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特表2023-504082T細胞の大規模組み合わせCAR導入及びCRISPR遺伝子編集
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-01
(54)【発明の名称】T細胞の大規模組み合わせCAR導入及びCRISPR遺伝子編集
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20230125BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230125BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20230125BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20230125BHJP
   C12N 15/19 20060101ALI20230125BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230125BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20230125BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALI20230125BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20230125BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20230125BHJP
   C12N 15/24 20060101ALI20230125BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20230125BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20230125BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230125BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20230125BHJP
   A61P 37/00 20060101ALI20230125BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N5/10 ZNA
C12N5/0783
C12N15/12
C12N15/19
C12N15/63 Z
C12Q1/6869 Z
C12Q1/06
C12N15/62 Z
C12N15/13
C12N15/24
A61K35/17 Z
A61P31/12
A61P35/00
A61P31/00
A61P37/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022531424
(86)(22)【出願日】2020-11-25
(85)【翻訳文提出日】2022-07-25
(86)【国際出願番号】 US2020062324
(87)【国際公開番号】W WO2021108631
(87)【国際公開日】2021-06-03
(31)【優先権主張番号】62/941,638
(32)【優先日】2019-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/022,828
(32)【優先日】2020-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500039463
【氏名又は名称】ボード オブ リージェンツ,ザ ユニバーシティ オブ テキサス システム
【氏名又は名称原語表記】BOARD OF REGENTS,THE UNIVERSITY OF TEXAS SYSTEM
【住所又は居所原語表記】210 West 7th Street Austin,Texas 78701 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】レズヴァニ、ケイティ
(72)【発明者】
【氏名】バサール、ラフェット
(72)【発明者】
【氏名】ゴクデミール、エリフ
(72)【発明者】
【氏名】シャンリー、マイラ
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ08
4B063QQ53
4B063QQ79
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS34
4B063QX01
4B065AA94X
4B065AA94Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB65
4C087CA12
4C087NA05
4C087ZB07
4C087ZB26
4C087ZB32
4C087ZB33
(57)【要約】
【課題】癌などの医学的状態を処置するための養子細胞療法の使用を促進する方法及び組成物を提供する。
【解決手段】本開示の実施形態は、操作されたT細胞を産生するための方法および組成物を包含する。本開示は、CRISPRを使用するなどして、1つまたは複数の遺伝子の発現を破壊するように操作され、また、少なくとも1つの異種抗原受容体を発現するように操作されるT細胞を産生するための大規模プロセスに関する。特定の実施形態は、プロセスのための特定のパラメータを含む。T細胞は、ウイルス特異的であってもなくても良い。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作されたT細胞を作製するインビトロの方法であって、何れかの順序で、
(a)任意選択的に、T細胞を濃縮するために、細胞の混合物からのT細胞を負又は正の選択に曝露する工程と;
(b)インターロイキン(IL)-2、IL-4、IL-7、IL-12、IL-15、IL-21及び/又は1つ又は複数の他のT細胞指向性サイトカインのうち1つ又は複数の有効量とともにT細胞を第1の期間、拡大増殖させる工程と;
(c)T細胞における1つ又は複数の内因性遺伝子の発現を破壊するために、前記T細胞に有効量のCas9又はCpF1及び1つ又は複数のガイドRNAを送達する工程と;
(d)1つ又は複数の異種抗原受容体及び/又は1つ又は複数の異種サイトカインを発現させるために前記T細胞を改変する工程と;
(e)ウイルス特異的細胞を作製するために、1つ又は複数のウイルス抗原及び任意選択的に1つ又は複数のサイトカインの存在下で前記T細胞を拡大増殖させる工程と、
を含む、インビトロの方法。
【請求項2】
(f)第2の期間の後に、前記T細胞に有効量のCas9又はCpF1と、前記T細胞における1つ又は複数の内因性遺伝子の発現を破壊するための1つ又は複数のガイドRNAとを送達する工程をさらに含み、工程(c)における1つ又は複数のガイドRNAが、工程(f)における1つ又は複数のガイドRNAとは異なる遺伝子又は異なる複数の遺伝子の発現を破壊する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の期間が30~36時間である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記第2の期間が2~3日間である、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
1つ又は複数の異種抗原受容体及び/又は1つ又は複数の異種サイトカインを発現させるために、拡大増殖されたT細胞及び/又は遺伝子編集されたT細胞を改変する工程をさらに含む、請求項1~4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記方法中の何れかの時点で、ウイルス特異的細胞を生成させるために、前記細胞を1つ又は複数のウイルス抗原及び1つ又は複数のサイトカインの存在下で拡大増殖させる、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
ウイルス特異的細胞を生成させるために、前記改変する工程の後に、前記細胞を1つ又は複数のウイルス抗原及び1つ又は複数のサイトカインの存在下で拡大増殖させる、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記指向性サイトカインがIL-12、IL-18及び/又はIL-21である、請求項1~7の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
操作されたウイルス特異的T細胞を作製するインビトロの方法であって、
(a)末梢血単核細胞をペプチド抗原の第1のウイルス特異的混合物に曝露する工程と;
(b)刺激されたウイルス特異的T細胞を生成させるために、前記第1のウイルスに対するT細胞の刺激に特異的な1つ又は複数のサイトカインで前記細胞を第1の期間にわたり刺激する工程と、
(c)前記刺激されたウイルス特異的T細胞に、有効量のCas9及び1つ又は複数のガイドRNAを送達して、前記細胞における1つ又は複数の内因性遺伝子の発現を破壊し、それにより、遺伝子編集されたウイルス特異的T細胞を作製する工程と、
を含む、方法。
【請求項10】
(d)第2の期間の後に、前記遺伝子編集されたウイルス特異的T細胞に有効量のCas9と、前記T細胞における1つ又は複数の内因性遺伝子の発現を破壊するための1つ又は複数のガイドRNAとを送達する工程をさらに含み、工程(c)における1つ又は複数のガイドRNAが、工程(d)における1つ又は複数のガイドRNAとは異なる1つ又は複数の内因性遺伝子の発現を破壊する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の期間が7~10日間である、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
工程(a)が、ペプチド抗原の第1のウイルス特異的混合物、ペプチド抗原の第2のウイルス特異的混合物及び任意選択的にその後のペプチド抗原の非同一ウイルス特異的混合物に末梢血単核細胞を曝露することとしてさらに定義される、請求項9、10又は11に記載の方法。
【請求項13】
トランスジェニックな遺伝子編集されたウイルス特異的T細胞を作製するために、前記刺激されたウイルス特異的T細胞及び/又は遺伝子編集されたウイルス特異的T細胞に対して、1つ又は複数の異種抗原受容体及び/又は1つ又は複数の異種サイトカインをコードするベクターを用いて形質導入又は遺伝子移入を行う工程をさらに含む、請求項9~12の何れか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記細胞の何れかが分析される、請求項1~13の何れか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記細胞が、機能アッセイ、細胞傷害性アッセイ及び/又はインビボ活性によって分析される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記細胞が、フローサイトメトリー、マスサイトメトリ、RNAシーケンシング又はそれらの組み合わせによって分析される、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
前記細胞の何れかが保存される、請求項1~16の何れか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記方法によって作製された細胞の何れかが、それを必要とする個体に送達される、請求項1~17の何れか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記個体が、癌、感染性疾患又は免疫関連障害を有する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記感染性疾患がウイルス感染である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記ガイドRNAの少なくとも1つが、グルココルチコイド受容体をコードする遺伝子を標的とする、請求項1~20の何れか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記1つ又は複数の遺伝子が、NKG2A、SIGLEC-7、LAG3、TIM3、CISH、FOXO1、TGFBR2、TIGIT、CD96、ADORA2、NR3C1、PD1、PDL-1、PDL-2、CD47、SIRPA、SHIP1、ADAM17、RPS6、4EBP1、CD25、CD40、IL21R、ICAM1、CD95、CD80、CD86、IL10R、TDAG8、CD5、CD7、SLAMF7、CD38、LAG3、TCR、ベータ2-ミクログロブリン、HLA、CD73、CD39及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1~21の何れか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記遺伝子がNR3C1である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
ペプチド抗原のウイルス特異的混合物が、サイトメガロウイルス(CMV)、エプスタイン・バーウイルス(EBV)、アデノウイルス、BKウイルス(BKV)、SARS-CoV-2(COVID-19)、SARS-CoV、ジョンカニングハム(JC)ウイルス及びそれらの組み合わせからなる群から選択される1つ又は複数のウイルスに由来する1つ又は複数のペプチドを含む、請求項9~23の何れか1項に記載の方法。
【請求項25】
請求項1~24の何れか1項に記載の方法によって作製された細胞の集団。
【請求項26】
請求項25に記載の集団を含む組成物。
【請求項27】
薬学的に許容可能な担体中で処方される、請求項26に記載の組成物。
【請求項28】
医学的状態に対して個体を処置する方法であって、請求項1~24の何れか1項に記載の方法によって作製された治療有効量の細胞を前記個体に投与する工程を含む、方法。
【請求項29】
前記医学的状態が造血幹細胞移植後のウイルス感染である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記T細胞中の破壊される内因性遺伝子がNR3C1である、請求項28又は29に記載の方法。
【請求項31】
前記個体に、有効量の1つ又は複数のグルココルチコイドが投与される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記医学的状態が癌である、請求項28に記載の方法。
【請求項33】
前記癌が血液系の悪性腫瘍又は固形腫瘍を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記医学的状態が感染性疾患及び/又は免疫関連障害である、請求項28に記載の方法。
【請求項35】
前記T細胞が前記個体に1回又は複数回投与される、請求項28~34の何れか1項に記載の方法。
【請求項36】
前記T細胞が前記個体に複数回投与される場合、投与間の期間が1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23又は24時間を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記T細胞が前記個体に複数回投与される場合、投与間の期間が1、2、3、4、5、6又は7日間である、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
前記T細胞が前記個体に複数回投与される場合、投与間の期間が1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11又は12ヶ月である、請求項35に記載の方法。
【請求項39】
前記個体に、前記医学的状態に対する有効量の1つ又は複数のさらなる治療が投与される、請求項28~38の何れか1項に記載の方法。
【請求項40】
前記さらなる治療が、前記T細胞の投与前、投与中及び/又は投与後に前記個体に投与される、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
請求項1~24の何れか1項に記載の方法によって作製されたT細胞及び/又は前記T細胞を作製するための1つ又は複数の試薬を含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2019年11月27日に出願された米国仮特許出願番号62/941,638及び2020年5月11日に出願された米国仮特許出願番号63/022,828の優先権を主張し、両方の出願についてそれらの全体が参照により本明細書に組み込まれるものとする。
シーケンスリスト
【0002】
本出願は、ASCII形式で電子的に提出されたシーケンスリストを含み、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。 2020年11月13日に作成された前記ASCIIコピーは、UTSC_P1201WO_SL.txtと命名され、サイズは2,236byteである。
【0003】
本開示は、一般に、免疫学、細胞生物学、分子生物学、細胞治療、及び医学の分野に関するものである。
【背景技術】
【0004】
細胞免疫療法は、癌の治療のために有用であり得る。しかしながら、単独で適用される場合のほとんどの免疫療法アプローチは、特に悪性腫瘍の大部分に対して限られた価値しかない。この限られた成功の理由には、(1)免疫系による検出を減少させる腫瘍細胞表面上の腫瘍抗原の発現の減少、(2)PD1、NKG2A、TIGITなどの阻害性受容体のリガンドの発現、(3)免疫細胞の不活性化を誘導するCISHなどの細胞チェックポイントのアップレギュレーション、及び(4)免疫反応を抑制し、腫瘍細胞の増殖と生存を促進するトランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)やアデノシンなどの物質を放出する微小環境下の細胞(例えば、制御性T細胞や骨髄由来抑制細胞など)の誘導。したがって、T細胞を含む細胞免疫療法の改善された方法に対する満たされていない必要性が存在する。
【発明の概要】
【0005】
本開示の実施形態は、癌などの医学的状態を処置するための養子細胞療法の使用を促進する方法及び組成物を含む。特定の実施形態では、養子細胞療法は、そのように操作されていないT細胞と比較して、有効性が増強するように特異的に操作されたT細胞を含む。特定の実施形態では、T細胞は、癌などに対する治療の一部として、T細胞のレシピエントである個体における免疫応答の抑制を回避又は克服することを可能にするように操作される。特定の実施形態では、操作されたT細胞は、腫瘍細胞の増殖及び癌細胞の生存を促進するレシピエント個体における天然の過程を克服する。操作されたT細胞は、操作されていないT細胞と比較して、癌細胞に対する活性が増強されている。T細胞は、例えば、天然の突然変異により活性が増強されることとは対照的に、抗癌活性が増強されるように人為的に操作される。
【0006】
本開示の実施形態は、T細胞(細胞傷害性CD8+Tリンパ球(CTL)細胞、CD4+T細胞、制御性T細胞、ガンマデルタT細胞、腫瘍浸潤T細胞(TIL)及びそれらの混合物などの何らかの種類のT細胞を含む)のCAR形質導入及びCRISPR遺伝子編集の組み合わせに対する新規の大規模アプローチ(GMPグレードを含む)を包含する。本開示は、1つ又は複数の異種抗原受容体を発現する、及び/又はT細胞において1つ又は複数の内因性遺伝子の破壊を有するように遺伝子編集されている、CTL細胞を含む何らかの種類の操作されたT細胞を対象とする製造方法、使用方法及び組成物を提供する。T細胞は、ウイルス特異的であるように操作されていてもよいし又はされていなくてもよい。T細胞は、ウイルス特異性について正若しくは負に選択されていてもよいし、又は選択されていなくてもよく、又は特異性を歪めるためにウイルス抗原とともに拡大増殖させてもよいし、又はさせなくてもよい。T細胞は、1つ又は複数のウイルスに対して特異的であり得る。いくつかの実施形態では、T細胞は、CTLを含め、1つ又は複数のノックアウト遺伝子及び/又は1つ又は複数のキメラ抗原受容体(CAR)、1つ又は複数のT細胞受容体(TCR)(例えば細胞に対して内因性とは対照的に、人為的に操作される)、又はそれらの組み合わせを有するように作製される。特定の実施形態では、異種抗原受容体形質導入T細胞は、T細胞における1つ又は複数の内因性遺伝子の発現の破壊を有するように操作され、他の実施形態では、T細胞における1つ又は複数の内因性遺伝子の発現の破壊を有するT細胞に対して、1つ又は複数の異種抗原受容体を発現するように形質導入又は遺伝子移入が行われる。遺伝子編集は何らかの機序によるものであり得るが、特定の実施形態では、遺伝子編集はCRISPR技術を介して行われる。特定の実施形態は、例えばウイルス特異的T細胞及び/又は初代CAR形質導入T細胞を含む、T細胞の大規模なCRISPR/Cas9が介在する操作ストラテジーを提供する。何らかの方法及び組成物において、T細胞は、1つ又は複数の異種サイトカインを発現するように操作され得る。
【0007】
特定の実施形態では、T細胞における発現の破壊を有する遺伝子は、阻害性遺伝子、例えばNKG2A、SIGLEC-7、LAG3、TIM3、CISH、FOXO1、TGFBR2、TIGIT、CD96、ADORA2、NR3C1、PD1、PDL-1、PDL-2、CD47、SIRPA、SHIP1、ADAM17、RPS6、4EBP1、CD25、CD40、IL21R、ICAM1、CD95、CD80、CD86、IL10R、TDAG8、CD5、CD7、SLAMF7、CD38、LAG3、TCR、ベータ2-ミクログロブリン、HLA、CD73、CD39及びそれらの組み合わせからなる群から選択される阻害性遺伝子などである。
【0008】
特定の実施形態では、T細胞における発現の破壊を有する遺伝子は、グルココルチコイド受容体をコードするNR3C1である。いくつかの実施形態では、NR3C1の発現は、CRISPR/Cas-9が介在する遺伝子操作によって破壊されるが、他の方法によって破壊され得る。いくつかの実施形態では、NR3C1の発現を破壊するために使用されるガイドRNAは、TGAGAAGCGACAGCCAGTGA(配列番号1)の配列及び/又はGGCCAGACTGGCACCAACGG(配列番号2)の配列を含むが、これらは単なる例である。NR3C1発現が破壊されたT細胞は、表現型、機能及び/又は特異性を保持しながら、グルココルチコイドのリンパ球傷害性効果に耐性であり得る。従って、治療組成物自体としての、及びグルココルチコイド受容体を欠く、これらの細胞は、レシピエントにおける有害な免疫応答を回避するために投与される場合、例えば、レシピエントにおける造血幹細胞移植(HSCT)後など、グルココルチコイドの阻害を回避するために有用である。いくつかの実施形態では、そのようなT細胞は、グルココルチコイドを含むか又は含まない個体に投与される。グルココルチコイドを伴うT細胞の投与は、特定の実施形態では、投与されたT細胞の機能を保持しながら、移植片対宿主病などの合併症を軽減し得る。グルココルチコイドの例としては、少なくともベクロメタゾン、ベタメタゾン、ブデソニド コルチゾン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン、プレドニゾン、トリアムシノロン又はそれらの組み合わせが挙げられる。従って、本開示の実施形態は、グルココルチコイドとグルココルチコイド受容体の発現を破壊するように操作されたT細胞とを個体に投与する工程を含む、グルココルチコイドを必要とする個体における医学的状態を処置する方法を含む。そのような方法において、T細胞はまた、本明細書中に包含されるように、1つ又は複数の他の特徴のためにも操作され得る。
【0009】
本開示の方法は、少なくともCRISPR/Cas9編集を用いて、何らかの供給源(末梢血、臍帯血、腫瘍浸潤リンパ球、骨髄、細胞株又はそれらの混合物)から初代ヒトT細胞を作製することを可能にする。これらの供給源からのT細胞は、本明細書中に包含されるように、1つ又は複数の他の特徴のために代替的に操作され得るか、又はさらに操作され得る。
【0010】
特定の実施形態では、操作されたT細胞を作製するためのプロセスは、最大1×10、1×1010、1×1011個又はそれを超える細胞を操作するためを含め、プロセスが大規模であることを可能にする特定のパラメーターを利用する。特定の実施形態では、本プロセスは、1つ又は複数の拡大増殖工程を含む連続工程を利用する;任意選択的に、特定のマーカーに対して陽性である細胞を除去するための1つ又は複数の枯渇工程(それにより、前記マーカーを発現する望ましくない細胞を除去する);T細胞が1つ又は複数の異種抗原受容体を発現することを可能にするための細胞の改変;T細胞において内因性の1つ又は複数の遺伝子の発現を欠くようにするか、又は発現を低下させるための細胞の改変;又はそれらの組み合わせ。連続する工程の順序は、あらゆる順序であってもよいし又はそうでなくてもよい。特定の場合には、複数の遺伝子に対する遺伝子編集技術(CRISPR及びガイドRNAなど)を使用して、1つ又は複数の内因性遺伝子をノックアウト又はノックダウンする。本プロセスはまた、特定の実施形態において、プロセスの特定の工程に対する特定の持続時間も包含する。
【0011】
作製された細胞は、癌、感染性疾患及び/又は免疫関連障害などの医学的状態の処置を含む何らかの目的のために使用され得る。いくつかの実施形態では、作製された細胞は、サイトメガロウイルス(CMV)、エプスタイン・バーウイルス(EBV)、アデノウイルス、SARS-CoV-2(COVID-19)、SARS-CoV、JCウイルス、HHV6、インフルエンザ、パラインフルエンザ、RSV、HIV及び/又はBKウイルス(BKV)由来のウイルス感染症などのウイルス性疾患の処置に使用され得る。そのようなウイルス感染は、同種HSCTの結果であってもよいし又はなくてもよい。
【0012】
特定の実施形態では、1つ又は複数の組成物は、エレクトロポレーションによって何らかの細胞に送達される。細胞に対してエレクトロポレーションが行われる場合、エレクトロポレーションは、T細胞約200,000~1×10個を使用し得る。エレクトロポレーションは、約200,000~2,000,000個の細胞を使用し得る。エレクトロポレーションは、いくつかの場合では、約1,000,000~1×10個又はそれを超えるT細胞を使用し得る。
【0013】
特定の実施形態では、異種抗原受容体はキメラ抗原受容体及び/又はT細胞受容体である。異種抗原受容体は、腫瘍関連抗原を含む癌抗原を標的とし得る。特定の場合において、異種抗原受容体は、CD19、CD319(CS1)、ROR1、CD20、CD70、癌胎児性抗原、アルファフェトプロテイン、CA-125、MUC-1、上皮腫瘍抗原、メラノーマ関連抗原、変異型p53、変異型ras、HER2/Neu、ERBB2、葉酸結合タンパク質、HIV-1エンベロープ糖タンパク質gp120、HIV-1エンベロープ糖タンパク質gp41、GD2、CD5、CD123、CD23、CD30、CD56、CD70、CD38、c-Met、メソテリン、GD3、HERV-K、IL-11Rアルファ、カッパ鎖、ラムダ鎖、CSPG4、ERBB2、WT-1、TRAIL/DR4、VEGFR2、CD33、CD47、CLL-1、U5snRNP200、CD200、BAFF-R、BCMA、CD99及びそれらの組み合わせからなる群から選択される抗原を標的とするが、他の抗原が本明細書中に包含される。
【0014】
本開示の実施形態は、本明細書中に包含される何らかの方法によって作製されるT細胞の集団を含む。集団が薬学的に許容可能な担体中にある場合を含め、本開示の細胞の集団を含む組成物が企図される。細胞の集団は作製され得、使用前に保存されてもよいし又はされなくてもよい。いくつかの場合、本明細書中の方法によって作製された細胞の集団は、調製プロセスの完了時に保存されるか、又はそれらは中間工程後に保存され、後日さらに改変され得る。いくつかの場合、T細胞は、作製後に保存され、保存後であるがしかし使用前にさらに改変され;そのような改変は、1つ又は複数の異種抗原受容体の付加;1つ又は複数の内因性遺伝子の発現の破壊;T細胞をウイルス特異的にすることなどであり得る。いくつかの場合、T細胞は、1つ又は複数の内因性遺伝子の発現の破壊を有し、次いで保存される。使用前に、T細胞は、それを必要とする個体の癌細胞上の抗原を標的とする異種抗原受容体を発現するようにさらに改変され得、及び/又はT細胞は、ウイルスに対する処置を必要とする個体においてウイルスに対してウイルス特異的であるようにさらに改変され得る。
【0015】
本開示の実施形態は、本開示の何らかの方法によって作製された治療有効量のT細胞を個体に投与する工程を含む、医学的状態について個体を処置する方法を含む。
【0016】
本開示の他の目的、特性及び利点は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。しかし、本発明の精神及び範囲内の様々な変更及び修正がこの詳細な説明から当業者に明らかになるので、詳細な説明及び特定の例は、本開示の特定の実施形態を示しているが、単なる例示として与えられていることを理解されたい。
【0017】
以下の図面は、本明細書の一部を形成し、本発明の特定の態様をさらに実証するために含まれる。本発明は、本明細書中で提示される特定の実施形態の詳細な説明と組み合わせてこれらの図面の1つ又は複数を参照することによってよりよく理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】初代ヒトVST細胞におけるグルココルチコイド受容体(GR)をコードする遺伝子のCRISPR-Cas9介在性の欠失を示す。図1Aは、初代ヒトウイルス特異的T細胞(VST)におけるNR3C1のCRISPR-Cas9が介在するノックアウト(KO)のためのプロトコールの概略図。IL-7 10ng/ml、IL-2 50IU/ml及びIL-15 10ng/mlの存在下において、CMV、BKV及びアデノウイルス(組み合わせて)由来のウイルス特異的pepMixesで末梢血単核細胞(PBMC)を刺激した。インビトロ増殖の第7~10日に、対照Cas9単独(Cas9対照)又はGRタンパク質をコードするNR3C1遺伝子のエクソン2を標的とするガイドRNA(gRNA)をプレロードしたCas9を用いて、初代ヒトVSTに対してヌクレオフェクションを行った。最初のPBMC単離後第+14日にKO効率及び機能アッセイを行った。図1Bは、NR3C1遺伝子のエクソン2を標的とする2つの短いガイドCRISPR RNA(crRNA)を使用したCRISPR-Cas9介在性NR3C1 KOの概略図。1BのcrRNA1配列は、5’から3’方向のCCTTGAGAAGCGACAGCCAGTGA(配列番号5)であり、5’から3’方向のその相補体はTCACTGGCTGTCGGCTTCTCAAGG(配列番号6)である。1BのcrRNA2配列は、5’から3’方向のCCTGGCCAGACTGGCACCAACGG(配列番号7)であり、5’から3’方向のその相補体はCCGTTGGTGCCAGTCTGGCCAGG(配列番号8)である。図1C図1Dは、Cas9単独(対照)、1つのcrRNA(crRNA1又はcrRNA2)と複合体化したCas9、又は野生型Cas9を使用して2つのcrRNAの組み合わせ(crRNA1+crRNA2)と複合体化したCas9を用いたエレクトロポレーション後のVST細胞のNR3C1 KO効率を、エレクトロポレーション後、第3日にPCR分析によって(図1C)、又は第7日にウエスタンブロット分析によって(図1D)決定した。
【0019】
図2】NR3C1欠失によって、VST細胞が、それらの表現型又は機能の変化なく、ステロイドに対して耐性になることを示す。図2Aは、デキサメタゾン(Dexa;200μM)を用いて又は用いずに72時間培養した後の、対照Cas9対NR3C1 KO(エクソン2)VST細胞におけるアポトーシス細胞(アネキシンV+)及び生細胞又は死細胞(Live/Dead染色)のパーセンテージを示す代表的なFACSプロット(n=4)。挿入値は、各群からのアネキシンV及び生存/死細胞のパーセンテージを示す。図2B図2Cは、200μMのデキサメタゾンで72時間処理したか又は処理しなかった対照Cas9細胞とNR3C1 KO VST細胞との間の生細胞のパーセンテージ(図2B)及び絶対細胞数(図2C)を要約するグラフ(n=4)。統計学的有意性は、**p≦0.01として示され;NS、有意ではない。バーは、標準偏差とともに平均値を表す。図2Dは、Dexa(200μM)で72時間処理したか又は処理しなかった対照Cas9又はNR3C1 KO VST細胞におけるCD62L及びCCR7の頻度を示すFACSプロット(n=3)。挿入値は、各処理群におけるCD62L及び/又はCCR7を発現するT細胞のパーセンテージを示す。これらのFACSプロットは、CD3+CD45 RA-T細胞で予めゲーティングした。図2E図2Fは、ウイルスペプミックス(pepmix)による6時間の刺激に応答した、対照Cas9(黒;3つの群の左のバー)、NR3C1 KO(青色;3つの群の中央のバー)又はNR3C1 KO+デキサメタゾン(Dexa;200μM;赤色;3つの群の右のバー)で処理したCD8+(図2E)及びCD4+(2F)VSTによるIFN-γ、TNF-α又はIL-2産生のパーセンテージを示す棒グラフ(n=3)。Cas9+Dexa群の機能分析は、ステロイドのリンパ球傷害性効果に起因して生存細胞が存在しないために行わなかった。バーは、標準偏差とともに平均値を表す。NS、有意ではない。
【0020】
図3】NR3C1 KO VST細胞がデキサメタゾンによる処理後でさえインビボで持続することを示す。図3Aは、インビボ実験のタイムラインを表す概略図である。NSGマウスに、対照Cas9又はNR3C1 KO VST細胞を1用量(1×10個)投与し、2週間にわたって観察するか(上のパネル)又はデキサメタゾンの毎日の皮下用量(15mg/kg)で処置した(下のパネル)(n=5マウス/群)。図3Bは、Cas9対照又はNR3C1 KO VST細胞の養子注入後、第+14日に全てのマウスを屠殺した。骨髄から細胞を回収し、ヒト(h)CD45及びCD3の発現についてフローサイトメトリーによって分析した。代表的なFACSプロットを示す。挿入値は、各群からのCD3陽性細胞のパーセンテージを示す。図3Cは、棒グラフは、パネル(B)からのCD3陽性細胞のパーセンテージについてのプールデータを示す(n=5)。バーは、標準偏差とともに平均値を表す。統計学的有意性は、**p≦0.05として示され;NS、有意ではない。
【0021】
図4】GUIDE-seqによるCas9オフターゲット部位の同定及びrhAmpSeq技術を用いた潜在的Cas9オフターゲット切断部位の定量化を示す。図4Aは、NR3C1遺伝子座を標的とする2つのガイドRNA(gRNA)についてのGUIDE-seqによって同定されたオフターゲット部位の配列(gRNA#1上部パネル及びgRNA#2下部パネル;TGAGAAGCGACAGCCAGTGAは配列番号1であり、GGCCAGACTGGCACCAACGGは配列番号2である)。ガイド配列は、以下に示すオフターゲット部位と共に上に列挙されている。オンターゲット部位は黒い四角で識別される。ガイドとの不一致が示され、色で強調され、以下で挿入は灰色で示される。各部位の右側に、GUIDE-seqシーケンシングリードの数を示す。円グラフは、オンターゲット(オレンジ色)及びオフターゲット(青色)である全体のユニークなCRISPR-Cas9特異的リードカウントの割合のパーセンテージを示す。図4Bは、オンターゲット効果及びオフターゲット効果は、エクソン2-ガイド1及びエクソン2-ガイド2に対して、標的化増幅とそれに続く次世代シーケンシング(NSG)によって判定した。個々のガイドRNAは、WT-Cas9を安定に発現するHEK293細胞に送達するか(左パネル)又はWT-Cas9タンパク質(中央パネル)若しくはHiFi-Cas9タンパク質と複合体化することによってHEK293細胞に送達した(右パネル)。円グラフは、オンターゲット効果(赤)及びオフターゲット効果(青)のパーセンテージを示す。図4Cは、標的化増幅とそれに続く次世代シーケンシングを使用して編集効率を決定した。エクソン2-ガイド1及びエクソン2-ガイド2ガイドRNAをWT-Cas9(左側の青色バー)又はHiFi-Cas9(右側のオレンジ色バー)の何れかと同時にHEK293細胞に複合体化した。エクソン2-ガイド1(左上パネル)及びエクソン2-ガイド2(右上パネル)に対する既知のオン及びオフ標的部位について編集効率を決定した。同様の実験において、エクソン2-ガイド1及びエクソン2-ガイド2ガイドRNAをWT-Cas9(青色バー)又はHiFi-Cas9(オレンジ色バー)の何れかと同時に複合体化して、初代ヒトT細胞に入れた。エクソン2-ガイド1(左下パネル)及びエクソン2-ガイド2(右下パネル)に対する既知のオン及びオフターゲット部位について編集効率を決定した。データは、n=3のヒトドナーからの平均及び標準偏差として示す。
【0022】
図5】VST細胞におけるCRISPR-Cas9介在性NR3C1欠失の規模拡大の成功を示す。図5Aは、Lonza 4Dヌクレオフェクターを使用してCas9及びgRNAの存在下で異なるVST細胞数(3×10個、25×10個及び100×10個)に対してエレクトロポレーションを行い、PCR(図5A、n=3)及びウエスタンブロット分析(図5B、n=3)を使用して、Cas9(対照)又はNR3C1 KO(KO)VST細胞におけるNR3C1 KO効率を決定した。β-アクチンをローディング対照としてパネルで使用した(図5B)。図5Cは、Dexa(200μM)を用いて又は用いずに72時間処理した、3×10個、25×10個又は100×10個の細胞/エレクトロポレーションの異なる細胞用量レベルでの対照Cas9及びNR3C1 KO VST細胞におけるアポトーシス細胞(アネキシンV+)及び生存細胞又は死細胞(Live/Dead染色)のパーセンテージを示す代表的なFACSプロット(n=3)。図5Dは、デキサメタゾン(Dexa;200μM)を用いて又は用いずに72時間処理した、3×10個、25×10個又は100×10個の細胞/エレクトロポレーションの異なる細胞用量レベルでの対照Cas9とNR3C1 KO VST細胞との間の絶対細胞数をまとめるグラフ(n=3)。バーは、標準偏差とともに平均値を表す。図5E図5Fは、CD8+T細胞(図5E)区画及びCD4+T細胞(図5F)区画における関連するウイルスペプミックス(pepmix)による6時間の刺激に応答した、100×10個の対照Cas9(黒;3つの群の左)、100×10個のNR3C1 KO(青色;3つの群の中央)又は100×10個のNR3C1 KO+デキサメタゾン(Dexa 200μM;赤色;3つの群の右)VST細胞によるIFN-γ、TNF-α又はIL-2産生のパーセンテージを示す棒グラフ(n=3)。Cas9+Dexa群の機能分析は、ステロイドのリンパ球傷害性効果に起因して生存細胞が存在しないために行わなかった。バーは、標準偏差とともに平均値を表す。NS、有意ではない。
【0023】
図6】単一特異性VSTと比較した複数ウイルス特異性VSTの機能研究を示す。図6Aは、CD4+T細胞区画中の個々のウイルスペプミックス(pepmix)(CMV、BKV又はADV)による刺激に応答した、複数ウイルス特異性VST Cas9対照又はNR3C1 KOにおけるサイトカイン産生(IFN-γ、TNF-α又はIL-2)のパーセンテージを示す代表的なFACSプロットである(n=3)。これらのFACSプロットは、CD3+T細胞でゲーティングした。CD8区画は、CD4-T細胞集団として表される。図6Bは、CD4及びCD8区画中のCMV、BKV又はADVペプミックス(pepmix)による刺激に応答した、個々のウイルスを標的とするVSTにおけるサイトカイン産生(IFN-γ、TNF-α又はIL-2)のパーセンテージを示す代表的なFACSプロット(n=3)。
【0024】
図7】Cas9対照又はNR3C1 KO VST細胞を与えられたNSGマウスにおける移植片対宿主病(GVHD)又は傷害性についての証拠を何ら示さない。1×10個のCas9対照細胞又はNR3C1 KO VST細胞の1回の用量が注入され、デキサメタゾンの毎日の皮下用量(15mg/kg)での処置を用いるか又は用いなかったNSGマウスを、注入の2週間後に屠殺し、毒性の何らかの証拠、同様にまた、リンパ球浸潤物による壊死を含む移植片対宿主病(GVHD)に起因する病変について調べた。肺(図7A)、肝臓(図7B)、腎臓(図7C)、小腸(図7D)、皮膚(図7E)及び脳(図7F)の代表的な顕微鏡写真は、病理の証拠を示さない。Cas9対照VSTを与えられ、グルココルチコイドで処置されなかった対照マウスにおいて、肝臓における門脈域の最小限のリンパ球浸潤が観察された。H&E染色倍率5倍(左)、倍率20倍(右)。
【0025】
図8】高忠実度(HIFI)Cas9タンパク質を使用したVST細胞におけるNR3C1遺伝子の効率的なCRISPR-Cas9欠失を示す。図8A図8Bは、Cas9単独(対照)、1つのcrRNA(crRNA1又はcrRNA2)と複合体化したCas9、又は高忠実度(HiFi)Cas9を使用して2つのcrRNAの組み合わせ(crRNA1+crRNA2)と複合体化したCas9を用いたエレクトロポレーション後のVST細胞のNR3C1 KO効率を、エレクトロポレーション後、第3日にPCR分析(図8A)、又は第7日にウエスタンブロット分析(図8B)によって決定した。
【0026】
図9】大規模GMPプロトコ-ルを使用して作製されたNR3C1 KO VSTにおけるCD4及びCD8 T細胞の頻度を示す。代表的なFACSプロットは、デキサメタゾン(Dexa;200μM)で72時間処理する前後に各漸増用量で処理したCas9対照VST又はNR3C1 KO VST中のCD4及びCD8 T細胞のパーセンテージを示す。その群に生存細胞が存在しないため、デキサメタゾン処置後のCas9対照VSTについてFACSプロットは示されないことに留意すること。
【0027】
図10】免疫抑制患者におけるウイルス感染症の処置のためのCRISPR-Cas9介在性NR3C1 KO VSTの大規模GMP作製に対する一実施形態を示す。GMPグレードの材料及び機器を使用したCRISPR-Cas 9介在性NR3C1 KO VSTの作製、拡大増殖及びバイオバンキングに関与する工程を表す概略図。この図は、Biorenderを使用して作成された。
【0028】
図11】Lonza 4 D-Nucleofactor(商標)におけるエレクトロポレーションのための様々なプログラム(CM137、DN100、CA137、DS137及びEH 100)に対するPCRを使用して試験されているNR3C1ノックアウト効率を示す。これを、5E6 T細胞及びPlasmalyte(HEPES及びマンニトールを追加、PL)を用いて小規模で行った。図11Aは、様々な製造業者のプログラムを使用したT細胞におけるNR3C1遺伝子のノックアウトを示す。図11Bは、種々のエレクトロポレーションプログラムで試験したNR3C1ノックアウト細胞の増殖倍率を示す。
【0029】
図12】Lonza 4D-Nucleofactor(商標)におけるエレクトロポレーションのために使用されるCM137プログラムについて試験されたPCRを使用したNR3C1ノックアウト効率に関する。これは、Lonza緩衝液(P3)又はPL(HEPES及びマンニトールを追加)の何れかを使用して50E6で、及びPL(HEPES及びマンニトールを追加)を使用して100E6で大規模に行った(図12A)。図12Bは、Lonza 4 D-Nucleofactor(商標)におけるエレクトロポレーションのためのCA137プログラムを使用したNR3C1ノックアウト効率を示す。これは、PL(HEPES及びマンニトールを追加)を使用して50E6又は100E6の何れかを用いて大規模に行った。
【発明を実施する為の形態】
【0030】
I.(定義)
本明細書で使用される場合、「a」又は「an」は、1つ又はそれ以上を意味することがある。本明細書において請求項(複数可)で使用されているように、単語「comprising」と共に使用される場合、単語「a」または「an」は、1つまたはそれ以上を意味することがある。本明細書で使用される場合、「別の」は、少なくとも2つ目以上を意味する場合がある。さらに、用語「有する」、「含む」、「含む」、及び「包含する」は交換可能であり、当業者は、これらの用語がオープンエンドな用語であることを認識している。特定の実施形態において、本開示の態様は、例えば、本開示の1つ以上の配列から「本質的にからなる」または「構成される」場合がある。本発明のいくつかの実施形態は、本開示の1つ以上の要素、方法ステップ、及び/又は方法から構成されるか、又は本質的に構成されてもよい。本明細書に記載される任意の方法又は組成物は、本明細書に記載される任意の他の方法又は組成物に関して実施され得ることが企図される。本願の範囲は、本明細書に記載されたプロセス、機械、製造、物質組成、手段、方法及びステップの特定の実施形態に限定されることを意図していない。本明細書で使用される場合、「又は」及び「及び/又は」という用語は、複数の成分を組み合わせて、又は互いに排他的に記述するために利用される。例えば、”x、y、及び/又はz”は、”x”単独、”y”単独、”z”単独、”x、y、及びz”、”(x及びy)又はz”、”x又は(y及びz)”、又は”x又はy又はz”を指すことができる。x、y、またはzは、実施形態から具体的に除外されてもよいことが特に企図される。
【0031】
特許請求の範囲における用語「又は」の使用は、選択肢のみを指すように明示的に示されない限り、又は選択肢は相互に排他的であることを示されない限り、「及び/又は」を意味するために使用される。もっとも、本開示は選択肢及び「及び/又は」のみに言及する定義を支持する。本明細書で使用される「別の」は、少なくとも第2の、またはそれ以上を意味することがある。用語「約」、「実質的に」及び「約」は、一般に、記載された値プラス又はマイナス5%を意味する。
【0032】
本明細書を通じて、「一実施形態」、「実施形態」、「特定の実施形態」、「関連する実施形態」、「ある実施形態」、「追加の実施形態」、又は「さらなる実施形態」又はそれらの組み合わせへの言及は、実施形態と関連して説明される特定の特徴、構造又は特性が本開示の少なくとも一実施形態に含まれることを意味している。したがって、本明細書中の様々な場所における前述の語句の出現は、必ずしも全てが同じ実施形態に言及しているわけではない。さらに、特定の特徴、構造、又は特性は、1つ又は複数の実施形態において、任意の適切な方法で組み合わされ得る。
【0033】
「免疫障害」、「免疫関連障害」、又は「免疫介在性障害」は、免疫応答が疾患の発症又は進行に重要な役割を果たす障害を指す。免疫介在性障害には、自己免疫疾患、同種移植片拒絶反応、移植片対宿主病、及び炎症性疾患及びアレルギー性疾患が含まれる。
【0034】
本明細書で使用する「操作された」という用語は、細胞、核酸、ポリペプチド、ベクターなどを含む、人の手によって生成される実体を指す。少なくともいくつかの場合において、操作された物は合成であり、天然には存在しない、または本開示において利用される方法で構成された要素から構成される。細胞に関して、細胞は、1つ以上の内因性遺伝子の発現が減少しているため、および/または1つ以上の異種遺伝子(合成抗原受容体および/またはサイトカインなど)を発現するため、操作され得る。この場合、操作はすべて人の手によって行われる。抗原受容体に関しては、抗原受容体は、自然界に見られない成分の融合タンパク質の形態でそのように構成されるように遺伝的に組み替えられた複数の成分からなるため、操作されているとみなされることがある。
【0035】
本明細書で使用する「大規模」(ラージスケール)という用語は、1010、1011などの数の細胞を含む、最大10以上のオーダーのものを指す。
【0036】
疾患または状態の「治療」または処置は、疾患の徴候または症状を緩和する努力として、患者に1つまたは複数の薬剤を投与することを含み得るプロトコルを実行することを指す。治療の望ましい効果としては、疾患の進行速度の低下、疾患状態の改善または緩和、寛解または予後の改善などが挙げられる。緩和は、疾患または状態の徴候または症状が現れる前に起こり得るだけでなく、それらの出現後にも起こり得る。したがって、「治療する」または「処置」は、疾患または望ましくない状態の「予防する」または「防止する」ことを含むことができる。さらに、「治療する」または「治療」は、徴候または症状の完全な緩和を必要とせず、治癒を必要とせず、特に、患者にわずかな効果しか与えないプロトコルを含む。
【0037】
本出願を通じて使用される「治療上の利益」又は「治療上有効な」という用語は、この状態の医学的治療に関して対象の幸福を促進又は増進するものを指す。これには、疾患の徴候または症状の頻度または重症度の減少が含まれるが、これらに限定されるものではない。例えば、癌の治療は、例えば、腫瘍の大きさの減少、腫瘍の浸潤性の減少、癌の成長速度の減少、または転移の防止を含んでもよい。癌の治療はまた、癌を有する被験者の生存を延長することを指す場合もある。
【0038】
「対象」及び「患者」又は「個体」は、霊長類、哺乳類、及び脊椎動物などのヒト又は非ヒトのいずれかを意味する。特定の実施形態では、対象はヒトである。
【0039】
本明細書で使用されるように、「哺乳動物」は、本発明の方法のための適切な対象である。哺乳類は、ヒトを含む高等脊椎動物クラスMammaliaの任意のメンバーであってよく;生殖、体毛、及び若者を養うためのミルクを分泌する雌の乳腺によって特徴付けられる。さらに、哺乳類は、気候条件が変化しても体温を一定に保つことができることも特徴である。哺乳類の例としては、ヒト、ネコ、イヌ、ウシ、ネズミ、ラット、ウマ、ヤギ、ヒツジ、チンパンジーが挙げられる。哺乳類は、「患者」または「被験者」または「個体」と称されることがある。
【0040】
「医薬または薬学的に許容される」という語句は、適宜、ヒトなどの動物に投与したときに有害、アレルギー、または他の不快な反応を生じない分子および組成物を指す。抗体または追加の活性成分を含む医薬組成物の調製は、本開示に照らして当業者には既知であろう。さらに、動物(例えば、ヒト)投与の場合、調製物は、FDA生物学的標準室が要求する無菌性、発熱性、一般的安全性および純度の基準を満たすべきであることが理解されよう。
【0041】
本明細書で使用する場合、「薬学的に許容される担体」は、任意のおよび全ての水性溶媒(例えば、水、アルコール/水溶液、生理食塩水、非経口ビヒクル、例えば塩化ナトリウム、リンガーデキストロースなど)、非水性溶媒(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、注射用有機エステル、例えばエチルオレート)、分散媒体、コーティング、界面活性剤、酸化剤、保存剤(例えば。抗菌剤または抗真菌剤、抗酸化剤、キレート剤、および不活性ガス)、等張剤、吸収遅延剤、塩、薬剤、薬剤安定剤、ゲル、結合剤、賦形剤、崩壊剤、滑剤、甘味剤、香料、色素、液体および栄養補充剤、当業者に知られているような材料およびその組み合わせが挙げられる。医薬組成物中の様々な成分のpH及び正確な濃度は、周知のパラメータに従って調整される。
【0042】
本明細書で使用する場合、遺伝子の「破壊」は、破壊がない場合の遺伝子産物の発現レベルと比較して、細胞内の対象遺伝子によってコードされる1つ以上の遺伝子産物の発現の排除又は減少を意味する。例示的な遺伝子産物には、遺伝子によってコードされるmRNA及びタンパク質産物が含まれる。ある場合の破壊は、一過性または可逆性であり、他の場合は永久的である。いくつかの場合における破壊は、切断された又は非機能的な産物が生成され得るという事実にもかかわらず、機能的又は全長のタンパク質又はmRNAのものである。本明細書のいくつかの実施形態では、発現とは対照的に、遺伝子活性または機能が破壊される。遺伝子破壊は、一般に、人工的な方法、すなわち、化合物、分子、複合体、又は組成物の添加又は導入によって、及び/又はDNAレベルなど、遺伝子の又は遺伝子に関連する核酸の破壊によって、誘導される。遺伝子破壊のための例示的な方法には、遺伝子サイレンシング、ノックダウン、ノックアウト、及び/又は遺伝子編集などの遺伝子破壊技術が含まれる。例としては、一般に一過性の発現低下をもたらすRNAi、siRNA、shRNA、及び/又はリボザイムなどのアンチセンス技術、並びに、例えば、切断及び/又は相同組換えの誘導によって、標的遺伝子の不活性化又は破壊をもたらす遺伝子編集技術などが挙げられる。例としては、挿入、変異、および欠失が挙げられる。破壊は、典型的には、遺伝子によってコードされる正常または「野生型」産物の発現の抑制および/または完全な欠如をもたらす。そのような遺伝子破壊の例示は、遺伝子全体の欠失を含む、遺伝子または遺伝子の一部の挿入、フレームシフトおよびミスセンス変異、欠失、ノックイン、およびノックアウトである。このような破壊は、コード領域、例えば、1つ以上のエクソンにおいて起こり得、その結果、停止コドンの挿入などにより、完全長生成物、機能的生成物、または任意の生成物を生成することができなくなる。このような破壊は、遺伝子の転写を妨げるように、プロモーターまたはエンハンサー、あるいは転写の活性化に影響を与える他の領域の破壊によっても起こり得る。遺伝子の破壊には、相同組換えによる標的遺伝子の不活性化など、ジーンターゲティングが含まれる。
【0043】
本明細書で使用する「異種」という用語は、レシピエントとは異なる細胞型又は異なる種に由来することを意味する。具体的には、合成である、及び/又はT細胞由来でない遺伝子又はタンパク質を指す。この用語はまた、合成的に誘導された遺伝子または遺伝子コンストラクトを指す。具体的には、合成された、および/またはT細胞由来ではない遺伝子やタンパク質を指す。この用語はまた、合成的に誘導された遺伝子または遺伝子コンストラクトを指す。例えば、サイトカインは、サイトカインをコードする核酸配列を保有するベクターでT細胞に提供されることを含む、遺伝子組換えによるなど、合成的に由来したため、サイトカインがT細胞によって天然に産生される場合でも、T細胞に関して異種と見なされることがある。
【0044】
本開示は、T細胞(本明細書中ではTリンパ球又はCTLとも呼ばれ得る)の大規模な増殖、CAR形質導入及び遺伝子編集のための新規アプローチに関する。このアプローチによって、任意選択的に1つ又は複数の異種サイトカイン遺伝子を発現することに加えて、多数に拡大増殖させ、腫瘍抗原に対するそれらの特異性を向け直すために形質導入しようとする何らかの種類のT細胞の拡大増殖が可能になる。T細胞の機能は、いくつかの例として、特定の免疫応答、細胞疲弊及び腫瘍誘発性機能障害に関与する遺伝子を欠失させることによってさらに改善される。
【0045】
特定の実施形態では、本開示は、T細胞における単一又は複数の内因性遺伝子の組み合わせCAR形質導入及び欠失のための特定の方法を記載し;これは、機能改善に寄与する。特定の場合において、改善された機能には、グルココルチコイドに対する耐性及び/又は操作されたT細胞に対する腫瘍微小環境に対する耐性が含まれる。特に、大規模でありGMPグレードであるプロトコールが、臨床への橋渡しのためにこのアプローチに対して使用される。本開示は、患者自身のT細胞又は養子移入されたT細胞の機能を促進する新規免疫療法アプローチを使用する患者ケアに直接的な関係がある。
II.プロセス
【0046】
本開示の実施形態は、操作されたT細胞を、特に大規模に作製するプロセスに関する。特定の実施形態では、本プロセスは、特定のタイプの操作されたT細胞を作製するために1つ又は特定のパラメーターの組み合わせを利用し、少なくともいくつかの場合、パラメーターは、例として、特定の濃度の試薬、特定のタイプのT細胞、1つ又は複数の工程に対する特定の期間、特定のタイプの細胞改変機構又はそれらの組み合わせを含む。当業者は、最適な可変要素が本明細書中に記載されているものの、依然として適切な量の有効な操作されたT細胞を作製するプロセスの変形物もあり、これらも本明細書中に包含されることを認識するであろう。
【0047】
このプロセスは、一般に、一連の工程に関し、特定の実施形態では、この一連の工程は、T細胞の作製、1つ、2つ又はそれを超える態様でのT細胞の操作及び作製され操作されたT細胞の任意選択的な増殖(1回又は複数の工程で)と、それに続く任意選択的な分析工程及び/又は個体への任意選択的な投与工程である。特定の実施形態では、操作は、(1)何らかの種類及び/又は1つ又は複数の異種サイトカインの1つ以上の抗原受容体などの1つ又は複数の異種タンパク質を発現するように細胞を改変すること、(2)T細胞における1つ又は複数の内因性遺伝子の発現の低下(ノックダウン)又は発現の排除(ノックアウト)を有するように細胞を改変すること;及び(3)任意選択的に、T細胞をウイルス特異的になるように改変するか、又はそれらの特異性を歪めるために関連抗原とともにそれらを拡大増殖させること、のうちの1つ又は複数を含む。これらの工程はあらゆる順序であり得る。発現が低下するか又は発現が排除されるようにT細胞を改変することはあらゆる手段によって行い得るが、特定の実施形態では、改変はCRISPRによるものである。
【0048】
本プロセスに対する1つの工程は、最終的な改変のためのT細胞数の増加を可能にするT細胞の拡大増殖(刺激とも呼ばれ得る)であり得る。T細胞は、例えば、新鮮な供給源から、又は貯蔵若しくは市販のものを入手し得る。T細胞はあらゆる種類であり得るが、特定の実施形態では、T細胞は、臍帯血、末梢血、骨髄、腫瘍浸潤リンパ球、骨髄又はそれらの混合物に由来する。特定の実施形態では、増殖工程のためのT細胞の開始培養は、少なくとも500万~1億個の細胞を含み、いくつかの場合では、1×10個以上(1010又は1011個など)の細胞が使用される。従って、特定の場合において、プロコトールを開始させるためのT細胞の数は、500万、1000万、1500万、2000万、2500万、3000万、3500万、4000万、4500万、5000万、5500万、6000万、6500万、7000万、7500万、8000万、8500万、9000万、9500万、1億個又はそれを超えるT細胞である。細胞の範囲の例は、500万~1億、500万~9000万、500万~7500万、500万~5000万、500万~2500万、500万~1000万、1000万~1億、1000万~9000万、1000万~7500万、1000万~6000万、1000万~5000万、1000万~2500万、2500万~1億、2500万~9000万、2500万~7500万、2500万~5000万、5000万~1億、5000万~9000万、5000万~7500万、7500万~1億、7500万~9000万又は9000万~1億個の細胞を含め、本プロセスの何らかの工程で利用され得る。
【0049】
特定の実施形態では、培養中の増殖工程の開始前に、T細胞は、それらが含まれる細胞の集団と共に存在し得る特定の望ましくない細胞、例えばB細胞、単球、NK細胞及び/又は骨髄系細胞の枯渇に供され得る。枯渇工程は、望ましくない細胞上の1つ又は複数の特定のマーカーの存在を、それらをT細胞の集団から選別するための手段として利用し得る。これを行うための手段の一例として、細胞は、免疫磁気ビーズ(それに付着させられた望ましくない細胞上のマーカーに対する抗体を有する)を使用した枯渇化に供され得、それによってT細胞の濃縮集団を作製し得る。一実施形態では、T細胞は、市販の製品を使用するなどのT細胞単離方法を使用することによって、細胞の集合から負に選択され得る。特定の実施形態では、T細胞とT細胞ではない望ましくない細胞とを含む細胞の混合物が、望ましくない細胞を標的とする1つ又は複数の抗体に供される。市販の一例として、Miltenyi Biotec(Bergisch Gladbach,Germany)からのT細胞単離キットを使用して、T細胞に対して負の選択を行い得る。一例として、T細胞は、単球を枯渇させるためにCD14に対する抗体、骨髄細胞を枯渇させるためにCD15に対する抗体、NK細胞及び顆粒球を枯渇させるためにCD16に対する抗体、B細胞を枯渇させるためにCD19に対する抗体、幹細胞を枯渇させるためにCD34に対する抗体、血小板を枯渇させるためにCD36に対する抗体、NK細胞を枯渇させるためにCD56に対する抗体、骨髄芽球を枯渇させるためにCD123に対する抗体、赤血球を枯渇させるためにCD235a(グリコホリンA)に対する抗体及び/又はCD3、CD4及びCD8の1つ又は複数に対する抗体を含有するカクテルに曝露される。
【0050】
T細胞の培養のための量の正確な評価を提供するためにT細胞の濃縮集団を数えて、拡大増殖工程を開始してもよいし又は開始しなくてもよい。特定の実施形態では、濃縮T細胞は、特定の期間、1つ又は複数のサイトカインの存在下で抗CD3/CD28ビーズに供される。期間は、少なくとも24、25、26、27、28、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40時間又はそれを超える時間であり得る。特定の実施形態では、期間は、24~40時間、28~28時間、30~36時間などである。この期間の後、刺激されたT細胞は、遺伝子発現のノックアウト/ノックダウン及び/又は異種抗原受容体の操作及び/又は1つ又は複数の異種サイトカインをコードするための操作及び/又はT細胞をウイルス特異的になるように操作するための操作を含む、何らかの種類の操作に供され得る。
【0051】
特定の実施形態では、増殖工程は、作製されるT細胞の種類に依存し得る1つ又は複数の特定のサイトカインを利用する。例えば、T細胞の場合、サイトカインは、単独で又は組み合わせての何れかで、IL-2、IL-4、IL-7、IL-12、IL-15、IL-18又はIL-21であり得る。ウイルス特異的T細胞の場合、サイトカインは、T細胞が向けられるウイルスのタイプに依存し得る。例として、IL-4及びIL-7はCMVに使用され得;IL-2及びIL-7及びIL-15はJCV及びBKVに使用され得;IL4及びIL7はアデノウイルスに使用され得、IL4及びIL7はEBVに使用され得;いくつかの場合において、IL21、IL-18及び/又はIL2が利用される。T細胞が複数ウイルス特異的である場合、サイトカインを組み合わせ得る。何れかの種類の細胞のための何らかの方法において、培地は、サイトカインの存在下で1回以上交換され得;新しい培地は、同じサイトカインを含む同じ組成の培地を含んでいてもよいし、又は含まなくてもよい。特定の実施形態では、培地中のサイトカインの濃度は、100、125、150、175、200、225、250、275又は300単位/mLを含め、100~300単位/mL又は1~500nMの範囲である。拡大増殖工程は、35℃、36℃、37℃又は38℃を含む約35℃~38℃などの特定の温度で行われ得る。拡大増殖工程は、3%~7%Oなどの特定の酸素レベルで行われ得;特定の実施形態では、拡大増殖工程は、3%、4%、5%、6%又は7%COで行われる。拡大増殖工程は、特定の日数など、特定の期間継続し得る。特定の実施形態では、拡大増殖工程は、2、3、4、5、6、7日間又はそれを超えて継続するが、特定の場合には、拡大増殖工程は、2~7、2~6、2~5、2~4、2~3、3~7、3~6、3~5、3~4、4~7、4~6、4~5、5~6、5~7又は6~7日間継続する。特定の実施形態では、拡大増殖工程における培地は、拡大増殖中に変更されてもよいし又はされなくてもよいが、特定の実施形態では、拡大増殖工程において1日おきに培地を交換する。特定の場合には、細胞を遠心分離し、100、125、150、175、200、225、250、275又は300単位/mLのサイトカインを含む培地を含め、以前と同じ又は類似の培地中で再懸濁する。特定の態様では、拡大増殖工程は、ガス透過性バイオリアクター、例えばG-Rex(登録商標)100M又はG-Rex 100(登録商標)などのバイオリアクター中で行われる。いくつかの態様では、3、3.5、4、4.5又は5Lなどの3~5Lの培地などの特定の量の培地中で何らかの刺激が行われる。
【0052】
拡大増殖工程の開始から一定日数後、細胞は、望ましくない細胞が排除される(B細胞、NK細胞及び/又は骨髄/単球細胞など)第2の負の選択(枯渇工程)にさらに供され得るが、代替実施形態では、細胞は第2の枯渇工程に供されない。特定の場合、増殖工程の開始後3、4、5、6、7、8、9、10日又はそれよりも長く、細胞を枯渇工程に供する。
【0053】
T細胞の拡大増殖の開始後約第3、4、5、6、7又は8日に、拡大増殖させたT細胞は、本明細書中に包含されるものを含む何らかの種類の改変に供され得る。第1の改変は、1つ又は複数の異種抗原受容体及び/又は1つ又は複数の異種サイトカインを発現させるためのT細胞の形質導入又は遺伝子移入であり得るが、ある場合には、第1の改変はT細胞の1つ又は複数の内因性遺伝子の発現を破壊することである。第1の改変が1つ又は複数の異種抗原受容体及び/又は1つ又は複数の異種サイトカインを発現させるためのT細胞の形質導入又は遺伝子移入である場合、その後の改変は、少なくともいくつかの場合では、T細胞の1つ又は複数の内因性遺伝子の発現を破壊することであり得る。第1の改変がT細胞の1つ又は複数の内因性遺伝子の発現を破壊する場合、その後の改変は、1つ又は複数の異種抗原受容体及び/又は1つ又は複数の異種サイトカインを発現させるためのT細胞の形質導入又は遺伝子移入であり得る。
【0054】
特定の実施形態では、拡大増殖させたT細胞は、細胞が1つ又は複数の内因性遺伝子の発現の破壊のために遺伝子編集される前に、少なくとも1つの異種抗原受容体遺伝子(及び/又は1つ又は複数の異種サイトカイン遺伝子)を有するように形質導入又は遺伝子移入される。特定の実施形態では、1つ又は複数のキメラ抗原受容体、1つ又は複数のT細胞受容体、1つ又は複数の異種サイトカイン又はそれらの組み合わせをコードする発現コンストラクトを含む特定のベクターで、細胞に対して形質導入又は遺伝子移入を行う。特定の場合では、発現コンストラクトをそれぞれが含み、例えば1つ又は複数のキメラ抗原受容体、1つ又は複数のT細胞受容体、1つ又は複数の異種サイトカイン又はそれらの組み合わせをそれぞれがコードする複数のベクターで、細胞に対して形質導入又は遺伝子移入を行う。何れかのベクターが自殺遺伝子もコードし得る。ベクターは、少なくともナノ粒子、プラスミド、レンチウイルスベクター、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノウイルス関連ベクターなどを含む何らかの種類であり得る。T細胞に対して、T細胞が複数の異種タンパク質、例えば異種抗原受容体、自殺遺伝子及び1つ又は複数のサイトカイン、例えばIL-4、IL-10、IL-7、IL-2、IL-15、IL-12、IL-18、IL-21及びそれらの組み合わせからなる群から選択される1つ又は複数の異種サイトカインなどを発現することを可能にするベクターで遺伝子移入又は形質導入が行われ得る。複数の異種タンパク質に対する遺伝子は同じベクター上に存在し得るが、いくつかの場合では、それらは複数のベクター上に存在する。細胞が形質導入又は遺伝子移入されたら、それらはトランスジェニックであり、異種タンパク質の発現について試験されてもよいし又はされなくてもよく、これは、例えば遺伝子移入/形質導入の1、2、3日又はそれより後に行われ得る。トランスジェニックT細胞の集団からのアリコートを試験する場合、試験は、さらなる改変の前、例えばT細胞の遺伝子編集の前に行われてもよいし又は行われなくてもよい。
【0055】
T細胞の拡大増殖開始後、約第2、3、4、5、6、7、8、9、10、11又は12日以内に、異種抗原受容体を有するトランスジェニックT細胞を遺伝子編集の方法に供する。遺伝子編集工程は、遺伝子移入/形質導入工程後1、2、3日又はそれより長い日数以内に行われ得る。トランスジェニックT細胞の遺伝子編集は、何らかの適切な方法によって行われ得るが、特定の実施形態では、トランスジェニックT細胞の遺伝子編集は、CRISPR法によって行われる。従って、特定の実施形態では、トランスジェニック細胞は、適切な量のCas9及びガイドRNAに曝露される。特定の場合において、トランスジェニック細胞は、適切な量のCpF1及びガイドRNAに曝露される。T細胞の複数の遺伝子が発現のために破壊されるべき場合、編集しようとする所望の遺伝子のそれぞれについて1つ又は複数の配列特異的ガイドRNAを含むガイドRNAの群が存在し得る。特定の実施形態では、一部の場合においてトランスジェニックT細胞を含め、T細胞は、1、2、3日又はそれより長い日数で時間的に分離されていてもよいし又はされていなくてもよい2つの異なるエレクトロポレーション工程に供される。そのような場合、第1のエレクトロポレーション工程は、1つ又は複数の遺伝子を標的化することを含み、第2又は後続のエレクトロポレーション工程は、以前のエレクトロポレーション工程とは異なる遺伝子である1つ又は複数の遺伝子を標的化することを含む。いくつかの場合では、3、4、5回又はそれを超える回数のさらなるエレクトロポレーション工程を含め、2回のエレクトロポレーション工程を超える連続したエレクトロポレーション工程が存在する。複数のエレクトロポレーション工程が利用される何れかの場合で、次のエレクトロポレーションは、前のエレクトロポレーション工程から1、2、3、4日後又はそれより長い日数後のみなど、特定の期間の後にのみ起こり得る。
【0056】
特定の態様では、T細胞は、最初に遺伝子編集工程を受け、続いて1つ又は複数の異種抗原受容体遺伝子を保有するための形質導入又は遺伝子移入工程を受ける。そのような場合、1つ又は複数の異種抗原受容体遺伝子を保有するための形質導入又は遺伝子移入工程のための工程は、遺伝子編集工程後1日、2日、3日又はそれを超える日数以内に行われ得る。
【0057】
T細胞の遺伝子編集及び形質転換/形質導入に続いて、T細胞は、トランスジェニック遺伝子編集T細胞の数を増加させるための第2の拡張工程に供されてもよいし、又は供されなくてもよい。特定の実施形態では、本プロセスの第2の拡大増殖工程は、本プロセスの第1の拡大増殖工程と実質的に同一であり得るが、代替実施形態では、第2の拡大増殖工程は、第1の拡大増殖工程とは異なり、例えば、異なる培地、異なる外因的に添加された化合物、培養/拡大増殖のための異なる持続時間、いくつか例を挙げるとGREX又はWAVE又はその組み合わせなどの異なる拡大増殖フラスコ、その組み合わせなどを有する。特定の実施形態では、拡大増殖工程が行われる培地は、拡大増殖を促進する1つ又は複数の薬剤、例えば1つ又は複数のサイトカインを含む。特定の実施形態では、培地中のサイトカインの濃度は、100、125、150、175、200、225、250、275又は300単位/mLを含めて、100~300単位/mL、又は1~500nMの範囲である。拡大増殖工程は、35℃、36℃、37℃又は38℃を含む約35℃~38℃などの特定の温度で行われ得る。拡大増殖工程は、3%~7%COなどの特定の酸素レベルで行われ得;特定の実施形態では、拡大増殖工程は、3%、4%、5%、6%又は7%COで行われる。拡大増殖工程は、特定の日数など、特定の期間継続し得る。特定の実施形態では、拡大増殖工程は、4、5、6、7日間又はそれより長く継続するが、特定の場合には、拡大増殖工程は、4~10、4~9、4~8、4~7、4~6、4~5、5~10、5~9、5~8、5~6、5~7、6~10、6~9、6~8、6~7、8~10、8~9、9~10日間又はそれより長い日数継続する。特定の実施形態では、拡大増殖工程における培地は、拡大増殖中に変更されてもよいし又はされなくてもよいが、特定の実施形態では、拡大増殖工程の開始後第3日に培地を交換する。特定の場合には、細胞を遠心分離し、少なくとも100、125、150、175、200、225、250、275、300、325、350、375、400、425、450、475又は500単位/mLのサイトカイン又はそれを超えるサイトカインを含むか又は含む培地を含め、以前と同じ又は類似の培地中で再懸濁する。少なくともいくつかの場合では、本方法は、ガス透過性バイオリアクターを含め、バイオリアクター内で実施される。特定の態様では、ガス透過性バイオリアクターは、G-Rex(登録商標)100M又はG-Rex 100(登録商標)である。拡大増殖は、3~5L及びその中の導出可能な何らかの範囲などの特定の体積で行われてもよいし又は行われなくてもよい。
【0058】
特定の実施形態では、操作されたT細胞を作製するインビトロの方法であって、(a)任意選択的に、T細胞を濃縮するために、細胞の混合物からのT細胞を負又は正の選択に曝露する工程;(b)任意選択的に、インターロイキン(IL)-2、IL-4、IL-7、IL-12、IL-15、IL-21及び/又は1つ又は複数の他のT細胞指向性サイトカインのうちの1つ又は複数の有効量でT細胞を第1の期間、拡大増殖させて、拡大増殖させたT細胞を作製する工程;及び(c)T細胞における1つ又は複数の内因性遺伝子の発現を破壊するために、拡大増殖させたT細胞に有効量のCas9又はCpF1及び1つ又は複数のガイドRNAを送達し、それによって遺伝子編集されたT細胞を作製する工程を含む方法が存在する。いくつかの実施形態では、本方法は、(d)第2の期間の後に、遺伝子編集されたT細胞に有効量のCas9又はCpF1と、T細胞における1つ又は複数の内因性遺伝子の発現を破壊するための1つ又は複数のガイドRNAとを送達する工程をさらに含み、工程(c)における1つ又は複数のガイドRNAは、工程(d)における1つ又は複数のガイドRNAとは異なる遺伝子又は異なる(複数の)遺伝子の発現を破壊する。いくつかの場合では、第1の期間は30~36時間であり、及び/又は第2の期間は2~3日である。何れの方法も、1つ又は複数の異種抗原受容体及び/又は1つ又は複数の異種サイトカインを発現するように拡大増殖させたT細胞及び/又は遺伝子編集されたT細胞を改変する工程をさらに含み得る。何らかの方法の特定の態様では、方法中の何れかの時点で、細胞を1つ又は複数のウイルス抗原及び1つ又は複数のサイトカインの存在下で拡大増殖させて、ウイルス特異的細胞を作製する。特定の場合では、何れかの改変工程後、1つ又は複数のウイルス抗原及び1つ又は複数のサイトカインの存在下で細胞を拡大増殖させて、ウイルス特異的細胞を作製する。
【0059】
特定の実施形態では、操作されたT細胞を作製するインビトロ又はエクスビボの方法であって、特定の順序ではなく次の工程を含む方法がある:
【0060】
(a)任意選択的に、T細胞を濃縮するために、細胞の混合物からのT細胞に対して負又は正の選択を行う工程;
【0061】
(b)IL-2、IL-4、IL-7、IL-12、IL-15、IL-21及び/又は1つ又は複数の他のT細胞指向性サイトカインのうちの1つ又は複数の有効量を用いてT細胞を拡大増殖させる工程;
【0062】
(c)T細胞における1つ又は複数の内因性遺伝子の発現を破壊するために、T細胞に有効量のCas9又はCpF1及び1つ又は複数のガイドRNAを送達する工程;
【0063】
(d)任意選択的に、前の工程における1つ又は複数の遺伝子とは異なるT細胞における1つ又は複数の内因性遺伝子の発現を破壊するために、T細胞に有効量のCas9又はCpF1及び1つ又は複数のガイドRNAを送達する工程;
【0064】
(e)1つ又は複数の異種抗原受容体及び/又は1つ又は複数の異種サイトカインを発現するようにT細胞を改変する工程;及び
【0065】
(f)ウイルス特異的細胞を作製するために、1つ又は複数のウイルス抗原及び任意選択的に1つ又は複数のサイトカインの存在下でT細胞を拡大増殖させる工程。
【0066】
特定の実施形態では、工程(a)~(f)の1、2、3、4、5又は全てが本方法で利用され、あらゆる順序であり得る。いくつかの場合では、工程(a)、(b)、(c)、(d)、(e)及び(f)があらゆる順序で利用される。いくつかの場合では、工程(b)、(c)、(d)、(e)及び(f)があらゆる順序で利用される。いくつかの場合では、工程(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)があらゆる順序で利用される。いくつかの場合では、工程(b)、(c)、(d)及び(e)があらゆる順序で利用される。いくつかの場合では、工程(a)、(c)、(d)、(e)及び(f)があらゆる順序で利用される。いくつかの場合では、工程(a)、(b)、(c)、(e)及び(f)があらゆる順序で利用される。いくつかの場合では、工程(a)、(b)、(c)及び(e)があらゆる順序で利用される。いくつかの場合では、工程(a)、(b)及び(c)があらゆる順序で利用される。いくつかの場合では、工程(a)、(b)、(c)及び(d)があらゆる順序で利用される。いくつかの場合では、任意選択的に(a)、任意選択的に(b)、(c)、任意選択的に(d)、(e)及び(f)があらゆる順序で利用される。いくつかの場合では、任意選択的に(a)、任意選択的に(b)、(c)、任意選択的に(d)及び、(e)及び(f)の一方又は両方が、あらゆる順序で利用される。
【0067】
特定の実施形態では、本方法の工程のそれぞれの期間は、1~24時間、1~7日間、1~4週間など、及びそこから導き出せる何らかの範囲で起こり得る。特定の実施形態では、特定工程に対する期間は、1~3日、1~2日、2~3日又はそれより長い。いくつかの実施形態では、特定の工程に対する期間は、24~48時間、24~36時間、24~30時間、30~48時間、20~36時間などである。
【0068】
所望のT細胞の作製に続いて、細胞を利用し得、分析し得、保存し得、それらの組み合わせなどを行い得る。特定の実施形態では、細胞は、機能性、細胞傷害性、インビボ活性、それらの組み合わせなどについて分析される。例えば、細胞は、(1)異種抗原受容体がその標的抗原に結合する能力;(2)発現のノックダウン又はノックアウトを確認するための編集遺伝子の発現又はその欠如;(3)抗癌活性;又は(4)それらの組み合わせについて分析され得る。特定の場合において、細胞は、例えば、質量分析及び/又はRNA配列決定に供される。
【0069】
特定の実施形態では、作製されたT細胞は、例えば凍結保存を含め、保存される。例えば、T細胞は、出発T細胞が得られた個体による使用のために凍結保存され得るか、又はT細胞は、出発T細胞が得られた個体とは異なる個体による使用のために凍結保存され得る。本プロセス中の何らかの時点(本プロセス後が含まれる)における細胞は、凍結保存など保存され得、その後、必要な適切な時点で、出発T細胞を提供した個体に自家的に送達され得るか、又は出発T細胞を提供したドナーから別の個体に送達され得る。このように、細胞は、画一的に使用され得、いくつかの実施形態では、レシピエント個人の必要性に合わせてカスタマイズし得、このカスタマイズ化は保存前及び/又は保存後に行い得る。個体に対するカスタマイズ化は、個体の癌に対して特異的に有効であるように細胞を操作すること、又は個体のウイルス感染に対して特異的に有効であるように細胞を操作することなど、個体の治療上の必要性に細胞を合わせることを含み得る。作製されたT細胞の同じバッチを異なる個体に対して利用し得る。
III.具体的な実施形態
【0070】
操作されたT細胞の作製のための具体的な実施形態は以下の通りであるが、以下のプロトコールは様々な日常的な方法で変更又は最適化され得る。
【0071】
T細胞の拡大増殖(全てのT細胞、ウイルス特異的T細胞、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)及びCAR T細胞又はTCR T細胞を含む)+CRISPR遺伝子編集
【0072】
T細胞のCRISPR遺伝子編集
【0073】
CRISPR/Cas9編集を用いて、何らかの供給源(末梢血、臍帯血、腫瘍浸潤リンパ球、骨髄又はT細胞株)から初代ヒトT細胞を作製するための1つの手順は次の通りである:
【0074】
第0日に、MiltenyiからのGMP T細胞単離キットを使用して、何れかの供給源からのT細胞に対して負の選択を行う。次いで、細胞をRPMI+ヒト血清AB(10%)中で50万~100万個/mLになるように再懸濁する。次に、IL-2(50iU/mL)の存在下で抗CD3/CD28ビーズでT細胞を30~36時間刺激し、その後、細胞はCRISPR遺伝子編集の準備が整う。1つ又は2つの遺伝子を編集する場合、30~36時間でCRISPR-Cas9に対するエレクトロポレーションを実施する。3つ以上の遺伝子を標的とする場合、最初のエレクトロポレーション後に2~3日間細胞を休ませ、次いで所望のgRNAを用いて2回目のCRISPR+エレクトロポレーションを行う。(Crispr Cas9アプリケーションの詳細については以下を参照されたい)
【0075】
ウイルス特異的T細胞+CRISPR遺伝子編集
【0076】
CRISPR Cas9遺伝子編集を用いてウイルス特異的T細胞を作製するための手順は以下の通りである:
【0077】
0日目に、健常ドナーから単核細胞を単離する。PBMCを異なるアリコートに分割し、1ミリリットルのClick/RPMI培地中の、CMV、アデノウイルス、BKウイルス、EBV、HHV6、インフルエンザ、SARS-CoV-2(COVID-19)、JCウイルス、アデノウイルス、EBVなどに由来する個々のウイルス特異的ペプミックス(pepmix)(GMPグレード)(1μg/ml、JPT)で37℃にて2時間、個別に刺激する。2時間の温置後、培地中に0.5×10/mlの細胞があるように体積を調整し、サイトカインを添加する。
【0078】
CMVペプミックス(pepmix)で刺激した細胞の場合、IL4 60ng/ml+IL7 10ng/mlを添加する。
【0079】
BKVペプミックス(pepmix)又はJCVペプミックス(pepmix)で刺激した細胞の場合、IL2 50IU/ml及びIL7 10 ng/ml及びIL15 10ng/mlを添加する。
【0080】
アデノウイルスペプミックス(pepmix)で刺激した細胞の場合、IL4 60ng/ml+IL7 10ng/mlを添加する。
【0081】
EBVペプミックス(pepmix)で刺激した細胞の場合、IL4 60ng/ml+IL7 10ng/mlを添加する。
【0082】
特定の実施形態では、(1μg/ml)の上記ウイルスに対するペプミックス(pepmix)の何れかを上記サイトカインの組み合わせと組み合わせることによって、複数ウイルス特異的T細胞株を作製する。
【0083】
サイトカインの存在下で1日おきに培地を交換する。1つ又は2つの遺伝子を編集する場合、培養の第7日に(第10日まで行い得る)、CRISPR-Cas9に対するエレクトロポレーションを行う。3つ以上の遺伝子を標的とする場合、第7日の最初のエレクトロポレーション工程後に細胞を休ませ、第10~11日に所望のgRNAを用いて2回目のCRISPR+エレクトロポレーションを行う。(CRISPR Cas9アプリケーションの詳細については以下を参照されたい)
【0084】
CAR T細胞+CRISPR遺伝子編集
【0085】
CRISPR/Cas9編集を用いて何らかの供給源(末梢血、臍帯血、腫瘍浸潤リンパ球又は骨髄)から遺伝子改変CAR T細胞を作製するための手順は次の通りである:
【0086】
第0日に、ドナーから単核細胞を単離し、Miltenyi製のGMP T細胞単離キットを使用して負の選択を行う。次いで、細胞をRPMI+ヒト血清AB(10%)中で50万~100万個/mLになるように再懸濁する。次に、IL-2(50iU/mL)の存在下で抗CD3/CD28ビーズを用いてT細胞を30~36時間刺激し、その後、細胞はCAR形質導入又はCRISPR遺伝子編集の準備が整う(いくつかの実施形態では、CRISRP遺伝子編集を最初に行い、続いて第4~5日にCAR形質導入を行い;いくつかの実施形態では、CAR形質導入を最初に行い、続いて、第4日~第5日にCRISPR遺伝子編集を行う)。
【0087】
CAR形質導入のために、1ウェルあたりPBSで希釈した1%レトロネクチン1mlを含有する非組織培養プレートを37℃で5時間温置することによって、レトロネクチン形質導入プレートを準備する。次いで、レトロネクチンプレートを室温で吸引し、完全培地をウェルに添加する。培地を含むプレートを10分間温置する。次いで、培地をレトロウイルス上清と交換し、2000g、32℃で2時間遠心分離する。次に、レトロウイルス上清を新鮮なレトロウイルス上清と交換し、0.5×10個の細胞を含有するT細胞懸濁液を、適切なサイトカイン条件と共に各ウェルに添加する。プレートを2000g、32℃で30分間遠心分離し、次いで37℃/5%COで温置する。形質導入の2日後、形質導入効率を確認し、CRISPR-Cas9遺伝子編集のためのエレクトロポレーションを行い得る。1つ又は2つの遺伝子を編集する場合、培養の第4~5日に、CRISPR-Cas9遺伝子編集のためにエレクトロポレーションを行い得る。3つ以上の遺伝子を標的とする場合、最初のエレクトロポレーション後に2~3日間細胞を休ませ、次いで所望のgRNAを用いて2回目のCRISPR-Cas9遺伝子編集工程を行う。(CRISPR-Cas9アプリケーションの詳細については以下を参照されたい)
【0088】
ウイルス特異的CAR T細胞+CRISPR-Cas9遺伝子編集
【0089】
CARを発現するように(内因性TCRを使用したウイルス及びCARを使用した抗原標的の両方の標的化を可能にするように)また遺伝子改変されているウイルス特異的T細胞、並びにCRISPR-Cas9遺伝子編集を作製するための手順は以下の通りである:
【0090】
上記のようにウイルス特異的T細胞作製のための手順に従う。VST培養の第7~8日にCARレトロウイルス形質導入を行う。最初に、1ウェルあたりPBSで希釈した1%レトロネクチン1mlを含有する非組織培養プレートを37℃で5時間温置することによって、レトロネクチン形質導入プレートを準備する。次いで、レトロネクチンプレートを吸引し、完全培地をウェルに添加する。培地を含むプレートを10分間温置する。次いで、培地をレトロウイルス上清と交換し、2000g、32℃で2時間遠心分離する。次に、レトロウイルス上清を新鮮なレトロウイルス上清と交換し、0.5×10個の細胞を含有するT細胞懸濁液を、適切なサイトカイン条件で各ウェルに添加する。プレートを2000g、32℃で30分間遠心分離し、次いで37℃、5%COで温置する。形質導入の2日後、形質導入効率を確認し、CRISPR-CAS9遺伝子編集のためのエレクトロポレーションを行い得る。
【0091】
いくつかの実施形態では、CRISRP-Cas9遺伝子編集工程を最初に(第7~8日に)行い、続いて2~3日後にCAR形質導入を行う。
【0092】
1つ又は2つの遺伝子を編集する場合、培養の第9~10日に(第14日まで行い得る)、必要に応じてCRISP-Cas 9に対するエレクトロポレーションを行う。3つ以上の遺伝子を標的とする場合、最初のエレクトロポレーション工程後に2~3日間細胞を休ませ、次いで所望のgRNAを用いて2回目のCRISPR Cas9遺伝子編集工程+エレクトロポレーションを行う。(CRISPR Cas9アプリケーションの詳細については以下を参照されたい)(CRISPR-Cas9アプリケーションの詳細については以下を参照されたい)
1.crRNAプレ複合体形成及びエレクトロポレーション(Lonza 4D)(500万~1億個のT細胞に対して)
工程1:crRNA+tracrRNA二重鎖を作製する
【表1】
crRNA及びtracrRNAの出発濃度は200μMである。これらを等モル濃度で混合した後の最終濃度は100μMである。
a.ピペットで混合し、遠心分離する。
b.サーモサイクラー中で95℃にて5分間温置する。
c.ベンチトップ上で室温まで冷ます。
工程2:crRNA:tracrRNA二重鎖及びCas9ヌクレアーゼを組み合わせる
【表2】
【表3】
a.ピペットで混合し、遠心分離する。
b.混合物を室温で15分間温置する。
工程3:工程3からのcrRNA#1とcrRNA#2とを組み合わせる。
【表4】
【表5】
工程4:エレクトロポレーションの実施
a.IL-2を含む培地(優先的には抗生物質不含)を含む培養プレートを準備する。
b.細胞5E+106個を調製し(FBSを除去するためにPBSで2回洗浄)、使用直前に100μLのP3初代細胞ヌクレオフェクター溶液中で再懸濁する。
c.細胞懸濁液及びRNP(最終的なCas9濃度は4.6μMであり、gRNA濃度は4μMである)を混合し、ヌクルオキュベット(nucluocuvette)に移し、蓋を所定の位置にして閉じる。
d.エレクトロポレーションプログラムはEO-115であり、次いで細胞を培養プレートに添加し、37Cインキュベーター内で回復させる。
e.最大5×10-X単位(Cat:AAF-1002X)
f.最大30×10個までエレクトロポレーションを行うために、1ml LV Kit L Unit(カタログ番号:V4LC-2002)を使用する。
g.最大100×10個又はそれを超える個数までエレクトロポレーションを行うために、1ml LV Kit L Unit(カタログ番号:AAF-1002L)を使用する。
CRISPR CAS9:小規模プロトコール(出発細胞集団25万~300万個)
1.sgRNA-Cas9プレ複合体形成及びエレクトロポレーション(Neon-Thermo Fisher)
a.1つ又は2つのsgRNAを設計し、各遺伝子に使用し、氷上で20分間温置する。
b.20分後、T緩衝液(Neon Electroporation Kit、Invitrogenに含まれ、RNP複合体及び細胞を含む総体積は14μlでなければならない)に再懸濁した250,000個のT細胞にsgRNAを添加し、Neon Transfection Systemを使用して10μlエレクトロポレーションチップでエレクトロポレーションを行う。
c.エレクトロポレーション条件は、1600V、10ms及び3パルスである。次いで、培地及び50IU/ml IL2を含む培養プレートに細胞を添加し、37℃のインキュベーター中で静置する。
2.crRNAプレ複合体形成及びエレクトロポレーション(Neon-Thermo Fisher)
工程1:crRNA+tracrRNA二重鎖を作製する
【表6】
crRNA及びtracrRNAの出発濃度は200μMである。これらを等モル濃度で混合した後の最終濃度は44μMである。
a.ピペットで混合し、遠心分離する。
b.サーモサイクラー中で、95℃にて5分間温置する。
c.ベンチトップ上で室温まで冷ます。
工程2:cas9ヌクレアーゼの調製
【表7】
工程3:crRNA:tracrRNA二重鎖及びCas9ヌクレアーゼを組み合わせる。
【表8】
【表9】
a.ピペットで混合し、遠心分離する。
b.混合物を室温で15分間温置する。
工程4:工程3からのcrRNA#1とcrRNA#2とを組み合わせる。
【表10】
工程5:エレクトロポレーションの実施
●ウェルあたり250,000個の細胞を調製し、使用直前に7.5μlのT緩衝液中で再懸濁する。
●エレクトロポレーション条件は、1600V、10ms及び3パルスである。次いで、細胞を培養プレートに添加し、37℃のインキュベーター中で静置する。
IV.T細胞
【0093】
本開示の実施形態は、その拡大増殖及び改変を含め、T細胞を利用する。T細胞は、ウイルス特異的T細胞、CAR特異的T細胞、TCR T細胞、腫瘍浸潤リンパ球、制御性T細胞、CD8+T細胞、CD4+T細胞、ガンマデルタT細胞又はそれらの混合物などであり得る。T細胞は、作製しようとするT細胞のタイプに合わせた方法を含め、本明細書中で開示される特定の方法によって拡大増殖させ得る。
【0094】
本明細書中に包含されるいくつかの実施形態は、過去20年間に記載された機能的抗腫瘍エフェクター細胞の誘導、活性化及び拡大増殖のためのいくつかの基本的アプローチのうちの1つ又は複数を利用する。これらのアプローチには、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)などの自己細胞;自己DC、リンパ球、人工抗原提示細胞(APC)又はT細胞リガンド及び活性化抗体でコーティングされたビーズ、又は標的細胞膜を捕捉することによって単離された細胞を使用してエクスビボで活性化されたT細胞;抗宿主腫瘍T細胞受容体(TCR)を天然に発現する同種細胞;及び「Tボディ」として知られる抗体様腫瘍認識能力を示す腫瘍応答性TCR又はキメラTCR分子を発現するように遺伝子再プログラム又は「リダイレクトされた」非腫瘍特異的自己又は同種細胞が含まれる。これらのアプローチは、本明細書中に記載の方法において使用され得るT細胞調製及び免疫付与のための多数のプロトコールを生み出してきた。
【0095】
いくつかの実施形態では、T細胞は、末梢血、臍帯血、腫瘍浸潤リンパ球、骨髄、リンパ、臍帯、リンパ器官、人工多能性幹細胞、造血幹細胞又はそれらの混合物に由来する。いくつかの態様では、細胞はヒト細胞である。細胞は、対象から直接単離されたもの及び/又は対象から単離され、凍結されたものなどの初代細胞であり得る。いくつかの実施形態では、細胞は、T細胞又は他の細胞型の1つ又は複数のサブセット、例えば全T細胞集団、CD4細胞、CD8細胞、制御性T細胞、ガンマデルタT細胞及びその亜集団、例えば機能、活性化状態、成熟度、分化能、拡大増殖、再循環、局在化及び/又は持続能、抗原特異性、抗原受容体の種類、特定の器官又は区画における存在、マーカー若しくはサイトカイン分泌プロファイル及び/又は分化の程度によって定義されるものを含む。処置しようとする対象に関して、細胞は、同種、自家又はそれらの混合物であり得る。画一的な技術に対するものなどのいくつかの態様では、細胞は、人工多能性幹細胞(iPSC)などの幹細胞など、多能性及び/又は複数の能力があるものである。いくつかの実施形態では、本方法は、対象から細胞を単離し、本明細書中に記載のようにそれらを調製し、処理し、培養し、及び/又は操作し、凍結保存の前又は後にそれらを同じ患者に再導入することを含む。
【0096】
T細胞(例えばCD4+及び/又はCD8+T細胞)のサブタイプ及び亜集団の中では、ナイーブT(T)細胞、エフェクターT細胞(TEFF)、メモリーT細胞及びそのサブタイプ、例えば幹細胞メモリーT(TSC)、セントラルメモリーT(TC)、エフェクターメモリーT(TEM)又は最終分化エフェクターメモリーT細胞、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、未成熟T細胞、成熟T細胞、ヘルパーT細胞、細胞傷害性T細胞、粘膜関連インバリアントT(MAIT)細胞、天然に存在する適応制御性T(Treg)細胞、ヘルパーT細胞、例えばTH1細胞、TH2細胞、TH3細胞、TH17細胞、TH9細胞、TH22細胞、濾胞性ヘルパーT細胞、アルファ/ベータT細胞及びデルタ/ガンマT細胞がある。
【0097】
いくつかの実施形態では、T細胞集団の1つ又は複数は、表面マーカーなどの1つ又は複数の特異的マーカーについて陽性であるか、又は1つ又は複数の特異的マーカーについて陰性である細胞が濃縮されているか又は枯渇している。一部の場合において、そのようなマーカーは、T細胞の特定の集団(例えば非メモリー細胞)には存在しないか又は比較的低レベルで発現されるが、T細胞の特定の他の集団(例えばメモリー細胞)には存在するか又は比較的高レベルで発現されるマーカーである。
【0098】
いくつかの実施形態では、T細胞は、B細胞、単球又はCD14などの他の白血球などの非T細胞上で発現される1つ又は複数のマーカーの負の選択によってPBMC試料から分離される。いくつかの態様では、CD4又はCD8選択工程を使用して、CD4ヘルパーT細胞とCD8細胞傷害性T細胞とを分離する。そのようなCD4及びCD8集団は、1つ又は複数のナイーブ、メモリー及び/又はエフェクターT細胞亜集団上で発現されるか又は比較的高い程度に発現される1つ又は複数のマーカーについての正又は負の選択によって亜集団にさらに分類され得る。
【0099】
いくつかの実施形態では、CD8T細胞は、例えばそれぞれの亜集団に関連する表面抗原に基づく正又は負の選択によって、ナイーブ、セントラルメモリー、エフェクターメモリー及び/又はセントラルメモリー幹細胞についてさらに濃縮されるか又は枯渇させられる。いくつかの実施形態では、セントラルメモリーT(TCM)細胞の濃縮は、有効性を高めるために、例えば投与後の長期生存、増殖及び/又は生着を改善するために行われ、これはいくつかの態様ではそのような亜集団において特にロバストである。
【0100】
いくつかの態様では、T細胞は自己T細胞である。そのような方法は、例えば、癌を有する個体を処置するために使用され得る。この方法では、患者から腫瘍試料を得て、単一細胞懸濁液を得る。単一細胞懸濁液は、何らかの適切な方法で、例えば機械的に(例えば、gentleMACS(商標)Dissociator,Miltenyi Biotec,Auburn,Calif.を使用して腫瘍を崩壊させること)又は酵素的に(例えば、コラゲナーゼ又はDNase)得ることができる。腫瘍酵素消化物の単一細胞懸濁液をインターロイキン-2(IL-2)中で培養する。
【0101】
何らかの培養T細胞をプールし、迅速に拡大増殖させ得る。急速な拡大増殖は、約10~約14日間にわたって少なくとも約50倍(例えば50倍、60倍、70倍、80倍、90倍又は100倍又はそれを超える)の抗原特異的T細胞の数の増加をもたらす。特定の実施形態では、急速な拡大増殖は、約10~約14日間にわたって少なくとも約200倍(例えば、200、300、400、500、600、700、800、900倍又はそれを超える)の増加をもたらす。
【0102】
拡大増殖は、当技術分野で公知であるような多数の方法の何れかによって達成され得る。例えば、フィーダーリンパ球及び(例としてのみ)インターロイキン-2(IL-2)又はインターロイキン-15(IL-15)の何れかの存在下で非特異的T細胞受容体刺激を使用して、T細胞を急速に拡大増殖させ得る。非特異的T細胞受容体刺激は、30ng/ml前後のOKT3、マウスモノクローナル抗CD3抗体(Ortho-McNeil(登録商標),Raritan,N.J.から入手可能)を含み得る。或いは、T細胞は、300IU/mlのIL-2又はIL-15(IL-2が好ましい)などのT細胞増殖因子の存在下で、任意選択的にヒト白血球抗原A2(HLA-A2)結合ペプチドなどのベクターから発現させられ得る癌の1つ又は複数の抗原(エピトープなどのその抗原性部分又は細胞を含む)でインビトロで末梢血単核細胞(PBMC)を刺激することによって急速に拡大増殖させ得る。インビトロ誘導性T細胞は、HLA-A 2発現抗原提示細胞上に瞬間適用された癌の同じ抗原(複数可)での再刺激によって急速に拡大増殖する。或いは、T細胞は、例えば、放射線照射された自己リンパ球又は放射線照射されたHLA-A2同種リンパ球及びIL-2で再刺激され得る。
【0103】
T細胞は、自己T細胞の増殖及び活性化を促進するT細胞増殖因子を発現するように改変され得る。適切なT細胞増殖因子としては、例えばインターロイキン(IL)-2、IL-7、IL-15、IL-12及びIL-21が挙げられる。適切な改変方法は当技術分野で公知である。例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,3rd ed.,Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,N.Y.2001;及びAusubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology,Greene Publishing Associates and John Wiley&Sons,NY,1994を参照。特定の態様では、改変された自己T細胞は、T細胞増殖因子を高レベルで発現する。IL-12の配列などのT細胞増殖因子コード配列は、T細胞増殖因子コード配列との操作可能な連結が高レベル発現を促進するプロモーターと同様に、当技術分野で容易に利用可能である。
V.異種抗原受容体
【0104】
本開示のT細胞は、操作されたTCR、CAR、キメラサイトカイン受容体、ケモカイン受容体、それらの組み合わせなどの1つ又は複数の異種抗原受容体を発現するように遺伝子操作され得る。異種抗原受容体は、人為的に合成により作製される。特定の実施形態では、T細胞は、癌抗原に対する抗原特異性を有する1つ又は複数のCAR及び/又はTCRを発現するように改変される。異なる抗原などに対する複数のCAR及び/又はTCRをT細胞に添加し得る。いくつかの態様では、免疫細胞は、CRISPRを使用するなどして、特定の遺伝子座でのCAR又はTCRのノックインによってCAR又はTCRを発現するように操作される。
【0105】
T細胞は、CRISPRを使用して特に編集されるが、代替的な適切な改変方法は当技術分野で公知である。例えば、上記のSambrook and Ausubelを参照されたい。例えば、細胞は、Heemskerk et al.,2008及びJohnson et al.,2009に記載されている形質導入技術を使用して、癌抗原に対する抗原特異性を有するTCRを発現するように形質導入され得る。いくつかの実施形態では、細胞は、1つ又は複数の抗原受容体をコードする遺伝子操作を介して導入された1つ又は複数の核酸、及びそのような核酸の遺伝子操作された産物を含む。いくつかの実施形態では、核酸は異種であり、即ち、細胞又はその細胞から得られた試料には通常存在せず、例えば、例えば操作されている細胞及び/又はそのような細胞が由来する生物には通常見られない、別の生物又は細胞から得られたものなどである。いくつかの実施形態では、核酸は、天然には存在しない核酸(例えばキメラ)など、天然には存在しない。
【0106】
いくつかの実施形態では、CARは、1つ又は複数の対応する抗原に特異的に結合する1つ又は複数の細胞外抗原認識ドメインを含む。いくつかの実施形態では、抗原は、癌細胞の表面などの細胞の表面上に発現されるタンパク質である。いくつかの実施形態では、CARの一例は、a)1つ又は複数の細胞内シグナル伝達ドメイン、b)膜貫通ドメイン及びc)1つ又は複数の抗原結合領域を含む細胞外ドメインを含むが、他の場合では、CARはTCR様CARであり、抗原は、細胞内タンパク質のペプチド抗原などのプロセシングされたペプチド抗原であり、これは、TCRのように、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子に関連して細胞表面上で認識される。
【0107】
CAR及び組み換えTCRを含む例示的な抗原受容体並びに受容体を操作し、細胞に導入する方法としては、例えば、国際公開第200014257号パンフレット、同第2013126726号パンフレット、同第2012/129514号パンフレット、同第2014031687号パンフレット、同第2013/166321号パンフレット、同第2013/071154号パンフレット、同第2013/123061号パンフレット、米国特許出願公開第2002131960号明細書、同第2013287748号明細書、同第20130149337号明細書、米国特許第6,451,995号明細書、同第7,446,190号明細書、同第8,252,592号明細書、同第8,339,645号明細書、同第8,398,282号明細書、同第7,446,179号明細書、同第6,410,319号明細書、同第7,070,995号明細書、同第7,265,209号明細書、同第7,354,762号明細書、同第7,446,191号明細書、同第8,324,353号明細書及び同第8,479,118号明細書並びに欧州特許出願公開第2537416号明細書に記載されているもの、及び/又はSadelain et al.,2013;Davila et al.,2013;Turtle et al.,2012;Wu et al.,2012に記載のものが挙げられる。いくつかの態様では、遺伝子操作された抗原受容体は、米国特許第7,446,190号に記載されているようなCAR及び国際公開第2014055668A1号に記載されているものを含む。
A.キメラ抗原受容体(CAR)
【0108】
いくつかの実施形態では、T細胞は、1つ又は複数のCARを発現するように操作される。CARの一例は、a)1つ又は複数の細胞内シグナル伝達ドメイン、b)膜貫通ドメイン及びc)1つ又は複数の抗原結合領域を含む細胞外ドメインを含む。
【0109】
いくつかの実施形態では、操作された抗原受容体は、活性化若しくは刺激CAR、共刺激CAR(国際公開第2014/055668号パンフレット参照)及び/又は阻害性CAR(iCAR、Fedorov et al.,2013参照)を含むCARを含む。CARは一般に、いくつかの態様では、リンカー及び/又は膜貫通ドメインを介して、1つ又は複数の細胞内シグナル伝達成分に連結された細胞外抗原(又はリガンド)結合ドメインを含む。そのような分子は、典型的には、天然抗原受容体を通じたシグナル、共刺激受容体と組み合わせたそのような受容体を通じたシグナル及び/又は共刺激受容体単独を通じたシグナルを模倣するか又は近似する。
【0110】
本開示の特定の実施形態は、細胞内シグナル伝達ドメイン、膜貫通ドメイン及び1つ又は複数のシグナル伝達モチーフを含む細胞外ドメインを含む、免疫原性を低下させるためにヒト化されたCAR(hCAR)を含む、抗原特異的CARポリペプチドをコードする核酸を含む核酸の使用に関する。特定の実施形態では、CARは、1つ又は複数の抗原間の共有空間を含むエピトープを認識し得る。特定の実施形態では、結合領域は、モノクローナル抗体の相補性決定領域、モノクローナル抗体の可変領域及び/又はその抗原結合断片を含み得る。別の実施形態では、その特異性は、受容体に結合するペプチド(例えばサイトカイン)に由来する。
【0111】
ヒトCAR核酸は、ヒト患者に対する細胞免疫療法を促進するために使用されるヒト遺伝子であり得ることが企図される。特定の実施形態では、本発明は、全長CAR cDNA又はコード領域を含む。抗原結合領域又はドメインは、特定のヒトモノクローナル抗体に由来する一本鎖可変断片(scFv)のV鎖及びV鎖の断片、例えば、参照により本明細書中に組み込まれる米国特許第7,109,304号明細書に記載されるものなどを含み得る。断片はまた、ヒト抗原特異的抗体の何れかの数の異なる抗原結合ドメインでもあり得る。より具体的な実施形態では、断片は、ヒト細胞における発現のためのヒトコドン使用に最適化される配列によってコードされる抗原特異的scFvである。
【0112】
配置は、ダイアボディ又は多量体などの多量体性であり得る。多量体は、軽鎖及び重鎖の可変部分のダイアボディへの交差対合によって形成される可能性が最も高い。コンストラクトのヒンジ部分は、完全に欠失しているものから、第1のシステインが維持されるもの、セリン置換ではなくプロリンになるもの、第1のシステインまで切断されるものまで、複数の選択肢を有し得る。Fc部分は欠失させ得る。安定である、及び/又は二量体化するあらゆるタンパク質がこの目的を果たし得る。Fcドメインの1つのみ、例えばヒト免疫グロブリン由来のCH2又はCH3ドメインの何れかを使用し得る。二量体化を改善するように改変されているヒト免疫グロブリンのヒンジ、CH2及びCH3領域も使用し得る。免疫グロブリンのヒンジ部分のみも使用し得る。CD8αの一部も使用し得る。
【0113】
いくつかの実施形態では、CAR核酸は、膜貫通ドメイン及び改変されたCD28細胞内シグナル伝達ドメインなどの他の共刺激受容体をコードする配列を含む。他の共刺激受容体としては、CD28、CD27、OX-40(CD134)、DAP10、DAP12及び4-1BB(CD137)の1つ又は複数が挙げられるが限定されない。CD3ζによって開始される一次シグナルに加えて、ヒトCARに挿入されたヒト共刺激受容体によって提供されるさらなるシグナルは、T細胞の完全な活性化のために重要であり、インビボ持続性及び養子免疫療法の治療的成功を改善するのに役立ち得る。
【0114】
いくつかの実施形態では、CARは、特定の抗原(又はマーカー若しくはリガンド)、例えば養子療法によって標的とされるべき特定の細胞型で発現される抗原、例えば癌マーカー、及び/又は抑制する応答を誘導することを意図した抗原、例えば正常若しくは非疾患細胞型で発現される抗原など、に対する特異性とともに構築される。従って、CARは、典型的には、その細胞外部分において、1つ又は複数の抗原結合断片、ドメイン若しくは部分、又は1つ又は複数の抗体可変ドメイン、及び/又は抗体分子などの1つ又は複数の抗原結合分子を含む。いくつかの実施形態では、CARは、モノクローナル抗体(mAb)の可変重鎖(VH)及び可変軽鎖(VL)に由来する単鎖抗体断片(scFv)などの抗体分子の抗原結合部分(単数又は複数)を含む。
【0115】
キメラ抗原受容体の特定の実施形態では、受容体の抗原特異的部分(抗原結合領域を含む細胞外ドメインと呼ばれ得る)は、腫瘍関連抗原又は病原体特異的抗原結合ドメインを含む。抗原には、デクチン-1など、パターン認識受容体によって認識される炭水化物抗原が含まれる。腫瘍関連抗原は、腫瘍細胞の細胞表面に発現されるものである限り、どのような種類であってもよい。腫瘍関連抗原の例示的な実施形態としては、CD19、CD20、癌胎児性抗原、アルファフェトプロテイン、CA-125、MUC-1、CD56、EGFR、c-Met、AKT、Her2、Her3、上皮腫瘍抗原、メラノーマ関連抗原、変異型p53、変異型rasなどが挙げられる。特定の実施形態では、CARは、腫瘍関連抗原が少量存在する場合、持続性を改善するためにサイトカインと同時発現され得る。例えば、CARは、IL-7、IL-2、IL-15、IL-12、IL-18、IL-21又はそれらの組み合わせなどの1つ又は複数のサイトカインと同時発現され得る。
【0116】
キメラレセプターをコードするオープンリーディングフレームの配列は、ゲノムDNA起源、cDNA起源から得ることができるか、または合成することができるか(例えば、PCRを介して)、またはそれらの組み合わせであり得る。イントロンはmRNAを安定化すると見出されているので、ゲノムDNAのサイズおよびイントロンの数に応じて、cDNAまたはそれらの組み合わせを使用することが望ましい場合がある。また、mRNAを安定化するために内在性または外来性の非コード領域を使用することもさらに有益であり得る。
【0117】
上記キメラ構築物は、裸のDNAとしてまたは好適なベクターに入った状態で免疫細胞に導入され得ることが企図される。裸のDNAを用いたエレクトロポレーションによって細胞を安定的にトランスフェクトする方法は、当該分野で公知である。例えば、米国特許第6,410,319号を参照のこと。裸のDNAとは、一般に、発現にとって適切な向きでプラスミド発現ベクターに含められたキメラレセプターをコードするDNAのことを指す。
【0118】
あるいは、キメラ構築物を免疫細胞に導入するために、ウイルスベクター(例えば、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターまたはレンチウイルスベクター)を用いることができる。本開示の方法に従って使用するのに適したベクターは、免疫細胞において非複製性のベクターである。ウイルスに基づくベクターが多数知られており(例えば、HIV、SV40、EBV、HSVまたはBPVに基づくベクター)、細胞内に維持されるそのウイルスのコピー数は、その細胞の生存能を維持するほど十分低い。
【0119】
いくつかの態様において、抗原に特異的に結合する構成要素または抗原特異的認識構成要素は、1つ以上の膜貫通ドメインおよび細胞内のシグナル伝達ドメインに連結される。いくつかの実施形態において、上記CARは、CARの細胞外ドメインに融合された膜貫通ドメインを含む。1つの実施形態において、そのCARにおけるドメインの1つと天然に会合する膜貫通ドメインが使用される。いくつかの場合において、その膜貫通ドメインは、レセプター複合体の他のメンバーとの相互作用を最小限に抑えるためにそのようなドメインが同じまたは異なる表面膜タンパク質の膜貫通ドメインに結合するのを回避するように、選択されるかまたはアミノ酸置換によって改変される。
【0120】
膜貫通ドメインは、いくつかの実施形態において、天然起源または合成起源に由来する。起源が天然である場合、そのドメインは、いくつかの態様において、任意の膜結合型タンパク質または膜貫通タンパク質に由来する。膜貫通領域は、T細胞レセプターのアルファ鎖、ベータ鎖またはゼータ鎖、CD28、CD3ゼータ、CD3イプシロン、CD3ガンマ、CD3デルタ、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD154、ICOS/CD278、GITR/CD357、NKG2DおよびDAP分子に由来する(すなわち、それらの分子の膜貫通領域を少なくとも含む)膜貫通領域を含む。あるいは、膜貫通ドメインは、いくつかの実施形態において、合成の膜貫通ドメインである。いくつかの態様において、合成の膜貫通ドメインは、ロイシンおよびバリンなどの疎水性残基を主に含む。いくつかの態様では、フェニルアラニン、トリプトファンおよびバリンのトリプレットが、合成の膜貫通ドメインの各末端に見られる。
【0121】
ある特定の実施形態において、T細胞などの免疫細胞を遺伝的に改変するための本明細書中に開示されるプラットフォーム技術としては、(i)エレクトロポレーションデバイス(例えば、ヌクレオフェクター)を用いた非ウイルス遺伝子導入、(ii)エンドドメイン(例えば、CD28/CD3-ζ、CD137/CD3-ζまたは他の組み合わせ)を介してシグナル伝達するCAR、(iii)長さが不定の細胞外ドメインであって抗原認識ドメインを細胞表面に接続する細胞外ドメインを有するCAR、およびいくつかの場合では、(iv)CAR免疫細胞を頑強かつ数値的に拡大することができる、K562に由来する人工抗原提示細胞(aAPC)(Singh et al.,2008;Singh et al.,2011)が挙げられる。
B.T細胞レセプター(TCR)
【0122】
特定の実施形態において、操作されたT細胞は、そのT細胞が、その天然の内因性TCRと比較して、非天然のTCRを発現する、開示された方法を用いて製造される。いくつかの実施形態において、遺伝的に操作された抗原レセプターには、組換えTCR、および/または天然に存在するT細胞からクローニングされたTCRが含まれる。「T細胞レセプター」または「TCR」とは、可変a鎖および可変β鎖(それぞれTCRαおよびTCRβとしても知られる)または可変γ鎖および可変δ鎖(それぞれTCRγおよびTCRδとしても知られる)を含む分子であって、MHCレセプターに結合した抗原ペプチドに特異的に結合することができる分子のことを指す。いくつかの実施形態において、TCRは、αβ型である。
【0123】
通常、αβ型およびγδ型として存在するTCRは、一般に構造が似ているが、それらを発現しているT細胞は、解剖学的位置または機能が異なり得る。TCRは、細胞表面上にまたは可溶型として見られ得る。一般に、TCRは、T細胞(またはTリンパ球)の表面上に見られ、通常、その表面上で、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子に結合した抗原の認識に関与する。いくつかの実施形態において、TCRは、定常ドメイン、膜貫通ドメイン、および/または短い細胞質テイルも含み得る(例えば、Janeway et al,1997を参照のこと)。例えば、いくつかの態様において、TCRの各鎖は、1つのN末端免疫グロブリン可変ドメイン、1つの免疫グロブリン定常ドメイン、膜貫通領域、およびC末端に短い細胞質テイルを有し得る。いくつかの実施形態において、TCRは、シグナル伝達の媒介に関わるCD3複合体のインバリアントタンパク質と会合される。別段述べられない限り、用語「TCR」は、その機能的TCRフラグメントを包含すると理解されるべきである。この用語は、αβ型またはγδ型のTCRをはじめとしたインタクトなまたは完全長のTCRも包含する。
【0124】
したがって、本明細書中の目的では、TCRへの言及には、任意のTCRまたは機能的フラグメント(例えば、MHC分子において結合した特異的な抗原ペプチド、すなわち、MHC-ペプチド複合体に結合するTCRの抗原結合部分)が含まれる。交換可能に使用され得る、TCRの「抗原結合部分」または抗原結合フラグメントとは、TCRの構造ドメインの一部しか含まないが、完全なTCRが結合する抗原(例えば、MHC-ペプチド複合体)に結合する分子のことを指す。いくつかの場合において、抗原結合部分は、特異的なMHC-ペプチド複合体に結合するための結合部位を形成するのに十分なTCRの可変ドメイン(例えば、TCRの可変a鎖および可変β鎖)を含み、例えば一般に、各鎖が3つの相補性決定領域を含む。
【0125】
いくつかの実施形態において、TCR鎖の可変ドメインは、会合してループ、または免疫グロブリンに類似の相補性決定領域(CDR)を形成し、それにより、抗原認識がもたらされ、TCR分子の結合部位を形成することによってペプチド特異性が決定され、ペプチド特異性が決定される。通常、免疫グロブリンと同様に、CDRは、フレームワーク領域(FR)によって隔てられる(例えば、Jores et al.,1990;Chothia et al.,1988;Lefranc et al.,2003を参照のこと)。いくつかの実施形態において、CDR3は、プロセシングされた抗原の認識に関与する主要なCDRであるが、アルファ鎖のCDR1は、抗原ペプチドのN末端部と相互作用するとも示されているのに対して、ベータ鎖のCDR1は、そのペプチドのC末端部と相互作用する。CDR2は、MHC分子を認識すると考えられている。いくつかの実施形態において、β鎖の可変領域は、さらなる超可変性(HV4)領域を含み得る。
【0126】
いくつかの実施形態において、TCR鎖は、定常ドメインを含む。例えば、免疫グロブリンと同様に、TCR鎖の細胞外の部分(例えば、a鎖、β鎖)は、2つの免疫グロブリンドメインである、N末端における可変ドメイン(例えば、VまたはVp;通常、KabatナンバリングであるKabat et al.,”Sequences of Proteins of Immunological Interest,US Dept.Health and Human Services,Public Health Service National Institutes of Health,1991,5th ed.に基づくアミノ酸1~116)、および細胞膜に隣接した1つの定常ドメイン(例えば、a鎖定常ドメインまたはC、通常、Kabatに基づくアミノ酸117~259、β鎖定常ドメインまたはCp、通常、Kabatに基づくアミノ酸117~295)を含み得る。例えば、いくつかの場合、それらの2本の鎖によって形成されるTCRの細胞外の部分は、2つの膜近位定常ドメイン、およびCDRを含む2つの膜遠位可変ドメインを含む。TCRドメインの定常ドメインは、システイン残基がジスルフィド結合を形成する短い接続配列を含み、それにより、それらの2本の鎖の間に連結が形成される。いくつかの実施形態では、TCRが、定常ドメインに2つのジスルフィド結合を含むように、そのTCRは、α鎖およびβ鎖の各々に追加のシステイン残基を有してもよい。
【0127】
いくつかの実施形態において、TCR鎖は、膜貫通ドメインを含み得る。いくつかの実施形態において、膜貫通ドメインは、正に帯電している。いくつかの場合において、TCR鎖は、細胞質テイルを含む。いくつかの場合において、その構造のおかげで、TCRはCD3のような他の分子と会合することができる。例えば、膜貫通領域とともに定常ドメインを含むTCRは、そのタンパク質を細胞膜に固定し得、CD3シグナル伝達装置または複合体のインバリアントサブユニットと会合し得る。
【0128】
一般に、CD3は、哺乳動物においては3つの異なる鎖(γ、δおよびε)およびζ鎖を有し得る多タンパク質複合体である。例えば、哺乳動物では、この複合体は、CD3γ鎖、CD3δ鎖、2つのCD3ε鎖、およびホモ二量体のCD3ζ鎖を含み得る。CD3γ鎖、CD3δ鎖およびCD3ε鎖は、単一の免疫グロブリンドメインを含む免疫グロブリンスーパーファミリーの高度に関連した細胞表面タンパク質である。CD3γ鎖、CD3δ鎖およびCD3ε鎖の膜貫通領域は、負に帯電しており、これは、これらの鎖が、正に帯電したT細胞レセプター鎖と会合できるようにする特性である。CD3γ鎖、CD3δ鎖およびCD3ε鎖の各細胞内テイルは、免疫受容活性化チロシンモチーフまたはITAMとして知られる保存された単一のモチーフを含むのに対して、各CD3ζ鎖は、3つ含む。一般に、ITAMは、TCR複合体のシグナル伝達能に関わる。これらのアクセサリー分子は、負に帯電した膜貫通領域を有し、TCRから細胞へのシグナルの伝播において役割を果たす。CD3鎖およびζ鎖は、TCRと一体となって、T細胞レセプター複合体として知られる複合体を形成する。
【0129】
いくつかの実施形態では、TCRは、2本の鎖α及びβ(又は任意選択的にγ及びδ)のヘテロ二量体であり得るか、又は単鎖TCRコンストラクトであり得る。いくつかの実施形態では、TCRは、ジスルフィド結合(単数又は複数)などによって連結される2つの別個の鎖(α及びβ鎖又はγ及びδ鎖)を含有するヘテロ二量体である。いくつかの実施形態では、標的抗原(例えば癌抗原)に対するTCRが同定され、細胞に導入される。いくつかの実施形態では、TCRをコードする核酸は、公開されているTCR DNA配列のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅などによって、様々な供給源から得ることができる。いくつかの実施形態では、TCRは、生物学的供給源から、例えばT細胞(例えば細胞傷害性T細胞)、T細胞ハイブリドーマ又は他の公開されている供給源などの細胞から得られる。いくつかの実施形態では、T細胞はインビボの単離細胞から得ることができる。いくつかの実施形態では、高親和性T細胞クローンを患者から単離し、TCRを単離し得る。いくつかの実施形態では、T細胞は培養T細胞ハイブリドーマ又はクローンであり得る。いくつかの実施形態では、標的抗原に対するTCRクローンは、ヒト免疫系遺伝子(例えば、ヒト白血球抗原系又はHLA)で操作されたトランスジェニックマウスにおいて作製されている。例えば、腫瘍抗原(例えばParkhurst et al.,2009及びCohen et al.,2005を参照されたい)を参照のこと。いくつかの実施形態では、ファージディスプレイを使用して、標的抗原(例えばVarela-Rohena et al.,2008及びLi et al.,2005を参照のこと)に対するTCRを単離する。いくつかの実施形態では、TCR又はその抗原結合部分は、TCRの配列の知識から合成により作製され得る。
C.抗原
【0130】
遺伝子操作された異種抗原受容体によって標的化される抗原の中には、養子細胞療法を介して標的化しようとする疾患、状態又は細胞型に関連して発現されるものがある。疾患及び状態の中には、血液癌、免疫系の癌、例えばリンパ腫、白血病及び/又は骨髄腫、例えばB、T及び骨髄性白血病、リンパ腫及び多発性骨髄腫を含む癌及び腫瘍を含む、増殖性、新生物性及び悪性の疾患及び障害がある。いくつかの実施形態では、抗原は、正常又は非標的細胞若しくは組織と比較した場合、疾患又は状態の細胞、例えば腫瘍又は病原性細胞上で選択的に発現されるか又は過剰発現される。いくつかの実施形態では、疾患及び状態は、ウイルス感染などの感染性疾患である。他の実施形態では、抗原は正常細胞上で発現され、及び/又は操作された細胞上で発現される。
【0131】
本方法では、あらゆる適切な抗原を標的とし得る。抗原は、いくつかの場合、ある特定の癌細胞に関連し得るが、非癌性細胞には関連し得ない。例示的な抗原としては、感染因子由来の抗原性分子、自己抗原/自己の抗原、腫瘍/癌関連抗原及び腫瘍ネオアンチゲンが挙げられるが限定されない(Linnemann et al.,2015)。特定の態様では、抗原としては、NY-ESO、EGFRvIII、Muc-1、Her 2、CA-125、WT-1、Mage-A3、Mage-A4、Mage-A10、TRAIL/DR4及びCEAが挙げられる。特定の態様では、2つ以上の抗原受容体に対する抗原としては、CD19、EBNA、WT1、CD123、NY-ESO、EGFRvIII、MUC1、HER2、CA-125、WT1、Mage-A3、Mage-A4、Mage-A10、TRAIL/DR4及び/又はCEAが挙げられるが限定されない。これらの抗原の配列は、当技術分野で公知であり、例えば、GenBank(登録商標)データベース:CD19(受託番号NG_007275.1)、EBNA(受託番号NG_002392.2)、WT1(受託番号NG_009272.1)、CD123(受託番号NC_000023.11)、NY-ESO(受託番号NC_000023.11)、EGFRvIII(受託番号NG_007726.3)、MUC1(受託番号NG_029383.1)、HER2(受託番号NG_007503.1)、CA-125(受託番号NG_055257.1)、WT1(受託番号NG_009272.1)、Mage-A3(受託番号NG_013244.1)、Mage-A4(受託番号NG_013245.1)、Mage-A10(受託番号NC_000023.11)、TRAIL/DR4(受託番号NC_000003.12)及び/又はCEA(受託番号NC_000019.10)である。
【0132】
腫瘍関連抗原は、例として、前立腺癌、乳癌、結腸直腸癌、肺癌、膵臓癌、腎臓癌、中皮腫、卵巣癌、肝臓癌、脳癌、骨癌、胃癌、脾臓癌、精巣癌、子宮頸癌、肛門癌、胆嚢癌、甲状腺癌又はメラノーマに由来し得る。例示的な腫瘍関連抗原又は腫瘍細胞由来抗原としては、MAGE 1、3及びMAGE 4(又は国際公開第99/40188号に開示されているものなどの他のMAGE抗原);PRAME;BAGE;RAGE、Lage(NY ESO1としても知られている);SAGE;及びHAGE又はGAGEが挙げられる。腫瘍抗原のこれらの非限定的な例は、メラノーマ、肺癌腫、肉腫及び膀胱癌などの広範囲の腫瘍型で発現される。例えば、米国特許第6,544,518号明細書を参照されたい。前立腺癌腫瘍関連抗原としては、例えば、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、前立腺特異的抗原(PSA)、前立腺酸性ホスファート、NKX3.1及び前立腺の6回膜貫通上皮抗原(STEAP)が挙げられる。
【0133】
他の腫瘍関連抗原としては、Plu-1、HASH-1、HasH-2、Cripto及びCriptinが挙げられる。さらに、腫瘍抗原は、自己ペプチドホルモン、例えば、多くの癌の治療に有用な短い10アミノ酸長のペプチドである全長ゴナドトロピンホルモン放出ホルモン(GnRH)であり得る。
【0134】
腫瘍抗原としては、HER-2/neu発現などの腫瘍関連抗原発現を特徴とする癌に由来する腫瘍抗原が挙げられる。関心のある腫瘍関連抗原としては、系統特異的腫瘍抗原、例えば、メラノサイト-メラノーマ系統抗原MART-1/Melan-A、gp100、gp75、mda-7、チロシナーゼ及びチロシナーゼ関連タンパク質が挙げられる。
【0135】
例示的な腫瘍関連抗原としては、CD19、EBNA、CD123、HER2、CA-125、TRAIL/DR4、CD20、CD70、癌胎児性抗原、アルファフェトプロテイン、CD56、AKT、Her3、上皮性腫瘍抗原、CD319(CS1)、ROR1、葉酸結合タンパク質、HIV-1エンベロープ糖タンパク質gp120、HIV-1エンベロープ糖タンパク質gp41、CD5、CD23、CD30、HERV-K、IL-11Rα、カッパ鎖、ラムダ鎖、CSPG4、CD33、CD47、CLL-1、U5snRNP200、CD200、BAFF-R、BCMA、CD99、p53、変異型p53、Ras、変異型ras、c-Myc、細胞質セリン/スレオニンキナーゼ(例えば、A-Raf、B-Raf及びC-Raf、サイクリン依存性キナーゼ)、MAGE-A1、MAGE-A2、MAGE-A3、MAGE-A4、MAGE-A6、MAGE-A10、MAGE-A12、MART-1、メラノーマ関連抗原、BAGE、DAM-6、-10、GAGE-1、-2、-8、GAGE-3、-4、-5、-6、-7B、NA88-A、MC1R、mda-7、gp75、Gp100、PSA、PSM、チロシナーゼ、チロシナーゼ関連タンパク質、TRP-1、TRP-2、ART-4、CAMEL、CEA、Cyp-B、hTERT、hTRT、iCE、MUC1、MUC2、ホスホイノシチド3-キナーゼ(PI3K)、TRK受容体、PRAME、P15、RU1、RU2、SART-1、SART-3、ウィルムス腫瘍抗原(WT1)、AFP、-カテニン/m、カスパーゼ-8/m、CDK-4/m、ELF2M、GnT-V、G250、HAGE、HSP70-2M、HST-2、KIAA0205、MUM-1、MUM-2、MUM-3、ミオシン/m、RAGE、SART-2、TRP-2/INT2、707-AP、アネキシンII、CDC27/m、TPI/mbcr-abl、BCR-ABL、インターフェロン調節因子4(IRF4)、ETV6/AML、LDLR/FUT、Pml/RAR、腫瘍関連カルシウムシグナル伝達因子1(TACSTD1)TACSTD2、受容体チロシンキナーゼ(例えば、上皮成長因子受容体(EGFR)(特にEGFRvIII)、血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)、血管内皮増殖因子受容体(VEGFR))、VEGFR2、細胞質チロシンキナーゼ(例えばsrcファミリー、syk-ZAP70ファミリー)、インテグリン結合キナーゼ(ILK)、転写のシグナル伝達因子及び活性化因子STAT3、STATS及びSTATE、低酸素誘導性因子(例えばHIF-1及びHIF-2)、核因子-カッパB(NF-B)、Notch受容体(例えばNotch1~4)、NY ESO1、c-Met、ラパマイシンの哺乳動物標的(mTOR)、WNT、細胞外シグナル調節されるキナーゼ(ERK)及びそれらの調節サブユニット、PMSA、PR-3、MDM2、メソテリン、腎細胞癌腫-5T4、SM22-アルファ、炭酸脱水酵素I(CAI)及びIX(CAIX)(G250としても知られる)、STEAD、TEL/AML1、GD2、プロテイナーゼ3、hTERT、肉腫転座切断点、EphA2、ML-IAP、EpCAM、ERG(TMPRSS 2 ETS融合遺伝子)、NA17、PAX3、ALK、アンドロゲン受容体、サイクリンB1、ポリシアル酸、MYCN、RhoC、GD3、フコシルGM1、メソテリアン(mesothelian)、PSCA、sLe、PLAC1、GM3、BORIS、Tn、GLoboH、NY-BR-1、RGsS、SAGE、SART3、STn、PAX5、OY-TES1、精子タンパク質17、LCK、HMWMAA、AKAP-4、SSX2、XAGE1、B7H3、レグマイン、TIE2、Page4、MAD-CT-1、FAP、MAD-CT-2、fos関連抗原1、CBX2、CLDN6、SPANX、TPTE、ACTL8、ANKRD30 A、CDKN2A、MAD2L1、CTAG1B、SUNC1及びLRRN1のうち何れか1つ又は複数に由来するか又はそれを含む腫瘍抗原が挙げられるが限定されない。
【0136】
抗原には、腫瘍細胞において変異した遺伝子由来の、または正常細胞と比べて腫瘍細胞において異なるレベルで転写される遺伝子由来の、エピトープ領域またはエピトープペプチド(例えば、テロメラーゼ酵素、サバイビン、メソテリン、変異型ras、bcr/abl再配列、Her2/neu、変異型または野生型p53、シトクロムP450 1B1、およびN-アセチルグルコサミン転移酵素-Vなどの異常に発現されるイントロン配列);ミエローマおよびB細胞リンパ腫においてユニークなイディオタイプを生成する免疫グロブリン遺伝子のクローン性再配列;オンコウイルスのプロセスに由来するエピトープ領域またはエピトープペプチドを含む腫瘍抗原(例えば、ヒトパピローマウイルスタンパク質E6およびE7);エプスタイン・バーウイルスタンパク質LMP2;腫瘍選択的に発現する変異していない腫瘍胎児性タンパク質(例えば、癌胎児抗原およびアルファ-フェトプロテイン)が含まれ得る。
【0137】
他の実施形態において、抗原は、病原性微生物または日和見病原性微生物(本明細書中で感染症微生物とも呼ばれる)(例えば、ウイルス、真菌、寄生生物および細菌)から得られるかまたはそれらに由来する。ある特定の実施形態において、そのような微生物に由来する抗原には、完全長タンパク質が含まれる。
【0138】
本明細書中に記載される方法において使用が企図される抗原を有する例証的な病原性生物としては、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、単純ヘルペスウイルス(HSV)、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、サイトメガロウイルス(CMV)、エプスタイン・バーウイルス(EBV)、インフルエンザA、BおよびC、水疱性口内炎ウイルス(VSV)、ポリオーマウイルス(例えば、BKウイルスおよびJCウイルス)、アデノウイルス、メチシリン耐性Staphylococcus aureus(MRSA)を含むブドウ球菌属の種、ならびにStreptococcus pneumoniaeを含む連鎖球菌属の種が挙げられる。当業者が理解するように、本明細書中に記載されるような抗原として使用するためのこれらおよび他の病原性微生物に由来するタンパク質、ならびにそれらのタンパク質をコードするヌクレオチド配列は、刊行物ならびにGENBANK(登録商標)、SWISS-PROT(登録商標)およびTREMBL(登録商標)などの公的データベースにおいて特定され得る。
【0139】
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に由来する抗原には、HIVビリオン構造タンパク質(例えば、gp120、gp41、p17、p24)、プロテアーゼ、逆転写酵素、またはtat、rev、nef、vif、vprおよびvpuによってコードされるHIVタンパク質のうちのいずれかが含まれる。
【0140】
単純ヘルペスウイルス(例えば、HSV1およびHSV2)に由来する抗原としては、HSV後期遺伝子から発現されるタンパク質が挙げられるが、これらに限定されない。後期群の遺伝子は、ビリオン粒子を形成するタンパク質を主にコードする。そのようなタンパク質としては、ウイルスカプシドを形成する(UL)の5つのタンパク質:UL6、UL18、UL35、UL38ならびに主要カプシドタンパク質UL19、UL45およびUL27が挙げられ、これらの各々が、本明細書中に記載されるような抗原として使用され得る。本明細書中で抗原としての使用が企図される他の例証的なHSVタンパク質としては、ICP27(H1、H2)、糖タンパク質B(gB)および糖タンパク質D(gD)タンパク質が挙げられる。HSVゲノムは、少なくとも74個の遺伝子を含み、その各々が、抗原として使用され得る可能性があるタンパク質をコードする。
【0141】
サイトメガロウイルス(CMV)に由来する抗原としては、CMV構造タンパク質、ウイルス複製の前初期および初期に発現されるウイルス抗原、糖タンパク質IおよびIII、カプシドタンパク質、コートタンパク質、低分子マトリックスタンパク質(lower matrix protein)pp65(ppUL83)、p52(ppUL44)、IE1および1E2(UL123およびUL122)、UL128~UL150の遺伝子クラスターのタンパク質産物(Rykman,et al.,2006)、エンベロープ糖タンパク質B(gB)、gH、gN、ならびにpp150が挙げられる。当業者が理解するように、本明細書中に記載される抗原として使用するためのCMVタンパク質は、GENBANK(登録商標)、SWISS-PROT(登録商標)およびTREMBL(登録商標)などの公的データベースにおいて特定され得る(例えば、Bennekov et al.,2004;Loewendorf et al.,2010;Marschall et al.,2009を参照のこと)。
【0142】
ある特定の実施形態において使用が企図されるエプスタイン・バンウイルス(EBV)に由来する抗原としては、EBV溶解性タンパク質gp350およびgp110、エプスタイン・バン核抗原(EBNA)-1、EBNA-2、EBNA-3A、EBNA-3B、EBNA-3C、EBNA-リーダータンパク質(EBNA-LP)、ならびに潜伏感染膜タンパク質(LMP)-1、LMP-2AおよびLMP-2Bを含む、潜伏感染サイクル中に生成されるEBVタンパク質が挙げられる(例えば、Lockey et al.,2008を参照のこと)。
【0143】
本明細書中で使用が企図される呼吸器合胞体ウイルス(RSV)に由来する抗原には、RSVゲノムによってコードされる11個のタンパク質またはそれらの抗原性フラグメント:NS1、NS2、N(ヌクレオカプシドタンパク質)、M(マトリックスタンパク質)SH、GおよびF(ウイルスコートタンパク質)、M2(第2のマトリックスタンパク質)、M2-1(伸長因子)、M2-2(転写制御)、RNAポリメラーゼ、ならびにリンタンパク質Pのうちのいずれかが含まれる。
【0144】
使用が企図される水疱性口内炎ウイルス(VSV)に由来する抗原には、VSVゲノムによってコードされる主要な5つのタンパク質およびそれらの抗原性フラグメント:巨大タンパク質(L)、糖タンパク質(G)、核タンパク質(N)、リンタンパク質(P)およびマトリックスタンパク質(M)のうちのいずれか1つが含まれる(例えば、Rieder et al.,1999を参照のこと)。
【0145】
ある特定の実施形態において使用が企図されるインフルエンザウイルスに由来する抗原としては、赤血球凝集素(HA)、ノイラミニダーゼ(NA)、核タンパク質(NP)、マトリックスタンパク質M1およびM2、NS1、NS2(NEP)、PA、PB1、PB1-F2、ならびにPB2が挙げられる。
【0146】
COVID-19由来の抗原には、構造タンパク質であるスパイク(S)、膜(M)、エンベロープ(E)およびヌクレオキャプシド(N)、ならびに非構造タンパク質が含まれる。
【0147】
例示的なウイルス抗原としては、アデノウイルスのポリペプチド、アルファウイルスのポリペプチド、カリシウイルスのポリペプチド(例えば、カリシウイルスのカプシド抗原)、コロナウイルスのポリペプチド、ジステンパーウイルスのポリペプチド、エボラウイルスのポリペプチド、エンテロウイルスのポリペプチド、フラビウイルスのポリペプチド、肝炎ウイルス(AE)のポリペプチド(B型肝炎のコアまたは表面抗原、C型肝炎ウイルスのE1もしくはE2糖タンパク質、コアまたは非構造タンパク質)、ヘルペスウイルスのポリペプチド(単純ヘルペスウイルスまたは水痘帯状疱疹ウイルスの糖タンパク質を含む)、感染性腹膜炎ウイルスのポリペプチド、白血病ウイルスのポリペプチド、マールブルグウイルスのポリペプチド、オルトミクソウイルスのポリペプチド、パピローマウイルスのポリペプチド、パラインフルエンザウイルスのポリペプチド(例えば、赤血球凝集素ポリペプチドおよびノイラミニダーゼポリペプチド)、パラミクソウイルスのポリペプチド、パルボウイルスのポリペプチド、ペスチウイルスのポリペプチド、ピコルナウイルスのポリペプチド(例えば、ポリオウイルスのカプシドポリペプチド)、ポックスウイルスのポリペプチド(例えば、ワクシニアウイルスのポリペプチド)、狂犬病ウイルスのポリペプチド(例えば、狂犬病ウイルスの糖タンパク質G)、レオウイルスのポリペプチド、レトロウイルスのポリペプチド、およびロタウイルスのポリペプチドも挙げられるが、これらに限定されない。
【0148】
ある特定の実施形態において、抗原は、細菌抗原であり得る。ある特定の実施形態において、目的の細菌抗原は、分泌型ポリペプチドであり得る。他のある特定の実施形態において、細菌抗原には、細菌の細胞外面上に露出したポリペプチドの一部を有する抗原が含まれる。
【0149】
使用が企図される、メチシリン耐性Staphylococcus aureus(MRSA)を含むブドウ球菌属の種に由来する抗原としては、ビルレンス制御因子、例えば、Agrシステム、SarおよびSae、Arlシステム、Sarホモログ(Rot、MgrA、SarS、SarR、SarT、SarU、SarV、SarX、SarZおよびTcaR)、SrrシステムならびにTRAPが挙げられる。抗原として役立ち得る他のブドウ球菌属のタンパク質としては、Clpタンパク質、HtrA、MsrR、アコニターゼ、CcpA、SvrA、Msa、CfvAおよびCfvBが挙げられる(例えば、Staphylococcus:Molecular Genetics,2008 Caister Academic Press,Ed.Jodi Lindsayを参照のこと)。Staphylococcus aureusの2種(N315およびMu50)のゲノムが、配列決定済みであり、例えば、PATRIC(PATRIC:The VBI PathoSystems Resource Integration Center,Snyder et al.,2007)において公的に入手可能である。当業者が理解するように、抗原として使用するためのブドウ球菌属のタンパク質は、GenBank(登録商標)、Swiss-Prot(登録商標)およびTrEMBL(登録商標)などの他の公的データベースにおいても特定され得る。
【0150】
本明細書中に記載されるある特定の実施形態において使用が企図されるStreptococcus pneumoniaeに由来する抗原としては、ニューモリシン、PspA、コリン結合タンパク質A(CbpA)、NanA、NanB、SpnHL、PavA、LytA、Phtおよびピリンタンパク質(RrgA;RrgB;RrgC)が挙げられる。Streptococcus pneumoniaeの抗原性タンパク質も、当該分野で公知であり、いくつかの実施形態において抗原として使用され得る(例えば、Zysk et al.,2000を参照のこと)。Streptococcus pneumoniaeの毒性株の全ゲノム配列は、配列決定済みであり、当業者が理解するように、本明細書中で使用するためのS.pneumoniaeタンパク質は、GENBANK(登録商標)、SWISS-PROT(登録商標)およびTREMBL(登録商標)などの他の公的データベースにおいても特定され得る。本開示に係る抗原として特に興味深いタンパク質としては、肺炎球菌の表面に露出すると予測される病原性因子およびタンパク質が挙げられる(例えば、Frolet et al.,2010を参照のこと)。
【0151】
抗原として使用され得る細菌抗原の例としては、アクチノマイセス属のポリペプチド、バチルス属のポリペプチド、バクテロイデス属のポリペプチド、ボルデテラ属のポリペプチド、バルトネラ属のポリペプチド、ボレリア属のポリペプチド(例えば、B.burgdorferi OspA)、ブルセラ属のポリペプチド、カンピロバクター属のポリペプチド、キャプノサイトファーガ属のポリペプチド、クラミジア属のポリペプチド、コリネバクテリウム属のポリペプチド、コクシエラ属のポリペプチド、デルマトフィルス属のポリペプチド、エンテロコッカス属のポリペプチド、エーリキア属のポリペプチド、エシェリキア属のポリペプチド、フランシセラ属のポリペプチド、フソバクテリウム属のポリペプチド、ヘモバルトネラ属のポリペプチド、ヘモフィルス属のポリペプチド(例えば、H.influenzae b型外膜タンパク質)、ヘリコバクター属のポリペプチド、クレブシエラ属のポリペプチド、L型細菌のポリペプチド、レプトスピラ属のポリペプチド、リステリア属のポリペプチド、マイコバクテリウム属のポリペプチド、マイコプラズマ属のポリペプチド、ナイセリア属のポリペプチド、ネオリケッチア属のポリペプチド、ノカルジア属のポリペプチド、パスツレラ属のポリペプチド、ペプトコッカス属のポリペプチド、ペプトストレプトコッカス属のポリペプチド、肺炎球菌のポリペプチド(すなわち、S.pneumoniaeのポリペプチド)、プロテウス属のポリペプチド、シュードモナス属のポリペプチド、リケッチア属のポリペプチド、ロシャリメア属のポリペプチド、サルモネラ属のポリペプチド、シゲラ属のポリペプチド、ブドウ球菌属のポリペプチド、A群連鎖球菌のポリペプチド(例えば、S.pyogenesのMタンパク質)、B群連鎖球菌(S.agalactiae)のポリペプチド、トレポネーマ属のポリペプチド、およびエルシニア属のポリペプチド(例えば、Y pestisのF1およびV抗原)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0152】
真菌抗原の例としては、アブシディア属のポリペプチド、アクレモニウム属のポリペプチド、アルテルナリア属のポリペプチド、アスペルギルス属のポリペプチド、バシジオボラス属のポリペプチド、ビポラーリス属のポリペプチド、ブラストミセス属のポリペプチド、カンジダ属のポリペプチド、コクシジオイデス属のポリペプチド、コニディオボラス属のポリペプチド、クリプトコッカス属のポリペプチド、カーバラリア属のポリペプチド、エピデルモフィトン属のポリペプチド、エクソフィアラ属のポリペプチド、ゲオトリクム属のポリペプチド、ヒストプラズマ属のポリペプチド、マヅレラ属のポリペプチド、マラセチア属のポリペプチド、ミクロスポルム属のポリペプチド、モニリエラ属のポリペプチド、モルチエレラ属のポリペプチド、ケカビ属のポリペプチド、ペシロマイセス属のポリペプチド、ペニシリウム属のポリペプチド、フィアレモニウム属(Phialemonium)のポリペプチド、フィアロフォラ属のポリペプチド、プロトテカ属のポリペプチド、シュードアレシェリア属のポリペプチド、シュードミクロドキウム属(Pseudomicrodochium)のポリペプチド、フィチウム属のポリペプチド、リノスポリジウム属のポリペプチド、クモノスカビ属のポリペプチド、スコレコバシジウム属(Scolecobasidium)のポリペプチド、スポロトリクス属のポリペプチド、ステンフィリウム属(Stemphylium)のポリペプチド、白癬菌属のポリペプチド、トリコスポロン属のポリペプチドおよびキシロヒファ属(Xylohypha)のポリペプチドが挙げられるが、これらに限定されない。
【0153】
原生動物の寄生生物抗原の例としては、バベシア属のポリペプチド、バランチジウム属のポリペプチド、ベスノイチア属(Besnoitia)のポリペプチド、クリプトスポリジウム属のポリペプチド、エイメリア属のポリペプチド、エンセファリトゾーン属のポリペプチド、エントアメーバ属のポリペプチド、ジアルジア属のポリペプチド、ハモンディア属(Hammondia)のポリペプチド、ヘパトゾーン属のポリペプチド、イソスポラ属のポリペプチド、リーシュマニア属のポリペプチド、微胞子虫門のポリペプチド、ネオスポラ属のポリペプチド、ノゼマ属のポリペプチド、ペンタトリコモナス属のポリペプチド、プラスモディウム属のポリペプチドが挙げられるが、これらに限定されない。蠕虫寄生生物抗原の例としては、アカントケイロネマ属のポリペプチド、アエルロストロンギルウス属(Aelurostrongylus)のポリペプチド、鉤虫属のポリペプチド、住血線虫属のポリペプチド、回虫属のポリペプチド、ブルギア属のポリペプチド、ブノストムム属のポリペプチド、キャピラリア属のポリペプチド、カベルチア属(Chabertia)のポリペプチド、クーペリア属のポリペプチド、クレノソマ属(Crenosoma)のポリペプチド、ディクチオカウルス属のポリペプチド、ジオクトフィーメ属のポリペプチド、ディペタロネマ属のポリペプチド、裂頭条虫属のポリペプチド、ジプリジウム属のポリペプチド、イヌ糸状虫属のポリペプチド、ドラクンクルス属のポリペプチド、エンテロビウス属のポリペプチド、フィラロイデス属(Filaroides)のポリペプチド、ヘモンクス属のポリペプチド、ラゴキラスカリス属(Lagochilascaris)のポリペプチド、ロア糸状虫属(Loa)のポリペプチド、マンソネラ属のポリペプチド、ムエレリウス属(Muellerius)のポリペプチド、ナノフィエツス属(Nanophyetus)のポリペプチド、アメリカ鉤虫属のポリペプチド、ネマトジルス属のポリペプチド、腸結節虫属のポリペプチド、オンコセルカ属のポリペプチド、オピストルキス属のポリペプチド、オステルタギア属のポリペプチド、パラフィラリア属(Parafilaria)のポリペプチド、肺吸虫属のポリペプチド、パラスカリス属(Parascaris)のポリペプチド、フィサロプテラ属のポリペプチド、プロトストロンギルス属(Protostrongylus)のポリペプチド、セタリア属のポリペプチド、スピロセルカ属(Spirocerca)のポリペプチド スピロメトラ属のポリペプチド、ステファノフィラリア属のポリペプチド、ストロンギロイデス属のポリペプチド、ストロンギルス属のポリペプチド、テラジア属のポリペプチド、トキサスカリス属のポリペプチド、トキソカラ属のポリペプチド、旋毛虫属のポリペプチド、毛様線虫属のポリペプチド、鞭虫属のポリペプチド、ウンシナリア属のポリペプチドおよびウケレリア属のポリペプチド(例えば、P.falciparumのスポロゾイト周囲ポリペプチド(PfCSP))、スポロゾイト表面タンパク質2(PfSSP2)、肝臓状態抗原(liver state antigen)1のカルボキシル末端(PfLSA1 c末端)、ならびに搬出タンパク質1(PfExp-1)、ニューモシスチス属のポリペプチド、サルコシスティス属のポリペプチド、住血吸虫属のポリペプチド、タイレリア属のポリペプチド、トキソプラズマ属のポリペプチド、ならびにトリパノソーマ属のポリペプチドが挙げられるが、これらに限定されない。
【0154】
外寄生生物抗原の例としては、ノミ;カタダニおよびヒメダニを含むマダニ;ハエ、例えば、小虫、蚊、スナバエ、ブユ、ウマバエ、ノサシバエ、メクラアブ、ツェツェバエ、サシバエ、ハエ幼虫症の原因となるハエおよび刺して血を吸う小さな羽虫(biting gnats);アリ;クモ、シラミ;ダニ;ならびに半翅類の昆虫、例えば、トコジラミおよびサシガメのポリペプチド(抗原ならびにアレルゲンを含む)が挙げられるが、これらに限定されない。
D.自殺遺伝子
【0155】
いくつかの場合において、本開示の任意の細胞が、異種サイトカイン、操作されたレセプターなど以外の1つ以上の作用物質を産生するように改変される。具体的な実施形態において、T細胞などの細胞は、1つ以上の自殺遺伝子を有するように操作され、本明細書中で使用される用語「自殺遺伝子」は、プロドラッグが投与された際に、遺伝子産物が、宿主細胞を殺滅する化合物に変化する遺伝子と定義される。いくつかの場合において、T細胞療法は、T細胞療法を受けている個体および/またはT細胞療法を受けた個体が、1つ以上の有害事象の1つ以上の症状(例えば、サイトカイン放出症候群、神経毒性、アナフィラキシー/アレルギーおよび/またはオンターゲット/オフ腫瘍毒性(例として))を示したとき、または1つ以上の症状を有するリスクがあると考えられるとき(切迫した場合を含む)、任意の種類の1つ以上の自殺遺伝子の利用の対象となり得る。自殺遺伝子の使用は、治療のために計画されたプロトコルの一部であり得るか、またはそれを使用する必要性が認められたときにだけ使用され得る。いくつかの場合において、細胞療法は、もはや必要なくなったという理由で、自殺遺伝子またはその遺伝子産物を標的化する作用物質を使用することによって終結される。
【0156】
自殺遺伝子の例としては、操作された非分泌性(膜結合型を含む)の腫瘍壊死因子(TNF)-アルファ変異ポリペプチド(その全体が参照により本明細書中に援用されるPCT/US19/62009を参照のこと)が挙げられ、それらのポリペプチドは、TNF-アルファ変異体に結合する抗体の送達によって標的化され得る。使用され得る自殺遺伝子/プロドラッグの組み合わせの例は、単純ヘルペスウイルス-チミジンキナーゼ(HSV-tk)と、ガンシクロビル、アシクロビルまたはFIAU;オキシドレダクターゼとシクロヘキシミド;シトシンデアミナーゼと5-フルオロシトシン;チミジンキナーゼチミジル酸キナーゼ(Tdk::Tmk)とAZT;およびデオキシシチジンキナーゼとシトシンアラビノシドである。プロドラッグである6-メチルプリンデオキシリボシドを毒性のプリンである6-メチルプリンに変換するいわゆる自殺遺伝子であるE.coliのプリンヌクレオシドホスホリラーゼが使用され得る。他の自殺遺伝子としては、CD20、CD52、誘導性カスパーゼ9、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ(PNP)、シトクロムp450酵素(CYP)、カルボキシペプチダーゼ(CP)、カルボキシルエステラーゼ(CE)、ニトロ還元酵素(NTR)、グアニンリボシルトランスフェラーゼ(XGRTP)、グリコシダーゼ酵素、メチオニン-α,γ-リアーゼ(MET)およびチミジンホスホリラーゼ(TP)が例として挙げられる。
E.送達方法
【0157】
いくつかの実施形態では、T細胞は、1つ以上の異種タンパク質を発現するように修飾され、これらは、1つ以上のベクターによるものを含む任意の適切な方法によってT細胞に送達され得る。当業者であれば、本開示の抗原レセプターを発現させるために標準的な組換え手法(例えば、Sambrook et al.,2001およびAusubel et al.,1996(両方が参照により本明細書中に援用される)を参照のこと)によってベクターを構築する能力を充分に備えているだろう。ベクターとしては、プラスミド、コスミド、ウイルス(バクテリオファージ、動物ウイルスおよび植物ウイルス)および人工染色体(例えば、YAC)、例えば、レトロウイルスベクター(例えば、モロニーマウス白血病ウイルスベクター(MoMLV)、MSCV、SFFV、MPSV、SNVなどに由来するもの)、レンチウイルスベクター(例えば、HIV-1、HIV-2、SIV、BIV、FIVなどに由来するもの)、アデノウイルス(Ad)ベクター(その複製可能型、複製欠損型およびガットレス型(gutless forms)を含む)、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、サルウイルス40(SV-40)ベクター、ウシパピローマウイルスベクター、エプスタイン・バーウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、ハーベイマウス肉腫ウイルスベクター、マウス乳癌ウイルスベクター、ラウス肉腫ウイルスベクター、パルボウイルスベクター、ポリオウイルスベクター、水疱性口内炎ウイルスベクター、マラバウイルス(maraba virus)ベクターおよびB群アデノウイルスenadenotucirevベクターが挙げられるがこれらに限定されない。
【0158】
具体的な実施形態において、ベクターは、PCT/US19/62014(その全体が参照により本明細書中に援用される)に記載されているようなマルチシストロニックベクターである。そのような場合、単一のベクターが、CARまたはTCR(その発現構築物は、CARまたはTCRの部分の相互交換を可能にするためにモジュール形式で構成され得る)、自殺遺伝子および1つ以上のサイトカインをコードし得る。
1.ウイルスベクター
【0159】
抗原レセプターをコードするウイルスベクターが、本開示のある特定の態様において提供され得る。組換えウイルスベクターを作製する際、必須ではない遺伝子は、通常、異種(または非天然)タンパク質の遺伝子またはコード配列で置き換えられる。ウイルスベクターは、ウイルス配列を利用して、核酸および場合によってはタンパク質を細胞に導入する一種の発現構築物である。ある特定のウイルスが細胞に感染する能力またはレセプター媒介性のエンドサイトーシスを介して細胞に侵入する能力、および宿主細胞のゲノムにインテグレートし、ウイルス遺伝子を安定かつ効率的に発現する能力によって、それらのウイルスが、外来核酸を細胞(例えば、哺乳動物細胞)に移行させるための魅力的な候補になった。本発明のある特定の態様の核酸を送達するために使用され得るウイルスベクターの非限定的な例を下記に記載する。
【0160】
レンチウイルスは、複雑なレトロウイルスであり、一般的なレトロウイルス遺伝子であるgag、polおよびenvに加えて、調節機能または構造機能を有する他の遺伝子も含む。レンチウイルスベクターは、当該分野で周知である(例えば、米国特許第6,013,516号および同第5,994,136号を参照のこと)。
【0161】
組換えレンチウイルスベクターは、非分裂細胞に感染することができ、インビボとエキソビボの両方において遺伝子導入および核酸配列発現のために使用され得る。例えば、非分裂細胞に感染することができる組換えレンチウイルス(ここで、好適な宿主細胞が、パッケージング機能を有する2つ以上のベクター、すなわちgag、polおよびenv、ならびにrevおよびtatでトランスフェクトされる)は、参照により本明細書中に援用される米国特許第5,994,136号に記載されている。
a.調節エレメント
【0162】
本開示において有用なベクターに含められる発現カセットは、特に、タンパク質コード配列に作動可能に連結された真核生物転写プロモーター、介在配列を含むスプライスシグナル、および転写終結/ポリアデニル化配列を(5’から3’の方向で)含む。タンパク質をコードする遺伝子の転写を真核細胞において制御するプロモーターおよびエンハンサーは、複数の遺伝的エレメントから構成される。細胞機構は、各エレメントによって運ばれる調節情報を集め、統合することができ、それにより、異なる遺伝子が、多くの場合は複雑なパターンである異なるパターンの転写制御を展開することが可能になる。本開示の状況において使用されるプロモーターとしては、構成的プロモーター、誘導性プロモーターおよび組織特異的プロモーターが挙げられる。
b.プロモーター/エンハンサー
【0163】
本明細書中に提供される発現構築物は、抗原レセプターの発現を駆動するプロモーターを含む。プロモーターは、一般に、RNA合成のための開始部位の位置を特定するように機能する配列を含む。これの最もよく知られている例は、TATAボックスであるが、哺乳動物のターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ遺伝子のプロモーターおよびSV40後期遺伝子のプロモーターなど、一部のプロモーターでは、TATAボックスを欠き、開始部位自体と重なっている不連続なエレメントが、開始の場所を固定するのを助ける。さらなるプロモーターエレメントが、転写開始の頻度を制御する。通常、これらは、開始部位の30110bp上流の領域に位置するが、いくつかのプロモーターは、開始部位の下流にも機能的エレメントを含むと示されている。コード配列をプロモーター「の支配下に」するためには、転写読み枠の転写開始部位の5’末端を、選択されたプロモーターの「下流」(すなわち、3’)に置く。「上流」のプロモーターは、DNAの転写を刺激し、コードされるRNAの発現を促進する。
【0164】
プロモーターエレメント間の間隔は、変更がきくことが多く、エレメントが、反転されるかまたは互いに対して移動された場合でも、プロモーターの機能は保存される。tkプロモーターでは、プロモーターエレメント間の間隔は、活性が低下し始めるまで最大50bp広げられ得る。プロモーターに応じて、個々のエレメントは、協同的にまたは独自に機能して転写を活性化し得るとみられる。プロモーターは、核酸配列の転写性の活性化に関わるシス作用性制御配列のことを指す「エンハンサー」と併せて使用されてもよいし、使用されなくてもよい。
【0165】
プロモーターは、コードセグメントおよび/またはエキソンの上流に位置する5’非コード配列を単離することによって得られることがあるような、ある核酸配列と天然に会合したプロモーターであり得る。そのようなプロモーターは、「内在性」プロモーターと呼ぶことができる。同様に、エンハンサーは、ある核酸配列の下流または上流に位置する、その配列と天然に会合したエンハンサーであり得る。あるいは、ある核酸配列とその天然の環境では天然には会合していないプロモーターのことを指す、組換えプロモーターまたは異種プロモーターの支配下にコード核酸セグメントを置くことによって、一定の利点が得られる。また、組換えエンハンサーまたは異種エンハンサーは、その天然の環境では核酸配列と天然には会合していないエンハンサーのことを指す。そのようなプロモーターまたはエンハンサーには、他の遺伝子のプロモーターまたはエンハンサー、ならびに他の任意のウイルスまたは原核細胞もしくは真核細胞から単離されたプロモーターまたはエンハンサー、ならびに「天然に存在」しない、すなわち、種々の転写制御領域の種々のエレメントおよび/または発現を変化させる変異を含む、プロモーターまたはエンハンサーが含まれ得る。例えば、組換えDNAの構築において最もよく使用されるプロモーターとしては、βラクタマーゼ(ペニシリナーゼ)、ラクトースおよびトリプトファン(trp-)プロモーターシステムが挙げられる。プロモーターおよびエンハンサーの核酸配列を合成的に作製することに加えて、組換えクローニング、および/またはPCRTMをはじめとした核酸増幅技術を用いて、ある配列が、本明細書中に開示される組成物に関連して作製され得る。さらに、核以外のオルガネラ(例えば、ミトコンドリア、葉緑体など)内での配列の転写および/または発現を指示する調節配列も同様に使用できることが企図される。
【0166】
当然、発現のために選択されたオルガネラ、細胞型、組織、器官または生物におけるDNAセグメントの発現を効果的に指示するプロモーターおよび/またはエンハンサーを使用することが重要になる。分子生物学の当業者は、一般に、タンパク質発現のために、プロモーター、エンハンサーおよび細胞型の組み合わせを使用することを承知している(例えば、参照により本明細書中に援用されるSambrook et al.1989を参照のこと)。使用されるプロモーターは、構成的プロモーター、組織特異的プロモーター、誘導性プロモーター、および/または導入されたDNAセグメントの高レベル発現を指示する、適切な条件下において有用なプロモーター(例えば、組換えタンパク質および/または組換えペプチドの大規模生成において有益なプロモーター)であり得る。そのプロモーターは、異種であっても、内在性であってもよい。
【0167】
さらに、任意のプロモーター/エンハンサーの組み合わせ(例えば、epd.isb-sib.ch/のワールドワイドウェブを介したEukaryotic Promoter Data Base EPDBに従って)も、発現を駆動するために使用され得る。T3、T7またはSP6細胞質発現系の使用が、別の実行可能な実施形態である。適切な細菌ポリメラーゼが、送達複合体の一部としてまたはさらなる遺伝的発現構築物として提供される場合、真核細胞は、ある特定の細菌プロモーターからの細胞質での転写を支持し得る。
【0168】
プロモーターの非限定的な例としては、初期ウイルスプロモーターまたは後期ウイルスプロモーター(例えば、SV40初期または後期プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)最初期プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)初期プロモーター);真核細胞プロモーター(例えば、ベータアクチンプロモーター、GADPHプロモーター、メタロチオネインプロモーター);および連鎖状応答エレメントプロモーター(例えば、サイクリックAMP応答エレメントプロモーター(cre)、血清応答エレメントプロモーター(sre)、ホルボールエステルプロモーター(TPA)およびミニマルTATAボックス近傍の応答エレメントプロモーター(tre))が挙げられる。ヒト成長ホルモンプロモーター配列(例えば、Genbank(登録商標)に記載されているヒト成長ホルモンミニマルプロモーター、アクセッション番号X05244、ヌクレオチド283~341)またはマウス乳腺腫瘍プロモーター(ATCCから入手可能,Cat.No.ATCC45007)を使用することも可能である。ある特定の実施形態において、プロモーターは、CMV IE、デクチン-1、デクチン-2、ヒトCD11c、F4/80、SM22、RSV、SV40、Ad MLP、ベータ-アクチン、MHCクラスIまたはMHCクラスIIプロモーターであるが、しかしながら、治療用の遺伝子の発現を駆動するために有用な他の任意のプロモーターも本開示の実施に適用できる。
【0169】
ある特定の態様において、本開示の方法は、エンハンサー配列、すなわち、プロモーターの活性を増加させる核酸配列であって、シスで、かつその向きを問わず、比較的長い距離(標的プロモーターから最大数キロベース離れた距離)にわたって作用する能力を有する核酸配列にも関する。しかしながら、エンハンサーは、所与のプロモーターに対して近位でも機能し得るので、エンハンサーの機能は必ずしもそのような長い距離に限定されない。
c.開始シグナルおよび連結発現
【0170】
コード配列の効率的な翻訳のために、本開示に提供される発現構築物において、特異的な開始シグナルも使用され得る。これらのシグナルは、ATG開始コドンまたは隣接配列を含む。外来性の翻訳制御シグナル(ATG開始コドンを含む)が提供される必要がある場合がある。当業者であれば、これを判断することおよび必要なシグナルを提供することが容易にできるだろう。インサート全体の翻訳を確保するためには、開始コドンが、所望のコード配列の読み枠と「インフレーム」でなければならないことは周知である。その外来性の翻訳制御シグナルおよび開始コドンは、天然のものまたは合成のものであり得る。適切な転写エンハンサーエレメントを含めることによって、発現効率が高められ得る。
【0171】
ある特定の実施形態において、配列内リボソーム進入部位(IRES)エレメントの使用は、多重遺伝子のメッセージ、すなわちポリシストロニックなメッセージを生成するために使用される。IRESエレメントは、5’メチル化キャップ依存的翻訳のリボソームスキャニングモデルを迂回し、内部の部位において翻訳を開始することができる。ピコルナウイルス科の2つのメンバー(ポリオおよび脳心筋炎)由来のIRESエレメント、ならびに哺乳動物のメッセージ由来のIRESが、報告されている。IRESエレメントは、異種のオープンリーディングフレームに連結できる。各々がIRESによって隔てられた複数のオープンリーディングフレームを一緒に転写することができ、ポリシストロニックなメッセージを生成できる。IRESエレメントのおかげで、各オープンリーディングフレームが、効率的な翻訳のためにリボソームに接近できるようになる。単一のプロモーター/エンハンサーを用いて複数の遺伝子を効率的に発現して、単一のメッセージを転写することもできる。
【0172】
さらに、本開示に提供される構築物内の遺伝子の連結発現または同時発現をもたらすために、ある特定の2A配列エレメントが使用され得る。例えば、オープンリーディングフレームを連結して単一のシストロンを形成することによって遺伝子を同時発現するために、切断配列が使用され得る。例示的な切断配列は、F2A(口蹄疫ウイルス2A)または「2A様」配列(例えば、Thosea asignaウイルス2A;T2A)である。
d.複製開始点
宿主細胞においてベクターを増殖させるために、そのベクターは、1つ以上の複製開始部位(「ori」と呼ばれることが多い)、例えば、複製が開始される特異的な核酸配列である、上に記載されたようなEBVのoriPまたはプログラミングにおける機能が似ているかもしくは高められた遺伝的に操作されたoriPに対応する核酸配列を含み得る。あるいは、上に記載されたような染色体外で複製する他のウイルスの複製起点、または自律複製配列(ARS)を使用することができる。
e.選択マーカーおよびスクリーニング可能なマーカー
【0173】
いくつかの実施形態において、本開示の構築物を含む細胞は、マーカーを発現ベクターに含めることによって、インビトロまたはインビボにおいて特定され得る。そのようなマーカーは、発現ベクターを含む細胞を容易に特定できるようにする特定可能な変化を細胞にもたらす。一般に、選択マーカーは、選択を可能にする特性を付与するマーカーである。ポジティブ選択マーカーは、そのマーカーが存在することによってその選択が可能になるマーカーであり、ネガティブ選択マーカーは、その存在が選択を妨げるマーカーである。ポジティブ選択マーカーの例は、薬物耐性マーカーである。
【0174】
通常、薬物選択マーカーを含めることにより、形質転換体のクローニングおよび特定が助けられ、例えば、ネオマイシン、ピューロマイシン、ハイグロマイシン、DHFR、GPT、ゼオシンおよびヒスチジノールに対して耐性にする遺伝子が、有用な選択マーカーである。条件の実行に基づいて形質転換体の判別を可能にする表現型を付与するマーカーに加えて、比色解析を基礎とする、GFPなどのスクリーニング可能なマーカーをはじめとした他のタイプのマーカーも企図される。あるいは、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(tk)またはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)などの、ネガティブ選択マーカーとしてスクリーニング可能な酵素が利用され得る。当業者であれば、免疫学的マーカーをおそらくはFACS解析と併せて使用する方法も承知しているだろう。使用されるマーカーは、遺伝子産物をコードする核酸と同時に発現されることが可能である限り、重要ではないと考えられている。選択マーカーおよびスクリーニング可能なマーカーのさらなる例は、当業者に周知である。
2.他の核酸送達方法
【0175】
抗原レセプターをコードする核酸のウイルス送達に加えて、以下の方法が、所与の宿主細胞への組換え遺伝子送達のさらなる方法であるので、本開示において考慮される。
【0176】
本開示の免疫細胞へのDNAまたはRNAなどの核酸の導入は、本明細書中に記載されるようにまたは当業者に公知であるように、細胞を形質転換するための核酸送達に適した任意の方法を使用し得る。そのような方法としては、DNAの直接送達(例えば、エキソビボトランスフェクション、注射(マイクロインジェクションを含む));エレクトロポレーション;リン酸カルシウム沈殿;DEAE-デキストランに続くポリエチレングリコールの使用;直接的な音波負荷;リポソーム媒介性のトランスフェクションおよびレセプター媒介性のトランスフェクション;微粒子銃(microprojectile bombardment);炭化ケイ素繊維を伴った撹拌;アグロバクテリウム媒介性の形質転換;乾燥/阻害媒介性のDNA取り込み、およびそのような方法の任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。これらの手法などの手法の適用により、オルガネラ、細胞、組織または生物が安定にまたは一過性に形質転換され得る。
VI.遺伝子編集およびCRISPR
【0177】
本開示のT細胞作製プロセスは、T細胞における1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個またはそれ以上の内在性遺伝子を除去するT細胞の遺伝子編集を含み得る。いくつかの場合において、その遺伝子編集は、異種抗原レセプターを含む1つ以上の異種タンパク質を発現しているT細胞において行われるのに対して、他の場合において、その遺伝子編集は、異種抗原レセプターを発現していないが、少なくともいくつかの場合において最終的に1つ以上の異種抗原レセプターを発現する、T細胞において行われる。特定の実施形態において、遺伝子編集されたT細胞は、拡大されたT細胞である。
【0178】
特定の場合において、上記T細胞の1つ以上の内在性遺伝子は、発現が破壊されるなど、改変され、ここで、その発現は、部分的または完全に低下される。具体的な場合において、1つ以上の遺伝子が、本開示のプロセスを用いてノックダウンまたはノックアウトされる。具体的な場合において、複数の遺伝子が、本開示のプロセスと同じ工程又は異なる工程においてノックダウンまたはノックアウトされる。T細胞において編集される遺伝子は、任意の種類であってよいが、具体的な実施形態において、それらの遺伝子は、その遺伝子産物がT細胞の活性および/または増殖を阻害する遺伝子である。具体的な場合において、T細胞において編集される遺伝子は、そのT細胞が腫瘍微小環境においてより効果的に働くのを可能にするか、1種類以上のグルココルチコイドを必要なときにT細胞を利用できるようにする。具体的な場合において、それらの遺伝子は、NKG2A、SIGLEC-7、LAG3、TIM3、CISH、FOXO1、TGFBR2、TIGIT、CD96、ADORA2、NR3C1、PD1、PDL-1、PDL-2、CD47、SIRPA、SHIP1、ADAM17、RPS6、4EBP1、CD25、CD40、IL21R、ICAM1、CD95、CD80、CD86、IL10R、TDAG8、CD5、CD7、SLAMF7、CD38、LAG3、TCR、ベータ2-ミクログロブリン、HLA、CD73およびCD39のうちの1つ以上である。具体的な実施形態では、TGFBR2遺伝子が、T細胞においてノックアウトまたはノックダウンされる。いくつかの実施形態では、T細胞において、NR3C1が改変され、ノックアウトされ、またはノックダウンされる。
【0179】
いくつかの実施形態において、遺伝子編集は、RNAガイドエンドヌクレアーゼ(RGEN)を介した変更など、1つ以上のDNA結合核酸を用いて行われる。例えば、その変更は、クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)およびCRISPR関連(Cas)タンパク質を用いて行われ得る。一般に、「CRISPRシステム」とは、CRISPR関連(「Cas」)遺伝子(Cas遺伝子をコードする配列を含む)、tracr(トランス活性化CRISPR)配列(例えば、tracrRNAまたは活性な部分的tracrRNA)、tracrメイト配列(内在性のCRISPRシステムの文脈では「直列反復配列」、およびtracrRNAによってプロセシングされた部分的な直列反復配列を包含する)、ガイド配列(内在性のCRISPRシステムの文脈では「スペーサー」とも称される)、ならびに/またはCRISPR遺伝子座由来の他の配列および転写物の発現に関与するかまたはその活性を指示する転写物および他のエレメントのことを総称する。
【0180】
CRISPR/CasヌクレアーゼまたはCRISPR/Casヌクレアーゼシステムは、DNAに配列特異的に結合する非コードRNA分子(ガイド)RNA、およびヌクレアーゼ機能(例えば、2つのヌクレアーゼドメイン)を有するCasタンパク質(例えば、Cas9)を含み得る。CRISPRシステムの1つ以上のエレメントが、I型、II型またはIII型CRISPRシステムに由来し得、例えば、内在性のCRISPRシステムを含む特定の生物(例えば、Streptococcus pyogenes)に由来し得る。
【0181】
いくつかの態様において、CasヌクレアーゼおよびgRNA(標的配列に特異的なcrRNAと既定のtracrRNAとの融合物を含む)が、細胞に導入される。一般に、gRNAの5’末端における標的部位が、相補的な塩基対形成によって、Casヌクレアーゼをその標的部位、例えば、遺伝子に標的化する。標的部位は、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列(例えば、通常、NGGまたはNAG)のすぐ5’の位置に基づいて選択され得る。この点において、gRNAは、標的DNA配列に対応するようにガイドRNAの最初の20、19、18、17、16、15、14、14、12、11または10ヌクレオチドを改変することによって、所望の配列に標的化される。一般に、CRISPRシステムは、標的配列の部位においてCRISPR複合体の形成を促進するエレメントを特徴とする。通常、「標的配列」とは、一般に、ガイド配列が相補性を有するようにデザインされる配列のことを指し、標的配列とガイド配列とのハイブリダイゼーションが、CRISPR複合体の形成を促進する。ハイブリダイゼーションを引き起こし、CRISPR複合体の形成を促進するのに十分な相補性があれば、完全な相補性は必ずしも必要ない。
【0182】
CRISPRシステムは、標的部位における二本鎖切断(DSB)に続いて、本明細書中で論じられるような破壊または変更を誘導し得る。他の実施形態では、「ニッカーゼ」とみなされるCas9バリアントが、標的部位において一本鎖にニックを入れるために使用される。例えば特異性を改善するために、対のニッカーゼを使用することができ、そのニッカーゼの各々は、配列を標的化する異なるgRNAの対によって導かれ、ニックが同時に導入されると、5’オーバーハングが導入される。他の実施形態では、遺伝子発現に影響するように、触媒的に不活性なCas9が、転写抑制因子または転写活性化因子などの異種エフェクタードメインに融合される。
【0183】
標的配列は、DNAポリヌクレオチドまたはRNAポリヌクレオチドなどの任意のポリヌクレオチドを含み得る。標的配列は、細胞のオルガネラ内など、細胞の核または細胞質に位置し得る。一般に、標的配列を含む標的化される遺伝子座への組換えのために使用され得る配列または鋳型は、「編集鋳型」または「編集ポリヌクレオチド」または「編集配列」と称される。いくつかの態様では、外来性の鋳型ポリヌクレオチドが、編集鋳型と称されることがある。いくつかの態様において、組換えは、相同組換えである。
【0184】
通常、内在性のCRISPRシステムの文脈では、CRISPR複合体(標的配列にハイブリダイズして1つ以上のCasタンパク質と複合体化するガイド配列を含む)の形成によって、標的配列においてまたは標的配列の近くで(例えば、標的配列から1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、50塩基対以内またはそれ以上以内において)一方または両方の鎖の切断が生じる。野生型tracr配列の全部もしくは一部(例えば、野生型tracr配列の約20ヌクレオチド、約26ヌクレオチド、約32ヌクレオチド、約45ヌクレオチド、約48ヌクレオチド、約54ヌクレオチド、約63ヌクレオチド、約67ヌクレオチド、約85ヌクレオチドもしくはそれ以上または約20ヌクレオチド超、約26ヌクレオチド超、約32ヌクレオチド超、約45ヌクレオチド超、約48ヌクレオチド超、約54ヌクレオチド超、約63ヌクレオチド超、約67ヌクレオチド超、約85ヌクレオチド超もしくはそれ以上)を含み得るかまたはそれらからなり得るtracr配列も、ガイド配列に作動可能に連結されたtracrメイト配列の全部または一部へのtracr配列の少なくとも一部に沿ったハイブリダイゼーションなどによって、CRISPR複合体の一部を形成し得る。tracr配列は、ハイブリダイズしてCRISPR複合体の形成に参加する、tracrメイト配列に対して十分な相補性(例えば、最適にアラインメントされたとき、tracrメイト配列の長さに沿って少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%または99%の配列相補性)を有する。
【0185】
CRISPRシステムの1つ以上のエレメントの発現によって、1つ以上の標的部位においてCRISPR複合体の形成が指示されるように、そのCRISPRシステムのそれらのエレメントの発現を駆動する1つ以上のベクターが細胞に導入され得る。また、構成要素がタンパク質および/またはRNAとして細胞に送達され得る。例えば、Cas酵素、tracrメイト配列に連結されたガイド配列、およびtracr配列がそれぞれ、別個のベクター上の別個の調節エレメントに作動可能に連結され得る。あるいは、同じまたは異なる調節エレメントから発現されるエレメントの2つ以上が、単一ベクターにおいて組み合わされ得、1つ以上のさらなるベクターが、第1のベクターに含まれていないCRISPRシステムの任意の構成要素を提供する。そのベクターは、制限エンドヌクレアーゼ認識配列などの1つ以上の挿入部位(「クローニング部位」とも称される)を含み得る。いくつかの実施形態において、1つ以上の挿入部位が、1つ以上のベクターの1つ以上の配列エレメントの上流および/または下流に配置される。複数の異なるガイド配列が使用されるとき、細胞内の異なる複数の対応する標的配列に対してCRISPR活性を標的化するために単一の発現構築物が使用され得る。
【0186】
ベクターは、Casタンパク質などのCRISPR酵素をコードする酵素コード配列に作動可能に連結された調節エレメントを含み得る。Casタンパク質の非限定的な例としては、Cas1、Cas1B、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas9(Csn1およびCsx12としても知られる)、Cas10、Csy1、Csy2、Csy3、Cse1、Cse2、Csc1、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、Cmr1、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、Csb1、Csb2、Csb3、Csx17、Csx14、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、Csx1、Csx15、Csfl、Csf2、Csf3、Csf4、それらのホモログまたはそれらの改変バージョンが挙げられる。これらの酵素は公知であり;例えば、S.pyogenesのCas9タンパク質のアミノ酸配列は、アクセッション番号Q99ZW2としてSwissProtデータベースに見られ得る。
【0187】
CRISPR酵素は、Cas9(例えば、S.pyogenesまたはS.pneumonia由来のもの)であり得る。いくつかの実施態様では、Cas9タンパク質の代わりにCpF1が使用される。いくつかの実施形態において、酵素は、ハイフィディリティー酵素である。CRISPR酵素は、標的配列内および/または標的配列の相補鎖内などの標的配列の位置での一方または両方の鎖の切断を指示し得る。ベクターは、対応する野生型酵素と比べて変異したCRISPR酵素をコードし得、変異したCRISPR酵素は、標的配列を含む標的ポリヌクレオチドの一方または両方の鎖を切断する能力を欠く。例えば、S.pyogenes由来のCas9のRuvC I触媒ドメインにおけるアスパラギン酸からアラニンへの置換(D10A)は、Cas9を、両方の鎖を切断するヌクレアーゼからニッカーゼ(一本鎖を切断する)に変換する。いくつかの実施形態において、Cas9ニッカーゼは、ガイド配列、例えば、そのDNA標的のセンス鎖およびアンチセンス鎖をそれぞれ標的化する2つのガイド配列と組み合わせて使用され得る。この組み合わせは、両方の鎖にニックを入れること、およびNHEJまたはHDRを誘導するために使用されることができる。
【0188】
いくつかの実施形態において、CRISPR酵素をコードする酵素コード配列は、真核細胞などの特定の細胞における発現に向けてコドンが最適化される。真核細胞は、特定の生物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌまたは非ヒト霊長類を含むがこれらに限定されない哺乳動物)の細胞またはそれらの生物に由来する細胞であり得る。一般に、コドンの最適化とは、天然のアミノ酸配列を維持しつつ、天然の配列の少なくとも1つのコドンをその宿主細胞の遺伝子においてより高頻度にまたは最も高頻度に使用されるコドンで置き換えることによって、目的の宿主細胞において発現が高まるように核酸配列を改変するプロセスのことを指す。様々な種が、特定のアミノ酸のある特定のコドンについて特定のバイアスを示す。コドンバイアス(生物間でのコドン使用頻度の差異)は、メッセンジャーRNA(mRNA)の翻訳効率と相関することが多く、その翻訳効率は、とりわけ、翻訳されるコドンの特性および特定の転移RNA(tRNA)分子の利用可能性に依存すると考えられている。選択されるtRNAが細胞内で優勢であることは、通常、ペプチド合成において最も高頻度に使用されるコドンであることを反映する。したがって、コドン最適化に基づいて、遺伝子を所与の生物における最適な遺伝子発現に適応させることができる。
【0189】
一般に、ガイド配列は、標的ポリヌクレオチド配列とハイブリダイズするのに十分およびその標的配列へのCRISPR複合体の配列特異的結合を指示するのに十分な相補性をその標的配列に対して有する任意のポリヌクレオチド配列である。いくつかの実施形態において、ガイド配列と対応する標的配列との相補性の程度は、好適なアラインメントアルゴリズムを用いて最適にアラインメントしたとき、約50%、約60%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約97%、約99%もしくはそれ以上、または約50%超、約60%超、約75%超、約80%超、約85%超、約90%超、約95%超、約97%超、約99%超もしくはそれ以上である。
【0190】
最適なアラインメントは、配列をアラインメントするための任意の好適なアルゴリズムを使用して決定され得る。そのアルゴリズムの非限定的な例としては、Smith-Watermanアルゴリズム、Needleman-Wunschアルゴリズム、Burrows-Wheeler Transformに基づくアルゴリズム(例えば、Burrows Wheeler Aligner)、Clustal W、Clustal X、BLAT、Novoalign(Novocraft Technologies、ELAND(Illumina,San Diego,Calif.)、SOAP(soap.genomics.org.cnにおいて利用可能)およびMaq(maq.sourceforge.netにおいて利用可能)が挙げられる。
【0191】
CRISPR酵素は、1つ以上の異種タンパク質ドメインを含む融合タンパク質の一部であり得る。CRISPR酵素融合タンパク質は、任意のさらなるタンパク質配列、および必要に応じて任意の2つのドメインの間にリンカー配列を含み得る。CRISPR酵素に融合され得るタンパク質ドメインの例としては、エピトープタグ、レポーター遺伝子配列、ならびに以下の活性:メチラーゼ活性、デメチラーゼ活性、転写活性化活性、転写抑制活性、転写終結因子活性、ヒストン修飾活性、RNA切断活性および核酸結合活性のうちの1つ以上を有するタンパク質ドメインが挙げられるがこれらに限定されない。エピトープタグの非限定的な例としては、ヒスチジン(His)タグ、V5タグ、FLAGタグ、インフルエンザ赤血球凝集素(HA)タグ、Mycタグ、VSV-Gタグおよびチオレドキシン(Trx)タグが挙げられる。レポーター遺伝子の例としては、グルタチオン-5-トランスフェラーゼ(GST)、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)ベータガラクトシダーゼ、ベータ-グルクロニダーゼ、ルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)、HcRed、DsRed、シアン蛍光タンパク質(CFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、および青色蛍光タンパク質(BFP)を含む自己蛍光タンパク質が挙げられるが、これらに限定されない。CRISPR酵素は、DNA分子に結合するかまたは他の細胞分子(マルトース結合タンパク質(MBP)、S-タグ、Lex A DNA結合ドメイン(DBD)融合物、GAL4A DNA結合ドメイン融合物および単純ヘルペスウイルス(HSV)BP16タンパク質融合物を含むがこれらに限定されない)に結合するタンパク質またはタンパク質のフラグメントをコードする遺伝子配列に融合され得る。CRISPR酵素を含む融合タンパク質の一部を形成し得るさらなるドメインは、参照により本明細書中に援用される米国特許出願公開第20110059502号に記載されている。
VII.処置方法
【0192】
いくつかの実施形態において、本開示の方法によって作製されたT細胞は、それを必要とする個体の処置方法に使用される。本開示の実施形態は、例として、癌、任意の種類の感染症および任意の免疫障害について、個体を処置する方法を含む。その個体は、最初の処置として、または別の処置の後に(または別の処置とともに)、例えば、HSCTの後に、本開示の処置方法を使用し得る。免疫療法の方法は、癌のタイプおよび/またはステージに基づいて、癌を有する個体のニーズに合わせることができ、少なくともいくつかの場合では、免疫療法は、処置の期間中にその個体に対して改変され得る。
【0193】
具体的な例では、治療方法の例は以下の通りである。1)場合によりグルココルチコイド治療を含む、HSCT後のウイルス感染に対する個体を治療するための、産生されたT細胞(エクスビボで拡大された、またはCAR(複数可)および/もしくはTCR(複数可)を発現する)を用いた養子細胞療法、2)任意のタイプの血液学的悪性腫瘍を有する癌患者を治療するための、産生されたT細胞(エクスビボで拡大された、またはCAR(複数可)および/もしくはTCR(複数可)を発現する)を用いた養子細胞療法。(3)任意のタイプの固形癌を有する癌患者を治療するための、産生されたT細胞(エクスビボで拡大された又はCAR(複数可)若しくはTCR(複数可)を発現するもの)による養子細胞療法;及び/又は(4) 感染症又は免疫障害を有する患者を治療するための、産生されたT細胞(エクスビボで拡大された又はCAR(複数可)若しくはTCR(複数可)を発現するもの)による養子細胞療法。
【0194】
いくつかの実施形態において、本開示は、本開示の方法によって産生されたT細胞の有効量を投与することを含む免疫療法のための方法を提供する。ある実施形態では、医学的疾患又は障害は、本明細書の方法によって産生され、免疫応答を誘発するT細胞集団の移入によって治療される。本開示の特定の実施形態では、癌または感染症は、本開示の方法によって産生され、かつ免疫応答を引き出すT細胞集団の移入によって治療される。本明細書で提供されるのは、グルココルチコイドも患者に投与される必要がある場合に、ウイルス特異的T細胞による治療を強化するための方法である。また、本明細書では、有効量の抗原特異的細胞療法を個体に投与することを含む、個体における癌の治療または進行の遅延のための方法が提供される。本方法は、免疫疾患、固形癌、血液癌、及び/又はウイルス感染症の治療に適用され得る。
【0195】
本処置方法が有用な腫瘍には、任意の悪性細胞タイプ、例えば、固形腫瘍または血液腫瘍に見られる細胞タイプが含まれる。例示的な固形腫瘍としては、膵臓、結腸、盲腸、胃、脳、頭部、頸部、卵巣、腎臓、喉頭、肉腫、肺、膀胱、黒色腫、前立腺および乳房からなる群より選択される器官の腫瘍が挙げられ得るが、これらに限定されない。例示的な血液腫瘍としては、骨髄の腫瘍、TまたはB細胞悪性腫瘍、白血病、リンパ腫、芽腫、ミエローマなどが挙げられる。本明細書中に提供される方法を用いて処置され得る癌のさらなる例としては、肺癌(小細胞肺癌、非小細胞肺癌、肺腺癌および肺扁平上皮癌を含む)、腹膜癌、胃(gastric)癌または胃(stomach)癌(消化器癌および消化管間質癌を含む)、膵癌、子宮頸癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、乳癌、結腸癌、直腸結腸癌、子宮内膜癌または子宮癌、唾液腺癌、腎臓癌または腎癌、前立腺癌、外陰癌、甲状腺癌、様々なタイプの頭頸部癌、および黒色腫が挙げられるが、これらに限定されない。
【0196】
癌は、具体的には以下の組織タイプの癌であり得るが、これらに限定されない:新生物、悪性;癌腫;癌腫、未分化;巨細胞および紡錘形細胞癌;小細胞癌;乳頭状癌;扁平上皮癌;リンパ上皮癌;基底細胞癌;毛母癌;移行上皮癌;乳頭状移行上皮癌;腺癌;ガストリノーマ、悪性;胆管癌;肝細胞癌;肝細胞癌・胆管癌の混合型;索状腺癌;腺様嚢胞癌;腺腫性ポリープ内腺癌;腺癌、家族性大腸ポリポーシス;固形癌;カルチノイド腫瘍、悪性;細気管支肺胞腺癌;乳頭状腺癌;嫌色素性癌;好酸性癌;好酸性腺癌;好塩基性癌;明細胞腺癌;顆粒細胞癌;濾胞腺癌;乳頭状・濾胞腺癌;非被包性硬化癌;副腎皮質癌;類内膜癌;皮膚付属器癌;アポクリン腺癌;皮脂腺癌;耳垢腺癌;粘表皮癌;嚢胞腺癌;乳頭状嚢腺癌;乳頭状漿液性嚢胞腺癌;粘液性嚢胞腺癌;粘液性腺癌;印環細胞癌;浸潤性導管癌;髄様癌;小葉癌;炎症性癌;パジェット病、乳房;腺房細胞癌;腺扁平上皮癌;扁平上皮化生を伴う腺癌;胸腺腫、悪性;卵巣間質腫瘍、悪性;莢膜細胞腫、悪性;顆粒膜細胞腫、悪性;アンドロブラストーマ、悪性;セルトリ細胞癌;ライディッヒ細胞腫瘍、悪性;脂質細胞腫瘍、悪性;傍神経節腫、悪性;乳房外傍神経節腫、悪性;褐色細胞腫;グロムス血管肉腫;悪性黒色腫;無色素性黒色腫;表在拡大型黒色腫;悪性黒子黒色腫;末端黒子型黒色腫;結節性黒色腫;巨大色素性母斑内悪性黒色腫;類上皮細胞黒色腫;青色母斑、悪性;肉腫;線維肉腫;線維性組織球腫、悪性;粘液肉腫;脂肪肉腫;平滑筋肉腫;横紋筋肉腫;胎児性横紋筋肉腫;胞巣状横紋筋肉腫;間質肉腫;混合腫瘍、悪性;ミュラー管混合腫瘍;腎芽腫;肝芽腫;癌肉腫;間葉腫、悪性;ブレンナー腫瘍、悪性;葉状腫瘍、悪性;滑膜肉腫;中皮腫、悪性;未分化胚腫;胎児性癌;奇形腫、悪性;卵巣甲状腺腫、悪性;絨毛癌;中腎腫、悪性;血管肉腫;血管内皮腫、悪性;カポジ肉腫;血管外皮腫、悪性;リンパ管肉腫;骨肉腫;傍皮質骨肉腫;軟骨肉腫;軟骨芽細胞腫、悪性;間葉性軟骨肉腫;骨巨細胞腫瘍;ユーイング肉腫;歯原性腫瘍、悪性;エナメル上皮歯牙肉腫;エナメル上皮腫、悪性;エナメル上皮線維肉腫;松果体腫、悪性;脊索腫;グリオーマ、悪性;上衣腫;アストロサイトーマ;原形質性アストロサイトーマ;細線維性アストロサイトーマ;星芽腫;膠芽腫;乏突起膠腫;希突起芽腫;原始神経外胚葉性;小脳肉腫;神経節神経芽腫;神経芽腫;網膜芽腫;嗅神経原腫瘍;髄膜腫、悪性;神経線維肉腫;神経鞘腫、悪性;顆粒細胞腫、悪性;悪性リンパ腫;ホジキン病;ホジキン;側肉芽腫;悪性リンパ腫、小リンパ球性;悪性リンパ腫、大細胞型、びまん性;悪性リンパ腫、濾胞性;菌状息肉腫;他の特定の非ホジキンリンパ腫;B細胞リンパ腫;低悪性度/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL);小リンパ球性(SL)NHL;中悪性度/濾胞性NHL;中悪性度びまん性NHL;高悪性度免疫芽球性NHL;高悪性度リンパ芽球性NHL;高悪性度小非切れ込み型細胞NHL;巨大病変(bulky disease)NHL;マントル細胞リンパ腫;AIDS関連リンパ腫;ワルデンシュトレームマクログロブリン血症;悪性組織球増殖症;多発性骨髄腫;肥満細胞肉腫;免疫増殖性小腸疾患;白血病;リンパ性白血病;形質細胞性白血病;赤白血病;リンパ肉腫細胞白血病;骨髄性白血病;好塩基球性白血病;好酸球性白血病;単球性白血病;肥満細胞白血病;巨核芽球性白血病;骨髄性肉腫;ヘアリー細胞白血病;慢性リンパ性白血病(CLL);急性リンパ芽球性白血病(ALL);急性骨髄性白血病(AML);および慢性骨髄芽球性白血病。
【0197】
特定の実施形態は、白血病の処置方法に関する。白血病は、血液または骨髄の癌であり、血液細胞(通常は白血球細胞(白血球))の異常な増殖(分裂増殖による生成)を特徴とする。白血病は、血液腫瘍と呼ばれる広範な疾患群の一部である。白血病は、多種多様な疾患を網羅する広義語である。白血病は、急性および慢性の形態に臨床的におよび病理学的に分けられる。
【0198】
本開示のある特定の実施形態において、免疫細胞は、それを必要とする個体(例えば、癌またはウイルス感染を含む感染症を有する個体)に送達される。次いで、それらの細胞は、その個体の免疫系を増強して、それぞれの癌細胞または病原性細胞を攻撃する。いくつかの場合では、その個体に免疫細胞が1回以上提供される。個体に免疫細胞が2回以上提供される場合、投与間の時間は、その個体において伝播するのに十分な時間であるべきであり、具体的な実施形態では、投与間の時間は、l、2、3、4、5、6、7日間もしくはそれ以上である。
【0199】
本開示のある特定の実施形態は、免疫媒介性障害を処置または予防するための方法を提供する。1つの実施形態において、被験体は、自己免疫疾患を有する。自己免疫疾患の非限定的な例としては、円形脱毛症、強直性脊椎炎、抗リン脂質抗体症候群、自己免疫性アジソン病、副腎の自己免疫疾患、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性肝炎、自己免疫性卵巣炎および自己免疫性睾丸炎、自己免疫性血小板減少症、ベーチェット病、水疱性類天疱瘡、心筋症、セリアック多発性皮膚炎(celiac spate-dermatitis)、慢性疲労免疫不全症候群(CFIDS)、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパシー、チャーグ・ストラウス症候群、瘢痕性類天疱瘡、CREST症候群、寒冷凝集素病、クローン病、円板状狼瘡、本態性混合型クリオグロブリン血症、線維筋痛症-線維筋炎、糸球体腎炎、グレーヴズ病、ギランバレー、橋本甲状腺炎、特発性肺線維症、特発性血小板減少紫斑病(ITP)、IgAニューロパシー、若年性関節炎、扁平苔癬、エリテマトーデス、メニエール病、混合結合組織病、多発性硬化症、1型糖尿病または免疫媒介性糖尿病、重症筋無力症、ネフローゼ症候群(例えば、微小変化群、巣状糸球体硬化症または膜性腎症)、尋常性天疱瘡、悪性貧血、結節性多発性動脈炎、多発性軟骨炎、多腺症候群、リウマチ性多発筋痛症、多発性筋炎および皮膚筋炎、原発性無ガンマグロブリン血症、原発性胆汁性肝硬変、乾癬、乾癬性関節炎、レイノー現象、ライター症候群、関節リウマチ、サルコイドーシス、強皮症、シェーグレン症候群、スティフ・マン症候群、全身性エリテマトーデス、エリテマトーデス、潰瘍性大腸炎、ブドウ膜炎、脈管炎(例えば、結節性多発性動脈炎、高安動脈炎、側頭動脈炎/巨細胞性動脈炎または疱疹状皮膚炎脈管炎)、白斑ならびにウェゲナー肉芽腫症が挙げられる。したがって、本明細書中に開示される方法を用いて処置され得る自己免疫疾患のいくつかの例としては、多発性硬化症、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、I型糖尿病、クローン病;潰瘍性大腸炎、重症筋無力症、糸球体腎炎、強直性脊椎炎、脈管炎または乾癬が挙げられるが、これらに限定されない。被験体は、喘息などのアレルギー性障害も有し得る。
【0200】
さらに別の実施形態では、被験体は、移植される器官または幹細胞のレシピエントであり、拒絶反応を予防および/または処置するために免疫細胞が使用される。特定の実施形態において、被験体は、移植片対宿主病を有するか、または移植片対宿主病を発症するリスクがある。GVHDは、血縁ドナーまたは非血縁ドナーからの幹細胞を使用するまたは含む任意の移植に関して起こり得る合併症である。GVHDには、急性と慢性の2種類がある。急性GVHDは、移植後の最初の3ヶ月以内に現れる。急性GVHDの徴候としては、手および足における赤みがかった発疹が挙げられ、それは、剥皮または皮膚の水疱形成を伴って広がることがあり、より重篤になることがある。急性GVHDは、胃および腸にも影響することがあり、その場合、筋痙攣、悪心および下痢が認められる。皮膚および目の黄変(黄疸)は、急性GVHDが肝臓に影響していることを示す。慢性GVHDは、その重症度に基づいて等級付けされる:ステージ/グレード1が軽度であり;ステージ/グレード4が重度である。慢性GVHDは、移植の3ヶ月後またはそれ以降に発症する。慢性GVHDの症状は、急性GVHDの症状と似ているが、さらに、慢性GVHDは、眼の粘液腺、口の唾液腺ならびに胃壁および腸を滑らかにする腺にも影響し得る。本明細書中に開示される任意の免疫細胞集団を使用することができる。移植される器官の例としては、臓器移植片、例えば、腎臓、肝臓、皮膚、膵臓、肺および/または心臓、あるいは細胞移植片、例えば、小島、肝細胞、筋芽細胞、骨髄または造血性幹細胞もしくは他の幹細胞が挙げられる。移植片は、複合性の移植片、例えば、顔面の組織であり得る。免疫細胞は、移植の前、移植と同時、または移植の後に、投与され得る。いくつかの実施形態において、免疫細胞は、移植の前に、例えば、移植の少なくとも1時間前、少なくとも12時間前、少なくとも1日前、少なくとも2日前、少なくとも3日前、少なくとも4日前、少なくとも5日前、少なくとも6日前、少なくとも1週間前、少なくとも2週間前、少なくとも3週間前、少なくとも4週間前または少なくとも1ヶ月前に投与される。1つの非限定的な具体例では、治療有効量の免疫細胞の投与は、移植の3~5日前に行われる。
【0201】
いくつかの実施形態において、被験体には、免疫細胞療法の前に骨髄非破壊的なリンパ球除去化学療法が施され得る。その骨髄非破壊的なリンパ球除去化学療法は、任意の好適な経路によって投与され得る任意の好適なそのような治療であり得る。その骨髄非破壊的なリンパ球除去化学療法は、特に、癌が転移性であり得る黒色腫である場合、例えば、シクロホスファミドおよびフルダラビンの投与を含み得る。シクロホスファミドおよびフルダラビンの例示的な投与経路は、静脈内である。同様に、任意の好適な用量のシクロホスファミドおよびフルダラビンが投与され得る。特定の態様では、およそ60mg/kgのシクロホスファミドが2日間投与され、その後、およそ25mg/mのフルダラビンが5日間投与される。
【0202】
ある特定の実施形態では、T細胞の成長および活性化を促進する1つ以上の成長因子が、T細胞と同時にまたはT細胞に続いて被験体に投与される。その成長因子は、T細胞の成長および活性化を促進する任意の好適な成長因子であり得る。好適な免疫細胞成長因子の例としては、IL-2、IL-7、IL-12、IL-15、IL-18およびIL-21が挙げられ、これらは、単独でまたは様々な組み合わせで(例えば、IL-2とIL-7、IL-2とIL-15、IL-7とIL-15、IL-2とIL-7とIL-15、IL-12とIL-7、IL-12とIL-15またはIL-12とIL2)使用され得る。
【0203】
治療有効量の作製されたT細胞が、非経口投与をはじめとしたいくつかの経路、例えば、静脈内、腹腔内、筋肉内、胸骨内、腫瘍内、髄腔内、心室内、レザバー、関節内の注射または注入によって投与され得る。
【0204】
養子細胞療法において使用するための作製されたT細胞の治療有効量は、処置される被験体において所望の効果を達成する量である。例えば、これは、進行を阻害するために必要な免疫細胞の量、または自己免疫疾患もしくは同種免疫疾患を後退させるために必要なNK細胞の量、または自己免疫疾患によって引き起こされる症状、例えば、疼痛および炎症を和らげることができる量であり得る。これは、炎症に伴う症状、例えば、疼痛、浮腫および体温上昇を和らげるために必要な量であり得る。これは、移植された器官の拒絶反応を減少させるまたは予防するために必要な量でもあり得る。
【0205】
作製されたT細胞集団は、疾患状態を回復させるために、上記疾患と一致した処置レジメンで、例えば、1日から数日間にわたって1回または数回で、投与され得るか、または疾患の進行を阻害するためおよび疾患の再発を予防するために、長期間にわたる定期的な投与で投与され得る。製剤において用いられる正確な用量は、投与経路および疾患または障害の重篤度にも依存し、医師の判断および各患者の状況に従って決定されるべきである。T細胞の治療有効用量は、処置される被験体、苦痛の重症度およびタイプならびに投与様式に依存する。いくつかの実施形態において、ヒト被験体の処置において使用され得る用量は、少なくとも3.8×10、少なくとも3.8×10、少なくとも3.8×10、少なくとも3.8×10、少なくとも3.8×10、少なくとも3.8×10または少なくとも3.8×1010T細胞/mで変動する。ある特定の実施形態において、ヒト被験体の処置において使用される用量は、約3.8×10~約3.8×1010T細胞/mで変動する。さらなる実施形態において、T細胞の治療有効量は、約5×10細胞/kg体重~約7.5×10細胞/kg体重、例えば、約2×10細胞~約5×10細胞/kg体重または約5×10細胞~約2×10細胞/kg体重で変動し得る。T細胞の正確な量は、被験体の年齢、体重、性別および生理学的状態に基づいて当業者によってすぐに決定される。有効量は、インビトロモデルまたは動物モデルの試験系から導かれた用量反応曲線から外挿され得る。
【0206】
上記T細胞は、免疫媒介性障害を処置するための1つ以上の他の治療薬と併用して投与され得る。併用療法としては、1つ以上の抗菌剤(例えば、抗生物質、抗ウイルス剤および抗真菌剤)、抗腫瘍剤(例えば、フルオロウラシル、メトトレキサート、パクリタキセル、フルダラビン、エトポシド、ドキソルビシンまたはビンクリスチン)、免疫枯渇剤(例えば、フルダラビン、エトポシド、ドキソルビシンまたはビンクリスチン)、免疫抑制剤(例えば、アザチオプリンまたは糖質コルチコイド、例えば、デキサメタゾンまたはプレドニゾン)、抗炎症剤(例えば、糖質コルチコイド(例えば、ヒドロコルチゾン、デキサメタゾンまたはプレドニゾン)または非ステロイド性抗炎症剤(例えば、アセチルサリチル酸、イブプロフェンまたはナプロキセンナトリウム))、サイトカイン(例えば、インターロイキン-10またはトランスフォーミング成長因子-ベータ)、ホルモン(例えば、エストロゲン)またはワクチンが挙げられ得るが、これらに限定されない。さらに、カルシニューリン阻害剤(例えば、シクロスポリンおよびタクロリムス);mTOR阻害剤(例えば、ラパマイシン);ミコフェノール酸モフェチル、抗体(例えば、CD3、CD4、CD40、CD154、CD45、IVIGまたはB細胞を認識する抗体);化学療法剤(例えば、メトトレキサート、トレオスルファン、ブスルファン);照射;またはケモカイン、インターロイキンもしくはそれらの阻害剤(例えば、BAFF、IL-2、抗IL-2R、IL-4、JAKキナーゼ阻害剤)を含むがこれらに限定されない免疫抑制剤または免疫寛容誘発剤が投与され得る。そのようなさらなる医薬品は、所望の効果に応じて免疫細胞の投与前、投与中または投与後に投与され得る。上記細胞および作用物質のこの投与は、同じ経路または異なる経路による投与、および同じ部位または異なる部位における投与であり得る。
A.薬学的組成物
【0207】
本明細書中に包含されるプロセスによって作製されたT細胞および薬学的に許容され得るキャリアを含む薬学的組成物および製剤も本明細書中に提供される。
【0208】
本明細書中に記載されるような薬学的組成物および製剤は、所望の程度の純度を有する活性成分(例えば、抗体またはポリペプチド)を1つ以上の自由選択の薬学的に許容され得るキャリア(Remington’s Pharmaceutical Sciences 22nd edition,2012)と混合することによって、凍結乾燥された製剤または水溶液の形態で調製され得る。薬学的に許容され得るキャリアは、一般に、使用される投与量および濃度においてレシピエントにとって無毒性であり、それらのキャリアとしては、緩衝剤(例えば、リン酸、クエン酸および他の有機酸);酸化防止剤(アスコルビン酸およびメチオニンを含む);保存剤(例えば、塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム;塩化ベンゼトニウム;フェノールアルコール、ブチルアルコールまたはベンジルアルコール;アルキルパラベン(例えば、メチルパラベンまたはプロピルパラベン);カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;およびm-クレゾール);低分子量(約10残基未満)のポリペプチド;タンパク質(例えば、血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリン);親水性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン);アミノ酸(例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニンまたはリジン);単糖類、二糖類および他の炭水化物(グルコース、マンノースまたはデキストリンを含む);キレート剤(例えば、EDTA);糖類(例えば、スクロース、マンニトール、トレハロースまたはソルビトール);塩形成対イオン(例えば、ナトリウム);金属錯体(例えば、Zn-タンパク質複合体);および/または非イオン性界面活性剤(例えば、ポリエチレングリコール(PEG))が挙げられるが、これらに限定されない。例示的な本明細書中の薬学的に許容され得るキャリアとしては、間質薬物分散剤、例えば、中性で活性な可溶性ヒアルロニダーゼ糖タンパク質(sHASEGP)、例えば、ヒト可溶性PH-20ヒアルロニダーゼ糖タンパク質、例えば、rHuPH20(HYLENEX(登録商標),Baxter International,Inc.)がさらに挙げられる。rHuPH20を含むある特定の例示的なsHASEGPおよび使用方法は、米国特許出願公開第2005/0260186号および同第2006/0104968号に記載されている。1つの態様において、sHASEGPは、1つ以上のさらなるグリコサミノグリカナーゼ、例えば、コンドロイチナーゼと併用される。
B.併用療法
【0209】
ある特定の実施形態において、本実施形態の組成物および方法は、少なくとも1つのさらなる治療と併用されるT細胞集団を含む。さらなる治療は、1つ又はそれ以上のグルコルチコイド、放射線療法、手術(例えば、ランペクトミーおよび乳房切除術)、化学療法、遺伝子療法、DNA治療、ウイルス治療、RNA治療、免疫療法、骨髄移植、ナノ治療、モノクローナル抗体治療または前述の組み合わせであり得る。そのさらなる治療は、アジュバント療法またはネオアジュバント療法の形態であり得る。
【0210】
いくつかの実施形態において、さらなる治療は、1つ又はそれ以上の小分子酵素阻害剤または1つ又はそれ以上の抗転移剤の投与である。いくつかの実施形態において、さらなる治療は、副作用制限剤(例えば、処置の副作用の発生率および/または重症度を下げることを目的とする作用物質、例えば、抗悪心剤など)の投与である。いくつかの実施形態において、さらなる治療は、放射線療法である。いくつかの実施形態において、さらなる治療は、手術である。いくつかの実施形態において、さらなる治療は、放射線療法と手術の併用である。いくつかの実施形態において、さらなる治療は、ガンマ線照射である。いくつかの実施形態において、さらなる治療は、PBK/AKT/mTOR経路を標的化する治療、HSP90阻害剤、チューブリン阻害剤、アポトーシス阻害剤および/または化学予防剤である。さらなる治療は、当該分野で公知の化学療法剤の1つ以上であり得る。
【0211】
本開示のT細胞療法は、1つ以上のグルココルチコイドに対して、前、間、後、または様々な組み合わせで投与されてもよい。本開示のT細胞療法は、以下の通りであってもよい。本開示のNK細胞療法は、免疫チェックポイント療法などのさらなる癌治療の前、最中、後または様々な組み合わせで投与され得る。いずれの場合でも、それらの投与は、同時から数分、数日、数週間までの範囲の間隔で行われ得る。免疫細胞療法がさらなる治療薬とは別に患者に提供される実施形態では、それら2つの化合物が、なおも患者に対して有益な併用効果を発揮できるように、各送達時点の間にかなりの期間が経過しないことを保証するのが一般的である。そのような場合、細胞療法と追加の療法とが、互いの約12~24または72時間以内に、より詳細には、互いの約6~12時間以内に患者に提供され得ることが企図される。いくつかの状況において、それぞれの投与間に数日(2、3、4、5、6または7)から数週間(1、2、3、4、5、6、7または8)が経過した場合、処置期間をかなり延長することが望ましいことがある。
【0212】
様々な組み合わせが使用され得る。下記の例の場合、細胞療法が、「A」であり、追加の療法が、「B」である:
A/B/A B/A/B B/B/A A/A/B A/B/B B/A/A A/B/B/B B/A/B/B
B/B/B/A B/B/A/B A/A/B/B A/B/A/B A/B/B/A B/B/A/A
B/A/B/A B/A/A/B A/A/A/B B/A/A/A A/B/A/A A/A/B/A
【0213】
本実施形態の任意の化合物または治療の患者への投与は、それらの作用物質に毒性がある場合はそれを考慮して、そのような化合物を投与するための一般的なプロトコルに従う。ゆえに、いくつかの実施形態では、併用療法に起因し得る毒性をモニタリングする工程が存在する。
1.化学療法
【0214】
多種多様の化学療法剤が、本実施形態に従って使用され得る。用語「化学療法」とは、薬物を使用して癌を処置することを指す。「化学療法剤」は、癌の処置において投与される化合物または組成物を意味するために使用される。これらの作用物質または薬物は、細胞内でのそれらの活性様式によって、例えば、それらが細胞周期に影響するか否かおよびどのステージにおいて細胞周期に影響するかによって、分類される。あるいは、作用物質は、DNAを直接架橋する能力、DNAにインターカレートする能力、または核酸合成に影響することによって染色体異常および有糸分裂異常を誘導する能力に基づいて特徴付けられ得る。
【0215】
化学療法剤の例としては、アルキル化剤(例えば、チオテパおよびシクロスホスファミド);スルホン酸アルキル(例えば、ブスルファン、インプロスルファンおよびピポスルファン);アジリジン(例えば、ベンゾドパ(benzodopa)、カルボコン、メツレドパ(meturedopa)およびウレドパ(uredopa));エチレンイミンおよびメチルアメラミン(methylamelamines)(アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホルアミド、トリエチレンチオホスホルアミドおよびトリメチローロメラミン(trimethylolomelamine)を含む);アセトゲニン(特に、ブラタシンおよびブラタシノン);カンプトテシン(合成アナログであるトポテカンを含む);ブリオスタチン;カリスタチン;CC-1065(そのアドゼレシン、カルゼレシン(carzelesin)およびビゼレシン(bizelesin)合成アナログを含む);クリプトフィシン(特に、クリプトフィシン1およびクリプトフィシン8);ドラスタチン;デュオカルマイシン(合成アナログであるKW-2189およびCB1-TM1を含む);エレウセロビン(eleutherobin);パンクラチスタチン(pancratistatin);サルコジクチイン(sarcodictyin);スポンギスタチン(spongistatin);ナイトロジェンマスタード(例えば、クロラムブシル、クロルナファジン(chlornaphazine)、コロホスファミド(cholophosphamide)、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、塩酸メクロレタミンオキシド、メルファラン、ノベンビキン(novembichin)、フェネステリン(phenesterine)、プレドニムスチン、トロフォスファミド(trofosfamide)およびウラシルマスタード);ニトロソ尿素(例えば、カルムスチン、クロロゾトシン、フォテムスチン、ロムスチン、ニムスチンおよびラニムヌスチン(ranimnustine));抗生物質(例えば、エンジイン抗生物質(例えば、カリケアマイシン、特に、カリケアマイシンガンマlIおよびカリケアマイシンオメガI1));ジネマイシン(dynemicin)(ジネマイシンAを含む);ビスホスホネート(例えば、クロドロネート);エスペラミシン;ならびにネオカルチノスタチンクロモフォアおよび関連色素タンパク質であるエンジイン抗生物質クロモフォア、アクラシノマイシン、アクチノマイシン、アウトラルニシン、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カラビシン(carabicin)、カルミノマイシン(carminomycin)、カルジノフィリン(carzinophilin)、クロモミシニス、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン(detorubicin)、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、ドキソルビシン(モルホリノ-ドキソルビシン、シアノモルホリノ-ドキソルビシン、2-ピロリノ-ドキソルビシンおよびデオキシドキソルビシンを含む)、エピルビシン、エソルビシン(esorubicin)、イダルビシン、マルセロマイシン(marcellomycin)、マイトマイシン(例えば、マイトマイシンC)、ミコフェノール酸、ノガラルニシン、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン(potfiromycin)、ピューロマイシン、クエラマイシン(quelamycin)、ロドルビシン(rodorubicin)、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチンおよびゾルビシン;抗代謝産物(例えば、メトトレキサートおよび5-フルオロウラシル(5-FU));葉酸アナログ(例えば、デノプテリン(denopterin)、プテロプテリンおよびトリメトレキサート);プリンアナログ(例えば、フルダラビン、6-メルカプトプリン、チアミプリン(thiamiprine)およびチオグアニン);ピリミジンアナログ(例えば、アンシタビン、アザシチジン、6-アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビンおよびフロクスウリジン);アンドロゲン(例えば、カルステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタンおよびテストラクトン);抗副腎(anti-adrenals)(例えば、ミトタンおよびトリロスタン);葉酸補給剤(例えば、フロリン酸(frolinic acid));アセグラトン;アルドホスファミドグリコシド(aldophosphamide glycoside);アミノレブリン酸;エニルウラシル;アムサクリン;ベストラブシル(bestrabucil);ビサントレン(bisantrene);エダトラキセート(edatraxate);デホファミン(defofamine);デメコルチン;ジアジコン;エルフォルミチン(elformithine);酢酸エリプチニウム(elliptinium acetate);エポチロン;エトグルシド;硝酸ガリウム;ヒドロキシ尿素;レンチナン;ロニダイニン(lonidainine);メイタンシノイド(maytansinoids)(例えば、メイタンシンおよびアンサミトシン(ansamitocins));ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダンモール(mopidanmol);ニトラエリン;ペントスタチン;フェナメット(phenamet);ピラルビシン;ロソキサントロン(losoxantrone);ポドフィリン酸(podophyllinic acid);2-エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK多糖複合体;ラゾキサン;リゾキシン;シゾフィラン;スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸;トリアジクォン(triaziquone);2,2’,2”-トリクロロトリエチルアミン;トリコテシン(特に、T-2トキシン、ベラクリンA、ロリジン(roridin)Aおよびアングイジン(anguidine));ウレタン;ビンデシン;ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン(gacytosine);アラビノシド(「Ara-C」);シクロホスファミド;タキソイド、例えば、パクリタキセルおよびドセタキセルゲムシタビン;6-チオグアニン;メルカプトプリン;白金配位錯体(例えば、シスプラチン、オキサリプラチンおよびカルボプラチン);ビンブラスチン;白金;エトポシド(VP-16);イホスファミド;ミトキサントロン;ビンクリスチン;ビノレルビン;ノバントロン;テニポシド;エダトレキセート;ダウノマイシン;アミノプテリン;キセロダ(xeloda);イバンドロネート;イリノテカン(例えば、CPT-11);トポイソメラーゼ阻害剤RFS2000;ジフルオロメチルオルニチン(DMFO);レチノイド(例えば、レチノイン酸);カペシタビン;カルボプラチン、プロカルバジン、プリコマイシン、ゲムシタビエン、ナベルビン、ファルネシル-タンパク質タンスフェラーゼ阻害剤、トランスプラチナ(transplatinum)、ならびに上記のいずれかの薬学的に許容され得る塩、酸または誘導体が挙げられる。
2.放射線療法
【0216】
DNA損傷を引き起こす、広く使用されてきた他の因子としては、γ線、X線および/または腫瘍細胞への放射性同位体の定方向送達として一般的に知られているものが挙げられる。マイクロ波、陽子ビーム照射およびUV照射などの他の形態のDNA損傷因子も企図される。これらの因子のすべてが、DNA、DNAの前駆体、DNAの複製および修復ならびに染色体のアセンブリおよび維持に対して広範囲のダメージをもたらす可能性が最も高い。X線の線量の範囲は、長期間(3~4週間)にわたる50~200レントゲンという1日線量から、2000~6000レントゲンという単回線量までの範囲である。放射性同位体の線量の範囲は、大きく異なり、同位体の半減期、放射される放射線の強度およびタイプ、ならびに腫瘍性細胞による取り込みに依存する。
3.免疫療法
【0217】
当業者は、さらなる免疫療法が上記実施形態の方法と併用してまたは併せて使用され得ることを理解する。癌の処置の状況において、免疫治療薬は、通常、癌細胞を標的化し、破壊するために免疫エフェクター細胞および免疫エフェクター分子を使用することに頼る。リツキシマブ(RITUXAN(登録商標))が、そのような例である。免疫エフェクターは、例えば、腫瘍細胞の表面上の何らかのマーカーに特異的な抗体であり得る。その抗体は、単独で治療のエフェクターとして機能し得るか、または他の細胞をリクルートして、実際に細胞殺滅に影響し得る。その抗体はまた、薬物またはトキシン(化学療法剤、放射性核種、リシンA鎖、コレラ毒素、百日咳毒素など)に結合体化され得、標的化剤として役立ち得る。あるいは、そのエフェクターは、腫瘍細胞標的と直接または間接的に相互作用する表面分子を有するリンパ球であり得る。様々なエフェクター細胞には、細胞傷害性T細胞およびNK細胞が含まれる。
【0218】
抗体-薬物結合体(ADC)は、殺細胞薬に共有結合的に連結されたモノクローナル抗体(MAb)を含み、併用療法において使用され得る。このアプローチは、抗原標的に対するMAbの高い特異性を非常に強力な細胞傷害性薬物と組み合わせることにより、豊富なレベルの抗原を有する腫瘍細胞にペイロード(薬物)を送達する「武装した」MAbをもたらす。また、薬物の標的化送達は、正常組織への曝露を最小限に抑えることから、毒性を低減し、治療指数を改善する。例示的なADC薬物としては、ADCETRIS(登録商標)(ブレンツキシマブベドチン)およびKADCYLA(登録商標)(トラスツズマブエムタンシンまたはT-DM1)が挙げられる。
【0219】
免疫療法の1つの態様において、腫瘍細胞は、標的化の影響を受けやすい何らかのマーカー、すなわち、他の大部分の細胞上に存在しない何らかのマーカーを有さなければならない。多くの腫瘍マーカーが存在し、これらのいずれかが、本実施形態の状況において標的化に好適であり得る。一般的な腫瘍マーカーとしては、CD20、癌胎児抗原、チロシナーゼ(p97)、gp68、TAG-72、HMFG、Sialyl Lewis抗原、MucA、MucB、PLAP、ラミニンレセプター、erb Bおよびp155が挙げられる。免疫療法の代替の態様は、抗癌効果と免疫刺激効果とを組み合わせることである。IL-2、IL-4、IL-12、GM-CSF、ガンマ-IFNなどのサイトカイン、MIP-1、MCP-1、IL-8などのケモカイン、およびFLT3リガンドなどの成長因子をはじめとした免疫刺激分子も存在する。
【0220】
免疫療法の例としては、免疫アジュバント、例えば、Mycobacterium bovis、Plasmodium falciparum、ジニトロクロロベンゼンおよび芳香族化合物);サイトカイン療法、例えば、インターフェロンα、βおよびγ、IL-1、GM-CSFならびにTNF;遺伝子療法、例えば、TNF、IL-1、IL-2およびp53;ならびにモノクローナル抗体、例えば、抗CD20、抗ガングリオシドGM2および抗p185が挙げられる。1つ以上の抗癌療法が、本明細書中に記載される抗体療法とともに使用され得ることが企図される。
【0221】
いくつかの実施形態において、免疫療法は、免疫チェックポイント阻害剤であり得る。免疫チェックポイントは、シグナルを強める(例えば、共刺激分子)かまたはシグナルを弱めるかのいずれかである。免疫チェックポイントの遮断によって標的化され得る阻害性免疫チェックポイントとしては、アデノシンA2Aレセプター(A2AR)、B7-H3(CD276としても知られる)、BおよびTリンパ球アテニュエーター(BTLA)、細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(CD152としても知られるCTLA-4)、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)、キラー細胞免疫グロブリン(KIR)、リンパ球活性化遺伝子-3(LAG3)、プログラム死1(PD-1)、T細胞免疫グロブリンドメインおよびムチンドメイン3(TIM-3)、ならびにT細胞活性化のV-ドメインIgサプレッサー(VISTA)が挙げられる。特に、免疫チェックポイント阻害剤は、PD-1軸および/またはCTLA-4を標的化する。
【0222】
免疫チェックポイント阻害剤は、小分子、組換え型のリガンドまたはレセプターなどの薬物であり得るか、または特に、ヒト抗体などの抗体である。免疫チェックポイントタンパク質またはそのアナログの公知の阻害剤が、使用され得、特に、キメラ化型、ヒト化型またはヒト型の抗体が使用され得る。当業者が承知しているように、代替のおよび/または等価な名称が、本開示において述べられるある特定の抗体に対して使用され得る。そのような代替のおよび/または等価な名称は、本開示の文脈において相互交換可能である。例えば、ランブロリズマブが、代替のおよび等価な名称であるMK-3475およびペンブロリズマブとしても知られていることは公知である。
【0223】
いくつかの実施形態において、PD-1結合アンタゴニストは、PD-1がそのリガンド結合パートナーに結合するのを阻害する分子である。具体的な態様において、PD-1リガンド結合パートナーは、PDL1および/またはPDL2である。別の実施形態において、PDL1結合アンタゴニストは、PDL1がその結合パートナーに結合するのを阻害する分子である。具体的な態様において、PDL1結合パートナーは、PD-1および/またはB7-1である。別の実施形態において、PDL2結合アンタゴニストは、PDL2がその結合パートナーに結合するのを阻害する分子である。具体的な態様において、PDL2結合パートナーは、PD-1である。アンタゴニストは、抗体、その抗原結合フラグメント、イムノアドヘシン、融合タンパク質またはオリゴペプチドであり得る。
【0224】
いくつかの実施形態において、PD-1結合アンタゴニストは、抗PD-1抗体(例えば、ヒト抗体、ヒト化抗体またはキメラ抗体)である。いくつかの実施形態において、抗PD-1抗体は、ニボルマブ、ペンブロリズマブおよびCT-011からなる群より選択される。いくつかの実施形態において、PD-1結合アンタゴニストは、イムノアドヘシン(例えば、定常領域(例えば、免疫グロブリン配列のFc領域)に融合されたPDL1またはPDL2の細胞外部分またはPD-1結合部分を含むイムノアドヘシン)である。いくつかの実施形態において、PD-1結合アンタゴニストは、AMP-224である。MDX-1106-04、MDX-1106、ONO-4538、BMS-936558およびOPDIVO(登録商標)としても知られるニボルマブは、使用され得る抗PD-1抗体である。MK-3475、Merck3475、ランブロリズマブ、KEYTRUDA(登録商標)およびSCH-900475としても知られるペンブロリズマブは、例示的な抗PD-1抗体である。hBATまたはhBAT-1としても知られるCT-011も、抗PD-1抗体である。B7-DCIgとしても知られるAMP-224は、PDL2-Fc融合可溶性レセプターである。
【0225】
本明細書中に提供される方法において標的化され得る別の免疫チェックポイントは、CD152としても知られる細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(CTLA-4)である。ヒトCTLA-4の完全cDNA配列は、Genbankアクセッション番号L15006を有する。CTLA-4は、T細胞の表面上に見られ、抗原提示細胞の表面上のCD80またはCD86に結合したとき「切」スイッチとして作用する。CTLA4は、ヘルパーT細胞の表面上に発現される免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーであり、T細胞に阻害シグナルを伝達する。CTLA4は、T細胞共刺激タンパク質であるCD28に似ており、両分子は、抗原提示細胞上のCD80およびCD86(それぞれB7-1およびB7-2とも呼ばれる)に結合する。CTLA4は、T細胞に阻害シグナルを伝達するのに対して、CD28は、刺激シグナルを伝達する。細胞内CTLA4は、制御性T細胞にも見られ、それらの細胞の機能にとって重要であり得る。T細胞レセプターおよびCD28を介したT細胞の活性化により、B7分子に対する阻害性レセプターであるCTLA-4が高発現される。
【0226】
いくつかの実施形態において、免疫チェックポイント阻害剤は、抗CTLA-4抗体(例えば、ヒト抗体、ヒト化抗体またはキメラ抗体)、それらの抗原結合フラグメント、イムノアドヘシン、融合タンパク質またはオリゴペプチドである。
【0227】
本方法における使用に適した抗ヒトCTLA-4抗体(またはそれ由来のVHおよび/もしくはVLドメイン)は、当該分野で周知の方法を用いて作製され得る。あるいは、当該分野で認められている抗CTLA-4抗体を使用することができる。例示的な抗CTLA-4抗体は、イピリムマブ(10D1、MDX-010、MDX-101およびYervoy(登録商標)としても知られる)またはその抗原結合フラグメントおよびバリアントである。他の実施形態において、その抗体は、イピリムマブの重鎖CDRおよび軽鎖CDRまたは重鎖VRおよび軽鎖VRを含む。したがって、1つの実施形態において、その抗体は、イピリムマブのVH領域のCDR1、CDR2およびCDR3ドメインならびにイピリムマブのVL領域のCDR1、CDR2およびCDR3ドメインを含む。別の実施形態において、その抗体は、CTLA-4上の、上述の抗体と同じエピトープへの結合について競合し、かつ/またはCTLA-4上の、上述の抗体と同じエピトープに結合する。別の実施形態において、その抗体は、上述の抗体に対して少なくとも約90%の可変領域アミノ酸配列同一性(例えば、イピリムマブと少なくとも約90%、95%または99%の可変領域同一性)を有する。
4.手術
【0228】
癌を有する人のおよそ60%が、予防的手術、診断的手術または進行度診断手術、根治的手術および緩和手術をはじめとした何らかのタイプの手術を受ける。根治的手術には、癌性組織の全部または一部を物理的に除去、切除および/または破壊する摘出術が含まれ、他の治療(例えば、本実施形態の処置、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、遺伝子治療、免疫療法および/または代替療法)と併せて使用され得る。腫瘍摘出術とは、腫瘍の少なくとも一部を物理的に除去することを指す。手術による処置には、腫瘍摘出術に加えて、レーザー手術、凍結手術、電気手術および顕微鏡下手術(モース術)が含まれる。
【0229】
癌性細胞、組織または腫瘍の一部または全部を切除する際、身体に空洞が形成され得る。処置は、さらなる抗癌療法によるその領域の灌流、直接注射または局所適用によって達成され得る。そのような処置は、例えば、1、2、3、4、5、6もしくは7日ごとに、または1、2、3、4および5週間ごとに、または1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11もしくは12ヶ月ごとに、反復され得る。これらの処置は、様々な投与量の処置でもあり得る。
5.他の作用物質
【0230】
処置の治療効果を改善するために、本実施形態のある特定の態様と組み合わせて他の作用物質が使用され得ることが企図される。これらのさらなる作用物質としては、細胞表面レセプターおよびギャップ結合のアップレギュレーションに影響する作用物質、細胞分裂抑制剤および分化剤、細胞接着の阻害剤、アポトーシス誘導物質に対する過剰増殖細胞の感度を高める作用物質、または他の生物学的作用物質が挙げられる。ギャップ結合数を増加させることによる細胞間のシグナル伝達の増加は、隣接する過剰増殖細胞集団に対する抗過剰増殖効果を高め得る。他の実施形態では、処置の抗過剰増殖の有効性を改善するために、本実施形態のある特定の態様と組み合わせて細胞分裂抑制剤または分化剤が使用され得る。本実施形態の有効性を改善するために、細胞接着の阻害剤が企図される。細胞接着阻害剤の例は、接着斑キナーゼ(FAK)阻害剤およびロバスタチンである。アポトーシスに対する過剰増殖細胞の感度を高める他の作用物質(例えば、抗体c225)が、処置の有効性を改善するために本実施形態のある特定の態様と組み合わせて使用され得ることがさらに企図される。
VIII.製造品又はキット
【0231】
製造品又はキットも提供され、免疫細胞を含むものも本明細書中で提供される。操作されたT細胞及び/又はそれらを作製するための1つ又は複数の試薬を含む製造品又はキットが提供される。T細胞は、何らかの供給源からのものであり得、本明細書中に包含される方法によって作製され得るか、又はキットは、そのような操作されたT細胞を作製するための試薬を含み得る。いくつかの実施形態では、T細胞は既に改変されており、それらがさらに改変され得るように、例えば遺伝子編集されるように、及び/又は抗原受容体及び/又は異種サイトカインを含む1つ又は複数の異種タンパク質を発現するように、キットにおいて提供され得る。特定の実施形態では、T細胞は、1つ又は複数の異種抗原受容体を発現するように、及び/又は遺伝子編集されているように既に改変されており、それらがさらに改変され得るようにキットにおいて提供され得る。特定の実施形態では、T細胞は遺伝子編集されているように既に改変されており、1つ又は複数の異種抗原受容体を発現するようにそれらがさらに改変され得るようにキットにおいて提供され得る。T細胞は、ウイルス特異的であるように既に改変されていてもよく、又はキットは、T細胞をウイルス特異的であるように操作するために利用される1つ又は複数の試薬を含み得、例えば1つ又は複数の所望の抗原を指向するペプチド抗原を含むなどである。
【0232】
特定の実施形態では、T細胞を作製するための1つ又は複数の試薬、例えば、特定の遺伝子を標的とする試薬、1つ又は複数の異種抗原受容体を含む試薬(又は異種抗原受容体を作製するための1つ又は複数の試薬)、サイトカイン遺伝子移入又は形質導入ベクター又は発現コンストラクト、ウイルス抗原ペプチド又はそれらの組み合わせがキットにおいて提供される。一般的な実施形態では、試薬は、DNA又はRNAを含む核酸、タンパク質、培地、緩衝液、塩、補助因子などを含み得る。特定の場合において、キットは、特定の所望の遺伝子を標的化するためのものを含め、1つ又は複数のCRISPR関連試薬を含む。
【0233】
製造品又はキットは、免疫細胞又はそれに由来する細胞を使用して、個体における癌を処置するため若しくは癌の進行を遅延させるため、又は癌を有する個体の免疫機能を促進するための説明書を含む添付文書をさらに含み得る。本明細書中に記載される抗原特異的免疫細胞の何れも、製造品又はキット中に含まれ得る。適切な容器としては、例えば、ボトル、バイアル、バッグ及びシリンジが挙げられる。容器は、ガラス、プラスチック(ポリ塩化ビニル又はポリオレフィンなど)又は金属合金(ステンレス鋼又はハステロイなど)などの様々な材料から形成され得る。いくつかの実施形態では、容器は、処方物を保持し、容器上又は容器に結び付けられたラベルは使用法を示し得る。製造品又はキットは、他の緩衝液、希釈剤、フィルター、針、シリンジ及び使用説明書付きの添付文書を含め、商業的観点及び使用者の観点から望ましい他の材料をさらに含み得る。いくつかの実施形態では、製造品は、1つ又は複数の別の薬剤(例えば、化学療法剤及び抗新生物剤)をさらに含む。1つ又は複数の薬剤に対する適切な容器としては、例えば、ボトル、バイアル、バッグ及びシリンジが挙げられる。
【実施例
【0234】
以下の実施例は、本開示の特定の実施形態を明らかにするために含まれる。以下の実施例で開示される技術は、本開示の方法及び組成物の実施において良好に機能するように発明者により発見された技術を表し、従ってその実施のための特定の方式を構成すると考えられ得ることが当業者により理解されるはずである。しかし、当業者は、本開示に照らして、本開示の精神及び範囲から逸脱することなく、開示される具体的な実施形態において多くの変更をなし得、同様又は類似の結果を依然として得ることができることを認めるはずである。
実施例1
ウイルス特異的T細胞
ウイルス特異的T細胞(VST)は、同種異系造血幹細胞移植(HSCT)後のサイトメガロウイルス(CMV)、エプスタイン・バーウイルス(EBV)、アデノウイルス及びBKウイルス(BKV)などの命を脅かすウイルス感染症の治療に安全かつ有効であることが証明されている(Bollard and Heslop,2016)。しかし、HSCTの後、多くの患者が、移植片対宿主病(GVHD)などの合併症の治療のためにステロイドを受ける。実際、HSCTの後、ウイルス再活性化は、グルココルチコイドの使用に続くことが多い(Tong and Worswick,2015)。グルココルチコイドはリンパ球傷害性であり、T細胞のアポトーシスを誘導し(Lanza et al.,1996)、それによって養子注入されたVSTの臨床的有効性を制限する。グルココルチコイドは、多面的にリガンドにより活性化される転写因子であるグルココルチコイド受容体(GR)に結合することによって、その強力な免疫抑制効果を発揮する(Rhen and Cidlowski,2005;Kadmiel and Cidlowski,2013)。従って、核内受容体サブファミリー3のグループCメンバー1(NR3C1、GRタンパク質をコードする遺伝子)を欠失させることによってVSTがステロイド耐性になるようにVSTを操作することは、グルココルチコイド療法を受けている、生命を脅かすウイルス感染症を有する患者の治療のための有効な戦略となり得る。
本開示は、CRISPR-Cas9遺伝子編集を使用してグルココルチコイド受容体の発現を抑制するように操作された、優良医薬品製造基準(GMP)グレードの複数ウイルス特異的T細胞の作製のための新規ストラテジーを提供する。
実施例2
複数ウイルス特異的T細胞のための方法の例
I.複数ウイルス特異的T細胞の生成
末梢血単核細胞(PBMC)を、血清陽性ドナーのバフィーコートからFicollによって単離した。次いで、選択せずにウイルス特異的ペプミックス(pepmix)(1μg/ml、JPT)でPBMCを刺激し、RPMI1640+10%ヒトAB血清中、37℃で、5%COで2時間培養した。2時間後、サイトカインカクテルを添加した(IL-7 10ng/ml、IL-2 50IU/ml、IL-15 10ng/ml)。培地を交換し(RPMI1640+10%ヒトAB血清)、新鮮なサイトカインを培養期間中2日ごとに添加した。
II.CRISPR-Cas9遺伝子編集-小規模
リボヌクレオタンパク質(RNP)複合体を使用して、VSTの拡大増殖の第7~10日にNR3C1 KOを行った。ヒトGR遺伝子のエクソン2を標的とする2つのcrRNAを使用した:crRNA#1 TGAGAAGCGACAGCCAGTGA(配列番号1)、crRNA#2 GGCCAGACTGGCACCAACGG(配列番号2)。最初に、等モル濃度で、サーモサイクラー中で95℃で5分間温置することによって、各crRNAに対するcrRNA+tracrRNA二重鎖を調製した。Cas9タンパク質(IDT)及びgRNA(crRNA+tracrRNAの組み合わせ)を室温で15分間、1:1の比で温置した(Gundry et al.,2016)。次いで、温置生成物(gRNA及びCas9複合体)を使用して、Neon遺伝子移入システム(Thermo Fisher Scientific)を用いて、100万~200万個のVSTに対してエレクトロポレーションを行った。Alt-R HiFi Cas 9ヌクレアーゼ3-NLS(IDT)も上記のプロトコールで使用して、VSTへのエレクトロポレーションのためにgRNAとのRNP複合体を形成させた。最適化されたエレクトロポレーション条件は、T緩衝液を使用して1600V、10ms、3パルスであった。gRNA#1及びgRNA#2のオフターゲット試験に対して、Alt-R crRNA及びATTO標識tracrRNA(IDT)はガイドRNAを含んでおり;RNP複合体は、Alt-R WT及びAlt-R HiFi S.p.Cas9の両方とともに形成され、VSTへとエレクトロポレーションされた。
III.CRISPR-Cas9遺伝子編集-GMP準拠、大規模
大規模なCRISPR-Cas9プロトコールのために、Lonzaからの4D nucleofector(商標)を使用した。採用したプログラムはEO-115であり、使用した緩衝液は初代細胞用のP3緩衝液であった。小規模CRISPR-Cas9プロトコールの場合と同様に、各crRNAに対するcrRNA+tracrRNA二重鎖は、最初に、それらを等モル濃度でサーモサイクラー中で95℃にて5分間温置することによって調製した。次に、Cas9タンパク質(IDT)及びgRNA(crRNA+tracrRNAの組み合わせ)を室温で15分間温置した。2.2μMのCas9及び2.4μMのgRNAを使用して、細胞5×10個に対してエレクトロポレーションを行った。より大きな細胞用量については、次いで、目的の細胞用量を5×10で除し、次いでこの数に5×10個の細胞に対してエレクトロポレーションを行うために使用されるRNP複合体の最終量を乗じることによって試薬をスケールアップした。
IV.PCRゲル電気泳動
DNAをVSTから抽出し、精製した(QIAamp DNA Blood Mini Kit,Qiagen Inc.,Hilden,Germany)(対照及びNR3C1 KO条件)。GR遺伝子のエクソン2のCas 9-sgRNA切断部位にまたがる以下のPCRプライマーを使用したPCR増幅に対して、InvitrogenからのPlatinum(商標)SuperFi(商標)Green PCR Master Mixを使用した:
エクソン2フォワードプライマー:GGACTCCAAAGAATCATTAACTCCTGG(配列番号3)
エクソン2リバースプライマー:AATTACCCCAGGGGTGCAGA(配列番号4)
0.5×TBE中のSYBR safe DNAゲル染色剤を用いて調製したポリアクリルアミドゲル電気泳動によってDNAバンドを分離した。ゲル画像は、GBoxマシンをGeneSysソフトウェア(Syngene,Frederick,MD)と共に使用して得た。
V.ウエスタンブロット
GRタンパク質発現を検出するために、プロテアーゼ阻害剤(Complete Mini,EDTA不含カクテル錠剤、Roche Holding,Basel,Switzerland)を追加した溶解緩衝液(IP Lysis Buffer,Pierce Biotechnology Inc.,Rockford,IL)中でVSTを溶解させ、氷上で30分間温置した。タンパク質濃度をBCAアッセイ(Pierce Biotechnology Inc.,Rockford,IL)によって決定した。以下の一次抗体を使用した:グルココルチコイド受容体(クローンD6H2L)XPウサギmAb及びβ-アクチン抗体(クローン8H10D10)、両抗体はCell Signaling Technologyから入手した。LI-COR Odyssey Infrared Imaging Systemを使用してブロットを画像化した。
VI.フローサイトメトリー
以下の抗体をフローサイトメトリー染色に使用した:抗ヒトCD3抗体(BV650、クローンUCHT1、BD Bioscienceより)、抗ヒトCD4抗体(APC、クローンRPA-T4、Invitrogenより)、抗ヒトCD8抗体(Percp、クローンSK1、Biolegendより)、抗ヒトCD62L(BV605、クローンDREG-56、BD Bioscienceより)、抗ヒトCD45RA(PE-Cy7、クローンHI100、BD Bioscienceより)、抗ヒトCCR7(FITC、クローンG03H7、Biolegendより)。全てのデータをBD-Fortessa(BD Biosciences)で取得し、FlowJoソフトウェアで分析した。
VII.アネキシンVアポトーシスアッセイ
VST(Cas9対照又はNR3C1 KO)の生存率に対するデキサメタゾンの効果を評価するために、アネキシンVアポトーシスアッセイを行った。Cas9対照又はNR3C1 KO VSTをデキサメタゾン(200μM、D2915、Sigmaより)で72時間処理し、細胞を回収し、アネキシンV緩衝液で洗浄し、CD3(BV650、クローンUCHT1、BD Bioscienceより)、CD4(APC、RPA-T4、インビトロジェンより)及びCD8(Percp、クローンSK 1、Biolegendより)に加えて、アネキシンV(V500、BD Bioscienceより)及びLive/dead(efluor 660,Invitrogen)で染色した。T細胞に対してゲーティングした後、アポトーシス細胞(アネキシンVに対して陽性)及び死細胞(live/dead染色に対して陽性)の割合をフローサイトメトリーによって決定した。
VIII.機能アッセイ
ウイルスペプミックス(pepmix)を含む丸底96ウェルプレートにおいてブレフェルジンAの存在下で6時間、細胞100×10個/200μl/ウェルになるようにVSTを播種した。次いで、細胞を回収し、PBSで表面を洗浄し、BD固定/透過処理キットを使用して細胞内染色を行った。live/dead aqua dead cell stain(Thermofisher)、抗ヒトCD3抗体(BV650、クローンUCHT1、BD bioscienceより)、抗ヒトCD4抗体(APC、クローンRPA-T4、Invitrogenより)、抗ヒトCD8抗体(Percp、クローンSK1、Biolegendより)で細胞を染色した。Brilliant Violet 785(商標)、Biolegend,San Diego,CA,USA)に複合化された抗ヒトCD107a(LAMP-1)をアッセイの開始時にウェルに添加して、CD107a脱顆粒を測定した。TNF-α(Alexa Fluor 700(eBioscience Inc.,San Diego,CA,USA)に複合化されたクローンMAb11)、V450に複合化されたIFN-γ(クローンB 27、BD Biosciences,San Jose,CA,USA)及びIL-2(PE、クローンMQ 1-17H12、BD Bioscienceに複合化)に対する抗体を使用して、以前に記載されたようにフローサイトメトリーによって、細胞内サイトカイン産生を決定した(Rouce et al.,2016)。
IX.インビボ異種移植片モデル
インビボでのNR3C1 KO VSTの生着及び持続性を試験するために、NSGマウスの4つの群(10週齢雌、n=5/群)に、第-1日に放射線照射し、次いで、第0日に1×10個の対照VST(n=10、2群)又は1×10個のNR3C1 KO VST(n=10、2群)の何れかを注射した。次いで、マウスの半数(条件ごとに1群)を監視し、残りの半数を2週間にわたって毎日デキサメタゾン15mg/kgで皮下処置した。次いで、マウスを屠殺し、フローサイトメトリー染色のために骨髄を採取した。インビボ実験のために使用した抗体は以下の通りであった:live dead aqua(Thermofisher)、抗ヒトCD45抗体(Percp、クローンHI30,Biolegendに複合化)、抗ヒトCD3 CD3抗体(BV650、クローンUCHT1、BD bioscienceより)、抗ヒトCD4抗体(APC、クローンRPA-T4、Invitrogenより)、抗ヒトCD8抗体(Percp、クローンSK1、Biolegendより)。
X.オフターゲット識別
オフターゲット編集事象の偏りのない発見のために、GUIDE-seq法を使用した(Tsai et al.,2015)。S.pyogenes(S.ピオゲネス)Cas9ヌクレアーゼを構成的に発現するHEK293細胞(「HEK 293-Cas9」細胞)をCas9の供給源として使用した。Alt-R tracrRNAとAlt-R crRNA XTとを1:1のモル比で組み合わせることによって、Alt-R(登録商標)gRNA複合体を形成させた。Amaxa(商標)Nucleofector(商標)96ウェルShuttle(商標)System(Lonza,Basel,Switzerland)を用いたヌクレオフェクションによってgRNA複合体を送達した。各ヌクレオフェクションについて、3.5x10個のHEK293-Cas9細胞を1xPBSで洗浄し、20μLの溶液SF(Lonza)中で再懸濁し、0.5μMのGUIDE-seq dsDNAドナー断片と一緒に10μMのgRNAと合わせた。この混合物をNucleocuvette(商標)プレート(Lonza)の1つのウェルに移し、プロトコール96-DS-150を使用してエレクトロポレーションを行った。エレクトロポレーションの72時間後に、GeneJET Genomic DNA精製キット(Thermo Fisher Scientific)を用いてDNAを抽出した。NGSライブラリの調製、シーケンシング及びGUIDE-seqソフトウェアの操作は、Needleman-Wunchアライメントをさらに含めて、以前に記載されたように行った(Tsai et al.,2016)。
XI.マルチプレックスPCRのためのrhAmpSeqを介した標的濃縮
GUIDE-seqで同定されたオフターゲット部位での編集を定量するために、ブロック型切断可能プライマー(blocked-cleavable primer)を用いたrhPCR(RNaseH2の存在下で実行されるPCR)(Dobosy et al.,2011)を使用して、アンプリコンNGSと組み合わせたマルチプレックスPCRを行った。プライマーは、マルチプレックス中の他のプライマーとの適合性に基づいて、プライマーの相互比較及び選択のためのアルゴリズム(IDTにより開発)によって設計した。この増幅技術は、増幅前にプライマーが標的部位と適切にハイブリッド形成することを必要とする。標的とプライマーとの間のミスマッチはアンブロッキング(unblocking)を防ぎ、それによって特異性を高め、プライマー二量体を排除する。このアプローチは、単一のチューブ中での高度マルチプレックスPCRアンプリコンの効率的な生成を可能にする。これらの実験に対して、gRNA複合体を以前に記載のようにHEK 293-Cas9細胞に送達したか、又はAlt-R HiFi Cas9ヌクレアーゼv3と複合体化させて、活性リボ核タンパク質複合体(RNP)を形成させ、次いで、これを2μMのAlt-R Cas9エレクトロポレーションエンハンサー(IDT)と一緒に2μMでHEK 293細胞に対して直接ヌクレオフェクションした。エレクトロポレーションの48時間後に、QuickExtract DNA Extraction Solution(Epicentre)を用いてDNAを抽出した。以前に記載されたように(Vakulskas et al.,2018)、WTと、最適化された送達条件が介在する編集を伴うHiFi Alt-R Cas9 RNP複合体とを比較するオフターゲット研究のために、ゲノムDNAをNK細胞から同じ方法で抽出した。rhプライマーを用いた遺伝子座特異的増幅を10サイクル行った後、1.3×SPRIビーズのクリーンアップを行った。試料固有のP5及びP7インデックスを組み込むために、PCRのインデックス付与ラウンドを18サイクル実施し、その後、1×SPRIビーズのクリーンアップ及びqPCR(IDT)によるライブラリ定量を行った。PCRアンプリコンに対してIllumina MiSeq装置(v2ケミストリー、150bpのペアエンドリード)(Illumina,San Diego,CA,USA)でシーケンシングを行った。特注のパイプラインを使用してデータを分析した。データを多重化した(Picardツールv 2.9;https://github.com/broadinstitute/picard);フォワード及びリバースリードは伸長アンプリコン(フラッシュv 1.2.11)にマージし;リードをGRCh38ゲノム参照(minimap 2 v2.12)に対してアライメントし、マルチプレックスプライマープール中の標的(bedtoolsタグv2.25)に割り当てた。リードを標的に再アライメントし、Cas9予測切断部位の近くのINDELによるアライメント選択が好都合であった。各標的において、切断部位の4bpウィンドウ内にINDELを含有する全リードのパーセンテージとして編集を計算した。
XII.統計
二元配置のAnova検定又はスチューデントt検定を必要に応じて使用して、群間の定量的な差(平均±s.d.)を比較し;P値は両側であり、P<0.05を有意とみなした。Prismソフトウェア(GraphPadバージョン7.0c)を使用して、指示された統計学的検定を行った。共焦点顕微鏡分析のために、独立したt検定を使用してデータセットを分析した。データは平均±95%信頼区間を与える。ImageJを使用して画像を組み立てた。
実施例3
CRISPR-CAS9技術を使用したNR3C1ノックアウト複数ウイルス特異的T細胞の作製
CMV、BKV及びアデノウイルスに対するNR3C1ノックアウト(KO)複数ウイルス特異的T細胞(VST)を作製するために、末梢血単核細胞(PBMC)を血清陽性ドナーから単離し、サイトカインカクテル(IL-2 50IU/ml、IL-7 10ng/ml、IL-15 10ng/ml)の存在下で3つのウイルスの免疫優性タンパク質由来のペプミックス(pepmix)と共にインビトロで培養した。細胞の拡大増殖の第7~10日に、T細胞においてNR3C1を抑制するために、リボ核タンパク質(RNP)介在性CRISPR-Cas9遺伝子編集を使用した(図1A図1B)。第5染色体上に位置するヒトNR3C1遺伝子のエクソン2を標的とするために、2つのcrRNA配列を使用した(図1B)。PCR(図1C)及びウエスタンブロット分析(図1D)によって決定したところ、NR3C1は効率的に抑制された。
実施例4
GRの抑制は、その表現型又は機能を変更することなく、グルココルチコイドのリンパ球傷害性効果から複数ウイルス特異的T細胞を保護する
GRの抑制が複数ウイルス特異的T細胞をグルココルチコイドのリンパ球傷害性効果から保護するか否かを判定した。NR3C1 KO VST又は対照VST(本研究ではCas9単独でエレクトロポレーションされたVSTとして定義される)を200μMのデキサメタゾン(Dexa)と共に72時間培養し、アネキシンVアポトーシスアッセイを使用してそれらの生存率を評価した。培養終了時に、対照VST細胞の大部分はアポトーシスを起こしたか又は死滅したかの何れかであったが、一方でNR3C1 KO細胞は生存可能なままであり、NR3C1 KO VSTがグルココルチコイドのリンパ球傷害性効果に耐性であることが確認された(図2A図2C)。
次に、GRの抑制が複数ウイルス特異的CD4+及びCD8+T細胞の表現型又は機能に影響を及ぼすか否かを調べた。フローサイトメトリー分析により、対照VSTと比較して、NR3C1 KOはCD4+及びCD8+の分布又はVSTの成熟プロファイルに影響を及ぼさなかったことが確認された(図2D)。NR3C1 KO VSTは、ウイルス抗原によるエクスビボ刺激に応答したIFN-γ、TNF-α又はIL-2の産生によって測定されるように、対照VSTと同等のエフェクター機能を有していた(図2E、2F及び図6A、6B)。さらに、デキサメタゾンの存在下でのNR3C1 KO VSTの培養は、関連するウイルス抗原に対するそれらのエフェクター機能に影響を及ぼさなかった(図2E、2F)。これらの知見は、VSTにおけるNR3C1のCRISPR-Cas9介在性ノックアウトが、それらの表現型、機能及び特異性を維持しながら、それらをステロイド誘発性リンパ球傷害性から保護することを確認する。
実施例5
CRISPR-CAS9改変NR3C1 KO VSTは、インビボ異種移植片モデルにおいてグルココルチコイドに対して耐性である。
免疫不全マウスモデルを使用して、NR3C1 KO VSTのインビボ持続性及び全身デキサメタゾン療法に対するそれらの耐性を試験した。NSGマウスに対して第-1日に亜致死性に照射を行い、第0日に、Cas9のみをエレクトロポレーションした1×10個の対照VST(n=10)又は1×10個のNR3C1 KO VST(n=10)の何れかを投与した。次いで、各群の5匹のマウスを毎日デキサメタゾン15mg/kgで2週間皮下処置し、各群の残りのマウスを観察した(図3A)。治療の終了時に、動物を屠殺し、フローサイトメトリーによるT細胞計数のためにそれらの骨髄を採取した。対照VSTを投与された動物において、予想通り、ヒトCD3+T細胞は、デキサメタゾンを投与されなかった群でのみ検出し得た(図3B、3C)。対照的に、NR3C1 KO VSTを投与された動物において、ヒトT細胞は、デキサメタゾンで処置されたか否かにかかわらず、全ての動物において高頻度で(及び同等の数で)存在した(図3B、3C)。さらに、NR3C1 KO VSTを投与されたマウスにおけるヒトT細胞の頻度は、デキサメタゾンの非存在下で非改変VSTで治療された動物で見られたものと同様であった(図3B、3C)。移植片対宿主病を含む毒性の証拠は、実験群の何れにおいても剖検で観察されなかった(図7A~7F)。
実施例6
複数ウイルス特異的T細胞におけるCRISPR-CAS9のオフターゲット切断事象の分析
オフターゲットゲノム編集は、臨床へのCRISPR遺伝子編集アプローチの橋渡しに対する潜在的な障害である。本明細書中で使用される特定のNR3C1 crRNAに対するゲノム全体のオフターゲット効果のランドスケープを評価するために、GUIDE-seq及びrhAmpSeqTM技術(Integrated DNA Technologies[IDT])を使用して、実験的なオフターゲットの検証を行った。高度に修飾された合成gRNAと対になったS.pCas9ヌクレアーゼを構成的に発現するHEK293細胞を使用して、GUIDE-seq実験を行った。そうでなければ、以前に公開された方法に従って、編集しようとする可能性が最も高い各crRNAに関連するオフターゲット部位を同定した(図4A)。マルチプレックス標的化アンプリコンシーケンシング技術であるrhAmpSeqシステムを使用して、GUIDE-seqによって同定された部位に焦点を当てて、NR3C1遺伝子座を標的とするRNP複合体を用いてエレクトロポレーションが行われたVSTにおけるオフターゲット遺伝子編集事象をより包括的に調べた。野生型S.p.Cas9タンパク質で処理した細胞は、crRNA1、crRNA2(図4B)又は両方のcrRNAの組み合わせ(図4C)の何れでもオフターゲット編集事象の頻度が低かった。高忠実度Cas9(Alt-R HiFi Cas9 v3、IDT)タンパク質、即ちRNPフォーマット11で送達された場合に優れたオン対オフターゲット比を示すCas9変異体の使用の結果、効率的なKO(図8A、8B)が起こり、オフターゲット事象の発生率を<0.5%へとさらに低下させた(図4B、4C)。付随するオフターゲット事象が最小限である高いオンターゲット編集活性は、このアプローチの臨床への橋渡しを支援する。
実施例7
GMPグレードNR3C1 KO複数ウイルス特異的VSTSの臨床スケール製造
臨床的に適切な数のGMP準拠NR3C1 KO VSTを作製するための方法を開発した。臨床グレードのgRNA(Synthego,California USA)及びSpyFi Cas9(HiFi Cas9のGMPバージョン、Aldevron,North Dakota,USA)を含むGMP準拠材料を使用してプロトコールを最適化した。スケールアッププロトコールは、方法のセクションで詳述する。簡潔には、CMV、BKV及びアデノウイルスの免疫優性タンパク質由来のGLPグレードのペプミックス(pepmix)を使用してT細胞を拡大増殖させた。拡大増殖の第7日~第10日に、Lonza 4Dヌクレオフェクターを使用して、Cas9及びgRNAの存在下で異なるVST細胞数(3x10、25x10及び100×10個)に対してエレクトロポレーションを行った。細胞をさらに4~7日間、拡大増殖させ、次いで、機能研究のために回収した。KO効率は高く、試験した3つの用量レベルでDNAレベル及びタンパク質レベルの両方で同等であった(図5A、5B)。機能研究により、試験した全ての用量レベルで、デキサメタゾンと共に培養した場合でさえ、GMPグレードNR3C1 KO VSTの生存率及び増殖能が対照と同様であったことが明らかになった(図5C、5D)。さらに、大規模ヌクレオフェクションで作製されたNR3C1 KO VSTは、デキサメタゾンによる処理後でさえ、対照VSTと比較したときに、CD4及びCD8区画の同様の分布を維持した(図9)。さらに、大規模NR3C1 KO VSTは、CD8 T細胞及びCD4 T細胞区画の両方において、ウイルスペプミックス(pepmix)による刺激に応答して、エフェクター機能及びIFN-γ、TNF-α及びIL-2を産生する能力を保持した(図5E、5F)。これらのデータは、GMPグレードの材料を使用したこのストラテジーのスケールアップが技術的に実現可能であり、臨床の橋渡しにとって魅力的であることを証明する。最終的な目標は、グルココルチコイド治療を受けている免疫抑制患者のウイルス感染症を治療するために、これらの次世代GMPグレードNR3C1 KO VSTの大きなバイオバンクを作製することである(図10)。
実施例8
複数ウイルス特異的T細胞での使用のためのグルココルチコイド受容体の大規模なGMP準拠CRISPR-CAS9が介在する欠失
ウイルス再活性化は、罹患率及び死亡率の有意なリスクを伴うHSCT後の一般的な合併症である(Ljungman、2002年)。従来の抗ウイルス治療は、毒性(例えば、CMVに対するガンシクロビル又はホスカルネット)であるか、又は有効性が限定的(例えばアデノウイルス又はBKVに対して)であるかの何れかである。従って、多くのセンターがVSTを開発し、HSCT後のウイルス感染症を治療するためのこのアプローチの実現可能性、安全性及び有効性を示している(Bollard and Heslop,2016;Muftuoglu et al.,2018;Tzannou et a.,2017)。ウイルス再活性化は、GVHDなどのHSCT後の合併症の管理のためのグルコルチコイド(glucorticoid)の投与によって引き起こされることが多く(Tong and Worswick,2015;Devetten and Vose,2004)、それにより、このような患者はVST療法に不適格となる。本明細書中に包含される実施形態は、CRISPR-Cas9 RNP介在性の遺伝子編集技術を使用してNR3C1遺伝子を欠失させることによる、グルココルチコイド耐性の複数ウイルス特異的T細胞の作製のための新規ストラテジーを包含する。このアプローチは、非常に効率的であり、オフターゲット事象は無視できる程度であった。NR3C1 KO VSTは、それらの表現型及び機能性を維持しながら、インビトロ及びインビボの両方でグルココルチコイドのリンパ球傷害性効果に耐性であることが示された。最後に、本明細書中に包含される方法は、臨床使用のためのNR3C1 KO CMV、BKV及びアデノウイルス多特異性T細胞のGMPに準拠した作製を提供する。
CMV特異的T細胞をグルココルチコイドの効果に耐性にするためのGRの抑制は、TALEN技術を使用して他の者によって行われている(Menger et a.,2015)。しかしながら、CRISPR-Cas9は、TALENに優るいくつかの利点を有し、それには、ゲノム標的の設計の容易さ、オフターゲット部位に関する容易な予測及びいくつかのゲノム部位を同時に改変する可能性(多重化)が含まれる(Knot et al.,2018;Fellmann et al.,2017;Urnov,2018)。これらの利点にもかかわらず、CRISPR-Cas9は、オフターゲットゲノム編集のリスク(Fu et al.,2013)及びこの技術を臨床に安全に橋渡しする際の課題(Nocol et al.,2017;Zhang et al.,2014)を含め、その治療的橋渡しを複雑にしている多くの不確実性を有する。本明細書中に包含される実施形態は、複数ウイルス特異的T細胞の大規模な拡大増殖及び遺伝子編集のためのGMP準拠プロトコールを開発することによって、これらの懸念に対処する。さらに、本明細書中に包含される方法は、オフターゲットの遺伝的事象の可能性を最小限に抑えることによって、アプローチの安全性を保証するためのいくつかの工程を提供する。これらの工程は、計算的及び数学的予測に基づいて最適なgRNAを設計すること、及びGUIDE-seq(Tsai et al.,2015)及びrhAmp-Seq(Dobosy et al.,2011)技術を使用する機能的実験的オフターゲット切断検証アッセイを適用することを含む。さらに、RNP複合体をCas9-sgRNA送達のために使用した。このアプローチは、RNPが細胞において急速に分解し、その活性を制限するので、オフターゲット事象を制限することが示されている(Kim et al.,2014)。最後に、GMPグレードの高忠実度Cas9タンパク質(Aldevron)(Jackow et al.,2019)を使用して、ゲノム全体のオフターゲット活性をさらに最小限に抑えて、本明細書中に包含される方法及び組成物の安全性を確保した。
既製のHLAミスマッチVSTを用いた養子細胞療法は、CRISPR-Cas9遺伝子編集を臨床に導入するための良好なプラットフォームである(Perales et al.,2018;Salas-Mckee et al.,2019)。非遺伝子編集VSTは、複数の臨床試験で報告されているように安全性の実証された実績がある(Bollard and Heslop,2016)。それらは、悪性形質転換の可能性があるとしても最小限である分化した成熟T細胞である。さらに、それらは最終的に、ドナーとレシピエントとの間のHLA不一致のために拒絶され、毒性の起こりそうにない事象では、NR3C1 KO VSTは、抗胸腺細胞グロブリン又はアレムツズマブ(CD52を標的とする)などのT細胞に対する抗体を使用して依然として排除され得る。
本明細書中に包含される方法及び組成物を臨床に橋渡しするために、GMPグレードのウイルスペプミックス(pepmix)及びGMPグレードのgRNA及び高忠実度Cas9タンパク質の使用の検証を行い、臨床的に適切な数のVSTの作製を促進するために遺伝子移入プロトコールの規模を拡大した。発明者らのGMP準拠アプローチを使用して作製されたNR3C1 KO VSTは、グルココルチコイドの存在下で培養した場合でも、非遺伝子編集VSTと同等の効力を有することが示された。さらに、免疫不全マウスモデルにおいて、移植されたNR3C1 KO VSTは、非遺伝子編集VSTと同様の頻度で検出され得、デキサメタゾンのリンパ球傷害性効果に耐性であった。養子注入されたVSTの有効性を試験するためのヒトウイルス感染のロバストなマウスモデルは容易に入手できないので、NR3C1 KO VSTの効力を一連のインビトロ実験で確認した。
GRの大規模欠失のための方法は、脳の癌(Ly and Wen,2017;Dietrick et al.,2011)など、グルココルチコイドの併用が必要とされることが多い癌を標的とするように他の細胞治療製品を操作するために拡張され得る。さらに、これは、制御性T細胞を操作して、GVHD(Fisher et al.,2019)又は自己免疫障害(Ellebrecht et al.,2016;Flemming,2016)の治療のためのステロイドとの同時投与を可能にするために適用され得る。実際、CRISPR-Cas9を使用して遺伝子の発現を抑制するため及び、細胞療法用の大規模なGMP準拠細胞を作製するための方法論を使用して、無数の遺伝子を標的とし、多数の臨床応用に対する道を開くことができる。
要約すると、本明細書中に包含される方法は、患者がグルココルチコイド療法を受けているか否かにかかわらず、免疫抑制患者における重度のウイルス感染症を治療するために使用され得る、CMV、BKV及びアデノウイルスを標的とする、多数のGMPに準拠したステロイド耐性複数ウイルス特異的T細胞の作製のための新規アプローチを提供する。
実施例9
大規模NR3C1ノックアウトのプロトコル
本態様は、NR3C1遺伝子に対する大規模ノックアウトのプロトコルの一例に関する。この特定の場合では、一例として、CRISPR法によって遺伝子編集を行った。
材料の例
1.gRNA#1(61uM,Synthego)
2.gRNA#2(61uM,Synthego)
3.SpyFY Cas9(61uM,Aldevron)
4.HEPES(15mM)およびマンニトール(50mM)が補充されたプラズマライト
5.Lonza 4D Nucleofactor(プログラム:Primary P3、CA137、CM137)
6.培養フラスコ
手順:以下は、100E6個の細胞の場合のプロトコルである。
工程1:gRNAとcas9とを3:1のモル比で合わせる。これをすべてのgRNAについて別々に行う。
【表11】
【表12】
ピペットで混合し、遠心分離する。
その混合物を室温で20分間インキュベートする。
工程2:gRNA#1+Cas9とgRNA#2+Cas9とを1:1の比で合わせる。
【表13】
工程3:細胞のエレクトロポレーションを行う。
エレクトロポレーションの前に、適切な培地を含む培養フラスコを準備する。
使用の直前に、100E6個の細胞を調製し、1mlのプラズマライトに再懸濁する。
【表14】
Lonza 4D Nucleofactorシステムを使用し、プログラムコードCA137またはCM137を用いてエレクトロポレートする。
エレクトロポレートし、事前準備したフラスコに加える。
混合し、37℃でインキュベートする。
3日後、例えばPCRおよび/またはウエスタンブロットによって、ノックアウト効率をチェックする。
図11Aは、Lonza 4D-NucleofactorTMにおけるエレクトロポレーションに使用した様々なプログラム(CM137、DN100、CA137、DS137およびEH100)に対する、PCRを用いて試験されたNR3C1のノックアウト効率を示している。これは、5E6個のT細胞およびプラズマライト(HEPESおよびマンニトールが補充されたもの、プラズマライト(PL))を用いて、小規模で行った。CA137およびCM137を使用したときのノックアウト効率は、製造者の他のプログラムと比べて高かった。NR3C1をノックアウトされた細胞の拡大倍率を、製造者の様々なエレクトロポレーションプログラムを用いて試験した(図11B)。CA137およびCM137を用いたとき、細胞生存率および拡大率は、より高かった。次いで、大規模研究(図12A~12B)を行って、これらの2つのプログラムの実行可能性を試験した。
図12Aでは、PCRを用いたNR3C1ノックアウト効率を、Lonza4D-NucleofactorTMにおけるエレクトロポレーションに対して用いられたCM137プログラムについて試験した。これは、Lonza緩衝液(P3)またはPL(HEPESおよびマンニトールが補充されたもの)を使用して50E6個のT細胞を用いて、およびPL(HEPESおよびマンニトールが補充されたもの)を使用して100E6個のT細胞を用いて、大規模で行われた。すべての条件のノックアウト効率および生存率は、同等だった。図12Bは、Lonza 4D-NucleofactorTMにおけるエレクトロポレーションに使用されるCA137プログラムを用いたときのNR3C1のノックアウト効率を示している。これは、PL(HEPESおよびマンニトールが補充されたもの)を使用して50E6個のT細胞または100E6個のT細胞を用いて、大規模で行われた。すべての条件のノックアウト効率および生存率は、同等だった。
参考文献
以下の参考文献は、本明細書に記載されたものを補足する例示的な手順またはその他の詳細を提供する限りにおいて、参照することにより本明細書に具体的に組み込まれるものとする。
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本明細書中に開示および特許請求される方法のすべてが、本開示に鑑みて、過度の実験を行うことなく実施および実行され得る。本発明の組成物および方法を好ましい実施形態の点から説明してきたが、本発明の概念、趣旨および範囲から逸脱することなく、本明細書中に記載された方法および方法の工程または工程の順序に変更が適用されてもよいことが当業者には明らかだろう。より詳細には、同じまたは類似の結果が達成される限り、化学的かつ生理的に関係するある特定の作用物質を本明細書中に記載される作用物質の代わりに用いてもよいことが明らかだろう。当業者に明らかなそのような類似の代替物および改変のすべてが、添付の請求項によって定義される本発明の趣旨、範囲および概念の範囲内であるとみなされる。
図1-1】
図1-2】
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図2-4】
図2-5】
図3-1】
図3-2】
図3-3】
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図10
図11
図12
【配列表】
2023504082000001.app
【国際調査報告】