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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-26
(54)【発明の名称】希土類元素の分離
(51)【国際特許分類】
   C01F 17/10 20200101AFI20230119BHJP
【FI】
C01F17/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022528581
(86)(22)【出願日】2020-11-19
(85)【翻訳文提出日】2022-07-19
(86)【国際出願番号】 US2020061332
(87)【国際公開番号】W WO2021102167
(87)【国際公開日】2021-05-27
(31)【優先権主張番号】62/938,103
(32)【優先日】2019-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522192229
【氏名又は名称】シャイン テクノロジーズ エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】SHINE TECHNOLOGIES,LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】パイファー,グレゴリー
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン アベル,エリック
(72)【発明者】
【氏名】シソン,リチャード
【テーマコード(参考)】
4G076
【Fターム(参考)】
4G076AA18
4G076AB02
4G076BA37
4G076BC10
4G076DA30
(57)【要約】
ルテチウムを精製する方法は、イッテルビウムおよびルテチウムを含む固体組成物を提供する工程、および約1196℃から約3000℃の温度でその固体組成物からイッテルビウムを昇華させてまたは蒸留して、固体組成物中に存在したよりも高い質量百分率のルテチウムの含むルテチウム組成物を残す工程を有してなる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルテチウムを精製する方法であって、
イッテルビウムおよびルテチウムを含む固体組成物を提供する工程、および
不活性または減圧環境において、約400℃から約3000℃の温度で前記固体組成物からイッテルビウムを昇華させてまたは蒸留して、該固体組成物中に存在したよりも高い質量百分率のルテチウムを含むルテチウム組成物を残す工程、
を有してなる方法。
【請求項2】
前記温度が約450℃から約1500℃である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記温度が約450℃から約1200℃である、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
再利用のために前記イッテルビウムを回収する工程をさらに含む、請求項1から3いずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記減圧が、約1×10-8から約2000トル(約1.33×10-6Paから267kPa)である、請求項1から4いずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記温度が約450℃から約1500℃であり、前記圧力が、約2000トルから約1×10-8トル(約267kPaから約1.33×10-6Pa)である、請求項1から4いずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記温度が約450℃から約1200℃であり、前記圧力が、約1000トルから約1×10-8トル(約133kPaから約1.33×10-6Pa)である、請求項1から4いずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記圧力が、約100トルから約1×10-7トル(約13.3kPaから約1.33×10-5Pa)である、請求項1から4いずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記圧力が、約10トルから約1×10-6トル(約1.33kPaから約133×10-6Pa)であり、前記温度が約450℃から約800℃である、請求項1から4いずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記減圧が、約1×10-3から約2000トル(約0.133Paから267kPa)であり、前記温度が約600℃から約1500℃である、請求項1から4いずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記昇華させるまたは蒸留する工程が、約1秒から約1週間の期間に亘り行われる、請求項1から10いずれか1項記載の方法。
【請求項12】
前記昇華させるまたは蒸留する工程が、固体組成物1g当たり約10分から固体組成物1g当たり約100分の速度で行われる、請求項1から10いずれか1項記載の方法。
【請求項13】
前記昇華させるまたは蒸留する工程が、固体組成物1g当たり約20分から固体組成物1g当たり約60分の速度で行われる、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記昇華させるまたは蒸留する工程が、固体組成物1g当たり約40分の速度で行われる、請求項13記載の方法。
【請求項15】
10:1から10,000:1、または1000:1から10,000:1の前記固体組成物のイッテルビウム質量低減がもたらされる、請求項1から14いずれか1項記載の方法。
【請求項16】
前記ルテチウム組成物が、約1質量%から99.9質量%のイッテルビウムを含む、請求項1から14いずれか1項記載の方法。
【請求項17】
前記イッテルビウムが、前記固体組成物中に存在するイッテルビウムの約90質量%から約99.999質量%の量で回収される、請求項4記載の方法。
【請求項18】
前記固体組成物が、K、Na、Ca、Fe、Al、Si、Ni、Cu、Pb、La、Ce、Lu(非放射性)、Eu、Sn、Er、およびTmの金属、酸化物またはイオンをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項19】
前記イッテルビウムがYb-176を含み、前記ルテチウムがLu-177を含む、請求項1記載の方法。
【請求項20】
前記提供する工程が、酸化イッテルビウムをイッテルビウム金属に還元する工程、および該イッテルビウム金属を照射して、ルテチウムを生成する工程を含む、請求項1記載の方法。
【請求項21】
前記イッテルビウムがYb-176であり、前記ルテチウムがLu-177であり、Yb-176に対する中性子捕獲反応により、固体Yb-176、固体Yb-177、および固体Lu-177を含む前記組成物が形成する、請求項1記載の方法。
【請求項22】
昇華させる工程の前に、Yb-176を含む固体を中性子源と接触させて、Yb-176の少なくとも一部をLu-177に転化させて、前記固体組成物を形成する工程をさらに含む、請求項21記載の方法。
【請求項23】
Yb-176およびLu-177を含む試料に、昇華、蒸留、またはその組合せを施して、該試料からYb-176の少なくとも一部を除去して、Lu-177が濃縮された試料を形成する工程を有してなる方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の説明】
【0001】
本出願は、その内容がここに全て引用される、2019年11月20日に出願された米国仮特許出願第62/938103号の恩恵およびそれに対する優先権を主張するものである。
【技術分野】
【0002】
本発明の技術は、広く、希土類元素の分離およびその精製に関する。より詳しくは、本発明の技術は、イッテルビウムなどの他の希土類金属を含む照射ターゲットからのルテチウムの単離および精製に関する。
【発明の概要】
【0003】
1つの態様において、ルテチウムを精製する方法であって、イッテルビウムおよびルテチウムを中に有する固体組成物を提供する工程、および減圧下で、約400℃から約3000℃の温度でその固体組成物からイッテルビウムを昇華させてまたは蒸留して、固体組成物中に存在したよりも高い質量百分率のルテチウムを含むルテチウム組成物(すなわち、ルテチウムが濃縮された組成物または試料)を残す工程を有してなる方法が提供される。いくつかの実施の形態において、その温度は約450℃から約1500℃であることがある。上記実施の形態のいずれかにおいて、減圧は、約1×10-8から約750トル(約1.33×10-6Paから100kPa)であることがある。上記実施の形態のいずれかにおいて、浄化させるまたは蒸留する工程は、固体組成物1g当たり約1分から約10時間の速度で行われることがある。上記実施の形態のいずれかにおいて、その固体組成物はYb-176およびLu-177を含むことがある。
【0004】
別の態様において、方法は、Yb-176およびLu-177を含む試料に、昇華、蒸留、またはその組合せを施して、その試料からYb-176の少なくとも一部を除去して、Lu-177が濃縮された試料を形成する工程を有してなる。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1】1μトル(約133×10-6Pa)の定圧でのルテチウムおよびイッテルビウムのT-x-y図
図2】イッテルビウムおよびルテチウムの蒸留/昇華のためのチャンバの説明図
【発明を実施するための形態】
【0006】
様々な実施の形態が以下に記載されている。具体的な実施の形態は、網羅的な説明またはここに述べられた広範な態様に対する限定を意図していないことに留意すべきである。特定の実施の形態に関して記載された1つの態様は、その実施の形態に必ずしも限定されず、どの他の実施の形態に実施することもできる。
【0007】
ここに使用されるように、「約」は当業者によって理解され、それが使用される文脈に応じてある程度変動することになる。その用語が使用されている文脈から、当業者にとって明確でない用途がある場合、「約」は、特定の用語のプラスまたはマイナス10%までを意味することになる。
【0008】
要素を説明する文脈における(特に、以下の請求項の文脈における)名詞は、特に明記のない限り、または文脈によって明らかに矛盾しない限り、単数および複数の両方の対象を指すように解釈されるものとする。本明細書における値の範囲の記述は、特に明記のない限り、その範囲内に入る各別個の値を個別に参照するための略記法として働くことを意図したものにすぎず、各別個の値は、ここに個別に記載されているかのように本明細書に組み込まれる。ここに記載された全ての方法は、特に明記のない限り、または文脈によって明らかに矛盾しない限り、どの適切な順序で行っても差し支えない。ここに与えられる任意と全ての例、または例示的な言語(例えば、「など」)の使用は、単に実施の形態をより良く解明することを意図しており、特に明記のない限り、請求項の範囲に制限をもたらすものでない。本明細書におけるいかなる文言も、請求項に記載されていない要素を必須であると示すものとして解釈されるべきではない。
【0009】
ルテチウム-177(Lu-177)は、神経内分泌腫瘍、前立腺癌、乳癌、腎臓癌、膵臓癌などの治療に使用されている。今後、年間約7万人の患者が、治療中にキャリア無添加Lu-177を必要とする。Lu-177は、崩壊する際に、腫瘍の治療に適した低エネルギーのベータ粒子を放出するため、多くの医療用途に有用である。Lu-177は、診断検査に使用できる2種類のガンマ線も放出する。治療と診断の両方の特性を持つ同位体は、「セラノスティック(theranostic)」と呼ばれている。Lu-177は、セラノスティックであるだけでなく、半減期が6.65日であり、このため、より複雑な化学物質を採用することができ、また世界的に流通しやい。また、Lu-177は、様々な治療に用いるために、多くの生体分子と結合できる化学的性質を有している。
【0010】
Lu-177の生成経路は主に2つある。1つは、Lu-176の中性子捕獲反応;Lu-176(n、γ)Lu-177によるものである。この生成方法は、キャリア添加型(ca)Lu-177と呼ばれる。キャリアとは、同じ元素の同位体(この場合はLu-176)、または対象の同位体と同じ化学形態にある類似の元素のことである。微量化学では、対象となる化学元素や同位体は、極低濃度であるため、期待されるようには化学的に挙動しない。それに加え、同じ元素の同位体は、化学的に分離できないため、質量分離技術が必要となる。したがって、このキャリア法で生成されたLu-177の医学的応用は限定的である。
【0011】
Lu-177の第2の生成方法は、イッテルビウム-176(Yb-176)の中性子捕獲反応(Yb-176(n、γ)Yb-177)でYb-177を生成する方法である。Yb-177は、その後、急激に(1.911時間のt1/2)β崩壊してLu-177となる。Yb-176には、通常Yb-174の不純物が含まれ、最終生成物ではさらにLu-175の不純物が含まれる。この過程は、「キャリア無添加」過程であると考えられている。この過程は、イッテルビウム金属または酸化イッテルビウムとして行われることがある。
【0012】
本開示は、キャリア無添加過程から得られるYbとLuの分離のための過程を記載する。この過程は、ルテチウムを精製し、照射後の過剰なYbを除去するための蒸留/昇華工程を含む。
【0013】
YbとLuの分離は、少なくとも一部は、特定の温度と圧力における蒸気圧の差をうまく利用することがある。一例として、標準的な温度と圧力で、Ybの沸点は1196℃であるが、Luの沸点は3402℃である。規定の温度と圧力における蒸気圧の差を利用して、YbとLuを昇華および/または蒸留により分離することができる。図1は、1μトル(約133×10-6Pa)の定圧下でのルテチウムとイッテルビウムのT-x-y図である。この図中、下の線(すなわち、沸点)は、所定の温度での凝縮相組成を表し、一方で上の線(すなわち、露点)は気相を表す。このグラフは、理想気体と理想溶液の仮定を用いて作成された。この仮定は、低圧、高温、および2つの成分の化学的類似性の観点で、有効である。
【0014】
昇華では、元素の固相が加熱により気相に直接転化され、次に、気相は、後で使用するために回収できる。蒸留では、固体は、沸点まで加熱され(液相を経て)、気化される。気化した留分は、蒸気を凝縮させた後、下流で回収することができる。この場合、イッテルビウムは気化され(後に使用するために下流で回収することもできる)、ルテチウムが濃縮された物質が残される。これは、より大規模に実施することができ、したがって、得られるルテチウムの量を増やすことができる。回収されたYbは、この過程の後続の工程でさらにLuを生成するために反応器に再循環するのに利用できることに留意されたい。
【0015】
蒸留/昇華装置は、一般に、適切な気体、冷却、真空、電力および器具フィードスルーを有する高真空チャンバを備える。図2を参照すると、装置100は、RF誘導加熱コイル170内に懸架または支持された耐火坩堝190と、収集基体を有するコールドフィンガー160とを収容するための適切な容積を有する。適切なエンドエフェクタを有するコールドフィンガー(冷却棒)160は、坩堝190の真上に配置され、坩堝の開放端を真空システムに対して開放させるか、または収集基体に対して密封させる動作を可能にする。この装置は、チャンバの真空圧140、坩堝の温度180、およびコールドプレートの温度120を監視するための適切な器具類を有する。装置100は、坩堝へのアクセスポート110を有するチャンバ105内に収容される。装置100はまた、真空ポンプ接続部150、および不活性ガス導入用の少なくとも1つのポート200を備える。
【0016】
一般に、蒸留および/または昇華による初期精製の過程は、以下のように進行する。濃縮されたYb-176金属ターゲットを、両端が封止された直径1cmの石英管に装填する。次いで、この石英管を、照射に適し、水や空気を通さない不活性なオーバーパック(例えば、アルミニウム)内に封入する。密封されたオーバーパックを反応器内に設置し、数時間から数日間(フラックスとバッチの要件に応じて)に亘り照射して、Yb-176ターゲット内にLu-177を生成する。照射後、照射済みYb金属ターゲットを、不活性環境内で取り出し、耐火金属坩堝(例えば、モリブデンまたはタンタル)内に置き、圧力が減じられる真空チャンバ内に配置する。その後、坩堝を高周波(RF)誘導で加熱する。加熱された坩堝からYb金属が昇華すると、そのYb金属は、収集のために能動的に冷却されているコールドフィンガー上に堆積する。昇華が進むにつれて、坩堝はより高い温度に加熱される。過程のこの段階では、生成されたルテチウムまたは酸化ルテチウム、微量のイッテルビウムまたは酸化イッテルビウム、および微量汚染物質が坩堝内に残っている。次に、ルテチウムを含む坩堝の内容物を酸に溶かして、それらを坩堝から取り出し、クロマトグラフィー分離装置に移す。
【0017】
したがって、第1の態様において、ルテチウムを精製する方法が提供される。この方法は、ルテチウムおよびイッテルビウムを含む固体組成物を提供する工程、および減圧下で、約400℃から約3000℃の温度で、その固体組成物からイッテルビウムを昇華させてまたは蒸留して、固体組成物内に存在していたよりも高い質量百分率のルテチウムを含むルテチウム組成物を残す工程を有してなる。前述のように、固体組成物から昇華/蒸留されたイッテルビウムは、追加の照射用ターゲット材料として再利用することができる。
【0018】
様々な実施の形態によれば、昇華および/または蒸留のための温度は、約450℃から約1500℃、または約450℃から約1200℃であることがある。また、様々な実施の形態によれば、圧力は、約1×10-8から約1520トル(約1.33×10-6Paから約203kPa)であることがある。他の実施の形態では、温度が約450℃から約1500℃であることがあり、圧力が約2000トルから約1×10-8トル(約267kPaから約1.33×10-6Pa)であることがある、または温度が約450℃から約1200℃であることがあり、圧力が約1000トルから約1×10-8トル(約133kPaから約1.33×10-6Pa)であることがある。いくつかの実施の形態において、分離は、固体組成物からのイッテルビウムの蒸留を含み、圧力は約1トルから約1×10-6トル(約133Paから約133×10-6Pa)であることがあり、温度は約450℃から約800℃であることがある。いくつかの実施の形態において、分離は、固体組成物からのイッテルビウムの蒸留を含み、圧力は約1×10-3トルから約1000トル(約133×10-3Paから約133kPa)であることがあり、温度は約600℃から約1500℃であることがある。いくつかの実施の形態において、分離は、固体組成物からのイッテルビウムの蒸留を含み、圧力は約1×10-6トルから約1×10-1トル(約133×10-6Paから13.3Pa)であることがあり、温度は約470℃から約630℃であることがある。
【0019】
いくつかの実施の形態おいて、ルテチウムを含有する主題のYb試料の膨れまたは不均一な加熱を回避し、主題のYb試料内の他の汚染物質を蒸発させて除去するために、温度増減速度(temperature ramp rate)が用いられることがある。いくつかの実施の形態において、ルテチウムを含有する主題のYb試料の膨れまたは不均一な加熱がないことを確実にするために、10分から2時間の期間に亘る温度増減速度が用いられることがある。試料の温度は、坩堝を通じて間接的に監視されることがある。他の実施の形態において、坩堝の加熱の前に、試料をガス抜きするために、真空を確立する。この真空は、約5分から1時間に亘り、約1×10-6トル(約133×10-6Pa)であることがある。高真空レベルを達成するために、ターボ分子ポンプが使用されることがある。
【0020】
昇華および/または蒸留工程に必要な期間は、幅広く異なることがあり、試料中の物質の量、温度、および圧力に依存する。その期間は、約1秒から約1週間まで様々なことがある。いくつかの実施の形態において、時間の問題に関連するのは、昇華または蒸留の速度である。その速度は、いくつかの実施の形態において、固体組成物1g当たり約1分(分/グラム)から約10時間(時間/グラム)、または固体組成物1g当たり約10分から約100分、または固体組成物1g当たり約20分から約60分の速度であることがある。1つの実施の形態において、その速度は、固体組成物1g当たり約40分であることがある。
【0021】
昇華/蒸留過程では、この過程に入る固体組成物と比べてルテチウムが濃縮された試料(「ルテチウム組成物」)が得られる。収率および純度は、多くの方法で測定され得る。例えば、いくつかの実施の形態において、この過程は、10:1から10,000:1までの固体組成物のイッテルビウム質量低減をもたらす。言い換えれば、昇華/蒸留が完了した後、試料中のイッテルビウムが、この過程前よりも10から10,000倍少なくなる。回収されたルテチウム組成物(すなわち、酸溶解に供される坩堝内の内容物)において、いくつかの実施の形態では、全残留質量に対して約1質量%から99.9質量%のイッテルビウムが存在することがある。いくつかのさらなる実施の形態において、全残留質量に対して約1質量%から90質量%のイッテルビウムが存在することがある。他の実施の形態において、昇華/蒸留から回収されるイッテルビウムは、固体組成物中に存在するイッテルビウムの約90質量%から約99.999質量%の量で回収される。精製工程は、他の微量金属および汚染物質を除去するためにも行われる。例えば、K、Na、Ca、Fe、Al、Si、Ni、Cu、Pb、La、Ce、Lu(非放射性)、Eu、Sn、Er、およびTmの金属、金属酸化物または金属イオンなどの物質が、除去されることがある。別の言い方をすれば、方法は、Yb-176およびLu-177を含む試料に、昇華、蒸留、またはそれらの組合せを施して、試料からYb-176の少なくとも一部を除去し、Lu-177濃縮試料を形成する工程を有してなる。
【0022】
Ybの1000:1(すなわち、存在するYbの量の1000倍の減少)より大きく減少する精製が行われ得ることが分かった。これには、約3000:1より大きい、8000:1より大きい、10000:1より大きい、約40000:1まで(それを含む)が含まれる。しかしながら、一部の医薬品の純度要件を満たすために、より高いYbの減少が必要とされることがある。したがって、医薬用途に使用する前に、さらなる精製が行われることがある。
【0023】
このように一般的に説明された本発明は、以下の実施例を参照することによって、より容易に理解されるであろう。これらの実施例は、説明のために提供され、本発明を限定する意図はない。
【実施例
【0024】
概要 昇華/蒸留装置の説明
この装置は、適切な気体、冷却、真空、電力、および器具フィードスルーを備えた高真空チャンバを備える。この装置は、RF誘導加熱コイル内に懸架または支持された耐火坩堝と、収集基体を有するコールドサーフェスとを収容するための適切な容積を有する。適切なエンドエフェクタを有するコールドフィンガー(冷却棒)が、坩堝の真上に配置され、坩堝の開放端を真空システムに対して開放させるか、または収集基体に対して密封させる動作を可能にする。この装置は、チャンバの真空圧、坩堝の温度、およびコールドプレートの温度を監視するための適切な器具類を有する。
【0025】
昇華/蒸留の過程の説明
1.濃縮されたYb-176金属を、排気されているか、または不活性ガスを収容している状態で両端が封止された直径1cmの石英バイアルに装填する。
2.石英バイアルを、照射に適し、水や空気を通さない不活性なオーバーパック(すなわち、アルミニウム)内に封入する。
3.密封されたオーバーパックを反応器内に設置し、数時間から数日間(フラックスとバッチの要件に応じて)に亘り照射する。
4.反応器からオーバーパックを取り出す。
5.輸送用キャスクを処理用ホットセルまたはアイソレータに装填する。
6.照射済み金属が入った石英バイアルを開封し、照射済みYb金属ターゲットを取り出す。
7.照射済みYb金属ターゲットを耐火金属坩堝(例えば、モリブデンやタンタル)に入れる。
8.不活性雰囲気(例えば、He、N、Arなど)下で、約1×10-6トル(約133×10-6Pa)の安定した圧力が得られるまで、チャンバ内を排気する。
9.次に、坩堝を高周波(RF)誘導加熱により約470℃に加熱する。この温度では、Ybの直接昇華は、少量のYb蒸気の漏れ経路が作製されているため、真空チャンバ内のわずかな圧力上昇により示される。Yb金属が、加熱された坩堝から昇華すると、Yb金属は、収集と工程1での再利用のために能動的に冷却されたコールドフィンガー上に選択的に堆積する。
10.昇華を出発物質1グラム当たり約40分間継続され、この過程の完了は、真空圧が約5×10-6トル(約667×10-6Pa)から約1×10-6トル(約133×10-6Pa)未満に急激に低下することで確認される。
11.昇華の完了後、坩堝を、10分間に亘り約600℃にさらに加熱する。この段階で、坩堝内には、微量のルテチウム、微量の酸化イッテルビウム、および微量汚染物質しか残っていない。
12.その後、坩堝に希塩酸(約2Mを約2ml)を加えて、残留物質を溶かし、これをピペットまたはシリンジで除去し、0.22μm膜で濾過する。
【0026】
実施例1.この過程の説明例
石英バイアルに176Yb金属(10g)を装填し、6日間照射して、176Ybのいくらかを177Luに転化させる。176Yb/177Lu混合試料を坩堝に移し、これを真空チャンバに入れる。次に、約24時間に亘り、約1×10-6トル(約133×10-6Pa)の外圧で、坩堝を650℃に加熱する。この間、坩堝内の176Ybの一部は、真空チャンバ内のコールドフィンガー上に昇華し、177Luは坩堝内に残留する。その後、176Ybは、さらなる照射のために再利用することができる。
【0027】
特定の実施の形態を図示し、説明してきたが、以下の特許請求の範囲に定義されるようなその広い態様における技術から逸脱せずに、当技術分野における通常の技術にしたがって、そこに変更および改変を行えることを理解すべきである。
【0028】
ここに例示的に記載された実施の形態は、ここに具体的に開示されていない、いずれの要素、制限がない場合にも、適切に実施されることがある。したがって、例えば、「から作られる(comprising)」、「含む(including)」、「含有する(containing)」などの用語は、制限なく、拡大解釈されるものとする。さらに、ここに用いられる用語および表現は、説明の用語として使用されたものであり、限定するものではなく、そのような用語および表現の使用には、図示され、説明された特徴またはその一部のどの等価物も除外する意図はないが、請求項に記載された技術の範囲内で、様々な変更が可能であることが認識される。さらに、「から実質的になる」という句は、具体的に言及された要素および請求項に記載された技術の基本的かつ新規の特徴に実質的に影響を与えない追加の要素を含むと理解されるであろう。「からなる」という句は、特定されていないいかなる要素も除外する。
【0029】
本開示は、本願に記載された特定の実施の形態の観点で限定されるものではない。当業者には明らかなように、その精神および範囲から逸脱せずに、多くの改変および変更を行うことができる。ここに列挙したものに加えて、本開示の範囲内の機能的に同等の方法および組成物が、先の説明から当業者には明白であろう。そのような改変および変更は、添付の特許請求の範囲内に入ることが意図されている。本開示は、添付の請求項の条件によってのみ、そのような請求項が権利を有する完全な均等物の範囲とともに、制限されることになる。本開示は、特定の方法、試薬、化合物、組成物または生体系に限定されないことが理解され、それらは当然ながら様々であり得る。ここに使用された用語は、特定の実施の形態を説明する目的のためだけであり、限定する意図はないことも理解されたい。
【0030】
加えて、本開示の特徴または態様がマーカッシュ群に関して説明される場合、当業者は、本開示がそれによって、マーカッシュ群の任意の個々の要素または要素の部分群に関して記載されることを認識するであろう。
【0031】
当業者には理解されるであろうが、任意と全ての目的のために、特に書面での説明を提供する観点から、ここに開示された全ての範囲は、その任意と全ての可能な部分的範囲および部分的範囲の組合せも包含する。任意の列挙された範囲は、同じ範囲が少なくとも等しい半分、三分の一、四分の一、五分の一、十分の一などに分解されることを十分に説明し、可能にすると容易に認識することができる。非限定例として、ここに述べられた各範囲は、下三分の一、中三分の一、上三分の一などに容易に分解することができる。また、当業者には理解されるように、「まで」、「少なくとも」、「より大きい」、「より小さい」などの全ての言語は、言及された数を含み、上述したように部分的範囲に後で分解することができる範囲を称する。最後に、当業者には理解されるように、範囲は各個別の要素を含む。
【0032】
本明細書で言及されたすべての刊行物、特許出願、発行特許、および他の文献は、あたかも個々の刊行物、特許出願、発行特許、または他の文献が、参照照により全て組み込まれるように具体的かつ個別に示されているかのように、参照により本明細書に組み込まれる。参照により組み込まれる文章に含まれる定義は、本開示における定義と矛盾する範囲において除外される。
【0033】
他の実施の形態は、以下の特許請求の範囲に記載されている。
【符号の説明】
【0034】
100 装置
105 チャンバ
110 アクセルポート
120 コールドプレート
140 チャンバ
150 真空ポンプ接続部
160 コールドフィンガー、冷却棒
170 RF誘導加熱コイル
190 耐火坩堝
200 ポート
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2022-07-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルテチウムを精製する方法であって
活性または減圧環境において、約400℃から約3000℃の温度で固体組成物からイッテルビウムを昇華させてまたは蒸留して、該固体組成物中に存在したよりも高い質量百分率のルテチウムを含むルテチウム組成物を残す工程、
を有してなる方法。
【請求項2】
前記温度が約450℃から約1500℃である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記温度が約450℃から約1200℃である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
再利用のために前記イッテルビウムを回収する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記減圧が、約1×10-8から約2000トル(約1.33×10-6Paから267kPa)である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記温度が約450℃から約1500℃であり、前記圧力が、約2000トルから約1×10-8トル(約267kPaから約1.33×10-6Pa)である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記温度が約450℃から約1200℃であり、前記圧力が、約1000トルから約1×10-8トル(約133kPaから約1.33×10-6Pa)である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記圧力が、約100トルから約1×10-7トル(約13.3kPaから約1.33×10-5Pa)である、請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記圧力が、約10トルから約1×10-6トル(約1.33kPaから約133×10-6Pa)であり、前記温度が約450℃から約800℃である、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記減圧が、約1×10-3から約2000トル(約0.133Paから267kPa)であり、前記温度が約600℃から約1500℃である、請求項1記載の方法。
【請求項11】
前記昇華させるまたは蒸留する工程が、約1秒から約1週間の期間に亘り行われる、請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記昇華させるまたは蒸留する工程が、固体組成物1g当たり約10分から固体組成物1g当たり約100分の速度で行われる、請求項1記載の方法。
【請求項13】
前記昇華させるまたは蒸留する工程が、固体組成物1g当たり約20分から固体組成物1g当たり約60分の速度で行われる、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記昇華させるまたは蒸留する工程が、固体組成物1g当たり約40分の速度で行われる、請求項13記載の方法。
【請求項15】
10:1から10,000:1、または1000:1から10,000:1の前記固体組成物のイッテルビウム質量低減がもたらされる、請求項1記載の方法。
【請求項16】
前記ルテチウム組成物が、約1質量%から99.9質量%のイッテルビウムを含む、請求項1記載の方法。
【請求項17】
前記イッテルビウムが、前記固体組成物中に存在するイッテルビウムの約90質量%から約99.999質量%の量で回収される、請求項4記載の方法。
【請求項18】
前記固体組成物が、K、Na、Ca、Fe、Al、Si、Ni、Cu、Pb、La、Ce、Lu(非放射性)、Eu、Sn、Er、およびTmの金属、酸化物またはイオンをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項19】
前記イッテルビウムがYb-176を含み、前記ルテチウムがLu-177を含む、請求項1記載の方法。
【請求項20】
前記提供する工程が、酸化イッテルビウムをイッテルビウム金属に還元する工程、および該イッテルビウム金属を照射して、ルテチウムを生成する工程を含む、請求項1記載の方法。
【請求項21】
前記イッテルビウムがYb-176であり、前記ルテチウムがLu-177であり、Yb-176に対する中性子捕獲反応により、固体Yb-176、固体Yb-177、および固体Lu-177を含む前記組成物が形成する、請求項1記載の方法。
【請求項22】
昇華させる工程の前に、Yb-176を含む固体を中性子源と接触させて、Yb-176の少なくとも一部をLu-177に転化させて、前記固体組成物を形成する工程をさらに含む、請求項21記載の方法。
【請求項23】
前記温度が約400℃から700℃未満であり、前記減圧が1×10 -5 トル(約13.3kPa)以下である、請求項1記載の方法。
【請求項24】
前記減圧が1×10 -6 トル(約1.33kPa)以下である、請求項23記載の方法。
【請求項25】
前記温度が約400℃から約650℃である、請求項1記載の方法。
【請求項26】
前記温度が約450℃から約650℃である、請求項1記載の方法。
【請求項27】
前記温度が約470℃から約630℃である、請求項1記載の方法。
【請求項28】
前記温度が800℃超から約3000℃である、請求項1記載の方法。
【請求項29】
前記温度が約1000℃から約3000℃である、請求項1記載の方法。
【請求項30】
前記温度が約1200℃から約3000℃である、請求項1記載の方法。
【請求項31】
前記温度が約1500℃から約3000℃である、請求項1記載の方法。
【請求項32】
前記固体組成物が、昇華/蒸留装置の坩堝内に収容されており、前記固体組成物からイッテルビウムを昇華させるまたは蒸留する工程が、前記イッテルビウムが前記固体組成物から、昇華、蒸留、または昇華および蒸留して、前記昇華/蒸留装置の収集基体上に収集されるように、前記坩堝を加熱する工程を含む、請求項1記載の方法。
【請求項33】
前記昇華させるまたは蒸留する工程が、前記減圧環境を確立し、それによって、前記昇華/蒸留装置の前記坩堝をガス抜きする工程、およびその後、前記固体組成物を約400℃から約3000℃の温度に加熱する工程を含む、請求項32記載の方法。
【請求項34】
前記収集基体が、該収集基体を前記坩堝上に選択的に密封するように可動性である、請求項32記載の方法。
【請求項35】
クールフィンガーが、前記収集基体が前記坩堝上に密封されるときに、該クールフィンガーが該坩堝中に延在するように、該収集基体から該坩堝に向かって延在する、請求項34記載の方法。
【請求項36】
前記イッテルビウムが前記収集基体上に収集されるように前記固体組成物からイッテルビウムを昇華させるまたは蒸留するときに、該収集基体が能動的に冷却される、請求項32記載の方法。
【請求項37】
クールフィンガーが、前記イッテルビウムが該クールフィンガー上に収集されるように前記固体組成物からイッテルビウムを昇華させるまたは蒸留するときに、能動的に冷却される、請求項32記載の方法。
【請求項38】
前記不活性または減圧環境が不活性環境からなる、請求項1記載の方法。
【請求項39】
イッテルビウムおよびルテチウムを含む固体組成物を不活性または減圧環境において第1の温度に加熱する工程、
前記イッテルビウムが前記固体組成物から昇華、蒸留、または昇華および蒸留するように、該固体組成物を前記不活性または減圧環境において前記第1の温度に維持する工程、および
前記固体組成物中に存在したよりも高い質量百分率のルテチウムを含むルテチウム組成物が残るように、該固体組成物を、前記不活性または減圧環境において前記第1の温度より高い第2の温度に加熱する工程であって、該第1の温度および該第2の温度が両方とも、約400℃から約3000℃の範囲内にある、工程、
を有してなる方法。
【請求項40】
前記減圧が1×10 -5 トル(約13.3kPa)以下であり、前記第1の温度が約400℃から700℃未満である、請求項39載の方法。
【請求項41】
前記減圧が1×10 -6 トル(約1.33kPa)以下である、請求項40記載の方法。
【請求項42】
前記第1の温度および前記第2の温度が両方とも約400℃から約650℃の範囲内にある、請求項39記載の方法。
【請求項43】
前記不活性または減圧環境が不活性環境からなる、請求項39記載の方法。
【国際調査報告】