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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-27
(54)【発明の名称】コーティング層を有する容器
(51)【国際特許分類】
   B29C 49/22 20060101AFI20230120BHJP
   B29C 49/06 20060101ALI20230120BHJP
   B29B 11/14 20060101ALI20230120BHJP
   B29B 13/08 20060101ALI20230120BHJP
   B65D 23/08 20060101ALI20230120BHJP
【FI】
B29C49/22
B29C49/06
B29B11/14
B29B13/08
B65D23/08 B BRH
B65D23/08 BSG
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022529676
(86)(22)【出願日】2020-11-23
(85)【翻訳文提出日】2022-07-01
(86)【国際出願番号】 NL2020050735
(87)【国際公開番号】W WO2021101384
(87)【国際公開日】2021-05-27
(31)【優先権主張番号】2024298
(32)【優先日】2019-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591211799
【氏名又は名称】ハイネケン サプライ チェーン ベー.フェー.
【氏名又は名称原語表記】Heineken Supply Chain B.V.
【住所又は居所原語表記】Tweede Weteringplantsoen21 1017 ZD Amsterdam The Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】バルト・ヤン・バックス
(72)【発明者】
【氏名】レジス・ヘイバーガー
(72)【発明者】
【氏名】ジル・スケルトイェンス
(72)【発明者】
【氏名】ヨアンナ・ボレク-ドンテン
【テーマコード(参考)】
3E062
4F201
4F208
【Fターム(参考)】
3E062AA09
3E062AC02
3E062AC07
3E062JA01
3E062JA08
3E062JB23
3E062JC01
3E062JD01
4F201AA04
4F201AA11
4F201AA24
4F201AG03
4F201AG07
4F201AH55
4F201BA03
4F201BC01
4F201BD06
4F201BM13
4F201BN41
4F208AA04
4F208AA11
4F208AA24
4F208AG03
4F208AG07
4F208AH55
4F208LA08
4F208LB01
4F208LG03
4F208LG07
4F208LG28
4F208LH02
4F208LH24
(57)【要約】
コーティング層を有する容器(1)。本発明は、食品及び飲料用の容器の分野である。プラズマ蒸着を用いて容器(1)用のプリフォーム(1、2)上にコーティング層(2、4)を塗布する方法が提供される。容器(1)用のプリフォーム(1、2)、並びにプリフォーム(1、2)の延伸によって得られる容器(1)も提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器用プリフォーム上にコーティング層を塗布する方法であって、
a)低エネルギーのコールドプラズマを提供するステップ;
b)コーティング前駆体及びプリフォームを前記プラズマに暴露し、それによって前駆体、プリフォーム、又はその両方を化学的に活性化させるステップ;
c)活性化された前駆体同士の反応及び/又は活性化された前駆体と活性化されたプリフォームとの反応により、プリフォームの少なくとも一部にコーティング層を堆積させるステップ;
を含む、方法。
【請求項2】
前記コーティング層は、前記プリフォーム上に共有結合でグラフトされている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記コーティング層は架橋されており、前記プリフォームが延伸されたときに前記層は無傷のままである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記プリフォームは熱可塑性材料を含む、請求項1から3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記熱可塑性材料は、PET、PLA、PEF、PEN、PP及びPEからなる群から選択される1つ又は複数を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記コーティング層は、疎水性を有するプリフォームを提供する、請求項1から5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記疎水性は、フルオロアクリレートモノマー、フルオロアルキルアクリレートモノマー、フルオロメタクリレートモノマー、フルオロアルキルメタクリレートモノマー、フルオロシランモノマー、又はそれらの組み合わせもしくは誘導体を含む第1の前駆体、及びシクロシロキサンを含む第2の前駆体から誘導されるコーティング層によって付与される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記プラズマは大気である、請求項1から7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記コーティング層は、前記プリフォームの表面全体に塗布される、請求項1から8の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1から9の何れか一項に記載の方法と、後続の延伸ステップとを含む、容器の製造方法。
【請求項11】
請求項1から9の何れか一項に記載の方法を用いて塗布されたコーティング層を含む、容器用プリフォーム。
【請求項12】
請求項11に記載のプリフォームを延伸することによって得られるコーティング層を含む容器。
【請求項13】
前記プリフォームのブロー成形によって得られる、請求項12に記載の容器。
【請求項14】
ブロー成形された容器の延伸比は5~20である、請求項12又は13に記載の容器。
【請求項15】
前記コーティング層は無傷である、請求項12から14の何れか一項に記載の容器。
【請求項16】
コーティング層を含む容器の製造のための、低エネルギーのコールドプラズマを用いたプラズマ蒸着の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品及び飲料用の容器、並びにこれらの容器を調製するための方法、及びこれらの方法で使用されるプリフォームの分野である。特に本発明は、これらの方法と、その上にコーティング層が塗布された容器及び/又はこのような容器用のプリフォームと、に向けられたものである。
【背景技術】
【0002】
食品及び飲料業界では、容器の内容物を新鮮に保つために、多種多様な容器が使用されている。
【0003】
このような飲料用容器は、種々の材料で作ることができる。軽量で強度が高いため、プラスチック、特に熱可塑性材料などのポリマー材料が、食品及び飲料の包装によく使用される。食品及び飲料の容器に適したポリマー材料は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ乳酸(PLA)、ポリエチレン2,5-フランジカルボキシレート(PEF)などのポリエステルや、ポリプロピレン(PP)及びポリエチレン(PE)などの他の広く利用可能な材料である。
【0004】
熱可塑性ポリマーで作られた容器は、ブロー成形を用いて製造することができる。このプロセスでは、例えば射出成形によって、容器用プリフォームが製造される。続いて容器は、赤外線を使用してプリフォームを再加熱し、再加熱されたプリフォームを最終形状に延伸することによって、典型的にはブロー成形ステップ(延伸ブロー成形とも呼ばれる)において製造される。空の容器を輸送するのは非効率的である。従って、容器用プリフォームは多くの場合、ある場所で製造され、次の場所に輸送され、そこでプリフォームが最終的な寸法にブロー成形され、充填される。
【0005】
廃棄物削減や環境負荷低減の観点から、容器はリサイクルできることが望ましい。PET、PP及びPEなどのポリマーは既にかなりの程度リサイクルされており、そのような材料をリサイクルするためのインフラも整っているため、責任を持ってこれらの材料を廃棄するのに便利である。リサイクルされた材料の品質を高く保つためには、純粋な材料、すなわち他の材料を多く含まないプラスチックを使用することが望ましい。
【0006】
飲料用容器の特殊なタイプは、バッグインコンテナである。このタイプの容器は、内層、すなわち液体が含まれる内側容器又はバッグと、外層、すなわちバッグインコンテナに構造的な一体性を提供する外側容器と、を含む。内側容器を空にするために、外側容器と内側容器の間に(大気圧に対して)上昇したガス圧を印加することができる。これにより、バッグの中にガスが入ることなくバッグから流体が吐出され、それにより容器の内容物が新鮮に保たれる。バッグインコンテナは、例えば生ビールシステムにおいて使用されている。バッグインコンテナは、内層すなわち内側プリフォームと、外層すなわち外側プリフォームと、を含むプリフォームを製造し、この二重プリフォームを一体的にブロー成形してバッグインコンテナにすることにより製造することができる。ブロー成形の間、プリフォームの内層は容器の内層となるように延伸され、プリフォームの外層は容器の外層となるように延伸される。
【0007】
リサイクル性の観点から、バッグインコンテナの内側容器及び外側容器は同じ材質で作られることが望ましい。
【0008】
バッグインコンテナシステムを適切に機能させるためには、使用中に内側容器又はバッグが外側容器から剥離することが重要である。これは、互いに接着しにくい異なる材料を内側容器と外側容器に使用することで達成できる。しかしながら、内側プリフォーム又は容器と外側のプリフォーム又は容器に異なる材料を使用することは、容器をリサイクルする際に不利になる。また、異なる材料を含むプリフォームをバッグインコンテナに一体的にブロー成形することは、特に、異なる材料は一般的に赤外線での再加熱挙動が異なるため、困難であることが判明している。
【0009】
当技術分野では、剥離を最適化するために、内側プリフォームの上に剥離剤が塗布される。典型的には、シリコーン及びPTFEなどの剥離剤は、内側プリフォームの外面に塗布、例えば、スプレーされる。このような剥離剤を使用することの欠点は、剥離剤が表面上を流れる傾向があり、その結果、内側プリフォームの表面上に剥離剤が不均一に分布し、表面の一部が剥離剤によって全く覆われないこともあり得ることである。また、剥離剤の塗布は、使用する機械などの周囲を汚染する可能性があり、溶接などの後続のプロセス段階に支障をきたす可能性がある。
【0010】
剥離を最適化する別のアプローチは、引用文献1(国際公開第2014/077681号)に記載されている、金属フレークをプリフォームに含めることによって、プリフォームの1つの粗さを増加させることである。このアプローチは、剥離剤の代わりとして使用することができる。しかしながら、状況によっては、ブロー成形の前に内側プリフォームの外側に剥離剤を追加的に塗布して、内側容器が外側容器からより容易にかつ制御された方法で剥離されることをさらに促進することが依然として有利であり得る。
【0011】
欧州特許出願公開第2148770号明細書には、同じ材料の内側プリフォーム及び外側プリフォームから作られたバッグインコンテナであって、容器の内層及び外層が剥離される、バッグインコンテナが記載されている。剥離剤の塗布は、場合によっては有利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第2014/077681号
【特許文献2】欧州特許出願公開第2148770号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、少なくとも1つの表面が処理された容器を提供することであり、その処理は容器に様々な機能性を付加するために使用されるものである。本発明の別の目的は、コーティングされた容器又は容器用プリフォームを提供することであり、このコーティングは、容器に多量の余分な材料を加えることなく、容器に種々の機能性を付加するために使用され、それによって容器の良好なリサイクル性を維持することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によれば、プラズマ蒸着を用いて容器用プリフォーム上にコーティング層を塗布する方法が提供される。
【0015】
さらに、容器を製造するための方法が提供される。
【0016】
本発明の別の態様によれば、本明細書に記載の方法を用いて塗布されたコーティング層を含む、容器用プリフォームが提供される。
【0017】
また、本明細書に記載のプリフォームの延伸によって得られるコーティング層を含む、容器が提供される。
【0018】
コーティング層は、低エネルギー大気圧プラズマ放電を用いて容器用プリフォームに塗布され、その結果、プリフォームの表面上に好ましくは架橋及び/又は共有結合でグラフトされたコーティング層がもたらされる。驚くべきことに、コーティング層は、ブロー成形、すなわちプリフォームを容器に延伸する間、無傷(intact)のままである。本明細書に記載された方法を用いると、非常に薄いコーティング層を達成することができる。
【0019】
本発明の別の態様は、コーティング層を含む容器の製造におけるプラズマ蒸着の使用である。
【0020】
より具体的には、本発明は、以下の態様の1つ又は複数において、容器又はそのためのプリフォームを改善しようとするものである:
-剥離特性(バッグインコンテナの場合)、すなわち、外層からの内層の剥離の観点における改善であって、容器形成ステップ(ブロー延伸成形ステップなど)の前、その間、又はその後の外層からの内層の剥離が改善され、可能な限り制御されることを意味する;
-吸湿の観点における改善であって、例えば、容器又はそのためのプリフォームの貯蔵寿命の延長につながる;
-プリフォームへの熱伝達の観点における改善であって、これにより、プリフォームからの容器の形成が改善される;
-着色性の観点における改善であって、これにより、容器に均一に又は局所的に色を付与することが可能になる;
-印刷適性の観点における改善であって、これにより、公知の印刷技術を用いて、容器に直接印刷することが可能になる;
-ガス透過性の観点における改善であって、特に、含まれる流体の望ましくない劣化をもたらす可能性がある、ビールなどの多くの飲料にとって重要な成分である二酸化炭素の望ましくない流出に関し、かつ、例えば周囲の空気からの酸素(O)の望ましくない流入に関する。
-光透過性(可視光又は紫外(UV)線)の観点における改善であって、これにより、ビールが光に打たれる(lightstruck)など、容器の内容物に望ましくない反応が起こるのを避けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明による容器用プリフォームの概略図である。
図2】本発明による容器の概略図である。
図3】本発明によるコーティング層が分析領域の上半分に塗布されたPETプリフォームのTOF-SIMS(飛行時間型二次イオン質量分析計)分析の一例を示す図である。検出されたイオンは、コーティング層を代表するものである。
図4】本発明によるコーティング層が分析領域の上半分に塗布されたPETプリフォームのTOF-SIMS分析の一例を示す図である。検出されたイオンは、PETを代表するものである。
図5】本発明によるコーティング層がその上に塗布されたプリフォームのブロー成形によって製造された容器のTOF-SIMS分析の一例を示す図である。検出されたイオンは、コーティング層を代表するものである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明によれば、容器用プリフォーム上にコーティング層を塗布する方法が提供され、この方法は、以下のステップを含む:
a)低エネルギーのコールドプラズマを提供するステップ;
b)コーティング前駆体及びプリフォームを前記プラズマに暴露し、それによって前駆体、プリフォーム、又はその両方を化学的に活性化させるステップ;
c)活性化された前駆体同士の反応及び/又は活性化された前駆体と活性化されたプリフォームとの反応により、プリフォームの少なくとも一部にコーティング層を堆積させるステップ。
【0023】
容器を製造する方法も提供され、この方法は、本明細書に記載のコーティング層の塗布と、それに続く延伸ステップの方法を含む。
【0024】
低エネルギープラズマは、本明細書では、そのパワー密度が、前駆体及び/又はプリフォームを活性化して化学反応を起こさせる程度に十分に高いが、前駆体、プリフォーム及び/又は容器の破壊を防ぐ程度に十分に低いプラズマとして定義される。パワー密度は、0.2~8W/dmの範囲であってもよく、より好ましくは0.5W/dmと7W/dmの間、さらにより好ましくは0.8W/dmと6W/dmの間、さらにより好ましくは1W/dmと5W/dmの間、さらにより好ましくは1.5W/dmと4W/dmの間、さらにより好ましくは2W/dmと3W/dmの間、例えば、2W/dm、2.1W/dm、2.2W/dm、2.3W/dm、2.4W/dm、2.5W/dm、2.6W/dm、2.7W/dm、2.8W/dm、2.9W/dm、3W/dm又はその間の任意の値、最も好ましくは2.4W/dmから2.6W/dmの範囲内である。
【0025】
コールドプラズマは、本明細書では、その温度が当該コールドプラズマに曝される前駆体及び/又はプリフォームを溶融又は損傷させない程度に十分に低いプラズマとして定義される。プラズマの温度は、150℃以下、好ましくは130℃以下、より好ましくは100℃以下、さらにより好ましくは70℃以下、さらにより好ましくは60℃以下、さらにより好ましくは55℃以下、さらにより好ましくは50℃以下、さらにより好ましくは45℃以下であってよい。プラズマの温度は、室温、すなわち、プラズマの周囲の温度と同程度に低くてもよい。コーティングプロセスを行う場所にもよるが、室温は、10~40℃、好ましくは15~30℃、例えば20~25℃の範囲であってよい。プラズマの温度は、一般に室温より低くなることはない。温度に敏感なコーティングを蒸着する場合、プラズマの温度を最適な値で安定させることが重要である。前駆体又は前駆体混合物の種類及び/又は圧力に応じて、最適な温度を選択することができる。従って、実施形態では、プラズマの温度は、前駆体、前駆体混合物の種類及び/又はプラズマ圧力を考慮して選択される。
【0026】
本発明のプラズマは、好ましくは、周囲圧力付近の圧力を有する大気圧プラズマである。そのようなプラズマは、典型的には400と1600hPaの間の圧力、好ましくは450と1400の間の圧力、さらにより好ましくは500と1300hPaの間の圧力、さらにより好ましくは600と1250hPaの間、さらにより好ましくは700hPaと1200hPaの間、さらにより好ましくは800hPaと1150hPaの間、さらにより好ましくは900hPaと1100hPaの間、最も好ましくは典型的には約1013hPaである約周囲圧力で生成及び放出される。プラズマの圧力は、堆積層の品質において重要な役割を果たすことができる。幾つかのプラズマ前駆体は、大気圧と比較して低すぎる及び/又は高すぎるプラズマ圧力に敏感であり、一方、他の前駆体は、より低い又はより高いプラズマ圧力でより良いコーティングを提供する。しかしながら、低エネルギーのコールドプラズマは、典型的には、400hPaより低い真空までの減圧下、又は1600hPaより高い増圧下で印加することができ、いずれのタイプも、そのような低圧又は高圧を維持するための圧力容器を必要とする。周囲圧力付近の現在好ましい範囲の圧力でプラズマを使用することにより、圧力差や圧力勾配の維持に関連するコストや困難さを軽減することができる。
【0027】
上述した条件を有するプラズマは、ソフトプラズマと呼ばれることがある。ソフトプラズマは、前駆体、プリフォーム、又はその両方を活性化するのに十分なエネルギーを提供することができる。これにより、活性化された前駆体間、並びに活性化された前駆体と活性化されたプリフォームの間での重合反応などの反応の発生が可能になる。同時に、その条件は、前駆体の破壊及び/又は化学的機能の喪失を防ぐ程度に十分にマイルドである。従って、コーティング層の製造において、広範囲の前駆体を使用することができる。抗体のような敏感な前駆体でさえも、ソフトな、すなわち低エネルギーのコールドプラズマを使用して活性化することができる。
【0028】
プラズマは、誘電体バリア放電(DBDプラズマ)を用いて、好ましくは大気圧条件下で生成されてもよい。
【0029】
本明細書に記載のコーティング層は、それが堆積される基材、すなわち容器用プリフォームとは異なる組成の材料の層として定義される。
【0030】
プラズマは、前駆体及び/又は容器用プリフォームの少なくとも1つを化学的に活性化する。前駆体及び/又はプリフォームのこの活性化は、二重分子結合の開口、ラジカルの除去及び/又はイオンの形成によって起こり得る。これにより、コーティング層を形成するために必要な反応が可能になり、及び/又は改善される。これらの反応は、以下を含むことができる:
-重合反応や架橋反応などの前駆体同士の反応、及び/又は
-前駆体と容器用プリフォームとの間の反応、例えば共有結合反応など。
これにより、活性化された前駆体の間、並びに活性化された前駆体と活性化されたプリフォーム又は容器との間での重合反応などの反応の発生が可能になる。
【0031】
好ましくは、コーティング層は、表面と共有結合している。好ましくは、コーティング層は架橋を含み、コーティング層はプリフォーム又は容器との共有結合を構成する。このような架橋及び共有結合は、コーティングの構造的完全性の要因であるか、又は少なくとも改善すると考えられている。コーティングが、例えば延伸ブロー成形によって、プロセスの後半でサイズが大きくなるプリフォームに適用される場合、コーティング層とプリフォームの間の架橋及び共有結合は、プリフォームが延伸される場合でさえ、コーティング層が損傷されるのを防止する。
【0032】
本明細書に記載の方法を用いると、プリフォームが、例えば、延伸ブロー成形を含むブロー成形中に延伸されたとき、コーティング層は無傷のままである。理論に束縛されることを望まないが、分子間の架橋及びコーティング層とプリフォームとの間の共有結合が、プリフォームが延伸されたときでさえ、コーティング層が損傷されるのを防止すると考えられている。
【0033】
好ましくは、プリフォームは、熱可塑性材料を含み、プリフォームが高温で成形可能であることを可能にする。実施形態において、熱可塑性材料は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン2,5-フランジカルボキシレート(PEF)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、及びポリ乳酸(PLA)からなる群から選択される1つ又は複数を含む。
【0034】
適切な前駆体は、アルカン、アルケン、アルキン、ベンゼン誘導体、ハロアルカン、フルオロアルカン、クロロアルカン、ブロモアルカン、ヨードアルカン、アルコール、ケトン、アルデヒド、ハロゲン化アシル、カーボネート、カルボキシレート、カルボン酸、エステル、メトキシ、ヒドロペルオキシド、過酸化物、エーテル、ヘミアセタール、ヘミケタール、アセタール、ケタール、オルソエステル、複素環、オルソカーボネートエステル、アミド、アミン、イミン、イミド、アジド、アゾ化合物、シアン酸塩、硝酸塩、ニトリル、亜硝酸塩、ニトロ化合物、ニトロソ化合物、オキシム、ピリジン誘導体、チオール、チオエーテル、ジスルフィド、スルホキシド、スルホン、スルフィン酸、スルホン酸、スルホン酸エステル、チオシアン酸、チオケトン、チアール、チオエステル、ホスフィン、ホスホン酸、リン酸塩、ホスホジエステル、ボロン酸、ボロン酸エステル、ボリン酸、ボリン酸エステル、シラン、及びそれらの組み合わせを含む群から選択された少なくとも1つの部分を含むことができる。好ましくは、少なくとも1つの部分は、アルカン、アルケン、アルキン、アルコール、シラン、及びそれらの組み合わせを含む群から選択される。
【0035】
好ましい実施形態では、前駆体は、アセチレン、テトラエチルオルトシリケート(TEOS)、シス-ブテン-1,4-ジオール、抗体、ポリペプチド、UV及び可視領域の光に対する保護のための前駆体、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。これらの物質は、吸湿速度の大幅な低減を可能にするが、プリフォーム又は容器にさらなる機能性を付与することもできる。
【0036】
代替的又は追加的に、前駆体は、フルオロアクリレートモノマー、フルオロアルキルアクリレートモノマー、フルオロメタクリレートモノマー、フルオロアルキルメタクリレートモノマー、フルオロシランモノマー、及びそれらの組み合わせ及び誘導体、並びにシクロシロキサンからなる群から選択することができる。好ましくは、コーティング層は、フルオロアクリレートモノマー、フルオロアルキルアクリレートモノマー、フルオロメタクリレートモノマー、フルオロアルキルメタクリレートモノマー、フルオロシランモノマー、又はそれらの組み合わせもしくは誘導体を含む第1の前駆体、及びシクロシロキサンを含む第2の前駆体から誘導される。
【0037】
上記の前駆体から製造されるコーティング層は、プリフォームの重量に対して、1週間当たり0.050重量%より低い吸湿係数を有するプリフォームをもたらすことができる。その結果、プリフォームの貯蔵寿命はかなり改善され、例えば4週間以上となる。この機能性は、薄いコーティング層を使用して達成することができ、プリフォームに欠陥がある、又は汚染されているという印象を与えない。
【0038】
本発明の実施形態において、前駆体は、上記の適切な前駆体のリストのうちの1つを含む。しかしながら、他の実施形態では、前駆体は、上記の適切な前駆体のリストのうちの2つ以上を含む。好ましい実施形態では、コーティング層が少なくとも2つの前駆体を用いて生成され、前記前駆体のうちの少なくとも1つが、光バリアとして、特に紫外線(UV)及び可視光に対して作用するのに適している、方法が提供される。少なくとも2つの前駆体の組み合わせにより、コーティング層は、吸湿性の低下、並びにUV/可視光に対する保護など、2つ以上の機能性を有することができる。追加的又は代替的に、2つ以上の前駆体を組み合わせることによって、吸湿係数のさらに高い低下を得るなど、機能性の改善をもたらすことができ、その結果、プリフォームの重量に対して、1週間当たり0.030重量%以下という低い吸湿係数が得られる可能性がある。
【0039】
コーティング層は、気体に対するバリアとして作用してもよい。好ましくは、コーティング層は、酸素(O)及び/又は二酸化炭素(CO)に対するバリアとして作用する。Oのような気体が容器の内部に向かって移動すると、容器の内容物の劣化を引き起こす可能性がある。また、COなどの気体が外部に移動すると、例えば炭酸飲料の場合、内容物の品質低下を招く可能性がある。
【0040】
本発明の好ましい実施形態では、コーティング層は、容器用プリフォームに1つ又は複数の機能性を付与する。コーティング層は、プリフォームを容器に延伸する際に無傷のまま残るので、コーティング層によって付与される機能性は、延伸前のプリフォーム上、及び延伸ステップを実行した後の容器上の両方に存在することができる。このような機能性は、以下の特性のうちの1つ以上に関連することができる:
-表面張力特性であって、これは例えば、疎水性、吸湿の低下、剥離特性の改善、滑り特性の改善、粘性液体の放出の改善、及び/又は表面の印刷性の改善をもたらすことができる;
-例えばO及び/又はCOなどの気体の透過、並びにその他の望ましくない化学物質に対するバリア性;
-光学特性、例えば、色又は蛍光の付加、及び/又は紫外線又は可視光線に対するバリアの提供;
-再加熱特性;
-プリフォームの強度、例えば、耐ストレスクラック性の改善など。
【0041】
コーティング層の機能性は、少なくとも部分的に、コーティング層を作るために使用される前駆体の種類によって決定される。表1は、本発明者らによる実験で観察された、特定の機能性を付与するためにどの前駆体の種類及び/又は特定の前駆体が使用され得るかをまとめたものである。
【0042】
【表1】
【0043】
コーティング層によって付与できる種々の機能性については、以下でより詳細に説明する。
【0044】
a.吸湿の低下
コーティング層の1つの機能は、例えば延伸ブロー成形によってプリフォームをフルサイズの容器に増大させる前に、コーティングされたプリフォームの吸湿速度を低下させることであり得る。
【0045】
プリフォームの表面がコーティングされる場合、プラズマ蒸着コーティング層は、現在採用されている方法と比較して、より良好な延伸ブロー成形能力を有するプリフォームをもたらすことができる。製造プロセスでは、再現性が非常に重要である。より良好な延伸ブロー成形能力は、プリフォームからのプラスチック容器の製造の再現性を高めることを可能にする。
【0046】
上に示したように、コーティング層は吸湿速度の低下をもたらし、それによってプリフォームの貯蔵寿命を改善することができる。貯蔵期間の向上は、幾つかの理由のために有利である。プリフォームが別のプロセスで製造される、プリフォームからの容器の製造は、多くの異なる理由、例えば、1つ以上の機械の故障、1週間以上工場が閉鎖されなければならない祝日、従業員のストライキ等によって妨げられる可能性がある。また、プリフォームは、例えば海外発送などにより、長い移動時間をかけて長距離を輸送する必要がある場合もある。これらの場合、使用期限が近いプリフォームは、プリフォームから容器が製造される頃には、既に使用期限が切れている可能性がある。従って、製造プロセス全体の時間効率とコスト効率の両方が低下する可能性がある。多くの場合、正しい管理システムを採用することで、これらの問題を回避することができる。しかしながら、例えば予期せぬ事態、管理ミス、又は人為的ミスなど、プリフォームの使用期限切れが避けられない場合もある。このような場合、プリフォームの貯蔵寿命を長くすることができれば有利である。プリフォームの貯蔵寿命を向上させることで、プラスチック容器の製造に使用されている場所とは別の場所でプリフォームを製造する可能性も出てくるか、又は強化される可能性がある。これは、何らかの理由でプリフォームの製造が容器の製造に対して世界の反対側に位置している場合に、特に有利となり得る。さらに、プリフォームの貯蔵寿命を高めることにより、プリフォームの製造と容器の製造とを異なる製造業者によって行う可能性が高まる。これは、経済的に有益であり、かつ/又は、技術開発にとって有益である可能性がある。製造業者の分離は、製造プロセスのより良い及び/又はより速い更なる開発をもたらす可能性がある。プリフォームは容器よりもかなり小さい傾向があるので、プリフォームの輸送は容器の輸送よりも容易かつ安価である。従って、専用の施設でプリフォームを製造し、これらのプリフォームを、容器が製造され、場合によっては充填され、消費用に準備される第2の施設に輸送することが、より費用対効果が高い傾向にある。
【0047】
プリフォームの完全な表面の一部のみが処理される場合、吸湿速度は既にかなり低下している可能性がある。例えば、外面のみが処理される場合、吸湿速度は約半分になり得、プリフォームが環境から密閉される場合、吸湿速度は10倍以上低下され得る。
【0048】
好ましい実施形態では、プリフォームは、前記プリフォームの重量に対して1週間当たり0.070重量%より低い吸湿係数を有し、好ましくはプリフォームの重量に対して1週間当たり0.050重量%より低く、さらにより好ましくはプリフォームの重量に対して1週間当たり0.040重量%より低く、最も好ましくはプリフォームの重量に対して1週間当たり0.030重量%より低い。吸湿速度を低下させるために現在利用可能な方法は、前記プリフォームの重量に対して1週間当たり0.070重量%より高い吸湿係数を有するプリフォームを得る。プリフォームの貯蔵寿命を高めるために、本発明者らは、吸湿係数が前記プリフォームの重量に対して1週間当たり0.070重量%より低くなければならないことを見出した。吸湿係数が前記プリフォームの重量に対して1週間当たり0.050重量%より低いと、プリフォームの貯蔵寿命がさらに向上する。本発明者らは、吸湿係数を前記プリフォームの重量に対して1週間当たり0.070重量%未満に低下させることにより、プリフォームの有効期間が最低4週間長くなることに着目した。さらに吸湿係数を下げると、貯蔵寿命の最低限の向上がさらに高くなった。本発明者らは、吸湿係数をプリフォームの重量に対して1週間当たり0.030重量%未満に低下させることで、貯蔵寿命が12週間を超えて向上することに注目した。
【0049】
実施形態において、前駆体は、フルオロカーボン、シロキサン、脂肪酸及び/又は炭化水素、又はそれらの任意の組み合わせ、好ましくはPFDA、HMDSO、TEOS、VEOS、V4D4、ノナン酸、ノネン、ドデカン、又はそれらの任意の組み合わせを含む。吸湿速度の低下は、このような前駆体について実験的に観察されている。
【0050】
b.内層と外層の剥離性の改善
これは、例えばバッグインコンテナを製造する場合など、延伸ブロー成形の切込み(infeed)において特に重要である。
【0051】
実施形態において、前駆体は、フルオロカーボン、シロキサン、ポリマー溶液又はそれらの任意の組み合わせ、好ましくはPFDA、EVOH又はそれらの任意の組み合わせを含む。改善された剥離は、このような前駆体について実験的に観察されている。
【0052】
c. 再加熱特性の改善
これは、延伸ブロー成形の加工性を改善するために特に重要である。
【0053】
実施形態において、前駆体は、金属ナノ粒子、カーボンナノ粒子、導電性ポリマー又はそれらの任意の組み合わせ、好ましくはAu、CNT、ポリアニリン、ポリチオフェン又はそれらの任意の組み合わせを含む。改善された熱吸収は、このような前駆体について実験的に観察されている。
【0054】
d.滑り特性の改善
これは、プリフォーム及び/又は容器が、例えば充填ラインにおいて搬送されるプロセスを改善するために、特に重要である。
【0055】
実施形態において、前駆体は、フルオロカーボン、シロキサン、グリコール、炭化水素、脂肪酸又はそれらの任意の組み合わせ、好ましくはPFDA、HMDSO、PEGMEA、DEGEA又はそれらの任意の組み合わせを含む。容器間の改善された滑りは、このような前駆体について実験的に観察されている。
【0056】
e.色及び/又はその他の光学特性の付加
これは、トレーサビリティ、偽造防止、又は他の所望の機能に対して特に重要である。
【0057】
実施形態において、前駆体は、1つ又は複数のアクリルインク、UVトレーサー溶液又はそれらの任意の組み合わせ、好ましくはSTSインク、radiantUVトレーサー又はそれらの任意の組み合わせを含む。プリフォーム又は容器の滑らかな着色は、このような前駆体について実験的に観察されている。
【0058】
f.COバリア特性の改善
実施形態において、前駆体は、シロキサン、ポリマー溶液又はそれらの任意の組み合わせ、好ましくはHMDSO、VEOS、EVOH又はそれらの任意の組み合わせを含む。改善されたCOバリア特性は、このような前駆体について実験的に観察されている。
【0059】
g.Oバリア特性の改善
実施形態において、前駆体は、シロキサン、ポリマー溶液又はそれらの任意の組み合わせ、好ましくはHMDSO、VEOS、V4D4、EVOH又はそれらの任意の組み合わせを含む。改善されたOバリアは、このような前駆体について実験的に観察されている。
【0060】
h.光バリア特性の改善
これは、可視光に対して及び/又はUV光に対して、特に重要である。
【0061】
実施形態において、前駆体は、UV光吸収剤、共役芳香族分子、ヒンダードアミン光安定剤、無機酸化物又はそれらの任意の組み合わせ、好ましくはTiO、Tinuvin(登録商標)ファミリー又はそれらの任意の組み合わせを含む。改善された光バリアは、このような前駆体について実験的に観察されている。
【0062】
i.プリフォーム材料に起因する望ましくない化学物質の容器内容物への移行の制限
望ましくない化学物質が、容器の材料から容器内の液体に移行する可能性があり、例えば、アセトアルデヒドがPET材料で生成され、容器の液体内容物の匂いや味を変化させる可能性がある。この点で、本発明は、スカベンジング(scanvenging)機能性を提供することも目的としている。
【0063】
実施形態において、前駆体は、シロキサン又はその任意の組み合わせ、好ましくはHMDSO又はその任意の組み合わせを含む。望ましくない化学物質の制限された移行は、そのような前駆体について実験的に観察されている。
【0064】
j.内部の粘着防止特性の改善
これは、マヨネーズ、ケチャップ、シロップなどの粘性製品の容易な放出に特に重要であり、それによってコーティングは、プリフォーム及び/又は容器の少なくとも内表面に塗布される。
【0065】
実施形態において、前駆体は、フルオロカーボン、グリコール又はそれらの任意の組み合わせ、好ましくはPFDA、PEGMEA、CAS 116-143、CAS 116-15-4、DEGEA又はそれらの任意の組み合わせを含む。内部の粘着防止特性は、そのような前駆体について実験的に観察されている。
【0066】
k.直接物体印刷適性の改善
実施形態において、前駆体は、アクリレート、メタクリレート、ヒドロキシル基、エポキシ基又はそれらの任意の組み合わせ、好ましくはAA、MMA、HEMA、HEAA、GLYMA又はそれらの任意の組み合わせを含む。改善された直接印刷適性は、そのような前駆体について実験的に観察されている。
【0067】
l.耐ストレスクラック性の改善
実施形態において、前駆体は、ポリマー溶液、シロキサン又はそれらの任意の組み合わせ、好ましくはEVOH、HMDSO、VMOS、PFDA、ノネン又はそれらの任意の組み合わせを含む。改善された耐ストレスクラック性は、そのような前駆体について実験的に観察されている。
【0068】
上記の機能性は、完全なプリフォーム又は容器に対して望まれる場合もあるが、プリフォーム又は容器の一部に対してのみ望まれる又は必要とされる場合もある。さらに、容器の異なる部分は、異なる機能性、又は機能性の異なる組み合わせを有することが所望され得る。従って、本発明の実施形態では、プリフォーム及び/又は容器の異なる部分に異なるコーティングが塗布されてもよい。他の実施形態では、プラズマコーティングを、プリフォームの少なくとも1つの部分上に、又は表面全体にわたって堆積させることができる。
【0069】
異なる前駆体は、層ごとの堆積戦略を用いて堆積されてもよく、それによって、各連続する堆積ステップにおいて、1つの前駆体が、プリフォームの少なくとも1つの部分上又は表面全体の上に、層として堆積される。別の可能性は、異なる前駆体の混合物を含む1つ又は複数の層を堆積させることを含み、それによって、堆積は、異なる前駆体をプラズマに同時に導入することによって達成される。当業者であれば、少なくとも2つの異なる前駆体を有するコーティングを得るために、本明細書で言及した堆積の可能性の任意の組み合わせが適用され得ることに留意するであろう。
【0070】
コーティング層の機能性は、コーティング層が堆積される条件、例えば温度及び圧力に大きく依存し得る。良好な機能性を得るためには、最適な条件で作業することが重要であり、それは、常に本明細書で指定する好ましい範囲内ではあるが、使用する前駆体ごとに異なる可能性がある。
【0071】
さらに、本明細書に記載の方法を用いて塗布されたコーティング層を含む容器用プリフォームが提供される。好ましくは、プリフォームは、本明細書に記載の方法によって得られるコーティング層を含む。
【0072】
好ましくは、本明細書に記載の方法を用いて塗布される、及び/又は本明細書に記載の方法によって得られるコーティング層は、架橋されている。
【0073】
追加的又は代替的に、本明細書に記載の方法を用いて塗布される、及び/又は本明細書に記載の方法によって得られるコーティング層は、バッグインコンテナ用のプリフォーム上に共有結合でグラフトされている。
【0074】
また、本明細書に記載のプリフォームの延伸によって得られるコーティング層を含む容器が提供される。
【0075】
本発明の実施形態では、容器は、プリフォームのブロー成形によって得ることができる。
【0076】
例えば吸湿を低下させるためにコーティング層を塗布するためのプラズマ蒸着の使用は、コーティング蒸着プロセスをナノスケールの精度にまで制御する手段を提供する。厚みの制御は重要であるが、なぜなら、厚すぎる層を堆積させると、表面上見える(ostensibly visible)コーティングをもたらす可能性があるからである。表面上見えるコーティングは、欠陥のある又は汚染されたプリフォームとの印象を与える可能性があり、そのようなことは望ましくない。本明細書の文脈では、コーティングは、着色又は滑らかな外観のような目に見える効果を生じさせることができることに留意されたい。しかしながら、そのような効果がコーティングの結果であるように見えないことが、本発明の利点である。
【0077】
プリフォーム上に堆積されたコーティング層は、5と600nmの間、好ましくは5と500nmの間、より好ましくは10と500nmの間、さらにより好ましくは10と300nmの間、さらにより好ましくは10と200nmの間、さらにより好ましくは10と80nmの間、例えば10nm、20nm、30nm、40nm、50nm、60nm、70nm、80nm又はその間の任意の値、最も好ましくは約20nmなどの厚さを有してもよい。プラズマコーティングの厚さは、プラズマ及び/又は前駆体へのプリフォーム又は容器の曝露時間を制御することによって、良好に制御することができる。
【0078】
本発明の実施形態では、容器は、プリフォームを一体的に延伸することによって得ることができ、延伸比は2~20である。好ましくは、体積に関する延伸比は、5と20の間、より好ましくは10と15の間、さらにより好ましくは12と15の間、例えば12、13、14、15又はその間の任意の値、最も好ましくは約13.5である。好ましくは、前記プリフォームは、2~20、好ましくは3~15、より好ましくは4~12、さらにより好ましくは5~10の延伸比で長さが増加し、及び/又は前記プリフォームは、2~20、好ましくは3~15、より好ましくは4~12、さらにより好ましくは5~10の延伸比で直径が増加する。プリフォームのサイズを増大させるステップの間、長さ、直径及び/又は体積は、上記の範囲に従って増加される。コーティング層の厚さは、延伸比の増加に伴って減少する。プリフォーム上のコーティングの厚さは、表面の増加に反比例して減少すると考えられている。プリフォームの形状はサイズが増加する間に変化する可能性があるため、体積延伸比の2/3乗に対する厚み減少の理論的な反比例は必ずしも成立しない。好ましくは、熱可塑性樹脂プリフォームは、一体延伸の際に、直径だけでなく長さも延伸される。
【0079】
延伸後、容器上のコーティング層は、100nm以下の厚さを有していてもよい。好ましくは、コーティング層は、80nm以下、より好ましくは50nm以下、例えば20以下の厚さを有する。延伸後のコーティング層の厚さは、5nm程度であってもよいが、好ましくはそれ以上である。実施形態において、容器上のコーティング層の厚さは、30nm以下、より好ましくは25nm以下、さらにより好ましくは20nm以下、さらにより好ましくは15nm以下、さらにより好ましくは10nm以下、例えば10nm、9nm、8nm、7nm、6nm、5nm、4nm、3nm、2nm、1nm又はその間の任意の値、最も好ましくは約6nmである。好ましくは、容器上のコーティングは、少なくとも2nmの厚さである。
【0080】
コーティング層の厚さが低いので、本発明によるプリフォーム及び容器の材料の総量のほんの一部(例えば1重量%未満)だけがコーティング材料である。このため、コーティングされたプリフォーム及び容器は、リサイクル材料の品質に悪影響を及ぼすことなく、良好にリサイクルすることができる。
【0081】
実施形態において、プリフォームは、対向面を有する内側プリフォームと外側プリフォームとを含むバッグインコンテナ用プリフォームであってよく、対向面の少なくとも1つは、本明細書に記載の方法を用いて塗布されたコーティング層でコーティングされている。その場合、コーティング層は、内側プリフォームの内側、内側プリフォームの外側、外側プリフォームの内側、及び外側プリフォームの外側のうちの1つ又は複数の表面に塗布されてもよい。好ましくは、コーティング層は、少なくとも内側プリフォームの外側、外側プリフォームの内側、又はその両方に塗布される。原則として、コーティング層は、これらの表面の一部、又はこれらの表面の全体に塗布することができる。好ましくは、コーティング層は、その表面の全体に塗布される。そのようにして、コーティング層が塗布されたプリフォーム又は容器の内面及び/又は外面の表面特性は、主にコーティング層の特性によって決定される。
【0082】
好ましくは、コーティング層は無傷である。無傷のコーティング層とは、それが塗布された表面全体を覆っているコーティング層と定義される。従って、コーティング層は、コーティング層が塗布された表面の材料が露出する領域がないものである。このように、コーティング層が塗布されたプリフォーム又は容器の表面特性、例えば剥離特性は、コーティング層の特性によって決定される。好ましくは、コーティング層はプリフォームの延伸中も無傷のままであり、その結果、容器上に無傷のコーティング層がもたらされる。
【0083】
本発明による厚さを有する無傷のコーティング層の存在を確認するために、図3~5に示すように、飛行時間型二次イオン質量分析(TOF-SIMS)のような表面技術を適用することができる。
【0084】
本発明に従って、コーティング層は、表面の少なくとも一部に塗布される。用途によっては、表面の特定の部分は意図的にコーティングされないままであってもよい。例えば、剥離特性を改善する場合、バッグインコンテナの準備に使用されるプリフォームのネック部分は、通常ブロー成形中に変形しないので、コーティングする必要はない。
【0085】
コーティング層の特性評価の代替方法には、光学的測定が含まれ得る。コーティング層を形成するために多種多様な前駆体を使用することができるので、顔料又は染料などの光学的に活性な成分もコーティング層に組み込むことができる。これらの光学的に活性な成分は、光学的検出方法を用いて検出することができる。例えば、蛍光材料がコーティング層に組み込まれる場合、無傷のコーティング層の存在は、蛍光測定を使用して実証されてもよい。好ましい実施形態では、顔料又は染料のような着色剤が、好ましくは気体又は液体として、又はエアロゾルの形態で液体又はコロイド混合物に溶解した粉末として、プラズマに添加される。着色することにより、目視検査による品質確認が容易になるが、他の視覚的効果に使用することもできる。例えば、蛍光物質をコーティング層に組み込んだ場合、無傷のコーティング層の存在は、蛍光測定を使用して実証することができる。さらに、後で容器に直接印刷を施すことを意図している場合、着色剤を既にプラズマに供給することで、コーティングの上に着色プロセスを行うよりも簡単かつ迅速な方法で、より均一な背景色を提供することができる。
【0086】
好ましくは、コーティング層は、コンフォーマルコーティング層である。このようなコンフォーマル層は、表面が大きな曲率を含む場合、例えば、開口部付近、ネック付近、又はプリフォームもしくは容器の底部付近であっても、表面に密接に追従する。
【0087】
バッグインコンテナ用プリフォームの場合、プリフォームの内側プリフォームと外側プリフォームは、同じ材料及び/又は異なる材料で形成されてもよい。内側プリフォームの外側及び/又は外側プリフォームの内側に塗布されるコーティング層は、内側プリフォームの材料と外側プリフォームの材料との接触を防止することができる。その場合、内側プリフォームと外側プリフォームの同じ材料が接触することはない。その代わりに、コーティング層が対向面の少なくとも1つに存在する場合、剥離特性は、コーティング層と他方の対向面との間の相互作用、又は2つのコーティング層間の相互作用によって決まる。このようにして、コーティング層は、例えばブロー成形の前、間、及び/又は後に、内側層と外側層の剥離を最適化することができる。
【0088】
プリフォームが複数のプリフォームから構成される場合、例えばバッグインコンテナ用プリフォームの場合、そのようなプリフォームは、当技術分野で既知の方法を用いて、2つ以上の重ね合わせたプリフォーム、すなわち内側プリフォームと外側プリフォームを接合することによって形成されてもよい。そのような方法の非限定的な例は、例えば欧州特許出願公開第2885241号明細書に記載されているような、内側プリフォームと外側プリフォームのスピン溶接を含む。プリフォームの接合を達成するために、内側プリフォームと外側プリフォームとの間の接触が意図的に行われるネック領域などの領域が存在する場合がある。本明細書に記載されるように、内側プリフォームと外側プリフォームの同じ材料が互いに接触していないバッグインコンテナ用プリフォームは、必要な構造的完全性を達成するために、バッグインコンテナ用プリフォームのネック領域などの特定の領域において内側と外側プリフォームとの間の接触を意図的に行うことを排除しないことに注意されたい。
【0089】
図1は、本発明による容器用プリフォームの断面の概略図である。図1を参照すると、コーティング層(2)を含む、容器用プリフォーム(1)が提供されている。図1において、コーティング層は、プリフォームの外側に存在する。代替的に又は追加的に、コーティング層は、プリフォームの内側に存在してもよい。
【0090】
図2は、プリフォーム(1)のブロー成形によって得られる容器の断面の概略図であり、コーティング層(4)を含む容器(3)を示している。図2において、コーティング層は、容器の外側に存在する。代替的に又は追加的に、コーティング層は容器の内側に存在してもよい。
【0091】
実施形態において、本明細書に記載されるコーティング層は、低い表面エネルギーを有していてもよい。低い表面エネルギーを有するコーティングは、吸湿の低下、及び内層と外層の剥離の改善を含むがこれらに限定されない、異なる機能性を提供してもよい。低い表面エネルギーを有するコーティング層は、疎水性コーティング層と呼ばれることもある。プリフォームは、ある場所で製造され、異なる場所、例えばブロー成形された容器が充填される場所と同じ場所で容器にブロー成形されることが多い。これにより、ブロー成形された容器を輸送する場合に比べ、輸送量を大幅に削減することができる。しかしながら、プリフォームは制限された貯蔵寿命を有し、ある期間を過ぎるとプリフォームのブロー成形性が低下する場合がある。表面エネルギーの低いコーティング層を有するプリフォームは、貯蔵寿命が増大することが判明している。これは、疎水性コーティングを有する容器にも適用される。低表面エネルギー及び/又は疎水性は、水接触角の観点から表すことができる。
【0092】
好ましい実施形態では、コーティング層は疎水性である。好ましい接触角は、90°以上、好ましくは100°以上、より好ましくは120°以上、例えば、150°以上であってもよい。水接触角が150°以上である場合、コーティング層は超疎水性であると称されることがある。好ましい実施形態において、コーティング層は超疎水性である。
【0093】
驚くべきことに、本発明に従って塗布される疎水性コーティングは、製品における色の変化をもたらす必要はない。このような色の変化は、スカベンジャーの使用、又はプリフォームの内面及び/又は外面に耐水性層を適用するなどの、貯蔵寿命を向上させる先行技術の他の方法において一般的に観察される。
【0094】
バッグインコンテナの使用中、(大気圧に対して)上昇したガス圧が通常、外側容器と内側容器の間に印加され、ガスがバッグに入ることなく、バッグから流体が吐出され、それにより容器の内容物が新鮮に保たれる。使用中に適切に機能させるためには、内側容器又はバッグが外側容器から剥離することが重要である。
【0095】
バッグインコンテナに関連する実施形態では、バッグインコンテナ用プリフォームを制御された方法で一体的にブロー成形した後、内側容器が外側容器から剥離する。
【0096】
本発明の別の態様は、コーティング層を含む容器の製造のためのプラズマ蒸着の使用である。
【0097】
本発明はさらに、本発明をさらに説明する以下の非限定的な実施例によって説明されるが、これらは本発明の範囲を限定することを意図したものではなく、またそのように解釈されるべきものでもない。
【0098】
実施例1:コーティングの完全性
コーティングの均一性及びコーティングの完全性を試験するために、プリフォームをフルサイズの容器にブロー延伸した後に、2つの単壁プリフォームを提供した。このプリフォームは、PET粒子と銀の着色剤を組み合わせて射出成形することで作られ、結果として、濃い灰色がかったプリフォームが得られた。この色は、コーティングの効果をより見やすくするために役立った。
【0099】
プリフォーム1は、処理を行わず、参照用として使用した。プリフォーム2は、本発明によるプラズマコーティングで処理した。プリフォームのコーティング処理中に、緑色の顔料を、エアロゾルを介してプラズマに添加した。
【0100】
続いて、プリフォームを、ブロー延伸により、比率が約11のフルサイズボトルまで、プリフォーム開口部を介して膨張させた。
【0101】
プリフォーム1から得られた参照ボトル(「ボトル1」)は、開口部周辺のいわゆる「Lamello」領域(容器の周辺に広がる、硬くなったリング又は一連のリングであり、プリフォーム中の結晶化の増加から生じる)の上部付近と、プリフォームの注入点周辺の底部付近に小さな欠陥があった。両方の欠陥は、ブロー延伸プロセスの典型的なものである。ボトル1は、2つの欠陥の近傍で強度の変動が小さく、明るい灰色がかった色であった。
【0102】
プリフォーム2から得られたボトル(以下、ボトル2)は、(欠陥近傍の同種類の強度変動を除いて、)ボトル全体が滑らかで均一な薄緑色を呈していた。ボトル2の均一な薄緑色は、プリフォームを11もの体積比で膨張させた後でも、コーティングが無傷のままであることを示す。顔料はボトル全体によく分散しており、コーティングはプリフォームとボトルの全表面に非常によく付着している。
【0103】
実施例2:表面エネルギー
プリフォーム及び得られた容器上のコーティングは、複数の目的を果たすことができる。それは例えば、貯蔵中のプリフォームの劣化を避けることができる水分バリアとして作用することができる。また、容器用の水分バリアとして作用することもある。他の効果は、(顔料を添加することによって、例えば先の実施例で示したように顔料をプラズマに添加することによって)色を提供することを含む。
【0104】
また、本発明に従って剥離コーティングを塗布することができ、二重壁容器(例えばバッグインコンテナ)の外側容器から内側容器が容易に剥離することを確実にする。
【0105】
表面エネルギーが低減されれば、剥離は大幅に低減される。特に、所定の圧力レベルでの剥離がより良好に制御される。しかしながら、コーティングを行わないプラズマ処理では、表面エネルギーが増大する傾向がある。本発明者らは、それにもかかわらず、少なくとも1つの前駆体が気体又は液体としてエアロゾルの形態でプラズマ中に投与されると、表面エネルギーが低下することを見出した。
【0106】
表面エネルギーの低下を試験するために、2つのプリフォームを準備し、両方とも、以下に説明するペン試験を使用する際に容易な背景色を提供するための銀色着色剤を有するPETを含む。
【0107】
プリフォーム1は未処理のままであり、一方、プリフォーム2には本発明によるコーティングが施された。
【0108】
プリフォームの表面エネルギーは、異なるタイプのインクを有する一組の試験ペンを用いて試験され、各タイプのインクは十分に較正された表面エネルギーを有する。基材の表面エネルギーがインクの表面エネルギーと同じかそれ以上である場合、インクは表面上で膨張し、滑らかで均一な着色が得られる。基材の表面エネルギーがインクの表面エネルギーより低いと、インクが凝集して不均一な液滴になる。
【0109】
両方のプリフォームは、それぞれ34mN/m、38mN/m及び44mN/mの表面エネルギーを有する、3つの試験ペンに供された。未処理のプリフォーム1は、38と44mN/mの間の表面エネルギーを有し、PETが40と50mN/mの間の表面エネルギーを有するという一般的な仮定と一致し、塗装が困難で、剥離により多くの力を必要とすることが分かった。
【0110】
処理されたプリフォームは、34mN/m未満の表面エネルギーを有し、例えば二重壁容器(例えばバッグインコンテナ)に使用した場合、剥離性が改善される結果となった。
【0111】
本実施例は、前駆体を有するプラズマを用いて表面エネルギーを低減できることを示す。しかしながら、本発明者らは、ある種の前駆体が、コーティングされた表面の表面エネルギーを増加させる可能性があることにも注目した。そのような高い表面エネルギーは、他の機能性、特に直接印刷適性を向上させる(正確で高品質の印刷画像をもたらす)ことを得るために好ましい場合がある。
【符号の説明】
【0112】
1 プリフォーム
2 コーティング層
3 容器
4 コーティング層
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】