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特表2023-503064求核置換によって高フッ素化芳香族基を有するポリマーから作製されるカチオン交換ポリマー及びアニオン交換ポリマー及び対応する(ブレンド)膜
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-26
(54)【発明の名称】求核置換によって高フッ素化芳香族基を有するポリマーから作製されるカチオン交換ポリマー及びアニオン交換ポリマー及び対応する(ブレンド)膜
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/30 20060101AFI20230119BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20230119BHJP
   H01M 8/1032 20160101ALI20230119BHJP
   H01M 8/1039 20160101ALI20230119BHJP
   H01M 8/1081 20160101ALI20230119BHJP
   H01M 8/1044 20160101ALI20230119BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20230119BHJP
   C25B 13/08 20060101ALI20230119BHJP
【FI】
C08F8/30
H01M8/10 101
H01M8/1032
H01M8/1039
H01M8/1081
H01M8/1044
H01M4/86 B
C25B13/08 302
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022529056
(86)(22)【出願日】2020-11-17
(85)【翻訳文提出日】2022-07-15
(86)【国際出願番号】 EP2020082403
(87)【国際公開番号】W WO2021099315
(87)【国際公開日】2021-05-27
(31)【優先権主張番号】102019008024.6
(32)【優先日】2019-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503096638
【氏名又は名称】ユニヴェルシテート シュトゥットガルト
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ケレス ヨッヘン
(72)【発明者】
【氏名】アタナソフ ウラジーミル
(72)【発明者】
【氏名】チョ ヒョンレ
【テーマコード(参考)】
4J100
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4J100HA01
4J100HA33
4J100HA61
4J100HB34
4J100HC45
4J100HC59
4J100HC69
4J100HC70
4J100HE05
4J100HE14
4J100HE32
4J100HG27
4J100HG28
4J100JA43
5H018AA06
5H018AA08
5H018AS01
5H018EE17
5H126AA05
5H126BB06
5H126GG17
5H126HH01
5H126HH04
5H126HH10
5H126JJ00
5H126JJ08
(57)【要約】
本発明は、求核置換によって高フッ素化基を有するポリマーから作製される新たなアニオン交換ポリマー及び対応する(ブレンド)膜、並びに求核芳香族置換によってそれらを作製する方法、並びに膜プロセス、特に電気化学的膜プロセス、例えば燃料電池、電気分解及びレドックスフロー電池におけるそれらの使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第三級N-塩基性基を有する部分フッ素化又は過フッ素化された低分子量及び高分子量の芳香族化合物であって、該部分フッ素化又は過フッ素化された化合物の1つ以上のFと第二級N-塩基との反応による芳香族求核置換によって得られうることを特徴とする、化合物:
【化1】
【請求項2】
第三級N-塩基性基を有する部分フッ素化又は過フッ素化された低分子量及び高分子量の芳香族化合物であって、該部分フッ素化又は過フッ素化された化合物の1つ以上のFと第二級N-アミドとの反応による芳香族求核置換によって得られうることを特徴とする、化合物:
【化2】
【請求項3】
四級化N-塩基性官能基を有する部分フッ素化又は過フッ素化された低分子量又は高分子量の芳香族化合物であって、請求項1又は2に記載の第三級N-塩基性基を有する化合物をアルキル化剤で四級化することによって得られることを特徴とする、化合物:
【化3】
【請求項4】
四級化N-塩基性官能基を有する部分フッ素化又は過フッ素化された低分子量又は高分子量の芳香族化合物であって、低分子量又は高分子量の部分フッ素化又は過フッ素化された芳香族化合物と第三級アミンとの反応によって得られることを特徴とする、化合物:
【化4】
【請求項5】
四級化N-塩基性官能基及び他の官能基を有する部分フッ素化又は過フッ素化された低分子量又は高分子量の芳香族化合物であって、第二級及び/又は第三級N-塩基性基を有する低分子量若しくは高分子量の有機化合物又は求核置換が可能な他の低分子量若しくは高分子量の有機化合物を用いる求核置換反応によって以下のように得られることを特徴とする、化合物:
【化5】
【請求項6】
前記有機化合物が分子量1kDa~10000kDaの高分子化合物であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項7】
部分フッ素化又は過フッ素化された出発ポリマーとして以下のポリマーを使用することを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の化合物:
【化6】
【請求項8】
前記ポリマーに導入される前記N-塩基性官能基として以下の第三級及び/又は第四級N-塩基性官能基を使用することを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の化合物:
【化7】
【請求項9】
前記N-塩基性化合物に加えて、求核F交換によって前記ポリマーに導入することができる更なる求核試薬として以下の化合物を使用することを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の化合物:
【化8】
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載のオリゴマー又はポリマーから作製される、任意にイオン的及び/又は共有結合的に架橋されたブレンド膜であって、個別に溶媒に溶解した前記オリゴマー及び/又はポリマーを以下のポリマーの溶液と任意の混合比で混合することを特徴とする、ブレンド膜:
スルホン化及び/又はホスホン化及び/又はカルボキシル化ポリマー、
第一級、第二級又は第三級N-塩基性基を側鎖又は主鎖に有し得る塩基性ポリマー、
ハロメチル基が共有結合架橋基として機能し得るハロメチル化ポリマー。
【請求項11】
請求項10に記載のブレンド膜を作製する方法であって、ブレンド成分を双極性-非プロトン性溶媒及び/又はエーテル溶媒及び/又はプロトン性(アルコール)溶媒に個別に溶解した後、溶液を任意の混合比で互いに混合し、その後、混合溶液を基板上にドクターナイフコーティング、吹付け又は印刷し、前記溶媒(混合物)を真空オーブン又は対流式オーブン内にて30℃~180℃の高温で蒸発させた後、形成された膜を前記基板から取り外し、任意に、膜を活性化するために以下のような様々な工程で後処理するが、該後処理の順序は任意であり、下に挙げる後処理液の全て又は一部のみが含まれ得ることを特徴とする、方法:
0℃~100℃の温度の脱イオン水による、
0℃~130℃の温度の任意の濃度の鉱酸溶液による、
0℃~100℃の温度の任意の濃度のアルカリ金属アルカリ液による、
純粋な形態の、又は水、アルコール、及び/又はエーテル溶媒及び/又は双極性-プロトン性溶媒中の溶液としての任意の液体第三級N-塩基による、
0℃~100℃の温度の任意の濃度の水性又はアルコール性金属塩溶液中。
【請求項12】
前記ブレンド成分の溶媒として、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、ジフェニルスルホン、スルホラン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリジノン、ホルムアミド及び炭酸ジメチル等の双極性-非プロトン性溶媒が好ましいことを特徴とする、請求項10及び11に記載のブレンド膜を作製する方法。
【請求項13】
前記ブレンド膜の後処理/ドーピングのための鉱酸として、任意の所望の濃度の硫酸、リン酸又は塩酸が好ましいことを特徴とする、請求項10~12に記載のブレンド膜を作製する方法。
【請求項14】
以下のポリマータイプを請求項1~9に記載のポリマーのブレンド成分として使用することを特徴とする、請求項10に記載の任意にイオン的及び/又は共有結合的に架橋されたブレンド膜:
スルホン化、ホスホン化又はカルボキシル化ポリマーとして、ポリフェニレン、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリスルホン、ポリケトン、ポリビニルカルバゾール、ポリフェニレンホスフィンオキシドを含む、非フッ素化、部分フッ素化又は過フッ素化ビニル炭化水素ポリマー、非フッ素化、部分フッ素化又は過フッ素化ポリスチレン又はアリール主鎖ポリマーをベースとした請求項7に記載のポリマー、
塩基性ポリマーとして、イミダゾール基又はベンズイミダゾール基がポリイミダゾール又はポリベンゾイミダゾールの主鎖又は側鎖に存在し得る、ポリイミダゾール又はポリベンゾイミダゾールタイプのポリマー、
ハロメチル化ポリマーとして、ブロモメチル化ポリフェニレンオキシド、クロロメチル化ポリビニルベンジルクロリド、又はクロロメチル化若しくはブロモメチル化ポリフェニレンを含むクロロメチル化又はブロモメチル化ポリマー。
【請求項15】
電極アイオノマーとしての、並びに燃料電池、電気分解、レドックスフロー電池、拡散透析、電解透析等の電気化学的プロセスにおける請求項10~14に記載のアイオノマー膜としてのブレンド膜への、更にはカチオン性層及びアニオン性層を有するバイポーラ膜としての請求項1~14に記載のポリマー及びブレンド膜の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、求核置換によって高フッ素化芳香族基を有するポリマーから作製される新たなアニオン交換ポリマー及び(ブレンド)膜、並びに求核芳香族置換によってそれらを作製する方法、並びに膜プロセス、特に電気化学的膜プロセス、例えば燃料電池、電気分解及びレドックスフロー電池におけるそれらの適用分野に関する。
【背景技術】
【0002】
パーフルオロアリーレンが求核置換反応を起こし得ることは文献から知られている。近年の発表では、パーフルオロアリール化構成単位を有するポリマーがポリマー類似反応(polymer-analogous reaction)で化学修飾され得ることが示されている(非特許文献1、非特許文献2)。著者らは、チオール系求核試薬とポリ(ペンタフルオロスチレン)との間の「クリック」反応によるC-F結合に対する過フッ素化構成単位の活性化効果も実証している。F含有芳香族化合物に対する求核芳香族置換反応の別の例は、予めHでS架橋をスルホン架橋に酸化したデカフルオロビフェニル及び4,4’-チオジベンゼンチオールのポリマーと、ポリマーのオクタフルオロビフェニル構成単位の全てのFをSH基に置き換えたNaSHとの反応である。次いで、次の反応工程においてSH基をHでSOH基に酸化し、過剰スルホン化芳香族ポリマーを得た(非特許文献3)。側鎖に求核置換のために活性化された芳香族Fを有するポリマーの求核置換の一例は、4-フルオロスルホニル側基のFを強力なN-塩基であるテトラメチルグアニジンによって求核置換したGuiver、Kimらによる発表である(非特許文献4)。求核有機リン化合物による過フッ素化アリーレンの求核C-P結合形成の幾つかの例が文献から知られており(非特許文献5、非特許文献6、非特許文献7)、これには、ポリ(ペンタフルオロスチレン)ポリマー上の4-Fをトリス(トリメチルシリル)ホスファイトによって求核置換した後、ポリマーホスホン酸シリルエステルを水によって加水分解して、遊離ホスホン酸を形成した研究が含まれる(非特許文献8)。別の研究は、NaSHを用いてポリ(ペンタフルオロスチレン)の4-FをSH部分に置換し、続いてSH基を過酸化水素でスルホン酸基SOHに酸化することに関するものであった(非特許文献9)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】C. R. Becer, K. Babiuch, D. Pilz, S. Hornig, T. Heinze, M. Gottschaldt and U. S. Schubert, Macromolecules 2009, 42, 2387-2394
【非特許文献2】C. R. Becer, K. Kokado, C. Weber, A. Can, Y. Chujo, U. S. Schubert, Journal of Polymer Science: Part A: Polymer Chemistry, 2010, 48, 1278-1286
【非特許文献3】Shogo Takamuku, Andreas Wohlfarth, Angelika Manhart, Petra Raeder, Patric Jannasch, Polym. Chem., 2015, 6, 1267-1274
【非特許文献4】Dae Sik Kim, Andrea Labouriau, Michael D. Guiver, Yu Seung Kim, Chem. Mater. 2011, 23, 3795-3797
【非特許文献5】L. I. Goryunov, J. Grobe, V. D. Shteingarts, B. Krebs, A. Lindemann, E.-U. Wuethwein, Chr. Mueck-Lichtenfeld, Chem. Eur. J. 2000, 6, 24, 4612-4622
【非特許文献6】R. M. Bellabarba, M. Nieuwenhuyzen and G. C. Saunders, Organometallics 2003, 22, 1802-1810
【非特許文献7】B. Hoge and P. Panne, Chem. Eur. J. 2006, 12, 9025-9035
【非特許文献8】V. Atanasov, J. Kerres, Macromolecules 2011, 44, 6416-6423
【非特許文献9】V. Atanasov, M. Buerger, S. Lyonnard, G Gebel, J. Kerres, Solid State Ionics, 2013, 252, 75-83
【発明の概要】
【0004】
本発明との関連において、過フッ素化アリーレン(低分子量化合物、オリゴマー及びポリマー)の活性化芳香族C-F結合のFの求核置換によって、アニオン交換ポリマーを得ることができ、これが高い化学的安定性を特徴とし、したがってアルカリ若しくは酸燃料電池、アルカリ若しくは酸電解槽、又はレドックスフロー電池等の電気化学的用途に有利に使用され得ることが驚くべきことに見出された。
【0005】
したがって、本発明の目的は、特許請求の範囲において特徴付けられる実施の形態によって特徴付けられる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】過フッ素化アリールと強力な第二級N-有機塩基との本発明による反応を示す図である。
図2】本発明に従って使用することができる過フッ素化低分子量アレーンの非限定的な例を示す図である。
図3】本発明に従って使用することができる過フッ素化高分子量アレーン(ポリマー)の非限定的な例を示す図である。
図4】過フッ素化アレーンとのS Ar反応のための強力なN-塩基の非限定的な例を示す図である。
図5】ポリ(ペンタフルオロスチレン)をベースとしたグアニジニウム基を有するアニオン交換ポリマーの調製を示す図である;a)テトラメチルグアニジンによるPPFStの4-Fの部分置換、その後のアルキル化;b)4-フルオロチオフェノールによるPPFStの4-Fの置換、その後の酸化、その後のテトラメチルグアニジンとの反応、その後のアルキル化。
図6】アルカリ金属アミドと過フッ素化アレーンとの反応(S Ar)、その後のアルキル化剤(ハロアルカン、ハロゲン化ベンジル、硫酸ジアルキル等)による形成された第三級アミノ基の四級化を示す図である。
図7】過フッ素化アレーンとのS Ar反応のためのリチウムアミドの非限定的な例を示す図である。
図8】ポリ(ペンタフルオロスチレン)とリチウム-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-イドとの反応(a)及び4-フルオロチオフェノール置換し、続いて酸化したポリ(ペンタフルオロスチレン)とリチウム-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-イドとの反応(b)、その後のこれらのポリマーのアルキル化を示す図である。
図9】パーフルオロアレーンと第二級若しくは第三級N-塩基又は第二級N-アミド及び第2の求核試薬との反応の反応スキームを示す図である。
図10】PPFStとヘキサンチオールとの反応、その後の酸化、その後のテトラメチルグアニジンとの反応、その後の硫酸ジメチルによるアルキル化を示す図である。
図11】ポリ(ペンタフルオロスチレン)とテトラメチルグアニジンとの反応、その後の(a)1-(2-ジメチルアミノエチル)-5-メルカプトテトラゾールとの反応、その後のヨウ化メチルによる四級化、又は(b)4-フルオロチオフェノールとの反応、その後のHによる酸化、その後のトリス(トリメチルシリル)ホスファイトによるホスホン化を示す図である。
図12】「ワンポット反応」としてのポリ(ペンタフルオロスチレン)とリチウム-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-イド及びNaSとの反応、その後のヨウ化ヘキシルによるアルキル化を示す図である。
図13】四級化及び共有結合架橋による第三級N-塩基性基を有する本発明によるポリマーとハロメチル化ポリマーとの反応を示す図である。
図14】共有結合架橋部位及びイオン架橋部位の形成を伴うN-塩基性基を有する本発明によるポリマーとハロメチル化及びスルホン化ポリマーとのブレンドを示す図である。
図15】PPFSt-TMG(上)及びPPFSt(下)の19F-NMRスペクトルを示す図である。
図16】M-PPFSt-TMG(上)及びPPFSt-TMG(下)のH-NMRスペクトルを示す図である。
図17】テトラメチルグアニジンによるPPFStの修飾及びそのメチル化を示す図である。
図18】M-PPFSt-TBF-OX-TMGの合成を示す図である。
図19】PPFSt(上)及びPPFSt-TBF(下)の19F-NMRスペクトルを示す図である。
図20】PPFSt-TBF-OX(上)及びPPFSt-TBF(下)のH-NMRスペクトルを示す図である。
図21】PPFSt-TBF-OX-TMG(上)及びM-PPFSt-TBF-OX-TMG(下)のH-NMRスペクトルを示す図である。
図22】調製された混合膜の写真を示す図である。
図23】ブレンド膜及びNafion 212膜のCE(a)、VE(b)及びEE(c)を示す図である。
図24】混合膜及びNafion 212膜の自己放電時間を示す図である。
図25】ブレンド膜及びNafion 212膜の長期サイクル試験を示す図である。
図26】PPFSt-MTZ-TMG(上)及びPPFSt-MTZ(下)のH-NMRスペクトルを示す図である。
図27】架橋膜の作製のための反応スキーム(a)及び架橋PPFSt-MTZ膜の写真(b)を示す図である。
図28】メルカプトヘキシル単位及びテトラメチルグアニジン単位によるPPFStの後修飾を示す図である。
図29】PPFSt-THの19F-NMRスペクトルを示す図である。
図30】PPFSt-THのH-NMRスペクトルを示す図である。
図31】PPFSt-TH-TMGのH-NMRスペクトルを示す図である。
図32】M-PPFSt-TH-TMGのH-NMRスペクトルを示す図である。
図33】調製されたM-PPFSt-TH-TMG膜の写真を示す図である。
図34】膜のPAドーピング結果を示す図である。
図35】ポリマーの熱的安定性を示す図である。
図36】ポリマーのFT-IRスペクトルを示す図である。
図37】m-PBI(a)及びM-PPFSt-TH-TMG(b)の燃料電池性能を示す図である。
図38】経時的なM-PPFSt-TH-TMG膜の特性を示す図である。
図39】燃料電池における一定の電流密度でのM-PPFSt-TH-TMGの短期安定性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の第1の実施形態は、過フッ素化アリールと強力な第二級又は第三級N-有機塩基との反応に関し、過フッ素化アリールは小分子、オリゴマー又はポリマーであり得る。本発明の第1の実施形態を図1に示す。第二級アミンをフッ素化アレーンと反応させると、1又は任意のFがアミンと求核交換され、S Ar反応中に取り出されたHが付加的なアミン分子(複数の場合もある)をプロトン化する。第2の工程では、得られる第三級アミノ基をアルキル化剤で四級化する。アルキル化剤は、低分子量であってもよく、この場合、ハロアルカン(C2n+1Hal、n=1~20、ハロゲン化ベンジルPhCHHal、Hal=I、Br、Cl)、又は硫酸ジアルキルRSO(R=アルキルC2n+1、n=1~12、ベンジル)、又はジハロアルカン(C2nHal、Ph(CHHal)、n=1~20、Hal=I、Br、Cl)から選択される。アルキル化剤は、高分子量を有していてもよく、この場合、ハロメチル基CHHal(Hal=Cl、Br、I)を有する任意の選択されたポリマーである。ハロメチル基を有するジハロアルカン又はポリマーを四級化に使用する場合、本発明によるポリマーは、四級化によって同時に架橋される。第三級アミン(低分子量又は高分子量)をフッ素化アレーンとのS Ar反応に使用する場合、僅か1工程でアニオン交換基として第四級アンモニウム塩が形成される。分子内に少なくとも2つの第三級アミノ基を有するアミン(低分子量又は高分子量)の場合、S Ar反応の結果として架橋アニオン交換膜が形成される。
【0008】
図2は、好適な低分子量過フッ素化アリーレンの非限定的な例を示し、図3は、ポリマー過フッ素化アリーレンの非限定的な例を示す。図4は、好適な第二級又は第三級N-塩基の非限定的な例を示す。
【0009】
図5は、ポリ(ペンタフルオロスチレン)をベースとしたグアニジニウムアニオン交換基を有するアニオン交換ポリマーの作製を示す。工程a)には、ポリ(ペンタフルオロスチレン)とテトラメチルグアニジンとの反応を示し、続いてグアニジンで修飾したポリマーをアルキル化する。工程b)では、ポリ(ペンタフルオロスチレン)を初めに4-フルオロベンゼンチオールと反応させ、続いてS-架橋を過酸化水素でSO架橋に酸化し、続いてテトラメチルグアニジンと反応させ、最後に硫酸ジメチルでアルキル化する。
【0010】
本発明の第2の実施形態は、NH結合がN-アルカリ金属結合に置き換えられた強力なN-塩基に関する。これらのアルカリ金属-窒素化合物は、アルカリ金属アミドである。アルカリ金属はLi、Na、K、Rb又はCsであり得るが、Liが好ましい。アルカリ金属アミドを、図6に示すように求核アルカリ金属-F交換(S Ar)によって過フッ素化アレーン(低分子量、オリゴマー又はポリマー)と反応させる。第2の工程では、形成された第三級塩基性N-化合物を続いてアルキル化剤でアルキル化する。アルキル化剤の選択は、原則として任意であり、ハロアルカン、ハロゲン化ベンジル及び硫酸ジアルキルがアルキル化剤として好ましい。
【0011】
原則として、任意のアルカリ金属アミドを本発明によるパーフルオロアレーンと反応させることができる。本発明ではリチウムアミドが好ましい。リチウムアミドの非限定的な選択を図7に示す。
【0012】
図8は、ポリ(ペンタフルオロスチレン)とリチウム-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-イドとの反応の例(工程a))及び4-フルオロチオフェノールで置換し、続いて酸化したポリ(ペンタフルオロスチレン)とリチウム-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-イドとの反応の例(工程b))を用いた本発明の第2の実施形態を示し、ピペリジンで置換されたポリ(ペンタフルオロスチレン)を最終工程でアルキル化してアニオン交換ポリマーを得る。これらのポリマーの特別な利点は、1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジニウムカチオンのメチル基による四級化Nの良好な空間的遮蔽にあり、これにより、これらのポリマーは、アルカリ媒体(対イオンがOHである場合)中で非常に良好な安定性を示し、アルカリアニオン交換膜電気分解(AEME)又はアルカリアニオン交換膜燃料電池(AEMFC)において優れた長期安定したアニオン伝導体となる。
【0013】
本発明の第3の実施形態は、他の求核試薬による第三級アミノ基又は第四級アンモニウム基を有する低分子量、オリゴマー又は高分子のパーフルオロアレーンの付加的なFの置換に関する。原則として、Fを置換する1つ以上の求核試薬のタイプは制限されず、Fの求核交換によってパーフルオロアレーンと反応する全ての求核試薬が好適である。図9は、本発明の第3の実施形態において、第三級アミノ基又は第四級アンモニウム塩を有する低分子量、オリゴマー又はポリマー化合物を第2の求核試薬と反応させた場合に得られる低分子量、オリゴマー及びポリマー物質の概略図を示す。
【0014】
しかしながら、以下の求核試薬が好ましい(求核試薬の選択肢は限定されない):
R-SH、[R-S][C](R=任意のアルキル又はアリールラジカル、C=1価のカチオン、例えば金属カチオン、アンモニウムイオン、ピリジニウムイオン、イミダゾリウムイオン、グアニジニウムイオン等)。求核試薬は、2つ以上のSH又はSC基を有していてもよい。R-SHの非限定的な例は、アルキルチオールC2n+1SH(n=2~20)であり、RSCの非限定的な例は、アルカリ金属カチオン(アルカリ金属=Li、Na、K、Rb、Cs)又は任意のアンモニウムイオンを対イオンとして有するアルキル又はアリール又はベンジルチオレートである。複数のSH又はSC基を有する化合物の非限定的な例は、ベンゼンジチオール(オルト-、メタ-又はパラ-)、ナフタレンジチオール、ジベンジルジチオール、アルカンジチオールHS-C2n-SH(n=2~20)、又は対イオン(カチオン)の性質について限定されない金属若しくはアンモニウム対イオンとのそれらの塩である。
P(OSi(CH(トリス(トリメチルシリル)ホスファイト)
ALS及びALSH(AL=アルカリ金属対イオン)
【0015】
本発明による低分子量、オリゴマー及びポリマー化合物を得るための第3の実施形態は、以下の手順で得られうる:
(1)低分子量、オリゴマー又はポリマーのパーフルオロアレーンを初めに第2の求核試薬と反応させる。第2の求核試薬がRSH又はRSCである場合、得られるチオエーテル架橋を続いてスルホン架橋に酸化することができる。求核試薬がALS又はALSHである場合、得られるSH基をSOH基に酸化することができる。これに続いて第二級若しくは第三級N-塩基又は第二級N-アミドとの反応を行い、第二級N-塩基又は第二級N-アミドの場合に続いてアルキル化を行う。この反応手順を、ポリ(ペンタフルオロスチレン)とヘキサンチオールとの反応、その後のチオ架橋からスルホン架橋への酸化、その後のテトラメチルグアニジンとの反応、その後の硫酸ジメチルによる四級化の非限定的な例によって図10に示す。このポリマーの特別な利点は、ヘキシルスルホン基がこのポリマーの組み込まれた「可塑剤」官能基として働き、アニオン交換ポリマーの脆性を顕著に低減することであり、これは膜燃料電池へのこのアニオン交換ポリマーの適用に非常に有利である。アルキル鎖が長いほど、アルキルスルホン基の可塑剤効果は強くなる。
(2)低分子量、オリゴマー又はポリマーのパーフルオロアレーンを初めに第二級若しくは第三級塩基性N-化合物又は第二級N-アミドと反応させ、任意に続いて第四級N-塩にN-アルキル化し、続いて第2の求核試薬と反応させる。この反応手順は、3つの非限定的な例によって説明される:(a)図11の部分フッ素化芳香族ポリスルホンとテトラメチルグアニジンとの反応、その後のトリス(トリメチルシリル)ホスファイトによるホスホン化、及び(b)ポリ(ペンタフルオロスチレン)とテトラメチルグアニジンとの反応、その後の1-(2-ジメチルアミノエチル)-5-メルカプトテトラゾールとの反応、その後のヨウ化メチルによる四級化、及び(c)ポリ(ペンタフルオロスチレン)とテトラメチルグアニジンとの反応、その後のポリ(ペンタフルオロスチレン)の残りの4-Fと4-フルオロチオフェノールとの反応、その後のHによるポリマーのチオ架橋のスルホン架橋への酸化、その後のフェニルスルホン側鎖の4-Fのホスホン化。ACDソフトウェアを用いたホスホン酸基のpKA値の算出により、この時点で分子内のホスホン酸基がスルホン架橋の強力な-I効果のために強酸基となり、これにより、このポリマーがホスホン酸基の固有の伝導性のために高温燃料電池(温度範囲100℃~250℃)の有望なプロトン伝導体となることが示された。
(3)低分子量、オリゴマー又はポリマーのパーフルオロアレーンを第二級若しくは第三級N-塩基又は第二級N-アミドと同時に反応させる。この反応を、ポリ(ペンタフルオロスチレン)及び部分フッ素化芳香族ポリスルホンとリチウム-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-イド及びNaSとの反応の非限定的な例を用いて「ワンポット反応」として図12に示す。
【0016】
また、驚くべきことに、上記3つの実施形態の全てにおいて、本発明による新規のポリマーが他の好適なポリマーによって容易に変換され、ブレンド膜を形成し得ることが見出された。本発明によるブレンド膜の非限定的な選択を下に挙げる:
第1及び第2の実施形態のポリマー(第四級N-塩基性基を有するポリマー過フッ素化アレーン(図1及び図6を参照されたい))は、塩基性ポリマーと任意の混合比でブレンドされ、塩基性ポリマーの選択肢は限定されないが、ポリベンゾイミダゾールがそれらの高い機械的安定性及び熱的安定性及び化学的安定性のために好ましい。塩基性ブレンド成分がブレンドを機械的、熱的及び化学的に安定化するように働くアニオン交換ブレンドが得られる。
第1及び第2の実施形態のポリマー(第三級N-塩基性基を有するポリマー過フッ素化アレーン(図1及び図6を参照されたい))は、カチオン交換ポリマーと任意の混合比でブレンドされ、カチオン交換ポリマーの選択は制限されず、カチオン交換ポリマーは、スルホネート基(-SO )、ホスホネート基(PO 2-(G)又はカルボキシレート基(COO)のいずれかを有していてもよく、G=対イオン=H、金属カチオン、アンモニウム、グアニジニウム、ピリジニウム、イミダゾリウム等であり、スルホネート基及びホスホネート基がカチオン交換基として好ましい。
第1及び第2の実施形態のポリマー(第三級N-塩基性基を有するポリマー過フッ素化アレーン(図1及び図6を参照されたい))は、CHHal基(Hal=Cl、Br、I)を有するポリマーと任意の混合比でブレンドされる。第1及び第2の実施形態のポリマーの第三級N-塩基性基とハロメチル化ポリマーとの間の四級化反応により、これらのブレンド膜の共有結合架橋がもたらされる(図13)。
第1及び第2の実施形態のポリマー(第四級N-塩基性基を有するポリマー過フッ素化アレーン(図1及び図6を参照されたい))は、スルホン化、ホスホン化又はカルボキシル化カチオン交換ポリマー及びハロメチル化ポリマーと任意の混合比でブレンドされる。ハロメチル基と第三級アミノ基との間の四級化反応により、共有結合架橋が引き起こされ、同時にアニオン交換基が形成され、これがカチオン交換ポリマーブレンド成分のカチオン交換基とイオン架橋点を形成する(図14)。
第3の実施形態のポリマー(第四級N-塩基性官能基及び求核的に導入された別の官能基を有するパーフルオロアレーン(図9を参照されたい))は、塩基性ポリマーとブレンドされ、可能な塩基性ポリマーの選択肢は制限されないが、ポリベンゾイミダゾールが好ましい。これらのブレンドでは、塩基性ポリマーは、化学的、機械的及び熱的に安定化するブレンド成分として作用する。
第3の実施形態のポリマー(第三級N-塩基性官能基及び求核的に導入された更なる官能基を有するパーフルオロアレーン(図9を参照されたい))は、カチオン交換ポリマー(スルホン化、ホスホン化、カルボキシル化ポリマー)及び/又は塩基性ポリマーから作製され、及び/又はハロメチル基-CHHal(Hal=Cl、Br、I)を有するポリマーとブレンドされる。ハロメチル化ポリマーをブレンド成分として使用する場合、ハロメチル基と第三級N-塩基性基との反応により四級化、ひいてはブレンド膜の共有結合架橋がもたらされる(上記を参照されたい)。
【0017】
本発明を以下の実施例によってより詳細に説明するが、本発明はこれに制限されない。
【0018】
1. ポリ(ペンタフルオロスチレン)とテトラメチルグアニジンとの反応、その後の硫酸ジメチルによる置換ポリマーのアルキル化
1.1 M-PPFSt-TMGの合成方法
1.1.1 テトラメチルグアニジン修飾PPFSt(PPFSt-TMG)
冷却器、アルゴン入口及び出口を備える三つ口丸底フラスコ内でPPFSt(1g、5.15mmol)を130℃で2時間かけてDMAc(20mL)に分散させた。室温に冷却した後、テトラメチルグアニジン(2.97g、25.8mmol)を反応溶液に添加した。反応溶液を130℃で24時間撹拌した。次いで、ポリマー溶液を水中に滴下することによってポリマーを沈殿させた。得られたポリマーを多量の水で数回洗浄し、60℃のオーブンにて24時間乾燥させた。19F-NMRによって100%の置換度が確認され、反応後に2つのピークが示された(オルト位及びメタ位)(図15)。
【0019】
1.1.2 PPFSt-TMGの四級化(M-PPFSt-TMG)
硫酸ジメチルを用いたメチル化によってPPFSt-TMGの四級化を行った。セプタム、冷却器、アルゴン入口及び出口を備える丸底フラスコ内でPPFSt-TMG(1g、3.45mmol)を20mLのDMAcにアルゴン雰囲気下にて室温で3時間かけて溶解した。完全な溶解後に、硫酸ジメチル(1mL、10.4mmol)をシリンジによってゆっくりと添加した。反応混合物を90℃で16時間撹拌した。室温に冷却した後、ポリマー溶液をアセトン中で沈殿させた。得られたポリマーをアセトンで2回洗浄し、60℃で24時間オーブン乾燥させた。H-NMRによって100%のDOSが確認され、メチル基の完全なピークシフトが示され(N-CH(a)、2.5ppmから2.9ppm)、メチル化によって新たなピークを特定することができ(b)、N-CHが割り当てられる。
【0020】
1.1.3 合成ポリマーの溶解性試験
【0021】
【表1】
【0022】
1.2 M-PPFSt-TBF-OX-TMGの合成
PPFSt-TBFの合成:アルゴン入口、出口及び冷却器を備える100mL三つ口フラスコ内でPPFSt(1g、5.2mmol)を40mLのメチルエチルケトン(MEK)に溶解した。PPFStの完全な溶解後に、トリエチルアミン(7.82g、PPFStに対して15当量)及び4-フルオロベンゼンチオール(1.65mL、PPFStに対して3当量)をポリマー溶液に添加した。次いで、反応混合物を24時間75℃に維持した。メタノール中での沈殿によって合成ポリマーを得た。ポリマーをメタノールで数回洗浄し、60℃のオーブンにて18時間乾燥させ、ほぼ完全な置換が19F-NMRによって決定された。
【0023】
PPFSt-TBF-OXの合成:冷却器を取り付けたフラスコ内でPPFSt-TBF(3g、10mmol)を60mLのトリフルオロ酢酸に分散させた。次いで、10mLの過酸化水素(水中30%、100mmol)を反応フラスコに滴加した。反応溶液を30℃で72時間、続いて110℃で1時間撹拌した。室温に冷却した後、反応溶液を水に注ぎ入れてポリマーを得た。得られたポリマーを水で数回洗浄し、60℃のオーブンにて18時間乾燥させた。芳香族領域の化学シフトにより、スルフィドからスルホンへの酸化の成功が示される。
【0024】
PPFSt-TBF-OX-TMGの合成:アルゴン入口、出口及び冷却器を備える三つ口フラスコ内でPPFSt-TBF-OX(3.34g、10mmol)をDMAcに溶解した。完全な溶解後に、TMG(10mL、80mmol)をポリマー溶液に添加し、130℃で20時間撹拌した。次いで、水中での沈殿によってポリマーを単離した。得られたポリマーを水で数回洗浄し、60℃のオーブンにて24時間乾燥させ、部分的なグアニジン化(guanidization)がH-NMRによって確認された:芳香族領域の3つのピーク及びテトラメチルグアニジン基からのN-CHによる2.6ppmの強いピーク。
【0025】
M-PPFSt-TBF-OX-TMGの合成:PPFSt-TBF-OX-TMGのメチル化をDMAc中の硫酸ジメチル(DMS)によって行った。PPFSt-TBF-OX-TMGをDMAcに溶解した。完全な溶解後に、DMSをポリマー反応溶液に添加し、温度を90℃に上昇させた。反応物をこの温度で20時間機械的に撹拌した。次いで、アセトン中での沈殿によってポリマーを得た。ポリマーをアセトンで洗浄し、60℃のオーブンにて24時間乾燥させた。2.6ppmから3.7ppmへのテトラメチルグアニジンピークの化学シフト及びメチル化による3.4ppmの新たなピーク。
【0026】
2. 反応生成物4.1及びFPBIからのブレンド膜の作製
2.1 ブレンド膜の調製
M-PPFSt-TMGポリマーをDMSOに溶解し、5wt%ポリマー溶液とした。FPBIを80℃でDMSOに溶解し、5wt%溶液とした。2つのポリマー溶液を表に記載のように特定の比率で混合した。ポリマーブレンド溶液をガラス板上にキャストし、80℃の対流式オーブンに24時間入れ、溶媒を蒸発させた。得られた混合膜を脱イオン水に浸漬することでガラス板から剥がした。混合膜を更に使用するためにジップロック(登録商標)バッグに保管した。M-PPFSt-TBF-OX-TMGとFPBIとの混合膜を同様に調製した。
【0027】
【表2】
【0028】
【表3】
【0029】
2.2 ブレンド膜の特性
【0030】
【表4】
【0031】
2.3 バナジウムレドックスフロー電池の性能
2.3.1 クーロン効率(CE)、電圧効率(VE)及びエネルギー効率(EE)
ブレンド膜及びNafion 212膜のクーロン効率(CE)(a)、電圧効率(VE)(b)及びエネルギー効率(EE)(c)を図23に示す。
【0032】
2.3.2 自己放電試験
混合膜及びNafion 212膜の自己放電試験は、図24に見ることができる。
【0033】
2.3.3 長期サイクル試験
ブレンド膜及びNafion 212膜の長期サイクル試験の結果は、図25に見ることができる。
【0034】
3. ポリ(ペンタフルオロスチレン)と1-(2-ジメチルアミノエチル)-5-メルカプトテトラゾールとの反応、その後のテトラメチルグアニジンとの反応
3.1 ポリ(ペンタフルオロスチレン)と1-(2-ジメチルアミノエチル)-5-メルカプトテトラゾールとの反応
ポリ(ペンタフルオロスチレン)への1-(2-ジメチルアミノエチル)-5-メルカプトテトラゾールのグラフト化を文献に従って行った(公表されている場合、置換度:30%)。テトラメチルグアニジンを部分グラフト化PPFSt-MTZに導入した。1gの部分置換PPFSt-MTZを冷却器、アルゴン入口及びアルゴン出口を備える20mLのDMAcに溶解した。90℃で1時間かけて完全に溶解させた後、テトラメチルグアニジンをポリマー溶液に添加し、24時間130℃に維持した。ポリマー溶液を水中で沈殿させた。得られたポリマー(PPFSt-MTZ-TMG)を水で数回洗浄し、60℃のオーブンにて24時間乾燥させた。
【0035】
メチル化:硫酸ジメチルを用いて90℃でメチル化を行った。しかしながら、この温度では沈殿物が観察された。
【0036】
4. 部分修飾PPFStと1,6-ヘキサンジチオールとの架橋膜
4.1 架橋膜(XL-M-PPFSt-MTZ)の作製
ガラスバイアル内で0.3gのM-PPFSt-MTZ(公表されている場合に文献に従って調製、41%のDOS)を10mlのDMSOに溶解した。完全な溶解後に、トリエチルアミン(0.27g)及び1,6-ヘキサンジチオール(0.19g)をポリマー溶液に添加する。均質化後に、混合溶液をペトリ皿に注ぎ入れた。これを60℃の密閉オーブンに入れ(又はペトリ皿の蓋をする)、反応時間を1日とし、続いて120℃で8時間、真空で残留する化学物質を除去する。図(b)に示すように、機械的に安定した架橋膜が得られた。XL-M-PPFSt-MTZのIECは0.28mmol/gであり、1M HSO中で測定された導電率は1.77±0.18mS/cmであった。IEC及び導電率も混合膜と比較して低かった。ホモ-M-PPFSt-MTZポリマー膜は機械的に不安定であったため、ジチオール化合物を用いた架橋が機械的に安定した膜を得ることが可能な製作経路であると考えられる。
【0037】
5. ポリ(ペンタフルオロスチレン)と1-ヘキサンチオールとの反応、その後のテトラメチルグアニジンとの反応
5.1 ポリ(ペンタフルオロスチレン)と1-ヘキサンチオールとの反応
還流冷却器並びにアルゴン入口及び出口を備える500mL三つ口丸底フラスコ内で、PPFSt(10g、51.5mmol)をアルゴン流下にて90℃で1時間かけてTHF(200mL)に溶解した。1-ヘキサンチオール(3.8mL、27.1mmol)及びDBU(8mL、52.5mmol)をこの温度で添加し、15時間撹拌した。室温に冷却した後、粘性の溶液をイソプロパノールにゆっくりと注ぎ入れると、黄色がかった沈殿物が形成された。得られたポリマーをイソプロパノールで数回洗浄し、60℃の強制換気オーブンにて24時間乾燥させた。
収量:9.8g
19F-NMR(400MHz,CDCl3,ppm):-134(s,2.8F)、-143(s,4.9F)、-154(s,1F)、-161(s,2.1F)(図29
H-NMR(400MHz,CDCl3,ppm):0.90(t,1.8H)、1.27~1.54(m,ca.5H)、1.99(s,2H),2.41(s,0.8H)、2.88(s,1.2H)(図30
【0038】
5.2 4.5.1の生成物(PPFSt-TH)とテトラメチルグアニジンとの反応
冷却器付き500mL三つ口フラスコ内でPPFSt-TH(8g、31.6mmol)をDMAc(200mL)にアルゴン流下にて130℃で2時間かけて溶解した。室温に冷却した後、TMG(19.8ml、158mmol)をポリマー溶液に滴下し、130℃で24時間反応させた。冷却後に、茶色がかった反応溶液を脱イオン水に滴下して沈殿させ、ポリマーを得た。ポリマーを濾過によって単離し、脱イオン水で数回洗浄した。最終ポリマーを60℃の強制換気オーブンにて24時間乾燥させた。
収量:9.04g
【0039】
図31H-NMR(400MHz、THF-d8、ppm)を示す。
【0040】
5.3 4.5.2の生成物(PPFSt-TH-TMG)と硫酸ジメチル(DMS)とのメチル化反応
PPFSt-TH-TMG(7g、24mmol)をDMAc(150mL)に溶解した。完全な溶解後に、DMS(20.5mL、72.1mmol)を反応溶液にシリンジで添加した。反応を激しく撹拌しながら90℃で12時間維持した。次いで、反応溶液をジエチルエーテルに滴加し、ジエチルエーテルで2回、脱イオン水で1回洗浄した。得られたポリマーを1mbar下、60℃の真空オーブンで24時間乾燥させた。
収量:7.5g
【0041】
図32H-NMR(400MHz、THF-d8、ppm)を示す。
【0042】
5.4 膜の製造
m-PBIをDMAcに5.2重量%で溶解した。m-PBI溶液をガラス板上にキャストし、溶媒を80℃の強制換気オーブンにて24時間蒸発させた。次いで、水浴に浸すことによって膜をガラス板から剥がした。得られた膜を90℃で12時間乾燥させ、使用するまでジップロック(登録商標)バッグに保管した。DMAcに溶解することでM-PPFSt-TH-TMGの5wt%ポリマー溶液を調製した。溶液をテフロン(登録商標)シート上に注ぎ、60℃の強制換気オーブンに24時間入れて溶媒を蒸発させた。膜を水に浸漬することでガラス支持体から取り外した。得られた膜を10wt%塩化ナトリウム水溶液によって60℃で3日間調整し、続いて60℃のDI水に1日浸漬し、DI水で十分に洗浄した後、更に使用するまでジップロック(登録商標)バッグに保管した(図33)。
【0043】
5.5 膜のPAドーピング
PAドーピングは、異なる濃度のPA水溶液にドーピングする前後の重量を決定することによって行った。PAドーピングの前に、膜を6℃で24時間乾燥させ、続いてそれらの乾燥質量を測定した。乾燥させた膜サンプルを室温のPA溶液に24時間浸漬した。膜サンプルをPA溶液から取り出し、紙タオルで拭いて表面のリン酸を除去した。次いで、ドープした膜を秤量した(図34)。
ドーピングレベル(%)=[(Wafter-Wdry)/Wdry]×100
after:PAドーピング後の膜重量、Wdry:PAドーピング前の膜重量
酸ドーピングレベル(ADL)PA/官能基=[(Wafter-Wdry)×0.85/97.99]/[(Wdry/膜のIEC)×1000]
after:PAドーピング後の膜重量
dry:膜乾燥重量
IEC:イオン交換容量
【0044】
NMRスペクトルにおける置換芳香環と非置換芳香環との間の積分比から置換度を算出した。膜の理論イオン交換容量(CEC)は、IECと置換度(NMRから得られる)との関数から算出した。
【0045】
5.6 熱的安定性(TGA)
合成ポリマーの熱的安定性を調査するために、FT-IRと組み合わせたNETZSCH TGA、モデルSTA 499Cを用いる熱重量分析(TGA)を行い、達成した。酸素と窒素との混合雰囲気下にて20℃/分の加熱速度で温度を上昇させた(酸素:56mL/分、窒素:24mL/分)(図35)。
【0046】
5.7 FT-IRスペクトル
ポリマーの構造分析のために、Nicolet iS5 FTIR分光計を用いてFTIRスペクトルを室温にて4000cm-1~400cm-1の波数範囲の関数として64スキャン及び減衰全反射(ATR)モードで記録した(図36)。
【0047】
5.8 燃料電池試験
膜-電極接合体(MEA)を製作するために、リン酸をドープした膜を2つの電極間に挟んだ。ガス拡散電極(GDE)は、Freudenbergによって提供され、1cm当たり1.5mgのPtを含有し、同じ電極をアノード側及びカソード側の両方に使用し、活性面積は23.04cmであった。3Nmのトルクで密閉した市販の単一セルにMEAを取り付けた。燃料電池試験は、市販のテストステーション(Scribner 850e、Scribner Associates Inc.)を用いて行った。燃料電池性能は、常圧でアノード側及びカソード側の両方に非加湿ガスを用いて研究した。アノードのH及びカソードの空気の流量は、それぞれ0.25L/分及び1.25L/分であった(図37図38及び図39)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
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図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37
図38
図39
【国際調査報告】