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特表2023-503812固定ユニットに対して相対的な可動ユニットの位置計測
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-01
(54)【発明の名称】固定ユニットに対して相対的な可動ユニットの位置計測
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/244 20060101AFI20230125BHJP
   G01D 5/245 20060101ALI20230125BHJP
【FI】
G01D5/244 B
G01D5/245 110B
G01D5/245 110L
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022526823
(86)(22)【出願日】2020-11-27
(85)【翻訳文提出日】2022-05-10
(86)【国際出願番号】 EP2020083675
(87)【国際公開番号】W WO2021105387
(87)【国際公開日】2021-06-03
(31)【優先権主張番号】A51045/2019
(32)【優先日】2019-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518184708
【氏名又は名称】ベーウントエル・インダストリアル・オートメイション・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】プライナー・マヌエル
(72)【発明者】
【氏名】ヴェーバー・アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】アルメーダー・アレクサンダー
【テーマコード(参考)】
2F077
【Fターム(参考)】
2F077AA20
2F077CC02
2F077NN05
2F077NN06
2F077NN17
2F077NN24
2F077PP11
2F077UU01
(57)【要約】
複数の位置センサーSnを備えた固定ユニット1に対して相対的な、複数の位置磁石Pkを備えた可動ユニットの位置を計測するために、可動ユニット2の領域内の位置センサーSnのグループに関して、センサー応答SAが検出され、センサーモデルSMにより、固定ユニット1に対して相対的な可動ユニット2の複数の異なる仮定された相対位置xRvに関して、位置センサーSnのグループのセンサーモデル応答SA(xRv)が特定されて、これらのセンサーモデル応答SA(xRv)がセンサー応答SAと比較され、これらのセンサーモデル応答SA(xRv)とセンサー応答SAの間の偏差が最も小さい仮定された相対位置xRvが可動ユニット2の相対位置xとして使用される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定ユニット固定ユニット(1)に対して相対的な少なくとも一つの可動ユニット(2)の位置を計測する方法であって、この可動ユニット(2)には、磁極ピッチ(Tp)による複数の位置磁石(Pk)の配列が配置され、この固定ユニット(1)には、センサーピッチ(s)による複数の位置センサー(Sn)から成る配列が配置され、位置センサー(Sn)を用いて、その位置センサー(Sn)の領域内における位置磁石(Pk)の磁界(M)がセンサー応答(SA)の形で検出される方法において、
可動ユニット(2)の領域内において位置計測のために考慮される複数の位置センサー(Sn)のグループに関して、センサー応答(SA)が検出されることと、
この少なくとも一つの可動ユニット(2)と一つの位置センサー(Sn)に関して、その位置センサー(Sn)に対して相対的な可動ユニット(2)の相対位置(x)に依存するセンサーモデル応答(SA(xRv))を提供するセンサーモデル(SM)が準備されることと、
このセンサーモデル(SM)を用いて、固定ユニット(1)に対して相対的な可動ユニット(2)の複数の異なる仮定された相対位置(xRv)に関して、位置センサー(Sn)のグループの全ての位置センサー(Sn)のセンサーモデル応答(SA (xRv))が特定されることと、
これらのセンサーモデル応答(SA(xRv))が、位置センサー(Sn)のグループにより検出されたセンサー応答(SA)と比較されることと、
センサーモデル(SM)のセンサーモデル応答(SA (xRv))と検出されたセンサー応答(SA)の間の偏差が最も小さい、複数の異なる仮定された相対位置(xRv)の中の相対位置(xRv)が、可動ユニット(2)の相対位置(x)として使用されるか、或いはその相対位置(xRv)から、可動ユニット(2)の相対位置(x)又は固定位置の基準点(RP)に関する可動ユニット(2)の絶対位置(x)が特定されることとを特徴とする方法。
【請求項2】
前記の固定ユニット(1)における複数の位置磁石(Pk)の配列が、前記の一つの位置センサー(Sn)に沿って、その位置センサーを通過するように動かされた場合に、センサーモデル応答(SA (xRv))の推移を検出することによって、前記のセンサーモデル(SM)が特定されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記の位置センサー(Sn)のグループにより検出されたセンサー応答(SA)とのセンサーモデル応答(SA (xRv))の比較のために、これらの位置センサー(Sn)のグループの検出されたセンサー応答(SA)とセンサーモデル応答(SA (xRv))の間の偏差を評価する費用関数(J)が設定されることと、
この費用関数(J)の値を最適化させる、前記の複数の異なる相対位置(xRv)の中の相対位置(xRv)が、可動ユニット(2)の相対位置(x)として使用されるか、或いはその相対位置(xRv)から、可動ユニット(2)の相対位置(x)又は固定位置の基準点(RP)に関する可動ユニット(2)の絶対位置(x)が特定されることとを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記の可動ユニット(2)の相対位置を所与の位置増分だけ変化させることによって、前記の複数の異なる仮定された相対位置(xRv)が特定されることを特徴とする請求項1又は3に記載の方法。
【請求項5】
相対位置(xRv)に基づく費用関数(J)の数学的な最適化を実行して、この最適化に基づき相対位置(xRv)を変化させることによって、前記の複数の異なる仮定された相対位置(xRv)が特定されることを特徴とする請求項1又は3に記載の方法。
【請求項6】
可動ユニット(2)の相対位置を少なくとも一つの磁極ピッチ(Tp)だけ変化させることによって、前記の複数の異なる仮定された相対位置(xRv)が特定されることを特徴とする請求項1又は3に記載の方法。
【請求項7】
可動ユニット(2)における位置磁石(Pk)の数又は高々その数に等しい一定数の磁極ピッチ(Tp)だけ、前記の可動ユニット(2)の相対位置(xRv)を変化させることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
少なくとも一つの別のグループの位置センサー(Sn)が使用されて、センサーモデル応答(SA (xRv))が、この少なくとも一つの別のグループの位置センサー(Sn)により検出されたセンサー応答(SA)と比較されることと、
これらのセンサーモデル(SM)のセンサーモデル応答(SA (xRv))と検出されたセンサー応答(SA)の間の最小の偏差を生じさせる位置センサー(Sn)のグループに基づき、可動ユニット(2)の相対位置(x)又は固定位置の基準点(RP)に関する可動ユニット(2)の絶対位置(x)が特定されることと、
を特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
固定ユニット(1)に対して相対的に動くように配置された少なくとも一つの可動ユニット(2)を備えた運動装置であって、この可動ユニット(2)には、磁極ピッチ(Tp)による複数の位置磁石(Pk)の配列が配置され、この固定ユニット(1)には、センサーピッチ(s)による複数の位置センサー(Sn)から成る配列が配置され、位置センサー(Sn)を用いて、その位置センサー(Sn)の領域内における位置磁石(Pk)の磁界(M)がセンサー応答(SA)の形で検出可能であり、固定ユニット(1)に対して相対的な可動ユニット(2)の位置を計測するために、位置センサー(Sn)のセンサー応答(SA)を処理する計算ユニット(5)が配備されている運動装置において、
この計算ユニット(5)が、可動ユニット(2)の領域内において位置計測のために考慮される位置センサー(Sn)のグループに関して、センサー応答(SA)を検出することと、
この少なくとも一つの可動ユニット(2)と一つの位置センサー(Sn)に関して、その位置センサー(Sn)に対して相対的な可動ユニット(2)の相対位置(x)に依存するセンサーモデル応答(SA)を提供するセンサーモデル(SM)が保存されたメモリユニット(6)が配備されていることと、
この計算ユニット(5)が、このセンサーモデル(SM)を用いて、固定ユニット(1)に対して相対的な可動ユニット(2)の複数の異なる仮定された相対位置(xRv)に関して、位置センサー(Sn)のグループのセンサーモデル応答(SA (xRv))を特定することと、
この計算ユニット(5)が、これらのセンサーモデル応答(SA (xRv))を位置センサー(Sn)のグループにより検出されたセンサー応答(SA)と比較することと、
この計算ユニット(5)が、センサーモデル(SM)のセンサーモデル応答(SA (xRv))と検出されたセンサー応答(SA)の間の偏差が最も小さい、複数の異なる仮定された相対位置(xRv)の中の相対位置(xRv)を可動ユニット(2)の相対位置(x)として特定するか、或いはその相対位置(xRv)から、可動ユニット(2)の相対位置(x)又は固定位置の基準点(RP)に関する可動ユニット(2)の絶対位置(x)を特定することとを特徴とする運動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定ユニットに対して相対的な少なくとも一つの可動ユニットの位置を計測する方法に関し、この可動ユニットには、磁極ピッチによる複数の位置磁石の配列が配置され、固定ユニットには、センサーピッチによる複数の位置センサーの配列が配置されており、位置センサーにより、その位置センサーの領域内における位置磁石の磁界がセンサー応答の形で検出される。また、本発明は、可動ユニットと固定ユニットを備え、固定ユニットに対して相対的な少なくとも一つの可動ユニットの位置が計測される運動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リニアモーター又は平面モーターは、相互に作用する磁界に基づき固定部品(固定子)に対して可動部品(電機子)が動かされることを特徴とする。そのために、両方の部品の中の一方には、駆動磁石(電磁石又は永久磁石)が配置されており、その磁石は、推進力を発生させるために、電流を流した駆動コイルによって他方の部品に生成される磁界と協力して動作する。その駆動コイルに電圧を印加すると、駆動磁石の磁界と協力して動作する磁界が生成され、それによって、可動部品を動かす力が可動部品に対して生じる。電機子を動かすために、駆動コイルの相応の駆動によって、可動磁界が生成される。そのモーター原理は十分に知られており、そのため、ここではそのことに詳しく立ち入る必要はない。その場合には、基本的に、駆動コイルが可動部品(電機子)に配備されているのか、或いは固定部品(固定子)に配備されているのかも重要でない。
【0003】
リニアモーターの電機子の動きを制御するためには、その固定子に対して相対的なその時々の位置を知って、可動磁界を発生させる駆動コイルを正しく駆動できるようにすることが有利である。従って、電機子の位置計測が、リニアモーターの動作に関して特別な役割を果たすこととなる。その場合、スイッチオン時点に電機子が何処に在るのかを事前に知ることができないので、リニアモーターをスイッチオンした時の電機子のその時々の位置を計測することが特に重要である。リニアモーターのスイッチオン時の位置を計測するために、既に様々な方法が提案されている。
【0004】
特許文献1は、例えば、位置計測のために、電機子に配置された位置磁石と(例えば、固定子に配置された)固定位置の位置センサーとを追加的に備えたリニアモーターを記載している。その電機子が動かされると、位置磁石が位置センサーに対して相対的に動いて、固定子に対して相対的な電機子のその時々の位置を計測することができる。それらの位置磁石は、増分センサーと協力して動作する、並んで配置された一定数の永久磁石の第一の配列と、絶対センサーと協力して動作する、並んで配置された一定数の永久磁石の第二の配列とを有する。その絶対センサー、例えば、ホールセンサーは、それが二つの状態だけを提供するように実現されており、その状態は、電機子の定義された位置で交番する。その増分センサー、例えば、磁気抵抗センサーは、それが多くの反復するセンサーサイクルを提供するように実現されており、一つのセンサーサイクル内において、位置を非常に精密に計測することができる。スイッチオン時に、先ずは「ホーミング」、即ち、予め定められた既知のゼロ位置の照合を実行しなければならない。そのために、絶対センサーが状態の交番を検出するまで、電機子が動かされ、それにより、ゼロ位置が計測される。そして、そのゼロ位置を出発点として、センサーサイクルの数が計数されて、それらのセンサーサイクル内で位置の細かな計測が行われる増分形態により電機子のその時々の位置を特定することができる。従って、スイッチオン時の電機子の位置を計測するために、特許文献1では、照合走行、即ち、電機子を動かすことが必要である。しかし、そのような形式の位置検出は、電機子の運動範囲が比較的限定されている場合にしか合理的に実現できない。そのような形式の位置計測は、当然のことながら、多くの用途に、特に、動きの遊びスペースが大きいリニアモーター又は多数の電機子を備えた長固定子リニアモーターに全く適していない。
【0005】
絶対位置の計測は、リニアモーターのスイッチオン時においても、特許文献2から読み取ることができる。その場合、考え得る動きの遊びスペースに渡って、縦長の位置磁石が電機子に配置されており、その位置磁石は、位置に依存するオフセットが横方向に生じるように配置されている。固定位置の構造物、例えば、固定子には、位置磁石の磁界を検出する位置センサーが配置されている。そのオフセットに基づき、電機子の各位置において、一義的な磁界が得られて、位置センサーによって検出される。それにより、リニアモーターのスイッチオン時においても、直ちに、電機子を動かすことなく、電機子のその時々の位置を推定することができる。しかし、その場合、動きの遊びスペースが、当然のことながら位置磁石の長さに限定され、それにより非常に制限される。そのような形式の位置計測は、当然のことながら、多くの用途に、特に、動きの遊びスペースが大きいリニアモーター又は多数の電機子を備えた長固定子リニアモーターに全く適していない。
【0006】
特許文献3は、リニアモーターとして周知の長固定子リニアモーターを記載している。そのような長固定子リニアモーターは、固定位置に並んで配置された、長固定子リニアモーターの固定子を形成する多くの駆動コイルを有する。その固定子に沿って、多くの電機子を配置することができ、それらの電機子を固定子に沿って動かすことができる。各電機子が駆動磁石を保持している。電機子を動かすために、ちょうど一つの電機子と協力して動作する駆動コイルに、それぞれ電流が流される。そのようにして、個々の電機子を互いに独立して固定子に沿って動かすことができる。そのような長固定子リニアモーターは、多くの場合柔軟な運搬システムに、例えば、製造プロセス又はコンベヤー機構に採用されている。特許文献3は、更に、長固定子リニアモーターのスイッチオン時に直ちに電機子の精確な位置の計測を可能にし、そのために、(例えば、電機子の照合走行による)照合を実行する必要のない、真の絶対位置(「true absolute position」)を計測する形態を記載している。それは、当然のことながら非常に有利である、特に、長固定子リニアモーターにおいて、珍しいことではない数百の電機子が同時に存在できるようにすることを考える場合に全く有利である。そのために、一つの電機子に、ちょうど一つの追加の位置磁石が配置されるとともに、固定子に沿って、位置磁石の磁界を検出する多くの位置センサー、例えば、磁気抵抗センサーが配置されている。しかし、その場合、各時点に少なくとも一つの位置センサーが位置磁石の磁界を検出できることが保証されるように、位置センサーを密に配置しなければならない。それにより、長固定子リニアモーターのスイッチオン時に、電機子毎に、少なくとも一つの位置センサーが呼び出され、そのため、電機子の照合が無くとも、位置計測が可能である。その場合の欠点は、追加の位置磁石が必要であるとともに、位置センサーを非常に過密に配置しなければならないことであり、そのことは、そのような位置センサーを多数必要とする。
【0007】
特許文献4は、又もやモーターのスイッチオン時における長固定子リニアモーターの電機子に関する位置検出を記載している。その場合、電機子における駆動磁石が位置検出のために使用されており、位置検出のための追加の位置磁石が不要である。その場合、位置センサーは、より大きな間隔で互いに離して配置することもでき、それにより、必要な位置センサーの数を低減することができる。位置検出のために、先ずは、電機子における駆動磁石の配列の周縁領域を計測することによって、電機子の粗い位置が計測される。駆動磁石の中の一つに関して、その駆動磁石の磁界を検出した一つの位置センサーが特定される。そして、その位置センサーを用いて、位置センサーに対して相対的な電機子の相対位置を計測することができる。位置センサーの取付位置が既知であることから、その既知の取付位置と特定された相対位置を用いて、電機子の絶対位置を特定することができる。その方法は非常に信頼できる形で機能するけれども、その方法は弱点も有する。特に、二つの電機子が互いに非常に接近しているか、或いはそれどころか互いに接している場合、周縁領域を計測できなくなるか、信頼できない形でしか計測できなくなるので、或いは複数の電機子が密に並んで存在することを検知できなくなるので、その方法が役に立たなくなる可能性がある。
【0008】
同様の問題が、可動部品に位置磁石が配置されており、その磁界が固定部品における位置センサーによって検出される位置測定ステムでも起こる。その場合でも、スイッチオン時に、その可動部品が、さもなければ場合によっては複数の可動部品が固定部品に対して相対的にどのように位置決めされているのかを確認するとの基本的な問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許登録第7,932,684号明細書
【特許文献2】米国特許登録第7,994,742号明細書
【特許文献3】米国特許登録第6,876,107号明細書
【特許文献4】欧州特許公開第3376166号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上のことから、本発明の課題は、複数の位置センサーを備えた固定コンポーネントに対して相対的な複数の位置磁石を備えた可動部品の位置を計測する方法を提示することである。この場合、本方法は、特に、密に、或いは全く接して存在する複数の可動ユニットを検知することも可能であるとともに、そのような密に、或いは全く接して存在する可動ユニットに関しても信頼できる位置計測が可能であるようにする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この課題は、独立請求項の特徴により解決される。センサーモデルの使用によって、可動ユニットの未知の位置を見つけ出すことができ、その際、センサーモデル応答が、可動ユニットの仮定された位置を変化させて実際に測定したセンサー応答と比較される。この方法は、一方において、非常に頑強であり、位置センサーの不正確な取付位置によるずれが有る場合又は位置磁石におけるずれが有る場合でも、信頼できる位置計測を可能にする。このセンサーモデルは、位置磁石の配列が位置センサーを通過するように動かされた場合の位置センサーのセンサー応答の推移を記述する。それにより、このセンサーモデルは、一度だけ計測しなければならず、その後、各位置センサーのために使用することができる。他方において、このセンサーモデルの使用によって、密に、或いは全く接して存在する可動ユニットも検知して、識別することができる。この方法は、可動ユニットが何処に在るのかだけでなく、(異なる可動ユニットが存在する場合に)如何なる可動ユニットが何処に在るのかも検知することができる。
【0012】
以下において、本発明の有利な実施形態の例を模式的に、本発明を限定しない形で図示する図1~9を参照して、本発明を詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】固定ユニットとそれに対して相対的に動くコンポーネントを備えた運動装置の模式図
図2】可動ユニットにおける位置磁石の配列の典型的な磁界の分布図
図3】位置センサーの典型的なセンサー信号のグラフ図
図4】センサー信号から得られる、位置センサーの典型的なセンサー応答のグラフ図
図5】センサーモデルの例としての位置センサーに対して相対的に動くコンポーネントの相対位置に依存するセンサー応答の典型的な推移のグラフ図
図6】センサーモデルの代替保存方式のグラフ図
図7】位置計測時の考え得る状況の模式図
図8】仮定した相対位置に依存する費用関数の値の考え得る推移のグラフ図
図9】長固定子リニアモーターを運動装置の実施例とした場合の転轍機の領域における位置計測の模式図
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、図1に図示されている通り、複数の位置センサーSn(n>1)が固定ユニット1に並んで配置され、一定数の位置磁石(永久磁石又は電磁石)Pk(k>1)が可動ユニット2に並んで配置された運動装置を出発点とする。この可動ユニット2は、固定ユニット1に対して相対的に動かされる。この可動部品2は、位置センサーSnが位置磁石Pkの磁界を検出できるように配置されている。一般的に、それは、位置磁石Pkが固定ユニット1の方を向く形で可動ユニット2に配置され、位置センサーSnが、それぞれその作用面を可動ユニット2の方に向けて配置されていることを意味する。この場合、位置磁石Pkは、図1に図示されている通り、互いに直に接しない形で配置されなければならない。二つの隣接する位置磁石Pkの間の間隔は、磁極ピッチTpと呼ばれる。この磁極ピッチTpは、位置磁石の幅pと同じにすることができるが、同じにする必要はない。この磁極ピッチTpは、二つの隣接する位置センサーSnの間のセンサー間隔sよりも短くすることができるが、必ずしも短くする必要はない。これらの位置磁石Pkは、磁極が交番する形で可動ユニット2に配置することができる(図2も参照)。平面モーターの場合、そのような配列が一つの平面内において二つの方向に得られる。
【0015】
このような運動装置は、多くの用途において出現する。一つの例は、図1に破線で表示されている通り、複数の駆動コイルAs(s>1)が固定ユニット1に追加して配置されたリニアモーター、長固定子リニアモーター又は平面モーターである。平面モーターでは、駆動コイルAsが、平面内に配置され、リニアモーター又は長固定子リニアモーターでは、運動方向に並んで配置されている。このケースでは、固定ユニット1が、可動ユニット2に沿って移動可能なモーターの固定子を形成する。この用途において、モーターの電機子を形成する可動ユニット2には、複数の駆動磁石が配置されている。この場合、駆動磁石は、(例えば、特許文献4に記載されている通り)同時に位置磁石Pkであるとするか、或いは駆動磁石と位置磁石Pkが互いに別個に配備することができる。例えば、図示されていない駆動コントローラの制御の下で、可動ユニット2の領域内の駆動コイルAsが(電圧の印加により)電流を流されると、可動ユニット2に対する推進力を発生させるために、可動ユニット2における駆動磁石の磁界を協力して動作する駆動磁界が生成される。この場合、駆動磁石は永久磁石又は電磁石であるとすることができる。電磁石の場合、駆動コイルAsに代わって、永久磁石を固定ユニット1に配備することもできる。このモーター方式は、十分に周知であり、そのため、ここでは、そのことに立ち入らない。
【0016】
別の用途は、工作機械における、固定ユニット1に対して相対的に動くコンポーネント2、例えば、スライダーを備えた運動装置での純粋な位置検出である。この用途では、可動部品2は、何らかの別の機構によって動かされて、固定ユニット1に対して相対的な可動部品2の位置が特定される。
【0017】
使用される位置センサーSnは、各位置センサーSnの領域内における位置磁石Pkの磁界M、例えば、磁界の大きさ及び/又は方向を測定する。考え得る位置センサーSnは、磁気歪センサー、(異方性磁気抵抗センサー、トンネル磁気抵抗センサー又は巨大磁気抵抗センサーなどの)磁気抵抗センサー又はホールセンサーである。当然のことながら、これら以外に、磁界Mを検出することが可能な更に別のセンサータイプが存在し得る。様々なタイプのセンサーが、磁界Mの大きさ(これが検出される場合)を様々な形で示すこともできる。ホールセンサーは、例えば、(例えば、テスラ単位で)磁界強度を示す値を提供し、このホールセンサーは、一般的に飽和状態で動かされない。それに対して、磁気抵抗センサーは、所定の数値範囲内、例えば、0と1の間の値を提供するが、このセンサーは、通常は飽和状態で動かされる。即ち、そのようなセンサーは、磁界強度の広い範囲に関して、例えば、値1を提供する。それにより、そのようなセンサーでは、一般的に磁界Mの磁界強度の絶対値を取得できるのではなく、各センサータイプが飽和領域内に在るのか否かに関する情報だけが得られる。
【0018】
図2には、例えば、可動ユニット2における位置磁石Pkの配列の磁界Mが磁力線の形で図示されている。この磁界Mが磁極の中心で最も強く、周縁に向かって急激に低下することが分かる。同じく、磁界Mが周辺の領域において、即ち、位置磁石Pkに対する間隔が大きるなるにつれて、相対的に速く大きく低下することが識別可能である。従って、測定の信頼度を向上させるためには、位置センサーSnと位置磁石Pkの間の空隙が磁極ピッチTpの半分を上回らないようにするのが有利である。
【0019】
位置センサーSnは、センサー信号として、例えば、図3に図示されている通り、(電圧測定値uの形で)正弦曲線と余弦曲線を提供する。周知の通り、例えば、電圧uの形のセンサー信号(正弦曲線と余弦曲線)から、磁界Mの角度γ、即ち、磁界Mが位置センサーSnに対して入射する角度に依存して、個々の可動位置磁石Pkの位置xが、線形近似で、磁界Mの磁界角度γに比例して、例えば、x=k*arctan(sin(2γ)/cos(2γ))(kは定数、例えば、k=p/(2π)である)として求めることができる。しかし、この位置センサーSnは、当然のことながら、センサー応答SAとして、直に位置xを提供するか、或いは(その後に評価される)正弦曲線と余弦曲線又は角度情報γを提供することができる。同じく、位置センサーSnは、(センサータイプに応じて)センサー応答SAとして、磁界Mの大きさ(正弦曲線と余弦曲線の振幅)に関する絶対値|A|を提供する、例えば、
【0020】
【数1】
として提供することができる。それにより、このセンサー応答SAは、複数の変量、例えば、角度情報γと絶対値|A|を含むこともできる。
【0021】
位置磁石Pkが位置センサーSnを通過するように動かされると、図4に図示されている通り、0と2πの間(センサーに依存する値)の角度情報γの鋸歯に似た典型的な推移と、位置センサーSnに対して相対的な位置磁石Pkの位置xに依存する絶対値|A|の推移とが得られる。この場合、例えば、磁気抵抗センサーの場合などのように、位置センサーSnが飽和状態に移行した時に、絶対値|A|は、大部分において一定であるとすることができる。それ以外のセンサータイプ、例えば、ホールセンサーでは、絶対値|A|のそれ以外の推移を得ることもできる。別のセンサータイプは、検出された磁界を表す別のセンサー信号及び/又はセンサー応答SAを提供することもできる。
【0022】
そのため、(例えば、図1に図示されている通りの)可動ユニット2における位置磁石Pk(k>1)の配列が位置センサーSnを通過するように動かされると、k=5個の位置磁石Pkに関して図5に図示されている通り、固定ユニット1に対して相対的な可動ユニット2の相対位置xに関する角度情報γの鋸歯に似た推移及び/又は絶対値|A|の推移が得られる。
【0023】
この角度情報γの値は、定数により基準化することもできる。例えば、位置センサーSnが、位置磁石Pkの中央において、角度情報γに関して値π/2を提供するように定めることができる。図4によると、値πが期待される。それにより、係数-π/2により基準化される。そのため、位置磁石Pkの周縁がセンサーにより測定された場合、3π/2が得られて、位置磁石Pkの1/4の所で値0が提供される。そのように基準化する理由は、図5では、5個の位置磁石Pkに対して、角度情報γの推移において、6個の鋸歯形状の突起が得られるからである。しかし、そのような基準化は、本発明にとって重要ではなく、それが既知なだけであり、画一的に適用されなければならない。
【0024】
図5では、図2に図示された通りの磁界Mの結果として、特に、可動ユニット2の周縁領域における角度情報γの非線形的な推移も、位置磁石Pkの配列の周縁における磁界の拡がり(周縁で鋸歯形状の突起が広くなること)も分かる。
【0025】
この場合、可動ユニット2と位置センサーSnの間の相対位置xは、可動ユニット2の任意の点、例えば、(運動方向に見て)中央と、或いは可動ユニット2又は位置磁石Pkの配列の終端と関連付けられる。図2では、破線で表示されている通り、位置磁石Pkの配列の中央が相対位置xのゼロ点として選択されており、可動部品2のずれた位置が示される。そのため、固定位置の位置センサーSnに対して相対的な可動ユニットの位置に応じて、選択されたゼロ点に対する相対位置xの正と負の値が得られる。この相対位置xは、位置センサーSnに対する可動ユニット2の位置を表す。
【0026】
その時々のサンプリング時点(i)(この時間間隔で位置が計測される)における可動ユニット2の(絶対値か相対値に関わらず)位置x(i)が、差し当たり分かると、その前のサンプリング時点(i-1)の特定された位置x(i-1)から、例えば、可動ユニット2の既知の動きから、その時々の位置(i)を明らかに特定することができる。しかし、主要な問題は、その前のサンプリング時点(i-1)の位置x(i-1)の情報に依存せずに、即ち、例えば、そして特に、システムのスイッチオン又はブート時の初期に、この位置x(i)を計測することである。
【0027】
確かに、スイッチオン又はブート時に、固定ユニット1における全ての位置センサーSnを読み取ることができるが、所定の位置センサーSnにより、可動ユニット2の如何なる位置磁石Pkが検出されたのかを言い当てることはできない。可動ユニット2における各位置磁石Pkが、所定の位置センサーSnに対して同じセンサー応答SA、例えば、同じ角度情報γを発生させる可能性がある。そのため、位置センサーSnにより測定されるセンサー応答SAが曖昧となる。この曖昧さを解消するとともに、そのような状況においても、信頼できる位置計測を可能にするために、本発明では、以下の通り措置している。
【0028】
可動ユニット2における位置磁石Pkの既知の配列の所与の組合せ(磁極の長さp、磁極ピッチTp、位置磁石Pkの向きと極性など)と、固定ユニット1における所定の既知の位置センサーSn(センサータイプ、位置磁石に対するセンサーの間隔など)とに関して、固定ユニット1又は位置センサーSnに対して相対的な可動ユニット2の相対位置xに依存して、センサーモデル応答SA、例えば、角度情報γ及び/又は絶対値|A|を特定するセンサーモデルSMを決定することができる。角度情報γと絶対値|A|に関して、このセンサーモデルSMは、例えば、図5に図示されている通り、それらの変量の推移に一致する。そのため、センサーモデルSMは、所定の可動ユニット2の異なる相対位置xにおいて、所定の位置センサーSnにより、センサー応答SAの如何なる値が期待できるのかを示す。そのようなセンサーモデルSMは、位置磁石Pkの配列と位置センサーSnの所定の組合せに対して、例えば、測定技術に基づき、位置センサーSnを通過するように位置磁石Pkの配列を動かして、その際、センサーモデル応答SAを検出して保存することによって求めることができる。しかし、このセンサーモデルSMは、同様にシミュレーション又は計算によって求めることができる。その場合でも、センサーモデル応答SAを検出することができる。このセンサーモデルSMが保存される。
【0029】
そのため、固定ユニット1における複数の位置磁石Pkの配列全体を位置センサーSnに沿って通過するように動かした場合に、センサーモデル応答SAの推移を検出することによって、センサーモデルSMが特定される。この通過させて動かしている間に、位置センサーSnのセンサー応答SAがセンサーモデル応答SAとして検出される。それにより、位置センサーSnに関するセンサーモデル応答SAだけが検出されるので、このセンサーモデルSMは、固定ユニットにおける位置センサーSnの配列から切り離されている。
【0030】
例えば、長固定子リニアモーター又は平面モーターで全く普通に行われている通り、例えば、異なる数の位置磁石Pkを備えた、複数の異なる可動ユニット2が存在する場合、或いは異なる位置センサーSnが固定ユニット1に配備されている場合、当然のことながら、位置磁石Pkの配列のそれぞれ考え得る組合せと位置センサーSnに関して、それに属するセンサーモデルSMが存在する。
【0031】
このセンサーモデルSM又はこれらのセンサーモデルSMは、所定の運動装置に関して、当然のことながら、一度だけ特定しなければならない。従って、本位置計測方法を実施するために、このセンサーモデルSMが既知であるとして、前提条件として与えることができる。
【0032】
このセンサーモデルSMは、図5の通り、相対位置xに応じたセンサーモデル応答SAの値、即ち、例えば、角度情報γ及び/又は絶対値|A|の値の形で保存することができる。しかし、これは、特に、相対位置x及び/又はセンサーモデル応答SAの分解能が高い形でセンサーモデルSMを保存する場合、非常に多くのメモリを必要とする可能性がある。
【0033】
この理由から、図6に基づき説明する通り、センサーモデル応答SAのセンサーモデルSMを別の形で保存することも可能である。図5に基づくセンサーモデルSMは、位置増分Δxにより離散化されて、大きさz(例えば、2π)の角度情報γの鋸歯形状の推移(位置磁石Pkの数に依存する数)の超過分が相対位置xに渡って合算される。この結果、図6における角度情報γの離散的な推移が得られる。この離散的な推移では、出来る限り滑らかな曲線、例えば、多項式曲線(スプライン)又はそれ以外の好適な滑らかな曲線が近似される。スプラインは、周知の通り、区間毎の所定の次数の多項式から成る関数であり、離散的な点がスプラインの制御点であるとすることができる。そして、この曲線により近似された角度情報γは、選択された曲線の数学表現の形のセンサーモデルSMとして保存することができ、これは、必要とする所要メモリを大幅に少なくする。この近似された角度情報γから、簡単にモジュロ関数modを適用することによって、角度情報γの鋸歯形状の推移を計算することができる、即ち、γ(x)=γ(x)mod z(例えば、z=2π)となる。
【0034】
このセンサーモデルSMにおける絶対値|A|の推移は、同じく制御点を取得するために、位置増分Δxにより離散化することができ、そして、それらの制御点において、滑らかな曲線、例えば、又もやスプラインを近似することができる。それにより、曲線の数学表現の形で絶対値|A|の推移を保存する形で、メモリを節約することも可能である。この場合、保存された曲線から直に所定の相対位置xにおける絶対値|A|の値を求めることができる。
【0035】
センサーモデルSMの別の、或いは追加のセンサー応答SA又はセンサーモデル応答SAにおいても、同じ手法で措置することができる。
【0036】
位置センサーSnを備えた固定ユニット1に対して相対的に所定の相対位置xに在る一定数の位置磁石Pkを備えた可動ユニット2が図7に図示されている。この可動ユニット2の相対位置xでは、可動ユニット2における位置磁石Pkの磁界Mが、可動ユニット2の領域内における所定の数の位置センサーSnのセンサー応答SAを生じさせる。如何に多くの位置センサーSnが応答するのかは、当然のことながら、センサー間隔sに依存するとともに、磁界abの強さにも依存する。本位置計測のためには、有利には、そのような応答する位置センサーSnだけが考慮される。この場合、例えば、絶対値|A|に関して、センサー応答SAの限界値(この限界値以上で、位置センサーSnのセンサー応答SAが測定値として考慮される)を定めることができる。しかし、可動ユニット2の領域内における所与の数の位置センサーSnを常に考慮することもできる。位置計測に考慮されるj個の位置センサーSnは、通常、存在する位置センサーSnの部分集合である。
【0037】
一つの位置センサーSnを観察すると、このセンサーは、(図4に図示されている通り)その位置センサーSnに対して相対的な、磁界Mが測定される位置磁石Pkの位置に応じて、相応のセンサー応答SAn、例えば、角度情報γnと絶対値|A|nを提供する。同じく、それ以外の考慮される位置センサーSn-1,Sn+1は、センサー応答、例えば、角度情報γn-1,γn+1と絶対値|A|n-1,|A|n+1を提供する。全ての考慮される位置センサーSn(j≧1)が、それぞれセンサー応答SAを提供する。
【0038】
更に、この可動ユニット2と存在する位置センサーSnに関するセンサーモデルSMが既知である。ここで、本課題は、考慮される位置センサーSnのセンサーモデルSMのセンサーモデル応答SA が、それらの考慮される位置センサーSnの実際に検出されたセンサー応答SAと出来る限り一致するように、可動ユニット2の相対位置xを決定することである。
【0039】
そのため、可動ユニット2の決定された相対位置xは、考慮される位置センサーSnのセンサーモデルSMのセンサーモデル応答SA を提供する。
【0040】
このセンサーモデル応答SA が、考慮される位置センサーSnにより実際に検出されたセンサー応答SAと比較される。そのために、可動ユニット2の相対位置xを変化させて、それぞれ変化させた相対位置xRvにおいて、センサーモデルSMのセンサーモデル応答SA (xRv)が特定される。この変化は、当然のことながら、仮定されるだけであり、可動ユニット2は、そのために、固定ユニット1に対して物理的に動かされない。そして、センサーモデルSMのセンサーモデル応答SA (xRv)と実際に検出されたセンサー応答SAの偏差が最も小さい相対位置xRvが、固定ユニット1に対して相対的な可動ユニット2の相対位置xを決定するために使用される。
【0041】
そして、特定された相対位置xから、可動ユニット2と固定ユニット1の既知の幾何学的形状と、位置センサーSnの既知の取付位置とを用いて、絶対位置xを簡単に特定することができる。この絶対位置xは、任意の場所に定めることができる所与の固定位置の基準点RP、通常は固定ユニット1における点と関連する(図7)。位置センサーSnの取付位置xSnは既知である。それにより、例えば、x=xSn+xから、絶対位置xを簡単に計算することができる。しかし、この絶対位置xは、当然のことながら、可動ユニット2のそれ以外の如何なる任意の点と関連付けることもできる。
【0042】
可動ユニット2の相対位置xRvは、以下において説明する通り、本位置計測方法を実現するために、様々な手法で変化させることができる。以下の説明では、角度情報γと絶対値|A|がセンサー応答SAとして仮定される。しかし、本発明では、それらの変量の中の一つだけをセンサー応答SAとして用いるか、さもなければ位置センサーSnから提供されるそれ以外の変量又は位置センサーSnから提供される追加の変量を使用することもできる。これらの使用されるセンサー応答SAは、位置センサーSnから直に提供されるか、或いは、例えば、計算ユニット5において、(例えば、図3の通り)位置センサーSnが提供するセンサー信号から特定することもできる。
【0043】
可動ユニット2の相対位置x(さもなければ、絶対位置x)を特定するために、一定数jの位置センサーSnから成るグループが使用される。当然のことながら、そのような、即ち、可動ユニット2の領域内に在る位置センサーSnが使用されて、センサー応答SAを提供する。図7の例では、例えば、位置センサーSn-2,Sn-1,Sn,Sn+1、Sn+2を使用することができる。しかし、それに代わって、位置センサーSn-2,Sn-1,Sn、位置センサーSn,Sn+1又はそれ以外の位置センサーを使用することもできる。また、これらの使用される位置センサーSnは、必ずしも直に隣接する位置センサーSnである必要はない。
【0044】
従って、可動ユニット2の相対位置xを決定するために使用される位置センサーSnは、例えば、システムのブート時に、センサー応答SAを、例えば、
【0045】
【数2】
【0046】
を提供する。可動ユニット2の任意の相対位置xRvに関して、位置センサーSn毎に、センサーモデルSMのンサーモデル応答SA (xRv)を、例えば、
【0047】
【数3】
を特定することができる。
【0048】
固定ユニット1に対して相対的な可動ユニット2の相対位置xを決定するために、考慮される位置センサーSnにより検出されたセンサー応答SAが、変化させた相対位置xRvでのセンサーモデル応答SA (xRv)と比較される。考慮される位置センサーSnのセンサーモデル応答SA (xRv)が、考慮される位置センサーSnにより実際に検出されたセンサー応答SAに最も近い、変化させた相対位置xRvが、可動ユニット2の相対位置xとして使用されるか、可動ユニット2の(例えば、可動ユニット2の別の点と関連する場合の)相対位置x又は絶対位置xを特定するために使用される。
【0049】
センサー応答SAをセンサーモデル応答SA (xRv)と比較するために、センサー応答SA及びセンサーモデル応答SA (xRv)の関数としての費用関数J、即ち、
【0050】
【数4】
を使用することができ、この関数は、考慮される位置センサーSnの測定されたセンサー応答SAとセンサーモデル応答SA (xRv)の偏差を評価する。この費用関数Jは、有利には、j個の全ての考慮される位置センサーSnを評価する。この費用関数Jは、例えば、差分の絶対値、例えば、
【0051】
【数5】
として、又は二乗偏差、例えば、
【0052】
【数6】
の形で、或いはそれ以外の任意の好適な形で簡単に設定することができる。センサー応答SMが、複数の変量から、例えば、上記の通り、角度情報γと絶対値|A|から成るベクトルである場合、任意の式、例えば、ユークリッドの式
【0053】
【数7】
を使用する、即ち、例えば、
【0054】
【数8】
を使用することができる。
【0055】
そして、この費用関数の値を最適化(最小化又は最大化)させる、変化させた相対位置xRvの中の相対位置が、求める相対位置xであるか、或いは可動ユニット2の相対位置x又は絶対位置xを特定するために使用される。
【0056】
第一の実施形態では、相対位置xRvを小さい位置増分ΔxRで変化させることができる。この位置増分ΔxRが小さくなる程、分解能が高くなる。相対位置xRvを如何なる領域内で変化させるのかは、例えば、可動ユニット2の既知の幾何学的な寸法及び/又は既知のセンサー間隔sに応じて与えることができる。図8には、例えば、そのように変化させた場合の費用関数Jが図示されている。そして、所与の領域内において費用関数Jの値が最小となる位置が、求める相対位置xであるか、或いは可動ユニット2の相対位置x又は絶対位置xを特定するために使用される。
【0057】
しかしながら、本位置計測の第二の考え得る実施形態が有利である。kが可動ユニット2における位置磁石Pkの数を表す場合、使用される位置センサーSnの中の一つの所定の位置センサーが、それらのk個の位置磁石Pkの中の一つの磁界を検出することができる。それにより、可動ユニット2の全ての考え得る位置をカバーするためには、可動ユニット2をk個の磁極ピッチTpだけ変化させなければならない。それにより、位置計測時の精度を損なうこと無く、変化させる相対位置xRvの数を大幅に低減することができる。この場合でも、変化させる相対位置xRvの各々に関して、費用関数Jの値が得られる。そして、費用関数Jの値が最適(最小又は最大)になる相対位置xRvが、求める相対位置xであるか、或いは可動ユニット2の相対位置x又は絶対位置xを特定するために使用される。
【0058】
変化させる相対位置xRvの数を更に一層低減することも可能である。例えば、対応する絶対値|A|が所定の限界値を下回るような相対位置xRvを無視することができる。
【0059】
別の考え得る実施形態では、相対位置xRvに応じて費用関数Jを数学的な最適化により最適化(最小化又は最大化)することができる。数学的には、それは、
【0060】
【数9】
の形で表現することができる。この場合、変化させる相対位置xRvは、最適化アルゴリズム、例えば、ニュートン法、傾斜法、進化的アルゴリズムなどから得られる。この最適化アルゴリズムによって、費用関数Jが最小値又は最大値に向かって収斂して、それにより最適化されるように、相対位置xRvを反復して変化させる。この反復の第一の相対位置xRvは、任意に、或いは使用する最適化法により与えることができる。そのために、停止判断基準も与えられる、即ち、この停止判断基準が達成されるまで、最適化が反復して繰り返される。考え得る停止判断基準は、費用関数に関する所与の閾値を下回る(又は上回る)こと、或いは連続する二回の反復の費用関数Jの値の偏差が所与の値を下回ることである。
【0061】
本位置計測のために、位置センサーSnの複数の異なるグループを使用することも可能である。所定の位置センサーSnを複数のグループに含めることもできるが、これらのグループは、それぞれ少なくとも一つの位置センサーSnが異なる。図7の例では、例えば、第一のグループを位置センサーSn-1,Sn,Sn+1から構成し、第二のグループを位置センサーSn,Sn+1,Sn+1から構成することができる。これらのグループにおける位置センサーSnの数は、一致する必要はない、即ち、例えば、第一のグループを二つの位置センサーSnから構成し、別のグループを三つの位置センサーSnから構成することができる。
【0062】
それにより、位置センサーSnのグループ毎に、上述した通りの方法を用いて相対位置xRvを変化させることによって、費用関数Jを最適化することができる。ここで、一つのグループを選択し、このグループに関して費用関数Jが最適(最小又は最大)になる相対位置xRv(或いは一般的にセンサーモデル応答と測定されたセンサー応答の間の偏差が最小になる相対位置xRv)を求めるための相対位置xとして使用するか、或いは可動ユニット2の相対位置x又は絶対位置xを求めるために使用することができる。そして、それ以外のグループにより費用関数を最適化した結果として、可動ユニット2の相対位置x(又は絶対位置x)を特定したことの妥当性を検査するために使用することができる。例えば、二つの特定された位置の偏差は、所定の値を上回ってはならない。例えば、費用関数Jの値が最小になるグループを選択して、それ以外のグループを却下するか、或いは妥当性の検査のために使用することができる。
【0063】
例えば、異なる可動ユニット2が存在するために、複数の異なるセンサーモデルSMが存在する場合、センサーモデルSM毎に、上述した方法が実施される、即ち、例えば、各センサーモデルSMに基づき最適化が実行される。それにより、本方法は、可動ユニット2の相対位置xだけでなく、それがどの可動ユニット2であるのかとの情報も提供する。例えば、費用関数Jを最適化する場合、センサーモデルSMの中の一つによる費用関数Jが最小になり、それにより、可動ユニット2が、そのセンサーモデルSMに基づく可動ユニットであると推定することができる。
【0064】
単一の可動ユニット2又は別の可動ユニットから十分に遠く離れている可動ユニット2が存在する場合、費用関数Jの最小値が、(センサーモデルSMの精度と位置センサーSnの取付位置の精度に応じて)ゼロに向かう。
【0065】
しかし、本発明による位置計測方法は、二つの可動ユニット2が互いに密に接するか、或いはそれどころか直に接する場合にも機能する。この場合、「密に」とは、二つの可動ユニット2の磁界Mが位置センサーSnの測定精度内で互いに影響し合う配置形態であると理解されたい。磁界Mが位置磁石Pkの外で大きく低下するために、この影響が可動ユニット2の周縁領域内だけで生じると仮定することができる。この影響の範囲内では、位置センサーSnに関する(隔離された位置センサーSnに関して、きっと特定される)センサーモデルSMのセンサーモデル応答SAは、それにより測定されたセンサー応答SAから、より大きくずれる。しかし、可動ユニット2に、複数の位置磁石Pkが配備されており、本位置計測のために、常に複数の位置センサーSnが考慮されることから、センサーモデルSMのセンサーモデル応答SAと測定されたセンサー応答SAの良好な一致を見い出すことができる位置センサーSnが存在する。これは、相対位置xを特定するのに十分である。これは、それどころか、三つ以上の可動ユニット2が互いに密に、或いは直に接して隣り合う場合に機能する。それにより、より多くの互いに密に、或いは直に接して隣り合う可動ユニット2の相対位置x(又は絶対位置x)を決定することも容易に可能である。センサーモデルSMにより、可動ユニット2も特徴付けられることから、更に、どの可動ユニット2が互いに密に、或いは直に接して隣り合うのかとの情報を得ることができる。
【0066】
更に、特に、可動ユニット2が互いに密に、或いは直に接して隣り合う場合に、妥当性の検査を実行することもできる。二つの隣り合う可動ユニット2の特定された相対位置x(又は絶対位置x)から、これらの可動ユニット2が重なり合うことが判明した場合、その位置計測における誤りが明らかになる。可動ユニット2の幾何学的形状が既知であることから、そのような妥当性の検査を簡単に実行することができる。複数のグループの位置センサーSnが位置計測のために使用される場合、例えば、本位置計測用に一つのグループを選択するために、可動ユニット2の既知の寸法を使用することができる。例えば、可動ユニット2の既知の寸法を用いて、位置計測結果が妥当であるとする(必ずしも最も小さい値を有する必要のない)費用関数Jを選択することができる。
【0067】
長固定子リニアモーター10では、多くの場合、図9に図示されている通り、(可動ユニット2の移動方向に応じて)長固定子リニアモーター10の二つの固定ユニット1が転轍機Wで纏まるか、或いは一つの固定ユニット1が転轍機Wで二つの固定ユニット1に分かれる固定子上位構造が存在する。そのため、転轍機Wの領域において、可動ユニット2を二つの分かれる固定ユニット1の中の一つに誘導することができる。ここで述べた方法を用いて、この転轍機Wの領域においてさえ、本位置計測を実行することができる。
【0068】
位置センサーSnと位置磁石Pkの間の空隙が転轍機Wの領域内で異なる(それは、又もや位置センサーSnに異なる磁界を引き起こす)ので、可動ユニット2のセンサーモデルSMが、転轍機Wの一方の固定ユニット1で測定されるセンサー応答SAに対して、転轍機Wの他方の固定ユニット1で測定されるセンサー応答SAよりも精確に一致することが期待できる。費用関数Jを使用した場合、測定されたセンサー応答SAが、より大きい方の空隙によって、センサーモデル応答SA からより大きくずれるので、転轍機Wで分かれる一方の固定ユニット1に関する費用関数が、転轍機Wで分かれる他方の固定ユニット1に関する費用関数よりも小さく(又は大きく)なる。このようにして、本発明による位置計測方法を用いて、転轍機Wの領域においても、転轍機Wにおける可動ユニット2の相対位置x(又は絶対位置x)を決定することができる。この場合、更に、可動ユニット2が、転轍機Wで分かれる固定ユニット1の中のどちらにちょうど在るのかを同時に決定することもできる。
【0069】
ここで述べた位置計測方法は、計算ユニット5で実施することができる。この計算ユニット5は、そのために、(図1に示されている通り)所要のセンサー応答SAを位置センサーSnから取得する。この計算ユニット5は、運動装置の制御部の一部であるとするか、或いはそのような制御部に統合することもできる。この計算ユニット5は、有利には、マイクロプロセッサベースの機器、例えば、コンピュータ、DSP(Digital Signal Processor)、PLC(Programmable Logic Controller)又はそれらと同等の物であり、本位置計測方法は、ソフトウェアとして実装して、計算ユニット5上で実行するために保存することができる。しかし、この計算ユニット5は、マイクロプロセッサを統合することもできるASCI(Application Specific Integrated Circuit)又はFPGA(Field Programmable Gate Array)であるとすることができる。それ以外の如何なる好適なハードウェアも計算ユニット5として使用することができる。本実施形態に必要なセンサーモデルSMは、計算ユニット5のメモリユニット6に保存することができる。このメモリユニット6には、場合によっては必要な別のデータ、例えば、可動ユニット2の幾何学的形状、位置センサーSnの取付位置なども保存することができる。この計算ユニット5は、周知の入出力機器と、例えば、POWERLINKイーサネット、DeviceNet、Profibus、CANなどのフィールドバス又はイーサネットなどの別のバスシステムを介して、別の構成部品(例えば、運動装置の制御部)とデータ通信するためのデータインタフェースとの中の一つ以上を備えることもできる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】