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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-01
(54)【発明の名称】置換ブテンアミドの応用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4706 20060101AFI20230125BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230125BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230125BHJP
【FI】
A61K31/4706
A61P35/00
A61P43/00 111
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022531527
(86)(22)【出願日】2020-11-26
(85)【翻訳文提出日】2022-06-21
(86)【国際出願番号】 CN2020131638
(87)【国際公開番号】W WO2021104341
(87)【国際公開日】2021-06-03
(31)【優先権主張番号】201911179729.9
(32)【優先日】2019-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522209859
【氏名又は名称】蘇中薬業集団股▲ふん▼有限公司
(71)【出願人】
【識別番号】522209871
【氏名又は名称】江蘇蘇中薬業研究院有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【弁理士】
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【弁理士】
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】唐 海涛
(72)【発明者】
【氏名】葛 海涛
(72)【発明者】
【氏名】易 年紅
(72)【発明者】
【氏名】張 玉強
(72)【発明者】
【氏名】曹 蘇▲ミン▼
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC28
4C086GA13
4C086GA14
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZC20
(57)【要約】
本発明は、置換ブテンアミドの応用に関し、具体的には、(E)-N-(3-シアノ-7-エトキシ-4-(3-エチニルフェニルアミノ)キノリン-6-イル)-4-(ジメチルアミノ)ブタ-2-エンアミド及びその薬学的に許容され得る塩、溶媒和物の希少EGFR変異による癌を治療する薬の製造への応用に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(E)-N-(3-シアノ-7-エトキシ-4-(3-エチニルフェニルアミノ)キノリン-6-イル)-4-(ジメチルアミノ)ブタ-2-エンアミド及びその薬学的に許容され得る塩、溶媒和物の希少EGFR変異による癌を治療する薬物の製造への応用。
【請求項2】
前記薬学的に許容され得る塩は、塩酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、メタンスルホン酸塩、又はマレイン酸塩である、ことを特徴とする請求項1に記載の応用。
【請求項3】
前記薬学的に許容され得る塩は、さらに水和物であり、好ましくは半水和物、又は一水和物である、ことを特徴とする請求項1に記載の応用。
【請求項4】
前記希少EGFR変異は、EGFR変異体L861Q、G719X、S768Iのいずれか1つ又は複数の組み合わせを含むが、これらに限定されない、ことを特徴とする請求項1に記載の応用。
【請求項5】
前記癌は非小細胞肺癌である、ことを特徴とする請求項1に記載の応用。
【請求項6】
(E)-N-(3-シアノ-7-エトキシ-4-(3-エチニルフェニルアミノ)キノリン-6-イル)-4-(ジメチルアミノ)ブタ-2-エンアミド及びその薬学的に許容され得る塩、溶媒和物の治療有効量を、それを必要とする被検者へ投与する、ことを特徴とする希少EGFR変異による癌の治療方法。
【請求項7】
前記治療有効量は、1日に50~250mgであり、好ましくは1日に1回100mgである、ことを特徴とする請求項6に記載の治療方法。
【請求項8】
前記治療有効量は、0.01~500mg/kg、好ましくは0.01~50mg/kg、より好ましくは0.01~30mg/kg、さらに好ましくは0.1~10mg/kg又は0.5~3mg/kg体重の1日量である、ことを特徴とする請求項6に記載の治療方法。
【請求項9】
前記希少EGFR変異は、EGFR変異体L861Q、G719X及び/又はS768Iを含むが、これらに限定されない、ことを特徴とする請求項6に記載の治療方法。
【請求項10】
前記薬学的に許容され得る塩は、塩酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、メタンスルホン酸塩、又はマレイン酸塩であり、より好ましくはこの塩の半水和物、又は一水和物である、ことを特徴とする請求項6に記載の治療方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬の技術分野に関し、具体的には置換ブテンアミドの応用に関する。
【背景技術】
【0002】
非小細胞肺癌(non-smallcelllungcancer,NSCLC)は、人体の健康を厳重に脅かす悪性腫瘍であり、手術及び化学療法技術が絶えず向上しているにもかかわらず、患者の予後は依然として悪く、5年生存率は20%未満である。現在、ヒト上皮細胞増殖因子受容体(epitheliumgrowthfactorrecptor,EGFR)を標的とする分子標的治療は、NSCLCを治療する最も重要な方法となっている。
【0003】
EGFRは、癌原遺伝子C-erbB-1の発現産物であり、遺伝子が第7染色体に位置し、膜貫通型受容体チロシンキナーゼに属する。EGFRは、そのリガンドと結合した後、下流シグナル経路を活性化することができ、腫瘍細胞の増殖、分化、血管新生及びアポトーシス阻害を調節することにより、一連の腫瘍の生物学的現象を制御する。
【0004】
現在、臨床的に使用されているEGFRに対する標的薬は、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)であり、EGFR-TKIがEGFRの自己リン酸化を抑制することでEGFRシグナル伝達経路を遮断することにより、腫瘍細胞の増殖分化を抑制し、標的治療を実現する。
【0005】
EGFR変異は、EGFR配列の任意の部位で生じ得る。通常、EGFR変異株は、キナーゼドメイン(即ちEGFR配列におけるエクソン18~24)又は細胞外ドメイン(即ちEGFR配列におけるエクソン2~16)の変異に由来する。エクソン18における1又は複数の点変異は、L688P、V689M、P694L/S、N700D、L703V、E709K/Q/A/G/V、I715S、L718P、G719C/A/S/R又はS720P/Fを含む。エクソン19における欠失は、delG719、delE746_E749、delE746_A750、delE746_A750insRP、delE746_A750insQP、delE746_T751、delE746_T751insA/I/V、delE746_T751insVA、delE746_S752、delE746_S752insA/V/D、delE746_P53insLS、delL747_E749、delL747_A750、delL747_A750insP、delL747_T751、delL747_T751insP/S/Q、delL747_T751insPI、delL747_S752、delL747_S752insQ、delL747_P753、delL747_P753insS/Q、delL747_L754insSR、delE749_A750、delE749_A750insRP、delE749_T751、delT751_I759、delT751_I759insS/N又はdelS752_I759を含む。エクソン19における複製は、K739_I44dupKIPVAIを含む。エクソン19における点変異は、L730F、W731Stop、P733L、G735S、V742A、E746V/K、A750P、T751I、S752Y、P753S、A754P又はD761Yを含む。エクソン20におけるインフレーム挿入は、D761_E762insEAFQ、A767_S768insTLA、V769_D770insY、V769_D770insCV、V769_D770insASV、D770_N771insD/G、 D770_N771insNPG、D770_N771insSVQ、P772_H773insN/V、P772_H773insYNP又はV774_C775insHVを含む。エクソン20における欠失は、delM766_A767、delM766_A767insAI、delA767_V769、delD770又はdelP772_H773insNPを含む。エクソン20における複製は、S768_D770dupSVD、A767_V769dupASV又はH773dupHを含む。エクソン20における点変異は、D761N、A763V、V765A/M、S768I、V769L/M、S768I、P772R、N771T、H773R/Y/L、V774M、R776G/H/C、G779S/F、T783A、T784F、L792P、L798H/F、T790M、R803W、K806E又はL814Pを含む。エクソン21における点変異は、G810S、N826S、L833V、H835L、L838V、A839T、K846R、T847I、H850N、V851I/A、I853T、L858M/R、A859T、L861Q/R、G863D、A864T、E866K又はG873Eを含む。
【0006】
EGFR-TKIの治療効果は、EGFR遺伝子の変異の詳細と密接に関連し、EGFR遺伝子の変異が主にエクソン18~21に集中し、感受性変異及び耐性変異を含む。
【0007】
中国肺癌患者のうち、EGFR変異率は30~50%を占め、その中に第19番目及び第21番目(L858R、L861I)のエクソン変異率が総変異率の90%前後を占め、第18番目のエクソン変異が総変異率の5%前後を占め、第20番目のエクソンにおけるT790M変異が変異率の5%前後を占める。第19番目のエクソン欠失及びL858R変異以外のものは、希少変異と呼ばれ、例えば、L861Q、G719X、S768Iなどである。
【0008】
特許文献1には、(E)-N-(3-シアノ-7-エトキシ-4-(3-エチニルフェニルアミノ)キノリン-6-イル)-4-(ジメチルアミノ)ブタ-2-エンアミドのEGFR変異体L858R/T790M、EGFR変異体E746-A750等の一般的なEGFR変異体に対する効果が開示されているが、L861Q、G719X、S768I等の希少変異体に対する効果が記載されていない。
【0009】
希少EGFR変異(例えば、L861Q、G719X、S768I)を有する細胞を抑制する新規方法が必要であることは明らかであり、このような変異に関連する癌を治療する新たな治療法は重大な意義を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】中国特許出願公開第102625797号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、置換ブテンアミドの応用を提供し、具体的には、化合物(E)-N-(3-シアノ-7-エトキシ-4-(3-エチニルフェニルアミノ)キノリン-6-イル)-4-(ジメチルアミノ)ブタ-2-エンアミド及びその薬学的に許容され得る塩、溶媒和物の新たな応用を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る化合物(E)-N-(3-シアノ-7-エトキシ-4-(3-エチニルフェニルアミノ)キノリン-6-イル)-4-(ジメチルアミノ)ブタ-2-エンアミド及びその薬学的に許容され得る塩、溶媒和物は、L861Q、G719X、S768Iなどの希少EGFR変異体による癌に対して優れた阻害活性を有する。
【0013】
前記化合物(E)-N-(3-シアノ-7-エトキシ-4-(3-エチニルフェニルアミノ)キノリン-6-イル)-4-(ジメチルアミノ)ブタ-2-エンアミドの構成式は、
【化1】
で示される。
【0014】
本発明に係る化合物(E)-N-(3-シアノ-7-エトキシ-4-(3-エチニルフェニルアミノ)キノリン-6-イル)-4-(ジメチルアミノ)ブタ-2-エンアミド及びその薬学的に許容され得る塩、溶媒和物は、EGFR変異株を発現する細胞の増殖を抑制することができる。
【0015】
さらに、本発明は、(E)-N-(3-シアノ-7-エトキシ-4-(3-エチニルフェニルアミノ)キノリン-6-イル)-4-(ジメチルアミノ)ブタ-2-エンアミド及びその薬学的に許容され得る塩、溶媒和物の希少EGFR変異による癌を治療する薬物の製造への応用を提供する。
【0016】
本発明の他の態様は、(E)-N-(3-シアノ-7-エトキシ-4-(3-エチニルフェニルアミノ)キノリン-6-イル)-4-(ジメチルアミノ)ブタ-2-エンアミド及びその薬学的に許容され得る塩、溶媒和物の治療有効量を、それを必要とする被検者へ投与することにより、被検者の希少EGFR変異による癌の症状を治療又は緩和する方法を提供する。
【0017】
本発明に係る希少EGFR変異は、EGFR19エクソン欠失及びL858R変異以外の変異であり、EGFR変異体L861Q、G719X、S768Iのいずれか1つ又は複数の組み合わせを含み、感受性変異(非耐性変異)又は耐性変異であってもよい。
【0018】
本発明に係る「EGFR変異による癌」とは、EGFR核酸分子又はポリペプチドの生物活性を変化させるEGFR遺伝子変異(本明細書に係る特定の変異を含む)を特徴とする腫瘍をいう。EGFR変異による腫瘍は、脳、血液、結合組織、肝臓、口、筋肉、脾臓、胃、精巣及び気管を含む任意の組織に出現することができる。EGFR変異による癌としては、扁平上皮癌、腺癌、腺癌、細気管支肺胞上皮癌(BAC)、局所浸潤性BAC、BACの特徴を有する腺癌、及び大細胞癌の1つ又は複数を含む非小細胞肺癌(NSCLS)、膠芽腫などの神経腫瘍、膵臓癌、頭頸部癌(例えば扁平上皮癌)、乳癌、結腸直腸癌、扁平上皮癌などの上皮癌、卵巣癌、前立腺癌、腺癌、並びにEGFRによる癌を含む。
【0019】
本発明に係るEGFRによる癌はさらに、非小細胞肺癌である。
【0020】
本発明に係る「EGFR変異株を発現する細胞の増殖を抑制する」とは、EGFRを発現する細胞の体外又は体内での増殖速度を適度に減速、停止又は逆転させることを意味する。細胞増殖速度を測定する適切な方法(例えば、本明細書に記載の細胞増殖アッセイ)を用いて測定する場合に、増殖速度は、少なくとも10%、20%、30%、50%、又はさらに70%遅くなることが望ましい。EGFR変異株は、本明細書に記載の任意のEGFR変異株であってもよい。
【0021】
本発明に係る薬学的に許容され得る塩には、規制当局によって承認されるアルカリ金属塩を形成して遊離酸又は遊離塩基の付加塩を形成するために一般的に使用される塩が含まれる。塩は、イオン会合、電荷-電荷相互作用、共有結合、錯化、配位などの作用により形成される。塩が薬学的に許容され得る限り、その性質は重要ではない。
【0022】
前記薬学的に許容され得る塩の種類としては、前記化合物の遊離塩基形態と、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸等のような無機酸、又は酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、乳酸、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、グルコン酸、グルタミン酸、ヒドロキシナフトエ酸、サリチル酸等のような有機酸の薬学的に許容され得る酸とを反応させて形成される酸付加塩を含むが、これらに限定されるものではない。
【0023】
このような塩の他の例としては、Bergeら,J.Pharm.Sci,66,1(1977)を参照されたい。いくつかの実施形態において、従来の方法を用いて塩を形成する。本発明の化合物のリン酸塩は、例えば、所望の溶媒又は溶媒の組み合わせ中の所望の化合物遊離塩基と、所望の化学量論量のリン酸とを、所望の温度、通常加熱下(溶媒の沸点に依存する)で混合することにより調製される。一実施形態において、冷却(徐冷又は急速冷却)後、前記塩は析出して結晶化する(結晶性である場合)。また、本明細書には本発明の化合物の半塩、単塩、二塩、三塩及び多塩形態がさらに含まれる。同様に、本明細書には、前記化合物、その塩、又は半水和物、一水和物、二水和物、三水和物及び多水和物形態がさらに含まれる。
【0024】
いくつかの実施形態において、前記化合物は、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩又はメタリン酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、カプロン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、グリコール酸塩、ピルビン酸塩、乳酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、トリフルオロ酢酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、安息香酸塩、3-(4-ヒドロキシベンゾイル)安息香酸塩、桂皮酸塩、マンデル酸塩、メシル酸塩、エタンスルホン酸塩、1,2-エタンジスルホン酸塩、2-ヒドロキシエタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、2-ナフタレンスルホン酸塩、4-メチルビシクロ-[2.2.2]オクト-2-エン-1-カルボン酸塩、グルコヘプトン酸塩、4’4-メチレンビス-(3-ヒドロキシ-2-エン-1-カルボン酸)塩、3-フェニルプロピオン酸塩、トリメチル酢酸塩、t-ブチル酢酸塩、ラウリル硫酸塩、グルコン酸塩、グルタミン酸塩、ヒドロキシナフトエ酸塩、サリチル酸塩、ステアリン酸塩、ムコン酸塩、酪酸塩、フェニル酢酸塩、フェニル酪酸塩、バルプロ酸塩等である。好ましい実施形態において、化合物としては、塩酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、メタンスルホン酸塩、マレイン酸塩、又はこれらの水和物、例えば一水和物が挙げられる。
【0025】
本発明に係る化合物(E)-N-(3-シアノ-7-エトキシ-4-(3-エチニルフェニルアミノ)キノリン-6-イル)-4-(ジメチルアミノ)ブタ-2-エンアミド及びその薬学的に許容され得る塩、溶媒和物は、患者に投与される場合に、薬学的に許容され得る補助剤と医薬組成物を形成して、適当な医薬製剤の態様で投与する。
【0026】
本発明で使用される医薬組成物において、前記薬学的に許容され得る補助剤は、担体、賦形剤、粘着剤、充填剤、懸濁化剤、芳香剤、甘味剤、崩壊剤、分散剤、界面活性剤、滑沢剤、着色剤、希釈剤、溶解補助剤、湿潤剤、可塑剤、安定化剤、浸透促進剤、濡らし剤、消泡剤、酸化防止剤、防腐剤、又はこれらの1種又は複数種の組み合わせを含む。前記医薬組成物は、前記化合物を有機体に投与するのに役立つ。本明細書に係る治療又は使用方法を実施する際に、本明細書に記載の化合物の治療有効量を、治療すべき疾患、障害又は状態に罹患している哺乳動物に医薬組成物の形態で投与する。いくつかの実施形態において、前記哺乳動物はヒトである。治療有効量は、疾患の重症度、個体の年齢、相対健康状態、使用する化合物の効力及びその他の要素によって大幅に変化する。前記化合物は、単独で使用してもよいか、又は混合物の成分として1種又は複数種の治療剤と組み合わせて使用してもよい。
【0027】
本発明に係る医薬製剤は、水性分散液、自己乳化分散液、固体溶液、リポソーム分散液、エアゾール剤、固形剤、散剤、即時放出製剤、放出制御製剤、崩壊(fastmelt)製剤、錠剤、カプセル剤、ペレット剤、遅放化製剤、徐放性製剤、パルス放出型製剤、多顆粒製剤並びに混合型即時放出及び放出制御製剤を含むが、これらに限定されない。
【0028】
患者に化合物を投与する量や、本発明の化合物及び/又は組成物を用いて癌を治療するための投与計画は、個々の年齢、体重、性別、医療状態、疾患の種類、疾患の重症度、投与経路や頻度、使用する特定の化合物などの様々な要素に依存する。したがって、投与計画は大幅に変化させることができるが、標準方法を用いて常套的に決定することができる。いくつかの実施形態において、約0.01~約500mg/kg体重の1日量、好ましくは約0.01~約50mg/kg体重の1日量、より好ましくは約0.01~約30mg/kg体重の1日量、さらに好ましくは約0.1~10mg/kg体重の1日量、さらにより好ましくは約0.5~3mg/kg体重の1日量が適当であり、本明細書に開示される全ての使用方法は使用可能である。この1日量は、1日に1~4回の用量で投与することができる。いくつかの実施形態において、患者に投与する治療有効量は、50~250mgであり、好ましくは1日1回100mgであり、28日間連続して投与する。
【0029】
患者に投与する適切な投与経路としては、経口、静脈内、直腸、エアロゾル、非経口、眼、肺、経粘膜、経皮、経腟、耳、鼻、局所投与を含むが、これらに限定されるものではない。また、非経口投与には、単なる例であるが、筋肉内、皮下、静脈内、髄内注射、髄腔内、直接心室内、腹腔内、リンパ管内、鼻内注射が含まれる。
【発明の効果】
【0030】
本発明に係る化合物(E)-N-(3-シアノ-7-エトキシ-4-(3-エチニルフェニルアミノ)キノリン-6-イル)-4-(ジメチルアミノ)ブタ-2-エンアミド及びその薬学的に許容され得る塩、溶媒和物は、希少EGFR変異による癌に対して顕著な治療効果を有し、一般的な化合物が希少EGFR変異による癌に対して、一般的な非希少EGFR変異による癌よりも劣ることとは異なり、本発明に係る化合物は、T790M又はL858R/T790M変異などの非希少EGRR変異に比べて、より良好な治療効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、これらの実施例は、本発明の範囲を限定するものではない。
【0032】
本発明の実施例に係る(E)-N-(3-シアノ-7-エトキシ-4-(3-エチニルフェニルアミノ)キノリン-6-イル)-4-(ジメチルアミノ)ブタ-2-エンアミドは国際公開第2010/151710号に記載の方法に従って製造されたものであり、(E)-N-(3-シアノ-7-エトキシ-4-(3-エチニルフェニルアミノ)キノリン-6-イル)-4-(ジメチルアミノ)ブタ-2-エンアミドのマレイン酸塩一水和物はCN104513200Aに記載の方法に従って製造されたものであり、(E)-N-{4-[(3-エチニルフェニルアミノ)-3-シアノ-7-エトキシ-6-キノリニル]}-4-(ジメチルアミノ)-2-ブテンアミドのマレイン酸塩とも呼ばれる。
【0033】
実施例1 プロテインキナーゼのIC50測定
本実施例で測定される化合物は、(E)-N-(3-シアノ-7-エトキシ-4-(3-エチニルフェニルアミノ)キノリン-6-イル)-4-(ジメチルアミノ)ブタ-2-エンアミドである。
1.実験計画
プロテインキナーゼに対する化合物のIC50を測定し、被験物質を10個の片対数濃度(1×10-06M~3×10-11M)とし、1ウェルでIC50を測定した。
2.被験物質
被験物質は、2本チューブの固体であり、ProQinaseを-20℃に移し、その後に使用した。
試験前に、100%DMSOで1×10-03M被験物質のストック溶液を調製し、さらに1×10-04M/100%DMSOに希釈した。
被験物質を96ウェルプレートに100%DMSOで片対数希釈し、1×10-04M~3×10-09Mに調製した。使用前に、被験物質を水で1:10に希釈し、10%DMSOを含む1×10-05M~3×10-10Mの被験物質試料を得た。
それぞれの濃度を5μl加えて試験したところ(第3部のプロテインキナーゼ試験を参照)、試験の最終体積が50μlであった。被験物質は1×10-06M~3×10-11Mの濃度で測定した。全ての反応ウェルにおけるDMSOの最終濃度は1%であった。
【0034】
3.プロテインキナーゼ試験
放射能測定によるプロテインキナーゼ試験(33PanQinase(登録商標)活性測定法)で8種類のプロテインキナーゼの活性を測定した。全ての試験は反応容量50μlを用い、Perkin Elmer(ボストン、マサチューセッツ州、米国)の96ウェルプレートで行った。試薬、試料などを4段階に分けて加え、
非放射性ATP水溶液10μl、
緩衝液/[γ-33P]-ATP混合液25μl、
10%DMSOを含む被験物質5μl、
酵素/基質混合物10μlである。
基質はPoly(Glu,Tyr)4:1、コード番号がSIG_20K5903である。
全ての試験は、HEPES-NaOHを70mM、pHを7.5、MgClを3mM、MnCを3mM、オルトバナジン酸ナトリウム塩を3μM、DTTを1.2mMとし、ATP(不定、各酵素の見掛けATP-Kmに関連、表1参照)、[γ-33P]-ATP(1ウェルあたり約8×1005cpm)、プロテインキナーゼ(不定、表1参照)、基質(不定、表1参照)であった。
【0035】
試験に用いられた酵素と基質との濃度を表1に示す。
【表1】
反応系を39℃で60分間インキュベーションした。反応を2%(v/v)HPO50μlで停止し、プレートを0.9%(w/v)NaCl200μlで2回洗浄した。マイクロプレートシンチレーションカウンター(Microbeta,Wallac)で33Pi(cpmで換算)の酵素活性依存性転移を測定した。
全ての試験はBeckmanCoulterBiomek 2000/SLロボットを用いて行った。
【0036】
4.データ解析
ブランクコントロールは、3つのウェルを設け、酵素を加えず、3つのウェルのcpm値の中央値をとった。この値は、プロテインキナーゼ、基質がない場合に、放射性の非特異的結合を反映した。また、3つのウェルを設け、被験物質を加えずに3つのウェルのcpm値の中央値をとってネガティブコントロールとし、即ち如何なる阻害剤なしでの酵素活性とした。ネガティブコントロールとブランクとの差は各酵素の100%生存率である。
ネガティブコントロールからブランク値を差し引くのと同様に、対応する10個の被験物質の値もブランク値を差し引くべきである。各ウェルの残留酵素活性は、残留酵素活性(%)=100×[(被験物質cpm値-ブランクコントロール)/(ネガティブコントロール-ブランクコントロール)]の式で算出した。
各被験物質は、各酵素に10個の濃度を与えたので、データ解析はこれら10個の残留酵素活性値に基づいた。Prism5.04(グラフパッド、サンディエゴ、カリフォルニア、米国 www.graphpad.com)を用いて、最大値100%、最小値0%を固定してIC50をSカーブフィッティング計算した。
【0037】
5.結果
表2では、被験化合物の8つのキナーゼに作用するIC50値が挙げられる。
【表2】
以上のデータから、被験化合物の希少変異に対する抑制効果は、一般的な非希少変異の抑制効果よりも優れていることが示される。
【0038】
実施例2 局所進行又は転移性の非小細胞肺癌の治療のための探索的臨床試験
一、被検者の選定基準
1.選定基準:
(1)年齢は18~75歳(18、75歳を含む)、性別は不問。
(2)病理組織学的及び/又は細胞学的に確認された局所進行又は転移性のNSCLC患者。
(3)患者のEGFRは、L861Q、G719X、S768I変異の1種又は複数種を有し、T790M変異、第19番目エクソン欠失変異、第20番目エクソン挿入変異、L858R変異を有しない。
(4)ECOG体力スコアは0、1又は2点である。
(5)予想生存期間は3ヶ月超である。
(6)固形がんの治療効果判定のための新ガイドライン(RECIST)1.1版によって、少なくとも1つの評価できる腫瘍巣がある。
(7)十分な血液系機能、肝機能、腎機能及び血液凝固機能を持つ。
好中球絶対数≧1.5×109/L、血小板数≧90×109/L、ヘモグロビン≧90g/L、
総ビリルビン≦1.5×正常値上限(ULN)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)≦2.5×ULN、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)≦2.5×ULN(肝転移患者の総ビリルビン≦3.0×ULN、ALT≦5.0×ULN、AST≦5.0×ULN)、
クレアチニン≦1.0×ULN、又はクレアチニンクリアランス≧60mL/min(Cockcroft-Gault法を採用)。
国際標準比(INR)≦1.5。
(8)生育能力を有する適格患者(男性及び女性)は、試験期間中及び最後の投与後少なくとも90日以内に、信頼できる避妊方法(ホルモン又はバリア法又は禁欲)を使用することに同意しなければならない。妊娠可能な女性患者の選定前7日以内にヒト絨毛性ゴナドトロピン(HCG)妊娠検査は陰性でなければならない。男性患者は初回投与から最終投与後90日まで精子提供を行うことができない。
(9)すべての患者は、本試験のために規定された検査を受ける前に本研究にインフォームドコンセントを行い、倫理委員会の承認を得た書面によるインフォームドコンセントフォーム(ICF)に自発的に署名しなければならない。
【0039】
2.排除基準:
(1)治験前に何らかの上皮細胞増殖因子受容体チロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)の抗腫瘍治療を受けた。
(2)過去に化学療法や、抗血管新生などの全身性抗腫瘍治療を受けた患者は、4週間以上のウォッシュアウト期間を必要とし、過去に抗PD-1/PD-L1などの免疫治療を受けたことがあり、免疫性肺炎を経験したことがない患者は、4週間以上のウォッシュアウト期間を必要とし、過去に症状を緩和する目的で非標的病変に対する放射線治療、抗腫瘍漢方薬を受けた患者は、2週間以上のウォッシュアウト期間を必要とする。
(3)治験前の4週間以内に主要な臓器手術(穿刺生検を含まない)を受けたか、又は顕著な外傷が出現した。
(4)選別時、過去にいかなる治療の有害反応(ADR)は、有害事象の共通用語基準(CTCAE)バージョン5.0のグレード評価≦グレード1(脱毛症を除く)に回復していない。
(5)経口薬を服用できず、重症(CTCAE5.0グレード評価≧グレード3)の慢性胃腸障害があり、吸収不良症候群又は胃腸吸収に影響を与える他の状態(例えば、消化性潰瘍、イレウス、過敏性腸症候群、クローン病、胃食道逆流症など)が存在する。
(6)ヒト免疫不全ウイルス(HIV)抗体検出(酵素免疫法又はウェスタンブロット法)の陽性を含むが、これらに限定されない免疫不全症、活動性リウマチ免疫性疾患がある。
(7)臨床症状を有する不安定な中枢神経系転移又は髄膜転移が存在するか、又は患者の中枢神経系転移又は髄膜転移巣が制御されていないことを示す別の証拠があり、研究者により、治験に適していないと判断し、脳又は軟膜病変の存在が疑われる臨床症状を有する患者は、コンピュータ断層撮影/磁気共鳴画像法(CT/MRI)検査で除外される。
(8)重度の水疱性又は剥離性皮膚疾患の病歴(CTCAE5.0グレード評価≧グレード3)がある。
(9)選別時に、制御されていない活動性感染[例えば、梅毒、HIV、B型肝炎ウイルス(HBsAg陽性、HBV-DNA>1000cps/ml、AST/ALT>2.0×ULN)、又はC型肝炎ウイルス(HCV)感染]がある。
(10)重度「ニューヨーク心臓学会(NYHA)心臓機能がレベルIII又はIVに分類される」の心臓血管疾患の病歴があり、臨床介入を必要とする心室性不整脈を含むが、これに限定されなく、治験前の6カ月以内に急性冠症候群、うっ血性心不全、脳卒中、又は他のクラスIII以上の心血管イベントがあり、選別時に、NYHA心臓機能クラスはクラスII以上であるか又は左室駆出率(LVEF)<50%である。
(11)他の重篤な全身性疾患の病歴(CTCAE5.0グレード評価≧グレード3)があり、臨床試験への参加には適していないと研究者が判断した。
(12)治験前の4週間以内に他の臨床試験に参加したことがある。
(13)アルコールや薬物依存が知られている。
(14)精神障害性疾患の患者又は、研究者によりコンプライアンスが悪いとされている者は研究参加に適していないと考える。
(15)妊娠中又は授乳中の女性。
(16)被験薬の有効成分や補助剤に対してアレルギーがあることが知られている。
(17)副腎ステロイドホルモンの長期投与が必要である(プレドニゾロン1日量≧20mgに相当、用量換算表は付録4を参照)。
(18)過去5年以内に他の悪性腫瘍を患った(すでに治癒した皮膚基底細胞癌及び非上皮性子宮頸部癌を除く;乳癌根治術後>3年再発がない者を除く)。
【0040】
二、投与方法と投与量
(E)-N-(3-シアノ-7-エトキシ-4-(3-エチニルフェニルアミノ)キノリン-6-イル)-4-(ジメチルアミノ)ブタ-2-エンアミドのマレイン酸塩一水和物カプセル(中国特許出願201911180660.1を参照)は、食事前から少なくとも1時間又は食事後から2時間経口投与され、1日1回100mg、治療期間が28日間である。投与開始から4週間ごとに1サイクルとした。
【0041】
三、治療効果
【表3】
【0042】
【表4】
PFS:無増悪生存期間
以上の治療結果から分かるように、希少EGFR変異による癌を有する患者は、治療後に良好な治療効果を示した。
【0043】
(付記)
(付記1)
(E)-N-(3-シアノ-7-エトキシ-4-(3-エチニルフェニルアミノ)キノリン-6-イル)-4-(ジメチルアミノ)ブタ-2-エンアミド及びその薬学的に許容され得る塩、溶媒和物の希少EGFR変異による癌を治療する薬物の製造への応用。
【0044】
(付記2)
前記薬学的に許容され得る塩は、塩酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、メタンスルホン酸塩、又はマレイン酸塩である、ことを特徴とする付記1に記載の応用。
【0045】
(付記3)
前記薬学的に許容され得る塩は、さらに水和物であり、好ましくは半水和物、又は一水和物である、ことを特徴とする付記1に記載の応用。
【0046】
(付記4)
前記希少EGFR変異は、EGFR変異体L861Q、G719X、S768Iのいずれか1つ又は複数の組み合わせを含むが、これらに限定されない、ことを特徴とする付記1に記載の応用。
【0047】
(付記5)
前記癌は非小細胞肺癌である、ことを特徴とする付記1に記載の応用。
【0048】
(付記6)
(E)-N-(3-シアノ-7-エトキシ-4-(3-エチニルフェニルアミノ)キノリン-6-イル)-4-(ジメチルアミノ)ブタ-2-エンアミド及びその薬学的に許容され得る塩、溶媒和物の治療有効量を、それを必要とする被検者へ投与する、ことを特徴とする希少EGFR変異による癌の治療方法。
【0049】
(付記7)
前記治療有効量は、1日に50~250mgであり、好ましくは1日に1回100mgである、ことを特徴とする付記6に記載の治療方法。
【0050】
(付記8)
前記治療有効量は、0.01~500mg/kg、好ましくは0.01~50mg/kg、より好ましくは0.01~30mg/kg、さらに好ましくは0.1~10mg/kg又は0.5~3mg/kg体重の1日量である、ことを特徴とする付記6に記載の治療方法。
【0051】
(付記9)
前記希少EGFR変異は、EGFR変異体L861Q、G719X及び/又はS768Iを含むが、これらに限定されない、ことを特徴とする付記6に記載の治療方法。
【0052】
(付記10)
前記薬学的に許容され得る塩は、塩酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、メタンスルホン酸塩、又はマレイン酸塩であり、より好ましくはこの塩の半水和物、又は一水和物である、ことを特徴とする付記6に記載の治療方法。
【国際調査報告】