(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-01
(54)【発明の名称】CD3およびBCMAに対する抗体およびそれらから作製した二重特異性結合タンパク質
(51)【国際特許分類】
C07K 16/28 20060101AFI20230125BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20230125BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20230125BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230125BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20230125BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20230125BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230125BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230125BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20230125BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
C07K16/46
C12N15/62 Z
A61P35/00
A61P35/02
A61K47/68
A61K39/395 G
A61K39/395 U
A61P43/00 107
C12N15/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022530837
(86)(22)【出願日】2020-11-26
(85)【翻訳文提出日】2022-07-25
(86)【国際出願番号】 CN2020131767
(87)【国際公開番号】W WO2021104371
(87)【国際公開日】2021-06-03
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2019/120991
(32)【優先日】2019-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2020/111796
(32)【優先日】2020-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】520428270
【氏名又は名称】シャンハイ エピムアブ バイオセラピューティクス カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】ウー、チョンビン
(72)【発明者】
【氏名】ウー、タンチン
(72)【発明者】
【氏名】ホアン、リニ
(72)【発明者】
【氏名】チャン、アミン
(72)【発明者】
【氏名】ショアイ、チョンロン
(72)【発明者】
【氏名】チャン、ルイ
(72)【発明者】
【氏名】コン、シヨン
(72)【発明者】
【氏名】ウー、シュアン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE59
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4C085BB12
4C085BB41
4C085BB50
4C085CC02
4C085CC05
4C085DD63
4C085DD88
4C085GG01
4C085GG02
4C085GG03
4C085GG04
4C085GG05
4C085GG08
4C085GG10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
CD3およびB細胞成熟因子タンパク質(BCMA)を認識する高親和性抗体が提供される。ヒト化抗CD3抗体および抗BCMA抗体に由来する結合部位は、結合親和性の有意な損失なくFabs-in-Tandem免疫グロブリン形式に組み込まれ、生じた二重特異性多価結合タンパク質はCD3とBCMAの両方に同時に結合し得る。このような抗体、その抗原結合部分、および二重特異性FIT-Ig結合タンパク質は、癌の治療に有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のようなCDRセット:
【表1】
の群から選択されるCDR-H1、CDR-H2、CDR-H3、CDR-L1、CDR-L2、およびCDR-L3の6つのCDRのセットを含んでなる、抗CD3抗体またはその抗原結合部分。
【請求項2】
以下のVH/VL対:
【表2】
から選択されるアミノ酸配列を有するVHドメインおよびVLドメインを含んでなる、請求項1に記載の抗CD3抗体またはその抗原結合部分。
【請求項3】
請求項1または2に記載の少なくとも1種類の抗CD3抗体またはその抗原結合フラグメント、および薬学上許容可能な担体を含んでなる、医薬組成物。
【請求項4】
CD3媒介活性および/またはBCMA媒介活性が有害である疾患または障害を治療するための薬剤の製造のための、請求項1または2に記載の抗CD3抗体またはその抗原結合部分の使用。
【請求項5】
前記疾患が癌であり、場合により、多発性骨髄腫、黒色腫(例えば、転移性悪性黒色腫)、腎臓癌(例えば、明細胞癌)、前立腺癌(例えば、ホルモン不応性前立腺腺癌)、膵臓腺癌、乳癌、結腸癌、肺癌(例えば、非小細胞肺癌)、食道癌、頭頸部扁平上皮癌、肝臓癌、卵巣癌、子宮頸癌、甲状腺癌、膠芽腫、神経膠腫、白血病、リンパ腫、および原発骨癌(例えば、骨肉腫、ユーイング肉腫、悪性線維性組織球腫、または軟骨肉腫)から選択される、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
第1、第2および第3のポリペプチド鎖を含んでなる、CD3とBCMAの両方に結合し得る結合タンパク質、またはそのFIT-Fabフラグメントであって、
前記第1のポリペプチド鎖は、アミノ末端からカルボキシル末端へ向けて、(i)VL
A-CL-VH
B-CH1-Fc(ここで、CLはVH
Bに直接融合されている)、または(ii)VH
B-CH1-VL
A-CL-Fc(ここで、CH1はVL
Aに直接融合されている)を含んでなり;
前記第2のポリペプチド鎖は、アミノ末端からカルボキシル末端へ向けて、VH
A-CH1を含んでなり;かつ
前記第3のポリペプチド鎖は、アミノ末端からカルボキシル末端へ向けて、VL
B-CLを含んでなり;
VLは軽鎖可変ドメインであり、CLは軽鎖定常ドメインであり、VHは重鎖可変ドメインであり、CH1は重鎖定常ドメインであり、Fcは免疫グロブリンFc領域であり、AはCD3またはBCMAのエピトープであり、かつ、BはCD3またはBCMAのエピトープであり、ただし、AとBは異なる、結合タンパク質またはそのFIT-Fabフラグメント。
【請求項7】
前記VL
AおよびVH
Aが抗原標的CD3またはBCMAの一方に結合する親抗体に由来する可変ドメインであり、かつVL
BおよびVH
Bが前記抗原標的CD3またはBCMAの他方に結合する異なる親抗体に由来する可変ドメインである、請求項6に記載の結合タンパク質またはFIT-Fabフラグメント。
【請求項8】
前記第1のポリペプチド鎖が、アミノ末端からカルボキシル末端へ向けて、VL
CD3-CL-VH
BCMA-CH1-Fc(ここで、CLは、VH
BCMAに直接融合されている)を含んでなり、前記第2のポリペプチド鎖が、アミノ末端からカルボキシル末端へ向けて、VH
CD3-CH1を含んでなり、かつ前記第3のポリペプチド鎖が、アミノ末端からカルボキシル末端へ向けて、VL
BCMA-CLを含んでなるか;
前記第1のポリペプチド鎖が、アミノ末端からカルボキシル末端へ向けて、VL
BCMA-CL-VH
CD3-CH1-Fc(ここで、CLは、VH
CD3に直接融合されている)を含んでなり、前記第2のポリペプチド鎖が、アミノ末端からカルボキシル末端へ向けて、VH
BCMA-CH1を含んでなり、かつ前記第3のポリペプチド鎖が、アミノ末端からカルボキシル末端へ向けて、VL
CD3-CLを含んでなるか;
前記第1のポリペプチド鎖が、アミノ末端からカルボキシル末端へ向けて、VH
BCMA-CH1-VL
CD3-CL-Fc(ここで、CH1は、VL
CD3に直接融合されている)を含んでなり、前記第2のポリペプチド鎖が、アミノ末端からカルボキシル末端へ向けて、VL
BCMA-CLを含んでなり、かつ前記第3のポリペプチド鎖が、アミノ末端からカルボキシル末端へ向けて、VH
CD3-CH1を含んでなるか;または
前記第1のポリペプチド鎖が、アミノ末端からカルボキシル末端へ向けて、VH
CD3-CH1-VL
BCMA-CL-Fc(ここで、CH1は、VL
BCMAに直接融合されている)を含んでなり、前記第2のポリペプチド鎖が、アミノ末端からカルボキシル末端へ向けて、VL
CD3-CLを含んでなり、かつ前記第3のポリペプチド鎖が、アミノ末端からカルボキシル末端へ向けて、VH
BCMA-CH1を含んでなり;
VL
CD3は抗CD3抗体の軽鎖可変ドメインであり、CLは抗体軽鎖定常ドメインであり、VH
CD3は抗CD3抗体の重鎖可変ドメインであり、CH1は抗体第1重鎖定常ドメインであり、VL
BCMAは抗BCMA抗体の軽鎖可変ドメインであり、VH
BCMAは抗BCMA抗体の重鎖可変ドメインであり、かつFcは抗体Fc領域である、
請求項7に記載の結合タンパク質またはFIT-Fabフラグメント。
【請求項9】
前記ドメインVL
CD3-CLが抗CD3親抗体の軽鎖と同じであり、前記ドメインVH
CD3-CH1が抗CD3親抗体の重鎖可変ドメインおよび重鎖第1定常ドメインと同じであり、ドメインVL
BCMA-CLが抗BCMA親抗体の軽鎖と同じであり、かつドメインVH
BCMA-CH1が抗BCMA親抗体の重鎖可変ドメインおよび重鎖第1定常ドメインと同じである、請求項8に記載の結合タンパク質またはFIT-Fabフラグメント。
【請求項10】
前記第1のポリペプチド鎖が配列番号50のアミノ酸配列を含んでなり、前記第2のポリペプチド鎖が配列番号51のアミノ酸配列を含んでなり、かつ前記第3のポリペプチド鎖が配列番号52のアミノ酸配列を含んでなるか;
前記第1のポリペプチド鎖が配列番号53のアミノ酸配列を含んでなり、前記第2のポリペプチド鎖が配列番号54のアミノ酸配列を含んでなり、かつ前記第3のポリペプチド鎖が配列番号55のアミノ酸配列を含んでなるか;
前記第1のポリペプチド鎖が配列番号80のアミノ酸配列を含んでなり、前記第2のポリペプチド鎖が配列番号81のアミノ酸配列を含んでなり、かつ前記第3のポリペプチド鎖が配列番号82のアミノ酸配列を含んでなるか;
前記第1のポリペプチド鎖が配列番号83のアミノ酸配列を含んでなり、前記第2のポリペプチド鎖が配列番号84のアミノ酸配列を含んでなり、かつ前記第3のポリペプチド鎖が配列番号85のアミノ酸配列を含んでなるか;または
前記第1のポリペプチド鎖が配列番号86のアミノ酸配列を含んでなり、前記第2のポリペプチド鎖が配列番号87のアミノ酸配列を含んでなり、かつ前記第3のポリペプチド鎖が配列番号88のアミノ酸配列を含んでなる、
請求項6に記載の結合タンパク質またはFIT-Fabフラグメント。
【請求項11】
請求項6~10のいずれか一項に記載の少なくとも1種類の結合タンパク質またはFIT-Fabフラグメント、および薬学上許容可能な担体を含んでなる、医薬組成物。
【請求項12】
CD3媒介活性および/またはBCMA媒介活性が有害である疾患または障害を治療するための薬剤の製造のための、請求項6~10のいずれか一項に記載の結合タンパク質またはFIT-Fabフラグメントの使用。
【請求項13】
前記疾患が癌であり、場合により、多発性骨髄腫、黒色腫(例えば、転移性悪性黒色腫)、腎臓癌(例えば、明細胞癌)、前立腺癌(例えば、ホルモン不応性前立腺腺癌)、膵臓腺癌、乳癌、結腸癌、肺癌(例えば、非小細胞肺癌)、食道癌、頭頸部扁平上皮癌、肝臓癌、卵巣癌、子宮頸癌、甲状腺癌、膠芽腫、神経膠腫、白血病、リンパ腫、および原発骨癌(例えば、骨肉腫、ユーイング肉腫、悪性線維性組織球腫、または軟骨肉腫)から選択される、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
CD3媒介活性および/またはBCMA媒介活性が有害である障害を治療する方法であって、それを必要とする対象に有効量の請求項6~10のいずれか一項に記載の結合タンパク質またはFIT-Fabフラグメントまたはその組合せを投与することを含んでなる、方法。
【請求項15】
前記疾患が癌であり、場合により、多発性骨髄腫、黒色腫(例えば、転移性悪性黒色腫)、腎臓癌(例えば、明細胞癌)、前立腺癌(例えば、ホルモン不応性前立腺腺癌)、膵臓腺癌、乳癌、結腸癌、肺癌(例えば、非小細胞肺癌)、食道癌、頭頸部扁平上皮癌、肝臓癌、卵巣癌、子宮頸癌、甲状腺癌、膠芽腫、神経膠腫、白血病、リンパ腫、および原発骨癌(例えば、骨肉腫、ユーイング肉腫、悪性線維性組織球腫、または軟骨肉腫)から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記対象がヒトである、請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
以下のようなCDRセット:
【表3】
の群から選択されるCDR-H1、CDR-H2、CDR-H3、CDR-L1、CDR-L2、およびCDR-L3の6つのCDRのセットを含んでなる、抗BCMA抗体またはその抗原結合部分。
【請求項18】
以下のVH/VL対:
【表4】
から選択されるアミノ酸配列を有するVHドメインおよびVLドメインを含んでなる、請求項17に記載の抗BCMA抗体またはその抗原結合部分。
【請求項19】
請求項17または18に記載の少なくとも1種類の抗BCMA抗体またはその抗原結合フラグメント、および薬学上許容可能な担体を含んでなる、医薬組成物。
【請求項20】
CD3媒介活性および/またはBCMA媒介活性が有害である疾患または障害を治療するための薬剤の製造のための、請求項17または18に記載の抗CD3抗体またはその抗原結合部分の使用。
【請求項21】
前記疾患が癌であり、場合により、多発性骨髄腫、黒色腫(例えば、転移性悪性黒色腫)、腎臓癌(例えば、明細胞癌)、前立腺癌(例えば、ホルモン不応性前立腺腺癌)、膵臓腺癌、乳癌、結腸癌、肺癌(例えば、非小細胞肺癌)、食道癌、頭頸部扁平上皮癌、肝臓癌、卵巣癌、子宮頸癌、甲状腺癌、膠芽腫、神経膠腫、白血病、リンパ腫、および原発骨癌(例えば、骨肉腫、ユーイング肉腫、悪性線維性組織球腫、または軟骨肉腫)から選択される、請求項20に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CD3を認識する新規抗体、B細胞成熟抗原(B Cell Maturation Antigen)(BCMA)を認識する新規抗体、ならびにそれらの抗体を用いて作製したFIT-Ig結合タンパク質およびMAT-Fab結合タンパク質などの二重特異性BCMA/CD3結合タンパク質に関する。抗体および二重特異性結合タンパク質は、免疫疾患および血液癌の治療に有用である。
【背景技術】
【0002】
分化抗原群3(Cluster of Differentiation 3)(CD3)
T細胞受容体(TCR)は、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)によって提示される抗原(Ags)に結合し、T細胞機能において重要な役割を果たす。しかしながら、TCR自体は細胞内シグナル伝達を行わない。代わりに、TCRは、分化抗原群3(CD3)複合体と非共有結合的に会合し、CD3の免疫受容体チロシン活性化モチーフ(immunoreceptor tyrosine-based activation motifs)(ITAM)を介して細胞内シグナル伝達を誘発する。CD3 T細胞共受容体は、細胞傷害性T細胞(CD8+ナイーブT細胞)とTヘルパー細胞(CD4+ナイーブT細胞)の両方を活性化する助けをする。それはタンパク質複合体からなり、4つの異なる鎖で構成されている。哺乳動物では、この複合体はCD3γ鎖、CD3δ鎖、および2つのCD3ε鎖を含む。これらの鎖は、T細胞受容体(TCR)およびCD3δ鎖(ゼータ鎖)と会合して、Tリンパ球に活性化シグナルを生成する。TCR、ζ鎖、およびCD3γ、δ、およびε鎖は一緒に、TCR複合体を構成する。そして、CD3の4鎖複体は、1:1:1の化学量論でCD3εγ、CD3εδ、およびζζ二量体を形成する。
【0003】
CD3は、最初は前胸腺細胞の細胞質で発現し、前胸腺細胞は、T細胞が胸腺で発生する幹細胞である。前胸腺細胞は、一般的な胸腺細胞に分化し、次に髄質胸腺細胞に分化するが、CD3抗原が細胞膜に移動し始めるにはこの後者の段階である。抗原は、総ての成熟T細胞の膜に結合して認められ、実質的に他の細胞種には存在しないが、プルキンエ細胞には少量存在していると思われる。
【0004】
この高い特異性は、T細胞発達の総ての段階にCD3が存在することと相まって、これを組織切片におけるT細胞の有用な免疫組織化学的マーカーとする。抗原は、ほとんど総てのT細胞リンパ腫および白血病に存在し続けるため、表面的に類似したB細胞および骨髄性腫瘍とそれらを区別するために使用することができる。CD3ε鎖に対するいくつかの抗体は、おそらくT細胞上でのCD3複合体のクラスター化によって、TCR-CD3複合体を活性化することが示されている。さらに、CD3と腫瘍特異的抗原の両方を標的とする二重特異性抗体が、T細胞による腫瘍根絶のリダイレクトのために研究されている。CD3はT細胞の活性化に必要であるため、CD3を標的とする薬物(多くの場合、モノクローナル抗体)が、1型糖尿病およびその他の自己免疫疾患に対する免疫抑制療法(例えば、オテリキシズマブ)として検討されている。
【0005】
B細胞成熟抗原(BCMA)
B細胞成熟抗原(BCMA、TNFRSF17、CD269)は、TNF受容体スーパーファミリーのメンバーである。BCMA発現はB細胞系列に限定されており、主として形質細胞と形質芽細胞で発現し、ナイーブB細胞には存在しない。BCMAは、2つのリガンド、増殖誘導リガンド(APRIL、TNFSF13、TALL-2、CD256)およびB細胞活性化因子(BAFF、BLYS、TNFSF13B、TALL-1、CD257)に結合する。BCMAは、APRILに対してBAFFよりも高い結合親和性を有する。多発性骨髄腫(MM)細胞は、高レベルのBCMAを発現する。リガンドブロッキング活性を備えたBCMA標的抗体は、裸のIgGとしても、薬物複合体としても、MM細胞の細胞毒性を促進する可能性がある。後期成熟B細胞でのBCMAの制限された発現によってもまた、これはキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T細胞)の理想的な補助標的となり、CAR-T細胞は、改変されたT細胞特定の細胞タンパク質に標的化するためにキメラ抗原受容体を発現するように遺伝的に操作されたT細胞である。CAR-T細胞は、B細胞癌に対して有望な免疫療法を提供するが、それらの作用機序は十分に理解されておらず、CAR-T細胞療法の副作用は、多くの場合、重度であり、サイトカイン放出症候群(サイトカインストーム)および神経毒性を含む。
【0006】
CD3およびBCMAの役割を理解することもまた、二重特異性T細胞リダイレクト抗体として知られる関連の免疫療法に至った。CD3とBCMAの両方を標的とする二重特異性抗体は、リダイレクトされたT細胞細胞傷害性(RTCC)による多発性骨髄腫の治療に有用であろう。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、CD3に高い親和性で結合する新規抗体およびBCMAに高い親和性で結合する新規抗体を提供する。本発明はまた、CD3とBCMAの両方と反応性があるBCMA/CD3二重特異性Fabs-in-Tandem免疫グロブリン(FIT-Ig)を提供する。本発明はまた、CD3とBCMAの両方と反応性があるBCMA/CD3二重特異性一価非対称タンデムFab抗体(MAT-Fab)を提供する。本発明の抗体および二重特異性結合タンパク質は、TCR-CD3複合体を活性化することができる。本明細書に記載される二重特異性多価結合タンパク質は、リダイレクトされたT細胞細胞傷害性による多発性骨髄腫(MM)細胞の治療に相乗作用的な組合せ効果を提供するために、CMA/CD3、二重特異性阻害剤として有用である。
【0008】
本発明はまた、本明細書に記載される抗CD3抗体、抗BCMA抗体およびBCMA/CD3二重特異性結合タンパク質を作製および使用する方法、ならびにサンプルにおいてCD3および/もしくはBCMAを検出する方法または個体においてCD3活性および/またはBCMA活性に関連する障害を治療もしくは予防する方法において使用され得る種々の組成物を作製する方法を提供する。
【0009】
さらなる実施形態において、本発明は、第1、第2、および第3のポリペプチド鎖を含んでなり、
前記第1のポリペプチド鎖は、アミノ末端からカルボキシル末端へ向けて、(i)VLA-CL-VHB-CH1-Fc(ここで、CLは、VHBに直接融合されている)、または(ii)VHB-CH1-VLA-CL-Fc(ここで、CH1は、VLAに直接融合されている)を含んでなり;
前記第2のポリペプチド鎖は、アミノ末端からカルボキシル末端へ向けて、VHA-CH1を含んでなり;かつ
前記第3のポリペプチド鎖は、アミノ末端からカルボキシル末端へ向けて、VLB-CLを含んでなり;
VLは軽鎖可変ドメインであり、CLは軽鎖定常ドメインであり、VHは重鎖可変ドメインであり、CH1は重鎖定常ドメインであり、Fcは免疫グロブリンFc領域であり、AはCD3またはBCMAのエピトープであり、かつBはCD3またはBCMAのエピトープであり、ただし、AとBは異なる、二重特異性Fabs-in-Tandem免疫グロブリン(FIT-Ig)結合タンパク質を提供する。本発明においては、このようなFIT-Ig結合タンパク質は、CD3とBCMAの両方に結合する。
【0010】
1つのさらなる実施形態において、このようなFIT-Ig結合タンパク質のFabフラグメントには、抗原標的CD3またはBCMAの一方に結合する親抗体に由来するVLAドメインおよびVHAドメインが組み込まれ、かつ抗原標的CD3およびBCMAの他方に結合する異なる親抗体に由来するVLBドメインおよびVHBドメインが組み込まれている。よって、第1の第2および第3のポリペプチド鎖のVHA-CH1/VLA-CLおよびVHB-CH1/VLB-CLのペアリングから、CD3およびBCMAを認識するタンデムFab部分が得られる。
【0011】
本発明においては、BCMA/CD3 FIT-Ig結合タンパク質は有利には、第1、第2、および第3のポリペプチド鎖を含んでなり、前記第1のポリペプチド鎖は、アミノ末端からカルボキシル末端へ向けて、VLCD3-CL-VHBCMA-CH1-Fc(ここで、CLは、VHBCMAに直接融合されている)を含んでなり、前記第2のポリペプチド鎖は、アミノ末端からカルボキシル末端へ向けて、VHCD3-CH1を含んでなり;かつ前記第3のポリペプチド鎖は、アミノ末端からカルボキシル末端へ向けて、VLBCMA-CLを含んでなり;VLCD3は抗CD3抗体の軽鎖可変ドメインであり、CLは軽鎖定常ドメインであり、VHCD3は抗CD3抗体の重鎖可変ドメインであり、CH1は重鎖定常ドメインであり、VLBCMAは抗BCMA抗体の軽鎖可変ドメインであり、VHBCMAは抗BCMA抗体の重鎖可変ドメインであり、かつFcは免疫グロブリンFc領域である。有利には、第1のポリペプチド鎖において、ドメインVLCD3-CLは抗CD3親抗体の軽鎖と同じであり、ドメインVHCD3-CH1は抗CD3親抗体の重鎖可変ドメインおよび重鎖定常ドメインと同じであり、ドメインVLBCMA-CLは抗BCMA親抗体の軽鎖と同じであり、かつドメインVHBCMA-CH1は抗BCMA親抗体の重鎖可変ドメインおよび重鎖定常ドメインと同じである。
【0012】
別の実施形態において、BCMA/CD3 FIT-Ig結合タンパク質は、有利には第1、第2、および第3のポリペプチド鎖を含んでなってよく、前記第1のポリペプチド鎖は、アミノ末端からカルボキシル末端へ向けて、VLBCMA-CL-VHCD3-CH1-Fc(ここで、CLは、VHCD3に直接融合されている)を含んでなり、前記第2のポリペプチド鎖は、アミノ末端からカルボキシル末端へ向けて、VHBCMA-CH1を含んでなり;かつ前記第3のポリペプチド鎖は、アミノ末端からカルボキシル末端へ向けて、VLCD3-CLを含んでなり;VLCD3は抗CD3抗体の軽鎖可変ドメインであり、CLは軽鎖定常ドメインであり、VHCD3は抗CD3抗体の重鎖可変ドメインであり、CH1は重鎖定常ドメインであり、VLBCMAは抗BCMA抗体の軽鎖可変ドメインであり、VHBCMAは抗BCMA抗体の重鎖可変ドメインであり、かつFcは免疫グロブリンFc領域である。有利には、第1のポリペプチド鎖において、ドメインVLBCMA-CLは抗BCMA親抗体の軽鎖と同じであり、ドメインVHBCMA-CH1は抗BCMA親抗体の重鎖可変および重鎖定常ドメインと同じであり、ドメインVLCD3-CLは抗CD3親抗体の軽鎖と同じであり、かつドメインVHCD3-CH1は抗CD3親抗体の重鎖可変ドメインおよび重鎖定常ドメインと同じである。
【0013】
別の実施形態において、BCMA/CD3 FIT-Ig結合タンパク質は、有利には第1、第2、および第3のポリペプチド鎖を含んでなってよく、前記第1のポリペプチド鎖は、アミノ末端からカルボキシル末端へ向けて、VHBCMA-CH1-VLCD3-CL-Fc(ここで、CH1は、VLCD3に直接融合されている)を含んでなり、前記第2のポリペプチド鎖は、アミノ末端からカルボキシル末端へ向けて、VLBCMA-CLを含んでなり;かつ前記第3のポリペプチド鎖は、アミノ末端からカルボキシル末端へ向けて、VHCD3-CH1を含んでなり;VLCD3は抗CD3抗体の軽鎖可変ドメインであり、CLは軽鎖定常ドメインであり、VHCD3は抗CD3抗体の重鎖可変ドメインであり、CH1は重鎖定常ドメインであり、VLBCMAは抗BCMA抗体の軽鎖可変ドメインであり、VHBCMAは抗BCMA抗体の重鎖可変ドメインであり、かつFcは免疫グロブリンFc領域である。有利には、第1のポリペプチド鎖において、ドメインVLBCMA-CLは抗BCMA親抗体の軽鎖と同じであり、ドメインVHBCMA-CH1は抗BCMA親抗体の重鎖可変ドメインおよび重鎖定常ドメインと同じであり、ドメインVLCD3-CLは抗CD3親抗体の軽鎖と同じであり、かつドメインVHCD3-CH1は抗CD3親抗体の重鎖可変ドメインおよび重鎖定常ドメインと同じである。
【0014】
別の実施形態において、BCMA/CD3 FIT-Ig結合タンパク質は、有利には第1、第2、および第3のポリペプチド鎖を含んでなってよく、前記第1のポリペプチド鎖は、アミノ末端からカルボキシル末端へ向けて、VHCD3-CH1-VLBCMA-CL-Fc(ここで、CH1は、VLBCMAに直接融合されている)を含んでなり、前記第2のポリペプチド鎖は、アミノ末端からカルボキシル末端へ向けて、VLCD3-CLを含んでなり;かつ前記第3のポリペプチド鎖は、アミノ末端からカルボキシル末端へ向けて、VHBCMA-CH1を含んでなり;VLCD3は抗CD3抗体の軽鎖可変ドメインであり、CLは軽鎖定常ドメインであり、VHCD3は抗CD3抗体の重鎖可変ドメインであり、CH1は重鎖定常ドメインであり、VLBCMAは抗BCMA抗体の軽鎖可変ドメインであり、VHBCMAは抗BCMA抗体の重鎖可変ドメインであり、かつFcは免疫グロブリンFc領域である。有利には、第1のポリペプチド鎖において、ドメインVLBCMA-CLは抗BCMA親抗体の軽鎖と同じであり、ドメインVHBCMA-CH1は抗BCMA親抗体の重鎖可変ドメインおよび重鎖定常ドメインと同じであり、ドメインVLCD3-CLは抗CD3親抗体の軽鎖と同じであり、かつドメインVHCD3-CH1は抗CD3親抗体の重鎖可変ドメインおよび重鎖定常ドメインと同じである。
【0015】
FIT-Ig結合タンパク質の第1のポリペプチド鎖に関する上式において、Fc領域は、天然または変異型Fc領域であり得る。特定の実施形態において、Fc領域は、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、IgM、IgE、またはIgDに由来するヒトFc領域である。特定の実施形態において、Fcは、以下に示されるものなどの、IgG1に由来するヒトFcである。
【0016】
【0017】
本発明のある実施形態において、本発明のFIT-Ig結合タンパク質は、それからFabフラグメントの配列が利用されFIT-Ig構造に組み込まれた親抗体の1以上の特性を保持する。1つのさらなる実施形態において、FIT-Igは、標的抗原(すなわち、CD3およびBCMA)に対して親抗体の結合親和性に匹敵する結合親和性を保持すると思われ、このことは、CD3およびBCMA抗原標的に対するFIT-Ig結合タンパク質の結合親和性に、表面プラズモン共鳴またはバイオレイヤー干渉法によって測定した場合、それらの個々の標的抗原に対する親抗体の結合親和性と比較して、10倍を超える違いは無いことを意味する。
【0018】
1つの実施形態において、本発明のBCMA/CD3 FIT-Ig結合タンパク質はCD3およびBCMAと結合し、配列番号50のアミノ酸配列を含んでなる、から本質的になる、またはからなる第1のポリペプチド鎖;配列番号51のアミノ酸配列を含んでなる、から本質的になる、またはからなる第2のポリペプチド鎖;および配列番号52のアミノ酸配列を含んでなる、から本質的になる、またはからなる第3のポリペプチド鎖から構成される。
【0019】
別の実施形態において、本発明のBCMA/CD3 FIT-Ig結合タンパク質はCD3およびBCMAと結合し、配列番号53のアミノ酸配列を含んでなる、から本質的になる、またはからなる第1のポリペプチド鎖;配列番号54のアミノ酸配列を含んでなる、から本質的になる、またはからなる第2のポリペプチド鎖;および配列番号55のアミノ酸配列を含んでなる、から本質的になる、またはからなる第3のポリペプチド鎖から構成される。
【0020】
別の実施形態において、本発明のBCMA/CD3 FIT-Ig結合タンパク質はCD3およびBCMAと結合し、配列番号80のアミノ酸配列を含んでなる、から本質的になる、またはからなる第1のポリペプチド鎖;配列番号81のアミノ酸配列を含んでなる、から本質的になる、またはからなる第2のポリペプチド鎖;および配列番号82のアミノ酸配列を含んでなる、から本質的になる、またはからなる第3のポリペプチド鎖から構成される。
【0021】
別の実施形態において、本発明のBCMA/CD3 FIT-Ig結合タンパク質はCD3およびBCMAと結合し、配列番号83のアミノ酸配列を含んでなる、から本質的になる、またはからなる第1のポリペプチド鎖;配列番号84のアミノ酸配列を含んでなる、から本質的になる、またはからなる第2のポリペプチド鎖;および配列番号85のアミノ酸配列を含んでなる、から本質的になる、またはからなる第3のポリペプチド鎖から構成される。
【0022】
別の実施形態において、本発明のBCMA/CD3 FIT-Ig結合タンパク質はCD3およびBCMAと結合し、配列番号86のアミノ酸配列を含んでなる、から本質的になる、またはからなる第1のポリペプチド鎖;配列番号87のアミノ酸配列を含んでなる、から本質的になる、またはからなる第2のポリペプチド鎖;および配列番号88のアミノ酸配列を含んでなる、から本質的になる、またはからなる第3のポリペプチド鎖から構成される。
【0023】
本発明はまた、ヒトCD3と結合し得る新規な抗体を提供し、この抗体の抗原結合ドメインは、以下に定義されるCDRセットの群から選択される6つのCDR、すなわち、CDR-H1、CDR-H2、CDR-H3、CDR-L1、CDR-L2、およびCDR-L3のセットを含んでなる。
【0024】
【0025】
本発明はまた、ヒトBCMAと結合し得る新規な抗体を提供し、この抗体の抗原結合ドメインは、以下に定義されるCDRセットの群から選択される6つのCDR、すなわち、CDR-H1、CDR-H2、CDR-H3、CDR-L1、CDR-L2、およびCDR-L3のセットを含んでなる。
【0026】
【0027】
1つの実施形態において、本発明による結合タンパク質は、2つ以上の抗原結合部位を含んでなる二重特異性多価免疫グロブリン結合タンパク質であり、少なくとも1つの抗原結合部位は、上記のCDRセット1および2から選択されるCDRセットを含んでなり、少なくとも1つの抗原結合部位は、上記のCDRセット3および4から選択されるCDRセットを含んでなる。
【0028】
ある実施形態において、本発明による抗CD3抗体は、VHドメインおよびVLドメインを含んでなり、これら2つの可変ドメインは、以下のVH/VL対から選択されるアミノ酸配列を含んでなる。
【0029】
【0030】
さらなる実施形態において、本発明による抗BCMA抗体は、VHドメインおよびVLドメインを含んでなり、これら2つの可変ドメインは、以下のVH/VL対から選択されるアミノ酸配列を含んでなる。
【0031】
【0032】
別の実施形態において、抗CD3抗体または抗BCMA抗体は、当技術分野で十分に確立された技術によって、同じ標的抗原を認識する誘導体結合タンパク質を作製するために使用可能である。このような誘導体は、例えば、一本鎖抗体(scFv)、Fabフラグメント(Fab)、Fab’フラグメント、F(ab’)2、Fv、およびジスルフィド結合したFvであり得る。
【0033】
免疫グロブリンのFabフラグメントは、抗体結合部位を形成するように共有結合的に会合された2成分から構成される。これらの2成分はそれぞれ可変ドメイン-定常ドメイン鎖(VH-CH1またはVL-CL)であるため、Fabの各V-C鎖は、Fab結合単位の一方の「半分」と記載される場合がある。
【0034】
本発明の別の側面において、本明細書に記載される抗体または二重特異性結合タンパク質は、CD3、BCMA、またはその両方の生物学的機能を調節することができる。別の側面において、本明細書に記載される抗CD3抗体は、CD3シグナル伝達を阻害することができる。別の側面において、本明細書に記載される抗BCMA抗体は、BCMAの、そのリガンドAPRILおよび/またはBAFFとの相互作用を阻害することができ、場合により、本発明による抗BCMA抗体は、BCMAにより媒介される細胞シグナル伝達経路を阻害することができる。
【0035】
ある実施形態において、本明細書に記載される抗CD3抗体またはその抗原結合フラグメントは、表面プラズモン共鳴またはバイオレイヤー干渉法によって測定した場合、ヒトCD3に対する結合速度定数(kon)が少なくとも1×105M-1s-1、例えば、少なくとも3.3×105M-1s-1以上である。
【0036】
別の実施形態において、本明細書に記載される抗CD3抗体またはその抗原結合フラグメントは、表面プラズモン共鳴またはバイオレイヤー干渉法によって測定した場合、ヒトCD3に対する解離速度定数(koff)が5×10-3未満である。
【0037】
別の実施形態において、本明細書に記載される抗CD3抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒトCD3に対する解離定数(KD)が2×10-8M未満、例えば、1.5×10-8M未満である。
【0038】
ある実施形態において、本明細書に記載される抗BCMA抗体またはその抗原結合フラグメントは、表面プラズモン共鳴またはバイオレイヤー干渉法によって測定した場合、ヒトBCMAに対する結合速度定数(kon)が少なくとも4×104M-1s-1、例えば、少なくとも1×105M-1s-1、少なくとも2×105M-1s-1以上である。
【0039】
別の実施形態において、本明細書に記載される抗BCMA抗体またはその抗原結合フラグメントは、表面プラズモン共鳴またはバイオレイヤー干渉法によって測定した場合、ヒトBCMAに対する解離速度定数(koff)が5×10-3s-1未満、1×10-3s-1未満、5×10-4s-1未満、2×10-5s-1未満、または1×10-5s-1未満である。
【0040】
別の実施形態において、本明細書に記載される抗BCMA抗体またはその抗原結合フラグメントは、BCMAに対する解離定数(KD)が2×10-8M未満、1×10-9M未満、または5×10-10M未満である。
【0041】
ある実施形態において、本発明によるCD3およびBCMAと結合し得る二重特異性BCMA/CD3 FIT-Ig結合タンパク質は、表面プラズモン共鳴またはバイオレイヤー干渉法によって測定した場合、ヒトCD3に対する結合速度定数(kon)が少なくとも1×105M-1s-1、例えば、少なくとも2×105M-1s-1、または少なくとも3×105M-1s-1以上であり、同じ結合タンパク質のヒトBCMAに対する結合速度定数(kon)は少なくとも5×104M-1s-1、例えば、少なくとも6×104M-1s-1、または少なくとも8×104M-1s-1以上である。さらなる実施形態において、本明細書に記載されるようにCD3およびBCMAと結合し得る二重特異性BCMA/CD3 FIT-Ig結合タンパク質は、FIT-Ig結合タンパク質のそれぞれ抗CD3および抗BCMA特異性が由来するヒトCD3に対する結合速度定数(kon)が親抗CD3抗体のCD3に対するkonの10倍を超えない低下であり、かつ親抗BCMA抗体のBCMAに対するkonの10倍を超えない低下である。言い換えれば、FIT-Ig結合タンパク質が保持する、各抗原(CD3またはBCMA)に対する結合速度定数は、親抗体の、各CD3抗原またはBCMA抗原との反応性により示される結合速度定数(kon)より高いか、同じか、または1桁未満の低下である。本明細書に開示されるように、BCMA/CD3 FIT-Ig結合タンパク質は抗原に対して、親抗体により示される各抗原に対するkonと比較して一方もしくは両方の抗原に対するkonに改善を示す場合があり、または一方もしくは両方の抗原に対するkonはそれぞれ親抗体により示されるものと実質的に同じであるか、または、FIT-Ig結合タンパク質により示される一方もしくは両方の抗原に対するkonが親抗体と比較して低下している場合には、その低下は10倍を超えない低下であり得る。例えば、FIT-Igの特定の抗原に対するkonの、親抗体のその抗原に対するkonと比較した場合の低下は、50%未満、25%未満の低下である。二重特異性FIT-Igにおいて、親抗体のkonと比較してこのように高いkon値が保持されていることは、当技術分野において驚くべき達成である。
【0042】
ある実施形態において、本発明によるCD3およびBCMAと結合し得る二重特異性FIT-Ig結合タンパク質は、表面プラズモン共鳴またはバイオレイヤー干渉法によって測定した場合、ヒトCD3に対する解離速度定数(koff)が1×10-2s-1未満、8×10-3s-1未満、7×10-3s-1未満、例えば、6×10-3s-1未満であり、同じ結合タンパク質のヒトBCMAに対する解離速度定数(koff)は5×10-5s-1未満、4×10-5s-1未満、3×10-5s-1未満、または5×10-6s-1未満、である。
【0043】
別の実施形態において、本発明によるCD3およびBCMAと結合し得る二重特異性BCMA/CD3 FIT-Ig結合タンパク質は、CD3に対する解離定数(KD)が5×10-8M未満、3×10-8M未満、2×10-8M未満、または1.75×10-8M未満であり、同じ結合タンパク質のヒトBCMAに対する解離定数(KD)は1×10-9M未満、6×10-10M未満、3×10-10M未満、1×10-10M未満、8×10-11M未満、または6×10-11M未満である。さらなる実施形態において、本明細書に記載されるCD3およびBCMAと結合し得る二重特異性FIT-Ig結合タンパク質は、ヒトCD3 に対する解離定数(KD)が、FIT-Ig結合タンパク質のそれぞれ抗CD3および抗BCMA特異性が由来する親抗CD3抗体のCD3に対するKDと10倍を超える違いは無く、親抗BCMA抗体iのBCMAに対するKDと10倍を超える違いは無い。言い換えれば、FIT-Ig結合タンパク質が保持する、解離定数(KD)により示される各抗原(CD3またはBCMA)に対する親抗体の結合親和性は、親抗体の、それぞれCD3抗原またはBCMA抗原との反応性により示されるKDの一桁以内である。
【0044】
本明細書に開示されるように、BCMA/CD3 FIT-Ig結合タンパク質は、親抗体により示される各抗原に対するKDと比較して一方もしくは両方の抗原に対するKDに改善を示す(すなわち、より低いKD値を有する;より強固に結合する)場合があり、または一方もしくは両方の抗原に対するKDは、それぞれ親抗体により示されるものと実施的に同じであるか、またはFIT-Ig結合タンパク質により示される一方もしくは両方の抗原に対するKDは、親抗体のKDと比較して低下を示す(すなわち、より高いKD値を有する、より弱く結合する)場合があるが、FIT-Ig結合タンパク質と親抗体の間でKDに違いがある場合、その違いは10倍以内の違いである。例えば、BCMA/CD3 FIT-Ig結合タンパク質は、一方または両方の抗原に対して、その一方または両方の親抗体により示される各抗原に対するKDと比較してより低いKDを示す(より強固に結合する)。KDにおける親抗CD3抗体および抗BCMA抗体の結合親和性±10倍の保持は、当技術分野において驚くべき達成である。
【0045】
本発明はまた、本明細書に記載されるような少なくとも1種類の抗CD3抗体またはその抗原結合フラグメントおよび薬学上許容可能な担体を含んでなる医薬組成物を提供する。本発明はまた、少なくとも1種類の抗BCMA抗体またはその抗原結合フラグメントおよび薬学上許容可能な担体を含んでなる医薬組成物を提供する。本発明はまた、本明細書に記載されるような抗CD3抗体および抗BCMA抗体またはその抗原結合フラグメントの組合せおよび薬学上許容可能な担体を含んでなる医薬組成物を提供する。本発明はまた、CD3およびBCMAの両方と反応性二重特異性多価免疫グロブリン結合タンパク質を提供し、この結合タンパク質には、本明細書に記載される抗CD3抗体および抗BCMA抗体に由来するVH/VL結合部位が組み込まれている。特に、本発明は、CD3およびBCMAと結合し得る少なくとも1種類のFIT-Ig結合タンパク質または少なくとも1種類のMAT-Fab結合タンパク質と薬学上許容可能な担体を含んでなる医薬組成物を提供する。本発明の医薬組成物は、少なくとも1種類の付加的有効成分をさらに含んでなってもよい。ある実施形態において、このような付加的成分としては、限定するものではないが、治療薬、造影剤、細胞傷害性薬剤、血管新生阻害剤、キナーゼ阻害剤、補助刺激分子遮断薬、接着分子遮断薬、異なる特異性の抗体またはその機能的フラグメント、検出可能な標識またはリポーター;特定のサイトカインに対する作動薬または拮抗薬、麻薬、非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)、鎮痛薬、麻酔薬、鎮静薬、局所麻酔薬、神経筋遮断薬、抗菌薬、コルチコステロイド、アナボリックステロイド、エリスロポエチン、免疫原、免疫抑制薬、成長ホルモン、ホルモン補充薬、放射性医薬品、抗鬱薬、抗精神病薬、刺激薬(例えば、アンフェタミン、カフェインなど)、β作動薬、吸入ステロイド、エピネフリンまたは類似体、サイトカインが挙げられる。
【0046】
別の実施形態において、医薬組成物は、CD3媒介シグナル伝達活性および/またはBCMA媒介シグナル伝達活性が有害である障害を治療するための少なくとも1種類の付加的治療薬をさらに含んでなる。
【0047】
さらなる実施形態において、本発明は、本発明の抗CD3抗体の1以上のアミノ酸配列をコードする単離された核酸またはその抗原結合フラグメント;本発明の抗BCMA抗体の1以上のアミノ酸配列をコードする単離された核酸またはその抗原結合フラグメント;およびCD3とBCMAの両方と結合し得る二重特異性Fabs-in-Tandem免疫グロブリン(FIT-Ig)結合タンパク質の1以上のアミノ酸配列をコードする単離された核酸を提供する。このような核酸は、種々の遺伝学的分析を実施するためまたは本明細書に記載される抗体もしくは結合タンパク質を発現させる、特性評価する、もしくは1以上の特性を改善するためにベクターに挿入され得る。ベクターは、1以上の核酸分子が、ベクターを保有する特定の宿主細胞において抗体または結合タンパク質の発現を可能とする適当な転写配列および/または翻訳配列に機能的に連結されている、本明細書に記載される抗体または結合タンパク質の1以上のアミノ酸配列をコードする1以上の核酸分子を含んでなり得る。本明細書に記載される結合タンパク質のアミノ酸配列をコードする核酸をクローニングするまたは発現させるためのベクターの例としては、限定するものではないが、pcDNA、pTT、pTT3、pEFBOS、pBV、pJV、およびpBJ、およびそれらの誘導体が挙げられる。
【0048】
本発明はまた、本明細書に記載される抗体または結合タンパク質の1以上のアミノ酸配列をコードする核酸を含んでなるベクターを含んでなる宿主細胞を提供する。本発明において有用な宿主細胞は、原核または真核細胞であり得る。例示的原核生物宿主細胞は、大腸菌(Escherichia coli)である。本発明において宿主細胞として有用な真核細胞としては、原生生物細胞、動物細胞、植物細胞、および真菌細胞が挙げられる。例示的真菌細胞は、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)を含む酵母細胞である。本発明による宿主細胞として有用な例示的動物細胞としては、限定するものではないが、哺乳動物細胞、鳥類細胞、および昆虫細胞が挙げられる。例示的哺乳動物細胞としては、限定するものではないが、CHO細胞、HEK細胞、およびCOS細胞が挙げられる。本発明による宿主細胞として有用な昆虫細胞は、昆虫Sf9細胞である。
【0049】
別の側面において、本発明は、抗CD3抗体またはその機能的フラグメントを生産する方法であって、抗体または機能的フラグメントをコードする発現ベクターを含んでなる宿主細胞を、宿主細胞によるCD3と結合し得る抗体またはフラグメントの発現を生じさせるのに十分な条件下、培養培地中で培養することを含んでなる方法を提供する。別の側面において、本発明は、抗BCMA抗体またはその機能的フラグメントを生産する方法であって、抗体または機能的フラグメントをコードする発現ベクターを含んでなる宿主細胞を、宿主細胞によるBCMAと結合し得る抗体またはフラグメントの発現を生じさせるのに十分な条件下、培養培地中で培養することを含んでなる方法を提供する。別の側面において、本発明は、CD3およびBCMAと結合し得る二重特異性多価結合タンパク質、具体的には、FIT-Ig結合タンパク質を生産する方法であって、結合タンパク質をコードする発現ベクターを含んでなる宿主細胞を、宿主細胞によるCD3およびBCMAと結合し得る結合タンパク質の発現を生じさせるのに十分な条件下、培養培地中で培養することを含んでなる方法を提供する。このようにして生産されたタンパク質を単離し、本明細書に記載される種々の組成物および方法において使用することができる。
【0050】
1つの実施形態において、本発明は、必要とする対象において癌を治療するための方法であって、対象に本明細書に記載されるような抗CD3抗体またはそのCD3結合フラグメントを投与することを含んでなる方法を提供し、この抗体または結合フラグメントは、CD3と結合し、CD3発現細胞においてCD3媒介シグナル伝達を阻害することができる。別の実施形態において、本発明は、必要とする対象において癌を治療するための方法であって、対象に本明細書に記載されるような抗BCMA抗体またはそのBCMA結合フラグメントを投与することを含んでなる方法を提供し、この抗体または結合フラグメントは、BCMAと結合し、BCMA発現細胞においてBCMA媒介シグナル伝達を阻害することができる。別の実施形態において、本発明は、必要とする対象において癌を治療するための方法であって、対象に、本明細書に記載されるようなCD3とBCMAの両方に結合し得る二重特異性FIT-Ig結合タンパク質を投与することを含んでなる方法を提供し、この結合タンパク質は、CD3およびBCMAと結合し、CD3発現細胞においてCD3媒介シグナル伝達を阻害し、かつ、BCMA発現細胞においてBCMA媒介シグナル伝達を阻害することができる。
【0051】
別の実施形態において、本発明は、必要とする対象において自己免疫疾患または癌を治療するための方法を提供し、この結合タンパク質はCD3およびBCMAと結合することができ、この自己免疫疾患または癌は、自己免疫疾患または典型的に免疫療法に応答する癌である。別の実施形態において、癌は、免疫療法に関連付けられていない癌である。別の実施形態において、癌は、難治性または再発性の悪性腫瘍である癌である。別の実施形態において、結合タンパク質は、腫瘍細胞の増殖または生存を阻害する。別の実施形態において、癌は、黒色腫(例えば、転移性悪性黒色腫)、腎臓癌(例えば、明細胞癌)、前立腺癌(例えば、ホルモン不応性前立腺腺癌)、膵臓腺癌、乳癌、結腸癌、肺癌(例えば、非小細胞肺癌)、食道癌、頭頸部扁平上皮癌、肝臓癌、卵巣癌、子宮頸癌、甲状腺癌、膠芽腫、神経膠腫、白血病、リンパ腫、およびその他の新生悪性腫瘍からなる群から選択される。
【0052】
本明細書に記載される治療方法は、必要とする対象に、完全または部分的ホスホジエステルまたはホスホロチオエート骨格を含んでなるCpGオリゴデオキシヌクレオチド(CpG ODN)などの免疫刺激性アジュバントを投与することをさらに含んでなり得る。例えば、本発明の治療方法において、本発明の抗体またはFIT-Ig結合タンパク質を含んでなる組成物、および治療を必要とする対象に投与される組成物には、免疫刺激性アジュバントを組み込むことができる。別の実施形態において、本発明の治療方法は、治療を必要とする対象に本明細書に記載される抗体またはFIT-Ig結合タンパク質を投与する工程および対象に本発明の抗体またはFIT-Ig結合タンパク質を投与する工程の前、同時、または後に対象に免疫刺激性アジュバントを投与する別の工程を含んでなり得る。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【
図1】
図1は、マイクロプレート上に固定化されているヒトCD3ε/γヘテロ二量体-Fc融合タンパク質標的に対する試験抗体の結合を示すプロットのコレクションである。新たに単離されたmAbCD3-001およびmAbCD3-002の結合活性を参照抗CD3モノクローナル抗体(「対照α-CD3 mAb」)および陰性対照としての無関係のマウス抗体(「mIgG」)と比較している。
【
図2】
図2は、マイクロプレート上に固定化されているカニクイザルCD3ε/γヘテロ二量体-Fc融合タンパク質標的に対する試験抗体の結合を示すプロットのコレクションである。新たに単離されたmAbCD3-001およびmAbCD3-002の結合活性を参照抗CD3モノクローナル抗体(「対照α-CD3 mAb」)および陰性対照としての無関係のマウス抗体(「mIgG」)と比較している。
【
図3】
図3は、抗CD3抗体mAbCD3-001(本発明)およびOKT3(陽性対照)によってin vitro培養ヒトT細胞の増殖が刺激されたことを示す棒グラフである。
【
図4】
図4は、抗CD3抗体mAbCD3-001(本発明)およびOKT3(陽性対照)によってin vitro培養ヒトT細胞のインターフェロンγ(IFN-g)の分泌が刺激されたことを示す棒グラフである。
【
図5A-5H】
図5A~5Hは、mAbCD3-001の種々のヒト化VH変異体および2つのVK変異体(EM0006-01VK.1またはEM0006-01VK.1A、表2参照)のうちの1つを用いたヒト化抗CD3抗体構築物の結合活性を比較した蛍光プロットである。これらのプロットは、VH変異体がCD3結合活性に重要であること、およびVLの変更はJurkat細胞に対する結合にほとんど効果がなかったことを示す。グラフのパネル5A~5Hでのいくつかのプロットの分類は、中間的親和性および低親和性の結合剤との対比によって、HuEM0006-01-8およびHuEM0006-01-17などの極めて高い親和性のヒト化抗体の識別を可能とした。
【
図6】
図6は、種々の抗BCMA抗体の、BCMA発現腫瘍細胞株NCI-H929においてBCMAリガンドBAFFにより誘導されるNF-κBのリン酸化を阻害する能力を示すグラフである。抗BAFF mAbおよび無関係の抗RAC1マウスIgGをそれぞれ陽性対照および陰性対照として用いた。本明細書に記載される新規抗BCMA抗体mAbBCMA-002およびmAbBCMA-003は、特許文献に記載されている参照抗体(
図6にTAB1およびTAB2と表示)に比べて勝るとも劣らなかった。詳細は以下の実施例3.3を参照のこと。
【
図7】
図7は、種々の抗BCMA抗体の、HEK293トランスフェクトBCMA発現細胞株HEK293F-BCMA-NF-kB-lucにおいてBCMAリガンドBAFFにより誘導されるNF-κBのリン酸化を阻害する能力を示すグラフである。抗BCMA参照抗体TAB1およびTAB2を比較のための陽性対照として用いた。無関係の抗Ro1マウスIgGを対照として用いた。
【
図8】
図8は、抗BCMA抗体の、BCMAトランスフェクトHEK293細胞においてBCMAリガンドAPRIL(TNFSF13)により誘導されるNF-kB-ルシフェラーゼシグナルを阻害する能力を示すグラフである。
【
図9】
図9は、BCMA発現NCI-H929細胞に対するBCMA/CD3二重特異性FIT-Ig Fabフラグメントの結合を示すグラフである。試験した3つのFIT-Fabは同じBCMA結合ドメインを有する。実施例4.1、4.2、および4.3を参照のこと。
【
図10】
図10は、ヒトT細胞受容体複合体を発現するようにトランスフェクトしたCHO細胞(CHOK1/CD3/TCR)に対するBCMA/CD3 FIT-Ig結合タンパク質の結合を示すグラフである(実施例1.1参照)。試験した3つのFIT-Ig結合タンパク質は、3種類の異なるヒト化親抗CD3抗体に由来する異なるCD3結合部位を有する。実施例4.3を参照のこと。
【
図11】
図11は、BCMA/CD3二重特異性FIT-IgsおよびBCMA/CD3 FIT-Fabの、NCI-H929細胞と共培養されたJurkat-NFAT細胞の活性化をリダイレクトする能力を示すグラフである。比較のために単一特異性抗CD3 IgG(HuEM1006-01-24)およびそのFabフラグメント(HuEM1006-01-24-Fab)を試験し、無関係のヒトIgGを陰性対照として用いた。
【
図12】
図12は、BCMA/CD3二重特異性FIT-Fab結合タンパク質の、NCI-H929と共培養されたJurkat-NFAT細胞の活性化をリダイレクトする能力を示すグラフである。抗BCMAモノクローナル抗体と抗CD3モノクローナル抗体の組合せおよび無関係のFab(FIT1002-5a-Fab)を対照として用いた。
【
図13】
図13は、種々のBCMA/CD3二重特異性FIT-Fabの、NCI-H929細胞に対するT細胞細胞傷害性をリダイレクトする能力を示すグラフである。無関係のFIT-Fab(FIT1002-5a-Fab)、抗CD3 Fab mAbと抗BCMA mAbの組合せ(combo)、参照抗BCMA mAb(TAB1)単独、抗CD3 Fab単独(HuEM1006-01-24-Fab)、および無関係のヒトIgGを対照として用いた。
【
図14】
図14は、ヒト化BCMA/CD3 FIT-IgおよびBCMA/CD3 FIT-Fabが、BCMA発現NCI-H929標的細胞を用いずにアッセイが行われる場合に、非標的によりリダイレクトされたJurkat-NFAT細胞の限定された活性化を示すことを示すグラフである。抗CD3 IgG(HuEM1006-01-24)、そのFabフラグメント(HuEM1006-01-24-Fab)、無関係のFIT-Ig(FIT1002-5a)、および無関係のヒトIgG(hIgG)を対照として用いた。
【
図15】
図15は、本発明によるヒト化BCMA/CD3 FIT-IgがNCI-H929腫瘍細胞に対してT細胞細胞傷害性をリダイレクトすることができたことを示すグラフである。マウス-ヒトキメラFIT-Ig(FIT1006-4b)および無関係のFIT-Ig(FIT1002-5a)を対照として用いた。
【
図16】
図16は、BCMA発現NCI-H929細胞に対する、上記の2つのBCMA/CD3ヒト化二重特異性FIT-Ig結合タンパク質の結合活性を示すグラフである。無関係のヒトIgG抗体(hIgG)を対照として用いた。
【
図17】
図17は、CD3発現Jurkat細胞に対する、上記の2つのBCMA/CD3ヒト化二重特異性FIT-Ig結合タンパク質の結合活性を示すグラフである。無関係のヒトIgG抗体(hIgG)を対照として用いた。
【
図18-19】
図18および19は、BCMA発現標的細胞(
図18)およびCD3発現標的細胞(
図19)に対する結合活性を示し、両方とも2つの代替構成の二重特異性構築物を標的とすることが確認される。
【
図20】
図20は、BCMA×CD3 FIT-Igを用いた処置により達成されるヒトPBMC移植NPSGマウスにおける腫瘍成長の阻害を示す。
【
図21】
図21は、BCMA×CD3 FIT-Igを用いた処置により誘導されるB細胞枯渇を示す。
【
図22】
図22は、FIT-Ig処置カニクイザルにおける循環T細胞の一過性の欠如を示す。
【発明の具体的説明】
【0054】
本発明は、新規な抗CD3抗体、新規な抗BCMA抗体、その抗原結合部分、および多価二重特異性結合タンパク質、例えば、Fabs-in-Tandem免疫グロブリン(FIT-Ig)および「一価非対称タンデムFab二重特異性抗体」または「MAT-Fab二重特異性抗体」または単に「MAT-Fab抗体」に関する。本発明の様々な側面は、抗CD3抗体および抗BCMA抗体および抗体フラグメント、ヒトCD3とヒトBCMAに結合するFIT-Ig結合タンパク質、およびMAT-Fab結合タンパク質、およびそれらの医薬組成物、ならびにそのような抗体、機能的抗体フラグメント、および結合タンパク質を作製するための核酸、組換え発現ベクターおよび宿主細胞に関する。また、ヒトCD3、ヒトBCMA、またはその両方を検出するため;in vitroまたはin vivoにおいてヒトCD3および/またはヒトBCMA活性を阻害するため;およびCD3および/またはBCMAの、それぞれそれらのリガンド、すなわちT細胞受容体および増殖誘導リガンド(APRIL)への結合によって媒介される疾患、特に癌を治療するために、本発明の抗体、機能的抗体フラグメント、および二重特異性結合タンパク質を使用する方法も本発明によって包含される。
【0055】
本明細書において別段の定義がない限り、本発明に関して使用される科学用語および技術用語は、当業者に一般に理解されている意味を持つものとする。これらの用語の意味および範囲は明解である必要があるが、潜在的なあいまいさが生じた場合は、本明細書に示される定義が辞書または外部の定義よりも優先される。さらに、文脈上別段の必要がない限り、単数形の用語には複数形が含まれ、複数形の用語には単数形が含まれるものとする。本明細書では、別段の明記がない限り、「または」の使用は「および/または」を意味する。さらに、「含む(including)」という用語の使用、ならびに「含む(includes)」および「含まれる(included)」などの他の形式の使用は非限定的である。また、「要素」または「成分」などの用語には、別段の明記がない限り、1つのユニットを含んでなる要素および成分と複数のサブユニットを含んでなる要素および成分の両方を含む。
【0056】
一般に、本明細書に記載される細胞および組織培養、分子生物学、免疫学、微生物学、遺伝学、タンパク質および核酸化学ならびハイブリダイズに関連して使用される命名法、およびそれらの技術は周知のものであり、当技術分野で一般的に使用されている。本発明の方法および技術は一般に、当技術分野で周知の従来の方法に従って、また、別段の表示がない限り、本明細書中に引用および記述されている様々な一般的およびより具体的な参考文献に記載されているように実施される。酵素反応および精製技術は、製造業者の仕様に従って、または野で一般的に達成されているように、または本明細書に記載されているように実施される。本明細書に記載される分析化学、合成有機化学、および医薬品化学・薬化学に関連して使用される命名法、ならびにそれらの実験手順および技術は周知のものであり、当業者で一般的に使用されている。標準的技術が化学合成、化学分析、医薬品調製、処方、送達、および患者の治療に使用される。
【0057】
本発明がより容易に理解される可能性があるため、選択した用語を以下に定義する。
【0058】
「ポリペプチド」という用語は、アミノ酸のいずれのポリマー鎖も指す。「ペプチド」および「タンパク質」という用語は、ポリペプチドという用語と互換的に使用され、これもまたアミノ酸のポリマー鎖を指す。「ポリペプチド」という用語は、天然または人工タンパク質、タンパク質フラグメントおよびタンパク質アミノ酸配列のポリペプチド類似体を含む。「ポリペプチド」という用語は、文脈上別段の矛盾がない限り、それらのフラグメントおよび変異体(変異体のフラグメントを含む)を含む。抗原性ポリペプチドの場合、ポリペプチドのフラグメントは、場合により、ポリペプチドの少なくとも1つの連続エピトープまたは非線形エピトープを含む。少なくとも1つのエピトープフラグメントの正確な境界は、当技術分野の通常の技術を用いて確認することができる。フラグメントは、少なくとも約5個の連続するアミノ酸、例えば、少なくとも約10個の連続するアミノ酸、少なくとも約15個の連続するアミノ酸、または少なくとも約20個の連続するアミノ酸を含んでなる。ポリペプチドの変異体は、本明細書に記載されている通りである。
【0059】
「単離されたタンパク質」または「単離されたポリペプチド」という用語は、その起源または誘導源のために、その天然状態で付随する天然に会合している成分と会合していないか、同種に由来する他のタンパク質を実質的に含まないか、異種由来の細胞によって発現されるか、または天然には存在しないタンパク質またはポリペプチドである。よって、化学的に合成された、または天然に由来する細胞とは異なる細胞系で合成されたポリペプチドは、その天然に会合している成分から「単離」されている。タンパク質はまた、当技術分野で周知のタンパク質精製技術を用いて、単離により、天然に会合している成分を実質的に含まないようにすることができる。
【0060】
「回復する」という用語は、ポリペプチドなどの化学種を、例えば、当技術分野で周知のタンパク質精製技術を用いる単離によって、天然に会合している成分を実質的に含まないようにする過程を指す。
【0061】
「生物活性」という用語は、本明細書に記載される抗CD3抗体または抗BCMA抗体のあらゆる生物学的特性を指す。CD3抗体の生物学的特性としては、限定するものではないが、CD3タンパク質への結合が挙げられ;抗BCMA抗体の生物学的特性としては、限定するものではないが、例えば、増殖誘導リガンド(APRIL)、および/またはB細胞活性化因子(BAFF)タンパク質への結合が挙げられる。
【0062】
抗体、結合タンパク質、またはペプチドの第2の化学種との相互作用に関して、「特異的結合」または「特異的に結合する」という用語は、その相互作用が第2の化学種上の特定の構造(例えば、抗原決定基またはエピトープ)の存在に依存することを意味する。例えば、抗体は、一般にタンパク質ではなく特定のタンパク質構造を認識して結合する。ある抗体がエピトープ「A」に特異的である場合、標識された「A」および抗体を含む反応物中にエピトープA(または遊離型の非標識A)を含む分子が存在すると、抗体に結合する標識されたAの量が減少する。
【0063】
「抗体」という用語は、広義には、4つのポリペプチド鎖、すなわち、2つの重(H)鎖および2つの軽(L)鎖から構成される任意の免疫グロブリン(Ig)分子、またはIg分子の本質的なエピトープ結合の特徴を保持するその任意の機能的フラグメント、突然変異体、変異体、もしくは誘導体を指す。このような突然変異体、変異体、または誘導体抗体形式は当技術分野で公知である。それらの非限定実施形態を以下に論じる。
【0064】
全長抗体において、各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではVHと略す)および重鎖定常領域から構成される。重鎖定常領域は、3つのドメイン:CH1、CH2、およびCH3から構成される。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではVLと略す)および軽鎖定常領域から構成される。軽鎖定常領域は、1つのドメイン、CLから構成される。VHおよびVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存された領域が挿入された、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変領域にさらに細分することができる。各VHおよびVLは、アミノ末端からカルボキシ末端へ以下の順:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4に配置された3つのCDRと4つのFRから構成される。VHドメインの第1、第2および第3のCDRは一般にCDR-H1、CDR-H2、およびCDR-H3として列挙され、同様に、VLドメインの第1、第2および第3のCDRは一般にCDR-L1、CDR-L2、およびCDR-L3として列挙される。免疫グロブリン分子は、いずれのタイプ(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgAおよびIgY)、クラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2)またはサブクラスのものであってもよい。
【0065】
「Fc領域」という用語は、免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために用いられ、無傷抗体のパパイン消化によって作出できる。Fc領域は、天然配列Fc領域であってもまたは変異体Fc領域であってもよい。免疫グロブリンのFc領域は一般に、2つの定常ドメイン、すなわち、CH2ドメインおよびCH3ドメインを含んでなり、場合により、例えば、IgM抗体およびIgE抗体のFc領域の場合と同様にCH4ドメインを含んでなる。IgG抗体、IgA抗体、およびIgD抗体のFc領域は、ヒンジ領域、CH2ドメイン、およびH3ドメインを含んでなる。対照的に、IgM抗体およびIgE抗体のFc領域はヒンジ領域を欠くが、CH2ドメイン、CH3ドメインおよびCH4ドメインを含んでなる。抗体エフェクター機能を変更するためにFc部分にアミノ酸残基の置換を有する変異体Fc領域は当技術分野で公知である(例えば、Winterら、米国特許第5,648,260号および同第5,624,821号参照)。抗体のFc部分は、いくつかの重要なエフェクター機能、例えば、サイトカイン誘導、ADCC、貪食作用、補体依存性細胞傷害性(CDC)、および抗体および抗原抗体複合体の半減期/クリアランス速度を媒介する。これらのエフェクター機能は治療抗体に望ましい場合もあるが、治療目的によっては不要または有害でさえある場合もある。特定のヒトIgGアイソタイプ、特にIgG1およびIgG3はそれぞれFcγRsおよび補体C1qへの結合を介してADCCおよびCDCを媒介する。さらに別の実施形態において、抗体のエフェクター機能が変更されるように、抗体の定常領域、例えば抗体のFc領域において少なくとも1つのアミノ酸残基が置換される。免疫グロブリンの2つの同一の重鎖の二量体化は、CH3ドメインの二量体化によって媒介され、CH1定常ドメインをFc定常ドメイン(例えば、CH2およびCH3)に接続するヒンジ領域内のジスルフィド結合によって安定化される。IgGの抗炎症活性は、IgG FcフラグメントのN結合グリカンのシアリル化に完全に依存する。適切なIgG1 Fcフラグメントが作出できるように抗炎症活性の正確なグリカン要件が決定されており、これにより、効力が大幅に増強された完全組換えシアル化IgG1 Fcが生成される(Anthony et al., Science, 320:373-376 (2008)参照)。
【0066】
抗体の「抗原結合部分」および「抗原結合フラグメント」または「機能的フラグメント」という用語は互換的に使用され、抗原、すなわち、その部分またはフラグメントが由来する全長抗体と同じ抗原(例えば、CD3、BCMA)と特異的に結合する能力を保持する抗体の1以上のフラグメントを指す。抗体の抗原結合機能は全長抗体のフラグメントによって遂行され得ることが示されている。このような抗体の実施形態はまた二重特異性、二重の特異性、または2つ以上の異なる抗原(例えば、CD3と、BCMAなどの異なる抗原)に特異的に結合する多重特異性形式であってもよい。抗体の「抗原結合部分」に含まれる結合フラグメントの例としては、(i)VL、VH、CL、およびCH1ドメインからなる一価フラグメントであるFabフラグメント;(ii)ヒンジ領域においてジスルフィド橋により連結された2つのFabフラグメントを含んでなる二価フラグメントであるF(ab’)2フラグメント;(iii)VHドメインおよびCH1ドメインからなるFdフラグメント;(iv)抗体の単腕のVLドメインおよびVHドメインからなるFvフラグメント、(v)単一可変ドメインを含んでなるdAbフラグメント(Ward et al., Nature, 341: 544-546 (1989);PCT公開第WO90/05144号);ならびに(vi)単離された相補性決定領域(CDR)が挙げられる。さらに、Fvフラグメントの2つのドメイン、VLおよびVHは別々の単離された遺伝子によってコードされているが、それらは、組換え法を用いて、それらがVL領域とVH領域が対合して一価分子を形成した単一のタンパク質(一本鎖Fv(scFv)として知られる;例えば、Bird et al., Science, 242: 423-426 (1988); and Huston et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85: 5879-5883 (1988)参照)として作製されることを可能とする合成リンカーによって連結させることができる。このような一本鎖抗体はまた、上記に示される抗体の「抗原結合部分」という用語および等価な用語に含まれるものとする。ダイアボディなどの一本鎖抗体の他の形態も含まれる。ダイアボディは、VHドメインとVLドメインが単一のポリペプチド鎖上に発現されるが、同じ鎖上のこれら2つのドメイン間で対合を可能とするには短すぎるリンカーを使用しているために別の鎖の相補的ドメインとの対合を余儀なくされて2つの抗原結合部位を作り出している二価の二重特異性抗体である(例えば、Holliger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 6444-6448 (1993)参照)。このような抗体結合部分は当技術分野で公知である(Kontermann and Duebel編, Antibody Engineering (Springer-Verlag, New York, 2001), p. 790 (ISBN 3-540-41354-5))。さらに、一本鎖抗体にはまた、相補的軽鎖ポリペプチドとともに一対の抗原結合領域を形成する1対のタンデムFvセグメント(VH-CH1-VH-CH1)を含んでなる「直鎖抗体」も含まれる(Zapata et al., Protein Eng., 8(10): 1057-1062 (1995); and US Patent No. 5,641,870))。
【0067】
免疫グロブリン定常(C)ドメインは、重鎖(CH)または軽鎖(CL)定常ドメインを指す。マウスおよびヒトIgG重鎖および軽鎖定常ドメインのアミノ酸配列は、当技術分野で公知である。
【0068】
「モノクローナル抗体」または「mAb」という用語は、実質的に均質な抗体の集団から得られる抗体を指し、すなわち、集団を形成する個々の抗体は微量存在する可能性のある天然の突然変異を除いて同一である。モノクローナル抗体は特異性が高く、単一の抗原決定基(エピトープ)に向けられている。さらに、一般に種々の決定基(エピトープ)に向けられた種々の抗体を含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、各mAbは、抗原上の単一の決定基に向けられる。修飾語の「モノクローナル」は、特定の方法による抗体の生産を必要とすると解釈させるべきでない。
【0069】
「ヒト抗体」という用語は、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列に由来する可変領域および定常領域を有する抗体を含む。本発明のヒト抗体は、例えば、CDR、特に、CDR3において、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基(例えば、in vitroにおけるランダムもしくは部位特異的突然変異誘発によって、またはin vivoにおける体細胞突然変異によって導入される突然変異)を含んでもよい。しかしながら、「ヒト抗体」という用語には、マウスなどの別の哺乳動物種の生殖細胞系に由来するCDR配列がヒトフレームワーク配列にグラフトされた抗体を含まない。
【0070】
「組換えヒト抗体」という用語は、宿主細胞にトランスフェクトされた組換え発現ベクターを用いて発現させた抗体、組換えコンビナトリアルヒト抗体ライブラリーから単離された抗体(Hoogenboom, H.R., Trends Biotechnol., 15: 62-70 (1997); Azzazy and Highsmith, Clin. Biochem., 35: 425-445 (2002); Gavilondo and Larrick, BioTechniques, 29: 128-145 (2000); Hoogenboom and Chames, Immunol. Today, 21: 371-378 (2000))、ヒト免疫グロブリン遺伝子に対してトランスジェニックな動物(例えば、マウス)から単離された抗体(例えば、Taylor et al., Nucl. Acids Res., 20: 6287-6295 (1992); Kellermann and Green, Curr. Opin. Biotechnol., 13: 593-597 (2002); Little et al., Immunol. Today, 21: 364-370 (2000)参照);または他のいずれかの手段により調製、発現、作出もしくは単離された、ヒト免疫グロブリン遺伝子配列の他のDNA配列へのスプライシングを含む抗体などの、組換え手段によって調製、発現、作出もしくは単離されたあらゆるヒト抗体を含む。このような組換えヒト抗体は、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列に由来する可変領域および定常領域を有する。しかしながら、特定の実施形態において、このような組換えヒト抗体は、in vitro突然変異誘発(またはヒトIg配列に対してトランスジェニックな動物を使用する場合には、in vivo体細胞突然変異誘発)の対象となるので、組換え抗体のVH領域およびVL領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖細胞系VH配列およびVL配列に由来および関連しながら、in vivoにおいてヒト抗体生殖細胞系レパートリー内に天然には存在しない可能性のある配列である。
【0071】
「キメラ抗体」という用語は、ある種の重鎖および軽鎖可変領域配列と別の種の定常領域配列を含んでなる抗体、例えば、ヒト定常領域に連結されたマウス重鎖および軽鎖可変領域を有する抗体を指す。
【0072】
「CDRグラフト抗体」という用語は、VHおよび/またはVLの1以上のCDR領域の配列が別の種のCDR配列で置換された、重鎖および軽鎖可変領域配列を含んでなる抗体、例えば、ヒトCDRの1以上がマウスCDR配列で置換された、ヒト重鎖および軽鎖可変領域を有する抗体を指す。
【0073】
「ヒト化抗体」という用語は、非ヒト種(例えば、マウス)に由来する重鎖および軽鎖可変領域配列を含んでなるが、VH配列および/またはVL配列の少なくとも一部がより「ヒト様」に、すなわち、ヒト生殖細胞系可変配列により類似するように変更された抗体を指す。ヒト化抗体の一種は、ヒトVHおよびVLフレームワーク配列に非ヒト種(例えば、マウス)由来のCDR配列が導入されたCDRグラフト抗体である。ヒト化抗体は、対象とする抗原に免疫特異的に結合し、かつ実質的にヒト抗体のアミノ酸配列を有するフレームワーク領域および定常領域と実質的に非ヒト抗体のアミノ酸配列を有する相補性決定領域(CDR)を含んでなる抗体またはその変異体、誘導体、類似体もしくはそのフラグメントである。本明細書で使用する場合、CDRに関して「実質的に」という用語は、非ヒト抗体CDRのアミノ酸配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%または少なくとも99%同一のアミノ酸配列を有するCDRを指す。ヒト化抗体は、CDR領域の総てまたは実質的に総てが非ヒト免疫グロブリン(すなわち、ドナー抗体)のそれに相当し、フレームワーク領域の総てまたは実質的に総てがヒト免疫グロブリンコンセンサス配列のそれである、少なくとも1つ、一般には2つの可変ドメイン(Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv)の実質的に総てを含んでなる。ある実施形態において、ヒト化抗体はまた、免疫グロブリン定常領域(Fc)、一般にヒト免疫グロブリンのそれの少なくとも一部を含んでなる。いくつかの実施形態において、ヒト化抗体は、軽鎖ならびに重鎖の少なくとも可変ドメインの両方を含む。抗体はまた、重鎖のCH1、ヒンジ、CH2、CH3、およびCH4領域を含み得る。いくつかの実施形態において、ヒト化抗体はヒト化軽鎖のみを含む。いくつかの実施形態において、ヒト化抗体はヒト化重鎖のみを含む。特定の実施形態において、ヒト化抗体は、軽鎖のヒト化可変ドメインおよび/またはヒト化重鎖のみを含む。
【0074】
ヒト化抗体は、IgM、IgG、IgD、IgAおよびIgEを含む免疫グロブリンのいずれのクラス、限定するものではないが、IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4を含むいずれのアイソタイプから選択されてもよい。ヒト化抗体は、2つ以上のクラスまたはアイソタイプに由来する配列を含んでなってもよく、当技術分野で周知の技術を用いて処方のエフェクター機能を最適化するために特定の定常ドメインを選択してもよい。
【0075】
ヒト化抗体のフレームワーク領域およびCDR領域は、親配列に厳密に相当する必要はなく、例えば、ドナー抗体CDRまたはアクセプターフレームワークは、その部位のCDR残基またはフレームワーク残基がドナー抗体またはコンセンサスフレームワークのいずれにも相当しないように、少なくとも1つのアミノ酸残基の置換、挿入および/または欠失によって変異誘発されてもよい。ある例示的実施形態では、しかしながら、このような突然変異は広範囲ではない。通常、ヒト化抗体残基の少なくとも80%、例えば、少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%が親FRおよびCDR配列のそれに相当する。ドナー抗体のその位置に見られる同じアミノ酸を復元するための特定のフレームワーク位置での復帰突然変異は、特定のループ構造を保持するため、または標的抗原との接触のためにCDR配列を適正に配向するために利用される場合が多い。
【0076】
「CDR」という用語は、抗体可変ドメイン配列内の相補性決定領域を指す。重鎖および軽鎖の可変領域のそれぞれには3つのCDRがあり、これらはCDR-H1、CDR-H2、CDR-H3、CDR-L1、CDR-L2、およびCDR-L3と呼ばれる。「CDRセット」という用語は、本明細書で使用する場合、抗原と結合し得る単一の可変領域に存在する3つのCDRの群を指す。これらのCDRの正確な境界は、システムごとに異なる方法で定義されている。Kabat(Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest (National Institutes of Health, Bethesda, Maryland (1987) and (1991))により記載されているシステムは、抗体のいずれの可変領域にも適用可能な明確な残基ナンバリング体系を提供するだけでなく、3つのCDRを定義する正確な残基境界も提供する。
【0077】
当技術分野で認識されている「Kabatナンバリング」という用語は、抗体またはその抗原結合部分の重鎖および軽鎖可変領域において他のアミノ酸残基よりも可変である(すなわち、超可変である)アミノ酸残基をナンバリングする体系を指す。Kabat et al., Ann. NY Acad. Sci., 190: 382-391 (1971);およびKabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 第5版, U.S. Department of Health and Human Services, NIH Publication No. 91-3242 (1991)参照。
【0078】
過去20年間の可変の重鎖および軽鎖領域のアミノ酸配列の大規模な公開データベースの成長と分析により、フレームワーク領域(FR)と可変領域配列内のCDR配列との間の典型的な境界の理解に至り、当業者がKabatナンバリング、Chothiaナンバリング、またはその他のシステムに従ってCDRを正確に決定することが可能となった。例えば、Martin, "Protein Sequence and Structure Analysis of Antibody Variable Domains," In Kontermann and Duebel, 編, Antibody Engineering (Springer-Verlag, Berlin, 2001), 第31章, 432-433頁参照。
【0079】
「多価結合タンパク質」という用語は、2つ以上の抗原結合部位を含んでなる結合タンパク質を表す。多価結合タンパク質は好ましくは、3つ以上の抗原結合部位を有するように操作され、一般に天然に存在する抗体ではない。「二重特異性結合タンパク質」という用語は、特異性の異なる2つの標的と結合し得る結合タンパク質を指す。本発明の「Fabs-in-Tandem免疫グロブリン」(FIT-Ig)結合タンパク質は、2つ以上の抗原結合部位を含んでなり、一般に、四価結合タンパク質である。FIT-Igは単一特異性、すなわち1つの抗原と結合し得るか、または多重特異性、すなわち2つ以上の抗原と結合し得る。本発明による例示的FIT-IgはCD3とBCMAの両方と結合し、従って、二重特異性である。2つの長い(重)V-C-V-C-Fc鎖ポリペプチドと4つの短い(軽)V-C鎖ポリペプチドを含んでなるFIT-Ig結合タンパク質は、4つのFab抗原結合部位を呈するヘキサマーを形成する(VL-CLと対合したVH-CH1、場合によりVH-CH1::VL-CLと表記)。FIT-Igの各半分は1つの重鎖ポリペプチドと2つの軽鎖ポリペプチドを含んでなり、これらの3鎖のVH-CH1およびVL-CL要素の相補的免疫グロブリン対合は、タンデム配置された2つのFab構造化抗原結合部位を生じる。本発明において、Fab要素を含んでなる免疫グロブリンドメインはドメイン間リンカーを使用せずに重鎖ポリペプチド内で直接融合されることが好ましい。すなわち、長い(重)ポリペプチド鎖のN末端V-C要素はそのC末端で、別のV-C要素のN末端に直接融合され、これが次にC末端Fc領域に連結される。二重特異性FIT-Ig結合タンパク質では、タンデムFab要素は、異なる抗原と反応性がある。各Fab抗原結合部位は、重鎖可変ドメインと軽鎖可変ドメインを含んでなり、抗原結合部位当たり合計6つのCDRがある。いくつかの実施形態において、本発明の多価結合タンパク質は、実質的にC末端Fc領域がないFIT-IgであるFIT-Ig Fabフラグメント(すなわち、FIT-Fab)である。このようなFIT-Fabは、既存のFIT-IgからC末端Fc領域を除去することによって得ることができるか、または例えば、対応するペプチド鎖をコードする発現ベクターを含んでなる宿主細胞からの発現など、当技術分野で公知のいくつかの技術のいずれかによって生産することができる。
【0080】
FIT-Ig分子の設計、発現、および特性評価の説明は、PCT公開第WO2015/103072号に示されている。このようなFIT-Ig分子の例は、重鎖および2つの異なる軽鎖を含んでなる。重鎖は、構造式VLA-CL-VHB-CH1-Fc(ここで、CLはVHBに直接融合されている)またはVHB-CH1-VLA-CL-Fc(ここで、CH1はVLAに直接融合されている)を含んでなり、VLAは、抗原Aと結合する親抗体に由来する軽鎖可変ドメインであり、VHBは抗原Bと結合する親抗体に由来する重鎖可変ドメインであり、CLは軽鎖定常ドメインであり、CH1は重鎖定常ドメインであり、Fcは免疫グロブリンFc領域(例えば、IgG1抗体の重鎖のC末端ヒンジ-CH2-CH3部分)である。FIT-Igの2つの軽ポリペプチド鎖はそれぞれ式VHA-CH1およびVLB-CLを有する。二重特異性FIT-Igの実施形態では、抗原Aおよび抗原Bは異なる抗原であるか、または同じ抗原の異なるエピトープである。本発明において、AおよびBの一方はCD3であり、他方はBCMAである。
【0081】
本明細書で使用する場合、「直接融合される」という用語は、ポリペプチド構造内の2つのドメインの線形接続を指す場合、人工的なポリペプチドリンカーまたはコネクターを使用することなくドメインがペプチド結合によって直接連結されることを意味する。
【0082】
「活性」という用語は、特異性をもって標的抗原と結合する能力、抗原に対する抗体の親和性、標的抗原の生物活性を中和する能力、標的抗原とその天然受容体の相互作用を阻害する能力などの特性を含む。本発明の例示的抗体および結合タンパク質は、CD3のそのリガンドとの結合を阻害する能力、BCMAのそのリガンドとの結合を阻害する能力、または本明細書に記載される二重特異性結合タンパク質の場合にはその両方を有する。
【0083】
「kon」(「Kon」、「kon」とも)という用語は、本明細書で使用する場合、当技術分野で公知のように、会合複合体、例えば、抗体/抗原複合体を形成させる結合タンパク質(例えば、抗体)と抗原の会合に関する結合速度定数を指すことを意図する。「kon」はまた、本明細書で互換的に使用されるような用語「会合速度定数」、または「ka」によっても知られる。この値は、以下の式に示すように、抗体のその標的抗原に対する結合速度または抗体と抗原の間の複合体形成速度を示す。
抗体(「Ab」)+抗原(「Ag」)→Ab-Ag
【0084】
「koff」(「Koff」、「koff」とも)という用語は、本明細書で使用する場合、当技術分野で公知のように、結合タンパク質(例えば、抗体)の会合複合体(例えば、抗体/抗原複合体)からの解離に関する解離速度定数(off rate constant)、または「解離速度定数(dissociation rate constant)」を指すことを意図する。この値は、以下の式に示すように、抗体のその標的抗原からの解離速度またはAb-Ag複合体の遊離抗体および抗原への経時的な分離を示す。
Ab+Ag←Ab-Ag
【0085】
「KD」(「Kd」とも)という用語は、本明細書で使用する場合、「平衡解離定数」を指すことを意図し、平衡状態での力価測定で、または解離速度定数(koff)を会合速度定数(kon)で割ることによって得られる値を指す。会合速度定数(kon)、解離速度定数(koff)、および平衡解離定数(KD)は、抗体と抗原の結合親和性を表すために使用される。会合および解離速度定数を決定するための方法は当技術分野で周知である。蛍光に基づく技術を使用すると、高感度と、平衡状態にある生理学的バッファー中のサンプルを調べる能力が得られる。他の実験アプローチおよびBIAcore(登録商標)(生体分子相互作用分析)アッセイなどの機器も使用可能である(例えば、BIAcore International AB、a GE Healthcare company、ウプサラ、スウェーデンから入手可能な機器)。例えば、Octet(登録商標)RED96システム(Pall ForteBio LLC)を使用するバイオレイヤー干渉法(BLI)はもう1つの親和性アッセイ技術である。さらに、Sapidyne Instruments(ボイシ、アイダホ州)から入手可能なKinExA(登録商標)(Kinetic Exclusion Assay)アッセイも使用可能である。
【0086】
「単離された核酸」という用語は、ヒト介入によって、本来一緒に見られるポリヌクレオチドの総てまたは一部と会合されてない;本来連結されていないポリヌクレオチドと機能的に連結されている;またはより長い配列の一部として本来存在しない、(例えば、ゲノムの、cDNAの、もしくは合成起源の、またはそれらのいくつかの組合せの)ポリヌクレオチドを意味するものとする。
【0087】
「ベクター」という用語は、本明細書で使用する場合、それが連結されている別の核酸を輸送し得る核酸分子を指すことを意図する。1つのタイプのベクターは「プラスミド」であり、これは付加的DNAセグメントを連結することができる環状二本鎖DNAループを指す。もう1つのタイプのベクターはウイルスベクターであり、付加的DNAセグメントをウイルスゲノムに連結することができる。ある種のベクターは、それが導入された宿主細胞で自律的複製能を有する(例えば、細菌複製起点を有する細菌ベクターおよびエピソーム哺乳動物ベクター)。他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳動物ベクター)は、宿主細胞への導入時に宿主細胞のゲノムへ込み込まれ得るので、宿主ゲノムとともに複製される。さらに、ある種のベクターは、それらが作動可能に連結された遺伝子の発現を命令することができる。このようなベクターは、本明細書では「組換え発現ベクター」(または単に「発現ベクター」)と呼ぶ。一般に、組換えDNA技術において有用な発現ベクターは多くの場合、プラスミドの形態である。本明細書において、「プラスミド」および「ベクター」は、プラスミドと互換的に使用することができ、最も慣用されるベクターの形態である。しかしながら、本発明は、同等の機能を果たすウイルスベクター(例えば、複製欠陥レトロウイルス、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルス)などの他の形態の発現ベクターを含むことを意図する。
【0088】
「機能的に連結される」という用語は、記載されている成分が、それらの意図された方法で機能することを可能とする関係にある場合の並置を指す。コード配列に「機能的に連結された」制御配列は、制御配列に適合する条件下でコード配列の発現が達成されるような方法で連結される。「機能的に連結された」配列には、対象とする遺伝子に隣接する発現制御配列と、対象とする遺伝子を制御するためにトランスまたは一定の距離で作用する発現制御配列の両方が含まれる。「発現制御配列」という用語は、本明細書で使用する場合、それらが連結されたコード配列の発現およびプロセシングを果たすために必要なポリヌクレオチド配列を指す。発現制御配列には、適当な転写開始配列、終結配列、プロモーター配列およびエンハンサー配列;スプライシングシグナルおよびポリアデニル化シグナルなどの効率的なRNAプロセシングシグナル;細胞質mRNAを安定化させる配列;翻訳効率を高める配列(すなわち、Kozakコンセンサス配列);タンパク質の安定性を高める配列;および所望であれば、タンパク質分泌を促進する配列が含まれる。このような制御配列の性質は宿主生物によって異なり;原核生物では、このような制御配列には一般に、プロモーター、リボゾーム結合部位、および転写終結配列が含まれ;真核生物では、一般に、このような制御配列には、プロモーターおよび転写終結配列が含まれる。「制御配列」という用語は、存在が発現とプロセシングに不可欠である成分を含むことを意図し、存在が有利である付加的成分、例えば、リーダー配列またはシグナル配列と融合相手配列を含むこともできる。
【0089】
「形質転換」は、本明細書で定義する場合、外因性DNAが宿主細胞に侵入するいずれのプロセスも指す。形質転換は、当技術分野で周知の種々の方法を用いて天然または人工条件下で起こり得る。形質転換は、原核または真核宿主細胞への外来核酸配列の挿入に関して知られているいずれの方法によってもよい。この方法は、形質転換させる宿主細胞に基づいて選択され、限定するものではないが、トランスフェクション、ウイルス感染、エレクトロポレーション、リポフェクション、および粒子衝撃を含み得る。このような「形質転換」細胞には、挿入されたDNAが、自律的に複製するプラスミドとして、または宿主染色体の一部として複製し得る安定形質転換細胞が含まれる。また、挿入されたDNAまたはRNAを限られた時間だけ一時的に発現する細胞も含まれる。
【0090】
「組換え宿主細胞」(または単に「宿主細胞」)という用語は、外因性DNAは導入された細胞を指すことを意図する。ある実施形態において、宿主細胞は、例えば、米国特許第7,262,028号に記載される宿主細胞など、抗体をコードする2つ以上(例えば、複数)の核酸を含んでなる。このような用語は、特定の対象細胞だけでなく、このような細胞の後代も指すことを意図する。突然変異または環境の影響のいずれかにより、特定の改変が次世代で発生する可能性があるため、そのような後代は、実際には、親細胞と同一ではない可能性があるが、本明細書で使用する場合、「宿主細胞」の範囲内になお含まれる。ある実施形態において、宿主細胞には、生命のいずれの界から選択される原核および真核細胞も含まれる。別の実施形態において、真核細胞には、原生生物、真菌、植物および動物細胞が含まれる。別の実施形態において、宿主細胞として、限定するものではないが、原核細胞大腸菌(Escherichia coli)株;哺乳動物細胞株CHO、HEK293、COS、NS0、SP2およびPER.C6;昆虫細胞株Sf9;ならびに真菌細胞サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)が挙げられる。
【0091】
組換えDNA、オリゴヌクレオチド合成、および組織培養および形質転換(例えば、エレクトロポレーション、リポフェクション)には標準的な技術を使用することができる。酵素反応および精製技術は、製造者の仕様に従って、または当技術分野で一般に達成されているように、本明細書に記載されるように実施することができる。以上の技術および手順は一般に、当技術分野で周知の従来法に従って、本明細書中に引用および論述されている種々の一般的参照およびより具体的な参照に記載されるように実施することができる。例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第2版. (Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1989)参照。
【0092】
「作動薬」という用語は、本明細書で使用する場合、対象とする分子と接触した際に、分子の特定の活性または機能の大きさに、作動薬の不在下で見られるその活性または機能の大きさと比較して増加を生じる調節剤を指す。「拮抗薬」および「阻害剤」という用語は、本明細書で使用する場合、対象とする分子と接触した際に、分子の特定の活性の大きさに、拮抗薬の不在下で見られるその活性または機能の大きさと比較して低下を生じる調節剤を指す。対象とする特定の拮抗剤には、ヒトCD3およびヒトBCMAの生物学的または免疫学的活性を遮断または低下させるものが含まれる。
【0093】
本明細書で使用する場合、「有効量」という用語は、障害またはその1以上の症状の重症度および/または期間を軽減または改善する、障害の進行を予防する、障害の退行を引き起こす、障害に関連する1以上の症状の再発、発症もしくは進行を予防する、障害を検出する、または、別の療法(例えば、予防薬もしくは治療薬)の予防効果もしくは治療効果を増強もしくは改善するために十分な治療の量を指す。
【0094】
抗CD3および抗BCMA抗体の生産
本発明の抗CD3抗体および抗BCMA抗体は、当技術分野で公知の多くの技術のいずれかによって生産してもよい。例えば、宿主細胞からの発現では、重鎖および軽鎖をコードする発現ベクターが標準的な技術によって宿主細胞にトランスフェクトされる。「トランスフェクション」という用語の様々な形式は、原核または真核宿主細胞への外因性DNAの導入に一般に使用される種々の技術、例えば、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム沈降法、DEAE-デキストラントランスフェクションなどを含むことを意図する。原核または真核宿主細胞のいずれで本発明の抗体を発現させることも可能であるが、真核細胞、例えば、哺乳動物宿主細胞での抗体の発現が好ましく、これはそのような細胞(特に、豊乳動物細胞)は原核細胞よりも適切に折りたたまれた免疫学的に活性な抗体を組み立て、分泌する可能性が高いためである。
【0095】
本発明の組換え抗体を発現させるための例示的哺乳動物宿主細胞としては、チャイニーズハムスター卵巣(CHO細胞)(Urlaub and Chasin, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 77: 4216-4220 (1980)に記載されているdhfr-CHO細胞を含み、これは例えばKaufman and Sharp, J. Mol. Biol., 159: 601-621 (1982)に記載されているようにDHFR選択マーカーと併用される)、NS0骨髄腫細胞、COS細胞、およびSP2細胞が挙げられる。抗体遺伝子をコードする組換え発現ベクターが哺乳動物宿主細胞に導入される場合、抗体は、宿主細胞で抗体を発現させるのに十分な時間宿主細胞を培養すること、または、宿主細胞が増殖している培養培地中への抗体の分泌によって生産される。抗体は、標準的なタンパク質精製法を用いて培養培地から回収することができる。
【0096】
宿主細胞はまた、FabフラグメントまたはscFv分子などの機能的抗体フラグメントを生産するためにも使用可能である。上記の手順の変形形態は、本発明の範囲内であると理解される。例えば、本発明の抗体の軽鎖および/または重鎖のいずれかのDNAをコードする機能的断片で宿主細胞をトランスフェクトすることが望ましい場合がある。組換えDNA技術はまた、対象とする抗原に結合するために必要ではない軽鎖および重鎖のいずれかまたは両方をコードするDNAの一部または総てを除去するためにも使用することができる。このような末端切断DNA分子から発現された分子もまた、本発明の抗体に含まれる。さらに、一方の重鎖および一方の軽鎖が本発明の抗体であり、他方の重鎖および軽鎖が、対象とする抗原以外の抗原に特異的である二機能性抗体は、標準的な化学的架橋法によって本発明の抗体を架橋して第2の抗体を得ることによって生産され得る。
【0097】
本発明の抗体、またはその抗原結合部分の組換え発現のための例示的システムでは、抗体重鎖と抗体軽鎖の両方をコードする組換え発現ベクターが、リン酸カルシウム媒介トランスフェクションによってdhfr-CHO細胞に導入される。この組換え発現ベクターでは、抗体の重鎖および軽鎖遺伝子がCMVエンハンサー/AdMLPプロモーター調節要素に機能的に連結されて高レベルの遺伝子転写を駆動するようになっている。組換え発現ベクターはまた、ベクターでトランスフェクトされたCHO細胞の、メトトレキサート選択/増幅を用いた選択を可能とするDHFR遺伝子も保持する。選択されたトランスフェクト宿主細胞は、抗体の重鎖および軽鎖の発現を可能とするように培養され、無傷抗体が培養培地から回収される。組換え発現ベクターを作製し、宿主細胞にトランスフェクトし、トランスフェクタントを選択肢、宿主細胞を培養し、抗体を培養培地から回収するためには標準的な分子生物学の技術が使用される。は、なおさらに、本発明は、本発明のトランスフェクト宿主細胞を本発明の組換え抗体が生産されるまで好適な培養培地で培養することによる、本発明の組換え抗CD3抗体または抗BCMA抗体の作製方法も提供する。この方法はさらに、培養培地から組換え抗体を単離することも含んでなる。
【0098】
CD3およびBCMAと結合する二重特異性FIT-Igの生産
本発明は、CD3とBCMAの両方に結合するFabs-in-Tandem免疫グロブリン結合タンパク質(FIT-Ig)を提供する。このようなFIT-Ig分子の例示的実施形態は、(1)構造式(i)VLA-CL-VHB-CH1-Fc(ここで、CLは、VHBに直接融合されている)、または構造式(ii)VHB-CH1-VLA-CL-Fc(ここで、CH1は、VLAに直接融合されている)のいずれかを含んでなる重ポリペプチド鎖;(2)式VHA-CH1の軽ポリペプチド鎖;および(3)式VLB-CLのもう1つの軽ポリペプチド鎖を含んでなり、VLは軽鎖可変ドメインであり、CLは軽鎖定常ドメインであり、VHは重鎖可変ドメインであり、CH1は重鎖定常ドメインであり、Fcは免疫グロブリンFc領域であり、AはCD3またはBCMAのエピトープであり、BはCD3またはBCMAのエピトープであり、ただし、AとBは異なる。本発明においては、このようなFIT-Ig結合タンパク質は、CD3とBCMAの両方に結合する。
【0099】
好適な宿主細胞で組換え発現させると、FIT-Igの3つの鎖は通常、天然の免疫グロブリンと同様に、6鎖、多価、単量体タンパク質として会合するが、ここで、このような重鎖の2つ(1)、このような軽鎖の2つ(2)、およびこのような軽鎖の2つ(3)は、4つの機能的Fab抗原結合部位を呈する6鎖結合タンパク質単量体を形成するように会合する。このようなFIT-Ig結合タンパク質は、2つの同一サブユニットを含んでなり、各サブユニットは、1つの重鎖(1)、1つの軽鎖(2)、および1つの軽鎖(3)を含んでなり、これらが一緒にタンデムに配列されたFab結合部位の対を形成する。このような2つの重鎖サブユニットのFc領域の対合により、合計4つの機能的Fab結合単位を有する本発明の6鎖、二重特異性、FIT-Ig結合タンパク質が得られる。
【0100】
重鎖上でペプチドリンカーを使用して、タンデムに接続されたFab部分を分離することが可能であるが、本発明による二重特異性FIT-Igsの場合、そのようなリンカー配列の省略好ましい。タンデム結合部位を有する多価操作免疫グロブリン形式では、当技術分野において、通常、これらの結合部位を空間的に分離するためにフレキシブルリンカーを使用しない限り、隣接する結合部位が互いに干渉すると理解されていた。しかしながら、本発明のBCMA/CD3 FIT-Igでは、上記の鎖の形式による免疫グロブリンドメインの配置は、トランスフェクトされた哺乳動物細胞で十分に発現し、適切に組み立て可能で、標的抗原であるCD3およびBCMAと結合する二重特異性多価免疫グロブリン様結合タンパク質として分泌されるポリペプチド鎖をもたらす。Fab結合部位間にリンカー配列がないにもかかわらず、本発明のBCMA/CD3 FIT-Igは、標的抗原に対する結合親和性を保持し、親mAと同等の結合親和性を示す。さらに、結合タンパク質から合成リンカー配列を除くと、哺乳動物の免疫系によって認識される抗原性部位の作成を回避することができ、このようにして、リンカーの除去は、FIT-Igの可能性のある免疫原性を低下させ、天然の抗体同様の循環半減期となり、すなわち、FIT-Igは、免疫オプソニン作用によって急速に除去されることはなく、肝臓に捕捉することもない。
【0101】
FIT-Igにおける各可変ドメイン(VHまたはVL)は、標的抗原、すなわちCD3またはBCMAの一方と結合する1以上の「親」モノクローナル抗体から得ることができる。FIT-Ig結合タンパク質は有利には、本明細書に開示されるような抗CD3モノクローナル抗体および抗BCMAモノクローナル抗体の可変ドメイン配列を用いて作出される。例えば、親抗体はヒト化抗体である。可変ドメインはまた、親和性成熟技術を用いて調製または改良することもできる。
【0102】
本発明の1つの側面は、FIT-Ig分子において望まされる少なくとも1つまたは複数の特性を有する親抗体の選択に関する。ある実施形態において、これらの抗体特性は、抗原特異性、抗原に対する親和性、効力、生物学的機能、エピトープ認識、安定性、溶解度、生産効率、免疫原性の欠如、薬物動態学、バイオアベイラビリティ、組織交差反応性、およびオーソロガスな抗原結合からなる群から選択される。CD3およびBCMAはどちらも細胞表面タンパク質であり、それらの個々のリガンドとの相互作用は、細胞内シグナル伝達経路を印加し、従って、本発明の最適な二重特異性BCMA/CD3 FIT-IgおよびFIT-Fabは、CD3媒介性および/またはBCMA媒介性のシグナル伝達を阻害するまたは遮断することができるであろう。
【0103】
本発明による抗体、それらの機能的フラグメント、および結合タンパク質は、抗体および結合タンパク質を精製するために当技術分野で利用可能な様々な方法および材料を用いて精製することができる(使用を意図して)。このような方法および材料としては、限定するものではないが、意図される使用に許容される純度を得るための、アフィニティークロマトグラフィー(例えば、プロテインA、プロテインG、プロテインL、または抗体、その機能的フラグメント、または結合タンパク質の特定のリガンドとコンジュゲートされた樹脂、粒子、または膜を使用)、イオン交換クロマトグラフィー(例えば、イオン交換粒子または膜を使用)、疎水性相互作用クロマトグラフィー(「HIC」;例えば、疎水性粒子または膜を使用)、限外濾過、ナノフィルトレーション、ダイアフィルトレーション、サイズ排除クロマトグラフィー(「SEC」)、低pH処理(夾雑ウイルスを不活化するため)、およびそれらの組合せが挙げられる。夾雑ウイルスを不活化するための低pH処理の限定されない例は、本発明の抗体、その機能的フラグメント、または結合タンパク質を含んでなる溶液または懸濁液のpHを18℃~25℃で60~70分間、0.5Mリン酸でpH3.5に降下させることを含んでなる。
【0104】
本発明の抗体および結合タンパク質の使用
ヒトCD3および/またはBCMAに結合する能力を考えると、本明細書に記載される抗体、その機能的断片、および本明細書に記載される二重特異性多価結合タンパク質は、CD3もしくはBCMA、またはその両方を、例えば、これらの標的抗原の一方または両方を発現する細胞を含む生物学的サンプルにおいて検出するために使用することができる。本発明の抗体、機能的断片、および結合タンパク質は、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、または免疫組織化学などの従来のイムノアッセイで使用することができる。本発明は、生物学的サンプル中のCD3またはBCMAを検出するための方法であって、生物学的サンプルを本発明の抗体、その抗原結合部分、または結合タンパク質と接触させ、標的抗原に結合するかどうかを検出し、それによりその生物学的サンプル中の標的の有無を決定することを含む方法を提供する。この抗体、機能的フラグメント、または結合タンパク質は、結合したまたは結合していない抗体/フラグメント/結合タンパク質の検出を容易にするために検出可能な物質で直接または間接的に標識してもよい。好適な検出可能物質としては、種々の酵素、補欠分子族、蛍光物質、発光物質および放射性物質が挙げられる。好適な酵素の例としては、セイヨウワサビペルオキシダーゼ、アルカリ性ホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、またはアセチルコリン エステラーゼが挙げられる。好適な補欠分子族複合体の例としては、ストレプトアビジン/ビオチンおよびアビジン/ビオチンが挙げられ;好適な蛍光物質としては、ウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、塩化ダンシルまたはフィコエリトリンが挙げられ;発光物質の例としては、ルミノールが挙げられ;好適な放射性物質の例としては、3H、
14C、
35S、90Y、99Tc、111In、125I、131I、177Lu、166Ho、または153Smが挙げられる。
【0105】
本発明の抗体、それらの機能的フラグメント、および結合タンパク質は、好ましくは、in vitroおよびin vivoの両方でヒトCD3および/またはヒトBCMA活性を中和することができる。よって、本発明の抗体、それらの機能的フラグメント、および結合タンパク質は、ヒトCD3活性および/またはヒトBCMA活性を阻害するため、例えば、本発明の抗体、その機能的フラグメント、または結合タンパク質が交差反応するCD3またはBCMAを有するヒト対象、または他の哺乳動物対象において、CD3発現および/またはBCMA発現細胞を含む細胞培養物においてCD3/T細胞相互作用および/またはBCMA/B細胞相互作用によって媒介される細胞シグナル伝達を阻害するために使用することができる。
【0106】
別の実施形態において、本発明は、CD3活性および/またはBCMA活性が有害な疾患または障害に罹患している対象を治療するための方法を提供し、このような方法は、対象に本発明の抗体または結合タンパク質を、対象におけるCD3結合および/またはBCMA結合により媒介される活性が低減されるような有効量で投与することを含んでなる。
【0107】
本明細書で使用する場合、「CD3活性および/またはBCMA活性が有害な障害」という用語には、その障害に罹患している対象におけるCD3とCD3リガンドとの相互作用またはBCMAとBCMAリガンドとの相互作用がその障害の病態生理学の一因であるか、またはその障害の増悪に寄与する因子である、疾患およびその他の障害が含まれる。よって、CD3活性および/またはBCMA活性が有害な障害は、CD3活性および/またはBCMA活性の阻害がその障害の症状および/または進行を緩和することが期待される障害である。
【0108】
別の実施形態において、本発明は、必要とする対象において自己免疫疾患または癌を治療するための方法であって、対象にCD3、BCMA、またはCD3およびBCMAの両方と結合し得る本明細書に記載される抗体、その機能的フラグメント、または結合タンパク質を投与することを含んでなる方法を提供し、自己免疫疾患または癌は免疫療法に応答性のある疾患である。別の実施形態において、本発明の方法は、免疫療法に関連付けられていない自己免疫疾患または癌を治療するために使用される。別の実施形態において、本発明の方法は、難治性または再発性悪性腫瘍である癌を治療するために使用される。別の実施形態において、本発明のCD3抗体またはBCMA抗体、その機能的フラグメント、またはBCMA/CD3二重特異性結合タンパク質は、腫瘍細胞の増殖または生存を阻害する方法において使用される。
【0109】
別の実施形態において、本発明は、対象において癌を治療するための方法であって、対象に本明細書に記載されるCD3またはBCMAに対する抗体、その機能的フラグメント、または本明細書に記載されるBCMA/CD3二重特異性結合タンパク質、例えば、Fabs-in-tandem免疫グロブリン(FIT-Ig)結合タンパク質、またはMAT-Fab結合タンパク質を投与する工程を含んでなる方法を提供し、癌は、黒色腫(例えば、転移性悪性黒色腫)、腎臓癌(例えば、明細胞癌)、前立腺癌(例えば、ホルモン不応性前立腺腺癌)、膵臓腺癌、乳癌、結腸癌、肺癌(例えば、非小細胞肺癌)、食道癌、頭頸部扁平上皮癌、肝臓癌、卵巣癌、子宮頸癌、甲状腺癌、膠芽腫、神経膠腫、白血病、リンパ腫、原発骨癌(例えば、骨肉腫、ユーイング肉腫、悪性線維性組織球腫、および軟骨肉腫)、転移性癌、およびその他の新生悪性腫瘍からなる群のいずれかから選択される。
【0110】
本発明はまた、本発明の抗体、またはその抗原結合部分、または二重特異性多価結合タンパク質(すなわち、主要有効成分)、または本発明の二重特異性一価結合タンパク質および薬学上許容可能な担体を含んでなる医薬組成物を提供する。本発明のタンパク質を含んでなる医薬組成物は、限定するものではないが、障害の診断、検出、もしくは監視;障害もしくはその1以上の症状の治療、管理、もしくは改善;および/または研究において使用するためのものである。特定の実施形態において、組成物は、本発明の1以上の抗体または結合タンパク質を含んでなる。別の実施形態において、医薬組成物は、本発明の1以上の抗体または結合タンパク質、ならびに本発明の抗体または結合タンパク質以外の、CD3活性および/またはBCMA活性が有害な障害を治療するための1以上の予防薬または治療薬を含んでなる。ある実施形態において、これらの予防薬または治療薬は、障害またはその1以上の症状の予防、治療、管理、または改善のために有用であることが知られる、またはそれに使用されていた、または現在使用されている。これらの実施形態によれば、組成物はさらに、担体、希釈剤、または賦形剤を含んでなってもよい。賦形剤は一般に、組成物に主要有効成分以外(すなわち、本発明の抗体、その機能的部分、または結合タンパク質以外)の所望の特徴を提供する任意の化合物または化合物の組合せである。
【0111】
本発明の抗体(その機能的フラグメントを含む)および結合タンパク質は、対象への投与に好適な医薬組成物に配合することができる。一般に、医薬組成物は、本発明の抗体または結合タンパク質および薬学上許容可能な担体を含んでなる。本明細書で使用する場合、「薬学上許容可能な担体」には、生理学的に適合するありとあらゆる溶媒、分散媒、コーティング剤、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などが含まれる。薬学上許容可能な担体の例としては、水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなどの1以上、ならびにそれらの組合せが挙げられる。多くの場合、組成物中に等張剤、例えば、糖類、ポリアルコール(例えば、マンニトールもしくはソルビトール)、または塩化ナトリウムを含むことが好ましい。薬学上許容可能な担体はさらに、組成物中に存在する抗体または結合タンパク質の保存寿命または有効性を高める微量の、湿潤剤または乳化剤、保存剤、またはバッファーなどの補助物質を含んでなる。
【0112】
本発明の医薬組成物は、その意図される投与経路と適合するように処方される。投与経路の例としては、限定するものではないが、非経口(例えば、静脈内、皮内、皮下、筋肉内)、経口、鼻腔内(例えば、吸入)、経皮(例えば、局所)、腫瘍内、経粘膜、および直腸投与が挙げられる。特定の実施形態において、組成物は、ヒトへの静脈内、皮下、筋肉内、経口、鼻腔内、または局所投与に適合された医薬組成物として常法に従って処方される。一般に、静脈内投与用の組成物は、無菌等張水性バッファー中の溶液である。必要であれば、組成物はまた、可溶化剤および注射部位の疼痛を軽減するためにリドカイン(キシロカイン、リグノカイン)などの局所麻酔薬を含んでもよい。
【0113】
本発明の方法は、注射(例えば、ボーラス注射または持続的注入)による非経口投与のために処方された組成物の投与を含んでなり得る。注射用処方物は、保存剤を添加して単位投与形(例えば、アンプルまたは多用量容器)で提供してもよい。組成物は、油性または水性ビヒクル中の懸濁液、溶液またはエマルションなどの形態をとってもよく、懸濁剤、安定剤および/または分散剤などの処方剤を含有してもよい。あるいは、主要有効成分は、 使用前に好適なビヒクル(例えば、無菌発熱性物質除去水)で構成するための粉末形態であってもよい。
【0114】
本発明の方法はさらに、デポ製剤として処方された組成物の投与を含んでなり得る。このような長時間作用処方物は、移植(例えば、皮下もしくは筋肉内)または筋肉内注射によって投与され得る。よって、例えば、組成物は、好適な高分子物質もしくは疎水性物質(例えば、許容可能な油中のエマルション)またはイオン交換樹脂、または難溶性誘導体(例えば、難溶性塩)を用いて処方され得る。
【0115】
本発明の抗体、その機能的フラグメント、または結合タンパク質はまた、種々の疾患の治療に有用な1以上の付加的治療薬とともに投与することができる。本明細書に記載される抗体、その機能的フラグメント、および結合タンパク質は、単独で、または付加的薬剤、例えば、治療薬と組み合わせて使用することができ、前記付加的薬剤は、その意図される目的のために当業者により選択される。例えば、付加的薬剤は、本発明の抗体または結合タンパク質によって治療される疾患または病態を治療するために有用であると当技術分野で認識される治療薬であり得る。付加的薬剤はまた、有益な属性を付与する薬剤、例えば、組成物の粘度に影響を与える薬剤であり得る。
【0116】
以上、本発明を詳細に説明してきたが、これは以下の実施例を参照することによってより明確に理解され、これらの実施例は、説明の目的で含まれるに過ぎず、本発明の限定を意図するものではない。
【実施例】
【0117】
実施例1:抗ヒトCD3モノクローナル抗体の作製
抗ヒトCD3モノクローナル抗体を次のように作製した。
実施例1.1:ヒトCD3抗原による免疫誘導
抗CD3抗体は、10個体のBalb/cおよびSJL/Jマウス(Shanghai Laboratory Animal Center)の群に交互免疫誘導戦略で免疫誘導を行うことによって得た。4つの異なるCD3免疫原を使用し、これには2つのペプチド(CD3εフラグメント:LSLKEFSELEQSGYYVC(配列番号2)およびQDGNEEMGGITQTPYK(配列番号3)、組換えhuCD3εγ/Fc融合タンパク質(融合タンパク質ヘテロ二量体:第1鎖
【化2】
および第2鎖
【化3】
、ならびにヒトT細胞受容体複合体を発現させるために全長ヒトCD3γ鎖、CD3ε鎖、CD3δ鎖、CD3ζ鎖(ゼータ鎖)、TCRα鎖、およびTCRβ鎖でトランスフェクトされたCHO細胞株(CHOK1/CD3/TCR)が含まれた。
【0118】
実施例1.2:ハイブリドーマの作製
マウスに免疫原のうち1つで、2週間隔で免疫誘導を行い(群によっては初回免疫で使用したものとは異なる免疫原で追加免疫を行った)、2回目の注射の後、週に1回、血清力価をモニタリングした。4~6回の免疫誘導の後に、脾細胞を採取し、マウス骨髄腫細胞と融合させてハイブリドーマ細胞株を作出した。次に、ハイブリドーマ細胞の上清をhuCD3/Fc二量体標的に関してスクリーニングし、無関係のタンパク質/Fc二量体で対比染色してCD3特異的マウス抗体を生産する細胞株を同定した。陽性ハイブリドーマを、抗体の細胞表面結合を確認するためのJurkat細胞標的およびTCR複合体トランスフェクトCHO細胞標的に対する細胞結合アッセイで試験した。その後、最後に、確認された細胞結合剤をcynoCD3εγ/Fc融合タンパク質を標的として用いてELISAによりカニクイザル交差反応性に関して試験し、Jurkat-NFAT-ルシフェラーゼリポーター細胞株を用いて抗CD3作動活性を特徴付けた。この様式で試験したハイブリドーマのうち2つのみが総てのアッセイで陽性判定されたモノクローナル抗体を生産していた。これらをmAbCD3-001およびmAbCD3-002と呼称した。
【0119】
実施例1.3:重鎖および軽鎖可変領域配列
重鎖および軽鎖可変領域を増幅するために、各ハイブリドーマクローンの全RNAを5×106を超える細胞から、TRIzol(商標)RNA抽出試薬(Invitrogen、カタログ番号15596018)を用いて単離した。cDNAを、Invitrogen(商標)スーパースクリプト(商標)III First-Strand Synthesis SuperMixキット(ThermoFisher Scientific カタログ番号18080)を製造者の説明書に従って使用して合成し、軽および重マウス免疫グロブリン鎖の可変領域をコードするcDNAを、MilliporeSigma(商標)Novagen(商標)マウスIgプライマーセット(Fisher Scientific カタログ番号698313)を用いて増幅させた。PCR産物を、1.2%アガロースゲルでの、SYB(商標)Safe DNAゲルステイン(ThermoFisher カタログ番号S33102)を用いた電気泳動により分析した。適正なサイズのDNAフラグメントを、NucleoSpin(登録商標)ゲルおよびPCR Clean-upキット(Macherey-Nagel カタログ番号740609)を製造者の説明書に従って使用して精製し、個々にpMD18-Tベクターにサブクローニングした。各形質転換から15のコロニーを選択し、挿入フラグメントの配列をDNAシーケンシングによって分析した。少なくとも8つのコロニーフラグメントがVHおよびVLのコンセンサス配列と一致するかどうか配列を確認した。マウスモノクローナル抗体可変領域のタンパク質配列を、配列相同性アラインメントによって分析し、表1に列挙した。Kabatナンバリングに基づいて相補性決定領域(CDR)に下線を施した。
【0120】
【0121】
実施例1.4:ヒトCD3およびカニクイザルCD3の両方と結合する抗CD3抗体
単離されたマウス抗CD3抗体の結合特性を以下のようにELISAを用いて測定した:ヘテロ二量体CD3εγ/Fc融合タンパク質を4℃で一晩、96ウェルプレート上に1μg/mLでコーティングした。プレートを洗浄バッファー(0.05%Tween 20を含有するPBS)で1回洗浄し、室温で2時間、ELISAブロッキングバッファー(0.05%Tween 20を含有するPBS中、1%BSA)でブロッキングした。次に、抗CD3抗体を加え、37℃で1時間インキュベートした。プレートを洗浄バッファーで3回洗浄した。HRP標識抗マウスIgG二次抗体(Sigma、カタログ番号A0168)を加え、プレートを37℃で30分間インキュベートし、洗浄バッファー中で5回洗浄した。100μlのテトラメチルベンジジン(TMB)発色溶液を各ウェルに加えた。発色後、反応を1規定HClで停止させ、450nmでの吸光度をVarioskan(商標)LUXマイクロプレートリーダー(ThermoFisher Scientific)で測定した。GraphPad Prism 5.0ソフトウエアを用いて結合シグナルを抗体濃度に対してプロットし、それに応じてEC50を計算した。
図1および
図2に示されるように、mAbCD3-002は最高の結合活性を示したが、mAbCD3-001は、米国特許第8,236,308号に報告された可変ドメイン配列を用いて発現させた参照抗CD3ε抗体と同等の結合EC50を有した。
【0122】
実施例1.5:抗CD3抗体はin vitroにおいてヒトT細胞を活性化する
末梢血単核細胞(PBMC)は、Lymphoprep(商標)単核細胞単離培地(STEMCELL Technologies、カタログ番号07851)を使用することで健常ドナーから取得し、CD3陰性T細胞選択キット(EasySep(商標)STEMCELL Technologies、カタログ番号17951)を用いてPBMCからT細胞を単離した。増殖(CTG)およびサイトカイン(IFN-γ)生産データを、以下のプロトコールを用いて取得した:100μlの試験抗体(mAbCD3-001、OKT3、または陰性対照IgG)を4℃で一晩、high-binding96ウェルプレート(Nunc(商標)、カタログ番号3361)上にコーティングした後、DPBSで洗浄した。市販のOKT3抗体を陽性抗CD3対照として用い、無関係のマウスIgGを陰性対照として使用した。各ウェルについて、1×10
5T細胞を200μlの培養培地(RPMI1640+10%FBS+1%ペニシリン-ストレプトマイシン溶液+1%GlutaMAX(商標)添加剤)中に播種し、37℃で96時間インキュベートした。増殖は、ATPにより触媒される定量キット(CellTiter-Glo(商標)、Promega)を使用することによって測定した。IFN-γは、LANCE(登録商標)(Lanthanide Chelate Excite)TR-FRETアッセイキット(PerkinElmer、カタログ番号TRF1217M)によって測定した。データは、GraphPad Prism 5.0ソフトウエアを用いて分析した。結果を
図3および4に示す。細胞増殖およびIFN-γ生産データは、mAbCD3-001がin vitroでヒトT細胞を活性化することを示した。
【0123】
実施例2:抗CD3抗体のヒト化
実施例2.1:mAbCD3-001のヒト化
抗CD3 mAbCD3-001可変領域遺伝子を使用してヒト化mAbを作出した。このプロセスの最初の工程で、全体として最良に一致するヒト生殖細胞系Ig V遺伝子配列を見出すために、mAbCD3-001のVHおよびVKのアミノ酸配列(表1前掲参照)を利用可能なヒトIg V遺伝子配列データベースと比較した。さらに、VHまたはVLのフレームワーク4を、それぞれマウスVH領域およびVL領域との最大相同性を有するヒトフレームワークを見出すために、J領域データベースと比較した。軽鎖では、最も近いヒトV遺伝子一致はB3遺伝子(V-baseデータベース)であり、重鎖では、最も近いヒト一致はVH1-2遺伝子であった。次に、mAbCD3-001軽鎖のCDR-L1、CDR-L2およびCDR-L3が、CDR-L3の後のJK4フレームワーク4配列とともにB3遺伝子のフレームワーク配列にグラフトされ;mAbCD3-001 VHのCDR-H1、CDR-H2、およびCDR-H3配列が、CDR-H3の後のJH6フレームワーク4配列とともにVH1-2のフレームワーク配列にグラフトされたヒト化可変ドメイン配列を設計した。次に、mAbCD3-001の3D Fvモデルを作製し、CDR残基まで4Å未満の距離で、かつ、ループ構造またはVH/VL干渉を補助するのに重要である可能性が最も高かったフレームワーク残基が存在するかどうかを決定するために分析した。ヒト化配列におけるこれらの残基は、親和性/活性を保持するために同じ位置でマウス残基に復帰突然変異させるべきである。Q1E突然変異は、該当する場合、N末端ピログルタミン酸塩の形成を排除するために常に含まれた。重鎖の場合、Y27F、T28S、V37M、M48I、V67A、M69LおよびR71A(Kabatナンバリング)の潜在的突然変異を特定した。軽鎖の場合、T5SおよびN22Tを復帰突然変異として特定した。そのCDRとの相互作用によって判定した場合の各復帰突然変異の重要度の階層によって、最も重要な復帰突然変異が、優先度の高い順にヒト化VH配列に導入され、その後に他の復帰突然変が連続的設計として導入された。また、VK CDR-L1配列は、潜在的な脱アミド化サイトであるNSパターンを有した。このアスパラギンの脱アミド化性を取り除くために、NSはヒト化κ鎖においてQS、NT、またはNAに変異させた。ヒト化VHおよびVL構築物を表2(下記)に示す。(復帰突然変異したフレームワークアミノ酸残基を二重下線で示し、元の親抗体からのマウスCDRを下線で示す。)
【0124】
【0125】
対応するアミノ酸配列設計から逆翻訳されたヒト化VHおよびVK遺伝子をde novo合成し、次いで、ヒトIgG1およびヒトκ定常ドメイン(それぞれ配列番号26および配列番号27)を含むベクターにクローニングした。
【0126】
【0127】
ヒトVHおよびヒトVKの対合は、27種類のヒト化抗体を作出し、HuEM0006-01-1~HuEM0006-01-27と呼称した(表3)。親マウスVH/VLおよびヒト定常配列を有するキメラ抗体(HuEM0006-01c)もまた作出し、ヒト化抗体のランク付けのための陽性対照として使用した。総ての組換えヒト化mAbをHEK293細胞で一過性発現させ、プロテインAクロマトグラフィーによって精製した。
【0128】
【0129】
実施例2.2:ヒト化抗CD3抗体は種々のCD3結合活性を示した
種々のヒト化VHおよびVK組合せから、種々のCD3結合親和性を有するヒト化抗CD3変異体が得られた。mAbCD3-001のヒト化変異体の結合活性は、ヒトCD3発現Jurkat T細胞株でフローサイトメトリーによって試験した。FACSバッファー中の5×105のJurkat細胞を96ウェルプレートの各ウェルに播種した。細胞を400gで5分間遠心分離し、上清を廃棄した。次に、各ウェルについて、100μlの連続希釈抗体を加え、細胞と混合した。4℃で40分のインキュベーション後、プレートを数回洗浄して余分な抗体を除去した。次に、二次蛍光色素コンジュゲート抗体(Alexa Fluor(登録商標)647ヤギ抗ヒトIgG1 H&L;Jackson ImmunoResearch、カタログ番号109-606-170)を加え、細胞とともに室温で20分間インキュベートした。もう1回遠心分離および洗浄工程を行った後、CytoFLEXフローサイトメーター(Beckman Coulter)で読み取るために細胞をFACSバッファーに再懸濁させた。蛍光強度中央値(MFI)の読み取りを抗体濃度に対してプロットし、GraphPad Prism 5.0ソフトウエアで解析した。
【0130】
図5A~5Hに示されるように、ヒト化抗CD3抗体は、Jurkat細胞上の細胞表面CD3標的に対して広範囲の親和性を示した。κ鎖の違い(すなわち、EM0006-01VK.1とEM0006-01VK.1Aの間の)は結合に有意な影響持つとは思われなかったので、VH変異体は、明らかにこのCD3結合調節の重要な要素であった。いくつかのヒト化抗体、特に、VH変異体EM006-01VH.1Hを有するHuEM0006-01-08およびHuEM0006-01-17(表4および配列番号18参照)は同等に、親マウスVH領域EM0006-01VHを有するキメラ対照抗体HuEM0006-01cよりもはるかに高いCD3結合を示した(表4参照)。
【0131】
実施例3:抗BCMAモノクローナル抗体の作製
抗BCMA抗体は、Balb/cまたはSJLマウスを、ヒトFc領域に融合されたヒトBCMA(ECD)のホモ二量体化によって形成された組換えBCMA細胞外ドメイン/Fc二量体で免疫誘導することによって得た。
【0132】
【0133】
マウスに2週間隔で免疫誘導を行い、2回目の注射の後に週に1回、血清力価をモニタリングした。
【0134】
実施例3.1:ハイブリドーマの作製
4~6回の免疫誘導の後、脾細胞を採取し、マウス骨髄腫細胞に融合してハイブリドーマ細胞株を形成した。融合生成物を96ウェルプレートにて、ヒポキサンチン-アミノプテリン-チミジン(HAT)を含有する選択培地にウェル当たり1×105脾細胞の密度で播種した。融合から7~10日後に、肉眼で見えるハイブリドーマコロニーを得た。次に、ハイブリドーマ細胞の上清をスクリーニングし、BCMA特異的マウス抗体を産生する細胞株を同定する選択を行った。5種類の抗BCMA抗体を選択し、配列を決定した。
【0135】
実施例3.2:重鎖および軽鎖可変領域配列
重鎖および軽鎖可変領域を増幅するために、各ハイブリドーマクローンの全RNAを、5×106を超える細胞からTRIzol(商標)RNA抽出試薬(Invitrogen、カタログ番号15596018)を用いて単離した。cDNAを、Invitrogen(商標)スーパースクリプト(商標)III First-Strand Synthesis SuperMixキット(ThermoFisher Scientific カタログ番号18080)を製造者の説明書に従って使用して合成し、軽および重マウス免疫グロブリン鎖の可変領域をコードするcDNAを、MilliporeSigma(商標)Novagen(商標)マウスIgプライマーセット(Fisher Scientific カタログ番号698313)を用いて増幅した。PCR産物を、SYBR(商標)Safe DNAゲルステイン(ThermoFisher カタログ番号S33102)を用い、1.2%アガロースゲルでの電気泳動によって分析した。適正なサイズのDNAフラグメントを、NucleoSpin(登録商標)ゲルおよびPCR Clean-upキット(Macherey-Nagel、カタログ番号740609)を製造者の説明書に従って使用して精製し、個々にpMD18-Tベクターにサブクローニングした。各形質転換から15のコロニーを選択し、挿入フラグメントの配列をDNAシーケンシングによって分析した。少なくとも8コロニーのフラグメントがVHおよびVLのコンセンサス配列と一致するかどうか、配列を確認した。マウスmAb可変領域のタンパク質配列を配列相同性アラインメントにより分析した。
【0136】
実施例3.3:表面プラズモン共鳴(SPR)による抗BCMA抗体の結合速度
抗BCMA抗体の結合親和性および速度定数は、標準的な手順を用い、Biacore T200装置(GE Healthcare)を使用した25℃での表面プラズモン共鳴によって決定した。簡単に述べれば、ヤギの抗マウスIgG Fc抗体をバイオセンサーチップに直接固定し、抗体サンプルを5μl/分の流速で反応マトリックスに注入した。マウス抗BCMA IgG試験抗体を固定化された表面に注入され、固定化された抗Fc抗体によって捕捉された。次に、ヒトおよびカニクイザルのBCMA(ECD)/Fc標的ポリペプチドを、捕捉されたマウス抗BCMAIgG表面に注入した。結合および解離速度定数、kon(M-1s-1)およびkoff(s-1)をそれぞれ30μl/分の連続流速で決定した。速度定数は、標的BCMA(ECD)ポリペプチドの5つの異なる濃度で速度論的結合測定を行うことによって導き出した。次に、抗体と関連する標的タンパク質との間の反応の平衡解離定数KD(M)を、式KD=koff/konを使用して反応速度定数から計算した。速度定数は、Biacore分析ソフトウエアを使用してデータを処理し、1:1の結合モデルに適合させることによって決定した。結果を表7に示す。
【0137】
【0138】
ヒトおよびカニクイザルBCMA標的の両方に高い親和性を示す2つの抗BCMA抗体をさらに開発し、分析した。これらの選択された抗BCMAモノクローナルmAbBCMA-002およびmAbBCMA-003の可変ドメイン配列を以下の表8に示す。Kabatナンバリングに基づいて相補性決定領域(CDR)に下線を施した。
【0139】
【0140】
実施例3.4:抗BCMA抗体は種々のBCMA遮断活性を示した
モノクローナル抗BMCA抗体の、ヒト骨髄腫細胞株NCI-H929においてBCMAリガンドBAFFにより刺激されたNFκBのリン酸化を遮断する能力を、Phospho-NFκB(Ser536)細胞アッセイキット(Cisbio;カタログ番号64 NFBPEG)を用いて評価した。NCI-H929ヒト骨髄腫細胞をアッセイ培地(RPMI1640、0.1%BSA)中で37℃にて一晩飢餓状態とした。細胞を洗浄し、再懸濁させ、384ウェルマイクロプレート(PerkinElmer、カタログ番号6008280)にウェル当たり2×105細胞で播種した。次に、抗体をウェルに加え、細胞とともに約10分間37℃でインキュベートした。抗BAFF抗体(R&D Systems、カタログ番号BAF124)を陽性対照として使用し、無関係の抗RAC1モノクローナル抗体を陰性対照として使用した。参照抗BCMA抗体TAb1およびTAb2(それぞれ国際公開第WO2012/163805号のクローンCA8および国際公開第WO2014/122143号のクローン83A10)を比較のために試験した。
【0141】
次に、組換えBAFFを5μg/mlの濃度で各ウェルに加え、30分間インキュベートした。キット溶解バッファーを加えて細胞を溶解させ、振盪しながら室温で少なくとも30分間インキュベートした。次に、細胞溶解液を384ウェル小容積マイクロプレート(PerkinElmer、カタログ番号6008280)に移した。製造者の説明書に従ってアッセイキット試薬を調製し、ウェルに加えた。室温で4時間の最後のインキュベーションの後、プレートの665nmおよび620nmの波長での蛍光を読み取った。阻害パーセンテージを計算し、GraphPad Prism 5.0ソフトウエアを用いて抗体濃度に対してプロットした。
図6に示されるように、上記のように単離した選択抗BCMA抗体mAbBCMA-002およびmAbBCMA-003は、BAFFにより誘導されたNF-κBのリン酸化に対して陰性対照(抗RAC)よりも優れた阻害活性を示した。
【0142】
また、別のリポーター遺伝子に基づく発光アッセイ系も使用して、BCMAに対するリガンド結合活性の抗体遮断を特徴付けた。BCMAを発現するようにトランスフェクトし、NF-κBのリン酸化が誘導された際にルシフェラーゼシグナルを発する安定なHEK293F細胞株(HEK293F-BCMA-NF-kB-lucクローン1H2)を所内で確立し、この発光アッセイに使用した。細胞を採取し、洗浄し、アッセイ培地(10%FBSを含むRPMI1640)に再懸濁させた。次に、細胞を96ウェルマイクロプレート(Costar、カタログ番号3903)にウェル当たり5×10
4細胞で播種し、試験抗体:mAbBCMA-002、mAbBCMA-003、TAb1(抗BCMA)、TAb2(抗BCMA)、または無関係のマウスIgGとともにインキュベートした。BCMAリガンドとしてのBAFFまたはAPRIL(TNFSF13、CD286)加え、抗体溶液とともに10分間、今日インキュベートした。One-Glo(商標)ルシフェラーゼアッセイシステム(Promega、カタログ番号E6130)試薬を製造者の説明書に従って調製し、ウェルに加えた。プレートの発光シグナルをVarioskan(商標)LUXマイクロプレートリーダー(Thermo Scientific)で読み取った。阻害パーセンテージを計算し、GraphPad Prism 5.0ソフトウエアを用い、抗体濃度に対してプロットした。
図7(BAFF遮断)および
図8(APRIL遮断)に示されるように、mAbBCMA-002は、活性を示さないか、または弱い遮断活性を示すが、mAbBCMA-003は、陽性参照抗体TAb1およびTAb2と同様に強いNF-κBシグナル経路遮断活性を示した。
【0143】
次に、mAbBCMA-002およびmAbBCMA-003の結合ドメインを用いて、二重特異性BCMA/CD3 FIT-Ig結合タンパク質を作製した。
【0144】
実施例4:BCMA/CD3 Fabs-in-Tandem免疫グロブリン(FIT-Ig)の作製
実施例4.1:BCMA/CD3 FIT-Ig結合タンパク質(FIT-Ig)の作製
ヒトCD3とヒトBCMAの両方を認識する二重特異性Fabs-in-Tandem免疫グロブリン(FIT-Ig)結合タンパク質を構築した。FIT-Ig構築物は、国際公開第WO2015/103072号に記載の一般手順に従い、免疫グロブリンドメイン間の合成リンカー配列の使用をなくすように操作した。
【0145】
結合CD3およびBCMAと結合し得るFIT-Ig抗体を生成するために使用したDNA構築物は、親抗CD3および抗BCMAモノクローナル抗体(mAb)の可変ドメインをコードしていた。各FIT-Ig結合タンパク質は、以下の構造を有する3つのポリペプチド鎖からなり、
鎖1(長鎖):VLCD3-CL-VHBCMA-CH1-hinge-CH2-CH3;
鎖2(第1の短鎖):VHCD3-CH1;
鎖3(第2の短鎖):VLBCMA-CL;
ここで、VLBCMAはBCMAを認識するモノクローナル抗体の軽鎖可変ドメインであり、VHCD3はCD3を認識するモノクローナル抗体の重鎖可変ドメインであり、VLCD3はCD3を認識するモノクローナル抗体の軽鎖可変ドメインであり、VHBCMAはBCMAを認識するモノクローナル抗体の重鎖可変ドメインであり、各CLは軽鎖定常ドメインであり、各CH1は第1の重鎖定常ドメインであり、ヒンジ-CH2-CH3は抗体C末端Fc領域である。
【0146】
長鎖ベクターを構築するために、VLCD3-CL-VHBCMAセグメントをコードするcDNAをde novo合成し、ヒトCH1-ヒンジ-CH2-CH3のコード配列を含むベクターの多重クローニング部位(MCS)に挿入した。得られたベクターにおいて、MCS配列は、総てのドメインフラグメントが適正なリーディングフレーム内にあることを保証するために相同組換えの際に除去された。同様に、第1および第2の短鎖を構築するために、VHCD3およびVLBCMA構造遺伝子をde novo合成し、それぞれヒトCH1およびCLドメインのコードセグメントを含む適当なベクターのMCSに挿入した。
【0147】
3種類のプラスミドを1:2:1.5比で混合した後、HEK293細胞に同時トランスフェクトした。発現7日後に、細胞培養上清を回収し、プロテインAクロマトグラフィーにより精製した。精製したFIT-Igタンパク質の濃度をA280によって測定し、均質性をサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって分析した。
【0148】
新規マウス抗BCMA抗体としてのmAbBCMA-002およびmAbBCMA-003の二重特異性FIT-Ig形式での結合の特徴を調べるために、鎖1および鎖3ポリペプチド(前掲)に使用したVHBCMAおよびVLBCMAドメインは、表8(すなわち、VHでは、配列番号29または配列番号31のいずれか、VLでは、配列番号30または配列番号32のいずれか)に示されるVHおよびVLドメインセットであった。鎖1および鎖2(前掲)のVHCD3およびVLCD3ドメインでは、親抗CD3抗体は3種類の選択されたヒト化抗CD3抗体のうちの1つであった:HuEM0006-01-24抗体(VH=配列番号18;VL=配列番号25)、HuEM0006-01-25抗体(VH=配列番号15;VL=配列番号25)、またはHuEM0006-01-26抗体(VH=配列番号12;VL=配列番号25)。FIT-Ig構造の定常ドメインCH1-ヒンジ-CH2-CH3およびCLでは、ヒト配列、すなわち、配列番号26および配列番号27が使用された。以上のポリペプチドドメインをコードするcDNA用いてFIT-I発現ベクターを構築し、これを用いてHEK293細胞をトランスフェクトした。各リンカーを含まないFIT-Ig構築物の培養物を増殖させ、上記のようにFIT-Igを精製した。6種類のFIT-Ig結合タンパク質に以下の表9に示す名称を与えた。
【0149】
【0150】
実施例4.2:BCMA/CD3 FIT-Ig Fabフラグメント結合タンパク質(FIT-Fab)の作製
全長FIT-Igタンパク質を消化し、Pierce(商標)Fab Preparationキット(ThermoFisher Scientific、カタログ番号44985)を用いて精製した。この過程で、FIT-Igタンパク質のFcドメインは、アガロースビーズ上の固定化パパインを用いた酵素的切断によって除去した。次に、FIT-Ig Fabフラグメント(FIT-Fab)をプロテインAクロマトグラフィーのフロースルーから精製した。精製したFIT-Fabタンパク質の濃度をA280によって測定し、均質性をサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって分析した。
【0151】
実施例4.3:FIT-Ig二重特異性抗体はCD3標的およびBCMA標的の両方への結合を示した
キメラ二重特異性BCMA/CD3 FIT-Ig抗体の結合活性を、ヒトCD3/TCR複合体トランスフェクトCHO細胞株(CHOK1/CD3/TCR細胞)およびBCMA発現NCI-H929細胞を用いてフローサイトメトリーにより調べた。簡単に述べれば、FACSバッファー中、5×10
5細胞を96ウェルプレートに播種した。細胞を400×gで5分間遠心分離し、上清を廃棄した。次に、各ウェルについて、100μlの連続希釈FIT-Ig抗体またはFIT-Fab抗体を加え、細胞と混合した。4℃で40分間のインキュベーションの後、プレートを数回洗浄して余分な抗体を除去した。その後、二次抗体(ヤギ抗huIgGκ鎖特異的)を加え、細胞とともに室温で20分間インキュベートした。もう1回遠心分離および洗浄を行った後、CytoFLEXフローサイトメーターで読み取るために細胞をFACSバッファーに再懸濁させた。結果を分析し、GraphPad Prism 5.0ソフトウエアを用いてプロットした。結果を
図9および10に示す。
【0152】
図9に示されるように、二重特異性キメラBCMA/CD3 FIT-Fab抗体のFabフラグメントを有するBCMAへの結合活性は、それらが同じBCMA結合ドメインからなる場合に同じ結合曲線を正確に示した。
図10に示されるように、キメラBCMA/CD3 FIT-Ig結合タンパク質は、親モノクローナルヒト化CD3抗体と同様の結合活性曲線を維持していた(
図5B、5C参照)。
【0153】
実施例4.4:キメラFIT-FabおよびFIT-IgはCD3活性化のリダイレクトを示した
BCMA/CD3二重特異性FIT-Ig抗体およびFIT-Fab抗体によるCD3活性化のリダイレクトを測定するために、共培養したリポーター遺伝子アッセイを使用した。Jurkat-NFAT-luc細胞は、細胞表面CD3がひと度活性化されると、下流のルシフェラーゼシグナルを惹起する。NCI-H929細胞をBCMA発現標的細胞として使用したが、これはBCMAの結合時に二重特異性BCMA/CD3抗体を介してT細胞上のCD3/TCR複合体を架橋することができる。Jurkat-NFAT-luc細胞およびNCI-H929細胞を洗浄し、アッセイ培地(10%FBSを含むRPMI1640)にそれぞれ再懸濁させた。両細胞種を1:1比にて96ウェルプレート(Costar #3903)にウェル当たり1×10
5細胞として播種した。FIT-Ig抗体またはFIT-Fab抗体を加え、細胞と混合し、37℃で4時間インキュベートした。インキュベーションの終了時に、製造者の説明書に従ってONE-Glo(商標)発光アッセイキット(Promega、カタログ番号E6130)試薬を調製し、ウェルに加えた。プレートの発光シグナルを、Varioskan(商標)LUXマイクロプレートリーダー(ThermoFisher Scientific)を用いて読み取った。結果を
図11および12に示す。
【0154】
図11を参照すると、高い親和性の抗BCMA抗体および抗CD3抗体の2つ、すなわち、mAbBCMA-003およびHuEM0006-01-24を用いて実施例4.1に記載されるように作製したFIT-Ig結合タンパク質に関して、T細胞の活性化を生じるFIT-Ig濃度がプロットされている。この図で、FIT1006-4aは、外部CD3結合Fab結合部位および内部BCMA結合Fab結合部位を有するFIT-Igであり(前掲;表9参照);FIT1006-4bは、同じアミノ酸配列を使用しているが、逆転した結合ドメイン部分を有する、すなわち、外部BCMA結合Fab結合部位と内部CD3結合Fab結合部位を有するFIT-Ig構築物であり;FIT1006-4a-Fabは、FIT1006-4aからパパイン消化によって作製したものである(実施例4.2参照)。これらの結合タンパク質の性能を2つの陰性対照:(i)2つの無関係の抗原標的と反応性のある結合部位を有するFIT-Ig(「FIT1002-5a」)、および(ii)無関係の抗原と反応性のあるヒト化IgGモノクローナル抗体(「hIgG」)と比較した。また、2つの抗CD3結合タンパク質、すなわち、ヒト化抗CD3モノクローナル抗体(HuEM0006-01-24)およびそれらから作製されたFabフラグメント(HuEM0006-01-24-Fab)も試験した。総ての二重特異性BCMA/CD3結合タンパク質がBCMA発現標的細胞の存在下で、BCMA結合活性を有する単一特異性抗CD3結合タンパク質に比べて、T細胞活性化の上昇をもたらしたことが見て取れる。
【0155】
図12を参照すると、上記の表9に記載したFIT-Ig結合タンパク質から調製されたFIT-Fab(FIT1006-3a-Fab、FIT1006-4a-Fab、FIT1006-5a-Fab、FIT1006-6a-Fab、FIT1006-7a-Fab、FIT1006-8a-Fabと呼称)に関して、BCMA発現標的細胞の存在下でT細胞の活性化を生じる種々の二重特異性BCMA/CD3 FIT-Fab結合タンパク質の濃度がプロットされている。これらのFIT-Fabの性能を参照抗CD3 FabとmAbBCMA-002の組合せ、WO2016/020332に開示されている抗CD3および抗BCMA結合領域を使用したFIT1006-1a-Fabと呼称する参照FIT-Fab抗体、および2つの無関係の抗原標的に向けられた親抗体結合部位を用いて調製されたFIT1002-5a-Fabと呼称する陰性対照FIT-Fabと比較した。
【0156】
これらの結果は、BCMA/CD3二重特異性抗体は腫瘍細胞の表面上のBCMAに結合した際に架橋することによってCD3を活性化し得ることを示した。このアッセイでは、FIT-Ig結合タンパク質(
図11)だけでなくFIT-Fab結合タンパク質(
図12)も活性化のリダイレクトを示した。さらに、FIT1006-4a-Fabは、低濃度で驚くべき急激な活性化極性を示した。
【0157】
実施例4.5:キメラBCMA/CD3 FIT-FabはT細胞細胞傷害性のリダイレクトを示した
BCMA/CD3二重特異性結合タンパク質の腫瘍細胞死滅化の効力を、標的細胞としてのヒト骨髄腫細胞株NCI-H929およびエフェクター細胞としてのヒトT細胞を用いたリダイレクトT細胞細胞傷害性アッセイで測定した。簡単に述べれば、細胞を採取し、洗浄し、アッセイ培地(10%FBSを含むRPMI1640)で再懸濁させた。NCI-H929細胞を平底96ウェルプレート(Corning、カタログ番号3599)にウェル当たり5×10
4細胞で播種した。市販のPBMC単離キット(EasySep(商標)、Stemcell Technologies、カタログ番号17951)を用いてヒトPBMCからT細胞を精製し、ウェル当たり2×10
5細胞に加えた。試験抗体を加え、37℃で48時間、細胞混合物とともにインキュベートした。乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)放出は、CytoTox 96(登録商標)細胞傷害性アッセイキット(Promega、カタログ番号G1780)を用いて測定した。製造者の説明書に従って、OD490読み取り値を得た。標的細胞NCI-H929最大溶解(100%)-最小溶解(0%)を正規化の分母として示した。LDH放出のパーセンテージを二重特異性抗体の濃度に対してプロットした。
図13に示されるように、抗BCMAおよび抗CD3特異性を有する二重特異性FIT-Fabは、NCI-H929腫瘍細胞に対してT細胞細胞傷害性のリダイレクトを示したが、単一特異性ヒト化抗CD3 Fab、および抗CD3 Fab(HuEM0006-01-24のFabフラグメント)と抗BCMA mAb(TAB1)の組合せは細胞傷害活性を示さなかった。
【0158】
実施例4.5:キメラFIT-Igはin vitroにおいて限定された非標的CD3活性化リダイレクトを示した
非標的CD3活性化リダイレクトを、標的細胞の不在下でJurkat-NFAT-lucに基づくリポーター遺伝子アッセイを用いて試験した。Jurkat-NFAT-luc細胞を採取し、洗浄し、アッセイ培地(10%FBSを含むRPMI1640)に再懸濁させ、96ウェルプレート(Costar #3903)にウェル当たり1×10
5細胞で播種した。試験抗体を加え、細胞と混合し、37℃で4時間インキュベートした。インキュベーション後、製造者の説明書に従って、ONE-Glo(商標)発光アッセイキット(Promega、カタログ番号E6130)試薬を調製した。プレートの発光シグナルをVarioskan(商標)Luxプレートリーダーを用いて読み取った。結果を
図14に示す。
【0159】
このアッセイは、二重特異性結合タンパク質、この場合にはBCMAに対する共標的を発現する細胞が不在であること以外は、上記の実施例4.4で行った試験と同様であった。これらの結果は、二重特異性BCMA/CD3 FIT-Ig抗体(FIT1006-4aおよびFIT1006-4b)およびFIT1006-4a-Fabと呼称されるBCMA/CD3 FIT-Fab(総てヒト化抗CD3モノクローナル抗体HuEM0006-01-24と同じCD3結合ドメインを有する)は、BCMA発現標的細胞の不在下で、抗CD3抗体単独よりもはるかに低い非標的活性化リダイレクトを示した(
図11参照)。
【0160】
実施例5:ヒト化二重特異性BCMA/CD3 FIT-Ig結合タンパク質の作製
抗BCMAモノクローナルmAbBCMA-003は、BCMA/CD3 FIT-IgおよびFIT-Fab形式で使用した場合、より高いBCMA結合親和性およびより良い細胞死滅化のリダイレクトを示した。よって、mAbBCMA-003をヒト化および続いてのヒト化二重特異性結合タンパク質の構築における使用のために選択した。
【0161】
実施例5.1:抗BCMA抗体 mAbBCMA-003のヒト化
mAbBCMA-003可変領域遺伝子を用いてヒト化mAbを作出した。この方法の第1の工程で、全体として最良に一致するヒト生殖細胞系Ig V遺伝子配列を見出すために、mAbBCMA-003のVHおよびVKのアミノ酸配列(表8参照、前掲)をヒトIg V遺伝子配列の利用可能なデータベースと比較した。さらに、VHまたはVLのフレームワーク4を、それぞれマウスVH領域およびVL領域との最大相同性を有するヒトフレームワークを見出すために、J領域データベースと比較した。軽鎖では、最も近いヒトV遺伝子一致はVK1-39(02)遺伝子であり、重鎖では、最も近いヒト一致はVH1-03遺伝子であった。次に、mAbBCMA-003軽鎖のCDR-L1、CDR-L2およびCDR-L3が、CDR-L3の後のJK2フレームワーク4配列とともにVK1-39(02)遺伝子のフレームワーク配列にグラフトされ;mAbBCMA-003 VHのCDR-H1、CDR-H2、およびCDR-H3配列が、CDR-H3の後のJH6フレームワーク4配列とともにVH1-03遺伝子のフレームワーク配列にグラフトされたヒト化可変ドメイン配列を設計した。次に、mAbBCMA-003の3D Fvモデルを作製し、CDR残基まで4Å未満の距離で、かつ、ループ構造またはVH/VL干渉を補助するのに重要である可能性が最も高かったフレームワーク残基が存在するかどうかを決定するために分析した。ヒト化配列におけるこれらの残基は、親和性/活性を保持するために同じ位置でマウス残基に復帰突然変異させるべきである。Q1E突然変異は、該当する場合、N末端ピログルタミン酸塩の形成を排除するために常に含まれた。重鎖の場合、P30T、I48M、K66R、A67V、L69I、およびA71R (Kabatナンバリング)の潜在的突然変異を望ましい復帰突然変異として特定した。軽鎖の場合、V58IおよびR69Tを復帰突然変異として特定した。そのCDRとの相互作用によって判定した場合の各復帰突然変異の重要度の階層によって、最も重要な復帰突然変異が、優先度の高い順にヒト化VH配列に導入され、その後に他の復帰突然変が連続的設計として導入された。さらに、CDR-L2のC末端に生じるDGジペプチドは、
潜在的なアスパラギン酸異性化部位を呈し、これは軽鎖変異体では、以下の択一的置換:D56A、D56E、D56S、D56T、またはG57Aによって排除した。ヒト化VHおよびVL設計構築物を表10(下記)に示す。(復帰突然変異したフレームワークアミノ酸残基を二重下線で示し、元の親抗体からのマウスCDRを下線で示す。)
【0162】
【0163】
ヒト化抗BCMA VHおよびVL遺伝子を合成により作製した後、実施例4.1に記載されるように、個々にFIT-Igベクターにクローニングし、これはまた抗CD3モノクローナルHuEM0006-01-24由来のVHおよびVL遺伝子も含んでいた。ヒト化VHおよびヒト化VLの対合により、下記の表11の列挙したヒト化BCMA/CD3 FIT-Ig結合タンパク質が作出された。mAbBCMA-003の親マウスVH/VLとヒト定常配列を有するキメラ抗体もまた、ヒト化結合タンパク質のランク付けのための陽性対照として作出した。総ての組換えFIT-Igは、実施例4.1に記載されるように発現させ、精製した。
【0164】
【0165】
BCMA抗原とCD3抗原の両方に結合する能力を有する二重特異性FIT-IgおよびFIT-Fab結合タンパク質を、上記の表11に列挙したヒト化可変ドメインおよび表3に示されるようなヒト定常領域配列(配列番号26および配列番号27)をコードするcDNAを用い、実施例4.1および4.2前掲と同様の方法で構築した。免疫グロブリンドメイン間のリンカーは使用しなかったので、FIT-Ig結合タンパク質の完全配列は、表11および3の配列情報に由来するものであり得る。FIT-IgとしてのFIT1006-29b(D-A)、FIT1006-31b(D-T)、およびFIT1006-35b(D-T)に関して、例えば、表11に開示されている3つの例示的FIT-Ig結合タンパク質の3つのポリペプチド鎖のアミノ酸配列は下記の表12、13、および14に示されている。これらのFIT-Igは、組み立てられた鎖のN末端の位置にBCMA結合部位を有し、CD3結合部位は、Fc領域に隣接し(N末端)、BCMA結合部位のC末端のFIT-Ig構造の内部に位置している。言い換えれば、成分ポリペプチド鎖のドメイン構成は、
鎖1(長鎖):VLBCMA-CL-VHCD3-CH1-ヒンジ-CH2-CH3;
鎖2(第1の短鎖):VHBCMA-CH1;
鎖3(第2の短鎖):VLCD3-CL
であり、ここで、VLBCMAはBCMAを認識するヒト化モノクローナル抗体の軽鎖可変ドメインであり、VHCD3はCD3を認識するヒト化モノクローナル抗体の重鎖可変ドメインであり、VLCD3はCD3を認識するヒト化モノクローナル抗体の軽鎖可変ドメインであり、VHBCMAはBCMAを認識するヒト化モノクローナル抗体の重鎖可変ドメインであり、各CLは軽鎖定常ドメイン(配列番号27)であり、各CH1は第1の重鎖定常ドメインであり、CH1-ヒンジ-CH2-CH3は、CH1からFc領域の末端までのC末端重鎖定常領域である(配列番号26参照)。
【0166】
【0167】
【0168】
【0169】
実施例5.3:ヒト化BCMA/CD3のFIT-Igの結合速度
BCMA/CD3二重特異性FIT-Ig抗体の結合親和性および速度定数は、標準的な手順を用い、Biacore(商標)T200装置(GE Healthcare)を使用した25℃での表面プラズモン共鳴(SPR)によって測定した。結果を表15に示す。
【0170】
簡単に述べれば、典型的なアミンカップリング法に従ったヘテロ二量体CD3/Fc抗原またはBCMA/Fc抗原をバイオセンサーチップに直接固定し、次に、抗体を5μl/分の流速で反応マトリックスに注入し、結合応答を記録した。結合速度定数および解離速度定数、それぞれkon(M-1s-1)およびkoff(s-1)は、30μl/分の連続流速流量で決定した。速度定数は、ヒトCD3/Fcタンパク質またはヒトBCMA/Fcタンパク質の5つの異なる濃度で速度論的結合測定を行うことによって導き出した。次に、抗体と関連する標的タンパク質との間の反応の平衡解離定数KD(M)を、式KD=koff/konを使用して反応速度定数から計算した。下記の表15に示すように、ヒト化抗CD3/ヒト化抗BCMAFIT-Ig抗体の親和性を測定した。
【0171】
【0172】
実施例5.4:ヒト化二重特異性FIT-IgはCD3活性化および細胞傷害性リダイレクトを示した
BCMA/CD3ヒト化二重特異性FIT-Ig抗体の腫瘍細胞死滅化の効力を、標的細胞としてのヒト骨髄腫細胞株NCI-H929およびエフェクター細胞としてのヒトT細胞を用いたリダイレクトT細胞細胞傷害性アッセイで測定した。簡単に述べれば、細胞を採取し、洗浄し、アッセイ培地(10%FBSを含むRPMI1640)に再懸濁させた。NCI-H929細胞を平底96ウェルプレート(Corning #3599)にウェル当たり5×10
4細胞で播種した。T細胞を、市販のキット(Stemcell #17951)を用いてヒトPBMCから精製し、同じプレートにウェル当たり2×10
5細胞で加えた。次に、FIT-Ig結合タンパク質を加え、細胞混合物とともにインキュベートした。37℃で48時間のインキュベーションの後、LDH放出を、アッセイキット(Promega #G1780)を用いて測定した。製造者の説明書に従い、OD490の読み取り値を得た。標的細胞NCI-H929最大溶解(100%)-最小溶解(0%)を正規化の分母として示した。LDH放出のパーセンテージを二重特異性Abの濃度に対してプロットした。この例では、ヒト化FIT-Igは、親キメラFIT-Igと同様のT細胞細胞傷害性のリダイレクトを示した。結果を
図15に示す。これらの結果は、本発明によるヒト化BCMA/CD3 FIT-Igが、共培養においてT細胞細胞傷害性をNCI-H929腫瘍細胞に対してリダイレクトすることができたことを示した。
図16および17を参照すると、BCMA発現標的細胞およびCD3発現標的細胞への本発明による2つのBCMA/CD3二重特異性FIT-Ig結合タンパク質の結合が確認される。
【0173】
外部結合部位がタンデムに配置されたFab領域のCD3 Fab結合部位であり、内部結合部位がBCMA Fab結合部位である例示的BCMA/CD3 FIT-Ig結合タンパク質のうちの2つの別の構成を調製し、FIT1006-31a(D-T)およびFIT1006-35a(D-T)と呼称した。これら2つのFIT-Igのポリペプチド鎖の式は、
鎖1(長鎖):VLCD3-CL-VHBCMA-CH1-ヒンジ-CH2-CH3;
鎖2(第1の短鎖):VHCD3-CH1;
鎖3(第2の短鎖):VLBCMA-CL
であった。FIT1006-31a(D-T)およびFIT1006-35a(D-T)のポリペプチド鎖のアミノ酸配列を以下に示す。
【0174】
【0175】
【0176】
これら2つの別の構成のBCMA発現細胞およびCD3発現標的細胞に対する結合活性をそれぞれ
図18および
図19に示す。各標的の2つの構成を比較すると、Fcの遠位に配置された対応する結合ドメインは、Fcの近位に配置された同じ結合ドメインよりも比較的高い結合活性を示し、結合に対する構成の特定の影響を示す。しかしながらやはり、これらの結果により、両方の構成が、BCMAとCD3の両方に対して望ましい標的結合活性を有することが確認される。
【0177】
実施例6 BCMA×CD3 FIT-Igによる処置はヒトPBMC移植NPSGマウスにおいてNCI-H929腫瘍の体積を縮小する
抗腫瘍有効性は、T細胞、B細胞およびナチュラルキラー細胞を欠く免疫不全系統であるNPSGマウスにおいて評価した。NCI-H929細胞(5×10
6)をNPSGマウスの右背側の側腹部に皮下注射した。同じ日に、マウスに単回静脈用量の5×10
6ヒトPBMCを施した。11日目に腫瘍サイズ(70~140mm
3)に基づいて動物を無作為化し、同じ日に処置を開始した。腫瘍成長をノギス測定によって監視した。試験は25日目に終了し、腫瘍サイズが3000mm
3を超えた際にマウスを安楽死させた。マウスを3週間、週1回(QW×3)、6mg/kgのFIT1006-31b(D-T)またはFIT1006-35b(D-T)またはビヒクルで腹腔内(i.p.)注射により処置した。
図20に示されるように、FIT-Ig処置群のマウスは、ビヒクル群に比べて有意な腫瘍成長阻害を示した。特に、FIT1006-35b(D-T)処置群では、腫瘍は完全に根絶された。
【0178】
実施例7 BCMA×CD3 FIT-IgはカニクイザルにおいてB細胞集団を枯渇させ、限定されたサイトカイン放出特性を示す
カニクイザルB細胞は、ヒトよりも高いBCMA発現を示すことが報告されている(Seckinger, A. et al., (2017). Target Expression, Generation, Preclinical Activity, and Pharmacokinetics of the BCMA-T Cell Bispecific Antibody EM801 for Multiple Myeloma Treatment. Cancer Cell, 31(3), 396-410)。これらの動物においてBCMA×CD3 FIT-Igの、B細胞集団を枯渇させる能力を評価するために、カニクイザルにおいてパイロット非GLP毒性学および薬理学試験を行った。この試験は、群間で体重が同等の雄ザル1個体および雌ザル1個体からなる3群を有し、群1にはビヒクルを施し群2には0.5mg/kg FIT1006-31b(D-T)の単回注射を施し、群3には0.5mg/kg FIT1006-35b(D-T)の単回注射を施し、総て1日目にi.v.注射により投与した。投与2日前(-1日、ベースライン)、1日目に投与してから2、4、6および24時間後、ならびに8日目および15日目に、,前肢または後肢の皮下静脈から血液サンプルを採取した。血液サンプルを細B胞マーカーおよびT細胞マーカーに関してFACSにより分析し、各集団の相対パーセンテージ変化を-1日のベースラインレベルと比較することにより決定した。血清サンプルはまた、市販のサイトメトリービーズアレイ(CBA)キットを用いて、サイトカインレベル(INFγ、IL-2、IL-6およびTNFα)についても分析した。
【0179】
図21は、最初の投与後時点(投与後2時間)から最後の時点(15日目)までのBCMA×CD3 FIT-Igの投与によって生じた循環B細胞の50%を超える枯渇を示す。一時的なB細胞の枯渇は、2番目と3番目の時点(1日目の2時間と4時間)までにビヒクル群でも見られ、これは、採血スケジュールに関連している可能性がある。しかしながら、ビヒクル群のB細胞集団は、投与後6時間までにプラトーに達する迅速な回復を示した。
【0180】
図22に示されるように、FIT-Ig処置群の循環T細胞レベルは、一時的な損失を示し、これは、8日目にビヒクル群のレベルまで回復し、試験が終了するまで維持された。この一時的なT細胞の損失は処置時のT細胞の活性化および再分布のためであると考えられた。
【0181】
本発明は、以上に説明した本発明の本質的な特徴から逸脱することなく、他の特定の形態で具体化され得る。よって、以上の実施形態は本明細書に記載される発明の限定ではなく例示と見なされる。本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって示される。
【配列表】
【国際調査報告】