(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-24
(54)【発明の名称】MOFで被覆された単結晶三元系正極材料及びその前駆体の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20230117BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20230117BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20230117BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20230117BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
C01G53/00 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022539409
(86)(22)【出願日】2019-12-27
(85)【翻訳文提出日】2022-07-28
(86)【国際出願番号】 CN2019129254
(87)【国際公開番号】W WO2021128290
(87)【国際公開日】2021-07-01
(31)【優先権主張番号】201911369792.9
(32)【優先日】2019-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519238129
【氏名又は名称】格林美股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】GEM Co., Ltd
【住所又は居所原語表記】20F Block A, Marina Bay Center, South of Xinghua Rd., Bao’an District, Shenzhen, China
(71)【出願人】
【識別番号】508149663
【氏名又は名称】▲荊▼▲門▼市格林美新材料有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】許 開華
(72)【発明者】
【氏名】蒋 振康
(72)【発明者】
【氏名】張 坤
(72)【発明者】
【氏名】薛 曉斐
(72)【発明者】
【氏名】李 聰
(72)【発明者】
【氏名】孫 海波
(72)【発明者】
【氏名】陳 康
(72)【発明者】
【氏名】黎 俊
(72)【発明者】
【氏名】範 亮嬌
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AB04
4G048AB06
4G048AC06
4G048AD04
4G048AD07
4G048AE05
4G048AE08
5H050AA12
5H050BA16
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5H050CA08
5H050CA09
5H050DA02
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA14
5H050GA27
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA10
5H050HA14
(57)【要約】
本発明はMOFで被覆された単結晶三元系正極材料及びその前駆体の製造方法を開示する。まず、モル比でニッケルコバルトマンガン金属塩のA溶液を配合し、アンモニア水錯化剤溶液及び苛性ソーダ液を配合し、続いてA溶液、アンモニア水錯化剤溶液及び苛性ソーダ液を反応釜に加えて反応させ、前駆体コアを得る。その後、有機カルボン酸塩を有機溶媒に溶解してB溶液を得て、B溶液及びマンガン金属塩溶液を上記反応釜に加えて反応させ、エージング後にMOFで被覆されたコアシェル構造前駆体を得る。コアシェル構造前駆体を低温で予備焼成して単結晶構造を有するニッケルコバルトマンガン酸化物を得る。該単結晶構造のニッケルコバルトマンガン酸化物と水酸化リチウム一水和物とを乳鉢において均一に混合して高温焼成を行い、MOFで被覆された単結晶三元系正極材料を得る。本発明は高ニッケルによるサイクルが悪く、熱安定性が低いという問題を克服し、得られた正極材料は高レート特性、高容量及び高サイクル特性の電気化学的特性を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モル比がx:y:1-x-yの割合でニッケルコバルトマンガン金属塩のA溶液を配合し、xはニッケルの割合を表し、yはコバルトの割合を表し、1-x-yはマンガンの割合を表し、そしてアンモニア水錯化剤溶液及び苛性ソーダ液を配合するステップ1と、
前記ニッケルコバルトマンガン金属塩のA溶液、アンモニア水錯化剤溶液及び苛性ソーダ液を一定の供給速度で反応釜に加えて反応させ、略球状の前駆体コアを得るステップ2と、
有機カルボン酸塩を一定量の有機溶媒に溶解して一定濃度のB溶液を得て、B溶液及び一定濃度のマンガン金属塩溶液を一定の供給速度でステップ1の前駆体コアが生成された反応釜に加えて反応させ、エージング後にMOFで被覆されたコアシェル構造前駆体を得て、コアシェル構造前駆体の構造式はMOF-Ni
xCo
yMn
1-x(OH)
2であり、該コアシェル構造前駆体はコアが高ニッケルであり、シェルとして純マンガンのMn-MOF単結晶が被覆されるコアシェル材料であるステップ3と、
ステップ3で得られたコアシェル構造前駆体を低温で予備焼成して単結晶構造を有するニッケルコバルトマンガン酸化物を得て、該単結晶構造のニッケルコバルトマンガン酸化物とLiOH・H
2Oとを化学量論比で乳鉢において均一に混合して高温焼成を行い、MOFで被覆された単結晶三元系正極材料を得るステップ4と、を含むことを特徴とする、MOFで被覆された単結晶三元系正極材料の製造方法。
【請求項2】
ステップ1において、前記モル比の範囲は0.6≦x≦0.98、0.01≦y≦0.2であることを特徴とする、請求項1に記載のMOFで被覆された単結晶三元系正極材料の製造方法。
【請求項3】
前記苛性ソーダ液は水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム及び水酸化カリウムのうちのいずれか1つ又は複数の組合せであることを特徴とする、請求項1に記載のMOFで被覆された単結晶三元系正極材料の製造方法。
【請求項4】
ステップ2において、前記反応釜の反応温度は40-70℃であり、反応時間は60-120hであることを特徴とする、請求項1に記載のMOFで被覆された単結晶三元系正極材料の製造方法。
【請求項5】
前記ステップ2で得られた前駆体コアは、Ni
xCo
yMn
1-x-y(OH)
2であり、前駆体コアの平均粒径は3-8μmであることを特徴とする、請求項1に記載のMOFで被覆された単結晶三元系正極材料の製造方法。
【請求項6】
前記ステップ3において、前記コアシェル構造前駆体であるMOF-Ni
xCo
yMn
1-x(OH)
2の粒径は4-9μmであることを特徴とする、請求項1に記載のMOFで被覆された単結晶三元系正極材料の製造方法。
【請求項7】
ステップ2において、前記溶液Aの濃度は2-5mol/Lであり、溶液Aの供給流量は6-9L/hであり、前記アンモニア水錯化剤溶液は濃度が7-14g/Lのアンモニア水であり、アンモニア水の供給流量は1-1.5L/hであり、苛性ソーダ液の供給流量は2.5-3.5L/hであり、反応釜内の撹拌速度は250-500r/minであることを特徴とする、請求項1に記載のMOFで被覆された単結晶三元系正極材料の製造方法。
【請求項8】
ステップ3において、前記有機カルボン酸塩は5-ヒドロキシイソフタル酸、トリメシン酸及び1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸のうちのいずれか1つ又は複数の組合せであることを特徴とする、請求項1に記載のMOFで被覆された単結晶三元系正極材料の製造方法。
【請求項9】
ステップ3において、前記有機溶媒はアルコール系有機溶媒であり、得られたB溶液の濃度は1.5-2.5mol/Lであることを特徴とする、請求項1に記載のMOFで被覆された単結晶三元系正極材料の製造方法。
【請求項10】
ステップ3において、前記反応釜内の反応条件として、温度は25-40℃で、撹拌速度は300-400r/minで、時間は3-6hで、エージング時間は2-5時間であることを特徴とする、請求項1に記載のMOFで被覆された単結晶三元系正極材料の製造方法。
【請求項11】
ステップ3において、前記MOF-Ni
xCo
yMn
1-x(OH)
2前駆体の高ニッケルコアにおいて、全金属でニッケルが占めるモル百分率は70-90%で、全金属でコバルトが占めるモル百分率は5-20%で、全金属でマンガンが占めるモル百分率は10-30%であることを特徴とする、請求項1に記載のMOFで被覆された単結晶三元系正極材料の製造方法。
【請求項12】
ステップ4において、前記低温による予備焼成は300-600℃で3-6h焼成することであることを特徴とする、請求項1に記載のMOFで被覆された単結晶三元系正極材料の製造方法。
【請求項13】
ステップ4において、前記高温焼成は700-800℃で10-20h焼成することであることを特徴とする、請求項1に記載のMOFで被覆された単結晶三元系正極材料の製造方法。
【請求項14】
モル比がx:y:1-x-yの割合でニッケルコバルトマンガン金属塩のA溶液を配合し、xはニッケルの割合を表し、yはコバルトの割合を表し、1-x-yはマンガンの割合を表し、そしてアンモニア水錯化剤溶液及び苛性ソーダ液を配合するステップ1と、
前記ニッケルコバルトマンガン金属塩のA溶液、アンモニア水錯化剤溶液及び苛性ソーダ液を一定の供給速度で反応釜に加えて反応させ、略球状の前駆体コアを得るステップ2と、
有機カルボン酸塩を一定量の有機溶媒に溶解して一定濃度のB溶液を得て、B溶液及び一定濃度のマンガン金属塩溶液を一定の供給速度でステップ1の前駆体コアが生成された反応釜に加えて反応させ、エージング後にコアシェル構造前駆体であるMOFで被覆された単結晶三元系正極材料前駆体を得て、コアシェル構造前駆体の構造式はMOF-Ni
xCo
yMn
1-x(OH)
2であるステップ3と、を含むことを特徴とする、MOFで被覆された単結晶三元系正極材料前駆体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウム電池の分野に属し、リチウム電池正極材料の製造方法に関し、具体的には、MOFで被覆された単結晶三元系正極材料前駆体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
社会の急速な発展に伴い、新エネルギー動力電池自動車が徐々に人々の生活に浸透しており、新エネルギー動力電池自動車は2020年に主流となることが予測されている。これにより、動力電池には高容量、熱安定性、サイクル安定性が求められている。リチウムイオン電池は高容量の長所があるため、現在、エネルギー貯蔵市場で非常に重要な位置を占めている。三元系材料は、Ni-Co-Mnの相乗効果により、3種の材料の利点、即ちLiCoO2の高いサイクル特性、LiNiO2の高い比容量、そしてLiMnO2の高い安全性及び低コストの利点を兼ね備えて、現在最も有望な新しいリチウムイオン電池正極材料の1つとなっている。高ニッケルの三元系正極材料は高い比容量を有するため、将来の正極材料の1つの発展方向となっている。しかしながら、ニッケル含有量が増えるにつれて、材料のサイクル、熱安定性が低下し、さらに電池のサイクル寿命及び安全性に影響を及ぼすようになっている。現在、該問題を解決する最も効果的な方法は、コアが高ニッケル低マンガンで、シェルが高マンガン低ニッケルのコアシェル構造を製造することであり、材料の安定性を増加させ、正極材料の容量を向上させることができる。
【0003】
MOF材料は、比表面積が高く、構造が制御可能で、多孔質で、比表面積が大きい等の長所を有するため、近年研究者の注目を集めている新しい材料になっている。該材料は、ナノメートルスケールで高度に秩序化されており、また形成される粒子がナノスケールであるため、原子スケールでの均一な分散を確保することができる。
【0004】
通常の共沈法で製造されたコアシェル材料構造の前駆体材料は、主にニッケルコバルトマンガン金属塩溶液とアンモニア水錯化剤及び苛性ソーダ液を反応させて球状粒子を形成したものである。このような前駆体は、後続でLi塩と混合する時、Li塩との均一な混合を確保するために補助溶媒を添加する必要があり、また、必要な焼成温度が高く、コストが高く、焼成後に最終的に形成された構造の安定性も低く、正極材料の電気化学的特性に影響が与えられている。
【発明の概要】
【0005】
従来技術における問題に対して、本発明は、従来技術における高ニッケルによる高い比容量とサイクル寿命及び安全性とが共存できないという問題を解決するための、MOFで被覆された単結晶三元系正極材料前駆体の製造方法を提供する。
【0006】
本発明は、反応においてコアは高ニッケル低マンガンの前駆体を用い、シェルは有機カルボン酸塩にMnが配位して合成されるMnの金属有機骨格化合物(Mn-MOF)を用いる。このようなMnのMOF材料は無限に秩序化された単結晶構造化合物であり、シェルのMnの原子スケールでの均一性を確保することができる。
【0007】
本発明で合成されたコアシェル構造は、シェルとして単結晶構造のMOF材料が被覆されるため、低温で予備焼成するだけで、単結晶構造を有するニッケルコバルトマンガン酸化物を形成でき、また、シェルとして被覆される単結晶構造はLiの拡散に寄与することができるため、Li塩と混合する時に補助溶媒を追加する必要がない。
【0008】
本発明で合成された単結晶構造を有する三元系正極材料は、ナノメートルスケールで高度に秩序化され、Liの移動経路が短縮されるため、正極材料のレート特性を向上させることができる。
【0009】
上記技術問題を解決するために、本発明は以下の技術的解決手段を採用している。
【0010】
MOFで被覆された単結晶三元系正極材料の製造方法であって、以下のステップを含む。
【0011】
ステップ1で、モル比がx:y:1-x-yの割合でニッケルコバルトマンガン金属塩のA溶液を配合し、A溶液の濃度は2-5mol/Lであり、一定濃度のアンモニア水錯化剤溶液及び苛性ソーダ液(水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム又は水酸化カリウム)溶液を配合し、前記アンモニア水の濃度は7-14g/Lで、前記モル比の範囲は0.6≦x≦0.98、0.01≦y≦0.2である。
【0012】
ステップ2で、前記溶液A、アンモニア水錯化剤及び苛性ソーダ液(例えば水酸化ナトリウム溶液)を一定の供給速度で反応釜に加えて、40-70℃で60-120h反応させ、真球度が高い前駆体コアとしてNixCoyMn1-x-y(OH)2を得て、前駆体コアの平均粒径は3-8μmである。前記溶液Aの流量は6-9L/hで、アンモニア水の流量は1-1.5L/hで、苛性ソーダ液の流量は2.5-3.5L/hで、撹拌速度は250-500r/minである。
【0013】
ステップ3で、有機カルボン酸塩(5-ヒドロキシイソフタル酸、トリメシン酸、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸)を一定量の有機溶媒例えばメタノール、エタノールに溶解して、濃度が2mol/LのB溶液を得る。B溶液及び一定濃度のマンガン金属塩溶液を一定の供給速度で上記反応釜に加え、温度が25-40℃で、撹拌速度が300-400r/minの条件下で3-6h反応させ、続いて2-5時間エージングし、MOFで被覆された単結晶三元系正極材料前駆体を得る。単結晶三元系正極材料前駆体の構造はMOF-NixCoyMn1-x(OH)2であり、前記単結晶三元系正極材料前駆体はコアが高ニッケルであり、シェルとして純マンガンのMn-MOF単結晶が被覆されるコアシェル材料である。前記高ニッケルコアにおいて、全金属でNiが占めるモル百分率は70-90%で、全金属でCoが占めるモル百分率は5-20%で、全金属でMnが占めるモル百分率は10-30%であり、前記マンガン金属塩溶液の濃度は0.5-2mol/Lで、前記MOF-NixCoyMn1-x(OH)2の粒径は4-9μmである。
【0014】
ステップ4で、前記のコアが高ニッケルで、シェルとしてMn-MOF単結晶が被覆されるコアシェル構造前駆体(即ち単結晶三元系正極材料前駆体)を300-600℃で3-6h予備焼成し、単結晶構造を有するニッケルコバルトマンガン酸化物を得る。該単結晶構造のニッケルコバルトマンガン酸化物とLiOH・H2Oとを一定の化学量論比(例えば1:1.5)で乳鉢において均一に混合し、700-800℃で10-20h焼成し、単結晶構造を有するMOFで被覆された単結晶三元系正極材料を得る。
【0015】
本発明の有益な効果は以下のとおりである。
【0016】
1、本発明は、反応においてコアは高ニッケル低マンガンの前駆体を用い、シェルは有機カルボン酸塩にMnが配位して合成されるMnベースの金属有機骨格化合物(Mn-MOF)を用いる。このようなMnのMOF材料は無限に秩序化された単結晶構造化合物であり、シェルのMnの原子スケールでの均一性を確保することができる。
【0017】
2、本発明で合成されたコアシェル構造は、シェルとして単結晶構造のMOF材料が被覆されるため、低温で予備焼成するだけで、単結晶構造を有するニッケルコバルトマンガン酸化物を形成でき、また、Li塩と混合する時に補助溶媒を追加する必要がなく、原子スケールでの均一な混合を確保することができる。
【0018】
3、本発明で合成された単結晶構造を有する三元系正極材料は、ナノメートルスケールで高度に秩序化され、Liの移動経路が短縮されるため、正極材料のレート特性を向上させることができる。
【0019】
4、コアが高ニッケル低マンガンで、シェルとしてMn-MOF単結晶が被覆されるコアシェル材料を合成して、低温で予備焼成して単結晶構造のニッケルコバルトマンガン酸化物を合成し、これにより、後続で補助溶媒を追加することなくLiと均一に混合でき、最終的に合成された単結晶構造を有する三元系正極材料は、高レート特性、高容量及び高サイクル特性の電気化学的特性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施例1によるMOFで被覆されたコアシェル構造前駆体のSEM図である。
【
図2】本発明の実施例1によるMOFで被覆されたコアシェル構造前駆体の断面SEM図である。
【
図3】本発明の実施例1によるコアシェル構造前駆体のEDS図であり、図中、球形内部は金属Ni元素を表し、球形外部は金属Mn元素を表す。
【
図4】本発明の実施例1によるMOFで被覆された単結晶三元系正極材料である。
【
図5】本発明の実施例2によるMOFで被覆されたコアシェル構造前駆体のSEM図である。
【
図6】本発明の実施例2によるMOFで被覆されたコアシェル構造前駆体の断面SEM図である。
【
図7】本発明の実施例2によるMOFで被覆された単結晶三元系正極材料である。
【
図8】本発明の実施例3によるMOFで被覆されたコアシェル構造前駆体のSEM図である。
【
図9】本発明の実施例3によるMOFで被覆されたコアシェル構造前駆体の断面SEM図である。
【
図10】本発明の実施例3によるMOFで被覆された単結晶三元系正極材料である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<実施例1>
【0022】
ステップ1で、金属モル比が82:8:10のニッケルコバルトマンガン塩溶液(金属濃度2mol/L)を計量ポンプによって6L/hの流量で反応釜に加え、同時に12g/Lのアンモニア水及び3mol/Lの水酸化ナトリウムをそれぞれ1L/h及び2.5L/hの流量で反応釜に加え、反応過程において、アンモニア水及び水酸化ナトリウムの流量を制御することで、体系のpHを調整して10.5-12.0に維持する。密封された反応釜に2L/hの流量で窒素ガスを導入する。撹拌翼の撹拌レートは400r/minで、体系の反応温度は62℃である。反応時、レーザ粒度計を用いて反応釜中の粒子の粒径を1時間ごとに検出し、プロセスサンプルである一次粒子及び二次粒子の形態を観察することで、片状の均一な凝集を伴う球状粒子になるように一次粒子を制御し、粒子の平均粒径が3.0μmに達すると供給を停止し、ニッケルコバルトマンガン水酸化物Ni0.82Co0.08Mn0.1(OH)2を得る。
【0023】
ステップ2で、5-ヒドロキシイソフタル酸を一定量のエタノールに溶解し、濃度が2mol/Lの混合溶液を得る。2molの5-ヒドロキシイソフタル酸溶液及び1.5mol/Lのマンガン金属塩溶液を一定の供給速度で上記反応釜に加え、40℃で4h反応させ、撹拌速度は350r/minであり、続いて2hエージングし、粒径が5.0μmで、シェルとして単結晶Mn-MOFが被覆されるコアシェル構造前駆体(構造式はMOF-Ni0.82Co0.08Mn0.1(OH)2)を得る。前記前駆体はコアが高ニッケルであり、シェルが純マンガンであるコアシェル材料であり、前記Mn-MOFの化学式はMn(C8H3O5)2・2H2Oである。
【0024】
ステップ3で、5KgのMOF-Ni0.82Co0.08Mn0.1(OH)2前駆体を350℃で予備焼成して、単結晶構造のニッケルコバルトマンガン酸化物(構造式はNi0.8Co0.05Mn0.15O1.5)を得る。該酸化物と4.5KgのLiOH・H2Oとをヘンシェルミキサーにおいて均一に混合し、混合物を700℃で、酸素雰囲気下で10h焼成し、焼成物を粉砕し、ふるい分けして、最終的に単結晶構造を有するニッケルコバルトマンガン正極材料を得る。正極材料をCR2025ボタン電池に組み立て、その電気化学的特性を検出し、結果として、0.1C(17mA/g)の電流密度、2.5~4.3Vの電圧範囲内で、放電容量は196.56mA/gであり、1Cサイクルを50サイクルした後の容量維持率は97.56%である。
<実施例2>
【0025】
ステップ1で、金属モル比が75:13:12のニッケルコバルトマンガン塩溶液(金属濃度2mol/L)を計量ポンプによって6L/hの流量で反応釜に加え、同時に12g/Lのアンモニア水及び3mol/Lの水酸化ナトリウムをそれぞれ1L/h及び2.5L/hの流量で反応釜に加え、反応過程において、アンモニア水及び水酸化ナトリウムの流量を制御することで、体系のpHを調整して10.5-12.0に維持する。密封された反応釜に2L/hの流量で窒素ガスを導入する。撹拌翼の撹拌レートは400r/minで、体系の反応温度は62℃である。反応時、レーザ粒度計を用いて反応釜中の粒子の粒径を1時間ごとに検出し、プロセスサンプルである一次粒子及び二次粒子の形態を観察することで、片状の均一な凝集を伴う球状粒子になるように一次粒子を制御し、粒子の平均粒径が3.8μmに達すると供給を停止し、ニッケルコバルトマンガン水酸化物Ni0.75Co0.13Mn0.12(OH)2を得る。
【0026】
ステップ2で、5-ヒドロキシイソフタル酸を一定量のエタノールに溶解し、濃度が2mol/Lの混合溶液を得る。2molの5-ヒドロキシイソフタル酸溶液及び1.5mol/Lのマンガン金属塩溶液を一定の供給速度で上記反応釜に加えて、40℃で4h反応させ、撹拌速度は350r/minであり、続いて2hエージングし、粒径が5.5μmで、シェルとして単結晶Mn-MOFが被覆されるコアシェル構造前駆体(構造式はMOF-Ni0.75Co0.13Mn012(OH)2)を得る。前記前駆体はコアが高ニッケルであり、シェルが純マンガンであるコアシェル材料であり、前記Mn-MOFの化学式はMn(C8H3O5)2・2H2Oである。
【0027】
ステップ3で、5KgのMOF-Ni0.75Co0.13Mn0.12(OH)2前駆体を350℃で予備焼成して、単結晶構造のニッケルコバルトマンガン酸化物(構造式はNi0.7Co0.1Mn0.2O1.5)を得る。該酸化物と4.5KgのLiOH・H2Oとをヘンシェルミキサーにおいて均一に混合し、混合物を700℃で、酸素雰囲気下で10h焼成し、焼成物を粉砕し、ふるい分けして、最終的に単結晶構造を有するニッケルコバルトマンガン正極材料を得る。正極材料をCR2025ボタン電池に組み立て、その電気化学的特性を検出し、結果として、0.1C(17mA/g)の電流密度、2.5~4.3Vの電圧範囲内で、放電容量は186.56mA/gであり、1Cサイクルを50サイクルした後の容量維持率は98.56%である。
<実施例3>
【0028】
ステップ1で、金属モル比が90:5:5のニッケルコバルトマンガン塩溶液(金属濃度2mol/L)を計量ポンプによって6L/hの流量で反応釜に加え、同時に12g/Lのアンモニア水及び3mol/Lの水酸化ナトリウムをそれぞれ1L/h及び2.5L/hの流量で反応釜に加え、反応過程において、アンモニア水及び水酸化ナトリウムの流量を制御することで、体系のpHを調整して10.5-12.0に維持する。密封された反応釜に2L/hの流量で窒素ガスを導入する。撹拌翼の撹拌レートは400r/minで、体系の反応温度は62℃である。反応時、レーザ粒度計を用いて反応釜中の粒子の粒径を1時間ごとに検出し、プロセスサンプルである一次粒子及び二次粒子の形態を観察することで、片状の均一な凝集を伴う球状粒子になるように一次粒子を制御し、粒子の平均粒径が3.0μmに達すると供給を停止し、ニッケルコバルトマンガン水酸化物Ni0.9Co0.05Mn0.05(OH)2を得る。
【0029】
ステップ2で、5-ヒドロキシイソフタル酸を一定量のエタノールに溶解し、濃度が2mol/Lの混合溶液を得る。2molの5-ヒドロキシイソフタル酸溶液及び1.5mol/Lのマンガン金属塩溶液を一定の供給速度で上記反応釜に加え、40℃で4h反応させ、撹拌速度は350r/minであり、続いて2hエージングし、粒径が4.5μmで、シェルとして単結晶Mn-MOFが被覆されるコアシェル構造前駆体(構造式はMOF-Ni0.9Co0.05Mn0.05(OH)2)を得る。前記前駆体はコアが高ニッケルであり、シェルが純マンガンであるコアシェル材料であり、前記Mn-MOFの化学式はMn(C8H3O5)2・2H2Oである。
【0030】
ステップ3で、5KgのMOF-Ni0.9Co0.05Mn0.05(OH)2前駆体を350℃で予備焼成して、単結晶構造のニッケルコバルトマンガン酸化物(構造式はNi0.87Co0.03Mn0.1O1.5)を得る。該酸化物と4.5KgのLiOH・H2Oとをヘンシェルミキサーにおいて均一に混合し、混合物を700℃で、酸素雰囲気下で10h焼成し、焼成物を粉砕し、ふるい分けして、最終的に単結晶構造を有するニッケルコバルトマンガン正極材料を得る。正極材料をCR2025ボタン電池に組み立て、その電気化学的特性を検出し、結果として、0.1C(17mA/g)の電流密度、2.5~4.3Vの電圧範囲内で、放電容量は201.56mA/gであり、1Cサイクルを50サイクルした後の容量維持率は96.56%である。
【0031】
説明すべきこととして、明確な規定や限定が別途ない限り、上記反応パラメータ及び成分割合は単なる例であり、本発明の具体的な実施形態を限定するものではない。当業者であれば、具体的な状況に応じて上記用語の本発明における具体的な意味を理解することができる。
【0032】
以上は本発明の好ましい実施形態に過ぎず、なお、当業者であれば、本発明の技術的原理から逸脱せずに幾つもの改良や置換を行うことができ、これらの改良や置換も、本発明の保護範囲に含まれると見なされるべきである。
【手続補正書】
【提出日】2022-07-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モル比がx:y:1-x-yの割合でニッケルコバルトマンガン金属塩のA溶液を配合し、xはニッケルの割合を表し、yはコバルトの割合を表し、1-x-yはマンガンの割合を表し、そしてアンモニア水錯化剤溶液及び苛性ソーダ液を配合するステップ1と、
前記ニッケルコバルトマンガン金属塩のA溶液、アンモニア水錯化剤溶液及び苛性ソーダ液を一定の供給速度で反応釜に加えて反応させ、略球状の前駆体コアを得るステップ2と、
有機カルボン酸塩を一定量の有機溶媒に溶解して一定濃度のB溶液を得て、B溶液及び一定濃度のマンガン金属塩溶液を一定の供給速度でステップ1の前駆体コアが生成された反応釜に加えて反応させ、エージング後にMOFで被覆されたコアシェル構造前駆体を得て、コアシェル構造前駆体の構造式はMOF-Ni
xCo
yMn
1-x(OH)
2であり、該コアシェル構造前駆体はコアが
ニッケルコバルトマンガン水酸化物であり、シェルとして
Mnと有機カルボン酸塩を配位して合成されるMnの金属有機骨格化合物を用いるステップ3と、
ステップ3で得られたコアシェル構造前駆体を低温で予備焼成して単結晶構造を有するニッケルコバルトマンガン酸化物を得て、該単結晶構造のニッケルコバルトマンガン酸化物とLiOH・H
2Oとを化学量論比で乳鉢において均一に混合して酸素雰囲気下で高温焼成を行い、MOFで被覆された単結晶三元系正極材料を得るステップ4と、を含
み、
ステップ1において、前記モル比の範囲は0.6≦x≦0.98、0.01≦y≦0.2であり、
ステップ4において、前記低温による予備焼成は300-600℃で3-6h焼成することであり、ステップ4において、前記高温焼成は700-800℃で10-20h焼成することであることを特徴とする、MOFで被覆された単結晶三元系正極材料の製造方法。
【請求項2】
前記苛性ソーダ液は水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム及び水酸化カリウムのうちのいずれか1つ又は複数の組合せであることを特徴とする、請求項1に記載のMOFで被覆された単結晶三元系正極材料の製造方法。
【請求項3】
ステップ2において、前記反応釜の反応温度は40-70℃であり、反応時間は60-120hであることを特徴とする、請求項1に記載のMOFで被覆された単結晶三元系正極材料の製造方法。
【請求項4】
前記ステップ2で得られた前駆体コアは、Ni
xCo
yMn
1-x-y(OH)
2であり、前駆体コアの平均粒径は3-8μmであることを特徴とする、請求項1に記載のMOFで被覆された単結晶三元系正極材料の製造方法。
【請求項5】
前記ステップ3において、前記コアシェル構造前駆体であるMOF-Ni
xCo
yMn
1-x-y
(OH)
2の粒径は4-9μmであることを特徴とする、請求項1に記載のMOFで被覆された単結晶三元系正極材料の製造方法。
【請求項6】
ステップ2において、前記
A溶液の濃度は2-5mol/Lであり、
A溶液の供給流量は6-9L/hであり、前記アンモニア水錯化剤溶液は濃度が7-14g/Lのアンモニア水であり、アンモニア水の供給流量は1-1.5L/hであり、苛性ソーダ液の供給流量は2.5-3.5L/hであり、反応釜内の撹拌速度は250-500r/minであることを特徴とする、請求項1に記載のMOFで被覆された単結晶三元系正極材料の製造方法。
【請求項7】
ステップ3において、前記有機カルボン酸塩は5-ヒドロキシイソフタル酸、トリメシン酸及び1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸のうちのいずれか1つ又は複数の組合せであることを特徴とする、請求項1に記載のMOFで被覆された単結晶三元系正極材料の製造方法。
【請求項8】
ステップ3において、前記有機溶媒はアルコール系有機溶媒であり、得られたB溶液の濃度は1.5-2.5mol/Lであることを特徴とする、請求項1に記載のMOFで被覆された単結晶三元系正極材料の製造方法。
【請求項9】
ステップ3において、前記反応釜内の反応条件として、温度は25-40℃で、撹拌速度は300-400r/minで、時間は3-6hで、エージング時間は2-5時間であることを特徴とする、請求項1に記載のMOFで被覆された単結晶三元系正極材料の製造方法。
【請求項10】
ステップ3において、前記MOF-Ni
xCo
yMn
1-x(OH)
2前駆体の高ニッケルコアにおいて、全金属でニッケルが占めるモル百分率は70-90%で、全金属でコバルトが占めるモル百分率は5-20%で、全金属でマンガンが占めるモル百分率は10-30%であることを特徴とする、請求項1に記載のMOFで被覆された単結晶三元系正極材料の製造方法。
【国際調査報告】