(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-01
(54)【発明の名称】ペンタペプチドおよびその使用方法
(51)【国際特許分類】
C07K 16/18 20060101AFI20230125BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20230125BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20230125BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20230125BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230125BHJP
A61K 38/03 20060101ALI20230125BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20230125BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230125BHJP
A61K 38/39 20060101ALI20230125BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20230125BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20230125BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20230125BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20230125BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20230125BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20230125BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20230125BHJP
【FI】
C07K16/18 ZNA
C07K19/00
A61P17/02
A61P31/04
A61P43/00 105
A61P43/00 121
A61P43/00 111
A61K38/03
A61P17/00 101
A61K45/00
A61K38/39
A61K9/06
A61K9/08
A61K9/107
A61K9/20
A61K9/48
A61K9/12
A61K9/70 401
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022531406
(86)(22)【出願日】2020-11-25
(85)【翻訳文提出日】2022-07-27
(86)【国際出願番号】 US2020062140
(87)【国際公開番号】W WO2021108482
(87)【国際公開日】2021-06-03
(32)【優先日】2019-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】513016884
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ ユニヴァーシティ オブ イリノイ
【氏名又は名称原語表記】THE BOARD OF TRUSTEES OF THE UNIVERSITY OF ILLINOIS
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】アーカル,ヴィナイ クマール
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA09
4C076AA11
4C076AA17
4C076AA24
4C076AA36
4C076AA53
4C076AA72
4C076BB01
4C076BB11
4C076BB13
4C076BB14
4C076BB15
4C076BB16
4C076BB21
4C076BB24
4C076BB25
4C076BB31
4C076CC18
4C076CC19
4C076CC26
4C076CC29
4C076CC32
4C084AA01
4C084AA02
4C084AA07
4C084AA19
4C084BA02
4C084BA08
4C084BA18
4C084BA23
4C084BA44
4C084CA59
4C084MA02
4C084MA13
4C084MA16
4C084MA17
4C084MA28
4C084MA32
4C084MA35
4C084MA37
4C084MA52
4C084MA56
4C084MA58
4C084MA59
4C084MA63
4C084MA66
4C084NA05
4C084NA12
4C084NA14
4C084ZA042
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4C084ZA891
4C084ZA892
4C084ZA901
4C084ZA902
4C084ZB072
4C084ZB211
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4C084ZB352
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4C084ZC191
4C084ZC192
4C084ZC751
4H045AA10
4H045BA09
4H045BA41
4H045BA56
4H045CA40
4H045EA29
4H045FA10
(57)【要約】
配列SHXGY(配列番号2)を含む合成ペプチドが、創傷治癒および上皮細胞移動を推進するために同じものを使用する方法として、記載されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Iの構造を含む、合成ペプチド、またはその薬学的に許容し得る塩:
【数3】
、
式中、
R
1またはR
2の少なくとも1つが、アミノ酸配列SHXGY(配列番号1)を含む5~10のアミノ酸残基ペプチドであり、ここで、Xは、R、K、H、D、またはEであり、およびR
1またはR
2の他方は、金属が結合しているペプチド、創傷治癒ペプチド、または抗菌ペプチドであり;
Zは、存在するか、または存在せず、および存在する場合には、外因性ペプチドであり;
Lは、リンカーであり;
および、nは、0または≧1であり、
ただし、nが、0である場合に、R
1が、アミノ酸配列SHXGY(配列番号1)を含む5~10のアミノ酸残基ペプチドである。
【請求項2】
リンカーが、炭化水素リンカーである、請求項1に記載の合成ペプチド。
【請求項3】
各Lが、同じであるか異なるリンカーでもよい、請求項1に記載の合成ペプチド。
【請求項4】
直鎖であるかまたは環化された、請求項1に記載の合成ペプチド。
【請求項5】
グリコシル化、アセチル化、アミド化、ホルミル化、ヒドロキシル化、メチル化、ミリストイル化、リン酸化、スルホン化、PEG化、または脂質化から選択される修飾を含む、請求項1に記載の合成ペプチド。
【請求項6】
金属が結合しているペプチドが、アミノ酸配列HEXXH(配列番号14)を含み、ここでXが、K、R、またはHである、請求項1に記載の合成ペプチド。
【請求項7】
創傷治癒ペプチドが、アミノ酸配列SNYLYDN(配列番号26)またはSHXGY(配列番号1)を含み、ここでXは、R、K、H、D、またはEである、請求項1に記載の合成ペプチド。
【請求項8】
抗菌ペプチドが、アミノ酸配列RKFHEKHHSHRGYR(配列番号28)またはAKRHHGYKRKFH(配列番号29)を含む、請求項1に記載の合成ペプチド。
【請求項9】
請求項1に記載の1以上の合成ペプチドまたはその薬学的に許容し得る塩、および薬学的に許容し得る担体または賦形剤を含む、医薬組成物。
【請求項10】
局所、経口、眼、静脈内、硝子体内、結膜下、皮下、筋肉内、腹腔内、脳内、動脈内、門脈内、病巣内、鞘内、または鼻腔内投与のために製剤化される、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
ゲル、希釈液、クリーム、タブレット、カプセル、ピル、溶液、点眼液、スプレー、絆創膏、コンタクトレンズ、貯留物、注射可能薬物、移植可能物、または徐放性製剤の形態である、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項12】
処置を必要とする対象に、請求項1に記載の合成ペプチド、またはその薬学的に許容し得る塩の有効量を投与し、それにより創傷治癒または上皮細胞移動を推進することを含む、創傷治癒または上皮細胞移動を推進するための方法。
【請求項13】
合成ペプチド、またはその薬学的に許容し得る塩の量が、1ナノモルから500マイクロモルの範囲である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
抗菌剤、抗ウイルス剤、抗寄生生物剤、抗傷剤、免疫調節剤、コラーゲン、ゼラチン、鎮痛剤、麻酔剤、またはそれらの組み合わせを投与することをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
処置を必要とする対象に、請求項9に記載の医薬組成物の有効量を投与し、それにより創傷治癒または上皮細胞移動を推進することを含む、創傷治癒または上皮細胞移動を推進するための方法。
【請求項16】
合成ペプチド、またはその薬学的に許容し得る塩の量が、1ナノモルから500マイクロモルの範囲である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
抗菌剤、抗ウイルス剤、抗寄生生物剤、抗傷剤、免疫調節剤、コラーゲン、ゼラチン、鎮痛剤、麻酔剤、またはそれらの組み合わせを投与することをさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
処置を必要とする対象に、請求項1に記載の合成ペプチドまたはその薬学的に許容し得る塩の有効量を投与し、それにより細胞外シグナル調節タンパク質キナーゼ(ERK)活性化を増大させることを含む、細胞外シグナル調節タンパク質キナーゼ(ERK)活性化を増大させるための方法。
【請求項19】
請求項1に記載の1以上の合成ペプチドまたはその薬学的に許容し得る塩を含む、キット。
【請求項20】
抗菌剤、抗ウイルス剤、抗寄生生物剤、抗真菌剤、抗傷剤、免疫調節剤、コラーゲン、ゼラチン、鎮痛剤、麻酔剤、またはそれらの組み合わせをさらに含む、請求項19に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
序論
本出願は、2019年11月27日に出願の米国仮特許出願第62/941,226号に対して優先権の利益を主張し、その内容が、参照によって、本明細書に完全に組み込まれる。
【0002】
本発明は、国立衛生研究所によって授与された承認番号EY024339およびEY029409;国防総省によって授与されたW81XWH-17-1-0122;退役軍人省によって授与されたI01BX004080のもとの政府のサポートによって、成された。政府は、本発明の一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
背景
ヒスタチン(HTNs)は、唾液ならびにヒト涙腺上皮中に見いだされる、ヒスチジンリッチなカチオン性小ペプチドである(Aakalu, et al. (2014) Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 55:3115; Ubels, et al. (2012) Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 53(11):6738-47; Steele, et al. (2002) Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 43:98)。ヒスタチンは、7から38アミノ酸残基までの長さの、サイズにおける範囲にあり、抗細菌性および著しい抗真菌性を伴う抗菌ペプチドの群を、表す。加えて、ヒスタチンは創傷治癒、金属イオンキレート化、抗炎症効果、および血管新生に関係していた(Melino, et al. (2014) FEBS J. 281:657-72; Oudhoff, et al. (2008) FASEB J. 22(12):3805-12); Oudhoff, et al. (2009) J. Dent. Res. 88(9):846-50; WO 2007/142381)。構造-機能研究は、HTN1およびHTN3の両方において、はっきりしたN末端およびC末端ドメインを同定し、それは、それぞれ抗微生物性および創傷治癒特性に、寄与する(Melino, et al. (1999) Biochemistry 38:9626-33; Brewer, et al. (1998) Biochem. Cell Biol. 76:247-56; Gusman, et al. (2001) Biochim. Biophys. Acta 1545:86-9)。この点において、ヒスタチン、ならびにフラグメント、多量体、およびそれらの組み合わせは、眼表面疾患(US 2013/0310327;2013/0310326;WO 2016/060916;WO 2016/060917;WO 2016/060918;WO 2016/060921;US 2016/0279194)および創傷(US 2013/0288964;US 2011/0178010)を含む様々な状態の処置における使用に関して、示唆されていた。
【0004】
ヒスタチンの環状の類似体も、記載されていた。たとえば、US 6,555,650は、前記アミノ酸単位の5~16の環状の部分を構築するジスルフィド架橋を伴うHTN5の環状の類似体を、記載する。加えて、HTN5の頭-尾環化は、その抗菌能力に影響を及ぼすことなくペプチドの両親媒性を増大させるために、示された(Sikorska & Kamysz (2014) J. Pept. Sci. 20:952-7)。さらに、ヒスタチン-1の環化は、モル活性をおよそ1000倍に強化することが示されており(Oudhoff, et al. (2009) FASEB J. 23:3928-35)、創傷閉鎖活性を増加させる(Bolscher, et al. (2011) FASEB J. 25:2650-8)。その上、ヒスタチンの環状の類似体は、増強された能力によって、微生物感染処置における使用のために提案された(US 2010/0173833; Brewer & Lajoie (2002) Biochemistry 41:5526-5536)。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、合成ペプチド、またはその薬学的に許容し得る塩を提供し、前記ペプチドは、式Iの構造を有する:
【数1】
式中、R
1またはR
2の少なくとも1つが、アミノ酸配列SHXGY(配列番号1)を含む5~10のアミノ酸残基ペプチドであり、ここで、Xが、R、K、H、D、またはEであり、およびR
1またはR
2の他方が、金属が結合しているペプチド、創傷治癒ペプチド、または抗菌ペプチドであり;Zは、存在するか、または存在せず、および存在する場合には、外因性ペプチドであり;Lは、リンカーであり;および、nは、0または≧1であり、ただし、nが、0である場合に、R
1が、アミノ酸配列SHXGY(配列番号1)を含む5~10のアミノ酸残基ペプチドである。ある側面において、Lの各出現は、同じまたは異なるリンカーを含んでもよく;合成ペプチドは、直鎖でもよいかまたは環化されてもよく;および/または、ペプチドは、グリコシル化、アセチル化、アミド化、ホルミル化、ヒドロキシル化、メチル化、ミリストイル化、リン酸化、スルホン化、PEG化、または脂質化から選択される修飾を、含んでもよい。他の側面において、金属が結合しているペプチドは、アミノ酸配列HEXXH(配列番号14)を有してもよく、ここで、Xは、K、R、またはHであり;
創傷治癒ペプチドは、アミノ酸配列SNYLYDN(配列番号26)またはSHXGY(配列番号1)を有してもよく、ここで、Xは、R、K、H、D、またはEであり;および、抗菌ペプチドは、アミノ酸配列RKFHEKHHSHRGYR(配列番号28)またはAKRHHGYKRKFH(配列番号29)を有してもよい。合成ペプチド、または薬学的に許容し得る担体または賦形剤と混合されたその薬学的に許容し得る塩もまた提供され、合成ペプチド、またはその薬学的に許容し得る塩、またはそれを含有する医薬組成物を使用した、創傷治癒および/または上皮細胞移動を推進し、および細胞外シグナル調節タンパク質キナーゼ(ERK)の活性化を増大させるためのキットおよび方法も同様に提供され、ここで、投与される合成ペプチドまたはその薬学的に許容し得る塩の量は、1ナノモル~500マイクロモルの濃度の範囲である。いくつかの側面において、キットおよび方法は、抗菌剤、抗ウイルス剤、抗寄生生物剤、免疫調節性剤、抗傷剤、コラーゲン、ゼラチン、鎮痛剤、麻酔剤、またはそれらの組み合わせの使用を、更に含んでもよい。さらにその上、本開示の原理に従って調製されるペンタペプチドは、操作されて、掛け合わされ、直鎖配置または他の立体配置を志向されて、それらの機能を維持する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、SHRGY(配列番号2)-含有ペプチドが、スクラッチ閉鎖率の加速のために必要および十分であることを示す。ペプチドは、スクラッチ閉鎖率を加速することにおける有効性のために試験された。陰性対照は、未処置および複数のスクランブルペプチド(SP)の対照を含んだ。すべてのペプチドは、80μMの濃度で試験された。すべての実験は、各実験について3つの技術的な再現による3重で遂行された。統計的有意差は、ダネットの事後検定(post-hoc test)による一元配置分散分析(one-way ANOYA)によって決定された。*p<0.05;**p<0.01;***p<0.001。相対閉鎖=(処置された試料の%閉鎖)/(未処置の対照の%閉鎖)。
【0007】
【
図2】
図2は、ヒスタチン-5またはSHRGY(配列番号2)ペプチドの適用が、マウス角膜上皮障害モデルの角膜創傷閉鎖率を加速することを示す。創傷領域は、Hst5、SHRGY(配列番号2)、またはSP1ペプチド(各群に関してn=7)で処置され、各々80μMの濃度で試験された。複数の時点の創傷領域は、Image Jソフトウェアを使用して、測定された。ベースラインと比較した18時間および24時間での、%維持角膜創傷領域の測定は、SP1と比較して、Hst5およびSHRGY(配列番号2)群において、統計的に有意な改善を示した。統計的有意差は、ボンフェローニの事後検定(post-hoc test)による二元配置分散分析(two-way ANOVA)によって決定された。**P<0.01、***P<0.001。%創傷領域=(時間Xでの創傷領域/時間0での創傷領域)X100。
【0008】
【
図3】
図3は、SHRGY(配列番号2)ペプチドの種々の塩の形態に関するスクラッチ閉鎖率を示す。ヒト角膜上皮細胞は、標準化されたスクラッチアッセイを使用して傷つけられ、ペンタペプチドの種々の塩の形態の適用の後、増大した創傷治癒の率に関して、試験された。AA、酢酸;HCl、塩酸;TFA、トリフルオロ酢酸。
【発明を実施するための形態】
【0009】
発明の詳細な説明
上皮移動、接着、および増殖は、身体のすべての領域の創傷治癒にきわめて重大である。十分な上皮形成なしで、傷、炎症、疼痛、拘縮、視覚喪失、機能障害、感染、および異常血管増殖などの結果による異所性創傷治癒が、見られることができる。数個の細胞タイプおよび創傷モデルは、一般的に、創傷治癒を増強するための剤の適用性を試験するために用いられる。例示の系は、眼球の前部および眼表面である。眼球の前面の角膜および他の要素は、異常な上皮形成が、悲惨な失明または眼球の喪失にさえつながることができるので、創傷治癒のモデルとして使用される。ここで、ペンタペプチドSHXGY(配列番号1)が、上皮創傷治癒を増強できることが、見いだされていた。とりわけ、配列SHXGY(配列番号1)、例として、SHRGY(配列番号2)およびSHDGY(配列番号3)を含有するペプチドが、いくつかの細胞タイプ(不死化されたヒト角膜上皮細胞、不死化されたヒト角膜輪部上皮細胞、HeLaヒト細胞)において、およびマウス角膜上皮創傷のモデルにおいて、有意に上皮移動を増強することができることが、示されていた。標準化された創傷方法を用いて傷つけられたマウスに、局所的に適用される場合に、SHXGY(配列番号1)-含有ペプチドまたはそれらの多量体(例として、SHRGY-(CH2)6-SHRGY-(CH2)6-SHRGY-(CH2)6-SHRGY;配列番号51)は、有意に角膜治癒を改善することができる。加えて、SHRGY(配列番号2)配列を含む合成ペプチドが、創傷治癒の部位に対して、リン酸化された細胞外シグナル調節タンパク質キナーゼ1/2(pERK1/2)の免疫局在性を刺激することが示されており、創傷治癒増強における機能に加えて、それによりSHRGY(配列番号2)ペプチドが、免疫調節性活性も有することを示唆している。よって、このコアペンタペプチド配列は、上皮形成および細胞移動を推進することにおいて特に使用され、それは、創傷治癒、炎症、がん、他の現象の間の感染または障害に対する応答にとって、重要である。
【0010】
従って、本発明は、合成ペプチド、またはその薬学的に許容し得る塩、創傷治癒および/または上皮細胞移動を推進することにおける、同じものの使用の方法を、提供する。本発明の合成ペプチドは、式Iの一般的な構造を有する:
【数2】
、
式中
(i)R
1またはR
2の少なくとも1つが、アミノ酸配列SHXGY(配列番号1)を有する5~10のアミノ酸残基ペプチドであり、ここで、Xは、R、K、H、D、またはEであり、およびR
1またはR
2の他方は、金属が結合しているペプチド、創傷治癒ペプチド、または抗菌ペプチドであり;
(ii)Zは、存在するか、または存在せず、および存在する場合には、外因性ペプチドであり;
(iii)Lは、リンカーであり;および
(iv)nは、0または≧1であり、
ただし、nが、0である場合に、R
1が、アミノ酸配列SHXGY(配列番号1)を有する5~10のアミノ酸残基ペプチドである。
【0011】
指示のとおり、R1およびR2の少なくとも1つは、アミノ酸配列SHXGY(配列番号1)を含む、5~10のアミノ酸残基ペプチドであり、ここで、Xは、R(Arg)、K(Lys)、H(His)、D(Asp)、またはE(Glu)である。従って、R1およびR2の少なくとも1つは、アミノ酸配列SHRGY(配列番号2)、SHDGY(配列番号3)、SHKGY(配列番号4)、SHHGY(配列番号5)、またはSHEGY(配列番号6)を含む、5、6、7、8、9、または10アミノ酸残基ペプチドである。R1またはR2の少なくとも1つは、配列SHXGY(配列番号1)を含み、それは、C末端および/またはN末端上の1~5の追加のアミノ酸残基を有してもよい。いくつかの側面において、1~5の追加のアミノ酸残基は、内因性であるかまたは天然のアミノ酸残基である。「天然の」または「内因性」アミノ酸残基は、天然に存在するタンパク質における詳述された位置に存在するアミノ酸残基である。例証として、配列SHRGY(配列番号2)は、以下の通り、ヒスタチン3の中に存在する:DSHAKRHHGYKRKFHEKHHSHRGYRSNYLYDN(配列番号7)。従って、R1および/またはR2が、ヒスタチンから誘導される場合に、R1および/またはR2は、配列HHSHRGYRSN(配列番号8)、HEKHHSHRGY(配列番号9)、EKHHSHRGYR(配列番号10)、KHHSHRGY(配列番号11)、HHSHRGY(配列番号12)、またはHSHRGY(配列番号13)を有することができる。
【0012】
いくつかの側面において、合成ペプチドは、R1のみから成る(すなわち、n=0)。この側面に従って、合成ペプチドは、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、または配列番号6に規定される配列を含むかまたはそれらから成る5、6、7、8、9、または10アミノ酸残基ペプチドである。
【0013】
他の側面において、合成ペプチドは、1以上のR2ペプチドを含む(すなわち、n≧1)。この点において、合成ペプチドは、リンカーで結合される2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20以上のペプチドを含むことができる。一側面において、本発明の合成ペプチドのR1およびR2は、同一である。他の側面において、本発明の合成ペプチドのR1およびR2は、相違する。さらなる側面において、各R2は、同一であるかまたは相違することができる。理想的には、合成ペプチドの全長は、20~100のアミノ酸残基の範囲にある。
【0014】
R1またはR2の少なくとも1つが、アミノ酸配列SHXGY(配列番号1)を有する5~10のアミノ酸残基ペプチドである一方で、R1またはR2の他方は、金属が結合しているペプチド、創傷治癒ペプチド、または抗菌ペプチドであってもよい。この点において、本発明の合成ペプチドは、(i)金属が結合しているペプチド、(ii)創傷治癒ペプチド、(iii)抗菌ペプチド、または(iv)(i)-(iii)のいずれかの組み合わせ、と組み合わせたアミノ酸配列SHXGYを有する5~10のアミノ酸残基ペプチドで構成されてもよい。ある側面において、本発明の合成ペプチドは、第2の創傷治癒ペプチドと組み合わせた、アミノ酸配列SHXGYを有する5~10のアミノ酸残基ペプチドで、構成される。
【0015】
用語「金属と結合しているペプチド」は、本明細書に使用されるとき、金属と結合させるかまたは複合体を形成するアミノ酸のモチーフを指す。ヒスタチンの構造および機能的な特性評価は、以下の2つの金属-結合モチーフの存在を明らかにした:第3の位置における1つのヒスチジン残基を伴うアミノ-末端Cu(II)/Ni(II)結合(ATCUN)モチーフ(NH2-X1X2H、ここでX1は、AspまたはGluであり、およびX2は、Ala、Thr、Met、またはSerである)(Grogan, et al. (2001) FEBS Lett. 491:76-80; Melino, et al. (2006) Biochemistry 45:15373-83; Melino, et al. (1999) Biochemistry 38:9626-33; Gusman, et al. (2001) Biochim. Biophys. Acta 1545:86-95);およびZn(II)-結合モチーフHEXXH(配列番号14)、ここでXが、K(Lys)、R(Arg)、またはH(his)などの塩基性のアミノ酸残基を示す。従って、いくつかの態様において、金属が結合しているペプチドは、配列DSH、ESH、DAH、EAH、DTH、ETH、DMH、またはEMHを含む。他の態様において、金属が結合しているペプチドは、配列HEKKH(配列番号15)、HEKRH(配列番号16)、HEKHH(配列番号17)、HERKH(配列番号18)、HERRH(配列番号19)、HERHH(配列番号20)、HEHKH(配列番号21)、HEHRH(配列番号22)、またはHEHHH(配列番号23)を含む。金属が結合しているペプチドは、上述した金属が結合しているペプチドの特定の配列を含むことができるかまたはC末端上の1~6の追加の天然のヒスタチン・アミノ酸残基および/または金属が結合しているペプチドのN末端を含むことができる。例証として、金属が結合しているペプチドは、配列GYKRKFHEKHHSHR(配列番号24)またはHEKRHH(配列番号25)を有することができる。
【0016】
いくつかの態様において、本発明の合成ペプチドは、1つの金属が結合しているペプチドを含む。他の態様において、合成ペプチドは、2つの金属が結合しているペプチドを含む。さらなる態様において、合成ペプチドは、3つの金属が結合しているペプチドを含む。ある態様において、金属が結合しているペプチドは、配列HEXXH(配列番号14)を有し、ここで、各Xは、塩基性のアミノ酸残基である。当業者によって容易に認識されるとおり、合成ペプチドにおける、1以上の金属が結合しているペプチドの包含は、金属イオンキレート、抗炎症薬、マトリックスメタロプロテイナーゼ阻害、および/または抗血管新生活性を、合成ペプチドにもたらす。その抗血管新生活性に照らして、かかる合成ペプチドは、加齢黄斑変性、糖尿病性網膜症、がん、および慢性または急性の重篤なブドウ膜炎の処置において使用されるだろう。その金属イオンキレート化活性に照らして、かかる合成ペプチドはまた、伝染性角膜炎、眼内ブドウ膜炎、眼内炎、炎症性角膜炎、乾燥眼疾患、および眼表面または眼内疾患症などの、炎症性および伝染性疾患におけるマトリックスメタロプロテイナーゼおよび他の金属依存酵素によって媒介される組織破壊を阻害することにおいて、使用されるだろう。
【0017】
本明細書に使用のとおり、「創傷治癒ペプチド」は、創傷治癒を推進するかまたは促進するアミノ酸モチーフを指す。いくつかの側面において、創傷治癒ペプチドは、ヒスタチンから誘導される。ヒスタチンから誘導される創傷治癒ペプチドの例は、配列SNYLYDN(配列番号26)を含むペプチドである。別の側面において、創傷治癒ペプチドは、アミノ酸配列SHXGY(配列番号1)を含み、ここで、Xは、R、K、H、D、またはEである。注目すべきことに、本発明の合成ペプチドに含まれる場合に、SHXGY(配列番号1)配列は、免疫調節性活性を合成ペプチドに授ける追加の利益を有する。創傷治癒ペプチドは、上述した創傷治癒ペプチドの特定の配列を含むことができるか、または創傷治癒ペプチドのCおよび/またはN末端上の、1と6の間の追加のアミノ酸残基を含むことができる。例証として、ヒスタチンから誘導される創傷治癒ペプチドは、配列YGDYGSNYLYDN(配列番号27)または配列番号2または8~13のいずれか1つを有することができる。
【0018】
いくつかの態様において、配列番号1の創傷治癒ペプチドに加えて、本発明の合成ペプチドは、第2の創傷治癒ペプチドを含む。他の態様において、配列番号1の創傷治癒ペプチドに加えて、合成ペプチドは、2つの追加の創傷治癒ペプチドを含む。さらなる態様において、配列番号1の創傷治癒ペプチドに加えて、合成ペプチドは、3つの追加の創傷治癒ペプチドを含む。当業者によって容易に認識されるとおり、合成ペプチドにおける1以上の創傷治癒ペプチドの包含は、上皮細胞移動および活性のひろがりを合成ペプチドにもたらす。かかる合成ペプチドは、それゆえ創傷治癒ならびに網膜色素上皮治癒、乾性加齢黄斑変性、眼表面疾患および眼表面炎症性障害、角膜および眼内、網膜または脈絡膜を含む眼の新血管新生、および乾燥眼疾患の処置において使用される。
【0019】
本発明の目的に関して、「抗菌」は、抗細菌および抗真菌剤を含む。従って、本明細書に使用のとおり、用語「抗菌ペプチド」は、細菌および/または真菌細胞への細胞増殖抑制または殺細胞活性を呈するアミノ酸のモチーフを、指す。ヒスタチンの特性評価は、陽性総電荷およびHTNのアミノ末端部分が、抗菌活性を媒介することを、示す。とりわけ、HTN3のアミノ酸配列RKFHEKHHSHRGYR(配列番号28)は、殺真菌活性を呈することが、示されていた(Oppenheim, et al. (2012) PLoS ONE 7(12):e51479)。同様に、P-113としても知られる配列AKRHHGYKRKFH(配列番号29)は、カンジダアルビカンスに対する殺真菌活性を呈する(Jang, et al. (2008) Antimicrob. Agents Chemother. 5292):497-504)。よって、抗菌ペプチドは、上述した抗菌ペプチドの特定の配列を含むことができるか、または抗菌ペプチドのCおよび/またはN末端上の1と6の間の追加のアミノ酸残基を、含むことができる。
【0020】
いくつかの態様において、合成ペプチドは、1つの抗菌ペプチドを含む。
他の態様において、合成ペプチドは、2つの抗菌ペプチドを含む。さらなる態様において、合成ペプチドは、3つの抗菌ペプチドを含む。ある態様において、抗菌ペプチドは、配列RKFHEKHHSHRGYR(配列番号28)を有する。他の態様において、抗菌ドメインは、配列AKRHHGYKRKFH(配列番号29)を有する。当業者によって容易に認識されるとおり、合成ペプチドにおける1以上の抗菌ペプチドの包含は、抗真菌および/または抗細菌活性を、合成ペプチドにもたらす。かかる合成ペプチドは、それゆえカンジダ眼球感染などの微生物感染の処置、ならびに外科的移植片と関連する感染を防御において、使用されるだろう。
【0021】
同一であるかまたは相違する繰り返し単位を含有する合成ペプチドの例は、表1において、提示される。
【表1】
【0022】
本発明のある側面において、外因性であるかまたは異種組織の分子は、合成ペプチドに含まれる。具体的には、いくつかの側面で、合成ペプチドは、直接R1およびR2の一方または両方に付随する「Z」および/または「L」部分を含み、ここで、「Z」および「L」部分の両方は、R1およびR2に関して外因性であるかまたは異種組織の分子である。用語「異種組織の分子」または「外因性分子」は、通常ペプチドにおいて見いだされないか、または天然において、典型的にR1および/またはR2アミノ酸配列と関連しない分子を、指す。
【0023】
いくつかの側面において、合成ペプチドは、「Z」部分を含む。他の側面において、「Z」部分は、存在しない。存在する場合、Zは、本明細書に定義の外因性ペプチドである。この側面に従って、Zは1~50のアミノ酸残基ペプチド、または好ましくは1~30のアミノ酸残基ペプチド、またはより好ましくは1~20のアミノ酸残基ペプチドであり、ここで、前記外因性ペプチドは、機能を有してもよいかまたは有さなくてもよい。例証として、外因性ペプチドは、金属の結合、創傷治癒、免疫調節、および/または抗菌活性を呈してもよいか、または例として、SP2ペプチドHSHKEGHHYKRFKRKHHADSHRGY(配列番号70)においてあるとおりランダムなペプチド配列でもよい。ある側面において、Zは、1~50、1~30、または1~20のアミノ酸残基のランダムなペプチド配列である。
【0024】
本明細書に使用されるとき、用語「L」または「リンカー」または「スペーサー」は、R1をR2に接続し、連結し、または結合し、および個々のR2部分を接続し、連結し、または結合するために使用される、異種組織の分子または外因性分子を、指す。本明細書に使用されるとき、用語「連結される(linked)」、「結合される(joined)」、または「接続される(connected)」は、一般には、天然に存在しない分子を生成するために、2つの連続するかまたは隣接するアミノ酸配列の間の、機能的な連結を指す。一般に、連結されたアミノ酸配列は、相互に連続しているか隣接しており、および結合される場合の、それらのそれぞれの作動可能性および機能を保持する。リンカーは、合成ペプチドの所望された発現、活性、および/または配座の位置決めができるようにするために、所望の可動性を提供してもよい。
【0025】
いくつかの態様において、合成ペプチドは、1つのリンカー、すなわち、n=1を含む。他の態様において、合成ペプチドは、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、または19のリンカー、すなわち、n=2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、または19を含む。ある側面において、リンカー(L)の各出現は、同じまたは異なるリンカーを含んでもよい。
【0026】
式Iの合成ペプチドにおける使用のリンカーは、可動性の、固定した、in vivoで切断可能な、またはそれらの組み合わせであることができる。加えて、リンカーは、アミノ酸残基(すなわち、ペプチドリンカー)で構成されることができるか、または炭化水素鎖(すなわち、炭化水素リンカー)で構成されることができる。ペプチドリンカーは、R1およびR2または個々のR2部分を接続するためにいかなる適切な長さにもでき、好ましくはR1およびR2の適切な折りたたみおよび/または機能および/または活性を許容するように設計されている。よって、リンカーペプチドは、3以下、5以下、10以下、15以下、20以下、25以下、30以下、35以下、40以下、45以下、50以下、55以下、または60以下のアミノ酸の長さを、有することができる。いくつかの態様において、リンカーペプチドは、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10、少なくとも12、少なくとも15、少なくとも18、少なくとも20、少なくとも25、少なくとも30、少なくとも35、少なくとも40、少なくとも45、または少なくとも50のアミノ酸の長さを、有することができる。いくつかの態様において、リンカーは、少なくとも10および60以下のアミノ酸、少なくとも10および55以下のアミノ酸、少なくとも10および50以下のアミノ酸、少なくとも10および45以下のアミノ酸、少なくとも10および40以下のアミノ酸、少なくとも10および35以下のアミノ酸、少なくとも10および30以下のアミノ酸、少なくとも10および25以下のアミノ酸、少なくとも10および20以下のアミノ酸、または少なくとも10および15以下のアミノ酸を、含む。
【0027】
「可動性の」リンカーは、溶液中で固定構造(二次または三次構造)を有さない炭化水素またはペプチドリンカーを、指す。かかる可動性のリンカーは、それゆえ様々な立体配座を自由に採用することができる。本明細書において使用の可動性のリンカーは、小さい、非極性の(例として、Gly)および/または、極性の(例として、SerまたはThr)アミノ酸残基で構成される炭化水素リンカー、およびペプチドリンカーを含む。単純なアミノ酸(例として、単純な側鎖(例として、H、CH3、またはCH2OH)を有するアミノ酸)は、これらのアミノ酸上の分枝の側鎖の欠如が、より大きな可動性(例として、二次元または三次元の可動性)をリンカーの中で、および、従って、ポリペプチド組成物の中で提供するので、ペプチドリンカーの使用に適している。可動性のリンカーは、可動性を維持するためにThrおよびAlaなどの追加のアミノ酸を、ならびに溶解性を改善するためにLysおよびGluなどの極性アミノ酸を、含有してもよい。アミノ酸は、機能(例として、発現されたおよび/または活性なポリペプチド(単数または複数)で結果として生じる)を維持する、一貫したいかなるやり方においても、代替/反復することができる。可動性のリンカーは、たとえば、Chen, et al. (2013) Adv. Drug Deliv. Rev. 65(10):1357-1369; US 2012/0232021; US 2014/0079701; W0 1999/045132; WO 1994/012520およびWO 2001/1053480中に、記載されている。
【0028】
特定の側面において、可動性のリンカーは、炭化水素リンカーである。R1およびR2または個々のR2部分を連結する炭化水素は、合成ペプチドが、所望された配座を達成することができるように、十分な長さおよび可動性を有するべきである。ある態様において、炭化水素は、1以上のメチレン(-CH2)基で構成される。ある態様において、炭化水素は、3と25の間のメチレン基、すなわち-(CH2)n-を含み、ここでnが、3~25である。ある態様において、炭化水素リンカーは、構造-(CH2)6-を有する。グリコールリンカーなどの追加の炭素ベースリンカーも、本発明の合成ペプチドにおいて、使用されることができる。
【0029】
他の態様において、リンカーは、固定したリンカーである。「固定した」リンカーは、溶液中にある場合に、比較的に、明確に定義された配座を採用する分子を、指す。固定したリンカーは、それゆえ、溶液中で、特定の二次および/または三次構造を有するものである。固定したリンカーは、典型的には、二次または三次構造をリンカーに授けるのに十分なサイズをもつ。かかるリンカーは、芳香族分子(例として、US 6,096,875またはUS 5,948,648を参照)、プロリンが豊富なペプチドリンカー、または可動性でないヘリックス構造を有するペプチドリンカーを含む。固定したリンカーは、例えば、Chen, et al. (2013) Adv. Drug Deliv. Rev. 65(10):1357-1369; US 2010/0158823、およびUS 2009/10221477中に、記載されている。
【0030】
他の態様において、リンカーは、in vivoで切断可能なリンカーである。in vivoの切断可能なリンカーは、2つのシステイン残基の間に形成される切断可能なジスルフィド結合、または、例として、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)によって認識されるプロテアーゼ認識配列を有するリンカーを、含むことができる。
【0031】
合成ペプチドの使用の好適なペプチドリンカーの例は、表2中に提供される。
【表2】
nは、1~5である。Xは、いかなるアミノ酸残基でもあってもよいが、好ましくはAla、Lys、またはGluである。
【0032】
本発明の合成ペプチドの個々のリンカーのそれぞれは、同じであるかまたは異なることができる。いくつかの態様において、合成ペプチドは、少なくとも1つの可動性のリンカーを含む。いくつかの態様において、少なくとも1つの可動性のリンカーは、炭化水素リンカーである。他の態様において、少なくとも1つの可動性のリンカーは、ペプチドリンカーである。特定の態様において、合成ペプチドの各リンカーは、炭化水素リンカーである。ある態様において、合成ペプチドの各リンカーは、構造-(CH2)6-を有する。
【0033】
繰り返し単位と可動性のリンカーとの組み合わせを含有する合成ペプチドの例は、表3において提示される。
【表3】
【0034】
いくつかの側面において、本発明の合成ペプチドは、薬学的に許容し得る塩として調製される。本明細書に使用されるとき、用語「薬学的に許容し得る塩」は、健全な医学判断の範囲内で、ヒト、および下等動物の組織と、過度の毒性、刺激、アレルギー応答などなしでの接触における使用に好適であり、妥当な便益/危険比率に相応する合成ペプチドの、それらの塩を指す。薬学的に許容し得る塩は、当該技術分野において周知である。例として、Berge, et al. (1977) J. Pharmaceutical Sciences 66:1-19を参照。塩は、本発明のペプチドの最終的な単離および精製の間に、その場で、または、別に遊離塩基を好適な有機酸と反応させることによって、調製されることができる。薬学的に許容し得る塩の例は、アミノ基と、塩酸、臭化水素酸、リン酸、硫酸、および過塩素酸などの無機の酸、または酢酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸、コハク酸、またはマロン酸などの有機酸とで形成されるか、またはイオン交換などの当該技術分野において使用される他の方法を用いることによる、無毒の酸付加塩を含むが、これに限定されるものではない。他の薬学的に許容し得る塩は、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスコルビン酸塩、アスパラギン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、硫酸水素塩、ホウ酸塩、酪酸塩、樟脳酸塩、樟脳スルホン酸塩、クエン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸塩、ドデシル硫酸塩、エタンスルホン酸塩、蟻酸塩、フマル酸塩、グルコヘプトン酸塩、グリセロリン酸、グルコナート、ヘミスルホン酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、ヨウ化水素塩、2-ヒドロキシ-エタンスルホン酸塩、ラクトビオン酸塩、乳酸塩、ラウリン酸塩、ラウリル硫酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、メタンスルホン酸塩、2-ナフタレンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、オレイン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パモ酸塩、ペクチン酸塩、ペルオキソ硫酸塩、3-フェニルプロピオン酸塩、リン酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、プロピオン酸塩、ステアリン酸塩、琥珀酸塩、硫酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、ウンデカン酸塩、吉草酸塩等を含むが、これに限定されるものではない。代表的なアルカリまたはアルカリ土類金属塩は、ナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム等を含む。さらなる薬学的に許容し得る塩は、適切な場合、無毒のアンモニウム、四級アンモニウム、および、ハロゲン化物、水酸化物、カルボキシラート、スルファート、ホスファート、ニトラート、1から6の炭素原子を有するアルキル、スルホナート、およびアリールスルホナートなどの対イオンを用いて形成されたアミンカチオンを、含む。
【0035】
本明細書に記載の合成ペプチドは、一般に融合またはキメラペプチドと称される。かかる分子は、組換えタンパク質発現、化学物質合成、またはそれらの組み合わせを含むルーチンの方法によって、合成されることができる。いくつかの態様において、本発明の合成ペプチドは、組換えによって、組換えDNA技術を用いて合成される。よって、本発明は、本発明の合成ペプチドをコードするポリヌクレオチドを、提供する。関連した側面において、本発明は、ベクター、とりわけ本発明の合成ペプチドをコードするポリヌクレオチドを収容する発現ベクターを、提供する。ある態様において、ベクターは、真核細胞または原核細胞における所望の合成ヒスタチンの組換え合成を促進する複製、転写、および/または翻訳制御配列を、提供する。従って、本発明は、合成ペプチドの組換え発現のための宿主細胞、および宿主細胞によって生成される合成ペプチドを回収し、精製する方法も、提供する。組換えペプチドの生成および精製は、当業者にルーチンの実行であり、いかなる好適な方法論も、使用されることができる。
【0036】
別の態様において、合成ペプチドは、当該技術分野において公知の化学物質合成技法のいずれか、とりわけ固相合成技法によって、たとえば、商業的に入手可能な自動化されたペプチド合成装置を使用して、合成される。たとえば、Stewart & Young (1984) Solid Phase Peptide Synthesis, 2nd ed., Pierce Chemical Co.; Tarn, et al. (1983) J. Am. Chem. Soc. 105:6442-55; Merrifield (1986) Science 232:341-347; およびBarany et al. (1987) Int. J. Peptide Protein Res. 30:705-739参照。
【0037】
合成ペプチドは、ゲルろ過およびアフィニティ精製を含むが、これに限らず、当該技術分野において公知のいかなる好適な方法によっても、単離されおよび/または精製されることができる。いくつかの態様において、合成ペプチドは、合成ペプチドの単離を促進するためのタグ、例としてエピトープタグとともに生成される。一側面において、合成ペプチドは、SDS-PAGEにより決定されるとき、少なくとも1%純粋であり、例として少なくとも5%純粋で、少なくとも10%純粋で、少なくとも20%純粋で、少なくとも40%純粋で、少なくとも60%純粋で、少なくとも80%純粋で、少なくとも90%純粋である。一旦単離されおよび/または精製されると、合成ペプチドの特性は、容易に当業者に公知の技法によって、確認されることができる。
【0038】
本明細書に記載の合成ペプチドの誘導体および類似体は、全て予測され、置換、添加、および/または欠失/切断よって、それらのアミノ酸配列を変化させることによって、または、結果として機能的に等価な分子になる化学物質修飾を導入することによって、作成されることができる。いずれかのポリペプチドの配列におけるあるアミノ酸が、ポリペプチドの活性に悪影響を与えることなく、他のアミノ酸と置換されてもよいことが、当業者によってよく理解されるだろう。
【0039】
ある態様において、本発明の合成ペプチドは、これに限らず、リン酸化、グリコシル化、ヒドロキシル化、スルホン化、アミド化、アセチル化、カルボキシル化、パルミチル化、PEG化、非加水分解性結合の導入、およびジスルフィド形成を含む1以上の修飾を含む。修飾は、合成ペプチドの安定性および/または活性を改善してもよい。
【0040】
たとえば、C末端は、アミド化、ペプチドアルコールおよびアルデヒドの付加、エステルの付加、またはp-ニトロアニリンおよびチオエステルの付加によって、修飾されてもよい。N末端および側鎖は、PEG化、アセチル化、ホルミル化、脂肪酸の付加、ベンゾイルの付加、ブロモアセチルの付加、ピログルタミルの付加、スクシニル化、テトラブチオキシカルボニル(tetrabutyoxycarbonyl)の付加、および3-メルカプトプロピルの付加、アシル化(例として、リポペプチド)、ビオチン化、リン酸化、硫酸化、グリコシル化、マレイミド基の導入、部分、発色団、または蛍光団のキレート化によって、修飾されてもよい。
【0041】
一態様において、合成ペプチドは、脂肪酸に接合され、例として、合成ペプチドはミリストイル化される。たとえば、脂肪酸は、合成ペプチドのN末端に接合されてもよい。かかる脂肪酸は、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等々を含む。さらにその上、合成ペプチドのシステインは、パルミトイル化されることができる。一態様において、合成ペプチドは、N末端アミノ酸でミリスチル化、ステアリル化、またはパルミトイル化される。
【0042】
加えて、または、変形例として、翻訳後修飾に、合成ペプチドは、担体ペプチドなどの別のペプチドに、接合されることができるかまたは連結されることができる。担体ペプチドは、細胞-貫通を促進してもよく、アンテナペディアペプチド、ペネトラチンペプチド、TAT、トランスポータン、またはポリアルギニンなどのペプチドを、含むことができる。一つの態様において、合成ペプチドは、アンテナペディアペプチド、RQIKIWFQNRRMKWKK(配列番号56)に接合されるかまたは連結される。
【0043】
本発明の合成ペプチドは、環化されてもよい。本明細書に使用されるとき、用語「環化された」または「環状の」は、アミノ酸残基に間に、環状の構造を形成するために少なくとも1つの架橋基(例として、アミド、チオエーテル、チオエステル、ジスルフィド、尿素、カルバミン酸エステル、炭化水素、またはスルホンアミド)を組み込む、直鎖ペプチドの類似体を、示す。架橋基は、側鎖のアミノ酸残基または末端アミノ酸残基上に存在することができ、それにより側鎖環化(例として、ラクタム架橋、チオエステル)、頭-尾環化、または炭化水素ステープルペプチドを、提供することができる。
【0044】
ある態様において、環状の合成ペプチドは、2つの末端システイン残基の間に、ジスルフィド架橋を有する。環化された合成ペプチドを調製するための代表的なアミノ酸配列は、表4において提供される。
【表4】
【0045】
他の態様において、環状合成ペプチドは、直鎖ペプチドから、ソルターゼによる環化によって、調製される。「ソルターゼによる環化」または「ソルターゼにより環化された」は、直鎖ペプチドを、酵素ソルターゼを用いて環化する方法を指す。ソルターゼ-ベースの環化は、大きい環状のペプチドを製造することに関して、当該技術分野において公知である。Bolscher, et al. (2011) FASEB J. 25(8):2650-2658、およびその中の引用文献参照。
【0046】
ブテラーゼ環化も、ペプチドを環化するために用いられてきた。C末端のトリペプチドAsn-his-Valのモチーフの付加は、合成ペプチドを、ソルターゼAのそれより著しく速い速度で環化するために、基質をブテラーゼに提供する。Nguyen, et al. (2016) Nat. Protocols 11:1977-88; Tam, et al. (June 2015) Peptides 2015: Proc. 24th Am. Pept. Symp., Orlando, FL, pg. 27参照。
【0047】
当業者は、本発明の合成ペプチドが、疾患の処置のために有益であると、認めるだろう。従って、投与を促進するために、本発明は、1以上の内因性および/または合成ペプチド、および薬学的に許容し得る担体または賦形剤を含有する組成物も、提供する。本明細書に提供される医薬組成物は、経口の、眼の、静脈内の、硝子体内の、結膜下の、皮下の、筋肉内の、腹腔内の、脳内の、動脈内の、門脈内の、病巣内の、鞘内の、鼻腔内の投与または局所投与のために、製剤化されることができる。好適な医薬組成物は、たとえば、投与の意図された経路、送達フォーマット、および所望の投与量に依存して、当業者によって、決定されることができる。たとえば、Remington's Pharmaceutical Sciences (19th edition, 1995)参照。
【0048】
合成ペプチド(単数または複数)は、ゲル、希釈液、クリーム、タブレット、カプセル、ピル、溶液、点眼液、スプレー、絆創膏、コンタクトレンズ、貯留物、注射可能物、移植可能物、または徐放性製剤などの従来の投与形態で、組み込まれることができる。投与形態は、必要な生理学的に受け入れられる担体材料、賦形剤、滑沢剤、緩衝液、界面活性剤、抗細菌剤、充填剤(マンニトールなどの)、酸化防止剤(アスコルビン酸またはナトリウム亜硫酸水素塩)またはその種の他のものを含んでもよい。
【0049】
許容可能な製剤材料は、好ましくは、用いられる投与量および濃度で、レシピエントに無毒である。医薬組成物は、たとえば、pH、モル浸透圧濃度、粘度、透明度、色、等張性、匂い、無菌、安定性、溶解または放出の速度、組成物の吸着または透過を、修飾、維持、または保存するための製剤材料を、含有してもよい。好適な製剤材料は、以下を含むが、これに限定されるものではない:アミノ酸(グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン、またはリシンなど);抗菌物質;抗酸化剤(アスコルビン酸、亜硫酸ナトリウム、または亜硫酸水素ナトリウムなど);緩衝剤(ホウ酸塩、重炭酸塩、トリス-HCl、クエン酸塩、リン酸塩、または他の有機酸などの);増量剤(マンニトールまたはグリシンなど);キレート剤(エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)など);錯化剤(カフェイン、ポリビニルピロリドン、ベータ-シクロデキストリン、またはヒドロキシプロピル-ベータ-シクロデキストリンなど);充填剤;単糖類、二糖類、および他の炭水化物(グルコース、マンノース、またはデキストリンなど);タンパク質(血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリンなど);着色剤、香料、および希釈剤;乳化剤;親水性ポリマー(ポリビニルピロリドンなど);低分子量ポリペプチド;塩-形成対イオン(ナトリウムなど);防腐剤(塩化ベンザルコニウム、安息香酸、サリチル酸、フェネチルアルコール、メチルパラベン、プロピルパラベン、クロルヘキシジン、ソルビン酸、または過酸化水素など);溶媒(グリセリン、プロピレングリコール、またはポリエチレングリコールなど);糖アルコール(マンニトールまたはソルビトールなど);懸濁化剤;界面活性剤または湿潤剤(PLURONICS、PEG、ソルビタンエステル、ポリソルベート20およびポリソルベート80などのポリソルベート、TRITON、トリメタハムイン、レシチン、コレステロール、またはチロキサポールなど);安定性増強剤(スクロースまたはソルビトールなど);等張増強剤(ハロゲン化アルカリ金属、好ましくは塩化ナトリウムまたはカリウム、マンニトール、またはソルビトールなど);送達ビヒクル;希釈剤;賦形剤および/または医薬アジュバント。たとえば、Remington's Pharmaceutical Sciences, Id参照。
【0050】
医薬組成物の第1の担体または賦形剤は、天然において水性でもよいかまたは非水系でもよい。たとえば、好適な担体または賦形剤は、おそらく非経口投与のための組成物において一般的な、その他の材料で補充される、注射用蒸留水、生理的食塩水溶液、または人工脳脊髄液でもよい。血清アルブミンと混和される中性の緩衝食塩水または食塩水は、さらなる例示的な賦形剤である。医薬組成物は、約pH7.0~8.5のトリス緩衝剤、または約pH4.0~5.5の酢酸塩緩衝剤を含むことができ、それは、ソルビトールまたは好適な代用品をさらに含んでもよい。本発明の医薬組成物は、所望された程度の純度を有する選択された組成物を、任意の製剤(Remington's Pharmaceutical Sciences, Id.)と、凍結乾燥されたケークまたは水性溶液の形で混和することによって、保存のために調製されてもよい。さらに、本発明の合成ペプチドは、スクロースなどの適切な賦形剤を使用して、凍結乾燥物として製剤化されてもよい。
【0051】
本発明の医薬組成物のための投与経路は、経口経路;静脈内、腹腔内、脳内(実質内)、脳室内、筋肉内、眼内、動脈内、門脈内、または病巣内経路による注入;または持続的放出システムを介する、または移植デバイスによるものを、含む。医薬組成物は、ボーラス注入によって、または連続的に点滴によって、または埋め込みデバイスによって、投与されてもよい。医薬組成物は、合成ヒスタチン(単数または複数)が吸収されたかまたはカプセル化された膜、スポンジ、または別の適切な材料の埋め込みを経て、局所的に投与されることもできる。埋め込みデバイスが使用される所で、該デバイスは、いずれかの好適な組織または臓器に埋め込まれてもよく、内因性または合成のヒスタチン(単数または複数)の送達は、拡散、徐放性ボーラス、または連続投与を介してもよい。
【0052】
非経口投与が意図される場合に、本発明のために用いられる組成物は、パイロジェンフリーな、薬学的に許容し得るビヒクルにおける本発明の内因性または合成のヒスタチン(単数または複数)を含有する、非経口的に許容可能な水性溶液の形でもよい。非経口注入のための、とりわけ好適なビヒクルは、合成ペプチド(単数または複数)が、その中で、無菌性等張溶液として製剤化され、適切に保存される、無菌性蒸留水である。調製は、注入可能なミクロスフェア、バイオ-浸食可能粒子、高分子化合物(ポリ乳酸またはポリグリコール酸など)、ビーズ、またはリポソームなどの、合成ペプチド(単数または複数)の制御または持続放出を提供してもよい剤との、合成ペプチド(単数または複数)の製剤化に関わることができ、それは、次いで貯留物注入を介して送達されてもよい。とりわけ、ヒアルロン酸を伴う製剤は、血行における持続期間を推進する効果を有する。
【0053】
組成物は、吸入のために製剤化されてもよい。これらの態様において、本発明の合成ペプチド(単数または複数)は、吸入のための乾燥粉末として製剤化され、または吸入溶液は、噴霧療法によるなどの、エアロゾル送達のための推進体によって、製剤化されてもよい。肺投与は、例としてWO1994/020069で、さらに記載されている。
【0054】
本発明の医薬組成物は、経口的になどの、消化管を通して、送達されることができる。かかる薬学的に許容し得る組成物の調製は、当該技術の熟練の範囲内である。この様式で投与される本発明の合成ペプチド(単数または複数)は、タブレットおよびカプセルなどの固体投与形態の調合において習慣的に使用される担体の有無にかかわらず、製剤化されてもよい。バイオアビアビリティが、最大化され、および、あらかじめ全身性の分解が、最小化される場合に、カプセルは、製剤の活性部分を消化管中の位置でリリースするために設計されてもよい。追加の剤は、合成ペプチド(単数または複数)の吸収を促進するために含まれることができる。希釈剤、香料、低い融点のワックス、植物油、滑沢剤、懸濁化剤、タブレット崩壊剤、および結合剤も、使用されてもよい。
【0055】
これらの組成物は、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、および分散剤などのアジュバントを、含有してもよい。微生物の作用の阻止は、様々な抗細菌性および抗真菌性剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノールソルビン酸、およびその他同種のものの包含によって、確保されることができる。糖、塩化ナトリウム、およびその他同種のものなどの等張剤を含むことが、所望されてもよい。注入可能な製薬形態の長期にわたる吸収は、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンなどの、吸収を遅延させる剤の包含によってもたらされることができる。
【0056】
ある態様において、合成ペプチド(単数または複数)は、眼球表面上および内部の両方で、眼疾患または状態を処置するために製剤化される。特定の態様において、本発明の合成ペプチド(単数または複数)は、製剤化され、以下の通り眼球に投与されてもよい;滴下の形態で;局所のゲルの形態で;固体の製剤(例として、LACRISERT、ヒドロキシプロピルセルロースの眼挿入剤と同様の)として;前眼房への注入によって;血管新生の阻害、破壊的なMMP活性の阻害のための、または上皮創傷治癒を増強するための後眼房への注入によって、;外科的デバイス(眼内レンズ、緑内障デバイス、角膜補綴、涙腺挿管チューブ、涙腺バイパスチューブ)のコーティングによって;コンタクトレンズのコーティングによって;またはマイクロビーズ、ナノビーズ、または他の同様の構築物のコーティングによって。
【0057】
当業者も認識するとおり、本明細書に記載の組成物は、有害副作用の最小化をもたらすように、製剤化されることができる。本明細書に記載の組成物は、長期使用のために単独で好適であることができ;抗菌剤(例として、ヒスタチン、シスタチン、ラクリチン、ラクトフェリン、LL-37)、抗ウイルス剤、抗寄生生物剤、免疫調節剤(例として、糖質コルチコイド、サイクロスポリン、NSAID)、抗傷剤(例として、マイトマイシンCまたは同様の代謝拮抗剤)、コラーゲン、ゼラチン、鎮痛剤、麻酔剤、またはそれらの組み合わせと一緒になって補助治療として有用であり;および/または、これらの剤のいずれかまたは全部の間の循環に関わり、それによっていずれかの剤への長期暴露(および、それゆえ、結果として生じる副作用)を減少させるプログラムにおいて有用である。
【0058】
本発明は、1以上の合成ペプチド、または同じものを含有する医薬組成物、および、任意に1以上の抗菌剤、抗ウイルス剤、抗寄生生物剤、免疫調節剤、抗傷剤、コラーゲン、ゼラチン、鎮痛剤、または麻酔剤を含有するキットも、提供する。キットは、典型的に好適な容器(例として、たとえば、フォイル、プラスチック、または段ボールパッケージ)において提供される。ある態様において、キットは、本明細書に記載されているとおり、1以上の医薬賦形剤または担体、医薬賦形剤、その他同種のものを含んでもよい。他の態様において、キットは、たとえば、目盛付きカップ、シリンジ、針、洗浄補助器具、眼内レンズ、緑内障デバイス、眼窩インプラント、角膜補綴、涙腺挿管チューブ、涙腺バイパスチューブ、コンタクトレンズ、およびその他同種のものなどの、適切な投与のための手段を、含んでもよい。ある態様において、キットは、適切な投与のための取扱説明書および/または適切な投与のための調製物を含んでもよい。
【0059】
創傷治癒および本明細書に開示の合成ペプチドの活性を推進する上皮細胞移動を考慮すれば、本発明は、創傷治癒および/または上皮細胞移動を推進するために、かかる処置を必要とする対象に、有効量の1以上の本発明の合成ペプチドを投与することによって、創傷治癒および/または上皮細胞移動を推進する方法も提供する。「対象」は、本明細書に使用されるとき、ヒト、ならびにヒト以外の動物、とりわけ疾患または状態を有するものを含み、それは、例として、外科的創傷、切除創傷、疱疹、潰瘍、他の障害、スクラッチ、剥離創傷、切り傷、不潔な創傷、沸騰および熱または腐食性熱傷などの、上皮欠陥および再発性の上皮浸食に関係する創傷または他の身体表面障害の処置における治療として、創傷治癒および/または上皮細胞移動の推進から利益を得てもよい。
かかる創傷は、機械的損傷および、ステロイド、放射線治療、非ステロイド性抗炎症薬、および抗がん薬の系統的使用に関係する糖尿病、角膜ジストロフィ、尿毒症、栄養不足、ビタミン欠乏、肥満、感染、免疫欠乏、または合併症など他の疾患によって引き起こされることができる。
【0060】
注目すべきことに、SHRGY(配列番号2)配列を含む合成ペプチドも、ERK1/2活性化を増大させることが、示された。従って、本発明は、かかる処置を必要とする対象に、ERK活性化を増大させるための有効な量で、本発明の1以上の合成ペプチドを投与することによって、ERK活性化を増大させるための方法も、提供する。ERK調節が、自然免疫系および適応免疫系の両方において重要であることが、十分に確立されている(Zhang & Dong (2005) Cell. Mol. Immunol. 2(1):20-27)。本明細書に立証されるように、Hst5の適用は、リン酸化されたERK1/2のシグナル強度を増大させ、このことは、創傷上皮へのHst5の増大したERK1/2活性化を示した。加えて、未処置およびSP1ペプチド(SHRGY(配列番号2)を欠く)処置試料は、pERK1/2と同様の局在位置を有し、Hst5およびSP2処置試料は、創傷治癒の部位で、pERK1/2の免疫局在性を上昇させた。この予想外の結果は、これまでERKを調節するいかなる公知の能力も有せず、機能ドメインの理解に基づいてそうすることを予測されなかっただろうSHRGY(配列番号2)ペプチドが、本明細書に開示の合成ペプチドに、免疫調節活性を授けることができることを示す。
【0061】
本明細書に使用されるとき、用語「有効量」または「治療有効量」は、明示された所望の結果を達成するに十分な本発明の合成ペプチド、または該合成ペプチドを含有する医薬組成物の、量を指す。いくつかの側面において、有効量は、かかる処置を受けなかった対象と比較して、上皮細胞移動速度、創傷閉鎖速度または時間、および/またはERKおよび生存経路調節の増大における測定可能な改善を提供する。「有効量」または「治療有効量」を構成するペプチドの量は、処置される患者の疾患の重篤度、状態、体重、または年齢、投与の頻度、または投与の経路に応じて、変化してもよいが、日常的に当業者によって、決定されることができる。処置される場所および状態に応じて、合成ペプチドの1ナノモルから500マイクロモルの範囲またはそれより多い用量が、使用されてもよい。臨床医は、最適な治療効果を得るために、投与量または投与経路を滴定して(titer)もよい。典型的な投与量は、上記の要因に応じて、約0.1μg/kgから最大約100mg/kgまで、またはそれより多い範囲にある。ある態様において、投与量は、0.1μg/kgから最大約100mg/kg、または1μg/kgから最大約100mg/kg、または5μg/kgから最大約100mg/kgまでの範囲でもよい。
【0062】
対象を「処置すること」は、以下の1以上を達成することを意味する:(a)疾患または状態の重篤度を減少させること;(b)疾患または状態の進展を抑えること;(C)疾患または状態を悪化させることを阻害すること;(d)あらかじめ疾患または状態を有していた患者における疾患または状態の再発を制限するかまたは防御すること;(e)疾患または状態の退行を引き起こすこと;(f)疾患または状態の症状を改善するかまたは除去すること;および/または(g)生存を改善すること。
【0063】
本発明に従って、合成ペプチドは、これに限定されないが、角膜炎症(例として、Moorenのまたは炎症性および感染性潰瘍)、壊死性強膜炎、炎症によって媒介される眼の表面疾患、アルカリ熱傷、およびアトピー性であるかアレルギー性結膜炎または湿疹性疾患などの慢性アトピー性疾患、真菌および細菌性感染、および角膜および結膜創傷、とりわけ神経栄養性/糖尿病性神経障害と関連する創傷などの、眼の表面炎症性障害を含む、眼の疾患または状態の処置において、特に使用される。
【0064】
眼の疾患または状態の処置に加えて、合成ペプチドは、とりわけ創傷、炎症、がん、感染、または障害の処置における、関連する他の組織または臓器の創傷治癒および/または上皮移動を推進するために、手直しされることができる。一態様において、薄板状組織、神経組織、結合組織、血管組織、筋肉組織、骨格組織、または血液成分が、処置される。別の態様において、皮膚、肝臓、肺、腎臓、心臓、または腸などの臓器が、処置される。
【0065】
以下の非限定例を、さらに本発明を例証するために、提供する。
【0066】
例1:材料および方法
ペプチド合成。
ヒスタチン-5ペプチドを、Symphony Peptide Synthesizer(Protein Technologies, Tucson, AZ)上の標準Fmocベース固相合成化学を使用して、合成した。第1のアミノ酸(Fmoc-Tyr-OH)を、Wang樹脂に共有結合した。ペプチドを、N、N-ジメチルホルムアミド(DMF)中の20%ピペリジン中でのFmoc基の除去で開始し、サイクルで合成した。次のアミノ酸を、30分間X2で0.4Mの4-メチルモルホリンを含有するDMF中0.1MのHBTUを使用して連結し、そしてこのプロセスを、連続させて合成を完了した。樹脂結合したペプチドを、脱保護し、そしてトリフルオロ酢酸(TFA)を使用して樹脂から切断した。エチルエーテルを加えて、ペプチドを、TFA溶液から沈殿させた。沈殿したペプチドを、次いで水中50%アセトニトリルで溶解し、凍結乾燥した。粗ペプチドを、BioCadSPRINT(商標)(Applied Biosystems、フォスターシティー、CA)HPLCシステムを使用して、Kinetex(商標)逆相C18カラム、150×21.1mm(Phenomenex、CA)上で、精製した。純粋なペプチド画分を、エレクトロスプレーイオン化電離質量分析(ESI MS)によって同定し、適切に凍結乾燥した。SHRGY(配列番号2)の環化されたバージョンを、6-(Fmoc-アミノ)カプロン酸、(6-(Fmoc-アミノ)ヘキサン酸(C21H23NO4))で構成されるリンカー/スペーサーを使用して、調製した。
【0067】
ペプチドを、細胞培養物グレード水中で溶解し、10mMのストック濃度を得て、-20℃で保存された。スクランブルペプチド(SP1、SP2、SP3、SP4およびSP5)を、対照として使用した。SP1は、完全長の天然のHst5ペプチドに基づく、24のアミノ酸残基スクランブルペプチドであった。SP2は、19のスクランブルN末端アミノ酸残基(天然のHst5ペプチドのN末端の19のアミノ酸残基に基づく)およびC末端でSHRGY(配列番号2)配列を、含んだ。SP3およびSP4は、SHRGY(配列番号2)ペプチドのスクランブルバージョンであり、SP5は、SHRGY(配列番号2)に対して同様の電荷特性および分子量を伴う、ランダムなペンタペプチドであった。表5は、この研究で使用したペプチドの配列を、示す。
【表5】
【0068】
細胞培養。ヒト角膜輪部上皮(HCLE)細胞を、0.2ng/mLのrhEGF(ThermoScientific、Waltham、MA)、ウシ下垂体抽出物(ThermoScientific、Waltham、MA)、および1%のアンホテリシンB(ThermoScientific、Waltham、MA)で補充されたケラチノサイト-血清フリーの培地(K-SFM;ThermoScientific、Waltham、MA)で培養した。標準細胞培養条件(37℃、5%CO2、>95%湿度)を、ルーチンの継代の間、使用した。培養培地を、播種後48時間毎に置き換えた。
【0069】
ヒト角膜上皮(HCE)細胞を、Medium Essential Media(MEM;Gibco, Life Technologies, Carlsbad, CA)で培養した。HeLa細胞を、Dulbecco's Modified Eagle's Medium(DMEM;Life Technologies, Grand Island, NY)で維持した。両方の培地を、10%のウシ胎児血清(Gibco, Life Technologies, Carlsbad, CA)および1%のペニシリン-ストレプトマイシン(Gibco, Life Technologies, Carlsbad, CA)で補充した。MCF-7細胞株を、37℃で、5%CO2および95%空気の加湿雰囲気中で、10%のウシ胎児血清(FBS; Gibco Life Technologies, Carlsbad, CA)および1%のペニシリン-ストレプトマイシン(Gibco, Life Technologies, Carlsbad, CA)で補充されたRoswell Park Memorial Institute 1640(RPMI 1640; Gibco, Grand Island, NY)で、培養した。
【0070】
ショートタンデムリピート(STR)分析を、各細胞株に遂行し、使用した各細胞株の確実性を確認した。
【0071】
In Vitroスクラッチアッセイ。HCE、HCLE、HELA、およびMCF-7細胞を、2.5xl05(細胞/ウェル)播種密度で、24ウェルプレート中で培養して、24ウェルプレート上にコンフルエントに増殖させた。続いて、直線状のスクラッチを、無菌性P200ピペット先端部材で作成した。細胞を、次いで2回リン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄し、細胞の破片を取り除いた。創傷領域を、次いで、低減された血清条件を伴う標準培地の様々な濃度(MEM培地中の0.5%FBS(HCE)、成長因子フリーのK-SFM培地(HCLE)、DMEM培地中の1%FBS(HeLa)、およびRPMI 1640培地中の0.5%FBS(MCF-7))で、表5中に提供されるペプチドで、処理した。スクラッチを、顕微鏡によって、4×倍率(Image Express Micro, Molecular Devices, San Jose, CA)で、毎時間、実験のコースにわたって撮影した。各時点の創傷領域を、Image Jソフトウェア(Image J 1.47v, NIH, Thornwood, Bethesda, MD)を用いて、測定した。相対的な創傷閉鎖を、処置した創傷の閉鎖を未処置の創傷のそれで割ることによって、算出した。トランケートされたヒスタチン-5を含むすべての実験のために、80μMの最終的な濃度を、使用した。50μMの最終的な濃度で、PD98059(Calbiochem, San Diego, CA))を、MEKの具体的な阻害剤として使用した。PD98059を、細胞培養と同時に、ヒスタチンペプチドとして加えた。
【0072】
創傷治癒アッセイ。マウスにおける角膜創傷実験を、視覚と眼科学研究協会会議(ARVO)のStatement for the Use of Animals in Ophthalmic and Vision Researchに従って遂行した。プロトコルは、Animal Care & Use Committee of the University of Illinois at Chicagoの承認を得た。12~19週齢のC57BLl6J(Jackson Laboratory, Bar Harbor, ME)マウスを、ケタミン(100mg/kg)およびキシラジン(5mg/kg)の腹腔内注入によって麻酔した。局所の0.5%プロパラカインの2つの滴下を適用した後に、中枢上皮の2.0-mmの領域を、2-mmの使い捨て可能な生検パンチを使用して境界を定めて、AlgerBrush II(The Alger Company, Lago Vista, TX)によって取り除いた。処置(n=7)または対照(n=7)群において、Histatin=5(80μM)、SHRGYペプチド(配列番号2;80μM)、またはSP1(80μM)を、角膜に1日3回適用した。0、18、および24時間で、角膜を、フルオレセイン(FUL-GLO(登録商標)Fluorescein Sodium ophthalmic strips, Akorn, Lake forest, IL)で染色し、そしてNIKON D200カメラ((Melville, NY)を伴うNIKON FS-2フォト-スリットランプを使用して、撮影した。創傷サイズを、各マウスに関してベースラインと比較し、そして創傷閉鎖のパーセンテージを、Image Jソフトウェアを使用して、測定した。
【0073】
細胞発芽アッセイ。細胞発芽アッセイを、商品名MATRIGEL(登録商標)の下で販売された可溶性基底膜中のHCE細胞を使用して、遂行した。(MEM 1:1中で低減化し、希釈した;Corning Life Sciences, Tewksbury, MA)。HCE細胞を、可溶性基底膜に、5xl05細胞/10μLスポットで、植えた。次いで、細胞スポットプレートを、低減した血清培地(0.5%FBS)(未処置の陰性対照)、Hst5(50μM)、または10%FBS(陽性対照)に暴露した。次いで、HCE細胞移動を、時間経過顕微鏡によって追跡し、4xで画像化した(Image Express Micro; Molecular Devices, CA)。所与の時点での細胞被覆領域を、Image Jを使用して、測定した。
【0074】
ウエスタンブロット。ウエスタンブロットを、標準的な方法に追従して、実施した。タンパク質ライセート(20μg)を、NuPAGE(商標)LDS試料緩衝剤(Invitrogen, Carlsbad, CA)中で、10分間沸騰させ、そして、12%NuPAGE(商標)ビス-トリスゲル(Invitrogen, Carlsbad, CA)上で電気泳動に供して、続いて、ニトロセルロース膜(Amersham Protran, GE Healthcare, Pittsburgh, PA)へ移動した。次いで、膜を、3%脱脂粉乳を含有するトリス-緩衝食塩水によって、1時間ブロックし、pERK1/2に対する第1の抗体(Cell Signaling、Danver、MA)(1:1000)とともに、4℃で終夜インキュベートした。0.05%ポリソルベート20を含有する0.05%トリス-緩衝食塩水で洗浄後に、次いで、膜を、二次抗体としてヤギ抗-ウサギ-HRP(BD Biosciences, San Jose, CA)(1:2000)とともに、1時間インキュベートした。膜を、X線フィルムおよびECL Pro溶液(PerkinElmer, Waltham, MA)を使用して現像した。ベータ-アクチンを、内部標準として使用した。
【0075】
免疫蛍光画像化。HCE細胞を、9x104(細胞/ウェル)播種密度で、8-ウェルチャンバースライドに中に播種して、そしてインキュベートさせて、コンフルエントな単層を形成させた。続いて、直線状のスクラッチを、無菌性P10ピペット先端部材で作成した。次いで、細胞を、培地で洗浄し、細胞の破片を取り除いた。続いて、創傷領域を、未処置のまま、または0.5%FBSを伴うMEM培地中80μMの濃度で、Hst5、SP1、またはSP2と、45分間処置したままにした。細胞を、次いで4%のパラホルムアルデヒドで30分間固定し、そして0.1%トリトンX-100で、5分間透過化処理した。PBSで洗浄の後、細胞を、PBS中の5%ウシ血清アルブミン(BSA)および5%正常ヤギ血清で、室温で30分間インキュベートした。細胞を、続いて1%BSA中に希釈したp-ERK1/2(l:200)に対する第1の抗体(Cell Signaling, Danver, MA)とともに、4℃で16時間インキュベートした。PBSで3回洗浄の後、細胞を、1%BSA中に希釈したフルオレセインイソチオシアネート接合ヒツジ抗ウサギIgG抗体(BD Biosciences, San Jose, CA)(1:500)とともに、室温で60分間インキュベートした。PBSでの広範な洗浄の後、細胞を、次いで、4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドールで、核染色のため2分間染色した(DAPI; (Roche, Mannheim, GE)。細胞を、トリス緩衝剤(Electron Microscopy Sciences, Hattfield, PA)とともにフルオロゲル中に搭載し、そして共焦点顕微鏡(Zeiss LSM 710 Confocal Microscope, Oberkochen, Germany)の下で、対物l0xを使用して、観察した。
【0076】
免疫蛍光法のために、切除されたマウス眼球全体を、最適切断温度化合物(OCT;(Fisher Healthcare, Galderma, CA))において急速凍結した。凍結組織を、10μm凍結切片(ThermoScientific NX50 Cryomicrotome, Waltham, MA)に切り、そして続いてSuperfrostプラススライド(Thermofisher, Waltham, MA)に搭載した。スライドを、メタノール中で20分間固定し、数回PBSによって洗浄し、2分間DAPIで染色して、そしてさらにPBSおよび脱イオン水によって洗浄した。スライドを、トリス緩衝剤(Electron Microscopy Sciences, Hattfield, PA)とともにフルオロゲル中に搭載し、そして共焦点顕微鏡(Zeiss LSM 710 Confocal Microscope, Oberkochen, Germany)の下で、対物l0Xを使用して、観察した。
【0077】
統計分析。実験を、2方向または1方向ANOYA、続いてBonferroniまたはDunnettの事後検定またはStudentのt検定を使用して、適切に分析した。p値<0.05は、統計的に有意であると考えられた。統計分析は、GraphPad Prismソフトウェア7.0(GraphPad Software, La Jolla, CA)を使用して、実施した。
【0078】
マウス角膜創傷実験のための試料サイズを決定するための能力分析は、処置(SHRGY(配列番号2)またはHst5)と対照(SP1)群間を比較するG-Powerを使用して、実施した。算出のためのパラメータは、0.8のベータ、0.05のアルファ、および25%の効果サイズを含み、そしてn=6の群あたりの試料サイズを生んだ。
【0079】
例2:ヒスタチン-5が、細胞移動を推進する
商品名MATRIGEL(登録商標)(Corning Life Sciences, Tewksbury, MA)の下で販売された成長因子低減可溶性基底膜中のスポットとして植えられたHCE細胞を使用した細胞発芽アッセイを、HST5が上皮細胞移動を推進することができるかどうか決定するために、使用した。72時間で、ビヒクルのみの対照と比較して、統計的に有意な増大が、Hst5(50μM)処置条件における細胞移動において、あった。HCLE細胞株を使用した、標準化スクラッチアッセイで、細胞移動に対するHst5の効果を試験した。HCLE細胞を、コンフルエントに増殖させ、機械的にピペット先端部材で傷つけた。細胞を、Hst5の種々の濃度(20、50、80、および100μM)で処置するか、または対照として未処置のままにした。経時的顕微鏡検査法を実施し、創傷領域を、種々の時点で分析した。この分析は、未処置の対照と比較して、Hst5の適用によるin vitroのスクラッチアッセイ閉鎖速度における用量依存的増加を立証した。スクラッチ閉鎖率におけるもっとも著しい増加は、50μMで通知された。これらの所見は、スクランブルペプチド対照(SP1)と比較して、80μMで統計的に有意なピーク効果を伴うHCE角膜細胞株において、補強された。統計的に有意な効果は、HeLa細胞株およびMCF-7乳がん細胞株でも観察された。
【0080】
例3:Hst5のC末端SHRドメインは、上皮細胞移動を推進するために要求される
上皮細胞移動のために要求されるHst5の残基を特定するために、連続切断実験を実施し、徐々にHst5中の残基を除去した。この分析は、移動を推進するのに、Hst5のC末端SHRGY(配列番号2)残基が、必要十分なことを示した(
図1)。すべてのペプチドを、80μM濃度で試験した。C末端SHRGY(配列番号2)配列を含まなかった、Hst5の短縮バージョン、すなわち、Hst5(1-14)、Hst5(l-19)、Hst5(l-21)、Hst5(l-22)、およびHst5(1-23))は、創傷閉鎖率の著しい増加を示さなかった(
図1)。しかしながら、完全なSHRGY配列、すなわちHst5、Hst5(5-24)、SP2、SHRGY(配列番号2)、前記配列の4つの繰り返し単位で構成されるSHRGY(配列番号2)の多量体(すなわち、SHRGY-(CH
2)
6-SHRGY-(CH
2)
6-SHRGY-(CH
2)
6-SHRGY(配列番号51))、および環化されたSHRGY(配列番号2)ペプチド(c-SHRGY)を含有する構築物は、スクラッチ閉鎖率において、有意な増加を示した(
図1)。スクランブルペプチドSP3およびSP4は、有意に創傷閉鎖率を増加させなかった。同じく、SHRGY(配列番号2)に対して同様の分子量および電荷特性を伴うランダムなペンタペプチドSP5は、創傷閉鎖率の有意な改善を示さなかった。よって、SHRGY(配列番号2)配列は、in vitroのスクラッチアッセイにおける上皮移動速度を推進するために、必要十分である。
【0081】
例4:ERK活性化が、Hst5のプロ移動効果のために必要である
創傷の有無、Hst5適用の有無によるERKの活性化/リン酸化のレベルを、Hst5のプロ移動効果を支える細胞シグナル伝達経路が、他の上皮細胞タイプにおけるHst1のものと同様だったかどうかを決定するために、調査した。創傷は、増大したERK1/2(p-ERK1/2)のリン酸化形態を、引き起こす。免疫局在性を、上皮のスクラッチシートへのHst5の適用が、pERK1/2レベルに影響を及ぼすかどうかを決定するために、用いた。ウエスタンブロット分析によって、創傷が、pERK1/2レベルを単独で増加させて、これらのレベルが、さらにHst5の適用によって増加したことが、確認された。SHRGY(配列番号2)-含有スクランブルペプチドSP2の適用は、Hst5に対する相対強度に対して、pERK1/2レベルを増大させた。SP1、それはSHRGY(配列番号2)を含有しないが、SHRGY(配列番号2)-含有ペプチドと同様の増大を、pERK1/2免疫局在性において、引き出さなかった。Hst5およびMEK特異的阻害剤PD98059の共処置は、Hst5の効果が、ERK活性化を要求することを示す、創傷閉鎖を推進することにおける、Hst5の効果を除去した。
【0082】
例5:Hst5の適用は、マウス角膜障害モデルの創傷治癒を推進する
角膜障害の標準マウスモデルを使用して、Hst5またはSHRGY(配列番号2)ペプチドの局所投与が、スクランブルペプチド対照(SP1)より優れていたレベルで、角膜創傷閉鎖率における有意な改善を提供したことを、観察した(
図2)。創傷角膜の組織学的分析(角膜の断面上のDAPI染色)は、SP1処置対照と比較して、Hst5処置状態における角膜創傷サイズの低下の病理学証拠を、立証した。よって、Hst5およびSHRGY(配列番号2)-含有ペプチドは、マウス角膜上皮障害の綿密に調べられたモデルにおいて、創傷治癒を増強することができる。
【0083】
例6:毒性および塩の形態
SHRGY(配列番号2)ペンタペプチドの増大する濃度、すなわち、31.25μM、62.5μM、125μM、250μM、500μM、1000μM、2000μM、4000μM、および8000μMに暴露されたヒト角膜上皮細胞は、従来のWST1アッセイを用いて決定したとき、24時間後、4000μM以下の濃度で細胞生存度における最小の低下を示し、またはLDHアッセイにおいて、24時間で、4000μM濃度を超えるまで、細胞死を誘導した。
【0084】
SHRGY(配列番号2)ペンタペプチドの種々の塩の形態の細胞毒性も、調査した。SHRGY(配列番号2)の3つの種々の塩の形態、すなわち、酢酸、塩酸塩、およびトリフルオロ酢酸を、調製し、従来のWST1アッセイを使用して決定したとおり、毒性を、15.625μM、31.25μM、62.5μM、125μM、250μM、および500μMで分析した。SHRGY(配列番号2)の3つ全ての塩の形態は、未処置の試料と比較して、試験したペプチド濃度のいずれでも、有意な毒性を、示さなかった。
【0085】
3つの塩の形態の創傷閉鎖速度を、本明細書に開示の方法に従っても分析した。とりわけ、ヒト角膜上皮細胞を、標準化されたスクラッチアッセイを使用して傷つけ、そして創傷治癒の速度を、SHRGY(配列番号2)の酢酸、塩酸、およびトリフルオロ酢酸塩形態の適用の後、測定した。すべての試験した形態は、創傷閉鎖の増大された速度を提示した(
図3)。
【配列表】
【国際調査報告】