(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-01
(54)【発明の名称】アスペルギルス・ニガーからのベータ-フルクトフラノシダーゼの製造のための核酸、ベクター、宿主細胞及び方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/56 20060101AFI20230125BHJP
C12N 9/26 20060101ALI20230125BHJP
C12N 15/31 20060101ALI20230125BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20230125BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20230125BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20230125BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20230125BHJP
C12P 19/00 20060101ALI20230125BHJP
【FI】
C12N15/56 ZNA
C12N9/26 Z
C12N15/31
C12N15/63 Z
C12N1/19
C12P21/02 C
C07K19/00
C12P19/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022530994
(86)(22)【出願日】2020-11-27
(85)【翻訳文提出日】2022-07-25
(86)【国際出願番号】 IN2020050985
(87)【国際公開番号】W WO2021106016
(87)【国際公開日】2021-06-03
(31)【優先権主張番号】201941048686
(32)【優先日】2019-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522207202
【氏名又は名称】レベレイションズ バイオテック プライベート リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100170852
【氏名又は名称】白樫 依子
(72)【発明者】
【氏名】ラビ チャンドラ ベエラム
(72)【発明者】
【氏名】ディパンウィタ シンハ
(72)【発明者】
【氏名】バラース バブ ムスク
(72)【発明者】
【氏名】チランジービ アレ
(72)【発明者】
【氏名】ディーピカ クマール
【テーマコード(参考)】
4B050
4B064
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B050CC04
4B050CC05
4B050DD03
4B050LL01
4B050LL02
4B064AF04
4B064AG01
4B064CA06
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B064DA10
4B065AA57Y
4B065AA62Y
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4B065AA90Y
4B065AB01
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4B065BA02
4B065BB02
4B065CA21
4B065CA31
4B065CA41
4B065CA44
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA10
4H045CA15
4H045CA40
4H045DA89
4H045EA01
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、アスペルギルス・ニガーからのベータ-フルクトフラノシダーゼの製造のための核酸、ベクター、宿主細胞及び方法を提供する。本発明は、遺伝子操作の分野における進歩となり、分泌タンパク質としてのアスペルギルス・ニガーのfopA遺伝子によりコードされる新規の組換えβ-フルクトフラノシダーゼの高い収率を得る方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
改変されたポリペプチドであって、前記ポリペプチドが、FAK、FAKS、AT、AA、GA、IN、IV、KP、LZ及びSA又はこれらのバリアントを含む群から選択されるシグナルペプチドに融合した配列番号1のアミノ酸配列を含むアスペルギルス・ニガーのβ-フルクトフラノシダーゼである、前記改変されたポリペプチド。
【請求項2】
a. FAKが配列番号3又はそのバリアントのアミノ酸配列を含み、
b. FAKSが配列番号4又はそのバリアントのアミノ酸配列を含み、
c. ATが配列番号5又はそのバリアントのアミノ酸配列を含み、
d. AAが配列番号6又はそのバリアントのアミノ酸配列を含み、
e. GAが配列番号7又はそのバリアントのアミノ酸配列を含み、
f. INが配列番号8又はそのバリアントのアミノ酸配列を含み、
g. IVが配列番号9又はそのバリアントのアミノ酸配列を含み、
h. KPが配列番号10又はそのバリアントのアミノ酸配列を含み、
i. LZが配列番号11又はそのバリアントのアミノ酸配列を含み、及び
j. SAが配列番号12又はそのバリアントのアミノ酸配列を含み、
且つ前記シグナルペプチドが、配列番号1のアミノ酸配列を含むポリペプチドの細胞外分泌を可能にする、
請求項1に記載の改変されたポリペプチド。
【請求項3】
配列番号2のヌクレオチド配列を含む核酸。
【請求項4】
請求項1に記載のポリペプチドをコードする核酸。
【請求項5】
配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22及びこれらのバリアントを含む群から選択される、請求項4に記載の核酸。
【請求項6】
プロモーターに作動可能に連結した請求項3又は請求項4に記載の核酸を含む発現ベクター。
【請求項7】
β-フルクトフラノシダーゼ遺伝子の前記プロモーターが、AOX1、ADH3、DAS、FLD1、LRA3、THI11、GAP、YPT1、TEF1、GCw14及びPGK1を含む群から選択される、請求項6に記載の発現ベクター。
【請求項8】
ベクターが、pPICZαA、pPICZαB、pPICZαC、pGAPZαA、pGAPZαB、pGAPZαC、pPIC3、pPIC3.5、pPIC3.5K、PAO815、pPIC9、pPIC9K、IL-D2、pHIL-S1、及び配列番号1に示されるアスペルギルス・ニガーからのβ-フルクトフラノシダーゼの分泌発現又は細胞内発現のために構成された発現ベクターを含む群から選択される、請求項6に記載の発現ベクター。
【請求項9】
請求項6に記載の発現ベクターを含む組換えピキア・パストリス宿主細胞。
【請求項10】
前記宿主細胞が、ピキア・パストリスMut+、Mut S、Mut-、ピキア・パストリスKM71H、ピキア・パストリスKM71、ピキア・パストリスSMD1168H、ピキア・パストリスSMD1168、ピキア・パストリスX33、ピキア・パストリスGS115又は任意の他のピキア・パストリス宿主株を含む群から選択される、請求項9に記載の組換えピキア・パストリス宿主細胞。
【請求項11】
配列番号1に示されるアスペルギルス・ニガーのβ-フルクトフラノシダーゼを発現することができる組換えピキア・パストリス宿主細胞を製造する方法であって、
a.配列番号1又はそのバリアントに示されるアスペルギルス・ニガーからのβ-フルクトフラノシダーゼをコードする改変された核酸を合成するステップ、
b.前記改変された核酸を宿すベクターを構築するステップ、及び
c.ステップ(b)の前記ベクターを用いてピキア・パストリス宿主細胞を形質転換して組換えピキア・パストリス宿主細胞を得るステップ
を含む、前記方法。
【請求項12】
配列番号1に示されるアスペルギルス・ニガーのβ-フルクトフラノシダーゼを高いレベルで発現させる方法であって、
a.配列番号1に示されるアスペルギルス・ニガーのβ-フルクトフラノシダーゼを発現することができる組換えピキア・パストリス宿主細胞を好適な発酵培地中で培養して発酵ブロスを得ること、
b.上清を前記発酵ブロスから採取することであって、前記上清が組換えβ-フルクトフラノシダーゼを含有する、前記採取すること、及び
c.組換えβ-フルクトフラノシダーゼを精製すること
を含む、前記方法。
【請求項13】
前記発酵培地が基礎塩培地である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記発酵ブロスのpHが4.0~7.5の範囲内に維持される、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記発酵ブロスの温度が15℃~45℃の範囲内に維持される、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
フルクトオリゴ糖の製造における使用のための請求項1に記載の改変されたポリペプチド又はその断片。
【請求項17】
前記断片が、配列番号24、配列番号25、配列番号26及び配列番号27を含む群から選択される、請求項16に記載のフルクトオリゴ糖の製造における使用のための改変されたポリペプチド又はその断片。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は遺伝子操作の分野に関する。より特には、本発明は、分泌タンパク質としてアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)のfopA遺伝子によりコードされる新規の組換えβ-フルクトフラノシダーゼの改良された製造を得ることに向けられている。
【背景技術】
【0002】
フルクトオリゴ糖(FOS)としても公知のフルクトースオリゴマーは、一連の同種オリゴ糖を構成する。フルクトオリゴ糖は通常、式GFnにより表され、1-ケストース(GF2)、ニストース(GF3)及びβ-フルクトフラノシルニストース(GF4)から主に構成され、2、3、及び4つのフルクトシル単位がグルコースのβ-2,1位において結合している。
【0003】
フルクトオリゴ糖(FOS)は、多くの有益な特性、例えば低い甘味強度及びプレバイオティクスとしての有用性により特徴付けられる。低い甘味強度(スクロースと比較して約1/3~2/3)及び低いカロリー値(約0~3kcal/g)に起因して、フルクトオリゴ糖は、様々な種類の食品において糖代用物として使用され得る。さらに、プレバイオティクスとして、フルクトオリゴ糖は、結腸がんに対する保護剤、免疫系の様々なパラメーターの増強、鉱物吸着の向上、血清脂質及びコレステロール濃度に対する有益な効果並びに肥満症及び糖尿病の制御のための血糖制御の発揮において使用されることが報告されている(Dominguez, Ana Luisa, et al. “An overview of the recent developments on fructooligosaccharide production and applications.“ Food and bioprocess technology 7.2 (2014): 324-337.)。
【0004】
しかしながら、フルクトオリゴ糖は、果実、野菜、及び蜂蜜中の天然成分として微量でのみ見出される。そのような低い濃度に起因して、フルクトオリゴ糖を食品から抽出することは実際的に不可能である。
【0005】
フルクトオリゴ糖を酵素的合成を通じてスクロースから、トランスフルクトシル化活性を有する微生物酵素により製造する試みが為されている。しかしながら、先行する試みにおける大きな制約は、低い触媒効率、より低いFOS収率に繋がるグルコースによる酵素のフィードバック阻害、及び組換え宿主システム中で発現される酵素によるスクロースの変換のためのより長い期間の要求であった。さらに、トランスフルクトシル化活性を呈する微生物酵素の産業的製造は、酵素の大規模発現、酵素安定性、発酵及び精製過程と関連付けられる追加の制限に起因して課題となっている。
【0006】
フルクトオリゴ糖の商業規模の製造は効率的な酵素の同定及び大量製造を要求する。前述の制限に起因して、効率的なトランスフルクトシル化活性を有する微生物酵素の製造は、コスト上の問題があり、次いでそれはフルクトオリゴ糖の製造コストを増加させる。
【0007】
そのため、フルクトオリゴ糖の製造のコストを低下させる、優れたトランスフルクトシル化活性を有する微生物酵素を同定し、その製造のための効率的、安価且つ産業的に拡張可能な手段を提供することに対する必要性が長く存在している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明において解決されるべき技術的な問題は、アスペルギルス・ニガーの新規のβ-フルクトフラノシダーゼ(UniProtKB:Q96VC5_ASPNG)を同定し、且つその収率を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記問題は、新規の組換えβ-フルクトフラノシダーゼの高い収率を達成するために核酸配列、タンパク質配列、プロモーター、組換えベクター、宿主細胞及び分泌シグナルペプチドを操作することによるアスペルギルス・ニガーの新規のβ-フルクトフラノシダーゼの過剰発現により解決された。
【0010】
追加的に、発酵戦略を改変して、約2~5gm/Lの組換えβ-フルクトフラノシダーゼの高い収率が得られた。
【0011】
発明の概要
本発明は、新規のβ-フルクトフラノシダーゼの組換え発現のための核酸、タンパク質配列、ベクター及び宿主細胞に関する。本発明はまた、分泌タンパク質としての効率的な酵素のより高い収率の生成を可能にする、新規のβ-フルクトフラノシダーゼ酵素に融合したシグナルペプチドを含有する前駆体ペプチドに関する。
【0012】
本発明はまた、分泌タンパク質としての新規の組換えβ-フルクトフラノシダーゼの発現方法に関する。β-フルクトフラノシダーゼ濃度は約2~5gm/Lであることが見出される。酵素は、濾過後にほぼ85%の純度を呈し、これはコストのかかるクロマトグラフィー手順の必要性を排除する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
本開示の特徴は、添付の図面と組み合わせて解釈される以下の記載から充分に明らかとなる。図面は、本開示によるいくつかの実施形態を描写するに過ぎず、その範囲の限定として考慮されるべきではないという理解と共に、本開示は、添付の図面の使用を通じてさらに記載される。
【0014】
【
図1】
図1は、ネイティブなfopA遺伝子及びβ-フルクトフラノシダーゼをコードする改変されたfopA遺伝子の配列アライメントを描写する。
【
図2】
図2はpPICZαAベクターの構築スキームを表す。
【
図3】
図3は、組換えプラスミドpPICZαA-fopAに対して行われた制限消化分析の結果を描写する。
【
図4】
図4は、ピキア(Pichia)組込み体に対して行われたコロニーPCRスクリーニングの結果を描写する。
【
図5】
図5は、組換えピキア・パストリス(Pichia pastoris)宿主細胞からの誘導でのβ-フルクトフラノシダーゼの発現を描写する。
【
図6】
図6(a)は、組換えβ-フルクトフラノシダーゼ酵素を発現するピキア・パストリスKM71H株の発酵の間に異なる時間間隔で収集された試料のSDS-PAGE分析を描写する。
図6(b)は、精製後の組換えβ-フルクトフラノシダーゼ酵素のSDS-PAGE分析を描写する。
【
図7】
図7は、β-フルクトフラノシダーゼ酵素の活性の推定のために使用されたグルコース標準曲線を描写する。
【
図8】
図8は、スクロース及び組換えβ-フルクトフラノシダーゼ酵素からのフルクトオリゴ糖(FOS)の生成を描写する。
【
図9】
図9はFOS試料のHPLC分析クロマトグラムを描写する。
【0015】
配列の簡単な説明及び配列表
配列番号1 - 新規のβ-フルクトフラノシダーゼのアミノ酸配列(654アミノ酸)
配列番号2 - 新規のβ-フルクトフラノシダーゼをコードする遺伝子の改変された核酸配列(1965塩基対)
【表1】
【0016】
全ての分泌シグナルペプチド配列中に、4アミノ酸(LEKR)のストレッチをプレタンパク質の効率的なKex2プロセシングのために付加した。
【0017】
【0018】
配列番号23 - 分泌されるβ-フルクトフラノシダーゼをコードするfopA遺伝子のネイティブな核酸配列(1965塩基対)
【表3】
【0019】
定義
他に定義されなければ、本明細書において使用される全ての科学技術用語は、方法が属する技術分野の当業者により一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと類似又は同等の任意のベクター、宿主細胞、方法及び組成物もまたベクター、宿主細胞、方法及び組成物の実施又は試験において使用され得るが、代表的な実例がここに記載される。
【0020】
値の範囲が提供される場合、その範囲の上限及び下限の間の各介在する値並びにその記載される範囲内の任意の他の記載される又は介在する値が方法及び組成物に包含されることが理解される。これらのより小さい範囲の上限及び下限は、これらのより小さい範囲に独立して含まれることができ、これらもまた方法及び組成物に包含され、但し、記載される範囲内の任意の特に除外される限度を条件とする。記載される範囲が限度のうちの1つ又は両方を含む場合、それらの含まれる限度のいずれか又は両方を除外した範囲もまた方法及び組成物に含まれる。
【0021】
明確性のために別々の実施形態の文脈において記載される方法のある特定の特徴はまた、単一の実施形態において組合せで提供されてもよいことが認められる。反対に、簡潔性のために単一の実施形態の文脈において記載される方法及び組成物の様々な特徴はまた、別々に又は任意の好適な部分的組合せで提供されてもよい。本明細書及び添付の特許請求の範囲において使用される場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈が他に明確に規定しなければ、複数の指示対象を含むことが留意される。請求項は、任意の任意選択的な要素を除外するように記述され得ることがさらに留意される。そのため、この記載は、請求項の要素の記載との繋がりでの「単独で」(solely)、「のみ」(only)及び同種のものなどの排他的な用語の使用又は「否定的」(negative)限定の使用のための前提的基礎として役立つことが意図される。
【0022】
本開示を読んだ当業者に明らかなように、本出願に記載及び図示される個々の実施形態の各々は、本発明の方法の範囲又は精神から離れることなく他の任意の実施形態の特徴から容易に分離され得る又は該特徴と容易に組み合わせられ得る別々の構成要素及び特徴を有する。任意の記載される方法は、記載される事象の順序で、又は論理的に可能な任意の他の順序で実行され得る。
【0023】
「宿主細胞」という用語は、発現構築物の対象のためのレシピエントであり得る、又は該レシピエントであった、個々の細胞又は細胞培養物を含む。宿主細胞は単一の宿主細胞の子孫を含む。本発明の目的のための宿主細胞は、本発明の目的のために好適に使用され得るピキア・パストリスの任意の株を指す。本発明の目的のために使用され得る株の例としては、ピキア(Pichia)の野生型、mut+、mut S、mut-株、例えばKM71H、KM71、SMD1168H、SMD1168、GS115、X33が挙げられる。
【0024】
「組換え株」又は「組換え宿主細胞」という用語は、本発明の発現構築物又はベクターを用いてトランスフェクト又は形質転換された宿主細胞を指す。
【0025】
「発現ベクター」という用語は、宿主の形質転換後に挿入された核酸配列の発現を可能にするように設計された任意のベクター、プラスミド又は媒体を指す。
【0026】
「プロモーター」という用語は、遺伝子の転写が始まる場所を定義するDNA配列を指す。プロモーター配列は、典型的には、転写開始部位の直接的に上流又は5’末端に位置する。RNAポリメラーゼ及び必要な転写因子は、プロモーター配列に結合して転写を開始させる。プロモーターは、構成的プロモーター又は誘導性プロモーターのいずれかであることができる。構成的プロモーターは、その関連付けられた遺伝子の絶え間ない転写を可能とするプロモーターであり、それらの発現は通常、環境的及び発生因子により条件付けされない。構成的プロモーターは遺伝子操作における非常に有用なツールであり、その理由は、構成的プロモーターは、誘導因子フリーの条件下で遺伝子発現を駆動し、多くの場合に、一般的に使用される誘導性プロモーターよりも良好な特徴を示すからである。誘導性プロモーターは、生物的又は非生物的及び化学的又は物理的因子の存在又は非存在により誘導されるプロモーターである。誘導性プロモーターは遺伝子操作における非常に強力なツールであり、その理由は、それらに作動可能に連結した遺伝子の発現を、生物の発生若しくは成長のある特定のステージにおいて又は特定の組織若しくは細胞種中でオン又はオフすることができるからである。
【0027】
「作動可能に連結した」という用語は、単一の核酸断片上での核酸配列の関連付けであって、一方の機能が他方により調節されるようなものを指す。例えば、プロモーターは、コーディング配列の発現を調節することができる(すなわち、コーディング配列がプロモーターの転写制御下にある)場合に、そのコーディング配列と作動可能に連結している。
【0028】
「転写」という用語は、遺伝子配列のRNAコピーを作るプロセスを指す。メッセンジャーRNA(mRNA)分子と呼ばれるこのコピーは、細胞核を離れて細胞質に入り、そこでそれがコードするタンパク質の合成を指令する。
【0029】
「翻訳」という用語は、メッセンジャーRNA(mRNA)分子の配列をタンパク質合成の間にアミノ酸の配列に翻訳するプロセスを指す。遺伝コードは、遺伝子中の塩基対の配列及びそれがコードする対応するアミノ酸配列の間の関係性を記述する。細胞質中で、リボソームはmRNAの配列を3塩基の群で読み取って、タンパク質に集合させる。
【0030】
「発現」という用語は、コーディング配列によりコードされる産物の生物学的産生を指す。ほとんどの場合に、コーディング配列を含めて、DNA配列は、転写されてメッセンジャーRNA(mRNA)が形成される。メッセンジャーRNAは次に翻訳されて、関連する生物学的活性を有するポリペプチド産物が形成される。また、発現のプロセスは、転写のRNA産物に対するさらなるプロセシングステップ、例えばイントロンを除去するためのスプライシング、及び/又はポリペプチド産物の翻訳後プロセシングを伴い得る。
【0031】
「改変された核酸」という用語は、本明細書において使用される場合、シグナルペプチドに融合したβ-フルクトフラノシダーゼをコードする核酸を指すために使用される。実施形態において、改変された核酸は、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22又はこれらの機能的に同等のバリアントにより表される。機能的なバリアントとしては、配列番号13~22に対して実質的な又は著しい配列同一性又は類似性を有し、且つその生物学的活性を保持する任意の核酸が挙げられる。
【0032】
「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「タンパク質」という用語は、ペプチド結合又は改変されたペプチド結合により互いに接合された2つ又はそれより多くのアミノ酸残基を指すために本明細書において交換可能に使用される。該用語は、1つ又は複数のアミノ酸残基が、対応する天然に存在するアミノ酸の人工的な化学的模倣体であるアミノ酸ポリマーの他に、天然に存在するアミノ酸ポリマー、修飾された残基を含有するもの、及び天然に存在しないアミノ酸ポリマーに適用される。「ポリペプチド」は、ペプチド、オリゴペプチド又はオリゴマーと一般的に称される短い鎖、及びタンパク質と一般に称されるより長い鎖の両方を指す。ポリペプチドは、20個の遺伝子にコードされるアミノ酸以外のアミノ酸を含有してもよい。同様に、「タンパク質」は、少なくとも2つの共有結合したアミノ酸を指し、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、及びペプチドを含む。タンパク質は、天然に存在するアミノ酸及びペプチド結合、又は合成のペプチド模倣物構造から作られていてもよい。そのため、「アミノ酸」、又は「ペプチド残基」は、本明細書において使用される場合、天然に存在するアミノ酸及び合成アミノ酸の両方を意味する。「アミノ酸」は、イミノ酸残基、例えばプロリン及びヒドロキシプロリンを含む。側鎖は、(R)配置又は(S)配置のいずれにあってもよい。
【0033】
「シグナルペプチド」又は「シグナルペプチド配列」という用語は、新たに合成された分泌又は膜ポリペプチドのN末端に通常存在し、細胞の細胞膜(原核生物における形質膜及び真核生物における小胞体膜)を越えるように又はその中にポリペプチドを方向付けるペプチド配列として本明細書において定義される。それは通常その後に除去される。特に、前記シグナルペプチドは、ポリペプチドを細胞の分泌経路に方向付けることが可能であり得る。
【0034】
「前駆体ペプチド」という用語は、本明細書において使用される場合、アスペルギルス・ニガーのβ-フルクトフラノシダーゼに作動可能に連結したシグナルペプチド(リーダー配列としても公知)を含むペプチドを指す。シグナルペプチドは、ピキア宿主細胞の内側で翻訳後修飾の間に切断され、成熟β-フルクトフラノシダーゼ(配列番号1)は培地中に放出される。
【0035】
「バリアント」という用語は、前駆体ペプチド/タンパク質に関して本明細書において使用される場合、シグナルペプチド又は酵素の活性を実質的に減少させないアミノ酸置換、付加、欠失又は変更を有するペプチドを指す。バリアントとしては、構造的バリアントの他に、機能的バリアントが挙げられる。バリアントという用語はまた、非置換の親アミノ酸の代わりの置換されたアミノ酸の使用を含む。
【0036】
機能的に類似したアミノ酸を提供するアミノ酸置換表は当業者に周知である。以下の6つの群は、互いにバリアントであると考えられるアミノ酸の例である:
【0037】
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明は、分泌タンパク質としてのアスペルギルス・ニガーの生物学的に活性且つ可溶性の組換えβ-フルクトフラノシダーゼの効率的な製造のための核酸、ベクター及び組換え宿主細胞を開示する。さらに、本発明は、組換えβ-フルクトフラノシダーゼの商業規模の製造の方法を提供する。
【0039】
本発明は、異種宿主中での新規の組換えβ-フルクトフラノシダーゼの高い収率を達成するための多次元的なアプローチを想定する。β-フルクトフラノシダーゼのネイティブな遺伝子は、ピキア・パストリス中での発現のために改変されている。さらに、改変された遺伝子は、1つ又は複数のシグナルペプチドに融合している。
【0040】
1つの実施形態において、アスペルギルス・ニガーの新規のβ-フルクトフラノシダーゼをコードする改変された核酸は配列番号2により表される。
【0041】
別の実施形態において、改変された核酸は、1つ又は複数のシグナルペプチドに融合している。
【0042】
別の実施形態において、シグナルペプチドは、S.セレビシエ(S. cerevisiae)のアルファ因子(FAK)、S.セレビシエのS.セレビシエのアルファ因子全体(FAKS)、S.セレビシエのアルファ因子_T(AT)、アスペルギルス・ニガーのアルファ-アミラーゼ(AA)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)のグルコアミラーゼ(GA)、クルイベロミセス・マキシアヌス(Kluyveromyces maxianus)のイヌリナーゼ(IN)、S.セレビシエのインベルターゼ(IV)、S.セレビシエのキラータンパク質(KP)、セキショクヤケイ(Gallus gallus)のリゾチーム(LZ)、ホモサピエンス(Homo sapiens)の血清アルブミン(SA)から選択される。
【0043】
別の実施形態において、シグナルペプチドは以下の表5において提供される。
【0044】
【0045】
別の実施形態において、シグナルペプチドは、表1に記載されるような改変されたシグナルペプチドのリストから選択される。
【0046】
別の実施形態において、1つ又は複数の改変されたシグナルペプチドに融合した核酸は、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22及びこれらのバリアントを含む群から選択される。
【0047】
別の実施形態において、改変された核酸は、発現ベクター中にクローニングされる。
【0048】
別の実施形態において、発現ベクターは、アスペルギルス・ニガーからの組換えβ-フルクトフラノシダーゼの分泌発現又は細胞内発現のために構成される。
【0049】
さらに別の実施形態において、発現ベクターは、pPICZαA、pPICZαB、pPICZαC、pGAPZαA、pGAPZαB、pGAPZαC、pPIC3、pPIC3.5、pPIC3.5K、PAO815、pPIC9、pPIC9K、IL-D2及びpHIL-S1を含む群から選択される。
【0050】
シグナルペプチドに融合した改変されたβ-フルクトフラノシダーゼ(fopA)遺伝子の発現は、好ましくは、構成的又は誘導性プロモーターにより駆動される。
【0051】
別の実施形態において、発現されるべき核酸は、プロモーターに作動可能に連結している。
【0052】
別の実施形態において、構成的な又は誘導性プロモーターは、表6に列記される群から選択される。
【0053】
【0054】
別の実施形態において、プロモーターはAOX1プロモーターであり、これはメタノールにより誘導され、グルコースにより抑制される。
【0055】
実施形態において、関心対象の改変された遺伝子(シグナルペプチドをコードする核酸に融合したβ-フルクトフラノシダーゼ遺伝子)を含有する発現ベクターにより適切な宿主は形質転換される。
【0056】
別の実施形態において、関心対象の遺伝子を含有する発現ベクターにより酵母細胞は形質転換される。
【0057】
別の実施形態において、酵母細胞はピキア・パストリスである。
【0058】
さらに別の実施形態において、ピキア・パストリス宿主細胞は、mut+、mut S又はmut-株である。Mut+は、メタノール利用プラスの表現型を表す。
【0059】
さらに別の実施形態において、ピキア・パストリス宿主細胞株は、KM71H、KM71、SMD1168H、SMD1168、GS115、X33を含む群から選択される。
【0060】
別の実施形態において、本発明は、β-フルクトフラノシダーゼ前駆体ペプチドであって、アスペルギルス・ニガーのβ-フルクトフラノシダーゼが1つ又は複数のシグナルペプチドに融合している、β-フルクトフラノシダーゼ前駆体ペプチドを提供する。
【0061】
別の実施形態において、アスペルギルス・ニガーのβ-フルクトフラノシダーゼは、配列番号1及びその機能的なバリアントに示されるアミノ酸配列を有する。機能的なバリアントとしては、配列番号1に対して実質的な若しくは著しい配列同一性若しくは類似性を有し、且つ又は(and or)配列番号1に対して実質的な若しくは著しい構造同一性若しくは類似性を有し、且つその生物学的活性を保持する任意のタンパク質配列が挙げられる。
【0062】
別の実施形態において、シグナルペプチドは、配列番号3に示されるS.セレビシエのアルファ因子全体(FAK)、配列番号4に示されるS.セレビシエのアルファ因子全体(FAKS)、配列番号5に示されるS.セレビシエのアルファ因子_T(AT)、配列番号6に示されるアスペルギルス・ニガーのアルファ-アミラーゼ(AA)、配列番号7に示されるアスペルギルス・アワモリのグルコアミラーゼ(GA)、配列番号8に示されるクルイベロミセス・マキシアヌスのイヌリナーゼ(IN)、配列番号9に示されるS.セレビシエのインベルターゼ(IV)、配列番号10に示されるS.セレビシエのキラータンパク質(KP)、配列番号11に示されるセキショクヤケイのリゾチーム(LZ)、配列番号12に示されるホモサピエンスの血清アルブミン(SA)、及びこれらのバリアントを含む群から選択される。
【0063】
実施形態において、アスペルギルス・ニガーの組換えβ-フルクトフラノシダーゼの製造方法が提供される。
【0064】
本発明の態様は、改変された組換えβ-フルクトフラノシダーゼ(fopA)遺伝子を含有する組換えピキア・パストリス細胞の発酵に関する。発酵の完了後に、発酵ブロスは遠心分離に供され、精密濾過を使用して濾過され、組換え酵素は分離される。回収された組換え酵素は、タンジェンシャルフロー限外濾過又は蒸発を使用して濃縮され、そして濃縮された酵素は製剤化される。
【0065】
1つの実施形態において、アスペルギルス・ニガーのβ-フルクトフラノシダーゼを高いレベルで発現させる方法は、
a.組換え宿主細胞を好適な発酵培地中で培養して、発酵ブロス中に分泌された組換えβ-フルクトフラノシダーゼ酵素を得るステップ、
b.上清を発酵ブロスから採取するステップであって、上清が組換えβ-フルクトフラノシダーゼを含有する、採取するステップ、及び
c.組換えβ-フルクトフラノシダーゼを精製するステップ
を含む。
【0066】
別の実施形態において、発酵培地は、表7に記載されるような基礎塩培地(basal salt medium)である。
【0067】
さらに別の実施形態において、発酵ブロスからの上清は、遠心分離を使用して採取される。
【0068】
1つの実施形態において、発酵槽培養を開始させるための接種物又は出発培養物のパーセンテージは2.0%~15.0%(v/v)の範囲内である。
【0069】
別の実施形態において、発酵培地のpHは、4.0~7.5の範囲内に維持され、分泌された酵素は適切なフォールディングを受け、このpH範囲において生物学的に活性である。
【0070】
さらに別の実施形態において、発酵過程の温度は15℃~40℃の範囲内である。
【0071】
別の実施形態において、発酵過程の時間は50~150時間の範囲内である。
【0072】
さらなる実施形態において、発酵ブロスは、連続的なオンライン遠心分離を使用して2000×g~15000×gの範囲内の速度で遠心分離される。
【0073】
遠心分離後に得られた上清は、精密濾過に供されて精製されて、生物学的に活性の組換えβ-フルクトフラノシダーゼが回収される。
【0074】
1つの実施形態において、遠心分離後に得られた上清は、タンジェンシャルフロー濾過ベースの限外濾過システムを使用して濃縮される。
【0075】
不純物を除去するため及び収集された培養上清を濃縮するために使用され得るタンジェンシャルフロー濾過(TFF)システムにおいて使用される膜のカットオフサイズは5~100kDaの範囲であってもよい。
【0076】
別の実施形態において、分泌された酵素の高い収率及び純度に起因して遠心分離は方法のために要求されない。
【0077】
本発明において得られるβ-フルクトフラノシダーゼ濃度は2~5gm/Lの範囲内であることが見出され、純度は約85%である。
【実施例】
【0078】
以下の実施例は、本発明が行われる方式を特に記載する。しかしながら、本明細書に開示される実施形態は、いかなるようにも本発明の範囲を限定しない。
【0079】
実施例1:ピキア・パストリス中でのアスペルギルス・ニガーの組換えβ-フルクトフラノシダーゼの発現のための改変された核酸
アスペルギルス・ニガーのネイティブなβ-フルクトフラノシダーゼ(fopA)のcDNAは配列番号23により表され、新規のβ-フルクトフラノシダーゼのアミノ酸配列は配列番号1により表される。
【0080】
ピキア・パストリス中での発現を最大化させるためにネイティブなcDNAを改変した。改変された核酸は配列番号2により表される。ネイティブな配列及び改変された配列の間の差異は
図1において描写される。
【0081】
ピキア・パストリス中での発現を最大化させるために、β-フルクトフラノシダーゼをコードする発現カセットを改変した。改変されたオープンリーディングフレームは、シグナルペプチドに融合したβ-フルクトフラノシダーゼをコードする改変されたヌクレオチド配列(配列番号2)を含有する。コードされるシグナルペプチドが前駆体ペプチドの効率的なKex2プロセシングのために4アミノ酸(LEKR)の追加のストレッチを含有するように核酸を設計した。
【0082】
ピキア・パストリス中での発現のために好ましいコドンを希少コドンの代わりに使用した。
【0083】
改変されたシグナルペプチドと融合したβ-フルクトフラノシダーゼをコードする改変されたオープンリーディングフレームのヌクレオチド配列は以下に与えられる:
・S.セレビシエのアルファ因子(FAK)は配列番号13により表される
・S.セレビシエのアルファ因子全体(FAKS)は配列番号14により表される
・S.セレビシエのアルファ因子_T(AT)は配列番号15により表される
・アスペルギルス・ニガーのアルファ-アミラーゼ(AA)は配列番号16により表される
・アスペルギルス・アワモリのグルコアミラーゼ(GA)は配列番号17により表される
・クルイベロミセス・マキシアヌスのイヌリナーゼ(IN)は配列番号18により表される
・S.セレビシエのインベルターゼ(IV)は配列番号19により表される
・S.セレビシエのキラータンパク質(KP)は配列番号20により表される
・セキショクヤケイのリゾチーム(LZ)は配列番号21により表される
・ホモサピエンスの血清アルブミン(SA)は配列番号22により表される。
【0084】
配列番号13の核酸配列は、化学的に合成してpPICZαAベクターにクローニングし、残りの改変された核酸配列は、配列番号13の発現カセットを鋳型として使用してオーバーラップ伸長PCRにより生成した。
【0085】
実施例2:シグナルペプチドに融合したβ-フルクトフラノシダーゼのポリペプチド配列
シグナルペプチドと融合したアスペルギルス・ニガーのβ-フルクトフラノシダーゼをコードする遺伝子を翻訳することにより組換え前駆体タンパク質を得た。
【0086】
改変された前駆体ペプチドにおいて使用されたシグナルペプチドは、配列番号3により表されるS.セレビシエのアルファ因子(FAK)、配列番号4により表されるS.セレビシエのアルファ因子全体(FAKS)、配列番号5により表されるS.セレビシエのアルファ因子_T(AT)、配列番号6により表されるアスペルギルス・ニガーのアルファ-アミラーゼ(AA)、配列番号7により表されるアスペルギルス・アワモリのグルコアミラーゼ(GA)、配列番号8により表されるクルイベロミセス・マキシアヌスのイヌリナーゼ(IN)、配列番号9により表されるS.セレビシエのインベルターゼ(IV)、配列番号10により表されるS.セレビシエのキラータンパク質(KP)、配列番号11により表されるセキショクヤケイのリゾチーム(LZ)及び配列番号12により表されるホモサピエンスの血清アルブミン(SA)であった。改変されたシグナルペプチドは、前駆体ペプチドの効率的なKex2プロセシングのために4アミノ酸(LEKR)の追加のストレッチを含有する。
【0087】
シグナルペプチドは、ピキア宿主細胞の内側で翻訳後修飾の間に切断され、配列番号1のアミノ酸配列を含む成熟組換えβ-フルクトフラノシダーゼは培地に放出される。
【0088】
実施例3:組換えプラスミドでの形質転換による組換え宿主細胞の開発
方法において使用されたベクターはpPICZαAであった。ベクターは、実施例1に記載されるような改変されたオープンリーディングフレーム及び誘導性プロモーター、AOX1を含有した。組換えタンパク質をコードする改変された配列をpPICZαAベクターにクローニングした。
【0089】
通常の分子生物学的手順を使用して、β-フルクトフラノシダーゼ(fopA)遺伝子をコードする配列番号2の改変された核酸を、pPICZαAベクターのMCS中に存在するXhoI/SacII制限部位の間にクローニングし、S.セレビシエのシグナル配列アルファ因子(FAK)とインフレームとし、配列番号13の発現カセットを作出した。pPICZαAのベクターマップを
図2に表す。
【0090】
25μg/mlのゼオシンを含有する低塩-LB培地上で推定上の組換えプラスミドを選択し、XhoI/SacII制限消化分析によりスクリーニングした。
【0091】
組換えプラスミドpPICZαA-fopAをXhoI/SacII制限消化分析により確認したところ、1980bp断片の放出が結果としてもたらされた。制限消化分析の結果を
図3に描写する。
【0092】
その後、ピキア・パストリスKM71H細胞に直線化組換えpPICZαA-fopA DNAをエレクトロポレートした。ピキア組込み体を、100μg/mlのゼオシンを含有する酵母抽出物ペプトンデキストロースソルビトール寒天(YPDSA)上で選択した。
【0093】
組込みをコロニーPCR(cPCR)でスクリーニングした。cPCRのために、ピキア組込み体の各々からの鋳型をアルカリ溶解法により生成した。コロニーPCRスクリーニングの結果を
図4に描写する。
【0094】
ピキア組込み体をBMD1培地中で48h生育し、最初にBMM2、次に連続的にBMM10培地でさらに誘導したところ、培養培地中に0.5%のメタノールの最終濃度が提供された。96時間の誘導期間の終わりに、異なるクローンからの培養上清を採取した。採取された上清の各々からの全タンパク質を20%のTCAで沈殿させ、SDS-PAGEで分析した。
【0095】
誘導によりβ-フルクトフラノシダーゼタンパク質バンドは、
図5に描写されるように約110kDaのサイズに見られた。
【0096】
算出された分子量は約70.85kDaであった。分子量の増加にはグリコシル化が寄与した可能性がある。
【0097】
実施例4:アスペルギルス・ニガーのβ-フルクトフラノシダーゼを発現する組換えピキア・パストリスの発酵
実施例1に記載されるような改変されたβ-フルクトフラノシダーゼ(fopA)遺伝子を含有する組換えピキア・パストリス細胞の発酵を50L発酵槽中で実行した。発酵は、本明細書に記載されるような基礎塩培地中で実行した。選択された組換え宿主はKM71Hであり、これは、遅い方式でメタノールを代謝するmut S株である。
【0098】
予備種(pre-seed)及び種接種物(seed inoculum)の調製:
予備種は、グリセロールストックから25mLの無菌YEPG培地中に接種し、温度制御されたオービタルシェーカー中30℃で終夜生育することにより生成した。種を生成するために、15~25のOD600に達するまで、温度制御されたオービタルシェーカー中30℃で流れを調節されたシェークフラスコ中の基礎塩培地中で接種物を生育した。
【0099】
発酵過程
発酵槽への種培養物の接種から最終採取までの発酵の全過程は約130時間を要した。基礎塩培地を調製し、発酵槽中インサイチューで滅菌した。
【0100】
発酵過程のために最適化された基礎塩培地の組成を表7に提供する。
【0101】
【0102】
ピキア微量鉱物(Pichia Trace Minerals;PTM)塩溶液を表8に記載されるように調製した。PTM塩を溶解させ、1Lの体積とし、フィルター滅菌した。PTM塩溶液を、基礎塩培地の滅菌後に初期培地体積1リットル当たり4mlの比率で含めた。
【0103】
【0104】
増殖期:
増殖期は、50L発酵槽中の基礎塩培地に5%の種培養物を接種することにより開始され、約24時間継続する。溶解酸素(DO)レベルを連続的にモニターし、決して40%を下回らないようにした。
【0105】
18h後に、炭素供給源(グリセロール)の枯渇を指し示すDOスパイクが観察された。OD600が200に達するまで50%のグリセロール(供給1リットル当たり12mlのPTM塩を含む)を約6時間供給することによりグリセロールフェドバッチを開始させた。
【0106】
誘導期:
充分なバイオマスが生成されたら、グリセロール供給を中止し、メタノール供給を開始することにより誘導期を開始させた。メタノール(供給1リットル当たり12mlのPTM塩を補充した)を初期発酵体積1リットル当たり0.5g~3gの比率で供給した。DOを40%に維持し、メタノール供給をこれに伴って調整した。
【0107】
酵素活性アッセイにより培養上清を分析することによりβ-フルクトフラノシダーゼ(fopA)遺伝子の誘導を定期的にモニターした。OD600が600に達し、湿潤バイオマスが培養ブロス1リットル当たり約560グラムに達するまで誘導期を約100時間継続した。
【0108】
発酵を130時間後に中止し、発酵の終わりに発酵槽ブロス中の酵素活性は、DNS法(Miller, 1959)により10573単位であると決定された。1単位は、55℃のpH5.5の100mMのクエン酸緩衝液中の10%のスクロース溶液から1マイクロモルの還元糖(グルコース当量)を放出させるために要求される酵素の量として定義される。培養ブロス中の組換えβ-フルクトフラノシダーゼの総量をブラッドフォードアッセイにより推定した。
【0109】
発酵条件:
考慮された発酵パラメーターを表9に与えた。これらの必須パラメーターを発酵過程の間にモニターした。
【0110】
【0111】
実施例5:細胞採取及び精製
8000RPMでの連続的な遠心分離により酵素の採取を行う。遠心分離後に得られた透明な上清を、0.1ミクロンカットオフの渦巻き形TFF膜を使用する精密濾過に供した。濾液を、10kDaカットオフの渦巻き形TFF膜を使用する限外濾過及びダイアフィルトレーションにさらに供し、所望の活性に達するように充分に濃縮した。35~50%のグリセロール及び食品グレード防腐剤を最終調製物中に含めることにより酵素を処方した。酵素の最終純度は、SDS-PAGE分析による決定で85%であると観察された。
【0112】
図6(a)は、組換えβ-フルクトフラノシダーゼ酵素を発現するピキア・パストリスKM71H株の発酵の間に異なる時間間隔で収集された試料のSDS-PAGE分析を描写する。
図6(b)は、精製後の組換えβ-フルクトフラノシダーゼ酵素のSDS-PAGE分析を描写する。
【0113】
β-フルクトフラノシダーゼ濃度は約2.4gm/Lであることが見出された。バッチのほとんどにおいて、濃度は2~5gm/Lであった。組換えβ-フルクトフラノシダーゼの純度は約85%であることが観察された。
【0114】
実施例6:β-フルクトフラノシダーゼ活性の推定
β-フルクトフラノシダーゼの活性を推定するための研究を実行した。推定研究のために、β-フルクトフラノシダーゼ酵素の作用に起因して生成された還元糖の量を、DNS(3,5ジニトロサリチル酸)法(G. L. Miller, “Use of dinitrosalicylic acid reagent for determination of reducing sugar”, Anal. Chem., 1959, 31, 426-428)を使用して算出した。
【0115】
酵素活性アッセイを実行するために、10%のスクロース(100mMのクエン酸緩衝液中に溶解)を基質として使用した。β-フルクトフラノシダーゼを発酵ブロスから回収し、限外濾過(utra-filtration)を通じて処理した。限外濾過した試料を次に100mMのクエン酸緩衝液中での段階希釈により25,000Xに希釈し、使用した。反応体積は2.5mLであった。pHを5.5に維持し、反応を15分間継続した。
【0116】
インキュベーション後に3mLのDNS(3,5ジニトロサリチル酸)を各反応混合物に加え、10分間煮沸し、冷却し、540nmで分光光度的に吸光度を読み取った。
【0117】
異なる濃度でのグルコースのODは、表10に示され、
図7に描写されるように測定された。その後、反応後の吸光度測定に基づいて、酵素活性は表11に示されるように算出された。
図7は、β-フルクトフラノシダーゼ酵素の活性の推定のために使用されたグルコース標準曲線を描写する。
【0118】
【0119】
【0120】
実施例7:スクロース及び組換えβ-フルクトフラノシダーゼ酵素からのフルクトオリゴ糖(FOS)の生成
フルクトオリゴ糖の形成における酵素の能力を理解するための研究を実行した。90%(w/v)のスクロースの100mL溶液を150mMのクエン酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)中に調製した。これに、51692単位/mlの活性を有する96.7μLのβ-フルクトフラノシダーゼ酵素(計5000単位の酵素と同等)を加えた。
【0121】
反応物を250mL円錐フラスコに準備し、65℃及び220rpmでインキュベートした。定期的な時間間隔で試料を採取し、薄層クロマトグラフィー(TLC)プレート上で分析した。
【0122】
グルコース、スクロース、フルクトース及びFOS(ケストース、ニストース及びフルクトフラノシルニストースを含有する)を薄層クロマトグラフィー分析用の標準品として使用した。使用された移動相はn-ブタノール:氷酢酸:水(4:2:2 v/v)であり、使用された顕色/染色溶液は尿素リン酸であった。
【0123】
図8は、スクロース及び組換えβ-フルクトフラノシダーゼ酵素からのフルクトオリゴ糖(FOS)の生成のために行われたTLC分析を描写する。
【0124】
フルクトオリゴ糖の製造の定量的推定のために試料を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にさらに供した。4.6(ID)×150mm(長さ)及び5μm(粒子サイズ)を有するアミンカラム(Zorbax NH2カラム、Agilent Technologies)を使用してHPLC分析を行った。異なる濃度のグルコース、フルクトース、ケストース、ニストース、フルクトフラノシルニストース及びスクロースの標準溶液を、標準曲線を生成するために流した。
【0125】
図9はFOS試料のHPLC分析クロマトグラムを描写する。表12は、60分の反応時間の終わりにおけるフルクトオリゴ糖(FOS)の形成のパーセンテージ並びに回収されたグルコース、フルクトース及びスクロースを描写する。
【0126】
【0127】
スクロースのFOSへの変換のために100mlの90%(w/v)のスクロース溶液をβ-フルクトフラノシダーゼ酵素と反応させた。60分の終わりに熱により反応を終了させた後の反応から回収されたFOS、スクロース、グルコース、及びフルクトースの量を測定し、90%及び100%のスクロースを基準として提示した。
【0128】
精製された酵素は非常に多くの量の糖をフルクトオリゴ糖を有効に変換できることを研究は実証した。
【0129】
実施例8:アスペルギルス・ニガーの組換えβ-フルクトフラノシダーゼの特徴付け
アスペルギルス・ニガーの採取されたβ-フルクトフラノシダーゼを特徴付けして生物活性断片を同定した。β-フルクトフラノシダーゼの以下の生物活性断片が保存され、触媒活性を説明することが見出された:
【0130】
【0131】
アスペルギルス・ニガーのβ-フルクトフラノシダーゼ中の以下のアミノ酸残基は、触媒性三連構造(catalytic triad)の周辺の水素結合ネットワークの形成に関与することがさらに見出された。水素結合ネットワークは、触媒性三連構造の周囲の安定な立体化学のために重要である:
・Arg-190
・Tyr-369
・Glu-318
・His-332
・Asp-191
・Thr-293
・Asp-119
・His-144
【0132】
アスペルギルス・ニガーのβ-フルクトフラノシダーゼ中の以下の疎水性残基は、活性部位の周辺の負に荷電したポケットの形成に関与することもまた見出された:
・Leu-78
・Phe-118
・Ala-370
・Trp-398
・Ile-143
【0133】
さらに、活性ポケットの入口における相互作用に関与するアスペルギルス・ニガーのβ-フルクトフラノシダーゼの以下の重要な残基が同定された:
・Glu-405
・His-332
・Tyr-404
【配列表】
【国際調査報告】