(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-01
(54)【発明の名称】腐食を検出する方法および装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/26 20060101AFI20230125BHJP
【FI】
G01N27/26 351J
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022531004
(86)(22)【出願日】2020-11-25
(85)【翻訳文提出日】2022-07-22
(86)【国際出願番号】 FI2020050796
(87)【国際公開番号】W WO2021105563
(87)【国際公開日】2021-06-03
(32)【優先日】2019-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522207475
【氏名又は名称】オーボ・アカデミ・ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】Abo Akademi University
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【氏名又は名称】江間 晴彦
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【氏名又は名称】式見 真行
(72)【発明者】
【氏名】ベルゲリン,ミカエル
(72)【発明者】
【氏名】ラハティランタ,ヤンネ
(72)【発明者】
【氏名】レフムスト,ユホ
(72)【発明者】
【氏名】セーデルゴード,ベルント
(57)【要約】
対象物の表面における初期の腐食を検出する方法および装置。当該方法は、対象物を電解液に浸すこと、および鉄の酸化還元反応に由来する電流に基づいて対象物の表面の腐食の存在を電気化学的手法で検出することを含む(
図5)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の表面の腐食を検出する方法であって、
対象物を電解液に浸すこと、
鉄の酸化還元反応に由来する電流に基づいて、対象物の表面の腐食の存在を電気化学的手法により検出すること
を含む方法。
【請求項2】
検出するステップが、リニアスイープボルタンメトリー(LSV)またはサイクリックボルタンメトリー(CV)スキャンを使用することを含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
LSVまたはCVスキャンを使用して、鉄(酸化物)の存在を検出することを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
対象物がステンレス鋼合金製であり、作用電極として機能することを特徴とする、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
第3の電極として、LSVまたはCVスキャンにおいてAgまたはAgCl参照電極を使用することを含むことを特徴とする、請求項2、3または4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
LSVまたはCVスキャンの掃引速度が5mV/s~100mV/sの範囲であることを特徴とする、請求項2~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
LCVまたはCVスキャンの電位窓がAg/AgCl参照に対して-0.35V~0.35V、好ましくは電位窓がAg/AgCl参照に対して0V~0.35VまたはAg/AgCl参照に対して-0.25V~0.1Vであることを特徴とする、請求項2~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
腐食の存在を検出することが、LSVまたはCVスキャンで得られた電流応答中のパターンを検出することを含むことを特徴とする、請求項2~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
腐食の存在を検出することが、電流変化の割合または電流変化の割合の変化を検出することを含み、電流がLSVまたはCVスキャンで得られた電流応答であることを特徴とする、請求項2~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
電流変化の割合が、時間に関するまたは電位に関する電流の導関数(derivative)であり、電流がLSVまたはCVスキャンに対する電流応答であることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
電流変化の割合の変化が、時間に関してまたは電位に関して電流の二次導関数(second derivative)であり、電流がLSVまたはCVスキャンに対する電流応答である、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
電解質が合成生理液であることを特徴とする、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
対象物が、医療器具、臨床器具または臨床研究器具のような医療対象物であることを特徴とする、前記請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
腐食の存在を検出することが、
選択した電位範囲における電流応答を決定すること、
機械学習手順で使用した電流応答データから決定すること、ここに機械学習手順は、以前に収集されたデータを含み、
決定されたデータに基づいて、および機械学習を使用して以前に収集されたデータから、腐食したサンプルまたは清浄なサンプルに対象物を分類すること
を含むことを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
対象物の表面の腐食を検出するための装置であって、
対象物を電解液に浸す手段、
鉄の酸化還元反応に起因する電流に基づいて、対象物の表面の腐食の存在を電気化学的手法で検出する手段
を含む装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腐食(corrosion)の検出に関するものであり、より詳細には、電気化学的手法を用いた腐食の検出に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療機器や対象物の腐食は、病院などの環境では日常的に見られる現象である。例えば、体液などの残留物は、腐食によって対象の表面の劣化を開始させる様々な微生物にとって理想的な増殖基質を提供する。
【0003】
再利用可能な医療機器の洗浄に不可欠な衛生ステップは、高温蒸気による滅菌である。しかし、すでに腐食が開始している場合は、滅菌の前に手作業で機器を洗浄する必要がある。適切に洗浄されない場合には、表面に存在する酸化鉄が滅菌する機器のバッチ全体を汚染することになる。
【0004】
初期の腐食を検出する現在の技術水準は機械的視野に基づいているが、これにはいくつかの欠点がある。第1に、経年劣化により対象物に不動態皮膜の黒ずみが発生するものが多く、誤検出が多くなる。第2に、視覚的な検出手段は視野内の表面しか評価できないため、クランプのヒンジなどの「隠れた場所」や、ステントおよびチューブのような構造物の内側にある腐食は、既存の技術では信頼性の高い評価を行うことができない。
【0005】
米国特許6264824 B1の開示では、対象物の腐食は、電気化学的手順で、より具体的には電気化学的ノイズ測定を用いて検出されている。この開示では、腐食は、腐食電流に基づいて検出され、それによって腐食プロセスが進行している。
【発明の概要】
【0006】
発明の簡単な説明
本発明の目的は、複雑な形状を有する機器の腐食を検出することに関する上記の課題を克服するための方法およびその方法を実施するための装置を提供することである。本発明の目的は、独立請求項に記載された内容によって特徴付けられる方法および装置によって達成される。本発明の好ましい実施形態は、従属請求項に開示する。
【0007】
本発明は、電気化学的手法を利用することで、露出した全表面の分析を可能にするという考えに基づいている。検査対象物を電解液に浸し、電流応答から腐食を検出することができる。電気化学的手法では、腐食が目に見えなくても、腐食の兆候を得ることができる。さらに、電気化学的手法を用いると、目視検査に基づく既知の方法および装置では検出が困難な、大きな非腐食表面上の非常に微量の腐食生成物を検出することができる。さらに、本発明は、腐食表面を検出することを可能にし、腐食プロセスが進行中であることを必要としない。
【0008】
本発明の方法および装置は、偽陽性結果を最小限に抑えて正確な結果を提供することができる。この方法は、無害な表面の変化には反応せず、酸化鉄種の存在が検出された場合にのみ、使用者に警告を発する。
【0009】
本発明は、さらに、複雑な形状を有する対象物を、検査の精度を損なうことなく、かつ、腐食電流が流れないので検査対象物を傷つけたり破壊したりすることなく、検査することを可能にするものである。この検査では、目視できない内部構造に関しても信頼性の高い結果を得ることができる。また、本発明は、様々な自動品質管理工程に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら、好ましい実施形態によって本発明をより詳細に説明する。
【
図1】
図1は、本発明の1つの実施形態で得られた電流波形を示し;
【
図2】
図2は、電位の関数としての電流の一次導関数(first derivative)を示し;
【
図3】
図3は、電位の関数としての電流の二次導関数(second derivative)を示し;
【
図4】
図4は、本発明の実施形態で得られた電流波形を示し;
【
図5】
図5は、本発明の実施形態の簡略化された構造を示し;
【発明を実施するための形態】
【0011】
発明の詳細な説明
医療器具の表面上の酸化鉄の小さな斑点は、電気化学的手法、例えばリニアスイープボルタンメトリー(LSV)やサイクリックボルタンメトリー(CV)によって、例えばAg/AgCl参照に対して-0.35V~0.35Vのような適切な電位窓で検出できることが判明している。リニアスイープボルタンメトリー(LSV)およびサイクリックボルタンメトリー(CV)は、そのような手順として知られており、電気分解プロセスの特性を調べるために一般的に使用されている。
【0012】
本発明では、検査対象物を電解液に浸し、鉄の酸化還元反応に由来する電流に基づく電気化学的手法により、検査対象物の表面における腐食生成物の存在を検出する。検査対象物は、例えば、1つ以上の医療器具から構成されてもよい。電気化学的手法としては、リニアスイープボルタメトリー(LSV)およびサイクリックボルタメトリー(CV)が含まれる。LSVやCVでは、電極に掃引電圧を与え、電流応答を検出する。この電流応答から、検査対象物の表面に腐食が発生しているかどうかを判断することができる。例えば、検査対象物の表面の腐食は、腐食の過程で鉄の酸化物が表面に出た場合と、他の腐食対象物との接触などで鉄の酸化物が出た場合がある。本発明で検出される腐食の存在は、酸化鉄中の鉄の酸化還元反応、より具体的には酸化還元反応に由来する電流に基づいて検出されるため、腐食プロセスが進行していることを必要としない。
【0013】
電圧掃引速度は、表面反応、すなわち鉄(酸化物)の存在を同定しやすくするために、好ましくは5mV/s~100mV/sの範囲に選択する必要がある。LSVまたはCVでは、電極間に掃引電圧が印加され、電流応答を測定する。電極となる検査対象物は大きな表面積を有するため、容量性電流が大きくなる。検査対象物に腐食、すなわち鉄(酸化物)がある場合、掃引電圧に対する電流応答は、ある電圧領域で信号が変化することを示す。この電流は、鉄の2つの電荷状態間の酸化還元変換、それに伴う外部回路を介した電子移動、イオンの電荷バランスに起因する。具体的には、鉄の2つの状態はFe2+およびFe3+であり、検出される電流はこの2つの状態の間の電子の移動によるものである。
【0014】
医療用具、医療機器、臨床研究機器、臨床器具、部品、スペアパーツ、またはあらゆる金属片などの検査対象物を適切な電解液に完全に浸すことにより、対象物の形状に関係なく電解液が接触しているため、検出媒体と腐食箇所の接触を確保することができる。適当な電解質は、例えば、IV液として知られている合成生理液である。本方法では、セットアップを使用して電気化学反応を得るが、その際、電解質は好ましくはIV液である。さらに、電解質中の被検体は作用電極として作用し、電解質容器は対極として作用する。さらに、必要な3電極のセットアップを完了するために、参照電極が提供される。第3の電極は、Ag/AgCl参照電極であることが好ましい。このような参照電極は、電解質として使用される生理液が十分にクロライド含量が高いため、好適である。Ag/AgCl参照電極は、適切な参照電極であることが判明している。しかしながら、他の参照電極も本発明から逸脱することなく採用することができる。また、病院などで容易に入手できるため、IV-液の使用も好適である。さらに、流体の特性は、スキャンされる機器に害を与えない。他の適当な参照電極には、例えばカロメル電極(SCE)および可逆性水素電極(RHE、SHE)などが含まれる。電極が異なれば、電解液も異なるものを選択しなければならない可能性がある。さらに、電圧を変化させる電位窓は、選択した参照電極に応じて既知の方法で調整する必要がある。Ag/AgCl参照電極は、意図された化学的環境において安定で耐久性があることが知られているため、好ましく使用される。本発明で使用する電解質は、塩(塩化物)を含有する水系電解質であることが好ましい。前記したように、IV-液は電解質として必要な特性を有している。
【0015】
重要なのは、使用する電解液が腐食が検出された対象物に害を及ぼさないように無傷(intact)の表面と反応しないことである。
【0016】
前記したように、LSVやCVスキャンでは、電圧を変化させ、電極間の電流を測定する。一般に腐食面は非腐食面や無傷面に対して比較的小さいため、得られる電解反応に由来する電流は小さい。調べる表面変化に対応する電流は、電圧掃引のある部分で典型的に得られ、その電流応答から腐食を示す電流の存在を検出することができる。
【0017】
本発明の実施形態によれば、腐食を示す電流は、電流の一次導関数または二次導関数から検出される。電流の一次導関数は、電流の変化率を表し、電流の二次導関数は、電流の変化率を表す。電圧スイープを採用した場合,得られる電流はほぼ直線的に変化する。すなわち、急激な変化を伴わずに増加または減少する。この直線的な変化は、容量性電流に起因する。しかしながら、ある電圧範囲では、表面に鉄種が存在する場合、鉄種の酸化還元に起因する電流成分が追加される。この追加電流成分は、対象物の腐食を示す。電流のピークや電流信号の変化は、電流の一次導関数や二次導関数から検出することができる。
図1は、清浄なサンプルと腐食したサンプルの電位の関数としての電流の例である。
図1の腐食したサンプルの0.25Vの電流では、電流のピークがほとんど見られない。
図2は、
図1の電流の導関数を示す。
図1の元の電流波形よりも、微分(導関数)した曲線の方がピークが見えやすく、したがって検出しやすいことがわかる。また、
図2は、
図1の清浄なサンプルの導出波形を示す。
【0018】
図3は、
図1の電流反応の二次導関数をさらに示す。
図3では、清浄なサンプルと腐食したサンプルの両方の二次導関数が示されているが、腐食したサンプルの波形には、はっきりとしたピークが検出されている。
【0019】
鉄種の酸化還元変換による電流の検出は、電流がデジタルサンプルデータとして測定されるか、デジタル形式に変換される回路を使用して検出することができる。電流波形のデジタル表現は、数学的計算または変換を受けることができる。これらの計算には、電流ピークが電流応答に存在するかどうかを判断するための異なるフィルタを使用することが含まれる場合がある。さらに、好ましい実施形態では、電流の一次導関数または二次導関数が計算される。電流はデジタルサンプルであるため、適切なソフトウェアアルゴリズムを使用して電流の一次導関数および二次導関数を計算することができる。電流の二次導関数の値は、腐食が検出されたかどうかの指標として使用することができる。しかしながら、酸化還元反応に由来する電流は、電流信号を分析することができる他の手段を用いても検出することができることは明らかである。電流の一次導関数または二次導関数は、時間または電位に関して決定することができる。
【0020】
図4は、本発明の方法を試験した際に得られたボルタモグラムを示す。上側のプロットは腐食したテストピースで行われた測定を示し、下側のプロットは表面が腐食していないテストピースでの同様の測定を示す。試験における電位差は-0.3V~0.3Vの範囲に選ばれている。腐食したテストピースを用いた上のプロットは、掃引電圧が約0.18Vに達したときに電流の増加を示していることがわかる。さらに、電圧-0.05Vで電圧速度が負になると負のピークが見える。電圧が上昇すると、正の電流ピークは鉄の酸化によるもので、負の電流ピークは鉄の還元によるものである。下の図からわかるように、腐食していない部品は、この方法で試験した場合、電流のピークを示していない。
【0021】
この方法では、電位掃引に使用する電位窓は、Ag/AgCl基準に対して0V~0.35Vに選択することができる。電位がこれらの値の間で変化すると、腐食が存在する場合、電流応答で電流ピークが得られる。この電流ピークは前記したように正の値であり、電流を増加させた場合に得られる。
【0022】
本方法では、鉄の還元による負のピークを正のピークよりも明瞭に検出できることが判明した。1つの実施形態によれば、鉄の酸化物の検出は、電圧が低下したときの電流から行う。さらに、1つの実施形態では、参照電極がAg/AgCl参照電極である場合、電位を変更する電位差は-0.25V~0.1Vに選択する。前記したように、他の参照電極を使用する場合には、電位窓は適宜変更される。負のピークまたは正のピークとは、一般に電流信号の変化を意味する。また、電流信号の変化は、ピークを検出する以外にも、他の信号処理で検出することができる。一般に、清浄なサンプルに対する電流信号の変化は、酸化鉄の存在を示唆することがある。
【0023】
電位窓と掃引速度は、検査対象物に害が及ばないように選択する。例えば、掃引速度が高すぎると、酸化鉄の変質に関連する電流応答が見過ごされる可能性があり、電位差が広すぎると、無傷の表面が損傷する可能性がある。したがって、電位差と掃引速度は、腐食した表面からだけ、すなわち酸化鉄が存在する場合だけ、関連する応答が得られるように選択することが好ましい。
【0024】
さらに、掃引回数、すなわち電位の増減は、最大値を選択することができる。正を検出すると、処理を停止する。正の表示または不確実な表示が得られた場合、掃引は最大で設定された回数だけ繰り返される。このように、1つの実施形態によれば、測定サイクル、すなわち電圧掃引が繰り返される。繰り返される測定は、結果の正しさを保証するために使用されてもよい。
【0025】
この方法を実施する本発明の装置は、対象物を電解液に浸す手段と、鉄の酸化還元反応に由来する電流に基づいて対象物の表面の腐食の有無を電気化学的手法で検出する手段とを含む。
【0026】
図5は、本方法を実施するための装置の1つの例を示す。本発明の実施形態によれば、対象物を浸漬するための手段35は、検査する対象物が電気的に接続されるステンレス鋼部材を含む。ステンレス鋼部材は、好ましくは、対象物または複数の対象物を置くことができるステンレス鋼プレートまたはステンレス鋼メッシュバスケット31である。ステンレス鋼部材は、測定回路33に電気的に接続され、対象物35はシステムの作用電極を形成する。対象物は、好ましくはステンレス鋼容器32に保持される電解質中に浸漬する。ステンレス鋼容器32は対向電極として機能し、また測定回路33に接続される。セットアップはまた、好ましくはAg/AgCl参照電極である参照電極34を含む。
【0027】
腐食生成物の存在を検出する手段は、あらかじめプログラムされたLSVまたはCVスキャンを提供する測定回路を含む。専用の測定回路は、検出プロセスに十分な精度と感度でLSVまたはCVスキャンを生成するために必要な機能を表示する。例えば,電圧制御の精度は10mV以上、掃引速度の精度は2mV/s以上、電流測定の感度は1μA以上であることが望ましい。制御の精度と測定の感度によって、電流の応答を確実に検出することができる。
【0028】
スキャンを提供する測定回路に加えて、組み込みソフトウェアアルゴリズムまたは外部ユニットにインストールされたソフトウェアが、得られた結果、すなわち電流応答を所定の基準セットと比較する。例えば、比較は、特定の電位窓における電流の一次または二次導関数を限界値と比較することができる。電流の一次導関数または二次導関数が限界値を超えた場合、測定ソフトウェアは、対象物の表面に酸化鉄がある(腐食)ことを示す表示を作成する。一方、電流の二次導関数が設定された限界値以下のままであれば、測定回路は腐食が発見されなかったという表示を生成する。
【0029】
この情報は、装置の使用者が見ることのできるディスプレイ上の適当な光表示および/またはテキスト情報を使用することによって、使用者に伝達されてよい。スキャンが終了すると、装置のユーザは、対象物を取り出し、得られた結果に従ってそれらを処理してよい。
【0030】
本開示の1つの局面において、機械学習は、腐食を検出する際に利用する。具体的には、機械学習プロセスの教示において、監視された学習(supervised learning)を利用する。機械学習プロセスにおける手順は、選択した電圧掃引に対する電流応答を測定し、保存することを含む。
【0031】
選択された電圧掃引に対する電流応答の測定と保存は、対象物なしで実行する。したがって、使用されたバスケットまたは類似物のみを掃引に利用する。次のステップでは、対象物なしの電圧掃引の保存された電流応答は、対象物ありの蓄積電流応答から除去される。対象物での保存された電流応答は、同じ対象物での複数の電流応答の平均値であってもよい。上記の電流応答の除去は、準備されたデータを得るための電流値を単に減算することによって行われてもよい。
【0032】
さらに、機械学習に関する手順では、準備されたデータに対して、ある電位点からある最小電位点の点まで、線形ベースラインを当てはめる。さらに、準備されたデータからベースラインを減算し、残りのデータを、例えば移動平均フィルタなどを用いて平滑化またはフィルタリングする。
【0033】
この手順では、ベースラインの傾きと、平滑化されたデータの最大点を求め、記憶する。この傾きと極大点を機械学習に関するデータとして使用する。こうして、各測定値は二次元的に分類される。
【0034】
監視された機械学習を利用するため、表面に腐食のある物体や清浄な物体を上記の手順で利用し、基準となる分類データを取得する。この手順で分類データを収集すると、対象物の表面に腐食があるのか、腐食がないのかを判断するための手順となる。実際のサンプルから上記の手順で得られたデータは、参照データと対応させる。基準データを用いて、サンプルから得られたデータをNearest-Neighbor分類などの分類手法で分類する。
【0035】
以上の手順で、本発明の測定法を用いて電流サンプルを得る。すなわち、LSVやCVなどの電気化学的手法で電流を測定する。
【0036】
図6、
図7、
図8に関連してさらに説明する。
図6は、上述した準備されたデータの例を示す。準備されたデータとは、電圧掃引中の測定電流値から、対象物がない状態(すなわち、空のかご)の対応する電流値を取り除いたものである。測定された電流値は、3つの連続する電流測定値の平均を表す。
【0037】
また、
図6には、ゼロ電位点から最小電位の点までのフィットカーブであるベースラインが示されている。
図6の例では、最小電位は-0.2Vに選択され、電圧の最高値はゼロである。測定中の電圧をマイナス側からゼロ側へ掃引し、電流値を得る。
【0038】
さらに、
図7は、
図6の準備データから
図6のベースラインを減算した平滑化電流曲線を示す。ベースラインの傾きを計算し、平滑化された曲線の最大点を求め、分類に用いるデータを得る。
図8は、既知の参照対象物(腐食あり、腐食なし)を用いて、腐食が検査される物体からのデータとともに収集されるデータの一例を示す。このように、
図8のグラフで使用されるデータの量は、スキャン手順を実施するごとに増加する。
【0039】
実際の測定データがチャートに配置されると、測定データが関連する対象が清浄であるか腐食が発生しているかを判断するための一定の手順が必要となる。清浄か腐食かの分類は、例えば、Nearest-Neighbor分類を用いて行うことができる。Nearest-Neighbor分類では、チャート内の最も近い既存のデータポイントが清浄な物体に関連するのか、それとも腐食のある物体に関連するのかをチェックする。
図8のグラフのデータ量が増えるにつれて、対象物の分類はより正確になる。
【0040】
したがって、1つの実施形態によれば、腐食の存在の検出は、選択された電位範囲における電流応答を決定することを含む。機械学習手順で使用される電流応答データから決定すること、機械学習手順は、上記のように以前に集められたデータからなる。さらに、実施形態は、決定されたデータに基づいて、機械学習を使用して以前に集められたデータから、対象物を腐食したサンプルに分類すること、または清浄なサンプルに分類することを含んでいる。
【0041】
上記の装置は、腐食の検出を行うことができる可能性のある構造の1つの例である。対象物の大きさによって、装置の機械的構造は異っていてもよい。また、対象物の形状や大きさが異なるため、1回の検査で完全に検査できるわけではなく、対象物の一部しか検査できないことは理解できる。対象物を電解液に部分的に浸す場合は、浸された部分のみが検査される。しかしながら、対象物を様々な向きで電解液に浸すと、対象物の全面を繰り返し検査することができる。
【0042】
技術の進歩に伴い、本発明の概念を様々な方法で実施できることは、当業者にとって明らかであろう。本発明およびその実施形態は、前記した例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内で種々の変更が可能である。
【手続補正書】
【提出日】2022-07-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物
[35]の表面の腐食を検出する方法であって、
対象物
[35]を電解液に浸すこと、
鉄の酸化還元反応に由来する電流に基づいて、対象物
[35]の表面の腐食の存在を電気化学的手法により検出することを含
み、検出するステップが、リニアスイープボルタンメトリー(LSV)またはサイクリックボルタンメトリー(CV)スキャンを使用することおよび第3の電極として、LSVまたはCVスキャンにおいてAgまたはAgCl参照電極を使用することを含み、LCVまたはCVスキャンの電位窓がAg/AgCl参照に対して-0.35V~0.35Vである方法。
【請求項2】
LSVまたはCVスキャンを使用して、鉄(酸化物)の存在を検出することを特徴とする、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
対象物
[35]がステンレス鋼合金製であり、作用電極として機能することを特徴とする、請求項
1または
2に記載の方法。
【請求項4】
LSVまたはCVスキャンの掃引速度が5mV/s~100mV/sの範囲であることを特徴とする、請求項
1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
LCVまたはCVスキャンの電位窓
がAg/AgCl参照に対して0V~0.35Vまたは
好ましくはAg/AgCl参照に対して-0.25V~0.1Vであることを特徴とする、請求項
1~
4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
腐食の存在を検出することが、LSVまたはCVスキャンで得られた電流応答中のパターンを検出することを含むことを特徴とする、請求項
1~
5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
腐食の存在を検出することが、電流変化の割合または電流変化の割合の変化を検出することを含み、電流がLSVまたはCVスキャンで得られた電流応答であることを特徴とする、請求項
1~
6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
電流変化の割合が、時間に関するまたは電位に関する電流の導関数(derivative)であり、電流がLSVまたはCVスキャンに対する電流応答であることを特徴とする、請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
電流変化の割合の変化が、時間に関してまたは電位に関して電流の二次導関数(second derivative)であり、電流がLSVまたはCVスキャンに対する電流応答である、請求項
7に記載の方法。
【請求項10】
電解質が合成生理液であることを特徴とする、請求項1~
9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
対象物
[35]が、医療器具、臨床器具または臨床研究器具のような医療対象物であることを特徴とする、前記請求項1~
10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
腐食の存在を検出することが、
選択した電位範囲における電流応答を決定すること、
機械学習手順で使用した電流応答データから決定すること、ここに機械学習手順は、以前に収集されたデータを含み、
決定されたデータに基づいて、および機械学習を使用して以前に収集されたデータから、腐食したサンプルまたは清浄なサンプルに対象物を分類すること
を含むことを特徴とする、請求項1~
6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
対象物の表面の腐食を検出するための装置であって、
対象物
[35]を電解液に浸す手段、
鉄の酸化還元反応に起因する電流に基づいて、対象物
[35]の表面の腐食の存在を電気化学的手法で検出する手段を
含み、検出するステップが、リニアスイープボルタンメトリー(LSV)またはサイクリックボルタンメトリー(CV)スキャンを使用することおよび第3の電極として、LSVまたはCVスキャンにおいてAgまたはAgCl参照電極を使用することを含み、LCVまたはCVスキャンの電位窓がAg/AgCl参照に対して-0.35V~0.35Vである装置。
【国際調査報告】