(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-27
(54)【発明の名称】冷間成形可能な高強度鋼ストリップの製造方法及び鋼ストリップ
(51)【国際特許分類】
C21D 9/46 20060101AFI20230120BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20230120BHJP
C22C 38/38 20060101ALI20230120BHJP
C22C 18/00 20060101ALN20230120BHJP
C22C 18/04 20060101ALN20230120BHJP
C22C 21/02 20060101ALN20230120BHJP
【FI】
C21D9/46 P
C22C38/00 302A
C21D9/46 G
C21D9/46 J
C22C38/00 301S
C22C38/00 301T
C22C38/00 301W
C21D9/46 T
C21D9/46 Z
C22C38/38
C22C18/00
C22C18/04
C22C21/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022531072
(86)(22)【出願日】2020-11-27
(85)【翻訳文提出日】2022-07-26
(86)【国際出願番号】 EP2020083812
(87)【国際公開番号】W WO2021105489
(87)【国際公開日】2021-06-03
(32)【優先日】2019-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】500252006
【氏名又は名称】タタ、スティール、アイモイデン、ベスローテン、フェンノートシャップ
【氏名又は名称原語表記】TATA STEEL IJMUIDEN BV
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100172557
【氏名又は名称】鈴木 啓靖
(72)【発明者】
【氏名】ラダカンタ、ラナ
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA05
4K037EA06
4K037EA11
4K037EA16
4K037EA17
4K037EA19
4K037EA23
4K037EA25
4K037EA27
4K037EA28
4K037EA31
4K037EA32
4K037EB05
4K037FA02
4K037FA03
4K037FB00
4K037FB05
4K037FC04
4K037FF01
4K037FF02
4K037FG00
4K037FH03
4K037FJ02
4K037FJ04
4K037FK05
4K037FK06
4K037FM02
4K037GA05
4K037GA08
4K037JA06
4K037JA07
(57)【要約】
鋼ストリップを製造する方法であって、以下の工程:
溶融鋼をスラブに鋳造する工程;
スラブを1150℃以上の温度で1時間以上再加熱する工程;
鋼をストリップに熱間圧延する工程であって、好ましくは、F1スラブの平均入口温度が1000℃超である工程;
熱間圧延した鋼ストリップを巻き取る工程;
鋼ストリップを以下の条件:
変態区間温度(すなわち、Ac1~Ac3)、好ましくは700℃未満の温度;
非酸化且つ非窒素化雰囲気;
少なくとも5時間、好ましくは少なくとも10時間である総アニーリング時間
でバッチアニーリングする工程あって、オーステナイトのMn含有量が鋼のバルクMn含有量の少なくとも1.25倍になるように、オーステナイトにおけるMnを富化し、且つ、オーステナイトのC含有量が鋼のバルクC含有量の少なくとも1.2倍になるように、オーステナイトにおけるCを富化する工程;
バッチアニーリング後の鋼を、空気、強制空気又は水焼入れで冷却する工程
を含む、方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷間圧延及びアニーリングされた鋼ストリップを製造する方法であって、
鋼組成が、重量%で、
C:0.05~0.3;
Mn:3.0~12.0;
Al:0.03~3.0;
場合により、以下の追加の合金元素:
Si:1.5未満
Cr:2.0未満
V:0.1未満
Nb:0.1未満
Ti:0.1未満
Mo:0.5未満
のうちの1種又は2種以上;
不可避的不純物(例えば、S:30ppm未満、P:0.04未満);及び
Fe:残部
であり、
前記方法が、以下の工程:
溶融鋼をスラブに鋳造する工程;
スラブを再加熱し、1150℃以上の温度で1時間以上保持する工程;
鋼をストリップに熱間圧延する工程であって、好ましくは、F1スラブの平均入口温度が1000℃超である工程;
熱間圧延した鋼ストリップを巻き取る工程;
鋼ストリップを酸洗いする工程;
鋼ストリップを650℃未満の温度で24時間以上、中間バッチアニーリングする工程であって、室温まで冷却した後に、少なくとも60体積%のフェライトを得る工程;
鋼を冷間圧延鋼ストリップに冷間圧延し、それを巻き取る工程;
巻き取った鋼ストリップを以下の条件:
700℃未満である、Ac1~Ac3の変態区間温度;
非酸化且つ非窒素化雰囲気;
少なくとも5時間、好ましくは少なくとも10時間である、ストリップが前記変態区間温度で維持される総アニーリング時間
でバッチアニーリングする工程であって、オーステナイトのMn含有量が鋼のバルクMn含有量の少なくとも1.25倍になるように、オーステナイトにおけるMnを富化し、且つ、オーステナイトのC含有量が鋼のバルクC含有量の少なくとも1.2倍になるように、オーステナイトにおけるCを富化する工程;
バッチアニーリング後の鋼を、空気、強制空気又は水焼入れで冷却する工程
を含む、前記方法。
【請求項2】
熱間圧延及びアニーリングされた鋼ストリップを製造する方法であって、
鋼組成が、重量%で、
C:0.05~0.3;
Mn:3.0~12.0;
Al:0.03~3.0;
場合により、以下の追加の合金元素:
Si:1.5未満
Cr:2.0未満
V:0.1未満
Nb:0.1未満
Ti:0.1未満
Mo:0.5未満
のうちの1種又は2種以上;
不可避的不純物(例えば、S:30ppm未満、P:0.04未満);
Fe:残部
であり、
前記方法が、以下の工程:
溶融鋼をスラブに鋳造する工程;
スラブを1150℃以上の温度で1時間以上再加熱する工程;
鋼をストリップに熱間圧延する工程であって、好ましくは、F1スラブの平均入口温度が1000℃超である工程;
熱間圧延した鋼ストリップを巻き取る工程;
鋼ストリップを酸洗いする工程;
巻き取った鋼ストリップを以下の条件:
700℃未満である、Ac1~Ac3の変態区間温度;
非酸化且つ非窒素化雰囲気;
少なくとも5時間、好ましくは少なくとも10時間である、ストリップが前記変態区間温度で維持される総アニーリング時間
でバッチアニーリングする工程であって、オーステナイトのMn含有量が鋼のバルクMn含有量の少なくとも1.25倍になるように、オーステナイトにおけるMnを富化し、且つ、オーステナイトのC含有量が鋼のバルクC含有量の少なくとも1.2倍になるように、オーステナイトにおけるCを富化する工程;
バッチアニーリング後の鋼を、空気、強制空気又は水焼入れで冷却する工程
を含む、前記方法。
【請求項3】
スラブを1200℃以上の温度で再加熱する、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
スラブを1250℃以上の温度で再加熱する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
巻き取った鋼ストリップの前記バッチアニーリングが、660℃未満の変態区間温度で実施される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
得られたストリップが、溶融亜鉛めっき、亜鉛めっき、電気亜鉛めっき、アルミめっき、又はその他の方法(例えば、PVD、CVD)によって適用される任意の金属コーティングでコーティングされる、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
得られた鋼ストリップがスキンパス圧延を受ける、請求項1又は請求項3~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記スキンパス圧延による厚みの減少が、5%以下である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の方法によって得られる鋼ストリップであって、
前記鋼ストリップが、重量%で、以下の鋼組成:
C:0.05~0.3;
Mn:3.0~12.0;
Al:0.03~3.0;
場合により、以下の追加の合金元素:
Si:1.5未満
Cr:2.0未満
V:0.1未満
Nb:0.1未満
Ti:0.1未満
Mo:0.5未満
のうちの1種又は2種以上;
不可避的不純物(例えば、S:30ppm未満、P:0.04未満);
Fe:残部
を有し、
準静的引張試験において、降伏点伸び後に7%のひずみ範囲で測定される、少なくとも0.3の高いひずみ硬化指数を鋼にもたらすように準安定残留オーステナイトを得るために、前記鋼ストリップにおける残留オーステナイトの組成が、前記鋼組成のバルクMn含有量の少なくとも1.4倍であるMn含有量と、前記鋼組成のバルクC含有量の少なくとも2.3倍であるC含有量とを有し、
最終バッチアニーリング後のミクロ組織が、体積%で、
フェライト:30~70%;
残留オーステナイト:20~65%;
マルテンサイト:20%未満(0体積%を含む)
を含む、前記鋼ストリップ。
【請求項10】
フェライト結晶粒径が0.2~2μmである、請求項9に記載の鋼ストリップ。
【請求項11】
フェライト結晶粒の長さ/幅の比が3以下である、請求項9又は10に記載の鋼ストリップ。
【請求項12】
降伏点伸びが、工学的な応力-ひずみ曲線から測定される最大10%の工学ひずみである、請求項9~11のいずれか一項に記載の鋼ストリップ。
【請求項13】
降伏強度が600MPa以上であり、最大引張強度が800MPa以上であり、全伸び(A80)が20%以上である、請求項9~12のいずれか一項に記載の鋼ストリップ。
【請求項14】
二軸延伸条件における個別の方向の延伸ひずみが10%以上であり、厚み1.0mmにおけるVDA曲げ角度が100°以上であり、穴広げ性能が20%以上であることを特徴とする非常に高い成形性を有する、請求項9~13のいずれか一項に記載の鋼ストリップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼製品を製造するための冷間成形可能なコーティングされた又はコーティングされていない高強度鋼ストリップを製造する方法及びそのような鋼ストリップに関する。
【背景技術】
【0002】
鋼シートの冷間成形又はコールドスタンピング又はコールドプレス成形は、製造業、例えば、自動車、建設、エンジニアリング、インフラストラクチャ等で様々な用途の鋼部品を製造する方法である。鋼シートの強度が高くなると、鋼シートの冷間成形性が低下することが知られている。これは、従来の鋼シートに加えて、第1世代の先進高強度鋼(AHSS)にも特に当てはまる。
【0003】
鋼の強度及び伸びのこの逆相関のために、これらの鋼の引張強度及び伸びの特性マップは、「バナナダイアグラム(banana diagram)」と呼ばれることもある。しかしながら、いわゆる第2世代AHSS(2GAHSS)のコンセプトを採用すると、高強度で高い成形性を達成することができるが、これらの鋼は通常、高度に合金化されており、高価な合金元素も含まれている。例としては、マンガン含有量の高い双晶誘起塑性(TWIP)鋼であり、これは、Mn含有量が通常12重量%より高く、高価な合金元素、例えば、クロム、ニッケル、モリブデン等を大量に含むステンレス鋼である。非常に高価であることに加えて、2GAHSSの別の欠点は、合金含有量が非常に高いため、大規模な工業規模での製造が非常に困難なことである。
【0004】
2GAHSSのこれらの問題を克服するが、高強度で適度に高い冷間成形性を達成するために、様々な第3世代AHSS(3GAHSS)のコンセプト、例えば、急冷及び分配(Q&P)鋼、炭化物フリーベイナイト(CFB)鋼及び中Mn鋼(medium Mn steel)が導入された。これらの鋼は、2GAHSSよりも安価であり、製鉄所の既存の施設で容易に処理可能である。本発明は、中Mnタイプの3GAHSSに焦点を合わせている。
【0005】
WO16001887には、高強度鋼シートを製造する方法であって、この鋼が重量%で0.1≦C≦0.4、4.2≦Mn≦8、1≦Si≦3、0.2≦Mo≦0.5を含み、残部がFe及び不可避的不純物であり、この方法が、Ac3超で連続アニーリングする工程、マルテンサイト開始(Ms)~完了(Mf)の間の温度へ急冷する工程、300~500℃で10秒を超えて過時効する工程、及び冷却する工程を含む方法が記載されている。これは本質的に急冷及び分配(Q&P)プロセスであり、ある程度のマルテンサイトを含む鋼の過時効工程によってオーステナイトのC富化(及び場合によってはMn富化)が達成される。Q&Pプロセスは、変態区間(intercritical)のアニーリング処理とは大きく異なる。この文献では、より低い過時効温度(300~500℃)では鋼中のMnの拡散が非常に遅いため、オーステナイトへの実質的なMnの分配は予想されていない。
【0006】
WO2017021464には、以下の化学組成(重量%):C:0.005~0.6;Mn:4~10;Al:0.005~4;Si:0.005~2;P:0.001~0.2;S:最大0.05;N:0.001~0.3を有し、残部が鉄と、鋼に関連する不可避的元素含有物とである、熱間又は冷間圧延ストリップの形態の高強度鋼であって、フレキシブル熱間圧延されるならば場合によりアニーリングされ、フレキシブル冷間圧延され、場合によりアニーリングされ、さらにフレキシブル冷間圧延され、次いで、600℃~750℃のアニーリング温度で1分間~48時間アニーリングされた高強度鋼が記載されている。この特許は、せん断条件がストリップの幅全体で変化するロールギャップを制御することにより、フレキシブル圧延を適用する。フレキシブル圧延は、肉厚が変化する部品を対象とした異なる処理であり、幅全体にわたって製品の均一な厚みが得られる本発明のような従来の圧延加工とは異なる。フレキシブル圧延ストリップの欠点は、ストリップの幅全体で不均一な特性が得られることである。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、高強度を維持しつつ、コーティング条件又は非コーティング条件における冷間圧延した厚みで、高度に冷間成形可能な鋼ストリップを提供することを目的とする。
【0008】
本発明の別の目的は、高強度を維持しつつ、コーティング条件又は非コーティング条件における熱間圧延した厚み範囲で、高度に冷間成形可能な鋼ストリップを提供することである。
【0009】
本発明の熱間圧延及び冷間圧延鋼ストリップのいずれも、高いエネルギー吸収能力を有し、すなわち、高い耐衝撃性を有し、スポット溶接可能であり、水素脆化に対する耐性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、最終バッチアニーリングによって得られた本発明に従って製造された鋼(鋼A、650℃/10時間)のSEMミクロ組織を示す図である。ここで、F=フェライト、MA=マルテンサイト-オーステナイトである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、第1に、冷間圧延及びアニーリングされた鋼ストリップを製造する方法であって、
鋼組成が、重量%で、
C:0.05~0.3;
Mn:3.0~12.0;
Al:0.03~3.0;
場合により、以下の追加の合金元素:
Si:1.5未満
Cr:2.0未満
V:0.1未満
Nb:0.1未満
Ti:0.1未満
Mo:0.5未満
のうちの1種又は2種以上;
不可避的不純物(例えば、S:30ppm未満、P:0.04未満);
Fe:残部
であり、
前記方法が、以下の工程:
溶融鋼をスラブに鋳造する工程;
スラブを再加熱し、1150℃以上の温度で1時間以上保持する工程;
鋼をストリップに熱間圧延する工程であって、好ましくは、F1スラブの平均入口温度が1000℃超である工程;
熱間圧延した鋼ストリップを巻き取る工程;
鋼ストリップを酸洗いする工程;
鋼ストリップを650℃未満の温度で24時間以上(for longer than 24 hours)、中間バッチアニーリングする工程であって、室温まで冷却した後に、少なくとも60体積%のフェライトを得る工程;
鋼を冷間圧延鋼ストリップに冷間圧延し、それを巻き取る工程;
巻き取った鋼ストリップを以下の条件:
700℃未満である、Ac1~Ac3の変態区間温度(intercritical temperature);
非酸化且つ非窒素化雰囲気;
少なくとも5時間、好ましくは少なくとも10時間である、ストリップが前記変態区間温度で維持される総アニーリング時間
でバッチアニーリングする工程であって、オーステナイトのMn含有量が鋼のバルクMn含有量の少なくとも1.25倍になるように、オーステナイトにおけるMnを富化し、且つ、オーステナイトのC含有量が鋼のバルクC含有量の少なくとも1.2倍になるように、オーステナイトにおけるCを富化する工程;
バッチアニーリング後の鋼を、空気、強制空気又は水焼入れで冷却する工程
を含む、前記方法において具体化される。
【0012】
必須で0.05~0.3重量%のC、3.0~12.0重量%のMn及び0.03~3.0重量%のAl、並びに場合によりその他の合金元素及び不可避的不純物を含む鋼を、特定の処理ルートを使用して熱間圧延ゲージに処理する。溶融鋼をスラブに鋳造し、次いで、スラブを1150℃以上の温度で1時間以上再加熱する。次いで、スラブを、ストリップに熱間圧延し、好ましくは、1000℃超の仕上げ入口温度(F1)でストリップに熱間圧延する。F1入口温度は、仕上げ圧延機の最初のスタンドでのストリップの入口温度である。仕上げ圧延機は、熱間圧延機の一部である。粗圧延機でのスラブの粗圧延又はブレークダウン圧延の後、且つ、ランアウトテーブルが冷却される前に、仕上げ圧延を実施する。ランアウトテーブルを通過した後、熱間圧延したストリップをコイルへと巻き取る。これらのコイルを、650℃未満の温度で少なくとも24時間、中間バッチアニーリングすると、鋼ストリップにおいて少なくとも60体積%のフェライトが、室温まで冷却した後に得られる。次いで、鋼ストリップを酸性溶液で、例えば、50~90℃の温度で酸洗いし、より薄いゲージに冷間圧延する。本発明は、熱間圧延又は冷間圧延ゲージの範囲によって制限されない。しかしながら、通常、熱間圧延ゲージは2~10mmであり、冷間圧延ゲージは0.5~2mmである。次いで、冷間圧延した鋼を、700℃未満、好ましくは660℃未満の変態区間温度で、非酸化且つ非窒素化雰囲気で、少なくとも5時間、好ましくは少なくとも10時間バッチアニーリングし、その結果、変態区間オーステナイト(intercritical austenite)のMn含有量が、鋼のバルクMn含有量の少なくとも1.25倍に達し、且つ、変態区間オーステナイトのC含有量がバルクC含有量の少なくとも1.2倍に達する。アニーリング中にフェライトからオーステナイトに大量のMnが分配され得るため、10時間のより長時間が好ましい。Mnは鉄中で大きな置換合金元素であるため、通常、拡散に長時間かかる。バッチアニーリングの温度が低下すると、変態区間オーステナイト中のマンガン富化が増加し、これにより、バッチアニーリングに続く室温までの冷却後、鋼中のオーステナイトがより安定になる。バッチアニーリング時間は、鋼ストリップを目的温度に加熱する時間を除いて、鋼ストリップが上記バッチアニーリング温度で維持された時間として定義される。
【0013】
最後のバッチアニーリング、すなわち、この文書における巻き取ったストリップのバッチアニーリングは、鋼において比較的等軸のフェライト結晶粒形態を得るのに十分に長い、特許請求の範囲に記載の時間で実施される。結晶粒の長さ及び幅の比は、好ましくは3以下である。次いで、鋼を、任意の冷却速度で室温まで、例えば、空気、強制空気又は水で冷却する。
【0014】
本発明による方法を実施することにより、以下の利点が得られる。
【0015】
・上記の合金元素と3~12重量%のMnとを含む中Mn鋼は、Mnの偏析を減少させる。Mnの偏析は、本発明のようにMnが比較的大量に存在する場合に機械的特性に影響を与える懸念事項である。偏析を最小限に抑え、マトリックス内にMnを均一に分散させるために、1150℃以上、好ましくは1200℃以上、より好ましくは1250℃以上の比較的高いスラブ再加熱温度と、1時間の最小限の再加熱時間が選択される。そうでなければ、最終的な機械的特性が損なわれる可能性がある。再加熱温度の選択は、合金のMn含有量に依存する。合金のMn含有量が特許請求の範囲に記載されたMn範囲の下限に近い場合には、1150℃に近い再加熱温度でMn分布を均一にするのに十分であり、Mn含有量が増加するにつれて、より高いスラブ再加熱温度が好ましい。
【0016】
・鋼は、ストリップの幅が適度に広い、例えば、1000mm超である工業規模で熱間圧延可能である。これは、熱間圧延中に1000℃超の高いF1温度を維持して、必要な熱間圧延荷重を低く保つことによって達成される。F1温度が低くなると、鋼ストリップの熱間圧延が困難になる。
【0017】
・鋼は工業規模での冷間圧延に好適となる。これは、熱間圧延鋼に中間バッチアニーリング工程を使用することによって可能になる。中間バッチアニーリングは、鋼の変態区間温度、好ましくは650℃未満であり、鋼ストリップにおいて少なくとも60体積%のフェライトが得られ、残部が残留オーステナイト及びマルテンサイトであるように選択した温度で実施される。
【0018】
・巻き取った鋼ストリップの700℃未満での(追加の)バッチアニーリングは、実際に適切なミクロ組織を生成する。これは、少なくとも5時間、好ましくは少なくとも10時間である必要がある。この処理工程の間に、本発明の鋼のMn及びCは、変態区間オーステナイトとフェライトとの間に分配され、その結果、オーステナイトがMn及びCで高度に富化され、室温まで相を安定にする。オーステナイトは、Mn含有量が鋼のバルクMn含有量の少なくとも1.25倍であり、C含有量が鋼のバルクC含有量の少なくとも1.2倍であるように富化されるため、鋼は実際の冷却速度に対する感度が実質的に低くなり、したがって、鋼は、バッチアニーリング後に空気、強制空気又は水で冷却され得る。バッチアニーリング温度が700℃未満で低いほど、変態区間オーステナイトのMn含有量は豊富になる。
【0019】
本発明の第2の実施形態は、熱間圧延及びアニーリングされた鋼ストリップを製造する方法であって、
鋼組成が、重量%で、
C:0.05~0.3;
Mn:3.0~12.0;
Al:0.03~3.0;
場合により、以下の追加の合金元素:
Si:1.5未満
Cr:2.0未満
V:0.1未満
Nb:0.1未満
Ti:0.1未満
Mo:0.5未満
のうちの1種又は2種以上;
不可避的不純物(例えば、S:30ppm未満、P:0.04未満);
Fe:残部
であり、
前記方法が、以下の工程:
溶融鋼をスラブに鋳造する工程;
スラブを1150℃以上の温度で1時間以上再加熱する工程;
鋼をストリップに熱間圧延する工程であって、好ましくは、F1スラブの平均入口温度が1000℃超である工程;
熱間圧延鋼したストリップを巻き取る工程;
鋼ストリップを酸洗いする工程;
巻き取った鋼ストリップを以下の条件:
700℃未満である、Ac1~Ac3の変態区間温度;
非酸化且つ非窒素化雰囲気;
少なくとも5時間、好ましくは少なくとも10時間である、ストリップが前記変態区間温度で維持される総アニーリング時間
でバッチアニーリングする工程であって、オーステナイトのMn含有量が鋼のバルクMn含有量の少なくとも1.25倍になるように、オーステナイトにおけるMnを富化し、且つ、オーステナイトのC含有量が鋼のバルクC含有量の少なくとも1.2倍になるように、オーステナイトにおけるCを富化する工程;
バッチアニーリング後の鋼を、空気、強制空気又は水焼入れで冷却する工程
を含む、前記方法である。
【0020】
上記のように、熱間圧延工程まで第1の実施形態に従って処理した鋼を、次いで、酸洗いした後、中間工程をスキップして、最終バッチアニーリング工程に直接供する。バッチアニーリングは、鋼において、結晶粒の長さ及び幅の比が好ましくは3以下である比較的等軸のフェライト結晶粒形態を得るのに十分に長い時間、特許請求の範囲に従って行われる。
【0021】
したがって、鋼は、冷間圧延ストリップの代わりに熱間圧延ストリップとして製造されるが、第1の実施形態の下での冷間圧延ストリップとしての機械的特性に関するすべての利点を有する。
【0022】
本発明はまた、スラブを1200℃以上の温度で再加熱する方法において具体化される。これにより、鋳放し(as-cast)の鋼スラブにおけるMnの良好な均質化が達成され、その偏析が減少する。
【0023】
本発明はまた、スラブを1250℃以上の温度で再加熱する方法において具体化される。これにより、鋳放しの鋼スラブに存在するMnのミクロ偏析のさらなる減少が達成される。
【0024】
本発明はまた、巻き取った鋼ストリップを660℃未満の変態区間温度でバッチアニーリングする方法において具体化される。これにより、変態区間オーステナイトにおいてMnの高富化が達成され、その結果、最終的なミクロ組織におけるマルテンサイト含有量を最小限に抑えることができる。本発明はまた、得られたストリップが、溶融亜鉛めっき、亜鉛めっき、電気亜鉛めっき、アルミめっき、又はその他の方法(例えば、物理蒸着(PVD)、化学蒸着(CVD))によって適用される任意の金属コーティングでコーティングされる方法において具体化される。これにより、適用又は使用中に(in application or service)必要な、鋼ストリップの耐食性及び優れた美的外観が達成される。
【0025】
請求項2を除く特許請求の範囲に記載の方法における一実施形態において、得られた鋼ストリップは、調質圧延としても知られるスキンパス圧延を受ける。これにより、冷間成形性がさらに向上する。
【0026】
一実施形態において、スキンパス圧延による厚みの減少は、5%以下である。これにより、引張試験における鋼ストリップの降伏点伸びが最小限に抑えられ、冷間成形鋼ストリップの冷間成形性及び美的外観が向上する。
【0027】
本発明はまた、本発明の第1又は第2の実施形態の方法に従って製造され得る、又は製造される鋼ストリップであって、
前記鋼ストリップが、重量%で、以下の鋼組成:
C:0.05~0.3;
Mn:3.0~12.0;
Al:0.03~3.0;
場合により、以下の追加の合金元素:
Si:1.5未満
Cr:2.0未満
V:0.1未満
Nb:0.1未満
Ti:0.1未満
Mo:0.5未満
のうちの1種又は2種以上;
不可避的不純物(例えば、S:30ppm未満、P:0.04未満);
Fe:残部
を有し、
準静的引張試験において、降伏点伸び後に7%のひずみ範囲で測定される、少なくとも0.3の高いひずみ硬化指数(a high strain hardening exponent of at least 0.3 measured after yield point elongation for a strain range of 7 %)を鋼にもたらすように準安定残留オーステナイトを得るために、前記鋼ストリップにおける残留オーステナイトの組成が、前記鋼組成のバルクMn含有量の少なくとも1.4倍であるMn含有量と、前記鋼組成のバルクC含有量の少なくとも2.3倍であるC含有量とを有し、
巻き取った鋼ストリップの最終バッチアニーリング後のミクロ組織が、体積%で、
フェライト:30~70%;
残留オーステナイト:20~65%;
マルテンサイト:20%未満(0体積%を含む)
を含む、前記鋼ストリップにおいて具体化される。
【0028】
鋼ストリップは、最終使用条件における鋼の最終ミクロ組織の準安定オーステナイトに一定レベルに富化されたMn及びCを有し、高い加工硬化率又はひずみ硬化率をもたらす。
【0029】
さらに、本発明によれば、冷間圧延又は熱間圧延された鋼ストリップは、好ましくは、20~65体積%の残留オーステナイト、30~70体積%のフェライト及び20体積%未満(0体積%を含む)で存在するマルテンサイトが存在するミクロ組織を有する。フェライトは、好ましくは、0.2~2μmの結晶粒径を有する超微細である。巻き取った鋼ストリップの十分に長時間のバッチアニーリングによって、この超微細フェライトは、結晶粒の長さ/幅の比が3以下である、おおよそ等軸の形状を獲得する。高いアスペクト比(長さ/幅比)を有する細長い形状の結晶粒を生じる、典型的には短時間(数時間ではなく数分)の連続型アニーリングとは対照的に、フェライト結晶粒の十分な再結晶が、本発明で使用する冷間圧延ストリップの長時間のバッチアニーリング中に起こる。
【0030】
本発明のその他の実施形態は、本発明に従って製造された場合に鋼ストリップで達成される高い機械的特性及び高い冷間成形性をもたらす、請求項10~14に準ずる。これらの特性は、(二軸)延伸性((biaxial) stretchability)、曲げ性、穴広げ性能、降伏強度、最大引張強度、全伸び及び降伏点伸びである。
【0031】
本発明はまた、上記のように、調質圧延としても知られるスキンパス圧延を受けた鋼ストリップにおいて具体化される。
【0032】
本発明は、鋼の組成の改変と、記載されたすべての工程を使用してそれを処理して、最適化されたミクロ組織を得ることとに基づく。得られたミクロ組織により、冷間圧延及び/又は熱間圧延形態の鋼ストリップは、高い冷間成形性及び高い機械的特性を有する。
【0033】
鋼の必須元素は、Mn、C及びAlである。Mn及びCは、鋼におけるオーステナイト安定化元素であり、したがって、これらはオーステナイトを安定化するために所定の量で鋼に添加される。Alは、フェライト安定化要因であり、Ac1~Ac3の温度範囲を広げる(Ac1=加熱中にオーステナイト変態が開始する温度、Ac3=加熱中にオーステナイト変態が完了する温度)。Alは、変態区間の処理中の望ましくない小さな温度変化に対する鋼の感度を低下させるので、工業的処理に対する鋼のロバストネス(robustness)を高めるために添加される。本発明は、鋼中に存在するその他の任意選択の元素及び不可避的不純物の存在に限定されない。これらの任意選択の不可避的な合金元素の範囲は、関連する請求項に示されている。
【0034】
鋼中の高いMn量(3~12重量%)は、巻き取った状態(as-coiled)の熱間又は冷間圧延鋼ストリップのバッチアニーリング中にオーステナイトにおける大量のMn富化を引き起こす。このMn富化は、C富化とともに(Cもまたオーステナイト安定化元素であるので)、鋼のMs温度を抑えることにより、変態区間オーステナイトの熱安定性を高める(Ms=冷却中にマルテンサイト変態が開始する温度)。したがって、巻き取った鋼ストリップのバッチアニーリング後の室温への冷却中に、変態区間オーステナイトは、マルテンサイトにあまり変態せず、その結果、大量のオーステナイト(20体積%以上)を室温の鋼のミクロ組織に保持することができる。最適な機械的安定性を有する残留オーステナイトは、負荷をかける間に(成形又はその他の任意の変形の間に)マルテンサイトに変態し、変態誘起塑性(TRIP)効果を引き起こす。加工硬化率又はひずみ硬化率を増加させるTRIP効果のために、本発明の鋼ストリップにおける高強度、高伸び及び高冷間成形性が、製品で達成される。12重量%超のMn含有量は、極端な偏析のために鋼の連続鋳造を困難にするとともに、塑性増強のメカニズムをTRIPからTWIP(TWIP=双晶誘起塑性)に変更し、3重量%未満の含有量は、オーステナイトにおける十分なMn富化を生じず、室温のミクロ組織で十分な量の残留オーステナイトを達成しない。
【0035】
上記のMnの効果と同様に、Cもまた、最終バッチアニーリング中に変態区間オーステナイトに分配され、オーステナイトの熱安定性を高め、室温のミクロ組織でオーステナイトの安定化を引き起こす。しかしながら、Cは、Mnよりも少量で有効であり、したがって、本発明における鋼の化学成分(steel chemistry)を改変するためのC含有量の範囲は、0.05~0.3重量%である。C含有量が0.05重量%未満である場合には、十分なオーステナイト安定化効果が得られず、0.3重量%超のC含有量は、冷間成形後の製造されたストリップの後処理、例えば、スポット溶接を困難にする。溶は、自動車部品を車体に組み立てる際に必須であるため、この態様を考慮することは非常に重要である。Cはまた、強度を高めるためにも本発明の鋼に添加される。
【0036】
アルミニウムは鋼のオーステナイト安定化元素ではなく、フェライト安定化元素である。しかしながら、鋼の変態区間温度範囲(Ac1~Ac3)を拡大するために、3重量%まで鋼に添加される。高レベルのMnにより、鋼は、工業規模の処理における処理温度のわずかな変動に敏感になる。Alの添加により、鋼の処理のロバストネスが確保され、その結果、鋼ストリップのバッチアニーリング温度をわずかな変動で選択して、所望のミクロ組織を達成することができる。合金元素としてAlを鋼に意図的には添加しない場合には(すなわち、溶融鋼に脱酸剤として添加されることが多いため、Al含有量が約0.03重量%である場合には)、より正確な炉を使用する必要があるが、それでも本発明は機能する。熱間圧延中の酸化物スケールの形成を抑制し、熱間及び冷間圧延中の圧延荷重を低減するために、Alの最大量は、3重量%に制限される。
【0037】
鋼の組成と、方法の工程との組み合わせは、本発明の有益な効果をもたらす。Mnは、鋼の化学成分を変化させるために必須な合金元素であり、その含有量が約2重量%超である場合には、鋳造後に偏析する傾向がある。これは、不均一な特性をもたらすことによって製品の性能に影響を与え、処理工程中に亀裂を引き起こす可能性もある。したがって、鋳造スラブは十分に均質化されていることが好ましい。スラブの良好な均質化は、1150℃以上、好ましくは1200℃以上、より好ましくは1250℃以上の比較的高いスラブ再加熱温度を、十分に長い時間、好ましくは60分以上使用することによって達成される。
【0038】
次いで、鋼の合金含有量が比較的高いために、ストリップの熱間圧延中の圧延荷重が高くなる。工業規模における適度に幅の広い(通常1000mmより広い)ストリップを圧延するには、鋼のオーステナイト相で比較的高温、Ar3超の温度で熱間圧延を行うことが好ましい。Ar3は、冷却中に、フェライトが鋼に形成され始める温度である。これは、約1000℃以上の開始-終了圧延温度(F1)を使用することにより保証され得る。これよりも低いF1温度は、熱間圧延荷重を増加させる可能性があり、変態区間の熱間圧延につながり、これは、工業的な大規模処理での熱間圧延を困難にする可能性がある。圧延荷重を増加させることとは別に、変態区間の熱間圧延はまた、熱間圧延されたストリップの不十分な再結晶を引き起こす可能性もある。
【0039】
次いで、熱間圧延したストリップに冷間圧延を適用して最終的な鋼製品のゲージを小さくする場合には、適切な前処理が採用されない限り、材料を冷間圧延することはできない。特に、熱間圧延後の巻き取った状態の鋼は、鋼の変態区間温度範囲内の低い温度で24時間以上の中間バッチアニーリング処理に供される。比較的長時間であるので、バッチ式アニーリングである。中間バッチアニーリング温度は650℃未満である必要があり、この理由は、これより高い温度では、鋼を室温まで冷却した後に大量の残留オーステナイトが形成されるためである。また、より高いバッチアニーリング温度を使用すると、ミクロ組織に大量のマルテンサイトが現れる可能性がある。マルテンサイト及び残留オーステナイトの両方が、圧延荷重を増加させることによって冷間圧延を困難にする。マルテンサイト相は硬いが、残留オーステナイトは冷間圧延中に硬いマルテンサイトに変態し、それ自体が圧延荷重を増加させる。したがって、残留オーステナイト及びマルテンサイトの含有量をより低い値に維持し、フェライトの量を増加させるために、巻き取った状態の材料の中間バッチアニーリングがこの実施形態による方法の一部である。フェライト相は、冷間圧延時に残留オーステナイトほど加工硬化を起こさないため、圧延荷重を低く保ち、冷間圧延を可能にする。このバッチ式アニーリング後の、冷間圧延に適した熱間圧延鋼のフェライト相の最小必要量は、60体積%である。
【0040】
熱間圧延鋼ストリップ(熱間圧延製品の場合)又は冷間圧延鋼ストリップ(冷間圧延製品の場合)の最終バッチアニーリングは、本発明が機能するための、最終製品で所望のミクロ組織成分を得るために非常に重要である。この最終バッチアニーリングは、700℃未満、好ましくは660℃未満の変態区間温度(Ac1~Ac3)で実行される必要がある。この理由は、熱力学的計算により、本発明の鋼の化学成分の範囲について、660℃未満で変態区間オーステナイトにおけるC富化のピークが起こるが、Mn富化は、温度を700℃から下げると単調に増加することが示唆されているためである。したがって、660℃未満の最終バッチアニーリング温度により、変態区間オーステナイトで最適な最大(C+Mn)富化が保証される。アニーリング温度は、Mn及びCがオーステナイトに最大量で分配されるように選択する必要がある。C及びMnはオーステナイト安定化要因であるため、変態区間温度でのこの最終バッチアニーリング中に、変態区間オーステナイトにおいてC及びMnが富化される。Cは鋼における小さな格子間元素であるため、急速に拡散して分配されるが、大きな置換元素であるMnはゆっくり拡散する。したがって、オーステナイトにおける大量のMnを達成するためには、好ましくは5時間以上、より好ましくは10時間以上のバッチアニーリング時間が必要である。オーステナイトにおけるMn富化は、Mn含有量が鋼のバルクMn含有量の少なくとも1.25倍、好ましくは少なくとも1.4倍になるようにする必要がある。C富化は、C含有量が鋼のバルクC含有量の少なくとも1.2倍、好ましくは少なくとも2.3倍になるようにする必要がある。変態区間オーステナイトにおけるこれらのレベルのMn及びC富化が、オーステナイトを室温で適切に安定化するために必要とされ、これにより、少なくとも20体積%の残留オーステナイトが、室温のミクロ組織で得られる。また、これらのレベルのMn及びC富化は、残留オーステナイトの最適な機械的安定性(準安定性と呼ばれる)を達成するために必要であり、これにより、変形中に鋼のひずみ硬化指数は少なくとも0.3であり得る。オーステナイトにおけるMn及びCの富化度が上記の値より低い場合には、残留オーステナイトの最適な安定性が達成されないため、最小で0.3であるひずみ硬化指数も達成されない。したがって、アニーリング期間が5時間より短い場合には、本発明のこれらの要件は満たされない。700℃超のバッチアニーリング温度を使用すると、同様の欠点が発生する。変態区間オーステナイトにおいて必要なC及びMn富化が存在しないため、変態区間オーステナイトは、十分な安定性がなく、バッチアニーリング後の室温のミクロ組織に最少の20体積%の残留オーステナイトと、所望の高いひずみ硬化率に必要な準安定性とをもたらすことができない。したがって、残留オーステナイトの高い割合と、その最適な機械的安定性との組み合わせは、所望の高いひずみ硬化率につながる。700℃超のアニーリング温度はまた、20体積%超のマルテンサイトをもたらし、これは、所望のひずみ硬化率をもたらさない。高い冷間成形性と最終製品の強度及び延性の高い組み合わせとをもたらすのは、この高いひずみ硬化率である。高いひずみ硬化率は、成形(例えば、延伸による成形)中に薄くなる間に鋼シートを強化し、高い冷間成形性をもたらす。
【0041】
最終バッチアニーリングは、酸素及び窒素による鋼ストリップの表面劣化を最小限に抑えるために、非酸化且つ非窒素化雰囲気で実施される。最低5時間がバッチアニーリング時間として必要になるため、非酸化雰囲気を使用しないと鋼表面が酸化する可能性がある。また、脱炭が起こり、鋼のC含有量が減少し、本発明の効果が低下する。同じ理由により、窒素は鋼の表面に存在するAlと反応して、鋼の表面に窒化物を形成する可能性がある。これらすべての形態の表面劣化は、鋼の機械的特性及び成形性に悪影響を及ぼす。好ましいアニーリング雰囲気は、真空、水素又はアルゴン雰囲気であり得る。
【0042】
鋼及びその処理に対する上記の改変は、本発明が成功するための最終製品における適切なミクロ組織をもたらす。残留オーステナイトの割合が高く(20体積%以上)、マルテンサイトの割合が低く(20体積%未満)、フェライトの割合が最適(30~70体積%)であることにより、高いひずみ硬化率に起因する高強度、高延性及び高成形性の組み合わせをもたらす。65体積%超の残留オーステナイト含有量は、本鋼の組成境界内では達成され得ず、必要最小限のひずみ硬化率を達成するためにも必要ではない。さらに、70体積%超の残留オーステナイトはまた、スポット溶接で問題を引き起こして、使用中の重度の液体金属脆化及び水素脆化耐性の低下を引き起こし得る。したがって、本発明の鋼の組成境界は、これらの要因を考慮して選択された。フェライト含有量が70体積%超の場合には、主にTRIP効果による準安定残留オーステナイトに起因する最小で0.3である高いひずみ硬化指数は、達成されない。30体積%未満のフェライトの割合は、最小のひずみ硬化率を得るために必要とされない。マルテンサイト相は、主に強度に寄与するが、ひずみ硬化率にはあまり寄与しない。さらに、大量のマルテンサイト(20体積%超)は、より柔らかい相、例えば、フェライト及び残留オーステナイトとの弱い界面を生じる可能性がある。これらの界面は、損傷開始の核形成部位として機能するため、高い延性及び高い成形性に悪影響を及ぼす。したがって、マルテンサイトの含有量は、20体積%未満(マルテンサイトが存在しないことを含む)に保つ必要がある。
【0043】
超微細な結晶粒径は、本発明のミクロ組織の別の要件である。フェライトの結晶粒径は2μm以下(below 2 μm)、0.2~2μmである必要がある。この超微細な結晶粒径は、製品に良好な延性を与え、さらに、本発明の鋼ストリップの良好な機械的特性に寄与する結晶粒の微細化を通じて強化をもたらす。この超微細なミクロ組織はまた、結晶粒の成長を制限する700℃未満の低い最終バッチアニーリング温度を選択することによって保証される。さらに、本発明の鋼組成と、変態区間の最終バッチアニーリングの要件とのために、アニーリング温度での相(フェライト及びオーステナイト)は互いに制約下にあり、成長することができない。これらすべての要因により、フェライトの望ましい超微細な結晶粒径が得られる。フェライトの結晶粒径が2μmを超えると、強度及び延性の低下をもたらす。本明細書では、結晶粒径は主に結晶粒の長さで表される。最終バッチアニーリング中の鋼ストリップの十分な再結晶により、フェライト結晶粒の幅は、長さの1/3以上(more than 1/3)である。これにより、フェライト結晶粒の比較的等軸の形状が、最終バッチアニーリング後に実際に得られる。
【0044】
上記の超微細なフェライト結晶粒径のシート成形性に関する影響は、製品の工学的な応力-ひずみ曲線における降伏点伸びの出現であり得る。これは、ひずみの局在による鋼の冷間成形性に悪影響を及ぼす可能性があり、冷間成形された部品の美的外観を劣化させる可能性がある。したがって、プロセス変数(process variable)は、最終的なミクロ組織中のフェライトの割合が最大70体積%になるように選択された。これにより、降伏点伸びが、存在する場合には、最大10%の工学ひずみに制限され、冷間成形された部品の最良のシート成形性及び/又は美的外観が得られる。しかしながら、10%の工学ひずみを超える降伏点伸びは、本発明が機能するための制限要因ではない。これは、成形前の調質圧延及び/又は成形中の適切な潤滑(lubrication)により、降伏点伸びによる潜在的な悪影響が軽減され得るためである。
【0045】
降伏点伸びが存在する場合には、降伏点伸びを除去するために、鋼ストリップは、本発明において、場合により、冷間圧延によりわずかに圧下され、これは、調質圧延又はスキンパス圧延によって実施され、最大5%の厚みの減少である。1回又は2回以上のパスで適用されるこのわずかな冷間圧延は、鋼ストリップの機械的特性を感知可能な程度で変化させることなく、降伏点伸びを排除する。しかしながら、本発明は、降伏点伸びが10%以下の工学ひずみで存在しても、この調質圧延工程なしで高い冷間成形性をもたらすように依然として機能する。
【0046】
場合により、最終バッチアニーリング後の熱間圧延又は冷間圧延ストリップは、使用中の美的外観及び耐食性を高めるために金属コーティングでコーティングされる。コーティング方法は、溶融亜鉛めっき、亜鉛めっき、電気亜鉛めっき、PVD、CVD等であるが、これらに限定されない。最終的なバッチアニーリング鋼ストリップは、そのミクロ組織の点で非常にロバスト(robust)であり、したがって、薄いコーティングの適用によってその特性を本質的に変化させない。
【0047】
鋼ストリップ又はシート又はブランクの冷間成形は、鋼及びツール(tool)の間の摩擦力を低減するための適切な潤滑剤の適用の有無にかかわらず実施され得る。いずれの場合も、本発明は高い冷間成形性を提供する。潤滑システムの非限定的な例は、軽油、クルーバーのプレスパテ(Kluber Press Pate)、テフロンフォイル(Teflon foil)又はこれらの組み合わせである。
【0048】
本発明の方法で使用される鋼は、主成分として炭素、マンガン及びアルミニウムを含む中Mn鋼である。場合により、ケイ素、クロム、バナジウム、ニオブ、チタン及びモリブデンから選択されるその他の合金元素が存在し得る。不可避的不純物、例えば、N、P、S、O、Cu、Ni、Sn、Sb等(本組成を有する鋼を調製するための出発材料に由来する)が存在し得る。これらは意図的には追加されず、所定の制限内で特異的に制御されない。本組成を有する鋼の残部は、鉄である。
【0049】
炭素は、0.05~0.3重量%、例えば、0.05~0.20重量%、好ましくは、0.07~0.20重量%で存在する。炭素は、主に強度の観点から添加されるが、Cはまた、オーステナイトの安定化にも寄与する。本組成において、マンガンのオーステナイト安定化効果は、その比率が高いために、はるかに顕著である。Cの好ましい範囲は0.05~0.25重量%であり、より好ましい範囲は0.08~0.21重量%である。Cが過度に少ないと、所望の強度レベルである800MPaが得られず、Cが0.21重量%超であると、成形部品の溶接性が低下する可能性がある。
【0050】
マンガンは、3.0~12.0重量%で存在する。マンガンは、Ac1及びAc3温度を低下させ、オーステナイトを安定させ、強度及び靭性を高め、室温のミクロ組織においてオーステナイトを安定させることによってTRIP効果を引き起こす。3.1重量%未満のレベルでは目的の効果は達成されず、一方で、10.5重量%超では、鋳造及び偏析の問題が発生する。変形メカニズムもまた、変態誘起塑性(TRIP)から双晶誘起塑性(TWIP)に変化する。Mn含有量が過度に低いと、室温で十分なオーステナイトが保持されず、残留オーステナイトの安定性が過度に低くなり、その結果、延性及びひずみ硬化の利益を得ることができない。好ましくは、Mn含有量は、3.5~10.0重量%である。一実施形態において、Mnは、5.0~9.0重量%に達する。その他の実施形態において、それは5.5~8.5重量%、例えば、6.0~7.5重量%である。
【0051】
アルミニウムは、Ac1~Ac3の温度範囲を拡大するために添加され、産業用途の観点から処理のロバストネスを向上させる。Alは、0.03~3.0重量%、例えば、0.6~2.9重量%、好ましくは、1.0~2.2重量%で存在する。
【0052】
ケイ素が存在する場合には、固溶体強化により強度を増強するために1.5重量%未満で添加される。存在する場合には、その量は、通常、0.01重量%超1.5重量%未満である。その好ましい範囲は0.1~1.0重量%である。
【0053】
Al及びSiはいずれもセメンタイトの析出を抑制し、延性の低下を回避する。さらに、Al及びSiはいずれも、最終バッチアニーリング後に室温で最大量の残留オーステナイトを得るために、ピークアニーリング温度を上昇させる。したがって、変態区間アニーリング中、Mnの拡散が促進され、オーステナイトにおける効果的なMn分配が行われる。
【0054】
群V、Nb、Ti及びMoから選択される1種又は2種以上の追加のマイクロ合金元素が、場合により存在する。これらのマイクロ合金元素は、炭化物、窒化物又は炭窒化物による析出硬化によって強度を高める。本発明の別の任意選択の元素であるCrもまた、室温で最大量の残留オーステナイトを達成するためにピークアニーリング温度を上昇させ、アニーリング温度に対する残留オーステナイトの含有量の感度を低下させる。これらは、オーステナイトにおける効果的なMn分配と、アニーリング中の処理のロバストネスの向上とをもたらす。存在する場合には、これらの任意の合金元素の好ましい添加は、V:0.01~0.1重量%;及び/又はNb:0.01~0.1重量%;及び/又はTi:0.01~0.1重量%;及び/又はMo:0.05~0.5重量%;及び/又はCr:0.1~2.0重量%である。
【0055】
金属コーティングの組成は、限定されない。亜鉛ベースのコーティングを適用することができ、例えば、本質的に亜鉛を含むとともに、少なくとも0.1重量%のAlであって、場合により最大5重量%のAlと、場合により最大4重量%のMgとを含み、コーティング組成の残部が、それぞれ独立して0.3重量%未満の追加の元素と、不可避的不純物とを含む亜鉛コーティングである。例えば、スパングル(spangle)を形成させるため、及び/又はドロス形成を防止するために、その他の追加の元素は、0.3重量%未満の少量で存在し得る。その他の追加の元素は、Pb、Sb、Ti、Ca、Mn、Sn、La、Ce、Cr、Ni、Zr及びBiを含む群から選択され得る。Pb、Sn、Bi及びSb。少量のそのような追加の元素は、通常の適用では、浴又は得られるコーティングの特性を大幅に変えることはない。好ましくは、1種又は2種以上の追加の元素がコーティング中に存在する場合には、それぞれが0.02重量%未満で存在し、好ましくは、それぞれが0.01重量%未満で存在する。コーティング方法はまた、溶融亜鉛めっき(GI)、亜鉛めっき、ヒート-トゥ-コートサイクル(heat-to-coat cycle)、電気亜鉛めっき等様々であり得る。アルミニウムベースのコーティングもまた、適用され得、例えば、Al-Si-Xコーティング(ここで、Siは、0.1~10重量%で変化し得、X=必要な量で存在するその他のコーティングを改質する元素及びコーティング特性を本質的に変化させない不可避的不純物)である。PVD、CVD等のコーティング方法もまた適用可能である。
【0056】
最終的なバッチアニーリング手順は、使用する炉のタイプ又はコイル内のストリップの加熱速度及び冷却速度によって制限されない。コイルをバッチアニーリングに供する場合、コイルの加熱速度は表面から中心に向かって変化し得ることが理解される。しかし、本発明では、コイルのすべての部分がオーステナイトにおける十分なC及びMn富化を経るように、コイル状ストリップが最低5時間、好ましくは10時間以上、目的バッチアニーリング温度にあることが必須である。大量のMnの存在が鋼の硬化性を向上させるため、バッチアニーリング後の冷却速度は本発明には関係ない。したがって、コイルは、バッチアニーリング炉内で冷却、空冷、強制空冷、さらには水焼入れされ得る。
【0057】
調質圧延又はスキンパス圧延は、裸の鋼ストリップ又はコーティングされた鋼ストリップのいずれに対しても実施され得る。これはまた、シングルパス又はマルチパスで実施され得る。
【0058】
得られた鋼ストリップは、好ましくは、体積%で、
フェライト:30~70%;
残留オーステナイト:20~65%;
マルテンサイト:20%未満(0%を含む);
を含む三相又は二相のミクロ組織を有し、フェライト結晶粒径は、0.2~2μmである。
【0059】
得られた鋼ストリップは、残留オーステナイトについて、以下の組成の特徴:
Mn:鋼のバルクMn組成の1.25倍、好ましくは1.4倍
C:鋼のバルクC組成の1.2倍、好ましくは2.3倍
を有する。
【0060】
有利には、鋼ストリップは以下の特性:
降伏強度:600MPa以上;
最大引張強度:800MPa以上;
全伸び:20%以上;
ひずみ硬化指数:0.3以上
降伏点伸び:好ましくは10%以下の工学ひずみ;
厚み1.0mmにおける最小曲げ角度(minimum bending angle):100°以上。;
穴広げ性能:20%以上;
二軸延伸における最小延伸ひずみ(minimum stretching strain in bi-axial stretching):10%以上
を有する。
【0061】
上記の相の割合は、X線回折(XRD)を使用して決定された。残留オーステナイトの量は、サンプルの厚みが1/4である位置でXRDによって決定された。XRDパターンは、Panalytical Xpert PRO標準粉末回折計(CoKα線)により45~165°(2θ)の範囲で記録された。相比の定量的決定は、リートベルト精密化用のBruker Topasソフトウェアパッケージを使用したリートベルト解析によって実行された。マルテンサイト含有量は、回折図のフェライト回折位置でのピーク分裂(peak-split)から決定された。
【0062】
相の結晶粒径は、ミクロ組織の走査型電子顕微鏡(SEM)画像から決定された。残留オーステナイトのMn濃度は、電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)によって決定された。残留オーステナイトのC含有量は、Dyson及びHolmesによって提案された周知の式によって評価された。この式は、XRDデータから決定され得るオーステナイトの格子パラメータと、そのC含有量とを関連付ける。この式は、以下の論文:D.J. Dyson, B. Holmes, Effect of alloying additions on the lattice parameter of austenite. Journal of Iron Steel Institute, vol. 208, year 1970, pages 469-474で取得され得る。
【0063】
降伏強度、最大引張強度、降伏点伸び及び全伸びは、NEN10002規格に準拠した、室温での準静的(ひずみ速度3×10-4s-1)引張試験から決定された。引張試験片の形状は、圧延方向のゲージ長80mm、幅30mm及び公称厚み1.5mmで構成されていた。ひずみ硬化率は、引張曲線の降伏点伸び後の7%ひずみの範囲(in a range of 7 % strain after the yield point elongation in the tensile curve)で測定された。曲げ性は、公称厚み1.5mm、長手方向及び横断方向の両方における40mm×30mmの試験片に対する、VDA238-100規格に準拠した3点曲げ試験によって決定された。曲げ軸は30mm寸法に沿っており、曲げ半径は0.4mmであった。公称1.5mmの試験片から得られた曲げ角度は、以下の式を使用して厚み1.0mmに対応する角度に変換された:厚み1.0mmにおける曲げ角度=測定角度×実際の厚み(mm)の平方根。これらの変換された曲げ角度から、特定の熱処理条件について、長手方向及び横断方向の試験片の最低値が、本発明の範囲を主張するために採用された。穴広げ性能(HEC)は、ISO/TS 16630:2003(E)規格に準拠して決定された。寸法90mm×90mm×1.5mmの試験片が、鋼ストリップから切り出された。試験片の中央に直径10mmの穴が開けられ、穴広げ試験が実施された。穴広げ性能(HEC=(穴の初期直径の拡張(expansion of the initial diameter of the hole)/穴の初期直径)×100%)は、測定データから計算された。二軸の延伸ひずみ(biaxial stretching strain)は、直径75mmのフラットパンチと直径79.78mmのダイとを組み合わせて使用するエリクセンプレスで実施された二軸延伸試験(biaxial stretching test)から決定された。パンチノーズの半径は10mm、ダイの半径は8mmである。ブランクホルダー力(blank holder force)は、引き込みが発生しないように最大限の機械能力(約580kN)に設定された。試験速度は20mm/分に設定された。ひずみ測定は、細かいマーカーでシートに10mmの正方形のグリッドを適用することによって行われた。
【0064】
鋼ストリップの製造では、上記のように700℃未満の鋼の変態区間温度で最終バッチアニーリング工程を使用することにより、フェライトからオーステナイトへのMn分配が生じ、変態区間オーステナイトの安定性が向上する。最終バッチアニーリング後の冷却中、変態区間オーステナイトは、Msが低いことにより安定性が高いため、マルテンサイトにあまり変態せず、フェライト及び残留オーステナイトの二相のミクロ組織をもたらす。低Mn含有量(例えば、8重量%未満)の場合には、一部の変態区間オーステナイトはマルテンサイトに変態する可能性があるが、マルテンサイトの含有量は20体積%未満になる。したがって、Mnのレベルを高め、バッチアニーリング温度を低くすることで(例えば、700℃未満)、最適な準安定状態を備えた大量の残留オーステナイト(20体積%以上)が保証され得る。この大量の残留オーステナイトは、成形工程での変形中に、部分的にマルテンサイトに変態し、変態誘起塑性(TRIP)効果を引き起こし、高いひずみ硬化指数(=高い伸び及び高い成形性)を生じる。
【0065】
鋼組成のために、鋼ストリップの全伸びは20%以上であり、ひずみ硬化指数は0.3以上であることが好ましい。中Mn鋼アプローチの変態区間バッチアニーリング工程を使用して、超微細フェライト(0.5~2.0ミクロン)と、マルテンサイト及び高残留オーステナイト領域との混合ミクロ組織を得ることが好ましい。その結果、高い延性及び高い硬化速度が得られる。これらは、鋼ストリップの高い冷間成形性をもたらす。
【0066】
好ましい鋼ストリップが、自動車部品、特にストリップの成形性を必要とする複雑な形状を有する自動車部品を製造するための材料として使用される。高強度と組み合わせた高エネルギー吸収性を必要とする部品はまた、鋼ストリップからの製造にも適している。非限定的な例としては、自動車の内部部品、Bピラー、軸方向のバー等がある。
【実施例】
【0067】
図1及び以下に記載する実施例を参照して、本発明を説明する。
【0068】
図1は、最終バッチアニーリングによって得られた本発明に従って製造された鋼(鋼A、650℃/10時間)のSEMミクロ組織を示す。ここで、F=フェライト、MA=マルテンサイト-オーステナイトである。
【0069】
寸法が200mm×100mm×100mmである3種の本発明の化学成分を有する鋼インゴットA、B及びCを、真空誘導炉で装入物を溶融することによって鋳造した。これらの本発明の化学成分を有する鋼の化学組成は、2種の参照鋼D及びEとともに表1に示されている。鋼Dは双晶誘起塑性(TWIP)鋼であり、鋼EはDH1000鋼種であり、いずれもそれらの最終的な冷間圧延及びアニーリングを施された状態で受け取っており、受け取った状態(as-received)のこれらの鋼の厚みは、それぞれ1.7mm及び1.5mmであった。次いで、それらを1250℃で2時間再加熱し、厚み30mmに粗圧延した。次いで、ストリップを再度1250℃で30分間再加熱し、圧延開始温度1150℃及び仕上げ圧延温度(FRT)900℃(3種の鋼すべてについて、オーステナイト相領域にある)で、鋼A及びBを厚み3mm、鋼Cを厚み4mmに熱間圧延した。Mnの適切な均質化には、1250℃の高い再加熱温度と2時間の長い時間とを使用した。
【0070】
鋼A、B及びCについてのオーステナイトからフェライトへの変態温度(Ar3)は、膨張率測定によってそれぞれ785℃、770℃及び723℃であると測定された。次いで、熱間圧延鋼をマッフル炉で680℃からコイル冷却シミュレーションに供し、それによって室温まで冷却した。次いで、アルゴンの保護雰囲気下のマッフル炉内で、A及びBの熱間圧延ストリップを600℃で96時間中間バッチアニーリングし、Cのストリップを550℃で中間バッチアニーリングし、室温まで空冷した。これらのアニーリング温度は、処理の後の冷間圧延を容易にするために所望の量のフェライトの割合が得られるように選択された。熱間圧延ストリップのこの中間バッチアニーリング後の鋼A、B及びCの相の割合を表2に示す。相の割合は、上記のようにXRD測定によってストリップの厚みが1/4である位置から決定された。3種の鋼すべてにおいて、フェライトの割合が60体積%を超えていたことがわかる。
【0071】
次いで、ストリップを90℃のHCl酸で酸洗いして酸化物を除去し、次いで、すべての鋼をそれぞれの熱間圧延ゲージから最終厚み1.5mmまで冷間圧延した。
【0072】
A及びBの冷間圧延ストリップを650℃で10時間バッチアニーリングし、鋼Cの冷間圧延ストリップを、マッフル炉を使用して640℃で4時間及び16時間バッチアニーリングした。アニーリングにはアルゴン雰囲気を使用して、雰囲気が酸素及び窒素を含まないようにし、これにより、ストリップの酸化と、表面に窒化物層を形成する、雰囲気からの窒素及び鋼からのアルミニウムの不要な反応とを最小限に抑えた。アニーリング後、サンプルを室温まで空冷した。比較のために、Aの冷間圧延ストリップもまた同様の方法により650℃で2分間、5分間及び1時間アニーリングし、Cの冷間圧延ストリップを640℃で4時間アニーリングした。一部の試験片には、最大5%の厚み減少のスキンパス圧延又は調質圧延が施された。
【0073】
材料の特性評価及びテストの手順は上記のとおりである。思い起こすために記載すると、サンプルのミクロ組織は、XRD及びSEMを使用して特徴付けられた。相化学の微量分析は、EPMA及びXRD分析によって行われた。引張特性は、ゲージ長80mm及び幅30mmの試験片(A80試験片の形状)の引張試験によって決定された。ストリップの成形性は、適切な潤滑剤を使用した曲げ試験、穴広げ試験及び二軸延伸試験によって評価された。曲げ性について、L及びT試験片の定義は以下のとおりである:L=曲げ軸が圧延方向に平行な長手方向の試験片、T=曲げ軸が圧延方向に垂直な横断方向の試験片。
【0074】
鋼Aの冷間圧延ストリップの最終バッチアニーリング後に得られた典型的なミクロ組織を
図1に示す。ここでは、フェライトとマルテンサイト-オーステナイトの領域とを観察することができる。超微細な結晶粒径のフェライトもまた認識することができる。冷間圧延したサンプルを異なる最終アニーリング処理した後の鋼A、B及びCのミクロ組織特性を示す。すべての鋼のすべての条件について、フェライトの結晶粒径は0.5~1.9μmである。鋼A及びCについて、それぞれのアニーリング温度におけるアニーリング時間が長くなると、よりオーステナイトへのMn分配が増加するために、残留オーステナイト含有量が増加する。Mn含有量が高いほど残留オーステナイト含有量も高く(鋼CはA及びBよりも残留オーステナイトが多い)、オーステナイト安定化に対するMnの影響を示している。650℃で2分間アニーリングした鋼Aを除いたすべての条件で、高い割合の残留オーステナイトが得られた(33体積%超)。表4に示す鋼のアニーリング条件のMn及びC含有量は、鋼のこれらすべての異なる条件の残留オーステナイトにおいて、Mn富化が鋼のバルクMn含有量の1.286~2.139倍であることを示す(ただし、650℃/2分の条件である鋼Aを除き、Mn含有量はバルクMn含有量のわずか1.09倍である)。残留オーステナイトにおけるC富化について、C含有量は、鋼のバルクC含有量の1.17~3.085倍である(ただし、650℃/2分の条件である鋼Aを除き、この値は1.063倍である)。オーステナイトにおけるこれらの低いC及びMn富化のために、650℃/2分の条件である鋼Aの残留オーステナイト含有量も20体積%未満であり、結果として、マルテンサイト含有量は20体積%超(39.8体積%)である。その他のすべての本発明の鋼及び条件では、マルテンサイト含有量は16.7体積%以下(0体積%を含む:640℃/960分にける鋼C)である。
【0075】
650℃/2分の条件である鋼Aで残留オーステナイトの割合が低いのは、アニーリング温度が鋼Aの変態区間温度範囲且つ700℃未満であったとしても、2分のアニーリング時間は、オーステナイトへの十分なMn拡散にはあまりに短かったためである。
【0076】
上記のミクロ組織の特徴の意義(consequence)は、表5に示す鋼の引張特性に見られる。残留オーステナイトの量が少なく、Mn及びCがそれぞれ、そのバルクMn含有量及びC含有量の1.25倍未満及び2倍未満である、650℃/2分における鋼Aは、非常に高い降伏強度及び最大引張強度を示したが、全伸びはわずか3.1%であった。これは、低いMn及びC富化により予測される安定性が低いため、引張試験中にそのすべての残留オーステナイトが非常に迅速にマルテンサイトに変態するためである。少量の残留オーステナイトは、降伏点伸びを全く示さずに、変形の非常に早い段階で消費される。したがって、この条件の鋼の引張特性は低く、冷間成形には使用することができない。一方で、その他のアニーリング条件の鋼Aと、すべての条件の鋼B及びCは、693MPa超の降伏強度、860MPa超の最大引張強度及び23.4%超の全伸びを示した。これらの鋼はまた、高いエネルギー吸収能力(最大引張強度及び全伸びの積によって決定される)及び様々な量の降伏点伸びを示した。鋼A及びCのアニーリング時間とともに降伏点伸びが減少し、これは、表3に示されるフェライト結晶粒径の増加に起因する。これらの本発明の組成を有する鋼の引張特性は、表6に記載された参照鋼の引張特性と比較可能である。長時間の最終バッチアニーリング条件での本発明の鋼の化学成分は、鋼の化学成分-処理-ミクロ組織の組み合わせのために、従来のDH1000鋼種(参照鋼E)よりもはるかに高い全伸び及びエネルギー吸収能力を有する。鋼Eは、そのミクロ組織に非常に少量の残留オーステナイトを有する。さらに、TWIP鋼(参照鋼D)は、本発明の鋼よりもはるかに高い全伸びを有するが、いくつかの本発明の鋼のエネルギー吸収能力は、完全オーステナイト系のミクロ組織を有するTWIP鋼の範囲内にある。
【0077】
本発明の鋼の成形性パラメータを、参照鋼と比較して表7に示す。比較した成形性パラメータは、圧延方向及び横断方向におけるひずみに関する二軸延伸性(biaxial stretchability in terms strains in rolling and transverse directions)、シートの長手方向及び垂直方向における曲げ性、並びにHEC値で表されるフランジ性である。鋼Aは、最終バッチアニーリングが650℃において10時間未満で実施された場合、二軸の延伸ひずみの値は0であるが、その他のパラメータはゼロではないことを示す。650℃で2分間アニーリングした鋼Aは、曲げ性及びフランジ性も非常に劣っていた。曲げ性及びフランジ性はアニーリング時間の増加とともに向上するが、材料には最終バッチアニーリングの10時間まで延伸性がない。650℃で10時間アニーリングした鋼Bもまた、同じアニーリング条件である鋼Aと同様の成形性パラメータを示した。640℃で4時間アニーリングした鋼Cは、高い曲げ性及びフランジ性を示したが、低い延伸性を示した。鋼Cを16時間アニーリングすると、延伸性もまた向上する。
【0078】
鋼シートの冷間成形性は、様々なパラメータ、例えば、延伸性、曲げ性及びフランジ性の組み合わせである。本発明の鋼を変態区間温度範囲において700℃未満で最終バッチアニーリングする際、Mnは鋼中でゆっくりと拡散する元素であるため、先に見たように、必要量のMn及びC富化を残留オーステナイトに生じさせるためのアニーリング時間が重要である。高Mn及びC富化は高いひずみ硬化率を達成するために必要である。したがって、ひずみ硬化指数が低い、10時間未満でアニーリングした鋼はまた、延伸性も低くなるが、その他の成形性パラメータは良好であった。本発明の鋼において良好な延伸性を達成するためには、0.3以上の高いひずみ硬化指数が必要である。そうしないと、早期の局所破壊(premature local fracture)が発生する可能性がある。したがって、結果から、特許請求の範囲に記載されているような良好な冷間成形性(延伸性、曲げ性及びフランジ性の組み合わせ)について、最低10時間の最終バッチアニーリングが、残留オーステナイトにおけるMn及びC富化の最低限の値を達成するために、本発明の鋼に必要であることが明らかである。
【0079】
10時間バッチアニーリングしたサンプルの成形性を本発明の鋼と比較すると、本発明の鋼の成形性パラメータは、高成形性TWIP鋼(参照鋼E)の範囲にあり、従来のDH1000(参照鋼D)よりもはるかに高いことが見られる。鋼Cの二軸の延伸ひずみは、わずか4時間アニーリングした場合でも、従来のDH1000よりも高い。本発明の鋼のこの高い冷間成形性は、本発明の処理工程を通じて本発明の鋼で達成される、高いMn及びC富化を有する準安定残留オーステナイトの高い割合のためである。
【0080】
表8に、650℃で10時間アニーリングした鋼Bの機械的特性に対する調質圧延の影響を示す。調質圧延圧下が増加すると、降伏点伸びが減少することが明らかである。2%の圧下により、降伏点伸びは消失した。引張特性は、あまり変化せず、依然として本発明の特許請求の範囲内であった。非常に重要なことに、ひずみ硬化指数もまた5%の厚みの減少まで高いままである。したがって、機械的特性を大きく変化させない、最大5%の調質圧延によるこの降伏点伸びの消失は、本発明の鋼ストリップをより冷間成型可能にし、この理由は、ストレッチフォーミング(stretch-forming)中のひずみの局所化及び成形品の表面に対するストレッチャーの跡(stretcher mark)のリスクを低減するためである。
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
【国際調査報告】