(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-01
(54)【発明の名称】高含水量バイオマスから粗製バイオオイルを製造する方法及び高含水量バイオマス流の水熱液化用の触媒
(51)【国際特許分類】
C10G 1/00 20060101AFI20230125BHJP
C10G 3/00 20060101ALI20230125BHJP
【FI】
C10G1/00 C
C10G3/00 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022530328
(86)(22)【出願日】2020-11-17
(85)【翻訳文提出日】2022-07-12
(86)【国際出願番号】 BR2020050476
(87)【国際公開番号】W WO2021102534
(87)【国際公開日】2021-06-03
(31)【優先権主張番号】BR1020190248351
(32)【優先日】2019-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】BR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591005349
【氏名又は名称】ペトロレオ ブラジレイロ ソシエダ アノニマ - ペトロブラス
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【氏名又は名称】加藤 竜太
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100120684
【氏名又は名称】宮城 三次
(72)【発明者】
【氏名】ド コウト フラガ アドリアノ
(72)【発明者】
【氏名】デ レゼンデ ピンホ アンドレア
(72)【発明者】
【氏名】ブランド ベゼッラ デ アルメイダ マーロン
(72)【発明者】
【氏名】ロウレイロ シメネス ヴィトール
【テーマコード(参考)】
4H129
【Fターム(参考)】
4H129AA01
4H129BA03
4H129BA11
4H129BB04
4H129BC02
4H129BC07
4H129BC14
4H129BC35
4H129KA02
4H129KB01
4H129KD04X
4H129KD04Y
4H129KD07Y
4H129KD19Y
4H129KD31Y
4H129KD44Y
4H129NA21
4H129NA37
4H129NA43
(57)【要約】
本発明は、バイオマス変換の熱化学プロセスの他の生成物と比較して、酸素含有量がより低く、水の割合がより低く、酸性度がより低く、再生可能な分子が豊富な液体流を生成できる水熱液化プロセスに関する。このプロセスを効果的に実行するために、トウゴマの実の外皮を焼成することにより取得された触媒が開発され、燃料を生成するための環境に優しい代替物を提供するために、バイオ燃料の分野で使用された。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高含水量バイオマスから粗製バイオオイルを製造する方法であって、
a)水又はリサイクルした水性画分を残渣リグノセルロースバイオマスと混合して、固体含有量が5重量%~20重量%の範囲にある混合物を形成するステップと、
b)バイオマスの残渣から生成された触媒を、触媒濃度が乾燥バイオマスに対して1%~10%m/m、好ましくは5%m/mになるように、(a)で取得された前記混合物に加えるステップと、
c)水、バイオマス及び触媒により形成された混合物を、900~1300psig(6.205~8.963MPa)の圧力で250~300℃の範囲の温度に加熱することにより、水熱液化(HTL)するステップと、
d)反応生成物を冷却するステップと、
e)前記生成物を、気体流、固体流、油性流及び前記触媒を含む水性流を分離する分離器に送るステップと、
f)前記触媒及び可溶性含酸素化合物を含む前記水性画分を再利用するステップと
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
置換水、リサイクル水性画分、置換触媒及びバイオマスの流れは、液化反応器に供給されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
バイオオイルと呼ばれる、ステップ(e)で取得された前記油性流は、再生可能な分子が豊富であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記気体流を、必要に応じて反応器にリサイクルさせて、還元性雰囲気を維持するか、又は膜分離プロセスを経て合成ガスを取得することができることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記気体流は、完全に酸化されることにより、エネルギーを生成することができることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記触媒を再利用し、水溶性含酸素化合物を反応媒体に再挿入するために、前記水性流がリサイクルされることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記固体流は、代替的に、吸着剤の製造のための原料として使用することができることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
それぞれ、ステップ(e)と(f)において、前記触媒の回収及びリサイクルのステップを更に含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記バイオマスは、任意のセルロース系物質のバイオマス、サトウキビバガスから酸加水分解プロセスにより取得されたリグニン、任意の脂肪質、任意のタンパク性物質又は上記物質の2種以上の混合物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
使用される前記触媒は均一系触媒であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記触媒は主にカリウムの化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記触媒及びいくつかの含酸素生成物を含む生成された水性画分をリサイクルすることにより、前記含酸素化合物を反応媒体に組み込むため、水の置換を最小限に抑え、触媒活性を維持し、バイオオイルの収率を向上させることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
液化率は85%より大きく、油性流の収率は40%より大きいことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載の方法により取得されたバイオオイルであって、熱分解プロセスで取得されたバイオオイルよりも酸素含有量がより低く、水の割合がより低く、酸性度がより低く、再生可能な分子が豊富な油性流であることを特徴とする、バイオオイル。
【請求項15】
請求項10又は11に記載の、高含水量バイオマス流の水熱液化用の触媒であって、トウゴマの実の外皮(外果皮+中果皮)として知られているヒマシ油の製造からの残渣を焼成することにより取得されることを特徴とする、触媒。
【請求項16】
前記焼成は、600℃で実行されることを特徴とする請求項15に記載の触媒。
【請求項17】
無触媒プロセスと比較して、前記触媒を使用する場合、バイオオイルの収率を少なくとも30%向上させることを特徴とする、請求項15又は16に記載の触媒。
【請求項18】
アルカリ金属の含有量が高い(>50%)ことを特徴とする、請求項15又は16に記載の触媒。
【請求項19】
再利用可能であることを特徴とする、請求項15~18のいずれか1項に記載の触媒。
【請求項20】
高い水溶性により、前記触媒を再利用することができ、形成された水性画分全体をプロセスにおいてリサイクルすることができ、前記触媒を反応媒体に再挿入することに加えて、前記水性画分中の可溶性含酸素生成物を前記反応媒体に再び組み込むことにより、水の消費量を大幅に減少させ、バイオオイルの収率を向上させる請求項15~19のいずれか1項に記載の触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマス変換の熱化学プロセスの他の生成物と比較して、酸素含有量がより低く、水の割合がより低く、酸性度がより低く、再生可能な分子が豊富な液体流を生成できる水熱液化プロセスに関する。上記プロセスを効果的に実行するために、触媒が、トウゴマの実の外皮を焼成することにより開発され、高含水量バイオマスからバイオ燃料を製造するための環境に優しい代替物を提供するためにバイオ燃料の分野で使用される。
【背景技術】
【0002】
現在、我々は、エネルギーを使用して照明を発生させ、機械及び設備を稼動させ、熱又は冷気を生成する温度を制御し、通信を高速化している。我々の生産、移動、効率、安全性、及び快適さは、21世紀の方式での社会生活に関連する他の要因に加えて、エネルギーに依存している。
【0003】
技術開発により提供される便益の負の側面は、エネルギー消費の絶えず続く増加である。需要を満たすために、政府は、深刻な環境損害を伴う発電所、送配電線の建設にますます投資している。
【0004】
環境への影響の深刻さは、発電に使用されるエネルギー源に大きく依存する。石油、天然ガス、石炭鉱物、ウランなどの再生不能な資源の使用は、地域的にも世界的にも、より大きな環境リスクを伴う。
【0005】
このようにして、主に化石燃料の燃焼からのガスにより引き起こされる温室効果により引き起こされる地球温暖化は、砂漠化及び海面上昇を含む有害な影響の原因とされる。
【0006】
これに関連して、化石エネルギー源への世界の依存は、法律を作成して、バイオ燃料又は再生可能なエネルギーの使用に対して便益を与える一方で、汚染の可能性が高いエネルギー源に対して課税し、その使用を推奨しないという2つの方面で機能する法律を作成するための激しい動きを引き起こしている。
【0007】
このシナリオでは、バイオ燃料の使用が世界中で促進されており、そのうち、熱化学技術は、バイオマスの全ての画分を最終生成物に統合的に変換することを主な利点とする。
【0008】
熱化学技術のうち、液化は、亜臨界又は超臨界条件で溶媒を使用してバイオマスの加溶媒分解を促進し、バイオオイル(バイオ原油又はHTLO)と呼ばれる液体流を生成するため、注目を集めている。使用条件は、使用する溶媒によって異なり、溶媒が水である場合、公知の技術は、水熱液化(HTL)である。
【0009】
水熱液化(HTL)は、リグノセルロース物質及び水生バイオマスなどの高含水量原料を付加価値のある化学物質に変換するために使用される重要な熱化学変換プロセスである。上述したように、このプロセスは、通常、水(溶媒)の存在下で250~374℃の温度と4~22MPaの圧力で実行されるため、環境的に魅力的である。
【0010】
この技術に関連する利点のうち、水熱液化は、事前に乾燥する必要がなく、高含水量原料の変換を促進する能力を有することに言及する価値がある。強調すべき他のポイントは、高速熱分解プロセスからのバイオオイルと比較して、水熱液化の場合、酸性度、水、及び酸素のレベルが低いバイオオイルを生成できることである。これらの特徴は、この生成物を従来の石油精製スキームに含めるために特に関心のあるものであり、これにより、石油精製所で高い再生可能含有量を有する燃料を生成することができる。
【0011】
水熱液化プロセスは、バイオマスを明確な特性を有する4種の生成物画分に変換することを促進する:バイオオイル;主にCO2により形成され、少ない程度でCOにより形成される気体画分;高濃度の炭素を含む、炭化した物として知られる固体画分;及び含酸素生成物を含む水性画分。
【0012】
エネルギー生成の場合、関心のある主な生成物は、化石燃料油の代わりに燃料として直接的に使用できるバイオオイルである。
【0013】
特許米国特許第2177557号明細書には、カルシウム塩を触媒とする、還元性雰囲気中で220℃~360℃の温度で水を使用するバイオマスの水熱液化のプロセスが記載されている。
【0014】
技術の後期に、Pittsburg Energy Research Center(ピッツバーグエネルギー研究センター、PERC)プロセス及びLawrence Berkeley Laboratory(ローレンスバークレー研究所、LBL)プロセスが開発されており、これらはパイロット規模に達する。記載されている2種のプロセスにおいて、バイオマスガス化により生成されたCO及びH2を含む還元性雰囲気が使用された。
【0015】
Pittsburg Energy Research Centerにより記載されているプロセスにおいて、粉砕された木材により形成されたスラリー、オイル及び水を330℃~370℃の温度、10~30分間の滞留時間、200バール(20MPa)の圧力で管型反応器に連続的にポンピングして、炭酸ナトリウム(5%)を触媒として使用し、40~55%のオイル収率を取得した。また、Lawrence Berkeley Laboratoryのプロセスは、溶媒として水のみを使用した。このプロセスは、180℃で硫酸で加水分解することから開始され、次に炭酸ナトリウムで中和するものである。
【0016】
この技術の開発に伴い、まず、200℃で、30バール(3MPa)で水を使用してバイオマスを予備消化して、ペーストを形成し、次に、330℃の温度、200バール(20MPa)の圧力、8分間の滞留時間にさらすという2つのステップで行われた水熱法品質向上(Hydrothermal upgrading、HTU)プロセスが開発された。
【0017】
同様に、文献国際公開第2018076093号パンフレットには、バイオガス及びバイオ原油の共同生成のための汚泥及び他のリグノセルロースバイオマスを共同処理するための水熱液化処理に基づくプロセスが記載されている。汚泥及びバイオマス残渣の処理は、水酸化カリウム(KOH)を触媒として使用して実行される。したがって、記載されているプロセスは、明らかに有利であるが、触媒の使用によりプロセスが非常に高価になるため、その商業的使用が困難になる。
【0018】
したがって、サトウキビバガスなどの典型的なブラジルのバイオマスに適した液化方法がまだ提案されていない。この目的のために、石油精製における化石流との同時処理に適した流れの生成を可能にし、大規模処理に適合する特性を示す触媒を提案することも必要である。このようにして、残渣から取得され、水熱液化に対する高い活性と高い水溶性を依然として示すため、生成された水性画分のリサイクルを可能にする低コストの触媒が特定された。これらの特性により、そのような触媒を使用して、生成された水性画分をリサイクルすることにより、プロセスに触媒系を再導入して、水及び触媒の消費量を減少させると同時に、サトウキビバガスから取得されたバイオオイルの収率を向上させることができる単一のプロセススキームを提案することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】米国特許第2177557号明細書
【特許文献2】国際公開第2018076093号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
したがって、記載されている他のプロセスとは異なり、本発明は、水の消費量が減少し、バイオオイルの収率が高く、還元性雰囲気が強制されず、バイオマス残渣から生成された触媒を使用する水熱液化の代替プロセスを提案する。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、高速熱分解などの他の熱化学バイオマス変換の生成物及びプロセスと比較して、酸素含有量がより低く、水の割合がより低く、酸性度がより低く、バイオ原油(又はバイオオイル)と呼ばれる、再生可能な分子が豊富な液体流を生成できるバイオマスの水熱液化プロセスに関する。
【0022】
この特徴により、典型的な石油精製プロセスにおける生成物の共同処理が容易になり、精製スキームで既存のアセットを使用して、Otto、Diesel及びBraytonのサイクルから燃料の配合に使用できる再生可能な流れを取得することができる。
【0023】
該プロセスは、バイオマス残渣から取得された触媒を使用して、水性媒体中のリグノセルロースバイオマスを、温度、圧力及び滞留時間の所定の条件にさらして、水熱液化プロセスの効率を改善するための適切な特性を示す。
【0024】
無触媒プロセスと比較して、触媒を使用する場合、バイオオイルの収率を少なくとも30%向上させるように促進する。また、該プロセスは、触媒及びいくつかの含酸素生成物を含む生成された水性画分をリサイクルすることにより、プロセスのための水の置換の必要性を最小限に抑え、更に、含酸素化合物を反応媒体に再取り込むと同時に、触媒活性を維持するため、バイオオイルの収率を向上させることを特徴とする。
【0025】
このようにして、実際のプロセスにおいて、水性媒体中のリグノセルロースバイオマスを、温度、圧力及び滞留時間の所定の条件にさらす。該プロセスにおいて、無触媒プロセスと比較して、バイオオイルの収率を少なくとも30%向上させるのに適した特性を有する、バイオマス残渣から取得された触媒を使用する。
【0026】
該プロセスは、触媒及びいくつかの含酸素生成物を含む生成された水性画分をリサイクルすることにより実行され、それにより、プロセスのための水の置換の必要性を最小限に抑え、含酸素化合物を反応媒体に取り込むと同時に、触媒活性を維持するため、バイオオイルの収率を向上させる。
【0027】
原料として使用されるバイオマスは、任意のリグノセルロース物質、サトウキビバガスから酸加水分解プロセスにより取得されたリグニン、任意の脂肪質、任意のタンパク性物質又は上記物質の2種以上の混合物でさえあってもよい。
【0028】
触媒は、トウゴマの実の外皮(外果皮+中果皮)から取得され、アルカリ金属の含有量が高く(>50%)、水溶性が高いため、再利用でき、プロセスにおいて形成された全ての水性画分のリサイクルを可能にすることを強調する必要がある。形成された水性画分を使用するとともに触媒を再利用する場合、触媒を反応媒体に再挿入することに加えて、水性画分中の可溶性含酸素生成物を反応媒体に再び組み込むことにより、水の消費量を大幅に減少させ、バイオオイルの収率を向上させる。
【0029】
また、触媒に関しては、トウゴマの実の外皮(外果皮+中果皮)として知られているヒマシ油の製造からの残渣を600℃で焼成するプロセスにより取得されることを強調する必要がある。この画分は、その組成に約7%の無機物を含む残渣である。
【0030】
したがって、トウゴマの実の外皮を特定の条件下で焼成することにより、アルカリ金属の含有量が高い生成物を取得することができる。焼成は、触媒を取得するために、又は、蒸気を生成するためにボイラーで実行することができ、触媒は、蒸気生成の副産物として取得される。
【0031】
したがって、触媒は、固体であり、取り扱いやすく、毒性がなく、生成コストが低く、水溶性が高いため、再利用でき、参照の純粋な化合物(PA試薬)と同様の性能を提供する。
【0032】
更に、実際の触媒は、バイオマスから取得され、残渣を重視し、トウゴマの実の外皮を適切に処理する必要性を最小限に抑えるため、環境面に関して他の利点を持つ。
【0033】
提案された液化プロセスにおいて、生成された水性流は、触媒の溶解度が高いため、触媒機能を維持し、含酸素化合物も含む。次に、この流れは、リサイクルされるため、プロセスにおける水の必要性を大幅に低下させ、触媒活性を維持する。記載されているプロセスは、85%を超える液化率と40%を超えるバイオオイルの収率を有することを特徴とする。
【0034】
実際のプロセスにおいて、形成された固体残渣は、ボイラーで燃焼してエネルギーを生成することができ、又は、吸着剤物質を生成するための原料として使用することができる。
【0035】
他方で、形成された気体流は、反応器にリサイクルされて還元性雰囲気を生成することができ、又は、完全に酸化されてエネルギーを生成することができる。同じ流れは、膜分離プロセスを経て他の用途の合成ガス(H2+CO)を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
以下、概略的な形で、本発明の範囲を限定せずにその実施形態の例を表す添付の図面を参照して、本発明をより詳細に説明する。
【0037】
【
図1】プロセスの概略図を示し、流れ(1)、(2)及び(3)は、それぞれ、液化反応器(4)に供給される置換水、置換触媒及びバイオマスで構成される。変換後、生成物は、気体流(6)、固体流(7)、水性流(8)及び油性(バイオ原油)流(9)を分離する分離器(5)に送られる。
【
図2】触媒ではなくバガスに由来する、固相に存在する無機物の回折パターンに対応するグラフを示す。グラフの結果から、水性流のリサイクルが触媒の反応媒体への戻りを促進することが確認される。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明は、還元性雰囲気を強制的に使用することなく、バイオマスの残渣から生成された触媒を使用する水熱液化の代替プロセスを提案し、該触媒は、バイオマス液化プロセスに有用な特性を有するように生成される。
【0039】
これらの特性のうち、触媒の高いアルカリ金属の含有量(>50%)とその高い水溶性を強調することができ、高い水溶性により、触媒を再利用することができ、形成された水性画分全体をプロセスにおいてリサイクルすることができ、触媒を反応媒体に再挿入することに加えて、水性画分中の可溶性含酸素生成物を反応媒体に再び組み込むことにより、水の消費量を大幅に減少させ、バイオオイルの収率を向上させる。
【0040】
提案された液化プロセスは、温度250~300℃、で動作する反応器における短い滞留時間(0(ゼロ)分間)(40~60分間の加熱ランプ時間のみである)で上記触媒を使用し、圧力は900~1300psig(6.205~8.963MPa)で、乾燥バイオマス質量に対して1%~10%m/m、好ましくは5%m/mの触媒を使用し、負荷(乾燥バイオマス+水)中の固体の含有量5~20%m/mで行う。
【0041】
このプロセスにおいて、生成された水性流は、触媒の溶解度が高いため、上記触媒を使用して取得された触媒機能を維持し、また、含酸素化合物も含む。次に、この流れは、リサイクルされ、プロセスにおける水の必要性を大幅に低下させ、触媒活性を維持する。プロセスは、85%を超える液化率と40%を超えるバイオオイルの収率を有することを特徴とする。
【0042】
プロセスにおいて形成された固体残渣(炭化した物)は、代替的に、ボイラーで燃焼してエネルギーを生成することができ、又は、吸着剤物質を生成するための原料として使用することができる。
【0043】
また代替的に、気体流は、反応器にリサイクルされて還元性雰囲気を生成することができ、又は、完全に酸化されてエネルギーを回収することができ、又は、膜分離プロセスを経て合成ガス(H2+CO)を取得することができる。
【0044】
原料として使用されるバイオマスは、任意のリグノセルロース物質、サトウキビバガスから酸加水分解プロセスにより取得されたリグニン、任意の脂肪質、任意のタンパク性物質又は上記物質の2種以上の混合物でさえあってもよい。
【0045】
図1に示すように、提案された液化プロセスの概略図は、液化反応器(4)に供給される置換水、置換触媒及びバイオマスからなる流れ(1)、(2)及び(3)を含む。
【0046】
変換後、生成物は、気体流(6)、固体流(7)、水性流(8)及び油性(バイオ原油)流(9)を分離する分離器(5)に送られる。
【0047】
図1は、流れ(6)が必要に応じて反応器にリサイクルされて還元性雰囲気を維持することができることも示す。
図1に示されない別のオプションは、流れ(6)が、膜分離プロセスを経て他の用途の合成ガスを取得することができるという事実を示し、別の発明の態様では、流れ(6)は、完全に酸化されることにより、エネルギー生成に使用することができる。
【0048】
図1は、触媒を再利用し、水溶性含酸素化合物を反応ネットワークに再挿入するためにリサイクルされる流れ(8)(流れ10)を更に示す。
【0049】
図1に概説される別の点は、従来の石油精製プロセス又はバイオ原油の品質を向上させることを目的とする処理への流れ(9)の誘導である。
【0050】
また、流れ(7)は、ボイラーに導かれてプロセス用のエネルギーを生成してもよく、吸着剤の生成用の原料でさえあってもよい。
【0051】
したがって、本発明は、高含水量バイオマスから粗製バイオオイルを製造するプロセスに関し、該プロセスは、以下のステップa~eを含む。
a.水と残渣リグノセルロースバイオマスを混合して、5重量%~20重量%の乾燥バイオマスを含む混合物を形成し、触媒を、乾燥バイオマスに対してその濃度が1~10%m/mになるように加えることにより、プロセス供給原料を調製する。
b.(a)で調製された混合物を、900~1300psig(6.205~8.963MPa)の圧力で250~300℃の範囲の温度に加熱することにより、水熱液化(HTL)する。
c.反応が完了した後、混合物を冷却する。
d.形成された生成物を、気体流、固体流、油性流、及び触媒を含む水性流を分離する分離器に送る。
e.触媒を再利用し、含酸素化合物を反応媒体に再び組み込むために、(d)で分離された水性流をプロセスの開始にリサイクルする。
【0052】
第1の態様では、置換水、触媒及びバイオマスの流は、液化反応器に供給される。
【0053】
第2の態様では、ステップ(d)で取得された油性流は、バイオオイルからなる。
【0054】
第3の態様では、ステップ(d)で取得された気体流は、必要に応じて反応器にリサイクルされて還元性雰囲気を維持することができ、又は、膜分離プロセスを経て合成ガスを取得することができる。
【0055】
第4の態様では、ステップ(d)で取得された気体流は、完全に酸化されることにより、エネルギーを生成することができる。
【0056】
第5の態様では、ステップ(d)で取得された水性流は、触媒を再利用し、水溶性含酸素化合物を反応媒体に再挿入するためにリサイクルされる。
【0057】
第6の態様では、ステップ(d)で取得された油性流は、従来の石油精製ユニットによる処理、又はバイオ原油の品質を向上させるための専用のユニットに導かれる。
【0058】
第7の態様では、ステップ(d)で取得された固体流は、プロセス又は吸着剤の製造用のエネルギーを生成するためにボイラーに導くことができる。
【0059】
追加の態様では、ステップ(a)で説明されたバイオマス+水混合物中のバイオマスの含有量は、5~20%m/mである。
【0060】
第2の追加の態様では、上記プロセスは、バイオ原油(又はバイオオイル)と呼ばれる、再生可能な分子が豊富な油性液体流を生成し、このバイオ原油は、バイオマス変換の熱化学プロセスにおいて生成されるバイオ原油と比較して、酸素含有量がより低く、水の割合がより低く、酸性度がより低い。
【0061】
第3の追加の態様では、上記プロセスは、ステップ(d)及び(e)における触媒の回収及びリサイクルのステップを含む。
【0062】
第4の追加の態様では、バイオマスは、任意のセルロース系物質のバイオマス、サトウキビバガスから酸加水分解プロセスにより取得されたリグニン、任意の脂肪質、任意のタンパク性物質又は上記物質の2種以上の混合物からなる群から選択される。
【0063】
上記プロセスにおいて、使用される触媒は、均一系触媒であり、主にカリウムからなる。上記触媒は、バイオマスの総重量に対して1%~10%w/wの濃度で使用される。
【0064】
更に、上記プロセスに関して、このプロセスは、触媒及びいくつかの含酸素生成物を含む生成された水性画分をリサイクルすることにより実行され、それにより、プロセスのための水の置換の必要性を最小限に抑え、含酸素化合物を反応媒体に取り込むと同時に、触媒活性を維持するため、バイオオイルの収率を向上させることに留意されたい。
【0065】
更に別の発明の変形例では、バイオマス流の水熱液化用の触媒は、ヒマシ油の製造からの残渣をボイラーで焼成することにより取得される。焼成は600℃で実行され、使用されるヒマシ油の製造残渣は、トウゴマの外皮(外果皮+中果皮)である。
【0066】
この変形例では、触媒は、固体で、取り扱いやすく、毒性がなく、生成コストが低く、再利用可能で、アルカリ金属の含有量が高く(>50%)、水溶性が高く、高い水溶性により、触媒を再利用することができ、形成された水性画分全体をプロセスにおいてリサイクルすることができ、触媒を反応媒体に再挿入することに加えて、水性画分中の可溶性含酸素生成物を反応媒体に再び組み込むことにより、水の消費量を大幅に減少させ、バイオオイルの収率を向上させることに留意する価値がある。
【0067】
最後の発明の変形例では、バイオマス流の水熱液化用の触媒は、液化率が85%より大きく、油流の収率が40%より大きい触媒として定義され、上記プロセスにおいて、無触媒プロセスと比較して、バイオオイルの収率は少なくとも30%向上する。
【実施例】
【0068】
実施例A
液化実験を実行するために、温度制御を備えたオートクレーブ反応器を使用した。バイオマスの含水量を測定し、乾燥基準で約10gのこの物質を反応器に加えた。水の量は、バイオマスに既に存在する水を考慮して計算した。水とバイオマスを投入した後、反応器を閉じて窒素でパージした。
【0069】
次に、この反応器を100バール(10MPa)で1時間加圧して、気密性をチェックした。このステップの後、反応器を所望の温度に加熱した。試験温度に達した瞬間から滞留時間を数えた。反応時間が経過した後、加熱を停止し、系を迅速に冷却するために全ての断熱材を取り外した。バイオオイル(BO)と炭化した物の変換率(X)(液化度)と収率(Y)は、以下の式に従って計算する。
【数1】
上記式中、Mは、物質の重量である。
【0070】
無触媒水熱液化
無触媒水熱液化試験は、300℃で、0分間の滞留時間で実施した。この系の加熱ランプ時間は、60分間であった。第1の試験の後、水性画分を分離し、第2の試験に再利用した。第3の試験でも同じ手順を実行した。
【0071】
表1において、第1の試験では、80%に近い変換率が達成され、バイオオイルの収率が約27%であることに留意されたい。しかしながら、水性画分の再利用により、変換率は約60%のレベルまで大幅に低下し、これは、炭化した物の収率が1回目の再利用で20%、2回目の再利用で40%に増加することを意味する。このような効果は、水性画分に有機酸が存在し、炭化した物の形成を触媒できることに起因する。しかしながら、バイオオイルの収率は、水性流のリサイクルの影響を受けず、27%で安定していることに留意されたい。
【0072】
【0073】
実施例B
実施例Bでは、トウゴマの実の外皮から調製した触媒を乾燥基準でバイオマスの5%m/mの割合で使用することを除いて、実施例Aに詳述した同じ手順を使用した。
【0074】
触媒は、600℃で6時間の空気流中で、トウゴマの実の外皮(7%の無機物含有量)を焼成することにより生成した。得られた生成物は、X線蛍光技術により取得した下記表の組成を示した。
【0075】
【0076】
表3において、触媒の使用により、初期変換率は、90%を超える値に達し、バイオオイルの収率は、36%に達することに留意されたい。これらの値は、無触媒系(実施例A)で観察された値よりも高く、この反応における触媒の役割を示す。
【0077】
水性画分の再利用により、バイオオイルの収率は、43%に増加し、その後45%より大きい値に増加する。バイオオイルの収率のこの増加は、触媒効果が維持され、水性流がリサイクルされるときに含酸素生成物が再び組み込まれることを示す。また、炭化した物の形成の触媒作用に対する水性画分に存在する有機酸の可能な影響が軽減され、これは、変換率のわずかな低下により証明される。
【0078】
【0079】
初期試験の後、触媒化合物が固体残渣に濃縮されるかどうかを確認するために、生成された固体画分(炭化した物)を焼成し、得られた無機残渣に対してX線回折分析を行った。
図2から、触媒の回折パターンは、触媒の存在下で、反応で形成された炭化した物に存在する無機化合物から観察された回折パターンとは大幅に異なることがわかる。一方、炭化した物に存在する無機物の回折パターンは、サトウキビバガスに存在する無機物で取得された回折パターンと非常に似ている。この観察から、炭化した物に存在する無機物が、試験で使用した触媒からではなく、バガスからのものであるという結論が導かれる。結果は、水性流のリサイクルが触媒の反応媒体への戻りを促進するという観察を実証する。
【0080】
実施例C
実施例Cでは、実施例Bで詳述した同じ手順を使用したが、炭酸カリウムPAを触媒として使用した。表4は、トウゴマの実の外皮を焼成することにより調製した触媒で得られた生成物と同様の結果を示す。結果は、実施例A及びBと比較する必要がある。
【0081】
【0082】
表5は、実施例A、B及びCで得た結果をまとめる。無触媒プロセスは、バイオオイルの収率が最も低く、リグノセルロース原料の変換率が低いプロセスであることに留意されたい。更に、このプロセスにおいて、水性画分の再利用により、バイオオイルの収率を安定するレベルに維持することができるが、変換率が大幅に減少し、同時に固体生成物(炭化した物)の収率が増加する。
【0083】
調製した触媒を使用すると、バイオオイルの収率が大幅に増加することが留意され、また、水相のリサイクルにより、系に触媒及び有機化合物を同時に再導入することができるため、バイオオイルの収率は初期に観察されたものと比較して依然として高い。
【0084】
同じプロセス戦略を使用するが、従来の触媒を使用すると、調製した触媒で得られる結果と非常に似た結果が得られる。しかしながら、この触媒は、実施例Bに示される触媒と異なり、リグノセルロース残渣から調製した高純度試薬であることに留意する価値がある。
【0085】
このようにして、提案されたプロセス戦略とともに上記触媒を使用することの利点は明らかであり、この利点は、より低い触媒コスト及びより低い投入物の消費量でバイオオイルの高収率を促進することができる。
【0086】
【0087】
本発明は、図面及び実施例に関連して説明されたが、特定の状況に応じて、本明細書で定義される本発明の範囲内にある限りにおいて、当業者による修正及び変更を受けることができることに留意されたい。
【国際調査報告】