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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-26
(54)【発明の名称】ポリマー充填ポリオレフィン繊維
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/04 20060101AFI20230119BHJP
   C08L 23/06 20060101ALI20230119BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20230119BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20230119BHJP
   D01F 6/46 20060101ALI20230119BHJP
【FI】
D01F6/04 A
C08L23/06
C08L67/00
C08L77/00
D01F6/04 Z
D01F6/46 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022523466
(86)(22)【出願日】2020-11-03
(85)【翻訳文提出日】2022-06-15
(86)【国際出願番号】 EP2020080789
(87)【国際公開番号】W WO2021089529
(87)【国際公開日】2021-05-14
(31)【優先権主張番号】19206846.8
(32)【優先日】2019-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522355798
【氏名又は名称】ディーエスエム プロテクティブ マテリアルズ ビー.ブイ.
【氏名又は名称原語表記】DSM Protective Materials B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】バルツァーノ, ルイージ
(72)【発明者】
【氏名】ゲリッセン, フランシスカス, ウィルヘルムス, マリア
(72)【発明者】
【氏名】オプ デン ブイシュ, フランソワ, アントワーヌ, マリー
(72)【発明者】
【氏名】カミンズ, デイヴィッド, マイケル
【テーマコード(参考)】
4J002
4L035
【Fターム(参考)】
4J002BB03W
4J002BB20Y
4J002BB21Y
4J002CF06X
4J002CF07X
4J002CF08X
4J002CL01X
4J002CL03X
4J002FD010
4J002GK01
4L035AA04
4L035AA05
4L035BB05
4L035BB89
4L035BB91
4L035EE09
4L035HH02
4L035HH03
4L035MA01
(57)【要約】
本発明は、高分子構造体を含むポリオレフィン繊維に関し、高分子構造体は、縮重合体及び官能化ポリマーを個々に含み、ポリオレフィン繊維は、少なくとも1N/texの糸強力を有するゲル紡糸高性能ポリエチレン繊維である。高分子構造体は、ポリエチレン繊維と非混和性であり、且つポリエチレン繊維中に分散している。
ゲル紡糸高性能ポリエチレン繊維は、ゲル紡糸の超高分子量ポリエチレン繊維である。本発明は、さらに、縮重合体又は少なくとも1種の添加剤を含有する縮重合体、官能化ポリマー、及び場合により熱可塑性ポリマー及び/又は少なくとも1種の添加剤を溶融混合して、高分子構造体を形成するステップ;ポリオレフィン粉末、高分子構造体及び溶剤を混合して混合物を形成するステップ;並びにステップii)で取得した混合物を紡糸及び延伸して、高分子構造体を含むポリオレフィン繊維を形成するステップを備えるポリオレフィン繊維を製造するプロセスにも関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子構造体を含むポリオレフィン繊維であって、前記高分子構造体が、縮重合体及び官能化ポリマーを個々に含み、前記ポリオレフィン繊維が、少なくとも1N/texの糸強力を有するゲル紡糸高性能ポリエチレン(HPPE)繊維であり、それにより前記高分子構造体が、前記ポリエチレン繊維と非混和性で、前記ポリエチレン繊維中に分散するポリオレフィン繊維。
【請求項2】
前記ゲル紡糸高性能ポリエチレン繊維が、ゲル紡糸超高分子量ポリエチレン繊維である、請求項1に記載のポリオレフィン繊維。
【請求項3】
熱可塑性ポリマーをさらに含む、請求項1に記載のポリオレフィン繊維。
【請求項4】
前記高分子構造体が、前記HPPE繊維中で分散粒子又は分散繊維であり、且つ好ましくは少なくとも1種の添加剤をさらに含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリオレフィン繊維。
【請求項5】
前記縮重合体の量が、前記繊維の総組成を基準として、少なくとも0.1重量%且つ最大でも50重量%である、請求項1~4のいずれか1項に記載のポリオレフィン繊維。
【請求項6】
前記官能化ポリマーの量が、前記縮重合体の総量を基準として、少なくとも0.01重量%且つ最大でも50重量%である、請求項1~5のいずれか1項に記載のポリオレフィン繊維。
【請求項7】
前記縮重合体が、ポリエステル、ポリアミド及びそれらのコポリマーからなる群から選択される、請求項1~6のいずれか1項に記載のポリオレフィン繊維。
【請求項8】
前記官能化ポリマーが、グラフト化(コ)ポリエチレン及びポリ(グリシジルメタクリレート)からなる群から選択される、請求項1~7のいずれか1項に記載のポリオレフィン繊維。
【請求項9】
前記高分子構造体を含む前記高性能ポリエチレン繊維の前記糸強力が、少なくとも1.5N/texである、請求項1~8のいずれか1項に記載のポリオレフィン繊維。
【請求項10】
前記高分子構造体が、少なくとも50ナノメートル且つ最大でも1000ナノメートルの粒径、d50を有する、請求項3に記載のポリオレフィン繊維。
【請求項11】
前記熱可塑性ポリマーが、875~1000kg/mの範囲のISO1183-2004に従って測定した密度を有する任意のポリマーである、請求項3に記載のポリオレフィン繊維。
【請求項12】
前記熱可塑性ポリマーが、エチレンのホモポリマー、プロピレンのホモポリマー、エチレンコポリマー及びプロピレンコポリマー、及び/又はそれらの混合物からなる群から選択される、請求項11に記載のポリオレフィン繊維。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載のポリオレフィン繊維を製造する方法であって:
i)前記縮重合体又は少なくとも1種の添加剤を含有する縮重合体、前記官能化ポリマー、及び場合により前記熱可塑性ポリマー及び/又は前記少なくとも1種の添加剤を溶融混合して、高分子構造体を形成するステップ;
ii)ポリオレフィン粉末、前記高分子構造体及び溶剤を混合して、混合物を形成するステップ;並びに
iii)ステップii)で取得した混合物を紡糸及び延伸して、請求項1~12のいずれか1項に記載の高分子構造体を含むポリオレフィン繊維を形成するステップ、
を備える方法。
【請求項14】
ステップii)が、前記ポリオレフィン粉末と溶剤を混合して第一混合物を形成し、前記高分子構造体と溶剤を混合して第二混合物を形成し、その後第一混合物と第二混合物の両方とも一緒に混合されることにより実施することができる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
請求項1~12のいずれか1項に記載のポリオレフィン繊維を含む物品。
【請求項16】
前記物品が、布帛である、請求項15に記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、高分子構造体を含むポリオレフィン繊維に関する。本発明はまた、高分子構造体を含むポリオレフィン繊維を製造するプロセスにも関する。さらに、本発明は、ポリオレフィン繊維を含む物品に関する。
【0002】
高分子構造体を含むポリオレフィン繊維は、当技術分野では一般的に知られている。例えば、欧州特許第1869129B1号明細書は、ポリオレフィン、好ましくはポリプロピレン、及び無水マレイン酸系ポリオレフィン相溶化剤、場合によりテレフタレート系コポリエステルである染色促進剤を含むポリオレフィン繊維を開示する。米国特許出願公開第2015/0361615A1号明細書は、オレフィン、好ましくはポリプロピレンを、非晶性ナイロンと、無水マレイン酸で変性したオレフィンと、ナイロン6又は6,6とからなるマスターバッチとブレンドして、ナイロン染色システムを用いてブレンドしたオレフィンを染色することにより形成されるポリオレフィン繊維を開示する。
【0003】
しかしながら、ポリオレフィン繊維の当技術分野で既知の機械物性が、ポリオレフィン繊維の組成に例えば異なる(高分子)構造体などの欠陥を導入するために、急激に劣化することが知られている。それに加えて、ゲル紡糸の高性能ポリオレフィン繊維、具体的には高性能ポリエチレン(HPPE)繊維は、ポリオレフィン、例えばポリエチレンの固有の非極性のために、官能化するのが困難であることは良く知られている。さらに、溶融紡糸高性能ポリオレフィン繊維、例えばHPPE繊維の場合においては、発明者らは、添加物、例えばポリエステル粒子などの重縮合ポリマー粒子が繊維に添加される場合において、分散粒子を得ることを可能とするために、粒子は溶けて、高性能ポリオレフィン繊維と部分的に混和するのが望ましいことに気づいた。さらに、当技術分野で既知の溶融紡糸又は溶融押出した高性能ポリオレフィン繊維、例えばHPPE繊維の糸強力は、1N/tex未満である。
【0004】
したがって、本発明の目的は、高分子構造体を繊維組成に導入する場合、そして繊維組成に多量の高分子構造体を導入する場合でさえも、非常に高いレベルの機械物性、例えば糸強力及び/又は弾性率、特に糸強力が維持され、一方でまた、様々な用途で使用されるために、例えば良好な可染性及び染色堅牢度を有する織物を製造するために、汎用性が高いポリオレフィン繊維を提供することである。
【0005】
この目的は、高分子構造体を含むポリオレフィン繊維に、縮重合体及び官能化ポリマーを個々に含む高分子構造体を提供することにより、達成されており、ポリオレフィン繊維は、高分子構造体を含み、少なくとも1N/texの糸強力を有するゲル紡糸高性能ポリエチレン繊維であり、それにより高分子構造体は、ポリエチレン繊維と非混和性で、ポリエチレン繊維中に分散する。
【0006】
本発明によるゲル紡糸高性能ポリエチレン繊維は、即ち繊維中に好ましく分散する高分子構造体を含む(個々に、即ち、高分子構造体のそれぞれが、縮重合体及び官能化ポリマーを含む)ポリエチレン繊維は、ポリオレフィン(HPPE)繊維において高分子構造体の濃度が高い場合でさえも、高い機械物性、特に高い糸強力を保つことが驚くべきことに見出されている。さらに、本発明によるポリオレフィン(HPPE)繊維は、容易に官能化できるので、本発明による繊維は、様々な用途に使用できることが見出されている。さらに、本発明によるポリオレフィン繊維を含有する布帛は、良好な着色性及び染色堅牢度を有する。
【0007】
本発明の文脈内においては、「繊維」は、その横寸法、例えば幅及び厚みよりもかなり長い長さ寸法を有する長尺体であると理解されている。用語「繊維」には、フィラメント、糸条、リボン、ストリップ、又はテープなどが含まれ、また、繊維は、規則的又は不規則的な断面を有することができる。繊維が糸条であるのが好ましく、マルチフィラメント糸であるのがより好ましい。本発明の目的のテープは、少なくとも5:1、より好ましくは少なくとも20:1、更により好ましくは少なくとも100:1そして更により一層好ましくは少なくとも1000:1の断面のアスペクト比を有し得る。テープの幅は、1mm~200mm、好ましくは1.5mm~50mm、そしてより好ましくは2mm~20mmであり得る。平テープの厚さは、好ましくは10μm~200μmそしてより好ましくは15μm~100μmである。
【0008】
高性能ポリエチレン(HPPE)繊維は、本発明の実施例の項に記載される方法に従って測定された、少なくとも1.5N/tex、好ましくは少なくとも2N/tex、より好ましくは少なくとも2.5N/texそしてより好ましくは少なくとも3.5N/tex、又は少なくとも4N/texの糸強力(本明細書においては引張強さとも呼ぶことができる)を有するのが好ましい。HPPE繊維は、好ましくは少なくとも30N/Tex、より好ましくは少なくとも50N/Tex、一層より好ましくは少なくとも80N/Tex又は更に少なくとも90N/Tex、最も好ましくは少なくとも100N/Texの引張り弾性率を有する。本発明の文脈においては、引張強さ又は糸強力及び引張弾性率は、ASTMD885Mに規定されているように、マルチフィラメント糸で画定及び測定される(繊維の公称ゲージ長500mm、クロスヘッド速度50%/分、及びInstron2714クランプ、タイプ「Fibre Grip D5618C」を使用;弾性率を0.3~1%の歪み間の勾配として測定)。
【0009】
好ましい高性能ポリエチレンは、高分子量ポリエチレン(HMWPE)若しくは超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)又はそれらの組合せである。
【0010】
実際上の理由で、マルチフィラメント糸であり得るHPPE繊維の繊度は、少なくとも100dtex且つ最大でも50000dtex、好ましくは最大でも20000dtex、より好ましくは最大でも10000dtex、最も好ましくは最大でも5000dtexであり得る。HPPE繊維の繊度、好ましくはHPPE糸条の繊度は、好ましくは100~10000dtex、より好ましくは500~7000dtex、一層より好ましくは1000~6000dtexの範囲であり、及び最も好ましくは500~4000dtexの範囲であり、一層最も好ましくは800~3500dtexの範囲である。繊度は、本発明の実施例の項に記載される方法に従って求めた。
【0011】
本発明の文脈においては、表現「実質的にからなる」は、少量の更なる種を含むことがあるという意味を有し、少量とは、5重量%まで、好ましくは2重量%までの前記の更なる種であり、即ち、95重量%超、好ましくは98重量%超のHPPE、例えばHMWPE及び/又はUHMWPEを含むことである。
【0012】
本発明の文脈においては、ポリエチレン(PE)は、鎖状でも分岐でもよく、それにより鎖状のポリエチレンが好ましい。鎖状ポリエチレンは、本明細書中、100個の炭素原子当たり1個未満の側鎖、好ましくは300個の炭素原子当たり1個未満の側鎖を有するポリエチレンを意味するものとして理解されており、側鎖又は分枝鎖は、一般的に少なくとも10個の炭素原子を含有する。側鎖は、FTIRにより適切に測定され得る。鎖状ポリエチレンは、それらと共重合性である1種又は複数種のアルケン、例えばプロペン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチルペンテン、1-ヘキセン及び又は1-オクテンなどを最高5モル%までさらに含んでよい。
【0013】
PEは、少なくとも2dl/g、より好ましくは少なくとも4dl/g、最も好ましくは少なくとも8dl/gの固有粘度(IV)を有する高分子量であるのが好ましい。そのような4dl/gを超えるIVを有するポリエチレンはまた、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)とも呼ばれる。固有粘度は、数平均分子量及び重量平均分子量(Mn及びMw)のような実際のモル質量パラメーターよりも容易に求めることができる分子量に対する指標である。
【0014】
本発明の文脈における高分子構造体は、好ましくはHPPE繊維中に分散し、高性能ポリエチレン(HPPE)繊維と(実質的に)混和しない、即ち不均一な混合物を形成する構造体又は液滴であると理解される。高分子構造体は、高性能ポリエチレン繊維内で見つかる場合があるが、その表面上で出現することもある。好適な高分子構造体及び製造プロセスは、例えば、参照により本明細書に組み込まれている、米国特許出願公開第2005/0222328号明細書に記載されている。
【0015】
HPPE繊維中の高分子構造体の量は、HPPE繊維の総重量を基準として、好ましくは少なくとも0.001重量%、より好ましくは少なくとも1重量%、更により好ましくは少なくとも3重量%、最も好ましくは少なくとも5重量%である。HPPE繊維中の高分子構造体の量は、HPPE繊維の総重量を基準として、好ましくは最大でも20重量%、好ましくは最大でも15重量%、より好ましくは最大でも12重量%、最も好ましくは最大でも10重量%である。高分子構造体の量が多いと、HPPE繊維の機械物性に悪影響を与えることがある。
【0016】
高分子構造体又は液滴は、好ましくはポリオレフィン繊維に分散している。高分子構造体は、任意の形状を有することができ、例えば高分子構造体は、粒子又は繊維(針)の形状であってもよく、本明細書においては分散粒子又は分散繊維とも呼ばれることがある。高分子構造体が球形である場合においては、L/D比は、好ましくは約1であり、これらの粒子は、好ましくは、繊維の製造中、例えば延伸中に繊維の加工温度を超える温度で溶融する。高分子構造体が針状である場合には、L/D比は、好ましくは1より大きく、これらの粒子は、好ましくは、繊維の製造中、例えば延伸中に繊維の加工温度よりも低い温度で溶融する。
【0017】
本発明においては、粒子の他の寸法よりも実質的に大きい寸法が存在しない粒子、例えば球形状又は立方体形状の粒子などに関しては、平均粒径は、平均粒子の直径(D)、即ち直径とほぼ等しい。本発明の文脈においては、平均は、特に明記しない限り、数(又は数値(numerical))平均を意味する。例えば針、フィブリル又は繊維などの細長い又は非球形若しくは異方性のほぼ長楕円形状の粒子に関しては、粒径は、粒子の長軸に沿った平均長さ寸法(L)を指すことがあり、平均粒子直径は、又は略して直径と本明細において呼ばれることもあるが、前記長楕円形状の長さ方向に直交する断面の平均直径を指す。粒子の断面が円形でない場合においては、平均直径(D)は、以下の式:D=1.15*A1/2(式中、Aは、粒子の断面積である)を用いて求められる。高分子構造体のアスペクト比(L/D)は、高分子構造体の長さ即ち平均長さ(L)の、直径即ち平均直径(D)に対する比である。高分子構造体の平均直径及びアスペクト比は、当技術分野で既知の任意の方法、例えば本明細書の実施例の項に記載されるSEM法を用いて求めてもよい。
【0018】
適切な粒径、直径及び/又は長さの選択は、通常は、処理方法及び繊維のフィラメント繊度に応じて異なる。それでもやはり、粒子は、紡糸口金開口部を通過するのに十分なほど小さいのが望ましい。粒径及び直径は、充填HPPE繊維の引張特性の大きな劣化を回避するために十分小さく選択してよい。粒径及び直径は、対数正規分布を有する場合がある。
【0019】
高分子構造体の粒径は、HPPE繊維の用途に応じて異なることがあり、好ましくはHPPE繊維の平均直径の1/3未満である。
【0020】
本発明によるHPPE繊維中の縮重合体は、当技術分野で既知の任意の重縮合ポリマーであってよい。重縮合ポリマーは、通常は低分子の反応生成物の開裂を伴う重縮合反応において得られる。縮重合体ポリマーは、例えば特許文献、欧州特許第1492843号明細書、米国特許第5576366号明細書、米国特許出願公開第2005/0239927A1号明細書、米国特許出願公開第2015/0361615A1号明細書、欧州特許第1869129B1号明細書で公知である。好適な重縮合ポリマーの例は、結晶性又は非晶性であり得る熱可塑性縮重合体である。重縮合ポリマーは、例えば、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート又はポリラクチドなど、ポリウレタン、及び/又はそれらのコポリマーからなる群から選択され得る。重縮合ポリマーを取得するための重縮合反応は、当技術分野では知られており、モノマー間で直接に起こるか、又は続いてエステル交換により変換される中間生成物の段階を介して起こり、エステル交換は、順に低分子の反応生成物の開裂を伴うか、又は開環重合により起こる。縮重合体は、鎖状でも分岐でもよい。
【0021】
ポリアミドは、通常は、そのモノマー、ジアミン成分とジカルボン酸成分か、又はアミノ酸及びカルボン酸末端基を有する二官能性モノマーのどちらかによる重縮合により得られるポリマーであって、その反応が、例えばラクタムを用いる開環重合により起こり得ると当技術分野で知られている。好適な例としては、任意の半結晶性ポリアミド又はそれらのブレンド、更にコポリアミドが含まれる。「半結晶性ポリアミド」は、結晶性及び非晶性領域を有するポリアミドを包含すると本明細書では理解されている。好適なポリアミドとしては、PA6、PA66、PA46、PA410、PA610、PA11、PA12、PA412更にそれらのブレンドなどの脂肪族ポリアミドだけでなく、半芳香族ポリアミドも挙げられる。好適な半芳香族ポリアミドとしては、PA6T、PA9T、PA4T及びPA6T6I、PA10T更にPAMXD6及びPAMXDTのようなテレフタル酸系のポリアミド、並びにそれらのコポリアミド、更にそれらのブレンド、脂肪族ポリアミドと半芳香族ポリアミドとのブレンドも挙げられる。
【0022】
ポリエステルは、通常は、そのモノマー、ジオール成分とジカルボン酸成分との重縮合により取得されるポリマーとして、当技術分野で知られている。様々な主に鎖状又は環式ジオール成分が、本発明によるHPPE繊維に使用することが可能である。種々の主に芳香族ジカルボン酸成分も又使用できる。ジカルボン酸はまた、その対応するジメチルエステルによって置換できる。ポリエステルの好適な例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)及びポリエチレンナフタレート(PEN)が挙げられ、それらは、ホモポリマーとしてか、又はコポリマーとしてのどちらかで使用できる。
【0023】
縮重合体の量は、本発明によるHPPE繊維の全組成を基準として少なくとも0.1重量%で且つ最大でも50重量%であってよく、本発明によるHPPE繊維の全組成を基準として好ましくは0.1~30重量%、一層好ましくは0.1~20重量%、より好ましくは0.1~10重量%、一層より好ましくは0.1~5重量%、そして最も好ましくは0.1~3重量%であってよい。
【0024】
官能化ポリマーは、官能基、好ましくは他の官能基と反応できる末端官能基を有するポリマーであると本明細書において理解されている。好適な官能基の例は、カルボン酸基、無水物基、エステル基、塩類基、エーテル基、エポキシ基、アミン基、アルコキシシラン基、アルコール基又はオキサゾリン基である。好適な官能性ポリマーは、特許文献、例えば欧州特許第1492843号明細書、米国特許第5576366号明細書、米国特許出願公開第2005/0239927A1号明細書、米国特許出願公開第2015/0361615A1号明細書、欧州特許第1869129B号明細書に開示されている。官能基が、無水マレイン酸(MAH)基及びエポキシ基から選択されるのが好ましい。
【0025】
官能基を提供することができる好適なポリマーとしては、例えばチーグラー・ナッタ(Ziegler-Natta)、フィリップス(Philips)及びシングルサイト触媒などの既知の触媒を使用して当技術分野で既知の任意の方法で調製できる、例えばエチレンのホモポリマー、及びエチレンと1種又は複数種の3~10個の炭素原子を有するアルファ-オレフィンコモノマー、具体的にはプロピレン、イソブテン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン及び1-オクテンとのコポリマーからなる群から選択されるエチレン(コ)ポリマーが挙げられる。エチレンコポリマー中のコモノマーの量は、0~50重量%、そして好ましくは5~35重量%であってよい。こうしたポリエチレンは、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)、直鎖超低密度ポリエチレン(VL(L)DPE)及びプラストマーとして当技術分野において知られている。
【0026】
官能基は、コポリマーなどポリマーに内在することもあるが、グラフト重合により存在することもある。官能基が内在する好適なポリマーとしては、例えばエチレンビニルアセテート(EVA)、エチレンメチルアクリレート(EMA)、エチレンブチルアクリレート(EBA)、ポリビニルアセテート(PVA)、ポリグリシジルメタクリレート(PGMA)、スチレン無水マレイン酸(SMA)及びアイオノマーが挙げられる。
【0027】
官能基が、例えばエチレン性不飽和官能化化合物をポリマーにグラフトすることにより、ポリマーに存在するのが好ましい。好適なエチレン性不飽和官能化化合物は、前述の好適なポリオレフィンのうち少なくとも1つにグラフトできる化合物である。エチレン性不飽和官能化化合物は、炭素-炭素の二重結合を1つ含有し、そこにグラフトすることによりポリマー上に分岐側鎖を形成できる。好適なエチレン性不飽和官能化化合物の例は、不飽和カルボン酸並びにそれらのエステル及び無水物及び金属塩及び非金属塩である。化合物中のエチレン性不飽和結合は、カルボニル基と共役しているのが好ましい。例は、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、メチルクロトン酸及びケイ皮酸並びにそれらのエステル、無水物及び可能な塩である。少なくとも1つのカルボニル基を有する化合物のうちで、無水マレイン酸が好ましい。少なくとも1つのエポキシ環を有する好適なエチレン性不飽和官能化化合物の例は、例えば、不飽和カルボン酸のグリシジルエステル、不飽和アルコール及びアルキルフェノールのグリシジルエーテル並びにエポキシカルボン酸のビニルエステル及びアリルエステルである。グリシジルメタクリレートが、特に好適である。少なくとも1のアミン官能価を有する好適なエチレン性不飽和官能化化合物の例は、例えばアリルアミン、プロペニル、ブテニル、ペンテニル及びヘキセニルアミン、アミンエーテル、例えばイソプロペニルフェニルエチルアミンエーテルである。
【0028】
アミン基と不飽和結合は、通常はグラフト反応に望ましくない程度まで影響を与えないような互いに相対的な位置にある。アミンは、置換されてないこともあるが、例えばアルキル基、アリール基、ハロゲン基、エーテル基及びチオエーテル基で置換されている場合もある。
【0029】
少なくとも1のアルコール官能価を有する好適なエチレン性不飽和官能化化合物の例は、エーテル化若しくはエステル化されているヒドロキシル基、又はエーテル化もエステル化もされていないヒドロキシル基を有する全てのエチレン性不飽和化合物、例えば、エチルアルコール並びに高分岐及び非分岐のアルキルアルコールなどのアルコールのアリルエーテル及びビニルエーテル、更にアルコール置換の酸、好ましくはカルボン酸とC3~C8アルケニルアルコールとのアリルエステル及びビニルエステルである。
【0030】
官能化ポリマーは、グラフト化(コ)ポリオレフィン(例えば(コ)ポリエチレン)及びポリ(グリシジルメタクリレート)の群から選択してよい。より好ましい官能化ポリマーは、ポリオレフィン、好ましくはグラフト化ポリエチレンである。ポリエチレンが、エチレン性不飽和官能化化合物でグラフト化されているのが好ましい。
【0031】
官能化ポリマーは、0.01~50重量%の官能基を有することが可能であり、ここで重量百分率は、官能化ポリマーの総量を基準とする。官能化ポリマーは、好ましくは少なくとも0.05重量%の官能基、そしてより好ましくは少なくとも0.1重量%の官能基を有し、ここで重量百分率は、官能化ポリマーの総量を基準とする。官能化ポリマーは、好ましくは最大でも40重量%の官能基、より好ましくは最大でも30重量%、そして更により好ましくは最大でも20重量%の官能基を有し、ここで重量百分率は、官能化ポリマーの総量を基準とする。
【0032】
官能化ポリマーの量は、縮重合体の総量を基準として、少なくとも0.01重量%且つ最大でも50重量%であってよく、縮重合体の総量を基準として、好ましくは0.01~30重量%、一層好ましくは0.01~20重量%、より好ましくは0.01~10重量%、一層より好ましくは0.1~5重量%であり得る。
【0033】
本発明によるポリオレフィン繊維は、熱可塑性ポリマーを更に含んでもよい。当技術分野で既知の任意の熱可塑性ポリマーは、本明細書において定義される(紡糸)溶剤中で、好ましくは非極性溶剤中で可溶性、好ましくは100%可溶性であるとする条件で、本発明によるHPPE繊維に使用できる。
【0034】
熱可塑性ポリマーは、875~1000kg/mの範囲のISO1183-2004に従って測定した密度を有するポリマーであるのが好ましい。より好ましくは、熱可塑性ポリマーは、エチレンのホモポリマー、プロピレンのホモポリマー、エチレンコポリマー及びプロピレンコポリマー、及び/又はそれらの混合物からなる群から選択される。
【0035】
高分子構造体は、(個々に)少なくとも1種の添加剤をさらに含有してもよい。イオン界面活性剤若しくは非イオン界面活性剤、粘着付与樹脂、UV安定剤などの安定剤、難燃剤、酸化防止剤、着色剤、無機物充填剤などの補強充填剤、又は高分子構造体の特性を調整する他の添加剤などの当技術分野で既知の任意の従来の添加剤が、使用できる。
【0036】
熱可塑性ポリマー及び/又は少なくとも1種の添加剤を含有する高分子構造体は、少なくとも50ナノメートル且つ最大でも1000ナノメートル、好ましくは100~600ナノメートル、より好ましくは100~500ナノメートル、最も好ましくは150~400ナノメートル、更に最も好ましくは150~250ナノメートルの本明細書の実施例の項に従ってSEM法により測定した粒径、d50を有してもよい。粒径(d50)が大きいとHPPE繊維の機械物性を劣化させる傾向がある。粒子が小さいと、繊維の染色能力を低下させることが判明した。
【0037】
本発明による高分子構造体の全成分、即ち縮重合体、官能性ポリマー、及び場合により少なくとも1種の添加剤の合計量は、100%であるのが望ましい(但し、添加剤がそれぞれのポリマーの不可欠な部分であると考えられる場合に限る)。
【0038】
本発明によるポリオレフィン繊維は、本発明の繊維と異なる他の繊維、例えば非高分子繊維などの組成及び/又は形状が異なる繊維、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、玄武岩繊維、金属線又は糸の繊維;及び/又は天然繊維、例えば綿;竹;及び/又は高分子繊維、例えばナイロン繊維などのポリアミド繊維、弾性繊維、例えばエラスタン繊維、ポリエステル繊維;及び/又は任意の比率で存在できるこれらの他の繊維の混合物をさらに含むことができる。
【0039】
本発明は、本明細書に記載のポリオレフィン繊維を製造するプロセスにも関し、そのプロセスは、以下の:
i)縮重合体、官能化ポリマー、及び場合により熱可塑性ポリマー及び/又は少なくとも1種の添加剤を溶融混合して高分子構造体を形成するステップ;
ii)ポリオレフィン粉末、好ましくはUHMWPE粉末と、高分子構造体と、ポリオレフィン用の溶剤とを混合して混合物を形成するステップ;及び
iii)ステップii)で取得した混合物を紡糸及び延伸して、請求項1に記載する高分子構造体を含む、ゲル紡糸ポリオレフィン繊維、即ち、ゲル紡糸HPPE繊維を形成するステップ
を備える。
【0040】
別法として、ステップii)は、ポリオレフィン粉末と溶剤とを混合して第一混合物を形成し;高分子構造体と溶剤とを混合して第二混合物を形成し、その後第一混合物と第二混合物の両方を一緒に混合することにより実施できる。
【0041】
好ましくは、高分子構造体が少なくとも1種の添加剤を含む場合においては、ステップi)の前に実施されるステップi’)があり、ステップi’)は、縮重合体(連続相である)と少なくとも1種の添加剤を溶融混合して、添加剤を含有する縮重合体濃縮物を形成するステップを備える。ステップi’)で取得することができる濃縮物は、高濃度化合物であり、即ち、縮重合体と添加剤の総容量を基準として少なくとも50容量%、好ましくは少なくとも60容量%、より好ましくは少なくとも80容量%、最も好ましくは少なくとも90容量%又は少なくとも95容量%を含む又はからなる。分散液中の添加剤の量、重量%は、通常、添加剤の密度に応じて異なる。
【0042】
縮重合体又はステップi’)で取得した添加剤の分散液を含有する縮重合体、官能化ポリマー及び場合により熱可塑性ポリマーが、全成分が非晶性ポリマーである場合において、高分子構造体を形成するために、溶融温度(Tm)又はガラス転移温度(Tg)よりも高い温度で一緒に混合されるのが好ましい。
【0043】
官能性ポリマーは、縮重合体の総重量を基準として、最大でも30重量%、好ましくは最大でも20重量%、そして最も好ましくは最大でも10重量%の量で添加することができる。熱可塑性ポリマーは、少なくとも20重量%且つ最大でも95重量%、好ましくは少なくとも30重量%から最大でも90重量%の量で添加してもよい。これらの全成分の合計が、100%になるのが望ましい(但し、添加剤がポリマーの不可欠な部分であると考えられる場合に限る)。
【0044】
溶融混合ステップ(本明細書において液体混合と呼ぶこともあり、成分を溶融状態で一緒に混合することを意味する)は、例えば特許文献、欧州特許第1492843B1号明細書からの当技術分野で既知の任意の方法、条件及び装置を用いて、実施することができる。例えば、溶融混合は、約50~1200rpm、特に100~400rpmの速度で二軸押出機又はバッチ式混練機内で、高分子構造体の成分の溶融温度に応じて150~280℃の温度プロファイルで、行うことができる。
【0045】
ステップii)は、室温より高い温度で行うのが好ましい。ステップii)での温度が高いほど、混合ステップが、速くなる。ステップii)での最大温度は、溶剤が蒸発を開始する温度であり、溶剤、例えばデカリンの安全取り扱いにより制限されることもある。温度が高いほど、溶解が速くなることがあるが、安全性に問題が生じることがある。ステップii)で使用される溶剤は、ポリオレフィンの溶剤であり、高分子構造体中の成分、例えば縮重合体の非溶剤である。
【0046】
好ましくは、本明細書に記載されるゲル紡糸HPPE繊維を製造するためのプロセスは、以下のステップを備える:
a)縮重合体又は少なくとも1種の添加剤を含有する縮重合体、官能化ポリマー及び、場合により熱可塑性ポリマーを全成分の溶融温度(Tm)又はガラス転移温度(Tg)の最大温度である温度で溶融混合して、高分子構造体を形成するステップ;
b)ステップa)で形成した高分子構造体を溶剤(即ち、ポリオレフィン溶剤)に分散させて懸濁液を形成するステップ;
c)HPPE粉末、好ましくはUHMWPE粉末及び溶剤の懸濁液を別々に形成するステップ;
d)ステップb)の懸濁液をステップc)の懸濁液に加えて、混合物を形成するステップ;そして次に
e)ステップd)で取得した混合物を紡糸及び延伸して、本発明による高分子構造体を含むゲル紡糸HPPE繊維を形成するステップ。
【0047】
本発明によるゲル紡糸HPPE繊維は、ゲル紡糸プロセスにより得られる。ゲル紡糸HPPE繊維は、本明細書で定義される溶剤を最大でも500ppm、好ましくは最大でも400ppm、より好ましくは最大でも300ppm、更により好ましくは最大でも200ppm、最も好ましくは最大でも100ppmの溶剤を、そして一層最も好ましくは最大でも50ppm含有してもよい。
【0048】
本発明によるHPPE繊維を製造する任意のゲル紡糸プロセスを使用してもよい。好適なゲル紡糸プロセスは、例えばGB-A-2042414号明細書、GB-A-2051667号明細書、欧州特許出願公開第0205960A号明細書及び国際公開第01/73173A1号パンフレットに記載されている。要するに、ゲル紡糸プロセスは、高い固有粘度のポリエチレン及び高分子構造体を含む溶剤(ポリオレフィンの溶剤、縮重合体の非溶剤)の溶液を調製して、溶解温度よりも高い温度で、その溶液を押出して溶解繊維にして、溶解繊維をゲル温度よりも低い温度まで冷却し、それにより、繊維のポリエチレンを少なくとも部分的にゲル化し、溶剤の少なくとも一部を除去する前、除去中に及び/又は除去後に、繊維を延伸するステップを備える。
【0049】
HPPE繊維を調製する上述の方法においては、生成したHPPE繊維の延伸、好ましくは一軸延伸は、当技術分野で既知の手段により実施してよい。このような手段には、好適な延伸装置での押出延伸及び引張延伸が含まれる。増大した機械的引張強さ及び剛性を得るために、複数のステップで延伸を実行することがある。
【0050】
好ましいUHMWPE繊維の場合においては、通常は、多数の延伸ステップで一軸延伸で延伸を実行する。第一延伸ステップは、例えば、延伸倍率(延伸比とも呼ばれる)が少なくとも1.5、好ましくは少なくとも3.0までの延伸を含む。複数回の延伸は、通常、120℃までの延伸温度に対して最大9までの延伸倍率、140℃までの延伸温度に対して最大25までの延伸倍率、及び150℃以上の延伸温度に対して50以上の延伸倍率をもたらすことなる。上昇温度での複数回の延伸により、約50以上の延伸倍率を達成することがある。
【0051】
このプロセスは、少なくとも1N/tex、好ましくは少なくとも2N/tex、より好ましくは少なくとも3N/tex、更に少なくとも3.5N/tex又は少なくとも4N/texの糸強力を有する本発明によるゲル紡糸HPPE繊維、好ましくはUHMWPEゲル紡糸繊維をもたらす。
【0052】
HPPE及び特にUHMWPEのゲル紡糸に好適な当技術分野で既知の任意の溶剤を使用してよく、以下、前記溶剤を紡糸溶剤と呼ぶ。前記溶剤は、好ましくは当技術分野で既知の任意の非極性溶剤である。溶剤の好適な例としては、オクタン、ノナン、デカン及びパラフィンなどとそれらの異性体を含む脂肪族及び脂環式炭化水素;石油留分;鉱油;灯油;トルエン、キシレン、及びナフタレンなどとデカリン及びテトラリンなどのそれらの水素化誘導体を含む芳香族炭化水素;モノクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素;並びにカリーン、フッ素、カンフェン、メンタン、ジペンテン、ナフタレン、アセナフタレン、メチルシクロペンタジエン、トリシクロデカン、1,2,4,5-テトラメチル-1,4-シクロヘキサジエン、フルオレノン、ナフトインダン、テトラメチル-p-ベンゾジキノン、エチルフオレン、フルオランテン、及びナフタエノンなどのシクロアルカン又はシクロアルケンが挙げられる。同様に、上で列挙した紡糸溶剤の組合せは、ゲル紡糸に使用でき、溶媒の組合せは、簡潔化のために、紡糸溶剤とも称される。本発明のプロセスは、デカリン、テトラリン、及びいくつかの灯油グレードのような、相対的に揮発性の溶剤に特に有利であることが判明した。溶剤が、デカリンであるのが好ましい。紡糸溶剤は、留去により、抽出により、又は留去と抽出手段の組合せにより、除去することが可能である。
【0053】
ゲル紡糸HPPE繊維を得るために、標準の装置、好ましくは二軸押出機を用いることができ、最初の部分においては、ポリオレフィンを溶剤に溶かし、最初の部分の最後に、繊維を別の供給口から押出機に供給する。
【0054】
本発明による高分子構造体を含むHPPE繊維はまた、マスターバッチプロセスを用いて、取得してもよい。
【0055】
本発明による高分子構造体を含有するポリオレフィン繊維をステープル繊維に変換して、これらのステープル繊維を紡績糸に加工することが可能である。
【0056】
本発明はまた、本発明のポリオレフィン繊維を含む物品にも関する。本発明の繊維を含有する物品は、これらに限定されないが、釣り糸、漁網、接地網、貨物ネット、カーテン、凧糸、デンタルフロス、テニスラケットストリング、キャンバス、布帛、織布、不織布、ウェビング、電池セパレータ、医療機器、コンデンサ、圧力容器、ホース、アンビリカルケーブル、自動車器材、動力伝達ベルト、建築構造材料、耐切傷性物品、耐突刺し傷性物品、耐切開性物品、保護手袋、複合材スポーツ用品、スキー、ヘルメット、カヤック、カヌー、自転車、及びボート船体、スピーカーコーン、高性能の電気絶縁体、レードーム、帆、並びに地盤用シートからなる群から選択される製品であってよい。
【0057】
本発明によるポリオレフィン(HPPE)繊維を含有し得る布帛は、製織されても不織でもよく、当技術分野で既知の任意のプロセスで生産できる。布帛は、製編、製織又は他の方法により、従来の装置を用いて、製造できる。
【0058】
本発明によるポリオレフィン(HPPE)繊維は、コーティングされていても、又はコーティングされなくてもよい。保護カバー及び/又はコーティングは、HPPE繊維の表面に塗布してよい。このようなカバーは、編布、織布又は組布のような既知の任意の材料、例えばポリエステル織布又は編組の耐摩擦性UHMWPE繊維カバーであってよい。コーティングは、例えば、国際公開第2014/064157A1号パンフレットに記載されているようなもの、又は参照として本明細書に組み込まれている特許文献、国際公開第2011/015485号パンフレットに開示される架橋型シリコーンであるコーティングであってよい。
【0059】
本発明によるポリオレフィン(HPPE)繊維は、好ましくは80~140℃、より好ましくは90~130℃の範囲の温度で後延伸をして、その強度をさらに増大させてもよい。このような後延伸ステップは、参照として本明細書に組み込まれている特許文献、例えば、欧州特許第0398843B1号明細書及び米国特許第5901632号明細書に記載されている。
【0060】
本発明は、以下の実施例及び比較例によりさらに説明されることとなるが、最初に本発明を定義するのに有用な様々なパラメーターを求めるのに使用した方法及び材料を以下に掲示する。
【0061】
[方法]
・dtex:100メートルの繊維を秤量することにより、繊維の繊度を測定した。重量(ミリグラムで表す)を10で除すことにより、繊維のdtexを算出した。
・融解熱及び融解ピーク温度及びTgは、標準DSC法ASTM E794及びASTM E793に従って、それぞれ第二加熱曲線に対して加熱速度10K/分で測定し、及び脱水試料で窒素下で実施した。
・熱可塑性ポリマーの密度をISO1183-2004に従って測定した。
・UHMWPE粉末の固有粘度(IV)は、デカリン中、135℃で方法ASTM D1601(2004)に従って、溶解時間16時間で、2g/L量のBHT(ブチルヒドロキシトルエン)溶液を酸化防止剤として用いて、種々の濃度から0濃度で測定した粘度を外挿することによって、求めた。
・HPPE繊維の引張特性:糸強力又は引張強さ(若しくは強度)及び引張弾性率(若しくは弾性率)は、ASTM D885Mに規定されるように定義し、HPPEマルチフィラメント糸で求めた。繊維の公称ゲージ長さ500mm、クロスヘッド速度50%/分、及び「Fibre Grip D5618C」型のInstron2714クランプを用いた。測定された応力-歪み曲線に基づいて、0.3~1%の歪みの間の勾配として弾性率を求めた。弾性率及び引張強さの算出に関しては、測定した引張力を上で求めた繊度で除した。;GPaでの値は、HPPEに対して密度を0.97g/cmと仮定して算出してよい。
・炭素原子1000個当たりのオレフィン分岐の数は、2mm厚に圧縮成形したフィルムに関して、1375cm-1での吸収をFTIRで定量し、例えば、欧州特許第0269151号明細書(具体的には、その4ページ)記載の通りにNMR測定に対する検量曲線を用いて求めた。
・SEM法:約1×1cmの部分を編布から切り出し、エポキシ樹脂に包埋した。室温で硬化させた後、LN2で冷却しながらダイヤモンドナイフを用いて、断面を得た。得られた試料のブロック表面をSEM試料ホルダーに固定し、導電性炭素層を塗布した。イメージングは、FEI Versa 3D FEGSEMで、格納式後方散乱検出器と組み合わせて加速電圧5kVで行った。EDAX TEAMソフトウェアにおいてEDXで、元素組成を測定した。
【0062】
[材料]
[縮重合体ポリマー(P1):]
P1-1:Akulon(登録商標)K122(ポリアミド6)、DSMにより市販されている
P1-2:Arnite(登録商標)1060、T04-200(ポリブチレンテレフタレート、PBT)、DSMにより市販されている
P1-3:Akulon(登録商標)F136(ポリアミド6)、DSMにより市販されている
P1-4:Platamid(登録商標)HX2544(コポリアミドPA-ナイロングレード)、Arkemaにより市販されている
P1-5:Arnitel(登録商標)EM740、DSMにより市販されている。
【0063】
[官能性ポリマー(P2):]
P2-1:Fusabond(登録商標)MO525D(0.9重量%の無水マレイン酸、MAでグラフト化したポリエチレン)、DuPontより市販されている。
P2-2:Lotader(登録商標)8840(8重量%のグリシジルメタクリレート(GMA)含有量で反応器中で重合したエチレンとグリシジルメタクリレートとのランダムコポリマー)、Arkemaより市販されている。
【0064】
[熱可塑性ポリマー(P3):]
P3-1:Queo8201(登録商標)(エチレン系オクテン-1プラストマー、28%のオクテン、密度0.883g/cm、融点ピーク温度74℃)、Borealisより市販されている。
【0065】
[紡糸溶剤:]
P4-1:デカリン
【0066】
[マトリックスポリマー(HPPE):]
M-1:19.0dl/gのIVを有するUHMWPE粉末。
【図面の簡単な説明】
【0067】
図1】分散した非混和性高分子構造体(1)又は液滴(1)を含むHPPE繊維の断面を表し、(2)は、場合により熱可塑性ポリマーを含むHPPEを指す。
図2】エネルギー分散型X線(EDX)分光法で撮影した、2つの隣接する高分子構造体又は液滴を含有するHPPE繊維の断面を表す。
【0068】
[実施例]
固体混合物の形態での高分子構造体の5つの試料を、表1に示す量の原料を有するタンブラーにおいて固体状態で混合することにより、マスターバッチを介して調製した。得られた固体混合物を、K-tron計量器を用いて、スロートを介して二軸押出機(Berstorff製ZE25UTS)に計量導入し、この押出機において、5種の高分子構造体組成物(MB01~MB05)に変換した。ポリアミド系マスターバッチ(MB01、MB02及びMB03)を20kg/時の押出量の押出機において、400rpmの速度で作製した。材料の供給部、バレル、ダイ、排出部の温度はそれぞれ20、240、240、及び300℃である。ポリエステル系マスターバッチ(MB04及びMB05)を23kg/時の押出量の押出機において、300rpmの速度で作製した。材料の供給部、バレル、ダイ、排出部の温度はそれぞれ20、260、260、及び295℃である。
【0069】
【表1】
【0070】
[実施例1~10(Ex.1~10)]
次に、MB01~MB05の試料のそれぞれを約15リットルのデカリンバッチ(95重量%のバッチ及び5重量%のデカリン)中に溶解させ、N下で約1時間、約110℃で撹拌して、5種の異なる懸濁液(懸濁液I~V)を形成した。
【0071】
別個に、UHMWPE粉末(M-1)の懸濁液を9重量%の濃度を有するデカリン中に得た(懸濁液VI)。
【0072】
懸濁液I~Vのそれぞれを直径25mmのスクリューを有しギヤポンプを備える二軸押出機内で懸濁液VIと混合して、混合物を形成した。次に、獲得したそれぞれの混合物を180℃の温度までこのやり方で加熱した。次に、64個の孔を有しそれぞれの孔が直径1ミリメートルを有する紡糸口金を通して混合物をポンプで送り出した。そのようにして得たフィラメントを総計で80倍に延伸して、熱風炉で乾燥させた。乾燥後、フィラメントを束ねてボビンに巻き取った。
【0073】
実施例1~10によって取得した繊維の組成及び特性を表2に示す。
【0074】
[比較例A~B(CE-A、CE-B)]
CE-Aは、懸濁液I~Vを使用しないで、懸濁液VIのみを押出機に添加して(未充填)UHMWPE繊維を形成したことが唯一異なるが、実施例1~10に記載したのと同じ方法で実施した。
【0075】
CE-B:懸濁液I~Vの代わりに、ゼオライト(ACS Materialsから商品名Ultrastable Y Zeolideで市販されている、粒度分布d50は6ミクロン)の無機粒子を使用し、懸濁液VIと混合し、ゼオライト充填のUHMWPE繊維を形成したことが唯一異なるが、実施例1~10に記載したのと同じ方法で実施した。
【0076】
CE A~Bによって取得した繊維の組成及び特性を表2に示す。
【0077】
【表2】
【0078】
[実施例11~22]
続いて、実施例1~10並びにCE-A及びCE-B(Dyneema(登録商標)440-SK65繊維)により獲得したHPPE繊維をフラットニットの13ゲージ島精機製作所(Shima Seiki)編機で、単一のジャージ構造で1平方メートル当たり260グラムの面密度を有する布帛に編んだ。
【0079】
次に、Yorkshire社のDark Red Serilene FL染料の乾燥布帛に基づいて、洗浄して濯いだ布帛に2重量%の着色プロセスを施した。
【0080】
染色助剤(拡散剤として2g/lのUnivadine DFMを使用)そしてその後に染料を続けて50℃の温度の染浴中の水に添加した。助剤及び染料の量は、乾燥布帛の重量を基準としてそれぞれ2重量%であった。酢酸を用いて、pHを4.5に設定した。次に、濯いだ布帛を染浴(布帛100gに対して1リットル程度)中に沈めた後、染浴温度を(0.8℃/分の速度で)130℃の温度まで上昇させて、この温度で60分間一定に保った。その後、液体を排出する前に、浴を急激に(2℃/分の速度で)60℃まで冷却させた。乾燥布帛を熱水(70℃)と冷水(15℃)で連続的に濯いだ。そのようにして獲得した布帛を周囲条件で24時間、空気乾燥させた。
【0081】
そのようにして獲得した着色布を表3で報告するように、色強度に関して評価した。
【0082】
【表3】
【0083】
従来技術(CE-A、CE-B及びEx.11~12)による結果と比較した、本発明による繊維(実施例1~10及び13~22)を適用することにより得られた結果は、本発明による高分子構造体を充填したHPPE繊維を含有する布帛が、良好な着色性及び染色堅牢度(つまり、1よりも大きいΔE cmc値、ΔE cmcは、当技術分野で使用される既知のパラメーターであり、布帛間の色の(視覚的な)違いを示す;摩擦堅牢度及び洗濯堅牢度は少なくとも3~4;並びに昇華堅牢度(sublimation values)は少なくとも3、表3参照)及び繊維中の高分子構造体の量が増大する場合でさえも非常に高いレベルを維持する繊維の糸強力値(表2)を有することを明らかに示す。
図1
図2
【国際調査報告】