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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-30
(54)【発明の名称】電池セル用の構成材料の作製方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20230123BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20230123BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230123BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20230123BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20230123BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20230123BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20230123BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M4/66 A
H01M10/052
H01M10/0562
H01M4/58
H01M4/505
H01M4/525
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022518866
(86)(22)【出願日】2020-09-29
(85)【翻訳文提出日】2022-05-18
(86)【国際出願番号】 GB2020052347
(87)【国際公開番号】W WO2021064356
(87)【国際公開日】2021-04-08
(31)【優先権主張番号】1914061.5
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515189520
【氏名又は名称】イリカ テクノロジーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100225060
【弁理士】
【氏名又は名称】屋代 直樹
(72)【発明者】
【氏名】ジャンフランコ アレスタ
(72)【発明者】
【氏名】ルイーズ ターナー
(72)【発明者】
【氏名】トーマス フォーリー
(72)【発明者】
【氏名】トーマス リスブリッジャー
(72)【発明者】
【氏名】ブライアン ヘイデン
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアム リチャードソン
(72)【発明者】
【氏名】ロバート ノーブル
(72)【発明者】
【氏名】オウェィン クラーク
【テーマコード(参考)】
5H017
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H017EE01
5H017EE04
5H017EE05
5H017HH03
5H029AJ06
5H029AK01
5H029AK03
5H029AM12
5H029BJ12
5H029CJ16
5H029CJ24
5H029DJ07
5H029EJ01
5H029EJ05
5H029HJ02
5H029HJ04
5H029HJ20
5H050AA12
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050FA02
5H050GA18
5H050GA24
5H050HA02
5H050HA04
5H050HA17
(57)【要約】
電池セル用の構成材料の作製方法が提供される。該方法は、基板の第1の面からなる平面状堆積表面を有する基板と、平面状堆積表面上に提供された第1の電池構成要素層と、を備える部分的に作製された電池セルを提供するステップであって、基板は複数のさらなる表面を有し、平面状堆積表面および複数のさらなる表面がそれらの間に基板の本体を画定し、第1の電池構成要素層は、電荷担体である金属種を含有し、かつ露出面を有し、1つ以上の導電性または半導電性経路が、基板の少なくとも一部を通って延在し、それぞれの1つ以上の導電性または半導電性経路は、平面状堆積表面を複数のさらなる表面の1つに接続し、部分的に作製された電池セルは、保持構造体によって堆積チャンバー内の所定の位置に保持され、1つ以上の導電性または半導電性経路のうちの1つと保持構造体との間の各接続部位が、電気絶縁性である、提供するステップと、さらに、第1の電池構成要素層上に第2の電池構成要素層を堆積するステップであって、堆積は堆積チャンバー内にプラズマを形成することを含む、堆積するステップと、を含む、電池セル用の構成材料の作製方法である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池セル用の構成材料の作製方法であって、
基板の第1の面からなる平面状堆積表面を有する該基板と、該平面状堆積表面上に提供された第1の電池構成要素層と、を備える部分的に作製された電池セルを提供するステップであって、前記基板は複数のさらなる表面を有し、前記平面状堆積表面および前記複数のさらなる表面がそれらの間に前記基板の本体を画定し、
前記第1の電池構成要素層は、電荷担体である金属種を含有し、かつ露出面を有し、
1つ以上の導電性または半導電性経路が、前記基板の少なくとも一部を通って延在し、前記1つ以上の導電性または半導電性経路は、それぞれ、前記平面状堆積表面を前記複数のさらなる表面の1つに接続し、
前記部分的に作製された電池セルは、保持構造体によって堆積チャンバー内の所定の位置に保持され、前記1つ以上の導電性または半導電性経路のうちの1つと前記保持構造体との間の各接続部位が、電気絶縁性である、提供するステップと、
さらに、前記第1の電池構成要素層上に第2の電池構成要素層を堆積するステップであって、該堆積は前記堆積チャンバー内にプラズマを形成することを含む、堆積するステップと、を含む、
電池セル用の構成材料の作製方法。
【請求項2】
前記保持構造体が電気的に接地されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記保持構造体が、前記基板の外周の少なくとも一部の周りに延在するクランプリングを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記堆積チャンバー内にマスクを提供するステップをさらに含み、該マスクは、少なくとも1つの開口部を含み、前記平面状堆積表面が該マスクの方を向くように配置され、かつ、
該マスクは、前記部分的に作製された電池セルから電気的に絶縁されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記マスクが、前記保持構造体に電気的に接続されている、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1つの前記開口部が、前記平面状堆積表面の少なくとも70%である領域を画定する、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
前記マスクが環状の構成を有する、請求項4~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記基板が、前記第1の面に対向する第2の面を含み、前記1つ以上の導電性または半導電性経路のうちの1つは、前記第1の面と該第2の面との間に延在する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記基板が、前記部分的に作製された電池セルに機械的支持を提供するための支持層を含み、該支持層は、前記平面状堆積表面から離れる方向に1000Ω・cm以下の電気抵抗率を有する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記支持層の厚さが、少なくとも100μmである、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
前記支持層が、シリコン、銅、鉄-ニッケル-コバルト合金、モリブデン、モリブデン-銅合金、アルミニウム、およびステンレス鋼からなる群から選択される材料を含む、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
前記支持層がp型またはn型シリコンを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記1つ以上の導電性または半導電性経路のうちの1つの少なくとも一部が、前記平面状堆積表面と一直線に整列している、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記平面状堆積表面が、Pt、Ni、Mo、Al、Au、W、Ti、ステンレス鋼、ニッケル合金、およびインジウムドープ酸化スズ(ITO)ならびに他の導電性金属酸化物からなる群から選択される材料を含む集電体層によって提供される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記集電体層の厚さが、0.05~1μmの範囲である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記第1の電池構成要素層の前記電荷担体である金属種が、Liイオンを含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記第1の電池構成要素層が、電極活物質または電解質を含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記第1の電池構成要素層が、正極活物質を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記第1の電池構成要素層が、LiCoPO、LiNi0.5Mn1.5、LiMn1-yCo、LiMnPO、LiMn、LiCoO、LiNiO、LiNi1-yCo、LiNi1-y-zMnCo(例えば、LiNi1/3Mn1/3Co1/3)、LiFePO、LiNiPO、LiNiPOF、LiCoPOF、LiMnPOF、LiCoSiO、LiMnSiO、FeF、LiMn0.8Fe0.1Ni0.1PO、Li1-xVOPO、Li(PO、およびLiFePOFを含む群から選択される正極活物質を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記第1の電池構成要素層が電極活物質を含み、前記第2の電池構成要素層が電解質を含む、請求項17~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記電解質が、LiPON、LiPO、LiPBON、陽イオンをドープしたLiLaZr12(式中、陽イオンドーパントは、タンタル、バリウム、ニオブ、イットリウム、亜鉛、およびそれらの組み合わせを含み得る)、Li1.5Al0.5Ge1.5(POおよびLi1.3Al0.3Ti1.7(POからなる群から選択される材料を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記第1の電池構成要素層の厚さが、1~40μmの範囲である、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記第2の電池構成要素層が、0.3~20μmの範囲の厚さに堆積される、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記第1の電池構成要素層上に前記第2の電池構成要素層を堆積させるステップが、高周波プラズマを形成することを含む、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記第1の電池構成要素層上に前記第2の電池構成要素層を堆積させるステップが、スパッタリングプロセスを含む、請求項1~24のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池セルの構成材料の作製方法、特にプラズマを形成するステップを含む方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体電池のマイクロ電池は、通常、薄層の活性スタックを備える。活性スタックは、固体電池の電解質によって分離された2つの電極(アノードおよびカソード)によって形成される。通常、アノード集電体は、電解質に対向するアノードの面に提供され、カソード集電体は、電解質に対向するカソードの面に提供される。
【0003】
マイクロ電池からの電気エネルギーの放出は、電解質を介して、電荷担体である金属種がアノードからカソードに移動することによって発生し、これにより、電子が外部回路に流れる。電荷担体である金属種は、通常、リチウムイオンなどの金属イオンである。特定の場合において、マイクロ電池は充電可能、すなわち、エネルギーを可逆的に貯蔵および放出するために使用され得る。このような場合、(化学形態の)エネルギーの貯蔵は、電解質を介した、カソードからアノードへの電荷担体である金属種の移動による電池の再充電中に生じる。
【0004】
本明細書で使用される場合、「アノード」という用語は、より負の電極電位を有する電極を指し、「カソード」という用語は、より正の電極電位を有する電極を指す。あるいは、アノードは負極と呼ばれ、カソードは正極と呼ばれ得る。
【0005】
典型的には、固体電池のマイクロ電池は、支持層上に個々の薄層を堆積させることによって形成され、支持層は、自己支持型であり、堆積された薄層に機械的支持を提供する。
【0006】
支持層の材料は、シリコン、酸化アルミニウム(サファイア)、ガラス、ステンレス鋼、窒化ケイ素、および酸化ケイ素を含む幅広い範囲から選択され得る。例えば、支持層の材料は、チョクラルスキー法などの方法によって成長させられたp型またはn型シリコン(例えば、ホウ素ドープシリコンまたはリンドープシリコン)(これらはCZシリコンとして知られている)であり得る。上記リストから分かるように、支持層の材料は、導電性、半導電性、または非導電性であり得る。
【0007】
ある種のマイクロ電池作製プロセスは、特定の構成材料および/または電池構成に限定され得る。したがって、個々の作製プロセスの普遍的適用性を高めるために、これらの制約を低減させることが望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
電池セルが、その内部を通って延在する導電性または半導電性経路を有する基板上に構成要素層(component layers)を堆積することによって作製される場合、プラズマ堆積プロセスを使用した個々の層の堆積は、1つ以上の下部の電池構成要素層における電荷担体である金属種の濃度を低下させ得、その結果、得られる電池セルの容量が著しく低減し、かつ/または該電池セルの抵抗が増加することがわかっている。
【0009】
驚くべきことに、上記課題は、基板の堆積表面から、基板を所定の位置に保持する保持構造体に延在する導電性または半導電性の経路の作成を避けることによって軽減され得ることが見出された。特定の場合において、このアプローチは、導電性または半導電性の支持層の継続的な使用を可能にし得、これは、支持層を介して電池に電気的接続を有利に提供することを可能にし得る。さらにまたはあるいは、この手順は、基板の面全体に広がるパターン化されていない集電体層の継続的な使用を可能にし得る。
【課題を解決するための手段】
【0010】
したがって、第1の態様では、本発明は、電池セル用の構成材料の作製方法であって、
基板の第1の面からなる平面状堆積表面(planar deposition surface)を有する該基板と、該平面状堆積表面上に提供された第1の電池構成要素層と、を備える部分的に作製された電池セルを提供するステップであって、前記基板は複数のさらなる表面を有し、前記平面状堆積表面および前記複数のさらなる表面がそれらの間に前記基板の本体を画定し、
前記第1の電池構成要素層は、電荷担体である金属種を含有し、かつ露出面を有し、
1つ以上の導電性または半導電性経路が、前記基板の少なくとも一部を通って延在し、それぞれの前記1つ以上の導電性または半導電性経路は、前記平面状堆積表面を前記複数のさらなる表面の1つに接続し、
前記部分的に作製された電池セルは、保持構造体によって堆積チャンバー内の所定の位置に保持され、前記1つ以上の導電性または半導電性経路のうちの1つと前記保持構造体との間の各接続部位が、電気絶縁性である、提供するステップと、
さらに、前記第1の電池構成要素層上に第2の電池構成要素層を堆積するステップであって、該堆積は前記堆積チャンバー内にプラズマを形成することを含む、堆積するステップと、を含む、
電池セル用の構成材料の作製方法を提供し得る。
【0011】
事実上、部分的に作製された電池セルは、保持構造体に対して電気的に浮遊している。特定の場合において、部分的に作製された電池セルは、1つ以上の誘電体スペーサーによって保持構造体から分離されている。
【0012】
特定の場合において、保持構造体は電気的に浮遊し得る。他の場合には、保持構造体は、例えば、堆積チャンバーの内面を介して電気的に接地され得る。
【0013】
通常、基板は支持層を含む。支持層の厚さは、通常、少なくとも100μm、特定の場合には少なくとも150μm、他の場合には少なくとも200μmである。一般に、支持層の厚さは1200μm未満、特定の場合には1000μm未満である。支持層の組成およびその厚さは、それが自己支持型となるように、すなわち、少なくとも第1の電池構成要素層に機械的支持を提供することができるように選択される。
【0014】
さらに、基板は、支持層によって支持されるさらなる層を含み得る。例えば、集電体層は、支持層の1つ以上の面に提供され得る。集電体は、Pt、Ni、Mo、Al、Au、W、Ti、ステンレス鋼、ニッケル合金、およびインジウムドープ酸化スズ(ITO)ならびに他の導電性金属酸化物からなる群から選択される材料を含み得る。集電体層の厚さは、通常、0.05~1μmの範囲である。集電体層は、一般に、支持層と第1の電池構成要素層との間に提供される。
【0015】
特定の場合において、集電体層は支持層の面と境界線を共有し得る。他の場合において、集電体層の外周(境界線)は、支持層の面の外周の内側にあり得る。
【0016】
特定の場合において、支持層と集電体層との間に接着層が提供され得る。接着層の厚さは、通常、5~50nmの範囲である。接着層は、チタン、酸化チタン、クロム、アルミニウム、およびチタン-タングステン合金からなる群から選択される材料を含み得る。
【0017】
特定の場合において、基板は、両面に白金層を有するシリコン支持層と、各白金層と支持層との間に提供される酸化チタン接着層とを含み得る。この構成は、Pt-Ti-Si-Ti-Ptと表記され得る。
【0018】
特定の場合において、基板は、第1の面に対向する第2の面を含み、1つ以上の導電性または半導電性経路のうちの1つは、第1の面と第2の面との間、すなわち、平面状堆積表面と第2の面との間に延在する。このような場合、基板は通常、導電性または半導電性の支持層を含む。例えば、支持層は、平面状堆積表面から離れる方向に1000Ω・cm以下の電気抵抗率を有し得る。特定の場合において、支持層は、平面状堆積表面から離れる方向に100Ω・cm以下の電気抵抗率を有し得る。特定の場合において、支持層は、平面状堆積表面から離れる方向に10Ω・cm以下の電気抵抗率を有し得る。特定の場合において、支持層は、平面状堆積表面から離れる方向に1Ω・cm以下の電気抵抗率を有し得る。特定の場合において、支持層は、平面状堆積表面から離れる方向に0.1Ω・cm以下の電気抵抗率を有し得る。特定の場合において、支持層は、平面状堆積表面から離れる方向に0.01Ω・cm以下の電気抵抗率を有し得る。「電気抵抗率」という用語は、25℃で測定された電気抵抗率を指す。
【0019】
典型的には、そのような場合、支持層は、金属、金属合金または半導体材料を含む。例えば、支持層は、シリコン、アルミニウム、銅、鉄-ニッケル-コバルト合金(Kovar(商標)など)、モリブデン、モリブデン-銅合金、および鋼(例えば、ステンレス鋼)からなる群から選択される材料を含み得る。特定の場合において、支持層は、チョクラルスキー法によって成長させて得たp型またはn型シリコン(例えば、ホウ素ドープシリコンまたはリンドープシリコン)(CZシリコンとして知られる)を含み得る。
【0020】
特定の場合において、1つ以上の導電性または半導電性経路のうちの1つの少なくとも一部は、平面状堆積表面と一直線に整列(aligned with)している。この状況は、平面状堆積表面が、支持層の面と境界線を共有する集電体層によって提供される場合に発生し得る(このような場合の支持層は、導電性、半導電性、または絶縁性であり得、かつ、シリコン、酸化アルミニウム(サファイア)、ガラス、鋼(例えば、ステンレス鋼)、窒化ケイ素、酸化シリコン、アルミニウム、銅、モリブデン、モリブデン-銅合金、および鉄-ニッケル-コバルト合金(Kovar(商標)など)からなる群から選択される材料を含み得る)。そのような場合、1つ以上の導電性または半導電性経路は、集電体層を通って平面状堆積表面の外周まで延在し得、第2の電池構成要素層の堆積中の悪影響を避けるために、そのような経路が保持構造体内に延在するのを防ぐ必要性があり得る。
【0021】
あるいは、この状況は、支持層が導電性または半導電性であり、層の面内に(および層の厚み方向にわたって)導電性または半導電性の経路を提供する場合に発生し得る。典型的にそのような場合、支持層は、金属、金属合金または半導体材料を含む。例えば、支持層は、シリコン、アルミニウム、銅、鉄-ニッケル-コバルト合金(Kovar(商標)など)、モリブデン、モリブデン-銅合金、および鋼(例えば、ステンレス鋼)からなる群から選択される材料を含み得る。特定の場合において、支持層は、チョクラルスキー法によって成長させられ得たp型またはn型シリコン(例えば、ホウ素ドープシリコンまたはリンドープシリコン)(CZシリコンとして知られる)を含み得る。
【0022】
第1の電池構成要素層の電荷担体である金属種は、Liイオン、Naイオン、および/またはMg2+イオンを含み得る。通常、第1の電池構成要素層の電荷担体である金属種は、Liイオンを含む。
【0023】
第1の電池構成要素層は、電極活物質または電解質を含み得る。例えば、第1の電池構成要素層は、正極活物質を含み得る。
【0024】
例えば、第1の電池構成要素層は、LiCoPO、LiNi0.5Mn1.5、LiMn1-yCo(式中、0<y<1)、LiMnPO、LiMn、LiCoO、LiNiO、LiNi1-yCo(式中、0<y<1)、LiNi1-y‐zMnCo(式中、y>0、z>0、およびy+z<1、例えば、LiNi1/3Mn1/3Co1/3)、LiFePO、LiNiPO、LiNiPOF、LiCoPOF、LiMnPO、LiMnPOF、LiCoSiO、LiMnSiO、FeF、LiMn0.8Fe0.1Ni0.1PO、Li1-xVOPO(式中、0≦x<1)、Li(PO、LiFePOF、NaMnPOCO、NaMO(式中、MはCo、Fe、Mn、Ni、またはそれらの組み合わせであり、通常は0<x≦1)、NaMPO(式中、MはFe、Mn、Co、Ni、またはそれらの組み合わせ)、およびNaFePOFからなる群から選択される正極活物質を含み得る。
【0025】
特定の場合において、正極活物質はコバルト酸リチウムである。
【0026】
典型的には、第1の電池構成要素層は電極活物質を含み、第2の電池構成要素層は電解質を含む。一般に、第2の電池構成要素層はまた、Liイオン、Naイオン、および/またはMg2+イオンなどの電荷担体である金属種を含有する。一般に、第2の電池構成要素層の電荷担体である金属種および第1の電池構成要素層の電荷担体である金属種は、同じである。典型的には、第2の電池構成要素層の電荷担体である金属種は、Liイオンである。
【0027】
電解質は、LiPON(例えば、Li(式中、0<x≦4.5; 0<y≦1;0<z≦5.5;および0<w≦1)またはxLiO:P:zPON);LiPBON(例えば、Li、式中、x=0.2~0.5;y=0.05~0.15;z=0.001~0.2;d=0.35~0.5;およびe=0.02~0.18);LiPO;陽イオンをドープしたLiLaZr12(式中、陽イオンドーパントは、タンタル、バリウム、ニオブ、イットリウム、亜鉛、およびそれらの組み合わせを含み得る);Li1.5Al0.5Ge1.5(PO;およびLi1.3Al0.3Ti1.7(POからなる群から選択される材料によって提供され得る。
【0028】
第1の電池構成要素層が電極活物質を含み、第2の電池構成要素層が電解質を含む場合、本発明の第1の態様に係る方法は、電解質上にさらなる電極活物質を提供し、該電解質によって分離された2つの電極を含む活性スタックを形成するステップをさらに含み得る。
【0029】
第1の電池構成要素層が電解質を含む場合、第2の電池構成要素層は電極活物質を含み得る。
【0030】
典型的に、電池セルは薄膜電池である。したがって、第1の電池構成要素層の厚さは、1~40μm(例えば、1~30μm)の範囲であり得、および/または第2の電池構成要素層は、0.3~20μm(例えば、0.3~15μm)の範囲の厚さに堆積され得る。
【0031】
典型的に、第1の電池構成要素層上に第2の電池構成要素層を堆積させるステップは、ACプラズマ(例えば、3.56MHzなど通常1~300MHzの範囲の周波数を有するソースから生成されたRFプラズマ、または通常300MHzより高く2.45GHzなど約30GHz未満の周波数を有するソースから生成されたマイクロ波周波数プラズマ)を形成することを含む。しかしながら、特定の場合において、第1の電池構成要素層上に第2の電池構成要素層を堆積させるステップは、DCプラズマを形成することを含む。
【0032】
特定の場合において、第1の電池構成要素層上に第2の電池構成要素層を堆積させるステップは、ターゲットが典型的には不活性高エネルギーイオン(例えばAr)と衝突し、その結果、該ターゲットから微細スプレー(原子、イオン、および/または該ターゲットからの原子のクラスターを含む)として材料の射出が生じ、次いで、その(材料の射出の)少なくとも一部が、第1の電池構成要素層の露出面に堆積されるスパッタリングプロセスを含む。特定の場合において、スパッタリングプロセスは、反応性ガスを用いた反応性スパッタリングを含み、ここで、該反応性ガスは第1の電池層の露出面上に堆積される前にターゲットから噴射された材料と化学的に反応する。例えば、上記スパッタリングプロセスは、ターゲットとしてリン酸リチウム(LiPO)を使用し、反応性ガスとして窒素を使用することを含み得、リン酸リチウムターゲットから噴射された材料は、活性窒素と反応して、第1の電池構成要素層の露出面上にLiPONを堆積させる。
【0033】
他の場合において、第1の電池構成要素層の露出面上に第2の電池構成要素層を堆積させるステップは、プラズマ強化化学蒸着またはプラズマ強化原子層堆積を含み得る。
【0034】
典型的には、基板は平面状、すなわち2つの対向面を有し、面と面との間隔は各個々の面の寸法よりも小さい。例えば、基板は、実質的に円盤としての形を成し得、すなわち、円形または実質的に円形の外周を有し得る(例えば、基板は、実質的に円形であり得るが、円の弦に対応する直線状のエッジ部分も有し得る)。
【0035】
典型的に、保持構造体は金属または金属合金を含む。保持構造体は、典型的には複雑な形状を有することが要求され、かつ一般的には金属または金属合金からより容易に作製することができるため、金属または金属合金を含むことは一般に好ましい。特定の場合において、保持構造体は、セラミックなどの電気絶縁材料によって提供され得る。しかしながら、この材料を複雑な形状に加工することがより困難であることが多いため、あまり好ましくない。
【0036】
一般に、保持構造体は、基板の外周の少なくとも一部の周りに延在するクランプリングを含む。クランプリングは金属または金属合金を含み得る。例えば、クランプリングは、モリブデンおよび/またはタンタルを含み得る。あるいは、クランプリングは、Inconel(商標)などのニッケル合金を含み得る。
【0037】
特定の場合において、マスクが堆積チャンバー内に提供される。マスクは、例えばシャドウマスクまたはオープンマスクであり得る。マスクは通常、平面状堆積表面がマスクの方を向くように配置される。
【0038】
シャドウマスクは通常、複数の開口部(aperture)を有する。オープンマスクは、通常、基板の平面状表面の少なくとも70%(特定の場合には少なくとも80%、特定の場合には少なくとも85%、特定の場合には少なくとも90%)の領域を画定する開口部を有する。オープンマスクは通常環状の構成を有する。
【0039】
シャドウマスクは、典型的には、パターン化された形態で電池構成要素層を堆積させることが望ましい場合、すなわち電池構成要素層を複数の別個の同一平面上要素の集合として堆積させることが望ましい場合に提供される。そのような場合、各要素は、個々の電池の構成要素を提供し得る。誤解を避けるために、例えば選択的エッチングまたはレーザーアブレーションのプロセスを通して、堆積後に電池構成要素層をパターニングしてもよいことも留意されたい。
【0040】
オープンマスクは、堆積表面への層の堆積を抑制し、保持構造体などの堆積チャンバー内の他の要素への材料の堆積を避けることが望ましい場合に提供され得る。
【0041】
堆積チャンバー内にマスクが提供されている場合、マスクは保持構造体に電気的に接続され、かつ部分的に作製された電池セルから電気的に絶縁されていることが好ましい。したがって、特定の場合には、マスクおよび保持構造体の両方が接地され得る。
【0042】
マスクは、典型的には導電性材料、例えばステンレス鋼またはモリブデンのような金属または金属合金によって提供される。マスクの厚さは典型的には0.1mm~0.5mmである。
【0043】
一般に、マスクは、部分的に作製された電池セルから1つ以上の誘電体スペーサーによって分離されている。しかしながら、特定の場合には、マスクと部分的に作製された電池セルとの間に隙間が提供されてもよく、その隙間の寸法は少なくとも0.1mmである。
【図面の簡単な説明】
【0044】
本発明は、以下の図を参照することによってのみ例として説明される:
図1】その作製が、本発明の一例に係る方法を含む、例示的な薄膜電池構造の概略断面図を示す。
図2】本発明の方法の一例で使用するための堆積システムの実施形態の概略断面図を示す。
図3】3a)および3b)は、本発明の方法に従わない堆積プロセスを使用して、コバルト酸リチウム層の露出面上にLiPON層を堆積させる前後の該コバルト酸リチウム層からそれぞれ得られたラマンスペクトルを示す。
図4】本発明の方法に従わない堆積プロセスを使用して、コバルト酸リチウム層の露出面上にLiPON層を堆積させた後の該コバルト酸リチウム層の様々な深さから得られた複数のラマンスペクトルを示す。
図5】5a)および5b)は、本発明に係る方法の一例の堆積プロセスを実施して、コバルト酸リチウム層の露出面上にLiPON層を堆積する前後のコバルト酸リチウム層からそれぞれ得られたラマンスペクトルを示す。
図6】6a)および6b)は、半導体支持層上に堆積された電池構成要素層のスタックの断面から得られた走査型電子顕微鏡写真を示す。図6a)に示されるスタックの電解質は、本発明の方法の一例に従って堆積されたものである。図6b)に示されるスタックの電解質は、本発明の方法に従って堆積されたものではない。
図7】7a)および7b)は、半導体支持層上に構築された薄膜電池の時間に対する電圧のプロットとして示された、複数の充電-放電サイクルのグラフである。図7a)の電池の電解質は、本発明の方法の一例に従って堆積されたものである。図7b)の電池の電解質は、本発明の方法に従って堆積されたものではない。
図8】8a)および8b)は、薄膜電池のインピーダンスを決定するために使用される電気的AC応答(electrical AC response)のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0045】
図1は、支持層14の平面状表面14a上に支持された多層薄膜スタック12の深さd全体を通した薄膜構造体10の概略断面図(原寸に比例していない)を示す。
【0046】
スタック12の層は、電池の様々な構成要素を実装するのに適した層を含む。支持層14は、半導電性または導電性の材料(チョクラルスキー法によって成長させたp型ホウ素ドープシリコン(CZシリコン)など)のウェーハである。
【0047】
表面14a上の第1の層は、接着層16であり、二酸化チタンの層を含む。これを覆うのが、カソード集電体18を提供する層であり、白金から形成されている。コバルト酸リチウムの層は、白金層18を覆うカソード20を形成する。窒化リン酸リチウム(LiPON)を含む電解質分離層22が、カソード20の上面に堆積される。アノード層24が、電解質層22の上にくる。最後に、アノード集電体26が、アノード層24の上に提供される。しかしながら、この構造は純粋に例示的なものであり、該構造は、より多くの層を、より少ない層を、または他の材料から形成された他の層を含み得る。
【0048】
作製されるかあるいは得られると、構造体10は、個々の電池要素またはセルを互いに分離するために、例えばレーザー切断技術を使用して切断され得る。
【0049】
図2を参照すると、本発明に係る方法で使用するための堆積システム110は、ターゲット114およびディスク形状の支持層14が配置された堆積チャンバー112を備える。支持層は、支持層の外周のあたりに延在するクランプリング118によって所定の位置に保持される。クランプリング118は、導電性材料を含む。環状スペーサー120が、支持層14とクランプリング118との間に提供され、該スペーサーは、クランプリング118および支持層14が互いに電気的に絶縁されるように、誘電体材料(カプトン(登録商標)フィルムまたは熱分解窒化ホウ素など)からなる。
【0050】
第1の電池構成要素層20は、ターゲットの方を向く支持層14の側に提供される。図1に示されるように、追加の層が、支持層14と第1の電池構成要素層20との間に提供されてもよい。支持層14は、第1の電池構成要素層20および任意の中間層に機械的支持を提供する。支持層14、第1の電池構成要素層20および任意の中間層は一緒になって、部分的に作製された電池セルを提供する。
【0051】
この例では、第1の電池構成要素層20はパターン化されている、すなわち、第1の電池構成要素層は複数の別個の同一平面上の要素の形態で提供されている。しかしながら、代替の実施形態では、第1の電池構成要素層はパターン化されず、基板と境界線を共有し得る。
【0052】
オープンマスク124が、支持層14とターゲット114との間に提供される。オープンマスク124は、支持層14の1つの面の領域の少なくとも70%である領域を画定する中央開口部を有する環状の構成を有する。例えば、中央開口部の直径は、130mmまたは140mmであり得、一方、支持層14の直径は、150mmであり得る。
【0053】
オープンマスク124は、コネクタピン126を介してクランプリング118に電気的に接続されている、すなわち、オープンマスクはクランプリングに短絡されている。オープンマスク124は、誘電体材料からなる環状スペーサー127によって部分的に作製された電池セルから分離されている。代替の構成では、オープンマスク124は、支持層14、第1の電池構成要素層、および任意の中間層によって提供される部分的に作製された電池セルから約0.1mmの距離だけ離間され得る。
【0054】
オープンマスク124は、導電性材料、例えば、ステンレス鋼またはモリブデンなどの金属または金属合金によって提供され、通常、0.1mm~0.5mmの厚さを有する。
【0055】
クランプリング118は、堆積チャンバー112の内面のうちの1つを介して電気的に接地されている。したがって、クランプリング118およびオープンマスク124の両方が電気的に接地され、一方、部分的に作製された電池セルは、堆積チャンバー内に電気的に浮遊している。
【0056】
真空ポンプシステム128およびプロセスガス送達システム130が、堆積チャンバー112と連通している。高周波プラズマ電源132がターゲット114に接続されている。
【0057】
使用中、部分的に作製された電池セルは、最初に堆積チャンバー112の外側に保持され、一方、該チャンバーは、真空ポンプシステム128によって1×10-7Torrの圧力に排気される。クランプリング118によって支持され、かつ、堆積表面上に配置されたオープンマスク124(マスクは堆積表面から電気的に絶縁されている)を有する、部分的に作製された電池セルは、次いで、堆積チャンバー112に導入され、図2に示されるように、マスク124がターゲット114と部分的に作製された電池セルとの間にあるように位置付けされる。マスク124は、コネクタピン126によってクランプリング118に短絡されている。
【0058】
制御された量のプロセスおよび/または反応性ガスが、プロセスガス供給システム130によって堆積チャンバーに導入される。スパッタリングプロセス中、チャンバー圧力は通常1×10-3Torrである。次いで、プラズマ電源132が活性化されて、プロセスおよび/または反応性ガスにエネルギーを与え、堆積チャンバー112内に高周波プラズマを形成する。
【0059】
プラズマ中の高エネルギーイオンの存在により、材料がターゲット114から噴射されて、第2の電池構成要素層(図示されず)を形成するように、第1の電池構成要素層20の露出面上に少なくとも部分的に堆積される微細スプレーを形成する。すなわち、第2の電池構成要素層は、スパッタリングプロセスを通じて堆積される。
【0060】
特定の実施形態では、ターゲット114はリン酸リチウムターゲット(LiPO)であり、反応性ガスは窒素であり、第2の電池構成要素層はLiPONである。
【0061】
[ラマン測定]
図3a)は、p型ホウ素ドープシリコンの半導電性支持層上に設けられたコバルト酸リチウムの層から得られたラマンスペクトルを示す。この酸化物層では、約485cm-1および約595cm-1に明確なピークが観察される。
【0062】
図3b)は、酸化物層の露出面に200nmの薄いLiPON層を堆積させた後の、図3a)と同じ酸化物層のセクション(断面)から得られたラマンスペクトルを示す。LiPON堆積は、本発明の方法に従って実施しなかった。具体的には、支持層は電気的に浮遊していなかったが、代わりに、それを堆積チャンバー内の所定の位置に保持するために使用されたクランプリングと電気的に接触していた。
【0063】
図3b)は、約700cm-1のすぐ下に明確なピークを示しているが、図3a)で元々観察された約485cm-1および約595cm-1のピークの突出は大幅に減少している。これは、コバルト酸リチウム層上へのLiPONの堆積過程で、Liイオンがコバルト酸リチウム層から外へ移動した結果、コバルト酸リチウムの特徴的なピーク(約485cm-1および約595cm-1)が減衰し、かつ、酸化コバルトタイプ(Co)相の存在に関連する、約700cm-1のすぐ下に新しいピークが発生したためであると考えられる。
【0064】
図4は、コバルト酸リチウム層の露出面上にLiPON層を堆積させた後の、元々コバルト酸リチウムの形態で提供されていた酸化物層から得られた複数のラマンスペクトルを示す。LiPON堆積は、本発明の方法に従って実施しなかった。具体的には、コバルト酸リチウム層が提供された導電性支持層は、電気的に浮遊せず、代わりに、堆積チャンバー内の所定の位置にそれを保持するために使用されたクランプリングと電気的に接触していた。
【0065】
これらのスペクトルは、酸化物層(元々はコバルト酸リチウムの形態で提供されていた)の様々な深さから得られたものであり、図4のx軸に最も近いスペクトルは酸化物/LiPON界面に最も近い酸化物層の部分に対応する一方、x軸から最も遠いスペクトルは支持層に最も近く(かつ隣接する)酸化物層の部分に対応する。すなわち、図4のx軸からスペクトルが遠ざかるほど、酸化物層の対応する部分が支持層に近くなっていく。
【0066】
支持層の近くから取られたスペクトル(例えば、スペクトル(a)および(b))は、約485cm-1および約595cm-1に明確なピークを示し、コバルト酸リチウムの存在を示している(スペクトル(a)の約525cm-1のピークは、支持層によるものである)。酸化コバルト相は識別可能に存在しておらず、これは約700cm-1のすぐ下のピークによって示されている。
【0067】
対照的に、酸化物層と堆積されたLiPON層との間の界面の近くから取られたスペクトル(例えば、スペクトル(c)から(i))は、約485cm-1および約595cm-1に識別可能なピークを示さないが、明確なピークが普遍的に約700cm-1のすぐ下で観察される。堆積されたLiPON層との界面に近い酸化物層の部分において約700cm-1のすぐ下にピークが突出するようになったことは、LiPON堆積中のコバルト酸リチウムの脱リチウム化の兆候であり、その結果生じる酸化コバルトタイプ(Co)相の存在であると考えられる。
【0068】
図5a)は、導電性支持層上に提供されたコバルト酸リチウムの層から得られたラマンスペクトルを示す。極めて明確なピークが、約485cm-1および約595cm-1に観察される。
【0069】
図5b)は、コバルト酸リチウム層の露出面上にLiPON層を堆積させた後の、図5a)と同じコバルト酸リチウム層のセクション(断面)から得られたラマンスペクトルを示す。LiPON層の堆積は、本発明による方法の一例に従って実施された。図5b)のスペクトルは図5a)のスペクトルとほぼ同じであり、これはLiPON層の堆積中にコバルト酸リチウム層に顕著な組成変化が発生していないことを示している。
【0070】
[厚み測定]
図6a)は、半導電性支持層(シリコンウェーハ)上に堆積された、コバルト酸リチウムカソード、LiPON電解質、およびアノード材料を含む電池構成要素層のスタックの断面の走査型電子顕微鏡写真を示す。LiPON電解質層は、本発明の方法の一例に従って堆積された(すなわち、部分的に作製された電池は、電解質層の堆積中にクランプリングから絶縁された)。
【0071】
D1はコバルト酸リチウムのカソード層の厚さ(6.7μm)を示し;D2はLiPON電解質層の厚さ(2.4μm)を示し;D3はアノード層の厚さ(0.89μm)を示す。
【0072】
図6b)は、半導電性支持層(シリコンウェーハ)上に堆積された、コバルト酸リチウムカソード、LiPON電解質、およびアノード材料を含む電池構成要素層のスタックの断面の走査型電子顕微鏡写真を示す。LiPON電解質層は、本発明の方法に従って堆積されなかった(すなわち、部分的に作製された電池は、電解質層の堆積中にクランプリングから絶縁されなかった)。その他の点で、堆積条件は、図6a)に示すスタックに使用される条件と一致するように選択された。
【0073】
D1はカソード層の厚さ(5.5μm)を示し、D3はアノード層の厚さ(1.1μm)を示す。
【0074】
カソード層およびアノード層は、厚さ4.01μmの中間層(D4)で分離されていることがわかった。この中間層は、アノードに隣接するLiPON層(D2)およびカソードに隣接する反応層で構成される複合層であると思われる。この反応層は良好なイオン伝導性を有さず、その存在はまた、カソードとアノードとの分離をも増加させ、その結果、電池の内部抵抗が増加する。
【0075】
[電池サイクル]
図7a)は、半導電性支持層(シリコンウェーハ)上に堆積された層から構築された薄膜電池から測定された複数の充放電サイクルのグラフを示しており、ここでは、LiPON電解質は本発明の方法の一例に従って堆積された。これにより、電池の性能が良好であることが確認される。
【0076】
図7b)は、半導電性支持層(シリコンウェーハ)上に構築されたが、本発明の方法に従ってLiPON電解質が堆積されなかった、すなわち、支持層がクランプリングから電気的に絶縁されていない電池で実行された、電池サイクルの同様の試みの結果を示す。このことから、電池は1サイクルでさえ完結しなかったことがわかる。これは、堆積プロセス中にコバルト酸リチウムから堆積されたLiPON層に向かってリチウムイオンが移動した結果、電池の内部抵抗を増加させるLiPON反応層が生じたためと考えられる。この増加した内部抵抗の影響は、明らかに充電中に観察され、電池はわずか数秒で4Vのカットオフ電圧に到達するため、電池を充電することはできなかった。
【0077】
[インピーダンス測定]
インピーダンス測定は、ホウ素ドープシリコンの支持層上に以下の層を堆積させることによって作製した電池で実行した:
- 接着層…二酸化チタン;
- カソード集電体層…白金;
- カソード層…コバルト酸リチウムカソード;
- 電解質層…LiPON電解質;
- アノード材料;
- アノード集電体層
測定は、インピーダンスアナライザを使用して実行された。インピーダンスは、1MHz~0.1Hzの周波数範囲にわたり振幅10mVのAC励起信号を使用して測定された。各周波数での応答は、積分時間5秒で決定された。周波数の上限と下限との間に対数間隔(logarithmic spacing)を用いて、ディケードごとに7つの周波数が測定された。
【0078】
図8a)は、本発明の方法の一例に従って電解質が堆積された電池のナイキスト線図(これらの結果は実線で示されている)、および本発明の方法に従って堆積されていない電池のナイキスト線図(これらの結果は破線で示されている)を示す。図8b)は、図8a)の拡大部分を示している。
【0079】
これらの線図では、-Im(Z)(複素インピーダンスの虚数部)がRe(Z)(複素インピーダンスの実数部)に対してプロットされている。図8b)からわかるように、両方の曲線は、グラフの原点に隣接する円弧状の部分(中周波数から高周波数)と、x軸およびy軸の値がより高い(低周波数)線形部分で成っている。中~高周波数範囲の曲線のこの弧状部分の直径が、電池内で発生する電荷移動プロセスのインピーダンスの関数である。
【0080】
図8b)から分かるように、このインピーダンスは、本発明の方法に従って堆積された電池の場合、約1000Ωである。対照的に、サンプルホルダーから支持層を絶縁せずに堆積された電池は、約40000Ωの顕著に高いインピーダンスを有し、電池内で増加した抵抗の根源が存在することを示している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6a
図6b
図7
図8
【国際調査報告】