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  • 特表-パラフィン系製品の製造 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-26
(54)【発明の名称】パラフィン系製品の製造
(51)【国際特許分類】
   C10L 1/04 20060101AFI20230119BHJP
   C10G 3/00 20060101ALI20230119BHJP
【FI】
C10L1/04
C10G3/00 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022527229
(86)(22)【出願日】2020-11-13
(85)【翻訳文提出日】2022-07-11
(86)【国際出願番号】 FI2020050756
(87)【国際公開番号】W WO2021094656
(87)【国際公開日】2021-05-20
(31)【優先権主張番号】PCT/FI2019/050817
(32)【優先日】2019-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505081261
【氏名又は名称】ネステ オサケ ユキチュア ユルキネン
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ノルチオ、イェンニ
(72)【発明者】
【氏名】サンドベルグ、カチ
(72)【発明者】
【氏名】シッポラ、ブェイネ
(72)【発明者】
【氏名】レメ、ビルピ
(72)【発明者】
【氏名】ビルヤ、イェッセ
【テーマコード(参考)】
4H129
【Fターム(参考)】
4H129BA11
4H129BB05
4H129BC15
4H129KA08
4H129KA11
4H129KB02
4H129NA04
4H129NA21
4H129NA25
4H129NA43
(57)【要約】
再生可能なパラフィン系生成物の複合製造のための方法であって、再生可能なパラフィン系フィード(101)を提供する工程、および再生可能なパラフィン系フィード(101)を2つの画分に分画する工程(102)を含む方法が開示される。2つの画分のうち、より軽質な画分(103)は、航空燃料成分のための仕様を満たし、および、より重質な画分(104)は、電気技術用流体成分のための仕様を満たす。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
再生可能なパラフィン系生成物の複合製造のための方法であって、
脂肪酸および/または脂肪酸のエステルを含む再生可能な原料の水素化脱酸素および異性化によって再生可能なパラフィン系フィードを提供する工程、
前記再生可能なパラフィン系フィードを蒸留による2つの画分に分画する工程であって、前記2つの画分が、
HEFA(水素処理されたエステルおよび脂肪酸)のためのASTM D7566-17b、Annex A2の航空燃料成分のための仕様を満たす、より軽質な画分、および
IEC 60296-2018規格の電気技術用流体成分のための仕様を満たす、より重質な画分
となるように分画する工程、
を含み、
前記2つの画分の複合収率が、前記分画に付された前記再生可能なパラフィン系フィードの少なくとも98wt-%であり、および
前記2つの画分の総計の重量に対する前記より軽質な画分の収率が20~90wt-%であり、前記2つの画分の総計の重量に対する前記より重質な画分の収率が10~80wt-%である方法。
【請求項2】
前記より重質な画分が、
ENISO-3104-1996にしたがって測定されて、12mm2/sまたはそれより低い、典型的には3.4mm2/sである40℃での粘度、
ENISO-3104-1996にしたがって測定されて、1800mm2/sまたはそれより低い、典型的には42.2mm2/sである-30℃での粘度、
ENISO-2719-2016にしたがって測定されて、少なくとも135℃、典型的には138.5℃である引火点(PM)、および
0.01mg KOH/gまたはそれより低い、典型的には0.001mg KOH/g未満である酸度
を含む、IEC 60296-2018規格の電気技術用流体成分のための仕様を満たしている請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記より重質な画分が、規格IEC 60296-2018の表2の一般仕様を全て満たしているトランスオイルである請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記分画が、蒸留によって提供される請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記2つの画分の前記複合収率が、前記分画に付された前記再生可能なパラフィン系フィードの少なくとも99wt-%、または100wt-%である請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記異性化が、触媒異性化、好ましくは触媒水素化異性化である請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記より軽質な画分の製造能力および前記より重質な画分の製造能力が、例えば温度および/または異性化の滞留時間などの前記水素化脱酸素および前記異性化の条件の選択によって、および/または、前記再生可能な原料の選択によって、調整される請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記水素化脱酸素が、10~200barg(bar gauge)の水素圧の下、200~400℃の温度で、および、0.2h-1~10h-1の液空間速度で行われる請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記異性化が、200~500℃、好ましくは280~400℃の温度で、および、10~150bar(絶対単位)、好ましくは30~100barの圧力で行われる請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記再生可能なパラフィン系フィードが、前記水素化脱酸素および前記異性化の後、安定化された再生可能なパラフィン系フィードおよびナフサ範囲(C4~C8)の炭化水素を含む塔頂画分を得るために、前記異性化の圧力より低い圧力で、安定化カラム内での安定化処理に付され、その後、前記安定化された再生可能なパラフィン系フィードが、前記分画に付され、および、任意には、少なくとも一部の前記塔頂画分が、回収され、およびリフラックスのために安定化カラムへと戻されリサイクルされる請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記より軽質な画分の製造能力および前記より重質な画分の製造能力が、前記再生可能なパラフィン系フィードの曇点および/または密度の選択によって調整される請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記再生可能なパラフィン系フィードの曇点が、EN23015-1994にしたがって測定されて、-30℃またはそれより低い、または、-34℃またはそれより低い、または、-40℃またはそれより低い、または、-48℃またはそれより低い請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記より軽質な画分の収率が、前記2つの画分の総計の重量の70~90wt-%であり、および、前記より重質な画分の収率が、前記2つの画分の総計の重量の10~30wt-%である請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記再生可能なパラフィン系フィードが、C8~C22炭化水素、またはC10~C20炭化水素、またはC15~C18炭化水素を含む請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記再生可能なパラフィン系フィードが、140℃~340℃の範囲内、好ましくは180℃~320℃の範囲内の蒸留範囲を有する請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記より軽質な画分が、
ASTM D4052-2016にしたがって15℃で測定されて、最大で772kg/m3である密度、および
IP529-2016にしたがって測定されて、-40℃より低い凝固点
を含む、HEFA仕様のためのASTM D7566-17b、Annex A2の航空燃料成分のための仕様を満たす請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記より軽質な画分が、HEFAのためのASTM D7566-17b、Annex A2の全ての仕様を満たしている航空燃料成分である請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
一または複数の酸化防止剤を混合することによって前記より軽質な画分を安定化することをさらに含む請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
1~50vol-%、好ましくは3~50vol-%の前記より軽質な成分と、
99~50vol-%、好ましくは97~50vol-%の化石航空燃料成分と、
任意には、酸化防止剤、金属不活性化剤、および燃料システム氷結防止剤、および/または、導電性向上剤、漏れ検知添加剤、殺生物添加剤、腐食防止剤および潤滑性向上剤より選択される一または複数の航空燃料取り扱いおよびメンテナンス添加物から選択される一または複数の航空燃料性能促進添加剤と
を、最終的な航空燃料組成物を得るためにブレンドする工程をさらに含む請求項1~18のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つのパラフィン系製品の複合製造のための方法、および、より特には、該方法によって得られるパラフィン系生成物に関する。
【背景技術】
【0002】
以下の背景技術に関する記載は、本発明以前には関連技術としては知られていないが、本開示によって提供される洞察、発見、理解または開示、または開示と一緒の関連付けを含み得る。本明細書に開示されるいくつかのそのような貢献は、以下に具体的に指摘され得、一方、他のそのような貢献は本開示によって包含され得るが本発明は、それら文脈から明らかであろう。
【0003】
航空燃料およびトランスオイル(transformer oil)の技術分野において、持続可能な、バイオ起源の、およびリサイクルされた代替物に対するエンドユーザーからの需要が高まっている。バイオ起源製品を含むことはまだ義務付けられていないが、これらの分野でも、法律による指令が出される兆しが明らかになりつつある。現在のところ、上記の用途で利用できるバイオ起源の代替品の提供は限られている。さらに、バイオ起源の代替品は、典型的には、従来の提供品と価格競争できず、これは、バイオ起源およびリサイクルされた航空燃料および変圧器オイルの開発を制限している。これらの分野における、実現可能なプロセスを開発する必要がある。
【0004】
トランスオイルの分野では、より小型の変圧器の設置を可能にせしめるであろう、向上された熱伝達特性を提供するソリューションの開発に対するエンドユーザーの要求がある。この目標を達成するためには、変圧器用油のより低い粘度が有効であろう。さらに、エンドユーザーによって、オイルの生分解性が求められている。現在のソリューションは、一般的に、易生分解性の基準を満たさない。
【0005】
特許文献1は、電子機器内に再生可能な炭素源由来のイソパラフィンを含む電気絶縁性流体を含む電子機器の使用に関する。流体は、少なくとも210℃の引火点を有し、および、少なくとも70wt-%のイソパラフィンを含む。
【0006】
特許文献2は、例えばミルセン、オシメン、ファルネセンなどの炭化水素テルペン由来のイソパラフィン系炭化水素ベースの流体などの、バイオ起源のベースオイル誘電性流体に関する。誘電性流体または電気装置のクーラントは、300g/molより大きく、および595g/molより小さい分子量を有するバイオ起源の炭化水素ベースオイルを含む。
【0007】
2015年において、トランスオイルの市場サイズは、約20億ドルを構成し、ここで、90%がミネラルオイル(ナフテン系またはパラフィン系)、5%がシリコンベース、および4%がバイオ起源(再生可能)な製品である。トランスオイルの要求の世界的な成長速度は、年に9%と予測されていた。バイオ起源の代替品のシェアは年に11%の速いスピードで高まっている。2016年の市場評価は、トランスオイルにおいて8%のCAGR(年平均成長率)であり、2023年までに40億USドルのビジネスを総計でもたらすとことを示した(Wise Guys)。
【0008】
航空燃料市場は、3.81%のCAGRで2018~2022年の間、成長すると予想されてきた。IATA(国際航空運送協会)は、気候変動に対する世界的なチャレンジに対処する必要性を認識しており、そして、航空輸送に対してCO2放出を軽減するための一連の野心的な目標を採用した。これを達成するための一つの方法は、持続可能な低級炭素燃料の開発を含む、向上された技術によるであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2014/128227号
【特許文献2】国際公開第2015/142887号
【発明の概要】
【0010】
以下は、本発明のいくつかの例示的な様態の基本的な理解を提供するために、本明細書に開示されている特徴の簡単な要約を示している。これは本発明の鍵となる/必須の要素を同定することや本発明の請求の範囲を描写することを意図しているわけではない。その唯一の目的は、より詳細な説明に先立つ、簡略化された形での本明細書中に開示されている本発明のいくつかの概念を示すことである。
【0011】
一態様によれば、独立クレームの主題が提供される。実施形態は、従属クレームに規定される。
【0012】
一またはそれ以上の実施の例が、添付の図面および以下の明細書においてより詳細に記載される。他の特徴は、明細書の記載および図面、ならびにクレームから明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
以下において、本発明が、添付の図面を参照して、好ましい実施形態によってより詳細に記載されるであろう。
【0014】
図1図1は、例示的なプロセスを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下の実施形態は例示的なものである。明細書は、いくつかの箇所で「一(an)」、「一つの(one)」、または「いくつか(some)」の実施形態と言及するかもしれないが、これは、そのような言及のそれぞれが、同じ実施形態を言及していること、またはその特徴が単一の実施形態にのみ適用されることを必ずしも意味しているわけではない。異なる実施形態の単一の特徴はまた、他の実施形態を提供するために組み合わされ得る。さらに、「含む(comprising)」、「含有する(containing)」、および「含む(including)」との用語は、開示された実施形態が言及されたそれら特徴のみからなるように限定しているものではないと理解されるべきであり、そして、かかる実施形態は、特には言及されていない特徴/構造も含み得るものとして理解されるべきである。
【0016】
本発明は、再生可能な原料またはフィードストックの水素化脱酸素および異性化、続いての分画による、2つのパラフィン系炭化水素生成物、航空燃料成分および電気技術用流体成分の複合生産に関する。航空燃料成分は、好ましくは、水素処理されたエステルおよび脂肪酸(HEFA)燃料成分である。電気技術用流体成分は、好ましくは、トランスオイル成分である。
【0017】
本発明は、再生可能な原料またはフィードストックの水素化脱酸素および異性化、続いての分画による、2つのパラフィン系炭化水素生成物、航空燃料成分および電気技術用流体成分の複合生産のための方法に関する。より特には、本発明は、再生可能な原料の水素化脱酸素および異性化、次いで得られた再生可能なパラフィン系フィードの蒸留による2つの画分への、より軽質な画分は航空燃料成分の仕様を満たし、およびより重質な画分は電気技術用流体の仕様を満たすような、分画を含む、再生可能なパラフィン系生成物の複合生産のための方法を開示する。より軽質な画分は、それがより低い沸点範囲の画分であることを意味し、そして、より重質な画分は、より高い沸点範囲の画分であることを意味する。一実施形態において、航空燃料成分は、水素処理されたエステルおよび脂肪酸(HEFA)であり、および、電気技術用流体成分は、トランスオイルである。
【0018】
航空燃料成分の仕様は、例えば、密度(15℃における)、引火点、凝固点、10%蒸留回収、50%蒸留回収、蒸留最終沸点(FBP)、蒸留残渣、蒸留損失、および/または実在ガムなど、特には少なくとも、密度(15℃)および凝固点など、一またはそれ以上のまたは全てのASTM D7566-17b Annex A2 for HEFA(水素処理されたエステルおよび脂肪酸)の仕様を意味する。電気技術用流体成分のための仕様は、例えば40℃での粘度、-30℃での粘度、流動点、引火点(PM)、水分含有量、絶縁破壊電圧、酸性、20℃での密度、および/または界面張力など、特には少なくとも、40℃での粘度、-30℃での粘度、引火点(PM)および界面張力など、規格IEC 60296-2018の例えば表2一般仕様などの一またはそれ以上のまたは全てを意味する。
【0019】
好ましい実施形態において、分画のための再生可能なパラフィン系フィードは、脂肪酸および/または脂肪酸のエステルを含む再生可能な原料の水素化脱酸素および異性化によって提供される。結果として、再生可能なパラフィン系フィードが、本質的に全ての酸素が除去されて得られる。好ましくは、脂肪酸および/または脂肪酸のエステルは、遊離脂肪酸、例えば脂肪酸モノグリセリド、ジグリセリドおよび/またはトリグリセリドなどの脂肪酸グリセリド、例えば脂肪酸とC1~C5アルコールのエステルなどの脂肪酸エステル、特には脂肪酸のメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチルおよび/またはsec-ブチルエステル、またはそれらの組み合わせを含む、またはそれらから選択される。
【0020】
本明細書において使用される、再生可能または生物学的またはバイオ起源は、再生可能な原料由来の材料の存在を示している。再生可能または生物学的起源の炭素原子は、化石由来の炭素原子と比較して、より多くの量の不安定な放射性炭素(14C)を含む。したがって、再生可能または生物学的な起源または原料由来の炭素化合物と、化石起源または原料由来の炭素化合物とを、12Cおよび14C同位体の比を分析することによって、識別することが可能である。したがって、当該異性体の特定の比が、再生可能な炭素化合物を同定する、および非再生可能な炭素化合物から再生可能な炭素化合物を区分けするための「タグ(tag)」として使用され得る。同位体比は、化学反応のあいだに変化しない。生物学的または再生可能な起源からの炭素の含有量を分析するための適切な方法の例は、DIN 51637(2014)、ASTM D6866(2020)、およびEN 16640(2017)である。
【0021】
プロセス条件の選択(例えば、HEFA成分の収率を増加させるための異性化におけるより高い温度および/またはより長い滞留時間など)および再生可能な原料またはフィードストックの選択(例えば、HEFA成分の収率を増加させるために多くの量のC16以下の炭化水素を提供するように再生可能な原料またはフィードストックを選択することなど)が、該成分の所望の収率比および技術的性能特性を得るために使用され得る。
【0022】
一実施形態において、蒸留のための再生可能なパラフィン系フィードは、再生可能な原料の接触水素化処理および接触異性化によって提供される。
【0023】
別の実施形態において、水素化処理は、接触水素化脱酸素である。
【0024】
再生可能なパラフィン系フィードは、再生可能な(バイオ起源の)原料の水素化脱酸素および異性化によって得られ得る。典型的には、したがって得られる再生可能なパラフィン系フィードは、C8~C22、またはC10~C20の範囲、好ましくはC15~C18の範囲の炭素数分布、および、140℃~340℃の範囲内、好ましくは180℃~320℃の範囲内の蒸留範囲、例えば140℃~340℃または180℃~320℃の蒸留範囲などを有する。再生可能なパラフィン系フィードは、主に、n-パラフィンおよびi-パラフィンを含む。i-パラフィンの量は、生成物画分の所望の特性に到達するように調整され得る。再生可能な航空燃料成分は、上記のプロセスを用いて製造され得る。好ましい実施形態において、航空燃料成分は、水素処理されたエステルおよび脂肪酸(HEFA)を含む。再生可能なパラフィン系フィードは、蒸留工程に付され、したがって2つの成分を与える。HEFAは、軽質な蒸留物として得られる。トランスオイル成分は、蒸留からの重質画分として得られる。いくつかの場合において、原料は、例えばリサイクルされたプラスティック材料などのリサイクルされた材料を含み得る。
【0025】
一実施形態は、再生可能な航空燃料成分および再生可能なトランスオイルの複合生産のための方法を開示する。
【0026】
蒸留プロセスにおいて、再生可能なパラフィン系フィードの曇点および密度は、蒸留物の収率を決定する。航空燃料成分、またはより特にはHEFA成分の収率を最大にするためには、より低い曇点を有する再生可能なパラフィン系フィードが利用され得る。再生可能なパラフィン系フィードの典型的な曇点は、-30℃以下の範囲、または-34℃以下の範囲にあり得るが、これに限定される訳ではない。
【0027】
トランスオイルおよびHEFAの生産能力は、再生可能なパラフィン系の製造プロセスにおけるプロセス条件の選択によって調整され得る。これは、痕跡量の副生成物が製造されることなく、または製造を伴って、これらのパラフィン系生成物を製造するためのコスト効率の高いおよび材料効率の高い方法を提供することを可能にする。例えば、2wt-%未満、またはさらには1wt-%量未満のHEFAよりも軽質である、またはトランスオイルよりも重質である副生成物が生成され得る。これは、2つの画分の収率が、分画に付された再生可能なパラフィン系フィードの量から計算されて、少なくとも98wt-%または少なくとも99wt-%であることを意味している。ある実施形態において、2つの留分の収率は、100wt-%であり得る。
【0028】
より短鎖の炭化水素は、より多くのHEFAおよびより少ないトランスオイルの生成を可能にする。多くの量のトランスオイルは、フィードストックとして多くの量のC17またはそれより長い炭化水素鎖を使用することによって生成される。
【0029】
一実施形態にしたがい、-36℃の曇点(CP)および-32℃の凝固点(FP)を有する再生可能なパラフィン系フィードは、植物(vegetable)(または生物学的)起源であり、さらに2つのカット:IBP-25%および25%-FBPに蒸留され、これはしたがって、まさに2つの生成物、HEFA仕様を満たす一つ(IBP-25%)およびトランスオイルの規格を満たす一つ(25%-FBP)を、他の処理工程を必要とすることなしに得ることを可能にする。25wt-%の収率のHEFA仕様を満たす軽質カット(IBP-25%)が得られ得、および、75wt-%の収率のトランスオイル仕様を満たす重質カット(25%-FBP)が得られ得る。
【0030】
別の実施形態にしたがい、-48℃またはそれより低い曇点(CP)を有する再生可能なパラフィン系フィードは、2つのカット:IBP-88%および88%-FBPに蒸留され得、これはしたがって、2つの生成物のみ、HEFA仕様を満たす一つ(IBP-88%)およびトランスオイルの規格を満たす一つ(88%-FBP)を、他の処理工程を必要とすることなしに得ることを可能にする。88wt-%の収率のHEFA仕様を満たす軽質カット、および、12wt-%の収率のトランスオイル仕様を満たす重質カットが得られ得る。
【0031】
別の実施形態にしたがい、-40℃またはそれより低い曇点(CP)を有する再生可能なパラフィン系フィードは、2つのカット:IBP-77%および77%-FBPに蒸留され得、これはしたがって、2つの生成物のみ、HEFA仕様を満たす一つ(IBP-77%)およびトランスオイルの規格を満たす一つ(77%-FBP)を、他の処理工程を必要とすることなしに得ることを可能にする。
【0032】
再生可能なパラフィン系フィードの曇点および密度は、蒸留物の収率を決定する。典型的には、曇点は、-30℃以下の範囲にあるが、これに限定される訳ではない。HEFA成分の収率を最大にするために、より低い曇点および/または凝固点を有する再生可能なパラフィン系フィードが利用され得る。
【0033】
燃料組成物は、純粋な化合物が単一の沸点をもつのとは反対に、ある温度範囲にわたって沸騰する。沸点範囲は、蒸留生成物の最初の1滴が得られる温度として規定される初留点、IBPから、最も高い沸騰化合物が蒸発する最終沸点、FBPまでのあいだの温度を網羅する。
【0034】
ASTM D86規格である「大気圧における石油製品の蒸留の標準試験方法(Standard Test Method for Distillation of Petroleum Products and Liquid Fuels at Atmospheric Pressure)」およびASTM D7345規格である「石油製品および液体燃料の常圧蒸留のための標準試験方法(マイクロ蒸留法)(Standard Test Method for Distillation of Petroleum Products and Liquid Fuels at Atmospheric Pressure (Micro Distillation Method))」は、液体燃料製品の沸点分布を測定するための蒸留方法を記載している。ASTM D86またはASTM D7345を使用することにより、沸点は、25vol-%蒸留として測定される。沸点はまた、88%または77%蒸留でも規定され得る。
【0035】
一実施形態において、IBP-25%蒸留生成物は、選択され試験された物理的特性の観点からHEFA仕様(ASTM D7566-17b、Annex A2)を満たし、25%-FBP蒸留生成物は、試験された物理的特性の観点からトランスオイル仕様(IEC 60296-2018)を満たす。
【0036】
一実施形態は、2つの高価値な生成物の複合生産のために、再生可能なパラフィン生成プロセスの使用を可能にする。後述されるように、再生可能なフィード材料から最も重質な成分を分画により除いておくことはHEFA製造にとって有益であること、一方、適切な高い引火点という観点から安全性を確保するためにトランスオイル製品から軽質成分を除去しておくことが必要とされることが理解される。
【0037】
一実施形態において、トランスオイルおよびHEFAの製造能力は、再生可能なパラフィン製造プロセスにおけるプロセス条件およびフィードストックの選択によって調整され得る。これは、他の副生成物が製造されることなく、これら生成物を製造するためのコスト効率の高いおよび材料効率の高い方法を発見することを可能にする。
【0038】
一実施形態において、既存のプロセスと比較して、より短鎖の炭化水素(例えば、C8~C22、C10~C20、またはC15~C18の炭化水素)が、分画に付される再生可能なパラフィン系フィードとして使用される。
【0039】
一実施形態において、トランスオイルおよび/またはHEFA製品の低温特性が、再生可能なパラフィン系フィードのより高いイソパラフィン含有量によって向上され得る。
【0040】
例えば動力トランスミッション流体などの特定のハイエンドな適用のために、痕跡量の重質成分または他の不純物を除去するために第2の分画工程によってトランスオイル成分をさらに精製することが有益な場合がある。
【0041】
トランスオイルに加えて、より重質な成分は、例えば、絶縁オイル、伝熱媒体、金属加工油剤、電気乗用車(EV)バッテリー冷却材、ショックアブソーバオイル、またはスイッチギアオイルなどとして使用され得る。
【0042】
プロセスの説明
図1は、例示的なプロセスを示している。図1において、再生可能なパラフィン系フィード101は、蒸留カラム中で蒸留102に付される。再生可能なパラフィン系フィード101の蒸留102の結果、2つの画分103、104が蒸留102から得られる。2つの画分において、より軽質な画分103は、水素処理されたエステルおよび脂肪酸(HEFA)燃料成分のために仕様を満たす蒸留物であり、そしてより重質な画分104(塔底画分であり得る)は、トランスオイルのための仕様を満たす。HEFA燃料成分103は、再生可能なパラフィン系フィード101の初留点から25%蒸留ポイントまでの蒸留のあいだに得られ、ここで、25%蒸留ポイントは、再生可能なパラフィン系フィード101の25vol-%が蒸留された時点で測定される沸点である。トランスオイル104は、再生可能なパラフィン系フィード101の25%蒸留ポイントから最終沸点までの蒸留のあいだに得られ、ここで、25%蒸留ポイントは、再生可能なパラフィン系フィード101の25vol-%が蒸留された時点で測定される沸点である。トランスオイル104は、蒸留102からの塔底画分、または蒸留102からのより重質な画分であり得る。再生可能なパラフィン系フィード101は、再生可能な原料の水素化処理および異性化によって得られる。
【0043】
用語「水素化処理(hydrotreatment)」は、水素分子による有機材料の触媒的プロセスを意味する。好ましくは、水素化処理は、水として、すなわち水素化脱酸素(HDO)によって酸素含有有機化合物から酸素を除去する。追加で/代替的に、水素化処理は、硫化水素(H2S)として、すなわち水素化脱硫(HDS)によって硫黄含有有機化合物から硫黄を除去する、アンモニア(NH3)として、すなわち水素化脱窒素(HDN)によって窒素含有有機化合物から窒素を除去する、および/または、塩酸(HCl)として、すなわち水素化脱塩素(HDCl)によって塩素含有有機化合物からハロゲン、例えば塩素を除去する。
【0044】
例えばトリグリセリドまたは他の脂肪酸誘導体または脂肪酸などの「水素化脱酸素(hydrodeoxygenation)」(HDO)との用語は、触媒の影響下での水素分子による、水としてカルボキシル酸素の除去を意味している。水素化脱酸素は、上述したように、水素化脱硫黄、水素化脱窒素、および/または水素化脱塩素反応が伴っていてもよい。
【0045】
生物学的材料の水素化脱酸素において、および結果として得られるn-パラフィンの異性化において典型的に使用される反応条件および触媒は、周知の技術である。このようなプロセスの例は、フィンランド国特許発明第100248号明細書の実施例1~3、および国際公開第2015/101837号に示されている。
【0046】
用語「脱酸素化(deoxygenation)」は、上述した任意の手段、または脱炭酸、または脱カルボニル化による、例えば脂肪酸誘導体、アルコール、ケトン、アルデヒド、および/またはエーテルなどの有機分子からの酸素の除去を意味している。
【0047】
再生可能な原料
再生可能な原料(または再生可能なオイルおよび/または脂肪)は、オイルおよび/または脂肪を含む、通常は脂質(例えば脂肪酸またはグリセリドなど)を含む、例えば、植物オイル/脂肪、植物オイル/脂肪、動物性オイル/脂肪、海藻オイル/脂肪、魚オイル/脂肪、および、海藻オイル/脂肪またはほかの微生物プロセスからのオイル/脂肪、例えば遺伝子操作された海藻のオイル/脂肪、他の微生物プロセスからの遺伝子操作されたオイル/脂肪、および遺伝子操作された植物オイル/脂肪などを含む、生物学的原料成分由来のフィードストックを意味する。アルキルエステル(典型的にはC1~C5アルキルエステル、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、sec-ブチルエステルなど)またはオレフィンなどのような材料の成分もまた使用され得る。再生可能とは明確に化石起源を排除するが、リサイクルされた化石材料は使用され得る。
【0048】
再生可能なオイルおよび/または脂肪は、単一の種類のオイル、単一の種類の脂肪、種々のオイルの混合物、種々の脂肪の混合物、オイルおよび脂肪、脂肪酸、グリセロールの混合物、および/または上述のものの混合物などを含む。
【0049】
これらのオイルおよび/または脂肪は、典型的には、C10~C24の脂肪酸、および脂肪酸のエステルを含むその誘導体、例えばグリセリド、すなわち脂肪酸のグリセロールエステルなどを含む。グリセリドは、特には、モノグリセリド、ジグリセリドおよびトリグリセリドを含む。好ましくは、再生可能な原料は、C10~C24の脂肪酸および/または脂肪酸エステルを含む。例えば、再生可能な原料は、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも70重量%、より好ましくは少なくとも80重量%、または少なくとも90重量%、または少なくとも95重量%のC10~C24の脂肪酸および/または脂肪酸エステルを含む。
【0050】
再生可能なパラフィン系フィードおよびその調製
再生可能なパラフィン系フィードの調製は、しばしば、再生可能な原料またはフィードのストックからの酸素を除去する反応を含み、これを行うために多くの方針がある。脱酸素は、以下の反応の一または複数を含み得る:
1)水素化脱酸素(HDO)、酸素結合の水素化-H2Oとしての酸素の除去
2)酸素がCO2の形状で除去される脱炭酸、および
3)酸素がCOの形状で除去される脱カルボニル化。
【0051】
水素化脱酸素のためのプロセス条件は、当該技術分野において周知である。例えば、再生可能な原料の水素化脱酸素は、金属硫化物触媒上で行われ得る。金属は、例えばMo、またはWなどの第VI族金属の一または複数、または、例えばCO、またはNiなどの第VIII族非貴金属の一または複数であり得る。触媒は、任意の適切な担体、例えばアルミナ、シリカ、ジルコニア、チタン、無定形炭素、モレキュラーシーブ、またはそれらの組み合わせなどの上に担持されていてもよい。通常、金属は、金属酸化物として担体上に含侵されているかまたは積層されている。それらはその後、典型的には硫黄物に転換される。水素化脱酸素のための典型的な触媒の例としては、アルミナまたはシリカ上に担持された、モリブデン含有の触媒、NiMo、CoMo、または、NiW触媒が挙げられるが、他の多くの水素化脱酸素触媒が当該技術分野においては周知であり、NiMoおよび/またはCoMO触媒と共に、または比較して記載されている。水素化脱酸素は、好ましくは、硫化NiMoまたは硫化CoMo触媒の影響下、水素ガスの存在下で行われる。
【0052】
水素化脱酸素は、10~200barg(bar gauge)の水素圧の下、200~400℃の温度で、および、0.2h-1~10h-1の液空間速度で行われ得る。硫化触媒を使用する水素化脱酸素のあいだ、触媒の硫化状態は、気相中への硫黄の添加によって、または再生可能な原料またはフィードストックに硫黄含有のミネラルオイルがブレンドされたフィードストックを使用することによって、維持され得る。水素化脱酸素に付される総計のフィードの硫黄含有量は、例えば、50wppm(重量あたりppm)~20000wppmの範囲、好ましくは100wppm~1000wppppmの範囲であり得る。
【0053】
水素化脱酸素のための効果的な条件は、再生可能な原料またはフィードストックの酸素含有量を、1wt-%未満、例えば、0.5wt-%未満または0.2wt-%未満に低下させ得る。いくつかの場合において、条件は、少なくとも40wt-%、少なくとも50wt-%、または少なくとも75wt-%の脱酸素化に対応する部分的な水素化脱酸素をもたらすように選択され得る。
【0054】
本発明の再生可能なパラフィン系フィードは、再生可能な原料から任意の周知の方法を用いて得られた水素化処理された再生可能な原料を異性化することによって提供され得る。一般的に、再生可能なパラフィン系フィードは、任意の周知の方法を用いて再生可能な原料から製造され得る。再生可能なパラフィン系フィードを製造するための方法の具体例は、欧州特許出願公開第1741768号明細書に提供されている。また、他の方法が適用されてもよく、特には別のBTL方法、例えばバイオマスのガス化とその後のフィッシャー・トロプシュ法が選択されてもよい。
【0055】
好ましい実施形態において、再生可能な原料から再生可能なパラフィン系フィードを調製することは、再生可能な原料を脱酸素化処理に付すことを含む。大部分の再生可能な原料は、高い酸素含有量を有する材料を含む。一実施形態において、再生可能な原料またはフィードストックは、脂肪酸、または例えばトリグリセリドなどの脂肪酸誘導体、またはそれらの組み合わせを含む。
【0056】
本発明において、脱酸素化方法は、特に限定されず、任意の適切な方法が行われ得る。適切な方法は、例えば、水素化処理、たとえば水素化脱酸素(HDO)、接触水素化脱酸素(接触HDO)、接触分解(CC)、またはそれらの組み合わせである。他の適切な方法は、それら単独、または水素化処理と組み合わされた脱炭酸および脱カルボニル化反応を含む。
【0057】
好ましい実施形態において、再生可能な原料が付される脱酸素化処理は、水素化処理である。好ましくは、再生可能な原料は、好ましくはHDO触媒を用いる水素化脱酸素(HDO)に付される。接触HDOは、酸素を除去する最も一般的な方法であり、非常によく研究されており、そして最適化されている。しかしながら、本発明はそれらに限定されるわけではない。HDO触媒として、担体に担持された水素化金属を含むHDO触媒が使用されてもよい。例えば、Pd、Pt、Ni、Co、Mo、Ru、Rh、Wまたはこれらの組み合わせからなる群より選択される水素化金属を含むHDOなどが例として挙げられる。担体としては、それらのうち、アルミナまたはシリカが適切である。水素化脱酸素は、例えば、100~500℃の温度で、および、10~150bar(絶対単位)で行われ得る。
【0058】
再生可能な原料からの水素化処理された材料の調製は、再生可能な炭化水素原料において炭化水素を接触分解する工程を含んでいてもよい。したがって、再生可能な炭化水素原料の炭素鎖が調整され得、そして、バイオ炭化水素の製造された混合物の生成物分布が関節に制御され得る。
【0059】
異性化処理
本発明の再生可能なパラフィン系フィードは、水素化処理された原料中の少なくとも直鎖の炭化水素を、再生可能なパラフィン系フィードを製造するために異性化処理へと付すことによって提供され得る。再生可能なパラフィン系フィードおよびその製造は上述されている。
【0060】
異性化処理は、水素化処理された原料の、炭化水素鎖の分岐、すなわち異性化を引き起こす。炭化水素の分岐は低温特性を向上させる、すなわち、異性化処理によって形成された異性化組成物は水素化処理された原料と比較してより良好な低温特性を有している。より良好な低温特性は、曇点のより低い温度値を意味する。異性化処理によって形成される異性化炭化水素、またはイソパラフィンは、一または複数の側鎖または分岐を有し得る。
【0061】
異性化工程は、異性化触媒の存在下、および、任意には異性化プロセスに添加される水素の存在下で行われ得る。適切な異性化触媒は、モレキュラーシーブおよび/または周期上の第VIII族から選択される金属または任意には担体を含む。好ましくは、異性化触媒は、SAPO-11、またはSAPO-41、またはZSM-22、またはZSM-23、またはFernerite、およびPt、Pd、またはNi、およびAl23、またはSiO2を含む。典型的な異性化触媒は、例えば、Pt/SAPO-11/Al23、Pt/ZSM-22/Al23、Pt/ZSM-23/Al23、およびPt/SAPO-11/SiO2などである。触媒は単独または組み合わせて使用され得る。添加された水素の存在は、触媒の不活性化を減少させるために特に好ましい。好ましい実施形態において、異性化触媒は、貴金属二元機能触媒、例えばPt-SAPOおよび/またはPt-ASM触媒などであり、これは水素と組み合わせて用いられる。異性化工程は、例えば、200~500℃、好ましくは280~400℃の温度で、および、10~150bar、好ましくは30~100bar(絶対単位)の圧力で行われ得る。異性化工程は、さらに、精製工程および分画工程などの中間工程を含んでいてもよい。異性化は、300~350℃などで行われ得る。
【0062】
因みに、異性体処理は、水素化された原料を異性化するために主に作用する工程である。すなわち、多くの熱的または触媒的転換(例えばHDO)が少量の異性化(通常5%未満)をもたらす一方、本発明において適用され得る異性化工程は、イソパラフィンの含有量を顕著な増大をもたらす。
【0063】
したがって、再生可能な原料は、再生可能なパラフィン系フィードを得るために、水素および水素化脱酸素触媒の存在下で少なくとも水素化脱酸素反応に、および、異性化触媒の存在下で異性化反応に付され得る。水素化脱酸素工程および異性化工程が適用される場合、これらは同時に、または順番に行われ得る。水素化脱酸素反応は、水素ガスおよび例えばアルミナ担体、ゼオライト担体、またはそれらが混合された担体の上の例えばCoMO、NiMo、NiW、CoNiMoなどの水素化脱酸素触媒の存在下行われ得る。水素化脱酸素反応は、例えば、250~400℃の範囲の温度で、および、20~80barの範囲の圧力で、および0.5~3h-1の範囲のWHSV(重量空間速度、すなわちフローの質量/触媒の質量)で、および、350~900nL/Lの比のH2/oilで、例えば任意にはアルミナ担体に担持されていてもよい、NiMoなどの触媒を使用して、行われ得る。
【0064】
水素化脱酸素工程の生成物、すなわち水素化処理された再生可能な原料は、水素および異性化触媒の存在下で異性化工程へと付され得る。異性化触媒は、Pt-SAPOまたはPt-ZSM触媒などの貴金属二元機能触媒またはNiWであり得る。異性化反応は、例えば、250~400℃の温度で、および、10~60bargの圧力で行われ得る。異性化反応は例えば、250~400℃の温度で、および、10~60bargの圧力で、0.5~3h-1の範囲のWHSVで、および100~800nL/Lの比のH2/oilで行われ得る。
【0065】
水素化脱酸素および水素化異性化工程は、この複合工程のための単一の触媒、例えばNiW、または例えばアルミナ上のNiMoなどの担体に担持されたMo触媒を混合され例えばPt/SAPOなどのPt触媒などを用いた同一の触媒床上で、単一の工程で行われ得る。
【0066】
水素化処理工程および異性化工程は、同一のリアクタ内で行われ得る。代替的には、水素化処理工程および異性化工程は、別個のリアクタ内で行われてもよい。
【0067】
航空燃料成分および/または電気技術用流体成分の低温機能は、異性化の調整を介して再生可能なパラフィン系フィードのイソパラフィン含有量を高めることによって改良され得る。異性化温度は、例えば330~340℃などの温度範囲のより高い方から選択され得、これによって分解傾向が高められる。さらに、得られた成分の密度および引火点は、異性化後のより軽質な成分のリフラックス速度を上げることによって低下され得る。異性化からの流体の流出は、安定化された再生可能なパラフィン系フィードおよびナフサ範囲(C4~C8)の炭化水素を含む塔頂画分を得るために、好ましくは異性化と比較してより低い圧力で、安定化カラム内での安定化に導入され得る。安定化された再生可能なパラフィン系フィードは、次いで、分画に付される。安定化からの塔頂画分が回収され得、そして、ガソリン成分として使用され得、好ましくは、少なくとも一部の塔頂画分が、リフラックスのために安定化カラムへと戻されリサイクルされ得る。したがって、好ましくは本発明において、再生可能なパラフィン系フィードは、水素化脱酸素および異性化の後、異性化の圧力よりも低い圧力で、安定化カラム内で安定化処理に付される。リフラックスに使用されるナフサ範囲の炭化水素のリサイクルされる量は、安定化カラムの塔頂で形成されたナフサ範囲にある炭化水素の80wt-%以上、好ましくは90wt-%以上、例えば、90~95重量%であり得る。高いリサイクル量が、次の、軽質および重質画分の分離を助け、そして、得られる航空燃料および電気技術用流体成分の収率を上昇させる。当然、より高温のリフラックスはより高いフローのための装置の調整を必要とする。したがって、本発明にしたがって好ましくは、安定化のあいだナフサ範囲(C4~C8)にある炭化水素を含む塔頂画分が得られ、そして、安定化カラムの塔頂で形成されるナフサ範囲の炭化水素の80wt-%以上、好ましくは90wt-%以上、例えば90~95wt-%が、リフラックスのために安定化カラムに戻されてリサイクルされる。
【0068】
一実施形態において、トランスオイルであって、水素化処理されおよび異性化処理された再生可能なパラフィン系フィードをフィードストックとして使用することにより再生可能なパラフィン系フィードから製造されるトランスオイルが開示される。トランスオイルは、12mm2/sまたはそれ以下、典型的には3.4mm2/sであるISO-3104-1996で測定された40℃での粘度、1800mm2/sまたはそれ以下、典型的には42.2mm2/sであるISO-3104-1996で測定された-30℃での粘度、少なくとも135℃、典型的には138.5℃であるISO-2719-2016で測定された引火点(PM)、0.01mg KOH/gまたはそれ以下、典型的には0.001mg KOH/g未満であるISO-3104-1996で測定された-30℃での酸度を有する。トランスオイルは、上述した製造方法の組み合わせによって得られてもよい。しかしながら、複合製造方法の使用は、絶対的なものではなく、その代わり、トランスオイルは他のトランスオイル製造方法によって製造されていてもよい。
【0069】
再生可能なパラフィン系生成物の複合製造のための方法は、脂肪酸および脂肪酸のエステルを含む再生可能な原料の水素化脱酸素および異性化によって再生可能なパラフィン系フィードを提供すること、および、再生可能なパラフィン系フィードを2つの画分に分画することを含む。2つの画分のうち、より軽質の画分は、HEFA(水素処理されたエステルおよび脂肪酸)のためのASTM D7566-17b、Annex A2の航空燃料成分のための仕様を満たし、および、より重質の画分は、IEC 60296-2018規格のトランスオイル仕様成分のための仕様を満たす。2つの画分の複合収率は、分画に付された再生可能なパラフィン系フィードの少なくとも98wt-%であり、そして、2つの画分の総計の重量に対するより軽質な画分の収率は20~90wt-%であり、2つの画分の総計の重量に対するより重質な画分の収率は10~80wt-%である。
【0070】
一実施形態において、より軽質な画分は、ASTM D4052-2016にしたがって15℃で測定されて、最大で772kg/m3、好ましくは730~772kg/m3である密度、および、IP529-2016にしたがって測定されて、-40℃より低い凝固点を含む、HEFAのためのASTM D7566-17b、Annex A2の航空燃料成分のための仕様を満たす。
【0071】
一実施形態において、より軽質な画分は、水素処理されたエステルおよび脂肪酸(HEFA)のためのASTM D7566-17b、Annex A2の全ての仕様を満たしている航空燃料成分である。
【0072】
一実施形態において、より重質な画分は、ISO-3104-1996にしたがって測定されて、12mm2/sまたはそれより低い、典型的には3.4mm2/sである40℃での粘度、1800mm2/sまたはそれより低い、典型的には42.2mm2/sであるISO-3104-1996にしたがって測定された-30℃での粘度、少なくとも135℃、典型的には138.5℃であるENISO-2719-2016にしたがって測定された引火点(PM)、0.01mg KOH/gまたはそれより低い、典型的には0.001mg KOH/g未満である酸度を含むIEC 60296-2018規格の電気技術用流体成分のための仕様を満たす。
【0073】
一実施形態において、より重質な画分は、規格IEC 60296-2018の表2の一般仕様を全て満たしているトランスオイルである。
【0074】
一実施形態において、分画は蒸留によって提供される。
【0075】
一実施形態において、2つの画分の複合収率は、分画に付された再生可能なパラフィン系フィードの少なくとも99wt-%、または100wt-%である。
【0076】
一実施形態において、異性化は、触媒異性化、好ましくは触媒水素化異性化である。
【0077】
一実施形態において、より軽質な画分の製造能力およびより重質な画分の製造能力は、例えば温度および/または異性化の滞留時間などの水素化脱酸素および異性化の条件の選択によって、および/または、再生可能な原料の選択によって、調整される。
【0078】
一実施形態において、より軽質な画分の製造能力およびより重質な画分の製造能力は、再生可能なパラフィン系フィードの曇点および/または密度の選択によって調整される。
【0079】
一実施形態において、水素化脱酸素は、10~200barg(bar gauge)の水素圧の下、200~400℃の温度で、および、0.2h-1~10h-1の液空間速度で行われる。
【0080】
一実施形態において、異性化は、200~500℃、好ましくは280~400℃の温度で、および、10~150bar(絶対単位)、好ましくは30~100barの圧力で行われる。
【0081】
一実施形態において、再生可能なパラフィン系フィードは、水素化脱酸素および異性化の後、安定化された再生可能なパラフィン系フィードおよびナフサ範囲(C4~C8)の炭化水素を含む塔頂画分を得るために、異性化の圧力より低い圧力で、安定化カラム内での安定化処理に付され、その後、安定化された再生可能なパラフィン系フィードは、分画に付され、および、任意には、少なくとも一部の塔頂画分が、回収され、およびリフラックスのために安定化カラムへと戻されリサイクルされる。好ましくは、安定化カラムの塔頂で形成されたナフサ範囲にある炭化水素の80wt-%以上、好ましくは90wt-%以上、例えば、90~95重量%の量が、リフラックスのために安定化カラムに戻されてリサイクルされる。
【0082】
一実施形態において、再生可能なパラフィン系フィードの曇点は、EN23015-1994にしたがって測定されて、-30℃またはそれより低い、-34℃またはそれより低い、-40℃またはそれより低い、または-48℃またはそれより低い。
【0083】
一実施形態において、より軽質な画分の収率は、2つの画分の総計の重量の70~90wt-%であり、より重質な画分の収率は、2つの画分の総計の重量の10~30wt-%である。
【0084】
一実施形態において、再生可能なパラフィン系フィードは、C8~C22炭化水素、C10~C20炭化水素、またはC15~C18炭化水素を含む。
【0085】
一実施形態において、再生可能なパラフィン系フィードは、140℃~340℃の範囲内、好ましくは180℃~320℃の範囲内の蒸留範囲、140℃~340℃または180℃~320℃の蒸留範囲などを有する。
【0086】
一実施形態において、より軽質な画分は、一または複数の酸化防止剤と混合されることによって安定化される。
【0087】
一実施形態において、1~50vol-%、好ましくは3~50vol-%の軽質成分;99~50vol-%、好ましくは97~50vol-%の化石航空燃料成分;および任意には、酸化防止剤、金属不活性化剤、および燃料システム氷結防止剤、および/または、導電性向上剤、漏れ検知添加剤、殺生物添加剤、腐食防止剤および潤滑性向上剤より選択される一または複数の航空燃料取り扱いおよびメンテナンス添加物から選択される一または複数の航空燃料性能促進添加剤が、最終的な航空燃料組成物を得るためにブレンドされる。
【0088】
実施例1
植物起源のならびに-36℃の曇点および-32℃の凝固点を有する再生可能な原料またはフィードストックの水素化脱酸素および異性化によって製造される再生可能なパラフィン系生成物が、2つのカット:IBP-25%および25%-FBPに蒸留され、したがって、2つ(だけ)の生成物が得られ、他の処理工程を必要とすることなし、このうち一つはHEFA仕様を満たし、および一つはトランスオイルの規格を満たした。
【0089】
蒸留は、15リットルバッチを用いることにより研究室スケールのバッチ蒸留によって行われた。蒸留による正確な収率は、
初留点ポイント~25%蒸留ポイント:25%、
25%蒸留ポイント~最終沸点ポイント:75%。
【0090】
表1において、蒸留結果25%-FBPは、IEC 60296-2018規格(Fluids for electrotechnical applications - unused mineral insulating oils for transformers and switchgear)に定義されるトランスオイルにおける蒸留生成物の使用性を規定する主要パラメータを参照している。25%-FBP生成物は、表1に示されるように、試験された主な物理特性の点でトランスオイル規格(IEC 60296-2018)を満たしていた。界面張力については、IEC 60296-2018に、一般的な要件として使用される場合、最低40mN/mの限度が推奨されると記載されている。この要件もまた、表1に示されるように満たされている。
【0091】
【表1】
【0092】
表2に示されている結果は、IBP-25%蒸留生成物が、表2に示されるように、選択された試験された物理的特性の観点からHEFA仕様(ASTM D7566-17b Annex A2)を満たしたことを示している。最大で772kg/m3(ASTM D4052-2016にしたがって15℃で測定)の密度要件は、実施された蒸留で達成された(フィードの密度は、ASTM D4052-2016にしたがって15℃で測定して、779kg/m3であった)。-40℃より低い凝固点が達成された。表2において、IBP-25%の蒸留結果は、ASTM D7566-17b Annex A2に定義される航空燃料成分としての蒸留生成物の使用性を規定する主要パラメータを参照している。
【0093】
【表2】
【0094】
軽質蒸留物が航空燃料を目的としていることを考慮すると、最大で772kg/m3(ASTM D4052-2016にしたがって15℃で測定)の密度要件は、実施された蒸留で達成された(再生可能なパラフィン系フィードの密度は、ASTM D4052-2016にしたがって15℃で測定して、779kg/m3であった)。
【0095】
-40℃より低い凝固点が達成された。
【0096】
実施例2
植物起源のおよび-40℃の曇点を有する再生可能な原料またはフィードストックの水素化脱酸素および異性化によって製造される、高度に異性化された再生可能なパラフィン系生成物が、2つのカット:HEFA仕様を満たす一つ、およびトランスオイルの規格を満たす一つに蒸留された。
【0097】
蒸留は、15リットルバッチを用いることにより研究室スケールのバッチ蒸留によって行われ、ここで、高度に異性化されたバッチが、2つの所望の生成物を表しているIBP-77%および77%-FBPの2つの画分に蒸留された。分画は薄膜エバポレーターを用いて行われた。
【0098】
選択された試験された物理特性の結果に対するトランスオイル規格(IEC 60296-2018)が表3に示されている。
【0099】
出発材料の高度な異性化の程度が、-30℃での粘度を検出することができるために規格によって設定されている-30℃よりも顕著に低い曇点を持つ重質蒸留物を可能にした。したがって、製品の低温始動性能が向上された。
【0100】
【表3】
【0101】
表4に示されている結果は、IBP-77%蒸留生成物が、表4に示されるように、選択された試験された物理的特性の観点からHEFA仕様(ASTM D7566-17b Annex A2)を満たしたことを示している。最大で772kg/m3(ASTM D4052-2016にしたがって15℃で測定)の密度要件は、実施された蒸留で達成された(フィードの密度は、ASTM D4052-2016にしたがって15℃で測定して、779kg/m3であった)。-40℃より低い凝固点が達成された。表4において、IBP-77%の蒸留結果は、ASTM D7566-17b Annex A2に定義される航空燃料成分としての蒸留生成物の使用性を規定する主要パラメータを参照している。
【0102】
【表4】
【0103】
軽質蒸留物が航空燃料を目的としていることを考慮すると、最大で772kg/m3(ASTM D4052-2016にしたがって15℃で測定)の密度要件は、実施された蒸留で達成された(再生可能なパラフィン系フィードの密度は、ASTM D4052-2016にしたがって15℃で測定して、779kg/m3であった)。-40℃より低い凝固点が達成された。
【0104】
技術の進歩に伴い、本発明の概念は様々な方法で実施され得ることは、当業者にとって明らかであろう。本発明およびその実施形態は、上述した実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内で種々の変更が可能である。
図1
【国際調査報告】