(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-27
(54)【発明の名称】電気化学装置及び電子装置
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20230120BHJP
H01M 10/0567 20100101ALI20230120BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20230120BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20230120BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20230120BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20230120BHJP
H01M 6/16 20060101ALI20230120BHJP
H01M 4/06 20060101ALI20230120BHJP
H01G 11/24 20130101ALI20230120BHJP
H01G 11/64 20130101ALI20230120BHJP
H01G 11/38 20130101ALI20230120BHJP
H01M 4/48 20100101ALN20230120BHJP
H01M 4/58 20100101ALN20230120BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0567
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M4/587
H01M4/38 Z
H01M6/16 A
H01M4/06 W
H01G11/24
H01G11/64
H01G11/38
H01M4/48
H01M4/58
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021548634
(86)(22)【出願日】2021-06-02
(85)【翻訳文提出日】2021-08-18
(86)【国際出願番号】 CN2021097825
(87)【国際公開番号】W WO2022077926
(87)【国際公開日】2022-04-21
(31)【優先権主張番号】202011101196.5
(32)【優先日】2020-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513054978
【氏名又は名称】寧徳新能源科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】Ningde Amperex Technology Limited
【住所又は居所原語表記】No.1 Xingang Road, Zhangwan Town, Jiaocheng District, Ningde City, Fujian Province, 352100, People’s Republic of China
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】王可飛
(72)【発明者】
【氏名】江兵
【テーマコード(参考)】
5E078
5H024
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AA11
5E078BA18
5E078BA41
5E078BA44
5E078BA53
5E078DA03
5E078DA06
5E078DA14
5E078FA02
5E078FA03
5E078FA04
5E078FA12
5H024AA01
5H024FF15
5H024FF18
5H024HH01
5H029AJ02
5H029AJ12
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL01
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AL16
5H029AL18
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H029HJ01
5H029HJ05
5H050AA02
5H050AA15
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB20
5H050CB29
5H050DA03
5H050DA11
5H050EA23
5H050HA01
5H050HA05
(57)【要約】
【課題】高いレート特性と良好な安全性とを両立させる電気化学装置及び電子装置を提供することにある。
【解決手段】本発明の一態様において、正極、負極及び電解液を含む電気化学装置であって、上記負極は、負極集電体と、上記負極集電体上に形成されている負極合剤層とを含み、上記負極合剤層は、負極活物質を含み、上記負極合剤層の降伏点伸びをX%とし、上記負極活物質のメディアン径をYμmとすると、XとYとは、0.1≦X/Y≦30を満たし、上記電解液は、シアノ基を有する化合物を含む、電気化学装置。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極及び電解液を含む電気化学装置であって、
前記負極は、負極集電体と、前記負極集電体上に形成されている負極合剤層とを含み、前記負極合剤層は、負極活物質を含み、
前記負極合剤層の降伏点伸びをX%とし、前記負極活物質のメディアン径をYμmとすると、XとYとは、0.1≦X/Y≦30を満たし、
前記電解液は、シアノ基を有する化合物を含む、電気化学装置。
【請求項2】
前記Xは、10~30の範囲内にあり、前記Yは、1~50の範囲内にある、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項3】
前記電解液の重量に対して前記シアノ基を有する化合物の含有量がZ%であり、Zは0.1~10の範囲内にある、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項4】
前記Xと前記Zとは、2≦X/Z≦100を満たす、請求項3に記載の電気化学装置。
【請求項5】
前記負極合剤層は、ゴムを含み、前記ゴムは、スチレン-ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、フルオロゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、スチレン-プロピレンゴムの少なくとも一種を含む、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項6】
前記ゴムは、アクリル酸官能基、クロロトリフルオロエチレン官能基、ヘキサフルオロプロピレン官能基の少なくとも一種をさらに含む、請求項5に記載の電気化学装置。
【請求項7】
前記負極活物質は、
(i):人造黒鉛、天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ、ソフトカーボン、ハードカーボン、アモルファスカーボン、シリコン含有材料、スズ含有材料、合金材料の少なくとも一種を含むこと;
(ii):金属を含み、前記金属がモリブデン、鉄または銅の少なくとも一種を含み、且つ、前記負極合剤層の重量に対して、前記金属の含有量が0.05%以下であること
の少なくとも一つを満たす、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項8】
前記シアノ基を有する化合物は、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、1,5-ジシアノペンタン、1,6-ジシアノヘキサン、テトラメチルスクシノニトリル、2-メチルグルタロニトリル、2,4-ジメチルグルタロニトリル、2,2,4,4-テトラメチルグルタロニトリル、1,4-ジシアノペンタン、1,2-ジシアノベンゼン、1,3-ジシアノベンゼン、1,4-ジシアノベンゼン、エチレングリコールビス(プロピオニトリル)エーテル、3,5-ジオキサ-ピメロニトリル、1,4-ビス(シアノエトキシ)ブタン、ジエチレングリコールビス(2-シアノエチル)エーテル、トリエチレングリコールビス(2-シアノエチル)エーテル、テトラエチレングリコールビス(2-シアノエチル)エーテル、1,3-ビス(2-シアノエトキシ)プロパン、1,4-ビス(2-シアノエトキシ)ブタン、1,5-ビス(2-シアノエトキシ)ペンタン、エチレングリコールビス(4-シアノブチル)エーテル、1,4-ジシアノ-2-ブテン、1,4-ジシアノ-2-メチル-2-ブテン、1,4-ジシアノ-2-エチル-2-ブテン、1,4-ジシアノ-2,3-ジメチル-2-ブテン、1,4-ジシアノ-2,3-ジエチル-2-ブテン、1,6-ジシアノ-3-ヘキセン、1,6-ジシアノ-2-メチル-3-ヘキセン、1,3,5-ペンタントリカルボニトリル、1,2,3-プロパントリカルボニトリル、1,3,6-ヘキサントリカルボニトリル、1,2,6-ヘキサントリカルボニトリル、1,2,3-トリス(2-シアノエトキシ)プロパン、1,2,4-トリス(2-シアノエトキシ)ブタン、1,1,1-トリス(シアノエトキシメチレン)エタン、1,1,1-トリス(シアノエトキシメチレン)プロパン、3-メチル-1,3,5-トリス(シアノエトキシ)ペンタン、1,2,7-トリス(シアノエトキシ)ヘプタン、1,2,6-トリス(シアノエトキシ)ヘキサンまたは1,2,5-トリス(シアノエトキシ)ペンタンの少なくとも一種を含む、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項9】
前記シアノ基を有する化合物は、エーテル結合を含まないジニトリル化合物及びエーテル結合を含むジニトリル化合物を含有し、前記エーテル結合を含まないジニトリル化合物の含有量が前記エーテル結合を含むジニトリル化合物の含有量より多い、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項10】
前記シアノ基を有する化合物は、ジニトリル化合物及びトリニトリル化合物を含み、前記ジニトリル化合物の含有量がトリニトリル化合物の含有量より多い、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項11】
前記シアノ基を有する化合物は、ジニトリル化合物及びエーテル結合を有するトリニトリル化合物を含み、前記ジニトリル化合物の含有量がエーテル結合を有するトリニトリル化合物の含有量より多い、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項12】
前記電解液は、
a)フルオロエチレンカーボネート、
b)硫黄-酸素二重結合を含有する化合物、
c)ジフルオロリン酸リチウム、
d)式1で示される化合物
の少なくとも一種をさらに含み、
【化1】
ただし、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5及びR
6は、それぞれ独立して、水素またはC
1~C
10アルキル基であり、
L
1及びL
2は、それぞれ独立して、-(CR
7R
8)
n-であり、
R
7及びR
8は、それぞれ独立して、水素またはC
1~C
10アルキル基であり、及び、
nは、1、2または3である、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項13】
前記式1で示される化合物は、
【化2】
の少なくとも一種を含む、請求項12に記載の電気化学装置。
【請求項14】
前記電解液の重量に対して、前記式1で示される化合物の含有量は、0.01%~5%の範囲内にある、請求項12に記載の電気化学装置。
【請求項15】
前記電解液の重量に対して前記フルオロエチレンカーボネートの含有量がb%であり、bは、0.1~10の範囲内にある、請求項12に記載の電気化学装置。
【請求項16】
前記Yと前記bとは、4≦Y×b≦200を満たす、請求項15に記載の電気化学装置。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか1項に記載の電気化学装置を含む、電子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー貯蔵分野に関し、具体的には、電気化学装置及び電子装置、特にリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
技術の発展に伴い、電気化学装置(例えば、リチウムイオン電池)は、生活及び生産のさまざまな分野で広く適用されている。リチウムイオン電池は、高エネルギー密度、長サイクル寿命、環境にやさしいなどの利点を備える。しかしながら、リチウムイオン電池は、使用中に、例えば航続距離、コスト、充電性能、安全性能、登坂性能などの多くの挑戦にも直面している。リチウムイオン電池のレート特性を向上するのは、通常、リチウムイオン電池の昇温を招来し、その安全性が下がる。
【0003】
これに鑑みて、高いレート特性と良好な安全性とを両立させる電気化学装置及び電子装置を提供する必要がある。
【発明の概要】
【0004】
本発明の実施例は、改良されたレート特性及び安全性能を持つ電気化学装置及び電子装置を提供することにより、少なくともある程度で、関連分野における少なくとも一つの問題を解決しようとする。
【0005】
本発明では、正極、負極及び電解液を含む電気化学装置であって、前記負極は、負極集電体と、前記負極集電体上に形成されている負極合剤層とを含み、前記負極合剤層は、負極活物質を含み、前記負極合剤層の降伏点伸びをX%とし、前記負極活物質のメディアン径をYμmとすると、XとYとは、0.1≦X/Y≦30を満たし、前記電解液は、シアノ基を有する化合物を含む、電気化学装置を提供する。
【0006】
本発明の実施例によれば、Xは、10~30の範囲内にあり、Yは、1~50の範囲内にある。
【0007】
本発明の実施例によれば、前記電解液の重量に対して前記シアノ基を有する化合物の含有量がZ%であり、Zは、0.1~10の範囲内にある。
【0008】
本発明の実施例によれば、XとZとは、2≦X/Z≦100を満たす。
【0009】
本発明の実施例によれば、前記負極合剤層は、ゴムを含み、前記ゴムは、スチレン-ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、フルオロゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、スチレン-プロピレンゴムの少なくとも一種を含む。
【0010】
本発明の実施例によれば、前記ゴムは、アクリル酸官能基、クロロトリフルオロエチレン官能基、ヘキサフルオロプロピレン官能基の少なくとも一種をさらに含む。
【0011】
本発明の実施例によれば、前記負極活物質は、
(i):人造黒鉛、天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ、ソフトカーボン、ハードカーボン、アモルファスカーボン、シリコン含有材料、スズ含有材料、合金材料の少なくとも一種を含むこと;
(ii):金属を含み、前記金属がモリブデン、鉄または銅の少なくとも一種を含み、且つ、前記負極合剤層の重量に対して、前記金属の含有量が0.05%以下であること。
の少なくとも一つを満たす。
【0012】
本発明の実施例によれば、前記シアノ基を有する化合物は、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、1,5-ジシアノペンタン、1,6-ジシアノヘキサン、テトラメチルスクシノニトリル、2-メチルグルタロニトリル、2,4-ジメチルグルタロニトリル、2,2,4,4-テトラメチルグルタロニトリル、1,4-ジシアノペンタン、1,2-ジシアノベンゼン、1,3-ジシアノベンゼン、1,4-ジシアノベンゼン、エチレングリコールビス(プロピオニトリル)エーテル、3,5-ジオキサ-ピメロニトリル、1,4-ビス(シアノエトキシ)ブタン、ジエチレングリコールビス(2-シアノエチル)エーテル、トリエチレングリコールビス(2-シアノエチル)エーテル、テトラエチレングリコールビス(2-シアノエチル)エーテル、1,3-ビス(2-シアノエトキシ)プロパン、1,4-ビス(2-シアノエトキシ)ブタン、1,5-ビス(2-シアノエトキシ)ペンタン、エチレングリコールビス(4-シアノブチル)エーテル、1,4-ジシアノ-2-ブテン、1,4-ジシアノ-2-メチル-2-ブテン、1,4-ジシアノ-2-エチル-2-ブテン、1,4-ジシアノ-2,3-ジメチル-2-ブテン、1,4-ジシアノ-2,3-ジエチル-2-ブテン、1,6-ジシアノ-3-ヘキセン、1,6-ジシアノ-2-メチル-3-ヘキセン、1,3,5-ペンタントリカルボニトリル、1,2,3-プロパントリカルボニトリル、1,3,6-ヘキサントリカルボニトリル、1,2,6-ヘキサントリカルボニトリル、1,2,3-トリス(2-シアノエトキシ)プロパン、1,2,4-トリス(2-シアノエトキシ)ブタン、1,1,1-トリス(シアノエトキシメチレン)エタン、1,1,1-トリス(シアノエトキシメチレン)プロパン、3-メチル-1,3,5-トリス(シアノエトキシ)ペンタン、1,2,7-トリス(シアノエトキシ)ヘプタン、1,2,6-トリス(シアノエトキシ)ヘキサンまたは1,2,5-トリス(シアノエトキシ)ペンタンの少なくとも一種を含む。
【0013】
本発明の実施例によれば、前記シアノ基を有する化合物は、エーテル結合を含まないジニトリル化合物及びエーテル結合を含むジニトリル化合物を含有し、前記エーテル結合を含まないジニトリル化合物の含有量が前記エーテル結合を含むジニトリル化合物の含有量より多い。
【0014】
本発明の実施例によれば、前記シアノ基を有する化合物は、ジニトリル化合物及びトリニトリル化合物を含み、前記ジニトリル化合物の含有量がトリニトリル化合物の含有量より多い。
【0015】
本発明の実施例によれば、前記シアノ基を有する化合物は、ジニトリル化合物及びエーテル結合を有するトリニトリル化合物を含み、前記ジニトリル化合物の含有量がエーテル結合を有するトリニトリル化合物の含有量より多い。
【0016】
本発明の実施例によれば、前記電解液は、
a)フルオロエチレンカーボネート、
b)硫黄-酸素二重結合を含有する化合物、
c)ジフルオロリン酸リチウム、
d)式1で示される化合物
の少なくとも一種をさらに含み、
【化1】
ここで、
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5及びR
6は、それぞれ独立して、水素またはC
1~C
10アルキル基であり、
L
1及びL
2は、それぞれ独立して、-(CR
7R
8)
n-であり、
R
7及びR
8は、それぞれ独立して、水素またはC
1~C
10アルキル基であり、及び、
nは、1、2または3である。
【0017】
本発明の実施例によれば、前記式1で示される化合物は、
【化2】
の少なくとも一種を含む。
【0018】
本発明の実施例によれば、前記電解液の重量に対して、前記式1で示される化合物の含有量は、0.01%~5%の範囲内にある。
【0019】
本発明の実施例によれば、前記電解液の重量に対して前記フルオロエチレンカーボネートの含有量がb%であり、bは0.1~10の範囲内にある。
【0020】
本発明の実施例によれば、Yとbとは、4≦Y×b≦200を満たす。
【0021】
本発明の更なる一態様において、本発明は、本発明に記載された電気化学装置を含む電子装置を提供する。
【0022】
本発明の実施例の他の態様及び利点について、一部的に以下で説明され、示され、または本発明の実施例の実施を通じて説明される。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施例を詳細に説明する。本発明の実施例は、本発明を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0024】
本明細書で使用されている下記した用語は、別に断らない限り、以下に示される意味を持つ。
【0025】
発明を実施するための形態及び請求の範囲において、「少なくとも一つ」という用語によって接続された項のリストは、リストされた項の任意の組み合わせを意味することができる。例えば、項A及びBがリストされている場合、「A及びBの少なくとも一つ」という短句は、Aのみ、Bのみ、またはA及びBを意味する。他の実例では、項A、B、及びCがリストされている場合、「A、B、及びCの少なくとも一つ」という短句は、Aのみ、Bのみ、Cのみ、A及びB(Cを除く)、A及びC(Bを除く)、B及びC(Aを除く)、またはA、B、及びCのすべてを意味する。項Aは、単一の要素または複数の要素を含んでいてもよい。項Bは、単一の要素または複数の要素を含んでいてもよい。項Cは、単一の要素または複数の要素を含んでいてもよい。「少なくとも一種」という用語は、「少なくとも一つ」という用語と同様な意味を持つ。
【0026】
本明細書で使用されているように、「アルキル基」という用語は、1~20個の炭素原子を有する直鎖の飽和炭化水素構造と予期される。「アルキル基」は、3~20個の炭素原子を有する分岐鎖又は環状の炭化水素構造とも予期される。具体的な炭素数を有するアルキル基が指定された場合、このような炭素数を有する全ての幾何異性体を含むことと予期される。従って、例えば、「ブチル基」は、n-ブチル基、s-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基及びシクロブチル基を含むことを意味する。「プロピル基」は、n-プロピル基、イソプロピル基、およびシクロプロピル基を含む。アルキル基の実例は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、シクロブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、メチルシクロペンチル基、エチルシクロペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、オクチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、ノルボルニル基などを含むが、これらに限定されない。
【0027】
本明細書で使用されているように、「ハロゲン化」という用語は、基における水素原子の一部または全部がハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素)で置換されることを意味する。
【0028】
電気化学装置(例えば、リチウムイオン電池)の汎用に伴い、そのレート特性及び安全性能などを含む性能に対する要求がより高くなっている。しかし、レート特性と安全性能とを両立させることは、通常、困難である。正極または負極の活物質の選択、電解液の組成及び電池デザインの最適化などの手段により、リチウムイオン電池のレート特性の改善に寄与するが、リチウムイオン電池は、高いレートで放電する時、大量の熱が発生しやすいため、リチウムイオン電池の安全性に悪影響を及ぼす。
【0029】
上記した課題を解決するために、本発明は、負極合剤層の降伏点伸びと負極活物質のメディアン径(D50)との関係を調節してシアノ基を有する化合物を含む電解液を組合わせて用いることにより、電気化学装置の内部抵抗を低減させ、粘着力を増強させ、導電性を向上させ、タップ密度を増加させて、電気化学装置のレート特性を著しく向上させると共に、電気化学装置の熱乱用(Thermal abuse)での厚さ膨張率を低減させ、その安全性能を改善させる。
【0030】
ある実施例において、本発明は、下記のような正極と、負極と、電解液とを含む電気化学装置を提供する。
【0031】
I、負極
負極は、負極集電体と前記負極集電体の一つまたは二つの表面に形成されている負極合剤層とを含み、前記負極合剤層が負極活物質を含む。
【0032】
本発明の電気化学装置は、前記負極合剤層の降伏点伸びX%と負極活物質のD50Yμmが0.1≦X/Y≦30を満たすことを一つの特徴とする。ある実施例において、0.5≦X/Y≦25を満たす。ある実施例において、1≦X/Y≦20を満たす。ある実施例において、3≦X/Y≦15を満たす。ある実施例において、X/Yは、0.1、0.5、1、2、5、8、10、12、15、18、20、25、30であり、或いは上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。負極合剤層の降伏点伸びX%と負極活物質のD50Yμmとが上記した関係を満たすと、電気化学装置のレート特性及び安全性能を著しく向上させることができる。
【0033】
負極合剤層が引っ張られた場合、引張力が弾性変形の限界を超えると、引っ張り続ければ負極合剤層が塑性変形し、負極合剤層が弾性変形から塑性変形に切り替わる境界点は、「降伏点」である。負極合剤層の降伏点伸びは、(負極合剤層が降伏点まで伸びた長さ-負極合剤層の元の長さ)/負極合剤層の元の長さ×100%で表しうる。
【0034】
負極合剤層の降伏点伸びは、以下の方法で測定しうる。厚さ50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フイルムを両面テープの一つの接着面に貼り付け、負極合剤層を両面テープの他の接着面に貼り付ける。負極合剤層とPETフイルムとを一緒に負極集電体から剥離して、測定用サンプルを得る。長さ140mm、幅15mmの測定用サンプルを取り、それを引張試験機のチャック(位置決めのつかみ具)に固定し、負極合剤層における引張可能な部分の長さを100mmとする。室温環境(20℃±5℃)で、測定用サンプルを負極合剤層の厚さ方向とほぼ直交(厚さ方向と直交する方向±10°)する方向に引っ張る。負極合剤層が1mm伸びるごとに(1mm伸びる場合に伸びが1%であり、2mm伸びる場合に伸びが2%であるというふうに)、引張を中断し、4探針プローブ300を備える抵抗測定装置を用いて4端子法で負極合剤層の抵抗を3回測定して、平均値を取る。負極合剤層が破断するまで上記したステップを繰り返す。負極合剤層の伸びを横軸とし、負極合剤層の抵抗を縦軸とし、直交座標系を作成し、隣接する二つの測定点の間に抵抗値の差が0.1Ωを超える時に伸びの小さい測定点を「降伏点」として記録し、負極合剤層の降伏点伸びを記録する。複数の降伏点がある場合、対応する伸びが最も小さい降伏点伸びを負極合剤層の降伏点伸びとする。
【0035】
1、負極合剤層
負極合剤層は、単層であってもよく、多層であってもよい。多層負極活物質における各層は、同一または異なる負極活物質を含んでもよい。負極活物質は、リチウムイオンなどの任意の金属イオンを可逆的に吸蔵及び放出可能な物質である。ある実施例において、充電中に負極へのリチウム金属の意図しない析出を防止するために、負極活物質の充電可能容量は、正極活物質の放電容量より大きいである。ある実施例において、負極合剤層の降伏点伸びは、10%~30%の範囲内にある。ある実施例において、負極合剤層の降伏点伸びは、15%~25%の範囲内にある。負極合剤層の降伏点伸びは、10%、12%、15%、18%、20%、22%、25%、28%、30%であり、或いは上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。負極合剤層の降伏点伸びが上記した範囲内にあると、電気化学装置のレート特性及び安全性能をさらに向上させることができる。
【0036】
ある実施例において、負極活物質のメディアン径(D50)は、1μm~50μmの範囲内にある。ある実施例において、負極活物質のメディアン径(D50)は、3μm~40μmの範囲内にある。ある実施例において、負極活物質のメディアン径(D50)は、5μm~30μmの範囲内にある。ある実施例において、負極活物質のメディアン径(D50)は、10μm~20μmの範囲内にある。ある実施例において、負極活物質のメディアン径は、1μm、5μm、10μm、15μm、20μm、25μm、30μm、35μm、40μm、45μm、50μmであり、或いは上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。負極活物質のメディアン径(D50)が上記した範囲内にあると、電気化学装置のレート特性及び安全性能をさらに向上させることができる。
【0037】
負極活物質のメディアン径(D50)、以下のような方法で測定しうる。ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートの0.2%水溶液(約10mL)に炭素材料を分散させて、レーザ回折/散乱式粒度分布計(堀場製造所社製LA-700)によって測定する。
【0038】
ある実施例において、前記負極合剤層は、ゴムを含む。ゴムは、負極合剤層の界面安定性を効率的に改善させて、電気化学装置のレート特性及び安全性能を著しく改善させることができる。
【0039】
ある実施例において、前記ゴムは、スチレン-ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、フルオロゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、スチレン-プロピレンゴムの少なくとも一種を含む。
【0040】
ある実施例において、前記ゴムは、アクリル酸官能基、クロロトリフルオロエチレン官能基、ヘキサフルオロプロピレン官能基の少なくとも一種をさらに含む。
【0041】
ある実施例において、前記負極合剤層の重量に対して、前記ゴムの含有量は、10%以下である。ある実施例において、前記負極合剤層の重量に対して、前記ゴムの含有量は、8%以下である。ある実施例において、前記負極合剤層の重量に対して、前記ゴムの含有量は、5%以下である。ある実施例において、前記負極合剤層の重量に対して、前記ゴムの含有量は、3%以下である。ある実施例において、前記負極合剤層の重量に対して、前記ゴムの含有量は、2%以下である。
【0042】
ある実施例において、前記負極活物質は、以下の(i)または(ii)の少なくとも一つを満たす。
【0043】
(i)負極活物質の種類
ある実施例において、前記負極活物質は、人造黒鉛、天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ、ソフトカーボン、ハードカーボン、アモルファスカーボン、シリコン含有材料、スズ含有材料、合金材料の少なくとも一種を含む。
【0044】
ある実施例において、前記負極活物質の形状は、繊維状、球状、粒状および鱗状を含むが、これらに限定されない。
【0045】
ある実施例において、前記負極活物質は、炭素材料を含む。
【0046】
ある実施例において、前記負極活物質は、5m2/g未満の比表面積を有する。ある実施例において、前記負極活物質は、3m2/g未満の比表面積を有する。ある実施例において、前記負極活物質は、1m2/g未満の比表面積を有する。ある実施例において、前記負極活物質は、0.1m2/g超の比表面積を有する。ある実施例において、前記負極活物質は、0.7m2/g超の比表面積を有する。ある実施例において、前記負極活物質は、0.5m2/g超の比表面積を有する。ある実施例において、前記負極活物質の比表面積は、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。前記負極活物質の比表面積が上記した範囲内にあると、リチウムが電極の表面に析出することを抑制することができ、且つ負極と電解液との反応によるガスが生じることを抑制することができる。
【0047】
負極活物質の比表面積(BET)は、表面積計(大倉理研製全自動表面積測定装置)を用い、窒素ガスを流し、350℃で試料に対して15分間予備乾燥を行なった後、大気圧に対する窒素ガスの相対圧の値が0.3となるように正確に調整した窒素ヘリウム混合ガスを用い、ガス流動法による窒素吸着BET1点法によって測定しうる。
【0048】
ある実施例において、学振法によるX線回折パターンに基づいて、前記負極活物質の格子面(002面)の層間距離は、約0.335nm~約0.360nmの範囲内、約0.335nm~約0.350nmの範囲内または約0.335nm~約0.345nmの範囲内にある。
【0049】
ある実施例において、学振法によるX線回折パターンに基づいて、前記負極活物質の微結晶サイズ(Lc)は、約1.0nm超または約1.5nm超である。
【0050】
ある実施例において、前記負極活物質のラマンR値は、約0.01超、約0.03超または約0.1超である。ある実施例において、前記負極活物質のラマンR値は、約1.5未満、約1.2未満、約1.0未満または約0.5未満である。ある実施例において、前記負極活物質のラマンR値は、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。
【0051】
前記負極活物質は、1580cm-1付近のラマンピーク半値幅が、特に限定されない。ある実施例において、前記負極活物質の1580cm-1付近のラマンピーク半値幅は、約10cm-1超または約15cm-1超である。ある実施例において、前記負極活物質の1580cm-1付近のラマンピーク半値幅が、約100cm-1未満、約80cm-1未満、約60cm-1未満または約40cm-1未満である。ある実施例において、前記負極活物質の1580cm-1付近のラマンピーク半値幅は、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。
【0052】
ある実施例において、前記負極活物質の長さと厚さとの比は、約1超、約2超または約3超である。ある実施例において、前記負極活物質の長さと厚さとの比は、約10未満、約8未満または約5未満である。ある実施例において、前記負極活物質の長さと厚さとの比は、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。負極活物質の長さと厚さとの比が上記した範囲内にあると、更なる均一な塗布を行うことができる。
【0053】
(ii)微量元素
ある実施例において、前記負極活物質は、金属を含み、前記金属がモリブデン、鉄または銅の少なくとも一種を含む。これらの金属元素は、負極活物質におけるいくつかの導電能力の悪い有機物と反応して、負極活物質の表面に成膜されるのに有利なものとすることができる。
【0054】
ある実施例において、導電しない副産物を形成して負極の表面に付着することを防止するために、上記した金属元素は、微量で前記負極合剤層に存在する。ある実施例において、前記負極合剤層の重量に対して、前記金属の含有量は、0.05%以下である。ある実施例において、前記負極合剤層の重量に対して、前記金属の含有量は、0.04%以下である。ある実施例において、前記負極合剤層の重量に対して、前記金属の含有量は、0.03%以下である。ある実施例において、前記負極合剤層の重量に対して、前記金属の含有量は、0.01%以下である。負極合剤層における金属の含有量が上記した範囲内にあると、電気化学装置のレート特性及び安全性能をさらに改善させることができる。
【0055】
ある実施例において、前記負極合剤層は、シリコン含有材料、スズ含有材料、合金材料の少なくとも一種をさらに含む。ある実施例において、前記負極合剤層は、シリコン含有材料及びスズ含有材料の少なくとも一種をさらに含む。ある実施例において、前記負極合剤層は、シリコン含有材料、シリコン-炭素複合材料、シリコン-酸素材料、合金材料及びリチウム含有金属複合酸化物材料の一種または多種をさらに含む。
【0056】
ある実施例において、前記負極合剤層は、例えば、リチウムと合金を形成し得る金属元素及び半金属元素を含有する一種または多種の他の種類の負極活物質をさらに含む。ある実施例において、前記金属元素及び半金属元素の実例は、Mg、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Bi、Cd、Ag、Zn、Hf、Zr、Y、PdおよびPtを含むが、これらに限定されない。ある実施例において、前記金属元素及び半金属元素の実例は、Si、Snまたはそれらの組み合わせを含む。Si及びSnは、優れたリチウムイオンを放出する能力を持ち、リチウムイオン電池に高いエネルギー密度を付与することができる。ある実施例において、他の種類の負極活物質は、金属酸化物及びポリマー化合物の一種または多種を含んでもよい。ある実施例において、前記金属酸化物は、酸化鉄、酸化ルテニウム及び酸化モリブデンを含むが、これらに限定されない。ある実施例において、前記ポリマー化合物は、ポリアセチレン、ポリアニリン及びポリピロールを含むが、これらに限定されない。
【0057】
負極導電材
ある実施例において、前記負極合剤層は、負極導電材を含む。当該導電材は、化学変化を引き起こしない限り、任意の導電材を含んでもよい。導電材の非制限的例示は、炭素に基づく材料(例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンファイバーなど)、導電性ポリマー(例えば、ポリフェニレン誘導体)及びそれらの混合物を含む。
【0058】
負極粘着剤
ある実施例において、前記負極合剤層は、負極粘着剤をさらに含む。負極粘着剤は、負極活物質の粒子同士の結合及び負極活物質と集電体との結合を向上させることができる。負極粘着剤の種類は、特に限定されず、電解液または電極製造中に用いる溶媒に対して安定な材料であればよい。
【0059】
負極粘着剤の実例は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、芳香族ポリアミド、ポリイミド、セルロース、ニトロセルロースなどの樹脂系ポリマー;スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、フッ素ゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、エチレン-プロピレンゴムなどのゴム状ポリマー;スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体又はその水素化物;エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)、スチレン-エチレン-ブタジエン-エチレン共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体又はその水素化物などの熱可塑性エラストマー状ポリマー;シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエン、ポリ酢酸ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、プロピレン-α-オレフィン共重合体などの軟質樹脂状ポリマー;ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン-エチレン共重合体などのフッ素系ポリマー;アルカリ金属イオン(特にリチウムイオン)のイオン伝導性を有するポリマー組成物などを含むが、これらに限定されない。上記した負極粘着剤は、単独で用いてもよく、任意に組み合わせて用いてもよい。
【0060】
負極合剤層がフッ素系ポリマー(例えば、ポリフッ化ビニリデン)を含有する場合、ある実施例において、負極合剤層の重量に対して、前記負極粘着剤の含有量は、約1%超、約2%超、または約3%超である。ある実施例において、負極合剤層の重量に対して、前記負極粘着剤の含有量は、約10%未満、約8%未満、または約5%未満である。負極合剤層の重量に対して、前記負極粘着剤の含有量は、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。
【0061】
溶媒
負極スラリーを形成するための溶媒の種類は、特に限定されず、負極活物質、負極粘着剤、必要に応じて使用される増粘剤及び導電材を溶解又は分散可能な溶媒であればよい。ある実施例において、負極スラリーを形成するための溶媒は、水系溶媒及び有機系溶媒の何れか一種を用いてもよい。水系溶媒の実例は、水、アルコールなどを含むが、これらに限定されない。有機系溶媒の実例は、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、エチルメチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、アセトン、ジエチルエーテル、ヘキサメチルホスファルアミド、ジメチルスルホキシド、ベンゼン、キシレン、キノリン、ピリジン、メチルナフタレン、ヘキサンなどを含むが、これらに限定されない。上記した溶媒は、単独で用いてもよく、任意に組み合わせて用いてもよい。
【0062】
増粘剤
増粘剤は、通常、負極スラリーの粘度を調製するために使用される。増粘剤の種類は、特に限定されず、その実例は、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、酸化スターチ、リン酸化スターチ、カゼイン及びこれらの塩などを含むが、これらに限定されない。上記した増粘剤は、単独で用いてもよく、任意に組み合わせて用いてもよい。
【0063】
ある実施例において、負極合剤層の重量に対して、前記増粘剤の含有量は、約0.1%超、約0.5%超、または約0.6%超である。ある実施例において、負極合剤層の重量に対して、前記増粘剤の含有量は、約5%未満、約3%未満、または約2%未満である。増粘剤の含有量が上記した範囲内にあると、電気化学装置の容量の低下及び抵抗の増大を抑制しつつ負極スラリーが良好な塗布性を持つのを確保することができる。
【0064】
表面被覆
ある実施例において、負極合剤層の表面に、負極合剤層とは異なる組成を有する物質を付着していてもよい。負極合剤層の表面附着物質の実例は、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ホウ素、酸化アンチモン、酸化ビスマスなどの酸化物;硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウムなどの硫酸塩;炭酸リチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどの炭酸塩などを含むが、これらに限定されない。
【0065】
負極活物質の含有量
ある実施例において、負極合剤層の重量に対して、負極活物質の含有量は、約80%超、約82%超、または約84%超である。ある実施例において、負極合剤層の重量に対して、負極活物質の含有量は、約99%未満、または約98%未満である。ある実施例において、負極合剤層の重量に対して、負極活物質の含有量は、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。
【0066】
負極活物質の密度
ある実施例において、負極合剤層における負極活物質の密度は、約1g/cm3超、約1.2g/cm3超、または約1.3g/cm3超である。ある実施例において、負極合剤層における負極活物質の密度は、約2.2g/cm3未満、約2.1g/cm3未満、約2.0g/cm3未満、または約1.9g/cm3未満である。ある実施例において、負極合剤層における負極活物質の密度は、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。
【0067】
負極活物質の密度が上記した範囲内にあると、負極活物質粒子の破損を防止することができ、電気化学装置の初期不可逆容量の増加または負極集電体/負極活物質界面の付近における電解液の浸透性の低下による高電流密度の充放電特性の劣化を抑制することができ、さらに電気化学装置の容量の低下及び抵抗の増大を抑制することができる。
【0068】
2、負極集電体
負極活物質を維持する集電体として、公知の集電体を任意に使用してもよい。負極集電体の実例は、アルミニウム、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルめっき鋼などの金属材料を含むが、これらに限定されない。ある実施例において、負極集電体は、銅である。
【0069】
負極集電体が金属材料である場合、負極集電体の形態は、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、金属箔、金属メッシュシート、パンチングメタル、発泡メタルなどを含むが、これらに限定されない。ある実施例において、負極集電体は、金属薄膜である。ある実施例において、負極集電体は、銅箔である。ある実施例において、負極集電体は、圧延法による圧延銅箔または電解法による電解銅箔である。
【0070】
ある実施例において、負極集電体の厚さは、約1μm超、または約5μm超である。ある実施例において、負極集電体の厚さは、約100μm未満、または約50μm未満である。ある実施例において、負極集電体の厚さは、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。
【0071】
負極合剤層と負極集電体との厚さ比とは、片面の負極合剤層の厚さを負極集電体の厚さで除するものを指し、その値は、特に限定されない。ある実施例において、厚さ比は、50以下である。ある実施例において、厚さ比は、30以下である。ある実施例において、厚さ比は、20以下である。ある実施例において、厚さ比は、10以下である。ある実施例において、厚さ比は、1以上である。ある実施例において、厚さ比は、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。厚さ比が上記した範囲内にあると、電気化学装置の容量を確保することができ、高電流密度充放電中の負極集電体の放熱を抑制することができる。
【0072】
II、電解液
本発明の電気化学装置に用いられる電解液は、電解質とこの電解質を溶ける溶媒とを含む。ある実施例において、本発明の電気化学装置に用いられる電解液は、添加剤をさらに含む。
【0073】
本発明の電気化学装置は、電解液がシアノ基を有する化合物を含むことをもう一つの特徴とする。
【0074】
ある実施例において、前記シアノ基を有する化合物は、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、1,5-ジシアノペンタン、1,6-ジシアノヘキサン、テトラメチルスクシノニトリル、2-メチルグルタロニトリル、2,4-ジメチルグルタロニトリル、2,2,4,4-テトラメチルグルタロニトリル、1,4-ジシアノペンタン、1,2-ジシアノベンゼン、1,3-ジシアノベンゼン、1,4-ジシアノベンゼン、エチレングリコールビス(プロピオニトリル)エーテル、3,5-ジオキサ-ピメロニトリル、1,4-ビス(シアノエトキシ)ブタン、ジエチレングリコールビス(2-シアノエチル)エーテル、トリエチレングリコールビス(2-シアノエチル)エーテル、テトラエチレングリコールビス(2-シアノエチル)エーテル、1,3-ビス(2-シアノエトキシ)プロパン、1,4-ビス(2-シアノエトキシ)ブタン、1,5-ビス(2-シアノエトキシ)ペンタン、エチレングリコールビス(4-シアノブチル)エーテル、1,4-ジシアノ-2-ブテン、1,4-ジシアノ-2-メチル-2-ブテン、1,4-ジシアノ-2-エチル-2-ブテン、1,4-ジシアノ-2,3-ジメチル-2-ブテン、1,4-ジシアノ-2,3-ジエチル-2-ブテン、1,6-ジシアノ-3-ヘキセン、1,6-ジシアノ-2-メチル-3-ヘキセン、1,3,5-ペンタントリカルボニトリル、1,2,3-プロパントリカルボニトリル、1,3,6-ヘキサントリカルボニトリル、1,2,6-ヘキサントリカルボニトリル、1,2,3-トリス(2-シアノエトキシ)プロパン、1,2,4-トリス(2-シアノエトキシ)ブタン、1,1,1-トリス(シアノエトキシメチレン)エタン、1,1,1-トリス(シアノエトキシメチレン)プロパン、3-メチル-1,3,5-トリス(シアノエトキシ)ペンタン、1,2,7-トリス(シアノエトキシ)ヘプタン、1,2,6-トリス(シアノエトキシ)ヘキサンまたは1,2,5-トリス(シアノエトキシ)ペンタンの少なくとも一種を含む。
【0075】
ある実施例において、前記シアノ基を有する化合物は、エーテル結合を含まないジニトリル化合物及びエーテル結合を含むジニトリル化合物を含み、前記エーテル結合を含まないジニトリル化合物の含有量が前記エーテル結合を含むジニトリル化合物の含有量より多い。
【0076】
ある実施例において、前記シアノ基を有する化合物は、ジニトリル化合物及びトリニトリル化合物を含み、前記ジニトリル化合物の含有量がトリニトリル化合物の含有量より多い。
【0077】
ある実施例において、前記シアノ基を有する化合物は、ジニトリル化合物およびエーテル結合を有するトリニトリル化合物を含み、前記ジニトリル化合物の含有量がエーテル結合を有するトリニトリル化合物の含有量より多い。
【0078】
ある実施例において、前記電解液の重量に対して前記シアノ基を有する化合物の含有量がZ%であり、Zは0.1~10の範囲内にある。ある実施例において、Zは、0.5~8の範囲内にある。ある実施例において、Zは、1~5の範囲内にある。ある実施例において、Zは、0.1、0.5、1、2、5、8、10であり、或いは上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。電解液におけるシアノ基を有する化合物の含有量が上記した範囲内にあると、電気化学装置のレート特性及び安全性能をさらに改善させることができる。
【0079】
ある実施例において、電解液におけるシアノ基を有する化合物の含有量Z%と負極合剤層の降伏点伸びX%とは、2≦X/Z≦100を満たす。ある実施例において、5≦X/Z≦80を満たす。ある実施例において、10≦X/Z≦50を満たす。ある実施例において、20≦X/Z≦30。ある実施例において、X/Zは、2、5、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100であり、或いは上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。電解液中シアノ基を有する化合物の含有量Z%と負極合剤層の降伏点伸びX%とが上記した関係を満たすと、電気化学装置のレート特性及び安全性能をさらに改善させることができる。
【0080】
ある実施例において、前記電解液は、
a)フルオロエチレンカーボネート、
b)硫黄-酸素二重結合を含有する化合物、
c)ジフルオロリン酸リチウム、
d)式1で示される化合物
の少なくとも一種をさらに含み、
【化3】
ここで、
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5及びR
6は、それぞれ独立して、水素またはC
1~C
10アルキル基であり、
L
1及びL
2は、それぞれ独立して、-(CR
7R
8)
n-であり、
R
7及びR
8は、それぞれ独立して、水素またはC
1~C
10アルキル基であり、及び、
nは、1、2または3である。
【0081】
a)フルオロエチレンカーボネート
電気化学装置の充電/放電中、フルオロエチレンカーボネートとシアノ基を有する化合物とは、負極の表面に安定な保護フィルムを形成するように、協同作用して、電解液の分解反応を抑制する。
【0082】
ある実施例において、前記フルオロカーボネートは、式C=O(ORx)(ORy)の構造を備え、ここで、Rx及びRyは、それぞれ独立して、1~6個の炭素原子を有するアルキル基、ハロゲン化アルキル基から選択され、Rx及びRyの少なくとも一つは、1~6個の炭素原子を有するフルオロアルキル基から選択され、且つRx及びRyは、任意に、それらが連結する原子とともに5~7員環を形成する。
【0083】
ある実施例において、前記フルオロエチレンカーボネートの実例は、フルオロエチレンカーボネート、シス-4,4-ジフルオロエチレンカーボネート、トランス-4,4-ジフルオロエチレンカーボネート、4,5-ジフルオロエチレンカーボネート、4-フルオロ-4-メチルエチレンカーボネート、4-フルオロ-5-メチルエチレンカーボネートなどの一種または多種を含むが、これらに限定されない。
【0084】
ある実施例において、前記電解液の重量に対して前記フルオロエチレンカーボネートの含有量がb%であり、bは0.1~10の範囲内にある。ある実施例において、bは、0.5~8の範囲内にある。ある実施例において、bは、1~5の範囲内にある。ある実施例において、bは、2~4の範囲内にある。ある実施例において、bは、0.1、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10であり、或いは上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。電解液におけるフルオロエチレンカーボネートの含有量が上記した範囲内にあると、電気化学装置のレート特性及び安全性能をさらに改善させることができる。
【0085】
ある実施例において、電解液におけるフルオロエチレンカーボネートの含有量b%と負極活物質のメディアン径Yμmとは、4≦Y×b≦200を満たす。ある実施例において、5≦Y×b≦150を満たす。ある実施例において、10≦Y×b≦100を満たす。ある実施例において、20≦Y×b≦50お満たす。ある実施例において、Y×bは、4、5、10、20、50、80、100、120、150、180、200であり、或いは上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。電解液におけるフルオロエチレンカーボネートの含有量b%と負極活物質のメディアン径Yμmとが上記した関係を満たすと、電気化学装置のレート特性及び安全性能をさらに改善させることができる。
【0086】
b)硫黄-酸素二重結合を含有する化合物
ある実施例において、前記硫黄-酸素二重結合を含有するは、環状硫酸エステル、鎖状硫酸エステル、鎖状スルホン酸エステル、環状スルホン酸エステル、鎖状亜硫酸エステルまたは環状亜硫酸エステルの少なくとも一つを含む。
【0087】
ある実施例において、前記環状硫酸エステルは、1,2-エチレングリコール硫酸エステル、1,2-プロピレングリコール硫酸エステル、1,3-プロピレングリコール硫酸エステル、1,2-ブチレングリコール硫酸エステル、1,3-ブチレングリコール硫酸エステル、1,4-ブチレングリコール硫酸エステル、1,2-ペンチレングリコール硫酸エステル、1,3-ペンチレングリコール硫酸エステル、1,4-ペンチレングリコール硫酸エステル及び1,5-ペンチレングリコール硫酸エステルなどの一種または多種を含むが、これらに限定されない。
【0088】
ある実施例において、前記鎖状硫酸エステルは、硫酸ジメチル、硫酸エチルメチル及び硫酸ジエチルなどの一種または多種を含むが、これらに限定されない。
【0089】
ある実施例において、前記鎖状スルホン酸エステルは、フルオロスルホン酸メチル及びフルオロスルホン酸エチルなどのフルオロスルホン酸エステル、メタンスルホン酸メチル、メタンスルホン酸エチル、ジメタンスルホン酸ブチル、2-(メタンスルホニルオキシ)プロピオン酸メチル及び2-(メタンスルホニルオキシ)プロピオン酸エチルなどの一種または多種を含むが、これらに限定されない。
【0090】
ある実施例において、前記環状スルホン酸エステルは、1,3-プロパンスルトン、1-フルオロ-1,3-プロパンスルトン、2-フルオロ-1,3-プロパンスルトン、3-フルオロ-1,3-プロパンスルトン、1-メチル-1,3-プロパンスルトン、2-メチル-1,3-プロパンスルトン、3-メチル-1,3-プロパンスルトン、1-プロピレン-1,3-スルトン、2-プロピレン-1,3-スルトン、1-フルオロ-1-プロピレン-1,3-スルトン、2-フルオロ-1-プロピレン-1,3-スルトン、3-フルオロ-1-プロピレン-1,3-スルトン、1-フルオロ-2-プロピレン-1,3-スルトン、2-フルオロ-2-プロピレン-1,3-スルトン、3-フルオロ-2-プロピレン-1,3-スルトン、1-メチル-1-プロピレン-1,3-スルトン、2-メチル-1-プロピレン-1,3-スルトン、3-メチル-1-プロピレン-1,3-スルトン、1-メチル-2-プロピレン-1,3-スルトン、2-メチル-2-プロピレン-1,3-スルトン、3-メチル-2-プロピレン-1,3-スルトン、1,4-ブタンスルトン、1,5-ペンタンスルトン、メチレンメタンジスルホネート及びエチレンメタンジスルホネートなどの一種または多種を含むが、これらに限定されない。
【0091】
ある実施例において、前記鎖状亜硫酸エステルは、亜硫酸ジメチル、亜硫酸エチルメチル及び亜硫酸ジエチルなどの一種または多種を含むが、これらに限定されない。
【0092】
ある実施例において、前記環状亜硫酸エステルは、1,2-エチレングリコール亜硫酸エステル、1,2-プロピレングリコール亜硫酸エステル、1,3-プロピレングリコール亜硫酸エステル、1,2-ブチレングリコール亜硫酸エステル、1,3-ブチレングリコール亜硫酸エステル、1,4-ブチレングリコール亜硫酸エステル、1,2-ペンチレングリコール亜硫酸エステル、1,3-ペンチレングリコール亜硫酸エステル、1,4-ペンチレングリコール亜硫酸エステル及び1,5-ペンチレングリコール亜硫酸エステルなどの一種または多種を含むが、これらに限定されない。
【0093】
ある実施例において、前記硫黄-酸素二重結合を含有する化合物は、式2で示される化合物を含み、
【化4】
ここで、
Wは、
【化5】
から選択され、
Lは、それぞれ独立して、単結合またはメチレンから選択され、
mは、1、2、3または4であり、
nは、0、1または2であり、且つ
pは、0、1、2、3、4、5または6である。
【0094】
ある実施例において、前記式2で示される化合物は、
【化6】
の少なくとも一種を含む。
【0095】
ある実施例において、前記電解液の重量に対して、前記硫黄-酸素二重結合を含有する化合物の含有量は、0.01%~10%の範囲内にある。ある実施例において、前記電解液の重量に対して、前記硫黄-酸素二重結合を含有する化合物の含有量は、0.05%~8%の範囲内にある。ある実施例において、前記電解液の重量に対して、前記硫黄-酸素二重結合を含有する化合物の含有量は、0.1%~5%の範囲内にある。ある実施例において、前記電解液の重量に対して、前記硫黄-酸素二重結合を含有する化合物の含有量は、0.5%~3%の範囲内にある。ある実施例において、前記電解液の重量に対して、前記硫黄-酸素二重結合を含有する化合物の含有量は、1%~2%の範囲内にある。ある実施例において、前記電解液の重量に対して、前記硫黄-酸素二重結合を含有する化合物の含有量は、0.01%、0.05%、0.1%、0.5%、0.8%、1%、2%、5%、8%、10%であり、或いは上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。
【0096】
c)ジフルオロリン酸リチウム(LiPO
2
F
2
)
ある実施例において、前記電解液の重量に対して、前記ジフルオロリン酸リチウムの含有量は、0.01%~1.5%である。ある実施例において、前記電解液の重量に対して、前記ジフルオロリン酸リチウムの含有量は、0.05%~1.2%である。ある実施例において、前記電解液の重量に対して、前記ジフルオロリン酸リチウムの含有量は、0.1%~1.0%である。ある実施例において、前記電解液の重量に対して、前記ジフルオロリン酸リチウムの含有量は、0.5%~0.8%である。ある実施例において、前記電解液の重量に対して、前記ジフルオロリン酸リチウムの含有量は、0.01%、0.05%、0.1%、0.15%、0.2%、0.25%、0.3%、0.35%、0.4%、0.45%、0.5%、0.8%、1%、1.5%であり、或いは上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。
【0097】
d)式1で示される化合物
ある実施例において、前記式1で示される化合物は、
【化7】
の少なくとも一種を含む。
【0098】
ある実施例において、前記電解液の重量に対して、前記式1で示される化合物の含有量は、0.01%~5%の範囲内にある。ある実施例において、前記電解液の重量に対して、前記式1で示される化合物の含有量は、0.05%~4%の範囲内にある。ある実施例において、前記電解液の重量に対して、前記式1で示される化合物の含有量は、0.1%~3%の範囲内にある。ある実施例において、前記電解液の重量に対して、前記式1で示される化合物の含有量は、0.5%~2%の範囲内にある。ある実施例において、前記電解液の重量に対して、前記式1で示される化合物の含有量は、1%~1.5%の範囲内にある。ある実施例において、前記電解液の重量に対して、前記式1で示される化合物の含有量は、0.01%、0.05%、0.1%、0.5%、1%、2%、3%、4%、5%であり、或いは上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。電解液において、式1で示される化合物の含有量が上記した範囲内にあると、電気化学装置のレート特性及び安全性能をさらに改善させることができる。
【0099】
溶媒
ある実施例において、前記電解液は、先行技術で既知の電解液の溶媒として用いられる任意の非水溶媒をさらに含む。
【0100】
ある実施例において、前記非水溶媒は、環状カーボネート、鎖状カーボネート、環状カルボン酸エステル、鎖状カルボン酸エステル、環状エーテル、鎖状エーテル、リン含有有機溶媒、硫黄含有有機溶媒、芳香族フッ素含有溶媒の一種または多種を含むが、これらに限定されない。
【0101】
ある実施例において、前記環状カーボネートの実例は、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)及びブチレンカーボネートの一種または多種を含むが、これらに限定されない。ある実施例において、前記環状カーボネートは、3~6個の炭素原子を有する。
【0102】
ある実施例において、前記鎖状カーボネートの実例は、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート(DEC)、メチル-n-プロピルカーボネート、エチル-n-プロピルカーボネート、ジ-n-プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネートなどの一種または多種を含むが、これらに限定されない。フッ素で置換された鎖状カーボネートの実例は、ビス(フルオロメチル)カーボネート、ビス(ジフルオロメチル)カーボネート、ビス(トリフルオロメチル)カーボネート、ビス(2-フルオロエチル)カーボネート、ビス(2,2-ジフルオロエチル)カーボネート、ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)カーボネート、2-フルオロエチルメチルカーボネート、2,2-ジフルオロエチルメチルカーボネート及び2,2,2-トリフルオロエチルメチルカーボネートなどの一種または多種を含むが、これらに限定されない。
【0103】
ある実施例において、前記環状カルボン酸エステルの実例は、γ-ブチロラクトン及びγ-バレロラクトンなどの一種または多種を含むが、これらに限定されない。ある実施例において、環状カルボン酸エステルの水素原子の一部は、フッ素で置換されてもよい。
【0104】
ある実施例において、前記鎖状カルボン酸エステルの実例は、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸sec-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸t-ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸イソプロピル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、イソ酪酸メチル、イソ酪酸エチル、吉草酸メチル、吉草酸エチル、ピバリン酸メチル及びピバリン酸エチルなどの一種または多種を含むが、これらに限定されない。ある実施例において、鎖状カルボン酸エステルの水素原子の一部は、フッ素で置換されてもよい。ある実施例において、フッ素で置換された鎖状カルボン酸エステルの実例は、トリフルオロ酢酸メチル、トリフルオロ酢酸エチル、トリフルオロ酢酸プロピル、トリフルオロ酢酸ブチル及びトリフルオロ酢酸2,2,2-トリフルオロエチルなどを含むが、これらに限定されない。
【0105】
ある実施例において、前記環状エーテルの実例は、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、2-メチル-1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン及びジメトキシプロパンの一種または多種を含むが、これらに限定されない。
【0106】
ある実施例において、前記鎖状エーテルの実例は、ジメトキシメタン、1,1-ジメトキシエタン、1,2-ジメトキシエタン、ジエトキシメタン、1,1-ジエトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、エトキシメトキシメタン、1,1-エトキシメトキシエタン及び1,2-エトキシメトキシエタンなどの一種または多種を含むが、これらに限定されない。
【0107】
ある実施例において、前記リン含有有機溶媒の実例は、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸ジメチルエチル、リン酸メチルジエチル、リン酸エチレンメチル、リン酸エチレンエチル、リン酸トリフェニル、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリフェニル、リン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)及びリン酸トリス(2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル)などの一種または多種を含むが、これらに限定されない。
【0108】
ある実施例において、前記硫黄含有有機溶媒の実例は、スルホラン、2-メチルスルホラン、3-メチルスルホラン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、エチルメチルスルホン、メチルプロピルスルホン、ジメチルスルホキシド、メタンスルホン酸メチル、メタンスルホン酸エチル、エタンスルホン酸メチル、エタンスルホン酸エチル、硫酸ジメチル、硫酸ジエチル及び硫酸ジブチルの一種または多種を含むが、これらに限定されない。ある実施例において、硫黄含有有機溶媒の水素原子の一部は、フッ素で置換されてもよい。
【0109】
ある実施例において、前記芳香族フッ素含有溶媒は、フルオロベンゼン、ジフルオロベンゼン、トリフルオロベンゼン、テトラフルオロベンゼン、ペンタフルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン及びトリフルオロメチルベンゼンの一種または多種を含むが、これらに限定されない。
【0110】
ある実施例において、本発明の電解液に用いられる溶媒は、環状カーボネート、鎖状カーボネート、環状カルボン酸エステル、鎖状カルボン酸エステル、及びそれらの組み合わせを含む。ある実施例において、本発明の電解液に用いられる溶媒は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、酢酸n-プロピル、酢酸エチル、及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる有機溶媒を含む。ある実施例において、本発明の電解液に用いられる溶媒は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、γ-ブチロラクトン、及びそれらの組み合わせを含む。
【0111】
添加剤
ある実施例において、前記添加剤の実例は、フルオロカーボネート、炭素-炭素二重結合を含有するエチレンカーボネート、硫黄-酸素二重結合を含有する化合物及び酸無水物の一種または多種を含むが、これらに限定されない。
【0112】
ある実施例において、前記電解液の重量に対して、前記添加剤の含有量は、0.01%~15%、0.1%~10%または1%~5%である。
【0113】
本発明の実施例によれば、前記電解液の重量に対して、前記プロピオネートの含有量は、前記添加剤の1.5~30倍、1.5~20倍、2~20倍または5~20倍である。
【0114】
ある実施例において、前記添加剤は、炭素-炭素二重結合を含有するエチレンカーボネートの一種または多種を含む。前記炭素-炭素二重結合を含有するエチレンカーボネートの実例は、ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、1,2-ジメチルビニレンカーボネート、1,2-ジエチルビニレンカーボネート、フルオロビニレンカーボネート、トリフルオロメチルビニレンカーボネート;ビニルエチレンカルボナート、1-メチル-2-ビニルエチレンカルボナート、1-エチル-2-ビニルエチレンカルボナート、1-n-プロピル-2-ビニルエチレンカルボナート、1-メチル-2-ビニルエチレンカルボナート、1,1-ジビニルエチレンカルボナート、1,2-ジビニルエチレンカルボナート、1,1-ジメチル-2-メチレンエチレンカルボナート及び1,1-ジエチル-2-メチレンエチレンカルボナートなどの一種または多種を含むが、これらに限定されない。ある実施例において、前記炭素-炭素二重結合を含有するエチレンカーボネートは、入手しやすくて、更なる優れた効果を実現できるビニレンカーボネートを含む。
【0115】
ある実施例において、前記添加剤は、フルオロカーボネートと、炭素-炭素二重結合を含有するエチレンカーボネートとの組み合わせである。ある実施例において、前記添加剤は、フルオロカーボネートと硫黄-酸素二重結合を含有する化合物との組み合わせである。ある実施例において、前記添加剤は、フルオロカーボネートと2~4つのシアノ基を有する化合物との組み合わせである。ある実施例において、前記添加剤は、フルオロカーボネートと環状カルボン酸エステルとの組み合わせである。ある実施例において、前記添加剤は、フルオロカーボネートと環状リン酸無水物との組み合わせである。ある実施例において、前記添加剤は、フルオロカーボネートとカルボン酸無水物との組み合わせである。ある実施例において、前記添加剤は、フルオロカーボネートとスルホン酸無水物との組み合わせである。ある実施例において、前記添加剤は、フルオロカーボネートとカルボン酸スルホン酸無水物との組み合わせである。
【0116】
電解質
電解質は、特に限定されず、電解質として公知の物質を任意に使用してもよい。リチウム二次電池の場合、通常、リチウム塩が用いられる。電解質の実例は、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAlF4、LiSbF6、LiWF7などの無機リチウム塩;LiWOF5などのタングステン酸リチウム類;HCO2Li、CH3CO2Li、CH2FCO2Li、CHF2CO2Li、CF3CO2Li、CF3CH2CO2Li、CF3CF2CO2Li、CF3CF2CF2CO2Li、CF3CF2CF2CF2CO2Liなどのカルボン酸リチウム塩類;FSO3Li、CH3SO3Li、CH2FSO3Li、CHF2SO3Li、CF3SO3Li、CF3CF2SO3Li、CF3CF2CF2SO3Li、CF3CF2CF2CF2SO3Liなどのスルホン酸リチウム塩類;LiN(FCO)2、LiN(FCO)(FSO2)、LiN(FSO2)2、LiN(FSO2)(CF3SO2)、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2、リチウム環状1,2-パーフルオロエタンジスルホニルイミド、リチウム環状1,3-パーフルオロプロパンジスルホニルイミド、LiN(CF3SO2)(C4F9SO2)などのリチウムイミド塩類;LiC(FSO2)3、LiC(CF3SO2)3、LiC(C2F5SO2)3などのリチウムメチラート塩類;リチウムビス(マロナト)ボレート、リチウムジフルオロ(マロナト)ボレートなどのリチウム(マロナト)ボレート塩類;リチウムトリス(マロナト)ホスフェート、リチウムジフルオロビス(マロナト)ホスフェート、リチウムテトラフルオロ(マロナト)ホスフェートなどのリチウム(マロナト)ホスフェート塩類;及びLiPF4(CF3)2、LiPF4(C2F5)2、LiPF4(CF3SO2)2、LiPF4(C2F5SO2)2、LiBF3CF3、LiBF3C2F5、LiBF3C3F7、LiBF2(CF3)2、LiBF2(C2F5)2、LiBF2(CF3SO2)2、LiBF2(C2F5SO2)2などのフッ素含有有機リチウム塩類;リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート、リチウムビス(オキサラト)ボレートなどのリチウムオキサラトホウ酸塩類;リチウムテトラフルオロ(オキサラト)ホスフェート、リチウムジフルオロビス(オキサラト)ホスフェート、リチウムトリス(オキサラト)ホスフェートなどのリチウム(オキサラト)ホスフェート塩類などを含むが、これらに限定されない。
【0117】
ある実施例において、電解質は、LiPF6、LiSbF6、FSO3Li、CF3SO3Li、LiN(FSO2)2、LiN(FSO2)(CF3SO2)、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2、リチウム環状1,2-パーフルオロエタンジスルホニルイミド、リチウム環状1,3-パーフルオロプロパンジスルホニルイミド、LiC(FSO2)3、LiC(CF3SO2)3、LiC(C2F5SO2)3、LiBF3CF3、LiBF3C2F5、LiPF3(CF3)3、LiPF3(C2F5)3、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート、リチウムビス(オキサラト)ボレートまたはリチウムジフルオロビス(オキサラト)ホスフェートから選択される。それらは、電気化学装置の出力特性、高いレートでの充放電特性、高温保存特性及びサイクル特性などを改善させることに寄与する。
【0118】
電解質の含有量は、本発明の効果損なわない限り、特に限定されない。ある実施例において、電解液におけるリチウムの総モル濃度は、0.3mol/L以上、0.4mol/L超、または0.5mol/L超である。ある実施例において、電解液におけるリチウムの総モル濃度は、3mol/L未満、2.5mol/L未満、または2.0mol/L以下である。ある実施例において、電解液におけるリチウムの総モル濃度は、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。電解質の濃度が上記した範囲内にあると、荷電粒子であるリチウムが十分となり、また、粘度を適切の範囲内にさせることができるため、良好な電気伝導率を確保しやすい。
【0119】
二種以上の電解質を併用する場合、電解質は、モノフルオロリン酸塩、ホウ酸塩、シュウ酸塩及びフルオロスルホン酸塩からなる群より選ばれる塩の少なくとも一種を含む。ある実施例において、電解質は、モノフルオロリン酸塩、シュウ酸塩及びフルオロスルホン酸塩からなる群より選ばれる塩を含む。ある実施例において、電解質は、リチウム塩を含む。ある実施例において、電解質の重量に対して、モノフルオロリン酸塩、ホウ酸塩、シュウ酸塩及びフルオロスルホン酸塩からなる群より選ばれる塩の含有量は、0.01%超、または0.1%超である。ある実施例において、電解質の重量に対して、モノフルオロリン酸塩、ホウ酸塩、シュウ酸塩及びフルオロスルホン酸塩からなる群より選ばれる塩の含有量は、20%未満、または10%未満である。ある実施例において、モノフルオロリン酸塩、ホウ酸塩、シュウ酸塩及びフルオロスルホン酸塩からなる群より選ばれる塩の含有量は、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。
【0120】
ある実施例において、電解質は、モノフルオロリン酸塩、ホウ酸塩、シュウ酸塩及びフルオロスルホン酸塩からなる群より選ばれる物質の一種以上と、その他の塩の一種以上とを含む。その他の塩として、以上に例示されたリチウム塩が挙げられ、ある実施例において、LiPF6、LiN(FSO2)(CF3SO2)、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2、リチウム環状1,2-パーフルオロエタンジスルホニルイミド、リチウム環状1,3-パーフルオロプロパンジスルホニルイミド、LiC(FSO2)3、LiC(CF3SO2)3、LiC(C2F5SO2)3、LiBF3CF3、LiBF3C2F5、LiPF3(CF3)3、LiPF3(C2F5)3である。ある実施例において、その他の塩は、LiPF6である。
【0121】
ある実施例において、電解質の重量に対して、その他の塩の含有量は、0.01%超、または0.1%超である。ある実施例において、電解質の重量に対して、その他の塩の含有量は、20%未満、15%未満、または10%未満である。ある実施例において、その他の塩の含有量は、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。上記した含有量を有するその他の塩は、電解液の電気伝導率と粘度とをバランスさせることに寄与する。
【0122】
電解液には、上記した溶媒、添加剤及び電解質塩に加えて、必要に応じて負極被膜形成剤、正極保護剤、過充電防止剤などの別の添加剤を含んでもよい。添加剤として、通常、非水電解質二次電池に使用される添加剤を用いることができ、その実例は、ビニレンカーボネート、コハク酸無水物、ビフェニル、シクロヘキシルベンゼン、2,4-ジフルオロアニソール、プロパンスルトン、プロペンスルトンなどを含むが、これらに限定されない。これらの添加剤は、単独で用いてもよく、任意に組み合わせて用いてもよい。なお、電解液におけるこれらの添加剤の含有量は、特に限定されず、この添加剤の種類によって適宜設定すればよい。ある実施例において、電解質の重量に基づく添加剤の含有量は、5%未満であり、0.01%~5%の範囲内にあり、または0.2%~5%の範囲内にある。
【0123】
III、正極
正極は、正極集電体と、前記正極集電体の一つまたは二つの表面に設置された正極活物質層とを備える。
【0124】
1、正極活物質層
正極活物質層は、正極活性物質を含む。前記正極活物質層は、単層であってもよく、多層であってもよい。多層正極活物質における各層は、同一または異なる正極活物質を含んでもよい。正極活物質は、任意のリチウムイオンなどの金属イオンを可逆的に吸蔵及び放出可能な物質である。
【0125】
正極活物質の種類は、特に限定されず、電気化学方式で金属イオン(例えば、リチウムイオン)を吸蔵及び放出可能なものであればよい。ある実施例において、正極活物質は、リチウムと少なくとも一種の遷移金属とを含む物質である。正極活物質の実例は、リチウム遷移金属複合酸化物及びリチウム含有遷移金属リン酸化合物を含むが、これらに限定されない。
【0126】
ある実施例において、リチウム遷移金属複合酸化物における遷移金属は、V、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu等。ある実施例において、リチウム遷移金属複合酸化物は、LiCoO2などのリチウム・コバルト複合酸化物;LiNiO2などのリチウム・ニッケル複合酸化物;LiMnO2、LiMn2O4、Li2MnO4などのリチウム・マンガン複合酸化物;LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2、LiNi0.5Mn0.3Co0.2O2などのリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物を含み、これらのリチウム遷移金属複合酸化物の主な部分とする遷移金属原子の一部がNa、K、B、F、Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Li、Ni、Cu、Zn、Mg、Ga、Zr、Si、Nb、Mo、Sn、Wなどの他の元素で置換される。リチウム遷移金属複合酸化物の実例は、LiNi0.5Mn0.5O2、LiNi0.85Co0.10Al0.05O2、LiNi0.33Co0.33Mn0.33O2、LiNi0.45Co0.10Al0.45O2、LiMn1.8Al0.2O4和LiMn1.5Ni0.5O4などを含むが、これらに限定されない。リチウム遷移金属複合酸化物の組み合わせの実例は、LiCoO2とLiMn2O4との組み合わせなどを含むが、これらに限定されなく、LiMn2O4におけるMnの一部が遷移金属で置換されてもよく(例えば、LiNi0.33Co0.33Mn0.33O2)、LiCoO2におけるCoの一部が遷移金属で置換されてもよい。
【0127】
ある実施例において、リチウム含有遷移金属リン酸化合物における遷移金属は、V、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cuなどを含む。ある実施例において、リチウム含有遷移金属リン酸化合物は、LiFePO4、Li3Fe2(PO4)3、LiFeP2O7などのリン酸鉄類;LiCoPO4などのリン酸コバルト類を含み、これらのリチウム含有遷移金属リン酸化合物の主な部分とする遷移金属原子の一部がAl、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Li、Ni、Cu、Zn、Mg、Ga、Zr、Nb、Siなどの他の元素で置換される。
【0128】
ある実施例において、正極活物質には、電気化学装置の連続充電特性を向上させることができるリン酸リチウムを含む。リン酸リチウムの使用については、制限されない。ある実施例において、正極活物質とリン酸リチウムとは、混合して使用する。ある実施例において、上記した正極活物質とリン酸リチウムの重量に対するリン酸リチウムの含有量は、0.1%超、0.3%超、または0.5%超である。ある実施例において、上記した正極活物質とリン酸リチウムの重量に対するリン酸リチウムの含有量は、10%未満、8%未満、または5%未満である。ある実施例において、リン酸リチウムの含有量は、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。
【0129】
表面被覆
上記した正極活物質の表面に、正極活物質とは異なる組成の物質を付着していてもよい。表面附着物質の実例は、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ホウ素、酸化アンチモン、酸化ビスマスなどの酸化物;硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウムなどの硫酸塩;炭酸リチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどの炭酸塩;炭素などを含むが、これらに限定されない。
【0130】
これらの表面付着物質は、表面付着物質を溶媒に溶解又は懸濁させて正極活物質に含浸し添加し、乾燥する方法;表面付着物質の前駆体を溶媒に溶解又は懸濁させて正極活物質に含浸添加した後、加熱等により反応させる方法;及び正極活物質の前駆体に添加して同時に焼成する方法等により、正極活物質の表面に付着することができる。炭素を付着する場合、炭素材料(例えば、活性炭など)を機械的に付着する方法も用いることができる。
【0131】
ある実施例において、正極活物質層の重量に対して、表面付着物質の含有量は、0.1ppm超、1ppm超、または10ppm超である。ある実施例において、正極活物質層の重量に対して、表面付着物質の含有量は、10%未満、8%未満、または5%未満である。ある実施例において、正極活物質層の重量に対して、表面付着物質の含有量は、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。
【0132】
正極活物質の表面に物質を付着することにより、正極活物質の表面での電解液の酸化反応を抑制することができ、電気化学装置の寿命を向上させることができる。表面付着物質の量が少なすぎると、その効果が十分に発現せず、表面付着物質の量が多すぎると、リチウムイオンの吸蔵及び放出を阻害するため、抵抗が増加する場合がある。
【0133】
本発明において、正極活物質の表面に正極活物質とは異なる組成の物質を付着しているものも、「正極活物質」という。
【0134】
形状
ある実施例において、正極活物質の粒子の形状は、塊状、多面体状、球状、楕円球状、板状、針状、柱状などを含むが、これらに限定されない。ある実施例において、正極活物質の粒子は、一次粒子、二次粒子またはそれらの組み合わせを含む。ある実施例において、一次粒子は、凝集して二次粒子を形成してもよい。
【0135】
タップ密度
ある実施例において、正極活物質のタップ密度は、0.5g/cm3超、0.8g/cm3超、または1.0g/cm3超である。正極活物質のタップ密度が上記した範囲内にあると、正極活物質層形成時に必要な分散媒量及び導電材量及び正極粘着剤量を抑制することができるため、正極活物質の充填率及び電気化学装置の容量を確保することができる。タップ密度の高い複合酸化物粉体を用いることにより、高密度の正極活物質層を形成することができる。タップ密度は、一般に大きいほど好ましく、特に上限がない。ある実施例において、正極活物質のタップ密度は4.0g/cm3未満、3.7g/cm3未満、または3.5g/cm3未満である。正極活物質のタップ密度が上記のような上限を有すると、負荷特性の低下を抑制することができる。
【0136】
正極活物質的タップ密度は、正極活物質粉体5g~10gを10mLのガラス製メスシリンダーに入れ、ストローク20mmで200回タップした時の粉体充填密度(タップ密度)として求める。
【0137】
メディアン径(D50)
正極活物質の粒子が一次粒子である場合、正極活物質の粒子のメディアン径(D50)は、正極活物質の粒子の一次粒子径を指す。正極活物質の粒子の一次粒子が凝集して二次粒子を形成する場合、正極活物質の粒子のメディアン径(D50)は、正極活物質の粒子の二次粒子径を指す。
【0138】
ある実施例において、正極活物質の粒子のメディアン径(D50)は、0.3μm超、0.5μm超、0.8μm超、または1.0μm超である。ある実施例において、正極活物質の粒子のメディアン径(D50)は、30μm未満、27μm未満、25μm未満、または22μm未満である。ある実施例において、正極活物質の粒子のメディアン径(D50)は、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。正極活物質の粒子のメディアン径(D50)が上記した範囲内にあると、タップ密度が高い正極活物質を得ることができ、電気化学装置の特性の低下を抑制することができる。一方、電気化学装置の正極の調製過程時(即ち、正極活物質、導電材及び粘着剤等を溶媒でスラリー化し、薄膜状に塗布する時)に、スジの発生などの問題を防止することができる。ここで、異なるメジアン径を持つ正極活物質を二種以上混合することにより、正極調製時の充填性を更に向上させることができる。
【0139】
正極活物質の粒子メディアン径(D50)は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置によって測定してもよい。粒度分布計としてHORIBA社製LA-920を用いる場合、測定の際に用いる分散媒として、0.1%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を用い、5分間の超音波分散後に測定屈折率1.24を設定して測定される。
【0140】
平均一次粒子径
正極活物質の粒子の一次粒子が凝集して二次粒子を形成する場合、ある実施例において、正極活物質の平均一次粒子径は、0.05μm超、0.1μm超、または0.5μm超である。ある実施例において、正極活物質の平均一次粒子径は、5μm未満、4μm未満、3μm未満、または2μm未満である。ある実施例において、正極活物質の平均一次粒子径は、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。正極活物質の平均一次粒子径が上記した範囲内にあると、粉体填充性及び比表面積を確保でき、電池特性の低下を抑制でき、且つ適切な結晶性を得るため、電気化学装置の充放電の可逆性を確保することができる。
【0141】
正極活物質の平均一次粒子径は、走査電子顕微鏡(SEM)による画像に対する観察により得られる。倍率が10000倍であるSEM画像において、任意の50個の一次粒子について、水平方向の直線に対する一次粒子の左右の境界線による切片の最長値を求め、平均値をとることにより、平均一次粒子径が得られる。
【0142】
比表面積(BET)
ある実施例において、正極活性物質の比表面積(BET)は、0.1m2/g超、0.2m2/g超、または0.3m2/g超である。ある実施例において、正極活性物質の比表面積(BET)は、50m2/g未満、40m2/g未満、または30m2/g未満である。ある実施例において、正極活性物質の比表面積(BET)は、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。正極活性物質の比表面積(BET)が上記した範囲内にあると、電気化学装置の特性を確保しつつ正極活物質に良好な塗布性を持たせることができる。
【0143】
正極活物質の比表面積(BET)は、表面積計(例えば、大倉理研製全自動表面積測定装置)を用い、窒素ガスを流し、150℃で試料に対して30分間予備乾燥を行なった後、大気圧に対する窒素の相対圧の値が0.3となるように正確に調整した窒素ヘリウム混合ガスを用い、ガス流動法による窒素吸着BET1点法によって測定しうる。
【0144】
正極導電材
正極導電材の種類は、限定されず、任意の既知の導電材を用いることができる。正極導電材の実例は、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛;アセチレンブラックなどのカーボンブラック;ニードルコークス等の無定形炭素などの炭素材料;カーボンナノチューブ;グラフェンなどを含むが、これらに限定されない。上記した正極導電材は、単独で用いてもよく、任意に組み合わせて用いてもよい。
【0145】
ある実施例において、正極活物質層の重量に対して、正極導電材の含有量は0.01%超、0.1%超、または1%超である。ある実施例において、正極活物質層の重量に対して正極導電材の含有量は10%未満、8%以下、または5%未満である。正極導電材の含有量が上記した範囲内にあると、十分な導電性及び電気化学装置の容量を確保することができる。
【0146】
正極粘着剤
正極活物質層の製造に用いる正極粘着剤の種類は、特に限定されず、塗布法の場合、電極製造時に用いる液体媒体に対して溶解又は分散可能な材料であればよい。正極粘着剤の実例は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリイミド、芳香族ポリアミド、セルロース、ニトロセルロースなどの樹脂系ポリマー;スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム、ポリブタジエンゴム、フッ素ゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、エチレン-プロピレンゴム、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体又はその水素化物などのゴム状ポリマー;エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)、スチレン-エチレン-ブタジエン-エチレン共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体又はその水素化物などの熱可塑性エラストマー状ポリマー;シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエン、ポリ酢酸ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、プロピレン-α-オレフィン共重合体などの軟質樹脂状ポリマー;ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン-エチレン共重合体などのフッ素系ポリマー;アルカリ金属イオン(特にリチウムイオン)のイオン伝導性を有するポリマー組成物などの一種または多種を含むが、これらに限定されない。上記した正極粘着剤は、単独で用いてもよく、任意に組み合わせて用いてもよい。
【0147】
ある実施例において、正極活物質層の重量に対して、正極粘着剤の含有量は、0.1%超、1%超、または1.5%超である。ある実施例において、正極活物質層の重量に対して、正極粘着剤の含有量は、10%未満、8%未満、4%未満、または3%未満である。正極粘着剤の含有量が上記した範囲内にあると、正極に良好な導電性及び十分な機械的強度を持たせつつ電気化学装置の容量を確保することができる。
【0148】
溶媒
正極スラリーを形成するための溶媒の種類は、限定されず、正極活物質、導電材、正極粘着剤、及び必要に応じて使用される増粘剤を溶解又は分散可能な溶媒であればよい。正極スラリーを形成するための溶媒の実例は、水系溶媒及び有機系溶媒の何れか一種を含んでもよい。水系溶媒の実例は、水、及びアルコールと水との混合媒などを含むが、これらに限定されない。有機系溶媒の実例は、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、メチルナフタレンなどの芳香族炭化水素類;キノリン、ピリジンなどの複素環化合物;アセトン、エチルメチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸メチル、アクリル酸メチルなどのエステル類;ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミンなどのアミン類;ジエチルエーテル、プロピレンオキシド、テトラヒドロフラン(THF)などのエーテル類;N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド類;ヘキサメチルホスファルアミド、ジメチルスルホキシドなどのの非プロトン性極性溶媒などを含むが、これらに限定されない。
【0149】
増粘剤
増粘剤は、通常、スラリーの粘度を調製するために使用される。水系溶媒を用いる場合、増粘剤及びスチレン-ブタジエンゴム(SBR)ラテックスを用いてスラリー化してもよい。増粘剤の種類は、特に限定されず、その実例は、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、酸化スターチ、リン酸化スターチ、カゼイン及びこれらの塩などを含むが、これらに限定されない。上記した増粘剤は、単独で用いてもよく、任意に組み合わせて用いてもよい。
【0150】
ある実施例において、正極活物質層の重量に対して、増粘剤の含有量は、0.1%超、0.2%超、または0.3%超である。ある実施例において、正極活物質層の重量に対して、増粘剤の含有量は、5%未満、3%未満、または2%未満である。ある実施例において、正極活物質層の重量に対する増粘剤の含有量は、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。増粘剤の含有量が上記した範囲内にあると、正極スラリーに良好な塗布性を持たせつつ電気化学装置の容量の低下及び抵抗の増大を抑制することができる。
【0151】
正極活性物質の含有量
ある実施例において、正極活物質層の重量に対して、正極活性物質の含有量は、80%超、82%超、または84%超である。ある実施例において、正極活物質層の重量に対して、正極活性物質の含有量は、99%未満、または98%未満である。ある実施例において、正極活物質層の重量に対する正極活物質び含有量は、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。正極活物質の含有量が上記した範囲内にあると、正極活物質層における正極活物質の電気容量を確保しつつ正極の強度を維持することができる。
【0152】
正極活物質層の密度
塗布と乾燥によって得られた正極活物質層については、正極活物質の充填密度を上げるために、ハンドプレス、ローラープレスなどにより圧密処理を行ってもよい。ある実施例において、正極活物質層の密度は、1.5g/cm3超、2g/cm3超、または2.2g/cm3超である。ある実施例において、正極活物質層の密度は、5g/cm3未満、4.5g/cm3未満、または4g/cm3未満である。ある実施例において、正極活物質層の密度は、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。正極活物質層の密度が上記した範囲内にあると、電気化学装置に良好な充放電特性を持たせつつ抵抗の増大を抑制することができる。
【0153】
正極活物質層の厚さ
正極活物質層の厚さは、正極集電体の任意の片側にある正極活物質層の厚さを指す。ある実施例において、正極活物質層の厚さは、10μm超、または20μm超である。ある実施例において、正極活物質層の厚さは、500μm未満、または450μm未満である。
【0154】
正極活物質の製造方法
正極活物質は、無機化合物を製造する一般的な方法によって製造してもよい。球状または楕円球状の正極活物質を作成するために、以下の製造方法を採用してもよい。遷移金属の原料物質を水などの溶媒に溶解または粉砕分散して、攪拌しながらpHを調節して、球状の前駆体を作成し、回収し、これを必要に応じて乾燥した後、LiOH、Li2CO3、LiNO3などのLi源を加えて、高温で焼成して正極活物質を得る。
【0155】
2、正極集電体
正極集電体の種類は、特に限定されず、任意の既知の正極集電体に適用する材質であってもよい。正極集電体の実例は、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルメッキ、チタン、タンタルなどの金属材料;カーボンクロス、カーボンペーパーなどの炭素材料を含むが、これらに限定されない。ある実施例において、正極集電体は、金属材料である。ある実施例において、正極集電体は、アルミニウムである。
【0156】
正極集電体の形態は、特に限定されない。正極集電体が金属材料である場合、正極集電体の形態は、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、金属箔、金属メッシュシート、パンチングメタル、発泡メタルなどを含むが、これらに限定されない。正極集電体が炭素材料である場合、正極集電体の形態は、炭素板、炭素薄膜、炭素円柱などを含むが、これらに限定されない。ある実施例において、正極集電体は、金属箔である。ある実施例において、前記金属箔は、メッシュ状である。前記金属箔の厚さは、特に限定されない。ある実施例において、前記金属箔の厚さは、1μm超、3μm超、または5μm超である。ある実施例において、前記金属箔の厚さは、1mm未満、100μm未満、または50μm未満である。ある実施例において、前記金属箔の厚さは、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。
【0157】
正極集電体及び正極活物質層の電子接触抵抗を低減させるために、正極集電体の表面に、導電助剤を含んでもよい。導電助剤の実例は、炭素、及び金、プラチナ、銀などの貴金属類を含むが、これらに限定されない。
【0158】
正極活物質層と正極集電体との厚さの比は、片面の正極活物質層の厚さを正極集電体の厚さで除するものを指し、その値は、特に限定されない。ある実施例において、厚さ比は、50未満、30未満、または20未満である。ある実施例において、厚さ比は、0.5超、0.8超、または1超である。ある実施例において、厚さ比は、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。厚さ比が上記した範囲内にあると、高電流密度充放電中の正極集電体の放熱を抑制することができ、電気化学装置の容量を確保することができる。
【0159】
3、正極の作製方法
正極は、正極活物質と粘着剤とを含有する正極活物質層を集電体上に形成して作製される。正極活物質を用いる正極の製造は、常法により行うことができる。即ち、正極活物質と粘着剤、並びに必要に応じて導電材及び増粘剤等を乾式で混合してシート状にしたものを正極集電体に圧着すること;或いはこれらの材料を液体媒体に溶解又は分散させてスラリーとして、これを正極集電体に塗布し、乾燥することで、正極活物質層を集電体上に形成させることにより正極を得ることができる。
【0160】
IV、セパレータ
正極と負極との間に、短絡を防止するために、通常、セパレータが配設されている。この場合、本発明の電解液は、通常、このセパレータに含浸して用いる。
【0161】
セパレータの材料及び形状は、本発明の効果を著しく損なわない限り、特に限定ない。前記セパレータは、本発明の電解液に対して安定な材料からなる樹脂、ガラス繊維、無機物などであってもよい。ある実施例において、前記セパレータは、保液性が優れた多孔性シートまたは不織布状形態の物質などを含む。樹脂またはガラス繊維セパレータの材料の実例は、ポリオレフィン、芳香族ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルスルホンなどを含むが、これらに限定されない。ある実施例において、前記ポリオレフィンは、ポリエチレンまたはポリプロピレンである。ある実施例において、前記ポリオレフィンは、ポリプロピレンである。上記したセパレータの材料は、単独で用いてもよく、任意に組み合わせて用いてもよい。
【0162】
前記セパレータは、上記した材料を積層してなる材料であってもよく、その実例は、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリプロピレンの順で積層されてなる三層セパレータなどを含むが、これらに限定されない。
【0163】
無機物の材料の実例は、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素などの酸化物;窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの窒化物;硫酸塩(例えば、硫酸バリウム、硫酸カルシウムなど)を含むが、これらに限定されない。無機物の形態は、粒子状または繊維状を含むが、これらに限定されない。
【0164】
前記セパレータの形態は、薄膜形態であり、その実例は、不織布、織布、微多孔性フィルムなどを含むが、これらに限定されない。薄膜形態では、前記セパレータの孔径が0.01μm~1μmであり、厚さが5μm~50μmである。上記した独立の薄膜状セパレータ以外に、樹脂類の粘着剤を用いて上記した無機物の粒子を含有する複合多孔層を正極及び/または負極の表面上に形成させてなるセパレータ、例えば、粘着剤としてフッ素樹脂を使用して正極の両面に90%粒径が1μm未満の酸化アルミニウムを多孔層を形成させるセパレータを用いることもできる。
【0165】
前記セパレータの厚さは、任意である。ある実施例において、前記セパレータの厚さは、1μm超、5μm超、または8μm超である。ある実施例において、前記セパレータの厚さは、50μm未満、40μm未満、または30μm未満である。ある実施例において、前記セパレータの厚さは、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。前記セパレータの厚さが上記した範囲内にあると、絶縁性及び機械的強度を確保しつつ電気化学装置のレート特性及びエネルギー密度を確保することができる。
【0166】
セパレータとして多孔性シートまたは不織布などの多孔質材料を用いる場合、セパレータの孔隙率は、任意である。ある実施例において、前記セパレータの孔隙率は、10%超、15%超、または20%超である。ある実施例において、前記セパレータの孔隙率は、60%未満、45%未満、または40%未満である。ある実施例において、前記セパレータの孔隙率は、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。前記セパレータの孔隙率が上記した範囲内にあると、絶縁性及び機械的強度を確保しつつ膜の抵抗を抑制することができ、電気化学装置に良好なレート特性を持たせる。
【0167】
前記セパレータの平均孔径も、任意である。ある実施例において、前記セパレータの平均孔径は、0.5μm未満、または0.2μm未満である。ある実施例において、前記セパレータの平均孔径は、0.05μm超である。ある実施例において、前記セパレータの平均孔径は、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。前記セパレータの平均孔径が上記した範囲を超れば、短絡が発生しやすい。セパレータの平均孔径が上記した範囲内にあると、膜抵抗を抑制しつつ短絡を防止することができ、電気化学装置に良好なレート特性を持たせる。
【0168】
V、電気化学装置の部品
電気化学装置の部品は、電極アセンブリ、集電構造、外装ケース、及び保護素子を含む。
【0169】
電極アセンブリ
電極アセンブリは、上記した正極と負極とを上記したセパレータを介して積層して形成された積層構造、及び上記した正極と負極とを上記したセパレータを介して渦巻き状に捲回した構造のうちの何れか一種を備えても良い。ある実施例において、電池内容積に電極アセンブリの質量が占める割合(電極アセンブリ占有率)は、40%超、または50%超である。ある実施例において、電極アセンブリ占有率は、90%未満、または80%未満である。ある実施例において、電極アセンブリ占有率は、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。電極アセンブリ占有率が上記した範囲内にあると、電気化学装置の容量を確保しつつ内部圧力の上昇に伴う繰り返しの充放電特性及び高温保存などの特性の低下を抑制することができる。
【0170】
集電構造
集電構造は、特に限定されない。ある実施例において、集電構造は、配線部分及び接合部分の抵抗を低減させる構造である。電極アセンブリが上記した積層構造である場合、各電極層の金属芯部分を束ねて端子に溶接して形成される構造が好適に用いられる。一枚の電極面積が大きくなると、内部抵抗が大きくなるので、電極内に2つ以上の端子を設けて抵抗を低減させることも好適に用いられる。電極アセンブリが上記した捲回構造である場合、正極及び負極にそれぞれ2つ以上のリード構造を設け、端子に束ねることにより、内部抵抗を低くすることができる。
【0171】
外装ケース
外装ケースの材質は、用いられる電解液に対して安定な物質であれば特に限定されない。外装ケースは、ニッケルめっき鋼板、ステンレス、アルミニウムまたはアルミニウム合金、マグネシウム合金などの金属類、または樹脂とアルミ箔との積層フィルムを用いるが、これらに限定されない。ある実施例において、外装ケースは、アルミニウムまたはアルミニウム合金の金属、または積層フィルムである。
【0172】
金属類の外装ケースは、レーザー溶接、抵抗溶接、超音波溶接により金属同士を溶着してなる封止密閉構造;或いは樹脂製ガスケットを介して上記した金属類を用いてなるリベット構造を含むが、これらに限定されない。上記した積層フィルムを用いる外装ケースは、樹脂層同士を熱融着してなる封止密閉構造を含むが、これらに限定されない。シール性を上げるために、上記した樹脂層の間に積層フィルムに用いられる樹脂と異なる樹脂を介在させてもよい。集電端子を介して樹脂層を熱融着して密閉構造とする場合には、金属と樹脂とが接合になるので、介在する樹脂として極性基を有する樹脂または極性基を導入した変性樹脂が用いられる。また、外装ケースの形状も、任意であり、例えば、円筒形、角形、ラミネート型、ボタン型、大型などのうちの何れか一種であってもよい。
【0173】
保護素子
保護素子として、異常発熱または過大電流が流れた時に抵抗が増大する正温度係数(PTC)、温度ヒューズ、サーミスター、異常発熱時に電池内部圧力または内部温度の急激な上昇により回路に流れる電流を遮断する弁(電流遮断弁)などが用いられる。上記した保護素子は、高電流の通常使用で作動しない素子を選択してもよく、保護素子がなくても異常発熱または熱暴走を防止するように設計してもよい。
【0174】
VI、応用
本発明の電気化学装置は、電気化学反応が生じる任意の装置を含み、その具体的な実例は、全種類の一次電池、二次電池、燃料電池、太陽電池またはキャパシタを含む。特に、この電気化学装置は、リチウム金属二次電池またはリチウムイオン二次電池を含むリチウム二次電池である。
【0175】
本発明は、本発明による電気化学装置を含む電子装置をさらに提供する。
【0176】
本発明の電気化学装置の用途は、特に限定されず、既存技術で既知の任意の電子装置に用いることが可能である。ある実施例において、本発明の電気化学装置は、ノートパソコン、ペン入力パソコン、モバイルパソコン、電子ブックプレーヤー、携帯電話、携帯ファックス、携帯コピー、携帯プリンター、ヘッドフォンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、ポータブルCD、ミニディスク、トランシーバー、電子手帳、電卓、メモリーカード、携帯テープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、モーター、自動車、バイク、原動機付自転車、自転車、照明器具、玩具、ゲーム機器、時計、電動工具、ストロボ、カメラ、家庭用大型蓄電池及びリチウムイオンキャパシタなどに利用されるが、これらに限定されない。
【0177】
以下では、例としてリチウムイオン電池を挙げ、具体的な実施例を参照してリチウムイオン電池の調製について説明し、当業者は、本発明に記載されている調製方法が単なる例示であり、他のいかなる好適な調製方法が本発明の範囲内にあることを理解すべきである。
【0178】
実施例
以下、本発明によるリチウムイオン電池の実施例及び比較例を説明して性能評価を行う。
【0179】
一、リチウムイオン電池の調製
1、負極の調製
人造黒鉛、ゴム及びカルボキシメチルセルロースナトリウムを質量比96%:2%:2%で脱イオン水と混合し、均一に撹拌して、負極スラリーを得た。当該負極スラリーを12μmの集電体の上に塗布し、乾燥し、コールドプレスして、打ち抜き、タブを溶接して、負極を得た。
【0180】
【0181】
2、正極の調製
コバルト酸リチウム(LiCoO2)、導電材(Super-P)及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)を質量比95%:2%:3%でN-メチルピロリドン(NMP)と混合し、均一に撹拌して、正極スラリーを得た。この正極スラリーを12μmのアルミニウム箔の上に塗布し、乾燥し、コールドプレスして、打ち抜き、タブを溶接して、正極を得た。
【0182】
3、電解液の調製
乾燥アルゴンガス雰囲気で、EC、PC及びDEC(重量比1:1:1)を混合し、LiPF6の濃度が1.15mol/Lになるように、LiPF6を加えて均一に撹拌して、基礎電解液を形成した。基礎電解液に異なる含有量の添加剤を加えて異なる実施例及び比較例の電解液を得た。
【0183】
電解液における成分の略語及びその名称は、以下の表2の通りである。
【0184】
【0185】
4、セパレータの調製
ポリエチレン(PE)多孔重合体薄膜をセパレータとした。
【0186】
5、リチウムイオン電池の調製
得られた正極、セパレータ及び負極を順番に巻いて外装箔に入れ、注液口を残す。注液口から電解液を注入し、封止して、化成し、容量な測定などのプロセスを経て、リチウムイオン電池を得た。
【0187】
二、測定方法
1、リチウムイオン電池のレート特性の測定方法
25℃で、リチウムイオン電池を0.2Cで3.0Vまで放電し、5分間静置して、0.5Cで4.4Vまで充電し、0.05Cまで定電圧充電した後、5分間静置して、放電レートを調整し、それぞれ0.2Cおよび5.0Cで放電の測定を行い、放電容量を得て、レート5.0Cで得られた容量と0.2Cで得られた容量とを比較し、その比を得て、リチウムイオン電池のレート特性を評価した。
【0188】
2、リチウムイオン電池の厚さ膨張率の測定方法
25℃で、リチウムイオン電池を30分間静置し、その厚さT1を測定した後、5℃/minの昇温速度で昇温し、温度が130℃となると、30分間保持して、リチウムイオン電池の厚さT2を測定した。下式でリチウムイオン電池の厚さ膨張率を計算した。
厚さ膨張率=[(T2-T1)/T1]×100%
【0189】
三、測定結果
表3には、負極合剤層の降伏点伸びX%、負極活物質のメディアン径Yμm及びそれらの関係がリチウムイオン電池のレート特性及び厚さ膨張率に対する影響を示す。
【0190】
【0191】
結果から、負極合剤層の降伏点伸びX%と負極活物質のメディアン径Yμmとが0.1≦X/Y≦30を満たし、且つ電解液がシアノ基を有する化合物を含む場合、充放電過程による負極の膨張/収縮を抑制し、負極合剤層と電解液との間の界面を安定させて、リチウムイオン電池のレート特性を著しく向上させ、その厚さ膨張率を低減させ、その安全性能を改善させることができることが分かる。
【0192】
表4には、ゴムがリチウムイオン電池のレート特性及び厚さ膨張率に対する影響を示す。実施例2-1~2-9と実施例1-1との違いは、表4にリストされているパラメータだけである。
【0193】
【0194】
結果から、異なるゴムを用いることにより、負極合剤層の降伏点伸びを調節することができることが分かる。負極合剤層の降伏点伸びが10%~30%の範囲内にあり、且つYが1~50の範囲内にある場合、リチウムイオン電池のレート特性をさらに向上させ、その厚さ膨張率を低減させることができる。
【0195】
表5には、負極活物質における微量金属がリチウムイオン電池のレート特性及び厚さ膨張率に対する影響を示す。実施例3-1~3-8と実施例1-1との違いは、表3にリストされているパラメータだけである。
【0196】
【0197】
結果から、負極活物質に微量金属元素(即ち、0.05%未満の鉄、モリブデンおよび/または銅)が存在する場合、リチウムイオン電池のレート特性をさらに向上させ、その厚さ膨張率を低減させ、その安全性能を改善させることができることが分かる。
【0198】
表6には、シアノ基を有する化合物がリチウムイオン電池のレート特性の向上及び厚さ膨張率に対する影響を示す。実施例4-1~4-6と実施例1-1との違いは、表6にリストされているパラメータだけである。
【0199】
【0200】
実施例4-1、4-4及び4-5から分かるように、高い含有量のエーテル結合を含まないジニトリル化合物(ADNまたはSN)と低い含有量のエーテル結合を含むジニトリル化合物(EDN)とを組み合わせて用いることにより、リチウムイオン電池のレート特性をさらに向上させ、その厚さ膨張率を低減させ、その安全性能を改善させることができる。
【0201】
実施例4-2、4-3及び4-6から分かるように、高い含有量のエーテル結合を含まないジニトリル化合物(ADNまたはSN)と低い含有量のトリニトリル化合物(HTCNまたはTCEP)とを組み合わせて用いることにより、さらに、リチウムイオン電池のレート特性を向上させ、その厚さ膨張率を低減させ、その安全性能を改善させることができる。
【0202】
表7には、電解液の成分がリチウムイオン電池のレート特性及び厚さ膨張率に対する影響を示す。実施例5-1~5-31と実施例1-1との違いは、表7にリストされているパラメータだけである。
【0203】
【0204】
結果から、負極合剤層の降伏点伸びX%と負極活物質のメディアン径Yμmとが0.1≦X/Y≦30を満たし、且つ電解液がシアノ基を有する化合物を含むであることに加えて、電解液がフルオロエチレンカーボネート、硫黄-酸素二重結合を含有する化合物、ジフルオロリン酸リチウム及び/または式1で示される化合物をさらに含む場合、リチウムイオン電池のレート特性をさらに向上させ、その厚さ膨張率を低減させ、その安全性能を改善させることができることが分かる。
【0205】
表8には、負極活物質のメディアン径Yμmと電解液におけるフルオロエチレンカーボネートの含有量b%との間の関係がリチウムイオン電池のレート特性及び厚さ膨張率に対する影響を示す。実施例6-1~6-9と実施例5-1との違いは、表8にリストされているパラメータだけである。
【0206】
【0207】
結果から、電解液におけるフルオロエチレンカーボネートの含有量が0.1%~10%である場合、リチウムイオン電池のレート特性をさらに向上させ、その厚さ膨張率を低減させ、その安全性能を改善させることができることが分かる。負極活物質のメディアン径Yμmと電解液におけるフルオロエチレンカーボネートの含有量b%とが4≦Y×b≦200を満たす場合、リチウムイオン電池のレート特性をさらに向上させ、その厚さ膨張率を低減させ、その安全性能を改善させることができる。
【0208】
表9には、負極合剤層の降伏点伸びX%と電解液におけるシアノ基を有する化合物の含有量Z%との間の関係がリチウムイオン電池のレート特性及び厚さ膨張率に対する影響を示す。実施例7-1~7-6と実施例1-1との違いは、表9にリストされているパラメータだけである。
【0209】
【0210】
結果から、負極合剤層の降伏点伸びX%と電解液におけるシアノ基を有する化合物の含有量Z%とが2≦X/Z≦100を満たす場合、リチウムイオン電池のレート特性をさらに向上させ、その厚さ膨張率を低減させ、その安全性能を改善させることができる。
【0211】
明細書全体では、「実施例」、「部分的実施例」、「一つの実施例」、「別の一例」、「例」、「具体例」または「部分的例」による引用は、本発明の少なくとも一つの実施例または例は、当該実施例または例に記載した特定の特徴、構造、材料または特性を含むことを意味する。したがって、明細書全体の各場所に記載された、例えば「ある実施態様において」、「実施例において」、「一つの実施例において」、「別の例において」、「一つの例において」、「特定の例において」または「例」は、必ずしも本発明での同じ実施例または例を引用するわけではない。また、本明細書の特定の特徴、構造、材料、または特性は、一つまたは複数の実施例または例において、いかなる好適な方法で組み合わせることができる。
【0212】
例示的な実施例が記載及び説明されたが、当業者は、上記した実施例が本発明を限定するものとして解釈されないこと、かつ、本発明の技術思想、原理、及び範囲から逸脱しない場合に実施例への改変、置換及び変更が可能であること、を理解すべきである。
【国際調査報告】