびそれに派生する用語は、限定されるわけではないが、基質のヒドロキシ化、エポキシ化、カルボキシル化、および脱アルキル化を含む反応タイプをいう。
【0008】
特に、配列番号3として示すアミノ酸配列を有するシトクロムP450酵素は、化合物の物理化学的特性および薬理学的特性の活性化または改変を目的とした、有機化合物の酸化に使用することができる。特に好ましい実施形態では、配列番号3として示すアミノ酸配列を有するシトクロムP450酵素は、化合物の物理化学的特性や薬理学的特性のC-H活性化またはC-H修飾を目的とした、種々の脂肪族部分もしくは芳香族部分、またはそのような部分を含む化学物質の酸化に有用である。配列番号3のシトクロムP450酵素は、これまで同定されておらず、その広い反応性と多くの基質に対する優れた活性とにより、工業用途に特に有用なシトクロムP450である。
【0009】
第1の態様において、本発明は、配列番号3に示すアミノ酸配列を含むシトクロムP450酵素、または配列番号3と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を有し且つCYP450活性を有するその変異型を提供する。
【0010】
第2の態様において、本発明は、本発明の酵素をコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子を提供する。
【0011】
第3の態様において、本発明は、異種発現制御配列に作動的に連結された本発明の核酸分子を含む組換え構築物を提供する。
【0012】
第4の態様において、本発明は、本発明の核酸分子または組換え構築物を含むベクターを提供する。
【0013】
第5の態様において、本発明は、本発明の核酸分子、組換え構築物、またはベクターを含む微生物であって、本発明の酵素をコードする前記ヌクレオチド配列が当該微生物に対して異種であり、好ましくは、当該微生物はストレプトマイセス・ユリサーマスではない、微生物を提供する。
【0014】
第6の態様において、本発明は、有機化合物を酸化するための、配列番号3を含むシトクロムP450酵素、または配列番号3と少なくとも95%の同一性を有し且つCYP450活性を有するその変異型の使用を提供する。
【0015】
第7の態様において、本発明は、有機化合物と、配列番号3を含むシトクロムP450酵素、または配列番号3と少なくとも95%の同一性を有し且つCYP450活性を有するその変異型とを反応させることを含む、酸化された有機化合物の製造方法を提供する。
【0016】
第8の態様において、本発明は、
i)配列番号3を含むシトクロムP450酵素、もしくは配列番号3と少なくとも95%の同一性を有し且つCYP450活性を有するその変異型、
ii)配列番号3を含むシトクロムP450酵素、もしくは配列番号3と少なくとも95%の同一性を有し且つCYP450活性を有するその変異型を発現する微生物、および/または、
iii)本発明の核酸分子、組換え構築物、もしくはベクター、を含み、
所望により、有機化合物を酸化するために使用される説明書および他の補因子試薬をさらに含む、キットを提供する。
【0017】
第9の態様において、本発明は、本発明のシトクロムP450酵素の製造方法であって、本発明の核酸分子、組換え構築物、またはベクターを微生物に導入することと、前記微生物においてシトクロムP450酵素を発現させることと、所望により前記シトクロムP450酵素を単離および/または精製することとを含む方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
本発明について以下の添付の図面を参照しながら説明する。
【
図1-1】
図1は、本発明の配列番号3を含むシトクロムP450酵素の使用によって発揮される生体内変換の例を模式的に示している。
図1(a)はカルバマゼピンのエポキシ化を示しており、
図1(b)はボセンタンのヒドロキシ化(マイナーな副反応として脱メチル化を伴う)を示しており、
図1(c)はジクロフェナクのヒドロキシ化を示しており、
【
図1-2】
図1(d)はメロキシカムのメチル基のヒドロキシ化を示しており、一部はさらに酸化してカルボキシル基を生成しており、
図1(e)はチバンチニブのヒドロキシ化を示しており、
【
図1-3】
図1(f)はアンブロキシドのヒドロキシ化を示している。
【
図2】
図2は、発現プラスミドpHD05-SeuC10-SeuF08を示している。
【
図3】
図3は、P450
SeuC10タンパク質を含有する粗酵素抽出物の一酸化炭素差スペクトル(carbon monoxide difference spectrum)を示している。試料はpHD05-SeuC10-SeuF08プラスミドを含有する大腸菌Tuner(DE3)細胞のIPTG誘導培養物から調製した。
【
図4a】
図4a~
図4fは、100μLのスクリーニングスケールで行われた各種反応の超高速高分離液体クロマトグラフィー・質量分析(UPLC-MS)のクロマトグラムを示している:
図4aは、100mg/Lのカルバマゼピンを投与した、実施例4Aに記載の、組換えP450
SeuC10、フェレドキシン
seuF08、およびフェレドキシン還元酵素
SCF15Aの凍結乾燥物質を用いた反応後抽出物のクロマトグラムを示す。上から下へ、UV
225nm、EIC
237m/z(カルバマゼピン、1.33分)、およびEIC
253m/z(カルバマゼピン-10,11-エポキシド、1.16分(推定収率49%))である。
【
図4b】
図4bは、100mg/Lボセンタンを投与した、実施例4Bに記載の、組換えP450
SeuC10、フェレドキシン
seuF08、およびフェレドキシン還元酵素
SCF15Aを発現する大腸菌を用いた反応後抽出物のクロマトグラムを示す。上から下へ、UV
268nm、EIC
552m/z(ボセンタン、1.76分))、EIC
538m/z(O-脱メチルボセンタン、1.67分(推定収率3.4%))、およびEIC
568m/z(ヒドロキシ-ボセンタン、1.44分(推定収率81%))である。
【
図4c】
図4cは、100mg/Lジクロフェナクを投与した、実施例4Bに記載の、組換えP450
SeuC10、フェレドキシン
seuF08、およびフェレドキシン還元酵素
SCF15Aを発現する大腸菌を用いた反応後抽出物のクロマトグラムを示す。上から下へ、UV
275nm、EIC
294m/z(ジクロフェナク、1.83分))、EIC
310m/z(5-ヒドロキシジクロフェナクおよび4'-ヒドロキシジクロフェナク、それぞれ1.59分(推定収率19.4%)および1.64分(推定収率73.4%))である。
【
図4d】
図4dは、100mg/Lメロキシカムを投与した、実施例4Aに記載の、組換えP450
SeuC10、フェレドキシン
seuF08、およびフェレドキシン還元酵素
SCF15Aの凍結乾燥物質を用いた反応後抽出物のクロマトグラムを示す。上から下へ、UV
354nm、EIC
352m/z(メロキシカム、1.61分)、EIC
368m/z(5'-ヒドロキシメチルメロキシカム、1.32分(推定収率28.4%)、およびEIC
382m/z(5'-カルボキシルメロキシカム、1.54分(推定収率5.3%))である。
【
図4e】
図4eは、100mg/Lチバンチニブを投与した、実施例4Aに記載の、組換えP450
SeuC10、フェレドキシン
seuF08、およびフェレドキシン還元酵素
SCF15Aの凍結乾燥物質を用いた反応後抽出物のクロマトグラムである。上から下へ、UV
280nm、EIC
370m/z(チバンチニブ、1.55分)、およびEIC
386m/z(チバンチニブのベンジルヒドロキシ化産物のエピマー、1.16分および1.14分(合計推定収率98.3%))である。
【
図4f】
図4fは、100mg/Lアンブロキシドを投与した、実施例4Aに記載の、組換えP450
SeuC10、フェレドキシン
seuF08、およびフェレドキシン還元酵素
SCF15A凍結乾燥物質の反応後抽出物のクロマトグラムを示す。上から下へ、EIC
237m/z(アンブロキシド、2.19分)およびEIC
253m/z(ヒドロキシ-アンブロキシド誘導体、1.46分(推定収率74%))である。
【0019】
好適な実施形態の説明
本発明の第1の態様は、配列番号3に示すアミノ酸配列を含むシトクロムP450酵素、または配列番号3と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を有し且つCYP450活性を有するその変異型を提供する。あるいは、本発明の本態様は、シトクロムP450活性を有し且つ配列番号3に示すアミノ酸配列または配列番号3と少なくとも95%の同一性を有する配列を含むポリペプチドを提供すると見なすこともできる。好ましい実施形態において、前記酵素は、配列番号3と少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。最も好ましくは、前記酵素は、配列番号3のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、前記酵素は、配列番号3のアミノ酸配列からなるものであってもよく、配列番号3と少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列からなるものであってもよい。前記酵素の由来および前記酵素を得る方法を以下に説明する。同様に、本発明に含まれる前記酵素の変異型についても、変異型を得ることができる好ましい置換等を含めて、以下に説明する。
【0020】
本発明の酵素は、その天然形態もしくは自然形態から単離される。したがって、前記酵素は、それが通常会合する他の成分から分離される。例えば、前記酵素は、通常は微生物に存在し得るが、本発明の本態様においては、その微生物の少なくとも一部の成分から分離される。単離された酵素は、当該酵素の濃度が微生物中のその濃度よりも増加した濃縮抽出物または単純な未処理の抽出物の形態をとり得る。好ましい態様では、単離された酵素は、それが提供される任意の溶液等の主成分(すなわち、大半を占める成分)である。特に、前記酵素が最初に混合物または混合溶液中で生産される場合、前記酵素はその混合物または混合溶液から分離または精製され得る。したがって、例えば、前記酵素がタンパク質発現系(原核生物(例えば細菌)細胞を用いた細胞発現系、無細胞のインビトロ発現系など)を用いて生産される場合、前記酵素は、それが存在する溶液または組成物中に最も豊富に存在するポリペプチドとなり、好ましくは当該溶液または組成物中のポリペプチドの大部分を構成し、且つ、天然の生産培地に存在する他のポリペプチドおよび生体分子に対して濃縮されるように、単離され得る。後述するように、一般に、本発明の酵素は、細胞発現系を用いて、特に細菌細胞における発現により、生産される。
【0021】
好ましい特徴において、前記酵素は、例えば溶液または組成物中に、例えば当該溶液または組成物中の他の成分、特に他のポリペプチド成分の存在に対して評価した場合、少なくとも60%w/w、少なくとも70%w/w、少なくとも80%w/w、少なくとも90%w/w、少なくとも95%w/w、または少なくとも99%w/w(乾燥重量)の純度で存在する。
【0022】
本発明の酵素の精製の程度を特定して、例えば、前記酵素が主な成分であるかどうかを評価するために、前記酵素の溶液を定量的プロテオミクスによって解析してもよい。例えば、2Dゲル電気泳動および/または質量分析を使用することができる。そのような単離された分子は、以下に記載するように、調製物または組成物中に存在していてもよい。あるいは、前記精製の程度は、例えば、SDS-PAGEを実施し、その後クーマシー染色を行って混入物/不純物について調べることによって、より簡単に評価することができる。
本発明の酵素は、当該技術分野において公知の任意の技術を用いて単離または精製することができる。例えば、前記酵素を、ポリヒスチジンタグ(Hisタグ)、Strepタグ、FLAGタグ、またはHAタグ等のようなアフィニティタグを付けて生産し、適切な結合パートナーを用いたアフィニティクロマトグラフィーによる分子の単離または精製を可能にしてもよく、例えば、ポリヒスチジンタグを持つ分子をNi2+イオンを用いて精製してもよい。あるいは、前記酵素を、例えば、サイズ排除クロマトグラフィーまたはイオン交換クロマトグラフィーによって単離または精製してもよい。
【0023】
本発明の酵素をタンパク質発現系で生産する代わりに、非生物学系で化学的に合成してもよく、例えば、液相合成または固相合成を採用することができる。化学合成によって(すなわち、非生物学的方法によって)生産された酵素は、対照的に、単離された形態で生産される可能性が高い。したがって、単離された分子を生産する方法で本発明の酵素が合成される場合は、当該酵素が単離されたと見なされるために特定の精製工程または単離工程を行う必要がない。
【0024】
前記酵素は、溶液中または組成物中で提供されてもよく、例えば、活性度を維持するのに適した溶液と共に提供されてもよい。前記酵素は、凍結乾燥形態で提供されてもよく、他の高分子またはアルギン酸塩ビーズ、鉄アフィニティビーズ、ニッケルカラム、および電気化学電極などの支持材料に固定化または係留されていてもよい。
【0025】
本発明の第2の態様は、本発明のシトクロムP450酵素をコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子を提供する。したがって、本発明は、配列番号3に示すアミノ酸配列を含むシトクロムP450酵素、または配列番号3と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を有し且つCYP450活性を有するその変異型をコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子を提供する。
【0026】
当業者には、遺伝子暗号の縮重の結果として、任意の所与のアミノ酸配列をコードし得る多くのヌクレオチド配列が存在することが、理解されよう。縮重したヌクレオチド配列とは、同じタンパク質(またはタンパク質配列)をコードする2つ(またはそれ以上)のヌクレオチド配列を意味し、具体的には1番目から始まる参照ヌクレオチド配列のオープンリーディングフレーム(すなわち、コード配列のコドン1が参照ヌクレオチド配列の1~3番目に対応する)において同じタンパク質(またはタンパク質配列)をコードする2つ(またはそれ以上)のヌクレオチド配列を意味する。
【0027】
配列番号3のシトクロムP450酵素の天然ヌクレオチド配列を配列番号9に示している。したがって、特定の実施形態では、本発明の核酸分子は、配列番号9のヌクレオチド配列を含む。別の実施形態では、本発明の核酸分子は、配列番号9と縮重しているヌクレオチド配列を含み、例えば、配列番号9のコドン最適化バージョンを含む。別の実施形態では、本発明の核酸分子は、配列番号9の変異型であるヌクレオチド配列であって、配列番号9と少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の同一性を有するヌクレオチド配列を含む。核酸分子は、上記の配列を含むものであってもよく、上記の配列からなるものであってもよい。
【0028】
本発明の核酸分子は、単離された核酸分子であってもよく、DNAもしくはRNA、またはDNAもしくはRNAの化学的誘導体をさらに含んでいてもよい。「核酸分子」という用語は、具体的には、一本鎖形態および二本鎖形態のDNAおよびRNAを含む。核酸分子を単離または合成する方法は、当該技術分野においてよく知られている。
【0029】
本発明は、本発明の核酸分子を含む構築物をさらに提供する。前記構築物は、本発明の核酸分子を含む組換え構築物であることが好都合である。前記構築物において、本発明の核酸分子は、本発明の核酸分子の容易なクローニングを可能にするために、制限部位(すなわち、1つまたは複数の制限酵素によって認識されるヌクレオチド配列)と隣接していてもよい。本発明の構築物において、本発明の酵素をコードするヌクレオチド配列は、好都合には、当該構築物内で、前記核酸分子に対して異種であり得る発現制御配列に作動的に連結されていてもよく、、すなわち、非天然であり得る発現制御配列に、作動的に連結されていてもよい。ここで、非天然とは、発現制御配列と核酸分子とがいかなる天然分子においても一緒に存在しないことを意味する。このような発現制御配列は、典型的にはプロモーターであるが、前記酵素をコードするヌクレオチド配列は、プロモーターに代えてまたはプロモーターに加えて、ターミネーター配列、オペレーター配列、もしくはエンハンサー配列などのような他の発現制御配列に作動的に連結されていてもよい。したがって、前記構築物は、(前記核酸分子に対して)天然または非天然のプロモーターを含んでいてもよく、好ましくは非天然のプロモーターを含み得る。プロモーターは、構成的プロモーターであってもよく、誘導的プロモーターであってもよい。
【0030】
「作動的に連結」という用語は、1つの核酸断片上の2つ以上の核酸分子が、一方の機能が他方によって影響されるように関連付けられることをいう。例えば、プロモーターは、あるコード配列の発現に影響を与えることができる(すなわち、そのコード配列がプロモーターの転写制御下にある)場合に、そのコード配列に作動的に連結されている。コード配列は、センス配向またはアンチセンス配向で制御配列に作動的に連結され得る。
【0031】
「発現制御配列」という用語は、あるコード配列の上流(5’非コード配列)、該配列内、または該配列の下流(3’非コード配列)に位置し、且つ、関連するコード配列の転写、RNAプロセッシングもしくはRNA安定性、または翻訳に影響を及ぼすヌクレオチド配列をいう。発現制御配列は、プロモーター、オペレーター、エンハンサー、翻訳リーダー配列、TATAボックス、およびB認識要素等を含み得る。本明細書において使用される場合、「プロモーター」という用語は、コード配列またはRNAの発現を制御することができるヌクレオチド配列をいう。好適な例を以下に挙げる。一般に、コード配列は、プロモーター配列の3’側に位置している。プロモーターは、その全体が天然遺伝子に由来していてもよく、自然界に存在する異なるプロモーターに由来する異なる要素で構成されていてもよく、あるいは、合成ヌクレオチドセグメントを含んでさえいてもよい。ほとんどの場合において制御配列の厳密な境界は完全には明確にされていないため、異なる長さの核酸断片が同一の制御活性を有し得ることがさらに認識されている。
【0032】
本発明の構築物を調製するための方法は、当該技術分野においてよく知られており、例えば、好適な構築物(例えば、発現制御配列を含有)に公知の方法を用いて挿入し得る本発明の核酸分子を構築するために、従来のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)クローニング技術を使用することができる。
【0033】
本発明は、本発明の核酸分子または構築物を含むベクターをさらに提供する。本明細書において使用される場合、「ベクター」という用語は、本発明の核酸分子または構築物が導入され得る(例えば、共有結合的に挿入され得る)媒体をいい、そこから前記酵素もしくは前記酵素をコードするmRNAが発現され得、且つ/または、本発明の核酸分子/構築物がクローニングされ得る。したがって、ベクターは、クローニングベクターであってもよく、発現ベクターであってもよい。
【0034】
本発明の核酸分子または構築物は、当該技術分野において公知の任意の好適な方法を使用してベクターに挿入することができ、例えば、限定されるわけではないが、ベクターと核酸分子とを適切な制限酵素を用いて消化した後、適合する粘着末端を有する核酸分子を連結してもよく、または、必要であれば、平滑末端クローニングを使用して、消化後の核酸分子を消化後のベクターにライゲーションしてもよい。
【0035】
前記ベクターは、一般に原核生物ベクターであり、具体的には細菌ベクターである。本発明の核酸分子または構築物は、汎用性のクローニングベクターで生産またはそのようなベクターに導入されてもよく、特に、細菌クローニングベクター、例えば大腸菌クローニングベクターにおいて生産されてもよく、そのようなベクターに導入されてもよい。そのようなベクターの例としては、pUC19、pBR322、pBluescriptベクター(ストラタジーン社(Stratagene Inc.))、およびインビトロジェン社(Invitrogen Inc.)のpCR TOPO(登録商標)、例えば、pCR2.1-TOPOが挙げられる。
【0036】
本発明の核酸分子または構築物は、本発明の酵素を発現させるために、発現ベクターにサブクローニングされてもよい。発現ベクターは、多様な発現制御配列を含有し得る。転写および翻訳を支配する制御配列に加えて、ベクターは、例えばベクター複製や選択マーカー等を含む他の機能を果たす追加の核酸配列を含有してもよい。プラスミドは、本発明に係る好ましいベクターである。
【0037】
本発明のベクターは、本発明の酵素のシトクロムP450活性に必要である場合に、本発明の酵素と共に使用されるフェレドキシンをコードするヌクレオチド配列をさらに含み得る。特定の実施形態では、前記ベクターは、配列番号4(SeuF08)のフェレドキシンをコードするヌクレオチド配列を含み得る。天然のSeuF08コード配列を配列番号10に示している。特定の実施形態では、前記ベクターは、配列番号10のヌクレオチド配列、または配列番号10と縮重しているヌクレオチド配列を含む。
【0038】
本発明のベクターが、本発明の核酸分子とフェレドキシンをコードするヌクレオチド配列との両方を含む場合、2つの遺伝子は、多シストロン的にコードされてもよく、すなわち、両方の遺伝子の発現が同じプロモーターによって制御されるようにオペロン内で、コードされてもよい。あるいは、2つの遺伝子は、別々のプロモーターでコードされてもよい。
あるいは、またはさらに、本発明のベクターは、本発明の酵素と共に使用されるフェレドキシン還元酵素(例えば、フェレドキシン-NADP+-還元酵素)をコードするヌクレオチド配列をさらに含み得る。好ましくは、前記ベクターは、本発明の酵素とフェレドキシンとフェレドキシン還元酵素とをコードするヌクレオチド配列(すなわち、遺伝子)を含む。前記フェレドキシン還元酵素は、本発明の酵素と共にオペロンの一部としてコードされていてもよい。特定の実施形態では、本発明の酵素とフェレドキシンとフェレドキシン還元酵素とが1つのオペロン内にコードされている。遺伝子は、そのようなオペロン内で、任意の順序でコードされ得る。
【0039】
特定の実施形態では、前記ベクターは、フェレドキシン還元酵素Scf15Aをコードする。Scf15Aは、配列番号11に示すアミノ酸配列を有する。特定の実施形態では、前記ベクターは、配列番号11のフェレドキシン還元酵素をコードするヌクレオチド配列を含んでいてもよい。天然のScf15Aコード配列を配列番号12に示している。特定の実施形態では、前記ベクターは、配列番号12ヌクレオチド配列、または配列番号12と縮重しているヌクレオチド配列を含む。
【0040】
本発明は、本発明の核酸分子、本発明の組換え構築物、もしくは本発明のベクターを含む微生物であって、本発明の酵素をコードする前記ヌクレオチド配列が当該微生物に対して異種である微生物、またはそのような微生物の溶解物をさらに提供する。すなわち、本発明の微生物は、本発明の核酸のヌクレオチド配列を天然には含まず、より大まかに言えば、本発明の微生物は、配列番号3のシトクロムP450酵素を天然にはコードまたは発現しない。したがって、前記微生物は、ストレプトマイセス・ユリサーマスNRRL2539ではない。好ましくは、前記微生物は、ストレプトマイセス・ユリサーマスではなく、すなわち、ストレプトマイセス・ユリサーマスのいかなる菌株でもない。本明細書において使用される場合、「溶解物」という用語は、「抽出物」と交換可能である。
【0041】
前記微生物は、一般に原核生物であり、特に細菌である。細菌は、グラム陽性の菌種または菌株であってもよく、グラム陰性の菌種または菌株であってもよく、一般に、非病原性細菌である。好ましい実施形態では、前記細菌は大腸菌である。
【0042】
前記微生物は、クローニング宿主であってもよく、発現宿主であってもよい。好適な細菌発現株は公知であり、例えば、大腸菌(DE3)株などの大腸菌発現株である。
【0043】
本発明の溶解物(または抽出物)(すなわち、本発明の微生物の溶解物または抽出物)は、本発明の酵素を含む。したがって、前記溶解物は、前記酵素を発現する微生物(特に、前記酵素を発現する細菌)の溶解物である。そのような溶解物または抽出物は、標準的な微生物細胞溶解方法を使用して得ることができる。例えば、前記微生物を、機械的に溶解(例えば、フレンチプレスにより)してもよく、音響的に溶解(例えば、超音波処理により)してもよく、適切な溶解緩衝液/試薬(例えば、BugBuster、シグマアルドリッチ社(Sigma Aldrich)、米国)を使用して化学的に溶解してもよく、凍結融解により溶解してもよい。前記溶解物または抽出物は、生の溶解物/抽出物、すなわち、溶解後に追加の処理を受けていないものであってもよい。あるいは、前記溶解物は、加工されてもよい。例えば、前記溶解物の可溶性画分のみが提供されるように不溶性画分が除去(例えば、遠心分離により)されてもよい。得られた可溶性画分は、以下で説明するように後で使用するために、凍結されてもよく、好ましい実施形態では、凍結した可溶性画分を凍結乾燥し、好ましくは、得られた凍結乾燥物が入った収納容器、例えば、バイアルを真空下で密封する。したがって、溶解物(または抽出物)は、一般に、生の溶解物/抽出物よりも本発明の酵素が濃縮された溶解物/抽出物を包含する。
【0044】
本発明のさらなる態様は、有機化合物を酸化するための、配列番号3を含むシトクロムP450酵素、または配列番号3と少なくとも95%の同一性を有し且つCYP450活性を有するその変異型の使用を提供する。このような使用(および本発明の他の態様)において、前記酵素は、本明細書中に記載の本発明の好ましい酵素であることが好ましい。
具体的には、好ましい態様において、本発明は、シトクロムP450SeuC10酵素の使用を提供する。この酵素は配列番号3に示されるアミノ酸配列を有する。
【0045】
本発明の酵素、ならびに本発明の使用、方法、およびキットのための酵素は、米国、イリノイ州、ピオリア(Peoria)の国立農業利用研究センター(National Center for Agricultural Utilization Research)のマイコトキシン予防および応用微生物学研究ユニット(Mycotoxin Prevention and Applied Microbiology Research Unit)に受託番号NRRL2539で寄託されたストレプトマイセス・ユリサーマス菌株に存在する。前記菌株は、その他の様々なカルチャーコレクションにも寄託されており、各受託番号は、ATCC14975、ATCC19749、CBS488.68、DSM40014、ETH6677、IFO12764、IMET43078、ISP5014、JCM4206、JCM4575、RIA1030である。この酵素、またはその変異型は、好適な還元酵素成分と組み合わされた場合、有機化合物を酸化することができる。
【0046】
当業者によって理解されるように、前記シトクロムP450SeuC10酵素は、公知のストレプトマイセス・ユリサーマスNRRL2539または他の菌種から、精製有りまたは無しで抽出することができ、あるいは、シトクロムP450SeuC10を大腸菌などの発現系にクローニングすることによって、組換え発現系から、精製有りまたは無しで同様に抽出することができる。
【0047】
ストレプトマイセス・ユリサーマスNRRL2539を含む放線菌類は、自然要因から、さらには、紫外線照射、放射線治療および化学的治療等の人為的な処置の結果としても、変異を起こし易い。本発明は、ストレプトマイセス・ユリサーマスNRRL2539の全ての増殖性変異体を包含する。また、これらの変異株には、遺伝子組換え、形質導入および形質転換等の遺伝子操作によって得られるあらゆる菌株が包含される。また、周知の通り、放線菌類の特性は、同じ菌株であっても、連続的な培養後にある程度変化する。従って、培養物の特性には僅かな差異があるため、菌株同士は必ずしも分類学的に区別可能でなくてもよい。本発明は、前記シトクロムP450酵素を産生できる全ての菌株、および、特に、NRRL2539菌株またはその変異株と明確に区別できない菌株を包含する。
【0048】
本明細書に例示される特定のアミノ酸配列の変異型が本発明に包含されてもよいことは、当業者には明らかである。1つまたは複数のアミノ酸残基が任意の組み合わせで置換、欠失または付加された、本明細書に開示されるアミノ酸配列のそれに類似したアミノ酸配列を有する変異型が特に好ましい。中でも、本発明のタンパク質の特性と活性を変化させないサイレント置換、サイレント付加およびサイレント欠失が好ましい。類似の特性を有する多様なアミノ酸が存在するが、ある物質の1つまたは複数のそのようなアミノ酸は、その物質の所望の活性を除去することなく、1つまたは複数の他のアミノ酸で置換できる場合が多い。すなわち、アミノ酸のグリシン、アラニン、バリン、ロイシンおよびイソロイシンはしばしば、互いに置換可能である(脂肪族側鎖を有するアミノ酸)。これらの可能な置換の中でも、グリシンおよびアラニンを用いて互いに置換することが好ましく(これらは比較的短い側鎖を有しているため)、また、バリン、ロイシンおよびイソロイシンを用いて互いに置換することが好ましい(これらは疎水性の巨大な脂肪族側鎖を有するため)。互いに置換できる場合が多い他のアミノ酸としては、フェニルアラニン、チロシンおよびトリプトファン(芳香族側鎖を有するアミノ酸);リジン、アルギニンおよびヒスチジン(塩基性側鎖を有するアミノ酸);アスパラギン酸およびグルタミン酸(酸性側鎖を有するアミノ酸);アスパラギンおよびグルタミン(アミド側鎖を有するアミノ酸);並びに、システインおよびメチオニン(含硫側鎖を有するアミノ酸)が挙げられる。上記の置換は、保存的な置換と考えられる。変異型には自然発生的な変異型と人工的な変異型とが包含される。人工的な変異型は、核酸分子、細胞または生物に適用されるものを含む突然変異誘発法を用いて生成することができる。前記変異型は、前述したように、本明細書に例示されるアミノ酸配列と実質的同一性を有することが好ましい。本明細書で使用される場合、用語「変異型」または「その変異体」とは、配列番号3と、「実質的同一性」を有するアミノ酸配列を指し、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも98.1%、少なくとも98.2%、少なくとも98.3%、少なくとも98.4%、少なくとも98.5%、少なくとも98.6%、少なくとも98.7%、少なくとも98.8%、少なくとも98.9%、少なくとも99%、少なくとも99.1%、少なくとも99.2%、少なくとも99.3%、少なくとも99.4%、少なくとも99.5%、少なくとも99.6%、少なくとも99.1%、少なくとも99.8%、または少なくとも99.9%の同一性を有するアミノ酸配列が好ましい。「実質的同一性」という用語は、望ましくは、前記配列が、従来技術のアミノ酸配列とよりも、本明細書に記載される配列のいずれかと、より大きな程度の同一性を有することを示す。アミノ酸配列を比較するために、CLUSTAL Wアルゴリズム(Thompson, J.D., Higgins, D.G. and Gibson, T.J. (1994). Nucleic Acids Research, 22:4673-4680.)を用いたオンラインツール等のプログラムを利用することができる。このプログラムは、アミノ酸配列同士を比較するものであり、必要に応じていずれかの配列にスペースを挿入することで最適なアラインメントを見つける。最適アラインメントを目的として、アミノ酸の同一性または類似性(アミノ酸種類の同一性および保存)を算出することができる。BLASTxのようなプログラムは、類似配列が最長となるようにアラインメントを行い、その一致に対して値を割り当てる。すなわち、類似領域がいくつか存在し、それぞれが異なるスコアを有する場合も、比較を行うことができる。上記は本出願で開示される全てのアミノ酸配列に準用される。核酸配列についても、例えば、核酸配列に関する本発明の態様に関連して、任意の好適なプログラム、例えばEmboss Needleを用いて、同様にアラインメントを行い、それらの配列の同一性を算出することができる。
【0049】
好ましい実施形態において、用語「変異型」は、通常、配列番号3と少なくとも95%の同一性を有し且つCYP450活性を有する配列を指し、配列番号3と少なくとも96%の同一性または配列番号3と少なくとも97%の同一性を有することがより好ましく、配列番号3と98%の同一性を有することがさらに好ましく、配列番号3と99%の同一性を有することがさらにより好ましく、配列番号3と100%の同一性を有することが最も好ましい。
【0050】
特許請求の範囲に記載されたシトクロムP450酵素を用いて様々な化合物を酸化(例えば、ヒドロキシ化、脱アルキル化、エポキシ化など)することができる。好ましい実施形態では、本明細書の実施例4に記載されるものと同じ条件を用いて、酸化される有機化合物は、結果として得られる誘導体への少なくとも3%の変換率を有し、より好ましくは少なくとも5%、より好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも25%、より好ましくは少なくとも50%、さらにより好ましくは少なくとも70%であり、最も好ましくは、結果として得られる誘導体への100%の変換率を有する。
【0051】
前記シトクロムP450酵素により酸化される化合物は、置換されていても非置換であってもよい直鎖状または分岐状のアルキル基(メチル、イソプロピル、またはtert-ブチル等)、芳香族基(置換されていてもよいアリールまたはヘテロアリール等)、オレフィン基または置換アリールもしくはヘテロアリール、またはアルキルヘテロ分子を有していてもよく、置換されていても非置換であってもよい直鎖状または分岐状のアルキル基はヒドロキシル化されていてもよく、芳香族基はヒドロキシル化されていてもよく、オレフィン基または置換アリールもしくはヘテロアリールはエポキシかされていてもよく、アルキルヘテロ分子は脱アルキル化されてもよい。
【0052】
これらの反応物についての変換率は、特許請求の範囲に記載されたシトクロムP450酵素を使用した場合に特に高くなる。
【0053】
酸化される化合物は式(I)の化合物であることが好ましい。
【化2】
式中、Rは化合物の残りの部分を表す。R
1、R
2およびR
3は独立してHまたはC
1-12アルキルまたはC
6-10アリールから選択され、あるいは、R
1、R
2およびR
3のうちいずれか2つが互いに結合して、置換されていてもよいシクロアルキルまたはヘテロシクロアルキルを形成していてもよく、あるいは、R
1、R
2およびR
3が互いの架橋炭素と結合してオレフィン、アリール、またはヘテロアリールを形成していてもよい。
【0054】
好ましくは、Rは、置換されていてもよいアルキル、置換されていてもよいオレフィン、置換されていてもよいアリール、置換されていてもよいヘテロアリール、または置換されていてもよいヘテロシクロアルキルである。
【0055】
本明細書で使用される場合、「アルキル」は、C1~C10のアルキル基を意味し、直鎖状であっても分岐鎖状であっても環式であってもよい。例としてプロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、シクロペンチルおよびシクロヘキシルが挙げられる。C3~C10のアルキル部分であることが好ましい。C5~C6のアルキル部分であることがより好ましい。前記アルキルは置換されていてもよいシクロヘキシルであることが好ましい。
【0056】
明確にするために記すと、シクロアルキルという用語は環状アルキル基のことである。
【0057】
本明細書で使用される場合、「アリール」とは、置換されていてもよい単環式、二環式または三環式の芳香族ラジカルを意味し、例えば、フェニル、ビフェニル、ナフチル、アントラセニル等が挙げられる。前記アリールは置換されていてもよいC6アリールであることが好ましい。
【0058】
本明細書で使用される場合、「ヘテロアリール」とは、酸素、窒素および硫黄から選択される1~4個のヘテロ原子を含有する置換されていてもよい単環式、二環式または三環式の芳香族ラジカルを意味し、例えば、フラニル、ピロリル、チアゾリル、イソチアゾリル、テトラゾリル、イミダゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、チエニル、ピラゾリル、ピリジニル、ピラジニル、ピリミジニル、インドリル、アザインドリル、イソインドリル、キノリル、イソキノリル、トリアゾリル、チアジアゾリル、オキサジアゾリルが挙げられる。
【0059】
本明細書で使用される場合、ヘテロシクロアルキルとは、1~4個の炭素原子がヘテロ原子で置換されているシクロアルキルであって、置換されていてもよいシクロアルキルを意味する。前記ヘテロ原子は窒素、酸素、硫黄または亜リン酸(phosphorous)から選択されることが好ましい。
【0060】
本明細書で使用される場合、用語「置換されていてもよい」とは、Hが化合物から除去されており、炭素、ハロゲン、水素、窒素、酸素および硫黄を任意に組み合わせて構成されるもの等の有機断片と置換されていることを意味する。
【0061】
前記式(I)の化合物は50~1000の分子量を有することが好ましく、例えば100~700の分子量が挙げられ、200~500の分子量を有することがより好ましい。
【0062】
好ましくは、R1、R2およびR3は独立してH、C1-6アルキルまたはC6-10アリールから選択され、ただし、R1、R2およびR3のうち1つまたは複数がHであることが好ましい。最も好ましくは、R1、R2およびR3は独立してH、メチル、エチル、プロピル、ブチル、t-ブチル、ペンチルおよびヘキシルから選択され、ただし、R1、R2およびR3のうち1つまたは複数がHであることが好ましい。
【0063】
特に好ましい実施形態では、前記シトクロムP450酵素を、カルバマゼピン、ボセンタン、ジクロフェナク、メロキシカム、チバンチニブまたはアンブロキシド等の化合物と反応させる。基質として使用される他の好ましい化合物は、実施例に示す通りであり、特に、アンブロキシド、ジクロフェナク、チバンチニブ、カルバマゼピン、パルミチン酸、BIRB796、バノキセリン、ルキソリチニブ、およびペリンドプリルである。
【0064】
酸化される好ましい化合物は、通常、以下の構造式の化合物である。
【化3】
【0065】
前記シトクロムP450酵素は、前記シトクロムP450を活性化する還元酵素成分と組み合わせて使用されてもよい。好ましい実施形態では、フェレドキシンおよびフェレドキシン還元酵素成分が使用される。シトクロムP450を活性化するものであればいかなる成分が用いられてもよく、例えば、直接的にもしくはペプチド結合で融合した成分、または、過酸化物、ヨウ素(iodane)、もしくは類似の結果特性を有する化学物質等の、酸素を提供する、化学物質ベースの代替物が挙げられる。特に好ましい実施形態では、前記配列番号3を有するシトクロムP450SeuC10酵素、または配列番号3と少なくとも95%の同一性を有し且つCYP450活性を有するその変異型を、好適なフェレドキシンおよびフェレドキシン還元酵素成分と組み合わせることで、基質化合物を結果として得られる酸化された誘導体に変換するのに効果的な系が得られる。
【0066】
好ましい実施形態では、前記シトクロムP450酵素またはその変異型はストレプトマイセス・ユリサーマスNRRL2539細胞に存在する。
【0067】
別の好ましい実施形態では、前記シトクロムP450酵素またはその変異型は、ストレプトマイセス・ユリサーマスNRRL2539に由来する、前記酵素をコードする異種核酸を含む少なくとも1種の組換え微生物によって発現される。本明細書で使用される場合、用語「含む」は、特許請求の範囲に記載された配列を少なくとも含有することを意味することを意図したものであるが、他の配列を含んでもよい。一実施形態において、前記組換え微生物は前記酵素またはその変異型をコードする異種核酸を含む。別の実施形態では、前記組換え微生物は還元酵素剤をコードする異種核酸も含む。「異種」は前述の意味を有する、すなわち、前記微生物は、本発明の核酸のヌクレオチド配列を天然には含まない。
【0068】
本発明の別の態様において、有機化合物と、配列番号3を含むシトクロムP450酵素、または配列番号3と少なくとも95%の同一性を有し且つCYP450活性を有するその変異型とを反応させることを含む、酸化された有機化合物の製造方法が提供される。
【0069】
酸化される化合物の選択に関しては上記の通りである。
【0070】
好ましい実施形態では、前記酵素はアルキル基またはアリール基の酸化を触媒するために使用される。
【0071】
特に好ましい実施形態では、前記酸化される化合物は、カルバマゼピン、ボセンタン、ジクロフェナク、メロキシカム、チバンチニブ、アンブロキシド、もしくはそれらの誘導体、または、実施例および上記に記載されるような他の化合物である。
前記シトクロムP450酵素を活性化するために、1つまたは複数の追加成分が使用されてもよい。本発明による実施形態では、本発明のシトクロムP450酵素は還元酵素成分と組み合わされて使用され、好ましくはフェレドキシンおよびフェレドキシン還元酵素成分と組み合わされて使用される。
【0072】
本発明の一実施形態では、前記酵素は宿主細胞に存在する。すなわち、基質化合物の生体内変換のために宿主細胞が使用される。本発明の好ましい実施形態では、前記シトクロムP450酵素またはその変異型は、ストレプトマイセス・ユリサーマスNRRL2539細胞に存在する(すなわち、前記宿主細胞はストレプトマイセス・ユリサーマスNRRL2539細胞である)。別の好ましい実施形態では、前記宿主細胞は(前述したように)本発明の微生物である。前記細胞は酸化される有機化合物を投与される場合がある。この方法は、前記細胞をその後回収し精製(または単離)することで酸化された化合物を得る追加の工程を含んでもよい。特に、前記細胞は、その後回収され、酸化された化合物が単離される。すなわち、この方法は、酸化された化合物が精製(または単離)される追加の工程を含んでもよい。この工程では、まず、前記細胞が回収(例えば、遠心分離により)される。酸化された化合物が前記細胞によって分泌され、細胞上清に存在する場合、酸化された化合物は上清から抽出される。このような抽出は、後述するように、当該技術分野における標準的な方法を使用して行うことができる。
【0073】
酸化された化合物が前記細胞に存在する場合、例えば上記のような方法を使用して細胞を溶解(または抽出)し、溶解物から酸化された化合物を単離することができる。このような単離は、後述するように、当該技術分野における標準的な方法によって行うことができる。
【0074】
P450酵素抽出物を生産するためのストレプトマイセス・ユリサーマスNRRL2539の培養は、係る微生物と共に使用されることがよく知られている栄養分を含有する従来培地への播種によって、好適に行われる。すなわち、前記培地は同化できる炭素の供給源および同化できる窒素の供給源を含有する。前記培地は無機塩類を含有していてもよい。同化できる炭素の供給源の例としては、グルコース、スクロース、デンプン、グリセリン、水飴、糖蜜およびダイズ油が挙げられる。同化できる窒素の供給源の例としては、ダイズ固形分(大豆ミールまたは大豆粉等)、コムギ胚芽、肉エキス、ペプトン、コーンスティープリカー、乾燥酵母、および硫酸アンモニウム等のアンモニウム塩類が挙げられる。必要であれば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、炭酸カルシウムおよび各種リン酸塩類等の無機塩類が含まれてもよい。前記培地は、滅菌され、5~8に調整されたpHを有することが好ましい。その他の菌株または菌種の培養も、当該技術分野で知られているように、任意の適切な培地で同様に実施することができる。
【0075】
当業者には理解されることであるが、特定の培養法の使用は本発明にとって重大な意味を持つわけではなく、また、放線菌(または、必要に応じて、その他の種類の細菌)の培養に一般に使用されるいかなる方法も本発明に等しく採用され得る。通常、採用される方法は産業的な効率を考慮して選ばれる。すなわち、産業的な観点からは、液体培養が通常好ましく、液内培養が最も好都合である。培養は好気条件下で行われることが好ましい。
【0076】
本発明の酵素は、誘導剤が存在する状態で生産されてもよい。この誘導剤は、単離された酵素の目的基質と同じとなるように選択されることが好ましいが、それに限定はされない。播種後4時間から3日間経過してから、好ましくは0.05~5mMの誘導剤、より好ましくは0.2mMの誘導剤を添加し、その後、2時間から1週間、好ましくは約1日間、培養を継続する。培養温度は通常は20℃~45℃、好ましくは25℃~30℃であり、最適は約27℃である。振盪培養またはエアレーション法を用いることができる。
【0077】
前記培養により得られた細胞は、緩衝溶液中での高圧ホモジナイズ法等の細胞破壊法によって破壊される場合がある。遠心分離により得られた上清から粗酵素溶液が得られる。例えば、本発明の酵素は、38,000×gで20分間の遠心分離により生じた上清中に得ることができる。
【0078】
別の実施形態では、前記シトクロムP450酵素またはその変異型は、前記酵素をコードする異種核酸(すなわち、ストレプトマイセス・ユリサーマスNRRL2539由来の異種核酸)を含む少なくとも1種の組換え微生物によって発現される。
【0079】
ここで、前記少なくとも1種の組換え微生物には、酸化される有機化合物を投与することができる。この方法は、前述の通り、酸化された化合物を得るための単離および/または精製工程を含んでもよい。
【0080】
好ましい実施形態において、これは、インタクトなヘムを有する機能的なシトクロムP450SeuC10の組換え発現によって達成できる。これは、補因子酵素のうちのいずれかまたは全てと発現できる。特に好ましい実施形態では、フェレドキシンおよびフェレドキシン還元酵素が発現され得る。これは、多シストロン性プラスミドの使用によって又は融合によって、リンカーを介して又は直接的に、単一のタンパク質産物へと、達成できる。
【0081】
あるいは、前記機能的なシトクロムP450SeuC10タンパク質は、補因子酵素と混合させずに、単独で発現される場合がある。好ましい実施形態では、補因子酵素は、物質生産後に活性がある酵素反応を与えるように用量設定され得る。前記補因子は、野生型または組換え型の、植物由来または微生物発酵由来の物質からの抽出によって得てもよい。Hussain & Ward,. Appl Environ Microbiol. 2003; 69(1):373-382には使用され得る例示的なクローニング法が記載されている。
【0082】
組換え酵素または抽出酵素を発現する天然生物、宿主菌株は、一相性または二相性の水性媒体中で基質と直接接触していることが好ましい。pHおよび温度の選択をはじめとする反応条件は当業者には明らかであり、従来技術に基づくものである。例えば、pH値が5~11の範囲内、より好ましくは6.5~9.0の範囲内、最も好ましくは約8で反応を行い得る。このpHにするために、上記のpHを有する微生物増殖培地またはリン酸緩衝液を選択して使用してよい。反応温度は好ましくは20℃~45℃の範囲内、より好ましくは25℃~30℃の範囲内である。反応媒体中の基質の濃度は0.01重量%~5.0重量%の範囲内であることが好ましい。前記反応に許容される時間は、反応混合物中の基質濃度、反応温度、および他の要因に応じて変動し得るが、通常は1分間~5日間であり、さらには、1日~5日間である場合が多い。抽出された酵素物質は、抽出後にそのまま使用されることもあるし、凍結溶液中で保存後に使用されることもある。特に好ましい実施形態では、前記抽出された酵素物質は、後の使用のために、他の酵素補因子成分等の、反応に必要な他の成分を添加して又は添加せずに、容器を真空下で封止して又は封止せずに、好ましくは凍結乾燥によって、乾燥されることがある。
【0083】
変換反応の完了後、結果として得られた酸化された化合物は従来の方法を用いて単離(または精製)することができ、例えば、濾過、溶媒抽出、クロマトグラフィー、結晶化、および他の単離法が挙げられる。そのような方法は、生成物の固有性を考慮に入れて選択されることになる。単離前、単離中、または単離後に、必要に応じて、生成物は誘導体化されてもよいし、誘導体化されなくてもよい。単離と精製は、本明細書において、交換可能に言及される場合がある。単離は、精製の一形態または精製の最初の工程、例えば、バルク反応から細胞または酸化された化合物を分離することと見なし得る。その後、純度を向上させるためにさらなる精製工程を実施することができる。したがって、本明細書中、単離への言及は、第1の精製工程と見なされてもよい。精製は、最初の単離工程のみを含む場合もあるが、より高いレベルの純度を達成するために追加の工程を含む場合もある。酸化された化合物について、少なくとも80%w/w(乾燥重量)、少なくとも85%w/w(乾燥重量)、少なくとも90%w/w(乾燥重量)、または少なくとも95%w/w(乾燥重量)の純度が達成されることが好ましい。
【0084】
前記酵素の基質としての出発物質は、合成経路由来であってもよいし、天然であってもよく、植物性材料等の天然バイオマスを介したものでも、発酵によって生成されてもよく、またはその混合経路によるものでもよい。酵素反応は、純粋な材料を用いて行うこともできるし、精製されていない材料を用いて行うこともでき、得られた反応物は後の反応成分または未反応成分の精製を促すために用いてよい。
【0085】
出発物質として使用される基質化合物のうち、トシル酸塩または塩酸塩類等の、有機性または無機性の、遊離塩基類、アルカリ金属塩類、例えばナトリウム塩類またはカリウム塩類、または酸性塩類が、使用に適している。
【0086】
変換反応の完了後、所望の化合物が、前記反応系から生成され、収集され、単離され、必要であれば常法により精製されるか、以降の工程で未精製形態でそのまま使用され得る。例えば、前記反応産物は遠心分離または濾過され、上清または濾液が疎水性樹脂、イオン交換樹脂または酢酸エチル等の水非混和性有機溶剤で抽出され得る。前記抽出物の溶媒の蒸発後、残りの粗物質、例えば残りの粗酸化化合物は、シリカゲルもしくはアルミナまたは逆相固定相を用いるカラムクロマトグラフィーにかけ、好適な溶離液で溶離させることによって、精製され得る。出発物質が混合物である場合、生成物は酸化された化合物の混合物として単離され、所望により、クロマトグラフィーまたは他の好適な方法を用いて分離され得る。
【0087】
通常、結果として得られる酸化された化合物は、生理活性力価等の医薬品もしくは農薬としての特性が向上したり、溶解性が向上したり、非特異的な相互作用が低減したり、以降の合成用等、単純にさらに有用であったり、分析用標準として有用となり得る。
【0088】
本発明のシトクロムP450酵素調製物を、基質化合物と、pH8.0で5分間、(a)フェレドキシン、(b)フェレドキシン-NADP+-還元酵素、(c)NADPH再生系、および(d)溶存酸素と共に、反応させる場合、反応温度は少なくとも4℃から60℃までの範囲にある。各シトクロムに最適なpHは6.5~8.0の範囲にある。4℃でpH6.0~9.0の範囲で24時間保持された場合、各シトクロムは安定である。保存された凍結乾燥酵素は、-18℃未満で保存された対象品と比較して、20℃~27℃で10日間安定である。
【0089】
フェレドキシン、フェレドキシン-NADP+-還元酵素、酸素およびNADPHの使用は必須ではない。シトクロムP450を活性化できるものであればいかなる成分を用いてもよい。
【0090】
酵素活性の測定は通常、2つの方法のうちの一方を用いて実行される。
(i)シトクロムP450に関する測定
Omura and Sato et al. (J Biol Chem, 239. 1964, 2370)の方法に従って測定を行う。すなわち、下記式を用いて、450nmおよび490nmにおける差スペクトルの減少に対する、還元されたCOの吸光度差に基づいて、シトクロムP450が定量分析される。
【数1】
(ii)基質化合物から酸化された基質化合物の形成率の測定
以下の成分の混合物を用いる。
リン酸カリウム緩衝液(pH8.0):100mM
MgCl
2:5mM
発現されたFdX(フェレドキシン)、FdR(フェレドキシン還元酵素)、P450を含有する酵素溶液:抽出緩衝液1ml当たり0.30gの細胞湿重量でペレット抽出した場合の天然濃度
NADP
+:1mM
グルコース-6-リン酸:5mM
グルコース-6-リン酸脱水素酵素:1UN/ml
基質化合物:0.1mg/ml
総体積:例えば、0.1~0.5ml
【0091】
酵素活性の測定のために、上記表の成分を混合し、その溶液を27℃で16~20時間振盪した後、例えば100~500μlのACNを添加して反応を止める。この酵素系により形成された酸化された基質の量を、HPLCまたはUPLCで確認する。この反応は、適宜容量を増やすことにより、分取スケールで使用することもできる。
【0092】
さらなる態様において、本発明は、
i)配列番号3を含むシトクロムP450酵素、もしくは配列番号3と少なくとも95%の同一性を有し且つCYP450活性を有する変異型酵素、
ii)配列番号3を含むシトクロムP450酵素、もしくは配列番号3と少なくとも95%の同一性を有し且つCYP450活性を有する変異型酵素を発現する微生物、および/または、
iii)上記の本発明の核酸分子、組換え構築物、またはベクターを含む、
キットを提供する。
【0093】
前記キットは、本発明のCYP450酵素を含むことが最も好ましい。
【0094】
キットが微生物またはその溶解物(新鮮溶解物、凍結溶解物、および/または凍結乾燥溶解物)を含む場合、当該微生物は、前述のように本発明の微生物であるか、または、本発明の微生物の溶解物であることが好ましい。シトクロムP450酵素、微生物もしくは溶解物、または、核酸分子、組換え構築物、もしくはベクターなどのキットの構成要素は、凍結乾燥および/または真空密封されていてもよい。
【0095】
前記キットは、有機化合物を酸化するための使用説明書をさらに含んでもよい。前記キットにより使用者は目的化合物の酸化のスクリーニング検査が可能となる。
【0096】
好ましい実施形態では、前記キットは電子供与剤をさらに含む。このことは、前記キットが本発明の酵素を含む場合に特に有利である。前記キットは、電子供与剤としてフェレドキシン還元酵素およびフェレドキシンを、補因子であるNADHもしくはNADPH、またはNAD+もしくはNADP+、グルコースもしくはグルコース-6-リン酸、およびグルコース脱水素酵素もしくはグルコース-6-リン酸脱水素酵素等の補因子再生系と共に含むことが好ましい。しかし、好適であればいかなる電子供与剤も用いてよい。
【0097】
必要に応じて、前記キットは、別個に又は他の構成要素に含まれた状態で、緩衝液をさらに含んでもよい。このことは、前記キットが本発明の酵素を含む場合に特に有利である。
【0098】
好ましくは、前記キットは、1つまたは複数の他のシトクロムP450酵素をさらに含んでいてもよい。このことは、前記キットが本発明の酵素を含む場合に特に有利である。前記キットが本発明の酵素を発現する微生物を含む場合、当該微生物が1つまたは複数の追加のCYP450酵素をさらに発現してもよく、あるいは、前記キットが1つまたは複数の追加の微生物もしくはそれらの溶解物を含み、そのそれぞれがさらなるCYP450酵素(すなわち、本発明のCYP450酵素以外のCYP450酵素)を発現してもよい。前記キットが本発明の酵素をコードする核酸分子、組換え構築物、またはベクターを含む場合、当該核酸分子、組換え構築物、またはベクターが1つまたは複数の追加のCYP450酵素をさらにコードしてもよく、あるいは、前記キットが1つまたは複数の追加の核酸分子、組換え構築物、もしくはベクターをさらに含み、そのそれぞれがさらなるCYP450酵素(すなわち、本発明のCYP450酵素以外のCYP450酵素)をコードしてもよい。
【0099】
好ましくは、前記シトクロムP450酵素または微生物もしくはその溶解物は、凍結乾燥されるか、または、他の高分子、もしくはアルギン酸ビーズ、鉄アフィニティビーズ、ニッケルカラムおよび電気化学電極等の支持材に固定化もしくは係留される。
【0100】
さらなる態様において、本発明は、本発明のシトクロムP450酵素の製造方法であって、本発明の核酸分子、組換え構築物、またはベクターを微生物に導入すること、前記微生物においてシトクロムP450酵素を発現させること、および所望により前記シトクロムP450酵素を精製(または単離)することを含む方法を提供する。
【0101】
本方法を実施するための技術は、当該技術分野においてよく知られている。前記核酸分子、組換え構築物、またはベクターは、前述のように、標準的な技術を使用して生成することができる。前記核酸分子、構築物、またはベクターを導入する微生物は、本発明の微生物に関して前述した通りであることが好ましい。すなわち、前記微生物は、細菌、例えば、大腸菌であることが好ましい。前記酵素は、当該技術分野における標準的な技術(例えば、以下の実施例において示すような技術)を使用して、前記微生物において発現される。
【0102】
活性酵素を得るために、前記微生物を溶解して、酵素を含む溶解物としてもよい。溶解は、当該技術分野における標準的な方法、例えばフレンチプレスを用いて行うことができる。その後、必要に応じて、前記酵素を精製(または単離)してもよい。精製は、当該技術分野における標準的な方法を用いて行うことができる。例えば、前述のように、前記酵素をアフィニティタグ(例えば、HisタグまたはStrepタグ)を付けて発現させた後、アフィニティクロマトグラフィーによって精製してもよい。
【0103】
以下の実施例で本発明の方法を説明する。これらの実施例は例示としてのみ与えられたものであって、本発明を限定するものと解釈されるべきではない。
【実施例】
【0104】
実施例1:ストレプトマイセス・ユリサーマスNRRL2539由来のP450SeuC10のクローニング
ストレプトマイセス・ユリサーマスNRRL2539からのゲノムDNAの抽出
ストレプトマイセス・ユリサーマスNRRL2539の発酵物質の細胞ペレットからゲノムDNA(gDNA)を単離した。4g/L酵母エキス、10g/L麦芽エキス、4g/Lグルコースを含有する培地をpH7.0に調整した。2個の250ml容積の三角フラスコに、この培地をそれぞれ50ml入れ、115℃で20分間滅菌した。ストレプトマイセス・ユリサーマスNRRL2539を、液体窒素中に保存されたクライオバイアル内ストックから戻して、上記50mlの増殖培地が入った2個のフラスコ内に播種した。27℃、200rpmで2日間増殖させた後、50mlの培養液を50ml遠心管に移し、遠心して、ペレット化された細胞を集めた。このペレットを等張緩衝液で1回洗浄することで残留培地成分を除去し、その後、下記の通りの後のゲノムDNA抽出用にこのペレットを-80℃で凍結した。この細胞ペレットを解凍し、7.5mlのTE緩衝液(10mMトリス塩酸(pH7.5)、1mM Na2EDTA)に再懸濁した。75μlの20mg/mlリゾチーム溶液を加え、その溶液を37℃で1時間インキュベートした後、750μlの10%(w/v)SDSを加え、反転により混合した。20μlの20mg/mlプロナーゼを加え、37℃で1.5時間インキュベートした後、その溶液に16μlの10mg/ml RNase溶液を加え、続いて、37℃で1時間および50℃で1時間の別のインキュベーション工程を行った。900μlの0.5M NaCl溶液を加えた後、その溶液を等量のフェノール-クロロホルム-イソアミルアルコール(25:24:1;シグマ・アルドリッチ社(Sigma-Aldrich))で2回抽出した。水層を集め、1倍量のイソプロパノールおよび遠心分離(10,000×g、30分間、20℃)でゲノムDNAを沈殿させた。ゲノムDNAペレットを100%エタノールで1回、70%エタノールで2回洗浄した(各洗浄工程で約30ml)。ゲノムDNAペレットを風乾し、5mlのTE緩衝液に再懸濁させた。NanoDrop装置(サーモサイエンティフィック社(Thermo Scientific))を用いてゲノムDNAの濃度および純度を測定し、ゲノムDNAの完全性をアガロースゲル電気泳動で評価した。
【0105】
PCR反応
P450SeuC10・フェレドキシンSeuF08遺伝子オペロン(配列番号1)を、ストレプトマイセス・ユリサーマスNRRL2539から、SeuC10-SeuF08_fプライマー(5'-プライマー配列-3':ATTTTGTTTAACTTTAAGAAGGAGATATACATATGAAGATCGGCACGACGCACCTC)(配列番号5)およびSeuC10-SeuF08_rプライマー(5'-プライマー配列-3':CTACCCGCAGAGGGCGGGGCATAAGCTTCCTATTAGGCGGAGCGCTCCCGTACGGTGATG)(配列番号6)を用いて、総反応体積50μlでクローニングした。PCR反応は、10μlの5x GC Green緩衝液(サーモサイエンティフィック社(Thermo Scientific))、2.5μlのDMSO(シグマ社(Sigma))、10μLの5Mベタイン(シグマ社)、1μLのホルムアミド(シグマ社)、1μlの10mM dNTP(サーモサイエンティフィック社)、1ユニットのHotStart II Phusion(登録商標)High-Fidelity DNA Polymerase(サーモサイエンティフィック社)、~90ngのゲノムDNA、各0.5μMのフォワードプライマーおよびリバースプライマーを含有し、この反応物はMilliQ(登録商標)のH2Oで総体積50μlにフィルアップした。エッペンドルフ社(Eppendorf)のMastercycler ep Gradientシステムで、以下のサイクル条件を用いて、PCR反応を行った:98℃、2分間、35サイクル(98℃で45秒間、72℃で30秒間、72℃で3分間)、72℃で15分間。PCR反応物をアガロースゲル電気泳動によって解析し、そのアガロースゲルからキアゲン社(Qiagen)のQIAquick 96 PCR Purification Kitを用いて産物を抽出した。バイオクロム社(Biochrome)のGenequant 1300装置とモレキュラーデバイス社(Molecular Devices)のSpectramax 384 plusプレートリーダーとを用いて、予測長1558bpのアンプリコンの濃度を測定した。
【0106】
pHD05ベクターの構築
pHD05ベクターは、cer配列を含有するpHD02(WO2018/091885号参照)の誘導体である。前記cer配列は、pKS450プラスミド(Summers and Sherratt., EMBO J. 1988;7(3):851-858.)から、ser_fプライマー(5'-プライマー配列-3':GGGTCCTCAACGACAGGAGCACGATCATGCCGGAAATACAGGAACGCACGCTG)(配列番号7)およびser_rプライマー(5'-プライマー配列-3':TTATCGCCGGCATGGCGGCCCCACGGGTGCCGGGGCACAACTCAATTTGCGGGTAC)(配列番号8)を用いたPCRにより、増幅した。予測長439bpのアンプリコンを、サーモフィッシャー社(Thermofisher)のGeneJet Gel Extraction Kitを用いてアガロースゲルから抽出し、ギブソン・アセンブリ(Gibson assembly)により、pHD02のFspAI部位にクローニングした。このcer配列を含有するプラスミドを、PCRスクリーニングにより解析し、DNA配列を、LGCジェノミクス社(LGC Genomics)(ドイツ)におけるサンガー法シーケンシングで確認した。このcer配列を含有するプラスミドをpHD05と称した。
【0107】
P450
SeuC10・フェレドキシン
SeuF08遺伝子オペロンのpHD05プラスミドへのクローニング
精製したP450
SeuC10・フェレドキシン
SeuF08アンプリコンを、NdeIおよびEcorIで消化されたpHD05ベクターにアセンブルし、それにより、シトクロムP450・フェレドキシン遺伝子オペロンを、フェレドキシン還元酵素(scf15a)を含有する多シストロン性オペロンに導入した。前記ベクターは、制限エンドヌクレアーゼ(ニュー・イングランド・バイオラボ社(New England Biolabs))で消化した。制限消化は、20μlの10x CutSmart buffer(登録商標)、各4μlの制限エンドヌクレアーゼ(40ユニット;ニュー・イングランド・バイオラボ社)、~10.4μgのプラスミドDNAを含有する総体積200μlで、37℃で16時間行った。制限エンドヌクレアーゼを65℃で20分間不活性化することにより反応を停止させた。予測された消化生成物を、サーモサイエンティフィック社(Thermo Scientific)のGeneJET Gel Extraction Kitを用いて精製した。精製した消化ベクターと精製したP450アンプリコンとを、ギブソン・アセンブリを用いて、~50ngの消化ベクター、1:3(ベクター:インサート)モル濃度のインサート、6.65%PEG8000、133mMトリス塩酸(フィッシャー社(Fisher))(pH7.5)、13.3mM MgCl
2(シグマ社(Sigma))、13.3mM DTT(シグマ社)、0.266mM dNTP(ニュー・イングランド・バイオラボ社)、1.33mM NAD(ニュー・イングランド・バイオラボ社)、0.495ユニットのPhusion DNAポリメラーゼ(ニュー・イングランド・バイオラボ社)、79.5ユニットのTaq DNAリガーゼ(ニュー・イングランド・バイオラボ社)、および0.075ユニットのT5エキソヌクレアーゼ(ニュー・イングランド・バイオラボ社)を含有する総体積20μLで、一緒にアセンブルした。反応混合物を50℃で1時間インキュベートし、1μLを、25μLの大腸菌DH5αケミカルコンピテントセル((インビトロジェン社(Invitrogen)))に、化学的な形質転換によって導入した。37℃で16時間インキュベートした後、50μg/mLカナマイシンを含有するミラー(Miller)のルリアブロス(LB)プレート上でクローンを選択した。クローンをピッキングし、同一の抗生物質を含有する5mLのLB中で培養し、キアゲン社(QIAGEN)のQIAprep 96 Plus Kitを用いて、これらの培養物から組換えプラスミドを単離した。P450、フェレドキシン、およびフェレドキシン還元酵素のDNA配列をPCRスクリーニングによって解析し、DNA配列を、LGCジェノミクス社(LGC genomics)(ドイツ)におけるサンガー法シーケンシングで確認した。構築したプラスミドを、pHD05-SeuC10-SeuF08と称した(
図2)。
【0108】
組換え発現菌株の構築
P450SeuC10、フェレドキシンSeuF08、およびフェレドキシン還元酵素SCF15Aの組換え発現用の宿主として、大腸菌Tuner(DE3)株(メルク社(Merck))を用いた。この発現菌株を構築するために、化学的な形質転換を用いて、大腸菌Tuner(DE3)細胞を前記発現プラスミドで形質転換した。25μlのケミカルコンピテントセルを1μl(~100ng)のpHD05-SeuC10-SeuF08プラスミドと混合した後、氷上で30分間インキュベートした。42℃の水浴中で30秒間のヒートショックを行った後、細胞を氷上で2分間冷却した。前記細胞に1mlのLBを添加した後、37℃で250rpmで振盪しながら1時間インキュベートした。この形質転換混合物を、50μg/mlカナマイシンを含有するLBプレートに播種した。プレートを37℃で16時間インキュベートした。この発現菌株のグリセロールストックを作製するため、いくつかのコロニーを滅菌ループでピッキングし、同じ抗生物質を含有する5mlのLB培地に播種し、37℃、250rpmで16時間培養した。この培養物500mlを、クライオバイアル内の500μlの50%(w/v)グリセロールと混合し、-80℃で保存した。
【0109】
実施例2:組換えP450SeuC10の発現
前培養:50μg/mlカナマイシンを添加した5mlのLBミラー(Miller)培地(シグマ社(Sigma))に、pHD05-SeuC10-SeuF08発現プラスミドを持つ大腸菌Tuner(DE3)が入ったクライオバイアルから掻き取ったループを接種した。細胞を、New Brunswick Scientific Innova 4230振盪培養器内で、37℃、250rpmで一晩増殖させた。
播種:バッフル付250mlフラスコに、50μg/mlカナマイシンを添加した50mlのPCM8.1培地を、前記一晩の前培養物(overnight preculture)と共に、OD600が0.1に達するまで接種し、37℃、200rpmで、その日の終わりまでインキュベートした。
PCM8.1の成分は次の通りであった。MgSO4(0.49gL-1)、Na2HPO4
*7H2O(6.7gL-1)、KH2PO4(3.4gL-1)、NH4Cl(2.68gL-1)、Na2SO4(0.71gL-1)、アルギニン(0.2gL-1)、ヒスチジン(0.15gL-1)、リジン(0.2gL-1)、フェニルアラニン(0.2gL-1)、セリン(0.2gL-1)、トレオニン(0.2gL-1)、トリプトファン(0.2gL-1)、メチオニン(0.2gL-1)、グルタミン酸一ナトリウム(8gL-1)、グルコース(0.5gL-1)、グリセロール(10gL-1)、ならびに、FeCl3(81.1gL-1)、CaCl2
*6H2O(4.38gL-1)、MnCl2
*4H2O(1.98gL-1)、ZnSO4
*7H2O(2.88gL-1)、CoCl2
*6H2O(0.48gL-1)、CuCl2
*2H2O(0.34gL-1)、NiCl2
*6H2O(0.48gL-1)、Na2MoO4
*2H2O(0.48gL-1)、Na2SeO3(0.35gL-1)、およびH3BO3(0.12gL-1)を含む1000倍希釈微量元素溶液。
生産:50μg/mlカナマイシン、23.8μg/ml IPTG、320μg/ml 5'-アミノレブリン酸、および55μg/ml FeSO4
*7H2Oを添加した200mLのPCM8.1培地が入ったバッフル付1Lフラスコに、ODが0.6に達するまで前記播種培養物を接種した。誘導された生産培養物を、27℃、200rpmで、定常期に達するまで(約16~20時間)インキュベートした。前記培養物を、3,000rpmで15分間の遠心分離により回収した。このペレットを、30mLの洗浄緩衝液(5%グリセロールを含む等張性0.85%NaCl)で洗浄し、新しい50mL遠心管に移した。細胞をさらに4,000rpmで25~35分間遠心分離し、そのペレットを加工のために-20℃で保存した。
【0110】
実施例3:酵素物質の抽出および加工
実施例2に記載されるように細胞ペレットの懸濁物を得た。細胞ペレットの懸濁物は、100mMリン酸カリウム緩衝液(pH8.0)、5mM MgCl
2、5mM TCEP、および1mM PMSF中に、組換えP450、フェレドキシン、およびフェレドキシン還元酵素を、1gの細胞に対し3.0mlの緩衝液の割合で含有する。3サイクルの30kpsiによる高圧破壊で、溶解細胞を得た。溶解した物質を38,000×gで40分間(4℃)遠心分離し、その上清を0.2ミクロンフィルターに通すことにより滅菌して、組換えP450、フェレドキシン、およびフェレドキシン還元酵素を含有する無細胞酵素調製物を得た。次に、この粗抽出物を、所望の反応に直ちに使用するか、または、ガラス製バイアルに分注し(通常は、2mlバイアル当たり0.5mlまたは20mlバイアル当たり10ml)、エドワーズ社(Edwards)製Supermodulyo凍結乾燥機を用いて凍結および凍結乾燥し、その後、使用のために必要とされるまで標準的な実験用冷凍庫内で-20℃で保存した。
Omura and Sato et al.(J. Biol. Chem., 239. 1964, 2370)の方法に従ってシトクロムP450の濃度の測定を行った。pHD05-SeuC10-SeuF08を持つ誘導された大腸菌Tuner(DE3)細胞の無細胞抽出物のシトクロムP450濃度は17μMであった。P450
SeuC10の一酸化炭素差スペクトルを
図3に示す。
【0111】
実施例4A:オキシダーゼ活性/スペクトラム試験
実施例3に記載されるように、組換えP450、フェレドキシン、およびフェレドキシン還元酵素タンパク質の凍結乾燥物質を作製し、高純度水中で元の体積に再構成した。27℃で振盪しながら以下の条件下で生体触媒作用を実施した:100mMリン酸カリウム(pH8.0)、5mM MgCl2(いずれも再構成した酵素調製物に存在)、およびカルバマゼピン、ボセンタン、ジクロフェナク、メロキシカム、チバンチニブ、またはアンブロキシド等の0.1mg/ml基質化合物。P450、フェレドキシン、およびフェレドキシン還元酵素の濃度は抽出された通りであった(実施例3)。補因子混合物(50mM G6P、10mM NADP、10UN/ml G6PDH)の10倍ストックを、100μLの総反応体積に対して例えば10μL~90μLの最終体積となるように添加することにより反応を開始させた。16~20時間後、反応物を等量のアセトニトリルで抽出し、遠心分離することで沈殿したタンパク質を除去し、UPLC-MS解析で変換を評価した。
【0112】
UPLCデータは以下のように得た。
カラム:Acquity UPLC BEH Shield RP18、1.7μm、内径2.1mm、長さ50mm
溶媒:H2O、B:アセトニトリル、共に0.1%ギ酸を含有
流速:1.0ml/分
検出器:ウォーターズ社(Waters)製Acquity UPLC PDA(紫外可視検出)およびウォーターズ社製Acquity UPLC QDA(MS)
【0113】
反応産物が既知である場合にその同一性を確認するために、それらのクロマトグラフィー保持時間、質量、および紫外線スペクトルを代謝産物標準品のものと比較した。
酸化生成物への全体的な変換率(%)の代表的な結果を、以下の表1に示す。
【表1】
【0114】
実施例4B:大腸菌における全細胞生体内変換によるヒドロキシラーゼ活性/スペクトラム試験
実施例2と同様に細胞ペレットを得た。前記細胞ペレットを解凍し、0.85%NaCl緩衝液で洗浄し、4℃で、4,000RCFで30分間遠心分離した。上清を廃棄し、ペレットを液体窒素中で急速凍結した。このペレットを、再び解凍させ、50mMリン酸カリウム(pH7.4)、5mM MgCl2、および100mMグルコースを含有する40mLの緩衝液に再懸濁させた。
【0115】
カルバマゼピン、ボセンタン、ジクロフェナク、メロキシカム、チバンチニブ、アンブロキシドまたは表2に示すその他の化合物等の0.1mg/ml基質化合物を用いて、27℃で振盪しながら生体触媒作用を実施した。実施例4と同様に反応を停止させ、解析を行った。より広い基質試験の結果は、以下の表2に示す通りであった。
【表2】
【0116】
実施例5:P450SeuC10と他のシトクロムP450との活性の比較
他のシトクロムP450酵素を上記のように発現させ、それらの活性を、実施例4に記載の方法を用いて、P450SeuC10と同じ基質に対して試験した。この試験に供した他のP450は、アミコラトプシス・ルリダ(Amycolatopsis lurida)NRRL2430由来のP450AluC09(配列番号13、WO2018/091885号参照);ストレプトマイセス・リモーサス(Streptomyces rimosus)NRRL2234由来のSriC12(配列番号14、WO2020/109776号参照);ストレプトマイセス・リモーサスNRRL2234由来のSriC20(配列番号15、WO2020/109776号参照);ストレプトマイセス・リモーサスNRRL2234由来のSriC22(配列番号16、WO2020/109776号参照);およびストレプトマイセス・プラテンシス(Streptomyces platensis)DSM40041由来のCYP107L(配列番号17、Worsch et al., Biotechnology and Bioengineering 115:2156-2166, 2018参照)であった。
【0117】
結果を以下の表3および表4に示す。これらの表は、基質の酸化生成物への全体的な変換率(%)を示している。表3および表4に報告されている結果は、それぞれ実施例4Aおよび実施例4Bに記載の方法を使用して、以下の各表に示す基質を用いて生成されたものである。各表の最初の列は、上記の表1および表2に得られた結果と対応している。
【表3】
【表4】
【0118】
上記の各表に示すように、本発明の酵素(SeuC10)は、ほぼ全ての基質について、試験対象の他のどのシトクロムP450よりも高い変換レベルを示している。
【配列表】
【国際調査報告】