(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-26
(54)【発明の名称】腐食防止剤としてカテコール誘導体を含有する電着塗装材料
(51)【国際特許分類】
C09D 201/02 20060101AFI20230119BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20230119BHJP
C09D 5/44 20060101ALI20230119BHJP
C09D 163/00 20060101ALI20230119BHJP
C09D 133/02 20060101ALI20230119BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20230119BHJP
C25D 13/00 20060101ALI20230119BHJP
C25D 13/06 20060101ALI20230119BHJP
C25D 13/10 20060101ALI20230119BHJP
C23F 11/00 20060101ALI20230119BHJP
【FI】
C09D201/02
C09D5/02
C09D5/44 A
C09D163/00
C09D133/02
C09D7/63
C25D13/00 307D
C25D13/06 E
C25D13/10 A
C25D13/10 B
C23F11/00 B
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022529845
(86)(22)【出願日】2020-11-19
(85)【翻訳文提出日】2022-07-22
(86)【国際出願番号】 EP2020082692
(87)【国際公開番号】W WO2021099469
(87)【国際公開日】2021-05-27
(32)【優先日】2019-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】390008981
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ コーティングス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】BASF Coatings GmbH
【住所又は居所原語表記】Glasuritstrasse 1, D-48165 Muenster,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】ゲルブリッヒ,トルシュテン
(72)【発明者】
【氏名】ヘーネ,アンドレア
(72)【発明者】
【氏名】ヴィスマン,ニナ
(72)【発明者】
【氏名】ヘムカー,ズザンネ
(72)【発明者】
【氏名】トボル,ペトラ
(72)【発明者】
【氏名】ミュールマイアー,ユスティーナ
(72)【発明者】
【氏名】ブロサイト,アンドレ
【テーマコード(参考)】
4J038
4K062
【Fターム(参考)】
4J038CG031
4J038DA131
4J038DB391
4J038DG261
4J038JA64
4J038KA03
4J038KA05
4J038KA08
4J038MA08
4J038MA10
4J038NA03
4J038PA04
4J038PB07
4J038PC02
4K062AA01
4K062BB07
4K062BB12
4K062EA05
4K062FA03
4K062GA08
(57)【要約】
本発明は、1種または複数種の陰極電着可能な樹脂(A);1種または複数種の架橋剤(B);および式(I)で表される1種または複数種の化合物
【化1】
(式中、R
1=HまたはOHであり;R
2=
*C(O)-O、(HO)
*CH-CH
2、または
*CH
2-CH
2からなる群から選択される二価の基であり、但し、*は、ベンゼン環に結合している炭素原子を表し;R
3=NH
2、(H
3N
+)X
-、NHR
4、(
+NH
2R
4)X
-、またはR
4からなる群から選択される一価の基であり、ここで、Xは、有機酸または無機酸のアニオンであり、R
4は、1~6個の炭素原子を有する直鎖状または分岐状アルキル基である)を含む、電着可能な塗装材料に関する。本発明のさらなる目的は、金属基材を、本発明の電着可能な塗装材料が入っている電着槽に浸漬させる工程;基材を陰極としてスイッチングする工程;電着可能な塗装材料を基材に堆積させて、塗装層を形成する工程;ならびにこのようにして形成した塗装層を乾燥および硬化させる工程を含む、金属基材を塗装する方法である。本発明のさらなる目的は、式(I)の化合物を電着塗料における腐食防止剤として使用する方法および本発明の方法に従って塗装した塗装済み基材である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
i.1種または複数種の陰極電着可能な樹脂(A);
ii.1種または複数種の架橋剤(B);および
iii.式(I)で表される1種または複数種の化合物
【化1】
(式中、
R
1は、HまたはOHであり;
R
2は、
*C(O)-O、(HO)
*CH-CH
2、または
*CH
2-CH
2からなる群から選択される二価の基であり、但し、*は、ベンゼン環に結合している炭素原子を表し;
R
3は、NH
2、(H
3N
+)X
-、NHR
4、(
+NH
2R
4)X
-、またはR
4からなる群から選択される一価の基であり、ここで、Xは、有機酸または無機酸のアニオンであり、R
4は、1~6個の炭素原子を有する直鎖状または分岐状アルキル基である)
を含む、電着可能な塗装材料。
【請求項2】
水性であり、4.0~6.5の範囲のpH値を有することを特徴とする、請求項1に記載の電着可能な塗装材料。
【請求項3】
前記1種または複数種の陰極電着可能な樹脂(A)が、陰極電着可能なエポキシ系樹脂および陰極電着可能なポリアクリレート樹脂からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1または2に記載の電着可能な塗装材料。
【請求項4】
前記1種または複数種の架橋剤(B)が、ブロック化ジイソシアネート、ブロック化ポリイソシアネート、およびアミノプラスト樹脂からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の電着可能な塗装材料。
【請求項5】
前記式(I)の1種または複数種の化合物が、プロトカテク酸エステルおよびカテコールアミンからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の電着可能な塗装材料。
【請求項6】
前記式(I)の1種または複数種の化合物が、没食子酸プロピル、3,4-ジヒドロキシ安息香酸エチルエステル、ドーパミンおよびその塩、ならびにイソプロテレノールおよびその塩からなる群から選択されることを特徴とする、請求項5に記載の電着可能な塗装材料。
【請求項7】
少なくとも1種の顔料および/または充填剤を含むことを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の電着可能な塗装材料。
【請求項8】
前記式(I)の1種または複数種の化合物が、前記塗装材料の総質量に対して200~4000ppmの量で前記塗装材料に含有されることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の電着可能な塗装材料。
【請求項9】
a.金属基材を、請求項1から8のいずれか一項に記載の電着可能な塗装材料が入っている電着槽に浸漬させる工程;
b.前記基材を陰極としてスイッチングする工程;
c.前記電着可能な塗装材料を前記基材に堆積させて、塗装層を形成する工程;ならびに
d.このようにして形成した前記塗装層を乾燥および硬化させる工程
を含む、金属基材を塗装する方法。
【請求項10】
前記金属基材が、冷間圧延鋼、電気亜鉛めっき鋼、溶融亜鉛めっき鋼、アルミニウムおよびその合金などの鋼からなる金属基材の群から選択されることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記金属基材が、異なる金属組成の表面領域を含む多金属基材であることを特徴とする、請求項9および10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
金属基材が、アルミニウム、アルミニウム合金であり、アルミニウム部分を含有し、かつ/またはアルミニウム合金部分を含有することを特徴とする、請求項9から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記金属基材が、事前塗装されていないことを特徴とする、請求項9および12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
式(I)で表される1種または複数種の化合物
【化2】
(式中、
R
1は、HまたはOHであり;
R
2は、
*C(O)-O、(HO)
*CH-CH
2、または
*CH
2-CH
2からなる群から選択される二価の基であり、但し、*は、ベンゼン環に結合している炭素原子を表し;
R
3は、NH
2、(H
3N
+)X
-、NHR
4、(
+NH
2R
4)X
-、またはR
4からなる群から選択される一価の基であり、ここで、Xは、有機酸または無機酸のアニオンであり、R
4は、1~6個の炭素原子を有する直鎖状または分岐状アルキル基である)
を電着塗装材料における腐食防止剤として使用する方法。
【請求項15】
請求項9から13のいずれか一項に記載の方法で得られた塗装済み金属基材。
【請求項16】
前記金属基材上の第1の塗装層が、本発明の方法に従って形成されることを特徴とする、多層塗装された基材である請求項15に記載の塗装済み基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腐食防止剤としてカテコール誘導体を含有する電着塗装材料、その電着塗装材料で基材を塗装する方法、カテコール誘導体を電着塗料における腐食防止剤として使用する方法、およびその電着塗装材料から得られる塗装物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車分野における通常の要件は、製造に使用される金属構成部品を腐食から保護しなければならないことである。達成すべき腐食防止に関する要件は、特に製造業者が錆の穿孔に対して長期間にわたる保証を付けることが多いため非常に厳しい。このような腐食防止は、通常、構成部品、またはその製造に使用される基材を、目的に適した少なくとも1種の塗料で塗装することによって達成される。
【0003】
既知の塗装方法の欠点、特に自動車産業で採用されている既知の方法に影響を及ぼす欠点は、これらの方法が通常、塗装用の基材を、適切な腐食防止を確実にするために、任意の洗浄工程の後および堆積塗装工程の前に、リン酸塩処理工程においてリン酸亜鉛などの金属リン酸塩で処理するという、リン酸塩処理の前処理工程を想定していることである。この前処理は、通常、異なる加熱を伴う複数の異なる浸漬タンクにおける複数の方法工程の実施を必要とする。さらに、このような前処理の実施中に廃棄物スラッジが生じ、これは環境に負担をかけ、処分しなければならない。したがって、環境的および経済的理由から、このような前処理工程を行わずに済ますことができ、それにもかかわらず、既知の方法を使用して達成されるのと少なくとも同等の腐食防止効果を達成できることが特に望ましい。ジルコニウムをベースとする変換層に基づく最新の薄膜前処理技術は、プロセス工程の数、エネルギー消費、およびスラッジ形成に関して明らかな利点を示し、リン酸塩処理の代わりとなるが、欠陥に保護層を形成する浸出性および移動性の成分(リン酸塩様成分)によって基材を積極的に保護する活性腐食保護が欠けているため、保護性能はほとんどの場合同等ではない。
【0004】
さらに、多くの場合、異なる金属組成の表面領域を含む基材のような多金属基材では十分な腐食保護が得られない。多くの場合、特に自動車の塗装では、異なる金属で構成される基材が、ワークピース、特に車体などの自動車部品に予め組み立てられ、その後、電着塗装法で塗装される。
【0005】
他の場合、1種の金属または1タイプの合金のみで構成されている基材を同じ電着槽で塗装することを意図している。
【0006】
特に重要なのは、電着塗装材料(すなわち電着塗料)の、その材料を塗布した基材を使用できるようにする能力であり、多種多様な金属基材、特にアルミニウム基材に腐食防止特性を付与することである。
【0007】
アルミニウムの腐食は、鉄含有基材の腐食とは著しく異なる。特に、糸状腐食が、純アルミニウムまたはアルミニウム合金などのアルミニウムベースの基材でしばしば観察される。
【0008】
したがって、-特に通常実施されるリン酸塩処理の前処理工程を行わずに済ませる目的で-使用される従来の塗装組成物よりも経済的および環境に優しい塗装方法を可能にし、それにもかかわらず、このような組成物に必要な腐食防止効果を達成するのに少なくとも同程度に適している電着塗装材料を用いて導電性基材を塗装するための電着可能な塗装組成物が必要とされている。
【0009】
したがって、本発明の一目的は、従来技術から知られている塗装組成物よりも利点を有する、導電性基材を塗装するための塗装組成物を提供することである。本発明の一目的は、使用されている従来の塗装組成物よりも経済的および/または環境に優しい塗装方法を可能にする塗装組成物を提供することである。さらに、本発明の一目的は、従来の塗装方法よりも経済的および/または環境に優しい塗装を可能にする方法、言い換えれば、例えば、堆積塗装の前でさえも金属リン酸塩によって通常実施しなければならないリン酸塩処理を行わずに済ませることが可能になり、それにもかかわらず、通常の方法と比較して少なくとも同じ、より具体的には強化された腐食防止効果を達成することを可能にする方法を提供することである。
【0010】
特に、アルミニウムベース基材を腐食から保護すべきであるが、塗装材料はまた、好ましくは、様々な種類の鋼など、他の金属基材に対する耐食性を利用するのにも適するべきである。
【0011】
既知の技術では、このような電着塗料における架橋効率を高めるために腐食防止顔料または特定の有機金属もしくは金属含有触媒をしばしば使用するが、本発明の目的は、特定の水溶性有機化合物、さらには自然界に存在する化合物またはそうした化合物の単純な誘導体、ひいては環境的に問題のない化合物を添加することによって、電着可能な塗装材料により優れた腐食防止特性を達成することであった。
【0012】
一方、電着可能な塗装組成物ではないが、モノガロイルエラグ酸のケルセチン誘導体を含有する、鋼用の処理組成物がEP0298150A1から知られている。しかし、このような組成物は、架橋性結合剤および架橋剤を含有せず、かなりの量のリン酸およびリン酸亜鉛を含有し、リン酸およびリン酸亜鉛は両方とも腐食防止化合物として作用することが知られているが、電着塗料における望ましくない不純物としても知られている。
【0013】
DE19623274A1およびEP3156522A1から、様々な有機物、特にフラボノイド化合物およびその配糖体を含有するスズ電気めっき槽が知られている。しかし、塗装材料の電着以外では、電気めっきはスズめっき膜の形成をまねき、有機結合剤はその後堆積および架橋されない。
【0014】
US6,235,348B1は、防錆組成物、特に、基体上に形成されたZn系金属塗装物が錆びることを防止する方法を開示している。ケイ酸化合物および芳香族アミン系縮合生成物を含む第1の塗装膜上に、リン酸化合物、有機化合物、有機ポリマーを含有する第2の塗装膜を形成し、この有機化合物はポリヒドロキシ官能性有機化合物であり得る。しかし、この第2の塗装組成物は、陰極電着可能な架橋性樹脂および架橋剤を含まない。
【0015】
さらに、特に好ましくは、電着可能な塗装組成物は、リン酸またはその塩を含有すべきではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】EP0298150A1
【特許文献2】DE19623274A1
【特許文献3】EP3156522A1
【特許文献4】US6,235,348B1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、前述の欠点を克服し、リン酸塩処理のような化成被覆などの前処理なしでも、様々な金属基材および好ましくは多金属基材、特にアルミニウムを含む基材に腐食保護をもたらすのに適する電着可能な塗装材料を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明が解決しようとする問題は、
i.1種または複数種の陰極電着可能な樹脂(A);
ii.1種または複数種の架橋剤(B);および
iii.式(I)で表される1種または複数種のカテコール誘導体(C)
【0019】
【化1】
(式中、
R
1は、HまたはOHであり;
R
2は、
*C(O)-O、(HO)
*CH-CH
2、または
*CH
2-CH
2からなる群から選択される二価の基であり、但し、*は、ベンゼン環に結合している炭素原子を表し;
R
3は、NH
2、(H
3N
+)X
-、NHR
4、(
+NH
2R
4)X
-、またはR
4からなる群から選択される一価の基であり、ここで、Xは、有機酸または無機酸のアニオンであり、R
4は、1~6個の炭素原子を有する直鎖状または分岐状アルキル基である)
を含む、電着可能な塗装材料を提供することによって解決された。
【0020】
本発明のさらなる一目的は、
a.金属基材を、本発明の電着可能な塗装材料が入っている電着槽に浸漬させる工程;
b.基材を陰極としてスイッチングする工程;
c.電着可能な塗装材料を基材に堆積させて、塗装層を形成する工程;
d.塗装済み基材を噴霧洗浄または浸漬洗浄する工程;ならびに
e.このようにして形成した塗装層を乾燥および硬化させる工程
を含む、金属基材を塗装する方法である。
【0021】
本発明のさらに別の一目的は、式(I)で表される1種または複数種のカテコール誘導体(C)
【化2】
(式中、
R
1は、HまたはOHであり;
R
2は、
*C(O)-O、(HO)
*CH-CH
2、または
*CH
2-CH
2からなる群から選択される二価の基であり、但し、*は、ベンゼン環に結合している炭素原子を表し;
R
3は、NH
2、(H
3N
+)X
-、NHR
4、(
+NH
2R
4)X
-、またはR
4からなる群から選択される一価の基であり、ここで、Xは、有機酸または無機酸のアニオンであり、R
4は、1~6個の炭素原子を有する直鎖状または分岐状アルキル基である)
を電着塗装材料における腐食防止剤として使用する方法である。
【0022】
本発明のさらなる一目的は、本発明の方法に従って得られる塗料および塗装された基材である。
【0023】
本発明のさらなる目的は、金属基材上の第1の塗装層が本発明の方法に従って形成される、多層塗装された金属基材である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
電着可能な塗装組成物
本発明の電着可能な塗装組成物は、少なくとも1種の陰極電着可能な樹脂(A)、架橋剤(B)、および式(I)のカテコール誘導体(C)を含む。それぞれの成分およびさらなる構成成分をより詳細に以下に説明する。電着プロセス中のpH値の変化は基材陰極における水と電子との反応を強制的に伴い、したがって、水酸化物イオンおよび水素が生成されるため、電着可能な塗装組成物は、本質的に水性塗装組成物(すなわち、水系塗装組成物)である。
【0025】
本発明の電着可能な塗装組成物は少なくとも1種の陰極電着可能な樹脂(A)を含むことから、電着可能な塗装組成物はいわゆる陰極電着可能な塗装組成物であり、塗装プロセスはいわゆる陰極電着塗装プロセスである。
【0026】
また、陰極電着可能な樹脂(A)と架橋剤(B)との間に早期硬化が起こらないことも電着プロセスに固有のものである。したがって、このような組成物は、40℃までの温度など、典型的な塗装槽温度では硬化しないが、例えば≧80℃、より好ましくは≧110℃、非常に好ましくは≧130℃、特に好ましくは≧140℃、例えば、90℃~300℃、好ましくは100~250℃、より好ましくは125~250℃、最も好ましくは150~200℃などのより高温でのみ硬化する。
【0027】
陰極電着可能な樹脂(A)
電着塗装材料は、一般に、架橋剤(B)と反応する官能基を含む陰極電着可能な樹脂(A)を含む。架橋剤と反応する官能基は、好ましくはヒドロキシル基である。したがって、陰極電着可能な樹脂(A)は、好ましくは、ヒドロキシル基を含有する陰極電着可能な樹脂(A)である。
【0028】
このような樹脂には、種々なものが知られており、限定するものではないが、エポキシ-アミン樹脂、ポリエステル、ポリウレタン、およびポリアクリレート樹脂などのビニル樹脂、およびポリブタジエン樹脂が挙げられる。自動車用途を含めた多くの電着塗装用途は、典型的には、陰極電着可能である、すなわち、プロトン化された塩基性基(例えば、第一級、第二級、もしくは第三級アミン基)または第四級基(例えば、アンモニウム基)を有する電着可能な樹脂を使用する。陰極電着塗装プロセスでは、塗装される物品は陰極である。
【0029】
エポキシ-アミン系の電着可能な樹脂
好ましい一実施形態では、樹脂は、アミン基を有するエポキシ樹脂である。アミノ-エポキシ樹脂(エポキシ-アミン樹脂とも呼ばれる)は、1種または複数種の多官能性、好ましくは二官能性の延長剤化合物および1種または複数種のアミン化合物と反応させることができる、複数のエポキシド基を有する樹脂から製造することができる。エポキシ-アミン樹脂は、アミン基の他にヒドロキシル基も含む。ヒドロキシル基は、典型的には、アミン化合物と、複数のエポキシド基を有する樹脂のエポキシド基とのエポキシ開環反応によって形成される。ヒドロキシル基は、架橋剤(B)と反応する官能基として機能する。
【0030】
複数のエポキシ基を有する樹脂の非限定的な例として、多価フェノールのジグリシジルエーテルなどのジグリシジル芳香族化合物、例えば、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)-プロパン、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン、ジヒドロキシアセトフェノン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニレン)エタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)イソブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-tert-ブチルフェニル)プロパン、1,4-ビス(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン、2-メチル-1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス-(2-ヒドロキシナフチル)メタン、1,5-ジヒドロキシ-3-ナフタレン、および他のジヒドロキシナフチレンなど、カテコール、レゾルシノール、ならびに同類のもの、ビスフェノールAのジグリシジルエーテルおよびビスフェノールA系樹脂が挙げられる。また、脂肪族ジオールのジグリシジルエーテルも適切であり、それには、1,4-ブタンジオール、シクロヘキサンジメタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリ(テトラヒドロフラン)、1,3-プロパンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンなどのジグリシジルエーテルが挙げられる。
【0031】
ジカルボン酸のジグリシジルエステルもポリエポキシドとして使用することができる。化合物の具体例としては、シュウ酸、シクロヘキサン二酢酸、シクロヘキサンジカルボン酸、コハク酸、グルタル酸、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などのジグリシジルエステルが挙げられる。
【0032】
ポリグリシジル反応物は、好ましくは少量でジエポキシド反応物と組み合わせて使用することができる。
【0033】
ノボラックエポキシは、ポリエポキシド官能性反応物として使用することができる。ノボラックエポキシ樹脂は、エポキシフェノールノボラック樹脂またはエポキシクレゾールノボラック樹脂から選択することができる。
【0034】
他の適切な高級官能性ポリエポキシドは、トリオールおよびより高級なポリオールのグリシジルエーテルおよびエステル、例えば、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、2,6-ビス(ヒドロキシメチル)-p-クレゾール、およびグリセロールのトリグリシジルエーテル;トリカルボン酸またはポリカルボン酸などである。
【0035】
さらに、ポリエポキシドとして有用なのは、エポキシ化アルケン、例えばシクロヘキセンオキシドなど、ならびにエポキシ化脂肪酸および脂肪酸誘導体、例えばエポキシ化ダイズ油などである。
【0036】
他の有用なポリエポキシドとしては、限定するものではないが、ポリエポキシドポリマー、例えば、アクリル、ポリエステル、ポリエーテル、およびエポキシの樹脂およびポリマーなど、ならびにエポキシ変性ポリブタジエン、ポリイソプレン、アクリロブタジエンニトリルコポリマー、または複数のエポキシド基を有する他のエポキシ変性ゴムベースのポリマーが挙げられる。
【0037】
また、膜特性を向上させるために、過剰当量のエポキシド基を、ポリオール、ポリアミン、またはポリカルボン酸などの変性材料と反応させることによってエポキシ樹脂を延長させることも有利である可能性がある。適切な延長剤化合物の非限定的な例としては、ポリカルボン酸、ポリオール、ポリフェノール、および2個以上のアミノ水素を有するアミン、特に、ジカルボン酸、ジオール、ジフェノール、およびジアミンが挙げられる。適切な延長剤の非限定的な例としては、ジフェノール、ジオール、および二酸、ポリカプロラクトンジオール、およびエトキシ化ビスフェノールA樹脂、例えば、BASF Corporationから商標MACOL(登録商標)で入手可能なものなどが挙げられる。他の適切な延長剤としては、限定するものではないが、カルボキシまたはアミン官能性のアクリル、ポリエステル、ポリエーテル、およびエポキシの樹脂およびポリマーが挙げられる。さらに別の適切な延長剤としては、限定するものではないが、ポリアミン類、例えば、ジアミン類、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジメチルアミノプロピルアミン、ジメチルアミノブチルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノブチルアミン、ジプロピルアミンなど、およびピペリジン類、例えば、1-(2-アミノエチル)ピペラジンなど、ポリアルキレンポリアミン類、例えば、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、トリプロピレンテトラミン、テトラプロピレンペンタミン、ペンタプロピレンヘキサミン、N,N’-ビス(3-アミノプロピル)エチレンジアミン、N-(2-ヒドロキシエチル)プロパン-1,3-ジアミンなど、およびポリオキシアルキレンアミン類、例えば、BASF AGから商標POLYAMIN(登録商標)で入手可能なものまたはHuntsmanから商標JEFFAMINE(登録商標)で入手可能なものなどが挙げられる。ポリエポキシドと延長剤との反応の生成物は、過剰当量のポリエポキシドが反応した場合にはエポキシド官能性となり、または過剰当量の延長剤が使用された場合には延長剤の官能性を有することになる。任意に、単官能性反応物を、ポリエポキシド樹脂および延長剤と反応させて、またはポリエポキシドとの反応後に延長剤と反応させて、エポキシ樹脂を製造してもよい。適切な単官能性反応物の非限定的な例としては、フェノール、アルキルフェノール類、例えば、ノニルフェノールおよびドデシルフェノールなど、他の単官能性エポキシド反応性化合物、例えば、ジメチルエタノールアミンなど、およびモノエポキシド類、例えば、フェノールのグリシジルエーテル、ノニルフェノールのグリシジルエーテル、またはクレゾールのグリシジルエーテルなど、および二量体脂肪酸が挙げられる。
【0038】
ポリエポキシド樹脂と延長剤および任意の単官能性反応物との反応、ならびに樹脂のエポキシド基と三座アミン配位子を有する化合物の脂肪族アミン基との反応に有用な触媒としては、オキシラン環を活性化する任意のもの、例えば、第三級アミンまたは第四級アンモニウム塩(例えば、ベンジルジメチルアミン、ジメチルアミノシクロヘキサン、トリエチルアミン、N-メチルイミダゾール、テトラメチルアンモニウムブロミド、およびテトラブチルアンモニウムヒドロキシド)、スズおよび/またはリン錯塩(例えば、(CH3)3SnI、(CH3)4PI、トリフェニルホスフィン、エチルトリフェニルホスホニウムヨージド、テトラブチルホスホニウムヨージド)などが挙げられる。いくつかの反応物では第三級アミン触媒が好ましい可能性があることが当技術分野で知られている。反応は、溶媒中または溶媒なしで約100℃~約350℃、好ましくは約160℃~約250℃の温度で実施することができる。適切な溶媒としては、限定するものではないが、不活性有機溶媒、例えば、メチルイソブチルケトンおよびメチルアミルケトンをはじめとするケトンなど、芳香族溶媒、例えば、トルエン、キシレン、Aromatic100、およびAromatic150など、ならびにエステル、例えば、酢酸ブチル、酢酸n-プロピル、酢酸ヘキシルなどが挙げられる。
【0039】
アミノ基は、ポリフェノールのポリグリシジルエーテルをアミンまたはポリアミンと反応させることによって、例えば、ポリエポキシド樹脂を、第三級アミン基を有する延長剤と反応させることによって、またはアミン基を有する単官能性反応物と反応させることによって組み込むことができる。使用することができるアミン基を有する延長剤および単官能性反応物の適切な非限定的な例としては、ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ジブタノールアミン、ジイソブタノールアミン、ジグリコールアミン、メチルエタノールアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ジメチルアミノエチルアミン、N-アミノエチルピペラジン、アミノプロピルモルホリン、テトラメチルジプロピレントリアミン、メチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、ジブチルアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジメチルアミノブチルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノブチルアミン、ジプロピルアミン、メチルブチルアミン、メチルエタノールアミン、アミノエチルエタノールアミン、アミノプロピルモノメチルエタノールアミン、ポリオキシアルキレンアミン、およびケチミンを形成することによって保護されている第一級アミン基を有する化合物が挙げられる。第四級アンモニウム基を組み込むことができ、例えば、第三級アミンを酸で塩類化し、次いで、水素を、例えば、エポキシド基を有する化合物と反応させて、アンモニウム基を生成させることによって、第三級アミンから形成される。
【0040】
いくつかの実施形態では、エポキシ樹脂上のエポキシド基は、第二級アミン基および少なくとも1種の潜在的な第一級アミンを含む化合物と反応する。潜在的な第一級アミン基は、好ましくはケチミン基である。樹脂を乳化すると、第一級アミンが再生成される。
【0041】
エポキシ変性ノボラックは、結合剤中の樹脂として使用することができる。エポキシ-ノボラック樹脂は、エポキシ樹脂について前述したのと同じ方法でキャッピングすることができる。
【0042】
本発明における樹脂として、ポリブタジエン、ポリイソプレン、または他のエポキシ変性ゴムベースのポリマーを使用することができる。エポキシゴムは、塩化可能なアミン基を含む化合物でキャッピングすることができる。
【0043】
他の電着可能な樹脂
カチオン性のポリウレタンおよびポリエステルも、陰極電着可能な樹脂(A)として使用することができる。このような材料は、例えば、アミノアルコールで末端キャッピングすることによって製造することができ、または、ポリウレタンの場合には、前述の塩化可能なアミン基を含む同じ化合物も有用であり得る。カチオン性ポリウレタンおよびカチオン性ポリエステルは、好ましくは、架橋剤(B)と反応する官能基としてヒドロキシル基を含む。
【0044】
カチオン性アクリル樹脂も使用することができる。アクリルポリマーは、N’-ジメチルアミノエチルメタクリレート、tert-ブチルアミノエチルメタクリレート、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、ビニルピロリジン、または他のアミノモノマーなどのアミノ含有モノマーを組み込むことによって陰極堆積可能にすることができる。あるいは、エポキシ基は、重合反応にエポキシ官能性モノマーを含めることによって組み込むことができる。このようなエポキシ官能性アクリルポリマーは、エポキシ樹脂について前述した方法に従って、エポキシ基をアミンと反応させることによって陰極にすることができる。重合はまた、ヒドロキシル官能性モノマーを含んでいてもよい。有用なヒドロキシル官能性エチレン性不飽和モノマーとしては、限定するものではないが、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、メタクリル酸とスチレンオキシドとの反応生成物などが挙げられる。好ましいヒドロキシルモノマーは、化合物のヒドロキシルを有するアルコール部分が直鎖状または分岐状ヒドロキシアルキル部分であるメタクリル酸エステルまたはアクリル酸エステルである。
【0045】
ヒドロキシル基を有するモノマーおよび塩形成可能な基を有するモノマー(カチオン性基の場合はアミン、またはアニオン性基の場合は酸もしくは無水物)は、1種または複数種の他のエチレン性不飽和モノマーと重合することができる。このような共重合用モノマーは、当技術分野で既知である。例示的な例としては、限定するものではないが、アクリル酸またはメタクリル酸のアルキルエステル、例えば、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、メタクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、メタクリル酸イソプロピル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル、メタクリル酸イソブチル、アクリル酸t-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、アクリル酸アミル、メタクリル酸アミル、アクリル酸イソアミル、メタクリル酸イソアミル、アクリル酸ヘキシル、メタクリル酸ヘキシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸デシル、メタクリル酸デシル、アクリル酸イソデシル、メタクリル酸イソデシル、アクリル酸ドデシル、メタクリル酸ドデシル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸置換シクロヘキシル、メタクリル酸置換シクロヘキシル、アクリル酸3,5,5-トリメチルヘキシル、メタクリル酸3,5,5-トリメチルヘキシル、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、ビニル酢酸、およびイタコン酸の対応エステルなど;ならびにビニルモノマー、例えば、スチレン、t-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエンなどが挙げられる。他の有用な重合性コモノマーとしては、例えば、アクリル酸アルコキシエチルおよびメタクリル酸アルコキシエチル、アクリル酸アクリロキシおよびメタクリル酸アクリロキシ、ならびにアクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクロレイン、およびメタクロレインなどの化合物が挙げられる。通常、これらの組合せが使用される。
【0046】
樹脂は、塩形成可能な化合物の存在下で水中で乳化することができる。樹脂がアミン基などの塩基性基を有する場合、樹脂は酸で塩化される。通常、主樹脂および架橋剤は、樹脂を水中に分散させる前に一緒にブレンドされる。潜在的カチオン性基に適する中和剤の例は、有機酸および無機酸、例えば、硫酸、リン酸、ギ酸、酢酸、乳酸、ジメチロールプロピオン酸、クエン酸、またはスルホン酸、例えば、アミドスルホン酸、およびメタンスルホン酸などのアルカンスルホン酸などであり、例えば、より特に、ギ酸、酢酸、または乳酸である。酸は、主樹脂のアミン基を十分に中和して樹脂に水分散性を付与するのに十分な量で使用される。樹脂は完全に中和されていてもよいが、必要な水分散性を付与するには、通常、部分的な中和で十分である。「部分的中和」とは、樹脂上の塩形成可能な基のすべてよりは少ないが少なくとも1個が中和されていることを意味する。樹脂が少なくとも部分的に中和されていると言うことは、樹脂上の塩形成可能な基の少なくとも1個が中和されており、そのような基のすべてまでが中和されていてもよいことを意味する。各樹脂に必要な水分散性を与えるために必要とされる中和の程度は、その化学組成、分子量、および他のそのような要因に依存し、当業者なら簡単な実験を通じて容易に決定することができる。
【0047】
架橋剤(B)
電着可能な塗装材料は、少なくとも1種の陰極電着可能な樹脂(A)の他に、樹脂(A)の反応性官能基との架橋反応を可能にする少なくとも1種の架橋剤(B)を含む。陰極電着可能な樹脂(A)の反応性官能基が最も好ましくはヒドロキシル基であるため、架橋剤(B)は、好ましくは、ヒドロキシル基と反応する基、例えば最も好ましくはブロック化ポリイソシアネートなどを含有する。
【0048】
フェノール樹脂、多官能性マンニッヒ塩基、メラミン樹脂およびベンゾグアナミン樹脂などのアミノプラスト樹脂、ならびに特に好ましくはブロック化ポリイソシアネートなど、当業者に既知の慣習的なすべての架橋剤(B)を使用することができる。
【0049】
利用することができるブロック化ポリイソシアネートは、例えば、ジイソシアネートなどの任意のポリイソシアネートであり、ここでは、イソシアネート基は化合物と反応しており、したがって、形成されたブロック化ポリイソシアネートは、特にヒドロキシルおよびアミノ基、例えば第一級および/または第二級アミノ基などに対して、室温、すなわち23℃の温度では安定であるが、例えば≧80℃、より好ましくは≧110℃、非常に好ましくは≧130℃、特に好ましくは≧140℃、または90℃~300℃、または100~250℃、より好ましくは125~250℃、非常に好ましくは150~200℃のような高温では反応する。
【0050】
ブロック化ポリイソシアネートの製造において、架橋に適している任意の望ましい有機ポリイソシアネートを使用することが可能である。使用するイソシアネートは、好ましくは、(ヘテロ)脂肪族、(ヘテロ)環状脂肪族、(ヘテロ)芳香族、または(ヘテロ)脂肪族-(ヘテロ)芳香族イソシアネートである。好ましいのは、2~36個、より特には6~15個の炭素原子を含有するジイソシアネートである。好ましい例は、1,2-エチレンジイソシアネート、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4(2,4,4)-トリメチル-1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,9-ジイソシアナト-5-メチルノナン、1,8-ジイソシアナト-2,4-ジメチルオクタン、1,12-ドデカンジイソシアネート、ω,ω’-ジイソシアナトジプロピルエーテル、シクロブテン1,3-ジイソシアネート、シクロヘキサン1,3-および1,4-ジイソシアネート、3-イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(イソホロンジイソシアネート、 IPDI)、1,4-ジイソシアナトメチル-2,3,5,6-テトラメチルシクロヘキサン、デカヒドロ-8-メチル-1,4-メタノナフタレン-2(または3),5-イレンジメチレンジイソシアネート、ヘキサヒドロ-4,7-メタノ-インダン-1(または2),5(または6)-イレンジメチレンジイソシアネート、ヘキサヒドロ-4,7-メタノインダン-1(または2),5(または6)-イレンジイソシアネート、2,4-および/または2,6-ヘキサヒドロトリレンジイソシアネート(H6-TDI)、2,4-および/または2,6-トリレンジイソシアネート(TDI)、ペルヒドロ-2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、ペルヒドロ-4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(H12MDI)、4,4’-ジイソシアナト-3,3’,5,5’-テトラメチルジシクロヘキシルメタン、4,4’-ジイソシアナト-2,2’,3,3’,5,5’,6,6’-オクタメチルジシクロヘキシルメタン、ω,ω’-ジイソシアナト-1,4-ジエチルベンゼン、1,4-ジイソシアナトメチル-2,3,5,6-テトラメチル-ベンゼン、2-メチル-1,5-ジイソシアナトペンタン(MPDI)、2-エチル-1,4-ジイソシアナトブタン、1,10-ジイソシアナトデカン、1,5-ジイソシアナトヘキサン、1,3-ジイソシアナトメチル-シクロヘキサン、1,4-ジイソシアナトメチルシクロヘキサン、2,5(2,6)-ビス(イソシアナトメチル)-ビシクロ[2.2.1]ヘプタン(NBDI)、ならびにまたこれらの化合物の任意の混合物である。
【0051】
特に好ましいのは、前述のジイソシアネートの三量体またはより高級なオリゴマーなど、より高級なイソシアネート官能性のポリイソシアネートである。好ましくは、ポリイソシアネートは、3個以上のジイソシアネートの反応によって得られ、イソシアヌレート基、イミノオキサジアジンジオン基、ウレトジオン基、ビウレット基、アロファネート基、ウレタン基、およびウレア基から選択される1種または複数種の基を含む。
【0052】
さらに、ポリイソシアネートの混合物も利用することができる。本発明の架橋剤(B)として企図する有機ポリイソシアネートはまた、例えば、ポリエーテルポリオールまたはポリエステルポリオールを含めたポリオールに由来するプレポリマーでよい。
【0053】
ブロック化ジイソシアネートまたはブロック化ポリイソシアネートの合成では、上記のジイソシアネートまたはポリイソシアネートのイソシアネート基は、ブロッキング剤と反応して、「ブロック化イソシアネート」基になる。
【0054】
ブロック化ポリイソシアネートを製造するためのブロッキング剤は、例えば、以下の通りである
i.フェノール類、ピリジノール類、チオフェノール類、およびメルカプトピリジン類、好ましくは、フェノール、クレゾール、キシレノール、ニトロフェノール、クロロフェノール、エチルフェノール、t-ブチルフェノール、ヒドロキシ安息香酸、この酸のエステル、2,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシトルエン、チオフェノール、メチルチオフェノール、およびエチルチオフェノールからなる群から選択されるもの;
ii.アルコール類およびメルカプタン類、アルコール類は、好ましくは、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、n-アミルアルコール、t-アミルアルコール、ラウリルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、メトキシメタノール、2-(ヒドロキシエトキシ)フェノール、2-(ヒドロキシプロポキシ)フェノール、グリコール酸、グリコール酸エステル、乳酸、乳酸エステル、メチロール尿素、メチロールメラミン、ジアセトンアルコール、エチレンクロロヒドリン、エチレンブロモヒドリン、1,3-ジクロロ-2-プロパノール、1,4-シクロヘキシルジメタノール、またはアセトシアノヒドリンからなる群から選択されるもの、メルカプタン類は、好ましくは、ブチルメルカプタン、ヘキシルメルカプタン、t-ブチルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタンからなる群から選択されるもの;
iii.オキシム類、好ましくは、テトラメチルシクロブタンジオンのケトキシム、メチルn-アミルケトキシム、メチルイソアミルケトキシム、メチル3-エチルヘプチルケトキシム、メチル2,4-ジメチルペンチルケトキシム、メチルエチルケトキシム、シクロヘキサノンオキシム、メチルイソプロピルケトキシム、メチルイソブチルケトキシム、ジイソブチルケトキシム、メチルt-ブチルケトキシム、ジイソプロピルケトキシム、および2,2,6,6-テトラメチルシクロヘキサンオンのケトキシムからなる群のケトキシム類;または、好ましくは、ホルムアルドキシム、アセトアルドキシムからなる群からのアルドキシム類;
iv.アミド類、環状アミド類、およびイミド類、好ましくは、ラクタム類、例えば、ε-カプロラクタム、δ-バレロラクタム、γ-ブチロラクタム、またはβ-プロピオラクタムなど;酸アミド類、例えば、アセトアニリド、アセトアニシジンアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド、アセトアミド、ステアルアミド、またはベンズアミドなど;およびイミド類、例えば、スクシンイミド、フタルイミド、またはマレイミドなど、からなる群から選択されるもの;
v.イミダゾール類およびアミジン類;
vi.ピラゾール類および1,2,4-トリアゾール類、例えば、3,5-ジメチルピラゾールおよび1,2,4-トリアゾールなど;
vii.アミン類およびイミン類、例えば、ジフェニルアミン、フェニルナフチルアミン、キシリジン、N-フェニルキシリジン、カルバゾール、アニリン、ナフチルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、ブチルフェニルアミン、およびエチレンイミンなど;
viii.イミダゾール類、例えば、イミダゾールまたは2-エチルイミダゾールなど;
ix.尿素類、例えば、尿素、チオ尿素、エチレン尿素、エチレンチオ尿素、または1,3-ジフェニル尿素など;
x.活性メチレン化合物、例えば、マロン酸ジエチルのようなマロン酸ジアルキル、およびアセト酢酸エステルなど;ならびに
xi.その他のもの、例えば、ヒドロキサム酸エステル類、例えば、ベンジルメタクリロヒドロキサメート(BMH)またはアリルメタクリロヒドロキサメートなど、およびカルバメート類、例えば、フェニルN-フェニルカルバメートまたは2-オキサゾリドンなど。
【0055】
上記のブロッキング剤のうち、オキシム類(群iii)、特にメチルエチルケトオキシム、およびピラゾール類(群vi)、特に3,5-ジメチルピラゾールが、最も好ましい。
【0056】
群xのブロッキング剤は、アルコール、特にポリオールと反応させた場合、高温での脱ブロッキング反応では反応しないが、そこに存在するエステル基のエステル交換反応では反応する。
【0057】
カテコール誘導体(C)
本発明による電着塗装材料は、式(I)で表される少なくとも1種のカテコール誘導体(C)を含む。
【0058】
【化3】
(式中、
R
1は、HまたはOHであり;
R
2は、
*C(O)-O、(HO)
*CH-CH
2、または
*CH
2-CH
2からなる群から選択される二価の基であり、但し、*は、ベンゼン環に結合している炭素原子を表し;
R
3は、NH
2、(H
3N
+)X
-、NHR
4、(
+NH
2R
4)X
-、またはR
4からなる群から選択される一価の基であり、ここで、Xは、有機酸または無機酸のアニオンであり、R
4は、1~6個の炭素原子、好ましくは2~4個、例えば、2または3個などの炭素原子を有する直鎖状または分岐状アルキル基である)
【0059】
式(I)の特許請求する化合物すべての共通構造は、以下の通りであり、
【化4】
これはカテコールの構造であり、したがって、式(I)の化合物はカテコール誘導体として示される。
【0060】
カテコール誘導体のうち、水溶性のものが、本発明の水性電着塗装材料に均一に溶解することができるので、好ましい。本文脈における水溶性とは、電着塗装材料において使用される式(I)の化合物の総量が、浴温で完全に溶解することを意味する。
【0061】
式(I)で表されるカテコール誘導体(C)のうち、プロトカテク酸エステル、例えば、没食子酸プロピルおよび3,4-ジヒドロキシ安息香酸エチルエステルなど;ならびにカテコールアミン、例えば、ドーパミンおよびイソプロテレノールおよびそれらの塩などからなる群から選択される化合物が特に好ましい。本開示の文脈では、没食子酸は、プロトカテク酸の特別な具体的実例、すなわち、5-ヒドロキシプロトカテク酸である。
【0062】
プロトカテク酸エステル誘導体では、R1=HまたはOH;R2=*C(O)-O;およびR3=R4であり、
一方、
カテコールアミンでは、R1=H;R2=(HO)*CH-CH2または*CH2-CH2;およびR3=NH2、(H3N+)X-、NHR4、または(+NH2R4)X-であり、R1、R2、R3、R4、およびXの定義は、前述の通りである。
【0063】
好ましくは、R1=HまたはOH;R2=*C(O)-Oまたは*CH2-CH2、但し、*は、ベンゼン環に結合している炭素原子を表し;R3=エチルまたはプロピルである。
【0064】
本発明の式(I)の最も好ましいカテコール誘導体(C)は、プロトカテク酸エステルである。これらのうち、R1=HまたはOH;R2=*C(O)-O;およびR3=エチルまたはプロピルである、プロトカテク酸エステルが、さらにより好ましい。
【0065】
驚くべきことに、カテコール誘導体(C)または式(I)は、少なくとも2個のヒドロキシル基およびカテコールアミンの場合にはさらに少なくとも1個の窒素結合水素原子を含有し、したがって、架橋条件下で前述の架橋剤(B)と潜在的に反応する可能性があるが、電着塗装材料の総質量に対して好ましくは200~4000ppmの濃度、さらに好ましくは250ppm~3500ppmの範囲の非常に少ない量でも本発明の電着塗装材料の腐食防止特性を著しく向上させる傾向があることが見出された。本発明において、「ppm」は、100万分の1質量部を表し、化合物の式量の量(カテコールアミンの場合、その塩酸塩の形で計算される)、および電着可能な塗装材料の総質量に基づいて計算される。式(I)で表されるカテコール誘導体(C)のより好ましい量は、電着塗装材料の総質量に対して300ppm~3000ppm、さらにより好ましくは400ppm~2800ppm、最も好ましくは500ppm~2500ppmの範囲である。
【0066】
アルミニウムベースの基材の腐食保護だけが必要な場合、上記のppm範囲が適切な範囲である。式(I)のカテコール誘導体(C)の使用が少ないと、腐食保護が低くなる可能性があり、上に開示した上限を超えて使用しても、通常、アルミニウムベースの基材にさらなる腐食保護はもたらされない。
【0067】
鋼(例えば、冷間圧延鋼)または亜鉛被覆基材(例えば、溶融亜鉛めっき鋼)などの他の基材に腐食保護が必要な場合、範囲下限を高くすることが望ましい。このような場合、電着塗装材料の総質量に対して好ましくは600~3000ppm、より好ましくは800ppm~2800ppm、さらにより好ましくは1000ppm~2500ppm、最も好ましくは1100ppm~2400ppm、例えば1200ppm~2300ppmなどの式(I)のカテコール誘導体(C)を、本発明の電着塗装材料において使用する。
【0068】
ある電着槽においてアルミニウムベースの基材および鋼(例えば、冷間圧延鋼)または亜鉛被覆基材(例えば、溶融亜鉛めっき鋼)などの他の基材の腐食保護が必要な場合、式(I)のカテコール誘導体(C)を、電着塗装材料の総質量に対して好ましくは600~3000ppm、より好ましくは800ppm~2800ppm、さらにより好ましくは1000ppm~2500ppm、最も好ましくは1100ppm~2400ppm、例えば1200ppm~2300ppmなどの量で使用することが好ましい。基材が異なる金属組成の表面領域を含む多金属基材である場合、または異なる金属基材が同じ電着塗装材料で次々に塗装される場合、前述の量は特に適切である。
【0069】
式(I)の化合物は、電着塗装材料に直接溶解させるか、または水などの水性媒体もしくは顔料ペーストに事前溶解させることができる。場合によっては、式(I)のカテコール誘導体を20~55℃の温度の水などの水性媒体に事前溶解させ、その後、それを電着槽に添加することが望ましい。
【0070】
顔料(D)および/または充填剤(D)
本発明の電着可能な塗装材料は、1種または複数種の顔料および/または充填剤(D)を含有することが好ましい。
【0071】
電着可能な塗装材料中に存在するこの種の顔料および/または充填剤(D)は、好ましくは、有機および無機の着色(color-imparting)および体質顔料から選択される。
【0072】
この少なくとも1種の顔料および/または充填剤(D)は、電着可能な塗装材料を製造するために使用され、かつ構成成分(A)および(B)を含む水溶液または分散液の一部として存在し得る。
【0073】
少なくとも1種の顔料および/または充填剤(D)は、使用されるものとは異なるさらなる水性分散液または溶液の形態で電着可能な塗装材料に組み込むことができる。この実施形態では、対応する顔料含有水性分散液または溶液は、少なくとも1種の樹脂をさらに含むことができる。
【0074】
適切な無機着色顔料(D)の例は、白色顔料、例えば、酸化亜鉛、硫化亜鉛、二酸化チタン、酸化アンチモン、またはリトポンなど;黒色顔料、例えば、カーボンブラック、鉄マンガンブラック、またはスピネルブラックなど;有彩顔料、例えば、コバルトグリーンもしくはウルトラマリングリーン、コバルトブルー、ウルトラマリンブルーもしくはマンガンブルー、ウルトラマリンバイオレットもしくはコバルトバイオレットおよびマンガンバイオレット、ベンガラ、モリブデンレッド、またはウルトラマリンレッドなど;茶色酸化鉄、混合茶色、スピネル相およびコランダム相;あるいは黄色酸化鉄、ニッケルチタンイエロー、またはバナジン酸ビスマスである。適切な有機着色顔料(D)の例は、モノアゾ顔料、ジスアゾ顔料、アントラキノン顔料、ベンズイミダゾール顔料、キナクリドン顔料、キノフタロン顔料、ジケトピロロピロール顔料、ジオキサジン顔料、インダントロン顔料、イソインドリン顔料、イソインドリノン顔料、アゾメチン顔料、チオインジゴ顔料、金属錯体顔料、ペリノン顔料、ペリレン顔料、フタロシアニン顔料、またはアニリンブラックである。適切な体質顔料(D)または充填剤(D)の例は、チョーク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、タルクもしくはカオリンなどのケイ酸塩、シリカ、水酸化アルミニウムもしくは水酸化マグネシウムなどの酸化物、または織物繊維、セルロース繊維、ポリエチレン繊維、もしくはポリマー粉末などの有機充填剤であり;さらに詳細には、Roempp Lexikon Lacke und Druckfarben、Georg Thieme Verlag、1998年、250頁以降の「Fillers」を参照されたい。
【0075】
電着可能な塗装材料の顔料含有量は、顔料および/または充填剤(D)の性質に応じて変化する可能性がある。その量は、各々の場合において、電着可能な塗装材料の総質量に対して、好ましくは0.1~30質量%の範囲または0.5~20質量%の範囲、より好ましくは1.0~15質量%の範囲、非常に好ましくは1.5~10質量%の範囲、より特には2.0~5.0質量%の範囲、または2.0~4.0質量%の範囲、または2.0~3.5質量%の範囲である。
【0076】
水および有機溶媒(E)
電着可能な塗装材料は、水性であり、これは水が液体希釈剤として含まれることを意味する。
【0077】
用語「水性」は、電着可能な塗装材料と共に使用する場合、好ましくは、液体希釈剤の主成分として、すなわち、液体溶媒および/または分散媒体として水を含む電着可能な塗装材料を指す。
【0078】
しかし、任意に、電着可能な塗装材料は、少なくとも1種の有機溶媒をごく少量含むことができる。そのような有機溶媒の例としては、複素環式、脂肪族、もしくは芳香族炭化水素、一価もしくは多価アルコール、特にメタノールおよび/もしくはエタノール、エーテル、エステル、ケトン、およびアミド、例えば、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、ジメチルホルムアミドなど、トルエン、キシレン、ブタノール、エチルグリコールおよびブチルグリコール、さらにはそれらのアセテート、ブチルジグリコール、ジエチレングリコールジメチルエーテル、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトン、イソホロン、またはこれらの混合物が挙げられる。これらの有機溶媒の割合は、各々の場合において、電着可能な塗装材料中に存在する液体希釈剤-すなわち、液体溶媒および/または分散媒体-の総割合に対して、好ましくは20.0質量%以下、より好ましくは15.0質量%以下、非常に好ましくは10.0質量%以下、より特には5.0質量%以下または4.0質量%以下または3.0質量%以下、さらにより好ましくは2.5質量%以下または2.0質量%以下または1.5質量%以下、最も好ましくは1.0質量%以下または0.5質量%以下である。
【0079】
本発明の電着可能な塗装材料に含まれる全構成成分の質量%での割合、言い換えると、(A)、(B)、(C)、(D)、(E)、および(F)の割合は、好ましくは、電着可能な塗装材料の総質量に対して合計で100質量%になる。
【0080】
電着可能な塗装材料は、好ましくは、各々の場合において、電着可能な塗装材料の総質量に対して5~45質量%の範囲、より好ましくは7.5~35質量%の範囲、非常に好ましくは10~30質量%、さらにより好ましくは12.5~25質量%の範囲の固体含有量を有する。固体含有量を決定する方法は、当業者に既知である。固体含有量は、好ましくは、DIN EN ISO 3251(日付:2008年6月1日)に従って塗装組成物を180℃の温度で30分間乾燥させることによって決定される。
【0081】
さらなる成分(F)および/または添加剤(F)
所望の用途に応じて、電着可能な塗装材料は、1種または複数種の通常使用される添加剤(F)を含むことができる。これらの添加剤(F)は、好ましくは、エッジ保護剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、界面活性剤などの表面活性化合物、流動制御補助剤、可溶化剤、消泡剤、レオロジー補助剤、酸化防止剤、安定剤、好ましくは熱安定剤、加工安定剤、ならびにUVおよび/または光安定剤、触媒、充填剤、ワックス、柔軟剤、可塑剤、ならびに上記添加剤の混合物を含むまたはからなる群から選択される。添加剤含有量は、集中的な(intensive)使用に応じて非常に大きく異なる可能性がある。量は、電着可能な塗装材料の総質量に対して好ましくは0.1~20.0質量%、より好ましくは0.1~15.0質量%、非常に好ましくは0.1~10.0質量%、特に好ましくは0.1~5.0質量%、より特には0.1~2.5質量%である。
【0082】
電着可能な塗装材料のpH値
本発明の電着可能な塗装材料は、好ましくは、4.0~6.5の範囲のpHを有する。本発明に従って使用される電着可能な塗装材料は、より好ましくは4.5~6.5の範囲、より特には5.0~6.0の範囲または5.2~5.8の範囲、最も好ましくは5.3~5.5の範囲のpHを有する。水性組成物のpHレベルを調整する方法は当業者に既知である。所望のpHは、好ましくは、少なくとも1種の酸、より好ましくは少なくとも1種の無機酸および/または少なくとも1種の有機酸を添加することによって設定される。適切な無機酸の例は、硫酸および/または硝酸であり、それほど好ましくないのはリン酸である。適切な有機酸の例は、プロピオン酸、乳酸、酢酸、および/またはギ酸である。
【0083】
本発明の方法
以下の工程を含む、金属基材を塗装する方法
a.金属基材を、本明細書で特許請求する電着可能な塗装材料が入っている電着槽に浸漬させる工程;
b.基材を陰極としてスイッチングする工程;
c.電着可能な塗装材料を基材に堆積させて、塗装層を形成する工程;ならびに
d.塗装済み基材を噴霧洗浄または浸漬洗浄する工程;ならびに
e.このようにして形成した塗装層を乾燥および硬化させる工程。
【0084】
したがって、金属基材を塗装する上記の方法は、陰極電着塗装プロセスである。
【0085】
これらの工程および任意の洗浄または前処理工程を、以下においてより詳細に説明する。
【0086】
工程aを実行する前に、金属基材は、好ましくは、洗浄および/または脱脂される。用語「金属基材」は、本明細書で使用する場合、二次元または三次元の形態を有する任意の種類の金属製導電性基材に用いる。好ましい基材は、冷間圧延鋼などの鋼;溶融亜鉛めっき鋼、ここでは、鋼基材を亜鉛めっきするために使用される溶融めっき組成物が好ましくはZnAl合金またはZnAlMg合金などの亜鉛を含有している;ならびにアルミニウムおよびその合金である。
【0087】
洗浄および/または脱脂操作は、好ましくは、洗浄および脱脂のうちの少なくとも一方を含む。洗浄および/または脱脂に使用する溶液は、好ましくは水性であり、酸性、アルカリ性、または中性であり得る。これらはさらに、界面活性剤および/またはキレート剤を含有することができる。好ましくは、脱脂は、アルカリ性水溶液で行われる。
【0088】
洗浄および/または脱脂工程を実行する場合、このように処理した金属基材は、好ましくは、工程aを実行する前に水ですすぐ。
【0089】
工程a
電着槽には、本発明による電着可能な塗装材料が入っている。好ましくは、本発明による電着可能な塗装材料の温度は、25~40℃の範囲であり、より好ましくは32±3℃である。
【0090】
工程b
この工程では、金属基材を陰極としてスイッチングする。好ましい電圧は、200~250Vである。
【0091】
工程c
好ましくは30秒~300秒、より好ましくは60秒~200秒、最も好ましくは90秒~150秒、例えば110秒~130秒などの期間中に電着が行われ、これにより塗装層が形成される。好ましい乾燥層の厚さは、10~40μm、より好ましくは15~30μm、最も好ましくは18~25μmである。
【0092】
工程d
塗装材料を堆積させた後、工程cで形成した塗装層を、好ましくは水を用いて、噴霧洗浄または浸漬洗浄する。
【0093】
工程e
その後、塗装層を乾燥させ、硬化させる。硬化温度および時間は、電着可能な樹脂(A)および架橋剤(B)、ならびに架橋のために電着可能な塗装材料において使用することができる任意の触媒に依存する。好ましくは、硬化温度は、120~200℃、より好ましくは140~190℃、最も好ましくは150~180℃の範囲である。塗布済み基材のほぼ室温(23℃)から硬化温度までの加熱段階を含む硬化時間は、好ましくは15~60分、より好ましくは20~45、例えば25~35分などの範囲である。加熱段階は変化する可能性があるが、適切には約10分である。
【0094】
本発明の使用する方法
本発明の使用する方法は、式(I)で表される1種または複数種の化合物
【化5】
(式中、
R
1は、HまたはOHであり;
R
2は、
*C(O)-O、(HO)
*CH-CH
2、または
*CH
2-CH
2からなる群から選択される二価の基であり、但し、*は、ベンゼン環に結合している炭素原子を表し;
R
3は、NH
2、(H
3N
+)X
-、NHR
4、(
+NH
2R
4)X
-、またはR
4からなる群から選択される一価の基であり、ここで、Xは、有機酸または無機酸のアニオンであり、R
4は、1~6個の炭素原子、好ましくは2~4個、例えば、2または3個などの炭素原子を有する直鎖状または分岐状アルキル基である)
を電着塗装材料における腐食防止剤として使用する方法である。
【0095】
本明細書に開示の式(I)による化合物の好ましい諸実施形態のいずれもが、本発明の使用する方法における好ましい諸実施形態でもある。
【0096】
本発明の使用する方法が指す電着塗装材料は、好ましくは、本発明の電着可能な塗装材料について上記に開示した成分を含む。
【0097】
特に好ましくは、式(I)で表される1種または複数種の化合物は、電着塗装材料の総質量に対して200~4000ppm、より好ましくは250~3500ppm、最も好ましくは300~3000ppmの総量で電着塗装材料において使用される。
【0098】
「カテコール誘導体(C)」という見出しの下で様々なタイプの基材について上述した好ましい範囲はまた、本発明の使用する方法に適用される。
【0099】
本発明の塗装済み基材
本発明の塗装済み基材は、本発明による方法で得られた塗装済み金属基材である。塗装済み基材は、多層塗装された基材である可能性があり、ここで、好ましくは、金属基材上の第1の塗装層は、本発明の方法に従って形成される。
【0100】
そのような好ましい第1の塗装層の後に、以下の順序で、好ましくは1種または複数種の充填剤層、続いて、好ましくは1種または複数種のベースコート層、さらに続いて、好ましくは1種または複数種のクリアコート層を塗布することができる。充填剤層および/またはベースコート層および/またはクリアコート層は、ウェット-オン-ウェット-オン-ウェットで塗布することができる。しかし、ベースコート層および/もしくはクリアコート層をウェット-オン-ウェットで塗布する前に、最初に充填剤層を硬化させることも可能であり、または充填剤層および/もしくはベースコート層および/もしくはクリアコート層をそれぞれ独立に硬化させることも可能である。
【0101】
好ましい金属基材は、例えば、自動車ボディおよびその部品である。部品は、1種の金属もしくは合金から作製された単一の部品でもよく、または1種もしくは複数種の金属および/もしくは合金から作製された組み立て済みの部品でもよい。
【0102】
さらに好ましい金属基材は、冷間圧延鋼、電気亜鉛めっきおよび溶融亜鉛めっき鋼、アルミニウム(好ましくは6000シリーズ)、亜鉛-マグネシウム-アルミニウム亜鉛めっき鋼、ならびにGalvalume(登録商標)(BIEC International,Inc.)などのアルミニウム-ケイ素-亜鉛めっき鋼である。
【0103】
以下の実施例は、本発明を明らかにするのに役立つが、いかなる制限を課すものとして解釈されるべきではない。
【0104】
別段の注記のない限り、以下のパーセントでの数値は、いずれの場合でも質量パーセント値である。
【実施例】
【0105】
腐食試験手順
中性塩水噴霧試験(NSS試験)
NSS試験は、基材上の塗装物の耐食性を判定するために使用される。NSS試験を、DIN EN ISO 9227 NSS(日付:2012年9月1日)に従って、本発明の塗装組成物または比較塗装組成物で塗装した導電性基材に行う。この試験では、分析下の試料は、6.5~7.2の範囲に制御されたpHにおいて35℃の温度で1008時間にわたって5%強度の食塩水を連続的に噴霧するチャンバ内にある。分析下の試料にミストが堆積して、試料が塩水の腐食膜で覆われる。DIN EN ISO 9227 NSSのNSS試験の前に分析下の試料上の塗装物にブレード切開(Scratch Master 1mmブレード、75μm)で基材まで刻み目を入れた場合、DIN EN ISO 9227 NSS試験中に基材が刻み目線に沿って腐食するため、試料を膜下腐食(浸食)レベルについてDIN EN ISO 4628-8(日付:2013年3月1日)で調査することができる。この調査は、NSS試験を1008時間実施した後に行う。腐食過程が進行した結果として、塗装物は試験中に多かれ少なかれ浸食される。浸食の程度[単位mm]は、腐食に対する塗装物の耐性の指標である。値は3枚のパネルの平均値である。
【0106】
VDA新気候変動試験(VDA新試験;VDA233-102試験)
VDA新試験は、基材上の塗装物の耐食性を決定するために使用される。VDA新試験を、DIN55635(2019年5月)に従って、本発明の塗装組成物または比較塗装組成物で塗装した導電性基材に行う。ここでの交互気候試験は6サイクルで行う。ここでの1サイクルは、合計168時間(1週間)からなり、サイクル時間のうちの24時間に相当する3つの段階を含む。3つの段階は、以下のように特徴付けられる。
a)塩水噴霧段階(A):3時間の塩水噴霧ミスト(1%NaCl溶液;35℃;100%相対湿度)
b)観察段階(B):3時間、25℃、70%相対湿度
c)低温段階(C):1時間、-2.5℃;6時間、-15℃、および1時間、-2℃;相対湿度の調節なし
【0107】
試験サイクルは、以下の順序において3つの段階の組合せで形成されている:
B A C A B B A
調査下の試料上の各々の塗装物にブレード切開で基材まで刻み目を入れ、その後、交互気候試験を実施すると、これにより、交互気候試験の実行中に基材が刻み目線に沿って腐食するため、試料を膜下腐食(浸食)レベルについてDIN EN ISO 4628-8(日付:2013年3月1日)で調査できるようになる。腐食過程が進行した結果として、塗装物は試験中に多かれ少なかれ浸食される。浸食の程度[単位mm]は、腐食に対する塗装物の耐性の指標である。以下の結果に記載している平均浸食レベルは、評価した3~5枚の異なるパネルの個々の値の平均値を表し、次いで、パネルの個々の値は、パネル上の11箇所の測定点の浸食レベルの平均値である。
【0108】
VDA気候変動試験(VDA試験)
VDA試験は、基材上の塗装物の耐食性を決定するために使用される。VDA試験を、DIN EN ISO 11997-1(2018年1月、サイクルB)に従って、本発明の塗装組成物または比較塗装組成物で塗装した導電性基材に行う。ここでの交互気候試験は10サイクルで行う。ここでの1サイクルは、合計168時間(1週間)からなり、以下のことを含む
a)DIN EN ISO 9227 NSS(日付:2017年6月)に準拠する24時間の塩水噴霧ミスト試験、
b)続いて、2005年9月のDIN EN ISO 6270-2、AHT方法に準拠する加熱を含む8時間の保管、
c)続いて、2005年9月のDIN EN ISO 6270-2、AHT方法に準拠する冷却を含む16時間の保管、
d)b)およびc)を3回繰り返す(したがって、合計72時間)、ならびに
e)2005年9月のDIN EN ISO 6270-2、AHT方法に準拠する通気された人工気候室での冷却を含む48時間の保管。
【0109】
調査下の試料上の各々の塗装物にブレード切開で基材まで刻み目を入れ、その後、交互気候試験を実施すると、これにより、交互気候試験の実行中に基材が刻み目線に沿って腐食するため、試料を膜下腐食(浸食)レベルについてDIN EN ISO 4628-8(日付:2013年3月1日)で調査できるようになる。腐食過程が進行した結果として、塗装物は試験中に多かれ少なかれ浸食される。浸食の程度[単位mm]は、腐食に対する塗装物の耐性の指標である。以下の結果に記載している平均浸食レベルは、評価した3~5枚の異なるパネルの個々の値の平均値を表し、次いで、パネルの個々の値は、パネル上の11箇所の測定点の浸食レベルの平均値である。
【0110】
気候変動試験PV1210(PV1210試験)
この気候変動試験は、基材上の塗装物の耐食性を決定するために使用される。気候変動試験は、いわゆる30サイクルで行う。PV1210試験の前に、試験する試験片の塗装物にナイフ切開(Scratch Master 1mmブレード、75μm)で基材まで刻み目を入れ、その後、気候変動試験を行うと、気候変動試験中に基材が刻み目線に沿って腐食するため、DIN EN ISO 4628-8(03-2013)に従って試験片を膜下腐食レベルについて試験することができる。腐食が進行すると、塗装物は試験中に多かれ少なかれ浸食される。浸食の程度[単位mm]は、塗装物の耐性の指標である。値は3枚のパネルの平均値である。
【0111】
この交互気候試験PV1210は、基材上の塗装物の耐食性を決定するために使用される。溶融亜鉛めっき鋼(HDG)で構成される、対応する塗装済み導電性基材について、交互気候試験を行う。ここでの交互気候試験は、30サイクルで行う。ここでの1サイクル(24時間)は、DIN EN ISO 9227 NSS(2017年6月)に準拠する4時間の塩水噴霧ミスト試験、2005年9月のDIN EN ISO 6270-2(AHT方法)に準拠する冷却を含む4時間の保管、ならびに2005年9月のDIN EN ISO 6270-2、AHT方法に準拠する40±3℃および大気湿度100%においての加熱を含む16時間の保管からなる。5サイクルごとに、2005年9月のDIN EN ISO 6270-2、AHT方法に準拠する冷却を含む48時間の休止がある。したがって、30サイクルは、合計42日間に相当する。
【0112】
調査下の試料上の各々の塗装物にブレード切開で基材まで刻み目を入れ、その後、交互気候試験を実施すると、これにより、交互気候試験の実行中に基材が刻み目線に沿って腐食するため、試料を膜下腐食(浸食)レベルについてDIN EN ISO 4628-8(日付:2013年3月1日)で調査できるようになる。腐食過程が進行した結果として、塗装物は試験中に多かれ少なかれ浸食される。浸食の程度[単位mm]は、腐食に対する塗装物の耐性の指標である。以下の結果に記載している平均浸食レベルは、評価した3~5枚の異なるパネルの個々の値の平均値を表し、次いで、パネルの個々の値は、パネル上の11箇所の測定点の浸食レベルの平均値である。
【0113】
糸状腐食試験(FFC試験)
糸状腐食の判定は、基材上の塗装物の耐食性を確認するために使用される。この判定は、DIN EN3665(08-1997)に従って1008時間にわたって実施される。この時間の間に、問題の塗装物は、塗装物に損傷を誘発する線(Scratch Master 1mmブレード、75μm)から始まって、線状または糸状の形をした腐食によって浸食される。糸状物の最大および平均長さ[単位mm]を測定する。値は、3個の試料の平均値(横方向の切開および縦方向の切開において実施した測定の平均値)である。
【0114】
銅の加速塩水噴霧試験(CASS試験)
CASS試験は、基材上の塗装物の耐食性を決定するために使用される。分析下の試料は、DIN EN ISO 9227(09-2012)に従って、pHを制御しながら50℃の温度で240時間にわたって、酢酸および塩化銅が混合されている5%強度の食塩水を連続的に噴霧するチャンバ内にある。分析下の試料上に噴霧ミストが堆積して、試料が塩水の腐食膜で覆われる。CASS試験の前に、調査のための試料上の塗装物にブレード切開(Scratch Master 1mmブレード、75μm)で基材まで刻み目を入れる。CASS試験中に基材が刻み目線に沿って腐食するので、試料を膜下腐食レベルについてDIN EN ISO 4628-8(03-2013)に従って調査する。腐食過程が進行した結果として、塗装物は試験中に多かれ少なかれ浸食される。浸食の程度[単位mm]は、塗装物の耐性の指標である。値は3枚のパネルの平均値である。
【0115】
カテコール誘導体含有電着塗装材料の製造
カテコール誘導体含有電着塗装材料は、顔料ペースト(BASF SE、ルートウィヒスハーフェン、ドイツ)を市販のエポキシ樹脂系電着塗装材料(Cathoguard(登録商標)800;BASF SE、ルートウィヒスハーフェン、ドイツ)に分散させることによって製造した。
【0116】
電着塗装材料の成分を表1に示す。
【0117】
【0118】
最初に、表1の品目1および2を混合した。さらに、品目4を品目3に溶解させ、このようにして得られた溶液を品目5と一緒に品目1および2の混合物に添加して、固体含有量が20質量%のカテコール誘導体含有電着塗装材料を得た。使用前に、混合物を24時間撹拌した。カテコール誘導体がプロトカテク酸エステルである場合、品目4を水中に高温(25~50℃)で溶解させた。室温(20℃)に冷却した後、プロトカテク酸エステルは溶解したままであった。
【0119】
製造した電着槽は、5.1~5.4の範囲のpH値および2.1~2.2の範囲の伝導率を有した。表2で使用したカテコール誘導体の量は、調査したカテコール誘導体に応じて、x=0.05~0.3g、すなわち、500~3500ppmの範囲であった。
【0120】
各場合について、比較槽として1つの槽を製造した、すなわち、カテコール誘導体の量は0ppm(x=0)であった。
【0121】
カテコール誘導体含有電着塗装材料の金属パネルへの塗布
試験パネル(冷間圧延鋼(CRS)、溶融亜鉛めっき鋼(HDG)、およびアルミニウムAA6014)を、Chemetall GmbH(フランクフルト、ドイツ)からGardoclean(登録商標)S5160として入手可能な水系洗浄液および水(97.7質量%)が入っている槽に60℃の温度で2分間浸漬させることによって洗浄した。洗浄後、パネルを水で噴霧洗浄し、次いで、電着塗装の塗布に直接使用した。
【0122】
電着塗装では、パネルをそれぞれの電着槽に浸漬させ、プロセスにおける陰極として使用した。槽温度は32℃であった。塗布を、2分間の塗布時間内に20μmの乾燥膜厚を得るのに適した固定電圧(220~240Vの範囲)で定電位的に実行した。塗装後、パネルを水で噴霧洗浄し、オーブンにおいて175℃で25分間硬化させた。
【0123】
続いて、このようにして製造した塗装済み試験パネルに、上述の腐食試験手順の1つまたは複数を施した。
【0124】
腐食試験手順の結果
表2Aにおいて、3,4-ジヒドロキシ安息香酸エチルエステル含有電着塗装材料から製造した試験パネルの腐食試験からの試験結果をまとめている。
【0125】
【0126】
表2Aの結果は、3,4-ジヒドロキシ安息香酸エチルエステル含有電着塗装材料を用いた場合、様々な基材、特に、CRSおよびアルミニウムに腐食保護を提供するという目的が達成されたことを明確に示している。
【0127】
表2Bにおいて、没食子酸プロピル含有電着塗装材料から製造した試験パネルの腐食試験からの試験結果をまとめている。
【0128】
【0129】
表2Bの結果から、没食子酸プロピル含有電着塗装材料を用いた場合、様々な基材、特に、CRS、HDG、およびアルミニウムに腐食保護を提供するという目的が達成されたことが明らかである。
【0130】
興味深いことに、3,4-ジヒドロキシ安息香酸エチルエステル(表2A)ならびに没食子酸プロピル(表2B)では、それぞれのカテコール誘導体が非常に少ない量でも、アルミニウムベースの基材において性能が最も高く、一方、より多い量、例えば、2000および2500ppmでは、アルミニウムに対する腐食保護効果が停滞しているように見えることが見出された。
【0131】
CRSおよびHDGでは、500ppmなどの非常に少ない量のそれぞれのカテコール誘導体を含有する試料は、比較槽と比較してさらなる腐食保護をもたらさず、場合によってはわずかに劣る可能性があり、一方、より多い量である1000ppmでは、腐食保護の向上を明確に示している。
【0132】
したがって、一般に、アルミニウムベースの基材の腐食保護だけが必要な場合、それぞれのカテコール誘導体は少量の使用で十分である。HDGおよび/またはCRSの保護も求める場合は、電着塗装材料の総質量に対して好ましくは500ppm超、さらにより好ましくは1000ppm超から3000ppm未満の量のそれぞれのカテコール誘導体を使用することが望ましい。
【0133】
塩酸イソプロテレノールおよび塩酸ドーパミンに関しては、特にFFCおよびCASS試験でのアルミニウム基材においてほぼ同等であるが弱くなる傾向があるという結果が得られた。
【0134】
要約すると、本発明による電着塗装材料は、アルミニウムにおいて腐食を減少させる傾向があり、また、より少ない程度だが他の基材においても腐食を減少させる傾向があり、したがって、多金属基材塗装用途において腐食抑制をもたらすことが本発明者らによって見出された。
【国際調査報告】