(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-01
(54)【発明の名称】薬物送達のためのイオン液体
(51)【国際特許分類】
A61K 9/08 20060101AFI20230125BHJP
A61P 17/06 20060101ALI20230125BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230125BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20230125BHJP
A61K 47/20 20060101ALI20230125BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20230125BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20230125BHJP
A61K 9/51 20060101ALI20230125BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230125BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20230125BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20230125BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20230125BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20230125BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20230125BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20230125BHJP
【FI】
A61K9/08
A61P17/06 ZNA
A61P29/00
A61K47/12
A61K47/20
A61K47/18
A61K9/48
A61K9/51
A61K39/395 N
A61K39/395 D
A61K39/395 M
A61K39/395 Y
A61K31/7088
A61K31/713
A61K47/24
A61K9/10
C12N15/113 Z
C07K16/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022529453
(86)(22)【出願日】2020-11-19
(85)【翻訳文提出日】2022-07-11
(86)【国際出願番号】 US2020061185
(87)【国際公開番号】W WO2021102084
(87)【国際公開日】2021-05-27
(32)【優先日】2019-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】507244910
【氏名又は名称】プレジデント・アンド・フェロウズ・オブ・ハーバード・カレッジ
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ミトラゴトリ サミール
(72)【発明者】
【氏名】アンサンティクル パヴィモル
(72)【発明者】
【氏名】マンダル アビラップ
(72)【発明者】
【氏名】タナー エデン イー.エル.
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076AA22
4C076AA53
4C076AA65
4C076AA95
4C076BB01
4C076BB11
4C076BB13
4C076BB16
4C076BB25
4C076BB30
4C076BB31
4C076CC04
4C076CC20
4C076DD41
4C076DD42
4C076DD43
4C076DD50
4C076DD57
4C076DD63
4C076FF63
4C085AA13
4C085AA14
4C085CC22
4C085CC23
4C085DD62
4C085EE01
4C085EE05
4C085GG01
4C085GG02
4C085GG04
4C085GG05
4C085GG06
4C085GG08
4C085GG10
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA17
4C086MA31
4C086MA37
4C086MA52
4C086MA55
4C086MA56
4C086MA57
4C086MA63
4C086MA65
4C086MA66
4C086NA03
4C086NA10
4C086NA13
4C086ZA89
4C086ZB11
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA75
4H045DA76
4H045EA20
(57)【要約】
本明細書に記載される技術は、イオン液体および薬物送達の方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)脂肪酸ではないカルボン酸、
(b)4炭素以下の脂肪族鎖を含むカルボン酸、
(c)芳香族アニオン、および/または
(d)1.0未満のLogPを有するアニオン
のうちの少なくとも1つであるアニオン、ならびに
4級アンモニウムを含むカチオン
を含む、少なくとも1つのイオン液体を含む組成物。
【請求項2】
アニオンが、
1.0未満のLogPを有し、かつ、
a. 脂肪酸ではないカルボン酸、
b. 4炭素以下の脂肪族鎖を含むカルボン酸、または
c. 芳香族アニオン
である、
前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項3】
脂肪酸が、3炭素以下の脂肪族鎖を含む、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項4】
アニオンが、1つだけのカルボン酸基(例えば、R-COOH基)を含む、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項5】
アニオンが、ゲラン酸;グリコール酸;プロパン酸;イソ酪酸;酪酸;没食子酸;乳酸;マロン酸;マレイン酸;グルタル酸;クエン酸;3,3-ジメチルアクリル酸;ジメチルアクリル酸;グルコン酸;アジピン酸;エチルヘキシル硫酸ナトリウム;デカン酸;ヒドロキシベンゼンスルホン酸;4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸(4-フェノールスルホン酸);イソ吉草酸;ヒドロシンナミン酸(hydrocinnaminic acid)(フェニルプロパン酸);フェニルリン酸;およびビフェニル-3-カルボン酸からなる群より選択される、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項6】
アニオンが、グリコール酸;プロパン酸;イソ酪酸;酪酸;没食子酸;乳酸;マロン酸;マレイン酸;グルタル酸;クエン酸;3,3-ジメチルアクリル酸;ジメチルアクリル酸;グルコン酸;アジピン酸;エチルヘキシル硫酸ナトリウム;デカン酸;ヒドロキシベンゼンスルホン酸;4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸(4-フェノールスルホン酸);イソ吉草酸;ヒドロシンナミン酸(フェニルプロパン酸);フェニルリン酸;およびビフェニル-3-カルボン酸からなる群より選択される、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項7】
カチオンが、コリンと等しいかまたはそれよりも大きいモル質量を有する、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項8】
4級アンモニウムがNR
4
+の構造を有し、かつ少なくとも1つのR基がヒドロキシ基を含む、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項9】
4級アンモニウムがNR
4
+の構造を有し、かつ1つのR基だけがヒドロキシ基を含む、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項10】
カチオンがコリン、C1、C6、またはC7である、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項11】
カチオンがコリンである、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項12】
カチオンがC1、C6、またはC7である、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項13】
イオン液体が、約2:1~約1:1のカチオン対アニオンの比を含む、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項14】
イオン液体が、約2:1のカチオン対アニオンの比を含む、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項15】
イオン液体が、1:1未満のカチオン:アニオン比を有する、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項16】
イオン液体が、カチオン過剰でのカチオン:アニオン比を有する、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項17】
第1のイオン液体および少なくとも第2のイオン液体を含む、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項18】
各イオン液体がコリンカチオンを有する、請求項17記載の組成物。
【請求項19】
第1のイオン液体および第2のイオン液体がそれぞれ異なるアニオンを含む、請求項17~18のいずれか一項記載の組成物。
【請求項20】
第1のイオン液体および第2のイオン液体がそれぞれ、ゲラン酸;グリコール酸;プロパン酸;イソ酪酸;酪酸;没食子酸;乳酸;マロン酸;マレイン酸;グルタル酸;クエン酸;3,3-ジメチルアクリル酸;ジメチルアクリル酸;グルコン酸;アジピン酸;エチルヘキシル硫酸ナトリウム;デカン酸;ヒドロキシベンゼンスルホン酸;4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸(4-フェノールスルホン酸);イソ吉草酸;ヒドロシンナミン酸(フェニルプロパン酸);フェニルリン酸;およびビフェニル-3-カルボン酸から選択される異なるアニオンを含む、請求項19記載の組成物。
【請求項21】
第1のイオン液体がゲラン酸アニオンを有し、第2のイオン液体がフェニルプロパン酸アニオンを有する、請求項17~20のいずれか一項記載の組成物。
【請求項22】
第1のイオン液体が、コリンおよびゲラン酸(CAGE)である、請求項17~21のいずれか一項記載の組成物。
【請求項23】
第2のイオン液体が、コリンおよびジメチルアクリル酸(CADA);コリンおよびイソ吉草酸(CAVA);コリンおよびフェニルリン酸(CAPP);コリンおよびビフェニル-3-カルボン酸(CABA);コリンおよび4-フェノールスルホン酸(CASA);またはコリンおよびフェニルプロパン酸(CAPA)である、請求項17~22のいずれか一項記載の組成物。
【請求項24】
第1および第2のイオン液体が、コリンおよびゲラン酸(CAGE);コリンおよびジメチルアクリル酸(CADA);コリンおよびイソ吉草酸(CAVA);コリンおよびフェニルリン酸(CAPP);コリンおよびビフェニル-3-カルボン酸(CABA);コリンおよび4-フェノールスルホン酸(CASA);またはコリンおよびフェニルプロパン酸(CAPA)からなる群より選択される異なるイオン液体である、請求項17~21のいずれか一項記載の組成物。
【請求項25】
第1のイオン液体が、コリンおよびゲラン酸(CAGE);コリンおよびジメチルアクリル酸(CADA);ならびにコリンおよびコリンおよびビフェニル-3-カルボン酸(CABA)からなる群より選択され;かつ第2のイオン液体が、イソ吉草酸(CAVA);ならびにコリンおよびフェニルプロパン酸(CAPA)からなる群より選択される、請求項17~21のいずれか一項記載の組成物。
【請求項26】
第1のイオン液体がコリンおよびゲラン酸(CAGE)であり、第2のイオン液体がコリンおよびフェニルプロパン酸(CAPA)である、請求項17~22のいずれか一項記載の組成物。
【請求項27】
少なくとも1つのイオン液体と組み合わせた少なくとも1つの活性化合物をさらに含む、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項28】
活性化合物がポリペプチドを含む、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項29】
ポリペプチドが抗体または抗体試薬である、請求項28記載の組成物。
【請求項30】
活性化合物が、450より大きい分子量を有する、請求項28~29のいずれか一項記載の組成物。
【請求項31】
活性化合物が、500より大きい分子量を有する、請求項28~30のいずれか一項記載の組成物。
【請求項32】
アニオンが、
1.0未満のLogPを有し、かつ、
a. 脂肪酸ではないカルボン酸;または
b. 4炭素以下の脂肪族鎖を含むカルボン酸
である、
請求項28~31のいずれか一項記載の組成物。
【請求項33】
活性化合物が核酸を含む、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項34】
核酸が阻害性核酸である、請求項33記載の組成物。
【請求項35】
核酸がsiRNAである、請求項34記載の組成物。
【請求項36】
阻害性核酸がNFKBIZ、TNFα、および/またはIL-17阻害性核酸である、請求項34~35のいずれか一項記載の組成物。
【請求項37】
アニオンが、
1.0未満のLogPを有し、かつ、
a. 脂肪酸ではないカルボン酸;もしくは
b. 4炭素以下の脂肪族鎖を含むカルボン酸;および/または
c. 芳香族アニオン
である、
請求項33~36のいずれか一項記載の組成物。
【請求項38】
イオン液体が少なくとも0.1%w/vの濃度である、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項39】
イオン液体が約10~約70%w/vの濃度である、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項40】
イオン液体が約30~約50%w/vの濃度である、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項41】
イオン液体が約30~約40%w/vの濃度である、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項42】
経皮投与、粘膜への投与、経口投与、皮下投与、皮内投与、非経口投与、腫瘍内投与、または静脈内投与用に製剤化されている、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項43】
経皮投与用に製剤化されている、請求項42記載の組成物。
【請求項44】
粘膜が鼻粘膜、口腔粘膜、または膣粘膜である、請求項42記載の組成物。
【請求項45】
活性化合物を1~40mg/kgの用量で提供する、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項46】
少なくとも1つの非イオン性界面活性剤をさらに含む、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項47】
薬学的に許容される担体をさらに含む、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項48】
分解性カプセル剤中に提供される、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項49】
混和物である、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項50】
1つまたは複数のナノ粒子中に提供される、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項51】
活性化合物を含む1つまたは複数のナノ粒子を含み、該ナノ粒子は、イオン液体を含む組成物中での溶液または懸濁液の状態にある、前記請求項のいずれか一項記載の組成物。
【請求項52】
請求項27~51のいずれか一項記載の組成物を投与する段階を含む、少なくとも1つの活性化合物を対象へ投与する方法。
【請求項53】
組成物を1回投与する、請求項52記載の方法。
【請求項54】
組成物を複数用量で投与する、請求項52~53のいずれか一項記載の方法。
【請求項55】
投与が経皮投与、粘膜への投与、経口投与、皮下投与、皮内投与、非経口投与、腫瘍内投与、または静脈内投与である、請求項52~54のいずれか一項記載の方法。
【請求項56】
組成物がNFKBIZ、TNFα、および/またはIL-17阻害性核酸を含み、かつ対象が炎症状態の処置を必要としている、請求項52~55のいずれか一項記載の方法。
【請求項57】
それを必要としている対象の炎症状態を処置する方法であって、請求項36~51のいずれか一項記載の組成物を対象に投与する段階を含む、前記方法。
【請求項58】
投与が局所投与である、請求項56~57のいずれか一項記載の方法。
【請求項59】
炎症状態が乾癬である、請求項56~58のいずれか一項記載の方法。
【請求項60】
少なくとも1つの活性化合物を対象へ投与する方法において使用するための、請求項27~51のいずれか一項記載の組成物。
【請求項61】
1回投与される、請求項60記載の組成物。
【請求項62】
複数用量で投与される、請求項60記載の組成物。
【請求項63】
投与が経皮投与、粘膜への投与、経口投与、皮下投与、皮内投与、非経口投与、腫瘍内投与、または静脈内投与である、請求項60~62のいずれか一項記載の組成物。
【請求項64】
NFKBIZ、TNFα、および/またはIL-17阻害性核酸を含み、かつ対象が炎症状態の処置を必要としている、請求項60~63のいずれか一項記載の組成物。
【請求項65】
それを必要としている対象の炎症状態を処置する方法において使用するための、請求項36~51のいずれか一項記載の組成物。
【請求項66】
投与が局所投与である、請求項64~65のいずれか一項記載の組成物。
【請求項67】
炎症状態が乾癬である、請求項64~66のいずれか一項記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年11月22日提出の米国特許仮出願第62/939,088号の、米国特許法第119条(e)に基づく恩典を主張し、その内容は全体として参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
配列表
本出願は配列表を含み、これはASCIIフォーマットで電子的に提出しており、全体として参照により本明細書に組み入れられる。この2020年11月19日に作製したASCIIコピーは、002806-096230WOPT_SL.txtなるファイル名で、25,930バイトのサイズである。
【0003】
技術分野
本明細書に記載の技術は、活性化合物の安定化および送達のためのイオン液体に関する。
【背景技術】
【0004】
背景
多くの活性化合物、例えば薬学的に活性な化合物の取り込みは、溶媒中で化合物を送達することにより改善できる。しかしながら、そのような溶媒のほとんどは有毒な副作用を示し、かつ/または送達の時点で刺激物質として作用するため、そのようなアプローチはインビボでの使用にはしばしば不適切である。これらの毒性および刺激性の影響は、活性化合物の取り込みまたは性能におけるいかなる増加をも抑えるほど十分に深刻である。
【発明の概要】
【0005】
概要
本明細書に示すとおり、本発明者らは、一定の種類の活性化合物について驚くほどすぐれた活性化合物の取り込み動態を提供するイオン液体の特徴を特定した。したがって、予想外に高い有効性を有するこれらのイオン液体(IL)に関連する組成物および方法を本明細書に記載する。
【0006】
任意の態様の1つの局面において、本明細書に記載するのは、下記の少なくとも1つであるアニオン:a)脂肪酸ではないカルボン酸;b)4炭素以下の脂肪族鎖を含むカルボン酸;c)芳香族アニオン;および/またはd)1.0未満のLogPを有するアニオン;ならびに4級アンモニウムを含むカチオンを含む、少なくとも1つのイオン液体を含む組成物である。
【0007】
任意の局面のいくつかの態様において、アニオンは1.0未満のLogPを有し、かつa)脂肪酸ではないカルボン酸;b)4炭素以下の脂肪族鎖を含むカルボン酸;またはc)芳香族アニオンである。任意の局面のいくつかの態様において、脂肪酸は3炭素以下の脂肪族鎖を含む。任意の局面のいくつかの態様において、アニオンは1つだけのカルボン酸基(例えば、R-COOH基)を含む。任意の局面のいくつかの態様において、アニオンは:グリコール酸;プロパン酸;イソ酪酸;酪酸;没食子酸;乳酸;マロン酸;マレイン酸;グルタル酸;クエン酸;3,3-ジメチルアクリル酸;ジメチルアクリル酸;グルコン酸;アジピン酸;エチルヘキシル硫酸ナトリウム;デカン酸;ヒドロキシベンゼンスルホン酸;4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸;イソ吉草酸;ヒドロシンナミン酸(hydrocinnaminic acid);4-フェノールスルホン酸;フェニルリン酸;およびビフェニル-3-カルボン酸からなる群より選択される。
【0008】
任意の局面のいくつかの態様において、カチオンは、コリンと等しいかまたはそれよりも大きいモル質量を有する。任意の局面のいくつかの態様において、4級アンモニウムはNR4
+の構造を有し、かつ少なくとも1つのR基はヒドロキシ基を含む。任意の局面のいくつかの態様において、4級アンモニウムはNR4
+の構造を有し、かつ1つのR基だけがヒドロキシ基を含む。任意の局面のいくつかの態様において、カチオンはC1、C6、またはC7である。
【0009】
任意の局面のいくつかの態様において、イオン液体は、約2:1~約1:1のカチオン対アニオンの比を含む。任意の局面のいくつかの態様において、イオン液体は、約2:1のカチオン対アニオンの比を含む。任意の局面のいくつかの態様において、イオン液体は、1:1未満のカチオン:アニオン比を有する。任意の局面のいくつかの態様において、イオン液体は、カチオン過剰でのカチオン:アニオン比を有する。
【0010】
任意の局面のいくつかの態様において、組成物は、少なくとも1つのイオン液体と組み合わせた少なくとも1つの活性化合物をさらに含む。
【0011】
任意の局面のいくつかの態様において、活性化合物はポリペプチドを含む。任意の局面のいくつかの態様において、ポリペプチドは抗体または抗体試薬である。任意の局面のいくつかの態様において、活性化合物は450より大きい分子量を有する。任意の局面のいくつかの態様において、活性化合物は500より大きい分子量を有する。任意の局面のいくつかの態様において、アニオンは1.0未満のLogPを有し、かつa)脂肪酸ではないカルボン酸;またはb)4炭素以下の脂肪族鎖を含むカルボン酸である。
【0012】
任意の局面のいくつかの態様において、活性化合物は核酸を含む。任意の局面のいくつかの態様において、核酸は阻害性核酸である。任意の局面のいくつかの態様において、核酸はsiRNAである。任意の局面のいくつかの態様において、アニオンは1.0未満のLogPを有し、かつa)脂肪酸ではないカルボン酸;もしくはb)4炭素以下の脂肪族鎖を含むカルボン酸;および/またはc)芳香族アニオンである。
【0013】
任意の局面のいくつかの態様において、イオン液体は少なくとも0.1%w/vの濃度である。任意の局面のいくつかの態様において、イオン液体は約10~約70%w/vの濃度である。任意の局面のいくつかの態様において、イオン液体は約30~約50%w/vの濃度である。任意の局面のいくつかの態様において、イオン液体は約30~約40%w/vの濃度である。
【0014】
任意の局面のいくつかの態様において、組成物は経皮投与、粘膜への投与、経口投与、皮下投与、皮内投与、非経口投与、腫瘍内投与、または静脈内投与用に製剤化される。任意の局面のいくつかの態様において、組成物は経皮投与用に製剤化される。任意の局面のいくつかの態様において、粘膜は鼻粘膜、口腔粘膜、または膣粘膜である。
【0015】
任意の局面のいくつかの態様において、活性化合物を1~40mg/kgの用量で提供する。任意の局面のいくつかの態様において、組成物は少なくとも1つの非イオン性界面活性剤をさらに含む。任意の局面のいくつかの態様において、組成物は薬学的に許容される担体をさらに含む。任意の局面のいくつかの態様において、組成物は分解性カプセル剤中に提供される。任意の局面のいくつかの態様において、組成物は混和物である。任意の局面のいくつかの態様において、組成物は1つまたは複数のナノ粒子中に提供される。任意の局面のいくつかの態様において、組成物は活性化合物を含む1つまたは複数のナノ粒子を含み、ナノ粒子はイオン液体を含む組成物中での溶液または懸濁液の状態にある。
【0016】
任意の態様の1つの局面において、本明細書に記載するのは、少なくとも1つの活性化合物を投与する方法であって、本明細書に記載の組成物を投与する段階を含む方法である。任意の局面のいくつかの態様において、組成物を1回投与する。任意の局面のいくつかの態様において、組成物を複数用量で投与する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1-1】
図1A~1D.
図1Aは、コリンおよびグリコール酸の化学構造を示す。CGLY変種(コリン:グリコール酸モル比2:1、1:1、および1:2)を炭酸水素コリンおよびグリコール酸の塩メタセシスにより調製した。
図1Bは、20~90体積%の濃度範囲のCGLY変種から分離した抗ヒトTNF-αマウスIgG1抗体(クローンMAb11)の保持された抗原結合能力を示す。
図1Cは、CGLY変種から分離した抗ヒトTNF-αIgGの円二色性スペクトルを示す。IgGを50体積%のCGLY変種中に分散させ、RT(25℃)で1時間貯蔵した後、48時間透析した。IgGのベータシート二次構造はCGLY溶液に曝露した後に保持された。
図1Dは、CGLY変種から分離した抗ヒトTNF-αIgGのSDS-PAGEを示す。
【
図2】
図2A~2Bは、Caco-2細胞生存度およびIgG輸送に対するCGLY変種のインビトロ試験を示す。
図2Aは、CGLY変種で処理したcaco-2細胞生存度を示す。データは平均±S.E.(n=6)で表した。
図2Bは、30mM CGLY変種存在下、Caco-2単層を通過してのFITC-IgG輸送の増強を示す。データは平均±S.E.(n=5)で表した;(*p<0.05;CGLY
1:1、およびCGLY 1:2に比べてのCGLY
2:1処理)。(
##p<0.01;CGLY処理なしに比べてのすべてのCGLY処理)。
【
図3-1】
図3A~3Dは、CGLY
2:1によるCaco-2細胞単層を通過してのインビトロ分子輸送を示す。様々なCGLY2:1濃度存在下、Caco-2単層を通過してのFITC-IgG(
図3A)およびルシファーイエロー(
図3B)輸送の増強。データは平均±S.E.(n=5)で表した。
図3Cは、様々な濃度のCGLY処理後のCaco-2細胞のタイトジャンクション完全性に対する影響を示す。データは平均±S.E.(n=5)で表した;(*p<0.05;**p<0.001;CGLY
2:1処理なしに比べてすべてCGLY2:1処理)。
図3Dは、55mM CGLY
2:1存在下、および経細胞輸送阻害剤存在下または非存在下で24時間インキュベートした後の、Caco-2単層を通過してのFITC-IgG輸送を示す。データは平均±S.E.(n=5)で表した。
【
図4】
図4Aは、生理食塩水中0体積%、12.5体積%および25体積%および50体積%のCGLY
2:1存在下、10~80 1/sの範囲のずり速度の関数としてプロットしたブタ小腸粘液の粘度を示す。CGLY
2:1処理を粘液に加え、続いて緩やかに振盪し、次いで30分間平衡化させた後に測定した。データは平均(n=3)で表した。黒丸=0体積%、濃い灰色の丸=12.5体積%、薄い灰色の丸 25体積%、白丸 50体積%。
図4Bは、生理食塩水中0体積%、12.5体積%および25体積%および50体積%のCGLY
2:1存在下、49.87 1/sのずり速度でのブタ粘液の平均粘度値を示す。データは平均±S.E.(n=3)で表した;(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001;CGLY処理なしに比べてのCGLY
2:1処理)。
【
図5-1】
図5A~5Cは、FITC-IgGおよびCGLY
2:1(
図5B)、FITC-IgGおよび生理食塩水(
図5C)ならびにFITC-IgGなしの生理食塩水(
図5A)の空腸内注射後の腸絨毛の蛍光顕微鏡画像を示す。蛍光顕微鏡撮像は三つ組で実施し、代表的画像を示した。スケールバーは200μmを表す。
図5Aは、CGLY 2:1の経口投与毒性試験を示す。CGLY2:1(50体積%)または生理食塩水の経口栄養法、用量1250mg/kg、n=2を15日間提供した。結果を、体重監視、血液化学、GI管および主要臓器のH&E染色によって評価した。
図5Dは、
図5A~5Cからの絨毛の単位面積あたりのFITC-IgGの蛍光定量を示す。データは平均±S.E.(n=10)で表した。
図5Eは、ELISAで定量した、CGLY2:1または生理食塩水中のIgGの空腸内注射後のインビボ血漿抗ヒトTNF-αIgG濃度を示す。
【
図6A】
図6A~6Cは、CGLY
2:1のインビボ毒性試験を示す。ラットにCGLY
2:1または生理食塩水を1日1回連続7日間経口投与した。
図6Aは、試験中の第0日~第7日のラット体重記録を示す。データは平均±S.E.(n=6)で表した。
図6Bは、第7日に、ラットを屠殺し、GI管の切片を組織染色用にヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で処理した結果を示す。スケールバーは100μmを表す。
図6Cは、ラットの包括的代謝パネル(n=6)を示す。第7日に行った血液検査で、2群の間に有意な変化は見られず、CGLY投与後の正常な肝臓および腎臓機能を示していた。すべてのバーおよびマーカーは平均±S.E.を表す。
【
図8】
図8は、示したIL中の、ELISAで測定した機能的抗体安定性を示す。一般的傾向として、大きいアニオンよりも小さいアニオンの方が抗体との適合性が高い。
【
図9】
図9は、示したIL中の、サイズ排除クロマトグラフィで測定した機能的抗体安定性を示す。用いた抗体は、2日間透析した抗ヒトTNFα(マウス)(クローンMAb11)であった。
【
図10】
図10は、示したIL中の、円二色性で測定した機能的抗体安定性を示す。用いた抗体は、2日間透析した抗ヒトTNFα(マウス)(クローンMAb11)であった。
【
図11】
図11は、示した組成物中で空腸内投与後の血清中の抗体濃度のグラフを示す。用量は200μg/kg、n=3であった。
【
図12】
図12は、インビボmAb局所送達の実験デザインを示す。
【
図14】
図14は、CGLY2:1の他の抗体との適合性試験を示す。
【
図15】
図15は、
図5Aの毒性試験における主要臓器のH&E染色を示す。ラットにCGLY
2:1または生理食塩水を1日1回連続7日間経口投与した。第7日に、ラットを屠殺し、心臓、肝臓、脾臓、肺、および腎臓を含む主要臓器を組織染色用にH&Eで処理した。CGLY
2:1および生理食塩水対照群の間で差は見られなかった。スケールバーは100μmを表す。
【
図16】
図16は、
図5Aの毒性試験におけるGI管のH&E染色を示す。ラットにCGLY
2:1または生理食塩水を1日1回連続7日間経口投与した。第7日に、ラットを屠殺し、心臓、肝臓、脾臓、肺、および腎臓を含む主要臓器を組織染色用にH&Eで処理した。CGLY
2:1および生理食塩水対照群の間で差は見られなかった。スケールバーは100μmを表す。
【
図17】
図17は、siRNA送達性能について試験したILの構造を示す。
【
図18】
図18は、Caco-2細胞の層で覆い、様々な濃度のCGLY
2:1中に分散させたFITC-IgGと共に5時間インキュベートした、トランスウェルメンブレンの代表的な共焦点顕微鏡画像を示す。画像は倍率40×で撮像した。画像はDAPI標識した核、FITC-IgGならびにDAPI染色およびFITC-IgGの重ね合わせを示す。スケールバーは50μmを表す。
【
図19A】
図19A~19Eは、表皮蓄積増強のためのコリニウム系生理活性IL-RNA複合体のスクリーニングを示す。(
図19A)IL(50体積%)と共に30分間インキュベートし、72時間透析した後の、リン酸緩衝化食塩水(PBS)中のsiRNAのCDスペクトル。(
図19B)ILインキュベーション後のsiRNAの代表的なネイティブゲル画像。bp、塩基対。(
図19C)1:1の比で混合したIL組み合わせ(CAGE+CAPA)存在下、24時間インキュベーション後の、異なる皮膚層(a)角質層(SC)、(b)表皮、および(c)真皮におけるsiRNA(赤)の代表的な共焦点画像。左から右へ:マージ、Cy5、微分干渉(DIC)。スケールバー、50μm。(
図19Dおよび19E)テープストリッピング法(n=3)により判定した、濃度50体積%の個々のIL(
図19D)および50体積%のIL組み合わせ(
図19E)存在下でのCy5標識siRNAの皮膚の異なる層への輸送。
図19D~19Eについて、データは平均±SEMであり、正規性検定およびクラスカル・ワリス検定による統計学によってノンパラメトリックであると判定された。*P<0.05。
【
図20-1】
図20A~20Fは、溶媒和および安定性増強のためのIL-siRNA相互作用の程度を特定するMDシミュレーションを示す。(
図20Aおよび20B)周期境界条件下、500nsの、CAGEおよびsiRNAのシミュレーションユニットセル(
図20A)ならびにsiRNAの10Å以内で見られるCAGE構成要素(
図20B)のスナップショット。(
図20Cおよび20D)同様の条件下での、最適化したIL組み合わせ(CAGEおよびCAPA、1:1)およびsiRNAのシミュレーションユニットセル(
図20C)ならびにsiRNAの10Å以内で見られるIL種(
図20D)のスナップショット。(
図20Eおよび20F)CAGE(対照)に対してCAPAおよびIL組み合わせ(CAGEおよびCAPA)について500nsの間に得た、回転半径(RGYR)(
図20E)および平均二乗偏差(RMSD)(
図20F)。
【
図21-1】
図21A~21Eは、IL組み合わせの脂質二重層相互作用の増強および移行メカニズムを確立する3つのMDシミュレーションを示す。(
図21A)丸で強調した、コリン、ゲラン酸、およびフェニルプロパン酸の凝集体による脂質二重層シミュレーション。(
図21B)リン脂質頭部および尾部とのイオン種の閉じた相互作用を示す丸からのイオン種の拡大図。凝集体は、脂質膜との相互作用に寄与する3つのイオン種すべてを含む。(
図21C)脂質二重層の平面における膜に対して垂直に見た代表的スナップショット。(
図21Dおよび21E)CAGE(対照)に対してCAPAおよびIL組み合わせ(CAGEおよびCAPA)存在下でのシミュレーションの間の、脂質膜の平均厚さ(
図21D)および脂質あたりの平均面積(
図21E)。
図21D~21Eについて、データはすべて平均±SEMであり、正規性検定およびクラスカル・ワリス検定による統計学によってノンパラメトリックであると判定された。****P<0.0001。
【
図22-1】
図22A~22Eは、IL-siRNAがマウスにおいて局所適用後に、毒性を示すことなく、GAPDH発現を阻害することを示す。(
図22A)局所適用スケジュールの概略図。(
図22B)IL-siRNAの局所適用5日後の皮膚組織の代表的組織学[ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)]画像。スケールバー、100μm;倍率、×10。(
図22C)マウス皮膚組織における、IL存在下、および非存在下でのCy5-siRNAの表皮蓄積の共焦点画像。スケールバー、50μm。(
図22D)GAPDH mRNA発現をqPCRで測定した。β-アクチンmRNA発現を正規化のために用いた。データは平均±SEMであり、正規性検定およびクラスカル・ワリス検定による統計学によってノンパラメトリックであると判定された。*P<0.05、***P<0.001、および****P<0.0001。(
図22E)皮膚試料におけるGAPDHレベルを、GAPDH酵素結合免疫吸着検定法を用いて判定した。データは平均±SEMであり、統計学は一元配置分散分析およびテューキーHSD事後検定による。****P<0.0001(対照、n=5;裸のsiRNA、n=5;IL-siCon、n=4;IL-siRNA、n=8)。
【
図23-1】
図23A~23Jは、局所IL-siRNAによるNFKBIZの局所阻害が、イミキモド誘発性の乾癬様皮膚炎症および他の主要な乾癬関連遺伝子を抑制することを示す。(
図23A)疾患誘発およびIL-siRNA局所投与の適用スケジュールの概略図。(
図23B)乾癬誘発したマウスをIL-NFKBIZ siRNAで局所処置し、未処置およびIL適用群と比較した。(
図23C)処置を行ったマウスまたは未処置のマウスからの乾癬誘発した皮膚切片のH&E染色。スケールバー、50μm;倍率、×10。(
図23D)マウスからの皮膚切片を、ケラチノサイト増殖(増殖マーカー、Ki67)についてIHCにより分析した。スケールバー、100μm。(
図23Eおよび23F)ヒトPASIスコアリングシステムを用いて0(変化なし)~4(非常に明確な変化)のスケールで毎日盲検的に採点することにより得た紅斑およびスケーリングスコア。(
図23G)未処置(対照)およびIL-siCon処置群と比較した、IL-NFKBIZ siRNAによる処置後の様々な乾癬関連遺伝子の発現レベルのヒートマップ。(
図23H~23J)NFKBIZ、TNF-α、およびIL-17Aそれぞれについて、mRNA発現レベルをqPCRで測定し、β-アクチンmRNA発現を正規化のために用いた。データは平均±SEMであり、統計学は一元配置分散分析およびテューキーHSD事後検定による。*P<0.05、**P<0.01、および****P<0.0001(対照、n=4;IL、n=4;IL-siCon、n=4;IL-siRNA、n=8)。
【
図24-1】
図24A~24Eは、RNAとの改善された生体適合性および相互作用のための、組織内(in-house)コリニウム系ILライブラリのデザインおよび合成を示す。(
図24A)CAGEを基準ILとして合成される、様々なアニオンを含むコリニウム系ILライブラリ。(
図24B)ILの合成において使用した塩メタセシスの一般合成スキーム。(
図24C)siRNAの送達のための最適化したIL組み合わせ(CAGE+CAPA)の合成スキーム。(
図24D)RTで粘性のままの合成ILの1H-NMRスペクトル、(a)CAGE、(b)CAVA、(c)CAPAおよび(d)CADA。(
図24E)Image Jソフトウェアで測定した、ILインキュベーション後のsiRNAバンドの相対密度。
【
図25-1】
図25A~25Dは、IL存在下、Cy5標識siRNAの改善された表皮蓄積を示す。(
図25A)エクスビボブタ皮膚透過試験のためのフランツ拡散セル(FDC)設定の概略図。(
図25B)対照、裸のsiRNAおよびCAGE存在下でのsiRNAの代表的共焦点画像。(
図25C)ブタ皮膚を24時間インキュベートした後の、新しく合成したコリニウム系ILおよび1:1の比の組み合わせ存在下でのCy5-siRNAの表皮蓄積。左から右:マージ、Cy5、微分干渉(DIC)。スケールバー、50μm。(
図25D)テープストリッピング法(n=3)により判定した、Cy5標識siRNAの皮膚の異なる層への輸送。データは平均±SEMであり、正規性検定およびクラスカル・ワリス検定による統計学によってノンパラメトリックであると判定された。
【
図26】
図26A~26Bは、IL-脂質二重層相互作用および透過におけるIL種移動性の主な寄与を示す。(
図26A)IL組み合わせ存在下での脂質二重層シミュレーション(丸で強調)(
図26B)IL組み合わせ内の個々のイオン種の軌道、pythonライブラリMDAnalysisを用いてのCAGE+CAPAシミュレーション。
【
図27】
図27A~27Dは、局所適用後に毒性および刺激なしに生体適合性が高いIL製剤を示す。(
図27A)IL-GAPDH siRNAで局所処置した健常マウスの適用部位、水およびIL-siCon群と比較した。(
図27B)IL-siConで連続4日間局所処置した健常マウスからの皮膚切片のH&E染色。スケールバー、100μm、倍率、10×。(
図27C)健常マウスからの皮膚切片を、増殖マーカーKi67での染色により、過剰増殖について分析した。スケールバー、100μm。増殖領域が観察されなかったため、IHCについての定量分析は行わなかった。(
図27D)TNF-αmRNA発現をqPCRで測定し、β-アクチンmRNA発現を正規化のために用いた。データは平均±SEMであり、統計学は一元配置分散分析およびテューキーHSD事後検定による。*P<0.05、**P<0.01、****P<0.0001。(対照、n=5;裸のsiRNA、n=5;IL-siCon、n=4;IL-siRNA、n=8)。
【
図28】
図28A~28Dは、イミキモド誘発性乾癬マウスにおけるIL-siCon効果の特徴づけを示す。(
図28A)乾癬誘発したマウスをIL-siConで局所処置した。連続4日間。(
図28B)IL-siConで局所処置したイミキモド誘発性乾癬マウスからの皮膚切片のH&E染色。スケールバー、50μm、倍率、10×。(
図28C)乾癬マウスからの皮膚切片を、増殖マーカーKi67での染色により、過剰増殖について分析した。スケールバー、100μm。(
図28D)表皮厚さ;Image Jソフトウェアによる10~15の無作為部位測定に基づいて算出した表皮厚さの平均。データは平均±SEMであり、統計学は一元配置分散分析およびテューキーHSD事後検定による。*P<0.05、****P<0.0001。
【
図29】
図29A~29Cは、マウスのイミキモド誘発性乾癬様皮膚炎症におけるIL-NFKBIZ siRNAの効果を示す。イミキモド誘発性乾癬マウスを、5日間の誘発/適用期間中、二重皮下脂肪厚(DSFT)により監視して、累積スコア(
図29A)、体重(
図29B)および皮膚厚さ(
図29C)について分析した。データは平均±SEMである。(対照、n=4;IL、n=4;IL-siRNA、n=8)。
【
図30-1】
図30A~30Jは、乾癬関連遺伝子産物に対するNFKBIZサイレンシングの下流効果を示す。サイトカイン、IL-17C、IL-19、IL-22、IL-23A、IL-36A、IL-36G(
図30A~30F);ケモカイン、CCL 20(
図30G);S100タンパク質、S100A9(
図30H);抗菌タンパク質、リポカリン-2、LCN2およびβ-デフェンシン-2、DEFB4(
図30J)についてmRNA発現をqPCRで測定し、β-アクチンmRNA発現を正規化のために用いた。データは平均±SEMであり、統計学は一元配置分散分析およびテューキーHSD事後検定による。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、****P<0.0001。(対照、n=4;IL、n=4;IL-siCon、n=4;IL-siRNA、n=8)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
発明の詳細な説明
本明細書において提供するデータは、イオン液体(IL)のアニオンは、特定の活性剤が生体バリア(例えば、真皮などの上皮層)を通過して輸送されるかどうかに顕著な影響を発揮することを示す。低い疎水性および/または芳香族基を有するアニオンは、CAGE(コリンおよびゲラン酸)などの以前に記述されたIL中のアニオンよりも、抗体およびsiRNA積荷分子のための改善された薬物送達特性を提供する。アニオンと対形成するカチオンを選択する際に、主な関心事はカチオンがアニオンと密接に関連しすぎないことであり、密接な関連はアニオンが生体バリアの最初の側に保持される原因となる。
【0019】
したがって、任意の態様の1つの局面において、本明細書に記載するのは、1)下記の少なくとも1つであるアニオン:
a)脂肪酸ではないカルボン酸;
b)4炭素以下の脂肪族鎖を含むカルボン酸;
c)芳香族アニオン;および/または
d)1.0未満のLogPを有するアニオン;ならびに
2)4級アンモニウムを含むカチオン
を含む、少なくとも1つのイオン液体を含む組成物である。
【0020】
任意の態様の1つの局面において、本明細書に記載するのは、1)本明細書に記載のカルボン酸であるアニオン;および2)4級アンモニウムを含むカチオンを含む、少なくとも1つのイオン液体を含む組成物である。
【0021】
本明細書において用いられる「イオン液体(IL)」という用語は、室温で液体状態にある有機塩または有機塩の混合物を指す。このクラスの溶媒は、工業処理、触媒、薬剤、および電気化学を含む様々な分野で有用であることが示されている。イオン液体は、少なくとも1つのアニオン成分および少なくとも1つのカチオン成分を含む。イオン液体は、追加の水素結合供与体(すなわち-OHまたは-NH基を提供し得る任意の分子)を含むことができ、例にはアルコール、脂肪酸、およびアミンが含まれるが、それらに限定されない。少なくとも1つのアニオン成分および少なくとも1つのカチオン成分は、任意のモル比で存在し得る。例示的なモル比(カチオン:アニオン)には、1:1、1:2、2:1、1:3、3:1、2:3、3:2、およびこれらの比の間の範囲が含まれるが、それらに限定されない。イオン液体のさらなる考察のために、例えば、Hough, et ah, ''The third evolution of ionic liquids: active pharmaceutical ingredients'', New Journal of Chemistry, 31 : 1429 (2007)およびXu, et al., ''Ionic Liquids: Ion Mobilities, Glass Temperatures, and Fragilities'', Journal of Physical Chemistry B, 107(25): 6170-6178 (2003)を参照されたく、そのそれぞれは全体として参照により本明細書に組み入れられる。任意の局面のいくつかの態様において、イオン液体または溶媒は100℃未満で液体として存在する。任意の局面のいくつかの態様において、イオン液体または溶媒は室温で液体として存在する。
【0022】
本明細書に記載のとおり、低い疎水性、相対的に短い炭素鎖、および/または芳香族基を有するアニオンは、大きいポリペプチド(例えば、抗体)または核酸積荷分子のための改善された薬物送達特性を提供する。いくつかの態様において、改善された薬物送達特性は、積荷分子の変性または分解の低減を含む。いくつかの態様において、改善された薬物送達特性は、生体バリアを通過する能力の増大(例えば、透過性増大)を含む。任意の局面のいくつかの態様において、低い疎水性および/または相対的に短い炭素鎖を有するアニオンは、大きいポリペプチド(例えば、抗体)積荷分子のための改善された薬物送達特性を提供する。任意の局面のいくつかの態様において、芳香族基および/または相対的に短い炭素鎖を有するアニオンは、核酸積荷分子のための改善された薬物送達特性を提供する。
【0023】
任意の局面のいくつかの態様において、本明細書に記載のILのアニオンは疎水性である。
【0024】
任意の局面のいくつかの態様において、本明細書に記載のILのアニオンはカルボン酸を含む。任意の局面のいくつかの態様において、本明細書に記載のILのアニオンは、脂肪酸ではないカルボン酸を含む。
【0025】
カルボン酸は、Rが任意の基であり得る、式Iの構造を有する化合物である。
【0026】
一般に、アニオンはR-X-であり、ここでXはCO2
-、SO3
-、OSO3
2-またはOPO3
2-であり;かつRは置換されていてもよいC1~C10アルキル、置換されていてもよいC2~C10アルケニル、または置換されていてもよいC2~C10アルキニル、置換されていてもよいアリール、または置換されていてもよいヘテロアリールである。
【0027】
いくつかの態様において、Rは置換されていてもよい直鎖または分枝C1~C9アルキルである。例えば、Rは、C1~C3アルキル、ヒドロキシ(OH)、ハロゲン、オキソ(=O)、カルボキシ(CO2)、シアノ(CN)およびアリールからなる群より独立に選択される1、2、3、4、5または6つの置換基で置換されていてもよい、C1~C9アルキルである。いくつかの態様において、Rは、C1~C3アルキル、ヒドロキシ、カルボキシおよびフェニルからなる群より独立に選択される1、2、3、4または5つの置換基で置換されていてもよい、C1~C6アルキルである。好ましくは、Rは、メチル、エチル、ヒドロキシル、カルボキシ、およびフェニルからなる群より独立に選択される1、2、3、4または5つの置換基で置換されていてもよい、C1~C5アルキルである。Rのための例示的アルキルには、メチル、カルボキシメチル、ヒドロキシメチル、エチル、1-ヒドロキシエチル、2-フェニルエチル、プロピル、プロパ-2-イル、1-メチルプロピル、2-メチルプロピル、3-カルボキシプロピル、2,3-ジカルボキシメチル-2-ヒドロキシプロピル、ブチル、ペンチル、1,2,3,4,5-ペンタヒドロキシペンチル、ヘキシル、2-エチルヘキシルおよびノニルが含まれるが、それらに限定されない。
【0028】
いくつかの態様において、Rは置換されていてもよい直鎖または分枝C2~C8アルケニルである。例えば、Rは、C1~C3アルキル、ヒドロキシ、ハロゲン、オキソ、カルボキシ、シアノおよびアリールからなる群より独立に選択される1、2、3、4、5または6つの置換基で置換されていてもよい、C2~C9アルケニルである。いくつかの態様において、Rは、C1~C3アルキル、ヒドロキシ、カルボキシおよびフェニルからなる群より独立に選択される1、2、3、4または5つの置換基で置換されていてもよい、C2~C6アルケニルである。好ましくは、Rは、メチル、エチル、ヒドロキシル、カルボキシ、およびフェニルからなる群より独立に選択される1、2、3、4または5つの置換基で置換されていてもよい、C1~C5アルケニルである。Rのための例示的アルケニルには、エテニル、2-カルボキシエテニル、1-メチルプロペニルおよび2-メチルプロペニルが含まれるが、それらに限定されない。
【0029】
いくつかの態様において、Rは置換されていてもよいアリールまたはヘテロアリールである。例えば、Rは、C1~C3アルキル、ヒドロキシ、ハロゲン、オキソ、カルボキシ、シアノおよびアリールからなる群より独立に選択される1、2、3、4、5または6つの置換基で置換されていてもよい、アリールまたはヘテロアイル(heteroayl)である。いくつかの態様において、Rは、C1~C3アルキル、ヒドロキシ、カルボキシおよびフェニルからなる群より独立に選択される1、2、3、4または5つの置換基で置換されていてもよい、アリールである。好ましくは、Rは、メチル、エチル、ヒドロキシル、カルボキシ、およびフェニルからなる群より独立に選択される1、2または3つの置換基で置換されたフェニルである。Rのための例示的アリールには、フェニル、2-ヒドロキシフェニル、3-ヒドロキシフェニル、4-ヒドロキシフェニル、ジヒドロキシフェニル、トリヒドロキシフェニル、3,4,5-トリヒドロキシフェニル、および1,1-ビフェン-4-イルが含まれるが、それらに限定されない。
【0030】
いくつかの態様において、XはCO2
-であり、かつRはメチル、カルボキシメチル、ヒドロキシメチル、エチル、1-ヒドロキシエチル、2-フェニルエチル、プロピル、プロパ-2-イル、1-メチルプロピル、2-メチルプロピル、3-カルボキシプロピル、2,3-ジカルボキシメチル-2-ヒドロキシプロピル、ブチル、ペンチル、1,2,3,4,5-ペンタヒドロキシペンチル、ヘキシル、2-エチルヘキシル、ノニル、エテニル、2-カルボキシエテニル、1-メチルプロペニル、2-メチルプロペニル、3,4,5-トリヒドロキシフェニル、または1,1-ビフェン-4-イルである。いくつかの他の態様において、XはOSO3
-であり、かつRはメチル、カルボキシメチル、ヒドロキシメチル、エチル、1-ヒドロキシエチル、2-フェニルエチル、プロピル、プロパ-2-イル、1-メチルプロピル、2-メチルプロピル、3-カルボキシプロピル、2,3-ジカルボキシメチル-2-ヒドロキシプロピル、ブチル、ペンチル、1,2,3,4,5-ペンタヒドロキシペンチル、ヘキシル、2-エチルヘキシル、ノニル、エテニル、2-カルボキシエテニル、1-メチルプロペニル、2-メチルプロペニル、3,4,5-トリヒドロキシフェニル、または1,1-ビフェン-4-イルである。さらにいくつかの他の態様において、XはOPO3
2-またはSO3
-であり、かつRは2-ヒドロキシフェニル、3-ヒドロキシフェニルまたは4-ヒドロキシフェニルである。
【0031】
「アルキル」という用語は、それ自体で、または別の置換基の一部として、特に記載がないかぎり、直鎖(すなわち、非分枝)もしくは分枝炭素鎖(または炭素)、またはその組み合わせを意味し、これは完全飽和、一不飽和または多不飽和であってもよく、指定された数の炭素原子を有する(すなわち、C1~C10は1~10個の炭素を意味する)、一、二、および多価ラジカルを含み得る。アルキルは非環式鎖である。飽和炭化水素ラジカルの例には、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、t-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、(シクロヘキシル)メチルなどの基、例えば、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチルなどのホモログおよび異性体が含まれるが、それらに限定されない。「アルケニル」は不飽和アルキル基であり、1つまたは複数の二重結合を有するものである。不飽和アルキル基の例には、ビニル、2-プロペニル、クロチル、2-イソペンテニル、2-(ブタジエニル)、2,4-ペンタジエニル、3-(1,4-ペンタジエニル)、ならびに高級ホモログおよび異性体が含まれるが、それらに限定されない。
【0032】
「アリール」という用語は、特に記載がないかぎり、多不飽和、芳香族、炭化水素置換基を意味し、これは単一の環または一緒に縮合された(すなわち、縮合環アリール)もしくは共有結合された複数の環(好ましくは1~3つの環)であり得る。縮合環アリールとは、縮合環の少なくとも1つがアリール環である、一緒に縮合された複数の環を指す。「ヘテロアリール」という用語は、N、O、またはSなどの少なくとも1つのヘテロ原子を含むアリール基(または環)を指し、ここで窒素および硫黄原子は任意に酸化されており、かつ窒素原子は任意に4級化されている。したがって、「ヘテロアリール」という用語は、縮合環ヘテロアリール基(すなわち、縮合環の少なくとも1つがヘテロ芳香環である、一緒に縮合された複数の環)を含む。5,6-縮合環ヘテロアリーレンとは、1つの環が5員を有し、他の環が6員を有し、かつ少なくとも1つの環がヘテロアリール環である、一緒に縮合された2つの環を指す。同様に、6,6-縮合環ヘテロアリーレンとは、1つの環が6員を有し、他の環が6員を有し、かつ少なくとも1つの環がヘテロアリール環である、一緒に縮合された2つの環を指す。また、6,5-縮合環ヘテロアリーレンとは、1つの環が6員を有し、他の環が5員を有し、かつ少なくとも1つの環がヘテロアリール環である、一緒に縮合された2つの環を指す。ヘテロアリール基は、分子の残りに炭素またはヘテロ原子を通じて結合され得る。例示的アリールおよびヘテロアリール基には、フェニル、4-ニトロフェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、ビフェニル、4-ビフェニル、ピロール、1-ピロリル、2-ピロリル、3-ピロリル、ピラゾール、3-ピラゾリル、イミダゾール、イミダゾリル、2-イミダゾリル、4-イミダゾリル、ベンズイミダゾリル、ピラジニル、2-オキサゾリル、4-オキサゾリル、2-フェニル-4-オキサゾリル、5-オキサゾリル、3-イソオキサゾリル、4-イソオキサゾリル、5-イソオキサゾリル、チアゾリル、2-チアゾリル、4-チアゾリル、5-チアゾリル、2-フリル、3-フリル、2-チエニル、3-チエニル、ピリジン、2-ピリジル、ナフチリジニル、3-ピリジル、4-ピリジル、ベンゾフェノンピリジル、ピリダジニル、ピラジニル、2-ピリミジル、4-ピリミジル、ピリミジニル、5-ベンゾチアゾリル、プリニル、2-ベンズイミダゾリル、インドリル、5-インドリル、キノリン、キノリニル、1-イソキノリル、5-イソキノリル、2-キノキサリニル、5-キノキサリニル、3-キノリル、6-キノリル、フラン、フリルまたはフラニル、チオフェン、チオフェニルまたはチエニル、ジフェニルエーテル、ジフェニルアミンなどが含まれるが、それらに限定されない。
【0033】
「置換されていてもよい」という用語は、指定の基または部分が無置換であるか、または「置換基」の定義において以下に挙げるか、もしくはそれ以外に指定する置換基の群から独立に選択される1つもしくは複数(典型的には1、2、3、4、5または6つの置換基)で置換されていることを意味する。「置換基」という用語は、置換されている基の任意の原子において置換されている基上に「置換された」基を指す。適切な置換基には、ハロゲン、ヒドロキシ、カルボキシ、オキソ、ニトロ、ハロアルキル、アルキル、アルケニル、アルキニル、アルカリール、アリール、ヘテロアリール、シクリル、ヘテロシクリル、アラルキル、アルコキシ、アリールオキシ、アミノ、アシルアミノ、アルキルカルバノイル(alkylcarbanoyl)、アリールカルバノイル(arylcarbanoyl)、アミノアルキル、アルコキシカルボニル、カルボキシ、ヒドロキシアルキル、アルカンスルホニル、アレンスルホニル、アルカンスルホンアミド、アレンスルホンアミド、アラルキルスルホンアミド、アルキルカルボニル、アシルオキシ、シアノまたはウレイドが含まれるが、それらに限定されない。いくつかの場合に、2つの置換基は、それらが結合している炭素と一緒に、環を形成し得る。
【0034】
本明細書において用いられる「脂肪酸」は、Rが飽和または不飽和脂肪族鎖を含む、例えば、Rが式CnH2n+1を有する、カルボン酸を指す。任意の局面のいくつかの態様において、脂肪酸はモノカルボン酸である。脂肪酸は天然または合成であり得る。脂肪酸の脂肪族鎖は飽和、不飽和、分枝、直鎖、および/または環状であり得る。任意の局面のいくつかの態様において、脂肪族鎖は芳香族基を含まない。任意の局面のいくつかの態様において、脂肪族鎖は、アルキルまたはアルケン鎖を含む、それらからなる、またはそれらから基本的になる。
【0035】
脂肪酸ではない例示的カルボン酸には、乳酸;グリコール酸;マロン酸;マレイン酸;グルタル酸;クエン酸;グルコン酸;およびアジピン酸が含まれ得るが、それらに限定されない。
【0036】
いくつかの態様において、脂肪酸ではないカルボン酸は、直鎖または分枝配置のいずれかで、R基内に5つ以下の炭素を含む。いくつかの態様において、脂肪酸ではないカルボン酸は、R基内にヒドロキシ基を含む。いくつかの態様において、脂肪酸ではないカルボン酸は、R基内に1つまたは複数のカルボン酸を含む。
【0037】
いくつかの態様において、脂肪酸ではないカルボン酸は、直鎖または分枝配置のいずれかで、R基内に5つ以下の炭素を含み、かつR基内にヒドロキシ基を含む。いくつかの態様において、脂肪酸ではないカルボン酸は、直鎖または分枝配置のいずれかで、R基内に1~5つの炭素を含み、かつR基内にヒドロキシ基を含む。
【0038】
いくつかの態様において、脂肪酸ではないカルボン酸は、直鎖または分枝配置のいずれかで、R基内に5つ以下の炭素を含み、かつR基内に1つまたは複数のカルボン酸基を含む。いくつかの態様において、脂肪酸ではないカルボン酸は、直鎖または分枝配置のいずれかで、R基内に1~5つの炭素を含み、かつR基内に1つまたは複数のカルボン酸基を含む。
【0039】
いくつかの態様において、脂肪酸ではないカルボン酸は、直鎖または分枝配置のいずれかで、R基内に1~5つの炭素を含み、かつR基内に1つのカルボン酸基を含む。
【0040】
鎖内の炭素の数が本明細書において言及される場合、鎖内(分枝を含む)の炭素の全数を指すことが企図される。直鎖の場合、これは炭素鎖長と同じである。分枝鎖の場合、「鎖長」は分枝鎖の最も長い炭素鎖分枝を指す。
【0041】
いくつかの態様において、アニオンは1つのカルボン酸基を含む。
【0042】
4炭素以下の脂肪族鎖を含む例示的カルボン酸には、プロパン酸(脂肪酸);イソ酪酸(脂肪酸);酪酸(脂肪酸);3,3-ジメチルアクリル酸(脂肪酸);ジメチルアクリル酸(脂肪酸);およびイソ吉草酸(脂肪酸)が含まれ得る。
【0043】
本明細書において企図される例示的代替アニオンには、デカン酸およびエチルヘキシル硫酸が含まれる。
【0044】
例示的芳香族アニオンには、没食子酸、ヒドロケイ皮酸、ヒドロキシベンゼンスルホン酸、4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸(4-フェノールスルホン酸)、ビフェニル-3-カルボン酸、およびフェニルリン酸が含まれるが、それらに限定されない。
【0045】
疎水性は、logPの分析によって評価してもよい。「LogP」とは、P(分配係数)の対数を指す。Pは、物質が脂質(油)と水との間でいかにうまく分配するかの尺度である。P自体は定数である。中性分子としての、水相中の化合物の濃度の非混和性溶媒中の化合物の濃度に対する比として定義される。
分配係数、P=[有機]/[水性]、ここで[ ]=濃度
Log P=log10(分配係数)=log10 P
実際には、LogP値は測定条件および分配溶媒の選択に応じて変動することになる。1のLogP値は、化合物の濃度が有機相で水相の10倍高いことを意味する。1のlogP値の増加は、水相と比較して有機相中の化合物濃度の10倍の増加を示す。
【0046】
任意の局面のいくつかの態様において、アニオンは1.0未満のLogPを有する。任意の局面のいくつかの態様において、アニオンは0.80未満のLogPを有する。任意の局面のいくつかの態様において、アニオンは0.75未満のLogPを有する。任意の局面のいくつかの態様において、アニオンは0.50未満のLogPを有する。任意の局面のいくつかの態様において、アニオンは0.25未満のLogPを有する。任意の局面のいくつかの態様において、アニオンは0未満のLogPを有する。
【0047】
任意の態様の1つの局面において、本明細書に記載するのは、1)1.0未満のLogPを有するアニオンであって、脂肪酸ではないカルボン酸であるアニオン、および2)4級アンモニウムを含むカチオンを含む、少なくとも1つのイオン液体を含む組成物である。任意の態様の1つの局面において、本明細書に記載するのは、1)1.0未満のLogPを有するアニオンであって、4炭素以下の脂肪族鎖を含むカルボン酸であるアニオン、および2)4級アンモニウムを含むカチオンを含む、少なくとも1つのイオン液体を含む組成物である。任意の態様の1つの局面において、本明細書に記載するのは、1)1.0未満のLogPを有するアニオンであって、芳香族であるアニオン、および2)4級アンモニウムを含むカチオンを含む、少なくとも1つのイオン液体を含む組成物である。
【0048】
任意の局面のいくつかの態様において、本明細書に記載のILのアニオンは、4.0未満のpKaを有する。任意の局面のいくつかの態様において、本明細書に記載のILのアニオンは、4.0未満のpKaおよび1.0未満のLogPを有する。
【0049】
アニオンのpKaおよびLogP値は、当技術分野において公知であり、かつ/または当業者であれば計算することができる。例えば、PubChemおよびSpiderChemは様々なアニオンについてのこれらの値を提供し、化学製造業者は典型的にはその製品のカタログリストの一部としてそれらを提供する。例示的アニオンのpKaおよびLogP値を、本明細書の表1に提供する。
【0050】
例示的な非限定的アニオンを以下の表1に提供する。
【0051】
【0052】
任意の局面のいくつかの態様において、アニオンはアルカンである。任意の局面のいくつかの態様において、アニオンはアルケンである。任意の局面のいくつかの態様において、アニオンは単一のカルボキシル基を含む。任意の局面のいくつかの態様において、カルボン酸の炭素鎖は1つまたは複数の置換基を含む。任意の局面のいくつかの態様において、カルボン酸の炭素鎖骨格は1つまたは複数の置換基を含み、ここで各置換基は少なくとも1つの炭素原子を含む。任意の局面のいくつかの態様において、カルボン酸の炭素鎖骨格は1つまたは複数の置換基を含み、ここで少なくとも1つの置換基はメチル基を含む。任意の局面のいくつかの態様において、カルボン酸の炭素鎖骨格は2つの置換基を含み、ここで各置換基は少なくとも1つの炭素原子を含む。任意の局面のいくつかの態様において、カルボン酸の炭素鎖骨格は2つの置換基を含み、ここで1つの置換基はメチル基を含む。任意の局面のいくつかの態様において、カルボン酸の炭素鎖骨格は2つの置換基を含み、ここで各置換基はメチル基を含む。
【0053】
任意の局面のいくつかの態様において、アニオンは無置換アルカンである。任意の局面のいくつかの態様において、アニオンは無置換アルケンである。任意の局面のいくつかの態様において、カルボン酸の炭素鎖骨格は1つまたは複数の置換基を含む。任意の局面のいくつかの態様において、カルボン酸の炭素鎖は1つまたは複数の置換基を含み、ここで各置換基は少なくとも1つの炭素原子を含む。任意の局面のいくつかの態様において、カルボン酸の炭素鎖は1つまたは複数の置換基を含み、ここで各置換基はアルキル、アリール、ヘテロアルカイル、ヘテロアリール、アルカン、またはアルケンである。任意の局面のいくつかの態様において、カルボン酸の炭素鎖は1つまたは複数の置換基を含み、ここで各置換基は無置換アルキル、無置換アリール、無置換ヘテロアルカイル、無置換ヘテロアリール、無置換アルカン、または無置換アルケンである。
【0054】
本明細書に記載のとおり、アニオンと対形成するカチオンを選択する際に、主な関心事はカチオンがアニオンと密接に関連しすぎないことであり、密接な関連はアニオンが生体バリアの最初の側に保持される原因となる。コリンおよびその誘導体は、本明細書に記載のアニオンの種類に対するILカチオンとして特に適切であることが示されている。したがって、本明細書に記載のILのカチオンは、4級アンモニウムを含むカチオンであり得る。4級アンモニオン(ammonion)は、構造NR4
+の正に帯電した多原子イオンであり、各Rは独立にアルキル基またはアリール基である。
【0055】
「4級アンモニウム」という一般用語は、NH4
+イオンの4つの水素原子すべてが有機基で置き換えられたことにより、水酸化アンモニウムまたはアンモニウム塩から誘導されたと考え得る任意の化合物に関する。例えば、4級アンモニウムはNR4
+の構造を有し、ここで各Rはヒドロキシル、置換されていてもよいC1~C10アルキル、置換されていてもよいC2~C10アルケニル、置換されていてもよいC2~C10アルキニル、置換されていてもよいアリール、または置換されていてもよいヘテロアリールから独立に選択される。
【0056】
任意の局面のいくつかの態様において、カチオンは、コリン以上のモル質量、例えば、104.1708g/mol以上のモル質量を有する。任意の局面のいくつかの態様において、カチオンは、コリンよりも大きいモル質量、例えば、104.1708g/molよりも等しい大きいモル質量を有する。
【0057】
任意の局面のいくつかの態様において、4級アンモニウムの各R基は独立にアルキル、アルカン、アルケン、またはアリールを含む。任意の局面のいくつかの態様において、4級アンモニウムの各R基は独立にアルキル、アルカン、またはアルケンを含む。任意の局面のいくつかの態様において、4級アンモニウムの各R基は独立にアルカンまたはアルケンを含む。任意の局面のいくつかの態様において、4級アンモニウムの各R基は独立に、長さ10炭素原子以下、例えば、長さ10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、または30炭素原子以下の炭素鎖を含む。任意の局面のいくつかの態様において、4級アンモニウムの各R基は独立に、長さ12炭素原子以下の炭素鎖を含む。任意の局面のいくつかの態様において、4級アンモニウムの各R基は独立に、長さ15炭素原子以下の炭素鎖を含む。任意の局面のいくつかの態様において、4級アンモニウムの各R基は独立に、長さ20炭素原子以下の炭素鎖を含む。
【0058】
任意の局面のいくつかの態様において、4級アンモニウムの各R基は独立に、10炭素原子以下、例えば、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、または30炭素原子以下の炭素鎖を含む。任意の局面のいくつかの態様において、4級アンモニウムの各R基は独立に、12炭素原子以下の炭素鎖を含む。任意の局面のいくつかの態様において、4級アンモニウムの各R基は独立に、15炭素原子以下の炭素鎖を含む。任意の局面のいくつかの態様において、4級アンモニウムの各R基は独立に、20炭素原子以下の炭素鎖を含む。
【0059】
任意の局面のいくつかの態様において、4級アンモニウムの各R基は独立に、10炭素原子以下、例えば、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、または30炭素原子以下のアルキル基を含む。任意の局面のいくつかの態様において、4級アンモニウムの各R基は独立に、12炭素原子以下のアルキル基を含む。任意の局面のいくつかの態様において、4級アンモニウムの各R基は独立に、15炭素原子以下のアルキル基を含む。任意の局面のいくつかの態様において、4級アンモニウムの各R基は独立に、20炭素原子以下のアルキル基を含む。
【0060】
任意の局面のいくつかの態様において、4級アンモニウムの各R基は独立に、アルカン、アルケン、アリール、ヘテロアリール、アルキル、またはヘテロアルキルを含む。任意の局面のいくつかの態様において、4級アンモニウムの各R基は独立に、無置換アルカン、無置換アルケン、無置換アリール、無置換ヘテロアリール、無置換アルキル、または無置換ヘテロアルキルを含む。任意の局面のいくつかの態様において、4級アンモニウムの各R基は独立に、無置換アルカン。任意の局面のいくつかの態様において、4級アンモニウムの各R群は独立に、無置換アルケン。任意の局面のいくつかの態様において、4級アンモニウムの各R基は独立に、1つまたは複数の置換基を含む。
【0061】
任意の局面のいくつかの態様において、4級アンモニウムの少なくとも1つのR基はヒドロキシ基を含む。任意の局面のいくつかの態様において、4級アンモニウムの1つのR基はヒドロキシ基を含む。任意の局面のいくつかの態様において、4級アンモニウムの1つのR基のみがヒドロキシ基を含む。
【0062】
例示的な非限定的カチオンには、コリンおよび以下の構造によって規定されるC1~C7と名称付けられた任意のカチオンが含まれ得る。
【0063】
カチオンのさらなる非限定例には下記が含まれる。
1-(ヒドロキシメチル)-1-メチルピロリジン-1-イウム
1-(2-ヒドロキシエチル)-1-メチルピロリジン-1-イウム
1-エチル-1-(3-ヒドロキシプロピル)ピロリジン-1-イウム
1-(3-ヒドロキシプロピル)-1-メチルピロリジン-1-イウム
1-(4-ヒドロキシブチル)-1-メチルピロリジン-1-イウム
1-エチル-1-(4-ヒドロキシブチル)ピロリジン-1-イウム
1-(4-ヒドロキシブチル)-1-プロピルピロリジン-1-イウム
1-(5-ヒドロキシペンチル)-1-プロピルピロリジン-1-イウム
1-エチル-1-(5-ヒドロキシペンチル)ピロリジン-1-イウム
1-(5-ヒドロキシペンチル)-1-メチルピロリジン-1-イウム
1-(ヒドロキシメチル)-1-メチルピペリジン-1-イウム
1-(2-ヒドロキシエチル)-1-メチルピペリジン-1-イウム
1-エチル-1-(2-ヒドロキシエチル)ピペリジン-1-イウム
1-エチル-1-(3-ヒドロキシプロピル)ピペリジン-1-イウム
1-(3-ヒドロキシプロピル)-1-プロピルピペリジン-1-イウム
1-(3-ヒドロキシプロピル)-1-メチルピペリジン-1-イウム
1-(4-ヒドロキシブチル)-1-メチルピペリジン-1-イウム
1-エチル-1-(4-ヒドロキシブチル)ピペリジン-1-イウム
1-(4-ヒドロキシブチル)-1-プロピルピペリジン-1-イウム
1-ブチル-1-(5-ヒドロキシペンチル)ピペリジン-1-イウム
1-(5-ヒドロキシペンチル)-1-プロピルピペリジン-1-イウム
1-エチル-1-(5-ヒドロキシペンチル)ピペリジン-1-イウム
1-(5-ヒドロキシペンチル)-1-メチルピペリジン-1-イウム
3-エチル-1-メチル-1H-イミダゾル-3-イウム
1-メチル-3-プロピル-1H-イミダゾル-3-イウム
3-ブチル-1-メチル-1H-イミダゾル-3-イウム
1-メチル-3-ペンチル-1H-イミダゾル-3-イウム
1,2-ジメチル-3-ペンチル-1H-イミダゾル-3-イウム
3-ブチル-1,2-ジメチル-1H-イミダゾル-3-イウム
1,2-ジメチル-3-プロピル-1H-イミダゾル-3-イウム
3-(ヒドロキシメチル)-1,2-ジメチル-1H-イミダゾル-3-イウム
3-(2-ヒドロキシエチル)-1,2-ジメチル-1H-イミダゾル-3-イウム
3-(3-ヒドロキシプロピル)-1,2-ジメチル-1H-イミダゾル-3-イウム
3-(4-ヒドロキシブチル)-1,2-ジメチル-1H-イミダゾル-3-イウム
3-(5-ヒドロキシペンチル)-1,2-ジメチル-1H-イミダゾル-3-イウム
3-(5-ヒドロキシペンチル)-1-メチル-1H-イミダゾル-3-イウム
3-(4-ヒドロキシブチル)-1-メチル-1H-イミダゾル-3-イウム
3-(3-ヒドロキシプロピル)-1-メチル-1H-イミダゾル-3-イウム
3-(2-ヒドロキシエチル)-1-メチル-1H-イミダゾル-3-イウム
3-(ヒドロキシメチル)-1,2,4,5-テトラメチル-1H-イミダゾル-3-イウム
3-(2-ヒドロキシエチル)-1,2,4,5-テトラメチル-1H-イミダゾル-3-イウム
3-(3-ヒドロキシプロピル)-1,2,4,5-テトラメチル-1H-イミダゾル-3-イウム
3-(4-ヒドロキシブチル)-1,2,4,5-テトラメチル-1H-イミダゾル-3-イウム
3-(5-ヒドロキシペンチル)-1,2,4,5-テトラメチル-1H-イミダゾル-3-イウム
1-(5-ヒドロキシペンチル)ピリジン-1-イウム
1-(4-ヒドロキシブチル)ピリジン-1-イウム
1-(3-ヒドロキシプロピル)ピリジン-1-イウム
1-(2-ヒドロキシエチル)ピリジン-1-イウム
1-(ヒドロキシメチル)ピリジン-1-イウム
1-ヒドロキシピリジン-1-イウム
(ヒドロキシメチル)トリメチルホスホニウム
トリエチル(ヒドロキシメチル)ホスホニウム
トリエチル(2-ヒドロキジエチル)ホスホニウム
(2-ヒドロキシエチル)トリプロピルホスホニウム
(3-ヒドロキシプロピル)トリプロピルホスホニウム
トリブチル(3-ヒドロキシプロピル)ホスホニウム
(3-ヒドロキシプロピル)トリペンチルホスホニウム
(4-ヒドロキシブチル)トリペンチルホスホニウム
(5-ヒドロキシペンチル)トリペンチルホスホニウム
【0064】
任意の局面のいくつかの態様において、カチオンはコリン、C1、C6、および/またはC7である。任意の局面のいくつかの態様において、カチオンはC1、C6、および/またはC7である。
【0065】
任意の局面のいくつかの態様において、カチオンはコリン、C1、C6、および/またはC7であり、かつアニオンは表1から選択されるアニオンである。任意の局面のいくつかの態様において、カチオンはコリンであり、かつアニオンは表1から選択されるアニオンである。
【0066】
カチオンおよびアニオンの非限定的な例示的組み合わせを、以下の表2に提供する。
【0067】
【0068】
任意の局面のいくつかの態様において、イオン液体はCAGE(コリンおよびゲラネート)ではない。任意の局面のいくつかの態様において、イオン液体のカチオンはコリンではない。任意の局面のいくつかの態様において、イオン液体のアニオンはゲラネートまたはゲラン酸ではない。複数のイオン液体を含む任意の局面のいくつかの態様において、第1のイオン液体はCAGE(コリンおよびゲラネート)ではない。複数のイオン液体を含む任意の局面のいくつかの態様において、第1のイオン液体のカチオンはコリンではない。複数のイオン液体を含む任意の局面のいくつかの態様において、第1のイオン液体のアニオンはゲラネートまたはゲラン酸ではない。
【0069】
任意の局面のいくつかの態様において、アニオンは、ゲラン酸;グリコール酸;プロパン酸;イソ酪酸;酪酸;没食子酸;乳酸;マロン酸;マレイン酸;グルタル酸;クエン酸;3,3-ジメチルアクリル酸;ジメチルアクリル酸;グルコン酸;アジピン酸;エチルヘキシル硫酸ナトリウム;デカン酸;ヒドロキシベンゼンスルホン酸;4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸(4-フェノールスルホン酸);イソ吉草酸;ヒドロシンナミン酸(フェニルプロパン酸);フェニルリン酸;およびビフェニル-3-カルボン酸からなる群より選択される。任意の局面のいくつかの態様において、アニオンは、グリコール酸;プロパン酸;イソ酪酸;酪酸;没食子酸;乳酸;マロン酸;マレイン酸;グルタル酸;クエン酸;3,3-ジメチルアクリル酸;ジメチルアクリル酸;グルコン酸;アジピン酸;エチルヘキシル硫酸ナトリウム;デカン酸;ヒドロキシベンゼンスルホン酸;4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸(4-フェノールスルホン酸);イソ吉草酸;ヒドロシンナミン酸(フェニルプロパン酸);フェニルリン酸;およびビフェニル-3-カルボン酸からなる群より選択される。
【0070】
任意の局面のいくつかの態様において、組成物は第1のイオン液体および少なくとも第2のイオン液体を含む。本明細書に記載の任意のイオン液体の2、3、4、5、またはそれ以上の組み合わせが企図される。非限定例として、以下の表は本明細書において企図されるイオン液体の例示的な対での組み合わせを含む。
【0071】
組成物が複数のイオン液体を含む任意の局面のいくつかの態様において、第1および第2のイオン液体は同じカチオン、例えば、コリンを有する。組成物が複数のイオン液体を含む任意の局面のいくつかの態様において、第1および第2のイオン液体は、異なるアニオンを有する。例えば、第1のイオン液体および第2のイオン液体はそれぞれ:ゲラン酸;グリコール酸;プロパン酸;イソ酪酸;酪酸;没食子酸;乳酸;マロン酸;マレイン酸;グルタル酸;クエン酸;3,3-ジメチルアクリル酸;ジメチルアクリル酸;グルコン酸;アジピン酸;エチルヘキシル硫酸ナトリウム;デカン酸;ヒドロキシベンゼンスルホン酸;4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸(4-フェノールスルホン酸);イソ吉草酸;ヒドロシンナミン酸(フェニルプロパン酸);フェニルリン酸;およびビフェニル-3-カルボン酸から選択される異なるアニオンを含み得る。組成物が複数のイオン液体を含む任意の局面のいくつかの態様において、第1のイオン液体はゲラン酸アニオンを有し、第2のイオン液体はフェニルプロパン酸アニオンを有する。
【0072】
組成物が複数のイオン液体を含む任意の局面のいくつかの態様において、第1のイオン液体は、コリンおよびゲラン酸(CAGE)である。組成物が複数のイオン液体を含む任意の局面のいくつかの態様において、第2のイオン液体は、コリンおよびジメチルアクリル酸(CADA);コリンおよびイソ吉草酸(CAVA);コリンおよびフェニルリン酸(CAPP);コリンおよびビフェニル-3-カルボン酸(CABA);コリンおよび4-フェノールスルホン酸(CASA);またはコリンおよびフェニルプロパン酸(CAPA)である。
【0073】
組成物が複数のイオン液体を含む任意の局面のいくつかの態様において、第1および第2のイオン液体は:コリンおよびゲラン酸(CAGE);コリンおよびジメチルアクリル酸(CADA);コリンおよびイソ吉草酸(CAVA);コリンおよびフェニルリン酸(CAPP);コリンおよびビフェニル-3-カルボン酸(CABA);コリンおよび4-フェノールスルホン酸(CASA);またはコリンおよびフェニルプロパン酸(CAPA)からなる群より選択される異なるイオン液体である。組成物が複数のイオン液体を含む任意の局面のいくつかの態様において、第1のイオン液体は:コリンおよびゲラン酸(CAGE);コリンおよびジメチルアクリル酸(CADA);ならびにコリンおよびコリンおよびビフェニル-3-カルボン酸(CABA)からなる群より選択され;かつ第2のイオン液体は:イソ吉草酸(CAVA);ならびにコリンおよびフェニルプロパン酸(CAPA)からなる群より選択される。組成物が複数のイオン液体を含む任意の局面のいくつかの態様において、第1のイオン液体はコリンおよびゲラン酸(CAGE)であり、第2のイオン液体はコリンおよびフェニルプロパン酸(CAPA)である。
【0074】
任意の局面のいくつかの態様において、ILは少なくとも0.01%w/vの濃度である。任意の局面のいくつかの態様において、ILは少なくとも0.05%w/vの濃度である。任意の局面のいくつかの態様において、ILは少なくとも0.1%w/vの濃度である。任意の局面のいくつかの態様において、ILは少なくとも0.2%w/v、少なくとも0.3%w/v、少なくとも0.4%w/v、少なくとも0.5%w/v、少なくとも1%w/vまたはそれ以上の濃度である。任意の局面のいくつかの態様において、ILは約0.01%w/vから約1%w/vの濃度である。任意の局面のいくつかの態様において、ILは0.01%w/vから1%w/vの濃度である。任意の局面のいくつかの態様において、ILは約0.05%w/vから約0.5%w/vの濃度である。任意の局面のいくつかの態様において、ILは0.05%w/vから0.5%w/vの濃度である。
【0075】
任意の局面のいくつかの態様において、ILは少なくとも25%w/wの濃度である。任意の局面のいくつかの態様において、ILは水中で少なくとも25%w/wの濃度である。任意の局面のいくつかの態様において、ILは生理食塩水または生理的に適合する緩衝液中で少なくとも25%w/wの濃度である。
【0076】
任意の局面のいくつかの態様において、ILは約5%w/wから約75%w/wの濃度である。任意の局面のいくつかの態様において、ILは5%w/wから75%w/wの濃度である。任意の局面のいくつかの態様において、ILは水、生理食塩水または生理的に適合する緩衝液中で約5%w/wから約75%w/wの濃度である。任意の局面のいくつかの態様において、ILは水、生理食塩水または生理的に適合する緩衝液中で5%w/w~75%w/wの濃度である。
【0077】
任意の局面のいくつかの態様において、ILは少なくとも約0.1%w/wの濃度である。任意の局面のいくつかの態様において、ILは少なくとも0.1%w/wの濃度である。任意の局面のいくつかの態様において、ILは約10%w/wから約70%w/wの濃度である。任意の局面のいくつかの態様において、ILは10%w/wから70%w/wの濃度である。任意の局面のいくつかの態様において、ILは約30%w/wから約50%w/wの濃度である。任意の局面のいくつかの態様において、ILは30%w/wから40%w/wの濃度である。任意の局面のいくつかの態様において、ILは約30%w/wから約50%w/wの濃度である。任意の局面のいくつかの態様において、ILは30%w/wから40%w/wの濃度である。
【0078】
任意の局面のいくつかの態様において、ILの%w/w濃度は水、生理食塩水、または生理的に適合する緩衝液中の%w/w濃度である。
【0079】
任意の局面のいくつかの態様において、ILは100%w/wまたは100%w/vである。
【0080】
いくつかの態様において、ILは無水塩、例えば、水に希釈または溶解していないイオン液体である。いくつかの態様において、ILは水溶液として提供される。
【0081】
任意の局面のいくつかの態様において、ILは少なくとも25%w/wの濃度であり、少なくとも1:3のカチオン:アニオンの比を有する。任意の局面のいくつかの態様において、ILは水中で少なくとも25%w/wの濃度であり、少なくとも1:3のカチオン:アニオンの比を有する。任意の局面のいくつかの態様において、ILは少なくとも25%w/wの濃度であり、1:3または1:4のカチオン:アニオンの比を有する。任意の局面のいくつかの態様において、ILは水中で少なくとも25%w/wの濃度であり、1:3または1:4のカチオン:アニオンの比を有する。任意の局面のいくつかの態様において、ILはゲル、またはずり減粘ニュートンゲルである。
【0082】
任意の局面のいくつかの態様において、ILは約10:1から約1:10のカチオン:アニオンの比を有する。任意の局面のいくつかの態様において、ILは10:1から1:10のカチオン:アニオンの比を有する。任意の局面のいくつかの態様において、ILは約5:1から約1:5のカチオン:アニオンの比を有する。任意の局面のいくつかの態様において、ILは5:1から1:5のカチオン:アニオンの比を有する。任意の局面のいくつかの態様において、ILは約2:1から約1:4のカチオン:アニオンの比を有する。任意の局面のいくつかの態様において、ILは2:1から1:4のカチオン:アニオンの比を有する。任意の局面のいくつかの態様において、ILは約2:1から約1:10のカチオン:アニオンの比を有する。任意の局面のいくつかの態様において、ILは約2:1から約1:1のカチオン:アニオンの比を有する。任意の局面のいくつかの態様において、ILは2:1から1:10のカチオン:アニオンの比を有する。任意の局面のいくつかの態様において、ILは2:1から1:1のカチオン:アニオンの比を有する。任意の局面のいくつかの態様において、ILはより多くのアニオン量があるようなカチオン:アニオンの比、例えば、1:1未満の比を有する。任意の局面のいくつかの態様において、ILは過剰のアニオンがあるようなカチオン:アニオンの比を有する。任意の局面のいくつかの態様において、ILは約1:1から約1:10のカチオン:アニオンの比を有する。任意の局面のいくつかの態様において、ILは1:1から1:10のカチオン:アニオンの比を有する。任意の局面のいくつかの態様において、ILは約1:1から約1:4のカチオン:アニオンの比を有する。任意の局面のいくつかの態様において、ILは1:1から1:4のカチオン:アニオンの比を有する。任意の局面のいくつかの態様において、ILは約1:1から約1:3のカチオン:アニオンの比を有する。任意の局面のいくつかの態様において、ILは1:1から1:3のカチオン:アニオンの比を有する。任意の局面のいくつかの態様において、ILは約1:1から約1:2のカチオン:アニオンの比を有する。任意の局面のいくつかの態様において、ILは1:1から1:2のカチオン:アニオンの比を有する。任意の局面のいくつかの態様において、ILは約1:1、1:2、1:3、または1:4のカチオン:アニオンの比を有する。任意の局面のいくつかの態様において、ILは1:1、1:2、1:3、または1:4のカチオン:アニオンの比を有する。任意の局面のいくつかの態様において、ILは約1:1未満のカチオン:アニオンの比を有する。任意の局面のいくつかの態様において、ILは1:1未満のカチオン:アニオンの比を有する。理論に縛られたくはないが、カチオンに対してより高い量のアニオンを有する組成物は、より大きい疎水性を示す。
【0083】
任意の局面のいくつかの態様において、ILは、カチオンが過剰であるカチオン:アニオン比を有する。
【0084】
任意の局面のいくつかの態様において、例えば、1つまたは複数の核酸分子をILと組み合わせて提供する場合、カチオン:アニオンの比は1:1より大きく、例えば、1:2より大きい、約1:2から約1:4、または1:2から1:4である。
【0085】
任意の局面のいくつかの態様において、ILは少なくとも20mMの濃度である。任意の局面のいくつかの態様において、ILは少なくとも約20mMの濃度である。任意の局面のいくつかの態様において、ILは少なくとも25mMの濃度である。任意の局面のいくつかの態様において、ILは少なくとも約25mMの濃度である。任意の局面のいくつかの態様において、ILは少なくとも50mMの濃度である。任意の局面のいくつかの態様において、ILは少なくとも約50mMの濃度である。任意の局面のいくつかの態様において、ILは少なくとも100mM、500mM、1M、2M、3Mまたはそれ以上の濃度である。任意の局面のいくつかの態様において、ILは少なくとも約100mM、500mM、1M、2M、3Mまたはそれ以上の濃度である。
【0086】
任意の局面のいくつかの態様において、ILは約50mMから約4Mの濃度である。任意の局面のいくつかの態様において、ILは50mMから4Mの濃度である。任意の局面のいくつかの態様において、ILは約500mMから約4Mの濃度である。任意の局面のいくつかの態様において、ILは500mMから4Mまでの濃度である。任意の局面のいくつかの態様において、ILは約1Mから約4Mの濃度である。任意の局面のいくつかの態様において、ILは1Mから4Mの濃度である。任意の局面のいくつかの態様において、ILは約2Mから約4Mの濃度である。任意の局面のいくつかの態様において、ILは2Mから4Mの濃度である。
【0087】
任意の局面のいくつかの態様において、組成物または製剤中のIL濃度は約0.1mM~20mMである。任意の局面のいくつかの態様において、組成物または製剤中のIL濃度は約0.5mM~20mM、0.5mM~18mM、0.5mM~16mM、0.5mM~14mM、0.5mM~12mM、0.5mM~10mM、0.5mM~8mM、1mM~20mM、1mM~18mM、1mM~16mM、1mM~14mM、1mM~12mM、1mM~10mM、1mM~8mM、2mM~20mM、2mM~18mM、2mM~16mM、2mM~14mM、2mM~12mM、2mM~10mM、2mM~8mM、4mM~20mM、4mM~18mM、4mM~16mM、4mM~12mM、4mM~10mM、4mM~8mM、6mM~20mM、6mM~18mM、6mM~14mM、6mM~12mM、6mM~10mM、6mM~8mM、8mM~20mM、8mM~18mM、8mM~16mM、8mM~14mM、8mM~12mM、8mM~10mM、10mM~20mM、10mM~18mM、10mM~16mM、10mM~14mM、10mM~12mM、12mM~20mM、12mM~18mM、12mM~16mM、12mM~14mM、14mM~20mM、14mM~18mM、14mM~16mM、16mM~20mM、16mM~18mM、または18mM~20mMである。任意の局面のいくつかの態様において、組成物または製剤中のIL濃度は約1mM、約2mM、約3mM、約4mM、約5mM、約6mM、約7mM、約8mM、約9mM、約10mM、約11mM、約12mM、約13mM、約14mM、約15mM、約16mM、約17mM、約18mM、約19mMまたは約20mMである。
【0088】
本明細書に記載の組成物または組み合わせは、本明細書に記載の構成要素の任意の種類の1、2、3つ、またはそれ以上を含み得ることが具体的に企図される。例えば、組成物は、複数の異なるイオン液体の混合物、溶液、組み合わせ、もしくは乳濁液(例えば、本明細書に記載の異なるイオン液体)、および/または複数の異なる非イオン性界面活性剤の混合物、溶液、組み合わせ、もしくは乳濁液、および/または複数の異なる活性化合物の混合物、溶液、組み合わせ、または乳濁液を含むことができる。
【0089】
任意の局面のいくつかの態様において、1つまたは複数のILは、少なくとも1つの化合物と組み合わせることができる。本明細書で使用される場合、「と組み合わせた」は、任意の分子的または物理的配置で同じ製剤中、例えば混和物中、溶液中、混合物中、懸濁液中、コロイド中、エマルション中に存在する2つ以上の物質を指す。製剤は、均質または不均質な混合物であり得る。いずれかの局面のいくつかの態様において、活性化合物はILとともに溶液中、混合物中、混和物中、懸濁液中などで、超構造、例えばナノ粒子、リポソーム、ベクター、細胞、足場などにより含まれ得る。
【0090】
本明細書で使用される場合、「活性化合物」または「活性作用物質」は、標的細胞または標的生物に効果を及ぼす任意の作用物質である。「化合物」および「作用物質」という用語は、普通は存在しないか、または細胞、組織、もしくは対象に投与および/または提供されるレベルでは存在しない任意の実体を指す。作用物質は、以下を含む群より選択できる:化学物質;小さい有機または無機分子;シグナル伝達分子;核酸配列;核酸類似体;タンパク質;ペプチド;酵素;アプタマー;ペプチド模倣体、ペプチド誘導体、ペプチド類似体、抗体;細胞内抗体(intrabody);生体高分子、細菌、植物、菌類、または動物の細胞もしくは組織などの生物材料から作られた抽出物;天然または合成の組成物またはその機能的断片。いくつかの態様において、作用物質は、合成および天然の非タンパク質性実体を含むがこれらに限定されない、任意の化学物質、実体、または部分である。作用物質は、所望の活性および/または特性を有することが知られ得るか、または多様な化合物のライブラリーから選択できる。本明細書に記載される方法での使用が企図される活性化合物の非限定的な例には、小分子、ポリペプチド、核酸、化学治療/化学療法化合物、抗体、抗体試薬、ワクチン、GLP-1ポリペプチドもしくはその模倣体/類似体、インスリン、アカルボース、またはルキソリチニブが含まれる。
【0091】
本明細書に記載される場合、核酸分子は、ベクター、発現ベクター、阻害性核酸、アプタマー、鋳型分子もしくはカセット(例えば、遺伝子編集用)、またはターゲティング分子(例えば、CRISPR-Cas技術用)、または細胞への送達が望まれる任意の他の核酸分子であり得る。核酸分子は、RNA、DNA、またはそれらの合成もしくは修飾バージョンであり得る。任意の局面のいくつかの態様において、核酸は、阻害性核酸、例えばsiRNAである。
【0092】
いずれかの態様の1つの局面において、本明細書に記載されるのは、本明細書に記載のとおりに1つまたは複数のILと組み合わせた核酸分子を細胞と接触させる工程を含む、核酸分子を細胞へ送達する方法である。いずれかの局面のいくつかの態様において、細胞は対象中の細胞であり、接触工程は、1つまたは複数のILと組み合わせた核酸分子を対象に投与する工程を含む。いずれかの局面のいくつかの態様において、細胞はインビトロ、インビボ、またはエクスビボである。いずれかの局面のいくつかの態様において、細胞は真核生物である。いずれかの局面のいくつかの態様において、細胞は哺乳動物細胞である。いずれかの局面のいくつかの態様において、細胞は上皮細胞、例えば腸上皮細胞である。任意の局面のいくつかの態様において、細胞は、表皮細胞である。
【0093】
活性化合物が核酸を含む任意の局面のいくつかの態様において、アニオンは1.0未満のLogPを有し、かつa)脂肪酸ではないカルボン酸;またはb)4炭素以下の脂肪族鎖を含むカルボン酸;またはc)芳香族アニオンである。活性化合物が核酸を含む任意の局面のいくつかの態様において、アニオンは1.0未満のLogPを有し、かつ芳香族アニオンである。活性化合物が核酸を含む任意の局面のいくつかの態様において、アニオンは芳香族アニオンである。
【0094】
本明細書で使用される場合、「小分子」という用語は、ペプチド、ペプチド模倣体、アミノ酸、アミノ酸類似体、ポリヌクレオチド、ポリヌクレオチド類似体、アプタマー、ヌクレオチド、ヌクレオチド類似体、1モル当たり約10,000グラム未満の分子量を有する有機または無機化合物(すなわち、ヘテロ有機および有機金属化合物を含む)、1モル当たり約5,000グラム未満の分子量を有する有機または無機化合物、1モル当たり約1,000グラム未満の分子量を有する有機または無機化合物、1モル当たり約500グラム未満の分子量を有する有機または無機化合物、ならびにそのような化合物の塩、エステル、および他の薬学的に許容される形態を含み得るがこれらに限定されない化学作用物質を指す。
【0095】
任意の局面のいくつかの態様において、活性化合物は治療化合物または薬物、例えば、対象における少なくとも1つの状態の処置のために治療的に有効な作用物質または化合物であり得る。治療的化合物は様々な状態に対して当技術分野において公知で、例えば、ウェブ上のdrugs.comで入手可能なデータベースまたはウェブ上のcatalog.data.gov/dataset/drugsfda-databaseで入手可能なFDA承認化合物のカタログを参照されたく;これらはそれぞれその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0096】
非限定例として、本明細書における活性化合物/治療化合物としての使用に適した例示的抗体および/または抗体試薬には下記が含まれる:アブシキシマブ;アダリムマブ;アドリムマブ-atto(adlimumab-atto);ado-トラスツズマブ;ado-トラスツズマブエムタンシン;アレムツズマブ;アリロクマブ;アテゾリズマブ;アベルマブ;バシリキシマブ;ベリムマブ;ベバシズマブ;ベズロトクスマブ;ブリナツモマブ;ブレンツキシマブ;ブレンツキシマブベドチン;ブロダルマブ;カナキヌマブ;カプロマブ;カプロマブペンデチド;セルトリズマブ;セルトリズマブペゴル;セツキシマブ;ダクリズマブ;ダラツムマブ;デノスマブ;ジヌツキシマブ;デュピルマブ;デュルバルマブ;エクリズマブ;エロツズマブ;エボロクマブ;エタネルセプト;エタネルセプト-szzs;ゴリムマブ;イブリツモマブ;イブリツモマブチオウキセタン;イダルシズマブ;インフリキシマブ;インフリキシマブ-abda;インフリキシマブ-dyyb;イピリムマブ;イキセキズマブ;メポリズマブ;ナタリズマブ;ネシツムマブ;ニボルマブ;オビルトキサキシマブ;オビヌツズマブ;オクレリズマブ;オファツムマブ;オララツマブ;オマリズマブ;パリビズマブ;パニツムマブ;ペムブロリズマブ;ペルツズマブ;ラムクリウマブ(ramucriumab);ラニビズマブ;ラキシバクマブ;レスリズマブ;リツキシマブ;セクキヌマブ;シルツキシマブ;トシリズマブ;トラスツズマブ;ウステキヌマブ;ベドリズマブ;サリルマブ;グセルクマブ;イノツズマブオゾガマイシン;イノツズマブ;アダリムマブ-adbm、ゲムツズマブオゾガマイシン;ゲムツズマブ;ベバシズマブ-awwb;ベンラリズマブ;エミシズマブ;エミシズマブ-kxwh;トラスツズマブ-dkst;インフリキシマブ-qbtx;イバリズマブ;イバリズマブ-uiyk;チルドラキズマブ;チルドラキズマブ-asmn;ブロスマブ;ブロスマブ-twza;エレヌマブ;エレヌマブ-aooe;トシツモマブ;モガムリズマブ;モキセツモマブ;モキセツモマブパスードトクス;セミプリマブ;ポラツズマブ;カツマキソマブ;ポラツズマブベドチン;および前述のものの一部を組み合わせることにより作製した二重特異性抗体を含む、その組み合わせ。
【0097】
非限定例として、本明細書における活性化合物/治療化合物としての使用に適した例示的阻害性核酸には下記が含まれる:パチシラン;および前述のものの一部を組み合わせることにより作製した二重特異性抗体を含む、その組み合わせ。
【0098】
本明細書で使用される場合、「化学療法剤」という用語は、異常な細胞増殖によって特徴付けられる疾患の治療において治療的有用性を有する任意の化学的または生物学的作用物質を指す。そのような疾患は、腫瘍、新生物、およびがんならびに過形成増殖によって特徴付けられる疾患を含む。これらの作用物質は、継続した増殖のためにがん細胞が依存する細胞活性を阻害するように機能し得る。すべての態様のいくつかの局面において、化学療法剤は細胞周期阻害剤または細胞分裂阻害剤である。本発明の方法において有用な化学療法剤の範疇には、アルキル化/アルカロイド剤、代謝拮抗剤、ホルモンもしくはホルモン類似体、および多岐にわたる抗腫瘍薬が含まれる。これらの作用物質のほとんどは、がん細胞に対して直接的または間接的に傷害性である。1つの態様において、化学療法剤は放射性分子である。
【0099】
いずれかの局面のいくつかの態様において、活性化合物はポリペプチドである。任意の局面のいくつかの態様において、活性化合物は抗体または抗体試薬である。本明細書において用いられる「抗体試薬」という用語は、少なくとも1つの免疫グロブリン可変ドメインまたは免疫グロブリン可変ドメイン配列を含み、所与の抗原に特異的に結合するポリペプチドを指す。抗体試薬は、抗体または抗体の抗原結合ドメインを含むポリペプチドを含み得る。いくつかの態様において、抗体試薬はモノクローナル抗体またはモノクローナル抗体の抗原結合ドメインを含むポリペプチドを含み得る。例えば、抗体は重(H)鎖可変領域(本明細書ではVHと略される)および軽(L)鎖可変領域(本明細書ではVLと略される)を含み得る。別の例において、抗体は2つの重(H)鎖可変領域および2つの軽(L)鎖可変領域を含む。「抗体試薬」という用語は、抗体の抗原結合断片(例えば一本鎖抗体、FabおよびsFab断片、F(ab')2、Fd断片、Fv断片、scFv、およびドメイン抗体(dAb)断片ならびに完全抗体を包含する。
【0100】
活性化合物がポリペプチド(例えば、抗体または抗体試薬)を含む任意の局面のいくつかの態様において、アニオンは1.0未満のLogPを有し、かつa)脂肪酸ではないカルボン酸;またはb)4炭素以下の脂肪族鎖を含むカルボン酸;またはc)芳香族アニオンである。活性化合物がポリペプチド(例えば、抗体または抗体試薬)を含む任意の局面のいくつかの態様において、アニオンは1.0未満のLogPを有し、かつa)脂肪酸ではないカルボン酸;またはb)4炭素以下の脂肪族鎖を含むカルボン酸である。活性化合物がポリペプチド(例えば、抗体または抗体試薬)を含む任意の局面のいくつかの態様において、アニオンは1.0未満のLogPを有し、かつ4炭素以下の脂肪族鎖を含むカルボン酸である。活性化合物がポリペプチド(例えば、抗体または抗体試薬)を含む任意の局面のいくつかの態様において、a)脂肪酸ではないカルボン酸;またはb)4炭素以下の脂肪族鎖を含むカルボン酸である。活性化合物がポリペプチド(例えば、抗体または抗体試薬)を含む任意の局面のいくつかの態様において、アニオンは1.0未満のLogPを有する。
【0101】
任意の局面のいくつかの態様において、活性化合物は約450よりも大きい分子量を有する。任意の局面のいくつかの態様において、活性化合物は約500よりも大きい分子量を有する。任意の局面のいくつかの態様において、活性化合物は450よりも大きい、例えば、450よりも大きい、500よりも大きい、550よりも大きい、600よりも大きい、1000よりも大きい、またはそれ以上の分子量を有する。任意の局面のいくつかの態様において、活性化合物は極性である。
【0102】
活性作用物質が阻害性核酸である任意の局面のいくつかの態様において、組成物は複数のイオン液体を含み、第1のイオン液体はコリンおよびゲラン酸(CAGE)である。活性作用物質が阻害性核酸である任意の局面のいくつかの態様において、組成物は複数のイオン液体を含み、第2のイオン液体はコリンおよびジメチルアクリル酸(CADA);コリンおよびイソ吉草酸(CAVA);コリンおよびフェニルリン酸(CAPP);コリンおよびビフェニル-3-カルボン酸(CABA);コリンおよび4-フェノールスルホン酸(CASA);またはコリンおよびフェニルプロパン酸(CAPA)である。
【0103】
活性作用物質が阻害性核酸である任意の局面のいくつかの態様において、組成物は複数のイオン液体を含み、第1および第2のイオン液体は:コリンおよびゲラン酸(CAGE);コリンおよびジメチルアクリル酸(CADA);コリンおよびイソ吉草酸(CAVA);コリンおよびフェニルリン酸(CAPP);コリンおよびビフェニル-3-カルボン酸(CABA);コリンおよび4-フェノールスルホン酸(CASA);またはコリンおよびフェニルプロパン酸(CAPA)からなる群より選択される異なるイオン液体である。活性作用物質が阻害性核酸である任意の局面のいくつかの態様において、組成物は複数のイオン液体を含み、第1のイオン液体は:コリンおよびゲラン酸(CAGE);コリンおよびジメチルアクリル酸(CADA);ならびにコリンおよびビフェニル-3-カルボン酸(CABA)からなる群より選択され;かつ第2のイオン液体は:イソ吉草酸(CAVA);ならびにコリンおよびフェニルプロパン酸(CAPA)からなる群より選択される。活性作用物質が阻害性核酸である任意の局面のいくつかの態様において、組成物は複数のイオン液体を含み、第1のイオン液体はコリンおよびゲラン酸(CAGE)であり、第2のイオン液体はコリンおよびフェニルプロパン酸(CAPA)である。任意の局面のいくつかの態様において、組成物は局所投与されるか、または局所投与用に製剤化される。
【0104】
いくつかの態様において、阻害性核酸はNFKBIZ阻害性核酸であり、例えば、NFKBIZ mRNAに結合して、NFKBIZの発現を阻害する。本明細書において用いられる「NFKBIZ」または「NFKB阻害剤ゼータ」は、NF-κB複合体の制御において重要な役割を果たす、核因子κB(IκB)タンパク質IκBζの阻害剤を指す。これは、炎症シグナル伝達、好中球走化性、および白血球活性化に関与する、TNF-α、IL-17A、およびIL-36誘発性乾癬関連遺伝子産物の直接転写活性化因子である。したがって、本明細書において提供するのは、例えば、NFKBIZの阻害剤、例えば、NFKBIZ阻害性核酸である活性作用物質を含む、本明細書に記載の組成物を投与することによる、乾癬の処置法である。いくつかの種からのNFKBIZの配列は当技術分野において公知で、例えば、ヒトNFKBIZ配列はNCBIデータベースにおいて64332 Gene ID(例えば、mRNAs NM_001005474.3(SEQ ID NO: 37)およびNM_031419.4(SEQ ID NO: 38))の下で入手可能である。当業者であれば、例えば、本明細書において前述した自動化ツールを用いて、NFKBIZ阻害性核酸を容易に設計することができる。NKFBIZ阻害性核酸は、例えば、Dharmacon(Lafayette、CO)からカタログ番号J-040680-06-0050で市販もされている。
【0105】
いくつかの態様において、阻害性核酸はTNF-α阻害性核酸であり、例えば、TNF-α mRNAに結合して、TNF-αの発現を阻害する。本明細書において用いられる「腫瘍壊死因子α」または「TNF-α」は、自己免疫疾患、乾癬、および他の状態に関係があるとされる、炎症性サイトカインを指す。したがって、本明細書において提供するのは、例えば、TNF-αの阻害剤、例えば、TNF-α阻害性核酸である活性作用物質を含む、本明細書に記載の組成物を投与することによる、炎症状態(例えば、乾癬)の処置法および/または炎症を低減もしくは阻害する方法である。いくつかの種からのTNF-αの配列は当技術分野において公知で、例えば、ヒトTNF-α配列はNCBIデータベースにおいて7124 Gene ID(例えば、mRNA NM_000594.4(SEQ ID NO: 39))の下で入手可能である。当業者であれば、例えば、本明細書において前述した自動化ツールを用いて、TNF-α阻害性核酸を容易に設計することができる。TNF-α阻害性核酸は、例えば、Dharmacon(Lafayette、CO)からカタログ番号J-010546-09-0002、J-010546-10-0002、J-010546-11-0002、およびJ-010546-12-0002で市販もされている。
【0106】
いくつかの態様において、阻害性核酸はIL-17阻害性核酸であり、例えば、IL-17 mRNAに結合して、IL-17の発現を阻害する。本明細書において用いられる「インターロイキン17」または「IL-17」は、自己免疫疾患、乾癬、関節リウマチ、多発性硬化症、および他の状態に関係があるとされる、T細胞を活性化することにより産生される炎症性サイトカインを指す。したがって、本明細書において提供するのは、例えば、IL-17の阻害剤、例えば、IL-17阻害性核酸である活性作用物質を含む、本明細書に記載の組成物を投与することによる、炎症状態(例えば、乾癬)の処置法および/または炎症を低減もしくは阻害する方法である。いくつかの種からのIL-17の配列は当技術分野において公知で、例えば、ヒトIL-17配列はNCBIデータベースにおいて3605 Gene ID(例えば、mRNA NM_002190.3(SEQ ID NO: 40))の下で入手可能である。当業者であれば、例えば、本明細書において前述した自動化ツールを用いて、IL-17阻害性核酸を容易に設計することができる。IL-17阻害性核酸は、例えば、Dharmacon(Lafayette、CO)からカタログ番号J-007937-05-0002、J-007937-06-0002、J-007937-07-0002、およびJ-007937-08-0002で市販もされている。
【0107】
任意の態様の1つの局面において、本明細書において提供するのは、それを必要としている対象における、炎症状態の処置法および/または炎症を低減する方法であって、少なくとも1つのILおよび少なくとも1つの抗炎症剤を含む、本明細書に記載の組成物を対象に投与する段階を含む方法である。任意の局面のいくつかの態様において、抗炎症剤は、1つまたは複数の炎症性遺伝子産物、例えば、IL-17、TNF-α、および/またはNFKBIZを標的とする阻害性核酸である。
【0108】
本明細書において用いられる「炎症」は、病原体、損傷細胞、または刺激物質などの、有害な刺激に対する複雑な生体反応を指す。炎症は、有害な刺激を除去し、また組織の治癒プロセスを開始するための、生物による防護的試みである。したがって、「炎症」という用語は、炎症性サイトカイン、炎症メディエーターの産生および/またはそのようにして産生されたサイトカインの作用によって起こる、関連する下流の細胞事象、例えば、発熱、液体貯留、膨潤、膿瘍形成、および細胞死を引き起こす、任意の細胞プロセスを含む。炎症は、急性反応(すなわち、炎症プロセスが活性である反応)および慢性反応(すなわち、遅い進行および新しい結合組織の形成によって特徴づけられる反応)の両方を含み得る。急性および慢性炎症は、関与する細胞の種類によって区別してもよい。急性炎症は多形核好中球を含むことが多いが;慢性炎症は通常はリンパ組織球性および/または肉芽腫性反応によって特徴づけられる。
【0109】
炎症状態は、炎症組織(例えば、リンパ球、好中球、マクロファージ、好酸球、肥満細胞、好塩基球および樹状細胞などの白血球の浸潤物)または疾患状態の異常な臨床的および組織学的特徴を誘発または寄与する炎症プロセスによって特徴づけられる、任意の疾患状態である。炎症状態には、皮膚の炎症状態、肺の炎症状態、関節の炎症状態、腸の炎症状態、眼の炎症状態、内分泌系の炎症状態、心血管系の炎症状態、腎臓の炎症状態、肝臓の炎症状態、中枢神経系の炎症状態、または敗血症関連状態が含まれるが、それらに限定されない。いくつかの態様において、炎症状態は創傷治癒に関連する。いくつかの態様において、本明細書に記載の方法に従って処置される炎症は、皮膚炎症;物質乱用または薬物依存によって引き起こされる炎症;感染に関連する炎症;角膜の炎症;網膜の炎症;脊髄の炎症;器官再生に関連する炎症;および肺炎症であり得る。
【0110】
いくつかの態様において、炎症状態は皮膚の炎症状態である。この局面のいくつかの態様において、炎症状態は自己免疫疾患である。
【0111】
皮膚の炎症状態の非限定例には、乾癬、例えばスウィート症候群、壊疽性膿皮症、角膜下膿疱性皮膚症、時給制隆起性紅斑、ベーチェット病または急性全身性発疹性膿疱症、水疱性障害、乾癬、膿疱性病変を生じる状態、ざ瘡、尋常性ざ瘡、皮膚炎(例えば接触性皮膚炎、アトピー性皮膚炎、脂漏性皮膚炎、湿疹性皮膚炎、亀裂性湿疹(eczema craquelee)、光アレルギー性皮膚炎、光毒性皮膚炎、植物性光皮膚炎、放射線皮膚炎、うっ滞性皮膚炎またはアレルギー性接触皮膚炎)、湿疹、外傷に起因する潰瘍およびびらん、火傷、皮膚または粘膜の虚血、いくつかの形態の魚鱗癬、表皮水疱症、肥厚性瘢痕、ケロイド、自然老化の皮膚変化、光老化、皮膚の機械的剪断に起因する摩擦水疱、コルチコステロイドの局所使用に起因する皮膚萎縮、および粘膜の炎症(例えば、口唇炎、唇あれ、鼻刺激、粘膜炎および外陰膣炎)が含まれ得る。
【0112】
いくつかの態様において、炎症状態は自己免疫疾患であり得る。自己免疫疾患の非限定例には、1型糖尿病;全身性エリテマトーデス;関節リウマチ;乾癬;炎症性腸疾患;クローン病;および自己免疫性甲状腺炎が含まれ得る。
【0113】
非限定例として、炎症状態は、肺の炎症状態、例えば喘息、気管支炎、慢性気管支炎、細気管支炎、肺炎、副鼻腔炎、肺気腫、成人呼吸窮迫症候群、肺炎症、肺線維症、および嚢胞性線維症(これは、胃腸管または他の組織に追加的または代替的に関与し得る)であり得る。非限定例として、炎症状態は、関節の炎症状態、例えば関節リウマチ、リウマチ性脊椎炎、若年性関節リウマチ、骨関節炎、痛風性関節炎、感染性関節炎、乾癬性関節炎、および他の関節炎状態であり得る。非限定例として、炎症状態は、消化管または腸の炎症状態、例えば炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎および遠位直腸炎であり得る。非限定例として、炎症状態は、眼の炎症状態、例えばドライアイ症候群、ブドウ膜炎(虹彩炎を含む)、結膜炎、強膜炎、および乾性角結膜炎であり得る。非限定例として、炎症状態は、内分泌系の炎症状態、例えば自己免疫性甲状腺炎(橋本病)、バセドウ病、I型糖尿病、ならびに副腎皮質の急性および慢性炎症であり得る。非限定例として、炎症状態は、心血管系の炎症状態、例えば冠動脈梗塞損傷、末梢血管疾患、心筋炎、血管炎、狭窄の血管再生、アテローム性動脈硬化症、およびII型糖尿病に関連する血管疾患であり得る。非限定例として、炎症状態は、腎臓の炎症状態、例えば糸球体腎炎、間質性腎炎、ループス腎炎、およびウェゲナー病に続発する腎炎、急性腎炎に続発する急性腎不全、閉塞後症候群および尿細管虚血であり得る。非限定例として、炎症状態は、肝臓の炎症状態、例えば肝炎(ウイルス感染、自己免疫応答、薬物処置、毒素、環境因子から、または原発性障害の二次的結果として生じる)、胆道閉鎖症、原発性胆汁性肝硬変および原発性硬化性胆管炎であり得る。非限定例として、炎症状態は、中枢神経系の炎症状態、例えば多発性硬化症およびアルツハイマー病またはHIV感染に関連する認知症などの神経変性疾患であり得る。非限定例として、炎症状態は、中枢神経系の炎症状態、例えばMS;すべてのタイプの脳炎および髄膜炎;急性播種性脳脊髄炎;急性横断性脊髄炎;視神経脊髄炎;限局性脱髄症候群(例えば、バロー同心円性硬化症およびMSのマールブルグ変異型);進行性多巣性白質脳症;亜急性硬化性全脳炎;急性出血性白質脳炎(ハースト病);ヒトTリンパ好性ウイルス1型関連骨髄症/熱帯性痙性不全対麻痺症(tropical spactic paraparesis);デビック病;ヒト免疫不全ウイルス脳症;ヒト免疫不全ウイルス空胞性脊髄症;末梢神経障害;ギランバレー症候群および他の免疫媒介性神経障害;ならびに重症筋無力症であり得る。非限定例として、炎症状態は、敗血症関連状態、例えば全身性炎症反応症候群(SIRS)、敗血症性ショックまたは多臓器機能障害症候群(MODS)であり得る。炎症状態のさらなる非限定例には、エンドトキシンショック、歯周病、多発性軟骨炎;関節周囲障害;膵炎;全身性エリテマトーデス(system lupus erythematosus);シェーグレン症候群;血管炎サルコイドーシスアミロイドーシス;アレルギー;アナフィラキシー;全身性肥満細胞症;骨盤内炎症性疾患;多発性硬化症;多発性硬化症(MS);セリアック病、ギランバレー症候群、硬化性胆管炎、自己免疫性肝炎、レイノー現象、グッドパスチャー症候群、ウェゲナー肉芽腫症、リウマチ性多発性筋痛症、側頭動脈炎/巨細胞性動脈炎、慢性疲労症候群CFS)、自己免疫性アジソン病、強直性脊椎炎、急性播種性脳脊髄炎、抗リン脂質抗体症候群、再生不良性貧血、特発性血小板減少性紫斑病、重症筋無力症、オプソクローヌス・ミオクローヌス症候群、視神経炎、オード甲状腺炎(Ord's thyroiditis)、天疱瘡、悪性貧血、イヌの多発性関節炎、ライター症候群、高安動脈炎、温式自己免疫性溶血性貧血、線維筋痛症(FM)、自己炎症性PAPA症候群、家族性地中海熱、リウマチ性多発性筋痛症、結節性多発動脈炎、チャーグ・ストラウス症候群;線維化肺胞炎、過敏性肺炎、アレルギー性アスペルギルス症、特発性肺好酸球増加症、閉塞性細気管支炎性基質化肺炎;蕁麻疹;ルポイド肝炎;家族性感冒自己炎症性症候群、マックル・ウェルズ症候群、新生児期発症多臓器性炎症性疾患、移植片拒絶(同種移植片拒絶および移植片対宿主病を含む)、耳炎、慢性閉塞性肺疾患、副鼻腔炎、慢性前立腺炎、再灌流傷害、珪肺症、炎症性筋障害、過敏症および片頭痛が含まれる。いくつかの態様において、炎症状態は、感染、例えば、ウイルス、細菌、真菌、寄生虫またはプリオン感染に関連する。いくつかの態様において、炎症状態はアレルギー反応に関連する。いくつかの態様において、炎症状態は汚染物質(例えば、アスベスト症、珪肺症、またはベリリウム症)に関連する。
【0114】
いくつかの態様において、炎症状態は、局所の状態、例えば、発疹またはアレルギー反応であり得る。いくつかの態様において、炎症は創傷に関連する。
【0115】
抗炎症剤は当技術分野において公知であり、非限定例として、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID-アスピリン、イブプロフェン、またはナプロキセンなど);糖質コルチコイド(例えば、コルチゾール、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、デキサメタゾン、ベタメタゾン、トリアムシノロン、およびベクロメタゾン)を含むコルチコステロイド;メトトレキセート;スルファサラジン;レフルノミド;抗TNF薬;シクロホスファミド;消炎促進薬(pro-resolving drug);ミコフェノレート;またはアヘン剤(例えば、エンドルフィン、エンケファリン、およびダイノルフィン)、ステロイド、鎮痛薬、バルビツール酸塩、オキシコドン、モルヒネ、リドカイン、および炎症性遺伝子産物の阻害剤(例えば、本明細書において前述した阻害性核酸)が含まれ得る。炎症性遺伝子は当技術分野において公知であり、非限定例として、NKFBIZ、TNF-α、IL-17、IL-36(IL-37α、IL-36β、およびIL-36γ)、IL-22、IL-17C、CXCL8、CCL20、IL23A、DEFB4、およびLCN2が含まれる。
【0116】
本明細書において用いられる「組成物」は、特に記載がないかぎり、任意のIL、ILの組み合わせ、または1つもしくは複数のILと1つもしくは複数の本明細書に記載の活性作用物質との組み合わせを指す。
【0117】
任意の局面のいくつかの態様において、少なくとも1つのILおよび任意で活性化合物を含む本明細書に記載の組成物または組み合わせは、経口、皮下、経皮、腫瘍内、静脈内、皮内、または非経口製剤として製剤化することができる。任意の局面のいくつかの態様において、本明細書に記載の組成物または組み合わせは、粘膜、例えば、鼻、口腔、または膣の膜への送達のために製剤化することができる。任意の局面のいくつかの態様において、経口製剤は、少なくとも1つのILおよび任意で活性化合物を含む組成物を含む、分解性カプセル剤であり得る。
【0118】
任意の局面のいくつかの態様において、本明細書に記載するのは、本明細書に記載の少なくとも1つのILおよび少なくとも1つの活性化合物を含む組成物である。任意の局面のいくつかの態様において、本明細書に記載するのは、本明細書に記載の少なくとも1つのILおよび少なくとも1つの活性化合物から本質的になる組成物である。任意の局面のいくつかの態様において、本明細書に記載するのは、本明細書に記載の少なくとも1つのILおよび少なくとも1つの活性化合物からなる組成物である。任意の局面のいくつかの態様において、本明細書に記載の少なくとも1つのILを含む組成物および少なくとも1つの活性化合物を単剤療法として投与し、例えば、その条件に対する別の処置は対象に投与しない。
【0119】
任意の態様の1つの局面において、本明細書に記載するのは、少なくとも1つの活性化合物を本明細書に記載の少なくとも1つのILと組み合わせて含む薬学的組成物である。いくつかの態様において、薬学的組成物は、本明細書に記載の少なくとも1つのILおよび1つまたは複数の活性化合物を含む。いくつかの態様において、薬学的組成物は、本明細書に記載の少なくとも1つのILおよび1つまたは複数の活性化合物から本質的になる。いくつかの態様において、薬学的組成物は、本明細書に記載の少なくとも1つのILおよび1つまたは複数の活性化合物からなる。いくつかの態様において、薬学的組成物は、本明細書に記載の少なくとも1つのILおよび1つまたは複数の活性化合物の水溶液から本質的になる。いくつかの態様において、薬学的組成物は、本明細書に記載の少なくとも1つのILおよび1つまたは複数の活性化合物の水溶液からなる。
【0120】
本明細書に記載の組成物、製剤、および組み合わせは、本明細書に記載の少なくとも1つのIL、例えば、1つのIL、2つのIL、3つのIL、またはそれ以上を含み得る。任意の局面のいくつかの態様において、本明細書に記載の組成物、製剤、または組み合わせは、本明細書に記載の少なくとも1つのILおよびCAGE(コリンおよびゲラネート)を含み得る。
【0121】
任意の局面のいくつかの態様において、少なくとも1つの活性化合物および少なくとも1つのイオン液体は、少なくとも1つの非イオン性界面活性剤とのさらなる組み合わせである。本明細書において用いられる「非イオン性界面活性剤」とは、正味イオン電荷を欠き、水性媒質中で目に見える程度に分離しない界面活性剤を指す。非イオン性界面活性剤の特性は、分子内の親水性基と疎水性基の割合に大きく依存する。親水性基にはオキシエチレン基(--OCH2 CH2--)およびヒドロキシ基が含まれる。脂肪酸などの疎水性分子中でこれらの基の数を変化させることにより、モノステアリン酸グリセリンなどの強疎水性および水不溶性化合物から、マクロゴールなどの強親水性および水溶性化合物までの範囲の物質が得られる。これら2つの極端なタイプの間には、マクロゴールエステルおよびエーテルならびにソルビタン誘導体などの、親水性および疎水性基の割合がより均一に均衡のとれたものが含まれる。適切な非イオン性界面活性剤は、Martindale, The Extra Pharmacopoeia, 28th Edition, 1982, The Pharmaceutical Press, London, Great Britain, pp. 370 to 379において見いだされ得る。非イオン性界面活性剤の非限定例には、ポリソルベート、Tween(商標)、エチレンオキシドおよびプロピレンオキシドのブロック共重合体、脂肪酸およびそれらの誘導体のグリコールおよびグリセリルエステル、脂肪酸のポリオキシエチレンエステル(マクロゴールエステル)、脂肪酸およびそれらの誘導体のポリオキシエチレンエーテル(マクロゴールエーテル)、ポリビニルアルコール、およびソルビタンエステル、ソルビタンモノエステル、脂肪アルコールおよびポリエチレングリコールから生成されるエーテル、ポリオキシエチレン-ポリプロピレングリコール、アルキルポリグリコシド、セトマクロゴール1000、セトステアリルアルコール、セチルアルコール、コカミドDEA、コカミドMEA、デシルグルコシド、デシルポリグルコース、モノステアリン酸グリセロール、IGEPAL CA-630、イソセテス-20、ラウリルグルコシド、マルトシド、モノラウリン、マイコスブチリン、ノニデットP-40、ノノキシノール-9、ノノキシノール、NP-40、オクタエチレングリコールモノドデシルエーテル、N-オクチルβ-D-チオグルコピラノシド、オクチルグルコシド、オレイルアルコール、PEG-10ヒマワリグリセリド、ペンタエチレングリコールモノドデシルエーテル、ポリドカノール、ポロクサマー、ポロクサマー407、ポリエトキシル化獣脂アミン、ポリリシノール酸ポリグリセロール、ソルビタン、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリステアレート、ステアリルアルコール、サーファクチン、トリトンX-100などが含まれる。任意の局面のいくつかの態様において、少なくとも1つの非イオン性界面活性剤は中性親水性ヘッド基を有する。
【0122】
本明細書において用いられる「ポリソルベート」とは、脂肪酸でエステル化されたエトキシル化ソルビタン(ソルビトールの誘導体)に由来する界面活性剤を指す。ポリソルベートの一般的な商標名には、Scattics(商標)、Alkest(商標)、Canarcel(商標)、およびTween(商標)が含まれる。例示的ポリソルベートには、ポリソルベート20(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート)、ポリソルベート40(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノパルミテート)、ポリソルベート60(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート)、およびポリソルベート80(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート)が含まれる。
【0123】
任意の局面のいくつかの態様において、少なくとも1つの非イオン性界面活性剤(例えば、少なくとも1つのポリソルベート)は約0.1%~約50%w/vの濃度で存在する。任意の局面のいくつかの態様において、少なくとも1つの非イオン性界面活性剤(例えば、少なくとも1つのポリソルベート)は0.1%~50%w/vの濃度で存在する。任意の局面のいくつかの態様において、少なくとも1つの非イオン性界面活性剤(例えば、少なくとも1つのポリソルベート)は約1%~約5%w/vの濃度で存在する。任意の局面のいくつかの態様において、少なくとも1つの非イオン性界面活性剤(例えば、少なくとも1つのポリソルベート)は1%~5%w/vの濃度で存在する。任意の局面のいくつかの態様において、少なくとも1つの非イオン性界面活性剤(例えば、少なくとも1つのポリソルベート)は約3%~約10%w/vの濃度で存在する。任意の局面のいくつかの態様において、少なくとも1つの非イオン性界面活性剤(例えば、少なくとも1つのポリソルベート)は3%~10%w/vの濃度で存在する。任意の局面のいくつかの態様において、少なくとも1つの非イオン性界面活性剤(例えば、少なくとも1つのポリソルベート)は約5%w/v未満の濃度で存在する。任意の局面のいくつかの態様において、少なくとも1つの非イオン性界面活性剤(例えば、少なくとも1つのポリソルベート)は5%w/v未満の濃度で存在する。
【0124】
任意の局面のいくつかの態様において、本明細書に記載の少なくとも1つの活性化合物と少なくとも1つのILの組み合わせは、1つまたは複数のナノ粒子中に提供される。任意の局面のいくつかの態様において、本明細書に記載の少なくとも1つの活性化合物と少なくとも1つのILの組み合わせは、活性化合物を含むナノ粒子を含み、ナノ粒子は、本明細書に記載の少なくとも1つのILを含む組成物中での溶液または懸濁液の状態にある。
【0125】
いずれかの局面のいくつかの態様において、本明細書に記載される組成物、例えば少なくとも1つのILおよび活性化合物を含む組成物は、薬学的に許容される担体をさらに含み得る。本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される」、「生理学的に忍容される」という用語およびそれらの文法上のバリエーションは、組成物、担体、希釈剤、および試薬を指す場合、互換的に使用され、吐き気、めまい、胃の不調などの望ましくない生理学的効果を産生することなく、材料を哺乳動物へまたは哺乳動物上に投与できることを表す。薬学的に許容される担体は、そのように望まれない限り、それと混和されている作用物質に対する免疫応答の上昇を促進しない。その中に溶解または分散された有効成分を含む薬理学的組成物の調製は、当技術分野においてよく理解されており、製剤に基づいて限定される必要はない。通常そのような組成物は、液体溶液または懸濁液のいずれかとして注射可能なように調製されるが、使用前に液体中で溶解に適切または懸濁液に適切な固体の形態でも調製し得る。調製物は乳化することもでき、またはリポソーム組成物として提示することもできる。活性成分は、薬学的に許容され、活性成分と適合する賦形剤と、本明細書に記載される治療的方法での使用に適切な量で混合できる。適切な賦形剤には、例えば水、生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなど、およびそれらの組み合わせが含まれる。さらに、所望の場合、組成物は、活性成分の効き目を増強する湿潤剤もしくは乳化剤、pH緩衝剤などの少量の補助物質を含み得る。本開示の治療組成物は、その中の成分の薬学的に許容される塩を含み得る。薬学的に許容される塩には、例えば塩酸もしくはリン酸などの無機酸、または酢酸、酒石酸、マンデル酸などの有機酸と形成される(ポリペプチドの遊離アミノ基と形成される)、酸付加塩が含まれる。遊離カルボキシル基と形成された塩は、例えばナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、または水酸化第二鉄などの無機塩基、およびイソプロピルアミン、トリメチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどの有機塩基からも由来し得る。生理学的に忍容される担体は、当技術分野において周知である。例示的な液体担体は、有効成分および水に加えて材料を含まないか、または生理学的pH値のリン酸ナトリウム、生理学的食塩水、または両方、例えばリン酸緩衝生理食塩水などの緩衝液を含む無菌水溶液である。さらに加えて、水性担体は複数の緩衝塩ならびに塩化ナトリウムおよび塩化カリウム、デキストロース、ポリエチレングリコール、および他の溶質などの塩を含み得る。液体組成物は、水に加えておよび水を除外して、液相も含み得る。そのような追加の液相の例は、グリセリン、綿実油などの植物油、および水油エマルションである。本明細書に記載される方法で使用される、特定の障害または病状の治療に効果がある活性作用物質の量は、障害または病状の本質に依存し、標準的な臨床技術によって決定できる。適切な薬学的担体は、技術の本分野における標準的な参照テキストであるRemington's Pharmaceutical Sciences, A. Osolに記載されている。例えば、注射による投与に適切な非経口組成物は、1.5重量%の活性成分を0.9%塩化ナトリウム溶液に溶解することで調製される。
【0126】
薬学的担体の文脈における「担体」という用語は、治療薬が一緒に投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤、または媒体を指す。そのような薬学的担体は、落花生油、大豆油、鉱油、ゴマ油などの、石油、動物、植物、または合成起源のものを含む、水および油などの無菌液体であり得る。薬学的組成物が静脈内投与される場合は、水が好ましい担体である。生理食塩水溶液ならびにデキストロース水溶液およびグリセロール溶液も、特に注射可能な溶液のための液体担体として使用できる。適切な薬学的賦形剤には、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、グリセロールモノステアレート、タルク、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノールなどが含まれる。所望の場合、組成物は、少量の湿潤剤もしくは乳化剤、またはpH緩衝剤も含み得る。これらの組成物は、溶液、懸濁液、エマルション、錠剤、丸薬、カプセル、粉末、徐放性製剤などの形態をとり得る。組成物は、トリグリセリドなどの昔ながらの結合剤かつ担体を用いて、坐剤として製剤化できる。経口製剤は、薬学的グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどの標準的な担体を含み得る。適切な薬学的担体の例は、Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th Ed., Gennaro, ed. (Mack Publishing Co., 1990)に説明されている。製剤は投与方式に適したものであるべきである。
【0127】
薬学的に許容される担体および希釈剤には、生理食塩水、水性緩衝溶液、溶媒および/または分散媒質が含まれる。そのような担体および希釈剤の使用は、当技術分野において周知である。薬学的に許容される担体としての役目を果たすことができる材料のいくつかの非限定的な例には、以下が含まれる:(1)ラクトース、グルコース、およびスクロースなどの糖;(2)トウモロコシデンプンおよびジャガイモデンプンなどのデンプン;(3)セルロースおよびその誘導体、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、エチルセルロース、微結晶性セルロース、および酢酸セルロース;(4)粉末トラガント;(5)麦芽;(6)ゼラチン;(7)ステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、タルクなどの潤滑剤;(8)カカオバターおよび坐剤ワックスなどの賦形剤;(9)落花生油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油、および大豆油などの油;(10)プロピレングリコールなどのグリコール;(11)グリセリン、ソルビトール、マンニトール、およびポリエチレングリコール(PEG)などのポリオール;(12)オレイン酸エチルおよびラウリン酸エチルなどのエステル;(13)寒天;(14)水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウムなどの緩衝剤;(15)アルギン酸;(16)発熱物質を含まない水;(17)等張生理食塩水;(18)リンゲル液;(19)エチルアルコール;(20)pH緩衝溶液;(21)ポリエステル、ポリカーボネートおよび/またはポリ無水物;(22)ポリペプチドおよびアミノ酸などの増量剤(23)血清アルブミン、HDL、およびLDLなどの血清成分;(22)エタノールなどのC2~C12アルコール;ならびに(23)薬学的製剤に使用される他の非毒性適合性物質。湿潤剤、着色剤、離型剤、コーティング剤、甘味剤、香味剤、芳香剤、防腐剤、および抗酸化剤も製剤中に存在し得る。「賦形剤」、「担体」、「薬学的に許容される担体」などの用語は、本明細書において互換的に使用される。いくつかの態様において、担体は活性化合物の分解を阻害する。「薬学的に許容される担体」という用語は、組織培養培地を除く。
【0128】
任意の局面のいくつかの態様において、本明細書に記載の組成物、例えば、本明細書に記載の少なくとも1つのILおよび活性化合物を含む組成物を、経口、皮下、静脈内、皮内、または非経口製剤として製剤化することができる。任意の局面のいくつかの態様において、経口製剤は、本明細書に記載の組成物、例えば、本明細書に記載の少なくとも1つのILおよび活性化合物を含む組成物を含む分解性カプセル剤であり得る。
【0129】
本明細書に記載の任意の局面のいくつかの態様において、活性化合物の生物学的活性は、少なくとも1つのIL非存在下での活性と比較して改善または安定化される。本明細書に記載の任意の局面のいくつかの態様において、ILは、少なくとも1つのILが存在しない対照と比較して、皮膚を通過しての活性化合物の浸透性を大きく増強する。
【0130】
任意の態様の1つの局面において、本明細書に記載するのは、本明細書に記載の少なくとも1つのILでコーティングされたカテーテルを用いて、対象に少なくとも活性化合物を投与する方法である。任意の態様の1つの局面において、本明細書に記載するのは、本明細書に記載の少なくとも1つのILでコーティングされたカテーテルを体内に配置することによって体液を採取する方法である。
【0131】
任意の態様の1つの局面において、本明細書に記載の組成物または組み合わせは、例えば、疾患の処置のための、少なくとも1つの活性化合物の投与法または送達法のためのものである。任意の態様の1つの局面において、本明細書に記載するのは、少なくとも1つの活性化合物を投与する方法であって、活性化合物を本明細書に記載の少なくとも1つのILと組み合わせて投与する段階を含む方法である。任意の態様の1つの局面において、本明細書に記載するのは、少なくとも1つの活性化合物を投与することによる疾患の処置法であって、活性化合物を本明細書に記載の少なくとも1つのILと組み合わせて投与する段階を含む方法である。
【0132】
本明細書に記載の方法によって処置される疾患は、例えば、がん(乳がん、白血病、リンパ腫、B細胞慢性リンパ球性白血病、膠芽腫、がん腫、尿路上皮がん、肺がん、結腸直腸がん、リンパ芽球性白血病、リンパ球性白血病、肉腫、黒色腫、前立腺がん、骨髄腫、多発性骨髄腫、非ホジキンリンパ腫)、神経芽細胞腫、糖尿病、感染症、炎症、炎症性疾患(例えば、関節リウマチ、若年性特発性関節炎、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、クローン病、潰瘍性大腸炎、プラーク乾癬)、自己免疫疾患、アトピー性皮膚炎、消化器炎症、炎症性腸疾患(IBD)、コレステロール血症、冠状動脈疾患、喘息、移植/臓器拒絶、全身性エリテマトーデス、多発性硬化症、骨粗鬆症などであり得る。
【0133】
いくつかの態様において、本明細書に記載の方法は、状態を有する、または有すると診断された対象を、例えば、少なくとも1つのILおよび活性化合物を含む、本明細書に記載の組成物で処置することに関する。状態、例えば、糖尿病を有する対象は、現行の糖尿病診断法を使用して医師によって特定することができる。これらの状態を特徴付け、診断を助ける、糖尿病の症状および/または合併症は、当技術分野において周知で、体重減少、遅い治癒、多尿、多飲、多食(polyphagiam)頭痛、皮膚のかゆみ、および疲労が含まれるが、それらに限定されない。例えば、糖尿病の診断に役立ち得る検査には、血液検査(例えば、空腹時グルコースレベル)が含まれるが、それに限定されない。糖尿病の家族歴、または糖尿病の危険因子(例えば、太りすぎ)への暴露は、対象が糖尿病を有する可能性があるかどうかを判定する、または糖尿病の診断を行う際にも役立ち得る。
【0134】
本明細書に記載の組成物および方法は、本明細書に記載の状態を有する、または有すると診断された対象に投与することができる。いくつかの態様において、本明細書に記載の方法は、本明細書に記載の状態の症状を軽減するために、本明細書に記載の組成物、例えば本明細書に記載の少なくとも1つのILおよび活性化合物を含む組成物の有効量を対象に投与する段階を含む。本明細書において用いられる「症状を軽減すること」とは、状態に関連する任意のマーカーまたは症状を改善することである。同等の未処理対照と比較して、そのような低減は、任意の標準の技術で測定して、少なくとも5%、10%、20%、40%、50%、60%、80%、90%、95%、99%またはそれ以上である。本明細書に記載の組成物を対象に投与するための様々な手段は当業者には公知である。そのような方法には、経口、非経口、静脈内、筋肉内、皮下、経皮、気道(エアロゾル)、肺、皮膚、注射、または腫瘍内投与が含まれるが、それらに限定されない。投与は局所または全身であり得る。
【0135】
任意の局面のいくつかの態様において、投与は経皮投与である。任意の局面のいくつかの態様において、投与は経皮投与、粘膜(例えば、鼻粘膜、口腔粘膜、または膣粘膜)への投与、経口投与、皮下投与、皮内投与、非経口投与、腫瘍内投与、または静脈内投与である。
【0136】
経口投与は、錠剤(割線またはコーティング錠を含むが、それらに限定されない)、丸剤、カプレット、カプセル剤、チュアブル錠、粉末パケット、カシェ剤、トローチ、ウエハー、エアロゾルスプレー、または水性液体、非水性液体、水中油乳剤、もしくは油中水乳剤中のシロップ剤、エリキシル剤、液剤もしくは懸濁剤などであるが、それらに限定されない、液体を提供することを含み得る。経口製剤は、錠剤(割線またはコーティング錠を含むが、それらに限定されない)、丸剤、カプレット、カプセル剤、チュアブル錠、粉末パケット、カシェ剤、トローチ、ウエハー、エアロゾルスプレー、または水性液体、非水性液体、水中油乳剤、もしくは油中水乳剤中のシロップ剤、エリキシル剤、液剤もしくは懸濁剤などであるが、それらに限定されない、液体などであるが、それらに限定されない、分離した剤形を含み得る。そのような組成物は、CAGEの所定量および少なくとも1つの活性化合物を含み、当業者には周知の調剤法によって調製され得る。一般に、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 21st Ed., Lippincott, Williams, and Wilkins, Philadelphia PA. (2005)参照。
【0137】
任意の態様の1つの局面において、本明細書に記載するのは、皮下、皮内または静脈内投与による少なくとも1つの活性化合物の送達法であって、活性化合物を本明細書に記載の少なくとも1つのILと組み合わせて投与する段階を含む方法である。任意の局面のいくつかの態様において、皮下、皮内または静脈内投与は、注射、カテーテル、ポートなどを介した投与を含む。
【0138】
任意の態様の1つの局面において、本明細書に記載するのは、少なくとも1つの活性化合物の非経口送達法であって、活性化合物を本明細書に記載の少なくとも1つのILと組み合わせて非経口投与する段階を含む方法である。いくつかの態様において、非経口投与は、腫瘍、例えば、がん腫瘍への送達を含む。任意の局面のいくつかの態様において、本明細書に記載の組成物または組み合わせは、非経口剤形であり得る。非経口剤形の投与は、典型的には、汚染物質に対する患者の自然な防御を迂回するため、非経口剤形は、好ましくは、患者への投与前に無菌であるか、または滅菌可能である。非経口剤形の例には、注射可能な液剤、注射用の薬学的に許容される媒体中に溶解または懸濁可能な乾燥製剤、注射可能な懸濁剤、および乳剤が含まれるが、それらに限定されない。加えて、DUROS(登録商標)型の剤形および用量ダンピング(dose-dumping)を含むが、それらに限定されない、制御放出非経口剤形を、患者の投与のために調製することができる。
【0139】
少なくとも1つのIL(例えばCAGE)を範囲内に開示する少なくとも1つの活性化合物と組み合わせて含む組成物の非経口剤形を提供するために使用し得る適切な媒体は、当業者には周知である。例には:滅菌水;米国薬局方注射用水;食塩液;グルコース溶液;塩化ナトリウム注射液、リンゲル注射液、デキストロース注射液、デキストロースおよび塩化ナトリウム注射液、ならびに乳酸加リンゲル液などであるが、それらに限定されない水性媒体;エチルアルコール、ポリエチレングリコール、およびプロピレングリコールなどであるが、それらに限定されない、水混和性媒体;およびトウモロコシ油、綿実油、落花生油、ゴマ油、オレイン酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、および安息香酸ベンジルなどであるが、それらに限定されない、非水性媒体が含まれるが、それらに限定されない。本明細書に開示される組成物中の成分の溶解性を変更または改変する化合物を、通常および制御放出非経口剤形を含む、本開示の非経口剤形中に組み込むこともできる。
【0140】
通常の剤形は一般に、製剤からの急速または即時薬物放出を提供する。薬物の薬理学および薬物動態に依存して、通常の剤形の使用は、患者の血液および他の組織中の薬物濃度の広い変動につながり得る。これらの変動は、投与頻度、作用発現、有効性の持続時間、治療的血中レベルの維持、毒性、副作用などのいくつかのパラメータに影響を及ぼし得る。本明細書で前述したとおり、少なくとも1つのILを少なくとも1つの活性化合物と組み合わせて含む組成物は、制御放出製剤を用いる一定の理由を排除することができるが、この方法および組成物は、いくつかの態様において制御放出製剤中で利用し得ることが本明細書において企図される。例えば、制御放出製剤を、薬物の作用発現、作用の持続時間、治療ウィンドウ内の血漿レベル、およびピーク血中レベルを制御するために使用することができる。特に、制御または持続放出剤形または製剤を、薬物の過少量投与(すなわち、最小治療レベルを下回る)ならびに薬物の毒性レベル超過の両方から起こり得る、潜在的な副作用および安全性の懸念を最小限に抑えながら、薬物の最大の有効性を確実に達成するために使用することができる。いくつかの態様において、少なくとも1つのILを少なくとも1つの活性化合物と組み合わせて含む組成物は、持続放出製剤で投与することができる。
【0141】
放出制御薬学的製品は、それらの非放出制御対応物によって達成されるよりも薬物療法を改善させるという共通の目標を有する。理想的には、医学的治療において最適に設計された放出制御調製物の使用は、最小限の量の時間で病状を治癒または制御するために使用される最小限の薬物物質によって特徴付けられる。放出制御製剤の利点には、以下が含まれる:1)薬物の活性の延長;2)投与頻度の低減;3)患者のコンプライアンスの向上;4)より少ない総薬物の使用;5)局所的または全身的な副作用の低減;6)薬物の蓄積の最小化;7)血中レベルの揺らぎの低減;8)治療の有効性の改善;9)薬物活性の相乗作用または喪失の低減;および10)疾患または病状の制御速度の改善。Kim, Cherng-ju, Controlled Release Dosage Form Design, 2 (Technomic Publishing, Lancaster, Pa.: 2000)。
【0142】
ほとんどの放出制御製剤は、所望の治療効果を即座に産生する量の薬物(活性成分)を最初に放出し、長期間にわたってこの治療効果または予防効果のレベルを維持するように、他の量の薬物を徐々にかつ継続的に放出するように設計されている。体内でこの一定レベルの薬物を維持するためには、代謝されて体から排泄されている薬物の量に置き換わる速度で薬物が剤形から放出されなければならない。活性成分の放出制御は、pH、イオン強度、浸透圧、温度、酵素、水、および他の生理学的条件または化合物を含むがこれらに限定されない様々な条件によって刺激され得る。
【0143】
本開示の塩および組成物での使用のために、様々な公知の放出制御または持続放出剤形、製剤、およびデバイスを適合させることができる。例として米国特許第3,845,770号;米国特許第3,916,899号;米国特許第3,536,809号;米国特許第3,598,123号;米国特許第4,008,719号;米国特許第5674,533号;米国特許第5,059,595号;米国特許第5,591,767号;米国特許第5,120,548号;米国特許第5,073,543号;米国特許第5,639,476号;米国特許第5,354,556号;米国特許第5,733,566号;および米国特許第6,365,185 B1号に説明されているものが含まれるがこれらに限定されず、これらのそれぞれは参照により本明細書に組み込まれる。所望の放出プロファイルを様々な割合で提供するために、例えばヒドロキシプロピルメチルセルロース、他のポリマーマトリックス、ゲル、透過膜、浸透圧システム(OROS(登録商標)(Alza Corporation, Mountain View, Calif. USAなど))、またはそれらの組み合わせを使用して、1つまたは複数の有効成分の徐放または制御放出を提供するために、これらの剤形を使用できる。
【0144】
本明細書で使用される「有効量」という用語は、疾患または障害の少なくとも1つまたは複数の症状を緩和するのに必要な組成物の量を指し、所望の効果をもたらすための薬理学的組成物の十分な量に関する。したがって、「治療的有効量」という用語は、典型的な対象に投与された場合に特定の効果をもたらすのに十分な組成物の量を指す。本明細書で使用される有効量は、様々な文脈において、疾患の症状の発症を遅らせ、症状疾患の経過を改変し(例えば、疾患の症状の進行を遅延させるが、これに限定されない)、または疾患の症状を逆転させるのに十分な量も含む。したがって、正確な「有効量」を特定することは、一般的に実行可能ではない。しかしながら、任意の所与の場合について、当業者はルーチン的な実験だけを使用して適した「有効量」を決定できる。
【0145】
有効量、毒性、および治療的有効性は、例えばLD50(集団の50%に致死的な用量)およびED50(集団の50%に治療効果がある用量)を決定するために、細胞培養または実験動物において標準的な薬学的手順によって決定できる。投与量は、使用される剤形および利用される投与経路に応じて変わり得る。毒性と治療効果との間の用量比は治療指数であり、LD50/ED50の比率として表すことができる。大きい治療指数を呈する組成物および方法が好ましい。治療的有効用量は、細胞培養アッセイから最初に推定できる。また、細胞培養または適した動物モデルにおいて決定されたIC50(すなわち、症状の半最大阻害を達成する活性化合物の濃度)を含む循環血漿濃度範囲を達成するために、動物モデルで用量を策定できる。血漿中のレベルは、例えば高速液体クロマトグラフィーによって測定できる。任意の特定の投与量の効果は適切なバイオアッセイ、例えば、中でも血中グルコースのアッセイによってモニターできる。投与量は医師によって決定されることができ、観察された治療効果に合わせて必要に応じて調整され得る。
【0146】
本明細書で使用される場合、「糖尿病」は、膵臓によるインスリン分泌の欠乏または欠如によって特徴付けられる代謝性疾患である真性糖尿病を指す。本明細書全体を通して使用される場合、本明細書で別に特定されない限り、「糖尿病」は1型、2型、3型、および4型糖尿病を含む。糖尿病の開始は、通常、遺伝的原因と環境的原因の組み合わせが原因であり、異常に高い血糖値(高血糖症)という結果になる。糖尿病の最もよく見られる2つの形態は、インスリンの産生の下落(1型において)またはインスリンに対する体の応答の下落(2型および妊娠性において)のいずれかが原因である。どちらも高血糖症につながり、糖尿病の急性徴候:過剰な尿の産生、結果として代償性口渇および水分摂取の増加、霧視、原因不明の体重減少、嗜眠、およびエネルギー代謝の変化を主に引き起こす。糖尿病は多くの合併症を引き起こし得る。疾患が適当に制御されていないと急性合併症(低血糖症、ケトアシドーシス、または非ケトン性高浸透圧性昏睡)が生じることがある。重い長期的合併症(すなわち、慢性の副作用)は、心血管疾患(リスクの倍増)、慢性腎不全、網膜の損傷(失明につながり得る)、神経の損傷(数種類に及ぶ)、ならびにインポテンスおよび創傷治癒不良を引き起こすことのある微小血管の損傷を含む。創傷の治癒不良、特に足の創傷治癒不良は、壊疽そしておそらく切断につながり得る。いくつかの態様において、糖尿病は2型糖尿病であり得る。2型糖尿病(非インスリン依存性糖尿病(NIDDM)または成人発症型糖尿病)は、主としてインスリン抵抗性(インスリンに対する体の応答の下落)、相対的なインスリン欠乏、および高血糖症によって特徴付けられる代謝障害である。いくつかの態様において、対象は前糖尿病であり得、これは例えば空腹時血糖の上昇または食後血糖の上昇を有するとして特徴付けることができる。
【0147】
グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)は、ヒトにおいて食物摂取および空腹感を低減することが知られており、グルコース恒常性に寄与するプログルカゴン遺伝子の転写産物に由来するインクレチンである。GLP-1模倣体は、現在2型糖尿病の治療に使用されている。最近の臨床試験において、これらの治療がグルコース恒常性を改善するだけでなく、体重減少の誘導にも成功することが示された。本明細書で使用される場合、「GLP-1ポリペプチド」はGLP-1の様々なプレおよびプロペプチドならびに切断産物を指し、例えばヒトの場合はGLP-1(1-37)(SEQ ID NO: 2)、GLP-1(7-36)(SEQ ID NO: 3)、およびGLP-1(7-37)(SEQ ID NO: 4)などである。いくつかの態様において、GLP-1ポリペプチドは、GLP-1(7-36)および/またはGLP-1(7-37)またはヒト以外の種に由来する相互に関連したポリペプチドであり得る。GLP-1ポリペプチドの配列は、当技術分野において多数の種について知られており、例えばヒトGLP-1(NCBI Gene ID: 2641)ポリペプチド(例えば、NCBI Ref Seq: NP_002045.1;SEQ ID NO: 1)およびSEQ ID NO: 2~4などである。いくつかの態様において、GLP-1のプレまたはプロペプチド、例えばグルカゴンプレプロタンパク質(例えば、SEQ ID NO: 1)を、本明細書に記載される方法または組成物で使用できる。本明細書に記載されるいずれかのポリペプチドの天然対立遺伝子または変異体も、本明細書に記載される方法および組成物で使用することが具体的に企図される。
【0148】
SEQ ID NO: 1
SEQ ID NO: 2
SEQ ID NO: 3
SEQ ID NO: 4
【0149】
様々なGLP-1模倣体が当技術分野において公知であり、糖尿病の治療に使用されている。GLP-1模倣体(または類似体)は、エキセンディン-4(ヒトGLP-1と相同性を有するドクトカゲ属(Heloderma)トカゲポリペプチド)およびその誘導体、DPP-IV耐性となるように修飾されたGLP-1類似体、または、例えば半減期を延長するために、様々なさらなる作用物質にコンジュゲートされたヒトGLP-1ポリペプチドを含み得る。GLP-1模倣体/類似体は、例えばエクセナチド、リキシセナチド、デュラグルチド、セマグルチド、アルビグルチド、LY2189265、リラグルチド、およびタスポグルチドを含み得る。そのような分子の例ならびにそれらの製造および活性のさらなる考察は、当技術分野において、例えばGupta. Indian J. Endocrinol Metab 17:413-421 (2013);Garber. Diabetes Treatments 41:S279-S284 (2018);米国特許公開第US 2009/0181912号;および国際特許公報第WO 2011/080103号に見出すことができ、これらのそれぞれは全体として参照により本明細書に組み込まれる。
【0150】
いずれかの局面のいくつかの態様において、活性化合物は、化学療法剤またはがんの治療に有効な薬剤であることができる。本明細書で使用される場合、「がん」という用語は、一般的に異常な細胞が制御なく分裂し、近くの組織に侵入し得る疾患または病状の部類に関する。がん細胞は、血液およびリンパ系を通じて体の他の部分にも展開し得る。いくつかの主な種類のがんが存在する。上皮性悪性腫瘍は、皮膚または内臓を裏打ちもしくは覆う組織で発生するがんである。非上皮性悪性腫瘍は、骨、軟骨、脂肪、筋肉、血管、または他の結合組織もしくは支持組織で発生するがんである。白血病は、骨髄などの造血組織で発生するがんで、多数の異常な血液細胞の産生および血液への侵入を引き起こす。リンパ腫および多発性骨髄腫は、免疫系の細胞で発生するがんである。中枢神経系がんは、脳および脊髄の組織で発生するがんである。
【0151】
いずれかの局面のいくつかの態様において、がんは原発性がんである。いずれかの局面のいくつかの態様において、がんは悪性がんである。本明細書で使用される場合、「悪性」という用語は、腫瘍細胞群が1つまたは複数の制御されない増殖(すなわち、正常限界を超える分裂)、侵入(すなわち、隣接組織への侵入および破壊)、ならびに転移(すなわち、リンパまたは血液を介した体内の他の場所への展開)を見せるがんを指す。本明細書で使用される場合、「転移する」という用語は、体の一部分から別の部分へのがんの展開を指す。展開した細胞によって形成された腫瘍は、「転移性腫瘍」または「転移がん」と呼ばれる。転移性腫瘍は、元の(原発性の)腫瘍中の細胞に似た細胞を含む。本明細書で使用される場合、「良性」または「非悪性」という用語は、より大きく増殖してもよいが体の他の部分には展開しない腫瘍を指す。良性腫瘍は自己限定的であり、通常は侵入または転移しない。
【0152】
「がん細胞」または「腫瘍細胞」は、がん性増殖または組織の個々の細胞を指す。腫瘍は一般的に、細胞の異常増殖によって形成される腫脹または病変を指し、良性、前悪性、または悪性であってよい。ほとんどのがん細胞は腫瘍を形成するが、白血病などのいくつかは必ずしも腫瘍を形成しない。腫瘍を形成するがん細胞については、がん(細胞)および腫瘍(細胞)という用語が互換的に使用される。
【0153】
本明細書で使用される場合、「新生物」という用語は、組織の任意の新しくかつ異常な増殖、例えば、その増殖が正常組織の増殖を超過および非協調的である異常な組織塊を指す。したがって、新生物は良性新生物、前悪性新生物、または悪性新生物であり得る。
【0154】
がんまたは腫瘍を有する対象は、対象の体内に存在する客観的に測定可能ながん細胞を有する対象である。この定義に含まれるのは、悪性で活発に増殖するがん、ならびに潜在的に休眠中の腫瘍もしくは微小転移巣である。元の場所から遊走して他の重要な臓器に播種したがんは、罹患した臓器の機能劣化を通じて最終的に対象の死亡につながり得る。
【0155】
がんの例には、上皮性悪性腫瘍、リンパ腫、芽細胞腫、非上皮性悪性腫瘍、白血病、基底細胞がん、胆道がん;膀胱がん;骨がん;脳およびCNSがん;乳がん;腹膜のがん;子宮頸がん;絨毛がん;結腸および直腸がん;結合組織がん;消化器系のがん;子宮内膜がん;食道がん;眼がん;頭頸部のがん;胃がん(胃腸がんを含む);膠芽腫(GBM);肝がん;肝細胞がん;上皮内新生物;腎臓がんまたは腎がん;喉頭がん;白血病;肝臓がん;肺がん(例えば、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、肺の腺がん、および肺の扁平上皮がん);ホジキンリンパ腫および非ホジキンリンパ腫を含むリンパ腫;黒色腫;骨髄腫;神経芽細胞腫;口腔がん(例えば唇、舌、口、および咽頭);卵巣がん;膵臓がん;前立腺がん;網膜芽細胞腫;横紋筋肉腫;直腸がん;呼吸器系のがん;唾液腺がん;肉腫;皮膚がん;扁平上皮がん;胃がん;精巣がん;甲状腺がん;子宮または子宮内膜がん;泌尿器系のがん;外陰がん;ならびに他の上皮性悪性腫瘍および非上皮性悪性腫瘍;ならびにB細胞リンパ腫(低悪性度/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL);小リンパ球性(SL)NHL;中悪性度/濾胞性NHL;中悪性度びまん性NHL;高悪性度免疫芽球性NHL;高悪性度リンパ芽球性NHL;高悪性度小型非切れ込み核細胞性NHL;巨大腫瘤病変NHL;マントル細胞リンパ腫;AIDS関連リンパ腫;およびワルデンストレームマクログロブリン血症を含む);慢性リンパ球性白血病(CLL);急性リンパ芽球性白血病(ALL);有毛細胞性白血病;慢性骨髄芽球性白血病;および移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)、ならびに母斑症、浮腫(脳腫瘍に関連するものなど)、およびメイグス症候群に関連する異常な血管増殖が含まれるが、これらに限定されない。
【0156】
「がん細胞」は、必ずしも新しい遺伝材料の取り込みを伴わない自然発生的または誘導性の表現型変化を有する、インビボ、エクスビボのいずれかもしくは組織培養中の、がん性、前がん性、または形質転換細胞である。形質転換は、形質転換ウイルスによる感染および新しいゲノム核酸の組み込み、または外因性核酸の取り込みに起因し得るが、自然発生的または発がん物質への曝露に続いて、これにより内因性遺伝子が突然変異することにも起因し得る。形質転換/がんは、例えばヌードマウスなどの適切な動物宿主における形態学的変化、細胞の不死化、異常な増殖制御、病巣形成、足場非依存性、悪性腫瘍、増殖の接触阻害および密度制限の喪失、増殖因子または血清非依存性、腫瘍特異的マーカー、侵襲性または転移、および腫瘍増殖に関連する。
【0157】
いずれかの局面のいくつかの態様において、本明細書に記載される組成物、例えば本明細書に記載される少なくとも1つのILを少なくとも1つの活性化合物と組み合わせて含む組成物は、例えば病状についての別の治療を対象に行わない、単剤療法として投与される。
【0158】
いずれかの局面のいくつかの態様において、本明細書に記載される方法は、第2の作用物質および/または治療を、本明細書に記載される組成物、例えば本明細書に記載される少なくとも1つのILを少なくとも1つの活性化合物と組み合わせて含む組成物中で、もしくは別の製剤としてのいずれかにおいて、例えば併用療法の一部として対象に投与することをさらに含み得る。例えば、がん治療のための第2の作用物質および/または治療の非限定的な例は、放射線療法、手術、ゲムシタビン、シスプラスチン、パクリタキセル、カルボプラチン、ボルテゾミブ、AMG479、ボリノスタット、リツキシマブ、テモゾロミド、ラパマイシン、ABT-737、PI-103;チオテパおよびCYTOXAN(登録商標)シクロスホスファミドなどのアルキル化剤;ブスルファン、インプロスルファン、およびピポスルファンなどのスルホン酸アルキル;ベンゾドパ、カルボコン、メツレドパ、およびウレドパなどのアジリジン;アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホラミド、トリエチレンチオホスホラミド、およびトリメチルオロメラミンを含むエチレンイミンおよびメチルアメラミン;アセトゲニン(特にブラタシンおよびブラタシノン);カンプトテシン(合成類似体トポテカンを含む);ブリオスタチン;カリスタチン;CC-1065(そのアドゼレシン、カルゼレシン、およびビゼレシン合成類似体を含む);クリプトフィシン(特にクリプトフィシン1およびクリプトフィシン8);ドラスタチン;デュオカルマイシン(合成類似体、KW-2189およびCB1-TM1を含む);エレウテロビン;パンクラティスタチン;サルコジクチン;スポンギスタチン;クロラムブシル、クロルナファジン、クロロホスファミド、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、メクロレタミンオキシド塩酸塩、メルファラン、ノベムビチン、フェネステリン、プレドニムスチン、トロホスファミド、ウラシルマスタードなどのナイトロジェンマスタード;カルムスチン、クロロゾトシン、フォテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、およびラニムスチン(ranimnustine)などのニトロスウレア(nitrosurea);エンジイン抗生物質(例えばカリケアマイシン、特にカリケアマイシンガンマ1IおよびカリケアマイシンオメガI1(例えば、Agnew, Chem. Intl. Ed. Engl., 33: 183-186 (1994)を参照)などの抗生物質;ダイネマイシンAを含むダイネマイシン;クロドロネートなどのビスホスホネート;エスペラマイシン;ならびにネオカルジノスタチン発色団および関連クロモプロテインエンジイン抗生物質発色団)、アクラシノマイシン、アクチノマイシン、オートラマイシン、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カラビシン、カミノマイシン、カルジノフィリン、クロモマイシン(chromomycinis)、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、ADRIAMYCIN(登録商標)ドキソルビシン(モルホリノ-ドキソルビシン、シアノモルホリノ-ドキソルビシン、2-ピロリノ-ドキソルビシン、およびデオキシドキソルビシンを含む)、エピルビシン、エソルビシン、イダルビシン、マルセロマイシン、マイトマイシンCなどのマイトマイシン、ミコフェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン、ピューロマイシン、ケラマイシン、ロドルビシン、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン、ゾルビシン;メトトレキサートおよび5-フルオロウラシル(5-FU)などの代謝拮抗物質;デノプテリン、メトトレキサート、プテロプテリン、トリメトレキサートなどの葉酸類似体;フルダラビン、6-メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニンなどのプリン類似体;アンシタビン、アザシチジン、6-アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロクスウリジンなどのピリミジン類似体;カルステロン、ドロモスタノロンプロピオネート、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトンなどのアンドロゲン;アミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタンなどの抗副腎;フロリン酸などの葉酸補充物質;アセグラトン;アルドホスファミドグリコシド;アミノレブリン酸;エニルウラシル;アムサクリン;ベストラブシル;ビサントレン;エダトラキサート;デフォファミン;デメコルシン;ジアジコン;エルフォルミチン;酢酸エリプチニウム;エポチロン;エトグルシド;硝酸ガリウム;ヒドロキシ尿素;レンチナン;ロニダイニン;メイタンシンおよびアンサマイトシンなどのメイタンシノイド;ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダンモール;ニトラエリン;ペントスタチン;フェナメット;ピラルビシン;ロソキサントロン;ポドフィリン酸;2-エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK(登録商標)多糖類複合体(JHS Natural Products, Eugene, Oreg.);ラゾキサン;リゾキシン;シゾフラン;スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸;トリアジコン;2,2',2”-トリクロロトリエチルアミン;トリコテセン(特にT-2毒素、ベラクリンA、ロリジンA、およびアンギジン);ウレタン;ビンデシン;ダカルバジン;マノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン;アラビノシド(「Ara-C」);シクロホスファミド;チオテパ;タキソイド、例えばTAXOL(登録商標)パクリタキセル(Bristol-Myers Squibb Oncology, Princeton, N.J.)、ABRAXANE(登録商標)パクリタキセルのクレモフォールフリーでアルブミン操作されたナノ粒子製剤(American Pharmaceutical Partners, Schaumberg, Ill.)、およびTAXOTERE(登録商標)ドキセタキセル(Rhone-Poulenc Rorer, Antony, France);クロランブシル;GEMZAR(登録商標)ゲムシタビン;6-チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキサート;シスプラチン、オキサリプラチン、およびカルボプラチンなどの白金類似体;ビンブラスチン;白金;エトポシド(VP-16);イホスファミド;ミトキサントロン;ビンクリスチン;NAVELBINE.RTM.ビノレルビン;ノバントロン;テニポシド;エダトレキサート;ダウノマイシン;アミノプテリン;ゼローダ;イバンドロネート;イリノテカン(カンプトサール、CPT-11)(イリノテカンとともに5-FUおよびロイコボリンの治療計画を含む);トポイソメラーゼ阻害剤RFS 2000;ジフルオロメチルオルニチン(DMFO);レチノイン酸などのレチノイド;カペシタビン;コンブレタスタチン;ロイコボリン(LV);オキサリプラチン治療計画(FOLFOX)を含むオキサリプラチン;ラパチニブ(Tykerb.RTM.);細胞増殖を低減するPKC-アルファ阻害剤、Raf阻害剤、H-Ras阻害剤、EGFR阻害剤(例えば、エルロチニブ(Tarceva(登録商標)))およびVEGF-A阻害剤ならびに上記のいずれかの薬学的に許容される塩、酸、または誘導体を含み得る。加えて、治療方法は放射線または放射線療法の使用をさらに含み得る。さらに、治療方法は外科的治療の使用をさらに含み得る。
【0159】
一定の態様において、本明細書に記載の組成物、例えば、本明細書に記載の少なくとも1つのILを少なくとも1つの活性化合物と組み合わせて含む組成物の有効用量を、患者に1回投与することができる。一定の態様において、本明細書に記載の組成物、例えば、本明細書に記載の少なくとも1つのILを少なくとも1つの活性化合物と組み合わせて含む組成物の有効用量を、患者に繰り返し投与することができる。全身投与の場合、対象に本明細書に記載の組成物、例えば、本明細書に記載の少なくとも1つのILを少なくとも1つの活性化合物と組み合わせて含む組成物の治療量、例えば0.1mg/kg、0.5mg/kg、1.0mg/kg、2.0mg/kg、2.5mg/kg、5mg/kg、10mg/kg、15mg/kg、20mg/kg、25mg/kg、30mg/kg、40mg/kg、50mg/kg、またはそれ以上を投与することができる。任意の局面のいくつかの態様において、少なくとも1つの活性化合物は約1.0~40.0mg/kgの用量で組み合わせ中に存在する。任意の局面のいくつかの態様において、少なくとも1つの活性化合物は1.0~40.0mg/kgの用量で組み合わせ中に存在する。任意の局面のいくつかの態様において、少なくとも1つの活性化合物は約1.0~20.0mg/kgの用量で組み合わせ中に存在する。任意の局面のいくつかの態様において、少なくとも1つの活性化合物は1.0~20.0mg/kgの用量で組み合わせ中に存在する。
【0160】
いくつかの態様において、活性化合物はインスリンであり、インスリンの濃度または投与量は約1U/kg~約20U/kgであり得る。いくつかの態様において、活性化合物はインスリンであり、インスリンの濃度または投与量は1U/kg~20U/kgであり得る。いくつかの態様において、活性化合物はインスリンであり、インスリンの濃度または投与量は20U/kg未満であり得る。いくつかの態様において、活性化合物はインスリンであり、インスリンの濃度または投与量は約2U/kg~約10U/kgであり得る。いくつかの態様において、活性化合物はインスリンであり、インスリンの濃度または投与量は、2U/kg~10U/kgであり得る。いくつかの態様において、活性化合物はインスリンであり、インスリンの濃度または投与量は、約2U/kg~約5U/kgであり得る。いくつかの態様において、活性化合物はインスリンであり、インスリンの濃度または投与量は、2U/kg~5U/kgであり得る。いくつかの態様において、活性化合物はインスリンであり、インスリンの濃度または投与量は、約5U/kg~約10U/kgであり得る。いくつかの態様において、活性化合物はインスリンであり、インスリンの濃度または投与量は5U/kg~10U/kgであり得る。いくつかの態様において、活性化合物はインスリンであり、インスリンの濃度または投与量は、2U/kg、5U/kg、または10U/kgであり得る。
【0161】
任意の態様の1つの局面において、本明細書に記載するのは、それを必要とする対象における疾患の処置法であって、対象に本明細書に記載の少なくとも1つのILと組み合わせた活性化合物を注射により罹患組織中へ投与することによる方法である。いくつかの態様において、罹患組織は病変細胞を含む組織である。いくつかの態様において、罹患組織は疾患の症状を示す組織である。適切な罹患組織の非限定例には、腫瘍組織、脂肪組織(fat tissue)、脂肪組織(adipose tissue)などが含まれる。任意の局面のいくつかの態様において、疾患は組織の増殖、例えば、不要な、異常な、または病的な組織の増殖に起因する疾患である。組織の増殖に起因する疾患は、健康な対象における組織の種類について正常なものとは異なる、組織の増殖の速度、組織の増殖の場所、または組織の増殖のパターン/構造によって引き起こされるか、または特徴付けられる任意の疾患であり得る。そのような疾患の非限定例は、腫瘍、がん、脂肪/肥満、および/または過形成である。任意の局面のいくつかの態様において、そのような疾患は、腫瘍、がん、脂肪/肥満、および/または過形成である。
【0162】
いくつかの態様において、最初の処置計画の後、処置をより低頻度で行うことができる。例えば、隔週で3か月間の処置の後、6か月間または1年間以上、処置を月に1回繰り返すことができる。本明細書に記載の方法による処置は、状態のマーカーまたは症状のレベルを、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、もしくは少なくとも90%またはそれ以上低減させることができる。
【0163】
本明細書に記載の組成物の投与量は、医師が決定することができ、観察された処置効果に合わせて適宜調整し得る。処置の期間および頻度に関して、熟練した臨床医は、処置がいつ治療的な恩恵をもたらすかを決定し、投与量を増加もしくは減少させるか、投与頻度を増加もしくは減少させるか、処置を中断するか、処置を再開するか、または処置計画に他の変更を加えるかを決定するために、対象をモニターすることが典型的である。投薬スケジュールは、活性化合物に対する対象の感受性などの、いくつかの臨床因子に応じて、週に1回から毎日まで変わり得る。活性物質の所望の用量または量は1回で投与することができ、または部分用量、例えば、2~4つの部分用量に分割し、一定の期間にわたって、例えば、1日を通して適切な間隔で、または他の適切なスケジュールで投与することができる。いくつかの態様において、投与は慢性的、例えば、数週間または数か月の期間にわたって毎日1つまたは複数の用量および/または処置で行い得る。投薬および/または処置スケジュールの例は、1週間、2週間、3週間、4週間、1か月、2か月、3か月、4か月、5か月、もしくは6か月、またはそれ以上の期間にわたって、毎日、1日2回、1日3回、または1日4回以上の投与である。本明細書に記載の組成物、例えば、少なくとも1つのILを少なくとも1つの活性化合物と組み合わせて含む組成物は、一定の期間にわたって、例えば5分間、10分間、15分間、20分間、または25分間の期間にわたって投与することができる。
【0164】
本明細書に記載の方法による、本明細書に記載の組成物の投与についての投与量範囲は、例えば、活性化合物の形態、その効力、および本明細書に記載の状態の症状、マーカー、または指標を低減させたいと所望する程度、例えば、症状またはマーカーについて所望される低減のパーセンテージに依存する。投与量は、有害副作用を引き起こすほど多くすべきでない。一般に、投与量は患者の年齢、状態、および性別によって変動し、当業者によって決定され得る。任意の合併症の場合、投与量は個々の医師が調整することもできる。
【0165】
例えば、本明細書に記載の状態の処置において記載される組成物の有効性、または本明細書に記載の応答を誘導するための組成物の有効性は、熟練した臨床医が決定することができる。しかしながら、本明細書に記載の状態の徴候または症状の1つまたは複数が有益な様式で変更されるか、他の臨床的に認められている症状が改善もしくは寛解さえするか、または所望の応答が、例えば、本明細書に記載の方法による処置後に少なくとも10%誘導されれば、「有効な処置」という用語が本明細書において用いられる場合に、処置は「有効な処置」と考えられる。有効性は、例えば、本明細書に記載の方法によって処置した状態のマーカー、指標、症状、および/もしくは発生率、または任意の他の適切な測定可能なパラメーターを測定することで評価することができる。有効性は、入院によって評価される個人の悪化の欠如、または医学的介入の必要性の欠如(すなわち、疾患の進行が停止)によっても測定することができる。これらの指標を測定する方法は、当業者には公知で、かつ/または本明細書に記載されている。処置には、個人または動物(いくつかの非限定例にはヒトまたは動物が含まれる)における疾患の任意の処置が含まれ、かつ下記が含まれる:(1)疾患を阻害する、例えば、症状(例えば、疼痛または炎症)の悪化を予防する;または(2)疾患の重症度を軽減する、例えば、症状の後退を引き起こす。疾患の処置のための有効量は、それを必要とする対象に投与する場合、その疾患について、有効な処置という用語が本明細書で定義されるように、有効な処置をもたらすのに十分な量を意味する。作用物質の有効性は、状態または所望の応答の物理的指標を評価することで決定することができる。そのようなパラメーターの任意の1つ、またはパラメーターの任意の組み合わせを測定することで投与および/または処置の有効性をモニターすることは、十分に当業者の能力の範囲内である。有効性は、本明細書に記載の状態の動物モデル、例えば、糖尿病またはがんの処置において評価することができる。実験動物モデルを使用する場合、マーカーにおいて統計的に有意な変化が観察される場合に、処置の有効性が証明される。
【0166】
本明細書に記載の組成物、例えば、少なくとも1つのILを少なくとも1つの活性化合物と組み合わせて含む組成物の所与の用量の評価を可能にする、インビトロおよび動物モデル検定を本明細書で提供する。
【0167】
任意の局面のいくつかの態様において、本明細書に記載の少なくとも1つのILを、例えば、活性化合物と組み合わせて含む組成物が投与される対象は、肥満、過剰体重を有する、有すると診断された、または肥満、過剰体重の処置もしくは体重増加の予防を必要とする対象である。いくつかの態様において、対象は過体重である。本明細書に記載の方法は、肥満の処置、体重増加の低減、体重増加の防止、体重減少の促進などの方法を含む。そのような方法は、例えば、代謝の健康を促進し、審美的理由のために追求され、かつ/または高いBMIもしくは体重を有する患者に対して禁忌である外科的介入のために患者を準備させることができる。いくつかの態様において、例えば、対象が過体重および/または肥満である場合、体重減少は医学的に必要であり得、かつ/または医学的に指示され得る。いくつかの態様において、例えば、体重減少が医学的に必要であり、かつ/または医学的に指示されているかどうかにかかわらず、対象が減量を所望する場合、減量は美容目的であり得る。
【0168】
「肥満」という用語は、体内の過剰な脂肪を指す。肥満は、当業者に認められ利用されている任意の尺度によって決定することができる。現在のところ、認められている肥満の尺度は肥満度指数(BMI)であり、これは、メートルでの身長の2乗に対するキログラムでの体重の尺度である。一般に、20歳を超える成人については、約18.5~24.9の間のBMIが正常とみなされ、約25.0~29.9の間のBMIは過体重とみなされ、約30.0以上のBMIは肥満とみなされ、かつ約40以上のBMIは病的な肥満とみなされる。(例えば、Gallagher et al. (2000) Am J Clin Nutr 72:694-701を参照されたい。)これらのBMI範囲は、疾患のリスク増加に対する体重の影響に基づいている。高いBMIおよび肥満に関連するいくつかの一般的な状態には、心血管疾患、高血圧(すなわち、高血圧症)、骨関節症、がん、および糖尿病が含まれる。BMIは体脂肪と相関するが、BMIと実際の体脂肪との間の関係は年齢および性別によって異なる。例えば、同じBMIの場合、女性は男性よりも高い体脂肪率を有する可能性がより高い。さらに、正常、過体重、および肥満を区別するBMI閾値は、他の因子の中でも、例えば年齢、性別、民族性、健康度、および体型によって変動し得る。いくつかの態様において、肥満を有する対象は、本明細書に記載の処置を行う前に、少なくとも約25kg/m2の肥満度指数を有する対象であり得る。いくつかの態様において、肥満を有する対象は、本明細書に記載の処置を行う前に、少なくとも約30kg/m2の肥満度指数を有する対象であり得る。
【0169】
任意の局面のいくつかの態様において、本明細書に記載の少なくとも1つのILを、例えば、少なくとも1つの活性化合物と組み合わせて含む組成物が投与される対象は、代謝障害またはメタボリックシンドロームを有する、有すると診断された、またはその処置を必要とする対象である。「代謝障害」という用語は、例えば、インスリン抵抗性などの、グルコース調節または血糖制御が障害または改変されていることに関連するか、またはそれによって深刻化する任意の障害を指す。そのような障害には、肥満;過剰な脂肪組織;糖尿病;脂肪肝疾患;非アルコール性脂肪肝疾患;メタボリックシンドローム;異脂肪血症;高血圧症;高血糖症;および心血管疾患が含まれるが、それらに限定されない。「メタボリックシンドローム」は代謝障害とは異なり、一緒に発生すると心血管疾患および糖尿病を発症するリスクを増加させる、医学的障害の組み合わせを指す。メタボリックシンドロームのいくつかの定義が、例えば、American Heart AssociationおよびInternational Diabetes Foundationによって確立されている。ほんの一例として、WHOはメタボリックシンドロームを糖尿病、耐糖能異常、空腹時血糖異常またはインスリン抵抗性のいずれか1つ、ならびに:140/90mmHg以上の血圧、脂質異常症、中心性肥満、および微量アルブミン尿のうちの2つの存在と定義している。いくつかの態様において、代謝障害は、下記からなる群より選択され得る:肥満;過剰な脂肪組織;糖尿病;および心血管疾患。
【0170】
多くの活性化合物、例えば、薬学的に活性な化合物の取り込みは、溶媒中で化合物を送達することにより改善することができる。しかしながら、そのような溶媒のほとんどは有毒な副作用を示し、かつ/または送達の時点で刺激物質として作用するため、そのようなアプローチはインビボでの使用にはしばしば不適切である。本明細書に記載するのは、改善された送達動態とともに低い毒性を提供し得る方法および組成物である。
【0171】
便宜上、本明細書、実施例、および添付の特許請求の範囲において用いられるいくつかの用語および語句の意味を以下に提供する。特に記載がないかぎり、または文脈から暗示される場合を除き、以下の用語および語句は、以下に提供する意味を含む。本発明の範囲は特許請求の範囲によってのみ限定されるため、本定義は特定の態様の説明を助けるために提供され、特許請求の範囲に係る発明を限定することを意図しない。特に定義されていない限り、本明細書において用いられるすべての技術および科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。当技術分野における用語の用法と本明細書で提供されるその定義との間に明らかな矛盾がある場合、本明細書内で提供される定義が優先されるものとする。
【0172】
便宜上、本明細書において、明細書、実施例、および添付の特許請求の範囲で使用される一定の用語をここに収集する。
【0173】
カルボン酸は、式RCOOHを有するカルボニル担持官能基であり、ここでRは脂肪族、ヘテロ脂肪族、アルキル、またはヘテロアルキルである。
【0174】
好ましい態様において、直鎖または分岐鎖アルキルは、その骨格内に30以下の炭素原子(例えば、直鎖の場合はC1~C30、分岐鎖の場合はC3~C30)、より好ましくは20以下の炭素原子を有する。同様に、好ましいシクロアルキルは、その環構造内に3~10個の炭素原子、より好ましくは環構造内に5、6または7個の炭素を有する。本明細書、実施例、および特許請求の範囲の全体にわたって用いられる「アルキル」(または「低級アルキル」)という用語は、「無置換アルキル」および「置換アルキル」の両方を含むことが意図され、後者は、炭化水素骨格の1つまたは複数の炭素上の水素を置換する1つまたは複数の置換基を有するアルキル部分を指す。
【0175】
炭素数が特に指定されない限り、本明細書において用いられる「低級アルキル」は、前述の定義のとおりであるが、その骨格構造内に1~10個の炭素、より好ましくは1~6個の炭素原子を有するアルキル基を意味する。同様に、「低級アルケニル」および「低級アルキニル」は、同様の鎖長を有する。本出願全体を通して、好ましいアルキル基は低級アルキルである。好ましい態様において、本明細書でアルキルと示される置換基は低級アルキルである。
【0176】
置換アルキルの置換基には、ハロゲン、ヒドロキシ、ニトロ、チオール、アミノ、アジド、イミノ、アミド、ホスホリル(ホスホネートおよびホスフィネートを含む)、スルホニル(スルフェート、スルホンアミド、スルファモイルおよびスルホネートを含む)、およびシリル基、ならびにエーテル、アルキルチオ、カルボニル(ケトン、アルデヒド、カルボキシレート、およびエステルを含む)、-CF3、-CNなどが含まれ得る。
【0177】
本明細書において用いられる「アルケニル」という用語は、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を有する、不飽和直鎖、分岐鎖または環状炭化水素ラジカルを指す。CxアルケニルおよびCx~Cyアルケニルが典型的に用いられ、ここでXおよびYは鎖内の炭素原子数を示す。例えば、C2~C6アルケニルには、1~6炭素および少なくとも1つの二重結合の鎖を有するアルケニル、例えば、ビニル、アリル、プロペニル、イソプロペニル、1-ブテニル、2-ブテニル、3-ブテニル、2-メチルアリル、1-ヘキセニル、3-ヘキセニル、3-ヘキセニルなど)が含まれる。別のラジカルと共に表されるアルケニル(例えば、アリールアルケニルのように)は、示された数の原子を有する、直鎖または分岐、アルケニル二価ラジカルを意味する。アルケニルの骨格は、任意にN、O、またはSなどの1つまたは複数のヘテロ原子を挿入することができる。
【0178】
本明細書において用いられる「アルキニル」という用語は、少なくとも1つの炭素-炭素三重結合を有する、不飽和炭化水素ラジカルを指す。CxアルキニルおよびCx~Cyアルキニルが典型的に用いられ、ここでXおよびYは鎖内の炭素原子数を示す。例えば、C2~C6アルキニルには、1~6炭素および少なくとも1つの三重結合の鎖を有するアルキニル、例えば、エチニル、1-プロピニル、2-プロピニル、1-ブチニル、イソペンチニル、1,3-ヘキサ-ジイン-イル、n-ヘキシニル、3-ペンチニル、1-ヘキセン-3-イニルなどが含まれる。別のラジカルと共に表されるアルキニル(例えば、アリールアルキニルのように)は、示された数の原子を有する、直鎖または分岐、アルキニル二価ラジカルを意味する。アルキニルの骨格は、任意にN、O、またはSなどの1つまたは複数のヘテロ原子を挿入することができる。
【0179】
本明細書において用いられる「ハロゲン」または「ハロ」という用語は、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素から選択される原子を指す。用語「ハロゲン放射性同位体」または「ハロ同位体」は、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素から選択される原子の放射性核種を指す。単離された群またはより大きな群の一部としての「ハロゲン置換部分」または「ハロ置換部分」とは、そのような用語が本出願において定義される、1つまたは複数の「ハロ」原子で置換された、本明細書に記載の脂肪族、脂環式、または芳香族部分を意味する。例えば、ハロ置換アルキルには、ハロアルキル、ジハロアルキル、トリハロアルキル、ペルハロアルキルなどが含まれる(例えばハロ置換(C1~C3)アルキルには、クロロメチル、ジクロロメチル、ジフルオロメチル、トリフルオロメチル(-CF3)、2,2,2-トリフルオロエチル、ペルフルオロエチル、2,2,2-トリフルオロロ-1,1-ジクロロエチルなどが含まれる)。
【0180】
「シクリル」または「シクロアルキル」という用語は、3~12個の炭素、例えば、3~8個の炭素、および例えば、3~6個の炭素を有する、飽和および部分不飽和環状炭化水素基を指す。CxシクリルおよびCx~Cyシクリルが典型的に用いられ、ここでXおよびYは環系における炭素原子数を示す。シクロアルキル基はさらに、例えば、1、2、3、または4つの置換基で任意に置換され得る。シクリル基の例には、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロペンテニル、シクロヘキシル、シクロヘキセニル、2,5-シクロヘキサジエニル、シクロヘプチル、シクロオクチル、ビシクロ[2.2.2]オクチル、アダマンタン-l-イル、デカヒドロナフチル、オキソシクロヘキシル、ジオキソシクロヘキシル、チオシクロヘキシル、2-オキソビシクロ[2.2.1]ヘプト-1-イルなどが含まれるが、それらに限定されない。
【0181】
用語「ヘテロシクリル」は、単環式の場合は1~3個のヘテロ原子、二環式の場合は1~6個のヘテロ原子、または三環式の場合は1~9個のヘテロ原子を有し、該ヘテロ原子はO、N、またはSから選択される(例えば、単環式、二環式、または三環式の場合はそれぞれ、炭素原子および1~3個、1~6個、または1~9個のN、O、またはSのヘテロ原子を有する)、非芳香族5~8員単環式、8~12員二環式、または11~14員三環式環系を指す。CxヘテロシクリルおよびCx~Cyヘテロシクリルが典型的に用いられ、ここでXおよびYは環系における炭素原子数を示す。いくつかの態様において、各環の1、2または3個の水素原子は置換基によって置換され得る。例示的ヘテロシクリル基には、ピペラジニル、ピロリジニル、ジオキサニル、モルホリニル、テトラヒドロフラニル、ピペリジル、4-モルホリル、4-ピペラジニル、ピロリジニル、ペルヒドロピロリジニル、1,4-ジアザペルヒドロエピニル、1,3-ジオキサニル、1,4-ジオキサニルなどが含まれるが、それらに限定されない。
【0182】
「二環式」および「三環式」という用語は、縮合、架橋、または一重結合によって連結された多環式環集合体を指す。本明細書において用いられる「縮合環」という用語は、両方の環に共通の環原子が互いに直接結合している、二環式構造を有する化合物を形成するように、別の環に結合している環を指す。一般的な縮合環の非排他的な例には、デカリン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、インドール、フラン、ベンゾフラン、キノリンなどが含まれる。縮合環系を有する化合物は、飽和、部分飽和、シクリル、ヘテロシクリル、芳香族、ヘテロ芳香族などであり得る。
【0183】
「ヘテロアリール」という用語は、単環式の場合は1~3個のヘテロ原子、二環式の場合は1~6個のヘテロ原子、または三環式の場合は1~9個のヘテロ原子を有し、該ヘテロ原子はO、N、またはSから選択される(例えば、単環式、二環式、または三環式の場合はそれぞれ、炭素原子および1~3個、1~6個、または1~9個のN、O、またはSのヘテロ原子を有する)、芳香族5~8員単環式、8~12員縮合二環式、または11~14員縮合三環式環系を指す。CxヘテロアリールおよびCx~Cyヘテロアリールが典型的に用いられ、ここでXおよびYは環系における炭素原子数を示す。ヘテロアリールには、ベンゾ[b]フラン、ベンゾ[b]チオフェン、ベンズイミダゾール、イミダゾ[4,5-c]ピリジン、キナゾリン、チエノ[2,3-c]ピリジン、チエノ[3,2-b]ピリジン、チエノ[2,3-b]ピリジン、インドリジン、イミダゾ[l,2a]ピリジン、キノリン、イソキノリン、フタラジン、キノキサリン、ナフチリジン、キノリジン、インドール、イソインドール、インダゾール、インドリン、ベンズオキサゾール、ベンゾピラゾール、ベンゾチアゾール、イミダゾ[l,5-a]ピリジン、ピラゾロ[1,5-a]ピリジン、イミダゾ[l,2-a]ピリミジン、イミダゾ[l,2-c]ピリミジン、イミダゾ[l,5-a]ピリミジン、イミダゾ[l,5-c]ピリミジン、ピロロ[2,3-b]ピリジン、ピロロ[2,3cjピリジン、ピロロ[3,2-c]ピリジン、ピロロ[3,2-b]ピリジン、ピロロ[2,3-d]ピリミジン、ピロロ[3,2-d]ピリミジン、ピロロ[2,3-b]ピラジン、ピラゾロ[1,5-a]ピリジン、ピロロ[l,2-b]ピリダジン、ピロロ[l,2-c]ピリミジン、ピロロ[l,2-a]ピリミジン、ピロロ[l,2-a]ピラジン、トリアゾ[l,5-a]ピリジン、プテリジン、プリン、カルバゾール、アクリジン、フェナジン、フェノチアゼン、フェノキサジン、l,2-ジヒドロピロロ[3,2,1-hi]インドール、インドリジン、ピリド[l,2-a]インドール、2(lH)-ピリジノン、ベンズイミダゾリル、ベンゾフラニル、ベンゾチオフラニル、ベンゾチオフェニル、ベンゾキサゾリル、ベンゾキサゾリニル、ベン図チアゾリル、ベンズトリアゾリル、ベンズテトラゾリル、ベンジイソキサゾリル、ベンズイソチアゾリル、ベンズイミダゾリニル、カルバゾリル、4aH-カルバゾリル、カルボリニル、クロマニル、クロメニル、シンノリニル、デカヒドロキノリニル、2H,6H-1,5,2-ジチアジニル、ジヒドロフロ[2,3b]テトラヒドロフラン、フラニル、フラザニル、イミダゾリジニル、イミダゾリニル、イミダゾリル、1H-インダゾリル、インドレニル、インドリニル、インドリジニル、インドリル、3H-インドリル、イサチノイル、イソベンゾフラニル、イソクロマニル、イソインダゾリル、イソインドリニル、イソインドリル、イソキノリニル、イソチアゾリル、イソキサゾリル、メチレンジオキシフェニル、モルホリニル、ナフチリジニル、オクタヒドロイソキノリニル、オキサジアゾリル、1,2,3-オキサジアゾリル、1,2,4-オキサジアゾリル、1,2,5-オキサジアゾリル、1,3,4-オキサジアゾリル、オキサゾリジニル、オキサゾリル、オキセパニル、オキセタニル、オキシインドリル、ピリミジニル、フェナントリジニル、フェナントロリニル、フェナジニル、フェノチアジニル、フェノキサチニル、フェノキサジニル、フタラジニル、ピペラジニル、ピペリジニル、ピペリドニル、4-ピペリドニル、ピペロニル、プテリジニル、プリニル、ピラニル、ピラジニル、ピラゾリジニル、ピラゾリニル、ピラゾリル、ピリダジニル、ピリドオキサゾール、ピリドイミダゾール、ピリドチアゾール、ピリジニル、ピリジル、ピリミジニル、ピロリジニル、ピロリニル、2H-ピロリル、ピロリル、キナゾリニル、キノリニル、4H-キノリジニル、キノキサリニル、キヌクリジニル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロイソキノリニル、テトラヒドロピラニル、テトラヒドロキノリニル、テトラゾリル、6H-1,2,5-チアジアジニル、1,2,3-チアジアゾリル、1,2,4-チアジアゾリル、1,2,5-チアジアゾリル、1,3,4-チアジアゾリル、チアントレニル、チアゾリル、チエニル、チエノチアゾリル、チエノオキサゾリル、チエノイミダゾリル、チオフェニルおよびキサンテニルから誘導されるものが含まれるが、それらに限定されない。いくつかの例示的ヘテロアロール基には、ピリジル、フリルまたはフラニル、イミダゾリル、ベンズイミダゾリル、ピリミジニル、チオフェニルまたはチエニル、ピリダジニル、ピラジニル、キノリニル、インドリル、チアゾリル、ナフチリジニル、2-アミノ-4-オキソ-3,4-ジヒドロピテリジン-6-イル、テトラヒドロイソキノリニルなどが含まれるが、それらに限定されない。いくつかの態様において、各環の1、2、3、または4個の水素原子は置換基によって置換され得る。
【0184】
本明細書において用いられる「置換された」という用語は、置換部分上の1つまたは複数の水素原子の、アルキル、アルケニル、ヘテロシクロアルキル、アルコキシ、アリールオキシ、ヒドロキシ、アミノ、アミド、アルキルアミノ、アリールアミノ、シアノ、ハロ、メルカプト、ニトロ、カルボニル、アシル、アリールおよびヘテロアリール基から独立に選択されるが、それらに限定されない、置換基による独立の置き換えを指す。
【0185】
本明細書において用いられる「置換された」という用語は、置換部分上の1つまたは複数(典型的には1、2、3、4、または5個)の水素原子の、「置換基」の定義において以下に挙げる、またはそれ以外に指定する置換基の群より独立に選択される置換基による独立の置き換えを指す。一般に、非水素置換基は、置換されると指定される所与の部分の原子に結合し得る任意の置換基であり得る。置換基の例には、アシル、アシルアミノ、アシルオキシ、アルデヒド、脂環式、脂肪族、アルカンスルホンアミド、アルカンスルホニル、アルカリール、アルケニル、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アルキル、アルキルアミノ、アルキルカルバノイル、アルキレン、アルキリデン、アルキルチオ、アルキニル、アミド(amide)、アミド(amido)、アミノ、アミノ、アミノアルキル、アラルキル、アラルキルスルホンアミド、アレンスルホンアミド、アレンスルホニル、芳香族、アリール、アリールアミノ、アリールカルバノイル、アリールオキシ、アジド、カルバモイル、カルボニル、カルボニル類(ケトン、カルボキシ、カルボキシレートを含む、CF3、シアノ(CN)、シクロアルキル、シクロアルキレン、エステル、エーテル、ハロアルキル、ハロゲン、ハロゲン、ヘテロアリール、ヘテロシクリル、ヒドロキシ、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、イミノ、イミノケトン、ケトン、メルカプト、ニトロ、オキサアルキル、オキソ、オキソアルキル、ホスホリル(ホスホネートおよびホスフィネートを含む)、シリル基、スルホンアミド、スルホニル(スルフェート、スルファモイルおよびスルホネートを含む)、チオール、およびウレイド部分が含まれるが、それらに限定されず、そのそれぞれは置換されていても、または無置換でもよい。いくつかの場合に、2つの置換基が、それらが結合している炭素と共に、環を形成することもできる。
【0186】
アリールおよびヘテロアリールは、1つまたは複数の位置で1つまたは複数の置換基、例えば、ハロゲン、アルキル、アラルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヒドロキシル、アミノ、ニトロ、スルフヒドリル、イミノ、アミド、ホスフェート、ホスホネート、ホスフィネート、カルボニル、カルボキシル、シリル、エーテル、アルキルチオ、スルホニル、ケトン、アルデヒド、エステル、ヘテロシクリル、芳香族またはヘテロ芳香族部分、-CF3、-CNなどで置換されていてもよい。
【0187】
本明細書において用いられる「アルコキシル」または「アルコキシ」と言う用語は、それに結合した酸素ラジカルを有する、前述の定義のアルキル基を指す。代表的なアルコキシル基には、メトキシ、エトキシ、プロピルオキシ、tert-ブトキシ、n-プロピルオキシ、イソプロピルオキシ、n-ブチルオキシ、イソブチルオキシなどが含まれる。「エーテル」とは、酸素によって共有結合された2つの炭化水素である。したがって、アルキルをエーテルにするアルキルの置換基は、-O-アルキル、-O-アルケニル、および-O-アルキニルの1つで表し得るなどの、アルコキシルであるか、またはそれに似る。アロキシは、-O-アリールまたはO-ヘテロアリールで表すことができ、ここでアリールおよびヘテロアリールは以下の定義のとおりである。アルコキシおよびアロキシ基は、アルキルについて前述したとおりに置換され得る。
【0188】
本明細書において用いられる「アラルキル」という用語は、アリール基(例えば、芳香族またはヘテロ芳香族基)で置換されたアルキル基を指す。
【0189】
本明細書において用いられる「アルキルチオ」という用語は、それに結合した硫黄ラジカルを有する、前述の定義のアルキル基を指す。好ましい態様において、「アルキルチオ」部分は、-S-アルキル、-S-アルケニル、および-S-アルキニルの一つによって表される。代表的なアルキルチオ基には、メチルチオ、エチルチオなどが含まれる。用語「アルキルチオ」は、シクロアルキル基、アルケンおよびシクロアルケン基、およびアルキン基も包含する。「アリールチオ」は、アリールまたはヘテロアリール基を指す。
【0190】
「スルフィニル」という用語は、ラジカル-SO-を意味する。スルフィニルラジカルは、様々な置換基でさらに置換されて、スルフィン酸、スルフィンアミド、スルフィニルエステル、スルホキシドなどを含む、異なるスルフィニル基を形成し得ることに留意されたい。
【0191】
「スルホニル」という用語は、ラジカル-SO2-を意味する。スルホニルラジカルは、様々な置換基でさらに置換されて、スルホン酸(-SO3H)、スルホンアミド、スルホネートエステル、スルホンなどを含む、異なるスルホニル基を形成し得ることに留意されたい。
【0192】
「チオカルボニル」という用語は、ラジカル-C(S)-を意味する。チオカルボニルラジカルは、様々な置換基でさらに置換されて、チオ酸、チオアミド、チオエステル、チオケトンなどを含む、異なるチオカルボニル基を形成し得ることに留意されたい。
【0193】
本明細書において用いられる「アミノ」という用語は、-NH2を意味する。「アルキルアミノ」という用語は、窒素に結合した少なくとも1つの直鎖または分岐不飽和脂肪族、シクリル、またはヘテロシクリルラジカルを有する、窒素部分を意味する。例えば、代表的なアミノ基には、-NH2、-NHCH3、-N(CH3)2、-NH(C1~C10アルキル)、-N(C1~C10アルキル)2などが含まれる。用語「アルキルアミノ」は、「アルケニルアミノ」、「アルキニルアミノ」、「シクリルアミノ」、および「ヘテロシクリルアミノ」を含む。「アリールミノ」という用語は、窒素に結合した少なくとも1つのアリールラジカルを有する、窒素部分を意味する。例えば、-NHアリール、および-N(アリール)2。「ヘテロアリールアミノ」という用語は、窒素に結合した少なくとも1つのヘテロアリールラジカルを有する、窒素部分を意味する。例えば、-NHヘテロアリール、および-N(ヘテロアリール)2。任意に、2個の置換基は窒素と共に環を形成することもできる。特に記載がないかぎり、アミノ部分を含む本明細書に記載の化合物は、その保護誘導体を含むことができる。アミノ部分に適した保護基には、アセチル、tertブトキシカルボニル、ベンジルオキシカルボニルなどが含まれる。
【0194】
「アミノアルキル」という用語は、1つまたは複数の置換または無置換窒素原子(-N-)がアルキル、アルケニル、またはアルキニルの炭素原子の間に位置する場合を除く、前述の定義のアルキル、アルケニル、およびアルキニルを意味する。例えば、(C2~C6)アミノアルキルとは、2~6個の炭素および炭素原子の間に位置する1つまたは複数の窒素原子を含む鎖を指す。
【0195】
「アルコキシアルコキシ」という用語は、-O-(アルキル)-O-(アルキル)、例えば-OCH2CH2OCH3などを意味する。「アルコキシカルボニル」という用語は、-C(O)O-(アルキル)、例えば-C(=O)OCH3、-C(=O)OCH2CH3などを意味する。「アルコキシアルキル」という用語は、-(アルキル)-O-(アルキル)、例えば--CH2OCH3、-CH2OCH2CH3などを意味する。「アリールオキシ」という用語は、-O-(アリール)、例えば-O-フェニル、-O-ピリジニルなどを意味する。「アリールアルキル」という用語は、-(アルキル)-(アリール)、例えばベンジル(すなわち、-CH2フェニル)、-CH2-ピリンジニルなどを意味する。「アリールアルキルオキシ」という用語は、-O-(アルキル)-(アリール)、例えば-O-ベンジル、-O-CH2-ピリジニルなどを意味する。「シクロアルキルオキシ」という用語は、-O-(シクロアルキル)、例えば-O-シクロヘキシルなどを意味する。「シクロアルキルアルキルオキシ」という用語は、-O-(アルキル)-(シクロアルキル、例えば-OCH2シクロヘキシルなどを意味する。「アミノアルコキシ」という用語は、-O-(アルキル)-NH2、例えば-OCH2NH2、-OCH2CH2NH2などを意味する。「モノまたはジアルキルアミノ」という用語は、それぞれ-NH(アルキル)または-N(アルキル)(アルキル)、例えば-NHCH3、-N(CH3)2などを意味する。「モノまたはジアルキルアミノアルコキシ」という用語は、それぞれ-O-(アルキル)-NH(アルキル)または-O-(アルキル)-N(アルキル)(アルキル)、例えば-OCH2NHCH3、-OCH2CH2N(CH3)2などを意味する。「アリールアミノ」という用語は、-NH(アリール)、例えば-NH-フェニル、-NH-ピリジニルなどを意味する。「アリールアルキルアミノ」という用語は、-NH-(アルキル)-(アリール)、例えば-NH-ベンジル、-NHCH2-ピリジニルなどを意味する。「アルキルアミノ」という用語は、-NH(アルキル)、例えば-NHCH3、-NHCH2CH3などを意味する。「シクロアルキルアミノ」という用語は、-NH-(シクロアルキル)、例えば-NH-シクロヘキシルなどを意味する。「シクロアルキルアルキルアミノ」という用語は、-NH-(アルキル)-(シクロアルキル)、例えば-NHCH2-シクロヘキシルなど。
【0196】
本明細書で提供されるすべての定義に関して、定義は、指定されたもの以外のさらなる置換基が含まれ得るという意味で、開放形式であると解釈されるべきであることに留意されたい。したがって、C1アルキルは、炭素原子が1つあることを示すが、炭素原子上の置換基が何であるかを示すものではない。したがって、C1アルキルはメチル(すなわち、-CH3)ならびにCRaRbRcを含み、ここでRa、Rb、およびRcはそれぞれ独立に水素または炭素に対してアルファの原子がヘテロ原子またはシアノである任意の他の置換基であり得る。したがって、CF3、CH2OHおよびCH2CNはすべてC1アルキルである。
【0197】
特に記載がないかぎり、本明細書に示す構造は、1つまたは複数の同位体濃縮原子の存在だけが異なる化合物を含むことが意図される。例えば、重水素またはトリチウムによる水素原子の置き換え、または13C-もしくは14C-濃縮炭素による炭素原子の置き換えを除いて、本構造を有する化合物は本発明の範囲内である。
【0198】
本明細書において用いられる「異性体」という用語は、同じ分子式を有するが、構造が異なる化合物を指す。立体配置および/または立体構造のみが異なる異性体は、「立体異性体」と呼ばれる。「異性体」という用語は、鏡像異性体を指すためにも使用される。
【0199】
「鏡像異性体」という用語は、互いの鏡像であり、重ね合わせ不可能である、分子異性体の対の1つを記載するために用いられる。鏡像異性体を指定またはそれに言及するために使用される他の用語には、「立体異性体」(キラル中心の周りの異なる配置または立体化学のため;すべての鏡像異性体はステレオ異性体であるが、すべての立体異性体が鏡像異性体ではない)または「光学異性体」(純粋な鏡像異性体の光学活性のため、これは異なる純粋な鏡像異性体が異なる方向で平面偏光を回転させる能力である)が含まれる。鏡像異性体は一般に、融点および沸点などの同じ物理的性質を有し、また、同じ分光的性質も有する。鏡像異性体は、平面偏光とのそれらの相互作用に関して、および生物活性に関して、互いに異なり得る。
【0200】
「ラセミ混合物」、「ラセミ化合物」または「ラセミ体」という用語は、1つの化合物の2つの鏡像異性体の混合物を指す。理想的なラセミ混合物は、(+)鏡像異性体の旋光度が(-)鏡像異性体の旋光度を相殺するような、化合物の両方の鏡像異性体の50:50混合物があるものである。
【0201】
ラセミ混合物に関して使用する場合の「分割すること」または「分割」という用語は、ラセミ体のその2つの鏡像形態(すなわち、(+)および(-);または(R)および(S)形態)への分離を指す。この用語はまた、ラセミ体の1つの異性体の生成物への鏡像選択的変換を指すこともできる。
【0202】
「鏡像異性体過剰率」または「ee」という用語は、一方の鏡像異性体が他方より過剰に生成される反応生成物を指し、モルまたは重量または体積比F(+)およびF(-)(F(+)およびF(-)の合計=1)で示す組成の、(+)-および(-)-鏡像異性体の混合物と定義される。鏡像異性体過剰率は*F(+)-F(-)*と定義され、鏡像異性体過剰率パーセントは100×*F(+)-F(-)*による。鏡像異性体の「純度」は、そのeeまたはパーセントee値(%ee)によって記載される。
【0203】
「精製された鏡像異性体」または「純粋な鏡像異性体」または「分割された鏡像異性体」または「鏡像異性体過剰の化合物」のいずれで表されていても、この用語は、一方の鏡像異性体の量が他方の量を超えることを示すことが意図される。したがって、鏡像異性体製剤に言及する場合、主要な鏡像異性体のパーセント(例えば、モルまたは重量または体積)および(または)主要な鏡像異性体の鏡像異性体過剰率パーセントの両方(またはいずれか)を使用して、その製剤が精製された鏡像異性体製剤を表すかどうかを判定してもよい。
【0204】
異性体の「鏡像異性純度」または「鏡像異性体純度」という用語は、精製された鏡像異性体の定性的または定量的尺度を指し;典型的には、測定値はeeまたは鏡像異性体過剰率に基づいて表す。
【0205】
「実質的に精製された鏡像異性体」、「実質的に分割された鏡像異性体」「実質的に精製された鏡像異性体製剤」という用語は、一方の鏡像異性体が他方よりも濃縮されており、より好ましくは、他の鏡像異性体が鏡像異性体または鏡像異性体製剤の20%未満、より好ましくは10%未満、より好ましくは5%未満、さらにより好ましくは、2%未満である、製剤(例えば、非光学活性の出発原料、基質、または中間体から誘導される)を示すことが意図される。
【0206】
「精製された鏡像異性体」、「分割された鏡像異性体」および「精製された鏡像異性体製剤」という用語は、一方の鏡像異性体(例えば、R-鏡像異性体)が他方よりも濃縮されており、より好ましくは、他の鏡像異性体(例えば、S-鏡像異性体)が製剤の30%未満、好ましくは20%未満、より好ましくは10%未満(例えば、この特定の場合に、R-鏡像異性体はS-鏡像異性体を実質的に含まない)、より好ましくは5%未満、さらにより好ましくは、2%未満である、製剤(例えば、非光学活性の出発原料、基質、または中間体から誘導される)を示すことが意図される。精製された鏡像異性体は、他の鏡像異性体を実質的に含まずに合成してもよく、または精製された鏡像異性体は、立体優先的手順で合成し、続いて分離段階を行ってもよく、または精製された鏡像異性体は、ラセミ混合物から誘導してもよい。
【0207】
「鏡像選択性」という用語は、記号「E」によって示される鏡像異性体比とも呼ばれ、ラセミ基質から、生成物ラセミ混合物中の他の鏡像異性体に対して、一方の鏡像異性体を生成する酵素の選択的能力を指し;すなわち、酵素が鏡像異性体を区別する能力の尺度である。非選択的反応はEが1であるが、Eが20以上の分割は一般に合成または分割において有用と考えられる。鏡像選択性は、問題の鏡像異性体間の変換速度の差にある。鏡像異性体の一方が濃縮された反応生成物が得られ;逆に、残りの基質は他方の鏡像異性体が濃縮されている。実際的な目的のために、一般には一方の鏡像異性体が大過剰で得られるのが望ましい。これは、一定程度の変換で変換工程を終了することにより達成される。
【0208】
CAGE(コリンおよびゲラネート)は、陽イオンであるコリン(例えば、構造Iを参照)と陰イオンであるゲラネートまたはゲラン酸(例えば、構造IIおよびIIIを参照)とを含むイオン液体である。CAGEの調製は、例えば国際特許公開WO 2015/066647に記載されているとおりであることができ、これは全体として参照により本明細書に組み込まれ、または本明細書の実施例に記載されているとおりであり得る。
【0209】
「減少する」、「低減した」、「低減」、または「阻害する」という用語はすべて、本明細書において統計的に有意な量の減少を意味するために使用される。いくつかの態様において、「低減する」、「低減」または「減少する」または「阻害する」は、参照レベル(例えば、所与の治療または作用物質の非存在)と比較して少なくとも10%の減少を通常意味し、例えば少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、またはそれより大きい減少を含み得る。本明細書で使用される場合、「低減」または「阻害」は、参照レベルと比較して完全な阻害または低減を包含しない。「完全阻害」は、参照レベルと比較して100%の阻害である。減少は、好ましくは、所与の障害のない個体について正常範囲内として認められるレベルまで下げることができる。
【0210】
「増加した」、「増加」、「増強する」、または「活性化する」という用語はすべて、本明細書において静的に有意な量の増加を意味するために使用される。いくつかの態様において、「増加した」、「増加する」、「増強する」、または「活性化する」という用語は、参照レベルと比較して少なくとも10%の増加、例えば少なくとも約20%、または少なくとも約30%、または少なくとも約40%、または少なくとも約50%、または少なくとも約60%、または少なくとも約70%、または少なくとも約80%、または少なくとも約90%の増加、または100%を含むそれ以下の増加、または参照レベルと比較して10~100%の間の任意の増加、または少なくとも約2倍、または少なくとも約3倍、または少なくとも約4倍、または少なくとも約5倍、または少なくとも約10倍の増加、または参照レベルと比較して2倍から10倍以上の間の任意の増加を意味し得る。マーカーまたは症状の文脈では、「増加」はそのようなレベルにおける統計的に有意な増加である。
【0211】
本明細書で使用される場合、「対象」はヒトまたは動物を意味する。通例、動物は霊長類、げっ歯類、家畜、または狩猟動物などの脊椎動物である。霊長類にはチンパンジー、カニクイザル、クモザル、およびアカゲザルなどのマカクが含まれる。げっ歯類にはマウス、ラット、ウッドチャック、フェレット、ウサギ、およびハムスターが含まれる。家畜および狩猟動物にはウシ、ウマ、ブタ、シカ、バイソン、バッファロー、イエネコなどのネコ種、イヌ、キツネ、オオカミなどのイヌ種、ニワトリ、エミュー、ダチョウなどの鳥種、ならびにマス、ナマズ、およびサケなどの魚が含まれる。いくつかの態様において、対象は哺乳動物、例えば霊長類、例えばヒトである。「個体」、「患者」、および「対象」という用語は、本明細書では互換的に使用される。
【0212】
好ましくは、対象は哺乳動物である。哺乳動物は、ヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、またはウシであり得るが、これらの例に限定されない。ヒト以外の哺乳動物は、本明細書に記載される病状の動物モデルを表す対象として有利に使用できる。対象は男性/雄または女性/雌であり得る。
【0213】
対象は、治療を必要とする病状またはそのような病状に関連する1つまたは複数の合併症であると以前に診断されているか、または悩まされていると特定されているか、または有するものであることができ、任意で、その病状または病状に関連する1つまたは複数の合併症について既に治療を受けたものであり得る。あるいは、対象はその病状または病状に関連する1つまたは複数の合併症を有すると以前に診断されていないものでもあり得る。例えば、対象はその病状または病状に関連する1つまたは複数の合併症についての1つまたは複数のリスク因子を呈するもの、またはリスク因子を呈さない対象であり得る。
【0214】
特定の病状について治療を「必要とする対象」は、その病状を有するか、その病状を有すると診断されたか、またはその病状を発症するリスクがある対象であり得る。
【0215】
本明細書で使用される場合、「タンパク質」および「ポリペプチド」という用語は、隣接する残基のアルファアミノ基とカルボキシ基との間のペプチド結合によって互いに接続された一連のアミノ酸残基を表すために本明細書において互換的に使用される。「タンパク質」および「ポリペプチド」という用語は、そのサイズまたは機能に関係なく、修飾アミノ酸(例えば、リン酸化、糖化、グリコシル化など)およびアミノ酸類似体を含む、アミノ酸のポリマーを指す。「タンパク質」および「ポリペプチド」はしばしば比較的大きいポリペプチドに関して使用される一方で、「ペプチド」という用語はしばしば小さいポリペプチドに関して使用されるが、当技術分野におけるこれらの用語の用法は重複する。「タンパク質」および「ポリペプチド」という用語は、遺伝子産物およびその断片を指す場合、本明細書において互換的に使用される。したがって、例示的なポリペプチドまたはタンパク質には、遺伝子産物、天然のタンパク質、ホモログ、オルソログ、パラログ、断片および他の同等物、変異体、断片、ならびに前述のものの類似体が含まれる。
【0216】
本明細書に記載される様々な態様において、記載された特定のポリペプチドのいずれかの変異体(天然またはその他)、対立遺伝子、ホモログ、保存的修飾変異体、および/または保存的置換変異体が包含されることがさらに企図される。アミノ酸配列に関して、当業者は、コードされた配列中の単一のアミノ酸または少ないパーセンテージのアミノ酸を改変する、核酸、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質配列への個々の置換、欠失、または付加は、改変が化学的に類似したアミノ酸とのアミノ酸の置換という結果になりかつポリペプチドの所望の活性が保持される「保存的修飾変異体」であることを認識する。そのような保存的修飾変異体は、本開示と一貫した多型変異体、種間ホモログ、および対立遺伝子に追加され、これらを除くものではない。
【0217】
所与のアミノ酸は、ある脂肪族残基で別のものを置換する(例えば、Ile、Val、Leu、またはAlaを互いに置換する)、またはある極性残基で別のものを置換する(例えば、LysおよびArg;GluおよびAsp;またはGlnおよびAsnの間)など、類似した生理化学的特徴を有する残基で置き換えることができる。他のそのような保存的置換、例えば類似した疎水性特徴を有する領域全体の置換は周知である。保存的アミノ酸置換を含むポリペプチドは、本明細書に記載されるアッセイのいずれか1つにおいて試験し、所望の活性、例えば、天然または参照ポリペプチドの活性および特異性が保持されていることを確認できる。
【0218】
アミノ酸は、それらの側鎖の特性における類似性によってグループ化することができる(A. L. Lehninger, in Biochemistry, second ed., pp. 73-75, Worth Publishers, New York (1975)において):(1)非極性:Ala(A)、Val(V)、Leu(L)、Ile(I)、Pro(P)、Phe(F)、Trp(W)、Met(M);(2)非荷電極性:Gly(G)、Ser(S)、Thr(T)、Cys(C)、Tyr(Y)、Asn(N)、Gln(Q);(3)酸性:Asp(D)、Glu(E);(4)塩基性:Lys(K)、Arg(R)、His(H)。あるいは、天然の残基は、共通する側鎖の特性に基づいてグループに分類できる:(1)疎水性:ノルロイシン、Met、Ala、Val、Leu、Ile;(2)中性親水性:Cys、Ser、Thr、Asn、Gln;(3)酸性:Asp、Glu;(4)塩基性:His、Lys、Arg;(5)鎖配向に影響を与える残基:Gly、Pro;(6)芳香族:Trp、Tyr、Phe。非保守的置換は、これらのクラスの1つのメンバーを別のクラスに交換することを伴う。特定の保存的置換には、例えばAlaをGlyまたはSerに;ArgをLysに;AsnをGlnまたはHisに;AspをGluに;CysをSerに;GlnをAsnに;GluをAspに;GlyをAlaまたはProに;HisをAsnまたはGlnに;IleをLeuまたはValに;LeuをIleまたはValに;LysをArg、Gln、またはGluに;MetをLeu、Tyr、またはIleに;PheをMet、Leu、またはTyrに;SerをThrに;ThrをSerに;TrpをTyrに;TyrをTrpに;および/またはPheをVal、Ile、またはLeuにすることが含まれる。
【0219】
いくつかの態様において、本明細書に記載されるポリペプチド(またはそのようなポリペプチドをコードする核酸)は、本明細書に記載されるアミノ酸配列の1つの機能的断片であり得る。本明細書で使用される場合、「機能的断片」は、本明細書で以下に記載されるアッセイによって野生型参照ポリペプチドの活性の少なくとも50%を保持するペプチドの断片または区分である。機能的断片は、本明細書に開示される配列の保存的置換を含み得る。
【0220】
いくつかの態様において、本明細書に記載されるポリペプチドは、本明細書に記載される配列の変異体であり得る。いくつかの態様において、変異体は保存的修飾変異体である。保存的置換変異体は、例えば、天然ヌクレオチド配列の突然変異によって得ることができる。本明細書で称される「変異体」は、天然または参照ポリペプチドと実質的に相同であるが、1つまたは複数の欠失、挿入、または置換のために天然または参照ポリペプチドのものとは異なるアミノ酸配列を有するポリペプチドである。変異体ポリペプチドをコードするDNA配列は、天然または参照DNA配列と比較した場合、1つまたは複数のヌクレオチドの付加、欠失、または置換を含むが、活性を保持する変異体タンパク質またはその断片をコードする配列を包含する。多種多様な、PCRに基づく部位特異的変異誘発アプローチが当技術分野において公知であり、当業者によって適用され得る。
【0221】
変異アミノ酸またはDNA配列は、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、またはそれを超えて、天然または参照配列と同一であり得る。天然配列と突然変異配列との間の相同性の度合い(同一性率)は、例えばワールドワイドウェブ上でこの目的のために広く使用される自由に利用可能なコンピュータープログラム(例えば、デフォルト設定のBLASTpまたはBLASTn)を用いて2つの配列を比較することで決定できる。
【0222】
いずれかの局面のいくつかの態様において、変異体は、本明細書で提供される参照配列の1つに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%以上の配列相同性を有し、その参照配列の野生型活性、例えばインクレチン活性を保持するポリペプチドであり得る。いずれかの局面のいくつかの態様において、変異体は、本明細書で提供される天然の参照配列の1つに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%以上の配列相同性を有し、その参照配列の野生型活性、例えばインクレチン活性を保持するポリペプチドであり得る。いずれかの局面のいくつかの態様において、変異体は、本明細書で提供される参照配列の1つに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%以上の配列相同性を有し、その参照配列の野生型活性、例えばインクレチン活性を保持する天然のポリペプチドであり得る。
【0223】
天然アミノ酸配列の改変は、当業者に公知の多数の技術のいずれかによって達成できる。突然変異は、例えば天然配列の断片へのライゲーションを可能にする制限部位の側面に位置する突然変異配列を含むオリゴヌクレオチドを合成することにより、特定の遺伝子座に導入できる。ライゲーション後に、結果として得られた再構築配列は、所望のアミノ酸の挿入、置換、または欠失を有する類似体をコードする。あるいは、必要な置換、欠失、または挿入によって改変された特定のコドンを有する改変ヌクレオチド配列を提供するために、オリゴヌクレオチド指定部位特異的突然変異誘発手順を使用できる。そのような改変を加えるための技術はとてもよく確立されており、例えばWalderら(Gene 42:133, 1986);Bauerら(Gene 37:73, 1985);Craik(BioTechniques, January 1985, 12-19);Smithら(Genetic Engineering: Principles and Methods, Plenum Press, 1981);ならびに米国特許第4,518,584号および第4,737,462号に開示されたものを含み、これらは全体として参照により本明細書に組み込まれる。ポリペプチドの正しいコンフォメーションの維持に関与しない任意のシステイン残基も、分子の酸化安定性の改善および異常な架橋の予防のために、一般的にはセリンで置換できる。逆に、システイン結合をポリペプチドに追加して、その安定性を改善し、またはオリゴマー化を促進することができる。
【0224】
本明細書で使用される場合、「抗体」という用語は、免疫グロブリン分子および免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分、すなわち抗原に免疫特異的に結合する抗原結合部位を含む分子を指す。この用語は、例えば免疫グロブリン分子、モノクローナル抗体、キメラ抗体、CDR移植抗体、ヒト化抗体、Fab、Fab'、F(ab')2、Fv、ジスルフィド結合Fv、scFv、単一ドメイン抗体(dAb)、ダイアボディ、多重特異性抗体、二重特異性抗体(dual specific antibody)、抗イディオタイプ抗体、二重特異性抗体(bispecific antibody)、それらの機能的に活性なエピトープ結合部分、および/または二機能性ハイブリッド抗体を含む、2つの免疫グロブリン重鎖および2つの免疫グロブリン軽鎖からなる抗体、ならびに完全長抗体およびその抗原結合部分を含む様々な形態も指す。各重鎖は、重鎖の可変領域(ここではHCVRまたはVHと略される)および前記重鎖の定常領域で構成される。重鎖定常領域は、3つのドメインCH1、CH2、およびCH3からなる。各軽鎖は、軽鎖の可変領域(ここではLCVRまたはVLと略される)および前記軽鎖の定常領域で構成される。軽鎖定常領域はCLドメインからなる。VHおよびVL領域は、相補性決定領域(CDR)と称され、フレームワーク領域(FR)と称される保存領域が織り交ざった超可変領域にさらに分割されてよい。したがって、各VHおよびVL領域は、N末端からC末端へと次の順序:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4で配置された3つのCDRおよび4つのFRからなる。この構造は、当業者には周知である。
【0225】
本明細書で使用される場合、「抗体試薬」という用語は、少なくとも1つの免疫グロブリン可変ドメインまたは免疫グロブリン可変ドメイン配列を含み、所与の抗原に特異的に結合するポリペプチドを指す。抗体試薬は、抗体または抗体の抗原結合ドメインを含むポリペプチドを含み得る。いくつかの態様において、抗体試薬はモノクローナル抗体またはモノクローナル抗体の抗原結合ドメインを含むポリペプチドを含み得る。例えば、抗体は重(H)鎖可変領域(本明細書ではVHと略される)および軽(L)鎖可変領域(本明細書ではVLと略される)を含み得る。別の例において、抗体は2つの重(H)鎖可変領域および2つの軽(L)鎖可変領域を含む。「抗体試薬」という用語は、抗体の抗原結合断片(例えば一本鎖抗体、FabおよびsFab断片、F(ab')2、Fd断片、Fv断片、scFv、およびドメイン抗体(dAb)断片ならびに完全抗体を包含する。
【0226】
抗体および/または抗体試薬は、免疫グロブリン分子、モノクローナル抗体、キメラ抗体、CDR移植抗体、ヒト化抗体、完全ヒト抗体、Fab、Fab'、F(ab')2、Fv、ジスルフィド結合Fv、scFv、単一ドメイン抗体、ダイアボディ、多重特異性抗体、二重特異性抗体(dual specific antibody)、抗イディオタイプ抗体、二重特異性抗体(bispecific antibody)、およびそれらの機能的に活性なエピトープ結合部分を含み得る。
【0227】
本明細書において用いられる「ナノボディ」または単一ドメイン抗体(sdAb)という用語は、ラクダおよびヒトコブラクダから得られた抗体の小さい単一可変ドメインを含む抗体(VHH)を指す。ラマ種(アルパカ(Lama paccos)、ラマ(lama glama)、ビクーニャ(lama vicugna))などの新世界メンバーを含む、ラクダおよびヒトコブラクダ(フタコブラクダ(Camelus baclrianus)およびヒトコブラクダ(Calelus dromaderius))科のメンバーから得られた抗体タンパク質は、サイズ、構造の複雑さ、およびヒト対象に対する抗原性に関して特徴付けられている。天然に見出される哺乳類のこの科からの一定のIgG抗体は軽鎖を欠き、したがって他の動物由来の抗体の、2つの重鎖および2つの軽鎖を有する典型的な4鎖四級構造と構造的に区別される。PCT/EP93/02214(1994年3月3日公開のWO 94/04678;これはその全体が参照により本明細書に組み入れられる)を参照されたい。
【0228】
VHHとして同定された小さい単一可変ドメインであるラクダ抗体の領域は、標的に対して高い親和性を有する小さなタンパク質を生成するための遺伝子工学により得て、「ラクダナノボディ」として公知の低分子量抗体由来タンパク質を得ることができる。1998年6月2日発行の米国特許第5,759,808号を参照されたく;Stijlemans, B. et al., 2004 J Biol Chem 279: 1256-1261;Dumoulin, M. et al., 2003 Nature 424: 783-788;Pleschberger, M. et al. 2003 Bioconjugate Chem 14: 440-448;Cortez-Retamozo, V. et al. 2002 Int J Cancer 89: 456-62;およびLauwereys, M. et al. 1998 EMBO J. 17: 3512-3520も参照されたく;そのそれぞれは全体が参照により本明細書に組み入れられる。ラクダ抗体および抗体断片の改変ライブラリーは、例えば、Ablynx, Ghent, Belgiumから市販されている。非ヒト起源の他の抗体と同様に、ラクダ抗体のアミノ酸配列は、組み換えによって改変されて、より厳密にヒト配列に類似した配列を得ることができ、すなわち、ナノボディを「ヒト化」することができる。したがって、ヒトに対するラクダ抗体の天然の低抗原性をさらに低下させることができる。
【0229】
ラクダナノボディはヒトIgG分子の約10分の1の分子量を有し、タンパク質はわずか数ナノメートルの物理的直径を有する。小さいサイズの1つの意義は、ラクダナノボディはより大きい抗体タンパク質には機能的に不可視の抗原部位に結合可能であることであり、すなわち、ラクダナノボディは古典的な免疫学的技術を用いると不明瞭な抗原を検出する試薬として、および可能性のある治療剤として有用である。したがって、小さいサイズのもう一つの意義は、ラクダナノボディは標的タンパク質の溝または狭い裂け目の特定の部位に結合した結果として阻害することができ、したがって、古典的な低分子量薬物の機能に、古典的な抗体よりも厳密に類似した能力ではたらき得る。低分子量および小さいサイズはさらに、非常に耐熱性であり、極端なpHおよびタンパク質分解性消化に対して安定で、抗原性が低い、ラクダナノボディをもたらす。2004年8月19日公開の米国特許出願第20040161738号を参照されたく;これはその全体が参照により本明細書に組み入れられる。ヒトに対する低い抗原性と組み合わせたこれらの特徴は、大きい治療可能性を示す。
【0230】
本明細書で使用される場合、「核酸」または「核酸配列」という用語は、リボ核酸、デオキシリボ核酸、またはそれらの類似体の単位が組み込まれた任意の分子、好ましくはポリマー分子を指す。核酸は一本鎖または二本鎖のいずれかであり得る。一本鎖核酸は変性二本鎖DNAの1本の核酸鎖であり得る。あるいは、いかなる二本鎖DNAにも由来しない一本鎖核酸であり得る。1つの局面において、核酸はDNAであり得る。別の局面において、核酸はRNAであり得る。適切なDNAは、例えばcDNAを含み得る。適切なRNAは、例えばmRNAを含み得る。
【0231】
本明細書において用いられる「阻害性核酸」は、標的の発現を阻害し得る核酸分子、例えば、二本鎖RNA(dsRNA)、阻害性RNA(iRNA)などを指す。任意の局面のいくつかの態様において、阻害性核酸はサイレンシングRNA(siRNA)、マイクロRNA(miRNA)、または低分子ヘアピン型RNA(shRNA)であり得る。阻害性核酸は、例えば、酵素との組み合わせで、標的の挿入、欠失、挿入欠失、および/または変異を誘導し、それにより標的の発現を阻害するよう機能する、ガイド配列分子(例えば、ガイドRNA)も含み得る。
【0232】
二本鎖RNA分子(dsRNA)は、RNA干渉(RNAi)として知られる高度に保存された調節機構において遺伝子発現を遮断することが示されている。本明細書に記載される阻害性核酸は、長さが30ヌクレオチド以下、すなわち長さが15~30ヌクレオチド、一般的に長さが19~24ヌクレオチドであり、標的とされるmRNA転写物の少なくとも一部分に実質的に相補的な領域を有するRNA鎖(アンチセンス鎖)を含み得る。これらのiRNAを使用すると、mRNA転写物を標的とした分解が可能になり、標的の発現および/または活性の減少という結果になる。
【0233】
本明細書で使用される場合、「iRNA」という用語は、RNA(または本明細書で以下に記載されるような修飾核酸)を含み、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)経路を介してRNA転写物を標的とした切断を媒介する作用物質を指す。いずれかの局面のいくつかの態様において、本明細書に記載されるiRNAは、標的の発現および/または活性の阻害をもたらす。いずれかの局面のいくつかの態様において、細胞を阻害剤(例えばiRNA)と接触させると、細胞中の標的mRNAレベルにおいて、iRNAが存在しない場合に細胞中で見出される標的mRNAレベルの少なくとも約5%、約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%、約99%、100%を含むそれ以下の減少という結果になる。いずれかの局面のいくつかの態様において、阻害剤(例えばiRNA)を対象に投与すると、対象中の標的mRNAレベルにおいて、iRNAが存在しない場合に対象中で見出される標的mRNAレベルの少なくとも約5%、約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%、約99%、100%を含むそれ以下の減少という結果になる。
【0234】
いずれかの局面のいくつかの態様において、iRNAはdsRNAであり得る。dsRNAは、dsRNAが使用される条件下でハイブリダイズして二重鎖構造を形成するのに十分に相補的な2本のRNA鎖を含む。dsRNAの一方の鎖(アンチセンス鎖)は、標的配列に実質的に相補的な、および一般的に完全に相補的な相補性領域を含む。標的配列は、標的の発現の間に形成されたmRNAの配列に由来することができ、例えば、それは1つまたは複数のイントロン境界に及ぶことができる。他方の鎖(センス鎖)は、適切な条件下で組み合わせた場合、2本の鎖がハイブリダイズして二重鎖構造を形成するような、アンチセンス鎖に相補的な領域を含む。一般的に、二重鎖構造は、長さが15および30塩基対を含む15~30塩基対の間、より一般的には長さが18および25塩基対を含む18~25塩基対の間、さらにより一般的には長さが19および24塩基対を含む19~24塩基対の間、最も一般的には長さが19および21塩基対を含む19~21塩基対の間である。同様に、標的配列に対する相補性領域は、長さが15および30塩基対を含む15~30塩基対の間、より一般的には長さが18および25塩基対を含む18~25塩基対の間、さらにより一般的には長さが19および24塩基対を含む19~24塩基対の間、最も一般的には長さがヌクレオチド長で19および21塩基対を含む19~21塩基対の間である。いずれかの局面のいくつかの態様において、dsRNAは、長さが15および20ヌクレオチドを含む15~20ヌクレオチドの間であり、別の態様において、dsRNAは、長さが25および30ヌクレオチドを含む25~30ヌクレオチドの間である。当業者が認識するように、切断のための標的となるRNAの標的とされる領域は、ほとんどの場合、より大きいRNA分子の部分であり、しばしばmRNA分子である。関連する場合、mRNA標的の一「部分」は、RNAi指定切断(RNAi-directed cleavage)(すなわち、RISC経路を通じた切断)の基質となるのに十分な長さのmRNA標的の連続する配列である。9塩基対という短い二重鎖を有するdsRNAが、ある状況下では、RNAi指定RNA切断を媒介し得る。ほとんどの場合、標的は少なくとも15ヌクレオチド長、好ましくは15~30ヌクレオチド長である。
【0235】
阻害性核酸のタイプの例示的態様には、例えば、siRNA、shRNA、miRNA、および/またはamiRNAが含まれ得、これらは当技術分野において周知である。当業者であれば、例えば、一般に利用可能な設計ツールを用いて、標的遺伝子または遺伝子産物(例えば、mRNA)の核酸配列を標的とするためのさらなるsiRNA、shRNA、またはmiRNAを設計し得るであろう。siRNA、shRNA、またはmiRNAは一般に、Dharmacon(Layfayette、CO)またはSigma Aldrich(St. Louis、MO)などの会社により作製される。
【0236】
いずれかの局面のいくつかの態様において、iRNAのRNA、例えばdsRNAは、安定性または他の有益な特徴を増強するために化学的に修飾される。本明細書に記載される核酸は、“Current protocols in nucleic acid chemistry,” Beaucage, S.L. et al. (Edrs.), John Wiley & Sons, Inc., New York, NY, USAに記載されるような、当技術分野においてよく確立されている方法によって合成および/または修飾されてよく、これは参照により本明細書に組み込まれる。修飾は、例えば(a)末端修飾、例えば5'末端修飾(リン酸化、コンジュゲーション、逆結合(inverted linkage)など)、3'末端修飾(コンジュゲーション、DNAヌクレオチド、逆結合など)、(b)塩基修飾、例えば安定化塩基、不安定化塩基、またはパートナーの拡張レパートリーと塩基対を形成する塩基での置換、塩基の除去(脱塩基ヌクレオチド)、または共役塩基、(c)糖修飾(例えば2’位または4’位)または糖の置換、ならびに(d)ホスホジエステル結合の修飾または置換を含む骨格修飾、を含む。本明細書に記載される態様において有用なRNA化合物の具体例は、修飾骨格を含むか、または天然のヌクレオシド間結合を含まないRNAが含まれるが、これらに限定されない。修飾骨格を有するRNAは、とりわけ、骨格にリン原子を有さないものが含まれる。この明細書の目的のために、および当技術分野においてときどき参照されるように、それらのヌクレオシド間骨格にリン原子を有さない修飾RNAもオリゴヌクレオシドとみなされ得る。いずれかの局面のいくつかの態様において、修飾RNAは、そのヌクレオシド間骨格にリン原子を有する。
【0237】
修飾RNA骨格は、例えばホスホロチオエート、キラルホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホトリエステル、アミノアルキルホスホトリエステル、3'-アルキレンホスホネートおよびキラルホスホネートを含むメチルおよび他のアルキルホスホネート、ホスフィネート、3'-アミノホスホルアミデートおよびアミノアルキルホスホルアミデートを含むホスホルアミデート、チオノホスホルアミデート、チオノアルキルホスホネート、チオノアルキルホスホトリエステル、および通常の3'-5'結合を有するボラノホスフェート、これらの2'-5'結合類似体、ならびにヌクレオシド単位の隣接対が3'-5'から5'-3'または2'-5'から5'-2'に結合している、逆の極性を有するもの)を含み得る。様々な塩、混合塩、および遊離酸の形態も含まれる。その中にリン原子を含まない修飾RNA骨格は、短鎖アルキルまたはシクロアルキルヌクレオシド間結合、混合ヘテロ原子およびアルキルまたはシクロアルキルヌクレオシド間結合、または1つまたは複数の短鎖ヘテロ原子または複素環ヌクレオシド間結合によって形成される骨格を有する。これらには、モルホリノ結合(一部はヌクレオシドの糖部分から形成される);シロキサン骨格;スルフィド、スルホキシド、およびスルホン骨格;ホルムアセチルおよびチオホルムアセチル骨格;メチレンホルムアセチルおよびチオホルムアセチル骨格;アルケン含有骨格;スルファメート骨格;メチレンイミノおよびメチレンヒドラジノ骨格;スルホネートおよびスルホンアミド骨格;アミド骨格;他の、混合N、O、S、およびCH2の成分部分を有するもの、ヘテロ原子骨格を有するオリゴヌクレオシド、および特に-CH2-NH-CH2-、-CH2-N(CH3)-O-CH2-[メチレン(メチルイミノ)またはMMI骨格として知られる]、-CH2-O-N(CH3)-CH2-、-CH2-N(CH3)-N(CH3)-CH2-および-N(CH3)-CH2-CH2-[ここで、天然ホスホジエステル骨格は-O-P-O-CH2-として表される]、を有するものが含まれる。
【0238】
iRNAでの使用に適切または企図される他のRNA模倣体では、ヌクレオチド単位の糖およびヌクレオシド間結合の両方、すなわち骨格が、新規の基によって置き換えられる。塩基単位は、適した核酸標的化合物とのハイブリダイゼーションのために維持される。そのようなオリゴマー化合物の1つである、優れたハイブリダイゼーション特性を有することが示されているRNA模倣体は、ペプチド核酸(PNA)と称される。PNA化合物では、RNAの糖骨格が、アミド含有骨格、特にアミノエチルグリシン骨格で置き換えられる。核酸塩基は保持され、骨格のアミド部分のアザ窒素原子に直接的または間接的に結合している。
【0239】
iRNAのRNAは、1つまたは複数のロックド核酸(LNA)を含むようにも修飾され得る。ロックド核酸は、リボース部分が2'および4'炭素を接続する追加の橋を含む、修飾リボース部分を有するヌクレオチドである。この構造は、リボースを3'-エンド構造コンフォメーション中に効果的に「ロック」する。ロックド核酸をsiRNAに追加すると、血清中のsiRNAの安定性が増加し、非特異的な効果が低減することが示されている(Elmen, J. et al., (2005) Nucleic Acids Research 33(1):439-447;Mook, OR. et al., (2007) Mol Canc Ther 6(3):833-843;Grunweller, A. et al., (2003) Nucleic Acids Research 31(12):3185-3193)。
【0240】
修飾RNAは、1つまたは複数の置換糖部分も含み得る。本明細書に記載されるiRNA、例えばdsRNAは、2'位に以下の1つを含み得る:OH;F;O-、S-、もしくはN-アルキル;O-、S-、もしくはN-アルケニル;O-、S-、もしくはN-アルキニル;またはO-アルキル-O-アルキル、ここで、アルキル、アルケニル、およびアルキニルは、置換または非置換C1~C10アルキルまたはC2~C10アルケニルおよびアルキニルであってよい。例示的な適切な修飾は、O[(CH2)nO]mCH3、O(CH2).nOCH3、O(CH2)nNH2、O(CH2)nCH3、O(CH2)nONH2、およびO(CH2)nON[(CH2)nCH3)]2、ここでnおよびmは1~約10である。いずれかの局面のいくつかの態様において、dsRNAは2'位に以下の1つを含む:C1~C10低級アルキル、置換低級アルキル、アルカリル、アラルキル、O-アルカリルまたはO-アラルキル、SH、SCH3、OCN、Cl、Br、CN、CF3、OCF3、SOCH3、SO2CH3、ONO2、NO2、N3、NH2、ヘテロシクロアルキル、ヘテロシクロアルカリル、アミノアルキルアミノ、ポリアルキルアミノ、置換シリル、RNA切断基、レポーター基、インターカレーター、iRNAの薬物動態特性を改善するための基、またはiRNAの薬力学的特性を改善するための基、および類似した特性を有する他の置換基。いずれかの局面のいくつかの態様において、修飾は2'メトキシエトキシ(2'-O-CH2CH2OCH3、2'-O-(2-メトキシエチル)または2'-MOEとしても知られる)(Martin et al., Helv. Chim. Acta, 1995, 78:486-504)、すなわちアルコキシ-アルコキシ基を含む。別の例示的な修飾は、本明細書の以下の実施例に記載されるように、2'-ジメチルアミノオキシエトキシ、すなわち2'-DMAOEとしても知られるO(CH2)2ON(CH3)2基、ならびに本明細書の以下の実施例にも記載される2'-ジメチルアミノエトキシエトキシ(当技術分野において2'-O-ジメチルアミノエトキシエチルまたは2'-DMAEOEとしても知られる)、すなわち2'-O-CH2-O-CH2-N(CH2)2である。
【0241】
他の修飾は、2'-メトキシ(2'-OCH3)、2'-アミノプロポキシ(2'-OCH2CH2CH2NH2)および2'-フルオロ(2'-F)を含む。類似した修飾は、iRNAのRNA上の他の位置、特に3'末端ヌクレオチド上または2'-5'結合dsRNA中の糖の3'位および5'末端ヌクレオチドの5'位にも加え得る。iRNAは、ペントフラノシル糖の代わりにシクロブチル部分などの糖模倣体も有してよい。
【0242】
阻害性核酸は、核酸塩基(当技術分野において、しばしば単に「塩基」と称される)の修飾または置換も含み得る。本明細書で使用される場合、「非修飾」または「天然」の核酸塩基は、プリン塩基アデニン(A)およびグアニン(G)、ならびにピリミジン塩基チミン(T)、シトシン(C)、およびウラシル(U)を含む。修飾核酸塩基は、5-メチルシトシン(5-me-C)、5-ヒドロキシメチルシトシン、キサンチン、ヒポキサンチン、2-アミノアデニン、6-メチルならびにアデニンおよびグアニンの他のアルキル誘導体、2-プロピルならびにアデニンおよびグアニンの他のアルキル誘導体、2-チオウラシル、2-チオチミンおよび2-チオシトシン、5-ハロウラシルおよびシトシン、5-プロピニルウラシルおよびシトシン、6-アゾウラシル、シトシンおよびチミン、5-ウラシル(プソイドウラシル)、4-チオウラシル、8-ハロ、8-アミノ、8-チオール、8-チオアルキル、8-ヒドロキシル アナル(8-hydroxyl anal)他の8-置換アデニンおよびグアニン、5-ハロ、特に5-ブロモ、5-トリフルオロメチルならびに他の5-置換ウラシルおよびシトシン、7-メチルグアニンおよび7-メチルアデニン、8-アザグアニンおよび8-アザアデニン、7-デアザグアニンおよび7-ダアザアデニン(7-daazaadenine)および3-デアザグアニンおよび3-デアザアデニンなどの他の合成および天然核酸塩基を含む。これらの核酸塩基のいくつかは、本発明で特徴とされる阻害性核酸の結合親和性を増加させるのに特に有用である。これらは、2-アミノプロピルアデニン、5-プロピニルウラシル、および5-プロピニルシトシンを含む、5-置換ピリミジン、6-アザピリミジンならびにN-2、N-6、および0-6置換プリンを含む。5-メチルシトシン置換は、核酸二重鎖の安定性を0.6~1.2℃増加させることが示されており(Sanghvi, Y. S., Crooke, S. T. and Lebleu, B., Eds., dsRNA Research and Applications, CRC Press, Boca Raton, 1993, pp. 276-278)、さらにいっそう特に2'-O-メトキシエチル糖修飾と組み合わせた場合、例示的な塩基置換である。
【0243】
上記に記載された修飾核酸、骨格、および核酸塩基の調製は、当技術分野において周知である。
【0244】
本発明で特徴とされる阻害性核酸の別の修飾は、iRNAの活性、細胞分布、薬物動態特性、または細胞取り込みを増強する1つまたは複数のリガンド、部分、またはコンジュゲートを阻害性核酸へ化学的に結合させることを伴う。そのような部分には、コレステロール部分(Letsinger et al., Proc. Natl. Acid. Sci. USA, 1989, 86: 6553-6556)、コール酸(Manoharan et al., Biorg. Med. Chem. Let., 1994, 4: 1053-1060)、チオエーテル、例えばベリル-S-トリチルチオール(Manoharan et al., Ann. N.Y. Acad. Sci., 1992, 660:306-309;Manoharan et al., Biorg. Med. Chem. Let., 1993, 3:2765-2770)、チオコレステロール(Oberhauser et al., Nucl. Acids Res., 1992, 20:533-538)、脂肪族鎖、例えばドデカンジオールまたはウンデシル残基(Saison-Behmoaras et al., EMBO J, 1991, 10:1111-1118;Kabanov et al., FEBS Lett., 1990, 259:327-330;Svinarchuk et al., Biochimie, 1993, 75:49-54)、リン脂質、例えばジヘキサデシル-rac-グリセロールまたはトリエチルアンモニウム1,2-ジ-O-ヘキサデシル-rac-グリセロ-3-ホスホネート(Manoharan et al., Tetrahedron Lett., 1995, 36:3651-3654;Shea et al., Nucl. Acids Res., 1990, 18:3777-3783)、ポリアミンまたはポリエチレングリコール鎖(Manoharan et al., Nucleosides & Nucleotides, 1995, 14:969-973)、またはアダマンタン酢酸(Manoharan et al., Tetrahedron Lett., 1995, 36:3651-3654)、パルミチル部分(Mishra et al., Biochim. Biophys. Acta, 1995, 1264:229-237)、またはオクタデシルアミンもしくはヘキシルアミノ-カルボニルオキシコレステロール部分(Crooke et al., J. Pharmacol. Exp. Ther., 1996, 277:923-937)などの脂質部分が含まれるが、これらに限定されない。
【0245】
本明細書に記載の様々な局面のいくつかの態様において、阻害性核酸はガイド核酸(gNA)である。本明細書において用いられる「ガイド核酸」、「ガイド配列」、「crRNA」、「ガイドRNA」、「シングルガイドRNA」、「gRNA」または「CRISPRガイド配列」という用語は、ポリヌクレオチド標的に対する酵素、例えば、CRISPR/CasシステムのCas DNA結合タンパク質の特異性を決定する配列を含む核酸を指す。gNAは、標的核酸配列とハイブリダイズし、酵素、例えば、ヌクレアーゼの標的核酸配列への配列特異的結合を導くのに十分な、標的核酸配列との少なくとも部分的な相補性を有するポリヌクレオチド配列を含み得る。
【0246】
いくつかの態様において、gNAによって導かれる酵素は、遺伝子編集タンパク質、例えば、ニックまたは二本鎖切断を所望の認識部位に誘導する任意のヌクレアーゼである。このような酵素は天然または改変されたものであり得る。これらの切断は、次いで、2つの方法の1つで細胞によって修復され得る:非相同末端結合および相同性指向修復(相同組換え)。非相同末端接合(NHEJ)では、二本鎖切断は、切断末端同士の直接ライゲーションによって修復される。したがって、新しい核酸材料が部位に挿入されることはないが、いくらかの核酸材料が失われ、欠失を生じ得る。相同性指向修復では、切断された標的DNA配列と相同性を有するドナーポリヌクレオチドを、切断された標的DNA配列の修復のための鋳型として使用することができ、ドナーポリヌクレオチドから標的DNAへの遺伝情報の伝達が引き起こされる。したがって、新しい核酸材料が部位に挿入/コピーされ得る。NHEJおよび/または相同性指向修復による標的DNAの改変を、遺伝子補正、遺伝子置換、遺伝子タグ付け、導入遺伝子挿入、ヌクレオチド欠失、遺伝子破壊、遺伝子変異などに用いることができる。
【0247】
1つの態様において、遺伝子編集タンパク質はCRISPR関連ヌクレアーゼである。天然の原核生物CRISPR関連ヌクレアーゼシステムは、一定の長さの介在可変配列を有する短い反復配列(すなわち、規則的に間隔をあけた短い逆方向反復のクラスター)およびCRISPR関連(「Cas」)ヌクレアーゼタンパク質のアレイを含む。転写されたCRISPRアレイのRNAは、Casタンパク質のサブセットによって小さいガイドRNAにプロセシングされ、これは一般に以下で論じるように2つの構成要素を有する。タイプI、タイプIIおよびタイプIIIの少なくとも3つの異なるシステムがある。RNAから成熟crRNAへのプロセシングに関与する酵素は、3つのシステムで異なる。天然原核生物システムにおいて、ガイドRNA(「gRNA」)は、CRISPR RNA(「crRNA」)およびトランス作動性RNA(「tracrRNA」)と呼ばれる2つの短い非コードRNA種を含む。例示的システムにおいて、gRNAはヌクレアーゼ、例えば、Casヌクレアーゼと複合体を形成する。gRNA:ヌクレアーゼ複合体は、gRNAの一部に相補的な配列である、プロトスペーサー隣接モチーフ(「PAM」)およびプロトスペーサーを有する標的ポリヌクレオチド配列に結合する。gRNA:ヌクレアーゼ複合体による標的ポリヌクレオチドの認識および結合は、標的の切断を誘導する。
【0248】
任意のCRISPR関連ヌクレアーゼを、本発明のシステムおよび方法において使用することができる。CRISPRヌクレアーゼシステムは、当業者には公知で、例えばCas9、Cas12、Cas12aなどであり、特許/出願8,993,233、US 2015/0291965、US 2016/0175462、US 2015/0020223、US 2014/0179770、8,697,359;8,771,945;8,795,965;WO 2015/191693;US 8,889,418;WO 2015/089351;WO 2015/089486;WO 2016/028682;WO 2016/049258;WO 2016/094867;WO 2016/094872;WO 2016/094874;WO 2016/112242;US 2016/0153004;US 2015/0056705;US 2016/0090607;US 2016/0029604;8,865,406;8,871,445を参照されたく;これらはそれぞれその全体が参照により本明細書に組み入れられる。ヌクレアーゼは、ファージCasヌクレアーゼ、例えばCasΦであることもできる(例えば、Pausch et al. Science 369: 333-7 (2020);これはその全体が参照により本明細書に組み入れられる)。
【0249】
全長ガイド核酸鎖は任意の長さであり得る。例えば、ガイド核酸鎖は約5、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、35、40、45、50、75、もしくはそれ以上のヌクレオチド長であるか、または約5、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、35、40、45、50、75、もしくはそれ以上よりも多いヌクレオチド長であり得る。本明細書に記載の様々な局面のいくつかの態様において、核酸鎖は約75、50、45、40、35、30、25、20、15、12、またはそれ以下よりも少ないヌクレオチド長である。例えば、ガイド核酸配列は10~30ヌクレオチド長である。
【0250】
標的核酸に相補的な配列に加えて、いくつかの態様において、gNAは足場配列も含む。標的核酸に相補的な配列および足場配列の両方をコードするgNAの発現は、標的核酸への結合(ハイブリダイズ)および標的核酸へのエンドヌクレアーゼの動員の両方の二重機能を有し、これは部位特異的CRISPR活性をもたらし得る。いくつかの態様において、このようなキメラgNAは、シングルガイドRNA(sgRNA)と呼ばれ得る。
【0251】
本明細書に記載の様々な局面のいくつかの態様において、ガイド核酸は、ガイド設計ツール(例えば、Benchling(商標);Broad Institute GPP(商標);CasOFFinder(商標);CHOPCHOP(商標);CRISPOR(商標);Deskgen(商標);E-CRISP(商標);Geneious(商標);GenHub(商標);GUIDES(商標)(例えば、ライブラリ設計のため);Horizon Discovery(商標);IDT(商標);Off-Spotter(商標);およびSynthego(商標);これらはウェブ上で入手可能である)を用いて設計される。
【0252】
本明細書で使用される「ベクター」という用語は、宿主細胞への送達のために、または異なる宿主細胞間の移動のために設計された核酸構築物を指す。本明細書中で使用される場合、ベクターは、ウイルス性または非ウイルス性であり得る。「ベクター」という用語は、正しい制御要素と関連した場合に複製することができ、遺伝子配列を細胞に移動できる任意の遺伝要素を包含する。ベクターは、クローニングベクター、発現ベクター、組換えベクター、プラスミド、ファージ、トランスポゾン、コスミド、染色体、ウイルス、ビリオンなどを含み得るが、これらに限定されない。
【0253】
本明細書で使用される場合、「発現ベクター」という用語は、ベクター上の転写調節配列に結合した配列からのRNAまたはポリペプチドの発現を指示するベクターを指す。発現される配列は、必ずしもではないが、しばしば細胞にとって異種である。発現ベクターは追加の要素を含んでよく、例えば発現ベクターは2つの複製系を有してよく、したがってそれが2つの生物、例えば発現のためにヒト細胞において、ならびにクローニングおよび増幅のために原核生物宿主において維持されることを可能にする。「発現」という用語は、該当する場合、例えば転写、転写プロセシング、翻訳、ならびにタンパク質の折り畳み、修飾、およびプロセシングを含むが、これらに限定されない、RNAおよびタンパク質の産生、ならびに必要に応じてタンパク質の分泌に関与する細胞過程を指す。「発現産物」は、遺伝子から転写されたRNA、および遺伝子から転写されたmRNAの翻訳によって得られたポリペプチドを含む。「遺伝子」という用語は、適した調節配列に機能的に連結された場合にインビトロまたはインビボでRNAに転写(DNA)される核酸配列を意味する。遺伝子は、コード領域の前後の領域、例えば5'非翻訳(5' UTR)または「リーダー」配列および3' UTRまたは「トレーラー」配列、ならびに個々のコード区分(エクソン)の間の介在配列(イントロン)を含んでも含まなくてもよい。
【0254】
本明細書で使用される場合、「ウイルスベクター」という用語は、ウイルス起源の少なくとも1つの要素を含み、ウイルスベクター粒子にパッケージされる能力を有する核酸ベクター構築物を指す。ウイルスベクターは、非必須ウイルス遺伝子の代わりに本明細書に記載されるようなポリペプチドをコードする核酸を含み得る。ベクターおよび/または粒子は、インビトロまたはインビボのいずれかで細胞中に任意の核酸を移動させる目的で利用されてよい。ウイルスベクターの多数の形態が当技術分野において公知である。
【0255】
「組換えベクター」によって意味するのは、インビボで発現することができる異種核酸配列または「導入遺伝子」を含むベクターである。本明細書に記載されるベクターは、いくつかの態様において、他の適切な組成物および療法と組み合わせられることを理解されたい。いくつかの態様において、ベクターはエピソーム性である。適切なエピソームベクターの使用により、対象において、染色体DNA外に高コピー数で関心対象のヌクレオチドを維持し、それにより染色体組み込みの潜在的な影響を排除する手段が提供される。
【0256】
本明細書で使用される場合、「治療する」、「治療」、「治療している」、または「改良」という用語は、例えば本明細書に記載される病状または疾患などの、疾患または障害に関連する病状の進行または重症度を逆転、緩和、改良、阻害、遅延、または停止することが目的である治療的処置を指す。「治療している」という用語は、病状、疾患、または障害の少なくとも1つの不利益な影響または症状を低減または緩和していることを含む。1つまたは複数の症状または臨床マーカーが低減されれば、治療は一般的に「有効」である。あるいは、疾患の進行が低減または停止されれば、治療は「有効」である。すなわち、「治療」には症状またはマーカーの改善だけでなく、治療を行わない場合に予期されるものと比較した、症状の進行もしくは悪化の中止または少なくとも遅延も含まれる。有益または望ましい臨床結果は、検出可能であろうと検出不可能であろうと、1つまたは複数の症状の緩和、疾患の程度の下落、疾患の状態の安定化(すなわち悪化しない)、疾患の進行の遅れまたは遅延、疾患状態の改良または一時緩和、(部分であろうと完全であろうと)寛解、および/または死亡率の減少を含むが、これらに限定されない。疾患の「治療」という用語は、疾患の症状または副作用の軽減をもたらすこと(対症療法を含む)も含む。
【0257】
本明細書で使用される場合、「薬学的組成物」という用語は、薬学的に許容される担体、例えば製薬業界において広く使用される担体と組み合わせた活性作用物質を指す。「薬学的に許容される」という語句は、健全な医学的判断の範囲内で、合理的な利益/リスク比に見合った、過剰な毒性、刺激、アレルギー反応、もしくは他の問題または合併症を伴わない、ヒトおよび動物の組織と接触して使用するのに適切な化合物、材料、組成物、および/または剤形を指すために本明細書で使用される。いずれかの局面のいくつかの態様において、薬学的に許容される担体は、水以外の担体であり得る。いずれかの局面のいくつかの態様において、薬学的に許容される担体は、クリーム、エマルション、ゲル、リポソーム、ナノ粒子、および/または軟膏であり得る。いずれかの局面のいくつかの態様において、薬学的に許容される担体は、人工的または操作された担体、例えば有効成分が自然界で生じることが見出されない担体であり得る。
【0258】
本明細書で使用される場合、「投与」という用語は、所望の部位での少なくとも部分的な作用物質の送達という結果になる方法または経路により、本明細書に開示されるような化合物を対象中に配置することを指す。本明細書に開示される化合物を含む薬学的組成物は、対象において有効な治療という結果になる任意の適した経路によって投与できる。
【0259】
本明細書において用いられる「接触」とは、少なくとも1つの細胞に作用物質を送達、または曝露するための任意の適切な手段を指す。例示的送達法には、細胞培養培地への直接送達、灌流、注射、または当業者には周知の他の送達法が含まれるが、それらに限定されない。いくつかの態様において、接触は、物理的な人間の活動、例えば、注射;分配、混合、および/もしくはデカントの行為;ならびに/または送達装置もしくは機械の操作を含む。
【0260】
「有効量」という用語は、病状に関連する症状の少なくともいくらかの改良をもたらすのに十分な組成物の量を意味する。1つの態様において、「有効量」は、病状を有する対象において、病状のマーカーまたは症状を減少させる組成物の量を意味する。
【0261】
「統計的に有意な」または「有意に」という用語は統計的有意性を指し、一般的に、2つの標準偏差(2SD)より大きい差を意味する。
【0262】
作業例以外において、または別段の指示がない限り、本明細書で使用される成分量または反応条件を表すすべての数は、すべての場合に「約」という用語で修飾されると理解されるべきである。パーセンテージに関連して使用される場合、「約」という用語は±1%を意味し得る。
【0263】
本明細書で使用される場合、「含んでいる」または「含む」という用語は、必須であろうとなかろうと特定されていない要素を包含する可能性があるものの、本発明に必須の方法および組成物ならびにその各々の成分に関して使用される。本明細書で使用される場合、「含んでいる」という用語は、提示された定義済みの要素に加えて、他の要素も存在できることを意味する。「含んでいる」の使用は、限定というよりはむしろ包含を示す。
【0264】
「からなる」という用語は、本明細書に記載される組成物、方法、およびその各々の成分を指し、その態様の説明に記載されていない任意の要素を含まない。
【0265】
本明細書で使用される場合、「から本質的になる」という用語は、所与の態様に必要な要素を指す。この用語は、本発明のその態様の基本的および新規または機能的な特徴に実質的に影響を与えない追加の要素の存在を可能にする。
【0266】
本明細書において用いられる「特異的結合」という用語は、第1の実体が第2の標的実体に、非標的である第3の実体に結合するよりも大きい特異性および親和性で結合する、2つの分子、化合物、細胞および/または粒子の間の化学的相互作用を指す。いくつかの態様において、特異的結合は、第1の実体の第2の標的実体に対する親和性を指し、これは第3の非標的実体に対する親和性よりも少なくとも10倍、少なくとも50倍、少なくとも100倍、少なくとも500倍、少なくとも1000倍またはそれ以上である。所与の標的に特異的な試薬は、使用している検定の条件下でその標的に特異的な結合を示すものである。
【0267】
「ある(a)」、「ある(an)」、および「その(the)」という単数形の用語は、文脈が他に明確に示さない限り、複数の指示対象を含む。同様に、「または」という言葉は、文脈が他に明確に示さない限り、「および」を含むことを意図している。本開示の実施または試験において、本明細書に記載されるものと類似したまたは同等の方法および材料を使用できるが、適切な方法および材料は以下に記載されている。「例えば(e.g.)」という略語はラテン語のexempli gratiaに由来し、本明細書では非限定的な例を示すために使用される。したがって、「例えば(e.g.)」という略語は、「例えば」という用語と同義である。
【0268】
本明細書に開示される本発明の代替要素または態様のグループ化は、限定として解釈されるべきではない。各グループのメンバーは、個別にまたはグループの他のメンバーもしくは本明細書に見出される他の要素との任意の組み合わせで、言及および主張されることができる。グループの1つまたは複数のメンバーは、利便性および/または特許性の理由により、グループに包含させ、またグループから削除することができる。そのような任意の包含または削除が生じた場合、本明細書において、明細書は修正されたグループを含むとみなされ、添付の特許請求の範囲で使用されるすべてのマーカッシュグループの書面による記載を充足する。
【0269】
本明細書で別段の定義がない限り、本出願に関連して使用される科学用語および技術用語は、本開示が属する当技術分野における当業者によって広く理解される意味を有するものとする。本発明は、本明細書に記載される特定の方法論、プロトコール、および試薬などに限定されず、したがって変わり得ることが理解されるべきである。本明細書で使用される専門用語は、特定の態様を説明することだけを目的とし、本発明の範囲を限定することを意図するものではなく、これは特許請求の範囲によって専ら定義される。免疫学および分子生物学における一般用語の定義は、The Merck Manual of Diagnosis and Therapy, l9th Edition, published by Merck Sharp & Dohme Corp., 2011 (ISBN 978-0-911910-19-3);Robert S. Porter et al. (eds.), The Encyclopedia of Molecular Cell Biology and Molecular Medicine, published by Blackwell Science Ltd., 1999-2012 (ISBN 9783527600908);およびRobert A. Meyers (ed.), Molecular Biology and Biotechnology: a Comprehensive Desk Reference, published by VCH Publishers, Inc., 1995 (ISBN 1-56081-569-8);Immunology by Werner Luttmann, published by Elsevier, 2006;Janeway's Immunobiology, Kenneth Murphy, Allan Mowat, Casey Weaver (eds.), Taylor & Francis Limited, 2014 (ISBN 0815345305, 9780815345305);Lewin's Genes XI, published by Jones & Bartlett Publishers, 2014 (ISBN-1449659055);Michael Richard Green and Joseph Sambrook, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 4th ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., USA (2012) (ISBN 1936113414);Davis et al., Basic Methods in Molecular Biology, Elsevier Science Publishing, Inc., New York, USA (2012) (ISBN 044460149X);Laboratory Methods in Enzymology: DNA, Jon Lorsch (ed.) Elsevier, 2013 (ISBN 0124199542);Current Protocols in Molecular Biology (CPMB), Frederick M. Ausubel (ed.), John Wiley and Sons, 2014 (ISBN 047150338X, 9780471503385)、Current Protocols in Protein Science (CPPS), John E. Coligan (ed.), John Wiley and Sons, Inc., 2005;およびCurrent Protocols in Immunology (CPI) (John E. Coligan, ADA M Kruisbeek, David H Margulies, Ethan M Shevach, Warren Strobe, (eds.) John Wiley and Sons, Inc., 2003 (ISBN 0471142735, 9780471142737)に見出すことができ、これらの内容は全体として参照により本明細書に組み込まれる。
【0270】
当業者は、使用する化学療法剤を容易に特定できる(例えば、Physicians' Cancer Chemotherapy Drug Manual 2014, Edward Chu, Vincent T. DeVita Jr., Jones & Bartlett Learning;Principles of Cancer Therapy, Chapter 85 in Harrison's Principles of Internal Medicine, 18th edition;Therapeutic Targeting of Cancer Cells: Era of Molecularly Targeted Agents and Cancer Pharmacology, Chs. 28-29 in Abeloff s Clinical Oncology, 2013 Elsevier;およびFischer D S (ed): The Cancer Chemotherapy Handbook, 4th ed. St. Louis, Mosby-Year Book, 2003を参照されたい)。
【0271】
他の用語は、本発明の様々な局面の説明内において、本明細書で定義される。
【0272】
本出願の全体を通して引用される、参考文献、発行された特許、公開された特許出願、および同時係属中の特許出願を含む、すべての特許および他の出版物は、例えば、本明細書に記載される技術に関連して使用されてもよい、そのような出版物に記載される方法論を説明および開示する目的のために、参照により本明細書に明白に組み込まれる。これらの出版物は、本出願の出願日よりも前のそれらの開示について専ら提供される。これに関して、先行発明という理由で、または他のいかなる理由によっても、そのような開示に先行する権利が本発明者らに与えられないことを承認するものと解釈されるべきではない。これらの書類の内容に関する日付または表示に関するすべての陳述は、本出願人らが利用可能な情報に基づいており、これらの書類の日付または内容の正確さに関するいかなる承認も構成しない。
【0273】
本開示の態様の説明は、包括的であることも、または開示された精密な形態に本開示を限定することも意図しない。本開示の具体的な態様および例は、例示を目的として本明細書に記載されるが、関連技術分野における当業者が認識するように、本開示の範囲内で様々な同等の修正が可能である。例えば、方法の工程または機能は所与の順序で示されるが、代替となる態様では機能を異なる順序で実行してもよいか、または機能は実質的に同時に実行されてもよい。本明細書で提供される本開示の教示は、必要に応じて、他の手順または方法に適用できる。本明細書に記載される様々な態様を組み合わせて、さらなる態様を提供することができる。本開示の局面は、もし必要であれば、上記の参考文献および出願の組成物、機能、および概念を使用するために修正することができ、本開示のなおさらなる態様を提供することができる。さらに、生物学的な機能の同等性を考慮すれば、種類または量において生物学的または化学的作用に影響を与えずに、タンパク質構造にいくつかの変化を加えることができる。詳細な説明に照らして、これらのおよび他の変化を本開示に加えることができる。そのような修正はすべて、添付の特許請求の範囲の範囲内に含まれることが意図される。
【0274】
前述の態様のいずれかの具体的な要素を、他の態様の要素と組み合わせるか、または置換することができる。さらに、本開示の特定の態様に関連する利点を、これらの態様の文脈において説明してきたが、他の態様もそのような利点を呈してよく、かつ必ずしもすべての態様がそのような利点を呈して本開示の範囲内にある必要はない。
【0275】
本明細書に記載される技術を、以下の実施例によってさらに例示するが、これらの実施例は決してさらなる限定であると解釈されるべきではない。
【0276】
本明細書に記載される技術のいくつかの態様は、以下の番号が付けられた項のいずれかによって定義できる:
1.(a)脂肪酸ではないカルボン酸、
(b)4炭素以下の脂肪族鎖を含むカルボン酸、
(c)芳香族アニオン、および/または
(d)1.0未満のLogPを有するアニオン
のうちの少なくとも1つであるアニオン、ならびに
4級アンモニウムを含むカチオン
を含む、少なくとも1つのイオン液体を含む組成物。
2. アニオンが、
1.0未満のLogPを有し、かつ、
a. 脂肪酸ではないカルボン酸、
b. 4炭素以下の脂肪族鎖を含むカルボン酸、または
c. 芳香族アニオン
である、
前記項のいずれかの組成物。
3. 脂肪酸が、3炭素以下の脂肪族鎖を含む、前記項のいずれかの組成物。
4. アニオンが、1つだけのカルボン酸基(例えば、R-COOH基)を含む、前記項のいずれかの組成物。
5. アニオンが、グリコール酸;プロパン酸;イソ酪酸;酪酸;没食子酸;乳酸;マロン酸;マレイン酸;グルタル酸;クエン酸;3,3-ジメチルアクリル酸;ジメチルアクリル酸;グルコン酸;アジピン酸;エチルヘキシル硫酸ナトリウム;デカン酸;ヒドロキシベンゼンスルホン酸;4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸;イソ吉草酸;ヒドロシンナミン酸; 4-フェノールスルホン酸;フェニルリン酸;およびビフェニル-3-カルボン酸からなる群より選択される、前記項のいずれかの組成物。
6. カチオンが、コリンと等しいかまたはそれよりも大きいモル質量を有する、前記項のいずれかの組成物。
7. 4級アンモニウムがNR4
+の構造を有し、かつ少なくとも1つのR基がヒドロキシ基を含む、前記項のいずれかの組成物。
8. 4級アンモニウムがNR4
+の構造を有し、かつ1つのR基だけがヒドロキシ基を含む、前記項のいずれかの組成物。
9. カチオンがC1、C6、またはC7である、前記項のいずれかの組成物。
10. イオン液体が、約2:1~約1:1のカチオン対アニオンの比を含む、前記項のいずれかの組成物。
11. イオン液体が、約2:1のカチオン対アニオンの比を含む、前記項のいずれかの組成物。
12. イオン液体が、1:1未満のカチオン:アニオン比を有する、前記項のいずれかの組成物。
13. イオン液体が、カチオン過剰でのカチオン:アニオン比を有する、前記項のいずれかの組成物。
14. 少なくとも1つのイオン液体と組み合わせた少なくとも1つの活性化合物をさらに含む、前記項のいずれかの組成物。
15. 活性化合物がポリペプチドを含む、前記項のいずれかの組成物。
16. ポリペプチドが抗体または抗体試薬である、項15の組成物。
17. 活性化合物が、450より大きい分子量を有する、項15~16のいずれかの組成物。
18. 活性化合物が、500より大きい分子量を有する、項15~16のいずれかの組成物。
19. アニオンが、
1.0未満のLogPを有し、かつ、
a. 脂肪酸ではないカルボン酸;または
b. 4炭素以下の脂肪族鎖を含むカルボン酸
である、
項15~18のいずれかの組成物。
20. 活性化合物が核酸を含む、前記項のいずれかの組成物。
21. 核酸が阻害性核酸である、項20の組成物。
22. 核酸がsiRNAである、項21の組成物。
23. アニオンが、
1.0未満のLogPを有し、かつ、
a. 脂肪酸ではないカルボン酸;もしくは
b. 4炭素以下の脂肪族鎖を含むカルボン酸;および/または
c. 芳香族アニオン
である、
項20~22のいずれかの組成物。
24. イオン液体が少なくとも0.1%w/vの濃度である、前記項のいずれかの組成物。
25. イオン液体が約10~約70%w/vの濃度である、前記項のいずれかの組成物。
26. イオン液体が約30~約50%w/vの濃度である、前記項のいずれかの組成物。
27. イオン液体が約30~約40%w/vの濃度である、前記項のいずれかの組成物。
28. 経皮投与、粘膜への投与、経口投与、皮下投与、皮内投与、非経口投与、腫瘍内投与、または静脈内投与用に製剤化されている、前記項のいずれかの組成物。
29. 経皮投与用に製剤化されている、項28の組成物。
30. 粘膜が鼻粘膜、口腔粘膜、または膣粘膜である、項28の組成物。
31. 活性化合物を1~40mg/kgの用量で提供する、前記項のいずれかの組成物。
32. 少なくとも1つの非イオン性界面活性剤をさらに含む、前記項のいずれかの組成物。
33. 薬学的に許容される担体をさらに含む、前記項のいずれかの組成物。
34. 分解性カプセル剤中に提供される、前記項のいずれかの組成物。
35. 混和物である、前記項のいずれかの組成物。
36. 1つまたは複数のナノ粒子中に提供される、前記項のいずれかの組成物。
37. 活性化合物を含む1つまたは複数のナノ粒子を含み、該ナノ粒子は、イオン液体を含む組成物中での溶液または懸濁液の状態にある、前記項のいずれかの組成物。
38. 項14~37のいずれかの組成物を投与する段階を含む、少なくとも1つの活性化合物を投与する方法。
39. 組成物を1回投与する、項38の方法。
40. 組成物を複数用量で投与する、項38~39のいずれかの方法。
【0277】
本明細書に記載される技術のいくつかの態様は、以下の番号が付けられた項のいずれかによって定義できる:
1.(a)脂肪酸ではないカルボン酸、
(b)4炭素以下の脂肪族鎖を含むカルボン酸、
(c)芳香族アニオン、および/または
(d)1.0未満のLogPを有するアニオン
のうちの少なくとも1つであるアニオン、ならびに
4級アンモニウムを含むカチオン
を含む、少なくとも1つのイオン液体を含む組成物。
2. アニオンが、
1.0未満のLogPを有し、かつ、
a. 脂肪酸ではないカルボン酸、
b. 4炭素以下の脂肪族鎖を含むカルボン酸、または
c. 芳香族アニオン
である、
前記項のいずれかの組成物。
3. 脂肪酸が、3炭素以下の脂肪族鎖を含む、前記項のいずれかの組成物。
4. アニオンが、1つだけのカルボン酸基(例えば、R-COOH基)を含む、前記項のいずれかの組成物。
5. アニオンが、ゲラン酸;グリコール酸;プロパン酸;イソ酪酸;酪酸;没食子酸;乳酸;マロン酸;マレイン酸;グルタル酸;クエン酸;3,3-ジメチルアクリル酸;ジメチルアクリル酸;グルコン酸;アジピン酸;エチルヘキシル硫酸ナトリウム;デカン酸;ヒドロキシベンゼンスルホン酸;4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸(4-フェノールスルホン酸);イソ吉草酸;ヒドロシンナミン酸(フェニルプロパン酸);フェニルリン酸;およびビフェニル-3-カルボン酸からなる群より選択される、前記項のいずれかの組成物。
6. アニオンが、グリコール酸;プロパン酸;イソ酪酸;酪酸;没食子酸;乳酸;マロン酸;マレイン酸;グルタル酸;クエン酸;3,3-ジメチルアクリル酸;ジメチルアクリル酸;グルコン酸;アジピン酸;エチルヘキシル硫酸ナトリウム;デカン酸;ヒドロキシベンゼンスルホン酸;4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸(4-フェノールスルホン酸);イソ吉草酸;ヒドロシンナミン酸(フェニルプロパン酸);フェニルリン酸;およびビフェニル-3-カルボン酸からなる群より選択される、前記項のいずれかの組成物。
7. カチオンが、コリンと等しいかまたはそれよりも大きいモル質量を有する、前記項のいずれかの組成物。
8. 4級アンモニウムがNR4
+の構造を有し、かつ少なくとも1つのR基がヒドロキシ基を含む、前記項のいずれかの組成物。
9. 4級アンモニウムがNR4
+の構造を有し、かつ1つのR基だけがヒドロキシ基を含む、前記項のいずれかの組成物。
10. カチオンがコリン、C1、C6、またはC7である、前記項のいずれかの組成物。
11. カチオンがコリンである、前記項のいずれかの組成物。
12. カチオンがC1、C6、またはC7である、前記項のいずれかの組成物。
13. イオン液体が、約2:1~約1:1のカチオン対アニオンの比を含む、前記項のいずれかの組成物。
14. イオン液体が、約2:1のカチオン対アニオンの比を含む、前記項のいずれかの組成物。
15. イオン液体が、1:1未満のカチオン:アニオン比を有する、前記項のいずれかの組成物。
16. イオン液体が、カチオン過剰でのカチオン:アニオン比を有する、前記項のいずれかの組成物。
17. 第1のイオン液体および少なくとも第2のイオン液体を含む、前記項のいずれかの組成物。
18. 各イオン液体がコリンカチオンを有する、項17の組成物。
19. 第1のイオン液体および第2のイオン液体がそれぞれ異なるアニオンを含む、項17~18のいずれかの組成物。
20. 第1のイオン液体および第2のイオン液体がそれぞれ、ゲラン酸;グリコール酸;プロパン酸;イソ酪酸;酪酸;没食子酸;乳酸;マロン酸;マレイン酸;グルタル酸;クエン酸;3,3-ジメチルアクリル酸;ジメチルアクリル酸;グルコン酸;アジピン酸;エチルヘキシル硫酸ナトリウム;デカン酸;ヒドロキシベンゼンスルホン酸;4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸(4-フェノールスルホン酸);イソ吉草酸;ヒドロシンナミン酸(フェニルプロパン酸);フェニルリン酸;およびビフェニル-3-カルボン酸から選択される異なるアニオンを含む、項19の組成物。
21. 第1のイオン液体がゲラン酸アニオンを有し、第2のイオン液体がフェニルプロパン酸アニオンを有する、項17~20のいずれかの組成物。
22. 第1のイオン液体が、コリンおよびゲラン酸(CAGE)である、項17~21のいずれかの組成物。
23. 第2のイオン液体が、コリンおよびジメチルアクリル酸(CADA);コリンおよびイソ吉草酸(CAVA);コリンおよびフェニルリン酸(CAPP);コリンおよびビフェニル-3-カルボン酸(CABA);コリンおよび4-フェノールスルホン酸(CASA);またはコリンおよびフェニルプロパン酸(CAPA)である、項17~22のいずれかの組成物。
24. 第1および第2のイオン液体が、コリンおよびゲラン酸(CAGE);コリンおよびジメチルアクリル酸(CADA);コリンおよびイソ吉草酸(CAVA);コリンおよびフェニルリン酸(CAPP);コリンおよびビフェニル-3-カルボン酸(CABA);コリンおよび4-フェノールスルホン酸(CASA);またはコリンおよびフェニルプロパン酸(CAPA)からなる群より選択される異なるイオン液体である、項17~21のいずれかの組成物。
25. 第1のイオン液体が、コリンおよびゲラン酸(CAGE);コリンおよびジメチルアクリル酸(CADA);ならびにコリンおよびコリンおよびビフェニル-3-カルボン酸(CABA)からなる群より選択され;かつ第2のイオン液体が、イソ吉草酸(CAVA);ならびにコリンおよびフェニルプロパン酸(CAPA)からなる群より選択される、項17~21のいずれかの組成物。
26. 第1のイオン液体がコリンおよびゲラン酸(CAGE)であり、第2のイオン液体がコリンおよびフェニルプロパン酸(CAPA)である、項17~22のいずれかの組成物。
27. 少なくとも1つのイオン液体と組み合わせた少なくとも1つの活性化合物をさらに含む、前記項のいずれかの組成物。
28. 活性化合物がポリペプチドを含む、前記項のいずれかの組成物。
29. ポリペプチドが抗体または抗体試薬である、項28の組成物。
30. 活性化合物が、450より大きい分子量を有する、項28~29のいずれかの組成物。
31. 活性化合物が、500より大きい分子量を有する、項28~30のいずれかの組成物。
32. アニオンが、
1.0未満のLogPを有し、かつ、
a. 脂肪酸ではないカルボン酸;または
b. 4炭素以下の脂肪族鎖を含むカルボン酸
である、
項28~31のいずれかの組成物。
33. 活性化合物が核酸を含む、前記項のいずれかの組成物。
34. 核酸が阻害性核酸である、項33の組成物。
35. 核酸がsiRNAである、項34の組成物。
36. 阻害性核酸がNFKBIZ、TNFα、および/またはIL-17阻害性核酸である、項34~35のいずれかの組成物。
37. アニオンが、
1.0未満のLogPを有し、かつ、
a. 脂肪酸ではないカルボン酸;もしくは
b. 4炭素以下の脂肪族鎖を含むカルボン酸;および/または
c. 芳香族アニオン
である、
項33~36のいずれかの組成物。
38. イオン液体が少なくとも0.1%w/vの濃度である、前記項のいずれかの組成物。
39. イオン液体が約10~約70%w/vの濃度である、前記項のいずれかの組成物。
40. イオン液体が約30~約50%w/vの濃度である、前記項のいずれかの組成物。
41. イオン液体が約30~約40%w/vの濃度である、前記項のいずれかの組成物。
42. 経皮投与、粘膜への投与、経口投与、皮下投与、皮内投与、非経口投与、腫瘍内投与、または静脈内投与用に製剤化されている、前記項のいずれかの組成物。
43. 経皮投与用に製剤化されている、項42の組成物。
44. 粘膜が鼻粘膜、口腔粘膜、または膣粘膜である、項42の組成物。
45. 活性化合物を1~40mg/kgの用量で提供する、前記項のいずれかの組成物。
46. 少なくとも1つの非イオン性界面活性剤をさらに含む、前記項のいずれかの組成物。
47. 薬学的に許容される担体をさらに含む、前記項のいずれかの組成物。
48. 分解性カプセル剤中に提供される、前記項のいずれかの組成物。
49. 混和物である、前記項のいずれかの組成物。
50. 1つまたは複数のナノ粒子中に提供される、前記項のいずれかの組成物。
51. 活性化合物を含む1つまたは複数のナノ粒子を含み、該ナノ粒子は、イオン液体を含む組成物中での溶液または懸濁液の状態にある、前記項のいずれかの組成物。
52. 項27~51のいずれかの組成物を投与する段階を含む、少なくとも1つの活性化合物を対象へ投与する方法。
53. 組成物を1回投与する、項52の方法。
54. 組成物を複数用量で投与する、項52~53のいずれかの方法。
55. 投与が経皮投与、粘膜への投与、経口投与、皮下投与、皮内投与、非経口投与、腫瘍内投与、または静脈内投与である、項52~54のいずれかの方法。
56. 組成物がNFKBIZ、TNFα、および/またはIL-17阻害性核酸を含み、かつ対象が炎症状態の処置を必要としている、項52~55のいずれかの方法。
57. それを必要としている対象の炎症状態を処置する方法であって、項36~51のいずれかの組成物を対象に投与する段階を含む、前記方法。
58. 投与が局所投与である、項56~57のいずれかの方法。
59. 炎症状態が乾癬である、項56~58のいずれかの方法。
60. 少なくとも1つの活性化合物を対象へ投与する方法において使用するための、項27~51のいずれかの組成物。
61. 1回投与される、項60の組成物。
62. 複数用量で投与される、項60の組成物。
63. 投与が経皮投与、粘膜への投与、経口投与、皮下投与、皮内投与、非経口投与、腫瘍内投与、または静脈内投与である、項60~62のいずれかの組成物。
64. NFKBIZ、TNFα、および/またはIL-17阻害性核酸を含み、かつ対象が炎症状態の処置を必要としている、項60~63のいずれかの組成物。
65. それを必要としている対象の炎症状態を処置する方法において使用するための、項36~51のいずれかの組成物。
66. 投与が局所投与である、項64~65のいずれかの組成物。
67. 炎症状態が乾癬である、項64~66のいずれかの組成物。
【実施例】
【0278】
実施例1:経口モノクローナル抗体送達のためのイオン液体
モノクローナル抗体(mAb)は現在、特にがん、乾癬、関節炎、およびアトピー性皮膚炎を含む多くの状態の処置のために使用される。すべてのmAbは現在、静脈内または皮下注射のいずれかにより投与される。本明細書に記載するのは、治療用抗体の経口投与用のプラットフォームとしての、イオン液体であるコリンおよびグリコレート(グリコール酸)(CGLY)の使用である。CGLYはTNFα抗体の安定性および構造を維持していた。CGLYはインビトロでTNFα抗体の傍細胞輸送を有意に増強した。CGLYはまた、抗体輸送の別の重要なバリアである腸粘液の粘度を低下させた。ラットにおけるインビボでの結果は、CGLYがTNFα抗体を腸粘膜ならびに全身循環中に有効に送達することを示している。1週間反復投与試験と、その後の組織検査および血清生化学分析は、CGLYがラットによって良好に耐容されることを示した。全体として、本試験は、治療用抗体の局所ならびに全身送達のための経口送達プラットフォームとして、コリン系イオン液体を使用することの利点を示している。
【0279】
治療用モノクローナル抗体(mAb)は、タンパク質系治療剤の非常に大きいクラスである[1、2]。50よりも多いmAbに基づく製品が製品として承認されており、500を超えるmAbに基づく治療法が臨床開発中である[3]。抗体は、がん、感染症、炎症および自己免疫疾患を含む多様な疾患を処置するために使用される[1、4]。しかし、mAbは静脈内注入または皮下注射剤形として送達され、これらは全身炎症反応、輸注反応ならびに疼痛および注射恐怖症による低い患者コンプライアンスなどの、有害作用を伴う[5-7]。mAbの経口投与は、その投与の単純性、高い患者許容性および低い製造コストにより、注射を上回る利点の可能性を提供する。非侵襲的全身投与のために可能な手段の提供に加えて、経口投与は、炎症性腸疾患などの局所疾患の処置のために、抗体を消化管中に局所送達する手段も提供する[8-10]。それにもかかわらず、タンパク質のすべての経口送達と同様、多くの消化管バリアはタンパク質薬物吸収をまとめて制限する[11、12]。これは、より有効な様式で治療結果を達成し得る、経口抗体製剤を開発する努力を動機づけてきた。例えば、腫瘍壊死因子(TNF)に対する組換え抗体が、消化管感染症および炎症性腸疾患を処置するために開発中である[13-15]。組換え部分により、抗体は腸プロテアーゼに対する耐容性の改善を示し、分解に抵抗する。加えて、改変された抗TNF抗体断片は、GI管内の患部組織への透過性改善も示した[14]。
【0280】
本明細書に記載するのは、経口IgG送達のためのコリン系ILの可能性の調査である。これを達成するために、コリン-グリコレート(CGLY)イオン液体を調製し、抗体安定性、インビトロ輸送およびインビボ取り込みに関して評価した。
【0281】
結果
IgG-CGLY変種製剤の物理化学的特徴づけ
最初の試験を、IgG抗体との適合性に対するCGLYのイオン化学量論の役割を評価するために実施した。CGLYの3つの変種を、コリン:グリコール酸モル比2:1、1:1、および1:2で合成した(
図1A)。モデルIgG抗体、抗ヒトTNF-αマウスIgG1(クローンMAb11)を、生理食塩水中20~90体積%の範囲で希釈したCGLY変種中に0.1mg/mLの濃度で溶解した。IgG抗体はすべてのCGLY変種および濃度に完全に溶解し、沈澱は観察されなかった。室温で1時間のインキュベーションおよび48時間の透析後、抗体試料をELISAを用いてそれらの抗原結合能力に基づいて評価した(
図1B)。CGLY
2:1およびCGLY
1:1のIgG-CGLY製剤は、それぞれ60体積%および70体積%までのCGLY濃度で、TNF-αIgG1の固有の結合能力に無視できる影響しか示さなかった。その一方で、CGLY
1:2から分離したIgG抗体試料は、20~90体積%の濃度範囲で結合効率の低下を誘導した。
【0282】
IgG抗体に対するCGLYの影響をさらに解明するために、円二色性(CD)およびSDS-PAGE分析を実施した。CGLYの存在が著しい背景CDノイズを生じるため、IgG-CGLY試料を室温で48時間透析した後にCD測定を行った。抗ヒトTNF-αIgGの遠UV波長スペクトルは、初期IgGに比べて、形状または楕円率の程度に差を示さなかった(
図1C)。すべてのCDスペクトルは218nmで最小を示し、これはIgGの主な二次構造であるβシートに典型的な所見である
[30、31]。この結果は、IgGの構造配座がCGLY変種に曝露された後も保持されていることを示す。同時に、抗ヒトTNF-αIgGに対するCGLYの影響を、IgG凝集の可能性に特に着目して評価するために、SDS-PAGEも用いた
[32]。CGLY非存在下で、モデルIgGは分子量約150kDaに単一のバンドとして現れる(
図1D)。すべてのCGLY変種群からのIgGも、同じバンド位置で特定される。150kDaのバンドの上下に他のバンドは見られず、CGLYとの製剤から検出可能な抗体の断片化または凝集はないことが示唆された
[32、33]。合わせると、ELISA、CD分光法およびSDS-PAGEからの抗体特徴づけの結果は、CGLY
2:1およびCGLY
1:1が構造または抗体凝集の最小限の効果を有することを示した。
【0283】
Caco-2細胞生存度およびIgG輸送に対するCGLYの影響
Caco-2細胞はCGLY
2:1およびCGLY
1:1への耐容性が高く、細胞増殖に対する有害作用は>100mMの高濃度まで観察されなかったが、CGLY
1:2はかなり低い濃度で細胞生存度を低下させた(
図2A)。CGLY
2:1、CGLY
1:1およびCGLY
1:2のIC50はそれぞれ約140.4mM、223.3mM、および40.78mMであった。
【0284】
CGLYの経上皮輸送を増強する能力を、Caco-2単層を通過するフルオレセインイソチオシアネート標識(FITC)-IgGを用いて試験した。これらの試験は、すべてのCGLY変種のIC50よりもはるかに低い30mM CGLYを用いて実施した。5時間の試験中、すべてのCGLY群でFITC-IgG輸送は経時的に累増したが、CGLYなしの対照トランスウェルからFITC-IgG輸送は検出されなかった(
図2B)。特に、すべての時点を通して、CGLY変種の中でもCGLY
2:1は最も高い有意なIgG輸送を示した。試験終了時、CGLY
2:1で処理した単層における平均IgG輸送は1.70μg/cm
2で、これはCGLY
1:1処理細胞(0.83μg/cm
2)の2倍以上高く、CGLY
1:2処理細胞(1.06μg/cm
2)の1.6倍高かった。
【0285】
IgG抗体-CGLY特徴づけおよびCGLYに対するCaco-2細胞反応からの結果を考慮して、CGLY2:1が試験したCGLY変種の中でIgG抗体送達のための最適なイオン液体として優れていた。したがって、CGLY2:1をこの後のさらなるインビトロおよびインビボ調査のために選択した。
【0286】
Caco-2腸細胞を通過してのCGLY
2:1媒介抗体輸送の詳細な分析
CGLY
2:1は、Caco-2単層を通過してのFITC-IgGの経上皮輸送を、濃度依存的様式で増強した(
図3A)。CGLY
2:1濃度が30mMから80mMに増すにつれて、輸送される量は1.70μg/cm
2から9.32μg/cm
2に増大した。一方、FITC-IgG輸送はCGLY
2:1非存在下では検出不可能であったことは指摘に値する。これらの結果はCaco-2細胞の共焦点画像から評価した輸送と一致した(
図20)。5時間の試験終了時の細胞の蛍光画像は、対照ウェルに比べて、CGLY
2:1の濃度増大に伴い、Caco-2細胞によるFITC-IgGの取り込みが高くなることを明らかに示した。
【0287】
傍細胞および経細胞は、腸上皮を通過してのペプチドおよびタンパク質の輸送に関与する主な経路である。Caco-2単層を通過してのCGLY
2:1媒介IgG輸送のメカニズムを調査するために、傍細胞および経細胞輸送の両方の役割を調査した。まず、傍細胞経路を、傍細胞輸送マーカーのルシファーイエローの輸送によって評価した
[34]。輸送されたルシファーイエローの量は、30~80mM CGLY
2:1で処理した細胞で、すべての時点を通して劇的に改善した(
図3B)。30mM CGLY
2:1の最低範囲で、ルシファーイエロー輸送は約2倍増強された。80mM CGLY
2:1濃度では、ルシファーイエローの輸送は様々な時点で4~6倍増強された。並行実験で、様々な濃度のCGLY2:1を含むCaco-2トランスウェルの経上皮電気抵抗(TEER)測定を行って、Caco-2単層のタイトジャンクション完全性を評価し、かつCGLY
2:1補助輸送における傍細胞関与をさらに確認した。未処理のウェルについて、TEER測定は24時間の試験終了までに15%の範囲内でわずかな増大を示し、これは以前の文献と一致している
[23、35]。30mM CGLY
2:1の添加により、TEER値は1時間で11%低下し、最初の5時間で11~16%の範囲内の低下にとどまった。しかし、CGLY
2:1によるTEERの低下は明らかに一時的で、細胞は24時間でそのタイトジャンクション完全性の96%を回復した。CGLY
2:1濃度を高めることにより、TEER低下の程度はさらに増大した。試験の1~5時間で、55mM CGLY
2:1で約34%のTEER低下、80mM CGLY
2:1で45%の低下が観察され、タイトジャンクションの開口を示している。それにもかかわらず、CGLY
2:1誘発性TEER低下はなお一時的挙動を示し、24時間で細胞は55mMおよび80mM CGLY
2:1でそれぞれ初期TEER値の94%および82%を回復した。細胞を30~80mM CGLY
2:1で処理した場合のTEER測定値の低下および回復は、CGLY
2:1が腸タイトジャンクションを一時的に開口し、腸上皮バリアを通過してのIgG輸送を促進し得ることを示している。合わせると、漸増するCGLY
2:1存在下での、ルシファーイエロー輸送の増大およびTEER値低下は、CGLY
2:1に特徴的な傍細胞輸送が確認された。
【0288】
IgG輸送への経細胞経路の寄与を、モノダンシルカダベリン(MDC;クラスリン媒介エンドサイトーシスの阻害剤)、フィリピン(カベオラ媒介エンドサイトーシスの阻害剤)、およびワートマニン(微飲作用に関与する、ホスファチジルイノシトール3キナーゼの阻害剤)を含む経細胞輸送阻害剤
[36]の影響を評価することによって試験した。24時間のインキュベーション後のFITC-IgGの累積輸送は、阻害剤なしの対照に比べて、任意の阻害剤処理した細胞の間で著しい差を示さなかった(
図3D)。この知見は、CGLY
2:1によるCaco2トランスウェルを通してのFITC-IgGの送達改善は、経細胞輸送を通じて主に補助されたのではないことを示唆していた。
【0289】
粘液の粘度に対するCGLY
2:1の効果
腸粘液は、腸管バリアの重要な構成要素の1つである
[12]。ブタ小腸粘液(PIM)に対するCGLY
2:1の効果を調査するために、CGLY
2:1で処理したPIMのレオロジーを評価した。
図4Aは、0~50体積%のCGLY
2:1と共にインキュベートした後のPIM試料のずり減粘特性を示す。未処理のPIMに比べて、CGLY
2:1処理した粘液の粘度は、測定したずり範囲の全体を通して顕著な低下を示した。例えば、49.87 1/sのずり速度で、未処理PIMの平均粘度は576.8cPと測定され、この値は以前に報告された文献値と同等であった
[37、38](
図4B)。12.5、25および50体積%のCGLY
2:1の添加により、粘液粘度はそれぞれ317.9、398.0および429.6cPへと有意に低下した。粘液粘度を低下させるCGLY
2:1の能力は、小腸上皮への抗体送達を促進する可能性がある。
【0290】
CGLY
2:1によるIgGのインビボ局所および全身抗体送達
CGLY
2:1中に製剤化したFITC-IgGを、ウィスターラットに空腸内注射した(50体積%のCGLY
2:1中1mg/mLのFITC-IgG)。対照ラットには、FITC-IgGありまたはなしの同等の生理食塩水注射を行った。2時間後、空腸組織を採取し、撮像のために凍結切片を調製し(
図5A~5C)、腸絨毛上の単位面積あたりのFITC-IgGの蛍光シグナルを定量した(
図5D)。処置群の間で腸粘膜におけるFITC-IgGシグナルに有意な差があった。CGLY
2:1処置群の空腸組織は、腸絨毛においてFITC-IgGの顕著なシグナルを示し(
図5B)、測定した蛍光シグナルはCGLY
2:1なしの対照に比べて4.5倍を超えていた(
図5D)。一方で、生理食塩水中のFITC-IgGによる対照群について、絨毛上のFITCシグナルは陰性対照に比べて有意ではなかった。FITC-IgGからのシグナルはむしろ、絨毛の外側、すなわち粘液層に厳密に局在し(
図5C)、これはIgGだけの輸送は粘液バリアによって大きく損なわれることを示す。この知見は、CGLY
2:1が腸粘液および上皮層を通過してのIgG透過を効果的に増強することを示す。
【0291】
並行試験において、血漿IgGレベルを測定することにより、IgG吸収を増強するためのCGLY
2:1の使用の利点を判定した(
図5E)。試験のために、抗ヒトTNF-αIgGモノクローナル抗体をモデル抗体として使用し、空腸内注射により、CGLY
2:1と共に、または伴わずに、200μg/kgで投与した。IgG濃度は注射後の最初の2時間で徐々に増大した。試験の3~5時間で、CGLY
2:1処置群からIgG濃度の顕著な増強が観察された。特に、CGLY
2:1処置群のIgG濃度は、試験終了時までに対照よりも5倍高くなった。合わせると、優れた局所FITC-IgGおよび血漿IgG濃度の結果は、CGLY
2:1が絨毛から血流中へのIgGの透過および輸送を可能にすることを示している。より重要なことに、血漿中のIgG濃度はELISAによって検出されたため、輸送されたIgGは機能的に保存されていた。抗体の長い循環半減期を考慮すると、IgGの反復経口投与は血中濃度を持続的に高め、はるかに高い濃度を達成し得ることが企図される。
【0292】
CGLY
2:1のインビボ毒性評価
CGLY
2:1の毒性を成獣雄ウィスターラットで評価した。CGLY
2:1を1日1回連続7日間、625mg/kgの用量で経口投与した。食塩を投与したラットを陰性対照群として用いた。試験中、CGLY
2:1を投与したラットは、生理食塩水を投与したラットに比べて、ほぼ同等の体重を維持し、すべてのラットは体重の安定した増加を示した(
図6A)。いずれの群でも、嗜眠、下痢、背中を丸めた姿勢、または粗毛などの生理的症状も見られなかった。第7日に、ラットを屠殺し、代謝パネル分析のために血液試料を採取し、主要臓器および胃腸(GI)組織をラットから採取し、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で染色した。CGLY
2:1処置群からの胃、小腸(十二指腸、空腸、および回腸)および結腸の組織切片は、食塩対照群に比べて変化していない、陰窩および絨毛のサイズおよび数、ならびに粘膜厚を含む、胃および腸粘膜上皮構造を示した(
図6B)。好中球、リンパ球、またはマクロファージなどの免疫細胞の粘膜中への浸潤はなく、組織炎症の徴候がないことを表していた。主要臓器のH&E染色に出血は見られず、CGLY
2:1処置群と生理食塩水対照群との間に差は検出されなかった。(
図21)包括的な血液化学パネル分析は2群間に有意差を示さず(
図6C)、CGLY
2:1がラットの肝および腎機能に観察できるほどの有害作用を起こさないことを示した。CGLY
2:1のインビボ毒性試験は、ラット体重、血液代謝パネルまたは組織病理学的変化になんの影響も示さず、CGLY
2:1がラットモデルにおける経口投与に対して安全であることを示した。
【0293】
結論
様々なイオン化学量論のコリングリコレートILを合成した。CGLY変種の中でも、コリンとグリコール酸のモル比2:1のCGLY2:1は、すぐれた細胞適合性、IgG完全性保存を示し、インビトロでのIgG抗体輸送において最良の能力を示した。CGLY2:1のさらなる調査により、CGLY2:1は腸タイトジャンクション完全性を一時的に妨害し得、Caco-2細胞を通過してのCGLY2:1増強IgG輸送は傍細胞経路によることが明らかとなった。CGLY2:1は、粘液の粘度を低下させることも可能である。CGLY2:1中のIgGの空腸内投与は、ラット腸絨毛への抗体吸収を実質的に改善し、モデルモノクローナル抗体の濃度を陰性対照に比べて5倍まで増大させた。加えて、CGLY2:1処置は、ラット体重、GI管の組織学的変化または血液の包括的代謝パネルに対して有害作用を示さなかった。全体として、本報告は、CGLY2:1の有望性および強さは、すぐれた生体適合性と共に、IgG抗体の局所および全身両方のバイオアベイラビリティを効果的に改善し得る、経口送達媒体であることを示す。
【0294】
実験項
材料:グリコール酸、炭酸水素コリン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヒト血清由来FITC標識免疫グロブリンG(FITC-IgG、20mg/mL)、ヘマトキシリンおよびエオシン溶液はSigma-Aldrich(St. Louis、MO、USA)から購入した。LEAF(商標)精製抗ヒトTNF-αマウスIgG1(クローンMab11)、組換えヒトTNF-α、ELISAコーティング緩衝液、HRP結合ヤギ抗マウスIgG(クローンpoly4053)、およびTMB基質はBiolegend(San Diego、CA、USA)から購入した。10mMリン酸ナトリウム緩衝液、pH=7.4はBoston BioProducts(Ashland、MA、USA)から入手し、0.9%滅菌食塩溶液はTeknova(Hollister、CA、USA)から購入した。Laemmliタンパク質試料緩衝液、4~15%12穴プレキャストポリアクリルアミドゲル、トリス/グリシン/SDS泳動緩衝液、Mini-PROTEAN(商標) Tetra Cell Electrophoresis System、およびBio-Safe(商標) Coomassie StainはBioRad Laboratories(Hercules、CA、USA)から購入した。Caco-2ヒト結腸直腸腺がん細胞はAmerican Type Culture Collection(Manassas、VA、USA)から購入し、一方、フェノールレッド含有または不含ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、ウシ胎仔血清(FBS)、ペニシリン/ストレプトマイシン(P/S)溶液、ハンクス平衡塩類溶液(HBSS)、ダルベッコリン酸緩衝化食塩水(DPBS)および0.25%トリプシン溶液はThermo Fisher Scientific(Waltham、MA、USA)から購入した。基本播種培地(BSM)、腸細胞分化培地(EDM)およびMITO+シーラムエクステンダーを含む腸上皮増殖培地はCorning(Corning、NY、USA)から購入した。Millicell(登録商標)-PCF細胞培養インサート(孔径3.0μm、直径12mm)およびTEER測定装置、Millicell(登録商標)-ERSはMillipore Sigma(Burlington、MA、USA)から入手し、一方、TEER測定電極はWorld Precision Instruments, Inc(Sarasota、FL、USA)から入手した。パラホルムアルデヒド(16%w/v)はAlfa Aesar(Ward Hill、MA、USA)から購入した。4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール2塩酸塩(DAPI)含有Vectashield Hardset(商標)はVector laboratories Inc.(Burlingame、CA、USA)から入手した。ブタ小腸はCBSET Inc.(Lexington、MA、USA)から入手した。体重275~300gの雄ウィスターラットはCharles River Laboratories(Wilmington、MA、USA)から購入した。BDヘパリンリチウムコーティングしたチューブはBecton, Dickinson and Company(Franklin Lanes、NJ、USA)から購入した。ルシファーイエローはVWR(Radnor、PA、USA)から購入した。使用した他の試薬はすべて分析等級のものであった。
【0295】
CGLY変種および抗体-CGLY製剤の調製:CGLY変種を以前の報告のとおりに合成した
[27]。簡単に言うと、溶解に必要な最少量の超純水に溶解したグリコール酸を炭酸水素コリン(80重量%溶液)と、2:1、1:2、および1:2のモル比(コリン:グリコール酸)で、40℃で絶えず撹拌しながら、CO
2の発生が止まるまで12時間反応させた。残存水を20mbar、60℃で2時間のロータリーエバポレーションにより除去し、続いて60℃の減圧乾燥機で48時間乾燥した。各CGLY製剤を核磁気共鳴(NMR)分光法で特徴づけた。
IgG-CGLY製剤を、所定の量の抗体を特定の量のCGLYに加え、続いて1分間穏やかに混合することによって調製した。
【0296】
ELISA、円二色性およびSDS-PAGEによるCGLY変種中の抗体の物理化学的評価:CGLY変種中の抗体安定性の評価のために、0.1mg/mL抗ヒトTNF-αIgG抗体濃度の抗体-CGLY試料を、CGLY2:1、CGLY1:1およびCGLY1:2(20~90体積%)と共に、または伴わずに、室温(25℃)で1時間インキュベートし、次いで10mM pH7.4リン酸ナトリウム緩衝液(Boston BioProducts)中で透析した。48時間後、抗体試料を回収し、酵素結合免疫吸着測定(ELISA)により評価した。透析した抗ヒトTNF-αIgG抗体-CGLY試料のTNFα特異的結合能力をELISAにより検定した。96穴ELISAプレートをまず2μg/mLヒトTNFαで、ELISAコーティング緩衝液(Polysciences, Inc.)を用いて終夜コーティングした。次いで、ウェルをSuperblock(商標) Blocking Buffer(ThermoFisher Scientific)で30分間ブロックした後、連続希釈して透析した抗ヒトTNF-αIgG抗体試料を一次抗体として加えた。2時間のインキュベーション後、ウェルを0.05%トゥイーン20含有PBS(PBST)で3回洗浄した。次いで、HRP結合ヤギ抗マウスIgG(Biolegend)を二次抗体として用いた。プレートを1時間インキュベートした後、PBSTで5回洗浄した。ELISAプレートをTMB基質(Biolegend)で展開し、吸光度をSpectramax i3(商標)プレートリーダーにより450nmで測定した。
【0297】
円二色性(CD)およびSDS-PAGEを用いて抗体安定性を分析するために、0.5mg/mL抗ヒトTNF-αIgG抗体濃度の抗体-CGLY試料を、50体積%のCGLY2:1、CGLY1:1およびCGLY1:2と共に、または伴わずに、室温(25℃)で1時間インキュベートし、次いで10mM pH7.4リン酸ナトリウム緩衝液(Boston BioProducts)中で48時間透析した。CD測定の前に、抗体濃度を0.2mg/mLに調節した。400μLの抗体試料を矩形の石英セル(1mmパス長、Starna Cells、1-Q-1)に充填し、タンパク質二次構造を示す遠UV領域(190~250nm)のCDスペクトルをCD分光光度法(Jasco J-1500)を用いて収集した。SDS-PAGE検定を実施して、抗体-CGLY試料の抗体凝集を評価した。具体的には、すべての試料をLaemmliタンパク質試料緩衝液中で等しい抗体濃度に調節した。次いで、試料を、Mini-PROTEAN(商標) Tetra Cell Electrophoresis System(BioRad)を用い、Tris/グリシン/SDS泳動緩衝液中、4~15%の12穴プレキャストポリアクリルアミドゲル上で分離した。タンパク質バンドを観察のためにBio-Safe(商標) Coomassie stain(BioRad)で製造者のプロトコルに従って染色した。
【0298】
Caco-2細胞培養:Caco-2細胞株(ヒト結腸直腸腺がん、ATCC HTB-37)はAmerican Type Culture Collection(ATCC)から購入し、10%ウシ胎仔血清(FBS)および1%ペニシリン-ストレプトマイシン(100U/mLペニシリンおよび100μg/mLストレプトマイシン)を補足したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中、5%CO2を含む加湿雰囲気下、37℃で維持した。
【0299】
CGLYのCaco-2細胞生存度評価:補足DMEM中に懸濁したCaco-2細胞を150,000細胞/mLの密度で播種し、96穴プレートに分注(100μL/ウェル)した。各CGLY変種(CGLY2:1、CGLY1:1およびCGLY1:2)を補足DMEMで1.875~480mMの範囲の濃度に希釈した。培地を各ウェルから吸引し、各希釈物を6穴(6つの細胞複製)に分注(100μL/ウェル)した。対照ウェルには培地だけを充填した。細胞を異なる濃度のCGLY変種と共に、37℃、5%CO2で5時間インキュベートし、続いて培地を新鮮DMEM(100μL/ウェル)に交換した。細胞をさらに19時間(合計24時間まで)増殖させた。細胞生存度をCell Titer 96 AQueous(商標) One Solution細胞増殖検定(Promega Corporation)を用い、MTS(3-(4,5-ジメチルチアゾル-2-イル)-5-(3-カルボキシメトキシフェニル)-2-(4-スルホフェニル)-2H-テトラゾリウム)化合物に基づいて評価した。簡単に言うと、20μLのMTS試薬を各ウェルに加え、穏やかに混合し、37℃で4時間インキュベートした。この後、96穴プレートの吸光度を490nmでSpectramax i3プレートリーダーを用いて読み取った。490nmの吸光度により測定した、MTSテトラゾリウムのホルマザン生成物への変換は、生細胞の数に直接比例する。製造者のプロトコルに示唆されるとおり、無細胞対照ウェルの平均吸光度をすべての他の実験ウェルから減算し、非処理細胞を含むウェルからの平均吸光度は100%を表すと仮定して、細胞生存度のパーセンテージを算出した。
【0300】
Caco-2単層培養トランスウェル:トランスウェルにおける輸送実験のために、3日間急速Caco-2増殖システムを用いた。細胞を、MITOシーラム+エクステンダーを補足したCorning(登録商標)基本播種培地(BSM)中に加え、24穴プレート内に配置したMillicell(登録商標) PCFインサート上に400,000細胞/mLの密度で播種した。製造者の推奨のとおりに、500μLの細胞含有培地をアピカル側に加え、一方、1000μLの無細胞BSMをバソラテラル側に加えた。37℃、5%CO2で24時間のインキュベーション後、培地を同じ量のMITOシーラム+エクステンダー補足腸細胞分化培地で置き換え、さらに2~4日間培養した。TEERを定期的に測定し、細胞間の十分なタイトジャンクション完全性を示す200Ω.cm2を超えれば、輸送試験を実施した。
【0301】
Caco-2単層トランスウェルを通過してのFITC-IgGおよびルシファーイエロー輸送:実験の前に、Caco-2トランスウェルをHBSSで2回洗浄し、次いでアピカル(400μL)およびバソラテラル側(600μL)の両方で、フェノールレッド、FBSおよびP/S不含DMEMと共に30分間インキュベートした。その後、0、30、55または80mM CGLYと共に調製し、フェノールレッド、FBSおよびP/S不含DMEMに可溶化した、500μg/mLのFITC-IgGまたはルシファーイエローのいずれか400μLで、アピカル側の培地を置き換えた。FITC-IgGをアピカル側に加えた直後、150μLの一定量をバソラテラル側から採取し、等量の新鮮DMEMで置き換えた。これを1、2、3、4および5時間の時点で繰り返した。試験中、トランスウェルプレートを、100rpmで回転中の振盪機上、37℃、5%CO2のインキュベーター内に置き、前述の期間で一定量を採取するためにのみ取り出した。5時間の試験終了後、一定量中のFITC-IgGおよびルシファーイエロー濃度をBioTek、Synergy Neo2(商標)プレートリーダー(Vermont、USA)を用い、それぞれ485/520nmおよび485/530nmの励起/発光波長で測定した。各時点のFITC-IgGおよびルシファーイエロー濃度を、各蛍光分子の較正溶液から計算し、これを次いで時間に対するバソラテラルチャンバー濃度としてプロットした。
【0302】
Caco-2細胞によるFITC-IgG取り込みの定量分析のために、試験終了時にFITC-IgG輸送試験からのトランスウェルをHBSSで2回洗浄し、続いて500μLの4%パラホルムアルデヒドを加え、4℃で終夜維持した。翌日、パラホルムアルデヒドをウェルから吸引し、膜をPBSで2回洗浄し、トランスウェル膜を切断してガラススライド上に静かに置いた。DAPI含有封入剤を膜に加え、カバーガラスでカバーした。膜の共焦点撮像(ZEISS、レーザー走査共焦点顕微鏡LSM 700)を40×倍率で実施した。
【0303】
CGLY2:1処理したCaco-2単層トランスウェルのTEER測定:Caco-2トランスウェルを洗浄した後、フェノールレッド、FBSおよびP/S不含DMEMと共に30分間インキュベートした。TEER値を各インサートについて記録した。その後、アピカル側の培地を400μLの0、30、55または80mM CGLY2:1で置き換えた。試験中、トランスウェルプレートを、100rpmで回転中の振盪機上、37℃、5%CO2のインキュベーター内に置き、TEER回復およびタイトジャンクション可逆性を判定するために、1、2、3、4、5および24時間でさらなるTEER測定を行うためにのみ取り出した。TEERを時間に対する初期値からの変化%としてプロットした。
【0304】
経細胞輸送阻害剤を伴うFITC-IgG輸送:実験の前に、Caco-2トランスウェルをHBSSで2回洗浄し、次いでアピカル(400μL)およびバソラテラル側(600μL)の両方で、フェノールレッド、FBSおよびP/S不含DMEMと共に30分間インキュベートした。その後、50μMモノダンシルカダベリン(MDC)、1μg/mLフィリピン、および0.5μMワートマニンを含む経細胞輸送阻害剤[36]と共に、または伴わずに、500μg/mLのFITC-IgG、55mM CGLY2:1を含む、フェノールレッド、FBSおよびP/S不含DMEM 400μLで、アピカル側の培地を置き換えた。24時間のインキュベーション後、150μLの一定量をバソラテラル側から採取し、一定量中のFITC-IgG濃度を、BioTek、Synergy Neo2(商標)プレートリーダー(Vermont、USA)を用いて485/520nmの励起/発光波長で測定し、いかなる経細胞輸送阻害剤も含まない対照ウェルに比べてのFITC-IgG輸送パーセンテージとしてプロットした。
【0305】
粘液レオロジー試験:ブタ小腸粘液を、ブタ小腸から、洗浄した粘膜表面を小さい実験用スパチュラで、可能なかぎり上皮細胞の除去を避けて、穏やかにこすることにより抽出した[39]。ブタ粘液をプールし、ただちに調べた。0.9%食塩水中0、12.5、25および50体積%のCGLY 10uLを200uLのブタ粘液の一定量に加え、直径40mmのスチール平行板形状のAR-G2レオメーター(TA Instruments、New Castle、DE、USA)を用い、25℃で、ずり速度1~100 1/sの範囲にわたって測定した。
【0306】
空腸内投与による抗体-CGLYのインビボ局所送達:動物の使用に関係するすべての実験は、Institutional Animal Care and Use Committee of Harvard Universityによって承認されたプロトコルに従って実施した。試験前に、275~300gの成獣雄ウィスターラットを終夜絶食させたが、飲水は自由にさせた。実験当日、ラットを麻酔し、50体積%CGLY2:1/生理食塩水または生理食塩水中の1mg/mL FITC標識IgG抗体(FITC-IgG)200μLを注射した(n=3)。FITC-IgGを含まない同等の生理食塩水注射を行ったラットを陰性対照群として用いた。2時間後、ラットを屠殺し、スイスローリング技術を用いて空腸組織を採取し、保存した[40]。次いで、ロールした組織を4%パラホルムアルデヒド中、4℃で12時間固定し、4.5%スクロースへ移して4℃で4時間、そして最終的に20%スクロースへ移して4℃で12時間処理した[41]。次いで、組織を最適切削温度(OCT)化合物存在下-80℃で凍結し、組織切片を25μm厚に切断し、スライドスキャナ顕微鏡(ZEISS Axio Scan.Z1)を用いて可視化し、画像をZen(商標)(Blue edition)ソフトウェアを用いて処理した。
【0307】
空腸内投与による抗体-CGLYのインビボ全身送達:試験を、終夜絶食させたが飲水は自由にさせた成獣雄ウィスターラットで実施した。試験開始前に、ラットを麻酔し、腹部の毛を刈り、手術領域をベタジンおよび70%エタノールを用いて準備した。腹部を切開して腸を露出し、試験製剤を空腸に注射した。腸を露出した後、すなわち注射の直前に、時間ゼロの血液を採取した。ラット6匹の各群に、50体積%CGLY2:1/生理食塩水または生理食塩水単独中の0.3mg/mL 抗ヒトTNF-αIgG抗体200μg/kgを注射した。その後、腸部分を腹部に戻し、筋肉および皮膚を縫合した。手術前に動物を温度管理した加温パッド上に置き、続いて手術後は追加のタオルカバーにより、麻酔中の動物の体温低下を防止した。試験中を通して動物を麻酔したままにし、5時間後に安楽死させた。処置ラットから0、0.5、1、1.5、2、3および5時間の時点でヘパリンコーティングしたチューブに約250μLの血液を採取することによって、血漿中の抗ヒトTNF-αIgG濃度を評価した。標準プロトコルに従って全血から血漿を分離した。血液試料を2,000×gで15分間遠心分離した。血漿上清をただちに清浄なチューブに移し、手順中は氷中に保存し、その後はIgG含有量のさらなる分析まで-20□Cで保存した。各時点の血漿試料中の抗ヒトTNF-αIgG濃度の評価を、以前に記載のとおりELISAで実施し、抗ヒトTNF-αIgGの較正溶液から計算した。
【0308】
インビボ毒性試験:インビボにおけるCGLY2:1の急性毒性を評価するために、成獣雄ウィスターラット(n=6、それぞれ275~300g)に、50体積%CGLY2:1/生理食塩水を625mg/kgの用量で1日1回連続7日間、前述の手順を用いて経口投与した。対照ラットには等量の生理食塩水を投与した。実験期間中、ラット体重を毎日監視した。第7日に、ラットを屠殺し、包括的代謝パネル分析のために血液試料を採取し、主要臓器および胃腸組織を組織学的検査のために処理した。心臓、肝臓、脾臓、肺、腎臓、および胃腸(胃、小腸および結腸)組織を中性緩衝化10体積%ホルマリン中で18時間固定し、70%エタノール中で脱水し、次いでパラフィン中に包埋した。組織切片を5μm厚に切断し、脱パラフィンし、再水和し、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で染色した。組織学的形態を、明視野スライドスキャナ顕微鏡(ZEISS Axio Scan.Z1(商標))を用いて可視化し、画像をZen(商標)(Blue edition)ソフトウェアを用いて処理した。
【0309】
統計解析:すべてのデータを平均±SEで示す。SDS PAGE試験について、実験は三つ組で実施し、代表的画像を示した。蛍光および明視野画像法において、実験は三つ組で実施し、代表的画像を示した。他の実験はすべて、少なくとも三つ組で行った。統計学的有意性を調べるために、独立両側t検定をGraphPad Prism 8(商標)で実施し、信頼水準P=0.05を有意とみなした。
【0310】
【0311】
実施例2
複数のILを試験して、それらが機能的抗体安定性をいかにうまく促進したかを判定した(
図8~10)。一般的な傾向として、小さいアニオンは大きいアニオンよりも抗体と適合性である。性能は、異なる個々の抗体で保持された(
図14)。
【0312】
経口または空腸内投与による抗体送達も試験した(
図11~13)。ILは経口投与した場合に毒性がないことが確認された(
図15~16)。
【0313】
siRNA送達のためのILも企図され、siRNAの経皮を試験した(
図17~18)。
【0314】
実施例3
腫瘍壊死因子α(TNF-α)およびインターロイキン17A(IL-17A)を標的とする全身性抗体は、尋常性乾癬に有効である。その高い評価にもかかわらず、安全性の懸念は全身性生物製剤にとって課題を提起する。抗TNF-α抗体および抗IL-17A抗体はそれぞれのタンパク質を効果的に阻害するが、本発明者らは、NFKBIZなどの上流標的の局所サイレンシングに基づくアプローチが乾癬の処置に有利であろうとの仮説を立てた。しかしながら、低分子干渉RNA(siRNA)の皮膚への効果的な送達は、皮膚のバリア機能およびsiRNAの安定性不良のために、かなりのハードルである。イオン液体を実現技術として用いて、本明細書に記載するのは、乾癬モデルにおけるNFKBIZ siRNAの皮膚への効果的な送達およびその治療有効性である。IL-siRNAによる処置は、異常な遺伝子発現を抑制し、TNF-αおよびIL-17Aを含む乾癬関連シグナルのダウンレギュレーションをもたらした。これらの結果は、siRNAの局所送達プラットフォームのためのフレームワークを提供する。
【0315】
序論
乾癬は、世界中で1億2500万人超が罹患している最も衰弱性の慢性皮膚疾患の1つであり、米国における推定経済負担は1350億ドル/年である(1)。その病因および根底にあるメカニズムはまだ完全には理解されていない。広範に発現する転写因子である核因子κB(NF-κB)は、免疫応答の主要制御因子と考えられており、乾癬を含むいくつかの自己免疫性炎症性疾患に関わりがあるとされている(2)。NF-κBシグナル伝達経路を標的とするいくつかの治療法が診療所で利用可能であるが;特異性の欠如および副作用に関する懸念は課題を提起する(3)。NF-κBのような多面的なタンパク質は生存因子として不可欠な基礎活性を提供するので、それらの全身性阻害は重篤な副作用につながる可能性があるため、この課題は特に困難である。経路特異的阻害剤を含むネットワーク中心のアプローチは、かなりの治療的関心を得ている(4)。これに関して、インフリキシマブおよびアダリムマブ[いずれも抗腫瘍壊死因子α(TNF-α)モノクローナル抗体]ならびにセクキヌマブ[抗インターロイキン17A(IL-17A)抗体]が米国食品医薬品局によって承認されており、NF-κB活性の調節を通じてそれらの治療効果を媒介すると主張されている(5)。
【0316】
核因子κB(IκB)タンパク質IκBζの非定型阻害剤をコードする遺伝子であるNFKBIZは、NF-κB複合体の調節におけるその重要な役割のために、治療的介入に対する関心を得ている(6、7)。これは、炎症シグナル伝達、好中球走化性、および白血球活性化に関与するTNF-α、IL-17A、およびIL-36誘発性乾癬関連遺伝子産物の直接転写活性化因子であると報告されている(8-11)。加えて、乾癬患者におけるNFKBIZの強い発現は、IL-36型およびIL-17A型応答の上昇と相関している可能性がある(12)。NFKBIZの局所サイレンシングは、単一の抗体による処置に比べて、処置から利益を受け得る患者の集団を潜在的に広げることができるため、有利であり得る。
【0317】
低分子干渉RNA(siRNA)の局所適用によるNFKBIZのサイレンシングは、副作用が最小限の非侵襲的で自己投与型の処置選択肢を提供する(13)。しかし、この経路の最大の課題は、低分子量(最大数百ダルトン)および高いオクタノール-水分配係数を有する限られた数の薬物しか局所送達を成功させるために使用できないことである(14)。親水性分子、特に抗体および核酸などの巨大分子の経皮および局所送達は、その高分子量ゆえに困難なままである(15)。いくつかの報告は、球状核酸(16)および自己集合フレームワーク核酸(17)などの技術を用いた、局所siRNA送達を示している。マイクロニードルもまた、siRNAの局所送達のために探求されている(18)。エレクトロポレーション(19)およびペプチド担体などの方法も探究されている(20-22)。皮膚創傷を処置するためにsiRNAを送達する戦略も開発されている(23、24)。
【0318】
本明細書に記載するのは、関心対象の様々な遺伝子をサイレンシングするための、モジュール型のILに基づくsiRNA送達アプローチである。具体的には、本明細書に記載するのは、同時にsiRNAを安定化させ、局所適用後の皮膚へのsiRNA透過を増強する、ILの組み合わせである。イミキモド誘発性乾癬マウスモデルにおいてインビボでNFKBIZをサイレンシングする際の製剤の有効性を示す。
【0319】
結果
IL選択
ILのライブラリを設計し、合成して、皮膚へのsiRNA送達を評価した。その生体適合性のために、コリニウムをすべてのILにおいてカチオンとして使用した。ILを合成するために、いくつかの異なるアニオンを用いた(
図24A~24E)。ゲラン酸をILライブラリにおける基準アニオンとして用いた[すなわち、コリンおよびゲラン酸(CAGE)を基準ILとする]。他のアニオンをいくつかの理由で選択した。まず、siRNAの安定性および送達に対する鎖長の影響を評価するために、ゲラン酸に比べてより短い直鎖炭素鎖を含むアニオンを選択した。芳香族基を有するアニオンは、静電的、疎水性、および極性相互作用を介してスタックされたRNA塩基対と相互作用する可能性があるため、選択した。すべてのILを1:2(カチオン:アニオン)の化学量論比で調製し、安定性およびsiRNA送達について評価した。合成したILのうち、CAGE、コリンおよびジメチルアクリル酸(CADA)、コリンおよびイソ吉草酸(CAVA)、ならびにコリンおよびフェニルプロパン酸(CAPA)は室温(RT)で粘性液体のままであったが、コリンおよび4-フェノールスルホン酸(CASA)、コリンおよびフェニルリン酸(CAPP)、ならびにコリンおよびビフェニル-3-カルボン酸(CABA)は固化またはゲルを形成した(
図24A~24E)。代表的な1H核磁気共鳴(NMR)スペクトルは、
図24A~24Eに見出すことができ、ILの良好な合成と純度が確認される。加えて、インターロイキンとILの両方が「IL」と表記されているため、明確にするために、すべてのインターロイキンは原稿全体を通して数値で示す。
【0320】
siRNAの安定性に対するILの効果
siRNA安定性に対するILの効果を評価した。50体積%濃度の個々のILの水溶液とインキュベートしたsiRNAの円二色性(CD)分光法から、CAGE、CADA、およびCABA存在下でのαらせん骨格の顕著な変化が明らかになった(210nmのネガティブバンドから確認)。一方、CAVAおよびCAPAはsiRNAの二次構造を保持した(
図19A)。CD結果で補完されたネイティブゲル電気泳動から得られたバンド(
図19B)。CAPA存在下でのsiRNAの安定性改善は、2つの構造的に異なるアニオンから調製したIL間の相乗効果の可能性を示唆した。したがって、CAPAのsiRNAとの適合性が、siRNA構造に対するCAGEおよびCABAの有害作用に対するさらなる保護を提供するかどうかを決定するために、siRNA安定性に対するIL混合物の効果を評価した。CAGE(25体積%)とCAPA(25体積%)との組み合わせは、siRNA構造の保持を示す顕著なバンドをもたらした(
図24A~24E)。
【0321】
siRNA送達のための最適なIL組み合わせのスクリーニング
次いで、個々のILおよびそれらの組み合わせを、フランツ拡散セル(FDC)においてブタ皮膚へのCy5標識siRNAの表皮透過について評価した(
図19C)。対照において、裸のsiRNAのいくらかの表皮取り込みが見られた。CAGEは、試験したすべてのILの中で最も高い送達を示した(
図19D)。裸のsiRNAの場合の0.07nmol/cm2に比べて、CAGE(50体積%)存在下では約0.20nmol/cm2のsiRNAが表皮に送達された。50%CAGEがsiRNA構造に影響を有する可能性があるため、siRNAを皮膚に送達するIL組み合わせの能力も測定した。CAPAとCAGE(それぞれ25体積%)との組み合わせにより、約0.4nmol/cm2のsiRNAが皮膚に送達された(
図19E)。CAGE+CAPAの組み合わせは、最も高い表皮送達ならびに高い安定性をもたらしたため、さらなる試験のためのリード製剤として選択した(
図25A~25D)。
【0322】
RNAに対するIL誘発性インターカレーションおよび溶媒和効果
IL組み合わせ(CAGE+CAPA)がRNAを安定化させるメカニズムを探索するために、分子動力学(MD)シミュレーションを実施した。RNAの10Å以内の単位セルのスナップショットから、CAGE中のゲラン酸が凝集塊の形成を担っており、コリン、水、およびRNA分子からのゲラン酸の分離をもたらしていることが明らかである(
図20A~20B)。フェニルプロパン酸をCAGEに添加することで、IL溶液中の3つの分子種/イオンのより一貫した分布につながった(
図20C~20D)。さらに、おそらくはその脂肪族対応物(ゲラン酸)とは異なる疎水性芳香環の存在ゆえに、フェニルプロパン酸分子はRNA分子に近く、RNA溶媒和および安定性に寄与するスタックされたRNA塩基対間にインターカレートする際のその重要な役割が確認される。
【0323】
RNAの構造特性を、500nsにわたってシミュレーションを行い、平均二乗偏差(RMSD)および回転半径(RGYR)を測定することによって評価した。CAGE群について得たRGYRは、150nsまで一貫しており、シミュレーションの終わりに向かって低減し始め、システムの緊密性に一貫性がないことを示している(
図20E)。対照的に、500nsにわたるIL組み合わせ(CAGE+CAPA)について得た、増加し、一貫したRGYRは、改善されたIL-RNA相互作用の結果とよく一致する。RNAとの最適化されたIL系に対するこのような改善された相互作用および緊密性は、フェニルプロパン酸をCAGEに添加した後の相対分子運動性の増大または局所粘度の低下にも起因し得る。加えて、IL系の粘度が低いことは、ILによってRNAに提供される分子内緊張を弱める可能性があり、CAGE+CAPAの場合に観察されるRMSDの低減の説明となるであろう(
図20F)。
【0324】
IL媒介脂質膜動力学の調節
脂質二重層へのILの挿入および移行を評価するために、IL存在下での脂質二重層のシミュレーションを行った(
図21A~21C)。RNAの安定性および溶媒和を改善することに加えて、凝集体の形成をもたらすイオン種の緊密な充填は、IL-脂質膜相互作用を増強するようである。個々のイオン部分によって形成される凝集体は、IL系と分子との間の連続性を可能にして、脂質二重層を構成するように見える。イオン性凝集体の集合塊は、以前に報告された脂質を抽出または流動化するIL、特にゲラン酸の能力に加えて、膜透過を促進する際に重要な役割を果たす可能性がある(26)。
【0325】
膜動力学に対するCAGE、CAPA、およびCAGE+CAPAを含むILの相対的影響を、IL存在下、350nsのシミュレーション時間にわたって脂質二重層の平均厚さを測定することによって評価した。最高の厚さはCAGE(50体積%)存在下で観察され、脂質二重層内のより大きいILインターカレーションを示す。水およびCAPA(50体積%)群についても同様の厚さが認められたが、CAGE(25体積%)およびCAPA(25体積%)はより高い厚さをもたらした(
図21D)。MDシミュレーションスナップショットは、IL中の個々のイオン種とリン脂質膜との相互作用の動力学を強調する。IL組み合わせのイオン種の二重層との決定的なインターカレーションが検出された(
図21B)。さらに、CAGE+CAPAシミュレーション内で個々のイオン種の軌跡を可視化すると、フェニルプロパン酸に比べてゲラン酸の移動性の低下が観察された(
図26A~26B)。3つのIL種(コリン、ゲラン酸、およびフェニルプロパン酸)すべてからなるIL凝集体に焦点を合わせると、各ゲラン酸分子がシミュレーションの過程を通して凝集体と接触したままである傾向があり、一方、コリンおよびフェニルプロパン酸は、不均質種の凝集体および系の残部を構成するバルク溶媒の両方の間を移動し得ることが観察された。この移動性の増大は、系全体の局所粘度の分布の変化を引き起こす可能性がある。凝集体と接触している脂質の頭部を可視化すると、頭部が脂質あたりより大きな面積を占めることが観察された。これは、IL凝集体の領域内の個々の分子軌道のより「広がった」分布によって示される。脂質間の空間のこの拡大は、ILと膜とのインターカレーションおよびそれに続く脂質種の置換によって引き起こされる。凝集が二重膜に対するILの効果の局在化を誘導するにつれて、凝集は、バルク溶媒による低い構成代謝回転で、不均一な膜破壊ならびに局所粘度の違いをもたらす可能性がある。膜破壊のこの不均質な分布は、他のIL系に比べると、CAGEにおけるシミュレーションの過程を通して見られる、脂質値あたりの面積の広い分布を説明し得る(
図21E)。全体として、これらの結果は、脂質二重層間でRNAを移行させる際のILの凝集体代謝回転の寄与を意味する。
【0326】
マウスにおけるILの生体適合性
最適化したCAGE+CAPA IL製剤を、マウスにおけるインビボでの毒性について評価した。IL-グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)siRNA製剤(25μl)を、SKH-1エリート(SKH-1E)ヘアレスマウスの背部皮膚に連続4日間局所適用した(
図22A)。IL処置動物について炎症、発赤、および/または刺激の徴候は観察されなかった(
図27A~27D)。皮膚組織をさらに採取し、切片を切断し、組織病理学および毒物学マーカーのために染色した。IL製剤で処置した群は、表皮肥厚およびケラチノサイト過剰増殖の徴候を示さず、未処置および/または裸のsiRNA処置動物と同等であった(
図22Bおよび
図27A~27D)。TNF-α遺伝子発現レベルも健常マウスで試験した。裸のsiRNAで処置した動物は、未処置の動物と統計的に同等であった。IL-GAPDH siRNAおよびIL-siCon(その後の実験に用いた対照siRNA)で処置したマウスは、未処置群に比べてわずかに低いTNF-αmRNA転写産物を示した(
図27A~27D)。
【0327】
健常マウスにおけるIL-siRNA透過およびGAPDHサイレンシング
健常マウスにおいて、表皮内のCy5蛍光を、連続4日間の経皮適用後に測定した。共焦点画像により、マウスにおける裸のsiRNAに比べて、IL処置群の表皮におけるCy5蛍光の顕著な増加が明らかとなった(
図22C)。定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)を用いてGAPDH遺伝子サイレンシング効率を決定した後、GAPDHの発現レベルは、IL-siRNA処置群では、裸のsiRNAおよび未処置マウスに対してそれぞれ4.5倍および8.6倍減少することが判明した(
図22D)。裸のsiRNA処置群についても、GAPDH mRNA発現のわずかな減少が観察された。続いて、GAPDH mRNA発現の変化がタンパク質減少につながっているかどうかを確かめる必要があった。遺伝子ノックダウンの結果と一致して、IL-siRNA処置群は、他のすべての処置群に比べて、GAPDHタンパク質発現における統計的に有意な減衰(約2倍)を示した(
図22E)。裸のsiRNA処置群のGAPDH mRNA発現の低下は、GAPDHタンパク質発現をダウンレギュレートしなかった。
【0328】
皮膚における局所NFKBIZサイレンシングはイミキモド誘発性乾癬を阻害する
乾癬を処置するNFKBIZ siRNAの能力を、局所製剤としてのCAGE+CAPAを用いて試験した。乾癬の誘発およびIL-NFKBIZ siRNA製剤の局所適用(
図23A)の後、皮膚組織を採取し、分析した。巨視的には、背部皮膚におけるNFKBIZの局所ノックダウンは、イミキモド誘発性炎症を顕著に低減し、IL-NFKBIZ siRNAを適用した領域において、未処置、IL処置、およびIL-siCon処置群に比べて、紅斑およびスケーリングの減少を示した(
図23Bおよび
図28A~
図28D)。マウスからの皮膚切片のヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色により、IL-siRNAによるNFKBIZのノックダウンが表皮肥厚、アカントーシス、過角化症、および棍棒状の乳頭間突起を減少させることが明らかとなった(
図23Cおよび
図28A~
図28D)。同様に、免疫組織化学(IHC)分析により、未処置、IL処置、およびIL-siCon処置群におけるケラチノサイトの過剰増殖が明らかになったが、IL-NFKBIZ siRNAで処置した群はケラチノサイト増殖を示さなかった(Ki67染色)(
図23Dおよび
図28A~28D)。イミキモド誘発性皮膚炎症の一般的特徴(紅斑およびスケーリング)を、誘発/適用期間を通して毎日採点した。紅斑およびスケーリングの個々のスコアは、局所IL-siRNA適用による第3日から始まる中くらいの減少を示した(
図23E~23F)。最大累積スコアは、未処置群およびIL処置群で得られ、IL-siRNA処置群では顕著に低下した(
図29A~29C)。皮膚厚さを測定するための二重皮下脂肪厚(DSFT)は、群間で大きな差を生じなかった(
図29A~29C)。加えて、ヒートマップおよびmRNA解析は、NFKBIZおよび他の乾癬関連遺伝子産物の発現が、未処置群およびIL-siCon処置群に比べて実質的に低下することを示した(
図23G~23Jおよび
図30A~30J)。IL-siCon処置後、NFKBIZ、TNF-α、サイトカイン(IL-17C、IL-19、IL-22、IL-36A、およびIL-36G)、ケモカイン(CCL20)、および抗菌タンパク質(LCN2およびDEFB4)を含む、ほとんどの遺伝子がアップレギュレートされた(
図23G)。TNF-αおよびIL-17A mRNA発現のいくらかのダウンレギュレーションが、健常マウスにおいてIL単独での処置後に観察された(
図23I~23J)。
【0329】
考察
主要な炎症シグナル伝達経路調節因子および根底にあるメカニズムの経時的順序についての限られた理解は、乾癬の処置において課題を提示する。NF-κB、ヤヌスキナーゼ(JAK)/シグナル伝達兼転写活性化因子(STAT)、およびp38マイトジェン活性化タンパク質キナーゼを含むシグナル伝達経路が、この複雑な疾患の病因において主要な役割を果たすことが最近見出された(31)。IκBζをコードする遺伝子であるNFKBIZは、一連の特異的炎症性サイトカインの下流効果を媒介する重要な転写コアクチベーターであり、IκBζがIL-17A、IL-23、およびIL-36の主要な調節因子であることを示した、Johansen et al.(6)およびMuller et al.(12)による最近の知見に照らして特に肝要である(32)。したがって、炎症性シグナル伝達経路および乾癬関連遺伝子産物の産生を阻害するためにNFKBIZ/IκBζを標的とすることは、乾癬処置のための実行可能な戦略である。臨床的には、TNF-αおよびIL-17Aを標的とする抗体は、主要エンドポイントを満たし、疾患状態を改善する上で有望であることが示されている(33)。しかしながら、生物製剤として、これらの抗体は、全身毒性の可能性、抗体の生成、および高コストの課題を有する。
【0330】
本明細書に記載するのは、RNAの表皮蓄積および皮膚を通過しての送達を改善し得るIL組み合わせである。本発明者らは、ILの組み合わせがsiRNAを安定化させ、同時にその透過を改善するとの仮説を立てた。この仮説を、ヒトの尋常性乾癬に類似のイミキモド誘発性乾癬様皮膚炎症モデルにおいて検証した。IL-siRNAを連続4日間局所適用すると、炎症性サイトカインのレベルおよび一連の乾癬関連遺伝子産物が実質的に低下した。
【0331】
CAGE+CAPA IL製剤は、他の経皮薬物送達系を上回るいくつかの利点を提供する。IL製剤の成分である、炭酸水素コリン、ゲラン酸、およびフェニルプロパン酸は安全またはGRAS(一般に安全と認識されている)化学物質であることが証明されており、ILの安全性のための強力な基盤を提供する。加えて、単純な合成およびスケールアップ工程、高い溶媒和力、ならびに同調性は、他の揮発性有機溶媒を上回るさらなる利点を提供する。この系は、スタックされたRNA塩基対とILの芳香環との間のその複雑なインターカレーション、および脂質二重層との相互作用の増強の両方のために、核酸の経皮送達に特に適している。
【0332】
これらの結果は、ILが生理活性を損なうことなく核酸と複合体を形成することができ、したがって、経皮薬物送達に理想的となることを示す。IL合成のための塩メタセシスまたはアニオン交換反応は、siRNA送達のために過酷な有機溶媒の統合を必要としないため、特に有利である。個々のIL成分は、結合特性および相互作用の分子メカニズムに基づいて、ほぼいかなる核酸とも相互作用するように調節され得る。
【0333】
同調可能なイオン化学量論および物理化学的特性は、ILに基づくシステムの他の重要な特徴である。以前の研究は、溶媒和および皮膚への活性成分の分配におけるイオン間相互作用の役割を示している(34)。加えて、Chandran et al.(35)は、DNA安定性におけるILの静電相互作用および溝結合関連の重要性を示した。これまで、siRNAの安定性および溶媒和を改善する上でのILの役割は、包括的に探求されてこなかった。本明細書に提示する研究は、ゲラン酸に構造的類似性を有する、および/または芳香環を1:2の化学量論比で含む、ILのアニオン成分を系統的に変化させて、コリニウム系のILライブラリを開発した。芳香環を含むILのアニオンは一般に、フェニルプロパン酸を除いて室温で固化またはゲルを形成することが観察された。CAVA、CAPA、およびCAGE+CAPA存在下では、他のILおよび組合せに比べて、優れたsiRNA安定性が観察されたが、これはおそらくsiRNAとの優れた相互作用による。IL組み合わせCAGE+CAPAは、siRNAの最も高い表皮蓄積を示し、いかなる個々のILおよび/または組み合わせよりも顕著に高い。
【0334】
この試験で特定した最も優れたIL組合せであるCAGE+CAPAは、MDシミュレーションを通じて3つのイオン種の一貫した分布を示し、溶媒和効果の増強に寄与する改善された分子移動性およびより低い粘度を示す。さらに、MDシミュレーションスナップショットは、フェニルプロパン酸とRNA分子との密接な結合を明らかにし、これは疎水性および極性相互作用の組み合わせ、π-πスタッキング、ならびに/またはスタックされたRNA塩基対間のインターカレーションに起因して、RNA安定性の増強につながる可能性がある。500nsにわたるシミュレーションから得られたRGYRおよびRMSD測定値は、IL-RNA相互作用の改善をさらに確認した。
【0335】
IL媒介脂質二重層調節の重要性を理解することも重要である。MDシミュレーションは、CAGE(50体積%)と、続いてCAGE+CAPAについて得られた最も高い二重層厚さで膜透過を改善する際のイオン種の凝集の重要な役割を明らかにした。シミュレーションからのこのような観察は、脂質二重層を通過してのIL組み合わせの移行における主な駆動因子としてゲラン酸をさらに確立し、これは実験結果と一致している。フェニルプロパン酸は、IL系全体の局所粘度を低下させることによって二重層透過を改善する際に小さな役割しか有していないように見えるが、これらの結果はまた、動的細孔の形成とともに膜を流動化する役割も担っていることを示している。フェニルプロパン酸などの脱プロトン化芳香族カルボン酸は、pH分配仮説から予想されるよりも数桁速く二重層を透過し、その透過は生理学的pHでアニオンによって完全に制御されることが以前に報告された(36)。これらのILは、細胞バリアを通過してsiRNAを細胞質ゾル区画に送達するのを助けることが企図される。
【0336】
CAGE+CAPAの生体適合性を評価するために、皮膚の組織学的評価を、局所適用の総持続時間と一致する第5日に実施した。IL処置群では皮膚構造の巨視的変化、表皮肥厚、およびケラチノサイト増殖は認められなかった。炎症性サイトカインレベルのさらなる調査は、未処置群に比べて、TNF-αmRNAにおけるいかなる統計的に有意な増加も示さなかった。IL処置群のいくつかはTNF-αmRNAレベルの低下を示したが、これはおそらくILの存在によるものであろう。IL-GAPDH siRNA処置群では、GAPDH mRNAおよびタンパク質発現の顕著な阻害が観察された。
【0337】
NFKBIZは、乾癬の病因であるいくつかの炎症性サイトカインおよび抗菌ペプチドの遺伝子転写において重要な役割を果たすことが以前に示されている(6、12)。イミキモド誘発性乾癬モデルを用いて、IL-NFKBIZ siRNA製剤の局所適用後のNFKBIZの局所サイレンシングがインビボ条件下で乾癬関連遺伝子産物の発現を障害することが示された。IL-siRNA処置マウスは、紅斑およびスケーリングの低減、表皮肥厚、およびケラチノサイト増殖の減少を含む、皮膚の症状の実質的低減を示した。未処置群に比べて、IL-siConおよびIL処置群のいくつかの炎症性サイトカインおよび関連遺伝子産物のmRNAレベルの局所的増大は、イミキモドに起因する可能性がある。NFKBIZの局所サイレンシングは、IL-17A、IL-23、およびIL-36を含む重要な炎症性サイトカインmRNAレベルの強力な阻害を引き起こした。局所NFKBIZサイレンシングの下流効果も検証し、IκBζ siRNAの皮内注射の以前に報告された効果と一致している(6)。マウス皮膚は一般にヒト皮膚よりもはるかに透過性が高いため、皮膚透過の定量の詳細な試験はインビボで行わなかった。
【0338】
要約すると、本明細書において提供するのは、RNAを表皮に送達することができる経皮ILプラットフォームである。このプラットフォームを、乾癬処置における重要なシグナル伝達標的遺伝子としてのNFKBIZを支援するために、一連の遺伝子スクリーニングと組み合わせる。IL製剤はsiRNAの生理活性を保持し、イミキモド誘発性乾癬様皮膚炎症モデルにおける局所適用後に顕著な標的遺伝子抑止を生じた。最適化されたIL製剤は毒性を示さず、反復適用に許容される。このプラットフォームは、核酸への幅広い適用に適しており、容易に製造およびスケールアップができる。このプラットフォームは、皮膚科学的状態の処置のための経皮薬物送達に能力を与え、そのような一般的メディエーターを標的とすることによって長期治療有効性を高めるのに役立つ。
【0339】
材料および方法
皮膚透過性IL-RNA複合体
コリニウム系ILライブラリを以前に記載のとおりに合成した(26)。簡単にいうと、カチオンである炭酸水素コリン、および様々なアニオンを1:2の比で混合し、塩メタセシス反応の後にILを調製した。アニオンを溶解度に基づいて最小量の超純水またはエタノール/メタノールに溶解し、炭酸水素コリンと40℃で24時間反応させた。得られたIL溶液をロータリーエバポレーターを用いて、20mbar、60℃で2時間乾燥した。残留水を60℃の減圧乾燥機内で48時間除去した。室温で粘性であったILを、Agilent DD2 600MHz分光計でジメチルスルホキシド(DMSO)-d6を用いたNMRにより特徴付けた(補足の材料および方法)。ILをRNA(100μM)と体積比1:1で混合し、室温で30分間インキュベートした。RNA-IL溶液(1ml)を透析カセット(カットオフ分子量10,000、Invitrogen)を用いて10mMリン酸ナトリウム緩衝液に対して72時間透析した。NanoDrop機器(Thermo Fisher Scientific)を用いてRNAの濃度を確認し正規化した。IL溶液中のRNAの安定性を、CDおよびゲル電気泳動を用いて判定した。
【0340】
MDシミュレーション試験
MDシミュレーションを、OpenMM MDパッケージとAMBER力場ff14SBおよびGAFFを用いて実施した。各IL種の3次元SDファイルをPubChemからダウンロードし、Antechamberでパラメーター化した後、LEaPでシミュレーション入力トポロジを準備した。脂質膜シミュレーションの開始座標を生成するために、PACKMOLを使用して、各リーフレットについて100個のホスファチジルコリン(POPC)分子からなる二重層を構築した。60Åの立方体の残りの内容物は、約1:1の水(TIP3P)およびILで構成され、電荷をNa+およびCl-で平衡化した。周期境界条件下で各系に対して500nsのシミュレーションを実施した。siRNAのシミュレーションのために、核酸のらせん状の開始構造をAvogadro(37)で生成した後、約1:1の水およびILからなるシミュレーションボックスに入れて、周期境界条件下で350nsシミュレーションした。MD軌道の解析を、siRNAのRGYRおよびRMSDに対するpythonライブラリMDAnalysisを用いて行った。視覚分子動力学(38)プラグインMEMBPLUGIN(39)を用いて、膜軌道の解析を行った。
【0341】
皮膚透過試験
皮膚透過試験を、以前に記載のとおりに、FDC中のブタ皮膚を用いて実施した(40)。IL溶液中のCy5標識RNA(50μM)の全量20μlをブタ皮膚表面に適用し、密封条件下、中等度に撹拌しながら、40℃で24時間インキュベートした。RNAの皮膚透過性を、それぞれ共焦点顕微鏡およびテープストリッピング技術を用いて、可視化し、定量した。
【0342】
動物試験
すべての動物試験を、Harvard John A. Paulson School of Engineering and Applied Sciences、Harvard Universityで実施した。実施手順および試験は、Institutional Animal Care and Use Committee of the Faculty of Arts and Sciences、Harvard Universityによって承認され、該当するすべての規制に一致していた。GAPDH(カスタムsiRNA、センス配列:
、アンチセンス配列:
;Dharmacon)、siCon(カタログ番号D-001810-02-50;Dharmacon)、およびNFKBIZ siRNA(カタログ番号J-040680-06-0050;Dharmacon)を含むILを、それぞれ、健常およびイミキモド処置SKH-1Eヘアレスマウス(Charles River)に局所適用した。ヒト乾癬面積重症度指数(PASI)スコアに類似の盲検スコアリングシステムを用いて、マウス背部の重症度、紅斑、およびスケーリングの程度を測定した。加えて、皮膚厚さを、疾患誘発および処置期間を通して、ノギス測定によりマウス背部皮膚のDSFTによって監視した。
【0343】
mRNA転写産物の定量
急速凍結皮膚組織を粉砕して粉末を形成し、QIAzol Lysis Reagent中でホモジナイズして、qPCR用の組織溶解物を調製した。製造者のプロトコルに従って、mRNAレベルを定量し、正規化した。処置群におけるmRNA転写物の相対的存在量およびサイレンシングを、ハウスキーパー遺伝子(β-アクチン)に対して正規化した。次いで、平均正規化siRNA処置値をそれらのSEMと共にプロットした。
【0344】
統計解析
一元配置分散分析(ANOVA)および統計解析を、GraphPad Prismソフトウェア(GraphPad Software Inc.)を用いて行った。結果は平均±SEMで示す。両側スチューデンツt検定を2群間の比較に使用した。パラメトリックデータを、一元配置分散分析と、続いてテューキーのHSD(honestly significant difference)事後検定で解析した。クラスカル・ワリス検定をノンパラメトリックデータに対して実施した。統計検定を図面に示す。P<0.05を統計的に有意と考えた。
【0345】
円二色性
透析したRNA試料の円二色性測定を、Center for Macromolecular Interactions (CMI)、Harvard Medical Schoolにおいて、PFD-425Sサーマルコントローラーユニットを搭載したJasco J-815分光偏光計で、1cmの経路長石英セル(Hellma 100-10-40、style 100-QS)を使用して15℃で記録した。RNA濃度を10mMリン酸ナトリウム緩衝液中で正規化し、室温で30分間インキュベートして還元と平衡を確保し、次いで石英キュベットにロードした。近UVスペクトルを、各試料について0.1nm間隔で5回のスキャンを平均することにより、20℃で200nmから310nmまで記録した。Spectrum Manager 2を用いて基準線を減算し、スペクトルをモル楕円率[θ](deg・cm2・dmol-1)としてプロットした。
【0346】
核磁気共鳴
すべてのNMR実験は、Harvard CCB Laukien-Purcell Instrumentation Center、Magnetic Resonance Laboratoryにおいて、1200(H)、100(C)、2000(H)感度の5mmインバース三重共鳴ナノプローブを備えたAgilent DD2-600 NMRで、0~50℃で実施した。各IL製剤を、1H NMRにより、DMSO-d6を充填した同軸インサートを含むNMRチューブに乾燥ILを入れることによって特徴付けた。NMRデータを処理し、Mnova qNMR v1.0を用いて解析した。
【0347】
ゲル電気泳動
IL溶液中のRNAの安定性を判定するために、透析したRNA試料を、1%アガロースゲル(1×TBE中0.01体積%の10,000×GelRed Nucleic Acid Stainを含む)で分離した。アガロース溶液を、1×TBEに溶解し、マイクロ波により60℃で10分間、完全に溶解するまで加熱することによって調製した。アガロース溶液をキャスティングスタンドに加え、10ウェルのコームを入れて深さ1.5mmのウェルを生成した。溶融したアガロースを、重合のために室温で30分間放冷した。チャンバーに1×TBE緩衝液をゲル表面から1.5cmの高さまで充填した。RNA試料をアガロースゲルローディング色素(6×)と予め混合した後、2μLの試料をウェルに左から右にロードした。すべてのウェルに充填するとすぐに電源を入れ、色素のゲルへの初期拡散を回避した。試料を100Vで40分間泳動させ、Bauer Core Facility、Harvard UniversityにおいてcSeries CaptureソフトウェアでAzure c300(Azure Biosystems)を使用して撮像した。
【0348】
ブタ皮膚透過エクスビボ試験
ブタ皮膚試験を、透過面積1.77cm2のフランツ拡散セル(FDC)で実施した。ブタ皮膚は、Lampire Biological Laboratories、Pipersville、PA、USAから入手した。簡単に言うと、皮膚を解凍し、毛を刈り、リン酸緩衝食塩水(PBS、pH7.4)で洗浄した。36mmパンチを使用して円板状の皮膚を切り取り、メスを使用して結合組織および皮下脂肪層を除去した。皮膚(厚さ約0.5mm)を角質層(SC)を上向きに拡散セル上に設置した。セルのアクセプター部分にPBS(約12mL)を充填し、磁気撹拌バーを用意した。ドナーチャンバーに1mLのPBSを加え、導電率を、波形発生器(Agilent 33120)および電圧計(Fluke 87 True RMS Multimeter)を用いて、周波数100Hzおよび振幅100mVで測定した。測定した経表皮導電率が10μA未満の皮膚試料のみをさらなる試験に用いた。セルを37℃のオーブンに維持して予熱した。ドナー区画を5分間放置した後、20μLのCy5標識siRNA-IL(siRNA 50μM)溶液を皮膚の上に適用し、確実に全体をカバーした。セルのドナーチャンバーおよびサイドアームを、蒸発を減少させるためにそれぞれパラフィルム/ホイルおよびエッペンドルフで密封し、スターラープレート上、37℃で24時間インキュベートした。インキュベーション後、皮膚をセルから取り出し、PBSで静かに洗浄し、テープストリッピングおよび共焦点顕微鏡を用いてさらに分析した。
【0349】
凍結切片
セルから皮膚を取り出し、PBSで洗浄した後、皮膚組織を適切な組織型を用い、OCT(Sakura Finetek、米国)中で急速凍結(直径2.0cmまで)した。適用領域に対応する皮膚の薄い切片(15~20μm)を、Leica Cryostat CM1850(Leica、Buffalo Grove、IL)を用いて-20℃で切断した。切断した切片を、スライドガラスを切片に接触させることによって直ちにスライドガラス(室温に維持)に移し、さらに分析した。
【0350】
共焦点顕微鏡検査
クライオスタットでの切片化の後、皮膚切片をカバーガラスでカバーした。顕微鏡検査は、Colibri FL IlluminationおよびCoolSnapnHQ2カメラと共にZeiss Axio Imager Z2顕微鏡を備えたZeiss 710 Confocalシステムで実施した。切片を、赤色蛍光Cy5に対して40×空気1.2開口数の対物レンズおよび633nmのArレーザーで撮像した。画像は、Javaベースの画像処理プログラム、ImageJ/FIJIを使用して処理した。すべての画像収集および処理は、対照および試験試料について同一の条件下で実行した。
【0351】
テープストリッピング
セルから皮膚を取り出し、PBSで洗浄した後、SCを粘着テープを用いて最大10層まで表皮から剥離した(SC1、SC2-5、SC6-10)。SC除去に続いて、外科用滅菌メスを用いて表皮を真皮から分離し、真皮の3分の1(面積)を4mmパンチ3回により除去した。各層を1mLのPBS/メタノール(1:1)混合物を含むガラスバイアルに別々に回収し、終夜振盪して、皮膚層からCy5-siRNAを抽出し、これをプレートリーダー(Tecan Safire、AG、Switzerland)を用いて96ウェルプレート上、励起波長633nmおよび発光波長665nmでさらに分析した。
【0352】
マウスおよび処置
雌SKH-1Eヘアレスマウス(6~8週齢)を、Charles River Laboratories(MA、USA)から購入した。動物は、制御した温度(24~26℃)で、毎日12:12時間の明/暗サイクル下に置き、食物および水を自由摂取させた。実験は、Institutional Animal Care and Use Committee of the Faculty of Arts and Sciences、Harvard Universityが承認したプロトコルに従って行った。健常マウスを、25μLのGAPDH siRNA(50μM)-IL製剤で毎日連続4日間処置した。
【0353】
乾癬モデルに対し、マウスを、朝に新たに調製した50μM NFKBIZ siRNA-IL製剤25μLの1日用量を背部皮膚に適用し、風乾して処置した。6時間後、Patterson Veterinary、CO、USAから入手した5%イミキモドクリーム(Aldara; Perrigo Co.)62.5mgを同じ領域に適用した。IL-siRNAおよびイミキモド処置の両方を4日間継続した。背部皮膚の皮膚厚さを、電子デジタルノギスを用い、二重皮下脂肪厚(DSFT)によって毎日評価した。紅斑およびスケーリングを、ヒト乾癬面積重症度指数(PASI)スコアリングシステムを用い、前述のとおり0(変化なし)から4(非常に明確な変化)までのスケールで毎日盲検的に採点した。単一のスコアを合計して、理論上の最大累積スコア8を得た。第5日に、動物をCO2チャンバー内で安楽死させ、処置した背部皮膚(皮膚面積約4cm2)を採取し、組織学、およびqPCRのために回収した。
【0354】
ELISA
GAPDH siRNA処理後のマウス細胞におけるGAPDHタンパク質の半定量測定のために、GAPDH SimpleStep ELISA Kit(ab176642、Abcam)を採用した。簡単に言うと、採取した凍結皮膚200mgを乳鉢と乳棒を用いて粉砕して粉末とし、冷却した1×細胞抽出緩衝液0.5mL中でホモジナイズした。溶解物を氷上で20分間インキュベートし、18000×g、4℃で20分間遠心分離した。上清を清浄なチューブに回収し、各試料中のタンパク質濃度をNanodropを使用して直ちに定量した。試料を1×細胞抽出緩衝液を用いて20mg/mLのタンパク質濃度に希釈した。プレートストリップを製造者のプロトコルに従って調製し、タンパク質レベルをマイクロプレートリーダー(Biotec Synergy 2、USA)を用いて450nmで測定した。
【0355】
qPCR
凍結組織を粉砕して粉末とした後、組織溶解物を700μLのQIAzol Lysis Reagent中でホモジナイズし、製造者のプロトコルに従ってQiagen miRNeasy Mini Kit(217004)を用いて全RNAを抽出した。mRNAレベルを正規化し、Biorad iScript(商標) Reverse Transcription Supermix(1708841)を用いて逆転写し、cDNAを生成した。得られたcDNAに対して、SsoFast EvaGreen Supermix(172-5211)を用いてリアルタイム逆転写PCRを行った。関心対象の遺伝子および内因性対照(β-アクチン)に対する三つ組の反応を、Biorad CFX 96装置で、同じcDNA試料に対し別々に行った。マウスNFKBIZ、TNF-α、IL-17A、IL-17C、IL-19、IL-22、IL-23A、IL-36A、IL-36G、CCL20、S100A9、LCN2、およびDEFB4遺伝子の以下のプライマー配列を用いた:
。ハウスキーピング遺伝子、β-アクチンのプライマー
。プライマーの特異性を検証し、アンプリコン特異性を溶融曲線分析により監視した。評価した各ゲノム配列について、ΔCt値を各試料に対し処置試料のCt値から未処置/対照群で得られたCt値を減算することにより算出した。2^ΔΔCtの算出により、PCR産物の相対量を得た(相対エンリッチメント)。
【0356】
組織病理学および免疫組織化学
OCT包埋組織からの切片(15~20μm)をヘマトキシリンおよびエオシンで染色し、光学顕微鏡法によって評価した。Ki67免疫組織化学のために、切片をクエン酸緩衝液(pH6.0)中で100で30分間加熱して抗原賦活化した。切片を抗ki67一次抗体(ウサギ抗マウスモノクローナル;1:1000希釈;ab16667、Abcam、Cambridge、UK)と共に4℃で終夜インキュベートし、その後ペルオキシダーゼ結合抗ウサギIgG二次抗体と共に30分間インキュベートした。切片をDABで染色し、ヘマトキシリンで対比染色し、光学顕微鏡(Olympus BX53顕微鏡およびOlympusカメラ)を用いて評価した。表皮厚さは、ImageJ/FIJIソフトウェアを使用して、対照および試験試料について測定した。
【0357】
【配列表】
【国際調査報告】