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特表2023-502965前駆T細胞を製造するための培地処方および方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-26
(54)【発明の名称】前駆T細胞を製造するための培地処方および方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/00 20060101AFI20230119BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20230119BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20230119BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20230119BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230119BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20230119BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20230119BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20230119BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20230119BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20230119BHJP
   A61P 31/18 20060101ALI20230119BHJP
   C12N 5/0789 20100101ALN20230119BHJP
【FI】
C12N5/00 ZNA
C12N5/0783
A61P37/04
A61K35/17 Z
A61P35/00
A61P35/02
A61P37/02
A61P31/12
A61P31/04
A61P31/10
A61P31/18
C12N5/0789
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022528300
(86)(22)【出願日】2020-11-13
(85)【翻訳文提出日】2022-07-13
(86)【国際出願番号】 CA2020051554
(87)【国際公開番号】W WO2021092699
(87)【国際公開日】2021-05-20
(31)【優先権主張番号】62/935,296
(32)【優先日】2019-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522189791
【氏名又は名称】ザンドストラ,ピーター ウィリアム
【氏名又は名称原語表記】ZANDSTRA,Peter William
【住所又は居所原語表記】2209 Dunbar Street,Vancouver,British Columbia V6R 3M8 CANADA
(71)【出願人】
【識別番号】522189805
【氏名又は名称】エドガー,ジョン マイケル
【氏名又は名称原語表記】EDGAR,John Michael
【住所又は居所原語表記】4-1535 W 16 Avenue, Vancouver,British Columbia V6J 2L7 CANADA
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】ザンドストラ,ピーター ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】エドガー,ジョン マイケル
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA92X
4B065AA94X
4B065BB19
4B065BB32
4B065BD25
4B065BD39
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB63
4C087NA14
4C087ZB07
4C087ZB09
4C087ZB26
4C087ZB27
4C087ZB33
4C087ZB35
(57)【要約】
本開示は、概して、培養培地処方および培養方法に関する。より具体的には、本開示は、前駆T細胞およびその派生細胞(成熟T細胞など)を作製するための、既知組成の無血清培養培地、キットおよび方法を提供する。さらに、本開示は、前記培地、キットまたは方法を使用して作製された前駆T細胞およびその派生細胞、ならびにこの前駆T細胞およびその派生細胞を使用した治療方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無血清培養培地であって、腫瘍壊死因子α(TNFα)またはその機能的に同等な断片と、インターロイキン3(IL-3)またはその機能的に同等な断片と、Notchリガンドまたはその機能的に同等な断片とを含み、前記Notchリガンドまたはその機能的に同等な断片が、基材に吸着または固定されている、無血清培養培地。
【請求項2】
幹細胞因子(SCF)またはその機能的に同等な断片、インターロイキン7(IL-7)またはその機能的に同等な断片、およびFMS様チロシンキナーゼ3リガンド(FLT3L)またはその機能的に同等な断片のうちの少なくとも1種をさらに含む、請求項1に記載の無血清培養培地。
【請求項3】
幹細胞因子(SCF)またはその機能的に同等な断片、インターロイキン7(IL-7)またはその機能的に同等な断片、およびFMS様チロシンキナーゼ3リガンド(FLT3L)またはその機能的に同等な断片のうちの少なくとも2種をさらに含む、請求項1に記載の無血清培養培地。
【請求項4】
幹細胞因子(SCF)またはその機能的に同等な断片、インターロイキン7(IL-7)またはその機能的に同等な断片、およびFMS様チロシンキナーゼ3リガンド(FLT3L)またはその機能的に同等な断片をさらに含む、請求項1に記載の無血清培養培地。
【請求項5】
接着リガンドもしくはその機能的に同等な断片、および/またはインテグリンリガンドもしくはその機能的に同等な断片をさらに含み、これらのリガンドおよび/またはその機能的に同等な断片が、前記基材に吸着または固定されている、請求項1~4のいずれか1項に記載の無血清培養培地。
【請求項6】
トロンボポエチン(TPO)またはその機能的に同等な断片をさらに含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の無血清培養培地。
【請求項7】
前記TNFαの濃度が、約1ng/ml~約50ng/mlである、請求項1~6のいずれか1項に記載の無血清培養培地。
【請求項8】
前記IL-3の濃度が、約1ng/ml~約50ng/mlである、請求項1~7のいずれか1項に記載の無血清培養培地。
【請求項9】
前記SCF、IL-7およびFLT3Lの各濃度が、約5ng/ml~約200ng/mlである、請求項2~8のいずれか1項に記載の無血清培養培地。
【請求項10】
前記Notchリガンドが、Delta-like 4(DL4)、Delta-like 1(DL1)、Jagged 2(JAG2)またはこれらの組み合わせである、請求項1~9のいずれか1項に記載の無血清培養培地。
【請求項11】
前記基材が、前記培地中に含まれる1個以上のビーズである、請求項1~10のいずれか1項に記載の無血清培養培地。
【請求項12】
前記Notchリガンドが、約0.5ng/mm2~約50ng/mm2のコーティング濃度で前記基材に吸着または固定されている、請求項1~11のいずれか1項に記載の無血清培養培地。
【請求項13】
ウシ血清アルブミン、インスリン、トランスフェリン、低密度リポタンパク質、アスコルビン酸、2-メルカプトエタノール、ペニシリンおよびストレプトマイシンのうちの1種以上をさらに含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の無血清培養培地。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載の無血清培養培地と、少なくとも1つの容器とを含むキット。
【請求項15】
a.腫瘍壊死因子α(TNFα)もしくはその機能的に同等な断片、またはインターロイキン3(IL-3)もしくはその機能的に同等な断片を含む無血清培養培地;および
b.Notchリガンドまたはその機能的に同等な断片を含むコーティング用培地
を含むキット。
【請求項16】
前記無血清培養培地が、幹細胞因子(SCF)またはその機能的に同等な断片、インターロイキン7(IL-7)またはその機能的に同等な断片、およびFMS様チロシンキナーゼ3リガンド(FLT3L)またはその機能的に同等な断片のうちの少なくとも1種をさらに含む、請求項15に記載のキット。
【請求項17】
前記無血清培養培地が、トロンボポエチン(TPO)またはその機能的に同等な断片をさらに含む、請求項15または16に記載のキット。
【請求項18】
前記コーティング用培地が、接着リガンドもしくはその機能的に同等な断片、および/またはインテグリンリガンドもしくはその機能的に同等な断片をさらに含む、請求項15~17のいずれか1項に記載のキット。
【請求項19】
前記Notchリガンドが、Delta-like 4(DL4)、Delta-like 1(DL1)、Jagged 2(JAG2)またはこれらの組み合わせである、請求項15~18のいずれか1項に記載のキット。
【請求項20】
1つ以上の細胞培養プレートまたは細胞培養ディッシュをさらに含む、請求項15~19のいずれか1項に記載のキット。
【請求項21】
前駆T細胞またはその派生細胞を作製する方法であって、
腫瘍壊死因子α(TNFα)またはその機能的に同等な断片と、インターロイキン3(IL-3)またはその機能的に同等な断片と、Notchリガンドまたはその機能的に同等な断片の存在下において無血清培地中で幹細胞および/または前駆細胞を培養する工程を含み、
前記Notchリガンドが、基材に吸着または固定されている、方法。
【請求項22】
前記派生細胞が、プレT細胞、未熟T細胞または成熟T細胞である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記前駆T細胞を分化させて、プレT細胞、未熟T細胞または成熟T細胞を得る工程をさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
ナチュラルキラー(NK)細胞を作製する方法であって、
腫瘍壊死因子α(TNFα)またはその機能的に同等な断片と、インターロイキン3(IL-3)またはその機能的に同等な断片と、Notchリガンドまたはその機能的に同等な断片の存在下において無血清培地中で幹細胞および/または前駆細胞を培養する工程を含み、
前記Notchリガンドが、基材に吸着または固定されている、方法。
【請求項25】
前記培養工程が、幹細胞因子(SCF)またはその機能的に同等な断片、インターロイキン7(IL-7)またはその機能的に同等な断片、およびFMS様チロシンキナーゼ3リガンド(FLT3L)またはその機能的に同等な断片のうちの少なくとも1種がさらに存在する条件下で行われる、請求項21~24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記TNFαとIL-3が、前記細胞に同時に提供される、請求項21~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記TNFαが前記細胞に提供された後に、前記IL-3が該細胞に提供される、請求項21~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記TNFαが前記細胞に提供されてから1日後、2日後、3日後、4日後または5日後に前記IL-3が該細胞に提供される、請求項21~25および27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記培養工程が、前記基材に吸着または固定された接着リガンドもしくはその機能的に同等な断片および/またはインテグリンリガンドもしくはその機能的に同等な断片がさらに存在する条件下で行われる、請求項21~28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記培養工程が、トロンボポエチン(TPO)またはその機能的に同等な断片がさらに存在する条件下で行われる、請求項21~29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記培養工程における前記TNFαの濃度が、約1ng/ml~約50ng/mlである、請求項21~30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記培養工程における前記IL-3の濃度が、約1ng/ml~約50ng/mlである、請求項21~31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記培養工程における前記SCF、IL-7およびFLT3Lの各濃度が、約5ng/ml~約200ng/mlである、請求項25~32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
前記Notchリガンドが、Delta-like 4(DL4)、Delta-like 1(DL1)、Jagged 2(JAG2)またはこれらの組み合わせである、請求項21~33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
前記Notchリガンドが、約0.5ng/mm2~約50ng/mm2のコーティング濃度で前記基材に吸着または固定されている、請求項21~34のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
前記基材が、細胞培養プレートまたは細胞培養ディッシュまたは培養バッグの表面である、請求項21~35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
前記基材が、前記培地中に含まれる1個以上のビーズである、請求項21~35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
前記幹細胞および/または前駆細胞がヒト細胞である、請求項21~37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
前記幹細胞および/または前駆細胞が、CD34+造血幹細胞・前駆細胞(HSPC)である、請求項21~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記CD34+HSPCが、臍帯血幹細胞、末梢血幹細胞、骨髄幹細胞、胚性幹細胞または人工多能性幹細胞に由来するものである、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記前駆T細胞が、CD7+細胞、CD7+CD5+細胞、CD7+CD5+CD34+細胞、CD7+CD5+CD45RA+細胞および/またはCD7+CD5+CD1a+細胞を含む、請求項21~23および25~40のいずれか1項に記載の方法。
【請求項42】
前記NK細胞がCD7+CD56+細胞を含む、請求項24~40のいずれか1項に記載の方法。
【請求項43】
前記作製された前駆T細胞の細胞表面におけるIL-3受容体の密度が、TNFαを含まない培地中で培養して作製された前駆T細胞よりも高い、請求項21~23および25~41のいずれか1項に記載の方法。
【請求項44】
前記培養工程が、前駆T細胞を作製することをさらに含み、該作製された前駆T細胞の派生細胞を作製することをさらに含んでいてもよい、請求項21~23、25~41および43のいずれか1項に記載の方法。
【請求項45】
前記作製された前駆T細胞の派生細胞が、CD4+CD8+細胞、CD4+CD3+細胞および/またはCD8+CD3+細胞を含む、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記培養工程が、NK細胞を作製することをさらに含み、該作製されたNK細胞の派生細胞を作製することをさらに含んでいてもよい、請求項24~40および42のいずれか1項に記載の方法。
【請求項47】
前記培養工程が、少なくとも7日間または少なくとも14日間行われる、請求項21~46のいずれか1項に記載の方法。
【請求項48】
請求項21~23、25~41、43~45および47のいずれか1項に記載の方法によって作製された前駆T細胞またはその派生細胞。
【請求項49】
請求項21~23、25~41、43~45および47のいずれか1項に記載の方法によって作製された前駆T細胞集団。
【請求項50】
請求項24~40、42、46および47のいずれか1項に記載の方法によって作製されたNK細胞またはその派生細胞。
【請求項51】
対象において免疫応答を向上させる方法であって、請求項48に記載の前駆T細胞またはその派生細胞を有効な数で対象に投与することを含む方法。
【請求項52】
対象においてT細胞数を増加させる方法であって、請求項48に記載の前駆T細胞またはその派生細胞を有効な数で対象に投与することを含む方法。
【請求項53】
対象において免疫応答を向上させる方法であって、請求項50に記載のNK細胞またはその派生細胞を有効な数で対象に投与することを含む方法。
【請求項54】
対象においてNK細胞数を増加させる方法であって、請求項50に記載のNK細胞またはその派生細胞を有効な数で対象に投与することを含む方法。
【請求項55】
前記投与される前駆T細胞またはその派生細胞が、前記対象の自己細胞である、請求項51または52に記載の方法。
【請求項56】
前記投与される前駆T細胞またはその派生細胞が、前記対象と同種の細胞である、請求項51または52に記載の方法。
【請求項57】
前記投与されるNK細胞またはその派生細胞が、前記対象の自己細胞である、請求項53または54に記載の方法。
【請求項58】
前記投与されるNK細胞またはその派生細胞が、前記対象と同種の細胞である、請求項53または54に記載の方法。
【請求項59】
前記対象が、免疫不全を有する対象または免疫不全のリスクがある対象である、請求項51~58のいずれか1項に記載の方法。
【請求項60】
前記免疫不全がT細胞欠損である、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
前記免疫不全がNK細胞欠損である、請求項59に記載の方法。
【請求項62】
前記免疫不全が、病態、化学暴露および/または放射線暴露によって引き起こされたものである、請求項59~61のいずれか1項に記載の方法。
【請求項63】
前記病態が、がん、骨髄機能不全、貧血、原発性免疫不全症、自己免疫疾患、胸腺部分切除、臓器移植、ウイルス感染症、細菌感染症、真菌感染症および/または特発性CD4+Tリンパ球減少症である、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
前記ウイルス感染症がHIV感染症である、請求項63に記載の方法。
【請求項65】
前記化学暴露が、化学療法、抗炎症薬療法、職場に関連する化学暴露、または化学物質による偶発的中毒を含む、請求項62に記載の方法。
【請求項66】
前記放射線暴露が、放射線療法、職場に関連する放射性同位体への暴露、放射性同位体による偶発的中毒、炉心溶融、または放射性降下物を含む、請求項62に記載の方法。
【請求項67】
前記対象がヒトである、請求項51~66のいずれか1項に記載の方法。
【請求項68】
免疫応答の向上を必要とする患者において免疫応答を向上させる方法であって、
請求項21~23、25~41、43~45および47のいずれか1項に記載の方法によって前駆T細胞またはその派生細胞の集団を製造する工程、および
前記細胞集団を前記患者に投与する工程
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
先行出願の相互参照
本出願は、パリ条約の下、2019年11月14日に出願された米国仮特許出願第62/935,296号に基づく優先権を主張するものであり、この出願は本明細書の一部を構成するものとして参照によりその全体が援用される。
【0002】
本開示は、概して、培養培地処方および培養方法に関する。より具体的には、本開示は、幹細胞および/または前駆細胞から前駆T(プロT)細胞およびその派生細胞を作製するための、既知組成の培養培地およびインビトロの方法に関する。
【背景技術】
【0003】
T細胞は、細胞性免疫において中心的な役割を果たしているリンパ球の1種である。例えば、T細胞は、免疫応答の制御や、生体内に再侵入してきた病原体を排除するための免疫記憶の維持を担っている。T細胞欠損は生命に危険が及ぶ可能性があり、特に、化学療法を受けた患者は日和見感染症のリスクが高く、T細胞欠損は致命的である。
【0004】
従来、インビトロにおける造血幹細胞・前駆細胞(HSPC)からのT細胞の作製は、Notchを活性化させるDelta-like 4(DL4)タンパク質を発現するように遺伝子組換えされたマウスOP9フィーダー細胞を使用した血清含有培地中で行われている1,2。しかし、この培養系は、培地組成が不明であり、異種由来成分を使用していることから、内分泌因子や細胞外マトリックス成分の役割を調査することが難しく、臨床への移行も限定的にしか行えない。OP9フィーダー細胞層を使用せずとも、組織培養プレートにNotchリガンドを非特異的に吸着させることによって培養を行えることが報告されている3。しかし、OP9フィーダー細胞を使用しないこの培養系は、培養培地中に多量の動物血清を添加する必要がある。また、磁気マイクロビーズに固定したDL4を、人工的なNotchシグナル伝達系として使用することも報告されている。しかし、この方法では、一部の細胞が非T細胞系列(例えば、B細胞系列)に分化してしまうという欠点があった4。別の研究では、微細加工された柱状の構造体を、マレイミド修飾プロテインAを介してチオール化PEGヒドロゲル薄膜に繋留することによりこのヒドロゲル薄膜上に直立させ、この柱状構造体上にNotchリガンドとしてJagged1-Fcを自動機器で播種することにより、単一の神経幹細胞の自己複製に対するJagged1-Fcの効果が調査された5。しかし、このような単一細胞を使用した小規模実験が、臨床で使用されるT細胞の作製に好適に移行できることを示唆するような証拠は得られていない。
【0005】
T細胞を使用した免疫療法を臨床へと容易に移行させることができる改良された培地処方および方法が当技術分野において必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、プロT細胞およびその派生細胞(成熟T細胞など)を作製するための、既知組成の細胞培養培地処方、キットおよびインビトロの方法、ならびにインビトロにおいて幹細胞および/または前駆細胞からナチュラルキラー(NK)細胞およびその派生細胞を作製する方法を発明するに至った。
【0007】
本開示の第1の態様において、無血清培養培地が提供される。この無血清培養培地は、腫瘍壊死因子α(TNFα)またはその機能的に同等な断片と、インターロイキン3(IL-3)またはその機能的に同等な断片と、Notchリガンドまたはその機能的に同等な断片とを含み、前記Notchリガンドまたはその機能的に同等な断片は、基材に吸着または固定されている。
【0008】
本明細書で提供される無血清培養培地の一実施形態において、この無血清培養培地は、幹細胞因子(SCF)またはその機能的に同等な断片、インターロイキン7(IL-7)またはその機能的に同等な断片、およびFMS様チロシンキナーゼ3リガンド(FLT3L)またはその機能的に同等な断片のうちの少なくとも1種をさらに含む。本明細書で提供される無血清培養培地の一実施形態において、この無血清培養培地は、幹細胞因子(SCF)またはその機能的に同等な断片、インターロイキン7(IL-7)またはその機能的に同等な断片、およびFMS様チロシンキナーゼ3リガンド(FLT3L)またはその機能的に同等な断片のうちの少なくとも2種をさらに含む。本明細書で提供される無血清培養培地の一実施形態において、この無血清培養培地は、幹細胞因子(SCF)またはその機能的に同等な断片、インターロイキン7(IL-7)またはその機能的に同等な断片、およびFMS様チロシンキナーゼ3リガンド(FLT3L)またはその機能的に同等な断片をさらに含む。
【0009】
本明細書で提供される無血清培養培地の一実施形態において、この無血清培養培地は、接着リガンドもしくはその機能的に同等な断片、および/またはインテグリンリガンドもしくはその機能的に同等な断片をさらに含み、これらのリガンドおよび/またはその機能的に同等な断片は、前記基材に吸着または固定されている。
【0010】
本明細書で提供される無血清培養培地の一実施形態において、この無血清培養培地は、トロンボポエチン(TPO)またはその機能的に同等な断片をさらに含む。
【0011】
本明細書で提供される無血清培養培地の一実施形態において、前記TNFαの濃度は、約1ng/ml~約50ng/mlである。
【0012】
本明細書で提供される無血清培養培地の一実施形態において、前記IL-3の濃度は、約1ng/ml~約50ng/mlである。
【0013】
本明細書で提供される無血清培養培地の一実施形態において、この無血清培養培地中にSCF、IL-7およびFLT3Lが含まれる場合、このSCF、IL-7およびFLT3Lの各濃度は、約5ng/ml~約200ng/mlである。
【0014】
本明細書で提供される無血清培養培地の一実施形態において、前記Notchリガンドは、Delta-like 4(DL4)、Delta-like 1(DL1)、Jagged 2(JAG2)またはこれらの組み合わせである。
【0015】
本明細書で提供される無血清培養培地の一実施形態において、前記基材は、前記培地中に含まれる1個以上のビーズである。
【0016】
本明細書で提供される無血清培養培地の一実施形態において、前記Notchリガンドは、約0.5ng/mm2~約50ng/mm2のコーティング濃度で前記基材に吸着または固定されている。
【0017】
本明細書で提供される無血清培養培地の一実施形態において、この無血清培養培地は、ウシ血清アルブミン、インスリン、トランスフェリン、低密度リポタンパク質、アスコルビン酸、2-メルカプトエタノール、ペニシリンおよびストレプトマイシンのうちの1種以上をさらに含む。
【0018】
本開示の第2の態様において、キットが提供される。このキットは、第1の態様に記載の無血清培養培地と、少なくとも1つの容器とを含む。
【0019】
本開示の第3の態様において、別のキットが提供される。このキットは、(a)腫瘍壊死因子α(TNFα)もしくはその機能的に同等な断片、またはインターロイキン3(IL-3)もしくはその機能的に同等な断片を含む無血清培養培地;および(b)Notchリガンドまたはその機能的に同等な断片を含むコーティング用培地を含む。
【0020】
本明細書で提供される無血清培養培地およびコーティング用培地を含むキットの一実施形態において、この無血清培養培地は、幹細胞因子(SCF)またはその機能的に同等な断片、インターロイキン7(IL-7)またはその機能的に同等な断片、およびFMS様チロシンキナーゼ3リガンド(FLT3L)またはその機能的に同等な断片のうちの少なくとも1種をさらに含む。本明細書で提供される無血清培養培地およびコーティング用培地を含むキットの一実施形態において、この無血清培養培地は、幹細胞因子(SCF)またはその機能的に同等な断片、インターロイキン7(IL-7)またはその機能的に同等な断片、およびFMS様チロシンキナーゼ3リガンド(FLT3L)またはその機能的に同等な断片のうちの少なくとも2種をさらに含む。本明細書で提供される無血清培養培地およびコーティング用培地を含むキットの一実施形態において、この無血清培養培地は、幹細胞因子(SCF)またはその機能的に同等な断片、インターロイキン7(IL-7)またはその機能的に同等な断片、およびFMS様チロシンキナーゼ3リガンド(FLT3L)またはその機能的に同等な断片をさらに含む。
【0021】
本明細書で提供される無血清培養培地およびコーティング用培地を含むキットの一実施形態において、この無血清培養培地は、トロンボポエチン(TPO)またはその機能的に同等な断片をさらに含む。
【0022】
本明細書で提供される無血清培養培地およびコーティング用培地を含むキットの一実施形態において、このコーティング用培地は、接着リガンドもしくはその機能的に同等な断片、および/またはインテグリンリガンドもしくはその機能的に同等な断片をさらに含む。
【0023】
本明細書で提供される無血清培養培地およびコーティング用培地を含むキットの一実施形態において、前記Notchリガンドは、Delta-like 4(DL4)、Delta-like 1(DL1)、Jagged 2(JAG2)またはこれらの組み合わせである。
【0024】
本明細書で提供される無血清培養培地およびコーティング用培地を含むキットの一実施形態において、このキットは、1つ以上の細胞培養プレートまたは細胞培養ディッシュをさらに含む。
【0025】
本開示の第4の態様において、プロT細胞またはその派生細胞を作製する方法が提供される。この方法は、腫瘍壊死因子α(TNFα)またはその機能的に同等な断片と、インターロイキン3(IL-3)またはその機能的に同等な断片と、Notchリガンドまたはその機能的に同等な断片の存在下において無血清培地中で幹細胞および/または前駆細胞を培養する工程を含み、前記Notchリガンドは、基材に吸着または固定されている。
【0026】
本明細書で提供されるプロT細胞の作製方法の一実施形態において、前記派生細胞は、プレT細胞、未熟T細胞または成熟T細胞である。
【0027】
本明細書で提供されるプロT細胞の作製方法の一実施形態において、この方法は、前記前駆T細胞を分化させて、プレT細胞、未熟T細胞または成熟T細胞を得る工程をさらに含む。
【0028】
本開示の第5の態様において、ナチュラルキラー(NK)細胞またはその派生細胞を作製する方法が提供される。この方法は、腫瘍壊死因子α(TNFα)またはその機能的に同等な断片と、インターロイキン3(IL-3)またはその機能的に同等な断片と、Notchリガンドまたはその機能的に同等な断片の存在下において無血清培地中で幹細胞および/または前駆細胞を培養する工程を含み、前記Notchリガンドは、基材に吸着または固定されている。
【0029】
本明細書で提供されるプロT細胞またはNK細胞の作製方法の一実施形態において、前記培養工程は、幹細胞因子(SCF)またはその機能的に同等な断片、インターロイキン7(IL-7)またはその機能的に同等な断片、およびFMS様チロシンキナーゼ3リガンド(FLT3L)またはその機能的に同等な断片のうちの少なくとも1種がさらに存在する条件下で行われる。本明細書で提供されるプロT細胞またはNK細胞の作製方法の一実施形態において、前記培養工程は、幹細胞因子(SCF)またはその機能的に同等な断片、インターロイキン7(IL-7)またはその機能的に同等な断片、およびFMS様チロシンキナーゼ3リガンド(FLT3L)またはその機能的に同等な断片のうちの少なくとも2種がさらに存在する条件下で行われる。本明細書で提供されるプロT細胞またはNK細胞の作製方法の一実施形態において、前記培養工程は、幹細胞因子(SCF)またはその機能的に同等な断片、インターロイキン7(IL-7)またはその機能的に同等な断片、およびFMS様チロシンキナーゼ3リガンド(FLT3L)またはその機能的に同等な断片がさらに存在する条件下で行われる。
【0030】
本明細書で提供されるプロT細胞またはNK細胞の作製方法の一実施形態において、前記TNFαとIL-3は、前記細胞に同時に提供される。
【0031】
本明細書で提供されるプロT細胞またはNK細胞の作製方法の一実施形態において、前記TNFαが前記細胞に提供された後に、前記IL-3が該細胞に提供される。
【0032】
本明細書で提供されるプロT細胞またはNK細胞の作製方法の一実施形態において、前記TNFαが前記細胞に提供されてから1日後、2日後、3日後、4日後または5日後に前記IL-3が該細胞に提供される。
【0033】
本明細書で提供されるプロT細胞またはNK細胞の作製方法の一実施形態において、前記培養工程は、前記基材に吸着または固定された接着リガンドもしくはその機能的に同等な断片および/またはインテグリンリガンドもしくはその機能的に同等な断片がさらに存在する条件下で行われる。
【0034】
本明細書で提供されるプロT細胞またはNK細胞の作製方法の一実施形態において、前記培養工程は、トロンボポエチン(TPO)またはその機能的に同等な断片がさらに存在する条件下で行われる。
【0035】
本明細書で提供されるプロT細胞またはNK細胞の作製方法の一実施形態において、前記培養工程における前記TNFαの濃度は、約1ng/ml~約50ng/mlである。
【0036】
本明細書で提供されるプロT細胞またはNK細胞の作製方法の一実施形態において、前記培養工程における前記IL-3の濃度は、約1ng/ml~約50ng/mlである。
【0037】
本明細書で提供されるプロT細胞またはNK細胞の作製方法の一実施形態において、前記培養工程における前記SCF、IL-7およびFLT3Lの各濃度は、約5ng/ml~約200ng/mlである。
【0038】
本明細書で提供されるプロT細胞またはNK細胞の作製方法の一実施形態において、前記Notchリガンドは、Delta-like 4(DL4)、Delta-like 1(DL1)、Jagged 2(JAG2)またはこれらの組み合わせである。
【0039】
本明細書で提供されるプロT細胞またはNK細胞の作製方法の一実施形態において、前記Notchリガンドは、約0.5ng/mm2~約50ng/mm2のコーティング濃度で前記基材に吸着または固定されている。
【0040】
本明細書で提供されるプロT細胞またはNK細胞の作製方法の一実施形態において、前記基材は、細胞培養プレートまたは細胞培養ディッシュまたは培養バッグの表面である。
【0041】
本明細書で提供されるプロT細胞またはNK細胞の作製方法の一実施形態において、前記基材は、前記培地中に含まれる1個以上のビーズである。
【0042】
本明細書で提供されるプロT細胞またはNK細胞の作製方法の一実施形態において、前記幹細胞および/または前駆細胞はヒト細胞である。
【0043】
本明細書で提供されるプロT細胞またはNK細胞の作製方法の一実施形態において、前記幹細胞および/または前駆細胞は、CD34+造血幹細胞・前駆細胞(HSPC)である。
【0044】
本明細書で提供されるプロT細胞またはNK細胞の作製方法の一実施形態において、前記CD34+HSPCは、臍帯血幹細胞、末梢血幹細胞、骨髄幹細胞、胚性幹細胞または人工多能性幹細胞に由来するものである。
【0045】
本明細書で提供されるプロT細胞の作製方法の一実施形態において、前記プロT細胞は、CD7+細胞、CD7+CD5+細胞、CD7+CD5+CD34+細胞、CD7+CD5+CD45RA+細胞および/またはCD7+CD5+CD1a+細胞を含む。
【0046】
本明細書で提供されるNK細胞の作製方法の一実施形態において、前記NK細胞はCD7+CD56+細胞を含む。
【0047】
本明細書で提供されるプロT細胞の作製方法の一実施形態において、前記作製されたプロT細胞の細胞表面におけるIL-3受容体の密度は、TNFαを含まない培地中で培養して作製されたプロT細胞よりも高い。
【0048】
本明細書で提供されるプロT細胞の作製方法の一実施形態において、前記培養工程は、プロT細胞を作製することをさらに含み、該作製されたプロT細胞の派生細胞を作製することを含んでいてもよい。
【0049】
本明細書で提供されるプロT細胞の作製方法の一実施形態において、前記作製されたプロT細胞の派生細胞は、CD4+CD8+細胞、CD4+CD3+細胞および/またはCD8+CD3+細胞を含む。
【0050】
本明細書で提供されるNK細胞の作製方法の一実施形態において、前記培養工程は、NK細胞を作製することをさらに含み、該作製されたNK細胞の派生細胞を作製することを含んでいてもよい。
【0051】
本明細書で提供されるプロT細胞またはNK細胞の作製方法の一実施形態において、前記培養工程は、少なくとも7日間または少なくとも14日間行われる。
【0052】
本開示の第6の態様において、第4の態様に記載の方法によって作製されたプロT細胞またはその派生細胞が提供される。
【0053】
本開示の第7の態様において、第4の態様に記載の方法によって作製された前駆T細胞集団が提供される。
【0054】
本開示の第8の態様において、第5の態様に記載の方法によって作製されたNK細胞またはその派生細胞が提供される。
【0055】
本開示の第9の態様において、第5の態様に記載の方法によって作製されたNK細胞集団が提供される。
【0056】
本開示の第10の態様において、対象において免疫応答を向上させる方法が提供される。この方法は、第6の態様に記載のプロT細胞またはその派生細胞を有効な数で対象に投与することを含む。
【0057】
本開示の第11の態様において、対象においてT細胞数を増加させる方法が提供される。この方法は、第6の態様に記載のプロT細胞またはその派生細胞を有効な数で対象に投与することを含む。
【0058】
本開示の第12の態様において、対象において免疫応答を向上させる方法が提供される。この方法は、第8の態様に記載のNK細胞またはその派生細胞を有効な数で対象に投与することを含む。
【0059】
本開示の第13の態様において、対象においてNK細胞数を増加させる方法が提供される。この方法は、第8の態様に記載のNK細胞またはその派生細胞を有効な数で対象に投与することを含む。
【0060】
本明細書で提供される対象において免疫応答を向上させる方法または対象においてT細胞数を増加させる方法の様々な実施形態において、前記投与されるプロT細胞またはその派生細胞は、前記対象の自己細胞である。
【0061】
本明細書で提供される対象において免疫応答を向上させる方法または対象においてT細胞数を増加させる方法の様々な実施形態において、前記投与されるプロT細胞またはその派生細胞は、前記対象と同種の細胞である。
【0062】
本明細書で提供される対象において免疫応答を向上させる方法または対象においてNK細胞数を増加させる方法の様々な実施形態において、前記投与されるNK細胞またはその派生細胞は、前記対象の自己細胞である。
【0063】
本明細書で提供される対象において免疫応答を向上させる方法または対象においてNK細胞数を増加させる方法の様々な実施形態において、前記投与されるNK細胞またはその派生細胞は、前記対象と同種の細胞である。
【0064】
本明細書で提供される対象において免疫応答を向上させる方法または対象においてT細胞数もしくはNK細胞数を増加させる方法の様々な実施形態において、前記対象は、免疫不全を有する対象または免疫不全のリスクがある対象である。
【0065】
本明細書で提供される対象において免疫応答を向上させる方法または対象においてT細胞数を増加させる方法の様々な実施形態において、前記免疫不全はT細胞欠損である。
【0066】
本明細書で提供される対象において免疫応答を向上させる方法または対象においてNK細胞数を増加させる方法の様々な実施形態において、前記免疫不全はNK細胞欠損である。
【0067】
本明細書で提供される対象において免疫応答を向上させる方法または対象においてT細胞数もしくはNK細胞数を増加させる方法の様々な実施形態において、前記免疫不全は、病態、化学暴露および/または放射線暴露によって引き起こされたものである。
【0068】
本明細書で提供される対象において免疫応答を向上させる方法または対象においてT細胞数もしくはNK細胞数を増加させる方法の様々な実施形態において、前記病態は、がん、骨髄機能不全、貧血、原発性免疫不全症、自己免疫疾患、胸腺部分切除、臓器移植、ウイルス感染症、細菌感染症、真菌感染症および/または特発性CD4+Tリンパ球減少症である。
【0069】
本明細書で提供される対象において免疫応答を向上させる方法または対象においてT細胞数もしくはNK細胞数を増加させる方法の様々な実施形態において、前記ウイルス感染症はヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症である。
【0070】
本明細書で提供される対象において免疫応答を向上させる方法または対象においてT細胞数もしくはNK細胞数を増加させる方法の様々な実施形態において、前記化学暴露は、化学療法、抗炎症薬療法、職場に関連する化学暴露、または化学物質による偶発的中毒を含む。
【0071】
本明細書で提供される対象において免疫応答を向上させる方法または対象においてT細胞数もしくはNK細胞数を増加させる方法の様々な実施形態において、前記放射線暴露は、放射線療法、職場に関連する放射性同位体への暴露、放射性同位体による偶発的中毒、炉心溶融、または放射性降下物を含む。
【0072】
本明細書で提供される対象において免疫応答を向上させる方法または対象においてT細胞数もしくはNK細胞数を増加させる方法の様々な実施形態において、前記対象はヒトである。
【0073】
本開示の第14の態様において、免疫応答の向上を必要とする患者において免疫応答を向上させる方法であって、第4の態様に記載の方法によって前駆T細胞またはその派生細胞の集団を製造する工程、および該細胞集団を前記患者に投与する工程を含む方法が提供される。
【0074】
本開示の第15の態様において、免疫応答の向上を必要とする患者において免疫応答を向上させる方法であって、第5の態様に記載の方法によってNK細胞またはその派生細胞の集団を製造する工程、および前記細胞集団を前記患者に投与する工程を含む方法が提供される。
【0075】
本明細書で提供される免疫応答の向上を必要とする患者において免疫応答を向上させる方法の様々な実施形態において、前記投与されるプロT細胞またはその派生細胞は、前記患者の自己細胞である。
【0076】
本明細書で提供される免疫応答の向上を必要とする患者において免疫応答を向上させる方法の様々な実施形態において、前記投与されるプロT細胞またはその派生細胞は、前記患者と同種の細胞である。
【0077】
本明細書で提供される免疫応答の向上を必要とする患者において免疫応答を向上させる方法の様々な実施形態において、前記投与されるNK細胞またはその派生細胞は、前記患者の自己細胞である。
【0078】
本明細書で提供される免疫応答の向上を必要とする患者において免疫応答を向上させる方法の様々な実施形態において、前記投与されるNK細胞またはその派生細胞は、前記患者と同種の細胞である。
【0079】
本明細書で提供される免疫応答の向上を必要とする患者において免疫応答を向上させる方法の様々な実施形態において、前記患者は、免疫不全を有する患者または免疫不全のリスクがある患者である。
【0080】
本明細書で提供される免疫応答の向上を必要とする患者において免疫応答を向上させる方法の様々な実施形態において、前記免疫不全はT細胞欠損である。
【0081】
本明細書で提供される免疫応答の向上を必要とする患者において免疫応答を向上させる方法の様々な実施形態において、前記免疫不全はNK細胞欠損である。
【0082】
本明細書で提供される免疫応答の向上を必要とする患者において免疫応答を向上させる方法の様々な実施形態において、前記免疫不全は、病態、化学暴露および/または放射線暴露によって引き起こされたものである。
【0083】
本明細書で提供される免疫応答の向上を必要とする患者において免疫応答を向上させる方法の様々な実施形態において、前記病態は、がん、骨髄機能不全、貧血、原発性免疫不全症、自己免疫疾患、胸腺部分切除、臓器移植、ウイルス感染症、細菌感染症、真菌感染症および/または特発性CD4+Tリンパ球減少症である。
【0084】
本明細書で提供される免疫応答の向上を必要とする患者において免疫応答を向上させる方法の様々な実施形態において、前記ウイルス感染症はヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症である。
【0085】
本明細書で提供される免疫応答の向上を必要とする患者において免疫応答を向上させる方法の様々な実施形態において、前記化学暴露は、化学療法、抗炎症薬療法、職場に関連する化学暴露、または化学物質による偶発的中毒を含む。
【0086】
本明細書で提供される免疫応答の向上を必要とする患者において免疫応答を向上させる方法の様々な実施形態において、前記放射線暴露は、放射線療法、職場に関連する放射性同位体への暴露、放射性同位体による偶発的中毒、炉心溶融、または放射性降下物を含む。
【0087】
本明細書で提供される免疫応答の向上を必要とする患者において免疫応答を向上させる方法の様々な実施形態において、前記患者はヒトである。
【0088】
本発明の主題の理解を容易にするため、添付の図面に示す実施例を参照することにより本発明の実施形態を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0089】
図1a】プロT細胞の分化と増殖を向上させる新たな因子を同定するためのスクリーニングの実験計画を示した模式図である。
【0090】
図1b】SCF、FLT3L、TPOおよびIL-7(「4Fサイトカイン」)(それぞれ100ng/mlまたは20ng/ml)の存在下で培養した7日目および14日目の全細胞、CD7+CD5+プロT細胞、CD7+CD56+ナチュラルキラー(NK)細胞またはCD14/33+骨髄系細胞の増殖を示した一連のグラフである。n=6の別々の臍帯血(UCB)ドナーにおいて*p<0.05とした;ns=有意差なし。
【0091】
図1c】プロT細胞の分化と増殖を向上させる因子の同定を目的としたスクリーニングの結果を示したプロットである。生細胞全体、CD7+リンパ球またはCD7+CD5+プロT細胞に対するスクリーニング対象の各因子の効果を示す。中間の灰色は対照条件の効果を示し、濃い灰色は対照条件よりも効果が高かったことを示し、薄い灰色は対照条件よりも効果が低かったことを示す。それぞれの円の大きさは、線形回帰モデルにおける効果の有意性を示す。回帰モデルにおいて、様々な因子の組み合わせから、2因子交互作用(例えばTPO×IL-1β)または二次効果(例えばIL-21×IL-21)が示された。n=2の別々のUCBドナー。
【0092】
図1d】グラフに示した濃度範囲のIL-3またはTNFαに対する生細胞、CD7+リンパ球またはCD7+CD5+プロT細胞の用量反応を示した一連のグラフである。n=2の別々のUCBドナー。
【0093】
図2a】カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル(CFSE)で染色した細胞を、IL-3もしくはTNFαで処理した場合またはこれらで処理しなかった場合の2~5日目の細胞分裂回数を示した一連のヒストグラムである。
【0094】
図2b図2aに示したCFSE染色データからの各日の細胞増殖の統計分析と各日のCD7+細胞の頻度を示した一連のグラフである。各日の対照群に対して*p<0.05とした。結果は、n=4の別々のUCBドナーから得た平均値±標準誤差として示す。
【0095】
図2c図2aおよび図2bに示した実験の5日目におけるプロT1細胞(CD34+CD7+CD5-)およびプロT2細胞(CD34+CD7+CD5+)の頻度を示した一連のフローサイトメトリープロットである。プロT1細胞集団とプロT2細胞集団の定義は、Awongらの報告に従った3
【0096】
図3a】NF-κBシグナル伝達経路におけるTNFαの関与を示した模式図である。TNFαは、Notchの標的遺伝子またはNotch自体を制御することによって、Notchシグナル伝達経路を制御している可能性がある。
【0097】
図3b】TNFαがNotch経路と交互作用するのかどうか、あるいはTNFαとNotchがどのように交互作用するのかを調査するための研究の実験計画の模式図とフローサイトメトリープロットである。5日間培養を行った後、定量リアルタイムPCR(qRT-PCR)で遺伝子発現を測定した。
【0098】
図3c】TNFαの存在下または非存在下での各グラフに示したNotchの標的遺伝子の発現量(β-アクチンの発現量で補正)を示した一連のグラフである。n=4の別々のUCBドナーにおいて*p<0.05とした。
【0099】
図3d】TNFαの存在下または非存在下での各グラフに示した骨髄系細胞分化促進遺伝子の発現量(β-アクチンの発現量で補正)を示した一連のグラフである。n=4の別々のUCBドナーにおいて*p<0.05とした。
【0100】
図3e】T細胞系列の発生の各段階に特異的なTNFαの効果を調べるための実験計画の模式図である。
【0101】
図3f図3eに示した実験の7日目における総細胞数およびCD7+細胞とCD14/33+細胞の頻度を示した一連のグラフである。CD7+細胞とCD14/33+細胞の頻度では、0日目にTNFαを添加して培養した各細胞の頻度に対して*p<0.05とした。結果は、n=3の別々のUCBドナーから得た平均値±標準誤差として示す。n.s.=有意差なし。
【0102】
図4a】Notchの活性化に対する阻害剤であるγ-セクレターゼ阻害剤(GSI)の濃度を段階的に上昇させた場合の、プロT細胞の発生に対するTNFαの効果を測定するための滴定実験の模式図である。
【0103】
図4b】γ-セクレターゼ阻害剤(GSI)の添加濃度を段階的に上昇させた場合のCD7+CD5+細胞の頻度およびlog2倍率変化を示した一連のグラフである。対照条件およびTNFα添加条件において0μMのGSIに対して*p<0.05とした。
【0104】
図4c】γ-セクレターゼ阻害剤(GSI)を用いてNotchを抑制した場合のプロT細胞の誘導が、TNFαの有無に応じて異なることが示された一連の代表的なフローサイトメトリープロットである。
【0105】
図4d】DL4のコーティング濃度を段階的に低下させた場合の、プロT細胞の発生に対するTNFαの効果を測定するための滴定実験の模式図である。
【0106】
図4e】DL4のコーティング濃度を段階的に低下させた場合のCD7+CD5+細胞の頻度およびlog2倍率変化を示した一連のグラフである。対照条件およびTNFα添加条件において12ng/mm2のDL4に対して*p<0.05とした。
【0107】
図4f】DL4を介してNotchを活性化させた場合のプロT細胞の誘導が、TNFαの有無に応じて異なることが示された一連の代表的なフローサイトメトリープロットである。結果は、n=7の別々のUCBドナーから得た平均値±標準誤差として示す。
【0108】
図5a】T細胞系列の発生に対するTNFαとIL-3の併用効果を調査するための実験の模式図である。DL4とVCAM-1でコーティングしたプレートにCD34+HSPCを播種し、新たにコーティングしたプレートに7日ごとに継代した。2週目から継代する際に培地の半量を交換した。
【0109】
図5b】IL-3、TNFαもしくはIL-3+TNFαの存在下または非存在下において7日間培養した後のCD7+CD5+プロT細胞およびCD7+CD56+NK細胞の頻度を示した一連の代表的なフローサイトメトリープロットである。頻度は、n=4の別々のUCBドナーから得た平均値±標準誤差として示す。
【0110】
図5c】IL-3、TNFαもしくはIL-3+TNFαの存在下または非存在下において14日間培養した後のCD7+CD5+プロT細胞およびCD7+CD56+NK細胞の頻度を示した一連の代表的なフローサイトメトリープロットである。頻度は、n=4の別々のUCBドナーから得た平均値±標準誤差として示す。
【0111】
図5d】IL-3、TNFαもしくはIL-3+TNFαの存在下または非存在下において7日間培養した後の全細胞、CD7+CD5+プロT細胞、CD7+CD56+NK細胞およびCD14/33+骨髄系細胞の増殖倍率を示した一連のグラフである。n=4の別々のUCBドナーにおいて*p<0.05とした。
【0112】
図5e】IL-3、TNFαもしくはIL-3+TNFαの存在下または非存在下において14日間培養した後の全細胞、CD7+CD5+プロT細胞、CD7+CD56+NK細胞およびCD14/33+骨髄系細胞の増殖倍率を示した一連のグラフである。n=4の別々のUCBドナーにおいて*p<0.05とした。
【0113】
図6a】TNFαで24時間刺激した場合または刺激を与えなかった場合のCD34+HSPCの表面上のCD117(c-kit;SCF受容体)、CD123(IL-3受容体)およびCD127(IL-7受容体)の発現量を示した一連の代表的なヒストグラムである。
【0114】
図6b】TNFαで24時間刺激した場合または刺激を与えなかった場合のCD117+細胞、CD123+細胞およびCD127+細胞の頻度を示したグラフである。n=3の別々のUCBドナーにおいて*p<0.05とした。
【0115】
図6c】TNFαで24時間刺激した場合または刺激を与えなかった場合のCD117+細胞、CD123+細胞およびCD127+細胞の蛍光強度の中央値(MFI)を示したグラフである。n=3の別々のUCBドナーにおいて*p<0.05とした。
【0116】
図7a】IL-3とTNFαの存在下または非存在下、かつVCAM-1の存在下または非存在下においてCD34+HSPCを14日間培養することにより得たCD7+CD5+プロT細胞の一連の代表的なフローサイトメトリープロットである。頻度は、n=2の別々のUCBドナーから得た平均値±標準誤差として示す。
【0117】
図7b】IL-3とTNFαの存在下または非存在下、かつVCAM-1の存在下または非存在下においてCD34+HSPCを14日間培養することにより得たCD7+CD1a+プレT細胞の一連の代表的なフローサイトメトリープロットである。頻度は、n=2の別々のUCBドナーから得た平均値±標準誤差として示す。
【0118】
図7c】IL-3とTNFαの存在下かつVCAM-1の存在下において得たCD7+CD5+プロT細胞およびCD7+CD1a+プレT細胞の一連の代表的なフローサイトメトリープロットである。頻度は、n=2の別々のUCBドナーから得た平均値±標準誤差として示す。
【0119】
図7d】IL-3とTNFαの存在下かつVCAM-1の非存在下において得たCD7+CD5+プロT細胞およびCD7+CD1a+プレT細胞の一連の代表的なフローサイトメトリープロットである。頻度は、n=2の別々のUCBドナーから得た平均値±標準誤差として示す。
【0120】
図8】TNFαの存在下または非存在下、かつTPOの存在下または非存在下における全細胞数、CD7+リンパ系細胞数およびCD14/33+骨髄系細胞数を示した一連のグラフである。n=3の別々のUCBドナーに対して*p<0.05とした。ns=有意差なし。
【0121】
図9】本明細書に開示された典型的な実施形態を示した模式図である(ただし、この実施形態に限定されない)。
【0122】
本開示のその他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および典型的な実施形態から明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0123】
本開示は、概して、無血清培養培地;本明細書で開示される無血清培養培地を含むキット;プロT細胞およびその派生細胞を作製する方法;NK細胞およびその派生細胞を作製する方法;本明細書で開示される方法によって作製されたプロT細胞またはその派生細胞;本明細書で開示される方法によって作製されたNK細胞またはその派生細胞;本明細書で開示される方法によって作製された前駆T細胞集団;本明細書で開示される方法によって作製されたNK細胞集団;対象において免疫応答を向上させる方法;ならびに対象においてT細胞数またはNK細胞数を増加させる方法を提供する。
【0124】
用語の定義
本明細書において使用される用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的としており、本発明の例示的な実施形態を限定するものではない。別段の記載がない限り、本明細書で使用されているすべての技術用語および科学用語は、通常、本開示が属する技術分野の当業者によって一般に理解される意味を有する。
【0125】
本明細書において、単数形の「a」、「an」および「the」は、別段の明確な記載がない限り複数のものも含む。
【0126】
「および/または」という用語は、この用語で組み合わされた構成要素の「一方または両方」を意味し、すなわち、複数の構成要素が組み合わさって存在する場合と、複数の構成要素が別々に分離されて存在する場合とがあることを意味する。したがって、例えば、「Aおよび/またはB」は、「含む」といったオープンエンドな用語とともに使用される場合、一実施形態においてAのみを指してもよく(さらにB以外の構成要素を含んでいてもよく);別の一実施形態では、Bのみを指してもよく(さらにA以外の構成要素を含んでいてもよく);さらに別の一実施形態では、AとBの両方を指してもよく(さらにその他の構成要素を含んでいてもよく);その他の態様であってもよいが、これらに限定されない。
【0127】
本明細書において、1つ以上の構成要素の一覧に関して使用される「1つ以上」または「少なくとも1つ」という用語は、この構成要素の一覧に含まれる1つ以上の構成要素から選択された少なくとも1つの構成要素を意味するが、構成要素の一覧に具体的に記載されたすべての構成要素のうちの少なくとも1つを必ずしも含んでいなくてもよく、構成要素の一覧のうちのいずれかの組み合わせを除外するものでもない。また、この定義は、「1つ以上」または「少なくとも1つ」という用語が使用される構成要素の一覧に、具体的に記載された構成要素以外の構成要素が存在していてもよいことも意味し、具体的に記載された構成要素以外の構成要素は、具体的に記載された構成要素に関連していてもよく、関連していなくてもよい。したがって、例えば、「AおよびBのうちの1つ以上」(もしくはこれと同様の表現の「AまたはBのうち1つ以上」もしくは「Aおよび/またはBのうちの1つ以上」)または「AおよびBのうちの少なくとも1つ」(もしくはこれと同様の表現の「AまたはBのうちの少なくとも1つ」もしくは「Aおよび/またはBのうちの少なくとも1つ」)は、一実施形態において、少なくとも1つのAを指してもよく、2つ以上のAを含んでいてもよいが、Bは存在しなくてもよく(かつB以外の構成要素を含んでいてもよく);別の一実施形態では、少なくとも1つのBを指してもよく、2つ以上のBを含んでいてもよいが、Aは存在しなくてもよく(かつA以外の構成要素を含んでいてもよく);さらに別の一実施形態では、少なくとも1つのAを指してもよく、2つ以上のAを含んでいてもよく、かつ少なくとも1つのBを指してもよく、2つ以上のBを含んでいてもよく(かつその他の構成要素を含んでいてもよく);その他の態様であってもよいが、これらに限定されない。
【0128】
「約」という用語が数値範囲とともに使用される場合、この用語は、この数値範囲内の数値の上限および下限を拡大することにより、その数値範囲を一部変更する。通常、本明細書において、この「約」という用語を使用して、特定の数値を20%、10%、5%または1%の変動幅で記載の数値よりも大きい数値または小さい数値に変更する。特定の一実施形態において、この「約」という用語を使用して、特定の数値を10%の変動幅で記載の数値よりも大きい数値または小さい数値に変更する。特定の一実施形態において、この「約」という用語を使用して、特定の数値を5%の変動幅で記載の数値よりも大きい数値または小さい数値に変更する。特定の一実施形態において、この「約」という用語を使用して、特定の数値を1%の変動幅で記載の数値よりも大きい数値または小さい数値に変更する。
【0129】
ある特定の数値範囲が本明細書に記載されている場合、この数値範囲は、その範囲内の各数値および部分範囲を含む。例えば、「1~5ng」という数値範囲は、1ng、2ng、3ng、4ng、5ng、1~2ng、1~3ng、1~4ng、1~5ng、2~3ng、2~4ng、2~5ng、3~4ng、3~5ngおよび4~5ngを含む。
【0130】
「対象」は、脊椎動物であり、哺乳動物(例えば非ヒト哺乳動物)であることが好ましく、霊長類であることがより好ましく、ヒトであることがさらに好ましい。哺乳動物としては、霊長類、ヒト、農場動物、競技用動物および愛玩動物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0131】
本明細書において、「含む(comprises)」、「含んでいる(comprising)」、「包含する(includes)」および/または「包含している(including)」という用語は、本明細書に記載の特徴、整数、工程、操作、構成要素および/または成分の存在を特定するものであるが、1つ以上の別の特徴、整数、工程、操作、構成要素、成分および/またはこれらの群の存在や追加を除外するものではない。
【0132】
本明細書において、「治療」、「治療する」もしくは「治療すること」または「緩和」は、有益な臨床結果または所望の臨床結果を得るためのアプローチを指す。本開示の目的に対して有益な臨床結果または所望の臨床結果としては、免疫応答の増強;T細胞応答の増強;疾患、状態もしくは障害による損傷の程度の減少;疾患、状態もしくは障害の持続期間の短縮;および/または疾患、状態もしくは障害と関連する症状の数、その程度もしくはその持続期間の減少のうちの1つ以上が挙げられるが、これらに限定されない。また、「治療」、「治療する」もしくは「治療すること」または「緩和」は、本開示の化合物、薬剤、薬物または医薬組成物を投与することによって、疾患もしくは状態の1つ以上の症状、合併症もしくは生化学的な徴候の発症を予防すること、もしくはこれらを遅延させること;1つ以上の症状を軽減もしくは改善させること;症状の持続期間を短縮すること、もしくは症状の持続期間を減少させること;または疾患、状態もしくは障害のさらなる発症を阻止もしくは抑制することを含む。「治療」は、予防的治療(疾患、状態もしくは障害の発症を予防すること、もしくは疾患、状態もしくは障害の発症を遅延させること、または疾患、状態もしくは障害の臨床症状もしくは不顕性症状の発現を予防することを目的とした治療)であってもよく、疾患、状態または障害が発現した後の症状の治療的抑制または治療的軽減であってもよい。
【0133】
本明細書において、「幹細胞」は、さらに特化した細胞に分化することが可能な、自己複製能を有する細胞を指す。幹細胞としては、胚性幹細胞(ESC)や人工多能性幹細胞(iPSC)などの全能性幹細胞(PSC);および臍帯血幹細胞や成体幹細胞などの、様々な組織で見出される多能性幹細胞が挙げられる。幹細胞を得る方法、幹細胞を誘導する方法、および幹細胞を製造する方法は当技術分野で公知である。
【0134】
本明細書において、「前駆細胞」は、1種以上の細胞に分化することが可能であるが、通常、限られた自己複製能しか持たない細胞を指す。前駆細胞は幹細胞から派生した細胞であり、元の幹細胞と比べてその能力は限定的である。例えば、造血幹細胞(HSC)は、成体の骨髄、末梢血および臍帯血で見出され(ただし、末梢血中の造血幹細胞数は少ない)、あらゆる種類の血球に分化する能力を有する。造血前駆細胞は、より限られた種類の血球または特定の種類の血球のみに分化可能なHSC由来多能性細胞または特定の細胞系列に分化決定されたHSC由来細胞を指す。造血幹細胞・前駆細胞(HSPC)は、通常、インビボにおいて不均一な集団として存在し、本明細書で述べるように、不均一な集団として使用される。
【0135】
本明細書において、「前駆T細胞」および「プロT細胞」は、多能性幹細胞またはCD34+の造血幹細胞および/もしくは前駆細胞に由来する細胞であり、少なくともCD7+を発現し、1種以上の未熟T細胞および成熟T細胞に分化する能力を持つ。前駆T細胞の例として、CD7+細胞、CD7+CD5+細胞、CD7+CD5+CD34+細胞、CD7+CD5+CD45RA+細胞および/またはCD7+CD5+CD1a+細胞が挙げられるが、これらに限定されない。
【0136】
本明細書において、「前駆T細胞の派生細胞」、「プロT細胞の派生細胞」、「前駆T細胞由来細胞」および「プロT細胞由来細胞」は、前駆T細胞に由来するあらゆる種類の未熟T細胞または成熟T細胞を指す。成熟T細胞は、細胞表面マーカーとしてCD4、CD8およびCD3の組み合わせを発現する細胞を含む。前駆T細胞の派生細胞の例として、CD4+CD8+のダブルポジティブT細胞、CD4+CD3+のシングルポジティブT細胞、およびCD8+CD3+のシングルポジティブT細胞が挙げられるが、これらに限定されない。
【0137】
本明細書において、「既知組成の培養培地」は、化学組成の明らかな成分のみで構成された化学組成の明らかな培地処方を指す。既知組成培地は、化学組成が知られている成分を含んでいてもよい。培地成分は、合成成分であってもよく、かつ/または公知の天然供給源に由来する成分であってもよい。例えば、既知組成培地は、公知の組織または細胞から分泌される1種以上の成長因子を含んでいてもよい。しかし、既知組成培地には、細胞培養から得られる馴化培地は含まれない。既知組成培地には、動物から単離された公知の特定の血清成分(ヒト由来の血清成分など)が含まれていてもよいが、血清は含んでいない(すなわち、既知組成培養培地は例外なく無血清培地である)。既知組成培地に添加される血清成分(例えばウシ血清アルブミン(BSA)など)は、いずれも実質的に均質な成分であることが好ましい。
【0138】
本明細書において、「無血清培地」は、動物血清を含んでいない細胞培養培地を指す。無血清培地には、動物(ヒトを含む)から単離された公知の特定の血清成分(例えばBSAなど)が含まれていてもよい。
【0139】
本明細書において、「Delta-like 4」、「DL4」および「NotchリガンドであるDL4」は、ヒトではDLL4遺伝子によってコードされるタンパク質を指す。DL4はNotchシグナル伝達経路のメンバーであり、当技術分野において「Delta like ligand 4」や「DLL4」とも呼ばれる。本明細書においてDL4について述べる場合、DL4はDL4タンパク質全体に限定されず、DL4のシグナル伝達ペプチド部分を少なくとも含む。本明細書において提供される培地処方および方法での使用に適したDL4タンパク質として、例えば、ヒトDL4(DL4の全長;アクセッション番号:NP_061947.1;配列番号1)の細胞外ドメイン(1番目のMetから524番目のProまでの領域)がヒトIgG1のFc領域のC末端に融合された融合タンパク質を含む市販品(Sino Biologicals)が挙げられる。
【0140】
本明細書において、「接着リガンド」は、膜貫通タンパク質受容体と相互作用することによって、細胞外マトリックス(例えば基底板)および/または別の細胞への細胞の接着を促すことができるあらゆるリガンドを指す。また、本明細書において、「インテグリンリガンド」は、1種以上のインテグリンと相互作用することによって、細胞外マトリックス(例えば基底板)への細胞の接着を促すことができるあらゆるリガンドを指す。接着リガンドおよび/またはインテグリンリガンドの例として、VCAM-1、フィブロネクチンおよびRetroNectinTMが挙げられるが、これらに限定されない。
【0141】
本明細書において、「血管細胞接着分子-1」すなわち「VCAM-1」は、ヒトではVCAM1遺伝子によってコードされるタンパク質を指す。VCAM-1は、免疫グロブリン(Ig)スーパーファミリーのメンバーであるI型膜貫通タンパク質として細胞表面に存在するシアロ糖タンパク質である。VCAM-1は当技術分野において「血管細胞接着タンパク質1」や「分化抗原(CD)106」とも呼ばれる。本明細書においてVCAM-1について述べる場合、VCAM-1は、VCAM-1タンパク質全体に限定されず、VCAM-1のシグナル伝達ペプチド部分(QIDSPL(配列番号2)またはTQIDSPLN(配列番号3))を少なくとも含む。本発明での使用に適したVCAM-1タンパク質としては、例えば、マウスVCAM-1(マウスVCAM-1の全長;アクセッション番号:CAA47989;配列番号4)の25番目のPheから698番目のGluまでの領域がヒトIgG1のFc領域に融合された融合タンパク質を含む市販のマウスVCAM-1-Fcキメラタンパク質(R&D)が挙げられる。さらに、本明細書において提供される培地処方および方法での使用に適したVCAM-1として、ヒトVCAM-1(ヒトVCAM-1の全長;アクセッション番号:P19320、NP001069、EAW72950;配列番号5)の少なくとも一部を使用してもよい。
【0142】
本明細書において、「腫瘍壊死因子α」すなわち「TNFα」は、ヒトではTNFA遺伝子によってコードされるタンパク質を指す。TNFαは、サイトカインの一種であり、当技術分野において、「TNF」、「腫瘍壊死因子」、「カケクチン」、「cachexin」および「腫瘍壊死因子リガンドスーパーファミリーメンバー2」とも呼ばれる。本明細書においてTNFαについて述べる場合、TNFαはTNFαタンパク質の全長に限定されず、TNFαの機能的に同等な断片も含まれる。本明細書において提供される培地処方および方法での使用に適したTNFαとして、例えば、TNFαの全長(アクセッション番号:P01375;配列番号6)と機能的に同等な断片が挙げられる。
【0143】
本明細書において、「インターロイキン3」すなわち「IL-3」は、ヒトではIL3遺伝子によってコードされるタンパク質を指す。IL-3は、サイトカインの一種であり、当技術分野において、「造血成長因子」、「マスト細胞成長因子」、「MCGF」、「多能性コロニー刺激因子」および「P細胞刺激因子」とも呼ばれる。本明細書においてIL-3について述べる場合、IL-3はIL-3タンパク質の全長に限定されず、IL-3の機能的に同等な断片も含まれる。本明細書において提供される培地処方および方法での使用に適したIL-3として、例えば、IL-3の全長(アクセッション番号:P08700;配列番号7)と機能的に同等な断片が挙げられる。
【0144】
本明細書において、「機能的に同等な断片」および「その機能的に同等な断片」は、全長タンパク質の断片、部分、セグメントまたは一部を指し、これらの断片、部分、セグメントまたは一部は、全長タンパク質が有する少なくとも1つの機能特性を保持している。例えば、ヒトDL4の機能的に同等な断片は、少なくともヒトDL4タンパク質の細胞外ドメイン(1番目のMetから524番目のProまでの領域)を含むDL4の断片、部分、セグメントまたは一部であってもよい。VCAM-1の機能的に同等な断片は、少なくともVCAM-1タンパク質のシグナル伝達ペプチド部分(具体的には、QIDSPL(配列番号2)またはTQIDSPLN(配列番号3))を含むVCAM-1の断片、部分、セグメントまたは一部であってもよい。サイトカインの機能的に同等な断片は、全長サイトカインの細胞シグナル伝達活性などを保持するサイトカインの断片、部分、セグメントまたは一部などであってもよい。一実施形態において、「機能的に同等な断片」および「その機能的に同等な断片」は、例えば、マウス、ラット、ヒトなどの哺乳動物に由来するものである。
【0145】
一般的な方法
本明細書において別段の記載がない限り、本開示に関連して使用される科学用語および技術用語は、当業者によって一般に理解される意味を有する。通常、本明細書に記載の、細胞培養、組織培養、分子生物学、免疫学、微生物学、遺伝学、タンパク質化学、核酸化学およびハイブリダイゼーションに関連して使用される名称、ならびにこれらの分野の技術は、当技術分野でよく知られており、一般的に使用されている。
【0146】
本開示は、別段の記載がない限り、当業者によく知られている従来の分子生物学的技術(遺伝子組換え技術を含む)、微生物学的技術、細胞生物学的技術、生化学的技術および免疫学的技術を使用して実施される。このような技術は、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, second edition (Sambrook et al., 1989) Cold Spring Harbor Press; Oligonucleotide Synthesis (M.J. Gait, ed., 1984); Methods in Molecular Biology, Humana Press; Cell Biology: A Laboratory Notebook (J.E. Cellis, ed., 1998) Academic Press; Animal Cell Culture (R.I. Freshney, ed., 1987); Introduction to Cell and Tissue Culture (J.P. Mather and P.E. Roberts, 1998) Plenum Press; Cell and Tissue Culture: Laboratory Procedures (A. Doyle, J.B. Griffiths, and D.G. Newell, eds., 1993-1998) J. Wiley and Sons; Methods in Enzymology (Academic Press, Inc.); Handbook of Experimental Immunology (D.M. Weir and C.C. Blackwell, eds.); Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells (J.M. Miller and M.P. Calos, eds., 1987); Current Protocols in Molecular Biology (F.M. Ausubel et al., eds., 1987); PCR: The Polymerase Chain Reaction, (Mullis et al., eds., 1994); Current Protocols in Immunology (J.E. Coligan et al., eds., 1991); Sambrook and Russell, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd. ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY (2001); Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, NY (2002); Harlow and Lane Using Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY (1998); Coligan et al., Short Protocols in Protein Science, John Wiley & Sons, NY (2003); Short Protocols in Molecular Biology (Wiley and Sons, 1999);およびImmunobiology (C.A. Janeway and P. Travers, 1997)などの学術文献に詳しく説明されている。
【0147】
既知組成の培養培地処方
本明細書で提供される既知組成の培養培地は、通常、TNFαまたはその機能的に同等な断片と、IL-3またはその機能的に同等な断片と、Notchリガンドまたはその機能的に同等な断片とを含む無血清培養培地である。本明細書で提供される無血清培養培地は、幹細胞因子(SCF)またはその機能的に同等な断片、インターロイキン7(IL-7)またはその機能的に同等な断片、およびFMS様チロシンキナーゼ3リガンド(FLT3L)またはその機能的に同等な断片のうちの少なくとも1種をさらに含んでいてもよい。本明細書で提供される無血清培養培地は、SCFまたはその機能的に同等な断片、IL-7またはその機能的に同等な断片、およびFLT3Lまたはその機能的に同等な断片のうちの少なくとも2種をさらに含んでいてもよい。本明細書で提供される無血清培養培地は、SCFまたはその機能的に同等な断片、IL-7またはその機能的に同等な断片、およびFLT3Lまたはその機能的に同等な断片をさらに含んでいてもよい。TNFα、IL-3、Notchリガンド、SCF、IL-7および/もしくはFLT3Lまたはこれらの機能的に同等な断片は、培養培地に外部から添加してもよく、当技術分野で公知の技術を使用して培養培地中で発現させてもよい。
【0148】
Notchリガンドまたはその機能的に同等な断片は、基材に吸着または固定されていてもよい。特定の実施形態において、本明細書で提供される既知組成の培養培地は、VCAM-1またはその機能的に同等な断片をさらに含み、このVCAM-1またはその機能的に同等な断片は、基材に吸着または固定されていてもよい。特定の実施形態において、その他の接着リガンドおよび/またはインテグリンリガンドをVCAM-1の代わりに使用してもよく、VCAM-1に加えて使用してもよい。本明細書で提供される既知組成の培養培地処方に好適に含まれていてもよいその他の接着リガンドおよび/またはインテグリンリガンドの例として、フィブロネクチンおよびRetroNectinTMが挙げられるが、これらに限定されない。特定の実施形態において、本明細書で提供される既知組成の培養培地は、TPOまたはその機能的に同等な断片をさらに含む。VCAM-1もしくはその機能的に同等な断片、および/またはTPOもしくはその機能的に同等な断片は、培養培地に外部から添加してもよく、当技術分野で公知の技術を使用して培養培地中で発現させてもよい。
【0149】
本明細書で提供される既知組成の培養培地の様々な実施形態において、TNFαの濃度は、約1ng/ml~約50ng/mlである。本明細書で提供される既知組成の培養培地中のTNFαの好適な濃度として、約1ng/ml、約2ng/ml、約3ng/ml、約4ng/ml、約5ng/ml、約6ng/ml、約7ng/ml、約8ng/ml、約9ng/ml、約10ng/ml、約15ng/ml、約20ng/ml、約25ng/ml、約30ng/ml、約35ng/ml、約40ng/ml、約45ng/mlおよび約50ng/mlが挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態において、本明細書で提供される既知組成の培養培地中のTNFαの濃度は約10ng/mlである。一実施形態において、本明細書で提供される既知組成の培養培地中のTNFαの濃度は約5ng/mlである。
【0150】
本明細書で提供される既知組成の培養培地の様々な実施形態において、IL-3の濃度は、約1ng/ml~約50ng/mlである。本明細書で提供される既知組成の培養培地中のIL-3の好適な濃度として、約1ng/ml、約2ng/ml、約3ng/ml、約4ng/ml、約5ng/ml、約6ng/ml、約7ng/ml、約8ng/ml、約9ng/ml、約10ng/ml、約15ng/ml、約20ng/ml、約25ng/ml、約30ng/ml、約35ng/ml、約40ng/ml、約45ng/mlおよび約50ng/mlが挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態において、本明細書で提供される既知組成の培養培地中のIL-3の濃度は約10ng/mlである。一実施形態において、本明細書で提供される既知組成の培養培地中のIL-3の濃度は約5ng/mlである。
【0151】
本明細書で提供される既知組成の培養培地の様々な実施形態において、SCF、IL-7およびFLT3L(さらに任意でTPO)の各濃度は、約5ng/ml~約200ng/mlである。本明細書で提供される既知組成の培養培地中のSCF、IL-7およびFLT3L(さらに任意でTPO)の好適な各濃度として、約5ng/ml、約10ng/ml、約20ng/ml、約30ng/ml、約40ng/ml、約50ng/ml、約60ng/ml、約70ng/ml、約80ng/ml、約90ng/ml、約100ng/ml、約150ng/mlおよび約200ng/mlが挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態において、本明細書で提供される既知組成の培養培地中のSCF、IL-7およびFLT3L(さらに任意でTPO)の各濃度は、約100ng/mlである。一実施形態において、本明細書で提供される既知組成の培養培地中のSCF、IL-7およびFLT3L(さらに任意でTPO)の各濃度は、約20ng/mlである。
【0152】
Notchリガンドは、Notch膜貫通受容体に結合することができ、かつNotchシグナル伝達経路を活性化することができるリガンドであればどのようなものであってもよい。Notchリガンドは、T細胞の発生に極めて重要なNotch 1受容体に少なくとも結合することができるリガンドであることが好ましい。Notchリガンドは、例えばNotch 3受容体などの、1つ以上のその他のNotch受容体に結合することが可能であってもよい。本明細書で提供される既知組成の培養培地の様々な実施形態において、Notchリガンドは、DL4、DL1、JAG2またはその組み合わせであってもよい。一実施形態において、NotchリガンドはDL4である。特定の実施形態において、Notchリガンドは、約0.5ng/mm2~約50ng/mm2のコーティング濃度で基材に吸着または固定されている。Notchリガンドの好適なコーティング濃度として、約50ng/mm2、約24ng/mm2、約12ng/mm2、約6ng/mm2、約5ng/mm2、約4ng/mm2、約3ng/mm2、約2ng/mm2、約1ng/mm2、約0.9ng/mm2、約0.8ng/mm2、約0.7ng/mm2、約0.6ng/mm2および約0.5ng/mm2が挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態において、Notchリガンドは、約12ng/mm2のコーティング濃度で基材に吸着または固定されている。一実施形態において、Notchリガンドは、約3.2ng/mm2のコーティング濃度で基材に吸着または固定されている。一実施形態において、Notchリガンドは、約2ng/mm2のコーティング濃度で基材に吸着または固定されている。一実施形態において、Notchリガンドは、約0.8ng/mm2のコーティング濃度で基材に吸着または固定されている。
【0153】
Notchリガンド(さらに任意でVCAM-1)の吸着または固定に適した基材は、Notchシグナル伝達経路を活性化させるのに十分な耐久性または抗張力を備える支持手段であればどのようなものであってもよい。特定の実施形態において、基材は、本明細書で提供される既知組成培地中に含まれる1個以上のビーズであってもよい。様々な実施形態において、基材は、細胞および/または組織の培養に適した容器、ベッセルまたは収容容器であればどのようなものであってもよい。好適な基材の例として、細胞/組織培養プレート(マルチウェルプレートを含む)、ペトリディッシュ、バイオリアクター、培養バッグなど、あるいは容器、ベッセルもしくは収容容器からその内部に延びる突起部または突出部が挙げられる。基材へのNotchリガンド(さらに任意でVCAM-1)の吸着または固定は、当業者に公知の様々な標識技術または繋留技術によって行ってもよい。このような技術の例として、免疫グロブリン分子(例えばヒトIgG1など)の結晶化可能な断片(Fc)領域;ビオチン-ストレプトアビジン/ニュートラアビジン/アビジン標識法;およびクリックケミストリー標識法が挙げられるが、これらに限定されない。
【0154】
様々な実施形態において、本明細書で提供される既知組成の培養培地は、幹細胞、前駆細胞、HSPC、プロT細胞、プレT細胞および/または成熟T細胞の培養に適した追加の因子または添加剤をさらに含んでいてもよい。そのような追加の因子または添加剤の例として、ヒト血清アルブミン、ウシ血清アルブミン、L-グルタミンおよび/またはその他のアミノ酸、インスリン、トランスフェリン、低密度リポタンパク質、アスコルビン酸、2-メルカプトエタノール、ならびに抗生物質(例えばペニシリンやストレプトマイシン)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0155】
前駆T細胞の作製方法
インビトロにおいてプロT細胞およびその派生細胞(プレT細胞、未熟T細胞および成熟T細胞を含む)を作製する方法は、通常、TNFαまたはその機能的に同等な断片と、IL-3またはその機能的に同等な断片と、Notchリガンドまたはその機能的に同等な断片の存在下において無血清培地中で幹細胞および/または前駆細胞を培養する工程を含む。前記無血清培養培地は、SCFまたはその機能的に同等な断片、IL-7またはその機能的に同等な断片、およびFLT3Lまたはその機能的に同等な断片のうちの少なくとも1種をさらに含んでいてもよい。前記無血清培養培地は、SCFまたはその機能的に同等な断片、IL-7またはその機能的に同等な断片、およびFLT3Lまたはその機能的に同等な断片のうちの少なくとも2種をさらに含んでいてもよい。前記無血清培養培地は、SCFまたはその機能的に同等な断片、IL-7またはその機能的に同等な断片、およびFLT3Lまたはその機能的に同等な断片をさらに含んでいてもよい。Notchリガンドまたはその機能的に同等な断片は、基材に吸着または固定されていてもよい。特定の実施形態において、前記培養工程は、VCAM-1またはその機能的に同等な断片がさらに存在する条件下で行ってもよく、このVCAM-1またはその機能的に同等な断片も、前記基材に吸着または固定されていてもよい。特定の実施形態において、その他の接着リガンドおよび/またはインテグリンリガンドをVCAM-1の代わりに使用してもよく、VCAM-1に加えて使用してもよい。本明細書で提供されるプロT細胞の作製方法において好適に使用してもよいその他の接着リガンドおよび/またはインテグリンリガンドの例として、フィブロネクチンおよびRetroNectinTMが挙げられるが、これらに限定されない。特定の実施形態において、前記培養工程は、トロンボポエチン(TPO)またはその機能的に同等な断片がさらに存在する条件下で行ってもよい。
【0156】
本明細書で提供されるプロT細胞およびその派生細胞の作製方法において、TNFαは、0日目または1日目に培養物中の細胞に提供することが好ましい。IL-3はTNFαと同時に培養物中の細胞に提供してもよく、あるいはTNFαを培養物中の細胞に提供した後にIL-3を該細胞に提供してもよいが、TNFαを細胞に提供する前にIL-3を提供しないことが好ましい。特定の実施形態において、TNFαを培養物中の細胞に提供してから1日後、2日後、3日後、4日後または5日後にIL-3を該細胞に提供する。
【0157】
本明細書で提供されるプロT細胞およびその派生細胞の作製方法の様々な実施形態において、培養物中のTNFαの濃度は、約1ng/ml~約50ng/mlである。培養物中のTNFαの好適な濃度として、約1ng/ml、約2ng/ml、約3ng/ml、約4ng/ml、約5ng/ml、約6ng/ml、約7ng/ml、約8ng/ml、約9ng/ml、約10ng/ml、約15ng/ml、約20ng/ml、約25ng/ml、約30ng/ml、約35ng/ml、約40ng/ml、約45ng/mlおよび約50ng/mlが挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態において、培養物中のTNFαの濃度は約10ng/mlである。一実施形態において、培養物中のTNFαの濃度は約5ng/mlである。
【0158】
本明細書で提供されるプロT細胞およびその派生細胞の作製方法の様々な実施形態において、培養物中のIL-3の濃度は、約1ng/ml~約50ng/mlである。培養物中のIL-3の好適な濃度として、約1ng/ml、約2ng/ml、約3ng/ml、約4ng/ml、約5ng/ml、約6ng/ml、約7ng/ml、約8ng/ml、約9ng/ml、約10ng/ml、約15ng/ml、約20ng/ml、約25ng/ml、約30ng/ml、約35ng/ml、約40ng/ml、約45ng/mlおよび約50ng/mlが挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態において、培養物中のIL-3の濃度は約10ng/mlである。一実施形態において、培養物中のIL-3の濃度は約5ng/mlである。
【0159】
本明細書で提供されるプロT細胞およびその派生細胞の作製方法の様々な実施形態において、培養物中のSCF、IL-7およびFLT3L(さらに任意でTPO)の各濃度は、約5ng/ml~約200ng/mlである。培養物中のSCF、IL-7およびFLT3L(さらに任意でTPO)の好適な各濃度として、約5ng/ml、約10ng/ml、約20ng/ml、約30ng/ml、約40ng/ml、約50ng/ml、約60ng/ml、約70ng/ml、約80ng/ml、約90ng/ml、約100ng/ml、約150ng/mlおよび約200ng/mlが挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態において、培養物中のSCF、IL-7およびFLT3L(さらに任意でTPO)の各濃度は、約100ng/mlである。一実施形態において、培養物中のSCF、IL-7およびFLT3L(さらに任意でTPO)の各濃度は、約20ng/mlである。
【0160】
Notchリガンドは、Notch膜貫通受容体に結合することができ、かつNotchシグナル伝達経路を活性化することができるリガンドであればどのようなものであってもよい。Notchリガンドは、T細胞の発生に極めて重要なNotch 1受容体に少なくとも結合することができるリガンドであることが好ましい。Notchリガンドは、例えばNotch 3受容体などの、1つ以上のその他のNotch受容体に結合することが可能であってもよい。本明細書で提供されるプロT細胞およびその派生細胞の作製方法の様々な実施形態において、Notchリガンドは、DL4、DL1、JAG2またはその組み合わせであってもよい。一実施形態において、NotchリガンドはDL4である。特定の実施形態において、Notchリガンドは、約0.5ng/mm2~約50ng/mm2のコーティング濃度で基材に吸着または固定されている。Notchリガンドの好適なコーティング濃度として、約50ng/mm2、約24ng/mm2、約12ng/mm2、約6ng/mm2、約5ng/mm2、約4ng/mm2、約3ng/mm2、約2ng/mm2、約1ng/mm2、約0.9ng/mm2、約0.8ng/mm2、約0.7ng/mm2、約0.6ng/mm2および約0.5ng/mm2が挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態において、Notchリガンドは、約12ng/mm2のコーティング濃度で基材に吸着または固定されている。一実施形態において、Notchリガンドは、約3.2ng/mm2のコーティング濃度で基材に吸着または固定されている。一実施形態において、Notchリガンドは、約2ng/mm2のコーティング濃度で基材に吸着または固定されている。一実施形態において、Notchリガンドは、約0.8ng/mm2のコーティング濃度で基材に吸着または固定されている。
【0161】
Notchリガンド(さらに任意でVCAM-1ならびに/または別の接着リガンドおよび/もしくはインテグリンリガンド)の吸着または固定に適した基材は、Notchシグナル伝達経路を活性化させるのに十分な耐久性または抗張力を備える支持手段であればどのようなものであってもよい。特定の実施形態において、基材は、本明細書で提供される既知組成の培養培地中に含まれる1個以上のビーズであってもよい。様々な実施形態において、基材は、細胞および/または組織の培養に適した容器、ベッセルまたは収容容器であればどのようなものであってもよい。好適な基材の例として、細胞/組織培養プレート(マルチウェルプレートを含む)、ペトリディッシュ、培養バッグなど、あるいは容器、ベッセルもしくは収容容器からその内部に延びる突起部または突出部が挙げられる。基材へのNotchリガンド(さらに任意でVCAM-1ならびに/または別の接着リガンドおよび/もしくはインテグリンリガンド)の吸着または固定は、当業者に公知の様々な標識技術または繋留技術によって行ってもよい。このような技術の例として、免疫グロブリン分子(例えばヒトIgG1など)の結晶化可能な断片(Fc)領域;ビオチン-ストレプトアビジン/ニュートラアビジン/アビジン標識法;およびクリックケミストリー標識法が挙げられるが、これらに限定されない。
【0162】
特定の実施形態において、前記幹細胞および/または前駆細胞は、ESCやiPSCなどの全能性幹細胞である。一実施形態において、前記幹細胞および/または前駆細胞はCD34+造血幹細胞・前駆細胞(HSPC)である。HSPCは、臍帯血、末梢血、骨髄などの一次組織に由来するものであってもよい。HSPCは、インビトロにおいてESC、iPSCまたはその他の中間幹細胞から派生させたものであってもよい。特定の実施形態において、前記幹細胞および/または前駆細胞はヒト細胞である。
【0163】
一実施形態において、本明細書で提供されるプロT細胞およびその派生細胞の作製方法は二次元(2D)培養系で実施される。例えば、標準的な組織培養プレートの1つ以上のウェルをNotchリガンドでコーティングし、さらにVCAM-1をこのコーティングに使用してもよい。一実施形態において、Notchリガンド(さらに任意でVCAM-1)は吸着させたタンパク質として提供される。次に、Notchリガンド(さらに任意でVCAM-1)で2Dコーティングしたウェルに入れた無血清培地中に幹細胞および/または前駆細胞を播種し、プロT細胞および/またはその派生細胞の作製に適した条件で一定期間培養する。
【0164】
一実施形態において、標準的な96ウェル組織培養プレートの各ウェルを約50μL/ウェルのDL4-Fc(さらに任意でVCAM-1-Fc)で一晩コーティングする。次に、コーティングした各ウェルを洗浄して、結合しなかったリガンドを除去し、既知組成培地中に適切な播種密度で幹細胞および/または前駆細胞を播種する。一実施形態において、この既知組成培地は、例えば、20%ウシ血清アルブミン、インスリンおよびトランスフェリン血清代替品を含むイスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM+BIT)に、TNFαまたはその機能的に同等な断片、IL-3またはその機能的に同等な断片、およびNotchリガンドまたはその機能的に同等な断片を添加したものであり、この培地に、SCFもしくはその機能的に同等な断片、IL-7もしくはその機能的に同等な断片、および/またはFLT3Lもしくはその機能的に同等な断片をさらに添加してもよい。播種した細胞は、プロT細胞およびその派生細胞を作製するのに十分な期間、例えば、少なくとも7日間または少なくとも14日間にわたり適切な温度(例えば37℃)で培養する。
【0165】
特定の実施形態において、本明細書で提供されるプロT細胞およびその派生細胞の作製方法は、これらの細胞を遺伝子組換えまたは遺伝子編集することをさらに含んでいてもよい。この遺伝子組換えまたは遺伝子編集は、本明細書で提供される方法を実施する前またはその後に行ってもよく、あるいは本明細書で提供される方法のどの工程で行ってもよい。遺伝子組換え方法、遺伝子改変方法または遺伝子編集方法は当業者に公知である。遺伝子組換え方法、遺伝子改変方法または遺伝子編集方法の例として、ランダム変異導入法;組換えDNA技術や部位特異的ヌクレアーゼなどを用いた標的変異導入法;ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN);転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN);およびCRISPR/Cas9(clustered regularly interspaced short palindromic repeats)技術が挙げられるが、これらに限定されない。特定の実施形態において、遺伝子組換えT細胞、遺伝子改変T細胞または遺伝子編集T細胞は、キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)または遺伝子組換えT細胞受容体T細胞(TCR-T)を含んでいてもよい。
【0166】
プロT細胞およびその派生細胞(プレT細胞、未熟T細胞、成熟T細胞を含む)が作製されたことを確認するため、プロT細胞、プレT細胞または成熟T細胞であることを示す1つ以上の特徴について細胞を分析してもよく、このような特徴として、例えば、1つ以上の細胞表面マーカーなどが挙げられる。細胞表面マーカーの分析に適した技術は当業者に公知であり、例えば、本明細書で使用されているフローサイトメトリーや、免疫細胞化学分析が挙げられる。
【0167】
NK細胞の作製方法
インビトロにおいてNK細胞およびその派生細胞を作製する方法は、通常、TNFαまたはその機能的に同等な断片と、IL-3またはその機能的に同等な断片と、Notchリガンドまたはその機能的に同等な断片の存在下において無血清培地中で幹細胞および/または前駆細胞を培養する工程を含む。前記無血清培養培地は、SCFまたはその機能的に同等な断片、IL-7またはその機能的に同等な断片、およびFLT3Lまたはその機能的に同等な断片のうちの少なくとも1種をさらに含んでいてもよい。前記無血清培養培地は、SCFまたはその機能的に同等な断片、IL-7またはその機能的に同等な断片、およびFLT3Lまたはその機能的に同等な断片のうちの少なくとも2種をさらに含んでいてもよい。前記無血清培養培地は、SCFまたはその機能的に同等な断片、IL-7またはその機能的に同等な断片、およびFLT3Lまたはその機能的に同等な断片をさらに含んでいてもよい。Notchリガンドまたはその機能的に同等な断片は、基材に吸着または固定されていてもよい。特定の実施形態において、前記培養工程は、VCAM-1またはその機能的に同等な断片がさらに存在する条件下で行ってもよく、このVCAM-1またはその機能的に同等な断片も、前記基材に吸着または固定されていてもよい。特定の実施形態において、その他の接着リガンドおよび/またはインテグリンリガンドをVCAM-1の代わりに使用してもよく、VCAM-1に加えて使用してもよい。本明細書で提供されるNK細胞の作製方法において好適に使用してもよいその他の接着リガンドおよび/またはインテグリンリガンドの例として、フィブロネクチンおよびRetroNectinTMが挙げられるが、これらに限定されない。特定の実施形態において、前記培養工程は、トロンボポエチン(TPO)またはその機能的に同等な断片がさらに存在する条件下で行ってもよい。
【0168】
本明細書で提供されるNK細胞およびその派生細胞の作製方法において、TNFαは、0日目または1日目に培養物中の細胞に提供することが好ましい。IL-3はTNFαと同時に培養物中の細胞に提供してもよく、あるいはTNFαを培養物中の細胞に提供した後にIL-3を該細胞に提供してもよいが、TNFαを細胞に提供する前にIL-3を提供しないことが好ましい。特定の実施形態において、TNFαを培養物中の細胞に提供してから1日後、2日後、3日後、4日後または5日後にIL-3を該細胞に提供する。
【0169】
本明細書で提供されるNK細胞およびその派生細胞の作製方法の様々な実施形態において、培養物中のTNFαの濃度は、約1ng/ml~約50ng/mlである。培養物中のTNFαの好適な濃度として、約1ng/ml、約2ng/ml、約3ng/ml、約4ng/ml、約5ng/ml、約6ng/ml、約7ng/ml、約8ng/ml、約9ng/ml、約10ng/ml、約15ng/ml、約20ng/ml、約25ng/ml、約30ng/ml、約35ng/ml、約40ng/ml、約45ng/mlおよび約50ng/mlが挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態において、培養物中のTNFαの濃度は約10ng/mlである。一実施形態において、培養物中のTNFαの濃度は約5ng/mlである。
【0170】
本明細書で提供されるNK細胞およびその派生細胞の作製方法の様々な実施形態において、培養物中のIL-3の濃度は、約1ng/ml~約50ng/mlである。培養物中のIL-3の好適な濃度として、約1ng/ml、約2ng/ml、約3ng/ml、約4ng/ml、約5ng/ml、約6ng/ml、約7ng/ml、約8ng/ml、約9ng/ml、約10ng/ml、約15ng/ml、約20ng/ml、約25ng/ml、約30ng/ml、約35ng/ml、約40ng/ml、約45ng/mlおよび約50ng/mlが挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態において、培養物中のIL-3の濃度は約10ng/mlである。一実施形態において、培養物中のIL-3の濃度は約5ng/mlである。
【0171】
本明細書で提供されるNK細胞およびその派生細胞の作製方法の様々な実施形態において、培養物中のSCF、IL-7およびFLT3L(さらに任意でTPO)の各濃度は、約5ng/ml~約200ng/mlである。培養物中のSCF、IL-7およびFLT3L(さらに任意でTPO)の好適な各濃度として、約5ng/ml、約10ng/ml、約20ng/ml、約30ng/ml、約40ng/ml、約50ng/ml、約60ng/ml、約70ng/ml、約80ng/ml、約90ng/ml、約100ng/ml、約150ng/mlおよび約200ng/mlが挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態において、培養物中のSCF、IL-7およびFLT3L(さらに任意でTPO)の各濃度は、約100ng/mlである。一実施形態において、培養物中のSCF、IL-7およびFLT3L(さらに任意でTPO)の各濃度は、約20ng/mlである。
【0172】
Notchリガンドは、Notch膜貫通受容体に結合することができ、かつNotchシグナル伝達経路を活性化することができるリガンドであればどのようなものであってもよい。Notchリガンドは、Notch 1受容体に少なくとも結合することができるリガンドであることが好ましい。Notchリガンドは、例えばNotch 3受容体などの、1つ以上のその他のNotch受容体に結合することが可能であってもよい。本明細書で提供されるNK細胞およびその派生細胞の作製方法の様々な実施形態において、Notchリガンドは、DL4、DL1、JAG2またはその組み合わせであってもよい。一実施形態において、NotchリガンドはDL4である。特定の実施形態において、Notchリガンドは、約0.5ng/mm2~約50ng/mm2のコーティング濃度で基材に吸着または固定されている。Notchリガンドの好適なコーティング濃度として、約50ng/mm2、約24ng/mm2、約12ng/mm2、約6ng/mm2、約5ng/mm2、約4ng/mm2、約3ng/mm2、約2ng/mm2、約1ng/mm2、約0.9ng/mm2、約0.8ng/mm2、約0.7ng/mm2、約0.6ng/mm2および約0.5ng/mm2が挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態において、Notchリガンドは、約12ng/mm2のコーティング濃度で基材に吸着または固定されている。一実施形態において、Notchリガンドは、約3.2ng/mm2のコーティング濃度で基材に吸着または固定されている。一実施形態において、Notchリガンドは、約2ng/mm2のコーティング濃度で基材に吸着または固定されている。一実施形態において、Notchリガンドは、約0.8ng/mm2のコーティング濃度で基材に吸着または固定されている。
【0173】
Notchリガンド(さらに任意でVCAM-1ならびに/または別の接着リガンドおよび/もしくはインテグリンリガンド)の吸着または固定に適した基材は、Notchシグナル伝達経路を活性化させるのに十分な耐久性または抗張力を備える支持手段であればどのようなものであってもよい。
【0174】
特定の実施形態において、前記幹細胞および/または前駆細胞は、ESCやiPSCなどの全能性幹細胞である。一実施形態において、前記幹細胞および/または前駆細胞はCD34+造血幹細胞・前駆細胞(HSPC)である。HSPCは、臍帯血、末梢血、骨髄などの一次組織に由来するものであってもよい。HSPCは、インビトロにおいてESC、iPSCまたはその他の中間幹細胞から派生させたものであってもよい。特定の実施形態において、前記幹細胞および/または前駆細胞はヒト細胞である。
【0175】
一実施形態において、本明細書で提供されるNK細胞およびその派生細胞の作製方法は二次元(2D)培養系で実施される。例えば、標準的な組織培養プレートの1つ以上のウェルをNotchリガンドでコーティングし、さらにVCAM-1をこのコーティングに使用してもよい。一実施形態において、Notchリガンド(さらに任意でVCAM-1)は吸着させたタンパク質として提供される。次に、Notchリガンド(さらに任意でVCAM-1)で2Dコーティングしたウェルに入れた無血清培地中に幹細胞および/または前駆細胞を播種し、NK細胞および/またはその派生細胞の作製に適した条件で一定期間培養する。
【0176】
一実施形態において、標準的な96ウェル組織培養プレートの各ウェルを約50μL/ウェルのDL4-Fc(さらに任意でVCAM-1-Fc)で一晩コーティングする。次に、コーティングした各ウェルを洗浄して、結合しなかったリガンドを除去し、既知組成培地中に適切な播種密度で幹細胞および/または前駆細胞を播種する。一実施形態において、この既知組成培地は、例えば、20%ウシ血清アルブミン、インスリンおよびトランスフェリン血清代替品を含むイスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM+BIT)に、TNFαまたはその機能的に同等な断片、IL-3またはその機能的に同等な断片、およびNotchリガンドまたはその機能的に同等な断片を添加したものであり、この培地に、SCFもしくはその機能的に同等な断片、IL-7もしくはその機能的に同等な断片、および/またはFLT3Lもしくはその機能的に同等な断片をさらに添加してもよい。播種した細胞は、NK細胞およびその派生細胞を作製するのに十分な期間、例えば、少なくとも7日間または少なくとも14日間にわたり適切な温度(例えば37℃)で培養する。
【0177】
特定の実施形態において、本明細書で提供されるNK細胞およびその派生細胞の作製方法は、例えば、本明細書に記載の方法により、これらの細胞を遺伝子組換えまたは遺伝子編集することをさらに含んでいてもよい。この遺伝子組換えまたは遺伝子編集は、本明細書で提供される方法を実施する前またはその後に行ってもよく、あるいは本明細書で提供される方法のどの工程で行ってもよい。
【0178】
NK細胞およびその派生細胞が作製されたことを確認するため、NK細胞であることを示す1つ以上の特徴について細胞を分析してもよく、このような特徴として、例えば、1つ以上の細胞表面マーカーなどが挙げられる。細胞表面マーカーの分析に適した技術は当業者に公知であり、例えば、本明細書で使用されているフローサイトメトリーや、免疫細胞化学分析が挙げられる。
【0179】
本明細書で提供される既知組成培地および方法を使用して作製される前駆T細胞およびその派生細胞
本開示は、本明細書において提供される既知組成培地および/または方法を使用して作製されたプロT細胞およびその派生細胞(プレT細胞、未熟T細胞および成熟T細胞を含む)ならびに/またはプロT細胞集団を提供する。このプロT細胞はヒトプロT細胞であることが好ましい。一実施形態において、ヒトプロT細胞は、細胞表面のCD4およびCD8の発現に基づいて表現型を評価してもよく、より具体的には、一連のダブルネガティブ段階(DN;CD4-CD8-)、すなわちCD7+CD34+幼若前駆T細胞から、CD7+および/またはCD34-および/またはCD5+および/またはCD45RA+および/またはCD1a+のプロT細胞の段階を経て、最終的にダブルポジティブT細胞(DP;CD4+CD8+)およびシングルポジティブT細胞(SP;CD4+CD3+またはCD8+CD3+)に成熟するという分化過程に基づいて表現型を評価してもよい。一実施形態において、本明細書で提供されるヒトプロT細胞はCD7の発現に基づいて評価してもよい。一般に、リンパ系細胞は、小さな円形の形態であること、およびギムザ染色で青色に染まることから同定することができる。一実施形態において、本明細書で提供されるプロT細胞は、その機能を評価してもよい。例えば、CD7+プロT細胞をインビボ移植すると、移植された細胞は胸腺へとホーミングして胸腺に定着し、急速に分裂してダブルポジティブT細胞およびシングルポジティブT細胞を産生する。
【0180】
様々な実施形態において、本明細書で提供される既知組成培地および/または方法を使用して作製されたプロT細胞は、例えば、CD7+細胞、CD7+CD5+細胞、CD7+CD5+CD34+細胞、CD7+CD5+CD45RA+細胞および/またはCD7+CD5+CD1a+プレT細胞であってもよい。様々な実施形態において、プロT細胞は、例えば、プロT1細胞(CD34+CD7+CD5-)およびプロT2細胞(CD34+CD7+CD5+)である。
【0181】
様々な実施形態において、本明細書で提供される既知組成培地および/または方法を使用して作製されたプロT細胞の派生細胞は、例えば、CD4+CD8+のダブルポジティブ成熟T細胞、ならびに/またはCD4+CD3+のシングルポジティブ成熟T細胞および/もしくはCD8+CD3+のシングルポジティブ成熟T細胞であってもよい。
【0182】
特定の実施形態において、本明細書で提供される既知組成培地および/または方法を使用して作製されたプロT細胞およびその派生細胞の細胞表面におけるIL-3受容体(CD123)の密度は、TNFαの非存在下で培養して作製されたプロT細胞よりも高い。
【0183】
特定の実施形態において、前述の全能性幹細胞、CD34+HSPC、CD7+プロT細胞、CD7+CD5+プロT細胞、CD7+CD5+CD34+プロT細胞、CD7+CD5+CD45RA+プロT細胞、CD7+CD5+CD1a+プレT細胞、CD4+CD8+T細胞、CD4+CD3+T細胞および/またはCD8+CD3+T細胞は、遺伝子組換え、遺伝子改変または遺伝子編集を行ってもよい。この遺伝子組換え、遺伝子改変または遺伝子編集は、本明細書で提供されるプロT細胞およびその派生細胞の作製方法を実施する前またはその後に行ってもよく、あるいは本明細書で提供されるプロT細胞およびその派生細胞の作製方法のどの工程で行ってもよい。遺伝子組換え方法、遺伝子改変方法または遺伝子編集方法は当業者に公知である。遺伝子組換え方法、遺伝子改変方法または遺伝子編集方法の例として、ランダム変異導入法;組換えDNA技術や部位特異的ヌクレアーゼなどを用いた標的変異導入法;ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN);転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN);およびCRISPR/Cas9(clustered regularly interspaced short palindromic repeats)技術が挙げられるが、これらに限定されない。特定の実施形態において、遺伝子組換えT細胞、遺伝子改変T細胞または遺伝子編集T細胞は、キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)または遺伝子組換えT細胞受容体T細胞(TCR-T)を含んでいてもよい。
【0184】
一実施形態において、本明細書で提供される既知組成培地および/または方法を使用して作製されたプロT細胞およびその派生細胞は、自己細胞である。
【0185】
一実施形態において、本明細書で提供される既知組成培地および/または方法を使用して作製されたプロT細胞およびその派生細胞は、同種細胞である。
【0186】
本明細書で提供される既知組成培地および方法を使用して作製されるNK細胞およびその派生細胞
本開示は、本明細書において提供される既知組成培地および/または方法を使用して作製されたNK細胞およびその派生細胞、ならびに/またはNK細胞集団を提供する。このNK細胞はヒトNK細胞であることが好ましい。一実施形態において、このヒトNK細胞は、マーカーの発現に基づいて表現型を評価してもよい。一実施形態において、本明細書で提供されるNK細胞は、当技術分野で公知の技術を用いてその機能を評価してもよい。
【0187】
様々な実施形態において、本明細書で提供される既知組成培地および/または方法を使用して作製されたNK細胞は、例えば、CD7+CD56+細胞であってもよい。
【0188】
特定の実施形態において、前記NK細胞に対して、例えば、本明細書で述べるような、遺伝子組換え、遺伝子改変または遺伝子編集を行ってもよい。この遺伝子組換え、遺伝子改変または遺伝子編集は、本明細書で提供されるNK細胞およびその派生細胞の作製方法を実施する前またはその後に行ってもよく、あるいは本明細書で提供されるNK細胞およびその派生細胞の作製方法のどの工程で行ってもよい。
【0189】
一実施形態において、本明細書で提供される既知組成培地および/または方法を使用して作製されたNK細胞およびその派生細胞は、自己細胞である。
【0190】
一実施形態において、本明細書で提供される既知組成培地および/または方法を使用して作製されたNK細胞およびその派生細胞は、同種細胞である。
【0191】
前駆T細胞および/もしくはその派生細胞ならびに/またはNK細胞および/もしくはその派生細胞を用いた治療方法
様々な実施形態において、本明細書に開示されたプロT細胞および/またはその派生細胞を使用して対象における免疫応答を向上させ、かつ/または対象もしくは患者におけるT細胞数を増加させてもよい。一実施形態において、プロT細胞および/またはその派生細胞の集団を作製し、前記対象または患者に投与する。様々な実施形態において、本明細書に開示されたNK細胞および/またはその派生細胞を使用して対象における免疫応答を向上させ、かつ/または対象もしくは患者におけるNK細胞数を増加させてもよい。一実施形態において、NK細胞および/またはその派生細胞の集団を作製し、前記対象または患者に投与する。好適な対象として、T細胞欠損やNK細胞欠損などの免疫不全に罹患している対象が挙げられる。前記免疫不全は、病態、化学暴露、放射線暴露またはこれらの組み合わせによって引き起こされたものであってもよい。本明細書に開示されたプロT細胞および/もしくはその派生細胞、または本明細書に開示されたNK細胞および/もしくはその派生細胞で治療してもよい病態としては、がん、骨髄機能不全、貧血、原発性免疫不全症、自己免疫疾患、胸腺部分切除、臓器移植、ウイルス感染症(例えばHIV感染症)、細菌感染症、真菌感染症および/または特発性CD4+Tリンパ球減少症が挙げられるが、これらに限定されない。化学暴露の影響を受けている対象または患者であり、かつ本明細書に開示されたプロT細胞および/もしくはその派生細胞またはNK細胞および/もしくはその派生細胞を用いた治療を行う候補となりうる対象または患者として、例えば、化学療法を受けている患者、抗炎症薬療法を受けている患者、職場に関連する化学物質の暴露を受けた対象、または化学物質による偶発的中毒に罹患している対象が挙げられる。放射線暴露の影響を受けている対象であり、かつ本明細書に開示されたプロT細胞および/もしくはその派生細胞またはNK細胞および/もしくはその派生細胞を用いた治療を行う候補となりうる対象として、例えば、放射線療法を受けている患者、職場に関連する放射性同位体の暴露を受けた対象、放射性同位体による偶発的中毒に罹患している対象、または炉心溶融もしくは放射性降下物の暴露を受けた対象が挙げられる。
【0192】
さらに、放射線療法を受けた後に、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)不適合を引き起こさないプロT細胞を必要とする対象に、本明細書で提供される同種プロT細胞を移入することも考えられる。特定の理論に拘束されることを望むものではないが、前駆細胞であるプロT細胞は、胸腺における分化が完了して初めて宿主のMHCに拘束され、宿主に寛容されるTリンパ球になることができ、少なくともこの理由から、プロT細胞は、成熟したT細胞とは異なり、移植片対宿主病(GVHD)を引き起こさないと考えられる。したがって、本明細書で提供されるプロT細胞の治療的使用において、厳密な組織適合性は必要とされない。
【0193】
本明細書で提供される細胞は、例えば、プロT細胞および/もしくはプロT細胞よりも成熟したT細胞、またはNK細胞を必要とする対象を治療するために使用してもよい。本明細書において、「治療」とは、対象においてT細胞数またはNK細胞数を増加させるのに適した条件下において、本明細書で提供される細胞の有効量を該対象に投与することによって、T細胞またはNK細胞の欠乏を伴う病態の予防、抑制および/または治療を行うことを意味する。本明細書において、「有効量」は治療有効量を意味し、例えば、対象への投与によって意図した目的(例えば治療など)を達成するのに十分な量の細胞を指す。有効量は対象ごとに異なっていてもよく、例えば、対象の性別、年齢、体重もしくは健康歴、ならびに/または予防、抑制および/もしくは治療が行われる病態の根本的な原因などの、1つ以上の要因に左右されてもよい。
【0194】
本明細書で述べるプロT細胞の移植の恩恵を受けることのできる対象は、例えば、リンパ球減少症を伴う病態またはリンパ球減少症を引き起こす病態に罹患している対象であってもよい。本明細書で提供されるプロT細胞の投与の恩恵を受けることのできる対象は、例えば、化学療法を受けた対象および/もしくは放射線照射を受けた対象(例えば、がんの治療を受けている対象など)、またはHIV感染症、胸腺の部分切除歴、自己免疫疾患(全身性エリテマトーデスや関節リウマチなど)もしくは糖尿病を有する対象であってもよい。一実施形態において、本明細書で提供される細胞は、臓器移植時に宿主の免疫寛容を誘導するために使用してもよい。
【0195】
前駆T細胞またはNK細胞を作製するためのキット
本開示は、本明細書で提供されるプロT細胞および/もしくはその派生細胞を作製する方法または本明細書で提供されるNK細胞および/もしくはその派生細胞を作製する方法を実施するためのキットを提供する。このようなキットは、通常、プロT細胞またはNK細胞の作製に必要とされる2つ以上の構成要素を含む。このキットに含まれる構成要素としては、化合物、試薬、容器、器具、および該キットの使用説明書のうちの1つ以上が挙げられるが、これらに限定されない。したがって、本明細書に記載の方法は、本明細書で提供されるあらかじめパッケージ化されたキットを使用して実施してもよい。
【0196】
一実施形態において、本明細書に開示された既知組成の無血清培養培地を含むキットが提供される。このキットは、化合物、試薬、容器、器具、および該キットの使用説明書のうちの1つ以上をさらに含む。
【0197】
一実施形態において、2種類の培地を含むキットが提供される。これらの2種類の培地は、
a.腫瘍壊死因子α(TNFα)もしくはその機能的に同等な断片、またはインターロイキン3(IL-3)もしくはその機能的に同等な断片を含む無血清培養培地;および
b.Notchリガンドまたはその機能的に同等な断片を含むコーティング用培地
である。
【0198】
前記キットの特定の実施形態において、前記無血清培養培地は、SCFまたはその機能的に同等な断片、IL-7またはその機能的に同等な断片、およびFLT3Lまたはその機能的に同等な断片のうちの少なくとも1種をさらに含む。前記キットの特定の実施形態において、前記無血清培養培地は、SCFまたはその機能的に同等な断片、IL-7またはその機能的に同等な断片、およびFLT3Lまたはその機能的に同等な断片のうちの少なくとも2種をさらに含む。前記キットの特定の実施形態において、前記無血清培養培地は、SCFまたはその機能的に同等な断片、IL-7またはその機能的に同等な断片、およびFLT3Lまたはその機能的に同等な断片をさらに含む。
【0199】
前記キットの特定の実施形態において、前記無血清培養培地は、TPOまたはその機能的に同等な断片をさらに含む。
【0200】
特定の実施形態において、前記キットに含まれるコーティング用培地中のNotchリガンドは、DL4、DL1、JAG2またはこれらの組み合わせである。前記キットの特定の実施形態において、前記コーティング用培地は、VCAM-1またはその機能的に同等な断片をさらに含む。特定の実施形態において、その他の接着リガンドおよび/またはインテグリンリガンドをVCAM-1の代わりに使用してもよく、VCAM-1に加えて使用してもよい。本明細書で提供されるキットに好適に含まれていてもよいその他の接着リガンドおよび/またはインテグリンリガンドの例として、フィブロネクチンおよびRetroNectinTMが挙げられるが、これらに限定されない。
【0201】
前記コーティング用培地を用いて、(本明細書で述べる)好適な基材をNotchリガンドでコーティングしてもよく、このNotchリガンドに加えて、さらにVCAM-1ならびに/または別の接着リガンドおよび/もしくはインテグリンリガンドをこのコーティングに使用してもよい。次に、Notchリガンド(さらに任意でVCAM-1)でコーティングした基材の存在下で前記無血清培養培地を使用して幹細胞および/または前駆細胞を培養することによって、プロT細胞およびその派生細胞を作製してもよく、あるいはNK細胞およびその派生細胞を作製してもよい。
【0202】
いくつかの実施形態において、インビトロにおいて幹細胞および/または前駆細胞(PSCやHSPCなど)からプロT細胞および/もしくはその派生細胞またはNK細胞および/もしくはその派生細胞を作製するためのキットの使用説明書が提供される。この使用説明書は、本明細書で提供されるキットに含まれるコーティング用培地および無血清培地を保存、調製および使用するためのプロトコル;培養条件(時間、温度および/またはインキュベーション時の気体の濃度など)に関するプロトコル;細胞回収プロトコル;ならびにプロT細胞を同定するためのプロトコル(プロT細胞の派生細胞(プレT細胞や成熟T細胞など)を同定するためのプロトコルであってもよい)またはNK細胞を同定するためのプロトコル(NK細胞の派生細胞を同定するためのプロトコルであってもよい)のうちの1つ以上を含んでいてもよい。本明細書で提供されるキットは、例えば、細胞/組織培養プレート(マルチウェルプレートを含む)、ペトリディッシュ、培養バッグなどの、本明細書で提供される方法を実施するのに有用な材料をさらに含んでいてもよい。
【0203】
以下の実験例を参照しながら、本開示をさらに詳細に説明する。これらの実験例は本開示を説明することのみを目的として提供されており、別段の記載がない限り、本開示を限定するものではない。したがって、本開示は、以下の実験例に限定されるとは解釈されず、本明細書で提供される教示によって明確に示されるあらゆる変形例を包含するものであると解釈される。
【実施例
【0204】
実施例1:材料と方法
DL4の製造およびDL4とVCAM-1によるプレートのコーティング
組換えDL4-Fc融合タンパク質は、Sino Biological社から購入するか、あるいは過去の報告6に従って、HEK-293T細胞を使用して施設内で製造し、HiTrap Protein Gアフィニティーカラム(GEヘルスケア)で精製した。
【0205】
DL4-FcとVCAM-1-Fc(R&Dシステムズ)で96ウェル組織培養プレートを4℃で一晩コーティングするか、あるいは室温で3~4時間かけてコーティングした。このコーティングを行うに際して、50μlのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)でDL4およびVCAM-1をそれぞれ15μg/mlおよび2.5μg/mlに希釈し、DL4-Fcによるコーティング濃度を約24ng/mm2とし、VCAM-1-Fcによるコーティング濃度を約4ng/mm2とした。滴定実験では、PBSの量を50μlに維持しながら、DL4またはVCAM-1の濃度を適宜調節した。384ウェルプレートを使用した実験では、PBSの量を16μlとしたこと以外は前記と同様にしてコーティングを行った。細胞を播種する前に、PBSで各ウェルを1回洗浄することによって、Notchのシグナル伝達を抑制する未結合DL4-Fcタンパク質を除去した6
【0206】
臍帯血からのヒトCD34+造血幹細胞・前駆細胞(HSPC)の濃縮
臍帯血(UCB)は、施設内研究倫理審査委員会の指針に従って、マウントサイナイ病院(オンタリオ州トロント)において同意が得られたドナーから採取した。Lympholyte細胞分離培地(Cedarlane)を使用して遠心分離することにより単核細胞を分画し、施設内で調製した塩化アンモニウム-カリウム(ACK)溶解バッファーを用いて赤血球を溶解した。EasySepTM Human CD34+ Positive Selection Kit(Stemcell Technologies)を製造業者の説明書に従って使用して、CD34+細胞の割合が90%を超えるように単核細胞を濃縮した。いくつかの実験では、濃縮したCD34+細胞をCD34-APC抗体およびCD38-PE抗体で染色し、FACS Ariaフローサイトメーター(ベックマン・コールター)でCD34+CD38lo/-画分とCD34+CD38+画分にソートした。
【0207】
DL4とVCAM-1でコーティングした表面上でのHSPCの培養
7日以上の実験では、DL4とVCAM-1でコーティングした表面上にHSPCを63~125個/mm2の密度(96ウェルプレートでの2000~4000個/ウェルの密度に相当)で播種した。7日間よりも短い実験(CFSEおよびqPCR)では、470~780個/mm2の密度(96ウェルプレートでの15,000~25,000個/ウェルの密度に相当)で播種して、分析に十分な数の細胞を得た。細胞の培養は、20%ウシ血清アルブミン、インスリン、トランスフェリン含有血清代替品(BIT 9500)(Stemcell Technologies)、1μg/ml低密度リポタンパク質(LDL;Stemcell Technologies)、60μMアスコルビン酸(シグマ)、24μM 2-メルカプトエタノール(シグマ)および1%ペニシリン-ストレプトマイシン(P/S;インビトロジェン)を添加したイスコフ改変イーグル培地(IMDM)を各ウェルに100μlずつ(384ウェルプレートでは各ウェルに32μlずつ)入れて行った。対照条件では、SCF、FLT3L、TPOおよびIL-7をサイトカインとして使用し(これらは「4Fサイトカイン」としても知られている;いずれもR&Dシステムズ社から購入した)、本明細書で述べるように、いずれも20ng/mlまたは100ng/mlの濃度で使用した。その他のサイトカインもR&Dシステムズ社から購入したものであり、本明細書に記載の組み合わせおよび濃度で使用した。いくつかの実験では、γ-セクレターゼ阻害剤である(2S)-N-[(3,5-ジフルオロフェニル)アセチル]-L-アラニル-2-フェニル]グリシン-1,1-ジメチルエチルエステル(DAPT)またはジメチルスルホキシド(DMSO)を、本明細書に記載の濃度で培地に添加した。
【0208】
フローサイトメトリー
フローサイトメトリー分析を行う前に、激しいピペッティングまたはTrypLE Express酵素(サーモフィッシャー)を用いて37℃で5分間処理することにより、DL4とVCAM-1でコーティングした表面から接着細胞を回収した。次に、2%FBSを添加したハンクス平衡塩溶液(サーモフィッシャー)(HF液)で細胞を2回リンスした。HF液で1:100~1:300に希釈した抗体を用いて表面マーカーを室温で15分間染色した。次に、細胞をHF液で1回リンスし、1:1000に希釈した7-AADを加えたHF液中に再懸濁し、死細胞を除いた。BD FortessaTMを使用してデータを取得し、FlowJoTMソフトウェアで蛍光補正(コンペンセーション)およびゲーティングを行い、プログラミング言語R(バージョン3.3.2)を用いて詳細な分析を行った。フローサイトメトリー実験に使用した抗体を表1に示す。
【表1】
【0209】
増殖アッセイ
細胞分裂回数を追跡するため、PBSで希釈した2.5μM CellTraceTM CFSE(サーモフィッシャー)を加えて37℃で8分間インキュベートすることにより細胞を染色した。5倍量のBIT含有IMDM培地を加えて37℃で5分間インキュベートしてCFSEをクエンチした。次に、新鮮培地中に細胞を再懸濁し、DL4とVCAM-1でコーティングした表面上に播種して培養した。分析を行うため、細胞を回収し、前記と同様にしてCD34、CD7およびCD5表面マーカーを染色し、フローサイトメトリーで分析した。FlowJoTMソフトウェアを用いて細胞増殖をモデル化し、R言語で詳細な分析を行った。
【0210】
定量リアルタイムPCR
PureLinkTM RNA Microキット(インビトロジェン)を製造業者のプロトコルに従って使用することにより、細胞を溶解してRNAを単離した。次に、SuperScriptTM III逆転写酵素(インビトロジェン)を製造業者のプロトコルに従って使用することにより、RNAからcDNAを逆転写した。QuantStudioTM 6 Flex(アプライドバイオシステムズ)を使用し、プライマーとFastStart SYBR Greenマスターミックス(ロシュ)を用いてcDNAを増幅した。Δサイクル閾値(ΔCt)法を使用し、β-アクチンでcDNAの使用量の差を補正して、各遺伝子の相対発現量を算出した。PCRプライマー配列を表2に示す。
【表2】
【0211】
サイトカインのスクリーニング
スクリーニング実験を行うため、決定的スクリーニング計画(Definitive Screening Design,DSD)7を利用して、各因子を3つの水準([-1、0、1]のスケール)で試験した。この決定的スクリーニング計画は、少なくとも2m+1回の実験を含んでおり(ここで、mは因子の数であり、m対の折り重ねと(すべての因子の水準がゼロの)中心点の実験回数とからなる)、臍帯血ドナーごとに直交ブロック化した8
【0212】
目的の細胞集団ごとに絶対細胞数を計数し、初期実験では、対照条件に対するzスコアを以下の式で算出した。
【数1】
(式中、SEは標準誤差である。)
対照条件として、Shuklaら6により過去に行われたDL4+VCAM-1アッセイで使用されたサイトカインを採用した。ベイズ型最小情報量規準法を使用した段階的回帰によって重要な項目を決定し、この結果を踏まえて、主効果および二次効果と2因子交互作用を含むzスコアの線形回帰モデルを構築した。この線形回帰モデルから、各因子が対照と比べて優れているのか、それとも劣っているのかを推定した。決定的スクリーニング計画(DSD)の設計および回帰モデルは、JMP13ソフトウェア(SAS)を使用して構築した。上位因子の用量反応を測定したフォローアップ実験では、回帰モデルを絶対細胞数に適合させた。得られた数値は、必要に応じて平方根変換または対数変換を行って、回帰モデルを適合させる前に残差がほぼ正常な値であったことを確認した。
【0213】
試験条件として、各サイトカインの段階希釈を調製し、エッペンドルフepMotion 5070リキッドハンドラーを用いて、あらかじめDL4とVCAM-1でコーティングした384ウェルプレートに分注した。
【0214】
統計分析
スクリーニング実験を除き、統計学的有意差はすべてR言語(バージョン3.3.2)で算出した。シャピロ・ウィルクの正規性の検定によって、データがガウス分布に適切にモデル化されたのかどうかを確認した。データがガウス分布に従っていなかった場合(シャピロ・ウィルク検定:p<0.05)は、ノンパラメトリックなクラスカル・ウォリス検定とダンの事後分析を行った。偽発見率は、ベンジャミーニ・ホッホベルク法でp値を調整することにより最小限に抑えた。上記以外の場合は、一元配置分散分析とテューキーの事後分析を行った。
【0215】
実施例2:標的を絞ったスクリーニングによりプロT細胞の分化と増殖を向上させる因子として同定されたIL-3およびTNFα
プロT細胞の分化と増殖を向上させる因子を同定するため、0~7日目と7~14日目の2段階に分けてスクリーニングを行うことによって、スクリーニング対象の分子が造血幹細胞・前駆細胞(HSPC)に及ぼす効果とプロT細胞の分化に及ぼす効果とを区別した(図1a)。決定的スクリーニング計画(DSD)実験を使用して、それぞれ組み合わせたスクリーニング対象の各分子を3回ずつ試験し、実験データに線形回帰モデルを適合させて用量反応を推定した7。各因子の用量反応は、Shuklaらによる報告6と同様にSCF、FLT3L、TPOおよびIL-7をサイトカインとして含む対照条件に対して測定したが、Shuklaらによる実験よりも低い濃度の20ng/mlでもそれぞれ実験を行った。低い濃度を選択した理由として、スクリーニング対象の因子の効果がSCF、FLT3L、TPOおよびIL-7によって隠されてしまうことを避ける目的があった。SCF、FLT3L、TPOおよびIL-7の濃度をそれぞれ100ng/mlから20ng/mlに低下させたことによって、14日目におけるCD14/33+骨髄系細胞の発生が減少したが、CD7+CD5+細胞の発生数には有意な影響は認められなかった(図1b)。したがって、20ng/mlという低濃度では、T細胞系列の発生に有意な影響は認められなかった。
【0216】
生細胞全体、CD7+リンパ球またはCD7+CD5+細胞に対する試験したサイトカインの効果を図1cに示す。中間の灰色は対照条件の効果を示し、濃い灰色~黒色は対照条件よりも効果が高かったことを示し、薄い灰色~白色は対照条件よりも効果が低かったことを示す。それぞれの円の大きさは、線形回帰モデルにおける効果の有意性を示す。回帰モデルにおいて、様々な因子の組み合わせから、2因子交互作用(例えばTPO×IL-1β)または二次効果(例えばIL-21×IL-21)が示された。SCFとIL-7に加えて、IL-3とTNFαも、いずれの週でも強い正の効果を示した。IL-3とTNFαを選択して、さらに詳細な調査を行った。
【0217】
様々な濃度のIL-3およびTNFαに対する細胞の用量反応を図1dに示す。IL-3とTNFαのいずれによっても、少なくとも1つの細胞集団において曲線状の用量反応が誘導されたことから、その細胞集団において濃度が飽和点に達したことが示された。この結果を踏まえて、次の実験では、IL-3の作用濃度を10ng/mlとし、TNFαの作用濃度を5ng/mlとした。
【0218】
実施例3:IL-3およびTNFαに応答したHSPCの増殖の分析
IL-3およびTNFαのそれぞれに応答した細胞の分裂回数を追跡するため、まず、カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル(CFSE)でHSPCを染色し、0日目にIL-3またはTNFαを加え、2日目、3日目、4日目および5日目に各細胞の分裂回数を分析した。各サイトカインに対するCD7-細胞とCD7+細胞の応答性は異なっており、IL-3は主にCD7-画分に影響を与えた(図2a)。
【0219】
CFSE染色のデータからの各日の細胞増殖の統計分析および各日のCD7+細胞の頻度を図2bに示す。IL-3で処理した細胞は、平均的に対照群よりも細胞分裂回数が多く、対照群よりも細胞分裂回数のばらつきが有意に大きかった。TNFαで処理した細胞では、CD7のアップレギュレーションが遅延した。これに対して、IL-3で処理した細胞では、対照群とほぼ同程度にCD7がアップレギュレートされたが、5日目までにはCD7+細胞の頻度が対照群よりも少なくなった。
【0220】
いずれの処理群でも、5日目までにプロT1細胞の表現型(CD34+CD7+CD5-)からプロT2細胞の表現型(CD34+CD7+CD5+)へと移行した(これらの表現型はAwongらによって定義されている1)(図2c)。TNFαで処理した群では、プロT2細胞の割合が多かった。この結果は、TNFαがマウスにおいてDN1プロT細胞からDN2プロT細胞への移行を加速させたという過去の報告と一致していた9。T細胞系列の発生がNotch経路を介したシグナル伝達によって誘導されているとすれば、TNFαとNotchの交互作用が初期のT細胞系列の誘導を担っていると仮定された。
【0221】
実施例4:TNFαとNotch経路の相乗効果
TNFαはNF-κB経路を活性化するが、この活性化によって、Notchの標的遺伝子が制御されるのか、あるいはNotch自体が制御されるのかは不明であった(図3a)。TNFαがNotchと交互作用するのかどうか、あるいはTNFαとNotchがどのように交互作用するのかを調査するため、まず、CD34+HSPCをCD38lo/-画分とCD38+画分にソートし、DL4とVCAM-1でコーティングしたプレートに別々に播種し、TNFαの存在下または非存在下で培養した。5日間培養した後、qPCRで遺伝子発現を測定した(図3b)。
【0222】
CD38lo/-画分とCD38+画分はいずれもTNFαに応答してGATA3とTCF7をアップレギュレートしたが、BCL11bは、CD38lo/- HSPC画分のみにおいてアップレギュレートされた。この結果は、CD34+CD38lo/-細胞がT細胞系列に分化する傾向が強いという過去の観察結果と一致していた1。その他のNotch標的遺伝子やNOTCH1自体に有意な差は観察されなかったことから、TNFαは、Notch経路自体ではなくNotchの標的遺伝子に対して作用することが示された(図3c)。CD38lo/-HSPCでは、TNFαに応答してSPI1がわずかにダウンレギュレートされたが、CD38+HSPCではこのようなダウンレギュレーションは認められなかった。一方、TNFαの存在下で培養したCD38+画分のみにおいて、CEBPAが有意にダウンレギュレートされた(図3d)。
【0223】
DL4とVCAM-1でコーティングしたプレート上でCD34+HSPCを7日間培養した。0日目、1日目、2日目または3日目にTNFαを添加して、T細胞系列の発生の各段階に特異的な効果が認められるかどうかを調べた(図3e)。7日目のCD7+細胞またはCD14/33+細胞の総数およびその頻度を図3fに示す。TNFαを添加する時期が遅い場合、CD14/33+骨髄球系細胞が増加し、CD7+リンパ系細胞が減少した(図3f)。以上の結果をまとめると、TNFαによるT細胞系列への機能特化の促進は、特定のNotch標的遺伝子の制御を介したものであることが示された。さらに、この効果は、T細胞系列の発生の早期に見られ、このプロセスが開始されれば、TNFαは骨髄系細胞の発生に対して正の効果を発揮することが分かった。
【0224】
実施例5:最適に満たないNotchの活性化に対するTNFαによる補填
実施例4で示した遺伝子発現実験の検証を行うため、TNFαがNotch経路の部分的な抑制を補填することができるかどうか、およびTNFαがT細胞系列の発生を維持することができるかどうかを調べた。この調査を行うため、DL4とVCAM-1でコーティングしたプレートにCD34+HSPCを播種し、γ-セクレターゼ阻害剤(GSI)の添加濃度を段階的に上昇させることによってNotchの活性化を抑制しながらCD34+HSPCを14日間培養した(図4a)。この実験の結果、TNFαは、対照条件よりも高い濃度のγ-セクレターゼ阻害剤(GSI)の存在下においてCD7+CD5+プロT細胞の発生を維持できることが分かった(図4b)。TNFαの有無に応じてNotch経路の抑制効果が異なることが示された代表的なフローサイトメトリープロットを図4cに示す。
【0225】
前述のNotch経路抑制実験と並行して別の実験を行った。DL4の濃度を段階的に低下させながらDL4とVCAM-1でプレートをコーティングし、このプレートにHSPCを播種して14日間培養した(図4d)。この実験の結果、TNFαは、試験した最も低いコーティング濃度(2ng/mm2)のDL4の存在下でも、CD7+CD5+プロT細胞の発生を維持できることが分かった(図4e)。DL4の濃度を段階的に低下させた場合のプロT細胞の誘導がTNFαの有無に応じて異なることが示された代表的なフローサイトメトリープロットを図4fに示す。以上の結果をまとめると、Notch経路が部分的に抑制された条件やNotch経路の活性化が最適に満たない条件であっても、TNFαによってT細胞系列の発生が誘導されることが示された。
【0226】
実施例6:IL-3とTNFαの相乗効果によるプロT細胞の増殖とその純度の向上
T細胞系列の発生に対するTNFαとIL-3の併用効果を評価するため、IL-3もしくはTNFαの一方またはその両方(IL-3+TNFα)の存在下または非存在下において、DL4とVCAM-1でコーティングしたプレートにCD34+HSPCを播種し、新たにコーティングしたプレートに7日ごとに継代した。2週目から継代する際に培地の半量を交換した(図5a)。7日目と14日目に細胞をフローサイトメトリーで分析したところ、対照条件やIL-3のみで処理した群またはTNFαのみで処理した群と比べて、IL-3+TNFαで処理した群においてCD7+CD5+プロT細胞の頻度の増加が認められた(図5bおよび図5c)。14日目には、IL-3+TNFα処理群の細胞におけるCD7+CD5+プロT細胞の割合は約70%に達したが、対照群におけるCD7+CD5+プロT細胞の割合は10%未満であった(図5c)。
【0227】
7日目までには、IL-3+TNFα処理群の細胞数は、対照条件やIL-3のみで処理した群またはTNFαのみで処理した群と比べて有意に多くなり、対照群やIL-3処理群と比べてCD7+CD5+プロT細胞の数が有意に多くなった(図5d)。
【0228】
14日目までには、IL-3+TNFα処理群の細胞数は対照群の約100倍となり、IL-3+TNFα処理群におけるCD7+CD5+プロT細胞の数は対照群の500倍以上となった(図5e)。さらに、IL-3+TNFα群では、CD7+CD56+NK細胞およびCD14/33+骨髄系細胞の増殖も他の群と比べて多くなった。しかし、全細胞に占めるNK細胞集団や骨髄系細胞集団の割合は少なかったことから、IL-3とTNFαを併用することによって主にT細胞系列の細胞が増殖することが示された。
【0229】
実施例7:TNFαによるIL-3受容体の発現量の増加
次に、TNFαで24時間刺激した場合または刺激を与えなかった場合のCD34+HSPCにおけるCD117(c-kit;SCF受容体)、CD123(IL-3受容体)およびCD127(IL-7受容体)の発現を評価した。TNFαで刺激することによって、CD123+細胞の頻度が有意に増加した(図6aおよび図6b)。さらに、CD123+細胞の頻度の増加に伴って、CD123の蛍光強度の中央値(MFI)が上昇したことから、TNFαで刺激したことによって細胞表面の受容体密度が高くなったことが示された(図6c)。
【0230】
これらの結果から、IL-3とTNFαの併用効果の機構が明らかとなった。すなわち、TNFαによって、IL-3に対するCD34+HSPC集団の全体的な応答性が向上するとともに、Notchの標的遺伝子の制御を介したTNFαのT細胞系列誘導効果とIL-3の増殖促進効果とが同時に誘導されることが分かった。
【0231】
実施例8:IL-3とTNFαの併用によるVCAM-1不在の補填
T細胞系列の発生にVCAM-1が必要であるかどうかを評価するため、IL-3とTNFαの存在下または非存在下、かつVCAM-1の存在下または非存在下においてCD34+HSPCを14日間培養した後、フローサイトメトリーで分析した。
【0232】
対照条件からVCAM-1を取り除くと、CD7+CD5+プロT細胞の発生はごくわずかしか認められず、IL-3とTNFαの添加によってVCAM-1の非存在下でのプロT細胞の発生が支持されたが、このプロT細胞の頻度はある程度低下した(図7a)。さらに、IL-3とTNFαで処理した細胞では、対照群よりもCD7+CD1a+プレT細胞の割合が高かったが、VCAM-1を含まない条件でCD7+CD1a+プレT細胞の頻度が最も高くなった(図7b)。この結果は、ヒトT細胞系列への分化決定(すなわち、プロT細胞からプレT細胞への移行)にはNotch経路の活性の低下が必要であるという過去の報告と一致している10
【0233】
DL4の濃度を低下させた条件においてTNFαがT細胞系列の発生を支持したという知見に基づいて(図4d~f)、DL4をさらに低い濃度範囲に設定し、IL-3とTNFαの存在下において同様の滴定実験を行った。0.8ng/mm2という低いコーティング濃度のDL4でも、プロT細胞およびプレT細胞の発生を支持することができた(図7c)。このDL4のコーティング濃度は、Shuklaらにより報告された濃度の30分の1であった6
【0234】
次に、VCAM1の非存在下でDL4の滴定実験を再度行った。この実験から、3.2ng/mm2のコーティング濃度のDL4、すなわちShuklaらにより報告された濃度6の7.5分の1の濃度のDL4によって、VCAM-1の非存在下でのプロT細胞およびプレT細胞の発生が支持されたことが明らかとなった(図7d)。この結果から、T細胞系列の発生およびT細胞系列への分化決定において、IL-3とTNFαを併用することによりVCAM-1の不在を補填できることが示された。
【0235】
実施例9:TNFαによるTPO不在の補填
T細胞系列の発生にTPOが必要であるかどうかを評価するため、TNFαの存在下または非存在下、かつTPOの存在下または非存在下においてCD34+HSPCを14日間培養した後、フローサイトメトリーで分析した。
【0236】
TNFαが存在する場合、TPOを取り除いてもCD7+リンパ系細胞の発生に悪影響は認められなかったが、TNFαが存在しない場合、CD7+細胞数は有意に低下した(図8)。さらに、TPOと取り除くと、TNFαの有無に関わらずCD14/33+骨髄系細胞数が減少した(図8)。以上の結果から、TNFαがTPOの非存在下においてT細胞系列の発生を支持することが示された。
【0237】
実施例10:典型的な実施形態のまとめ(ただしこれに限定されない)
図9に示すように、IL-3は細胞増殖を誘導するが、IL-3受容体(CD123)は、CD34+HSPCに広く発現されていないことから、この増殖誘導効果は、非リンパ系(CD7-)細胞系列へと分化する細胞に限定される。TNFαは、TCF7やGATA3などのNotch標的遺伝子のアップレギュレーションと、これに続く骨髄系細胞分化促進遺伝子(SPI1およびCEBPA)のダウンレギュレーションを部分的に介して、それ単独で細胞増殖とT細胞系列への分化を誘導する。T細胞発生プログラムを開始させる目的で、この効果を早期に起こさせようとする場合にTNFαの添加が遅れると、骨髄系細胞発生プログラムが開始され、CD14/33+骨髄系細胞の増殖に対して正の効果がもたらされる(図3eおよび図3fを参照されたい)。
【0238】
TNFαによりCD34+HSPCのIL-3受容体をアップレギュレートすると、CD34+HSPCがIL-3に対して応答性を示すようになるが、TNFαが存在しない場合は、CD34+HSPC集団中の小さなサブセットのみがIL-3に対して応答性を示す。このことを利用して、IL-3の増殖促進効果と、TNFαのT細胞系列誘導効果とを同時に誘導する。IL-3のみが存在する条件と、IL-3とTNFαが存在する条件におけるCD14/33+骨髄球系細胞の数は同程度であった(図5dおよび図5eを参照されたい)。この知見から、TNFαによって骨髄系細胞の発生が直接抑制されないモデルが支持された。TNFαによるSPI1とCEBPAのダウンレギュレーションは、T細胞系列の発生が開始された細胞において、恐らくはBCL11b(非T細胞の発生の負の調節因子)の発現が増強され、その一方で細胞集団全体における骨髄系細胞分化促進遺伝子の発現が低下することによるものであると考えられる。しかし、IL-3とTNFαによって刺激されたプロT細胞の増殖能は、この骨髄系細胞集団の増殖能を大幅に上回るものであり、プロT細胞およびその派生細胞(プレT細胞や成熟T細胞など)を含むT細胞系列細胞集団が有意に濃縮された。
【0239】
特定の具体的な実施形態を参照しながら本発明を説明してきたが、当業者であれば、これらの実施形態の様々な変更も可能であることを容易に理解するであろう。本明細書において提供された実施例はいずれも、本発明を説明することのみを目的として記載されたものであり、本発明をなんら限定するものではない。また、本明細書において提供された図面はいずれも、本発明の様々な態様を説明することのみを目的として提供されたものであり、本発明を規定または限定するために作製されたものではない。本明細書に添付の請求項の範囲は、前述の詳細な説明に記載された好ましい実施形態によって限定されるものではなく、本明細書全体と矛盾しない最も広い範囲で解釈されるべきである。本明細書において引用により開示された先行技術は、本明細書の一部を構成するものとして参照によりその全体が援用される。

引用文献
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2. La Motte-Mohs RN, Herer E, Zuniga-Pflucker JC. Induction of T-cell development from human cord blood hematopoietic stem cells by Delta-like 1 in vitro. Blood. 2005;105(4):1431-1439. doi:10.1182/blood-2004-04-1293.
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4. Taqvi S, Dixit L, Roy K. Biomaterial-based notch signaling for the differentiation of hematopoietic stem cells into T cells. J Biomed Mater Res - Part A. 2006;79(3):689-697. doi:10.1002/jbm.a.30916.
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図1a-b】
図1c
図1d
図2a-b】
図2c
図3a-c】
図3d-f】
図4a-c】
図4d-f】
図5a-c】
図5d-e】
図6
図7a-b】
図7c-d】
図8
図9
【配列表】
2023502965000001.app
【国際調査報告】