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特表2023-504217種特異的な又は属特異的なタンパク質で細胞の成長を増進する方法及びその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-01
(54)【発明の名称】種特異的な又は属特異的なタンパク質で細胞の成長を増進する方法及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/00 20060101AFI20230125BHJP
   C12N 5/07 20100101ALI20230125BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230125BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20230125BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20230125BHJP
【FI】
C12N1/00 B
C12N5/07
C12N5/10
C12P21/02 A
C12N15/113 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022558366
(86)(22)【出願日】2020-11-27
(85)【翻訳文提出日】2022-07-29
(86)【国際出願番号】 IB2020061200
(87)【国際公開番号】W WO2021111263
(87)【国際公開日】2021-06-10
(31)【優先権主張番号】62/942,568
(32)【優先日】2019-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522217821
【氏名又は名称】アヴァント ミーツ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】AVANT MEATS COMPANY LIMITED
【住所又は居所原語表記】11 Science Park West Avenue Unit 620,6/F,Biotech Centre 2,Building 11 W Hong Kong(CN)
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100155860
【弁理士】
【氏名又は名称】藤松 正雄
(72)【発明者】
【氏名】チン,ポ サン マリオ
(72)【発明者】
【氏名】チャン,カイ イー キャリー
(72)【発明者】
【氏名】プーン,チュン ヘイ
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA10
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BA02
4B065BA03
4B065BB34
4B065BC41
4B065CA41
(57)【要約】
【課題】生体外細胞培養による食肉生産の方法を提供する。
【解決手段】生体外細胞培養による食肉生産の方法であって、
動物又は植物を供給源として組織を分離し、細胞から細胞懸濁液を作り、
(i)その細胞と遺伝的に同じか類似の種の成長因子、及び/又は(ii)その細胞と遺伝的に同じ属の成長因子を備える培養基を導入し、かつ
培養基における食品グレードの骨組上で細胞を育てて、その細胞を、動物の臓器を模した固体又は半個体の構造物へと成長させる
ステップが含まれる方法である。
【選択図】図1


























【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体外細胞培養による食肉生産の方法であって、
動物又は植物を供給源として組織を分離し、細胞から細胞懸濁液を作り、
(i)その細胞と遺伝的に同じか類似の種の成長因子、及び/又は(ii)その細胞と遺伝的に同じ属の成長因子を備える培養基を導入し、かつ
培養基における食品グレードの骨組上で細胞を育てて、その細胞を、動物の臓器を模した固体又は半個体の構造物へと成長させる
ステップが含まれる方法。
【請求項2】
組織を分離するステップには、魚から臓器組織を分離するステップが含まれる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
更に、タンパク質の発現を規制する一つ以上のマイクロRNAのレベルを変えることで、成長する細胞のタンパク質の発現を増やすステップが含まれる請求項1に記載の方法。
【請求項4】
臓器組織が、硬骨魚綱の魚の浮き袋から得られる請求項2に記載の方法。
【請求項5】
タンパク質がコラーゲンである請求項3に記載の方法。
【請求項6】
マイクロRNAが、マイクロRNA 21(miR-21)、及びマイクロRNA 29a(miR-29a)の一方、又は双方である請求項3に記載の方法。
【請求項7】
生体外細胞培養による食肉生産の方法であって、
動物又は植物を供給源として組織を分離し、細胞から細胞懸濁液を作り、
培養基における食品グレードの骨組上で細胞を育てて、細胞を、動物の臓器を模した固体又は半個体の構造物へと成長させ、かつ
その細胞を、栄養素、成長因子、及び細胞の成長をサポートするサイトカインを分泌する、生体工学的に作り出された細胞と同時培養し、その生体工学的に作り出された細胞は、(i)その細胞と遺伝的に同じか類似の種、及び/又は(ii)その細胞と遺伝的に同じ属である
ステップが含まれる方法。
【請求項8】
組織を分離するステップには、魚から臓器組織を分離するステップが含まれる請求項7に記載の方法。
【請求項9】
臓器組織が、硬骨魚綱の魚の浮き袋から得られる請求項8に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体外細胞培養を用いての改良した食肉生産方法に関し、更に、成長因子を用いての改良した細胞成長方法に関する。
【背景技術】
【0002】
動物の肉は、タンパク質が豊富で、身体機能のサポートに用いられるタンパク質を作るために必要なすべてのアミノ酸の供給源となる。消費される食肉は、伝統的には、養殖場で飼われる動物や魚から得られる。しかしながら、動物の肉を生産する畜産業や水生動物養殖業では、大量のエネルギーと資源が必要であり、カーボンフットプリントも高くなる。畜産業や水生動物養殖業で生産された食肉は、生産プロセスにおいて、病気や汚染源や毒素に露呈されるかもしれないので、そのような食肉では、人々の健康が危険にさらされかねない。人口増加、食肉需要の高まり、環境問題、陸地や水域の限りある資源、生物多様性の損失及び動物の屠殺に関しての否定的な見方と言った多くの懸念があって、科学者が、代替のプロセスで食肉を生産する技法を開発する運びとなった。
【0003】
生体外食肉生産は、細胞培養技法を用いて、実験室で、動物の筋肉組織又は臓器組織を成長させて食肉及び食肉製品を製造するプロセスである。ここで用いられている通り、生体外食肉及び食肉製品には、可溶な形態や固形であったりする動物タンパク製品ならびに非食肉製品が含まれる。まだ開発の初期段階ではあるが、生体外食肉及び食肉製品には、健康及び環境上の利点及び動物の繁栄にとっての利益と言った、伝統的な食肉製品に無い数多くの利点がある。それは、細胞畜産業又は細胞培養での畜産製品の生産と言う、より広い分野の一部として運用される次世代の新興の技術である。
【0004】
生体外食肉の生産のための細胞は、動物バイオプシーから取られる細胞(例えば、筋肉細胞、体細胞、幹細胞など)であり、そして、それは、バイオリアクター又はその他の種類の無菌環境における培養基(培地)で、動物から分離されて育てられる。その細胞は、バイオリアクターに置かれる三次元の可食の骨組みに付着することで、動物臓器を模した半固形又は固形へと成長する。出発細胞は、動物組織又は連続細胞株から直接得られる一次細胞である。適切な培養基において正しい条件で育てられたら、一次細胞は、成長して増殖するが、細胞のDNAの端におけるテロメア長に関連する有限の回数だけである。他方、連続細胞株は、生体外で、長期間培養できる。細胞生物学の研究によって、一次細胞を如何にして不死の連続細胞株に変えるのかについて手順が確立されている。ウイルス性癌遺伝子、化学処理、又は、テロメアが縮むのを防ぐためのテロメラーゼ逆転写酵素の過剰発現を用いて、一次細胞は、連続細胞株へと形質転換される。
【0005】
培養基は、アミノ酸、塩、ビタミン、成長因子、及びpHを制御するための緩衝システムといった細胞の増殖に必要な成分を含む。牛胎児血清(FBS)によって、生体巨大分子、成長因子、及び免疫分子が供給されるので、現在の方法では、FBSを、使用に先立って培養基に加える。しかしながら、FBSは、胎内の仔牛から得られるので、動物製品は使わないと言う目的と折りが合わない。動物成分を含まない培養基で細胞を育てると言うのが、生体外食肉生産の研究に従事する科学者が考える重要な要素である。成長因子には、ヒトを供給源として得られるものもある。
【0006】
一般に、培養基の費用の95%を超える分が、タンパク質成分に帰される。組換えヒト成長因子(例えば、インシュリン、IGF-1)、ヒト血清アルブミン(HAS)又は、牛胎児血清(FBS)が、しばしば、過剰な量で、基礎培地に追加される。ヒトタンパク質因子とFBSが効果的にヒト細胞の成長と差別化を促進する一方で、それらは、遠い種(例えば、魚、鳥)の細胞には、より生物不活性である。これによって、培養期間が長くなって、細胞の質が低くなる。非ヒト細胞における低い生物活性を補償するために、過度にレベルが高いヒトタンパク質因子又はFBSが成長培地に加えられ、それによってコストが高くなる。
【0007】
現在の生体外食肉生産は、細胞ベースのビーフ、ポーク及び家禽肉といった商品肉は、大抵の種類をカバーしている。しかしながら、これらの種類の食肉は、現在の生物医学技術の技法を用いて生産するのが困難であって費用もかさむ複数の細胞腫を含む複雑な組織の有機体を有する。細胞培養技法で生産される食肉においてタンパク質レベルとバイオマス産出高を上げるための非GM(非遺伝子組み換え)方法もまた欠如している。更には、上述の通り、現在の細胞培養技術は、栄養源としての動物成分(例えば、FBS)並びに高価な非食品グレードの成長因子に依存している。
【発明の概要】
【0008】
本発明の開示の例は、前記課題を解決する、ヒトが消費する生体外食肉の生産方法に適用される方法を開示する。
【0009】
本発明の目的は、種特異的な又は属特異的な成長因子を用いて細胞を培養する代替方法を提供することである。このアプローチは、成長因子の使用を減じることによって培地のコストを低減するだけでなく、それによってまた、培養時間を短縮し、細胞応答を高めることで細胞の質を向上させる。種特異的な又は属特異的な成長因子を用いることは、細胞応答(例えば、成長、差別化)を高めるのに役立ち、種特異的でない又は属特異的でない成長因子を用いるとき遭遇する最大の細胞応答を打ち破る。
【0010】
また、本発明の目的は、異なる種の起源の成長因子が細胞の成長を刺激する効力を評価する方法を提供することである。
【0011】
本発明の開示の一つの例によると、生体外細胞培養による食肉生産の方法には、動物又は植物を供給源として組織を分離し、細胞から細胞懸濁液を作るステップが含まれる。その方法には更に、(i)その細胞と遺伝的に同じか類似の種の成長因子、及び/又は(ii)その細胞と遺伝的に同じ属の成長因子を備える培養基を導入するステップも含まれる。
加えて、その方法には更に、培養基における食品グレードの骨組上で細胞を育てて、その細胞を、動物の臓器を模した固体又は半個体の構造物へと成長させるステップが含まれる。
【0012】
本発明の他の一つの例によると、生体外細胞培養による食肉生産の方法には、植物又は動物を供給源として組織を分離し、細胞から細胞懸濁液を作り、かつ培養基における食品グレードの骨組上で細胞を育てて、細胞を、動物の臓器を模した固体又は半個体の構造物へと成長させるステップが含まれる。その方法には更に、前記細胞を、栄養素、成長因子、及び細胞の成長をサポートするサイトカインを分泌する生体工学的に作り出された細胞と同時培養し、その生体工学的に作り出された細胞は、(i)その細胞と遺伝的に同じか類似の種、及び/又は(ii)その細胞と遺伝的に同じ属であるステップが含まれる。
【0013】
例によっては、種が、遺伝的にその細胞に類似し、DNAシーケンスにおいて90%を超えて合致するものもある。
【0014】
ここに開示される例は、前記課題を解決する、ヒトが消費する生体外食肉の生産方法に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図面の簡単な説明を以下に記載する。
【0016】
添付した図面を関連させて考慮すると、本開示は、詳細な説明を参照することで、よりよく理解される。図面中の構成要素は、必ずしも一定の比例に応じておらず、むしろ、開示の本質を例証することに重点が置かれている。
【0017】
図1図1は、本開示の一つの例による、生体外細胞培養による食肉生産の方法のフローチャートである。
【0018】
図2図2は、本開示の一つの例による、タンパク質発現の転写後増強の方法を概略的に描写する図である。
【0019】
図3図3は、本開示の一つの例による、コラーゲン、タイプ1、アルファ1(COL1A1) 発現の転写後増強の方法を概略的に描写する図である。
【0020】
図4図4は、本開示の一つの例による、コラーゲン、タイプ1、アルファ2(COL1A2) 発現の転写後増強の方法を概略的に描写する図である。
【0021】
図5図5は、本開示の一つの例による、固相サポートを有する生体外食肉生産に用いられるバイオリアクターの概略的又は概念上の断面図である。
【0022】
図6図6は、本開示の一つの例による、図5に類似するが第二の固相を有するバイオリアクターの概略的又は概念上の断面図である。
【0023】
図7図7は、MCF-7細胞を濃度の異なる(1 pg/mlから100 ng/ml) 組換えヒトIGF-1(Oryzogen)で処理した後の各々の細胞数を示すチャートである。直接細胞数を数えるためにデイ10に細胞を採取した。
【0024】
図8図8は、MCF-7細胞を、1.5 nMの(異なる供給業者3社からの)組換えヒトIGF-1、組換えマウスIGF-1、及び組換え魚(マグロ、タイ)IGF-1で処理した後の各々の相対蛍光性を示すチャートである。細胞は、デイ7に採取し、CyQUANT細胞増殖アッセイの対象とした。
【発明を実施するための形態】
【0025】
発明の詳細な説明
次に図面を参照し、とりわけ、図1を参照すると、生体外食肉生産の方法10が示されている。ここで用いられている通り、「生体外食肉生産」とは、細胞培養技法を用いて動物及び/又は植物の組織を実験室で育て、食肉及び食肉製品を製造する、細胞ベースの食肉生産プロセス又は細胞ベースの畜産プロセスのことを指して言うものである。ブロック12で、動物又は植物から組織が分離される。一つの例において、その組織は、ハタ、スズキ、又はニベと言った海水魚を含む硬骨魚綱の硬骨魚から得られる。他の例においては、牛組織のような他の種類の動物組織が分離される。例によっては、ブロック12には、魚から浮き袋のような臓器組織を収集して細胞懸濁液を作ることが含まれる。以下の説明では、魚を供給源として得られる組織が主に記述されているが、この概念を、他の種類の動物及び/又は植物を供給源として得られる組織に適用して、他の種類の生体外食肉及び/又は動物タンパク質製品、及び菜食主義者用食肉及び/又はタンパク質製品が提供されるようにしても良いことは理解されるものである。
【0026】
分離される細胞の多くは成体細胞で、医療研究において確立された種々の方法を継続的に用いて増殖させることが可能である(ブロック14)。例えば、山中因子のような特定の遺伝子を用いて、成体細胞を人工多能性幹細胞(iPS細胞)のような幹細胞へとプログラムし直してもよい。代わりに、分離された成体細胞を、テロメラーゼ逆転写酵素過剰発現によって連続株細胞へと変換しても良い。他の例においては、他の種類の細胞が、成体幹細胞や胚性幹細胞のように分離されても良い。この点について、本発明の開示の方法には、あらゆる株細胞が供給源として含まれる。
【0027】
次のブロック16では、バイオリアクターのような無菌室又は無菌容器において、食品グレードの生体適合骨組に付着/固着することによって、細胞が、魚臓器のような動物臓器を模した固体又は半固体構造体へと成長する。無菌室又は無菌容器は、温度制御され、化学薬品、栄養素、及び細胞のような物質を導入して取り除くための導入口と排出口を有していて良い。食品グレードの生体適合骨組は、最終可食製品の一部となり、アガロース、アルジネート、キトサン、菌糸体、及びコンニャクグルコマンナンと言った植物ベース又は菌類ベースの材料で作られる。ただし、材料が、それらに限定される訳では無い。アルジネートは、褐藻から自然に得られるバイオポリマーであって、生体適合性がある。加えて、菌類から得られる植物ベースのキトサンは、抗菌性を有する。例によっては、無菌容器において、抗生剤や抗菌化合物の無いままブロック16が行われる。ブロック18は、細胞の生存と成長をサポートするための、培養基のバイオリアクターへの供給に関する。培養基は、無機塩(例えば、塩化カルシウム(CaCl2)、塩化カリウム(KCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、重炭酸ナトリウム(NaHCO3)、リン酸二水素ナトリウム(NaH2PO4)、硫酸マグネシウム(MgSO4)、等々)、アミノ酸、ビタミン(例えば、チアミン、リボフラビン、葉酸、等々)と言った成分、及びグルコース、β-メルカプトエタノール、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)及びピルビン酸ナトリウムと言ったその他の成分を含む緩衝溶液であって良い。ただし、成分が、それらに限定される訳では無い。限定されない成長培地には、例として、ライボビッツL-15培地、イーグル最小必須培地(MEM)、培地199、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、ハムF12培地、ハムF10培地、マッコイ5A培地、グラスゴー改変イーグル培地(GMEM)、イスコヴ改変ダルベッコ培地、及びRPMI 1640が含まれが、それらに限定される訳ではない。
【0028】
ブロック20によると、食品グレードの成長因子及びサイトカインが、バイオリアクターの培養基に導入されて、細胞の成長と増殖をサポートする。成長因子及びサイトカインには、インシュリン成長因子1(IGF-1)、インシュリン、インターロイキン6(IL-6)、インターロイキン6受容体(IL-6R)、インターロイキン11(IL-11)、線維芽細胞成長因子(FGF)、表皮成長因子(EGF)、及びトランスフェリンが含まれるが、それらに限定される訳ではない。本発明では、(i)分離された細胞と遺伝的に同じか類似する種、及び/又は(ii)分離された細胞と遺伝的に同じ属(すなわち、ブロック16で成長する細胞)を用いる。(i)分離された細胞と遺伝的に同じか類似する種、及び/又は(ii)分離された細胞と遺伝的に同じ属の成長因子を用いることで、分離された細胞から遺伝的に遠い種の成長因子や血清を用いるのに比べ、分離された細胞がより高い生物活性を発揮することが見出された。より分かり易く比較すると、(i)遺伝的に同じか類似する種、及び/又は(ii)遺伝的に同じ属の成長因子を用いて分離された細胞を培養するとき、「次善の」成長因子を大量投与する必要がなくなる。生物活性がより高ければ、培養基において必要とされる成長因子の量を減らし、培養期間を短縮し、かつ細胞の質を高めるのにも役立ち得る。細胞の成長と分化を刺激するために培養基に必要な成長因子のレベルを低下させることで、培養基のコストを低減し得る。更には、次善の成長因子を使っても、最大の細胞応答(成長、分化)の大きさには制限がある。事例によっては、次善の成長因子がどれほど供給されようとも決して特定の応答に到達しないものもある。種特異的な、及び/又は属特異的な成長因子は、これらの制限を克服するのに役立ち得る。
【0029】
例によっては、DNAシーケンスの合致が90%を超えるとき、種が遺伝的に、分離された細胞に類似するものがある。
【0030】
種特異的な、又は属特異的な成長因子は、分離された細胞の受容体に有効に作用する。分離された細胞の種の起源に関わらず、しばしば、高レベルのヒトタンパク質成長因子、及び/又はFBSで補充されている、通常の成長培地に比べて、種特異的な、又は属特異的な成長因子を使う方がより良く最適化される。アミノ酸シーケンスにおける種特異的な、又は属特異的な変種や、成長因子及び細胞受容体の翻訳後の変異が、この事象の原因となる。
【0031】
更に、より詳細な説明を以下に記述する通り、ある成長因子のどの種が、ターゲットである分離された細胞に、最も高い生物活性を発揮するのかを特定するために、まず、ターゲットの細胞を完全培地(すなわち、基礎培地+FBS)に接種する。ターゲットとするコンフルーエンス(約20%-70%)に到達すると、ターゲットの細胞を、ある濃度範囲(例えば、1 pM-1μM)の異なる種の成長因子で処理する。ターゲット細胞を、調査したパラメーター(例えば、細胞の成長、分化のマーカー、細胞製品)について所望の時点に到達するまで、培養器の中に保つ。例えば、処理グループ(およそ2-10日)の間で細胞コンフルーエンスに違いがあるとき、細胞の成長は、トリパンブルー色素排除法、CyQUANTアッセイ、又はその他の適当な細胞増殖/死アッセイによって測定できる。様々な種の成長因子の生物活性は、それらのEC50値(最大半減有効濃度)に基づいて比較される。費用効果のためには、ターゲットの細胞は、EC50値が最低の成長因子を用いて培養すべきである。しかしながら、最短の培養時間又は最高の細胞品質を達成することが目的であるなら、最高の最大細胞応答を引き起こす成長因子を選択する。成長因子の最適な投与量は、最大細胞応答を誘発するのに必要な最低濃度として定義される。
【0032】
例によっては、ブロック20が、牛胎児血清(FBS)無しでの、生体工学的に作り出された細胞の、分離された細胞との同時培養に関するものもある。生体工学的に作り出された細胞は、前記成長因子とサイトカインを分泌するように作り出されており、これらの生体分子を、分離された細胞に、成長と増殖に必要なだけ供給する。ここで用いられている通り、「生体工学的に作り出された」細胞は、遺伝子組換え細胞と同等ではない。生体工学的に作り出された細胞は、一つ以上の特定のタンパク質を過剰発現する特定の遺伝子を有する。生体工学的に作り出された細胞は、魚の細胞又は、牛の細胞と言った、他の種類の動物の細胞であって良い。生体工学的に作り出された細胞と、分離された細胞とは、遺伝的に類似するか同一の種であっても良い。また、生体工学的に作り出された細胞と、分離された細胞とは、同じ属に属するものであっても良い。限定のない例として、生体工学的に作り出された魚の細胞が、分離された魚の細胞と同時培養されても良く、あるいは、生体工学的に作り出された牛の細胞が、分離された牛の細胞と同時培養されても良い。特定の例の中には、鶏の細胞を分離された細胞として用いるならば、生体工学的に作り出された細胞が、鶏の細胞であるか鳥の細胞であっても良いものがある。さらに、特定の例の中の別のものでは、ニベの細胞を分離された細胞として用いるならば、生体工学的に作り出された細胞が、ニベの細胞であるかその他の魚の細胞であっても良いものがある。生体工学的に作り出された細胞は、最終食肉製品には含まれない。本発明の開示の同時培養方法によると、培養基において、動物由来である牛胎児血清(FBS)が必要で無くなる。更には、その同時培養方法によって、食品グレードの、特定の成長因子とサイトカインが、成長する分離された細胞に本来の位置で継続的に供給され、製造プロセスが簡素化され、その費用が低減されるが、ここで、成長因子は、(i)分離された細胞と遺伝的に同じかそれに類似する種のもの、及び/又は(ii)分離された細胞と同じ属のものである。しかしながら、他の例においては、ブロック16では、細胞の成長をサポートするために、FBS、又はその他の血清を用いて、成長因子、サイトカイン、及びその他の栄養素を供給しても良い。
【0033】
例によっては、ブロック20に、分離された細胞と遺伝的に同じかそれに類似する種の遺伝子組換え成長因子を含むものもある。別の例によっては、分離された細胞と同じ属の遺伝子組換え成長因子を用いるものもある。遺伝子組換え成長因子は、成長培地に導入される。そのような遺伝子組換え成長因子を用いることで、分離された細胞に遠い種の成長因子や血清より、分離された細胞に対してより高い生物活性が発揮される。細菌、酵母、昆虫、哺乳類、又はその他の適当なタンパク質発現システムを用いて、そのような遺伝子組換え成長因子を生成して良い。タンパク質精製は、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー又はこれらの戦略の組合せによって行われる(ただし、それらに限定されるものではない)。
【0034】
例によっては、アオハタ(魚)の魚筋肉細胞又は浮き袋細胞に遺伝的に類似する種であるキジハタ(魚)の遺伝子組換え成長因子を用いるものもある。用いられるアオハタを培養するための遺伝子組換え成長因子は、キジハタのIGF-1、インシュリン、及び/又はトランスフェリンである。そのようなインシュリンの濃度は、1μg/ml - 10μg/mlの範囲である。そのようなトランスフェリンの濃度は、0.5μg/ml - 5μg/mlの範囲である。
【0035】
加えて、ブロック22によると、細胞中のタンパク質発現が増大して、結果として得られる食肉製品のバイオマス産出高が増大する。ここで用いられている通り、「バイオマス産出高」は、結果として得られる食肉製品において、消費の際にエネルギーの産出に利用可能な消化できる材料(例えば、タンパク質)の量のことを言う。更に具体的には、ブロック22は、培養に先立って細胞の操作を行うことで、細胞におけるマイクロRNAレベルを変えてタンパク質発現を増大させることに関する。マイクロRNAは、転写後遺伝子発現の規制に関係する、内因性の、短い、非符号化単一撚線RNAシーケンスである。ブロック22は、メッセンジャーRNA(mRNA)翻訳を促進することによってタンパク質発現を増大させるマイクロRNAの上方制御の量を増やすこと、及び/又はmRNA翻訳を抑制することによってタンパク質発現を低減するマイクロRNAの下方制御の量を減らすことに関する。マイクロRNAレベルは、マイクロRNA、マイクロRNAミミック、又はマイクロRNAインヒビターを細胞に導入することによって、増やされたり減らされたりする。マイクロRNAミミックは、マイクロRNAと同じ機能を有するが、タンパク質発現を変える上で、より安定していてより効率的である。例によっては、エレクトロポレーションを用いて、特定のマイクロRNAを発現する命令を伝える細胞にエピソーマルベクターを導入する。代わりに、あるいはこれと組み合わせて、特定のマイクロRNAを発現するエピソーマル命令を伝える媒体としてアデノ随伴ウイルスを用いる。ターゲットとしたマイクロRNAの下方制御の量の低減は、ターゲットとしたマイクロRNAのインヒビターをトランスフェクションで細胞に導入することによって達成される。ここで、本開示による、タンパク質発現/バイオマス産出量を増大する方法は、細胞のゲノムを変えずに実施されることに注意する。
【0036】
図2には、細胞株のタンパク質発現を転写後に高める方法が、概略的に描写されている。一つ以上の上方制御マイクロRNA(miRNA)を増大させて、mRNA翻訳と選択されたタンパク質のタンパク質生産を増やす。代わりに、又はこれと組み合わせて、一つ以上の下方制御miRNAをインヒビター(anti-miRNA)でブロックしてmRNA翻訳と選択されたタンパク質のタンパク質生産を増やしても良い。
【0037】
魚の浮き袋は、主には、線維芽細胞とコラーゲンタンパク質を含んでいる。コラーゲンタイプ1(コラーゲンI)が、魚の浮き袋において主要なタンパク質であり、培養された魚の浮き袋細胞においてコラーゲンIの発現を増大させると、バイオマス産出量が増える。魚の浮き袋細胞におけるコラーゲンIには、コラーゲン、タイプ1、アルファ1(COL1A1)とコラーゲン、タイプ1、アルファ2(COL1A2)とが含まれている。miR-21のレベルが増大すると魚の浮き袋細胞におけるCOL1A1とCOL1A2の生産が増えると言うように、COL1A1とCOL1A2の発現は、上方制御マイクロRNA 21 (miR-21) によって増やされる。加えて、miR-29aのレベルを低下させるかmiR-29aの作用をブロックするかすると、魚の浮き袋細胞におけるCOL1A1とCOL1A2の生産が増えると言うように、COL1A1とCOL1A2の発現は、下方制御マイクロRNA 29a (miR-29a) によって減らされる。図3及び図4には、miR-21のレベルを上げることによる、及び、インヒビター(anti-miR 29a)を用いてmiR-29aの作用をブロックすることによる、COL1A1(図3)とCOL1A2(図4)の生産の増加が示されている。COL1A1とCOL1A2の生産が増えた結果、結果として得られる食肉製品におけるバイオマス産出高が増える。同様の戦略を適用して、他の種類の動物細胞においても関係するタンパク質のレベルが上げられる。
【0038】
図5には、分離した細胞の培養に用いるのに適例のバイオリアクター30が示されている。バイオリアクター30における無菌室36に保持されている食品グレードの骨組34に備えられる固相サポート32に、細胞が付着して成長する。骨組34は、食肉製品の形を規定する。食品グレードの骨組34は、アガロース、アルジネート、キトサン、菌糸体、及びコンニャクグルコマンナンと言った植物ベース又は菌類ベースの材料で作られる。ただし、材料が、それらに限定される訳では無い。細胞が、固相サポート32の内側表面に付着して成長するように、サポート32は多孔質である。細胞に栄養素を供給する培養基が、導入口38からバイオリアクター30へと導入され、排出口40からバイオリアクター30の外に取り出される。
【0039】
図6には、図5のバイオリアクター30に類似するが、細かいメッシュ54で固相サポート32から分離される第二の固相52を更に含むバイオリアクター50が示されている。第二の固相52は、本来の位置である固相サポート32上で成長する細胞に、栄養素、成長因子、及びサイトカインを分泌する、生体工学的に作り出された細胞を包含するかサポートし、固相サポート32上の細胞から生体工学的に作り出された細胞を物理的に分離している。第二の固相52は、固相サポート32に類似する植物ベースの材料から作られる。メッシュ54は、栄養素、成長因子、及びサイトカインを透過させるが、細胞は透過させない。図6のバイオリアクター50は、生体工学的に作り出された細胞の、成長する細胞との同時培養を可能にする。例によっては、図5及び図6のバイオリアクター30及び50を縦に並べているものもある。他の例においては、プロセスの規模を拡大するために、バイオリアクター30が数台、バイオリアクター50が数台、又は、バイオリアクター30及び50が混合して、直列に並べられている。バイオリアクター30は、主に、バイオマス生産に用いられ、一方、バイオリアクター50は、成長する細胞に、栄養素、成長因子、及びサイトカインを提供するのに用いられる。
【0040】
本発明の開示の生体外食肉生産方法は、一細胞タイプの単純組織有機体を備える食肉製品を提供する。一細胞タイプの食肉製品は、複数細胞タイプを有する他の培養食肉と比べて、作ったり、発育させたり、商品化するのが容易である。本発明の開示の他の例は、複数細胞タイプの食肉製品を提供する。更には、出願人は、成長する細胞におけるマイクロRNAのレベル又は活性を変えることによって、バイオマス/タンパク質生産を増やす戦略を発見している。一例において、魚の浮き袋細胞に見出される主要なタンパク質(コラーゲンI)のレベルを増大させるのに、鍵となる二つのマイクロRNA(miR-21及びmiR-29a)をターゲットとする。出願人が知る限りでは、培養食肉製品のタンパク質/バイオマス産出高の増大を達成するために、マイクロRNAレベル又は活性を変えることは、培養食肉の発育の分野において他の人が使ったことのないものである。タンパク質生産を増大させるためにマイクロRNAをターゲットとすることによって、既知のノックイン又はノックアウト方法よりも細胞へのストレスが引き起こされなくなる。生体工学的に作り出された細胞は、成長する動物細胞と同時培養され、成長する魚細胞に、本来の位置(in situ)での細胞成長と増殖のための食品グレードの成長因子とサイトカインを供給し、培養基における動物由来のFBSの必要性を低減又は削除する。同時培養技法によって、生産プロセスが簡素化され、生産費用が低減される。
【0041】
更には、培養された食肉製品の栄養素をカスタマイズして、より健康的な食料製品を生成しても良い。例えば、培養された食肉製品を、栄養士からのダイエット勧告又は当人のゲノム試験に従ってカスタマイズしても良い。食肉製品における、高密度コレステロール、多価不飽和脂肪酸、及び一不飽和脂肪酸と言った健康的な栄養素を、細胞を特定の条件で培養することによって濃縮しても良い。代わりに、又はこれとの組み合わせにおいて、低密度コレステロールや飽和脂肪酸と言った健康を損なうことが知られている栄養素を、細胞を特定の条件で培養することによって低減しても良い。ビタミンやミネラルと言った微量栄養素もまた、強化されても良い。培養された食肉製品の栄養素のカスタマイズは、1) 細胞培養の間に成長する細胞に与えられる栄養素を調整する、及び/又は、2) 積層する骨組の、異なる細胞との比率を制御すると言った様々なやり方で達成される。ただし、そのやり方が、それらに限定されるものではない。
【0042】
培養食料製品は、清潔、無菌かつ高度に制御されたプロセスの元で生産される。そうして、食料製品における栄養素の、細菌や菌類と言った微生物による望ましくない劣化を最小限のものとする。微生物が栄養素を分解することによる望ましくない風味や臭いもまた最小限のものとされる。この特性によって、培養食品の、料理での新しい使い方が可能となり、新しいレシピを作り出すのに役立つ。培養食品を、そのように適用した一例が、魚の浮き袋から得られる魚の培養食道である。伝統的な魚の食道には、生産プロセスにおいて細菌がアミンを分解するために、望ましくない魚臭い風味と匂いがある。この望ましくない特性のために、食品の材料としては、熱いか温かいまま出されて風味のある料理に限定される。細胞培養技法で生産される魚の培養食道は、望ましくない魚臭さや匂いがない。熱くて風味のある料理に加え、魚の培養食道は、デザートとして、あるいは、冷やして又は環境温度で直ぐに食べられる形で出される甘い料理にも用いることができる。
【0043】
種特異的な、又は属特異的な成長因子の特定
【0044】
種特異的な、又は属特異的な成長因子を特定する方法を、ここに詳細に説明する。それには、二つの大きなステップが含まれており、それらは、細胞成長刺激ステップと細胞成長測定ステップである。
【0045】
細胞成長刺激ステップ
【0046】
加湿された培養器(34℃; 5% CO2; 95%空気)の中で、DMEM/F12完全培地(DMEM/F12(サーモフィッシャーサイエンティフィック)、10% FBS(サーモフィッシャーサイエンティフィック)、1% Glutamax(サーモフィッシャーサイエンティフィック)、0.2% Primocin (Invivogen))においてMCF-7ヒト上皮細胞株を培養する。定期的なメンテナンスで、細胞を1:4から1:8の割合に分割する。
【0047】
約80%コンフルーエンスに到達したら、トリプシン/EDTA(サーモフィッシャーサイエンティフィック)で細胞を分離する。成長因子の、細胞の成長への作用を研究するために、細胞を、(細胞の成長が、細胞を数えることで測定されるなら)24ウェル、又は(細胞の成長が、CyQUANT細胞増殖アッセイキットで測定されるなら)96ウェルプレート上の完全培地に3×104細胞/cm2という密度で接種する。細胞を培養器に戻す。
【0048】
24時間後に、培地を取り除く。血清を含まない培地(DMEM/F12、0.1% ヒト血清アルブミン(Sigma Aldrich)、0.2% Primocin)を加えることで血清を含まない条件に細胞を前適応させる。培養器の中で、この培地に細胞を少なくとも16時間保持する。
【0049】
成長を刺激する作用を調べるべき各々の種/属について(例えば、遺伝子組換えヒトIGF-1、ヒトIGF-1-LR3、マウスIGF-1、タイIGF-1、及びマグロIGF-1)、血清を含まない培地において、10×の作用濃度で成長因子(例えば、IGF-1)を調整する。細胞が1×成長因子で処理されるように、10×成長因子をウェルに加える(例えば、10×成長因子50μlを、血清を含まない培地が450μl入ったウェルに加える)(例えば、1 pM-1μM)。細胞を培養器に戻す。
【0050】
日々顕微鏡で細胞を観察して細胞の成長の兆しを見付ける。細胞コンフルーエンスについて処理グループの間に明らかな相違がある(通常、デイ2-デイ10の間に検知される)とき、細胞の成長を、細胞を数えること、CyQUANT細胞増殖アッセイ、又はその他の細胞増殖/死アッセイによって定量化する。
【0051】
細胞成長測定ステップ
【0052】
細胞の成長を測定するのに二つの方法、すなわち、トリパンブルー色素排除法、及びCyQUANT細胞増殖アッセイキットがある。
【0053】
トリパンブルー色素排除法
【0054】
細胞は、24ウェルプレートで処理されていなければならない。培養基を吸い出して、トリプシンEDTAで細胞を分離する。
【0055】
完全培地を1分量、ウェルに加えることによってトリプシンの活性を止める。ウェルの中からピペットで3-5回取ることで、全ての細胞を確実に分離する。
【0056】
細胞懸濁液を1.5 ml管に収集する。その管を400 xgで5分間遠心分離機にかけることによって細胞をペレット化する。
【0057】
細胞ペレットをかき乱すことなく上澄を取り除く。200μlのDMEM/F12基礎培地において細胞ペレットを再懸濁する。
【0058】
細胞懸濁液10μlを0.4%のトリパンブルー溶液(サーモフィッシャーサイエンティフィック)10μlと混ぜる。
【0059】
2分後に、細胞/トリパンブルー混合液10μlをCountess II FL Disposable Slide(サーモフィッシャーサイエンティフィック)又は血球計算盤の各室に加える。Countess II FLシステムを用いるならば、スライドをCountess II FL Automated Cell Counter(サーモフィッシャーサイエンティフィック)のスライドホルダーに挿入して、細胞濃度と%生存率を測定する。血球計算盤を用いるならば、顕微鏡で細胞を計数する。
【0060】
各処理グループで、細胞の数を計算する。ウェル当たりの生存能力のある細胞の数は、生存能力のある細胞濃度(細胞数/ml)に等しい。
【0061】
CyQUANT細胞増殖アッセイキット
【0062】
CyQUANT細胞増殖アッセイキット(サーモフィッシャーサイエンティフィック)は、サンプルにおける核酸の含有量を測定することによって細胞の成長を定量化する。細胞は、96ウェルプレート上に、好ましくは、処理グループ毎に三つ組のウェルに、接種されたものであるべきである。
【0063】
マルチチャンネルピペットで、培養基をできる限り取り除く。ピペットの先端でウェルの底を引っ掻かないようにする。
【0064】
-80℃の冷凍器でプレートを凍結させる。プレートは、四週間まで-80℃で蓄積して良い。
【0065】
プレートとアッセイキット試薬を室温で解凍する。
【0066】
各ウェルにつき表1に従ってキット試薬を混ぜる。
【0067】
【表1】
【0068】
プレートが完全に解凍したら、CyQUANT GR色素/溶解緩衝混合液200μlを各サンプルウェルと3つの空のウェル(空白)に加える。プレートを光から保護して室温で5分間培養する。
【0069】
マルチチャンネルピペットを用いて、96ウェルプレートの各ウェルから160μlを空の96ウェルプレートの対応するウェルに移す。
【0070】
蛍光マイクロプレート読み取り器(例えば、Molecular Devices SpectraMax iD5)を用いて、サンプル蛍光を測定する。励起と発光の波長を、480nmと520mnにそれぞれ設定する。
【0071】
空のウェルの蛍光の読み値を平均する。この平均読み値を全てのサンプル蛍光読み値から差し引いて、背景蛍光を補正する。
【0072】
賦形剤グループについて補正した平均蛍光を計算する。サンプル読み値(すなわち、IGF-1グループ)を平均賦形剤読み値で割ることによって、処理グループ蛍光読み値を、対照の何倍であるか(FOC)で表現する。
【0073】
例1
IGF-1は、投与量に依存してMCF-7細胞の成長を刺激した。
【0074】
IGF-1が、ヒトMCF-7細胞の成長を刺激することを証明するために、ヒトIGF-1の投与量を増やしながら(0 pg/ml - 100 ng/ml)、細胞を10日間処理して、細胞を計数するために加工した。図7に示されるように、1 - 100 pg/mlのIGF-1では、細胞数は増えなかったが、更にIGF-1の濃度を増やす(1 - 100 ng/ml)と、投与量に依存して細胞の成長が促進された。従って、MCF-7細胞は、IGF-1の成長刺激活性を評価するのに適切である。
【0075】
例2
マウス又は魚IGF-1ではなく、ヒトIGF-1が、ヒトMCF-7細胞の成長を促進した。
【0076】
IGF-1の成長刺激活性が、その種の起源に依存するかどうかを調査するために、我々は、様々な種、すなわち、ヒト、マウス、及び魚(タイ、マグロ)の1.5 nM遺伝子組換えでMCF-7細胞を処理した。7日後に、細胞の成長をCyQUANTアッセイで査定した(図8)。複数の源から得られたヒトIGF-1が、一貫してMCF-7細胞の成長を増進させた(~50 - 100%増進)一方で、マウス及び魚IGF-1は、そうではなかった(図8)。これらの発見によって、ヒトIGF-1は、ヒトMCF-7細胞と同じ種でありながら、細胞の成長を増進させるには、魚及びマウスIGF-1よりも有効であることが示唆される。
【0077】
本発明によって示されるのは、培養された細胞の種類と(i)遺伝的に同じか類似する種の、又は(ii)同じ属の、成長因子及びアルブミンを適用するのがより有効であることである。これらの成長因子又はタンパク質因子の使用は、同じ成長率を達成しつつ、低減しても良い。種特異的な成長因子、及び/又は、属特異的な成長因子は、特に、培養食肉、及び培養細胞集団を用いるその他の用途のための大規模な細胞生産の間の、培地の費用を低減するための有望な方向を表す。より生物活性のある成長因子を用いてもまた、処理時間を減らして、培養食肉又は細胞集団の質(例えば、質感、味、栄養価)を向上させられる。
【0078】
上記の記載は、例示的なものであって、制限的なものではない。開示を基礎として、例に対する多くの変形が可能であることが、当業者には明らかとなる。従って、例の範囲は、上記記述を参照して決められるべきではなく、それらの全範囲又はそれと同等なものの他に特許請求の範囲を参照して決められるべきである。
【0079】
いずれかの例の一つ以上の特徴を、その他の例の一つ以上の特徴と組み合わせても本発明の例の範囲から逸脱するものではない。冠詞については、特に反対のことを指していなければ、「一つ以上の」ものを意味するよう意図されている。「及び/又は」は、特に反対のことを指していなければ、用語の最も包括的な意味を表すよう意図されている。
【0080】
本発明の開示は、多くの異なる形で実施されて良いが、本発明の開示は、一つ以上の発明の原理の例証であって、いずれか一つの例を、例示された例に限定することを意図するものではないとの理解の上で、図面と説明が呈示されている。
【0081】
従って、開示は、その最も広い観点において、特定の細部、代表的なシステム及び方法、及び上に示されて記述されている説明的な例に限定されるものではない。本発明の開示の範囲や精神から逸脱することなく、上記明細事項に種々の修正や変更を加えても良く、本開示は、そのような修正や変更が、特許請求の範囲やそれと同等なものの範囲内に収まるならば、それら全てをカバーすることが意図されている。
【0082】
代表的なプロトコール
A. 魚の浮き袋の細胞株の発育
1. 地元の魚市場で、健康なニベ、スズキ又は同じ部類の魚を得る。
2. 細胞を分離するまでその魚を氷で冷やしておく。
3. その魚を10%の漂白剤に浸す。
4. 防腐処置を施した状態でその魚から浮き袋を取り出す。
5. その臓器を次亜塩素酸で一回以上洗浄する。
6. その臓器を抗生物質培地(ペニシリン400 IU/ml、ストレプトマイシン400 pg/mlを含むライボビッツL-15又はDMEM又はEMEM)で一回以上洗浄する。
7. 洗浄後、臓器を小さな片(2-3 mm3)に切る。
8. 切った臓器を、PBS中に0.25%トリプシンEDTAを含む遠心分離管に移す。
9. 1時間継続的に揺動させて室温で培養する。
10. 100 pmメッシュで上澄みを濾過して未消化の組織を取り除く。
11. 濾液を200 g、5分間、遠心分離機にかける。
12. 細胞ペレットを完全培地(ペニシリン200 IU/ml、ストレプトマイシン200 pg/ml、牛胎児血清10% を含むライボビッツL-15又はDMEM又はEMEM)で再懸濁する。
13. 細胞をT25フラスコ中に接種する。
14. 24-28℃で培養する。
15. 翌日、組織培養フラスコに付着していない細胞を取り除く。
16. 2-3日おきに培地の半分を新鮮な培地と取り替える。
17. 完全な単層が形成されると細胞が定着したと考えられ、定着した細胞は、二次培養の準備ができている。
【0083】
B. 組織外植による魚の浮き袋の細胞株の発育
1. 地元の魚市場で、健康なニベ、スズキ又は同じ部類の魚を得る。
2. 細胞を分離するまでその魚を氷で冷やしておく。
3. その魚を10%の漂白剤に浸す。
4. 防腐処置を施した状態でその魚から浮き袋を取り出す。
5. その臓器を次亜塩素酸で一回以上洗浄する。
6. その臓器を抗生物質培地(ペニシリン400 IU/ml、ストレプトマイシン400 pg/mlを含むライボビッツL-15又はDMEM又はEMEM)で一回以上洗浄する。
7. 洗浄後、臓器を小さな片(1-2 mm3)に切る。
8. 個々に、完全培地(ペニシリン200 IU/ml、ストレプトマイシン200 pg/ml、牛胎児血清10% を含むライボビッツL-15又はDMEM又はEMEM)が入っている24ウェルプレートに、臓器片を載せる。
9. 24-28℃で培養する。
10. 組織外植をかき乱さずに、2-3日おきに培地の半分を新鮮な培地と取り替える。
11. 付着した細胞が観察されるまで組織外植を培養する。
12. 組織外植を取り出す。
13. 完全な単層が形成されると細胞が定着したと考えられ、定着した細胞は、二次培養の準備ができている。
【0084】
C. 魚の筋肉細胞株の発育
1. 地元の魚市場で、健康なハタ、タラ、シタビラメ、オヒョウ、カレイ又は同じ部類の魚を得る。
2. 細胞を分離するまでその魚を氷で冷やしておく。
3. その魚を10%の漂白剤に浸す。
4. 防腐処置を施した状態でその魚から筋肉を取り出す。
5. その組織を次亜塩素酸で一回以上洗浄する。
6. その組織を抗生物質培地(ペニシリン400 IU/ml、ストレプトマイシン400 pg/mlを含むライボビッツL-15又はDMEM又はEMEM)で一回以上洗浄する。
7. 洗浄後、組織を小さな片(2-3 mm3)に切る。
8. 切った組織を、PBS中にコラゲナーゼとディスパーゼを含む遠心分離管に移す。
9. 1時間継続的に揺動させて室温で培養する。
10. 100 pmメッシュで上澄みを濾過して未消化の組織を取り除く。
11. 濾液を200 g、5分間、遠心分離機にかける。
12. 細胞ペレットを完全培地(ペニシリン200 IU/ml、ストレプトマイシン200 pg/ml、牛胎児血清10% を含むライボビッツL-15又はDMEM又はEMEM)で再懸濁する。
13. 細胞をT25フラスコ中に接種する。
14. 24-28℃で培養する。
15. 翌日、組織培養フラスコに付着していない細胞を取り除く。
16. 2-3日おきに培地の半分を新鮮な培地と取り替える。
17. 完全な単層が形成されると細胞が定着したと考えられ、定着した細胞は、二次培養の準備ができている。
【0085】
D. 組織外植からの魚の筋肉細胞株の発育
1. 地元の魚市場で、健康なハタ、タラ、シタビラメ、オヒョウ、カレイ又は同じ部類の魚を得る。
2. 細胞を分離するまでその魚を氷で冷やしておく。
3. その魚を10%の漂白剤に浸す。
4. 防腐処置を施した状態でその魚から筋肉を取り出す。
5. その組織を次亜塩素酸で一回以上洗浄する。
6. その組織を抗生物質培地(ペニシリン400 IU/ml、ストレプトマイシン400 pg/mlを含むライボビッツL-15又はDMEM又はEMEM)で一回以上洗浄する。
7. 洗浄後、筋肉を小さな片(1-2 mm3)に切る。
8. 個々に、完全培地(ペニシリン200 IU/ml、ストレプトマイシン200 pg/ml、牛胎児血清10% を含むライボビッツL-15又はDMEM又はEMEM)が入っている24ウェルプレートに、筋肉片を載せる。
9. 24-28℃で培養する。
10. 組織外植をかき乱さずに、2-3日おきに培地の半分を新鮮な培地と取り替える。
11. 付着した細胞が観察されるまで組織外植を培養する。
12. 組織外植を取り出す。
13. 完全な単層が形成されると細胞が定着したと考えられ、定着した細胞は、二次培養の準備ができている。
【0086】
E. 成体幹細胞の分離と培養
1. 地元の魚市場で、健康なハタ、タラ、シタビラメ、オヒョウ、カレイ又は6ヶ月かそれより若い同じ部類の魚を得る。
2. 細胞を分離するまでその魚を氷で冷やしておく。
3. その魚を10%の漂白剤に浸す。
4. 防腐処置を施した状態でその魚から筋肉を取り出す。
5. その組織を次亜塩素酸で一回以上洗浄する。
6. その組織を抗生物質培地(ペニシリン400 IU/ml、ストレプトマイシン400 pg/mlを含むライボビッツL-15又はDMEM又はEMEM)で一回以上洗浄する。
7. 洗浄後、組織を小さな片(2-3 mm3)に切る。
8. 切った組織を、PBS中にコラゲナーゼとディスパーゼを含む遠心分離管に移す。
9. 1時間継続的に揺動させて室温で培養する。
10. 100 pmメッシュで上澄みを濾過して未消化の組織を取り除く。
11. 濾液を200 g、5分間、遠心分離機にかける。
12. 細胞ペレットを完全培地(ペニシリン200 IU/ml、ストレプトマイシン200 pg/ml、牛胎児血清10%、塩基性線維芽細胞成長因子100 ng/mlを含むライボビッツL-15又はDMEM又はEMEM)で再懸濁する。
13. 細胞を、被覆のない平板上で1時間、24-28℃で培養する。
14. 上澄みを採取して、ラミニン、ゼラチン、マトリゲル又は類似する素地で被覆された平板上に載せる。
15. 24-28℃で培養する。
16. 24時間後に、しっかりと付着していない細胞を洗い落とす。
17. 培地を毎日、完全培地(ペニシリン200 IU/ml、ストレプトマイシン200 pg/ml、牛胎児血清10%、塩基性線維芽細胞成長因子100 ng/mlを含むライボビッツL-15又はDMEM又はEMEM)と取り替える。
【0087】
F. iPSCの生成と培養
1. トランスフェクションの2-4日前、組織培養フラスコ中の完全培地(10%FBSを含むL15)で細胞を培養する。トランスフェクションの当日(デイ0)、細胞は、およそ75-90%コンフルエントである。
2. ゼラチンで被覆された6ウェルプレートから培地を吸い出して、ウェル毎に2mLの新鮮な完全培地と置き換える。被覆されたプレートを使う用意が整うまで37℃に置く。
3. Epi5(登録商標)ベクターを37℃で解凍し、使う用意が整うまでそれらを濡れた氷上に置く。使用前、解凍したベクターを軽く遠心分離機にかけて、それらを管の底に集める。
4. PBSで細胞を洗う。
5. 細胞が入っている培養フラスコに0.05%のトリプシン/EDTAを3 mL加える。
6. 室温で3分間フラスコを培養する。
7. 各フラスコに完全培地を5-8 mL加える。細胞を、空で無菌の15 mL 円錐管に注意深く移す。
8. トリパンブルー色素排除細胞生存アッセイによって生存率をチェックする。
9. 細胞を200g、2分間、遠心分離機にかける。
10. 上澄みの大半を注意深く吸い出して、完全培地で再懸濁する。
11. 細胞を、ゼラチンで被覆された深皿プレート上に接種して、2 mL完全培地において30-60%コンフルエンスで6ウェルプレートにウェル当たり50,000から100,000細胞とし、24-28℃で一晩培養する。
12. Opti-MEM/Reduced-Serum Mediumを予め室温まで温めて、以下に記述する通り管A及び管Bを準備する。
13. 二つのEpi5(登録商標)Reprogramming Vector mixを各々1.2μL(合計2.4μL)、管Aとラベルを貼られた1.5 mLマイクロ遠心分離管の中のOpti-MEM培地118μLに加える。P3000(登録商標)試薬を4.8μL加えて良く混ぜる。
14. Lipofectamine 3000試薬3.6μLを、管Bとラベルを貼られた1.5 mLマイクロ遠心分離管の中の予め温められたOpti-MEM培地121μLで希釈する。
15. トランスフェクションマスターミックスを準備するために、管Aの中身を管Bに加えて良く混ぜる。
16. トランスフェクションマスターミックスを室温で5分間培養する。
17. もう一度混ぜて、トランスフェクションマスターミックス250μL全部を各ウェルに加える。
18. 24-28℃で一晩培養する。
19. トランスフェクションの24時間後に、培地をプレートから吸い出す。N2B27培地(IX N-2サプリメント、IX B27サプリメント、bFGF 100 ng/mLを含むL15)2 mLを各ウェルに加える。
20. 使用済みの培地をN2B27培地2 mLと交換して、合計14日間毎日N2B27培地を変える。
21. デイ14に、使用済みのN2B27培地を吸い出して、それを完全培地と交換する。ウェル毎に2 mL、毎日の培地交換を再開する。
22. 細胞が変形したことを示す、細胞塊の出現について、顕微鏡で1日おきにプレートを観察する。トランスフェクション後15日から21日以内に、iPSCコロニーは、移植に適切なサイズまで成長する。
23. デイ21までにコロニーがはっきりして、更なる培養及び増殖のために摘み取ることができる。
【0088】
G. 細胞を二次培養する方法
1. 培養基を取り除いて廃棄する。
2. 細胞をPBSでゆすいでトリプシンインヒビターを含む血清の形跡を全て取り除く。
3. 0.25%トリプシンEDTA溶液を2-3 mLフラスコに加える。
4. 室温で1分間培養する。
5. 完全成長培地を5-8 mL加える。
6. 細胞をピペットで丁寧に吸い出す。
7. 適当な分量の細胞懸濁液を1 : 2から1 : 3という二次培養比で新しい培養フラスコに加える。
8. 24-28℃で培養する。
【0089】
H. 懸濁培養液への適応
1. トリプシン処理によって問題の細胞にとって適切な頻度で単一層培地を継代培養する。
2. 継代培養を行う毎に、細胞単一層をPBSで洗い、0.25%トリプシンを上塗りする。
3. 室温で5分間培養する。
4. 完全培地で酵素を不活性化する。
5. 細胞懸濁液を採取して、トリパンブルー色素排除細胞生存アッセイによって生存率をチェックする。
6. 細胞懸濁液を別の培地フラスコに接種する。
7. 懸濁した細胞の生存率が90%以上になるまで継代培養を繰り返す。
8. 撹拌又は振動フラスコにおいて50 mL完全培地で細胞密度が10万-50万/mlの懸濁培養液を定着させる。
9. 単一層培養にとって最適な温度、湿度及び雰囲気が同じ条件のもとCO2培養器において撹拌又は振動フラスコの懸濁培養液を培養する。
10. 2-3日毎に新鮮な培地で、細胞密度を10万-50万/mlに調整する。
11. トリパンブルー色素排除細胞生存アッセイによって生存率をチェックする。
12. 健全な細胞の成長を促進する細胞密度で、複数の培養を並行して定着させる。
13. 培養の一部を用いて細胞密度を徐々に100万/mlまで高める。
14. 細胞密度を高めることで細胞が死滅してしまうなら、高密度の培養を破棄する。
15. ステップ12の細胞を用いて高密度適応を再開する。
16. 細胞が懸濁液において成長するよう適応するとき、3 Lのバイオリアクターへと規模を拡大する。
【0090】
I. 血清を含まない培地(植物水解物)への適応
1. DMEM/F12完全培地(DMEM培地とハムF12培地の1 : 1混合物、2-4 mMグルタミン、10% FBS)において細胞を培養する。
2. 血清を含まない培地(DEMEM培地とハムF12培地の1 : 1混合物、2-4 mMグルタミン、20% 植物水解物、例えば、大豆、綿実、菜種、小麦、酵母又はそれらに相当する物)への適応
3. 細胞が、コンフルーエンスに到達すると、培地を適応培地I(新鮮な完全培地40%、以前の継代培地からの条件培地40%、血清を含まない培地20%)と取り替える。
4. 2-3日毎にトリパンブルー色素排除細胞生存アッセイによって生存率をチェックする。
5. 適応によって細胞が死滅してしまうなら、培養を破棄してステップ3を繰り返す。
6. 細胞が、コンフルーエンスに到達すると、培地を適応培地II(新鮮な完全培地30%、ステップ1における細胞からの条件培地30%、血清を含まない培地40%)と取り替える。
7. 2-3日毎にトリパンブルー色素排除細胞生存アッセイによって生存率をチェックする。
8. 適応によって細胞が死滅してしまうなら、培養を破棄してステップ6を繰り返す。
9. 細胞が、コンフルーエンスに到達すると、培地を適応培地III(新鮮な完全培地20%、ステップ1における細胞からの条件培地20%、血清を含まない培地60%)と取り替える。
10. 2-3日毎にトリパンブルー色素排除細胞生存アッセイによって生存率をチェックする。
11. 適応によって細胞が死滅してしまうなら、培養を破棄してステップ9を繰り返す。
12. 細胞が、コンフルーエンスに到達すると、培地を適応培地IV(新鮮な完全培地10%、ステップ1における細胞からの条件培地10%、血清を含まない培地80%)と取り替える。
13. 2-3日毎にトリパンブルー色素排除細胞生存アッセイによって生存率をチェックする。
14. 適応によって細胞が死滅してしまうなら、培養を破棄してステップ12を繰り返す。
15. 細胞が、コンフルーエンスに到達すると、培地を、血清を含まない培地と取り替える。
16. 2-3日毎にトリパンブルー色素排除細胞生存アッセイによって生存率をチェックする。
17. 適応によって細胞が死滅してしまうなら、培養を破棄してステップ15を繰り返す。
18. 血清を含まない培地の使用は、各ステップにおいて、より緩やかに増やすこと、すなわち、各ステップで20%以下の増加が可能である。
【0091】
J. 血清を含まない培地(既知組成)への適応
1. DMEM/F12完全培地(DMEM培地とハムF12培地の1 : 1混合物、2-4 mMグルタミン、10% FBS)において細胞を培養する。
2. 血清を含まない培地(DMEM培地とハムF12培地の1 : 1混合物、2-4 mMグルタミン、アスコルビン酸2リン酸65-130μg/ml、NaHCO3 550-1100μg/ml、亜セレン酸ナトリウム14-28 ng/ml、インシュリン19-38μg/ml、トランスフェリン11-22μg/ml、FGF-2 100-200 ng/ml、TGF-beta 2-4 ng/ml)を調合する。
3. 細胞が、コンフルーエンスに到達すると、培地を適応培地I(新鮮な完全培地40%、以前の継代培地からの条件培地40%、血清を含まない培地20%)と取り替える。
4. 2-3日毎にトリパンブルー色素排除細胞生存アッセイによって生存率をチェックする。
5. 適応によって細胞が死滅してしまうなら、培養を破棄してステップ3を繰り返す。
6. 細胞が、コンフルーエンスに到達すると、培地を適応培地II(新鮮な完全培地30%、ステップ1における細胞からの条件培地30%、血清を含まない培地40%)と取り替える。
7. 2-3日毎にトリパンブルー色素排除細胞生存アッセイによって生存率をチェックする。
8. 適応によって細胞が死滅してしまうなら、培養を破棄してステップ6を繰り返す。
9. 細胞が、コンフルーエンスに到達すると、培地を適応培地III(新鮮な完全培地20%、ステップ1における細胞からの条件培地20%、血清を含まない培地60%)と取り替える。
10. 2-3日毎にトリパンブルー色素排除細胞生存アッセイによって生存率をチェックする。
11. 適応によって細胞が死滅してしまうなら、培養を破棄してステップ9を繰り返す。
12. 細胞が、コンフルーエンスに到達すると、培地を適応培地IV(新鮮な完全培地10%、ステップ1における細胞からの条件培地10%、血清を含まない培地80%)と取り替える。
13. 2-3日毎にトリパンブルー色素排除細胞生存アッセイによって生存率をチェックする。
14. 適応によって細胞が死滅してしまうなら、培養を破棄してステップ12を繰り返す。
15. 細胞が、コンフルーエンスに到達すると、培地を、血清を含まない培地と取り替える。
16. 2-3日毎にトリパンブルー色素排除細胞生存アッセイによって生存率をチェックする。
17. 適応によって細胞が死滅してしまうなら、培養を破棄してステップ15を繰り返す。
18. 血清を含まない培地の使用は、各ステップにおいて、より緩やかに増やせる。例えば、各ステップで20%以下の増加となる。
【0092】
K. 転写後のタンパク質発現の増強
1. 完全培地(ライボビッツL-15、又はDMEM、又はペニシリン200 IU/ml、ストレプトマイシン200 pg/ml、牛胎児血清10%を備えるEMEM)、又は血清を含まない培地(植物加水分解物、又は化学的に定義された成分を備えるDMEM/F12)において細胞を培養する。
2. 培養基を取り除いて廃棄する。
3. 細胞PBSを軽くゆすいで、トリプシンインヒビターを含む血清の痕跡を全て取り除く。
4. 0.25%トリプシン-EDTA溶液2-3 mLをフラスコに加える。
5. 室温で1分間培養する。
6. 細胞をゆっくりとピペットで吸引する。
7. 細胞を、200gで2分間、遠心分離機にかける。
8. 完全培地、又は血清を含まない培地に、細胞を再懸濁する。
9. 6ウェルプレートの各ウェルに、50万個の細胞を加える。
10. 24-28℃で一晩培養する。
11. ポリエチレンイミン、リポソーム、電気穿孔法、その他の方法を用いて、マイクロRNAオリゴヌクレオチド(miR-21、miR-29a、miR-21ミミック、miR-29aミミック、anti-miR-21、anti-miR-29a、又はそれらの等価物)を細胞に形質移入する。
12. 24-28℃で一晩培養する。
13. 温度、湿度、及び大気が最適の培地と同じ条件のもと、CO2培養器中の、多層フラスコ、スピナーフラスコ、又は振とうフラスコに、細胞を移す。
【0093】
L. 細胞培養のための骨組(コンニャク+ゴム)
1. サフランを2、3片入れた水を薄黄色になるまで沸騰させる。
2. サフランを取り除いてぬるくなるまで溶液を放置する。
3. 全ての乾燥成分を調合する
a. コンニャク-0.5-5%、好ましくは3%
b. ふくらし粉-0.3%-3%、好ましくは2%
c. 完全キサンタンガム-0.2%-2%、好ましくは1.5%
4. サフラン溶液を100 ml計りとる。
5. ふくらし粉、ローカストビーンガム、キサンタンガムを連続して加える。各原料を加えた後、混合物をよく撹拌する。
6. コンニャクを溶液上に少しずつ振り撒いて加える。撹拌し続ける。溶液はお粥状になる。
7. コンニャクの混合物を型に入れておよそ1-15 mmの厚さに広げる。
8. 型を蓋で覆い、室温で30分を超えて放置する。
9. 型を4℃の冷蔵庫に4時間入れる。
10. 弱い熱で型を40分間蒸す。
11. 型を室温で2時間放置する。
12. 骨組を45-55℃で15分間脱水する。
【0094】
M. 細胞培養のための骨組(アルギン酸塩+もち米粉)
1. アルギン酸ナトリウムを0.1-2 g (0.1-2%)、好ましくは約1g(1%)計量する。
2. ブレンダーに水を100 ml加える。
3. ブレンダーにアルギン酸塩粉を加え、溶解するまで混合物を混ぜる。
4. 容器をプラスチックフィルムで覆い、アルギン酸溶液を一晩冷蔵庫に入れて気泡を除去する。
5. もち米粉を1-10 g (1-10%)、好ましくは約5g (5%)計量して型に入れる。
6. アルギン酸溶液を型に加え、およそ1-15 mmの厚さとする。
7. 粉末が全て溶けるまで混合物を撹拌する。
8. 形に固まるまで弱い熱で混合物を30分間蒸す。
9. 型を蓋で覆い、室温で30分間放置する。
10. 乳酸カルシウムを1%計量し、水中で撹拌して溶かす。
11. 骨組を、1%の乳酸カルシウム溶液に、少なくとも2.5時間浸し、骨組のまわりへの膜組織の形成を可能とする。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】