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特表2023-503649ラジアルフロー型固定床バイオリアクター及びその使用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-31
(54)【発明の名称】ラジアルフロー型固定床バイオリアクター及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/14 20060101AFI20230124BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20230124BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20230124BHJP
【FI】
C12M1/14
C12M1/00 A
C12M3/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022531462
(86)(22)【出願日】2020-11-03
(85)【翻訳文提出日】2022-07-26
(86)【国際出願番号】 US2020058647
(87)【国際公開番号】W WO2021108089
(87)【国際公開日】2021-06-03
(31)【優先権主張番号】62/941,315
(32)【優先日】2019-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】マーティン,グレゴリー ロジャー
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA08
4B029DA04
4B029DB17
4B029DC07
4B029GB10
(57)【要約】
モジュール式細胞培養システムは、細胞培養空間に細胞培養基材を収容する内部空洞と、細胞培養空間の下方にある放射状流マニホールドと、該マニホールドの中心に流体を供給する流体入口と、空洞から流体を排出する流体出口と、を有する独立型細胞培養サブユニットを備えている。空洞は、流体が流体入口から流入し、次にマニホールドを通過し、次に細胞培養空間を通過し、次に流体出口から流出するように構成されている。独立型細胞培養サブユニットは、該サブユニットの上部及び下部の少なくとも一方に、位置合わせ機構をさらに備えている。マニホールドは、細胞培養空間の幅にわたって均一な流量で流体を供給することができる。位置合わせ機構は、別の独立型細胞培養サブユニットの位置合わせ機構と位置合わせすることにより、複数の独立型細胞培養サブユニットを積み重ねることが可能となっている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
独立型細胞培養サブユニットを備えるモジュール式細胞培養システムであって、
前記独立型細胞培養サブユニットは、
細胞培養空間に細胞培養基材を収容するように構成された内部空洞と、
前記細胞培養空間の下方に配置される放射状流マニホールドと、
前記放射状流マニホールドの中心に流体を供給するように構成された流体入口と、
前記内部空洞から流体を排出するように構成された流体出口と、
前記独立型細胞培養サブユニットの上部及び下部の少なくとも一方に配置される、少なくとも1つの位置合わせ機構と、
を備え、
前記内部空洞は、流体が前記流体入口から流入し、次に前記放射状流マニホールドを通過し、次に前記細胞培養空間を通過し、次に前記流体出口から流出するように構成され、
前記放射状流マニホールドは、前記細胞培養空間の幅にわたって均一な流量で流体を供給するように構成され、
前記少なくとも1つの位置合わせ機構は、別の独立型細胞培養サブユニットの少なくとも1つの位置合わせ機構と位置合わせするように構成され、これにより、前記独立型細胞培養サブユニットが前記別の独立型細胞培養サブユニットと積み重ね可能となっている、モジュール式細胞培養システム。
【請求項2】
前記流体入口と前記細胞培養空間との間に配置され、前記流体入口からの培地を前記細胞培養空間の幅にわたって均一に分配するように構成された第1の流量分配プレートをさらに備える、請求項1に記載のモジュール式細胞培養システム。
【請求項3】
前記細胞培養空間と前記流体出口との間に配置された第2の流量分配プレートをさらに備える、請求項1~2のいずれか1項に記載のモジュール式細胞培養システム。
【請求項4】
前記第2の流量分配プレートが、前記細胞培養空間から均一に培地が流れ出るのを促進するように構成されている、請求項3に記載のモジュール式細胞培養システム。
【請求項5】
前記第1の流量分配プレート及び前記第2の流量分配プレートが、前記細胞培養空間の上部及び下部を画定している、請求項2~4のいずれか1項に記載のモジュール式細胞培養システム。
【請求項6】
前記細胞培養空間内に配置された細胞培養基材をさらに含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のモジュール式細胞培養システム。
【請求項7】
前記細胞培養基材が、成形ポリマー格子、3D印刷されたポリマー格子シート、織物メッシュシート、及び溶解性発泡足場のうちの少なくとも1つを含む、請求項6に記載のモジュール式細胞培養システム。
【請求項8】
複数の前記独立型細胞培養サブユニットをさらに備えており、
前記複数の独立型細胞培養サブユニットが積み重ねられている、請求項1~7のいずれか1項に記載のモジュール式細胞培養システム。
【請求項9】
前記位置合わせ機構が、前記複数の独立型細胞培養サブユニットの、隣接する独立型細胞培養サブユニットを接続する連結機構である、請求項8に記載のモジュール式細胞培養システム。
【請求項10】
前記連結機構が、前記隣接する独立型細胞培養サブユニットを取り外し可能に連結することを可能にする、請求項9に記載のモジュール式細胞培養システム。
【請求項11】
前記複数の独立型細胞培養ユニットが、キャリア内に配置され、
前記キャリアが、前記複数の独立型細胞培養ユニットを少なくとも部分的に囲む側壁を有している、請求項8~10のいずれか1項に記載のモジュール式細胞培養システム。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2019年11月27日を出願日とする米国仮特許出願第62/941,315号の米国特許法第120条に基づく優先権の利益を主張するものであり、この仮出願の開示内容は、本明細書の依拠するところとし、参照することによって本明細書の一部をなすものとする。
【技術分野】
【0002】
本開示は、概して、バイオプロセス分野に関し、特に、モジュールスタック式充填床バイオリアクター(modular and stacked packed-bed bioreactor)及び該バイオリアクターを使用して細胞培養を行う方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
バイオプロセス産業では、ホルモン、酵素、抗体、ワクチン、及び細胞治療薬の製造目的で大規模な細胞培養が行われている。バイオプロセスで使用する細胞の大部分は付着依存性であり、これらの細胞が増殖、機能するためには、細胞が付着するための面が必要となる。従来、付着細胞の培養は、Tフラスコ、ペトリ皿、セルファクトリー、セルスタック容器、ローラーボトル、HYPERStack(登録商標)容器などの様々な種類の容器のいずれかに組み込まれた2次元(2D)の細胞接着面上で行われていた。しかし、上述の手法には、治療薬や細胞を大量生産できるほど高い細胞密度を実現することが困難であるなどの重大な欠点がある場合があった。
【0004】
そこで、培養細胞の体積密度を高める別の方法が提案されている。攪拌槽で行うマイクロキャリア培養などである。しかし、この手法では、マイクロキャリアの表面に付着した細胞が、常にせん断応力を受けるため、増殖・培養性能に大きな影響を与えてしまっていた。また、高密度な細胞培養システムの他の例として、中空糸バイオリアクターも挙げられるが、この場合、細胞が繊維の隙間空間で増殖して巨大な3次元凝集体を形成する可能性がある。しかし、その場合、栄養素不足のために、細胞の増殖や生産力が著しく阻害されてしまう。よって、この問題を軽減するために、これらのバイオリアクターは小型化されており、大規模製造に適したものではなかった。
【0005】
付着依存性細胞の高密度な培養システムの他の例として、充填床バイオリアクターシステムがある。例えば、特許文献1~3には、細胞を捕捉するための充填床支持体又はマトリクスシステムを有する充填床バイオリアクターシステムが開示されている。充填床マトリクスは、通常、多孔質粒子を基材に作られるか、又は、ポリマーのマイクロ繊維不織布からなる。そして、これらのバイオリアクターは、再循環式フロースルー型バイオリアクターとして機能する。しかし、このようなバイオリアクターが抱える深刻な問題の1つに、充填床内の細胞分布が不均一になってしまうことがある。例えば、充填床が、主に入口領域で細胞を捕捉するデプスフィルタとして機能し、その結果、接種ステップ時に細胞の分布に勾配が生じてしまうことがあった。また、繊維がランダムに充填されているため、流通抵抗や細胞捕捉効率が充填床断面において均一ではなかった。例えば、細胞の充填密度が低い領域を通過する培地の流れは速くなり、捕捉されている細胞の数が多いために抵抗が大きい領域を通過する培地の流れは遅くなる。そのため、細胞の体積密度の低い領域には栄養素や酸素が比較的効率よく送達される一方、細胞密度の高い領域は欠乏状態の培養条件のまま保たれてしまうというチャネリング効果が生じていた。そして、先行技術に開示されている充填床システムのもう1つの大きな欠点は、培養プロセスの最後に、生細胞を無傷の状態で効率的に採取できないことである。特許文献4には、細胞採取ステップでの充填床からの細胞回収効率を向上させるバイオリアクターの設計が開示されている。これは、充填床マトリクスをほぐし、充填床の粒子を撹拌して(かき混ぜて)多孔質マトリクスを衝突させることによって、細胞の剥離を行うことに基づいた設計である。しかしながら、この手法は手間がかかる上に、細胞に大きなダメージを与える可能性があるため、全体的な細胞生存率を低下させる恐れがあった。
【0006】
そして充填床バイオリアクターを用いたすべての既存のプラットフォームが抱える制約に、細胞密度が最大に近づくにつれて、バイオリアクターの後端(バイオリアクター内の流路の末端)にある細胞が十分な栄養や酸素を得ることができなくなるため、細胞の生産性が阻害されてしまうということがある。このような栄養素や酸素の欠乏は、充填床の流路を介した栄養素や酸素の供給勾配とみなすことができる。そして、細胞の働きに悪影響を及ぼすこのような栄養/酸素勾配の発生を抑えるために、培地灌流経路が比較的短くなるように固定床を設計する場合があった。しかし、このような設計は、バイオプロセス治療薬製造におけるリアクターの拡張性に大きな影響を与えてしまう。例えば、懸濁攪拌槽バイオリアクターの場合、2,000Lや10,000Lまで規模を拡大することができるが、一般的な充填床バイオリアクターの場合、50Lの容量までしか規模を拡大することができない。よって、初期の臨床試験用のウイルスベクターの製造であれば既存のプラットフォームでも可能であるが、後期の商業生産規模までカバーするために、高品質な生成物をより大量に製造できるプラットフォームが必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第4833083号明細書
【特許文献2】米国特許第5501971号明細書
【特許文献3】米国特許第5510262号明細書
【特許文献4】米国特許第9273278号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特に、充填床を通過する細胞や栄養素の流体の流れを管理し、充填床内の栄養素勾配及び/又は酸素勾配を低減しながら、充填床を区画化するプラットフォーム及び方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書に開示するモジュール式細胞培養システムは、細胞培養空間に細胞培養基材を収容する内部空洞と、細胞培養空間の下方にある放射状流(ラジアルフロー)マニホールドと、該マニホールドの中心に流体を供給する流体入口と、空洞から流体を排出する流体出口と、を有する独立型細胞培養サブユニットを備えている。空洞は、流体が流体入口から流入し、次にマニホールドを通過し、次に細胞培養空間を通過し、次に流体出口から流出するように構成されている。独立型細胞培養サブユニットは、該サブユニットの上部及び下部の少なくとも一方に、位置合わせ機構をさらに備えている。マニホールドは、細胞培養空間の幅にわたって均一な流量で流体を供給することができる。位置合わせ機構は、別の独立型細胞培養サブユニットの位置合わせ機構と位置合わせすることにより、複数の独立型細胞培養サブユニットを積み重ねることが可能となっている。
【0010】
本開示のさらなる態様は、その一部を、以下の詳細な説明、図面、及びいずれかの請求項に記載しているが、その一部は、詳細な説明から導き出されるか、又は本開示を実施することによって知ることができるであろう。当然ながら、上述の概略的説明及び以下の詳細な説明は、本開示を例示的に説明するものに過ぎず、本開示の開示内容を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
下記の添付の図面と併せて、以下の詳細な説明を参照して理解することによって、本開示をより完全に理解することができるであろう。
図1】本開示の1つ以上の実施形態に係る細胞培養サブユニットを示す模式的断面図
図2】本開示の1つ以上の実施形態に係る、図1のモジュール式細胞培養サブユニットのスタックを示す図
図3】本開示の他の実施形態に係る細胞培養サブユニットを示す模式的断面図
図4】本開示の1つ以上の実施形態に係る、図3のモジュール式細胞培養サブユニットのスタックを示す図
図5A】本開示の1つ以上の実施形態に係る、細胞培養サブユニット内部の保持機構を示す詳細図
図5B】本開示の1つ以上の実施形態に係る、細胞培養サブユニット内部の保持機構を示す詳細図
図6】本開示の1つ以上の実施形態に係る、複数の個別の培地調質容器及びモジュール式細胞培養スタックを用いた細胞培養システム及び流路を示す図
図7】本開示の1つ以上の実施形態に係る、共通の培地調質容器及びモジュール式細胞培養スタックを用いた細胞培養システム及び流路を示す図
図8A】本開示の1つ以上の実施形態に係る、モジュール式細胞培養サブユニットの放射状流マニホールドを示す平面図
図8B】本開示の1つ以上の実施形態に係る、細胞培養基材と組み合わせた状態の図8Aの放射状流マニホールドを示す模式的断面図
図9】本開示の1つ以上の実施形態に係る、図8A及び図8Bの細胞培養サブユニットのスタック構成を示す模式的断面図
図10】本開示の1つ以上の実施形態に係る、無菌プルタブを有するキャリアに図9のスタック構成を入れた状態を示す図
図11】本開示の1つ以上の実施形態に係る、図10のキャリアを2つ重ねたスタック構成を示す図
図12】本開示の1つ以上の実施形態に係る、図10のキャリアのより大型のスタック構成を示す図
図13】本開示のいくつかの実施形態に係る充填床バイオリアクターを組み込んだバイオプロセスシステムを示す模式図
図14】1つ以上の実施形態に係る、細胞培養システムの灌流流量制御動作を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本開示の種々の実施形態を説明する。図面は、本開示の実施形態に係る充填床バイオリアクターシステム、及びこれに関連する、該バイオリアクターシステムを使用する方法の種々の態様を示すものである。なお、図示の実施形態は、限定を意図するものではない。以下の説明は、バイオリアクターシステムを実施可能な程度に説明することを意図している。本開示においては、バイオリアクターシステム及び方法の種々の態様を、実施形態を参照して具体的に詳述するが、これらの実施形態は限定を意図するものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で、互いに置き換えることができるものである。
【0013】
本開示は、モジュール式固定床バイオリアクター、及びそのような固定床バイオリアクターを積み重ねたスタックを有するバイオリアクターシステムを説明するものである。いくつかの実施形態は、複数の個別の固定床バイオリアクターモジュールと、複数の連結ユニットを積み重ねたアセンブリと、を備えている。組み合わせ可能な個別の充填床モジュールを使用することで、細胞培養中に生じる充填床内の栄養素及び/又は酸素の勾配によって動作条件が制限されてしまうことを回避する、拡張性のあるソリューションが提供される。個々のモジュールは、短い培地灌流経路を提供するものであり、これにより、最適な細胞培養条件を支援する。また、複数の個別モジュールを1つのユニットに組み立てることができるため、製造工程の規模拡大にも柔軟に対応できる。エンドユーザーは、生産バッチの目標収量に応じて、例えば、1~10個以上の個別ユニットを同時利用するシステムを構築することができる。
【0014】
図1を参照すると、本開示の1つ以上の実施形態に係る、モジュール式細胞培養システムの個別細胞培養ユニット100が示されている。細胞培養ユニット100は、バイオリアクターの動作時に培地を灌流するための細胞培養培地入口1と細胞培養培地出口2とを有する容器を備えている。また、細胞培養ユニット100は、流量分配プレート3,3’をさらに備えている。流量分配プレート3,3’は、細胞培養基材4の充填床層の両側にそれぞれ設けられ、充填床内での均一な培地灌流を補助する。また、流量分配プレート3,3’は、細胞培養基材を所定の位置に保ち、構造的に支持するための、充填床の構造補強障壁又は格納障壁でもあり得る。入口1と出口2の間に細胞培養基材4を配置することで、培地は、基材4内の複数の矢印で示す方向Fに基材4を通過して流れる。バイオリアクターの動作時には、付着細胞が、バイオリアクター床に充填された基材4の表面に付着して増殖する。充填床を通る培地流路Fに沿って生じる栄養や酸素の勾配を最小限に抑えるべく、ユニット100は、充填床の高さが低くなるように設計されている。
【0015】
細胞培養ユニット100は、1つ以上の位置合わせ機構5を更に備えている。位置合わせ機構5は、ユニット100の上部及び/又は下部に設けられる。位置合わせ機構5は、細胞培養ユニット100と類似する複数の細胞培養ユニットを互いに位置合わせするために用いられ、これにより、バイオリアクターシステムの規模を拡大することができる。図2は、4つのユニット100A~100Dをこのように積み重ねてスタック式細胞培養システム110を形成した一実施形態の一例を示している。図2の挿入図Aは、隣接するユニット100A,100Bの各位置合わせ機構5A,5Bの状態を示している。このように、位置合わせ機構により、ユニット同士を確実に積み重ねて位置合わせすることが可能となる。また、いくつかの実施形態の一態様として、ユニット100が単独の細胞培養ユニットとして使用される場合やスタックの最上段ユニットである場合には、位置合わせ機構を用いて、ユニット100に蓋又はキャップを固定することができる。位置合わせ機構は、図1及び図2に示す直線的な壁から成るシンプルな形態を含め、多くの形態をとることができ、スタックが誤って分解してしまうことを防ぐ係合機能を有することもできる。
【0016】
例えば、図3に示す一実施形態に係る細胞培養ユニット150は、誤って分離してしまうことを防止するために、位置合わせ機構15A,15Bが、互いに係合する外形を有している。さらに、図3Aの挿入図Bに示すように、出口ポート2を一体的に有する上蓋6が設けられている。同様に、細胞培養ユニット150の下部に設けられた位置合わせ機構も出口ポート7を一体的に有している。出口ポート7は、細胞培養ユニット150の下に重ねられる細胞培養容器の出口ポートとなるように設計されている。このように、個々のユニットは、効率的に積み重ねることができる上、各ユニットが入口ポートと出口ポートとを有しているため、余分な材料が必要とならず、体積が必要以上に大きくなってしまうことがないことから、拡張性がありながらコンパクトな細胞培養システムを実現することができる。例えば、ユニット150を4つ積み重ねると、図4に示すような細胞培養システム160が得られる。システム160では、図3に示す構造を有する個別ユニットが4つ積み重ねられ、一体化されている。図4のユニット1~4のそれぞれが、培地入口(それぞれ、1-1、1-2、1-3、1-4)と培地出口(それぞれ、2-1、2-2、2-3、2-4)とを有する。
【0017】
図5A及び図5Bは、細胞培養ユニットの1つ以上の実施形態の一態様を示す図である。図5A及び図5Bに示すように、流量分配プレート23又は保持スクリーンは、保持機構15の下に入れることによって、細胞培養基材4の上の所定位置に保持することができる。保持スクリーン又は流量分配プレート23によって、充填床基材を所定の位置に保持できるとともに、充填床を所望の充填密度に圧縮することができる。例えば、図5Aは、保持スクリーンが所定の位置に設置される前の状態であるため、充填床は圧縮されておらず、充填密度は比較的低い。しかし、保持スクリーン23を保持機構15の下の所定の位置に嵌め込むと、充填床を圧縮することができる。いくつかの実施形態によれば、保持機構15の厚さは、所定の用途に適した所望の充填密度が得られるように変化させることができ、又は複数の保持スクリーンを用いて充填密度を高くすることもできる。
【0018】
図6は、いくつかの実施形態に係るスタック式細胞培養システム250を示す図である。図示の通り、システム250は4つの個別細胞培養ユニット1~4を有しており、個別細胞培養ユニット1~4は図4に示すように積み重ねられている。各ユニットの細胞培養培地は、可撓性チューブ10を介してそれぞれに専用のポンプ8によって独立に灌流される。各ユニットの細胞培養培地は、pH、温度、溶存酸素などの多数の因子のうち任意の因子を調整することによって調質される。図6の実施形態では、調質は、専用の培地調質容器9a~9dで独立して行われる。
【0019】
図7は、本開示の他の実施形態に係るスタック式細胞培養システム270を示す図である。システム270の個別ユニット1~4は、図4及び図6と同様に積み重ねられている。ただし、システム270では、ユニット1~4は、共通の培地調質容器279を使用して互いに並列に動作する。各ユニット1~4の細胞培養培地は、可撓性チューブ10を介して1台のポンプ8’によって灌流される。培地の流量は、流量分配器12において個別ユニット間で均等に分配される。各バイオリアクターユニットの流通抵抗は、容器11の静水圧平衡により均等化することができる。容器11を通過すると、培地は重力により酸素供給塔17を通って流れ、培地調質容器279に戻る。酸素供給塔17は、酸素を気泡化して培地に溶解させるものである。任意選択的な構成として、システム270は、ガス出口18で大気に開放されている。
【0020】
本開示のいくつか実施形態の上述の態様によれば、細胞又は細胞由来の産物(例えば、タンパク質、抗体、ウイルス粒子など)のいかなる実際の生産規模にも容易に拡張可能な、付着依存性細胞用の充填床バイオリアクターシステムが提供される。一実施形態では、個別のバイオリアクターサブユニットは、構造的に画定された細胞培養基材で充填されており、付着細胞は細胞培養基材に付着し、増殖、機能することができる。好適な実施形態では、細胞培養基材は、ポリマー材料の織物又は織物メッシュであってよく、複数枚のシート状織物を積み重ねたものであってもよい。
【0021】
上述したように、図1及び図3は、これらの細胞培養サブユニットのいくつかの実施形態の異なる態様を示している。例えば、各バイオリアクターサブユニットは、培地入口ポート1と、培地出口ポート2と、付着細胞を付着させて、増殖、機能させるための充填床領域4とを有している。充填床バイオリアクターに付着した細胞に栄養素と酸素を安定かつ均一に送達するためには、バイオリアクターサブユニットを通る培地の流れを均一かつ一定にすることが必要である。培地灌流の均一性は、充填床の上流側にあたる下側に流量再分配プレート3を組み込むことで実現される(図1及び図3)。流量再分配プレートを培地入口に設置することによって、培地の流れを中央の入口地点から水平方向に変えて、培地が充填床を均一に灌流するようにしている(図1の矢印F)。充填床バイオリアクター内の培地灌流の性質上、栄養素やpH、酸素の勾配が充填床に沿って形成される。そのため、充填床の全高には制約がある。一般に、付着細胞培養用の典型的な充填床の高さは、培地勾配による培地欠乏による制約から、最大10cmである。本明細書に開示するモジュール式で積み重ね可能なサブユニットという概念は、充填床バイオリアクターの生産力を向上して、10cm充填床1枚で可能な範囲を上回る生産力を与えるためのものである。個々のバイオリアクターサブユニットの充填床の高さは、一定かつ、個々のサブユニットにおいて培地勾配による培地欠乏が問題とならない程度に十分小さい厚さ(例えば、約20cm以下、又は約10cm以下)とすることができる。
【0022】
当該システムが生産設備に占める設置面積を最小限に抑えるため、複数のサブユニットを上下に集積して1つのシステムとすることができる。図2及び図4はそれぞれ、4つの個別サブユニットを上下に積み重ねて形成したスタック式システム110,160を示している。アセンブリの物理的安定性を確保するため、個々のサブユニットは、サブユニットの上面及び下面より突出した係合リム(例えば、図2の挿入図Aを参照)で位置合わせされる。あるいは、2つの同一サブユニットをねじ接続することにより、個別のサブユニットを係合することもできる(例えば、図3及び図4の挿入図Bを参照)。1つのサブユニットを独立型ユニットとして単体で動作させたい場合には、図3に示すように、その上部を、出口2を一体化した蓋6と交換することができる。
【0023】
図4は、4つのサブユニットをねじ接続で上下に集積した状態を示す。各サブユニットは、個別の培地入口1のポートと培地出口2のポートとを有している。各サブユニットの下部は、下のサブユニットの上部の役割を兼ねている。各サブユニットは、付着細胞を増殖させて治療成分を生産するための充填床織物基材を有する細胞培養領域を有している。上述した通り、図5A及び図5Bに示すように、この織物メッシュは、保持グリッド3’によってバイオリアクターに充填、圧縮、保持することができる。バイオリアクターの空洞内にメッシュ基材4を積み重ねた後、バイオリアクターの内壁から突出する保持機構15で保持グリッド3’を押圧して保持グリッド3’をその位置に固定する。
【0024】
図2及び図4に示す上下に積み重ねた個別バイオリアクターサブユニットは、(図6に示すように)個別のポンプ8でそれぞれ灌流し、個別の培地調質容器9を設けることによって、それぞれ独立して動作させることができる。この構成は、特に、バイオプロセス開発段階での使用に適している。異なる細胞培養条件(pH、DO2レベル、培地組成、栄養補給スケジュール)を維持するという自由度の高い設定で、複数の同一バイオリアクターを同時に動作させることで、エンドユーザーは最適なバイオプロセス条件を速やかに特定することができる。
【0025】
一方、生産プロセスでは、図7に示すように、1台の灌流ポンプ8’と共通の培地調質容器279を利用して、個別のバイオリアクターサブユニットを並列に動作させることもできる。すべてのバイオリアクターサブユニットで均一かつ均等に培地を灌流させるために、本実施形態の一態様として、独自の流体流路が提示されている。特定的には、図7に示すように、細胞培養培地は、液体ポンプ8’によって個別のバイオリアクターサブユニットを通過するように灌流された後、流量分配ユニット12に流入する。このユニットからバイオリアクターサブユニットへの培地出口は、流通抵抗が等しくなるようすべてが同一の径を有している。図7では、流量分配ユニット12を、例えば、4つの個別バイオリアクターサブユニット(ユニット1~ユニット4)用の4つの培地出口を有するものとして図示している。しかしながら、培地出口やバイオリアクターサブユニットの数がこれより少ない又は多いシステムも、いくつかの実施形態に含まれる。定常状態の圧力駆動流について、個々のバイオリアクターサブユニットを通過する体積流量は、以下の式で表すことができる:
Q=ΔP/R
式中、ΔPは、図7における培地入口13と培地出口14との間の圧力差である。この圧力差は、流体の移動に対する抵抗による摩擦圧力損失、重力による静水圧損失、及び、培地入口13と培地出口14との間の高低差Hからなる。4つのバイオリアクターサブユニットすべてについて、培地入口13及び培地出口14は同じ高さに配置されており、よって静水圧損失は同一となる。すべてのバイオリアクターサブユニットが同一体積の充填床を有しており、チューブ10の全長が同じである場合、動水圧は等しくなる。その結果、培地入口13と培地出口14との間の総圧力差は、すべての個別バイオリアクターサブユニット(図7のユニット1~ユニット4)において同一となる。つまり、通常の細胞培養時に、1台の流体ポンプ8’で全てのサブユニットに均一な培地灌流を行うことができる。すべてのバイオリアクターサブユニットの培地灌流流量が等しければ、同一の細胞培養条件が得られ、一台の培地調質容器279だけで、培地のpH、酸素供給、温度、栄養素濃度を適切な値に保つことができる。
【0026】
出口での静水圧を平衡させるために、オーバフローユニット11を設けることもできる。オーバフローユニット11は、入口14と同じ高さに配置されたチューブ出口と、培地オーバフローバリア18とを有している。培地オーバフローバリアによって、重力で培地を培地調質容器279に戻すことができる。オーバフローユニットはポート18を介して外気に開放され、システムの無菌状態は無菌ガスフィルタによって維持される。培地を自由流で培地調質容器に流し込むことができるため、気液界面の面積を大幅に増大させることができる。さらに、培地は、戻り経路で酸素供給塔17を通過して溶存酸素の消耗量を補充する。培地に酸素を補充するために、培地調質容器279に、予混合ガス源19を導入することもできる。このガス(青色の矢印で示す)は酸素供給塔内に反対方向の流れを作り出し、出口18でシステムから排出される。酸素供給塔17内で酸素供給ガスを培地とは反対方向に流すことによって、消耗した培地の酸素濃度を大幅に上昇させることができる。
【0027】
本開示のいくつかの実施形態の追加的な態様として、細胞培養培地を放射状に充填床を通して流す充填床バイオリアクター容器及びシステムが提供される。このような実施形態によって提供される固定床バイオリアクターは、バイオリアクターの充填床における細胞培養基材内部の流速が均一であり、これにより、モジュール式システム全体の複数の固定床全体にわたって、制御された均一な環境を作り出すことができる。さらに、このシステムは、バイオリアクター内の充填床以外の部分の体積を低減するように設計されており、バイオリアクターの設置面積を最小限に抑えることができる。さらに、エンドユーザーの製造ニーズに合わせて、エンドユーザー自身がシステムの規模を最適化できるよう、モジュール化された設計となっている。また、閉鎖系として設計されたシステムでもある。
【0028】
1つ以上の実施形態によれば、細胞が培養される固定床サブユニットの間に、薄型の放射状流マニホールドが配置される。放射状流マニホールド内の流量は、バイオリアクターの設計上の抵抗により異なり、培地が、均一な流量で(1つ又は複数の)固定床の表面全体に広がりかつ(1つ又は複数の)固定床の大部分を通って送達されるように設定される。基材材料や培地を入れると各ユニットは非常に重くなるため、モジュール設計を採用することによって、モジュールの重量を操作者が安全に取り扱える範囲に(例えば、持ち上げられるように25ポンド(約11.34kg)以下に)制限すれば、非常に大型の使い捨て(single use)固定床バイオリアクターを、手作業で構築することが可能となる。容器の取り扱いを容易にしながら容器の閉鎖系を維持するために、無菌接続部を使用することもできる。無菌接続部は、モジュールに組み込んでもよく、又はモジュール外周のチューブ上に付加してもよい。
【0029】
固定床の細胞培養基材を上方向に通過する培地の送達を制御するために、マニホールド内部で流速が変化するようにマニホールド302を成形する(なお、マニホールド内での流速の変化は問題とならない)。マニホールド302の成形は、(1つ又は複数の)固定床の体積全体に均一な培地流を送達し、細胞培養ゾーン全体に均一な培地流環境を構築するように行うことができる。図8Aは、通過する培地を多方向に分散させて固定床に供給する支持構造を有する放射状流マニホールド302の平面図である。図8Aの右側には、マニホールド302を通過する培地の流量が、マニホールド内部で拡散するにつれて変化する様子が描かれている。
【0030】
図8Bは、本実施形態に係る細胞培養サブユニット300の側断面図である。サブユニットは、中央流カラム304を有している。培地は、中央流カラム304を通ってサブユニット300に送達される。複数の矢印Fで示すように、培地は中央流カラム304を上方向に流れ、次に、充填床基材306の下のマニホールド302を通って放射状に流れる。充填床306内及びマニホールド302内の抵抗が均一であるため、充填床基材306自体を通る流れは均一である。図9に示すように、2つ以上のモジュール式サブユニット300A,300Bを積み重ねて、スタック式細胞培養システム310を形成することができる。したがって、マニホールド302によって、すべての固定床ゾーンに均一な流れを維持しながら複数の充填床を嵌め合わせて一体化することが可能となる。
【0031】
図10は、4つのサブユニット322A~322Dからなるより大規模なスタック式細胞培養システム320を示す図である。図10には、本設計のモジュール性が、いかにシステムの大規模化に直接役立つものであるかが示されている。図10には、無菌プルタブ324も示されている。無菌プルタブ324は、そのままの位置に置いておくことで閉鎖系を維持することができるほか、取り外してモジュール式システムをさらに拡張することもできる。任意選択的に、モジュラーシステム全体を、ユーザにとって取り扱い易いように持ち手を有するキャリア326に備え付けることもできる。図11に示すように、このキャリア326は2つ以上積み重ねることができ、無菌タブを引いて、隣接するキャリア326を互いに接合することもできる。このように構成することにより、取り扱いの容易なモジュール性を維持しながら、システムをさらに拡張することができる。例えば、図12は6つのキャリアを接続した様子を示しており、各キャリアには4つの細胞培養サブユニットが収容されている。このスタック式システムは、底板に培地入口を有し、天板に培地出口を有しており、システム全体に培地を供給できるようになっている。その結果、体積の90%以上を細胞培養基材が占める、非常にコンパクトな設計となっている。
【0032】
本開示のいくつかの実施形態の一態様として、細胞培養基材を適切なものとすることによって、充填床を通る培地流の均一性が高くなり、均一な細胞播種や、細胞への均一な栄養素供給、細胞採取のための均一な細胞剥離が実現できる。このような基材材料の例は、米国仮特許出願公開第62/801325号、同第62/910696号の各明細書、及び国際公開第2019/104069号に開示されており、これらの特許明細書のすべての内容は引用することによって本明細書の一部をなすものとする。
【0033】
細胞培養基材は多孔質であり、これにより、細胞や培地、栄養素、細胞副産物を基材全体に灌流させることができるとともに、細胞分泌物(例えば、組み換えタンパク質、抗体、ウイルス粒子、DNA、RNA、糖、脂質、バイオディーゼル、無機粒子、ブタノール、代謝副産物)を含む使用済み培地(spent media)を、基材を通して流し、採取することができる。以下に、いくつかの実施形態に係る細胞培養基材を更に詳細に説明する。
【0034】
本明細書において開示する容器又はサブユニットは、プラスチック、ガラス、セラミック又はステンレス鋼とすることができる。いくつかの実施形態によれば、人による目視、又は多数のセンサ、プローブ、カメラ、又は監視部のいずれかによって容器内部を検査することができるように、容器の全体又は一部が透明材料で作られていてもよく、又は、容器202の外壁に1つ以上の透明窓を備えていてもよい。例えば、いくつかの実施形態の一態様によれば、光学カメラ又はラマン分光法プローブを用いて、容器の空洞内の細胞培養の進行状況を監視することができる。
【0035】
図13は、1つ以上の実施形態に係る、本明細書に記載のバイオリアクター402をバイオプロセスシステム400に組み込んだ状態を示す図である。システム400は、例えば、pH、温度、及び酸素供給レベルなどの細胞培養培地のパラメータを適切な状態に維持するための培地調質容器411を備えている。自動制御ポンプ409は、バイオリアクター402の中に培地を灌流させるために使用される。バイオリアクター入口413は、細胞の接種や採取した細胞の回収を容易に行えるようにするために、三方ポートをさらに備えている。システム400は、培地調質容器411内部のセンサに加えて、配管内センサを備えることもできる。
【0036】
上述の通り、本開示のいくつかの実施形態に係るバイオリアクターは、容器内の培地及び細胞培養環境の監視と調整のためのポート及びセンサを1つ以上備えることができる。ただし、いくつかの実施形態によれば、バイオリアクター外部の第2の容器で、細胞培養培地の検出や調質を行ってもよい。例えば、図13は、バイオプロセスを成功させるために必要なプロセス条件を支える主要な外部コンポーネントにバイオリアクター容器402を接続した状態を示す模式図である。図13では、そのような主要外部コンポーネントとして、培地調質容器、バイオリアクターに培地を流すポンプ、外部の溶存酸素センサが図示されている。細胞培養培地は、培地調質容器411で調質されて、pH、温度及び溶存酸素レベルが適切な値に維持される。次に、培地は、ポンプ409によってバイオリアクター内を灌流される。ポンプ409の流量は、バイオリアクターから排出される培地中の溶存酸素レベルを所定のレベルに最低限維持するように自動調整するフィードバックループに組み込まれている。培地調質容器411で、所定のバイオプロセスで必要とされるすべてのトランスフェクション試薬、栄養素、及び培地添加物をバルク培地に加えることができるとともに、使用済みの培地を取り除くことができる。プロセスの最後に、バイオリアクターから培地を排出して、バイオリアクターを細胞採取溶液422で再び満たすことができる。細胞が基材から剥離するのに十分な所定の時間にわたって、採取溶液中で充填床をインキュベートした後、バイオリアクター出口で空気圧をかけて70ml/cm(充填床の断面積)/分の範囲の流量の逆流を起こすことによって、細胞を採取する。細胞の採取は、バイオリアクターの三方ポート413で行われる。また、バイオリアクター内で直接細胞を溶解し、AVV粒子を含有する溶解液を三方ポート413から回収することもできる。
【0037】
培地調質容器404は、バイオプロセス産業において、浮遊培養、流加培養又は灌流培養の用途で使用される代表的なバイオリアクターで用いられるセンサ及び制御コンポーネントを備えることができる。そのようなセンサ及び制御コンポーネントとして、DO酸素センサ、pHセンサ、酸素供給/ガススパージャ部、温度プローブ、栄養素添加ポート、塩基添加ポートなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。スパージャ部に供給される混合ガスは、Nガス、Oガス及びCOガス用のガス流コントローラで制御することができる。培地調質容器404は、培地混合のためのインペラも内蔵している。上記のセンサによって測定された全ての培地パラメータは、培地調質制御部418によって制御することができる。培地調質制御部418は、培地調質容器404と通信を行い、細胞培養培地406の状態の測定及び/又は所望のレベルへの調整を行うことができる。
【0038】
培地406は、培地調質容器404からバイオリアクター402の入口を介してバイオリアクター402に送達される。この入口は、細胞接種材料を播種して細胞の培養を開始するための注入ポートをさらに備えてもよい。バイオリアクター容器402は、1つ以上の出口をさらに備えることができる。この出口を介して、容器402から細胞培養培地が排出される。また、この出口から細胞又は細胞産物を取り出すこともできる。バイオリアクター402から出る流体の内容物を分析するために、1つ以上のセンサ412を配管内に設けることもできる。いくつかの実施形態では、システム400は、バイオリアクター402への流量を制御するための流量制御部を備えている。例えば、流量制御部は、1つ以上のセンサ412から信号を受信し、この信号に基づいて、バイオリアクター402の入口408より上流のポンプ(例えば、蠕動ポンプ)に信号を送信することによって、バイオリアクター402への流量を調節することができる。したがって、センサ412が測定した因子のうちの1つ又はその組み合わせに基づいて、ポンプがバイオリアクター402への流量を制御することにより、所望の細胞培養条件を実現することができる。
【0039】
培地灌流流量の制御は、培地調質容器404からのセンサ及び充填床バイオリアクターの出口に配置されたセンサからの信号を収集、比較する信号処理部によって行われる。充填床バイオリアクター402内の培地灌流の性質上、栄養素やpH、酸素の勾配が充填床に沿って形成される。バイオリアクターの灌流流量は、図14のフローチャートに従って、蠕動ポンプに動作可能に接続された流量制御部によって自動制御することができる。
【0040】
図14は、図13のシステム400などの灌流バイオリアクターシステムの流量を制御するための方法450の一例を示す図である。方法450によれば、ステップS1で、バイオリアクター最適化の実行により、システム400の特定のパラメータが予め決定される。最適化の実行により、pH、pO、[グルコース]、pH、pO、[グルコース]、及び最大流量の値を決定することができる。ステップS2で、バイオリアクター402の細胞培養チャンバの中で、pH、pO、及び[グルコース]の値が測定される。ステップS3で、培地調質容器404内のセンサ412によって(又は、本明細書に記載の実施形態に係るバイオリアクターの中で)、pH、pO、及び[グルコース]が測定される。次に、S4で、灌流ポンプ制御部が、S2及びS3で測定した値に基づいて、灌流流量を維持するか調整するかの判定を行う。例えば、pH≧pH2min、pO≧pO2min、及び[グルコース]≧[グルコース]2minのうちの少なくとも1つが成立する場合に、細胞培養チャンバへの細胞培養培地の灌流流量を現在の流量のまま継続することができる(S5)。現在の流量が、細胞培養システムの所定の最大流量以下である場合、灌流流量を増加させる(S7)。さらに、現在の流量が、細胞培養システムの所定の最大流量以下でない場合、細胞培養システムのコントローラが、(1)pH2min、pO2min、及び[グルコース]2min、(2)pH、pO、及び[グルコース]、(3)バイオリアクター容器の高さ、のうちの少なくとも1つを再評価することができる(S6)。
【0041】
本開示のいくつかの実施形態は、複数のバイオリアクターと、バイオリアクター内で使用する複数の細胞培養基材と、を備えるものである。そのような細胞培養基材には、細胞又は細胞由来の産物(例えば、タンパク質、抗体、ウイルス粒子など)のいかなる実際の生産規模にも容易かつ効果的に拡張可能な、付着依存性細胞用の細胞増殖マトリクス及び/又は充填床システムとしての基材が含まれる。一実施形態では、マトリクスは、付着細胞の付着・増殖用に規定された構造を有する表面領域を有している。この表面領域は、優れた機械的強度を有するとともに、充填床又は他のバイオリアクターに組み込まれたときに、非常に均一な多重相互接続流体ネットワークを形成するものである。特定の実施形態では、機械的に安定した非分解性の織物メッシュを使用して、付着細胞の生産を支援することができる。このようなマトリクスは、均一な細胞播種を実現できるとともに、細胞などのバイオリアクター生成物の効率的な採取も実現できる。さらに、本開示のいくつかの実施形態によれば、細胞培養によって本開示のマトリクス上に付着細胞がコンフルエントな単層又は多層を形成することを支援するとともに、3次元の細胞凝集体が形成されて、栄養素の拡散が制限され、代謝物濃度が高くなってしまう事態を防ぐことができる。1つ以上の実施形態に係る、規定構造を有するマトリックスによれば、バイオリアクターの充填床から細胞を完全に回収し、細胞を着実に採取することが可能となる。本開示の他の実施形態では、治療用タンパク質、抗体、ウイルスワクチン、又はウイルスベクターのバイオプロセス生産用のマトリクスを有するバイオリアクターを使用して細胞培養を行う方法が提供される。
【0042】
1つ以上の実施形態において、細胞培養マトリクスは、体積密度が高い構成での付着依存性細胞の付着及び増殖を支援するものである。このマトリクスは、本明細書に記載の灌流充填床バイオリアクターなどのバイオリアクターシステムに組み込んで使用することができ、マトリクス又は充填床の内部に、大きくて及び/又は制御不能な細胞凝集体が形成されてしまうことを防止しながら、接種ステップ時に均一な細胞分布を実現することができる。したがって、このマトリクスによって、バイオリアクター動作時に細胞を拡散させるのが難しいという制約が解消される。また、このマトリクスにより、バイオリアクターからの細胞採取が容易かつ効率的に行えるようにもなる。
【0043】
マトリクスは、相対的に小さい厚さで隔てられた第1の面と第2の面とを有する薄いシート状の構造を有する基材で形成することができる。換言すれば、シート状基材の厚さは、基材の第1の面及び第2の面の幅及び/又は長さに比べて小さい。さらに、基材の厚さを貫通する複数の穴又は開口部が形成されている。開口部間に存在する基材材料の大きさと形状は、細胞が2次元(2D)表面に対する場合と同様に基材表面に付着することを可能にするとともに、基材材料の周囲と開口部内に適度な流体流が生じることを可能にするものである。いくつかの実施形態では、基材はポリマー系材料である。基材の取り得る形態としては、成形ポリマーシート、厚さを貫通する開口部を有するポリマーシート、多数のフィラメント同士が融着したメッシュ状の層、又は複数のフィラメントを織り合わせたメッシュ状の層が挙げられる。マトリクスの物理的構造は、付着依存性細胞の培養に適した高い表面積対体積比を有するものである。種々の実施形態によれば、マトリクスを特定の方法でバイオリアクターに配置又は充填することにより、均一な細胞播種、均一な培地灌流、及び効率的な細胞採取を実現することができる。
【0044】
細胞培養基材は、第1の方向に延在する第1の複数の繊維と、第2の方向に延在する第2の複数の繊維とからなる織物メッシュ層とすることができる。織り合わされた基材の繊維によって、複数の開口部が形成されている。開口部の大きさや形状は、織りの種類(例えば、フィラメントの数、形状、繊度、交差するフィラメント間の角度など)によって変化させることができる。開口部は、特定の幅や直径によって規定することができる。織物メッシュは、巨視的には2次元のシート又は層とみなすことができる。しかし、織物メッシュをよく見ると、網目で交差する繊維の立ち上がりと立ち下がりによって、3次元的(立体的)な構造になっていることがわかる。したがって、織物メッシュの厚さは、単繊維の場合よりも厚くてもよい。
【0045】
織物メッシュは、ポリマーモノフィラメント繊維又はポリマーマルチフィラメント繊維で構成することができる。1つ以上の実施形態において、モノフィラメント繊維は、約50μm~約1000μmの範囲内の径を有することができる。微視的には、細胞と比べた繊維の大きさのため(例えば、繊維径が細胞よりも大きいため)、モノフィラメント繊維の表面は、付着細胞が付着、増殖する規則的な2次元表面として現れる。このような繊維を織り合わせて、所定のパターンと一定の構造剛性を持つメッシュにする。繊維は、約100μm×100μm~約1000μm×1000μmの範囲の開口部を複数持つメッシュに織ることができる。上記の範囲のフィラメント径及び開口部径は、いくつかの実施形態における一例であり、すべての実施形態に係るメッシュが取り得る形状を限定することを意図するものではない。
【0046】
基材メッシュは、細胞培養用途に適したポリマー材料のモノフィラメント繊維又はマルチフィラメント繊維から作製することができる。そのようなポリマー材料としては、例えば、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリビニルピロリドン、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンオキシド、ポリピロール類、ポリプロピレンオキシドなどが挙げられる。メッシュ基材は、例えば、編み、経編み、織り(平織り、綾織り、畳織り、五本針織り(five needle weave))など、様々な構造パターンや織りを有することができる。
【0047】
メッシュフィラメントの表面の化学的性質は、所望の細胞接着性が得られるように改変する必要がある場合がある。このような改変は、メッシュのポリマー材料を化学的に処理したり、フィラメント表面に細胞接着分子をグラフト重合したりすることで行うことができる。あるいは、例えばコラーゲンやマトリゲル(登録商標)などの、細胞接着性を示す生体適合性ハイドロゲルの薄層で、メッシュをコーティングしてもよい。あるいは、当業界において公知の各種のプラズマや、プロセスガス、及び/又は化学物質による処理工程によって、メッシュのフィラメント繊維の表面に細胞接着性を付与することもできる。
【0048】
織物メッシュ基材は、本明細書に記載のバイオリアクターの中央カラムを囲むように構成された中心穴を有する多数の円板の形で提供することができる。このような円板をバイオリアクターの外側領域に複数枚積み重ねることにより、充填床を形成することができる。
【0049】
いくつかの実施形態によれば、細胞培養基材は、ペクチン酸、部分エステル化ペクチン酸、部分アミド化ペクチン酸、及びそれらの塩のうちの少なくとも1つから選択されるイオノトロピック架橋ポリガラクツロン酸化合物と、表面活性を有する少なくとも1つの第1の水溶性ポリマーと、を含む溶解性発泡足場である。
【0050】
本開示のいくつかの実施形態によれば、バッチあたり約1015~約1018個以上の規模でウイルスゲノムを生産可能な実用規模のウイルスベクタープラットフォームを実現することができる。例えば、いくつかの実施形態では、ウイルスゲノム収量は、バッチあたり約1015~約1016個のウイルスゲノム、又はバッチあたり約1016~約1019個のウイルスゲノム、又はバッチあたり約1016~1018個のウイルスゲノム、又はバッチあたり約1017~約1019個のウイルスゲノム、又はバッチあたり約1018~約1019個のウイルスゲノム、又はバッチあたり約1018以上のウイルスゲノムとすることができる。
【0051】
さらに、本明細書に開示するいくつかの実施形態によれば、細胞培養基材への細胞の付着及び増殖だけでなく、培養した細胞を生存状態で採取することも可能となる。生細胞を採取できないことは、現行のプラットフォームの重大な欠点であり、そのために、生産能力に対して十分な数の細胞を構築、維持することが難しかった。本開示のいくつかの実施形態の一態様によれば、80%~100%の生存率、又は約85%~約99%の生存率、又は約90%~約99%の生存率で、細胞培養基材から生細胞を採取することができる。例えば、採取される細胞のうち、少なくとも80%が生存しているか、少なくとも85%が生存しているか、少なくとも90%が生存しているか、少なくとも91%が生存しているか、少なくとも92%が生存しているか、少なくとも93%が生存しているか、少なくとも94%が生存しているか、少なくとも95%が生存しているか、少なくとも96%が生存しているか、少なくとも97%が生存しているか、少なくとも98%が生存しているか、又は少なくとも99%が生存している。細胞は、例えばトリプシン、TrypLE、又はAccutaseなどを用いて細胞培養基材から剥離することができる。
例示的な実施態様
以下、本開示の主題の種々の実施態様について説明する。各態様は、本開示の主題の種々の特徴、特性、又は利点のうちの1つ以上を含み得るものである。なお、下記の実施態様は、本開示の主題のいくつかの態様を例示的に示すことを意図したものであり、可能な実施態様のすべてを包括的又は網羅的に説明するものと解釈すべきではない。
【0052】
態様1はモジュール式細胞培養システムに関し、モジュール式細胞培養システムは、独立型細胞培養サブユニットを備え、独立型細胞培養サブユニットは、細胞培養空間に細胞培養基材を収容するように構成された内部空洞と、細胞培養空間の下方に配置される放射状流マニホールドと、放射状流マニホールドの中心に流体を供給するように構成された流体入口と、内部空洞から流体を排出するように構成された流体出口と、独立型細胞培養サブユニットの上部及び下部の少なくとも一方に配置される、少なくとも1つの位置合わせ機構と、を備える。内部空洞は、流体が流体入口から流入し、次に放射状流マニホールドを通過し、次に細胞培養空間を通過し、次に流体出口から流出するように構成される。放射状流マニホールドは、細胞培養空間の幅にわたって均一な流量で流体を供給するように構成される。少なくとも1つの位置合わせ機構は、別の独立型細胞培養サブユニットの少なくとも1つの位置合わせ機構と位置合わせするように構成され、これにより、独立型細胞培養サブユニットが別の独立型細胞培養サブユニットと積み重ね可能となっている。
【0053】
態様2は、流体入口と細胞培養空間との間に配置された第1の流量分配プレートをさらに備える、態様1に記載のモジュール式細胞培養システムに関する。
【0054】
態様3は、第1の流量分配プレートが、流体入口からの培地を細胞培養空間の幅にわたって均一に分配するように構成されている、態様2に記載のモジュール式細胞培養システムに関する。
【0055】
態様4は、細胞培養空間と流体出口との間に配置された第2の流量分配プレートをさらに備える、態様1~3のいずれか1つに記載のモジュール式細胞培養システムに関する。
【0056】
態様5は、第2の流量分配プレートが、細胞培養空間から均一に培地が流れ出るのを促進するように構成されている、態様4に記載のモジュール式細胞培養システムに関する。
【0057】
態様6は、第1の流量分配プレート及び第2の流量分配プレートが、細胞培養空間の上部及び下部を画定している、態様2~5のいずれか1つに記載のモジュール式細胞培養システムに関する。
【0058】
態様7は、細胞培養空間内に配置された細胞培養基材をさらに含む、態様1~6のいずれか1つに記載のモジュール式細胞培養システムに関する。
【0059】
態様8は、細胞培養基材が多孔質材料を含む、態様7に記載のモジュール式細胞培養システムに関する。
【0060】
態様9は、細胞培養基材が、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリビニルピロリドン、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンオキシド、ポリピロール類、ポリプロピレンオキシドのうちの少なくとも1つを含む、態様7又は態様8に記載のモジュール式細胞培養システムに関する。
【0061】
態様10は、細胞培養基材が、成形ポリマー格子、3D印刷されたポリマー格子シート、及び織物メッシュシートのうちの少なくとも1つを含む、態様8又は態様9に記載のモジュール式細胞培養システムに関する。
【0062】
態様11は、細胞培養基材が、1本以上の繊維を含んでいる織物メッシュを含む、態様7~10のいずれか1つに記載のモジュール式細胞培養システムに関する。
【0063】
態様12は、1本以上の繊維が、約50μm~約1000μm、約50μm~約600μm、約50μm~約400μm、約100μm~約325μm、又は約150μm~約275μmの繊維径を有している、態様11に記載のモジュール式細胞培養システムに関する。
【0064】
態様13は、織物メッシュが、1本以上の繊維間に複数の開口部を有しており、複数の開口部が、約100μm~約1000μm、約200μm~約900μm、又は約225μm~約800μmの直径を有している、態様11又は態様12に記載のモジュール式細胞培養システムに関する。
【0065】
態様14は、細胞培養基材が溶解性発泡足場である、態様7又は態様8に記載のモジュール式細胞培養システムに関する。
【0066】
態様15は、溶解性発泡足場が、ペクチン酸、部分エステル化ペクチン酸、部分アミド化ペクチン酸、及びそれらの塩のうちの少なくとも1つから選択されるイオノトロピック架橋ポリガラクツロン酸化合物と、表面活性を有する少なくとも1つの第1の水溶性ポリマーと、を含む、態様14に記載のモジュール式細胞培養システムに関する。
【0067】
態様16は、溶解性発泡足場が、接着性ポリマーコーティングを含んでいる、態様14又は態様15に記載のモジュール式細胞培養システムに関する。
【0068】
態様17は、接着性ポリマーコーティングが、ペプチドを含んでいる、態様16に記載のモジュール式細胞培養システムに関する。
【0069】
態様18は、接着性ポリマーコーティングが、BSP、ビトロネクチン、フィブロネクチン、ラミニン、I型コラーゲン、IV型コラーゲン、変性コラーゲン、及びそれらの混合物からなる群より選択されるペプチドを含んでいる、態様17に記載のモジュール式細胞培養システムに関する。
【0070】
態様19は、接着性ポリマーコーティングが、Synthemax(登録商標)II-SCを含んでいる、態様17に記載のモジュール式細胞培養システムに関する。
【0071】
態様20は、複数の独立型細胞培養サブユニットをさらに備えており、複数の独立型細胞培養サブユニットが積み重ねられている、態様1~19のいずれか1つに記載のモジュール式細胞培養システムに関する。
【0072】
態様21は、位置合わせ機構が、複数の独立型細胞培養サブユニットの、隣接する独立型細胞培養サブユニットを接続する連結機構である、態様20に記載のモジュール式細胞培養システムに関する。
【0073】
態様22は、連結機構が、隣接する独立型細胞培養サブユニットを取り外し可能に連結することを可能にする、態様21に記載のモジュール式細胞培養システムに関する。
【0074】
態様23は、連結機構が、隣接する独立型細胞培養サブユニットの位置合わせ機構が持つ係合形状、スナップフィット嵌め閉じ具のかみ合い部、及びねじ接続のうちの少なくとも1つである、態様21又は態様22に記載のモジュール式細胞培養システムに関する。
【0075】
態様24は、内部空洞の内壁に配置される保持機構をさらに備え、保持機構が、第2の流量分配プレートを細胞培養基材に対して所定の位置に保持するように構成されている、態様4に記載のモジュール式細胞培養システムに関する。
【0076】
態様25は、複数の独立型細胞培養ユニットが、キャリア内に配置され、キャリアが、複数の独立型細胞培養ユニットを少なくとも部分的に囲む側壁を有している、態様20~23のいずれか1つに記載のモジュール式細胞培養システムに関する。
【0077】
態様26は、側壁に設けられた持ち手をさらに備えている、態様25に記載のモジュール式細胞培養システムに関する。
【0078】
態様27は、キャリアの上部及び下部の少なくとも一方に設けられた少なくとも1つの無菌閉じ具をさらに備えている、態様25又は態様26に記載のモジュール式細胞培養システムに関する。
【0079】
態様28は、少なくとも1つの無菌閉じ具が、複数のキャリアを接続するために取り外し可能である、態様27に記載のモジュール式細胞培養システムに関する。
【0080】
態様29は、積み重ねて配置される複数のキャリアをさらに備え、複数のキャリアの各々が、複数の独立型細胞培養ユニットを備えている、態様25~28のいずれか1つに記載のモジュール式細胞培養システムに関する。
【0081】
本開示の種々の実施形態が、本開示の特定の実施形態に関連して説明した特定の特徴、要素又はステップを含み得ることが理解されるであろう。また、1つの特定の実施形態に関連して説明した特定の特徴、要素又はステップを、例示していない様々な組み合わせ又は順序で、他の実施形態と交換したり、組み合わせたりすることができることも理解されるであろう。
【0082】
当然ながら、本明細書において、「the(その/前記)」、「a」又は「an」は、「少なくとも1つ」を意味し、特にそうではない旨が明記されている場合を除き、「1つだけ」を意味するものと限定されるべきではない。したがって、例えば、冠詞「an」で導かれる「開口部」という表現は、文脈上明らかにそうでない場合を除き、その「開口部」を2つ以上有する例も包含する。
【0083】
本明細書において、「約(about)」ある特定の値以上、「約」ある特定の値~「約」他の特定の値、又は、「約」該他の特定の値以下、という形で範囲を表現する場合がある。このような表現で範囲を表す場合、例えば、ある特定の値以上、ある特定の値~他の特定の値、又は、該他の特定の値以下、である。同様に、当然ながら、ある値の前に「約」をつけてその値を近似値として表現する場合、その特定の値自身によって構成される他の態様も存在する。また、各範囲の両端点が、互いに相関する意味とともに互いに独立した意味も有していることも当然である。
【0084】
特に明記しない限り、本明細書に記載のすべての数値は、「約」を伴っているか否かにかかわらず、「約」を包含した数値と解釈すべきである。ただし、「約」で導かれた数値として表現されているか否かにかかわらず、本明細書に記載のすべての数値は詳細に検討されたものであることも理解されたい。したがって、「10mm未満の寸法」と「約10mm未満の寸法」のいずれもが、「約10mm未満の寸法」の実施形態と「10mm未満の寸法」の実施形態の両方を包含するものとする。
【0085】
特に明記しない限り、本明細書に記載のいかなる方法も、各ステップ(工程)を特定の順序で実施することを要請していると解釈されることを意図するものではない。したがって、方法クレームにおいてそのステップの順序を実際に記載している場合を除き、又は、各ステップが特定の順序に限定される旨の他の記載が請求の範囲又は発明の詳細な説明において明確になされている場合を除き、各ステップの特定の順序が推測されることは、それがいかなる順序であっても意図していない。
【0086】
特定の実施形態の種々の特徴、要素又はステップを、移行句「~を含む」「~を備える」「~を有する」(comprising)を使用して開示する場合があるが、当然ながら、これは、移行句「~からなる(consisting)」又は「~から本質的になる(consisting essentially of)」を使用して記載し得るものなどの代替的な実施形態も含意するものである。したがって、例えば、A+B+Cを含む(comprise)方法が含意する代替的な実施形態として、A+B+Cからなる(consist of)方法の実施形態、およびA+B+Cから本質的になる(consist essentially of)方法の実施形態が挙げられる。
【0087】
以上、本開示の複数の実施形態を、添付の図面に図示し、上述の詳細な説明において説明してきたが、本開示は、本明細書に記載の実施形態に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲によって記載され定義付けされる開示内容から逸脱しない範囲で、多種多様な再構成や、変形、置換が可能であることは当然である。
【0088】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0089】
実施形態1
独立型細胞培養サブユニットを備えるモジュール式細胞培養システムであって、
前記独立型細胞培養サブユニットは、
細胞培養空間に細胞培養基材を収容するように構成された内部空洞と、
前記細胞培養空間の下方に配置される放射状流マニホールドと、
前記放射状流マニホールドの中心に流体を供給するように構成された流体入口と、
前記内部空洞から流体を排出するように構成された流体出口と、
前記独立型細胞培養サブユニットの上部及び下部の少なくとも一方に配置される、少なくとも1つの位置合わせ機構と、
を備え、
前記内部空洞は、流体が前記流体入口から流入し、次に前記放射状流マニホールドを通過し、次に前記細胞培養空間を通過し、次に前記流体出口から流出するように構成され、
前記放射状流マニホールドは、前記細胞培養空間の幅にわたって均一な流量で流体を供給するように構成され、
前記少なくとも1つの位置合わせ機構は、別の独立型細胞培養サブユニットの少なくとも1つの位置合わせ機構と位置合わせするように構成され、これにより、前記独立型細胞培養サブユニットが前記別の独立型細胞培養サブユニットと積み重ね可能となっている、モジュール式細胞培養システム。
【0090】
実施形態2
前記流体入口と前記細胞培養空間との間に配置された第1の流量分配プレートをさらに備える、実施形態1に記載のモジュール式細胞培養システム。
【0091】
実施形態3
前記第1の流量分配プレートが、前記流体入口からの培地を前記細胞培養空間の幅にわたって均一に分配するように構成されている、実施形態2に記載のモジュール式細胞培養システム。
【0092】
実施形態4
前記細胞培養空間と前記流体出口との間に配置された第2の流量分配プレートをさらに備える、実施形態1~3のいずれか1つに記載のモジュール式細胞培養システム。
【0093】
実施形態5
前記第2の流量分配プレートが、前記細胞培養空間から均一に培地が流れ出るのを促進するように構成されている、実施形態4に記載のモジュール式細胞培養システム。
【0094】
実施形態6
前記第1の流量分配プレート及び前記第2の流量分配プレートが、前記細胞培養空間の上部及び下部を画定している、実施形態2~5のいずれか1つに記載のモジュール式細胞培養システム。
【0095】
実施形態7
前記細胞培養空間内に配置された細胞培養基材をさらに含む、実施形態1~6のいずれか1つに記載のモジュール式細胞培養システム。
【0096】
実施形態8
前記細胞培養基材が多孔質材料を含む、実施形態7に記載のモジュール式細胞培養システム。
【0097】
実施形態9
前記細胞培養基材が、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリビニルピロリドン、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンオキシド、ポリピロール類、ポリプロピレンオキシドのうちの少なくとも1つを含む、実施形態7又は実施形態8に記載のモジュール式細胞培養システム。
【0098】
実施形態10
前記細胞培養基材が、成形ポリマー格子、3D印刷されたポリマー格子シート、及び織物メッシュシートのうちの少なくとも1つを含む、実施形態8又は実施形態9に記載のモジュール式細胞培養システム。
【0099】
実施形態11
前記細胞培養基材が、1本以上の繊維を含んでいる前記織物メッシュを含む、実施形態7~10のいずれか1つに記載のモジュール式細胞培養システム。
【0100】
実施形態12
前記1本以上の繊維が、約50μm~約1000μm、約50μm~約600μm、約50μm~約400μm、約100μm~約325μm、又は約150μm~約275μmの繊維径を有している、実施形態11に記載のモジュール式細胞培養システム。
【0101】
実施形態13
前記織物メッシュが、前記1本以上の繊維間に複数の開口部を有しており、
前記複数の開口部が、約100μm~約1000μm、約200μm~約900μm、又は約225μm~約800μmの直径を有している、実施形態11又は実施形態12に記載のモジュール式細胞培養システム。
【0102】
実施形態14
前記細胞培養基材が溶解性発泡足場である、実施形態7又は実施形態8に記載のモジュール式細胞培養システム。
【0103】
実施形態15
前記溶解性発泡足場が、
ペクチン酸、部分エステル化ペクチン酸、部分アミド化ペクチン酸、及びそれらの塩のうちの少なくとも1つから選択されるイオノトロピック架橋ポリガラクツロン酸化合物と、
表面活性を有する少なくとも1つの第1の水溶性ポリマーと、
を含む、実施形態14に記載のモジュール式細胞培養システム。
【0104】
実施形態16
前記溶解性発泡足場が、接着性ポリマーコーティングを含んでいる、実施形態14又は実施形態15に記載のモジュール式細胞培養システム。
【0105】
実施形態17
前記接着性ポリマーコーティングが、ペプチドを含んでいる、実施形態16に記載のモジュール式細胞培養システム。
【0106】
実施形態18
前記接着性ポリマーコーティングが、BSP、ビトロネクチン、フィブロネクチン、ラミニン、I型コラーゲン、IV型コラーゲン、変性コラーゲン、及びそれらの混合物からなる群より選択されるペプチドを含んでいる、実施形態17に記載のモジュール式細胞培養システム。
【0107】
実施形態19
前記接着性ポリマーコーティングが、Synthemax(登録商標)II-SCを含んでいる、実施形態17に記載のモジュール式細胞培養システム。
【0108】
実施形態20
複数の前記独立型細胞培養サブユニットをさらに備えており、
前記複数の独立型細胞培養サブユニットが積み重ねられている、実施形態1~19のいずれか1つに記載のモジュール式細胞培養システム。
【0109】
実施形態21
前記位置合わせ機構が、前記複数の独立型細胞培養サブユニットの、隣接する独立型細胞培養サブユニットを接続する連結機構である、実施形態20に記載のモジュール式細胞培養システム。
【0110】
実施形態22
前記連結機構が、前記隣接する独立型細胞培養サブユニットを取り外し可能に連結することを可能にする、実施形態21に記載のモジュール式細胞培養システム。
【0111】
実施形態23
前記連結機構が、前記隣接する独立型細胞培養サブユニットの前記位置合わせ機構が持つ係合形状、スナップフィット嵌め閉じ具のかみ合い部、及びねじ接続のうちの少なくとも1つである、実施形態21又は実施形態22に記載のモジュール式細胞培養システム。
【0112】
実施形態24
前記内部空洞の内壁に配置される保持機構をさらに備え、
前記保持機構が、第2の流量分配プレートを細胞培養基材に対して所定の位置に保持するように構成されている、実施形態4に記載のモジュール式細胞培養システム。
【0113】
実施形態25
前記複数の独立型細胞培養ユニットが、キャリア内に配置され、
前記キャリアが、前記複数の独立型細胞培養ユニットを少なくとも部分的に囲む側壁を有している、実施形態20~23のいずれか1つに記載のモジュール式細胞培養システム。
【0114】
実施形態26
側壁に設けられた持ち手をさらに備えている、実施形態25に記載のモジュール式細胞培養システム。
【0115】
実施形態27
前記キャリアの上部及び下部の少なくとも一方に設けられた少なくとも1つの無菌閉じ具をさらに備えている、実施形態25又は実施形態26に記載のモジュール式細胞培養システム。
【0116】
実施形態28
前記少なくとも1つの無菌閉じ具が、複数のキャリアを接続するために取り外し可能である、実施形態27に記載のモジュール式細胞培養システム。
【0117】
実施形態29
積み重ねて配置される複数のキャリアをさらに備え、
前記複数のキャリアの各々が、複数の独立型細胞培養ユニットを備えている、実施形態25~28のいずれか1つに記載のモジュール式細胞培養システム。
【符号の説明】
【0118】
1 培地入口
2,7 培地出口
3,3’,23 流量分配プレート、保持グリッド、保持スクリーン
4,306 細胞培養基材、充填床領域、充填床基材
5,15 位置合わせ機構、保持機構
6 上蓋
8,8’ 灌流ポンプ
9,279,404,411 培地調質容器
10 チューブ
11 オーバフローユニット、容器
12 流量分配ユニット
13 サブユニットへの培地入口
14 サブユニットからの培地出口(オーバフローユニットへの入口)
17 酸素供給塔
18 培地オーバフローバリア、ガス出口
19 予混合ガス源
100,150,300,322 細胞培養ユニット、細胞培養サブユニット
110,160,250,270,310,320 細胞培養システム
302 放射状流マニホールド
304 中央流カラム
324 無菌プルタブ
326 キャリア
400 バイオプロセスシステム
402 バイオリアクター容器
406 細胞培養培地
409 ポンプ
412 センサ
413 バイオリアクター入口(三方ポート)
418 培地調質制御部
422 細胞採取溶液
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【国際調査報告】