(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-30
(54)【発明の名称】高電解質充填レベルでの溶融炭酸塩型燃料電池の作動
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04694 20160101AFI20230123BHJP
H01M 8/14 20060101ALI20230123BHJP
H01M 8/04791 20160101ALI20230123BHJP
H01M 8/04858 20160101ALI20230123BHJP
【FI】
H01M8/04694
H01M8/14
H01M8/04791
H01M8/04858
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022530718
(86)(22)【出願日】2019-11-26
(85)【翻訳文提出日】2022-07-22
(86)【国際出願番号】 US2019063345
(87)【国際公開番号】W WO2021107935
(87)【国際公開日】2021-06-03
(32)【優先日】2019-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】390023630
【氏名又は名称】エクソンモービル・テクノロジー・アンド・エンジニアリング・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】ExxonMobil Technology and Engineering Company
(71)【出願人】
【識別番号】502197161
【氏名又は名称】フュエルセル エナジー, インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】FUELCELL ENERGY, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【氏名又は名称】式見 真行
(72)【発明者】
【氏名】ローゼン,ジョナサン
(72)【発明者】
【氏名】エルセン,ヘザー エイ
(72)【発明者】
【氏名】キス,ガボール
(72)【発明者】
【氏名】ランベルティ,ウィリアム エイ
(72)【発明者】
【氏名】ホーン,ウィリアム シー
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,アンディン
(72)【発明者】
【氏名】ギアリー,ティモシー シー
(72)【発明者】
【氏名】フランコ,アダム
(72)【発明者】
【氏名】ヒルミ,アブデルカデル
【テーマコード(参考)】
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
5H126BB05
5H127AA04
5H127BA02
5H127BA05
5H127BA12
5H127BA28
5H127BA33
5H127BB02
5H127DC05
5H127DC25
5H127DC44
(57)【要約】
炭素捕捉条件下で作動される溶融炭酸塩型燃料電池の初期充填には、目標電解質量が高められる。目標電解質充填レベルの増加は、運転開始前にカソード集電体に電解質を追加することで部分的に達成することができる。溶融炭酸塩型燃料電池を低CO
2含有カソード入力ストリーム、高電流密度で作動する場合、および/または溶融炭酸塩型燃料電池を高CO
2利用率で作動する場合、目標電解質充填レベルの増加により燃料電池性能および寿命が改善される可能性がある。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム含有電解質を含む溶融炭酸塩型燃料電池で電気を生成する方法であって、前記方法は、
平均電流密度120mA/cm
2以上およびCO
2利用率60%以上で、アノード、マトリックス、およびカソードを含む溶融炭酸塩型燃料電池を、10体積%以下のCO
2を含むカソード入力ストリームで作動することを含み、
前記溶融炭酸塩型燃料電池は、マトリックス細孔容積とカソード細孔容積との合計の70体積%以上の合計目標電解質充填レベルをさらに含む、方法。
【請求項2】
前記溶融炭酸塩型燃料電池を作動することが、75%以上の測定されたCO
2利用率で作動することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
リチウム含有電解質を含む溶融炭酸塩型燃料電池で電気を生成する方法であって、前記方法は、
平均電流密度120mA/cm
2以上およびCO
2使用率90%以上で、アノード、マトリックス、およびカソードを含む溶融炭酸塩型燃料電池を、CO
2を含むカソード入力ストリームで作動することを含み、
前記溶融炭酸塩型燃料電池は、マトリックス細孔容積とカソード細孔容積との合計の70体積%以上の合計目標電解質充填レベルをさらに含む、方法。
【請求項4】
i)前記カソード入力ストリームが、5.0体積%以下のCO
2を含む、ii)前記カソード排気が2.0体積%以下のCO
2を含む、iii)前記溶融炭酸塩型燃料電池が0.95以下の輸率で作動する、またはiv)i),ii),iii)の二つ以上の組み合わせを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記電解質が非共晶混合物を含む、または前記電解質の前記炭酸リチウム含有量が対応する共晶組成物より10質量%以上大きい、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記電流密度が、150mA/cm
2以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記溶融炭酸塩型燃料電池を累積時間50時間以上作動する、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
目標カソード電解質充填レベルが、カソード細孔容積の85体積%~140体積%である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記合計目標電解質充填レベルが、85体積%~128体積%である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記合計目標電解質充填レベルの少なくとも一部を、前記カソード集電体に貯蔵する、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
カソード集電体、カソード、マトリックス、およびアノード、ならびにリチウム含有電解質を含み、マトリックス細孔容積とカソード細孔容積との合計の85体積%以上に対応する前記リチウム含有電解質の合計目標電解質充填レベルを含む、溶融炭酸塩型燃料電池。
【請求項12】
前記電解質は、対応する共晶混合物中の対応するリチウム含有量より10質量%以上大きい炭酸リチウム含有量を含む、請求項11に記載の溶融炭酸塩型燃料電池。
【請求項13】
前記合計目標電解質充填レベルの少なくとも一部が、前記カソード集電体に貯蔵されている、請求項11または12に記載の溶融炭酸塩型燃料電池。
【請求項14】
前記合計目標電解質充填レベルが、90体積%~127体積%である、請求項11~13のいずれか一項に記載の溶融炭酸塩型燃料電池。
【請求項15】
前記燃料電池が、85体積%~140体積%の目標カソード電解質充填レベルである、請求項11~14のいずれか一項に記載の溶融炭酸塩型燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
長い作動寿命を維持しながらCO2の利用率を高めるための溶融炭酸塩型燃料電池を作動する(または動作する、または運転する;operating)システムおよび方法が提供される。本システムおよび本方法は、燃料電池および/または関連構造物内の電解質の増加した充填レベルを用いることを含む。
【背景技術】
【0002】
本出願は、本出願の有効出願日以前に有効であったエクソンモービル・リサーチ・アンド・エンジニアリング社とフューエルセル・エナジー社との間の共同研究契約の範囲内の活動の結果として得られた主題を開示し主張するものである。
溶融炭酸塩型燃料電池は、水素および/または他の燃料を利用して電気を発生させる。水素は、燃料電池の上流に位置づけられた水蒸気改質器または燃料電池内に組み込まれた水蒸気改質器等でメタンまたはその他の改質可能な燃料を改質することによって供給し得る。燃料は、溶融炭酸塩型燃料電池のアノードセルで改質することもでき、アノードで燃料を改質するのに適した条件を作り出すように作動することができる。さらに別の選択肢として、燃料電池の外部と内部の両方でいくつかの改質を行うこともできる。改質可能な燃料は、高温および/または高圧で蒸気および/または酸素と反応させて、水素からなるガス状生成物を生成することができる炭化水素材料を包含することができる。
【0003】
溶融炭酸塩型燃料電池の魅力の一つは、CO2を低濃度ストリーム(カソード入力ストリームなど)から高濃度ストリーム(アノード出力フロー(または流れ;flow)など)へ輸送する能力である。作動中、MCFCのカソードにあるCO2とO2は炭酸イオン(CO3
2-)に変換され、炭酸イオンは電荷キャリアとして溶融炭酸塩電解質中に輸送される。この炭酸イオンは、燃料電池のアノードでH2と反応し、H2OとCO2を生成する。このように、MCFCの作動の最終的な結果の一つは、電解質を介したCO2の輸送であり。この電解質を介したCO2の輸送により、MCFCは、様々なCOx含有ストリーム(または流れ;stream)から炭素酸化物を隔離するコストおよび/または課題を低減または最小化しながら、電力を生成することができる。MCFCを天然ガス火力発電所などの燃焼源と組み合わせることで、発電に起因する全体的なCO2排出量を削減または最小化しながら、さらなる発電を可能にすることができる。
【0004】
米国特許出願公開2015/0093665号は、燃料電池アノード内で追加の改質(及び/又は他の吸熱反応)を行うための補助熱を提供するために、カソードでいくつかの燃焼を伴う溶融炭酸塩型燃料電池を作動するための方法を記載している。本刊行物は、CO2濃度が約1.0モル%未満になると、炭酸塩燃料電池によって生成される電圧および/または電力が急速に低下し始める可能性があると指摘している。本刊行物はさらに、CO2濃度がさらに低下し、例えば約0.3モル%未満になると、ある時点で燃料電池全体の電圧が十分に低くなり、炭酸塩のさらなる輸送がほとんど発生しなくなり、燃料電池が機能しなくなる可能性があることを述べている。Manzoliniらの論文(Journal of Fuel Cell Science and Technology, vol.9,2012)には、CO2分離用の燃料電池を用いた発電システムの性能をモデル化するための方法が記載されている。天然ガス合計サイクルタービンからのCO2を含む排気を処理するために、様々な燃料電池の構成がモデル化されている。燃料電池は、追加の電力を生成するために使用され、燃料電池のアノード排気にCO2も濃縮する。燃料電池のカソード出口についてモデル化された最低CO2濃度は、約1.4体積%であった。
【0005】
米国特許7,939,219は、溶融炭酸塩型燃料電池のための炭酸塩電解質のin-situ(その場での)遅延添加を記載している。炭酸塩電解質の遅延添加は、2000時間以上の長期間固体のままである追加の電解質を燃料電池に含めることで達成される。長時間経過すると、追加の電解質が溶けて燃料電池内に補充される。これにより、燃料電池の寿命が長くなると説明されている。
【0006】
米国特許第8,557,468号は、複数の炭酸塩成分および/または追加のリチウム前駆体を含む電解質を有する溶融炭酸塩型燃料電池を記載している。電解質は、アルカリ炭酸塩の共晶および非共晶混合物、任意で他の金属炭酸塩および/または他のリチウム前駆体に相当する。
【0007】
「溶融炭酸塩型燃料電池の長期性能に基づく劣化メカニズム:ベンチスケールセルを用いた長期作動とセルの試験後分析」」と題された雑誌記事。(Journal of Power Sources, vol.195, Issue 20,15 Oct 2018)には、作動開始後の様々な時点における炭酸塩電解質の添加が記載されている。
【発明の概要】
【0008】
一態様において、リチウム含有電解質を含む溶融炭酸塩型燃料電池で電気を生成するための方法が提供される。この方法は、平均電流密度120mA/cm2以上およびCO2利用率60%以上で、アノード、マトリックス、およびカソードを含む溶融炭酸塩型燃料電池を、10体積%以下のCO2を含むカソード入力ストリームで作動することを含む。溶融炭酸塩型燃料電池は、マトリックス細孔容積とカソード細孔容積との合計(またはとを合わせた;combined)の70体積%以上の合計目標電解質充填レベルをさらに含む。
【0009】
別の態様では、リチウム含有電解質を含む溶融炭酸塩型燃料電池で電気を生成するための方法が提供される。この方法は、平均電流密度120mA/cm2以上およびCO2使用率90%以上で、アノード、マトリックス、およびカソードを含む溶融炭酸塩型燃料電池を、CO2を含むカソード入力ストリームで作動することを含む。溶融炭酸塩型燃料電池は、マトリックス細孔容積とカソード細孔容積との合計の70体積%以上の合計目標電解質充填レベルをさらに含む。
【0010】
さらに別の態様では、溶融炭酸塩型燃料電池が提供される。燃料電池は、カソード集電体、カソード、マトリックス、およびアノードを含む。燃料は、さらに、リチウム含有電解質を含む。さらに、燃料電池は、マトリックス細孔容積とカソード細孔容積との合計の85体積%以上に対応(または相当する;corresponding)するリチウム含有電解質の合計目標電解質充填レベルを含む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、溶融炭酸塩型燃料電池の構成の一例と関連する改質・分離段階の構成の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、溶融炭酸塩型燃料電池および関連する改質・分離段階の構成の他の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、溶融炭酸塩型燃料電池の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、カソードにおける目標電解質充填のレベルを変化させた炭素捕捉条件下で作動させた溶融炭酸塩型燃料電池の時間の関数としての相対作動電圧を示す図である。
【
図5】
図5は、カソード入力ストリーム中のCO
2のレベルを変化させて作動された溶融炭酸塩型燃料電池からのカソードのカソードリチウム含有量を示す図である。
【
図6】
図6は、様々な条件下で、カソードの目標電解質充填レベルを変化させて作動された溶融炭酸塩型燃料電池の相対的オーム抵抗を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
様々な態様において、炭素捕捉(または捕獲;capture)条件下で作動される溶融炭酸塩型燃料電池を初期充填するために、高められた量の(または高濃度、多量の;elevated amount)電解質が使用される。増加した初期電解質充填レベルは、部分的には、作動開始前にカソード集電体に追加の電解質を加えることによって達成することができる。増加した初期電解質充填レベルは、低CO2含有量のカソード入力ストリームを用いて溶融炭酸塩型燃料電池を高電流密度で作動させる際、及び/又は溶融炭酸塩型燃料電池を高いCO2利用率で作動させる際に、燃料電池の性能及び寿命を改善することができる。これは、初期の電解質充填レベルが高くなると作動電圧が低下する、従来の燃料電池の作動とは対照的である。
【0013】
初期の電解質充填レベルは、いくつかの方法で評価することができる。1つ目の選択肢は、マトリックスとカソードとの合計細孔容積に対する合計目標電解質充填量を特徴づけることである。合計目標電解質充填レベルまたは合計目標電解質充填量は、本明細書では、初期電解質充填量の全てが溶融状態であり及び初期電解質充填量の全てがマトリックス又はカソードに位置する場合、電解質によって占有されるであろうマトリックス孔容積及びカソード孔容積の合計量として定義される。目標電解質充填レベルは、溶融炭酸塩型燃料電池に最初に添加される全電解質の特徴付けであることが理解される。したがって、実際には、電解質によって実際に占有されることになるマトリックス細孔容積およびカソード細孔容積の合計量は、より低くなるであろう。これは、例えば、燃料電池の起動時に電解質のすべてがすぐに溶融するわけではないので、溶融していない(固体の)電解質の一部がカソード集電体にまだ存在する可能性が高いためである。燃料電池が作動すると、さらに電解質が溶けるが、カソードによる電解質の消費および/または他の電解質損失によって、実際の合計充填レベルが「目標」合計充填レベルに達することを妨げる。
【0014】
2つ目の選択肢は、マトリックス細孔容積の目標充填レベルとカソード細孔容積の目標充填レベルを別々に特性評価することである。カソード細孔容積は、通常、マトリックス細孔容積の1.5~2.0倍であることに留意されたい。したがって、マトリックス細孔容積とカソード細孔容積の個別の目標充填レベルに基づいて合計目標充填レベルを決定する場合、合計目標充填レベルは加重平均に対応する。例えば、カソード細孔容積がマトリックス細孔容積の2.0倍である場合、合計目標充填量は、(<マトリックス細孔容積>+<2.0*カソード細孔容積>)/3として計算することができる。同様に、カソード細孔容積がマトリックス細孔容積の1.5倍である場合、合計目標充填量は、(<マトリックス細孔容積>+<1.5*カソード細孔容積>)/2.5として計算することができる。
【0015】
従来、燃料電池は、化学エネルギーを電気エネルギーに変換する方法として利用されてきた。従来は、電流を効率よく発生させながら、適度に高い作動電圧を維持できるような作動条件が選ばれていた。そのため、カソードの作動条件は、実質的に過剰なCO2が利用できるように選択されるのが一般的であった。例えば、カソード投入フローのCO2濃度が17%以上、CO2利用率が75%以下となるような条件である。
【0016】
従来の溶融炭酸塩型燃料電池で使用される電解質の量も、高い作動電圧を維持したいという要望に基づいて選択されていた。従来の溶融炭酸塩型燃料電池の電解質充填(または負荷;loading)は、(マトリックスの細孔容積に対して)マトリックスが90体積%以上、(カソードの細孔容積に対して)カソードが50体積%~60体積%程度を目標充填レベルとするのが一般的であった。カソードの細孔容積がマトリックス容積の2.0倍である燃料電池では、合計目標充填レベルは約63体積%~73体積%(加重平均で決定)に相当する。カソードの細孔容積がマトリックス容積の1.5倍である燃料電池では、これはおよそ66体積%~76体積%の合計目標充填レベルに相当する。CO2利用率が75%以下、カソード入力のCO2濃度が12体積%以上で作動するような、非炭素捕捉条件下では、カソードの目標電解質充填レベルを増やすと、作動電圧が大幅に低下することが分かっている。電解質によって占有されるアノードの細孔容積の量は、カソードの細孔容積に対して、および/またはマトリックスとカソードとの合計細孔容積に対して小さいことが留意されたい。
【0017】
米国特許第7,939,219号は、電池の作動が終わるまで固体のままの電解質として、燃料電池に存在する追加の目標電解質体積の10%を有することを記載していることに注目されたい。上述の従来の合計目標充填レベルに基づくと、追加の目標電解質体積の10%は、最大でも追加の7.6体積%に相当し、結果として合計目標充填レベルは84体積%以下となる。
【0018】
溶融炭酸塩型燃料電池の電解質は、通常、炭酸リチウムと1つ以上の他のアルカリ金属炭酸塩との混合物である。従来、炭酸塩の共晶混合物は、固体状態の電解質の組成が、カソード集電体に蓄えられた電解質が溶融して液体となり、燃料電池内に溶け込む組成と同じであるため、使用に便利である。
【0019】
炭素捕捉条件下で作動し、高い電流密度を発生させる場合、合計目標電解質充填レベルを70体積%以上、または85体積%以上、または90体積%以上に増加することで、予想外の作動電圧の上昇が得られることが発見された。例えば、合計目標電解質充填レベルは、70体積%~128体積%、または85体積%~128体積%、または90体積%~128体積%、または100体積%~128体積%、または70体積%~115体積%、または85体積%~115体積%、または90体積%~115体積%、または70体積%~100体積%、または85体積%~100体積%、または90体積%~100体積%であることが可能である。高められた合計目標電解質充填レベルで作動する際のこの予期せぬ電圧上昇は、溶融炭酸塩型燃料電池を、高電流密度の炭素捕捉条件で、50時間以上、または100時間以上、または200時間以上の累積時間作動した後に観察することができる。
【0020】
個々の目標充填レベルに関して、作動電圧の予期せぬ増加は、a)マトリックス細孔容積に対して90体積%から100体積%の目標マトリックス電解質充填レベル、およびb)カソード細孔容積に対して65体積%から140体積%、または65体積%~120体積%、または65体積%~100体積%、または75体積%~140体積%、または75体積%~120体積%、または75体積%~100体積%、または85体積%~140体積%、または85体積%~120体積%、または85体積%~100体積%、または95体積%~140体積%、または95体積%~120体積%の目標カソード電解質充填レベルを用いることによって達成することができる。
【0021】
従来の作動では、合計目標電解質の充填量を従来のマトリックス細孔容積の90体積%以上およびカソード細孔容積の50体積%~60体積%より増やすと、作動電圧の大幅な低下がもたらされる。しかしながら、高電流密度の炭素捕捉条件下で燃料電池を作動する場合、高い合計目標電解質充填レベルを使用すると、時間とともに予想外の作動電圧の利点が得られることが発見された。さらに、高電流密度の炭素捕捉条件下で燃料電池を作動する場合、高い合計目標電解質充填レベルを使用すると、燃料電池作動寿命の予想外の増加を提供することができる。本明細書で定義される炭素捕捉条件とは、カソード入力ストリーム中のCO2含有量が10体積%以下で燃料電池を作動させる場合、及び/又はCO2利用率が90体積%以上で燃料電池を作動させる場合の条件を意味する。いくつかの態様では、10体積%以下のCO2を含むカソード入力ストリームで作動する場合、CO2利用率は70体積%以上、または75体積%以上、または80体積%以上、例えば95体積%まで、あるいはさらに高い可能性もある。燃料電池を炭素捕捉条件下で高電流密度で作動するとは、炭素捕捉条件下で作動中に120mA/cm2以上、130mA/cm2以上、140mA/cm2以上、150mA/cm2以上の電流密度、例えば300mA/cm2までまたはさらに高い可能性を発生するように燃料電池を作動する条件をいう。
【0022】
特定の理論に縛られることなく、炭素捕捉条件下で作動すると、燃料電池内のリチウムの消耗速度が速くなると考えられている。リチウムの消耗の一部は、セル外での蒸発または他の損失によるものと考えられる。このような損失は、炭素捕捉条件下でしばしば使用され得るような高い空間速度によって加速されると考えられている。他のリチウムの枯渇は、燃料電池のカソード及び/又はマトリックスへのリチウムの取り込みに起因すると考えられている。このような燃料電池内の構造物へのリチウムの取り込みは、CO2濃度が十分に低い場合に熱力学的に有利になり得る。このような炭素捕捉条件下での電解質の枯渇により、燃料電池内の電解質充填レベルは、従来の作動で予想されるよりも作動終了時に約20体積%~30体積%低くなることがある。従来の電解質充填では、リチウムの枯渇が進むと、燃料電池の作動電圧と寿命が低下する。
【0023】
電解質の損失現象は、融液のイオン伝導度とカソードの活性領域を低下させ、マトリックスネットワークに未充填の孔を生じさせる可能性がある。その結果、炭素捕捉条件下で燃料電池を長時間試験した後、より高いオーム抵抗とガスクロスオーバーが観察された。これにより、適度な電流密度(<100mA/cm2)でも燃料電池電圧が低下する。さらに、ガスクロスオーバーが非常に大量に発生している場合、燃料電池の電圧が急速に低下する可能性がある。ガスクロスオーバーは、電気化学的酸化ではなく燃料の直接燃焼につながり、アノードとアノード集電体に蓄えられた改質触媒が酸化する危険性があり、スタック温度と熱プロファイルに直接影響を与える。これは、高い電圧減衰率と相まって、燃料電池の作動効率を低下させ、腐食などの減衰メカニズムをさらに加速させる過剰な熱の発生につながる。サイトの不活性化の影響はより緩やかであるが、燃料電池の長期的な健全性と性能にとって依然有害である。初期の電解質充填レベルを増やすことで、炭素捕捉条件下で燃料電池を作動させた場合のリチウムの追加的な消耗を相殺することができる。
【0024】
さらに、または代替的に、リチウムの量が増加した電解質を使用することも、炭素捕捉条件下で燃料電池を作動させる際に有益である。従来は、炭酸塩電解質の共晶混合物を使用するのが便利であった。しかしながら、電解質の枯渇の増加は、リチウムの枯渇に対して選択的であるため、共晶混合物よりも多量のリチウムを含む電解質を使用することは、潜在的に有益である。
【0025】
いくつかの態様において、炭素捕捉条件は、電解質を横切る電荷キャリアとして代替イオンの実質的な輸送が起こる条件に対応し得る。水酸化物イオンは、燃料電池の局所的な領域でCO2濃度が十分に低い場合に電解質を横切って輸送され得る代替イオンの一例である。溶融炭酸塩型燃料電池の従来の作動条件は、代替イオンの輸送量が減少、最小化、または存在しない状態に相当する。対照的に、炭素捕捉条件下では、燃料電池の電解質を横切って輸送される電荷の一部は、炭酸イオン以外のイオンの輸送に基づくことが可能である。
【0026】
高CO2捕捉用MCFCを使用する際の1つの難点は、燃料電池の作動に必要な反応物の1つ以上が低量で存在する場合、燃料電池の作動が動的に制限される可能性があることである。例えば、CO2含有量が4.0体積%以下のカソード入力ストリームを使用する場合、75%以上のCO2利用率を達成することは、カソード出口濃度が1.0体積%以下であることに相当する。しかしながら、カソード出口濃度が1.0体積%以下であっても、CO2がカソード全体に均一に分布しているとは限らない。むしろ、アノードとカソードのフローパターンなどの様々な要因によって、カソード内で濃度が変化するのが一般的である。CO2濃度の変動により、1.0体積%を大幅に下回るCO2濃度が存在するカソードの部分が発生する可能性がある。
【0027】
従来、カソード内のCO2が減少すると、電圧の低下や電流密度の減少が起こると予想されていた。しかしながら、CO3
2-以外のイオンが電解質中を移動することにより、CO2が減少しても電流密度を維持できることが発見された。例えば、電解質を介して輸送されるイオンの一部は、水酸化物イオン(OH-)に対応することができる。電解質を介した代替イオンの輸送は、電解質を介して輸送されるCO2の量が不十分であっても、燃料電池が目標電流密度を維持することを可能にし得る。
【0028】
電解質を介した代替イオンの輸送の利点の1つは、十分な数のCO2分子が動力学的に利用できない場合でも、燃料電池が作動し続けることができることである。これにより、カソードに存在するCO2の量が通常の燃料電池の作動には不十分であると従来考えられていたとしても、追加のCO2をカソードからアノードに移動させることができる。これにより、燃料電池は、測定されたCO2利用率が100%に近い状態で作動し、計算されたCO2利用率(電流密度に基づく)は、測定されたCO2利用率よりも少なくとも3%、または少なくとも5%、または少なくとも10%、または少なくとも20%大きくなることが可能である。代替イオン輸送は、燃料電池が100%以上の計算されたCO2利用率に対応する電流密度で作動することを可能にすることができることに留意されたい。
【0029】
代替イオン輸送の量は、燃料電池の輸率に基づいて定量化することができる。輸率は、水酸化物イオンおよび/または他のイオンとは対照的に、炭酸塩イオンに対応する溶融炭酸塩電解質を介して輸送されるイオンの割合として定義される。輸率を決定する便利な方法は、a)カソード入口対カソード出口におけるCO2濃度の測定変化と、b)燃料電池によって生成される電流密度を達成するために必要な炭酸イオン輸送の量との比較に基づくことが可能である。この輸率の定義は、アノードからカソードへのCO2の逆輸送が最小限であると仮定していることに留意されたい。このような逆輸送は、本明細書に記載された作動条件では最小であると考えられている。CO2濃度については、カソード入力ストリームおよび/またはカソード出力ストリームをサンプリングし、サンプルをガスクロマトグラフに流用し、CO2含有量を決定することができる。燃料電池の平均電流密度は、任意の便利な方法で測定することができる。
【0030】
従来の作動条件下では、輸率は、0.98以上など、比較的1.0に近く、および/または実質的に代替イオン輸送を有しないなどである可能性がある。0.98以上の輸率は、電解質を横切って輸送されるイオン電荷の98%以上が炭酸イオンに相当することを意味する。水酸化物イオンは-1の電荷を有し、炭酸イオンは-2の電荷を有するので、1つの炭酸イオンの輸送と同じ電荷移動をもたらすには、2つの水酸化物イオンが電解質を横切って輸送される必要があることに留意されたい。
【0031】
従来の作動条件とは異なり、溶融炭酸塩型燃料電池を0.95以下(高酸性電解質で作動する場合は0.97以下)の輸率で作動すると、燃料電池が生成する電流密度の一部が炭酸イオン以外のイオンの輸送に起因していても、達成される炭酸イオン輸送の有効量を増大させることができる。燃料電池を0.97以下、または0.95以下の輸率で作動させるために、燃料電池のカソード内でCO2の枯渇が起こる必要がある。このようなカソード内のCO2枯渇は、局所的に発生する傾向があることが判明している。
その結果、燃料電池のカソード内の多くの領域は、通常の作動に十分なCO2を保持できる。このような領域には、炭素の捕捉など、電解質を介して輸送されることが望ましい追加のCO2がさらに含まれている。しかしながら、このような領域に含まれるCO2は、従来の作動条件下で作動している場合、電解質(または電解液;electrolyte)を介して輸送されないのが一般的である。輸率が0.97以下または0.95以下の作動条件を選択することにより、CO2が十分にある領域は追加のCO2輸送に利用し、枯渇した領域は代替のイオン輸送に基づく作動が可能になる。これにより、カソード入力ストリームから捕捉されるCO2量の実用的な上限を増やすことができる。
【0032】
電解質充填レベルと組成
溶融炭酸塩型燃料電池内の電解質充填は、燃料電池の初期形成時に燃料電池内に含まれる電解質の量に基づいて制御することができる。実用上の理由から、燃料電池構造物を形成した後に電解質を燃料電池に添加しようとすることは、経済的に魅力的ではない。その代わりに、燃料電池は通常、所望の寿命まで使用され、その後、将来の燃料電池構造物で使用するために使用可能なあらゆる構成要素を回収して解体される。その結果、燃料電池内の電解質充填レベルは、燃料電池のマトリックスおよびカソードの利用可能な細孔容積に対する、構築時に燃料電池に含まれる電解質の量に基づいて特徴付けることができる。この構築時の電解質充填レベルは、目標電解質充填レベルと呼ばれることがある。目標電解質充填レベルは、初期作動前に燃料電池に添加される電解質を指すことに留意されたい。したがって、燃料電池の作動開始後に添加される電解質は、目標電解質充填レベルから除外されると定義される。
【0033】
溶融炭酸塩型燃料電池に含まれる電解質は、周囲条件では固体である。従って、燃料電池の構築時に、電解質の目標充填レベルを固体として燃料電池に含有させることができる。この固体電解質は、マトリックスおよびカソード以外の構造物に少なくとも部分的に含まれることができる。例えば、固体電解質の少なくとも一部は、燃料電池のカソード集電体に組み込むことができる。燃料電池が所望の作動温度に達するように加熱されると、電解質が溶融し、燃料電池内のマトリックスおよびカソードの方向に電解質が流れるようになることがある。
【0034】
一般的に、完全に充填されたマトリックス(マトリックスの細孔容積の90体積%を超える)での寿命の初めにおよそ50体積%~60体積%のカソード充填レベルが目標とされる。上記のように、この従来の充填は、カソードとマトリックスの相対的な細孔容積に応じて、およそ76体積%以下の合計目標充填レベルに相当する。固体電解質が溶融すると、毛細管力と表面張力によって電解質が細孔ネットワーク全体に分散し、電気化学的に活性な部位が高密度に形成される。完全に充填されたマトリックスでは、ガスのクロスオーバーは最小限に抑えられ、膜層の導電性は最大になる。代替的に、カソードのフラッディングを避けるために、カソードの充填レベルを高くすることは一般的に行われていない。これは、過剰な電解質がカソード層に存在し、多孔質電極を通る気相の物質移動抵抗を増加させる場合に起こる。従来の条件下では、カソードのフラッディングは燃料電池の性能に悪影響を及ぼすことが知られている。
【0035】
燃料電池における電解質の充填レベルは、燃料電池のマトリックスおよびカソードの細孔容積に対する電解質の容積(燃料電池の作動温度において液体であることに基づく)の比較に基づいて特徴付けることができる。電解質については、作動温度における液体電解質の体積は、燃料電池の形成中に燃料電池に含まれる固体電解質の対応する体積(または重量)に基づいて算出することができる。利用可能な細孔容積に関して、燃料電池のマトリックス及びカソードの両方は、多孔質構造に対応する。例えば、マトリックスは、溶融炭酸塩電解質を保持するのに適した多孔質構造に対応することができる。好適なマトリックス材料の一例は、酸化アルミニウムとアルミン酸リチウムとから構成されるマトリックスである。好適なカソード材料の例は、酸化ニッケルである。これらの構造物の細孔容積は、簡便なポロシメトリー法を用いて特徴付けることができる。この議論では、層(マトリックス、カソード、アノード)の細孔容積は、ASTMD4284によるような水銀ポロシメトリーによって決定することができる。
【0036】
従来、燃料電池内の目標電解質充填レベルは、良好な電気伝導性を提供するためにカソード内に十分な電解質を有する一方で、CO2及びO2ガスが炭酸イオンに変換するために多孔質カソードに入ることができるようにカソード内に十分な空隙空間を有することのバランスを提供するために選択される。従来、これは、電解質マトリックス中の利用可能な細孔容積の実質的全て(90体積%以上)を充填するとともに、カソードの利用可能な細孔容積の50体積%~60体積%に相当する76体積%以下の合計目標電解質充填レベルを有することに相当する。これらの充填レベルは、燃料電池の作動を開始する前に、マトリックス、カソード、および/またはカソード集電体に十分な量の固体電解質を含むことによって達成することができる。
【0037】
いくつかの態様において、溶融炭酸塩型燃料電池の作動に適した任意の便利なタイプの電解質を使用することができる。多くの従来のMCFCは、炭酸塩電解質として、炭酸リチウム62mol%と炭酸カリウム38mol%との共晶混合物(62%Li2CO3/38%K2CO3)、または炭酸リチウム52mol%と炭酸ナトリウム48mol%との共晶混合物(52%LC/48%NC)など、共晶の炭酸塩混合物を使用する。その他の共晶混合物も利用可能である。例えば、40mol%の炭酸リチウムと60mol%の炭酸カリウムの共晶混合物(40mol%Li2CO3/60mol%K2CO3)、または三元共晶Li/Na/K(44mol%Li2CO3/30mol%Na2CO3/26mol%K2CO3)、またはK2CO3および/またはCs2CO3および/またはRb2CO3でドープした任意の二元共晶Li/Na(52mol%Li2CO3/48mol%Na2CO3)等である。
【0038】
さらに他の共晶混合物は、3つ以上のアルカリ金属炭酸塩を含む共晶混合物を含む、3つ以上の炭酸塩の組み合わせに基づくことができる。さらに他の混合物は、混合物が共晶混合物とは異なるように、3つ以上の炭酸塩の組み合わせに基づくことができる。さらにまたは代替で、さらに他の混合物は、炭酸リチウムとは異なる1つ以上のリチウム前駆体を含むことができる。
【0039】
3つ以上の炭酸塩が電解質に含まれる態様では、電解質は、Li2CO3、Na2CO3、K2CO3、Rb2CO3、Cs2CO3、BaCO3、La2O3、Bi2O3、Bi2O5、Ta2O5、およびそれらの混合物の3以上の混合物を含むことができる。いくつかの態様において、電解質中のアルカリ金属炭酸塩の70質量%以上、または80質量%以上、または90質量%以上、例えば実質的に全てまでが、Li2CO3、Na2CO3、およびK2CO3の2以上の混合物に相当し得る。好ましくは、電解質の65質量%以上、または80質量%以上、または90質量%以上、例えば実質的に全てまでが、アルカリ金属炭酸塩に相当し得る。リチウム前駆体材料が含まれる態様では、リチウム前駆体材料は、任意であるが好ましくは、水酸化リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、シュウ酸リチウムおよびそれらの混合物の1つ以上であり得る。
【0040】
炭酸塩の共晶混合物は、様々な理由から電解質として便利であり得るが、いくつかの態様では、炭酸塩の非共晶混合物が有利であり得る。特に、リチウムは炭素捕捉条件下で選択的に失われるため、共晶点よりも多くの炭酸リチウムを有する炭酸塩の非共晶混合物を使用することが有益であると考えられている。この議論において、炭酸塩の混合物の組成と共晶組成との間の差は、混合物中の炭酸リチウムの重量百分率と対応する共晶混合物中の炭酸リチウムの重量百分率との差に基づいて特徴付けることができる。対応する共晶混合物を決定するために、すべてのアルカリ金属炭酸塩が含まれるが、2質量%以下の量で存在する非アルカリ金属炭酸塩は考慮されない。例えば、炭酸リチウム80質量%と炭酸ナトリウム20質量%との混合物を使用した場合、当該混合物は、炭酸リチウムの含有量が対応する共晶混合物と28質量%異なるという特徴を持つことができる。一般に、非共晶混合物は、本明細書に記載される炭酸塩及び/又はリチウム前駆体材料のいずれかの様々な組み合わせを含むことができる。
【0041】
いくつかの態様において、目標電解質充填レベルは、燃料電池に複数の種類の炭酸塩混合物を含むことに基づいて決定され得る。例えば、非共晶混合物は、共晶混合物よりも燃料電池の作動条件下でよりゆっくりと溶融することが知られている。したがって、一戦略は、共晶混合物に対応する電解質の第1の部分(マトリックスおよび/またはカソードに位置する)と、共晶混合物に対してリチウムの量が増加した非共晶混合物に対応する電解質の第2の部分(カソード集電体に位置する)とを有することが可能である。この種の戦略を用いると、融解の遅い非共晶混合物は、最初の電解質よりもリチウム含有量が多くなり、したがって、炭素捕捉条件下での作動中のリチウムの選択的損失を補償することができる。あるいは、第1の混合物よりも炭酸リチウム含有量が高い第2の混合物を有する、2つの非共晶混合物を使用することができる。態様によっては、第1の電解質混合物(すなわち、共晶混合物などの炭酸リチウム含有量の低い電解質混合物)の量は、初期電解質充填レベルにおける電解質の総量の20質量%~80質量%、または20質量%~50質量%、または55質量%~80質量%に対応することができる。
【0042】
この議論において、燃料電池は、電解質によって分離されたアノード及びカソードを有する単セルに対応し得る。アノード及びカソードは、電解質を横切って電荷を輸送し、電気を生成するためのそれぞれのアノード及びカソードの反応を促進するための入力ガスフローを受け取ることができる。燃料電池スタックは、統合されたユニット内の複数のセルを表すことができる。燃料電池スタックは複数の燃料電池を含むことができるが、燃料電池は通常、並列に接続することができ、それらが集合的に大きなサイズの単一の燃料電池を表すかのように(ほぼ)機能することができる。入力フローが燃料電池スタックのアノード又はカソードに供給されるとき、燃料スタックは、スタック内の各セルの間で入力フローを分割するためのフローチャネルと、個々のセルからの出力フローを結合するためのフローチャネル(または流路;flow channel)とを含むことができる。この議論において、燃料電池アレイは、直列、並列、又は任意の他の便利な方法(例えば、直列及び並列の組み合わせ)で配置される複数の燃料電池(複数の燃料電池スタックなど)を指すのに使用することができる。燃料電池アレイは、燃料電池及び/又は燃料電池スタックの1つ以上の段階を含むことができ、第1段階からのアノード/カソード出力は、第2段階のためのアノード/カソード入力として機能し得る。燃料電池アレイのアノードは、アレイのカソードと同じ方法で接続される必要はないことに留意されたい。便宜上、燃料電池アレイの第1アノード段階への入力は、アレイのアノード入力と称され得て、燃料電池アレイの第1カソード段階への入力は、アレイのカソード入力と称され得る。同様に、最終的なアノード/カソード段階からの出力は、アレイからのアノード/カソード出力と称され得る。
【0043】
本明細書における燃料電池の使用という言及は、典型的には、個々の燃料電池から構成される「燃料電池スタック」を意味し、より一般的には、流体連通している1つ以上の燃料電池スタックの使用を指すことを理解されたい。個々の燃料電池要素(プレート)は、典型的には、「燃料電池スタック」と呼ばれる長方形のアレイに一緒に「積み重ね」られることができる。この燃料電池スタックは、通常、供給ストリームを取り込み、個々の燃料電池要素のすべてに反応物を分配し、次にこれらの要素のそれぞれから生成物を収集することができる。ユニットとして見た場合、作動中の燃料電池スタックは、多数の(しばしば数十または数百の)個々の燃料電池要素で構成されていても、全体としてとらえることができる。これらの個々の燃料電池要素は、通常、同様の電圧を有し(反応物および生成物の濃度が同様であるため)、要素が電気的に直列接続されている場合、総電力出力は、すべてのセル要素におけるすべての電流の合計から生じることができる。スタックは、高電圧を発生させるために直列に配置することもできる。並列に配置すれば、電流を高めることができる。所定の排気フローを処理するために十分に大きな体積の燃料電池スタックが利用可能である場合、本明細書に記載のシステムおよび方法は、単一の溶融炭酸塩型燃料電池スタックを用いて使用することができる。本発明の他の態様では、様々な理由で複数の燃料電池スタックが望ましいか、または必要とされる場合がある。
【0044】
本発明の目的のために、特に指定しない限り、用語「燃料電池」は、燃料電池が実際に典型的に採用される方法であるように、単一の入力及び出力がある1つ以上の個々の燃料電池要素のセットからなる燃料電池スタックへの言及を含むと理解されるべきであり、及び/又は定義されるものである。同様に、燃料電池(複数)という用語は、他に指定がない限り、複数の個別の燃料電池スタックを含むと定義され、及び/又は指すと理解されるべきである。換言すると、本明細書の全ての参照は、特に断りのない限り、燃料電池スタックの作動を「燃料電池」として互換的に参照することができる。例えば、商業規模の燃焼発電機によって発生する排気の体積は、従来のサイズの燃料電池(すなわち、単一のスタック)によって処理するには大きすぎる場合がある。排気を完全に処理するためには、複数の燃料電池(すなわち、2つ以上の別々の燃料電池または燃料電池スタック)を並列に配置し、各燃料電池が燃焼排気の(ほぼ)等しい部分を処理できるようにすることが可能である。複数の燃料電池を使用することができるが、各燃料電池は、燃焼排気の(ほぼ)等しい部分を考慮して、一般的に同様の方法で作動させることができる。
【0045】
溶融炭酸塩型燃料電池の構造例
図3は、溶融炭酸塩型燃料電池の一般的な構成例を示す図である。
図3に表される燃料電池は、燃料電池スタックの一部である燃料電池に相当する。燃料電池をスタック内の隣接する燃料電池から分離するために、燃料電池は、セパレータプレート310及び311を含む。
図3において、燃料電池は、電解質342を含む電解質マトリックス340によって分離されているアノード330及びカソード350を含む。アノード集電体320は、アノード330とスタック内の他のアノードとの間の電気的接触を提供し、カソード集電体360は、カソード350と燃料電池スタック内の他のカソードとの間の同様の電気的接触を提供する。さらに、アノード集電体320は、アノード330からのガスの導入と排気を可能にし、カソード集電体360は、カソード350からのガスの導入と排気を可能にする。
【0046】
最初の電解質充填のために、固体電解質は、可能な限り、マトリックス、カソード、及びカソード集電体内部に組み込むことができる。初期充填の間は電解質が固体であるため、固体電解質をマトリックス及びカソードに添加するだけでは、所望の充填量を達成することが困難である場合がある。所望の充填を達成するために、カソード集電体にも固体電解質を添加してもよい。カソード集電体に添加した電解質は、燃料電池の作動に伴い溶融し、カソードに流れ込むことができる。同様に、カソードの電解質が溶融すると、溶融した電解質の一部がカソードからマトリックスに流れ込み、マトリックス体積の追加部分を満たすことができる。
【0047】
実用的な考慮により、カソード集電体に添加される固体電解質の量も制限され得ることに留意されたい。固体電解質は時間とともに溶けるので、カソード集電体への固体電解質の充填量が多すぎると、カソード集電体を通ってカソードに到達するガスの能力が制限され得る。カソード集電体に非共晶組成を用いることで、ガス移動への影響を最小限に抑えつつ、カソード細孔容積の140体積%までの電解質の目標電解質充填を使用できることが発見された。しかしながら、電解質のさらなる添加は、望ましくない形でガス移動が制限される可能性がある。燃料電池の利用可能な表面積と比較して、これは、燃料電池面積250cm2当たり66グラム以下の電解質の目標充填に相当し得る。いくつかの態様において、目標充填は、燃料電池面積250cm2あたり40グラム~66グラムまたは45グラム~66グラム、または50グラム~66グラムの電解質とすることができる。目標電解質充填の一部は、カソード集電体に含まれることができることに留意されたい。カソード集電体に含まれる目標電解質充填の一部は、燃料電池面積250cm2あたり38グラム以下の電解質に対応し得る。いくつかの態様において、カソード集電体に含まれる目標電解質充填の一部は、燃料電池の面積250cm2あたり18グラム~38グラム、または24グラム~38グラム、または28グラム~38グラムの電解質に相当し得る。
【0048】
作動中、CO2はO2とともにカソード集電体360に通される。CO2及びO2は、多孔質カソード350に拡散し、カソード350と電解質マトリックス340との境界付近のカソード界面領域まで移動する。カソード界面領域では、電解質342の一部がカソード350の細孔に存在し得る。CO2及びO2は、カソード界面領域の近くで/内で炭酸イオン(CO3
2-)に変換され得、次いで、電解質342を横切って(したがって電解質マトリックス340を横切って)輸送されて電流の生成を促進することができる。代替イオン輸送が起こっている態様では、O2の一部は、電解質342中での輸送のために、水酸化物イオン又は過酸化物イオンなどの代替イオンに変換され得る。電解質342を横切って輸送された後、炭酸イオン(又は代替イオン)は、電解質マトリックス340とアノード330の境界付近のアノード界面領域に到達することができる。炭酸イオンは、H2の存在下でCO2とH2Oに戻され、燃料電池によって生成される電流を形成するために使用される電子を放出し得る。H2及び/又はH2を形成するのに適した炭化水素は、アノード集電体320を介してアノード330に導入される。
【0049】
溶融炭酸塩型燃料電池のアノード内のフロー方向は、カソード内のフロー方向に対して任意の都合の良い方向にすることができる。一つの選択肢は、アノード内のフロー方向がカソード内のフロー方向に対してほぼ90°の角度になるように、クロスフロー構成を使用することである。クロスフロー型にすることで、アノード入口・出口のマニホールドおよび/または配管を、カソード入口・出口のマニホールドおよび/または配管とは燃料電池スタックの異なる側に配置できるため、この種のフロー構成は実用上有利である。
【0050】
溶融炭酸塩燃料の作動条件
炭素捕捉を行うために溶融炭酸塩型燃料電池を、任意選択で120mA/cm2以上の電流密度で、作動する場合、アノードの適切な条件には、アノードにH2、改質可能な燃料、またはそれらの組み合わせを供給すること、および20%~80%の範囲の燃料利用率を含む、所望の電流密度を生成する任意の都合のよい燃料利用率で作動することが含まれ得る。いくつかの態様では、これは、60%以上、または70%以上、例えば85%までの、または場合によってはさらに高い燃料利用率などの、従来の燃料利用量に対応することができる。他の態様では、これは、55%以下、または50%以下、または40%以下、例えば20%以下または場合によってはさらに低い燃料利用率など、高いH2含有量および/または高いH2およびCOの合計含有量(すなわち、合成ガス)を有するアノード出力ストリームを提供するために選択される燃料利用率に対応し得る。アノード出力ストリーム中のH2含有量および/またはアノード出力ストリーム中のH2およびCOの合計含有量は、所望の電流密度の生成を可能にするのに十分であることができる。いくつかの態様では、アノード出力ストリーム中のH2含有量は、3.0体積%以上、または5.0体積%以上、または8.0体積%以上、例えば最大15体積%または場合によってはさらに高くすることができる。追加または代替で、アノード出力ストリーム中のH2およびCOの合計量は、4.0体積%以上、または6.0体積%以上、または10体積%以上、例えば20体積%まで、またはさらに高い可能性がある。任意選択で、燃料電池が低燃料利用率で作動される場合、アノード出力ストリーム中のH2含有量は、10体積%~25体積%のH2含有量など、より高い範囲にすることができる。このような態様では、アノード出力ストリームの合成ガス含有量は、H2およびCO含有量の合計が15体積%~35体積%であるように、対応して高くすることができる。態様によっては、アノードは、生成される電気エネルギーの量を増やすために、生成される化学エネルギーの量を増やすために(すなわち、アノード出力ストリームで利用できる改質によって生成されるH2)、または代替イオン輸送を引き起こすために燃料電池を作動させることと互換性がある任意の他の便利な戦略を用いて作動させることができる。
【0051】
様々な態様において、MCFCのためのアノード入力ストリームは、水素、メタンなどの炭化水素、CおよびHとは異なるヘテロ原子を含む得る炭化水素または炭化水素様化合物、またはそれらの組合せを含むことができる。水素/炭化水素/炭化水素様化合物の供給源は、燃料源と称することができる。いくつかの態様において、アノードに供給されるメタン(または他の炭化水素、炭化水素、または炭化水素様化合物)の大部分は、典型的には新鮮なメタンであり得る。本明細書において、新鮮なメタンのような新鮮な燃料とは、別の燃料電池プロセスからリサイクル(または再利用;recycle)されない燃料を指す。例えば、アノード出口ストリームからアノード入口にリサイクルされたメタンは、「新鮮な」メタンとはみなされず、代わりに再生されたメタンと表現することができる。
【0052】
使用される燃料源は、カソード入力にCO2含有ストリームを提供するために燃料源の一部を使用するタービンなど、他の構成要素と共有することができる。燃料源の入力は、水素を生成する改質部において炭化水素(または炭化水素類似)化合物を改質するのに適した燃料に対する割合で水を含むことができる。例えば、メタンがH2を生成するために改質するための燃料入力である場合、燃料に対する水のモル比は、約1対1~約10対1、例えば少なくとも約2対1とすることができる。4対1以上の比率は外部改質で典型的であるが、より低い値は内部改質で典型的となり得る。H2が燃料源の一部である程度まで、アノードでのH2の酸化が燃料の改質に使用できるH2Oを生成する傾向があり得るので、いくつかの任意の態様では、燃料に追加の水は必要ない場合がある。燃料源はまた、任意に、燃料源に付随する成分を含むことができる(例えば、天然ガスフィードは、追加の成分としてCO2のある含有量を含むことができる)。例えば、天然ガスフィードは、CO2、N2、及び/又は他の不活性(希)ガスを追加的な成分として含むことができる。任意に、いくつかの態様において、燃料源はまた、アノード排気のリサイクルされた部分からのCO等の、COを含むことができる。燃料電池アセンブリへの燃料中のCOの追加または代替の潜在的供給源は、燃料電池アセンブリに入る前に燃料上で行われる炭化水素燃料の水蒸気改質によって生成されたCOであり得る。
【0053】
より一般的には、様々な種類の燃料ストリームが、溶融炭酸塩型燃料電池のアノードのためのアノード入力ストリームとして使用するのに適している場合がある。いくつかの燃料ストリームは、C及びHとは異なるヘテロ原子も含み得る炭化水素及び/又は炭化水素様化合物を含むストリームに対応し得る。この議論において、特に指定しない限り、MCFCアノード用の炭化水素を含む燃料ストリームへの言及は、かかる炭化水素様化合物を含む燃料ストリームを含むと定義される。炭化水素(炭化水素様を含む)燃料ストリームの例には、天然ガス、C1~C4炭素化合物(メタン又はエタン等)を含むストリーム、及びより重いC5+炭化水素(炭化水素様化合物を含む)を含むストリーム、及びそれらの組み合わせが含まれる。アノード入力に使用するための潜在的な燃料ストリームのさらに他の追加または代替例としては、有機物の自然(生物)分解から生成されるメタンなどのバイオガスタイプのストリームを挙げることができる。
【0054】
いくつかの態様において、溶融炭酸塩型燃料電池は、希釈剤化合物の存在によりエネルギー含有量が低い天然ガスおよび/または炭化水素ストリームなどの入力燃料ストリームを処理するために使用することができる。例えば、メタン及び/又は天然ガスのいくつかの供給源は、相当量のCO2又は窒素、アルゴン、若しくはヘリウムのような他の不活性分子のいずれかを含むことができる供給源である。高められた量のCO2および/または不活性成分の存在のために、供給源に基づく燃料ストリームのエネルギー含有量は減少し得る。エネルギー含有量の低い燃料を燃焼反応(燃焼式タービンの駆動など)に使用すると、困難が生じることがある。しかしながら、溶融炭酸塩型燃料電池は、燃料電池の効率への影響を低減または最小化しながら、低エネルギー含有量の燃料源に基づいて電力を生成することができる。ガス量が増えると、燃料の温度を改質および/またはアノード反応のための温度まで上昇させるために、追加の熱が必要になることがある。さらに、燃料電池アノード内の水ガスシフト反応の平衡の性質により、追加のCO2の存在は、アノード出力に存在するH2およびCOの相対量に影響を与える可能性がある。しかしながら、不活性化合物は、改質反応とアノード反応に直接影響を与えることはほとんどない。溶融炭酸塩型燃料電池の燃料ストリーム中のCO2および/または不活性化合物の量は、存在する場合、少なくとも約1体積%、例えば少なくとも約2体積%、または少なくとも約5体積%、または少なくとも約10体積%、または少なくとも約15体積%、または少なくとも約20体積%、または少なくとも約25体積%、または少なくとも約30体積%、または少なくとも約35体積%、または少なくとも約40体積%、または少なくとも45体積%、または少なくとも50体積%、または少なくとも約75体積%になり得る。さらに、または代替的に、溶融炭酸塩型燃料電池の燃料ストリーム中のCO2および/または不活性化合物の量は、約90体積%以下、例えば約75体積%以下、または約60体積%以下、または約50体積%以下、または約40体積%以下、または約35体積%以下とすることができる。
【0055】
アノード入力ストリームの潜在的な供給源のさらに他の例は、精製所および/または他の工業プロセスの出力ストリームに対応することができる。例えば、コーキングは、多くの製油所において、より重い化合物をより低い沸点範囲に変換するための一般的なプロセスである。コーキングは通常、COおよび様々なC1~C4炭化水素など、室温で気体である様々な化合物を含むオフガスを生成する。このオフガスは、アノード投入ストリームの少なくとも一部として使用することができる。他の精製オフガスストリームは、追加的または代替的に、分解または他の精製プロセス中に生成されるライトエンド(C1~C4)など、アノード入力ストリームに含めるのに適していることがある。さらに他の適切な精製ストリームには、H2および/または改質可能な燃料化合物をも含むCOまたはCO2を含む精製ストリームを追加的または代替的に含めることができる。
【0056】
アノード入力のためのさらに他の潜在的な供給源は、追加的にまたは代替的に、水含有量が増加したストリームを含むことができる。例えば、エタノールプラント(または別のタイプの発酵プロセス)からのエタノール出力ストリームは、最終蒸留の前にH2Oのかなりの部分を含むことができる。このようなH2Oは、典型的には、燃料電池の作動に最小限の影響しか与えないことができる。したがって、アルコール(または他の発酵生成物)と水との発酵混合物は、アノード入力ストリームの少なくとも一部として使用することができる。
【0057】
バイオガス、または消化器ガスは、アノード入力のための別の追加的または代替的な潜在的供給源である。バイオガスは、主にメタン及びCO2から構成され、典型的には、有機物の分解又は消化によって生成される。嫌気性細菌は、有機物を消化し、バイオガスを生成するために使用されることがある。硫黄含有化合物などの不純物は、アノードとして使用する前にバイオガスから除去してもよい。
【0058】
MCFCアノードからの出力ストリームは、H2O、CO2、CO、及びH2を含み得る。任意選択で、アノード出力ストリームは、追加の出力成分として、フィード中の未反応燃料(H2またはCH4など)または不活性化合物を有することもできる。この出力ストリームを改質反応に熱を供給するための燃料源として、またはセルを加熱するための燃焼燃料として使用する代わりに、1つ以上の分離をアノード出力ストリームに対して行い、H2またはCOなどの別のプロセスへの入力としての潜在的価値を有する成分からCO2を分離することが可能である。H2および/またはCOは、化学合成のための合成ガスとして、化学反応のための水素源として、および/または温室効果ガス排出を低減した燃料として使用することができる。
【0059】
アノード排気は、水-ガスシフトおよび成分の相互分離等、さまざまなガス処理オプションに付すができる。2つの一般的なアノード処理スキームを
図1及び
図2に示す。
【0060】
図1は、溶融炭酸塩型燃料電池アレイを化学合成プロセスと連動して作動させるための反応システムの一例を概略的に示している。
図1において、燃料ストリーム105は、燃料電池アレイの燃料電池スタックの一部である燃料電池などの燃料電池120のアノード127に関連する改質段階(または複数の改質段階)110に提供される。燃料電池120に関連する改質段階(またはステージ、または段;stage))110は、燃料電池アセンブリの内部にあり得る。いくつかの任意の態様において、外部改質段階(図示せず)も、入力ストリームを燃料電池アセンブリに通す前に、入力ストリーム中の改質可能な燃料の一部を改質するために使用することができる。燃料ストリーム105は、メタン、他の炭化水素、及び/又は炭素-水素結合を含む有機化合物などの他の炭化水素様化合物などの改質可能な燃料を好ましくは含み得る。燃料ストリーム105は、任意選択でアノードリサイクルストリーム185によって提供されるH
2及び/又はCOなど、H
2及び/又はCOも任意選択で含み得る。アノードリサイクルストリーム185は任意であり、多くの態様において、燃料ストリーム105または改質燃料ストリーム115との組み合わせを介して直接的または間接的に、アノード排気125からアノード127に戻るリサイクルストリームが提供されないことに留意されたい。改質後、改質燃料ストリーム115は、燃料電池120のアノード127に通すことができる。CO
2およびO
2を含むストリーム119も、カソード129に通すことができる。燃料電池のカソード部分129からの炭酸イオン122、CO
3
2-のフローは、アノード燃料電池反応に必要な残りの反応物を提供することができる。アノード127における反応に基づいて、得られるアノード排気125は、H
2O、CO
2、不完全に反応した燃料に対応する1つ以上の成分(H
2、CO、CH
4、又は改質可能燃料に対応する他の成分)、及び任意に燃料ストリーム105の一部であるN
2及び/又は他の混入物質等の1つ以上の追加の非反応成分を含むことができる。次いで、アノード排気125は、1つ以上の分離段階に通され得る。例えば、CO
2除去段階140は、低温CO
2除去システム、CO
2などの酸性ガスを除去するためのアミン洗浄段階、又はアノード排気からCO
2出力ストリーム143を分離するための別の適切なタイプのCO
2分離段階に対応することができる。任意選択的に、アノード排気は、最初に水ガスシフト反応器130を通過させて、アノード排気中に存在する任意のCOを(いくつかのH
2Oと共に)任意選択的に水ガスシフトされたアノード排気135中のCO
2とH
2に変換することが可能である。CO
2除去段階の性質に応じて、水凝縮または除去段階150が、アノード排気から水出力ストリーム153を除去するために望ましい場合がある。
図1ではCO
2分離段階140の後に示されているが、任意選択で、代わりにCO
2分離段階140の前に配置されてもよい。さらに、H
2の分離のためのオプションの膜分離段階160は、H
2の高純度透過物ストリーム163を生成するために使用され得る。得られた残余分の(またはリテンテート、または保持物;retentate)ストリーム166は、その後、化学合成プロセスへの入力として使用され得る。ストリーム166は、H
2、CO、およびCO
2含有量を異なる比率に調整するために、第2の水-ガスシフト反応器131において追加的または代替的にシフトされ、化学合成プロセスにおけるさらなる使用のために出力ストリーム168を生成し得る。
図1において、アノードリサイクルストリーム185は、残余分のストリーム166から取り出されるように示されているが、アノードリサイクルストリーム185は、追加的に又は代替的に、様々な分離段階の中又は間の他の都合の良い場所から取り出され得る。分離段階及びシフト反応器(複数可)は、追加的に又は代替的に、異なる順序で、及び/又は並列構成で構成され得る。最後に、CO
2139の含有量が低減されたストリームが、カソード129からの出力として生成され得る。簡略化のために、プロセスにおいて有用である可能性のある圧縮及び熱の付加/除去の様々な段階、並びに蒸気の付加又は除去は、示されていない。
【0061】
上述したように、アノード排気に対して行われる様々な種類の分離は、任意の便利な順序で行うことができる。
図2は、アノード排気に対して分離を実行するための代替的な順序の一例を示す。
図2において、アノード排気125は、アノード排気125から水素含有量の一部263を除去するための分離段階260に最初に通され得る。これは、例えば、H
2対COの比が2:1に近い残余分266を提供するために、アノード排気のH
2含有量を減少させることを可能にし得る。次いで、H
2対COの比は、水ガスシフト段階230において所望の値を達成するようにさらに調整することができる。水ガスシフト出力235は、その後、CO
2分離段階240及び水除去段階250を通過して、所望の化学合成プロセスへの入力としての使用に適した出力ストリーム275を生成することができる。任意選択で、出力ストリーム275は、追加の水ガスシフト段階(図示せず)に曝され得る。出力ストリーム275の一部は、任意選択で、アノード入力にリサイクルされ得る(図示せず)。もちろん、分離段階のさらに他の組み合わせ及び順序付けを使用して、所望の組成を有するアノード出力に基づくストリームを生成することができる。簡略化のために、プロセスにおいて有用である可能性のある圧縮および熱の付加/除去の様々な段階、ならびに蒸気の付加/除去は、示されていない。
【0062】
カソードの入力と出力
炭素捕捉条件下で作動する場合、カソードの好適な条件は、CO2およびO2を含むカソード入力フローをカソードに提供することを含むことができる。炭素捕捉条件が代替イオン輸送が起こる条件に対応する態様では、カソード入力フローは、十分な量の水をさらに含むことができる。
【0063】
カソード入力フロー中のCO2濃度は、10体積%以下、8.0体積%以下、6.0体積%以下、4.0体積%以下、例えば1.5体積%以下、またはさらに低い可能性がある。追加的にまたは代替的に、カソードは、60%以上、または70%以上、または80%以上、例えば95%まで、または場合によってはさらに高いCO2利用率で作動させることができる。CO2利用率が80%未満である場合、カソード入力フロー中のCO2濃度は10体積%以下とすることができることに留意されたい。いくつかの態様において、カソード入力ストリーム中のO2濃度は、4.0体積%~15体積%、または6.0体積%~10体積%の酸素含有量に対応することができる。
【0064】
炭素捕捉条件が代替イオン輸送が起こる条件に対応する態様では、代替イオン輸送が起こるために十分な量の水も存在すべきことが観察されている。これは、カソード入力フロー中に1.0体積%以上、または2.0体積%以上の水が存在することに相当し得る。空気は一般的にO2源として使用され、H2Oは燃焼中に生成される生成物(CO2の一般的な供給源)の1つであるため、十分な量の水がカソード内で通常利用可能であることが留意される。
【0065】
従来、溶融炭酸塩型燃料電池は、アノードに供給される燃料ストリーム中の燃料の一部を消費しながら、所望の充填を引き出すことに基づいて作動させることができる。燃料電池の電圧は、充填、アノードへの燃料投入量、カソードに供給される空気とCO2、燃料電池の内部抵抗によって決定することができる。カソードに供給されるCO2は、従来、アノードの排気をカソード入力ストリームの少なくとも一部として使用することにより、その一部を供給することが可能であった。これに対して、本発明では、アノード入力とカソード入力に別々の/異なるソース(または源;source)を使用することができる。アノード入力フローの組成とカソード入力フローとの間のいかなる直接的な関連も取り除くことによって、過剰な合成ガスの生成、二酸化炭素の捕捉の改善、及び/又は燃料電池の総効率(電気+化学出力)の改善など、燃料電池の操作に追加の選択肢が利用可能となる。
【0066】
カソード入力フローとして使用するための適切な二酸化炭素含有ストリームの一例は、燃焼源からの出力フロー又は排気フローであり得る。燃焼源の例としては、天然ガスの燃焼、石炭の燃焼、及び/又は他の炭化水素タイプの燃料(生物学的由来の燃料を含む)の燃焼に基づく源が挙げられるが、これらに限定されるものではない。追加または代替のソースは、他の物質(水または空気など)を加熱するために炭素含有燃料を燃焼させる他のタイプのボイラー、焼成ヒーター、炉、および/または他のタイプのデバイスを含むことができる。
【0067】
カソード入力ストリームの他の潜在的な供給源は、追加的または代替的に、生物学的に生成されたCO2の供給源を含むことができる。これは、例えば、エタノール生産中に発生するCO2など、バイオ由来化合物の処理中に発生するCO2を含むことができる。追加的または代替的な例としては、リグノセルロースの燃焼など、バイオ生成燃料の燃焼によって生成されるCO2を含むことができる。さらに他の追加的または代替的な潜在的CO2源は、鉄鋼、セメント、および/または紙の製造工場から発生するCO2含有ストリーム体など、様々な工業プロセスからの出力または排気ストリームに対応することができる。
【0068】
さらに別の追加または代替の潜在的なCO2源は、燃料電池からのCO2含有ストリームとすることができる。燃料電池からのCO2含有ストリームは、別の燃料電池からのカソード出力ストリーム、別の燃料電池からのアノード出力ストリーム、カソード出力から燃料電池のカソード入力へのリサイクルストリーム、および/またはアノード出力から燃料電池のカソード入力へのリサイクルストリームに対応し得る。例えば、従来の条件下でスタンドアローンモードで作動されるMCFCは、少なくとも約5体積%のCO2濃度を有するカソード排気を発生させることができる。このようなCO2含有カソード排気は、本発明の一態様に従って作動するMCFCのカソード入力として使用され得る。より一般的には、カソード排気からCO2出力を生成する他のタイプの燃料電池を追加的または代替的に使用することができ、また、「燃焼」反応によっておよび/または燃焼式発電機によって生成されない他のタイプのCO2含有ストリームを使用することができる。任意選択であるが、好ましくは、別の燃料電池からのCO2含有ストリームは、別の溶融炭酸塩型燃料電池からのものであることができる。例えば、カソードに関して直列に接続された溶融炭酸塩型燃料電池の場合、第1の溶融炭酸塩型燃料電池用のカソードからの出力は、第2の溶融炭酸塩型燃料電池用のカソードへの入力として使用することが可能である。
【0069】
カソード反応に必要な成分を供給するために、CO2に加えてO2をカソード入力ストリームに含めることができる。いくつかのカソード入力ストリームは、空気を成分として有することに基づくことができる。例えば、燃焼排気ストリームは、空気の存在下で炭化水素燃料を燃焼させることによって形成することができる。このような燃焼排気ストリーム、または空気の含有に基づく酸素含有量を有する別のタイプのカソード入力ストリームは、約20体積%以下、例えば、約15体積%以下、または約10体積%以下の酸素含有量を有することができる。さらに、または代替的に、カソード入力ストリームの酸素含有量は、少なくとも約4体積%、例えば、少なくとも約6体積%、または少なくとも約8体積%とすることができる。より一般的には、カソード入力ストリームは、カソード反応の実行に適した酸素含有量を有することができる。いくつかの態様では、これは約5体積%~約15体積%、例えば約7体積%~約9体積%の酸素含有量に相当することができる。多くのタイプのカソード入力ストリームでは、CO2とO2の合計量は、入力ストリームの約21体積%未満、例えばストリームの約15体積%未満、またはストリームの約10体積%未満に対応することが可能である。酸素を含む空気ストリームは、酸素含有量の少ないCO2源と組み合わせることができる。例えば、石炭を燃焼させて生成された排気ストリームは、酸素含有量が低く、空気と混合してカソード入口ストリームを形成することが可能である。
【0070】
CO2やO2の他に、N2、H2Oなどの不活性/非反応種、および他の典型的な酸化剤(空気)成分でカソード入力ストリームを構成することもできる。例えば、燃焼反応からの排気から得られるカソード入力の場合、燃焼反応のための酸化剤源の一部として空気が使用されるなら、排気ガスは、N2、H2O、および空気中に存在する微量の他の化合物などの空気の典型的な構成要素を含むことが可能である。燃焼反応のための燃料源の性質に応じて、燃料源に基づく燃焼後に存在する追加の種は、H2O、窒素酸化物(NOx)および/または硫黄(SOx)、ならびに燃料に存在するおよび/またはCOなどの燃料に存在する化合物の部分または完全燃焼生成物のいずれかである他の化合物の一つ以上を含んでもよい。これらの化合物は、カソード触媒の活性を低下させるが、カソード触媒表面を汚染しない程度の量で存在してもよい。このような性能低下は許容範囲内であるか、またはカソード触媒と相互作用する種は、既知の汚染物質除去技術によって許容レベルまで減少させることが可能である。
【0071】
カソード入力ストリーム(燃焼排気に基づく入力カソードストリームなど)中に存在するO2の量は、有利には、燃料電池におけるカソード反応に必要な酸素を提供するのに十分であることが可能である。したがって、O2の体積割合は、有利には、排気中のCO2の量の少なくとも0.5倍とすることができる。任意に、必要に応じて、カソード反応に十分な酸化剤を提供するために、カソード入力に追加の空気を添加することができる。ある種の空気が酸化剤として使用される場合、カソード排気中のN2の量は、少なくとも約78体積%、例えば、少なくとも約88体積%、および/または約95体積%以下とすることができる。いくつかの態様において、カソード入力ストリームは、H2SまたはNH3などの一般に汚染物質とみなされる化合物を追加的または代替に含むことができる。他の態様では、カソード入力ストリームは、そのような汚染物質の含有量を低減または最小化するために浄化することができる。
【0072】
MCFCの作動に適した温度は、約450℃~約750℃、例えば少なくとも約500℃、例えば約550℃の入口温度と約625℃の出口温度であり得る。カソードに入る前に、必要に応じて、例えば、アノードのために入力された燃料を改質するなどの他のプロセスに熱を提供するために、カソード入力ストリームに熱を加えるかまたはカソード入力ストリームから熱を除去することが可能である。例えば、カソード入力ストリームのソースが燃焼排気ストリームである場合、燃焼排気ストリームは、カソード入口の所望の温度より高い温度を有し得る。このような場合、カソード入力ストリームとして使用する前に、燃焼排気から熱を除去することができる。あるいは、燃焼排気は、例えば石炭火力ボイラーの湿式ガススクラバー後のように非常に低い温度である可能性があり、この場合、燃焼排気は約100℃以下である可能性がある。あるいは、燃焼排気は、合計サイクルモードで作動されるガスタービンの排気である可能性もあり、この場合、ガスは、追加の発電のために蒸気タービンを作動するために蒸気を上げることによって冷却されることができる。この場合、ガスは約50℃未満であることが可能である。所望より低温の燃焼排気に熱を加えることができる。
【0073】
追加の溶融炭酸塩型燃料電池の作動戦略
いくつかの態様では、代替イオン輸送を引き起こすためにMCFCを作動させる場合、燃料電池のアノードは、およそ60%から80%の従来の燃料利用値で作動させることができる。電力を生成しようとする場合、燃料電池のアノードを比較的高い燃料利用率で作動させると、電気効率(すなわち、燃料電池で消費される化学エネルギーの単位あたり生成される電気エネルギー)を向上させるのに有益である。
【0074】
いくつかの態様において、アノード出力フロー中に提供されるH2の量の増加などの他の利点を提供するために、燃料電池の電気効率を低下させることが有益である場合がある。これは、例えば、追加の改質を行うこと及び/又は別の吸熱反応を行うことによって、燃料電池(又は燃料電池スタック)において発生する過剰な熱を消費することが望ましい場合に、有益であり得る。例えば、溶融炭酸塩型燃料電池は、合成ガス及び/又は水素の生産量を増加させるように作動させることができる。吸熱改質反応に必要な熱は、発電のためのアノードにおける発熱性電気化学反応によって供給されることが可能である。発熱性燃料電池反応によって発生した熱を燃料電池から輸送しようとするのではなく、この余剰熱を改質反応及び/又は別の吸熱反応のための熱源としてその場で使用することができる。これにより、熱エネルギーをより効率的に利用することができ、外部または内部の熱交換を追加する必要性を低減することができる。熱エネルギーのこの効率的な生産と使用は、基本的に原位置で、有利な作動条件を維持しながら、システムの複雑さと構成要素を減らすことができる。いくつかの態様において、改質または他の吸熱反応の量は、従来技術において典型的に記載される熱要件よりも著しく小さいのではなく、発熱反応(複数可)によって生成される余剰熱の量に匹敵する、またはそれよりもさらに大きい吸熱要件を有するように選択することが可能である。
【0075】
追加的にまたは代替的に、燃料電池は、アノード入口とアノード出口との間の温度差が正ではなく負になるように作動させることができる。したがって、アノード入口とアノード出口との間の温度上昇の代わりに、十分な量の改質および/または他の吸熱反応を行い、アノード出口からの出力ストリームをアノード入口温度よりも低温にすることができる。さらに追加的または代替的に、アノード入力とアノード出力との間の温度差が、電力を生成するための吸熱反応(複数可)とカソード燃焼反応およびアノード反応の合計発熱の相対的需要に基づく予想差よりも小さくなるように、燃料電池用ヒーターおよび/または内部改質段階(または他の内部吸熱反応段階)に追加の燃料を供給することができる。改質が吸熱反応として使用される態様では、余剰燃料を改質するために燃料電池を作動させると、熱交換および改質のためのシステムの複雑さを最小限に抑えながら、従来の燃料電池作動と比較して合成ガスの増加および/または水素の増加をもたらすことができる。追加の合成ガスおよび/または追加の水素は、その後、化学合成プロセスおよび/または「クリーン」燃料として使用するための水素の収集/再利用を含む様々な用途で使用することができる。
【0076】
アノードでの発熱反応によって酸化された水素1モルあたりに発生する熱量は、改質反応によって発生した水素1モルあたりに消費される熱量より実質的に大きくすることができる。溶融炭酸塩型燃料電池における水素の正味の反応(H2+1/2O2→H2O)は、水素分子の反応エンタルピーが約-285kJ/molとなることがある。このエネルギーの少なくとも一部は、燃料電池内で電気エネルギーに変換することができる。しかし、反応のエンタルピーと燃料電池によって生成される電気エネルギーとの差(約)は、燃料電池内で熱となり得る。このエネルギー量は、代わりに、セルの電流密度(単位面積当たりの電流)に、燃料電池の理論上の最大電圧と実際の電圧との差を乗じたもの、または<電流密度>*(Vmax-Vact)で表すことができる。このエネルギー量を、燃料電池の「廃熱」と定義している。改質の例として、メタンの改質エンタルピー(CH4+2H2O→4H2+CO2)は、メタンで約250kJ/mol、水素分子で約62kJ/molとすることができる。熱バランスの観点から、電気化学的に酸化された各水素分子は、改質によって1つ以上の水素分子を生成するのに十分な熱を発生させることができる。従来の構成では、この過剰な熱により、アノード入口からアノード出口までかなりの温度差が生じることがある。この余分な熱を燃料電池内の温度上昇に利用させるのではなく、それに見合った量の改質反応を行うことで余分な熱を消費させることができる。アノードで発生した余剰熱は、燃料電池内の燃焼反応によって発生した余剰熱で補うことができる。より一般的には、燃料電池のアノードで吸熱反応を行うこと、および/または燃料電池と一体化した吸熱反応段階で吸熱反応を行うことにより、余分な熱を消費することができる。
【0077】
態様によっては、燃料電池の所望の熱比を達成するために、改質反応及び/又は他の吸熱反応の量を、アノードで反応した水素の量に対して選択することができる。本明細書で使用される場合、「熱比」は、燃料電池アセンブリ内の発熱反応(アノード及びカソードの両方における発熱反応を含む)によって生じる熱を、燃料電池アセンブリ内で生じる改質反応の吸熱要求量で除したものと定義される。数学的に表現すると、熱比(TH)=QEX/QENであり、QEXは発熱反応によって生じた熱の総和であり、QENは燃料電池内で生じる吸熱反応によって消費される熱の総和である。発熱反応によって生じる熱は、改質反応、水ガスシフト反応、カソードにおける燃焼反応(すなわち、燃料化合物の酸化)、及び/又はセル内の電気化学反応による任意の熱に対応し得ることに留意されたい。電気化学反応によって発生する熱は、電解質にわたる燃料電池反応の理想的な電気化学ポテンシャルから燃料電池の実際の出力電圧を引いたものに基づいて計算することができる。例えば、MCFCの反応の理想的な電気化学ポテンシャルは、セル内で起こる正味の反応に基づいて、約1.04Vであると考えられている。MCFCの作動中、セルは、様々な損失により、典型的には1.04V未満の出力電圧を有し得る。例えば、一般的な出力/作動電圧は約0.7Vとすることができる。発生する熱は、セルの電気化学的電位(すなわち、~1.04V)から作動電圧を引いたものに等しくすることができる。例えば、燃料電池で~0.7Vの出力電圧を達成するとき、セル内の電気化学反応によって生成される熱は~0.34Vとすることができる。したがって、このシナリオでは、電気化学反応によって、~0.7Vの電気と~0.34Vの熱エネルギーが生成されることになる。このような例では、~0.7Vの電気エネルギーはQEXに含まれない。言い換えれば、熱エネルギーは電気エネルギーではない。
【0078】
様々な態様において、熱比は、燃料電池スタック、燃料電池スタック内の個々の燃料電池、統合改質段階を有する燃料電池スタック、統合型吸熱反応段階を有する燃料電池スタック、またはそれらの組み合わせなどの任意の都合の良い燃料電池構造について決定することができる。熱比はまた、燃料電池のアセンブリ又は燃料電池スタックなどの燃料電池スタック内の異なる単位について計算されてもよい。例えば、熱比は、熱統合の観点から統合されるように燃料電池(または複数の燃料電池)に十分に近接した統合改質段階及び/又は統合型吸熱反応段階要素と共に燃料電池スタック内の燃料電池(または複数の燃料電池)に対して計算されてもよい。
【0079】
熱統合の観点から、燃料電池スタックにおける特徴的な幅は、個々の燃料電池スタック要素の高さであることができる。別個の改質段階及び/又は別個の吸熱反応段階は、燃料電池とは異なるスタック内の高さを有し得ることに留意されたい。そのようなシナリオでは、燃料電池要素の高さを特徴的な高さとして使用することができる。この議論において、統合型吸熱反応段階は、統合型吸熱反応段階が改質のための熱源として燃料電池からの熱を使用できるように、1つ以上の燃料電池と統合された段階の熱と定義されることが可能である。このような統合型吸熱反応段階は、統合型段階に熱を供給する燃料電池からスタック要素の高さの10倍未満に配置されると定義することができる。例えば、統合型吸熱反応段階(改質段階など)は、熱統合された任意の燃料電池からスタック要素の高さの10倍未満、またはスタック要素の高さの8倍未満、またはスタック要素の高さの5倍未満、またはスタック要素の高さの3倍未満の位置に配置することが可能である。この議論において、燃料電池要素に隣接するスタック要素を表す統合改質段階及び/又は統合型吸熱反応段階は、隣接する燃料電池要素から約1スタック要素の高さ以下離れているものとして定義される。
【0080】
約1.3以下、または約1.15以下、または約1.0以下、または約0.95以下、または約0.90以下、または約0.85以下、または約0.80以下、または約0.75以下の熱比は、MCFC燃料電池の使用において通常求められる熱比より低くすることが可能である。本発明の態様において、熱比は、合成ガス生成、水素生成、吸熱反応を介した別の生成物の生成、またはそれらの組み合わせを増加および/または最適化するために低減させることができる。
【0081】
本発明の様々な態様において、燃料電池の作動は、熱比に基づいて特徴付けることができる。燃料電池が所望の熱比を有するように作動される場合、溶融炭酸塩型燃料電池は、約1.5以下、例えば約1.3以下、または約1.15以下、または約1.0以下、または約0.95以下、または約0.90以下、または約0.85以下、または約0.80以下、または約0.75以下の熱比を有するよう作動されることができる。さらに、または代替的に、熱比は少なくとも約0.25、または少なくとも約0.35、または少なくとも約0.45、または少なくとも約0.50とすることができる。さらに追加的または代替的に、いくつかの態様において、燃料電池は、約40℃以下、例えば約20℃以下、または約10℃以下のアノード入力とアノード出力との間の温度上昇を有するように作動させることができる。さらに追加的または代替的に、燃料電池は、アノード入口の温度より約10℃低いから約10℃高いアノード出口温度を有するように作動させることができる。さらに追加的または代替的に、燃料電池は、少なくとも約5℃より大きい、または少なくとも約10℃より大きい、または少なくとも約20℃より大きい、または少なくとも約25℃より大きいなど、アノード入口温度がアノード出口温度より大きいように作動させることができる。さらに追加的にまたは代替的に、燃料電池は、アノード入口温度がアノード出口温度よりも約100℃以下、または約80℃以下、または約60℃以下、または約50℃以下、または約40℃以下、または約30℃以下、または約20℃以下大きいように作動させることができる。
【0082】
熱比が1未満である燃料電池を作動すると、燃料電池全体の温度低下を引き起こす可能性がある。いくつかの態様において、アノード入口からアノード出口への温度低下が約100℃以下、例えば約80℃以下、又は約60℃以下、又は約50℃以下、又は約40℃以下、又は約30℃以下、又は約20℃以下となり得るように、改質及び/又は他の吸熱反応の量を制限することも可能である。アノード入口からアノード出口までの温度低下を制限することは、例えば、アノードにおける(改質による)燃料の完全または実質的に完全な変換を可能にするために十分な温度を維持するために有益であり得る。他の態様では、吸熱反応によって消費される熱と燃料電池に供給される追加の外部熱とのバランスにより、アノード入口温度がアノード出口温度よりも約100℃以下、例えば約80℃以下、約60℃以下、約50℃以下、約40℃以下、約30℃以下、約20℃以下だけ大きくなるように(熱交換または追加燃料の燃焼などにより)追加の熱が燃料電池に供給され得る。
【0083】
改質量は、追加的または代替的に、改質可能な燃料の利用可能性に依存することができる。例えば、燃料がH2のみを含む場合、H2は既に改質されており、それ以上改質できないため、改質は行われない。燃料電池によって生成される「合成ガス」の量は、アノード入力における合成ガスの低位発熱量(LHV)値対アノード出力における合成ガスのLVH値の差として定義することができる。
合成ガス(sg)生産量LHV(sg net)=(LHV(sg out)-LHV(sg in))
ここで、LHV(sg in)およびLHV(sg out)は、それぞれ、アノード入口ストリームまたはフローにおける合成ガスおよびアノード出口ストリームまたはフローにおける合成ガスのLHVを指す。H2を相当量含む燃料を備える燃料電池は、追加の改質可能な燃料を含むのとは対照的に、燃料が既に改質されたH2を相当量含むので、潜在的な合成ガスの生成量を制限することができる。より低い(または低位;lower)熱量は、気相の完全酸化生成物(すなわち、気相のCO2およびH2O生成物)に対する燃料成分の燃焼のエンタルピーとして定義される。例えば、アノード入力ストリームに存在するCO2は、CO2が既に完全に酸化されているため、アノード入力の燃料含有量に寄与しない。この定義では、アノード燃料電池反応によりアノードで生じる酸化の量は、アノードにおける電気化学反応の一部としてアノードにおけるH2の酸化と定義される。
【0084】
燃料電池を熱比を低下させて作動する方法の例としては、燃料電池における熱の発生と消費のバランスをとるため、および/または発生した熱よりも多く消費するために、燃料の過剰改質を行う方法を挙げることができる。改質可能な燃料を改質してH2及び/又はCOを形成することは吸熱プロセスであり得るが、アノード電気化学酸化反応及びカソード燃焼反応(複数可)は発熱性であり得る。従来の燃料電池作動中、燃料電池作動用の供給成分を供給するために必要な改質量は、通常、アノード酸化反応によって発生する熱量よりも少ない熱量を消費することができる。例えば、約70%又は約75%の燃料利用率での従来の作動は、少なくとも約1.4以上、又は1.5以上の熱比など、実質的に1より大きい熱比を生じさせる。その結果、燃料電池の出力ストリームは、入力ストリームよりも高温になる可能性がある。このような従来の作動の代わりに、アノードに関連する改質段階で改質される燃料の量を増加させることができる。例えば、発熱性燃料電池反応によって生成される熱が改質において消費される熱と(ほぼ)釣り合うように、及び/又は生成される熱よりも多くの熱を消費するように、追加の燃料を改質することが可能である。これにより、発電用アノードで酸化される量に対して水素が大幅に過剰となり、約1.0以下、例えば約0.95以下、約0.90以下、約0.85以下、約0.80以下、約0.75以下の熱比となることが可能である。
【0085】
アノード排気からは、化学エネルギー出力として、水素または合成ガスのいずれかを取り出すことができる。水素は、燃えた時または燃焼時に温室効果ガスを発生させないクリーンな燃料として利用することができる。代わりに、炭化水素(または炭化水素系化合物)の改質によって生成された水素の場合、CO2はすでにアノードループで「捕捉」されている。さらに、水素は、様々な精製プロセスおよび/または他の合成プロセスへの貴重な投入物となり得る。合成ガスもまた、さまざまなプロセスにとって価値ある投入物となり得る。燃料としての価値に加えて、合成ガスは、フィッシャー・トロプシュ合成および/またはメタノール合成プロセスの入力として合成ガスを使用するなど、他の高価値製品を製造するための原料として使用することができる。
【0086】
いくつかの態様において、アノードに送られる、および/またはアノードに関連する改質段階に送られる入力ストリーム中の改質可能燃料の改質可能水素含有量は、アノードで反応した水素の正味量よりも少なくとも約50%大きく、例えば少なくとも約75%または少なくとも約100%大きくすることができる。追加的にまたは代替的に、アノードおよび/またはアノードに関連する改質段階に送られる入力ストリーム中の燃料の改質可能な水素含有量は、アノードで反応した水素の正味量よりも少なくとも約50%大きく、例えば、少なくとも約75%または少なくとも約100%大きいことが可能である。様々な態様において、アノードで反応した水素の量に対する燃料ストリーム中の改質可能な燃料の改質可能な水素含有量の比は、少なくとも約1.5:1、または少なくとも約2.0:1、または少なくとも約2.5:1、または少なくとも約3.0:1であることができる。追加的にまたは代替的に、アノードで反応した水素量に対する燃料ストリーム中の改質可能な燃料の改質可能な水素量の比は、約20:1以下、例えば約15:1以下または約10:1以下とすることができる。一態様では、アノード入口ストリーム中の改質可能な水素含有量の100%未満が水素に変換され得ることが企図される。例えば、アノード入口ストリーム中の改質可能な水素含有量の少なくとも約80%は、アノードおよび/または関連する改質段階(複数可)で水素に変換することができ、例えば、少なくとも約85%、または少なくとも約90%である。追加的にまたは代替的に、アノードに供給される改質可能な燃料の量は、アノードで酸化された水素のLHVに対する改質可能な燃料の低位発熱量(LHV)に基づいて特徴付けられることが可能である。これは、改質可能な燃料の余剰比率と呼ばれ得る。様々な態様において、改質可能な燃料の余剰比は、少なくとも約2.0、例えば少なくとも約2.5、または少なくとも約3.0、または少なくとも約4.0とすることができる。さらに、または代替的に、改質可能な燃料の余剰比は、約25.0以下、例えば約20.0以下、または約15.0以下、または約10.0以下とすることができる。
【0087】
実施例
様々な態様において、燃料電池のために高められた目標電解質充填レベルを使用することは、標準的な目標充填レベルを使用することと比較して、作動電圧の予期せぬ上昇及び作動寿命の利点を提供することができる。
【0088】
作動電圧の予期せぬ増加は、標準条件下での溶融炭酸塩型燃料電池の電圧挙動との比較で説明することができる。表1は、さまざまな条件で作動された燃料電池の作動開始時の電圧値を示している。燃料電池の大きさは250cm2であった。燃料電池の目標電解質充填レベルは、カソード細孔容積の56体積%またはカソード細孔容積の80体積%のいずれかに相当する。カソード電解質の目標充填レベル80体積%は、合計目標電解質充填レベル約87体積%に対応することに留意されたい。作動条件は、従来の条件(カソード入力フローに17体積%のCO2、75%のCO2利用率)または炭素捕捉条件(カソード入力フローに4体積%のCO2、90%のCO2利用率)に相当する。
【0089】
【0090】
表1に示すように、従来条件では、目標カソード電解質充填レベルをカソード細孔容積の80体積%に増加させると、作動開始時の作動電圧が10mVを超えて低下する。炭素捕捉条件では、従来の目標電解質充填量と高められた電解質充填量との間の電圧差は小さくなるが、炭素捕捉条件での燃料電池の作動開始時の作動電圧は、従来の目標電解質充填量の方が依然高い。表1より、標準的な作動条件では、カソード細孔容積の50体積%~60体積%の標準的な目標電解質充填レベルで作動することに明らかな利点があることがわかる。このことは、従来の溶融炭酸塩型燃料電池の理解では、標準的な目標充填レベルを使用することに落ち着いていた理由を示している。また、炭素捕捉条件であっても、寿命開始時の作動電圧のみを考慮すれば、標準的な目標充填レベルで作動することが有利であるように思われる。
【0091】
表1とは対照的に、
図4は、ある期間にわたって炭素捕捉条件で作動された溶融炭酸塩型燃料電池の電圧挙動を示す。
図4に示すデータを作成するために、溶融炭酸塩型燃料電池は、4.0体積%~5.0体積%のCO
2を含むカソード入力フローで、120mA/cm
2または150mA/cm
2のいずれかの電流密度を生成し、CO
2利用率が約90%となるように作動された。燃料電池は、標準的な目標電解質充填レベル(カソード細孔容積の50体積%~56体積%、合計目標電解質充填レベルは約63体積%~70体積%)または高められた目標電解質充填レベル(カソード細孔容積の80体積%以上、合計目標電解質充填レベルは約87体積%)を有していた。
【0092】
図4に示すように、初期の短い期間の後、高められた目標電解質充填レベルを有する燃料電池の作動電圧は、標準的な目標電解質充填レベルを有する燃料電池の作動電圧より高かった。(120mA/cm
2の標準的な目標充填レベルに対する最初の数時間のデータ点群は
図4に示されていないが、寿命の始まりの電圧は対応する高められた目標充填レベルより短時間高かったと考えられる)。このことは、時間の経過とともに、より高い目標充填レベルの電解質で作動することにより、予期しない作動電圧の上昇がもたらされたことを示している。この予期せぬ作動電圧の上昇は、150mA/cm
2という高い電流密度でより顕著になった。
【0093】
炭素捕捉条件下で高められた目標電解質充填レベルを使用したときに作動電圧が向上したのは、燃料電池内のリチウムの損失が増加したことが一因であると考えられる。リチウムの損失の増大は、いくつかの方法で観察することができる。リチウムの損失増加の1つの指標は、炭素捕捉条件での長期作動後に溶融炭酸塩型燃料電池に存在する電解質の量が全体的に減少していることである。
【0094】
表2は、溶融炭酸塩型燃料電池を炭素捕捉条件(カソード入力ストリーム中のCO2が~4.0体積%、CO2利用率が~90%)で2500時間作動した後の、溶融炭酸塩型燃料電池の様々な部分の電解質の相対充填レベルを示している。目標電解質充填レベルは、カソード細孔容積の約56体積%、マトリックス容積の90体積%以上という標準的な充填レベルであった。これは、約70体積%の合計目標電解質充填レベルに相当する。表2に示す結果は,従来の条件で2500時間作動した燃料電池のベースラインとの比較である.充填レベルの変化は、燃料電池の各部分で利用可能な細孔容積に基づいている。
【0095】
【0096】
リチウムの損失が増加したのは、カソード自体へのリチウムの取り込みが増加したことが一因であると考えられる。このカソードへのリチウムの取り込みの増加について、
図5を用いて説明する。
図5は、様々な条件下でリチウムに試験環境中で暴露した後のカソード構造物の誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)を示す図である。カソード構造体は、酸化ニッケルから構成されていた。カソード構造物は、カソード構造物、電解質、カソード集電体をセル外試験装置で酸化環境を模擬した環境に暴露して試験された。酸化環境は数種類用意した。第1の酸化環境は、0.5体積%のCO
2、9体積%のO
2、および10体積%のH
2Oに相当し、残りはN
2である。第2の酸化環境は、4.1体積%のCO
2、9体積%のO
2、および10体積%のH
2Oに対応し、残りはN
2である。第3の酸化環境は、18.5体積%のCO
2、11.3体積%のO
2、および3.0体積%のH
2Oに対応し、残りはN
2である。第3の酸化環境は従来の溶融炭酸塩型燃料電池の条件に対応し、第1および第2の酸化環境は炭素捕捉条件に対応することに留意されたい。
【0097】
セル外試験装置内のモデル燃料電池構造体を様々な酸化環境に暴露した後、ICP-MSを用いてカソードの組成を分析し、リチウム含有量を決定した。
図5に示すように、燃料電池を従来の作動条件に曝すと、リチウム含有量が3.0質量%未満のカソードが得られた。一方、燃料電池を約4.0体積%のCO
2を含む酸化環境に曝したところ、カソードのリチウム含有量は4.0質量%を超える結果となった。また、燃料を約0.5体積%のCO
2で酸化させた場合、9.0質量%~10質量%のリチウムを含むカソードが得られた。
図5の結果から、炭素捕捉条件を用いることで、セル外試験装置のカソードに取り込まれるリチウムの量が大幅に増加したことがわかる。燃料電池の作動中にも、カソードへのリチウムの取り込みが同様に増加すると考えられる。
【0098】
燃料電池の挙動の変化は、様々な条件下で作動されたときに燃料電池が示すオーム抵抗にも見ることができる。
図6は、3種類の条件で作動した燃料電池のオーム抵抗を経時的に測定した結果である。燃料電池のサイズは6.24inx6.24in(15.85cmx15.85cm)である。第1の条件は、標準的な電解質充填レベル(カソード孔容積の約56体積%)で、従来の作動条件(カソード入力ストリームの~18体積%のCO
2、~75%のCO
2利用率)で作動したものである。これは、ベースライン条件とみなされた。
図6に示される全てのデータは、このベースライン条件におけるオーム(またはオーミック;ohmic)抵抗に正規化された。したがって、ベースライン条件のオーム抵抗は、正規化された単位で「1.0」として示される。第2の条件は、標準的な目標電解質充填レベルを有する炭素捕捉条件(カソード入力ストリーム中の~4.0体積%CO
2、~90%CO
2利用率)に相当する。第3の条件は、高くめられた目標電解質充填レベルを有する炭素捕捉条件(カソード細孔容積の~80体積%)に相当する。
図6に示すように、炭素捕捉条件では、高められた初期電解質充填レベルを用いることで、炭素捕捉条件における燃料電池のオーム抵抗が大幅に低減された。
【0099】
追加実施形態
実施形態1.リチウム含有電解質を含む溶融炭酸塩型燃料電池で電気を生成する方法であって、方法は、平均電流密度120mA/cm2以上およびCO2利用率60%以上で、アノード、マトリックス、およびカソードを含む溶融炭酸塩型燃料電池を、10体積%以下のCO2を含むカソード入力ストリームで作動することを含み、
溶融炭酸塩型燃料電池は、マトリックス細孔容積とカソード細孔容積との合計の70体積%以上の合計目標電解質充填レベルをさらに含む、方法。
【0100】
実施形態2.溶融炭酸塩型燃料電池を作動することが、75%以上の測定されたCO2利用率で作動することを含む、実施形態1に記載の方法。
【0101】
実施形態3.リチウム含有電解質を含む溶融炭酸塩型燃料電池で電気を生成するための方法であって、方法は、平均電流密度120mA/cm2以上およびCO2使用率90%以上で、アノード、マトリックス、およびカソードを含む溶融炭酸塩型燃料電池を、CO2を含むカソード入力ストリームで作動することを含み、溶融炭酸塩型燃料電池は、マトリックス細孔容積とカソード細孔容積との合計の70体積%以上の合計目標電解質充填レベルをさらに含む、方法。
【0102】
実施形態4. i)カソード入力ストリームが、5.0体積%以下のCO2を含む、ii)カソード排気が2.0体積%以下のCO2を含む、iii)溶融炭酸塩型燃料電池が0.95以下の輸率で作動する、またはiv)i),ii),iii)の二つ以上の組み合わせを含む、実施形態1~3のいずれかに記載の方法。
【0103】
実施形態5.電解質が非共晶混合物を含む、または電解質の炭酸リチウム含有量が対応する共晶組成物より10質量%以上大きい、実施形態1~4のいずれかに記載の方法。
【0104】
実施形態6.電流密度が、150mA/cm2以上である、実施形態1~5の実施形態に記載の方法。
【0105】
実施形態7.溶融炭酸塩型燃料電池を累積時間50時間以上作動する、実施形態1~6のいずれかに記載の方法。
【0106】
実施形態8.目標カソード電解質充填レベルが、カソード細孔容積の85体積%~140体積%である、実施形態1~7のいずれかに記載の方法。
【0107】
実施形態9.合計目標電解質充填レベルが、85体積%~128体積%である、実施形態1~8のいずれかに記載の方法。
【0108】
実施形態10.合計目標電解質充填レベルの少なくとも一部を、カソード集電体に貯蔵する、実施形態1~9のいずれかに記載の方法。
【0109】
実施形態11.カソード集電体、カソード、マトリックス、およびアノード、ならびに
リチウム含有電解質を含み、マトリックス細孔容積とカソード細孔容積との合計の85体積%以上に対応するリチウム含有電解質の合計目標電解質充填レベルを含む、溶融炭酸塩型燃料電池。
【0110】
実施形態12.電解質は、対応する共晶混合物中の対応するリチウム含有量より10質量%以上大きい炭酸リチウム含有量を含む、実施形態11に記載の溶融炭酸塩型燃料電池。
【0111】
実施形態13.合計目標電解質充填レベルの少なくとも一部が、カソード集電体に貯蔵されている、実施形態11又は12に記載の溶融炭酸塩型燃料電池。
【0112】
実施形態14.合計目標電解質充填レベルが、90体積%~127体積%である、実施形態11~13のいずれかに記載の溶融炭酸塩型燃料電池。
【0113】
実施形態15.燃料電池が、85体積%~140体積%の目標カソード電解質充填レベルである、実施形態11~14のいずれかに記載の溶融炭酸塩型燃料電池。
【0114】
追加の実施形態A.カソード細孔容積がマトリックス細孔容積の1.5倍~2.0倍である、実施形態1~10のいずれかの方法または実施形態11~15のいずれかの燃料電池。
【0115】
本明細書の詳細な説明及び特許請求の範囲内の全ての数値は、示された値を「約」又は「約」で修正し、当業者であれば予想される実験誤差及びばらつきを考慮に入れている。
【0116】
本発明は、特定の実施形態の観点から説明されてきたが、必ずしもそのように限定されるものではない。特定の条件下での作動のための適切な変更/修正は、当業者には明らかであるはずである。したがって、以下の特許請求の範囲は、本発明の真の精神/範囲に該当するすべてのそのような変更/修正をカバーするものとして解釈されることが意図される。
【国際調査報告】