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特表2023-502971レーザ捕捉顕微解剖装置、システム、および、方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-26
(54)【発明の名称】レーザ捕捉顕微解剖装置、システム、および、方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 21/00 20060101AFI20230119BHJP
   G01N 1/28 20060101ALI20230119BHJP
   G01N 21/33 20060101ALI20230119BHJP
   G01N 21/3563 20140101ALI20230119BHJP
【FI】
G02B21/00
G01N1/28 J
G01N21/33
G01N21/3563
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022528321
(86)(22)【出願日】2020-11-17
(85)【翻訳文提出日】2022-07-15
(86)【国際出願番号】 US2020060892
(87)【国際公開番号】W WO2021101893
(87)【国際公開日】2021-05-27
(31)【優先権主張番号】62/937,624
(32)【優先日】2019-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511237575
【氏名又は名称】フリューダイム・コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】サンドキュール ダーフ
(72)【発明者】
【氏名】カルピーノ アラン
【テーマコード(参考)】
2G052
2G059
2H052
【Fターム(参考)】
2G052AA33
2G052AD32
2G052AD52
2G052EC17
2G052GA29
2G052JA08
2G059AA05
2G059BB12
2G059EE01
2G059FF01
2G059FF03
2G059GG01
2G059JJ02
2G059JJ11
2G059JJ13
2G059KK04
2H052AC12
2H052AC13
2H052AC27
2H052AC34
2H052AF11
(57)【要約】
顕微鏡装置は、組織試料を保持するように構成されたステージを備える顕微鏡と、組織試料の観察領域にUVレーザビームを放射するように構成されたUVレーザアセンブリと、組織試料の観察領域にIRレーザビームを放射するように構成されたIRレーザアセンブリと、を備える。UVおよびIRレーザアセンブリは、それぞれのUVおよびIRレーザビームを同じ方向に放射するように配向される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織試料を保持するように構成されたステージを備える顕微鏡と、
前記組織試料の観察領域にUVレーザビームを放射するように構成されたUVレーザアセンブリと、
前記組織試料の前記観察領域にIRレーザビームを放射するように構成されたIRレーザアセンブリと、を備え、
前記UVレーザアセンブリおよび前記IRレーザアセンブリは、それぞれの前記UVレーザビームおよび前記IRレーザビームを同じ方向に放射するように配向される、顕微鏡装置。
【請求項2】
前記UVレーザアセンブリは、前記UVレーザビームの方向を変更するように構成されたUVミラーを備える、請求項1に記載の顕微鏡装置。
【請求項3】
前記IRレーザアセンブリは、前記IRレーザビームの方向を変更するように構成されたIRミラーを備える、請求項2に記載の顕微鏡装置。
【請求項4】
前記UVミラーは、前記顕微鏡の光軸に沿って配置される、請求項3に記載の顕微鏡装置。
【請求項5】
前記IRミラーは、前記顕微鏡の前記光軸に沿って配置され、前記UVミラーと直列となる、請求項4に記載の顕微鏡装置。
【請求項6】
前記IRミラーは、前記顕微鏡の前記光軸に沿って、前記UVミラーの真上に配置される、請求項5に記載の顕微鏡装置。
【請求項7】
前記UVミラーは、前記顕微鏡の前記光軸の外側に配置される、請求項3に記載の顕微鏡装置。
【請求項8】
前記顕微鏡は、前記組織試料の前記観察領域に光を向けるように構成された光源を有し、
前記光源は、前記光軸に沿って前記IRミラーの上方に配置される、請求項3に記載の顕微鏡装置。
【請求項9】
前記顕微鏡は、前記ステージの上方に位置する対物レンズおよび光源を有し、前記光源は、前記組織試料の前記観察領域に光を向けるように構成され、前記顕微鏡の光軸の外側に配置される、請求項2に記載の顕微鏡装置。
【請求項10】
前記光源は、前記IRミラーの垂直下方に配置される、請求項9に記載の顕微鏡装置。
【請求項11】
前記UVレーザビーム及び前記IRレーザビームは、前記組織試料の前記観察領域と略直角の角度で接触するように構成される、請求項1に記載の顕微鏡装置。
【請求項12】
前記UVレーザビームは、前記組織試料の前記観察領域と斜めの角度で接触するように構成され、前記IRレーザビームは、前記組織試料の前記観察領域と略垂直の角度で接触するように構成される、請求項1に記載の顕微鏡装置。
【請求項13】
UV光およびIR光に曝露された時に組織試料からの標的細胞に接着するように構成されるキャップと、
顕微鏡装置と、を備え、
前記顕微鏡装置は、
前記組織試料および前記キャップを保持するように構成されたステージを有する顕微鏡と、
前記組織試料の観察領域にUVレーザビームを放射するように構成されたUVレーザアセンブリと、
前記組織試料の前記観察領域にIRレーザビームを放射するように構成されたIRレーザアセンブリと、備え、
前記UVレーザアセンブリおよび前記IRレーザアセンブリは、それぞれの前記UVレーザビーム及び前記IRレーザビームを同じ方向に放射するように配向される、レーザ捕捉顕微解剖システム。
【請求項14】
前記UVレーザアセンブリは、前記UVレーザビームの方向を変更するように構成されたUVミラーを備える、請求項13に記載のレーザ捕捉顕微解剖システム。
【請求項15】
前記IRレーザアセンブリは、前記IRレーザビームの方向を変更するように構成されたIRミラーを備える、請求項14に記載のレーザ捕捉顕微解剖システム。
【請求項16】
組織試料から標的細胞を除去する方法であって、
顕微鏡のステージの上に組織試料を取り付けること、
前記組織試料から除去される前記標的細胞を選択すること、
UV光およびIR光の両方に曝露された時に前記組織試料からの前記標的細胞に接着するように構成されるキャップを前記組織試料の上に配置すること、
UVレーザアセンブリから前記組織試料の観察領域にUVレーザビームを放射すること、
IRレーザアセンブリから前記組織試料の前記観察領域にIRレーザビームを放射すること、および、
前記キャップに接着した前記標的細胞を備える前記キャップを、前記組織試料の残部分から除去すること、を有する方法。
【請求項17】
前記UVレーザアセンブリのUVミラーを用いて、前記UVレーザビームの方向を変更することをさらに有する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記IRレーザアセンブリのIRミラーを用いて、前記IRレーザビームの方向を変更することをさらに有する、請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の参照)
本出願は、2019年11月19日に出願された米国仮出願62/937,624に対する優先権を主張しており、その内容全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、概してレーザ捕捉顕微解剖(LCM)の分野に関する。
【背景技術】
【0003】
レーザ捕捉顕微解剖(LCM)(マイクロダイセクション、レーザ顕微解剖(LMD)、またはレーザ補助型顕微解剖(LMDまたはLAM)とも称される)は、直接的な顕微鏡観察下で、組織試料の不均質な断片から、目的となる特定の種類の細胞(腫瘍細胞など)または組織の全領域(本明細書では一般に「標的細胞」と称される)の純粋試料を単離するために使用される確立された技術および方法である。そして、獲得された標的細胞は、医薬品産業および学術研究による商業的診断分析、臨床試験、および研究学習などの下流の適用において使用され得る。LCMは、世界中の多数の科学者によって使用され、ゲノミクス(DNA)、トランスクリプトミクス(mRNA、miRNA)、プロテオミクス、メタボロミクス、遺伝子発現および配列決定、分子シグネチャーの決定、キャピラリー電気泳動、マイクロアレイ分析、ポリメラーゼ連鎖反応(qPCRまたはリアルタイムPCRなどのPCRおよびプロテオミクス)、および次世代配列決定(NGS)などの様々な下流の応用において使用することができる。
【0004】
LCMの一形態は、レーザビームまたは放射線源を用いて、ガラススライド上に取り付けられた組織試料のスライスに対して保持された平坦なプラスチックフィルムを加熱する。プラスチックフィルムには、レーザエネルギーを吸収する染料が均一に含浸されている。標的細胞の上に位置するプラスチックフィルムの領域は、放射線によって選択的に加熱され、この領域が溶融されて、直下の組織セグメントにそれ自体を埋め込まれる。フィルムが組織試料から離昇されると、フィルムの下面に接着された組織の部分が、組織試料の残部分から切り離される(例えば、Espina V., et al.(2006) Nature Prot. 1(2):586-603を参照、この開示全体は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
様々な実施形態は、組織試料を保持するように構成されたステージを備える顕微鏡と、組織試料の観察領域にUVレーザビームを放射するように構成されたUVレーザアセンブリと、組織試料の観察領域にIRレーザビームを放射するように構成されたIRレーザアセンブリと、を備える顕微鏡装置を提供する。UV及びレーザアセンブリは、それぞれのUV及びIRレーザビームを、同じ方向に放射するように配向される。
【0006】
種々の他の実施形態は、UV光およびIR光に曝露された時に、組織試料からの標的細胞に接着するように構成されるキャップと、顕微鏡装置とを備える、レーザ捕捉顕微解剖システムを提供する。顕微鏡装置は、組織試料およびキャップを保持するように構成されたステージを備える顕微鏡と、組織試料の観察領域にUVレーザビームを放射するように構成されたUVレーザアセンブリと、組織試料の観察領域にIRレーザビームを放射するように構成されたIRレーザアセンブリとを備える。UV及びIRレーザアセンブリは、それぞれのUV及びIRレーザビームを同じ方向に放射するように配向される。
【0007】
様々な他の実施形態は、組織試料から標的細胞を除去する方法を提供する。この方法は、顕微鏡のステージ上に組織試料を取り付けることと、組織試料から除去される標的細胞を選択することと、UV光およびIR光の両方に暴露されると、組織試料からの標的細胞に接着するように構成されるキャップを組織試料上に設置することと、を有する。この方法は、UVレーザアセンブリから組織試料の観察領域にUVレーザビームを放射することと、IRレーザアセンブリから組織試料の観察領域にIRレーザビームを放射することと、キャップに付着された標的細胞を備えるキャップを組織試料の残部から除去することと、を有する。
【0008】
これらのおよび他の特徴(保持の特徴および/または観察の特徴を含むが、それらに限定されない)は、その構成および動作の様式とともに、添付の図面と併せて以下の詳細な説明から明らかになるであろう。また、以下に示される図面全体では、同様の要素は同様の番号を有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、一実施形態によるLCMシステムの斜視図である。
【0010】
図2図2は、一実施形態による顕微鏡の斜視図である。
【0011】
図3図3は、一実施形態による顕微鏡のステージの斜視図である。
【0012】
図4図4は、一実施形態によるカメラの側面図である。
【0013】
図5図5は、一実施形態によるUVレーザアセンブリの一部の斜視図である。
【0014】
図6図6は、一実施形態によるIRレーザアセンブリの一部の斜視図である。
【0015】
図7図7は、一実施形態による、LCMシステムの側面概略図である。
【0016】
図8図8は、別の実施形態による、LCMシステムの側面概略図である。
【0017】
図9図9は、別の実施形態による、LCMシステムの側面概略図である。
【0018】
図10図10は、別の実施形態による、LCMシステムの側面概略図である。
【0019】
図11A図11Aは、一実施形態による顕微鏡の斜視図である。
図11B図11Bは、一実施形態による顕微鏡の斜視図である。
図11C図11Cは、一実施形態による顕微鏡の斜視図である。
図11D図11Dは、一実施形態による顕微鏡の正面図である。
図11E図11Eは、一実施形態による顕微鏡の上面図である。
【0020】
図12A図12Aは、別の実施形態による、顕微鏡の斜視図である。
図12B図12Bは、別の実施形態による、顕微鏡の側面図である。
図12C図12Cは、別の実施形態による、顕微鏡の上面図である。
図12D図12Dは、別の実施形態による、顕微鏡の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
概して図面を参照すると、本明細書に開示される種々の実施形態は、超精密レーザ顕微解剖および超高感度分析を可能にする、紫外線(UV)および赤外線(IR)レーザビームの両方を利用する、レーザ捕捉顕微解剖(「LCM」)のための種々の装置、システム、および方法に関する。UVおよびIRレーザビームの両方を提供することによって、使用者には、様々な異なるLCM用途のために純粋な細胞集団を単離するためのより多くの選択肢が与えられる。
【0022】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用される場合、「a」および「an」および「the」などの単数形の冠詞、ならびに要素を説明する文脈における(特に以下の特許請求の範囲の文脈における)同様の指示対象は、本明細書において別段の指示がない限り、または文脈によって明らかに矛盾しない限り、単数形および複数形の両方を包含すると解釈されるべきである。本明細書における値の範囲の列挙は、本明細書において別段の指示がない限り、その範囲内に入る各別個の値を個々に言及する簡潔な方法としての役割を果たすことを単に意図しており、各別個の値は、あたかもそれが本明細書において個々に列挙されているかのように本明細書に組み込まれる。本明細書に記載される全ての方法は、本明細書に別段の指示がない限り、または文脈によって明らかに矛盾しない限り、任意の好適な順序で実施することができる。本明細書で提供される任意のおよび全ての例、または例示的な言葉(例えば、「など」)の使用は、単に実施形態をより明瞭にすることを意図しており、別段の記載がない限り、特許請求の範囲を限定するものではない。本明細書におけるいかなる言葉も、任意の請求されていない要素を必須として示すものとして解釈されるべきではない。
【0023】
本明細書に例示的に記載される実施形態は、本明細書に具体的に開示されていない任意の要素(単数または複数)、限定(単数または複数)が存在していない状況でも適切に実施され得る。したがって、例えば、「含む(comprising)」、「含む(including)」、「含む(containing)」などの用語は、広範にかつ限定なく読まれるものとする。加えて、本明細書で使用される用語および表現は、限定ではなく説明の用語として使用されており、そのような用語および表現の使用において、図示および説明される特徴またはその部分の任意の均等物を排除する意図はないが、種々の修正が、特許請求される技術の範囲内で可能であることが認識される。さらに、「から本質的になる(consisting essentially of)」という語句は、具体的に列挙された要素および請求される技術の基本的および新規な特徴に実質的に影響を及ぼさない追加の要素を含むと理解されるであろう。「からなる(consisting of)」という語句は、特定されていない任意の要素を除外する。「含む(comprising)」という表現は、「含むがこれに限定されない」ことを意味する。したがって、他の言及されていない物質、添加剤、担体、またはステップが存在し得る。特に明記しない限り、「a」または「an」は、1つ以上を意味する。
【0024】
特に示されない限り、本明細書および特許請求の範囲で使用される特性、パラメータ、条件などの量を表すすべての数は、すべての場合において「約」という用語によって修飾されているものとして理解されるべきである。したがって、反対のことが示されない限り、以下の明細書および添付の特許請求の範囲に記載される数値パラメータは近似値である。任意の数値パラメータは、少なくとも、報告された有効数字の数に照らして、通常の丸め技術を適用することによって解釈されるべきである。「約」の語句は、数値表示の前に使用する場合、例えば、温度、時間、量、および範囲を含む濃度は、(+)または(-)の10%、5%または1%変化し得る近似値を示す。
【0025】
当業者によって理解されるように、あらゆる目的のために、特に記載された説明を提供することに関して、本明細書に開示される全ての範囲はまた、あらゆる可能な部分的範囲およびその部分的範囲の組み合わせも包含する。列挙された任意の範囲は、同じ範囲を少なくとも等しく半分に、1/3に、1/4に、5/1に、10/1などに分割することを十分に説明し、可能にすると容易に認識することができる。非限定的な例として、本明細書で論じられる各範囲は、下3分の1、中3分の1、および上3分の1などに容易に分解することができる。また、当業者によって理解されるように、「~まで」、「少なくとも」、「より大きい」、「より小さい」などのすべての言語は、列挙された数を含み、上記で論じたように、後に部分範囲に分解することができる範囲を指す。最後に、当業者によって理解されるように、範囲は、各々固有のメンバーを含む。
【0026】
LCM技術の目的は、典型的な組織病理学生検スライド上に含まれる異種個体郡または組織試料から特定の標的細胞を取得するための単純な方法を提供することである。典型的な組織生検試料は、病理学の分野で周知の技術を用いて顕微鏡スライド上に配置される組織の5~10ミクロンスライスからなる。多くの場合、病理学者は、さらなる分析のために、組織試料(例えば、「標的細胞」)のわずかな部分のみを除去することを所望する。
【0027】
組織試料は、様々な異なるタイプまたは異種混の細胞であってもよく、様々な異なる生物からの様々な異なる組織タイプであってもよい。例えば、組織試料は、ヒト細胞を含んでもよく、研究されている身体器官の断面であってもよい。組織試料の残部分から除去される対象となる組織試料の所望のまたは選択された領域、部分、切片、細胞、または組織は、「標的細胞」と呼ばれる。
【0028】
LCMを実施するために、フィルム(マイクロパターン化熱可塑性フィルムなど)を組織試料の上面と接触させて配置し、同時に組織試料の下面をスライドの上に取り付ける。組織試料から所定の標的細胞を単離するために、次いで、フィルム(組織試料と接触しているもの)に電磁放射線(すなわち、レーザエネルギー)を照射する。このフィルムは、消耗品であるキャップ(本明細書においてさらに説明される)の一部である。
【0029】
レーザ照射が組織試料の所望の領域上(すなわち、標的細胞を覆うように)に配向されると、照射により組織試料接着特性が変化する。組織試料の上面に沿ったレーザ照射は、フィルムを活性化することによって、組織試料の上面に沿った接着捕捉剤を活性化する。特に、フィルムが集光レーザビームに曝露されると、レーザエネルギーのビーム内にあるフィルム(及びキャップ)の曝露領域は、レーザによって加熱され、局所的に溶融する。フィルムの溶融領域は組織試料表面と一体となり、それによって、組織試料の曝露部分(すなわち、所望の標的細胞)をフィルムに接着させる。
【0030】
一方、組織試料の下面は、スライド上に直接置かれる代わりに、微粒子またはナノ粒子コーティング(一実施形態による)上に置かれる。微粒子またはナノ粒子コーティングは、レーザエネルギー単独で、または組織試料の化学的処理と組み合わせて、その接着特性が変化され得る。レーザエネルギーは、組織試料の下の接着力を破壊または溶解しながら、同時に、組織試料の上部表面上の接着力を活性化する(上述のように)。特に、接着捕捉剤は、より高い効率、捕捉精度(より低い非特異的な捕捉を伴う)、収率、および分解能を達成するように、組織試料の下では溶解される。
【0031】
レーザ照射後、次いで、フィルムを組織試料から持ち上げ、除去する。選択された標的細胞(局所的に溶融したフィルム領域の直下のもの)がフィルムに接着されるので、組織試料の選択された標的細胞は、残りの組織試料からフィルムと共に除去される。特に、標的細胞は、組織試料の残部分から切り離され、除去され、これにより標的細胞が組織試料の残部分から単離される(または、標的細胞は、組織試料の残部分から切り離すことができる)。標的細胞が捕捉され、収集デバイス内に配置され、これにより組織試料または細胞の顕微鏡的領域から組織学的に純粋な強化された細胞集団を収集する。
【0032】
この操作の成功は、選択された対象領域の上方(すなわち、フィルムと組織試料との間)と選択された対象領域の下方(すなわち、組織試料とスライドとの間)の力のバランスに依存する。様々な組成物および方法は、接着強度を増加させ、組織試料表面と接触するフィルムの解像度を改善することができると同時に、スライド上でしっかりと乾燥させることができ、組織試料の底部との接触面の接着力を選択的に低減することができる。
【0033】
本明細書にさらに記載されるように、本明細書に開示される種々の実施形態は、フィルム(組織試料と接触する)が、紫外線(UV)および赤外線(IR)スペクトルの両方の電磁放射線で照射されることを可能にする。
【0034】
LCMシステム
図1は、顕微鏡装置30および種々の消耗品22(例えば、上流または下流の試料処理用)を含むレーザ捕捉顕微解剖(LCM)システム20の一実施形態を示す。様々な消耗品22は、キャップ24(本明細書で更に説明されるフィルムを含む)、スライド26(例えば、組織試料が最初に置かれるスライド)、及び試薬(例えば、抽出試薬、染色試薬、および下流試薬(捕捉された材料を分析するため))を含んでもよい。顕微鏡装置30は、顕微鏡32と、UVレーザ構造またはアセンブリ40およびIRレーザ構造またはアセンブリ60を備えるデュアルレーザシステムとを備える。
【0035】
UVレーザアセンブリ40とIRレーザアセンブリ60の両方を含むことによって、LCMシステム20は、従来のLCMシステムを上回る性能改善を提供する。特に、LCMシステム20の分解能が改善され、標的細胞のより小さいサイズの領域が、顕微鏡32のタワー内の顕微解剖を通して正確に捕捉されることが可能になる。UVレーザアセンブリ40およびIRレーザアセンブリ60の両方を含むことによって、LCMシステム20の追加的な応用のための有用性および使用性が(従来のLCMシステムと比較して)拡張され、LCMシステム20は、単一のレーザ波長のみを使用する従来のLCMシステム内で言及または提供されないさらなる機能性を提供する。さらに、より高品質の画像を生成することができ、同時に、標的細胞を捕捉するために容易に使用できる。
【0036】
LCMシステム20は、組織の微小環境を単一細胞レベルで調べることを可能にし、組織の高忠実可視化(例えば、マウスまたはスタイラスによる選択のためのコンピュータスクリーン上のデジタルフルカラー画像)を提供し、そうでなければ異種細胞集団において不明瞭となり得るユニークな分子シグネチャーを明らかにすることを可能にし、より高い捕捉、抽出収率、および保存のためにナノテクノロジー増強(本明細書にさらに記載される)を実現する「ヤモリ把捉(GeckoGrip)」キャップを利用する。
【0037】
従来のLCMシステムと比較して、LCMシステム20は、柔軟性を最大にしながら、対象となる標的細胞を標的化する精度を増加させながらLCMの速度を増加させる。LCMシステム20は、微小解剖された組織試料を維持し、LCMシステム20の一部と接触することを可能にし、同時に、組織の大部分は、参照のために画像化およびカタログ化される。捕捉された細胞の空間配向は、捕捉表面上で維持され、それによって、細胞の分子完全性が保存され、組織試料中の生体分子のUVレーザビームに起因する損傷からの遮蔽が可能となる。
【0038】
LCMシステムの消耗品
LCMシステム20は、LCMを実行するためにフィルムを有する捕捉消耗品またはキャップ24を備える。キャップ24は、(フィルムを介して)UV光およびIR光の両方に曝露された時に、組織試料から標的細胞に接着するように構成される。フィルムは、米国特許第10,324,008号に開示されるものなどのようなパターン化された(例えば、マイクロパターン化された)熱可塑性転写フィルムであってもよい。なお、当該米国特許の開示全体は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。フィルムは、マイクロピラー、マイクロ突起、ヒドロゲルマイクロスフェア、および/またはマイクロニードルなどの「ヤモリ足(gecko feet)」または突起を含んでもよく、これらは、組織試料の上部に配置される熱可塑性フィルムに付着されるか、熱可塑性フィルムと連続するか、または熱可塑性フィルムと一体的に形成される。これらの突起は、同時捕捉および放出を可能にし、組織および細胞顕微解剖のためにマイクロパターン表面を使用する。突起はまた、標的細胞の上面とフィルムとの間の接着力を増加させることによって、異種組織試料からの標的細胞の純粋集団の捕捉(例えば、リフト)効率を改善する。
【0039】
一実施形態によれば、突起は、熱ポリマー抽出キャップ24上に取り付けられた熱ポリマー表面に適用されるフォトリソグラフィーモールドを使用してフィルム上に形成されてもよい。顕微鏡32は、キャップ24を定位置に保持するための加重方法を含んでもよく、これは、標的細胞との接触を向上させる。任意選択で、キャップ24は、手動で組織試料上に設置されてもよく、顕微鏡32は、精度よく安定してキャップ24を手動で設置するために、手動キャップアーム等のキャップ設置システムを備え得る。これは、LCMポリマースポットの機能性(細胞への接着およびスポット直径など)を改善し、より小さいサイズの捕捉を可能にする。
【0040】
フィルム(および任意選択で突起)は、下方の凹凸のある組織試料表面に接着するように、レーザビームからなどの選択的な放射エネルギーによって活性化され得る表面を有する。例えば、フィルム(および任意選択で突起)は、一般的なレーザダイオード、例えばAlGaAsレーザダイオードの発光領域に重なるスペクトルの紫外(UV)又は赤外(IR)領域において選択的に吸収するように選ばれた有機染料(UV及び/又はIR吸収染料など)を含むか又は含浸させて製造することができる。レーザ吸収染料の勾配を突起(マイクロピラーなど)に含浸させることによって、突起の先端を膨張させ、先端における組織試料表面の凹凸に選択的に適合させることができる。
【0041】
追加的に、LCMシステム20は、組織試料が取り付けられるスライド26を備える。スライド26はまた、レーザ照射によって組織接着特性を変化可能な微粒子またはナノ粒子によりスライド26をコーティングすることによって加工することもできる。例えば、スライド26を酸化インジウムスズでコーティングして、レーザ照射下での標的細胞の底面とスライド26との間の接着力を低減することができる。スライド26は、ガラスまたは膜(例えば、ガラス膜または金属膜)を含むがこれらに限定されず様々な異なる材料から構成されてもよい。
【0042】
顕微鏡
顕微鏡32は、組織試料(または標的細胞)が、容易に拡大され、観察され、または可視化され、例えば、2倍、10倍、および40倍の倍率で(画像として)捕捉されることを可能にする。顕微鏡32は、デジタル顕微鏡法を提供してもよく、画像位置合わせのためのマーク、画面上の特徴選択、自動または手動顕微解剖、直感的、ユーザフレンドリーなオペレータソフトウェア、および統合された遠隔病理学オプション等の種々の特徴を含んでもよい。顕微鏡32は、捕捉表面との間の界面における屈折率整合によって、組織試料の高忠実の色可視化を提供してもよい。図11A~11Eは顕微鏡32の一実施形態を示し、図12A~12Dは顕微鏡32の別の実施形態を示す。
【0043】
一実施形態によれば、顕微鏡の台座は、図2に示すように、2倍、10倍、および40倍の対物レンズと、長作動距離集光器(および双眼鏡を備えない)とを有するオリンパスix73倒立顕微鏡であってもよい。
【0044】
顕微鏡32は、光が顕微鏡32を通って組織試料まで伝搬する経路を画定する光軸39を画定する。光軸39は、組織試料の視野(または観察領域または範囲)の中心と一致し、その中心を通って延びる。光軸39は、顕微鏡32の各レンズの曲率中心を通る(そして、レーザアセンブリ40、60の任意のミラーを通る)。本明細書で言及されるように、「光の経路」は、可視光およびレーザビーム42、62の両方が組織試料およびステージ34に向かって放出される方向を指す。
【0045】
顕微鏡32は、組織試料を照明するために観察領域を向かって可視光を放射する照明または光源38(図7図8に示されている)を備えてもよい。光源38は、ステージ34の上方に配置されてもよい。様々な実施形態によれば、光源38は白色発光ダイオード(LED)であってもよい。図8に示される一実施形態によれば、光源38は、光のリング(例えば、LEDのリング)であってもよく、顕微鏡32は、光を拡散するために光源38の真下に配置される拡散器131(環状の接地ガラス拡散器など)を含んでもよい。
【0046】
図7に示すように)顕微鏡32は、少なくとも1つの集光レンズ36及び少なくとも1つの対物レンズ37を含む様々な異なるレンズを含む。一実施形態によれば、顕微鏡32は2つの集光レンズ36を含む。対物レンズ37は、低倍率反射対物レンズ(例えば、Thorlabs LMM-15X-UVVまたは約30ミリメートル(mm)の比較的長い作動距離を有する10倍の対物レンズなど)であってもよい。(図9に示すように)顕微鏡32は、ステージ34の上方に位置する反射対物レンズおよびステージ34の下方に位置する観察対物レンズなどの、複数の異なるタイプの対物レンズ37を含むことができる。対物レンズ37は、2倍~100倍を含む様々な異なる倍率を有してもよい。
【0047】
図2図3に示すように、顕微鏡32は、組織試料を保持するように構成された電動器具プラットフォームまたはステージ34を備える。組織試料(およびスライド26)は、レーザによる分析および解剖のためにステージの上部に装填または配置することができる。ステージ34は、組織試料を所望の位置に位置決めするために、顕微鏡32の残部分に対して(手動でまたはコンピュータによって)移動させることができる。例えば、ステージ34を垂直に移動させて、顕微鏡32のレンズから所定の垂直距離に組織試料を位置決めすることができる。ステージ34はまた、解剖のために、組織試料の特定の部分(すなわち、標的細胞)を視野(光軸39と整列される)内におよびレーザの下に位置付けるために、水平面に沿って移動させられてもよい。顕微鏡32は、任意選択で、ステージ34の移動を制御するためのステージコントローラを含んでもよい。図3に示す一実施形態によれば、ステージ34はThorlabs MLS203-1リニアステージ(0.25マイクロメートル(μm)の再現性で250mm/秒までの速度)である。
【0048】
図4に示すように、顕微鏡32は、組織試料のカラー画像をデジタル的に取り込むように構成されたカメラ35を備えることができ、このカメラ35は前方視赤外線(FLIR)カメラであってもよい。図4に示す一実施形態によれば、カメラ35はオリンパス DP74であり、対角線長が21mmの広い視野での60フレーム/秒(fps)のフルHD画像解像度と組み合わされている。オリンパス DP74の相補型金属酸化膜半導体(CMOS)のグローバルシャッタは、画素全体を一度に露出し、歪みを除去する。オリンパス DP74は、LCMシステム20のソフトウェアと統合され得る内蔵位置ナビゲータを有する。一実施形態によれば、カメラ35は、光軸39の外側に配置されてもよく、そして、カメラミラーは、カメラ35が顕微鏡32下の組織試料の画像またはビデオを捕捉および記録することが可能となるように、位置付けられ、角度付けられてもよい。
【0049】
レーザアセンブリ
レーザアセンブリデュアルレーザシステムのUVレーザアセンブリ40およびIRレーザアセンブリ60は両方とも固体状態であり、広範囲の応用のために異なる波長および異なるエネルギーでレーザビームを放出する。UVレーザアセンブリ40およびIRレーザアセンブリ60は、単細胞または細胞の小群を捕捉し、複雑な多細胞形状を顕微解剖し、大きな組織領域を抽出し、凍結切片、パラフィン包埋切片、および生細胞を含む(したがって、任意選択で、ライブセル応用のための位相差およびDICオプションを含んでもよい)、種々の組織試料とともに使用することができる。一実施形態によれば、UVレーザアセンブリ40およびIRレーザアセンブリ60は両方とも、顕微鏡32の光軸39の外側に配置され、固定レーザ焦点を有する。
【0050】
図7に示すように、UVレーザアセンブリ40は、組織試料の観察領域にUVレーザビーム42を送達し、放出し、または出力するように構成されるUVレーザ41(UVレーザヘッド内にあってもよい)(例えば、UVレーザエミッタ)を備える。UVレーザビーム42は、優れた速度および精度を提供し、高密度組織構造(特に、多数の細胞が採取される場合)を顕微解剖するのに、およびその小さいスポットサイズ(IRレーザビーム62に対して)を前提として単細胞または細胞下構造を迅速に捕捉するのによく適している。顕微鏡32に対するUVレーザアセンブリ40およびIRレーザアセンブリ60の位置決め(本明細書でさらに説明されるような、レーザビーム42、62を顕微鏡32のタワーまたは光軸39内の位置決めのように)により、より短いUV波長による分解能の増加が可能になり、したがって、単一の細胞および少数の細胞のために捕捉サイズをより小さくできる。様々な実施形態によれば、UVレーザビーム42は、355ナノメートル(nm)の波長を有することができる。一実施形態によれば、UVレーザビーム42の直径は、約8~12mmとすることができる。
【0051】
組織切断に加えて、UVレーザアセンブリ40はまた、IRレーザアセンブリ60の動作と同様に、UV LCMを実行するために使用されてもよい。比較すれば、UVレーザを組み込む従来のLCMシステムでは、UVレーザは、直接キャップベースの組織を捕捉するのではなく、組織切断のためにのみ使用される。図5に示される一実施形態によれば、UVレーザアセンブリ40は、355nm(19kHzのパルス周波数および10mWの電力出力を有する)のTeemPhotonics SNV-20F-10xである。
【0052】
UVレーザアセンブリ40は、UVレーザ41から放射されるUVレーザビーム42の方向を変更するように構成された単一のUVミラー44を含む。UVミラー44は、UVレーザ41からのUVレーザビーム42の経路をステージ34に沿って組織試料の観察領域に方向転換するように構成される。したがって、UVレーザビーム42は、最初にUVレーザ41から第1の方向に放射され、UVレーザ41とUVミラー44との間で第1の方向に進行し、跳ね返ってUVミラー44によって偏向され(UVレーザビーム42の経路を方向転換する)、その後、UVミラー44と、組織試料及びステージ34との間で第2の方向に進行し、そして、第2の方向に移動しながら組織試料の観察領域に接触する。第1及び第2の方向は、互いに実質的に垂直であってもよく(すなわち、図7~9に示すように、それぞれ水平方向および垂直方向である)、又は互いに斜めの角度であってもよい(図10に示すように)。
【0053】
UVミラー44により、UVレーザ41は、顕微鏡32内の組織試料の光軸39の外側に配置できる。UVレーザビーム42の第1の方向は、ステージ34の上面と実質的に平行であってもよい(しかし、他の実施形態によれば、UVレーザビーム42は、最初にステージ34に対して他の角度で放射されてもよく、それに応じてUVミラー44の角度が調整される)。
【0054】
顕微鏡装置30の構成に応じて、UVミラー44は、(UVレーザビーム42を偏向させながら)特定の波長の光を透過させることができる。例えば、図7に示すように、UVミラー44は、光軸39に沿って光源38(または図10に示されるスコープ集光ヘッド136)と組織試料(又はステージ34)との間に配置することができる。UVミラー44はまた、光路及び光軸39に沿ってIRミラー64の下方に配置される。したがって、UVミラー44は可視光およびIR光の両方に対して透明であり、可視光およびIR光の両方はUVミラー44を直接通過することができる。一実施形態によれば、UVミラー44は、CVI Laser Optics Y3-1025-45ミラーとすることができる。UVレーザビーム42およびIRレーザビーム62は、少なくとも1つの実施形態では、同じ方向に配向される(例えば、図7に示される)。少なくとも1つの実施形態では、UVおよびIRレーザアセンブリは、それぞれのUVおよびIRレーザビームを試料に対して同じ方向に(例えば、同じ角度で)放射するように配向される。
【0055】
図7に示すように、IRレーザアセンブリ60は、組織試料の観察領域にIRレーザビーム62を送達し、放出し、又は出力するように構成されたIRレーザ61(IRレーザヘッド内にあってもよい)(例えば、IRレーザエミッタ)を含む。IRレーザビーム62は、標的細胞の生体分子の完全性を保存する穏やかな捕捉技術を提供し、(UVレーザビーム42に対して)その大きなスポットサイズに起因して比較的大きな細胞集団に対して理想的である。IRレーザビーム62は超高感度であり、対象となる単一の細胞および小領域を高精度で捕捉するのに特に有利である。図6に示される一実施形態によれば、IRレーザアセンブリ60は、約808nmの波長を有するIRレーザビーム62を送達するThorlabs FPL808S(連続波で250mW)である。一実施形態によれば、IRレーザビーム62の直径は、約8~12mmであってもよい。
【0056】
IRレーザアセンブリ60は、IRレーザ61から放出されるIRレーザビーム62の方向を変更するように構成された1つのIRミラー64を含む。IRミラー64は、IRレーザ61から組織試料へのIRレーザビーム62の経路を、ステージ34に沿った組織試料の観察領域に方向転換するように構成される。したがって、IRレーザビーム62は、最初にIRレーザ61から第1の方向に放射され、IRレーザ61とIRミラー64との間で第1の方向に進行し、跳ね返ってIRミラー64によって偏向され(IRレーザビーム62の経路を方向転換する)、その後、IRミラー64と、組織試料及びステージ34との間で第2の方向に進行し、そして、第2の方向に移動しながら組織試料の観察領域に接触する。第1及び第2の方向は、互いに実質的に垂直であってもよい(すなわち、図7~10に示すように、それぞれ水平方向および垂直方向である)。
【0057】
IRミラー64により、IRレーザ61は、顕微鏡32内の組織試料の光軸39の外側に配置できる。IRレーザビーム62の第1の方向は、ステージ34の上面と実質的に平行であってもよい(しかし、他の実施形態によれば、IRレーザビーム62は、最初にステージ34に対して他の角度で放射されてもよく、それに応じてIRミラー64の角度が調整される)。
【0058】
顕微鏡装置30の配置に応じて、IRミラー64は、(IRレーザビーム62を偏向させながら)特定の波長の光を透過させることができる。例えば、図7に示すように、IRミラー64は、光軸39に沿って光源38(または図10に示されるスコープ集光ヘッド136)と組織試料(又はステージ34)との間に配置することができる。IRミラー64は、光路及び光軸39に沿ってUVミラー44の上方に配置されている。したがって、IRミラー64は可視光に対して透明であり、可視光はIRミラー64を直接通過することができる。一実施形態によれば、IRミラー64はThorlabs BB1-E03 IRレーザラインミラーである。特に、Thorlabs BB1 E03 IRレーザラインミラーは可視光に対して透明ではないので、図8に示すような特定の構成に適している。IRレーザビーム62は、任意選択で、IRレーザ61からIRファイバまたはケーブルを介してIRミラー64に伝送されてもよい。
【0059】
一実施形態によれば、UVレーザアセンブリ40およびIRレーザアセンブリ60はそれぞれ、1つのミラー(すなわち、UVミラー44およびIRミラー64をそれぞれ)のみを備える。図9に示すように、UVミラー44及びIRミラー64は、ミラーマウント51に取り付けられていてもよい。ミラーマウント51の各々は、それぞれのUVレーザビーム42およびIRレーザビーム62を操舵または方向付けるように調整可能であってもよい。例えば、ミラーマウント51を、したがってIRミラー64を移動させることによって、IRレーザビーム62が、UVレーザビーム42と焦点においてコアラインメントされるように移動されてもよい。一実施形態によれば、ミラーマウント51はThorlabs KCB1ミラーマウントであり、レーザビーム42、62をそれらの元の方向に対して約90°に方向転換するために、ミラー44、64が約45°に位置決めされるように構成される。
【0060】
UVレーザアセンブリ40およびIRレーザアセンブリ60は、任意選択で、それぞれ、UVレーザビーム42およびIRレーザビーム62を同時に放出するように構成されてもよい。UVレーザビーム42及びIRレーザビーム62は、それぞれコリメートビームとしてUVレーザ41及びIRレーザ61から水平方向に出射される。UVレーザアセンブリ40およびIRレーザアセンブリ60は、任意選択で、コリメートビームを拡大し、次いでビームを再集光させるための複数の集光レンズを含んでもよく、またはビームエキスパンダを含んでもよい。本明細書でさらに説明するように、UVレーザビーム42およびIRレーザビーム62はそれぞれ、少なくとも1つのレンズ(集光レンズ36など)を通して集光され、それぞれのミラー44、64から偏向出射され、ステージ34に沿った観察領域に対して垂直に下向きに配向される。
【0061】
図1に示すように、UVレーザアセンブリ40はUVレーザコントローラ49を備え、IRレーザアセンブリ60はIRレーザコントローラ69を備える。UVレーザコントローラ49およびIRレーザコントローラ69は、それぞれ、UVレーザ41およびIRレーザ61に対して制御(本明細書でさらに説明されるように、コンピュータシステムを介して)および電力供給するように構成され、UVレーザ41およびIRレーザ61のそれぞれの状態を示す種々のライトインジケータを含んでもよい。UVレーザ41及びIRレーザ61のバックエンドは、それぞれUVレーザコントローラ49及びIRレーザコントローラ69に接続されている。電源ユニット59(12VDC電源など)は、UVレーザコントローラ49およびIRレーザコントローラ69の各々に接続されて、UVレーザコントローラ49およびIRレーザコントローラ69を介してUVレーザアセンブリ40およびIRレーザアセンブリ60に電力を供給してもよい。USB制御リレーは、コンピュータシステムからUVレーザコントローラ49およびIRレーザコントローラ69に制御信号を送信してもよい。顕微鏡装置30は、システムを冷却するためのケースファンをさらに含んでもよい。
【0062】
いくつかの実施形態では、UVおよびIRレーザコントローラ49、69の各々は、中央処理装置(CPU)、リードオンリーメモリ(ROM)、およびランダムアクセスメモリ(RAM)103を含む。CPUは、バスラインを介してROM及びRAMに接続されている。CPUは、ROMまたはメモリに記憶された少なくとも1つの制御プログラムをRAMに格納する。CPUは、制御プログラムに従って動作することにより、レーザ又は電源の動作を制御する。
【0063】
UVレーザビーム42およびIRレーザビーム62について、適切なレーザパルス幅は、0~約1秒、好ましくは0~約100ミリ秒、より好ましくは約50ミリ秒であり得る。少なくとも1つの実施形態では、UVレーザビーム42及びIRレーザビーム62からのパルスは、それらが決して重なり合わないように位相調整される。UVおよびIRエネルギーが決して同時に放出されないように、IRレーザビームがオンのときにUVレーザビームはオフであってもよく、逆もまた同様である。微量遠心管キャップ上に位置するフィルムにおけるUVレーザビーム42およびIRレーザビーム62のスポットサイズは、0.1~100ミクロン、好ましくは1~60ミクロン、より好ましくは5~30ミクロンで可変である。これらの範囲は、光学サブシステムを設計するときに比較的好ましい。臨床オペレータの観点からは、最も広いスポットサイズレンジが最も汎用性が高い。5ミクロンのオーダーのスポットサイズレンジの下端点は、単細胞を搬送するのに有用である。
【0064】
UVレーザビーム42およびIRレーザビーム62は、広い出力レンジを有し得る。例えば、UVまたはIRレーザビームの少なくとも1つに100ミリワットレーザーを使用することができる。いくつかの実施形態では、UVまたはIRレーザビームの少なくとも1つに50mWレーザを使用することができる。UVレーザビーム42およびIRレーザビーム62は、ファイバ光結合によって光学サブシステムの残部分に接続することができる。より小さいスポットサイズは、エミッタとして回折限界レーザダイオードの使用および/またはシングルモード光ファイバの使用により得ることができる。シングルモードファイバは、回折限界ビームを可能にする。
【0065】
UVレーザビーム42及びIRレーザビーム62のビーム径を変更することで、取得する試料の部分の大きさを調整することができる。初期条件がタイトに集光されている場合には、ビームサイズは、デフォーカスで増加させることができる。初期条件がデフォーカスされている場合には、ビームサイズは、集光によって減少させることができる。焦点の変化は固定量とすることができる。焦点の変化は、可動レンズマウント上の窪みによって、および/または光学ガラスステップによって得ることができる。いずれにしても、光路長を増加/減少させることは、ビームの焦点を変更するために必要とされる効果であり、それによってスポットサイズを変更する。例えば、ビームが1ステップトレッドに当たるように段付きガラスプリズムをビームに挿入すると、光路長が変化し、スポットサイズが変化する。
【0066】
任意選択で、顕微鏡システムは、任意選択のUVレーザ切断および落射蛍光を提供するよう拡張可能プラットフォームを含んでもよい。
【0067】
LCMシステムセットアップ
LCMシステム20は、所望の用途およびセットアップ構成に応じて、様々な異なる構成および配置でセットアップされてもよい。図7図9に示すような様々な実施形態によれば、UVレーザ41及びIRレーザ61の両方は、顕微鏡32の光軸39の外側に(任意選択で、顕微鏡32の同じ側にあってもよい)配置される。UVミラー44およびIRミラー64の両方は、顕微鏡32の光軸39に沿って、組織資料の観察領域の真上に配置される。IRミラー64は、光路及び光軸39に沿ってUVミラー44の真上に配置される。UVミラー44及びIRミラー64は、互いに直列に配置されており、コンデンサ(集光レンズ36のような)及び対物レンズ37を備えている。UVレーザビーム42及びIRレーザビーム62の両方は、単一の対物レンズ37を通過して集光される。
【0068】
この構成では、UVレーザビーム42およびIRレーザビーム62がそれぞれのミラー44、64によって方向転換された後、UVレーザビーム42およびIRレーザビーム62は、顕微鏡32の光軸39に沿ってステージ34まで互いに平行に延伸する。UVレーザビーム42およびIRレーザビーム62の両方は、ほぼ垂直の角度で(かつ光軸39と平行に)組織試料の観察領域およびステージ34に接触する。UVレーザビーム42およびIRレーザビーム62を、ステージ34に沿って(したがってキャップ24を通って延伸するように)観察領域に垂直の角度で接触するように配置することによって、UVレーザビーム42およびIRレーザビーム62をタイトに集光させることができる。UVミラー44およびIRミラー64の両方を光軸39内に位置決めするために(すなわち、UVレーザビーム42およびIRレーザビーム62が、ミラー44、64によるそれぞれの方向転換の前後で互いに平行となるように)、UVミラー44およびIRミラー64は、互いにほぼ同じ角度にある。
【0069】
図7に示す実施形態によれば、光源38は、集光レンズ36の上方に配置され、集光レンズは、光路及び光軸39に沿ってUVミラー44およびIRミラー64の上方に配置される。対物レンズ37は、UVミラー44とキャップ24(キャップ24は、ステージ34の上部に配置されたスライド26に沿ってその上部に配置されている)との間に配置される。これにより、UVレーザ41およびIRレーザ61は、UVレーザビーム42およびIRレーザビーム62をそれぞれUVミラー44およびIRミラー64に向けて出射する。UVミラー44およびIRミラー64は、それぞれのレーザビーム42、62を光軸39に沿って下方に方向転換し、対物レンズ37を通過し、キャップ24を通過し、ステージ34上のスライド26上の組織試料の観察領域に至る。光源38からの可視光は、集光レンズ36、IRミラー64、UVミラー44、対物レンズ37、キャップ24を透過して組織試料の観察領域に到達する。図7の構成は、振動に対して比較的耐性があり、対物レンズ37の底部とステージ34上の組織試料の頂部との間に充分な作業空間(約1インチなど)を提供する。さらに、図7の設定は、約1.5~2mmの組織試料の観察領域の照明半径を提供する。
【0070】
図8に示される実施形態によれば、LCMシステム20は、顕微鏡32の光源38が、光軸39の外側で対物レンズ37の外側の周りの位置にて延在して照明リングを形成するライトのリングであることを除いて、図7のものと同様の構成を含む。光源38は対物レンズ37の外側に沿って配置されているので、光源38はミラー44、64の垂直下方に配置されている。ライトのリングは、任意選択で、拡散器を含んでもよく、および/またはライトのそれぞれは、観察領域の中心を照らすように半径方向内向きに角度付けられてもよい。光のリングは、ステージ34の上表面の約1.25インチ上にあり得る。この構成は、ミラー44、64の上方に光源を必要としないので、全体的な設定を単純化し、光学部品及び取り付けのコストを低減する。あるいは、光源38は、光軸39の外側の他の領域に沿って配置され、ステージ34に沿って組織試料の観察領域に向けられてもよく、および/または光源38は、顕微鏡32上の落射照明ポートの一部であってもよい。
【0071】
図8のセットアップは、光源38からの照明光線が角度をつけて(真っ直ぐではなく)組織試料および検査対物レンズに入るので、明視野ではなく暗視野の照明を可能にし、それによって、観察される組織試料のコントラストを増大させる。しかしながら、LCMシステム20の他の実施形態は、明視野照明を提供してもよい。
【0072】
図9に示す実施形態によれば、UVレーザビーム42及びIRレーザビーム62の両方は、それらのそれぞれのミラー44、64によって方向転換された後、並進管52(Thorlabs SMIチューブをその中に通すThorlabs SM1NR1並進チューブなど)を通り、ズームハウジング53(例えば、そこにねじ込まれたRMSアダプタを有するThorlabs SM1ZMの高精度ズームハウジング)を通り、対物レンズ37(特に反射対物レンズ)を通り、そして、ステージ34へ方向転換される。別の対物レンズ37(特に観察または検査対物レンズ)は、ステージ34の下方に配置される。一実施形態によれば、対物レンズ37の下端は、ステージ34の上面から約30.5mmの距離Dだけ離れていてもよい。参照のために、図9の矢印Aは、LCMシステム20の正面の方向を指している。
【0073】
図9にさらに示すように、UVレーザアセンブリ40は、UVレーザビーム42を操作するための様々な異なる構成要素を含んでもよい。例えば、UVレーザアセンブリ40は、様々なアイリス141(例えば、Thorlabs SM05D5 Irisおよび/またはThorlabs SM1D12 Iris)と、アダプタ(例えば、Thorlabs SM05~SMIアダプタ)内で平凹レンズ143(例えば、焦点距離-12mmレンズを備えるThorlabs LC4291-UV、または焦点距離-20mmレンズを備えるThorlabs LC4924-UV)を有するズームレンズチューブ142(例えば、Thorlabs SM1NR05ズームレンズ)と、ジンバルマウント144(例えば、Thorlabs GMBIOOジンバルマウント)と、チューブ145(例えば、4インチThorlabs SMIチューブ)と、平凸レンズ147(例えば、1インチのThorlabs LA4924-UV、UVコーティングされた平凸レンズで約175mmの焦点距離を有する)を有するレンズチューブ146(例えば、Thorlabs SM1L30C開放側レンズチューブ)と、を含んでもよい。UVレーザ41からUVレーザビーム42が出射されると、UVレーザビーム42は、第1アイリス141、ズームレンズチューブ142内の平凹レンズ143、第2アイリス141、ジンバルマウント144、チューブ145、レンズチューブ146内の平凸レンズ147を通ってUVミラー44に至り、このポイントで、UVレーザビーム42の方向は、ステージ34に向かって下方に方向転換される。種々のレンズは、355nmの光を透過することができるUV溶融シリカ又はN-BK7で作成されてもよい。
【0074】
また、図9に示すように、IRレーザアセンブリ60は、IRレーザビーム62を操作するための様々な異なる構成要素を含んでもよい。例えば、IRレーザアセンブリ60は、トリプレットコリメータ162(例えば、Thorlabs TC25APC-850トリプレットコリメータ)、レンズチューブ163(例えば、Thorlabs SMI L05レンズチューブ)、およびビームエキスパンダ164(例えば、Thorlabs GBE02-B 2倍ビームエキスパンダ)を備える5軸運動学的コリメータマウント161(例えば、Thorlabs K5X1運動学的マウントなど)を含んでもよい。IRレーザビーム62がIRレーザ61から放射されると、IRレーザビーム62は、コリメータマウント161内のトリプレットコリメータ162を通り、レンズチューブ163を通り、ビームエキスパンダ164を通り、IRミラー64まで進み、このポイントで、IRレーザビーム62の方向は、ステージ34に向かって下向きに方向転換される。
【0075】
別の実施形態によれば、IRレーザアセンブリ60は、IRミラー64などのIRミラーを含まなくてもよい。代わりに、IRレーザビーム62は、光軸39に平行かつそれに沿って直接IRレーザ61から(例えば、IRファイバから)放出されてもよい。したがって、トリプレットコリメータ162(コリメータマウント161を有する)は、エキスパンダ(例えば、単なる例として、約11mmの幅を有するIRレーザビーム62のための2倍エキスパンダ)上に直接ねじ込みされ、トリプレットコリメータ162が対物レンズ37(すなわち、反射対物レンズ)を通って光軸39に沿って直接下を向くように垂直に取り付けられてもよい。
【0076】
図10は、別の実施形態を示しており、この実施形態においては、IRミラー64のみが顕微鏡32の光軸39に沿って(そして、スコープ集光ヘッド136からステージ34上の組織試料の観察領域への可視光の柱状部内に入る)、スコープ集光ヘッド136の真下かつ組織試料の観察領域の真上に配置される。UVミラー44は、光軸39の外側(スコープ集光ヘッド136からの可視光の柱状部の外側)に配置され、集光ヘッド136の真下でなく、かつ、組織試料の観察領域の真上でないように配置される。したがって、IRレーザビーム62は、IRミラー64によって方向転換された後、光軸39に沿ってステージ34まで延伸し、ほぼ直角に(かつ光軸39と平行に)組織試料の観察領域およびステージ34に接触する。しかしながら、UVレーザビーム42は、UVミラー44によって方向転換された後、光軸39に沿って延伸せず、代わりに、光軸39及びIRレーザビーム62に対して非平行な角度で延伸し、斜角で組織試料の観察領域及びステージ34に接触する。UVレーザアセンブリ40を、UVレーザビーム42がステージ34に沿った観察領域に斜角で接触するように配置することによって、ユーザは、UVレーザビーム42の効果をより容易にリアルタイムで見ることができる。UVミラー44を光軸39の外側に配置する(そして、UVレーザビーム42は、それぞれの方向転換の後にIRレーザビーム62に対して角度をなす)ために、UVミラー44はIRミラー64とは異なる角度にある。
【0077】
図10の実施形態では、UVレーザ41及びIRレーザダイオード61の両方は、顕微鏡32の光軸39の外側に配置される。UVレーザ41及びIRレーザ61は、顕微鏡32の異なる面に沿って配置されてもよい。UVレーザ41およびIRレーザ61は顕微鏡32の両側に示されているが、UVレーザ41およびIRレーザ61は、UVレーザビーム42およびIRレーザビーム62が互いに接触するのを防ぐために、光軸39の周りで互いに約90°をなすように位置付けられてもよい(少なくとも部分的に顕微鏡32の後ろに配置されてもよい)。
【0078】
図10に示すように、この構成では、UVレーザアセンブリ40は、UVレーザビーム42を操作するための様々な異なる構成要素も含んでもよい。例えば、UVレーザアセンブリ40は、UVレーザビーム42がUVミラー44に到達する前に方向転換されるアクロマティックダブレット243(例えば、Thorlabs ACA254-200、1インチのUVアクロマティックダブレットであり、焦点距離は約200mmである)を有する調節可能なテレスコープレンズチューブ242(例えば、Thorlabs SMIチューブがその中にねじ込まれているThorlabs SM1NR1調節可能な調整レンズチューブ)を含んでもよい。この構成では、UVミラー44は、Thorlabs NB1-K07 UVレーザダインミラーであってもよい。UVレーザビーム42がUVレーザ41から放出されると、UVレーザビーム42は、テレスコープレンズチューブ242内のアクロマティックダブレット243を通過し、UVミラー44に移動し、それから跳ね返り、そのポイントで、UVレーザビーム42の方向は、観察領域に向かってステージ34に向かって下向きに方向転換または偏向される。
【0079】
また、図10に示すように、IRレーザアセンブリ60は、IRレーザビーム62を操作するための様々な異なる構成要素を含んでもよい。例えば、IRレーザアセンブリ60は、トリプレットコリメータ162を有するコリメータマウント161と、IRレーザビーム62がIRミラー64に到達する前に方向転換されるアクロマティックダブレット263(例えば、Thorlabs ACA254-200、1インチのIRアクロマティックダブレットであり、焦点距離は約200mmである)を有するテレスコープレンズチューブ242とを含んでもよい。この構成では、IRミラー64は、Thorlabs DMSP750Bダイクロイックミラーなどの、IR光を反射し、可視光に対して透明であるダイクロイックミラーとすることができる。IRレーザビーム62がIRレーザ61から(及びファイバを通って)放射されると、IRレーザビーム62は、コリメータマウント161内のトリプレットコリメータ162(一実施形態によれば、約5.4mmの出射ビームサイズを有する)を通過し、テレスコープレンズチューブ242内のアクロマティックダブレット263を通過し、次いでIRミラー64に移動し、IRミラーから跳ね返り、このポイントで、IRレーザビーム62の方向は、観察領域に対してステージ34に向かって下向きに方向転換又は偏向される。
【0080】
図10に示す実施形態では、顕微鏡32は、光軸39に沿ってかつステージ34に向かう光の経路に沿ってIRミラー64(IRミラー64は、集光レンズ36とステージ34との間に配置される)の上方に位置するスコープ集光ヘッド136を含む。対物レンズ37は、ステージ34の下方に配置されている。一実施形態によれば、UVレーザビーム42およびIRレーザビーム62はそれぞれのミラー44、64によって方向転換される前に、それぞれ、ステージ34の約3インチ上の距離D2にあってもよい。
【0081】
一実施形態によれば、図10のセットアップにおけるUVレーザビーム42の直径は、約1mmのように比較的小さくてもよい。アクロマティックダブレット243の焦点距離は比較的大きい(すなわち、約200mm)ので、焦点は比較的大きく、焦点の周りのウエスト直径は約90μmであり、テレスコープレンズチューブ242の並進に鈍感である。
【0082】
アクロマティックダブレット243および263は、レーザビーム42、62が、それぞれのミラー44、64に接触する前に集光されることを可能にする。あるいは、アクロマティックダブレット243および263の代わりに、非球面物体(例えば、Thorlabs AL50100H-B、2インチ非球面レンズ)を使用してもよい。
【0083】
一実施形態によれば、顕微鏡装置30は、UVレーザアセンブリ40を含まなくてもよく、その唯一のレーザ源としてIRレーザアセンブリ60のみを含んでもよい。IRレーザアセンブリ60は、本明細書に記載される様々な構成、構成要素、及び特徴のいずれかを有し得る。
【0084】
本明細書に開示される様々な実施形態(特に、図7図10に示す実施形態に限定されない)は、本明細書の説明において別段の注記がない限り、互いの様々な特徴、構成要素、構成、態様のいずれかを含み得る。
【0085】
LCMシステム動作
LCMシステム20においてLCMを実行および操作するために(特に、組織試料から標的細胞を除去するために)、スライドが準備され(そして、任意選択で組織試料が染色される)、そして、組織試料が顕微鏡32のステージ34上に取り付けまたは配置され、そして、対象の標的細胞を特定するために顕微鏡32を通して(任意選択で、関連するコンピュータモニタを通して)視覚的に検査される。レーザ切開によって組織試料の残部分から切開および除去される組織試料の標的細胞は、組織試料のどの部分が顕微切開されるべきかを指定するために、位置特定され、選択され、輪郭が描かれ、トレースされる(例えば、フリーハンド描画ツールを有するコンピュータモニタ上で)。顕微鏡32のステージ34は、標的細胞をUVレーザビーム42及びIRレーザビーム62の経路に配置するために、顕微鏡32の残部分(及び顕微鏡装置30の残部分)に対して水平面に沿って(組織試料と共に)移動される。操作者は、キャップホルダまたはアーム上にキャップ24(フィルムを含む)を手動で配置してもよく、キャップ24は、組織試料(およびスライド26)上に押圧または配置される。UVレーザアセンブリ40およびIRレーザアセンブリ60は、任意選択で、試験焼成されてもよい。
【0086】
ソフトウェアを介して、オペレータは、UVレーザアセンブリ40およびIRレーザアセンブリ60を操作し、それぞれから、UVレーザビーム42およびIRレーザビーム62を組織試料の観察領域に放射する(一実施形態によれば透視照明ピラーを介する)。本明細書でさらに説明するように、UVミラー44およびIRミラー64はそれぞれUVレーザビーム42およびIRレーザビーム62の方向を変化させて、UVレーザビーム42およびIRレーザビーム62がそれぞれUVレーザ41およびIRレーザ61から組織試料の観察領域に進行する。UVレーザビーム42およびIRレーザビーム62は、キャップ表面を溶融または軟化させ、これは、組織試料の曝露部分(すなわち、標的細胞)をキャップ24に接着させ、それによって、キャップ24上への組織試料の選択された部分(すなわち、標的細胞)の捕捉を可能にする。次いで、キャップ24(標的細胞をキャップ24に付着または接着されている)は、手動で組織試料から除去され、これは、組織試料の残部分から標的細胞を離昇または除去する。次いで、キャップ上の顕微解剖された材料は、捕捉された材料の肯定的同定およびその後の下流での分析のために、検査される。
【0087】
その後、キャップ24(標的細胞が付着している)をエッペンドルフチューブ(例えば、0.5ミリリットル(mL)エッペンドルフチューブ)に取り付けることができ、次いで、これを下流での応用のための試薬キット(例えば、遺伝子発現またはDNA配列決定などの下流分子分析のためのDNAまたはRNAの抽出)を用いて利用され得る。
【0088】
コンピュータシステム
顕微鏡装置30はさらに、コンピュータ、ソフトウェア、およびディスプレイ(例えば、タッチセンサ式画面インターフェース(例えば、無線タブレット))を含むコンピュータシステム等の種々のユーザ入力および制御デバイスを備えてもよい。顕微鏡装置30の全ての構成要素は、コンピュータシステムのソフトウェアと完全に統合されてもよい。顕微鏡32、UVレーザアセンブリ40、及びIRレーザアセンブリ60は、コンピュータシステムに接続し、コンピュータシステムによって制御されてもよい。
【0089】
コンピュータシステムは、ユーザがLCMシステムを制御することを可能にしてもよい。例えば、コンピュータシステムを通して、ユーザは、カメラ35を用いて(例えば、FLIRカメラ用のSpinnakerソフトウェア開発キット(SDK)を使用して)顕微鏡32から写真または画像を撮ることができる。
【0090】
ユーザはまた、コンピュータシステムを使用して、静止画像を通して、またはリアルタイムで、組織試料上の標的細胞を単純に選択(例えば、フリーハンドで、または長方形もしくは円形などの単純な形状を介する)してもよい。コンピュータシステムは、ユーザが、標的細胞上にレーザ直径に対応する単一のIRスポットを配置することを可能にし、捕捉された面積およびレーザの直径を測定するための測定ツールを組み込んでいる。コンピュータシステムはまた、ユーザが、顕微鏡装置30が選択された標的細胞に対してどの切断オプションを実行するかを選択することを可能にする。特に、コンピュータシステムを通して、ユーザは、IR LCM、UV切断、および/またはUV LCMを行うように顕微鏡装置30に命令することができる。
【0091】
コンピュータシステムは、UVレーザビーム42のサイズを手動で評価することを可能にし、IRレーザビーム62及びUVレーザビーム42の両方を手動又は自動で位置決めすることを可能にする。
【0092】
ユーザが手動でスライド26をセットアップし、キャップ24を位置決めし、スライド26に配向するようにレーザビーム42、62を較正すると、ユーザは、ソフトウェアを使用して、どのタイプのスライド26(例えば、ガラス、ガラス膜、または金属膜)が顕微鏡装置30上に装填されているかを選択することができる。
【0093】
ユーザはまた、コンピュータシステムを使用し、USBリレーコントローラを介して、UVレーザアセンブリ40およびIRレーザアセンブリ60の両方を制御することができる。UVおよびIRレーザアセンブリ40、60は、コントローラの特定のスイッチを使用してもよい。例えば、IRレーザアセンブリ60は、コントローラのスイッチ1~7を使用してもよく、UVレーザアセンブリ40は、スイッチ8のみをオン/オフスイッチとして使用してもよい。コンピュータシステムはまた、単出力動作によりIRレーザビーム62の出力レベル及び持続時間を制御することができる。コンピュータシステムは、ステージ34を移動させ、IRレーザビーム62を発射して、標的細胞のキャップ24への接着を容易にし、UVレーザビーム42を発射して、組織試料の選択された輪郭に沿って切断することができる。特に、キャップへの標的細胞の接着は、微小パターン化表面でキャップをパターン化することによって達成され得る。微小パターン化表面は、標的細胞の組織トポグラフィを容易に把持するヤモリの足状に働くファンデルワールス力を利用する。
【0094】
LCMシステム仕様
LCMシステム20の精度は、捕捉のために輪郭が描かれた面積に対する、実際に捕捉された物質(すなわち、標的細胞)の量の比であり、レーザスポットサイズの分解能に相関し得る。正確な結果を提供するために、LCMシステム20は、レーザが実際に発射された場所に対して、最初に選択された場所にある標的細胞の1μmの精度で標的細胞を捕捉する。一実施形態によれば、IRレーザビーム62のレーザスポットサイズの直径は約5μmであり、UVレーザビーム42のレーザスポットサイズの直径は約1μm以下である。さらに、顕微鏡32のステージ34は、正しい標的細胞が確実に捕捉されるように、約1μmを超える精度を有する。LCMシステム20の精度は、ImageJまたは定規測定などのツールを用いた画像分析を介して測定され、その精度は、ImageJ分析によって決定されるように、捕捉境界内の標的細胞の約95%を超える捕捉である。
【0095】
LCMシステム20の信頼性は、所与の顕微解剖設定および抽出領域を使用して所与の組織試料タイプから所与の量の標的細胞がどのように一貫して抽出されるかである。信頼性はまた、レーザがユーザによって選択された正しい位置で発射する能力を指す。信頼性測定に対する患者間の試料のばらつきの影響を低減するために、およびこの組織を使用した測定を標準化するために、固定単層培養細胞または固定培養細胞のブロックなどの標準的な組織試料タイプを使用して、LCMシステム20の信頼性が測定され得る。所与の抽出領域を用いて所与の設定でこの標準組織試料タイプを抽出する場合、捕捉された物質の量は約5%を超えて変化しない。
【0096】
LCMシステム20の感度は、所与の量の顕微解剖された組織からのDNA、RNA、またはタンパク質の定量可能な量である。所定数の抽出された細胞から得られたDNA、RNA、またはタンパク質含量の総量を定量化し、Bradfordアッセイを使用して総タンパク質含量分析を実施することによって、感度を測定することができる。少なくとも1000個の細胞の複数の組織タイプから抽出された総タンパク質は、所定のカットオフ値より大きいであろう。
【0097】
LCMシステム20の領域あたりの組織総収率は、Thermo FischerによるIR LCMと比較して、スポットあたりの組織捕捉で約30%超良好な収率であり、その収率はLeica、Zeiss、およびThermo FischerによるUV切断とほぼ等しい。
【0098】
例示的な仕様
表1は、様々な実施形態における、LCMシステム20内で使用され得る様々な値の例示的な仕様を提供する。
【表1】
【0099】
表2もまた、様々な実施形態における、LCMシステム20内で使用され得る様々な値の例示的な仕様を提供する。
【表2】
【0100】
表3は、様々な実施形態による、LCMシステム20内で使用され得る例示的な部品(ならびにそれらのそれぞれのモデルおよびブランド)を提供する。示されるように、例示的なパーツは、LCMシステム20内で様々な機能を実行するために含まれてもよい。
【表3】
【0101】
本明細書で使用される場合、用語「およそ」、「約」、「実質的に」および類似の用語は、本開示の主題が関係する当業者による共通のかつ受け入れられた使用と調和する広い意味を有することが意図され、同定された値からの分散の少なくとも最小レベルを含むと解釈されるべきである。本開示を検討する当業者は、これらの用語が、これらの特徴の範囲を、提供される正確な数値範囲に限定することなく、記載される特定の特徴の説明を可能にすることを意図することを理解されたい。したがって、これらの用語は、説明される主題の実質的でないまたは重要でない修正または変更が本開示の範囲内にあると見なされることを示すものとして解釈されるべきである。
【0102】
本明細書で使用される用語「結合された」、「接続された」、「取り付けられた」などは、2つの部材を互いに直接接合することを意味する。そのような接合は、静止(例えば、恒久的)または可動(例えば、取り外し可能または解放可能)であってもよい。
【0103】
本明細書における要素の位置(例えば、「上」、「下」、「上」、「下」など)への言及は、図における様々な要素の向きを説明するために使用されるにすぎない。種々の要素の配向は、他の例示的実施形態に従って異なり得、そのような変形例は、本開示によって包含されることが意図されることに留意されたい。
【0104】
様々な例示的な実施形態の構成および配置は例示にすぎないことに留意することが重要である。本開示では少数の実施形態のみが詳細に説明されているが、本開示を検討する当業者は、本明細書で説明される主題の新規の教示および利点から実質的に逸脱することなく、多くの修正(例えば、様々な要素のサイズ、寸法、構造、形状および比率、パラメータの値、取り付け配置、材料の使用、色、向きなどの変動。)が可能であることを容易に理解するであろう。例えば、要素の位置は、逆転または別様に変更されてもよく、別個の要素または位置の性質または数は、変更または変更されてもよい。任意のプロセスまたは方法ステップの順序またはシーケンスは、代替実施形態に従って、変更または再配列されてもよい。他の置換、修正、変更、および省略もまた、本発明の範囲から逸脱することなく、種々の例示的実施形態の設計、動作条件、および配置において行われてもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図11C
図11D
図11E
図12A
図12B
図12C
図12D
【国際調査報告】