(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-26
(54)【発明の名称】三次元物体製造用の球状粉末
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20220101AFI20230119BHJP
B22F 10/20 20210101ALI20230119BHJP
B22F 1/052 20220101ALI20230119BHJP
C22C 1/04 20230101ALI20230119BHJP
B22F 9/08 20060101ALN20230119BHJP
【FI】
B22F1/00 R
B22F10/20
B22F1/052
C22C1/04 E
B22F9/08 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022528004
(86)(22)【出願日】2020-11-13
(85)【翻訳文提出日】2022-05-25
(86)【国際出願番号】 EP2020082099
(87)【国際公開番号】W WO2021094560
(87)【国際公開日】2021-05-20
(31)【優先権主張番号】102019217654.2
(32)【優先日】2019-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518241791
【氏名又は名称】タニオビス ゲー・エム・ベー・ハー
【氏名又は名称原語表記】TANIOBIS GmbH
【住所又は居所原語表記】Im Schleeke 78-91, 38642 Goslar, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】マークス ヴァインマン
(72)【発明者】
【氏名】ホルガー ブルム
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ シュニッター
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
4K017AA04
4K017BA07
4K017BB04
4K017CA01
4K017CA07
4K018AA40
4K018BA03
4K018BA09
4K018BB03
4K018BB06
4K018BC12
4K018CA23
(57)【要約】
本発明は、少なくとも2つの耐火金属の球状合金粉末であって、均質なミクロ構造と少なくとも2つの異なる結晶相とを有する合金粉末、および該粉末の製造方法に関する。さらに、本発明は、三次元部品の製造における該粉末の使用、および該粉末から製造された部品に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元部品製造用の球状粉末であって、前記粉末は、少なくとも2つの耐火金属の合金粉末であり、前記合金粉末は、均質なミクロ構造と少なくとも2つの異なる結晶相とを有することを特徴とする、粉末。
【請求項2】
前記耐火金属は、タンタル、ニオブ、バナジウム、イットリウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、タングステンおよびモリブデンであり、好ましくはタングステンおよびタンタルである、請求項1記載の粉末。
【請求項3】
前記合金粉末は、実質的にTiを含まず、前記合金粉末中のTiの含有量は、好ましくは1.5重量%未満、特に好ましくは1.0重量%未満、特に0.5重量%未満、殊に0.1重量%未満である、請求項1または2記載の粉末。
【請求項4】
前記結晶相のうちの1つは、準安定結晶相である、請求項1から3までのいずれか1項記載の粉末。
【請求項5】
前記粉末は、主結晶相と少なくとも1つの副結晶相とを有し、前記少なくとも1つの副結晶相の最高強度を有するX線回折パターンの反射(I(P2)100)と、前記主結晶相の最高強度を有するX線回折パターンの反射(I(P1)100)との強度比、すなわちI(P2)100/I(P1)100と表される強度比は、X線回折により測定した場合にそれぞれ、好ましくは0.75未満、特に好ましくは0.05~0.55、殊に0.07~0.4である、請求項1から4までのいずれか1項記載の粉末。
【請求項6】
すべての粉末粒子の少なくとも95%、好ましくは少なくとも97%、特に好ましくは少なくとも99%において、粒子内の重量%で表される合金元素の含有量のばらつきが、EDX(エネルギー分散型X線分光法)により測定した場合に8%未満、好ましくは0.05~6%、特に好ましくは0.05~3%である、請求項1から5までのいずれか1項記載の粉末。
【請求項7】
前記粉末は、ASTM B213に準拠して測定した場合にそれぞれ、25s/50g未満、好ましくは20s/50g未満、特に15s/50g未満の流動性を有する、請求項1から6までのいずれか1項記載の粉末。
【請求項8】
前記粉末は、ASTM B527に準拠して測定した場合にそれぞれ、その理論密度の40~80%、好ましくはその理論密度の60~80%のタップ密度を有する、請求項1から7までのいずれか1項記載の粉末。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか1項記載の球状合金粉末の製造方法であって、
a)少なくとも2つの耐火金属を含む出発粉末混合物を提供し、その際、ASTM B822に準拠して測定した場合にそれぞれ、前記出発粉末混合物は、100μm未満のD99値を有する粒子径を有し、前記耐火金属の少なくとも1つは、10μm未満のD99値を有する粒子径を有するものとする、ステップと、
b)前記出発粉末混合物から冷間等方圧加圧(CIP)により粉体を製造するステップと、
c)前記プレスされた物体を、前記出発粉末混合物の前記耐火金属の最低融点より400~1150℃、好ましくは700~1050℃低い温度で焼結するステップと、
d)前記プレスされた粉体を、電極誘導溶解により溶解するステップと、
e)前記溶解物をアトマイズすると同時に冷却して、球状合金粉末を得るステップと
を含む、方法。
【請求項10】
前記出発粉末混合物の前記耐火金属のうちの1つは、ASTM B822に準拠して測定した場合に、100μm未満の粒子径D99を有する多孔質凝集体の形態である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記焼結を、0.5~6時間、好ましくは1~5時間にわたって行う、請求項9または10記載の方法。
【請求項12】
前記合金粉末を還元剤の存在下で脱酸ステップにさらに供し、前記還元剤は、好ましくは、特に蒸気の形態のマグネシウムまたはカルシウムである、請求項9から11までのいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
前記アトマイズの際の前記冷却を、冷却された不活性ガスによって行う、請求項9から12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
請求項1から8までのいずれか1項記載の合金粉末、または請求項9から13までのいずれか1項記載の方法により得ることができる粉末の、付加製造プロセスおよび/または金属粉末射出成形プロセス(MIM)における使用。
【請求項15】
前記付加製造プロセスは、選択的レーザ溶融(SLM)、電子ビーム溶解(EBM)およびレーザクラッディング(LC)からなる群から選択されるプロセスである、請求項14記載の使用。
【請求項16】
請求項1から8までのいずれか1項記載の合金粉末、または請求項9から13までのいずれか1項記載の方法により得ることができる粉末を使用して製造された、部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも2つの耐火金属の球状合金粉末であって、均質なミクロ構造と少なくとも2つの異なる結晶相とを有する合金粉末、および該粉末の製造方法に関する。さらに、本発明は、三次元部品の製造における該粉末の使用、および該粉末から製造された部品に関する。
【0002】
複雑な形状を有する金属部品の製造には、様々な方法がある。一つには、このような部品は、3D印刷というキーワードでも知られる付加製造により製造することができる。「付加製造」という用語は、コンピュータ制御により材料を一層ずつ施与し、通常は物理的および化学的な硬化または溶融プロセスで層同士を結合することにより3次元物体を製造する製造プロセス全般を指す。特に付加製造プロセスは、高い精密さおよび形状精度が特徴であり、試作品やサンプルを迅速かつ低コストで製造することが可能である。また、金属部品のさらなる製造方法として、プラスチックの射出成形技術を起源とする金属粉末射出成形(MIM - metal injection molding)がある。MIMでは、微細な金属粉末を有機バインダーと混合し、射出成形機で金型に導入する。その後、バインダーを除去し、部品を焼結させる。このように、焼結部品の機械的な利点と、射出成形の広範な成形多様性とを組み合わせることができる。さらにこの方法には、従来のプロセスでは複数のパーツに分割して製造するしかなかった要求の厳しい形状の部品を、1つのピースで製造できる可能性があることも利点である。
【0003】
付加製造や射出成形のプロセスで使用される一般的な材料は、プラスチック、樹脂、セラミック、および金属である。現在、これらのプロセスで日常的に使用されるプラスチック材料は多岐にわたるが、金属の分野ではさらに、安定した耐久性のある物体に加工するために、特に流動性が良好で焼結活性が高い好適な粉末が求められている。
【0004】
国際公開第2011/070475号には、少なくとも2つの耐火金属を含む合金の製造方法が記載されており、この方法によれば、2つの耐火金属を電子ビームの適用により溶融るつぼ内で溶解および混合し、溶融材料を凝固させ、その際、溶融金属を200Ks-1~2000Ks-1の範囲の冷却速度で急冷して凝固させる。2つの金属を粉末の形で提供し、溶融前に互いに混合して2つの金属を互いに完全に溶解させることが推奨される。この場合特に、どのような組成でも2つの金属が固溶体を形成し、第2の相の生成を防ぐことが重要である。しかし、前述の方法には、溶融るつぼの使用と高温が必要なため、粉末に多量の不純物が混入するという欠点がある。
【0005】
米国特許出願公開第2019/084048号明細書には、付加製造用のアトマイズされた球状β-Ti/Ta合金粉末の製造方法であって、a)単体TiおよびTa粉末を混合してTi-Ta粉末組成物を形成するステップと、b)粉末組成物を高温静水圧プレスしてTi/Ta電極を形成するステップと、c)Ti/Ta電極をEIGAで処理して、アトマイズされた球状Ti/Ta合金粉末を得るステップとを含む方法が開示されている。しかし、この方法は、得られる粉末が不均質なミクロ構造を有するという欠点があり、用途によっては好ましくない場合がある。
【0006】
中国特許第108296490号明細書では、高エネルギー球状粉砕プロセスを用いて製造した不定形なタングステン・タンタル混合粉末を原料として使用する、球状タングステン・タンタル合金粉末の製造方法が提供されている。使用する原料粉末は、プラズマ球状化処理によって目的の合金粉末に成形される。使用される粉砕プロセスは、粉砕球の望ましくない摩耗の導入という欠点があることが知られている。
【0007】
合金粉末を製造するための先行技術に記載された方法は、部分的に、製造プロセス中に高い割合の異物粒子が粉末に導入され、粉末が樹枝状元素分布を有するという欠点を有し、これは、今度は、これらの粉末から製造される部品の品質に悪影響を及ぼし得る。なぜならば、部品は、所望の機械強度を得るために、長時間で、また通常は高温で焼結しなければならないためである。したがって、本発明の課題は、先行技術の欠点を克服し、無気孔で機械的に安定な部品、特に高温用途に適した複雑な形状の部品を製造することができる粉末を提供することにある。
【0008】
驚くべきことに、この課題は、少なくとも2つの耐火金属の合金からなり、均質なミクロ構造と少なくとも2つの異なる結晶相とを有する粉末により解決されることが見出された。
【0009】
したがって、本発明の第1の主題は、三次元部品製造用の球状粉末であって、該粉末は、少なくとも2つの耐火金属の合金粉末であり、該合金粉末は、均質なミクロ構造と少なくとも2つの異なる結晶相とを有する、粉末である。
【0010】
本発明による粉末は、良好な流動性と高い焼結活性とを特徴とし、それによって、付加製造および/または射出成形を用いて無気孔で機械的に安定した部品を製造することができる。
【0011】
本発明において、「合金粉末」という用語は、特に断らない限り、本発明による粉末と同義であるとみなされる。
【0012】
本発明の趣意での耐火金属とは、元素周期表の第3、第4、第5および第6族副族の耐火性卑金属である。これらの金属は、高融点であることに加え、室温で不動態化層を有することを特徴とする。
【0013】
本発明において、「合金粉末」とは、耐火金属が合金の形態であり、巨視的に均質な粉末を形成している粉末を指す。この粉末は、成分が個々に混合物の形で存在し、巨視的に元素の分布が不均一である混合粉末とは対照的である。
【0014】
本発明の趣意での「均質なミクロ構造」とは、元素の均一な分布、すなわち個々の粉末粒子において合金成分が場所によって巨視的なばらつきなく均一に分布し空間充填されていることと理解される。
【0015】
本願でいう粒子径という用語は、粉末粒子の一端から反対側の端までの最長直線寸法を意味する。
【0016】
本発明の趣意での凝集体とは、それまでルーズであった粉末粒子の固まった集合体を意味する。それまでルーズであり、例えば焼結により凝集体となった粒子を一次粒子と呼ぶ。
【0017】
付加製造法やMIMの活用は、ほぼすべての産業分野に及んでいる。製造された部品の特性は、使用される粉末に影響を受けることがあり、その際、部品の機械的特性に加えて、例えば光学特性や電子特性などの他の特性も適合させることができる。
【0018】
したがって、本発明による粉末の実施形態は、耐火金属が、タンタル、ニオブ、バナジウム、イットリウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、タングステンおよびモリブデンからなる群から選択されるものであることが好ましい。特に好ましい実施形態では、少なくとも2つの耐火金属は、タンタルおよびタングステンである。特に好ましい実施形態では、本発明による合金粉末は、Tiを含まない。この場合、本発明による合金粉末中のチタンの割合は、合金粉末の総重量に対してそれぞれ1.5重量%未満、特に好ましくは1.0重量%未満、特に0.5重量%未満、殊に0.1重量%未満であることが特に好ましい。
【0019】
本発明による粉末は、特に、合金粉末が少なくとも2つの異なる結晶相を有することを特徴とする。これらの結晶相のうち1つが準安定結晶相であると特に有利であることが判明した。ここでいう準安定結晶相とは、室温で熱力学的に不安定な相を意味する。本発明による合金粉末において生じる結晶相は、例えば、X線回折分析(XRD)により決定し、X線回折パターンにおける反射に基づいて区別することができる。粉末中の異なる結晶相の分布は、異なり得る。本発明の好ましい実施形態は、ある結晶相が他の結晶相よりも大きな割合を占めることを特徴とする。この割合が最も多い相を主結晶相、この割合が少ない相を副結晶相またはマイナー相と呼ぶ。好ましくは、本発明による粉末は、主結晶相と少なくとも1つの副結晶相とを有する。驚くべきことに、これらの相の比は、後の部品の機械的特性に影響を及ぼし、その際、これらの相の比は、X線回折パターンにおける反射強度(角度[2θ°]あたりのパルス数で示される)によって決定できることが見出された。特に好ましい実施形態では、少なくとも1つのマイナー相の最高強度を有する反射(I(P2)100)と、主結晶相の最高強度を有する反射(I(P1)100)との比、すなわちI(P2)100/I(P1)100と表される比は、X線回折により測定した場合にそれぞれ、0.75未満、特に好ましくは0.05~0.55、殊に0.07~0.4である。
【0020】
本発明による粉末を特徴付けるもう1つの態様は、その均質なミクロ構造である。通常、合金粉末、特に耐火金属の粉末は、粒子の滞留時間が通常は短く、各成分の混合や拡散が十分に行われないため、製造工程に起因して個々の粉末粒子に様々な合金成分が不均一に分布しているという欠点がある。この不均一な分布は、特にこれらの粉末から製造される部品自体の機械的特性に対して不利となる。これは、製造プロセスにおいて、例えばSLMプロセスではレーザ出力を著しく高くするか、レーザの走査速度を低くするなど、著しく高いエネルギー入力を用いることによってのみ補償することが可能である。しかし、本発明では、驚くべきことに、粉末自体が既に合金成分の均一な分布を示すことが見出された。したがって、本発明による粉末の実施形態は、すべての粉末粒子の少なくとも95%、好ましくは少なくとも97%、特に好ましくは少なくとも99%において、粒子内の重量%で表される合金元素の含有量のばらつきが、EDX(エネルギー分散型X線分光法)により測定した場合に8%未満、好ましくは0.05~6%、特に好ましくは0.05~3%であるものが好ましい。
【0021】
本発明による粉末は、特にその真球度によって特徴付けられ、これにより、付加製造プロセスおよび射出成形プロセスにおける使用に特に適している。したがって、粉末粒子が0.7~1、好ましくは0.8~1、特に好ましくは0.9~1、特に0.95~1の平均アスペクト比Ψ
Aを有する実施形態が好ましく、ここで、Ψ
Aは、最小フェレット径と最大フェレット径との比と定義され、これは、Ψ
A=x
Ferret min/x
Ferret maxと表される。ここで、フェレット径は、粒子の任意の角度の2接線の間隔を示している。最大フェレット径x
Ferret max90は、まず最大フェレット径を決定してから、この最大フェレット径に対して90°の角度でオフセットしたフェレット径を決定することで求めることができる。最小フェレット径の決定についても同様である。粒子のフェレット径は、例えば、走査型電子顕微鏡画像(SEM画像)からの画像評価手順によって決定することができる(
図9も参照のこと)。
【0022】
真球度に加えて、粉末の流動性も、特に付加製造プロセスでの使用への適性を構成する基準である。本発明による粉末は、これらの製造プロセスにおける要件に適合した流動性を有することを特徴とする。したがって、本発明による粉末の実施形態は、粉末が、ASTM B213に準拠して測定した場合にそれぞれ、25s/50g未満、好ましくは20s/50g未満、特に15s/50g未満の流動性を有していることが好ましい。
【0023】
さらに、本発明による粉末は、高いタップ密度によって特徴付けられる。タップ密度は、このような製造プロセスで使用する粉末を選択する際に考慮すべきもう1つの基準である。好ましい実施形態では、本発明による粉末は、ASTM B527に準拠して測定した場合にそれぞれ、その理論密度の40~80%、好ましくはその理論密度の60~80%のタップ密度を有する。
【0024】
このような製造プロセスによって製造された部品の機械的特性および多孔性は、特に、使用される粉末の粒子径によって制御できることが知られており、その際、粒子径は、各製造プロセスに応じて選択されるべきであり、特に狭い粒子径分布が有利であることが判明している。本発明の好ましい実施形態では、本発明による粉末は、ASTM B822に準拠して測定した場合にそれぞれ、D10値が2μm超、好ましくは5μm超であり、D90値が80μm未満、好ましくは70μm未満であり、かつD50値が20~50μm、好ましくは25~50μmである粒子径分布を有する。この粒子径分布は、選択的レーザ溶融(SLM)プロセスに特に有利であることが判明している。
【0025】
さらなる好ましい実施形態では、ASTM B822に準拠して測定した場合にそれぞれ、本発明による粉末の粒子径分布のD10値は、20μm超、好ましくは50μm超であり、D90値は150μm未満、好ましくは120μm未満であり、D50値は40~90μm、好ましくは60~85μmである。特に電子ビーム溶解(EBM)プロセスの分野では、示されたような粒子径分布が特に有利であることが判明した。
【0026】
さらなる好ましい実施形態では、本発明による粉末は、ASTM B822に準拠して測定した場合にそれぞれ、D10値が50μm超、好ましくは80μm超であり、D90値が240μm未満、好ましくは210μmであり、かつD50値が60~150μm、好ましくは100~150μmである粒子径分布を有する。このような粒子径分布を有する粉末は、レーザクラッディング(CL)プロセスでの使用に特に有利であることが判明している。
【0027】
さらなる好ましい実施形態では、本発明による粉末は、ASTM B822に準拠して測定した場合にそれぞれ、D10値が1μm超、好ましくは2μm超であり、D90値が45μm未満、好ましくは40μm未満であり、かつD50値が6~30μm、好ましくは8~20μmである粒子径分布を有する。特に、このような粉末を金属粉末射出成形(MIM)などの射出成形プロセスで使用する場合、示された範囲の粒子径分布が有利であることが判明している。
【0028】
本発明では、D50値は、粒子の50%が示された値よりも小さい平均粒子径と理解される。D10、D90、D99の値についても同様である。
【0029】
本発明のさらなる主題は、本発明による合金粉末の製造方法である。本発明による方法は、
a)少なくとも2つの耐火金属を含む出発粉末混合物を提供し、その際、ASTM B822に準拠して測定した場合にそれぞれ、出発粉末混合物は、100μm未満のD99値を有する粒子径を有し、耐火金属の少なくとも1つは、10μm未満のD99値を有する粒子径を有するものとする、ステップと、
b)出発粉末混合物から冷間等方圧加圧(CIP)により粉体を製造するステップと、
c)プレスされた物体を、出発粉末混合物の成分の最低融点より400~1150℃、好ましくは700~1050℃低い温度で焼結するステップと、
d)焼結体を電極誘導溶解(EIGA)により溶解するステップと、
e)溶解物をアトマイズすると同時に冷却して、球状合金粉末を得るステップと
を含む。
【0030】
驚くべきことに、本発明による方法によって、狭い粒子径分布と高い焼結活性とを有する球状粉末を得ることができ、付加製造プロセスまたはMIMによる無孔質で機械的に安定な部品の製造が可能になることが判明した。本発明による方法によって製造された粉末は、合金成分の均一な分布と少なくとも2つの結晶相の存在とによってさらに特徴付けられる。
【0031】
粉末の加圧成形(CIP)は、好ましくは少なくとも1.7×108Pa(1700bar)、特に好ましくは少なくとも1.9×108Pa(1900bar)の適用圧縮圧力で実施される。
【0032】
好ましい実施形態では、本発明による方法は、分級ステップ、好ましくは篩い分けをさらに含む。このようにして、所望の粒子径分布を調整および設定することができる。
【0033】
さらなる好ましい実施形態では、出発粉末混合物は、ASTM B822に準拠して測定した場合にそれぞれ、100μm未満、好ましくは80μm未満のD99値を有する粒子径を有する。
【0034】
好ましい実施形態では、出発粉末混合物中の耐火金属の少なくとも1つは、ASTM B822に準拠して測定した場合にそれぞれ、10μm未満、好ましくは5μm未満、特に好ましくは2μm未満のD99値を有する粒子径を有し、その際、これは好ましくは、最も融点の高い耐火金属である。
【0035】
一次粒子が焼結により多孔質凝集体としたものである耐火金属、特に、走査型電子顕微鏡(SEM)画像からの画像評価法によって決定した場合に、10μm未満、好ましくは3μm未満、特に好ましくは1μm未満の一次粒子径を有する耐火金属を出発粉末混合物において使用すると有利であることが判明している。したがって、出発粉末混合物の少なくとも1つの耐火金属が、ASTM B822に準拠して測定した場合に、100μm未満、好ましくは80μm未満のD99値を有する粒子径と、SEM画像によって決定した場合に10μm未満、好ましくは3μm未満、特に好ましくは1μm未満の一次粒子径とを有する焼結多孔質凝集体の形態である実施形態が好ましい。
【0036】
本発明による方法のステップc)における焼結は、最低融点を有する合金成分の融点より400~1150℃、好ましくは700~1050℃低い温度で行われ、その際、合金成分の融点は、当業者に知られているかまたは文献から引用可能である。焼結プロセスの時間は、要求される粉末の特性に応じて適合させることができるが、好ましくは0.5~6時間、特に好ましくは1~5時間である。
【0037】
本発明では、高融点の耐火金属を用いることが好ましい。したがって、焼結は少なくとも1400℃の温度で行われることが好ましい。
【0038】
用途によっては、合金粉末中の酸素濃度が高いと、所定の製造プロセスでの使用に悪影響を及ぼすことが判明している。したがって、本発明による方法の実施形態は、合金粉末を還元剤の存在下で脱酸ステップにさらに供することが好ましく、その際、還元剤として、好ましくはマグネシウムまたはカルシウムが、特に蒸気の形態で使用される。当業者は、例えば欧州特許第1144147号明細書に、好適な脱酸プロセスの詳細な説明を見出すであろう。
【0039】
既に製造プロセス中に本発明による粉末の酸素含有量を可能な限り低く抑えるためには、冷却が低酸素環境下で行われると有利であることが判明している。したがって、アトマイズの際の冷却が、冷却された不活性ガスによって行われる実施形態が好ましい。
【0040】
しかし、特殊な用途では、酸素含有量を狙いどおりに調整することが望まれる。したがって、好ましい実施形態では、本発明による粉末中の所望の酸素含有量を狙いどおりに調整するために、耐火金属の酸素含有成分、例えばそれらの酸化物または亜酸化物が出発粉末混合物に添加される。
【0041】
驚くべきことに、本発明による粉末は、付加製造プロセスだけでなく、金属粉末射出成形(MIM)による三次元部品の製造にも使用できることが判明している。したがって、本発明のさらなる主題は、本発明による粉末、または本発明による方法に従って得られた粉末の、付加製造プロセスおよび/または金属粉末射出成形プロセスにおける使用である。好ましくは、付加製造プロセスは、選択的レーザ溶融(SLM)、電子ビーム溶解(EBM)およびレーザクラッディング(LC)からなる群から選択される1つである。
【0042】
本発明のさらなる主題は、本発明による合金粉末または本発明による方法によって得られた粉末を使用して製造された部品である。これは、好ましくは、エンジンや高温炉などの高温用途で使用される部品である。あるいは該部品は、医療用インプラントまたは医療用デバイスであることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】本発明による粉末Ta2.5WのX線回折パターンを示す図である。
【
図2】本発明による粉末Ta13WのX線回折パターンを示す図である。
【
図3】本発明による粉末Ta13Wの粉砕試料のEDX画像を示す図である。
【
図4】本発明による粉末Ta13Wの粉末粒子の球状の形状を示す図である。
【
図5a】比較粉末Vg1のX線回折パターンを示す図である。
【
図5b】比較粉末Vg1のSEM画像を示す図である。
【
図6a】比較粉末Vg3のSEM画像を示す図である。
【
図6b】比較粉末Vg3のX線回折パターンを示す図である。
【
図7】本発明による粉末E2bを用いて製造された部品D3の粉砕試料のSEM画像を示す図である。
【
図8】比較粉末V3bを用いて製造された部品D1の粉砕試料のSEM画像を示す図である。
【0044】
実施例:
本発明は、以下の実施例を参照してより詳細に説明されるが、これらは決して本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0045】
本発明による粉末Ta2.5W(E1)およびTa13W(E2)を製造したが、その際、出発粉末混合物において、ASTM B822に準拠して測定した場合にそれぞれ、使用されたタンタル粉末の粒子径D99は、49μmであり、タングステン粉末の粒子径D99は、1.9μmであった。これらの粉末を2000barの圧力で冷間等方圧加圧(CIP)により成形してプレス体とし、これを1950℃で2時間焼結した。こうして得られた焼結体を電極誘導溶解(EIGA)により溶解し、同時に冷却しながら溶融物をアトマイズした。得られたアトマイズ粉末を篩い分けにより2つのフラクション(<63μm、63~100μm)に分級した後、得られた<63μmの合金粉末を、Mgの存在下に1000℃で2時間脱酸した。得られた粉末の組成および特性を表1にまとめたが、その際、パラメータは、それぞれ上記の規格に準拠して決定した。
【0046】
粉末中の酸素含有量および窒素含有量は、ホットキャリアガス抽出法(Leco TCH600)で、粒子径はそれぞれレーザ回折法(ASTM B822、MasterSizer S、水中分散液、およびDaxad 11、5分間の超音波処理)で測定した。金属不純物の微量分析は、以下の分析装置PQ 9000(Analytik Jena)またはUltima 2(Horiba)を用いてICP-OESによって行った。結晶相の測定は、Malvern-PANalytical社製の装置(半導体検出器付きX’Pert-MPD、40KV/40mAのX線管Cu LFF、Niフィルター)を用いたX線回折(XRD)によって行った。
【0047】
【0048】
本発明による粉末の場合、本発明による粉末Ta2.5Wの画像(
図1)およびTa13Wの画像(
図2)を示す
図1および
図2にも見られるように、X線回折パターンにおいて、立方晶系主結晶相と正方晶系副結晶相というそれぞれ2つの異なる結晶相を識別することができた。それぞれ最も強度の高い反射について求めた反射強度の比を表1に示す。
【0049】
さらに、試験E2bの粉末Ta13Wの画像を見ると、従来の粉末とは異なり、樹枝状構造が見られず、粉末粒子が球状であることがわかる。これに関して、
図3は、粉末Ta13Wの粉砕試料のEDX画像を示し、
図4は、散乱スライドのSEM像に基づいてTa13Wの粉末粒子の球状の形状を示す。
【0050】
比較のために、まず電子ビームで溶融インゴットを製造することにより、従来のプロセスに従って粉末Ta2.5W(Vg1)を製造した。これを水素により水素化して脆化させ、粉砕した。高真空で水素を除去し、この材料を63μm未満の値になるように篩い分けした。対応する結果を表2にまとめた。
【0051】
X線回折分析およびSEM画像が示すように、得られた粉末は、2つの異なる結晶相も球状の形態も有していなかった(
図5aおよび
図5b参照)。
【0052】
【0053】
さらなる比較として、対応する出発粉末をプレスし、1200℃で焼結して金属体を形成し、次いでこれをアトマイズすることにより、粉末Ta2.5W(Vg2)を製造した。出発金属TaおよびWの粒子径D99は、それぞれ150μmおよび125μmであった。その結果も同様に表2にまとめた。
【0054】
比較2と同様に、第3の比較粉末を製造したが、その際、Wを13重量%使用した(Vg3、表2参照)。
【0055】
図6aから明らかにわかるように、Vg3による粉末は、樹枝状のミクロ構造を有し、その際、タンタルおよびタングステンの含有量のばらつきが異なる濃淡の色調で表されており、1~4と記された領域において最大15重量%に達した。第2の結晶相は、特定不可能であった(
図6b参照)。
【0056】
比較試験が示すように、均質なミクロ構造または元素分布を有すると同時に2つの異なる結晶相をも有する粉末は、既知の方法では得られないものである。
【0057】
比較例3による粉末(Vg3)だけでなく、本発明による粉末E2bも、表3に示す印刷パラメータでSLMにより印刷した。均質なミクロ組織を有する辺長約2.5cmの可能な限り緻密なキューブ状の部品を製造することを目指した。部品の密度は、合金の理論密度に対する実測密度の比(%)で示される。密度が100%未満であれば、望ましくない細孔が存在することを示し、これは、部品の機械的特性に悪影響を及ぼしかねない。
【0058】
本発明による粉末を用いて製造された部品は、低いレーザ出力あるいは体積エネルギー密度で既に、必要な密度で得られ、これは特に、プロセスの信頼性の向上、低いエネルギー消費、および残りの粉末の酸素取込み量の低減につながる。また、レーザの走査速度を上げて、より高いスループットを実現することも可能であった。
【0059】
【0060】
図7は、本発明による粉末E2bを用いて製造された、理論密度の99%の密度を有する部品(D3)の粉砕試料のSEM画像を示す。
【0061】
図8は、比較粉末V3bを用いて製造された部品D1の粉砕試料のSEM画像を示す。理論密度の80%未満という、部品の低い密度をはっきりと確認することができる。
【国際調査報告】