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特表2023-502911ジルコニウムで被覆されたインプラント部材およびその使用
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  • 特表-ジルコニウムで被覆されたインプラント部材およびその使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-26
(54)【発明の名称】ジルコニウムで被覆されたインプラント部材およびその使用
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/30 20060101AFI20230119BHJP
   A61L 27/40 20060101ALI20230119BHJP
   A61L 27/06 20060101ALI20230119BHJP
   A61L 27/04 20060101ALI20230119BHJP
   A61F 2/32 20060101ALI20230119BHJP
【FI】
A61L27/30
A61L27/40
A61L27/06
A61L27/04
A61F2/32
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022527672
(86)(22)【出願日】2020-11-13
(85)【翻訳文提出日】2022-07-07
(86)【国際出願番号】 EP2020082135
(87)【国際公開番号】W WO2021094583
(87)【国際公開日】2021-05-20
(31)【優先権主張番号】19208824.3
(32)【優先日】2019-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591151602
【氏名又は名称】ヴァルデマール・リンク・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Waldemar Link GmbH & Co. KG
(74)【代理人】
【識別番号】110002516
【氏名又は名称】弁理士法人白坂
(72)【発明者】
【氏名】チャサール リヒャルト
(72)【発明者】
【氏名】リンク ヘルムート デー
【テーマコード(参考)】
4C081
4C097
【Fターム(参考)】
4C081AB05
4C081BA15
4C081CG03
4C081CG04
4C081CG08
4C081DA01
4C081DC06
4C081EA06
4C081EA13
4C097AA04
4C097BB01
4C097CC02
4C097CC03
4C097CC13
4C097CC16
4C097DD10
4C097SC01
(57)【要約】
本開示は少なくとも1つの接続部分(30、60)を有するインプラント部材(10、20)に関し、接続部分はZrコーティングで少なくとも部分的にコーティングされ、コーティングは1~20μm、好ましくは1~6μmの厚さを有する。本開示はさらに、インプラント部材を備えるモジュール内部人工器官、隙間腐食および/またはフレッティング腐食を防止するためのZrコーティングの使用、ならびに金属アレルギーに罹患している患者におけるインプラント部材の使用に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの接続部分(30、60)を有するインプラント部材(10、20)であって、接続部分(30、60)はZrコーティングで少なくとも部分的にコーティングされ、コーティングは1~20μm、好ましくは1~6μmの厚さを有する、インプラント部材。
【請求項2】
前記コーティングが、3~6μm、好ましくは3~5μmの厚さを有する、請求項1に記載のインプラント部材(10、20)。
【請求項3】
前記接続部分(30、60)が、雌コーンおよび/または雄コーンを有する、請求項1または2に記載のインプラント部材(10、20)。
【請求項4】
前記接続部分(30、60)が回転対称である、請求項1~3のいずれか1項に記載のインプラント部材(10、20)。
【請求項5】
前記インプラント部材(10、20)が、金属合金、好ましくはチタン系合金またはコバルト系合金を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のインプラント部材(10、20)。
【請求項6】
前記インプラント部材(10、20)がCoCr合金を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のインプラント部材(10、20)。
【請求項7】
前記インプラント部材(10、20)が、人口器官シャフト(10)、中間部品、またはジョイントヘッド(20)である、請求項1~6のいずれか1項に記載のインプラント部材(10、20)。
【請求項8】
Zrコーティングが、少なくとも90原子%、好ましくは少なくとも97原子%、特に好ましくは少なくとも99.5原子%のZr含有量を有する、請求項1~7のいずれか1項に記載のインプラント部材(10、20)。
【請求項9】
前記コーティングが、物理気相堆積プロセスによって、または電気めっきプロセスによって適用される、請求項1~8のいずれか1項に記載のインプラント部材(10、20)。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の第1のインプラント部材(10、20)を、少なくとも1つ、好ましくは正確に1つ有するモジュール内部人工器官。
【請求項11】
対応接続部分を有する第2のインプラント部材をさらに含み、前記対応接続部分は、前記第1のインプラント部材(10、20)の前記接続部分(30、60)と嵌合するように具体化され、前記対応接続部分は好ましくはZrコーティングを有さない、請求項10に記載のモジュール内部人工器官。
【請求項12】
前記第1のインプラント部材は雄コーンとして具体化された接続部分(30)を有する人口器官シャフト(10)であり、前記第2のインプラント部材は、雌コーンとして具体化された対応接続部分(60)を有するジョイントヘッド(20)である、請求項11に記載のモジュール内部人工器官。
【請求項13】
インプラント部材(10、20)の接続部分(30、60)上の腐食を防止するためのZrコーティングの使用であって、コーティングは1~20μm、好ましくは1~6μm、特に好ましくは3~5μmの厚さを有し、前記インプラント部材(10、20)が、好ましくは請求項1~9のいずれか1項に記載のインプラント部材(10、20)であるZrコーティングの使用。
【請求項14】
金属アレルギー患者における股関節置換としての、請求項1~9のいずれか1項に記載のインプラント部材(10、20)または請求項10~12のいずれか1項に記載のモジュール内部人工器官の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示は、さらなるインプラント部材に接続するための接続部分を有するインプラント部材に関し、少なくとも1つのインプラント部材を有するインプラントに関する。本開示はまた、インプラント部材またはインプラントの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
内部人工器官(endoprostheses)、例えば股関節内部人工器官(hip endoprostheses)は、モジュール構造を有することができ、すなわち、それらは、互いに別々に選択することができる少なくとも2つの部材から構成される。この構造によって、人工器官(prostheses)は、患者の個々の要件に対する高度の適合性を得られる。
【0003】
患者の個々の要件としては例えば、特定の寸法、幾何学的形状、材料の組み合わせ、および/または締結機構が挙げられる。モジュール人工器官の使用によって、あらゆる可能性の交換のためにインプラントをストックしまたは個々に製造する必要なしに、多数の要件を考慮に入れることが可能となる。
【0004】
モジュール内部人工器官の個々のインプラント部材は、内部人工器官またはインプラントを形成するために接続部分(connecting portions)を使用して組み立てることができる。特に、コーン接続部(Cone connection)は、これらの場合にその価値が証明されている。例えば、コーン接続部は、実質的に円錐形の突出部(雄コーン)と、テーパ部(雌コーン)を有する開口部とを有することができる。雄コーンおよび雌コーンはそれぞれ、突出部が開口部に挿入されるとき(すなわち、インプラント部材が接続されるとき)に一致する円錐軸を有する。したがって、コーン接続部も自己センタリング(self-centering)である。
【0005】
雄コーンが雌コーンに導入され、力が円錐軸の方向にインプラント部材に加えられると、これは、円錐軸に対する雌コーンの半径方向に指向する弾性的膨張と、雄コーンの圧縮とをもたらす。膨張および圧縮から生じる回復力は、次いで、クランプ力(clamping force)を発生させ、このクランプ力は自己ロック中に、インプラント部材の摩擦接続(frictional connection)をもたらす。
【0006】
このようなコーン接続部は例えば、股関節内部人工器官において提供される。単純なモジュール股関節内部人工器官は例えば、人工器官シャフトと大腿骨頭(ジョイントヘッド)との間にそのような接続を有する。さらに、患者の生体構造へのより良好な適合を容易にするために、人工器官シャフトと大腿骨頭との間に配置された中間部品を有する多数のモジュール股関節内部人工器官が知られている。この場合、例えば、人工器官シャフトおよび中間部品および/または中間部品および大腿骨頭は、上述のようなコーン接続部に接続され得る。
【0007】
しかしながら、上述したモジュール内部人工器官では、隙間腐食(crevice corrosion)および/または摩擦腐食(friction corrosion)(技術用語:フレッティング(fretting)またはフレッティング腐食(fretting corrosion))がコーン接続部において発生し得ることが示されている。特に、この現象は、インプラント部材の接触面、すなわち、雄コーンの側面および雌コーンの内周面に影響を及ぼす。
【0008】
このような腐食現象は、インプラントの致命的な破損につながることがある。この破損は特に、雄コーンが破断するときに生じる。2つのインプラント部材の接続表面間の微小運動および結果として生じる応力が、腐食の原因であることが見出されることがある。腐食は、インプラント材料の表面上の不動態層の裂け目および/または摩耗の形態で現れることがある。腐食現象は、金属-金属ペアリングだけでなく、例えば、金属シャフトおよびセラミックヘッドを有する股関節内部人工器官のような金属-セラミックペアリングにおいても発生し得ることに留意されたい。
【0009】
さらに、このようなコーン接続部は、上述した原則に従って機能するが、製造上の理由によりコーンの全長にわたって接続が行われないと推測される。例えば、コーン接続部は、主として近位領域、すなわちテーパコーンの端部に確立されることが分かった。その結果、表面の応力が高くなり、これらの応力が上述した腐食現象を促進する。この影響は、コーン接続部が一般に機械加工、特に旋削加工によって生成されるという事実によっても増幅される。これにより、マイクロメートル範囲に特徴的な波状表面が作製される。これはまた、コーン接続部において応力ピークおよび局部的変形を引き起こす可能性がある。
【0010】
上述の材料破損に加えて、上述の腐食現象はまた、規則的に、金属イオン、金属酸化物、金属有機リン酸塩、および/または小さい金属粒子の放出をもたらし、これは、次に、機械的摩耗現象を増大させる。その結果、患者は、痛み、内部人工器官の無菌的な弛み、および/または周囲組織に対する負の結果を経験することがある。したがって、これは、特に、金属化、すなわち、組織内での摩耗粒子の非天然発生につながる可能性がある。この結果の1つとして、いわゆる偽腫瘍(pseudotumors)の発生が考えられる。また、アレルギー反応の可能性もあり、人工器官の修正が必要になることもあります。
【0011】
過去には、上述した問題に対処するために、構造的および製造上の対策がとられることがあった。例えば、より精密な製造方法を使用するか、または適合された接触表面形状を使用して、腐食現象の程度を低減する試みがなされた。また、独国特許出願公開第102014206151号明細書A1は、コーティングされていない接続部よりも腐食を受けにくい、TiNbコーティングを有するコーン接続部を開示している。
【0012】
考慮される別の選択肢は、インプラント部材の摩耗特性を改善するための窒化物コーティングの使用であった。これらは、例えば、内部人工器官の滑り面に使用される。しかしながら、そこでは、接続部とは異なる摩耗条件が優勢であることが分かってきた。これは、窒化物コーティングがここで満足のいく結果をもたらさなかった1つの理由であり得る。
【0013】
コーティングの有無にかかわらず、接続部分において早期破損も摩耗材料との相互作用も抑制することができないため、これまで達成されたレベルを超える腐食現象をさらに低減する努力は依然として継続中である。
【発明の概要】
【0014】
本開示の基礎となる目的は、上述の問題を打ち消し、接続部分を有するインプラント部材の改良、特に、隙間腐食および/または摩擦腐食(フレッティング腐食)に関する改良をもたらすことである。この目的は、請求項1に記載のインプラント部材、請求項10に記載のモジュール内部人工器官、請求項13に記載の使用、および請求項14に記載の使用によって達成される。好ましい実施形態は、従属クレームにおいて特定される。
【0015】
本開示によるインプラント部材は、Zrコーティングで少なくとも部分的にコーティングされた少なくとも1つの接続部分を有する。好ましくは、接続部分全体がZrコーティングでコーティングされる。少なくとも、別のインプラント部材の対応接続部分(connecting portion counterpart)の表面と接触するように設計された接続部分の表面は、Zrコーティングでコーティングされることが特に好ましい。
【0016】
Zrコーティングは、1μm~20μm、好ましくは1μm~6μmの厚さを有する。本発明の文脈において、Zrは元素ジルコニウム(周期表において原子番号40を有する元素)であるが、ジルコン(Zr[SiO4])または他のジルコニウムベースの鉱物またはセラミックではない。本開示によれば、不動態層の形態でZrコーティングの表面上に形成することができるジルコニウムベースの酸化物は、Zrコーティングと関連付けられる。
【0017】
上述のインプラント部材は、従来技術と比較して、接続部分の領域における隙間腐食および/または摩擦腐食に対する感受性を著しく低減することに関連し得る。この特性は主に、コーティング材料(Zr)の選択と層の厚さとの組み合わせによるものである。
【0018】
以下に説明する測定方法により、Zrコーティングを有する接続部分(開示による層厚を有する)は例えば、チタン-ニオブ(TiNb)を有する接続部分またはコバルト系合金(例えば、CoCrMo)を具体化した接続部分よりも、隙間腐食および/または摩擦腐食(フレッティング腐食)の影響を著しく受けにくいことが示された。
【0019】
隙間腐食および/または摩擦腐食(フレッティング腐食)に対する感受性が低いため、Zrコーティングの表面上の不動態層は、他の金属コーティングまたは材料の不動態層よりも著しく安定であると考えられる。さらに、以前の研究は高度の生体適合性を示し、これは特にアレルギー反応を予防する。
【0020】
さらに、腐食に対するZrコーティングの低い感受性は、このコーティングの機械的性質によるものと推定される。特に、コーティングは十分な延性(ductility)を有する。その結果、接続部分でのより均一な接触が可能となり、したがって応力ピークの減少がある。これは、例えば、上述の製造関連の波状表面構造の場合に有利である。
【0021】
本開示によるインプラント部材のZrコーティングの層厚は、好ましくは3μm~6μm、特に好ましくは3μm~5μmである。
【0022】
目的は、機械的荷重に耐えるコーティングが達成されるほど十分に高い層の厚さを選択することである。同時に、厚すぎるコーティングを選択しないことが望ましく、その結果、接続領域の表面間に安定した摩擦接続が達成される。
【0023】
大きな厚さのZr層を製造することは、コストの増加につながる。一方、層が薄すぎると、所望の効果(隙間腐食および/または摩擦腐食に対する感受性を低減する)が、永久的かつ再現性良く達成されない場合がある。上述の(特に)好ましい層厚は、維持可能な低い生産コストに関連し、同時に、既知のコーティングと比較して、隙間腐食および/または摩擦腐食に対する接続部分の感受性を低減することを可能にする。したがって、上述の層の厚さは、製造コストおよび所望の効果の発生に関する多次元最適化問題の解決策と考えることもできる。
【0024】
本開示によるインプラント部材は、雌コーンおよび/または雄コーンで具体化された接続部分を有していてもよい。雌および/または雄コーンは、好ましくは回転対称である。
【0025】
コーン接続部は、そのくさび留め特性のために自己安定性であると考えることができる。さらに、それは、比較的低い製造コストによって特徴付けられ、嵌合面の正確な製造を可能にする(例えば、0.1mm未満、0.05mm未満、または0.01mm未満の同心度公差を有する)。このような幾何学的形状で達成できる高い製造精度の結果として、嵌合面間の自由体積の量を最小限に減らすことができる。このため、コーン接続部を介して伝達される力は、均等に分配される。応力ピークは防止される。
【0026】
コーン接続部が回転対称に具体化される場合、手術外科医は、インプラントが挿入されるときにインプラントを整列させるためのより大きな自由度、具体的には円錐軸の周りの回転の自由度を有する。特定のインプラントでは、この回転の自由度によって、インプラントの幾何学的形状を患者の幾何学的形状に迅速かつ容易に適合させることができる。
【0027】
コーン接続部の代替として、接続部分は例えば、軸平行円筒として、および/または軸平行穴として設計することができる。接続部分が別のインプラント部材に接続される場合、軸平行円筒および/または軸平行穴は例えば、プレスフィットまたはトランジションフィット(例えば、H7p6またはH7n6)を備えた嵌合システムの一部とすることができる。
【0028】
接続部分はまた、停止面を有する停止部を有することができ、停止面は例えば、円錐軸または円筒軸に対して本質的に垂直であることができ、または円錐軸または円筒軸に対してある角度をなしていることができる。停止面は、好ましくは円錐軸または円筒軸に対して本質的に回転対称に具体化される。
【0029】
本開示によるインプラント部材は、金属合金、例えば、チタン系合金またはコバルト系合金を含むことができる。インプラント部材は、好ましくは実質的に金属合金、例えば、チタン系合金またはコバルト系合金から作製される。換言すれば、Zrコーティングは、好ましくは前述の合金のうちの1つから本質的に形成されるインプラント部材の接続部分に適用される。特に、本開示によるインプラント部材は例えば、約62~66重量%のコバルト、約27~31重量%のクロム、および4~5重量%のモリブデンを含有するCoCr鋳造合金を有することができる。しかしながら、このような合金は、少量の炭素、ケイ素、マンガン、鉄、および/または他の付随する元素(例えば、ISO5832-4、ASTM F75による)を含有することもできる。インプラント部材に使用できる金属合金の他の例は、CoCr鍛造合金(例えば、ISO5832-12による)、スチール合金(例えば、ISO5832-1による)、またはチタン合金(例えば、ISO5832-3またはISO5832-11による)である。
【0030】
しかしながら、インプラント部材は、他の材料、例えば、セラミックまたはある種のプラスチックを有することもでき、またはこれらの材料のうちの1つ以上から実質的に作製することもできる。セラミック材料としては、例えば、アルミニウム、チタン、ジルコニウムおよび/またはマグネシウム系のセラミックを用いることができる。UHMW-PE、PP、PEEK、またはPOMなどの種類のプラスチックも使用可能である。
【0031】
言及された金属材料は例えば、優れた生体適合性と組み合わされた高い機械的強度を提供する。加えて、特にチタン合金は、優れた骨組織内成長挙動を示すことが知られている。言及したセラミック材料は、疲労強度の点で利点を持つことができる。上記の種類のプラスチックは、有利な滑り特性、有利な耐衝撃性、有利な高い延性、および/または重量による優れた強度特性を有することができる。
【0032】
本開示によるインプラント部材は例えば、人工器官シャフト、中間部品、またはジョイント部材、特にジョイントヘッドであり得る。インプラント部材は例えば、股関節置換人工器官、膝関節置換人工器官、肘関節置換人工器官、肩関節置換人工器官、または足、手、もしくは指の関節置換人工器官の一部として使用されるように具体化され得る。
【0033】
本開示によるインプラント部材の場合、Zrコーティングは例えば、少なくとも90原子%のZr含有量を有することができる。Zrコーティングは、好ましくは少なくとも94原子%、特に好ましくは少なくとも99.5原子%のZr含有量を有する。これらの数字は、物質の割合として理解されるべきである。コーティングが高度の純度を有する場合、例えば、上記のZr比率である場合、隙間腐食および/または摩擦腐食に対する感受性の減少は、特に顕著であり得る。
【0034】
本開示によるインプラント部材の場合、コーティングは、物理気相堆積プロセスを使用して、または電気めっきプロセスを使用して適用することができる。電気めっきプロセスは、他のプロセスよりもコスト上の利点を有することができる。気相堆積法(例えば、PVD法)は、所望の層厚を維持することにおいて高い精度を特徴とする。例えば、±20%以下の偏差(目標層厚さに対する)は、PVDプロセスで達成することができる。特に、複雑な幾何形状が与えられても、気相堆積プロセスで製造することによって非常に均一な厚さを得ることができる。また、気相堆積プロセスにおいて適用されるコーティングは、他のいずれのプロセスによって適用されるコーティングよりも著しく良好に、コーティングされた加工物の表面に付着する。
【0035】
本開示によれば、モジュール内部人工器官も提供され、上述の開示によるインプラント部材の少なくとも1つ、好ましくは正確に1つを有する。本開示によるモジュール内部人工器官はまた、好ましくは対応接続部分を有する第2のインプラント部材を有し、対応接続部分は、本開示によるインプラント部材の接続部分と嵌合するように具体化される。言い換えれば、接続部分および対応接続部分は、相補的な方法で具体化される。対応接続部分は、好ましくはZrコーティングを有さない。
【0036】
単に、モジュール内部人工器官の第1のインプラント部材の接続部分が本開示によるZrコーティングを有する一方で、接続部分に接続された第2のインプラント部材の対応接続部分がZrコーティングを有さない場合でも、隙間腐食および/または摩擦腐食に対する感受性が低減されることが示されている。しかし、本開示によるモジュール内部人工器官では、接続部分と、接続部分に接続された第2のインプラント部材の対応接続部分との両方が、Zrコーティングを有することができる。
【0037】
本開示によるモジュール内部人工器官では、第1のインプラント部材が例えば、接続部分が雄コーンである人工器官シャフトとすることができ、第2のインプラント部材はジョイント部材、例えば、特に、対応接続部分が雌コーンとして具体化されるジョイントヘッドとすることができる。
【0038】
さらに、インプラント部材の接続部分上の腐食を防止するためのZrコーティングの使用も開示され、コーティングは1~20μm、好ましくは1~6μm、特に好ましくは3~5μmの厚さを有し、インプラント部材は、好ましくは上記の開示に従って記載されたインプラント部材のうちの1つである。この使用は、本開示によるインプラント部材または本開示によるモジュール内部人工器官と同じまたは同等の利点または効力を有する。
【0039】
さらに、金属アレルギーを有する患者における置換股関節としてのインプラント部材または内部人工器官の使用も開示される。この文脈において、隙間腐食および/または摩擦腐食の発生は、患者によって異なる反応を示し得ることが指摘される。例えば、第1の患者が、隙間腐食および/または摩擦腐食の結果として放出される物質に対して検出可能な反応を示さないこともある。他方、第2の患者は、隙間腐食および/または摩擦腐食によって放出される任意の物質に対するアレルギー反応を示す場合もある。したがって、本開示によるインプラント部材または本開示によるモジュール内部人工器官の利点は特に、上記のアレルギー反応が起こり得る患者において顕著である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1図1は、分解された状態の本開示によるモジュール内部人工器官の実施形態を示す。
図2図2は、接続状態にある図1のモジュール内部人工器官の実施形態を示す。
図3図3aは、既存のインプラント部材を有する内部人工器官の周期的な荷重中に測定される電流の経過を示す。図3bは、本開示によるインプラント部材を有する内部人工器官の周期的な荷重中に測定される電流の経過を示す。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下に記載される好ましい実施形態は単なる例であり、限定として考慮されるべきではない。異なる図面に列挙された同じ参照記号は、同一、対応、または機能的に類似の要素を示す。
【0042】
図1は、非接続状態にある本開示によるモジュール内部人工器官の実施形態を示す。モジュール内部人工器官は、第1のインプラント部材としての人工器官シャフト(10)と、第2のインプラント部材としてのジョイントヘッド(20)とを有する。人工器官シャフト(10)は、雄コーン(30)として具体化された接続部分を有する。雄コーン(30)は、端面(40)と外周面(50)とを有する。雄コーン(30)は、少なくとも部分的にZrコーティングでコーティングされ、Zrコーティングは1~20μm、好ましくは1~6μmの層厚を有する。好ましくは、雄コーン(30)の少なくとも外周面(50)全体がZrコーティングでコーティングされる。さらに、雄コーン(30)の端面(40)もZrコーティングでコーティングすることができる。雄コーン(30)の外周面(50)から雄コーン(30)の端面(40)への移行部は例えば、面取り部または縁部丸み付け部として具体化することができる。この移行部(すなわち、面取り部または縁部丸み付け部)は、本開示によるZrコーティングを有することもできる。
【0043】
ジョイントヘッド(20)は、雌コーン(60)として具体化された対応接続部分を有する。雌コーン(60)は、内周面(70)および底面を有する。ジョイントヘッド(20)はまた、ジョイントボール(80)を有する。ジョイントボールは、好ましくはこのジョイント部材のジョイント表面として作用する本質的に球形の表面を有するボールセグメントとして具体化される。図1および図2において、雌コーン(60)は、ジョイントボールに本質的に対向する接続領域に具体化されている。雌コーン(60)との接続領域は、ボールセグメントを画定するジョイントボールの側部から突出している。雌コーン(60)は、ボールセグメントの領域内に延びることができる。また、接続領域は、突起を具体化するのではなく、むしろ、ボールセグメント、したがってジョイント面を定義する表面を具体化することも可能である。この場合、雌コーン(60)は、ボールセグメントの内側に形成される。
【0044】
本実施形態では、雌コーン(60)の内周面(70)も底面もZrコーティングを有していない。しかしながら、上述した実施形態の変形例では、ジョイントヘッド(20)の雌コーン(60)はZrコーティングを有することもでき、一方、人口器官シャフト(10)の雄コーン(30)はZrコーティングを有さない。更なる変形例によれば、ジョイントヘッド(20)の雌コーン(60)および人口器官シャフト(10)の雄コーン(30)の両方がZrコーティングを有することができる。好ましくは、少なくとも雄コーン(30)の外周面(50)全体または雌コーン(60)の内周面(70)全体がZrコーティングでコーティングされる。
【0045】
上述の実施形態の変形例(図1および図2には示されていない)では、雌コーン(60)と雄コーン(30)とを交換することもできる。例えば、人口器官シャフト(10)は雌コーンを有することもでき、ジョイントヘッド(20)は、雄コーンを有することができる。
【0046】
図2は、本開示によるモジュール内部人工器官の接続状態にある上述の実施形態を示す。図2から、接続状態では、雌コーン(60)の内周面(70)が雄コーン(30)の外周面(50)に接触していることが分かる。二倍嵌合を回避するために(雄コーン(30)および雌コーン(60)のくさび効果を防止することができる)、雄コーン(30)の幾何学的形状および雌コーン(60)の幾何学的形状は、雄コーン(30)の端面(40)および雌コーン(60)の底面が接触しないように互いに適合されることが好ましい。
【0047】
雄コーン(30)の端面(40)と雌コーン(60)の底面(および/または任意の面取り、半径、または移行領域)とが互いに接触していない場合、これらの表面に隙間腐食および/または摩擦腐食が生じないと推測することができる。従って、これらの表面にZrコーティングは必要ではない。それにもかかわらず、Zrコーティングをこれらの表面上に設けることができる。特に、雄コーン(30)の端面(40)、雌コーン(60)の底面、および/または任意の面取り、半径、または移行領域にZrコーティングを設けることは、他の理由で有利であり得る。Zrコーティングがこれらの領域にも設けられる場合、例えば、コーティングされていない表面からコーティングされた表面への移行を防止することができ、これにより、コーティングされた表面の一部が剥離する危険性が低減される(例えば、ノッチング効果の結果として、および/または応力ピークの結果として)。さらに、(雄コーン(30)の端面(40)、雌コーン(60)の底面、および/または任意の面取り、半径、または移行領域もコーティングされる場合)コーティングプロセス中にこれらの表面をマスクする必要がない。これは、コスト上の利点をもたらす。
【0048】
図3aおよび3bは、既存のインプラント部材(図3a)および本開示によるZrコーティングを有するインプラント部材(図3b)が隙間腐食および/または摩擦腐食の発生について試験された実験調査の測定値を(抽出して)示す。隙間腐食および/または摩擦腐食に対する接続部分の感受性に関する定性的または比較的な情報は、例えばASTM F1875-98(2014年に再承認された)による測定方法を使用して、実験的調査として得ることができる。この方法において、大腿骨ステムおよびヘッド部材は媒体(例えば、生理食塩水)中に配置され、そして周期的な荷重に供される。シャフト部材およびヘッド部材は、接続部分の手段によって接続される。また、媒体内には複数の参照電極が配置され、そのコーティング材料は、試験されるシャフト部材およびヘッド部材のコーティング材料と一致する。参照電極の表面積および媒体に付加される(部分の)シャフトおよびヘッド部材の表面積は互いに対応する。
【0049】
シャフト部材およびヘッド部材並びに複数の参照電極は、一方のシャフト部材およびヘッド部材と、他方の参照電極との間に、(媒体を介して)流れる電流を測定することを可能にする電流測定装置に接続される。しかしながら、シャフト部材およびヘッド部材の表面およびコーティング材料および参照電極のコーティング材料は同一であるので、これらの電流は、シャフト部材およびヘッド部材と参照電極との間の電位差(ガルバニックセル/バッテリー効果)によるものではない。反対に、一方のシャフト部材およびヘッド部材と、他方の参照電極との間の測定可能な電流の流れは、上述の周期的な力の結果として、接続部分の表面(または複数の表面)上の不動態層(または複数の不動態層)の一部が研磨され、再形成されるという事実から生じる。
【0050】
期間平均電流Imおよび平均動電流Idは、シャフト部材およびヘッド部材と参照電極との間の電流の測定値から決定することができる。平均動電流Idは、所定の時間隔において測定された最大電流Imaxと最小電流Iminとの間の差分である(すなわち、時間隔Δt1において、以下が適用される:Id,Δt1=Imax,Δt1-Imin,Δt1)。
【0051】
シャフト部材およびヘッド部材の第1の組み合わせについて、シャフト部材およびヘッド部材の第2の組み合わせよりも低いImが測定される場合、これはシャフト部材およびヘッド部材の第1の組み合わせが、シャフト部材およびヘッド部材の第2の組み合わせよりも隙間腐食および/または摩擦腐食の影響を受けにくいという間接的な証拠であると考えられる。
【0052】
特に、シャフト部材およびヘッド部材の第1の組み合わせについて、シャフト部材およびヘッド部材の第2の組み合わせよりも低いIm値および低いId値が測定される場合、これはシャフト部材およびヘッド部材の第1の組み合わせが、シャフト部材およびヘッド部材の第2の組み合わせよりも隙間腐食および/または摩擦腐食の影響を有意に受けにくいという間接的な証拠であると考えられる。
【0053】
図3aの既存のインプラント部材および図3bの本開示によるZrコーティングを有するインプラント部材は、それぞれ、接続部分を有するさらなるインプラント部材に接続され、それぞれの場合で内部人工器官を形成した。既存のインプラント部材を有する内部人工器官の幾何学的形状と、本開示によるZrコーティングを有するインプラント部材を有する内部人工器官の幾何学的形状とは、同一であった。さらに、両方の内部人工器官について同一の試験パラメータを選択した。図3aおよび3bから分かるように、内部人工器官は、周波数が1Hzである周期的荷重を受けた。荷重の大きさは、0.04kNと2.04kNとの間で周期的に変化した。図3(a)と図3(b)のグラフでは、荷重(キロニュートン単位)は左側の縦軸にプロットされている。荷重の負の符号がその配向(圧縮荷重)によるものである。期間(秒)は、グラフのそれぞれの横軸に記入されている。内部人工器官の周期的荷重の間に内部人工器官と参照電極との間で測定された電流(マイクロアンペア)は、各場合において右の垂直軸上にプロットされる。
【0054】
図3aから分かるように、経時的に平均化された電流Im=4.49μAおよび平均動電流Id=3.61μAが、既存のインプラント部材を有する内部人工器官について特定期間インターバルで測定された。図3bから分かるように、経時的に平均化された電流Im=0.49μAおよび平均動現行Id=0.68μAが、本発明によるZrコーティングを有するインプラント部材を有する内部人工器官について、所定の時間隔で測定された。一連の試験を比較すると、本開示によるZrコーティングを有するインプラント部材を有する内部人工器官は、既存のインプラント部材を有する内部人工器官よりも、隙間腐食および/または摩擦腐食の影響を受けにくいという結論に至る。
図1
図2
図3
【国際調査報告】